咲「え? どの学年が一番強いかって??」(474)

前スレ
咲「え? どの学年が強いかって?」
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和「え? どの学年が一番強いかですか?」
和「え? どの学年が一番強いかですか?」 - SSまとめ速報
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・あらすじ

全国選抜学年対抗戦。

各学年ごとに十人にチーム(プラス混成チーム)を作って勝負してます。

先鋒戦から副将戦までが終わって、これから大将戦が始まるところです。

大将戦が始まる前に、今までご指摘されたところを……。

・香織→佳織

・憧「穏乃」→憧「シズ」

・優希実況時のすばら→先輩後輩だって忘れてましたすいません

・回想での淡vs照vs菫の局数→南四局オーラスに変更

・神代覚醒下でのセーラの三色→一通に変更

・形見→尭深

・副将戦後半の四風子連打→カット(姫子の奮闘については、きっとダマで六翻だと振ってたけど照の待ち牌を抱えて五翻になったけどそこからリーチ的な展開があったんだと思われます)

・シズvs照時のフナQの台詞(ツモで満貫云々)→カット

・シズの五筒ツモ→五索

ミスが多くてすいません。他にも何かご指摘あれば修正いたします。

では、大将戦が始まります。

@対局室

すばら『泣いても笑ってもこれが最後の大将戦ッ!! 各チームオーダーは以下のようになっていますっ!!!』

和「咲さん、順番はどうしましょう?」

 一年選抜・原村和(清澄)

咲「えっと……じゃあ私が後半でいいかな?」

 一年選抜・宮永咲(清澄)

久「ちょっと待ちなさい、咲、和」

 三年選抜・竹井久(清澄)

和「部長……なんですか?」

久「和、あなた、いつまでも咲に頼ってばかりでいいの?」

和「どういうことでしょう?」

久「たまには和……あなたがチームの勝ち負けを背負ってみなさい」

和「私に後半に出ろということですか……?」

久「ええ……そこで私と勝負しましょう」

咲「和ちゃん……やめたほうがいいよ。インターハイで和ちゃんを副将、私を大将って順番にしたの部長だよ? それをわざわざ逆にしろなんて……絶対何か企んでる。
 大体……点数を気にしないで打ったほうが強い和ちゃんは前半のほうがいいし……点数調整が得意な私は後半のほうがいいし……ね?」

和「いいですよ、部長」

咲「和ちゃんっ!?」

久「意外ね、断られるかと思ったわ」

和「部長のことです……初めからこうするつもりだったんじゃないですか? 咲さんの言うように、清澄のオーダーを決めたのは部長です。そして……この対抗戦のオーダーを決めたのも部長です。
 大将経験者の石戸さんや姉帯さんや鶴田さんを差し置いて、インターハイでは中堅だった部長が自ら大将に名乗りを上げた。つまり……そういうことです。ここで誘いを断るほど、私だって空気が読めないわけではありません。それに……」

咲「和ちゃん……?」

和「どんな状況だろうと、誰が相手だろうと、私には関係ありません。オーダーをズラされたところで……私は私の麻雀を打つだけです。今までだって、咲さんに信頼を寄せたことはあっても、依頼してきたつもりはありません。
 そもそも、こんなことで私が揺らぐと思われているのは……不本意です」

久「いいわね、その強気の言葉。けど……最後まで同じことが言えるかしら?」ニヤッ

咲「(ぶ……部長……台詞と笑い方が完全に悪役です……!)じゃ、じゃあ……私が前半に出るねっ! なるべく稼ぐよ……うん!」

美穂子「あら……もう勝った気ですか、宮永さん」

 三年選抜・福路美穂子(風越)

咲「風越のキャプテンさん……」

美穂子「この対局の前に……私は上埜さんに頼まれているんです。あなたを凹ましてほしいとね」

咲「そう言えば……直接対決するのは初めてですね……」

美穂子「お手柔らかによろしくね、宮永さん?」

咲「はい……」

玄「あああああああ灼ちゃん! どうしよう!? 順番代わってくれない!?」

 二年選抜・松実玄(阿知賀女子)

灼「断固……拒否」

 二年選抜・鷺森灼(阿知賀女子)

玄「そんなああああああ!!! 灼ちゃんひどいっ!!」

咲「あ……松実玄さん。インターハイではお姉ちゃんがお世話になりました」ニコッ

玄(ひいいいいい今度は妹さんと……!! こ、恐いですっ!!)

灼「頑張って……玄」

末原「なんや、宮永咲、あんたは前半に出るんか?」

 混成チーム・末原恭子(姫松)

咲「姫松の……末原さん」

末原「ちょうどよかったわ。うちも雪辱を晴らすには早いほうがええと思っとったんやっ!」

咲「え……じゃあ……末原さんが大将に名乗り出たのって……?」

末原「決まっとるやろ? あんたを倒すためや……!!」ゴッ

咲「えっと……よ、よろしくお願いします」ペコリン

末原「ん? ああ、ちゃうちゃう。お辞儀するならこっちやで」

咲「……?」

末原「覚悟しいや、魔物・宮永咲っ!! うちの雪辱を晴らすために……あんたを倒すためだけに……はるばる大阪からこいつはここに来たんやで……!!!」

咲「えええっ? じゃあ……私の三人目の相手って……!!?」

末原「せやっ!! ぶちかましてや、漫ちゃんっ!!!」

漫「聞いてませんよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

 混成チーム・上重漫(姫松)

@実況室

すばら「何やら前後半決めで揉めておりましたが、無事順番が決まったようですっ!!!」

菫「宮永咲選手が前半に出てきましたね。てっきり後半だと思っていましたが」

初瀬「まあ……宮永咲選手も原村選手も超高校級の一年生ですから……順番が変わったくらいで差が出るとは思えませんが」

純「その辺はどうせあの清澄の部長が何かあくどいことを考えてるんだろ」

すばら「果たしてこの一幕が後にどう響いてくるのかっ!!? 大将戦前半――開始ですっ!!!」

@対局室

東家:宮永咲(一年選抜)

咲「よろしくお願いします」

南家:松実玄(二年選抜)

玄「よ……よろしくです!」

西家:福路美穂子(三年選抜)

美穂子「よろしくお願いします」

北家:上重漫(混成チーム)

漫「ほな、よろしくです……」

東一局・親:咲

咲()ゴッ

玄(わあああ始まっちゃった! どうしようっ!! できれば和ちゃんや福路さんと楽しみながら打ちたかったのに……!! まさか……あの宮永咲さんと当たっちゃうなんて……!!
 だって……チャンピオンと打ったときは……一回カンされただけで……手がドラで大変なことになったっていうのに……この対局はそれどころじゃない……! 宮永さんはいっぱいカンしてくるし……三連カンだってありえる……ドラいっぱいだよ……!!)タンッ

美穂子(阿知賀の松実玄さん……カンが得意な宮永さんとの相性は悪そうだけど……この面子は全員が初対戦……どうなるかはやってみないとわからないわよね)タンッ

漫(配牌から無茶苦茶……先輩……なんでうちを宮永咲なんかにぶつけはったんですか……他の二人かて……阿知賀のドラゴンロードと長野一位……。
 まあ……阿知賀のドラローさんは同学年やし姫松が決勝に出とったら当たってたわけやから……負けても言い訳はできませんけど……ドラローさんと言えば今年の同学年の先鋒では神代小蒔に次いでヤバい人やん……うちがどうこうできるレベルを超えてますわ……!
 ああ……もう……こうなりゃヤケや……! 負けても先輩がなんとかしてくれはる……!! そう考えて打たなやってられへんわ……!!)タンッ

 七巡目

美穂子「リーチ」スチャ

漫(っと……早い。これが……あの魔物の巣窟・長野でぶっちぎりトップを取れる個人一位……福路美穂子さん。
 特に読みの正確さは……荒川憩ほどではないにしろ……全国でも五指に入る上位ランカー……実力は愛宕先輩と同レベルやと考えてええやろ……ホンマ……こんな人ら相手なんて……しんどいっすわ……先輩……)タンッ

咲(福路さん……リーチをかけてきた。松実さんがいて裏ドラが期待できないこの場では……リーチのメリットが大分削られるのに……役がなかったのか……それとも……和了り牌が零れてくる確率が高そうだったのか……)タンッ

玄(うっ……福路さんのリーチ……現物でオリたいけど……現物なんて……ないよ……!)タンッ

美穂子(このリーチは……言わば様子見……他の三人がリーチに対してどう動くか……それをある程度掴めれば……このまま和了れなくても私は構わないわ……)タンッ

漫(ええいっ! 読めへんわ!! かまへんかまへん、ブッ込んだる……!!)タンッ

咲(よし……! 福路さんの思惑はまだわからないけど……これで……嶺上開花……2300オール!! リー棒ももらって……一位を射程距離に置く……!)

 咲手牌:一二七七111⑥⑦⑧西西西:ツモ西:ドラ④

咲「カ……」スッ

 咲、暗槓をしようと西に手をかけた、その刹那ッ!!

咲(え…………!!!?)ゾッ

 寸前のところで目に入った、上家、上重漫の捨て牌ッ!!!

 漫捨て牌:③東⑥五88白6

咲(ちょ……ちょっと待って……第一打の三筒切りは……松実さんが四筒を抱えちゃうのがわかってるから真っ先に捨てたんだとして……そのあとの……八索対子落とし……?
 それに……福路さんのリーチに一発目から無スジの六索……? これ……いやでも……一索を私が三枚持ってるから……確率的にはかなり低いけど……まだ四枚目が見えてない……なら……可能性はある……!!)

 咲、西カン、せずっ!!!

咲(西は私が持ってる以上……一索は通る……福路さんはどう見てもタンピン系で……四索が現物だから一索は安全……松実さんは赤が来るからヤオ九牌で待つことがほとんどないし……。
 とりあえず……この場は……様子見……できれば……流局で上重さんの手牌が見たいけど……どうかな……)タンッ

玄(ん……宮永さん……一瞬カンするかと思ったけど……オリ……? いいな……私もオリれるならオリたい……!!)タンッ

美穂子(宮永さんがオリた……まあ……賢明な判断ね……これで宮永さんと上重さんの手が同時に止まった……あとは……和了り牌が出てくるのをのんびり待つだけね……)タンッ

漫(なんや……槍槓したろー思てたんやけど……)

 漫手牌:一九199①⑨東南北白發中:ツモ4:ドラ④

漫(ラッキーでもなんでもええから大きいの和了って逃げ切りたかったんやけどな……まあ……さすがにこんなラッキーが通じるような相手やないか……しゃーないわ。
 やけど……これは困ったな……福路さんのリーチから逃げるだけやったら安牌いっぱいなんやけど……たぶん手を崩した瞬間に宮永咲がカンしてくるやろしな……ここは……できるだけ粘ってみよか……とりあえず、ツモ切り現物)タンッ

咲(これじゃ膠着状態だよ……上重さんが国士を崩さない限り私はノーテンのまま……そうこうしているうちに……福路さんに和了られちゃう……。
 というか……福路さん……私と上重さんが膠着状態になるのがわかっててリーチしたんだ……片目のままでも抜け目ない……さすが部長の正妻さんだよ……!)タンッ

美穂子(ふふ……宮永さん……困ってるわね。それが数少ないあなたの弱点……槍槓の危険性があるときはどうしてもノーテンで手が止まる……特に暗槓材を抱えてしまってはもう身動きが取れないでしょう……。
 それがわかっていれば……こちらは安心してリーチをかけられる……ここは私の勝ちね……宮永さん……)

美穂子「ロンです。メンタンピン三色……8000」パラララ

玄「は……はいぃ……(いきなり振っちゃったー!)」

咲(これは……いっぱい稼ぐのは難しそうだよ……!)

漫(あぶなっ! 紙一重やったやん……!!)

咲:96000(0) 玄:90700 (-8000) 美:106000(8000) 漫:107300(0)

東二局・親:玄

玄(親だ……大事にしなきゃ……!)タンッ

美穂子(ドラは八萬ね。さて……ご褒美つきで宮永さん退治を任されたのはいいものの……上埜さんが大将に据えた彼女……インターハイ団体戦のMVPを凹ませるなんて至難の業……できることはどんどん仕掛けていかないと……)タンッ

漫(おっ……今度は配牌ええやん! これは天に感謝やで……!)タンッ

美穂子「ポン……」タンッ

漫(ん……それ何狙いや……?)

咲(福路さん……九萬をポン……? また何かやってくるのかな……どうしよう……さっきのでなんとなくやろうとしていることはわかったけど……まだ……きっとそれだけじゃない……)タンッ

 五巡目

咲(よし……来た……!)

 咲手牌:②3456667899南南:ツモ南:ドラ八

咲(和ちゃんならここで二筒を切るんだろうけど……私には槓材の六索が次に来ることも……嶺上牌の二筒も見えてる……! 福路さんはあれから静かにしてて不気味だけど……まだ五巡目……テンパってもいないっぽいし……私が先に和了る……!)タンッ

 咲、打、九索ッ!!

玄(う……宮永さんの捨て牌……ここで初めて索子が出た……もしかして染まってるの……?)タンッ

美穂子(ん……索子を切ってきたわね……ということは……そろそろ花が咲きそうということかしら……なら……その花……咲く前に摘み取ってしまいましょう……)

美穂子「カン」カンッ

玄(加……加槓……!!? ドラ……わああ……手にドラ三が増えた……!!!)

漫(ここで加槓やと……!? 宮永咲のテンパイ気配を読んで嶺上牌を奪った……!? そういうことかいな!?)

咲(福路さん……!! 最初の九萬ポンはこの加槓を見越しての鳴き……!? 確かに……九萬は松実さんが八萬を抱えるのが壁になって……わりと浮きやすいし切られやすい……三枚持っていれば大明槓もポンも選べる。
 たとえ対子しかなくても……松実さん以外は捨ててくるだろうから序盤にポンしやすい……あとは残りの一枚が手に入るのを待つだけ……! 初めから……私の嶺上牌を奪うつもりで……!!)

美穂子(宮永さんの弱点その二……嶺上開花を得意とするあまり……たとえ門前でテンパイしていたとしても……多くは役なし。
 だから……この二筒は……ツモ和了りはできても……リーチをかけていないあなたにはロン和了りができない……ゆえに……通る……)タンッ

咲(わ……私の二筒を迷いなく切った……!!?)

美穂子(これで嶺上の花の一つは私が摘み取った。あとはスピード勝負になるけれど……こちらはイーシャンテン……役牌があるから速攻しやすい。宮永さん……役なしの現状から……嶺上牌を奪われて……どうやって切り替えるつもり……?
 しかも……あなたは槓材をツモってくる分だけ手が止まる……嶺上開花が封じられたら……槓材なんて手にあるだけ無駄……これもあなたの弱点よね……)

咲(福路さん……やってくれる……! でも……たとえ槓材を抱えてても……テンパイできないことはない……一応保険をかけておいてよかったよ……!!)ツモッ

 咲手牌:②345666789南南南:ツモ6:ドラ八・發

咲(これならフリテンだけど混一テンパイ……! しかも二つ目の嶺上牌は三索だから……次巡で南を引いてくれば今度こそ嶺上開花……それだけでも満貫……南ならリーチ後でもカンできるし……そうなれば一気にハネツモ……!!
 福路さん……甘いよ……私はまだ……死んでない……!!)

咲「リーチっ!!」タンッ

美穂子(あら……宮永さん……そう……花を一つ摘んだくらいではあなたを止められないのね……それどころか……むしろ手を高めてくるなんて……さすがとしか言いようがないわ。
 けれど……いいのかしら……あなたの上家……この場が始まってから一度も筒子を切っていなかったのに……私の二筒切りを見て……直後に一筒を手から落としてきてるのよ……?)

咲(え……待って……!! あれ……なに……この感じっ!!?)ゾワッ

漫「それは……通らんな……!! ロンや……!!」パラララ

咲(う……嘘だよ……!? 福路さん……まさかここまで見越して……!!?)

美穂子(いや……これは……ここまでとは……さすがの私にも見えていなかったわ……)

玄(わああああ……丸がいっぱい……!!!)

漫「門前清一……断ヤオ……対々子……三暗刻……!!! 24000やっ!!」

咲(さ……三倍満……!? この巡目……ドラ抜きでここまでの打点って……この人……どうなってるの……!!)

美穂子(ツモり四暗刻……筒子染めとは思っていたけれど……まさかそこまでの大物手を張っていたなんて。
 この人……準々決勝も準決勝もさほど目立った動きは見せていなかったけれど……名門姫松で……最も荒れる先鋒にオーダーされていたこと……もっと考えておくべきだったかしら)

漫(ラ、ラッキー!! よっしゃ、あとはオリてオリてオリまくったるで!!!)

咲:72000(-24000) 玄:90700(-8000) 美:106000(8000) 漫:131300(24000)

東三局・親:美穂子

美穂子(姫松の上重さん……東一局の国士テンパイといい……今の三倍満といい……これが偶然じゃない可能性は高そうね。妹尾さんほどの役満体質ではないにしろ……突発的に大きな手を和了ってくることが多い選手なのかしら……?
 ただでさえ松実玄さんも宮永さんも計り知れないというのに……参ったわ……けれど……上埜さんに期待されている以上……最後まで投げ出すわけにはいかないわよね……)タンッ

漫(む、なんや……また配牌がええけど……さっきので魔物を刺激してもうたかな……清澄の嶺上使い……目からスパーク出てへんか……?)

玄(この感じ……!!? お姉さんとそっくりです……宮永咲さん……!!!!)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 十二巡目

美穂子「カン……」パラララ

漫(オタ風大明槓……!? 宮永咲潰しか……徹底しとるな……!! やけど……当の宮永咲は全然堪えてへんように見えるで……)タンッ

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 咲手牌:七七七七777②③④⑤⑦⑦:ツモ7:ドラ一・4

咲「カン……!」ゴッ

漫(来た……宮永咲の暗槓……!!!)

美穂子(こちらがカンしてもお構いなしね……否……それすら計算の範囲内……まあ……四槓子は封じられたはずだけど……)

 咲手牌:七七七七②③④⑤⑦⑦/7777:嶺上ツモ⑦:ドラ一・4・三

咲「もいっこ……カンッ!!」ゴゴッ

漫(二連カン……この化け物が……!!)

美穂子(七索と七萬……ということは……もう一度……今度は七筒のカンが来る……今回のルールでは……四開槓は嶺上ツモのあとに牌を切って誰も和了らなかったときに成立する……つまり……四つ目のカンでの嶺上開花は……認められる……!)

玄(ド……ドラが……ドラが溢れちゃうよ……!!!)

 咲、その手は容赦なく嶺上牌に伸び――!!

咲「もいっこ………………」

 嶺上牌を掴んだ咲の手が……止まるッ!!!

美穂子(え……宮永さん……? 顔が……真っ青に……)

漫(ど……どうしたんや……三連カンせんのか……?)

 咲、その手に掴んだのは――!!

咲(え……え……なに……これ……?)

 咲手牌:②③④⑤⑦⑦⑦/7777/七七七七:嶺上ツモ①:ドラ一・4・三・中

咲(ど……どういうこと……? なんで……七筒じゃないの……? どうして……私に見えていたものと違うの……? こんなの……知らないよ……! お姉ちゃんと打ってたときだって……こんなことはなかったのに…………!!)ガタガタ

 咲の異変……その原因を突き止めたのは、福路美穂子ッ!!!

美穂子(これは……そういうことなのかしら。なら……私のカンも無駄ではなかった……ということね。もし……私の考えが正しいなら……この人の能力の強度は……宮永さん……或いは宮永照さえも……超えているのね……!!)

 美穂子、その目線の先には……!!

玄(ド……ドラが……ドラが……!)ガタガタ

美穂子(阿知賀の松実さん……ドラの独占能力……その強度は恐らく全国でもトップクラス……宮永照さんが相手だったときはその能力を逆手に取られていたけれど……言い方を変えれば……あの宮永照さんでさえ逆手に取ることしかできなかったということよね。
 いかに宮永照さんと言えど……松実さんの能力そのものには干渉できなかった……それほどまでに……松実さんのドラ独占能力は……絶対的な力……)

 美穂子、思い返すのは、今日の中堅戦、前半。

美穂子(確か……似たようなことを神代さんも起こしていたわね。一巡先が見える力を持つ園城寺さんが……カン以外の方法ではどうやっても一色独占を止められなかったのと同じ。
 園城寺さんに『見えて』いた未来が捩じ曲げられたように……宮永さんに『見えて』いた嶺上牌が捩じ曲げられた……もし……松実さんの能力の強度が神代さんと同レベルなら……ありえることだわ……)

 美穂子、改めて、他家の捨て牌を眺める。

美穂子(松実さんのドラ独占能力は……想像以上に他家の手に干渉する……なぜなら……松実さんの独占するドラには……裏ドラもカンドラも含まれる。
 それらは……松実さんが捨てない限り……決して場にでることはないし……私たちの手に入ることもない……)

 美穂子は王牌に目をやる。既に、カンドラも含めてドラは四種類。

美穂子(四種類のドラ……私と宮永さんのカンでこれだけドラが劇的に増えても……松実さんの手の内を除けば……私の目にドラは一枚たりとも見えない。正直、ありえないと思う。
 こんな巡目になってもなお……四種類十六枚の牌が……四人中三人の手には絶対に行かないようになっているなんて……もし……これが……五種類二十枚なんてことになったら……どうなるのかしらね……)

 美穂子、溜息。

美穂子(どうにもならないわ……どれだけ数えても……今ドラになっている四種類十六枚以外の牌は……必ず松実さん以外の誰かが一度は目にしている……これ以上ドラが増えるということは……松実さんの支配から漏れるドラが出てくるということ……。
 松実さんのドラ独占能力が絶対であるならば……そんなことは起こりえない……ゆえに……松実さんがドラを切るまでは……これ以上……ドラが増えることはない……)チラッ

玄(ドラ……ドラしか手にないよ……! これ……この先どうすればいいの……?)ガタガタ

美穂子(松実さんの能力のせいでこれ以上ドラが増えないのだとすれば……宮永さんが槓材の七筒を嶺上から持ってこれなかったことにも説明がつく。
 宮永さんの能力よりも松実さんの能力のほうが強度が上だから……宮永さんに『見えて』いた嶺上牌が……松実さんの能力の干渉を受けて強制変更された。これは……嬉しい誤算だわ。
 松実さんにとってドラを増やしてくる宮永さんは天敵なんだろうけれど……宮永さんにとっての松実さんも……条件さえ揃えばカン封じという凶悪な切り札になる。
 宮永さんがいかにカンが得意であろうと……まさか……これ以上ドラが増やせないからカンができなくなるなんて……そんな状況に陥ったことは一回もないでしょうね……)

咲(どういうことなの……? ドラ……? ドラのせい……? ドラを増やし過ぎちゃったから……これ以上ドラを増やすと松実さんの支配が崩れちゃうから……そうならないように私のカンが封じられたってこと……?
 それって……つまり……松実さんの力が完全に私の力の上を行ってるってことになるよね……? じゃあ……序盤で場に見えていない牌が多いときならまだしも……巡目が進めば……連槓ができなくなる可能性が出てくるってこと……?
 でも……私の打ち方だと……ドラが使えないこの場では手を高めるために連槓は必須……しかも今私は三倍満を直撃されたばかりなんだから……安手ばかりで回していてもトップにはなれない……どうしよう……どうしたら……)タンッ

 咲、混乱の中、断ヤオ三面張テンパイを残すため、嶺上牌の一筒をツモ切りッ!

 一筒――それは……見ようによっては起爆スイッチに似ていて……!!

漫「ロ……ロンッ!!」

玄・美穂子(え……!?)

咲(は……? そ……そんな………………)サー

 漫手牌:①⑦⑧⑨⑨⑨⑨南南南白白白:ロン①:ドラ一・4・三・中

漫「混一チャンタ……南白三暗刻……16000……!!」

咲(そ……それ……私の七筒……!? どうしてそんなところに……? も……もう……何が……どうなってるの…………?)クラッ

 咲、瀕死ッ!!!

咲:56000(-40000) 玄:90700(-8000) 美:106000(8000) 漫:147300(40000)

@実況室

すばら「なああああ何がどうなっているんでしょうかああああああ!!!?」

純「あの姫松のデコ助……あんな打ち方をするやつだったか……?」

菫「さあ……姫松さんは反対側でしたから、あまりデータをじっくりと見ていないんですよね。どうなんですか、近畿地区担当の初瀬さん」

初瀬「そうですね……上重選手は、一年生の頃から姫松のレギュラーを務めている方で、言われてみれば、たまにものすごく点を稼ぐときがありました。というか、ここは同じ姫松の方に伺ってみては……?」

末原「呼んだかいな!?」ドンッ

初瀬「わっ……末原さん!?」

末原「どやどやっ!? 見てくれたかいなー、うちの漫ちゃんの大活躍っ!!」

菫「ええ、ドラもない上にダマであの高打点……上重選手には何か特殊な力があるんですか?」

末原「特殊な力とか、そんなけったいなもんちゃうわ。あれは……あれこそが、漫ちゃんの本当の姿なんやっ!」

純「インターハイではラスばっか引いてパッとしない感じだったが……あれはあいつ本来の力じゃなかったってことか」

末原「せやっ! インターハイではちょっと調子が悪かってん、やけど今日は一味違うでっ! うちの漫ちゃんは伊達や冗談で一年からレギュラーやったわけやない。
 オカや順位点を無視したあの子の単純収支は部内一位……漫ちゃんは姫松で最も点数を稼ぐ選手なんや……! 二、三回ラスを引こうとたった一回のトップで全ての負け分をカバーできる……!! それが漫ちゃんの麻雀やっ!!」

初瀬「近畿大会でも上重選手は何回かプラ六万くらいでトップだったときがありましたよね。それも、他校のエースに囲まれたときとか、決勝卓とか、強敵揃いのときに大勝ちすることが多かったです」

純「相手が強ければ強いほど燃え上がるって感じか。うちの透華と似てるな。だとすると……魔物・宮永咲にぶつけるにはちょうどいい駒かもしれねえ」

末原「そういうことや。宮永咲は恐ろしく強い……それはうちがよう知っとる。
 やけど……その強さこそが漫ちゃんにとっては絶好の火種。宮永咲が強ければ強いほど……うちの漫ちゃんの力はそれに呼応して膨れ上がる……漫ちゃんは対魔物用の最終兵器やねんっ!」

菫「相手が強ければ強いほど勝ちやすい……そういう強者潰しの方法もあるんですか。確か、インターハイで上重さんは先鋒でしたよね。もし姫松さんが決勝に来ていたら面白い勝負が見れたかもしれないですね。本当に、インターハイでその力が見られなかったことは残念です」

末原「うっ、痛いことをさらりと言わはりますな、シャープシューター。
 ま、せやからこそっ! 今日は漫ちゃんに大活躍してもらわんとなっ! 姫松の不発弾……改め、姫松の核弾頭っ!! 上重漫、ここに爆誕やっ!!
 魔物やろうとなんやろうと、本気になった漫ちゃんにかかればこの通りちょちょいのちょいやでっ!! さあ漫ちゃん……好きなだけ暴れたってやー!!!」

すばら「とおおおおお!! 言っているそばからあああああ!!!?」

 ――――――

東四局・親:漫

漫『ツモ……! 混一平和一通一盃口ツモ……8000オールッ!』ゴッ

咲:48000(-48000) 玄:82700(-16000) 美:98000(0) 漫:171300(64000)

 ――――――

すばら「親倍いいいいいい!!!! 上重選手大爆発っ!!!! これで混成チームはとうとう17万点の大台に乗りましたあああああ!!!」

末原「ええでっ!! 漫ちゃん!! そのまま宮永咲に役満ぶちこんでトバしたれええええええ!!!!」

菫「目を見張るような高火力ですね。天江選手や薄墨選手と比べてもなんら遜色ない。これほどの爆連荘……一度火がついたら止めるのはそう簡単ではないでしょう」

末原「せやろ? せやろー!? もっとうちの漫ちゃんを褒めたってー!!!」

初瀬「ここまで開放された力を押さえ込むのは……宮永咲選手が大人しい現状……他の二人では大変そうですね」

純「ハハッ……揃いも揃ってわかってねえなぁ」

末原「む、なんやねん、龍門渕のノッポ」

純「あそこに座ってる唯一の三年を誰だと思ってやがる。魔物の巣窟・長野において……非オカルトでありながらぶっちぎり個人トップを取れる化け物……風越・福路美穂子だぜ。あいつがこのまま黙ってるわけねえよ……」

すばら「おおおおおっと!!! 三年選抜・福路選手……!!! ついにその閉ざされた右目を開くのかあああああ!!!」

純「開眼……これであいつも本気モードってわけだな」

@対局室

東四局一本場・親:漫

 三巡目

美穂子「カン……」パララ

玄(大明槓された……!? わあ……ド……ドラがぁ……)

漫(福路さん……まだ宮永咲を警戒してるのか……嶺上牌を一つ削ってドラも増やすカンは……宮永咲と松実玄のどちらにも有効な……いわば一石二鳥の嫌がらせ……。
 そうそう狙ってできるようなもんやないし……できるときに一応カンしとくっちゅうんはわからんでもないけど……まあ、ええわ……うちには関係ない……)タンッ

美穂子(さて……これでひとまず宮永さんと松実さんは牽制できたとして……問題はもう一人の子よね……)タンッ

美穂子(姫松の上重さん……まさかこんな力を秘めていたなんてね……インターハイで片岡さん相手にやられていたところしか見ていなかったから……驚いたわ)タンッ

美穂子(この爆発力……去年の龍門渕さんを思い出すわ……あのときや……それに今年のインターハイでも……私は他家を利用して間接的にトップを削りにいった……けど……)タンッ

美穂子(今日の面子……松実玄さんは手が重たいし……ドラが溢れるのを警戒してほとんど鳴きを入れてこないから……彼女の手をこちらでコントロールするのは難しい……。
 宮永さんにいたっては……さっき連槓ができなかったことがよほど堪えているのか……生きているのか死んでいるのかもわからない状況……こちらも使い物にならない……となると……二人が上重さんを削れる見込みはほとんどない……)タンッ

美穂子(上重さん……ツモった牌を手の右側に入れて……捨てるときは手の左側の牌から切っている……捨て牌からして明らかだけれど……間違いなく染め手ね。それも……清一である可能性が高い。
 門前清一なら最低でもインパチ……さすがにこれ以上は点をあげられない……あなたは……私が自ら……潰してあげる……)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 美穂子、開眼ッ!!!

美穂子(捨て牌の順番は……字牌、索子、字牌、索子、筒子、筒子、字牌……まだテンパイじゃないなら、次も筒子かしら。
 気になるのは、切るときに手の左端ではなく左端から二番目を切ってきたこと……それも私の大明槓の直後からずっと……あの左端の牌……きっと彼女にとって特別な意味があるはず……例えば……彼女から見て限りなく安全牌に近い牌である……とか)

 美穂子手牌:⑤⑥⑥⑥⑦⑦⑦西西西/(⑧)⑧⑧⑧:ドラ1・東

美穂子(上重さんから見て……私の手はそれほど染まっているようには見えないはず……字牌も役牌の対子を序盤に落としたし……三色満遍なくヤオ九牌から切ってここまで来た……恐らくは食いタンだと思われている……。
 なら……上重さんが安全そうだと思うのは……ヤオ九牌よね。と……これは面白いところを引いたわ……)

 美穂子手牌:⑤⑥⑥⑥⑦⑦⑦西西西/(⑧)⑧⑧⑧:ツモ⑨:ドラ1・東

美穂子(九筒は……一巡目と二巡目に松実さんと宮永さんが捨てたから……場に二枚見えている……そして八筒が私の大明槓で壁になっている以上……待ちは地獄単騎でしかありえない……。
 上重さんの手の左端……三巡目の私のカンを見てから残したということは……つまり……そういうことよね……)タンッ

漫(ん……福路さんは筒子ど真ん中か……断ヤオやとしたらぼちぼちヤバいかもしれへんな……どないしよ……今までずっとダマで通してきたけど……ここは行くべきか行かへんべきか……)

 漫手牌:⑨一一二三三四四四五六七八:ツモ二:ドラ1・東

漫(これは……出和了りなら高めで倍満か……最安目でもハネ満……ただ……どっちもリーチを掛ければ三倍満と倍満になる……福路さんに流される可能性もあるけど……宮永咲がやけに大人しい今は……攻めるチャンスや……!
 清澄の片岡のときみたく張った直後にロンされるんが嫌やったから保険で残しとった九筒もある……九筒なら鳴かれて一発を消される心配もあらへんし……ここは行くべきやんな……!)

