晴絵「シズが援交……だと……」(234)

憧「あ、玄じゃん」

玄「おぉ、憧ちゃんじゃないですか。奇遇だねー、今日はお買い物か何か?」

憧「うん。さっきまでシズも一緒だったんだけどね」

玄「一緒だったんだけど?」

憧「遭遇した小学生男子たちに『シズねーちゃん、遊ぼうぜ!』って言われて、『よっしゃ、遊んでくる!』って」

玄「あはは、穏乃ちゃんは子供に人気あるからねー」

憧「思考回路が同じレベルだからね……」

翌日



晴絵「あら、まだ玄しか来てないかな」

玄「こんにちは、赤土先生。憧ちゃんとシズちゃんは掃除当番とかで遅れるみたいです」

晴絵「そうなのか。シズが、真面目に掃除してるところ、イマイチ想像できないな」

玄「あはは、そうですね。掃除中にまたどっかに遊びに行っちゃいそうですし」

晴絵「また?」

玄「昨日、街で憧ちゃんとバッタリ出くわしましてね」

玄「シズちゃんも一緒にいたみたいですが、遊びに誘われて飛んでいっちゃったそうです」

晴絵「ったく、あいつ授業中居眠りしてやがったと思ったら、さては遅くまで遊んでたんだな」

玄「憧ちゃんの話によると、よくあることみたいですけどね」

晴絵「それにしても、シズは人気あるんだな。クラスの女子か誰かと遊んでたのか?」

玄「いえ、女子じゃないみたいです」

晴絵「……え? まさか、男?」

玄「らしいですよ」

晴絵「……ちょっと待て、もう一度聞くぞ。シズは夜遅くまで遊んでた。そして相手は男。間違いないな?」

玄「はい」

晴絵「…………」

玄「どうしたんですか、赤土先生? この世の終わりみたいな顔してますけど」

晴絵(や、ヤバい……シズが、え、え、援交……シズ、どうして……援交なんか、傷つくだけだぞ……)

玄「あの……」

晴絵(いや待て、援交と決まったわけでは……でも、これは……)

玄「赤土先生?」

晴絵(それに部活の教え子が援交してたなんて知れたら、私どうなるんだ……た、大変だ……)

玄「…………」

晴絵「く、玄!」

玄「は、はいぃ!?」

晴絵(……ど、どうしよう……)

玄「な、何ですか?」

晴絵(もし本当に援交してたら、シズの将来は? 麻雀部は? プロ入りは? これからの教師生活は?)

玄「えーと……」

晴絵(詳しく聞こうにも、能天気が服を着て歩いているような玄じゃ、援交のことなどろくに知らないだろう……)

玄「……先生?」

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晴絵(うわあああああああああ! 何で、何でこんなことにいいいいいいいいい!)

穏乃「遅れましたー?」

灼「ハルちゃん、どうしたの。頭抱えてゴロゴロ転げまわって」

宥「玄ちゃん、何かあったの?」

玄「いや、私も何が何だか……」

憧「そっとしておこう。さ、麻雀麻雀」

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晴絵(考えろ、考えろ……)

晴絵(どうする? シズを呼び出して、やめさせるように言うか?)

晴絵(いや待て、まずは事実確認が先だ。玄の情報だけじゃ、よくわからん)

晴絵(本人にいきなり聞くのもアレだし……となると、やはり一緒にいたという憧か……)




晴絵「憧、ちょっといいか?」

憧「何?」

晴絵「今日、ちょっと部活の後で残ってくれるか?」

憧「え?」







晴絵「すまないな、時間とらせて」

憧「別にいいけど。これから私だけで、秘密の特訓とか?」

晴絵「あ、あのさ……シズに関しての話なんだが、少し耳にしてな」

憧「シズのこと?」

晴絵「昨日、一緒に出かけていたそうじゃないか」

憧「うん、そうだね」

晴絵「で、でも途中で……その……」

憧「その……何?」

晴絵「……男と……」

憧「え?」

晴絵「男と、遊んだって……本当か?」

憧「本当だよ。てかシズは、ああいうのしょっちゅうだし」

晴絵「」




晴絵(ま、マジだった……)

晴絵(いやいやいや、まだだ! まだ男と遊んだってことしか判明してない!)

