穏乃「憧の教典?」(556)

※悪の教典パロ
※残虐描写あり

ID:pwU8t1Sk0の代行っす

>>1 代行あり




─初瀬の家


初瀬(憧はちょっと生意気なところもあるけど、優しくていい子だ。頭もいい)

初瀬(この間も、横断歩道でおじいさんの荷物を持ってあげたり)

初瀬(外国人の観光客に、英語で道案内をしてあげたりもしてた)


初瀬(でも…)

初瀬(何でだろう…時々、憧が物凄く怖く感じる時がある)

初瀬(あんなにいい子を疑うなんて、私がおかしいのかな…)

──

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


───ある日

穏乃「はぁ…」ウトウト

憧「どうしたの、シズ。寝不足?」

穏乃「そー…聞いてよあこ!なんか、近所の人が犬を飼いはじめたんだ」

穏乃「それが深夜から朝方にかけてワンワンワンワンうるさくてうるさくて」

穏乃「もうなんというか、押し売りモーニングコールだよ…」

玄「へぇ、大変だね…」

穏乃「はい…ここ数日は満足に寝られなくて…」

憧「犬かぁ…ちょっと見てみたいかも」

穏乃「うるさいけど見た目は可愛いよ!」


─翌日早朝、穏乃家周辺


犬「ワン!ッワン!」

憧「お~よしよしよしよし。あんたがシズの言ってた犬ね」

憧「今日はアンタにプレゼントを持ってきたの、ハイ、これ」

憧「私が作ったハンバーグだよ~♪」ヒョイ


犬「ワンワン!」ガツガツ

憧「おいしい?そ~なの~良かったぁ~」ナデナデ

憧「明日も持ってきてあげるからね~」

──早朝、穏乃家周辺

犬「…ワン…」

憧「あれ、どうしたの?元気ないねぇ」

憧「はい、今日もハンバーグ持ってきてあげたよ」ヒョイ

犬「……」ムシャムシャ

憧「お~?もう食べられないの?ダメよ、残しちゃ~」



──
─数日後、部室

穏乃「なんだか分からないけど、あの犬、死んじゃったんだって」

憧「そうなんだ…」

宥「かわいそう…」



憧(これで解決っと)


憧が数日に渡り与えつづけた"特製ハンバーグ"には、タマネギが大量に使用されていた。
犬や猫が摂取すると、溶血性貧血を起こし、適切な処置を行わなければ数日で死に至る。

──ある日、鷺森レーン

DQN1「うっわあああぁぁまたガーターかよwwwwwだっせぇwwwwwww」

DQN2「ちくしょーッwww」

DQN3「マジウケんですけどwwwwwwwwww次俺の番か、うっしゃっ!」

DQN4「は・ず・せ!は・ず・せ!」


灼(また…禁煙なのにタバコ吸ってるし…うるさい…)

灼(他のお客さんも嫌がって帰っちゃう…)

灼「あ、あの…」

DQN3「うぇーいwwwwストライークwwwww」

DQN4「マジすかwwwwストライクとかwwwww」

DQN2「ぱねぇwwwwww」

DQN1「おい、店員さんがよんでんぞwww」

DQN2「ん?」

DQN4「なにこの子wwwwかわいいんですけどwwwwww高校生?wwww」

DQN3「やめろよwwwwwwwビビっちゃってんじゃんwwww」

灼「当店は、禁煙です。他のお客様の迷惑になりますので、喫煙はご遠慮お願い致します」

DQN1「ああwwすんませんwww」


灼「……」ハァ…

灼(何回注意したんだろう…もうワザとやってるとしか…)

灼(注意すればやめてくれるだけマシか…)

──
─別の日、鷺森レーン

灼「いらっしゃいませ」

憧「はろ~♪」

穏乃「こんにちは!灼さん!」

灼「憧、シズ…また2人でボウリングしにきたの?」

憧「そうで~す!私達、愛し合ってるからね~。妬ける?」

穏乃「あ、愛しあっ!?///い、いやそんなんじゃなくて!」アセアセ

灼「はいはい、学生2人で1200円ね」




DQN1「うぇ~~~いwwwwwwwwwww」

DQN4「またかよwwwwwwパネぇwwwww」



憧「ねぇ。何?あの客…」チラリ

灼「最近よく来る…毎回注意してもあんな感じ」

穏乃「んんー…ちょっと注意してくる!」タッタッ

憧「あっ、シズ!」

穏乃「ちょっと!そこの人たち!みんな迷惑してるから、もうちょい静かにして!」ビシッ

DQN3「あ?」

穏乃「タバコもだめだよっ!」

DQN3「ほらwwwお前ら女の子に怒られてんぞwwww」

DQN1「なにこいつ…知り合い?www」

DQN4「いや、しらねーwwwww」

DQN2「ねぇねぇ、電話番号教えてよwww」

穏乃「やだよっ!とにかく他の人に迷惑が」

DQN2「いいじゃんいいじゃん一緒に遊ぼうよwww」

穏乃「ちょっ、やめてよ!」

憧「シズ!もういいよ、行こうっ!」グイッ


DQN3「ちょ、今の子超可愛かったんですけどwwwマジタイプwww」


──

憧(あ~ウザッ)イライラ

憧(シズとのデートスポットで何してくれてんのよあいつら!)プンスコ

憧(これからここに来る度にアイツらと会うかもしれないのね…)

憧(気が重いわー…)ハァ…

憧(しゃーない、やるっきゃないか)




──



それ以来、その客たちが来店することは無かった。
火災やバイク事故に遭って、4人のうち3人が"不運な事故死"を遂げていた。

──
─某日、ホテル

晴絵「灼っ……」ギシッギシ

灼「ハル…ちゃ……あっ…///」ビクッ


・情事キンクリ


──


晴絵「じゃ、誰かに見られたりしないようにな」

灼「うん」





憧(へぇ~。ハルエと灼がねぇ…)

──数日後、部活終了後

憧「ハルエー。ちょっと話があるんだけど」

晴絵「いいよ、何の話だ?」

憧「あんまり人前でする話でもないんだよねぇ」

晴絵「…?もう遅いしここで手短に…」

憧は、晴絵に耳打ちする。

憧「灼の事なの。それだけ言えば、何のことか分かるでしょ」

晴絵「っ…!!」

晴絵「い、いや…なんの事だがさっぱり…」

憧「とぼけるなら、別にそれでもいいよ」

憧「でも、私は灼の友達なの。話しても埒があかないってんなら、学校に報告するよ?」

晴絵「えっ……?その、いったい、何の事だ?本当に、私には、さっぱり」
 
憧「そういう事態はあんま望んじゃいないんだけど」

憧「ハルエがあくまでも今みたいな態度を続けるなら、やむを得ないね」

晴絵「憧。ちょ、ちょっと待ってくれ…!分かるように説明してくれないか?」

憧「じゃ、こっち来て」スタスタ


憧は、人気の無い準備室へ向かった。晴絵は、見るからに重い足取りでついてくる。

─準備室

憧「別に灼やハルエにとって不名誉な話をいたずらに宣伝するつもりはないの」

憧「…でも、刑事事件ってことなら話は別。さっきは学校に報告するって言ったけど」

憧「ソッコーで警察に通報することになるから、その点は覚えておいてね」

晴絵「け、刑事事件って……何かの間違いだろ。そんなことは、私は」

憧「言い訳はいいから、YESかNOかで答えて」

憧「ハルエ。あんたは灼と…その…色々やっちゃってるんでしょ?Hな事とか」

晴絵「NO!、NOだ。そんな、ひどい言いがかりだ!私は、そんな…」

憧「そう。この期に及んで嘘つくなんて、残念」

憧「どーやら、真相は裁判で明らかにするよりないって事ね」

晴絵「そんな……!信じてくれ、憧!私は、本当に……」

憧「ハァ……ハルエ、最初に言ったよね?ポイントは、刑事事件になるかどうかなの」

憧「いい?ハルエと灼が合意の上で…ってんなら、自由恋愛の範疇なのよ」

晴絵「ええっ?いや、そんな事はないだろ?灼は未成年だし…」

晴絵「淫行条例とか、児童なんたらとかで……いや、その、私は、そんな事してないけど」

憧「もちろん、生徒と関係を持つなんてアウトよ。けどね」

憧「無理強いした場合と合意の上だった場合は、すっごく差があるの」

憧「…まして灼は女だし、どこまでの行為がダメなのか微妙だしね」

晴絵は追い詰められた表情になっていた。

憧「話を変えるね。ハルエは、顧問としてのパワハラか、暴力で灼に関係を強要したの?」

晴絵「バカ言うな!そんな事は、絶対にしてない!」

憧「じゃあ最初から合意の上だったの?」

晴絵「そ……それは」

憧「どっちなのよ」

憧「強要だったり、今更そんな事実は無かったと言い張って、質問に答えないなら…」

憧「灼の為にも警察に通報するからね!友達として見過ごせないもの」

そのとき、静かに準備室のドアが開かれた。
戸口に立っていたのは、灼だった。

灼「ハルちゃん…」

晴絵「灼…」

灼「ハルちゃんは……そんな、無理強いなんかしてない!」

憧(いい子ね。おかげで手間が省けたわ)

憧「ハルエ。全部、合意の上だったの?」

晴絵「あ……ああ…」

晴絵「だから、頼む…憧…」

灼「憧。私とハルちゃんは…どうなるの?」

憧「合意の上ってんなら、警察沙汰にもしないよ」

憧「でも、そのためには何があったのかちゃんと全部説明して貰わなきゃね」

憧「2人とも、協力してね?」

晴絵、灼「うん……」


憧は、ポケットの中でボイスレコーダーのスイッチを入れた。




──
─数日後、部活後

晴絵「憧、昨日の電話の事だけど、私にはちょっと理解できないんだが」

憧「と言いますと?」

晴絵「私は憧の言うとおり全部話したじゃないか!それに…」

晴絵「全部、合意の上だったんだ。灼もそう言ってただろう?」

憧は思わず苦笑いした。

憧(未成年との淫行に、合意の上かどうかなんて関係ないのに。バカみたい)クスクス!

憧(洗いざらい吐かせる為に言ったデタラメを、ハルエは堅く信じ込んでるのね)

憧「ハルエは社会科は得意じゃなかったみたいだねぇ」

晴絵「なんの事だ?」

憧「資本主義の世の中で何か欲しいと思ったら、代償を払わなきゃダメなの」

憧「ハルエは、監督って立場なのに灼と淫行しちゃった」

憧「それなのに、それを無かったことにしたいんなら、それ相応の対価が必要ってことよ」

晴絵「…私を脅迫してるのか?」

憧「まぁ見方によってはそういう言い方もできるかも」

晴絵「見損なったよ…!憧は、本当にいい子だと思ってたのに…」

晴絵「もういいよ…私は、潔くこの仕事をやめる」

憧「ハルエ。もう辞めればいいって状況じゃないんだけど。」

憧「言ったでしょ?あんたと灼の告白は、レコーダーに録音されてんの」

憧「私はいつでもあんたを刑事告訴できんのよ?」

晴絵「ぐっ……」

憧「いい?この交渉を飲んだ場合と、決裂した場合を良く考えてね」

憧「決裂したなら、ハルエは職を失い、起訴され、灼は全国の晒し者」

憧「飲んだなら、職を失うこともなくハルエと灼は今まで通り付き合える」

憧「さぁ、どっち!」



もはや晴絵の言うべきセリフは一つしか残っていなかった。




晴絵「………いくら払えばいいんだ」

憧「よろしい♪」

──
─レストラン

憧「どお?おいしい?」

穏乃「ん~!うまっ!」モグモグ

憧「よかった!他になんか注文する?」

穏乃「でも、いいの?ここ、高そうなお店だけど…」

憧「いいのいいの!私の友達のおごりだから」

穏乃「それにしても、すごい友達だよね。お金持ちなの?」

憧「うーん…どうだろ、普通じゃない?」

穏乃「へー。どんな人なの?」

憧「伝説的なおバカさん、かな?」

穏乃「なにそれ、へんなのー!とにかく後でお礼言わなきゃね」モグモグ

憧「ふふっそうねー♪」



──
─休日、射撃場

ドォン!




灼「ハルちゃん、カッコよかったよ!」

晴絵「そお?」

灼「でも知らなかった。ハルちゃんがクレー射撃をやってたなんて」

晴絵「…麻雀がトラウマになってた時期に、友人から誘われてね。結構面白いんだ、これが」


晴絵「でも、そろそろやめようかなって思ってるんだ…お金かかるしね」

────
───
─インハイ前日、路地

憧「じゃーね、シズー!」

穏乃「おー」









憧「………」スタスタ


初瀬「……」

初瀬は、ここ数日間、憧を尾行していた。

初瀬(最近の憧は妙に金使いが荒い…何かあるはず)

憧は、ホームセンターへ入ると、ガムテープを購入し、店を出た。
そして、憧の家とは反対方向の、山奥の方の道へと向かっていった。

初瀬(…どこ行くんだろう?)ドクンドクン



──
─山奥

初瀬(かなり奥まで来ちゃった…)

依然、憧に変わった様子は見られない。黙々と山奥へと歩を進めている。

携帯の時計を見る。

初瀬(もう八時かぁ…通りで暗いとおもったら)


夜の闇に加え、木々が月明かりを遮り、視界はかなり悪い。憧の持つ携帯電話の明かりを目印に、追跡を続ける。

しばらくして、憧が木陰に入り見えなくなった。明かりも途絶え、憧を見失う。


初瀬(あれ…?)


