【オリジナル】Fate/Apocalypse【聖杯戦争】 (713)


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“わたしは、赤い獣にまたがっている一人の女を見た。
 この獣は、全身至るところ神を冒涜する数々の名で覆われており、七つの頭と十本の角があった。

 女は紫と赤の衣の衣を着て、金と宝石と真珠で身を飾り、忌まわしいものや、
 自分のみだらな行為の汚れで満ちた金の杯を持っていた。

 その額には、秘められた意味の名が記されていたが、
 それは、「大バビロン、みだらな女たちや、地上の忌まわしい者たちの母」という名である”

                                           ─新共同訳、ヨハネの黙示録─


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≪────Interlude Assassin────≫


「―――――そう。それが君の願いか」
「そのために自分の子供さえ捧げるのかい?」


ねずみ色の外套を纏った茶けた髪の青年の言葉に、闇の中で向かい合う男が頷いた。

それに躊躇いは無い。戸惑いは無い。
そのためだけに男は準備を続けてきたのだ。
今更子供の命如き、止めるだけの理由にならない。

そんな男の顔を、目を、思考を、心を青年は見通す。
その言葉が果たして本心か、嘘偽り無き真実か、そして迷い無き決心か――――

けれどもそれは愚問だったようだ。
この男には、もはやそれしか残っていないのだから。
鑑定の必要さえなかったようだ、と外套の青年は静かに目を閉じた。


「…………ああ、その条件なら仕方ないね。
 いいさ、受けよう。その条件なら僕は受けざるを得ない」
「―――――このアサシン、確かに君の依頼を請負った」


じゃあ打ち合わせ通りに、と言葉を残し、青年は立ち上がりフードを被る。
そして外套が翻し、アサシンはするりと呑み込まれるように暗闇の中へ姿を消した。



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≪────Master of Saber────≫


「こちらガご依頼の品デスヨ、ナナクサ様」

「ああ、助かったよ。どうにも僕はそういうコネが無くてね」

「カネのアルあなたにコネまでツクラレチャ、こちらの仕事もアガッタリですヨ」


白いスーツを身に纏い、
白いハットを被った異邦人はカップを手に取り、口をつける。

男の愚痴にナナクサと呼ばれた着流しの青年は、
はははっ、と小さく笑いながら差し出された「触媒」の入った包みを受け取った。


男とも女とも取れる風体の優男。
肩で一直線に切り取られた長い髪形。
最低限の肉しか付いていない手足は、硬くすらりと伸びている。

それより特徴的なのが色だ。
肌の色は白く、髪も白い。溶けるような、希薄な白。
着流しも白いせいでまるで彼だけ幽世から抜け出した幽霊のように現世から浮いている。


―――――この薄(すすき)の枯れ尾花のような青年の名は、石蕗七草。この聖杯戦争の“出資者”である。

 




聖杯戦争―――極東の地で六度、新大陸で二度行われた万能の願望器を召喚するための儀式。



五度に渡る冬木の聖杯戦争。アメリカ・スノーフィールドの偽りの聖杯戦争。
ナチス残党による水佐波聖杯戦争。『大学』による南米の聖杯降臨の儀。


それらのデータを元に、この地の聖杯戦争は『より汎用的に』改良され驚くべきほど短期間でその骨子を組み上げられた。



―――――いわばこの地を聖杯戦争は、魔術協会公認の元行われる他へ売り出すための大実験場である。



まず実験場となる土地の“提供者”。
次に一般化されたシステムに基づき聖杯を構築する“技術者”。
そしてそれらのための莫大な資金を提供する“出資者”。


以上“御三家”により、この地の聖杯戦争は確かに形を成したのだ。
これにより聖杯が降臨すれば飛躍的にこのシステムは世界中に広がるだろう。

ただ、既にずれも起きてしまっている。
現時点で令呪が確認できているのは四名。
マスター候補の魔術師たちが多くこの街に詰め掛けているはずだが、残りがまだ聖杯に選ばれていないらしい。


まあ、そんなことは既に令呪の宿った七草には関係の無いこと。
今はこれからの召喚に意識を切り替えよう。

彼が呼ぶのはこの日本において考えられる限り最強の英雄。
少なくともこの国に、彼以上に最強の英雄はいない。


白ハットの男に頼んだものは、かつてその英雄が使用した火打石の破片。
これを使った英雄はその英雄ただ一人。故に、外れる可能性はゼロ。
大枚を叩いただけの価値はあるはずだ。


「じゃあ早速使わせて貰うよ。うまく“彼”が答えてくれればいいんだけど。
 ――――――君も監督役頑張ってね、“ワイズマン”」

「エエ。デハ、またのちホド」


カチャ、とカップを置く音が響き、本聖杯戦争の監督役――――ワイズマンは立ち上がる。
そして指を鳴らす乾いた音が部屋に響いた次の瞬間には、
もう既にその場から彼の姿は欠片も無く、消えて失せてしまった。


「空間転移」―――――現代において魔法に近いと謳われる魔術の一つ。

 


“真なる魔法使い”こと、ワイズマン。
彼の行使する魔術はそのどれもが既知の魔術理論の工程をまるで嘲笑うように無視する。


―――――その姿は“物語の中の魔法使い”。



故に、疎まれるその名は―――――“真なる魔法使い”。



既知のどの『魔法』が使えるわけではないにも関わらず、
その特異性ゆえ“魔法使い”を名を騙ることが許されている偽者。
魔術師でありながら“魔法使い”の偽者故、その処遇が免除されている異端存在。


だからこそ七草は“眼”を閉じながら、勝てないよね、と大きく肩を落とす。
理論が存在する魔術であれば、対処の方法がある。

一度視れば、彼の“眼”が全て解析してくれる。

      

――――だがそんな理論(モノ)が存在しない、でたらめなワイズマンの“魔法”とやらに彼の“眼”は通用しないのだ。


 


≪────Master of Caster────≫


「――――黄金造りの呪いの指環。確かに、これは依頼通りのもの。
 ハッ、“魔法使い(ワイズマン)”の名も伊達ではないということか」


まさか本当にこんなものを見つけてくるとはな、と銀髪の女、
本聖杯戦争の“提供者”にして、この地の管理者(セカンドオーナー)は驚嘆の息を漏らした。


彼女がワイズマンに頼んだ触媒は、北欧・神代の遺産。
破滅の呪いが掛けられた黄金造りの指環――――アンドヴァリナイト。
または別の物語では『ニーベルンゲンの指環』として知られる存在だ。

今もなお黄金を集める栄光と所有者を滅ぼす呪詛が僅かだがこびり付いている。
だが其れ故、彼女でもこれが本物だとわかった。

これならば、ほぼ確実にあの英雄へとたどり着く。



『ヴォルスンガ・サガ』――――“悪竜殺し(ファーヴニルベイン)”シグルド。



北欧神話の竜殺し。
ブリテンのアーサー王と並ぶ、セイバーとしては最強格の大英雄だ。
これを超えられる英雄などこの地の英雄でもいない。

可能性としてあの、日本最強の名を持つ英雄であれば超えられるかもしれないといった程度。


そして彼女は召喚の儀式の準備へ取り掛かる。
予定であれば、三時間後が最もベストな時間帯であろう。

…………だが奇しくその時には、既にセイバーのクラスは呼び出された後。
誠残念なことに彼女が呼び出したのは歴代の指輪の所持者の中でも、
純粋な戦力で判断するならば竜殺し(ドラゴンキラー)すら越える最強の英雄であった。

≪────Master of Archer────≫


地の深い深い、奥の奥。
二つの街を繋ぐ大橋の真下。
日の光を反射して青々と輝く海底下数十メートル地下に、その莫大な空間は広がっていた。

大聖杯が安置された直径3kmの大空洞――――“胎洞”。
そこで本聖杯戦争の“技術者”たる黒髪の少女は、一人魔法陣の前で時が満ちるのを待っていた。



時計塔が誇る“怪物”。
本聖杯戦争最強のマスター────『暴君(ティラヌス)』、ネロス・ベーティア。



世界を支配する生と死の円環法則――――『百獣母胎(ポトニア・テローン)』。
彼女はそれら大地母神の“権能”を現代(イマ)に伝える神子の血族の完成作だ。

否――――だった、という方が正しいだろうか。


兎にも角にも彼女は失敗作として烙印を押された挙句、血統から除名された。
だがそれでも神の権能の一端を行使する「暴君」の才能と能力は絶大なものだった。

その素質を見抜いていたかは分からないが、
除名された彼女の後見人を自ら買って出たワイズマンにとってはこれ以上の収穫はなかっただろう。

彼の目論見通り、彼女は今まで類蓄された“冬木式聖杯”の情報を元に
より『汎用的に』『一般化された』聖杯のシステムを数年足らずの短期間で組み上げたのだ。


無論、見返りも無しに協力などない。
ネロは彼女自身に聖杯が必要だったからこそ、これを引き受けたのだ。

これ以上、彼女の才能の発展は見込めない。
一度は完成された存在であるネロは、既にヒトの域としては限界を迎えていた。
よって、それより上の存在を目指すのであれば、万能の願望器たる聖杯の力が必要となる。


―――――起動試験への参加権と引き換えに、彼女は今回の“技術者”の仕事を引き受けたのだ。


そんな彼女が自らの後見人、ワイズマンに授けられた触媒は白羽の矢。
長さ1m、重さ60kgを超えるもはや矢と呼べるかも怪しい代物。
古代中国神話にて、天を廻る太陽を射墜とすためだけに創られた神造兵装(アルテマ・ウエポン)。

千斤の重さを持つ、絶対零度の冥矢。
この触媒が対応する英雄はただひとり。
卓越した弓の腕前で数多の魔物を屠った大英雄。


――――――羿(ゲイ)。並ぶ者無き、神の射手。


それが、彼女に与えられた駒(サーヴァント)の名だ。
何を思ってワイズマンがこの英雄の触媒を用意したのかはわからない。

だが、実力は申し分ない。
だからネロは、アーチャーを召喚することに決めたのだ。


「……………時間ね」


そして、詠唱が始まる。

彼女、ネロス・ベーティアが聖杯を求める理由はただ一つ。
自らの不完全な【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】を正しき獣の権能として完成させること。



――――――彼女は頂点に『君臨』するため、神の理(キセキ)に手をかけた。


 

≪────Servant of Saber────≫



大気の底で、溺れる。

視界はぶれ、靄など無いのに先が霞む。

吐く息は遠く、耳に届くのはさざ風だけだ。


後悔は無い。けれど、未練は残った。

一番欲しかったはずのものは最期まで手に入らなかった。


けれどそれも当然か。オレは人ではない。

この身は剣。文字通りの『神の剣』。


だから―――――


「―――――オレはセイバー。オレは、アンタの剣だ」

「―――――問おう、アンタがオレのマスターなんだな」


 

今回はここまで
完結はできたらいいな

石蕗 七草(ツワブキ ナナクサ)/セイバー(ヤマトタケルノミコト)
????/ランサー
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
????/ライダー
■■■■/アサシン(■■■■)
????/バーサーカー
管理者(セカンドオーナー)/キャスター

こっちはSS
登場人物は大体主人公連中の再利用だけど

まあ全員が全員そういうわけじゃないけど

セイバー陣営とアーチャー陣営がどの貴方かは何となく分かったけど他分からないや…

≪────lnterlude Saber────≫



────光が消えた後、その場に立っていたのは少女だった。



黒曜石の如き瞳。髪は鴉の濡れ羽色。
対照的なほど白い肌に、麻の服と翡翠と瑪瑙の装飾具。

風に靡く長髪は、まるで黒の波の如く。
月光の下、「少女」の風景のみは別世界のように音が無かった。
 

≪────Saber Side────≫


「………い、おーい! マスター、聞いてんのかよ」


「少女」の声は沖に引く細波のように、青年の意識を回想から引き戻した。
闇空も、星光も、月明かりもなく、天に広がるのは蒼穹と陽光。

そしてそれらを背に昨日の「少女」が心配そうに青年の目を覗き込んできた。
黒曜石のような瞳。瑞々しい黒の光沢を帯びた長髪は流れる川のように、「少女」の肩をゆるやかに滑り落ちる。
七草はその黒に再び引き込まれそうになる思考を、頬を叩いて現実に戻した。


「…………ああ、ごめんセイバー。どうもまだ頭がぼやけていてね」

「大丈夫かよ? この程度で参ってたら戦闘なんて保(も)ちっこねーぞ」


セイバーと呼ばれた「少女」は、腕を組んでため息をつく。
まあ必ずしも魔力不足が原因というわけではないのだが、と七草は小さく笑った。



この「少女」――――否、「少年」こそ、石蕗七草が用意した最優とされる剣のサーヴァント、セイバーである。



そしてその真名は日本最強――――ヤマトタケルノミコト。
『日本書紀』では日本武尊、『古事記』では倭建命と記される日ノ本ノ国、最大最強の英雄。

最高ランクの知名度補正、伝承に裏づけされた高い実力、最優(セイバー)のクラスへの適正。
日本で召喚できる英霊として、彼を選んだのは最もベストな選択だ。


事実、耐久Bを除く全てのパラメータがAまたはA+という高水準で、
対魔力A、騎乗Bとクラススキルも高ランク。

加えて、彼の宝具であり日本三種の神器の一つでもある『草薙剣』は、
消費魔力が少なく扱いやすいAランクの対人宝具と決戦用A++ランクの対城宝具、二種の使い分けが可能なのだ。

まったくもって、非の打ち所の無いサーヴァントである。


さて召喚2日目となる今日、彼らはまず聖杯戦争の舞台となるこの街を巡り、大まかに地形を把握しようという方針を決めた。

今日は山林が大半を占める北側ではなく、ビル街や駅など街が大きく発展している南方向を見回る予定だ。
海に面したこちら側には特に夜間人口が少なくなる港や工場区、埋立地などが広く存在する。

