穏乃「憧を監禁することにした」(110)

憧(シズに自由を奪われて辛い……)

憧(これはもう責任とって結婚してもらうしかないわね!)

憧(なんて現実逃避はともかくとして)

憧(どうしてこうなったんだろう……)

憧(年が明けて、初瀬から連絡がきたから街まで福袋買いにいったりなんかして)

憧(平和な冬休みのはずだったのに)

憧(今朝、目が覚めたら四肢の自由を奪われていて)

穏乃「憧。ご飯だよ」

憧「あ、うん」

憧(そう。まったくもって信じがたいことに……)

憧(睡眠中にシズがあたしをさらって監禁していたんだ)

憧(まさかコイツがこんなことするだなんて予想だにしなかった)

とりあえずあこちゃが悪い(確信)

穏乃「口を開けて」

憧「あーん……、もぐもぐ」

穏乃「一口の大きさはこのぐらいでいい?」

憧「うん。ちょうどいい」

穏乃「そう。ならよかった」

憧「もぐもぐ」

憧(シズはまだ肝心なことを何も語っていない)

憧(あたしを監禁した動機も、どうしたら解放してくれるつもりなのかも)

憧(あたしが知りたいことは何一つ語らず、ただあたしの傍にいる)

でもぶっちゃけ行くとこまで行っちゃいそうなのはシズだよね
憧は適度にヤんでるけどシズは垂直落下しそう

憧「ねえ」

穏乃「ん?」

憧「そんなにジロジロ見られると照れるんだけど……」

穏乃「……」

憧(無視!?)

憧(ま、まあ、シズの視線を浴びるのは、それ自体悪い気持ちじゃないよ)

憧(というかむしろ嬉しいぐらいなんだけも……)

憧(にしても無言で見つめられ続けるのはさすがに怖いっての! 照れるし!)

憧「シズはさ」

穏乃「……」

憧「ひょっとして……、ひょっとして、だけど、あたしのこと、嫌いなの?」

憧「嫌いだからこんなことするの?」

穏乃「ううん。嫌いな相手をわざわざ危険を犯してまで監禁なんてしない。する意味がない」

憧「そっか……」

穏乃「うん」

憧(よかった、嫌われているわけではないみたい)

憧(でもそれなら本当にシズは、どうしてこんなことを?)

こーわーいー

憧「……」

穏乃「……」

憧「……」

穏乃「……」

憧「シズかわいい」

穏乃「え?」

憧「……」

穏乃「……」

憧(不意の褒め言葉に唖然とするシズもかわいいわね)

穏乃「なんというか、ひどいことしてごめんな、憧」

憧「ううん。丁寧に扱ってくれてるから気にしてないよ」

穏乃「いやいや。まず手足の自由を奪ってる時点で丁寧も何もないでしょ」

憧「あはは、そりゃそっか」

穏乃「のん気そうだけど私のこと怖くないの?」

憧「怖くないよ」

穏乃「変なの」

憧「だってシズだしね。怖がれってのが無理な話だよ」

穏乃「そっか……」

憧「うん。で、手の拘束をほどいてくれる気にはならない?」

穏乃「それは無理」

憧「だよねぇ」

穏乃「なあ……」

憧「んー?」

穏乃「高校さ、晩成いくのをやめて阿知賀にきてくれてありがとな」

憧「うーわー、今さらすぎ」

穏乃「確かに今さらだけど、まだ憧にありがとうって言ってなかったから」

憧「別にお礼なんかいいわよ」

憧「あたしがいきたかったから阿知賀にしたんだし、ね」

穏乃「……」

憧「大丈夫。阿知賀を選んでよかったと思ってるよ」

憧(全国にいけた云々を抜きにしても、ね)

穏乃「憧にお礼(意味深)がしたい」

憧「そういや、さ」

憧「最初あたしが阿知賀でなく晩成に進むつもりって言った時は、あんた凄く不機嫌になったよねー」

穏乃「あー……、そうだね」

憧「それこそ理不尽なぐらいに」

穏乃「ま、ね」

憧(ったく、あれには進路狂わされちゃったな)

憧(今後の可能性と、シズの気持ちと、冷静に比較考量してあたしが選んだのが阿知賀)

憧(……ああ、そうだった)