さっきまで憧がいた場所へと近付く。

その瞬間、何かが首筋に触れた感触があったかと思うと、凄まじい衝撃が走った。

初瀬「がっ……!!」ガクン ドサッ

ひざが崩れ、体が横倒しになる。

初瀬(痛いっ…!何、この感じ…!?)

初瀬(全身を針で刺されたみたいな…!)ビクビク

初瀬(体が…動かない…!)ビクビク


目の前に、憧の足があった。

憧「あれ?初瀬じゃん!」

憧「なんでこんなところにいんの?」

憧は、ヘラヘラ笑いながら、ガムテープで初瀬の口を塞ぎ、両手両足もぐるぐる巻きにして拘束する。

憧「どお?痛かった?何があったか説明して欲しいでしょ」

憧「これね、マイオトロンっていうんだー」

憧「スタンガンの一種だよ。神経電流をブロックする作用があって、運動能力を失うの」

憧「めっちゃ高かったんだけど、友達がお金出してくれたから買えたんだよね~」アハハ

初瀬「~…」

憧「あー、もう少ししたら声も出せるようになるよ」

憧「でもあんまり大声は出しちゃ駄目だよ?」

憧「大声出したら、初瀬のこと殺しちゃうからね♪」フフッ

初瀬「………っ」ポロポロ




憧「じゃあ約束ね、大声出さない?」

初瀬「」コクコク

憧「おっけ、信じるからね」

憧は初瀬の口を塞いでいたガムテープをビリビリと剥がした。

憧「じゃ、まず質問。どうして私の後をつけてたの?」

初瀬「あ、あこが、最近、お金使いが荒いから…何かあるのかと思って」カタカタ

憧「…?なんでそれが尾行の理由になるの?ってかなんで私のお金使いが荒いとか知ってんのよ」

初瀬「い、色々調べたの…憧の事」

憧「私の事…?」

初瀬「っ………」


憧は、スポーツバッグからノコギリを取り出すと、黙り込む初瀬の目の前にかざす

初瀬(どうしてそんなもの…持ち歩いてるの!?)


憧「調べたって、どんなことを?話してくれるよね?」ニッコリ

初瀬「あ、あ、あこのお姉さんのこととか、鷺森レーンのお客さんのこととか…」ガタガタ


憧「………」

初瀬「あれって…全部……憧がやったの?」

憧「まーね。ウザかったし」


初瀬の予想は当たっていた。しかし、的中の驚きも一瞬、すぐに恐怖が首をもたげる。


初瀬(憧は、何人も人を殺してるんだ…。しかも、それを私の前で堂々と自白した)

初瀬(つまり、私を生かしておく気なんてないんだ…。私は、多分ここで死ぬ……)

初瀬「…憧は、どうして、そんな…事…できるの…?」ポロポロ

憧「人殺しとかの事?う~ん、なんでだろうね。難しいなぁ」ウンウン

憧「初瀬はさ、エクストリームスポーツ…って知ってる?」

憧「崖からスキーで飛び降りたり、断崖絶壁を自転車で走る競技とかあるじゃん?あれの事だよ」

憧「あれってメチャクチャ危ないよね~。理解しがたいと思わない?」

初瀬「憧は…スリルを求めてやってるっていうの…?」

憧「いやいやそうじゃないって。…日常生活で、誰もが色んな問題に直面するでしょー?」

憧「私はね、その問題解決の選択肢が、あんた達に比べてちょっと広いだけなの」

初瀬「は?」

初瀬(何を言ってるの…?この子は)

憧「仮に殺しちゃえば解決するとしても、普通の人はためらっちゃうよね」

憧「警察にバレたらとかで、どーしても恐怖が先立っちゃうの」

憧「でも、私はそうじゃない」

憧「エクストリームスポーツの愛好家と同じで、やれると確信できれば最後までやり切る事ができるの」

憧「思い切って突っ走ってみれば、案外できちゃうもんなのよねー」アハハ

憧「どう?こんな説明で分かってくれた?」


初瀬(なんなの…憧……理解できないよ…)

初瀬(憧がここまで訳の分からない子だったなんて…)

憧「質問にも答えてあげたことだし、そろそろいいかな」

憧「初瀬、ゴメーンね!」

憧は初瀬の頭に手をかける。
迷っている状況ではなかった。初瀬は、最後の望みをかけて声を張り上げようとした。

初瀬「助け……!」

その瞬間、視界が180度回転し、意識が暗転した。

──


憧(初瀬は、バラバラにして山中深くに埋めたから、当分は見つからないでしょ)

憧(服は燃やしたし、歯も滅茶苦茶にしといたから、仮に見つかっても身元の確認は難しいだろうし)


憧(さて、まだ一仕事残ってるからねー)

憧は、近くの駅のホームへと入った。

憧(のちのち警察が送信位置を調べたら、駅から送られたって分かるようにしとかないとね)

憧(『今日から数日は東京の友達の家に泊まります。』っと)ピッ

初瀬の携帯を使い、初瀬の両親へメールを送る。


憧(夏休みで学校が無くてよかったー!流石に学校への連絡をごまかすのはしんどいし)

憧(あとは、えーと…小走さん、部の先輩かな?この人でいいや!)

憧(『しばらく、東京に遊びに行きます』っと。送信!)ピッ


憧(あとは、インハイで東京に行ったときに、もう一度適当にメールしましょ)

憧(そんでどっかに捨てちゃえば、警察さんは、初瀬が東京に遊びに行って…)

憧(そのままフラリと失踪したように思うでしょ、多分)





──
─インハイ準決勝、大将戦後

憧「シズ、お疲れ!」

玄「大活躍だったよー!」

穏乃「あこ!制服さんきゅ!」

憧「じゃ、私達ちょっと着替えてくるね」


穏乃「ああ、憧、ちょっといい?」

憧「ん?何?」

穏乃「制服のポッケにこれが入ってたんだけど」


穏乃の手には、初瀬の携帯が乗せられていた。


憧(やばっ……!)

穏乃「たしかこれって、憧の友達の初瀬さんのだよね?」

穏乃「なんで憧がもってるの?」

憧「えーっとね…借りたの!」

穏乃「ふーん。携帯を貸し借りなんて、なんかすごいね!」

憧「でしょ?」


憧は、表情には出さなかったが、内心ではこの上なく焦っていた。

憧(どうしよ~…初瀬の失踪は、近いうちにニュースになるだろうし…)

憧(その初瀬の携帯を、私が持っていた事実が明るみになったら…)

憧(あっと言う間に捜査の手が伸びるわね)ハァ…


憧(…もう、こうなったら)

憧(ニュースになる前に、私は…シズを…)グッ


───
──インハイ決勝

咲「カン!」カシャッ

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

淡(こ、これって…!)

咲「ツモ。四槓子、16000オールです」


こーこ「親の役満だああああああああああ!」

こーこ「ということは!これで清澄逆転優勝だああああああ!」




結果
清澄1位
白糸台2位
臨海3位
阿知賀4位

─控え室


宥「穏乃ちゃん、頑張ったね。お疲れ様」

穏乃「みんな…ごめん」

憧「ううん、あいつら相手に本当によく頑張ったよ、シズ…」

玄「そうだよ!特に南2局、すごかったよ、穏乃ちゃん!」

灼「みんな、本当によく頑張ったと思…」

晴絵「そうだな…凄いよおまえら、初出場でベスト4だもの!」

灼「そういえば、打ち上げ会はいつだっけ」

晴絵「えっと、明後日だな。臨海は来られないそうだけど、代わりに千里山が来てくれるって」


インターハイの後、晴絵の提案で決勝4校での打ち上げ会が企画されていた。
阿知賀女子学院の合宿場を使用し、親睦を深めつつ、後輩達の育成を兼ねるイベントだ。
ようは合同合宿である。


穏乃「大会ではできなかったけど、ここでなら和といっぱい戦える!」

憧「そうねぇ、和と私と…シズと玄で、久々に囲みたい」

玄「楽しみだね!」





合宿場以降は残虐描写が増えます
念のため注意おば

──





──
─合宿当日、合宿場

灼「本日は遠路遥々、打ち上げ会に参加していただきまして、大変ありがとうございます。今回…」


淡「げーっ、ここ携帯通じないの!?」ヒソヒソ

亦野「山奥だからね」ヒソヒソ

菫「おい、阿知賀の部長が話しているんだ。ちゃんと聞け」ヒソヒソ




灼「……以上で挨拶を終わります」

パチパチパチパチ


怜「静かでいいところやなぁ…緑も多くて落ち着くわ」

浩子「携帯も繋がらなければPCのアクセスポイントもないんか…これだから田舎は」

泉「陸の孤島って感じですね」

竜華「ええやんええやん!たまにはこういうのも!」

セーラ「せやな!よっしゃ!早速合宿場を散策や!」

優希「ふぇー、4階建てとか凄いじぇ!」

咲「迷子になっちゃいそうだよー」

まこ「お?そういや和はどうしたんじゃ?」

久「和は昔の友達と話をしてくるそうよ」

咲「そっか、和ちゃんって昔は奈良にいたんだっけ」

和「憧、穏乃、玄さん!」

玄「和ちゃん、優勝おめでとう!来年は負けませんよ!」

穏乃「のどかー!今日はいっぱい打とう!」

和「もちろんです!」

憧「私も入るー」

宥「みんな楽しそうでよかったね」

灼「うん」

───
──


1階に食堂、ロビー、管理室、浴場、2階には個室がいくつかあり、主に就寝用の階層となっている。
3階と4階は大きな部屋に机と椅子が並んだホールになっており、主にレクリエーションや会議に使用される。
今回の合宿では、3階のテーブルや椅子を片付け、自動卓を設置し麻雀の練習部屋として使用していた。


PM 7:16

淡「ツモ、4000,8000!」ゴゴゴゴゴゴゴ

照「ロン。12900」ギュルルルルルル

咲「ツモ、嶺上開花」ゴゴゴゴゴゴゴ


泉「は、はい…」カタカタ


泉(なんでウチだけこんな卓に…!なんやねんもう…!)

和「ロン、7700です」パタッ

穏乃「あっ!それかー」


玄「和ちゃん、前よりずっと強くなったね!」

和「ありがとうございます。みんなもとても強くなっていて驚きました!」

憧「よーし次の半荘は負けないよ!」



──


PM 8:12

憧(皆、打ち疲れてきたのかな)

憧(立っている卓も少なくなってきて、後ろで観戦する人が多くなってきてる)


憧(そろそろ…いいかな…)


憧「シズ…」ヒソヒソ

穏乃「ん?何?」

憧「ちょっと2人で屋上行かない?星、見に行こうよ」ヒソヒソ

PM 8:13

─屋上

穏乃「うおーー!すごいねー!」キラキラ

合宿場の周辺には、民家は全くないので、邪魔な灯りも存在しない。
穏乃は、満天の星空を見上げながら、楽しそうに笑っている。

憧「そうだねぇ」

憧は、懐に隠したブラックジャックを、そっと取り出す。
五枚重ねにしたビニール袋にきめ細かい砂を入れ、ガムテープで補強しただけの手作り品である。
砂の重量が運動量を伝えることにより、目立った外傷を残さずに、脳震盪を起こすことができるのだ。

憧(シズ…ごめんね)

憧は、穏乃のこめかみを狙って、ブラックジャックを振り下ろした。

穏乃「あっ……」グラッ

憧は、気を失って倒れる穏乃を抱き止める。
そして、穏乃を抱きかかえながら、屋上の端へと向かった。

憧「シズ……」


憧(シズは昔から高いところが好きだったよね…)

憧(何かと木に登ったり、建物の屋上のさらに高いところを目指したり…)

憧(屋上の柵に腰をかけていたら、バランスを崩して転落した…ということにすれば、みんな信じるかな…)

憧は、計画を頭の中で繰り返しイメージする。


憧(気絶させ、屋上からシズを落とす。この高さなら、たぶん即死)

憧(落としたら叫び声を上げ、階段を駆け下りる)

憧(1階の公衆電話で119番通報し、シズのところへ駆け寄る…)


憧「よい…しょ」

柵は、憧の胸元ほどの高さしかなかった。細い柵の上へ穏乃の身体を乗せる。
あと軽く一押しすれば、穏乃は4階の屋上の高さから地面へ叩きつけられることになる。
だが、その一押しができなかった。体が言うことを聞かなかった。

憧(駄目…どうして…?)

憧(シズを殺さないと、私が捕まるのに…自由を失うのに…!)

穏乃「…ぅ…」

憧(もう時間が無い…!あと数秒で意識が戻っちゃう…!お願い、動いて!私の手!)

憧「っ……!」グイッ

憧は、自分の身体の支配を取り戻した。
穏乃の身体は、憧の手を離れ、落下していく…。

どすん という音が響いた。

憧は、計画通りに叫び声をあげようとした、そのときだった。
屋上の入り口の方に気配を感じた。振り返ると、灼が顔面を蒼白にして立っていた。

灼「あ…憧…」ガタガタ

憧(あらt…やばっ!)ダッ

見られた。逃げだしそうな気配を感じ、憧は灼に向かって跳躍した。灼の顔を胸に押し付けて口を塞ぐ。

灼「ーーー!!!~~~~!!」ジタバタ

憧(ちょ、灼ってこんなに力強かったの…!?)グイイ

憧(このままじゃ…叫ばれたりしたら終わり…!)