これは大水を発生させる対城宝具の性質を考える以上、
内陸よりは海岸の方が余波の影響は少ないだろうというセイバーの意見による。


それでまあ、これから探索するのだが――――



「………セイバー、そのパーカーとかスカートとか、どこから持ってきたんだい? もしかして、」

「んなことすっかよ、ばぁーか! コレ、『斎宮衣裳』だよ。
 元々潜入用の偽装装束だし、外装は自由に変更できるんだよ。女物限定だけど」


――――セイバーの宝具の一つ、『斎宮衣裳(いつきのみやのきぬも)』。
熊襲兄弟を討つため、セイバーが伯母の倭姫命から受け取った女装用の衣装。

サーヴァントとしての気配を遮断する基本能力に加え、ステータス表の隠蔽・偽装が可能な宝具だ。
これ自体に派手な効果は無いが、姦計・奇襲を得意とし、
戦法の主軸とするセイバーにとっては非常に便利な宝具である。

本人の姿を変える効果はないが、衣装そのものはセイバーの思い通りに変更可能らしい。


「んで、どうよマスター。悪くねえだろ、コレ」


くるりとその場で一回り。へへん、とセイバーは胸を張る。

いやはやまったく以って、その姿はただの美少女にしか見えないわけであり。
先ほど呑み込まれまいと気付けしたにも関わらず、七草の意識がまたセイバーに引き込まれるしかない。
結局、そんな状態の青年になんとかできたのは、ただ黙ったまま頷く事だけだ。


「おう、よかった。んじゃ、行こうぜマスター。
 お天道様が沈むのははえーんだ。昼間で回れるとこは全部見とこうぜ」


セイバーは、にひひっ、と嬉しそうに笑みを浮かべ、青年の手を掴む。
そのまま彼はその手を引いて、元気よく駆け出した。
 

ここまで

>>20
管理者(セカンドオーナー)はナチス貴女+風水師貴女

ナチス貴女と風水貴女の共同でセカンドオーナやってる感じですか、キャスターて皆鯖誰か出すか?
それともキャスターで召喚された兄貴とか

>>26
キャラの原型の話
設定+性格がこの二人モデルってだけ管理者自体は一人

キャスターは触媒がアンドヴァリナイトって時点で察せ

あーなる程、悪竜さんが来ちゃたのか 主人公誰にするか決めてますか?
それとも群像劇みたいな感じですか

安定の男の娘推し

大好きです

にしてもこの組は安定して強いよなぁ
今回は七草さんも活躍できるといいな

初代が好きなんだけど死んじゃってるから番外編でも出番ないのが残念なんだよなぁ
前スレの鯖選択安価でもキャスターは晴明さんやったけど結局変わっちゃったみたいやし

肉食系ジャンヌちゃんとショタ出てこないかな

≪────Saber VS. Archer────≫


いつの間にか、すっかり日が落ちていた。
目前に広がるのは黒く波立つ大洋。

ここは南側沿岸部、埋立地区の最端。
押し寄せる外洋の波を身を乗り出して黒曜石の瞳に映す少年。
一方、彼に振り回され疲れた青年は、欄干にもたれかかりやつれた顔で深いため息を吐いた。


とりあえず南側を見回るという今日の目的は大体達成できただろう。
セイバーもこの辺りの地形は把握してくれたと思うが―――――


……………………………………………………………………………………………………………………


「セイバー、この辺は見ての通りビルがたくさんあるんだけど………」

「マスター! マスター! あんでんけぇ塔なんだよ!」

「ああ、あれはこの街の観光名所で、一番高い――――」


「セイバー、ここの大通りは――――」

「うわっ、スゲェ! なんだよアレ! 中に蛸いれてんのか!」

「えっと、それはたこ焼きっていってね――――」

「おっちゃん、これくれよ! 全種一パックずつ!」

「え”、全部食べるの?」


「マスターマスター!」

「…………ゲーセンはまた今度」

「えー! いーじゃんかよぉ! なぁ~、マスタぁー!」

「流石に時間がないから」

「ぶーっ!」


……………………………………………………………………………………………………………………



「…………って完全にただの観光じゃないかこれ」

「ちょっとくらい、いーじゃん。ここ一応オレの国なんだし。どう変わってんのか実際に見たかったんだよ。
 それに無駄に歩き回ってたわけじゃねーよ。今日回った場所の地形はちゃんと『合気』で把握してるぜ?」


『合気』――――森羅万象の活動と自身の気を和合し、周囲の状況を自身の感覚器官で把握する特殊スキル。


圏境に近いスキルではあるが、それよりもより周囲の状況把握に特化した「気配感知」の亜種のような効果を持つ。
単純な敵の探索や戦闘中の補助に加え、遠距離攻撃の感知、気配遮断中の敵の発見、
周囲の地形の把握、トラップの探知などなど、このスキルで補える範囲は多岐に渡る。

街中をわざわざ歩き回ったのはこの「合気」の効果を活かすため。
どうやら今日の観光巡りに関してはちゃんとセイバーなりの考えがあってのことのようだ。


それに『斎宮衣裳』の気配遮断効果もあるので、
セイバーが敵に発見されている確率はほとんどないだろう。

なにより、本格的に聖杯戦争が始まれば、今日のような散策はできまい。
だからなのか、まるで怒られるのを恐れる子供のように、おずおずとセイバーは自分のマスターの顔を見上げる。


「…………でさ、マスター。明日もアッチで、またちょっと……ぁそ……んでもいい、か?」


うーむ、と七草は唸る。
どうやら明日の北側の散策でもセイバーは少しハメを外したいらしい。


今まであった八度の聖杯戦争から得られた情報からも、
サーヴァントとの関係は戦況の善し悪しに大きく関わっているそうだ。

七草としてもサーヴァントとの可能な限り良好な関係を保ちたいと考えている。
そのため可能であれば、セイバーへの融通は利かせるつもりだが…………


「うん、まぁ…………いいか。今夜特に動きがなければ、だけど」

「いっやったぁあ!!」


えへへへ、とセイバーは嬉しそうに口元を緩める。
子供のようにはしゃぐセイバーの姿を横目に、七草は、はぁ、と息を吐く。
また今日のように無駄に疲労する羽目になるのか。

まあ、いいとしよう。セイバーが喜ぶ姿は良い目の保養になる。
だが、男だ。


「へへへへ、ありがとな! マスター!」


黒髪とスカートを靡かせ、セイバーは七草の方を振り返る。
欄干にもたれ掛かったまま、青年も少年の笑みに手を上げて応え――――



「頭を下げろ! マスタァァアー!!」


ギィィィンッ! とセイバーは宙を凪ぐ。
腕に掛かる力は思わず声を出してしまうほど、重い。
それを奥歯を噛み締め、足を踏ん張り、剣をたたきつける。


1秒にも満たぬ攻防。
けれどそれが彼と青年の命を助けた。

鉄塊の軌道が少しだけずれる。
そしてそれはセイバーの横をすり抜け、コンクリートに直撃する。
衝撃が大気を揺らす。爆音が、地面にクレーター痕を残す。


「アーチャーだ! 狙撃してきやがった!」

「位置は!?」

「山の方ってコトしかわかんねぇ! 遠すぎるんだよ!」


着弾の衝撃で破片と粉塵が巻き上がる。
もうもうと上がる噴煙はいい目くらましになるだろう。
だがセイバーはそれを剣風で薙ぎ払い、次の迎撃のために視界を確保した。



彼の積み上げた経験が瞬時に導き出した結論。
あのアーチャーに、目くらましなど通用しない。あの眼は噴煙越しでもこちらを無慈悲に貫く。

それにこの破壊力。
何かに身を隠したところでその防壁ごと撃ち抜いてくる。
回避も防御も無意味無価値無駄にしかならない。


敵は合気で察知できる範囲外。
視界でも対象を確認不可能な距離。

セイバーとてクラス適性は無いが、伝承の中で弓を使ったことは何度でもある。
だから分かった。このアーチャーは、まともではない。

アーチャーまでの距離とこの狙撃精度は異常だ。
規格外、比較外。比べる意味すらない、無比の射である。


……………………………………………………………………………………………………………………


そこからおよそ12km離れた山の山頂。
そこに件の狙撃主は立っていた。

重い甲冑ではなく、布の簡易な服装の若い男。


傍目からでは女にも見える美丈夫。
だが剥き出しになっている逞しい二本の腕が、
間違いなく彼が先ほどの強弓を放った剛力の射手であることを示していた。

彼は涼しげに目を細め、続けて第二射を放った。
鉄矢は闇を裂き、一直線に埋立地最端に立つ目標目掛け飛翔する。



―――――超超遠距離射撃を敢行した弓の英雄。



断言しよう。彼以上の射手など、この世界に存在しない。
大英雄ヘラクレスも、アポロンに並ぶと讃えられたピロクテテスも、
インドの大英雄アルジュナも、巨船を沈めた源為朝も誰も彼も皆、同じ高さに立つことを許されない。



―――――純粋な弓の腕において、彼と並ぶ者は存在しない。


その2発目も撃ち落された。
大抵の英雄であれば一撃目を迎撃した時点で腕が使い物にならなくなる。
だがあの英雄は二度も剣で矢の軌道を変更した。

超重量の鉄矢の軸を最低限の力でそらす慧眼と技量、
二度も迎撃可能な筋力と持続力、そして彼の矢を迎撃可能な超反応と反射速度。



―――――あれは、セイバーの名に相応しい最強格の英雄だ。


アーチャーの推測は正しい。
この日ノ本ノ国を戦場とする限り、あのセイバー―――ヤマトタケルノミコトを超える英雄は五指にも満たぬ。
逆説的にいえばそのクラスのサーヴァントでさえ、
このアーチャー相手には防戦一方にならざるを得ないのだ。

それでも―――――



「…………へたくそ」

「申し訳ありません、主」

「おまけに遠すぎてこの距離じゃステータスよめないじゃない。
 あたしたちの情報だけ一方的にあたえてどうするの?」


彼の主は、その結果に満足いかないと、不満の声を溢した。


―――――――暴君、ネロス・ベーティア。


黒の髪と黒の瞳の少女。
されどその風体に惑わされること無かれ。
彼女こそ、時計塔が誇る“怪物”―――――本聖杯戦争最強のマスターである。


彼女の言葉は正しい。
アーチャーの矢は、セイバーに迎撃され続けている。
しかし謝罪の言葉を口にするがアーチャーはネロに視線を落とすことなく、ただ彼方に立つセイバーだけを捉えていた。

それが気に入らないのか、少女は不機嫌を隠すことなく、細腕を組み、
3発、4発と間空けず続けざまに鉄塊を降らせるアーチャーをぎろりと睨み付ける。



「あのグラディウスは矢を対処できる能力をもってる。とにかくむだなのよ、アーカス」


ネロの言葉通り、あのセイバーは高ランクの心眼か直感、とにかく何か奇襲に対応できるスキル、
そしてアーチャーの狙撃を迎撃できる筋力と反応速度を持っている。


単なる狙撃では対応されてしまう。
けれどこの勝負、アーチャーは勝ったと確信した。
たとえ令呪の補助があったとしても、12kmの距離をセイバーは詰めることが出来ない。

加えてアーチャーの鉄矢は確実にセイバーの腕に負担を掛けている。
後5発か、6発か、セイバーの腕は完全に麻痺する。
セイバーを貫くのも、時間の問題だろう。


…………だが、そんな細々とした戦法は少女の気に召さなかったようだ。
少女は白い足で強く大地を踏みしめ、その黒髪を大きく風に靡かせる。

黒の瞳に宿る意志は、何者にも拒否を許さぬ。
絶対的な存在として、彼女は大地の上に“君臨”した。




「――――アーカス。このネロス・ベーティアがめいれいするわ。あいつら、ぜんぶ焼きつくしなさい」


「……………御意に」



その言葉に反抗の意を見せず、静かに彼は虚空から
今までと明らかに異なる赤い羽の矢を引き抜き、巨砲の如き弓に番えた。



………………………………………………………………………………………………………………………



一方、セイバーは今までと異なるアーチャーの様子に、痺れた腕で今一度見えざる剣を構え直す。

攻撃が、止んだ。
あのままであれば、後数発も持たずセイバーの防御は完全に崩れていたはずだ。
なのにわざわざ通常攻撃を止めたということは――――


「―――――宝具が来るんだね」


マスターの言葉に、ああ、とセイバーは肯く。




―――――そして、赤熱の閃光が撃ち上がった。



夜空を駆ける赤の龍星。
この魔力、宝具。それも対城規模―――――!


「マスター、令呪だ!」


セイバーは即座に決断する。
同時に七草の右手の令呪が、赤く熱く輝き―――――

………………………………………………………………………………………………………………………


―――――炎が、上がる。

―――――紅蓮が、燃える。

―――――太陽が、堕ちる。


地を焼く灼熱。温度は優に数千度。中心部は一万度を超える。
文字通りそれは着弾地点のコンクリートを高温で蒸発させ、半球状に抉り取った。

獄炎に包まれ、炎上、炭化の過程すら省略し、消滅する。


――――赤の地獄。それは太陽の残滓。
かつてアーチャーが射堕とした九つの太陽のうちの一つ。

そう、この英雄の名は羿。
弓の神と謳われた、中国神話の射手である。

だが――――


「…………申し訳ありません。逃げられました」


如何に神の射手といえど、発動と着弾のロスはどうしようもない。
宝具解放から目標到達までの僅かな、けれど致命的な空白時間。
その一瞬の合間をセイバー達は躊躇うことなく令呪を切り、即座に戦場を離脱した。


――――それでも、少女の顔は満足そうだった。
聖杯戦争初戦。セイバーVSアーチャーの戦いは、間違いなくアーチャーの勝利に終わったのだ。

ここまで

見ての通り遠距離戦においてこのアーチャーは最強
地平線の果てまで視界内は全てが射程範囲という怪物


どうなるんやろ
七草セイバー組が初日で令呪一画消費した結果になったけど

まあ、対城宝具ぶっぱじゃあ仕方ないな制限回数はあと8回と秘蔵の1本が一つか


カルナや張三豊が特殊すぎただけでやっぱ羿さんは凄いなー(小並感

しかし、インドの大英雄がアルジュナと言われて疑問符が浮かんだんだが、感覚がマヒしてるのかな?

