菫「ファイト!」(356)

菫「銀の竜の背に乗って」
菫「銀の竜の背に乗って」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1356157565/)

の続きです

 
――スミレ


菫「誰だ」


――こっちだよスミレー


菫「目が見えないんだ。私はどこにいる? お前は――


――起きろー


菫「起き?―――――



照「おはよう。気分はどう?」

菫「!!っ、……なんだ照か……て、うあっ! ひ、膝枕!?」

照「驚きすぎ」

菫「……お前がそんなことするなんて、……――ここはどこだ?」

照「え? 学校の保健室だけど」

 
菫「ホケンシツ? 医務室のようだが……。それよりもお前のその格好はなんだ。膝が見えているぞ。お前の趣味か?」

照「これ、冬服。……頭打ったんだね。救急車呼んどく?」

菫「お前の言ってることがさっぱりわからない。どうせ女皇のイタズラだろうけど」

照「除光液? マニキュアの?」

菫「マニキュア? どこの国だそれ。それとも食い物か?」

照「??」

菫「???」

菫・照(何言ってんだこいつ)


ウチュウドバー


照「あ、淡の宇宙的恐怖オーラを感じる」

淡「よくぞ気付いた照の助! 褒めてつかわす!」ガララッ

菫「淡様っ!? 失礼致しました。こんなお見苦しいところを」

照「……淡様?」

淡「へー。本当に様なんてつけるんだー」ニヤニヤ

菫「いかがなさいました? あっ、またイタズラしましたね。何度も言いますが私達を困らせたところで一番被害を被るのは淡様なのですよ? そのへんをちゃんと理解して……」グチグチ

淡「なるほどなるほどー。素材が一緒なら宿る精神も変わらないんだね」

照「淡、なんかおかしいよ菫。しかも変な服きてたし」

菫「おいっ、女皇を呼び捨てにするなど許しがたい行為だぞ! いくら親友とはいえ――」

照「あれ? 動きが止まった」

淡「電池切れかな」

菫「そうだった……私は任務に行く途中で――、淡様に、」

菫「ここはどこです!? 今すぐにでもナガノへ向かわねば、宥が……、宥を助けに行かせてください」

淡「あー。なんも知らされてないんだ……。あっちの私ってホント適当」

菫「淡様一体なにをおっしゃっているのです? 照まで連れて来て、まだ私を説得なされるのですか」

淡「結論から言おう。もうスミレは任務も作戦もしなくていいんだよ」

照「?」

菫「そんな! 他の者を立てるとのたまうのですか!」

淡「違う。スミレはね、この世界の人間じゃないの。スミレはスミレの世界から飛ばされてきたんだよ」




淡「、と云うわけなんだけど……。わかってくれた?」

菫「……そんなばかな……、皇帝は私を信頼してくださらなかったのか……」

淡「それは説明したじゃん。死ぬ人間を死に場所へ送れないってさ」

照「」ポケー

淡「照?」

照「あははー。みんな映画や漫画の見すぎだゾ。実は私に対してのドッキリなんだろそうだろ」

淡「まぁこっちはほっとくとして、……菫、大丈夫?」

菫「……はい。なんとか」

淡「はは……(私ってこういう苦労する立場じゃないよねぇ)」

菫「ひとつお聞きしたいことが」

淡「ん?」

 
菫「この世界にドラゴン・ユーチャー、もしくは松実宥という女性はいますか?」

淡「うん、いる。スミレと仲いいよ。付き合ってるんじゃない?」

菫「!っ」

淡「カワイー。照れてるぅー」

菫「からかうのはよしてください。でも……本当によかった」

淡「……」

淡「ふーむ」

淡「会いにいっちゃう?」

菫「ええ!? っ、よろしいのですか?」

淡「よろしいも何も私、菫よりえらくないし、命令とかできないんだけど」

照「ちょいまち。淡、部活。私達はOBとして来てるから抜けられるけど、淡はだめ。明日もあるでしょ?」

淡「ええ~~。私も行きたい~~」

照「ダメ」

 
ガラッ

 「失礼しまーす」

誠子「淡のやついますか?」

淡「ありゃりゃ」

誠子「あ……、弘世先輩、休憩中にどこぞのファンに薬を盛られ、コスプレをさせられたあげくトイレ前に捨てられてたと聞きましたが……」

誠子「体、なんともないですか? 犯人は見つかりました?」

菫「え? ああ、私は大丈夫だ」

照「誰、そんな根も葉もない情報を流したのは」

誠子「そこのアホです」

淡「なんのことだにゃー(白目ムキー」

照「……しょうがないやつめ」

誠子「あれ? その台詞、弘世先輩のですよ」

菫「へー、そうなのか」

誠子「……本当に大丈夫ですか?」

菫「ダイジョーブダヨ」

 
照「亦野は先に戻ってて」

誠子「わかりました。ほら、行くぞ淡」

照「ちょっと待って。淡には話がある」

淡「お?」

照「悪いんだけど、私と菫が早退するとみんなに伝えて」

誠子「やっぱり具合が……」

照「ちょっと事情ができてね。気にしなくていいから」

誠子「……帰る前に部に顔出してもらっていいですか? みんな心配してたので」

照「うんわかった」

誠子「ありがとうございます。失礼しました」ガララ

ピシャ

照「それじゃあ淡、」

淡「ん」

照「向こうに飛んだ菫は安全なの?」

 
淡「五体満足で返すって言ってたよ。すごい念を押したけど、それでも大丈夫って」

照「菫本人に対して許可は?」

淡「してない」

照「なぜ?」

淡「かなり急だったから。それに絶対伝えるなとも」

照「……」ウツムキ

淡「……怒ってる?」

照「私には何がなんだかわからないんだ。はっきり言って信じられない」

照「淡は自然と受け入れられたの?」

淡「ごめん、本当は遊び半分だった。実際こんなことになると思わなくて……」ションボリ

照「責めてないよ。とにかく菫がポンコツになったことは確かだし、このままでは部の威厳が下がることは目に見えてる」

照「うちで保護しよう。この世界でのルールも教えないといかん」フンス

 
淡「ごめんねスミレ」

菫「あ、いえ、私のためを思っていてくれての行動であれば身に余る栄誉です」

淡「ほんと?」

菫「はい。本心です」

淡「ほんとにホント?」ズイ

菫「は、はい」

淡「でもあっちの私が『スミレが言う事聞かんから緊急事態』って言ってたよ」

菫「う……」

照「こらっ」ペシン

淡「あいたた」




 
照「と、いうわけで、諸事情により私と弘世は早引きします」

照「再来月から新年度、そして新入生たちが入部して来ます。今のランキングに胡坐をかかず、白糸台の麻雀部として恥ずかしくない姿勢で活動に臨んでください」

照「以上です。近いうち、また時間の都合が合えば顔を出すのでその時はよろしくお願いします」

オツカレシター

 「弘世先輩、その格好は……?」

菫「これは私の国の伝統あr 照「弘世は先ほどコーヒーをひっくり返し、替えの服を持っていなかったため丁度通りかかった演劇部の方から衣装を貸してもらっています」

照「だよね?」

菫「はい。その通りです」


 「めっちゃかっこよくない?」ヒソヒソ

 「騎士みたいだよねー。お姫様抱っこしてほしいっ」ヒソヒソ!

 「わかる! それで耳元で囁かれたら一発だよね」ヒソヒソォオ!

 「妊娠しちゃうよそんなん」ヒッソヒソォ!


照「流石だぜ菫」

 
◇◆◇◆◇◆

照「今日はうちに泊まって。家帰ってボロが出るのはまずいから」

菫「すまない。世話になる」

照「友達の緊急事態だから。ほっとけない」

菫「そ、そうか」テレテレ

照「え、なにその反応」

菫「私が知っている照はもっとなんていうかな、頑固というか無感情というか……、素直じゃないんだ」

菫「だからそう少しむずがゆいんだよ。あ、悪い意味じゃないぞ?」

照「もしもし弘世さんの御宅ですか? 私、菫さんの友人で宮永と申します」

菫「聞いてないしっ」

照「――はい、……はい。うちへ泊まるのでその連絡に。そうです。今変わります」

菫「なんだその――補佐用の石版? にしては綺麗だな」

照「これで喋って」

菫「!?」

 
菫「あの、」

 『あ、もしもし? なんで宮永さんのほうから連絡くるのよ』

菫「母上? これ念話?」

 『なにバカ言ってんの。とにかく今後は自分から連絡してね。じゃあね、プツッ』

菫「聞こえなくなった」

照「返して」

菫「すごいぞなんだこれは、私もついに魔法が使えるように……!」

照「返して」

菫「ずっと諦めてたんだ。強化一つできない才なしだったのに、こいつの補助があれば念話すらできてしまう」

照「返し、」

菫「こ、これ! 譲ってくれないか!? いくらでも金は出す、だから、」

照「返しなさい」パシッ

菫「……あ」

照(プリペイド買ってあげるか)

 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
               魔法世界

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


淡「あ、きた! 電波キタ。あひゃひゃひゃ!」ビビビッ

照「医者を呼べ」

 「はっ」

淡「マテマテ、冗談だよ。今ね、あっちの私とリンクしたら、スミレを発見、意識ははっきり、記憶もばっちり、だとさ」

照「……はい」

淡「もっと喜びなよ。友達の安否を確認できたんよ?」

照「次の作戦が終わり次第、菫を連れ戻すことは可能ですか?」

淡「あっちの私と同調するタイミングは二三日にあるかどうかだから、すぐとは言えないけど、できる限り急ぐ」

照「……今、この世界にいる菫が作戦の参加を拒否した場合は?」

淡「それはない。試しに探ってみたら、スミレは相当責任感と母性愛が強い。現実ではユーチャーより生物として格下だけど、スミレにとっちゃ十分な保護対象だろう」

淡「死のリスクがあろうと必ず作戦に乗る」

 
照「私は――騙しているようで気が進みません」

淡「軟弱者云々はスミレの身を思っての発言だったの?」

照「本心ではあります。しかし、そこらの女子供を捕まえ、死地へ送りこむことになんら変わりはないかと」

照「先代の皇帝の影を踏んでいるようで、あまり……」

淡「テルー」

淡「私はテルのそういうところが好き。目をみて意見を言える大事な部下として狂おしいほど優秀だよ」

淡「だけどね、これは大事な政治戦略なんだ。戦争特需が起きなければ大規模な国家間戦闘を起こす必要は無い」

淡「あのスミレが死んだら前のスミレを連れ戻して新たに作戦を練り直す。これが一番ベター。わかってる、よね」

照「……はい」

淡「賢竜も優秀な部下も失わない。戦争を起こさない。目標だよ。覚えておいて」

照「了解しました」

淡「……さてさて、そろそろ出向いてくる頃だから準備しよう。一足早めに遠足だっ」

 
◇◆◇◆◇◆

菫「……」

玄「ん?」

菫「なんだか一日に二度も……その上泣き顔みられたのに、のこのこと淡に会いに行くのはやっぱり嫌だな」

玄「今日諦めたら明日はもっと行きたくなくなるよ!」

菫「もっともな意見だけど、玄さんに言われたくない……」

玄「なにそれー」ブー


             キー!


玄「うおわっ、軍用隼だ!」

菫「おー、こっちに向かって……でかっ!」

玄「よーしよし。ごめんね、ごはん持ってないんだ」

菫「この足の筒、」

玄「それとってあげて」

 
玄「ばいばい」

キー! バサバサ

菫「伝書鳩みたいなもんか」

玄「鳩だとちょっと頼りないからね。軍事機密も運んでるわけだし」

玄「それ、開くとき気をつけて。連結部を一周させた後180度半回転」

菫「それって、無視したらどうなるんだ?」

玄「んんん~? やってみる~?」

菫「やめておこう」

カチン カチカチ

菫「……」シュルシュル

菫「あれ? 何も書いてないぞ?」

玄「ちょい貸して」

玄「……むむむ。なんだこれずいぶん手間かかってんなぁ……」

玄「――反転、――処理、転写、反転、基因、転写、解凍、符号化、転写、転写転写転写転写……」ブツブツ

菫「!!っ、文字が浮き上がってきた。これも魔法か」

 
玄「むふふ、とっても高度な六重魔法なのです!」ドヤァ

菫「難しいってこと?」

玄「竜道的観点から言えば複合はむずかしくないんだけどね、人間にはある程度勉強と実践が必要なレベルって感じかなっ」

玄「およそ0.3秒ずつ、情報を魔法で読み取ってそれを刻み込んでいくんだよ。で三文字を超えると記憶域から消されちゃうからそれをまた書き込んで、」

菫「そこまでして隠したいって事か。手紙出すのも大変なんだな」

玄「説明してるのにぃ!」

菫「ごめんごめん、でも長くなりそうだし、ね?」

玄「む~~~~~。……それでっ、なんて書いてあるの?」

菫「え?」

玄「え?」

菫「漢字、読めない?」

玄「ち、違うよ!! 菫ちゃんにしか読めないように禁術がかけられてるんだよ!!!」

菫「そんな怒らないでくれ。知らなかったんだって」

玄「もうっ!!」プンプン

 
菫「ええ~っと……、声に出して読んだほうがいい?」

玄「好きにすれば?」

菫「機嫌直してくれ……。『拝啓、暖かい季節になってきました。私です。この国の頂点の淡です』……チッ」

菫「『私の予想だとあなたが覚悟を決めてうちの門を叩くまであまり時間はないでしょう』」

菫「『と、言うわけで! 隼を飛ばして連絡させてもらいました。実は今我々、私とテルーね。はお城におらないです』」

菫「『作戦の日程まで時間はありません。な・の・どぇっ! 西の森の修練場で特訓します!!』」

菫「『クロに聞けばわかると思うから後はよろしこ! すぐにきてね。 敬具 dear 大星あわ……え、最後いらない?……漢字間違ってる? アッテマスヨ タダ ディアハ』」