憧(押さえつけるのも、もう、限…界…!)ギュッ

憧(……仕方ない!)

憧は、右腕で灼の頭を深く抱えなおし、力いっぱい捻った。

パキン

小枝が折れるような音がすると、灼の体から力が失われていく。

憧は、灼の遺体を床へ下ろし、屋上のドアを閉めると、深くため息をつく。

憧(とっさの事とはいえ…まずいなー)

憧(何の準備も無く灼を殺しちゃうなんて…どうしよう)

憧(思わず首折っちゃったから自殺の偽装も無理だし……)ハァ

憧(これじゃ、シズの件の救急車も呼べない…)


憧(…あんまり長く集まりから離れるのもよくないわね)

憧(とりあえず、3階に戻ろう…)

PM 8:19

──3階、広間

照「ロン、25500」ギュルギュルギュル

セーラ「うへぇ~!さすがチャンピオン、容赦あらへんな…」


憧(どうやら、シズが落ちた音は聞こえなかったみたいね)

憧(こんだけ自動卓が稼動してて、大人数で騒いでいれば無理も無いか…)

セーラ「お、戻ってきたん!次、一緒に打たへん?」

憧「ああ、ちょっと今は気分じゃないの…ごめんね」

セーラ「なーんや、しけてんなぁー」

亦野「そういえば、高鴨さんはどうしたんですか?」

亦野「一緒に屋上に行ったみたいですが」

憧「…シズはちょっと気分が悪いから、先に2階で寝てるって言ってました」

玄「あと、灼ちゃんも屋上へ行ったみたいだけど、まだいるのかな?」

憧「あー…わかんない」


憧(まずい。灼のやつ、屋上に行くことを話してたのね…)

憧(しかもみんなの前で証言してくれちゃってー!玄、サイアク!)プンスコ

憧(これじゃあ今から灼の死体を処分できたとしても)

憧(私と会ってた直後に灼が失踪しましたーってなっちゃうじゃない…)ハァ

憧(それにシズの件も、もう事故には見せかけられないでしょ、これ…)

憧(容疑は間違いなく私にかかる…)

憧(まさに八方塞がり…やばいなー…うぬぬ)

憧(このままじゃ破滅…でも、どうにかする方法も思いつかないし…)

憧(…何かできるとしたら、今晩のうちよね)

憧(明日の朝にはもう取り返しがつかなくなっちゃうだろーしなぁ…)

憧(うーん…とりあえず、何をすべきか考えましょ。まずは状況整理からね)ウンウン

憧(まず、灼の首折っちゃったから事故や自殺への偽装は厳しい)

憧(次に、玄のせいで、灼の死体処分の能否に関わらず、全員の疑いは私に向かう)

憧(シズは、もうどう頑張っても100%私の犯行だってバレる)


憧(この状況で私が警察の追及を逃れるには…)

憧(灼の死体を誰にもバレずに処分して、シズと私が屋上に行った事を、みんなが証言しなければいい)

憧(………いや、無理でしょそんなの!なんでみんながわざわざ私を庇うのよ!)イライラ

憧(他の人のせいにするのは…?そんでその人を自殺させちゃうとか)

憧(んー…ダメね。不自然すぎる。今からじゃ遺書の筆跡の練習もできないし)

憧(玄や宥姉ならともかく、他校の子が阿知賀の子を突然2人も殺して自殺だなんて、怪しすぎでしょ…)

憧(それで結局、灼、シズと最後に会っていて、1人で3階に戻ってきた私が疑われる事になる…)

憧(あーんもう!どうしたらいいの?)




憧(……もう、これしかない、か)



憧「木の葉は森に隠せ……ね」ボソッ

憧は、麻雀に勤しむ少女らを眺めてつぶやいた。




憧(……死体を隠したければ、死体の山を築くしかない)




憧(問題はやっぱり物理的に実行可能かどうかよね…)

憧(一度始めたら、完璧にやり遂げなきゃいけない)

憧(1人たりとも生き残らせちゃいけないからなぁ)


憧(火事はどうだろう?みんなが寝静まっている間に火を放つとか)

憧(…ダメね。寝る前にいなくなったシズや灼を探すはず)

憧(見つかれば、あっと言う間に警察に通報されて終わり…)

憧(死体を隠しても、急にいなくなったりしたら警察に通報するに決まってる)

憧(そうなったら、シズと最後に一緒にいた私への疑いは避けられない)

憧(起きている時に火事を起こしては、全員が逃げ遅れる可能性は低そう…)

憧(老人ならともかく、うら若き高校生だものねぇ…)

憧(火事が無理なら、結局は大量殺人しかないかぁ)


憧(都合のいい事にこの合宿場は携帯が通じないしね)

憧(とりあえず、食堂の包丁で皆殺しとかはさすがに無理がありすぎるかー…)

憧(…となると、銃とか爆弾を使うほかない訳だけど。あ、それなら適役いんじゃん)

憧(そういや、ハルエってクレー射撃やってたんだっけ)

憧(そうそう、元はと言えば灼のせいでこんな事になってるんだし)

憧(愛人のハルエにはきちんと責任取ってもらわないとね)

憧は、壁に寄りかかって目を閉じた。
映画のようなイメージを脳裏に描きながら、計画を細部まで再検討してみる。

憧(大丈夫。私ならたぶん、やれるはず)

憧(でも流石に今回は躊躇があるわね…)

憧(ちょっとやりすぎな気もする…でも、他にいい案もないしなー)

憧(それに、この計画にはメリットもあるのよね)

憧(第一に、みんなが抱くだろう私への不審を、きれいに払拭できる)

憧(第二に、灼とシズの死体を処分する必要も無くなる)

憧(第三に、ニセの容疑者を作れるから、捜査の手も伸びにくい…)

憧「……よし」

そっと3階の広間を出ると、灯りを点けないまま1階の管理室へ入り、マスターキーと屋上の鍵を拝借し、4階へ上る。

憧(屋上の入り口の鍵をかけて…)ガチャ

2階へ降りると、適当な個室へ入り、毛布1枚とハンドタオルを3枚拝借した。
個室へ隠れられると面倒なので、全ての個室を施錠し、進入できなくする。

続いて1階の食堂へ向かい、床へタオルと毛布を下ろす。
キッチンの引き出しから使い捨てのビニール手袋を取り出し、二重にして手にはめた。

一息つくと、1階ロビーに置いてある緑色の公衆電話へ向かった。携帯が圏外のため、緊急連絡用に置いてある1台だった。


憧「もしもし、ハルエ?私。憧だけど、今すぐに阿知賀の合宿場に来てくれない?」

晴絵『えっ?今から?でも…送迎は明日の午後じゃ…』

憧「緊急なの。灼がね、ちょっと困った事になってて」

晴絵『灼が?おい、どういうことだ?』

憧「とにかく来て!来れば分かるから」

晴絵『…わかったよ』

プツッ ツー… ツー… ツー…

憧(さてと…)

憧は、キッチンから持ってきた包丁で公衆電話の回線を切断した。電源コードはあえて残しておく。
続いて管理室へ向かい、固定電話も破壊する。

これでこの合宿場は、外部との通信手段の一切を失った。

PM 8:38

─駐車場

駐車場で待つこと数分、晴絵の車が現れた。

憧(エンジン音がいやにうるさく感じる…みんなに気が付かれないかなぁ?)キョロキョロ

晴絵「おい、憧!いったい何があったんだ?灼は?」

憧「まあまあ落ち着いて。こっち来て」

憧は、晴絵を連れて食堂へと向かう。

─食堂

憧「とりあえず、そこ座って」

食堂のパイプイスを指差す。

晴絵「いや、それより早く教えてくれ!何があったんだ?」

憧「今、説明するから。とにかく座って」

再度椅子を指差すと、晴絵は、黙って椅子に腰掛けた。

憧「実はね、こういうことなの」

憧は、立ったまま晴絵に近付くと、隠し持っていたブラックジャックを振り下ろした。

てす

晴絵は、小さく呻いて気を失った。
憧は、脳震盪を起こした晴絵のポケットから車の鍵を奪うと、手足をハンドタオルで縛った。
続いて晴絵を毛布の上に寝かせ、転がしながら首から足首までぐるぐる巻きにした。
その上から、ガムテープを何重にも巻いて固定する。最後に、晴絵の口いっぱいにハンドタオルを詰め込んだ。

憧「ハルエには後で出番があるから、それまでまっててね~」ヒラヒラ

晴絵「~~~!!~~~~~!!」モゾモゾ

憧「あと、くれぐれも余計な事しないでね」

憧「ハルエが変な物音立てたりすると、灼に危害が及ぶ事になるかもよ?」

晴絵「っ!!……」


憧(まぁ本当はもう死んでるんだけど)

憧はそのまま食堂を出ようとして、気が付く。

憧(これから合宿場に血染めの足跡を残すかもしれない…)

憧(自分の靴じゃあ、マズいよねぇ)ウンウン

憧「ハルエ。これ、借りるよー」

晴絵の足から、ブーツを脱がせる。

憧(うん!一回り大きいけど履き心地はまずまずね。行動に支障はなさそう)

食堂を後にすると、晴絵の車へと向かった。エンジンをかけ、車を発進させる。
免許など持っていないが、AT車であれば何度も運転経験があったので問題はなかった。

おお復活したか

晴絵の家に着くと、人気が無いことを確認し、家へ入る。

憧(以前おじゃました時はここに……あったあった)

車の鍵と一緒くたにされ、ジャラジャラしている鍵たちの一つを、ガンロッカーの鍵穴へ差し込む。
そっとロッカーの扉を開くと、中身を取り出した。

                             ショットガン
ベレッタ682GoldEトラップ。上下二連中折れ式の散弾銃である。

憧(同じ散弾銃でも、ポンプアクションのやつなら映画みたいにカッコよく決められるんだけどなぁ…)

ぎこちない手つきで銃身を二つ折りにし、後端の薬室に2発の散弾を込める。
銃身を持ち上げてフレームに嵌め込むと、発砲準備完了である。


憧(12ゲージの散弾が30発前後、スラッグが10発弱か…)

憧(よし、数は十分ある。でも無駄打ちは避けて節約しないとね)


憧(…なんせ、獲物が異常なほど高い智能を持ってるんだもの)


憧は、必要な装備を整え車へ乗り込み、合宿場へと発進させた。

PM 8:40 

─合宿場3階

玄「あれ?そういえば穏乃ちゃんたちがいないね」

宥「憧ちゃんが、穏乃ちゃんは体調が悪いから2階で寝てるって…」

玄「そうだっけ。灼ちゃんと憧ちゃんはどうしたのかなぁ?」

宥「灼ちゃんなら、たぶんまだ屋上…かな…?憧ちゃんは、どうしたんだろう…」

淡「ねーねー!ドラゴンなんとかさん、打とーよ!」

玄「ふぇ?あ、はい!よろしくなのです!」




竜華「んー!疲れたー!怜、ちょっと休憩せーへん?」

怜「せやな。長いこと打ちっぱなしやったし、ちょい休も」

セーラ「お!そんなら俺も!」



PM 9:08

─合宿場前、ベンチ

竜華「怜、見て!星がキレイやなぁー!」

怜「山の中で周りに家があらへんと、ここまで良く見えるもんなんやな…」ウットリ

セーラ「おぉー!スゲー!」

ああ……

怜「インターハイ…勝てへんかったけど、楽しかったなぁ…」

竜華「やね。ウチらは来年はもう出られへんのかぁ」

竜華「そー考えるとちょっと寂しいなぁ」

セーラ「せやなぁ……よっと」スタッ

セーラ「俺、向こうの自販機でなんか飲み物こーてくるわ!」

怜「お~」ヒラヒラ





怜「お。あんたは阿知賀の…」

憧「あら、お二人さん。デートですか?」

憧は両手を後ろに回している。
何か、細長い棒のようなものを手に持っているようだ。

竜華「まぁそんなところやね!」

憧「仲が良くて羨ましいなぁ~」

憧「ところで、他の皆さんはまだ3階で麻雀やってる?」

シズを殺した時点でもう留まれそうな理由がなくなったよなあ

竜華「ウチらがここに来たんは3分前くらいなんやけど」

竜華「部屋出るときは、えーっと…アンタを含めた阿知賀の子3人意外は全員おったで」

憧「そう、ありがと!」ニコリ

憧は、おもむろに背後に持っていた棒状の物体をこちらへと向けた。


竜華(なんやこれ、猟銃?しかもなんでビニールの手袋しとるんやろ…)ポカーン

怜「えっと…なんなん?」ポカーン

憧「うん。ふたりとも、ちょっと待ってね」

耳を劈く轟音が響いた。
霰のような散弾を身体に受けた竜華は、血煙を上げながらベンチの後方へ吹っ飛んだ。

怜「………え?」

憧「ごめんね!バイバ~イ」カチャリ

怜「待っ───」

ドオォォン!!




2発打ち終わったので、銃身を二つに折り、排莢する。
勢い良く飛び出した空薬莢が、コンクリートの上を跳ねる。

憧(まずは2人っと。それにしても…)

憧(音のことを軽く考えてたなぁ。いたた…耳栓無しだときつすぎるわ…)キーン

憧(これで、あと15人)

新しい弾丸を込め、銃身を元通りにすると、憧は合宿場の入り口へと向かった。

PM 9:10

──合宿場3階

咲「お姉ちゃん。今日は楽しかったよ!お姉ちゃんと打てて…」

照「…咲。私も楽しかった」

咲「一つ聞かせて…ううん、無理にとは言わないけど」

咲「お姉ちゃんは…どうして記者さんに、妹はいないだなんて…」

照「咲…それは──


ドオォォン!!