そりゃ大英雄でしょ
なんでそう思ったの?神霊基準で考えてる?

アルジュナの存在が霞むくらいインドが化け物揃いってことでしょ?
そんな煽った感じで書かんでも…

>>28
御三家(剣、弓、魔)主人公で群像劇の予定
基本的にそれ以外は敵でのみ

>>29
男の娘が出ないとか書いてる意味ないですしおすし

>>30
まあちゃんさんセイバーみたいなものだし
ただ今回みたいなハメ展開には弱い

>>31
奴の露出が少ないのは主にはるあきらのせい
古語翻訳使わないといけないのでめんどくさいのだ

>>32
ジャンヌは出ないな出展は全部皆鯖から

>>47
御三家組なんで活躍の場はこれからやね

>>48
プレイしてたときから思うけど回数制限付いたことより、
使いやすい対城宝具って利点の方が優秀過ぎる
陽はマジチート

>>49 >>51
中国インドは大英雄多すぎてその反応になるのは分かる
でもアルジュナはカルナさん並の腕前なんやで

>カルナや張三豊
まあガチでガメオベラ仕掛けてたもんな特に張三豊

>>50
アルジュナ>インドラ でも驚かない

サーヴァントとマスター同士 マスターとマスター同士のボーイ、ミーツ、ガール物はありますか?

>>55
予定はしてる

男の娘出さなきゃな、やっぱり
男の娘は絶対に出さなきゃな

ジャンヌ出ないのか残念だ
チンギス・ハーンとセットでショタが出ればいいな

男の娘のいないこのスレなんて汁のないラーメンみたいなもんだしな

麺? 触手やろ?

前スレが終わり心配していたが>>1も住人も変わりなく安心した




「ああ。ああ。なるほど。崩落の危険のため全埋立外区を封鎖、とな。
 いや、悪くない。安全に戦闘できる場所が増えるならそれに越したことは無い」

「ああ。シナリオは君に一任しているはずだ、ワイズマン。
 隠蔽工作の費用は全て“出資者”が出してくれているのだろう?」

「ならば一々私の許可を求める必要は無い。これでも私は参加者だ。
 他のマスターに監督役とつるんでいるなど、無駄な誤解は招きたくないのでね。
 どうしてもというときだけ連絡をくれ。ではな、ワイズマン。君も監督役頑張ってくれ。」



銀髪の女――――この地の管理者(セカンドオーナー)は黒電話の受話器を置いた。


今夜発生したセイバーとアーチャーの戦闘。
先ほどの電話はその戦闘跡の隠蔽工作が完了したという、監督役(ワイズマン)からの連絡である。


アーチャーが使用した対城宝具は着弾地点を高温の熱波で薙ぎ払い、
埋立外区最端は壊滅、場所によっては崩壊、海中に沈没する事態にまで至った。


無論これもワイズマンの想定内だったようだ。

八度に渡る聖杯戦争のデータの蓄積もあったからか、
対城宝具が使用されたにも関わらず隠蔽工作は滞りなく終了した。



これが時計塔公認となる初の聖杯戦争ということだからだろうか。
今回の聖杯戦争は戦闘が発生しそうな場所には、
監督側から事前に人払いの結界の自動発動術式が用意されているなど、
今までの聖杯戦争の中でも神秘の漏洩に関しては敏感に神経が張り巡らされている。

協会が全力でバックアップについているという事実があれば、
管理者として安心して聖杯戦争に望むことができる。


さて、この話はここまでだ。今は聖杯戦争そのものについて、思考を切り替えよう。
今回の戦闘に関して、銀髪の女はまずキャスターの意見を聞いてみようと考えた。


「どうみる、キャスター?」

「いやいやいや! やっこさん引き金ちょっと軽すぎでしょ! 流石の僕ちゃんも驚きだぜ。
 対城宝具ってそう簡単にブッパするもんじゃねえーんじゃねえの。神秘の秘匿ギリギリじゃん」


マスターの呼びかけに黒金の光沢を帯びた長髪が蛇の如く、ずるりと床を這う。
瞳の中で渦巻く数多の金の輪(リング)をぐるんと回し、ぬるりと童男(どうなん)は立ち上がった。

身長150cm足らずの痩躯の子供。
蛇腹の如く白い細腕は、その矮躯には少々不釣合いに長い。
口元から見え隠れする牙と、そこから零れる真紅の長舌は艶やかな唾液に塗れている。


この蛇のような子こそ、今回の聖杯戦争に喚び出されたキャスターであり、
あのシグルドさえ超える歴代アンドヴァリナイトの所持者の中でも最強の存在だ。
管理者としても、まさかこんなものが召喚されるとは思ってもみなかった。

だが、召喚してみると実際には何の問題もなさそうだ。
戦力的にも、能力的にも。…………人格的には、ちょっとあるが。


まあ、それも些細なことだ。
彼女が召喚の触媒として用いたアンドヴァリナイト。

生前、シグルドの手へと渡り彼の死で失われた、無限の富を約束する黄金の呪いの指環の存在は、
金銀財宝が何より大好きなキャスターの好感度を著しく増加させる追加効果があったらしい。

本来激しい気性であるはずのキャスターに彼女が見事に協力関係を築けているのは、指環があったからこそである。
そう考えればこの指環の値段は決して高くなかったはずだ。決して。


「…………うん、やっぱり無理だな。既にこの土地と館でさえカタに入れられてるからな」

「ん? ナニがムリだっておねーさん?」

「いや何でもない。でだ、キャスター。あのアーチャーに対する君の意見を聞かせて欲しい」

 



「ま、結論から言っちまえば敵じゃないね。通常狙撃ならいけてせいぜい掠り傷程度。
 あの小太陽みたいな対城宝具の方も、あの程度の火力なら4、5発でようやく僕を殺せるってとこかな?」

「それより問題なのは狙撃距離の方だね! なんだよ12kmって、バカなの? アホなの?
 多分アーチャーの弓に狙撃限界はないんじゃないかな。その気になれば衛星だって打ち落とせちゃうだろうね!」



『財宝鑑定』――――敵の保有するアイテム、宝具の能力を鑑定するスキル。



『芸術賛美』とは異なり英雄の真名を判定するスキルでなく、またキャスターにその知識は無い。
しかし反対に数多の宝具級の財宝を住処に蓄えてきたキャスターは純粋な物品の性能を解析する能力に長けているのだ。


キャスターの見立てが正しいのであればおそらく、
あのアーチャーはこの市(まち)の全ての場所を射程範囲に収めているという事だ。
だがキャスターに致命傷を与えられないのであれば問題ない。

そしてあの対城兵装も、宝具を解放したキャスターを止められない。
キャスターの全身を覆う、鮮血の如き深紅の甲殻を穿ち貫くことは出来ない。



そう。この二つの懸念を除くならば―――――


「まず、おねーさんを狙撃されるのは如何に僕でも止めようがない。
 あの破壊力、あの速度、正直セイバーだから止め切れたみたいなモノだね!」


筋力Aランク、敏捷Aランク、そして危機察知が可能な合気A。
ついでに言うなら規格外の幸運A+を含め、全ての要素が揃っていたセイバーだからこそ止められた。

どれかひとつがなかったとしたら。
いや、1ランクでも下であればセイバーはあれほど耐えることはできなかっただろう。


無論キャスターの鱗であれば直撃しても死ぬことはない。
せいぜい痛みと掠り傷くらいですむ。

だが回避、迎撃は不可能。それほどアーチャーの狙撃は「速く、精確」だ。
瞬間的な速さならともかく、セイバーと比べ遥かに鈍足なキャスターではそもそも回避など間に合いようが無い。
せいぜい正面で受け止められるよう、位置を調整するのが限度であろう。



「そして二つ目―――もし、あのアーチャーがあの羿(ゲイ)であった場合、
 奴は使われなかった最後の十本目の矢を持っている可能性が高いということだ」

「…………僕はよくわかんねーだけど、たしか太陽を墜とした千斤の白羽の神矢、だっけ?」


ああ、と管理者は銀の髪を揺らし、頷く。
理論上は衛星軌道まで射程範囲となりうる大砲の如き強弓。太陽属性の宝具。



――――――そして並び立つもの無き、『無比の射』。



キャスターが『財宝鑑定』スキルで得た情報が正しければ、
これらの条件を満たせる英雄といえば、中国神話で弓の神と謳われた射手――――『羿』だ。

かつて羿が宝弓と神矢を携え、天を巡る十の太陽のうち九つを射抜いたとき、
十本ある神矢のうち、最後の一本は使うことなかった。


仮にその矢を持っているとすれば、
宝具解放したキャスターとはいえど撃たれれば耐えられるか不明。

それに、他のサーヴァントに対してはあのアーチャーは通常攻撃や対城宝具で事足りるだろう。
そのため結果的に太陽殺しの神矢は、キャスターに向けられる可能性が高くなる。



故に、管理者としてはあのアーチャーは最優先で討伐したい相手だ。


だがそれだけのために、キャスターの手の内をあまりみせたくない。
キャスターの宝具は強力ではあるが、ピンポイントで対抗手段を持つサーヴァントがいる可能性も否定できない。

なるべく彼の宝具は終盤戦まで残しておきたいのだが――――


「うーん、そうだねぇーあんまりやりたくないんだけど、セイバーと同盟を組むとか?
 多分だけどさっきの戦闘見る限り、セイバーたちにも打つ手は無いと思うんだよね。
 だから僕らがオトリになる代わりにセイバーに本陣に討ってもらうっていうの」

「こちらが、囮に?」


聞き返すマスターに、キャスターは腿まで伸びている自分の黒髪を弄りながら、うんと肯定した。


「そうそう。フツー考えたらあのアーチャーの砲撃受けるなんて自殺行為にもホドがあるけど、
 僕にとったら受け止めるだけの簡単なお仕事だからね!
 戦闘してくれればセイバーやアーチャーの能力(ステータス)の詳細もわかる。それに………」

 




「無敵の肉体を見せたところで、かわいい僕の正体がファフニールちゃんだなんて誰も気がつかねーだろ! ぎゃはははははっ!」



悪竜ファフニール―――――北欧の神話、大英雄シグルドに討ち斃された深紅の魔装竜(ワイアーム)。



魔導の天才でありながら、アンドヴァリの黄金に目が眩み、
父を謀殺し、その財宝を守護する邪竜へと転じた巨人の血を引くドヴェルグ。
それがこの童女のような外見に似合わぬ、毒蛇が尾を鳴らすような声で哄笑するキャスターの真名である。


幻想種の頂点に君臨するドラゴン。
そのドラゴンの中においても、悪竜の存在はさらに別格。
あらゆる攻撃を弾く甲殻に、あらゆる兵装を腐敗させる猛毒の息吹(ブレス) 。


北欧神話、最凶無敵の悪竜として、そんな彼の名はひどく知られている。

それは同時に弱点が広く知られているということでもある。
故にその真名を人目で看破される宝具を聖杯戦争序盤で解放するわけにはいかない。




だからこそアーチャーの早期討伐にセイバーの手を借りたいわけであり――――



「わかった。セイバーたちに交渉してみよう。さきほど戦闘したばかりだ。
 あのアーチャーの強さは身に凍みて分かっているだろう」

「うん、じゃあよろしくおねーさん。ぎゃはっ!」



―――――こうして聖杯戦争におけるキャスター陣営の初方針が決定した。


 

ここまで
ちなみにapoの黒光りするファヴニールさんとは別物

あくまでこっちはシグルドに斃されたファフニールちゃんです

>>57
自明の理

>>58
ライダーが出るのは中盤からの予定なんでまあ待ってくれ

>>59
よくわかっとるやんけ
触手も出番考えとるで

>>60
変わるわけが無い

>>71-72
トン

ちなみにスキル名とか効果とか変わってるのがあるんでタイミングみて説明したいところ

『無窮の射』→『無比の射』みたいな


あの矢食らっても大丈夫とかやっぱりドラゴンってすごい

つまりファフニールは触手の餌食になる可能性が大と  乙

ここの男娘ファフニールがアポのジークフリド会ったらどんな反応しますか

>>75
ここのウチのファフニールちゃんはプレイデータの時点で、
一撃なら皆鯖のグラム規模なら耐える仕様だった

>>76
そいやこの子だけエロ書いたことなかったねん

>>77
男娘が男娼に見えたわ・・・・
まあシグルドと一緒の扱いなんじゃねーかな
仮に死んだら、ざまーねーとか言う感じ

ファーキャスターは凛ちゃんさんに反撃食らってなかったっけ

ちょっとすまんけど>>2からアサシン変更
軍略家→忍者で

>>79-80
シーンそのものは一回も書いてことないで

≪────Interlude Lancer────≫



「とっと路地裏に追い込んで始末しろアサシン!」

『御意ニ――――』



――――只野鎌瀬は焦っていた。


彼のサーヴァントは鬼面を被った黒子の装束を着たアサシン。
だが元のマスターを殺害され、はぐれサーヴァントとなっていた
アサシンと再契約できたときは、とうとう自分にも運が巡ってきたと考えた。


只野は決して良い出自でも、高い実力を持つ魔術師でもない。
所謂その他大勢に数えられるような、ひどく平凡な実力しか持ち合わせていない。

そのために幾多の苦渋と数多の辛酸を舐め続けてきた。

だがこれでこれで漸く表舞台で光に当たることができる。
そう信じていたのに――――!!