憧(今までシズが見せた理不尽は、この監禁傷害だけじゃなかったんだ)

憧(ひょっとしてこの子の本質は、もしかしたら……)

憧「……」

穏乃「……」

憧「……」

憧(会話、途切れちゃったな)

憧(なにか話題を……)

穏乃「久しぶりだね」

憧「えっ?」

穏乃「二人だけで長時間過ごすの」

憧「あっ、ああ……。うん。そうだね」

憧「あたし達よく一緒にいたけど、二人きりって時間はそれほど多くなかったもんね」

穏乃「インハイの時のホテル以来かな」

憧「あん時はあん時でインハイに浮き足だってそれどころじゃなかったしねー」

憧「この際だし一つ、前から聞きたかったことを質問しておこうかな」

穏乃「なに?」

憧「シズの3サイズ」

穏乃「ああ、なるほど……、って、は!?」

憧「というのは冗談で」

穏乃「なんだ冗談か……」

憧(それも知りたくはあるけどっ)

憧「今あたしが聞きたいのは、中学三年の夏のこと」

穏乃「ああ」

憧「あの時、シズはどうしてあたしに電話をくれたの?」

憧「和のインターミドル優勝を知って、真っ先にあたしへ電話してくれたでしょ?」

憧「どうしてあたしを電話相手に選んだの?」

穏乃「それは、憧なら和のことを知ってるから……」

憧「あたしじゃなくても玄がいた」

穏乃「あっ」

憧「あたしも玄も、同じ和のことを知る人間」

憧「なら、他校に在籍しているあたしなんかより……」

憧「まず阿知賀に通う玄へ電話をするのが妥当じゃない?」

穏乃「……そうだね。確かにそうだろう」

憧「もう一度聞くよ」

憧「あんたはどうしてあたしにだけ電話してくれたの?」

穏乃「……」

穏乃「理由なんてないけど、たぶん……」

穏乃「憧と話したかったからだと思う」

憧「ありがと」

憧「正直そう言ってもらえることを期待してた……、嬉しいよ」

穏乃「今思えば、あの時には憧のこと、もう無意識下で特別扱いしてたのかもしれないな」

憧「ふふ。そりゃよかった」

穏乃「よかった?」

憧「うん」

穏乃「こんなひどいことされて、なのによかったなんて言えるの?」

憧「言えるよ」

憧「あたしはずっとずっとシズに自分のこと特別視してほしいと思っていたんだ」

憧「それは今も変わらず……、だから」

穏乃「……」

憧「あんたがこんな行為にでるほどあたしに思い入れてくれてたってわかって、幸せなぐらい」

穏乃「でも……」

穏乃「ごめんね、憧」

憧「ん?」

穏乃「酷いことして本当にごめんね」

憧「なーによ、急にしおらしくなって!」

穏乃「だって憧がそんな気持ちでいてくれたことに気づかず、取り返しのつかないことを――」

憧「気にしない気にしない」


“今朝、目が覚めたら四肢の自由を奪われていて……”


憧(眠っている間に、手は背中側で縛り付けられていた)

憧(でも、足は……)

憧「もう歩けない足にされちゃったことぐらい、シズのためなら気にしないよ」

憧(壊されていた。決して、逃げられないように)

穏乃「……」

憧(シズ、冷静になって罪悪感が込み上げてきたのかな?)

憧(そんな感情、削いであげなくちゃね)

憧(……よし)