照「ッ!?」ビクッ

咲「な、何!?今のおっきい音!」

優希「きっと花火だじぇ!近くでやってるのか!」ワクワク

久「…花火にしては、大きすぎじゃないかしら?」

まこ「なんじゃろ…なんか爆発したんかの?」

和「なんか……気味悪いですね」


そして、少し間を置いて、2度目の轟音。

尭深「また……」

亦野「これって、もしかして…銃声じゃないですか?」

淡「じゅ、銃声!?ないない!ニッポンだよ?ここ」

泉「と、ともかく、どないします?」オロオロ

浩子「銃声ってのは非現実的やし…誰か様子を見にでもいけばええんちゃう?」

宥「だ、誰かって…」フルフル

久「誰が?」


……全員、押し黙ってしまった。

しばらくして、3度目の轟音が響き、階下でガラスが割れる音がする。


咲「いったい、何が起こってるの…?」

PM 9:10

─合宿場外

セーラは、合宿場への坂道を駆け上がっていた。
手には、坂の下の自販機で買ってきた、3本の飲み物を抱えていた。

セーラ(さっきの花火みたいな音、なんやったんやろな?)

坂を上りきると、竜華たちが座っていたベンチが見えてきた。

セーラ「………え?」

飲み物を放り投げ、ベンチへ駆け寄る。

セーラ「怜っ!!竜華っ!!」ダッ

ベンチの周囲は、血の海だった。二人は、全身に散弾を受けた無残な姿で横たわっていた。

セーラ「な、なんや…これ…なにが…」ガタガタ

セーラ「怜……竜華…」ポロポロ

一応、息を確かめたが、既に事切れていた。
あまりの事態に、しばし呆然と立ち尽くしていた。

はっと気を取り直す。

セーラ(…犯人は、合宿場の中に入ったかもしれへん)

セーラ(そうなったら、3階のみんながヤバい…!はよ警察よばな…!)

110番通報しようとしたが、携帯電話は圏外で通じない。

セーラ(せやった……通じないんやん…ここ)

セーラ(通じるとこまで…降りな…)

セーラは、合宿場へ背を向け、坂を下りようとした。
そのとたん、心中に強烈な怒りがこみ上げてきた。
逃げようとしている自分…。理不尽に殺された仲間…。

セーラ(よくも…!よくもッ…!)ギリギリ

セーラ(ぶっ殺したるッ!)

セーラ(怜と竜華の仇は、オレが取るッ!)

セーラは合宿場へ向き直る。
そして、何か武器になる物を探すために、合宿場の周囲を散策する。

セーラ(銃相手じゃ、ちと不安やけど…これでええか!)

セーラ(モタモタしとったらみんなが殺されてまう!)

建物の裏手で見つけた、70cmほどの鉄パイプを手に、セーラは合宿場へと入っていった。

PM 9:11

─合宿場1F ロビー

セーラ(電気が点いとらんから暗いな…)ドクン ドクン

セーラ(くそっ…どこにおるんや!)

セーラ(殺人鬼め…!頭かち割ったる!)ギリギリ

管理室への通路の前方に、月明かりに照らされた後姿が見えた。

セーラ(ん…?アイツは、阿知賀の…)

知っている顔に気が緩み、セーラの鉄パイプが床に触れ、小さく音を立てた。
その瞬間、前を歩いていた憧が、電撃を受けたように振り返った。手には猟銃を構えている。

セーラ「ッ!!!」ブンッ

咄嗟に、鉄パイプを憧に向かって投げつけた。

憧「うわっ──」

憧は、回転しながら飛来する鉄パイプに意識を取られ、あらぬ方向へと発砲した。
散弾を受けた窓ガラスが粉々に砕け散り、廊下へ降りそそぐ。
ガラスの雨の中を、セーラは全力疾走し、憧との間合いを一気に詰める。

セーラ「おおおーーーッ!!!」

体重を乗せた渾身の右ストレートを、憧の顔面に叩き込んだ。

憧は、散弾銃を取り落とし、後方へと倒れこんだ。
しかし、すぐに立ち上がりながら銃を拾い上げると、セーラに向けて銃口を向ける。

セーラ(浅かったか!させへんッ!)ガシッ

セーラは、散弾銃の銃身を掴み、体勢を低くし、射線から体を外す。

セーラ「っ……!」ジュウウウ

セーラ(熱ッ!撃ったばかりの銃身って、こんな熱くなるんか…!!)ジジジ

憧「あらら、早く手を離さないと火傷しちゃうよー?」ニヤニヤ

セーラ「誰が…!離すかッ……!」ジジジ


セーラ(くそっ…!体勢が低いから蹴りが出せへん!)

セーラ(手を離したら、その瞬間に銃床で殴られるか、距離をとられて射殺されて終わりや…!)

セーラ(手のひらの痛みが、もう、限界や…!どないすれば……!)


憧「ねぇ、本当にこのままだと肉まで火傷しちゃうよ?早く離したほうがいいって」

セーラ「へっ…!死んでも離さへん!」ジュウウウウ

憧「あら、そう」パッ

セーラ「え?」

憧が、突如として銃を手放した。

セーラは、一瞬呆然となる。
その隙に、憧は、セーラの上に覆いかぶさるように頭部を抱えた。

セーラ(あかん、絞め技かッ!窒息させる気やな!)

セーラは、銃を手にしたまま両手を引き、のどを守った。だが、憧の技は予想だにしないものだった。
憧は、セーラの頭を抱えたまま体を激しく捻り、床を蹴ってジャンプし、きりもみのように回転した。
ふわりと舞った憧の髪から、シャンプーのいい香りがした。

セーラ「ッ────」バキッ

天井が見え、頚椎が折れる音が聞こえた。

セーラ(こんな…アホな…)

セーラ(くそっ……怜、竜華…すまん。仇、取れへんかった…)

セーラ(みんな、逃げろ……こいつは、化け…物……ゃ…)

PM 9:13

─1F 管理室前、廊下

憧(ふぅー…思わぬ伏兵がいたわね。ビックリしちゃった)

憧は、足元で痙攣しているセーラの頭を銃床で殴り、止めを刺す。


憧(これであと14人)

憧(…鉄パイプ持ってたって事は、たぶん園城寺さんたちの死体でも見つけたのね)

憧(お馬鹿ねぇ…そのまま逃げて警察に通報していれば、私の負けだったのに)

憧(さてさてー)


憧は、管理室へと入ると、放送用のマイクを手に取った。

PM 9:13

─3F 広間

館内のスピーカーが、鋭い金属音を発した。
その場にいる全員が、そちらを注視する。

『…みんな、よく聞いて。このしせつに、不しん者が侵入しました。』
『危けんなので、絶対に1かいには降りないように。パニックにならず、冷静に対しょしてください。』
『できるだけ上のかいへ逃げて、助けを待ってください。犯人は、りょう銃を持ってます。近付くと危険です。』
『くり返します。絶対に1階へは降りないように。上の階へにげてください』

放送は唐突に終わった。

玄「憧ちゃんの声だ…!4階に行こう!お姉ちゃん!」

宥「くろちゃ…」フルフル

久「待って!2人とも!みんな聞いて!!何かおかしいと思わない?この放送…」

尭深「何がですか?」

久「今の指示は、当然不審者だって聞いてるわ。それなのに、どうして上の階へ逃げろなんて指示するのよ?」

久「こんなの聞いたら、絶対、不審者も上がってくるじゃない!」

玄「そ、それは…」

玄「だから、その前に急いで4階へ行って、屋上から逃げろって事じゃないでしょうか!」

久「屋上からって…どうやって?」

玄「非常階段があります!」

宥「くろちゃん……だとしても、変だよ…」

玄「お姉ちゃんまで!どうして…!?」

宥「放送ができる部屋は、1階にあるんだよ…?」

宥「不審者さんが1階にいるなら、どうして憧ちゃんは…放送できたんだろ…」フルフル

玄「な、何言ってるのお姉ちゃん…憧ちゃんを疑ってるの?」

菫「…恐らく、新子さんは犯人に強要されて放送したんじゃないか?」

菫「彼女の声、ちょっと変だったろう?滑舌が悪く、声も震え気味だった」

菫「多分、あれは殴られて、口の中を怪我しているからだ」

玄「そんな…憧ちゃん、大丈夫かな…」

宥「穏乃ちゃんと灼ちゃんも…心配だけど…」

淡「あーもういい!警察に通報しなきゃ!…ってここ圏外なんだった…」

泉「うぅ…園城寺先輩たち…無事ならええんですけど…」

玄「…とりあえず、私は憧ちゃんの言うとおりにしてみます!」

玄「屋上へ避難して、非常階段を使おうかと!おねえちゃんは…どうするの?」

宥「なら…一緒に行くよ。怖いけど、くろちゃんを1人にはできないから…」フルフル

菫「本当にいいのか…?」

宥「うん…。心配してくれてありがとうございます…」

優希「わ、私もいくじぇ!」ダッ

和「あ、ちょっと、優希!」

咲「あっ、原村さん…!」

和「宮永さんは、ここで待っていてください!」


玄、宥、優希、和の4人が3階広間を出て、4階へと向かっていった。

しえしえ

─PM 9:15

玄(お願い…不審者さん、こっちに来ないで…!)ドクンドクン

玄たちは、ゆっくりと4階への階段を上がっていた。

玄(不審者さんが来る前に屋上へ行かなきゃ……でも…)

玄(もう4階で私達の事を待ってたらどうしよう…)ドクンドクン


牛歩を続ける玄に対して、和が痺れを切らす。

和「玄さん、もう少しペースアップしませんか?」ヒソヒソ

和「3階から4階へ向かう途中の踊り場に着くだけで1分ぐらいかかってます」ヒソヒソ

和「これじゃいくらなんでも遅すぎですよ」ヒソヒソ

和「冷静に考えてください」

和「放送終了からものの1分足らずで不審者が4階まで上がっているとは考えにくいです」

和「どう考えても怖がりすぎですよ」

玄「で、でも…」カタカタ

宥「わ、私も、もう少し早く進んだほうがいいと思うな…」フルフル

優希「そうだじぇ。多分犯人はまだ1階にいると思うじぇ」ヒソヒソ

優希「だから、ちょっとペースあげるぞ…!」

和「…ですね」

玄「ま、待ってよぅ~…」ヘナヘナ



PM 9:18

─3F 廊下

憧の放送から5分近くが経過していた。
不審者が階段を上がってくる様子も無ければ、あれ以来銃声も聞こえてこない。
広間に居ては、不審者が侵入してきた際に逃げづらいので、全員廊下に出ていた。


浩子「なぁ、なんかおかしないと思いませんか?」

浩子「不審者は、なんでここにけぇへんのでしょうか?」

亦野「もしかして、もう逃げたとか?」

久「それはないわ。新子さんを脅迫して放送までさせて、すぐに逃げるとは思えない」

久「多分、こっちの出方を伺っているのよ」

照「…なんのために?」

久「外国で時々見かける銃乱射事件の犯人は、もっと行き当たりばったりに行動するでしょ?」

久「ところが、この犯人は、じっくり1階で待ちの一手…」

淡「それって、つまりはどういうことー?」

久「銃を乱射しながら突っ込んだら、混乱に乗じて何人か逃げ出す可能性がある」

久「…恐らく、それが気に入らないのよ」

咲「ま、まさか……」ゾクッ

久「ええ。…1人たりとも逃がしたくない」

久「…私達を、完璧に皆殺しにしたいんだわ」

まこ「な、なんじゃ…そりゃ…」ゾワリ

尭深「ど、どうしてそんな事、する必要が…」

久「そんなの私には分からないわ…」

久「現実的な計算があるのか、オカルチックな導きにでも従っているのか」

久「とにかく、新子さんを使って放送させたやり方からしても…」

久「この不審者は、ただの殺人鬼ではないと思うの」

浩子「…シリアルキラーやない、サイコなイカれ野郎っちゅうことですか」

泉「私達…どないすればええんでしょうか……」カタカタ


菫「…私は、1階へ降りてみようと思う」

久「あなた何言ってるの!?殺されるわよ…!」

淡「そ、そーだよ!絶対危ないって!」

菫「…もちろん危険は承知の上だ」

菫「だが、携帯が通じない以上、1階にあった公衆電話で助けを呼ぶしかない」

淡「でもっ!犯人が電話線とか切ってるかもしれないよ!?」

菫「それなら、合宿場の外へ逃げ出す。携帯が通じるところまで行けば、助けが呼べる」

照「……私も行く。この建物には、西階段と東階段があるよね」

照「それなら二手に分かれれば、どっちかが不審者に遭遇しても…」

照「不審者を引きつけている内に、もう片方が逃げられる」

照「2人いたほうが、成功する可能性はずっと高いはず」

淡「テル!?テルまで…!」

淡「ねぇやめようよ…テルたちが死んじゃったら…やだよ……」ポロポロ

菫「淡…私たちは大丈夫だ。だから心配するな」ナデナデ

咲「お姉ちゃん…」フルフル

照「咲… 絶対に戻ってくるから。」ギュッ

咲「うん…」

照「…じゃあね」


久「気をつけてね…」

菫「ああ。…よし、行こう」

照「うん」


照は西階段、菫は東階段へと向かう。
咲は、その様子を、固唾を呑んで見守った。

久「私達も、何か行動を起こしましょう」

尭深「どうするんですか…?」

久「東から来たら西、西から来たら東へ逃げるつもりだったけど…」

久「そんな適当なやり方、読まれるに決まってる…まず助からないでしょうね」

久「だから、とりあえず守りを固めようと思うの」

久「菫さんたちが呼びにいった助けがくるまで持ちこたえられるようにね」

亦野「守りを固める…?」

久「ええ」

PM 9:19

─1F ロビー

憧は、盗聴器からの声に耳を傾けていた。

憧(まさかこんなところで役立つとはねぇ)

憧が卓にいない時、阿知賀の部員たちは、憧についてどんな話をしているのか知りたかった。
そこで、麻雀部の結成時に、自動卓にこっそり盗聴器を取り付けたのだった。

憧(みんなは阿知賀の卓から離れたとこで話してんのかな?声が小さくて聞き取りづらい…)

憧(うーん、廊下にでも出てるのかな?)

