佐々木「キョン、その本は何だい?」 (84)

キョン「その本ってどの本だ」

佐々木「クローゼットの隙間からはみ出している、あの本の事さ」

キョン「なっ!?ちゃんと仕舞ったはずだぞ!?」

佐々木「言ってみるものだ、まさか本当に何かあるとはね、どれどれ…」

キョン「待て待て佐々木!これはだな、その、勉強には関係ないものだ!」

佐々木「確かに僕は君のご母堂に頼まれて君の勉強を見ているわけだが、どうにも君の集中力が持たないらしいからね、息抜きに何かしようと思ったわけさ」

キョン「わかった!集中する!すればいいんだろ!?」

佐々木「…ならいいんだ、僕も無理強いは好きじゃない」

キョン「そうか…じゃあ勉強の続きを」

キョン(よかった…)

佐々木「とでも言うと思ったかい?」ガチャ

キョン「あっ!!」

佐々木「ふむふむ…これは…『僕っ娘萌え大全』…?」

佐々木「なるほど、キョンはこういうのが好きなわけか…」

キョン(まだ致命傷は避けられる!)

キョン「あ、ああ、嗜む程度にな」

佐々木「なるほどね…なるほど、なるほど…」

キョン「楽しそうだな」

佐々木「くつくつくつ、そうか…おや?奥の方にまだ何か」

キョン「!!」

佐々木「なになに『月刊ボーイッシュ・僕っ娘特集号』、『透けブラ100選』……『ポニーテール名鑑』、『アンタなんて全然好きじゃないんだからね!~魅惑のツンデレ女子~』etc…全部R18だね」

キョン「やめろ!声に出して読むな!すごく居たたまれないから!!」

佐々木「……」

キョン「ああ、誰か俺を殺してくれ、できるだけ苦しまない方法で」

佐々木「キョン、今僕は非常に不愉快な気分だよ」

キョン(そりゃそうだ、そんな風に思われてたなんて不愉快以外の何物でもないだろう)

佐々木「なんで僕っ娘だけじゃダメなんだ!?」

キョン「…は?」

キョン「いやいや、他に言うことがあるだろ!?」

佐々木「いいや、無いよ、これ以上重要なことなんて少なくとも今の僕には考え付かない」

キョン「お前、熱でもあるんじゃないのか?」ピト

佐々木「ね、熱はないよ」

佐々木「それより!」

佐々木「なんなんだこの後半二つは、ポニーテール?ツンデレ?」

佐々木「…いや、まぁ、ポニーテールは良しとしよう、僕だって頑張ればそれっぽくできるし、本格的なものを望むなら髪を伸ばせば…」

キョン「良しと悪しの判定基準がイマイチ分からん」

佐々木「このツンデレというのは何なんだ、一体」

キョン「ツンデレは、特定の人間関係において敵対的な態度(ツンツン)と過度に好意的な態度(デレデレ)の両面を持つ様子、又はそうした人物を指す」

キョン「『初めはツンツンしている(敵対的)が、何かのきっかけでデレデレ(過度に好意的)状態に変化する』、『普段はツンと澄ました態度を取るが」

キョン「ある条件下では特定の人物に対しデレデレといちゃつく』、『好意を持った人物に対し、デレッとした態度を取らないように自らを律し、ツンとした態度で天邪鬼として接する』ような態度である」

佐々木「僕はそんなウィキ○ディアに載っていそうな知識を聞いているんじゃない」

キョン「勘弁してくれ、俺だっていっぱいいっぱいなんだ」

佐々木「割と余裕そうじゃないか」

佐々木「明らかに涼宮さんを意識しているじゃないか」

キョン「ナ、ナンノコトデショウ?」

佐々木「ほう、とぼけるのかい?」

佐々木「そっちがその気なら僕にだって考えがあるよ」

キョン「き、貴様まさか母親に言うつもりじゃ…この年で家族会議なんて御免だぞ」

佐々木「妹ちゃーん!?」

キョン「それはもっとダメでしょうが!!」

キョン妹『なぁにー?』ドタドタ

キョン「ちょっ、とにかくその手に持ってるお宝をこっちに寄越せ!」

佐々木「ダメだキョン、正直に答えてくれるまで渡さないぞ」
ガチャ
キョン妹「どうしたの?」

キョン(こうなったら力ずくだ!)

キョン「ええい!!」ガバッ

佐々木「きゃっ!?」

キョン妹「わっ!」

キョン妹「キョン君が佐々木お姉ちゃんを押し倒してるー!」

キョン「なっ!?違う!いや、違くないが!」

キョン妹「ごゆっくりー!」ドタドタ

キョン(あ、なんかデジャヴ)

キョン「はぁ…はぁ…お前、妹を使うとはなんて卑怯な」

佐々木「……そんなことより、早くどいてくれないか?」

キョン「ああ、悪い」

佐々木「……」

キョン「……」

キョン(うわなにこのくうきつらい)

キョン(佐々木よ、何故顔が真っ赤なんだ、なんで涙目でこっちをちらちら見ているんだ、かわいいなチクショウめ)

佐々木「……キョンは」

キョン「へ?」

佐々木「キョンは涼宮さんの事が好きなのかい?」グスン

キョン「は?」

キョン(なんだその質問は?意図が全く読めん、というかなんだこの感じ…なにちょっと涙声で言ってるんだこいつは)

キョン「いや、そりゃあ仲間だしな、嫌いではないぞ」

佐々木「……キョンのバカ」

キョン「バカじゃなけりゃ今更数学の教えなんざ乞わないさ」

佐々木「まったく…グスッ、君は、なんでこうも鈍いんだ、わざとやってるんじゃないのか?」

佐々木「僕が言ってる好きっていうのは、異性としてだよ」

キョン「……少なからず、魅力は感じるさ」

キョン(エロ本で大騒ぎ→赤裸々恋愛トーク、なにこれ、わけがわからないよ)

キョン(恋愛は精神病の一種じゃなかったのか……)

佐々木「…そうか、勝手に一人で騒いで、バカみたいじゃないか、僕……」

佐々木「……キョン、悪いけど、今日は帰らせてもらうよ」

キョン「佐々木!待て!」

佐々木「……」

キョン「とりあえずツンデレ本を持って帰ろうとするのはやめろ」

佐々木「…ん」

キョン「折れ目とかついてないだろうな、大丈夫か」

キョン「全く、どうしたんだ、今日のお前は、大声でわめいたり、人の性癖を見てにやけたり怒ったり」

キョン「およそいつものお前らしくない」

佐々木「…って……ンが…きから…」

キョン「な、なんだよ」


佐々木「だって…キョンが好きだから!」

キョン「……はぇ?」

キョン(うわ、なんだ今の超高デシベルなバックボイスは、気持ち悪い)

佐々木「好きだから…キョンがほかの女の子の事を気にするのが、嫌だったんだ」

佐々木「自分勝手だって言うのはわかってるけど…」

キョン「佐々木……」ギュ

佐々木「きょ、キョン!?何を?」

キョン「バカ野郎、なんで最初からそう言わねえんだ」

佐々木「キョン、君は涼宮さんが好きなんだろう?変に気を持たせるようなことはやめてくれ」

キョン「ハルヒは、そりゃあ容姿端麗で、性格だって最近はよくなってきてるけど、そういうんじゃない」

佐々木「さっき魅力的だって」

キョン「魅力的な人なんざ、案外どこにだっているもんだ、だけどその人たち全員を好きになるわけじゃない」

キョン「少なくとも、俺はそんなに軽くないさ」

キョン「いいか、よく聞け、一度しか言わんからな」


キョン「俺が好きなのは、佐々木、お前だけだ」

佐々木「キョン、ほ、本当かい?」

キョン「俺が嘘でこんなこと言うと思ってるのかお前は、結構ショックだぞ」

佐々木「キョン…あぁ、キョン……!!」ギュウ

佐々木「中学生の時からずっと…ずっと…!君が好きだった」

キョン「おい、あんまり好き好き言うなよ、すげぇ恥ずかしいだろうが」

佐々木「言うさ、いくら言っても言い足りないくらいだ」

佐々木「好きだ、キョン、大好きだ…!」

キョン「落ち着いたか?」

佐々木「…君には何とも、不味い姿を見られてしまったね」

キョン(エロ本見られた俺より大分マシだと思う)

佐々木「外もずいぶん暗いね、今日はもう、お暇することにするよ」

キョン「ああ」

佐々木「勉強、あんまり教えられなくて、悪かった」

キョン「いいさ、またいつでも来いよ」

佐々木「くつくつくつ、まったく、君ってやつは……」

佐々木「そうさせてもらうよ」

佐々木「あ、そうだ、これは没収させてもらうよ?」

キョン「ああ!俺のお宝たち!チクショウ!この感じでうまく誤魔化せると思ったのに」

佐々木「キョンには、もうこんなもの必要ないだろう?」

キョン「えっ?」

佐々木「だってキョンには…」

佐々木「ぼ、僕が居るんだから…」カァァ

キョン「佐々木ッ!?お前何言って…!?」

佐々木「じゃ、じゃあまた、キョン!」タタタッ

キョン「ってなことがあってもいいと思うんだ、俺は」

古泉「はぁ…」

古泉(ありえないと言い切れない所がこの人の恐ろしいところですね…)

キョン「なんだよその目は、いいだろ?エロ本から始まる恋があったって」

古泉「僕はもう少しロマンチックな始まりの方がいいですね」

キョン「けっ、男のロマンがわからない奴だ」

キョン「おっと、そろそろ帰らなきゃな、じゃあな、古泉」

古泉「ええ、また明日」

キョン「まさか佐々木が勉強を教えに来るなんてな、あの母親め、余計なことしやがって」

キョン「さて、『僕っ娘萌え大全』その他エロ本を隠して…っと」
ピンポーン
キョン「なっ!?佐々木の奴もう来たのか?やれやれ」



キョン「あー、疲れた、なぁ佐々木、そろそろ休憩にしようぜ」

佐々木「まだ始めてから1時間も経ってないじゃないか」

キョン「俺の集中力のなさを舐めてもらっちゃ困るぜ」

佐々木「やれやれ……ふむ」

佐々木「ところで」

佐々木「キョン、その本は何だい?」

おわれ

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