「神秘の秘匿に失敗したとなれば、私の未来自体なくなるではないか!」


思いのほか多いアサシンの魔力消費量を維持するため、
積極的に魂喰いを行ったことが裏目に出た。
ただの男子高校生に見つかった上、暗示を掛ける前に近くの繁華街へ逃走された。

また、運の悪いことにこのときセイバーとアーチャーの戦闘跡の隠蔽のために
ほぼ全ての協会魔術師が戦闘のあった埋立外区へ派遣されていた。
監督側へ報告し、処理を依頼するにもかなり時間が掛かる。


故に、彼は慣れぬ追跡劇を行うほか無くなった。
優れた魔術師でもない只野には、繁華街の全員を追い払えるほどの結界を張る実力は無い。
だからこの場所で迂闊に目撃者の少年を始末することは出来ない。

よって今アサシンを使い、人気の無い場所へ誘導している最中だ。


幸いと言えるのは、混乱しているから大声で助けを求めるような真似はしていないことだ。
とにかく目撃者を繁華街から人通りの少ない路地裏に追い込み、早々に始末する。
あんなガキに折角の栄光のチャンスと輝かしい未来を不意にされるなど認められない。



………アサシンから少年の誘導が終わったという報告が来た。
10分にも満たぬ逃走劇は呆気なく終わりを告げる。


只野はまだ殺さず、私が行くまで逃げぬよう痛めつけておけとアサシンに命令した。

加虐趣味があるわけではない。やるなら暗示でも十分だ。
それでも僅かとはいえ、只野の将来に傷を付け掛けたことを彼は許すことは出来なかった。


どうしても目撃者の少年をアサシンの手に任せるのではなく、自らの手で、自らの魔術で始末したかったのだ。


だが―――――


「―――――どうしたアサシン! アサシン!」


不意に、アサシンからの念話が途絶えた。

慌てて路地裏へ飛び込んだ只野が少年を追い詰めたはずの袋小路で見た光景は――――


………………………………………………………………………………………………………………………………



――――女が、立っていた。



穏やかな波の様に風に靡く、淡い氷青の長髪。
無表情で少年を見下ろす琥珀色の瞳は、零下の如き冷たさを宿していた。


「ふん。随分と無様な姿だな、貴様。だが、これでもマスターか。ならば、助ける他無いか」


誰だ、と全身傷だらけの少年は唇を動かす。
声帯を負傷しているのかほとんど声は出ない上、その動きはたどたどしい。
それでも女が聞き取るのには何の不自由も無かった。




「――――私はランサー。貴様の敵を討ち果たすべく、そして我が国の民のため、此処に来た」



三騎士の一角、ランサー。氷の槍を携えた魔女。
本聖杯戦争、七騎目として呼ばれた最後のサーヴァントである。

ひょう、と風を切って、女は氷に覆われた槍を振るう。
槍の温度があまりにも低すぎるのだろう。
穂先の軌跡上の水蒸気は凍りつき、街明かりに反射して幻想的な輝きを帯びていた。

そして若き女ランサーの琥珀の瞳は、ぼうっ、と夜の闇に浮かび上がる鬼面を零下の視線で射抜く。


「ふん、アサシンか。舐めるな――――暗殺者如き、私の敵ではない」

「ナ、ニ?」


表情一つ変えることなく、まるで当然のように女はそう言い捨てた。
それに、鬼面の下に隠れた表情こそ伺えないがアサシンは訝しげに言葉を溢す。

様子見として投擲した武器を弾いたときの様子では、
このランサーの攻撃力は高いものとは到底考えられない。


それに何より敵のマスターは事故で彼女を召喚した、ただの一般人に過ぎない。
戦闘はまだしも、宝具の使用すら危ういのではないか?

むしろマスターが合流し戦闘に巻き込まれる方が危険かもしれぬ。
ならば、速やかに始末するべき――――


……………?


ランサーは無造作に槍をアサシンへと突きつける。

だが、まだアサシンとの間に距離はある。
無論サーヴァントであればコンマ数秒と掛からず、詰められる距離である。


とはいえ、接近する気であればそれに見合った槍の構えをしておくべきであり、
このように無造作に敵に穂先を見せるとは、いったい何のつもりだろうか。

アサシンはいつでもその場を跳び退ける様、低く身を屈める。
点であれ、線であれ――――おおよそ槍術で可能な全ての動作に対応できる。



「―――――絶度の極寒に凍る間も無く、死ね」


そして、ランサーが動いた。
氷槍でもなく、腕でもなく、脚でもなく
―――――――ただ、その冷たい唇のみを動かした。



「کولاک(寒獄よ)―――――――!!」



異国の詠唱。Aランク魔術、対軍規模の氷嵐(ブリザード)。
たった一語であるにも関わらず、神代の魔術は現代とは比べ物にならぬその威力を解放する。

点でもなく、線でもなく、面による蹂躙。
凍てついた暴風の渦中と共に無数の氷塊が、周囲を地面や壁を抉り取る。
冷気ではなく、破壊力そのものに任せた敵の粉砕。


…………ランサーの宣言通り、これは凍り付くより先に暴力を以って命を奪う。

 




――――獄悪の石臼。



もし敵が対魔力でも持ち合わせているのであれば話は違っただろう。
あるいは強靭な肉体や頑丈な鎧に覆われていたのであれば、被害は最小限に抑えられたはずだ。

けれどそのどちらにもこのアサシンには存在しなかった。
耐久も高くなく、鎖帷子を編みこんだ装束も鎧と比べて決して頑丈とは言えぬ。


故に―――――



「南無、参――――」



―――――氷嵐の暴力に、アサシンの身体は跡形も無く四散した。

 



「あ、あ、あ、ああああ…………」


そしてサーヴァントという絶対的な死を目の前に、
遅れて路地裏へと飛び込んできた只野鎌瀬は一人取り残される。


彼を射抜く、冷たき殺意のみを宿した琥珀色の瞳。
寒さに震える段階などとうに通り過ぎた、絶対零度の眼。

只野の心臓は既に止まっていると同義であり――――


「…………やめ、ろ。殺すんじゃ、ねぇ」


声を絞り出したのは他でもない、アサシンに殺されかけた少年だった。
槍を只野に向けたまま、しかしランサーは視線を彼へ移した。

制服と、そしてその下の身体は傷だらけ。
致命傷にはならぬようアサシンにより手加減されているが、一歩動くことさえ不可能なほどの重傷であった。


…………だが、少年の両目ははっきりとランサーを捉えていた。

 



「――――貴様、分かっているのか? こやつは敵で、貴様は殺されかけたのだぞ?」

「それ、でも………だ。頼、む………」


最後の気力で言葉を振り絞った少年の頭は、がくんと力を失い垂れ下がる。

表情を変えず、それでも一瞬だけ琥珀の瞳が心配の色を映し出す。


「………気を失ったか、莫迦者。召喚の負担も取れぬうちから無理をし過ぎだ。
 まあ、このままにもしておくわけにも行かぬか。何処か休息を取れる場所を探さねば――――」


そう、ランサーはため息を吐いた。
腰を抜かした只野の存在など、もはや彼女の眼中にはない。

意識を喪失した少年を担ぎ上げ、女はその場から消えた―――ように、只野の眼には映る。


だが別に魔術を使ったわけでもなんでもない。

ランサーのクラスの名に恥じぬ高ランクの敏捷。
その速度に人の目が付いていかなかっただけの話だ。
 



それから、恐怖により凍結した只野の思考が回復するまでまるまる十分近くの時間を要した。


そして――――


「畜生……チクショウチクショウチクショォオオ―――!!」


――――まず、怒りと悔しさと惨めさが混ざりに混ざって濁流のように堰を切って溢れ出た。


まさか、まさかこんな負け方などまったくの想定外だった。
追い詰めた者の命の叫びに聖杯が呼応し、
サーヴァントが呼び出されるなど予測しようがない。


そして、アサシンの予想外の脆弱さ。
もはやこれには怒りしか感じない。
なるほど、あれでは以前のマスターを失うのも当然だ。

そのマスターも、何故あんな矮弱な英雄など呼び出したのだ。
そのツケも自身だけでなく、私にまで圧し付けるなど死んで当然である。
 



…………だが、まだやり直しは効く。


不測の事態ではあるが目撃者が聖杯戦争参加者となった以上、
彼の行動の全ては魔術協会の監視下に置かれた。
ともかく、これで魔術師としての人生が終わる神秘の漏洩という最悪の事態は免れた。

それに見る限り、あのガキ―――ランサーのマスターはただの一般人。
隙を見て暗示でも掛ければ、あのランサーを強奪できるかもしれない。


いや、それだけではない。
本来参加できなかったはずの自分は、運良くはぐれサーヴァントと遭遇することが出来たのだ。
なら、再び同じようにはぐれサーヴァント巡り逢える可能性もゼロではない。



――――まだ、何も終わっていない。大丈夫だ、私ならチャンスを掴める。



そう考えた只野はまだ震える足で何とか立ち上がり、その場を後にする。




…………否、後にしようとした。



「でも残念ねぇ~アナタの冒険はここでお・し・ま・い! やっちゃいなさぁい、バーサーカー♪」

「へ?」



――――直後、艶やかに濡れた男の声と共に、黒い暴力と咆哮が只野鎌瀬の人生を終わらせた。



 

ここまで

久しぶりのランサー
そして皆鯖安定のかませ魔術師シリーズでやんした


只野鎌瀬wwwwwwホント酷い名前だなwwww
只野さんかわいそうに


ピザーラさんかな

アサシンのマスターのモデルて居るんですか、もしかしてASキャスターノ・モットマスター?

>>96
ザーコとカーズ・アワーセとか考えてたけどこのシリーズではまだいなかった日本人にした

>>97
今回の鱒は一般人故に本格的に魔力がやばいはずだから食べ放題やな

>>98
トマスターよりはタダーノ・ド・カマッセーヌの方が近いかね
>>2の前マスターは完全オリジナル


かませキャラは皆鯖のお約束ですなww

きた!一番好きだったピザ来た!これで勝つる!

≪────Saber Side────≫



「ふーんなるほどね。君達もあのアーチャーに困ってるわけかい、キャスターのマスター」

『ああそうだ――――だから私は君達の力を必要としているのだ、セイバーのマスター。
 君としてもあの厄介極まりないアーチャーには早々に落ちて貰いたいと考えているだろう?』

「…………まあ、そうだね」


日付が変わってすぐ。まだ零時を過ぎてまもない深夜。
無数の明かりが夜の底から林立する中でも、一際高い光の柱。

その、この街最高級のホテル、最上階フロアに滞在する
セイバーとそのマスター、七草の元へ少し変わった来訪者が来ていた。



――――人語を話す一匹の梟。否、相互通信機能を備えた使い魔である。



相手はキャスターのマスター。
内容は、アーチャー撃破のための一時的な同盟の締結。

昨日の戦闘を見てアーチャーが危険だと判断したのは七草たちだけではなかったということだ。
街の端から端までを射程範囲に収めるあの射手がいる限り、
参加者たちは迂闊に外も出歩けないということだ。


そうでなくともあれだけの破壊力を持った狙撃や、
ましてや太陽の如き対城宝具まで持ち出されてしまえば、幾ら拠点に引き篭もっていようが余裕でお陀仏である。

何より最優のクラスと称されるセイバーでさえ、まともな相手にならなかったという事実。


キャスターもアーチャーの狙撃を無効化する手段はあるが、
超遠距離から攻撃を仕掛けるアーチャーへの対処手段はないとのこと。

それ以外のクラスも結果などほとんど知れているようなものだというのが、
七草とキャスターのマスターとの間にある共通認識だ。


――――筋力A 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運A+ 宝具A++。


最高レベルの知名度補正を受けたセイバー、ヤマトタケルノミコトのステータス。
だがこれほどの高いステータスを持ったセイバーでさえ、
あのアーチャーには防戦一方にならざるを得なかった。


それどころか戦闘後に聞いた話ではあのまま降り続く鉄矢を受け止め続けていれば、
遅くとも数発以内に弾き損ない、その次弾で確実に止めを刺されていたというのがセイバーの話である。

考えるまでも無く、あの戦法が最良だと見極めた上でアーチャーは殺しに来た。
その戦法を変えさせられるのはアーチャーのマスターに他ならない。



言ってしまえばあの対城宝具の使用はまったくの無駄どころか、
七草たちにとってはあの場を離れる絶好のチャンスを与えられたようなものであった。

当然、相手のマスターもそんなことわかっていたはずだ。
わかっていて、わざわざ対城宝具を使ってきたのだ。



……………完全に舐められている。



それが、戦闘後の反省会で七草とセイバーが真っ先に辿り着いた結論であった。


おそらくあの対城宝具も「止めを刺すなら派手な方がいい」という子供じみた理由でブチ込まれたものだろう。
七草は、最優のセイバーを連れていながら、
そんな子供じみた理由程度の相手にしか見られていなかったということだ。

セイバーは当然のように、それに憤慨し、また悔しがっていた。
だがそんなサーヴァントとはまったく逆のことを、マスターたる七草は考えていた。

 



当然、相手はセイバーの強さを分かっていたはずだ。
その上であのアーチャーのマスターは隙を作ることになっても、
勝つためではなく、満足するために自身の趣味を戦法に捻じ込んできた。



ここまで見下され――――否、まともに眼中にも入らなかった扱いは初めてではないか?



