バカ「今日はノーマルタイヤで大丈夫!」俺「そうか」バカ「大丈夫!」(113)

バカ「あいつチェーン巻いてるだせえ!」
俺「・・・・・・そうか」
バカ「だせえ!」
俺「・・・・・・」

バカ「この坂だけ登れれば後は平気だから!」
俺「そうか」
バカ「平気だから!」
俺「・・・・・・」

バカ「・・・・・・(ウィィィィィィィィィィッ!)」
俺「・・・・・・・」
バカ「・・・・・・(ウィィィィィィィィィィッ!)」
俺「・・・・・・」

バカ「ちょっと後ろから押してくんね?」
俺「こんな凍った坂道で踏ん張れるわけないだろ」
バカ「押せばマジで登れるし」
俺「・・・・・・」

俺「路肩寄れ」
バカ「行けるし、マジ行けるし」
俺「うしろ渋滞出来てるから。路肩寄れ」
バカバカ「マジ行けるって!タイヤの回転で雪溶けてるし!」
俺「・・・・・・」

バカ「・・・・・・(ウィィィィィィィィィィッ!クイクイクイクイ!)」
俺「やめろ、スピンするから」
バカ「・・・・・・(ウィィィィィィィィィィッ!クイクイクイクイ!)」
俺「マジやめろ、ホントマジやめろ」
バカ「平泳ぎみたくやれば行けるし!」
俺「いいから、運転代われ」

バカ「何で路駐すんだよ!」
俺「確かオプションのチェーン載ってたよな」
バカ「ジロジロ見られてんじゃん!笑われてるって!」
俺「いいから頭下げとけ」

俺「こっち巻いとくから反対側やっとけ」
バカ「チェーンとかいらんし」
俺「巻き方知らんの?」
バカ「知ってるし!マジ巻けるし!」

俺「終わったか?」
バカ「・・・ちょっと調子悪い」
俺「何で後輪に巻こうとしてんだよ」
バカ「後ろに巻かないと踏ん張れんじゃん?」

俺「お前の軽はFFだから前輪に巻くんだよ」
バカ「チョロQは後r」
俺「ぶっとばすぞ」
バカ「じょ、冗談にマジギレとかひくわ」

俺「というか、何これ」
バカ「指が動かんし、調子悪いし」
俺「タイヤにそのまま被せたらロック出来んだろ」
バカ「雪邪魔だし、マジ指動かんし」

俺「やって見せるから、覚えろ」
バカ「もう知ってるし」
俺「スマホ出せ、録画しろ」
バカ「見ただけで余裕、俺暗記得意だし!」
俺「二代前の首相の名前言ってみろ」
バカ「」

俺「スパイク面が上。ロックがある方を先にして裏に回して・・・・・・」
バカ「・・・・・・」
俺「ロックしたら裏に回して、裏側から揺するように・・・・・・」
バカ「・・・・・・」
俺「ここまでで質問あるか?」
バカ「FFって何?」

俺「前輪駆動車。お前の車は前輪で走ってんの」
バカ「後ろにもタイヤあるじゃん」
俺「アクセル踏むと前輪が頑張る車がFF」
バカ「・・・・・・一応、確認しただけだし」
俺「そうか」

俺「これで終わり。ちゃんと録画出来たか?」
バカ「覚えたし、つか知ってたし」
俺「間違ってもそれ消すなよ」
バカ「知ってたし、つかチェーンなんて何度も巻いてたし」
俺「じゃあ何でビニール被ってたんだよ」

バカ「・・・・・・」
俺「・・・・・・」
バカ「うおっ?」
俺「ゆっくり。ゆっくり踏め」
バカ「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
俺「無理に割り込むな、マジでぶっとばすぞ」

バカ「凄え!マジ凄え!」
俺「そんなに踏むな、車間距離開けろ」
バカ「マジ凄えって!マジ揺れてるって!」
俺「車間距離開けろ、後ろ確認しろ、詰めすぎ、開けろ、踏むな、おい、こら」
バカ「チェーン、マジすげえー!ノーマルタイヤとかマジカスじゃね!?」
俺「そうか。おい、踏むな、開けろ、こら、マジでぶっとばすぞ」
バカ「チョー凄え!マジ登っていくんですけど!」

バカ「あの塊踏んでいい?ねえ、踏んでいい!?」
俺「ブラすな、まっすぐ走れ」
バカ「踏みてー!マジ踏みてぇー!」
俺「いいからまっすぐ走れ、踏んだらぶっとばすぞ」
バカ「ああ~っ・・・踏めたのに!マジ踏めたのにっ!」
俺「・・・・・・運転に集中しろ、マジで」

