魔王「俺も勇者やりたい」 勇者「は?」 第2章 (159)



魔王が勇者に向かって「勇者やりたい」と、駄々をこねたのが全ての始まり。




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魔王「俺も勇者やりたい」 勇者「は?」 - SSまとめ速報
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 ◆ ざっくばらんな登場人物紹介


勇者 男 16歳
せいかく:がんばりや

魔王に脅されて、急遽魔王の代役をやるはめに。正体がバレないようがんばってる。
さすがに勇者というだけあって、戦闘力やリーダーシップなどはそこそこ高い。
魔王になんども負けて、弱小と呼ばれている。美味しい食べ物に目がない。


戦士 男 27歳
せいかく:ちからじまん

以前は城の兵士として働いていたが、上司との喧嘩をきっかけに退職。
今は勇者の仲間として、魔王軍とたたかっている。
馬鹿。賢さがかなり低い。酒好き。幼少のころ、魔法使いと幼馴染だったが、まだ気づいていない。


僧侶 女 18歳
せいかく:なきむし

健気な回復役。自信をなくすと、すぐ泣いてしまう。
勇者に恋心を抱いているが、奥手すぎて未だに告白できてない。
真面目でお堅い子。ものすごく尽くすタイプ。


魔法使い 女 30歳
せいかく:ずのうめいせき

かなりのマイペース。普段はあまり外に出さないが、実はけっこういろいろ考えている。
最近、戦士が幼馴染だということに気付いた。そこはかとなく、姉御肌をふかせる。
本音をしゃべるのが苦手。あまり素を出そうとしない。



魔王 男 505歳(人間年齢だと25くらい)
せいかく:???

退屈を持て余しすぎて、つい勇者やりたいとか言っちゃう人。
仕事はかなりできるタイプだけど、部下には(一部を除き)あまり恵まれていない様子。
基本的に落ち着いてる。剣術よりも魔法のほうが得意らしい。


側近 女 年齢不明
せいかく:???

ものすごく仕事ができる側近。暗躍からフォローまでなんでもこなす。
こちらも基本的に落ち着いているが、魔物らしい残虐な一面や、優しい一面など様々な顔を見せる。
魔王が子供の頃から仕えており、魔王への献身ぶりは他の追随を許さないほどのもの。


大賢者 男 永遠の19歳(自称)
せいかく:???

魔法使いの師匠だったらしい。村のはずれで隠居生活をしている。
薬草茶を淹れるのが得意で、甘いお菓子が好き。たびたび、魔法使いに知恵を貸している。
使い魔を飛ばして、世界の様子を見るのが日課らしい。


勇者母 女 33歳
せいかく:???

勇者の母。料理がものすごく上手。
どこかおっとりしているが、けっこういろいろ考えてるし、いろいろ見ている。
旅に出てる勇者が、ときおり家に帰ってきてくれるのが、実はすごく嬉しい。


 以下本編。


  ~城・牢獄~


兵士A「ほらっ、おとなしくしてろよ!」

戦士「ってぇな! 乱暴にすんなっての!」

兵士B「明日も取り調べがあるからな。もっとまともな情報を、吐き出せるようにしておけよ」


 ――ガシャン!


戦士「くっそー……、なんだっておれたちが牢屋なんかに……」

僧侶「ひっく……、あ、戦士さ……」

戦士「おお、僧侶。なんだ、また泣いてたのか?」

僧侶「ぅう……、だって、ぐすっ……」

戦士「まあ、泣きたくなる気持ちも分からなくないけどよー」

僧侶「ふぇえ……、ぇう……」



戦士(ダメだな……。やっぱ、勇者みたいに上手く慰められねぇや)


僧侶「あ……」

戦士「ん? あれは……」



兵士A「さぁ、とっと入れ!」

魔法使い「ちょっと! レディの扱い方がなってないんじゃないの!?」

兵士B「素直に情報を吐くなら、それ相応の扱いをしてやるさ。騒ぐなよ」


 ――ガシャン!


魔法使い「なんなのよ、感じ悪いわねー。あー、疲れたー」

僧侶「グスッ……、魔法使いさん、大丈夫ですか?」

魔法使い「あら、僧侶ちゃんこそ。たくさん泣いたみたいね。おめめ真っ赤よ?」

僧侶「……、だって、勇者様が」ジワ……

魔法使い「あー、ごめんね。ほら、泣かない泣かない。勇者ちゃんなら、きっと大丈夫よ」

僧侶「うう……、はい」ゴシゴシ


戦士「…………」

魔法使い「ん? 何見てんのよ」

戦士「いやぁ、なんていうか。亀の甲より年の功ってやつだなーと」

魔法使い「珍しく知的な言葉使ったじゃない。ほめてあげるからこっち来なさい?」

戦士「お、まじで? なんかくれんの?」ワクワク

僧侶(魔法使いさんが、ものすごい笑顔……。これは、まさか)



魔法使い「アルゼンチンバックブリーカーァアアア!!」

戦士「ぎゃああああああ! せ、せ、背骨があぁあああああ!!」

僧侶(あああ、やっぱり……!)



兵士A「こらぁああ! お前ら、騒ぐなって言った矢先にーー!」

兵士B「もう面倒くさいから、縛って転がしておこうぜあいつら」



  ~魔王城・広間~


魔王『……世界っていうのは理不尽だよな。びっくりするくらい、理想からかけ離れてやがる』

魔王『ついこの間までは、そんなこと思いもしなかった。オレには何も見えてなかった』



魔王『魔物がたくさん暴れるから、人間が困る』

魔王『魔王を倒さなきゃ、平和は訪れない』

魔王『そんな風に思っていたんだ』



魔王『だが、オレの認識は間違っていた』

魔王『魔物ばかりがひどいことしていたわけじゃなかった』

魔王『人間だって吐き気を催すような非道なことをしてたんだ』

魔王『オレたち人間は、被害者じゃなかった』

魔王『人間だって、加害者だったんだよ』


魔王『このまま勇者として魔王を倒して、世界は本当に平和になるのか?』

魔王『考えてみたけれど、オレの答えは「否」だった』



魔王『下衆な人間がはびこる世界に、平和なんか訪れやしない』

魔王『魔物がいなくなったら、きっと人間同士で争いが起こる』

魔王『もっと、完全な世界を構築しなければならない』



魔王『平和を脅かす因子は排除する』

魔王『愚者に権力は握らせない』

魔王『弱い者を、強い者がしっかり守る世界を作るんだ。けっして餌食になんかさせない』



側近(…………)


魔王『ところで、ちょっと質問したいんだけどさ。お前たちは、どうして人間界で暴れてるんだ?』

魔王『本格的に魔王に就任する前に、是非とも聞いておきたい』



魔物達「…………」

海魔人「…………」ス……



魔王『海魔人か、答えてみろ』



海魔人「端的に述べますと、我ら魔物たちの領地拡大のためです」

海魔人「魔物は増えすぎました。魔界はすでに、たくさんの魔物で溢れ返りそうになっている」

海魔人「毎日毎日、縄張り争いが続き、いつ統制が効かなくなってもおかしくない状況でした」


海魔人「だが、人間界を手に入れれば、この悩みは解消される」

海魔人「少なくとも、いつ大戦が起きるかわからない状況は免れる」

海魔人「そして、魔物が自分勝手に人間界に攻め込むよりは、」

海魔人「軍を作り、一個の目的の基で、一致して闘うほうが遥かに効率的です」



海魔人「そのための魔王軍です」

海魔人「まあ、魔界の者は、欲に忠実で、勝手気ままな連中が多いので、」

海魔人「軍として機能するか疑問に思った者も、当時少なくなかったでしょうが、」

海魔人「歴代の魔王は、そこのところ上手くやってきたようですね」



海魔人(……だいたいが、無理やり力でねじ伏せていたんだろうけど)


