アリス「殺人事件?」(85)

魔理沙「ああ、そうなんだよ。
    ここ最近人里で一週間に一度のペースで起こってる、
    村人の怪死事件なんだがな。」

アリス「そんなの、妖怪やら妖精やらが何かやらかしたんじゃないの?
    寧ろこの世界じゃ珍しくもないでしょ。」

魔理沙「まあ、よしんば人食いがやらかしたってんなら、話は早い。
    霊夢かそのへんの駆除屋さんにでも頼んでればいいんだが。」

アリス「人食いの仕業じゃないのね。」

魔理沙「そのとおり。被害者全員が体に目立った傷がない。
    っていうか、無傷なんだよ。
    皆一様に苦悶の表情で死んでるんだ。
    男も女も年寄りも子供も関係ないな。
    無差別ってヤツだな。」

アリス「ふーん。そんなことをする輩がいるんだ。
    でも、そういうことをする様な馬鹿を見逃しておくほど、
    妖怪の賢者は甘くないんじゃないの?」

魔理沙「実はな、紫も既に調査を始めてるんだが、
    見つけられていないんだよな。
    何らかのジャミングか、妨害電波か、
    上手く隠れ潜んでいるヤツが居る。」

アリス「それは怖いわね。」

魔理沙「だろ?んで、ここからが本題なんだがな。」

アリス「お断り。パス。私は関わらないんで、よろしくね。」

魔理沙「ちょ、はやっ!?まだ何も言ってないぞ。」

アリス「おおかた、懸賞金か何かが犯人にかかっていて、
    私にその手伝いでもさせる気なんでしょう。
    ぶっちゃけ嫌よ。そんなことするくらいなら魔導書でも読んで
    引きこもってるわ。」

魔理沙「い、いやー。そこを何とか。
    結構デカイ額が永遠亭のお姫様から配給されるんで、
    金稼ぎしてみないか?駄目?」

アリス「冗談じゃないわ。一歩間違えたら命の危機よ。
    かよわい乙女の出る幕じゃないわね。」

魔理沙「お前人間の乙女じゃねえだろ!それに、どっちかっていうと
    私の方が死んだら一発で終了なんだからリスクが大きいんだ!
    というわけで、少しでも人数が多い方が討伐の危険性が和らぐんだぜ。
    この理屈わかんないかなあ?」

アリス「呆れたわ。人を勧誘するならもう少し手腕が良い人を連れてくるのね。
    話にならないわ。」

(ガタッ)

魔理沙「お、おい、どこ行くんだアリス。」

アリス「こんな新手の詐欺勧誘なんぞ無視して、
    外の空気を吸いに散歩に行くのよ。
    あー、家の鍵は預けとくわ。
    勝手にくつろいでてね。それじゃさようなら。」

(ガチャ   バタンッ!!)

魔理沙「あ、あいつめー!!もう少し人の話聞いてもいいだろうが!」

(魔法の森)


アリス「ふう、流石に追いかけてくるほどしつこくないか。」

アリス「(人里に現れたんだったら、そもそも私に関わりのないことだわ。
     ましてや被害者が人間の種族なら、討伐や退治をするのは霊夢か魔理沙の仕事。
     私を誘う暇あったら霊夢誘えばいいだけの話じゃないの!)」

上海人形「しゃんはーい。」

アリス「ホント、厄介ごとは勘弁よね。シャンハイ。
    持ち込まれるのも抱えるのも嫌いだわ。
    ま、慣れてるんだけどねー。はあ…」

???「ああ、申し訳ないんだが。」

アリス「うぎゃああああああ!!!」

(ドキュン!!ドキュン!! 上海人形から弾幕連射!!)

???「…おっと。」

(ドカぁん!!!!)

アリス「うわあ!!しまった!!つい条件反射で魔法使ってしまった!!
    ちょ、だ、大丈夫ですか!!
    うわーん!!これは魔理沙のせいよ!!あんな話するからあ!!」


???「いやはや……これはなかなか。新手の若い娘の挨拶かな。」

アリス「!」

(そこには、長身痩躯の男がたっていた。
 顔つきはとても穏やかな物腰の青年といったようだ。大きな丸縁メガネと、
 大きな風呂敷を抱えているので、どちらかといえば行商人のような風体だ。)

アリス「えーと…怪我はないですか…。」

行商人「いやいや、少しだけ服が焦げ付いた程度で済んだ。
    しかし、最近の少女というのは、皆このような方法で挨拶をするのか。
    少し勉強になった気がするね。なんとも活力のあるコミュニケーションだ。
    私も見習わなければならないな。」

アリス「ご、ごめんなさい。最近物騒だと友人が話をしていたものですから、
    少々取り乱してしまって…」

行商人「ああ、謝罪されるには及ばないよ。
    君の行なったことは間違いではない。
    こんな夜道に自らに危険が降りかかれば、誰でも行うことだろう。
    気に病むことなど、何もない。」

アリス「あはは…。(なんか凄い優しそうな人ね。声もすごく落ち着いてるし。)」

行商人「ああ、そうだ。申し訳ないんだが……ん?」

(男はアリスの隣に浮いている人形を見ると、少し驚いたような表情をみせ、
 緩やかに上海人形へと歩を進めた。)

行商人「これは珍しい。洋風の人形を見たのは初めてだ。
    造形が実に美しい。造り手の意識のあらわれかな。
    愛情を多くに受けていることが伺えるな。」

アリス「あ、これは私が作った人形なんですよ。」

行商人「ほお。君が。」

アリス「ええっと、まあ、何というか、私、人形師兼魔法使いをやっているものですから。
    なんか、自分で説明すると可笑しいんだけども。」

行商人「それは奇遇だ。実は、私も人形師をしているものでね。」

アリス「え!あなたも同じなの!」

行商人「ちょうど、この森を抜けた先の人里で人形劇を行うつもりでいてね。
    もっとも、君の使役している人形ほど精細でもないんだが。」

アリス「!」

(男がおもむろに風呂敷を解くと、桐細工の立方体の箱があらわれた。
 その中央の天蓋が開くと中から中空を舞いながら和風の市松人形が数体出現した。
 どれもこれもが、まるで互いに意思があるかのように、くるくると踊る様をみせたのだ。)

アリス「これは――――――あなた、魔法を」

行商人「魔法?いいや、私のこの力は少々特別なものでね。
    妖怪になってからというもの、不思議な力を扱えるようになっていてね。」

アリス「は?え、今、妖怪って言ったの?」

行商人「あはは。見たところ君も普通の人間ではないようだが。
    お互い様というべきなのかな。私はただ、この辺りで商いをしながら、
    人形劇で生計を立てているしがない半妖だよ。」

アリス「半妖…ああ、そうか。だから気づかなかったのか。
    (香霖堂の店主に近い系統なのかしら。)」

行商人「いやあ、しかし、この人形たちも喜んでいるのが分かるな。
    不思議なもので、長い間生きている人形ともなれば、
    君の気配を感じ取っているのかな。なんだか、暖かく心地よい意識が、
    人形を通して流れてくるようだ。」

アリス「え、い、いや。私は別に…そんな高尚なものではないわ。」

行商人「そうかね?君の周りを流れている力はとても純粋で、
    何か、全てを包み込む優しさに満ちているように思える。
    月並みだが、私の所感では慈愛に溢れた僧侶を思わせるんだが」

アリス「ちょ、ちょっと!それ以上言われれも困るわよ!
    私はただ、魔法の森の奥で引きこもっているだけの魔法使いよ!
    僧侶だとか、褒めちぎられても、何にも渡せるものがないわ!」

行商人「あっはっは!!いや、これは失礼!
    女性と話すのは本当に久しぶりでね。
    なかなか、口下手で上手く意思を伝えられなくてね。
    気を悪くしたのなら許して欲しい。」

アリス「い、いや。悪くはなってないですよ。(て、天然なのかしらこの人)」

アリス「えっと、どうして行商なんてしているの?」

行商人「ん?どうして?か、うむ。難しい質問だ。
    敢えて、答えるとすれば、私はね。人形たちを輝かせる場が欲しかった。
    というのが一番妥当かな。」

アリス「人形たちを輝かせる場?」

行商人「爾来、人形というヒトガタは、もともとは報われるものとして生みだされた
    ものとは違う。
    どちらかといえば呪術的な側面が強いものだと思わないかね?
    本来ならば、飾り、人に愛でられると言った役割が、
    今現在の君のもっている洋風人形には当て嵌るんじゃあないかね。」

アリス「え、まあ、確かにそうね。
    私がもっている人形は私自身が創りだしたモノだから、
    愛情を注いではいるわ。」

行商人「そう。誰かに造られたヒトガタには目的がある。
    愛する為に造られたものであれば、其れは愛されるべきものとして存在する。
    だが、大半の人形というのは人の代わり、
    すなわちは肉体の代替、精神の代替、或いは死の身代わり、生贄、
    そういった呪術の側面が強い。」

アリス「ああ、まあ、確かにそうかもしれないわ。
    流し雛という風習だってこの幻想郷にあるくらいだから、
    何も不思議ではないわね。」

行商人「そう、人の穢れを祓うための禊としてのヒトガタだ。
    だが、私が思うに、もともと人形が穢れているワケではないのだから、
    これは少し哀しいことの様に思えてしまう。」

アリス「それは、私も同感ね。
    人形たちは自らが望んで人の代替を務めるワケではない。
    人にそのように造られたから、その目的を果たそうとするのが
    ヒトガタとしての人形ね。」

行商人「ああ、君の言うことは正しい。
    だからこそ、僕はね、
    人形たちに少しでも造られた生をこの瞬間にでも実感して欲しいんだ。
    僕は、この娘たちは人前で人間を楽しませ、胸躍る気持ちにさせる為に
    造りだした。だから、その目的を果たさせてあげたいんだ。
    決して、造られたままの命ではなく、人間が想像もつかない
    一つの生命として在るように、この娘たちをその瞬間だけでも生かして
    あげたい。」

アリス「…」

行商人「おっと、少々長居をしてしまったようだね。
    申し訳ないが…ええっと、名前は何と呼べばいいのかな。」

アリス「アリスよ。アリス・マーガトロイド」

行商人「それでは、アリスさん。
    道を訪ねたいのだが。この先の人里に向かうには何処を通ればいいのか。」

アリス「この先の森を抜けたら、丘を目指して歩けば着くわね。」

行商人「有難う。道案内は、私には必要ないよ。
    君は見たところ少し疲れているようだから、
    帰って休んだ方がいいかもしれないね。」

アリス「お気遣いありがとう。」

(すっと、男は風呂敷を背に抱えると、アリスの指し示したとおりの道を、
 緩やかに歩き始めた。)