今まで自分は生まれ持った強運と人間として完成した身体機能と
この“眼”を以って、出会ってきた全ての相手の強さを簒奪し、自己の礎としてきた。


だが、今はどうだ? 打つ手は無くこちらが一方的に蹂躙される側だ。



――――ゾクゾクと背中に悪寒が走る。



だが悪くない。むしろ心地好い。
何も反撃できず、ただただ弄られ続けたことがとても悦ばしい。

 




…………そうだ、こんな体験初めてだ。



――――知らないうちに口元が吊り上っていた。



あんな強敵と、七草は生まれて始めて出会った。
聖杯戦争という舞台でなければ、決して逢うことは無かっただろう。


だから、七草はキャスター陣営の申し出を受けることにした。
あのアーチャーのマスターと会ってみたい。是非とも、戦って、“視”たい。



そうだ――――“視”たい。この眼で、識りたい。その強さを。



その自信の源を。全部、全部解析して、“視”たい―――――!


 



「いいよ、手を組んでも」

『えっ? いいのか!? サーヴァントの意見を聞くとか、もっと熟考し―――』

「うん、この条件さえ呑んでくれれば構わないよ」



―――――僕が、アーチャーのマスターと戦うためのお膳立てをしてくれ。



………最初はやや躊躇ったような感じではあったが、金を積めば意外と簡単に引き受けてくれた。

しかし本拠地の屋敷まで借金のカタに抑えられかけていたなんて
どれほど困窮していたというのか、キャスターのマスターは。

大方触媒でワイズマンにふっかけられたのだろう。

どれほど強力な触媒を用意して貰ったというのか?
彼女達もおいおい、戦いがいの敵になりそうだ。

 



それにしても、本当に金を掛けただけの価値はあった。

万能の願望器を手に入れるチャンスに加え、
何も無ければすれ違うことすらなかった強者との遭遇。


「君の言っていた通り――――聖杯戦争は最高だよ、ワイズマン」



―――――石蕗七草は、全身の震えと笑みの零れを抑え切れなかった。


  

ここまで
Chapter3は御三家同士の戦闘が主の予定


七草さんいいキャラしてるよな
ヤマトタケルノミコトもやっぱり最強クラスだなぁ


七草って暴君の支配領域や風水師の変化もラーニングできるんですか?

>>100
コンマでおっちぬ役目やな

>>101
ぺっちゃん好きなんや嬉しいわ
この子の設定とかガチオリジナルみたいなもんなんで

>>110
鑢をベースにしてるけど、石蕗は割と別人

タケルちゃんは素が大体BBBAAくらいで、アルトリアよりやや下
これに現地の知名度補正+七草の幸運補正で今回のステ

>>111
解析は出来るけど、ラーニング対象は体術分類限定
魔術を使える素養自体はあるけど何かの制限(リミッター)かかって習得できない感じ

Chapter3中に話は出るけど、
コンマスレのときと同じく七草の願いはその不正な能力制限の解除

≪────Interlude────≫



――――赤の地獄。


鼻に付く油の匂い。それに混ざる鉄の臭い。吐き気が、喉を突く。

視界が横転している。横倒しにされている。
足元に在るべき筈の瀝青(アスファルト)が何故か顔のすぐ横にあるのは妙だ。


今の目に映る景色は浅い眠りに落ちる直前の光景と違う。
車の中に、いたはずだった。投げ出されたのか。

顔を動かしてみる。
顔を動かして、見た。


――――見知った彼らが、■■■いた。


ぼんやりと腹部に触れた手が水を含んだ音を立てる。熱がある。
目を落とす。赤が広がっている。肉が出ている。


服も皮膚も裂け、剥き出しになった自分の臓物。
けれど彼らと比べれば、そんな自分の損傷は笑える程度のもの。

■■■してしまった彼らに比べれば、こんなもの悲惨でもなんでもなくて。


――――嗚呼、この光景は知っている。


――――全部失った、そのときの景色なのだから。

 


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


≪────Lancer Side────≫



「ん………? あ………?」

「ようやく目を覚ましたか、莫迦者」


こちらを見下ろす、琥珀色の瞳。
窓から差し込む白い日差しに、透き通る氷青の髪。
晩秋の寒さには似合わぬ、また随分と清涼な色だと霞がかった意識で少年は思った。

髪の持ち主はまだ、娘とも取れる若さを残している女。
年上なのは間違いないが、それでも年はあまり離れていないはずだ。


彼女が身に纏う服は手首から足首まで、肌の露出を極限まで抑えた白色のもの。
服には飾り付ける装飾も見当たらず、あるのは迂闊に脱げることがないよう、
まるで縛りつけるように服の各所できつく締められた黒皮のベルトだけだ。

そして服自体の質感も、頑丈で軟らかさというものはほとんどではない。
差し詰め、拘束服か何かのようだ、というのが少年の率直な感想だった。


「目は醒めたはずだ。貴様、まずは私に何か言う事があるのではないか?」


だが、自分を無視し、勝手に思考に耽る少年に苛立ちを感じたのか、
冷たい視線を向けたまま女は淡い色の唇を開き、彼に言葉を投げた。




「…………誰だ、テメェ?」



――――途端、空気が凍った。


まだ真冬とはいえぬはずの室内の気温が、氷点下まで急乱下する。

少しだけ驚いた少年は、彼女の顔を見る。
逆ハの字に吊り上がる娘の眉とへの字に曲がる口元。
無表情かと思えば、そうでもないらしい。意外にも彼女、表情も感情も豊かなようだ。


いやしかし当然の質問だと思ったが違うのか? と少年は首を捻る。
いくら美人とは勝手にヒトの家に上がり込むのは無作法極まりないどころか不法侵入である。犯罪である。

というか帰宅後はすぐに鍵をかけるはずなのだが………昨日は掛けただろうか?
そもそも昨日は家に帰った記憶は無いどころか路地裏で――――
 



「――――おい貴様。私を喚び出した挙句、折角助けてやったというのになんだそれは」

「あら? アレ、夢だったんじゃねーのか? ということはまだ目が覚めてないんだな」


なら仕方ない。もう一眠りするとしよう。
学校? 一日ぐらい、いいだろう。


ぐー、と少年は鼾をかく。


「寝るな!」



…………殴られた。

 


……………………………………………………………………………………………………………………………



「すると、私の召喚は事故だったということか!?」

「あーまあそうなんじゃないっすか。俺、魔術とか聖杯とかそんなメルヘンな世界にゃ住んでねーんで」


声を荒げ立ち上がった氷青の髪の娘に、
少年はテーブル揺らさねーでくれますか、と面倒くさそうに愚痴を溢す。

だが、決して彼女を邪険に扱おうというつもりは無い。
少年としては頭を追いつかせるので精一杯だっただけだ。


――――昨日の夜の出来事。


殺害現場目撃。謎の鬼面黒子怪人からの逃走。
そして目の前に座る不思議な髪の色の女の登場と
シベリアかどこかの吹雪を叩き付けるという空想世界の如き戦闘。

素直に夢で終わらせてくれればよかったものを、
女は魔術だの、英霊だのという単語を交えて事細かに理論立てて説明くれやがったのだ。


其れ故、少年にも理解できてしまった。
そういうものなのだと、知ることができてしまった。



――――自分の目前で起こった事が何かを分かってしまった。



けれど、まだそれを受け入れることができない。

納得が出来ない。
まだこれすらも夢だと頭の中で考えているほど。
あれほど、飛びっきりの回想(アクム)から目覚めたはずなのにと、そう思ってしまう。


それでも、何かやらなくてはならない。



『何もしなければ死ぬ』――――それだけは何とか呑み込めた。



自分は死を、既に知っている。
それがどういうものかも、解っている。
そして、昨夜のあの感触は間違いなくソレだった。

だから――――




「とりあえず、助けてくれてありがとうございました、お姉さん」



まず、自分の命を救ってくれたこの女(ヒト)に礼を言うことにしよう。
どういう理由や状況であれ、彼女がいなければ少年は生きてあの夜を過ごす事は出来なかった。

それだけは間違いないと思ったのだ。


礼を言う少年。それに対し、女は腕を組んで考え込む。

音の無い、思案。長い、沈黙
何かの答えを導くように。
それを、少年は静かに待つ。


また命を助けられたのだ。
前は、何もできなかった。何も、してやれなかった。
だから今回こそは、その対価をできることなら応えたいと思った。

やがて、答えが出たのか娘は顔を上げる。
開かれた琥珀色の瞳はじっと少年の顔を見つめる。




そして――――



「…………貴様、名は?」


「八極(ヤギワ)――――八極、麻博(マヒロ)っす」


「そうか………私はランサー。名は、ペザール。ペルシアの名も無き小国の女王、だった者だ」




――――それが、少年と魔女との始まりの契約だった。


 

現時点のまとめ

石蕗 七草(ツワブキ ナナクサ)/セイバー(ヤマトタケルノミコト)
八極 麻博/ランサー(ペザール)
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
????/ライダー
■■■■/アサシン(■■■■)
????/バーサーカー
管理者(セカンドオーナー)/キャスター(ファフニール)

ここまで
ランサーのマスターは8代目、10代目、26代目がコンセプト元
ただ、ほとんど別設定で別人物
あくまでコンセプト元というだけなので注意

八極 麻博て10代目がモデルと言う事は八極拳を習っているんですか?、名前からするにそんな感じですが


明智(鬼武者から)

>>123
あくまでパンピー枠なんで覚えていたとしてもニノウチはない、予定

>>124-126


>>125
止めて差し上げろ

元ネタが八極拳鬼とニャルまでは解ったがもう一人が解らん

今にして思えば最初の『黒縄八極』をハッキョクじゃなく、ヤギワって呼んでれば明智(鬼武者から)にならなくて済んだかもね(笑)

>>128
魂魄塊貴方
あのハガレン版『賢者の石』が入ったホムンクルスのやつ
それとも白野/エリザ組が主人公だった回と言ったほうがわかりやすいか

>>129
コクジョウヤギワでは結構キツイと思うけどな
今回は苗字だからヤギワ読みでOKした感じだし

ああなるほどな
名前は八極拳とニャル様からとって鯖とかはホムンクルスからとったのか

型月のパンピー枠ってアレなことが多いけどこの子はどうなるかなー

≪────Archer VS. Caster────≫



「それでおねーさん、僕はここに突っ立っていればいいって?」

『ああ、それで問題ない。露骨に挑発するような魔力の気配を出していれば、
 奴なら食いついてくる………はずだ。セイバーのマスターがそう言っていた』

「なんだよソレ。まっ、いいけど。相手が誰でも、この無敵で可愛い僕ちゃんが負けるコトなんかねーし」



――――深夜のビル街。その通りの中央に、童女否、童男が立っていた。



風を裂く、鋭く硬い髪。
黒金の光沢を帯びたそれは童男の腰を越え、
膝裏を通り過ぎ、その先端は地面ぎりぎりまで伸びている。

両瞳の中で渦巻く数多の金の輪(リング)は、蜥蜴のようだ。
さらに口元から見え隠れする牙と、唾液に濡れ艶やかに光る真紅の長舌。
そして、その矮躯には少々不釣合いに長い、蛇腹の如く白い細腕。
 




――――黄金の指環を嵌めた、身長150cm足らずの痩躯の子供。



彼の真名はファフニール。
本聖杯戦争、キャスターのクラスで現界した北欧の悪竜である。

セイバー陣営との当初の打ち合わせ通り、
彼はアーチャーを炙り出すための囮(デコイ)の役を引き受けた。


人払い、隠蔽、防音、その他多数の機能を備えた隠密結界の敷設。
それに加え、露骨に放出される魔力の気配。
どう見ても狙ってくださいと言わんばかりの見え見えの囮。

普通なら、こんな丸見えの罠に食いついてくる敵はまずいない。
だが挑発するような態度であればあるほど、
逆にあのアーチャーのマスターは見過ごさない、とセイバーのマスターは答えたのだ。


まあ、戦った経験があるのは彼一人。
それにアーチャーのマスターが、こんな見え見えの作戦でも
見過ごせすことができない性格という推測も、ちゃんと理由があってのコトのようだ。

仮に他のサーヴァントが乱入したところで、
キャスターの実力であれば簡単に捩じ伏せられる。
やはりあまり危険のない楽な仕事だね、と童男は長腕を上げ、大きく伸びをした。
 



――――と、そーいえば、彼は聞きたかったことを思い出す。


「そうそう、おにーさんにはちゃんと礼のブツ渡してくれたの?」


セイバーのマスターに頼まれ製作した、
アーチャー戦と魔術師戦を想定した各種魔導武装。
それをちゃんと渡してくれたか、と管理者(セカンドオーナー)に確認したのだ。


『ああ、問題ない。しかし、よかったのか? あれほどのものを渡して』


キャスターの道具作成はAランク。
特に大地にして闇の妖精ドヴェルグである彼は金属や各種宝石の加工を得意としている。

だがそんな彼が作った武装を同盟相手とはいえ、
他陣営に渡すことは後々自らの首を絞めないだろうか。
彼のマスターは、そんな不安を抱いていたのだが―――――


「ノープロブレム! 僕はキャスターだぜ? 当然、僕ら相手には使えないように細工はしてあるね!」


そんな管理者の懸念をキャスターは一笑に付す。
当然だ。彼はキャスター。悪用されないようにする程度の細工、お手の物である。



それにしても、とキャスターは嬉しそうな笑みを浮かべる。


「また依頼があったら請け負ってあげるって伝えてあげてね!
 モチのロン、対価は頂くけど! ぎゃははははっ!」
「それにしてもあのおにーさん何者だよ。クスコ王国の国王
 マンコ・カパックの黄金の杖とかどっから持ってきたんだよ!」