魔王『なるほど、大方聞いてた通りだな』

海魔人「聞いてた通りって魔王様……、ご存じだったんですか?」



魔王『一応側近から聞いてたし、過去の「魔王の記録」でも確認しておいた』

魔王『でも、お前たちの口から、直に聞いておきたかったんだ』

魔王『オレの認識が誤っていたら、嫌だしな』



魔王『要するに、お前たちも魔界の平和のために闘ってたんだな?』

魔王『異論は……あるか?』

魔王『…………』

魔王『ない、みたいだな』


魔王『ずっと考えていたんだ』

魔王『人間だけじゃなくて、魔物も平和になれる世界はどうすれば作れるか』



魔王『勇者のままじゃ、世界を変えられない』

魔王『たった一人じゃ、世界を変えられない』

魔王『だからオレは決めたんだ。勇者をやめて、魔王になるって』



側近「…………」ス……

魔王『側近か。何だ? 意見か?』


側近「ひとつだけ、確認しておきたいことがあります」

側近「たとえあなたが魔王として軍を率いたとしても、」

側近「それに賛同しない者は必ず現れます」

側近「ましてや、あなたは元人間、元勇者」

側近「人間や勇者に恨みを持つ魔物は、少なくないはずです」

側近「どのように、対処するおつもりですか? 魔王様」



海魔人(さすが側近……、皆の疑問をいち早くぶつけた)

海魔人(確かに、いまここでその答えが得られなかったら、)

海魔人(私怨を持つ魔物達が、我先にとあの元勇者の首を狙いにいくはず)

海魔人(それでは、統制なんかとれるわけがない)

海魔人(魔王軍の今後と、元勇者の身を案じての質問というわけか)

海魔人(ふん、相変わらず頭の回る奴だな。さぁ……、どうでる元勇者?)


魔王『…………』

魔王『……なんていうのかな。オレ、あんまり上手いこととか言えないけどさ』



魔王『オレに敵意を持ちたいやつは持てばいい』

魔王『オレのやり方が気に入らないやつは、オレに直接言ってくれ。全部聞いてやる』

魔王『殺したいほどオレが憎いっていうなら、殺しにこい』

魔王『それで憎しみが晴れるか分からないが、相手ならいつでもする』

魔王『その代り、オレも死にたくないから、抵抗はするぞ』


魔王『言っておくが、オレは本気だ』

魔王『世界が変わるまで、死力を尽くすし、正直、一生魔界に住む覚悟だってある』

魔王『お前らが本気で向かってくる以上、オレも本気で付き合うから、そのつもりでいてくれ』

魔王『さ、話続けるぞ』





毒竜「あ。自分も、魔王様に質問があります」スッ

海魔人(こいつ……! ハイパー空気よめない奴だな!)


魔王『なんだ?』

毒竜「とりあえず、魔王様にぜひお聞きしたいことが。“魔王”様の対処はどうするおつもりですか?」

魔王『ああ、あっちの魔王か』

毒竜「情報によると、人間の城にとらわれているとのことですが……」

魔王『しばらくは放っておく。まずは、作戦の練り直しと軍の整備に時間を使いたい』

魔王『正直、あいつに構ってる暇が惜しいからな』



毒竜「もし、“彼”が魔王様の阻止をしようとした場合はどうするおつもりで?」

魔王『そうだなぁ、その時は……』




魔王『こっちも全力で叩き潰すしかないよなぁ?』ニタァ



側近「…………」


本日はここまでです。長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。
今月末、また来れるようにがんばります。
読んでくださった方々、どうも有難うございました。



  ~城・地下倉庫前~


見張りA「ふぁああ……。夜の番、つれぇ……」

見張りB「おい、しゃきっとしろよ。こっちまで眠くなる」

見張りA「そうは言ってもなぁ……。眠いもんはしょうがねーだろ」

見張りB「よし、十発くらい顔殴ったら目ぇ覚めるか?」

見張りA「おっと、不思議なことに、眠気がきれいさっぱりなくなったぜ」

見張りB「ったく、調子のいい奴」



???「…………」コソッ


見張りA「それにしてもなんだっけ。あの魔王、伝説の剣持ってたんだって?」

見張りB「ああ、どうやら古代の迷宮で手に入れたらしいな」

見張りA「そんなレアものが、いま、この扉の先にあるのか……。なんか胸が熱くなるな」

見張りB「歴代の勇者が振るった剣だもんな。気持ちは分からなくもない」

見張りA「…………」

見張りB「…………」

見張りB(……まさか!)



見張りA「頼むよ、同僚ーー! 一目みるだけ! ちょっと触るだけでいいからさー!!」

見張りB「駄目だ駄目だ! 隊長の許可もなしにそんなこと!」




???「…………」シュタッ


見張りA「今回ばかりは、目をつぶってくれぇええ! 刀剣マニアの血が騒ぐーーー!」

見張りB「いくら頼まれても、駄目なものは――」



???「お二人さん、ちょっと失礼?」



  ヒュ――、ズン! ドゴッ!



見張りB「ぅぐ!? ……」バタ

見張りA「え? ぐぁっ!? ――ぁ」ドサァ




勇者母「安心して、ただの“みねうち”だから。朝まで、お眠りなさい」


大賢者「いやぁ、さすが勇者様のお母様。素晴らしいお手並みですね」

勇者母「これでも全盛期より遅くなったのよ。歳をとるって怖いわね」

大賢者「さて、さくさく行きましょうか。では、扉を……」



  だいけんじゃは じゅもんをとなえた!
  とびらが ひらいた! ▼



大賢者「さぁ、奥方」

勇者母「ええ、行きましょう」



  ~城・地下倉庫~


大賢者「地下倉庫とだけあって、なかなかの一品がそろってますね。まあ、いらないんで手はつけませんが」

勇者母「ねえ、大賢者さん。これ、あの子たちの装備品じゃない?」

大賢者「おや、そのようですね。うちの弟子のもありますし、頂いておきましょう。それより、伝説の剣は……」

勇者母「見つけたわ、これね」ガチャ

大賢者「さすが先代の勇者。宝探しの腕前は落ちてないご様子で」

勇者母「腕前って、見つけた宝箱を片っ端から、開けるだけの作業じゃない」

大賢者「それもそうですね」


大賢者「しかし、こんなに簡単に手に入るとは、大変助かります」

勇者母「ええ、これさえあればあの子を……、あら?」

大賢者「どうかしましたか?」

勇者母「…………」

大賢者「…………」

勇者母「……大賢者さん」

大賢者「はい」





勇者母「どうやら、事態はけっこう深刻になってるみたい」

大賢者「……はい?」



  ~魔王城・会議室~


 ガヤガヤ

       ザワザワ


氷精霊「っはー、一時間の演説の直後に、大規模ミーティングかいな。めっちゃ肩凝るわー」

毒竜「幹部だけでなく、連隊長、隊長職の者も勢揃いとは。珍しい光景ですね」

暗黒剣士「渡された資料もなかなかすごいぞ。軍編成や配備に、かなりの変更が出てる」

海魔人「これまで、広範囲に配置していた軍を、今後は人間の居住区周辺や、通り道に重点的に配備するとは……」

海魔人「どうやら元勇者は、本気で、人間と敵対するつもりのようですね」




巨人「よくわかんねぇけどよぉ。魔王が変わっても、普通に闘ってればいいってことだよなぁ?」

氷精霊「あー……。あんさんは、もうそれでええわ」


毒竜「違いますよ、巨人様。巨人様の担当区域は、こちらに変更されまして……」

巨人「おぉお? 本当ぉか? どれどれ……」



氷精霊「おっ、毒竜ってば、面倒見ええやん」

暗黒剣士「お前が早々に説明諦めただけじゃないか?」

氷精霊「それもあるけど、けっこう仕事出来る奴やなーっと思ってな、あいつ」

暗黒剣士「多少不器用で、ぶっきらぼうなところはあるが、根は真面目のようだな」

暗黒剣士(だからこそ、以前、魔王殺害計画の際に利用させてもらったわけだが……)

暗黒剣士(こういう場で意外な一面を見れるとは、予想外だったな)



海魔人「…………」


海魔人(老齢ながらも実力者だった翼竜は、幹部の中でも一目おかれた存在だった)

海魔人(幹部の中でも、最も多くの軍を持っていたし、経験豊富な戦略家という顔も持っていた)

海魔人(後任を務める毒竜も、いずれはそうなるのか?)

海魔人(…………)

海魔人(……ぐぬぅ)



毒竜「海魔人様。今、『毒竜のくせになまいきだ』と思ったでしょう?」

海魔人「いちいち僕の心を読むな! 生意気なーーーーっ!」

毒竜「だから、表情にすべて出てるんですってば」


巨人「なんだぁ? 海魔人って毒竜と仲が良……」



 かいまじんの こうげき!
 つうこんのいちげき!

 きょじんに 274のダメージ! ▼



巨人「ぁいっでぇえええええーーーー!!?」

海魔人「おっと、すみませんね? つい、手が滑ってしまいました……」ゴゴゴ……



氷精霊「なー、なんか最近、海魔人の性格変わっとらんか?」

暗黒剣士「そうか? むしろあれが素なのではないか?」


魔王『おい、うるせーぞお前ら。もう少しで終わるから、私語と乱闘は慎め』

海魔人「!? 申し訳ございません、魔王様! 失礼致しました!」

巨人「ぐへへぇ、いい気味」

海魔人「笑ってないでお前も謝れ!」

巨人「あでぇ! 殴んなよぉ。えーと、すんませぇん」

魔王『おう、気をつけろよ。じゃあ、東大陸の侵攻作戦だが……』



魔王(( ………… ))

魔王(( ……そういえば、側近の姿が見えないな ))





魔王(( ま、演説は終わったし、どうせ“アイツ”のとこに行ったんだろうな ))



  ~城・地下牢~


魔王(…………)

魔王(床が固いな……、寝苦しい)ジャラ……



  ――ドガッ ウワァ! グァ!



魔王(ん……?)





側近「魔王様! 遅くなってしまい、申し訳ございません! 助けに参りました!」

魔王(側近……!?)


側近「今、鉄格子と鎖を破壊します! しばらく動かないで……」

魔王「…………」

側近「あ、申し訳ございません! まずは呪いを解かないと……!」



 そっきんは じゅもんをとなえた!
 まおうの のろいがとけた! ▼



魔王「……、すまんな、ご苦労だった。あとは俺がやる」

側近「かしこまりました」



 まおうは じゅもんをとなえた!
 てつごうしを はかいした! ▼



魔王「まったく寝苦しくて散々だったな。牢屋に入れられたのは、生涯初めてだ」

魔王「あと、鎖で巻かれたのも初めてだった」ブチッブチ


側近「魔王様! ただちに城へ戻りましょう! 元勇者が不穏な動きを……!」

魔王「あいつは、何をしているんだ?」

側近「地上の全魔物を集め、就任演説と、軍の再配備の会議をしております」

魔王「……あの弱小。本当に、魔王をやるつもりなのか」

側近「ええ、そのようです。ですが、今ならまだ魔王の座に戻ることが――」



兵士A「いたぞ! あそこだ!」

兵士B「捕えろ!」



側近「しまった! 人間どもめ……!」

魔王「こんなところに、もはや用は無い。全員殺して、ここを出――」



 ――ヒュッ


 グハッ!

      ウワァ!


  ドグッ!     ドサァ!



側近「なっ!?」

魔王「貴様は……!」



勇者母「ごめんなさいね兵士さんたち。お仕事の邪魔しちゃって」

側近「何者だ貴様! なぜ人間が我々に手を貸すんだ!」

勇者母「ところで魔王さん、一緒についてきてもらっていいかしら?」

魔王「……どういうことだ?」

勇者母「そうね、詳しくはあとで説明するけれど……」






勇者母「あの子を助けるには、あなたの力を借りるしかないみたいなのよ」



魔王「……俺の?」





今回はここまでです。読んでくださった方、ありがとうございます。
また来月来ます。



  ~城・取調室A~


宮廷魔導士「結局……、まともな調書は一つもとれませんでしたね」

老学者「まったくじゃい。あのお嬢ちゃん、始終泣きっぱなしでのぉ……」

隊長「あの馬鹿、あいかわらず馬鹿だったな。期待してなかった通り、なんの情報も絞れんかった」

老学者「おぬし、最初から取調べする気なかったじゃろ」



宮廷魔導士「さて、どうしますかね。私としては、もう少しつついてみるのも手かと……」

老学者「わしゃごめんじゃぞ。あんなのに何度も付き合えきれんぞい」

隊長「確かに、長引かせても手間だ。いっそ、手早く拷問でもして……」



衛兵A「隊長! 緊急事態です!」バタンッ

隊長「何事だ」

衛兵A「地下倉庫に侵入者が! 見張りを倒し、伝説の剣を奪って逃走しました!!」

隊長「何だと!?」



  ~城・牢獄~


戦士「くそー、縄ほどけよー!」ジタバタ

魔法使い「もう、あんたが暴れるせいで、全員簀巻きじゃないのさー」

僧侶(……魔法使いさんも、一緒に騒いでたような気が)



戦士「あー、腹減ったー……。力でねぇ」

魔法使い「のんきねぇ、こんな時に限って。ほんと羨ましい性格してるわ」

僧侶「……勇者様」

魔法使い「…………」


魔法使い「僧侶ちゃんは偉いねぇ。こんな時でも、勇者ちゃんの心配して」

僧侶「だって、勇者様……。勇者をやめるって」

戦士「ほんと信じられないよな。あんなに正義感ある奴だったのに」

魔法使い「よっぽどの何かがあったのかしらねぇ。若い子の気持ちはわからないなぁ」

僧侶「……勇者様、どうして魔王に」ジワ…

魔法使い「ほら、泣かない泣かない。まあ、確かに疑問よね……」



魔法使い(人間って、そう簡単に魔王になんかなれるのかしら……?)

魔法使い(そもそも人間って、魔物とか魔族になれるの?)

魔法使い(なんなのさ、あの現象。じゃあ、人間と魔物の線引きってなんなのよ)

魔法使い(……あー駄目だ。頭パンクしそう)


戦士「なぁ、魔法使い。勇者が魔王になったら、どうなるんだ?」

魔法使い「え、どうなるって……。なんなのよ、その漠然としすぎた質問」

戦士「おれに説明求めんなよ! おれが説明できるわけねぇだろ!」

魔法使い「そりゃそうね。聞いたあたしが悪かったわ」

僧侶「……」グスン



魔法使い「たしか勇者ちゃん、真の平和がどうとか言ってたわよね」

戦士「おう、あの辺ぜんぜん分かんなかった」

魔法使い「たぶん勇者ちゃんは、人間も魔物も平和にすごせる世界を作ろうとしてるんじゃない?」

魔法使い「そのためには、勇者として魔物を倒すだけじゃ駄目だってことだと思う」

魔法使い「問題は“方法”よね。あの時の勇者ちゃん、人間と対立することを厭わない口ぶりだった」

魔法使い「勇者ちゃん、その辺のことも考えて、魔王になるって言ったとしたら……」



魔法使い「相当な覚悟を決めてるはずよ……」


戦士「……そうか」

僧侶「…………」スン…

魔法使い「……どうしようか、あたしたち」



戦士「…………」

僧侶「…………」

魔法使い「…………」






僧侶「――止めなきゃ」






戦士 & 魔法使い「え?」


僧侶「こんなところで、縛られてる場合じゃありません。早く、勇者様を止めないと」

戦士「お、おい、僧侶?」

魔法使い「どうしたのよ、突然」

僧侶「私にもよくわかりません。でも、勇者様を止めなきゃいけない気がするんです!」

戦士「……まあ、おれも僧侶に賛成かな」

魔法使い「え、戦士?」

戦士「正直、人間と闘う勇者なんか見たくねぇよ。ましてや、魔王になった勇者もな」

僧侶「戦士さん……!」

戦士「おれ馬鹿だからさ、真の平和とか、勇者のやりたいこととか、よくわかんねぇけどよ」



戦士「どれもこれも、あいつを止めちゃいけない理由にはならねえよな」


魔法使い「……あー、もう。しょうがないなぁ!」

戦士「お?」

魔法使い「あんたたち、考え無しに勇者止めるとか言わないの! ちゃんと頭使いなさい!」

僧侶「す、すみませ……!」



魔法使い「相手は勇者とはいえ魔王よ。それに対し、こっちは肝心の勇者がいない」

魔法使い「いくら仲間を集めても、強くなったとしても、伝説の武具がなければ太刀打ちできない」

魔法使い「私達だけで、魔王になった勇者を止めれる可能性は低すぎて話にならない」

魔法使い「もちろん、勇者の覚悟が深ければ深いほどにね」



僧侶「……」

戦士「……」


魔法使い「ぶっちゃけ、私は勇者を止める方法なんか分かんないわ」

魔法使い「魔王になった勇者相手に、通用する戦略も思いつかない」

魔法使い「私、賢さに自信はあるけど、これは完全にお手上げ」

魔法使い「考えても考えてもわかんないのよ。こんなに考えてるのに」



僧侶「……」

戦士「……」



魔法使い「ほんと全然わかんないけど、――私も協力するわ」



僧侶「!」

戦士「魔法使い!」


魔法使い「なんていうかさ、勇者が魔王になったところで、平和が訪れるとは思えないし」

魔法使い「どうせなら、人間の勇者と力合わせて、世界を平和にしたいじゃない?」

魔法使い「それに、あんたたちだけにやらすのも、思いっきり不安だし」

魔法使い「みんなで止めに行くわよ、勇者をね」



戦士「おう!」

僧侶「はい!」



魔法使い「さーて、話がまとまったところで」

魔法使い「……まずは、脱獄する方法を考えないとね」


僧侶「その点ならご安心ください。……、ん、しょっと」バララ

戦士「え……? は!? 縄抜け!?」

僧侶「ちょっと待っててくださいね」ス…

魔法使い「あの、僧侶、なにその針金。どこから出したの?」

僧侶「いつも帽子に隠してるんですよ。昔からの癖で……」ガチャガチャ



  ――カシャン



僧侶「はい、開きました」




戦士 & 魔法使い「えええええええええええええええええええええ!!!!??」


魔法使い「なにいまの!? なにしたの!? どういうことなの!?」

僧侶「何って、牢屋の鍵を開けたんですけど」

戦士「僧侶すげぇええええええ!!! 僧侶って、手品師だったのかあああああ!!!」

僧侶「違いますよ。あ、縄解きますから、じっとしててくださいね」

魔法使い「あ、ありがと」

戦士「お、助かるぜー」



魔法使い「……って、そんなことより説明!」

戦士「そうだぜ! 鳩出せるのか!? 僧侶!」

僧侶「あ、順を追って説明しますから、あと鳩は出せませんから」


僧侶「ずっと隠しててすみませんでした。私、実は貧民街の出なんです」

僧侶「幼少のころから、盗みをして生活していました。盗賊団のメンバーだったんです」

僧侶「だから、縄抜けも、簡単なものなら鍵も開けられます」

僧侶「でも、通りすがりの神父様に助けられてから、心を入れ替えました」

僧侶「命を助けてもらった恩返しとして、盗賊業から足を洗い、神に仕えることを決意しました」

僧侶「もう、盗みも盗賊の時の技術も使わないと、決めたんです」

僧侶「もう罪を重ねない、と……」



僧侶「……でも、今は」



僧侶「たとえ再び罪を犯してでも、――勇者様を、助けたいんです」ボロッ


魔法使い「…………」

魔法使い(あの生真面目な僧侶に、そんな過去がねぇ……)

魔法使い(実質、罪悪感が半端ないんだろうな、僧侶。苦しそうな顔してる)

魔法使い(あーあー、また泣いちゃって。でも、そうまでして勇者のことを……)

魔法使い(幸せもんじゃないのよ、勇者ってば)



戦士「ありがとうな、僧侶」

僧侶「……、戦士さん」ポロポロ

戦士「やりたくないことしてまで、勇者を助けたいんだろ。おれ達も助かったぜ」

僧侶「すみませ……、ごめんなさ……」グスグス

戦士「ほら、しゃんとしろよ! 勇者を止めに行くぞ!」

僧侶「グシッ……、はい!」



魔法使い(あらあら。この分だと、僧侶の泣き虫、なおりそうじゃない)



  ~城・回廊~


衛兵A「おい、いたか?」

衛兵B「いや、見つからないぞ! そっちはどうだ?」

衛兵C「早く侵入者を見つけろ! 伝説の剣を奪還するんだ!」



戦士「……おー、兵の数すげえな」

僧侶「侵入者って、何者なんでしょうか……。まさか勇者様?」

魔法使い「どうかな。勇者が伝説の剣欲しかったら、魔王に呪いかけた時に、持って行ってたでしょ」

僧侶「あ、確かに……」

戦士「それより、脱出むずくないか? 牢の前の見張りは少なかったから、簡単に気絶させたけどよ……」

魔法使い「私と僧侶の、呪文の封印も解けてないし……。なんとか、見張りの手薄な道を探して……」

僧侶「あ……、あれは?」


使い魔「カーカー」



戦士「あ? 城の中にカラス?」

僧侶「一体、どこから入ってきちゃったんでしょうか」

魔法使い「あれって、もしかして……」



衛兵A「おい、なんだこのカラス」

衛兵B「そんなものに構ってる暇はないぞ。早く侵入者を……」



???「諸君、失敬――」



  ???は じゅもんをとなえた!
  えいへいAは ねむってしまった!
  えいへいBは ねむってしまった!
  えいへいCは ねむってしまった! ▼



戦士 & 僧侶 & 魔法使い「!!?」


???「やれやれ、こうもたくさん衛兵がいると、帰り道に困りますね」



戦士「おい、誰だよあんた!」

僧侶「もしや侵入者というのは……!」

魔法使い「師匠! こんなところで何してんのよ!」



大賢者「やあ皆さん、おそろいで。お元気そうですね」



僧侶「……? 魔法使いさん、お知り合いですか?」

魔法使い「子供のころにお世話になった人よ。村の郊外に住んでる大賢者で……」

戦士「大賢者? ……、あーっ! もしかして、おれの町を救ってくれた……!」



大賢者「はいはい、おしゃべりはそこまで。衛兵が起きますし、いっぱい集まっちゃいますよ」


魔法使い「こら、勝手に話をまとめない! 私の質問にちゃんと答える!」

大賢者「まったく、うるさい弟子ですね。今は、簡潔に答えます。後で、詳細を説明します」




大賢者「わたしは、魔王になった勇者を、人間に戻す方法を知っています」




戦士「はぁ!?」

僧侶「な、……!?」

魔法使い「――!」




大賢者「城に来た理由は、その方法を遂行するためです」

大賢者「どうしても、伝説の剣が必要だったんですよ。他にも必要なものはありますが」

大賢者「それを踏まえた上で、みなさんに提案です」





大賢者「わたしに、ついてきくれませんか? 勇者を人間に、戻したければね」



本日はここまでです。読んでくださり有難うございます。
気が付けば、スレを立ててから一年が経っていました。
長くお付き合い頂き大変感謝です。
また来月きます。



  ~城・王の間~


王様「なにぃ! 魔王に逃げられただと!?」

兵士A「申し訳ございません! 王様!」

王様「しかも、勇者の一味にも逃げられただと!?」

兵士B「本当に申し訳ございません! 王様!」

王様「それだけでなく、伝説の剣まで持ち出されただと!?」

兵士C「大変申し訳ございません!! 王様!!」

王様「ぬぬぬ、おのれ魔王……! まだ一日も経ってないのに脱走を図るとは……!」



兵士A(つーか、天下の魔王を半日も捕まえられただけ奇跡だろ)


王様「いつまで頭下げとるんじゃ! 報告が済んだら、さっさと捕えにいかんか!」

兵士達「「「はっ!!」」」



宮廷魔導士「王様、いかがなさいますか?」

王様「どうしようもこうしようもない。まだ、なにも状況は把握できとらんのだぞ」

隊長「勇者の一味からはロクな情報が得られず、肝心の魔王も尋問の前に逃げられるとは……」

宮廷魔導士「これでは、なぜ勇者が魔王になったかを、知るのが難しくなりましたね」

隊長「それよりも、魔王になった勇者をどう対処すべきかだ。どう戦えというんだ?」

宮廷魔導士「改めて、新たな勇者を募るわけにもいきませんし……」

隊長「最新の魔導兵器を軽々真っ二つにするやつだぞ。勇者無しで、一体どうすれば……」

宮廷魔導士「あの様子では、説得に応じるようにも、見えませんでしたしね」

隊長「…………」

王様「…………」

宮廷魔導士「…………」


王様「……壊されたのなら、また作るしかあるまい」

宮廷魔導士「王様?」

王様「全大陸の魔物狩猟家を集めよ。多くの魔物を素材にして、さらに強力な魔導兵器を作るんじゃ」

隊長「はっ!」



宮廷魔導士(なるほど……、勇者にも伝説の武具にも頼れない以上、我々にはそれしか方法はない)

宮廷魔導士(兵器の残骸も回収したから、それを元に、また作り直すことも可能だ)

宮廷魔導士(今度こそ、魔王を倒せる兵器を我々の手で……)




        ――勇者「オレが、魔物の子供を材料に使った武具を、喜んで使うとでも――?』




宮廷魔導士(…………)

宮廷魔導士(その前に、我々が全滅させられないことを祈るばかりですね)



  ~村はずれの小屋~


戦士「うめぇえええ!! なんだこのクッキー、めちゃうめぇえええええ!」

大賢者「大賢者特製のはちみつとレモンのクッキーですよ」

僧侶「レモンの爽やかな風味と、サクサク感が溜まりません!」

大賢者「卵使ってないので、そういう食感になります。さくさくのほろほろって、魔法の言葉ですよね」

勇者母「薬草茶の苦味ともマッチしてて、とってもグッドよ。レシピ教えてもらいたいわ」

大賢者「ええ、いくらでも。勇者のお母様のスイーツレシピも、数点頂きたいところです」

側近(……どういうことだ、茶も菓子も手が止まらない。呪いか何かか?)

魔王「おい、茶のおかわりはまだか?」

大賢者「はいはい、ちょっとお待ちください」



魔法使い「師匠」

大賢者「はい?」

魔法使い「なんで真夜中にこの面子でお茶会開いてんのよ」

大賢者「いやぁ、わたしお茶会大好きでして」


大賢者「まあ、これから堅苦しいお話をするわけですし、お茶とお菓子の一つでも、と」

魔法使い「お心遣い痛み入るけど、緊張感のかけらもなくなるのもどうかと思うわ」

大賢者「ご安心ください。いくらでも、緊張感生まれますから。これからするお話はね」

魔法使い「なら、そろそろ聞かせてもらおうじゃない。魔王になった勇者を人間に戻す方法」

大賢者「ええ、もちろん。そのために、集まっていただきましたから」



魔王「おい、茶はまだか。茶は」バンバン

大賢者「はいはい、今お出ししますねー」

魔法使い「そこ! 魔王だからってマイペース振りかざさない! 今、大事な話してんの!」



僧侶(魔法使いさん、なんかいつもより活き活きしてる……?)

大賢者(だいぶ素が出てきましたねー。うちの弟子)


魔王「仕方ないだろう。牢の中では飲まず食わずだったんだ」

魔法使い「そんなの私らだってそうよ! おかげさまで、お茶菓子貪り食ってる現状じゃない!」

大賢者「もう少しで、ローストチキンが焼けますからねー。サンドイッチにして食べましょうねー」

戦士「いやっほぉおおーーーー! ローストチキンサンド―ーーーー!!!!」

大賢者「あと30分くらいで焼けますからねー」

戦士「さん……じゅっ……ぷん……」ガクゥ



魔法使い「師匠って、たまに鬼畜なこと言うわよね」

大賢者「いやぁ、すみません。あなたの友達に会えて、いささかテンションが上がってるみたいです」

魔法使い「いつもよりウキウキしてる師匠見れて、こちらとしては不気味な限りだわ」


大賢者「さ、魔王様。おかわりです」コトン

魔王「ああ。それにしても美味いな。この薬草茶」ズズ…

大賢者「ええ、魔王様と側近様には、“人間”の皆さんとは違うものをお出ししてますから」

僧侶「え?」

魔法使い「師匠、それどういうこと?」

大賢者「はいはい、今説明します」



大賢者「今日皆さんに、お話したいことは3つあります」

大賢者「“勇者がなぜ魔王になれたか”」

大賢者「“勇者を人間に戻すために何が必要か”」

大賢者「“勇者を人間に戻すために我々がすべきことは何か”」

大賢者「以上の3点です。ローストチキンが焼きあがる頃には、全て話し終わることでしょう」


大賢者「ではまず、“勇者がなぜ魔王になれたか”ですね」

大賢者「皆さんに質問ですが、そもそも人間は、魔物や魔族になれるのでしょうか?」



僧侶「と言われましても、……実際に私達は勇者様が魔王になったのを見てしまいましたから」

勇者母「そうねぇ、できないことはないんじゃないかしら。仕組みは理解できないけれど」

魔王「…………」

側近「死霊やゾンビの類の魔物は、それに該当し得るな。死んだ人間が瘴気にあてられて、魔物化する」

魔法使い「でもさぁ側近さん。うちの勇者は、死なないで魔王になったんだけど?」

側近「……そう、……だな」





戦士「えっ!? 人間って魔物になれんの!? すげえ! 知らなかった!」

魔法使い「……馬鹿って、どうして見聞きしたこと理解できないのかしらね」


大賢者「ではここで、答え合わせの時間です。正解は半分yesで、半分no」

魔法使い「ずいぶんと中途半端なこと言ってくれるじゃないの」

大賢者「人間は魔物になり得る可能性はありますが、全ての人間が魔物になれるわけではありません」

大賢者「ましてや、魔王なんかただの人間がそうそうなれるはずがない」

魔法使い「じゃあ、勇者はどうして魔王になんかなっちゃたわけ?」

大賢者「一つ覚えていてほしいことは、勇者は様々な要因が絡み合って、あの姿になったということ」

大賢者「たった一つの要因で、魔王になれたわけではないということですね」

魔王「前置きが長い。さっさと結論を言え」

大賢者「おっと失礼しました。では、そろそろ核心に……」



大賢者「人間が、生きたまま魔物になる方法は存在します。ヒントはこの薬草茶」

魔法使い「は? なんでそれがヒント?」


大賢者「さっき、魔王様と側近様にお出しした薬草茶は、皆さんのと違うと言いましたよね」

大賢者「実は、お二人の薬草茶は、魔界で採れた薬草の茶葉を使用しています」

大賢者「反対に、人間の皆さんにお出しした薬草茶は、人間界で採れた茶葉を使用しています」

大賢者「勘のいい方は、おわかりいただけましたでしょうか?」



側近「……まさか」

側近「人間に、魔界で採れた食物を与えたら、魔物になるとでも言うのか?」


大賢者「その通りです。側近様」

大賢者「魔界の食物を食べた者は、魔界の住人になるのです」

大賢者「これは異世界に伝わる伝説なんですが、参考までに紹介しておきましょう」

大賢者「あの世に行った人間が、その土地の物を食べてしまうと、帰れなくなる」

大賢者「この原則は、“黄泉戸契(ヨモツヘグイ)”と呼ばれているそうです」

大賢者「他にも、冥王がある女を妻にするために、冥界の食べ物を食べさせて冥界の住人にしてしまった」

大賢者「という伝説も存在します」



魔法使い「……なんで異世界の伝説とか知ってるの?」

大賢者「ものすごく暇すぎて死にそうな時に、高位転移術を使い魔にかけて、異世界を見回ってもらったりしてます」

大賢者「その時に、小耳に挟んだお話でして」

魔法使い「無駄にMP消費しそうな暇つぶしね」


側近「……だが、我らが魔界は、別に死者の国ではないぞ」

大賢者「まあ、細かいことは置いておきましょう」

側近(……置いとかれた)

大賢者「ところで側近さん、勇者様に魔界の食べ物を食べさせてしまいましたか?」

側近「……食べさせたも何も、一日三食全て、魔界で採れたものを与えたが」

大賢者「なるほど、つまりこれは要因の一つですね」

魔王「勇者は魔王城で魔界の食べ物を食べてしまい、魔界の住人になってしまった……、ということか」

大賢者「その通りです、魔王様」

魔王「だが一つ解せないぞ、大賢者」

大賢者「おや、どの点がでしょうか」


魔王「おい、戦士。俺の茶を飲んでみろ」

戦士「え、なんで? まー、わかんねーけどいただくぜー」グイー

魔法使い「ちょっ、この馬鹿! そんなん飲んだら、あんたも魔物に……!」

戦士「ぶぼっふぁぁあああああ!!!」ブフーッ

僧侶「え?」

戦士「うげぇ、ぺっぺっ! くっそまず! 魔王、なんでこんなん飲んでんだよ! 罰ゲームか!?」

勇者母「今の展開だと、むしろ戦士さんの方が罰ゲームよね」



魔王「今の戦士をだろう? ふつうの人間はこうなるべきだ」

魔王「あの弱小勇者は、よく魔界の食物を食えたな。一体、どういうことだ?」


大賢者「そうですね、魔界の食べ物はまず人間の口に合いません」

大賢者「よほどの適正がない限り、あまりのまずさに吐き出します」

大賢者「たとえ飲み込めたとしても、人間にとって魔界の食物は劇薬同然。最悪の場合死にます」



魔法使い「劇薬って……、ちょっと魔王! なんてもん飲ませてんのよ!」

魔王「死んだら蘇生魔法をかければいいだけの話だろう?」

側近「良かったじゃないか、意外と運のいい男で」

勇者母「魔界の人たちって、けっこう淡泊よね」

魔法使い「この、魔界の住人どもめ……」



戦士「えっ!? おれ今死ぬかもしれなかったの!? あぶねー、一命をとりとめたぜ」

魔王「死んだついでに、馬鹿も治ってればよかったんだがな」

僧侶(でも、それで治ってたら、とっくに治ってるような……)


大賢者「側近さん、一つよろしいですか?」

側近「どうぞ」

大賢者「魔界の食べ物を食べたとき、勇者はなんと言っていました?」

側近「…………」



        ――魔王「なにコレ美味すぎ!!」

        ――魔王「やっべー、超うめー! 側近、パスタとサラダのおかわり頼む!」

        ――魔王「厨房のシェフ全員に伝えてくれ。『すんげー美味い。ありがとうな』ってな」



側近「……とても料理を褒めていました。かなり気に入られたご様子で」

大賢者「なるほど、そうですか」


大賢者「現段階で分かることは、“勇者は魔界の食物を食べた”こと」

大賢者「もう一つは、“勇者が魔物になれる素質を持っていたこと”」

大賢者「他にもいろいろあるんでしょうが、今のところ説明つく要因はこんなところですね」



魔王「…………」

魔王(俺が人間の食べ物を食べたときは、あまりにも味が薄すぎた)

魔王(たとえ、勇者の姿に変身していても、味覚までは変わらなかったということだ)

魔王(それはおそらく、勇者も同じ……)

魔王(…………)



魔王(勇者は、いったい何者なんだ……?)




大賢者「さて、いろいろ気になることもあるでしょうが、次の話に進みましょう」

大賢者「つぎは、“勇者を人間に戻すために何が必要か”です」


本日はここまでです。読んでくださりありがとうございます。
更新遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。
また来月来ます。

>>87
脱字発見致しました。お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ございません。


×魔王「今の戦士をだろう? ふつうの人間はこうなるべきだ」
  ↓
○魔王「今の戦士を見ただろう? ふつうの人間はこうなるべきだ」

生存報告です。とりあえず、生きています。
八月のごたごたは終わったんですが、まだ片付いてないことがあるので、そっちをやってます。
お待たせして申し訳ありません。次回更新まで今しばらくお待ちください。



  ~魔王城付近~


氷精霊「っあー……、やっとミーティング終わったわー。肩凝ったー」

巨人「ぉっ? なんなら、おぉれが揉んでやろぉかぁ?」

氷精霊「アホか! あんたに揉まれたら、肩握りつぶされてまうわ!」

海魔人「とはいえ、かなり疲れたのは確かですね……。長時間ミーティングゆえ、仕方ないことですが」

暗黒剣士「そうだな。この際、酒場にでも寄ってくか? いろいろあったし、気分転換も必要だろう」

氷精霊「おっ、ええやんええやん! ウチ行きたーい!」

巨人「うぉおおおお!! 飲むぜ飲むぜぇええ!!」



海魔人(……さっさと海に帰りたいのが本音ですが)

海魔人(今後の身の振るまいのためにも、少しは同席するのが賢明……)



人魚「えーーー、お兄様帰らないんですのー?」

海魔人「!!?  なななななぜいるんだ妹ーーーーーッ!?!!!?」


氷精霊「お? 誰やこのめんこいの。迷子とちゃうんか?」

巨人「人魚ぉお? 珍しいじゃねぇか、初めて見たぜぇ」

人魚「皆様、初めまして! いつも兄がお世話になってます。海魔人の妹です」

氷精霊「はぁ!? 海魔人、妹いたん!? 初耳やで!!?」

巨人「かわいい嬢ちゃんだなぁあ」

暗黒剣士「ふむ、なかなか礼儀正しいな。さすが海魔人の妹といったところか」



海魔人「自己紹介してる場合か! なんでここにいるのか説明しろーーー!」

毒竜「海魔人様、お忘れですか? この度の集会は地上の全魔物が招集されているんですよ」

海魔人「しれっと会話に混じるな! この毒蛇!!」

毒竜「毒竜です」


人魚「お兄様、突然怒鳴るなんてひどい……。私、お兄様と一緒に帰りたかっただけなのに……」ポロ…

海魔人「うっ……」

人魚「お兄様がミーティングに出てるって聞いて、ちゃんとお利口に待ってたのに……」ポロポロ

氷精霊「あーあー、泣かしたー」

海魔人「うるさい! 外野は黙ってろ!」



海魔人「悪かった、いきなり怒鳴ったのは謝る。でも、僕はこのあと仕事の付き合いがあるから、先に帰……」

人魚「嫌ですわ! お兄様と一緒じゃないと嫌ですわ!」

海魔人「じゃあ、海まで送るから……」



人魚「私もお兄様と一緒に、酒場に行きたいですわーーー!」

海魔人(一緒に帰るんじゃなかったのか――!!?)


海魔人「駄目だ駄目だ! お前に酒場はまだ早い!」

人魚「行くったら行くんですのーーー!」

海魔人「こんな低俗な奴らと飲みに行ってみろ! 悪影響しかないに決まってる!」

氷精霊「どストレートやんなぁ、このにーちゃん」

巨人「別にいいんじゃねぇかぁ? 連れていってもよぉお」

暗黒剣士「酒はまだ早いだろうな。確か近くに、美味い飯をだす店があったような……」

氷精霊「よっしゃ、一緒に行こか、妹ちゃん! 美味いもんたらふく食わせたるわ!」

人魚「きゃーーー! 嬉しいですわ! 皆さん、ありがとうございます!」



海魔人「勝手に話を進めるなぁあああ! 保護者の了承を得ろ! 保護者の!!」

氷精霊「なーなー、シスコンがなんか騒いどるで」

海魔人「シスコンじゃない!! ただ単に妹思いなだけだ!」

暗黒剣士(そういうのを、世間一般ではシスコンと呼ぶのでは……)


毒竜「連れてってあげたらいいじゃないですか。妹君もあんなに喜んでますし」

海魔人「おいこら毒竜、お前までそういう無責任な発言を……!」

毒竜「それから、これをお預けします」

海魔人「……? なんだこの小瓶」

毒竜「説明しますので、少し妹君から離れましょう」



毒竜「――これは自分が調合した毒です。無味無臭の眠り薬と思っていただければ」

海魔人「眠り薬? なんでこんなもの……」

毒竜「頃合いを見て、妹君の食事に混ぜてください。五分と経たない内に、朝までぐっすりです」

海魔人「!? この僕に、妹に毒を盛れと!?」

毒竜「なんなら、自分が一服盛りましょうか?」

海魔人「絶対やだ」

毒竜「そう言うと思って、お預けしたんですが」


毒竜「海魔人様も妹君を遅くまで連れまわしたくはないでしょう?」

毒竜「それに、もう帰ろうと言って、妹君が嫌だと駄々をこねたら手の施しようがありません」

毒竜「さらに言うなら、寝てしまった妹君を住処に連れ帰るのは、早引きの言い訳に持って来いかと」

毒竜「妹君はもちろん、海魔人様もお疲れのようですからね」

海魔人「…………」

海魔人(……こいつ、そんなことまで見通して)



海魔人「おい毒竜、確か菓子が好物だったな?」

毒竜「はい」

海魔人「今度、好きなだけ食わせてやる。薬の礼だと思え」





毒竜「了解しました。二日ほど絶食した後に、伺います」

海魔人「それほどまでに菓子が好きか、お前!?」



  ~村はずれの小屋~


大賢者「勇者を人間に戻すために何が必要か――」

大賢者「ずばり申し上げますと、"伝説の武具"が必要です」



魔法使い「…………」

大賢者「なんですかその顔」

魔法使い「いや、なんかこうもすんなり教えられると、なんか物足りな……」

大賢者「もったいぶられるのが好みなんですか? 変な子ですねぇ」

魔法使い「そうじゃない! というか大部分があんたのせいでしょうが!」


魔王「おい、早く説明を続けろ。あと、茶を注げ」

大賢者「はいはい」

戦士「賢者様ー! ローストチキンサンドはー!?」

大賢者「あと20分です」

戦士「……う、餓えて死ぬぅ」ガクゥ

勇者母「大げさねぇ、戦士さん」



大賢者「伝説の武具が必要な理由――。伝説の武具には、聖なる力が宿っています」

大賢者「この伝説の剣をご覧ください。これは刃の中央に聖石がはめこまれています」

大賢者「この石は、魔物や魔族、魔王の邪悪な力を吸収し、浄化する効果があるのです」



大賢者「つまり、この伝説の剣を使い、魔王もとい勇者を倒すことができれば……」

大賢者「聖石の力により、勇者を魔王から人間の体に戻すことができるのです」


側近「ということは、伝説の剣であの勇者を倒せということだな」

大賢者「全くもってその通り」

僧侶「あれ、でもそれなら剣だけで闘ってもいいような……」

大賢者「そうはいきません」

戦士「え、なんで?」

大賢者「聖石が最も力を発揮するのは、全ての伝説の武具を装備した勇者が、伝説の剣を振るう時です」



大賢者「これでもうお分かりですね?」

大賢者「勇者を元に戻すには、"全ての伝説の武具"と、"伝説の武具を装備できる勇者"が必要なんです」



魔王「…………」


勇者母「でも、ここで一つ問題があるのよ」

魔法使い「問題?」

勇者母「最初はね、私が伝説の武具を装備して、息子と闘う計画だったの」

大賢者「わたしも、この方法をとるためには、どうしても奥方の協力が必要だと思ったんです」

大賢者「先代の勇者である奥方なら、必ず伝説の武具を装備できるはずと確信していたので」



勇者母「でもね、いざ伝説の剣を装備してみようと思ったら……、できないのよ、装備」



魔法使い「ええっ!? 嘘っ!?」

側近「馬鹿な! それでは、もう闘う手段が……!」

魔王「…………」


魔王「おい、話がおかしいぞ」

大賢者「といいますと?」

魔王「勇者の母は、伝説の武具を装備できるはずだ。俺が正体を暴かれたときに、装備した姿を俺は見た」

勇者母「そんなこともあったわね。でも、ごめんなさい。本当にもう無理みたいなの」



大賢者「我々にも原因は不明です」

大賢者「可能性をあげるとすれば、勇者が魔王になったことが原因かもしれません」

大賢者「本来、伝説の武具を装備するはずだった勇者が、魔王に変わってしまった」

大賢者「使い手を見失い、伝説の武具は迷っているのかもしれません」

大賢者「誰を、"真の勇者"に選べばいいのかを――」



魔王「…………」


大賢者「というわけで、我々が当面やるべきことが、これではっきりしましたね」

大賢者「その1、"伝説の武具を全てそろえる"」

大賢者「その2、"伝説の武具を装備できる真の勇者を探す"」

大賢者「その3、"来るべき戦闘に備えて各自レベルアップに励む"」



魔法使い「かるーく言ってくれるじゃない。どれもけっこう骨が折れそうなんですけど」

大賢者「もちろん、わたしも僭越ながら全面的にフォローしますよ」

勇者母「私も稽古の手伝いくらいなら、いくらでもできるわ。まだまだ身体は鈍っていないもの」

魔法使い「それにしても、問題は2番よね。あの勇者以外に、誰が勇者になってくれるのよ……」

大賢者「ああ、その点でしたら――、心当たりがすでにあります」

魔法使い「心当たり? あんの?」

大賢者「はい、現状この人しかいないかと。実際に、伝説の剣を装備できたわけですから――」




大賢者「わたしは、"魔王様"に勇者になってもらうしか、方法は無いと思うんですよね」


魔王「……俺が、勇者に?」



今日はここまでです。大変お待たせしました。
読んでくださった方々、どうもありがとうございます。
また来月来ます。

生存報告です。いろいろと立て込んでいます。
今月中には……。



  ~村はずれの小屋~


戦士「うめぇえええ! ローストチキンサンド超うめぇええええ!」

勇者母「辛抱強く待った甲斐があったわね。うん、美味しい」

魔法使い「肉厚で塩味もしっかり効いて……。あー、やっとまともなご飯にありつけた……」

大賢者「まだまだありますからねー。どんどん食べてくださいねー」

僧侶「あ、あの、大賢者様……」

大賢者「なんですか?」

僧侶「……魔王様は、どうします?」

大賢者「そうですね……。食欲が無いと言ってましたし、そっとしておくのが吉でしょう」



大賢者「私だって、一日で良い返事がもらえるとは思ってないですから」



  ~村はずれの泉~


魔王「…………」



魔王(勇者になれだと……?)

魔王(人の気持ちも知らず、好き勝手言ってくれる)

魔王(確かに俺は、一時的に勇者に化けていた)

魔王(だがそれは、ただの暇潰し。本気で転職するつもりだったわけではない)



魔王(そもそも、あれが勝手に魔王に変貌しただけだ。俺が奴を助ける義理がどこにある)

魔王(……いや、最初に魔王役を押し付けたのは、俺か)

魔王(結果、今は魔王化した勇者に、魔界と魔王軍を奪われそうになっている)



魔王「…………」

魔王「因果応報か。面倒で仕方ないな」


側近「……魔王様」ス…

魔王「側近か」

側近「……私如きが、口を挟むべきではないのかもしれませんが」

魔王「今回の件か」

側近「はい、魔王様はどうお考えで?」

魔王「いや、その前にお前の意見を聞きたいな」

側近「と、いいますと?」

魔王「仮に、もし、俺が勇者になると言ったら、――お前はどうする?」



側近「…………」

側近(どう思う、ではなく、どうする、……か)


側近「……私は、魔王様の側近です」

魔王「そうだな」

側近「私の使命は、魔王様を影から支え、助けること」

魔王「魔王は、俺だけではないぞ?」

側近「あれは代理の魔王です」

魔王「俺が魔王じゃなく、勇者になったら――」

側近「――私にとっての魔王様は、貴方しかおりません!」



魔王「…………」


側近「たとえ、貴方が勇者と呼ばれる日が来ようとも、」

側近「たとえ、魔王軍全てを敵に回すことになろうとも、」

側近「私は貴方を見捨てません」

側近「裏切りません」

側近「離れません」

側近「誰がなんと言おうとも、貴方の側近で居続けます――」



魔王「…………」

魔王「……そうか」


魔王「…………」

側近「…………」

魔王「……俺は、優秀な部下に恵まれたな」

側近「…………」

魔王「側近、命令だ」

側近「はい」



魔王「今後一切、俺に近づくんじゃない」

側近「――!?」


側近「魔王様、何故!?」

魔王「察しの良いお前なら、気づいているんじゃないか?」

魔王「今のお前がなすべき、最善の行動をな」



魔王「お前は魔王城で、あの弱小を監視しろ」

魔王「不穏な動きがあれば、すぐに伝えてくれ」

魔王「それと、魔王軍幹部には、伝説の武具のある地域を担当している者もいる」

魔王「奴らの動きにも注意しろ」



側近(……確かに、魔王様が城にいられない以上、誰かが魔王様の目になる必要がある)

側近(私が適役だということも、充分に分かる。……しかし、)



魔王「何よりも――」

側近「……?」


魔王「俺に付き合わせて、お前まで危険な目に遭わせるわけにはいかない」

側近「……危険など、何も恐れてはおりません」

魔王「お前まで、追われる身になる必要はない」

側近「魔王様と、ご一緒ならばどこへでも」

魔王「側近、――聞け」

側近「……は?」


魔王「お前は……、お前にとって魔王は俺しかいないと言ったな?」

側近「……はい」

魔王「俺もだ」

側近「…………」





魔王「俺も――、俺にとっての側近は、お前しかいない」





側近「――!?」

魔王「お前以外、考えられない」

側近「――――」

魔王「もう少し言うと、お前を、失いたくない」



側近(……くっ、出るな涙。こらえろ)


魔王「俺が魔王城に戻れるまで、時間がかかるかもしれない」

魔王「俺が勇者になると決断する日が、来るかも分からない」

魔王「何もかもが未定だ。未来のことなど、何も分からん」

魔王「それでも、……やってくれるか? 側近」



側近「…………」

側近「私の答えは、とうに決まって御座います」

側近「全ては魔王様の仰せのままに――」



魔王「そうか……、やはりお前は素晴らしい部下だ」

側近(……っ、泣くな! まだ泣くんじゃない!)ゴシッ


魔王「そういえば、……俺の考えをまだ言っていなかったな」

側近「……!」



魔王「正直な話、勇者などやりたくない」

魔王「俺が勇者になったとして、元に戻れるのか分からん」

魔王「大賢者の言うとおりに、弱小を倒せるかも分からん」

魔王「早い話が、怖いんだ」

魔王「今までの地位を捨て、全くの別人として、闘う自分が怖い」

魔王「不安しかない」

魔王「そもそも、俺は魔族だ」

魔王「魔族の、はずなんだ」

魔王「……誰なんだ、俺は」

魔王「俺は、勇者なんかじゃ――」



側近「魔王様ッ!」


側近「魔王様は、魔王様です!」

側近「誰がなんと言おうと、貴方は魔王様です!」

側近「迷う必要も、戸惑う必要もありません!」

側近「どうか、ご自分のなさりたい事を行ってください!」



側近「私が、どんな貴方でも、支えますから――!!」



魔王「…………」

側近「…………」

魔王「……ありがとう、側近」

側近「――っ!」

側近(しまった、涙が――)


魔王「俺は意気地なしだな。あの弱小の方が、遥かに意志が強い」

魔王「俺が、こんなにも迷っているのに、あいつは魔王になることをためらわなかった」

魔王「礼を言うぞ、側近」

魔王「お前のおかげで、少しだけ、勇者がやれそうな気がしてきた」



側近「……っ、う」

側近(駄目だ、涙が、とまらな……)



魔王「もう行け。魔王城の奴らに、怪しまれたらいけない」

側近「……、はいっ! 魔王様もご無事で――!」



  そっきんは じゅもんを となえた! ▼


魔王「……行ったか」

魔王「…………」



魔王「……頼む、誰か教えてくれ」

魔王「誰でもいい、ほんの少しでもいい」





魔王「俺は、いったい誰なんだ――?」





2ヶ月いっぱいお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
今回はここまでです。読んでくださった方々、ありがとうございます。
また来月来ます。

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