晴絵(男と遊ぶ……パターンは二つある……)

パターン1


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

穏乃『あ、○○ー!』

男『なんと、マイハニー穏乃じゃないか!』

穏乃『こんなところで出くわすなんて、やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれてるんだね!』

男『ははは、そうだね! せっかくだ、これから二人でお散歩デートとしゃれこもう!』

穏乃『わーい、○○大好きー!』

男『僕も愛してるよ、穏乃!』

憧『あはは、あんたらホント仲いいわね。行ってらっしゃい』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




晴絵(そう、いわば純異性交遊!)

晴絵(これならちょっと帰りが遅くなるのを注意すれば、何も問題ない!)

晴絵(……ずっと年下のシズに、先を越されたってのは凹むけど)

パターン2


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

穏乃『あ、おじさーん!』

男『おや、穏乃ちゃんじゃないか。相変わらずエッチな服着てるねー』

穏乃『もー、このロリコンおじさん、本当エロいんだからー』

男『でもエロいおじさん、好きなんだろ? ところで今晩なんだが……どうだい?』

穏乃『しょーがないなぁ、じゃあ3万で』

男『よし、了解。じゃあ早速ホテル行こうか、穏乃ちゃん』

穏乃『じゃ、行ってくるねー。憧』

憧『本当好きねぇ、シズ。今度奢りなさいよ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




晴絵(こっちだったら……ヤバい)

晴絵(おっさんではなく、彼氏であることを祈るのみね……)

晴絵「ね、ねぇ、憧」

憧「何?」

晴絵「そのさ……シズの遊び相手ってのは……」

憧「うん」

晴絵「シズの、彼氏……なんだよね?」

憧「はぁ!? んなわけないじゃん、年の差を考えなよ」

晴絵「」

憧「まったく、何を言いだすかと思えば……」

晴絵「……あ、憧は……」

憧「ん?」

晴絵「憧は、友達なんでしょ……シズの」

憧「そうだね」

晴絵「……止めようとか、思わなかったの?」

憧「別に。だってそんなの、シズの勝手だし」

晴絵「」

晴絵「……どうして、そんなに平然と……」

憧「むしろ私が、どうしてそんなに慌ててるのか聞きたいよ」

晴絵「……! ま、まさか憧も……」

憧「私も?」

晴絵「その……シズみたいに、男と遊んでたり?」

憧「いや、今は全然。昔はシズと一緒に、それなり程度には遊んでたけどね」

晴絵「」

憧「晴絵はどう? と言っても、十何年も前の話になるから、あまり覚えてないか」

晴絵「」

憧「あのー、晴絵? もう帰っていい?」

晴絵「」

憧「じゃ、また明日学校でね」




晴絵(し、シズが援交……そんな、馬鹿な……)

晴絵(こんなことがバレたら、全てが終わりだ……シズも私も、麻雀部も……)

晴絵(大体なんでシズなんだよ! 憧みたいなタイプならまだわかるけど、世の中ロリコン多すぎだろ!)