『ワイズマンが引っ張ってきたこの聖杯戦争の“出資者”ということらしい。
 何者かよくは知らんが、考える限り財力だけなら魔導の名門にも劣るものではなかろうよ』

「おーおーいーねいーね! まだまだお宝いっぱい
 持っていそうで僕ちゃんすっげー楽しみ! ぎゃ―――――」



――――その笑い声が強制的に中断させられた。



闇夜の中、超音速で飛来した鋼鉄の巨塊。
それは寸分違わずキャスターに直撃し、その矮躯をいとも容易く噴き飛ばした。

 


………………………………………………………………………………………………………………………………………


キャスターの立つ市街からおよそ8kmの遠距離。
昨夜とは異なる山頂から大気の底、
漆黒の海底に広がる黄金の輝きを見下ろす黒の双眸。


――――重い甲冑ではなく、布の簡易な服装の若い男。


傍目からでは女にも見える美丈夫。
だが剥き出しになっている逞しい二本の腕が、
間違いなく彼が先ほどの強弓を放った剛力の射手であることを示していた。


中国神話で弓の神と謳われた大英雄、羿(ゲイ)。
本聖杯戦争において、彼はアーチャーのサーヴァントとして喚び出された。


そしてすぐ傍で白い細腕を組んでいる黒髪黒瞳の少女こそ、彼のマスター。

本聖杯戦争最強クラスのマスター。
時計塔が誇る“怪物”――――『暴君』ネロス・ベーティアである。

昨夜、最優と称されるセイバーを令呪撤退に追いやった彼ら。
今回のキャスターも余裕かと思われた。
 




…………けれど、彼女は可憐な唇を小さく開き、ため息を溢した。



「………弾かれたの、アーカス」

「はい。ですが、セイバーとは異なります。アレは――――」



―――――鋼鉄(むてき)の肉体です。



自身の鉄矢が直撃しても何事も無かったかのように
ゆらりと粉煙の中から立ち上がるキャスターの姿に、アーチャーはそう応える。


セイバーも、キャスターも、アーチャーの狙撃への対処手段を持っていた。

だが、あくまでセイバーの防御手段は、最優特有の高ランクの各種ステータス
および驚異的な危機察知能力による鉄矢の迎撃であったことに対し、
キャスターの防御手段はこのアーチャーですら傷を負わせられない肉体の驚異的な硬さであった。


疲弊を誘えばよかっただけのセイバーとは違う。
おそらく通常攻撃ではあのキャスターを始末できない。

けれどネロの答えは、そう、とどうでもよさそうな返答。
普通のやり方でダメなら攻める方法を変えればいいだけの話だ。



「そうね、とりあえず肩甲骨の間。それがダメならかかと、それもダメなら足裏。
 ――――とにかく、一回ぜんしんを掃射してあげて。弱点とかあるかもしれないから」

「御意」


支配者(ドミュナス)の言葉に、静かにアーチャーは弓を引く。
巨砲バリスタが火を噴く。その破壊力は現代の戦車砲すら凌駕する。


まずキャスターの足元を直撃させ、アスファルトを捲り上げる。

背を低く下げ、その場から大きく後方へ飛び退くキャスター。
その背中、肩甲骨の辺りに的確に第二射が叩き込まれた。

バランスを崩し吹っ飛ぶキャスター。
次に着地時の露出した踝目掛け、第三射が撃ち込まれる。


彼の矮躯如きではその威力を相殺できない。
当然衝撃は貫通し、道路を爆砕。童男を地盤ごとメートル単位で沈下させる。
そのまま落下に巻き込まれるキャスターの剥き出しになった足裏に第四射が直撃する。

その後も眉間、こめかみ、眼球、頚椎、鳩尾、腹部、膝裏………
キャスターの身体のありとあらゆる部位に即死の一撃が寸分も狂うことなく命中する。
 


それら全てが筋力A+およびAランク宝具による破壊掃射。
種別は対人宝具のはずである。だが、その破壊規模はもはや対軍。

着弾の度、キャスターの矮躯を貫通した衝撃が地面を抉り取り、
粉砕されたアスファルトの巨塊がその反動だけで数メートルも舞い上がる。


叩き付ける鉄矢の嵐。深夜の通りが直線数百メートルに渡り壊滅する。
それだけの距離、キャスターは全身にアーチャーの鉄矢を叩き込まれ続けたのだ。

ここまで十分と満たぬ戦闘。命中した矢の数は百射以上。
魔力効果を付帯された瓦礫の直撃を含めれば、優に数百回は死んでいてもおかしくない。



だが――――



「特段、傷が深い場所は見当たりません。矢の弾き方から見ても、全身同硬度の防御で覆われているものかと」



――――それほどの破壊痕を残しても、何事も無く立ち上がったキャスターの無敵の体は掠り傷程度しか許さなかった。



キャスターの全身を隙間無く取り巻く重装甲。
驚くべきことにそれは、筋力A+およびAランク対人宝具の直撃を余裕で耐えるほどの強度を誇る。




『竜血鋼鱗(ドラグーン・シュラウド)』―――本来は北欧神話の大英雄、シグルドの有す無敵の肉体。



唯一血を浴びなかった肩甲骨と肩甲骨の間を除き、
悪竜殺し(ファーヴニルベイン)はその他の如何なる部位も傷つくことは無かったと謳われる。

だが元を辿れば能力のオリジナルは悪竜ファフニールのもの。
当然、キャスターがその能力を再現できない道理は無い。
それも宝具ではなく、魔術、スキルの類として、である。


魔導の天才、ファフニール。
まさにキャスターのクラスに相応しい大魔導師である。


「そう。それなら押しだしてトドメをさしなさいアーカス。できるでしょ?」

「はい、問題ありません」


…………それでも、彼らからしてみればその程度何の障害にもなりはしなかった。
 




――――市街地から押し出し、A+ランクの対城宝具『千斤神矢・陽』で止めを刺す。



あのキャスターの無敵性は頑丈さからくるもの。
ならば耐えようの無いほどの大火力で焼き尽くす――――!


ネロの計算ではあの防御程度では、アーチャーの対城宝具は耐え切れない。
仮にも更なる防御手段があったとしても【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】展開中の
ネロの驚異的な貯蔵魔力であれば、『千斤神矢・陽』を二射までは使用できる。

如何に強固な城塞といえど、対城宝具の二連射を阻止できるものではない。


「では――――」


主の命令にアーチャーは再び強弓に、鉄矢を番えた。
次からはより容赦のない砲弾の嵐でさらに1キロ後方の臨海広場まで吹き飛ばす。

そこで再び『千斤神矢・陽』を解放し――――
 




「――――まって、アーカス。新手みたい」



ネロは、たん、とその細い足で強く大地を踏む。


―――突如、魔力を帯びた強風が周囲を凪いだ。


魔力の風に、どこから現れたのか夜の闇から白い霧が剥ぎ取られる。


その下から姿を現したのは、細波のように軟らかく靡く黒髪。
こちらを見る双眸は黒曜石の如く、ネロとアーチャーの姿を映し出す。

パーカーとスカートという現代風の出で立ちをした少女。
だが彼女、否―――彼こそがこの聖杯戦争最優のサーヴァント、セイバーである。


そしてそのすぐ傍に立つ白髪。揃えて切られた髪は肩に掛かるほどの長さ。

体つきは、細身のアーチャー以上にさらに華奢。
けれど、筋はいい。必要な分は、ちゃんと付いている。

顔立ちからは一見しただけでは、女か男か判別できない。
ただ着ている厚手の和服の種類からおそらく男性だろうとネロは推測する。




―――――抱いた印象は、まるで幽霊か、薄の枯れ尾花。



夜の闇に溶け落ちるほどの希薄な白。
だが、確かに彼は実体を伴いその場に立っていた。


「…………セイバー、ですか。申し訳ありません、見逃しておりました」


弓の狙いを彼らに変更し、アーチャーは己がマスターに謝罪の言葉を溢す。
いつの間にか四百メートル強の距離まで近づかれていた。

まったく以って気が付かなかった。
アーチャーが幾ら意識をキャスターに集中していようが、
この街が視界に収まっている限り、その存在に気が付かないはずがない。


―――――では、何故ここまで彼らの接近を許してしまったのか?
 


まず、一つ目。
セイバーの宝具『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』の機能、
刀身から発生する水蒸気により光を屈折させる気配遮断能力。

通常は『草薙剣』の周囲を取り巻き、その刀身を隠蔽しているだけだが、
この効果範囲はセイバーの周囲最大3レンジ分まで拡張が可能なのだ。。

事前に捕捉しているならばまだしも、始めから姿が見えないのであれば“鷹の眼”とて発見は不可能。


そして、二つ目。
キャスターのマスターが得意とする風水による気運操作。
この地の管理者(セカンドオーナー)たる彼女は、
市(まち)全土に流れる気脈の善し悪しをリアルタイムで把握できる。

故に僅か数分でセイバー陣営の高い幸運が活かせるであろう、
アーチャーまでの経路をピックアップして彼らに伝え、あの千里眼を切り抜けさせたわけである。



――――結果、セイバー陣営は見事アーチャー陣営まで辿り着いてみせた。

 


他方、セイバー達にとってもまさか気配遮断を強制的に解除されるなど予想外だった。

本来であれば奇襲攻撃で一方的に攻勢を仕掛ける予定だったのだが、この際仕方ない。
もう彼らまでの距離は500mもない。今ならセイバーのステータスを持ってすれば詰められる。


予定通り、セイバーはアーチャーの、七草は少女の相手を。
七草は合図をする。行くよセイバー、と。



「ようやく逢えた。とても、待ち遠しかったよ。アーチャーのマスター」



―――――七草は“眼”を開き、駆け出す。



「そう、うれしい。じゃあ、ひねり潰してあげる。あたしの『獣』で」



―――――領土と、ネロの瞳が緋色に輝く。



街を一望できる深夜の山頂展望台。
ここを舞台に、戦闘の第二幕が開けた。
 

ここまで

次回セイバーVSアーチャー
そして書き終わって気づいたが今回セイバーの台詞が一個もねえや

>>131
そのうち出るけど性格や設定も鱗片あるで

>>132
今後の展開次第やな
武術枠は七草が既におるけ別路線かな

>>148-149


とうとう直接戦闘か

ここからが暴君貴女の真骨頂ですね、暴君の時のように七草さんまた捕まってしまうのでしょうか

>>152
悪竜ちゃんは一方的にサンドバッグになっただけだったけな
まあ敏捷低いし仕方無いんですが

>>153
まあ領域掌握中のネロはちょっとしたサーヴァント並なんで

あと同じ七草でも鑢やのうて石蕗やからな
そうなっても展開は異なるやろ

馬鹿かこの長さ
まあそんなレベルの後編いきますわ

≪────Saber VS. Archer (2)────≫



―――――闇を裂く、緋色。



少女、ネロス・ベーティアを中心とした半径500mの大魔法円。


それは少女の足元から大円内のあらゆる方向に伸びる数多の緋色の光筋は、
彼女へと接続された666本の擬似魔術回路。
周囲の魔力(マナ)は、完全に彼女の魔力(オド)として支配下に置かれている。

もはやこの中は彼女の胎内も同然。



ここが『獣(ベースティア)』の支配領土――――【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】の権能領域である。



十の王冠を戴いた七つの首、それぞれが有する七大権能。
それを再現する精霊域の魔術。

もはや名も忘れられた大地母神より零れ落ちた側面の、ほんの一欠片。
だがそれでも奇跡にも等しい、神霊権能の再現魔術。


例えば領土内に侵入した気配遮断中のセイバーの存在を感知し、その隠蔽を無効化したのは、
領域内の監視権能、【十の支配の冠/六の丘(ドミナ・コロナム・クイリナリス)】と
環境改竄の権能、【十の支配の冠/二の丘(ドミナ・コロナム・パラティウム)】の組み合わせ。


“六の丘(クイリナリス)”は支配者に対し“黙秘”と“虚偽”を許さぬ絶対的な状況把握権限、
“二の丘(パラティウム)”は支配者の思うがまま、領域内の地形・環境を改竄する変更権限。


だがこれもまだ能力の一部であり、他の能力はまだ不明。
残り5つも彼女は手を隠し持っている。
今は見当たらない攻撃用のスキルを持っているはずだ。



――――それらの情報を解析する度、石蕗七草の“眼”の“色”が変わる。



まるで“変幻(プリズム)”ね、と相対するネロは考えた。

僅かな沈黙が空間を支配する。
そして情報分析を含めた約一秒の思案の後、七草はセイバーに合図を送る。


「頼んだ、セイバー」

「ああ、アーチャーはオレに任せな」


マスターに頼られることが嬉しいといわんばかりに笑顔を浮かべて、セイバーは駆けた。

大円を弾丸の如く、貫く。
踏み出した足は400m強の直線距離を、瞬く間に走破する。
 


同時にアーチャーはセイバー目掛け、引いたままの弦を離した。


「―――通しません」


――――致死の一撃が放たれる。極超音速の牙を剥く鉄塊。


だが、これで二度目の戦い。
それに以前の戦闘で瀑布の如き洗礼を受けたのだ。もう弾くコツは掴めた。


今はこちらが攻め込む番。
昨晩のように迎撃のために、その場で足を止めるような真似はしない。
止めてしまえばそのまま釘付けにさせ、昨日の二の舞になってしまう。

おそらくこの距離であれば、あれほどの巨弓で矢を放てるは一度が限界。
だから前に進んだまま、あの鉄矢を弾く――――!


鉄矢は重量600kg。剣以外の部位で触れてしまえば即死。
しかし無問題。この、日ノ本ノ国最強の英雄を舐めるな―――!