 漫、保険も熟慮も……全ては美穂子の手の平の上ッ!!!

漫「リー……」タンッ

美穂子「ロンです。混一対々三暗刻……12000は12300」パラララ

漫(な……染め手やと……!!? っちゅうか……直前で地獄単騎に待ちを変えとるやん……!!! うちの手牌……見透かされとったんか……!!!)

美穂子(ふふ……地獄単騎なんて上埜さんみたいで素敵……けど……上埜さんの地獄単騎と私の地獄単騎じゃそこに至るまでのプロセスも思考もまったく異なる……それはわかっている……けれど……好きな人の得意技で和了るのはやっぱりいい気分よね……!)

漫(これは……しくじったで……!!
 どっかで……今のうちならどんな風に打っても勝てるって思っとった……やけど……この人はあの愛宕先輩と同じレベルなんや……! うちが調子ええときも平気な顔でプラスで終われる愛宕先輩……ナメてかかると痛い目見る……しっかりせな……!!)

玄(福路さん……すごい……!! 私と宮永さんを牽制するためのカンを……咄嗟の機転で上重さんを撃ち落すための罠にして見せた……!!
 私たち三人全員をきっちり見据えて打ってる……私は……もう東場が終わるっていうのに……未だ誰を警戒していいのかもわからない状況で……一度も和了れずにいるのに……福路さんは……宮永さんにカンされようと上重さんに連荘されようと……まったく揺るがない……!!
 これが……長野一位の本領……!!)

美穂子(上重さんの力も打ち方も大体わかった……これ以上の独走はさせない。松実さんはドラ爆が恐いけど……振り込むことはまずないから……直撃を狙いつつ点棒に余裕を持って打っていれば……さほど恐くない。
 あとは……やっぱり宮永さんがどう動くかだけれど……もしかしてこのまま終わってしまうのかしら……?
 普通の大会のように前後半戦で途中に休憩でもあれば……立て直しもできるんでしょうけどね……この対抗戦は半荘一回勝負……宮永さんは少し精神不安定なところがあるって上埜さんも言ってたけど……果たして……この子がそう都合よく引っ込んでくれるかしら……)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲:48000(-48000) 玄:82700(-16000) 美:110300(12300) 漫:159000(51700)

@実況室

すばら「三年選抜・福路選手の直撃一閃んんんん!!!! 止まらないかに見えた上重選手の爆連荘を力で抑え込みましたああああ!!! これが長野一位の実力なのかああっ!!!!」

純「ほらな。バカツキくらいで凌げるほど甘くねえんだよ、あの女は」

末原「す……漫ちゃんっ!!! くううううう!!! 漫ちゃんはそんなもんやないやろっ!! 長野一位も宮永咲もまとめてトバしたれええええ!!!」

菫「まあ、ハネ直を食らったところで上重選手が独走中であることに変わりはありません。
 福路選手はどちらかというと他家を利用して場そのものを自分に有利に進めていくタイプですから、あまり一騎打ちで削っていくとも思えないですし、上重選手が逃げ切れる可能性は高そうです」

初瀬「それにしても……宮永咲選手が静かですね。先ほど……お姉さんであるチャンピオンも東場は沈んでいましたが……もしかすると宮永咲選手もこれから目覚めるのでは……」

すばら「し、しかし、宮永咲選手の得意技である嶺上開花は、福路選手や松実玄選手によって今のところ不発に終わっています!
 それに本来、ドラや三槓子などを伴わなければ、嶺上開花は手を高めるのには向いていません。それが半ば封じられた状況で……果たして宮永咲選手に活路は残されているのかどうか……!!」

純「それはなぁ……煌ちゃん、認識が甘いぜ」

末原「せやな。あれが嶺上開花を得意としてるんは、チャンピオンの打点上昇、天江衣の海底撈月と同じ……ただの様式美に過ぎひん。
 あれのいっちゃん恐ろしいんは……飛び抜けて高い点数調整能力……そして、それを可能にしている姉譲りの圧倒的な場の支配力や……たとえ嶺上開花を封じられようと……他に和了る手段はなんぼでもあるはずやで」

菫「それに……何やら先ほどから、心臓を鷲掴みにされているというか、息が苦しいというか……何やらよくない予感がします。この感覚は……照に初めて会ったときのそれに近いものがありますね」

すばら「ど……どうなってしまうのでしょうか、大将戦っ!!! 南入ですっ!!!」

@対局室

咲(私やお姉ちゃんよりも強い支配力を持つ松実さん……信じられないほどの爆発力で高打点の和了りを連発する上重さん……それに……デジタル最強の和ちゃんよりも個人成績が上で……あの部長とも張り合える百戦錬磨の福路さん……。
 もちろん……自分がこの人たちより弱いとは……思ってないけど……それでも……現状は断ラス……25000点持ちならもうトんでる……)

咲(なんだか……懐かしいような気がするよ……全力で打ってるのに……こんなに凹まされるの……何年ぶりだろう……藤田プロと戦ったときはまだカンが戻ってなかった頃だから……やっぱり……家族麻雀をしてた……あの頃以来かな……)

咲(なんだろう……ちょっと……久しぶり過ぎて……少し……自分でも恐いくらいだよ……そういえば……あの頃も……こうやって凹まされ続けて……それが嫌で……無茶をするようになったら……ひどく怒られたっけ……)

咲(本当に……懐かしい……プラマイゼロの打ち方を覚える前……負けるのが嫌で……勝つことしか考えないで打ってた頃……あまりに勝ち過ぎて……負けてたときより怒られた……あの頃……)ピッ

 咲、サイコロを回すと同時に、三人に笑いかけるッ!

咲「あの……脱いでも……いいですよね……?」ヌギッ

 咲の昏い微笑に……三人の表情が凍りつくッ!!

美穂子(来た……宮永さんの……全力が……! いや……でもこれは……県予選決勝やインターハイで見せたものとは……また違うような……!?)

玄(こ……これは……ひょっとするとお姉さん以上のものをおもちで……!!?)

漫(靴と靴下を脱ぎだした……? よ……ようわからんが……確か準決勝では脱いどったような……!!)

 咲、素足ッ!!!

咲(思い出したよ……私が一番……荒れていた頃のことを……!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 魔王――覚醒ッ!!!!

南一局・親:咲

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(よ……よくわからないけど……とりあえず変わらずドラは来てくれる……宮永さんは恐いけど……これだけが救いだよ……!)タンッ

美穂子(今回は……少々配牌が悪い。これだとカンは難しいかしらね……)タンッ

漫(むむむ……配牌微妙……おかしいで……あの感じやったらいつもはもっとバコスカ連荘できるんやけど……)タンッ

 一見して静かな立ち上がり……!!

 しかし、覚醒した魔王の力は……既に発動していた……!!

 十巡目

玄(あわわわ……ドラしか来ないよ……)タンッ

美穂子(おかしい……おかしいわね……)タンッ

漫(なんや……さっきまでと全然ちゃう……めっちゃツモ悪いやん……!)タンッ

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(先ほどから……手がまったく進まない。確かに配牌はいいものではなかったけれど……いつもならそろそろイーシャンテンになってもおかしくはない……。
 加えて……鳴いて手を進めるチャンスもなかった……これだけなら……まあ偶然で済むのだけれど……どうやら松実さんや上重さんも……手が重たそうな感じなのよね……)タンッ

美穂子(これと同じことを……私は見たことがある……県予選決勝大将戦……それから……今日の先鋒戦後半……華菜の言うところの……天江さんの一向聴地獄……まるであれを体験しているみたいだわ……)タンッ

美穂子(確か……他人の力を模倣できる子もいると……四校合同合宿のときに上埜さんから聞いたような気がする……。
 もし同じことが宮永さんにもできるとしたら……これは……カンなんて狙っている場合ではないわ……この場は和了りを目指さずに……この状況を打破することに全力を注いだほうが良さそうね……)タンッ

 十五巡目

美穂子(海の底が近い……松実さんも上重さんも異変に気付き始めたみたいだけど……もう手遅れかしら……)タンッ

漫(なんやこれ……さっきから一つも手が進まへんで……! これ……宮永咲はこんな打ち方したことないはずや……何が起こっとん……!?)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(全然……一向聴から手が進まないよ……ドラはもう固まってて……テンパイまであとちょっとなのに……いつカンされるかわからないから鳴きたくても鳴けないし……どうしよう……!?)タンッ

咲「ポン……」タンッ

玄(ポ……ポンされた……!? じゃあ……次巡あたりに加槓が来る……!?)

漫(ポンかいな……びっくりした……やけど……これって加槓で嶺上開花のパターンやんな……?)

美穂子(違うわ……加槓狙いのポンではない……宮永さんのポン……残り一枚は私の手の中……狙いが嶺上開花なら……槓材の見える宮永さんがあんな鳴きをするはずがない……だとしたら……このポンの狙いは……!!)

 宮永咲、海底コース……ッ!!!

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(まずいわね……これは……どうにかして止めないと……!!)

 海底目前ッ!!

玄(ぎ……ぎりぎりテンパイできました……!!)タンッ

美穂子(これを鳴いたら……役なし確定ね……けど……ここしかないわっ!!)

美穂子「チー!」タンッ

漫(この巡目でチー……? 形式テンパイ狙いか……?)タンッ

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(こ……これ……どうしよう……できることならテンパイを維持しておきたいけど……大丈夫……だよね……?)タンッ

 玄、打、海底牌ッ!!

 直後ッ!!!

咲「ロン……」

玄(えっ……?)

咲「河底撈魚……1500」

漫(ホ……河底やと……!? なんやこいつ……打ち方変わり過ぎやろ……意味がわからんで……!!)

玄(な……なにそれ……? 槓材どころか刻子がポンしたやつ一つだけって……? しかも河底以外役なし……? どういうことなの……!?)

美穂子(理解に……苦しむわね。やっていることは天江さんに近いけれど……これじゃ劣化版もいいところ……火力が低過ぎる……これだけの場の支配力を発揮しておいてそれって……まるで……肩慣らしをしているみたいね……一体何を狙っているのやら……)

咲「……一本場……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲:49500(-46500) 玄:81200(-17500) 美:110300(12300) 漫:159000(51700)

@二年選抜控え室

すばら『ホ……河底撈魚!!! 本日二度目の河底撈魚が飛び出しましたああああ!!!! しかし……これは今までの宮永咲選手とはあまりにかけ離れた打ち方ですっ!! 何がどうなってるんでしょうか!!?』

透華「衣……これはどういうことですの? 今の打ち方……まるで衣の猿真似のような……あなた、あの嶺上使いに自分の打ち方を教えたことでもあって?」

衣「否……心当たりは皆無。しかし、あの県大会と……それに四校合同合宿のときも……咲と衣はよく卓を囲んだ。咲の力なら……見よう見まねの模倣くらいはできるかもしれない」

憩「なあ……ウチはあの宮永咲って子、よう知らんのやけど……問題は河底を和了ったことなんかな?」

Q「もし河底を狙って和了ったんなら、大問題やろな」

絹「いや……浩ちゃん、たぶん憩ちゃんの言いたいことはそうやないで。河底やら海底やらは関係なく……なんであないな安い手で和了ったかってことやと思う……」

尭深「……安手は……始まりに……過ぎない……」

かおりん「あっ!!? まさか、そういうことなんですか!?」

神代「あのお二人は姉妹です……そういうことがあっても……おかしくはないかと……」

Q「いやいや……いくら姉妹かて……あないな化け物が二人も三人も……なあ?」

全員「………………」

衣(咲……何を考えている……!?)

@対局室

南一局一本場・親:咲

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(ま……また配牌から微妙な感じ……ドラがないところからスタートなんて……久しぶりかも……でも……これ……覚えがある……そうだ……天江さんと打ったとき……確かこんな風に……手が進まなかったような……!)

美穂子(また天江さんの劣化コピー……? けれど……天江さんの一向聴地獄は……海底と出和了りによる揺さぶりがなければ……抜け道がゼロでない以上……なんとか対応できる……。
 もちろん宮永さんはいつカンをしてくるかわからないという強みがあるけれど……それを差し引いても……わざわざこんな力の無駄遣いのようなことをする意図がわからない……)タンッ

漫(なんやー……また配牌五向聴かいな……どうなってんねん……!)

 八巡目

咲「リーチ……」トッ

玄(み……宮永さんがツモ切りリーチ……? まずリーチそのものが珍しいような気がするのに……ツモ切りってどういうこと……? というか……そのリー棒の立て方……どこかで……)タンッ

美穂子(海底狙いでもダマで出和了り狙いでもない……? できることは天江さんの真似だけではないということ……?
 とても……とても嫌な予感がするわ……例によって鳴けるところは出てこないみたいね……けど……まあ……一応保険はかけておいて正解だったかしら……!)

美穂子「カンッ!」パラララ

玄(暗槓……!? 親リー相手に……? あ……でもドラは私に来るから関係ないのか!? それにしても……福路さん……一体何を狙って……?)

美穂子(ツモ順まではズラせなかったけれど……これで……とりあえず一発は消えたわ……)タンッ

漫(もーわけわからんわー!!)タンッ

咲「ツモ……リーチツモ……裏なし……1000は1100オール……」パラララ

 咲手牌:②③123456一二三白白:ツモ④:ドラ①・南・⑤・7

玄(あっ……!! そうだ……あのリーチの仕草……まるで園城寺さんみたいな……!!! 福路さんの暗槓がなければ一発がついていた……って……まさか宮永さん……一巡先が見えるの……!!?)

漫(げっ……二連荘……!? ま、まあ……安いしええよね……?)

美穂子(劣化天江さんの次は……園城寺さんなのかしら……? まさか本当に能力を模倣できる能力を持っているというの……?
 無論……さっきの河底も今の一発もたまたまという可能性はあるけれど……そうではない可能性もある。もしかして宮永さん……このまま色々な人の能力を見よう見まねでコピーしていくつもり……? 一体……なんのために……?)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲:52800(-43200) 玄:80100(-18600) 美:109200(11200) 漫:157900(50600)

@混成控え室

すばら『ど……どうなっているんでしょうかああああ!!!? 宮永咲選手!! 河底の次はあわや一発ツモ……!!! まったくもって理解不能ですっ!!』

竜華「と、怜……あれどないなっとんの?」

怜「知らんがな……たまたまやないの?」

かじゅ「しかし、あのリーチの仕草は、園城寺さんを意識したものだったような……」

池田「いや……リーチ一発もそうだけど……ここ二局の他家の手の止まり具合のほうだって相当異常じゃないか? あれじゃまるで天江衣だし」

小走「一人魔物パレードってことか……しかも……複数の能力を同時に発動させている。過去に、宮永咲はこういう打ち方をしたことはあるのか?」

まこ「わしに聞かれてものう……そう言えば、入部したての頃は、嶺上開花以外にも、ダブリーとか平和とかで普通に和了っとったような」

宥「もっと小さな頃は……どうだったんですか?」

照「……なんとも……言えない……」

照(咲……もしかして……荒れてる……? 大丈夫かな……?)

@対局室

南一局二本場・親:咲

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(宮永さん……もしかして……さっきまでのあれは天江さんや園城寺さんを真似して打っていたの……? けど……あんなの……真似できるものなのかな……よくわからない……それに……今回は比較的普通な感じの配牌だし……何がなんやら……)タンッ

美穂子(天江さん……園城寺さん……そしてこの配牌……お次はあの人かしら……)タンッ

漫(っと、やっと普通の配牌になりよったか……いや……待て……普通か、これ……?)タンッ

 七巡目

玄(あ……あれ……宮永さん……さっきから手出しで筒子しか切ってない……?
 って……まさか……神代さんのあれを真似してるんですか……!!!? あわわわ……あ……でも! 八筒がドラ……!! 今は三枚しかないけど……四枚目が宮永さんのところに行くなんてことは……ないはず……!)タンッ

美穂子(一見して神代さんの一色独占ね……私と上重さんに関しては絶一門状態のようだし……。
 けど……この場……字牌があまりに見えていない……神代さんの一色独占だとすると……私たちのところに字牌が来ないのは不自然……どちらかと言えば石戸さん寄りの一色独占なのかしら……)タンッ

漫(これ……末原先輩が体験しとった絶一門……!!? 嘘やろ……しかも……宮永咲……捨て牌が全部筒子とか気持ち悪過ぎるわ……! けど……まあ八筒がドラなんやから……まさか九蓮ってことはあらへんよな……?)タンッ

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(ど……どうしよう……宮永さんが清一なら……これは通る……よね……?)タンッ

咲「ポン……」タンッ

玄(えっ……? あれ……清一じゃないの……どうなってるの……?)タンッ

咲「ロン……南……混一……7700は8300」

玄(しまっ……!?)

 咲手牌:①①②③④南南西西西/北北(北):ロン南:ドラ⑧

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲:61100(-34900) 玄:71800(-26900) 美:109200(11200) 漫:157900(50600)

@一年選抜控え室

すばら『今度は混一ううううう!!!! 配牌からして清一に向かうと思いきや……字牌を固めて混一を和了りましたあああ!!! もう何がなんだかわかりません!!!』

泉「あの……大星さん、あれって大星さんの能力とちゃいますか?」

淡「あはっ、もしかしてあなたの目ってよくできたビー玉? 北は鳴いてるし最後は南で和了ってるでしょ。私の能力だったら、そもそも北・南が松実玄さんのところにはいかないよ」

友香「というか、大星さんの能力だと、松実さん以外の二人が絶一門だったことに説明がつかないんでー」

憧「絶一門っていうと……石戸霞か神代小蒔か。まあ、それも玄には通じなかったみたいだけど」

穏乃「うおおおおお!!! なんかみんなの必殺技がいっぱいでてくる!! ラスボスみたい!!! さすが宮永さんっ!!!」

南浦「というか……徐々に点数が上がってるのは……もしかしなくてもそういうことよね」

モモ「となると……7700の次は最低でも8700。けど、嶺上さんのそれはチャンピオンのそれよりも……なんか荒い感じがするっす。さっきのチャンピオンみたいな刻み方はしてこないような……」

優希「なんでもいいからぶちかますじぇー咲ちゃんっ!!!!」

@対局室

南一局三本場・親:咲

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(ちょ……ちょっと待って……!! こんな……こんなことってありえるの……!!!? 宮永さんの……宮永さんの捨て牌が……!!!)タンッ

美穂子(これは……まさか……東横さんのステルス……?
 でも……東横さんのあれは……能力とかそういうんじゃなくて……本人の性質だったような……否……今日の東横さんのステルスは……どこか技術的な面もあった……けど……あれを見ただけでここまで模倣ができるものなの……?)タンッ

漫(な……なんや……捨て牌が見えへん……!!?)タンッ

@三年選抜控え室

石戸「画面だとわかりにくいけれど……他家の反応からすると、どうやら宮永さん、消えてるみたいね」

初美「ええっ!? 消えるっていうと、あの鶴賀の東横とかいう一年生のあれですよねー? でも……あれって真似できるものなんですかー?」

 ――――――

咲『ポンッ!!』タンッ

 ――――――

洋榎「役牌ポンかいな、しょーもなー!」

姫子「あの……ようわからんとですが、鳴いたら鶴賀の人の消えるやつって使えなくなるんですよね……? なんで鳴いたとですか……?」

 ――――――

咲『チーッ!!』タンッ

 ――――――

シロ「え……ちょ……これ……」

豊音「私の友引……!!!? わああああ真似してくれたんだあああちょー感動おおおお!!!」

哩「鳴いとるのもそうやが……あの一年……さっきから赤い牌しか引いとらんぞ……」

セーラ「赤い牌っちゅうと、阿知賀の松実姉のほうやんな……本当に……さっきからどないなってんねん……」

@対局室

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(も……もう何がなんだか……!!)タンッ

美穂子(変化が目まぐるし過ぎるわ……最初は東横さん……次は姉帯さんで……よくよく見たら松実宥さんの真似までしている……でも……どれもこれも中途半場……結局鳴きも二副露で止まったし……どういうこと……?)タンッ

漫(よ……ようわからんが……食らいついたる……!)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄()タンッ

漫「ポンやっ!」タンッ

玄(上重さん……宮永さんの連荘が始まってから静かになってたけど……また盛り返してきたの……?)タンッ

美穂子(何か……無理をしてくるつもりね……? よくわからないけれど……それこそ宮永さんの思う壺のような気がするわ)タンッ

漫(何も……真似っこはあんただけの特技とちゃうで……! 今のうちなら……やろうと思えば……嶺上開花くらい……!!!)

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

漫「カン――! リ……!!」カンッ

咲「ロン。槍槓混一一通中……12000は12900」

 咲手牌:一三八七九九九/(五)四六/中(中)中:ロン二:ドラ5

漫(マ……マジかいな!!!?)

玄(み……宮永さんの槍槓……!!!? 珍し過ぎるよ……!!!)

美穂子(最後は……加治木さんを思わせる槍槓というわけね……しかも……前巡で松実さんを見逃しての槍槓……上重さんを削りたかったのか……。
 それとも……単に槍槓を和了ってみたかったのか……或いは場を引っ掻き回してみたかったのか……どういうことなのかしら……)

咲「……四本場……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲:74000(-22000) 玄:71800(-26900) 美:109200(11200) 漫:145000(37700)

南一局四本場・親:咲

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(ド……ドラが一枚も配牌にない……! これは天江さんパワー再び……!?)タンッ

美穂子(この感じ……三度目の天江さん劣化コピーね……本当に……暴れてくれるわ……!!)タンッ

漫(うう……配牌がまたひどいことに……おっかしいでー……!!)タンッ

 八巡目

美穂子(嶺上開花……海底……警戒しなければならないことが多過ぎて嫌になるわね。
 ただ……海底なら……宮永さん以外誰も鳴かなければ……自身をコースに乗せるために宮永さんが無理に鳴くことになる。そうすれば……リーチ一発ツモが消えるから……ドラが使えない現状……あまり高い点数にはならないはず……)タンッ

咲「カン……」パラララ

玄(き……来た……暗槓!!! 今度こそ嶺上……!!!)

咲()タンッ

玄(じゃ……ない……? どういうこと……?)タンッ

美穂子(や……やられたわ……!!)

 美穂子、冷や汗ッ!!

美穂子(そうだった……宮永さんにはこれがある……誰も鳴かない状況で……門前を保ったまま自らを海底コースに乗せる唯一の鳴き……親の暗槓……!
 これで……本来の海底牌が王牌に取り込まれ……新しい海底牌をツモるのは宮永さん……このまま行けば……天江さんと同レベルの高火力で和了られる可能性がある……これは……なんとしてもズラさないと……)

美穂子「チー……!」タンッ

玄(ふ、福路さん……?)

美穂子(よし……これでとりあえず海底コースはズラした……宮永さんの力は強大だけれど……決して天江さんと同じことができるわけじゃない……私の捨て身の鳴きなら……天江さんでもない限り立て直すことは難しいはず……)

 美穂子、抵抗ッ!!!

 がッ!!! しかしッ!!!!

 十三巡目 

咲「……カン……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(に……二度目の暗槓……!!! ドラ……ドラが三種類になっちゃったよ……!!!)タンッ

美穂子(そ……んな……これで宮永さんは再び海底コース……信じられないわ……二度も暗槓で海底コースに乗せるなんて……天江さんと宮永さんの力を混ぜたような無茶苦茶な場の支配……!? 否……それだけじゃない……!!? その二つの暗槓は……!!!)

 咲手牌:*******/東東東東/北北北北:ドラ西・⑦・③

咲()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(まさか……天江さんの海底だけじゃない……薄墨さんの鬼門までコピーしているというの……!?
 いや……東家で晒しても鬼門にはならないし……そもそもドラが西である以上四喜和はできないはずだけど……宮永さんの多重劣化コピー……まさか天江さんと宮永さんと薄墨さんの力を混ぜてくるなんて……一人で何人分の能力を使いこなす気なの……!?)

@特別観戦室

久「うわー……鬼門までやっちゃうかー。これはさすがの美穂子でも抑えるのは大変そうねー」

和「咲さん……さっきから打ち方がらしくないです……危なっかしくて見ていられません」

灼「これだけごちゃごちゃ掻き回されても……ドラだけはしっかり手に入れるんだから……さすが玄」

久「……ん、鷺森さん、今、なんて?」

灼「えっと……宮永さんがいくら暴れても、ドラだけは玄のところに集まり続けてるなって」

和「そんなオカルトありえません」

久「いや……そうか……なるほどね。そういうことなの……咲」

和「部長、どうかしましたか?」

久「ううん。ただ、ちょっと気付いたことがあるだけ」

和「咲さんの打ち方がおかしい理由がわかったんですか?」

久「大まかにはね。見ていなさい、和。たぶん、あの子、これから私みたいな打ち方するから」

和「………………何をわけのわからないこと言ってるですか」

@対局室

 海底目前ッ!!

玄(ドラ……ドラが溢れちゃうよ……)タンッ

美穂子(まずいわね……劣化鬼門が発動している上に……海の底がもうすぐそこ……なのに……こちらはイーシャンテン……鳴くこともできない……)タンッ

漫(なんかヤバそうやな……今更やけど……!!)タンッ

咲「リーチ……」スチャ

玄(海底直前リーチ……!! これは……本当に天江さんの……!!?)タンッ

美穂子(宮永さん……その手で一萬切りって……まさか……天江さんの海底……薄墨さんの鬼門に続いて……そんなことまで……!)タンッ

漫(だああああ一向聴っ!!!)タンッ

 咲、海底牌に手を伸ばすッ!!!

 直後、宙に舞う――海底牌ッ!!!!

美穂子(う……上埜さん……!!!!)

 咲、投げ上げた牌を空中で掴み、そのまま卓に叩きつけるッ!!!!

咲「ツモ……! リーチ一発ツモ……東南三暗刻……海底撈月……8000オールは……8400オール……!!」

 咲手牌:⑤一二三南南南/東東東東/北北北北:ツモ⑤
 ドラ:西・⑦・③・⑦・6・6

美穂子(な……なんてこと……その五筒……四枚中二枚ある赤五筒は手に入らないわけだから……実質地獄単騎……直前に一萬を切ってチャンタと混一と両面を同時に捨ててまで……敢えてその待ちを選ぶなんて……!!
 最後の最後で上埜さんの悪待ちをも劣化コピー……さらには……ここまで順調に打点が上がってることを考えれば……宮永照さんの連続和了までコピーしていることになるのね……!
 全国クラスの魔物の技を一度に複数人も再現してみせるなんて……本当に……これが人間のやること……!!?)

 美穂子、溜息。

美穂子(いや……一度落ち着きましょう……上埜さんではないけれど……このことに……何か意味があると考えましょう……)

 美穂子、その両眼で、今一度場を見直す。

美穂子(宮永さん……この五連荘……色々な人の真似をして場を荒らしてきた……特に最後は……天江さんと薄墨さんと上埜さんと宮永照さんと……考えたくもないような組み合わせで親倍をツモ……。
 この……一見無茶苦茶な宮永さんの行動に……何か……意図があるとしたら……?)

 美穂子、目に入ったのは、晒された六枚ものドラ表示牌。

美穂子(ドラ表示牌……六枚四種類ね……そういえば、さっき宮永さんが連槓できなかったときも……ドラは四種類だった……ドラ……未だ……場に一枚も見えてこない……)

 そのとき、美穂子に電流走るッ!!!

美穂子(一枚も……見えてこない……? これだけ宮永さんが暴れて……場が掻き回されているのに……一枚も……? しかも……今の一局なんて……海底まで場が進んでいるのに……? 一体……松実さんの手はどうなっているのかしら……)

 玄手牌:③③[⑤]⑦⑦[五]666西西西西
 ドラ:西・⑦・③・⑦・6・6

美穂子(そう……そういうことなの……なるほど……理解できたわ。宮永さん……驚異的な力で私たちを圧倒しているように思えた……この五連荘……一番追い詰められていたのは宮永さんのほうだったのね……!
 この暴風雨のような力の無駄遣いは……いわば……宮永さんの全力の抵抗……! 逃れられない支配の中でもがき苦しんでいたのは……他ならぬ宮永さん自身……!!)

 美穂子、慧眼ッ!!

