モバP「外の世界を知るために」 (43)


今から数日前。

事務所には、とある壁が建設された。
固く冷たい壁…それは俺の侵入を防ぐためだった。
事の発端は、それからさらに数日前まで遡ることになるのだが。

きっかけは些細な事だった。
わざとではないが、俺は…覗いてしまったのだ。
男子禁制…アイドルの衣擦れの音が聞こえる、その空間の中を…全ての真実を。

おかげで更衣室には壁…ウォール・ちひろが建設された。
完全な防音設備と共に、それは整えられた。
そして…俺の衝撃は形になった。

アイドルの下着姿。なんと美しいものだろう。
ブラなどは、俺にとって脅威ではない。
だが…下着。ショーツ。パンツ。

それに…素晴らしい価値観を覚えた。

俺の13cm級の巨人は、トランクスの…わずかな隙間に穴を開けた。
そして…チャックへの侵入を許し、巨人は、歩を進めた。
俺の紅蓮の弓矢は、外の世界を知ってしまった。

俺の巨人は…立体機動していた。



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外の世界を知った俺の俺は、ぴんと背筋を伸ばしていた。

どちらが背なのだろう。それは知るよしもないのだが。
圧倒的な開放感を覚えた俺は、決意していた。
必ず…必ずアイドルの下着を見ると。

下着でなければ意味が無い。それ以外には興味はない。

ならば…まず、どうするべきか。
ウォール・ちひろを破ることは不可能だ。
レアメダルで建設されたそれを…壊すことはできない。

フェイフェイダヨー。

とりあえず計画を立てよう。
合法的に、偶発的に…けれど、必然的に。
俺はさも見せつけられたかのように、それを見るのだ。

そうすれば…俺は早苗さんに連行されずに、済むのだから。


下着スポットとして有名なのは、階段だろう。

事務所への階段を登るアイドル。
俺は何気なく後ろを昇り、空を見上げる。
そして、そこに一陣の風が吹き…ああ、完璧すぎる。

なんて完璧すぎる計画なのだ。

そう決めた俺は、事務所下の自販機の前に数時間鎮座した。
端からみてもみなくても不審者にしか見えない。
だが…俺はアイドルを待っていた。

その為に仕事を早く終わらせたのだ。

さて、まずは誰が来るのだろう…6本目のコーヒーを飲み終えた。
けれど…座ったままで腰が痛い。振ったこともない腰が痛い。
絶望に身をやられそうになった、そのときのことだった。

凛だ。


「プロデューサー、何してるの」

『ああ、ちょっと休憩してたんだ』

「そう」

『上がろうか』

「うん」

凛に先にいけ、とジェスチャーをし、疑うことなく登っていく。
確実に段差は開いていく。そして太ももがあらわになる。
だが…これ以上差をつけるのはまずい。バレる。

ここだ。風よ吹け。吹いてくれ。頼む。

俺の願いが通じたかのように、春先には冷たい風が吹いた。
ひらり。凛のスカートが微量ながら上がる。
あともう少しじゃないか。頑張れ。

屈めば見える。
だが…それは出来ない。
俺は、正攻法で成し遂げるのだ。

また一陣の風が吹く。

さらにスカートは、懸命に舞い上がろうとしていた。
私はめくれるしか脳がありませんと言うように。
そうだ。お前にはそれしか脳がない。急げ。

「…今日、寒いから早く入ろう」

凛はスカートをしっかりときっかりと抑え、事務所の中へ消えていった。


なんということだ。

失敗?俺は失敗したのか。
ミスを犯した?自然に裏切られた。
大自然は俺の味方をしなかった、というのか。

俺の巨人は最早巨人ではなくなっていた。
壁の奥へと消えていった。
俺は無力だ。

ならば…違う方法を考えるしかない。

そうだ。年少組に頼めばいいではないか。
しかし、なんと頼めばいいのか?
ああ、思いついたぞ。

次は仁奈だ。


なぜ仁奈なのか、というのは自分の中で答えが出ていた。

普段からキグルミを着ていて、その姿は覆われている。
身体のラインはおろか、顔しか見えていない。
そんな仁奈はどんな下着なのか。

考えてもみれば、気にならざるを得ないことだった。
そう思った時、事務所に仁奈がタイミングよく訪れた。

「プロデューサー、何してやがるですか?」

『うん?仁奈と遊ぼうと思ってな』

「遊んでくれやがるですか!」

うん、と大きく頷くと、仁奈は俺の膝の上に乗ってきた。
幸い、今事務所には誰も居ない。やるなら今だ。
背中のチャックが今、そこにある。

何もしてやらなくても、仁奈はとても嬉しそうだった。

すまない、仁奈。俺は真実が知りたいだけなんだ。
彼女はこちらの様子に気づくこともない。
背を向けているのだから。

まったりしている仁奈の背中のチャックに手をかけようとしたときだった。

「殺すぞ」

俺は触るのをやめた。


仕方が無いので事務所に設置されているテレビでAVを見ていた。

無論盗撮モノのAVだ。決して痴漢などされていないよ。
ひと通り至福の時間を過ごした後、社長のデスクに戻した。
次は神崎かおりと谷亮子似、どちらにしようか、しばらく迷った。

おかげさまで俺は14cm級巨人に進化した。

これはしばらく元に戻りそうにない。役目を果たさないと。
そうだ。興奮を沈めるだけの材料がない。
どうすればいいのだろう。

そして、ちひろさんがたくさんのアイドルを連れて事務所に戻った。

どうやら、俺が居ない間に付き添いの代理を努めてくれていたらしい。
ありがとう。感謝する他ない。そしてちひろさんは何色だろう。
やはり、課金を抑えてくれる緑色だろうか。そうだろう。

事務所に賑やかさが戻ってきた。
そして、俺は気付いた。前がヤバイ。
俺は必然的に前屈みになることを選んだ。

一種の生存本能である。



何かしらの大義名分を手に入れなければならない。

俺にピサの斜塔が建設されているだけの理由を。
…アイドルの下着が、合法的に見られるだけの、理由を。
俺の不審さを感じ取ったのか、ちひろさんが声をかけてくれた。

「プロデューサーさん?気分がすぐれないんですか」

『え?ええ。はい。ちょっと貧血気味で』

特定の箇所に凝縮して凝り固まっているのだが。
嘘ではないので申し訳なさは生まれない。

「それに、何だか悩んでいるようですし…」

すごく悩んでいる。確かに悩んでいる。
けれど、性の壁も…また壊せぬものなのだ。
きっと社長なら理解してくれるであろう悩みだ。

「…少し、横になったほうがいいんじゃないでしょうか」

なるほど。
いや、ダメだ。

横になったところで、俺の俺は天に伸ばして翔けていく。
掛け布団が一部分だけ隆起していれば不自然だ。
そんなことは絶対に許してはいけない。

何か言い訳を考えなければ。


『ええと…ちょっと、自分の事に悩んでいて』

これもまた嘘ではない。自分自身のことだ。
ちょっと興奮なんて覚えていないよ。

「………」

「やっぱり…自分は自分らしく、が1番じゃないでしょうか」

『自分は自分らしく…ですか』

「はい。全力でやりたいことをやるのがいいと思います」

「…と言っても、悩みの内容を知らないので、申し訳ないですが」

『いえ。ありがとうございます…解決しました』

そうだ。何を恥ずかしがる必要があるのか。
俺は…俺は、自分のやりたいことをやっているだけだ。
後ろめたいことなど…ことなど、して…うん。していないよ。

俺は覚悟を決めた。

きっと…成し遂げてみせる。そしてショーツを掴み取る。
手に入れるのだ。夢を。全てを。主にショーツを。
そう決めた俺は、ゆっくりと立ち上がった。

連行された。


俺はきらりんルーム(物理)に連行され取り調べを受けていた。

「…で、なんで事務所の中心で屹立してたの」

『黙秘権を行使します』

その間にもきらりんルーム(物理)の外からはにょわー☆と声が聞こえる。
この空間はもはや精神と時の部屋に通ずる何かがある。
時の流れがおかしいのではないか。

「そろそろ自白して楽になろっか…カツ丼いる?」

『あ…いただきます』

俺は早苗さんに498円(税込)を支払いカツ丼を食べた。
美味い。しっとりとした卵にさくさくの衣。
どれもが俺を満たしてくれた。

「ほら。そろそろ吐いちゃいなよ」

卵を見ながら言うのはやめて欲しい。
俺は覚悟を決め、早苗さんに向き直った。
そして…たった一言だけの真実を、彼女に告げた。

『下着が…下着が、見たかったんです』


「下着?」

『下着です。パンツ。ショーツ。布。出来ればシルクで』

「反省してる?」

『もちろんです』

反省は当然している。後悔はしていないだけだ。
俺は手錠を外され、解放してもらった。

「もう…これからは、こんなことしちゃダメだから」

『お世話になりました』

反省の意を婦警(28)に告げ、頭を下げた。
深々と深々と下げ、早苗さんの足元まで下ろした。
俺はそれほどまでに反省していたのだ。そうだ。そうだよ。

『すみませんでした』

「うん。もう、いいから…仕事、頑張って」

優しい言葉に涙が出た。俺はなんて愚かなことをしたのだろうか。
もう1度すみませんと告げ、ゆっくりと頭を上げた。

『…紫か』

連行された。


本日2度目の逮捕である。手錠が痛い。

こうしていると婦警さんといやらしいプレイをしているようである。
この部屋に巨人が出現した瞬間であった。イェーガー。

「もうしないって約束したばかりじゃない」

『早苗さんは紫なんですか…どうしてですか?欲求不満なんですか』

「これはお気に入りなの。提訴する?」

『すみませんでした』

「よし」

もう2度としないと神に誓った。
違う。そうじゃない。しないだけの理由がある。
だって、もうパンツみたもん。ミッションクリアしたからだ。

別れ際、婦警(28)は頬を紅潮させて言った。

「…そんなに、見たいなら…お姉さんが見せてあげても…」

『早苗さん…』

うわキツ。


苦笑いと共に早苗さんと別れた後、俺は事務所に戻った。

残念ながら、既に知れ渡っていたらしい。
アイドルたちが悲しそうな顔で俺に怒りをぶつける。
ああ、けれど…それも仕方のないことだ。乳首をつつかないで。

「ねえ、プロデューサー。そんなやり方って、卑怯だよ」

『…卑怯?』

「そうだよ。ちゃんと恋人を作って…って、あっ」

最後何を言っていたのか聞こえなかったが、俺は走り出していた。
向かう先はもちろん、男子禁制の女子更衣室だ。
卑怯?なるほど。その通りだ。

男なら意思を貫くしかないのだ。

こんな卑怯な手を使っていた俺は、恥を覚えていた。
今やっていることにももれなく恥を覚えた。
だが…もう、俺は迷わない。

更衣室の前まで来て、俺はドアを開け放った。


「ちょっと、何をしているの…」

そこに居たのは黒川千秋。呆れ顔で俺を見ていた。
今スカートを履いたところらしく、上はブラのみの姿だった。

『俺は下着を求めてここへ来た』

『だから…下着を見せてくれないか。主にショーツだ』

『俺はもう迷わない。千秋のスカートの中が見たいんだ』

「ちょ、ちょっと…やめなさい」

俺の視線に千秋は身を燻らせていた。
どこを隠していいかもわからないのだろう。

「アナタ…早苗さんの下着を見たのでしょう」

『見た』

『今度は黒を求めているんだ』

「…そう」

諦めたというようなそぶりで、ゆっくりとスカートをたくし上げていく。
なるほど。綺麗な太ももをしている。ああ、後もう少しだ。

『3回目』

間に合わなかった。


今日は塀の中で一泊だ。夕飯も出る。快適だ。

俺はネクタイを緩めながら空を見た。
とても美しい月だった。黄色いブラのカップに見える。
俺にはもう、手立ては残されていないのだろうか。見られないのか。

自分は自分らしく。

そうだ。ちひろさんは言ってくれていたではないか。
俺は正直に求めた結果、連行された。
仕方がないことだ。

誰か…うん。見せてくれそうなアイドルに頼むことにしよう。

ああ、そろそろ眠くなってきた。
明日には事務所に戻れる。そのときに考えよう。
俺は下着を脱ぎ、頭に被って深呼吸を終え、ゆっくりと眠りについた。

明日に期待しよう。


事務所に戻った俺は、アイドルから優しく迎えられた。

疲れてたんだよ。ゆっくり休んで。頑張ろう。
まるで俺の頭がおかしくなったようではないか。失礼な。
女子更衣室のドアを開け放ってスカートをたくしあげてもらっただけだ。

変態扱いされるとは。

相変わらずの速度で仕事を終え、俺は志乃さんに声をかけた。

『すみません、志乃さん。下着を見せてもらえませんか』

「え?それは…できないのよね」

『…そう、ですか』

俺は落胆していた。彼女なら、きっと。そう思っていたからだ。
どうしたらいい。誰なら…誰なら、下着を見られる?

「だって…」

着ているチャイナドレスのスリットは深い。
指を這わせ、スリットを上げていき…そこに、下着が。

なかった。


ほう。

なるほど。
そういうのもあり。
開放感に溢れていそうだ。

『ありがとうございました』

「ええ」

俺は彼女に礼を告げ、嬉々とした表情で事務所を出た。
アイドルは、危機とした表情で見ていた。
この世界は愛に満ちている。

ラブアンドラブ。アヘ顔ダブルピース。数は揃ってる。

俺は帰る途中にコンビニにより、いくつか酒を買った。
この疲れは酒と共に流してしまうのが1番だ。
投獄中には腹いっぱい飯も食ってない。

ふとコンビニの一角を見やる。

化粧品、整髪料、惣菜パンが並ぶ。
その中に…1つだけ。
あった。

女性用下着が。


これを…俺は、どうする?

被るのか?履くのか。違う。
…これは俺が履いても意味が無い。
興奮はするが、求めていたものではない。

じっと女性用下着を見つめる俺を店員が見つめていた。

恥ずかしいのでファミチキを追加注文しておいた。
たまに食べたくなってしまうものなのだ。
俺は逃げるように店を出た。

既に3回投獄された。

もう4度目はない。仏の顔も3度まで。
明日…そうだ。明日がラストチャンスだろう。
カメラに納めればいい。正々堂々、覗いてやろう。

俺はインスタントカメラを買った。


俺は翌日、準備を整えた。

更衣室は2部屋。両方が今、使用されている。
そこに入っているアイドル…安部菜々。俺はやってやる。
彼女は永遠の17歳だ。なら、それに相応しい下着のはずだろう。

トランジスタグラマーの名が伊達であろうとなかろうと見せてもらう。

まだだ。まだ。
まだ、待つんだ。冷静に。
誰しもが俺に視線を向けないときを。

これは事務所の中心でクラウチングスタートのスタイルをとっていた。

もはや誰しもが俺を無視しているような気がする。
だが、俺は諦めていない。やるのだ。
3。2。1。今だ!

俺は菜々のいる女子更衣室へと走りだした。

それを見つけた早苗さんと凛は慌てて俺を止めに入る。
捕まえろ。殺せ。生きて逃がすな。やれ。
そんな声が聞こえる。

だが、俺を誰にも止めることは出来なかった。


「ぷ、プロデューサー?な、何やってるんですか!今、ナナが…」

『下着だ』

「え?」

『下着を見せてくれ』

『…俺には、時間がないんだ』

『もう…2度と会えないかもしれない』

『だから…カメラに』

「プロデューサー…」

「………」

「ナナの…」

「ナナので、いいなら…」

「はいっ」

居たぞ。殺せ。捕まえろ。そんな声が後ろから響いていた。
俺はその声に振り返る。早苗さんと凛は怯えていた。
俺のしていた表情に。そして、その真実に。

凛は言った。

「beige」

やたらと発音がいい。早苗さんも気付いた。

「…ベージュ」

そして、俺も続いた。

「…米寿」

にっこり笑って、菜々は言った。

「カメラ止めろ」



俺は本気のウサミン星人の走りをみた。

捕まったら殺される。間違いない。食われる。
ルーズソックスがその証だ。
ボディコン。

そうだ。まだ希望はある。
更衣室は2室。片方がある。
俺は下着を見るのだ。まだだ。

俺は風になっていた。
誰よりも早い、風に。

その後ろを全力で追いかけるウサミン星人。
どっちかというとウサミン成人。
ウサミンご婦人。

俺はドアにぶつかり、中へ飛び込んだ。

頭を抱え、上を見上げると、そこには下着があった。
あった。これが、俺の求めていたモノ。
白と青のストライプ。

「ちょ、ちょっと!何を…ああ、そういうことか…」

『すみません…ええと』

俺は顔を上げた。

「…君ィ、私のことが…なるほど」

逃げようと振り返ると、彼女らにロックされていた。
ここは全てから乖離した部屋なのだ。
俺は勘違いしていた。

そして…防音処理のされた、更衣室。

ここで行われることは、誰にも知られることはない。

…きらりんルーム(物理)が1つしかないと…俺は、いつから錯覚していた?



答えは出なかった。




以上です。ありがとうございました。
html化依頼を出させていただきます。


確かにハゲ社長とあれ?ってなるシリーズ3作ほど書きました。
ありがとうございました。

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