憧「あのさシズ。あたしね、凄く嫌な女なんだ」

穏乃「憧は嫌な奴なんかじゃ……」

憧「あるのよ」

憧「だってあたし、子供の頃から色々な奴に対して暗い嫉妬心を燃やしてばかりだったんだもの」

穏乃「嫉妬?」

憧「そ」

憧「和、玄、ハルエ……、シズに親しい人間その全てに嫉妬していたかも」

穏乃「なんで憧がこの三人に嫉妬なんかするんだよ」

憧「さーぁ。どうしてでしょー」

憧「あんたってさ、人の機微に聡いようでいて、時々どこか抜けてんのよねー」

穏乃「……ごめん」

憧「たとえば、ハルエ」

憧「ハルエが阿知賀から離れるかもって話になった時、シズめちゃくちゃ取り乱したじゃん」

穏乃「ああ、うん」

憧「ハルエに対してはそれが羨ましくて嫉妬した」

穏乃「へ? それだけ?」

憧「“それだけ”が“そんなに”へと化けちゃうのが好きになるってことなのよ」

穏乃「……」

憧「和も玄もまあそんな具合ね」

憧「二人とも、あたしには引き出せないシズをそれぞれに引き出していて」

憧「“それだけ”のことであたしは腸が煮えくりかえりそうだったんだ」

憧「器が小さいことこの上ないよね。嫌な奴でごめんね」

憧「だからこんなあたし相手にそれほど罪の意識を持たなくてもいいんだよ」

穏乃「いや……。憧は気持ちをおさえこめるだけ偉いよ」

穏乃「私なんて実際にこんなことしちゃったんだから。器が小さいってんならこちらこそだよ」

憧「……」

穏乃「憧が正直に話してくれたんだ。今度は私が本心を話すね」

穏乃「私は、嫉妬とかそういうのはよく分からないけどさ……」

穏乃「怖かったんだ」

憧「怖い?」

穏乃「そう。憧が自分から離れていくのが怖かった」

憧「でもあたし達、一度は中学の時に離れたじゃない」

穏乃「うん、離れた。離れて、はじめて気付いたんだ」

穏乃「憧がいないと嫌だな……、って」

憧(!!!)

穏乃「小さい頃はずっと一緒すぎて気がつけなかったんだね」

穏乃「だから……」

穏乃「だから、憧が晩成の子と仲良く歩いてるのを見かけて、いてもたってもいられなくなって……」


“年が明けて、初瀬から連絡がきたから街まで福袋買いにいったりなんかして”


憧(え? なに?)

憧(まさかたったそれだけが、シズのトリガーだったの……?)

憧(シズが、あたしに対してそんなに過敏になってくれていただなんて……)

憧(あたし、あたし……)

憧(凄く嬉しい!)

憧(あー。やばいなー、これ)

憧(自制がきかなくなりそう)

憧(なんとしてでもシズを繋ぎ止めたい、そんな気持ちになってきた)

憧(人間って手に入れられないことよりも、失うことの方を強く恐れるのかなあ)

憧(こうなったら……)

憧(路線変更、この足すら利用しよう)

憧(ごめんね、シズ。罪悪感を減らしてあげるのは取り止め)

憧「しずっ!」

穏乃「憧?」

憧「しずーっ!」

穏乃「どうしたんだよ憧?」

憧「あたしはシズのそばにいるんだぞってあんたに実感してほしくって」

憧「シズがあたしを求めてくれる限り、もうあたしはあんたから離れないよ」

穏乃「憧……」

憧(それに……)

憧(どちらにせよシズは、もう私から離れられない)

憧(だって――)

憧「いたっ!」

穏乃「大丈夫憧!?」

憧「あ、あはは、平気平気……」

穏乃「ごめん……。本当にごめん…… 」

憧「もー。泣かないでよ」

憧(だってあたしには、この足があるんだもの)

憧(意識を失っている間にシズが傷つけた、この足)

憧(もう歩けそうにないあたしの足)

憧(あたしがその気になってブレば、シズの罪の意識は膨らむ一方)

憧(あたしを一時も放っておけない、そんな状態にシズを追い込めれば、言うことなしだ)

憧(罪悪感の鎖でグルグルグルって……)

憧(責任感の強いシズは、もうあたしから離れられない)


憧「あたしもう、一人で歩くことはできないのかな……」

穏乃「ごめん……。できる限り憧のこと支えるから……」


憧(ねえシズ。もっと罪悪感で縛られてよ)

憧(もっともっと深みにはまって)

憧(軽はずみな行為を後悔しながら、あたしに心を縛られてよ)

憧(もう離してあげないんだから)

穏乃「この縄はもういらないかな」

穏乃「これ以上憧の手を縛っても意味ないよね」

憧「シズの好きにしていいよ」

憧「そのまま結びっぱなしでもほどいてくれても、ご自由に」

穏乃「じゃあ今からほどくね。じっとしてて」

憧「はーい」

穏乃「んしょ、と」

憧(えへへ。ラッキー)

憧(縄をほどこうとする過程で、シズの手があたしの手に触れてるや……)

