[勇者と魔王の挑むクトゥルフ神話] 勇者「魔王の後継者?」 [リメイク] (313)

これは『勇者「魔王の後継者?」』というスレのリメイクです

無駄に入れた安価を削り、加筆修正しました
完全に安価無しで行きます

注意
中二病
趣味に偏ってる
クトゥルフ神話を謳ってはいるが邪神と戦ったりホラーではなくアクションだったりラヴクラフト御大の世界観は壊している。設定だけ(知らなくても楽しめます)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1367405412

勇者「魔王の後継者?」

勇者「お前引退すんのか?歳?」


面白いネタを見つけたので噛みついてみる。


魔王「主は童(わらわ)に喧嘩でも売ってんのかや?」


目の前の狐耳と立派な毛並みの尻尾を生やした女に凄まれる。

こんな可愛いだけのケモ耳娘に見えても魔王だって言うのだから恐ろしいもんだが、まぁそれは置いておこう


魔王「魔王城に乗り込んで来おったお主が持ちかけてきた和平条約、それに童が同意し人間界魔界共に平和にしようと約束したのはいつだったかや」

勇者「900年前」

魔王「そう、900年前…ってそんなわけあるかや!!」ゲシッ

勇者「ノリツッコミいただきましたー」

魔王「喜ぶなや!!」


うん、反応も上々


勇者「で、話を戻そうか」キリッ

魔王「脱線は主のせいじゃろが!」

魔王「…コホン、まぁ童と主が和平条約を結んだ事、これに反発した魔物が少なからずいることは知っておるかや?」

勇者「いや、でも容易に想像がつく。破壊や殺戮は魔物達にとって最高の快楽だしな」

魔王「そのとおりなのじゃ、そういう魔物どもが最近『反魔王派』なるふざけたものを立ち上げおったんじゃ」

勇者「で、お前は派閥争いに負けたと」

魔王「というより朝気がついたら魔王城から閉め出されておったのじゃ」

勇者「ダサっ」


寝ている間に運び出されても気づかないなんて本当に魔王かこいつ、ダサすぎるぞ


魔王「ちなみに身に付けていた武器やなんかももちろん取られておる」

勇者「ついでに着ている服も剥がされてそのまま来てくれれば良かったのに…」

魔王「前々から思っておったがお主は本当に勇者なのかや?」


何故か呆れたように言われた…むぅ


勇者「そりゃ確かに魔王と戦わずに和平交渉を持ちかける勇者なんて稀だろうな」

魔王「出会ってすぐセクハラする勇者の方が稀じゃ、しかも魔王に向かって」

勇者「そんな勇者がいるのか!?」

魔王「お主のことじゃ!」

勇者「で、結局魔王城から追い出されたホームレス狐がなんの用なわけ?」

魔王「ぶっとばされたいのかやお主?」

魔王「いくら枯れようとも童は魔王じゃ、このままで終わらせるつもりはありんせん」


尻尾の毛が逆立つ、相当怒ってるな。怖っ


勇者「それで?」

魔王「うむ、童は一番近くの魔物と人間が入り乱れる町にて潜み、魔王城内部と反魔王派の情報を集めておった。」

勇者「よくバレなかったな」


けっこう魔物の出入りも激しい町だから誰か一人くらい気付きそうなものだが


魔王「童は変装や隠密活動はかなり得意なんじゃ、どうじゃすごいじゃろ」


なんか尻尾が犬みたいに左右にすごく揺れてる。そうかそうか褒めてほしいのか、よし頭を撫でてやろう


魔王「!?、っ何するんじゃ!」ゲシッ

勇者「ぐはぁっ」


なでなでしてあげようとしたら後ろ回し蹴り食らった。しどい…


魔王「それでじゃ、情報を集めた結果以下のことが分かったんじゃ」

魔王「まず一つ、奴らはすでに童の後継者を立てておるようじゃ。童が直々に指名したと嘯いての。」


再び毛が逆立つ。うん、いつ見ても立派な毛並みだ。


魔王「主よ、童の話聞いておるのかや?」

勇者「聞いてる聞いてる(棒)」

魔王「…まぁ、よい。次に、奴らは童が死んだと方々に伝える。その後、新魔王体制が人間界への宣戦布告をするらしいんじゃ」

勇者「つまり、再び人間界の危機というわけか。…めんどくさいけど仕方ない、やってやんよ。」

魔王「そうか、勇者よやってくれるのかや!感謝するぞ♪」

勇者「そうかそうか、抱きついてきてもいいんだぞ」HAHAHA

魔王「しかし、その童の後継者という者の正体がまったく分からないのじゃ」

勇者「スルー!?」

魔王「ま、それが童が主の下に来た理由なのじゃ。せっかく平和にしたこの世界の危機、主に何とかしてほしいんじゃ」

勇者「まぁ確かに魔物が攻めてくるというのなら断るわけにはいかないが」

魔王「それでこそ勇者なのじゃ♪」

勇者「そう言いつつ、何故お前は俺の部屋の絨毯の上に寝転がってポテチの袋を開けようとしているんだ?」

魔王「あぁ、主が後継者を倒しに行っておる間に童がこの家を守っておく。安心して行ってくるがよいのじゃ」

勇者「何言ってんだお前も来いよ」

魔王「いやじゃ、たまには童も夫の帰りを待つ主婦を演じてみたいのじゃ」

勇者「どうせ戦うのがめんどくさいだけだろ。」

魔王「そうとも言うのじゃ」

勇者「サボんな、働けよ魔王」

魔王「せっかく魔王の座から追い出されたんじゃからゆっくりしたいじゃろ!」

勇者「ゆっくりすんな、せっかく平和にしたこの世界の危機とか言ったのはお前だろ」

魔王「だからお主がやってくれるんじゃろ?」

勇者「手伝いはするが、誰も一人でやるなんざ言ってねえ。もちろんお前も一緒だ」

魔王「しょうがない、手伝ってやるのじゃ!」ワッサワッサ

勇者「それ、俺のセリフ」


尻尾が嬉しそうにワサワサと左右に揺れている。…可愛いなぁもう

勇者「覇王の剣、性騎士の鎧、制覇者の盾、守護神のカブト…って一時は売り飛ばそうとした装備だなどれも」

魔王「売り飛ばしておったらレベルは高いくせに装備はひのきの棒に皮の鎧という何の縛りプレイじゃと言いたくなる状況になってたのじゃな」

勇者「 [レベルを上げて]最低装備で呪文使わずクリアする![物理で殴れ] とか?」

魔王「やるのかや?」

勇者「勘弁してくれ…」


そんなことより

[ここは]ドキッ☆危ない水着だらけのパーティーで世界を救う(ポロリもあるよ)[ハーレム]

とかがしたい!


魔王「パーティーメンバーは全員マッチョの戦士なんじゃな」


頭の中の水着美女が危ない水着(もちろん女性用)を着たマッチョマンズに変わる


勇者「ふんぎゃー!!」


それらが筋肉を見せつけながら迫って来る白昼夢を見ました


勇者「人の幸せな想像を邪魔するなんて!」

魔王「卑猥な妄想はNGじゃ、顔に出ておったしの」

勇者「よし、これで行く準備は万全だ」


何があってもいいようにゴムも大量に用意したしな


魔王「童はとっくに出来ておるのじゃ」

勇者「あれ?お前武器とかいらないのか?」


魔王「いらぬ、童には魔王としての魔力と大妖怪化狐としての妖力がありんす、それだけで十分なのじゃ」


魔王の尻尾の毛がざわつき、空気が彼女を中心に渦巻く
おー、怖い怖い


魔王「ところで主よ。」

勇者「何?告白?俺はもちろんオッケーだよ。幸せな家庭を作ろうぜ!」

魔王「話が飛躍しすぎなのじゃ!…それよりその大荷物の中、少し拝見させてもらえるかや?」

勇者「!!?…そりゃまたなんで」

魔王「なに、不必要な物が無いか少し調べるだけなのじゃ」


げ…ゴム入れてたのバレた?


勇者「無い無い、ちゃんと調べたから大丈夫」

魔王「主を疑うわけじゃないんじゃが、まぁ少し見せるんじゃ」

勇者「断る!俺にだってプライバシーはある」

魔王「…じゃあ実力行使でやるのじゃ」ザワザワ


魔王の尻尾が膨れ上がりまわりの空気が渦を巻く

尻尾が青白く光り、妖力が高まっていく

そして俺の荷物が宙に浮く

向かう先は魔王の手元


勇者「って、えぇー!!妖力使うなんて卑怯だーカムバック、マイバック!」

魔王「問答無用なのじゃ♪」


結局全て焼き捨てられました。暇つぶしのエロ本まで(号泣)


魔王「そういえばお主との二人旅は初めてじゃな、ちゃんと童を守ってくりゃれ?」

勇者「かわいこぶってんじゃねえぞ、自分の身ぐらい自分で守れるだろ。」


そう、いくら可愛い顔しててもこいつは大妖怪であり魔王だ。

その気になればそこらの小ボス級程度ならいくら束になってかかって来ても尻尾を一振りするだけで十分すぎるだろう


勇者「…本気を出せば、だけどな」


その目線の先には先ほどの俺の言葉をスルーして各地の観光スポットを確認しながら子供さながらに騒ぐ魔王の姿があった


魔王「ほうほう、ここは温泉が最高なのかや。さぞや気持ち良いのじゃろうな」

勇者「何だと!!?」


光の早さで魔王の見ている観光ガイドブックを覗きにいく

勇者「お、おおぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおおぉおぉおおぉおぉぉぉぉぉおおおおおお」

魔王「ぬ、主よ目が血走っておるぞ。そんなに温泉好きなのかや?」


違う、俺が見ているのはその隣の欄だ。

何かを狙っているかのように、注意してないと気づかないぐらい小さな文字ではあるが
「全て混浴です」
確かにそう書いてある

…よし、絶対覚えておこう

いや、やましい気持ちとかじゃないからどっちかっていうと優しさだよ。 旅で疲れるであろう魔王を気遣って温泉で疲れを癒してもらえたらなぁって考えているだけだよ

決して裸をみたいとか湯煙に紛れて胸揉みたいとか思って無いから。フフフフフ、温泉万歳!


魔王「主よ」

勇者「ひゃい!!」

魔王「何をしておるのじゃ?旅にでるのじゃろ?」

勇者「は、あはははは行く行く。さぁレッツゴー」

魔王「…?ところでまずはどこに向かうのじゃ?お主のことじゃからいきなり魔王城に突入はしないじゃろうが」

勇者「それもおもしろそうだが、たった二人だけじゃなぁ。…まずはかつての仲間を集めようか」

魔王「…かつての仲間とは主が妾のところへ来たときに連れておった奴らのことかや?」

勇者「あぁ、と言ってもあれから一度も会ってないんだけどな。」


肩をすくめる。


魔王「…妾と主との二人旅はどうなる」


睨まれる

実は魔王と和平条約を結んだあとはすぐにそれぞれ別れて別々の道を進んだり故郷に帰ったりしたんだよなぁ」

勇者「二人旅なんて俺は言って無いよ…………それに女は大勢いたほうがいいし」


最後の一言は聞こえないように小さく言う


魔王「最後が少し聞こえなかったのじゃが、何故か殺したくなったの」

勇者「なんでもないです。ごめんなさい」


脊髄反射的に謝ってしまった。俺の意思は何故こんなにも弱いのか


魔王「…ではとっとと仲間とやらのところに行くとしようじゃないかや」

勇者「あぁ、さてここから一番近いのは魔法使いか…あいつは確か大きく素晴らしい乳をしていたな」

魔王「何で胸基準なんじゃ!」



目を閉じて思い出してみたら脳裏に浮かぶのは首から下とヘソから上、つまりは胸だけだったから仕方ない


勇者「大丈夫、俺は貧乳も守備範囲内だ!」

魔王「妾を見て言うなや!けっこうあるじゃろうが」

男「うん、確かに魔法使いより小さくはあるが見た目はそこそこあるかも。それではちょっと失礼して」スッ

魔王「触ろうとするなや!」バチコーン

勇者「ひでぶ!」


胸の大きさを測ってやろうとしたらビンタされた。…ちょっと気持ち良いかも


魔王「まったく主は…………………妾にも心の準備と言うものがあるのじゃというに」

勇者「うん?何だって?」

魔王「な、何でもないのじゃ!!」ワサワサ


焦っているかのように尻尾が激しく揺れている。


勇者「?どうした?俺に惚れたか?」

魔王「やはり言おうかや。一度死ねなのじゃ」バサ


揺れていた尻尾が止まる


勇者「HAHAHA、そういうジョークはもう少しオブラートに包んで言うものだよ。ハニー」

魔王「…この世に一辺の細胞も残さず死ねなのじゃ」

勇者「オブラートが溶けた!?」

魔王「ところで、本当にあの小娘のところに行くのかや?」

勇者「あいつがどうした?お前あいつのこと苦手だったか?」

魔王「いや、妾は良いが、主はあやつらと喧嘩別れしたんじゃなかったかや?」

勇者「うーん、覚えがないなぁ。嫌われるほどのことはしてないし…」

魔王「誉めていないのじゃ!」

勇者「まぁあれらのスキンシップが別れた原因じゃないことは確かだ」

魔王「何故そんなに自信を持って言えるんじゃ…」

勇者「だってそこまで嫌がってなかったし」HAHAHA

魔王「それは主がそう思っているだけじゃと思うのじゃが…」

勇者「せいぜい変態勇者と呼ばれていたぐらいだ」

魔王「それは十分嫌われておるんじゃないかや?まぁ確かに別れた直接の原因は別のところにあるのじゃが」

勇者「ほら、やっぱり!」

魔王「何故そこでテンションが上がるんじゃ!」


勇者「で、直接の原因って何さ」

魔王「本当に覚えてないのじゃな…ハァ」


魔王は何故かため息をついた。なんだ?恋煩いか?


魔王「…」ギロ


睨まれた


魔王「…主は鈍感とかそういうレベルを超越しておるのじゃな」

勇者「それが俺クオリティ!」ドヤァ

魔王「…まったく主は……確かあの小娘は親の敵討ちのために妾を追っていたはずじゃ」

勇者「あぁ、魔物に殺されたらしいからな」

魔王「なるほどの、しかし主は妾を庇い小娘の復讐を邪魔したではないかや?」

魔王「しかもその際、『あたしとあいつのどっちが重要なんだよ!』と問われ、妾を選んだではないかや?」

勇者「それが嫌われる理由になりうるか?」

魔王「十分過ぎるのじゃ。よいか?あの小娘は大層主を好いておった。」


そうなのか、まったく気づかなかった。じゃあさっさと会いに行って求婚するか


魔王「つまりじゃ、小娘は好いていた男に振られるように裏切られ、復讐すら果たせなかったのじゃ。さぞや主を怨んでおるじゃろうな」

勇者「だって実際あいつ個人の復讐心よりお前が必要だったんだ。魔物と人間が手を取り合って暮らせる世界を作るために」

魔王「なんで主は変態なのにそういうところだけ勇者らしい選択をするんじゃ…」

勇者「それは俺がただの変態ではなく変態勇者だからだ!」ババーン

魔王「その台詞がかっこいいと思ったら大間違いじゃ!」

勇者「大丈夫だよ。あいつ心広いから」

魔王「むしろ心が広くないと主のような変態とは付き合えないのじゃ」

勇者「褒め言葉をありがとう」

魔王「褒めておらぬのじゃ!」

勇者「俺には褒め言葉」キラキラ

魔王「そんなにキラキラした目でこっちを見るなや変態勇者!」

勇者「ゾクゾクする言葉をありがとう!」


ロリっ娘(ロリっ狐とも言う)になじられるのもいいね、知らなかったよ

魔王「…そういえば主は妾に一緒に住もうなどと言い出したじゃろ?」

勇者「あぁ、平和協定を結んですぐだろ?」

魔王「うむ、まぁ人間世界の政治や人間にとっての平和など色々学ぶ必要のあった妾には嬉しい話じゃったがの…」

勇者「そうだろうそうだろう。俺にとっても良いことしかなかったよこの数年」

魔王「しかし主は仲間の表情に気づかなかったのかや?」

うん?エロイ顔でもしていたのだろうか、俺も魔王とのエロいイベントに胸を膨らませていたしな

事実そういうイベントがあったかって?……この世には知ってはいけない事実という物があるのさ


魔王「皆ショックを受けておった。主が完全に妾に取られたと思ったのじゃろうな」


取られる?はて何の話だろうか?下着かなんかか?

魔王「誰とは言わぬが今にも泣きそうな顔をしていた者もおったぞ。本当に主は何でそういうとこだけ鈍感なんじゃ」

勇者「本当に残念だ。気づいていればその場で抱きしめてやったのに」


そしてドサクサに紛れて胸も揉めたろうに


魔王「…」ギュー

勇者「あたたたたた、足踏まないで」

魔王「ふん、…まぁその鈍感さのおかげで妾が主を独り占めできるからよしとするのじゃ♪」ワッサワッサ

勇者「!!?」


尻尾を振りながら年相応(見た目年齢)に可愛く甘えるように擦り寄ってきた。なにこれかわええええええ

今「リア充爆発しろ」とか思った全国の悲しき男どもに告げよう、俺はすでに爆弾岩と共に爆発ランデブーを170回ぐらいしているんだよ

だからといって嫌な思い出だと言うこと以外には別に何も無いんだけどね


魔王「お、あれに見えるは町ではないかや?」


と、そんな風に話しながら歩いていたら町が見えた

勇者「あぁ、魔法使いはあの町に住んでいるはずだよ。一度も連絡もらってなかったから引っ越ししてる可能性もあるけどそれはやめてほしいなぁ」

魔王「…主は妾との二人旅に未練は無いのかや?」

勇者「無い」


俺はハーレム思想なのだ。魔王と二人イチャラブもいいがやっぱり沢山の美人に囲まれていたい


勇者「」チラッ


こいつにはおっぱい成分が足りないんだよなぁ


勇者「…」ジー

魔王「主よ、何を考えておる?そしてどこを見ているんじゃ」

勇者「いや、物足りなさを感じてさ」

魔王「何にじゃ!」ドガッ

勇者「痛い!でも気持ちいい」

魔王「変態じゃ!!」ガッ

勇者「それはともかく魔物も出なかったし無事に着いて良かったじゃん」


顔にくっきりと小さくて可愛い靴の跡をつけながら言う

まぁ出てもぶっ倒すだけだが


魔王「こんなこと言ってるとフラグになって出てきたりするんじゃがな」

勇者「違いない」ハハハ

デデーン
野生の魔物が


魔王「広範囲中級閃光魔法!」チュドーン


野生の魔物が


魔王「どうしたんじゃ主よ?町に入るのじゃろ?」


野生の魔物が…


勇者「いや、今魔物が現れて一瞬で消え去ったけど…」


野生の魔物が…


魔王「うむ、せっかくの二人旅を邪魔しおってからに、お仕置きとして吹っ飛ばしただけなのじゃ」フフン


鼻を鳴らして満足げに言う

野生の魔物が……


勇者「早すぎてシステムメッセージがついて行けてねえよ↑途中まで言いかけたままで迷ってるじゃねえか、若干かわいそうだよ」


野生の魔物が……


魔王「別に良いじゃろ、ずっと出しとけなのじゃ」


野生の魔物が……


勇者「邪魔だよ!↑」


野生の魔物が…えっと、えーっと…


勇者「どうすんだよこれ…↑」



野性の魔物が…

野性の魔物が特に出番も無く滅亡した


魔王「↑なんとかなったようなのじゃ」

勇者「なんか悲しいよ!!某ゲームの『返事がないただの屍のようだ』並みに哀愁が漂ってるよ」

魔王「うるさいの、ではこれでどうじゃ?↓」


お気の毒ですが冒険の書1冒険の書2冒険の書3はあなたの命と共に消えてしまいました。


勇者「うぎゃあああああああ、トラウマがああああああああああ」


バタッ


魔王「しまった、やりすぎたのじゃ…まぁ面白かったから良いか♪」ワッサワッサ

…………


勇者「…まさか俺の命が冒険の書そのものだったなんて」

魔王「そんなわけあるかや。まぁようやく起きたのじゃな、今悪夢にうなされておったぞ」

勇者「なんだ、あれは夢なのか」


魔王「そ、そうなのじゃ。あれはただの夢じゃ、主はいきなり出てきた魔物に催眠魔法をかけられて眠ってしまったのじゃ」

勇者「なんてことだ、記憶まで若干途切れている。俺としたことが魔物の気配にすら気がつかなかったのか…」

魔王(言えぬ、調子に乗りすぎて妖力を使った軽い幻覚と催眠暗示をかけてしまった。などとても言えぬのじゃ)

勇者「じゃあ魔王が俺をここまで運んで来てくれたのか?」

魔王「ま、まぁそうなるのぅ。妾の妖力を使えば人一人宙に浮かべて移動させるなど簡単なことなのじゃ、感謝するがよい」フフン


腰に手を当てて鼻を鳴らす、でもそれはただ虚勢を張ってるだけ

実際は少し罪悪感があったりする

勇者「そうか、ありがとうな」ナデナデ

魔王「~っ///」カアア


俺の腰より少し高い程度の位置にある魔王の頭を撫でる

サラサラの髪と頭の上から生えている耳の今までの何よりも手触りのいい毛並みがすごく気持ちいい、なんか癖になりそう


魔王(卑怯なのじゃ。このタイミングでそんな爽やかで暖かい笑顔を浮かべながら頭を撫でるなんて卑怯過ぎるのじゃー。うぅ、罪悪感だけがどんどん増してゆく)


しかし罪悪感はあるもののプライドが邪魔して謝ることも真実を話すことも出来ない魔王なのであった。


勇者(ヤバい、なんだこの魔王可愛すぎだろ!)


今日はやけに大人しく頭を撫でさせてもらえた。と思ったら真っ赤になって俯いてるんだもん、いつもは立っている耳も気持ち良さそうに寝てるし、尻尾はすごく嬉しそうに左右に振られている。

こいつ本当は狐じゃなくて犬なんじゃないのかな?まぁ、狐も犬科だけどね

いや、そんなことよりも


勇者「魔王可愛すぎ、もう我慢できないっ」バッ

魔王「な、なにするのじゃ、ひゃぁっ///」

勇者「もう、可愛すぎるぞ!」ギュー

魔王「っ~///さすがにこれはダメなのじゃ。やー、放せー」ジダバタ


さらに顔を真っ赤にして、暴れだす。やべえ、マジ可愛い


勇者「いいじゃん、お前がかわいすぎるのか悪いんだー」

魔王「いやじゃー、さすがに恥ずかしすぎるのじゃ、うぅ」バッサバッサ


尻尾も激しく暴れているがその様子まで可愛くてたまらないわー


勇者「よいではないか、よいではないかー。あぁこの尻尾もモフモフしててすごく手触りがいい!なんて素晴らしい毛並みなんだ!」スリスリ


抱きしめたまま魔王のモフモフ狐尻尾をすりすりと触る


魔王「た、たわけ!尻尾は、尻尾だけはダメなんじゃ。力が、力が抜けるぅ。ん~っ、たわけ!放せ!バカ!変態!ロリコン!変態ロリコン!」

魔王「寝ぼけんななのじゃ!」

勇者「あ、何だ夢か…」グー

魔王「二度ねするなや!」ドガッ

勇者「???何で俺こんなに怒られてんの?」

魔王「ふん、じゃ」

勇者「何で拗ねてんの?昨日飯おごって機嫌直したはずじゃ…」



数時間後



ついに来た、来てしまった。なんてことだ

勇者「ここが魔法使いの家か…こんな豪邸に住んでいたなんて」

魔王「主の家の2倍近くあるのじゃ…」

勇者「よし、チャイムを鳴らそう」


ピーンポーン

チャイムといったらこれ、と言わんばかりのありふれた音が鳴り響く


「ハーイ」

インターホンから声がする。

さて、なんて言おうか普通に挨拶するかそれとも普通とは一風変わった挨拶で驚かせようか


勇者「あなたの勇者、見参」ブチッ、ツーツー


切られた!?


勇者「おかしくない?名乗った瞬間インターホンの回線切られたよ!?見参のけの部分で切られたよ!?そこまで嫌われてんの!?」

魔王「きっとあれじゃ、早く主に会いたくてさっさと切って今玄関に向かっている最中…」


ドタドタと家の中を走り回る音がする

ドタドタドタドタ、ガチャン、バタ

魔王「じゃ、無さそうじゃの…」


見ると窓という窓の雨戸が人外の早さで閉められていく

ガチャン、ガチャン、バタバタ、ピーガチャン

おまけにセキュリティロックの音までした。機械化はここまで来てたんだね、すごいね、ずっと魔法に頼っていたから機械なんて触る機会も無かったよ。奇怪だね、不思議だね、昔はあんなに慕ってくれていたのに今じゃ完全に拒否られてるよ心のATフィールド全開だよ


勇者「機械、機会、奇怪、フ、フフフフフ」


魔王「壊れやすい心じゃな…そんなくだらんこと言わず頑張るんじゃ」

勇者「…うん」


「最上級バリア魔法!」


勇者「リアルATフィールド貼られた!?」


防御力最高峰のバリアが家を包む

やべ、せっかく考えたサブタイ忘れてた


第一話「人と狐が出会いて始まり」

勇者「機械ってすごいね、ATフィールドまで再現するなんて」

魔王「これは魔法じゃ、ATフィールドではないのじゃ中和も侵食もせずとも剥がす術はあるのじゃ」

勇者「ダメだよ、嫌われた俺には彼女の絶対防御領域に立ち入ることは許されないんだ。中和も侵食も拒絶されるだけさ」

魔王「じゃから、それ以外にも方法はあるといっておるのじゃ」

勇者「いいんだ。どうせ俺はいらない子なんだ。そうさ、こんな変態は皆の敵なんだ。もう僕山にこもる」

魔王「主よ、よくそんなナイーブな性格で今まであれこれしてこれたの…」

勇者「そうだ山に籠ろう、下界に降りるときはエロ本の調達の時だけにして完全に他人との交流を断とう。そうすれば誰にも傷つけられないもう何も怖くない」

魔王「主よ、しっかりするんじゃ!それではもうただのへたれた変態ではないかや!!」

勇者「あぁ、俺はそれでいい。俺なんかはヘタレ変態位でちょうどいいんだ。あぁ、割りきっちゃえば世界は本当に美しく見えてきたよ。Hello new,world」

魔王「その新世界へは旅立ってはならぬ!戻って来いなのじゃー」

勇者「俺に話しかけないでくれ、他人との繋がりが怖いんだ」

魔王「あぁ、そんなの主じゃ無い!いつもの主はどこに言ったんじゃ!あのたわけで無駄に自信たっぷりでバカで大間抜けで妾の頼りにいつもなってくれる勇者はどこに言ったんじゃ!!」

勇者「ゆう…しゃ?」

魔王「そうじゃ!変態で、エロくて、好き勝手で、それでいていつも優しくしてくれる…妾の…妾の大好きな勇者は!!」

勇者「………………………………………そうだ」

魔王「主…よ?」

勇者「そうだ、俺は勇者、変態勇者なんだ!へたれた変態じゃなく、堂々と変態行為をしながら世界を救う勇者だ!!一人の女に嫌われたからなんだ、世界はどこまでも広く、女は星の数より多い!!」

魔王「そうじゃ、それでこそ主なのじゃ」

勇者「ありがとう魔王、お前のおかげでようやく自分を取り戻すことができ・・へぐぅ!!!」ゴォイイイン

魔王「ぬ、主よー」


上のほうからフライパンらしき物が落ちてきて勇者の頭を直撃した。


「何よその茶番劇!結局ただの変態の清清しいほど最低最悪な開き直り物語じゃないの!!」


フライパンを絶妙なコントロールで投げてきたであろう人物、魔法使いその人が窓から顔を出して叫ぶ

かかったな魔法使い、知っていたぜボケには突っ込まずにいられないお前の性格を!!


勇者「魔王、今だやれー」

魔王「了解なのじゃー」ザワザワ


目を一瞬合わせて意思疎通、いたずら好きな奴というのは性別も年齢も関係なく互いの考えてることが一瞬で通じ合うことがあるものだ

魔法使いが窓から顔を出した瞬間、魔王の妖術で魔法使いを家の外へと引きずり出す。

もちろん怪我しないように妖術で浮かせてね

ところで皆はやらかしちゃった後に「どうしてこうなった」とか「どうしてこんなことをしちゃったんだろう」とか思ったことないかな? 俺はけっこうあるよ。特に今の状況とかそうだな


勇者「なんでこうなっているんだろう…」

魔法使い「それはあたしのセリフだー、どうしてこうなってんだよ!これ解けー」ジタバタ


目の前の少女がもがき、足掻き、よじり、跳ねる。

少し話が長くなるがまずは今の状況を説明しよう。
すばらしい手際で少女を家から連れ出し、魔王の妖術で作り上げた隔離空間に縄で縛って閉じ込めてある。はい説明終了

うん、酷い状況だね、誘拐拉致監禁ほかにどんな罪に問われるかな


魔法使い「っていうかなんで亀甲縛りなんだよ!」

勇者「いやぁ、手がかってに動いてさ」

魔法使い「んないい加減な言い訳あるか!!」


ちなみに「エイリアンハンドシンドローム」とかいって手が意思に反して勝手に動いたり場合によっては自分を殺そうとする病気があるらしいよ。凄いね人体の神秘


魔法使い「そしてなんで魔王までいるんだよ!!お前らそろってあたしに何をしようとしているんだ」

魔王「妾は勇者に言われてやってだけじゃ、全責任はこやつにある」

勇者「んなぁ!?」

魔王「ということで説明よろしくなのじゃ」


うっわ、丸投げされた。確かに拉致監禁誘拐は俺の指示かもしれんがおまえのためでもあるだろ…あるのかな?


勇者「…かくかくしかじか、まるまるさんかく、いあいあくとぅるふ」


---------- 説明中 -----------


ということで俺は魔王の後継者のこととか話したわけだ


魔法使い「ふんふん、なるほど。わかったわ、逃げ出そうとはしないからこの縄解いてちょうだい」


お、冷静になったようだ。この魔法使いは焦ったり怒ったりすると男言葉になるらしい。元々ボーイッシュだったのを矯正でもしたのだろうか


勇者「そういうわけで俺は」

魔法使い「私をまた仲間に引き寄せようといているの?」

勇者「いや、結婚を申し込みに来たんだ」ドーン

魔法使い「なっ!!」


魔法使いは絶句している。


魔王「主よ…」

勇者「どうした魔王、そんな汚物にたかる蛆虫を見るような目つきでこっちを見ないでほしい失礼だ」

魔王「お主に失礼という概念があったのが驚きじゃ…」

魔王(ま、でもこれでこの小娘も完全に引くじゃろう。また二人旅続行じゃ♪)


そして数秒後


魔法使い「ば、バッカじゃねえの?お、お前にはそそそ、そいつがいるじゃねえかよ。なのにあたしにな、な何行ってんだよ///」

魔王(何で顔赤くなってんじゃー!)

勇者「ふ、俺の心は美しいものから美しいものへと渡り鳥なのさ」

魔王「何じゃそりゃなのじゃ!」ゲシ


かっこいいこと言ったと勘違いしているような顔の勇者のすねを思いっきり蹴ってやる


勇者「ぎゃー、そこはらめぇー」

魔王「変な声出すなや!!」ドゴッ


もう一発今度はボディーブロー


勇者「すんませんすいません。でも…気持ちいい」

魔王「変態なのじゃ!!」ドッガーン


フィニッシュにダイナマイトパンチをお見舞いする。


勇者「こんな勇者ですが仲間に戻ってきてくださいお願いします」ズサー

魔法使い「ヒッ」


そりゃ脅えるよね、目の前でタコ殴りされた変態がこんなことを言いながら自分のところに滑ってきたら…吹っ飛ばされただけだよ


魔法使い「…」


魔法使いは考え込む、そして数秒後結論を出してきた


魔法使い「いいわ、でもその前にお願いがあるの」

勇者「おう、なんでもどんとこい!」

魔王(なんでじゃ!なんでそんなあっさりこの変態を許せるんじゃ…うぅ、二人旅がぁ)


横を見るとしょんぼりして犬みたいに魔王が尻尾と耳と共に項垂れていた。シュンとしている耳ってなんか可愛いよね


魔法使い「とある町に最近魔女が出るって類の噂があるのよ。それを確認しに行きたいの」

勇者「その町って?」

魔法使い「魔術、妖術、機械技術によって栄える町、ウィチルラルクよ。ここから北北西の方角にあるわ」

魔王「ウィチルラルクじゃと!?」

勇者「魔王、いつの間に!?」


いつの間にか復活した魔王がいきなり割り込んでくる。眼差しは真剣だった


魔王「ウィチルラルクといったのかや!?」

魔法使い「え、えぇ。何かあるの?」

魔王「…い、いや可能性で物を語るのは性分ではないのじゃ。忘れてほしいのじゃ」


何があったのだろうか、もしかして昔の男でもいるのか?


魔王「たわけ!」ギュウ

勇者「あだだだだだ」


そんなことを考えたら足踏まれた。尻尾を見ると本気で怒ってるっぽい、図星なのか?

いや、分かったぞ!これは「気づいてほしい」というサインなんだ。何に?悩みにだ!!

よし、そうと決まれば行動だ!


魔王「余計な詮索も余計な行動もせんでよいのじゃ!!」ギュウウウ

勇者「痛いです、痛いです。ごめんなさいごめんなさい」


深入りするなというサインだったらしい。わかんねーよ

その頃 魔界、魔王城内部王の座間


バタン

モブ魔物A「ま、魔王様大変です。魔王様!」ハァハァ


魔物が一体、息を切らせながら魔王のいる部屋に駆け込んできた。そう、新しく魔王になった者の前に


新魔王「なんだ騒々しい。落ち着いてから話せ」

モブ魔A「それでは失礼ながら息を整える時間をもらいます」ヒッヒッフー、ヒッヒッフー


息を整えて(?)一旦落ち着き、一呼吸置いてから話す。


モ魔A「あの…えと、元魔王が生きていたようです。しかも勇者と一緒に行動を共にしているようで」

新魔王「バカな…確かに死体はこの目で確認した。生きているなどと…」

モ魔A「こちらも目で持って確認しました。他にも耳、鼻…見た目も声も臭いも完全に元魔王です」

新魔王「どういうことだ!!落ち着け、考えを整理しよう素数を数えて落ち着くんだ。0124…素数ってこれだけか」

モ魔B(…大丈夫なのかなこの魔王様…かなりアホだけど)

新魔王「元魔王が寝ているときにあいつに運び出させて殺させてその後殺した報告を俺が受けて…うーむ、ちっとも分からない」

モ魔B「そいつ一人に運び出させて殺させたんですか?」

新魔王「その通りだ。あいつがどうしても一人でやりたいと言い張ったのでな…何故あの元魔王は生きているんだ?うーん」

モ魔B(怪しい奴そいつ意外にいねーじゃん。アホなのか、やっぱりアホなのかこの人は)

新魔王「うーむ?」

新魔王「そうか、元魔王を運び出したあいつが一番怪しい。お前ら全員奴を探しに行け!!」

モ魔B「おせえよ」


すでに数十分は経過していた。

しかも側近がそれとなくヒントを言ってからとっくに十分ちょっと経っている。

この魔王に一抹の不安を拭い去れないモブ魔物Bであった

魔王城内部


『 元魔王を運び出したあいつが一番怪しい。お前ら全員奴を探しに行け!! 』


そんな言葉が魔王城内を駆け巡る。魔法を使って城内全てに聞こえるようにしてあるのだ。


「やっと始まったか。楽しい楽しい鬼ごっこがよ」


そうやって呟くと自分の特徴が流れている間に準備体操をする。走るための準備を


『 犬のような顔つきで 』

「狼だバカヤロウ」

『真っ黒な毛をして犬の耳と尻尾が云々』

「狼だっつってんだろう。やっぱ前の魔王のほうがいいぜ、全ての魔物ことを考えてくれたもんな~っと」チャリ


最後に伸びをして首をコキコキ鳴らす。腕と足についた足枷と契れた鎖がチャリンと鳴った


『裏切り者しろうを捕まえて殺せ!』

神狼「名前は正確に。俺は神狼(みろう)だ」


モ魔C「あれ、あいつじゃねえのか?」

モ魔D「あいつだ、しろうだ。捕まえろ!」

モ魔Σ「やっちまえー」

神狼「お前らごときに捕まえられっかよ。」ググ


足に力を込める。

よーい


神狼「どん!」ダッ


一瞬で遠くまで駆け出した。モブの魔物たちはただ唖然と見守ることしか出来なかった

神狼「さて、どこへ逃げようかなっと」


神風並みの疾風となり疾走する。時にはおちょくるように足を止めて後ろを振り向きながら

時にはわざと大声や大きな音を立てて気を引いたりしている。


神狼「ほら、俺はこっちだノロマども」


挑発

俺は生まれてこの方スリルだけを求めて生きてきた。今だってそうだ。

裏切り者として全魔物に追いかけられ、広大な城の中で追い詰められる。なかなかのスリルだ


モ魔FZ「とうとう追い詰めたぜ。うぇへっへっへ」


ふむ、袋小路か甘い甘い


モ魔ITU「おいおい壁に向かって走ってどうすんだよ。その壁は押しても隠し扉にはならねえぞ」ハハハハハ

笑いが上がる


神狼「こうすんだよっ!」ダッ


壁を蹴る、回転して天井を蹴る、一番前の魔物の頭に着地、ダッシュ


モ魔SE「頭がいたいよー」


ぬるいぬるい、その後色んな魔法が俺を殺そうと飛び交うが一つもあたりやしない。


神狼「さて、そろそろ外に出るか…」


出口を目指して一直線、しかし


空間が歪みを見せた。


神狼「空間変異魔法!?しまった罠か」


出口は突如に闘技場へと変化していった。そこに現れたのは


  「そのとおりだよわんこ君、噛み付く相手を間違えちゃったようだね。結末は死に決定だよ」

  「あはは、裏切るなんてバカだよねー。結局ボクたちに殺されちゃうってのにさぁ」

  「笑止千万、不届千万、懲罰千億」

  「グルルルル、おまえ大きくない、壊しがい無さそう。すぐ終わらせる」


神狼「やべえな、四天王といっきにやれってのか」



神狼「へへ、血が滾るぜ。やっぱり人生にはスリルがねえとな」ゾクゾク


続く

第二話「人と狐は戦に踊る」

魔法使いの故郷を旅立って数日が過ぎた。運がよければ今日当たりウィチルラルクにつくだろう

あれから色々あったぞ。

親の仇と憎んでいた魔法使いが魔王といつの間にか仲良くなっていたりな、…「いつか変態を懲らしめる同盟」とか聞こえた気がしたが気のせいだろう。

後はスライムから美味しい出汁が取れることを発見したり、一角ウサギの肉も案外美味しいことを発見したり

リンゴの形をした魔物は初級火炎呪文で普通より美味しい焼きリンゴになることを発見したり、あれこれ何の旅だっけ?美食屋になった覚えはねーよ?

魔王と魔法使いが俺を取り合って三日三晩激しいバトルを繰り広げたり

その後俺が「俺が二人同時に愛すればいいだけじゃないか」って言ってハッピーエンドにしたりその日の夜に三人で…


魔王「何記憶捏造しておるんじゃ変態!」

魔法使い「最後の二行まるっきり嘘ばっかりじゃないのよ!!」


ドカッゲシッボコドカドスドス


はい、事実はフルボッコにしてくる人数が増えただけです。痛いです(泣)



勇者「…最近の俺の魔力は主に回復のためだけに使われている気がする。」

魔王「自業自得じゃないかや」

魔法使い「そうね、あたしたちだってあなたが大人しくしていれば何もしないわよ。」


わかったよ、大人しく脳内で妄想しているよ。…触手に襲われた魔法使いが


魔法使い「脳内妄想も禁止だ!!」

勇者「いってぇ!何で分かった!?」

魔王「じゃから主は顔に出すぎているんじゃ…」


ここ最近のいつもの会話(?)パターン、もといじゃれあいである。

しかし、平和は唐突に崩れ去る

ゾワッ

勇者「!?」

魔王「!?」


……


勇者「感じたか…?」

魔王「う、うむ。何じゃ、この体中の毛穴が開くような悪寒…恐怖を呼び起こすようなこの殺気は」


二人同時に察知した何かの発する気配、それが流れ出てくる方向を見た。


そこには人間のような影が立っており、太陽を背にして崖の上から勇者たちを見下ろしていた


??「二人…か」


それが殺気を向けるのは多分、俺と魔王


??「」スッ


バッ

その影がこっちに飛び降りてきた。

ちなみにここは砂塵吹き荒む荒野である。

あんな高いところから飛び降りたとなれば、着地時に砂煙が舞い上がるのは当たり前


ドダッ


そいつは俺の目の前に降りてきた。砂煙が俺とそいつを包む


ズッ


勇者「うおっ」


砂煙の中から手が突き出てきた。避けるのが後ちょっと遅れていたら顔面を抉られていただろう。


勇者「参ったな、不利だ」


こっちはどこにあいつがいるか分からないがあいつはこっちが見えているかのようだ。


勇者「ぐっ」


今度は足が突き出てくる。やはりこっちの位置が分かるんだな


勇者「なら砂煙を吹き飛ばせばいい。初級風魔法」


ヒュウウウウ

砂嵐が晴れる。

そこに立っていたのは


??「…回避に関しては良い反応だな」


人間だった

だが人間といってもあやふやなものだ。

腕と足と体格からしか人間と判断できない。

顔は狐のお面をかぶっており見えない。

服は最初は黒い和服かと思ったが違う、白い服だ。

白い和服に見たことも無い謎の文字が全身に所狭しと書き込まれ、それを何故か死装束のような着かたで着ている。


異様過ぎる。


勇者「お前何者だ?人間か?盗賊には見えないが目的を一応聞いておこう」

狐面の男「………よこせ」

勇者「は?」

狐面の男「お前の力をよこせ」


狐面の男が一瞬で間合いを詰めてきた

空気がざわつく、この気配は魔王の妖術の気配に似ている。


狐面の男「妖術変化」


腕が刃へと変わる。


魔王「主よ、逃げろ!そやつは人間では無い!!」

勇者「何!?」ガキイイィイン

狐面の男「ふんっ」

勇者「がっ」ズサアアア


とっさに盾でガードする、しかし力は相手のほうが上だったためこちらが弾き飛ばされてしまった。


狐面の男「…そうか、俺はすでに人間ではないのか」


刃になった自らの腕を見て呟く

もちろん狐面のせいで表情は見て取れないのだがおかしい、声からもいっさい感情が見えない。まるで機械のような一定調子の平坦な声


狐面の男「…いや、もうどうでもいい」


再び顔をこちらに向ける。目が合った。狐のお面から覗く瞳は狂気の色を湛えていた

何かを固執するような、たった一つの目的だけを執拗に見据える狂気の瞳


魔王「主よ!何をしておる!早く逃げよ」


魔王が再び叫ぶ。俺はどうするべきか、目の前の危険な奴を放って置くべきなのか?それとも…

勇者「ふぅ、ほかに選択肢はねえよな。」

魔王「主よ!」


魔王の制止は聞かない、剣を抜いて狐面と対峙する。


勇者「なんと言われようと俺は勇者だ。勇者の存在意義ってのは人々を守ることだよ。それは例え変態勇者だったとしても揺るぎない"勇者としての決意"だ」


そう、それが俺の勇者となった理由であり少年時代から受け継いでいる決意だ。

別にもてるからちやほやされるからという理由だけで勇者になったわけじゃない、大半はこのもてるという理由のためだけどね


魔王「主…そうじゃったな主は勇者じゃ。…腐っても鯛というわけかや」


あれ?俺軽く罵倒されてない?


魔法使い「はっ、ゆ、勇者あたしも手伝うよ」


魔法使いがようやく金縛りから解放された。いい加減驚くと硬直する癖なんとかならないものか


勇者「で、三対一なわけだがどうする?来る?」

狐面「心配ない。問題もない」スッ


狐面が左手をかざす。先ほどと同じように妖術の気配がする。


狐面「妖術、完全結界」


俺と魔王、それに狐面を囲むドームのような結界が張られる。逃がす気はないってか


狐面「弱者に用は無い。俺が用があるのはお前らだ」

勇者「らしいね。見た目的には凄く弱そうなのが結界内に一人残っているけど」

魔王「主よ、それはもはや妾のことではないじゃろうな?」

勇者「どうだろうね」

魔王「いいじゃろう。ならば妾にやらせてもらうのじゃ」

勇者「…いいよ」

力でもためているのかそれともこっちの出方を伺っているのか狐面は動かない。今ならやれるかもしれない


魔王「超級火炎魔法なのじゃ!!」ボォオオォオォオオオオ


魔王が手を向けた先、狐面の上空に太陽が落ちてきたかのような巨大な炎の光球が現れ狐面に向かって落下する


魔王「避けれるものなら避けきって見せろなのじゃ」

狐面「」ス


狐面が今度は右手を掲げた。


狐面「くれおう みあげりな かる くろろ」


呪文詠唱だ。唱え終わると同時に頭上に迫っていた炎の球が掲げた右手に吸い込まれていった。


魔王「魔法を吸い込んだじゃと!?そんな魔法聞いたこともないのじゃ」

狐面「こりあるく けいか どぎ みらる ろろく るか なりげあみ うおれく」

魔王「…なんじゃこのでたらめな魔法は」


狐面の手から吸い込んだ火炎球が二倍の大きさで出てきた。しかも二倍のスピードでこっちに来る。しまったこの距離だと避けきれない

ならば!


勇者「魔王!っがああぁあぁああぁっぁあ」ボアアアアアアアアアアアアアアアア

魔王「主よ!」

勇者「…かはっ、黒炭にはなってねえな。丈夫な鎧でよかったよ」


強がりは言うが体力をかなり持っていかれた。なんとか魔王を庇うことはできたが俺自身が危ない。

…本気を出すしかねえな


勇者「なぁ魔王、あいつの足止めを頼む」

魔王「主が戦う気なのかや!?妾を庇ってそんなに怪我を負いおって…回復が先じゃ」

勇者「んな暇ねえよ。後ででいい、それより」

勇者「俺は覇王の剣の封印を解く、そのための呪文詠唱中あいつの足止めをしてもらいたい。」

魔王「な…分かったのじゃ、任せよ」


魔王は一瞬悩んだが何も言わずに承知した

結局は勇者に頼るしかないのだ。


勇者「あぁ信じたぜ、頼む魔王」


勇者「"覇王の剣に封印されし破滅の悪魔よ。俺の呼び声が聞こえるか、貴様を呼ぶこの声を聞き届けよ。"」

狐面「」ス、ダッ


狐面が俺のほうへ走ってくる。頼んだぞ、魔王


魔王「妖術、幻覚狂気群行(ファントムパレード)!!」


魔王の尻尾がザワザワと震え、妖力が集中して狐面に襲い掛かる


狐面「…これは幻覚か、俺のまだ持ってない力だ」


狐面がそう呟きながら見えない何かを追い払うようなしぐさをする


勇者「"今の貴様は封印されし獣なり、そして今一度その力を解き放とう"」

勇者「"我が刃となり従うがいい"」

勇者「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ る りえー うが=なぐる ふたぐん いあ いあ くとぅるー いが まぐな いんどぅるむ!!」


グオ゙オ゙オ゙ォォォオ゙ォォオ゙ォオ゙オ゙


勇者の手に握られている剣が呪文に呼応するかのごとく咆哮した。

その唸り声は獣のような、それでいて地獄の底から響くようなおぞましいものだった。

空気が震え、結界の外にいる小鳥や動物たちがけたたましく喚きながら逃げ出し、魔法使いですら思わず硬直してしまうほど恐ろしい"気配"が剣から流れ出る。


狐面「この気配、感じるぞ強者の波動を」


狐面がこちらを一点の迷いも無く凝視する。

魔王「な、まだ幻覚のとける時間では…」

勇者「しょうがないさ、覚醒したこの剣から流れ出る波動は感じないほうがおかしいからな。そうだろ?」

狐面「…探したぞ」

勇者「やっぱお前の狙いはこいつか」

狐面「…」

者「まぁいいさ、一応言っておくが手放すつもりはないよ。ついでだからこれをどこで手に入れたか教えてやるよ」

勇者「こいつは昔、伝説の魔道師に封印された海底都市ルルイエの遺跡群に行ったとき、偶然発見した物だ。」

勇者「石碑によればこの剣は『混沌の覇王』と呼ばれた英雄が、当時大陸を支配していた大悪魔を封印したものらしい。もちろん本当に悪魔が存在したかは分からねえし、俺はそんなもの信じてないけどな」

勇者「だけどな、これから流れ出る禍々しい気は確かに悪魔と言ってもいいかもしれないな。はい何か質問ある?」

狐面「…よこせ」


狐面が拳を構える


勇者「無理な相談だ」


こっちも剣を振り上げる。


勇者「巻き添えを食らうからな、魔王下がってろ!」

魔王「う、うむ」

魔王(な、なんなのじゃあの剣から流れる気は…妾ですら感じたことがない恐怖)


魔王ともあろうものが脅えていた。あの剣に、いくら魔王と言えど恐怖を感じた。そして"あれと戦っていたら死んでいた"ということも


魔王(悪魔じゃと?あれはそんな生易しいものではない。)


魔王であるからこそ感じ取ってしまったあの気配の本質、それは破壊と狂気と絶望を振りまく者


魔王(これは、この気配は神のものじゃ。それも邪悪なる神、邪神のそれじゃ)

勇者「行くぜ、覇王の剣。」


封印されているものの本性も知らず覚醒した邪悪な力を揮う正義の勇者、それは魔王の目には冒涜的なほどに異様な組み合わせに見えた。


魔王(主は、何者なんじゃ?)

勇者「うおおぉぉぉおお」ブンッ


覇王の剣で虚空を切る。普通なら何も起こらないが、覚醒したこの剣は違う。


狐面「遠距離型もか」


そう、どこまでも行く衝撃波、その範囲は広大にして音速で飛んでゆく


狐面「…」ヒュン

勇者「な、消えた!?」


狐面が消えた。走るわけでも飛んだわけでもなく、その場から煙のように消えた。もちろん衝撃波は狐面がいたはずのところをすり抜けて飛んでゆく


勇者「ど、どこだ!?…逃げたわけじゃ」


いや、俺の剣を見るあの異様な執着心を佩びたあの目を見るに逃げるなんていう選択肢は選ばないはず

魔王「主よ!後ろじゃ!!」

勇者「何!?」

狐面「遅い…」ガッ

勇者「がっ」ズサアアァアァァ


振り向く暇も無く背中に衝撃が来て吹っ飛ばされた、鎧にヒビが入る。


勇者「バカな…素手、だよな?」

狐面「あぁ、素手だ。」ヒュン


また狐面が消える。


勇者「まさか…瞬間移動!?」


あたりをキョロキョロ見渡す。だがどこにもいない。


狐面「その通り」


またすぐ後ろから声


勇者「くっ、ガハッ」ドガァ


そしてまた吹っ飛ばされる。


狐面「陳腐で在り来たりだが、最強だ。」ヒュン


消える。

確かにどこに現れるか分からないなら勝てる見込みはない。だが真後ろに来ると分かってるなら後ろを向いて構えていればいい


勇者(さぁ、こい)

狐面「残念だったな」


また背中から聞こえる。

勇者「!?」バキッ


殴られる。ついに鎧が完全に壊れた。


狐面「次で終わりだ」ヒュン


勇者「そうかな、まだ手は残ってるぜ」


そう、まだ手は一つだけ残っているんだよ

そう、ここまでやられて分かったことがある。

こいつが使っているものは瞬間移動なんて大層なものじゃない。

小規模の空間転移術、つまりはワープだ。 何が違うかって?全然違うね

瞬間移動は一瞬で別の場所に移動する術だが、ワープは空間の座標同士を繋いでショートカットで移動する術だ。

瞬間移動の下位能力でしかなく、消えてからショートカットを移動して現れるまでにタイムラグが生じる。

そしてそのタイムラグは、こいつの場合3秒もある。

その3秒間が勝利への鍵だ

勇者「り からまりあるく くくる かいまなし きゅうたに きある くがいしな」

タイムリミットは3秒間に合うか

勇者「きりくえむ かりあかし なくどれあ かかいな くしらみゆ えいか ちりむ」


それなりに魔力があれば大抵の魔法は呪文詠唱を省いて放つことが出来る。

しかし膨大な魔力を持つ勇者でも呪文詠唱を必要とする強力な魔法は存在する。

その数少ない強力な魔法の一つがこれだ。

特別長く、特殊で強力な魔法

勇者「みにま ぐりやどむ かいと ぴりおむ」


頼む、間に合え,

間に合え!


勇者「くがいなと がりあくすなて くーかい えんどぅかり あしな まきな…」

魔王「主よ、後ろじゃ!!」

狐面「…終わりだ」ブン

勇者「くがいなと がりあくすなて くーかい えんどぅかり あしな まきな…」

魔王「主よ、後ろじゃ!!」

狐面「…終わりだ」ブン



勇者「フッ」ス

狐面「!?…避けた、だと?」

勇者「終わるのはお前だ!」ザッ


まだ長い間この剣を覚醒させたまま自我を維持して闘うことは出来ない。これで蹴りをつける!

覚醒した覇王の剣が獲物を噛み砕く牙のように狐面の顔に襲いかかる。


狐面「くっ」


狐面がワープして牙の驚異から逃れようとする。

そのモーションも見切った、剣をさらに突き出す



勇者「逃がすかあぁあぁあああああぁぁああ」


バキ


獲物を噛み砕いた確かな感触が腕を伝う。

しかし


狐面「…ぐ」


ワープして少し離れた場所に現れた狐面には傷一つついていなかった。

せいぜい狐のお面が割れている程度である。


勇者「かすった…だけ」


そんな…タイムリミットだ

勇者「…"再び海底の深淵の淵にて眠りに着くが良い。ふんぐるい むぐんんらふり くとぅるふる るりえー あぐな くとぅるーとぅる"」


これ以上体力を奪われる前に再び封印する。

積みだ。電池切れだよちくしょう

だが、最後までは倒れられない。

力を振り絞って立ち上がる。

しかし、目に飛び込んできたのは異様な光景だった。


狐面「ぐああぁぁぁあぁ、があああああああ」


うずくまって何やら呻いている。


勇者「何が…どうなってるんだよ」

狐面「あ、ああぁぁぁああ」


狐面が呻きながら顔を上げる。割れた狐のお面、本来なら割れて出来た穴から人間の素肌が見えただろう

しかし魔王は「そやつは人間では無い!!」と言った。今なら明確にそれを確信できるだろう。何故ならば

お面の割れて空いた部分からは"人間の素肌など少しも見て取れなかった"からだ。

それどころかその穴からは炎が吹き出ていた。墨よりもドス黒く、深淵よりも深い闇の色をしている炎、それがお面から吹き出しているのだ

もちろん血ではない。じゃあ何だ?あの闇の炎はまるで、あのお面自体が内に何かを"封印"していたかのようじゃないか

いや、異変はそれだけではない。


狐面「がっぁあああああああ」


狐面が叫ぶたびに、それに呼応するかのごとく

服全体にびっしりと刻まれた呪文のような謎の文字群が声に合わせて明滅している。


狐面「くっ、ううぅぅ」


狐面はお面の割れた箇所に手を押し当てる。怪我をした人間がそうするように

しかし指の隙間からチロチロと黒い炎が見えている。


狐面「よく、よく当てたなぁ」

狐面「もう俺は戦えない、悔しいがこれまでのようだ。」


狐面が重病人のようにゆっくり立ち上がる。


狐面「さらばだ、次に会うときまでにせいぜい力をつけてくるがいい。」


そしてこちらを振り向き、呪うような恨みと憎しみ妬みと執着心とをごちゃごちゃに混ぜた狂気の眼差しを向ける


狐面「そして次あったとき、その剣もろとも貴様らの力を 全 て 奪 い つ く し て や る。」


最後の言葉には今日初めて感情がこもっていた。曰く怒り

勇者「待て!!」


剣を構える。

ここで倒さなければ

狐面「…」ヒュン


しかし剣先が届く前に、かすりもせず狐面はワープしてどこかに逃げた。


魔王「………終わったのかや?」

勇者「終わってない」

魔王「な…?」

勇者「あいつは絶対またこの剣の前に現れるはずだ。倒さなきゃ終わりとは
いえない…」ギン


狐面が消えた一点を睨む


魔王「…主よ、いまはいいんじゃないかや?"一応生き延びた"それだけで今日はおわりにしようじゃないかや」

勇者「…そうだな」スチャ


剣を腰の鞘に収める。

そうさ、今日は終わりにしよう。今のイベントで少しは高感度上がったはずだしな。フヒヒ


勇者「と、言うわりに結界が無くならないな。」


そう、何故か結界が無くならない。

まさか術者を殺さないといけないパターン?


勇者「やばい再び積みだ!!」

魔王「何じゃと!?この結界が剥がせぬと言うのかや!!?」

勇者「やべーよやべーよ、やっぱり逃がすんじゃなかった。あの死服ヘンテコお面野郎!」

魔王「な、な、な、なんじゃそりゃなのじゃー。もしかして妾はここで一生こやつと生きなければならぬのかや!!?」

勇者「不束者ですがよろぴくお願いします♪」

魔王「絶対絶対嫌なのじゃー、魔法使い何とかしてくれなのじゃ」

魔法使い(結界外)「え、あたし?」

魔王「お願いじゃ、こやつと一生閉じ込められているなんてごめんじゃ」

勇者「俺もこんなところは嫌だー、どうせならラブホの一室に閉じ込められたい!」

魔法使い(結界外)「…分かった。魔王だけ外に出す方法を考えてみる」

勇者「俺は!?」

魔王「主はこの中で独身貴族を一生続けておるがいいぞ」

勇者「この中何もないよ!?独身貴族どころか飢え死にを待つホームレスだよ!!」

勇者「…なぁ魔王、これも妖術なら魔王何とかできないの?」

魔王「うむ、やってはみたが妾の妖術とは少し毛色が違うもののようでの、妾には解除できなかったのじゃ」

勇者「じゃあもうここで暮らすしかないか、贅沢は言えないけど早く子供を作ろうね♪」

魔王「ふむ、自害も考えるべきじゃの」

勇者「そんなに嫌!?」

結界外


魔法使い(どうしようどうしよう、妖術なんて分からないよぅ。魔法解除もやってみたけど聞かないし、うえぇーん誰か助けてー)オロオロ


- まったく、しょうがない人なのです -


魔法使い(え?)


どこからか脳内に直接響くような声が聞こえた。

キョロキョロ見渡してから見ると立派な毛並みの黒猫がいた。…尻尾が途中で二つに分かれている。


ピト


黒猫が結界に触れるとたちまち消えていった。


勇者「おぉ!結界が消えたぞ」


少し残念な気もする…いや、違う。今のなし、えーと、やったーありがとー万歳だー(棒読み)


勇者「魔法使いが解いてくれたのか?すげーじゃん」

魔法使い「いや、あたしじゃなくて、あれ」


魔法使いの指差す方向を見ると二つに分かれた尻尾を揺らして歩く黒猫の姿が見えた


勇者「猫?」

魔法使い「うん、あの猫が消してくれたの」

勇者「ふ~ん、不思議なこともあるものだ」


猫は「早く来い」とでも言うように俺たちをちらと振り返り、また前を見て歩き出した


勇者「あ、待って」


しかし、瞬きをしていたら猫は消えていた。


勇者「本当に不思議なこともあるんだな、なぁ魔王」

魔王「…」


魔王は珍しく俺の言葉にも反応せず考え事に没頭していた。猫が消えていった方向を凝視しながら


勇者「おーい、魔王~」


目の前で手を降ってみる

反応無し

これは何をしても気づかなそうだな


勇者「ニヒヒ」ソー


そーっと気づかれないように静かに魔王の少ししかない膨らみに手を…


魔王「何をしておるんじゃー!!」ドガッ

勇者「うぎゃー」

見事なまでのローリングソバットを食らいました。どこに?金的にです(泣)


勇者「痛たたたた、何するんだよ。ちくしょー」

魔王「それは間違えなく100%完璧に妾の台詞じゃ。お主は何をしようとしておったんじゃ?」


わー、目の前に修羅みたいな顔の狐がいるよ。


勇者「いや、愛しい魔王の成長を確かめようかと」


そうだ。どれだけ大きくなっているか父親的視点で確かめようとしただけさ、僕は悪くない!


魔王「そんなの確かめるだけなら触らなくとも出来るじゃろが!」

勇者「じゃあ、俺の神の目で見てやろう。お前のスリーサイズは上から…」

魔王「言わんで良いのじゃ!!」ドガッ


まったく同じ箇所に追加攻撃。もうやめて、勇者のライフはとっくに0よ!

魔法使い「ねぇ勇者、そういえばさっきの戦いで最後に使った魔法ってなんだったの?」


魔王とのじゃれあい(セクハラと暴力の醜い応酬)がようやく一段落したところで魔法使いが回復魔法をかけるついでに尋ねてくる。

"魔法使い"として知らない魔法は極力知っておきたいのだろう。


勇者「あれか?あれはな、相手の次の一手を読む特殊な魔法だ」


何故か魔王と過ごしていた平和な数年間の内に覚えた魔法だ。出来ればこのまま平和になって戦闘用魔法は使わなくていい世界になってほしかったがな


魔法使い「すごい、そんな特殊な魔法聞いたことないわよ。」

勇者「俺もだ。あの海底都市に行ったときからかな、知らない魔法を覚え始めたのって」


もしくは海底都市内のあの遺跡に立ち寄ってからか…それともこの剣を手にしてからか

勇者「でもこの魔法、けっこうタイミングがシビアなんだよ」

魔法使い「どういうことなの?」

勇者「"相手の次の行動を読む"ことしか出来ないからな『右に数歩歩く』とかどうでもいいことしか読めない場合もある。そこで攻撃してくるかどうか知りたいってのに」

魔法使い「けっこう難しいわね。」

勇者「あぁ、でも上手いタイミングでやれば相手がどんな技を使ってくるかどんな魔法を使ってくるかが分かるからけっこう使える。…上手いタイミングで使えればな」

魔王「ならば先ほどの戦いでは奴が現れるポイントを読んだのかや?」

勇者「その通り、あのタイミングで次の一手といったら現れる場所以外にないからな。安心して使うことが出来たよ」

魔王「しかし呪文詠唱が長いのぉ」

勇者「そう、凄い早口で3秒ギリギリいけるかどうかだったからなぁ。危なかったぜ」

魔法使い「とことん使いにくいのね」

勇者「そういうことだな、早くもっと魔力を高めて呪文詠唱を省けるようになりたいものだ。」

勇者「っと。そういえば魔王、お前さっきのあの狐面が人間じゃないって言ったよな?じゃあなんなんだ?」

魔王「なんじゃ?ずいぶん唐突じゃな」


べ、別に忘れてたわけじゃないんだからね。胸揉もうとしたり殴られたりしているうちに忘れてたとかそういうのじゃないんだからね


魔王「…まぁいいじゃろ。あ奴はただの人間では無いことはもはや明白じゃがそれだけではない。妖怪、魔物、神獣、あらゆる存在の気配があれに詰められておる」

勇者「合成獣(キメラ)?」

魔王「いや、それとは少し違うのじゃ。それに、感じたことのないほどの禍々しい気配も混じっておった。…そして何故か妖怪でしか使えないはずの妖術を使っておった」

勇者「……厄介だな、今回と同じ手が通じそうな奴には見えないし…あいつの言ったとおり新しい力でも身につける必要があるかな」


修行編でもやるか、とりあえず甲羅背負って石でも拾って来よう


勇者「おぉ、なんと斬新ですばらしい発想だ!」

魔王「完全にパクリではないかや!!」

勇者「じゃあ無難に滝行にするかウェヘヘヘ」

魔王「何を期待しておるんじゃ!」


そりゃもう、滝行するにはまず服を脱がなきゃいけないからして…


勇者「よし、修行編はエバリデイオール滝行に決定!!」ハァハァ

魔王「煩悩まみれの決定を下すなや!!」ドガッ

勇者「ぎゃあ!」


最近突っ込みの威力上がってません?何だご褒美か

??「ようやく来ましたですね。会いたかったのですよ…キツネちゃん」

第三話「月夜に猫は浮かびて笑う」

町、ウィチルラルク


なんというか、すごいわこれ。お祭り騒ぎだ、

別に祭りをやっているわけではなく活気で満ち溢れているのだ。


「安いよ安いよー、少しの魔力で魔法が使えるようになる魔具のペンダントに攻撃魔法の威力を上げるネックレス!」

「すごいのあるぞー、最新の機械式武器だ!!」

「そこの奥さん、魔力で動く玩具をお子さんにどうです?」

「魔術と科学技術の合同開発!!魔力を装填して弾として打ち出せる"魔力変換銃"最新モデルだよー」


ちょっと歩くだけで売り文句が弾丸のように耳に入ってくる。うるさいぞそこの弾幕


魔王「すごいもんじゃの、ここは差し詰め人間の技術の粋が集める町と言うわけかや」

勇者「そうだな、武器マニアだったらここに何日でも飽きずにいられそうだ。ってか全世界の武器があんじゃねえの?」

魔王「ま、可愛い妾には似合わぬごつい町なのじゃ」

勇者「魔法少女もののアニメに出てきそうな可愛らしい武器なら探せばあるかもよ?」


ちなみに魔法使いはガトリング砲が飾ってあるショーウィンドウにかじりついている。しかも何故か機械義肢を改造して手の代わりに取り付けるタイプ


勇者「お前こういうの腕に着けたいわけ?」

魔法使い「むしろ全身武器に改造してみたいわ」

勇者「ショッカー本部でも行ってくれば?」

魔法使い「仮面ライダーもいいわね。『仮面ライダーマジカル』とかどうかしら」

勇者「仮面ライダーウィザードに弟子入りしてきたら?」


適当にドライな返事してたら後ろで「シャバドゥビタッチヘーンシーン」と魔王の可愛い声が聞こえた。

やめて、その愛らしい声で変な変身呪文唱えないで


勇者「おい魔法使い、お前ここに来た目的忘れてるぞ。ほら、魔女探しの前に宿屋を取りに行こう」


ガラスにキスしそうな勢いで別の店のショーウィンドウに飾ってあるバズーカ砲を見つめている魔法使いを無理やりひっぺがして引きずって行く

何で魔法使いなんてやってんだろうこの子


そんでもって、その後良い宿屋は見つかったのだが…


フロントにて

女将「はい、大人二人子ども一人だね」

魔王「おいこら主よ、その"子ども"とはいったい誰のことなのじゃ?」

女将「もちろんあんたのことだよ。他に子どもがいるかい?ここは子どもは半額だよ」

魔王「この妾が子どもじゃと!?ふざけるでない!!妾を誰じゃと思っておる、恐れ多くも妾こそ魔王なのじゃ!」


魔王が変なところにキレてた。まためんどくさいことに…

慌てて手で口を塞ぐ。


勇者「アハハー、すいませんねぇこいつ最近反抗期で、まぁ可愛いもんですよ。あ、お代はこれで」

女将「あいよ、これは部屋の鍵だよ、203号室ね。戸締まりはしっかり頼むよ」

勇者「あ、どうも」ペコリ

魔王「むー、むごー」バッサバッサ


危ない危ない、本当に大人三人分取られちゃたまらんからな

しっぽまで大いに暴れている魔王を抱きかかえる。もちろん手は口から離さずを得ないけどね


魔王「やー、離せなのじゃー。妾を抱きかかえるでない!」

勇者「じゃあこれで」ギュウウ

魔法「誰が抱きしめろと言ったんじゃ!?離せなのじゃ」

勇者「可愛いなぁ」スリスリ

魔王「っ///…いいかげんにしろなのじゃー」ジタバタバッサバッサ

魔法使いと「この部屋みたいね。そろそろ離しなさい、本気で嫌がっているわよ」


しょうがない。手を離すか

俺の抱擁から解放されたロリっ狐は魔法使いの陰に隠れ、顔だけ出してグルルル唸ってる。やっぱり犬みたいな奴だ、イヌ科だけどさ


魔王「主よ、妾が何を怒っておるか解ってるんじゃろな?」

勇者「分かってるよ」

魔王「ならば何故止めたのじゃ!!主もかや!主も妾を子どもじゃと思っておるのかや!?」バッサバッサ


ごめん、癇癪起こしてる子ども以外に見えない


勇者「っていうかお前、前に俺にロリコンっつったじゃん。自分がロリって認めてんじゃん!」

魔王「それとこれとは話が別じゃ!妾を子ども扱いするのが嫌なんじゃ!!」


だから癇癪起こした子どもにしか見えないってば


魔王「なんじゃ主は、妾に魅力が無いと言うのかや!?」


言ってない。うわーん、この狐めんどくさいよ。魔法使い、魔法使い助けて大人の女性の君なら宥められるでしょ!?


魔法使い「…」


目ぇ逸らすな!

しょうがない、自分でなんとかしよう


勇者「いや、お前はかなり魅力的だよ」

魔王「」ピク


よし、耳が反応した


勇者「いざというとき頼りになる大人らしさとか」


そんな場面無かったけど


魔王「」ピクピク


勇者「その可憐すぎる可愛さとか!」

魔王「」ワッサワッサ


とりあえず誉めとけ、やけくそだ!

勇者「その美しい毛並みのしっぽとか、思わず抱きつきたくなるモフモフしっぽとか、抱き枕にしたらさぞ気持ちよく眠れそうなそのフカフカしっぽとか!」


けっきょくただしっぽ誉めてるだけになっているけど魔王は満足気だからいいや

顔がほんのり赤くなってるし、にやけそうになってるのをなんとか押し留めようとしてるのも見てとれるし、そのくせしっぽは嬉しさを隠そうとせず可愛く揺れてるし

あと一押しだな、とどめの言葉だ!


勇者「愛してるよ。」ギュ


最終奥義、抱きしめてからの愛の囁き。


魔王「ひゃう!?えっ、なっ、妾っえ、えっ!?あっ、そこはダメじゃ。」ジタバタ



言っとくけど抱きしめてるだけだからね?耳に息は吹き掛けたけどさ

…それにしてもやっぱ抱き心地最高だわこの子、可愛いし肌はスベスベだし可愛いししっぽはモフモフフカフカだし反応が可愛いし、可愛いし!


魔王「ぬ、主よっ。わ、んっ放せ…放せ……なのじゃ」


さらに抱きしめる腕に力を込める。するとどうだ、大人しくなったではないか!

魔王「ん…主よ…」


それどころか魔王のほうも長さが足りてない腕で俺に抱きついてきた

マジか!?うおおおおおお、勝った。何の勝負か知らんが勝った、第三部完!

ところで俺どうしよう?せっかく抱きついてきてくれているのに放すのはあれだし、かといってこのままもなぁ


魔王「」チラ

勇者「!?」


抱きついたまま俺の顔を見上げる魔王、つまりは上目遣い…

ケモ耳ロリっ狐の上目遣いとかどんだけ破壊力抜群なのさ、俺ノックアウト寸前

ってかこの状況は色々ヤバい!俺の中の欲望という名の邪龍が制御出来なくなる!!収まれ俺の煩悩

ってこれやっちゃっていいの?魔王の目がそう言っている気がする。

いやいや、仮に言ってても勇者としてどうなんだ!?変態勇者っていったって越えちゃいけない一線ってものがあるよ!


魔王「」ジー

勇者「…」←人生最大の葛藤中


自分は勇者の前に男だ、欲望にしたがってこそ男じゃないか

勇者だからそんなことをしちゃいけないだって?越えちゃいけない一線があるだって? 超えちゃいけないなら思いっきりその線を踏んでやれ!

そう、俺は変態勇者だからな。だから


まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!←(言ってみたかっただけ)


魔王「…主よ?」


前言撤回、上目遣いの破壊力にまず俺がぶっ倒れそうです

っていうかもう"理性"という名のリミッター外してビーストモードになっていいですか?

答えは聞いてないけどね ということで続行

勇者「あー、もう魔王可愛すぎるぞー」ギュウウ

魔王「…///」


魔王は顔を真っ赤にしてうつむくが俺はお構い無しに魔王を抱きしめる


魔王「や、主よ…やはりさすがの妾も少し、ほんの少しじゃが…恥かしいのじゃ///」シュウウウ


おぉ、顔から湯気が出てきたぞ


勇者「じゃあやめるか?」

魔王「………いや、やめんでよい///」シュウウ

勇者「あぁもう可愛いなぁ」スリスリ

魔王「…ぁぅ///」シュウウ


抱きしめたまま頬ずりする。俺はもうパーフェクトにニヤけ顔だろうね

だってしょうがないよマジ可愛すぎるだもんこの子、いやこの狐か

顔とかニヤけるのを必死に堪えてんだよ。顔も真っ赤になって耳までほんのり赤が来ているし…いつか沸騰しそうだけどもう湯気出てるしそろそろかな?

なんてそんなくだらないことを考える暇も無いほどに見入ってしまうこの可愛さは文章では伝わるまい!


勇者「魔王、可愛い!好きだ」スリスリスリスリ

魔王「…うぅ///」ワサワサ


それにしても傍から見たら確実に通報されるだろうね。

完全に見た目幼女に年上が無理矢理抱きついて頬ずりしているように見えるだろうからね。あながち間違っちゃいないけど…

おかしいな、俺ロリコンじゃなかったはずなんだけどな。…ついこの間までおっぱいはできるだけ大きいほうがいいって思っていたぐらいだし

いや、魔王も思ったよりあるな…成長途中の中学生並み?…少なくとも揉むことは出来そうだ


勇者「…」ソー

魔王「///」ペチ


揉もうとして手をそーっと膨らみの辺りに伸ばしたら叩かれた。ダメですか、そうですか。

じゃあ尻尾でも触って


魔王「ひゃあ、ぬ、主よ尻尾の付け根は弱いんじゃ…///」

勇者「いいじゃん、触り心地すごいいいよ。マジ心地いい」


さらさらした長い髪の毛を撫で、空気を含んだモフモフの毛並みのほんのり暖かい狐尻尾を撫でまわし、すりすりする。今まで味わったことがないほどにすばらしい触り心地

俺はもう夢心地…このまま死んでも未練なく成仏できそうだわ


魔王「…あ、あのな主よ、そこは…えと、他のとこより少し…敏・・感なんじゃ///」

勇者「ほほぉ」ニヤリ

魔王「あっ…こら主よ、だからそこは…ダメじゃと、んっ」


反応が面白いので後数分は尻尾の付け根部分をスリスリしていよう


魔王「ぬ、主よ…やめっ、あ、んぅ」


やっぱり通報されるべきだな俺…されても反省も後悔もないけど

魔王「い、いいかげんに…んっ、いいかげんに、やめぬか」


しょうがない、そろそろやめてあげよう。

しかし、その代わり


勇者「じゃあこっちは?」

魔王「えっ、わっ、え?な」


魔王の顔に顔を近づける。真っ赤になってる、可愛い…

さすがにこの純情そうな子にエッチしたいと言っても肢体を拝むどころか俺が死体になって死界を彷徨うことになりそうだからな…え?上手くないって?アリエナーイ…

少なくとも照れ隠しに最上級魔法を放ってきそうだしそれは勘弁だ

だから、キスぐらいしてしまえ!ここまでやっておいてキスの一つもしないとか変態勇者以前に男としてどうなんだ!!


勇者「じゃあ目を閉じて、行くよ」ス


ロックオンして目をつぶる。

発射!

…手ごたえなし・・・だと!?


魔王「…///」


あれ?避けられた? もう一回


魔王「///」スッ


絶妙なタイミングで避けられる。

ちなみにこの後何回やっても出来なかったので断念、さすが魔王、近距離回避もお手の物とかパネェ


勇者「だめか?」


出来る限り最高のイケメンボイス(自称)で優しく言う


魔王「…今はまだ・・だめじゃ///」


搾り出すような小さすぎる声で言う。


魔王「そうじゃな…今はまだじゃ」

魔王「じゃから、これで我慢してくりゃれ?」


チュ


勇者「な、え?えぇ!?」


今度は俺が真っ赤になる番だった。

何ということだ。魔王が背伸びをして俺の頬にキスをしたのだ。

キスされたところが未だに感触と熱を覚えていた。


魔王「…クフッ、この続きはいつか…世界が平和になったときなのじゃ」


魔王が素晴らしい笑顔(まだ少し赤い)で笑いながら言う。 あぁ、なんだこれ、幸せすぎる。もうここがゴールでいいんじゃないかな?

…なんかいい景色、いやお花畑が見えるなぁ。あ、お花畑の向こうで死んだ父ちゃんが手を振ってる、俺を呼んでいるのかなぁ





勇者「わが生涯に…一片の悔い無し」バタッ

魔王「主よ!?」


幸せすぎて頭がオーバーヒートしてぶっ倒れました。俺って弱いね、やっぱり精神修行が必要かも

そのころ、村はずれの某所


??「まったく、遅いと思ったらキツネちゃんは何をしているですか!!せっかくこのボクが待っていてあげていると言うのになのです」


その真っ黒い服に身を包んだ人物は水晶球で勇者たちを、いや魔王を見ていた。…少し怒りながら

強力な魔力を持って人知を超えた力を揮う、もはや人間から逸脱している存在、人は彼女のことをこう呼ぶ。


"闇夜の魔女"と

宿屋


幸せすぎて臨死体験をしてしまった。天国行きかけた

でも目覚めるとここも天国だと分かる。


魔王「すーすー」


俺は床にぶっ倒れてたはずがベッドに寝かせられ、魔王も一緒に寝息を立てていた。

可愛いなぁ

頭を撫でる。


魔王「はっ、ぬ、主よ妾が寝ている間に何かしておらぬじゃろうな!?」


飛び起きやがった。しかも開口一番疑われた…俺は今起きたばっかりだからそんなことする暇無かったというのに

…する暇あったら?と聞かれたら答えに詰まるけどな


勇者「してねえよ。俺が寝込みを襲うような奴に見えるか?」


イケメンオーラ()を放ちながら言う


魔王「見えるのじゃ」


即答された。俺そんなに信用無いかね? …おい誰だ今「警戒しないほうがおかしい」とか言った奴


魔王「…のう、主よ……先ほど眠っている間、うなされておったのじゃが、どうかしたのかや?」


あぁ、そうか。夢は天園の夢だけじゃなかったな


勇者「なぁに、死んだ親父の夢を見ていただけだよ。なんてことはない、ただの記憶の鑑賞会さ」


そう、夢の中で幼い頃の記憶を見ていただけだ。

家の玄関、親父はおれそっくりなお調子者の笑顔を浮かべて元気に「ちょっくら世界の平和を取り戻しに行って来るぜ」と笑っていた。

そして遂に帰ってこなかった。

俺が魔王退治の旅に出たきっかけの一つは「旅をしていればいつかどこかで出会えるかも」というものだった。もちろんその願いすらも叶わなかった。

勇者「いや、死んだってのはおかしいな。行方不明ってだけだ、生きているかもしれないし」


「余計なことを聞いてしまった」と落ち込む魔王を元気づけるように笑って言う。


魔王「…そうじゃな、悪かったのじゃ」

勇者「そういえば俺の家系は代々勇者なんだけどさ、"魔王"ってのも家系かなんかで繋がってるのか?」


暗い話題を避けたくて別の話題に変える

魔王「うむ、しかし完全に血筋で決まるわけではないのじゃ。」

魔王「父王が相応しくないと思えば別の者にやらせることもあるし、幼少時代を見ていた周りの大人の意見も尊重して本当に相応しいか協議してから決めるのじゃ」

勇者「へぇ、けっこうしっかりしているんだなぁ」

魔王「そんなことはないのじゃ。本当にしっかりしておったら今みたいに二派に分断されておらぬ…それに妾の血筋は呪われておる」

勇者「呪い!?」

魔王「うむ、妾の家系の者が魔王になると必ず何かしら不幸が起こる。」


魔王は暗記した物を思い出すように目を閉じる。


魔王「確か2代前の魔王は…実の母に殺されかけたらしいんじゃ」

勇者「は!?」


いきなり衝撃的すぎるよ


魔王「なんでもその母はどうしても他の者を魔王にしたかったらしくての、しかもそれが浮気した相手との子らしかったのじゃ。」

魔王「実の母に裏切られた当時の魔王は深い絶望の闇を抱えたまま魔王となり、憂さ晴らしに人間界に戦争を仕掛けていたりしたらしい。知らぬかや?」

勇者「残念ながら俺ぁ歴史大嫌いでまともにやってない」

魔王「そうかや、まぁよい。5代前の魔王はあらぬ罪を着せられた恋人が一家もろとも死刑にされ、その罪を着せたであろう者との結婚を余儀なくされたそうじゃ」


人間も魔物もドロドロした部分は似通っているんだね。別に知りたくなんて無かったよ


魔王「他にも、禁じられているにも拘らず人間に恋してしまった奴が見せしめに家族から友人にいたるまで、ありとあらゆる知り合い縁者全て目の前で殺されたそうじゃ。もちろん相手の人間もじゃな。しかもその後洗脳まがいのことをされ、"王"とは名ばかりのほとんど奴隷のような扱いを受けたらしい。」

勇者「…マジに呪われていそうな家系だ。じゃあお前にもいつか不幸が訪れるのか?」

魔王「…今妾がどんな状況に置かれてるのか主は忘れたのかや?」

勇者「………あぁ、そういえばお前ほーむれs」

魔王「ホームレスって言うななのじゃ!!」ゲシッ

勇者「ぐっ、すいません!」


腹に喰らった、ヤバいさっき食った肉が…


魔王「…このまま楽しい時が続けばいいのじゃが…」


魔王が泣きそうな顔で暗く小さく言う。こいつも怖いんだな…先祖のことと自分の状況が重なって

そんな悲しそうな今にも泣きそうな、いや少し涙目にすらなっている顔で喋ってる魔王を見ると興奮s……じゃなかった、とある決意が沸いてくる。


勇者「-大丈夫だよ」

魔王「え?」

勇者「大丈夫だ。何があろうと、起きようと、お前は俺が絶対に守ってやる。お前の盾にでも、剣にでもなってやるよ。どんな不幸が降りかかろうと、どんな強敵が現れようと構わない。最後の最後まで俺が守り抜いてやる。」

魔王「主…ところでさきほど人間との恋に堕ちた魔王の話をしなかったかや?」

魔王「主…ところでさきほど人間との恋に堕ちた魔王の話をしなかったかや?」

勇者「うん、したな」

魔王「……主も殺されてしまうのじゃ、全ての魔物総動員で…それでも、それでも主は妾を好いてくれるのかや?いっしょに着いて来てくれるのかや?」ジワ


魔王の目からはもう、涙が溢れかけていた。


勇者「人は、いつか死ぬさ。だが、まだ俺にその気は無いよ」


不適に笑う。そう、まだ俺は死ぬわけにはいかないさ


勇者「言ったろ、俺が絶対にお前を守る。最期までな、それまでは消えないし死にもしない。なんたってこの広すぎる世界にはやり残したことがいっぱいあるからな」


心配そうに俺を見る魔王の頭を撫でる。


勇者「だからそんなに心配するな。泣きそうになってるぞ」

魔王「っ…」バッ


涙を指摘してやると魔王は俺の腕を払って後ろを向き、ごしごしと涙を拭ってからこちらを見て笑った。


魔王「それでこそ主じゃ、その笑みでずっと妾の傍に立ってるがよいのじゃ」

勇者「それが望みならいつまでだってそうしてやるよ。お前も涙よりその強がりの笑顔のほうが似合ってるしな」

魔王「だ、誰が強がりじゃ!」

勇者「くっくっく、泣きたくなったらいつだって泣いていいんだぜ?」

魔王「じゃから妾は泣いてなど…」

勇者「魔王、辛いんだろ?辛いときはな、楽しいときのように皆で分かち合えばいいんだよ。内に溜めてんじゃねえよ、吐き出しちまえ」

魔王「…」

勇者「俺が全て受け止めてやるよ。泣きたくなったらいつでも言え、この胸も腕の中も、全てお前を包み込む用意をしとくぜ?」

魔王「主よ・・・」

魔王「主はホント…本当に…」


お?


魔王「本当に変態じゃな」


ずこーっ


勇者「何で!?違くね!?普通ここで俺に抱き付いて泣きだすところだろ!?」

魔王「やはりそういうことじゃったか、考えておることが見え見えなんじゃこの変態」


抱きついてきて泣き出す魔王を見ることは出来なかったがニカーと良い笑顔を浮かべた魔王は中々の見ものだった。真っ赤に腫らした目もな


魔法使い「ただいまー」


色々興味のある店を周っていたらしい魔法使いが帰ってきた。

さっきはよくも一人逃げてくれたな…どうもありがとうございます!

それはそうと何故か魔法使いは俺と魔王を交互に見る。

泣き腫らした目をした魔王、すっきり満足したような顔をしている俺…そして皺のよってるベッドを彼女の目線が紡ぐ

魔法使い「…魔王ちゃん、勇者に何かされたのね!!」

勇者「なんでそうなるんだよ!」


魔法使いが我が子を狙っている狼を見るような目で睨んでくる。

酷い、俺そんなに信用無いの?


魔法使い「言ってみなさい、何をされたの?大丈夫怖くないから」

勇者「怖いのはお前の思い込みだよ!俺何にもしてないから!!」

魔法使い「勇者には聞いてません」


うわぁ、声が冷たい。魔王、頼む誤解を解いてくれ


魔法使い「私に言ってみなさい。何をされたの?」

魔王「主が思いつくあらゆるものよりすごいことじゃ」

勇者「へ?」

魔法使い「わ、私が思いつく…………あ、あぅあぅぁう///」


…何を考えているんだろうか、少なくともロクなことじゃないな

顔色が焦りの色から怒りの色になったり恥ずかしさの色になったり、忙しいね。信号機みたいだ

ってそんなこと考えてる場合じゃないよ


勇者「何言ってくれてんだ魔王!!」


こいつこう見えてかなり妄想力あるって言うのに…あぁ、魔法使いの頭の中が覗けたらさぞかしモザイクな世界が広がってんだろうな。…さすがの俺もちょっと遠慮したい


魔王「だって…だって本当のことじゃろ?」

勇者「どこがだ!」


ここぞとばかりに涙を浮かべるな!


魔法使い「うわああぁぁあぁぁああぁぁあ、もう勇者なんてしらねえよおおぉぉぉおお」ダッ

勇者「ちょっとぉ!それ誤解だってば!!…足はええ」


あぁ、魔法使いが目も顔も真っ赤にして泣きながら走り去って行ってしまった。


勇者「魔王!お前どう収拾つけるんだよこれ、ってか何がしたいんだお前は!!」

魔王「妾は主との二人旅がしたいだけなのじゃ♪」

勇者「………はぁ」


頭痛してきた…

どうすっかなぁ、今すぐ追いかけるべきか。頭が冷えるまで待つべきか…待つとしてもいつまで待ちゃあいいんだよ


勇者「しょうがない。…分かったよ、お前との二人旅な」

魔王「本当に!?本当にいいのじゃな!!」バッサバッサ


尻尾が激しく動いて喜びを示す。ご主人の帰りに喜ぶ犬かお前は……ありだな、今度首輪でも買ってこようか


魔王「くー、やったぞ。妾が勝ち取ったのじゃ!」

何の話だ。何の

…まぁ詮索しないほうがよさそうだな、精神衛生上

っていうかこいつさっきのセリフはこれを狙って言ったな、策士…なんて奴だこの女狐

いや、それは無いと信じておこう。ロリは純粋のはずだ、こいつもそうだと思い込んでおこう。これも精神衛生上


勇者「じゃあもうこの町に用は無いかな」

魔王「いや、少し待ってほしいのじゃ」

勇者「何だ?お前も機械兵器に魅入られたか?」

魔王「うむ、たしかにかっこいいが可憐な妾にはどれも似合わぬな」

勇者「大丈夫、最近は可愛い娘が機関銃をぶっ放すハードボイルド萌えアニメがあると聞く」

魔王「なんじゃその矛盾しておるジャンル名…って話を逸らすでない!」

勇者「はいはい、続けていいよ。どのみち名前しか知らないアニメだからこれ以上パロディネタ広げられないし」

魔王「じゃあ最初から使わなければいい話ではないかや」

勇者「おぉ」ポン

魔王「そこで『初めて気づいた』みたいな仕草をするななのじゃ!・・・話を続けてもいいかや?」


うん、結局話は逸れていってたね


魔王「魔法使いが言っていた"魔女"少し気になるんじゃ」

勇者「確かに魔法を使うものとして俺も少し気になるな」

魔王「じゃろ?ついでじゃから行ってみぬかや?」

勇者「あぁ、いいぞ…………あんなにフラグ立てといて出さないのも可哀想だしな」

魔王「ところで主よ」

勇者「何だ?」

魔王「妾は居場所知らぬぞ。主は魔女とやらの居場所は知っておるのかや?」

勇者「………あ」


しらねーや


魔王「どうするんじゃ?」

勇者「…だめもとだけど村長にでも聞きに行ってみるか」

村長「どうも勇者様方、こんな寂れた村によくぞお越しくださいました。」

勇者「どこがだよ。思いっきりお祭り騒ぎだったじゃん」

村長「時に勇者様、あなたにとって正義とは何ですかな?」

勇者「"可愛い"だな、可愛いは正義だ」

魔王「即答かや」

勇者「何を言う、世の中男も女も人間も動物も全て可愛いが正義だろ」ババァーン

魔王「なんじゃその世界観…」

村長「おぉ、その通りですぢゃ。話が合いますな」

魔王「えぇー」

勇者「当たり前だ。なんたってこの世界の全人間の共通認識だからな」

村長「なんとも素晴らしいですな」

魔王「ダメだこの二人、早く何とかしないとなのじゃ…」

村長「では同士よ、何かお困りごとですかな」

勇者「あぁ、村長なら魔女について何か知らないかなと」

村長「魔女ですか、あれはとても可愛らしい…ゴホン、とても恐ろしい方ですじゃ」

勇者「恐ろしい?」

村長「あなた方のように魔女に会いに行かれたかたは何人もいますが…どれも殺され、食われ、生きて戻った方は一人もおらず…」


脳裏に"魔女"予想図が出来上がる。

何百年と生きる老婆、お菓子の家に潜みやって来た子供を捕まえては大釜で煮たりかまどで焼いたり…


勇者「悪い、俺は少し急用を思い出した。それじゃ魔女には魔王だけで会いに行ってくれ、じゃあな。」


早々に退散しなければ


魔王「ちょっと待てい、どこに行くんじゃ主よ」

勇者「あいたたた、耳を掴まないで」


逃走失敗


魔王「何逃げ出そうとしておるんじゃ、それでも勇者かや?」

勇者「だって俺負け戦嫌いだもん、魔女なんかに勝てるわけないし…」

魔王「変態のくせにへたれとかただのダメ人間ではないかや!!」

勇者「痛い、痛い痛い痛い。分かったから耳を引っ張るのは止めて!」

魔王「喜ぶがよい、主も妾と同じケモ耳にしてやるのじゃ」ギュー

勇者「ならないよ、どっちかって言うとドワーフの耳みたいになっちゃうよ」

魔王「大丈夫、そっちの方がイケメンじゃ」

勇者「耳じゃん、顔関係ないじゃん!」

魔王「村長よ、なんだって良いのじゃ、その魔女とやらの居場所について答えよ」

勇者「逃げたい…お願いだから放してー」


その後、結局なんだかんだでいっしょに行く羽目になった


勇者「嫌だよー、この森絶対なんか出るじゃん。昼間なのに真っ暗だし」


定番だよね、まっくらくらい魔女の森…不気味すぎて泣きそう


魔王(何故妾はこのへたれを好きになってしまったのじゃろう…)


勇者「ま・ま・ま・魔王、俺は強くて誰かを守ってくれる人が好きだぞ」

魔王「死ねなのじゃ」

勇者「えぇー!?」

魔女の家


闇夜の魔女「ふっふっふ、ようやく来たのですね。待たせた罰としてボクの仕掛けた罠の実験台になってもらうですよ」

???「お師匠様、なんだか悪役みたいだよ?」

闇夜の魔女「だって怒ってるんですよ!たまには悪者で行きたいのですよ」

???「死んだらどうする?どうする?」

闇夜の魔女「キツネちゃんは大丈夫なのですよ、あんなので死ぬぐらいだったらボクが殺しちゃってますですよ☆」

???「違うよ、勇者さんのことだよお師匠様」

闇夜の魔女「もちろん勇者ちゃんも死んだらこれまでですよ。キツネちゃんもそんな軟弱な男を選ばないはずなのです」

???「アハハ、あれあたしでもきっつかったんだよ?普通の人間には無理だよぉ」

闇夜の魔女「ふっふっふ、じゃあ死ねなのですよー」

???「アッハッハ、この二人じゃ悪役は無理だねー」

勇者「俺こういうの苦手なんだよー、っていうか押さないでよ。恐怖で死んじゃうよ」

魔王「死ぬなら死ねなのじゃ!ほら行くのじゃ」

勇者「無理無理無理、俺は化け物と戦えても幽霊は嫌いなんだよ」

魔王「魔物の中には幽霊みたいなタイプもいたじゃろうが…」

勇者「あれは魔物だからいいんだよ。だって実態あるもん」

魔王「あ、おばけじゃ」

勇者「みゃあああああああああぁぁあああ」

魔王「なんじゃ、その情けない悲鳴は、妾にしがみつくな。あぁもう、ただの冗談じゃ」

勇者「ぐすん、冗談?お化けいない?」

魔王「情けな!なんじゃ主の普段とのギャップ、それでも勇者かや」

勇者「勇者だってな、勇気が出ない者なこともあるのだよ。いつだって勇ましき者じゃないのだよ」

魔王「そう言いながら尻尾をモフモフするななのじゃ。」

勇者「よし、モフモフしてたら元気が出てきた気がする。」

魔王「けっこうこの状況を楽しんでるではないのかや!?」


そりゃな、お化け屋敷に入ったカップルのごとく楽しませてもらうさ


勇者「って、何じゃありゃああぁぁぁあああ。勇者、後ろ後ろおぉおぉおお!」

魔王「何じゃお主、さっきの仕返しかや?そんなテンプレでは妾は動かぬぞ?」

勇者「テンプレはお前の反応だよ、ってかフラグだよ。後ろだ!」

魔王「…これはまたテンプレじゃな」


魔王の後ろに現れたそれは、まんまどっかでみたような歩く大木のお化けだった。

怖い顔が幹に彫られた大木が鋭い枝を腕のように振るいながらところどころから現れる。


魔王「ひぃ、ふぅ、みぃ…ふぅ、数えるのが面倒になったのじゃ」

勇者「三つしか考えてねえだろ。40、50、まだまだ増えるな。うん、数えるのが面倒になった」

魔王「怖くないのかや?ヘタレ勇者よ」

勇者「へっ、お前を守るって言ったろ?あれは俺たちを攻撃しようとしている。なら守るために剣を取るだけさ」チャキ


覇王の剣を抜く。怖さは無い、だって倒せるんだもん


勇者「まぁ剣を抜く必要はないな。本物の木々に燃え移らないようにコントロールして火炎呪文で焼き払えばいいんだろ?」

魔王「ならやってみるのはどうじゃ?そんな簡単には見えないがの」

勇者「試してみる価値はあるだろ。最上級火炎呪文、広範囲型!」ボアアァァアア


広範囲に広がる炎の津波が大木お化けを包みこむ


勇者「…やっぱそう簡単にはいかないか。そりゃそうだよな、手間が省けるならそれでいいのに」


何がどうなっているかは知らないが炎は全て森の上空を囲う純粋な闇に吸い込まれ、飲まれるように消えていった。


魔王(この独特すぎる術、やはり"闇夜の魔女"というのは「やつ」のことなのじゃな…)


魔王「ハァ…」

勇者「どうした?俺に恋煩いしたか」キラッ

魔王「とっととあやつらを倒してから言うのじゃな、魔法が使えないなら妾の出番は無しじゃ」

勇者「働けよ、魔法が使えないからといって戦えないようじゃ魔王なんか務まらないはずだろ」

魔王「無論そうじゃが、色々な手を尽くして妾の城では敵が魔法封じを使えないようにしてあるからその心配は無いのじゃ。それに妾の魔力は無限大じゃからの、魔力回復薬も大量にもっておるのじゃ」

勇者「バランスブレイカーすぎるだろ。倒せなくて挑戦者が泣くぞ」

魔王「妾は他の魔王のようにバランスを保って負けるようなへまはしたくないだけなのじゃ。というより負け戦などしないだけじゃ」

勇者「鬼畜乙」

勇者「さてはてそんなアホい会話をしている内にあいつらワラワラ集まってきたなぁ…」


うーん、一人のショッカーがオールライダーに追い詰められる画像を思い出したなぁ

違うのは俺らがやられ役じゃないって事だ。


魔王「頑張れなのじゃー」バッ、バリボリ

勇者「ポテチ開けてくつろぎモードになるな!ってかどこに隠し持ってた。どこで買ってきた!!」

魔王「まぁ、妾が本気を出せば確かにこやつらは殲滅できるじゃろう…が、鬼神となるのは少し恥ずかしいのでな。」


魔王(それに試されているのは、多分)


勇者「はいはい、俺がやりますよ。派手に魅せるのは嫌いじゃねえしな」スッ


覇王の剣を抜く、さぁ戦いだ


魔王(…こやつじゃ)

勇者「まぁ、封印を解く必要はねえな。行くぜ、相棒」チャキ


覇王の剣を構える。どこからか怪物の唸り声が聞こえた気がした。


魔王(…あれは暴走する心配は無いのじゃろうか)


勇者「はぁっ」ザシュ


もはや作業ゲーです。ってな顔で次々やってくる木々(?)を次々ぶった切る。こいつはマサカリじゃねえんだがな。


勇者「おっと」ヒョイ


すました顔で避けて後ろに立つ大木に剣を突き出す。


勇者「ぬるいぬるい、絵的にも文章的にもつまらねえなぁ…もっと楽しめるような奴は出てこねえのかよぉ!」


グルオオォォオオオオオ


勇者の希望に答えるかのように闇から獣の雄叫びが聞こえた。


勇者「…ごめん、俺戦線離脱」

魔王「待つのじゃ。何を逃げようとしておる」

勇者「最悪の敵が出た。ゴーストなんて見るのもいや…ってか怖い」

魔王「よく見ろ!魔物にもいたじゃろあんなの!」

勇者「…何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない何も見えない」

勇者「…よし、自己暗示で何とか怖さを防いだぞ」

魔王「便利じゃな、主の自己暗示」


目の前にいるのは魔物だ。俺の嫌いな姿をしているだけだ。


勇者「うおおぉおぉ!!」


スカ


勇者「何!?」


すり抜けた!?


勇者「…幽霊怖い」

魔王「自己暗示じゃ!!」

勇者「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」

勇者「よし!足腰がくがくだけど一応いける!!」

魔王「かっこつけ損ねておるぞ」


小ボス「オオォォオオォオオオ」


ゴーストが唸り、体を捻ると大量のエネルギー球のような物が飛び出し、勇者めがけて襲い掛かってきた


勇者「ちっ」

魔女の家


闇夜の魔女「始まったのです。ボクの最高傑作の性能がどこまでやれるか楽しみなのですよ!」

???「お師匠様、完全に趣旨変わってるね。試すのは勇者さんじゃなかったの?」

闇夜の魔女「どっちもなのです。」

見てます

ヒュ


避ける。


勇者「数が多いな。だが、俺をやるには手数が足りねえよ」


覇王の剣を構える。こいつで全て叩き落してやる


勇者「剣技、神狩り鎌(カガリガマ)!!」ブウゥゥン


神さえも狩る大振りの剣技が空気を引き裂く。


勇者「な!?」-ザシュ


剣はエネルギー球をすり抜けて地面に亀裂を作る。


勇者「ぐぁああああ-」


体中に痺れるような痛みが走り、記憶が一瞬消し飛ぶ。ゴーストはニヤニヤ笑っている。三日月のようないやらしい笑みだ


勇者「物理は効かない、魔法はさっきのように闇に吸い込まれるだけだろう、しかもあいつの攻撃は防げない…」


どうする


魔王「ファァアー」


魔王は力貸してくれそうにないし…ってか欠伸とかひでえ。ま、欠伸の間抜け面が可愛いからいいか…ってそんな場合じゃねえ


ゴースト「フィエエエエエエ」ヒュンヒュンヒュン


先ほどよりも多くの数のエネルギー球が飛ぶ


勇者「覇王の剣のもう一つの力を使うか」


この剣にはいくつか特殊な力があるらしい。 その一つが

魔力で作られた魔法的エネルギーの産物を吸い取る能力


勇者「俺の魔力もやるぜ相棒」

勇者「-くえるくとぅるー いあどまるどるく えぐどりあくと まきむとるくるく だーく おーるど わん とりたみな -」


ちょっとした呪文を唱える。


勇者「覇王の剣、モード、吸収」


ウォォォオオオォォオオオ


覇王の剣が咆哮と共に黒く光る。深淵の底より深く、闇よりも濃い黒い光だ。

ゴ、ギュルルルルルルル

全てのエネルギー球が剣に吸い込まれてゆく、いやそれだけでは無い。


魔王「おぉ」

勇者「!?こりゃあ…」

ゴースト本体と闇が覇王の剣に吸い込まれてゆく

森を覆っていた闇もゴーストも全てが吸い込まれて消えていった。

闇が晴れ、明るくなるとようやく剣は止まった。


魔王「終わったかや?凄い性能じゃなその剣」

勇者「本当に最後まで傍観決め込みやがって…この剣にはまだまだ秘められた性能があると俺は思うぞ」


「その剣の秘密を知りたいのですか?」


勇者「誰だ!?」チャキ

闇夜の魔女「君たちが探していた魔女なのですよ。にぱー☆」


そう言って森の奥から現れたのは全身を夜色のゴシックロリータ調のドレスで包み、黒猫の耳と尻尾が生えている幼い少女だった。


闇夜の魔女「ボクのお家にようこそなのです。歓迎しますですよ、勇者ちゃんもキツネちゃんも」


魔王よりも年下に見える幼い少女

廃退的な美を備えた黒いゴシックロリータ調のドレスを着込み、黒い魔女帽を被っている。

冬の夜空のように澄んだ吸い込まれそうな黒い瞳、星を散りばめたような綺麗な夜色の長いさらさらな髪

そして、魔女帽を突き破って生えているように見える黒い猫耳とスカートの中から出ている猫の尻尾

それが表すことは、魔王と同じ…妖怪の類だということ


魔王「やはり魔女とゆうのは主のことかや、出世したものじゃな」

闇夜の魔女「キツネちゃんよりもボクは魔法の才能がありましたのですよ」

勇者「お前、こいつ知っているのか?ってか仲悪そうだな」


こっそり耳打ちする。


魔王「幼馴染じゃが昔っから気に食わぬ奴なのじゃ、本当ならもう会いたくなかったのじゃ」


尻尾が不機嫌そうに揺れる。不機嫌そうにでも揺れてるモフモフ尻尾は可愛いです。


闇夜の魔女「そう言いながら結局会いにきてくれたキツネちゃんはツンデレさんなのです☆」

魔王「…むかつくのじゃ」

闇夜の魔女「にぱー☆」


挑発するように笑う魔女とますます不機嫌になる魔王、面白いなこの二人


闇夜の魔女「さて、勇者ちゃんに会うのは初めてなのです、だから一応自己紹介をしますですね」


そう言うとにぱーと笑いながら長い髪をふわりと浮かせてその場で回る。後ろを向いたときに見えた尻尾は

先で二本に別れていた


闇夜の魔女「ボクは妖怪猫又にして、全ての闇を見通す夜の支配者、『闇夜の魔女』なのです。」

勇者「猫又か、だから尻尾が二本なんだな」

闇夜の魔女「フフ、それを言うならキツネちゃんはもっと凄いのですよ。九本ありますです」


魔女はそう言いながら家の扉を開けて「ボクのお家にようこそなのです。」と笑顔で入るように促す。

勇者「お前九尾の化け狐だったのか?」


とても九本あるようには見えない


魔王「うむ、じゃが全て出すと妾の妖力が大きすぎて敵に察知されてしまうのでな、いつもはしまっておるのじゃ」

勇者「へぇ、どこにしまっているんだ?スカートの中か?」


気になるのでめくってみよう


魔王「なにするのじゃ!」ゲシ!

勇者「ぶべらぁ!」


久々の後ろ回し蹴りが顔面にクリーンヒット▼

快心の一撃、勇者は倒れた▼

魔王は経験値をゲットした▼


勇者「って、殺す気か!」

魔王「ちっ、死ななかったか」

勇者「何か不吉なフレーズが聞こえた!?」

闇夜の魔女「アハハ、違うのですよ。キツネちゃんは一応変身能力がありますです。それでいつも一本に見せているだけなのです。」

勇者「ってことは耳も尻尾も取り去ることも出来んのか」

魔王「うむ、出来るのじゃ。しかしこのモフモフ尻尾と狐耳は妾のアイデンティティなのでな、決して取り去ることはありんせん。一本は残しておくのじゃ」

勇者「九本になるところが見てみたい!」

魔王「ダメじゃ」

勇者「えー」ブーブー

魔王「何子供みたいな拗ね方しておるんじゃ!さっきも言ったじゃろうが、妾は尻尾を出したら妾独特の妖力が漏れて敵に察知されてしまうのじゃ」

勇者「みーたーいー」ジタバタ

魔王「駄々っ子かや!」

闇夜の魔女「見せてあげればいいじゃんなのです。ボクの暗闇の結界が張ってある限りはこの森の中で起こっていること、魔力や妖力も外に漏れ出したり察知されたりされることはなありませんです」


窓から身を乗り出しながら暗闇の結界を張りなおしている魔女がそう言う。

そういえばさっき覇王の剣が全部吸い込んじまったんだっけな

それを考えると、この剣に吸い込まれたものはどこに行くんだろう…とも考えてしまう。

もしかして自らの糧としている?

何のために?今まで貯めた魔力を開放するモードがあるのか?この剣の中に封じられている者の封印を強くするためか?それとも…


封印を完全に解くため………

…俺はもしかしたら何かとんでもない勘違いをしていたのだろうか、この剣はそんな便利な物ではなく、もっと本当に恐ろしい何か…


魔王「あー、分かった分かった。今見せてやるのじゃ」

勇者「マジで!?」キラキラ

魔王「凄い目がキラキラしておるぞお主…」


そりゃなるさ、だってもふもふ×9でしょ!?さっきまで考えていた背筋も凍るような考えが些細なものに思えてきたよ!!


魔王「はぁ、見ておれ」ザワザワ

勇者「おぉー」キラキラ


すげぇ、モフモフ×9だ!価値は×9000だ!!


魔王「何の価値じゃ…」

勇者「やべぇ、モフモフが俺を呼んでる!」

魔王「妾は呼んでおらぬわー!こ、これ強く握るでない!!うひゃあ、もっと優しく触らぬか」


ルパンダイブで九本のモフモフに飛び込む、触り心地が凄くいいよこれ半端無い


勇者「もふもふ、もふもふもふもふもふもふ、くんかくんか、あぁ、もfmふくんかくんヵもふもふもふもふもふおうふ」

魔王「使い回しじゃないかや!!」

勇者「あぁ、やばいよ。気持ちよすぎだよこの毛並み!好きだわー、この毛並みいいわー」

魔王「そ、そりゃあ、毎日毛づくろいは欠かしてないからのぅ///」

闇夜の魔女「キツネちゃん顔赤ーい」アハハハ

魔王「うるさいわ!」

勇者「やばい、これを布団にして寝たいぐらいのもふもふ感と面積!ここどこ?天国」

魔王「天国でも何でもかってに逝っておれ」

勇者「あぁ、マジ天国だわこの毛並みは!今すぐ毛刈りして俺専用の布団に仕立てたい!!」

魔王「させるわけないじゃろうが!ってかいつまでやっておるつもりじゃ!!」サッ

勇者「イテッ」ドガッ


無理矢理引っぺがされる。


魔王「まったくなのじゃ、もうしまうぞ」サー

勇者「あぁ、俺のもふもふ…」

魔王「妾の尻尾なのじゃ!…で、でもたまになら触らせても-」

???「お師匠様ー、飲み物持ってきたよー」


魔王の小さすぎて聞き取れないセリフを遮って女の子が飲み物を持って入ってきた

その女の子は闇夜の魔女とは対照的に明るい色の服を着た子だった。
オレンジ色の髪、金色の瞳、赤や黄色などの明るい色の今風の服を着たヒマワリのような笑顔の女の子、見た目的に年齢は魔王や魔女よりもありそうだ。

っていうか確実にその二人よりも背も胸もでかい


闇夜の魔女「あ、お疲れなのですよ。紹介するのです、ボクの弟子の暁の魔女見習いなのです。」ニパー

暁の魔女見習い「始めましてだよ。あたしはお師匠様の弟子なのー」ニパー

勇者「似てる…」

魔王「ってかお主は弟子は取らぬ主義ではなかったかや」

闇夜の魔女「まぁね、その証拠に村長に"魔女は人を食う"って噂を流させたのはボクだもん」

勇者「それで来る勇気があるかどうか試したと?」

闇夜の魔女「うん、次にあの森とボクの仕掛けを突破できるかだね。」

魔王「それで最後に面接試験かや?ずいぶん狭き門じゃな」

闇夜の魔女「アハハ、森を突破できない程度の人に教えることなんて何もないよ。勇気がないのは論外だよ☆」

勇者「で、それで受かったのがこの子か?」


魔女のとなりでにぱー☆と笑うヒマワリのような女の子を見る

闇夜の魔女「そうだね、その子は見た目充分に素質はあるよ。肝は据わってるし魔力も記憶力も精神力も全部そろってるよ」

暁の魔女見習い「えへん、すごいでしょ。もっと褒めてよ、お師匠様♪」

闇夜の魔女「そして可愛いもん」ナデナデ

暁の魔女見習い「えへへ~」


頭を撫でる。この二人も可愛いなぁ、見た目的に言えば撫でるほう逆じゃないかな?


魔王「主が褒めるなど、相当なものなのじゃな」

闇夜の魔女「うん、弟子ちゃんはいずれすっごい魔女になるんだよ。ボクを継いで、いやボクとは真逆に」


闇夜の魔女「全ての闇を照らす朝焼けの光、"暁の魔女"として魔女七席の末席に座ることを許されるさ」


その夜色の瞳には確信と野望の光が渦巻いていた


魔王「主がそこまで人を褒めるとは珍しいこともあったのじゃな」

夜の魔女「そうかもねなのです。でもそれを言うならキツネちゃんもずいぶん丸くなったのです」

勇者「そうなのか?」

夜の魔女「それはそれは、大妖怪の名にも魔王の名にも恥じない凶暴さんの暴れんぼうさんのときもあったのですよ」


信じられん…この可愛い狐っ娘にそんな不良さん時代があったなんて


魔王「誰にでも知られたくない過去と言うものはありんす。それ以上喋ったら殺すのじゃ」ジ


夜の魔女を睨め付けて言う


夜の魔女「キツネちゃんがここまで可愛くなったのは勇者ちゃんのおかげでもあるのです。キツネちゃんの友人として勇者ちゃんにはいくら感謝してもしたりないのです。にぱー☆」

魔王「な、な、何を言っておるんじゃ///」

夜の魔女「どうしたのキツネちゃん、顔が真っ赤なのですよ?真っ赤なのですよ?」


大事なことなので(ry


魔王「ぐぬぬ、許せんのじゃ!殺すのじゃあ」

夜の魔女「やってみろなのですよ。鬼さんここまでおいでーなのです」


家の中をくるくると踊るようにして走る二人は本当に輝いて見えた。

あぁ、時間が経つのが惜しい。


勇者「このまま、時間が止まらないもんかな。何も起こらず幸せなまま」


何気なくつぶやいたその一言、それがこの何よりも楽しい時間を壊してしまった。


暁の魔女見習い「…その望みを願うには、もう何もかもが遅すぎるんだよ………」

勇者「え?」


空気が凍りつく、まるで俺が忘れていたかった悪い知らせを思い出させたように

そして、その例えは的を射ていたのかもしれない


夜の魔女「そうだったのです。ここでキツネちゃんたちを待っていた目的を忘れていたのです。」

魔王「目的、そんなものあったのかや?」

闇夜の魔女「はい、キツネちゃんも気づいているはずですよ。木々や風が噂していますです、星々や月が恐怖に駆られているのです。」

勇者「おい、何の話だよ…天変地異でも起こるってのか?」

闇夜の魔女「その程度のレベルではありませんです。もうすぐ、自然の摂理を完全に捻じ曲げる程に恐ろしく禍々しい災厄が外宇宙からやってきますです」


闇夜の魔女「強大で名状しがたい恐怖、それがボクたちですら知る由もない異次元の彼方からやってくるのです。」


それはあまりにも大きすぎる、地球規模の余命宣告

…時間は、あまり残されてはいない


勇者「なんだよそれ…どうしようもねえじゃねえか。そんなでかすぎるのをどうしろってんだよ」

魔王「主よ…」


二人して言葉を無くしてしまう。そりゃそうだ


勇者「勇者っつったって、俺にもどうしようもねえよ…」

闇夜の魔女「ふふ、違いますですよ勇者ちゃん、勇者ちゃんだからこそ、この災厄を振り払えるのですよ。」

勇者「それってどういう…」

魔王「まさか、その剣」

勇者「へ、覇王の剣か?」


確かにこいつは便利だがそんな強大な敵に対して使えるのか?


闇夜の魔女「この剣は特別なのですよ。勇者ちゃんはその"特別"に選ばれたのです。」

勇者「じゃあこの剣があれば、世界の危機を救えるってのか?」

闇夜の魔女「ただし、よくある修行編を生き残らなければいけないのです」

勇者「は?」

闇夜の魔女「その剣の本当の力を勇者ちゃんはまだ引き出せてはないのですよ。」

魔王「ちょっと待つのじゃ、その剣の正体を主は」

闇夜の魔女「分かっていますですよ。リスクも何も全て」

魔王「ならば何故なのじゃ!」

闇夜の魔女「リスクが大きいということはメリットも大きいのですよ。とくにこれはなのです」

暁の魔女見習い「お師匠様はすごいのですよー、なんでも見通せるのですよ」

魔王「しかし」

闇夜の魔女「キツネちゃん、そのために修行編突入なのですよ」




魔王は何を言ってるんだ?確かにこいつは魔力なんかを吸い取るが気をつければいいだけなのに…

勇者「なぁ、こいつはそんな危険な物じゃ」

闇夜の魔女「充分危険なのですよ。例えるならば猿がマシンガンをそれと知らずに撲殺用に使っているようなものなのです」

勇者「例えが酷いな」

闇夜の魔女「ちなみにもうすぐ"トリガーを引く"ということを覚えそうなのです。誰に銃口を向けて引くのかは神のみぞ知るなのです。」

勇者「だから例えが酷いって」

闇夜の魔女「では撲殺用に爆弾を使っているのです。もうすぐ"起爆スイッチを押す"ことを覚えてしまいそうなのです」

勇者「被害が広がった!?」

魔王「実際それほど怖いものだと思うのじゃ…」

闇夜の魔女「まぁそういうことで-」

勇者「-ちょっと待った!お前、この剣のことを教えてくれるとかさっき言ってなかったか!?」

闇夜の魔女「言いましたですよ。それを知るための修行編でもあるのですよ。」

勇者「え?そうなの?」

闇夜の魔女「なのです♪その剣はルルイエのものですね?」

勇者「あ、あぁ、そうだが…」

闇夜の魔女「では古代遺跡の町『無銘都市』に向かうのです」

勇者「無銘都市?あそこ古代遺跡なんてあったっけ?何も無かったような…」


本当に何もないただの町だったはず。少なくとも魔王城に行く前に立ち寄ったときはそうだった。


闇夜の魔女「つい数年前に発掘されてしまったのですよ。…もしかして何かの前触れだったのかもしれないのですよ。」


発掘されて"しまった"?


勇者「で?その古代遺跡に何かあるのか?」

闇夜の魔女「"何か"どころの騒ぎではないのですよ。人間も妖怪も魔物も、現存する全ての知的生命体の祖先が生まれるずっと前に建てられた超古代先史文明の遺跡なのです」

魔王「超古代先史文明かや、それは少し興味あるのじゃ」ワサワサ


おい、さっき俺の心配をしてたのはどうした


勇者「でもそんな大昔の遺跡に何があるってんだよ」

闇夜の魔女「その剣の秘密と太古から続く大いなる宇宙の秘密なのです」


先生、前者と後者の規模のギャップについていけません


闇夜の魔女「未来の闇を見通すボクの魔術に狂いは無いのですよ。その町に行けば何もかも上手くいくはずなのですよ」

勇者「うさんくせえ…」

魔王「主よ、この化け猫を疑いたくなる気持ちは激しく分かるのじゃが。残念なことに本物じゃ、妾はこやつを擁護したくはないが、保障はするのじゃ」

闇夜の魔女「さすがキツネちゃん、ツンデレ可愛いのです♪」

魔王「ちっ、ふざけんななのじゃ」


あの魔王が俺以外に舌打ち!?いったい何があったんだこの二人…


勇者「まぁいいか、行ってみるさ。いいな?魔王」

魔王「うむ、妾は主にどこまでもついて行くのみなのじゃ」

勇者「じゃあ…あ、そういえば」

魔王「どうしたのじゃ?主よ」

勇者「しまった…無銘都市っていえばあいつがいるのか。あー、会いたくねえなぁ…」

魔王「仲の悪い奴でもおるのかや?」

勇者「あぁ、仲が悪いどころか会った瞬間殺しかかってくる厨二病馬鹿がいるんだった…」

闇夜の魔女「それも大丈夫なのですよ。」

勇者「あ、そうなの?」

闇夜の魔女「心配は完全に無いのです♪心配も無いのですよ」

いい笑顔だなこいつ、闇夜の魔女なんて言うから怖いイメージしかないけど可愛い子だ。となりから魔王の舌打ちがまた聞こえたが聞こえなかったことにしよう。


暁の魔女見習い「お師匠様、大変だよー事件だよー」


セリフの内容とは真逆に緊張感のカケラも無い声が響く、真っ黒な夜色の水晶球を手にした魔女見習いが立ち上がって言う


闇夜の魔女「どうしたのです?見習いちゃん」

暁の魔女見習い「魔物が大量にウィチルラルクに攻め込んできたんだよー」


魔王「なんじゃ、もう生きておるのがバレたのかや」

勇者「あれ?お前追い出されたんじゃなかったのか?」

魔王「本当は殺される予定だったのじゃが、信頼おける部下に頼んで色々偽装したのじゃ。奴らにバレるまでは『敵を騙すにはまず味方から』なのじゃ」

勇者「ふーん、それにしちゃ早いな」

魔王「いや、あ奴はよくやってくれたのじゃ」

闇夜の魔女「まあ、キツネちゃんは黙っていてくださいなのです。ここはボクの町なのですよ。ボクが守りますです。見習いちゃん、数は?」

暁の魔女見習い「うーん、三秒あれば町殲滅できちゃうぐらい」

闇夜の魔女「ボクを基準に考えると?」

暁の魔女見習い「遊びながらでも一瞬で全滅だね。魔物たちのほうが」


それを聞くと魔女はぞっとするような笑顔を浮かべた。見るものを冬の闇夜のように底冷えさせる狂気に満ちた笑顔だ


闇夜の魔女「それじゃ、見習いちゃんが言うように遊びながら全滅してくるです。キツネちゃんたちは手を出さないでくださいなのですよ」

勇者「そういうわけにはいかねえよ。どうせあいつらの狙いは俺たちだ。手伝うぜ」

暁の魔女見習い「やめておいたほうがいいよ。お師匠様の"遊び"に巻き込まれちゃう」

闇夜の魔女「そういうことなのです。ボクの町に踏み込んでくる災厄はボクが振り払うのです。勇者ちゃんたちはその水晶で鑑賞していると良いのですよ」

勇者「だけど…」

魔王「主よ、・本・当・に嫌々じゃが、強さだけなら妾の唯一認めておる親友じゃ。心配は要らぬ」


「本当に」の部分を強調して言う


闇夜の魔女「ありがと、ツンデレキツネちゃん♪」

魔王「前言撤回じゃ、一度殺されてみろなのじゃ!!というか妾が殺す、そして生き返らせて殺してを繰り返してやるのじゃ」

闇夜の魔女「やれるものならやってみろですよ、じゃあ行って来るです。ちゃんと水晶でボクの活躍を見ていてくださいなのです。」


闇夜の魔女は夜色の闇に包まれて煙のように消えていった


水晶球を覗き込むと、確かにやばい数の魔物の大群がやってきていた。

まだ町中には入ってきてはいないが、進行方向は間違いなくこの町、そして町の中にあるこの森の中だろう。

正に数の暴力、あの数を動員してくるということはどういうことか

そう、裏を返せば新魔王は俺たちに生きていてほしくないのだ。

いける、俺たちに生きていてほしくないということは俺たちなら新魔王の企みをぶっ潰せる可能性があると相手は思っているのだ。

可能性がゼロならわざわざこの数を動員しては来ないはずだからな

だが、困った。これからもこの数が攻めてくる可能性があるということか…まぁ来る度ぶっ飛ばせばいいだけだけどな、なんとも単純明快

水晶球を見ていると魔物たちの前に"闇"が現れる。闇夜の魔女の特殊な魔法なのだろうか、消えたときと同じようにその純粋な闇からスッと闇夜の魔女が出てきた。

それを見たであろう町の人たちの歓声が聞こえてきた。

「魔女様が来たぞー」「これで一安心ね」「もうおしまいだぜ魔物ども」「魔女様そんな奴ら消し去っちまえー」


勇者「凄い人気だな」

暁の魔女見習い「そりゃそうだよ、お師匠様はこの森に住ませてもらう代わりにこういった用心棒っぽいことをしているからね。今まで何度も守ってきたんだもん」

魔王「それであんなに慕われておるんじゃな、面白くもない」


魔王がまたご機嫌斜めだ、あとでまた肉とか奢るかな


魔王「主は食い物で釣る以外にももっと覚えるべきじゃ」プイ


拗ねられてしまった…何故だ


魔物「何だ貴様は」


魔物が進撃をいったん止めていきなり現れた魔女に眉をひそめながら話しかける。


闇夜の魔女「それはこちらのセリフなのです。この町に何の用ですか?」

魔物「勇者と元魔王がこの町にいるはずだ。差し出せば悪いようにはしない」

闇夜の魔女「断るです。」

魔物「何?」

闇夜の魔女「その二人ならここにはいないと言っているのです。」

魔物「何故庇うかは知らぬが隠し立てしても何にもならないぞ」

闇夜の魔女「ふふふ」

魔物「何がおかしい」

闇夜の魔女「いえ、魔物の情報網も案外たいしたことはないのですね。と思ったまでのことなのです。その二人ならすでに旅立っていったですよ」

魔物「…仮にそうだとしてもこの町は我らの同胞を沢山殺してきた武器を大量に生産、出荷している。いないなら潰させてもらうぞ、さぁ早く差し出せ」

闇夜の魔女「断るです。」

魔物「ならば貴様も町もまとめて潰してから探す」

闇夜の魔女「ふふふ、くっくっくっく」


魔女は笑う、冬の夜風にように身を引き裂くような冷たい笑みと笑い、そして"闇夜の魔女"の名に相応しく、見た目の幼さに相応しくない邪悪な顔


闇夜の魔女「誰が誰を潰すって?」

魔女は空に向かって吼えるように一頻り笑った後、続ける。

闇夜の魔女「下等な魔物ごときが、ボクを潰すと言いましたですか?魔女七席の座に名を連ねるこのボクを?」

闇夜の魔女「やってみろですよ。後悔してももう遅いのです、君たちに勝ち目は万に一つも無いですよ。」

魔物「威勢のいいことだな、ガキのくせして」

闇夜の魔女「その言葉そっくりそのままお返しするですよ。」

闇夜の魔女「ケツの青いガキが!!大人ぶるにはまだ2000年早いのです」ギン

魔物「ふざけるな、やっちまえお前ら!」

闇夜の魔女「暗黒の闇に呑まれて混沌の最奥、深淵の最果てに消えろなのです」


魔女が右手を挙げると手の平から闇が広がる


魔物「な、なんだこれは…」

魔物が狼狽えるのも仕方ない、何故なら上空に伸びたその"闇"は魔物たちの真上でドーム状に広がり、逃げる間もなく魔物たちと魔女とを囲み、外界から隔絶した。

水晶球の視点も"闇"の中に移る。


魔物「なんだこれは、卑怯だぞ貴様」

闇夜の魔女「数の暴力をしかけてきたやつに言われたくはないのです。にぱー☆」


どこからかそんな声がするが魔物たちはどこから聞こえているかは分からない、互いの姿は見えど敵である魔女は完全に闇に同化し、溶け込んでいる。


闇夜の魔女「ボクはここなのですよ、分かりませんですか?」


分かるはずもない、"闇"に完全に溶け込んでいるのか声は"闇"全体から響いているのだ。


闇夜の魔女「そっちから来ないならボクから行くのですよ」


ぞっとするような冷たい声がして、瞬間魔物の叫び声とうめき声で埋め尽くされた。

見えない牙と爪により一瞬で噛み千切られ、引き裂かれ、たちまち漆黒の闇に血の赤が滲む。


魔物「う、うわぁあぁああぁぁぁ。ちゅ、中級閃光魔法!」


魔物の閃光魔法が辺りを照らす。魔女には当たらなかったが、その姿を一瞬照らす。

その姿は巨大な黒猫、いや巨大な黒い虎だ。

尻尾が途中で2本に分かれている真っ黒な虎

しかしその姿は再び闇に包まれ、見えなくなった。

そして、再び悲鳴が木霊する


闇夜の魔女「なんだ、全然大したことないのです。手加減はしましたのですからせめて全員で一分は保ってほしいのです。」


闇が晴れた時、そこには肉塊が浮かんだ真っ赤な大きい水溜まりと、鮮血を浴びて黒いゴスロリ服を赤く飾った残忍な魔女が佇むのみだった。


町長「いやいや、魔女様ありがとうございます。あなたのおかげでまたこの町は救われました」

闇夜の魔女「ボクもこの町には色々助けてもらっているからお互い様なのですよ。にぱー☆」


先ほどとはうって変わって明るい笑顔で言う。


闇夜の魔女「でもかなり汚してしまったのです。」


そう言うと再び闇を手のひらから作り出す。


闇夜の魔女「お掃除なのですよー」


かけ声に合わせて手のひらの闇が蠢き、うねり、伸びた。

それはまさに闇の触手

その触手が鮮血の水溜まりの中をまさぐり、雑多にちりばめてある肉塊に触れるや否や、質量保存の法則を完全に無視して闇の中に吸い込んだ。


闇夜の魔女「はい、お掃除終了なのです」


たった数秒で肉塊と血溜まりは手のひらの小さな闇に全て吸い込まれて、跡すら残さず消えさった


町長「いやはや素晴らしい腕前ですな」

闇夜の魔女「お世辞はけっこうなのですよ。それではボクは戻るのです。」

町長「はい、明日お礼の品といつもの食料を持って改めてお礼に行かせてもらいます。」

闇夜の魔女「この時期は魚に期待しておくです。」


そう言いながら闇夜の魔女は闇に包まれて消えて行った


闇夜の魔女「ただいまですよー、キツネちゃん勇者ちゃん、ボクの活躍を見てくれてましたですか?」

勇者「うん、すごすぎる。すごすぎてすごさがよく分からなかった。」

闇夜の魔女「じゃあボクと闘ってみる?」

勇者「遠慮しとく、闇に飲まれたくない」

暁の魔女見習い「ところでお師匠様、なんで魔術も魔法も使わなかったの?」

勇者「え、あの闇のドームは違うの?」

闇夜の魔女「だって、ボクが魔術使ったら瞬殺しちゃって見せ場がすぐ終わっちゃうのですよ」

勇者「いや、充分瞬殺だったろ」

闇夜の魔女「ちなみに、"闇"はボクの固有の妖術なのですよ。」

勇者「あんなすごいのを生まれ持ってるとかすげぇ。」

暁の魔女見習い「そうだよー、お師匠様はすごいんだよー」

闇夜の魔女「その通りなのですよー、ボクはすごいのですよー」


可愛いなぁ、撫でたくなってきた


勇者「本当にすごいなぁ、よし撫でてやろう。」ナデナデ


闇夜の魔女「えへへ、勇者ちゃんに撫でられちゃったですよー」


魔王とはまた違った反応でいいなぁ

とか思っていたら後頭部に衝撃と痛み


暁の魔女見習い「あちょー」ゲシッ

勇者「のわー」ドガッ


デレデレしながら頭を撫でてたら魔女見習いにライダーキック食らった。


暁の魔女見習い「こらー、あたしのお師匠様に触るなー!」

魔王「そうじゃ、主が妾以外を撫でるなど許さぬ」グリグリ


そんでもって魔王にジト目でグリグリ踏まれる。ケモ耳幼女にジト目で踏まれるとかマジヤバイよ、すごい興奮するよこれ

でも欲を言えば痛い靴じゃなくてニーソがいいです。痛いのは嫌いなんです。


勇者「あいたたたた、どうしたのキツネちゃん?嫉妬?」

魔王「なっ、…死ねなのじゃ///」ドガッ

勇者「ブゴッ」


全力の踵落としを腹に食らいました。調子に乗りすぎましたさーせんww

そのまま気絶をし、目が覚めると魔王は旅支度を済ましていた。


魔王「ほれ、起きたかや?そろそろ出発するのじゃ」

勇者「え?もうすか?俺もう少し魔女ちゃんと戯れていたいんだけど」

魔王「ふざけるななのじゃ、妾はとっととあ奴から離れたいのじゃ」

闇夜の魔女「にぱー☆」


うん、疲れ果てた顔の魔王と北極星のように輝ききった魔女を見るだけで何があったかわかるね。


勇者「俺が眠っている間にからかわれ続けたとかそんな感じか?」

魔王「…いいからとっとと行くのじゃ」

闇夜の魔女「楽しかったのですよ、魔王ちゃん。にぱー☆」

暁の魔女見習い「ばいばーい、お師匠様に触るのは許さないけどまた来てねー」

魔王「ちっ」


今日の魔王は何故か怖いです。


闇夜の魔女「あ、勇者ちゃん」

勇者「何?」


魔王に手を引かれて無理矢理この町から連れ出される寸前声をかけられる。


闇夜の魔女「キツネちゃんをよろしくなのですよ。ボクは勇者ちゃんを信頼して全てを託すのです。」

勇者「…あぁ、任せとけって何があっても世界も魔王も守り通してやるよ」

魔王「ふん、妾に言った言葉の使い回しではないかや。…またの、化け猫」

闇夜の魔女「またねなのです。キツネちゃん」






魔王と勇者が去った後、小さな声で闇夜の魔女はつぶやいた。


闇夜の魔女「また…会えるといいのです。」


本当に悲しそうな顔をして、もう会えない事を確信する悲しみを孕んだ小さくか細い声で

暁の魔女見習い「お師匠様、今日はなんだか無理して強がってたね。無理矢理笑顔を作ってたでしょ?」

闇夜の魔女「…分かってしまいましたですか」


その夜色の瞳はすでに潤んでいた。


暁の魔女見習い「分かるよ。他ならないお師匠様のことだもん。」

闇夜の魔女「そうですね、長年ボクに付き添ってくれたものですね。分かっちゃうのですね」

暁の魔女見習い「どうしたの?もしかしてキツネさんのこと?」

闇夜の魔女「…」

暁の魔女見習い「やっぱりお師匠様も辛いんだね。」

闇夜の魔女「…辛いかって?あたりまえなのですよ…誰だって、ボクだって…」

暁の魔女見習い「? お師匠様、泣きそうになっているよ?」

闇夜の魔女「ボクだって…死ぬことが確定している未来にっ、親友を止められないどころか送り出さなきゃいけないのが辛くないわけないのですっ」


魔女の目からはすでに止めることが出来ない量の涙が溢れていた。

闇夜の魔女「最初はほんの小さな不安だったのです。小さな不安はやがて少しづつ大きくなり、ついには無視できない大きなものになりましたです。」


魔女はほとんど泣きながら話し始めた。時々しゃくりをあげながら


闇夜の魔女「ボクは闇を見通す力を持っていることは知っていますですね。それで、不安というボクの闇を見通してみようと思ったのです。」


未来は一寸先も見えない完全なる闇である。全ての闇を見通す力を持っている闇夜の魔女は完全なる未来予知さえ出来てしまう。


闇夜の魔女「未来を見てしまったとき、ボクは愕然としたのです。こんなことなら、不安なんて押し殺して気にしなければ良かったのです。」

暁の魔女見習い「………何が見えたの?」


闇夜の魔女「どの未来でも、キツネちゃんは確実に死んでしまうということなのです!!」


魔女は、今まで我慢していたものを吐き出すように声を荒げて言う。

そして堰を切ったように泣き出した

暁の魔女見習い「ねぇお師匠様、お師匠様はまだ希望を捨ててはいないんだよね?だから勇者さんに全部託したんでしょ?」


魔女見習いは泣きじゃくる小さな魔女を後ろから抱きしめて、子をあやす母親のような優しい声で語りかける。


闇夜の魔女「どの未来でも何故かキツネちゃんは一人で立ち向かっていってたのです。でも、でも二人ならと思ってしまうのです。一人増えたって、何も変わりはしないはずなのに!」

暁の魔女見習い「…あたしはまだ見習いだけど、全ての闇を照らす暁の魔女だよ。だからお師匠様の不安という闇も取り去ってあげるよ。」

暁の魔女見習い「お師匠様みたいに未来予知も出来ないけど。でも、これだけは分かるよ。勇者さんなら結末を変えられる。狐さんを導いてあげる光になれる。これ、魔女の勘と女の勘ね」


ニシシといたずら好きの猫のように笑う。自分の師匠を元気づけるつもりで

しかし、魔女は少しも元気付けられてはいなかった。それどころか未だに涙は流れ続ける。


闇夜の魔女「キツネちゃんを導く光り?…まったくもって真逆なのですよ」

暁の魔女見習い「え?逆?何が?」

闇夜の魔女「勇者ちゃんは…ボクが覗いた勇者ちゃんの本質は、完全に"闇"だったのです」

暁の魔女見習い「え?嘘…勇者なのに?」

闇夜の魔女「勇者だとかが関係あるかは分かりませんです。でも、ボクでも見たことないほどの窮極の闇を心に抱えて…いや、心が"それ"で満たされていたのです。」


初めて会った時はぞっとした。この世に、この世界にこんな深い闇を持った人間がいるなんて…闇夜の魔女であるが故に意識せずに見抜いてしまった本質


闇夜の魔女「ボクの魔術の源は、昔心の奥底に押し殺した大きすぎる闇なのです。でも勇者ちゃんのそれは遥かにボクのを凌駕してましたです。」

暁の魔女見習い「…何が、何があったの?彼の過去に」

闇夜の魔女「分かりませんです」

暁の魔女見習い「え?」


闇夜の魔女は俯く、分からないといった。どんな闇でも見抜くはずなのに


闇夜の魔女「ボクも勇者ちゃんの過去と闇の源を覗こうとしました。…でも阻まれました。」

闇夜の魔女「勇者ちゃんの心の闇は、闇夜の魔女であるボクを拒んだのです。濃すぎる闇…または深すぎる闇はボクには立ち入ることすら許してくれませんでした。まるで高い壁のように勇者ちゃんの心を覆っているのです。」

闇夜の魔女「数多の未来の可能性でキツネちゃんが一人で立ち向かって行ったのは、多分勇者ちゃんの闇に怯えたボクが余計なことを言って二人を分かれさせてしまったためなのですよ。」

暁の魔女見習い「でも、だったら大丈夫じゃないの?未来予知の未来とは違って勇者さんも一緒に立ち向かってるんでしょ?」

闇夜の魔女「分からないのです…勇者ちゃんにキツネちゃんといっしょに行くように言ったあの時から、未来予知すら深い闇に阻まれました」

暁の魔女見習い「え、それって…」

闇夜の魔女「そういうことです。勇者ちゃんは、関わった全てを闇で包んでいきます。だから不安でもどうなる分からない以上託すしかないのですよ。正しいとただただ信じて…」

暁の魔女見習い「本当に…何者なの?」

闇夜の魔女「僕にもわかりませんです。あんな深い闇を持った人間が本当にいるのかどうかも…でも世界を救う唯一の希望なのです。」


滅びに向かう世界を救うために、闇を頼る。

本来なら光の勇者の出番だろうに…でもこの世界にいるのは、大きすぎる闇を抱えた謎の勇者…その過去を知るものは誰一人としてすでに残っていない

勇者の過去①


勇者に現存する過去の記憶というものは数年しか遡ることが出来ない。

思い出せる記憶が数年分しかないのだ。

仲間には普通に生まれ、普通の家庭で育ったように言ったが本当は親の顔すら知らない。


そんな勇者の一番最初の記憶は突然始まる

始まりはとある城下町に行った時だ。何故行ったのか、目的すら思い出せない。

そこの城では予言の勇者というのを探していたらしい。

そして、来た日時と服装、特徴が予言に完全に一致する者がいた。それが俺だった。


「君は世界を照らす唯一の光だ。」「平和を呼ぶ福音だ。」「光の勇者様だ」


等と散々おだてられた。

でも心のどこかで違うと思っていた。無いはずの記憶が強く否定していた。

でもそれらを押し殺して王の命令に従った。

おだてられたのが気持ち良かったわけではない。人気者になりたかったわけでもない。

何故かそうすれば救われる気がした。


世界のためも人間のためも関係無い。

自分の心の救済のためだけに世界を救う

それが一番最初の決意

魔王城での内部紛争②

魔王城、入り口付近の闘技場


神狼「やべえな、四天王といっきにやれってのか」

神狼「血が滾るぜ」ニヤリ


まったくもって良い趣向だぜ、四天王全員がちっこい狼一匹にリンチを働くってのか?


神狼「まぁいいや、全員で来いよ」

四天王1「あれ?ずいぶん余裕だねぇ、わんこ君に恐怖は無いのかな?」

四天王2「言われなくても皆で殺すよ。だってそれがボクたちに下された命令だもの」

四天王3「命令了解、殺戮執行、卑怯上等」

四天王4「ぐるる おしゃべり にがて はやく たたかえ」

神狼「悪い、三番目のお前言っている言葉意味がちっとも分からねえ」

四天王3「…考察推奨、理解要求」

神狼「日本語でおk」

四天王3「四字熟語、日本使用」

神狼「お前四字熟語知らねえだろ」

四天王3「四字熟語、漢字四字」

神狼「…じゃあ「肉」と「食」という漢字を使って四字熟語を作ってみろ」

四天王3「焼肉定食」

神狼「お前は絶対四字熟語を知らない!」

四天王3「牛肉俺食(う)」

神狼「てめぇが食いたいだけだろ!」

四天王1「どうだっていいよ!!そいつと話したら切り無いから!」

神狼「そうだった。馬鹿と戯れている場合ではなかった。」

四天王3「馬鹿否定、我超天才」

四天王2「馬鹿なこと言ってないで早く始めようよ」

四天王3「馬鹿否定」

四天王4「ぐるるる はやく はじめろ ばか」

四天王3「…原点回帰、目標殲滅」


三番目もようやく臨戦態勢に入る。

さて、緊張感もようやく漂い始めてきたな

しかし、飛び掛るタイミングを計っている時


「待ていお前ら!!」


声が響いた。その声の主は


神狼「てめぇ」ギリ

新魔王「何だね、王を目の前にしてその態度は」


魔王を蹴落として新しい魔王になった男だ

神狼「ふ、悪いが俺はてめえを王なんて認めた覚えはねえぞ」

新魔王「では何だ?まだあのアホな狐を支持しているというのか。」

神狼「…アホな狐?」ピク

新魔王「違うのか?奴は俺の策略など知らずにのんびりと過ごしていた。その結果がどうだ、お前の助けが無ければ死ぬところだったではないか」

神狼「く、くっくっく」


バカだこいつ


新魔王「何だ、なにがおかしい」

神狼「何もかもだよバカ、魔王は全部分かっていたぜ。それこそ初期の初期からお前の企みは全部な」

新魔王「はったりだ。ならば、何故奴は魔王城を追い出されている?何故逃げ回っている」

神狼「くくく、本当にお前はバカだよ。お前程度の企みを見抜けないわけがないだろう。魔王は俺に全てを頼んでいたんだよ」


そう、自分の愛する部下を殺させないように本当に必要な一部の部下にだけ伝えた。こいつの企みを潰す方法を


神狼「魔王の計画はこうだ。まず俺が精巧に作られた魔王の死体をお前に見せて時間稼ぎ。」

神狼「次に、時間稼ぎの間俺は内部での情報収集…お前が間抜けなおかげでずいぶん捗ったな」ニヤリ

新魔王「…」

神狼「その間、魔王は勇者と合流、もちろんすでに合流している。」

神狼「逃げ回っているんじゃない。準備をしているんだ。お前を殺し、再び玉座を取り戻す準備をな」

神狼「お前が盗み取った偽りの玉座でふんぞり返っている間に足元から少しづつ崩していっているんだよ。聞こえなかったか?全てが瓦解していく音がよ」

神狼「後は俺がここを出てあいつらに、俺が得た情報を渡せば完全にお前の偽りの玉座をぶっ壊せる」


不適に笑う。チェックメイトだ。相手にそう思わせるために

しかし、不適に笑ったのは新魔王もだった。


新魔王「馬鹿はお前だ。正直に喋るなんて、本当にバカだよ」

神狼「は、勝機があるから言ったんだよ。もう計画が完全にバレてもいい段階に来たからな。これは宣戦布告だ」

新魔王「ではその宣戦布告を土産に冥土に行くがいい。やれ、四天王」

四天王1「ということらしいね。手加減はしないよ」

四天王2「さすがにボクたち四人相手はきついでしょ?」

四天王3「命令了解、惨殺殺戮」

四天王4「グルル ようやく か」


再び四天王どもが臨戦態勢に入る。


神狼「血が滾るねぇ、本気を出そうか。ついでにこの俺の正体を教えてやるよ。実は俺は魔物じゃねえんだ。」


神狼が体に力を入れると膨らみ、大きくなり全身の形が変わる。

神狼が立っていた場所にいたのは


全身に風をまとった巨大な黒い狼


神狼「神獣、疾風の神狼だ。」


神狼「魔物ごときが、神に敵うと思うなよ」

新魔王「神獣だと…?」

神狼「あぁ、それを知ってもなおこいつらをけしかけるのか?命を落とすことになるぞ」

新魔王「かまわん、やれ」


なんて奴だ。部下に勝ち目があるとでも思っているのか?

何の躊躇いもなく命を捨てさせる命令を下しやがった。


神狼「いいだろう。神に戦いを挑むということがどういうことか教えてやろう」


狼の化神は吼える。天井に阻まれて見えぬ満月に向かって遠吠えをあげる。

その慟哭は百戦錬磨の魔物の四天王さえも震えあがらせた。


神狼「行くぞ」ス


前足を振り上げる。

まだ前足のリーチで届く範囲に敵はいない。


ビュン


しかし、爪の先から衝撃波のようなものが出て、壁も四天王も引き裂いた。


神狼「なんだ、かまいたち一発じゃないか。脆いな」

真空波で切り裂かれ、何が起こったか知る間もなく絶命した四天王を食らう。

そして新魔王に対し、再び話しかける。



神狼「どうだ。魔物の中でも最強と呼ばれた四人が一発だ、これが風の神の裁きだよ」


風の神、その化身は狼だと言われている

ならば風を司る神獣も狼であるのは必然なのだろう。


だが、そんな神の裁きを見ても尚、新魔王は勝利を確信した顔を崩さない。


新魔王「…一つ聞きたい。そんな力を持って何故あの狐の味方をする?」

神狼「幼なじみだからな、友人に頼まれたんだ。断る理由はねえよ」


幼い頃は狐と猫と狼、妙な組み合わせだがよく遊んだものだ。

大きくなり、神獣と魔王、別々の道を歩んで別れたというのに友人として頼ってくれた。

本当に嬉しかった。どんな頼みでも聞いてやろうと思った。

もしかしたら俺は知らず知らずの内にあいつに惹かれていたのかもしれないな…

だから


神狼「だから早くお前の企んでいる計画を全てあいつに伝えなきゃいけない。」

新魔王「ふ、お前は俺の計画を全て見抜いたとでも?」

神狼「さっきも言っただろ?そのために魔物のふりしてまでここにいたんだよ」

新魔王「ではお前は俺が超古代に失われたはずの禁断の知識をずっと調べていたことを知っているか?」

神狼「何?」

俺の反応を見て新魔王はニヤリと口元を歪める

新魔王「俺はな、とある神話について調べているんだよ。」

神狼「そんなものは人間が作り出した空想だ。」

新魔王「そうかな?ならばお前はなんなんだ?」

神狼「強すぎる力を持ったただの獣だよ。神獣と言えど本当に神様なわけがねえだろ」

新魔王「だが生態系の頂点に立つ、その神のごとき力は本物だ。そうだろう?」

神狼「何が言いたい」

新魔王「ふ、俺は常々思っていた。この世界には数多くの神話がある。そのいくつかには"本物"が紛れているんじゃないかとな。そう、お前ら神獣もその一つだろう」

新魔王「そして見つけ出したのだよ。本物の邪悪なる神々について記した神話をな!」

神狼「…まさか」


背筋に嫌な汗が浮かぶ、最悪の予想が脳裏に浮かぶ


新魔王「その神話について調べるのは骨が折れたよ。なんたってこの神話について書かれた本はほとんど焚書処分されたからな。」


新魔王は上機嫌に「魔導書として危険すぎたためだ」と付け加えた。


新魔王「それでもいくつかは物好きな人間が使い方も知らずに大事に保管しててね、すでに世界には一、二冊しか残ってない貴重な本なのだが、なんとか手に入ったよ。」

新魔王「なんならタイトルを読み上げようか?ネクロノミコン、エイボンの書、セラエノ断章、屍食教典義、黄衣の王、等だ。我ながらよく集まったものだよ」

神狼「本物…」


タイトルを聞けば分かる…どれもこれも、「クトゥルフ神話」と総称される神話、実在する邪悪な神々についての神話に関連する魔道書だ


神狼「お前…何を考えている。何をする気だ」

新魔王「くくく、聞きたいか?」


新魔王の瞳には狂気が渦巻いていた


新魔王「俺はな、この邪悪なる神々について調べているとき、とある一体の神格に目を奪われた。」

新魔王「そいつについての一文はこうだ。曰く、その神は無限の外宇宙の中心部にして恐怖と狂気が渦巻く窮極の混沌の最深部、無定形の心無き踊り子と下劣なくぐもった太鼓の連打、呪われたか細いフルートの調べに囲まれて存在する暴走するエネルギーの塊」

新魔王「全ての邪悪なる神々の創始者にしてなべての存在の創造主、全てを作り出し、見たもの全てを破滅させる魔の王。」

神狼「まさか…お前は……」

新魔王「その恐ろしさ故誰もあえてその名をも口にしようとしない果てしなき窮極の邪神、万物の王にして盲目白痴の神、無限の中核に棲む原初の混沌、その名を」

新魔王「窮極の邪神、魔王アザトース」

神狼「お、お前は、本当にそんな恐ろしいことをしようとしているのか!!!!」


震えが止まらない。こいつが話したのはそれほどに…いや、どんなものより恐ろしい存在のことだった。


新魔王「くくく、そうさ、俺は奴を、本物の邪神を本物の魔王を俺の目の前に召喚する。」

新魔王「ゾクゾクするだろう?本物の神が見れるんだぜ?俺みたいな"魔物の王"じゃない。"魔の王"だどれほど恐ろしい存在か興味が湧かないか?」

神狼「ふ、ふざけるな!お前は狂っている。興味本位でそんなことが許されるわけがない!!」

新魔王「許されない?誰にだ?神様にか?そりゃ最高のジョークだな、俺がしようとしているのは神の召喚だぜ?」アッハハハハ


目の前の狂信者は笑っている。狂ったように、いや完全に狂っている。狂気に満ちた冒涜的なまでに恐ろしい考えを抱えて、しかも実行しようとしているなんて


神狼「狂っている…」

新魔王「そうかもしれないな、俺は狂っている。で?だからどうした?何も変わりやしない。窮極の邪神は召喚され人間界は終わる。」

神狼「やめろ!!!人間界だけではすまないぞ!!この星に呼び出したりなんかしたら、魔界もこの星も、いやこの宇宙そのものが一瞬で消されてしまう!!」


神狼の必死の警告にも耳を貸さず新魔王はただただ笑っている

勇者「剣技、桜華狂咲!」ズバアア

魔物たち「ミギャアアアア」


数で来る卑劣な魔物たちを次々となぎ払う。技名は叫んだほうがかっこいいのさ

桜華狂咲(おうかくるいざき)、意味?どんな技かって?そんなものないよ、必要なものは語感とインスピレーションさ


勇者「剣技、桜華乱咲!」ドバァアアア

魔物たち「ムンギャエロオオオオ」


桜華乱咲(おうかみだれざき)、ただ適当に斬っているだけである。

まぁ、俺ほどの天才(レベルが高いだけ)にもなれば技など無くとも充分なのさ


魔王「主よ、後ろじゃ」

勇者「おう!剣技、一閃斬り!」ズバーン

魔物「ポオオオオオオ」

魔王「主よ、右斜め後ろじゃ」

勇者「はいよ!」シャ

魔物「ピエエエエ」

魔王「いいぞー主よー」

勇者「ってかお前も戦えよ!」


さっきから魔物は岩に腰掛けてただ応援しているだけである。

若干棒読みだし


魔王「主はこの妾に戦えというのかや?狩りは男の仕事なのじゃ。それに妾はか弱い女子(おなご)ではないかや」

勇者「誰がか弱いだ!お前魔王だろ」


血飛沫を上げながら叫ぶ、魔物退治が完全に作業ゲーです。


魔王「妾は上に立つ者として命令していただけじゃ、戦など率先してするわけないじゃろ。ほれほれ、ちゃんと妾を守れなのじゃ♪」


見ると魔王の座っている岩に魔物がじわじわとにじり寄っている。


勇者「あぁ、もうメンドクサイなぁ!どうして俺がここまでしなきゃいけないんだよ。」グシャアア


メンドクサイが仕方ない。なんだかんだ言っても大切な奴だし、ちゃんと守らなきゃいけないしな…俺少しツンデレ化してない?


魔王「というか主よ。何故魔法を使わないのじゃ?」

勇者「…あ」ブシャア


完全に存在忘れていたかも


魔王「確か主の魔法には対多数用の魔法があったのではないかや?」

勇者「使わない、なぜならその方がかっこいいから!」

魔王「ふむ、まぁいいじゃろう。きちんと妾を守ってくれるのなら良しとするのじゃ」

勇者「お前も戦えよ…」

魔王「無論嫌なのじゃ♪」

第4話「狼との再開は不気味な月夜に」

一時間後


勇者「はぁ、はぁ…なんとか片付いた。」

魔王「何じゃ、ほんの数百体で疲れたのかや、だらしないのじゃ」

勇者「簡単に言うなよ…俺だって人間なんだよ。疲れないわけねえだろ」ゼェ、ハァ


周りには死屍累々、息絶えた魔物はすぐに土に還るだろうが流れ出た血の跡と死臭は数日は消えないだろうなぁ。


魔王「ところで気になるのじゃが」

勇者「ん、何?」

魔王「その剣、血を吸い上げておらぬか?」


見ると魔物を倒してついた血が全て刀身に吸い上げているのだ。服や素肌についた血を


勇者「わ、何じゃこりゃ」


ガチャ


驚いて剣を落とす。

すると地面にこびりついた血さえも吸い上げてゆく


勇者「いったい…なんなんだってんだよ」


驚いて硬直していると結局倒した魔物の血を全て吸い尽くしてしまった。

しかし刀身が真っ赤になったわけではなく、少しの曇りすらなくただただいつも通りである。少なくとも見た目は

とりあえず剣を手に取って歩き出す。


勇者「雰囲気が違う…なんか『ゴゴゴゴゴゴゴゴ』なんて文字が背景に見える気がする」

魔王「なんじゃそりゃなのじゃ」

勇者「血を吸ってパワーアップした的な?剣のレベルが上がった的な?」

魔王「この剣長く使ってきたんじゃないのかや?前にもこんなことはなかったのかや?」

勇者「無いな。今までは俺の呪文詠唱無しに動きはしなかった…」

魔王「ふむ…主よ、この剣専門家に見てもらったらどうなのじゃ?」

勇者「刀鍛冶か?」

魔王「うむ、もしかしたら何か分かるやも知れぬのじゃ」

勇者「そういえば俺たちが行こうとしている遺跡でこの剣については分かるはずじゃなかったか?」

魔王「出来るだけ早いほうがいいじゃろ…何か嫌な予感がするのじゃ」

勇者「ま、いいけどね」


そんな会話をしながら歩いていると町が見えてきた。

魔王「ここが目的地かや?」

勇者「いや、無銘都市はもう少し先だよ。ただ今日中に着きそうにないからな、野宿は嫌だろ?」

魔王「なんじゃ、せっかく口に出さないようにしておったのに知っていたのかや」

勇者「そりゃ野宿のときは決まって機嫌悪けりゃ誰だってわかるよ」


こいつは機嫌が悪いと本当に手が付けられない、

この間なんか抱きしめたら機嫌直るだろうと思って後ろから抱きしめたら本気で殴られました。自業自得?因果応報?そんな言葉俺の辞書には無いな


勇者「と、いうことで今日は宿屋だ!」

魔王「うむ、久々にベッドで眠れるのじゃ」ワッサワッサ


本当に野宿は嫌だったんだな、尻尾に喜びの感情が出てるよ。可愛すぎます。鼻血出そう


勇者「もちろんベッドはダブル一つで良いよな」

魔王「うむう…む?って良い分けないじゃろが!!」ドガッ

勇者「ぐふっ」


よほど嬉しかったのか人の話も聞かずに返事をしていた…なんで途中で気づくかな

とりあえず見事なまでの回し蹴りを喰らいました。回し蹴りをするときにふわりと浮くスカートって何かいいよね、絶対領域!


勇者「でも今頷いたよね?頷いたよね?」

魔王「わ、妾のミスじゃ。勘違いするななのじゃ!」

勇者「ふははははは、もう遅いわ今日の寝床はピンクなホテルに決まりだ!」

魔王「そこまでは言ってないのじゃ!あ、これ主よどこへ行く!!」

勇者「ラ○ホテルの予約だ!」ダッ


走る、走る、俺たち~♪

じゃなくてこの町のホテルに予約しに行こうと走り出した。予約さえしちまえばこっちのものよ、変態勇者の真髄見るがいい


魔王「いいかげんにするのじゃ!」ザワザワ


後ろで何かすごく小さな木々のざわめきのような音がする。いや、これは尻尾の毛がいっせいに逆立つ音だ。

つまりは魔王が妖術を使う合図の音


魔王「妖術、ポルターガイストなのじゃ!」

勇者「おぉ、体が浮く」

魔王「一辺死んで来いなのじゃあ!!」


ヒュ


勇者「ギャアアアアアアアアああああああああああああああああああああああ」


キラッ


こうして俺は魔王のサイコキネシスで空高く舞い上げられて星になりましたとさ、チャンチャン


魔王「これにてこのSSは"完"なのじゃ♪」

勇者「終わってたまるかああああああああああああああああああああああああああ」

ドガーン


地面に頭から落ちた。


勇者「いてててて。ふぅ、anotherなら死んでたな」

魔王「ふむ、妾は普通でも死んでいたと思ったのじゃが」

勇者「まさかマジで殺す気だったのかお前?」

魔王「…過去などどうでもいいことなのじゃ」


目線を逸らしながら尻尾をゆっくりと左右に振る。


勇者「ギャグ補正と主人公補正が無けりゃ死んでたからな、真面目にどうでも良くない。」

魔王「す、すまぬのじゃ」シュン


素直に謝る魔王、うん、人間素直が一番だよね。こいつが人間じゃないとかはさておきさ

それにしてもシュンとしてる魔王は可愛い、いつも元気よく動いている耳や尻尾が力なく垂れているのとか


勇者「まぁ、ちゃんと反省してるみたいだし許すさ。な?」ナデナデ

魔王「うぅ…///」


魔王は頭を撫でると赤くなる。ついでに尻尾が元気を取り戻す。


勇者「だから罰として今夜は一晩中モフモフしまくる。それで許してやろう。」

魔王「ちょいと待てなのじゃ、よくよく考えれば元々主の自業自得だったはずなのじゃ」

勇者「自業自得?なにそれうまいの?」

魔王「では因果応報じゃ」

勇者「難しい言葉言わないで、頭がショートする」

魔王「するか!つまりは元々主が悪いのじゃ」

勇者「ナ、ナンノコトヤラ」

魔王「なんじゃその棒読みは!」

勇者「さ、さて、まずは勇者の使命を果たさなきゃな。町長の家に行くとしよう」

魔王「こら、話を逸らすななのじゃ!」


勇者の使命として「かならず町や村に行ったら代表者に会って困り事が無いかどうか聞かなければならない。」というのがある。 王様もめんどくさいことを言うもんだ。そんなんだから昨今のRPGはお使いゲーばっかりになるんだ。


魔王「ふむ、主はきちんと"勇者の使命(という名のお使い)"はこなしておるのじゃな、少し意外なのじゃ。」

勇者「なんだよ、俺がサボっているとでも思ったのか?ちゃんと勇者の仕事ぐらいはするさ、俺はただの変態じゃなくて変態勇者なんだからな」キリッ

魔王「主はそれをかっこいいと思って言っておるのかや?」

勇者「ま、ともかく俺だってちゃんと仕事はするってことだよ。」

魔王「うむ、見直したのじゃ♪」

勇者「それに、お使いイベントの中で美少女との出会いがあるかもしれないしな」

魔王「少しでも見直して損したのじゃ」ギュウウウ

勇者「いてててて、今日はなんだかきつい、痛い」


踵で足の指辺りを中心的にやられた。体は小さいのに力が強いから痛いんだよ。 俺は完全なMじゃないから痛みには慣れないんだよね、痛みをむしろ快感と思える方々がある意味羨ましいです。

昔の仲間の戦士(♂)が頭に一瞬思い浮かんだ。…今頃あいつはどこぞのSMクラブで…うん、やめておこう。とりあえず意識の外に追いやる。俺の記憶メモリーは女のためだけにあるから男は覚えている必要ないもん、むしろあいつは忘れたい

町長宅


魔王「『今日は忙しいから明日来てね。ばいちゃ☆』…と、書いてあるのじゃ」

勇者「………何じゃそりゃ!?」


町長の家、勇者の使命を果たすためにわざわざ来てやったのにコギャルみたいな丸文字でそんなことが書いてある立て札が家の扉の前に


勇者「せっかく来たのにまた明日来いってか!?ってか『ばいちゃ』ってなんだよ!古いよ!死語ってレベルじゃねーよ!!」

魔王「…主よ、こんなところで騒ぎ立ててもどうにもならぬのじゃ。また明日来れば良いではないかや。」

勇者「こんなむかつく文章を書くような奴のところにわざわざ明日も来るとか嫌だぜ…もういいよこの町は、めんどくさいから鍛冶屋行って、食料そろえて、寝て、明日この町出よう」

魔王「主は"勇者の仕事"はちゃんとするたちではなかったのかや?がっかりじゃな」

勇者「うぅ…わぁったよ、明日来てやるよ畜生…」


魔王に踊らされてる感がする…

ってか最近逆らえなくなってきてるような

否、断じて否!今日の夜、それを証明してやる。ベッドの上での出来事を楽しみにしているが良い


勇者「ふ、ふふふふふふふふ」


不気味に肩を揺らして笑う勇者であった。

無論魔王が引いていたのは言うまでもない


鍛冶屋


巌鉄「如何にも、わしがこの町唯一の刀鍛冶、巌鉄(がんてつ)じゃ」ドーン


刀鍛冶を訪ねたら「いかにも職人」ってな感じの頑固そうな爺さんが効果音付きで出てきた。

なんかモンスターボールを作ってくれそうな名前の人だ。

ちなみに魔王は町の人が巌鉄について「かなり職人気質の頑固な爺さんだよ」と苦笑いで言っていたのを聞くや否や「妾は食料を集めてくるのじゃ」といって逃げ出した。

あいつは頑固者が苦手らしい。確かにあのわがまま属性じゃ相性悪そうだもんなぁ


勇者「少し、俺の剣を見てほしいんですけど」

巌鉄「なんじゃ?打ち直してほしいのか?」

勇者「いえ、そうではなく。少し変なんですよ、どこがどう変かと問われると説明が辛いですけど…曰くのある剣で」

巌鉄「ふむ、呪いとかなら専門外じゃが…どれ、見せてみろ」


とりあえず、覇王の剣を渡す。 手から離した時、命より大事な物を手離してしまったような、一番好きな人との今生の別れのような、そんな変な感じがした


巌鉄「これは…ほぉ、なかなかの業物じゃ。しかし妙な…」


思ったよりおしゃべりな爺さんだ。


巌鉄「これをどこで手に入れた?」

勇者「まぁ、離せば長くなるけど、かくかくしかじか(>>101参照)」

巌鉄「なるほど…簡潔に言おう。まず、これの材質は鉄ではない」

勇者「マジ!?」


初っ端から衝撃です。

巌鉄「見ろ、この業火」


巌鉄爺さんが指差したかまどには中級火炎魔法並みの業火が舞っていた。


巌鉄「これが普通の剣に使われる鉄じゃが、これをこの火の中に少し入れると赤くなる」


確かにかまどに少し入れてから出すと真っ赤になっている。


巌鉄「がこの剣は少しも赤くならないどころか曇りもせず、熱くすらならない。」


まったくもってその通り、恐る恐る触ってみるが暖かくすらなってない。冷たいままだ。


巌鉄「他にも、この刀身に使われている材料には金属にあるはずの延性が無い。」ガキイイィン


そう言いながら金属製のハンマーで思いっきり刀身を叩く

爺さんが言いたいことはつまり、普通の鉄は叩けば金属特有の"延性"によって形が多少変わるがこれはちっとも変わらないとのこと


巌鉄「しかもこれは長年使っているのじゃろ?」

勇者「あぁ、少なくとも数年間」

巌鉄「そんなに長い間これで戦っていて刃こぼれの一つもない。いや、それどころか傷一つすらない。」

巌鉄「見た目も鋭さも金属と変わりないのに金属の特徴が一つも無い。強いて言えば金属光沢ぐらいなもんだ。」


そう言いながら磁石を近づけては離す。もちろん磁石に反応することは無かった。


勇者「じゃあこれは何で作られているんだ?」

巌鉄「分からん。見つけた場所から言うと、大昔に耐えてしまった材料で作られたのか…それかまだ確認されていない未知の鉱物?もしかしたらこの星のものではないかもな」

勇者「…」

巌鉄「はっはっは、最後のはさすがに冗談じゃ。ほれ、返すぞ」ガチャ

勇者「あ、あぁ」


剣を渡される。手に持ったとき、異様にフィットした。まるで元々自分の体の一部だったかのように、手放してから抱えていた違和感が完全に無くなった。


巌鉄「すまんな、あまり力にはなれなかったようじゃわい。」

勇者「いや、それでも色々分かったさ。ありがとよ爺さん、お金はどれくらい?」

巌鉄「いや、金は貰わん。わしも面白いものを見せてもらったお礼じゃ、やはり世界は広いもんじゃ」


そう言って笑い出す。

何が頑固者だ。かなり気さくな爺さんじゃねえか、町の奴らに騙されたっ

内心ビクビクして行った俺が馬鹿みたいじゃないか…魔王には言わないでおこう

その後、魔王と合流


魔王「で、どうだったのじゃ?」

勇者「かなりおっかない頑固者だったぞ(棒読み)」

魔王「そ、そうだったのかや(やはり行かなくて正解だったのじゃ)」


後半なんかゴニョゴニョと小声が


勇者「後半何だって?」

魔王「な、なんでもないのじゃ」プイ


そっぽを向く魔王、その尻尾は大きく左右へ

ははーん


勇者「何か『行かなくてよかった』的なことを言ったか?」

魔王「ほとんど聞こえておるではないかや!」

勇者「ほほぉ、あてずっぽが当たったな」

魔王「しまったのじゃ!?」


驚いてとっさに口に手をやる魔王、やっぱり苦手なんだな頑固者


勇者「まさか、お前苦手なのか?そういう頑固な人間」

魔王「そ、そういうわけではないのじゃ!」

勇者「じゃあどういうわけなのかな?口を滑らせてしまったキツネちゃん?」

魔王「それは・・その…うぅ、ぁぅ」


恥ずかしそうに俯く魔王、尻尾も苦しそうに揺れている。

おぉ、葛藤が見て取れるねぇ。


勇者「言えないと言うことは図星かぁ、やっぱり苦手なんだね。」

魔王「くうぅ、覚えておれよ…」ワッサワッサ


今度は怒りに揺れる尻尾である。


その後、宿屋到着


魔王「主よ、先に言っておくが、ベッドはシングルを二つじゃからな。ダブル一つの部屋にするななのじゃ」

勇者「へいへい」


なんてな、俺がそれで妥協するわけないだろ!

エロが書けないなら(>>1の技量的な問題で)ギリギリセーフな感じで同じベッドの上で一晩中モフモフするぐらいは許されるはずだ!

だから、俺は何とかしてダブル一つの部屋にしてやるぜ!!

でもどうしようか、宿屋の手続きの間こいつをどっかにやって勝手に手続きは出来ないし…(泊まる人数を確認するために全員そろってないと手続きは出来ない)

「一人だけどダブルで!」なんて言うのもおかしいし…

魔王を論破するか?それともどうにかして…う~ん


勇者「あの、ご主人、少し頼みがあるんだが。」


魔王が手持ち無沙汰に宿屋内を見て周っているのを確認してこっそり耳打ちする


ご主人「へぇ、なんでしょうか」

勇者「実は俺とあいつは新婚でね、嫁が恥ずかしがりやで全然進展しなくて困ってんだよ。それで無理矢理リードしようと思ってね、ベッドはダブル一つで頼めるか?もちろんあいつには内緒で」

ご主人「…へぇ、そいつは面白そうですがね。とりあえず、夫婦を証明できますか?」


げ、そう来るか…

勇者「おーい、魔王ちょっと来てくれ」


宿屋に飾ってあるこの辺の山々の風景写真を見ている魔王を呼ぶ


魔王「何じゃ、主よ」


テトテトと可愛い小走りで魔王がやってくる。

走るたびに揺れる狐耳と尻尾が可愛すぎるよ。

見るとご主人もその尻尾と耳を交互に見つめている。あの瞳の中には感情と理性の間で揺らめく葛藤が見える。これはいけるな


勇者「」ニヤリ

勇者「魔王、確保」ギュー

魔王「ひゃあ!?い、い、いきなりなにするんじゃ」ワサワサ


いきなりすぎて驚いたのか顔が真っ赤になっている。尻尾も悶え狂うように動き回っている。俺の心も悶え苦しんでいる。こいつ可愛すぎるだろ


勇者「あぁ、もう可愛すぎる」スリスリ

魔王「こ、これ、他人の前なのじゃ、やめるのじゃあ」ジタバタ


暴れるけど頬擦りしながらさらに力をこめて押さえつける。実際はそこまで嫌がってないだろう。だってこの怪力系幼女のことだ、本気で嫌がっているなら今頃吹っ飛ばされている。


勇者「無理無理、やめられないよ。この抱き心地の良さ、触り心地の良さ、すべすべのほっぺ、もふもふのしっぽ、そしてふにふにのちっちゃなm…」

魔王「そこは触るななのじゃ!」ゲシッ

勇者「まごふっ」


小さくて可愛いとある部分を揉んだらいきなり蹴られた。

相変わらず美しい後ろ回し蹴りだ。思わず腹痛が…

しかし、今日は引き下がれない理由がある!全てはダブルベッドのため!!

くるっと回ってワンターン、魔王を抱き締めたり頬擦りしたりしながらご主人に振り向く


勇者「どうだご主人、こんなにイチャイチャラブラブ出来ることが夫婦の証明だ」ドーン

魔王「ふ…夫婦…ぁぅ///」


なんか腕の中の魔王の体温が著しく上がったような気もするが気のせいだろう。


勇者「さぁ、どうだ!」

ご主人「いや、無理ですよ。」

勇者「貴様、この子の可愛さ、ひいてはケモ耳しっぽの可愛さを分からぬと言うのか!!」


俺の見込みじゃこいつは絶対にケモ耳かしっぽフェチだ!

ちなみに俺はしっぽ派だ。もふもふの揺れるしっぽが大大大好きなんだ!

あ、もちろん耳とワンセットじゃなきゃダメだけどな


勇者「ならば教えてやろう。この芸術的ともいえる可愛さを誇る魔王の可愛さを」


釣られてちっちゃな魔王の頭の上の狐耳を見る主人、可愛いと言われて嬉しかったらしくその狐耳はくすぐったそうに動いている。…文法?何言ってんだ正常じゃないか


勇者「まずは見ろ、この形の整った狐耳を!金色の長く美しい髪と相まって良さが倍増だ!感情を表し、シュンとなったりピクピク動いたりする様は萌えなどという言葉で表せないほどの可愛さだ!そう、これこそ某ヒロインが唱えた"蕩れ"という言葉を使うに値するものじゃないか!!しかも普通の人間には無いというレア感がケモ耳の素晴らしさをよりいっそう際立たせる。ファンタジー世界だからこそ許される完全無欠の属性、それがケモ耳なんだよ。その中でも狐耳は特別~(限りなく長いため省略します)

二時間後


勇者「次にこの美しいしっぽだ!美しく愛おしく可愛らしいこの尻尾だ!!全世界のどの毛皮を集めて比べても群を抜いて大差をつけてトップに躍り出るほどの可愛さと美しさを持ったこの尻尾だ!感情を表して揺れたりシュンとなったり逆立ったりピーンとなったりワッサワッサとゆらゆらと揺れる様はもう言葉では言い表せないほどに可愛い!可愛い意外に表す言葉が見つからない!!喜びを表し悲しみを表し時には恥ずかしさや怒りすら表すもう超可愛いとしか言葉が出ない。そうだろ?そうなんだよ!!中でも狐の尻尾ってのは形が良く触り心地がよくもふもふでふんもっふでもう顔をうずめたくなる(いくらなんでも長すぎるので省略です)


5時間後


勇者「どうだ、分かったかああぁぁあああああ!!」ビシッ

勇者「そうだ、これでも分からないならもう一度説明しなおしてやるぜ?もっとボリューム大目に」

ご主人「分かりました、分かりましたよ。認めますよ。あなたの勝ちです。お願いですから早く部屋に行ってくださいー(半泣き)」


この数時間で何故かすごいゲンナリしてしまったご主人に部屋の鍵を渡される。残念だ。後7時間は尻尾だけで語れたのに

それにしても尻尾はほとんど感情と勢いだけで喋っていた気がする。主に可愛いとしか言ってない気がする


勇者「おい魔王、終わったぞ。」

魔王「おぉ、終わったのかやずいぶん長かったのじゃな」

勇者「あぁ、かなり白熱した。」


まぁ俺が一方的に熱くなってただけだけどさ


魔王「というかもう夜なのじゃ。何を話しておったらこんなに遅くなるのじゃ?」

勇者「それはもう、本当に可愛いお前についてだ」

魔王「…///」


なんて返せばいいのか分からないのか無言でうつむく魔王、尻尾を見るにとりあえず恥ずかしがりながら喜んでるね。尻尾がほうきみたいに床を掃いているよ


魔王「そ、そういえば主よ」

勇者「何だ?」


いきなり話題を変えて逃げたな、まぁいいけど…ええと、404号室はどこかなと


魔王「主が話しておる間に町へ出て買い物など済ませておったのじゃ」


そう言うとこの町で買い込む予定だった分の食料を出す。…それらはどこにしまっていたし

あと、俺の財布…


勇者「…って財布!?あ、いつの間に!!?」


後ろポケットに無かった。こいつ、いつの間に盗賊に転職したんだ…魔王、恐ろしい子


魔王「主が話に夢中になりすぎたのが悪いんじゃ。簡単に取れたのじゃ♪」


くそっ、得意げにしやがって…


勇者「…それはともかく」


財布をしまいながら恨めしげに言う。


勇者「お前宿屋の中を探検してたんじゃなかったのか?」

魔王「うむ、よくよく考えれば七時間も宿屋の中で満足できるわけがないのじゃ。じゃから少し変えたというわけなのじゃ」

皆はちゃんと後先考えようね(苦笑い)


勇者「お、ようやく見つけた。404号室だ。」


ようやく見つかった。地味に広いぞこの宿屋

開いて入ると部屋の光景が目に飛び込んでくる。

部屋の中は


勇者(なんじゃこりゃああああああ)


うん、なんて言えばいいんだろうね。一言で言えば酷い部屋だったよ。なんか桃色だ、淡い桃色の光で満たされている部屋だ。

どうしろっての?ヘタレの俺と18いかない>>1にどうしろっての?俺は一緒のベッドでもふもふ出来ればよかったんだよ。濃厚なしエロは出来ないし書けないんだよ。

今まで官能小説もエロイssもロクに読んでないから書けないってば、この間試しに書いてみたらエロイ単語を覚えたての小学生並みの出来になったっての

いやいや、そういう問題じゃねえよ。その前に魔王が…


魔王「…」


唖然、絶句、やめて、俺を睨まないで、俺はここまで頼んでねえよ。ってか何でこの一見ボロい宿屋にこんなホテル顔負けの部屋があんだよ。
いや、そういう場合でもない。何とかしなければ魔王からの信頼が一気に地に落ちかねない。なんとか、何とかフォローを入れたい。入れなければ!!


魔王「主よ…」ジー


わー、思いっきりジト目だーヤバいね、このまま行くと同室すら拒否られそうだ。


勇者「…さ、さすがにこれは酷いな、うん、部屋変えてもらおう。」スタスタ


魔王の手を引いてフロントに戻ろうとする。


魔王「主よ、今妾の反応を見て決めなかったかや?」

勇者「無い無い無い無い無い無い無い」ブンブン


手も首も激しく振って否定する。


魔王「ふむ…まぁよいか。どの道この部屋には泊まらぬのじゃろ?」

勇者「あぁ、他に部屋がないか聞いてこよう」


よ、良かった。とりあえず誤解だけは避けられる


ご主人「他の部屋?ダブルベッドはあそこだけですよ」

勇者「はぁあ!?一室だけってどういうことだよ。普通もっとあるだろ!!」

ご主人「個人経営ですからね。普通とは違うんですよ。」ニヤリ


魔王が「ダブルベッドとはどういうことじゃ?」とかいう視線を向けてきたがまぁこの際無視しておこう


ご主人「どうしてもというのなら他の宿屋にしたらどうです?ま、先ほどの長話のせいで遅くなりましたから探すのは困難でしょうが」ニヤニヤ


くっそ、さっきの恨みかこんちくしょう。


魔王「主よ、普通にシングル二つでいいのじゃ。妾は早く寝たいのじゃ」


不機嫌そうにしっぽが床を掃く

ご主人「ツインの部屋は全て埋まってますよ。シングルが一つある程度ですねぇ」

勇者「嘘だ!そんな繁盛しているようには見えないぞ」

ご主人「見かけが全てではありませんよ。これでもほぼ満室です。」

勇者「ぐっ…」

ご主人「どうします?もう真夜中ですからねぇ、今から宿を探すのはさぞ骨が折れるでしょうね」


くそ、ニヤニヤしやがって

その笑顔の裏には「この時間帯では見つかってもどこもお高いでしょうね」という意味合いを孕んでいる


勇者「あぁ、もういいよシングルでも!魔王さえベッドで寝れれば俺は床に寝袋で転がって寝てるから」

勇者「それでいいか?魔王?」

魔王「わざわざ、他の部屋に移動せずともあの部屋でいいのじゃ」

勇者「え、それって」キラキラ

魔王「目を輝かせるななのじゃ!もちろん主は床じゃからな」

勇者「…も、もちろんだ。それが当然だよな」

魔王「なぜそこで本気で残念そうな顔をするのじゃ」ジトー

勇者「ナ、ナンデモナイカナ」

ご主人「ちなみにコン○○ムは二番目の引き出しに入ってるからね」ニヤニヤ

勇者「そんな説明はいらんわ!」


部屋


いや、無理だって…ここだけ雰囲気が全然違うよ。何で一室だけこんな部屋があるんだよ。


魔王「妾はもう寝るのじゃ…今日、というかこの部屋であまり起きている気にはなれぬ」

勇者「え、もう寝るの?」

魔王「何度も言うが、主は床じゃ」

勇者「分かってますよ…分かってますとも」


ちなみに俺、泣いてます。そりゃそうでしょ、こんな色々目覚めちまいそうな部屋にいてどうやって何も考えず寝ろと?

色々考えが膨らみますよ。なのに現実は、せっかくのダブルベッドなのに俺一人床だよ。毎日の日課である魔王の顔見ながら就寝することすら出来ない。

ふざけんなあのご主人、この町出るとき魔法で宿ごと焼き払ってやろうか。

とはいえ、どうしようか

魔王はもう寝ているしな…こんな部屋にいて何もせずに一晩過ごす気か変態勇者よ?

でもここでやったら流れ的に信用ガタ落ちしそうだしな…寝顔鑑賞だけでガマンすべき?


勇者「やるしかない。」


とは言ったものの未だ悶々と考えている。だって仕方ないじゃん俺だって色々考えるよ

魔王可愛いとか、魔王大好きとか、魔王可愛すぎるとか魔王モフモフしたいとか魔王大好きすぎて死ねるとか魔王可愛いとか魔王可愛いとか魔王可愛いとか
あと、モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフモフ…


勇者「うん、本当に色々考えているな俺は」

勇者「突っ込み不在って怖い。…ってか寂しい」


いつもだったら「色々どころかほとんど一つじゃろうが!!」とか言って突っ込んでくれるんだが…熟睡中である。

キツネちゃんキツネちゃん、起きてよ起きてよこの中で寝るのは色々きついよ…かといって起こす勇気もないけど

えぇい、俺の弱虫め!!とっとと襲ってしまえばいいものの…ってか襲うのは流石にまずいって

いや、じゃあせめてちっぱ…胸を揉むぐらいいいじゃないか。いいや、それで目を覚ましちまったら俺ジ・エンド

いや、だったら…いえ、いや、いや…



チュンチュン、小鳥が窓辺でさえずる。

うん、いつの間にか寝てたんだな、朝チュンの割には結局何もできてないけどね


勇者「いい朝だ、さて、今日も変態勇者業に専念するか」


うん?なんか違和感…主に人間の体温を感じる。俺よりかなり背の低い人間の体温を


勇者「って…魔王!?」


魔王さんがかなり低いところで俺にしがみつきながら熟睡していらっしゃる…ドユコト?

ってかマジで何があったの??昨日は何も無しに寝てしまったはず…いやいややばいよ相変わらず可愛すぎる寝顔だよマイサンが元気になっちゃうよ


勇者「ってか早く抜け出さないと!」


じゃないと何が起こるかわかったもんじゃない


ムンズ


脱け出せない

え?ドユコト?

状況が掴めないので整理しよう





大変だ俺のジョニーががっちりホールドされてる。ジョニーよ、つかまってしまうとはなさけない


勇者「いやいや、そんな小洒落たジョーク言っている場合じゃない…なんとかして魔王が目覚める前に…」

勇者「早く…おきな、い…と」

魔王「ふあぁーあ、よく寝たのじゃあ」

魔王「ん?主よ~おはよお、なのじゃー」

勇者「あ、あぁ…良いお目覚めで…ちなみに俺は青ざめて」


起きやがった。この状況で…俺の中に鳴り響くはレッドアラート、目の前はブラックアウトのホワイトワールド

これから何が起こるかを思うと目の前が真っ暗になって意識が飛びそうになったり真っ白になって気絶しそうになったり目眩がするんだなこれが


魔王「何を朝っぱらから固まっておるのじゃお主?…っ!!?」


あぁ、気づいてしまったか、俺の顔と自分の手を交互に見る魔王…俺は何にもしていません


勇者「お、俺は何もしてない…何もしてないぞ!?」

魔王「いや、わ、妾ここここそそそこ、こ、こ、これは…わ、妾は…あ、あぅ…///」


あ、真っ赤になってる可愛い♪
しかし次に飛び込んできたのは拳である


魔王「もう一度眠れなのじゃ!!///」バキ

勇者「理不尽だ!!」


もう一度眠る羽目になってしまった。

夢の中にて

ここは多分俺の夢の中
最近本当に変な夢ばかりだ。
まず一つにここが夢だと理解できること、そしてもう一つ、こういう夢を見るときは大抵あの人が出てくる


「また会いましたね。勇者さん」


女神のように美しい幼女が俺に語りかける。
魔王や闇夜の魔女なんかと同じように見た目だけ幼女で雰囲気は大人びている優しい表情の美少女
夢に出てくると言うよりは夢を通じて話しかけているそうで
ってか結局答えるのは最初の質問だけかよ


謎の魔女(仮)「まぁ、でも今日は雑談しに来たんじゃないわ。」

謎の魔女「警告しに来たのよ」

勇者「警告?」

謎の魔女「気をつけなさい、ニャルラトホテプが動き出したわ。」

勇者「誰?新魔王?」


気をつけなきゃならない相手ってのがまず思いつかない。
俺に敵意を持ちそうな奴は、そいつとあの狐面と…漆黒の厨二病ぐらいだもんなぁ、あの町に行ったときに会わなければいいけど


謎の魔女「そんな小物よりもよっぽど厄介な存在よ。」


マジか、魔王の後継者は小物だったのか…じゃあ小物に負けたあのキツネちゃんは…うん、これ以上考えたら殺されそうだからやめておこう


謎の魔女「あいつは本当に厄介よ。どう転んでも思い通りになるように練り上げた恐ろしく完璧な計画を幾重にも張り巡らすほどに狡猾で臆病」

勇者「臆病?じゃあ弱いのか?」


なるほど、弱いから自分から来ないでその完璧な計画とやらで俺を倒そうとしているわけか…しかし、どんな人間にも"完璧"はありえないんだ。
絶対、計画の綻びを突いてボロを出させてやるよ。そこから敵の所在を掴んで直接ぶちのめしに行けばいい。


謎の魔女「逆よ、とてつもなく強いわ。あなたじゃどう転んでも倒せない。」


勇者「マジ?…どうしようもないじゃん」


凄い計画を張り巡らしている上にそれをすり抜けても待っているのはとてつもなく強い敵だなんて


謎の魔女「そうでもないわ、やりようはいくらでもあるわ。」

勇者「どんなやりようがあるってんだよ」

謎の魔女「さて?それはあなたが探すことよ…時間ね、そろそろ目覚めなさい」

勇者「待てよ、色々聞きたいことが」

謎の魔女「じゃあ先ほどの質問をもう一つだけ答えてあげるわ」

謎の魔女「この夢に私が現れるのは私の魔女としての力、あなたが現実でこの夢の中で得た知識を忘れるのも同じ魔術、でも今日は一つだけ記憶を持って出てほしいわ」

勇者「さっきの警告か?」

謎の魔女「えぇもちろん、さっきも言ったけど今日はそのためだけに来たのよ。」

勇者「…分かった。何者か知らないけどその名に肝を命じておく」

謎の魔女「えぇ、精々気をつけなさい。相手は百年先を見据えた罠を張るような奴よ…あなたはすでに脅威の中にいるわ」


女神のような魔女は意味深な言葉を残して消え去った。
こうなったら夢が覚めるのもすぐだな
視界が白いもやに包まれて薄れてゆく、あぁ目が覚める。
…現実はどういう状況だったっけ?

現実


勇者「ん・・・」


床、妖しい部屋の真ん中で寝袋で寝ている。そうだ、ここで殴られて二度寝(強制&自動的に)したんだった。

ん?床?寝袋にしちゃ柔らかすぎるような…いや、モフモフでワサワサで…ってかこれは


勇者「魔王の尻尾!?」


しかも九本!?


勇者「マジで!?何で!?何がどうなってるの!?」


何故か俺は魔王の九尾に抱かれて寝ていた


魔王「くふ、いいお目覚めだったかや?」


天使がいました。俺の頭を撫でながら座っている柔らかい表情の幼女の天使です

嬉しそうに動く耳が見える。ちなみに俺も凄く嬉しいよ!


魔王「ちなみに妾のスカートに触ったり中を覗こうとしたりしたら二度と触らせてやらぬのじゃ」

勇者「…すいません」


手を引っ込める。くそ、バレたか…

でもこの尻尾のモフモフに触っているだけでも幸せだわぁー

モフモフモフモフ…


魔王「主よ、そんなに嬉しいかや?」

勇者「そりゃもちろん。魔王にこんなに引っ付いていられるのも九尾にモフモフと出来るのも幸せだ」

魔王「そ、そうかや…///」


耳がさっきより嬉しそうに動き、俺がモフモフといじっている尻尾も動く


勇者「ってか九尾を出して大丈夫なのか?確か妖力が漏れて敵に感知されるんじゃ…」

魔王「ふふ、それは大丈夫なのじゃ。この宿屋の主人が魔力感知されないようにバリアのような物を張っているようでの」

勇者「何者だよあいつ…」


後でぶっ飛ばそうと思っていたがやめておこう。この状況も奴のおかげと言えなくも無いし


魔王「ま、先ほど殴ってしまったお詫びじゃ…まぁ、その…妾も悪かったのじゃ。」


モジモジとしながら消え入りそうな声で謝る魔王


勇者「可愛すぎる!」ギュー

魔王「ひゃあ!?こ、こら主よ…またかや!またなのかや!!」ワサワサ


いつも通り抱きしめる。可愛いは正義だからね、ここまで可愛かったら殴られたって許せちゃうよ


魔王「まったく主は…」ワッサワッサ

まったくと言いながら嬉しそうに尻尾を揺らす魔王である。


勇者「そう言えばお前は何故俺の寝袋に潜り込んでいたんだ?」

魔王「」ピク


魔王の尻尾の動きが止まる。


勇者「昨日は何も無かったはずだよな?」

魔王「あ、いや…妾は…」ワサワサ


そして焦ったようにまた激しく揺れだす。


勇者「?」

魔王「…主は、何も覚えていないのかや?」

勇者「え?えぇ?」


何!?俺やっぱり何かしたの!??


魔王「やはり…あれは主の意思ではなく酒の勢いだったのじゃな」グスン


魔王(口から出任せ&嘘泣きじゃ、本当は夜中に目が覚めて寂しくなっただけじゃが………そんな事恥ずくて言えるはずもないじゃろうが!!///)


何!?何でそんな泣きながら顔赤くしてるの!?


勇者「な、なぁ…俺、やっぱり何か………した、のか?」


恐る恐る聞いてみる


魔王「…///」

勇者「…ええぇぇえぇえええ!!」


顔を赤くして無言で俯く魔王、それを見て俺の中に溢れるは罪悪感である。

やばいよ、色々ヤバいよ!俺はイチャラブしてればそれでよかったのに!もっとKEN☆ZENな関係でいたかったのに

やっちまったのか!?女の子の口からはとても言えないような、恥ずかしいことをしてしまったのか!?この魔王が無言で真っ赤になって俯くような事を


勇者「…責任はちゃんと取ります」


頼む、俺の勘違いであってくれ!!「責任?何のことじゃ?」とか言ってくれええ


魔王「ぷ、ぷくくくく」

勇者「へ?」


魔王が肩を震わして笑っている。尻尾も小刻みに揺れている。


魔王「たわけが。見事に引っかかったのじゃ」


m9的な感じで思いっきり笑われた。え?ドユコト?

えっと、つまり…


勇者「だーまーしーたーなー!!」

やられた!おもいっきりやられた!


魔王「そんなことあるわけないじゃろうが、全部嘘なのじゃ♪」


太陽のように明るい笑顔で言われる、


勇者「うがあああああああああ、よくも男の純情を踏みにじったなこんちきしょー」ドカドカ


捕まえてお仕置きだ。と捕まえようと部屋の中を踊るように走る魔王を追いかける

広いなこの部屋


魔王「ふふ、主の日ごろに行いが悪いんじゃ。」ヒラリ


一瞬の動作で避けられる


勇者「ぐ」


あぁ、確かに思いましたよ。俺なら酒の勢いでやるかもしれないって!酒なら記憶無くしているかもしれないって…でも、だからといって


勇者「だが、ゆるさーん!!」ダッ

魔王「くくく、主に捕まる妾ではないのじゃ」ヒラリ


また避けられる。なんて回避力だ


魔王「ところで主よ、町長のところに行かなくてよいのかや?」

勇者「あ…忘れていた。魔王、チェックアウトするぞ」

魔王「了解なのじゃ♪」


魔王(ふぅ、なんとか布団に潜り込んでいた件からは話をそらせたのじゃ)


宿屋、カウンター


ご主人「ゆうべはおたのしみでしたね」

勇者「え?」

ご主人「ゆうべはおたのしみでしたね」ニヤリ

勇者「なにそれこわい」

町長の家


町長「どうも、私が町長です。」


町長は立派な髭を生やした厳格そうな人物だった。

少なくともあんな立て札は立てそうにない。


町長「おぉ、あなたがかの有名な光の勇者様ですか」



-お前が光?笑わせるな-



勇者「…光だとかはやめてくれ。俺はそんな大層な人間じゃない」



-そうだ、お前は光なんかじゃない。記憶の蓋を開け。俺を思い出せ-



町長「何故ですか?あなたは世界を平和に導いた光ではありませんか」



-お前の中にあるのは大きく深く、濃い闇だよ-



勇者「やめてくれ!」


俺の心の奥底から響く嫌な声を振り払う
俺は記憶が無い。仲間と出会い、世界平和の旅を始める前の記憶は…

しかし、よくある話とは違い、俺は記憶を取り戻したいとは思わない。

何故なら過去を思い出そうとすると必ず"奴"が表れるからだ。

自分自身には違いないが自分であるはずかない。俺はあそこまで恐ろしい気配をまとってない

声も顔も変わらない。しかし酷いボロをまとい、痩せ細った姿の実に貧しい自分だ。そいつが囁くのだ。俺の本質は"闇"であると

だから俺は過去を取り戻したくなんかない。闇に戻るくらいなら今の変態のまm…じゃなくて変態勇者のままでいい。

しかも、最近あいつは日常にも出てくるようになった。そして「記憶を取り戻せ」と囁く

初めて奴が出てきたのは海底遺跡ルルイエに行った時だったな


「…よ」

魔王「主よ!」

勇者「わっ!?」


魔王の声で現実に引き戻される。


魔王「主よ、どうしたのじゃ?いきなり怒鳴ったり黙りこくったりしおって」

勇者「え、あ、…すまん。いや、すいませんでした。」


深々と腰を折り、町長に謝る。


町長「いえ、私も調子に乗り過ぎましたね。すいません」

勇者「はい、ところで俺達がここに寄った理由だけど、国王の命令で困りごとがあれば、解決するように言われている。何かないかな?」


無ければいいんだけどな

町長「それが、情けないことにあるのです。」


あぁ、めんどくさい…せめて、内容はそんなにめんどくさいことがありませんように


町長「実は数年前から町外れの森に見たことの無い魔物が住み着いていたようでして、よく人が襲われているのです。」

勇者「見たことの無い?」

町長「はい、他の町にも確認を取りましたがどこでも発見例の無い魔物でした。」


新種か?魔王の方を見る


魔王「ふむ…妾は知らぬのじゃ。ここ十年数間は新種の報告は無いはずじゃ」


勇者「新種が生まれたけど報告されてないって可能性は?」

魔王「絶対とは言えぬが、ほぼ無いと思って良いのじゃ」

勇者「そうか…」


内容も中々にめんどくさいものだな


魔王「しかし…」

勇者「しかし?」

魔王「少し気になるのじゃ…」

勇者「何がだ?」

魔王「いや…」


魔王は顔を上げ、町長の顔を見る


魔王「それは本当に魔物だったのかや?」

町長「…分かりません。魔物だと言う確証はありません。いえ、それどころか生きて帰った者達は『魔物とは違う』と言っておりました」

魔王「やはりの…」

勇者「おい、どういうことだかさっぱりだぞ?」

魔王「つまり、魔物ではない"何か"が人間を襲っているということなのじゃ。」

町長「あの、すいませんが新種の魔物と言う可能性も捨て切れませんよ?だって他に食う目的以外で人間を襲う生き物などいないではありませんか」

魔王「可能性じゃ、どちらもあくまで可能性にすぎぬのじゃ」


魔王が難しい顔して考え込む


勇者「何二人して難しく考えてんだよ。」

魔王「む?」

勇者「どっちにしろ倒しちまえば問題ないだろ?ま、俺に任せておけ」

魔王「…単細胞なのじゃ」

勇者「えぇ!?」ガーン


ドヤ顔でよくある主人公のセリフを言ったら罵倒された。やはり二番煎じのパクリはダメなんでしょうか?


町長「で、あのー、やってくれるのですか?」

勇者「もちろん。この俺がぱぱっと解決してやりますよ。」

町長「頼もしい!あんと頼もしくお優しい勇者様だ。」

勇者「はっはっは、そうだろそうだろもっと褒めろ!」

魔王「やっぱり単細胞じゃな」


聞こえない聞こえない、都合のいいこと意外は聞く気無し


町長「これは王様にも感謝しなくてはですね。」

勇者「そんなのは適当でいいよ。感謝の言葉を手紙で送っとく程度でおk」

町長「そういうわけには行きませんよ。あ、勇者様にも何かお礼をしなくてはですね。」

勇者「いえいえ、正義の手前そんなの貰えませんよ」


魔王(よくもここまで心にも無い事が言えるのじゃ)


町長「いえ、何でも言ってください。金でも何でも差し上げますよ」

勇者「娘さんはいますか?」

町長「…いることにはいますが」


俺は「それでは」と一息おいてから叫ぶように言った


勇者「娘さんをくださ…」

魔王「いきなり何を言っておるんじゃお主は!!」ドガッ

勇者「ぐがっ」


相変わらず鋭い後ろ回し蹴りが延髄に向かって飛んできた。


勇者「あいたたたた」


すかさず腕ひしぎ!?何それご褒美…ってあいたたたたた


魔王「主はまだその病気治ってないのかや?さっきの『責任取ります』はどこに言ったのじゃ?」ギリギリ

勇者「痛い痛い痛い」


だってさっきちらっと奥さんが見えたけどかなりの美人だったよ?これは娘さんも美人に違いないじゃないか


町長「おぉ、もらってくれますかありがたい。娘は38歳のニートなのですが貰い手が無くて困っていたのですよ。」


美人来い!


魔王「何期待に胸を膨らましているのじゃ!」

勇者「期待するなってほうが無理ってもんですよ!」ワクワク

町長「娘よ、来なさい。」

勇者「ワクワク」


ガチャ


音がした。ドアの開く音が


「あの、呼びましたか?お父様」


清楚な女の子を連想させる透き通った声がした

勇者「…」

町長「お前の結婚候補が来てくれたよ」

勇者「チェンジで」

魔王「奇跡は起きなかったようじゃな…」


残念、けっこうなブスでした。


町長「では、娘をよろしくお願いします」


魔王(ほれほれ、観念して夫婦になると言ったらどうなのじゃ?)ヒソヒソ

勇者(ふざけんな、俺はあんな不細工好みじゃねえよ)ヒソヒソ


顔で人を判断するのは好みじゃないけど、さすがにこれと結婚する気にはなれんよ。

魔王(では今更何と言って断る気じゃ?)

勇者(すいません、かえってください。)

勇者(で)

魔王(主には失礼という概念は無いのかや?)

勇者(俺だからな)

魔王(妾は知らぬからな、なのじゃ)


娘「あ、あの」

勇者「すいま…」

娘「こんなブサイクな人は嫌だわ。お父様、もっとかっこいい男はいなかったの!?」


ブチッ


勇者「んだぁ!?てめえみたいなありえないほどのブスにブサイク呼ばわりされるほど俺は落ちぶれちゃいねーぞ!!」

魔王「おぉ、主が女相手にキレるとは…」


そりゃ俺だってキレるさ、少なくとも俺はこいつ程酷い顔はしてないはず。


魔王「それは幻想じゃな」

勇者「!!?」

娘「まぁ、酷いこと言うのね!ブサイクのクセに」

勇者「うるせえ、お前のほうがブサイクだろ土に還れ!」

魔王「ストレートに言ったの」

娘「お父様、お父様も何か言ってよ!!」

町長「娘や、今のはお前が悪いよ。そんなんだからいつまで経っても結婚できないんだ。」


そうだそうだー、ってかお前じゃ一生無理だー


勇者「魔王、魔物のいる森に行くぞ。」


めんどくさいことになる前にここを出よう。


魔王「めんどくさくなる原因はいつでも主じゃろうが」

勇者「お前も大概だよ。町長、魔物退治したら報告に来るよ。」

町長「ちょっと待て、せっかくの旦那候補!!」


何か聞こえたような気がしたが無視して町長宅を出る。


魔王「主よ…」チョイ、チョイ

勇者「何だ?」

魔王「腹が減っては戦が出来ぬ、じゃ」

勇者「…つまり飯が食いたいと?」

魔王「」コクコク


頷く度にしっぽが揺れる。もちろん顔には肉希望と書いてある。


勇者「はぁ、まぁいいか。でも俺は腹を満たす物より心を癒す何かがほしいよ」


まさかあんなブスにブス呼ばわりされるとは…

うん、いい加減忘れよう。心を強く持とう、俺はブサイクじゃない


魔王「心を癒したいのなら妾の笑顔でも見ておれば良いではないかや?」ワサワサ

勇者「素晴らしい笑顔だが自分で言うか?それ」


まぁ可愛いからいいか

勇者「あれ、あの後姿は…」


その後、色々とうだうだやっていたら夜になってしまった。

森に行くのは明日にして宿屋を探そうとした時、月の光りを浴びて空を仰ぎ見ている人物を見かけた。その後姿には見間違えようの無い程見覚えがあった


勇者「もしかして…………銀狼?」

銀狼「ん?あぁ、懐かしい声…それに臭いだ。」


そいつは俺の声を聞いてゆっくり振り返る。

普通の少女より少し高い背、外側に少し跳ねた肩まで伸びている白銀の髪、そして髪と同じ白銀のモフモフな狼の尻尾と耳

振り向いた顔は懐かしい優しげな表情、妖しい赤を湛えている瞳


銀狼「久しぶりだね。また会えると信じていたよ、少年」ファサ


その娘、白銀の狼の化身は月光を浴びて淡く光る尻尾を揺らし、八重歯を見せてニヤリと笑いかけた


銀狼「白銀の狼は神の使いと言われているね。でも私だったら、むしろその神を噛み殺して主従を逆転してみせるよ」

銀狼「それぐらい私は神様とやらが嫌いで嫌いで、信じてはいないんだ。でも運命だけは信じているよ。」

銀狼「フフッ、そう心配などするな、私と君とは必ず再び出会う運命だよ。だから運命を信じて、それまで一時お別れだ。さよなら、少年」


そう言って彼女は俺の下を去った。印象的だったのは寂しげに揺らめく瞳のなかの赤、それに月光を浴びて淡い青に光った白銀の髪と尻尾

俺が旅立って一番最初に出会った仲間であり、一番信頼していた姉のような存在である


勇者「…久しぶり、俺は、俺はもう会えないかと思っていたよ。まさかこんなところで会えるなんて」

銀狼「酷いな、言ったじゃないか『絶対に会えるから心配するな』と。少年は私の言うことを信じてはいなかったのかな?」


しっぽをぐるりと回し、いたずらを楽しむように笑う。


勇者「…ぐ、悪かったよ。」


ぐうの音も出ない。…声には出たけど


銀狼「ところでその娘は誰かな?出来れば少年から紹介してほしいな。」


俺の後ろで控えめに、いや空気を呼んで黙っているように見せかけて実は残っていた食料をあさっていた魔王を指差して銀狼は言う。


魔王「む?だそうじゃぞ、主よ。妾の活躍を漏らさず伝えるが良いのじゃ」


当の魔王はさして興味も無さそうに言う。

紹介してほしいのならせめて肉をかっ喰らうのをやめろ。こんな肉欲娘(肉を強く欲する食欲的な意味で)を魔王と紹介するのは気が引ける。

ついでに言うとお前の活躍とかほとんど見ないぞ。いつも俺に戦い任してるくせして


勇者「あー、うん、こいつは…こう見えて一言で言うなら魔王だ。」

魔王「よろしくなのじゃ」フリフリ


尻尾を振りながら肉にかぶりついている魔王はもう子犬にしか見えない。


勇者「もう一つ言うなら…」

銀狼「『もう一つ言うなら魔物と妖怪のハーフ』かな?」

魔王「うむ、ついでに言えば妾はキングオブ妖獣、九尾の化狐なのじゃ」


だから子犬にしか見えないって


銀狼「そうか、私は神に近し妖獣、白銀の賢狼だ」


お前も張り合うなよ。ってかお前は神が嫌いじゃなかったのか?


魔王「ならば妾は神なる妖獣、神狐なのじゃ」


銀狼を睨んで言う魔王、ってかお前も張り合うんかい。


銀狼「なら私は神を超えし妖獣、白銀の神狼だ」


反面、涼しげな顔で張り合う銀狼だった。楽しそうだな、おい


魔王「なら妾は全世界を…」

勇者「ストップ、ストップ。終わらないから!」


とりあえず止める。多分この魔王が銀狼に負けてすぐに終わるんだろうけど、そうしたら不機嫌になった魔王をあやす羽目になる。

めんどくさいのはごめんだからな


魔王「何じゃ主よ、妾の言葉を遮るとはいい度胸ではないかや?」


しっぽが不機嫌に揺れる。どのみち不機嫌にはなるんだな

銀狼はと言えば不機嫌どころかやっぱり楽しそうだ。


勇者「お前が意地の張り合いしたら終わらねーだろ」

銀狼「まったくもって残念だな、少年が遮らなければ私ももっと続けたかったのだけどな」


魔王とは違い、しっぽは縦に振って喜びを表現する


勇者「お前はお前で…まぁいいや、こんなところで何やってたんだ?」


とりあえず聞きたかったことを聞く、本当にまさかここで会えるとは思ってなかったしな


銀狼「こんなところとは酷いな、これでも私の住んでいる愛しき都だよ」

勇者「でもこの時間に何してたんだ?」

銀狼「ふふっ、上を見てみなよ、少年。」

勇者「え?」


上を向く、そこには淡く光っている満月しかなかった。

が、その青白い光は目を奪うには申し分ないぐらいきれいだった。


魔王「ふむ、たしかに綺麗な満月じゃな。主よ、月見団子、もしくはたまには狐らしく油揚げが食べたいのじゃ。お供えしてくりゃれ?」

勇者「食べ物ばっかりだな、お前魔王の威厳って知ってるか?」

魔王「知らぬ、妾は妾のやりたいようにやるのじゃ」

銀狼「違うよ化け狐、私の言いたいことはこうだ。こんな美しくも妖しい月が出ている夜は何かが起こるね、例えば」


銀狼「謎の化け物の出現、とかだ。ほら少年、来たぞ」

勇者「?」


どこか近くで魔物のような声が聞こえた


勇者「魔物か!?」

魔王「ふむ、妾たち狙いかや?格の違いとやらを見せてやろうじゃないかや。主よ、やっちまえ!なのじゃ。」

勇者「お前もたまには戦えよ…」

魔王「無論、嫌じゃ」

勇者「はぁ…」


これだよ…俺も肩を並べて戦ってくれる仲間がほしいや


銀狼「ふふっ、少年、ならば私が一緒に戦ってあげるよ。昔のようにね」

勇者「マジか、そりゃありがたいよ。魔王が全然戦ってくれないから一人じゃ辛くてよ」

魔王「何じゃ主よ!それは妾への当てつけかや?」

勇者「銀狼、頼むぞ。俺はお前なら安心して背中を任せられる。」

銀狼「ああ少年、私に任せればいい。君のパートナーとして最高の活躍を期待していいよ」

魔王「く、無視するななのじゃ主よ!主のパートナーならば妾がいるではないかや!」

勇者「一緒に戦ってくれる奴が最高のパートナーだなー」

魔王「く~」


魔王のしっぽが悔しそうに小刻みに揺れる。

そうだ、そのまま挑発に乗れ、たまにはお前も戦ってくれ


魔王「…というか主よ、もしかして妾を挑発しているのかや?」


ギクッ


魔王「やはりの」

勇者「何故分かったし…」

魔王「妾を誰じゃと思っておる。主の心など簡単に読めるのじゃ」

勇者「見た目のせいで子供にしか見えないからな…正直侮っていた。」

魔王「あー、また子ども扱いしおったのじゃ!!」


しまった、地雷踏んだ。


銀狼「少年、少年。そろそろ戦いに行かなければいけないと私は思うよ」

魔王「だそうじゃ、主よ。ご冥福を祈るのじゃ」

勇者「あっさり死んだことにしないでくれる!?」


魔物の声がしたところへ向かう。

しかし、そこにいたのは魔物には見えない"化け物"だった


勇者「こいつらは、魔物…なのか?」

銀狼「違うよ。こいつらが最近森から現れた化け物だ。ただ、魔物の匂いはしない。」


そりゃそうだ。魔物はもうちょっとフォルムがしっかりしている。

でもこいつらは、なんというかあるべき形をした生き物じゃない。

もとの形をごちゃごちゃにこねくり回して作り変えた子供の粘土細工のような名状しがたい形をしている。

ひねり、まげて、つぶして、のばして、そんな無邪気で悪質な過程を得て変化したようなものが歩き回ってこっちに近づいてくる。


魔王「異形じゃな、こんなイキモノ、魔物どころか妾の知識には無いのじゃ」

勇者「俺も聞いたことがねえよ。なんだこいつら」

銀狼「そうか、やはり他のところでは出ていないのか。少年ならば何か知っていると期待したんだけどな」

勇者「残念ながらな。さて、腕は鈍っちゃいねえよな銀狼」チャキ


覇王の剣を構える。


銀狼「むしろ絶好調だよ少年、爪も牙もね」ザワザワ


尻尾の毛が逆立ち、手が白銀の毛に覆われ、爪が鋭い鉤爪に変化する。

赤い目が鋭い紅へと変わり、八重歯も立派な牙になる


勇者「行くぜ、銀狼」

銀狼「行くよ、少年」


互いに小さく含み笑いをする。いつぶりだろうか、こんなに戦いにワクワクするのは


しかし


勇者「おりゃあああああ」


化け物「」ギョロリ


斬りかかろうとしたその時

化け物の体に、見てしまった。顔を

潰れ、曲げられ、表面から変に曲がった指のようなものが大量に生えている顔を


変わり果ててはいるが、確かに人間の顔が化け物の体の真ん中に埋め込まれている。


その目は勇者を凝視していた。



-懐かしい顔だな、よく知っている顔だ-



また、あの声が…


-なぁおい、思い出せよ。お前は記憶を取り戻したいとは思わねえのか?-


勇者「…」


内側から響く声が聞こえないように目の前の化け物に意識を集中する


-そいつ殺すのか?記憶を取り戻してから後悔しても知らねえぜ?-


勇者「…るせぇよ」

銀狼「ん?何か言ったかい、少年」

勇者「いや、気にしなくていい」


どの道取り戻す気もない。こいつも今敵として俺の前に立つから殺すだけだ


勇者「覚悟しやがれ、化け物」

化け物「・・・」


化け物が俺を凝視しながら口を動かす。歪、見ているだけで胸糞悪くなるような歪な形に歪んでいる口を

その口の動きは「ユ ル サ ナ イ」と言っているように見えた。


それを見たとき、俺の中に何かの記憶が流れ込んできた


「許さない」                       「お前のせいだ」             「まだ足りねえよ」


                    「…えさえ生まれてこなければ」                       「・・・みごが」

                                               「悪魔め…」             
 




                    「死ね!死ね!何度でも、何度でも!!!」



勇者「うああああああああ」


覇王の剣を振るう、顔を滅多切りにしてやる。手も、体も、何もかも、切り裂いて、引きちぎって、引き裂いて、ゴミに、塵芥に


勇者「死ね、死ね、死ね、死ねえええええええ!!」


俺の中を色々な感情が巡る。それをこいつに叩きつける

恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを恨みを
                  恨みを
       恨みを                     殺意を                       憎しみを


            破壊衝動を                           怒りを


                                                      制裁を      
                           復讐を              
              


                狂気を                       


………

気がついたら俺の前には化け物の死骸が転がっていた。


勇者「…何が起きたんだ?」

銀狼「それはこっちのセリフだよ少年、一体どうしたんだい?」

勇者「こいつは銀狼が倒したのか?」

銀狼「違うよ、少年だ。君は錯乱したように叫びながら少しの間こいつを切りまくっていたよ。死んでもなお、ね。」

勇者「…」

銀狼「もしかして覚えてないのかい?」

勇者「…覚えてない」


本当だ。何も覚えてないし思い出せない。一体俺は…


魔王「主よ、そんな答えの出なさそうな疑問を解こうとしている場合じゃ無さそうじゃ」

勇者「どうした?」

魔王「あれじゃ」


それは森からやってくる。化け物の大群だった。


勇者「…覇王の剣、俺の魔力を」

魔王「その必要は無いのじゃ、あの数なら妾の本領発揮のときなのじゃ」

銀狼「ほう、では君に任していいということなのかな?化け狐の娘」

魔王「その通りじゃ、挑発されて黙っておるなどやはり妾の性ではありえないのじゃ」


マジか、ここに来てさっきのあれが効果発揮しやがった。


魔王「その代わり主よ、後で超高級肉を用意するのじゃ」

勇者「やっぱそう来るか、いやd」

魔王「くふっ、ついでに主が妾にあーん、で食べさせてくりゃれ?」フリフリ

勇者「是非約束させていただきます。」

魔王「それでこそ主じゃ」

銀狼「あ、ついでに私ももらおうかな、少年」フリフリ


ケモノッ娘二人に尻尾振られて俺幸せすぎるんだけど

そんなもはや絶頂迎えそうなほど幸せな俺の前で魔王が真剣そのものの顔をしていた。


魔王「同じ魔物でなければやりやすいのじゃ。最上級爆発呪文を喰らえなのじゃ!」キュイイイイン


魔王の鋭い目線の先に光が収束し、化け物の群れの中心にて一気に爆発を起こす

勇者「一瞬じゃねえか、お前が戦ってくれれば冒険も楽だな」


そう、一瞬というか一撃であの化け物たちは沈んだ。なんて威力だよ


魔王「今回だけじゃ、それに超高級肉のためでもあるのじゃ。」ワサワサ

勇者「超高級肉ね、この案件片付けたらな」

銀狼「少年、この案件とは何のことだ?」

勇者「町長から頼まれているんだよ。この化け物の元を断ってくれって」

銀狼「なるほどな、確かにこいつらには私も少々参っているんだよ。少年、私も同行していいかな?」

魔王「な、ダメに決まっておるのじゃ。」

銀狼「何故だ?いいじゃないか私がついていっても。それに君が決めることじゃないだろ?」

魔王「ダメなものはダメじゃ、勇者は妾だけの物じゃ。二人旅の邪魔などさせn…」

勇者「いいぞ銀狼、俺もまたお前と一緒に旅がしたk」

魔王「主のアホー!!」

勇者「うわぁっ、掴みかかってくるな!」

魔王「何じゃ主は、妾が二人旅が良いと言っておるのに…」

勇者「だって、ヒロインは多いほうがいいし。ケモ耳ハーレム作りたいし」

魔王「では一つ聞くのじゃ。妾とこの狼、どっちのほうが可愛いのじゃ?」

勇者「可愛いで言うなら断然お前だよ。魔王」(即答)

魔王「…主///」

勇者「そして美しいで言うなら断然銀狼だな」

銀狼「当たり前だな。さすが少年、分かっているね」

魔王「…主よ。主にはほとほと呆れたのじゃ」

勇者「えぇっ!?」


なんだ?俺何か悪いことしたか!?


勇者「待って魔王、弁解の余地を」

魔王「そんなもの無いのじゃ。妾は一足先に宿に行くぞ主などもう知らぬのじゃ」

勇者「あぅ…」


ラブコメなんかでよくある無理矢理キスをして勢いで全てを押し流す、みたいなごり押し高等テクニックはへたれな俺には出来ないわけで

結局怒り心頭尻尾の先まで何故か起こっている魔王を止める術は思いつかなかった。


「キャー」


と思いきや何?別のイベント発生!?これを使って魔王を止めよう


勇者「!?魔王ストップ、今誰かの悲鳴が…」

魔王「聞こえてのじゃ。確かに人間の悲鳴じゃ」

銀狼「ちっ、まだ化け物がいたみたいだよ少年」

勇者「クソッ、声は東のほうからか」


その後、結局間に合うことは出来なかった。


モブ子「ば、化け物がモブ江をさらっていたのよ。お願い、助けて」

勇者「…任せろ。」

銀狼「少年、殺さず連れて行ったのなら多分あの森だと思うよ。」

魔王「ふむ、ところで何故殺さなかったのじゃろうか。食料として保存するためかや?」

銀狼「さあね、どちらにしろ明日まで待って明るいうちに行くことは出来なさそうだよ。今すぐ行くべきだ」

勇者「また暗い森に行くのか…ハァ」

魔王「何じゃ主よ、まさか怖いのかや?」

勇者「…怖い。」

銀狼「大丈夫だよ少年、私がいるさ。」

魔王「そ、そうじゃ"妾が"いるのじゃ。主が怖がる必要などないのじゃ」


何故か魔王は銀狼が言ったのを見てから、「妾が」を強調するように強く言った。

でもどの道怖いものは怖いよ。

こうして不気味な月夜の晩にはたまた不気味な森に行く羽目になってしまったのである。…はぁ

どうしてこうなった。イベントを利用して魔王を引き止める作戦のはずが、恐怖ゾーンに俺が引きずり込まれることに





勇者「怖い怖い怖い怖い怖い」ガクガクブルブル

魔王「うるさいのじゃ。主は男じゃろ」

勇者「怖いものは怖いっての!」ガクブル

魔王「それでも勇者かや、情けないのじゃ」

銀狼「まぁまぁ、魔物には恐怖って感情が少ないんだ、理解出来ないのも仕方ないよ。ほら少年、怖かったら私の手を握ってもいいよ」

勇者「うん、助かる。…暖かい」ギュ


魔王(な、この狼…勇者が怖がっていることを良いことに自然に手を繋ぐ流れにもって行きおった!?)


銀狼「少年、大丈夫かい?」

勇者「…怖いのだけはほんとダメ、こういうところ何か出そうだもん」

銀狼「ふふっ、少年は怖がりだな。私はここにいるから安心していいよ」

勇者「うん…ありがと」


魔王(ぐぬぬ、妾より後に登場しておきながら…)※魔王より後どころか一番最初の仲間です。

魔王(なんとかあ奴から主導権を奪取せねばなのじゃ)


俺の手を繋いでくれている銀狼はかなり嬉しそうだ。

見ているだけでほんわかした気持ちになれるニコニコな優しい笑顔はそのままに、月の光を浴びて青白く光っている白銀のしっぽが上下に揺れている。まるで散歩を楽しむ犬のように

それらを見ているだけで恐怖が少しづつ和らいでゆく、銀狼は俺にとって天使のような存在だよ。正体は狼だけど

そんなことを考えながら銀狼に見とれていると空いているほうの手に違和感が


勇者「魔王?」


見ると魔王が空いていた手を小さい手でギュッと握っているのだ。

魔王「妾も手を繋ぐのじゃ……怖いから」


可愛い!なにこれ可愛すぎるぞ

恥ずかしがっているのか頬を赤く染めながら下を向いて、消え入りそうな声で今まで隠していた本音をぽつりと呟く魔王

しっぽは地面を掃くように下を向きながら左右に揺れている。


魔王(どうじゃ、妾の演技は。勇者は可愛いキャラのほうがすきなのじゃ)


銀狼「少年少年、こうしていると旅の最初の頃を思い出さないか?」

勇者「あぁ、あったな。あれだろ?森の中に何故かあった無人の屋敷で一晩を過ごしたとき」

銀狼「そうそう、君はあの時もこうして怖いからと私の手を握っていたね」


魔王(な、妾をまったく意に介さないじゃと!?くそ、どこまでもコケにしおってなのじゃ)


数分後

なんだろう…俺が銀狼と昔の話をした後で気づいたが、さっきから魔王が銀狼を睨んでいる気がする。自分より背が高いのを恨んでいるか何かだろうか?

良し、ここはフォローを入れねばだな


勇者「魔王、」

魔王「なんじゃ?」フリフリ


やはり不機嫌だな、声はぶっきらぼうだししっぽは拗ねているように地面スレスレで揺れている


勇者「背は小さいほうが可愛いと思うよ」


満面の笑みで言ってやる。


魔王「いきなり何の話じゃ!」ギュウウゥゥゥ

勇者「いだだだだだだだ。潰れる、粉砕するぅ」


握る手に強く力を込められた。骨が粉砕しそうだ。さすが怪力系幼女


勇者「そういえば銀狼って敵の臭いとか嗅ぎ分けられたよな」

銀狼「うむ、私の鼻はそこらの犬や狼の数千倍は良いぞ」

勇者「じゃああの化け物が何者かとかそれで少しぐらい分からないか?」


ふと思った思いつきだ。それで何かしら分かるかもしれない。進化元や魔物、妖怪などの分類とか


銀狼「そうだな、まずあれは自然発生した一個の生物じゃない。"作られた"生物だ」

勇者「作られた!?キメラか?」


色々な生物を魔法などで合成した混合獣、それがキメラと呼ばれる生き物だ。

今は道徳上の理由や宗教上の理由から禁止されている古の禁断の秘術の一つ

その歴史は古く古代ギリシアにはすでに存在しておりどの時代からあったかはまだ解明されていない


銀狼「いや、厳密には違うよ。でも似たようなものだ。」

勇者「じゃあ…」

銀狼「主にあれらからは人間の臭いがしたよ。」

魔王「人間じゃと?妾はそれほど感じなかったのじゃ」

銀狼「ふふっ、それは私のほうが鼻が利くからだよ。狐と狼じゃ歴然の差だよ?」

魔王「…あぁ、そうかや」ムスッ

勇者「人間か…まさか、人間があれの素材?」


それは恐ろしい、本当に恐ろしい考えだった。


銀狼「一部はそうだよ。でも人間が使われてないのもあった。他の動物や無生物すら単独で使われていた」

銀狼「そういうのからも人間の臭いが強くしていたよ」

勇者「どういうことだ?人間が素材に使われているんじゃないのか?」

銀狼「いや、この場合は逆に考えたほうが妥当だね。人間が作ったんだよ、何らかの技術を使って。」

魔王「人間があの化け物を…しかもその一部に同じ人間を使用とは、なんとも胸糞悪い話じゃな」

勇者「あぁ、それが本当だとしたら嫌な話だ。でも人間が黒幕だろうと無かろうと俺がぶっ潰すさ、化け物を作り出す技術ごとな」


あれをのさばらせてはおけない。本能がそう言っているように感じた。


勇者「ところで銀狼、俺たちどこに向かっているかちゃんとわかってるのか?」

銀狼「問題無いよ少年、私はあの化け物の臭いを追っているよ。もうすぐ着くだろう、あいつらの巣にね」

勇者「…銀狼、ここであっているのか?」

銀狼「う、うん。私の鼻はここだと告げているんだけど…」

魔王「甘い美味しい臭いに釣られただけじゃないかや?」

銀狼「そんなわけはない…と、思う。」

勇者「でもここはなぁ…確かに怪しいん・・だけ、ど」


俺たちが戸惑っているのも無理はない。なんたってここは


魔王「でもどう見ても、こんなお菓子の家にあの化け物がいるとは思えないのじゃが」

勇者「…だよな、無いよな」

銀狼「で、でも…」

勇者「お菓子の家だよなぁ…」


そう、何かの童話に出てきそうなお菓子の家が目の前にあった。

ビスケットの屋根、板チョコの扉、ポッキーの窓枠、飴とガムの装飾、ウエハースの壁、べっこう飴の窓、うーん、ファンシーだ

銀狼曰くあの化け物の臭いはこの大きな家の中に集中しているらしい。俺も魔王もお菓子の臭いしか嗅ぎ取れないのだが…


勇者「どうする?」

魔王「どうするもこうするも…入るかや?」

銀狼「どの道そうするしかないよ。他に手がかりは無いし」

勇者「でもこの甘ったるそうなお菓子の家に入るのか…抵抗があるなぁ」

魔王「そうじゃな、焼き肉の家じゃったら喜んで齧り付くのじゃがな」

勇者「そういう問題じゃねえよ。そしてそんな家嫌だよ。」

魔王「主よ主よ!妾今松阪牛が食べたいのじゃ!!」

勇者「知るか!予備の食料の中にはそんなの入ってねえよ」

銀狼「少年少年」
勇者「何だ?」

銀狼「私は黒毛和牛が良い。」

勇者「お前もかい!何で俺のヒロインたちはこうも高い肉ばっかり食らうんだ!!」

魔王「狐じゃから!」ワサワサ

銀狼「狼だから!」フリフリ

魔王&銀狼「肉食だから!!」

勇者「………あぁ、そうかい。」


諦めよう、ケモ耳ハーレムを考えた時点で分かっていたことだ。肉食ケモに食費を費やすだろうなと。


魔王「で、肉は後で奢ってもらうとして、どうするのじゃ主よ?」

銀狼「少年、普通に入るかい?」

勇者「裏口を探そう。」

銀狼「あるのかな?」

魔王「ま、探して見るのも一興じゃな」

勇者「見つからねぇ…」

銀狼「まぁ、そうそう見つからないだろうね。」


せいぜい見つかったのは「Η κατάρα  του  χάους」と壁に書かれていることぐらいだ


勇者「よし、アリを呼び寄せてこの家を食いつくさせてみよう」

銀狼「少年にそんな特殊能力があるのかい?」

勇者「よし、魔王やれ」

魔王「妾もそんな異常な能力持ってないのじゃ」

勇者「いや、アリを呼び寄せるなんて能力は異常というより過負荷だな」

魔王「何の話じゃ何の!というか自分で出来ないことを妾に強要するななのじゃ」

銀狼「ちなみに私も出来ないよ?」

勇者「じゃあアリを呼び寄せる踊りを踊ろうか。魔王、銀狼、この巫女服をk」

魔王「どこに隠し持っていたんじゃその服!!」ゲシッ

銀狼「驚いたな、この服サイズがぴったりだ」

勇者「ってかめんどくさい。もう普通に開けて入ろうぜ」

銀狼「いや、もう少しグダグd…様子を見よう」

魔王「そうじゃな、あの綺麗な月でも見ながらお菓子を肴に酒でも飲もうじゃないかや」

勇者「いや、ここのお菓子は酒の摘みにはどうかと…」


クッキーとかチョコとかそこらへんしかないけど…


銀狼「少年、大切なのはシュチュエーションであって摘みじゃないよ」

勇者「シュチュエーションって言ってもここお菓子の家の真横だけど、そんなところで酒飲んで月見ってどこがシュチュエーションいいんだよ。」

魔王「まぁ、いいじゃないかや」


そんなこと言いながらどこからか酒を取り出す魔王、って


勇者「それどう考えてもお神酒じゃねえか!なんでお前が持ってんだよ

魔王「正月に神社に行ったときにちと頂いてきたのじゃ。」

勇者「もしかして→窃盗」

魔王「細かいことは気にしたら負けなのじゃ。」


不自然に目を逸らす魔王


勇者「やっぱりかい!罰当たりとかそういうレベルじゃねえぞ!!」

銀狼「大丈夫だよ少年、ここにいる私とその娘は何者だい?」

勇者「何者って銀狼と魔王だろ?」

銀狼「違うよ少年、神狼と稲荷神の化身だよ。八百万の神々の眷属である私たちなら問題無いだろう?」

勇者「問題大有りだわ!大体お前らただの半妖だろ!!」


確かに妖怪は昔神と崇められていたこともあったことにはあったけど、何百年前の話だよ。

それに人間と妖怪の混血ならともかく魔王にいたっては妖怪と魔物の混血だからね?いいとこ邪神だよ、禍津神だよ


魔王「まぁまぁ、細かいことは気にせず。ほれググッと」ワサワサ


酒を注がれる。


勇者「ん、ありがと」


やっぱり飲んでもいいや。美味いものは美味い、そういうことだよね。やっぱり酒の魅力には勝てない俺です。

っていうかケモ耳少女に囲まれてケモ耳幼女に注いでもらってって、神をも羨む光景だね。 見てるか酒好き女好きの日本の神々よ。フハハハハハ

そんなことを思いながら空に浮かぶ青白い月を仰ぎ見て酒を飲み干す。さすがお神酒、美味さが違う。


銀狼「少年、私も注いでやる。飲め」フリフリ

勇者「おぉ、ありがとう」


そんなこんなですっかりお月見宴会気分になってゆく俺たちである。

そしてここに来た目的をすっかり忘れてしまっている俺たちでもあった

その後、結局三人の宴会でわいわいやっている。…お菓子の家の横で

俺たちは何をやっているんだろうか、シュールな光景だ。

そんなこんなで浮かれ騒いでいるとお菓子の家の扉が開いた。


灰色髪の少年「こんな時間にこんな場所で騒いでいるのは、だあれ?」

灰色髪の少女「あなたたちもしかして森で迷ったの?」


ファンシーなお菓子の家にお似合いの歳に見える男の子と女の子が出てくる。


ヘンゼル「ボクはヘンゼル」


灰色の髪の男の子が言う


グレーテル「私はグレーテル」


灰色の髪の女の子が言う


ヘンゼル&グレーテル「ここはボク(私)たち兄妹の家、迷ったなら止めてあげるよ」

勇者「それはありがたい。じゃあ一晩泊めてもらおうかな」

ヘンゼル「どうぞどうぞ、別に何も無い家だけど」

グレーテル「こんなに人が来るなんて久しぶりねお兄様」

ヘンゼル「そうだね、入りなよお客さん」

勇者「悪いね、お邪魔します。」


中に入れると目に入る部屋の内装はかなり質素だった。少なくともお菓子で出来てはいない


銀狼「気をつけてな少年、この家の中にあの化け物の臭いが充満している」ヒソヒソ


銀狼がこっそり耳打ちしてくる。


勇者「何言ってんだよ、こんな可愛い子たちがあんな悪いことするわけないじゃん」ヒソヒソ

魔王「主は『可愛い』が免罪符になるとでも思っているのかや?」

勇者「何言ってんだ、『可愛いは正義』に決まっているじゃないか!!」力説!

魔王「アホじゃな」

銀狼「ふふっ、相変わらずだな少年は」


呆れる魔王と柔らかに笑う銀狼だった


グレーテル「何もないけどゆっくりしていってくださいね」

ヘンゼル「くつろいでいってよ。グレーテル、お茶とお菓子持ってきて」

グレーテル「はい、お兄さま」テッテッテ


妹いいなぁ、俺のヒロインズにも一人ぐらい妹属性が欲しい。


魔王「ぬ、主よ、真剣に妾を見つめてどうかしたのかや?///」

勇者「いや、俺も妹が欲しいなと」

魔王「は?」

優者「お兄ちゃんと、お兄ちゃんと呼んでくれ」

魔王「…言っておくが妾はこう見えても主より数百歳は歳上なのじゃ」

勇者「つまりはロリバb」

魔王「死ね!なのじゃ」ドガッ

勇者「グハァ」バタッ


恒例の後ろ回し蹴りがかいしんの一撃!

何故だ、何故毎回後ろ回し蹴りなんだ…ガクッ


グレーテル「皆さま、お茶とお菓子持って来ましたわ。…あれ?その方はどうかいたしましたの?」

勇者だった肉塊「」


返事がない、ただの死体のようだ。


魔王「ハハハ、別に何でもないのじゃ…死者蘇生魔法」パアァァ

勇者「…って、死ぬまでやるな!」


説明しよう!死者蘇生魔法とは、魔法という名のただのギャグ補正である!

※ゲームじゃあるまいし、チート過ぎるのでシリアスなシーンでは使わないことにしよう


ヘンゼル「…お菓子、食べなよ。全部グレーテルの手作りだ。」

勇者「じゃあ、いっただっきまーす」ガブリ

銀狼「少年、もう少し警戒心を…聞いちゃいないね」

魔王「そりゃそうじゃな、こ奴が人の話を聞いた試しが無いのじゃ」

勇者「失敬な、俺だって他人の話ぐらい聞くぞ。ただしイケメン(美少女)に限る!ケモ耳なら尚良し!!」

魔王「なら妾の言うことを聞けなのじゃ!」

勇者「だが断る!」

銀狼「少年は相変わらずフリーダムだな」

勇者「それが俺だ・・から、な?あっ…」バタッ


その場でいきなり勇者がぶっ倒れた。そして魔王と銀狼も


グレーテル「勇者って聞いたけど簡単ね、お兄様」

ヘンゼル「そうだな…ひとまず地下に閉じ込めておけ」


その後、どこからかあの化け物たちが大量に出てきて勇者たちを地下に連れて行った。


魔王&銀狼「…」

地下牢


勇者「むにゃむにゃ、うへへへへ魔王こんなところでだめだよぉ。ヤるなら青空の下が一番だよぉ」


ただいま鼻の下伸ばして寝ているアホと共に牢屋という名の地下ホテルに滞在中


勇者「そうそう、こういう場所で二人淫らに身体重ねて。ウヘヘヘヘ」

魔王「こんな状況でどんな夢見ているんじゃ」ドガッ

勇者「ぶべらびっ」


ビクンッと大きく痙攣したかと思うと再び気絶したように倒れて


勇者「ZZzz…」

魔王「更に深い眠りにつきおった…」

銀狼「ふふっ、そういう時はこうするんだよ。」


勇者の耳元に口を近づける銀狼


銀狼「少年、君は私の王子だよ。さぁ、早く目を覚まして。私にキスをほしいな」


耳元でそんなことを色っぽく言うと


勇者「ただいま目を覚ましました!!」ガバッ

魔王「一瞬で起きおった…」

銀狼「ふふっ、人の性格は利用するものだよ。覚えておくといい」

勇者「で、キスは!?」

銀狼「ふむ、なんのことかな?」

勇者「え、キスしてくれるって言ったじゃないか」

銀狼「少年、それは多分夢だよ」

勇者「夢!?そうか夢かぁ」ショボーン

魔王(すぐに納得できるほどそんな夢ばっかり見ておるのかや)

勇者「う~ん、さっきは魔王と幸せな夢を見ていたような気が…」

魔王「とりあえず忘れろなのじゃ!!」ドガッ

勇者「うぎゃああああ」


ガスッ、ドガッ、バキッ

何故か夢の話をしたらフルボッコにされました。なんでやねん


勇者「いてて、どうしてこうなった。マジでどうしてこうなった。そしてここはどこ、私は誰?」

銀狼「おい狐、ボコりすぎて少年が記憶喪失にまで陥ってしまったぞ」

魔王「主よ、主の名は勇者。妾の命令を何でも聞く最高の奴隷じゃ」

銀狼「都合のいい嘘を教え込むな」

勇者「まぁ、冗談は置いといてそろそろシリアスパートに移ろうじゃないか」

魔王「なんじゃ、冗談だったのかや」

勇者「おい、あの洗脳教育は本気だったのかよ」

銀狼(…このままだと少年が危険かもしれない)

勇者「さて、状況を整理しようか。俺の食べたあの激ウマスイーツには眠り薬が仕込んであったに違いないな、多分普通の人間だったら三日は眠り続けるような強力な物だ」

魔王「さっきから数時間も経ってないのじゃ」

銀狼「それは私のおかげだよ。人間の欲望の力は凄まじいものなのさ」

勇者「?何を言っているんだ。俺は勇者だから眠り薬にも打ち勝つことが出来たんだ(キリッ」

魔王(どの口が言うのじゃ、思いっきり欲望のおかげじゃないかや)

勇者「というかお前らは何故起きているんだ。まさかあの薬妖怪には効かないのか?」

銀狼「いや、食べなかっただけだよ。私は少年ほど単純じゃない、あいつらは怪しすぎる」

魔王「疑わない主のほうがおかしいんじゃ」

銀狼「まあ少年のことだ。本当は何か考えでもあったんだろ?」

勇者「無いよ?あんなかわいい子たちが悪いことをすると思うわけないじゃん。」

魔王「どこまで主は可愛さ主義者なんじゃ!!」

銀狼「そういえば少年は何度も人間に化けた魔物に騙されたな。何故学習しないんだ?」

勇者「学習?何それ美味しいの?」

魔王「全然だめじゃな…」

勇者「ま、何とかなるさ。何とかするさ。俺だけならともかくお前らを巻き込んだことをあのガキどもに後悔させてやる。」


いくら可愛さ主義者でもこいつらを危険な目にあわせる以上、あいつらは許さんよ


銀狼「で、復讐にしろ何をするにしろどうやってここを出るつもりだい?少年」


銀狼が周りを見渡す。周りは岩、前には鉄格子、完璧に牢獄そのものだ


魔王「言っておくが妾の魔法は強すぎじゃ、この距離では妾たちも無事ではすまぬ」

勇者「ちっちっち、俺を誰だと思っているんだ?」

魔王「変態」

銀狼「変態の少年」

勇者「変態勇者だ!!間違えんな!」

魔王「変態は認めるんじゃな」

勇者「まぁ、俺は変態勇者だ。勇者に出来ないことがあるわけないじゃないか」

銀狼「しかし少年、この鉄格子ただの鉄格子じゃ無さそうだよ。これは地球上で一番硬い金属だな」

勇者「用意周到なこった。覇王の剣、俺の魔力を喰らいやがれ」

勇者「えるいげりな くるころろ ききるへんろい くえるしヴぁ」

勇者「覇王の剣、モード"破壊"」


覇王の剣が黒く染まる。黒い、破壊者の色に


勇者「魔王、銀狼、そこをどけ。木っ端微塵に"破壊する"」


その言葉がトリガーだったように覇王の剣が黒く強く光る。


勇者「剣技、"破壊者の斬撃(デストロイヤーブレイド)"」


もちろん何の意味も無く叫んでいるだけです


ガキイィィイィン、バラバラ

斬り落とされた鉄格子が地面に散らばる。


勇者「モード、ノーマル」


覇王の剣を元に戻す。ずっとそのままにしていると魔力の消費が半端無いし


勇者「ま、簡単なことだ。」

魔王「もしかして主が魔法を滅多に使わないのはその剣のためかや?」

勇者「それもあるが剣主流のほうがかっこいいだろ?」

魔王「元が主では全然じゃ」

勇者「どういう意味だ!!」


本当は少量だが剣に常に魔力を吸われ続けているためだ。

まぁ、全然使えないこともないけどな


勇者「さて、どうしようか…」

銀狼「ふむ、まずはRPGの基本で行こうじゃないか。少年、それは調査だよ」

魔王「この家のかや?」

銀狼「その通りだよ。使えるものがあるならぬs…いただいておく」

勇者「お前は変わってないな、そういうところ」

銀狼「何を言う。昔も言っただろう、使えるものは使う。権力も知恵も力もね」

魔王「人間も中々に黒いのじゃ…」


と言うことでこのフロアの探索開始


勇者「牢屋ばっかりだな…窓も無いし薄暗い、地下かな」

銀狼「そうだよ、私たちが牢屋に運ばれるとき階段を下りていた。」

勇者「ってかお前らは眠り薬を盛られ無かったんだろ?何で俺と一緒に牢屋に入っていたんだ?」

魔王「狸寝入りに決まっておるじゃろうが」

銀狼「どっちも狸ではないけどな」

勇者「いや、そうじゃなくて何で寝たふりしていたんだ?」

銀狼「そうしたほうが都合良さそうだったからな。」

魔王「奴らの目をかいくぐって調べ物ができるのじゃ」


牢屋を一つ一つ覗き込みながら歩く


勇者「おい、これ…」


それは人間のようでそうではない何か


魔王「むごいのじゃ…」

銀狼「やはりそうか、こいつら」


勇者「人間を、化け物に変えてやがんのか」



その牢屋の中には、体が変化し、徐々に化け物になりつつある男性がいた

「それを見られたらもう生かしては返せないよ」


勇者「…元々そんな気はないんだろ?」


「まぁね。さて、君たちにはその人と同じようになってもらうよ」


あの灰色の髪をした兄妹が俺たちを見据えて立っていた。


勇者「俺たちも化け物に変えるってか?」

ヘンゼル「そうだよ」

勇者「…何でそんなことをするんだ?」

銀狼「少年、その問いは必要か?どの道殺すんだろ?」

勇者「…まずはこんなことをした理由を知らないとな。あんな可愛い子たちが理由無しにこんなことをするとは思えないよ」

魔王「さっきも言ったが主はどこまで可愛さ主義者なんじゃ」

勇者「どこまでも。だよ」ニヤリ

勇者「さぁ、答えろよ。理由を教えろ」


ヘンゼル「…こいつらを倒せたらね」


そんなことを言う目の前の少年、その後ろからは化け物たちがゾロゾロと現れた。


勇者「これはまたお決まりの展開だな、魔王は手を出さなくていいぞ」

魔王「言われずとも働く気は無いのじゃ」

勇者「やっぱりか。行くぞ銀狼」

銀狼「うむ!!」

勇者「これまたどこに隠れていたって程、数があるな」


ぞろぞろ出てくる化け物を見て言う。人間や小動物、その他虫など様々な生き物の特徴が混じっている化け物たち


銀狼「ふふっ、それでも私たちに弱音を吐かせるにはまだまだ足りないね。そうだろ少年?」ザワザワ


銀狼が尻尾を上下に揺らす。

毛がざわつき、手から腕にかけて白銀の毛が生えてきて爪が鉤爪になる。


勇者「そうだな、あと100万は欲しい」チャキ


覇王の剣を構える。こんなの程度に魔力を使う必要は無い。


化け物たち「;オウユtkdjhsンryjdkフgkhfdツkrt」


声にならない金切り声を上げながら化け物たちが突っ込んでくる


勇者「1!2!さああああん!!」ズシャアアア


1に踏み込んで斬る。2で振り向きながらもう一体、ついでに三でもう一体に剣を突き立てる。


銀狼「私の爪に切り裂かれたい奴はどんどんかかって来るが良い。」


踊るように爪で化け物を切り裂く銀狼、相変わらず戦いを楽しむときの残酷そうな横顔が素敵です
---------------------------------------------------------------------------処理中------------------------------------------------------------------------------

化け物「あqwせdrgtyふじこlp」

銀狼「最後だな」ザク


最後の一匹を銀狼が倒す。

雑魚たちがどれだけいても所詮化け物たち殲滅処理の作業ゲーにしかならない、何の起伏も無く化け物処理は終わった。


勇者「さて、全部倒したぜ」

銀狼「奥の手でもあるかい?あるなら私たちは全力で挑ませてもらうよ。」


しかしまだ警戒は怠らない、こういう「勝ったらいうこと聞いてやる」とか言うやつらに限って悪あがきをするもんだ。


ヘンゼル「…」

勇者「ほら、なんとか言ってみ?」


覇王の剣をヘンゼルに向ける。効くかどうかは知らないが一応脅しのつもりだ。


グレーテル「お兄様…」


グレーテルが兄を心配そうに見つめる


ヘンゼル「…そうだね、もう終わらせようか。」

勇者「あ?」


ヘンゼルが両手を広げる。


ヘンゼル「お願い、僕たちを…殺して」

勇者「…ずいぶん勝手だな。散々人を殺すより惨い目にあわせておいて、自分たちは安らかに死にてえと?」

ヘンゼル「そうだね、僕も勝手だと思うよ。でもしかたなかったんだ、ボクもグレーテルもどうしても人間に戻りたかったんだ。」

勇者「人間に戻りたい?どう見たって人間じゃねえか」

銀狼「私も君たちの臭いは嗅いだが普通に人間じゃないのかい?」

魔王「違うのじゃ。こ奴ら、複雑な呪いをかけられておる。これではもう人間とは呼べまい。なのじゃ」


すでに人間ではない。か、あの狐面を少し思い出した。


ヘンゼル「少しだけ、話を聞いてほしい。」

勇者「…いいよ。元々そのつもりだったし」


長くなりそうだし、適当にイスに座る。


ヘンゼル「この家には元々老婆が一人で住んでいたんだ。僕たちはただ森に迷った子供だった。」

グレーテル「森の中でおなかを空かせていた私たちはお菓子の良い臭いに誘われてこの家に来たの」

ヘンゼル「家の中にいた老婆は優しくて、僕らを持て成してくれた。でもそれは罠だったんだ。」


罠?


グレーテル「…この家にいた老婆は魔女だったのよ。」

ヘンゼル「人を喰らう魔女だったんだよ。あいつは寝てる間に僕たちを食べるつもりだった。」

グレーテル「だからお兄様は逆に殺したわ。かまどに押し込めて焼き殺したの」

ヘンゼル「でも、誤算だった。あの魔女は知らないうちに僕たちに呪いをかけていたんだ。」

ヘンゼル「不死身の呪いとこの家に縛り付ける呪いを」

グレーテル「その呪いのせいで私たちはこの家から離れることが出来ず、一生分を、いえ、多分世界が終わるその日まで過ごすのでしょう。」

ヘンゼル「僕たちは何度も何度も逃げようとした。でもどうしても戻ってきちゃうんだ。外に出てもいつの間にか家の中にいるんだよ。」

グレーテル「ある日、私たちは"声"を聞いたの」


「呪いを解く方法が一つだけある。呪いと共に貴様らに与えられた能力、生物を化け物に変える能力だ。それを使って沢山の化け物を作り、世に放て」


ヘンゼル「確かに怪しい、でももう人間に戻れないと絶望していた僕たちにはそれに縋るしかなかった。」

グレーテル「そして、私たちは家の周りに寄ってきた鳥や小動物を化け物にしたの。何故か小動物のほうからこの家に寄ってきていたわ」

ヘンゼル「そして、いつしか化け物の大元を絶とうとする人間や森に迷った人間なんかもこの家に引き寄せられるようにやってくるようになった。」

勇者「俺たちもその一例ってわけか…」


おかしい、何の道も繋がってない森の中の家だぞ?さっきの化け物の数を見るに、どうしてあんなに人間がここにたどり着けるんだ?

俺たちは銀狼が臭いを辿って来たから分かるが、その他普通の人間があんな多数この家にたどり着けるか?


勇者「まさか、この森全体に魔力が行き渡っている?」ボソッ


それなら、小動物や人間が引き寄せられるようにこの家に来るのも説明つく

そういえば、この森に入ってから覇王の剣が反応している気がする。…やっぱり気のせいかな

ヘンゼル「これで、全部話したよ。僕たちにかけられた呪い」

勇者「…その呪いのせい。だから、沢山の人間を犠牲にしたってのか」

ヘンゼル「そうだよ。これが僕たちの犯した罪だ。早く殺してくれ、この家から抜け出せない以上死ぬしかない、欲望に負けてまた人間に戻りたくなる前に」


化け物を産み出すためだけの機械にはなりたくない。そう兄妹は言った。


勇者「…気に食わない。」

ヘンゼル「え?」

勇者「気に食わねえ。これじゃあの"声"の思い通りじゃねえか。"声"に唆されて、化け物を産み出すために生かされて、そして死ぬだと?一矢も報いず終わるつもりかお前ら?」


確かにこいつらは自分のために他人を無残な目にあわせた罪人だ。でも何が悪い?

必死に生きようとして、人間に戻ろうとして、頑張っただけだ。

悪いのはこいつらを唆した"声"だ。そして呪いだ


銀狼「しかし少年、どうするつもりだい?」

勇者「呪いを解く方法は他に無いのか?」

ヘンゼル「分からない…」

勇者「可能性が少しでもあるなら、だ。何か考えよう。」

銀狼「まったく、少年は。結局は考え無しじゃないか」

勇者「う~ん、せめて何か手がかりでもあれば」

魔王「…一つだけあるのじゃ、その魔女の死体などは何か残っておるかや?」


今ままでただ聞いているだけだった魔王が口を挟む


ヘンゼル「それなら、多分まだかまどの中にあるはず」

魔王「ならば、まずはそれを調べてみるのじゃ」

勇者「それで何か分かるのか?」

魔王「くふっ、主は妾を誰だと思っておるのじゃ?死体さえあればそ奴の得意としておる魔法術式を読み取れるぐらいはできるのじゃ。」


なるほど、魔法術式さえ分かれば呪いを解く手がかりにもなるか


ヘンゼル「このかまどの中だよ」

魔王「なるほど、中々大きいの」


覗き込む魔王、そして少し手探りしてから"それ"を引っ張り出す


魔王「こ奴じゃな」

勇者「っておい、これ本当に人間か?」


まぁ、死んでいれば人間とは言えないかもだけど元々人間だったかすら怪しいものが引っ張り出されて来た。


銀狼「ただの人形だね。少年、間違いなくこれは人間じゃないよ。」

ヘンゼル「そんな、じゃああれは、あの魔女は何だって言うんだよ。」

勇者「最初から…最初からこの森に入ってきた奴を化け物製造機にする計画だったのか。この人形は呪いを運ぶためか、お前らを招き入れるためだけに動いていた…」

魔王「それが当たっているとしたら黒幕はさっき聞いた"声"じゃな」


何のために罪のない子達に罪を犯させ、化け物を作らせ、こんな回りくどく強力な魔法を使ったのか


勇者「…ざけんな。その黒幕はぶっ殺す。単純な考えだろうが、殺せば魔法は解けるだろう。とにかくこんなことをした奴は許せない、許さない!!」


怒りがこみ上げてくる。こんな可愛い子達を罪人にするなんてマジで許さねえ、ぶっ殺す。


魔王「主よ、この人形に何か書いてあるのじゃが…」

勇者「ん?」


魔王に呼ばれる、見ると確かに「Η κατάρα  του  χάους」なんて文字列が浮き出ている。


勇者「何語だ?英語じゃねえよな?俺は読めねえぞ」

魔王「妾もじゃ…残念ながら他国の文字は学んでおらぬ」

銀狼「右に同じだよ。見覚えも無いな」

勇者「って、それは別にどうでもいい。いいかお前ら」


兄妹を指差して言う。


勇者「呪いは黒幕ごと俺が粉砕して冥王星あたりまで吹っ飛ばしてやる。すぐに呪いも解ける、だから死ぬなんていうな。俺に任せろ」

グレーテル「…生きたくなんか」

ヘンゼル「グレーテル、もういいんだよ。」


俺の言葉に何か反発しかけたグレーテルは兄に言われて口を噤む


ヘンゼル「…そうか、ありがとう。期待しているよ」

勇者「おう、期待しておけ。行くぞ魔王、銀狼、早く森を出て呪いをかけたクソ野郎を探しに行く」


勇者はそう言ったものの、魔王たちにはヘンゼルが言葉通り期待しているようには見えなかった。むしろ何かを諦めたような感じが見て取れた

森を出て


魔王「主よ、あの呪いをかけた黒幕を探し出すと言っておったが、どうやって探し出すつもりなのじゃ?」

銀狼「そうだよ少年、私には何の手がかりもないのに探し出すなど不可能に近いと思えるんだけどな」

勇者「果たしてそうかな?俺には究極に完璧で一ミクロンの狂いも無い計画があるのだ!」

魔王「ほぉ?とりあえず聞いておくのじゃ」

勇者「それはだ!!」


俺が究極の計画を説明しようとしたその時


「見つけたぞ勇者!そして魔王様!!」ドオオォオオォン


ダイナミックに空から重量級な魔物が降ってきた。


魔王「右腕…魔界随一の戦略家じゃな、新魔王のほうについておる。"魔王の右腕"と呼ばれる程強いのじゃ」

勇者「ほぉ、いくら腕に自身があるからと一匹で俺を倒せるとでも思ったか?」チャ


剣を構える。新魔王のほうについているなら敵だ、倒すだけ


右腕「腕?いやいや、俺が自身があるのはこっちだよ」コンコン


自分の頭を叩く


勇者「頭?頭突きか?」

右腕「違う、戦術を考える頭だ。」ニヤリ


不適に笑う目の前の魔物、面白い


勇者「面白い、見せてみろよ。その戦術とやらをなぁ!!」

右腕「その前に少し、話をいいか?」

勇者「話だと?」

右腕「あぁ、お前にじゃない。魔王様にだ。」

魔王「…なんじゃ?」

右腕「魔王様、俺は完全に新魔王に付いたわけではありませんよ。まだあなたのほうがあれよりいいです。」

魔王「それはなんじゃ?つまり妾の側に付いてくれるのかや?」


魔王が少しの期待も込めずに言う。


右腕「そうですよ魔王様、ただしまた魔物の味方をしてくれるならですが」

魔王「妾は魔王として魔物の味方をしておるぞ?人間も魔物も互いに手を取り合って平和に暮らせる世界を作るという名目の元じゃがな」

右腕「違う、違いますよ魔王様。俺が言っているのは、勇者とは縁を切り、また魔物が暴れ放題な世界を作るために尽くしてください。と言うことです。」

魔王「断るのじゃ。その頼みを聞くなら最初から勇者などには付いておらぬ」

右腕「そうですね。俺もそんな簡単にいくとは思ってませんよ。では、勇者を消せばそんな幻想を抱かずに再び我らの側についてくれますかね?」

勇者「やってみろよゴラ、聞いていれば勝手なことばかり言いやがって。行くぞ覇王の剣」

右腕「野蛮人め、まだ話は終わってねえぞ。まぁ、良いだろう。そんなに戦いたいなら戦ってやるよ、ただし戦うのは俺じゃねえけどな」

勇者「何?」

右腕「え くえいれむ おおげつ くりあらむ」

勇者「な、何を!!」


踏み込んで斬りかかる。しかし空中に飛んでかわされた。

ってか


勇者「その体格で飛べるなんてありか!?」

右腕「ふはははは、人間などという下等種族には真似できないだろう。」

勇者「てめ、コラ降りてきやがれ!!ぶちのめしてやらぁ」

右腕「ふはは、それより魔王様はいいのか?勇者」

勇者「あ?ま、魔王!!」

魔王「う、ぐぐぐぐがぁああ。ぬ、主よ。ぐぐ」


見ると魔王が地面に手を付いて苦しそうに呻いていた。


勇者「おい魔王、おい!しっかりしろ」

右腕「ふははははは」

勇者「さっきの魔法か、何しやがった!!」

右腕「"覚醒魔法"だ。魔物に隠された闘争本能を無理矢理表に曝け出させる。理性も感情も全て内側に閉じ込めて闘争本能のままに敵を殺すだけの化け物にしてしまう魔法だよ」

魔王「ぐ、ぐぐぐがぁあ」

銀狼「少年、狐から離れろ。危険だ」

勇者「危険なもんか。魔王、そんな変な魔法に負けんじゃねえ」

右腕「無駄だ、心に語りかけても、いくら心を強く持とうとも打ち消せるような魔法じゃねえ」

勇者「魔王!!」


いつも一本残して隠しているはずの尻尾が九本全て現れ、体が少しずつ毛に包まれてゆく


右腕「見ていろ勇者、これが我らが魔王様の本来の姿だ。化け物、怪物、魔物の王に相応しい荘厳で恐ろしい姿だよ。」


体が膨らみ、服がはち切れ、人間から九尾の化け狐にどんどん変化してゆく


魔王「見るな、なのじゃ。ぐぐ、お願い…主よぁあぐ、化け物の、ぐぐ、わら…わを、見な・・いで。逃げ…て、見ないでぇ、ゆう…しゃ、がああぁぁああ」


尻尾が黒く染まり、赤黒い線の模様が体中に広がる。牙と爪が大きくなり、黒い螺旋模様の角が生える。

憎しみに満ちた表情の九尾の化け狐、それが魔王の本来の姿

魔王「おおぉおぉおおおおおお!!」

勇者「魔王、魔王おおおおお!!」

右腕「ふ、ふはははは。覚醒が成ったな。さぁ、魔王様、その勇者を"あなたの手"で殺すのです!魔王と勇者が戦うのは決まりなのですよ。」

勇者「てめぇ…」

右腕「どうだ勇者、これが魔王様の姿だよ。化け物だ!!これを見ても貴様は魔王様を好きだと言えるか?ひゃはははは」

銀狼「稀に見るゲスだな、どれ私があっちの魔物を片付けてやろう」


銀狼が臨戦態勢をとる。


勇者「いや、いい。お前は手を出すな、"どっちも"だ。」

銀狼「しかし…いや、分かった。任せるよ、少年」

勇者「…ごめんな魔王、俺はどっちの頼みも聞けそうにもねえや

魔王「グルルルル」


もう話しかけても届かないようだ。完全に戦闘本能に呑まれている


勇者「お前を見捨てることも、誰かに任せて見ないふりでいることも出来ない。」

勇者「ごめんな、俺は生来こういう乱暴なやり方しか知らねえんだ。」チャキ


覇王の剣を構える。

これから自分がしようとしていることを思うと嫌悪感がこみ上げる。

漫画なんかの主人公だったら心に訴えかけたりして正気に戻せるんだろうな…でも俺は生憎そんな白い力は持ってないんだ。

俺が出来るのはせいぜい、こんなことぐらいだ。


勇者「魔王、今楽にしてやるよ。絶対に苦しまないように一瞬でな…でも、やっぱりかなり痛いかもしれない。ごめん、ごめんな」

銀狼「少年、君は…」

右腕「ふはは、そうだそれでいい。勇者と魔王は戦う運命なのだ、それが例え愛し合っていたとしてもな。よく出来た戯曲じゃないか、ひゃはははは」

魔王「グルルルゥゥオオオオオオオ!!」


魔王が吼える。

その声に合わせて尻尾が大きく振られ、最上級火炎魔法を越えた火炎球が魔王の頭上に作り出される。


勇者「くえるくとぅるー いあどまるどるく えぐどりあくと まきむとるくるく だーく おーるど わん とりたみな」

魔王「グルルロオオオ」


その火炎球が全て俺に向けて降り注ぐ。

完全に俺を標的とみなしたか


勇者「覇王の剣、モード、吸収」


ギュルウルルルル


覇王の剣が火炎球を吸い込む


魔王「ガアァアアア」


前足を振り上げて、振り下ろす、

とがれた爪が襲い掛かる


勇者「ふんっ」ドガアアァ


振り下ろされた前足を剣で受け止める。


勇者「へ、魔王ともあろう奴がこんぐらいの力しかないのか?なぁ、怪力系幼女っ狐」ギギギ

右腕「そんな強がりがいつまで続くかな。魔王様、やっちまえよ」

魔王「グルルルゥ」ギギギ

勇者「力倍増魔法、おりゃあぁぁああ」ガッ


力倍増魔法で単純な腕力を底上げし、魔王の前足を持ち上げて捻る。


勇者「くのっ!!」ドガアン

そのまま横倒しに倒す。そして


勇者「ごめん、今のお前には睡眠魔法は効かないからな」ドガッ


思いっきり腹を蹴り上げる。


魔王「グッ、グルル…ゆ・・う、しゃ…」

魔王「キュゥ」バタン


魔王は目を閉じてそのまま倒れた。死んではいない、気絶だ


右腕「ふ、ふはははは。実に呆気ない幕引きじゃないか。俺としては貴様が魔王様に手を上げることを躊躇って一方的にやられることを望んでいたんだがな」

勇者「…まれ」

右腕「やはり"好きだ"などとのたまってもあの化け物を見てはその気持ちも薄れたのだろうなぁ。それが人間だ。てめえは所詮見た目しか見てなかった。」

勇者「っ黙れ…」

右腕「こうなったらやはり魔王様は用無しだ。貴様もなんとしてもここで殺して…」

勇者「黙れえええええぇえぇぇぇ!!!」ピリピリ


空気が震える。


勇者「魔物も、人間も、俺をここまで怒らせることはしなかったな。初めてだよ、ここまで怒りに震えたのは」


今すぐ獣のように飛び掛らないのが自分でも不思議だ。

それほどの怒りが身を包んでいる。怒りで魔力が毛穴という毛穴から漏れているようだ


右腕「俺に怒るのはお門違いだぜ?魔王様をそんな傷だらけにしたのはお前だ。それに、どうやって俺を倒す?空を飛んでいるこの俺を」

勇者「そうか、空に飛んでいるから攻撃が当たらないと高を括っているのか?」


勇者「調子にノるなよ汚らわしい魔物ごときが…」


自分でも驚くほど低い声が口から漏れる。


勇者「くえる りあはすとぅる けえぶるぐとむ ふるぐらとるむり いあいあはすたぁ あいあいはすたぁぅる びぎる いたくぁりむ」


ギュルル


勇者「覇王の剣、モード風」


ビュオオオオオオ


剣を下に向ける。剣から風が起こり、風の力をもって空に飛び上がる。


右腕「な、人間ごときが空に…」

勇者「今、地上に這いつくばらせてやるよ。剣技、鎌鼬!!」ヒュンヒュン


真空から発生する疾風の刃を剣先から出し、奴の羽を切り裂く

ちょうどいい。思ったより飛び跳ねすぎて奴の上まで来た。


右腕「貴様、何を」

剣を左手に持ち帰る。


勇者「落ちろ、地まで!!」ブン


右の拳を握り、渾身の力でぶん殴る


右腕「カハッ、ああぁああぁ」


ドガアアアン


羽に穴が開いた空飛ぶ魔物はそのまま地表に墜落し、激突した。


勇者「まだ、まだだ。」


風の力を止め、地表に降り立つ。


勇者「喰らえ、このやろう」スッ

右腕「くっ、防御まh」

勇者「おせえ!!」ドガッ


一発腹に食らわせる。そして剣で斬りつける

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、


右腕「このっ、人間ごときがあああああ。」


右腕が俺を突き飛ばす。


勇者「なんだよ、まだ奥の手があるか?あぁ!?」

右腕「それがお望みなら、ゴオアアァァアアァアアア」


右腕の体が鱗に包まれ、巨大化する。正に怪獣のような姿だ


右腕「グルラアラアアアアア」

勇者「うおおおおおおおお」


覇王の剣を構えて斬りかかる。

しかし、その鱗は硬くて刃がたたない


ドッ


勇者「カハッ」

怪獣の手でなぎ払われ、足で踏みつけられる。


右腕「ケイセイギャクテンダ、ニンゲン。フハハハハハハ」

勇者「…んじゃね…」

右腕「あぁ?」

勇者「俺の怒りは、んなもんじゃねええええええ!!!」


怒りを、怒りを、怒りを、怒りを!!

辛うじて手から離してなかった覇王の剣が怒りの心に反応して黒く輝く。この感覚は久々に感じる…覇王の剣の新たな力を使えるようになった感覚

勇者「いあ いあ 千の仔を孕みし闇の黒山羊よ」


頭に浮かぶ言葉に従って呪文を詠唱する。


勇者「ふぐるまたとい いあ いあ しゅぶ にぐらとるふ」

勇者「大いなる大宇宙の深淵に寄り添う闇の女神よ。我の呼び声に答えたまえ、我に力を与えたまえ。」

勇者「ふぎりあいくるう まぎれす あくれいる しゅぐぶるい にぐるくらとるす」

勇者「覇王の剣、モード"闇"」


思ったより魔力を消費するがそんなことは気にせず新しく手に入れた力を奮う。


勇者「俺の上からどけええええ!!」ブン

右腕「ウガアアァアアァ」ドン

勇者「形勢再逆転だ」


剣を突き出す。


右腕「俺を殺すのか?」

勇者「当たり前だ!!」ブン


ズシャ


右腕「ウガアア!!!!」


右腕の全身に純粋な"痛み"が走る


勇者「そうか、このモードの効果はこれか。オリャアアア」


ズバッ

ズバッ

グジャ


右腕「アアァァアアッ」


モード闇、その効果は怒りや悲しみなどの闇の感情をそのまま力に変換して相手の全身に与える


ズバッ

ズバッ

ズバッ

ズバッ

ズバッ

ズバッ


勇者「まだだ、気絶なんかしてんじゃねええええ」


ドガッ

ガスッ

グジャ

怒りが頭の中をグルグル回る。腕を通して剣に伝わり、純粋な"痛み"として敵に叩きつけられる。

剣を振りおろし、痛みを叩きつける。切り裂くでもなく、貫くでもなく、直接伝わる痛みを


絶命するまで、何度も、何度も



そして


右腕「ヒュー、ヒュー…気は、すんだか?勇者」


目の前にはすでに死に掛けている右腕がいる。

虫の息という言葉が似合うような感じの息をしている。


右腕「己を見ろ。見えない…血に、塗れているわ」

勇者「…何が言いたい?」

右腕「ふ、ふははは。ゴフッ、貴様は勇者なんかじゃない。怒りに身を任せ、強すぎる力を奮うただの獣よ」

右腕「貴様は先の魔王様と同じだ。目の前の獲物に力を叩きつける、闘争本能に駆られた魔物と同じよ」

勇者「…」

右腕「見ろ、己を見る仲間の脅える目を。仲間の目にも貴様は怒りに溺れた化け物にしか見えなかったぞ。」

右腕「見ろ、それが勇者か?そんなので勇者を名乗るのか?その血に塗れたドス黒い身で正義の勇者を名乗るのか?」

勇者「…言いたいことは、それだけか?」

右腕「ふ、ふはは…見ていろ、いつか貴様はその力で仲間を殺すだろう。いつかその手で世界を壊すだろう。」

勇者「ならねえよ…お前に言われるまでもねえ」


吐き捨てるように言う


右腕「どう…だろうな。楽しみだ、お前が…絶望に堕ち、勇者としての自分を捨てて、狂気に身を任し、全てを破壊する…時が」

勇者「…」

右腕「俺が言いたいことは終わりだ。…さぁ、殺せよ。"勇者"」

勇者「…あぁ」


ズシャ


怒りも引き、元に戻った覇王の剣で止めを刺す。


勇者「はぁ」


ドサッ


その場で力が抜けて地面に膝をつく


勇者「…情けねえ、情けねえな。俺、何やってんだろ」

銀狼「…少年」


残念ながら銀狼はこういう時どう話しかければいいか分からなかった


勇者「銀狼、ごめんな。俺が…怖かったか?」

銀狼「そんなことは!」

勇者「俺は、実は怖いんだ。俺が…」

勇者「たまに夢を見るんだ。俺の中にいるもう一人の俺が俺を乗っ取る夢を」

勇者「あいつが言ったように、お前らを殺しちまうんじゃないかって。俺がお前らを殺しちゃうんじゃないかって。」

銀狼「少年!君はただ悪い夢を見ただけなんだ。それで変に想像を膨らましてしまっただけだよ」

勇者「でも、怖いんだ。本当になるんじゃないかって…」

勇者「お前も怖かったろ?さっきの俺が…」

銀狼「そんなことはない!私は、私は…」

勇者「なぁ、お前は俺に無理に付き合うことはないんだよ…ここで、別れよう。」

銀狼「な、少年、君は!」


俺は半ば無理に話を進めていた。ただ怖かった、ただ恐怖から逃れるためだけに
それだけのために別れようといった


勇者「銀狼、別れよう。ここで別れたほうがお前のためにも…」

銀狼「この…バカ!!」

勇者「え?」

銀狼「バカ!少年は、大バカだ!!」

勇者「え?えぇ?」

銀狼「少年!!」

勇者「は、はい」

銀狼「少年は、君は…本当に、昔から私のことなど…何一つっ、何一つ」


銀狼の真紅の瞳には何故か涙が溜まっていた。


銀狼「ひくっ…ひぅ。」


銀狼が子供のようにしゃくりを上げる。そして、それが収まった後


銀狼「…なぁ少年、狐が目覚めるのを待つ間暇だろう?少し…昔話をしないか?」

勇者「昔話?」

銀狼「ん、君は私と初めて会った時のことを覚えているかい?」

勇者「あぁ、あれは俺にとって初めての冒険みたいなものだったしな、覚えているよ。エゾリカムイの町だろ?」

銀狼「そうだよ。…君には、一度話したかな。妖怪だった私の父はあの地方で禍津神と呼ばれて恐れられていたんだ。」

銀狼「父はいつも好き勝手暴れて、沢山の人間を殺した。沢山の人間に恐怖を与えた。そして、恐れられたまま死んだんだ。」

銀狼「私は、その父と人間の母の間に生まれたんだ。最初は、少し変わった身なりでも皆に愛されて育った。」


銀狼は自分の耳を撫で、尻尾に触れる。


銀狼「・・・でも、ある時町の人間にバレた。私があの父の娘だと」

銀狼「それからだ。町の人々が私を悪魔の娘だなどと言って虐めだしたのは。」

銀狼「友達も一人もいなくなり、優しかった皆は、もう優しくは接してくれなくなかった。町を歩けば蔑んだ目で見られ、暴言を吐かれ、石を投げられた。でもそんな私を母だけは最期まで愛し、庇ってくれた」

銀狼「そして、そのまま死んだ。最期まで、『あなたは悪くない』と言いながら目の前で逝ってしまった」

銀狼「私には母が死んだ時点で、あの町を出るという選択肢もあっただろう。でも…父の贖罪だと、娘の私の義務だといつの間にか思っていたんだ」

銀狼「母が死んでからは尚一層、どんどん、どんどん酷くなっていったよ。」

銀狼「そんな時だ。少年、君が現れてくれた。」

銀狼「少年は本当にあの時から自分勝手で強引だったね」

勇者「おい、その言い草は酷くないか」

銀狼「ふふっ、だってそうだろ?。君は町の人間に石を投げつけられた私を見るや否やほっといてくれと言う私の言葉を無視して無理矢理話を聞き出したじゃないか」

勇者「仮に俺が勇者じゃなかったとしてもほっとけるかよ。それが可愛いケモ耳少女なら尚更だ」

銀狼「ふふっ、ありがとう。」


ゆっくりと尻尾が上下に揺れる


銀狼「君は私から話を聞くとすぐに町の人たちを説得しに行ったね。皆耳を貸さなかったというのに」

銀狼「あの後町長は君にすぐに町を出て行くように行ったらしいじゃないか。でも君は何があっても諦めずに私のために尽くしてくれたね。」

銀狼「それでも、何も変わらなかった。何をしても、何も変わらなかった。それどころか…3日目だったかな、あいつらは君と私をこっそり殺そうとした」


そうだ。あの日も一日中説得に走ったが効果は無く、疲れて銀狼の家で寝ていたときだ。町の奴らは全員で俺たちを殺しに来た。

あれは真面目にびっくりした。まさか勇者が盗賊でも山賊でもない普通の人間に襲われるなんてなぁ

銀狼「君は私を守ってくれたね。勇者なのに町の人間を殺してまで」

勇者「いや、加減を知らなかったのとただ単にムカついただけだけど」


ついでに言えば寝ているところを襲撃されたからってのもあるな。俺寝起き悪いし


銀狼「ふふっ、それでも嬉しいよ少年。あそこまで必死になって私を守ってくれてたのは母ぐらいなもんだ」

銀狼「勇者が人殺しなんて不名誉もいいところだ。なのに君は私がちゃんと逃げ出すまで時間を稼ぐために戦ってくれた。」

銀狼「落ち着いた後、私は聞いたね。何故こんなにも必死になって私を助けてくれたのかと」

銀狼「その時君がなんと答えたか覚えているかな?」

勇者「…好きになったからだよ。一目見てすぐお前の可愛さにな、男が好きになった奴を必死になって守らないわけがないだろう?だったかな」

銀狼「まぁ細部は違うけどいいだろう。そんな感じの告白だったよ」

勇者「告白ってお前…」

銀狼「違うのかい、少年?」

勇者「違くない、かな…」


やべー、やべー、魔王が起きてなくてマジ良かった。

何がヤバいかって魔王を世界を平和にするために仲間に引き込むのに使った口説き文句がほとんど似たようなもんだった…聞かれていたらどうなっていたか


銀狼「でも、ああなった以上私はもうあの町にはいられなかった。どの道町の人があんなに死んでしまったら町として機能もしないだろう。私は町を出る決意をした。」

銀狼「少年、覚えているか?あの後、私がなんと言ったか」

勇者「…あぁ」


それだけはずっと忘れないだろう。初めて仲間が出来た瞬間だったからな

「なぁ少年、お礼といっては何だが私は君にどこまでも付いて行くよ。どうやら私も君が好きになってしまったようだな。どこへなりと、この広い世界をどこまでも、連れて行ってくれたまえ」

そう言っていた。


銀狼「…私はあの時の誓いを忘れたつもりはないよ。」

銀狼「なぁ少年、なんだかんだで別れてしまったがこうして再び出会えたんだ。」

銀狼「お願いだ。再び私を連れ出してくれ、この広い世界を、どこまでも、どこまでも!」


両手を広げて俺に笑いかける。最高の笑顔だ。

銀狼「私は、君にどこまでも付き従おう。もう二度と、離れたくない。二度と、絶対離れないよ、なんと言われようとね。無理矢理にでも付いて行くよ」

勇者「お、お前は…そこまで、俺のこと…」

銀狼「ふふっ」ギュ

勇者「!?」


いきなり抱きしめられた!?


銀狼「そうだよ、私は君が好きだ。なぁ少年、ここまで私を本気にさせたんだ。狼を本気にさせた責任、ちゃんと…取ってくれるね?」ワサワサ


ぎ、銀狼が近い、息がかかる。俺の鼓動と揺れる銀狼の尻尾の音が聞こえる

え、何この展開!?ヤっちゃっていいの?責任取っちゃっていいのこれ!?

じゃ、じゃあまずはキスから…


銀狼「おっと」ヒョイ


瞬時に手を離され離れられる。


勇者「えぇー????」


何これ新手の虐めっすか?酷くない?俺放置プレイとか寸止めとか嫌いですよ。


勇者「何故避けたの!?」

銀狼「いや、そこ、そろそろ起きそうだよ?」


指を差した場所、って言うか魔王だ。


魔王「う、う~ん」


危ない危ない、確かに目覚めて俺と銀狼がキスしているところなんか見たら…殺されるな(主に俺が)


魔王「主よ…主・・よ」

勇者「魔王、俺はここにいるぞ」

魔王「ゆ、う…しゃ」


うなされているのかと思ったら、一瞬体が震えて、毛が少しづつ薄くなり、尻尾も一本づつ消えてゆく

そして、あの狐耳の幼女姿になった。


魔王「…主よ…」


魔王が目を覚ました。凄く悲しそうな顔をして
そして夢の跡を探すように周りを激しく見渡す。そして俺をその瞳に捕らえる


魔王「主よ…主よ。すまぬ、すまぬのじゃ」ギュー

勇者「魔王…」


銀狼とはまったくの真逆に、魔王は泣きながら抱きついてきた。
謝りながら、離したら消えてしまうとでも思っているのかというぐらい強くしがみついてくる。


魔王「良かった。良かったのじゃ…死んでなくて、生きていて。」


もしかしたら、俺を殺してしまった夢でも見ていたのかもしれない。俺がいつも恐れているように

勇者「大丈夫だよ。俺はあんなんじゃ死にやしないさ。」

魔王「でも、でも…妾は…妾はぁ」


ヒック、ヒック、エグ


魔王がえづき、しゃくりを上げる。

泣いている。子供のように、見た目通りに


勇者「安心しろよ。いつか言っただろ?俺は死なない。絶対にお前を残して逝ったりなんかするもんか」


泣いている我が子をあやす父のように背中を撫で、頭を撫でてやる。

これが普段だったら色々しようとしていただろうが、さすがの俺もこんな状況の時ぐらいは自重するさ


魔王「なんでじゃ…なんで主は…ヒクッ、なんで主はこんなに…優しいのじゃ。妾は…ヒゥ、殺してしまうヒックとこじゃったのに」

勇者「当たり前だろ?俺はお前が大好きなんだ。それ以外に理由がいるかよ」ギュ

魔王「主よ…うっ、す、すまぬ。でも、でも今だけ、ここで…ヒゥ、泣かさせてくれ、なのじゃ」

勇者「あぁ、心行くまで泣くがいいさ。そして、涙と共に何もかもきれいさっぱり流してしまえ」

魔王「ゆう…しゃ、うああああん」


魔王は泣いた。泣きじゃくった。俺の腕の中で、俺の服が涙でぐちゃぐちゃになり、乾くまで

…ヤバい、ヤバいなぁ。

なんで銀狼とあんな話したばっかりなのに魔王にこんなこと言っちゃったんだろう…

怖いわぁ、こんな展開に持っていった自分も怖いけど銀狼を見るのがすごく怖い。

だって、すごく怒っていそうだし

…あいつあれでプライド高いからなぁ


勇者「…」ゴクリ


覚悟の証しにつばを飲み込み、首だけ回して銀狼を見る。


銀狼「」ニコォ


やべぇ、超にっこり顔だ。でも目が笑ってない!!

しっぽは地面に打ち付けているんじゃないかって言うぐらい上下に激しく揺れているし、耳もピクピクしている


あぁ、怒っている… 俺、後でどうなるんだろう…

しかし、俺の懸念に反して銀狼は何もしなかった。少なくとも魔王が落ち着き、普通に喋れるようになるまでは


魔王「…主よ、この後あの町に戻るのかや?」


魔王が泣いていたことなど無かったかのようにケロリとした顔で言う


勇者「町長に会いたくないから戻らない…」


あんなのの旦那にさせられるなんて冗談じゃない。


魔王「と、いうことで妾と勇者はもうこの町にはいないのじゃ。じゃから主とはお別れじゃな」


銀狼に向かって笑顔で言う魔王。まさかお前…まだ二人旅諦めていないんかい

魔王「さぁ主よ。早く次の町に行こうじゃないかや、妾と主との二人で!」

勇者「え、ちょちょちょ」


ぐいぐい手を引っ張られる



銀狼「ちょっと待て、狐。」

魔王「何じゃ?狼」


にらみ合う二人、いや二匹か…獲物(俺)を巡って牽制し合い、睨み合い、正に獣だ。狐と狼、いや怖いね。


銀狼「先ほど、私は少年に旅の同行を願い、喜んで了解してくれたぞ?」

魔王「な、な、な…主よ!」

勇者「あ、あぁ…」


銀狼の目が怖い。強制的に俺の言葉は一つに絞られる。


湯者「了解…したなぁ」

魔王「!!?…主よ!妾との二人旅の約束はどうしたのじゃ!?」


睨まれる。銀狼にも先ほどから笑ってない笑顔で睨まれている…どうしろと


勇者「魔王…俺は」

魔王「な、何じゃ?」

勇者「俺はな、ハーレムを作るのが夢なんだ!!それもただのハーレムじゃない。ケモ耳ハーレムだ!」

勇者「今ここに狐耳、狼耳がそろった。しかしまだ弱小よ!今すぐにでも次を探しに行きたいぐらいだ。さぁ我に続け、次は猫かウサギか犬か何か!!」


あぁ、俺何言ってんだろう。皆も勢いに任せて言ってしまった後、後悔することってあるよね

俺も今絶賛後悔中です。


魔王「一回、死んでみるかや?」


あ、いや、やめて、痛い痛い痛い、あぁ、そっちに曲げちゃだめぇ、ってか折れる折れる、本気でそこはヤバいって、ダメダメダメ、


ぎゃああああ~!!


勇者「すいません、今はとりあえず反省しています。」

魔王「よろしい、なのじゃ」


俺、なんでこんな幼女に本気土下座してんだろう…


銀狼「まぁ、面白いしいいじゃないか少年」

勇者「よくないよ…」

魔王「そうじゃ、一番よくないのは主じゃ!とっとと町に帰れなのじゃ」

銀狼「断るね、だって少年が私に是非付いて来てくれと言ったんだ。」


言ってない


銀狼「少年…」ジィ

勇者「あー、言ったなぁ(棒)」

魔王「主よ!!どういうことじゃ!」

銀狼「ふふっ」


勘弁してください、ってか誰か助けてください


勇者「な、なぁ、話題変えねえ?」

魔王「変えるじゃと?」

勇者「あぁ、例えば、えーと…」

銀狼「少年はどっちのほうが好きか」

勇者「はぁ!?!?」


なんてこと言いやがるんだこの狼は


魔王「その話題はいいのぉ、さぁ主よ、答えろなのじゃ。さぁ」

銀狼「さぁ、答えろ少年」

魔王「さぁ、主よ」

銀狼「さぁ、少年よ」

魔王「さぁ」

銀狼「さぁ」


魔王「さぁ」銀狼「さぁ」魔王「さぁ」銀狼「さぁ」魔王「さぁ」銀狼「さぁ」


あの、二人とも顔が近いよ。嬉しいけど怖いよ


勇者「もちろん、どっちm…」

銀狼「どっちもってのは無しだぞ少年」


うぐ…


魔王「当たり前じゃ、答えは二つに一つ、さぁファイナルアンサーをよこせなのじゃ」

勇者「…ライフラインは無いんですか?」

銀狼「当てがあるならやってみればいいではないか?」

勇者「じゃあ、フィフティ・フィフティを」

魔王「選択肢は元々二つじゃ」

勇者「じゃあテレフォンを」

銀狼「少年の知り合いにこの問題の助けになるような人がいるかな?」

勇者「いるよ、ちょっと待ってろ」プルルルル


ガチャ


勇者「あ、遊び人?ちょっと困っててさ」

銀狼「まさかの人選だな」

勇者「そう女関係、良く分かったな」

魔王「即答されるほど良くあるのかや?女関係のトラブルは」

勇者「それでさぁ、どっちか一人選べって言われて参ってんだよ。俺はハーレム志望だってんのに」

勇者「え?素直に伝えろ?無理無理、殺されるよ。それどころか八つ裂きだよ。比喩じゃなくて物理的に裂かれるって、俺の体が。そのぐらいヤバいんだってこいつら怒らせたら」

魔王「現在進行形で主は妾を怒らせておるがな」

勇者「真面目に相談に乗ってくれよ!ジャグリングしながら脱出マジックと一輪車綱渡りを同時進行して電話すんな!!」

銀狼「どういう状況だ…相変わらずあれは人間外だな」

魔王「というかそれ、遊び人ではなく曲芸師か手品師ではないのかや?」

勇者「携帯電話をジャグリングすんな!」

魔王「もはや会話が成り立ってないのじゃ」

勇者「おいコラ遊び人、てめぇ何度助けてやったと思ってんだ。ちゃんと相談に乗れ!」

勇者「こっちの世界で成功したから昔なんてどうでもイイだと!?あぁ、分かったよ。待ってろ、今度お前のショーぶち壊しに行ってやる!!!」


ガチャ


勇者「…役に立たねぇ」○| ̄|_

魔王「で、答えはどうなのじゃ?」

銀狼「答えてもらおうか少年」

勇者「…なぁ、二人とも。愛は必ずとも一人に全て注がなきゃダメなのか?俺は愛は全ての人に平等に捧げるべき物だと思っているよ」

銀狼「昔仲間だった戦士♂にもかい?」

勇者「勘弁してください、可愛い女性だけです」

魔王「どこが全ての人に平等じゃ」

勇者「俺は二人とも大好きなんだ。魔王も、銀狼も」

魔王「だから二人ともはダメじゃと」

勇者「いいではないか、二人ともものすごく可愛いんだ!!本当に本気で大好きなんだ」

魔王「な…///」


よし、あと一息だ!


~ほぼごり押しに熱弁中~


魔王「わ、分かったのじゃ、もう良い、もう良いなのじゃー///」ワッサワッサ


今の魔王は顔を真っ赤にして尻尾が苦しそうに左右に激しく揺れてる。いや、もはや羽ばたいていると言ってもいいかもしれない


銀狼「うん、わたしも満足したぞ少年」パサパサ


銀狼もかなり嬉しそうに尻尾を上下に揺らしている。


つ、疲れた…

ってか銀狼はただ単純に楽しみたかったただけだな

数日後、次の町目指して進んでいる途中


銀狼「ところで少年」モグモグ

勇者「何?」


行商から買った肉を早速喰らっている銀狼、上下にゆれる尻尾が目を奪います。


銀狼「次の事件、来たよ。」スン


鼻を鳴らす、肉眼ではなく狼特有の鼻が何かを察知した合図だ。危険な方かな

身構える。数秒後、"それ"が見えた。


勇者「…何じゃこりゃ。」


大きな"影"が歩いてくる。

第5話「歴史に潜みし暗黒神話」

地面に映っているではなく、立体な黒い影が歩いているのだ。単に体が黒いわけではなく、普通の影と同じに向こう側の景色が黒くはあるが透けて見える。

歩いて近づいてくると、全体がよく見えた。基本的に人間のようだが足は三本で人間のような頭はなく、首が伸びて太い一本の触手になったような感じだった。

しかし、全体が黒い影なため細部は見て取れない。


影「ミ ツ ケ タ  ユ ウ シャ」

手をこっちに向ける。しかし、まだ十分距離がある。何をされても対処できる距離だ。


勇者「狙いは俺か?…二人とも、下がってくれ」

銀狼「少年…気をつけろよ。あいつ、得体が知れない。」

勇者「得体が知れないのは見て分かるさ、あんな魔物見たことがない。」

銀狼「違う、魔物じゃない」

勇者「え?」

魔王「その通りじゃ、あやつは魔物ではない。」

銀狼「うん。臭いが完全に魔物のそれじゃないよ。あれは、この間の化け物と同じ…魔術が産み出した産物だ」

勇者「魔術が…あれも誰かに作られたものってか」

魔王「しかし、魔物が作った可能性もあるのじゃ。」

勇者「ま、どっちにしろ倒すだけだ。それにこの距離ならまだ手は出せないだろう。」


と思っていたが、甘かった。そいつはその場で止まったまま攻撃してきた。 手が槍のような形状になり、高速で伸びる。


勇者「遠距離かよ…やりにくい」


避けるが、伸びた腕は自由自在にスピードを落とさず曲がりくねり、尚も狙ってくる。 かする。やべぇ、このまま避け続けることもできねぇ


勇者「くくるみおが えらいおむ くどまくろっく…」


ヒュンヒュン


勇者「っ、グハッ」ドガッ


ムチの様にしなった黒い腕が、俺を吹き飛ばす。槍のような先端で貫かれないだけましではあるが腹に鈍い痛みが広がる


銀狼「少年!!」ガシッ


銀狼が駆け寄り、吹っ飛ばされた勇者が地面に激突する前に受け止める。


魔王「見た目は影でも実態はあるのじゃな。」

勇者「へ、実態があれば攻撃が当たる。少なくとも無敵じゃねえな」

影「…」ヒュンヒュン


再びしなる腕が勇者を襲おうと伸びてくる。


銀狼「少年、やはり一人は無理だよ。私も戦うよ」ザワザワ

勇者「…悪いな、俺もやっぱ一人でかっこつけるにはまだ早かったか」


ホント、まだまだ修行が足りねえや


銀狼「少年、私が時間を稼ぐ。その間に呪文を」

勇者「あぁ。くくるみおが えらいおむ くどまくろっく」


半分元の妖獣の姿になった銀狼が伸びてきた腕を弾く。


ガイィン


金属音とも肉体同士がぶつかり合うとも違う妙な鈍い音が響く


銀狼「っ、中々に重い一撃だな。見た目は軽いのに…」

銀狼(頼む、私の爪よ。このまま保ってくれよ。)

勇者「えりあくろっく せいりはいあむ。覇王の剣、モード遠距離型」

勇者「銀狼、どけぇ」

銀狼「あいよ。少年、一発かましてやれ!!」

勇者「おぉ!喰らえ、高威力衝撃波(ハイパーソニックブーム)!!」


ブゥン、ブゥン、ブゥン


剣を振るうと3発の高エネルギーの塊となり、空気中を切り裂いてゆく

一発目と二発目は防がれるかもしれない。だが、3発目は当たる。


勇者「な、ガードしないだと!?」


奴の腕は尚も俺を狙ってくる。

まぁ、良い。それならそれですぐにボディに当たるさ…


魔王「無駄じゃな…」

勇者「何?」

魔王「ガードしないということは、返せばつまり、ガードする必要が無いと言う事なのじゃ。」


衝撃波は"影"の体をすり抜けた。


勇者「どういうことだ…?」


覇王の剣を使って、なんとか腕を弾きながら考える。


銀狼「魔法しか通じないとかか?」

魔王「やってみるかや?」

勇者「すまん、頼む」


"影"のもう片方の腕も攻撃に参戦してきた。

銀狼が応戦してはいるが、いつまで持つかは分からない。


魔王「たまには妾も本気を出してみるか。なのじゃ」


魔王の魔力が高まっていくのが分かる。今度ばかりは(何故か)本気を出すようだ。


魔王「超級閃光呪文、超級火炎呪文、超級爆発呪文、攻撃反射ドーム」


どれもこれも最上級を超える最強威力の攻撃呪文だった。

まず闇夜の魔女の作り出せる闇すらも照らし出せるような目も眩む光の矢が無数に"影"を貫く

次に太陽が落ちてきたのかと錯覚するぐらい巨大な火炎球が焼き尽くすべくして"影"に向かって飛んでゆく

そして最後に、世界の終わりになってもおかしくないぐらいの爆発が"影"を中心に起こる。

そしてその爆発を閉じ込めるように、魔力で形作られたドームが"影"を覆い尽くす。


魔王「くっくっく、これでどうだ。なのじゃ」

勇者「すげぇ…」

銀狼「今のレベルの魔法を連射とは…相手に感情があるなら泣いてるな」

魔王「これが妾の力じゃ。どうじゃ主よ。」

勇者「…でも、浮かれちゃいられねーぞ」

魔王「?」

勇者「だってよ、これ、まだ動いてるぜ?」


"影"の腕は魔力を尽くしても一瞬動きを止めただけで、また攻撃を始めた。

爆発の煙が晴れる、そこには微動だにせずに立っている"影"がいた


魔王「なんということじゃ…魔術も利かぬのかや」

銀狼「どうする、少年?攻撃が全て通じないのでは逃げるしかないぞ」ガキイィン

勇者「いや、そうでもないさ」キン


二人が逃げるしかないと考えている中、勇者だけは一人勝利だけを、勝利する未来だけを見据えていた。


魔王「どういうことじゃ?このまま攻撃が当たらないのでは勝てないのじゃ。殺されてしまうのじゃ!」

勇者「そうだな。まず、第一に考えてみ?この動きだ。逃げようと隙を見せた瞬間やられちまうよ。それに、上手く逃げられたとしてもどこまで腕を伸ばせるか分からないんだ。逃げるだけ無駄だ。」シャ


剣で腕を受け流しながら説明


銀狼「なら、少年はどうするつもりだい?」ガキン

勇者「倒す。よく思い出して考えてみ?一つだけ物理が通じている部位があるだろ」シャァ

銀狼「…」

勇者「何だよ、気づかねえのか?さっきっからぶつけまくってんじゃねえか。近すぎて分からねえか?」ガキイィン


大きく力を入れて腕を上に高く弾く。


魔王「!!、そうか。その腕かや!」


勇者「その通り、俺たちはガードすることばかりに目が行っていてこいつを切り落とすってことを思い付かなかったのさ。遠くに奴の体があるのは体を攻撃されることを恐れたからだと思い込んだのも手伝ってな」


どんな物をも切っても刃こぼれ一つしなかった覇王の剣の硬さに賭ける!

そして、上に弾き上げた腕が落ちて来るタイミングを見計らい


バキイィン


切り落とした。


銀狼「なるほどね。やるじゃないか少年。」バキイィィン


銀狼もそれを見てもう一つの腕を切り落とす。

勇者「それに、こいつは俺たちを殺すつもりは無いさ。せいぜい俺の実力を確かめに来たとかだろうな。そうだろ?」ス


構える。

残った最後の一つの触手、本来なら首から上があるところから生えた触手がまっすぐ俺を狙って更なる速度で伸びて来た。


勇者「ニャルラトホテプ!!」ベキン


その"影"の本体の物であろう名を叫びながら、心臓を狙って一直線に伸びてくる触手を一太刀に切り伏せる

切ったとたん、切り落とした触手は地面に落ち、切った断面から徐々に"影"の本体が蒸発し出した。

そう、実態は三本の触手の先であり、体は見せかけの物でしか無かった。


『…良く見破ったじゃないか。』


地面に落ちた三本の触手から声がした。


ベチャ!


いきなり触手が液状化し、名状し難い腐臭を放つ黒い水溜まりとなる。


ズルズル、ズチャ、ネチャ

可塑性を持つ液状の"それ"は生々しい音をたてながら集まり、スライムのように互いにくっついて立体になっていく。

そして形作られた物、それはスフィンクスに似ていた。

顔のあるべきところには何も無い…いや、真っ黒い、影よりも黒い真の闇がぽっかりと穴を開けていた。

顔の無い無貌のスフィンクスの影


勇者「ふん、よく見破っただって?バカ言いやがれ、お前がヒントをボロボロ出してくれたんじゃねえか」


鼻を鳴らしてかっこつける。


ニャルラトホテプの影「ほう?」

勇者「見た目が影ってことは本体はお前ではなく、どこかにいる本体が映し出された物であることを示唆している。」

勇者「腕だけで遠くから攻撃してきたのはただのミスリードでは無く、本体は遠くにいてお前はただの腕に過ぎないんだろう?」

勇者「次に、どこを攻撃すればいいかもお前はヒントをくれた。」

勇者「お前の触手の動きなら俺のガードなんか全て避けて攻撃を当てられただろう?でもわざわざガードにぶつかってくれたじゃねえか、何度もよ」

勇者「体に物理も魔法も効かないんじゃ後はそこしかねえじゃん?」

ニャルラトホテプの影「では我に殺す気が無いというのは」

勇者「それも簡単だ。さっきも言ったがお前の触手の動きならガードなんか全て避けて俺を殺せるだろう。だけど唯一ダメージを与えたのは触手で薙ぎ払った時だけだ。最初から殺すつもりならあの時一発で刺殺出来ただろうに」

勇者「殺す気の無い攻撃ってことは、無難に考えて俺の力の見定めとかに来たとかだろ?」

ニャルラトホテプの影「それなりの頭は持っているようだな人間。概ねその通りだ。」

勇者「そうかい、じゃあ今度はこっちが尋ねる番だぜ?お前は何者だ?あいにく俺は名前しか知らねえんだ」


夢で何者に教えられたんだよなぁ「ニャルラトホテプが動き出しました。どうか気をつけて」なんて。

詳しい内容はほとんど覚えてないけどな。


ニャルラトホテプの影「我は"這いよる混沌"」

ニャルラトホテプの影「世界を混沌へと導く者だ」

勇者「人間か?」

ニャルラトホテプの影「否」

勇者「魔物か?」

ニャルラトホテプの影「否」

勇者「生物か?」

ニャルラトホテプの影「…」


しばしの沈黙が流れる


ニャルラトホテプの影「否、我はこの星の"生き物"という枠組みには入らぬ、収まらぬ。」

ニャルラトホテプの影「人間、これは警告だ。我の邪魔をするな、歩みを止めよ」

勇者「それは何を意味する?俺に魔王の手伝いをやめろと?新魔王の企みを邪魔するなと?」

ニャルラトホテプの影「その通りだ。」

勇者「何だよ。じゃあてめえは新魔王の部下ってことか」

ニャルラトホテプの影「否、我は誰の下にも付かぬ。」

勇者「じゃあてめえは何のために俺を止めようとする?何のために新魔王の企みに手を貸す?」

ニャルラトホテプの影「混沌なる世界のためだ。」

勇者「ふん、お前が何を企んでいるにしろ俺は歩みを止めるつもりは無いぜ。魔王のためにも俺のためにも俺は世界を守ってみせる」

ニャルラトホテプの影「かつて世界を最も憎み、滅ぼそうとしていた貴様がか?」

勇者「な…何?」

ニャルラトホテプの影「そうか、記憶を封印していたのだな貴様は」

勇者「…何故それを知っている」

ニャルラトホテプの影「少しだけ興味が湧いた。貴様はいずれ記憶を甦らせるであろう。その時貴様は世界を滅ぼすのか、それとも怒りと憎しみを内に仕舞い込み善の心で世界を救うのか。」

ニャルラトホテプの影「しばし見守らせてもらう。その時が来たら貴様の心はどちらに傾くか、楽しみだ。」


影が薄れる。この場から消え去ろうとしていることは馬鹿でも分かる。

勇者「ちっ」


どういうことだ?俺の記憶だと…?


-何だよ、記憶を取り戻したいんなら俺を頼ればいい話だぜ?-


出来ればこいつに頼りたくはない…ってか記憶なんか取り戻したくは無い。


-お前は記憶を取り戻したぐらいでこいつらを守るっていう決意が揺らぐのか?-


何が言いたい?


-今のうちに試しとかないか?-


ふざけんな、引っ込んでろ。記憶なんていらねえ、俺は俺だ


-ちっ、そうかよ-


そういえばさっきから魔王や銀狼が黙ったままだ


勇者「お前ら、どうしたんだよ」

魔王「ぬ、主は…なんとも思わなかったのかや?」

勇者「あ?何がだ?」


見ると魔王は小刻みに震えていた。


銀狼「少年…私は恐ろしかったよ。"あいつ"が」


銀狼もだ。二人とも本当に恐ろしい物を見てしまったような脅えた顔で震えていた。


勇者「そんなに怖かったか?お前らは俺の知る中で一番脅えたりなんかしなさそうと思ってたけどな」

魔王「何故じゃ、何故主は"あれ"と正気のまま喋れたのじゃ。…あれは、恐怖なのじゃ。名状し難く忌まわしいおぞましき恐怖その物なのじゃ。」

銀狼「少年、私たちは二人とも"あれ"を直視できなかったよ。あの冒涜的な恐ろしい外見、世界中の悪意を凝縮したような気配に押しつぶされていたよ。君は何故、正気を保ったままあれを直視していられたんだい…?」


勇者「そうだな…俺が何故正気を保ったまま奴を直視し続け、会話できたか、か。」

勇者「それは俺がとうの昔に正気を失っていたからだな。」ニヤリ

銀狼「っ!?」

魔王「な…」


二人が絶句する。そこでようやく気づいた。自分が何を言ったか


勇者「冗談、冗談だよ。…そう、覇王の剣のおかげだ。この剣が俺を強く保たせてくれたんだよ。」


適当に誤魔化す。自分でも何故そんなことを口にしてしまったかは分からない。



-…俺が手を貸すまでもなく、自然と記憶が戻る日は近づいているな-



心の底からまた、嫌な声がした

魔王「主よ、次の町はまだなのかや?」


夜も更けて星が夜空いっぱいに広がるころ、魔王が不満そうにしっぽを揺らしながら問いかけてくる。


勇者「まだまだだな、今日はここら辺で野宿にするよ。」

魔王「えー、また野宿かや。妾はもう飽きたのじゃー」

勇者「だだっ子か!しょうがないだろ、俺たちには他の移動手段もないんだし」

銀狼「少年、おなか空いた。」

勇者「肉があんだろ。」

銀狼「無いよ。」

勇者「は!?まさかもう全部食ったってのか!?」

銀狼「ん」コクン


笑顔で頷く。狼耳が肉はまだかとピクリと催促


勇者「信じらんねえ…いくら二人とも暴食だといっても量が量だぞ。次の町まで余裕で持つはずだったのに…」

魔王「だっ、誰が暴食じゃ!!妾はじゃなぁ」

勇者「反論がおありで?」

魔王「…妾はちと食べるのが好きなだけなのじゃ。」

銀狼「ちと?私も君も暴食と言って差し支えない量食べていたではないか。…いや、君のほうが多いかな」

勇者「ほー?」

魔王「そ、そんなことは無いのじゃ。主よ、それを信じるでないぞ!!」

勇者「どっちにしろ食ったことには変わりないんだろ?」

魔王「それは…まぁ、そうじゃが。」シュン


わ、シュンとしている魔王マジかわいい!耳が垂れ気味になっていたり尻尾がしおらしく揺れていたり


勇者「銀狼、お前も反省しろ」

銀狼「何をだい?私は少年からの贈り物をありがたく頂いただけだよ」ピコピコ


こっちはシュンとするどころかいたずらを楽しむ子供のような表情で耳をピコピコ尻尾をフリフリ


勇者「とりあえず二人とも当分勝手に食うの禁止」

魔王「な、それは酷なのじゃ主よ!」

銀狼「少年、私は無実だ!」

勇者「どこがだ!!少なくともお前は無実じゃねえよ」

銀狼「むぅ…」

勇者「そんなことより野宿に最適な場所は無えかな」キョロキョロ


お、


勇者「あんなところに…あれは祠か?」


建物が見えた。小さな建物だ。


銀狼「おや、ちょうどいい。今宵はあそこに泊めてもらおう。」

勇者「魔王は魔物だろ?こんな神聖な場所に入ってきて大丈夫かよ?」


中には小さな泉と小さな祭壇がある程度の物だった。誰かいた形跡も無いのに放置されていた形跡も無く綺麗なものだった。

祠とは本来旅人のための物、疲れや怪我を癒すための魔法が空気中に満ちた神聖な場所であり盗賊などの悪人は使ってはならないとされている。

…そんな決まりを守っている悪人なんているんだろうか


魔王「妾は人を襲うことはしないのじゃ。それに、信仰心さえ持っておれば大丈夫じゃろう?」

勇者「お前が信仰心ねぇ…」

魔王「なんじゃその疑いの眼は!!」


「構いませんよ。私があなた方をここへ導いたのですから」


声がして振り返ると泉の真ん中にこの世の者とは思えないほど美しい少女が立っていた。

神聖、その二文字が脳内を満たす。


魔王「…いつからそこにいたのじゃ?」

「私はずっとここにいました。今までも、これからもです。私はこの泉に、空気に、壁に、祭壇に、その全てに宿る者であり、この祠の管理者であり、祠全体であり、祠そのものです。」

銀狼「そういえばどこかでそんな話を聞いたな。なんだったかな、ほら万物には神が宿っているっていう考え」

勇者「あれだよ。ほら、日本の八百万の神々」

銀狼「それだ。東洋の島国日本の神話」

「確かに似ていますが私は少し、いえ、かなり違います。」


少女は年相応(もちろん見た目年齢)とはかけ離れた大人びた柔らかい笑みを浮かべる。

その微笑みは可愛いと言うよりは見ていて心が洗われるような、浄化されるような、そんな神聖なものに見えた


「私はこの場に満ちた特殊な魔法、その魔力より自然に形成され、いつの間にか発生した疑似的な人格です。」

魔王「その疑似人格が妾たちを何の用があって呼び出したのじゃ?」


言われてみればそうだ。俺たちは彼女に"導かれた"わけなのだから何かの用があって呼ばれたはずだ。…話し相手が欲しかったとかいう理由じゃない限り、だが


「予言です。あなたがたにとある予言を伝えるためにやってきました。」

勇者「予言だって?」

「はい、この祠をお作りした方は予言を残して私が伝えるべきときに伝えるべき人に伝えられるように図りました。」

勇者「その予言は誰に向けてだ?」


ぐるりと仲間を見渡す。勇者に魔王、どっちに出されていてもおかしくないし銀狼は妖怪と人間のハーフ、こちらも予言により運命付けられていてもおかしくない。


「この場、全員です。あなた方三人に向けての予言です。」

勇者「そうか…じゃあ初めて欲しい」

「はい。」


少女が目を閉じ、口を開く


『勇気ある少年が魔の王と和解し世界を平和へと導きし時、世界は宴に舞踊り安堵が世を包む』


古より伝えられる"予言"の詩が流れる。それは空気に溶けるように広がり、いつしか祠中の空気が振動し声を発しているように聞こえてくる

『しかし闇は光の影にて大きく育ち、すぐにも仮初(かりそめ)の平和を引き裂くであろう』


『やがて闇より邪の竜が首をもたげ、更なる邪悪を呼び寄せる』


『邪悪な神々の宴が始まり、世界は狂気に包まれる。』


『慟哭が夜を裂き、怒りが地を揺らし、悲鳴が世界を満たす。』


『それを止めることができるのは対立するはずであった勇者と魔王が手を結びし時』


『やがてその勇気は全ての闇を照らし、闇を使いて闇を払うであろう。』


『世界は闇より現れし勇者により救われる』


「次に、別の予言ですがこれもあなた方に関係のあることです。」



『勇気ありし者は心に抱えし闇を恐れ、遠ざけている。』


『しかしその記憶に住み着きし大きし闇を受け入れ、光へと改変せし時大いなる力を得よう』


『しかし慢心するべからず。その力は気を抜けばすぐに制御を離れ、強大なる闇にして邪悪なる怪物の呼び水となろう』

「以上が予言の全てです。私は伝えるべくして全てを伝えました。」

勇者「前者が何が言いたいのかさっぱり分からん。三行で頼む」


銀狼「勇者のおかげで世界が平和
   勇者のせいで世界がヤバい
   魔王と手をつないでケモ耳を集めて世界を救え
   こいつに勇気なんてあるわけ無いヘタレな変態勇者だ」

勇者「二行目間違ってんだろ、俺のせいじゃねえし!ってか何だその四行目は!誰がヘタレだ!!」

魔王「主以外に誰がいるのじゃ。このヘタレが」

勇者「!?」

銀狼「それにしてもいくつか気になるね。"邪の竜"は悪い出来事の比喩だとしても邪悪な神々とは何だろうな」


銀狼が目を閉じてそこを考え込む。尻尾がゆらりと動く


魔王「とゆうか妾は予言という物が信じられるのじゃが、その予言はきちんと当たるのかや?」


こちらは疑わしそうにしている。しっぽはやはり揺らめいている。


「予言をした方は"異能力者(アンノウン テクノロジスト)"です。100%の予言を下す能力"ノストラダムス"を持っています。」


勇者「へぇ、じゃあ心配は無いな。ってか光栄だな、そんなレアな能力の恩恵に授かれるとは」

銀狼「異能力者(アンノウン テクノロジスト)?それってなんだい少年?」

勇者「ん?知らねえか。人間には稀に、極稀にアンノウン テクノロジーと呼ばれる人知を超えた異能力を持って生まれることがあるんだよ。」

勇者「能力で言えば特技程度の小さい物から神々さえもひっくり返すことが出来るほど大きすぎる力まで色々ある。でも何でそんな能力を持って生まれるかは全然解明されてない、故にアンノウン テクノロジー(誰も分からない技術)」

銀狼「それは面白い話だね、少年は実際に見たことはあるのかい?」

勇者「それどころか俺も異能力者だよ。」

銀狼「初耳だな」

魔王「な、それは妾も初耳じゃぞ主よ」

勇者「まぁ他人にはあまり話さないしな。そうだ、それより今日はここに泊めてもらいたいんだけどいいかな?」


なんのために来たのか忘れていた。ここに一晩泊まるために来たんだ。それを少女に伝えるために泉を振り返ったがすでに少女はいなかった。


「どうぞお使いください。ただし皆さんが一度この祠を出ると祠は再び消えてしまいますので気をつけて」


声だけが祠に響く

勇者の夢にて


魔女「また会いましたね勇者。」


夢の中でまたあの魔女との雑談をする羽目になった。


勇者「最近普通の夢が見れない…」

魔女「勇者の宿命だとでも思うといいですよ。」

勇者「嫌な宿命だな!」


夢ぐらい好きに見せろ!!


魔女「それより、ニャルラトホテプに会いましたね?」

勇者「あぁ、あの影だよな?」

魔女「はい。あれはニャルラトホテプの千の化身の一つ、"無貌の神"と呼ばれる物です。」

勇者「呼ばれているって誰にだよ。」

魔女「彼を崇拝する邪神崇拝の邪教徒や狂信者達です。」

勇者「邪神崇拝…邪悪な神々…」


脳裏に予言の言葉がちらつく。あれはニャルラトホテプのことを詠っていたのだろうか…それにしては"神々"と複数形だったのが気になる。


魔女「いくら考えても無駄ですよ」

勇者「それは頭の悪い俺じゃ考えるだけ時間の無駄だと言いたいのか?」

魔女「いえ、この夢は醒めると全て忘れてしまうことを忘れてしまいましたか?」

勇者「そうだった。」

魔女「ついでに言うともう起きる時間ですよ。どうかお気をつけて、あなたは全世界の希望なのですから」



今日中に次の町に行こうとすぐに祠を出る。あの少女の言ったように祠は俺たちが出るとすぐに消えたしまった。


魔王「そう言えば昨日主は異能力者だとか言っておったがどのような能力を持っているのじゃ?」

勇者「あ、そういえば言いそびれていたな。俺のは"エナジーチェンジ"と呼ばれる能力だ。」

銀狼「ほう、どんな能力なんだい?」

勇者「うむ、良くぞ聞いてくれた!!俺の能力はすごいぞ。自分の体中に流れるエネルギーを相互変換出来るんだ!」


すげーだろ、俺もたまには自慢をしてみたくなった


魔王「うむ?それはすごいのかや?」

銀狼「むぅ、すまん少年、私には良く分からなかったよ」


ずこー


勇者「つ、つまりだな。例えば俺の中に流れる生命エネルギーを魔力に変換したり出来るんだよ。もちろんその逆もまたしかり、だな」

銀狼「で、それのどこがすごいんだい、少年?」


マジか、こいつら凄さが全然分かっちゃいねえ


勇者「つまりだ。食い物を食べて得るエネルギーを魔力に変換できるわけだから魔力を回復しなくても食い物さえあれば無限に魔法を使えるんだ。逆に魔力さえあれば食べなくても生きていける!」

勇者「生命エネルギーや活動エネルギーにも変換できるから上手く使えば老いもせず疲れもしないように出来る。」

魔王「ほぉ、それは凄いのじゃ。」


尻尾を振って目をキラキラさせる魔王、そんなにすごいか。そうかそうか


魔王「それなら飯を食べる必要も無いのじゃな。ありがたく妾が食べてやるのじゃ♪」


そっちかい!

目もしっぽもそっちに反応していたんだ、酷い!!

その後、歩き続け


勇者「ちなみにもうすぐ無銘都市だぞ。」

魔王「ついたら飯じゃ!」

銀狼「飯だぞ少年!」

勇者「…銀行がある街であることを祈ってろ」


顔も耳もしっぽも元気な狼と狐とは裏腹に俺の気持ちは思いっきり沈んでる。

なんたってその町には嫌いじゃないけど嫌な奴が住んでいるんだよなぁ…会いたくねぇなあ。でもそんなことを思っている時は大抵フラグなんだよなぁ…ハァ


銀狼「どうしたんだい少年、少し暗いよ?何かあったのかい?」

勇者「これからあるんだよ…」


「隙あり!!」


ビュッ


やっぱり来た! いきなり声と共に風を切り裂く音が聞こえ、剣で作り出された衝撃波が飛んでくる。


勇者「…誰に隙があるって?」シュ


一瞬の判断で覇王の剣を引き抜き、同じ威力の衝撃波で相殺する。


魔王「敵襲かや?」

勇者「いや、友人だよ。…一応ね」

「オレの一撃を止めるなんてさすがお前だぜ。なぁ勇者」


町の方向から真っ黒い西洋の鎧が歩いてくる。顔は面のせいで見えないが間違いない。あいつだ


勇者「なんだよ、その悪趣味な格好は?相変わらず厨二病全開かよ、漆黒の英雄」

漆黒「ちゅ、厨二病じゃねえよ!バカにすんじゃねえぜ」ガシャン


鎧に身を包んだ漆黒の厨二病、もとい漆黒の英雄が一歩踏み出す。


漆黒「待ってろ、今行ってやるぜ」ガシャン


ガシャン、ガシャン


…すげぇ歩き辛そうなんだが


漆黒「もういい、重い、脱ぐ!」ガシャ



音をたてて脱ぎ捨てる

そりゃ重いだろうさ、だって骨董品マニアが集めそうな程昔の鎧だし、主に装飾品として飾って置くものであって着て戦いに来る奴なんていねえよ。


漆黒「よし、これで身軽になったぜ。」


魔王「…女だったのかや」


面を取ってさらけ出された顔を見て魔王が言う

勇者「気づかなかったのか?口調こそ男だがこいつは女だ。」

魔王「妖怪と人間のハーフというところまでは見ぬいたのじゃがな、妾は性別までは分からないのじゃ」

勇者「っていうか俺が男の顔や声や名前を覚えるわけ無いじゃん。」

銀狼「それもそうだな、少年が今までに名前も顔も覚えた男なんて数人もいないしね」

魔王「さすがは変態勇者じゃな。それも声だけで判断出来るとは」

勇者「ま、こいつもこう見えて普通に女だということだ」

漆黒「うるせえ、オレの性別なんざどっちでも良いんだよ!それより戦いやがれ!今日こそ決着着けてやる。」


黒い剣を構える漆黒、しかし勇者は逆に覇王の剣を鞘に収めた。



勇者「俺にとっては良くないね、恨みも無い女と戦う趣味はねえって何度言やあ分かるんだよ。」

漆黒「だから女扱いすんじゃねえよ!オレだってあれからいくつもの国を救って来た英雄なんだぜ、馬鹿にすんな!!」

勇者「女扱いすんなって、間違いなくお前は女だろう?それもかなり可愛いケモ耳っ娘だ」

漆黒「か、か、かわ、可愛いだなんて、よ、よく、よく、よくも、軽々と…」

勇者「いや、実際お前は可愛いよ。」キラッ


イケメンオーラ()を放つ決め顔をして言う


漆黒「っ!!…ぁぅぅ///」カアァ


耳の先までほんのり赤くなって俯く漆黒


勇者「どうした?顔真っ赤だぞ?」

漆黒「ぅ…な、なんでもないよ!あた、私…じゃない、えと、オレは用事があったから町にもど、戻るぜ。また後で戦いに行くからな、それまで絶対にこの町にいろよ。絶対だぞ!!」タッタッタッタ


初めて男の裸を見た思春期の少女以上に顔を真っ赤にして町の方向に逃げ帰る


勇者「おーい、この鎧置いてって良いのか~?」


笑いながら呼びかけるがもう声も届かないほど遠くまで逃げて行く漆黒、小さく「くそ、顔の火照りが冷めたらもう一回出直しだちきしょおおおおおお」とか聞こえる


勇者「良し撃退した。急げ、あいつがまたやってくる前にとっとと古代遺跡群を調べてこの町から出よう。」

魔王「それよりさっきのは何だったのじゃ?」

勇者「あいつ?何でも無いよ。ってか関わり合いたくないよ。」

銀狼「あれは少年の元カノだよ。」

勇者「はぁ!!?」

銀狼「少年は本当に酷いフリ方してたなぁ。ガチ泣きしてたよあの娘は」

勇者「ちょちょちょ、ちょっと待て何デタラメ言ってんだ!完全に大嘘じゃねえか、俺は一度彼女を作ったら一生離さないねぇし!!」

銀狼「ついでに言うと少年が捨てた女は数知れず行く先行く先女を作っては捨てている」

勇者「その嘘は酷い!!俺そこまで外道じゃねえよ!」

魔王「…」

勇者「ま、魔王?まさかこいつの嘘信じてないよね?」

魔王「主は女の敵じゃな」

勇者「信じてた!!」

魔王「主を選んだのは間違いじゃった。さよならなのじゃ」

勇者「待て待て待て待てぃ!!今の全部大嘘だって、この狼の嘘だ!」


根も葉もない嘘を信じて俺の下を去ろうとする魔王を全力で止める。俺そんなに信用無いっすか?(泣き)


魔王「ま、今のは冗談なのじゃ。妾は主を信じておるのじゃ」ワサワサ

勇者「ま、魔王…」


良かった。それくらいの信用は勝ち得ていた。


銀狼「良かったな少年、君はようやく信じ合える友人に出会えたんだ…」ポン

勇者「あぁ…って今のは完璧お前のせいだろ!!」ボカ

銀狼「あぅ、痛いよ少年」

勇者「知るか!」


青春漫画の登場人物みたいなテンション&友人面で俺の肩を叩く銀狼に思いっきり突込みをくれてやる。

こいつの冗談はたまに洒落にならん、いやマジで


魔王「で、さっきの娘っこは主の何なのじゃ?」

勇者「何その浮気を問い詰めるような言い方…」

銀狼「吐いちまいなよ。吐けば楽になるぜ」

勇者「何そのどこぞの刑事ドラマみたいな問い詰め方」

魔王「私とあの女とどっちを選ぶの!?」

勇者「どこの昼ドラだよ!!」

銀狼「カツ丼食うか?田舎のおっかさんが泣いてるぜ」

勇者「だからお前はどこの刑事ドラマだよ!!」

魔王「あんな女殺してやる!!完全犯罪を成し遂げてやる!!」

勇者「月9に変更!?」

銀狼「あんたがあの女を唆したんだろ?浮気相手を殺せば一緒になってやるって」

勇者「微妙に繋がってきた!?」

魔王「そうよ!私はあの女を殺してもう一回やり直したかったのよ」

勇者「遂に完全に繋がった!?」

銀狼「そうか、次はもっと良い男が見つかるさ。でもその前に罪の償いはしなくちゃならねえ、それがこの世のルールなんだ。」

勇者「ねえ、これ何の話?何の話してたっけ?」

魔王「はい、夫の分も幸せになります。」

勇者「夫死んでた!?」

銀狼「じゃあ走ろうか、あの夕日に向かって」

魔王「はい」

勇者「どういうオチだ!!ってかお前ら演技派だなおい!」

魔王「で、どういう関係なのじゃ?」


このコントで気は逸らせませんか、そうですか


勇者「んー、なんて言うか…ライバル?」

魔王「」ジトー

勇者「…えっと、えと戦友?」

魔王「」ジトー

勇者「…一応友人、みたいな?」

魔王「…ふーん、なのじゃ」


ヤバい、ますます不機嫌になって行く…耳やしっぽは機嫌を見るのに役立つね。この先何が起こるか分かってしまうから知りたくなかったけど


魔王「…」ワサワサ


初めゆっくりと、だんだん早く、震えるように揺れるしっぽ…怒りがどんどん込み上げている証だ。


勇者「助けて、銀狼!」

銀狼「…中々に面白かったよ少年」

勇者「ひでぇ!?」

銀狼「狐、あれはね、かつて少年が助けた娘なんだよ。それからは少年に憧れてね。一時期軽いストーカーみたいになってたね」

魔王「簡単に言えば『ファン』みたいなものかや?」

勇者「ロクなもんじゃないよ…めんどくさい奴だ」

銀狼「そうかも知れないけどいい子じゃないか少年。あれから少年に認めてもらいたくて"漆黒の英雄"として色んな町で戦い、救ってきていたんだよ。」

銀狼「認めてほしくて振り向いてもらいたくて…ずっと一途に頑張ってきたんだ。いい話じゃないか少年」ワサワサ


しっぽを揺らしながらそういう銀狼、この狼案外感動系ラブストーリーが好きだったりするのかな


勇者「でも厨二病に目覚めたり毎回勝負を仕掛けてきたり嫌になるよ。傷つけないように手を抜いて戦ったりあしらったりするのがどんだけ大変か」

銀狼「こういう一途に愛する物語には相手が中々振り向いてくれないなどの障害が付き物だな少年」ワサワサ

魔王「そうじゃな、たまには仲良くしてやったらどうなのじゃ主よ?」

勇者「…じゃあ俺があいつだけ見てお前らに見向きしなくなったらどうするよ?」

銀狼「聞きたいのかい少年?」ザワ

勇者「いや、いいです…勘弁してください。」


銀狼の毛がざわめく、嫌な予感がしたので即座に断る。


魔王「どちらも殺してやるのじゃ♪」

勇者「言わなくて良いっつったじゃん!?」


ハーレムルートは遠いですね。こいつらもいつか「自分だけを見て」とか「狼(狐)を追い出して」とか言うのだろうか…


あぁ、キツネちゃんも銀狼も手元に置いておきたいよ。そして三人でエロイことをしたいよハァハァ


魔王「死刑なのじゃな」ニコォ


また心読まれた!?


銀狼「少年はそういうことがしたいのか、そうかそうか。」ワッサワッサ


こっちはこっちで嫌な予感をヒシヒシと感じる…俺今夜襲われるのかな?


そいつは願ったり叶ったりだぜ、わっふる!わっふる!


銀狼「変態にはお仕置きだね、少年♪」ワッサワッサ

…どうやら今すぐ襲われるようです。残念なことに性的な意味ではなく、爪と牙で(泣き)


魔王「狼に同意じゃ♪」ワッサワッサ


こっちも手のひらに魔力が集いつつある!?

やべぇ、逃走しよう!!


タッタッタッタ


魔王「逃がすかぁ!なのじゃ」

銀狼「くふふ。少年、狼と狐から逃げられるとでも?イヌ科は狩りのカリスマなんだよ?」


うそぉ、何で俺ハーレムメンバーに追われてんの!?

どうしてこうなった!どうしてこうなった!

ヤバいよ、捕まったら八つ裂きにされそうだ。

助けて、ちょ、お慈悲を、お慈悲をください!!


物の数分で捕まって縛り上げられました\(^o^)/


魔王「さてこ奴どうしてやろうかなのじゃ」

銀狼「ふふ、まずは亀甲縛りに縛り直すとこからやってみようか」

勇者「やめてくれ…」

魔王「もはやこの展開ではお決まりじゃが高級肉を奢れば許してやるのじゃ」ワサワサ


またですか、そうですか


勇者「銀行があったらいいよ…」


そうだ、この町は古代遺跡群が発見される前は枯れていたんだ。そんなつい最近まで名も無い町だったここに銀行なんてあるわけない。

今回こそはこいつらに金を吸われなくてすみそうだ。

と思ったら


勇者「ありやがったよちくしょう…」OTL

魔王「金下ろせるのじゃな、さっさと肉食いに行こうなのじゃ」ワサワサ

銀狼「少年、店の場所を聞いて来い。」ワサワサ

SS(サイドストーリー)とある平原にて


男が一人歩いていた。
ただの町から町への旅人だ。しかし、旅に危険とハプニングは付きものである。


「そこの男、少し止まれ」

男「…ふふ、現れたか。君のことは噂で聞いたよ、狐のお面をかぶった亡霊」


声をかけられて後ろを振り返るとそこには狐のお面をした男が立っていた。
噂で聞いたとおり白い狐のお面、全身に文字が刻まれた死衣
そしてお面の隙間から覗く狂気の瞳


狐面「俺は亡霊ではない…亡霊にも成りそこね、人間であることも止め、死ぬことすら出来ず現世を彷徨うただの亡者だ」

男「ならば私が君をあの世へ送ってあげよう。ちょうど君には懸賞金もかかっていることだしね。感謝しなよ、楽に殺してあげるから」


構える。こいつがなんのために私に話しかけてきたかは噂から分かる。戦い、私を殺すためだ


狐面「否、俺には目的がある。何億と人を殺そうと、幾星霜の時を苦しみ過ごそうと、何があってもやり遂げねばならない、果たさなければならない目的がある!!」

男「その意気や良し!では来い。異能力者であるこの私があいてだ、"万物創造(オーディンテクノロジー)"」


男を中心に沢山の銃火器がどこからとこなく出現して狐面目がけて一斉放火した。


男「ふん、噂も当てにならないものだな。やはり能力を持たない人間が異能力者に挑もうなどとは愚かしい。どれ、死んだだろうけど念のため…」グ


"万物創造"で作り上げた剣を持ち、硝煙で隠され倒れているかすら分からない狐面に近寄る。


しかし


狐面「こんなものか?その能力は」


声は後ろから聞こえた。


男「君は、どうやって!?」

狐面「簡単なこと、ただのワープ能力だ。」

男「くそう、"万物創造"!!」

狐面「単調な攻撃だ。死の恐怖を覚えたのはこれが初めてか?」


空間から現れ、自分を狙う無数の槍をワープで避ける。


狐面「妖術、"身体硬化"」


拳を固め、妖術で鉄よりも固く硬化する。


男「人間が妖術だと!?」

狐面「人間であることも止めたと言っただろう?今の俺は人間でも、妖怪でも、正常な世界の生き物ですらない!!」


ワープで男の目の前に移動した狐面の拳が降り下ろされる。


男(くそ、避けるのも間に合わない。"万物創造"は武器を作り出す能力だ、しまった)
男(この状況、積んでやがる)


狐面「弱い、そんなんじゃその能力は宝の持ち腐れだ。」
狐面「だから、俺が喰らってやる。死ね」

ドゴオオォオオォオン


地響きが起こり、そこにはグチャグチャに潰れた男の死骸があった。


狐面「俺は、立ち止まることなどできない。神に背き、罪を犯しても尚、復讐のためだけに歩む」


自分のお面に触れる。

最初は抵抗があったが、呪いから解き放たれるため、生き続け、いつか奴に復讐するためにその大罪を犯す


曰く、人喰い


お面を取る。お面の下には皮膚も顔もなく、ただ暗黒の虚空、混沌の深淵が口を開けているだけである。

やがてその"穴"から赤黒い炎が触手のように伸び、死骸を捉える


狐面「…すまない」


炎は死骸を"穴"へ運び、"穴"に引きずり込んだ。

こうして喰うのだ。人を


狐面「っ!!?」ゾワッ


この感覚…奴が俺に植えつけた唯一の感情、復讐を欲する狂気が反応する感覚


狐面「ようやく現世に現れたか、復讐を果たすこの時を待ちわびたぞ」ゾクゾク


その感覚を手掛かりに歩み出す。その方角には勇者たちがたどり着いた無名都市があった

焼き肉屋前


勇者「良いかお前ら、遠慮しろよ?」

魔王「はーい、なのじゃ」ワサワサ

銀狼「うむ。はーい、だ少年」ワサワサ

勇者「信用出来ない…」


ガチャ


焼き肉屋の扉を開く


店員「あぁん?お客さん?」


バタ、ガチャ


即効で閉める。


勇者「………」

魔王「で、どうだったのじゃ?」

勇者「……………多分店違いだ。何故か上半身素っ裸のガチムチマッチョな外国人が料理運んでた」

銀狼「いや、ここで合ってるだろう。ほら、その看板」


看板「高級焼き肉屋 新日暮里」


勇者「…どういうことなの」

魔王「早く入るのじゃ。肉ぅ♪」ワサワサ

銀狼「ほらほら、焦らしてくれるな少年」ワサワサ


二人に押され、嫌な予感ビンビンなまま店内に入る。


上半身裸な店員が迎えてくれる。


店員「お勧めはホイホイチャーハンだよ」

勇者「じゃあ俺はそれとこのダーク♂フランクフルトってので、こいつらにはこの一番高い肉料理を一つずつ」

食後


勇者「普通に美味しかったのが何かムカつく…」

店員「あぁんお客さんもうお会計?仕方ないね」


筋肉を美しく魅せるポーズはいいから早くしろ

とっとと(けして安くない)金を払って足早に店を出る。


魔王「あー妾は満足なのじゃ」ワサワサ


良かったですね。そんなに尻尾が喜んでいるんですもの、そりゃ美味しかったんでしょうね


銀狼「私もだよ、ありがとうな。少年♪」ワサワサ


ま、こいつらの笑顔を見れるならいいか


勇者「あ、そうだ。俺は酒場に行って情報収集とかしたりして来るからお前ら先に宿取っといてくれよ」

魔王「宿ってどこのなのじゃ?」

勇者「銀行のハゲが言ってたろ?この町にいい宿は一つしかないって。そこでいいよ、部屋は好きにしてくれ。はい地図」


へったくそな手書きの地図を渡す。


銀狼「うむ、承知したぞ少年。一番のスイートルームを取ってくる」ワサワサ

魔王「妾は暖炉のある部屋がいいのじゃ」

銀狼「いや、最新の床暖房という物がついた絨毯の部屋も中々いいぞ」

魔王「いや、暖炉は趣があるし炎の揺らめきが見ていて気持ち良いのじゃ」

銀狼「何を言っている。泊まる部屋に趣など求めてどうする。求めるべきは居心地の良さだろう」

魔王「主こそ何を言っておるのじゃ。求めるべきは雰囲気と趣じゃ」


部屋はあいつらに任せて良かった。俺が決めることになってたらあいつらの意見に板ばさみにされるからな、それは勘弁して欲しい

そして酒場


勇者「やあご主人、ちょっといいかな」

ご主人「お、見ない顔だな。旅の人かい?」

勇者「そうだよ。ところで旅の勇者の話って知ってるかな?」

ご主人「あ、聞いた聞いた。最近この世界を救った勇者様が、今の世界の情勢を実際に自分の目で確かめるために世界中回っているってあれだろ?」


こんなとこまで噂として広まっているんだな。合っているような間違っているような…まぁいいかそれも兼ねているし


勇者「実はね、俺がその勇者なんだ。」


勇者の証である"始まりの勇者"の印を見せる。どうやら初代勇者の家の家紋らしい。何を意味しているかは知らないけど

そして俺を勇者と認めた王様の調印も見せる。


ご主人「こいつは驚いた。いやあ、本当にあんたのおかげで、俺たちもそれほど魔物にびくびくしなくてもすむようになって感謝してんだぜ」

勇者「それは良かったよ。頑張った甲斐があったってもんだな」

ご主人「いやはやありがたいもんだな、感謝の証にこの酒は奢りだ。ところで、その勇者様がこの酒場に何のようで?」


気前良く奢ってくれる。


勇者「それなんだがさっきあんたも言ったが今の世界の情勢を確かめたくてな」


そういうことにしたほうが情報も集めやすいだろうな。


勇者「最近の旅人の間で交わされてる情報は何だ?噂程度の物でもいいから色々知りたいんだ。」

ご主人「なるほどな、それならここの酒場を選んだあんたは正解だぜ。この町に来る奴は旅人だろうが移住者だろうが皆ここで情報交換していくからな」

勇者「それは運がいいな」


まぁ、ほとんどの町の酒場はそのためにあるようなもんだし、この町で見たところここが一番大きい酒場だしな


ご主人「おい皆、この勇者様が情報提供してもらいたいってよ。」


ご主人が酒場にいる皆に声をかける。


モブK「勇者ってマジかよ!」

モブI「すげーこんな若かったのか、俺ぁてっきり髭を生やした貫禄のある爺さんかと思ってたぜ」

モブT「中々良い剣しょってんじゃん。一度手合わせしてもらいてえなぁ」

モブU「やめとけよ、おめえじゃ叶わねえって。せめて俺に勝手から言いな」

モブN「俺の"冥王より与えられし第三の目(サードアイオブハデス)"が反応しているだと…こいつ、俺と同じ時の神の運命(さだめ)を!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

モブE「情報と言えるかどうか知らねえが、噂程度でいいなら沢山あるぜ」

モブM「信憑性は保障しないけどな」

モブI「その代わり勇者様も旅の話してくださいよ?」


すぐに囲まれて話の中心となる。これで皆女だったら最良のハーレムだったのになぁ、残念

ってか一人ジョジョ立ちしている厨二病が混じっているんだけど…


モブM「狐面の妖怪は強烈だよな」

勇者「狐面!?」

狐面と聞いてあいつが思い浮かんだ…

狐のお面をつけた顔、見知らぬ文字で埋め尽くされた死衣、そして奇妙な力と人間からは逸脱した雰囲気

詳しくは


勇者「その話詳しく聞いてもいいか?」


噂でも良い、あいつに関する情報が欲しかった。情報とは何にも勝る剣だ、例えばの話、弱点を知っているだけで状況がぐっと有利に傾く


モブI「あぁ、最近色々な町で流れているある種怪談のようなもんだよ」

モブL「なんでも狐のお面を付けた死人が人を殺して周っているそうなんだ」


死人?あぁ、服装のことか。それにしてもあいつは何が目的で人を襲っているんだろうか


モブO「目撃者の話によれば狐のお面をかぶり、死に装束を着た奴らしい」

勇者「目撃者って、そいつ生きて帰れたのかよ。」


驚いた。あいつは一度目を付けた獲物は逃がさなそうなイメージだったが


モブV「いや、遠くから偶然見てしまったらしいんだがこっからが妙なんだよ。」

勇者「へぇ?」


もはや本当に怪談のテンションで話し始めた酒場の連中


モブE「なんと、食べるんだよ。人間の死体を」


な、なんだってー


モブS「戦って」

モブE「殺して」

モブX「食っちまうんだ。怖いだろぉ?」

勇者「ででで、でも、どうせ噂だろ?」


そうだ、噂は一人歩きするものだ。あの狐面は実在してても噂が全部本当だという証拠はない。


モブS「そうでもないぜ?それを見た奴は何人もいるんだ。」

モブI「中には実際に襲われて食われるところを目の前で見たけど命からがら逃げ延びた。なんて話もある。」

モブT「ちなみにどうやって逃げ延びたかというとだ。」

モブA「お面を割れば良いらしい。狐のお面をどうにかして割る、そうすれば逃げるらしい」


そうだ、そう言えばあの時確かに覇王の剣で狐面のお面を割った。完全に割ったわけではなく穴を開けた程度だがそれでもあいつは逃げるように退散した。


モブI「あとここからは噂だがあいつが人を食うのはそうすることで食った人間の魔力を取り込んでいるとか力を取り込んでいるんだとか」

モブO「どの道推測じゃねえかww」

ダイジェストその2


モブZ「そういえば最近ファントムが増えてきたなぁ」

勇者「ファントム?」

モブI「あれ、勇者さん知らねえの?」

モブT「ファントムってのは最近現れた化け物のことでな」

モブU「魔物とも妖怪とも違う」

モブH「かといって聖獣とも神獣とも違うしもちろん人間でも普通の動物でもない。」

モブA「つまり今までにはいなかった全く別の生物なんだよ。」

モブI「その化け物どもは一体として同じ形をしてない、それどころか恐ろしい程に異形な外見をしているんだ。」

勇者「異形?どんな感じ?」

モブT「俺が見たときは色々な生物が無理やりくっ付けられ、固められたように見えた。あれが一個の生物なんて信じられない、そう思う程に混沌とした見た目だよ」


前の街での出来事を思い出す。色々な生物を無理やりくっ付けたような化け物…あの兄妹の作ったやつだろうか

再び怒りが沸々と沸いてくる。

あんないたいけな子供たちにあんなことを強要させた許せない"魔女"


モブI「俺が見たのは影みたいな奴だったな一ヶ所しか攻撃が通じなくてよ、倒すのは諦めて逃げ出したね」


影みたいな…ニャルラトホテプか?あいつ、俺以外にも標的がいたのか?それとも違うのか?


モブW「俺はものすごく太った人間みたいなのに襲われたよ。歩いているのが不思議な程に太ってやがるのにすごい早さで走って追いかけてくるんだぜ?怖いとかもうそういう次元じゃねえよ」


なんじゃそりゃ


勇者「ところで、ファントムって全部姿かたち違うんだろ?なのに全部『ファントム』で一括りにしちまうの?」

モブA「あいつらはな、見分ける方法があるんだよ。つまり他の生物には無い特徴だ。」

勇者「他の生物には無い特徴なぁ、どんなの?」

モブK「匂いだ。あいつらは総じて匂う。すっごく臭いんだ、ラフレシアですら枯れそうなほどに臭い。」


そういえばあの化け物もニャルラトホテプも戦っているときには必死で気にならなかったが匂いがしているたような…


モブE「そしてもう一つ、殺すと消えるんだ」

勇者「は?」


意味分からん


モブM「お前説明下手だな、あいつらは倒して動かなくなると煙のように消えちまうんだよ。蒸発したりしてな」

モブO「正体不明で見る度に別々の形をしていて倒したら煙になって消えちまう。そんな特徴からあいつらは"幻影(ファントム)"ってよばれてんのさ」

モブN「そしてこっからが一番妙なんだ。生け捕りに成功して研究したんだが、あいつらは主に魔力で形成されていたんだ」

モブA「そうそう、不思議だろう?今までの魔法とは全然違うやり方で、しかも術解除の呪文も効かねえふうに作られてんだ。作ったのは魔物か人間か」

モブA「もしくは、空気中に溢れた魔力によって自然形成されたとかな。あくまで一説だけど」

ダイジェスト3


勇者「ところで最近掘り起こされた古代遺跡群について聞きたいんだけど」

モブD「84」

勇者「へ?」

モブA「古代遺跡群の数だよ。繋がっている遺跡は1と数えて個々の遺跡の数はざっと84」

勇者「84…それって広いのか?」


一つ一つが広かったら何日かかるんだ


モブT「ピンきりだけどどれもけっこう広いぜ」

モブT「全部隅々調べるんだったらここに移住するつもりじゃなきゃな」

モブA「下手したら十数年とかかかるもんなぁ」


何それ怖い


モブR「もしかして勇者さんってここに来た目的それ?」

勇者「あぁ、一番の目的はそこだが」

モブI「悪いことは言わないよ。止めときな」

勇者「何故?」

モブS「中には危険な遺跡もあるんだよ。」

勇者「俺は勇者だぜ?ちょっとやそっとじゃどうってことねぇっての」

モブU「それでも危険だよ。遺跡の一部には呪いが充満しているところもあるんだから」

モブR「何人もの調査隊メンバーが行方不明ってな、まぁそれを話したところで足を止めるつもりはないだろう?」

勇者「当たり前だな、危険なんていくつも掻い潜ってきているさ」キリッ

モブU「そりゃいい、無事帰ってきたらお祝いしてやるよ。ただし宝はよこせ」

勇者「ふざけんな」

宿屋にて


勇者「中々良い部屋だが…内装おかしくね?」


魔王たちを向かわせた宿に行き、泊まっている部屋をご主人に聞いて行くと…なんというかカオスな部屋だった

暖炉あり、大きな窓あり、そこまではいいよ。でもシャンデリアはねーよ、暖炉とシャンデリアは合わねーよ

そして微塵もバランスを考えず適当な配置でかけられた大量の絵画

あと大量の装飾品…インテリアのつもりだろうがおもいっきり間違ってるよ、そのチョイス


魔王「一番良い部屋と言ったらここに通されたのじゃ。」

銀狼「別に内装が悪くても居心地の良さは変わらないよ少年」


そうかもしれないけどさ…まぁいいや


魔王「で、何か面白い情報は見つかったのかや?」

勇者「まあね」


ダイジェストで説明


魔王「…狐面にファントムかや、前者には出来ればもう会いたくないのじゃ。」

勇者「それはフラグだろ…」

銀狼「それはともかく、少年が目指す遺跡と言うのは84の内どれか目星はついているのかい?」

勇者「んにゃまったくだ。さて、どうしたものかな」


魔王「くふ、妾に良い考えがあるのじゃ」

外、町外れ


魔王「さて、ここらへんでちょうどいいのじゃ」

勇者「何が始まるんです?」


目の前で魔王が黒い水晶玉のような物を取り出す。


銀狼「魔法の水晶かい?」

魔王「まあそのようなものなのじゃ。」


魔王「おい化け猫、用があるのじゃ。ちょっと来い、なのじゃ」


「はーい、なのですー♪」


地面に大きな影が落ち、空から女の子の声がする


「勇者ちゃーん、ひっさしぶりー」


勇者「この声、闇夜の魔女!?」

闇夜の魔女「勇者ちゃん受け止めてなのですー♪」

勇者「え?ええぇぇぇえ!!?」


空に空いた漆黒の闇から現れた闇夜の魔女が"落ちて"来やがりました


勇者「う、受け止めるって素手で!?」

勇者「ぬ、ぬおおぉおぉおおお」


ずさあぁぁぁ


地面を滑りながらもなんとか魔女を受け止めることができた。受け止めるときに抱きしめてスリスリすることも忘れない。


夜の魔女「勇者ちゃんなら受け止めてくれるって信じていましたですよ。会いたかったのですよ、にぱー☆」


大きく笑顔を作る猫耳幼女、ゴスロリ調の服を着た漆黒の髪を持つ幼女、そして魔女として長い年月生きた幼女

闇夜の魔女だ


勇者「俺も会いたかったよ猫又ちゃーん」スリスリ

闇夜の魔女「んにゃー、勇者ちゃんにスリスリされちゃってるのですよー」


いやぁ、猫耳幼女かわいいよ。ボクっ娘かわいいよ

と思ってたらいきなり闇夜の魔女が俺の腕から離れる。


勇者「どうしたの?」

闇夜の魔女「そろそろボクは退避するのです。勇者ちゃんも気を付けてほうがいいのですよ?」


ん?どういうことだ?


そしたら再び声が空から降ってくる。


「お師匠様から離れろー!!」

ゲシッ


勇者「ひでぶっ!!」


空から降ってきた鬼の形相をした少女にキックを喰らいました。

重力加速付きで、顔面に


勇者「ぐああぁぁあああ」ズサアアァァッァアア


蹴られた衝撃で地面を数メートルほど吹っ飛ぶ俺

どういう威力だよ…


闇夜の魔女「というわけでボクと見習いちゃんの登場なのですよー。がおー、出番を増やせー。なのです」

暁の魔女見習い「お師匠様に近づくことは許さないんだよ。ぶっ殺しちゃうよ!!」

勇者「こ、殺される…ギャグ補正がなきゃ死んでた」ゼー、ハー

魔王「鼻の下伸ばしておる主が悪いのじゃ。いっぺん死ねなのじゃ」

勇者「しどい…」

銀狼「少年、私はそんな少年が好きだよ。」

勇者「銀狼、味方はお前だけだ…」


地面に這いつくばった状態で銀狼を見上げる俺


銀狼「そうやって蹴られ、蔑まれ、泣きそうな顔で地面に這いつくばって私を見上げ、縋るような視線を向ける。そんな少年が大好きだよ、虐め倒したくなるよ」

勇者「前言撤回、味方はいなかった!!」

闇夜の魔女「勇者ちゃんかわいそーなのです。ナデナデしてあげるのです。」

勇者「…みじめだ」シクシク


幼女に頭を慰められながら涙を流しました。情けなさすぎる…


闇夜の魔女「で、キツネちゃんがボクを呼んだのはなんの用なのです?」

魔王「うむ、本来なら主に頼るなど不本意なのじゃが…」

闇夜の魔女「キツネちゃんはツンデレなのです。本当はボクに会いたくで呼んだのです♪」

魔王「んなわけあるかや!黙って聞けなのじゃ!!」

魔王「主よ、主はここの遺跡を調べろといったじゃろう?多すぎて分からないのじゃがどれを調べればいいのじゃ?」

闇夜の魔女「一番奥の丸々地下にある遺跡なのです。楽しいですよ♪」

魔王「楽しむななのじゃ!!まぁ良いのじゃ、用は終わったからとっとと帰れなのじゃ」

闇夜の魔女「酷いのですキツネちゃん、キツネちゃんが呼んだのにすぐに帰れなんて酷いのです。」

魔王「主が勝手に来たんじゃろうが!というかわざわざ来なくともこの水晶球で会話出来たじゃろうが!!」

闇夜の魔女「それでは出番が少ないのです!ボクは出番が欲しかったのです!!」

暁の魔女見習い「そうだよ、お師匠様の出番が少ないのはおかしいんだよ!もっと増やすべきだよ!!」

魔王「ふん、主らなど一生サブキャラで十分なのじゃ!」ドヤァ


魔王が腰に手を当てて虚しい胸を張ってドヤ顔で威張る。


暁の魔女見習い「お師匠様、これ殺していい?」

闇夜の魔女「見習いちゃん、キツネちゃんはボクの可愛さに嫉妬しているだけなのですよ。だから唯一ボクに勝っているものを自慢しているだけなのですよ。にぱー☆」

魔王「やっぱりこの猫又殺してやるのじゃー、黙っておったらいい気になりやがってなのじゃー!!」

勇者「どうどう、どっちもどっちだから醜い争いはしない」

魔王「主は黙っておれなのじゃ!」パァン

勇者「なんで!?」


何故か仲裁に入ったらビンタされました。…痛い


勇者「で、出番が欲しいってことは何?今回ついてくるの?」


真っ赤なモミジをホッペにつけて尋ねる。

ヒリヒリする…右の頬を打たれたら左も差し出せとかいう言葉があるけどそんなことすんのはただのドMだけでしょ、だってこんな痛みをもう一辺なんてふざけんなってな気分だよ。


闇夜の魔女「う~ん、ついて行ってもいいけどキツネちゃんが怒りそうなのですよ?」

魔王「当たり前なのじゃ、とっととねぐらに帰れなのじゃ」グルルルル


キツネちゃんが噛み付かんばかりに唸る。威嚇してんだろうなぁ、ワサワサと毛の逆立ったしっぽが揺れる


勇者「いいじゃん、ハーレムメンバーは多いほうがいいしさ」

魔王「ぬ、ぬしの馬鹿ぁっ」バチコーン

勇者「ぬぎゃー」ヒダリノホオニバチコーン


なんで?なんでハーレムルート押しの意見を言っただけでこうなるの!?

結局両頬に真紅のモミジが咲きました(?)


暁の魔女見習い「だめだよ、お師匠様はあたしだけの嫁なんだよ。君には渡せないよ!」

勇者「ダメだ、すべての可愛いケモ耳は俺の嫁でありハーレムメンバーだ!!」

闇夜の魔女「二人ともそんなこと言うとボクが照れちゃうのです。すごく嬉しいけど恥ずかしいのですよ~///」テレテレ

魔王「…」グルルルル

勇者「俺を睨んでどうした?魔王」

魔王「プイッ、なのじゃ」プイッ


そっぽを向かれる。なんだ?なんで拗ねてんだ?このハーレムメンバーは


銀狼「それにしてもすごいモミジだな、大丈夫かい少年?」サスサス

勇者「大丈夫も何も痛いよ…(泣)」


銀狼が頬を撫でてくれる。心無しか笑顔の気がするが…まぁ気のせいということにしとくか


魔王「…」ワサワサ


何か今度は銀狼を睨む魔王。なに?情緒不安定なの?


魔王「主など勝手にすればいいのじゃ!!」

勇者「えぇえぇえええ!?」


まさかのこのセリフ、やばい、そうとう怒ってる。俺何した!?

魔王「主など勝手にハーレムを形成してればいいのじゃ!勝手に!!わたs…妾の、妾の気も知らないでっ!!」バサッ、バサッ

勇者「えぇ?ど、どういうこと?」

魔王「妾は、妾はもう知らぬのじゃ!」


やばい、やばい、何か知らんがなんかやばい


魔王「妾は!」

勇者「魔王!」ギュ

魔王「ひゃぅ!?」


思いっきり魔王を抱きしめる。俺の腕の中で可愛い声が漏れ、顔を真っ赤に染める魔王


勇者「魔王、魔王大好きだ!」

魔王「ぁぅ、あうぅぅ。は…離せぇ///」ワサワサ


離せという割には俺を押しのけようとしている腕に力は無いし、俺を見上げる赤くなった可愛い顔は嫌悪感よりも嬉しさと恥ずかしさの入り交じった表情に見える。

とりあえず幼女の上目遣いの破壊力は異常、しかもそれが狐耳幼女っ狐となると効果は抜群の急所に当たるの会心の一撃並みに威力があるわ。


勇者「魔王大好きだ!このピコピコ動く可愛い狐耳も!ワサワサと揺れるモフモフな毛並みの可愛い尻尾も!赤らんでる可愛い顔も!大好きだ!!」

魔王「うぅ…可愛いを連呼しすぎなのじゃぁ///」ピコピコ、ワサワサ


ちなみにこの間俺の手はずっと魔王のモフモフしっぽをいじっている。いやぁモフモフ気持ちいいなぁ♪


勇者「本当に大好きなんだ。言葉遣いも正確も子供っぽいところも子供な見た目もちっぱいな胸も」

魔王「子供言うななのじゃあ…///」ワサワサ

勇者「大好きだ!お前をずっと手元に置いておきたい、お前の全部が欲しい!!」ギュー


さらに強く抱きしめる。


魔王「ぬ、主よ…///」ワサワサ


魔王がもともと少なかった腕の力を完全に抜いて逆に俺の背中に腕を回して抱きしめ返してくる。

やった、魔王の心を取り戻したぞ!!


闇夜の魔女「イイハナシナノデスー」

暁の魔女見習い「イイハナシカナー?」

その後


闇夜の魔女「じゃあキツネちゃんも充分からかえたし帰るのですよー」

魔王「やっぱり出番よりもそれが目当てだったのじゃな!!」

闇夜の魔女「ボクにとってはキツネちゃんをからかうことが何よりの最優先事項なのです。にぱー☆」

魔王「ムガー!」キシャー


やっぱりこの子は魔王の天敵なんだな、相性的な意味で


銀狼「ところで少年」

勇者「何?」

銀狼「少年が愛しているのはそこの狐だけかい?」ピコピコ


銀狼が明らかに何かを期待している笑顔で問いかける。


勇者「はいはい、こうしてほしいんだろ?…お前も大好きだよ銀狼」ギュー


銀狼も抱きしめる。こっちのモフモフしっぽも手触りが素晴らしいや


銀狼「ふふっ、私も好きだよ少年。」ギュー


こっちは素直だからな、魔王と違って扱いやすくていいなぁ


銀狼「少年、私が好きなら私だけの専属M奴隷になって欲しいな」

勇者「ド却下です。」


前言撤回、こっちもこっちで扱いにくいっす。

あれ?そういえばいつもなら嫉妬してくるはずのキツネちゃんが変におとなしい


勇者「どうした?魔王」


魔王がさっきいた方向を見ると後ろを向いて財布を開けて…財布!?


勇者「魔王、魔王待ったそれ俺の財布!それ俺のお金!!」

魔王「なに、少しばかり慰謝料をいただこうと思っただけじゃ」

勇者「なんで!?どうしてこうなった!?」


その後、散々嬉し恥ずかしなセリフを言わされた上でうまい肉をごちそうすることを約束させられました


魔王「では宿屋に戻って支度をしてから出発しようなのじゃ♪」ワサワサ


無駄にご機嫌な魔王に先導されて宿屋に向かう。


銀狼「ふふっ、よく頑張ったな少年」ナデナデ

勇者「無駄に頑張ったよ、言葉の語彙力を上げといて良かった」ナデラレ


同じセリフばっかり言ってたら怒られたし、いろんな口説き文句考案しといてよかった。


魔王「あ、ところで主よ。」

勇者「何?」

魔王「さっきどさくさに紛れて妾のこれをちっぱいと言ったの」ポヨン


決してプルンとはならない胸を叩いてそう言う魔王


魔王「」ニコオオォォォ


やばい、すごい笑顔だけど目が全然笑っていない!


勇者「い、いやAの強ぐらいはあるんじゃない?」

魔王「」ニコォ

勇者「い、いやBはあるかな?」

魔王「ふぅむ」ワサワサ


こ奴どうしてやろうかってな視線で見られる。ヤバい、尻尾が怒ってる


勇者「すいません、正直に言うとCですね。ごめんなさい」


土下座である。


魔王「怒って良いかや?妾はEなのじゃ」

勇者「E?バカ言えお前のはどー見てもCより上はありえねーだろが」プギャハハハ

魔王「な、な…これはサイズの大きな服のせいで膨らみが小さく見えるだけなのじゃ」

勇者「へー、そうは見えないけどなぁ」


魔王「む、胸を凝視するななのじゃ!」バッ

勇者「おい、隠すな…ふぅん、よく分からないなぁ」


どれだけ凝視してもよく分からない。そこに


銀狼「見て分からなきゃ触って確かめるしかないじゃないか。行ってこい、少年♪」ドン

勇者「うわっ。たったった…」


後ろから叩くようにして銀狼に押される。


勇者「何すんだよ銀狼!」ポフ

勇者「って、ポフ?」


よろけてぶつかった先、俺の手が触れているのは…柔らかくて妙に手にフィットする形と大きさの"それ"


勇者「ゴクリ…こ、これは……」モニュ

魔王「な、な、な、な、なぁ///」

勇者「…」モミモミ


何だろう、この揉んでて気持ち良い脹らみは?小型のスライムかな?


魔王「んっ…ぁぅ、にゃっ、ぬ、主よ。そ、そろそろ、ひゃぅっ///」

勇者「うん、気持ち良いなぁ」モミモミ

魔王「あっ、ダメ…」

しかしまだ手は放せないな、何か上から声が降って来たけど聞こえないな。首も上がらない。

きっと呪いだ。呪いで手が止まらなくて首も動かないんだ。

…只今幸せの絶頂です。


魔王「…うぅ、そろそろいい加減に放せなのじゃ!///」


ドッカーン!!!!!!


勇者「ピギャー」フットビー


ドサッ


魔王のゼロ距離膝蹴りを顎に食らい、数メートルはぶっ飛ぶ

さすが怪力系幼女…ゲフ

チーン


魔王「あいむ、うぃなー。なのじゃ」


一人何かの勝負の勝利の余韻に浸る魔王とは逆に俺の頭を撫でる銀狼


銀狼「面白いショーだったよ少年」

勇者「…そうですか、そりゃ良かったね。ところで俺のリュックから魔法の特薬草取ってくんない?顎割れたかも」


え?いやケツアゴになったとかそういう意味じゃないよ。骨だよ骨

いやいや、骨格からケツアゴってどういう状況だよ。


銀狼「はい少年、薬草だよ…いや、私が塗ってやろう。」ワサワサ

勇者「ん?じゃあ頼むわ。」

銀狼「うむ、おとなしくしていろよ少年」ワサワサ


アゴを撫でるように薬を塗る銀狼…ってアゴ撫でたかっただけか?いやもちろん嬉しいがね!


銀狼「で、どうだったんだい?少年」

勇者「何が?」

銀狼「狐の胸は」

勇者「確かに見た目よりはあった。しかしCより上とは言えないな」

魔王「ほぉ…?」ゴゴゴゴゴゴゴ


し、しまった!いつの間に後ろに!?


魔王「妾の…その、えとぁぅ…胸…をさんざん弄んでおいて…その言葉は喧嘩を売ってんのかや?」

勇者「いや、ち、違う…いや、ちょ、待って、冷静に、冷静になって話し合いを…」

魔王「問答無用なのじゃああああああ」


~人々を導いた勇気ある少年、ここに眠る~


魔王「まさか、まさか主がこんなあっけなく死んでしまうなんて…もう、もう、妾に話しかけてはくれぬのじゃな」

銀狼「人はいつか死ぬ…少年は私たちよりそれが早かっただけさ」

魔王「これで、妾たちの冒険は終わりなんじゃな…」

銀狼「…」


勇者「って、勝手に殺すなああぁぁぁぁぁぁあああ」


なんだこのテンション、なんだこの空気、最終回かよ。しかも主人公死亡エンドの


銀狼「無茶しやがって…」

勇者「何がだよ!!遠い空を見上げんな!そこに俺いねえから!!」


こいつらはなんで俺を殺したがるんでしょうか?(泣)

~人々を導いた勇気ある少年、ここに眠る~


魔王「まさか、まさか主がこんなあっけなく死んでしまうなんて…もう、もう、妾に話しかけてはくれぬのじゃな」

銀狼「人はいつか死ぬ…少年は私たちよりそれが早かっただけさ」

魔王「これで、妾たちの冒険は終わりなんじゃな…」

銀狼「…」


勇者「って、勝手に殺すなああぁぁぁぁぁぁあああ」


なんだこのテンション、なんだこの空気、最終回かよ。しかも主人公死亡エンドの


銀狼「無茶しやがって…」

勇者「何がだよ!!遠い空を見上げんな!そこに俺いねえから!!」


こいつらはなんで俺を殺したがるんでしょうか?(泣)

その後、町から出て少ししたところにある遺跡群にたどり着いた。


勇者「なんじゃこりゃ…」


異様な光景だった。ピラミッドがあったり神殿があったり動物の像や人間型の神の像があるのはまだわかる。

しかし


銀狼「エジプト、マヤ、アステカ、仏教、神道、ギリシャ、色々あるな」


色々な神話や宗教や古代文明の産物があるのだ。

まるでここにすべての神話、宗教が集まっていたかのように


勇者「沢山の宗派の人間が前の宗派が廃れるごとに次々作っていったとかかな?」

魔王「妾は神話も宗教も知らぬのじゃ」


何故かさっきからご機嫌斜めなキツネちゃんだった。


勇者「魔王、好きだよ。」ギュー

魔王「ひゃぁ!?///」


とりあえず抱きしめてみた。可愛らしい声がした。


勇者「もふもふだぁー♪」

魔王「ぬ、主よ…///」


本当にこのしっぽは手触りがいいな


魔王「離せなのじゃ!!///」ドガッ

勇者「あべしっ」


あっれー?おかしいなぁ、嫉妬して機嫌悪くなってただけだと思ったのになぁ。


銀狼「少年のやり方じゃそうなるのもしょうがないよ。」

勇者「そうなの?」

銀狼「やるなら抱きついていきなりキスしながら胸を揉んでみると良い。それで落とせない娘はいないよ。」

勇者「そうか、そうだったのか!良し、試してくる!!」


意気込んで魔王に実行すべく手をワキワキさせながら向かう勇者、その姿はさぞや犯罪者以外の何者にも見えなかったことだろう。


その後、響きわたった悲鳴と鈍い音、何があったかは語らずとも分かるだろう


勇者「銀狼の嘘つきぃぃ」ボロボロ

銀狼「騙される方が悪いよ、少年」ワサワサ

魔王「まったくじゃ、普通に考えてそれで喜ぶ娘がいるわけないじゃろう!このたわけが!!///」


そう言いつつ顔は真っ赤な魔王。やっぱり嬉しかったんだな、うん


銀狼「少年は無駄にポジティブだな、それで嬉しいと思える娘なんているはずないのに」

勇者「誰のせいだこのやろう。」

魔王「信じる主がたわけなんじゃ」

勇者「…ゴホン、ところでどの遺跡に入ればいいんだ?」

魔王「ふむ、ちょっと待っていろなのじゃ」


魔王が荷物をまさぐり、黒い水晶球を取り出す。


勇者「それは?」

魔王「あの化け猫が置いてった魔力を込めた水晶球じゃ。これでどこに行けばよいかわかるはずなのじゃ」


その黒い水晶球からは同じく真っ黒な光が一直線に伸び、ひとつの遺跡を指していた。


魔王「ここじゃな」

勇者「そうか、良し。ちょっくら行ってくっか」


意気揚々と遺跡に入ろうとしたとき


ゾワッ


勇者「!?」


身体中が震えるほどに強烈な殺気を感じた


銀狼「少年、早く来なよー」

魔王「あのヘタレのことじゃ、どうせ怖いのじゃろう」


とっとと俺を置いて入っていった薄情な奴らの声が聞こえる。あいつらは遺跡に入ったから気付かなかったのか?それとも俺の勘違い?

でも、確かに感じた


勇者「まさか、来ているのか…?あいつが…」


この感覚は…あいつの、狐面のものだ。







ある遺跡の中にて


狐面「奴は…必ずここに現れるはずだ。こんどこそ。こんどこそ必ず殺してやる。」


怒りに身を震わせ、狂気に包まれし人ならざるものが動いていた

予告


「時は満ちた。」


それは度々人間の歴史に介入し、人々を導いてきた悠久を生きる存在


「これより忌々しき秩序は滅び去り、原初より存在せし混沌のみが世界を覆い尽くそう」


しかし此度は


「さぁ始めよう、ラグナロクを」


全てを混沌たる原初の姿へ還そう


「ネクロノミコン、全宇宙の秘密を内包せし超容量記憶領域です」


遺跡の奥で勇者が目にしたものは人間が踏み込んではならぬ禁断の領域


「破壊の限りを尽くす邪悪なる神も存在するのです」


正気の世界から隔離され、隠匿された大いなる者どもの秘密


そして


勇者「なんでてめぇがここにいる…」


勇者の前に強大なる敵が立ちはだかる


ニャルラトホテプ「やはりここで消しておくべきだな」

狐面「何百年とこの時を待ちわびたぞ」


世界を揺るがすほどにの大きな命運を背負った少年の物語は


ニャルラトホテプ「どこまでも足掻け、吼えろ、神に抗ってみせろ。人間!!」


新たなる局面へ、突入する。



「世界に平穏を。マスターの願い、あなたに託しましたよ。勇者」



時を越えた願いを継ぎ、邪悪なる神々に立ち向かえ

第二部「邪神再臨編」

始動

勇者「考えても無駄か」


奴が本当にここにいたとしても俺が目的かは分からないし、とっとと遺跡の中に入ろう


魔王「なんじゃヘタレ、怖気付いたのではなかったのかや?」


追いついて早々そんなことを言われた。


勇者「誰がヘタレだ、気になることがあっただけだっつーの」

銀狼「そうかな、本当は怖かったんじゃないのかい?少年」

魔王「ぬ、主よ…こ、怖いのであれば…その、妾の手を…」

勇者「だー!!怖くねーっつってんだろが!」

魔王「…」

銀狼「少年は本当に残念だなぁ」

勇者「えっ!?俺なんかした!?」

魔王「…死ね、なのじゃ」

勇者「ガーン」OTL


ゆうしゃのせいしんに890のダメージ


なんだ!?今度はどの発言が行けなかったって言うんだ、くそ!


………


少し進むと大きな扉が見えた。俺の背の優に二倍はあろうかという巨大な扉


銀狼「んっ…ふぅ、開かないな。かなり重いよ、どうする?」


銀狼が力を入れて押してみるが、全然ぴくりとも動かない。


魔王「ふむ…妾の力でも動かないのじゃ。ところでこの模様はなんなのじゃ?」

勇者「魔法陣かな、見たことのない術式だけど…」


黒く巨大な扉に、乾いた血のような赤黒い塗料で円が書かれており、その中で畝ねる様な幾何学的模様が描かれていた。

見ているだけで不快になるような畝ねる模様、まるで血が乾いた後のような赤黒い塗料で描かれていた。


勇者「どれどれ…」


勇者が扉を押すがぴくりとも動かない。

しかし、扉の模様に触れた途端…


勇者「うおっ」


模様が光り出した。俺は魔力を注ぎ込んだ覚えがない…でも動き出し、完全に開いた。


勇者「…やっぱこれは魔法陣だったか。俺の何に反応したんだろうか?」

銀狼「剣だな、少年の剣だ。」

魔王「今、主の剣が光ったのじゃ」

勇者「…どういうことだ?」


この剣を拾ったのは古代の海底都市ルルイエ、なんだ?この遺跡があそこと関係あるのか?

どの道行くしかないけど


勇者「一本道だな」


どの道もこの道も一本道だった

ものすごく巨大な通路、なんだかおかしな感じだ


魔王「ぬ、主よ。何か、感じぬかや?」

勇者「…ここは魔力で満たされている。今はどこでも使われていない古代の魔術術式で練られた魔法だ」


あの扉の魔方陣がそれを物語っている。


銀狼「それだけじゃないよ少年、だれか、とてつもない強い何者かがこっちにやってくる。」

勇者「…あぁ、そっちか。あいつは遺跡に入る前から俺たちの近くにいたぜ」

魔王「なっ!?」

勇者「気付かなかったか。いや、逆に何でお前は俺にだけ気づかせた?」


勇者「なぁ、狐面!!」


そう言うと狐面が俺たちの前に現れた。


狐面「気づいていたか。鋭くなったものだ。」


勇者「また俺たちと闘りに来たのか?」

狐面「逆だ。お前らを守りに来た。」

勇者「は?」

狐面「勇者、この先に行くな。命と正気を失いたくなければこの先には絶対に行ってはいけない。」

勇者「…何があるんだ?この先には」

狐面「正気の世界から隔離され、隠匿された名状しがたい知識だ。お前のような表の世界に生きる人間の識って(しって)いい物ではない」

魔王「主よ、水晶はこの先を一直線にさしているのじゃが…」

勇者「そうか…悪いな、ここで引くわけにはいかねぇ。それに、気にもなる。裏の世界の知識ってのがな」

狐面「…絶対に来るな!!」


狐面は一言そう言うと消えた。ワープしたか


勇者「…行くぞ」チャキ

魔王「…妾は何か嫌な予感がするのじゃが」

勇者「それでも行くしかねえさ、水晶がこの先を指しているのはお前が言ったことだしな」

魔王「む…まぁそうじゃが」

銀狼「私は少年についていくよ。狐は怖いならここで待っているといい」フッ


銀狼が地味に挑発している


魔王「…誰が怖いものかなのじゃ」

勇者「じゃあ誰も異論はないな。進もう」


進んだ先、開けた空間が待っていた


狐面「…来てしまったか、勇者」


そして、狐面も


勇者「あんな中途半端な忠告で引き返す奴があると思うか?」
                          ネクロノミコン
狐面「…それもそうだな。…なら一つ問う、"死霊秘宝"この名に覚えはあるか?」

勇者「…無い」

狐面「そうか、無いのならお前はまだ正気の世界から足は踏み外してない。そうなる前にここから立ち去れ」


勇者「その忠告に背いたら?」

狐面「その場合はやむ無しだ」

狐面「力尽くでも帰ってもらう」


狐のお面から覗く瞳は、自分の正しさをひたすら信じて行動している者の正義に駆られた眼差しだった


勇者「上等だ。行くぜ、覇王の剣」ス

狐面「…βραχίονας είναι λεπίδα、部分、形態変化」


狐面の腕が巨大な刃に変わる。いいぜ、まずは剣と剣の交わり合う接近戦と行こうじゃねえか


勇者「さぁ、この先にあるものを見せてもらうぜ」

狐面「この先に進んだところで、正気を失うのがオチだ!馬鹿なことはやめろ!!」


カキィイン


互いの刃が交わって音を放つ


勇者「なら、この先に何があるか教えろ!具体的にな」

狐面「ただの知識だ、忌まわしい邪悪そのものの知識。お前のようなふつうの人間が知るべきではない、知る必要もない!」


カキィン


勇者「へ、"勇者"が"普通の人間"だとでも言うか?」

狐面「そういう意味ではない!この先にある知識を知っては光の世界に生きていけなくなるんだ!!」

勇者「残念だったな、俺は物心ついた頃から光から遠ざけられて生きてきたんだ!」


カキィィン


狐面「ぐ、押されて…」


怯んだな、この一瞬で十分だ!!


勇者「くえる りあはすとぅる けえぶるぐとむ ふるぐらとるむり いあいあはすたぁ あいあいはすたぁぅる びぎる いたくぁりむ」



勇者「覇王の剣、モード疾風」

ギュルルル


狐面「ハスターの風の魔法か」

勇者「何を言っているかわからねえが、とりあえずふっとべ、風神烈風!」


ギュオオォオォオ


強大な風の力が狐面の体をなぎ払った


…かのように見えた


狐面「くれおう みあげりな かる くろろ、吸収」


あ、忘れていた

風が吸収される


勇者「ちょ、まっ」


狐面「こりあるく けいか どg…」

勇者「銀狼、今だ!」

銀狼「うjむ、了解したよ少年」

狐面「な、!?」

勇者「騙されたな。こっちは3人いることを忘れていたか?」


狐面が振り向いたときにはもう遅い、狼姿になった銀狼が巨大な爪を振り上げていた


狐面「ぐっ」


勇者「そのまま、そいつを頼んだぜ銀狼」

銀狼「うむ、できるだけ早く終わらせてきなよ少年」


あいつは銀狼に任せて俺は先へ行く、この先にある"知識"とやらを目にするために


狐面「やめろ!行くんじゃない!!」


銀狼「少年の邪魔はさせない、君の相手はこの私だ」

勇者

走る、とっとと魔女が俺に伝えたい、または拾わせたいものを見つけて戻らなきゃ
前方に光のゲートが見えた。ワープゲートか?…罠の可能性もあるが


勇者「あぁもう、一歩道だ。迷っている暇なんかねえっての!」


そのまま何も考えず飛び込む


…そこは、不思議な空間だった。前も後ろも右も左も地平線の先まで何もないただ地面だけある空間

…後ろ振り返っても入ってきた入口がないけどどうやって帰るの?


勇者「しまった、まさか罠だったか!?」


頭の中が真っ白になる


「いえ、ここはあなたの目的地で間違えていませんよ」

勇者「…お前は?」


目の前に少女が現れた。長い水色の髪、赤い瞳…何故かメイド服、の少女

        ネクロノミコン
「私の名は"死霊秘宝"、魔力可動式超容量記憶領域です」

勇者「…魔力可動式、ちょりょうよう・・・なんだって?」

ネクロノミコン「"死霊秘宝"魔力可動式超容量記憶領域、です」

勇者「…長すぎて覚えきれねえや」

ネクロノミコン「別にそこは覚える必要はありません」

勇者「…お前さっき俺の目的を知っているような言い方をしていたけど」

ネクロ「知っています。あなた以上に」

勇者「なら…」

ネクロ「えぇ、教えましょう。この宇宙の秘密、あなたの運命、邪悪なる神々に戦いを挑まなければならないという運命を背負ってしまったあなたに、全てを」

ネクロ「私は魔術によって作られた擬似人格、そして記憶の保管領域です。作りだしたマスターは『アブドゥル・アル・ハザード』という太古の魔導師」


こんな幼女姿にしたところやマスターと呼ばせているところを見るとそのアブドゥルって奴はロリコンのメイド萌えだな(断定)


ネクロ「マスターは後の世のために、後の世に邪悪なる神々が地球に攻めてきたときのために全ての知識を私に託しました。そして私はそれをあなたに教え、託します。どうか、地球を頼みます」

勇者「…邪悪なる神々?」

ネクロ「はい、本来ならば神々は人間などという下等な生き物には興味すら持ちません。ですが、邪悪なる神々だけは違うのです」

ネクロ「邪神、とりわけ彼は人間が恐怖に怯えふためき、逃げ惑い、大混乱を起こすのを見るのが大好きなのです」

勇者「彼って…?」

ネクロ「彼、邪神、這いよる混沌…ニャルラトホテプです」

ネクロ「宇宙の外に住まう法外なる神々、殆どは持っていない"人格"を唯一持っている神であり人を恐怖させ、混乱させるのが趣味のとんでもない醜悪なやつなのです」

ネクロ「最初から話しましょう。まず、アザトースと呼ばれる強大すぎる力を持つ邪神がいました」

ネクロ「アザトースは究極の魔皇と呼ばれる神であり、暴走するエネルギーの集合体です。この神は絶えず変化する恐ろしい姿をしており、その姿を見たものは例外なく発狂するとさえ言われています」

ネクロ「その力を例えるなら、人間で言えばくしゃみをするぐらいの労力も使わずに宇宙全体を吹き飛ばせます」

勇者「え、なにそれこわい」

ネクロ「しかし彼は宇宙の混沌の中心にて退屈に身悶えしながらも大人しく動かずに過ごしているためそれほど脅威ではありません」

ネクロ「ですが、何者かの手によりこの星に召還されてしまった場合。彼は全てを破壊しつくすまで止まらないでしょう。それ故に彼を知っていても神として崇める人間はいません」

ネクロ「彼はあるとき、三つのものを生み出しました。それは"闇"、"霧"、"混沌"、です」

ネクロ「"闇"からは闇を司る女神、邪神シュブ=ニグラトフが、"霧"からは時間と空間を司る邪神、全にして一、一にして全、窮極の門、ヨグ=ソトースが、"混沌"からは這いよる混沌、邪神ニャルラトホテプが生まれました」

ネクロ「取り分け驚異となりうるのがニャルラトホテプです。彼は何ども人間の世界に干渉し、恐るべき知恵や知識を与えて地球を大混乱に導いてきました」

ネクロ「そして、こ度は本気を出して人間を潰しにかかってきます。それを阻止出来るのはあなただけです」

勇者「何故、なぜ俺が…?」

ネクロ「あなたの持っている覇王の剣、それは彼に唯一対抗できる武器なのです。邪神クトゥルフの眠りし遺跡でそれを手にし、認められた時からあなたの運命は決まっていました」

ネクロ「では、これから更に膨大なる知識を直接あなたの脳内に送ります」


ネクロ「しかし、この情報は多過ぎ、また常人には耐えることのできない恐ろしい邪神の知識も含まれております。あなたも脳が耐えられず、死してしまう可能性があります。それでも、望みますか?この星を守るため、愛するものを守るため」


死ぬ可能性がある、か

…愛するものを守るため…

魔王、俺は…


勇者「…上等だ。よこせよ、その情報とやら…死ぬ可能性?結構だ、その可能性を乗り越えてこそ、真に"選ばれし者"だ」

ネクロ「分かりました。これより、私に組み込まれた魔術を使い、あなたの記憶を上書きさせてもらいます」


ネクロ「ご健闘を、お祈りします」

魔王たち


狐面「くそ、どけ!早く行かなければ、手遅れになる前に!!」

魔王「ふん、行かせる訳がないじゃろ?悪いが妾も全力で足止めさせてもらうのじゃ」

銀狼「私たちでも本来の妖獣の姿になれば足止めぐらいなら出来るしね、悪いけど絶対に少年の邪魔はさせないよ」


完全に元の巨大な九尾の狐と白銀の狼という姿になった二人に阻まれる狐面、それは殺せるけど本当にしてもいいものか迷っているようにも見えた


狐面「お前ら、この先に、何があるか、本当にわかってないのか!」

魔王「知らぬのじゃ、でも」

銀狼「私たちは少年についていくだけだよ。茨の道でもね」

狐面「茨の道どころじゃない!!この先に待っているのは恐ろしい知識だ!普通の人間が見たら狂気に飲まれるか、ショックで死んでしまうか、どっちかだ」

魔王「ふん、そうだとしてもあ奴なら大丈夫じゃ。根拠はないがの」

銀狼「そういうことだ。君が心配することじゃあないね」

狐面「くっ、これ以上…」


ゾワッ


狐面「!?」


勇者「うわああぁぁああぁぁああ」

            ・ ・ ・
勇者の声が、いや、叫び声が聞こえた


魔王「主!?」

銀狼「少年!?」


狐面(今の声は、くそ、間に合わなかったのか。いや、それより今の感覚は)


狐面「ついに、現れたな」ギリ


魔王「おっと、あやつのもとには行かせないのじゃ」

狐面「うるさい!私の邪魔をするなあぁぁぁ」ゴォ


強すぎる力が漏れ出して魔王と銀狼をその場に磔にした


魔王「」

銀狼「」


その間に狐面は勇者の声がした通路の奥へと走っていった


魔王&銀狼(『私』…?)

勇者「うわああぁぁああぁぁああ」


頭の中を膨大な量の情報が駆け巡る。処理しきれなくて脳が警鐘を鳴らす

その中には本当に恐ろしい知識があった。世界で一番恐ろしい拷問、生きた人間を使った闇の秘術、邪悪なる神の召喚の方法、窮極の邪神たちは簡単に召喚できてしまうという事実

どれも、恐ろしい知識、恐ろしい量、無意識に悲鳴が上がる


しかし、きぼうはある。奴らに対抗する手段、奴らの情報などが全て、一緒に流れ込んでくる


そして、唐突に切れた


勇者「はぁ…はぁ、終わったのか?」

ネクロ「いえ、まだ半分ですが時間の関係により中断されました」

勇者「時間…?」

ネクロ「…見つかってしまいました。時間切れです。これ以上続けていると敵によってハッキングされる可能性がありました」

ネクロ「世界に平穏を。マスターの願い、あなたに託しましたよ。勇者」

勇者「おい、その言い方じゃまるで」


お前が死ぬみたいだ。そう言おうとした瞬間、彼女は死んだ


バチュン


何かにたたきつぶされた。上から降ってきた何かによって


そのスライム状だった者は少しずつ人に近い形をとり始め


やがて、足は三本で人間のような頭はなく、首が伸びて太い一本の触手になったような感じの"それ"になった、そう一度会ったあいつだ。今度は影ではなく実態で


「またあったな、勇者よ」

勇者「ニャルラト…ホテプ」

ニャルラトホテプ「それにしても驚いたな。アブドゥルアルハザードの奴め、あの書物はすべて消し去ったはずなのにこんな形で残していたとは」

勇者「てめぇ、何しにきた…あの子は」

ニャルラトホテプ「何を怒っている?こ奴はアブドゥルが作り出した魔術の産物だ。最初から生きてなどおらぬわ」


ネクロノミコンの死体を嘲笑う邪神、這いよる混沌


ニャルラトホテプ「それより貴様は自身の心配をしたほうがいいな、こやつからその剣の本来の力の引き出し方は聞いたか?」

勇者「…」

ニャルラトホテプ「どうやら聞いてないみたいだな、しかしあの知識を知ってしまった以上自分で気付くのはすぐそこか」

勇者「なら、俺をここで消しておいたほうがいいんじゃねえのか?」


許さない


ニャルラトホテプ「ほう?我を邪神と知りつつ挑発するか、面白いぞ人間!よろしい、やはり貴様はここで消しておくべきだ!!」

勇者「あぁ、そのとおりだ!来いよ邪神が!!」

ニャルラトホテプ「その勢いや良し!かかって来るがいい、どこまでも足掻け、吼えろ、神に抗ってみせろ。人間!!」

ニャルラトホテプ「我は今まで人間に多大な知恵を与え、文明を与えてきた」

ニャルラトホテプ「しかし、此度は全てを始まりに戻そう。破壊する。破滅へと、混沌へと、全てを、導こう」

ニャルラトホテプ「さぁ人間よ、千なる異形の我、邪神這いよる混沌ニャルラトホテプが相手だ」ォォォ


ニャルラトホテプが天に向かって咆哮を上げる


勇者「まったく、よく喋る神様だな。おい」

勇者「行くぜ、覇王の剣」ダッ


跳躍する。常人離れした早さと跳躍力で一気に距離を詰め、ニャルラトホテプに斬りかかる


ニャルラトホテプ「神に軽々しく触れられると思ったか?思い上がるな、人間!」

勇者「なっ」


触手なように赤黒いヌメヌメした奴の腕が伸びて俺を逆方向にぶっ飛ばす


ニャルラトホテプ「どうした?このままでは我に触れることすら出来ずに死ぬぞ、我も一歩も動くことなく勝ててしまうとつまらない」

勇者「…」


どうする、どうする、斬りかかっても吹っ飛ばされる。

なら魔法だ


勇者「人間の知恵をなめんじゃねえぞ!」

ニャルラトホテプ「ほう?何を見せてくれると言うのだ?」

勇者「食らえ、超級爆発呪文!!」


ドカーン


最大級を超える究極の爆発がニャルラトホテプを包み込む

やったか?


ニャルラトホテプ「効くと思ったか?我に、人間の、魔法が、効くと、思ったのかああああ?」


無傷だった、無傷


勇者「な…」

ニャルラトホテプ「人間が使う"魔法"とは本来我らが使っていたものの下位互換に過ぎぬ。全ての魔法の大元である魔術は元々我ら神々が使っていたものだ」

勇者「なんだと?」

ニャルラトホテプ「我らが使う魔術を人間は"神術"と呼んでいるそうだがそれが本当の"魔法"だと気づかない人間の方が多いというのは嘆かわしいものだ」

ニャルラトホテプ「魔術とは愚かしい我が主、邪神、魔皇アザトースより漏れ出したエネルギーをもって発動させるもの。人間共はそれを少量…今まで使われた量を合わせても砂粒ひとつにも満たない程の少量を盗みとっているだけに過ぎない」

勇者「…解説乙」

ニャルラトホテプ「そう茶化でない、我は今気分がいいのだ。さぁ、本物の魔術、貴様に見せてやろう」


ゴゴゴゴゴゴ


地面が揺れる


勇者「やべっ、下か!」

ニャルラトホテプ「見よ、これが神の魔術、本物の爆発呪文だ!!」


ドガーン

足元が爆発する、逃げようとするも成す術なく吹き飛ばされる


勇者「く、魔法反射呪文」

ニャルラトホテプ「人間の魔法如きで我の魔術を跳ね返せるとでも思ったか?出来る訳がないだろう!!」


その言葉通り、地で、空で、絶えず起こる爆発は防げずにすべて食らってしまう


勇者「かはっ」


ついに、血を吐いた。地面に叩きつけられる


ニャルラトホテプ「やはりこれほど圧倒的だとつまらないな」

勇者「…」

ニャルラトホテプ「良し、少しだけ時間をやろう。その間にその剣の呪文でも唱えてモードを変えてみるが良い」

勇者「…てめぇ、後悔すんじゃねえぞ?」

ニャルラトホテプ「良い、少しぐらい張り合いが欲しいところだ」

勇者「…覇王の剣に封印されし破滅の悪魔よ。俺の呼び声が聞こえるか、貴様を呼ぶこの声を聞き届けよ」

勇者「今の貴様は封印されし獣なり、そして今一度その力を解き放とう」

勇者「我が刃となり従うがいい」


勇者「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ る りえー うが=なぐる ふたぐん いあ いあ くとぅるー いが まぐな いんどぅるむ」


勇者「覇王の剣、モード"覚醒"」


オオォオォオオオ


遠雷のようにどこか遠くで唸る獣の吠え声が聞こえた


勇者「覚悟しやがれ、このやろう!」ダッ


跳躍する。覚醒した覇王の剣の効果で数倍の跳躍力とスピードを出して飛ぶ


ニャルラトホテプ「直線的な攻撃が通用すると思うか?なめるなよ」


ヒュン


触手が唸りを上げて風を斬る


勇者「…もちろんそんなこと思っちゃいねえよ」ヒュ

ニャルラトホテプ「なっ、消えた…?」

勇者「後ろだ!」

ニャルラトホテプ「…なんてな」


ガッ


勇者「!?ぐっ…」


後ろから攻撃にかかったというのに捕まえられた。

触手がニャルラトホテプの腰あたりから生えてきて勇者を捉えている

ニャルラトホテプは前を向いたままだというのに


ニャルラトホテプ「我は神だぞ?後ろくらい元々見えているわ」

勇者「くっ、力が…強すぎる」


覚醒した覇王の剣のおかげで力が増しているはず、なのにいくら力をいれても触手を振りほどけない。それどころか徐々に締め付けが強くなる一方


ニャルラトホテプ「元々ここで殺すつもりだ。お遊びはここまでにしよう、やりがいも無く面白味も無かったがな」


グググ


更に力を入れられる。腹が、潰れそうだ。いや、潰されるのだろう


勇者「…死ぬ…のか?」

ニャルラトホテプ「あぁ、貴様は死ぬ。神である我の手によってな、光栄に思えよ人間」

勇者「…いや、希望なら一つだけあるよ。淡い希望だがな」


本来人頼みは嫌いな方だが神頼みの神がこれじゃ藁にも縋る思いで人に頼むしかねえ、来る可能性はゼロに等しいがな


ニャルラトホテプ「ほう、ではその淡い希望とやらが来る前に貴様を殺してしまうか」


しまった、余計なこと言うんじゃなかった


「ようやく現れたなニャルラトホテプ!!」


声が響いた、何かを被っているようにくぐもった声が

そう、お面をかぶったあいつの声だ


狐面「まず、そいつを離せ!」


ザシュ


刀に変形した腕で俺とニャルラトホテプを繋ぐ触手を断ち切り、ニャルラトホテプを睨みつける狐面


勇者「まさか、本当に助けに来るとは思わなかったよ」

狐面「ついでだ。今だけは、『敵の敵は味方』ということで助けてやる。代わりに手を出すな、絶対だ」

勇者「…あいつか?」

狐面「あぁ、這いよる混沌、邪神ニャルラトホテプ…俺の家族の仇だ」


ニャルラトホテプ「く、くくく…仇討ちだと?素晴らしき家族愛だな、既に人間の身を捨てた身だというのに」

ニャルラトホテプ「しかし、なぜ貴様がここにいる。どうやって、我を見つけ出した?」

狐面「お前を追ってきた。便利なもんでな、お前に貰った呪いのおかげだよ。全身が疼く、特にお面の下がお前に反応するんだよ。だから、容易に現れる場所と時間が分かった」


狐面「何百年、いや、もはや何千年とこの時を待ちわびた。這いよる混沌ニャルラトホテプ、今すぐここで殺してやる!!」


勇者「何千年…?」

ニャルラトホテプ「人間、共闘を頼む以上貴様の素性を教えるのが礼儀というものではないのかな?我に、いつ、どんな、ことをされたかを、そして貴様の罪を」

狐面「黙れ!絶対に殺してやる、今度こそ逃げるなよ邪神!!」

ニャルラトホテプ「くくく、ならば我が教えてやろうこ奴の罪をな」

狐面が刀に変化した腕で切りかかるも触手に阻まれる

ニャルラトホテプは余裕そうだ


狐面「異能力"刀山剣樹"」


ニャルラトホテプ「おっと、そんな分かりやすい攻撃を仕掛けてくるなよ」


飛び退いたニャルラトホテプの足元から大量の針が伸びてくるが寸での所で交わされる

            シューティング
狐面「かかったな、"空中狙い撃ち"」


これも異能力なのか空中に飛んだニャルラトホテプを囲むように針が出現して全方位から串刺しにする


ニャルラトホテプ「ぐ…これほど多くの能力を何故」

狐面「お前がかけた呪い、不死身の呪いと人を食らわないと形を保てない呪い。これらのおかげだ」

ニャルラトホテプ「…正しくは定期的に人を食らわねば塵になってしまう呪いだ。しかし意識は保たれたままだ、意識はあれど動くことも喋ることも、眠ることも死ぬこともできない。狂うことすらな」

勇者「な…」


絶句する。なんて恐ろしい呪いをかけるんだ、何もできずにただぼーっと過ごしているだけなんて…終わりすらなく、死ぬことすら狂って正気を失うことすらできないのか


狐面「…同族である人間を食らい続けなければならない苦しみがお前に分かるか?でも、それも今日で終わりだ。ニャルラトホテプ、お前は一つだけ失敗を犯した。なんだと思う?」

ニャルラトホテプ「…」

狐面「そうか、なら教えてやる。人間は、成長する生き物だ。お前が与えた不死身の体、何千年の時をどう過ごしたと思う?お前を殺すためだけに、体を鍛え、異能の力を身に付けた」

狐面「俺の"唯一"得た異能力、その名は"人身御供"人間を生贄として自らの中に取り込むことでそいつが持っている能力を使うことができる能力だ」

ニャルラトホテプ「そうか、我の与えた能力を変化させたわけだ。まさか"生命エネルギーの吸収"をこのような風に改良するとは、つくづく人間とは面白い生き物だ」


ニャルラトホテプ「しかし、愚かしい。その程度で我と真っ当な戦いを望めると思うとは」


ボロボロとニャルラトホテプに刺さっていた針が全て抜け落ちる。見ると奴の体には穴なんて一つも空いてない、それどころか針は全て先から半分ほどが溶けていた


狐面「…やはり生半可な攻撃じゃ無理か」

ニャルラトホテプ「当たり前だこの我をなんだと思っている」

狐面「ただの家族の仇だよ」

ニャルラトホテプ「ふ、仇討ちだと?大罪人の貴様が何を言う、沢山の同族の命を食らった貴様が」

狐面「…」

ニャルラトホテプ「呪いのせいとはいえ沢山の人間を殺した。街をひとつ滅ぼした。貴様だけが苦しみを背負っていればその犠牲者は幸せに生きていられたのだ」

狐面「だまれ…」

ニャルラトホテプ「そもそも貴様が我の計画を邪魔さえしなければこのような呪いは降りかからずにすんだのだ。我の怒りさえ買わなければな」

狐面「黙れ」

ニャルラトホテプ「そうすれば我の怒りを受けて貴様の家族が殺されることも無かったろうになぁ」

                   オーディンテクノロジー
狐面「黙れえぇぇえぇぇぇ!!異能力"万物創造"」


ニャルラトホテプを狙い打つように大量の砲台が出現する


狐面「発射!撃ち抜け!!」


大量の弾がニャルラトホテプを撃ち抜くため発射される

ニャルラトホテプ「効くわけなかろう!!全て跳ね返してくれるわ!」


その発言を受けたように弾がすべて回れ右してこちらに向かってくる…マジ?

    
狐面「…」

勇者「あぶねぇ!対物理用防御呪文!!」


シールドを貼ったが、狐面はシールドに隠れようともしなかった


勇者「おい、お前も来ないとあれをまともに受けるぞ!」

狐面「…俺はもう生きすぎた。死んでも構わない」

勇者「おい!」

狐面「だが、その前に、その前にせめて奴だけは!!」ダッ


狐面は駆けた。跳ね返ってきた銃弾の雨を避けながらニャルラトホテプに向かって


狐面「兄キの仇!食らえええええ」


慟哭を上げながら突っ込んでゆく狐面


ニャルラトホテプ「ふっ、そんな単調な攻撃が…当た、る?」


ぐさ


ニャルラトホテプの腹から一本の刀身が出ていた。生えているのではなく、貫かれている


ニャルラトホテプ「…分身とは、よくも…」

狐面「…卑怯だとでも言うか?"邪"神のお前が」
                           
ニャルラトホテプ「…くくく、いや、賞賛を送ろう。これをここまで追い込んだのは貴様が初めてだ」

狐面「強がりを言うな、お前の負けだ。見ろ、体が少しずつ蒸発するように消えていっているぞ」

ニャルラトホテプ「くくく、くーはっはっは」


ニャルラトホテプが半分消えかけた体で高笑いをする


ニャルラトホテプ「残念だったな人間、この体は仮のもの。貴様はまだ仇討ちを出来てはいない…」

ニャルラトホテプ「しかし、まだチャンスをくれてやる。時は来たのだ。これより忌々しき秩序は滅び去り、原初より存在せし混沌のみが世界を覆い尽くそう」

狐面「…何のことだ?」

ニャルラトホテプ「前回貴様に邪魔された計画を再び実行に移す。その時は本当の姿で現れよう、その前に我の刺客を放つがそれにやられなければチャンスが得られるだろう」

ニャルラトホテプ「貴様が生身の我と戦えるチャンスだ」

狐面「…上等だ、計画は絶対に成就させない、お前も必ず殺す」

ニャルラトホテプ「よろしい、ならば、さぁ始めよう我が計画ラグナロクを!」

ニャルラトホテプ「我にたてつけ!どこまでも足掻け!吼えろ!神に抗ってみせろ。人間ども!! 」オォォオオオォオ


ニャルラトホテプはそう吠えながら消えていった。後に残ったものは静寂だけだった

狐面「無駄だとも思うが…一応だ。お前たち、本物のニャルラトホテプを探し出してこい!」


狐面が白装束の中に手を入れて小石を取り出す
          ピュグマリオン
狐面「異能力、"神の奇跡"」


小石が変化した。肥大し、形が少しずつ変わってやがて足みたいな物が生えてきた

全体的に赤黒く波打つ気色の悪い生き物になった小石、そして強い悪臭を放ち始めた


…覚えがあるぞ。この匂い、この気持ち悪い姿


細部は違うが間違いない。この能力は…


勇者「…ヘンゼル、グレーテル」

狐面「…お前もあの兄妹に出会っていたか」

勇者「言ってたよな、お前の能力は…殺して食った奴の能力をパクれるって」

狐面「…わざわざ殺さずとも踊り食いでもいいらしいけどな」


自嘲気味に笑う狐面


勇者「てめえ、あいつらを…あいつらを、どうした」

狐面「…」


狐面「…食った」

勇者「な、何てことを!あいつらは、あいつらはまだ人間…」

狐面「人間が何だ!まだ人間の心を持っていたか!?まだ人間に戻れる方法があったか!?そのどちらも生かしておく理由にはならない!!」

勇者「だからって殺して良いと思ってんのかよ!!」

狐面「違う!お前は見なかったのか!?あいつらの家に刻まれていた文字を!!」

勇者「文字…だと」


あれか?家の壁に書かれていた「Η κατάρα  του  χάους」という短い文章


勇者「…読めなかったよ」

狐面「『混沌の呪い』という意味だ。這いよる混沌ニャルラトホテプ…奴の呪いにかかってしまったからにはああするしか方法が無い」

勇者「違う!あいつさえ倒せば」

狐面「あいつを殺したとしても呪いは未来永劫解けることはない!!」

勇者「な…」

狐面「ニャルラトホテプの呪いは未来永劫持続する。奴の魔術のエネルギーを生み出している存在であるアザトースを駆逐しない限りはな」

勇者「そのてがあるじゃねえか!」

狐面「どの手だ?アザトースは無限に広がる宇宙のどこかにある原初の混沌の最奥にいる。人間が、いや、人間を超えたどんな化け物でも辿り着くことすら叶わないし辿り着いたとして倒す手段は皆無だ」

勇者「そんなのは!」

狐面「やってみなくちゃ分からないと?無駄だ。人間ごときが創世神に敵うものか」

勇者「だからといって殺すのかよ!俺は、俺はいつかあいつらを元に戻す方法を見つけ出すと誓ったんだっ!」

狐面「元に戻すだと?お前は分からなかったのか!あいつらが死にたがってたのを!!殺して欲しいと望んでいたのを!!」

勇者「っ…」

分かっていた。でも、俺は…逃げ出した

殺すのが怖くて、後悔するのが怖くて。生きていたほうが良いことがあると言い聞かして自分をごまかして

あるはずも無い方法が見つかるはずだと無理やり諭して


狐面「あいつらはすでに、罪に耐えきれなくなっていた。自分たちのためだけに沢山の人を不幸にしてあんな子供が耐えられるはずがない」

狐面「しかし、唯一見えた希望の光を追いかけることを諦め切れるハズもない…かと言ってあんな小さな子供たちだ。自殺なんて考えてもそうそうできるはずもない」

男「だから、殺したと…?」

狐面「俺の能力は仮に不死身の呪いをかけられていたとしても完全に"殺す"ことができる。あいつらに引導を渡してやるのは同じくニャルラトホテプの呪いを受けた俺の役目だ」

狐面「勇者、俺は他にも呪いを受けた人間を喰らってきた。その能力と恨み、憎しみ、業、全て背負ってきた。あいつに全てをぶつけるために…」

狐面「お前が同情と言う名のヘタレさで俺のしていることを批判するのは結構だ。だが、俺は俺の信じる正義に従って行動している。その正義さえも否定し、邪魔するというのなら」


狐面「次は、遠慮なく喰らうぞ」

勇者「…俺は、間違えていたのか…?」


狐面が去った後、俺は放心するように虚空に向けて問いかけていた


勇者「…俺の信じる正義、か」

勇者「記憶さえも無いのにな…」


でも、したいことははっきりしている


勇者「魔王を、仲間を守る。世界を守る。…今のところ、そんなところか」


でも、いいのか?あいつらは俺を信じてくれてる。なのに…俺は隠し事をしている





とりあえずあいつらのところに戻ろう


潮時だな、逃げ回るのはやめよう


魔王「主よ!」

銀狼「少年!!」


ガバッ


勇者「のわー!」


魔王たちのところに戻ると、泣くのを堪えていたように見える二人にタックルをかまされ、もとい抱きつかれた


勇者「いてて…何なんだよいったい」

魔王「良かった、良かったのじゃ…主は、正気を失わなかったのじゃな」

勇者「はぁ?正気?」

銀狼「少年、絶対に生きて帰ってくると信じていたよ…」ウルッ

勇者「ちょっと待て、意味分からん。何だこの最終決戦後のテンション!!」

魔王「最終決戦になってもおかしくなかったのじゃ、邪神なぞ危険なものを相手取りおって!」

勇者「…知っていたか」

銀狼「それを聞いて、私たちがどれほど心配したか…」

勇者「…ごめんな、でも、もう大丈夫だ」ナデナデ

魔王&銀狼「///」

勇者「次会ったときは、絶対に潰す…」

勇者「そういえばお前ら何で来なかったんだ?」

魔王「…あ奴に止められての」

勇者「狐面か?お前が人の、しかも敵の言うことを聞くとは…」

銀狼「あんなことを言われれば仕方ないよ」

勇者「あんなこと?」

魔王「…『この先に邪神が現れた。正気の人間が見たら発狂してしまう存在だ、勇者は絶対に俺が連れ戻してくる』と」

勇者「そんなこと信じたのかよ」

銀狼「あれの言葉には説得力があったよ。…私にしたら何故少年が未だに正気を保っているか、そっちの方が不思議でたまらないよ」

勇者「…それはあいつもだろ」

魔王「あやつが言うには既に邪神と対峙し、失うべき正気はとっくに失っているらしいとのことじゃ。今は復讐心だけが体を動かしていると」

勇者「そうか、やっぱりあいつも…」

魔王「主よ?」

勇者「…なぁ、一つだけ言ってなかったことがある。聞いて、くれるか?」

勇者「俺は、あるときを境に記憶が遡れないんだ」


-なんだよ、記憶を取り戻したくなったか?-


うるさい、お前に用事は無い。消えろ


魔王「それは、記憶喪失とかってやつかや?」

勇者「…あぁ、やっぱり、俺はもう正気を失っているのかもな。その代償に記憶を失ったのかも、本当はどんな性格だったかすら…」

勇者「銀狼、お前と会った日、その数日前だ。俺はとある町の前に倒れていた」


そう、あの日


俺は目を覚ますと知らない町の前に倒れていた

記憶はすでに無かった。自分が誰かも知らなかった。何故こんなところで倒れているのか、自分は何者なのか、当時はすごく悩んだ

でも、勇者募集の張り紙を見てすぐにするべきことを悟った

王に会いに行き、勇者になれるかどうかの適性検査を受けた。数世紀に一人、俺は唯一勇者としての完璧な適正が出た人間だった

王は言った。俺が記憶が無いのはあの場、あの時、あのまんま神によって作られたからだと。人間を救うために神が寄越した人間を超えた勇者だと

それから俺は何の疑問も無くそれを信じ、勇者を名乗り、銀狼と出会い、他の仲間と出会い、旅を重ねていった

俺は未だに過去を思い出せない。神云々はもう信じていない、俺は記憶を無くしたただの人間だ


勇者「そんなところだよ…俺の始まりの記憶は」

銀狼「そういうことだったのか、君が"勇者"としか名乗らなかったのは」

勇者「まぁな、本当の名を知らない以上それしか言えなかったし」

魔王「…主は、その記憶を取り戻したいと望んでいるのかや?」

勇者「いや、でも話しておかなきゃと思ってな…」


それに、もうすぐ、何かが起きる気がするんだ。俺の失った記憶に関する何かが

-そうだな、もうすぐだ-

-もうすぐ、てめえは全てを思い出すことになるだろう-

-その時、俺とお前はひとつに戻る-

-そして、世界は壊れるだろう-

-お前が怨んだ-

-俺が憎んだ-

-お前が、俺が、何度も壊したいと願ったこの世界は-


-お前の手によって壊される-

予告


勇者「なんか悲しいBGMが流れそうな場所だな、脳内ループ中だ」


勇者たちが辿り着き、一晩を過ごす場所に選んだ町、そこは


魔王「魔物か人間か、どちらにしろ自然に滅んでいった風には見えないのじゃ」

銀狼「無残だな、徹底的に破壊しつくされた。といった感じだ」


何者かの手によって滅ぼされたであろう古びた廃墟の町


狐面「以外に早い再会だったな」

勇者「…次邪魔したら俺を喰らうんだったな?なんなら今やるか?」


その"人外"と、再度出会う


狐面「…それも一興」


この町で


狐面「この町で昔、俺がまだ人間だった頃お前によく見た人間を見たぞ。勇者、お前は何者だ?」


勇者「…知っている。この町を、知らない記憶で…"知っている"」


狐面と勇者の過去が交差する





勇者「…思い出した。全て」


そして、封印された記憶が蘇る時


勇者「ここは、俺が破壊した町だ」


勇者の心は血に塗れた赤黒い色に染まる


狐面「邪神を殺すにはお前が、その剣に認められたお前が必要だ」


勇者よ。世界を救う英雄となるか


勇者「俺は、この世界を壊す。世界の全てを、何もかも!!」


世界を壊す破壊者となるか

さぁ、選ぶが良い

            いま
過去は、時を超えて現在を変えて行く

その先にあるのは破滅か救済か


第6話「黄昏の過去、暁の記憶、血に塗れた心」

勇者「街には戻らずに先に進もう」

魔王「どこにじゃ?…まさかあの邪神を追いかけるというのでは」

勇者「…その通りだ」

銀狼「どこにいるというんだ。それに、いくら少年でも勝てる見込みがあるというのかい?」

勇者「…」

銀狼「ほらこれだ」

勇者「…水晶」

魔王「?」

勇者「魔女から貰った水晶は?」

魔王「またあ奴に頼るのかや?わっちはあまり嬉しくないのじゃが…」


水晶が光で指し示す方向は、確かにあった。西へと、続いている


勇者「しょうがないだろ。行くぞ」

…数日後


勇者「地図によればこの辺に町があると思ったんだが…」

魔王「あれではないかや?」

勇者「…お、どうやらそのようだな」


岩山に囲まれた土地、その前方にようやく町が見えてきた


銀狼「しかし、人の臭いがしないぞ?」スンスン

勇者「なに?…魔物に見つからないように人の臭いが漏れない結界を貼っている町もあるが」

魔王「どちらにしろ行ってみればわかる筈ではないのかや?」


それもそうか、行けばわかる

勇者「…なるほどな、こういうわけか」


町に着いた。しかしそこは、廃墟の町


魔王「魔物か人間か、どちらにしろ自然に滅んでいった風には見えないのじゃ」

勇者「なんか悲しいBGMが流れそうな場所だな、脳内ループ中だ」

銀狼「無惨だな、徹底的に破壊されている。まるで、恨みを晴らすかのように、相当憎んでいたかのように」


ほとんどの家が崩壊しており、無惨にもバラバラになっている


魔王「どうするのじゃ、主よ?」

勇者「できるだけ崩壊していない家を探そう。雨風凌げればそれでいいさ」

銀狼「少年、ほとんど破壊されているようだがあると思うか?」

勇者「さあな、あったらいいな程度だが」


適当に歩く。どこまで行っても瓦礫の山しか無い


勇者「お、見つかった。あの家なんていいんじゃないか?」


大きな家が見えた。何故かこの家だけは崩壊を免れていた、いや、綺麗すぎるくらいだが


魔王「…しかし主よ、この家から異様な臭いと気配がするのじゃ」

勇者「何?」

銀狼「ただしぼやかされて正確には分らないが、どこかで嗅いだ事のある臭いだよ」

勇者「…まぁそれも入ればわかるさ」

魔王「…言い直すのじゃ。これは残り香じゃ」

勇者「じゃあもういねえのか?」

魔王「今はの」


中も綺麗だった。なぜこの家だけ襲われなかったんだろうか


勇者「まぁいいさ、今日はここに泊まろう。丁度ベッドもあるし」

魔王「…一つしかないのじゃが」

勇者「みんなで寝ればいいじゃない!!」

魔王「な、何で主と一つの寝床に入らねばならぬのじゃ!妾はごめんじゃ」

銀狼「だったら君だけソファーで寝ればいいんじゃないかな?私は少年と一緒に寝るから」

魔王「な、な、な…そ、そんなこと許せるわけ無いのじゃ!!」

銀狼「おや?何故君に許されなければならないんだ?私と少年の勝手だろう?」

魔王「ぐ…」


迷っているのが手にとって見える。尻尾が苦しげに大きく揺れている


銀狼「さぁ、どうするんだい?狐、私は少年と寝るが、君は?ソファーで寝るか一緒に寝るかだよ?」

魔王「一緒に寝るわけ…」

銀狼「くくく、それでは少年は一晩中私のものだな。独り占めして何をしようか」ワサワサ


銀狼の白銀の毛並みがワサワサと楽しげに揺れる

魔王「く…独り占め…されて、たまるか…なのじゃ」

銀狼「だったら?君の口から言うといい」ワサワサ

魔王「ぐ…い、一緒に…」

銀狼「何だって?良く聞こえなかったよ?」ニヤニヤワサワサ

魔王「い、一緒に…寝かせろ」

銀狼「くっくっく、面白かったからいいだろう。楽しかったよ、狐」ワサワサ

魔王「い、いつか殺すのじゃ…」


見てて楽しいなこの二人

結局俺を真ん中に三人で寝た


銀狼「ふふ、少年の体は暖かいなぁ」ギュウ

魔王「こら、主はこやつにあまり近寄るななのじゃ」グルルルル

勇者「幸せすぎて死にそう…」


………


銀狼「」スー、スー

魔王「」クー、クー

勇者「…ダメだ、寝れん」


夜の散歩にでも行ってくるか

二人を起こさないようにゆっくりと抜け出る。二人のしっぽが揺れる

月夜、淡く光る満月が蒼く廃墟の街を照らす

青白い光が包み込むのは崩れた家々


勇者「…人の気配?」


さっきは無かった人間の気配がする…いや、少し違う


勇者「この禍々しい気配…いや、前に会った時と比べたらだいぶ弱いけど…」


でもこの気配は何度か対峙したから分かる。こいつは


勇者「狐面…なのか?」

狐面「…ずいぶん早い再開だな、こっちだ」


狐面の声が俺を導くかのように一方方向から聞こえる

罠かもしれない。だが、この間のような強い殺気はしない

行ってみるか


勇者「…墓場?」


そこは墓場だった。月光に淡く照らされた墓石が立ち並ぶ墓場


狐面「…こんな廃れた町でか、これはまた妙なところで会うな、勇者」

勇者「そうだな。…そういえば、次会ったら俺を喰らうんだったっけ?なんなら今やるか?」

狐面「…それも一興」

6話「暁の過去、黄昏の記憶、血塗れた心」

狐面「お前がしたいと言うなら相手になるぞ」ゴゴゴゴゴ


狐面に禍々しい気配が集中する。…どうやらさっき弱く感じたのは戦闘体勢に入ってなかっただけのことらしい


魔王「主よ!今禍々しい殺気が」

銀狼「無事か、少年!」


銀狼と魔王が狐面の放った殺気を感じたのか飛び起きてやって来た


魔王「な、狐…面」

銀狼「また君か、今度こそ勝たせてもらうよ」


二人が構える。魔王はしっぽを九本全部出し、銀狼は既に両腕が狼のそれになっている


狐面「…やめだ」

勇者「何?」

狐面「やめだ。とてもこんなところで戦う気にはなれない。いや、ここでなくとも当分は殺す気にはなれない」

魔王「主はいったい何を考えておるのじゃ?今更改心した等と戯けたことは言わぬじゃろうな」

銀狼「もしくは私たちに恐れをなしたかい?」


狐面「どちらでもない。俺がここに何をしに来たか、見て分からないか?」

勇者「ん?」


言われてようやく気づく、狐面の左手に握られている花束

それに、狐面の立っている場所、その前には誰かの墓があった


勇者「墓参りか…?」


狐面「あぁ…」


そのくぐもった声は悲しげで勢いも無く、ただただ押し殺したように静かだった


狐面「ここは父と母の眠っている墓だ。そんなところで人を殺めるなど出来るわけがない」

勇者「そうか…すまなかったな」

狐面「いや、いい。…お前ら、泊まるところなどこの廃墟の町には無いだろう。俺の家に招待しよう、必要ならご馳走もある」

魔王「ご馳走あるのかや?」ワサワサ

勇者「飯に反応すんなよ」

銀狼「やれやれ、狐は子供っぽいな」ワサワサ

勇者「お前もな、ご馳走って聞いたとたんしっぽが揺れ出したぞ」

狐面「ここだ」

勇者「やっぱりここか」

狐面「知っていたのか?」

魔王「この廃墟の町で無事な建物などここぐらいではないか。なのじゃ」

狐面「それもそうだな」

銀狼「何故この家だけ襲われなかったんだ?」

狐面「いや、俺が来た時には完全に壊されていた。何が起こったかは分からんがこの家は魔法で復元したにすぎない」

勇者「…いったい何があったんだ。この町で…」

狐面「そのことを知るためにお前らを招待したんだ」ボソッ

勇者「なに?」

狐面「いや、何でもない…今料理を作ってこよう。待っていろ」

狐面「出来たぞ」

魔王「おぉ、旨そうなのじゃ」ワサワサ

銀狼「ふむ、中々だ」ワサワサモグモグ

勇者「お前ら…」


仲間が大食いだと苦労するぜ…


狐面「………なぁ勇者、食べながらでいい。少し、聞いてほしいことがある」

勇者「ん?」

狐面「知っての通り、この町は俺の生まれ故郷であり、この家は俺の生まれ育った家だ。俺はここで優しくて強い、大好きだった兄貴と二人で住んでいた。親は俺が小さかった頃に死んだらしい」

狐面「…ちなみにこれが俺の家族の写真だ」


そう言って棚の上に飾ってあった古めかしい写真を取る


勇者「へー、どれどれ」


その写真の中には穏やかに笑う少年と年の離れた小さな女の子がボーイッシュな笑顔で快活に笑って写っていた

…あれ?今狐面は兄貴って言わなかったか?妹とか言ってないよな?

しかしその写真には兄っぽい人物と妹っぽい人物の二人しか写っていない

この女の子が実は兄でしたなんてオチでもないかぎりそれしか無いだろう…うん、つまりは

勇者「この女の子が、お前…?」

狐面「他に誰がいるんだ」

勇者「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?お前、お、お、お、女!?」

狐面「?…あぁ、こんなお面をしていたら分かるわけないか。…でももう人間じゃないんだ。俺はもうただの化け物だ、性別なんか…あっても何もならない…」ギリ

勇者「狐面…」


だが、一つだけ謎が解けた。男を記憶から消してしまい、記憶しようとしない俺が何でこいつのことは詳しく覚えてられるのか


…こいつも女だったからなんだな


狐面「さて、ここからが本当にお前に聞いてもらいたい話の部分だ」

勇者「…」

狐面「この間、ニャルラトホテプが俺にかけた呪いのことを少し話しただろう?その時の話を少し、詳しく聞いてもらいたい」

勇者「へぇ…」

俺はある時までここで兄貴と二人、幸せに過ごしていた…もう千年以上前になるが


この家が他の町の家とは全く違う作りをしているのに気づいたか?千年以上前の建築様式だからだ


ある時、行方不明者が多数続出し、俺と兄貴はその裏である組織がこの町で暗躍しているのを知った


それはあの邪神ニャルラトホテプを崇拝している邪教の教団、「銀の鍵錬金術教会」と呼ばれる奴らだった


当時の俺たちはバックに何がいるかも知らずにそいつらを倒すことを決め、立ち向かっていってしまった。それが悪夢の始まりになるとも知らずに


俺たちは黒幕である教会の司祭までようやく辿り着き、全てを終わらせられると思っていた


しかし、それは罠だった。俺の家系は代々ニャルラトホテプの邪魔をしてきた家系だったらしい、その血を絶つために誘き出すための罠…そのためだけに奴は大量の死者を出した


まったくもって回りくどく卑怯な奴だ…


奴の教団は俺の目の前で兄貴を八つ裂きにして奴に生贄として捧げやがった…


そして奴は俺に例の呪いをかけた。不死身の呪い、人を食わねば居られない呪い、人を食わねば俺の体は塵になってしまう。意識を残したまま


…さぞ苦しいだろうな、意識はあるのに動くことすらできずに永遠に宙を漂う運命、まだ自分の意思で動けるだけこの姿のほうがマシだ


このお面、狐のお面は呪いの集約と言っても差し支えない代物だ


この狐面は奴の教団が俺に付けた物、ニャルラトホテプの呪いが強い魔力の産物である以上俺の体から漏れる可能性もあるからとそれに蓋をするために作った魔力セーブのお面だ


このお面を外すと…強すぎる魔力を無尽蔵に使うことができる。しかし俺もただじゃ済まないうえに長い間魔力を溜め込んだこの体がどう変貌するか…想像することすら怖いな


無論、壊れてもアウトだ。何が起こるか分らない…一度お前に壊されそうになったがな


奴、ニャルラトホテプは楽しんでいる。ちっぽけな人間である俺が何千年もかけて神に抗うその姿を。勇者、お前もだろうな、予言された勇者が神相手にどこまでやれるのかを


楽しんでいるなら楽しませておくさ、奴がさ迷わせたこの数千年で俺が何を得たか、今度こそ目にもの見せてやる。かつてドリームランドで貴様を破ったランドルフ・カーターの血筋、その末裔を生かしておいたことを後悔させてやる


…すまない、話が逸れた。俺はこの町で町長に頼み込んだ。俺の帰るこの家だけは残しておいてくれと…人のいい町長は一つ返事でOKしてくれたよ


それからは寂しくなったら気まぐれに帰る程度で、あまり数は来たことがなかった。………父も母も顔は覚えてないし兄貴もあそこには埋まっていないのだからな


しかし、今回ばかりはそれを後悔したよ。久しぶりに帰ってきたらここは何者かに完全に破壊されていたんだ。ニャルラトホテプの配下が俺を絶望させようとしてやったのかはたまた関係ない誰かかは分からないがな…


…ここは、兄貴と俺との唯一の思い出の場所なのに…


なぁ、何か知らないのか?…そうか、知らないのならいいのだが…


まぁ、そんなところだ

狐面「…すまなかったな、こんな話に付き合ってもらって」

勇者「いや、いいよ。で、何か頼み事でもあるのか?その話関連で」

狐面「…あぁ、ある。単刀直入に言おう、お前の持っている剣、その覇王の剣を譲ってくれ」

勇者「…そう言えばお前、初めて会ったときにもこの剣を探していた的なことを言ってたな」

狐面「あぁ、その剣は…唯一邪神を斬ることのできる剣なんだ」

勇者「何だって?」

狐面「その剣は超古代先史文明の超技術によって作られた剣だ。邪神の力を内包し、邪神の力を奮い、邪神を断ち斬るために作られた剣」

勇者「なるほどな、眼には眼をというわけか」

狐面「あぁ、それがあれば、俺は奴を倒せる」

勇者「…断る」

狐面「なっ………頼む、それを渡してくれ。俺は奴を倒さなければならないんだ」

勇者「ニャルラトホテプを殺してもお前の呪いは解けないんじゃなかったのか?」

狐面「そのために倒すわけじゃない!!」

狐面「俺は、奴に殺された人たちの仇を、兄貴の仇を、奴に呪われた者たちの恨みを、晴らさなければならないんだ!!」

勇者「悪いな、こいつは俺のもんだよ」

狐面「くっ…俺がここまで頼んでいるだろ!」

勇者「あぁ、だから協力することにしたぜ」

狐面「何?」

魔王「ぬ、主よ!まさか」

勇者「あぁ、そのまさかだ」

魔王「正気かや!?主は、このおとk…このおなg…んー、こ、こやつと手を組むというのかや!?」


地味になんて呼べばいいか迷ったな


勇者「昔の敵は今日の友とも言う」

銀狼「昨日の敵だよ。少年」

勇者「それに、俺の敵でもあるんだニャルラトホテプは、お前にも関係あるんだぞ魔王」

魔王「た、たしかにそうじゃが」

銀狼「狐、諦めろ。少年はそういう奴だ。昔敵だったかよりも今味方になるに賭ける…特に相手が女の場合」

魔王「結局はそこかや!!」

勇者「…俺も協力するぜ?ニャルラトホテプの討伐、どうせ魔王の後継者に加担している以上あいつも倒さなきゃいけないんだ」


狐面「…考えさせてくれ」


勇者「あぁ」


狐面「なぁ勇者、さっきお前は何も知らないと言ったが本当にこの町が滅びた原因を」

勇者「あぁ、それどころか今日初めてこの町に来たぐらいだ」

狐面「嘘だ。お前をこの町で見たぞ」

勇者「何!?」

狐面「いや、かなり昔のことだからお前本人ではないだろうが、そっくりな男だった。顔、声、喋り方、何一つ」

勇者「…」

狐面「お前はここを知っているはずだ。ここで生まれたか、最低でも親のどちらかがここの出身のはずだ」

狐面「どうなんだ!?お前の出身はどこなんだ?言ってくれ、本当にここを知らないのか?」

勇者「…」

狐面「なぁ、勇者!」

勇者「…すまん、俺は記憶が無いんだ」

魔王「ぬ、主よ…それを言って大丈夫なのかや?」

勇者「別に言ったからどうにかなるって訳じゃないしな」

勇者「それに、お前は今戦う気分はないわけだろ?」

狐面「俺の大好きだった兄貴は争いが嫌いだったからな…せめて兄貴の眠るこの町の中で戦うことだけは避けたい」

勇者「ほらな?」


-記憶が取り戻したくなったか?-


勇者「-っ」

銀狼「少年?どうした?」

勇者「いや…?」


またあいつの声がした。…もちろん皆には聞こえてないようだ


勇者(黙れ…お前には関係無い)

-無くもねえ、なんたってお前は俺で俺はお前なんだからな-

勇者(ふざけんな、引っ込んでろ)


そう心の中できつく一喝するとくつくつと笑いながらも、ようやく黙った


狐面「…なぁ、勇者」

勇者「…何だ?」

狐面「記憶、取り戻せる可能性があるんだが」

オマケ、第六話予告2




-ようやく記憶を取り戻せるな。もうお前は俺を拒むことができない、俺を受け入れるしかない。さぁ勇者よ-


-世界を破壊し尽くそう-


勇者「魔王、銀狼…もう、俺に近寄るな」



過去の記憶を取り戻し



魔王「主よ!一体主の過去に何があったのじゃ!!」



血に塗れた心を抱え



勇者「俺は、世界を壊すために生かされてきた!!」



勇者よ



勇者「俺は許さない」


世界を救いし予言を受けた勇者よ


勇者「あいつを奪ったこの世界を、絶対に許さない!!」


世界を、壊し尽せ


狐面「目を覚ませ!そんなことをしてもなんにもならん」


勇者「ならば答えろ!!復讐は悪か!正義とは、勇者とはなんだ!!」


悪も正義も超えた先、その先に見るは光か闇か


第6話「黄昏の過去、暁の記憶、血に塗れた心」


-壊れゆく世界、望んだのはお前だ。勇者-

その正義の徒である勇者は大きすぎる自らの心の闇と対峙しなければいけない時が来るだろう

それに負け、悪に身を堕とした時、世界は何が起こったのかも分からぬまま滅びさることだろう

しかし心の闇に打ち勝ちしとき、正義も悪も超えた先に真実の正義を見つけ、最強にして最凶の力をモノにできるだろう。それはまさに光も闇も超越した真の勇者の姿である


予言の書より抜粋

勇者「どういうことだ?」

狐面「俺の異能力"人身御供"は喰らった奴の能力を自分の能力として使える能力、記憶の映像をお前の脳に流すことぐらいは出来る」

勇者「…それで?」

狐面「お前が本当にここを知っていたのなら脳内にこの町の滅びる前の映像を流せば刺激されて失った記憶が蘇るかもしれない」

勇者「…」

狐面「どうだ?試してみてくれないか?」

勇者「………分かった」

魔王「いいのかや?」

勇者「あぁ…何が起こるかは分からないがな」

狐面「ではやるぞ。異能力"記憶操作"」


頭に触れられ、魔力とは違う力が流れてくる





そこまでは都会では無いもののそれなのに活気がある
町並み、人、話し声、そして俺にそっくりな人物…

ここは…




勇者「…知っている。俺は、知らない記憶でここを知っている」

狐面「ホントか!?」


勇者「…だがすまん、今は何も話したくはない」

狐面「…そうか……一つだけ教えて欲しい。お前はこの町の滅びたわけを知っているのか?」

勇者「…どういう答えが欲しい?」

狐面「何?」

勇者「冗談だ…今は色々と記憶が混乱している…明日、記憶を整理してから話す」


故郷を思う心は誰にでもあるもの、故郷を破壊したものの手掛かりを教えてあげれるならと承諾したが…思ったより厄介なことになったな

夜、皆が寝静まった後

勇者は一人月明かりの下にいた


勇者「赤い三日月…珍しいな」

-なに、こんな日にはもってこいだ。赤い月が登るその日に世界は滅びる…いいじゃないか-

勇者「…」

-なぁ、ようやく記憶を取り戻せるな。もうお前は俺を拒むことができない、俺を受け入れるしかない-

勇者「…あぁ、あの記憶の断片を見てしまった以上…俺は、俺は……」


黄昏の夕日の中

虚ろな瞳、狂気じみた怒号、打ち付けられる体、責め苦と怒り、引き裂かれた肉と血飛沫の雨

痛み

怒り、狂気、恨み、憎しみ


-さぁ、勇者よ-

-受け入れよ、記憶を返してやる-

-さぁ、世界を壊し尽くそう-


勇者「…全て、すべて思い出した」

勇者「なぁ、お前は望まなかったかもしれないな…だが、俺は許せないんだ。世界が、全てが」

勇者「覇王の剣、俺の手にあるということは準備はすでにできていたということか…世界を滅ぼす準備は」


覇王の剣を掲げる。足元から巨大な魔法陣が広がり、赤く光る世界を更に赤く彩る


勇者「いあ あざとほーと くえるいがりますりる いあ にゃるがっしゃんな くえるいがる あざとぅーす ふたぐん いあ!いあ!アザトース!!」

勇者「覇王の剣、モード、破滅の魔皇」


「何をやっているんだお前は!!」


叫ぶような声がして、いきなり現れた影が俺の剣を叩き落とした


勇者「寝ていたんじゃなかったのか、何をしにきた…」

狐面「お前こそ何していたんだ。世界を滅ぼしてしまうとこだったぞ」

勇者「…そうしようとしたところだよ」

狐面「何?」

勇者「世界を滅ぼそうとした。そのとおりだと言っているんだよ」

勇者「俺は、この世界を壊す。世界の全てを、何もかも!!」


地面に落ちた覇王の剣を拾いながらそう言う


狐面「ふざけるな!これが冗談ならタチが悪すぎるぞ、勇者」ガッ


狐面は勇者の胸ぐらを掴み、激昂する


勇者「…なせよ」

狐面「?」

勇者「放せよ」

ゴォ


狐面「っ!?」


勇者を中心に風が吹き荒み、狐面だけを吹っ飛ばした


勇者「俺はな、この世界の何もかもが許せないんだ。記憶を取り戻した今、世界は壊れる運命なんだ。いや、この剣が俺の手にあるからこそかもだけどな」

狐面「本当に、世界が滅ぶぞ。お前すらも生きていられない」

勇者「知っているさ、そういうモードだ。世界の全てを一瞬で消し去るモード、破滅の魔皇」

狐面「…その意思は硬いか?」

勇者「あぁ」


何の躊躇いもない返事だった


狐面「ならば、俺はお前を止める。だが安心はしろ、殺しはしない」

勇者「何故だ?殺せば簡単に止められるだろう?」

狐面「…ニャルラトホテプを倒すにはその剣に認められたお前が必要だからな」

勇者「残念だが、この剣が俺を選んだのはニャルラトホテプを止めて世界を守るためじゃない」

勇者「この世界を破壊するためだよ。お前にも止めさせはしない、それでも止めようと言うのなら俺は躊躇わない」


勇者「お前も殺す」チャキ


剣を構えた


狐面「来るか…」

勇者「死ね」ダッ

狐面「ぐっ」ガキーン


狐面(早い、前とは段違いだ)


一瞬で間合いを詰められる。とっさに手を剣にに変えてガードするが衝撃がモロに来る


勇者「どうした?俺を止めてみせるんじゃなかったのか、おい!!この怒りと恨み、沈めてみろよ!!」ガキーン、ガキィィイン

狐面「そこまで言うなら、本気で相手してやろう!妖術、肉体強化!!」ググ

勇者「それがどうした。ぉぉおぉおおおぉぉおおおおお!!」ガキィィン


狐面(ヤバイ、覇王の剣は何よりも感情を力にする。怒りの感情が強いであろう今のこいつには強すぎる武器だ)


勇者「死ね!滅べ!何もかも!!」ガキン

狐面「やめろ!」キィィン

勇者「あ?」ガギン

狐面「目を覚ませ!そんなことをしてもなんにもならん、勇者だろ!世界を救うはずの勇者だろお前は!!」ガキイイン

勇者「何が勇者だ!何が世界を救うだ!!この世界には救う価値なんて微塵もねえ、滅ぼさなきゃならねえ世界なんだよ!!」ガギィィン

狐面「そんなこと、あるわけない!」ガキィイイン

勇者「あるんだよ!世界がこんなだから、俺は、あいつは…」


「主…よ」

勇者「はっ!?」


銀狼「しょ、少年…滅ぼすとは、どういうこと…だ?」

魔王「主よ、冗談じゃよな?主が、アホだけど変態だけど優しい主が…世界を、滅ぼすなど」

勇者「…」


激しくぶつかり合っていた剣の音か、大きな声かで起きたのか魔王と銀狼がその場にいた


勇者「魔王、銀狼」

魔王「主よ!」

銀狼「少年!」

勇者「二度と、もう二度と…俺に近づくな」

魔王「!?」

銀狼「!!…」

勇者「じゃあな」


そう言うと勇者は背を向けて歩き出した


狐面「待て!」

勇者「うるさい」ガキィィイン

狐面「ぐふっ!」ドシャアアア


後ろをむいたまま剣で狐面を吹き飛ばした


狐面「すまん、二人とも…俺が、あいつに記憶を取り戻させたから…」

銀狼「…もういいよ。過ぎたことだ。それよりも」

魔王「そのとおりなのじゃ!謝罪などいらぬ、それより今必要なことは…あやつを、勇者を止めることなのじゃ!!」

狐面「…あの覇王の剣を持っている限り俺達が勝てるような相手ではない。無かったとしてもあの魔力だ。…殺すつもりでかからなければな」

魔王「奴を殺すつもりなのかや!!」グルルルル

狐面「…ニャルラトホテプを倒すにはあいつが必要だ。だが…世界を壊させないためだ、殺して守れるのなら…」

魔王「主は!主は!!」ガシッ

銀狼「まあ落ち着け狐。なぁ、少女よ。君はそう言うが殺すつもりでかかったとして実際にできると思うのかい?」

狐面「………」

魔王「ふん、これじゃ。よくもそんなのであ奴を殺せるなどと言えたものじゃ」

狐面「お前らの力を借りれば或いは…」

銀狼「無駄だよ。私と狐が手を貸したとしても勝てる見込みはゼロだ」

魔王「その通りじゃ。剣技も魔術も妾たちではあ奴には到底及ばぬ、そうでなくとも」


魔王「勇者を殺すなど、絶対にゴメンなのじゃ!!」


狐面「…こんなにも想ってくれる人がいるなんて、羨ましいよ」ボソッ

魔王「何か言ったかや?」

狐面「いや…説得だけで済めばいいのだが」

銀狼「説得、出来るのか?」

狐面「…勿論お前らに協力を仰がなければならない」

魔王「…いいじゃろう。ただし絶対にあ奴を傷つけないと誓えなのじゃ」

狐面「すまない、俺は必要なら武器を使うつもりだ」

魔王「っ!!」

銀狼「狐、それはしょうがないことだ…武力を使わずに説得のみで少年を救えるのは私たちだけだよ」

魔王「…よいか、小娘。絶対に、最後の最後まで武器は使ってはならぬのじゃ!!」

狐面「…分かった。それは守ろう」

銀狼「ところで、どうやって少年を探し出すつもりだい?」

魔王「まぁいざとなれば妾たちが臭いを辿ることもできるのじゃがな」

狐面「いや、魔力を探ればどこにいるかはわかる。まだこの町の中だ」

魔王「ならばさっさと向かうのじゃ。できるだけ早く目を覚まさせたい」

狐面「まて、少し作戦を…」

魔王「説得するのに作戦など必要あるのかや?いらぬのじゃ!!」

狐面「…」

倒壊した瓦礫の上、そこに勇者は立っていた


勇者「…来てしまったのか」

狐面「来たぞ。そしてお前が未だに"儀式"を始めてないというのなら躊躇っていたのではないのか?それとも心のどこかで望んでいたか?こいつらに説得されることを」

勇者「魔王…銀狼」

魔王「…主を止めに来たのじゃ」

銀狼「同じくだよ少年、私たちは君のことを未だに信じている。大好きだ。だからこんな馬鹿な真似はやめて欲しい」

勇者「何で…」

魔王「主…よ?」

勇者「なんで来ちまったんだ!俺は、少なくとも…お前らが死ぬ姿なんて…見たくはなかったのに」

銀狼「ならそんな馬鹿げたことやめてしまえ」

勇者「そういうわけにはいかない。俺はこの世界を…破壊し尽くさなければならないんだ!そうしなければ…収まらない」

銀狼「それは…過去の記憶かい?」

勇者「あぁ!そうだよ!!記憶を取り戻しちまった以上、俺は!!もはや止められない、この世界への復讐を!!」

魔王「主よ!一体主の過去に何があったのじゃ!!」

勇者「…知りたいか?…そう言えばお前の質問にもまだ答えてなかったな」


勇者が狐面を見据えながら言う


勇者「ここは、俺が破壊した町だ」

狐面「なっ…」

勇者「そうさ、俺がこの町を壊した。憎いか?恨めしいか?俺が」

狐面「…」

勇者「いいよ、話してやる。俺の過去を…多分、俺は誰かに話したくて、お前らに聞いてほしくてここで待っていたのだろうな」


朝が近づき、沈みかけた紅い月を背にして勇者の昔語りが始まった。壮絶で悲しみと怒りに満ちた一人語りが

俺は十数年以上前、この町のある家系に生まれた。代々勇者を輩出してきた家系であり、強い魔力を受け継ぐ家系だ

そうだ狐面、お前が見た奴は多分俺の先祖だよ。多分勇者としての力がなかった時代のな

俺はこの町が大飢饉に陥っていたときこの家に生まれた。…歴代で一番強い魔力を持ってな

そして生まれた日は悪魔の年悪魔の月悪魔の日…それにありえないほど強大な魔力だ。誰も彼もが俺を悪魔の子だ鬼の子だと騒ぎ立てたよ…

クズの両親はこの町から逃げ出した。俺を置いて

それからは予想がつくか?忌み子として悪魔の子として恨まれ、憎まれ、毎日殴られ、蹴られ、今でも頭の中をグルグル回っているよ

忌み子、悪魔の子、鬼の子、飢饉も俺のせい、病気になった、お前のせいだ。爺さんが死んだ。お前が生まれてから一週間後だ。

お前を許さない。死ね、殺してやる。お前のせいだ



「許さない」                       「お前のせいだ」             「まだ足りねえよ」


                    「お前えさえ生まれてこなければ」                       「忌み子が」

                                               「悪魔め…」             
 




                    「死ね!死ね!何度でも、何度でも!!!」




しかし、俺は死ななかった。強すぎる魔力が本能的に傷を癒すし、毎日誰かがギリギリ飢え死にしない程度の飯を持ってきやがったからだ

あいつらは、飢饉による不安とイラつきを俺に暴力を振るうことによって発散していたんだよ。だから俺に死んで欲しくはなかった

何度も餓死することを考えたよ。でもその度に覆面をした誰かによって無理やり食べさせられる

痛みと怨みつらみと屈辱とが募るだけの日々だった





十年の時が過ぎようとしている時だ。その時にはすでに罵倒を罵倒と感じることが出来なくなるほどに心が病み、痛みを痛みと感じることも出来なくなるほど世界から感覚と心を隔離しだしていた

そんな時だ。あの子が俺の目の前に現れたのは

綺麗な白銀の髪をした良く笑う女の子だったよ。…あの笑顔に何度も救われた

その日、俺は泣くことも座り込むことも出来ず、手足を鎖で繋がれた拷問のような状態で浅い眠りについていた

何の前触れも無く俺の閉じ込められている倉庫の戸が開けられ、一条の光すら入らない真っ暗な倉庫内に黄昏時特有の日の光が射し込む

その夕焼けの中に立っていた女の子

同い年に見えた彼女は俺を質問責めにして困らせたが、すぐに仲良くなったよ

彼女のおかげで俺は少しづつ心を取り戻しつつあった

早く死にたいと思うばかりの日が彼女と会うことを楽しみにする日々に変わった

彼女ととりとめの無い会話をすることを楽しみにすれば暴力も罵倒も蚊に刺されたほどの痛みすら感じなかった

大好きだった。誰も、両親すらも怨み憎み、誰一人として好きにならなかった俺が初めて誰かを好きになった。彼女に初めて恋をしたんだ


だが、数週間後、彼女はいつもの時間に来ることは無かった


多分用事か何かあって遅れているだけだ。彼女だって事情があるんだろうから1日くらい来なくてもおかしくは無いさ…

嫌な予感は沢山していたのに俺はそんなことを自分に言い聞かせていた


そして、最も起こってほしくなかった最悪なことが起こった

倉庫の戸が開く、血のように真っ赤な夕日が鎖に繋がれた俺を照らす

目が明かりに慣れず、誰かも分からなかったが俺は彼女だと思ってその女の子の名を呼んだ

しかし、目が慣れ、そこにいる奴等を認識したとき絶望が押し寄せた

初めて感じたよ…上げた後に落とされる絶望感


沢山の大人たちが彼女を押さえつけて笑いながら立っていたんだ…


恐ろしいことにあいつらは自分の町の子共である彼女を、俺と仲良くしたってだけで大罪人として罰したんだ…見せしめに、俺の目の前で

恐ろしかった。初めて自分以外の人が暴力を奮われるのを見た

殴られ、蹴られ、顔を、腹を

痛め付けられ、打ち付けられ、傷つけられ、俺の目の前で辱しめをうけ、蹂躙され…

忘れもしない、どうして忘れることが出来ようか…あの悲鳴、助けを請う声、鳴き声叫び声、血、そして笑い声…

奴等、笑っていやがった…この世の何よりも楽しい見せ物を見るように、心底楽しそうに笑っていやがった

魔力を使って助けようとした。でも魔力封印のために作られた赤錆びた鎖のせいで無意味だった


許せなかった。こいつらが、世界が、不甲斐ない俺自身が

あいつらはもう涙も渇れ、泣き方も忘れてしまっていたような俺が絶望に沈み、何年かぶりに大泣きしたのを見て満足したのか最後の作業に入った


彼女をバラしだしたんだ…バラバラに、どんな極悪人も思い付かないような残酷な方法で、生きたまま…俺の目の前で…

奴等は尚も笑っていやがった。一際大きな悲鳴が聞こえ、視界が真っ赤に染まる

血肉が、彼女の一部だった生暖かい破片が俺の顔を滴る

奴等は笑いながら俺に血肉のシャワーを浴びせた

その大人たちの中には彼女が優しい両親として写真で見せてくれた男女がいた

…笑っていたよ…楽しそうに、狂喜的に、残酷に

何が悪魔の子だ。何が鬼の子だ…奴等の方がよっぽど悪魔じゃないか、非人道的な悪魔どもだ


それら全てを見た時、俺の意識は、感情は、魔力は、暴走した

暴走した強すぎる魔力は俺を拘束する封印の鎖の許容量を容易く越えて破壊した

次にそこにいた大人たちを一瞬で灰にした

そして、町を、隅の隅まで破壊した

その時思ったよ。こんな強い力を持った俺は、この世界を、腐りきったこの世界を壊すために今まで生かされて来たんだ。とな

だが、次に滅ぼそうと思った町に行く途中、意識は途切れ、そこで記憶が封印された

多分、強いショックを受け過ぎて心が自分自身を守るために嫌なことを忘れて封印したんだ

切り離して、押し付けて、心の奥底に封じ込めて

心の平安を保つために

勇者「そして、記憶の封印が解けた今、俺は世界の破壊を再開する。世界に、復讐する!!」

狐面「ふざけるな、何が復讐だ!八つ当たりしているだけじゃないか!そんなことしてその子が喜ぶと思って…」

勇者「喜ぶわけがない!こんなことしてあいつが喜んだり感謝したりするわけない、あいつは…優しかった」

狐面「だったら!」

勇者「でもダメなんだ!!俺を捨てた両親は町を出ていった、俺を村八分にするよう命令を出し、彼女を殺す命令を出した町長も偶然他の町に出かけていた!」

勇者「今もどこかでのうのうと生きてやがる、決して許せない。奴等が、世界が」

勇者「許せない、あいつを奪ったこの世界を」

勇者「俺たちをこんな運命に追い込んだこの世界を、決して許せない!!」

魔王「主よ。復讐など…」

勇者「うるさい!」

魔王「っ」ビクッ

銀狼「おい、少年、少しおt」

勇者「うるさい!黙れ、黙れ!!何でお前らは来たんだ!もう、もう会いたくなかったのに…」

銀狼「しょ、少年…」グス

狐面「お前…それでも勇者か!!」

勇者「あぁ、俺はこの世界も、俺自身さえも憎みに憎んで許せないダメ勇者だ!好きな女の子一人まともに守れなかった。むしろ俺のせいで死んだようなもんだ!!そんな俺に勇者を名乗る資格なんて無い!」チャキ


剣を構える勇者、来るか


勇者「なぁ狐面、絶対的な悪とはなんだ!!何をもって悪と定義する!」ダッ


剣を前に出して突っ込んで来る勇者、しかし負ける気はしない。

剣の強さは意思の強さ、こいつには今迷いと後悔が少しだがある。先ほどの話を自分でする内に後悔の念が出てきたか


狐面「ふんっ」ガキィイン


ガキイン


勇者「正義とは、勇者とは、いったい何なんだ!!」ガキン、ガキイン、ガキィイン


そう叫びながら剣をめちゃくちゃに奮う勇者は、解かなきゃいけない問題の答えが分からずに癇癪を起こしている子供に見えた


狐面「…自分の目的のために沢山の人間を殺してきた俺には言えることじゃ無いかもしれないし言う資格も無いかもしれない」カキィン

狐面「だがあえて言う。少なくともお前の今やっていることは"悪"だ!!」ガッキィイン

勇者「っ!?」ィイン


勇者がついに押される


狐面「大好きだった女の子が守れなかったから勇者失格だと?世界を壊すだと!?だったら今のお前は何だ!目の前にいる女の子を泣かせているお前は何なんだ!!」ガキィイン

勇者「っ…」

魔王「主よ…」グス

銀狼「…」ポロポロ



二人は静かに泣いていた。俺に失望してか、怒ってか

狐面「昔の女のせいで八つ当たりされる身にもなってみろ!この二人はお前を好いているんだぞ!!」

狐面「昔の女が守れなかったから何だ!なら今の女を大切にしやがれ!せっかくお前のことを好いている奴が二人もいるに、それを泣かすような奴は勇者どころか男として失格なんだよ!!」


狐面「俺だって…私だって、こう見えても女だああぁぁぁぁぁ!!」ガキィィィイン


勇者「ぐっ…」ドシャァァア


狐面の剣に完全に押し負け、地面を滑る勇者

そして、頭を打ったのか、気絶した


勇者「うぅ…この…世界………」

狐面「目を覚ませ、勇者。お前は今…」


うなされている勇者を起こそうとするが


魔王「いや、もう良い」


魔王が狐面を制す


勇者「うぅ…アカリ…ごめん…」

銀狼「少年は今…自分の中の何かと戦っているところだ。私たちに出来るのは…少年を信じてやるぐらいのことだよ」

魔王「…主よ、妾は主がどんな過去を持っていたとしても…」

勇者「う、うぅ…ま、おぅ」

狐面「…お前らは本当にそいつが好きなんだな」

魔王「…当たり前なのじゃ。魔王たる妾が一度好きになった相手を信じぬわけが無かろう」

銀狼「私もそうだ。少年に責任を取れなどと言ってしまったからな、言い出した私の方が引くことなどしないさ」


狐面「…やっぱり羨ましいな」ボソッ


後に思えば、この時、呑気に話などしている場合では無かったのだ。この時、完全に忘れていた

覇王の剣のことを

あれをさっさと勇者の手から離して置いておくべきだった


勇者「…魔王、銀狼」


勇者が起き上がって微笑んだ


銀狼「少年!」


…おかしい、勇者にしてはいつも以上に魔力が強い、いやそれ以上、異常?

それに、何か魔力が黒い障気を帯びているような…

しまった!


魔王「狼、今すぐ後ろに飛び退くのじゃ!!」


キラリと勇者の腰の横辺りから銀色に鈍く光る光が見えた

それが刀だと理解したのは一瞬後のことだった


勇者「まずはお前だ。死ね」ザシュ

銀狼「ふ…私を油断させて傷つけるとはやるじゃないか、少年」


咄嗟に避けたが、完全には逃げ切れなかったらしく服ごと腹の少し上辺りが切り裂かれる


銀狼「いや、変態の少年なら服を切り裂こうと別に驚きはしないが、これは本気で命を盗りに来てたね。少年はここまではしない、何より雰囲気がまるで段違いだ。君は誰だ?」

勇者「いや、俺は勇者そのものだよ。"半身"という言い方をしてもいいがな」

銀狼「なるほどね、君は二重人格とか言うやつか。その裏の人格だな」

勇者「おや、流石"俺"の見込んだ女だな、今の一言二言でほぼ全部理解したか」

銀狼「その顔と声でそう褒められると照れるな。でも」

銀狼「その気持ち悪い雰囲気と捻じ曲がった性格で言われても嬉しくはないな」

勇者「そうかい。で、俺がこんなことをした理由は分かるか?」

銀狼「…君は少年の裏人格、多分今まで表が押し付け続けてきた負の感情が暴走したってとこじゃないかな」

勇者「ほぉ、だいたい合ってやがる」

勇者「俺はな、こいつの心を守るために生まれた人格だ。あの日、こいつは自制心から嫌なことを全て切り捨てて心の奥底に追いやって封印した」

銀狼「それが君か」

勇者「その通りだ。切り捨てられた記憶と感情はひとつにまとまって、俺という人格を生み出した」

勇者「俺はこの十数年、ずっとこいつの中で恨みつらみをためていた。いつかそれを発散出来る日を夢見てな」

勇者「ここ少しの間。お前らのおかげでこいつの心はだいぶ休まった。これなら記憶を戻しても大丈夫だと思った。そして今日、あいつの同意を得て記憶を戻してやった」

勇者「そして…俺たちは一つになり、あの時の怒りを放出し、世界を壊そうとした」

勇者「だが、お前らのせいで、"俺"は躊躇った。いや、世界を壊すことをやめてしまった!!俺はまだ納得してないというのに、怒りはまだ収まってないというのに!!」


銀狼「なるほど、先ほど意識を失っていたとき、表と裏で反発し合っていたんだな」

勇者「そうだ、そして俺は"俺"を逆に心の奥底に閉じ込めてやった。逆に俺が表に出てくるために」

勇者「お前らを消す!そうすればこいつは再びアカリのことだけを、アカリの仇を打つことだけを考える。今度こそ世界を破壊する気になるだろう!!」チャキ

狐面「…くだらない、そんなのがお前の闇だというのなら」


狐面「俺が、打ち砕いてやる」ス

魔王「そんなこと言っても…勝機はあるのかや?」

狐面「ある、むしろさっきより上々だ!!」ガキィン


勇者と剣を交えながら答えた


狐面「お前は今、体中から黒い瘴気のような魔力を出し続けている」

狐面「だが、それは無駄に魔力を消費しているわけじゃない。答えは"俺と同じ"だったんだ」

狐面「お前が魔力を漏らしているんじゃなくて『魔力で出来たお前』から漏れているんだろう?お前の正体はただの裏人格じゃない。強すぎる魔力を使って顕現した魔法生命体だ」

勇者「よく見破ったが、それがどうした?それが何の勝機につながると言うんだ」

狐面「じゃあ教えてやるよ、俺はな…魔力を吸収する能力をもっているんだ」

勇者「っ!!」ザッ


勇者が後ろに飛び退く、一気に距離を離した


狐面「危険に気づいたか?俺がお前の魔力を吸収しちまえば、魔力に依存して初めて存在できるお前をも吸い込める。むしろピンチに陥ったのはお前だ!!」

勇者「くそっ」ダッ

魔王「逃がさぬのじゃ」

銀狼「待ちなよ少年」


逃走しようとした勇者の前に魔王と銀狼が立ちはだかった


魔王「それも主の一面だというのなら妾は喜んで受け入れる準備はできるおる。じゃが、いつもの主がいなければやはり物足りぬ」

銀狼「どっちも君だ。どうせなら、どっちとも取り戻してもらおうか。私たちの目の前でな」

狐面「見ろ、これが今勇者の好きな仲間たちだよ。これを見てもまだ、お前の怒りは収まらないか?」

勇者「…あぁ」


勇者「到底、収まらないね」


狐面「そうか、なら…やはりお前を吸収してやる」

勇者「来いよ。俺の怒り、全てぶつけてやる」

狐面「ふん、一度逃げ出そうとした奴が何を言ってやがる」


ガキィイン


剣と剣が交わり、大きな金属音が響きわたる


狐面「ふんっ!!」ガィイン

勇者「っ!?」


力業で勇者のバランスを崩す


狐面「やはり意思の力なら俺の方が上だ!!」ドンッ


バランスの崩れた勇者を押し倒す


狐面「さぁ、"魔力吸収"!!」


腕を振り上げる


勇者「舐めるなあぁぁ!!」ザシュ

狐面「っ!!」ギリ


倒れた格好のまま覇王の剣が自分に突き刺さる

しかし、ギリギリのところで急所は避ける

右肩に突き刺さった


狐面「腕の一本ぐらいくれてやるよ」ニヤリ

勇者「何?…抜けない!!」

狐面「チェックメイトだ」ガシ


残った左腕で勇者の顔を掴む、とてつもない魔力が腕を通って自分の中に入ってくるのがわかる


勇者「ぐあああぁっぁああああ!!」

バタ

魔王「…死んでない、じゃろうな」

狐面「当たり前だ。後は意識を取り戻すのを待っていよう」




勇者「…」

魔王「主よ!」

銀狼「少年!」


ようやく勇者が目を覚ます


勇者「ごめんな、二人…いや三人とも。迷惑かけた…」

魔王「大丈夫なのじゃ、妾は信じておったからの」

勇者「…すまん」

銀狼「そう謝るな、私たちは君さえいればいいのだからな」


狐面「…一件落着といったとこだな」


立ち去ろうとする


勇者「いや、ちょっと待て」


止められる


狐面「何だ?」

勇者「俺の魔力、返してほしい。全て」

狐面「…全てだと?全てとなると、さっきの闇の人格も戻ることになるぞ?それ以外のみをお前に送ることもできるが」

勇者「なに、安心しろ。大丈夫だよ、もう闇に飲まれたりしない」

勇者「だが、俺に闇は必要なんだよ。光と闇、光と影、善と悪、全てはバランスが保たれてこそだ。光も闇も併せ持っているのが人間だからな」

狐面「…本当に、大丈夫なのか?」

勇者「ダメだった場合は今度こそ魔力全部奪ってもいいぜ?」

魔王「おい、それは…」

勇者「だから大丈夫だって…信じてくれんだろ?」

魔王「…むぅ、分かったのじゃ」

勇者「そう、それでいいんだ。さぁ、早く魔力を」

狐面「…分かった。俺もお前を信じてみるとしよう」

勇者「あぁ」


狐面と勇者が握手をするように互いに手を握る


狐面「魔力を送るぞ。さっき吸収した分を全て」

勇者「…」


バタ


魔王「主よ…」


勇者がその場で倒れた


銀狼「…いい加減、信じることしかできないってのも辛いな」




勇者の精神世界


勇者「よう、裏人格」

裏人格「…いいのか?俺を受け入れたりなんかして」

勇者「あぁ、さっきも言ったが闇は必要なんだよ。光と闇、中途半端に交じり合った不完全な存在が完全な人間の姿だからな」

裏人格「辛いぞ?怒りも悲しみも感じることになる。今まで以上にな」

勇者「それも人間の特権だろ?…俺は悪魔の子でも鬼の子でもない、人間だ」

裏人格「俺と一つになるということは俺に押し付けていた怒りも憎しみもお前が背負うことになる。果たして闇に呑まれずにやっていけるかな?」


裏人格「深いぞ、この闇は…底なし沼のように一度ハマったらもう抜け出せねぇ」


勇者「それでも、俺だから」

裏人格「そうかい、じゃあ…もう会うこともねえだろうな。俺たちは一つになる…お前は真実の正義にたどり着いた。あっちにお前に会いたがっている奴がいる。ちょっくら行ってくるといい」


そう言って消えていく裏人格、その瞬間怒りや憎しみ、悲しみや絶望といった負の感情が勇者の中を駆け巡った


勇者「俺は、こんなものを…あいつに押し付けていたのか」

勇者「確かに、俺は未だに俺自身も世界も許せはしない…でも、あれから旅をして、暖かい人間に触れた。まだこの世界にも希望は残っている」


あいつはこっち方向を指していたな。この精神世界で誰が俺を待っているというのだろうか


勇者「…まぁ行ってみるしかないがな」


「ユウくん…」


暖かい声がした

光が見え、その光に包まれて女の子が立っていた

…その姿はあの頃と微塵も変わりなく、まるで、時間が止まっていたかのように…


勇者「アカリ…ちゃん?」

アカリ「ユウくん…ようやく会えたね」

勇者「何で…なんで君が…」


間違いない、この子は…この子は俺が初めて好きになって俺が殺してしまった女の子


アカリ「わたしね、こうしてずっと君の中にいたんだよ…」

アカリ「あの時、私は君の大きく包み込むような魔力に触れたの。君の魔力の一部を貰って魂を君の中に保存できたの」

勇者「…ごめんね、ずっと忘れていて」

アカリ「ううん…謝らないで、わたしがしたことなの。わたしが、君の記憶を封印して全て忘れさせたの…君が優しさを取り戻すまで」

勇者「優しさ…」

アカリ「うん。ねぇ、ユウくん…なんでわたしが君にこの名前をあげたのか忘れちゃった?」

勇者「ううん、忘れてない。もう絶対に忘れない…優しさ、だよね」

アカリ「うん、優しさ。ユウくんのユウは優しさなんだよ」

勇者「ごめんね、僕…あの時、忘れていた…君も、守れなかった…」

アカリ「大丈夫、わたしはずっと君の中にいる。今までも、今からも」

アカリ「その代わり、毎日夢で私のことを想って欲しい。そうすれば、必ず夢で、ここで、会えるから」

勇者「うん、絶対に、毎日…毎日会いに来る」

アカリ「ありがとう…わたし、幸せだよ?こうして、ずっと君と一緒にいられる。もう、隠れる必要も逃げる必要もない。毎日だって会える」

勇者「アカリちゃん…」

アカリ「ユウくん…逞しくなったね」ギュ


抱きしめられる。間違いなくこの子はずっと、ここにいたんだ…俺が、気づけなかっただけで


アカリ「こんなに体も大きくなって、強くなって…自分の闇さえも受け入れた」

勇者「闇…か」


それでも少し心配になる。本当に俺の選択は間違っていなかったのかと


アカリ「大丈夫、君は真実の正義を見つけたんだよ。正義ってのはね、悪も善も受け入れて、悪をもちゃんと見つめて初めて見えるものなの」

アカリ「悪も善も越えた先、そこに君の求める真実の正義はあったんだよ。君はちゃんとそれを受け取った」

勇者「今更だよ…いくら強くなってもいくら正義を気取っても君を守れなかった…」

アカリ「しょうがないよ…君が何をしようとわたしは死んでたから…」

勇者「そんなこと無い!僕がもっと強かったら…」

アカリ「ねぇ、ユウくん。わたしを抱きしめて?」

勇者「…うん」ギュ

アカリ「…さっきも言ったけどわたしはこれで幸せなの。君が気負う必要は無いよ」

勇者「…」

アカリ「もう戻らないと君の今の大切な人が心配するよ?」

勇者「いや、もうちょっと…」

アカリ「ありがと、でもまた夜に夢で会えるよ…大好きだよ。ユウくん」

勇者「僕も、大好きだよ。アカリちゃん」

………
勇者「…」

銀狼「大丈夫か?少年」

勇者「あ、あぁ……………アカリ…ちゃん…」

魔王「ぬ、主よ…本当に大丈夫なのかや?」

勇者「いや、心配かけたな。もう大丈夫だよ…」

狐面「これで今度こそ一件落着か?」

勇者「あぁ、多分これで覇王の剣の本当の力を引き出せるだろうな」

魔王「今までのが不完全だったというのかや!?」

勇者「あぁ、こいつは怒りなんかの感情を糧にして力を発揮するからな。闇を受け入れたからこそ12分に力を引き出せる」

狐面「それでは俺はもう行く…」

勇者「ん?あぁ、今回は本当に迷惑かけたな。悪い」

狐面「気にするな…次に会うときは味方とも限らないしな…」

とある予言書にはこう書かれていた


邪悪なる神を打ち破る勇者は二人、その一方は復讐に身を焦がす人ならざるものであり

もう一方は光と闇を身に宿し、闇の剣をかざす異色の勇者である


第7話、予告


「助けて!!」


勇者の夢を通じて語りかけてきた少女、それは"夢見人(ドリームウォーカー)" という異能力を持った一族の最後の生き残りだった。

「このままじゃ、世界は邪神に呑みこまれるっ」


その必死の言葉を受け取り、邪神の復活を防ぐために動く勇者一行


「ボクたちは、ただ神様にすがりたいだけさ。…だから、生け贄になってくれ」


邪悪なる目的のために少女の命を狙う謎の仮面集団「ダゴン秘密教団」


「あいつらが狙っているのは…」


そして明かされる這いよる混沌の恐るべき計画


「今、幻夢郷への扉が開く」

魔王「魔物など足元にも及ばぬ化け物どもじゃ…」


神話生物と呼ばれる化け物が世界を覆い尽くし


勇者「これが終焉の光景か…」


世界の破滅は、激しく加速する

そして伝説のムー大陸と古代都市ルルイエが浮上する


「いあ!いあ!くとぅるふ・ふたぐん」

「いあ!いあ!がたのとーあ」

勇者「邪神が2体…いや、ニャルラトホテプも入れて3体か…」


打ち勝て、勝ち目の無い戦いに

覆せ、絶望的な状況を


勇者「魔王!銀狼!!」

狐面「諦めろ。完全に石化している…」

諦めるしかないのか…大切な人を救うため、この世界を救うため


勇者「例え、最後の一人になろうと、戦い続けるさ」


孤独な戦いに身を投じよ


ニャルラトホテプ「貴様らの負けだ!人間!!」

勇者「人間は!」

狐面「俺たちは!」

勇者&狐面「まだ負けちゃいねぇぇぇぇえええええ!!」


第7話「復活の邪神と滅びゆく世界」


ニャルラトホテプ「もう生き残っている人類は、貴様らだけだ」
希望は、あるのか

あれ?終わりじゃないよね?

少なくとも今週中、出来れば今日更新します

七話予告②



              夢からの声               「助けて!」




           世界の魔女            闇夜の魔女       知識の魔女
  

     創始の魔女          終末の魔女               希望の魔女






                      破滅の魔女 




                                     三体の邪神          


                  

           混沌                   封印されし            石化の呪い





                 壊れゆく世界                  




                              「死ぬな!魔王!銀狼!」    



                  世界を包むは        絶望か       希望か           





                          勇者「殺してやる!!」


                                       狐面「勇者!今ここで、お前は死ぬ!!」


                       「神よ!」



                 神が世界に課すは           破滅か         救済か




                           「私は、破滅の魔女、混沌と破滅を呼ぶもの」








第7話「復活の邪神と滅びゆく世界」




…………………勇者よ、世界に希望を

おお!

ある日、勇者の夢


勇者「アカリちゃん、最近ほぼ毎日会ってるね」

アカリ「だってようやくユウくんが気づいてくれたんだもん。わたしだって会いたかったんだよ。ずっと会いたかった。ずっと一緒にいたい」

アカリ「ずっと… ージジー いっしょ -ジジ- に…」

勇者「アカリちゃん?アカリちゃん!」


-ジジ-


ノイズがかかる。靄が、霧が、夢の中を満たしてく


勇者「何だよ!何だよこれ」


「-ジジ-…けて」


夢が、変わる。靄が、霧が、何かを形成していく。風景を、建物を、そして


「助けて!」


女の子を




勇者「…アーカムだ」ハァ、ハァ


飛び起きた。そして夢に出てきた町の名を呟く





銀狼「アーカム?その町に行くのかい?」

勇者「町というより村だけどな。とっとと行こう、この町に長居する理由もない」

魔王「しかし、昨日そろそろ魔王城に突入するといったばかりではないかや。全然違う方向なのじゃ」

勇者「すまん、だが、人助けが先決だよ」

魔王「人助け?どういうことなのじゃ?」

勇者「…夢の中で少女に助けを求められた。俺には分かるんだ、あの場所はアーカムだった」

銀狼「…しかしだよ、それがただの夢だったらどうするつもりだい?」

勇者「それだったらそれだったでめでたしめでたしで再び魔王城に進路を変えればいいさ」

魔王「………のぅ、主よ」

勇者「ん?何だ?」

魔王「……あやつの言葉を鵜呑みにするのは嫌なのじゃが…」

勇者「何だよ、はっきりしねーな」

魔王「あの化け猫じゃよ!あ奴が言ったのじゃ。『夢を追いかけてはいけないのです。その先には』」


魔王「『その先には最悪にして最凶、最強にして災厄を振りかざす絶望の徒、"破滅の魔女"が待っている』と」

この世界には"魔女"と呼ばれる存在がいる。


「集まったな、皆の者」


世界を管理し、バランスを保つ命を受けた6人、いや7人の不老長寿の存在


世界の魔女「それでは我ら6席の魔女による魔女定例会議"ワルプルギス"をこれより執り行う」


世界を作りし神の代行者、世界の魔女


世界の魔女「今宵の会議についてだが、既に何人かは予想がついているだろう。誰か、答えてみよ」


し~ん


世界の魔女「答えてみよ!」

創始の魔女「全く誰も知らねーようだぜ、かくいうオレにもちんぷんかんぷんだ」


始まりを知る原初よりの語り部、創始の魔女


終末の魔女「あえて言うならそうだね、闇夜の魔女が最近魔物にも人間にも干渉しているという点ぐらいだよ」


終わりを知る終末の預言者、終末の魔女


闇夜の魔女「ボクは仕事を全うしているだけなのですよ、にぱー☆」


全ての闇を見通す夜の支配者、闇夜の魔女


創始の魔女「何言ってやがる。それが本当なら裁くべきだぜ、人間はともかく魔物にまで味方してるだぁ?」

闇夜の魔女「ボクは闇を見通すものですよ?見通した結果、こうするのが一番良い手なのです。」

創始の魔女「けっ、どうだかな」

闇夜の魔女「それより、"おばあちゃんの知恵袋"は心当りは無いのですか?」

知識の魔女「誰がおばあちゃんの知恵袋じゃ!ワシは知識の魔女じゃ」


全宇宙の知識を内包する秘密の保持者、知識の魔女


知識の魔女「…そうじゃな、ここにいない七人目の魔女、絶望の…いや、今は破滅の魔女か。彼女のことじゃな?」

世界の魔女「そうだ、結局誰も気づかなかったとは…」

希望の魔女「皆、出来れば考えたくないのよ…あの子が私たちを裏切ったなんて」


生きとし生ける者に希望を与える幸福の女神、希望の魔女

そして破滅の魔女、ここの魔女七席に収まっていたときは世界中の人々の心を管理し、過度の絶望を味わわないように調整していた精神の管理者、絶望の魔女

これが魔女七席

世界の魔女「彼女の裏切りは小さなことだった。しかし、今そういうわけにもいかなくなった」

希望の魔女「…そう、ついに動きだしたんですね。あの子…」

世界の魔女「そうだ、奴はニャルラトホテプの言葉に耳を貸し、手を組んだ」

終末の魔女「…マジ?」

創始の魔女「…許せねえな、魔女として」

知識の魔女「その話が本当ならば大変なことになったのじゃ、ニャルラトホテプは本来手を出せないはずのこの地球内に強力な駒を持つことになる」

闇夜の魔女「…」

世界の魔女「どうした?闇夜の魔女」

闇夜の魔女「…もっと大変なことになったのです。ゆ、勇者ちゃんとキツネちゃんが…」

希望の魔女「…勇者………その人たちがどうしたんですか?」

闇夜の魔女「…勇者ちゃんたちの行く先、必ず破滅の魔女とニャルラトホテプが立ちふさがります」


闇夜の魔女「ボクの未来予知。このままだと、勝ち目は……………ゼロなのです」

アニメで言うと第7話のタイトルコール前のプロローグだが今日はここまで

また月曜日に来る

第七話「復活の邪神と壊れゆく世界」

勇者「着いた。ここがアーカムだ」


そこは古びた村だった。人の気配すら疎らな村


銀狼「ふむ、ここが本当に夢の中に?」

勇者「あぁ、間違いない。ここが夢の中で出てきた村だ。あとはあの女の子を探すだけだな」

「夢…女の子?」

勇者「え?」


遠くに信じられないっていうふうな顔でこっちを見ている子がいた

そう、その子は


「ようやく会えた。本当に、本当に来てくれた…」


あの夢で助けを求めてきた女の子

おーい

続きマダー?

勇者「…でっけえ家だなぁ…」


詳しい話をするからと家に連れられてきたがどっちかというと屋敷だった。なんだこのでかさ


少女「はい、私の家、こう見えても元貴族だったので」

銀狼「ほぉ、ならこの大きさも納得だな」

魔王「元とはどういうことなのじゃ?」

少女「私の家、ひいおじいちゃんの前の世代で没落しちゃったの、ランドルフカーターっていってけっこう有名な冒険家だったんだけどね…」

勇者「そうなのか。すまんな、嫌なこと聞いて」

少女「ううん、別に気にはしてないよ。それより…本題、いいかな?」

勇者「あぁ」

少女「私の家はね、代々異能力をもって受け継いでいる家系なの」

魔王「異能力…とはあの魔法でも妖術でもない不思議な力のことかや?」

少女「そう、私の家は代々"夢見人(ドリームウォーカー)"という能力を受け継いでいるの、もちろん私も」

銀狼「それはどんな能力なんだい?」

少女「夢を通して別の世界に行ったり夢を使って未来予知したり他人の夢に入ったり夢を操ったり色々と出来るの」

勇者「なるほど、それを使って俺の夢に助けを求めに来たわけか」

少女「うん、私の"予知夢"は絶対当たる。それによるとこの町、ううん、この世界に大変な危機が迫ってるの」

勇者「…大変な危機?」

少女「このままだと…邪神が蘇って世界は奴らに滅ぼされる」


それは、邪悪なる混沌の神が仕掛けてきた第二のゲーム


その始まりだった

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

勇者「…どうすればいい?どうすれば防げる?」

魔王「主よ、やるつもりなのかや?」

勇者「防ぐ手立てがあるから呼んだんだろう?やってやるよ」


ニャルラトホテプ、奴の好きにはさせない。あいつが挑んで来るってんなら


真正面からぶち破ってやる


それが勇者としての、使命だ


銀狼「少年…」

勇者「念のため言っておく。俺はこれからとんでもない危険を犯しに行くだろうな。本気の邪神に挑んで生きて帰れる保証はない、お前らはついてこなくてもいいんだぞ?」

魔王「くふっ、それでついていかないとでも言うと思ったのかや?」

銀狼「少年、私も狐と同じだよ。そしていつも同じ答えを言うよ、私は君のためならどこまでもついていくよ」


…まぁ、こう返ってくるのはわかっていたけどな

少女「この町の奥にはとてつもなく古い遺跡が存在しています。その奥にとある本が封印されています」

勇者「封印?」

少女「その封印を解けるのはあなただけなのです。あなたと、その剣」

勇者「やっぱり、こいつか」


剣を掲げる。何かに呼応するように黒く光った


魔王「その封印されている本ってのはどんなものなのかや?」

少女「魔力を極限まで高めることが出来る方法が書かれています。そして、邪神を呼び起こす方法も」

銀狼「それをとってくればいいのかい?」

少女「はい、奴ら…何者かは分かりませんが邪神を崇拝している者たちより先に」

勇者「そうか、じゃあとっとと行こう。早く行かないとまずいんだろう?」

少女「いえ、まず遺跡そのものに貼ってある結界がある日にならないと剥がれないので…今夜は泊まっていってください」

勇者「…そうか、で、その日は?」


少女「明日です」


…時間は無いようだ

その日の夜、夢の中で


-人間、第二のゲームを用意したぞ-


全身黒い服に身を包んだ真っ黒い男が現れてそう言う。直感的に誰だかは分かった


勇者「ニャルラトホテプ、やっぱてめぇか」

-そうだ、しかし貴様は逃げることをも許されている-

勇者「何?」

-逃げれば先ほどの少女の命はない。いや、多くの人間の命は失われるだろう-

-しかし、逃げなければ貴様の大事な二人の仲間は-


-確実に死ぬ-

勇者「ふ、ばーか。俺がそんな脅しに怯えるかよ」


-く、くっくっく。その言葉を期待していたぞ-


勇者「へ、とっとと始めろよ。第二のゲームってのをよ!!」





-もう始まっているぞ-


勇者「何?」


-少女と貴様の大事な仲間を救いたくば寝ている場合ではない。既に先手は打たせてもらった-

勇者「魔王!銀狼!!」ガバッ





魔王「ん~、どうしたのかや?ぬしよ…」

銀狼「少年、おかわりぃ~」


良かった、いる。約一名寝ぼけてはいるが


勇者「って、そうじゃない!少女ちゃんがちゃんとこの家の中にいるか探そう!嫌な予感がする」

魔王「?」

銀狼「?」


二人とも何が何だかみたいな顔をしていたが俺に続いて部屋を出る





勇者「少女ちゃん!」

魔王「娘!おらぬかー」

銀狼「少年、娘の寝室は?」

勇者「しまった、一番最初に調べるべき場所はそこだった!」


くそ、俺も寝ぼけていたか…無事でいてくれ




勇者「お前!何している!!」


寝室に入ると少女を抱きかかえて窓から逃げようとしている奴を見つけた

変な仮面をつけたごつい男だった


「ぢっ゙、見゙づがっ゙だが」


やけに喉に引っかかるようなガラガラした声だった


魔王「貴様、何者じゃ!」


「ダゴン゙秘゙密゙教゙団゙」

勇者「何?」


その名は…


「~~~~~」


勇者「!?」

魔王「グ…」

銀狼「…ふむ」


そいつが文字に表せないような奇妙な発音の音を口から紡ぐ…これは、呪文だ

体が動かない


「ごい゙づばも゙ら゙っ゙でい゙ぐ。゙返゙じで欲゙じげれ゙ば゙な゙ん゙でごどば言゙わ゙ない゙。関゙わ゙る゙な゙、追゙っ゙でぐる゙な゙、ごの゙町゙がら゙立゙ぢ去゙れ゙」


聞いているだけで吐きそうになる不快な声でそう言うと窓から飛び去る





勇者「待て!」


ようやく金縛りが解けて窓まで駆け寄るもすでにいなくなっていた


勇者「くそっ!」

今日はここまで、また「明日」書きます

勇者「魔王、銀狼、どっちでもいい。あの子の匂いを追ってくれ!」

魔王「了解じゃ」

銀狼「任せろ、少年」





町の奥、遺跡の中にその匂いは続いていた


勇者「…確かに結界が張ってあるな」

魔王「しかし匂いはこの奥へと続いておるぞ?」

勇者「おっけー、二人とも下がってろ」ス

勇者「くえるくとぅるー いあどまるどるく えぐどりあくと まきむとるくるく だーく おーるど わん とりたみな」


勇者「覇王の剣、モード吸収!」


ザシュ

ギュルォォォオオオ


結界を魔力ごと覇王の剣で吸収する


魔王「相変わらず万能じゃな」


…実は俺の記憶が戻って以来この剣の威力は格段に上がっており、今も力をセーフして使っている

本気を出したらどうなるかは怖いところだ


勇者「モードノーマル…さぁ、行くぞ」


ニャルラトホテプめ、先手は許しちまったが…こっからは、俺のターンだ!

乙乙

hosyu

>>246
この板では保守いらんとです

勇者「…静かすぎて怖いぐらいだな」

「ぞゔで゙ずがな゙?」

勇者「!?…やっぱり一筋縄じゃ行かせてくれないか」


目の前に悪臭を放つ仮面の一団がいた。不快な匂いに耳にベッタリと貼りつくような不快なガラガラ声

そして不気味な笑みを浮かべる仮面


魔王「…主、先に行くが良い」

銀狼「少年、一瞬だけ道を開こう。あの娘を助け出してこい」

勇者「…死ぬなよ」


ニャルラトホテプの言葉を思い出し、少し怖くなる


魔王「くふ、主は誰に対して物を言っておるのかや?」

銀狼「よもやこの最強の妖獣たちにじゃないだろうね?」

魔王「オオカミ、妾に合わせよなのじゃ」

銀狼「それはこっちのセリフだよキツネ」

魔王「主は目をつぶっておれ」


小さく耳打ちされる


魔王「最大級閃光呪文!」


そこら一体を巨大な光の玉が照らし、敵の視界を奪う


銀狼「行け、少年」

勇者「サンキュ、あの子を助けたらすぐに戻ってくる」タッタッタ



魔王「行ったようじゃな」

銀狼「そうだね。さて、どうする?攻撃呪文効いてないよ?盲ましとしてしか機能してない」


仮面の連中はなんとも無かったように動き出した。そして勇者を追おうとする


魔王「待て。主らの相手は妾たちじゃ」ザワザワ

銀狼「少年に手は出させないよ。何があっても」ザワザワ


全身から毛が生え、人間姿から完全な獣の姿へと変化する


魔王「妖獣九尾」

銀狼「妖獣神狼」

魔王&銀狼『遊んでやろう。光栄に思うがいい』

仮面の集団「…」パカ


仮面の集団が全員一斉に仮面を外した


魔王&銀狼『!?』


…なんてことだ、こいつら…人間じゃない

勇者「…無事でいてくれよ」


それは誰に言うつもりで言ったのか自分でもわからなかった

何故ならどちらも死ぬほど心配だったから…

少し走ると仰々しい扉にぶち当たった


勇者「こんなもの。えるいげりな くるころろ ききるへんろい くえるしゔぁ」

勇者「覇王の剣、モード破壊!」

勇者「うおりゃぁあ!!」ズガン


正真正銘力技で扉をぶち抜く


「魔術結界ごとブチ破るとは加減を知らないのですかあなたは」

勇者「加減だァ?知るかよんなもん。そんなことより」


勇者「少女ちゃんを返せ」


「奥にいますよ。通しはしませんが」


そいつが前に出てくる。仮面をつけた不気味な男だった。吐き気がするほどの腐臭がそいつからする


勇者「にしてもお前臭えな。ちゃんと風呂は入れバカ」

仮面「いえいえ、これは染み付いている匂いでね。いくら洗っても取れないんですよ。なんたって」

仮面「私は怪物ですから」パカ


仮面を外した

その下にあった顔は…魚を模したグロテスクな、しかし作り物ではありえない生々しさを持った"顔"

魚顔の人間

匂いだけではなく、そのグロテスクな、本来の意味でのグロテスクな見た目に吐き気を催す


インスマウス「私の種族はインスマウス面と呼ばれる特徴的な顔をしてましてね。それだけでなく」


インスマウス「こういう変身すらもでぎま゙ず」グググ


体が二回りほど大きくなり、背が丸まる。肌が濃い緑色になり、背びれのようなものが生え、手のあいだに水かきが出来る。その姿は魚にもゴリラにも蛙にも見えた

           ディープワン
.インスマウス「モード"深きもの"」

インスマウス「行゙ぎま゙ず」

勇者「来いよ、化け物」チャ


剣を構えて向かっていく、化物も大きな体で突進してくる


勇者「"破壊"!」ドゴン

インスマウス「」ス

勇者「!?」


覇王の剣は捉えたはず

しかし、次の瞬間そいつは隣にいた

インスマウス「ごん゙な゙姿゙で゙も゙機゙動゙性゙ば充゙分゙あ゙る゙」

勇者「はk」

インスマウス「遅゙い゙!」ガッ

勇者「ぐあっ!」


壁まで吹っ飛ばされる


インスマウス「だだ゙の゙人゙間゙に゙ば私゙ば倒゙ぜま゙ぜん゙」


ただの人間…


勇者「じゃあ、俺も化物になれば…」

インスマウス「え゙ぇ゙、ぞれ゙で゙も゙神゙話゙生゙物゙どの゙ハー゙ブに゙勝゙でる゙見゙込゙み゙ば少゙な゙い゙で゙しょ゙ゔが゙ね゙」

勇者「…覇王の剣に封印されし破滅の悪魔よ。俺の呼び声が聞こえるか、貴様を呼ぶこの声を聞き届けよ」

インスマウス「呪゙文゙詠゙唱゙!?ざぜる゙がっ」

勇者「生憎一度喰らえば大抵の攻撃は避けられるんだな」


再び来た瞬間移動並みの速さの体当たりを避ける


勇者「今の貴様は封印されし獣なり、そして今一度その力を解き放とう。我が刃となり従うがいい」


一瞬でケリをつけてやる


勇者「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ る りえー うが=なぐる ふたぐん いあ いあ くとぅるー いが まぐな いんどぅるむ」


勇者「覇王の剣、覚醒!!」



グオオォオオオ


遠くから遠雷のような、地の底の地獄から響いてくるかのような巨大な唸り声が聞こえた気がした


勇者「っ!?」


過去の記憶が脳裏をよぎる。いや、脳内を支配している。嫌な記憶が、トラウマとも言うべき心の闇が…


勇者「…こんな世界、あの子を奪った…こんな世界は…壊してやる…」


心の闇が、あの日の恨みが、俺を包んでいった

しかし


-ユウくん!-


優しく、しかし力強い声が俺を引き止めた

闇へ、深い闇へ堕ちゆく俺を掴み、引き止める


-私は、知ってるよ。君はとても強く、とても優しい。だからこんな闇になんか堕ちたりしない、負けたりしない!-


…アカリちゃん


そうだ、俺はあの場で学んだじゃないか。あの子は、アカリちゃんはずっと俺の中に、俺と共にある!

確かに、俺の心の中は、過去も記憶も大部分が闇に染まっている。そして俺はそれを受け入れた

しかし、あの子が、優しさの象徴であるアカリちゃんがいる。その限り


絶対闇に飲み込まれたりはしない


勇者「覇王の剣、過去の力を、俺の闇の力全てをくれてやる!俺の魔力の全てを!!」


更に、更に強い憎しみが俺の中に蘇ってくる。意識が闇に呑み込まれそうになる


勇者「ぐぐぐ…」

勇者「ぐ、ああぁぁあああ!!」





インスマウス「…素゙晴゙ら゙じい゙。ごれ゙が゙大゙司゙祭゙、大゙い゙な゙る゙グドゥ゙ル゙ブ様゙の゙お゙力゙」

勇者「…ぅ゙ぅ゙ぅ゙ゔ」

インスマウス「グドゥル゙ブ様゙、ごの゙身゙捧゙げ゙ま゙じょゔ」

今日はここまで、毎度毎度更新遅くて申し訳ない

乙乙

乙乙

ho

もうダメか…

生存報告です。
まだだ、まだ終わらんよ

しかし夏休み中に更新はできないかもしれない

まだ夏休み終わらんのけ?

生存報告
就職試験終わるまで待って
2週間後が面接だから

>>259
わかった面接頑張れ
ついでに>>1には40代後半以上の面接官が同性だった場合>>1が惚れられるという呪いをかけて置いた

>>259
わかった面接頑張れ
ついでに>>1には40代後半以上の面接官が同性だった場合>>1が惚れられるという呪いをかけて置いた

ぐぬぬ連投すまぬ
なんだ強制ロックって?

魔王「ふん、口ほどにもない連中じゃ」

銀狼「我々本物の化け物に混血如きが勝てるわけがないよ」


魔王と銀狼の目の前には沢山の魚人面の男たちが死屍累々と転がっていた


銀狼「狐、私たちは結構息が合うんじゃないかい?」

魔王「冗談じゃないわ。貴様となぞ」

銀狼「そうか、それは残念だ」

魔王「ま、あやつの頼みだったら手を貸さぬこともない」

銀狼「…そうか、では少年のため、頑張ろうか?魔王」

魔王「…一時よろしくの、銀狼」


その目の前では奴らが起き上がってきた


銀狼「さて、ここまでは予想通りだね」

魔王「第2ラウンドと行くかや?」


銀狼&魔王「怪物ども」


全員が異形の怪物へと変化していく

魔王「これがお主らの本領発揮かや?」

インスマス「ぐるる、我らの血族、その真の姿」

銀狼「醜いね。かっこよくて美しい私達とは大違いだ」

魔王「妾が一番じゃがな。狼、主なんかよりよっぽど美しいわ」

銀狼「ふふ、それは後で少年に聞いてみるとしよう。ほら、来るよ?」

魔王「弱いわぁ!」


ガキィイン


巨大な鈎爪で吹っ飛ばす


銀狼「ふむ」


ズシャア


次々となぎ倒すも切りはない


魔王「不死身の呪いでもかかっておるのかや?ま、妾を倒せぬのなら意味はないがの」

銀狼「少年のところには行かせないよ。私たちは時間稼ぎさえできればいいからね」



「…馬鹿め、時間稼ぎはそいつらだ」


くぐもった声がし、次の瞬間インスマス面共がなぎ倒される。一瞬にして


魔王「狐面…」

狐面「…」

銀狼「まさか君も少年を助けに来た…」

狐面「次は貴様らだ」

銀狼「…わけではなさそうだね」


一筋縄ではいかない敵が現れたものだよ

魔王「本気かや?」

狐面「…」ス

銀王「本気のようだな」ザワザワ

魔王「何でじゃ!前は協力してくれたではないかや」

狐面「…確かに俺は貴様らと一度共闘した」

魔王「そうじゃろが」

狐面「そのよしみだ」

狐面「痛みを感じる前に一瞬で殺そう」

魔王「っ、防御呪文!」


狐面が攻撃に踏み切ったのと魔王が防御呪文で壁を作り出したのはほぼ同時、奇跡的な幸運で魔王の呪文が寸でのところで先に出現した


狐面「ぐっ、妖術、魔法吸収」

銀狼「何か事情があるだろうがそんなものは知らないね。風の神の眷属の瞬足を舐めるなよ?」


シュ


目にも止まらない速さで防御魔法の壁が消えると同時に銀狼が攻撃にかかる


君の目では追いつけまい、できるのは同じ眷属ぐらいなものさ


狐面「…」

魔王「よそ見しておる暇があるのかや?」


魔王が巨大な鈎爪を振り下ろし、銀狼も牙を突き立てようとする


狐面「残念だが、俺には時間が無いようだ」

銀狼「何!?」

魔王「なっ、何じゃこれは!」

狐面「妖術、影網」


影が伸びて魔王と銀狼と捉えていた

そして


ドガッ


地面に叩きつけた


魔王「かはっ」

銀狼「っ…」


意識が…失くなる


狐面「じゃあな」

改めて見直したら少なっ!

明日に続く

すまん、無理だった
今から書く

インスマウス「…素゙晴゙ら゙じい゙。ごれ゙が゙大゙司゙祭゙、大゙い゙な゙る゙グドゥ゙ル゙ブ様゙の゙お゙力゙」

勇者「…ぅ゙ぅ゙ぅ゙ゔ」

インスマウス「グドゥル゙ブ様゙、ごの゙身゙捧゙げ゙ま゙じょゔ」

勇者「があ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!」


ズバァァ!


インスマス「な、何故…ですか、クトゥ…」

ばた


勇者「ふん、奴なら押さえ込んでやったよ。永遠にこの剣の中で寝てやがれってんだ」


一瞬で方はついた

邪神の眷属であろうと一振りで斬り伏せる。それが覚醒した覇王の剣

それにしてもこの気配…狐面?

…殺気混じりか

まぁいいや、先に進もう


「ちょっと待ちなさぁい」


からかうようなねっとりとした女性の声がした


「うふふ、初めまして。予言された勇者くん」

勇者「何者だ…」

「あなたは私と同じ気配の仲間に会ったことがあるはずよぉ?」


その女は退廃的なゴシックロリータ調の服に身を包んでおり、白銀の髪と白い肌に対象的な赤い目が映えていた


勇者「…魔女か?」

魔女「せいかぁい、良くできたわね」

勇者「まさか手伝いに来てくれたのか?」

魔女「まさかぁ、私はね。他の魔女たちとは違うのよ?」

魔女「私は破滅の魔女、絶望と破滅を司る存在」

魔女「私の計画のためにあなたにこのさきに進んでもらっては困るのよ」

勇者「そうかい、無理矢理にでも進ませてもらうぜ!」


剣を魔女に突き立てようとする。しかし


魔女「せっかちな男は嫌われるわよぉ?」クスクス


片手で受け止められた


勇者「な」

魔女「私は破滅の魔女、魔女七席の末席にして最強の魔女」ゴゴゴゴゴ

魔女「その私に勝てると思うなら、かかってらっしゃい?」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべる魔女

勇者「超級、雷撃魔法!ゲリラ豪雷注意ってね!」


勇者が上を指差すと天井から雷が大量に降ってきて魔女に当たる


魔女「魔女に魔法で挑むなんて愚かね」クスクス


片手で全て受け止められる。平気な顔で

しかしそれはフェイクだ!


勇者「剣技、居合大斬撃!」


魔女が防御のために上を向いた一瞬の隙に懐に入った

その体、大きく削ぎ落としてやるっ


しかし


魔女「女性の懐に入るのが上手いのね。惚れ惚れしちゃうわ」クスクス

勇者「!?」


傷一つついてない!?、いや刃が届いていない


勇者「なっ」

魔女「言ったでしょ?私は最強の魔女。何をしても私には勝てないのよ」

勇者「魔法封じ!魔法解除!」

魔女「無駄よ無駄、人間の魔法が魔女の魔術に勝てると思って?」

魔女「さて、このねずみちゃん」


いつの間にか体が動かない?


魔女「どう料理してあげようかしら」クスクスクスクス

勇者(やられるっ)


「そいつを、離せェえェえええ!」


魔女「?」

勇者「げふっ!」


当身をくらって俺が吹っ飛ぶ、魔女は瞬間にさっと避けやがった


狐面「おい、無事か?」


狐面!?


魔女「」ニヤリ

狐面「おい、無事か?」

勇者「ん?あ、あぁ今の当身でアバラがイったような気もするが…」

狐面「剣は」

勇者「?覇王の剣か、無事だが…?」

狐面「…そうか、では」


狐面「俺によこせ」


勇者「は?」

狐面「よこせ!」

勇者「ぬわっ!」


どがっ!


壁を破壊するほどの拳が襲いかかってきた。咄嗟によけなきゃ死んでたな


狐面「」ギロ

勇者「お、おい、どうしたんだよ。俺に託してくれたんじゃなかったのか?」

狐面「事情が変わった。あいつは俺が倒す。その前にお前を殺す」

勇者「何があったって言うんだよ!」

狐面「うるさい」ゴォオオオ


右手に魔力が集中してゆく。あぁそうか


勇者「本気か」ス

狐面「殺すつもりでかかって来い」



_____
___
_


魔女「クスクス、そうよ。戦いなさい、殺し合いなさい。あなたがその剣を持つにふさわしいのよ」

魔女「そしてその戦いの先にこそ破滅はあるのよ。私はその様を高みの見物するの」


クスクスクス、アーハハハハハ

勇者「困ったな、俺女は傷つけない主義なんだが」

狐面「甘ったるいことを言っている場合か?妖術、部分変化!」


手を剣にっ!?


ガキィイン


勇者「…お前の素顔、写真で見たが可愛かったぜ?」

狐面「俺がそんな手で動揺するとでも?」


カキィイン


勇者「やっぱダメか?可愛い女の子なのに勿体無い」


ガキン!


狐面「俺には女も男も関係ない。全て捨てた!今あるのは"俺"という一個の化物だ!化物でしかないんだよォォォおお!!」



ガキン、キン、ガキン!


やばい、押され始めた。何が…何が彼女をここまで動かせるんだ。ただの復讐心なのか?


勇者「…話してみろよ」


ギ、ギギ


狐面「何?」

狐面(押され…何この力)

勇者「話して、みろってんだよ。何があった、何がお前をそこまで進める、歩ませる」

狐面「ふく、しゅう…しんだ」

勇者「違う、それだけじゃないはずだ」

狐面「お前に、お前には関係はない!」

勇者「話してみろって、言ってんだろ!」


ガッキィィイイン


狐面「があっ!」


ズサァア


狐面「ど、どこに…こんな力が」


ふん、覚醒を解かずにおいてよかったよ。まったく、さて


勇者「言ってみろよ」

狐面「だったら簡潔に述べてやる」

勇者「?」

狐面「その覇王の剣は俺とお前どっちかが死なないと本当の覚醒はできない!俺か、お前か、どっちかがどっちかを殺して本当の使用者となれる!そうしなければニャルラトホテプには勝てない!!」


バキッ


勇者「ぐはっ」

狐面「…これで、振り出しだ。最後の戦いといこうか」


互いに(俺は半強制的にだが)距離を取る


狐面「俺を殺したらお前がやつを殺せ!そうでなければ俺がお前もやつも殺してくれる!!!」

勇者「あぁ、そうかい」ス


本気で構える


勇者「じゃあ、俺も本気で行ってやる。さっきのは前言撤回だ」


勇者「俺が」


狐面「お前を」


勇者&狐面『殺す!!』

今日はここまで

見てる人…いる、よね?遅くなった上に少なくてすまない

いますよー

是非とも頑張って


ひやひやしたぜ

勇者「ぅぉおおおおおお!」


ガキィイイン!


狐面「ぉおお!」


ガキィイン


本当のところ、まだ納得はしていない。でもあの目を見たら本気だと、やらなきゃいけないと分かった


カキィイン


本気の戦士に対して手を抜くことは馬鹿にしてると同然だ


キィン


それだけは出来ない

だから俺は全力を出す。全力で戦う

狐面「あっぁああ!」


ガキン!


本当は俺だって勇者とは戦いたくない。むしろ肩を並べて戦いたかった


勇者「おぉおぉお!」


ドッガン!


狐面「かはっ!」

狐面「まだまだぁぁぁああ!」


ギィイイン!


でもダメなんだ。俺には時間が無い、もう崩壊が始まってきている。このままでは…

だったら、だったらせめて戦いの中で朽ちたい。俺は化物として生まれ変わってからずっとこの中にいたから

あぁ、心地良い戦いの感触、復讐はお前に任せよう。俺は無理だ

そう、無理

あぁ、なんと楽しい最後だ。なんと楽しく心躍る

そして



なんと…孤独な

更に戦いは激化してゆく

能力、魔法、妖術、それらがぶつかりあい、激しいエネルギーを撒き散らしながら雲散霧消する

それらを遥か上から見下ろす影が三つ


ダゴン秘密教団、教祖

それに捕まえられている少女

そして破滅の魔女


教祖「ついに、ついにここまで来た。我々の念願が叶う」

少女「何が、何が始まるって言うの…」

教祖「くくく、今ここに神が降臨なさるのですよ。我々の神がね」

少女「そ、そんなことして何になるって言うの!?ただ破壊が繰り返されるだけよ!」

教祖「ふ、ふふふ…ボクたちは、ただ神様にすがりたいだけさ。…だから、生け贄になってくれ」

少女「く、狂ってる…あなたね、あなたが彼をここまで…」

魔女「うふふ、私はただ導いただけよぉ?邪神の血を引くものとしての道をねぇ」クスクス

少女「…」


だめだ、既にちゃんとした会話をするほどの正気すら保ってない

勇者さん、お願い気づいて。そこで戦い続けるのは敵の思う壺なの…


教祖「さぁ生け贄を捧げよう。神のこの生け贄を捧げます」

少女「あぁああああぁぁああ!」


ブシャア!


夥しい血が流れ、教祖の持っている魔道書へ吸い込まれる



魔女「さぁ始めましょう。私の愛しい主ニャルラトホテプ、あなたの計画を私の手で実行するわ」

魔女「今より絶望は加速するの」

魔女「クスクスクス、さあ、始めましょう。世界の破滅を、絶望の創造を、混沌たる世界へ向けて!」


勇者と狐面が戦っているその場所は上から見るとまるで巨大な魔方陣のようだった

この時間に見ている人はいないだろうけど一旦ここまで
もしかしたら今日はここまでかも

乙したー

いつもニコニコ見てまっせ

今日更新!
もしかしたら今日で7話終えられるかな

勇者「おぉぉおおおお!!」

狐面「ぁぁぁあああ!!」


ガッキィーン!


更に、戦いは激化していった

剣を交え!

身を裂け!

肉を抉れ!

骨を砕け!

戦え!戦え!


その身滅ぶまで!敵を殲滅するまで!


言葉が頭の中を満たす。戦えと、滅ぼせと

狐面「勇者あぁっぁああ!」ガキィイン

勇者「狐面んんんんんんん!」ガキィイイン





狐面「俺とお前は戦うことでしか分かり合えない!」

勇者「はっ、最初からそうだったなぁ」


ガギン!


狐面「あの、俺たちの故郷の時もそうだった」


バキン!


勇者「だから!」

狐面「最後まで!」


勇者「戦い続けよう!」

狐面「果てるまで!滅ぶまで!何度でも!何度でも!!」


それが、定め、それが運命

この場は絶好の舞台だ!さぁ戦おう!滅ぼそう!


勇者と狐面は戦いを続けていた。楽しんでいた。全てを忘れて。全てに気づかずに


そう


足元の地面が巨大な魔方陣だったということも


それが禍々しい光を放っていたことも



彼らは、気づかない

魔女「さぁ戦いなさい、全てを賭して。全ての力を出し惜しみせず」


魔女「さぁ見せて御覧なさい。貴方たちが託された邪神の力」


魔女「さぁ、さぁさぁ!」


魔法陣の力が更に強まる

勇者「覇王の剣に封印されし破滅の悪魔よ。俺の呼び声が聞こえるか、貴様を呼ぶこの声を聞き届けよ」

狐面「我が身の内に潜む猛り狂う暴走せし存在よ。我の呼び声に答えるが良い」

勇者「今の貴様は封印されし獣なり、そして今一度その力を解き放とう。我が刃となり従うがいい」


狐面「いあ にゃるがしゃんな いあ うとぅるとぅる うがる ぐ=が くるうるる くえろびな にゃるしゅたんな いあざ あざとほーと」


勇者「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ る りえー うが=なぐる ふたぐん いあ いあ くとぅるー いが まぐな いんどぅるむ」



狐面「全魔力開放!」


勇者「覇王の剣、覚醒!」


ゴォォオオオオ



とてつもない魔力が二人を包み込む、勇者の剣が禍々しく輝き、狐面の全身の文字が黒く光り仮面にまで広がる


そして


足元の魔法陣の輝きも強くなった。これほど無いというぐらいに



魔女「さぁ、終わりが始まるわ」

狐面と勇者が拳と剣を交えた


カキィイイン

ヴィィイイン


勇者「な!?」

狐面「!?」


魔力を宿している手と剣が交わったとき、互いに互いの魔力が強く反発しあい、共鳴しあい、強く反応した


そして周りの、自分たちの足元の魔方陣に全ての魔力が吸い込まれていった


魔女「アハハハハハ、これで、これで完成したのよ」

狐面「…貴様は」

勇者「破滅の魔女…」

魔女「ここにはね。あなたたちの闘争心を昂ぶらせる魔法を満たしてあるの、そしてその魔方陣は」


魔女「あなたたちの膨大な魔力があって初めて起動するものなのよ。あなたたちの、邪神の魔力がね」


勇者「邪神…覇王の剣か!」

狐面「…」


覇王の剣の魔力、とてつもないものと思っていたが邪神のだったのか

そして狐面の魔力も、邪神ニャルラトホテプの呪いが混じっているもの

闘争心を最大限に煽ることで互いに魔力を最大まで出させようとしたのか


教祖「ふはははは、魔女よ。これで神が復活するのだな!」

魔女「えぇそうよ。これで、神がね」


グサ


教祖「あっな…何故…だ」


ドサ


魔女が妙な装飾のされた短剣で教祖を貫いた


魔女「最終工程は、彼の眷属の血を引いたインスマスの骸が必要なの」


ゴゴゴゴゴゴゴ


魔方陣が再び禍々しい光を放ち、膨大な魔力が彼の体に集まった


魔女「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん」


魔女「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ る・りえー うが=なぐる ふたぐん 」


魔女「アハハハハハハ」


空気が揺れ、世界が叫ぶ

勇者「…ててて、気絶していたか」

狐面「くそ、すまん。俺が…奴め」


狐(呪いを通して俺の心に入り込んだのか。這いよる混沌め)


勇者「何が起きた?魔女は?あいつらは…っ」


空を見上げた。そこにあったのは


穴、


巨大な穴がぽっかりと空に開いていた


狐面「あぁ、本当に…なってしまったか」

勇者「だけど話は簡単だ。そうだろ?」

狐面「…封印し直すか倒せばいい話だ。とか言うのか?」

勇者「大正解だ。ただし必ず倒すがな」

狐面「…相手は邪神だぞ?」

勇者「それが何だ。俺を誰だと思ってやがる」

狐面「ふ、お前となら何故か出来る気がしてくるから不思議だな」

勇者「あぁ、よろしくな」


手を差し出す


狐面「ああ」


それを握る。ニャルラトホテプめ、今に見ていろってんだ

「…あなたは、なんということを…」

破滅の魔女「あら、久しぶりね。希望の魔女」

希望の魔女「…あなたが私たちを裏切ったとき以来です。出来れば昔のように、昔のままで…いたかった」

破滅の魔女「もう私のやるべきことは済んだわ。今からでも良ければあなたの良きパートナーに戻ってあげるわ」

希望の魔女「…あなたは皆に好かれ、皆にとても可愛がられていました。私も…あなたが大好きだった」

破滅の魔女「あら、恋の告白?嬉しいわね」クスクス

希望の魔女「でも、あなたは全てを敵に回してしまった。もうあなたは魔女同盟の可愛い新入りじゃない」

希望の魔女「全世界、すべての敵よ。破滅の魔女!」

破滅の魔女「…もう昔の名では呼ばないのね…そう、それでいいの。私は敵だから」

希望の魔女「止めなさい、全ての歯車を元に戻しなさい!」

破滅の魔女「…もう止まらないわ。一度、動き始めたからには」

希望の魔女「なん…ですって?」

破滅の魔女「空を見てみなさい」クスクス

希望の魔女「な、な…」


希望の象徴である青空が消えていた。いや、青空に巨大な穴が開いており、そこから何かが大量に降ってくる

銀狼「な、何だあの空は…」

魔王「…まずいのじゃ、このままだと…世界が…」

勇者「魔王!銀狼!無事か!?」

魔王「主よ…主よ!良かったのじゃ。無事で…」ギュゥ

勇者「ごめんな、心配かけて」ナデナデ

狐面「…」

銀狼「どうやら君も無事らしいな」

狐面「…俺はまた大事な物を見失っていた。許されることも、許されようとも思わない」

銀狼「でも少年は許したのだろ?」

狐面「…あいつは優しい奴だ。こんな俺でも平等に対等に見てくれる。こんな俺を許してくれた。こんな…化け物を」

銀狼「そういう子だよ。私も、狐も、半妖も魔物の王も関係なく愛してくれる」

銀狼「だから私も好きだよ、少年は。その少年が許したんだ。私も君を信じるさ。多分狐もね」

破滅の魔女「今、幻夢郷の扉が開いたのよ」

希望の魔女「っ!あなたは!」

破滅の魔女「もうこうなったらお仕舞いよ。世界の、全てが!破滅、絶望、混沌、終焉。楽しみね、クスクスクスクス」

勇者「…なぁお前ら、頼む、逃げてくれ」

銀狼「なに?」

魔王「な、何を言っているんじゃ主は」

勇者「すぐにでも大変なことになる。その前に…」

魔王「…この、愚か者!妾が、狼が、主を捨てて逃げるなど本気で思っておるのかや!?そんな寝言を言う暇があるなら…あるなら。ウゥ…このたわけ!」ポロポロ


言葉が途中で迷子になり、それでも涙を流しながら訴えてくる。最後までいっしょにいると


魔王「何度も言ったわ!何度も言うわ!どこまでも行くと」

勇者「ありがとな。…銀狼、お前もいいのか?」

銀狼「言っただろう?私も同じだ。どこまでも君について行くと」

勇者「ありがとう…絶対にお前らを守ってやるからな」

狐面「…その辺にしておいた方がいいな、見ろ」

勇者「な…」


空を見ると、空に空いている穴から異形の怪物が次々とやってくるのが見えた


狐面「神話生物だ。邪神どもの眷族だよ」

魔王「そうかや、あれが伝説で伝えられる神話生物…魔物など足元に及ばぬ化物じゃ」


魔王でさえ恐れる存在、そんなのが何百も…

まさに、絶望


ゴゴゴゴゴゴゴ

オオオオ!


大気が震え、地面が揺れる

そして地獄から響くような恐ろしい声がする


狐面「ついに、現れたか」

勇者「あれが、あれが…邪神」


勇者「邪神、大いなるクトゥルフ」


世界に、絶望と破滅が形をなして現れた瞬間だった

七話完結まで書けなかったけどしょうがないか

続きは明日


待ってる

それは、とてつもなく大きく、恐ろしげな存在感をもって吠えていた

見ているだけで吐き気を催すような恐ろしい姿、とても言葉では表せない名状し難い見た目

そして天を突くような巨躯


勇者「…あのやろう」ギリ

狐面(何故だろう。まだ、まだ何かある気がする)

銀狼「少年!奴等が来るぞ!!」


見ると神話生物達が大群をなしてやって来ていた


狐面「…問題ない」

勇者「あぁ、行くぞ魔王」

魔王「ふむ、ただの魔物では足元には及ばぬじゃろうが、ここには歴代最強の魔王である妾と主がおる。かかってくるがよい。地獄の悪霊ども」

______
___
_


希望の魔女「…残念でしたね」

破滅の魔女「何がかしら?」

希望の魔女「邪神の一体と幻夢郷の生物をいくら呼び出そうと私たち七席…いえ六席の魔女と彼等が希望となります。あなたは、勝てない」

希望の魔女「私たちが全て倒せます!」


破滅の魔女「クスクス、クスクスクスクス」


希望の魔女「な、何がおかしいのです?」


破滅の魔女「邪神の一体?本当に一体だけかしら?」クスクスクス


希望の魔女「なっ、まさか…いえ、あの魔方陣と魔力ではせいぜい一体の封印を解くことが精一杯なはず…もう一体なんて」

破滅の魔女「実はね、クトゥルフが眠っているすぐ近くにもう一体眠っているのよ。それはクトゥルフと対をなす存在でありライバルとも言える存在」

破滅の魔女「もうすぐクトゥルフが復活したことに反応して目覚めるかもね」クスクスクス

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魔王「神級、業火呪文!」

勇者「神級、雷撃呪文!」

狐面「真・破壊斬撃」


全ての神話生物を倒す。そのためには手加減も出し惜しみも必要なかった。全力で倒す


魔王「最終的にあのおぞましい化け物を倒せばいいのじゃな」

勇者「辿り着くのが先決だがな、大きすぎるからここからでも見えるだけで実際はかなり遠いだろう」

狐面「そうさせぬためにもこの神話生物が襲いかかってくるんだろ」

勇者「だろうな」


ゴゴゴゴゴゴゴ

銀狼「ま、また地鳴り?」

勇者「っ、あれは!」


クトゥルフの近くにもう一体、海中から出てくるのを巨大な影が


ピカッ


狐面「しまった、皆隠れるんだ!」

勇者「ま、魔王!銀狼!」


ゴオォォーッ

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ゴゴゴゴゴゴゴ


希望の魔女「こ、この地響きは…」

破滅の魔女「ついに自ら封印を破ったのよ。クトゥルフに反応したもう一体の邪神」


破滅の魔女「旧き者、邪神ガタノゾア」


希望の魔女「そ、そんなものが復活したら…世界が滅びてしまう!」

破滅の魔女「滅びる?少し違うわ。静止するだけよ。永遠に」クスクスクス

ピカッ

ゴオォォーッ


禍々しい光が世界を包んだ


バタッ


魔王と銀狼が倒れ、灰色になる


勇者「魔王!銀狼!な、ど、どうしたんだよ!!」


魔王と銀狼の体を揺らす。しかし、その体は意思のように固く…


勇者「…つ、冷たい…嘘だ、嘘だぁ!!…た、頼むよ。お願いだ!死ぬな!死なないでくれよ!!」

狐面「…諦めろ」

勇者「て、てめぇ!!」ガッ

狐面「ぐ…」


とっさに胸倉を掴む

狐面「そう、では無い!」バシッ

狐面「諦めろといったのは死んだわけではない」

勇者「どういうことだ?」

狐面「…死んでいない。これは石化だ」

勇者「石化…?」

狐面「奴の、邪神ガタノゾアの呪いだ。これら全てな」


周りを見渡す

そこにいるものは、俺と狐面以外全て石になっていた

大地も、鳥も、小動物も、植物まで、ありとあらゆる物質が…石に

「やぁ人間諸君。愛しい者を二人も失った感想はどうたい?」


声が二人の背後から聞こえた


勇者「あぁ、最高の気分だよ」

勇者「はらわたが煮え繰り返って今なら邪神どころか創世神すら殺せそうだ」


勇者「なあ、邪神、這いよる混沌ニャルラトホテプ!」


ニャルラトホテプ「」ニヤリ

ニャルラトホテプ「ついでに面白いことを教えてやろう」

勇者「何?」

ニャルラトホテプ「この石化はただの石化ではないのだよ」

狐面「…」ギリ

ニャルラトホテプ「石化しても脳は生きている。目は見える。しかし何も動かせない」

勇者「?」

ニャルラトホテプ「想像してみよ。周りの世界は動いているのに、感覚はあるのに、一歩も動けない。指一本動かせない、目線すらも動かせない」

ニャルラトホテプ「痒くても何も動かせず搔くことも出来ず、雨に打たれ濡れようが虫が体を這いずりまわろうが動くことも助けを請うことも出来ない」

ニャルラトホテプ「腹が減ろうが愛する人に触れたくなろうが何も動けない!何も喋れない!」

ニャルラトホテプ「考えだけが!感覚だけが!リアルタイムで動くのだ!」

ニャルラトホテプ「それはどんなに苦しかろうか、それはどんなに悲しかろうか」

ニャルラトホテプ「それから逃れるには発狂するか考えることを止めるか。思考を捨てるしかないだろうなぁ。無論、そうなったら仮に石化が解けたとしても正気には戻らないだろうなぁハハハハハ!!」

勇者「てんめぇええ!!!」

勇者「覇王の剣!覚醒!!」ゴォオォォオオオオ


怒りで今までに無いほどに覇王の剣の力を引き出す

しかし


ニャルラトホテプ「当たらんよ」


影のように揺らめいて剣がすり抜ける


狐面「逃げるのか?神ともあろうものが」

ニャルラトホテプ「違う。もう戦う必要は無いのだ」

ニャルラトホテプ「何せ我の勝ちだからな」

ニャルラトホテプ「クトゥルフもガタノゾアも復活させた!貴様の仲間も世界ごと石にした」

ニャルラトホテプ「もう生き残っている人間は貴様らだけだ!貴様らに仲間はいない!すでに貴様らは詰んでいるのだ!我の勝ちなのだ!」


狐面「ふ」

勇者「ふっふふふ」

ニャルラトホテプ「何?」


不適な笑みを浮かべてやる


狐面「誰が詰みだと?」

勇者「誰の勝ちだと」

狐面「俺たちは生きているぞ」

勇者「爪も牙も失っちゃいねえ」

狐面「まだ戦える」

勇者「まだ救える」

狐面「人間は」

勇者「俺たちは」

二人「まだ負けちゃいねえんだ!!」


虚勢じゃない。俺たちにはまだ希望がある。覇王の剣がある、魔女たちも大丈夫だろう


ニャルラトホテプ「言っておくが既に魔女どももすでに使えぬよ」ニタァ

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「希望の魔女、時間稼ぎごくろう」

希望の魔女「世界の魔女、いえ、皆さん。ようやく来ましたか」

世界の魔女「うむ、ようやく来れた」

創始の魔女「観念しやがれってんだ。破滅の魔女」

終末の魔女「もう詰みだよ、ここで終わらせる」

闇夜の魔女「ボクの大切なキツネちゃんたちを傷つけようとした罪は重いのですよ」

知識の魔女「大人しく裁かれろなのじゃ」

破滅の魔女「…そうね。大人しく裁かれて死ぬわ」

世界の魔女「ついに観念したか」

破滅の魔女「ええ、ただし」


破滅の魔女「あなた達がね」


世界の魔女「!?っ、戦闘かい…」


破滅の魔女「邪神級破滅魔術!」


カッ


ーッ


ドォォォオオオン!


破滅の魔女「今の私はあなたたちが如何に束になってかかってきてもものともしない強さを持っているのよ」クスクスクスクス

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ニャルラトホテプ「それでも貴様らがまだ負けたつもりでないのなら再びルールを設けよう」

ニャルラトホテプ「あの二体の邪神を封印もしくば殺せるなら勝ちだ。ルールは以上」

狐面「俺らが勝てば次は貴様を討たせてもらう」

ニャルラトホテプ「良かろう。その時は逃げも隠れもせずある場所で待たせてもらおう」

勇者「ある場所?」

ニャルラトホテプ「それはこのゲームを打ち破ってからだ」

狐面「上等だ」

勇者「邪神が2体…いや、てめえを入れて3体か。不足なしだよ」

ニャルラトホテプ「良かろう、さぁ第二のゲーム、後半戦を始めよう!」

ニャルラトホテプ「存分に足掻け!存分にもがけ!我を楽しませよ人間!!」


不快な高笑いをあげながらニャルラトホテプは消えていった


勇者「目指すのはまずあの二体の巨神か」

狐面「しかも邪神とは…出来の悪い三文小説にもそうそう無い展開だ」

勇者「…はぁ、これが世界の終焉、その光景か」


巨大な穴の開いている灰色の空

全てが石化した世界、ただし今も神話生物が穴から降ってくる。おかげで動いているものは最早化け物だけだ

狐面「…行くぞ」

勇者「…ちょっと待ってくれ」


魔王の前に跪き、全身が魔王の目に入るように屈む


勇者「…魔王」

魔王「」


無論魔王は何も返さない。でもその瞳にはしっかりと自分が映っていた


勇者「ごめん…ごめんな、俺にはお前を元に戻すことは出来ない…苦しいだろ、死んだほうがましか?でも例えそう思っていたとしても俺にはそんな度胸は無い…だから」


ギュ


勇者「ごめん、我慢してくれ。すぐに、すぐに奴らをぶっ殺して解放してやる。今はこんなことしか出来ない俺を許してくれ」


そして銀狼も抱きしめる


勇者「お前も我慢てくれ。二人とも…お前も銀狼も大好きだ。大好きな仲間なんだ…だから、耐えてくれ。俺がすぐに助けてやるから」


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狐面「もういいのか?」

勇者「あぁ」

狐面「…たった二人になってしまったな」

勇者「…俺は例えたった一人になろうとも戦い続けるさ。好きな奴のためならな」


狐面「………羨ましいよ。君たちが」ボソッ

第八話、予告


ついに二人になってしまった…それでも理不尽に続くゲーム


愛する人を奪われ、世界さえも奪われた二人は進む、世界を、時の止まった世界を


邪悪なる神の創り出したゲーム盤は動く、彼の思い通りに、思惑通りに


そして浮かび上がる伝説の大陸とかつて滅びた邪悪なる都


第八話「ムー大陸浮上、古代都市ルルイエの戦い」

続く

乙乙

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