咲:99200(3200) 玄:63400(-35300) 美:100800(2800) 漫:136600(29300)

@実況室

すばら「ド……ドラを場に引き出したかった……? 松実さんが自ら切る以外の方法で……?」

末原「そうやないと説明つかへんやろ、あないな無茶苦茶な打ち方」

菫「あんな無茶苦茶な打ち方に説明をつけようとするとは、末原さんは小走さん同様に解説の鑑ですね」

純「さすが、二度もあれと戦って二度ともボコボコにされた姫松の大将」

末原「黙らんかいノッポ」

初瀬「えっと……ドラを場に引き出したかった、という話ですよね?」

末原「せや。まあ、半分はこじつけみたいなもんやけどな。まず、最初。天江衣の力をコピーしたときやな。あれは、きっと場を海底まで進めたかったんやと思うで。
 天江衣の場の支配力は宮永咲のそれよりも破格に広範囲やからな。一向聴地獄なんてアホみたいな状況に追い込まれてもなお、松実玄はドラを独占できるのか。それを確かめたかったんやろ」

菫「なるほど。次は、天江さんと園城寺さんですね」

末原「あれはな、たぶん、一巡先にドラをツモれる未来を見たんとちゃうかな。
 いや……順番がちゃうな……ドラをツモれる未来が元からあったんを見たんやなくて……ドラをツモれる未来を見ることで未来をそういう風に捩じ曲げられるか試したっちゅうか……なんや言いたいことがよくわからんな……」

初瀬「園城寺さんの能力は、『一巡先の未来』を『見ること』ですけど、宮永さんがあのときやっていたのは、『見たこと』を『一巡先の未来』にすることだった……ということですか?」

純「悪い、意味わからん」

末原「まあ、わからんでもええわ。あと、あそこでリーチを掛けることで、カンのいい福路さんが暗槓を仕掛けてくることも、宮永咲はわかっとったやろな。そうすると、ドラは裏も含めて一気に四種類になる。
 ま、結局一枚たりとも場には出なかったわけやけどな」

すばら「三回目の和了は……石戸選手の一色独占と、大星選手の字牌占有でしたね」

末原「あれは簡単やな。あのときはドラが八筒やった。やから、他家が萬子と索子の絶一門になるように、石戸の一色独占を発動させた」

初瀬「大星選手の字牌占有能力を真似たのは?」

末原「んー、なんやろね……大星のあれは、配牌時にある字牌に関しては、松実玄と同レベルの支配力を発揮するっちゅう感じやろ?
 どちらも、誰が鳴こうがどうツモろうが絶対にブレん……ちゅうことは、どこかで能力同士がかち合うこともあるかもしれん。そういう風に考えたんちゃうかな。
 例えば、途中で松実玄の手に北と南が入ったな。あれ……大星の能力が絶対やとすると不自然やないか?」

菫「そうですね。基本的に、あいつの配牌時にあった字牌が他家の手に入ることは、他家がそれを配牌で持っているとき以外にありえません」

末原「せやろ? それが、なぜか途中で松実玄の手に舞い込んだ。
 それを、宮永咲のコピーが完全やないからやって考えるのは簡単やけど、もし仮に、水面下で大星の能力と松実玄の能力がぶつかって、大星の能力が競り負けた……その影響が、あの北と南に現れているとしたら、面白いと思わへん?
 例えば、大星と松実玄が戦ったとき、ドラが字牌なら一体どうなると思う? まあ、普通に考えれば大星の配牌にドラが入らへんで終わるんやろが……それやって試してみないとわからへんやんな。
 たぶん、その模擬実験みたいなもんやったんやろ、あれは」

純「次は四回目だな。これは多いぜ。松実宥、東横、姉帯、最後は加治木か」

初瀬「松実宥選手をコピーしたのは簡単ですね。あのときのドラは五索……赤い牌です。それに、松実宥選手は赤ドラも引き付ける。しかも松実宥選手と松実玄選手は姉妹です。能力の強度が同じくらいである可能性は高い。
 特に赤ドラは互いの能力が完全に重なるところですからね、宥さんの能力を玄さんの能力にぶつければ、もしかすると赤が手に入るかもしれない」

菫「姉帯選手の鳴きは……ツモ順を乱す狙いがあったのでしょうか。それに、姉帯選手の裸単騎は、手を高めるためか比較的赤ドラを含んで鳴くことが多い。場合によっては、赤を食えるかもしれないと考えたんですかね」

すばら「えっと……となると、東横さんの消える力はドラと無関係なような……」

末原「いや……東横の能力については、こうは考えられへんか? もし仮に……ドラが場に出ても……それが誰にも見えへんかったら? 最後の最後までドラが場に出たことに誰も気付かへんかったら?
 一見すれば松実玄の支配は崩れてないな。当の本人でさえ、他の誰かの手にドラが渡ったとは気付かずに終わる可能性がある。そんな抜け道があるかもわからんよな?」

初瀬「じゃあ……最後の槍槓はなんだったんでしょうかね……」

末原「んんん、それだけが結局わからへんかったんよ。ま、わからへんっちゅうことは、たぶん……あれはドラと関係ないな。単なる嫌がらせや」

初瀬「えっ?」

純「ま、そこはなんと言っても天下の嶺上使いだからな。自分以外の人間が嶺上を和了ろうとするのは許せなかったんじゃねえか」

菫「ありえますね。宮永咲選手の嶺上に対する想い入れはかなりのものがありますから」

初瀬「そ……そんな理由で……わざわざ見逃しからの槍槓ですか……」

末原「ま、それくらいわざとらしいほうが、他家も警戒するやろ。普通の槍槓やったら、たまたまかな、としか思わへん。けど、あの宮永咲が狙って槍槓したとなると、そら他家はカンを躊躇うようになるわな。
 県大会の決勝で加治木さんがやっとったことと同じや」

すばら「話が横道に逸れましたが、最後の五連荘目は、どういうことだったのでしょう」

末原「まずは、天江衣パートスリーやな。あれは、やっぱり場を最後まで進めたかったんやと思うで。あくまでベースやな。そこに、宮永照の連続和了というブーストが加わる。支配力の底上げやな」

初瀬「天江選手と宮永照選手二人分の力によって支配された場……そこに、他の要素をできる限り詰め込んだんですね。まずは、宮永咲選手自身が得意とする暗槓ですか」

菫「二度も暗槓しましたね、あれでドラが一気に三種類に膨れ上がりました」

末原「しかも、その暗槓で、同時に薄墨初美の鬼門を再現しよった。あのとき、ドラは西やったから、薄墨初美の能力が松実玄を上回れば、ドラの西が手に入る可能性がある」

純「だが、それも上手くいかず、最後に清澄・竹井の悪待ちリーチだな」

末原「せや。竹井久の悪待ち……ちょいちょい手役を捨ててリーチすることがあるな。やけど……それでもあの竹井久の火力が下がらんのは、竹井が高確率で裏ドラを乗せてくるからや。
 あんときはカンドラが二枚増えとったから、同じ状況で松実玄がおらんかったら、きっと竹井は派手にドラ爆かまして和了っとったと思うで。ツモってくるんも赤五筒の可能性が高い。やけど……それも結局は、ただの五筒、しかも裏なしや」

初瀬「松実玄さんの手がとんでもないことになっていましたよね……手牌が全部ドラって……」

菫「さらに恐ろしいのは、残りのドラが全て王牌に取り込まれていたことです。本当に、裏ドラもカンドラも、一枚たりとも他家の手には入らなかった」

末原「松実玄のドラ独占はホンマもんの絶対やで。さっきの局、松実玄は、天江衣、宮永照、薄墨初美、竹井久っちゅう……全国でも最強クラスの支配力を持つ四人分の力を受けて……その全てに打ち勝った。
 まあ、もちろん宮永咲のコピーやから、実質はただ松実玄の能力が宮永咲の支配より強度が高いっちゅう……それだけのことなんやけどな。やけど……それこそとんでもないことやろ?
 宮永咲の化け物レベルは世界的に見ても突き抜けてる。その宮永咲があの手この手を尽くしても……松実玄のドラ独占は崩れん。これは……ホンマにすごいことやで……」

初瀬「しかし……点数状況を見れば、宮永咲選手は完全に息を吹き返しました。逆に、松実玄選手は沈んでいます。
 これは能力バトルではなく、あくまで麻雀なので……支配力がどうとか……そういうオカルトに拘らなくても、宮永咲選手はこの調子で普通に和了っていけばいいのでは……?」

純「それはちょっと違うな、初瀬ちゃん。オカルトってのは、理由のねえ異常現象じゃねえんだよ。そのベースには、本人が積み上げた想いと、貫きたい信念が必ずある。オレらがオカルトに拘るのと、初瀬ちゃんが技術を磨くのとには、なんの違いもねえ。
 オレらにとっての能力ってのは……侍にとっての刀みてえなもんだ。いくら戦いに勝っても、刀を折られたままじゃ、そりゃ負けたようなもんなんだよ」

菫「まあ……色々な戦い方があるでしょうね。初瀬さんの言い分も、井上さんの言い分も、もっともだと思います」

末原「せやけど……ま、結局は勝ったもん勝ちやんな! まだまだトップは漫ちゃんやでっ!! 宮永咲やか松実玄やか知らんけど、何度でも言うわ! トップはうちの漫ちゃんやでっ!!!」

すばら「それはさておき実況を再開しましょうっ!!! 宮永咲選手の五連荘でまだまだ勝負はわからなくなりましたっ!!! 南一局はとうとう五本場に突入ですっ!!!!」

@対局室

南一局五本場・親:咲

玄(どどどどどどどうしよう!! また焼き鳥だよっ!! これじゃチャンピオンと戦ったときと同じ!!! 私ただのドラ置き場っ!! それだけは……なんとかして……この状況を打開しないと……!)

 一巡目:玄手牌:11333[5]③[⑤]五[五]八北南:ツモ五:ドラ1

玄(ドラは一索……ヤオ九牌か……断ヤオは狙えない……対々に持っていければいいけど……これ……どうしようかな……)タンッ

 二巡目:玄手牌:11333[5]③[⑤]五五[五]八南:ツモ5:ドラ1

玄(なんだか……インターハイを思い出すなぁ……あのときも……こうやって追い詰められて……チャンピオンは……止まりそうになくて……私は何もできなくて……他の人が頑張ってるのに乗っかってどうにかしただけ……)タンッ

 三巡目:玄手牌:11333[5]5③[⑤]五五[五]八:ツモ3:ドラ1

玄(今日も……どんどん削られて……あっという間にマイナス三万……宮永さんは……チャンピオンと違って打点制限があるわけじゃないから……ここであっさり安手を和了ったりするかもしれない……何より……いつ嶺上開花を和了ってくるか……わからない)タンッ

 四巡目:玄手牌:113333[5]5③[⑤]五五[五]:ツモ1:ドラ1

玄(今日は……いっぱいカンされちゃったな……ドラが溢れそうで溢れそうで……ずっと恐かった……また……同じことされるのかな……。
 どうしよう……普通に打てればまだいいけど……カンされちゃうと……それだけで何もできなくなっちゃう……手が……ドラだけになっちゃう……私……どうしたらいいのかな……どうしたら……この人たちに……勝てるのかな……)タンッ

 一方、咲ッ!!

咲(つ……疲れた……こんな風に力を使うのは……本当に……何年ぶりだろう……小さい頃のお姉ちゃんもかなり力の扱いが荒かったけど……きっと今の私はもっと荒いだろうな……)タンッ

 一巡目:咲手牌:①⑤⑥⑦78一三三八九西西:ツモ西:ドラ1

咲(お姉ちゃんの連続和了も……私の嶺上開花も……なんていうか……ある種の制限なんだよね……力が強過ぎて……そのまま吐き出しても場が荒れるだけ……。
 だから……力の使い方を磨かないといけない……宝石の原石を綺麗にカットしていくみたいに……感覚を研ぎ澄ませていかないといけない……それができてなかった小さな頃は……力に振り回されて……苦労したなぁ……)タンッ

 二巡目:咲手牌:①⑤⑥⑦78三三八九西西西:ツモ6:ドラ1

咲(今は……力を全力解放するにしても……無制限には開放しなくなった……場の荒らし方だって……見たことある人の感じを真似ることで……けっこう思い通りに引っ掻き回せた……。
 こんなやり方は……今だからできること……インターハイで……いろんな人の打ち方を見て……できるようになったこと……もしかすると……見てるお姉ちゃんをハラハラさせたかもしれないけど……私だって……ちゃんと成長してるんだから……大丈夫だよ……)タンッ

 三巡目:咲手牌:⑤⑥⑦678三三八九西西西:ツモ⑤:ドラ1

咲(でも……色々やってみたけど……どれもしっくりこなかった……お姉ちゃんの連続和了でも……なんだかすっきりしない……私の打ち方じゃないから……合わないことはわかってたんだけど……。
 でも……私の打ち方じゃ……松実さんのドラ独占を止められなくて……だったら他の人のやり方で崩せるかなって思ったけど……やっぱりうまくいかなかったよ……)タンッ

 四巡目:咲手牌:⑤⑥⑦678三三八九西西西:ツモ七:ドラ1

咲(やっぱり……私は嶺上開花じゃないとダメなんだ……! 松実さんに……松実さんの力に敵わないからって……諦めちゃダメだ……!! 嶺上開花は……お姉ちゃんに教えてもらった役……私の……大切な……思い出……!
 このまま一度も和了れずに……終わるわけにはいかない……!!)

 五巡目:咲手牌:⑤⑥⑦678三三七八西西西:ツモ六:ドラ1

咲(よし……これで……準備は整った……!!!)

 咲に見えるのは、次巡の西ツモ、そして――嶺上の五萬ッ!!!

 嶺上開花ツモ――60符2飜は、2000オールッ!!

 二度の和了り拒否……フリテン承知の、八萬切りッ!!

咲(嶺上開花……今度こそ……和了ってみせる……!!! 見ててね……お姉ちゃん……!!!)タンッ

 一方、玄ッ!!!

玄(ど……どうしよう……またドラが固まっちゃった……)
 
 五巡目:玄手牌:1113333[5]5[⑤]五五[五]:ツモ1:ドラ1

玄(あとから赤五筒が来てくれるはずだから……このまま行くなら……三筒を捨てて……五索・五筒待ちのツモり四暗刻を目指す……。
 このうち場に出ているのは……宮永さんが三巡目に捨てた五筒だけ……残り三枚……和了れるかもしれないし……和了れないかもしれない……けど……それ以前に……)

 玄、ツモってきた一索を、見つめる。

玄(四暗刻をテンパイするためには……ドラを捨てなきゃいけない……いや……もちろん……暗槓すればいいのはわかってる……でも……カンしたら……またドラが増えて……結局……またドラを手放すかどうか……迷うことになる……。
 場合によっては……さっきみたいに手がドラだけになっちゃって……どうやっても切るしかなくなっちゃったりとか……そういう感じになっちゃう……)

 玄、思い返すは、インターハイ準決勝。

玄(あのとき……私は勝つために……ドラを切った……けど……あれが正しかったのかどうか……本当は……今もまだわからない。
 ドラと別れなくても勝つ方法があったんじゃないか……ドラを抱えたまま勝つ方法があったんじゃないかって……そのことばかり考えてた……)

玄(今日の対抗戦……天江さんは……私たちに……自分の麻雀を貫いてほしいって言った……私の麻雀……私の麻雀って……なんだろう……勝つためには……ドラと別れることも惜しまないのが……私の麻雀なのかな……?
 なんか……違う気がする……だって……私は……あのドラを切ったとき……あんなに……悲しかったから……!!)

玄(天江さんは……楽しんだ者が勝者だとも言っていた……だったら……ドラと別れて悲しい気持ちになるくらいだったら……私はドラを手放したくない……!!
 でも……インターハイの決勝みたいに……負けたら悲しい気持ちになるから……負けたくもない……! 私は……私の麻雀は……ドラを手放さずに勝つこと……!!
 今は無理でも……いつか……それが私の麻雀だって胸を張って言いたい……!! そのためには……今ここから……頑張るんだ……!! 未来の……なりたい自分になるために……私は……私の麻雀を……貫く……!!!)

玄(ドラ……増えるなら……いくらでも増えていいよ……! 何枚だって……何種類だって……私は抱えてみせる……!!! 大好きだから……大切な……おかーさんとの思い出だから……!! もう……一枚たりとも……一度たりとも……別れるのは……嫌だ……!!!)

玄(見ててね……おねーちゃん……!! それに……おかーさん……!! 私……頑張るから……!!!)

 玄、覚悟、完了ッ!!!

玄「カンッ!!!」パラララ

咲(!!!!?)

玄「カンドラ……捲りますっ!!!」クルッ

 捲られたカンドラッ!!!

 ドラ表示牌は――二索ッ!!!

 即ち三索が……ドラッ!!!

 そして嶺上牌は――咲に見えていたものと同じ……!!!

 玄手牌:3333[5]5[⑤]五五[五]/1111:嶺上ツモ五:ドラ1・3

玄「もいっこ……カンですっ!!!」パラララ

美穂子・漫(松実玄の……連槓……!!?)

咲(そんな……私の嶺上開花が……!!!)

玄「カンドラ……二枚目っ!!!」クルッ

 ドラ表示牌――四萬ッ!!

 即ちドラは……五萬ッ!!!

 玄手牌:[5]5[⑤]五五[五]五/3333/1111:嶺上ツモ5:ドラ1・3・五

玄「まだまだ…………カンですっ!!!」パラララ

美穂子・漫(三連槓……!!!!?)

咲(やめて……それ以上……!! それ以上……私の嶺上牌を取らないで……!!!)

玄「カンドラ……捲りますっ!!!」クルッ

 ドラ表示牌――四索ッ!!!

 カンドラ……五索ッ!!!

 玄手牌:[5]55[⑤]/五五[五]五/3333/1111:嶺上ツモ5:ドラ1・3・五・5

玄「これが……最後です……!!! カンッ!!!!」パラララ

美穂子・漫(四連槓……!!!!!!!?)

玄「カンドラは……!!」クルッ

 ドラ表示牌――九索ッ!!!!

 即ち一索が……ドラッ!!!!!

 玄……全てのドラを抱え尽くすッ!!!

 玄手牌:[⑤]/5[5]55/五五[五]五/3333/1111:嶺上ツモ?
 ドラ1・3・五・5・1

玄「嶺上……ツモります……!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(やめて……! やめて……!! お願い……!!! 嶺上開花だけは……やめてええええええええ!!!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 突如、巻き起こる、風ッ!!!!

 刹那、落ちる、稲妻ッ!!!!!

 瞬間、会場、暗転ッ!!!!

美穂子(停電……!? これは……天江さんのあれと同じ……!!?)

漫(な……!! なんや……何がどうなっとんのや……!!!?)

すばら『た……対局者はそのまま動かないで……お待ちください……予備電源に切り替えますっ!!!!』

 間もなく復旧する電気ッ!!!

 果たして――松実玄の手にした嶺上牌は……!!!!

玄「嶺上……ならずです……!!!」ゴゴゴゴゴゴッ

 玄手牌:[⑤]/5[5]55/五五[五]五/3333/1111:嶺上ツモ⑥
 ドラ1・3・五・5・1

咲(よ……よかった……本当に……よかった……)クラッ

 咲、安堵ッ!!!

玄「よかったです……本当に……よかった……!!」ゴゴゴゴゴゴゴ

 玄、同じく安堵ッ!!!

咲(え…………よかったって……何……が…………?)

玄「これくらいじゃ……まだまだです……!! まだ……全部を抱えてない……!! だって……ドラは……あと半分あるから……っ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 玄、点棒箱を開き、発声ッ!!!

玄「リーチですッ!!!」スチャ

 玄、嶺上牌切りリーチッ!!!

玄(ドラ……全部……私のところに来て……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴ

漫(い……意味わからへん……!! なんや……さっきまでの宮永咲の連荘が……可愛く思えてきたわ……!!)

咲(ツ……ツモなんて……させない……! 松実さんがツモるより前に私が西カンすれば……今回のルールでは……その瞬間に場が流れる……!! それで……次局こそ……次こそ私が嶺上開花を和了るんだ……!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 玄のリーチにうろたえる漫、闘志を剥き出しにする咲ッ!

 一方、美穂子の顔には、微笑ッ!!

美穂子(四暗刻四槓子でリーチって……本当に……ドラのことしか考えてないんだから。けど……その頑張り……流してしまうには少しもったいないわよね……いいわ……今回だけは……特別……協力してあげる……!)

美穂子「……チー」タンッ

咲(!!!!!?)

美穂子(宮永さん……いかにも次巡で暗槓しそうな顔をしていた……さすがにそれで流してしまうのは……この場は惜しいわ……)

咲(ふ……福路さん……!! まさか……松実さんのアシストをして……私を削るつもり……!!!? で……でも……その鳴きじゃ……私のツモるはずだった西が……松実さんの手に入る。
 当然松実さんはそれを捨てるから……私はそれを大明槓すればいいだけ……その瞬間に場は流れる……その鳴きでは……私のカンを止められないはずだよ……!!!)

美穂子(そうね……私の鳴きでは……宮永さんのカンを止められないかもしれない。けれど……忘れたの……? 松実さんのドラ独占能力は……宮永さんの見えている嶺上牌を……槓材を……捩じ曲げるほどの支配力を持っている……!!)

咲(ま……まさか……!? 私の見えていた西が……鳴いてツモ順が変わったから……松実さんがツモる位置に来たから……西がドラに置き換わるなんて……? ありえるの……!?
 嘘……嘘だよ……そんなの……私が嶺上開花どころか……カンもできないなんて……!!!)

美穂子(どうなるかは……ツモってみるまでわからないけどね……けれど……結果はすぐに……わかるわ……!!!)

 そして――!!

玄「ツモです……!! リーチツモ……赤四……ドラ二十……ッ!! 裏二十……!!! 数えるまでもなく役満ですっ!!!!!」

 玄手牌:[⑤]/5[5]55/五五[五]五/3333/1111:ツモ[⑤]
 ドラ:1・3・五・5・1
 裏ドラ:1・3・五・5・1

漫(あああああああああありえへんやろがあああああああああああ!!!!)

美穂子(合わせてドラ四十四……まあ……ルール的には役満である四暗刻四槓子のほうを申告すべきなんでしょうけど……なんにせよ点数は同じよね。
 五本場だから……8500・16500……まあ、ドラ独占能力者の松実さんと卓を囲む以上、これくらいの失点は折込済みよね……)

咲(そ……そんな……どうして西じゃなかったの……どうして…………もう……何もわからないよ…………!!)ガタガタ

玄(ドラ……私の願いに……応えてくれて……ありがとう……!! もう絶対離さないからね……ずっと……一緒だよ……!!!)

 ドラゴンロード、完勝ッ!!!!

咲:82700(-13300) 玄:96900(-1800) 美:92300(-5700) 漫:128100(20800)

@実況室

すばら「すううううううううううううううぶあああああああああああああああるあああああああああああああああああああああ!!!!」

純「そんなに叫ぶな。鼓膜が破れちまうよ」

菫「叫びたくなる気持ちはわかります。軽く発狂しそうですよね。末原さんも、衝撃のあまりどこかへ走り去ってしまいました」

初瀬「これは……神代さんと五分五分のひどさですね……もはや感覚が麻痺してきて何がすごくて何がすごくないんだかわからなくなってきました」

すばら「何はともあれこれで松実玄選手は二位浮上ですっ!! 一方の宮永選手は親っ被りでラスに逆戻りっ!! トップ独走中の上重選手もじわじわと削られてきました!!! 確かなことなど何もない!!
 ルールの枠に収まってるのが不思議なくらいの大将戦ですっ!!!」

純「今にも枠を破壊しそうだよな。なんだよ、ドラ四十四って。漫画か」

初瀬「漫画でもありえないでしょう……」

菫「そろそろ……普通の麻雀を見たいものです。ところで、さっき落ちた雷はどうしました?」

すばら「あ、あれは、どうやら気のせいだったみたいです!! 雷は落ちていません!! ただ、雷が落ちたような衝撃が我々を襲ったこと、停電したことは、事実ですっ!!」

菫「なるほど……ものすごい覇気です……死人が出なければいいですね」

すばら「さあああ!! 大将戦前半、長い南一局を終えて、南二局が始まりますっ!!!」

@対局室

南二局・親:玄

咲(こんなに驚いたのは初めてだよ……松実玄さん……化け物過ぎる……純粋な支配力だけなら……衣さんやお姉ちゃんよりも上なんじゃないかな……)タンッ

咲(さっきの連槓……本来なら……連槓なんてできるわけなかったはずなのに……私に見えていたカンドラと嶺上牌を……松実さんのカンは悉く上書きした……)タンッ

咲(私が連槓したときとは違う……ドラを支配する松実さんが……松実さんの意思でドラを増やした……となれば……当然ドラのほうが松実さんの手に合わせてくれる。
 嶺上牌もカンドラも……松実さんの手からドラが零れることがないように……松実さんにとって都合がいいように……強制変更されていく……最後のカンドラが一索だったのがいい証拠……本当に……とんでもないことをやってくる人だ……)

咲(よくよく考えてみれば……王牌を支配する能力を持った人と戦ったのは初めてだもんなぁ……衣さんも石戸さんも支配できるのは山牌だけだった……あの二人と戦ったときはカンをすることで突破できたんだ……でも……松実さんはそうじゃない……)タンッ

咲(ドラは……カンとは切っても切れない関係にある……私のカンは松実さんの手に影響を与えるし……松実さんの支配力は私のカンに響いてくる。
 松実さんにとっての私……私にとっての松実さん……どちらも天敵なんだ……こうやって正面衝突すれば……喰らい合いになるのは当然……)

咲(そして……今のところ……その喰らい合いは松実さんのほうに分がある。
 お姉ちゃんですら崩せなかった滅茶苦茶な支配力……あのお姉ちゃんが……ドラは絶対に場に出てこないって判断した……それくらい強大な力……そのことに……私はもっと気をつけるべきだったんだろうなぁ……)タンッ

咲(でも……まだ……諦めるわけにはいかないんだ……私が負けたら……一年生みんなに迷惑がかかる……それに……和ちゃんと約束したんだ……どんなときも……全力で打つ……手を……抜いたりしないって……!!)タンッ

咲(立て直すんだ……チャンスは必ず来る……信じるんだ……私の力を……!)タンッ

 一方、漫ッ!

漫(だああああもう。さっきから河底だの槍槓だの海底だのドラ四十四だの……普通の麻雀させてーなっ!)タンッ

漫(ま……今回はその反動なんか……比較的普通そうやけど……逆に言えば……こういう穏やかな場でもないと……いくらうちが調子ええかて和了れへんってことやんな……)タンッ

漫(一応まだ十分プラスやけど……今のアホみたいな役満もある……いつひっくり返されるかわからへん……なるべく……手堅く攻めたいとこやけど……)タンッ

 漫手牌:一三四四五23344567:ドラ③

漫(なんやろな……松実玄の親を流すだけやったら食いタンでもええねんけど……二萬が来たら平和で高め一盃口の三面張……四萬あたりを引けば断ヤオもついて……リーチかければツモって満貫にも届く……この序盤で鳴いてまうんはもったいないか……)

 四巡後

漫(とか言うてたら……なんやねん……いつまで経っても出てこーへんやん……!!)

 漫手牌:一三四四五23344567:ツモ7:ドラ③

漫(ま……もう普通に一萬落としてタンピン確定させとこか……最悪鳴いて食いタンでもええやろ……にしても出てこんかったな……特に二萬は一枚も見えてへんからすぐに来ると思ったんやけどな……こんなんまるで壁やんか……)

 漫、一萬を掴んだ手が、止まる。

漫(待ちや……壁……? そうか……松実玄がドラを壁にするんと同じ……おるやん……この場には……もう一人……一種類の牌を四枚集めるやつが……! せやったら……案外……これはチャンスかもしれへんで……!)

 四巡後

漫「リーチや……」スチャ

咲(上重さんがリーチ……? まずい……先にツモらないと……来い……っ!! っ……そこじゃない……!! どうして……私が見ていたものと違うの……!? 龍の巻き起こす風に……私の花が散らされてる……?)

 咲手牌:二二二四五六七④⑤⑥456:ツモ一:ドラ③

咲(上重さん……タンピンっぽい感じ……なんにせよ……二萬が私の槓材である以上……さっきの連槓のときでもなければ……上重さんの手に二萬が行くことはないはず……。
 他の人には見えてなくても……私にとって見えてる槓材は全部壁になる……いつも……安牌選ぶときには助かってる……ここで七萬を捨てたら嶺上開花ができなくなっちゃうし……ラスなんだから……押す……っ!!)

 咲、打、一萬ッ!!!

漫「それ、ロンや。リーチ一発七対子……6400!!」ゴッ

咲(え……ちょ……それ……っ!!)

 漫手牌:一三三四四22334477:ロン一:ドラ③・九

咲(その手で断ヤオを捨てたの……? どうして……途中までは普通に断ヤオを意識して進めていたはずなのに……! まるで私を狙い打つみたいな……あっ……そうか……そういうことか……!!)

 咲、愕然ッ!!

咲(私の槓材……二萬……それを見抜かれたんだ……! どうやって見抜いたのかはわからないけど……場に一枚も見えていない牌は……ドラでなければ私の槓材である可能性が高い……!
 私は槓材を壁にできるけど……それを逆手に取られて……ううううう……完全にやられちゃった……さすが姫松の大将さんの一番弟子さん……あの爆連荘だけじゃない……この人も……普通に強いんだ……)

漫(ラ……ラッキー……本当に出てきよった……あるもんなんやな……こんなこと……!!)

美穂子(槓材の壁を利用したのね……それは私も考えていたけれど……自分から見て一枚も見えない牌は……序盤のうちはけっこうたくさんある……その中からどうやって二萬が槓材だと見抜いたのか……。
 ただの直感なのか……他に理由があったのかわからないけれど……。
 僅かな可能性を信じて咄嗟に打ち方を切り替えられるあたりは……さすが名門校で一年生からレギュラーを張っているだけのことはある……経験の差が出たのかしら……ここは彼女のほうが一枚上手だったわね……)

咲(でも……まだ……まだあと二局ある……! 点……少しでも……取り返さないと……!!)

咲:76300(-19700) 玄:96900(-1800) 美:92300(-5700) 漫:134500(27200)

南三局・親:美穂子

咲(よし……少しだけど……力が戻ってきた気がするよ……!)ゴゴッ

美穂子(宮永さん……しぶといわね……これだけ追い込まれて……まだ闘志が消えていない……インターハイの決勝のときは……天江さんの力の前に……心が折れそうになっていたこともあったけれど……今回はそうじゃない……。
 この子も……インターハイを経て……成長している……)タンッ

美穂子(けれど……まだまだ……それじゃ足りないのよ……もっと……あなたには絶望が必要……。
 どんなに頑張っても……信じても……強くあろうとしても……打ち崩せない何か……あなたは一度……そういう何かにぶつかったほうがいい……あまりにも……勝ちが過ぎている……)タンッ

美穂子(上埜さんが言っていたわ……入部した頃の宮永さんは……勝つことへのプレッシャーを知らなかったって。
 そのあと……県予選の決勝で一度負けそうになったけど……あれも……更なる強者を求める原動力になっただけだって……宮永さんは……本当の意味で……まだ誰にも負けていない……。
 その強さが……宮永さんの過去とか……お姉さんとの関係とか……そういうところにあるのかもしれないけれど……けど……誰にも負けたことのない人は……チームを背負うことができないのよ……)タンッ

美穂子(チームで戦えば……自分が勝っても他の人が負ける……なんてことが起こる……そんなとき……負けたことのない人は……負けた人に対してどう接せばいいのか……戸惑ってしまう……。
 勝ったときじゃないの……チームが負けたときにこそ……部をまとめる人間の資質が問われる……宮永さんには……それを……学んでほしい……そのためには……一度……徹底的に負けないとダメ……!)タンッ

美穂子(さあ……まだまだ……あなたにはもっともっと凹んでもらうわよ……!)

 五巡目

美穂子「ツモ……三色同順ツモ……2000オール」

咲(ああ……一歩……先を越された……次で……嶺上開花だったのに……!!)

美穂子(早和了りなんかじゃ足りないわね……何か……宮永さんがされて困ること……次は……何をしてあげようかしら……)

咲:74300(-21700) 玄:94900(-3800) 美:98300(300) 漫:132500(25200)

南三局一本場・親:美穂子

美穂子(宮永さんの場の支配も……天江さんや宮永照さん同様……普段通りに手を進めていくと……その制御下に置かれてしまう……。
 なら……宮永さんが想定し得ないことをやってみるのも悪くないわよね……ここは宮永さんのほうが速そう……仕掛けるなら今ね……!)

美穂子「ポン」タンッ

漫(速攻……? させへんで……!)

漫「チーや!」タンッ

美穂子(誘いに乗ったわね……これで……宮永さんが……あとはどう動くかしら……?)

咲「そ……それポンです……!」タンッ

咲(びっくりした……福路さん……全然想定してないところで鳴いてきた……危うく槓材を取りこぼすところだったよ……)

玄(みなさん速攻……でも……私はじっくり攻める……あと一回和了れれば……私なら……プラスにできる……!!)タンッ

美穂子(さて……これで張り替え完了……こんな役も何もない手……上埜さんから頼まれなければ絶対に作らないわ……本当に……重たい役目を負わされたわね……! けど……その重さは……信頼の証……心地いいわ……!)タンッ

漫(よっしゃ……またデカいの張ったで……!!)タンッ

咲(よし……立て直せた……! いくよ……嶺上……!!)

咲「カ――」

美穂子(させると思う……?)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(福路さん……!! そんな……槍槓だけに的を絞って……!!?)

美穂子(まだわからないのかしら……宮永さん……あなたが嶺上開花を狙って場を動かしているとわかっていれば……こちらも対策を練れないことはないのよ。
 普通の大会なら……ここまで徹底して一人がマークされるなんて……宮永照さんでもなければありえないと思うけど……あなたはいずれそのありえない一人になる人……これくらいの逆境は……これから何度も体験することになるわ……)

咲(ううう……どうあっても私にカンをさせないつもりなんだ……!
 困ったよ……これ以上福路さんに親を続けられてもまずい……! 上重さんもテンパってるっぽいし和了られたらまた差が開いちゃう……! 巡目が進めば松実さんが大きいのをツモってくるかもしれないし……ううううう……!!)タンッ

玄(えっ……? 宮永さんが加槓せずに槓材をツモ切った……!?)タンッ

美穂子(やるわね……確かに……槍槓以外で和了れない私の手は……普通に河に切られたらロンできない……これで私の手はただの形式テンパイに成り下がった……。
 けど……自ら槓材を捨ててまで……そこまでして……勝ちに来るのね……本当に……あなたを凹ませるのは……骨が折れるわ……!)タンッ

漫(なんや……カンせんのかい……ま……それならそれで先に和了ったる……!)