憧(それでもおおよその流れは把握できたし、まぁいいけど)


憧(聞いた感じ、三派に分裂したみたいね。だいたい予想通りかな…)

憧(強いて言うなら、4階へ向かった子が少ないのが残念…)

憧(屋上への通路に集めて、一網打尽にできれば最高だったんだけどなぁ)

憧(一番まずいのは、全員が混乱して、我先に逃げ出す状態)

憧(西階段と東階段の2つがあるから、二手に分かれられるとしんどいのよね)

憧(大半は殺せても何名かは撃ち漏らす可能性が高いし)

憧(この状態にならなかっただけでも、よしとしましょ)


憧が放送を聞かせたのは、この最悪の状況を避ける為に、まずは落ち着かせるという理由が一番にあった。












ごめん、いったん寝る。起きてたとき残ってたら書きまする
落ちてたら夕方頃立て直すわ

落ちたら建てなおすを言える奴はまとも

川田章吾「新子憧には躊躇や後悔といったものが一切無いっ」

    / :/  ...:/:′::/ :.:.:.....:./.:/:!:.:.:.i:..!:.:.....:{:.:.:.:.:.:ハ
 .  /.〃/:...../:′'.::|:: i .::.:.:.:| :i:_{__|:.|:.:.:.i :|:.:.../  ̄`ヽ
   '://:′::/斗:十 |::.::.::.:.:.:.: :}}ハ ::ハ:{:≧ト|:::/ .    |
  {//::{: /|i:八::{=从:{ i::::: :N孑弐{ミト∨:::|::′.. す  |

 .  i :从 ::::{イァ:う{ミト爪ト::::. ! ん):::::ハヽト、:{:|    ん . |
 .  |.::| : \《 { ::::::: }  ヽ\{ { ::::::::: リ | :::ヽ! .  ・   |
 .  | ::!::|ハト.とうノ       て二⊃,| :::< .  ・ .   |
  八::| :|::::i /i, ,     ::,::    /i/ , }:::}i::人   __ ノ
   (__):::l:::::.                 i.:/::::::::厂「{:::::::{
  / :{ | :V:入     ヘ        }/}::::}/::::::l.|:::::::|
  { ::|人::∨::::>...   `      . ィ升|:::/::::::::八::::::{

ほしえ

憧(まず、私の放送に従って上の階へ逃げたのが、玄、宥、片岡さん、和)

憧(この子たちはまだ放って置いていいわね。いつでも片付けられる)

憧(次に、頑なに3階にとどまっているのが8人…)

憧(この子たちの出方には、絶えず注意しておかないとダメね。特に、竹井さん)

憧(そしてそして~、今まさに1階に降りてこようとしてるお馬鹿さんが2人!)

憧(弘世菫とチャンピオンね。さて、行きますか)ヨイショ


憧は、散弾銃を取り上げた。

クロチャー延命

PM 9:19

─3F~2F 東階段

菫は、ゆっくりと、一段ずつ階段を降りていた。
息を殺し、神経を研ぎ澄ませ、耳をそばだてる…。

菫(犯人はまだ、1階にいるのか…?)ドクン ドクン

冷や汗が、服の下を流れ落ちる。手のひらも、じっとりと汗ばんでいた。


菫(…一段降りるたびに、地獄へ近付いていくような感覚だ)ドクン ドクン

菫(こんなにも恐ろしいものとはな…)

菫(だが、誰かがやらなくてはならないんだ…それに)

菫(照も協力してくれているんだ。今更、後戻りは出来ない)

こなた自殺スレでつかさを失ったかがみがこなた達を皆殺しにするやつ思い出した

菫は、2階へと降り立つ。暗い廊下の反対側に、人影が見えた。

菫「っ!!」ビクッ

菫(あの角は……なんだ、照か)ホッ

照は、こちらを見ると、軽くうなずいて1階への階段を降りていった。

菫(私も行かないとな…)グッ

再び、ゆっくりと階段を降りる。ついに、2階と1階の間の踊り場を過ぎた。

菫(犯人が待ち伏せしているなら、1階に降りた瞬間に撃ってくるかもしれない…)ドクン ドクン

菫(だが…覚悟を決めて行くしかない…!)ドクン ドクン


鼓動が、全力疾走をしているときように脈打ち始めた。


角で判断するのか

PM 9:20

─合宿場3F

久「西と東、両方の防火戸を閉めて!」

咲「はい…!」

まこ「よっこらせ…!」ギギギ…ゴウン…

久「それから、何か堅い棒みたいなもの、持ってきて!」


尭深「これでいいでしょうか…?」

尭深「掃除用具入れに入ってた、モップです…」

久「まあいいわ。貸して」


久は、防火戸の弓形のハンドルを起こすと、モップ3本を差込み、閂のようにした。

久「反対側も、同じようにやるわよ!」

まこ「おう…!」

淡「ちょ、ちょっと!そんな事したらテルたちが戻って来れないじゃん!」

久「…大丈夫よ。彼女らは、逃げるにしても1階から外へ逃げるわ」

久「私達は、ここで篭城するしかないの」

淡「なんで!?テルたちを信用してないの!?」

久「違うわ。信用しているからこそ立てこもるの。分かって、大星さん…」

淡「でも!二人のうちどっちかは、上に逃げてくるかも!」

久「その場合は、4階へ行くって言っていた人たちと合流するはずよ」

淡「で、でもさ!それに、そこを閉めたら私達も屋上へ行けなくなるじゃん!」

久「…だったら、今すぐ行きなさい」

流石にうんざりした様子で、久は顎をしゃくる。
淡は、一瞬ためらったが、キッと久を睨むと、意を決したように階段を上っていった。


久「まこ、閉めるわよ!せーのっ!」

まこ「わかっとる…!」ギギギ…ゴウン…

東側と同じように、西側の防火戸にも、モップの閂をかける。

久「まだよ。これじゃ封鎖したことにはならないわ!」

久「みんな、片付けた机と椅子を持ってきて、防火戸の前に積むのよ!」

久「不規則に積み上げて、できるだけガッチリと組み合わせるの!」

久「それと、簡単に崩されないよう、要所を自動卓の延長コードで縛って補強して!」

押しても動かないように、下部には滑り止めの付いた机を配置したが、
一箇所だけ、滑りやすいように滑り止めを外してあった。いざという時、取り除けて退路を作るためだ。

こうして3階の東西の通路は、防火戸とバリケードによって封鎖された。

亦野「これで、一安心でしょうか…」

久「いいえ、これはあくまで不審者の侵入を防ぐだけのものよ」

久「相手は銃を持っているわ」

久「こんなスカスカのバリケードじゃ、モップを打ち抜かれたりして…」

久「防火戸がちょっとでも開いたら、その隙間から撃たれて終わりよ」

久「だから、もう一つ弾除けのバリケードも───


突如、階下から凄まじい銃声が、立て続けに二発響いた。
3階にいる全員が、ぎょっとして立ち竦み、顔を見合わせた。


PM 9:20

─4F

玄は、屋上へ通じるドアノブをガチャガチャ回した。

玄「だめ!鍵かかってるよ!開かない…」ガチャガチャ

優希「マジですか…?」

玄「どうしよう…お姉ちゃん」

和「鍵は、どこにあるんでしょうか?」

宥「たぶん…1階の管理室だと思う…」フルフル

優希「1階って……無理だじぇ、そんなの…みんなのところに…戻ったほうがいいじぇ」


宥「…………私が…1階に行って、鍵を取ってきます…」フルフル

宥「だからみんなは、3階のみんなのところへ戻って…」

玄「お、おねえちゃん!?」

宥「くろちゃん…大丈夫。お姉ちゃんが助けてあげるから…」

死亡フラグのオンパレードや

和「宥さん…」

宥「その時に、1階の公衆電話で、警察にも通報しておくね」

宥「鍵を持ってきたら、みんなを呼びに行くから…」

玄「おねー…ちゃ…」

和「…分かりました」

優希「じゃあ…戻るじぇ」

そのとき、階下から何が重い扉を閉めるような音が聞こえた。4人は顔を見合わせる。

玄「なんの…音だろう?」

音が一段落すると、今度は足音が聞こえてきた。
誰かが、足音も忍ばせようともせずに、階段を上がってくる…。

玄(だ…だれ…?)ドクンドクン

優希「ふ、不審者…か…?」ヒソヒソ




淡「みんな…いんの?」


玄「お、大星さん…?どうしたんですか?」

淡「私も、こっちにくることにしたの!」

淡「3階じゃ清澄のやつが何もかも仕切ってて、超むかつくんだー!」プンスコ

和「あんまり大きい声出さないで下さい」

優希「清澄…?咲ちゃんはそういうタイプじゃないし、多分、染谷先輩か部長だじぇ」

和「部長が何をやってたんですか?」

淡「なんかね、テルたちを無視して、防火戸閉めて立てこもろうって…」

玄「あ、さっきの音はそれだったんですね」

優希「え?ってことは、私達…3階にはもう、戻れないじぇ…」

和「テル達を無視して、というのは、どういうことですか?」

淡「あんたらがここに向かった後、テルと弘世先輩がね」

淡「1階の電話で助けを呼ぼうって、降りてったの!」

宥「あ……ちょうど私も鍵を取りに、1階に行こうと思ってたの…」フルフル

淡「え?鍵って…?」

玄「それが…屋上への鍵が閉まっていまして、鍵が1階にあるのです…」

玄「それを……お姉ちゃんが、取りに───


その瞬間だった。耳を劈くような二発の銃声が階下から轟き、階段に反響する。
宥は両手で耳を覆うと、その場にへたり込んでしまった。


玄「お、おねえちゃん…やっぱり、やめよ…?」カタカタ

(お、しか?)

PM 9:22

─1F

菫(明かりが消えている…真っ暗だな)

菫(照は……いた。かろうじてシルエットが見える)

菫(不審者らしき影は…どこにも…)




しばらく待ってみたが、何も聞こえない。1階は、不気味なほど静まり返っている。

菫(もうここにはいないのか…?)

菫(…いつまでも、ここにいても仕方がない)

菫(…行くか)ドクン ドクン

菫は、照に手振りで合図を送ると、ゆっくり暗い廊下を進んだ。反対側から、同じように照も進んでくる。
表情がうっすら見えるくらいの距離になると、照がロビーの方を指差す。
暗闇の中で、赤いランプが輝いている。

菫(公衆電話…電源は、生きている…!)

照と菫は、まわりの気配に気を配りながら、ゆっくりと公衆電話の前で合流した。

照「……」コクリ

照がこちらを見て頷き、公衆電話の受話器を取り、1、1、0を押す。




照「………」フルフル

菫(駄目なのか…?まさか…)

裏手を覗き込み、配線を確認する。見えづらい角度のところで、電話線が切断されていた。

菫(くそ…!)


その瞬間、玄関の方向──下駄箱の陰から、銃を持った人影が現れた。







いったん飯食ってきます

菫「ッ!!!」

相手を確認している余裕は無い。2人は、必死で逃げ出した。
凄まじい銃声があたりに轟く。一発。二発。

菫(撃たれたっ…!いや、弾は当たってない!)

照「ぅ……ぁ……」

後方にいた照が、床に倒れこんだ。

菫「照ッ!!しっかりしろ!!」

菫は、照を抱え起こした。犯人は、猟銃を折って弾を込めなおしているようだ。

菫(くそッ!意識が無い!)

菫は、照をかつぐと、必死に廊下を逃げる。
もしこのような事になった場合、もう片方が逃げ出し、助けを呼びにいく手筈だった。
だが、照をおいて逃げることなど、菫にはできなかった。

菫は浴場へと続く廊下をひた走った。脱衣所へ転がり込み、扉を閉める。着替えを入れる木製の棚をずらし、入り口を塞いだ。

菫(銃相手じゃ虚しい抵抗かもしれんが…ここに立てこもるしか…!)ハァ、ハァ、

菫「照!!しっかりしろ!!」

声をかけても、意識は戻らない。制服の所々に穴が開き、血が滴っている。
特に太ももからの出血が酷く、素人目に見ても、危険な状態であることは分かった。
菫は、照の左胸に手を当てる。

菫(鼓動していない…このままでは、死んでしまう…)

菫は、合宿場に来たときの灼の説明を思い出す。

菫(そうだ…!たしか、脱衣所にはAEDがあったはずだ…!)