晴絵(いやいや、そうじゃない……落ち着け、これからやるべきこと……)

晴絵(とにかく、シズに援交をやめさせなければ。まだ、憧くらいしか知っている風じゃない)

晴絵(……シズ。絶対に、真っ当な道に戻してやるぞ……)

翌日



晴絵「シズ、来たか……」

穏乃「何ですか? お話って」

晴絵「話は聞いたよ。おとといのことも……他のことも」

穏乃「おととい……憧と出かけたことですか?」

晴絵「その途中で、憧と別れて……何をした?」

穏乃「えーっと……プロレスごっことか」

晴絵「」

晴絵(わ、わかってはいたが……やっぱり本人の口から事実だと肯定されると、ショックだ……)

穏乃「あとはサッカーとか、かけっことか……」

晴絵(シズ……どうして、そんなことに……)

穏乃「あの、先生? 話聞いてます?」

晴絵「し、シズ!」

穏乃「は、はいぃ!?」

晴絵「なぜなんだ! どうして、そんな遊びをするんだ!」

穏乃「え? え?」

晴絵「そんなに……そんなに、お金が欲しいのか!?」

穏乃「……は?」

晴絵「シズくらいの年じゃ、欲しいものが沢山あるのはわかる」

穏乃「まぁ、なくはないですけど……」

晴絵「でも、そんなことをしてお金を貰うなんて、間違っている」

穏乃「……いやいやいや! お金なんて貰ってませんよ!」

晴絵「……え? お金を貰ってない?」

穏乃「そりゃそうですよ」

晴絵「じゃあ……なんで、そんなことを?」

穏乃「なんでって……体を動かすと、気持ちいいじゃないですか」

晴絵「」

晴絵「い、いつからそんな……」

穏乃「結構前からですけど」

晴絵「相手とは、どこで……」

穏乃「んー、まぁ人によって色々ですね」

晴絵「人によって……? ま、まさかそういう相手、複数いるのか!?」

穏乃「はい。大抵の場合、向こうは複数人ですね。多い時は10人近いかな」

晴絵「」

晴絵「シズ!」

穏乃「何ですか?」

晴絵「どうして……どうしてそんな、自分を汚すような行為を……」

穏乃「そりゃ多少は汚れますけど、それは仕方ないのでは」

晴絵「いいか。お前がやっていることは、目先の快楽にとらわれすぎている」

穏乃「はぁ……」

晴絵「今は楽しいかもしれない。でも、いつか絶対に後悔する」

晴絵「行為の果てに残るのは……傷ついた自分だけだ」

穏乃「傷ついた、自分……?」

穏乃(あ、もしかして私が怪我しないかって心配してくれてるのかな?)

晴絵「それにシズは、全国に行きたいんだろ」

穏乃「勿論ですよ!」

晴絵「なら、自分のやっていることが何を引き起こすかってことを考えてみろ」

穏乃「…………」

晴絵「全国の舞台に立てなくなる可能性もあるってこと、わかってないわけじゃないだろ」

晴絵「憧も、玄も、宥も、灼も……みんな巻き込む。ご両親だって、傷つける結果になるんだ」

穏乃(確かに……私が卓にもつけないような大怪我したら、人数ギリギリの麻雀部は……)

穏乃(そんなことまで心配してくれるなんて、いい先生だなぁ……)

穏乃「ありがとうございます、赤土先生!」

晴絵「シズ、わかってくれたか!」

穏乃「はい! こんなに私のことを、想ってくださるなんて」

晴絵「シズ……」

穏乃「でも、大丈夫です。そのあたりの危険ラインは、ちゃんと見極めてるんで」

晴絵「へ?」

穏乃「だから多少の怪我はあっても、卓にもつけなくなるような大怪我にはしませんから安心して下さい」

晴絵(やっぱこいつ全然わかってねぇーっ!)

穏乃「えーっと……プロレスごっことか」

憧「えーっと……プロレスごっことか」

豊音「えーっと……プロレスごっことか」

霞「えーっと……プロレスごっことか」

はやり「えーっと……プロレスごっことか」

なぜこうも印象が違うのか

晴絵(結局シズの援交のことは、何とも出来ぬまま全国に来てしまった)




晴絵「いいか! マスコミに何か聞かれても、絶対に変なことは喋るんじゃないぞ!)