「ぐぅううう――――!」


不可視の『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』に掛かる超重量。
この場で踏み止まらなければ、体を後ろへ持っていかれそうな圧力。

しかしセイバーは逆に足を前へ踏み出し、そのまま剣を横へ薙ぎ払った。


時間にして一秒にも満たぬ攻防。
けれど少年にとってその時間はまるで水飴の様に引き伸ばされて目に映った。

そして――――



そして――――



「うぉ、おおぉぉぉぉおおおおらあああああ――――!!」



――――矢の進行軸が強引に捻じ曲げられる。


あらぬ方向に吹き飛ぶ重量600kgの鉄塊。
弾いた勢いでセイバーは大きく前身を倒し、さらに先へ進む。
再装填の時間は与えない。次など撃たせるものか。これで、殺す。


彼は瞬く間に、残り300mの距離を詰めた。
もはやこの距離では矢は使えない。
白兵戦になれば圧倒的にセイバーが優位に立てる。

勢いに任せ、そのまま刀身を隠蔽した草薙剣でアーチャーへと切りかかる。


――――ガキン、と重い金属音が展望台に響く。

 



「んだよ、これ………かてぇっ」

「―――くっ」


不可視の剣とぶつかり合う、巨砲の如きアーチャーの赤弓。
異常なまでの硬さと重量の感触がセイバーの腕に響く。

あれほどの重量の矢を放っていたのだ。
ただの大弓ではないだろうと考えていたが、ここまで硬くて重いなど予想外である。



Aランク対人宝具『万斤丹弓』――――その総重量は矢の10倍、およそ6トン。



重量だけでサーヴァントを圧殺することも不可能ではない。

まったくの規格外品。だがそれも当然だ。
そもそもこれは人ではなく、幻想種を射殺すために神々が鋳造した弓なのだから。


――――故に、扱えるのは弓の神と謳われた羿(ゲイ)唯一人。


だが如何に規格外の代物で規格外の大英雄とはいえ、相手が悪すぎた。

相手は最優のクラス、セイバー。
それも日ノ本ノ国最強の英雄、ヤマトタケルノミコト。
筋力A敏捷Aの猛攻を止めることができる英雄など、滅多にいない。


晩秋の夜空に響き渡る金属音。
だがそれら全てが一方的にアーチャーを攻めるセイバーの剣戟の音(ね)だ。


そして如何に超重量の弓と怪力無比の射手とはいえ、
その連戟に耐えられるものではなく――――


「そこだな、アーチャー」


――――防御が破られた。


剣が弓のバランスを崩し、アーチャーの体勢が前のめりになる。
射手の肩はがくと落ち、頭の位置が下がる。

それも、ちょうど防御を崩した剣の返しで斬り落とせる位置。


「――――もらったぜ、優男」


にぃっ、とセイバーは邪悪に口元を吊り上げる。
剣はそのままアーチャーの首を狩りに――――




「――――まちなさい。何、あたしの許可無く戦いをはじめてるわけ?」



たん、と少女は足を踏み鳴らす。



――――直後、セイバーの全身を押し潰す、見えざる超重量が圧し掛かる。



「おごあっ!? なんだよこれ!? オレの対魔力をブチ抜いてくんのかよ!!」


真上から叩き付けられる重力効果。大気が物理的な重さとなり、彼に襲い掛かる。

セイバーに対魔力があることを見越した上での術式ということか。
そしてそれはセイバーの筋力と敏捷が低下させるには十分すぎるほどの効果を発揮した。


特に致命的な敏捷の差が埋まったことは大きい。
相変わらず弓を使うための距離を取ることは難しいが、
今のセイバーのステータスであれば、アーチャーの実力でも十分に殴殺可能だ。
 



「これでたたかえるでしょ、アーカス。はやく始末して」

「なるべく早急に致します」


少女の命令にアーチャーは片腕で、改めて自身の武器(エモノ)を持ち上げた。



『万斤丹弓』――――総重量6トンに及ぶ、巨大な赤弓。



――――それは弓でありながら、セイバーを優に殴殺出来る鉄塊であった。



ガン!、と叩き付けられる6トンの大重量がA+ランクの筋力で振り下ろされる。
強化された大気の重量で、大きく筋力が低下したセイバーには重すぎる負担。
 




…………だが、彼は膝をつかない。



「ぐごごごご! 舐めんなよ、こん野郎―――!!」



ギン!、と火花を散らし、重圧に耐えながらセイバーはアーチャーの強弓を押し返す。
だがアーチャーは弾き飛ばされた赤弓を、片手で軽々と振り回し再びセイバーへと叩き付けた。


それでも、なんとか戦闘は互角のまま進められていた。
やはり基礎的な白兵戦の実力差は大きいらしい。

単純に力で圧し潰そうとするアーチャーに対し、
セイバーは小技を絡め低下したステータス分の動きを埋めていく。
最優のクラスも、日本最強の名も決してただの飾りではないということだ。
 


けれど七草もずっとセイバーの様子を見ていることはできない。


何故なら――――



「ぜつぼうしなさい。あなたがダレにけんかを売ったのか、
 あたしがそのカラダにきっちり教え込んであげる」



―――少女の足元に大輪の華が咲く。



半径500mの大魔法円の内側に、さらに光が花開く。
巡る『円環』。回転する魔法円。闇に輝くその色は、紫味を帯びた緋。

同時に、彼女の背後で収束する魔力の気配。
色は魔法円と同じく、紫がかった緋色。


何は来るか分からない。
だが、七草は何が来てもいいように構える。



…………ちかり、と闇が大きく瞬いた。



そして――――




「――――【十の支配の冠/七の丘(ドミナ・コロナム・ウィミナリス)】」



――――莫大な魔力を束ねた光線が、七草を薙ぎ払った。



【十の支配の冠/七の丘(ドミナ・コロナム・ウィミナリス)】


ネロス・ベーティアの有する『獣』の魔術―――【十の支配の王冠】。

その第七の首が持つ、神罰再現の能力。
本来は対魔力すら意に介さない神霊の“権能”である。
だが時代が下り劣化した神秘は、精霊域の攻撃魔術にまで落ちぶれてしまっていた。


それでもただの人間にしてみれば死を免れぬ威力には変わりない。
サーヴァントのスキルにして、Bランク相当の攻撃魔術。
大抵の建物であれば、一発薙ぎ払えば半壊以上の状態に持ち込める。

無論、人間など直撃せずとも塵芥。
サーヴァントであっても対魔力を持たず耐久も低ランクであれば、十分損傷を与えられる威力だ。


戦闘は一瞬で終了し、周囲は沈黙する。
ネロは風に靡く黒髪を梳く。これが当然の結果というように。




――――だが直後、噴煙を突き破って、白い影が躍り出る。



セイバーのマスターだ。
身に纏う和服にこそ損傷は残っているが、本体にはまったくダメージは通っていないようだ。

裂けた胸元から零れる黄金細工のネックレス。
それに付与されたのは現代の魔術師から見れば高位の代物。


「………ソレって」

「対魔力のアミュレット―――キャスターのお手製だよ」


対アーチャー用の礼装の矢除けの護符と共に、
キャスターの道具作成スキルで作り出した対魔力のアミュレット。
一つで対魔力D程度の防御力が得られる。


それを複数個繋げたネックレス。それらの総合対魔力はBランクやや強。
あれがある限り“七の丘(ウィミナリス)”でも傷をつけられまい。

それなりの下準備はしてきた、ということか。
まあ、そうでなくてはネロとしても面白くも無い。
 



「そう、なら――――」


たん、と少女は足元の魔法円を踏みつける。
反応するように
魔法円の色が変わる―――紫ではなく、今度は赤味の強い緋色。


突如として、その場の空気が変わった。

湧き上がった生温いナニカの臭いを孕んだ風が、晩秋の夜を穢す。
少女を中心にその周囲から盛り上がる黒のシルエット。
闇の中で、非常に高い粘度のナニカを掻き混ぜる音が響く。

そして魔法円の輝きに照らし出され、ソレは正体を顕した。



肉の山――――異界“肉泥の海”より引き上げられた、獣の胎卵たる原初のスープ。



少女を取り囲むように魔法円から湧き上がったのは、
生命なき液状化した脂質と蛋白質の集合混合体。
それがうねりながらその身を引き締め、忽ち、天に伸びる肉の幹へと姿を変える。
 


思わず目を見開く七草。
そんな彼の様子に少女は嬉しそうな笑みを浮かべる。



「――――次はひき潰してあげる♪」



完成したのは、触手というよりはもはや大木。
続けて間入れず、大樹が大地を蹂躙する。肉の丸太が横に薙ぎ払う。


【十の支配の冠/三の丘(ドミナ・コロナム・アウェンティヌス)】。


第三の首の権能―――『獣』をカタチづくる“肉泥の海”の一部を召喚する能力。


意志なき肉塊を喚び出し、自在に操作、使役し物理的影響を及ぼす
―――――“七の丘”が持つ魔術攻撃とは対を成す物理攻撃スキルである。

筋力Cランクに相当する単純破壊力。
直撃すれば華奢な七草の体など、容易に消し飛ぶ。
否、掠っただけでも卸すように人体の半分を削ぎ落とすであろう。
 



――――当然、対魔力では防ぎようのない一撃。


だがそれを七草はいとも簡単によけ切った。
半身を限界まで捻って跳び、薙ぎ払う触手の一撃目を回避する。


軽快な動き。単純な魔力による身体強化だけではない。

人間として限界まで拡張された身体機能。
全ての達人の最大値のみを採った天性の運動性能。


――――始めから、全能力が完成された肉体。


人間が出来ることであれば、即ちそれは七草が出来るということ。
それが石蕗 七草(ツワブキ ナナクサ)の肉体が秘めた脅威の性質である。


そして彼はその身体能力を存分に生かし、接地した触手の上に瞬く間に足を乗せた。

そのまま、触手を足場に七草は駆け上がる。
丸太ほどの太さ。十分、移動用の足場にできる。


………頭上から影が覆い被さる。
足場と同じく、大木ほどの太さを持つ肉の触手。

一方足場も激しく波打ち、七草のバランスを奪う。
それとほぼ同時に頭の上の大木が振り下ろされた。


轟音と共に、大地に叩き付けられる肉塊。
少女を司令塔とした見事な連係プレイ。

1秒にも満たぬ早業。
自分の身に起こったこともわからず死んでいてもおかしくないほど。



――――だが緋色に輝く少女の瞳は、既に天に向けられていた。

 



――――晩秋の夜風に、薄の穂が靡く。


有り得ない跳躍。速さも、高さも。
そのまま彼は、とん、と少女の前に着地する。
着地の衝撃や硬直など、まったく無い自然体で彼は足を地に着けた。


――――在り得ない、とでも言うように緋色の瞳が大きく見開かれる。


その瞳には、既に次の攻撃動作へと移った青年の姿が映し出されていた。


防御行動すら出来ない少女へ使用するのは右拳。

少女の首など容易く殴り飛ばす剛拳。
最短の軌道を最速で描くが故、初見では対応もまま成らぬ殺戮の一撃。


――――もはや防御は間に合わない。触手も先ほどの魔術も。


行ける、殺れる。
行った、殺った。

死んだ。



「――――」

「ふふっ♪」


…………拳は、少女に殺せなかった。


初めて青年が見せた驚愕の表情。
対照的に少女は勝者の笑みを浮かべる。


その場に何事も無く直立する少女の身体と、少女に触れたまま拳が静止した青年の体。

力学的にも不自然な止まり方。この柔らかい少女の肢体の正体が、
大地に根を張る大樹でも無い限り、こんな決着の仕方はありえない。


――――けれど事実、七草の拳は『獣』の少女の命を奪うことはできなかった。


そして、その決定的な隙を逃す少女ではない。
がら空きになった胸にブーツを履いた足で、鋭い蹴りが叩き込まれる。



「――――っ!」


肺の中の息が全部吐き出される。
少女の肢体から繰り出されたとは思えない暴力。

華奢とはいえ、彼女より大きく重いはずの七草の肉体が数メートルほど軽く飛ばされた。


接地、そのまま転がる。
追撃の触手が一瞬前の着地地点を叩き潰す。

それを2転、3転繰り返させられる。
ようやく追撃が止んだ頃、七草はゆっくりと顔を上げた。


先ほどよりも増えた、触手の群れ。
そしてこちらを俯瞰する、緋色の瞳。

殺し合う“敵”という先ほどまでの近さはもはや無く、
少女は“神”の如き絶対的に高みから、大地に膝を付く七草を見下ろしていた。
 



「ムダよ。あなたはあたしに触れることもできない」

「あなたはここで負けるの。このネロス・ベーティアに、無様に敗北するのよ」



――――少女の言葉と同時に、七草の“眼”は絶望的な情報を描き上げる。



【十の支配の冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリウム)】


第一の首の権能。能力は『敵対干渉の否定』。


――――要は、敵の攻撃を最初から「なかったこと」にするスキル。


硬い肉体のキャスターとは根本的に異なる、
因果律レベルで敵からの攻撃を否定する絶対防御である。
人間の身である七草には、それを突破する術はないし、在り得ない。


だが、彼女のものは権能の再現魔術に過ぎない。
完全無効の権限対象は、あくまで精霊未満の存在からの干渉に限定される。
よって、精霊の域にあるサーヴァントや英霊の武装に対しては多少の軽減に留まる。


けれどそんな武装、七草は持ち合わせていない。
キャスターが作ってくれた護符がせいぜい。


だから今出来るもので考える。
この場にある精霊域の存在。真っ先に思い浮かぶのはセイバー。

駄目だ。ステータスが低下している今の彼では、
あの怪力無比のアーチャーと打ち合うことで精一杯。
セイバーの手は借りられない。



―――――ならば、敵の攻撃を利用する。



【十の支配の王冠】は全て精霊の域にある魔術。
故に、彼女の攻撃はあの“一の丘(カピトリウム)”の絶対防御を貫通するはずだ。


幸い、方法ならある。
キャスターが用意した対アーチャー用の武装。
矢よけの護符。一度のみ飛び道具を反射するアミュレット。

あれを使えば、おそらく“七の丘”の光線を曲げることが出来るはずだ。
でも自分が魔除けのアミュレットを持っている限り、あの少女はその手段を使ってこないだろう。


使わせるなら、破棄させるしかない。
しかし、ただ捨てるだけでは確実に怪しまれる。
アミュレットは少女の攻撃で巻き込まれたように落とすほかない。



…………行ける? 失敗すれば、死ぬよ?