俺「混んできたね」
バカ「調子出てきたのに、ありえねーんですけど」
俺「あー・・・・・・あいつのせいか。チェーン巻いてるね、お前と一緒だな」
バカ「ありえねーよなぁー、マジ雪なめてね、アイツ」
俺「・・・・・・」

バカ「・・・・・・」
俺「こっちの車線、完全に潰れてんなぁ」
バカ「マジありえね、何でノーマルで上り坂行けると思ったんだよ?」
俺「・・・・・・」
バカ「一日過ぎたから雪溶けたとか思ったのかね」
俺「・・・・・・」
バカ「一晩経ったら凍るって分かんないの?」
俺「・・・・・・そうだな」

バカ「・・・・・・」
俺「・・・・・・」
バカ「・・・・・・ノーマル脳どもが」
俺「?」
バカ「何の準備もしてないバカどもが!マジムカつくしっ!」
俺「ちょっと待て」
バカ「もう待ってらんねーし!」
俺「待てこらああああっ!」

バカ「トロトロ走ってんなマジムカつく!」
俺「こらああああっ!」
バカ「マジ待ってらんねーし!」
俺「ふざけんな!おい!止まれ!逆走すんな!!」
バカ「ちんたら止まってんじゃねーよカスども!」

俺「このまま右折しろ!」
バカ「はぁ!?何でだよ!?」
俺「いいからそのまま右折しろ!」
バカ「まっすぐの方が近いし!」
俺「割り込むなブレーキ踏め右折しろ割り込むなブレーキ踏むな信号見ろアクセル離せ信号見ろ止まれブレーk」
バカ「一度に言ってもわかんねーし!マジナビ下手だなお前!」

俺「・・・・・・」
バカ「・・・・・・」
俺「・・・・・・運転代われ」
バカ「何で?」
俺「・・・・・・何で?」
バカ「調子出てきたところじゃん?」
俺「調子乗りすぎ、の間違いだろ」
バカ「雪なめてる奴らの渋滞抜いたくらいバチ当たらんべ?」

俺「一つ聞くけど、お前、駐車場の雪かきしたか?」
バカ「してないけど?」
俺「出庫にどれくらいかかった?」
バカ「そんなかかってねーよ、何度か切り返したらゴリゴリ出れたべ?」
俺「帰りさ、ちゃんと入庫出来ると思ってる?」
バカ「余裕だべ?」
俺「・・・・・・」

バカ「あのさぁ、さっきから何かムカつくんですけど!?」
俺「何がよ?」
バカ「したり顔でさぁ!確かにチェーン巻いてもらったのは感謝してるし!」
俺「そうか」
バカ「でもさぁ!少し走る時間が短縮出来ただけで大して変わらねーべ!?」
俺「・・・・・・。お前は雪道をなめ過ぎだ」

バカ「はぁ!?たかが年一回あるか無いかの積雪じゃん!?」
俺「確かに。年一回あるかないかだ。だけどお前、その一回の備えも出来てなかっただろう?」
バカ「・・・・・・っ!でも!チェーンはちゃんと車に積んでたし!」
俺「それはディーラーで買った時に付いて来たオプションだろう。お前、それの装着の仕方確認したか?」
バカ「そ、そんな事・・・・・・今は関k」
俺「関係あるだろう!」

俺「お前、俺がいなかったら一人でチェーン巻けたか?」
バカ「そのくらいは・・・・・・」
俺「前輪と後輪の区別も付いてなかったのにか?」
バカ「ボケただけだし!」
俺「巻き方も滅茶苦茶だったろうが!」
バカ「!?・・・・・・っ!でも!でもっ・・・・・・!」
俺「挙句にチェーンを巻いた途端の有頂天!優越感!!」
バカ「!!」

俺「確かに雪道の坂道で右往左往してる奴を見掛けたら、バカにする気持ちも分かる」
バカ「・・・・・・」
俺「しかし、それは本来はお前の姿なんだよ」
バカ「・・・・・・」
俺「お前はそれに輪をかけて酷いもんだ。下手すりゃスピンしながら坂を下ってても可笑しくない」
バカ「・・・・・」
俺「何故、今朝、駐車場で、出庫に手間取って、雪道対策が必要だと認められなかった?」
バカ「・・・・・・、スタッドレス履いてないから」
俺「・・・・・・履いてないから?」

バカ「スタッドレス履いてないから・・・チェーン巻くのが恥ずかしかった」
俺「・・・・・・」
バカ「だせえ奴だって思われるのが!我慢出来なかった!!」
俺「・・・・・・」
バカ「チェーン巻くのが・・・・・・恥ずかしかった・・・・・・」

俺「坂道で立ち往生するのと、チェーン巻いて普通に登るの、どっちが恥ずかしい?」
バカ「・・・・・・」
俺「チェーン巻いた後のお前、凄く嬉しそうだった」
バカ「・・・・・・」
俺「だけどな、だからと言って優越感に浸って暴虐無人して良いって理由にはならないんだよ?」
バカ「うぅ・・・・・・」
俺「逆走追い抜きなんてもっての外だ。首都圏の個人でスタッドレス履いてる人なんて稀だ。ましてやチェーンを装着するなんて業者くらいだよ」
バカ「・・・・・・」
俺「チェーンを履いた走破性は流石だよ。優越感ひ浸るのも分かる。だけどさ、それはある意味当たり前の事なんだよ」

バカ「困ってる顔の人見ると、何やってるんだバカって・・・・・・」
俺「そうだよね。自分が当たり前に走れるから、そう思ってしまうよね」
バカ「でも、俺も、本当ならそうなってた・・・・・・」
俺「うん」
バカ「なのに、当たり前に走れるだけなのに、俺は・・・・・そんな人、バカにして・・・・・・」
俺「そうだね。当たり前な事が当たり前に出来ない。でも出来てる人から見ると、それが滑稽に見えてしまうんだよ」
バカ「自分が一等上等な人間になれた気がして・・・・・・特別に許された人種な気がして・・・・・・」
俺「うん・・・・・・うん」

バカ「俺なんか、フロント一杯にチョッパー並べてるだけバカなのに・・・・・・」
俺「んー、そうだね。ちょっと視界悪いよね」
バカ「チェーン巻いただけで、調子に乗っちゃって・・・・・・」
俺「それ気付けただけでも、大したものだよ」
バカ「俺ぇ・・・・・・、俺、間違ってたよぉ・・・・・・」
俺「うん。じゃあ運転代わろうか」
バカ「うん・・・・・・」

バカ「ねぇ、俺。これからはスタッドレス履いてた方がいいのかなぁ?」
俺「んー・・・・・・。微妙だねぇ」
バカ「だtって。今回みたいな目に逢ったら・・・・・・」
俺「首都圏は雪国じゃないからね。チェーン積んで、ちゃんと自分で巻けるようにして置けば問題ないと思うよ」
バカ「でも・・・・・・、それって恥ずかしくない?」
俺「まだそれを言うか、お前は」

俺「大切なのは備えだよ。スタッドレスを履いておくにこした事はないけどさ」
バカ「だったら」
俺「本当に大切なのは、もしもにちゃんと対応出来るかどうかだよ」
バカ「・・・・・・」
俺「スタッドレスは確かにスマートだよ。ジャラジャラ言ってるチェーンを嘲笑うくらい」
バカ「うん・・・・・・」
俺「でも、年一雪降るかどうかのお前に正直現実的な選択肢じゃないんだよ。お前にスタッドレス買うだけの余裕あるか?」
バカ「ない・・・・・・」
俺「だろ。見てくれを気にして無理することはないんだよ」
俺「大切なのは安全だ。他の何でもない、安全だ」
俺「見てくれと安全を天秤にかけることは無い」

バカ「・・・・・・安全」
俺「そう。安全だ。見知らぬ誰かと、お前自身の安全だ」
バカ「・・・・・・うん」
俺「さっきも言ったよね。駐車場の話」
バカ「うん」
俺「朝、出る時にはまだ柔らかくて踏み潰せた雪も、夜には硬い氷の轍になっているかもしれない」
バカ「・・・・・・」
俺「考えるんだ、状況を。面倒でも。予測するんだ」
バカ「・・・・・・(ぐすっ)」
俺「そう。誰かの人命と、何より自分の人生がかかっていんだから」

俺「冬季はチェーンを載せておく。そして、その装着方法だけは理解しておく」
俺「それはドライバーとして最低限のマナーであると同時に、自分の人生を守る砦でもあるんだよ」
バカ「そう、かも・・・・・・」
俺「かも、じゃない。アイスバーンの上じゃノーマルタイヤなんて氷上の達磨だ」
俺「後悔してからじゃ遅いんだ、お願いだ」
バカ「・・・・・・」
俺「誰かの人生を、何より君の人生を大事にして欲しい」
バカ「俺ぇ・・・・・・」

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