 二巡後

咲「ロン……發のみ……1300は1600……」パララ

漫「は……はい(や……安っ!)」

美穂子(安い……けれど……あの加槓を封じられた時点で……これは考えられる最良の結果……私の親を流し……上重さんの高そうな速攻を潰し……松実さんの大物手を防いだ……。
 宮永さん……勝つことへの執念は……文句なしの合格点ね。だからこそ……上埜さんは彼女を大将に据えたのだろうけれど……)

玄(次で……オーラス……!!)

咲:75900(-20100) 玄:94900(-3800) 美:98300(300) 漫:130900(23600)

南四局・親:漫

漫(さあ……これが最後のチャンスや……ここまで来たら……もう稼ぐに稼いで優勝確定させたるで……!!)

咲(オーラス……トップとの差は……五万点以上……ひっくり返すには……役満直撃しかない……!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

玄(わっ……宮永さん……最後の最後で一番すごい感じに……!! このまま何もかもひっくり返しそうです……!!)

美穂子(宮永さん……あなたの力……この目で見させてもらうわよ……!!)

 七巡目

咲(張った……けど……そうだよね……そうだと思ってた……最後も……乗り越えなくちゃいけないのは……この龍の壁……!!)

 咲手牌:①①②②②②③③③③④⑤南:ツモ①:ドラ東

咲(次巡で上重さんが一筒でリーチしてくる……それを大明槓して……三連槓したとしても……清一対々三暗刻三槓子……嶺上開花……数え役満にあと一つ……インターハイの決勝では使えた赤ドラが……足りない……)

咲(なら……もう一段……上げるしかない……! この状況……私がトップを捲くるチャンスは……ここしかない……この大明槓で……役満を――四槓子を和了る……! それしかないんだ……でも……四槓子をするとなると……やっぱり障害になるのが……)

玄()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(松実さん自身は四連槓をしていた……あれは……けど……ドラを従える松実さんだからできたことだ……私が四連槓をしようとしても……きっとドラが言うことを聞いてくれない……また……さっきみたいに……私の見えていた嶺上牌が捩じ曲げられるかもしれない……)

咲(でも……そうじゃないかもしれない……!! まだ……一パーセントでも……勝てる可能性があるなら……私は……それを諦めるわけには……いかない……!!)

漫「(行くでダメ押し……!!)リーチやっ!」チャ

咲「カンッ!」ゴッ

漫(うわっ……嘘やろ……ここで大明槓かいな……!)

 咲手牌:②②②②③③③③④⑤/(①)①①①:嶺上ツモ④:ドラ東

美穂子(恐らくは……インターハイ決勝の再現……だとすれば……当然ここで……!)

咲「もいっこ……カンッ!!」ゴゴッ

玄(す……すごい迫力……これが穏乃ちゃんを力で打ち負かした……宮永咲さんの本気……!!)

 咲手牌:③③③③④④⑤/②②②②/(①)①①①:嶺上ツモ④
 ドラ:東・9・中

漫(大明槓は責任払いって……か……勘弁してくれや……! これ……まさか長野の決勝のやつか……!? やとしても……ドラが使えないなら三倍満止まり……?
 それでも十分痛いけど……もし……宮永咲がその上を狙っとるんやとしたら……トップ陥落やんな……!!?)

咲「もいっこ…………カンッ!!!」ゴゴゴッ

 咲手牌:④④④⑤/③③③③/②②②②/(①)①①①:嶺上ツモ?
 ドラ:東・9・中・西

咲(お願い……お願いだから……もう一度……もう一回だけ……私にカンをさせて……!!!)

漫(や……役満直撃だけは……!!)

美穂子(ドラは既に四種類……! 赤ドラを含めればもう完全に松実さんの許容量をオーバーしている……この上五種類目が開くとしたら……それは……宮永さんの力が松実さんの力を打ち破らない限り……不可能……!
 けど……今の宮永さんなら……もしかすると……!!)

玄(ドラが……溢れちゃう……!! もう……これ以上は無理……!! 私は……ドラを手放したくないの……!! お願いだから……止まって…………!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲(来て……私に……カンをさせて…………!!!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 凛として花は咲き、号として龍は咆えるッ!!

 その――結末は……!!!

咲(は…………ははは………………!!!)

 咲手牌:④④④⑤/③③③③/②②②②/(①)①①①:嶺上ツモ⑦
 ドラ:東・9・中・西

咲(ごめん……和ちゃん……和ちゃんの昔の友達……強過ぎるよ……)クラッ

 咲、打、七筒ッ!!

 嶺上の花、散る……ッ!!!

漫(あ……危なかった……死ぬかと思ったで……)

玄(宮永さんの連槓……四つ目がなくて本当によかったけど……これもう……次巡でドラが来たらドラ切るしかなくなっちゃうよ……)タンッ

美穂子(ふう……さすがに……疲れたわね……)

 花舞いッ! 龍躍るッ!!

 その姿を目に焼き付けた美穂子、小さく息を吐いて、両眼を閉じるッ!!

 同時に開かれる、手牌ッ!!

美穂子「ツモです。断ヤオ一盃口ツモ……1000・2000」

漫(は……なんやそれ……? 宮永咲の七筒を見逃し……いや……違う……前巡にツモ和了り拒否しとるから……フリテンやと……?)

玄(フリテン直後に同じ牌でツモ……? でも……別に手を高めるためのフリテンでもないみたいだし……どういうこと……?)

咲(福路さん……それ……リー棒が出るのを待ったってことだよね……うわ……参ったな……まさか……最初からそのつもりで打ってたんだ……この荒れ場で……私のカンを封じるだけじゃなく……そんなことまで狙ってたんだ……信じられないよ…………)

 咲、消沈ッ!!

咲(力では……松実さんに負けた……得点では……上重さんに負けた……その上……場の支配で……福路さんに負けた……こんなに負けたのは……初めてだよ……)

 大将戦前半――決着ッ!!!

漫「ほな……お疲れさまでしたっ!!」

 意気揚々と対局室をあとにする、トップ、上重漫……プラス20600点ッ!!

玄「お疲れ様です」ペコ

 涙を浮かべながらも胸を張って帰る、三位、松実玄……マイナス4800点ッ!!

咲「お疲れ様……です……」

 残ったのは、立ち上がれないラス、宮永咲……マイナス21100点ッッ!!

美穂子「お疲れ様……」

 そして、咲を見守る二位、福路美穂子……プラス5300点ッ!!

 その成績……25000点持ち30000万点返しの勝負なら、プラマイゼロッ!!!

美穂子「ふふ……どうかしら、宮永さん。少しは凹んでくれた?」

咲「凹みましたよ……ただでさえ……点棒いっぱい取られて……嶺上開花も和了れなかったのに……最後の最後ので……福路さんがあんなことをするんですもん……本当にひどいです……」

美穂子「一年生にできることは三年生にもできる――ってところかしら。ま、本当にできるとは思ってなかったけれどね。運がよかったわ」

咲「よく言いますよ……完敗です。でも…………次は勝ちます」

美穂子「まだそんなことを言う元気があるのね。大した一年生だわ。けれど……負けた気になるのも……次のことを考えるのも……まだ早いんじゃないかしら?」

 美穂子、微笑を残して、去るッ! 

咲「え……ちょっと……福路さん……? どういう……ことですか……?」

 美穂子を追おうとした咲、目に入ったのは、入れ違いに現れた――天使ッ!!

和「咲さん……!!!」

咲「の……! 和……ちゃん……!」

和「咲さん……大丈夫ですか……? とても疲れているようですが……」

咲「う……うん……疲れたよ……嶺上開花も和了れなかったし……断ラスだし……福路さんにはプラマイゼロをやられちゃうし……」

和「普通、嶺上開花なんて狙って和了れません。あと、この勝負は十万点持ちなのでプラマイゼロとか関係ありません」

咲「でも……負けちゃったことに変わりはない……よね」

和「どんなに強い人でも負けることはあります」

咲「で……でも……! 私の負けは……みんなの……!!」

和「みんなの……なんですか?」

咲「みんなの……負けになっちゃうから……」

和「もう……何を言ってるんですか、咲さんっ!」ガバッ

 和、抱きつくッ!!

和「咲さん……咲さんが……全部背負うことなんてないんです! たまには……負けてください! 負けて……みんなを頼ってくださいっ!!
 私……嬉しいんです……咲さんのあとに打てることが……咲さんから後を任されることが……嬉しいんです……! だから……お願いです。今日は……咲さんの負け分を……私に取り返させてください!!」

咲「ううう……和ちゃん……ごめん……!! 私……負けちゃったよ……!! ごめん…………!!」ポロポロ

和「知ってますよ、見てましたから。それで……負けた咲さんは……私にどうしてほしいんですか……?」

咲「和ちゃん……勝って……!! 私の負けた分……取り返して……!!」ポロポロ

和「はい……任せてください!」

咲「和……ちゃん……!?」

和「いつもならこんな約束はしません。けど……他ならぬ咲さんの頼み……断れるはずがありませんっ!」

咲「う……うん……!!」

和「絶対に……勝ってみせますっ……!!」

 咲、和、約束ッ!!!

久「あらあら……見せ付けてくれるわねぇ……二人とも」

咲「ぶ……部長、いつからっ!!?」

久「んー、和が咲に抱きついたあたりから」

和「悪趣味にもほどがあります」

久「いいじゃないの。可愛い後輩の強い絆を確認するのも、部長の務めだわ。けれど……いいの、和?」

和「何がですか」

久「絶対に勝つって……相手はこの私よ?」

和「知ってます。部内の成績で言えば、私は部長に負け越しですよね。けど、総合収支では私のほうが上です」

久「ま、そう言うと思ったわ。けど、今日は私だけじゃなくて、鷺森さんもいる。インターハイの決勝で……あなたを削ぎ落した……鷺森さんが」

和「もちろんわかってます。インターハイでは、その負け分を咲さんが穏乃から取り返してくれました。今日は……そのことも含めて、私は咲さんのために勝つつもりです」

久「咲には恩返しで、鷺森さんには意趣返しってわけね」

和「どういう風にとってもらっても構いません」

咲(こ……こんな燃えてる和ちゃん初めて見るよ……!)

 火花を散らす、和、久ッ!!

 少し遅れて、残りの役者も、揃うッ!!

鷺森「どうも……」

末原「ほな……場決めしましょかー」

すばら『間もなく……大将戦後半を始めますっ!! 対局者は席に着いて、それ以外の方は控え室にお戻りください!!!』 

和「咲さん……私なら、大丈夫です。みんなのところに戻ってください」

咲「和ちゃん……本当に、緊張とか……してない? 大将戦だし……相手は部長と鷺森さんと末原さんだし……」

和「もちろん多少は緊張してますが、大丈夫です。相手が誰だろうと、どんな状況だろうと、そんなこと、関係ありません」

咲(あ……和ちゃん……もう顔が赤くなって……羽が……!!)

和「勝つのは……私ですッ!!」

 天使、赤面、羽化ッ!!!

<大将戦前半結果>
一位:上重漫+20600(127900)
二位:福路美穂子+5300(103300)
三位:松実玄-4800(93900)
四位:宮永咲-21100(74900)

@実況室

すばら「大将戦後半……全国選抜学年対抗戦……最後の半荘となりました。お三方、これまでの感想を含めて、この最後の戦いの見所をお聞かせください」

菫「熱戦ばかりですばらしいの一言に尽きますが、私は、副将戦前半、うちの渋谷が奮闘していたのが印象的でした。実戦に勝る練習はないと言いますが、この対抗戦で一皮剥けた選手も多かったでしょう。
 先鋒戦後半の南浦選手、中堅戦後半の泉選手、副将戦前半の新子選手、大将戦前半の松実玄選手……若い世代が育つのは嬉しい限りです。ただ……個人的には、この場は三年選抜に意地を見せてほしいところです」

すばら「なるほど。井上さんはいかがでしたか?」

純「見ていて飽きねえ戦いばっかだったと思う。人智を超えたような和了りを見せるやつ……それに必死で抗うやつ。たっぷり楽しめたぜ。観客席じゃなく、こうやって実況席から見るのもまた一味違って面白かったしな。
 ま、最後の半荘の結果がどうだろうとオレには関係ねえが、普通に行けば混成が逃げ切れそうな感じだよな。ま、なんにせよ、いい勝負になることを期待してるぜ」

すばら「ありがとうございます。初瀬さんはいかがです?」

初瀬「今日は……一局一局、一打一打から、勉強させていただきました。同世代のトップを走る方々の対局をこんな間近で見ることができて……本当に貴重な体験ができたと思います。
 敬遠していたオカルトにも少し耐性がつきましたし、この一日で私自身がとても成長できた気がします。いつか……今度は解説ではなく選手として、こういった大舞台に立てるよう……頑張りたいです。えっと……最後の半荘ですか。私は一年生の逆転を信じています」

すばら「みなさんありがとうございましたっ!! それではっ!!! 最後の最後まで戦いを見守っていきましょうっ!!! この対抗戦は実況の花田煌と!!」

菫「解説の弘世菫と」

純「同じく井上純と」

初瀬「岡橋初瀬で」

すばら「お送りしていますっ!!! すばらっ!!!!」

@対局室

東家:末原恭子(混成チーム)

末原「よろしくお願いいたします」

南家:鷺森灼(二年選抜)

灼「よろしくお願いします……」

西家:竹井久(三年選抜)

久「よろしく」

北家:原村和(一年選抜)

和「よろしくお願いします」

すばら『最後の決戦……大将戦後半――開始ですっ!!!!』

東一局・親:末原

末原(さてと……とうとう始まってしもたな……漫ちゃん大爆発で手に入れたリード……二位の三年選抜との差は24000点ちょい……ハネ満直撃でひっくり返るこのリードを……守りきればうちらの勝ちや……)タンッ

末原(言うても……そのリードを守りきるんが……どんだけしんどいことやら……いくら魔物はおらんっちゅうても……相手は準決勝で洋榎に競り勝った竹井久と……インターハイ決勝副将戦区間一位の鷺森灼……それにインターミドルの原村和……)タンッ

末原(どいつもこいつもスターや……うちみたいな……無能力の凡人とは違う……ポッと出てサッとインターハイの決勝まで行ってまうような……カリスマを持った人間や……ま……やからって負ける気はないけどな……)タンッ

末原(大体……この面子で公式戦の大将経験があるのはうちだけやろしな……リードを守るんも……ビハインドを取り返すんも……今まで何度もやってきた……! 名門・姫松の大将が……そう簡単に……トップを明け渡す思たら大間違いやで……!!)

末原(さあ……ギアは最速や……! 逃げきったるで……!)タンッ

和「ロン……タンピン三色……7700です」

末原「」

 末原、絶句ッ!!

末原(ま……そういうこともあるわなっ!!!)

和:82600・(7700) 灼:93900(0) 久:103300(0) 末:120200(-7700)

東二局・親:灼

灼(なんだかんだで……大将なんて大役を任されちゃったけど……大丈夫かな……まあ……やれることをやるだけだけど……)タンッ

灼(ハルちゃん……見てるかな……? 私……なぜか大将やってるよ……おかしいよね……あんなこと言ってた私が……ここでこうして麻雀打ってるなんて……)

 ――回想・阿知賀女子麻雀部・二週間前――――

晴絵「おっ、どうした、灼。今日は休みって言ったろ。昨日まで東京にいたんだ。少しは身体を休めろよ」

灼「いや……なんか、落ち着かなくて。そういうハルちゃんこそ、なんで部室に?」

晴絵「ま、私も落ち着かなくて……な。というのは嘘で、私ら教師は夏休みでも普通に仕事があるから学校に来るんだよ。今はお昼休み。部室の窓が開いてるのが見えたから、誰かいるのかなと思って来ただけ」

灼「そう……」

 夏、祭りのあと。

 部室に舞い込む、風。

灼「ねえ、ハルちゃん」

晴絵「ん?」

灼「私、部活やめようかなって思ってるんだ」

晴絵「驚いたな。どうして?」

灼「元々……ハルちゃんのことがなければ、阿知賀で麻雀をしようなんて思わなかったし、玄が誘ってくれたから……まあ今年だけはって感じで入っただけだし。
 それに……まさか本当にインターハイにいけるとは……ハルちゃんが来るまでは……思ってなかったしね」

晴絵「へえ……そうだったのか。なんか、意外だ」

灼「別に……麻雀じゃなくてもよかったんだ。高校生のうちに一回くらいは部活をしてみたかっただけ。たまたま……小さい頃に麻雀を打ってて、多少腕に覚えがあって……それが玄たちの役に立つなら、そういうのもいいかなって。
 で……まあインターハイには出れたわけで……ハルちゃんと一緒に準決勝の壁も越えられた。もう……私がここにいる理由はないような気がする」

晴絵「なるほど。燃え尽き症候群ってやつだ」

灼「そうかも」

晴絵「少し休めばまた打ちたくなるよ。麻雀、好きなんだろ?」

灼「どうなんだろう……今はちょっとよくわからない」

 静寂を埋めるは、蝉時雨。

晴絵「灼……私、来年、ここを離れるかもしれないんだ」

灼「えっ?」

晴絵「来年さ……半年くらいかけて大規模なプロアマ不問の世界大会が行われるんだ。今はチームに所属してない私みたいな一般人でも……国内予選さえ勝ち抜けば世界に出ていける。それに一緒に出ないかって……健夜さんが」

灼「小鍛治プロと……一緒のチームで大会に出るの?」

晴絵「そう。インターハイのあと、久しぶりに会って話をしたら、意気投合してさ。健夜さん……酔うとすごい面白いんだよ……まあそれはいいとして。健夜さんも、今年のインターハイの実況を通して感じることがあったみたい。
 それで、私や健夜さんの代で活躍した人で、プロにはならなかった昔のライバルに声を掛けて……五人のチーム作って……大会にエントリーしようって。ま、そうなると若い三尋木プロなんかは敵になっちゃうんだけどさ」

灼「その大会に出るために……ハルちゃん、阿知賀の監督を辞めるの……?」

晴絵「そういうことに……なるな。お前たちには……悪いと思ってる。今日も……実はさっきまでそのことで少し校長と話してたんだ。ここの顧問については……熊倉さんにお願いできないかな……って考えてる。
 もちろん、大会が終わって、再来年にはまた戻ってくるかもしれない……けど、その頃には……灼は卒業してるもんな……」

灼「ハルちゃん……」

晴絵「ごめんな……私……我儘ばかり言ってさ」

灼「違うよ……ハルちゃん……! 私、嬉しい……! 私……ハルちゃんの麻雀してる姿が……好きだから。また……ハルちゃんの戦ってるところが見られると思うと……もう嬉しくて……!!」

晴絵「泣くなよ……灼」

灼「私……応援してるよ……ハルちゃんがどこに行っても……私……ずっと見てるから」

晴絵「ありがとう……。じゃあ……私も灼を応援していいか?」

灼「え……?」

晴絵「来年のインターハイ……主役は……三年のお前と玄だよな」

灼「いや……だから……私は……」

晴絵「私は……準決勝で負けた。お前らはそれを乗り越えた。県民未踏のベストフォーに辿り着いた。けど……結果は四位だったよな。清澄、白糸台、臨海……点差なんてあってないような接戦だったけど……それでも、表彰台には届かなかった……」

灼「ハルちゃん……」

晴絵「あのな、灼。お前が私のファンなんだとしたら、私は……お前ら阿知賀女子麻雀部のファンなんだよ」

灼「何それ……どういうこと……?」

晴絵「私はな……灼。お前らがトップに立つところを見てみたい。十年前は……お前が私を応援してくれた。今年は……一緒に戦った。だから……来年は……私にお前の応援をさせてくれないか?
 私に……阿知賀が全国優勝するところを……見せてくれないか?」

灼「そんな……ハルちゃんにもできなかったこと……私には……」

晴絵「何言ってんだ。今年はできたじゃないか」

灼「今年は……ハルちゃんがいたから……!」

晴絵「私は何もしてないよ。それに……お前の周りにいたのは……なにも私だけじゃなかっただろ……?」

灼「それは……」

 そのとき、部室の扉、開く。

穏乃「ああああ!!? 灼さん!! それに赤土さんも!! なんだ……みんな考えることは一緒なんですねっ!!」

憧「ハルエに灼……なにやってんの? 今日は部活休みじゃん」

宥「憧ちゃん……それ、たぶん灼ちゃんたちの台詞……」

玄「ホント……これじゃ休みにした意味なかったね」

 ワイワイガヤガヤ

晴絵「灼……私はもう、お前らから十分に力をもらったよ。ありがとう。本当に感謝してる。だからさ……灼。来年は私のためじゃなく、自分のために打ってみろよ。高校生で……この仲間と麻雀が打てるのは……今だけなんだからさ」

灼「ハル……ちゃん……」

 ――――――

灼(ハルちゃん……ハルちゃんの言いたいことは……そりゃ……なんとなくわかるけどさ……でも……私には……やっぱりハルちゃん以外に……麻雀を続ける理由なんて……ないと思うんだ……)タンッ

灼(ハルちゃんが……自分で戦う道を選ぶなら……私は……それを応援してるだけで満足だよ……阿知賀女子麻雀部は……もちろん私も好きだけど……そこに私は……いてもいなくても……どっちでもいい……。
 玄や穏乃や憧が……来年もインターハイに出たとして……私はそれを家のテレビで見ることになっても……別に……構わない……)タンッ

灼(大体……私は穏乃たちみたいに……勝負に熱くなるような性格じゃないんだ……今年のインターハイは……ハルちゃんのために頑張ったんであって……別に……私自身が勝ちたかったわけでも……なんでもない……)

灼(でも……なんでかな……私……こんな性格なのに……見た目だけは真面目そうだから……いろいろなこと……押し付けられちゃうんだよね……)タンッ

灼(ハルちゃんには部長を頼まれるし……天江さんたちからは二年選抜の大将を任されるし……穏乃や憧は来年も私が部長をやるもんだって決め付けてるし……本当に……困る……)タンッ

灼(ただ……期待されたら……頑張らないわけにはいかない。信頼されたら……応えないわけにはいかない。
 応援されたら……たとえ応援してくれた子が……どんなに小さな子だって……ちゃんと相手してあげて……ネクタイまでプレゼントしちゃうような……そういうカッコいいとこ……見せなきゃいけないって……思っちゃうんだ……思っちゃうんだよ……!)タンッ

灼(だって……私の大好きな赤土晴絵っていう選手が……そういう人だから……!!)

灼「リーチ……!」スチャ

久(親リーね……大きそうな感じ……これは和じゃなくてもベタオリよね)タンッ

和()ヒュン

末原(頼むで……いきなり親っパネとかやめてや……!)

灼(私個人の感情は……どうでもいい。そんなことより……私はあの赤土晴絵の後輩として……教え子として……阿知賀女子麻雀部の部長として……この場で麻雀を打ってる……!
 ハルちゃんの大ファンで……ハルちゃんの弟子でもある私は……いついかなるときも手を抜かない……!! 全力で勝つための麻雀を打つ……!! 私がここで腑抜けた麻雀を打って……赤土晴絵の名に瑕をつけるわけには……いかないから……!!)

灼「ツモ……! メンピン一発ツモドラ一……4000オール……!!」

 灼、ストライクッ!!!

久(阿知賀の部長……筒子の多面張でツモることが多い子だったわね……来る牌がわかってるなら……リーチをかけて一発ツモを狙いやすい……私の悪待ちと違って色々なパターンがありそうだし……興味深い力よね……)

末原(あ……あっという間にリードが一万点になってもうた……ごめん、漫ちゃん!!)

和(…………)

和:78600(3700) 灼:105900(12000) 久:99300(-4000) 末:116200(-11700)

東二局一本場・親:灼

和(阿知賀の鷺森さん……わざわざ待ちを筒子に寄せていった……決勝では……時々部長のように悪い待ちに取ることも多かった……まったく……理解できません)ヒュン

和(出和了り重視とか……悪い待ちのほうが相手の油断を誘えるとか……そんなのは……迷信です……たまたまそれで和了れたことが……記憶に残って……あたかも悪い待ちのほうが和了りやすいなんていう……間違った認識にすり替わる……。
 そんなこと……きちんと統計を取れば……わかることだというのに……)ヒュン

和(普通に考えれば誰にだってわかることです。
 悪形よりも良形のほうが……和了りやすいし打点も上がる。基本に忠実であること……確率に従順であること……期待値を計算して……その場の気分に左右されずに押し引き判断ができること……それが……勝つための最良の道なのです……)ヒュン

和(私には……牌の偏りも……幸運さえなくたっていい……悪い待ちのほうが勝てるとか……筒子待ちのほうが和了りやすいとか……そんなオカルト……要りません……!)ヒュン

和(テンパイ……ダマハネですか……なら……ここはリーチせずに待ちましょう……)ヒュン

 和手牌:11123一二三①②③⑦⑨:ドラ一

 一方、久ッ!!

久(和……あなたはよく……どんなに強い人でも負けることはあると言う……けれど……本当に強い人というのは……負けることを許されない。咲や宮永照がそうよね。
 それに……各校の三年生……今日うちのチームにいるような人たちも……みんな負けることが許されない立場にいた……)タンッ

久(あなたは強いわ……それはもう……この間のインターハイで証明された。その力は十分にチームを背負えるほどだと思う。咲や優希という仲間もいるしね。でも……三人とも……その心は……まだ……普通の一年生と同じ……隙だらけよ……)タンッ

久(今日は……できる限りいろいろなことを教えてあげるつもり……部内の練習とは違う……明確な敵として……あなたの前に立つ……美穂子が頑張って咲を凹ませてくれたんだから……私もこの子を凹ませないとね……)タンッ

久(と……八索ね……)

 久手牌:234[5]666789北北北:ツモ8:ドラ一

久(さあて……和。覚悟しなさい……今日は……あなたの心を揺さぶりに揺さぶってあげるわよ……!)

久「リーチ!」スチャ

末原(来た……清澄の悪待ちや……! とりあえず……現物処理……!!)タンッ

灼(清澄……憧を寄せ付けなかった清澄の部長……このリーチは危険……)

和(部長……手出しの赤五索でリーチ……? 何を狙っているんでしょう……理解に苦しみます)ツモッ

 和、ツモ、八索ッ!!

 和手牌:11123一二三①②③⑦⑨:ツモ8:ドラ一

 久手牌:2346667889北北北:ドラ一

和(部長には自ら待ちを狭くするという悪癖があります……結局……何度議論をしても平行線……この場も……たぶんそうなんでしょう。今は……部長の言う……『ここ一番』というときですからね)

和(まあ……悪待ちはさて置くとして……部長の平均打点は……清澄の中では優希に次いで高い……直撃はかなりの痛手になります。トップとの差は四万点近くありますから……できれば振り込みは避けたいところ……)

和(大将戦の難しいところですね。点数状況によって……目指すものが変わってくる……もちろん……今までだって何度もやってきたことです。半荘一回……トップをまくるのが絶望的なことも多々ありました。そんなとき……私はどうやって打っていたか……)

和(この手……この場面……当然押します。誰が相手でも……私はここで突っ張るでしょう……相手が部長であることは……計算には何も関係ありません……!)タンッ

 和、打、八索ッ!!

久「それよ、和」

 久、微笑ッ!!

久「ロン……リーチ一発混一……裏三……16000は16300……!」パラララ

 久手牌:2346667889北北北:ロン8:ドラ一・8

末原(危なー!! ぎりぎりトップ死守ーーー!!!)

灼(その手で赤五を切るとか……異常……)

和「はい……」チャ

久「へえ……和、振り込んでも動揺なしってわけ?」

和「……対局中ですよ、部長」

久「あぁあ、大事な点棒を取られちゃったわねぇ」

和「……これくらいはよくあることです。放銃率がゼロになることはありません。私にできることは、ただ、それをできる限りゼロに近づけるよう努力することだけです」

久「でも、その八索、私の打ち方を知っている人ならきっと振り込まないわ。私を相手にスジで突っ張るなんて……あなた、何を考えているの?」

和「色々なことを考えています。今回は点差状況的に突っ張る場面だったから突っ張っただけのこと。なんですか……? こんな偶然を取りあげて、私にオカルトを認めさせるつもりですか?
 たまたま部長が待ちを悪く取った。たまたまその直後に私が振り込んだ。だから……部長は待ちを悪くするほうが強い? そんな論理はありえません」

久「そうよね。誰が相手でも和は和の麻雀を打つだけだものね」

和「……なんですか」

久「放銃率がゼロになることはない……どんなに強い人でも半荘一回なら負けることもある……あなたがそう考えたいなら、お好きにどうぞ。大好きな咲にも……そうやって報告するといいわ。
 ごめんなさい、絶対に勝つって約束したけれど、今回はたまたま負けてしまいました、ってね」

和「…………意味のない私語はそれくらいにして、早くサイコロを回してください」

久「あら……ごめんなさい」

末原(うわあああ……感じ悪っ!!)

灼(清澄の部長……あまりにわざとらしい挑発……何を考えてる……?)

和:62300(-12600) 灼:105900(12000) 久:115600(12300) 末:116200(-11700)

東三局・親:久

久「ねえ……和」タンッ

和「…………対局中です、部長」タンッ

久「和の中学……高遠原よね……どうして……団体戦では予選敗退しちゃったの?」タンッ

和「部長、私語は慎んでください」タンッ

久「ムロちゃんにマホちゃん……合宿で会ったけれど……とてもいい後輩じゃない。そこにあなたと優希がいて……なんで勝てなかったのか。不思議でならないわ」タンッ

和「部長」タンッ

久「特にマホちゃん……あなたも見たでしょ……合宿での嶺上開花……あれだけの力を持った子がいて……あなたが教えたのは……安直なカンはしないほうがいい――なんて一般論だけだったの……? そりゃ……勝てないはずよね……」タンッ

和「いい加減にしてください、部長。それ以上は失格になりますよ」タンッ

久「そうね。じゃあ……ここからは静かに和了りを待とうかしら。リーチ……」チャ

和(部長……どういうつもりですか……)タンッ

末原(なんやこの雰囲気……華の大将戦がまさかの泥仕合やで……)タンッ

灼(意図……不明……)タンッ

久()タンッ

灼「ロン。タンピン赤一……3900」

久「(ん……刺されちゃったか……なかなか思い通りには打たせてくれないわね……)……はい」チャ

灼(よし……これでトップまであと六千点もない……ひっくり返してやる)

末原(や……やばいで……他人に気を取られてる暇はあらへん……なんとかせな……!)