菫「なに……この」

玄「めんどくさいから読み上げて符号化させたんだね。そーいえば淡ちゃんのお手紙って綺麗な文でもらったことないな」

菫「こいつ、国の長だろ?」

玄「筆記代理の人間もいるし、上の連中にはこんな文章送らないでしょ」

菫「……」

菫「……なぜだか最来年度のうちの麻雀部が心配になってきた」

 
菫「西の森の修練場? 距離はどのくらいだ?」

玄「飛んでけばすぐだよ」

菫「お昼まだだったな。歩きながらのんびり行こう」

玄「……なに」

菫「ん?」

玄「はっきり言いなよ」

菫「……飛ぶの怖い」


ぼぼん

クロチャー「うるせーぞコラ。覚悟決めろ」

菫「ちょっと待て」ゴソゴソ

菫「『ストップ』」

クロチャー「なんのマネ―――」

クロチャー(これって!!)グググ

菫「あ、やっぱりこうすればいいんだ」

 
菫「ふふん。先ほど私の貞操を守る戦いで身に着けた技術だ」

菫「ババ抜きの必勝法……、それはジョーカー以外を引かせなければいいのだ」ドヤ

クロチャー「……うおりゃ!」バリーン

菫「ぬぁっっ!?」

クロチャー「ひよっこのションベン魔法にやられるわけないじゃーーーん」

クロチャー「いくら温厚な私といえど、ちょおっとプッチンしちゃいましたよ。どりゃ!」ガシリ

菫「やめ、」

クロチャー「これは罰です」グルン

菫「逆さまに掴まないでくれ! スカートがめくれる!」

クロチャー「知るか! 反省しろ!」

菫「おい!! 代打ちで酒代チャラにしたの忘れたのかっ」

クロチャー「むむむむむむむむむ」

クロチャー「――ふんっ……」パッ

菫「ぐへっ」グシャ

菫「……首折れるぞホント」イテテ

 
クロチャー「……」

クロチャー「もういい」

ぼぼん

玄「……」

玄「……」スタスタ

菫「歩いていくのか。じゃあ、昼食をとってからでも、」

玄「……」スタスタ

菫「あのー、玄さん?」

玄「……」スタスタ

菫「修練場へ向かってるんだよね、そうだよね」

玄「……」スタスタ

菫「えー、無視はきっついなぁ」アハハ

玄「……」スタスタ

菫(調子乗りすぎた)

 
◇◆◇◆◇◆

~二時間後~

淡「おっせぇ」

照「隼も無事帰還しているので、こちらの連絡は行き届いてるはず。どこかで道草を食っているのでしょう」

淡「暇だなー。ちょっとしたゲームをしよう」

照「はい」

淡「両手を前に出して」

照「こうですか?」

淡「それで、人差し指だけ立てて……そう。で、こう」ピシ

照「?」

淡「私が一本の指でテルーの右手を叩いたからテルーの右手の立ってる指は一足す一で二になりました」

照「はぁ」

淡「ほら、中指も立てて。で、テルーは二本立っている手で私の右手を叩く。すると?」

照「淡様は右手で三本指を立てる……ですか?」

淡「そうそう」

懐かしい遊びだな

 
淡「そして、」ピシ

照「こちらは五本立てる」

淡「違う。ゼロ。丁度五本立てることになったほうの手は死んじゃうんだ」

照「……理解してきました。要は相手の指を丁度五本立てるように足し合って、最終的に相手の両手を落とせば勝ち、ですね?」

淡「そそ。で、五以上の場合はリセットがかかって二足す四は一.四足す四は三本たてる」

照「ふむ」

淡「わかった? じゃあやろう」

照「はい。よろしくお願いします」

俺の地元では5以上になった手が使えなくなる
ただしもう片方の手が2以上なら半分にして復活とかだったな
地方によって違うのかな

 
~~~~~~~~~~

淡「あっ」

照「ありがとうございました」

~~~~~~~~~~~

淡「んーあれ? 負けか」

照「ありがとうございました」

~~~~~~~~~~~~

淡「また負けたーーーーっ!!」

照「ありがとうございました」


淡「テル、ちょっと強すぎ」

照「申し訳ありません」

淡「謝んなくていいよ。手抜いちゃだめだからね」

>>45
パス権とかあったわ
たぶん地方によって全然違う

 
淡「そういやスミレもチェスとか将棋とかすげー強かったよね」ピシッ

照「私も菫との対局は勝率が三割を下回ります」ピッ

淡「へぇ、そんななんだ」ピシッ

照「元々指揮官候補としてこちらに赴任してきましたから、先を読む力は軍随一です」

淡「珍しいね。テルーが他人を褒めるの」ピシッ

照「率直な自分の彼女に対する評価です。客観的な意見と大差ありません」ピッ

淡「ふふっ、そっか。……」ウーム

淡「こうだ」ピシッ

照「……、お返しします」ピッ

淡「今、勝ったと思ったでしょう」

照「え? ええ、まぁ」

淡「甘いんだなー」ピシッ

照「あ」

>>48
なんだそりゃ・・・
手を一つ潰したらパスできるとか?

>>50
ゲームに一度だけ使用可
次相手はパス不可

 
照「なるほど、自分の逆の手へも足せるのか」フムフム

淡「これでテルの詰みだね」

照「……ですね。ありがとうございました」

淡(あーこれでこのゲーム、今後絶対テルに勝てないんだろーな)

淡「虎の子は最後に使う。私も軍師になれるかなぁ」

照「無理でしょう」

淡「ひでぇ!」

照「どこでこのような遊びを?」

淡「さっきもう一人の私と繋がったとき、色々と知識がなだれ込んできてね。そのうちの一つ」

照「相手方には、」

淡「魔法の情報は送ってないよ。あっちをしっちゃかめっちゃかにしたらスミレが怒るもん」

淡「……おっ、やっと来た」

 
玄・菫「……」トボトボ

淡「テンションひきーなおい!」

菫「遅れてすまなかった」

淡「喧嘩か? 喧嘩したのんか? いかんぞー」

菫「ほっとけ」

玄「……」

淡「時間が解決してくれるのを待つか。とにもかくにも特訓だ」

淡「テルー」

照「準備はできております」

ガシャ

菫「これは?」

照「菫――お前ではないほうだ。あいつの備品だ」

菫「剣とナイフ? それと、」

菫「弓か」

照「使えるのか?」

 
菫「和弓を少々。だがここまで弦の張りが強いと私には引けないな」

照「あいつは肉体強化なしに引くことができるぞ」

菫「ここの私はゴリラなのか?」

照「いや……、特殊な筋肉質でな。華奢に見えて内蔵する筋肉量は常人の倍以上ある」

菫「それでこの固さか」ピーン

照「お前も魔法行使の訓練を受ければ引くことはできるだろう。あいにくそんな時間は無いがな」

菫「待て、そこまでせっぱつまっているのか?」

照「聞かなかったか? 出発は明後日の日が落ちてすぐだ」

菫「そんなに早く……」

照「……嫌なら参加しなくていい」

照「元々お前には関係ない話だ」

菫「……ダメだ。約束したんだ。玄さんに、絶対連れ戻してくるって」

照「……」

照「……ふん」

 
照「こいつだ」スッ

菫「ナイフ……」

照「格闘時に用いる暗器を改造したものだ。訓練用なので刃を落としている」

照「女子供が使える大きさ、そしてもしもの時を考慮して選んだ」

菫「もしも?」

照「捕虜、すなわち捕まった際に尋問、拷問を受けることになる」

菫「っ、」

照「その前に首をかっきれ。苦しみたくなければな」

照「……これでもやるか?」

菫「ああ、訂正はない」

照「とりあえずこいつを使った簡単な訓練を行う」

菫「弓は?」

照「お前も特殊な体質であったらと皇帝が期待をこめて持ち運んできた」

菫「そうか。すまない」

照「別に期待はしていない」

照さんがクールすぎる

 
淡「ではでは作戦の概要を」

淡「テルとスミレ両名はナガノ国を跨ぐ中央商交路に沿って、国境手前までぐいぐい攻めます。パンピーを装ってだよ」

淡「表向きは友好国なので査証一枚で通ります。もちろん偽造」

淡「しかしながら、テルーもスミレも有名人です。顔バレ余裕なわけだ」

淡「カントーの師団長と近衛NO1が入国したとならば、穏やかではない。末端に情報がいってなくてもすぐさま上に連絡が入るでしょう」

淡「そこで助っ人。今日はこないけど、作戦当日に合流します」

淡「その助っ人さんが幻術に近い魔法で突破を手助けしてくれます」

菫「細かいところがあやふやじゃないか?」

淡「警備兵と審査人への狂酔魔法じゃないかな。特殊すぎてその一族にしか使えないし、外部に漏らさないようにしてるからよーわからん」

淡「んでんで、その子は国境を突破後に離脱。そこから二人で行動」

淡「そこからは詳しく説明しよう。なんせ命に関わるからね」

淡「まずは―――――



 
淡「以上! 質問どうぞ!」

菫「成功する確率は……?」

淡「九割は堅い」

菫「そうか……」ホッ

淡(作戦はね)

淡「じゃ、ここからはテルに任せるわ」

照「任されました。こいつに着替えてついてこい」

菫「これ……サイズぴったりだな」

照「菫のものだ。汚してもかまわんぞ。そのための戦闘着だ」


淡「クロ」

玄「ん?」

淡「元気ないねー。何があったの?」

玄「別に。なんでもないよ」

 
淡「いつもここ来るとはしゃぎ回って虫捕まえてたじゃん。カブトムシでも探しに行く?」

玄「もうそんな子供じゃないよ」

淡「バッタ殺してユーに怒られてたもんなぁ」

玄「うっさい」

淡「そんなツンケンすんなよ。どうせ暇でしょ?」

玄「……」

淡「そうだっ。さっきテルーとやってた遊びをしよう」

淡「ルールは簡単だからやりながら説明するね。最初はこう両手を出して」

玄「こう?」

淡「そんでね、」



淡「わかった?」

玄「うん! やろうやろう!」

淡「クロは素直でかわいいよ」

玄「?、 そ、そうかな」テレ

 
淡「それじゃ記念すべき一回戦。もちろん先攻は皇帝である私から」ピシッ

玄「ふむふむ」ピシッ

淡「てい」ピシッ

~~~~~~~~

玄「なかなか接戦だったね!」ムフー

淡(やべーなクロと同レベルか)

玄「もっかい!」

淡「負けんよ」

玄「先攻いい?」

淡「うん」

玄「ほい」ピシッ

淡「ふむ」ピシッ

玄「ほっ」ピシッ

淡「……」ピシッ

淡「なんかこれさ、報復合戦みたいだよね」

 
玄「倍にして返すところが?」ピシッ

淡「そうそう。で、ゼロにしたらその代は終わり。憎しみの連鎖は終わる」ピシッ

玄「じゃあこの余りの数は残された者の恨みってことか」

淡「だね。そこからまた復讐に走る」

玄「人間達の悲しい性だ」ピシッ

淡「竜人にはそういった感情はないん?」

玄「……あるよ。訂正する。竜人にも憎しみってのはある。ただ、報復行為は禁忌なんだ」

淡「だよねぇ、しょっちゅう裁判やってるもんね」ピシッ

玄「あそこまで厳格な法治システムを作り出した人間には頭が下がるよ」

淡「ほー、クロからそのような言葉が聞けるとは。お褒めいただきありがとうございます」

玄「……」ムッ

淡「冗談。だけど、クロちょっと変わったよね。前はもっと暴虐無人で『人間のくせに~』が口癖だったのに」

淡「それもスミレのおかげかな」

この独特な淡ちゃんのキャラ好き

 
玄「どうだろ」ピシッ

淡「……さっきのクロ、怒ってたわけじゃないよね」ピシッ

玄「……」

淡「なんか考え事してた、っていうか」

淡「スミレが何かやらかした?」

玄「……もしかして今、……頭の中探ってる?」

淡「いや……ということはアタリ?」

玄「……菫ちゃんは普通じゃない」

淡「まあ、化け物並みではある。竜人には及ばないけど」

玄「容量も蛇口も、それに学習スピードも異常だった」

玄「菫ちゃんはもう、硬直魔法を好きなように使える」

淡「マジ?」

玄「まじ」

淡「へぇ~。……今どっちの番だっけ」

玄「えっと、淡ちゃんが三で攻撃してきたから、それで、……あっ、私だ。ごめんね」ピシッ

 
淡(あれ? これって)

淡「……」

淡「……」

淡「うっ」

淡(負けたくねぇ)

淡「虎の子……」ボソ

玄「え?」

淡「……」ピシッ

玄「は?……なにそれっ!」

淡「これで、私の勝ちだ!」

玄「もう片方の手に足せるの!? 聞いてないよーっ。ずるいずるい!」

淡「味方の不満を募らせて過激化させ、状況を優位にする。マッチポンプ戦術とはこのことだ」キリッ

玄「あと三手だったのにぃ」

 
玄「王様が民衆煽ったら最悪革命が起きちゃうんだよっ」

淡「王じゃなくても皇帝だもーん」

玄「一緒だよ!」

淡「落ち着きなって、とにかくこれは私の勝ちっぽいけど……続ける?」

玄「次っ!」

淡「すまんなー。ちょっとやりたことがあるから今ので最後」

玄「勝ち逃げは卑怯もん」

淡「正しい戦争の引き際じゃないか」

玄「むー」

淡「クロにも手伝ってほしいんだ。ちょっちついてきて」

 
◇◆◇◆◇◆

照「お前、何かやってたか?」

菫「やってたとは?」

照「格闘術、戦闘訓練だ」

菫「合気道とさっき伝えた通り和弓をな。どちらも初心者に毛が生えた程度だ」

照「ふむ」

照「私に使用した硬直魔法を自由に扱えるか?」

菫「一応」

照「……、そうか。ドラゴン・クロチャーから教えを?」

菫「いや? ババ抜きで大事なものを賭けていたときに身に着けた」

照「……」

菫「?」

照「菫とはまるで違うな」

菫「私も菫なのだが」

 
照「……まぁいい」

照「今回の作戦の要、それはお前の硬直魔法にかかってる」

照「緊急事態にお前が場を制圧。その力はあらゆる場所で役立つ」

菫「それはわかる。だが基本は隠密だろう? 私みたいな素人は足手まといにならないか?」

照「それは私も同感だ。しかし淡様は任命なされた。何か狙いはあるはずだ」

菫「なんだかなー」

照「不満でも?」

菫「いや、それよりも続けてくれ」

照「お前は自分の命をできる限り最優先で守ってほしい」

菫「うん」

照「今回、ドラゴン・ユーチャーが幽閉されている場所は、ナガノの民であろうが無許可で立ち入れば即処刑の侵入禁止区域だ」

照「故に警告無しで剣を抜かれ、または矢で射られる」

照「真っ向からこられるなら対応できる。しかし、矢は無理だ。音に反応して避けたところでお前の身まで守れない」

照「そこで硬直魔法を使う」

 
照「常に詠唱を済ませ、感覚強化に上乗せして限界まで高める」

照「お前なら目を瞑っても四メートル先の石ころに感覚で気付けるはずだ」

菫「皮膚感覚の延長ということか?」

照「違う。五感のほか、さらに六つ目の感覚を開発させる。それは直感的でとてもじゃないが言葉には表せない」

菫(超能力みたいなもんか)