憧「はーい」

晴絵「我が校の品位を損なうような発言は絶対にご法度だ、肝に命じておくように! 特にシズ!」

穏乃「何で私!?」

憧「一番いらんことベラベラ喋りそうだからじゃない?」

穏乃「うっ……否定できないかも」

晴絵「それじゃ、私はちょっと考えることがあるので失礼する。いいか、くれぐれも注意するんだぞ!」

玄「う、うん……」

宥「赤土先生、気合い入ってたね」

灼「やっぱり、思い出の舞台だからね。色々あるのかな」

玄「ところで変なことって、たとえばどんなこと?」

穏乃「さぁ……」




晴絵(まずいまずいまずい……)

晴絵(どうしよう、こんなことがバレたら……仮に優勝したとしても、払拭できない汚点になってしまう)

晴絵(『阿知賀優勝』ではなく『援交優勝』として、生涯ネットでネタにされまくること間違いなしだ……)

晴絵(とにかく、一刻も早くシズに援交をやめさせなければならない)

晴絵(でも、私一人の力じゃどうにもならない……どうしてだろう……)

晴絵(やっぱり、私自身に男性経験が全くないから、シズの心情がわからないのかな……)

晴絵(誰か、知り合いに相談してみるか……?)

晴絵(真っ先に浮かぶのはトシさんだけど、あの人にはあまり迷惑はかけたくない……)

晴絵(それにトシさんだって、援交のことなんてサッパリだろう。相談されても困るに違いない)

晴絵(もっと、男性経験豊富そうな知り合いは……)

晴絵(……………………)




晴絵(そうだ! 麻雀界の大スター、小鍛治健夜ならきっと男からもモテモテだったはず!)

晴絵(援交はともかく、男性経験自体は相応にあるに違いない!)

その夜、とある飲み屋



晴絵「…………」

健夜「えーっと、失礼します」

晴絵「小鍛治さん、すいません。わざわざ呼び出して」

健夜「ううん、別にいいよ。でも赤土さんが、阿知賀の監督やってたなんて驚いたよ」

晴絵「まぁ、色々ありまして……」

健夜「もう10年くらい前だったっけ? あの対局のことも、よく覚えてるよ」

晴絵「ど、どうも……その際は、お恥ずかしい目に……」

健夜「でも久しぶりに会ったと思ったら、私に相談したいことって……何かな?」

晴絵「はい。これは小鍛治さんにしか相談できないことなんです」

健夜「私にしか……?」

晴絵「えっとですね、これはたとえばの話です。いいですか、たとえばですよ」

健夜「た、たとえば……?」

晴絵「たとえば、小鍛治さんがとある高校の先生だとして」

健夜「うんうん」

晴絵「麻雀部の監督もしていて」

健夜「うんうん」

晴絵「その麻雀部が全国出場を決めたって時に」

健夜「うんうん」

晴絵「そのメンバーの一人が……」

健夜「うんうん」

晴絵「……そ、その……」

健夜「その?」

晴絵「…………」

健夜「…………」




晴絵「……援交してたって知ったら、どうします?」

健夜「」

晴絵「…………」

健夜「え、援交って……あの、援交だよね?」

晴絵「はい、あの援交です」

健夜「そ、そりゃあ……やめさせるように言うとしか……」

晴絵「言っても全然、やめる気配がなくて……しかも金には興味がなく、ただ快楽だけを求めるって有様で……」

健夜「……たとえばの話じゃなかったの?」

晴絵「そ、そうそう! たとえばの話で!」

健夜「……ていうか、何で私?」

晴絵「恥ずかしながら、私では男性経験が……」

晴絵(……ん、待てよ?)