和:62300(-12600) 灼:110800(16900) 久:110700(7400) 末:116200(-11700)

東四局・親:和

和(中学……団体戦ですか……)ヒュン

 ――回想・高遠原中学麻雀部――

和「マホちゃん……さっきから変な打ち方してますね。なんでわざわざ打点を下げるようなことを?」

マホ「えっ……? いや……テレビ見てたら……宮永照さんって人が連続和了をしてたのです。こうやって安手からどんどん手が高くなるのですよ!? すごくないですか!?」

和「そんなのはたまたまです。高い手を張ってるのにわざわざ安くする人がいますか。普通に打ちなさい、普通に」

マホ「は……はぁい……」

 *

和「優希、南場になって集中を切らすのは悪い癖ですよ」

優希「そんなこと言われたってのどちゃん、私は天才型だから仕方ないんだじぇー!」

和「じゃあ……南風戦をやりますか」

優希「えっ?」

和「東場で集中力を使い果たすというのなら、これからは南風戦で練習しましょう。それなら、対局の最初から南場です。いつも通りに打てば、集中力が切れるなんてことはありえません」

優希「タ……タコスが足りないじょ!!」

 *

ムロ「先輩……あんまりマホにきつく言わないでやってください。あいつもあいつで頑張ってるんです。ただ……ちょっとマホは真似たがりっていうか、そういう性格なんですよ」

和「性格は関係ありません。それよりも、マホちゃんは初心者なんです。初心者のうちから変な癖をつけると、あとから直すのが難しくなってしまいます」

ムロ「もちろん、それはわかってるんです。わかってるんですけど……もう少し……あいつの気持ちを……憧れを……認めてやってもらえませんか……?」

和「…………善処します」

 *

優希「あう……負けちゃったじぇー……」

マホ「ご……ごめんなさい……マホがいっぱい点棒取られちゃったからなのです……」

ムロ「いや……和先輩以外はみんなマイナスだったから……マホだけのせいじゃないよ……」

和「ただいま戻りました」

優希「おう、和ちゃん。大将お疲れだじぇ」

マホ「ううう……和先輩……ごめんなさい……マホが負けちゃったから……」

ムロ「あと一歩でしたね」

和「…………」

ムロ「ど、どうしました、和先輩?」

和「優希」

優希「ん。なんだじょ」

和「南場で負け過ぎです」

優希「じょ!? のどちゃん、もう反省会モードか!?」

和「それからマホちゃん、どうしてあんな早打ちをしたんですか。あれではミスが出るのが当たり前です」

マホ「う……すいませんなのです……」

ムロ「マ、マホは和先輩みたいに打ちたかっただけなんですよ……!」

和「ムロちゃんは突っ張り過ぎです」

ムロ「そ……それは……マホの取られちゃった点棒……取り返したかったから……すいません!」

和「…………」

 ――――――

和(確かに……私は……チームをまとめたり……人を成長させたり……そういうことはまったくできませんでしたね……)ヒュン

和(思えば……部長は私に色々なことをしてくれました。藤田プロと戦わせてくれたのも部長……エトペンを持たせてくれたのも部長……ツモ切り動作を訓練しろと言ったのも部長。
 まったく意味がわかりませんでしたが……結果的に……私は中学の頃よりずっとミスなく打てるようになりました。部長がいなかったら……私の麻雀は……高校レベルでは通用しなかったかもしれません……)ヒュン

和(来年……来年になったら……後輩が入ってきます。そのとき……私は後輩たちに……何を教えられるでしょうか。優希やマホちゃん……或いは玄さんみたいに……変な癖のある子が後輩になったら……私はそれを矯正するでしょうか。
 例えば……もし咲さんのような後輩が入ってきたら……それでも私は……安直なカンはしないほうがいいと言うのでしょうか……)ヒュン

和(部長の言う通りですね……中学の団体戦……もし高遠原に部長がいたら……高遠原は全国に行けていたかもしれません。部長なら……優希やマホちゃんを上手く扱えたでしょう。
 私には……できなかったことも……部長なら……簡単にやってのけるんでしょうね……)ヒュン

和(と……いけません。対局中に余計なことを考えるなんて……私らしくないです。思考が鈍る……それこそ……部長の思惑通りです)ヒュン

和(誰が相手だろうと……どんな状況だろうと……私は私の麻雀を打つ……それだけです)ヒュン

 ――――――

ムロ「そ……それは……マホの取られちゃった点棒……取り返したかったから……すいません!」

和「…………わかってますよ」

ムロ「えっ……?」

和「ムロちゃんが、いつもは甘い点差計算と点数計算をきちんとやって、その上で勝負を仕掛けていたのは、見ていてわかりました。苦しい場面だったのに……よく頑張ったと思います」

ムロ「和……先輩……?」

和「それから……まあ、優希は東場では断トツでしたね。さすがです。南場でマイナスになったのは、対局前にタコスを食べ損ねたからですかね。いつもの優希なら勝っていたと思います」

優希「のどちゃん……」

和「マホちゃんも、あの東一局の和了りは優希みたいでとてもよかったですよ。それに、一局だけ、きちんと場を見てオリることができていましたしね。マホちゃんはやればできる子です。もっともっと練習して……来年は……勝てるといいですね」

マホ「和先輩……!!」

和「みんなが負けたのは……たまたまです。たった半荘一回ですから、負けることだってあります。けど……私が負けたのは……偶然でもなんでもなく、私自身がミスをしたせいです。取り返せなくて……ごめんなさい……」

優希「の、のどちゃん……どうしたんだじぇ!? 妙にしおらしいじょ!! いつものツンとしたのどちゃんはどこへ!?」

和「だって……だって私……もっとみんなと麻雀したかったのに。一回戦で負けるなんて考えてなくて……私が……最後……振り込まなければ……ちゃんと回していれば……勝てたのに……」

ムロ「の、和先輩……!? そんな……泣かないでください!! 和先輩はこの試合で誰よりも稼いでいたじゃないですか……!? しかも……四位の断ラスで手が重くなりがちな状況で……他校の部長が勢揃いの大将戦でですよ……!!?」

和「状況は……関係ありません。相手が誰かも……関係ありません。私が……私がちゃんと私の麻雀を打てていたら……チームが負けることはなかったんです……」

マホ「和先輩……! 一人で背負い込まないでください……!」

和「背負わせてください……私は……高遠原の大将です。そのくらいは……させてください……」

優希「のどちゃん……」

和「みんな……ごめんなさい。私……練習では偉そうなことばかり言ってたのに……結局本番では……私が一番ダメな打ち方をしてしまいました。本当に……ごめんなさい」

マホ「そんなことないですよ!! 誰がなんと言おうと和先輩が一番なんですっ!!」

優希「そうだじょ! のどちゃんのおっぱいは世界一だじぇ!!」

ムロ「胸は関係ないですよね……」

和「とにかくです。私は高遠原の大将として……このまま終わるわけにはいきません。団体戦は負けてしまいましたが……とても楽しかったです。こっちに引っ越してきてから……またこうやって仲間と麻雀ができるようになるなんて……思っていませんでした。
 優希が私を誘ってくれなかったら、今頃私は……一人でネット麻雀ばかりしていたでしょう。ムロちゃんやマホちゃんがいなかったら……団体戦にはエントリーできませんでした。本当に……ありがとうございます。
 だから……私……みんなにちゃんと恩返しがしたいんです」

優希「恩返しって……そんな大袈裟だじょ」

和「そんなことはありません。みんなは……私に麻雀の楽しさを思い出させてくれました。こんな気持ちは……小学生以来なんです」

マホ「ど……どうするつもりなのですか……和先輩……?」

和「団体戦では負けてしまいました。けれど、一週間後には個人戦が始まります。私は……そこで全国に行きます。そして……みんながいるこの高遠原の名前を……知らしめてやります……!!」

ムロ「全国……インターミドルチャンピオンになる……ってことですか……?」

和「はい。私なら……私がちゃんと私の麻雀を打てれば……それも不可能ではないと自負しています」

優希「確かに! ネットの無敵天使・のどちゃんが降臨すれば全国優勝なんてちょろいもんだじぇ!!」

和「ちょろいかどうかはわかりませんが……。まあ……そういうわけで……これからもう少しだけ……私と一緒に麻雀を打ってください。お願いします……」

マホ「よ……喜んでっ!!」

 ――――――

和(全国で勝つために……私はベストを尽くさなければいけなかった……色々な打ち方をする人がいるネットの中で……安定して勝ちを重ねてきた打ち方……デジタル打ちが……私にとって最善の選択でした……今も……もちろんそれは変わっていません。
 誰になんと言われようと……私はこの打ち方を……改良することはあっても……放棄することはありません……)ヒュン

和(私は……後輩を育てることには向いてないのかもしれません。でも……マホちゃんみたいに……私に憧れてくれる子がいる以上……私は先輩として……負けるわけにはいかないんです。
 部長の安い挑発に乗って自分の打ち方を崩すような……そんな弱い私は……私ではありません……)

和「ロン。平和三色ドラドラ……12000」パラララ

灼「……はい」チャ

灼(この状況……その手でリーチをかけてこないのか……さっき直撃で凹んだばかりなのに……まったく焦りが見られない。決勝のときもそうだった……最後の最後まで……まるで機械を相手にしているみたいに……この人の考えてることがわからなかったっけ……)

末原(連荘かいな……まあ……うちのとこ以外で点の移動がある分には構へんけど……)

久(さすが和……ブレないわね)

和「……一本場です……」コロコロ

和:74300(-600) 灼:98800(4900) 久:110700(7400) 末:116200(-11700)

東四局一本場・親:和

久(困ったわね。和ったら、咲や優希よりよっぽど中身がしっかりしているわ……これは……ちょっと見くびっていたかしら。
 作戦変更ね……言葉で和を追い詰めても……この子は動じない。だったら……正々堂々……麻雀で和を追い込むしかないわよね……)タンッ

和(部長……今度はやけに静かですね。まあ……さっきのあれは……本心からの言葉ではないとわかっていましたけど。どうやら……どうにかして私を揺さぶりたいみたいですね。
 まったく……全国の人たちを巻き込んで……こんな大掛かりな大会を主催した理由が……大将戦で私と敵同士で打ちたかったからなんて……相変わらずやることが無茶苦茶です)ヒュン

和(けど……いい機会です。私も……部長の悪待ちについては……色々と思うところがあるんです。入部したての頃……そのことで衝突したら……部長は……いつも勝っちゃうから悪待ちをやめられないって言ってましたよね。
 なら……真っ向から打ち負かすまでです。悪待ちで勝てない相手もいるんだということを……私が証明してみせますよ……)ヒュン

久(さあ……張ったわ……まずはこれでトップをまくるとしましょう……)

久「リー……」

和「ロンです。七対子赤二……9600は9900」パラララ

 和手牌:一一二二[五]五6677⑤西西:ロン[⑤]:ドラ①

久「(ちゃー……この子は本当に……なんの気配もなく和了ってくるんだから……戦い難さは咲以上よね……)……はい」チャ

和「……部長」

久「ん、どうかした?」

和「部長の考えていることはよくわかりませんが、赤五リーチなんてふざけた手が、二度も三度も通用すると思わないでください。
 さっき部長が私から直撃を取れたのは……あくまでたまたま。これが順当な結果です。部長の悪待ちなんて……ただの偶然でしかありません」

久「言ってくれるじゃない」

和「何度でも言います。それに何度も言ったはずです。そんなオカルトありえません」

久「オカルトはありえるわよ。私はね……清澄高校麻雀部で……ひたすら一人で悪待ちして……去年はまこを……今年はあなたたちを手に入れた。和、あなたは、私たちの出会いまで偶然で片付けるつもり?」

和「それと麻雀とは……話が別です」

久「いいえ、一緒よ。麻雀は人生の縮図だもの。百人いれば百通りの考え方や打ち方がある。私は……たった一回しかないこの人生……たった一度きりしかないこの勝負……確率と計算だけで乗り切ろうなんて思わない。
 あなたになんと言われようと……これが私らしさなんだもの、変えるつもりはないわ」

和「強情ですね」

久「お互いにね」

和「…………わかりました。部長があくまで悪待ちをやめないというのなら、そんな非効率な麻雀を続けるというのなら、それでも構いません。私の勝率が上がるだけです。勝たせてもらいますよ。咲さんと約束しましたからね……絶対に勝つって」

久「ふふ……勝負に絶対はないんじゃなかったの?」

和「気持ちの問題ですから。現象としてありえないとわかっていても、信じることは自由です」

久「なら……その気持ち、へし折ってあげるわ」

和「お好きにどうぞ。三年選抜のみなさんには……そうやって報告したらいいと思います。すいません、後輩のことが気になって、勝負に集中できずに負けてしまいました、と」

久「生意気ね」

和「部長ほどではありません……では、二本場です……」コロコロ

和:84200(9300) 灼:98800(4900) 久:100800(-2500) 末:116200(-11700)

東四局二本場・親:和

和()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

久()ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

末原(ひゃー……さっきから清澄二人のやり合いがひど過ぎるで……完全に蚊帳の外やん、うち)タンッ

末原(まあ……ようわからんが……なんや先輩後輩言うても色々な形があるってことやんな……清澄は清澄……うちはうちや。
 流れに呑まれてペース崩したらあかん……うちにはうちで……やらなあかんことがあるねん……オカルトがありえるとかありえへんとか……そんなんはどっちでもええ……認めようと認めまいと……魔物っちゅうんは確かにおるもんやし……)タンッ

末原(一打一打に……気が抜けへん……インターハイの準々決勝や準決勝は……勝つことだけにがむしゃらやったからな……。
 今日は……勝つだけやあかんのや……そもそも……うちは……うちが勝つことにも……混成が勝つことにも……大して興味あらへん……うちが目指してるんは……たった一つ……)タンッ

久「リーチッ!!」スチャ

末原(げ……もう言うてるそばから……どないしよ……洋榎はオモロいやつや言うてたけど……こんなんなんもオモロくないで……!)

和「チー」タンッ

久(一発消し……? いや……違うわね。この子……私より先に和了るつもりだわ……!)

末原(原村……その鳴きやと次にあんたがツモるんは竹井の一発目やぞ……まあ……自ら進んで危なそうなところを抱えてくれるんやったら……有難いことやけど……)タンッ

灼(原村和……インターハイの副将戦なら親でもオリていた場面なんだろうけど……今日は点数制限がある……多少の劣勢なら押してくる……ただ……その隙を見逃す竹井さんじゃないよね……)タンッ

久(さあ……和……勝負よ……!)タンッ

和()ヒュン

久「ロンッ! リーチドラ二赤一……裏二ッ!! 12000は12600ッ!!」

末原(うわー……ドラ地獄単騎……出た出た……一発とツモがついとったらトップ陥落やったな……原村には感謝せな)

灼(それで待つ竹井さんもどうかしてると思うけど……その竹井さんと同じ部にいながらそれに振り込む原村和もどうかしてるよ……)

和(大した偶然です……それにしても……これでまたトップが遠のいてしまいましたね……最初よりは幾分マシですが……しかし……このペースでは逆転できません……)

久(私に対してノータイムでドラ切り……振り込んでも動揺なしって……どういう神経してるのかしら……この子……まともに敵として打つとこんなに不気味なのね……和了っても勝ってる気がしないわ)

和:71600(-3300) 灼:98800(4900) 久:113400(10100) 末:116200(-11700)

@実況室

すばら「和あああああああ!!!! なぜそこでドラを切るんですかああああ!?」

菫「原村選手は徹底してデジタル打ちを崩しませんね。相手によって打ち方を変える気がまったくありません」

初瀬「竹井選手は同じ部の先輩で……ドラの地獄単騎は十八番だってわかっていると思うのですが……」

純「わかってるんだろうな。わかってるんだろうけれど、それでも原村和は自分を曲げない。そういう強さもある。なんだかんだ言ってトップとの差は縮まってるわけだから、侮れねえよな」

すばら「しかし……差は詰まったといってもまだ四万点以上あります。和は別に高火力タイプというわけでもありませんから……ここから追いつくのはかなり難しいでしょうね」

初瀬「大将戦後半もついに南入……あと四局しかありません。これは混成チームか三年選抜……または二年選抜も加えての三つ巴になるでしょうか」

菫「まあ……原村選手本人が何を考えているのかは……わかりませんがね」

すばら「おおおおお!!! ここで和のリーチが入りましたあああ!! しかし……これは……!!?」

@一年選抜控え室

 ――――――

南一局・親:末原

和『ツモ……メンタンピンツモ……2600・1300』

 ――――――

穏乃「うおおおおお! 和ああああああああ!!」

モモ「ってか安っ……! せめて裏が乗ってくれればよかったんスけど……」

淡「もーーーのどっちーーーー! もっとバシーンとやっちゃえ、バシーンと!!」

南浦「まあ、これ以上突き放されたら逆転がほぼ不可能になってしまう現状、勝負手でもない限りは、安手でも和了っておくのが妥当。トップとの差は確実に縮まっている」

泉「なんや……原村和はミスのないデジタル打ちやのに……今までの誰よりも見ててハラハラしますわ」

友香「ハラハラ原村さんでー」

憧「咲、どうなの!? 和、勝てそうなの!!?」

咲「わからない……諦めてはいないと思うけれど……私は大将をやってる和ちゃんを見たことがないから。優希ちゃんは、どう思う?」

優希「のどちゃんは……いざとなったらおっぱいで敵を一掃できる……! 心配は無用だじょ!!」

咲(和ちゃん……!)

和:76800(1900) 灼:97500(3600) 久:112100(8800) 末:113600(-14300)

@三年選抜控え室

霞「ふんふむ……清澄の原村さんがデジタルに徹するのはまあ当然として……久さんもあくまで悪待ちに拘るようね」

 ――――――

南二局・親:灼

 十巡目

久『リーチ……!』チャ

 ――――――

初美「原村は私に対しても一貫デジタルでしたからねー。そりゃもう機械の如くでしたよー」

セーラ「しっかし、竹井さんさっきからリーチし過ぎやろー。俺が言えることやあらへんけど、無理して高い手を狙わんでも、今の位置なら安手で逆転できるはずやのに」

姉帯「んーけど、一位になっちゃうと、リーチしたときに他家がオリてこなくなっちゃうから。そんなのいつひっくり返されるかわからなくて恐いよー。それだったら……二位の現状で一発大きな手を和了ったほうが逃げ切れる公算が高そー」

哩「いや、そげん細か計算やなかよ。あれは……たぶん誘っとっとね」

姫子「さ、誘う……? 何を誘っとっとですか……/////」

美穂子「なぜそこで顔を赤らめますか鶴田さん……」

洋榎「あの一年を挑発しとるんやろ。見え見えやん」

シロ(ただ……わからないのは……その誘い……乗ってきてほしいのか……乗らないでいてほしいのか……清澄の部長……一体あの一年生に何を求めてるのかな……)

@二年選抜控え室

 ――――――

和『ポン……』ヒュン

 ――――――

透華「原村……竹井久のリーチに対して……一発目は現物でしたけど、やはり仕掛けてきましたわね」

Q「一方で我らが鷺森さんはオリか。ま、この巡目でリャンシャンテンならしゃーないわな。筒子も手にあらへんかったし、ここは勝負するような場面とちゃう」

絹恵「末原先輩もオリてはるし……これはまた清澄二人の一騎打ちやろか」

玄(ど……どうしよう……和ちゃんを応援したいけど……灼ちゃんも応援したい……どうしよう!)

神代「あ……! は、原村さんが……竹井さんの切った南を……!!」

かおりん「和了れるのに和了りませんでしたね……!! 大丈夫なんでしょうか……!!」

尭深(……生牌の南……見逃し……これは……)

衣「剛毅……これぞノノカの真骨頂」

憩「せやな。このギリギリの状況であないなことする人、全国でもウチくらいしかおらんと思っとったわ」

@混成チーム控え室

 ――――――

和『ロン……中のみ。1300です』パラララ

末原『は……はい』チャ

和:79100(4200) 灼:97500(3600) 久:111100(7800) 末:112300(-15600)

 ――――――

漫「はああああ!? 山越……!!? そんな……ありえへんやろ……!!」

池田「末原さんが南を二枚持ってたのを見抜いてたとしても……あの場面でリーチ者から和了らないとかどんだけだし」

まこ「久から和了ってもトップとの差は2300点しか詰まらん……じゃが、同じ安手でもトップから直撃を取れば……3600点縮まる」

小走「ま、もちろん末原が南を抱えているかどうかは、原村には不明だ。抱えていたとしても確率は七割といったところ。しかし、七割の確率で3600点縮められるなら……期待値は2520点……2300点よりも220点高い。後者のほうが得だな。計算上は」

かじゅ「ただ……どれだけ期待値が高くとも……確実に和了って流せる場面をスルーするなど、普通の人間の神経では不可能。しかし、原村和は……それを、あの場面、あの一瞬で迷うことなく選択した」

怜「しかもあの子、別にオカルト持ちでもなんでもないんやろ? 一巡先が見えるうちかて……山越をするときは、何かのはずみに未来が変わるんちゃうかなーってドキドキするもんや。それをあんな平然と……」

竜華「しかもついさっきデカいのを二度も直撃されとる竹井さんのリーチの中でやで。あの子、本当に血ぃ通ってんのかいな。ちょっと恐いくらいやわ」

宥「……さすが……原村さん……」

照(……まあ……咲をお嫁にもらうと言うなら……それくらいできないと……)

@対局室

南三局・親:久

和(南三局……ラス親とは言え……現時点での差は三万点以上……いよいよ苦しくなってきましたね……)ツモッ

 和手牌:四四七八⑧⑨47南南西發發:ツモ7:ドラ7

和(さあ……どうやって進めたものでしょう……)ヒュン

末原(原村和……化け物とも……魔物とも違う……やけど……さっきの山越……あんなんは人間ともちゃうわ……やとしたら……ホンマに天使なんかもしらんな……)タンッ

和「ポン」ヒュン

 和手牌:四四七八⑧477發發/南南(南):ドラ7

末原(一巡目からダブ南ポン……!? この点差やで……また早和了りかいな……それとも……ここで来るんか……デカいのが……!!? さ……させへん……!)タンッ

灼()タンッ

末原「そ……それポンや……!」タンッ

 末原手牌:五六⑥⑥⑧⑧2246/白白(白):ドラ7

末原(あと二局……さっさと和了っておしまいや……!)

灼(原村和も姫松さんも速攻か……けど……これは鳴いて進めるのは勿体ない……)タンッ

 灼手牌:二三四七七八②③③1248:ドラ7

和「ポンです」ヒュン

 和手牌:四四七八477/發(發)發/南南(南):ドラ7

末原「こっちもポンや……!」タンッ

 末原手牌:五六⑥⑥246/(⑧)⑧⑧/白白(白):ドラ7

末原(全力で流したるで……!!)

 五巡後

和(さて……そろそろ綱渡りになってきましたね……)

 和手牌:四四45778/發(發)發/南南(南):ツモ6:ドラ7

和(けど……まだ……大丈夫……押せます……)ヒュン

 和、打、四萬ッ!!

末原「チー!!」タンッ

和(……一瞬……ひやりとしましたね……)

灼(これで姫松さんが三副露……さすがに張ってるか……)

末原(当然やろ……!!)ゴゴゴゴゴ

 末原手牌:⑥⑥24/(四)五六/⑧⑧⑧/白白(白):ドラ7

灼(けど……こっちもあまり退きたくはない……)

 灼手牌:二三四七八②③③③2348:ツモ6:ドラ7

灼(ドラが見えていないけれど、恐らく七索は、索子で染めてるっぽい原村和の手の中……姫松さんだってそう考えたから……六索を落としてきた……。
 となると待ちはスジ引っ掛けの三索か……次点で一・四索待ち……ヤオ九牌待ちもあるっちゃあるけどね……さて……どうしたもんか……)

灼(私なら……一・二・四筒待ちに持っていければ……リーチ一発で四筒をツモることができる……このまま六・九萬を待つのが無難か……それとも六索を手に残したほうがいいか……?
 いや……ドラの七索が原村和の手にあるんだから……六索残しはメリットが少ない。原村は染め手と言ってもまだテンパイはしてないっぽいし……処理できる索子は今のうちに捨てておこう……)タンッ

 灼手牌:二三四七八②③③③2348:ドラ7

灼(九萬ならリーチ平和三色……六萬ならそこに断ヤオ追加……七・八萬か八索でも……リーチ断ヤオ三色……一発ツモなら……ハネ満でトップをまくれる……裏ドラが乗れば言うことなし……あとは……チャンスを待つだけ……!)

 三者、三様ッ!!

 そこに割り込むは、当然ッ!!

久「みなさん……お楽しみねぇ」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

灼(む……清澄……)

末原(楽しんでなんかおらんわ!! こちとら必死や!! 涙出そうやっ!!)

和(部長……今日見た中で一番悪い顔をしていますね)

 久、開、点棒ケースッ!!

久「和……これが三度目の正直よ。私の待ち……見抜けるものなら……見抜いてみなさい……!!」タンッ

 久、打、ドラの七索ッ!!

久「リーチ……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

和(手出しのドラ切りリーチ……ですか。今度は……何を狙っているんです……部長……)

久「さあ……どうしたの、和……あなたのツモ番よ。鳴かないなら……早くツモりなさい」

和「……失礼。少し……考えさせてください」

 和手牌:四456778/發(發)發/南南(南):ドラ7

和(七索をポンすればダブ南發混一ドラ三……倍満テンパイです。是が非でもほしいところ……もとより……門前でなくとも倍満くらいはいけると思ったから……一巡目から南を鳴いたわけですし……)

和(ただ……この点差……私はもう振り込めない……優希はよく簡単に役満直撃でまくれるとか言いますが……現実はそう都合よくいきません……。
 もちろん……県予選決勝の咲さんのような状況なら……私だって役満を狙いますけど……和了れるかどうかは偶然任せです)

和(それに……部長のリーチ……なんとなく……覚えがあります。藤田プロと打ったときの……送りカンからの狙い撃ち……私の対子落としを見抜いた和了り。それに近いものを感じます。
 実際……部長は私が対子の四萬を落としたのを見てから……リーチをかけてきました。それも、ドラの七索を手出しです……ドラを落としてまで張り替える待ちなど……そうそうありません)

和(普段の私なら……無論ここは一も二もなくオリる場面です。しかし……今は……勝たなくてはいけない……咲さんと……約束しましたから……)

   咲『和ちゃん……勝って……!! 私の負けた分……取り返して……!!』

和(それに……優希や……他の方々の想いも背負って私はこの場にいる。大将戦……中学の団体戦以来ですか……)

   優希『最後までみんなで応援してるじょ!!!』

和(部長のリーチ……これほど理解不能なものもありません……考えれば考えるほど……深みに嵌る。部長ほど人の心を弄ぶ人もいませんし……そんな人のリーチに対して……押し引き判断も何も……あったものではないのかもしれません……)

和(大丈夫……私には……みんながついています……恐れずに……勝負しましょう……!!)スッ

 和、手牌の七索対子に手を掛けるッ!!

 脳裏に過ぎるは――久の微笑ッ!!

   久『それよ、和』

和(くっ……こんな……こんなことが……!! こういうことですか……部長……!! 今日の異常なリーチ率……徹底した私狙いの悪待ち……全て私を試すための……!!)

 和、怯懦ッ!!

和(な……何を震えているですか……私の手……! 部長の二度の直撃など……ただの偶然……! 偶然です……!! 迷うことなんてありません……誰が相手でも関係ない……状況なんて関係ない……勝つために……私は私の麻雀を打つ…………ッ!!!)

 和、強打ッ!!!

和「(行きます……!!)――――!」

   和『それ……ポンです……』タンッ

和(えっ…………?)

   『ロ、ロン……! リーチ一発……裏二……12000……!!』パラララ

和(なんで……こんなときに……中学の頃のことを思い出すんですか……! それも……団体戦の……大将戦……オーラスのことなんて……!!)

   和『……ありがとう……ございました……』

和(あのときのことは……関係ありません……! 私は強くなりました……今はもう……あんなミスは……しません……!! 私はもう……相手や状況に振り回されていた頃の私とは……違うんです……!!)

   和『(……私の……負け……ですか……)』

和(負け……負けは……誰にでもあります……! たった一回の半荘で強い弱いは測れない……!!)

   和『(……どうして負けたんでしょうか……いつも通り打てていれば……今頃勝っていたはずです……)』

和(そうです……いつも通り……自分の麻雀を打っていれば……!!)

   和『(……変ですね……どうして……いつも通りに……打てなかったんでしょう……)』

和(…………ッ!!?)

   和『(……何が……いけなかったんでしょう……どうしてあんなミスをしたんでしょう……あのとき……私は何を考えて……あんな鳴きを……)』

和(……そうでした……忘れて……いました……!!)

   和『(この状況……チャンスはここしかない……それに……この相手なら……大丈夫……通る……)それ……ポンです……』タンッ

   『ロ、ロン……!』

和(そうです……なんで……こんな大事なことを……今の今まで忘れていたんですか……!! 私は……私の打ち方は……言い訳をしたくなくて……勝ちたくて……手に入れた打ち方だったはずです……!!)

   和『状況は……関係ありません。相手が誰かも……関係ありません。私が……私がちゃんと私の麻雀を打てていたら……チームが負けることはなかったんです……』

和(あのとき……私は……本当は少しだけ……こう思っていた……『相手があんな変な打ち方をしてこなければ私が勝っていた』『点数状況に気持ちを縛られなければ冷静に打てていた』……。
 けど……それは……大きな間違いだって……家に帰ってネット麻雀をしていたときに……気付いたはずです……!!)

   和『(あれ……この人……今日の対戦相手に打ち方が似てる……それに……状況も……私が断ラス……けど……あっ……やっぱり……ちゃんと打てば……普通に勝てました……)』

和(結局……私が私の麻雀を打てなかったのは……単純に私が弱かったからなんです……!! 状況や……相手は……関係ない……!! だから……私はあのとき誓ったんです……!
 私が私の麻雀を打てなかったこと……それを……状況のせいにも……相手のせいにもしない……! そこからスタートしなければ……私は強くなれなかった……!!)

   和『(……全国優勝……そのためにはまず……相手や状況に左右されない打ち方を身に着けなければいけませんね……)』

和(状況や相手に関係なく……自分の麻雀を打つ……! それが……私らしさです……!! 自分に言い訳をしたくなくて……! 自分に勝ちたくて……!! 頑張って手に入れた……私の打ち方です……!!!)

 和、深呼吸ッ!! 改めて、手牌を見るッ!!

 和手牌:四456778/發(發)發/南南(南):ドラ7

和「部長……ありがとうございました」

久「あら、私、何かお礼されるようなことしたかしら?」

和「とぼけないでください。部長は……やっぱり尊敬すべき人です。部長のような人に出会えて……よかったです。もちろん、穏乃や憧……優希や咲さん……染谷先輩や須賀くんと出会えたことも。私にとって、とても価値のある偶然でした」

久「価値のある偶然……ね。人はそれを、運命とか必然と呼ぶものよ」

和「人は人です。私は私」

久「そうね……和は和よね。で、その和の一打は、決まったかしら?」

和「ええ……おかげさまで、やっと私らしい麻雀が打てそうです」

久「そう? 今までも十分にあなたらしい打ち方だったと思うけれど」

和「いえ、さっきまでの私は、万全の私ではありません。ちょっと……熱くなり過ぎていました。どうにもいけませんね。これでは中学の頃の二の舞です」

久「ああ……あの大将戦のオーラスのこと……親リー相手に突っ張って……振り込んでいたわね」

和「知っていたんですか……」

久「当然じゃない」

和「そうですか……なら……わかっているはずです、部長……」

久「何が?」

和「私は……あの頃とは違います……!!」ツモッ

 和手牌:四456778/發(發)發/南南(南):ツモ8:ドラ7

和「これが……今の私です……!!」ヒュン

 和、打、七索ッ!

 現物、合わせ打ちッ!!

 一打入魂の……オリッ!!!

和「お待たせして申し訳ありませんでした。対局を……続けましょうか……!!」

 やがてツモは巡り……。

久・末原「テンパイ」

和・灼「ノーテン」

 明らかになる……久の手牌ッ!!!

末原(ちょいちょい……! なんやねんそれ……そんなんするやつ初めて見たわ……!!)