アリス「その人形劇なんだけど――――――」

行商人「うん?」

アリス「私も見に行ってもいいのかしら。」

行商人「勿論だ。人形師としての大先達に見に来ていただけるのならば、
    私としても嬉しいことこの上ないからね。」

アリス「だ、だから!褒めても何も出ないわよ!!」

行商人「是非見に来てくれたまえ。君ならきっと楽しめるはずだ。」

アリス「…なら、楽しみにしておくわ。
    ふふふ、でも不思議ね。なんだか貴方と話していると、
    凄く落ち着いた気持ちになるわ。」

行商人「ははは、よく人から言われるよ。人畜無害な男だとね。」

アリス「確かにそうね。」

(男とアリスは微笑みながら会話を交わすと、
 くるりと踵を返して片方は人里へ、片方は森の奥へと戻っていった。
 空にはただ、月が、黒い半月を携え、アリスと男の行先を照らしていた。」

(数日後―――アリス宅)

アリス「さて、準備は整ったわね。」

魔理沙「おおい。アリス。私はだなー。」

アリス「帰って、どうぞ。あなたの欲と利益に塗れた話は今聞きたくないわ。」

魔理沙「うー…」

アリス「うー、じゃないわよ。私は今日ある人との大事な約束があるの。」

魔理沙「やくそくぅ…?万年引きこもりのお前さんが―?」

アリス「もう一度何か言ったら、蓬莱人形で串刺しにするわよ。」

魔理沙「あー、わかった。わかったよ。ま、じゃあ私からはもう誘わないよ。
    ただし、何か目星い情報があったら私に言えよ。
    マッハでオマエの家まで駆けつけるからさ!!」

アリス「(ホント、箒の角に頭ぶつけて死んでくれないかしらね。)」

魔理沙「ま、何でもいいけどな。いつ犯人に出くわしてしまうか分からないからな。
    一応気を付けて外に出ろよ。」

アリス「あら、珍しいわね。もしかして心配してるの?私のこと。」

魔理沙「囮が大勢居た方が獲物はかかりやすいからな。」

アリス「…もう、行くわね。取り敢えず飛行に失敗して紅魔館の屋根にでも
    頭から直撃してきなさい。そうすれば少しはその卑しい発想が治るわよ。」

魔理沙「飛行で失敗なんぞしたことがないんだが――――――」

アリス「だー!!うるさいわ!!例え話でしょうが!!!帰れ!!
    この金ピカが!!」

魔理沙「わっはっは!!ま、それじゃあな!!
    何かあったら連絡よこしてくれ!!」

(どヒューン!!!)

アリス「本当にマッハで消えたわね。現金すぎるわ。いつもいつも。」

(魔法の森 付近の人里)


アリス「確か…この人里で良かったわね。」

アリス「微かにあの人の妖気が残っているわね。」

アリス「……ん、あっちかしらね。」

(人里に着いたアリスは、約束通りの時刻で男が人形劇を開演する時間に到着した。)

アリス「(なんだか静かね…)」

行商人「おや」

アリス「あ、こんにちは、人形師のお兄さん。約束通り―――」

アリス「――――――――――――――――」

行商人「既に人形劇は始まってしまったんだ。
    申し訳ない。予定よりも開演時間が早まってしまってね。」

村人「ひ、ひいい…ひ、ひいいいいひ、ひひ、ひ」

子供「お…ご、ごご、お、」

行商人「君にも見せてあげたかったんだが、
    どうにもこうにも早く終わってしまってね。
    今回は割と観客の態度も良かったのでね。
    本当に手際よく、」

村人「た、たすけてええ!!」

(村人が、子供の首を絞めながら持ち上げている人形師から、
 必死の形相で逃げようとすると、人形師の横の箱がガタガタと揺れ
 中から巨大な無形の黒い塊をもたげた触手が現れる。
 ぎゅるりと、触手は身を翻すと瞬時に逃げようとする村人の肉体を
 包み込んでしまった。)

行商人「終わってしまった。」

子供「ぐ…げ、え」

(村人を漆黒の黒塊が包むと、まるで柩の形を模すように地面に
 直方体の物体が倒れこむ。
 周りを見渡すと、他にも多くの黒い柩が乱立するように置かれ、
 その全てが半透明に透け、中には気絶した村人たちが綺麗に収納されている。)

アリス「な、なんで――――――――」

行商人「ああ、すまなかったね。
    君にも彼等がヒトガタの舞踊を観ているところを
    見せたかった。
    少し早ければ、よかったんだが。」

子供「だ、…れか、おねえちゃ……」

行商人「大丈夫だ。助けを呼ぶ必要はない。
    君も彼等と同じところに入るだけだ。
    恐れも悲しみもいらないんだよ…。
    辛いことは何もないからね。」

(この異常極まる状況でも、尚、男の声音は落ち着いている。
 男の手は少年の細首を掴み絞めているにも関わらず、
 男はこれ以上ないほどに優しく少年に語りかけている。)

行商人「だから、泣かないで。
    悲しまないで。
    僕が君の痛みを引き受けよう。
    ああ、そうとも、「オナジメニアエバイイ」」

(男の最後の一言が空間を振動させる。
 その刹那、黒い塊は瞬時に少年を足下から包み込み、
 そこに新しく柩が出来た。中身の少年は白目を剥き、
 口から泡を拭きながら、拘束された村人たち同様に気絶した。)

アリス「あなたは、――――――――まさか」

行商人「ああ、そうだとも。
    僕が昨今この界隈を賑わせている殺人者。ということになるかな。」

(落ち着いた声、一切変わらない物腰に、アリスは愕然とする。)

アリス「どうして、こんなことを!」

行商人「理由。かな?そうだな。
    敢えて言うなら人の救済かな。」

アリス「な!?」

行商人「僕は半妖になった時から特殊な力を受け継いだ。
    この力は、僕自身が発露させたものではない。
    あるヒトから受け継いだ、救済の力なんだ。」

申し訳ないですが、一旦ここでストップします。

明日か明後日か、また続きを書こうと思います。

ネタ切れしたわけじゃあ、ありませんが、
体調不良のため寝ます。

もし、読んでくれていた方がいたなら有難うございました。

遅れましたが、続きを書きます。駄文ですが、終わりまで突っ走ります。

アリス「救済ですって…?この、周りの惨状が、この、一体どこが…」

行商人「子供の頃、僕は、人の命というものへの関心が強かったんだ。」

アリス「…」

行商人「なぜ、人は争い、他の人を傷つけるのか。
    奪い合い、殺し合い、そうまでして生き残りたいと、
    自らの命をなぜ、そこまでに大切に扱うのか、
    多くのことに疑問が尽きなかった。
    傍からみれば、正義感が強い子供だったのかもしれないね。
    そう、子供であった当時の僕は、人の諍いが嫌いだった。
    差別を憎んだ。流血を嫌悪した。闘争を憎悪した。
    だが、その全てが報われない事実と、この力を手に入れた後に悟った。」

アリス「…悟った?」

行商人「そうだ、僕は悟ってしまった。この大いなる救済の力を手に入れた少年は、
    いち早くに絶望したんだ。この力はね、実をいうと、人の負の念を全て吸い取り、
    その人の心を軽くしてゆく術だったんだよ。だが、救えば救うほど、
    吸い取れば吸い取るほど、人は自らの安寧と保身を望むようになった。
    楽になればなるほど堕落した。やり場のない負の念はいつしか僕の周りを漂うようになった。
    裕福なモノを救った。貧困なモノは妬んだ。
    貧困なモノを救った。だが、持たざるモノたちが妬んだ。
    持たざるモノたちを救った。だが、才あるモノたちがソレを妬む。
    往々の繰り返しだ。僕が救った人間は皆、誰一人して救済など望んでいなかった。
    彼等が望んだのは幸福という名の自己満足であり、貪欲なまでの自己保身だった。
    百年、妖怪の力を得て半妖となってからの年月全てをかけて男は絶望した。
    あらゆる人間は、他者を贄にしたがっていると、己の身代わりを欲していると、
    妬み嫉み、憎み愛し、五感の全てで欲望を感じ、剰え恥じようとも思わない。
    ああ、僕は絶望したんだ。救えない。誰も、救えないんだ。」

アリス「うっ…」

(アリスは、男の周りに漂っていた醜悪な気配が漆黒のオーラとなって、
 男に纏わりつく様を見た。
 アレは、蛇だ。直感としてアリスは思ったのだ。
 醜悪な蛇が、男に集っている。いつしか、其れは液状のように男の背中へ
 溶けながら、気づけば黒いエネルギーとなって、男の体からゆっくり流れでる
 練気そのものに変わっていた。湯気の様に男から溢れ出る気の流れは、
 男を唯一人、無明の闇に佇ませている。)

行商人「君にもみえるだろう。これがココに住まっていた者たちの負の念だ。
    邪な念は全てこの僕の力の糧なんだ。
    醜いだろう?見たまえ。コレが人の業の姿だよ。」

アリス「あなたは…人間に復讐がしたいの?」

行商人「其れは違う。僕が望むのは、救済だ。」

アリス「でも、あなたは他人の命を奪っているでしょう。」

行商人「ああ、そうか。この力の特質をまだ教えていなかったね。」

(飽くまで穏やかな男の声が反響する。余りの落ち着きぶりに
 アリスは半歩後ずさる。)

行商人「僕はね。この幻想郷の全ての人を殺そうと思っているんだ。」

アリス「!?」

アリス「殺すって…」

行商人「正確にいえば、全ての人間からこの負の念を抜いたあと、
    生きようとする意思と欲望をこの人形たち全てに与えるんだ。」

アリス「え――――――――」

行商人「昨日も僕は、君に話したね、アリス。人形たちは人の身代わりをしている。
    呪わしきと、人から扱われてきた人形たちは、無垢なまま生み出された心無きモノたちだ。
    彼らに人の負の念を与え、新たな生と輝きを謳歌させることが僕の目的なんだ。」

アリス「あなたは、――狂っているわ。」

行商人「心配はいらない。全ての負の念は僕によって適切なモノへと変化させる。
    彼等のような欲深く愚かしい人間のつくった負の念は、僕の力を用いて、
    ただ純粋な生きる意思に、生きたいと願う無垢な心に。変容させ、創造するんだよ。」

アリス「………」

行商人「ああ、君になら理解出来る筈だ。
    君は人形師。魔法使いだ。
    俗世など人の世から捨て、己の魔道と魂の定着への求道を求めている君になら。
    ヒトガタは、元より魂の意義だ。人形は、自らの分身、人間の命への純潔極まる問いかけだ。
    君はイノチを創造する者。ならば、僕の苦悩もきっと理解出来る筈だ。」