晴絵(話し相手は、間違いなく男なんて飽きるほど食ってきた小鍛治健夜だ)

晴絵(ここでもし、男性経験が皆無などと言ったら……)



健夜『えぇっ!? 赤土さん、その年になって彼氏どころか、男の人と付き合ったこともないの!?』

健夜『……ぷぷぷぷっ。自分の婚期を心配する方が先じゃない?』



晴絵(…………)

晴絵(インハイに続き、またも心を折られることになる……)

健夜「……男性経験が?」

晴絵「その……人並み程度にしかなくて。いや、彼氏はいるんですけどね」

健夜「え!? 赤土さん、彼氏いるの!?」

晴絵「そ、そりゃいますよ! この年なんですから!」

健夜「そ、そうか……そうだよね、この年なんだから……」ズーン

晴絵「だから、あまり援交する子のことをよく知らないので、うまく説得できないんだと思うんです」

健夜「そういう問題なのかな……というか、もうたとえばの話だってこと忘れてるよね」

晴絵「だから、男性経験豊富な知り合いに力を借りたいと思いまして、小鍛治さんに相談したんです」

健夜「な、なるほど…………え?」

健夜「だ、男性経験豊富って……」

晴絵「小鍛治さんはグランドマスター、超有名人。男なんか、引く手あまただったはずです」

健夜「あ、あの……」

晴絵「だから、お願いします! あなたの力で、シズを真っ当な道に引き戻してください!」

健夜「シズって言っちゃったよ! というか高鴨さんなの!? 超意外!」

晴絵「どうか、力を貸して下さい! 男性経験豊富な、小鍛治さんの力を!」

健夜「え、えっと……赤土さん、私は男性経験なんて……」

健夜(……いや、ちょっと待った)

健夜(赤土さん、さっき男性経験は人並み程度って言ってたし、彼氏もいるとも言ってた)

健夜(そうだよね……私たちくらいの年齢じゃ、それが普通だよね……)

健夜(でも、もし私が正直に答えたら……)



晴絵『えっ!? 小鍛治さん、男性経験皆無の上に、アラサー実家暮らし!?』

晴絵『あっはははは、そんな人実在したんだ! 麻雀プロとしてはともかく、女としては完全負け組じゃーん!』



健夜(や、ヤバい……)

健夜(絶対に、真実なんか言えない……)

健夜「う、うん、男性経験ね! 勿論たくさんあるよ!」

晴絵「や、やっぱり!?」

健夜「そりゃもう、並み居るイケメン達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」

晴絵「さすがです! 何と頼もしい!」

健夜「告白だって、星の数ほどされたからね! もう、麻雀界の結城リトって感じ!」

晴絵「じゃ、じゃあシズのことも……」

健夜「援交だろうが何だろうが、男のことなら私に任せなさい!」

晴絵「ありがとうございます! ぜひ、ぜひよろしくお願いします!」







健夜「や、やっちゃった……」

健夜「どうしよう、援交少女のことなんかわかるわけないよ……」

健夜「援交はいけません、やめましょう……いや、そう言っただけでやめさせられるなら、とっくに……だよね」

健夜「援交はまずいってことを、もっとインパクト強く、わかりやすく、具体的に説明しないと……」

健夜「もっとインパクト強く、わかりやすく、具体的に……」

翌日



晴絵「シズ、ちょっと来てくれ」

穏乃「何ですか?」

晴絵「これからシズには、特別講師からの有難いお話がある」

穏乃「特別講師? もしかして、次の麻雀での秘策とか?」

晴絵「いや、そういうわけではないが……ここだ、既に中にいるはず」

穏乃「えっと、失礼しまーす」



ガチャ



健夜「こんにちは」

穏乃「えっ……小鍛治プロ!?」

晴絵「では、私は失礼します。あとはお任せします、小鍛治さん」

健夜「うん、任せて!」

健夜「初めまして、高鴨さん」

穏乃「はっ、はい。小鍛治プロに指導していただけるなんて、光栄です」

健夜「あなたのこと……赤土さんから、聞いたわ。なんと言うか、かなり自由奔放という感じみたいだね」

穏乃「んー……そうなんでしょうか……」

健夜「これから高鴨さんには、あなたの未来のために、私のお話を聞いてもらいます」

穏乃(おっ、やっぱりトッププロ直伝のアドバイスか!?)ワクワク



ドンッ

『とある少女の末路』

健夜「昔々あるところに、穏子さんという少女がいました」(女の子の絵)

穏乃(か、紙芝居!?)