灼(県大会で空聴リーチをしていたけれど……これは……それ以上の……最悪な待ち……)

和「…………部長、どういうつもりですか」

久「ん、なんのこと?」

 久手牌:三三④④⑤[⑤]⑦⑦⑨⑨7東東:ドラ7

和「なんのことじゃありません……ドラ切りの七対子フリテンリーチって……一体何を考えてるんですか」

久「あっ、本当、よく見たらフリテンリーチじゃない。こんなの小学生以来だわ……慣れない大将戦で緊張したのかしら」

和「白々しい……大体……悪待ちをしたら勝てるとかわけのわからないことを言ってたのは部長自身じゃありませんか……けど……いくらなんでもフリテンリーチじゃ勝てませんよ」

久「勝てない? そうかしら……? 私はもうけっこう勝った気でいるんだけど」

和「何を寝ぼけたことを……」

久「そうね……今の和には、まだわからないかもね。来年になったら……わかるかもしれない」

和「……どういうことですか」

久「後輩の成長は先輩の勝利なのよ、和。だから……私の悪待ちで和がまた一つ強くなったのだとしたら……それはもう私の勝ちみたいなものなの」

和「よくそんな屁理屈を思いつきますね」

久「もう……これだけ身近で見続けているのに……まだ私の悪待ちにケチをつけるつもり?」

和「ええ。この際だから何度でも言います」

久「はい、どうぞ」

和「そんなオカルトありえません」

久「和ったら……本当に変わらないわねぇ」

和「そんなこと……ありません。私だって……全国で色々な人と戦いました。色々な人の麻雀を……見てきました……」

 ――――――

玄『うちのおかーさんが生きてた頃にね……クロはもう少しドラを大事にしなさいって』

優希『ずっと東風戦なんてまるでボーナスステージだじぇっ!!』

モモ『私の捨て牌が見える……見えないんじゃ……?』

初美『ツモ……8000・16000ですよー!』

咲『カン……嶺上開花……ッ!!』

 ――――――

和「もちろん現象を信じることはありません。オカルトはありえないんです。けれど……何かを信じる人の気持ちとか……大切なものを守ろうとする人の心とか……そんな想いはありえていいと思います」

久「人の想い、ね……なるほど……それが和の解答なわけか」

和「はい」

久「……わかったわ。じゃあ……対局を再開しましょうか。ごめんなさいね、お二人とも、お待たせしちゃって」

末原「……ホンマやで。ホンマあんたら清澄は無茶苦茶やわ!」

和「えっ……私もそこに含まれているんですか!?」

灼「当然……」

和「そんな……私は普通です……!!」

末原「よく言うわ、そんなデッカい胸しよって!!」

和「む……胸は関係ありません!!」

灼「大層なおもちをおもちで……」

久「ホントよね、少しは咲にわけてあげたら?」

和「さ――ッ!!」

 顔を真っ赤にして立ち上がる、和ッ!

和「咲さんは慎ましやかなのがいいんです!!!!!!!」ゴッ

末原(えええええ……? びっくりした……なんや……本気でキレたんか……?)

和「もう……わかりました……っ!! よほど部長は私を揺さぶりたいんですね……!!!」ゴゴゴゴゴッ

久(ちょっとした冗談のつもりだったんだけど……)

和「いいでしょう……!! やはり……部長は一度痛い目を見ないとわからないようですね……!! フリテンリーチなんてふざけた真似をしたあげく……咲さんを貶めた部長には……私が天罰を下しますっ!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

灼(おお……天使の輪が光って見える……)

和「さあ……勝負はこれからですよっ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 天使、激昂ッ!!!

和:77600(2700) 灼:96000(2100) 久:111600(8300) 末:113800(-14100) 供託:1000

@実況室

すばら「竹井選手のフリテンリーチが炸裂うううううう!!!! この人は本当にもうなんなんでしょうかああああ!!!!!」

純「悪待ちってレベルじゃねえぞ」

菫「まあ……意図していたことはなんとなく想像がつきますけどね」

初瀬「結果的にですけど、末原選手は突っ張って正解でしたね。これで竹井選手以外がノーテンだったら、トップが入れ替わっていたところです」

純「姫松の大将はいつもぎりぎりを生きているイメージがあるよな」

すばら「さあ!! 薄氷の上のトップを守る混成チームがこのまま逃げ切るのか!!? それとも他チームが撃ち落すのか……勝負は南三局一本場に入りますっ!!」

@対局室

南三局一本場・親:久

灼(先輩後輩か……そう言えば……そんな趣旨の戦いだったよね……これ)タンッ

灼(阿知賀はなぁ……元々部活があったところに新入生が入ってきたわけじゃなくて……中学生だった憧や穏乃が中心になってできたチームだから……あんまりそういう上下関係はないよね……私以外のみんなは幼馴染みだし……先輩後輩よりは友達の感覚に近い……)タンッ

灼(特に……憧なんか年上にもタメ口だからね……いや……私もハルちゃんのことハルちゃんって呼んでるから人のこと言えないけど……)タンッ

灼(憧……中学のときとか……どうだったんだろう……阿太中は麻雀部が強いから……それなりに上下関係はあったんだと思うけど……)タンッ

灼(確か……インターハイのとき……一回だけ……憧に先輩って呼ばれたときがあったっけ……)タンッ

 ――回想・インターハイ決勝・会場某所――

憧『あ……灼ぁ……私……私……!』ウルウル

灼『渋谷尭深が最後に一発持っていったし……清澄の部長も暴れていた……仕方ない……』

憧『仕方なくなんか……! だって……玄と宥姉が頑張って守った点棒を……私……あんなに……!』

灼『大丈夫……私が……取り返すから……』

憧『灼……』

灼『仇は……取る。それが……先輩の務め』

憧『う……うん……! お願い……! します……! 灼先輩……っ!!』

灼『……お任せあれ』

 ――――――

灼(そうだった……チームを勝たせることばかり考えてて……うっかりしてた……仇……取らなきゃいけなかったんだっけ……)タンッ

灼(清澄……秋季大会とか……来年のインターハイとか……チームとしてリベンジする機会はたくさんあるだろうけれど……)タンッ

灼(今の三年生……竹井久……この人に……個人的な借りを返すのは……今日……ここでしかできない……!)タンッ

灼(竹井さん……竹井さんにも竹井さんで……後輩に思うところは色々あるんだと思う。けど……私にも……やっぱり大切にしている後輩はいる。憧がやられた分……先輩として……ここで取り返させてもらいますよ……!!)タンッ

灼「リーチ……!!」チャ

久(また高そうで嫌な感じね……鷺森さんには一発ツモがある……その辺は私と通じるところがあるわ……なら……私がされて嫌なことをしてあげましょう……)

久「チー」タンッ

灼(む……鳴かれた。一発消し……でもオリてる感じじゃない……速攻で流すつもり……?)

和(…………オリ)ヒュン

末原(マズいで……ここで清澄の部長に連荘されたらかなりマズい……かと言って阿知賀の部長のリーチも無視できんし……ああ……もう……とりあえずオリとこか……!)タンッ

灼(ツモならず……か。けど……ツモなんて端から期待してない……今の私が狙ってるのは……ただ一つ……憧の仇……!!)タンッ

久(和と末原さんはオリかしら……これが中堅戦とかだったら……末原さんあたりは気を利かせて差し込みしてくれたかもしれないわね……けど……仕方ない……ここは自力で和了るわ……)タンッ

灼「それ……ロンッ!」

久「!?」

灼「リーチドラ二赤一……8000は8300っ!!」パラララ

久(へえ……これは……今回は筒子待ちじゃないのね。というか……直前でわざわざ単騎待ちに切り替えてる……もしかして……ピンポイントで私が狙われた……? この子……面白いことしてくるじゃない……!)

和(困りましたね……どうせ直撃を取るならトップからにしてほしかったのですが……まあ……過ぎたことをどうこう言っても仕方ありません……できることを……やりましょう……)

末原(二年と三年が並びよったか……次がオーラス……今の状況なら……早和了りでもなんでも大丈夫や……なんとか一度もトップ陥落せずにここまで来た……全力で逃げ切ったるで……!!)

灼(二位浮上で……オーラス。この点差……二回戦で穏乃が劔谷をまくったときよりはマシかな。穏乃にできたこと……先輩で部長の私ができないでどうする……! 二年選抜の人たちのためにも……阿知賀のためにも……最後まで全力を尽くす……!)

 全国選抜学年対抗戦……!!!!

 四十人による熱き戦い……!!!!

 大決着……目前ッ!!!!!

和:77600(2700) 灼:105300(11400) 久:103300(0) 末:113800(-14100)

南四局・親:和

末原(っていうか……平たい平たい……!
 対抗戦……これが十回目の半荘やで……それがオーラスまで来て一位から三位までが一万点差ってどういうことやねん……うちが大将やるとこんなんばっかやわ……配牌も微妙やし……鳴くにも鳴けんし……メゲそ……!!)タンッ

末原(なんや……悪いもんでも憑いてんのとちゃうか……? トップでバトンもろたときからイヤーな予感はしてたんやけどな……まさかホンマにインターハイのときみたいな状況に追い込まれるとは思うてへんかったで……)タンッ

末原(しっかし……我ながらここまで焼き鳥でよう耐えたわ……もう十分やろ……十分ハラハラドキドキの展開を見せたやろ……ぼちぼちうちに和了らしてーな……)タンッ

末原(このまま……このまま勝てればなんの問題もあらへんねん……さくっと……ささっと和了って……さっさとお家に帰りたいわ……)タンッ

末原(ほな……もうこれで終わりにしよか……! 行くで……この大将戦……これが……うちの最初で最後のリーチや……!!)

末原「リーチ……!!」チャ

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:ドラ一

末原(リーのみ上等……!!! 無難に華麗に和了ったるで……!!!)ゴッ

@混成チーム控え室

竜華「おおおっ!! 来たで来たで!! やっと末ちゃんのターンや!!」

怜「オーラスでトップが先制リーチとか……完全に負けフラグやけどな」

小走「実際、リー棒分だけ他家が逆転しやすくなるしな。が、あの手ではリーチせざるをえまい。リーチを掛けようと掛けまいと他家がオリてこないとわかっている以上、出和了りできるようにしておけば勝率はぐんと上がる。
 ヤオ九牌含みの両面待ちというのも悪くないだろう」

池田「にゃ!! とか言ってたら原村が九筒を抱えたし!!」

かじゅ「マズいな……さすがは原村和というべきか。的確に押さえるべきところを押さえる」

照(あ……清澄の部長が……)

宥「あっ……竹井さんが……六筒を掴んだ……!! これは……さすがに振り込みますかね……!? 末原さん……やりましたね……!! これで私たちの勝ちですよ……!!」

漫「うわああああ先輩……!!! 最高やああああああああああ!!!」

まこ(ほうじゃな……相手が久じゃなきゃ……末原さんはここで勝っとったかもしれんのう……)

@対局室

久(ん……? ダマでまくろうかと思ってたところに……トップのリーチが入って……すぐあとにこの牌……? ここで……これをツモった意味って……)

 久手牌:一一四五六②③③④④[5]67:ツモ⑥:ドラ一

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:ドラ一

久(ふふ……和だったらベタオリでもない限りここで六筒を抱えるなんてことはしないわよね……でも……私はそうじゃない……あなたほど計算の速くない私は……私にしかない力を信じて戦う……。
 たとえそれが……あなたにとってのオカルトでも……私にとっては……これがリアルなのよ……!!)タンッ

 久、打、三筒ッ!!

 からの――!!

久「リーチ……!!」チャ

末原・灼「!!?」

久(さあ……まくるわよ……!!!)ゴッ

@三年選抜控え室

すばら『竹井選手ッ!! 末原選手の和了り牌を抱えてリーチいいいい!!! あの良形から平和と高め一盃口を同時に捨ててリーチをかけてきましたっ!! これぞ竹井選手と言うべき打牌ですっ!!』

セーラ「おおお! 俺はあれは止まらへんなー。さすがインターハイ優勝校の部長やわっ!!」

豊音「私も絶対止まらないー!! 竹井さんちょーカッコいいよー!!」

洋榎「うちなら止まるなー」

シロ(私もたぶん止まる……)

哩「ま、止まる止まらんはさて置いてやね。あれやと、逆転するにはトップに直撃するかツモらんといけん」

姫子「鷺森か原村に先に和了り牌ば出されたらフリテンとですね。そいたらツモるしかなくなるとです」

初美「もともとあの手ならリーチを掛けずともツモなら逆転できたですよー。六筒を止めるにしてもダマで三色か平和張り替えを待ってもよかった場面ですー。けど……清澄の部長はそうしなかったですねー」

霞「久さんは……敢えてフリテンの危険のあるリーチを掛けてきた。理由は……まあ直にわかるだろうけど……そこまで見越してのリーチだったとしたら、やはり彼女も魔物の仲間よね」

美穂子「見越していたかは……正直、微妙なところだと思います。けれど……どんなに曖昧で不確かな状況でも……上埜さんはちゃんと正解に辿りつく。それが……上埜さんの麻雀なんです」

すばら『おおおおっと!!! そして竹井選手のリーチを受けて……!! とうとうこの人も動くのかああああっ!!?』

@対局室

灼(清澄……リーチを掛けてきた)

 灼手牌:34678二二三四[五]七八九②③④:ツモ一:ドラ一

灼(この手……断ヤオ確定か高め三色になるまでダマで通すつもりだったけれど……この場面……それだと間に合わない……か)

灼(竹井さんからリー棒が出たことで……リーチツモだとトップと同点だったところが……千点分だけまくれるようになった……。
 さすがに逆転条件がトップ直撃のみだとリーチはフリテンが恐過ぎて無理だったけれど……ツモでも逆転できるなら……ここはリーチをかけて勝負に出たほうがいい……。
 たぶん……穏乃なんかは違う打ち方をするかもしれない……けど……私は……行けるときに行く……掴んだチャンスは逃さない……ハルちゃんだって……ここはきっと勝負に行くと思う……!)

灼(ツモる……もしくは……一発なら誰から和了っても逆転……フリテンでなければトップから直撃……勝負……ッ!!)タンッ

灼「……リーチ」チャ

久(あら……ツモ切りリーチ……? 私のリー棒が出たことで状況が変わったのかしら……でも……これは好都合……! これなら誰から和了っても逆転できるわ……!!)

末原(清澄と阿知賀のダブル部長がリーチかいな……二人とも……たぶんうちを直撃するかツモなら逆転……とかなんやろな……こっからは……純粋な運勝負ってことか……ははっ……そんなん最高に自信ないでっ!!)

灼(ハルちゃん……私……まだ迷ってるよ……部活どうしようか……それに……麻雀が好きかどうかも……やっぱりわからないまま。でも……どうしてかな……今……けっこう楽しいんだ。
 麻雀……部活……続ける理由なんて……これくらいでいいのかもしれない。もしかして……ハルちゃんもそうなのかな……? これが終わったら……聞きに行こう……勝っていくから……待っててね……ハルちゃん……!!)

@二年選抜控え室

玄「灼ちゃん……!! 勝負に出た……!!」

かおりん「えっと……ええっと……すいません! 状況がわかりません!!」

菫『末原選手が和了れば混成チームの勝利。竹井選手が和了れば三年選抜の勝利。鷺森選手が末原選手から直撃をとるか、ツモれば、二年選抜の勝利です』

憩「だそうやで~」

小蒔「鷺森さんのリーチは……とても難しい決断だったと思います」

Q「決め手は……やっぱツモで逆転できるようになったことやろな。清澄・竹井のリー棒……あれがなければ……せめて断ヤオが確定するまではダマっとったやろ」

絹「やけど……かえって鷺森さんのリー棒が竹井さんのプラスに働いてしもたな。これで竹井さんは誰から和了っても逆転できるようになった。鷺森さんは……竹井さんにリーチかけさせられたっちゅう感じや……ホンマ……あの三年生は最後まで厄介やで」

透華「細かいことはどうでもいいですの!! ツモればいいのですわ! ツモれば!!」

尭深(……細かいことって……この人……デジタルなのに……)

衣「ともかくこれで三家立直……ラス親のノノカにとっては絶望的な状況……このまま誰かが和了るのを指を咥えて待つか……それとも……!」

すばら『うわあああああああ!! 鷺森選手のリーチ直後……!!! 和……和が絶体絶命の窮地に立たされましたああああああ!!!!!』

@対局室

和(これは……イーシャンテンから……よりにもよってここを引いてしまいましたか……)

 和手牌:222234⑤⑥⑦⑨⑨⑨⑨:ツモ5:ドラ一

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:待ち⑥・⑨ドラ一

 灼手牌:34678二二三四[五]七八九:待ち2・5:ドラ一

 久手牌:一一四五六②③④④⑥[5]67:待ち⑤:ドラ一

和(役無しの五索待ちテンパイ……ですけど……テンパイに取るために九筒を切ったら……恐らく姫松さんに振り込みます……そもそも振り込むと思ったから抱えたわけですし。
 他方……阿知賀の鷺森さんに対しては二・五索が危険な感じで……部長は二・五筒あたりが本命でしょう。となると、切れるのはそれ以外。ですが……七筒や三・四索を切ってしまったら……テンパイに取れない。
 テンパイに取れなければ……振り込まなくとも親流れ……私の負けです……)

和(危険そうなところを……ダマを警戒して早い段階から抱えてしまったのが裏目に出ましたか……せめて……もう一巡早くテンパイできていれば……打ち回すこともできたんでしょうけれど……一歩遅かった……ということですね)

和(負け……負けですか。負けはよくあることですけど……未だに……慣れませんね。副将戦が始まる前……控え室で穏乃と咲さんと大星さんと打ってラスになりましたが……あれだって……本当はとても悔しかったんです。
 半荘一回なら誰だって負けることがある……言うのは簡単です……しかし……実際に負けるのは……大嫌いです……)

和(しかし……とは言えこの状況は非常に困りました。振り込むか、ノーテンか……いずれにせよ私が勝つのは……よく言えば絶望的……悪く言えば……論外です)

和(さて……どうしたものですか……)

@一年選抜控え室

すばら『和……和の手が……止まっています……!! これは……先ほどの竹井選手のフリテンリーチで二度目……!! 一体ここからどうやって逆転するつもりなのでしょうかあああ!!! 和……大ピンチですっ!!』

憧「ピンチってか……完全アウトでしょ! これ!!」

友香「けど……原村さん……手を止めてるってことは考えてるってことでー……あの状況……あの手から……三人を出し抜いて勝つ方法を……」

モモ「ここから勝つつもりっすか……? けど……どうやって……」

泉「何を切っても振り込みかノーテン……やけど……ツモって和了りやない以上……何か切らへんとあかん……やけど……何を切っても……って無限ループやんか……!」

淡「んー……とりあえず、あの手牌十四枚……どれか一枚でも切ったらその時点でダメってことだよねー……だったら……」

優希「だったら切らなければいいんだじぇ!!! 十四牌とも全部抱えればいいんだじょ!!!」

南浦「いや……十四牌とも全部抱えるなんて……そんなのツモ和了りする以外にどうやって……」

穏乃「!!? いや……ある……ッ!! ツモ和了り以外で……十四枚……全部抱える方法が……!!」

咲(和ちゃん……!!!!)

 咲、思念波、送信ッ!!

 果たして――その声は……!!

@対局室

和(ん……今……咲さんの声が聞こえたような……)

 和、思念波、受信ッ!!

和(大丈夫ですよ……咲さん……!)

 和、微笑ッ!!

和(この状況……たとえ勝つことは論外であっても……負けないことくらいは……できます……心配しなくても……それくらい……私にも見えていますよ……!!)

和「カンッ!!」ゴッ

 和手牌:2222345⑤⑥⑦/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ?:ドラ一・?

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:待ち⑥・⑨ドラ一

 灼手牌:34678二二三四[五]七八九:待ち2・5:ドラ一

 久手牌:一一四五六②③④④⑥[5]67:待ち⑤:ドラ一

末原(う……うちの和了り牌を暗槓やと!!? そらないで!! もう泣いたろか!!!?)

久(和のカン……! 珍しい……そりゃ……オーラスでラスなんだから他家のリーチに対してカンドラとか裏ドラとか気にしているような場面でもないけれど……一体何を狙っているの……?)

灼(原村和のカン……? 高校に入ってからの牌譜では一度も見たことなかったけど……どういうこと……?)

和(咲さんと……約束したんです……こんなところで……負けられません……!!)ゴゴゴゴゴゴゴ

@実況室

すばら「和ああああああ!! 末原選手の和了り牌を握りつぶす形での暗槓ですっ!! これなら……これなら振り込まずに且つテンパイに取れる……!!! すばらですっ!!」

初瀬「しかし……原村選手の手は役なし……いくらカンをしたからと言って……この点差をひっくり返して逆転するのは不可能です」

菫「初瀬さん、それは違います」

初瀬「え? で、でも……あの手で和了ろうと思ったらツモるかリーチをかけるしかありません。逆転するには最低でも倍満直撃……松実玄選手じゃあるまいし、カンドラを増やしたところで……役無しの手が一瞬で倍満になるなんてありえません」

純「だーかーらー。誰が逆転しなきゃいけねえんだよ。原村和はラス親だろ? ここで勝つ必要はねえんだよ。あれは……勝つためのカンじゃねえ……負けないためのカンだ」

初瀬「負けない……? 負けないって……それってつまり勝つこと……いや……!? そうですか!! そういうことですか……!!」

すばら「どういうことですか、初瀬さん!!?」

初瀬「リーチです!! リーチをかければいいんですよ!!! そうすれば……」

すばら「おおおお!! 四家立直……!!!! 流局……!!!!!」

菫「そういうことです。カンで和了り牌を握り潰し……嶺上から安牌をツモれば、その牌でリーチをかけ、この絶望的な局面を無に帰すことができます」

純「原村らしいじゃねえか。地味でセコいが……圧倒的に正しい。悪くねえわな」

すばら「あ……あああああ!!? しかし……その頼みの綱の嶺上牌が……!!!?」

@混成チーム控え室

すばら『和……!! 頼みの嶺上牌で竹井選手の和了り牌を掴まされましたああああああああ!!!!!』

まこ「さすが久……そして和じゃな。二人とも最高じゃあ」

 和手牌:2222345⑤⑥⑦/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ[⑤]:ドラ一・⑥

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:待ち⑥・⑨ドラ一・⑥

 灼手牌:34678二二三四[五]七八九:待ち2・5:ドラ一・⑥

 久手牌:一一四五六②③④④⑥[5]67:待ち⑤:ドラ一・⑥

怜「嶺上安牌でリーチやったら四家立直で流れてたんやけどな。竹井さん……さすがにここまで見抜いてのリーチやったわけやないやろうけど……」

竜華「つくづくあくどい待ちをする人やわ……清澄の部長さんは」

漫(も……もう先輩の和了りが遠過ぎて……生きるって辛いわ……)

かじゅ「しかし、原村和がどこまで正確に他家の手を把握しているのかはわからないが、これで二・五索は切れるようになった」

池田「カンをしたことで鷺森さんの一発が消えた……鷺森さんは原村から和了っても確実には逆転できない……状況が状況なら裏ドラ期待の一か八かで和了ってもいいけど……まだツモれる可能性がある以上……当然の和了り拒否だし!!」

宥「じゃあ……勝負は南四局一本場に持ち越し……? リー棒が四本も供託されたら……逆転される可能性が高くなっちゃうよ……。って……あれ? 原村さん……また手が止まった……?」

照(……ここで二・五索を切るようなら……咲はやれない……)

小走「ふん。どうせ猛スピードで計算してるんだろ……期待値を、な」

@三年選抜控え室

 ――――――

和『もいっこ……カンですッ!!』ゴゴッ

久・灼・末原(!!!?)

 ――――――

豊音「わあああああ!!! 連槓!!!? 原村さんの連槓!!? ちょーレア!! ちょープレミア!! そしてなんかすごいことになってる!!!?」

 和手牌:345⑤[⑤]⑥⑦/2222/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ?:ドラ一・⑥・?

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:待ち⑥・⑨ドラ一・⑥

 灼手牌:34678二二三四[五]七八九:待ち2・5:ドラ一・⑥

 久手牌:一一四五六②③④④⑥[5]67:待ち⑤:ドラ一・⑥

初美「どうして二・五索でリーチを掛けなかったんですかねー。それならその瞬間に流局だったですよー?」

霞「そちらのほうが……期待値が低かった、ということかしら」

セーラ「期待値? なんの期待値や?」

姫子「二・五索を切れるっていうんは……モニターを見てる私たちやからわかることとです。原村和には鷺森灼の手の高さまでは見抜けんかった……やからもう一度確実な安全牌を手に入れるためにカンをした……そういうこととですか?」

哩「まあ……もちろんそれもあっとね。ばってん……そういうマイナスの期待値だけやないやろ……さっきの暗槓……あれで赤とカンドラがついて……役無しやった手が二飜高くなりよった。その意味ば考えてみんしゃい」

シロ(まあ……私なら嶺上を二度もツモるとかダルいから二・五索リーチで流局にするけどさ……)

すばら『あああああああ!!!? こ……これは……二つ目のカンドラが……!!!!』

洋榎「ほほう……オモロいやんけ……あの一年……!!」

美穂子(上埜さん……!!)

@二年選抜控え室

玄「和ちゃん……! ドラいっぱいだよ……!!」

 和手牌:345⑤[⑤]⑥⑦/2222/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ?:ドラ一・⑥・⑤

 末原手牌:111345六七八⑦⑧西西:待ち⑥・⑨ドラ一・⑥・⑤

 灼手牌:34678二二三四[五]七八九:待ち2・5:ドラ一・⑥・⑤

 久手牌:一一四五六②③④④⑥[5]67:待ち⑤:ドラ一・⑥・⑤

かおりん「原村さん……!! 役がなかったのに……カンした途端に赤一ドラ三……! すごいです!!」

Q「やけど……いくらドラが乗ったかて役無しやったら意味ないやろ。リーチ掛けたら場は流れるわけやし……宝の持ち腐れやで……こんなん」

小蒔「いや……もしかして原村さん……ここからリーチをかけずにツモで和了りを目指す気なのでは……?」

絹「んなアホな……!? 三人全員が勝負手張ってリーチしとるんやで!? あれがそないな危ない橋渡るような……あっ……!? でも……原村ならありえるで!! なんたってあの薄墨に対して無警戒やったんやからな!!」

憩「この二連槓で、今の原村さんの手の内には他家の和了り牌が全部で十二枚。他家同士で持ち合ってる分や河……それにドラ表示牌も含めると、末原姐さんと清澄の部長さんと鷺森さん……みんな和了り牌はあと一枚しか残っとらへん」

透華「一方の原村和は……嶺上牌を捨てて五・八筒待ちに取れば、和了り牌は残り四枚。ツモれば親満確定プラスリー棒三本ですわ。確率的にはリーチかけずに勝負してもいい場面ですわね」

尭深(……あれ……そう言えば……これって……)

衣「騒ぐのはいいが……お前たち、大事なことを失念していないか? ノノカのあの手……この場面……最も大いなる可能性を!!」

@一年選抜控え室

すばら『和の手が……!!! ついに嶺上牌を掴みます……!!!!』

 和手牌:345⑤[⑤]⑥⑦/2222/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ?:ドラ一・⑥・⑤

穏乃「うおおおおお行っけえええええ和あああああああああ!!!!」

憧「シズ邪魔ああ!!! モニターに張り付くのやめて!!! 見えないっ!!!」

淡「ちょっとちょっとー!! これってもしかしてあれだよねー!!?」

友香「あれでー!! あれでー!!! あれしかないんでーーー!!!」

モモ「おっぱいさん……すごいっす……!! 行けっす!! ぶちかますっす!!!」

泉「ホンマどえらいやつやな……原村和……!! 頼むで……行ったれええ!!!」

南浦「和了り牌はあと四枚……!! 可能性はゼロじゃない……!!!」

優希「何を言ってるじょ、数絵!! 四枚中三枚は端から眼中にないじょ……!! 狙うはただ一枚……!! どうせなら最高の一発を決めてやるといいじぇ……のどちゃん!!!」

咲「和ちゃん……!!! 私の力……受け取って……!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

すばら『あああああああこれはあああああああ!!!!!?』

全員「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!?」

@対局室

和(なんだか……妙に……身体が熱いですね……!!)ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 和手牌:345⑤[⑤]⑥⑦/2222/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ?:ドラ一・⑥・⑤

和(咲さん……カン違いしないでくださいね……別に……あなたのオカルトを認めたわけじゃないんですから……! 私はただ……これが……この場で最良の選択だと思うから……カンしただけなんですよ……!)

 和、嶺上牌に手を伸ばすッ!!

和(だから……咲さん……もし……ここで私が和了れても……そんなのは……ただの偶然です……!!!)

 掴――嶺上牌ッ!!!

和(こんなのは……ただの……価値ある……偶然なんですから……!!!)

   久『人はそれを、運命とか必然と呼ぶものよ』

和(そうですね……部長……!! 確かに……私と咲さんが出会えたことは……部長の言う通り……運命だったのかもしれません……!!)ゴゴゴゴゴゴッ

 果たして――嶺上牌は……ッ!!!

和(そう思えてしまうような……本当に……これは……なかなかの偶然ですね……!!!!!)

 その花は――和の頬と同じ……!!

和「ツモ……!!!」

 赤く……!!

和「赤二……ドラ四…………!!!」

 熱く燃えて――!!!!

和「
















            …………嶺上開花ッ!!!」

@実況室

すばら「嶺上開花おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 ――――――

和『8000オールです……!!!』

 和手牌:345⑤[⑤]⑥⑦/2222/⑨⑨⑨⑨:嶺上ツモ[⑤]:ドラ一・⑥・⑤

和:104600(29700) 灼:96300(2400) 久:94300(-9000) 末:104800(-23100)

 ――――――

すばら「とととと、とんでもないことになりましたあああああああ!!!!!」

初瀬「これで……原村選手――もとい一年選抜が……104600点……!!!」

菫「しかし……トップは依然混成チームです」

純「だが、その混成の点数は……104800点だ!!」

すばら「その差たったの200点んんんんん!!!!! 一年選抜・大将・和っ!!! この土壇場でそれまでの劣勢をひっくり返し……ぴたりとトップの背後につけましたあああああ!!! すばらあああああああああああ!!」

初瀬「手牌を一枚でも切ったら負けが確定する絶望的な状況から、他家の和了り牌を握りつぶす形での二連槓……そして嶺上開花……!! しかも役無しだった手にドラを重ねて一瞬で親倍……!! まるで宮永咲選手のようですね!!」

純「いやいや初瀬ちゃん、その喩えはちといただけねえなぁ」

初瀬「え?」

菫「確かに、連槓からの嶺上開花は宮永咲選手の得意技。しかし……原村選手のあれは……果たして宮永咲選手のそれと同じでしょうか」

純「相手の待ち牌を的確に抱える鋭い読み……それにあの最悪の状況からたった一つの正解を導き出せる冷静さと計算高さ……点差状況と和了率に応じて柔軟に……且つ考えうる限り最良で最適な打牌ができる。
 あれこそ……デジタルの神の化身――原村和の打ち方だ。宮永咲とは似ても似つかねえよ。原村に言わせりゃ、嶺上はただの『偶然』。それ以上でも以下でもねえ」

菫「原村選手の狙いは、あくまで四家立直でした。
 そこに、たまたまカンドラが乗って赤五が入った。瞬時に計画を修正し、期待値を計算、二・五索切りリーチで流局に持ち込めたところを、より安全な牌を手に入れるため、もしくはツモ狙いのダマ……更には僅かに存在する嶺上開花の可能性を考慮して、連槓した。
 あれは……いかに宮永咲選手でも真似できないでしょう。というか、宮永咲選手のカンではまずカンドラが乗りませんからね」

初瀬「こ……これは失言でした。撤回します。原村選手……本当にすばらな嶺上開花でしたっ!!」

すばら「ええええ!? 初瀬さん、それは私の台詞ですよっ!!!!?」

@対局室

和(嶺上開花ですか……ドラ期待でリーチ後に暗槓するときに……たまたま和了れることはあっても……これほど明確に嶺上開花を意識してカンをし……なおかつ和了るなんて……こんなことは今までにありませんでしたね……)

 和、あまりの偶然に、しばしの間、倒した手牌を崩すことができず、放心。

和(これが……嶺上開花……森林限界を超えた高い山の上……その頂にある美しい花園……これが……咲さんの見ている景色……これが咲さんの花ですか……!!)