照のふとももをネクタイで縛り、止血をした後、脱衣所の壁に設置された箱からAEDを取り出した。
音声ガイドに従い、照の服を脱がせると、右胸と左脇腹にパッドを貼った。

『電気ショックが必要です。身体から離れてください。点滅ボタンを押してください。』

菫(もし照が死んだら、私のせいだ……)

菫(私があんなことを言い出さなければ……)

菫(頼むから、死なないでくれ……)

『電気ショックを行いました。胸骨圧迫と人工呼吸を行ってください。』

菫は、保険の授業を思い出しながら、照の胸を押し続ける。

菫(1分間に100回程度のリズムで、5cmほど押し込む…これを30回)グッ グッ グッ グッ

菫(頼む……照……!)グッ グッ グッ

そのとき、脱衣所の扉の外で声がした。

「ねぇ大丈夫!?そこにいるんでしょう!?」

菫(この声…新子さんか…!?しかし、なぜこのタイミングで?)

憧「気をつけて、犯人は、ハルエ…ウチらの監督よ!銃持ってるの!今、上に向かってった!」

憧「…あ、これ…血が垂れてるじゃん…!ねぇ、撃たれたの!?返事をして!」


菫は、意を決して返事をした。

菫「新子さん、君達の監督が犯人というのは、本当か?」

菫は、胸骨圧迫を続けながら質問する。

憧「うん…どうしてかは、わかんない…」

菫「今まで、どこで何をしていたんだ?」

憧「ハルエに監禁されてたの…顔殴られて、変な放送させられたりしたよ…」フルフル

憧「とにかく、これ、どかして!誰か怪我してるんでしょ!?」

憧「包帯代わりになりそうなタオルとかいろいろ、持ってるよ!」

菫(どうする…?信用してもいいのか…?)グルグル

何故、憧を殺さずに放置し、上の階へ行ったのか。何故都合よくそんなものを持ってきているのか。

不審な点は山ほど存在するが、目の前で親友が命の危機にあり、それが助かるかもしれないという望みが、思考を鈍らせていた。
菫は、藁にもすがりたい思いだった。棚を少しだけずらし、隙間から憧の顔を確認する。

左頬が酷く腫れ上がり、鼻が曲がっている。

菫(…この傷は本物だ)

菫(新子さんは、犯人じゃなかった…)

菫(彼女も力を貸してくれれば、照は助かるかもしれない…!)

菫は、扉を塞いでいた棚を移動させた。

菫「頼む、照を助け───」

はっと息を呑む。

憧「は~い♪」

手には、猟銃が握られていた。

PM 9:26

─4F 屋上前階段

階下から響いた計四発の銃声は、菫たちによくないことが起こったことを暗示していた。


淡「テル…弘世先輩…」ポロポロ

宥「大星さん…」ギュッ

嗚咽を漏らしながら小さく震える淡を、宥がそっと抱きしめる。

玄「お、大星さん、大丈夫だよ!まだ、死んじゃったと、決まった…わけじゃ…うぅ…」

和「最初に二発、間をおいて二発…」

和「恐らく、最初の二発でどちらかが撃たれたか、足をやられか…」

和「その後、どこかへ隠れて時間を稼いだものの、見つかって二人とも…っと言ったところでしょうか…」

玄「そんな…やめてよ和ちゃん…」

あこちゃんかわいい……

優希「私達…いったいどうなるんだ…みんな、しんじゃうのかな…」

玄「や、やめてよ…!」

和「…とりあえず、3階が封鎖されている以上、私達は4階に居るしかないですね」

和「まさか下の階へと降りるわけにもいきませんし…」

和「でも、ここにいるだけというのは不安ですから、4階のどこかへ隠れましょう」

優希「お、おう!」


和と優希の2人が、階段を降り、屋上の扉の前から立ち去った。

玄「おねーちゃんは、どうする?」

宥「私はここにいようと思う…大星さんを、ひとりにはできないから…」フルフル

玄「そっか…じゃあ、私もいっしょにいるね」



憧「マジカルトゥルー!」

PM 9:26

─3F

久(よし、弾除け完成ね…)

作業の途中に銃声が響き、7人はいっそう危機感に駆り立てられて作業を進めたため、弾除けは短時間で完成した。
広間の2つの入り口の中間に、大きな机の天板を階段方向へ向け、盾のようにしたのだった。
廊下は完全に塞がれてしまうが、広間の中を通れば弾除けを迂回して通行できる仕組みだ。

咲「お姉ちゃん…大丈夫かな…」

まこ「…とにかく助けが来るまで、ワシらはここで待つしかないのぅ」

久「弾除けもできたし、電気消すわよ。明るいまんまじゃ、狙い撃ちにされるわ」パチン

3階は、暗闇に包まれた。月明かりと外の照明で、お互いにぼんやりと顔を見分けることができた。

久は、広間の収納の奥に見つけた非常用の懐中電灯を手に、窓際へ向かう。
器用に親指でスイッチを操り、外へ向かって光のリズムを刻む。

・・・ --- ・・・
・・・ --- ・・・

亦野「SOSですか?」

久「ええ」

浩子「誰か気付いてくれるとええんやけど…」

久「山奥とはいえ、いつかは誰かが気が付くはずよ」

久「問題は、それが早いか遅いか…」

泉「助け来るのにちょっと時間がかかっても、ここは安全ですよね?」

久「短い時間ならね」

尭深「短い時間ならというのは…どうしてですか?」

久「犯人は、私達の皆殺しを望んでいるわ」

久「3階は閉まっていました。はいそうですか…って諦めるわけない」

まこ「じゃ、じゃあ…どうすれば…」

久「あとはもう神頼みよ。弘世さんたちや、屋上へ向かった人たち、あるいは…」

久「このSOSに気付いた人が呼んでくれる助けがくるのを、待つしかないわね」

亦野「あの…!」

久「何かしら?」

亦野「…窓から脱出するっていうのはどうですか?」

尭深「ここ3階だよ…?」

亦野「だから、何かロープのようなもので地上まで降りるんだ」

浩子「ゆーても、そんなもんあらへんし…」

亦野「作るんですよ」

亦野「カーテンをカッターか何かで切って、細長い布にして…」

亦野「それを何個かキツく結びつけて、一本のロープにするんです」

亦野「それで、1人づつ外へ逃げるんです」

咲「で、でも…もし犯人に見つかっちゃったら…!」

亦野「大丈夫です。そこの窓からなら、たぶん見つかりません」


亦野は、廊下の隅の窓を指差しながら説明する。

亦野「2階は個室ですから、個室内にいないと、こっち側の窓の外は見えませんし」

亦野「1階は、私が来たときに見た限りでは、たしかこっち側に窓はありませんでした」

亦野「どうでしょう?この作戦」

久「…私は、あまり気が進まないわ。確かに、見つかることはないかもしれないけど…」

久「こんな暗い中、3階から手作りのロープで降りるなんて、危険すぎる」

久「でも…何もしないよりはマシかもしれないわ。しかし、全員が降りるというのには反対ね」

久「やるとするなら、運動に自身のある人が数人降りて、助けを呼びにいくべきだと思う」

セーラとシズが早期リタイアしちゃったのがな

亦野「じゃあ、私が降ります…!」

久「…分かったわ。ロープを作りましょう。誰か、カッターかなにか、持ってない?」

泉「ウチ、持ってます!」

泉が、薄闇の中で広間の隅へ向かうと、自分の荷物から筆記用具入れを持ってくる。
その中から、カッターナイフを取り出し、久へと差し出した。

まこ、咲、尭深、浩子の4人は、カーテンレールからカーテンを引き剥がす作業を始めた。



憧「ハハッ!みんなは ど ぉ こ だ ?」

PM 9:26

─1F

憧は、菫たちの息が無いことを確認すると、脱衣所を離れ、ティッシュを丸めた耳栓をいったん取り出す。

憧(うー…最初の二発のせいで、まだ耳が変な感じ…)キーン

憧("狩り"には、五感をフルに使いたいけど、発砲する時には耳塞がないといけない…)

憧(耳栓を嵌めるタイミング、難しいなー…)


憧は、銃に散弾を込めなおしながら、次の行動方針を考える。

憧(チャンピオンたちが降りてくる前に盗聴器で聞いたかぎりだと…)

憧(3階のみんなは、入り口を塞いで立てこもるっぽかった)

憧(これはむしろ大歓迎。とりあえず逃げられる心配がないからね)

憧(それに、3階に閉じ篭っててくれれば、4階へ行った人たちに集中できるし)

憧(4階を片付けたその後で、じっくり攻略すれば問題ないよね)

憧(んー、それにしても、あと12人かー…先は長いなぁ)

憧(まだ半分も行ってないとか、ほんとハードね、これ…)

憧「さてとっ」パシパシ


憧は、散弾銃を取り上げ、立ち上がる。

憧「4階、行こっか!」


憧は、そのまま4階を目指すつもりだったが、念のため、3階の盗聴器を確認することにした。

PM 9:35

─3F

亦野「よし、できた!」

カーテンを切り、繋ぎ合わせた長いロープがようやく完成した。
片端を廊下の支柱に括り付けると、亦野はそっと北側の窓を開けた。
そこから、重り代わりの大きな結び目を作ったもう片方を投げ落とす。

久「亦野さん…気をつけてね」

亦野「…はい」

亦野は、窓枠へ飛び乗ると、ロープを掴み、降下を始めた。
節々にある結び目に手惑いながらも、確実に、スルスルと地上へと降りていく。

亦野(落ち着け…大丈夫…)スルスルスル

亦野が降りていく様子を、全員が、固唾を飲んで見守る。

咲(早く、早く、早く、お願い…!)ドキドキ

泉(ああ神様仏様、頼んます…!)ギュウウ

尭深(亦野さん…!どうか…無事で…!)


そして、亦野は無事に地面に降り立った。

久(やった…!)

浩子(よっしゃ!)

まこ(やりおった…!)

全員が、心中で歓声をあげた。そのときだった。凄まじい轟音が響き渡り、全員、飛び上がった。
皆が地面を見下ろす。亦野は、懸命に走って逃げようとしていた。だが、様子がおかしい。

まこ「ダメじゃ…!片足をやられとる…くそっ!」

咲「ああ…うぅ……」

尭深「亦野さ───

再び、激しい銃声。どこから来たかは分からないが、亦野は、ばったりと倒れ、そのまま二度と起き上がらなかった。

尭深「亦野さんっ!!!」

久「危ないわ!顔、引っ込めなさい!」グイッ

久は、尭深を窓から引き離す。


尭深「どうして…どうしてですか?」ポロポロ

尭深「なんで、こんなに、すぐ見つかっちゃったんですか…?」ポロポロ

久「そんなの…分からないわ」




3階は、重苦しい沈黙に包まれた。

PM 9:38

─2F 個室内

憧(それにしても、盗聴器を確認しといてよかったー!)

憧(まさか、あんな方法で逃げようとするなんてねぇ)

盗聴器からの情報で、3階の少女たちが北側から脱出を試みることを知り、
前もって狙いやすい個室に潜んでいたのだった。

憧(けど、最初の二発といい…建物の外で撃たされちゃったのはマズいなぁ)

憧(どっかの誰かが、聞きつけて通報するかもしれないし…)

憧(それまでに、速やかに全員を片付けないと…その前に)

憧は、弾を込め直すと、ロープの垂れている窓を銃撃した。
窓ガラスが吹き飛び、散弾を受けたロープがボロきれのようにズタズタになる。

憧(これで、流石にもう窓から逃げようとする気は起きないでしょ)


憧は、銃に新たな弾丸を装填すると、個室を後にし、階段を上がっていった。

PM9:40

─4F 屋上前階段

「宥ねえ、玄」

宥と玄は、突然名前を呼ばれ、びくっとする。
階段の下を見ると、憧が上ってきていた。酷く顔が腫れ上がり、鼻が曲がっている。

玄「あこちゃん…無事だったんだ、よかった!」

宥「その傷…どうしたの?」

憧「1階の管理室に閉じ込められてたんだけど、その時に犯人に殴られたの」

玄「でも、よく逃げられたねー」

憧「うん。誰かが1階に降りてきてね。それで…」

憧「犯人が降りてきた人のところへ行って、その隙に逃げてきたの」

淡「…それ、テルたちだ。きっと」グズン

憧「それで、隠れながらゆっくりここへ来たんだけど…」

憧「他のみんなは?ここにいるのは、玄と宥ねえと、えーっと、大星さんだけ?」

憧「犯人に無理矢理あんな放送させられたから、てっきりみんなここにいるのかと思ってたけど…」

宥「みんなは、3階に立てこもったみたい…防火戸、閉まってたでしょ…?」

玄「和ちゃんと片岡さんは、4階に来たんだけどね」

玄「ここにいるのが不安だから、4階のどこかに隠れるっていってたよ」

憧「そっか。あと、これ」チャリン

玄「鍵…?これ、どこの…」

憧「そこ。屋上のだよ。もしかしたらって思って、持ってきた」

玄「あ、憧ちゃん!ありがとー!」パァァ

憧「じゃ、私は和たちを探して、鍵持ってきたって伝えてくるから!」タッタッタ

玄「うん!気をつけて!」


憧が階段を下りていく。4階の廊下を曲がっていき、見えなくなった。

玄「行こう、お姉ちゃん、大星さん!」

宥「うん…」

PM 9:42

─4F

憧は、屋上への階段から、廊下へと進んだ。
階段から見えないよう、廊下に置いておいた二重の手袋を嵌めなおし、散弾銃を取り上げる。

憧(玄に渡した鍵、あれはハルエのガンロッカーのやつなんだよね!)アハハ

憧(玄たち、今頃焦ってるだろうなぁ…開かないんだもん)クスクス

憧(…さてと、かくれんぼをさっさと終わりにしないとね)