憧(……)

憧(手だけで満足してていいのかな)

憧(そろそろもっと踏み込んでみてもいいんじゃないかしら……)

憧「シズ……」

穏乃「うん」

憧「あのさ」

穏乃「なあに?」

憧「お願いがあるの」

穏乃「なんでも言って」

憧「きっ、き……、き……」

憧「……」

憧「……」

憧「キスしよ?」

穏乃(やっぱりきたか)

穏乃(本人が気がついているのかはわからないけど……)

憧「しずぅ……」

穏乃(憧、顔が真っ赤だもん)

穏乃(きっと私達は今、関係を変えてしまう最後のライン上に立っているんだ)

穏乃「……」

憧(シズ、真顔になっちゃった……)

憧(ど、どうしよう!? ひょっとして焦りすぎて引かれた!?)

憧「なーんて……、ご、ごめん。まだ早すぎたよね?」

穏乃(ここでチューしたら、いよいよ私達はただの友達じゃいられなくなる)

憧「やっぱり忘れて。あたしは……」

穏乃「いくよ、憧」

憧「!? ん、んっ……、ぷはっ」

憧(き、き、キスされた!? 今シズから、キス!?)

穏乃(関係が変わるとか、そんなの、望むところだ!)

穏乃(だってその方が、憧を私により強く縛りつけられるから……)

憧「シズ、もっとぉ……」

穏乃「いいよ」

憧「ん、んっ……、ちゅ……」

憧「ぷふっ……」

憧「嬉しいよシズ……」

穏乃(憧、可愛いな)

憧「ねえしず、次は抱っこして……」

穏乃「わかった」

憧「しず……」

憧「好き……、好き……」

憧「そういえばさ。……ちゅ、ちゅっ」

穏乃「なあに?」

憧「あたしの足が壊れた原因をでっちあげないとね」

穏乃「へ? どういうこと?」

憧「シズに足を傷つけられたってことを正直に話したら、きっとあんた退学でしょ?」

憧「それだけじゃなく、民事は起訴しなければいいにしても、刑事で前科がつくし……」

憧「そんなの嫌だもん。ちゅっ……、シズの罪を隠さなきゃ」

穏乃「でも、大怪我した原因の捏造なんて……」

憧「大丈夫大丈夫!」

憧「なにも積極的に特定人物を犯人にしたてようってんじゃないんだし、誰にも大きな迷惑はかけないよ」

憧「あたしはただ……、ちゅっ」

憧「シズが犯人あつかいされなくなる、そんな未来が欲しいだけ」

穏乃「……」

憧「罪ならあたしの傍にいることで償ってくれればいいからさ。ね?」

穏乃「うん……。そうだね」

穏乃「憧もなかなか凄いよね……」

憧「何がー?」

穏乃「こうして共通の秘密をつくりだすことで、私はますます憧に縛りつけられたわけだ」

憧「……」

憧「さー。そんなの偶然の産物よ」

穏乃「本当に?」

憧「……ふふっ。たぶんね」

憧「まあいいじゃない。二人きり共通の秘密だなんて、なんだかロマンチックだもん」

穏乃「うおお、憧ポジティブー」

憧「でしょでしょー」

穏乃「なんだかさ」

憧「うん」

穏乃「これじゃあいったいどっちが狂ってるのかわからないね」

憧「あはは。そんなのわかりきってるじゃん」

穏乃「というと?」

憧「あたし達、両方とも病んでるんでしょ」

穏乃「ああ……」

憧「きっと、だからこそ合致するんだよ……」

穏乃「うん。そうかもね」

 ̄ ̄ ̄ ̄

きゅるきゅるきゅるきゅる

きゅるきゅるきゅるきゅる


「ねー。あこー」

「なーにシズ?」


きゅるきゅるきゅるきゅる

きゅるきゅる……


「ちゅ……」

「……もーシズっ、外で大胆すぎっ」

「憧は嫌だった?」

「嫌……、なわけないじゃん」

「だと思った」

「見すかしたようなこと言うなー!」

「てへへ」


きゅるきゅるきゅるきゅる

きゅるきゅるきゅるきゅる


「今日はいい天気ね、シズ」

「そうだねー、憧」





おわり

車椅子か?>きゅるきゅる

>>97
うん……

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