アリス「…何が言いたいの。」

行商人「僕の新たなイノチの創造への探求を見守ってほしい。
    協力など、もともと求めていない。
    僕はヒトガタと人の意思を兼ね備えた存在を造りあげる。
    心のある無垢な人間をこの手で創造する。
    この世界に生きうる人間である限り、欲望や痛み、苦しみからは逃れえない。
    だからこそ、君には、

アリス「つまり、その心のあるロボット製作を見届けろと言いたいのかしら、
    貴方は。」

行商人「端的に言えばそうなる。ロボットと、いうのは些か表現の認識に相違があるね。」

アリス「――――――――」

アリス「あなた――――――さっきの男の子はどうする気なの。」

行商人「?
    ああ、先ほど僕が首を絞めていた、あの子供のことか。
    すぐさまに、負の意思全てを抜き去り、目的成就の為に
    保管する。無論、異論など認めないままにね。」

アリス「――――――っは。」

行商人「?」

アリス「あーっはっはっはっはっはっは!!!」

行商人「!?」

アリス「お笑い種だわ!人の世が憎いから!人の心が醜いから!
    自分だけの人形たちを沢山つくって!貴方はその世界の創造主になるっていうのかしら!
    なによソレ!バッカじゃないの!
    そんなの貴方の心の欲望そのまんまじゃないのよ!!
    その為に大勢の人を殺して自分の願いと幸福を叶えたいなんて、
    本当に本末転倒じゃないの!!何様なの!
    それじゃあ、アナタ。人間と何にも変わらないじゃあない!!」

行商人「―――――――!!」

アリス「だいたいね。人形なんて、もともと心が欲しいから造られてなんていないわよ。
    私が彼女たちを造ったのはね、魔法のツールとして最も適切なモノだったからよ!
    妄想も大概にしなさいよ!何がイノチの問いかけよ!
    おヘソで茶がわくわ!そんなもん!!」

行商人「まいったな。君とは話が合うかと思っていたのだがね。」

アリス「お生憎様。あなたみたいな口から出まかせ男なんて趣味じゃあないわ。
    それに、」

(チラリ、と、アリスは周りに佇む黒い柩の群れを一瞥した。)

アリス「アナタは、人の命をなんとも思っていない。
    例え昔がよかったとしても、人から奪った命で人形の新生を語るなど
    笑わせる。オマエは他者の救済など望んでない。
    自分だけのユートピアが欲しいだけの、ただの殺人鬼妖怪に過ぎない。
    そんなものの悲願など、私はそもそも見届けないよ。」

(シュッ!)

(アリスが手を翳すと、何もない中空から上海人形と呼ばれる洋風人形が出現する。
 それと同時に同型のいくつもの人形が隊列を成し、アリスの前に立ち並ぶ。
 レイピアを構え、敬礼するかのような姿勢を取るそれらの集団は、さながら
 主を守る騎兵隊だ。)

行商人「…つまり、話し合いは決裂。更には君は―――――」

アリス「当然。人殺しなんて見逃さないわ。例え魔法使いでもね。
    命をなんとも思わないヤツには豚箱と、閻魔の説教がお似合いだわ!」

(全ての上海人形がレイピアの切っ先を男に向ける!)

アリス「さあ、審判の時ね。アナタの犯した罪に対して!」

行商人「実に、残念だ。アリス。君ほどの人形師が、―――――――」

アリス「私の名前はね。「七色の魔法使い」っていうのよ!」

(上海人形たち全ての武装の先端が七色に輝き、眩い極光を放つ!!
 一つ一つが虹色のレーザーとなり、男に殺到していく!!)

(キィィィイイイイイン!!ビュおおおおおおおおン!!)

(ビシュ!!ビシュ!!ビシュ!!)

(機関銃の様に連射して放たれる光?は、美しい曲線を描きながら、
 男の元へと届き爆発を連続させる!)

アリス「まだまだ!!」

(声とともにアリスは飛ぶ。後方へ受け止めるものの存在しない空間へと、
 宙返りをしながら、飛ぶ。視界にはよろめく男が煙の中で佇んでいるのが見える。
 それを確認した直後、天蓋を突き破るがごとく巨躯が大地から現れた。)

アリス「これで、終わりよ!!」

(バキバキバキ!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!)

(現れたのは、ゴリアテ人形。その巨大さは、旧約聖書に登場する
 ペリシテ人の巨人兵士を思わせる。
 矮小なる存在を睥睨し、叩き潰す、傲岸不遜の巨大人形!!
 七色の魔法使いのもつ傑作の一つ、審判を下す調律の破壊者の具現そのものである。)

アリス「吹き飛べ!!」

(ゴリアテ人形が両の手から繰り出したレイピアを交差すると、
 凄まじいエネルギーが交差したレイピアの切っ先の狭間にぶつかり合い、
 巨大な魔法弾が出来上がる!!)

ゴリアテ「しゃああああああああああああああん!!
     ほーーーーーーーーーーーーーーい!!」

(強烈な雄叫びとともに、巨大な魔法弾が男に向かって放たれる!!)

アリス「うおおおおおおおおお!!」

(魔力の奔流!アリスは、魔法弾の制御の為、手をかざすが、
 余りのエネルギーは制御出来ぬままに拡がっていく!)

(どごおおおおおおおおおおおおおお!!!!)

(大 爆 発 !! 男に向かって飛んでいった魔法弾は、
 甚大な爆風と強烈な衝撃を辺りに発散させていく!
 神の雷を思わせるソレは、男の存在そのものを地表ごと抉りぬいた!!)

(シュおおおおおおお…)

アリス「はあ…はあ…」

アリス「お、思い知ったかしら…?
    七色の魔法使いの、」

(ぐらり、と、アリスの体が崩れ落ちる……)

アリス「?」

アリス「あ、れ、?」

(ぬらり、と、倒れた先の地面が濡れていることに気がつく。
 これは、一体どうしたのだろう。何かの液体が自分の頬に水溜まりと
 なっているのがわかる。コレは、)

行商人「―――――――まさか、自ら死を選ぶとは。」

アリス「!?」

(コレは、血だ!)

アリス「がっはあ!!うグッ…!!い、!」

行商人「ああ、失礼。君には少し説明が遅れたな。」

行商人「僕の力は何も吸い取るだけではない。
    与えることもできるんだ。
    それにしても、ゴリアテ人形か。なかなかにいいセンスだ。
    聖書から取るのは感心するね。しかし、惜しいね。
    残念だが、ゴリアテは矮小なダビデに何のことはなく敗れた、
    最も哀れな巨人なんだよ。」

アリス「ど、どうして…」

行商人「先ほど言ったとおりだ。僕が君に彼らの負の念を少しほど分け与えた。
    なに、気にしないことだ。ただね、君の思い描いている理想どおりの幻想を
    君に見せただけのことだ。いわば幻だよ。さっきまでの君の攻撃は、君自身がそうしたいと
    願うことだった。欲望の一つを操ったのさ。便利だろう?」

アリス「な、―――――」

行商人「コレが、この力の真価。君の欲望と負の念を吸い取り、思うままに変換し、
    与える。そして、言霊として君の五感に訴え、操る術。
    僕が君に放ったのは、ただ、「都合よくいけばいい」この言霊だよ。
    詰まるところ、残念ながら、欲望がある限り、僕はね、
    妖怪の賢者にすら負けることはない、というわけだ。」

アリス「そん、な、―――――うそ」

行商人「さて、旧約聖書のゴリアテは最後にどうなる手筈だったか。
    僕の記憶では、確か思わぬ石ころを頭に喰らい倒れた後、」

アリス「う、ぐ―――――」

行商人「首を撥ねられる顛末だったな。
    …ああ、実に惜しい。君ほどの才人を、ここで失うのはね。」

行商人「いくら人間ではない存在とはいえ、君はただの魔法使いだ。
    首と胴を切り離されればどうにもなるまい。」

(しゅうう、と、水の蒸発するような音をたてながら、
 黒いオーラが男の頭上で痙攣しながら鳴動し、
 断頭の鎌をあしらうカタチをつくりあげる。)

行商人「せめて、僕の理想郷に名前くらいは残そう。
    全ての人間が人形と入れ替わった、
    無辜の園でね。」

行商人「いや…もう、聞こえてはいないのかな。」

(アリスは、激痛で気絶している…)

行商人「…辞世の句は聞けないか。本当に、」

(鎌がゆらりと、首筋をもたげながら、アリスの頭上へと落ちる!!)

行商人「残念だ!!」




(ザキィイイイイン!!!)

行商人「――――――――!?」

(男の振り下ろした、いや、それを命じた黒いオーラの塊は、
 空中に佇む人形の手前で静止したまま、動かない。
 その人形は、アリスの前に立ちはだかり、男と同じ目線の高さで
 漂っている。)

行商人「―――――人形か。今更小細工でも使おうというのか。君は。」

上海人形「馬鹿め!!小細工とは笑わせる冗談だ!!
     しっかりオマエの目の前に命を持っている人形がいるではないか!!
     悦べ!!饒舌に喋る人形など!精々が文学の世界でしか存在せんぞ!!
     小僧!なんだ、貴様!?浅学か!?
     まあ、その風体では少女の精神の機微の何たるかなど、
     まるで知らなさそうだな!童貞め!!」

行商人「な!?」

上海人形「なんだ、驚いた顔もするではないか。
     余りに感情の起伏に乏しい顔をするものだから驚いたわ!!
     能面が張り付いた!ああ、なんて寂しい顔なんだ!!
     なのだなのだと思っていたらその腑抜け顔、ときた!!
     一体おまえは何人だ!アレか、猿か!原始人たる人間か!!
     人形の我が身からみればなんと厚かましい!!」

行商人「お、おまえは、一体―――――――」

(突如として喋り出した其れは饒舌を通り越して、呆れる程に
 まくし立てる良く分からないナニか。に変貌してしまった。
 紛れもなく上海人形の姿をしたソレは、続けてまくし立てる!!)

上海人形「神を気取った半人半妖め!!オマエ程度のヤツなど
     そのへんに腐るほどに居るわ!!
     それこそ糞尿詰まった糞袋が60億の仲間なんだから当然か!!
     オマエなど何一つ救済できやしない!!
     オマエの愚かさは主人が看破したとおりだ。
     おぞましいまでの自己保身、自らの幸福追求、欲望の成就への犠牲、
     ああ、どうしたことだ!!オマエなど、呆れるまでの糞袋の同類ではないか!
     喜べよニンゲン!!オマエは力を手に入れ、哀れなモノたちを救済しようという
     視点に立った時点で、救いがたいメシア気取りの愚かで余りにも人間臭い、
     ただのちっぽけな若造なんだよ。
     そうだろう?なあ、だってお前はもう人間そのものじゃあないか。
     今も主人の心なんて無視して殺しただろ?それじゃあ駄目だ。
     何にも救えてないね。台無しだ。理想だなんだと、周りを振り回して愉悦に浸る。
     お前は  本当に  醜い    人間だ!!」

行商人「や、やめろ!」

(男は直ぐに異常に気づいた。
 何故か、この人形が喋っている事実よりも、
 何故か、この男の「力」が、
 何故か、百年持ち続けたこの「力」が、
 何故か、男の体の全てから急速に失われていく事象そのものに!)

行商人「ち、力が…!!」

(なんということだろうか。気付けば少しずつ、その異常の中心、
 上海人形へと黒いオーラ全てが流れていく!!)

行商人「こんな―――――馬鹿な」

上海人形「馬鹿だ!!お前は大馬鹿だ!!百年使おうが何しようが、
     オマエは何にも学ばなかった。
     この力はもともと、オマエが持つには過ぎた力だ。
     救いだ何だと、言いながら、多くのモノの命を搾取してきた、
     今までの行いの報いと思え!」

行商人「そんな、なぜ、こんな、き、貴様は」

上海人形「この「力」は、もともと自らの為に利用していいものではない。
     人の不幸を共に喰らうは人の性。人を呪わば穴二つ。
     そんなことは、藁人形でもいじっていればわかることだ。
     人が愚かなのは当たり前だ、戯け。
     そんなことだから、
     そんなことだから!!
     アナタは自らの不幸に負けたのだ…。」

行商人「…!!」

(気付けば、男の周りにあった黒いオーラは一つとして残らず
 上海人形に集っていた。しかし、まるで男の時の様に醜い蛇のカタチを
 取ることはなく、まるで揺蕩う霧のように上海人形の周りを包み込んでいる。
 その姿は闇に佇む人形。されど何一つとしての邪気はない。
 まるで、母性を孕むがごときの闇の陽光である。)

上海人形「もとより、苦しみは人の性。
     もとより、争いは人の性。
     もとより、不幸は蜜の味。
     さればこそ人は苦悩する。呪う。妬む。憐れむ。
     だからこそ、この「力」を貴方に授けた、この、私が。」

行商人「…ああ、ああ、そうだったか。」

(百年前に確かに見た闇。その奥にある慈悲に感銘を受けた青年がいた。
 彼はいち早くその存在を崇め、信仰するに至った。
 人間に絶望したからこその救いをその存在に求めた。
 余りにも若く未熟な青年が、「力」を求めた。
 男の目の前に、それは顕現していた。そう、彼が百年探しても得られなかった
 闇の中に佇む輝き―――――)

行商人「僕は、結局だれかを救いたかったんじゃあないのか。
    そうか、結局、「力」を手に入れて、
    自分の思う理想の世界が欲しかったわけじゃあない。
    きっと、そうか。
    きっと、僕は、アナタに救われたかったのだ。」

(ひざまづくように彼は、その人形に祈る。)

上海人形「このヒトガタを通じ、私が見たのはあなたの不幸。
     苦しみ苛み、過去を憎み、只管に己を懊悩の狭間へと追いやった。
     救うはずのものが、そうしてただの悪霊になっていく様を、
     まざまざと、私はみました。
     もう、苦しまなくてもいいのです。
     私が全てを受け入れます。私が貴方の苦しみ全てを受け入れます。
     私が貴方の過去を受け入れます。」

上海人形「全て、私に戻すのです。
     今まで喰らってきた人々の願いも、憎悪も、
     負の念全てを私が引き継ぎましょう。
     もう、これ以上アナタが痛まなくても済むように。
     私は、」

行商人「ああ、これが…」

(黒いオーラが少しずつ、男の体から吸い出される。
 それと同時に、男の姿も少しずつ透け、
 存在そのものが、まるで人形と同化していくかのようだ。
 だが、男の顔は少しも恐怖がない。
 寧ろ敬虔な信仰者を思わせる精悍な面持ちに変わっていく。)

上海人形「救いは、ここに成るでしょう。
    
     あなたの「厄」は全て私が受け入れます。
     
     あなたの「不幸」は全て私が受け入れます。
 
     だから、嘆かないで、悲しまないで、
     もう、何も辛くはないの。」

(気付けば、上海人形の姿は既になく、そこには
 美しいリボンを結った少女の姿をカタチどった存在が立っていた。
 翡翠色の瞳は、慈悲を携えた眼差しを男に向けている。)




行商人「ああ、これが―――――救いなのですね、雛様」


鍵山雛「そう、これが貴方に齎す救いなのです。」

(男の姿は優しきまどろみの黒となって、
 厄神と同化する。
 かつて、人間を憎み、絶望の末に神を信仰した男の静かな、
 されど幸福な幕引きである。)


(数日後―――――)

(アリスの家)

アリス「はあーーーーーーーーーーーーー」

魔理沙「……おいおい、そんな溜息してると、幸せが逃げるぞ。」

アリス「これが溜息せずにいられる?
    散歩に出かけた矢先に殺人鬼に出会って、
    剰え大怪我追うわ、殺されかけるわ、何か宗教勧誘みたいなのされるわ、
    踏んだり蹴ったりよ!散々な一日だったわよ!」

魔理沙「まあまあ、いいじゃねえか。
    運良く家の前にボロボロのオマエと上海人形が打ち捨てられてた
    おかげで命だけでも助かったんだからさ。」

アリス「はあ、そんな幸運拾ったって嬉しくないわよ。」

魔理沙「幸運じゃなくて、悪運だな。」

アリス「余計に例え悪いわよ!」

アリス「あ…、そういえば犯人って」

魔理沙「何か知らんが河童が退治したってさ。
    今朝の天狗の新聞に書いてあった。」

アリス「あ、そうなんだ…。河童で退治できたんだ、アイツ。
    いや、何それ怖い。相性が悪かったのかしら…
    それとも、また何かの新兵器とか?うう、益々この世界ワケわからん。」

魔理沙「?」

魔理沙「ま、私は用は済んだから帰る。
    今日は本を盗みに紅魔館行ってくる日だから、下準備しねえとな。」

アリス「アンタもねえ。いい加減に懲りないと死ぬわよ。」

魔理沙「悪いな。私は自分は常に幸運且つ悪運が強いと思う主義でな。」

アリス「あー、はい、そーですかー。言っても分かりませんよね。
    本当にありがとーございます。はい。」

魔理沙「分かればOK!んじゃな!せめて怪我治しとけよ!」

アリス「はいはい。このお礼はいつか用意しとくからね。」

魔理沙「出来れば金!!」

アリス「断る。」

(どビューン!! 魔理沙 風と共に去りぬ)

アリス「相変わらず早いわね…。
    ま、看病してくれてたから、文句も言えないかな。」

(アリスはベッドから部屋を見渡した。
 先日受けた戦いの傷は予想以上に深く、
 およそ一週間は看病を受けて生活しなければならなかった。
 永遠亭で治療を受けたはいいが、痛みから思うように魔法を使えない為、
 こうして寝ながら介抱を受ける生活も大変ではある。
 とはいえ、何も寝たきりというわけでもない。
 ある程度は体は動くものの、安静の為になるべく寝ているだけである。)

(アリスは、ざっと部屋を見渡した。
 多くの人形がアリスの周りを囲んでいるが、
 どれも眠るように静かに部屋に飾られている。)

アリス「(人間の不幸……そして、幸福ね。
     少なくとも、今の私は、友達に看病してもらったり、
     趣味に没頭したり、それなりに働いたり、
     不自由のない暮らしをしているけれど、それなりに満たされているのかしらね。)」

アリス「(私には、彼の言った言葉を受け入れることはできない。
     だって、今を生きている人間の幸福を誰かが決めても仕方がない。
     彼は、自分の幸福の為の世界を作ると決めていたけれど、
     結局人間なんて、我が儘なものじゃないの。
     自分の求める方法でしか幸福なんて得られない。
     そんな、単純なこと、赤ん坊だって知ってる筈。
     だって、赤ん坊は泣くだけで助けて貰えることを知っているんだもの。
     だから、きっと彼は余りにも純粋で不器用過ぎたのかもしれない。)」

アリス「(ううん、でも、どうなのか。
     自分だけの幸せを追求するのが幸せなのか。
     それとも、誰かの幸せに寄り添うのか。
     一体どちらがおトクなのかしらね。
     って、利益でソレを語ったら、私って凄い打算的ってことなのかしら。
     それはそれで嫌ね。でも、」

(アリスは、ふと外を見た。窓から眺める景色、満天の星空、
 天人が世間を騒がせた事件を懐かしんだり、竹林で人間と共闘したことを
 思いだし、ふと、物思いにふける。)

アリス「(幸福かどうかなんて、人間は本当はどうでもいいのかしら。
     もしかしたら、何気ない日常を続けられたなら、
     そこに少しでも楽しいことがあったなら、
     そんな月並みなことでも、みんな笑い合える幸せを感じられるのかも
     しれない。
     いや、きっとそうだ。何でもない日常が実は幸福に彩られている
     ことなんてよくある話ね。)」

(コンコンッ! アリスの家の扉を叩くノック音)

アリス「あら?」

アリス「誰かしらね。こんな時間に。」

(そうして、七色の魔法使いの日常は今日も終わり、
 明日も続く。
 人の幸福とか不幸とか少し余りにも曖昧すぎて分かるものではない。
 ただ、列記として分かること、それは、こういった日々はしがなくも続く。
 誰かにとって、貴方にとって、私にとって、何気ない日々が続いていく。
 不幸もあれ、幸福もあれ、きっとその人にとっての日常はその人だけのものになる。
 きっとどちらも一人の人間の主観で見れば、同じもの。同じ日常。
 でも、きっとそれが、誰から見ても幸福だと分かる何気ない日々なのだ。)

(ガチャッ、キイッ 扉が開く)

幽香「こんばんわ♥愛しの人形師さん。
   看病者に何故ワタシを選ばなかったのか。じっくり今夜は聞かせてね♥」

アリス「――――――――」

(だと……思う。きっと、うん、彼女の受難もまた…同じ日常…なのかなあ?)


終わり



鍵山雛「なんだ、オチに期待したのか!!ジャリ僧どもめ!!
    そんなもん上手くいくか!!落としどころは古今とも決まっているのだ!!
    取り敢えず、何か面白おかしくしておけ!!だ!!理解したか!!
    ……はっ!!ワタシは一体ナニを言ってるのかしら…」

にとり「大丈夫か?アンタ?」

本当に終わり

なんとか、遅ればせながら書けたです。

もし、読んで暇が潰せた方が居たら幸いです。
お休みですー。

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