照「その能力発動に――、」

淡「あ、その役私がやるー」

照「淡様、いつからここに」

淡「そろそろかと思ってね」

照「それではよろしくお願いします」

淡「ほい。よろしくスミレくん」

菫「ああ」

淡「第六感解放にはひとそれぞれの条件がある。死の間際だったり、幸福の絶頂だったり、深い悲しみに陥ってたり」

淡「何かしら感情が平常ではないときに初めての解放がおこるんだ。こればっかりは魔法でどうこうは無理なんだよね。そもそも魔法じゃないし」

淡「というわけでユー、おいで」

 
菫「ユーって」

宥「菫ちゃ――菫さん」

菫「!!?っ、宥? え? どういうことだ?」

宥「ねぇ、私のこと好き?」

菫「えっとあの」

宥「抱きしめて」

菫「え、ええええ、ええ」

宥「もうっ」ギュ

淡(さて……)

菫「」

淡「あれ?」

淡「……」トントン

淡「こいつ、いい顔して逝ってやがる……」

ぼぼん

玄「ふぅっ、装飾魔法は疲れるのです」

へたれ菫

 
淡「あ、こら」

玄「だってもう昇天しちゃってんじゃん。意味無いよ」

淡「うぶすぎんだろマジで……」

淡「ああもうプランBだ。クロ。おこしてやって」

玄「ほい」

玄「おーい菫ちゃーん」ペシペシ

菫「――はっ、私はなんて夢を」

淡「ベタだなおい。これでダメなら……うーん、あ!」

淡「スミレ、世界で一番好きな人は?」

菫「は!? 突然何言って、」

淡(お、これは)

淡「もちろんユーだよね、あ、そこは否定しなくていいから。めんどいからおとなしく認めて」

菫「うう……」マッカッカ

淡「じゃあユーに対する願望を大声で叫んでみよう」

菫「!!」

 
淡「はい、どうぞ」

菫「これが開発になんの関係があるんだ!」

淡「羞恥心も重要な気持ちのゆれだよ」

菫「他にも方法はあるだろ」

淡「ない。今ここでできることはね。よってこれしかありません。やりなさい」

菫「どうしてもか?」

淡「うん」

菫「……いたい」

菫「宥に会いたい」

淡「それは違うな。だって恥ずかしい台詞じゃないよ」

淡「もっとさぁ、『ユーとセックスしてー!!』みたいな本能丸出しでいいんだよ。というかそれでお願いします!」

菫「おまえ……ばかいってるんじゃないよ……」プルプル

玄「せっくす……あっ」

照「ドラゴン・クロチャー、ここでは彼女らの邪魔になる。向こうへ行くぞ」

淡「さんはい!」

 
菫「ゆ、宥と……」ゴクリ

淡「セックス」ボソ

菫「せ、」カァァ

菫「む、無理だっ。まだキスしてもいないのに!」

淡「想像してみなよ。ユーの潤んだ瞳、豊満な胸に桃色の乳首。恥ずかしくて視線を合わさないユーは何一つ抵抗しようとしない。
  スミレは野獣で、荒い息を吐きながらユーを押さえつけてるのに、彼女は子犬のように震えながらそれを受け入れようとしている。
  首筋に、キス。二人は重なりスミレは貪るように愛を求める」

菫「そんなこと……!」

淡「いいんだよそれで。誰だって性欲はあるし、好きな人いがいればそういった妄想はするはずだ」スッ…

菫「それは、」ガクッ

菫(あれ?)

淡『スミレー聞こえる?』

菫(おいなんだこれは。体が動かない)

淡『めんどくさいから体乗っとらせてもらったわ』

菫(なにー!?)

淡『それじゃーいってみよー』

 
菫「テルー、クロー」タタタタッ

照「ん? なんだあいつすごい気持ち悪い笑顔だな」

菫「私、弘世菫はあーーーーーっ、松実宥とおーーーーーっ、セックスしたいでありまーーーーーーす!!!」

照「へ、へぇ」ヒキ

玄「?」キョトン

菫「毎晩ユーとやらしいことばっかする妄想でオナニーして、シーツビショビショの変態娘でぇぇぇぇぇええすっ!!!」

菫(やめろおおおおおおおおおおおおおお)

淡『お、この記憶片は……』

菫「実は先々々月あたりですかね、ユーの旅館に泊まったとき、」

菫(お前、それは、)

菫「ユーからマッサージのサービスを受けましてね」

菫(やめてくれそれは、)

菫「ただのマッサージだったんですけど、その、下半身が、」

菫(あああああああああああ――――)  ぶちん

淡「やべ」

ひでえw

―――殺す


照(殺気、菫からか)

淡「テルゥーーー!!」

照「!!!」

菫「――」ザッ

 ダッ

照(早い!!)

照(追いつくのは無理だ、だったら――)

こちらへ背を向けて淡へ一直線に向かう菫の足を狙い、照は飛針を振りぬく。
あっけにとられた玄が状況を読み込むまで一瞬の間があった。感情を失った瞳の菫。淡の叫びに追従し、行動を起こし飛針を振りかぶった照。
脳は次の動作を慎重に選んでいく。常識で考えれば、皇帝へ牙を剥く敵の排除が最優先だろう。
実行するのは簡単だ。殺意むき出しの菫を豪炎で爆ぜるなり倒せば良い。だけど、それでいいはずがない。
地を蹴った。
浅い雑草の生えた足元の土は波打つように皺を作り半球状に削れていく。横に立ち並んでいた照は衝撃で体を強張らせた。
兎の如く前のめりの姿勢で駆け抜ける。玄が通り過ぎた後に、遅れて土煙を起こし地には無数の穴が開いた。
竜人の肉体の極限状態は素手で岩を割る。いままで玄はこれほどまでに真の筋力を発揮したことがない。
必要が無かったからだ。
しかし今は違う。菫と淡を救うためには一切の余裕など無かった。

玄(間に合え!)

 
突き進む飛針が菫の太ももを貫こうとする寸で、背後に迫るそれを知っていたかのように身をかわし、菫は腰巻に刺さった暗器へと手をかけた。淡を前にして躊躇無く飛び掛る。

淡「おいおいマジかよ、」


ズシュ

玄「ぎぃっ」

淡「……」

玄「つ……いってぇ」ググ

淡「……サンキュークロ」

玄「これ貸しだかんね」

菫「……」パチッ

菫「玄さん、腕――これ、私が……?」

菫「わた、私が刺した……? 玄さんの腕にナイフを、」ガクガク

 
淡「あーこりゃやばいね」

照「お怪我はありま……、玄……」

菫「私が、殺そうとして、それで、ナイフで、淡のことを、」ガクガク

淡「やりすぎたわ……。自我崩壊まで起こるとは」

玄「ばか」

淡「っぐ……。自殺されたら困るし眠らせてあげて」

菫「あ、ぅあっ」ポロポロ

玄「……うん、おやすみ菫ちゃん――――………

スーパーごはんタイム

いってら

保守

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
                  元の世界
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

菫「ここがお前の家か。なかなか大きいじゃないか。にしてもなぜドアがこれほど沢山ついているんだ?」

照「アパート。つまり集団住居」

菫「なるほど! 兵舎みたいなもんか」

菫「ここのお前はあんまり偉くないみたいだな!」ガハハ

照(なにこのキャラ)

カチ ガチャリ

照「どうぞ」ササッ

菫「うむ、邪魔する」

照「……」

照「早く入りなよ」

菫「いや、なんだか緊張してきてな」

照「……もう」グイ

菫「おい、ひっぱるな!」

 
照「だって入ろうとしないから」

菫「心の準備が必要なのだ。……よし」

菫「邪魔するぞ!」

照「うるさい」ポカ

菫「あた」

照「ご近所に迷惑」

菫「失敬」

照(ふぅ)

菫「母君は?」

照「仕事。遅いから夜まで私と菫だけ」

菫「年頃の娘が一人で留守番か……。怖くないのか?」

照「慣れた。それに菫も同い年でしょ」

菫「確かにそうだな」ハハハ




照(帰ってくる途中大変だった)

照(目に映るもの全てに興味しんしんで、あれはなんだこれはなんだの質問攻め)

照(派手な見た目の上、いちいちリアクションがでかいから行きかう人の視線もろ受けだった)

照(あっちの私はこんなの相手してて大変なんだろうな)

照(……でも、)

照(なんだか新鮮で楽しかった)

ガララ

菫「背中流すぞ照ぅう!」

照「ちょ、ちょっと!」

菫「個人の浴場にしてはなかなか立派だな!」

照「声でかい。それに二人は狭いよ」

菫「おっとそうだった失礼。まぁ浴槽に二人つかるわけでもなし、問題ないだろう」

照「むぅ」プクプク

菫さんから漂うポンコツ臭

 
菫「石鹸石鹸」

照「髪を洗うならちゃんとシャンプーがそこにあるから」

菫「シャンプー?」

照「知らない?」

菫「それは髪を 照「これだよじっとしてて」

ワシャワシャ

照「ほら、泡ができてきた」

菫「すごい……なんだこれは……その上この香り……」コウコツ

菫「照!」クル

照「な、なに?」タジ

菫「これも帰るときお土産として買いたい!」

照「え? いいんじゃない? 別に……」

菫「やったぜ。」

 
照「流すよ」

菫「うむ」

照「髪あげるね……あっ」

菫「どうした?」

照「これ……」ツツー

菫「ひんっ」

菫「突然背中をなぞるな!」

照「傷……切られたの?」

菫「一年前にな。訓練中の事故みたいなもんだ」

照「いたそう」

菫「何言ってんだ切ったのはお前だぞ?」

照「ええ、私!? あ、……向こうの私か……。それもそれで複雑だけど」

照「仲悪いの?」

菫「そんなことはない。これは本当に事故だった」

照「ごめん」

 
菫「なぜお前が謝る?」フフッ

照「なんとなく」

菫「あいつはこれっぽちも謝らなかったぞ」

照「ひどいね」

菫「原因は私にある。演舞を模した真剣の型の最中だった」

菫「私が近づきすぎたせいで、あいつの刃先に触れてしまった」

菫「戦場であれほどの負傷を経験していなかったから大慌てだよ」

菫「そのうえ運の悪いことに破傷風にかかってしまい三日は動けなかった」

照「ばいやー」

菫「治癒にあたったのが宥と照だったんだ。照のやつ医学知識なんて折れた腕を添え木で支える程度だからそりゃあもう」

菫「魔法を垂れ流しながら私の治癒加速のために身体強化を続けて、」

菫「あいつは5分の1の寿命を失った」

照「……ふーん」

 
菫「とはいえ統計的な計算だし、ほとんど魔法が使役できない私には現実感はないがな」

菫「もちろん感謝したよ。治癒のためなら宥で十分だったのにあの馬鹿……」

照「なんて?」

菫「『お前のミスであり私のミスでもある。恨み言をほざかれる前に治癒した。貸し借りはなし。頭を下げるな。殺すぞ』」

照「はは、真面目というか素直じゃないね」

菫「あの手の性格はとても表現がしづらい」

照「ツンデレ」

菫「つんでれ?」

照「そう、ツンデレ。ツンツンしてるけど特定の人間にはデレデレして……私も細かい解釈はわからないけど、そんな感じかな」

菫「ほうほう。なかなか面白い造語だ」

菫「女皇に教えたら流行りそうだな。照の呼び名が"ツンデレ"になるかもしれん」

淡「あっちの淡も変わらないんだね」

菫「ああ。怖いもんなしの皇帝殿だ」

 
◇◆◇◆◇◆

菫「ねむい」

照「まだ11時だよ? 寝ちゃう?」

菫「うむ。もう何も考えられん」

照「勝ち逃げするの?」

菫「かんべんしてくれ。それに今そちらがかったろう」

照「14敗1勝じゃ喜べない。再戦を申し込む」

菫「むり」

照「咲に負けたことなかったのに……オセロ」

菫「……咲?」ピクッ

 
照「だからもっかい!」バフン

菫「うぉあ! 枕を投げるな!」

照「もしかして負けるのが怖いの?」

菫「――ほう」

菫「ならばわからせてやる」

菫「カントー将棋連盟主催大会少年少女の部三年連続ゆ 照「御託はいい」

照「石を握れ」ギュルルルル

菫「」ブチッ

菫「覚悟しろよ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
               魔法世界
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 「スミレ起きたー?」

 「まだです」

 「寝顔カワイー。落書きしちゃおっかな」

 「……」

 「冗談だよー」




 「菫ちゃんどう?」

 「目を覚ましていない」

 「そっか。これお夕飯。起きたら食べさせてあげて」

 「わかった。……ありがとう」

 「」ビクッ

 「なんだ?」

 「い、いや別に……」

さるよけ

 
暗い。
だけど前が見える。
光源があるわけじゃないのにはっきりと足元は照らされている。
何かに導かれるようにして少しだけ歩いた。
女がいる。
髪が長い。
女性にしては身長が高い。
目があった。
眼光は鋭く人殺しの目だ。
殺される。
だったら先に殺そう。
ナイフがあった。逆手に持つ。
その女は笑っていた。
でも刺した。
血が流れた。
それでもその女は笑っていた。
目は真っ黒に落ち窪んでいた。


菫「――っ」

菫「――……」

照「起きたか」

菫「……」

 
菫「ここどこ?」

照「城の客室だ」

菫「今何時?」

照「夜の7時」

菫「ここはどこだ?」

照「……。同じ質問を繰り返すな。イライラしてくる」

菫「玄さんは……?」

照「あの程度の傷、竜人にしてみればささくれのようなものだ」

菫「私は人殺しか?」

照「あ?」

菫「人殺し……淡を殺そうとナイフを抜いた。結果的には玄さんに刺してしまった」

菫「感情で体が動いた。衝動で、」

照「誰も死んではいない。殺意は存在したかもしれんがお前は違う」

菫「……じゃない」

 
菫「そうじゃないんだ」

照「何が、」

菫「そうじゃない……、」ヨロ


菫「照」ダキッ

照「は、はなせ」

菫「いやだ、」

照「――お前には、宥がいるだろう」

菫「ここにはいない」

照「そういう意味ではない!」バッ

菫「……照」カタカタ

照「っ、宥の気持ちを愚弄するな」

菫「……怖い。私は私が怖い。あんなくだらない理由で大切な後輩に刃を向けた私が」カタカタ

照「あれは、副作用みたいなものだ。解放の特性上、我を忘れることなど誰にでもありえる」

 
菫「……」カタカタ

照「おい……」

菫「今でも、体の感覚がおかしくて、気が狂いそうなんだ」

照「じき慣れる」

菫「玄さんにも謝らなくちゃ。死んで謝らなくちゃ」カタカタ

照(ここまでとは)

照「……」

菫「……」カタカタ

照「……」

菫「……死にたい」

照「……ちっ」

照「……」スタスタ

照「誰かいるか?」

 「はっ」

 
照「監視か?」

 「いえ、淡様の命により二人の護衛を」

照「はぁ? 敵はどこだ? いったいお前は何を聞いたんだ?」

 「そのままです。確かにそうおっしゃられました」

照「よし、ならば退け。私から報告しておく」

 「しかしそれでは、」

照「いいから。お前に非があるわけでない」

ガチャン

照「目を瞑れ」

菫「?」カタカタ

照「早く」

菫「っ」ギュッ

ピト

照「額に“触れるぞ”。精神安定が働く魔法を流し込む。動くなよ? 少しだけ苦手なんだ」

 
……

……

……

菫「あったかい」

照「まだ目を開けるな」

菫「なんで?」

照「なんでも」

照「……」

照(顔が、近いんだよ)




照「終わり」スッ

菫「……ありがとう」

照「気分はどうだ」

菫「楽になった」

照「そうか……」

照「……顔が赤いぞ」

菫「女同士とはいえ、その、額と額を合わせるなんてこと、初めてだったから……」

照「っ!?」

照「――あ、あれは手の甲を押し当ててたんだ! 額じゃない!」

菫「でも、声近かったし、それに、」

照「なんだ、」

菫「呼吸が聞こえてきて」

照「~~~~~~」

照「忘れろ! いや、忘れさせてやる!」ガシ

宥「あったかない……」

 
菫「なにすんだ!」

照「人間の後頭部を殴ると記憶が飛ぶらしい。本で読んだ」グイグイ

菫「危険すぎるだろ! 魔法を使え、魔法を!」

照「私はヘタクソなんだよっ」

菫「んなもんしるか!」

ギャーギャー

菫「勘違いだった! お前は手の甲を当てた!」

照「ああそうだ、信じるか? いや信じろ」

菫「信じる信じる!」

照「ならばよし」

菫「……お前、友達少ないだろ」

照「何か言ったか?」ギロリ

菫(気にしてんのかな)

 
照「着替えろ」

菫「またこれ?」

照「心を落ち着かせるには弓を引くことが一番、らしい。菫の言葉だ」

菫「しかし私には引けなかったぞ?」

照「もう一度やってみればいい。お前にはセンスがある」

照「受け取れ」ヒョイ

菫「……」パシ

照「バルコニーへ出よう」

 
ザー
   ザー

菫「雨降ってたんだ」

照「明日には止む」

照「構えてみろ」

菫「よし」スッ

グググッ

菫「ぬぅうううううっ」

グググ…

菫「ふんんんんん」

ググ

菫「……だめだ」

照「……」

照「いかにしてお前は硬直魔法を使えるようになった」

菫「いかにして……とにかくお前に切られそうになったのがきっかけだったし、トランプの時にはなんとなくだが使えた」

 
照「魔法は思い込みが重要だ。論理的に理解し、強弱の調整、スタックの順、それらは二の次でいい」

菫「そんなこと言われても……」

照「人差し指の先から腕の付け根まで意識しろ。それらは間接を持つ丸太。太く固く、濃密に組織が組み合わされている」

菫「……」

照「次に頭から栄養を送れ。これが筋力を限界まで膨張させる。イメージはそう……水だな。粘度が低く、腕一杯に満たされていく」

照「……」

菫「……」

照「ん?」

菫「次は?」

照「詠唱。掛け声だと思え」

菫「どんな?」

照「適当でいい。力が出そうなやつ」

菫「例えば?」

照「例えば……」

ファイト!

 
照「お前が決めろ」

菫「適当、適当……」

――ファイト! タタカウーキミーノウタヲー

菫(そういえば宥の着メロがなぜか中島みゆきだったな)

菫(亡くなった母親が好きだったのだろうか――いやそんなことどうでもいいか)

菫「……ファイト!」

照「」ビクッ

菫「戦うー君ーの歌をー♪」

ググググ

菫「戦わないやつらが笑うーだろう♪」

グン

菫「ファーイト!」パシ

ビィィィィィン

照「お、おお……」

 
菫「どうだった!?」キラキラ

照「ああ……いいんじゃないか……?」

照(なんだ今の、もしかして歌ってたのか?)

菫「あ、じゃなくて歌のほう」

照「歌唱力?」

菫「そうそう」

照「下手」

菫「そ、そうか……気付いていたけどはっきりそう言われると何かくるものがあるな」ハハ…

照「お前が音痴かどうかは問題ないが詠唱が長いのは少し問題だな」

菫「なぜ?」

照「お前、歌いながら戦うのか?」

菫「!!」

 
照「弓を引くときもだ。それだと狙いがそれる」

菫「た、確かに」

照「クセになる前に直したほうがいいな。『ファイト』だ。それだけにしろ」

菫「そうだな。やってみよう」

菫「……あ、その前に、」

照「何?」

菫「ここ、握りの下だ」

菫「字が書いてあるんだ。読めるか?」

照「……『死して屍拾うものなし』? 菫の字だな」

菫「そう書いてあるのか。ずいぶんと崩れていてわからなかった」

照「昔、菫に聞かされたような……」

菫「詠唱?」

照「いや、あいつは肉体操作さえできないほどセンスがなかった。わざわざ大事な弓に無駄な装飾はしない」

菫「死して屍……、格言みたいなものか」

 
雨雲の向こうに太陽光を照り返す月がうっすらと浮かぶ。
一の手、照準は月へ。息を深く吸い込み、そしてまた空っぽになるまで吐き出す。
鼻腔を広げ、肺に入る半分ほどの空気をゆっくりと吸う。
照準を下げ、0距離射撃の角度。的のつもりではないが、ずっとずっと先のひとりぼっちで立ちはだかるでかい杉の木を目指す。

こちらの集中を切らさぬための配慮か、照は一言つぶやいて長弓用の矢を持ち出した。
手元に渡され、ほとんど視線を動かさないで受け取ってから、今までの準備が無駄にはならないように右手だけで全ての動作をこなす。
意識と照準がほんの少しずれた。一の手を繰り返す。

照「やれ」

シナプスを巡る煩雑を排除した菫の思考は、余計な感想をはさまずGOサインとして受け取る。
二の手、ヴェインを固く握り、弦と合わせて口元まで引く。
魔法の呪文を唱えた。
みるみるうちに弓はしなり、弦はくの字に折り曲がる。

菫の眼が輝く。
身体強化の際、視力まで暴走し、さながら鷹の眼と化したそれは、杉の木の幹に落書きされた“あわい”の文字を捉えた。
――あんにゃろう。

ひゅん

雨粒を弾き亜音速で飛んでいく。既にあらゆる感覚が人外の領域に到達した菫は、蛇行する矢尻が“わ”の真ん中で突き刺さるところまではっきりと見えた。
そして、

杉の木が折れた。

照「ぬあ゛っ!!?」

 
菫「も、もしかしてまずかったーみたいな?」

照「」ダラダラ


 ナンダ イマノ オトハ!

 ミナミノ モリカラダ!

 デアエ! デアエ!


照「……」ブツブツ

菫「てる……?」

照「部屋から出るな。私が説明してこよう。お前は何も悪くない」

菫「私も行く」

照「いやいい。そ、それほど問題ではないんだ」

菫「……」

照「とにかく! ここから出るな」

菫「わ、わかった」

 
 「……」ジー

照「今日はたぶん戻らない。ちゃんと休んでおけ」

菫「ああ」

 「わわわ」シュタッ ピトッ

ガチャリ

照「……」

照「天井に張り付くのは楽しいか?」

玄「……別に覗いてたってわけじゃないよ。ただ通りかかったときに菫ちゃんの声がしたから、ああやっと起きたんだと思って立ち止まってそしたら偶然照ちゃんが、」

照「まぁいい。お前も早く寝ろ」

玄「は~~~~~い」ストン


コンコン

玄「菫ちゃん」ヒョコ

菫「こんばんは」

玄「こんばんは。どう? 飲まない?」チャポンチャポン




菫「ん~~」ポワー

玄「効くよねーこいつ。度数30なんだけど回るの早くて残りにくいんだよ」

菫「いままれお酒、飲んだことなかった。おいし」ズズズ

玄「おー。もどさんようにね」

菫「ふぃー」

菫「……玄さんごめんね」

玄「腕? 別にいいよ。ほら。痕も残ってないでしょ」

菫「ほんと」サワサワ

玄「だからね。気にしなくていい。淡ちゃんもやりすぎたって反省してたしさ」

菫「そう」

玄「ま、私ぐらいの心の広さがあればこの程度、許してあげることができるのだ」ワハハ

菫「……」ズズズ

 
玄「なんかツッコミがほしいよ~」

菫「ごめんにぇ」

玄「さっきからそればっかり。もう」

トックリトックリ

玄「私も飲もーっと」グイ

玄「ふへぇ」

菫「ねぇねぇ玄ちゃん」

玄「なに?」

菫「ここの私とゆうのなれそめおしえて」

玄「知りたい?」

菫「うん」

玄「どうしよっかなー」

菫「えー」

玄「えー。……ふふ。いいよ」

玄菫という新境地

 
玄「二年前だったかな。私がまだアチガで先生やってるときのこと。お姉ちゃんはここで仕官のお仕事してたんだ」

菫「ふむ」グイ

お姉ちゃん、頭いいから仕官の中でもすんごい早さで出世してて、淡ちゃんの補佐としても優秀でさ、当時はカントーの末端支部への視察だとかで国中を飛び回ってたんだよ。
そんなとき、こっから北にあるグンマーって自治区で自衛軍の連中が蜂起を起こしてね。あ、自衛軍てのはグンマーが勝手に起こして造った軍隊なんだけど、
そんときの声明が竜人排斥を謳ったもので、ちょうどお姉ちゃんが視察から帰ってきた一ヵ月後。つまりはお姉ちゃんが何かしらやらしたんじゃないかって話が出たんだ。
最初は自己弁護してたんだけど、お姉ちゃん、ああいう性格で責められると弱いし、足のひっぱり合いも多くてだれも守ってくれなかった。
で、そんな責任の擦り付け合いの最中、颯爽と現れたのが卒業ほやほやの新兵菫ちゃんだったわけ。

「彼女になんの非もない。見たまえ、こんな弱虫があの土人共を挑発できるか?」
その言葉は本心そのまま。お姉ちゃんを擁護しようだなんて思ってなくて、『じゃあお前がどうにかしてみせろ』って言葉を待ってた。
私が思うにあのとき菫ちゃんはあわよくば鎮圧部隊に合流して、結果を残して出世したかったんだと思う。意外と出世欲強いし。

望み通り鎮圧部隊の下っ端に任命されたんだけど、隊長とソリが合わなかったらしく、除名権がないのをいいことに入隊一日目で口論してた。
なぜだか二日後に隊長は部隊を離れ、その席には菫ちゃんがご満悦の表情で座ってたんだ。
淡ちゃんの目に留まったからかもしれないけど、なにかしらは上からの力が働いたと思う。そうじゃなきゃあんなことありえない。
元々急造だった鎮圧部隊に不満を言う人間はいなかったな。唯一口を出したのが照ちゃんだった。たしか。


菫「くわしいね」

玄「淡ちゃんとお姉ちゃんの話をまぜこぜにしてるから、ところどころ美化されてたり大げさになってるかも」

菫「おもしろい。つづけて」

蜂起から五日、作戦は実行に移され、統率者の逮捕、もしくは処刑が行われた。
開始三時間で誰一人の死者を出すことなく成功させたよ。立地から見て相当困難な作戦だったんだけどね。それでも菫ちゃんはやりきった。
蜂起は収まり、ほんっと何事もない日常が始まった。お姉ちゃん以外は。

責任の所在、というか事の原因は元々竜人排斥の色濃いナガノの扇動をもろに受けた形だと照ちゃんや菫ちゃんは訴えたんだけど、
これ以上竜人の問題を広げたくないってことで、お姉ちゃんは辞任した。

んでね、何考えてたんだかわかんないけど、ぺーぺーの軍曹のくせして菫ちゃん、個人副官だなんて役職を与えるー言ってわざわざ淡ちゃんの前で、
「有能な人材をみすみす見逃すことはできない。この方を私の補佐にしたい」って。淡ちゃん爆笑してたらしいよ。もちろんソッコウ許可下りた。
そんでさー、そんなこと言われたら惚れるしかないじゃん。お姉ちゃん年明けに里帰りしてきたら菫さんが、菫さんがって、そればっかり。


菫「かっけー。私」ケラケラ

玄「ま、こんなところだね。竜人が人間に惚れるだなんて当時の私は腸が煮えくり返ってたけど、今思うとホント菫ちゃんでよかったと思う」

イケメンすぎわろた

 
菫「そっかー……」

玄「眠い?」

菫「うん……」

玄「じゃあベッドまで運ぶよ」ヨイショ

菫「ナガノとは、やっぱりなかわるいの……?」

玄「うやむやにしたけど、外交上はちょっとだけ問題が起きた。……咲ちゃん――、照ちゃんの妹さんが、その犠牲に、」

菫「zzz……」

玄「……そうだね、知らなくていい、こんな話」

 
◇◆◇◆◇◆

―次の日の午後・西の森の修練場―

淡「今日で特訓最終日です! 気を引き締めてかかりましょう」

玄・菫「おー」

淡「テルには昨日の夜から言い足りないことが死ぬほど沢山もりもり残ってるけど、作戦前日だしね、水差すようなことはいいませんっ」

照「はい……」

淡「スミレもだからね!」

菫「は、はい」

淡「そんじゃスミレ、前に出て」

菫「?」

淡「もうちょっとあっち」

菫「今日は何をするんだ?」

淡「より実戦的な、ね。付け焼刃ではあるけど」

 
淡「クロ、こいつ」

玄「石?」

淡「腕を狙って投げろ」ボソ

玄「本気?」

淡「ああ。折れるぐらいがいい。それぐらいじゃないと意味が無い」

玄「治癒は?」

淡「私が。その前に転送して当たる寸前でどっかとばすけど」

玄「その言葉、信じるよ」

菫「何二人でひそひそ話してるんだ?」

淡「大事なこと~♪ クロ、いい?」

玄「おうよ」

淡「じゃ、いくぜぇ?」

菫「え?」

 
玄「菫ちゃん!」

菫「ん?」

玄「集中!」グイ


淡「クロ選手! 振りかぶって~~~~~~」

淡「投げた!」


玄が振りかぶったのが見えた。リリースの瞬間に腕は見えなくなって、
おぞましい早さで迫る何かが体の前で消えて、それが纏っていた空気の塊だけが髪を揺らした。


菫「――は?」

ヒュン ズガガガガガ

淡「あっぶねー。今の威力だと腕飛んでたぞ」

菫「今、何……、」クルッ

菫「あの……、後ろにあった木々が……」

玄「ごめん、いまいち調整がわからなくて」

淡「まぁ、私が菫の右腕がひき肉になる前に後ろへ“飛ばした”から」ドヤ

 
淡「今のを止める訓練。昨日の発展形てやつだ」

菫「これ、やんなきゃだめ?」

淡「当たり前じゃん。それで昨日、六感解放のためにスミレのエッチな過去を、むごg」

菫「わーっ、わー! それ以上しゃべるなバカー!」

淡「もごもご、ぷはっ。ま、今のは強すぎたわ。恨みがあんじゃねぇかってレベルで殺しにきてたし」

玄「そ、そんなことないよっ!」

淡「最終的に目隠しをして止めてもらう」

菫「っ」ゴク

淡「そのときは私は何もしない」

菫「本当にできるのかそんなこと」

淡「昨日、スミレが暴走したときの記憶ある?」

菫「うっすらとなら」

淡「テルが本気で投げた飛針を避けてた。しかも音は無くもちろん視界の外からの一投をね」

淡「……暗い顔しなさんな。人間本気出すとそういうことができるんだよ」

 
淡「ブルペンのクロ選手。調子はどうだい」

玄「50メートル先から放たれる矢を想定した早さにする。ブルペンてなに?」

淡「ん、私もよくわからん」

淡「テルーって今何メートルまで感じ取れる?」

照「30~50メートルといったほどでしょうか」

淡「結構ムラがあるね。じゃあそのギリギリ外から投げ込むようにしよう」

淡「スミレ、六感解放」

菫「ええっと……」

淡「昨日のように羞恥するもよし、嫌なら肉体強化の魔法を使おう。そうすればオマケで六感は解放されやすいんだ」

菫「強化、強化……――――ふぁいと」

キィィィィン

菫「あ、体の感覚が変わった」

淡「よしよし、……なるほどなるほど。昨日はそれで杉の木を折ったんだね」ニコッ!

照「ぐっ」

菫(根に持ってんのかな)

 
淡「さて……」スタスタ

淡「今私はあなたの後ろにいます。私は右手の指を何本立てているでしょう」

菫「それは……」

淡「直感でいいよ。たぶんそれがあたり」

菫「4」

淡「正解。じゃあ一歩下がる。今は?」

菫「2?」

淡「いいね。……はい、これでは?」

菫「3……いや4だ」

淡「おーけー。次が限界かな」

菫「1……」

淡「違う。2。このへんが限界感知域だ。だいたい5メートルぐらいか」

菫「もう一回!」

淡「いいよ」ワシャワシャ

菫「……2」

 
玄(意地悪だなぁ。ずっと指動かしてるよ)

淡「残念。ま、これは知っておきたい情報だから狭くてもそれほど問題じゃないさ。そりゃあ広ければ広いほど有利ではあるけどね」

淡「それじゃあ本題に移ろうか」

淡「菫の感知域を半径5メートルとします。そこにおよそ時速250キロメートルの矢が侵入しました。矢は菫の急所を狙っている」

菫「ふむ」

淡「菫は負傷する前に一体何秒で矢に硬直魔法をかけなければならない? 菫が動くスピードと体積は考慮せず、矢は中心点を通過するものとする」

菫「………………0.058秒?」

淡「ま、そんぐらいかな。矢のスピードは射手や距離によってまちまちだし、5メートルというのも今日のスミレのコンディションに左右された結果」

淡「しかし人間は五感で察知、命令を下し筋肉が実行するまでに最速で0.25秒といわれている」

淡「いかにスミレの運動神経が優れてようが、常態ではとてもじゃないが反応は不可能だ」

淡「ということは?」

菫「むぅ?」

淡「魔法で反応速度の底上げを行う。昨日避けたのはそれだね。なぜだかわからないがスミレは発作的に魔法を起こし、そのうえ複合して使えるらしい」

 
淡「火事場の馬鹿力とは言うけど、脳みそのリミッターを外したぐらいで魔法を体中で使えるわけが無い。ちょっと不思議」

菫「この世界の摂理なんじゃないか?」

淡「それはないかなぁ。勉強してないのにテストでスーガクの問題を土壇場で解ける人間はいないでしょ?」

照「……」

照(まずいな……。あちらの淡様から好きなだけ知識を取り寄せている。さきほどの発言もその影響か)

淡「簡単に言っちゃえばスミレは天才なんだよね」

菫「そうか」

淡「あれ? もっとうれしそうな顔しなよ。せっかく褒めてるのに」

菫「あまり天才という言葉は好きではなくてな。日ごろの鍛錬や練習を否定されているようで……」

淡「魔法はセンス。それにスミレは魔法の練習なんてしてなかったわけだし」

菫「それはそうだけどさ」

淡「ま、別にそのへんはどうでもいいや。人の信条なんてそいつが決めることだし、」

淡「……論より証拠。口より手を動かせってね。とりあえずやってみっか。テル!」

照「……はい」





菫「こうか?」

照「そう、切っ先が見えたろう? それで十分だ」


玄「ものの15分で……」

淡「あー欲っしい、ちょー欲しいよアレー」

玄「菫ちゃんをモノあつかいすんなっ」ムカッ

淡「別にクロの物でもないけどねー」ニヤ

玄「なにそれ。私は自分の所有物とかそういう意味で言ったわけじゃない」

淡「へー? でもクロってスミレのこと好きなんじゃないの?」

玄「ちゃ、ちゃうもんちゃうもん!」

 
淡「おっと方言漏れてんよ~。焦りすぎやでー」

玄「むうううううう! このとんとんちきが~~~~!」

淡「うっせえバーカ!」

玄「なんやとこらあ! 立って相手しろお!」

菫「こらこら。玄さん抑えて」

淡「あー楽し」

玄「ぐぬぬ」

菫「淡も。変わらんな本当。どこの世界でも淡なんだな」

淡「なにそれムカツクー」

菫「何を理由に喧嘩してたんだ?」

玄「……」

淡「べっつにー」

菫「玄さん、機嫌直して」ナデナデ

玄「ふはぁ///」

すみすみたらしやん!

 
玄「って、竜人の頭を撫でるのは、だ、だめなんだよ」

菫「ああ、尭深もそんなこと言ってたな」

淡「ひえ~~~~、顔真っ赤~~~」

玄「うるしゃい!」

菫「すまない。失礼なことをした」スッ

玄「あっ……。べ、べつにどうしてもって言うんなら続けてもいいよ? 松実玄が許可します」

菫「ほう。ではお言葉に甘えて」ナデナデ

玄「はうぁ~」


淡「けっ、なにあれ! テルー、頭をなでろい!」

照「はい」ナデナデ

淡「なんか違うんだよなぁ。もっとこう優しい気持ちを流し込む感じでさぁ」

照「そういった感情は捨てましたので」

淡「まだサキを忘れられない?」

照「っ、」ピクッ

 
照「いえ、咲はもう……。私の中での清算は終わりました」

淡「本当? 明日の作戦ナガノだからって暴走しないでね」

照「もちろんです。必ずや成功させます」

淡「……ふふ」ビィン

淡「お姉ちゃんだーい好き」

照「!っ、」

照「――おふざけはおやめください」

淡「あ、錯覚魔法掃われちゃった? テル、エンチャント系に強すぎ」

照「これ以上は――」

淡「わかってるよ。ちょっと試しただけだから」

淡「信頼の裏返しだよ。悪い意味で捉えないでね」


淡「おい、ネトリドラゴンとスケベインテーク!」

玄・菫「なんだと!?」

淡「べたべたは終わり。特訓の時間だ!」

 
淡「最初は保険あり目隠しなしのアリナシで」

 <オーイ

淡「準備はいいかー」

 <オッケー

淡「本番五秒前ー、三、二、一」

びゅおん

菫「わっ、」ステン

淡「はいカット! なにやってんのスミレくん!」

菫「だって石が……すごい早さで、」ガクガク

淡「六感ダメ、硬直ダメ、強化も微妙、チミぃ戦場は甘くないよ?」

菫「わ、わかってる。それでも怖いものは怖い!」

淡「当たりそうになったら私が“飛ばして”あげるって言ってるじゃん。……そうか中途半端に恐怖心が薄いのがだめなんだね」

淡「クロー、次、頭!」

 <アタマ!?

 
照「淡様」

淡「でーじょうぶだ。さっきあっちの森から死ぬほど生命吸ってきた。転送空間を常に作り出せるし私も感覚を強化する。今の私はギア100速ってとこだよ」

照「意味はわかりませんがそこまでおっしゃられるなら」

淡「おうよ。治癒も任せろ。まぁ生きてたらの話だけど」

照「……」

淡「はいじゃあ二投目~」

菫「ちょっと待ってくれ! まだ心の準備が、」

淡「早く立て。死ぬよ」

菫「くっ」

 <イクヨ~


淡の目には感情がなかった。それが理由だったのかもしれない。詠唱などせず自らの生命を守るためにあらゆる条件をすっとばして肉体強化を済ませた。
それに六感解放特有の感覚の肥大化もついてきた。正直言って吐き気がするから好きではない。自分の身体にいくつもの針とチューブが繋がれたような気がするからだ。
左足の20センチ後ろの雑草に溜まった雫が流れた。それは触覚でも聴覚でもなく、確かに『そうなった』という感覚が勝手に脳へと刻み込まれていく。
玄のほうへ目をこらすと、宙を浮く白い塊がある。
石はこちらを軸に時計周りに回転している。ただゆっくりと近づいてくるその光景がコマ送りのように見えた。

止まれ。

 
淡「ふむ」

菫「――どうだ?」

淡「コメントに困る。超短期間にここまでできるのは人外の域。私ぐらいかと思ってた。だからダメ出しはしたくないんだよね、自分の才能を否定するようで」

菫「?」

淡「やはりというか、甘すぎるな。これは実戦向きではない」

菫「今ので……そうか、だめなのか」

淡「考えてもみてよ。正面で肉眼で確認できる距離から投擲物があり、感知域へ侵入する前から強化を行い、ゆっくり待ってたら誰でもできるよ」

菫「それでも段階というものがあるだろう」

淡「これに慣れちゃうほうがまずい。口すっぱく言ってるけど、最終的には後方からの異物を四六時中止められる状態を目指すんだからさ」

菫「そうは言うがな、弓を射るのに初心者が最初から矢を持たせてもらえると思うか?」

淡「それは凡人のためのステップさ。君は天才。そうじゃなきゃこの作戦に任命なんかしてない」

菫「っ、……」

淡「勝手にこの世界に引っ張っておいて……そんな顔してる」

菫「その通りだ。私は今頭にきている」

さるよけ

 
淡「ならやめる? ユーを見捨てて?」

菫「……ちくしょう」

淡「私さ、こんな感じで人をおちょくる喋り方しかできないんだ。別に直そうとも思わないけど」

淡「勝手にこちらの都合に巻き込んだのは申し訳ない。だけどね、」

淡「この話を聞かされ、もし別の世界にいたところで自分から乗り込んでくるんじゃないかなスミレは」

菫「……」

淡「どう?」

菫「そうだよ。たぶんそうする。自分が死ぬことよりも大事な人間が、例え別世界であっても、その人が死ぬほうがよっぽど怖い」

淡「だよね。それじゃあ――」

菫「条件がある。聞け」

淡「なに?」

菫「作戦が成功したとき、私の言う事を一つ聞いて欲しい」

淡「いいよん。無償のわけがないよ。ただしユーをお持ち帰りするとかはナシね」

菫「当たり前だ。そんなことわかってる」

淡「んもう、冗談なのに」

 
淡「で、その願い事とやらは?」

菫「……まだ言わない」

淡「ふーん、常識の範囲内でお願いね」

淡「……」ムフフ

淡(スミレ、どこの世界でもこういう性格なのか)

淡(びっくりするほど芯が強い。そして言っちゃ悪いが扱いやすい)

淡「特訓フェイズ4。アリアリでついでに耳栓つき。超実戦型だよ」

菫「耳栓も?」

淡「タイミングばれちゃうからね。おうけい?」

菫「やる」

淡(あー、その目さいっこう!)キラキラ

◇◆◇◆◇◆

―上空13000メートル―


 「姫様ー、もうそろそろですよー」

 「zzz」

 「あらあら、飛びながら寝るなんて器用ね」

 「冗談言ってないで早く起こしてあげてくださいよー」

 「いいじゃない。昨日はわくわくして眠れなかったのだから今ぐらい休ませあげても」

 「カントーとの大事な合同作戦ですよー? なに甘っちょろいこと言ってるんですかー」

 「私達にとっては遊びと変わりないわよ」

 「そういう見下した物言い大変嫌いですよー」

 「ふんふむ。そうね、気をつけなくちゃ」

 「あれ? 姫様は?」

 「あらら? 今まで後ろにいたはずなのだけど」オロオロ

 「もしかして、――落ちた?」

◇◆◇◆◇◆





玄「おりゃおりゃ」ゴリゴリ

淡「何やってんの?」ヒョコ

玄「あ、石をね、まっすぐ飛ぶように丸くしてるんだよ。そっちは?」

淡「できたよ。ほら」アッチ

玄「んー?」

玄「……なにあれ」

淡「両手をしばり目隠しして耳栓。ちょっとエッチじゃない?」

玄「そういうのはよくわからないけど、……やりすぎな気がする」

淡「危機感を持つ。遊びじゃないからね」

玄「もしかして今ずっと集中させてる?」

淡「魔法信号は出てないから六感解放ぐらいかな。あれなら常時使ってても身体への負担はないしね」

玄「急がなくちゃ。菫ちゃんかわいそう」キュッキュ

淡「おう。じゃああっちで待ってるから用意できたら言って。私も死ぬ気でサポートしなくちゃいけないんだ」

 
キィィ――

玄「なんか今音しなかった?」

淡「?、いや?」

玄「勘違、」

ィィィィィイイイ

玄「ほら、真上から何か落ちてきた。あっ」

淡「龍!?」バッ

イイイイイイイイン

淡「クロっ、あれ、間に合うか!?」

玄「だめ、あの早さと大きさじゃ私が掴んでも勢いを殺せない!」

淡(くっそが! 転送位置を再設定して、焦るな焦るな、私は天才淡、あの程度――)

ゴォオオオ

淡(神風!? 計算中だぞざけんじゃねぇ!)

淡「ダメだ、テルー! スミレ連れて逃げろ!」

 
照(こちらの真上か、)

照「菫! そうか聞こえないのか、おい、」ピシッ

照(!?っ、このバカ、私を固定しやがった)

菫「あれ? ずいぶんゆっくりなんだな」


淡「おいこらー! 何やってんだ早くニゲロー!」

淡「あわわわわ、クロ、ここ全域で硬直魔法を」

玄「ごめん、私下手クソなんだよね……」

淡「ほげ……」


照(念話も弾きやがる。攻勢防壁なんてどこで覚えたんだ)

菫「もうとっていいか? 何も聞こえないし真っ暗だしで不安なんだ」

照(気付けー、馬鹿菫ー)

ゴソゴソ

菫「ん、暗い、? ――え?」

菫「わああああああああああああああああああああ――

永水は龍なのか





淡「なんてこった」

玄「ふっふっふ~。私はちゃんと信じてました!」

淡「嘘つけ! 私と一緒に慌てたじゃないか!」

玄「んなことないもん。菫ちゃんならできるって」

淡「……言い争ってる場合じゃないな。とにかく“アレ”を……」


ヒュオオオオオ


菫「今私がやったのか、こんなでかいやつを……」

菫「あ、照」トン

照「――くはぁっ、……殺すつもりか」

菫「最初に止めたのは照の体だったのか。ごめんごめん」

照「お前が防壁を張るせいで。念話が、」

菫「その前にこれどうするんだ? 私が空に留めてるんだよな?」

 
照「……そうだな。意識をこいつにむけてろ。落として怪我でもされたらかなわない」

菫「形も大きさも玄さんとは違う。中国伝来の龍みたいだ……。これも竜人なのか?」

照「これは仮の姿だ。元に戻れば我々と同じ人型になる」

菫「……落ちてきたのか?」

照「ああ」

菫「空から?」

照「そう」

菫「……自殺でもしようとしてたのかな」

照「まさか」

菫「だったらなぜ。……あれ? こいつ、寝てない?」

照「……本当だ」


淡「おーい、怪我してないかー?」

 
淡「……んー? ん!?」

淡「こ、こいつ!」

菫「知り合い?」

淡「なんでよりにもよって……、聞いてないぞ」ブツブツ


びゅおおおおお


淡「この嫌な風は――」


ハッチャン「いたいた。姫様見つけたですよー」

カスミチャン「あらあら。空中で固められちゃってるじゃない」


菫「二匹増えた」

玄「お、カゴシマの竜人さんだ」

淡「うわー、嫌な予感する」





小蒔「申し訳ありませんでした!」フカブカ

菫「いやいや、誰も怪我してないわけだし、そこまで謝らなくても」

玄「霞ちゃん久しぶりー」ポヨン

霞「あらあら、あいさつのときは胸を触るのはダメだって言ってるじゃない」

玄「むふふ。いいではないか。いいではないか」モミモミ

初美「私のも触っていいですよー」

玄「……。そのボケつまんない」プイ

初美「へ、へー。言うようになりましたねー」ピカッ

玄「わ、また凍らせてくるの?」

初美「その通りですよ! まてー」ガオー!

ワーワー ガオー! ボボボボボボ


淡「カスミ、話が違うんだけど」

霞「あらあら」

 
淡「私が派遣してほしかったのはトモエで、あなたたち三人じゃない」

淡「それに合流は明日でしょ? しかも道中。なにもかも約束と違う」

淡「姫様と休暇をとりにきたのだったら来週以降にして。そもそも門もくぐらず入ってきたら立派な領空侵犯でしょうが」

霞「いいじゃないちょっとぐらい早くても」

淡「なんっっっっの言い訳にもなってないんですけど!!」

霞「あらあら」

淡「あらあらじゃなくてぇ……」イライラ

淡「トモエがだめならハツミだけでいいじゃん」

霞「一つ勘違いが。今日作戦のためによこしたのははっちゃんじゃないわよ」

淡「それはいい。別にカスミでも問題ない」

霞「違う。私でもないわ」

淡「は?」

霞「ふふふ」ニコニコ

淡「ま・さ・か」

 
霞「お察しの通り、我が神代一族秘密兵器こと小蒔ちゃんです! おいで」

小蒔「はい」トテテ

ズコ

小蒔「いたた」

菫「大丈夫?」

小蒔「あ、はい。私、おっちょこちょいで……」

菫「はは、自分の足にひっかかるだなんて相当だね」

淡「……」スー

淡「……」ハー

小蒔「……あの、」

淡「……」スー

淡「トモエ呼んで」フー

霞「今からじゃ無理よ」

淡「じゃあハツミかカスミが参加して」

霞「私達、休暇申請だしちゃったから関鹿安保の対象外なの」ニコ

皇帝がカンカンでいらっしゃる

 
淡「ぬ、」

小蒔「ぬ?」

淡「ぬああああああああ!! ほげげげげええええええ! うごごごごおおおおお1!!」

小蒔「うわわ」ステン

菫「壊れた」

淡「あー……――」

菫「収まった」

淡「ふぅ」

小蒔「あのー、」

淡「テルー。帰るよー」

照「まだ特訓が終わっていませんが」

淡「あとはそこのファーストおっぱいさんと痴女さんとセカンドおっぱいさんに任せるわ……」ポケー

 
霞「任されたわ」ニコニコ

小蒔「ま、任されました!」ドキドキ

淡「なんとかしちぇー」ゲッソリ

照「私も特訓に付き合います」

淡「勝手にしろー。クロー」

玄「私も!」

淡「あーもうどーにでもなれー」



菫「帰っちゃった……。お城の兵士さんいたんだな」

照「邪魔にならないように引かせていたんだ。迷子になったとき我々だけで探索するのは骨が折れるのでな」

菫「子供だな。あいつも」

照「それと、ほっとくと森の命が消えうせる。それは避けなければならない」

菫「?」

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
                元の世界
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

照「んあ」

照「朝、か」

照「目覚まし……止められとる」

照「あれ? 菫がいない」

トントントン ジュージュー


菫「――いえいえ、それほどでもないです」

宮永母「慣れてるわね。よくお母さんの手伝いを?」

菫「ええ。士官学校へ通うまではよく料理をしてました」

宮永母「うちの子も見習ってほしいわー。あの子食べるのが仕事なのよ」

菫「確かに。私の知ってる照も料理へのダメ出しは一人前でしたね」ハハハ

宮永母「やだもー」アハハ

菫「そんなあいつでもお菓子作りは好きでした。夜中こっそり厨房でケーキ焼いてるんですよ」

 
宮永母「へー。この世界の照はそんなことしないわよ。……あ、おはよう」

照「おはよう」

菫「寝ぼすけだなお前は」ワハハ

照「目覚ましが止められてて……じゃなくて、うおい! なんで当たり前に談笑して正体ばらしてるんだ!」

宮永母「珍しくテンション高いわね。風邪引いた?」

照「い、意味わからない……。娘が元気いいと風邪を疑う神経が……」

宮永母「ほらほらご飯になるから着替えてらっしゃい」

菫「だゾ!」

照「だぞじゃない!」



宮永母「風邪じゃないならあの子、生理かしら」

菫「かもしれませんね」

 
モグモグ

菫「ハシというのは難しいですね」カチャカチャ

宮永母「それでもうまく使えてると思うけど」

菫「そうですか? 母君や照はずいぶん器用に扱っていますね。何か特別な訓練でも?」

宮永母「日本人として箸を使うのは当たり前だからよ」

菫「なんと。生活から生まれた技術ですか。幼い頃から続けていればなにかしらの役に立ちそうですね」

宮永母「そう?」

菫「例えば、徒手戦のとき相手の喉下を潰したりとか」

宮永母「あはは、この世界じゃまずそんなことは起きないわよ。やったら捕まっちゃうわ」

照「……」

菫「本当に平和でいい世界です。私にとっては物足りないかもしれませんが」

照「あの、」

菫「ん?」

照「私、影薄くない?」

菫「ははははっ」

 
照「なんで笑った!?」

菫「いや、やっぱり違うなぁと」

照「もう一人の私と?」

菫「そう。あいつはできる限り目立とうとしないし、不満を顔に出すことも少ない。二人で会話する機会なんて二日にいっぺんあればいいほうだ」

宮永母「それってあまりこの子と変わらなくない?」

照「ひどい」

菫「そうでもないですよ。昨日のおせろ?もそうだし、風呂で私の身体に興味しんしんでしたよ」

照「その言い方やめい」

宮永母「よっぽどなのね。会ってみたい」

菫「それは――」

宮永母「あ、もうこんな時間。それじゃあ私仕事行って来るから。はい、お金」

照「ありがとう。……こんなに?」

宮永母「うん。観光でもさせてあげなさい。お皿洗いよろしく。じゃ」

照「いってらっしゃい」

菫「お気をつけて」





照「あ、」

菫「んぅ?」

照「今日、咲が遊びに来るんだった!」

菫「ふむ」

照「ごめん菫。せっかく阿知賀へ行こうとかそういう話してたのに」

菫「かまわないぞ」

照「え?」

菫「なんだ『え』って……。昨日いろいろ考えていたのだが、私は会うべきではないと思ってな」

菫「あっちへ行った私が死力を尽くしている最中、その恋人に手を出すのはいささか問題ではないかと」

照「なに? 手を出そうとしてたの?」

菫「会って話すだけだ。それもあちらからしてみれば逆鱗に触れる行為だろう」

照「そんな固くないけど。こっちの菫は。ただまぁ複雑ではあるけれど」

菫「それに、お前の妹と会ってみたい」

さるよけ支援

 
照「ふむふむ。さすがは菫。ついに咲の妹ポイントの驚くべき高さに気付いてしまったか」

菫「いや、今まで会ったことはない」

照「それってどういう?」

菫「気を悪くしないでくれるか?」

照「う、うん」

菫「私の世界でお前の妹、咲は亡くなられている」

照「……」

照「そっか」

菫「ここの咲は身体が弱いか?」

照「ううん」

菫「そうか。ならいい」

照「病死?」

菫「という話だけは聞いた。照が多くは語らないし、あまり根掘り葉掘り聞くのもな」

照「……咲」

ほげっ…

 
菫「すまない。なぜこんな話を、」

照「んー。まぁいいや……」ヌクヌク

菫「話は変わるがこのコタツという器具……」

照「ん?」

菫「悪魔的だ」

照「んふふ」

菫「なぜ得意げなんだ」

照「そんなこと言うと思ってた」

菫「ふむ」

照「……」ボー

菫「……」ヌクヌク

照「テレビ」

菫「ふんっ!」ポチ

照「だからそんな強く押さなくていいって」

菫「すまんすまん」

 
 <ピタッゴラッ スイッッッチィ!!

菫「……」

照「……」

菫「おお」

照「……」

菫「おお~」

照「……」

菫「すごい!」パチパチ

 <ピタゴラッッ! スイッチッッ!

菫「おい! 見てたか今の! 玉が転がって、」

照「……」ジー

菫「なぜコタツへつっぷして上目遣いで私のほうを見ている」

照「菫かわいいなーって」

 
菫「『かわいい』? 悪くないな。もっと褒めていいぞ」

照「ふぅー」

菫「?」

照「そこは赤面するところ。それに褒めてない」

菫「んん??」

照(なんか調子狂うなー)

照「役職、師団長だっけ? そういう人間はみんな自信で溢れてるの?」

菫「そう見えるか? 図太いとはよく言われるな。あと師団長なんて名ばかりで実権は淡様が握られている」

照「ここの菫はもっとクールだからさ。ギャップが……」(ときどき壊れるけど)

菫「想像できないな。私は生まれつきこういう性格だからかもしれないが」

照「ある意味真逆。菫はいつでも冷静で率直で平等主義で褒めると照れる」

菫「ほぼ私と変わらないじゃないか」

照「そして欲望に溢れてない」

菫「私は少しだけ出世欲が強いだけだ。ほとんど人並みと言ってもおかしくない」

照「そう?」

 
菫「お前の言う私はちと聖人すぎないか?」

照「あと一つ。……ムッツリ」

菫「~~~~~~っ、はっはははは!」

照「笑いすぎ」

菫「マージャンブのブチョウとやらでも好きに誰彼を抱くことはできないのか?」

照「当たり前だよ」

菫「なんともまぁ、それでは悶々としているだろうよ。もしかして処女か?」

照「だと思う」

菫「くくくく。笑えるな」

照「あなたはどうなのさ」

菫「私か? 実は同性趣味でな。そうだな、関係は――」

照「……」ヒキ

菫「なんだその顔は。大丈夫だ。向こうのお前を食ったりなどしていない」

照「そうじゃなくて……。気にしなくていい」

 
菫「ご想像の通りだ。はっきり言って私の国では同性愛は認められていない。故に高い地位につき肩書きを剣にして女を食う」

照「なんだか最低のクズなんだけど」

菫「私は同性愛を認めない国の方針が間違っているように感じるがな。いわば圧力への抵抗者だろう」

照「ちょっと待って。松実さんとはどうなの? 恋仲だと思ってたけど」

菫「宥には知られてない」

照「……立派な浮気だと思う」

菫「宥を抱いたら、彼女が私を嫌いになってしまうかもしれない。それが怖い」

照「それっておかしいよ」

菫「もともと彼女のことを出世の道具としか思ってなかったんだ。だからそのうち手を出そうと思ってたよ」

菫「いやしかし、竜人とはずいぶんと性に対して無頓着と云うか保守的というか。尻をなでてやったら三階の窓から突き落とされた」

照「……」

菫「そのときからだ。彼女に淡い恋心を抱き始めたのは。ガラスの彫刻を愛でているようでとてもじゃないが乱暴に扱えなくなった」

菫「惚れられているのは知っていたが、まさかこちらから惚れるとはね。今では世界で一番大切なものになったよ」

照「彼女のためなら死ねる?」

菫「もちろん」

 
照(言ってることはクズなのに顔はすごい爽やかだ。むかつく)

菫「酒が入ればより深い話をしてやれるぞ」

照「いらない」

ピンポーン

照「チャイムだ。たぶんさk」

菫「私が出よう」ドヒューン

照「あっ、ちょ、早っ!」


ガチャリ

咲「おはようお姉ちゃ、」

菫「おはよう」ニッコリ

咲「あ、あれ? 白糸台の部長さん? なんでここに」

菫「ふむふむ。素朴ながらも真っ直ぐな美しさを秘めている。照とは違い表情筋も発達して、」

咲「えっと……」

 
菫「お手を拝借」ニギリ

咲「あ……」

照「こら~~~~!」ドタドタ

照「は、な、せ!!」ブン

咲「お、おはよう」

照「咲! こいつと会話するな!」

咲「??、なんで?」

照「こいつは今頭のネジが飛んでいってしまってるんだ。だから、」ポンポン

菫「なんだよ怒れるじゃないか」

照「あ?」

菫「大事な親友のそれまた大事な妹さんを狙うわきゃなかろう。ちょっとした試みのつもりだった。すまない」

照「意味わからない」

菫「お前には少し喜怒哀楽の怒が抜けているような気がしてな。心から怒るお前が見れて安心したよ」

照「なんだよそれっ」

 
咲「お姉ちゃん!」

照「咲は黙ってて」

咲「うっ……」

照「次冗談でもそんなことしたら殺す」

菫「咲が怖がってるぞ? だが、確かに悪いのは全て私だ。重ね重ね謝ろう。咲も、不快にさせて悪かった」

咲「あ、いや、私はそんなことは……」ポッ

照(ポッってなんだ。ポッって)

菫「外は寒い。こんなところで立ち話してては風邪をひいてしまうぞ。中に入ろう」

咲「……はい///」

照(なんで頬染めてるんだチクショー)




そのへんは弁えてるから(震え声)

in コタツ

咲「――それでねー、和ちゃんたら怒っちゃって」

照「ふむふむ、原村さんはまだ私のことをたんこぶ扱いか」


菫(ああ、やはり素の自分を出しているのは楽だ)

菫(宥や玄の前では正義面で正直者を演じていたが……)

菫(それもそろそろ限界かもな)

菫(こんな私でも彼女達は受け入れてくれるだろうか)

照「菫」

菫「ん?」ノソリ

照「みかん食べる?」モリモリ

菫「もらおう」

菫(こいつ、機嫌直るの早いな。あの目をみたとき修正不可能かと思ったぞ)

菫(どこか壊れている、のか? 元のあいつを見すぎてたせいか)

照「何か余計な事考えてる」

菫「かもな」

 
照「……お茶淹れてくる」

トテテ

菫「……」ヌクヌク

咲「弘世さん、少し雰囲気変わりましたよね」

菫「そうかな? どんな風に?」

咲「昔会ったときはもっと冷静というかなんだか冷たい感じがして、あっ、失礼ですよねこんなこと」

菫「全然。続けて」

咲「今は暖かくて自然に笑える人なんだなぁ、と」

菫「君、かわいい顔してすごいこと言うね」

咲「い、いや、あの本当に私口下手でうまく伝えられなくてよく人に誤解されちゃって、あの、」アタフタ

菫「ふむ、本心であれば喜んでその認識を受け入れよう。私は怒ってないよ」

咲「本当ですか……?」ビクビク

菫「本当本当。ただ、他の人の前では気をつけたほうがいい」

咲「そうですよね、気をつけます」シュン

菫(素直でいい子だ……。あの姉と似ているのは外見だけだな)

 
照「咲、菫にいじめられなかった?」

咲「だ、大丈夫だよお姉ちゃん」

照「そう。はい。粗茶ですが」コト

菫「ありがとう」ズズ

菫(私の世界で咲が生きていれば、あいつも笑えたのだろうか)

菫(本気で笑い、本気で悲しみ、本気で喜び、本気で怒る。誰にだってできるはずなのにあいつにはできなかった)

菫(目の前に座る姿形は似ているくせに全く違う別人)

菫(妹の話に少なからず一喜一憂し、仄かな感情を伺わせる)

菫(咲……。死んでしまったのは私のせい――)

菫(いや、死は不可避だった。問題は照が死に目に会えなかったこと。そして遺体さえも未だ還らない)ズズズ

菫(別の世界で憎しみを糧に剣を振り、また別の世界では姉妹共仲良く平和に暮らす)

菫(こんなことって……。神は……)



――ああ、無情だ

チカレタ…
ちょい休憩

「ああ、無情」ってそれか

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
              魔法世界
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

ぎゅるるるる―――ぴたっ

初美「三回連続で成功ですよー」

霞「体力の消耗もすくないし、これなら常時解放していても問題ないわね」

小蒔「すごいです!」パチパチ

菫「そんなに褒めても何もでないぞ」テレテレ

玄「ちょっと休憩~」クタクタ

初美「玄、久しぶりにクワガタ戦争やりましょー」

玄「いいねぇ」





霞「確かに別世界から来たと言われても不思議ではないわね」

菫「その世界では魔法なんてものは存在しなかったよ」

小蒔「なんと!」

 
霞「それはなかなか――合点いかないわね。いったいどういう成り行きでこんなことに?」

菫「詳しい話は聞いてないのか?」

霞「ええ。弘世菫、宮永照の両名を安全にナガノへ入国させること。勅令にて安保取り決め第五条に則り発動。てだけ」

菫「どこから説明すればいいんだろ、」

照「いい。外部に情報を漏らす必要はない」

霞「外部じゃないわ。立派な応援国よ。我々に作戦全体の概要を説明する義務があります」

照「ならば作戦実行者の神代小蒔にのみ有効だ。休暇中のお前らは条約外に位置するだろう」

霞「それもそうね。小蒔ちゃん」

小蒔「はいっ」

霞「今ここで作戦のプランを聞き出しなさい」ニコッ

小蒔「えっ、え」

照「っ」ギロリ

小蒔「ひっ」

霞「あらあら」ウフフ

小蒔「私が聞かなきゃ駄目ですか……?」

 
霞「そうよ。これも大事な練習だと思って」

照「やはりな。お前らは勘違いしている」

霞「なにが?」

照「明日の作戦は失敗が許されない。それを貴様らは託児所気分で踏み荒らしにきた」

照「後学のためだかなんだか知らんが、何のために安保が存在すると思ってる」

霞「発令の際、いかなる場合をもってしても最終的な人員の任命権は自国にある。これは?」

照「戯言だ。信頼を裏切るのか。石戸」

霞「もちろん最適な人選をしてきたつもりよ」

照「そいつがか?」

小蒔「……」プルプル

菫「お、おい」

小蒔「それ以上霞ちゃんを悪く言わないでください!」

菫(いや、悪く言われてるのは小蒔さんのほうだと思うけど)

小蒔「私だってできます。証明してみせます!」

 
初美「お、なんか始まるみたいですよー。戦争中止ー」

玄「えー。やっと我がクワガタ部隊が第二ライン抑えたところだったのに」

初美「そいつらケツにちっちゃい火をつけて煽ってたじゃないですか。バレバレですよー」

玄「ちぇ、ばれてたか。だって昆虫の精神支配苦手なんだもん」

※クワガタ戦争…自前で捕まえたクワガタ同士を3vs3で戦わせる陣取り合戦
           三匹を目標ラインまで動かしたらそこがスタート地点になるアメフト方式
           アチガ発祥の遊び


玄「なにやってんのー」トテテ

菫「少々面倒なことになってな」

初美「!!っ、姫様本気……! 霞ちゃん」

霞「別にいいじゃない。片鱗でしかないわ」

初美「いったい私は誰のお守りなんでしょうかねー……」

小蒔「いきます」

ヴォンッ

 
玄「え」

玄(なにこの範囲……)

霞「小蒔ちゃんは魔法の対象範囲を半径1kmまで広げられる。こんなの序の口」

玄「これでいったいなにを」

霞「見てて」

小蒔「みなさんの目を借ります」

―――ッ

菫「宥……になった」

霞「あの子は今、幻術を使い皆の視神経へ直接情報を送り込んでいる」

霞「これは何かしら――その人にとって最も大切なモノ?」

玄「お姉ちゃん。……おねえええちゃああああん」ダキ

小蒔「あうっ」

菫「これは範囲ならば全員に通用するのか?」

霞「そうね。防壁張ったところで意味ないわ」

 
菫「私なんて相手にならないな」

霞「そんなことはないわ。あなたの才能があれば数年で魔法使い十指に入る」

菫「……十指には誰がいる?」

霞「あなたの知っている方なら、この国の長、女皇淡。そして私」

菫「小蒔さんは?」

霞「あと一年真面目に修行すればいけるかもね」

菫「淡、そんなにすごいやつだったのか」

霞「あの子は特別。私の知る中で唯一転送魔法が使える血筋の末裔だから」

菫「へー。……照、もういいだろう。これで明日の作戦に彼女が参加しても文句はないだろ?」

照「……」

菫「照? おい、」

照「……」ポロポロ

菫「!!?」

霞「あらあら」

 
照「なんでもない。目にゴミが、入っただけだ」ゴシゴシ

菫「そ、そうか。そうだよな~。今日風強いし」ハハハ


霞「……妹さん?」


照の口からよじれた声が漏れた。

その場でうずくまり、誰にも顔を見せまいと必死にかくして嗚咽を殺そうとしている照に、菫はなすすべがなく狼狽する。
まだ会って四十八時間もたっていない。それでも目の前の女兵士は感情を捨てた鉄仮面だと勝手に思い込んでいた。
くぐもった泣き声が聞こえる。
こいつは――

そうだ、十八の女の子なのだ。改めて知った。宮永照そのものだった。

気が付けば幻術は解けていて、自分以上に慌てふためく小蒔と玄が、誰かが動き出すのを顔をまわして待っていた。


霞「悪いことしちゃったわ。一人にしておいてあげましょう」

菫「……」スッ

霞「ちょっと」

 
菫「昨日、お前がしてくれた精神安定の魔法だ」

照「来ないでくれ」

菫「ちゃんとできるかわからない」

照「頼む」

菫「照」ギュッ

照「……っ、」





淡「照が泣いてるの初めてみた……」

 「淡様、危ないです! 降りてきてください!」

淡「うるさいなぁ。帰るって言った手前、こうやって隠れて覗くしかないんだよ」

 「一国の皇帝が木登りなど……」

淡「きいいい。一言多いんだよ。っとぅ!」

ズコ

淡「いたたた」

 「いわんこっちゃないですか。お怪我は?」

淡「ねぇよ! 帰る!」プンスカ

淡(なんだよなんだよ。私がいなくなってイベントあってさー。仲間はずれじゃん私)

淡「ムキーーーーー」ジダンダフミフミ

 
淡「……むっ、何見てんのさ」

 「今晩のご夕飯は淡様の好きなハンバーグを作らせましょう」

淡「子供扱いすんなーーーー」

 「では、今の話はなかったことに」

淡「いや、ハンバーグにはする。ただね、そうやって食べ物で釣るのは、」

 「ははは、了解いたしました」

淡「最後まで人の話を聞けーーー!」

しずよけ

 
霞「ともかく今日はここまでね。実戦でも問題ないわ」

菫「そうかな。正直心もとない」

霞「そういう気持ちでいるのが重要よ。いつだって戦いは臆病者が生を与えられるのだから」

菫「……思ったんだけど、火を吹かれたり凍らせられそうになったときはいままでの訓練は役に立たないんじゃないか?」

霞「そうよ」

菫「ええっ」ガクッ

霞「ただしそんな使い手はそうそういないわ。ナガノは特にね」

菫「魔法の知識が進んでないのか?」

霞「単に超自然発生系の魔法は消耗が尋常じゃないから竜人にしか扱えないの。故に人間は念力や念話、肉体強化を魔法として扱う」

菫「淡のアレは?」

霞「淡ちゃんは魔法の五大系統を全て無視してるわ。世界の真理を利用した術よ」

菫「もう少しわかりやすいように説明できないか」

霞「質問です。この世界は何でできている?」

菫「理系じゃないから詳しくはわからないが、原子―陽子や中性子……もっと細かく言えばレプトン、クォーク」

霞「あなたの世界ではゲンシというのね。我々もそう、非常に細かい粒子が物質を創造しているのだと理解している」

 
霞「それよりも、もっと小さな認識不可能な構造体が存在するとしたら?」

菫「認識できなければ存在のあるなしはわからない。それをどうと聞かれても」

霞「あるとしての仮定でいいわ。でね、その構造体は移動しないの」

菫「???」

霞「物体の移動、それは全て情報の流れなのよ」

菫「ふ、む」

霞「この世界、たぶんあなたの世界もそうだと思うけど、三次元に均等に配置された素粒子で満たされている」

霞「その最小単位を一つの箱としましょう。箱には5つ玉が入っています」

霞「玉はそれぞれ存在『ある』・『ない』の二通りの状態に変わることができる」

霞「結果箱の中の状態は何通り?」

菫「……32」

霞「そうね2^5は32。そして箱の中のどの玉があるかないかであなたのさっき言った『ゲンシ』、それが形作られ、そのうえの次元が形成されていく」

菫「なんとなくついてきている」

霞「ありがと。さっき言った情報の流れ、これは要するに箱の中身の情報をそっくりそのまま隣の箱へと移すだけなのよ」

 
菫「つまり物体の移動は情報の書き換えだと」

霞「そう」

菫「物体の移動に使うエネルギーは書き換えに必要なエネルギー、ということか」

霞「それは少し違うわ。だって空気があってそれらは風に流され常に変わっているわけでしょ?」

霞「ここで重要なのは構造体に潜む『何か』。それらがすべてのエネルギーの根源」

霞「構造体の本体とその『何か』を直感的に理解できない限り彼女の転送魔法は使えない」

菫「科学的には無理なのか?」

霞「まず認識できないからね。なぜか大星の血はそれらを知ることができるのよ」

霞「そしてその一族はいとも簡単に情報をとばし、物理的に離れた場所へ転送することができる」

菫「うーむ」

霞「納得した?」

菫「したようなしてないような」

霞「だいたいでいいわ。私もそれほど理解しているわけではないし」

菫「あの魔法は燃費がいいのか?」

魔法があるから必要ないんじゃね
昔読んだ小説にそういう話があった気がする

 
霞「すご~~~く悪い」

菫「あいつは平気で使いまわしてたぞ」

霞「大星の特性はもうひとつあってね。――自分の周辺の生命を吸うことができるわ」

菫「それを自信の魂に転換すると」

霞「そういうこと」

菫「……悪魔か」

霞「彼女の血筋を辿っていけばそういうのもいるかもね。……今、奥の森、大変なことになってるわよ」



玄「しゃおら! 二勝目ェ!」

初美「うわ、こいつ足もがれてますよー。さてはやりやがりましたねー」

玄「やってないよ! だって初美ちゃん、ずっとクワガタ太郎に防壁魔法張ってたじゃない」

初美「それを知ってるってことは結局手を出そうとしてったことじゃないですかー!」

玄「でも最終的には何もしてないもん。勝ちは勝ち!」

初美「納得いきませんねー」

 
小蒔「zzz」

初美「姫様!」ダン

小蒔「――!??」キョロキョロ

初美「今の見てましたー!?」

小蒔「ええっと……」

玄「寝てたよ。ね?」ニコッ

初美『姫様、とりあえず首を縦に振ってくださいー』

小蒔「!」ブンブン

玄「え?」

初美「で、今の第三トライアルからやり直すべきですよね! こっち負傷者が出てたんですよー? どうみても無効時間ですー」

小蒔「第三……?」オロオロ

初美『そこは“イエス!”といtttttttttttt

初美「――――ッッぬあああああジャミングうううううう」ブルブル

玄「こんなこったろうと思ったぜ!」

 
玄「汚いぞ! 小蒔ちゃんに犯罪の片棒を担がせようだなんて」

初美「うっげげ。とりあえずこれ解いてくださいー」ビリビリ

玄「――。ほれ。白状せい」

初美「うう。とんだ目に合いましたよー」ナミダメ

玄「そうやって嘘つかせようとした罰だよ。まぁこれで私の勝利は――」

照「第四トライアルの開始5秒だ。そこでクワガタの足がとれた」

玄・初美「!!?」

照「玄のクワガタたちを最終ラインから初美側へ2センチ前進させて始めるのが落としどころとして妥当だ」

玄「そ、そっかぁ。照ちゃんがそう言うならそうなんだね」

照「……さきほどは心配をかけてすまなかったな」

玄・初美「!!!!????」

玄(初めて照ちゃんに謝られた……)

初美「いいんですよー。気にしておりません」オトナノフウカク

初美「じゃ、始めましょうかねー。クワ太郎の足とクワ太郎本体、合体!」ドッキングゥ

照「……そうか、大事なことを忘れていた」

 
菫「……もう調子はいいのか?」

照「ああ」

霞「……」

照「重要なことを、治癒の方法を教える」

霞「ふんふむ」

菫「あ……そういえばそうだな。一番最初に習いそうだが」

照「淡様は防御さえ完璧であれば問題ないとお思いなのだろう。私はそうは思えないので」

照「治癒の魔法と言っても大きく分けて二つある。一つは対象者の治癒力を増幅させて本人の身体に任せること」

照「これは簡単でそれほど集中と魂の消費を気にしない。しかし対象者の身体に負担が多く治癒のスピードも遅い」

照「二つ目、これは文字通り“直す”。物体を元の場所へもどす。治癒というよりも修復だ」

照「しかしこれには、多大な労力と魂を消費してしまう。メリットは一つ目よりも治癒スピードが比べるもなく早く対象者に負担がないということ」

菫「一応その二通りを教えてくれ」

照「そうだな。お前なら両方マスターできるはずだ」

霞「準二級難課題なんだけどね。ま、できると思うけど」

照「始めるぞ」

 
◇◆◇◆◇◆

―その日の夜・あわい城―

玄「この指導書、書いてあることめちゃくちゃじゃん」

玄「なんだよお土産とか言うから期待したのに」

玄「だったらお酒欲しかったなー。カゴシマ名産の」

玄「あーあ、暇だ。菫ちゃんにでもおちょくりにいこっかな」


 『―――――dさfなおdsふぁふぁい― -  おおbyかmうぃdr』


玄「念話……? ノイズ乗りすぎでしょ。誰だろ。生理なのかな」


 『――のあふぁんfしあfbuaf』


玄「……! そうか暗号変換か」


 『――クロー応答せよー。クロー応答せよー』

玄『誰? 淡ちゃん?』

 
淡『せやせや。やっと気付いたか。そっちも変換かけといてくんない?』

玄『了解。で、なに? こんなまどろっこしいことして』

淡『明日のこと』

玄『? 私は菫ちゃんたちを見送る大事な仕事しかないよ』

淡『その他にも重要な用件だ。あと悪いんだけどもう一回変換かけて。機密レベルを上げたい』

玄『――はい』

淡『実は明日、私のほうもナガノのトップと密会するんだよね』

玄『ええ!? 聞いてないよ』

淡『そりゃそうよ。言ってないもん』

玄『なんで明日……』

淡『明日しかないからかな。といっても二日連ちゃんだけど』

玄『で、それが私とどういう関係が』

淡『照に偽装して私と一緒についてきて欲しいんだ』

 
玄『……』

玄『……』ポクポクチーン

玄『潜入する照ちゃんを誤魔化すため?』

淡『それもある。まぁ、単純に密会であるから、最悪を考慮してそれなりの武力を付き添わせる。わかるよね』

玄『うん』

淡『つっても条約の取り決めが主だね。他国干渉がないフリーの状態で決めたいから密会というアングラな方法をとったんだけど』

淡『ま、間違いなく揉めると思うよ。関税やら道路補修代やらで。簡単には凄みを見せてこないだろうけど、いざとなったときの保険だよ』

玄『まさか……。お姉ちゃん救出も絡んでる?』

淡『悪い、利用させてもらうつもりだ。むしろ要と言っていい』

玄『証拠をちらつかせて優位に結ばせると?』

淡『平和的解決さ。もちろんやれるだけやるよ。併合させてほしいと土下座させるぐらいに。……冗談』

玄『お姉ちゃん一人にそんな価値が……』

淡『国家が主犯の誘拐事件はキクぜ~。理由としちゃ十分すぎるうえ、戦争をおこしゃああっちは平伏するしかない物量差だしな』

玄『それでも戦争をふっかけないんだ』

あわいちゃんくろいい

 
淡『私はたとえ形だけでも味方する人間には義が厚い。外貨も得られないクソみたいな縄張り争いなんて部下や国民の無駄死にだ』

淡『今は経済成長のとき。国外とのいざこざは穏便に済ますのが、現時点の正しい皇帝のあり方だと思ってる』

玄『……』

淡『ごめんね。ユーを利用する形になっちゃって。ただこれが最善なんだと理解してくれ』

玄『いいよ……。私だけじゃ今頃泣き喚いてお姉ちゃんを探しに行ったトーホクで凍え死んでたと思うから』

淡『ユーは家出しても北上はしないだろ』

玄『あはは、確かにそうだね』

淡『そんじゃ明日。朝六時に私の部屋へ』

玄『了解です。皇帝閣下殿』




続く

次でなんとかおわらします。ようやく救出編です
いっぱいしにます

次は2月中にはって感じで

あとおまけ少しのせてきます

アチガ 七年前の夏

玄「がおー!」

 「うわ、クワ戦チャンプの松実玄だ!」

玄「賭けクワやんぞ! ガキ共集まれ!」

 「ヒャッハァー! 今日こそてめぇのキングギドラ(オオクワガタ♂)を二本足にしてやんよ!」

 「キンギドが手に入れば、あいつもうかばれるかな」

 「俺もだ……。花子をやられた恨みは忘れねぇ……」ゴゴゴ

玄「ち~ん(笑)」

 「「てめえええええ!!」」

玄「負け犬の遠吠えにしか聞こえませんね~」

 「ルールは!?」

玄「大会準拠のアリ(魔法による昆虫操作アリ)・アリ(煽りアリ)・ナシ(魔法による物理的補佐、妨害ナシ)の二本先取。勝ったほうは相手の一匹を自由に持ち帰る」

 「やってやらあああああ!」

 「泣かせて姉ちゃんの名前叫ばしてやるよ」ヒヒヒ

~~~~~

玄「滅びよ」

 「ぐあああああああ」

~~~~~~~

玄「R.I.P」

 「んほおおおおお」

~~~~~~~~

玄「はー。よっわー」ハナクソホジー

 「うぇえええん」シクシク





玄「弱い! 弱すぎる! 相手になりゃあせん。そろそろ私も全国デビューする頃合かナ……」

玄「じゃあなジャリンコボーイズ。お前らのクワガタは死ぬまでキングギドラのサンドバックだ」

 「「「「ひいいいいいい」」」」


???「ちょおっとまったーー!!!」

 
玄「あん?」

???「みんなの大切なクワガタを返せ!」

玄「……いや賭けクワだし」

???「そうじゃなくて、サンドバックにするなんて可哀想だよ! 竜人は不殺主義でしょ!」

玄「む。痛いところをつかれている気がするが、そんなこと関係ねぇ!」

玄「私に正論は効かない。故に最強」

???「お姉さんに言いつけるぞ!」

玄「くっ……、卑怯な……。だったら勝負だ! 今手持ちのクワガタを全て賭ける。その代わりそちらも全て賭けろい! あとお姉ちゃんには黙っていてほしい!」

???「いいだろう。負けたら何も言わない!」

玄「絶対ちくんないでね」

???「うん」

玄「名を申せ!」

穏乃「穏乃! 高鴨穏乃だ!」

チーム玄

キングギドラ(オオクワガタ♂)

ニコル・ボーラス(オオクワガタ♂)

リオレウス(オオクワガタ♂)


 「やべえよ……やべえよ……」

 「どうやったらあんなのに勝てるんだ」

 「キングギドラまたでかくなってない?」


チーム穏乃

アルティメット(ノコギリクワガタ♂)

デストロイヤー(ミヤマクワガタ♂)

ハイパーパーフェクト(???)


 「ひでえネーミングセンスだ」

 「そりゃどっちもだろ」

 「というか最後のアレ、クワガタか?」

 
玄「へぇ。なんだかすごいの持ち出してきたね」

穏乃「こいつ? 私の秘密兵器だからな」

玄「なんてやつ?」

穏乃「ヘラクレスオオカブトっていうんだ」

玄(ん? オオカブト?)


玄「まぁなんでもいいや! かかってこい!」

穏乃「望むところだ!」


ワァァァァァァァァ――――

淡「で、その後どうなったの?」

玄「そのヘラクレスオオカブトが私のクワガタを虐殺して終わったよ」

淡「ちょ、そんだけかよ!」

玄「あれは初めての敗北だった」トオイメ…

淡「ええ~。なにその、龍頭なんちゃらの盛り上がり方は」

玄「楽しかったよ!」

淡「そのあたりの心境を詳しく聞きたかったんだけど、……お、第二ライン到達」

玄「あれ!? 私の部隊こんなに退いてたっけ!?」

淡「え、え~? そうだよ。クロ、話すのに夢中で集中してなかったじゃん」

玄「でも、ん? ……淡ちゃん、もしかして転送魔法使ってない?」

淡「ははは、なんのことやら」

玄「ふん。別にいいもんね。こっから押し返すし」ふん゛ん゛-

 
玄「お姉ちゃん遅いなー。――よし、ひっくりかえした」

淡「くそがっ。……スミレ向かわせる?」

玄「それだとお姉ちゃんが子供扱いされてるとかで菫ちゃんが嫌がるんだよね。本当はいっつも他の誰かになびかないか気が気じゃないのに」

淡「美人だしな。連れさらわれちゃってたりして」

玄「」ビクッ

淡「じょーだんじょーだん」

玄「変なこと言わないでよ。あ、」

淡「油断しすぎー」

玄「だってぇ」

淡「城下町への発注に行ってんだ。人目もあるし問題ないだろ。クロは心配しすぎ」

玄「そうかなぁ」

淡「最終ライン」

玄「私、ちょっと外行ってくる」

淡「えー。途中じゃん」

玄「嫌な予感がするんだ」

淡「しゃーない。じゃあまた今度やろう」

玄「うん」

――チリッ


淡「……」

淡(死の運命線……?)

淡「クロ!!」

玄「ん?」

淡「あ、いや、なんでもない。気をつけてな」


淡「気のせいか……」


おまけ完

玄ちゃん死亡フラグビンビンやないか……

とにかく乙!

>>328
今更修正

淡『私はたとえ形だけでも味方する人間には義が厚い。

淡『私はたとえ形だけでも味方する人間には情が厚い。

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