健夜「穏子さんは高校一年生。明るく快活な、運動大好きのスポーツ少女でした」

穏乃(何で紙芝居!? ていうか絵、下手っ!)

パラリ

健夜「彼女は麻雀部に所属。他の部員は新巳さん、鷺掘さん、松木姉妹、そして監督の赤乃先生」(6人の絵)

健夜「恵まれた仲間たちと優勝な指導者と共に、見事全国へ出場を決めました」

穏乃(うーん、どっかで聞いた話のような……)

健夜「めでたく全国でも優秀な成績を収めました。しかし、穏子さんにはある問題があったのです」

穏乃(問題? 何だろ?)

パラリ

健夜「彼女は、実は……援交を、していたのです」(ベッドの上でゴムを咥えている絵)

穏乃「」

>>140
>>優勝な指導者


すこやんが推す優勝候補阿知賀女子を信じろ

>>142
すまん優秀な

健夜「彼女は若くして、その……せ、せ、性行為の快楽に、溺れていたのです……」

穏乃(ちょ、ちょっと待った! いきなり話ぶっ飛びすぎでしょ!)

健夜「来る日も来る日も、ずっと年上の男の人たちと、か、か、体を重ねて……いました」

穏乃(小鍛治さん、めっちゃ顔真っ赤だし! 罰ゲームか何かなんですか!?)

パラリ

健夜「しかし、悪事はいずれバレるもの。このことが警察にばれ、相手の男は、い、い、淫行で逮捕」(男が捕まる絵)

穏乃(これ、麻雀関係あるの!?)

健夜「この日から、穏子さんの転落人生が始まるのです」

健夜「この情報化社会の現代では、噂は一瞬で広まっていきます」

パラリ

健夜「翌日、彼女を待ち受けていたものは、クラスメイトからのいじめでした」(ビッチなどと落書きされた机の絵)

穏乃(いや、小鍛治プロの言うことだ。この援交話にも、何かしら麻雀に繋がるものがあるはず……)

健夜「毎日毎日、水をかけられたり、小突かれたり……教師もさっさと転校してほしいらしく、助けてくれません」

穏乃(考えろー考えろー)

パラリ

健夜「彼女の自宅にも嫌がらせの手紙が毎日のように押し寄せ、両親は泣き続ける毎日」(泣く両親の絵)

穏乃(……駄目だ、サッパリわからん)

健夜「その被害は、麻雀部の他の人たちにも及びます」

健夜「何せ、一緒に全国の大舞台でテレビにまで出たのです。麻雀部が廃部になるだけで、済むはずがありません」

健夜「新巳さんは一番の親友だったということで、派手目なルックスもあり、援交疑惑を皆にかけられます」

健夜「とばっちりでいじめられ、穏子さんへの恨みをつのらせる毎日……そして最後には」

パラリ

健夜「『絶対に許さない』という穏子さんへの手紙と共に、遠くへ転校してしまいました」(ぽつんとした机の絵)

穏乃「…………」

健夜「鷺掘さんは、実家の経営するボーリング場が一気に閑古鳥」

健夜「生計を立てるため、学校とバイト先を行き来する激務。彼女の小さな体には、あまりに大きすぎる負担でした」

パラリ

健夜「とうとう体を壊し、寝込んでしまいました」(床に伏す少女の絵)

穏乃「…………」

健夜「松木姉妹は、実家の旅館の客が激減。ラブホとまで揶揄されます」

パラリ

健夜「そして旅館は廃業。一家で路頭に迷うことになりました」(夜の寒さで震える姉妹の絵)

穏乃「…………」

健夜「麻雀部の監督兼顧問の赤乃先生は指導力を問われ、責任問題に」

健夜「マスコミには無能教師と叩かれまくり、挙がっていたプロ入りの話は当然おしゃか」

パラリ

健夜「結局教師を辞職し、その後は行方知れず。でも間違いなく、幸せとは程遠い日々でしょう」(閑散とした部室の絵)

穏乃「…………」

健夜「もはや誰からも疎まれる穏子さんは、地獄のような毎日の中、思いました」

パラリ

健夜「一時の快楽を求め援交なんかしなければ、今も楽しい日々が続いていたのに」(笑顔の少女の絵)

健夜「今もみんなと、笑って過ごせていたのに……と」

穏乃「…………」

健夜「ですが、過ぎたことは、もう二度と取り戻すことができません」

健夜「だから彼女は、踏み台の上で最後に思うのです」

パラリ

健夜「今度生まれ変わったら、絶対に援交なんかしない……と」(縄と踏み台の絵)

穏乃「…………」

パラリ

『おわり』

健夜「…………」

穏乃「…………」




穏乃(なんじゃ、これ……)

健夜「いい、高鴨さん」

穏乃「は、はい」

健夜「この紙芝居のように、援交は自分も他人も不幸にする、最低の行いなんだよ」

穏乃「そ……そうみたいですね……」

健夜「だから、約束して。絶対に、援交なんかしないって」

穏乃「…………」

健夜「…………」

穏乃「わ、わかりました……」

健夜「!!!!! わかってくれたんだね、高鴨さん!」

穏乃「え、ええ、まぁ……」

健夜「よ、よかった……そうだよ、あなたにはまだまだ輝かしい未来が待ってるんだから!」

穏乃「はぁ……」

健夜「まだまだ間に合うよ! 道を誤ったら、また正しい道に戻ればいいだけなんだからね!」

穏乃「あの、一体何の話を……」

健夜「それじゃ、私はこれで。大会頑張ってね、応援してるよ」

穏乃「あ、ありがとうございます……」



バタン



穏乃「…………」

穏乃「何だったんだ……今の……」

健夜「赤土さん」

晴絵「小鍛治さん! それで、シズは……」

健夜「安心して! 援交はしないって、約束してくれたよ!」

晴絵「本当ですか! ありがとうございます、やっぱり小鍛治さんに相談してよかったです!」

健夜「なぁに、これくらい私にかかれば簡単なことだよ。それじゃあね」

晴絵「はい、それではまた!」

晴絵(いやぁ、トラウマになってた人だけど、こんないい人だったなんて……)

健夜(よかったぁ~、色々恥ずかしかったけど、一人の少女を救えたなんて……私ってスゴイかも!?)






そして大会が終わり……

晴絵(いやぁ、シズが援交をやめてくれて、よかったよかった~)

晴絵(ん……あれは)



晴絵「憧じゃないか」

憧「あ、晴絵。何だか機嫌よさそうだね」

晴絵「うん。心の重荷が、どっと下りた気分だからね」

憧「あはは、何それ。そういや、さっきまでシズもいたんだけどね」

晴絵「シズも?」

憧「うん、でもいつもみたいに遊びに誘われて、飛んでっちゃった」

晴絵「……は?」

晴絵「な、なぜだ!? やめたんじゃなかったのか!?」

憧「別にそんなことないでしょ」

晴絵「シズ……小鍛治さんの説得も、もう忘れてしまったのか……」

憧「何のこと?」

晴絵「……大体、シズもシズだが、買う側も買う側だ。このエロオヤジ共め……」

憧「あのー、晴絵?」

晴絵「こうなったら直接私が出向き、ガツンと言ってやる!」

憧「晴絵って時々、自分の世界に飛んでっちゃうよね」







穏乃「え? どういうことです?」

晴絵「言った通りだ。今度は、私も連れて行ってほしい」

穏乃「構いませんけど……もしかして先生も一緒に遊びたいとか?」

晴絵「んなわけあるかぁーっ!」

穏乃「じゃあ、一体なぜ……」

穏乃「えーっと、今日はここで待ち合わせですね」

晴絵「原っぱじゃないか。意外だな」

穏乃「そうですか?」

晴絵「もっとこう……駅前とかじゃないのか?」

穏乃「駅前なんか行って、何するんです?」

晴絵「そ、そりゃ何するって……ナ、ナニ……」

穏乃「あ、来ました!」

晴絵「! き、来たか! よーし、おい、そこのおっさん!」



子供「やっほー、シズねーちゃーん!」

晴絵「……は?」

穏乃「おーっす、みんなー」

子供「よっしゃー、サッカーしようぜ、サッカー!」

子供「ん? そっちのデカいねーちゃん、誰?」

穏乃「この人は赤土晴絵先生。私の先生なんだ」

子供「へー。ねーちゃん、シズねーちゃんの先生なのか」

子供「シズねーちゃんの先生、シズねーちゃんと違っておっぱいでけーな」

子供「でも松実館のねーちゃんたちには、ちょっと負けるかな」

穏乃「わ、私だって日々成長してるんだぞ!」

子供「そうかぁ? 昔から全然変わってなくね?」

晴絵「あ、あのさ、シズ……」

穏乃「何ですか?」

晴絵「前から言ってた、遊び相手の男って……」

穏乃「この子たちですよ」

晴絵「…………」

穏乃「どうしました?」

晴絵「あぁ、うん……そういうことね……」

子供「デカいねーちゃんもサッカーするか?」

晴絵「……いや、私は帰るわ……じゃ、気を付けてな……は、は……」

子供「あ、帰っちゃった」

穏乃「赤土先生、結局何しに来たんだろ? ま、いっか」

憧「晴絵、今日はなんだかお疲れの様子だね」

穏乃「どうしたんですか?」

晴絵「いや……なんだかもー、色々とどっと疲れたというか……自分に呆れたというか……」

憧「何だか知らないけど、元気出しなよ」

晴絵「ん……そうだね」



晴絵(そうだ……よくよく考えてみたら、全部解決したんじゃないか)

晴絵(最初から、何の事件もなかった。これ以上ない、ハッピーエンド!)

晴絵「よっしゃ! 元気出たから、二人ともあのコンビニでアイスでも奢ってやろう!」

穏乃「本当ですか! ありがとうございます!」

憧「あたしハーゲンダッツがいいなー」

晴絵「遠慮というものを知らんのか……ん、あれは灼じゃないか?」

穏乃「あ、本当だ。何してるんだろ」

憧「ATMいじってるわね」




灼(ボーリング場の常連さん達から入賞祝いって、好きな物買ってくれってお金貰っちゃったけど……)

灼(全部合わせたら、結構な額になるなぁ……私一人の力じゃないし、お金なんかいいのに……)

灼(でも、せっかくのご厚意だし、ありがたく貯金させてもらおう)

穏乃「灼さーん!」

灼「あ、穏乃、憧……ハルちゃんも」

晴絵「あ、あ、灼……そ、そのサツタバは……」

灼「これ? 常連さんから貰った……さすがに大体千円札だけど」

晴絵「じょ、常連さん!?」

憧「やっぱ常連さんっているんだ」

灼「うん。おじさんとか、お兄さんとか……」

晴絵「お、おじさん!? お兄さん!?」

穏乃「へぇー。自分で手伝いして、麻雀も打って、お金も稼いでるなんて凄いです」

晴絵「じ、自分を売ってお金を稼いでる!?(難聴)」

穏乃「今度また灼さんのボーリング場に行ってみよっかな」

憧「いいわね……あれ? 晴絵は?」

灼「血相変えて、どっかに飛んでっちゃったよ」

穏乃「え? 何かあったのかな?」

憧「さぁ……」




晴絵「もしもし、小鍛治さんですか! 灼が! うちの灼が!」

健夜「奈良の女子高生って怖い!」




END

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