憧は、まずはトイレに入った。

憧(…ビンゴ。誰かがいるわね。気配がする)

    / :/  ...:/:′::/ :.:.:.....:./.:/:!:.:.:.i:..!:.:.....:{:.:.:.:.:.:ハ
 .  /.〃/:...../:′'.::|:: i .::.:.:.:| :i:_{__|:.|:.:.:.i :|:.:.../  ̄`ヽ
   '://:′::/斗:十 |::.::.::.:.:.:.: :}}ハ ::ハ:{:≧ト|:::/  そ  |
  {//::{: /|i:八::{=从:{ i::::: :N孑弐{ミト∨:::|::′.. ん  |

 .  i :从 ::::{イァ:う{ミト爪ト::::. ! ん):::::ハヽト、:{:|    な  |
 .  |.::| : \《 { ::::::: }  ヽ\{ { ::::::::: リ | :::ヽ!   ,あ  |
 .  | ::!::|ハト.とうノ       て二⊃,| :::<        |
  八::| :|::::i /i, ,     ::,::    /i/ , }:::}i::人  __ノ
   (__):::l:::::.                 i.:/::::::::厂「{:::::::{
  / :{ | :V:入     ヘ        }/}::::}/::::::l.|:::::::|
  { ::|人::∨::::>...   `      . ィ升|:::/::::::::八::::::{

掃除用具入れを開ける。和が、震えながら立ち尽くしていた。
和は、恐怖の表情から、一瞬で安堵の表情へと変わる。

和「憧…!無事だったんですね!」

憧はにっこりと笑うと、和の胸に散弾銃を突きつけ、引き金を引いた。
凄まじい轟音が、狭いトイレの中に反響する。

憧(うっひゃあ~…すごっ。流石に至近距離だとやばいわぁ…穴開いてんじゃん)


霧状になった血液と硝煙が混ざった臭いに辟易として、トイレから退散する。

憧(これで、あと10人)

憧(今の銃声は、玄たちを恐怖で金縛りにしてるはず…)

憧(できれば、そのうちに片岡さんを見つけないとね)

憧は、続いて広間へと入った。しんと静まり返っている。
収納、窓の外側などあらゆるところを手早く捜索したが、優希を発見できなかった。

憧(うーん…他に隠れられそうな所は…あそこぐらいね)

憧は、掃除用具を入れるロッカーを開けた。中に、優希がしゃがみこんでいた。
また掃除用具入れか、と思わず笑いがこぼれる。

優希「ふぇ、な、なんだ!阿知賀のか!脅かすな!」

憧「ごめん」

ドオォォォン!!!


アコス▲

憧(よーし、かくれんぼも終わったし、玄たちのところに行こ~っと!)


憧(それにしても…なにこれ。すっごくいい気分~)ウットリ

憧(なんだろ…頭がふわふわーってなって…うふ、あははっはははは)グワングワン


銃という圧倒的な力と、かつてない大量殺戮に酔いしれ、脳内麻薬が大量に分泌されていたのだった。
憧は、快楽殺人者の類ではなかったが、今なら彼らの気持ちがよく理解できた。

「まじかるまーじゃんわんだーらーん♪このおおきな宇宙♪」

どこからか歌が聞こえてくる。
しばらくの間、自分が歌っていることに気が付かなかった。

憧は、銃に新たな弾丸を装填すると、この上なく愉快な気分になり、屋上へと続く階段へ向かった。

PM 9:46

─4F 屋上前階段

玄「開かない!ねぇどうして!?」ガチャガチャ

宥「く、くろちゃ…」

玄は、屋上の扉と格闘していた。
途中、今までよりも遥かに近くで銃声が二発も聞こえ、気が気ではなかった。

玄(なんで…!?早く…!開いて…!お願い……!)

淡「きっと、あの憧って子が鍵を間違えたんだよ…」

玄「そ、そんな…」

   / :/  ...:/:′::/ :.:.:.....:./.:/:!:.:.:.i:..!:.:.....:{:.:.:.:.:.:ハ    /
.  /.〃/:...../:′'.::|:: i .::.:.:.:| :i:_{__|:.|:.:.:.i :|:.:.../  ̄`ヽ/      ふ
  '://:′::/斗:十 |::.::.::.:.:.:.: :}}ハ ::ハ:{:≧ト|:::/  な       な な  ぅ
 {//::{: /|i:八::{=从:{ i::::: :N孑弐{ミト∨:::|::′  る.     る .る (
.  i :从 ::::{イァ:う{ミト爪ト::::. ! ん):::::ハヽト、:{:|    ほ      ほ ほ  )
.  |.::| : \《 { ::::::: }  ヽ\{ { ::::::::: リ | :::ヽ!   ど     ど ど む
.  | ::!::|ハト.乂__ノ       ー '  | :::<    |
 八::| :|::::i /i, ,     ,     /i/ , }:::}i::人   __ ノ\
  (__):::l:::::.                 i.:/::::::::厂「{:::::::{    ` ー― ´
 / :{ | :V:入     { ̄`ソ      }/}::::}/::::::l.|:::::::|
 { ::|人::∨::::>...   `      . ィ升|:::/::::::::八::::::{

宥「玄ちゃん…!もう、下へ逃げよ…?」

宥「銃声の大きさからすると、犯人は今、4階にいるから、行くなら今しか」

ふと、宥が言葉を切る。

玄(なんだろう…?)

玄も耳をすませる。

玄(歌だ…。歌声がする…憧ちゃんが、機嫌がいいときに歌ってる歌…)


そして、階段の下方に憧が現れた。

玄「憧ちゃん、あのね!鍵が…」

玄は、はっと息を呑む。憧の様子が変だ。まるで壊れたように笑っている…。
しかも、ビニールの手袋を嵌め、猟銃を持っている…

玄「そ、…その銃……犯人が持ってたやつ…?」カタカタ

憧「ざーんねん!」スチャッ

憧「『持ってた』じゃなくて、『今現在持っている』でしたぁ~!あひ、あははははっ!」

玄「あ、憧ちゃん…冗談キツいよ…」

>>377
言うてる場合か!

宥「あこちゃ──

雷鳴のような轟音。
隣にいた宥が、まるで射的の人形のように倒れ、階段を転げ落ちた。

淡「い、いや…」カタカタ

再び、轟音。
今度は淡が尻餅をつき、横倒しになると、そのまま動かなくなった。



玄「あ……う……」ガタガタ

憧が銃を折り、新たな弾を装填している間も、玄は動くことができなかった。

玄「あこちゃん……どう…して……?」ボロボロ

憧「ははは…!あっはははは!あひ、きゃっはっはははは、ははは!ア"ー」


玄が人生の最期に見たものは、憧の狂気の笑顔と、銃口から迸る眩いばかりの炎だった。

子供麻雀クラブメンバーが全滅してしまった

PM 9:47

─3F

泉「あかん、あかんですって…!」ガタガタ

浩子「落ちつきぃ!泉!」


4階から連続して響き渡る銃声は、3階に立てこもっている6人を震撼させた。

久「…4階へ向かった人たちが…撃たれたのかも」

久は、涙を堪えるように天井を見上げていた。

咲「……原村さんに、優希ちゃんは…?」フルフル

まこ「…無事を祈るしかないの」ギュッ

尭深「淡ちゃん…もう、こんなの…いやです…」ポロポロ

久「みんな…よく聞いて」

久「私は、一番最初に聞こえた三発が、恐らく、外に行くと言っていた3人…」

久「園城寺さん、清水谷さん、江口さんへ向けられたものだと思うの」

浩子「っ………」

泉「そ、そんな…うそや……」フルフル

久「鷺森さん、高鴨さん、新子さんについては、まだ何とも言えないわ」

久「1階に降りた2人…4階に向かった5人は、全員、ころ…撃たれてしまったかもしれない」

久「となると、次に狙われるのは、おそらくここ。3階よ」

久「だから、皆…今まで以上に集中して。いつでも逃げられるよう、準備してね」

久「もう、いつ襲撃があってもおかしくないから…」

まこ「もし犯人がきよったら、どうするんじゃ?」

久「成り行きに任せるしかないわね…このバリケードは、そう簡単には突破されないはずよ」


そのとき、西階段の下の方向から、何か音が聞こえてきた。

咲「な、何…!?」ビクビク

久「…? 何かしら。物を動かしてるみたい…」

浩子「犯人…なんか?」


まこ「…今のうちなら、東側から逃げられんか?」

久「いえ。罠かもしれないわ。様子を見ましょう」



音は10分ほど続き、やがて止まった。

PM 9:59

─3F

皆は、西階段の先ほどの音を不気味に思い、広間へ集まっていた。
久だけが一人、廊下に出て、弾除けを挟んで東側で、懐中電灯で外へSOSを送り続けていた。

まこ「さっきの音、なんだったんじゃろ…?」

久「さぁ…」


久は、懐中電灯を使ってSOSを発信しながら答える。

久「流石に親指が疲れてきたわね…だれか、代わってくれる?」

まこ「わしがやるよ」スッ

まこが広間から出て、久のところへ向かった、その瞬間だった。
東階段側の防火戸にかけたモップの閂が、ギシリと軋んだ。

久「ッ!!!!」

銃声が轟き、まこの身体が床に倒れる。

久「まこっ!!!」

久(扉の隙間から…!)

泉「あ、あかん…!来た来た来た……!」ガクガク

浩子「走れっ!反対側から逃げるんや!」

尭深「いや…ああ…うぅ……」ポロポロ

久「渋谷さん…!何やってるの!走りなさいッ!」グイイ


泣き出したい気持ちは、久も同じだった。涙を堪え、尭深を引き起こす。

久(咲のお姉さん、弘世さん、亦野さん…まこ…)

久(みんな、私達のために頑張ってくれた…!死ぬわけにはいかない…!)

久は、まこの遺体に後ろ髪を引かれながらも、広間を通って弾除けを迂回し、急いで西階段側へ向かう。

西側のバリケードを取り除き、あらかじめ用意していた緊急用の通路を出現させる。

久「モップ抜いて!」


そのとき、後方──東階段側の方で、再び銃声が響いた。弾除けに流れ弾が被弾し、甲高い音を立てる。

直後、防火戸がバリケードに激しくぶつかる音がした。防火戸が、開いたことを暗示していた。


浩子「モップがぶち抜かれたんや…!」


弾除けのせいで東階段側は見えないが、バリケードを破壊する音が続いている。

久たちは、3本のモップを全て外すと、防火戸を押しのけ、階段へと飛び出す。

咲「いやあああ!」ダッ


咲は、半狂乱になりながら、4階への階段を駆け上がる。


久「ダメよ、上に逃げちゃ!…咲っ!」

浩子「何しとるんです!はよ!」


咲以外の4人は、階段を駆け下りる。3階から2階への踊り場を曲がったとき、4人は絶句した


尭深「な……、これ…」


踊り場から先は、まるで久たちが3階に築いたバリケードのように、大量の机と椅子で封鎖されていた。


久「みんな、戻りましょう!」


きびすを返し、階段を駆け上がろうとしたそのとき、3階の廊下を、こちらに向かって疾走してくる足音が聞こえた。
そして、防火戸から、散弾銃を携えた憧が姿を現した。

憧「はろ~♪」

久「あ、新子さん!?」

憧「そうで~す!」

憧は、なんのためらいもなく泉に向かって発砲した。
広範囲に拡散した散弾が、傍にいた浩子を巻き込み、二人をなぎ倒した。
轟音に鼓膜が震える。

憧「竹井さん、あなたのバリケードを真似してみたの。どお?びっくりした?」

憧「1階の食堂からわざわざ運んだのよ、これ。いやぁ大変だったわー」

どうして私たちがバリケードを築いたことを知っていたのか、と一瞬頭をよぎった疑問も、轟音にかき消された。
尭深が狙撃された。尭深は、バットで殴られたように階段下へ吹っ飛んだ。

久「渋谷さん……!」ガクガク

嘉門米美「先生、新子のこと誇りに思うぞォ~(はぁと」

憧は、流れるような手つきで弾を装填する。

憧「あれー、4人?たしか、5人残ってたはずだけど?」

久「…3階にいたのは私達だけよ」

憧「あはっ!友達思いなんだねぇ…」

憧「でも、答えるまでに時間がかかりすぎなのが、玉に瑕ねー」

憧は、久へ銃口を向ける。

憧「で、本当は5人だったんでしょ?」ジャキ


久(ひっ……い、いや…!死にたくない…!)ガタガタ

久は、その場にへたり込み、懇願するような口調で答える。
助かる可能性が無いことは百も承知だったが、それでも、答えられずにはいられなかった。

久「さ、…咲は…うえに、行き、ました…」ボロボロ

久「おねがい…ころさ…ないで……」ボロボロ

憧「ありがと!それじゃ、さよならー」

ドオォォォン!!!

土壇場で泣き出す久ちゃん可愛い!