 和、ツモった赤五筒をそっと撫でる。 

和(もし……咲さんがこの美しい花を咲かせるために……あれだけ異常な頻度でカンをするというのなら……そんなオカルトも悪くありません……無論……嶺上開花は偶然の産物ですけど……)

 和、一息ついて、さっと手牌を崩し、自動卓の中に落とす。

久「あら……いいの? もうちょっとくらい余韻に浸ってても、誰も文句は言わないわよ。珍しいものを見たのは、こちらも同じだしね」

和「いえ……まだ対局の途中です。それに、こんな偶然できた和了りを珍しがっていつまでも眺めるのは……マナー違反ですから」

久「けれど、こんな偶然、一生に一度かもしれないわよ? それでもいいの?」

和「部長……確かに、人生や勝負はたった一度きりかもしれません。しかし、出会いは何度だって訪れます。親しい友人と別れたあとに、違う誰かに出会ったり、そうかと思えばまた昔の友人と意外な形で再会をしたり……。
 人生は長いです。私は、この偶然の出会いが一度きりだとは……思っていません」

久「出会い……か。そうね、お互い、いい出会いに恵まれるといいわね」

和「私はもう十分に恵まれていますよ。部長……今日この場を作ってくれた部長には……感謝してもしきれません」

久「堅苦しいこと言わないでよ、なんだか恥ずかしいわ。それより……もう終わったみたいな口ぶりじゃない。勝負はまだまだこれからよ?」

和「そういう風に聞こえたのなら、謝ります。すいません。個人的には……むしろこれからが始まりくらいな気分なんですけど。まだ……私は咲さんとの約束を果たしていませんから……!」

久「そう……じゃあ、最後まで楽しみましょう。行くわよ、和っ!!」

和「はい……負けません……!!」

@混成チーム控え室

すばら『さあ……!! トップから四位までが一万点差以内にひしめく大接戦……!!! 次で……次で決着がつくのでしょうか!!!? もうどこが勝ってもおかしくありません!!! 勝負は大詰めも大詰め……南四局一本場です!!!』

漫(先輩……末原先輩……!!!)

竜華「上重さん、そんな涙目になっとらんで、笑って見守ろうや。末ちゃんなら大丈夫やって。同じチームなんやから、それくらい知っとるやろ?」

漫「清水谷さん……」

怜「ホンマ、大会での末原さんのしぶとさは異常やで。姫松で目立つんはもちろん洋榎さんやけど……うちが一番戦いたくないんは末原さんや。きっと……この場もなんとかしてくれはるよ」

漫「園城寺さん……。そうですね……後輩のうちが……弱気になっとったらあかんですよね……ありがとうございます」

かじゅ「末原さん……ここまで和了りこそないが、上重さんの作ったリードをぎりぎりのところで守り通している。このまま終わるとは思えない」

まこ「じゃが……こりゃあ身内贔屓じゃが……この状況……いよいよ和に手が付けられなくなるかもしれんのう……」

池田「にゃああああ……!! 末原さん……頑張ってだしっ!!」

宥「うん……! みんなで応援すれば……きっと勝ってくれるよ……!!」

小走「そうだな……あの顔はやってくれそうな顔だ。畢竟……最後の最後で勝利を物にするのは……なんの力もない凡人のほうだったりするものだ。末原恭子……その闘牌……しかと見届けさせてもらおう!」

照「…………ガンバ…………」

@対局室

南四局一本場・親:和

灼(オーラス……一本場……点数は減ったけど……親のツモだから勝利条件はさっきと変わらない……けれど……状況は一変した……)タンッ

久(和……和の勝利条件は単純よね……なんでもいい……和了ればその時点で勝ち……たとえ流局してもテンパイしていればノーテン罰符で勝てる可能性だってある……)タンッ

灼(倍満直撃でなければ一発逆転ができなかったさっきまでとは……まるで比べ物にならない……この対局が始まったときから原村和が背負っていた大差が……限りなくゼロになった……)タンッ

久(これで……和を縛るものは何もなくなった……点差の枷も……ラス親で連荘しなければならないという重圧も……さっきの嶺上開花ですべて振り払った……天使は……完全に解き放たれたわ……)タンッ

灼(一方こっちは……逆転するために満貫くらいの点数がほしいところ……)タンッ

久(私と鷺森さんの手が重くなっている中……和だけが……自由に羽を広げ……天高く飛んでいく……)タンッ

灼(こちらは……その速さに……!!)タンッ

久(ついていけない……!!)タンッ

和「リーチ……」チャ

灼・久(速い……!!)

末原(………………)

@実況室

すばら「和あああああ!! 逆転に繋がるリーのみをテンパイ!!! 当然の即リーでトップ混成チームに王手をかけましたあああああ!!」

純「門前で進めてもこのスピード……さっきまでの重たい打牌が嘘のようだぜ」

初瀬「まるで羽が生えたようですね……これが全中を制した原村選手の最高速……!!」

菫「他方、二年選抜と三年選抜には苦しい展開です。この状態の原村選手を止められるのは……もう末原さんしか残っていないでしょう……」

すばら「ああああ!!!? これは……!! こんなことがあるんでしょうか!! 混成チーム大将・末原選手……この局面でまさかの……!!!」

@対局室

南四局一本場・親:和

末原(出会いと……別れか……なんや……懐かしいこと思い出してまうな……)タンッ

   漫『う……上重漫です! よろしくお願いします!!』

末原(なんや……えらいちんちくりんが入ってきたと思ったわ……今年のいじられ担当はこいつやな……くらいにしか思わへんかった……)タンッ

 ――回想・姫松高校麻雀部・一年前春――

漫「ロ……ロンです! 12000は12300……っ!」

末原「ちょ……またそんなデカいの張っとったんか……!?」

由子「上重さんはこれでプラ五万……恭子ちゃんのトビ終了なのよー」

絹恵(この人……めっちゃ強いやん……!! さすが名門校やで……一年生でこんな人ばっかやったら……おねーちゃんが卒業するまでに……うちレギュラー取れるやろか……)

洋榎「おー。やっとんなー。なんや、恭子トビやん、だっさー」

絹恵「おねーちゃん……!!」

漫(愛宕洋榎さんや……!! 一年で姫松のレギュラーになった特待生……!!)

末原「見た目と違てむっちゃ強いでー、この子。洋榎も打ってみるか?」

漫「い……いや! そんな! 今のはたまたまですからっ! うちなんて普段はラスばっかなんです、ホンマにっ!」

由子「そうは見えへんかったのよー? 普通はこんだけプラスになったら浮き足立つもんなのよー。でも、上重さんは最後まで落ち着いとったのよー。まるで大勝ちに慣れとるみたいやったのよー」

漫「そ……それは、ホンマにたまたまなんです。うち……なんか波が激しくて……中学の頃からたまに大勝ちすることあって……五回に一回くらいなんですけど……」

末原「25000持ちで五回に一回プラ五万取れるんやったら……残り四回のうち二回はトんでもええって話やな」

漫「そ……そうですか? そんな風に考えてみたことはなかったですけど……」

洋榎「まっ! 細かいことはどうでもええわ! 強いか弱いかなんて打てばわかるやろ!!」

由子「じゃ、ラスの恭子ちゃんが抜けなのよー」

漫「え、えっと……! よ……よろしくお願いします!!」

絹恵「(お……おねーちゃんと家以外で初めて打つ……!!)よろしくお願いしますっ!!」

洋榎「安心してええでー、一年坊。手加減はせえへんからなー」

漫・絹恵「はいっ!!」

末原(上重漫……さっきの話が本当やったら……これが噂に聞く能力持ちなんか……?
 姫松にはあんまおらんタイプやな……たまにやけど爆発的に勝つ力……もし……その割合を上げて……そうでないときも極力失点を抑えるような打ち方ができれば……ええ戦力になるかもしれへんな……)

洋榎「ロンやっ! タンピン三色ドラドラ……18000!!」

漫「ひゃああああ……」

末原(へぼっ!!
 これは……純粋な技量やったら断然洋榎の妹のほうが上やな……っちゅうか……こんなド下手がさっきはプラ五万取ったんか……半端ない爆運やで……やけど……こら底上げするんは大変そうや……ま、育成ゲームみたいでオモロいかもな……)

 ――――――

末原(漫ちゃん……あれからよう頑張ったわ……使い物になるまでほんのちょっと時間かかったけどな……)

 ――回想・姫松高校屋上・五ヶ月前――――

漫「卒業式……三年生のみなさん笑うてはりましたね……」

末原「目出度い日やもん。漫ちゃんもいつまでもメソメソせんと……しゃきっとしいや。そやないと夜の送別会がきついで。漫ちゃん一発芸担当やんか」

漫「もう……ホンマ泣きそうですわ……」

末原「ちなみに、なにやるん?」

漫「愛宕先輩の物真似です」

末原「えー!? なんやそれ!! 見たい見たい!!」

漫「それは送別会のお楽しみっちゅうことで……」

末原「なんやねん、ケチケチすんなやー……」

漫「…………」

 三月、春はまだ――風は冷たく。

漫「…………先輩」

末原「ん……?」

漫「先輩と……こうして一緒におれるんも……あと一年しかないんですね……」

末原「……せやな」

漫「一緒に大会に出れるんやって……夏のインターハイまでですよね……」

末原「なんや……漫ちゃん、うちとお別れするんが寂しいの?」

漫「そら寂しいですよ。先輩には入部したときからお世話になりっぱなしでした……姫松で一番うちと打ってくれた相手やって……先輩やし……」

末原「そうやったっけか……ほな……うちが一番多く打った相手も……漫ちゃんやんな……」

漫「せやから……うち……夏のインターハイ……死ぬ気で頑張りますよ……」

末原「なんや……気が早いな。先にスプリングもあるやろ」

漫「先輩と……少しでも長く一緒におりたいんです。インターハイ……決勝まで行きましょう……そしたら……ほんの何日かですけど……先輩と過ごせる時間が長くなります……」

末原「別に引退してもたまには部活に顔出すわ。なんや……インターハイ終わったら、うちらはお別れなんか?」

漫「そんなことは……ないですけど。でも……それくらいの覚悟で……挑みます。先輩……うち……絶対勝ちますから……見とってください……」

末原「ほな、夏を楽しみに待っとるわ……」

 *

みさき『先鋒戦終了!! 安定した力を見せ付けたのはやはりこの人、辻垣内智葉! 清澄・有珠山、ともに健闘しましたが力及ばず。一方、姫松は大きく出遅れる形となりました。この結果をどう思いますか、野依プロ』

理沙『ッ…………頑張った……!!』

末原(せやな……漫ちゃん……よう頑張ったで。不発やったのに……ちゃんと一位との差を五万点以内に抑えたやん……去年の個人戦三位とそこまで打てれば十分や……あとは……うちらに任せとき……!)

 *

みさき『出ました嶺上開花っ!! 清澄高校一年・宮永咲……この土壇場で姫松を抜き去り二位通過を果たしました!! 決勝に駒を進めたのはシード校・臨海女子と初出場・清澄高校です!! この結果をどう思いますか、野依プロ』

理沙『ッ…………すごい……!!』

末原(ああ……しもたぁ……足りんかったか……せっかく前半で二位になったんやけどな……いけると思ったんやけどな……現実は……厳しいで……)

 ――――――

末原(インターハイ……負けても……不思議と悲しくはあらへんかったな……洋榎も由子もそうや……控え室帰ったらケロッとしとった……ボロボロ泣いとったんはむしろ漫ちゃんと絹ちゃんやったっけ……)

末原(今日も……漫ちゃん……負けたら泣くんやろか……嫌やわ……漫ちゃんは……アホみたいに笑うてるときが……一番可愛いねん……また……あのときみたいに……あの子を泣かせるわけにはいかへんよな……)

 ――回想・姫松高校屋上・二週間前――

漫「あ……先輩、こんなとこにおったんですか」

末原「漫ちゃん……? どうしたん? 今日はミーティングだけで……さっき解散したやん」

漫「いや……個人的に先輩と話したくて……探してました」

末原「なんや、告白でもする気かいな」

漫「先輩……赤阪監督代行から聞きました。去年……うちをレギュラーに推してくれたの……先輩やって」

末原「……あのババア、善野監督が復帰してやっとオサラバやと思たら……とんだ置き土産やな」

漫「やっぱ……ホンマなんですか?」

末原「いやいや、うちはただデータを客観的に進言しただけやって。上重の総合収支は部内トップですーて」

漫「やけど……それってうちの標準ルールとはちゃいますやん……わざわざ統計とってくれはったってことですよね?」

末原「チームのためや。勝つ可能性が上がるんやったら、それくらいの手間は掛けるんが当然やろ」

漫「末原先輩……」

末原「なんやねん……まーたそないな泣きそうな顔して。別に漫ちゃんがレギュラーになったんは、うちのおかげとかやないよ。去年も今年も、漫ちゃんがレギュラーになれたんは、漫ちゃん自身が頑張ったからやろ」

漫「でも……! うちは……全国でなんも結果を残せませんでした……!! 先輩に目をかけていただいたのに……なにも……うちは恩返しできませんでした……!! 本当に……すいませんでした……!!」

末原「そんな……漫ちゃんが謝るようなことちゃうやろ……準々決勝も準決勝も相手強かったしな。清澄の化け物一年とか、神代とか、辻垣内とか」

漫「けど……! うちが……ちゃんと勝ててれば……姫松は決勝に行けてました……!!」

末原「チームで戦ったんや。漫ちゃん一人の勝ち負けの問題ちゃうよ」

漫「やって……準決勝……姫松でマイナスやったんはうちだけやないですか……」

末原「アホ。それこそ気にするとこちゃうわ。誰だって負けることはあんねん。それに……漫ちゃんは対宮永照用の秘密兵器やったんやから、決勝までは不発で構へんかったんよ。点を取り返せんかったうちら三年が不甲斐なかったんや」

漫「先輩……」

末原「漫ちゃんには来年がある。そこでぶちかませばええやん」

漫「来年……ですか……先輩がおらんようになったら……うちなんてレギュラー入りも危ういような気ぃしますわ……」

末原「なに言うてんの。漫ちゃんは強いんやから、自信持ちや。善野監督やって、ちゃんと漫ちゃんの実力と努力を見てくれはる」

漫「あんな結果で……自信なんて……持てませんよ……!!」

末原「な……何も泣くことあらへんやん……」

漫「やって……うち……ホンマに……先輩に申し訳なくて…………」

末原「…………しゃーないな。ほな、今から一緒に街、行こか!!」

漫「えっ……!?」

末原「デートしよ。ほんで、漫ちゃんのそのダサい髪型なんとかしよ!!」

漫「な……なにをいきなり!?」

末原「強くなるにはまず見た目から変わらんとなっ! 赤阪のババアも言っとったやろ!!」

漫「え? えええっ!?」

末原「うちの行きつけの美容院に連れてったるわ。そうと決まれば早速おでかけやっ!」

漫「えっ、ちょ、先輩……!?」

末原「なんや、漫ちゃん、うちとデートするんがそんなに嫌か?」

漫「そ……そんなことありませんけど……」

末原「ならええやん。今日だけは、麻雀のこと忘れて、うちと目一杯遊ぼ。な?」

漫「は……はいっ!!」

 ――――――

末原(と……あかんあかん……軽く走馬灯やわ……なんや……うち……もしかしてこの戦いが終わったら死ぬんかいな……勘弁してや……まだ……うちは漫ちゃんと遊び足りないねん……)

和「リーチ……」チャ

灼・久(速い……!!)

末原(………………来た……!)ニヤッ

 末原、笑みッ!!!

末原(リー棒……出しよったな……? 助かったで……これで鳴いて速攻とかやったら……さすがに無理やったかもしらん……やけど……そのリー棒と……積み棒……!! おかげでこっちも首の皮一枚……繋がったわ……!!!)ツモッ

 末原手牌:一二二三三四④⑤⑥⑦⑦⑧⑨:ツモ⑦:ドラ①

末原(漫ちゃん……しっかり見ててや……!! これが……漫ちゃんの大好きな先輩……漫ちゃんを大好きな先輩……名門姫松・大将――末原恭子の麻雀やで……!!!)

すばら『ああああ!!!? これは……!! こんなことがあるんでしょうか!! 混成チーム大将・末原選手……この局面でまさかの……!!!』

 末原、打、一萬ッ!!!

すばら『和了り拒否いいいいいいいいいいいいい!!!!!!』

@混成チーム控え室

すばら『和了り拒否いいいいいいいいいいいいい!!!!!!』

漫「せ……!! 先輩!!!?」

怜「なんでやねん!!!?」

竜華「ど……どういうことや末ちゃん!!?」

かじゅ「まったく意図がわからない……!!」

まこ「こんなん本人以外誰もわからんじゃろ……!!」

池田「小走さん、ここは一つ解説をお願いしますっ!!!」

小走「悪いな、池田。ニワカのすることなど私にはわからんよ」

宥「末原さん……和了る気がないわけじゃなさそうだし……一萬を落としたってことは……一盃口を見てる……? 高めを……狙ってる……? どうして……?」

照(……なるほど……)

@三年選抜控え室

 ――――――

すばら『末原選手……!! 信じられません……!!! 一体何を考えているのか……と……一巡回ってまたツモ和了……!!!!?』

 末原手牌:二二三三四④⑤⑥⑦⑦⑦⑧⑨:ツモ四:ドラ①

すばら『が……しかし九筒を落としたあああああ!! これで二度目の和了り拒否だあああああ!!!!!?』

 ――――――

美穂子「どういうことでしょうか……」

霞「まるでわからないわね……洋榎さん、いかがかしら?」

洋榎「んー、恭子はここまで焼き鳥やしなー……あないな安手で勝ったらダサい思ったんちゃうかー?」

セーラ「つまり、洋榎さんにもわからへんっちゅうことやんな」

豊音「これがオーラスで……和了れば勝ちって場面じゃなければ……まあ普通に高めを狙っているように見えるけど……」

シロ(ツモのみ役無しだった手が……これで一盃口確定……六筒ツモならタンピンツモ一盃口……1300・2600か……)

初美「高めですかー……カッコつけるならせめて倍満くらいは和了りたいところですねー」

姫子「あの……ちょっと思ったとですけど……これ……なんか部長の打ち方と似てませんか……? なんというか……この対局の外ば意識しとるというか……」

哩「うちが姫子のことば考えて打つのと同じようなことをやっとるんか……? ばってん……この対抗戦はこれで終わりとね……一体……あの人は誰のいつの対局ば見据えて打っとるんやろか……」

@二年選抜控え室

すばら『さすがに今度は和了りならず……!!!』

 末原手牌:二二三三四四④⑤⑥⑦⑦⑦⑧:ツモ④:ドラ①

すばら『あああああっと!!! ここで……ここで平和崩しの八筒切りいいいいいい!!!? またしても不可解な打牌です!! 一体何がどうなっているんでしょうか!!?』

 末原手牌:二二三三四四④④⑤⑥⑦⑦⑦:ドラ①

 ――――――

絹恵「フリテン解消……? やけど……これやったら断ヤオ一盃口……ツモっても4000……平和が消えたからさっきより点が下がったで……!? どういうことですか……末原先輩……!!」

Q「ちょ……待ってや! 絹ちゃん、今なんて言うた!?」

憩「フリテン解消……そう言うたねっ!」

かおりん「えっと……! どういうことですか……!?」

透華「さっきまでの形だとツモでしか和了ることができなかったのが……今は待ちが変わって出和了りができるようになったということですわ!」

神代「ということは……ただ手を高めたかっただけではなく……末原さんには誰か直撃を取りたい人がいるということでしょうか……?」

玄「で……でも……!! なんでこの場面で誰かを削る必要があるの……? 末原さんはトップなんだから……もう和了ればそれで勝てるわけで……!!」

衣「衣には……少しわかる。あれは……この場だけを見ている打ち方ではない。もっと先の何かを見据えている打ち方だ。目先の勝利を捨ててでも成し遂げたい何かが……譲れない想いがあるのだろう」

尭深(……直撃……削る……もしかして……)

@対局室

末原(さて……やっとここまで来たで……!!)

 末原手牌:二二三三四四④④⑤⑥⑦⑦⑦:ツモ③:ドラ①

末原(これ以上は……さすがに無能力のうちには無理や……! ホンマやったら……あと一つ……どうにかしたかったんやけど……こうなったらもう一発で直撃を取る……!
 でなければ……まだ一枚しか見えてへんアレで直撃を取ったる……! 原村和の点数を9200点以上削るには……それしかあらへん……!! それで……うちの目的は達成や……!!)

末原(リーチかけてもうたら……フリテンの可能性もある……やけど……どの道一発頼みの運勝負なんや……行くしかないやろ……! もう……ここしかチャンスがないねん……!
 うちと漫ちゃんが……一緒のチームで麻雀を打てるチャンスなんて……これが最後やねん……!!)

末原(漫ちゃん……きっと……うちの代の送別会では……漫ちゃんがうちに花束くれるやんな……! ごっつう嬉しいわ……!! けど……なんも花をあげたいんは下級生のほうだけとちゃうで……!
 うちも……今までずっと頑張ってきた漫ちゃんに……こんなうちに最後までついてきてくれた漫ちゃんに……花をあげたいんや……花を……持たせたいんや……!!!)

末原(漫ちゃん……! うちの花……受け取ってくれるやんな……! ちゃんと……来年の姫松を……絹ちゃんと一緒に引っ張ってってくれるやんな……!!)

末原(ほんで……いつか漫ちゃんが……辛くて……なんもかんも投げ出したくなって……メゲそうになったとき……! ちらっとでええからうちのあげた花のことを思い出してな……!!
 そしたら……きっと元気出ると思うねん……!! なんぼ苦しい状況になっても……笑って前に進めると思うねん……!!)

末原(それが……繋がるってもんやろ……!! 漫ちゃんの……これからの戦いやすさに……!!!)

末原「ほな……これで終わりにしよか……!! リーチやッ!!」ゴッ

 末原手牌:二二三三四四③④④⑤⑥⑦⑦:ドラ①

灼(トップが追っかけリーチ……? 鳴いて速攻でもなく……ダマでもなく……? 役がなかったとしか考えられないけど……それにしては手ができるのが遅過ぎるような……)タンッ

久(姫松の末原さん……もしかして……何か私には想像もできないようなことをしてる……? この局面で……? 人のことは言えないけれど……大した度胸だわ……!!)タンッ

末原(よし……鷺森と竹井久からは出えへんかった……これで……あとは原村和が一発で振り込んでくれば……!!!)

@一年選抜控え室

 ――――――

すばら『とうとう末原選手がリーチを掛けてきたあああああ!! これでもう和了り拒否はしないでしょうが……とおおおお!! その一発目に和が掴まされましたあああああ……!!』

 末原手牌:二二三三四四③④④⑤⑥⑦⑦:待ち②・⑤:ドラ①

 和手牌:②②②12388六七北北北:ツモ②:ドラ①

 ――――――

憧「これはもう一回やっちゃうんじゃないのー!?」

泉「当然そうする場面ですやんな!!」

友香「来ちゃうでー行っちゃうでー!!!」

優希「来ちゃうじょ行っちゃうじょー!!!」

モモ「来ちゃうっす行っちゃうっすー!!!」

南浦「今日二度目の……!!!」

淡「わああああああああああああああああああ!!!!」

穏乃「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

咲「和ちゃん……勝って……!! 和ちゃん……!!!!!」

 ――――――

和『……カンッ!』パラララ

 ――――――

全員「いっけええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

@対局室

和「……カンッ!」パラララ

灼・久(また暗槓……!!!)

末原(一発……!! 頼みの一発が消されたやと……!!? ほんでもって……こいつ……人の和了り牌を握り潰すんが好きやんなホンマに……!!!!)

 末原手牌:二二三三四四③④④⑤⑥⑦⑦:待ち②・⑤:ドラ①・八

 和手牌:12388六七北北北/②②②②:嶺上ツモ?:ドラ①・八

末原(やけど……一発が消えてもうた今なら……その暗槓はかえって好都合……!! こうなった以上はどっちみち二筒や届かへんのやからな……フリテンの可能性が減ったんは不幸中の幸いや……!!)

和(なんて偶然……まさかまた嶺上開花の可能性がちらつくとは……無論……九十九パーセント……和了れるとは思っていませんけど……!!)

 和、嶺上牌を、掴むッ!!!

和(けれど……一パーセントの確率で……もう一度咲さんの花を見ることができるなら……それに越したことはありませんよね……!!!)ツモッ

 果たして――嶺上の花は……!!!

末原(原村和……!! 別にあんたにはなんも思うところはあらへんけど……その嶺上牌……その花……二度もあんたにあげるわけにはいかへんのや……!! ええ子やからこっちに寄越しや……!!
 それは……先輩のうちが……後輩の漫ちゃんに贈る……最後で最高のプレゼントなんやからな……!!!!)

和「………………ッ!!??」

末原(なんや……!! 和了るんか……!!!? 和了らないんか……!!!!)

和(先ほどから……なんて引きの強さですか……!! こんな偶然が……あるんですね……!!!)

 和、微笑ッ!!!

末原(や……やめてや……!! 頼むから和了らんでや……!!!!!)

 末原、絶望ッ!!!!

和(三度のカン……まさか三度とも……!!!)

 その結末は――!!!!?

和(同じ牌を引くことになるとは……ッ!!!!)

 和手牌:12388六七北北北/②②②②:嶺上ツモ[⑤]:ドラ①・八

和(嶺上開花……ならず。まあ………………当然ですっ!!!)タンッ

 和、打、赤五筒ッ!!!

末原「(す……漫ちゃん――!!!)そ……それ……!」

 三度――嶺上に咲いた赤い花……!!

末原「(受け取ってくれるやんな……!!?)それや……ッ!!!」

 その花は今――!!!

末原「(これは……紛れもない漫ちゃんのやで……!!)ロン……ッ!!! メンタンピン一盃口……!!!」

 先輩から後輩へと……!!! 

末原「(漫ちゃんが咲かせた……真っ赤な一花なんやで!!!)赤一……ッ!!!! 8000は――8300や……ッ!!!!」

 受け継がれるッ!!!!

末原「(しゃああああああ!!! 漫ちゃああああああああああん!!!! 大好きやあああああああ!!!)ありがとうございました!!!!!!」

 末原手牌:二二三三四四③④④⑤⑥⑦⑦:ロン[⑤]:ドラ①・八・西・4

久「(ひゃー……やるぅー)こちらこそ、ありがとうございました」

灼「(ふう……疲れた)ありがとうございました……」

和「(咲さん……!!!)ありがとう……ございました……!」

すばら『た……!!! 大将戦後半……!!!!! 決着うううううううううううう!!!!!!!』

@混成控え室

すばら『た……!!! 大将戦後半……!!!!! 決着うううううううううううう!!!!!!!』

漫「先輩いいいいいいい!!!! 最高です!!! 最高ですわあああああああ!!!!!!」

怜「ひゅううううう!!! 最後は意味不明やったけど勝ったからなんでもええわあああ!!!」

竜華「末ちゃん!!! やっぱ末ちゃんはやってくれるって信じてたでえええ!!!」

かじゅ「みんなで末原さんを迎えに行きましょう!!」

池田「ナイスアイデアだしっ!!!」

まこ「対局室に押しかけて胴上げじゃあ!!」

宥「胴上げよりも……お……おしくらまんじゅうが暖かくていいなぁ……!」

小走「わけわからんこと言ってないで行くぞ、松実姉!!」ダッ

 混成チーム、総ダッシュ!!!

漫「はっ……!!? モニターに張り付いてたら出遅れてもうた……!!! ま、待ってくださいよー……」

 興奮のあまり置いていかれた漫ッ!!!

 しかし、それを止めるように、肩に誰かの手が置かれるッ!!

 果たしてその誰かとは……!!?

照「………………」

漫「えっ…………? チャンピオン……? なんですか? 行かないんですか?」

照「行く……でも……その前に一つ……」

漫「は……はあ……?」

照「強くて……優しい……いい先輩だね……」

漫「え? えええ? ど……どういうことですかっ!?」

照「すぐにわかる……じゃあ……お先……!」ダッ

 照、ダッシュッ!!

漫「あ、チャンピ――」

照「」ドテッ

 からまさかの転倒ッ!!!!

照「……………………」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

漫「だ……大丈夫です……誰にも言いません……やからそのゴゴゴゴってやつ止めてください…………」

照「…………かたじけない」

 全国選抜学年対抗戦――終了ッ!!!

<大将戦後半終了>
一位:原村和+20400(95300)
二位:鷺森灼+2400(96300)
三位:竹井久-9000(94300)
四位:末原恭子-13800(114100)

<大将戦前後半合計>
一位:漫・末原+6800(114100)
二位:咲・和-700(95300)
三位:玄・灼-2400(96300)
四位:美穂子・久-3700(94300)

@閉会式兼表彰式

すばら「結果発表ううううううううううううう!!!!!!!」

 閉会式兼表彰式。

 場所は開会式と同じ。

 壇上にいるのは、今のところ司会進行役・花田煌一人。

 選手全員、さらには応援に駆けつけた各校チームメイトたちが思い思いに集まって、それを眺めている。

すばら「まずは栄えある全国選抜学年対抗戦を制した――団体戦一位の発表ですっ!!!! 半荘十回……計四十人による大接戦の中で勝利を収めたすばらなチームは……このチームです……!!!!
 最終得点は114100点……!!! 混成チーム!!!!! 拍手!!!!」

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すばら「では、代表の鶴賀学園・加治木ゆみさん!!! 壇上へどうぞっ!!!!」

怜「よっ!! 待ってました!!!!」

竜華「加治木さんかっちんこっちんやん!! リラックスー!!」

末原「やから騒がしいであんたら……」

漫「ええですやんっ! 勝ったんですから先輩も一緒にはしゃぎましょ!!」

すばら「では、何か一言どうぞ!!!」

かじゅ「あー……えー……」

小走「しっかりしろ! ニワカ代表!!」

宥「加治木さん……ファイト……!」

かじゅ「あ……ありがとうございます。はい……では、一言だけ」

すばら「どうぞ!!!」

 かじゅ、壇上から選手たちを見回し、咳払い。

かじゅ「このたびは……全国選抜という大きな舞台で……優勝という栄誉を手に入れることができて……本当に嬉しく思います」

かじゅ「ただ……正直、混成チームは完全に全国区の方々におんぶにだっこというか……元々混成チームにいた長野勢は私も含めてまったく活躍できませんでした。
 あとから名乗り出てくれたみなさんがいなければ、早々にトビ終了になっていたかもしれません。本当に……今日一緒に戦ってくれたみなさんには感謝しています」

まこ(最後の末原さんはあれとしても……失点したんはわしと加治木さんと池田じゃもんなあ……本当に不甲斐のうて申し訳ない)

池田(うう……貢献したかったし……)

かじゅ「今日は……全国のレベルの高さを思い知った一日でした。まるで全国大会に出たような気分です。同じ鶴賀学園の東横や妹尾もそうだったと思います。
 まさか……県予選に負けた私たちが……こんな形でインターハイに懸けていた想いをぶつけられるとは思ってもみませんでした。大会を主催した清澄の皆さん、それに、全力で戦ってくれた敵チームの皆さんにも……感謝しかありません。
 本当にありがとうございました」

モモ(先輩……私も楽しかったっすよ……)

かおりん(お友達も増えました!)

かじゅ「最後に……もう一度チームの皆さんに感謝を述べたいと思います。私に勝利の味を教えてくれて……本当にありがとう! 最高の一日になりました……!! また……いつかどこかで打ちましょう……!!! ありがとうございました!!!」

照()パチパチパチパチ

すばら「すばらな挨拶をありがとうございましたっ!!!! 混成チーム代表、加治木ゆみさんでした!! みなさん、今一度、混成チームに盛大な拍手を!!!!!」

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すばら「なお!! 見事優勝の栄冠を手にした混成チームのみなさんには、記念の金メダルとトロフィーが特別ゲスト・宮守女子監督・熊倉トシさんから贈られます!!!」

トシ「熊倉トシです。みなさんお疲れ様、見ていて楽しい戦いだったわよ」

豊音「えええええええええええなんで!!!?」

シロ(トシさん……暇なのか……)

トシ「はい。これトロフィー。それにメダルね。十人分」

かじゅ「あ、ありがとうございます……!!」

トシ「これからも頑張ってね」

かじゅ「は……はい!!!!」

すばら「熊倉さん!! ありがとうございましたあああああ!! では……続いて二位の発表です!!! 一位こそ逃しましたが……他学年を抑え、見事に最強学年の座を手にしたのはこちらのチームです!!! 最終得点96300点……二年選抜チームッ!!! 拍手!!!!」

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すばら「では、代表の龍門渕高校・天江衣さん!!! 壇上へお願いしますっ!!!」

Q「天江さーん!! 停電はやめてやー!!」

絹恵「階段で転ばんように気ぃつけてなー!!」

すばら「では、どうぞっ!!」

衣「うむ!! 感無量っ!! 今日は楽しい一日だった!!! 感謝感激ッ!! みんなありがとう!!!」

小蒔「こちらこそありがとうございました!」

憩「おおきに~」

衣「最初に言ったように、衣は学年がどうこうという感覚に疎い。だが、無論勝ったという事実は揺るがない! 最強学年を名乗りたい者がいるなら名乗ればよかろう! これは紛れもなく我ら十人で勝ち取った称号だッ!!」

透華「最強……!! なんていい響きですの!!!」

尭深(……目立ちたがり屋……)

衣「さて……奇しくも今日二年選抜として集まった者たちは、全国でも屈指の強豪校を率いることになる主将候補生ばかりだ。今の三年が勇退した後、当然、みな全国優勝を目指してチームを牽引することになるのだろう。
 最強学年の座を手に入れた我々にはその力がある! 今日の勝利を糧とし……各々母校でその手腕をいかんなく発揮してほしい!!」

かおりん「が……頑張って睦月ちゃんをサポートしますっ!!」

玄「灼ちゃん、よろしくね!!」

灼「え、あ、うん」

衣「二年選抜全員……今日は一緒に戦ってくれて本当に感謝している。昨日の敵は今日の友……そんな言葉がよく当てはまる素晴らしい一日だった。
 しかしッ!! 今日の友は明日の敵だッ!!!! 遠からず衣たち龍門渕は清澄を下して全国大会に進軍する!!! お前たちとまた打てることを楽しみにしているぞ!!! そこで最強の中の最強が誰かなのかをはっきりさせようではないか!!
 今日の戦いは始まりに過ぎない……お前たち……ゆめゆめ慢心するなかれ!!! 来年――夏にまたこの場で会おうではないか!!!」

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すばら「ありがとうございました!! 私も頑張りますっ!!! では、そんな第二位の二年選抜の皆さんには、記念の銀メダルが特別ゲスト・姫松高校監督代行・赤坂郁乃さんより贈られます」

郁乃「どうも~赤坂です~いや~面白かったわ~」

末原「げええええええええ!!?」

絹恵「監督代行!!? なぜ!?」

漫「何やってんですか……」

洋榎(あれ……各校の監督が来てるっちゅうことは……もしかして……)

郁乃「はい。コドモちゃん、おめでとう~」

衣「コドモじゃない! コロモだっ!!」

郁乃「や~も~可愛い~」ナデナデ

衣「ふ……ふぁああああ……(こいつ……藤田以上のナデナデだと……!!!?)」

すばら「赤阪さん、ありがとうございました!! では、続いて第三位の発表です。三位と言っても二位との差はほとんど無に等しい千点!!!! 今日は若々しい力を存分に見せ付けてくれました!! 第三位は最終得点95300点……一年選抜です!!!」

優希「咲ちゃん、見せ場だじょ!!」

咲「あ……でもえっと……私いま和ちゃんから離れるわけには……」

和「うわあああああん咲さああああああんごめんなさああああい」ボロボロボロボロ

淡「えっ!!? じゃあ私が行っちゃってもいい!!?」

憧「あんたはダメ。ダメ絶対。あんただけは」

モモ「私は透明人間だから無理っす」

友香「私もご遠慮でー」

泉「うちもです」

南浦「じゃあ……残るは……」

穏乃「お任せあれ!!!!!」

すばら「はい、では代表代理、阿知賀女子学院・高鴨穏乃さん、壇上へどうぞ!!」

穏乃「はい!! えっと、今日は皆さん、ありがとうございました!! 味方の一年生のみんなも、胸を貸してくださった上級生の皆さんも、本当にありがとうございます! 今日はとても楽しかったです! 今すぐ会場を飛び出して駆け回りたいくらい!!」

優希「意外とマトモなこと言ってるじぇ!!」

憧「穏乃は小学校の頃とか陸上大会なんかで表彰されること多かったしね。慣れてるのよ、こういうの」

穏乃「この一日で、私たち一年生はまた一つ成長できたと思います。県を越えて友達も増えましたし、来年もこの対抗戦やりたいですね!! ってか、やりましょうっ!!! インターハイで全国優勝した高校が主催して毎年っ!!!」

淡「シズノンそれナイスアイデアー!!」

穏乃「次こそ……私たちの学年が優勝できるように!! 先輩方を見習ってもっともっと練習頑張りたいと思います!! 今日は色々なことを勉強させていただきました!! 先輩方……ありがとうございます!!
 そして、一年生のみんなも……これから一緒に全国を盛り上げていきましょう!! ありがとうございました!!!」

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すばら「一年生とは思えない立派なご挨拶でした!!! なお、第三位の一年選抜の皆さんには、特別ゲスト・千里山女子監督・愛宕雅枝さんより記念の銅メダルが送られます!!」

雅枝「最初から最後まで見ごたえのある戦いでした。先が楽しみな子ばかりで、次の全国大会が楽しみです」

泉「監督……!?」

Q「おばちゃん!!!?」

絹恵「なにしとん!!?」

洋榎(うげっ! やっぱ来とったか!!)

雅枝「これからも頑張ってください」

穏乃「ありがとうございます!! そりゃもう頑張りますっ!!!」

すばら「愛宕雅枝さん、ありがとうございました!!! 最後に……!! 惜しくも第四位となってしまったチームの発表です。実力は完全に拮抗していましたが……勝負である以上涙を飲むチームがあるのは仕方ないことです!!
 しかし、負けたといっても二位とは二千点、三位からは千点しか離されていません!! 最終得点94300点……第四位、三年選抜チーム!!!!」

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すばら「では、代表の竹井久さん、壇上へお願いします!」

久「はいはーい。どうも、皆さんお疲れ様でした。竹井久です。今日は私の思いつきに集まってくれて……みんなにはとても感謝しています。おかげさまで想像以上の大成功を収めることができました。本当にありがとう」

久「ま、最下位チームとして言うことは特にありません。混成チームについてはお見事の一言に尽きます。下級生のみんなも、とても頑張っていて、今すぐにでも安心してチームを任せることができます。
 こんな頼もしい後輩たちの活躍が、来年以降も見られると思うと、引退も寂しくありません。下級生のみんな、これからも頑張ってね!」

優希「部長……」

まこ「もとよりそのつもりじゃあ」

久「さて……最後に一つだけ、三年選抜のみなさんに、個人的に言いたいことがあります」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

美穂子(え……上埜さん……?)

久「今日の戦犯は誰かしら!!!!!?」ドンッ

 ドヨドヨザワザワ

豊音「はーい!! 手抜きで打ってたシロがちょー悪いと思いまーす!!!」

シロ「いや……豊音だって赤口とかまだ使えるやつあったくせに……」

洋榎「いやいやいやいや!!! 今日の戦犯は久に決まっとるやろ!!! なんや最後のフリテンリーチは!!!」

初美「大阪三強対決に負けた難波の虎さんがなんか吼えてるですよー」

霞「早く北家になりたいからって最後の親番で差し込みをした初美が何を言っても説得力はないわよねぇ」

美穂子「そんなこと言ったら、霞さんだって最初から一色独占してればよかったって話になりませんか?」

姫子「プラマイゼロを狙ってた人の言えることやなかと思いますー」

哩「姫子がちゃんと私の鍵ば全部使えとれば……」

セーラ「哩さんやって意気込んどったわりに紅孔雀に振り込んで大して稼げ――」

全員「ラスは黙ってろ!!!」

セーラ「」ズーン

すばら「け……喧嘩はそれくらいにして!!!!! えっと、では四位の三年選抜のみなさんには、特別ゲスト・まくりの女王・藤田靖子プロから記念の賞状が贈られます!!!!」

藤田「皆さんお疲れ様。興味深く見させてもらったよ」

咲「カツ丼さん!?」

衣「ゴミプロが偉そうに」

久「なんだ靖子かー」

藤田「なんだとはなんだ」

久「っていうか、ありがとね。これだけゲストを呼べたのは靖子のおかげよ」

藤田「まあ……私はいい。それより、今ステージ裏で駆け回っている風越の久保さんに、あとで礼を言っとけよ」

久「もちろん。本当、何から何までありがとう」

藤田「ま、とにかくお疲れだ」

すばら「藤田プロ!! ありがとうございましたあああ!!! これで、団体戦の表彰を終わりますっ!!! そして続きましては!!!!」

咲(あ、まだあるんだ……!)

すばら「個人成績発表うううううううううう!!!!!!」

漫「そんなんあるんですか!?」

末原「なんや、漫ちゃん知らんかったの?」

すばら「まずは26位から35位までの発表ですっ!!! こちらの十名ッ!!!」

26位鶴田姫子-3600
27位船久保浩子-4800
27位松実玄-4800
29位新子憧-5300
30位姉帯豊音-5400

31位南浦数絵-6200
32位加治木ゆみ-7700
33位池田華菜-8000
34位竹井久-9000
35位江口セーラ-10400

すばら「みなさん、残念ながら色々な理由で失点してしまったのもの!! ドラ四十四を和了った松実玄選手、流し満貫を和了った池田華菜選手など、点数には現れない活躍を見せた方々ばかりです!! その健闘を拍手で称えましょう!!」

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すばら「続いて16位から25位の発表!!! こちらの十名ですッ!!!」

16位 愛宕絹恵 3100
17位 石戸霞 2900
18位 白水哩 2400
18位 鷺森灼 2400
20位 森垣友香 1800

21位 東横桃子 1700
22位 園城寺怜 200
23位 小瀬川白望 0
24位 渋谷尭深 -1400
25位 龍門渕透華 -3200

すばら「明暗を分けたのはほんの僅かな差でしかありません!!! 一歩踏み外せば転がり落ちていたところを耐え抜いた実力派の選手ばかりです!!!
 同じ卓を囲んだ東横選手、愛宕絹恵選手、石戸霞選手の三名がこの十名の枠に収まっていることが……今回の対抗戦がいかに五分五分の戦いだったかを示していると思います!! 拍手!!!」

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すばら「さあ!!! ここからは魔物揃いの対抗戦で大きく点を稼いだ猛者の発表となります!!! 6位から15位……!!! こちらの十名ですっ!!」

6位 大星淡 8600
7位 神代小蒔 8400
8位 荒川憩 8000
9位 薄墨初美 7000
10位 清水谷竜華 6100

11位 小走やえ 5600
12位 福路美穂子 5300
13位 愛宕洋榎 5100
14位 松実宥 4300
15位 片岡優希 4100

すばら「まったく言うことがありません!!!! この中から五人を選べばどういうメンバーでも全国優勝可能というような安定の上位陣!!! そして、これで永水女子の三名は全員がプラス得点という快挙を成し遂げました!!
 この対抗戦、複数人が参加している高校で全員がプラスだったのは、唯一、永水女子だけです!!!! 拍手!!!」

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すばら「そしていよいよ上位五名の発表……の前に!!!! この過酷な対抗戦!! 不運にもその犠牲となったワーストファイブの発表です!!! こちらの五名ッ!!!!」

36位 染谷まこ -10800
37位 末原恭子 -13800
38位 二条泉 -19200
39位 宮永咲 -21100
40位 妹尾佳織 -24500

すばら「無論、この方々が弱かったとは見ている誰も思いますまい!! 大星選手の大七星を止めた染谷選手! 大将で失点することでむしろチーム優勝のフラグを立てた末原選手!!! 和了ゼロ・放銃ゼロの絶望的な状況の中、三度のリーチで大阪三強に牙を剥いた二条選手!!
 カンを封じられながらも驚異の連続和了で我々を震撼させた宮永咲選手!! そして……なんといっても妹尾佳織選手!!! 最下位とは言えまさかの天和を私たちに見せてくれました!! 拍手ううう!!!!」

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すばら「では……!!! いよいよトップファイブを発表いたしましょう!! 呼ばれた方はこちらへどうぞ!!! まずはこの方!!! 個人成績第五位……オーラスでの見事な打ち回しには心が震えました……!! 一年選抜、阿知賀女子学院、高鴨穏乃さん!!!」

穏乃「はいっ!!!」

5位 高鴨穏乃 10500

すばら「高鴨選手には、特別ゲスト・阿知賀女子監督・赤土晴絵さんから記念の盾が贈られますっ!!」

晴絵「よっ、シズ」

穏乃「赤土さん!!!?」

晴絵「よく頑張ったな。これからも阿知賀を頼むぞ」

穏乃「任せてくださいっ!!」

すばら「ありがとうございましたああ!!! では、続いて第四位!! その力はやはり全国最高峰!!! これぞ魔物という常人離れした麻雀を見せてくれました!! 二年選抜代表、龍門渕高校、天江衣さん!!!!」

衣「はーい!!」

4位 天江衣 13100

すばら「天江選手には、特別ゲスト・牌のお姉さん・瑞原はやりプロから記念の盾が贈られますっ!!」

はやり「ちびっ子さん、こんにちは~」

衣「ちびっ子じゃない! 高二だ!!」

はやり「……いつまでも若いままでいられると思うなよ」ボソッ

衣(こ……こいつ……なんて覇気を……!!)ゾゾッ

はやり「はーい、おめでとう~♪」

衣「うむ……!」

すばら「ありがとうございましたあああ!! さあああ!!! いよいよここからはベストスリーの発表ですっ!!! 第三位!!! というか、この方が一位でなかったのが不思議なくらいです!!!
 全国一万人の頂点――高校麻雀といえばこの人おおおお!! 混成チーム、白糸台高校、宮永照さああああん!!!」

照「はい……」

3位 宮永照 17600

すばら「宮永照さんには、特別ゲスト・グランドマスター・小鍛治健夜プロから記念の盾が贈られますっ!!」

健夜「どうも……小鍛治です。おめでとう、宮永さん」

照「……ありがとうございます」

健夜「惜しかったですね。長く麻雀を打っていれば、たまには一位になれないときがあるものです。私にはないのでわかりませんが、これもいい経験でしょう」

照「……四十手前にもなって負けたことがないとは……確かに驚きですね……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

健夜「ん……ごめん、ちょっとよく聞き取れなかったんだけど?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

照「いえ、なんでもありません」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

健夜「そう? ならいいけど」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

すばら「ありがとうございました!!! っていうか壇上が異空間化するのでお二人ともそれくらいにしてください!!!! では……!! 気を取り直して第二位の発表といきましょう!!!!
 圧倒的不利な状況から鬼気迫る闘牌であわや大逆転のところまで持っていきました!! 対抗戦唯一の嶺上開花和了者……一年選抜、清澄高校、原村和さん!!!!」

和「はいぃぃ……」ボロボロ

2位 原村和 20400

すばら「和、いつまでも泣いてないで。しっかりしなさい!」

和「花田先輩……うう……わかりましたぁ……」グスッ

すばら「では、そんな和には、特別ゲスト・迫り来る怒涛の火力・三尋木咏プロから記念の盾が贈られますっ!!」

咏「わっかんねー。なんで呼ばれたのかわっかんねー。けど、とりあえず、おめでとう。頑張ったねぃ」

和「ありがとうございます……」

咏「ところで、あの嶺上開花……二つ目のカンはちょっとばかし不思議だねぃ。期待値なら四家立直のほうがちょっぴり高かったはずなんだけどねぃ……ま、知らんけど」

和(こ……この人……!!)

すばら「ありがとうございましたああああ!!!! では……第一位の発表といきましょう!!! 全国でも選りすぐりの強者・四十人がぶつかったこの対抗戦……!! その中で最も点を稼いだ一人……!!
 栄えある個人成績第一位に輝いたのは……!!!!!」

 ダラララララララララ

咲(ドラムロール!!? それから何このスポットがぐるぐるするお約束の照明っ!!?)

久(この演出を企画したのが風越の鬼コーチだと思うとシュールだわ……)

すばら「混成チーム!! 姫松高校ッ!!! 上重漫さあああああん!!!!!!」

漫「ええええええええええええ!!?」

1位 上重漫 20600

すばら「大将戦前半!! あの宮永咲選手を叩き落し、更には宮永照選手を超えて暫定最高得点獲得者となった上重選手ッ!!
 大将戦後半のオーラス時点では和に次いで二位の上重選手でしたが……最後の最後で末原選手が和に満貫を直撃したことにより、一位に返り咲きました!!! すばらですっ!!!!」

漫「え……? じゃあ……先輩……最後のあれ……うちのためやったんですか……?」

末原「そう思いたいんならそう思ってくれても構へんよ。けど、漫ちゃんがあれだけの点数を稼いだことについては……うちはなんもしとらん。純粋に漫ちゃんが頑張った結果や」

漫「先輩……!!!!」

末原「せやから……うちが言った通りやろ? 漫ちゃんは強いねん。全国から選抜された四十人の中で一位を取れるくらい強いねん。だから……自信持って……胸張って……表彰されてくるとええでっ!」

漫「末原先輩……ホンマに……ありがとうございました!!!!」

すばら「さて!! そんな上重さんには特別ゲスト・野依理沙プロから記念の盾と花束が贈られますっ!!!」

漫「野依プロまで……!!!」

理沙「………………おめでッ……!!」

漫「ありがとうございますっ!!」

理沙「…………とうッ!!!!」

すばら「ありがとうございましたああああ!! 個人成績……その他の細かいタイトルは以下の通りですっ!!」

<和了王(和了率ベスト)>
宮永照(0.579)、荒川憩(0.545)、原村和(0.462)

<打点王(平均和了点ベスト)>
松実玄(33500)、妹尾佳織(20100)、上重漫(17600)

<得点王(和了率×平均和了点)>
上重漫(4699)、原村和(4628)、大星淡(4370)

<放銃王(放銃率ワースト)>
妹尾佳織(0.421)、大星淡(0.357)、石戸霞(0.333)

<直撃王(平均放銃点ワースト)>
白水哩(24600)、船久保浩子(18300)、江口セーラ・荒川憩(16000)

<失点王(放銃率×平均放銃点)>
妹尾佳織(4268)、大星淡(3706)、宮永咲(3093)

<鉄壁王(放銃率ゼロ)>
小瀬川白望、姉帯豊音、小走やえ、二条泉、高鴨穏乃、福路美穂子

<空気王(和了率ゼロ)>
二条泉

<立直王(立直時和了点累計×立直率)>
天江衣(11200)、竹井久(11127)、愛宕洋榎(8982)

<副露王(副露時和了点累計×副露率)>
新子憧(7115)、宮永咲(6488)、福路美穂子(5744)

すばら「さて!! 表彰式はもう少し続きますっ!!!! 続いてはベストファイブの発表おおおおッ!!!!!」

咲(そんなのまであるんだ……!!?)

すばら「各戦、前後半合わせて区間一位のペア……そのうち獲得点数の多かったほうをこの対抗戦のベストファイブとさせていただきますっ!!!
 まずは先鋒戦……区間一位は9900点を獲得した二年選抜の龍門渕・天江ペア……!!! 天江さん、どうぞ前へ!!!」

衣「うむっ!」

すばら「次鋒戦……区間一位は10300点を獲得した一年選抜の大星・東横ペア!!! 大星淡さん、壇上へどうぞ!!!」

淡「やっほーい!!!」

すばら「続いて中堅戦! 区間一位は16400点を獲得した二年選抜の神代・荒川ペア!! 神代小蒔さん、壇上へどうぞっ!!!」

小蒔「は……はいっ!」

すばら「副将戦……区間一位は全区間中最高の21900点を叩き出した混成チームの松実宥・宮永照ペア!!!! 宮永照さん、前へどうぞ!!!」

照「はい」

末原(おーおー天照大神が勢揃いやんけ。でも、最後に一人だけ違うのが混ざるけどなっ!)

すばら「最後に大将戦! 区間一位は6800点を獲得した混成チームの上重・末原ペア!!! 上重さん、前へどうぞ!!!!」

漫「は……はいいいいいいい!!!!」

すばら「ベストファイブのみなさんには特別ゲスト・大沼秋一郎プロ及び戒能良子プロからクリスタルリー棒と花の首飾りが贈られますっ!!!」

大沼「みなさん……おめでとうございます……」

良子「グレイト。おめでとうございます」

天照大神上「ありがとうございます」

すばら「ありがとうございましたああああ!!!! さあ……次が最後の表彰となりますっ!!!!! 全国選抜学年対抗戦……栄えあるMVPの発表ですっ!!!!!」

咲(MVP……!? 凝ってるなぁ……!!!)

すばら「MVPは……この対抗戦の特別ゲストとして来ていただいた各校監督、及びトッププロの方々によって選考されました!! この対抗戦……もっとも価値ある一人として選ばれたのは……この方です…………!!!!!」

 ダラララララララララララララララダンッ

すばら「上重漫さあああああああん!!!!!」

漫「ホンマですかああああああああああああ!!!?」

すばら「個人成績第一位とベストファイブ!! 更にはチーム優勝という三冠を達成!!! 混成チームの優勝を磐石にした立役者!!!! MVPは満場一致で上重漫さんですっ!!!!!」

漫(せ……先輩……こんな……こんなに花ばっかもろて……ホンマにありがとうございます……!!!)

末原(ええってことよ、漫ちゃん。今日は頑張ったんや。いっぱい花もらっとき!)

すばら「さあ!! そして……そんな全国選抜学年対抗戦・MVPに輝いた上重さんに栄光の花冠を贈るのは……この方です!!!! 姫松高校……善野監督うううううううッ!!!」

善野「みなさんこんにちは」

漫「えええええええええええ監督うううう!!!!?」

末原(もう……漫ちゃん……羨ましいわ……!!)

善野「上重さん……MVP、おめでとう」

漫「は、はいっ!! ありがとうございます……!!」

善野「来年、一緒に姫松を盛り上げていきましょうね」

漫「はいっ!!!! うち……うち……!!! 頑張りますっ!!! よろしくお願いします!!!」

善野「こちらこそ……頼りない監督だけれど、よろしくお願いいたします」

漫「こ、こちらこそっ……!!」

すばら「さあ……!!! 全国選抜学年対抗戦……!!! 閉会式及び表彰式の最後にっ!! MVPの上重漫さんから一言いただくといたしましょう!!! 上重さん、どうぞッ!!!!」

漫「え……ええっと……!!!」

 漫、花束、花飾り、花冠と、花まみれで壇上の中央に立つッ!!

漫「ホンマ……なんて言ったらええんか……突然のことで……なんもわからんのですけど……」

漫「今日……うちがこの場に立っていられるんも……頑張っていられるんも……みんな先輩や、後輩や、同期の仲間、それに監督や強敵である他校の皆さんがおるおかげやと思います……」

漫「そんな中で……今日はこんなに不釣合いな花ばっかりもろてしもて……なんや……えらい恥ずかしいですわ……ホンマに……みなさんありがとうございますっ!!!!」

漫「うちなんて……まだまだ下手で……チームをまとめるような度量もありません……正直……インターハイの結果に凹んで……もうこの先どないしようか……お先真っ暗でした……」

漫「やけど……!! 今日の対抗戦を通して……色んな人から……いっぱい力をいただきました……!! また頑張ろうって思えました……!! うち……やっぱ姫松が好きやし……麻雀好きやし……全国でもっともっと勝ちたい思いますっ!!!」

これで確定した
>>1は在日

漫「ホンマに……今日はどうもありがとうございました!!! また……みなさんと麻雀を打てるんを楽しみにしとります!!! どうか……そのときは……またよろしくお願いしますっ!!! 以上、姫松高校二年、上重漫でした……!!!!」

末原(漫ちゃん……立派になって……あれ……なんや……涙が出そうやわ……)パチパチパチパチパチ

絹恵(上重さん……来年……一緒に頑張ろうな……!!)パチパチパチパチ

由子(カッコいいのよー、漫ちゃん……!!)パチパチパチパチ

洋榎(漫のやつ……少しはマシになったやんか……ヘボやった一年の頃が懐かしいで……)パチパチパチパチ

すばら「ありがとうございました!!!! それでは……! これにて全国選抜学年対抗戦を終わりとさせていただきます……!!!! みなさん……今日は本当に……ありがとうございましたああああ!!!!!」

 直後、壇上の左右から爆音と共に飛び散る、火花ッ!!

 天井からは、無数の紙ふぶきが会場中に降り注ぐッ!!!

 風越コーチ・久保貴子……舞台裏から渾身の演出ッ!!!!

 花びら舞い散る中――全国選抜学年対抗戦……終宴ッ!!!!!

@エピローグ

清澄高校麻雀部

南浦「どうも……今日もお邪魔します……って、あら」

和「」ズーン

まこ「なんじゃ、和。まだこの間の対抗戦のこと引き摺っとるんか?」

咲「の……和ちゃん、いいよ。あれは私がいっぱい取られちゃったのがいけなかったんだって……」

優希「しっかりするじょ、のどちゃん!」

久(あらあら……これは……どうやらリハビリというか……リベンジが必要なようね……)

@阿知賀女子麻雀部

玄「灼ちゃーん、なんか清澄の竹井さんから葉書が来てるよー」

灼「え……? やだ、受け取りたくない」

宥「そ、そんなこと言わないで見てあげようよ……」

憧「えー! なになにー!?」

穏乃「ん……全国選抜……?」

@龍門渕高校麻雀部

衣「地区対抗戦……だと?」

透華「清澄の……今度は一体何を考えてますの?」

純「地区対抗か……あるようでねえよな」

一「地区ってことは、当然同じ県の清澄や風越、鶴賀はみんな味方なわけか」

ともき「……またお祭り騒ぎ……」

@鶴賀学園麻雀部

蒲原「ワハハー。ホント清澄は何を考えてるんだか」

かじゅ「これは……まあ、うちから選抜されるとしたらモモくらいか」

モモ「えー! 先輩と一緒がいいっす!!」

睦月「えっと、槍槓っていうのは……」

かおりん「ふむふむ……ああ!! なるほど……!!」

@風越女子麻雀部

池田「キャプテン、清澄から葉書が来てますよ」

美穂子「上埜さんから……? これは……地区対抗戦……?」

みはるん「こないだの学年対抗と同じ感じのあれですか?」

文堂「え……地区って……どう分けてあるんですか?」

深堀「……長野は……中部……?」ドムドム

@宮守女子麻雀部

豊音「おおおおお!! またまた清澄さんが何かやるみたいだよー!!!」

シロ「ダル過ぎる……」

塞「地区対抗戦……? うちらは……北海道・東北地区か。そこから十人を選ぶわけね」

胡桃「ベストエイトの有珠山も誘えるってことだね。今度はマナーいい人ばかりだし、私も出てみようかなー」

エイ「♪」

@白糸台高校麻雀部

菫「おい、照。また清澄が何かやるらしいぞ」

尭深「……地区対抗……」

誠子「えっと……私らは東京地区ですか。じゃあ、東の臨海と組めるってことですね」

淡「へー!! いいじゃんいいじゃん!!! テルー、一緒に出ようよー!!」

照(……咲が出るなら……出よう……)

@晩成高校麻雀部

初瀬「先輩!! なんか今度は地区対抗戦っていうのをやるみたいですよ!!! うちらと阿知賀が近畿地区の取りまとめ役だそうですっ!!」

小走「ふん! いいだろう……またちょっくらニワカを叩き潰しに出かけてくるか!!」

@新道寺女子麻雀部

すばら「ええええっ!? 私をアナウンス局にですか!!? いやいや……しかしまだ私は高校生で……卒業してから? むむむむ……なんとすばらな就職先!! ありがとうございます!! 考えさせてください!!!」

哩「花田んやつ……こないだの対抗戦以来いろんな局からアナウンサーのスカウトば来て大変とね」

姫子「そんなことより部長、今度は地区対抗戦とですよ!! 私らは九州・沖縄地区ですけん……永水と組めるとですね!!」

江崎「沖縄の真嘉比もやな」

美子「九州赤山とも組めるとです」

@永水女子麻雀部

霞「へえ……今度は全国を八地区に分けて、トーナメント形式で勝ち抜き戦を行うのね」

初美「北海道・東北、関東、東京、中部、近畿、大阪、中国・四国、九州・沖縄ですねー」

巴「各地区ごとに十人チームで半荘十回勝負っていうのは、こないだと同じね」

小蒔「楽しみですねっ!!」

はるる「」ポリポリ

@劔谷高校

友香「私らは近畿地区……ってことはまた阿智賀と組めるんでー!」

莉子「ま、またまた阿智賀が味方!! でも頑張るっ!!」

澄子「二人とも落ち着いて。まだ選抜メンバーに選ばれるかどうかもわかっていないのに」

美幸「これなーもー近畿は近畿でも大阪だけ別地区ってのが大打撃だもー」

梢「そういえば、大阪の皆さんは……今頃恒例の夏合宿中でしょうか」

@姫松・千里山・三箇牧合同合宿

由子「また清澄がなんかやるみたいなのよー」

洋榎「おっ!!! 今度は地区対抗やと……!!? そんなんうちら大阪地区が勝つに決まっとるやんけ!!」

竜華「せやなっ!! この面子がみんな味方なら千人力や!」

セーラ「うおおおお!! 見とれえええ!!! 今度こそ俺が勝ったるわああああ!!!」

怜「セーラ、それ負けフラグや」

絹恵「浩ちゃんどないするー?」

Q「うちは今回は応援でもええかなー。代わりに泉を生贄として召喚するわ」

泉「こ……今度こそ頑張りますよっ!!」

憩「もちろん、学年対抗戦のMVPさんは出はるんやろー?」

漫「えっ? そ……その……うちは……末原先輩が一緒なら……」

末原「なんやー、漫ちゃんは寂しがりやなー」

漫「せやかて! うちは先輩がおらんと……!!」

末原「しゃーないな。ええで。こうなったらどこまでも付き合うたるわっ!」

漫「先輩……!!」

 かくして――再び全国の猛者たちが集い、熱戦を繰り広げることになる。

 しかし、それはまた別の話。

末原「ほな、次もうちが漫ちゃんに花持たせたるでっ!!」

漫「ありがとうございます、先輩っ!!」

 先輩から後輩へ受け継がれる――笑顔の花。

 その花を終わりに添えて、この物語は幕を閉じる。

<槓>

くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」

マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」

ほむら「・・・ありがと」ファサ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり

長々とお付き合いいただきありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。

あと、言い忘れていましたが、MYPは久です。

では、皆様よい一年を。

いやー、ただ長いだけの糞SSでしたよ
ここまで不快に感じたのは球磨川のSS以来ですね

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