魔王「負けた……」 (40)

魔王城付近にて

魔王「どわぁあっ!」ゴロゴロ

草むらから血まみれの女性が転がり出てきた。

艶やかな長い黒髪はすっかり乱れ、はたから見ればもはや怨霊。

両足首には鋼の足枷がはめられ、端正な顔立ちも苦痛で歪んでいる。

魔王「ハァ……ハァ……。勇者め、久しい間に随分強くなりおって」

喘ぎ喘ぎ左胸に突き刺さっている剣を引き抜く。

真紅の液体が噴水の様に噴き出した。

魔王「痛ッ……ガハッゴホッ」

血の泡を吐きながら魔王は砂利道を這って進んだ。

このまま夜を迎えるわけにはいかない。

理性を持たない魔物や人間に嬲り殺されてしまう。

魔王「せめて、せめて町まで辿り着かなければ……」

ガサガサッと近くの草むらから音がした。

魔王「野犬!?」

出てきたのは15くらいの年端の行かぬ少年だった。

魔王「勇者か……」

勇者「やぁやぁどこへ行ったと思えば、逃げ足の速い御方だぁ」

大きな瞳を爛々と輝かせ近づく。

前髪をわっしと掴まれた。

魔王「うぅッ……痛い!」

魔王「魔力さえ、魔力さえ封じられなければお前なんか!」

勇者「俺の母は……君に殺された。父も、友人もみんな」

勇者「俺は、この世界に一人ぼっちだ」

勇者「命を奪わないだけ幸運だと思いなよ」

魔王「命を? 私は……死なないッ! 私は……最強だから」

勇者の膝蹴りが鳩尾に深々と入る。

魔王「ぐぇふッ……」

吐いた血が勇者のズボンに飛び散った。

勇者「最強? 笑わせるな。君は俺に負けたんだ。敗者だ! 敗者!」

敗者。

たった二文字の熟語が彼女を絶望の深淵に叩き落とした。

勇者「ほら、首貸せ」

魔王の細い首に鋼鉄の首輪が嵌められる。

勇者「今から君及び魔族は! 全員牛だ! 家畜と同様の扱いとなる!」

魔王「か……ちく……?」

勇者「ふふふ、これから忙しくなるぞ~。沢山魔族を捕獲しないと」

勇者「そうだ、折角平和な世の中になったんだし、魔族同士の闘技会を開くのはどうだろう」

勇者「市民は刺激に飢えている。戦いの刺激にね」

魔王「勝手に……決めるな!」

魔王「私の民を……貴様なんぞの商売道具にしてたまるか!」

勇者「ふぅーん、で?」

魔王「は?」

勇者「魔力を奪われた君に何ができんの? 魔族は君の事をもう魔王とは思わないよ」

魔王「た、確かに……」

勇者「さぁ行こう、僕の家へ。日が暮れちまう」

魔王「あ、歩けない……。傷が深いんだ」

勇者は呆れた様にため息を吐くと魔王を背負った。

魔王「家畜を……背負うのか?」

勇者「一つ貸し。この分余計に労働してもらうからね」

魔王「……あいよ」

ー勇者の家ー

ボロボロの藁葺き屋根に荒れ果てた外壁。

辺りに立ち込める紫色の瘴気。

魔王「この家は……」

勇者「おや、飼い主の家にケチをつける気かい?」

魔王「違う! さっさと入れ」

家に入ると、魔王は藁の上に乱暴に放り出された。

魔王「何をする!」

勇者「動くな、貴重な牛が死んでもらっては困る」

ポケットからコバルトブルーの薬草を取り出し数分煮込む。

魔王「貴様、魔法は使えないのか」

勇者「俺のMPは雀の涙ほどしかないんだ。君ごときに消費できるほど余裕は無い」

魔王「ふん、ケチな男だ……」

言い終わらないうちに勇者のアッパーが炸裂した。

魔王「いッ!」

勇者「自分が家畜であることを忘れるなよ」

魔王「……」

薬草スープを魔王の傍に置くと、鎖を小さな柱に固定した。

勇者「俺は魔族狩りに行ってくる。留守番よろしくな」

一人部屋に残された魔王は薬草スープを飲み干すと毒づき始めた。

魔王「あのクソガキめ、全く調子に乗りおって。傷も治ったし、早くこの鎖を解いてしまおう」

無我夢中で引っ張るも鎖はびくともしない。

魔王「くそッくそッ! どうしてッ! 外れないんだッ!」

拳を握りしめ、首輪を幾度なく殴った。

薄暗い小屋にガツンガツンと痛々しい音が響く。

魔王「血が……いや、この程度で諦めては魔王の名が廃る」

勇者「おっやってるやってる」

扉が開く音と共に勇者が戻ってきた。

魔王「!?」

彼女は掠れた声で呟いた。

魔王「貴様、魔族狩りに行ったのではなかったのか?」

勇者「うーん、あんまり獲物がいなくてね。それよりさ」

勇者「良い物見つけちゃったんだ」

どす黒い笑みを浮かべながら彼が取り出したのはなんと枝鞭だった。

流石の魔王もギョッとする。

魔王「な、なんだそれは」

勇者「鞭だよ。見れば分かるでしょ」

勇者が地面を鞭打つ度に魔王は身を竦めた。

勇者「そんなに怯えないで。しっかり労働すれば暴力は振るわないからさぁ」

魔王「ほ、本当か……?」

勇者「さてと」

勇者は魔王を無視すると水瓶に鞭を漬けた。

魔王「な……」

勇者「君が死ねば、また新しい魔族を連れて来てこき使うだけさ」

ブチッ

堪忍袋の尾が遂に切れた。

魔王「貴様ァ! 根っからのクズだ! 穢らわしい、顔も見たくない!」

魔王「私を散々辱めておいてその言い草! ふざけるのも大概にし」

鞭が空を切り、魔王の右腕を思い切り打った。

魔王「きゃッ!」

蹲る魔王を勇者は一瞥すると鎖を柱から外した。

勇者「俺は寝る。君も寝ると良い。日が昇ったら町に行くぞ」

魔王「わ、分かった」

ランタンの灯が消え、辺りは完全なる闇となった。

おしまい


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翌日

勇者「さぁ町についたぞ」

魔王「以外と賑やかだな、それよりも首輪をはずせ」

勇者「は?家畜は黙って歩いてろ」

鞭を恐れた魔王は項垂れて引きずられるように歩いていく

道具屋

店主「いらっしゃい。あ、勇者さん」

勇者「おやじ、注文の品揃ってるか?」

店主「へい、こちらに…」

そう言ってカウンターに魔王が見たこともない怪しげな道具が並べられた

魔王「おい、なんだこれは?」

勇者「お前をしつける道具だよ」

魔王「ふざけるな!この私が人間ごときに…」

勇者の持つ鞭が容赦なく魔王の尻に叩き込まれる
その度に魔王はうめき声をあげてうずくまった

店主「なかなか大変なごようすですな」

勇者「これからじっくりしつけるさ。代金は置いておくぞ」

並べられた怪しげな道具を袋につめ、勇者たちは次の店に向かっていった

おしまい


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