PM 10:02

─4F

咲は、4階の廊下を走っていた。足がガタガタと震えて、歩くような速度しか出ない。
後方の西階段から恐ろしい銃声が聞こえるたび、心臓が破裂しそうになる。

咲(誰、か……助けてっ……!)ハァ ハァ

咲(もういやだ…!夢なら覚めてよ……!)ハァ ハァ

咲は、必死の思いでトイレへと駆け込む。むっとする濃密な血の臭いが漂っていた。

咲「ひっ…」ガクガク

胸部に風穴を開けた和が、血の海の中に倒れていた。

咲「う、うえぇぇえおええぇ」ボタボタ

咲は、その場に座り込み、嘔吐してしまった。

廊下から、足音が聞こえてきた。足音は、着実にこちらへ向かってくる。
そして、すぐ傍で止まった。顔をあげると、新子憧の笑顔があった。

憧「おめでとう。あなたで最後だよ。宮永咲さん」ニコニコ

咲「あ……ぅ……」ポロポロ

憧「やっぱり麻雀が強いと運も強いのかな?」

憧「なーんか最後まで残りそうな気はしてたのよねぇ」

咲「お…お姉ちゃん……は…?」ボロボロ

憧「安心して。すぐに会えるよ。今、おねーちゃんのところへ連れてったげる」スチャ

憧「向こうへ着いたら、仲良く卓でも囲んでね」


咲は、全てを諦めたように目を瞑った。

ドオオォォォン………

PM 10:04

─4F

憧「…コンプリート達成ね」



足元に横たわる咲の死体を眺めてつぶやく。

憧(思い返せば、大変だったなぁ…)

憧(江口セーラといい、弘世菫たちといい、亦野誠子といい、竹井久といい…)

憧(みんな予想以上の大健闘だったよ。結構楽しかったな)


憧(さてさて、センチになるのはこれくらいにしておいて)

憧(まだ大事なことをやってないし、さっさと済ませちゃお)

思えば亦野さんはかなり頑張った方だったな

PM 10:06

─1F 食堂

憧「ハルエ、おまたせ~」

晴絵「~~~!~~!」モゾモゾ

晴絵は、相変わらず、毛布に包まれてミノムシのような姿で食堂に横たわっていた。

憧「落ち着いて、今、口のタオル取ったげるから。大声は出さないでね?」グイイ

憧(まぁ、出したところで聞く人は1人も生き残ってないんだけど)

晴絵「ぶはっ!!」ゲホゲホ

晴絵「なんだったんだ、あの銃声は!?灼は?無事なのか…!?何があったんだ!?」

憧「ちょ、落ち着いてって言ってんじゃん!」

憧は、晴絵の靴を脱ぎ、食堂に置きっぱなしになっていた自分の靴へと履き替えた。

晴絵「灼は、…どうなったんだ?」

憧「灼なら、ついさっき亡くなったよ…」ションボリ

晴絵「そん…な……」

憧(本日3回目だけど、大丈夫かなぁ?破れたりしなければいいけど)ブンッ


うなだれる晴絵の後頭部に、ブラックジャックを振り下ろす。

晴絵「あっ…」ガクリ

憧(さてと、ミノムシハルエのまゆを解いて…っと)ムキムキ

気を失った晴絵の拘束を解くと、壁際の椅子に座らせる。
散弾銃を床に立てると、銃口を晴絵の口に突っ込んだ。

憧(角度が不自然にならないように気をつけないとねぇ…)

憧(うーんと……こんな感じかな?)

憧は、片ひざをついた姿勢で、左手で晴絵を押さえながら、右手で引き金を引いた。
轟音とともに晴絵の後頭部が吹き飛んだ。手を離すと、晴絵の身体は床に転がった。

憧(次は、空包を入れて、ハルエの右足の靴下を脱がせて、親指を引き金にかける)ヨイショ

パンッ!!!

憧(これでハルエの親指から、火薬の残滓反応がでるでしょ)

憧(足の親指で引き金を引く、典型的な猟銃自殺ね)ウンウン

憧(それから、散弾銃をさっきと同じ場所において、倒す)ゴトッ

憧(ふぅ。そんで、最後に一仕事ね)

憧(ハルエの拘束に使った道具を、全部まとめて…)ゴソゴソ

口内のタオル、ブラックジャック、ガムテープを毛布で包み、駐車場へ向かった。
晴絵の車から、晴絵の家から持ってきたポリ容器入りの灯油を取り出し、毛布にかけると、いったん食堂へと戻る。

憧(ハルエ。これ、ありがとね。返すよ)

晴絵の左足に靴を履かせ、車の鍵をポケットへと返却する。

憧(あとは、今までつけていた二重の手袋のうち…)

憧(硝煙反応の出る外側の手袋を晴絵の手に嵌めて…っと)

駐車場へ戻ってくると、100円ライターで毛布へ火をつけた。

ボオオオ…メラメラ…

憧(…きれい)ウットリ

憧(この煙と一緒に、みんなも天へ昇っていけることを祈りましょ)


憧(おっと、見とれてる場合じゃないって)

憧は、盗聴器のレシーバーを石で叩き壊し、炎へくべた。
ライターともう一枚の手袋も放りこむと、合宿場の管理室へと向かった。

PM 10:12

─管理室

憧「さて、と…」

憧は、晴絵を拘束していたタオルで、器用に自身の両手両足を縛った。

憧「疲れたーっ!これで、やっと寝られるわー」ドサッ

憧「それにしても、お腹減ったなぁ」グウウ


しばらくして、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
銃声を聞いた通りすがりの通報か、久のSOSを受けての通報かまでは分からなかった。

憧(うわ、思ったより早かった!まったく、綱渡りもいいとこね…)ヒヤヒヤ

憧(後は、警察に任せましょ)



──

─合宿場内

池田「ひ、ひどいし…」フルフル

文堂「まさに地獄絵図ですね……」

池田「いったい、どういう神経してたらここまでの事ができるんだ…」




─管理室内

福路「今、あなたから聞いた話をまとめます」

福路「貴方たち阿知賀女子の麻雀部監督、赤土晴絵さんが犯人で…」

福路「猟銃を持って侵入し、あなたに暴行を働いて、タオルで拘束した」

福路「間違いはないかしら?」

憧「はい、そのとーりです…」

福路「赤土さんは、食堂で自殺しているのが発見されたわ…」

憧「そう…ですか…」

福路「…だとすると、ちょっと腑に落ちない点がいくつかあるの」

福路「一つ目。亡くなった子達は、窓から脱出を試みたり、バリケードを築いたり…」

福路「必死に抵抗した跡があるの。にもかかわらず、赤土さんは、一人たりとも逃がしていない」

福路「…とてもじゃないけど、単独犯とは思えないの」

福路「共犯者はいなかったのかしら?」

憧「わかりません…少なくとも、わたしが拘束されたときは、ハルエは一人でした」

福路「二つ目。赤土さんは、なぜあなただけを殺さなかったのかしら?」

憧「わかりません…」

福路「…そう。三つ目。赤土さんは手に手袋を嵌めていたの」

福路「自分の犯行だと隠す必要が無いなら、なぜ、そんなものをしていたのかしら?」

憧「私には、さっぱり…」

福路(何かしら…さっきから感じる悪寒は…この子、なんだか普通じゃないわ…)

福路(違和感を感じたのは、目つき。私の口を凝視している…)

福路(…唇の動きを読んでいるんだわ。恐らく理由は…耳が聞こえづらいから)

福路(きっと、突発性の難聴か何かね…)

福路(考えられる原因は……大きな音を、間近で何度も聞いたからかも知れない)ゾワリ


福路(でも、この子が何かしたという証拠は無い…)

未春「キャプテン…その…」

福路「何かしら?」

未春「…竹井さんが、3階の階段で…亡くなっていたそうです」

福路「…………………そう」

福路(上埜…さん…)

福路(…もしこの子が犯人だとしたら)

福路(私達は…上埜さんの仇を取れないかもしれない…)グッ

深堀「キャプテン…!」

福路「どうしたの…純代さん」

深堀「それが…」


深堀が、福路に何かを耳打ちする。

深堀「今は、脱衣所には池田さんが…」

福路「………持ってこさせて」

─数分後

池田「よう。新子憧って言ったっけ?生き残りの子!」

憧「…そうですけど」


池田は、怒りに震えながら、憧を睨みつける。

池田「随分と忙しい夜だったみたいだな…!」ギリギリ

憧「…?」キョトン

池田「知らなかったのか、忙しすぎて忘れてたのか」

池田「こいつを処分するのを忘れてるし!」ドン


池田は、テーブルの上にオレンジ色の箱を置いた。

未春「AED……? …あっ!」

池田「AEDには録音機能があるんだ!」

あこちゃん可哀想

池田「じゃあ…再生するし!」ピッ

その場にいる全員が、AEDから再生される音声に、固唾を呑んで耳をそばだてていた。
恐らくは、ただ一人を除いて。


『電気ショックが必要です。身体から離れてください。点滅ボタンを押してください。』
『電気ショックを行いました。胸骨圧迫と人工呼吸を行ってください。』

必死に胸骨圧迫を行う菫の息遣いが聞こえる。

『ねぇ大丈夫!?そこにいるんでしょう!?』


池田「これ、どう聞いてもお前の声だし!」

池田「管理室で縛られて、気を失ってたんじゃなかったのか?」


憧「………」

何かを動かすような音。

『頼む、照を助け───』

菫が言葉を切り、息を呑む音までもがはっきりと録音されていた。

『は~い♪』

能天気な憧の返事の直後、二発の銃声が響いた。
録音された銃音は平淡で、現実のそれがもたらす恐怖の片鱗すら伝えていなかったが、池田たちは戦慄した。


福路「華菜…もういいわ」

池田「…はい、キャプテン…」ピッ


福路「新子さん。あなたのような怪物には、どんな抵抗も無駄だったかもしれないわ」

福路「でも、あなたが唯一想定外だったのは、弘世菫さんの行動よ」

福路「…友達を救いたい一心で行った行動が、最後にあなたを倒したのね」

福路「何か、言うことはあるかしら?」


憧「……本当に…ごめんなさい。すべて、神の意思だったの」

未春「え?」

憧「あの子たちは全員、悪魔に取り憑かれた化け物だった」

憧「だから、みんなの魂を解放して、正しい世界へと導く必要があったの…!」

憧「私は正しい事をしたの!みんなを助けたんだ!みんなの魂も、それを望んでいたの!」


福路(心神喪失を主張しようっていうの…?)

福路(…そう。この人は、今晩の大虐殺も、ゲームの一つみたいにしか考えていないのね)

福路(だから、負けたゲームは切り上げて、次のゲーム…裁判への布石を打っている…)

福路(たった一人で計画的に何十人も殺して、犯人まで偽装して…)

福路(それでも駄目だと分かれば、すぐに他の手を打つ……こんな人、初めて見る…)ゴクリ

アコチャーの逃亡を助けたい

福路「…新子憧さん。あなたを、逮捕します」

そのとき、福路の携帯が鳴った。

福路「はい。…………ええ、わかったわ」


福路「新子さん。もう一つ、あなたのミスが見つかったわ」

福路「生存者がひとり、いたみたい」

憧「生存者…?」

福路「ええ。つい先ほど、高鴨さんが病院へ搬送されたわ」

福路「屋上から転落したようだけど、途中で木に衝撃を吸収されて、一命を取りとめたらしいの」

憧「シズ…が…?」

憧(ってことは……私がしてきた事は…)

憧(元から、何もかも無意味だったの…?)

憧(あはは…なにそれ。バカみたい。…でも)

憧「……………よかった」


憧は、力なく笑った。

──






── 数日後、病院

穏乃「………」ボーッ

衣「シズノ、ほら!リンゴのウサギさんだ!」

穏乃「ありがとうございます。天江さん…」

衣「……大変、だったな」

穏乃「玄さんも、宥さんも、灼さんも、赤土さんも…和も」

穏乃「みんな…死んじゃったんですね…」グズン

衣「……」

穏乃「憧は…どうして、こんなことをしたんでしょうか?」

衣「衣には皆目検討もつかない…」

衣「ニュースでは、みんなに取り憑いていた悪霊を祓っただのとのたまっていたが…」

衣「衣には、あの聡明な彼女がそんな理由で、げに恐ろしき凶行に及んだとは思えん」

衣「きっと、何か訳があったのだろう…」

衣「だからといって、許される事などあってはならないが」


穏乃「…憧は、死刑になるんでしょうか?」

衣「いくら未成年とはいえ、これだけの大罪を犯したのだ」

衣「可能性はあるだろうが、よく分からん。衣は、専門家ではないからな」

穏乃は、テレビの電源を入れた。
どのチャンネルも、午後のワイドショーは、憧の話題で持ちきりだった。


穏乃(どうして憧は…こんなことをしたんだろう)

穏乃(どうして憧は…私を殺そうとしたんだろう)

穏乃(今まで、みんなと一緒にすごした時間も…)

穏乃(ぜんぶ、憧にとってはどうでもいいことだったのかな)

穏乃(憧にはたくさん聞きたいことがあるけど…聞ける日は、来るのかな…)


穏乃「憧……」





──── 憧の教典 おわり

疲れた。読んでくれた人、保守してくれた人ありがとうございました
悪の教典の原作者さんごめんなさい。

さるさんの仕組み考えた人は腹パンされるべき

乙乙ー! そして獄中のあこちゃとシズのロマンスへ

原作も映画も面白いので、みんな買おう(ステマ)


救いはないんですか!?

菫さんがアーチェリーでアコチャーに攻撃する役だと思ってた

>>551
それやりたかったけど弓をどう登場させるか悩んだ結果おじゃんになった…

ネタバレ注意は>>1に書いておくべきだった
すまぬ・・・

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom