23才の夏休み(21)


男「学生最後の夏休みか...」

男「就職は無事に決まったが卒論やら研究やら色々とやらなきゃいかんことはあるんだな」

男「大学生の夏休みって言ったらもっと暇なもんだと思ってたぜ」

男「まあそれでも充分暇なんだが」

男「甲子園でも見るか...ってあれ、鳴らない電話が震えてら珍しい」

男「もしもーし、あぁ女か久し振り....女!?」

男「久し振りなんてもんじゃねーじゃん!転校して以来か?お前今何してんの?」

男「何々...え?来る?うちに?俺今下宿中だよ?」

男「は?もう来てる?え?」

ガチャッ

女「久し振り」


男「お前変わってないなー。結局身長も伸びなかったのか」

女「そうかな。僕的には伸びたつもりなんだけど」

男「いやいや、最初は我が目を疑ったけど一目で女だと分かったよ。それぐらい変わってない」

女「君も変わってないね。甲子園見てる辺り」

男「まあ夏の風物詩だろ。それよりなんで急に来たんだ?それによくここが分かったな」

女「やっぱり気付いてないようだね」

男「?」

女「僕の転校先はここの近所。偶々君を見かけたのでもしかしたらと思ってね」

男「なるほどな。それで久々に感動の再会を体験しようってわけか」


女「まあ概ねそんなところかな。それよりだ」

男「どうかしたか?」

女「今日は行きたいところがあってね。連れてってくれないかな」

男「お、任せろ。免許持ってるから遠くでもレンタカー借りて行けるぞ」

女「いや、自転車に乗せてよ。僕なら重くないだろ」

男「まあいいけど。何処に行きたいんだ?」

女「そうだね、取り敢えず海と言っておこうか」

男「このチャリで海まで行く気かよ...」

女「昔はもっと遠いところまで行ってたじゃないか。今日はウォーミングアップだよ」

男「ハッ、いい身分だな。まあ再会祝いということにしておいてやろう。行くぞ」

女「何言ってんだい。忘れ物だよ。ほら」

男「忘れ物?あぁ、ラジオか。そういやそんな物巻きつけて走ってたな」

女「これで甲子園聞かないと夏が始まらないよ。それじゃ行こうか」


女「ねぇ男、最近どうなんだい」

男「漠然とした質問だな。そうだな、一浪したけど無事就職も決まって上々と言ったところだ」

女「そうかい、そりゃよかった」

男「お前はどうなんだよ?就職したのか?」

女「僕は大して何も変わってないよ。後、一応学生かな」

男「一応ってなんだよ。まあ深くは聞かないでおくか」

女「そうしてくれ」

男「ほいほい、それじゃ話変えるけどさ」

女「うん」

男「女太った?」

女「....成長したと言ってくれ」

男「まあそりゃそうだよな。野暮な話してすまんな」

男「後、この先は坂だ。流石に降りてもらおうか」

女「はいはい」


男「着いたぞー。海だー!」

女「いや久しぶりに来たね。君とここに来るのは初めてだけど」

男「そりゃそうだ。この街で会ったのも今日が初めてだし」

女「そういやそうだったね」

男「それより泳ぐのか?俺は水着持って来てないけど」

女「いや、泳がないよ」

男「じゃあなんでここに来たんだよ」

女「夏を実感するためかな」

男「実感?」

女「そう、君と二人でここまで来て海でも見れば夏を感じるかなーって」

男「中々自分勝手なことを言うな」

女「でもおかげで夏が始まったと実感できたよ。君もそうだろ?」

男「そうだな。まあもう8月始まってるけど」


女「それならよかった。暫く海でも見てのんびりしようじゃないか」

男「しかしこんなへんぴな場所でも人は多いもんだな。海の家まである」

女「入ってみるかい?お礼に何か奢ってもいいけど」

男「いや、いいよ。ただボーッとこっから海見てるだけで」

女「そうかい。まあ試合もいい場面だしね」

男「お、お前野球のルール覚えたんだな」

女「覚えてないよ。ただ実況の勢いや歓声を聞いてそう思っただけさ」

男「相変わらずそういうところは鋭いな。今はここから一歩も離れたくないほどいい場面なんだ」

女「やっぱりね。じゃあ僕はジュースでも買ってくるよ」

男「ありがとう。コーラでよろしく」


女「夕日が綺麗だね。まさに夏って感じだよ」

男「そうだな。みんな海から上がっていく」

女「僕たちも帰るかい?」

男「そうしよう。今帰れば晩飯時だろ」

女「それじゃあまた世話になるよ。すまない」

男「いいってことよ。そうと決まればさっさと帰るか」

女「そうだね、行こうか」

男「あ、晩飯どうする?時間あるなら奢るけど」

女「いや、遠慮しておくよ。帰ってやらなきゃいけないことがあるんでね」

男「そうか、そういうことならまっすぐ帰るとするか」


女「今日は無理言ってすまなかった。突然押しかけた上にこんな迷惑な頼みごとをしちゃって。この借りはいつか返すよ」

男「気にすんなよ。昔からそういうのはお互い様だろ」

女「そう言ってくれるとありがたい」

男「その代わりまた暇な時は連絡くれよ。俺は多分いつでも暇だからさ」

女「あ、その事なんだけど実はもう計画があるんだ」

男「お?気が早いな。いつ開けとけばいい?」

女「八月の後半。甲子園の決勝戦辺りかな。また電話するよ」

男「分かった。楽しみに待っとくよ」

女「後今朝も言ったけど今日はウォーミングアップなんだ。次会う時は今日の倍の距離は覚悟しておいてくれ」

男「倍!?おいおい、いくらなんでも二人乗りでその距離は無理だぜ」

女「勿論僕も自転車に乗って行くよ。そこまで厚かましくはないさ」

男「そういうことならいいけどよ。俺もダラダラせずに生活習慣見直すとするわ」

女「よろしく頼むよ。それじゃ、僕はここから歩いて帰るよ。今日はありがとう」

男「おう、じゃーな」


数週間後

ピンポーン

男「はい、あぁ女か。今開けるから待っててくれ」

女「久々ってほどでもないか。相変わらず白くて不健康そうな肌だね」

男「うるせ、どうせ今日焼けるんだ。ほっとけ」

女「ごめんごめん、それじゃあ行こうか」

男「その前に何処に行くか教えてくれ。流石に目的地知らずに自転車漕ぎ続けるのはモチベーションが保てない」

女「あぁ、そうだった。すまない。今日行こうと思っている場所は学校だよ」

男「学校!?地元まで帰るのか!?自転車で!?」

女「あぁ、そのために朝早くに来たんじゃないか」

男「それ電車じゃダメなのか?県またいでるんだぞ」

女「....できれば自転車がいい。キミと自転車に乗るのは僕にとっての思い出だから」

男「そうか。分かった。付き合ってやるよ。今回は何かしら理由があるんだろう」

女「...ありがとう。それじゃ、準備出来次第出発するとしようか」


男「ところでさ。俺たちってなんであれから一度も会わなかったんだろうな」

女「会ってもすることがなかったからじゃないかな。積もる話がある訳でもないし」

男「まあ確かにそうだな。新しく出来た友人の話をしても虚しいだけだ」

女「だが安心してくれ。会うのが煩わしいとかそんな理由でないことは確かだ」

男「まあそれは口にするまでもないだろ」

女「そうだね、それに今日は話したいこともあるんだ」

男「それを学校でするってことだろ。もうすぐ着くぞ。多分だけどな」

女「思ってたよりずっと近かったね。半日は覚悟してたけど昼過ぎには着きそうだ」

男「俺は夜までかかると思ってたぜ。懐かしい光景が見え始めて一安心だ」


学校

男「着いたな。流石にちょっと疲れた」

女「先に昼食にするかい?」

男「いや、話ってのが気になるし先にそっちを聞かせてくれないか」

女「分かったよ。それじゃ教室に行こうか」

男「勝手に入って大丈夫なのか?」

女「分からない。でも卒業生って言えば何とかなるんじゃないかな」

男「お前は卒業してないだろ。まあいいか」

女「話はすぐに終わるよ。多分ね」


教室

男「さて、何やら大事な話というものをしてもらおうか」

女「あぁ、ちょっと待ってくれないか」

男「....」

女「この二つを受け取ってくれ」

男「封筒か...開けていいのか?」

女「先に左側から開けてくれ」

男「分かった。ん?封筒の中に便箋?」

女「読んでくれていい。あの頃の僕がここで渡したかったものだ」

男「....」

女「焦る気持ちはあったんだけどね。どうしても一歩前に踏み出すことができなかった」

男「....」

女「引越す時に捨てようと思ってたんだけど捨てる決心が付かなかった」

男「....」

女「だからキミが持っていてくれないか」


男「...ありがとう。素直に嬉しいよ」

女「それじゃもう一つの封筒を開けてくれないか」

男「分かった。こっちも手紙か」

男「....は?」

女「....」

男「そうか、もうそんな時期か。おめでとう」

女「キミならそう言ってくれると思ってたよ。ありがとう」

男「....」

女「ところで出席してくれるかな?」

男「当たり前だ。こんな大事な友達の結婚式に出席しない訳がないだろ」

女「....ありがとう」

男「いやー、話の流れ的に一瞬婚姻届期待しちゃってた自分を殺したいね。ハハッ」


女「キミらしいね。流石に何年も前の気持ちには整理がついてるよ」

男「いや、全然気付かなかったよ。勿体無いことしたもんだ」

女「一枚目の便箋の返事は期待してないよ。それはあの頃のキミにしか分からないと思うからね」

男「そうだな、今の俺が返事をするのは野暮ってもんだ」

女「本当にありがとう。キミが僕の友人でよかったと心から思えるよ」

男「そりゃよかった。俺もそう思っていたところだ。それじゃ飯でも食べに行くか」

女「そうだね。そうしようか」

男「結婚祝いに奢ってやるよ。何がいい?鰻か?」

女「お任せするよ。どうせ帰りも長いんだ。気楽に探すとしよう」

男「そうだな、そうするか。自転車乗りながら見つければいい」

終わりです。ありがとうございました。

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