否、心配無用。
あの触手の動きは既に“視”た。少女の動きも“覚えて”いる。
確実に、魔よけのアミュレットだけを持って行かせる自信がある。



…………よし、それならやろうか。

 


―――蹂躙する、蹂躙する、蹂躙する。
右、3本、左、5本。計8本の肉の巨木。

当然、速度はサーヴァントには及ばない。
だがそれでも鉄を貫き、防壁を砕き、人間を容易に引き裂くには
十分すぎるほどの重量と速度を持ち合わせている。


振り下ろされる触手の連撃。
さながら絨毯爆撃の如く足元のコンクリートを破壊していく。

それを紙一重で潜り抜け、あるいは跳躍し、あるいは側転し、
あるいは足場として利用することで、青年は回避し続ける。


だが、徐々に青年は傷つき始める。
和服の袖や裾が掠める触手の表面に切り裂かれる。
中には布を貫通し、下の皮一枚に赤い裂き傷まで至ったものもある。

そもそもいくら人間として完成した天性の運動性能を持っていようと、
ネロの触手を無傷で避け続けるなど始めから不可能なことなのだ。


逆転の芽を見出せないまま、肉幹の暴力を前に少しずつ傷を増やしていく青年。
そして触手の一撃が、ついに彼の胸元を一閃する。


持っていかれたのは服一枚。
だが初めて青年は、焦りの表情を浮かべた。


「くそ――――っ」


彼の胸元から零れる黄金の輝き。
その正体はキャスターが作っていたと言っていた対魔力のアミュレット。

“七の丘”を封じている黄金造りの護符とそれを繋ぎ止めるネックレスが、
触手が引き裂いた隙間から服の外へ零れ出たのだ。


――――その一瞬を見逃すネロではない。


姿勢を低くし、駆ける。
狙いは宙に浮いたアミュレットを固定するネックレス。

ブーツの爪先でそれを蹴り千切る。
驚き目を見開く青年。その首から、するりと流れるようにアミュレットが滑り落ちる。
 



「――――しまっ」

「これで、おわり」


――――少女の足が地面に落ちたアミュレットを粉々に踏み砕いた。


これで青年の対魔力は大きく低下した。
もう彼の身を護る魔術防御は存在しない。後は“七の丘”で終わる。

それでもここまでネロを手こずらせた相手は初めてだ。
ワイズマンでさえ、少女の【十の支配の王冠】には早々に白旗を揚げた。

だから、少しだけ感激した。


でも、それもここまで。
ネロは再度、足元に咲いた華を踏みつける。
魔法円は再び赤から紫味を帯びた緋色へ――――“七の丘”を起動する。



「――――それじゃあ、ばいばい。案外たのしかったわ。そのおれいは言っておくから」



彼女の背後で、紫の光が煌く。
 




――――来る。


発射のタイミング、光線の範囲――――全部把握している。


けれど本当に行けるのか?
今ならまだ令呪で撤退も出来なくない。
逃げるならここしかない。


―――いや、大丈夫だ。出来る。

一度“視”た攻撃だから、問題なく対応できる。
視たのだから、理解したのだから、覚えたのだから。

逃げる必要は、無い。




―――――【物見稽古】。



それが石蕗七草の持つ異能の名。
一目視界に入れるだけであらゆる理論を解析し、自らの中に組み込むスキル。

敵の能力を自らの元として会得してしまう天性の才能。
だからこれまでネロと名乗った少女が見せた、
全ての魔術を自らのことのように理解している。



――――だから、失敗するわけがない。



放たれる閃光。
美しい紫煙の緋色(ルビウム)。まるで闇に咲く宝石のよう。
けれどそれは一瞬の後には全身を分解するだろう死の一撃だ。

死の瞬きは、七草の視界いっぱいまで拡大する。
“眼”は閉じない。大きく“視(み)”開いて、結末を最期まで見届ける。

そして―――――




「――――そこだね」



七草は悠然とそれに対し、手に握り締めた矢よけの護符を計算した角度から叩き付けた。



――――ぱきん、と手の中で何かが弾けて光った。

 




――歪曲する、閃光(ビーム)。
強制的に捻じ曲げられたソレは、少女の肩を掠めた。


「――――ウソ」


さくりと左肩の横に赤い線が入る。
そこまで深くはない。それでも確実に痛みは残すだろう、傷。
ネロは呆然としたような表情で、その傷口を触る。

間違いなく、彼女が初めて受けただろう一撃だ。


一方で七草は、しまった、と奥歯を噛む。
やはり、無理があった。

彼女の魔術を解析できたところで、
肝心の護符の対応角度は推測にしか過ぎなかった。


反射する位置が高かった。失敗だ。
それに仕留められなかった上、魔術にぶつけたせいか
それとも元々一度きりのものだったのか、護符は粉々に砕けてしまった。

現状、これ以上手段は無い。
やはりここが引く潮時か――――



「申し訳ございません、主。これ以上は――――」


七草とネロの間に広がる沈黙を破ったのはアーチャーの声。

セイバーとの激戦の痕跡か。自慢の丹弓には数千に渡る細かな傷が付いていた。
そればかりでない、内臓にまで届く深い傷が三太刀。
皮膚を裂き肉を見せる傷が十数。皮膚を切り裂いた傷は数百単位。


一方、セイバーも一応血を流してたいるがはあるが、
その数も深さもアーチャーには及ばない。十分に戦闘の続行が可能なレベルだ。
やはり幾らステータスが低下しようと、アーチャーではセイバーの相手にはならなかった。


ぎりっ、と俯いた少女が奥歯を鳴らす音が聞こえた。
右手で左肩を押さえながら、握られた左拳が悔しげに震えていた。
 




「頃合ね、てったいするわ――――アーカス」



緋色の瞳が、七草を捉える。
『暴君』が、『獣』が――――初めて『敵意』を見せた。



「おぼえておきなさい、グラディウスのドミナス。この借り、ゼッタイかえしてあげるから」



――敵対宣言、宣戦布告。
怒りと悔しさと、そして幾許の悦びを含んだ声。

ようやく本気を出せる相手を見つけた嬉しさからか、
それとも、強者を捻じ伏せる機会を得た嗜虐的な歓喜からか。
とにかく少女は新しい玩具を見つけたように笑みを浮かべ、令呪を切った。


少女の右手の甲が赤い輝きを放つ。
同時に大弓を霊体化させ、身軽になった弓兵が速やかに彼女の背後まで退却する。


そして―――――


「チッ―――逃げやがったか。あんの弓兵め」


昨夜七草たちも使った、令呪による空間跳躍。
アーチャーとそのマスターの少女はその場から完全にその気配を消失させた。

残されたのはセイバーと七草と、そして激しい戦闘の跡だけ。
大地を覆っていた緋色の大魔法円も、残滓を残さず消え去っていた。


「クソッ、アレさえなきゃちゃんとアイツの首を狩れてたのに!」


“二の丘”の環境改竄により大気に重量を与えられ、
散々な目にあったセイバーが怒りの声を上げ、地団太を踏む。



でもセイバーが喰らってくれたおかげで、七草にあれを使われずに済んだといっても過言ではない。

より強力かつ難易度の高い改竄となると人一人分が限度とはいえ、
セイバーがいなければ真っ先に叩き付けられていたのは七草の方だっただろう。


いずれ、別途に対策を練る必要がある。


それにしても見事な退却だった。
令呪で逃げられてしまえば、合気持ちのセイバーでも追跡のしようが無い。


しかし七草とてこのまま逃がすつもりは無い。
少なくとも拠点ぐらいは把握しておきたいところ。

術の英霊であるキャスターと、管理者(セカンドオーナー)たるそのマスターであれば追跡が可能。
早速、彼らに助力を仰ごうと彼は連絡用にと渡された使い魔を呼び出す。


だが――――




『…………すまない。これ以上の作戦は不可能だ。
 キャスターが重傷を負わされた。令呪でなんとか撤退は出来たが――――』


「………相手は?」


『――――バーサーカー。それも君のセイバー以上の、怪物だ』



――――使い魔の向こうで、女は絶望を吐き出すように、襲撃者の名を告げた。


 

ここまで
作者スレへの誤爆スマン


石蕗の願いはChapter3中に書くとか行ってたけどスペース無かった
また機会があれば

ちなみにここまでの令呪は
セイバー、アーチャー、キャスターが1画ずつ使用


結果的には引き分けかな?
七草の絶技も、ネロの能力もすごいな
ネロの身体能力は魔術によるもの?それとも起源覚醒によるものだっけ?


誤字だと思ったら既視感を覚えたあと大雑把に思い出した

乙、いやー看取り貴方と暴君貴女との戦いが厚いですねー今回の参加マスターの中では上位入るマスター同士の対決
じゃないですかこれ、


一歩間違えれば終わりなギリギリの戦いはやはりいい
後マスターもサーヴァントも怪物だらけで槍陣営がどう戦っていくのか個人的に楽しみです

こんな深夜までありがとなみんな


>>191
うんそうかね
サーヴァント同士は一勝一敗、マスター同士は勝負付いてないし

身体能力は魔術+起源覚醒って感じかね
26代目暴君少女で言う【天才】と【加虐体質】によるもの

メタ的に言えば元ネタの影響

>>192
おうどのへんや

>>193
まあ上位やな
この前まで、A.A.とかいう最上級の化けもんがいたけど
ただ七草はキャスターの補助が無ければ最初の桜ビームで死んでたね

>>194
わりと機転で切り抜けさせる陣営にする予定
ほら安藤兄貴みたいなあのポジ

十の支配の王冠(礼装)
 ドミナ・コロナム。赤き獣が持つ領土支配権。
 名前に『十の支配』と付いておきながら、実は各々の首が持つ支配権のため七種類しかない。
 作中においては最強のマスター、ネロが使用する魔術礼装として登場する。

 能力はマスターレベルの戦闘であるならとにかく反則の一言。
 また精霊の域の魔術(本来は神霊レベルの権能)であるため、サーヴァントに対してもある程度有効。

○十の支配の冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリウム)
  敵の攻撃を「なかったこと」にする権能。ネロの強さの中心を担う最強のスキル。
  ゲーム的には被ダメージを0にするチート。
  ただし攻撃無効の権限は精霊未満の存在からの干渉に限定されるため、
  サーヴァントや英霊の武装に対しては多少の軽減に留まる。

○十の支配の冠/二の丘(ドミナ・コロナム・パラティウム)
  領土の環境を改造する権能。環境操作能力。
  主に対象の筋力、敏捷パラメータを低下させる圧力効果として使われる。

○十の支配の冠/三の丘(ドミナ・コロナム・アウェンティヌス)
  “肉泥の海”の一部を喚び出す権能。
  単純に言えば愛歌お姉ちゃん触手操作みたいな能力。
  【七の丘(ウィミナリス)】の魔術攻撃と対を成す物理攻撃スキル。
  だいたいサーヴァント換算で筋力C相当の物理攻撃力を誇る。

○十の支配の冠/四の丘(ドミナ・コロナム・エスクイリヌス)
  「首」の権能。ネロの切り札。
    
○十の支配の冠/五の丘(ドミナ・コロナム・カエリウス)
  支配領土より魔力を蒐集する権能。
  ゲーム的には使用可能な魔力ランクを一時的に増幅させる。
  単体では大した意味は無いが、他のスキルを強化する能力のため危険に変わりは無い。

○十の支配の冠/六の丘(ドミナ・コロナム・クイリナリス)
  領土を監視・管理する権能。領域専用の情報収集スキル。
  領土内で起こる物理的、魔術的、概念的な事象やその変化をリアルタイムで把握する。
  また領土は支配者であるネロに対し、「黙秘」は許されず「虚偽」の情報を送信できない。
  このため領域内での気配遮断やステルス能力の類は完全に無効化される。
  ただしその場の“気”そのものを書き換える「圏境」のようなスキルには非対応。

○十の支配の冠/七の丘(ドミナ・コロナム・ウィミナリス)
  神罰再現の権能。ネロの場合精霊域の攻撃魔術に劣化している。
  高密度の魔力塊を光線状に束ね、敵に発射する。要はビームぶっぱ。
  およそBランク相当の魔術攻撃。対魔力で軽減可能。

本編では1,2,3,6,7を使用
また1,5,7はCCCでBBが使ったもの

まあこんな感じです
おやすみなさい

≪────Interlude────≫



翌日、朝。陸上側、護岸地帯にて。
無骨なコンクリートで塗り固められた港に聳える教会
――――に偽装した、聖杯戦争の為臨時で設営された時計塔の支部である。

元々廃聖堂だったものを聖堂教会から買い取り、聖杯戦争用に改築したのだ。
長年潮風に当てられていたためか、外壁は黒く変色し、塔の十字架は錆付き果て、
神のお膝元としての威厳など最早何処にも見当たらない。

聖堂教会を離れ、魔導の手に堕ちた拠点としては相応しい姿といえよう。


その廃教会の中。
修復されたステンドグラスから差し込む彩りを背に、
祭壇前に起立する白のシルクハットを被り、白のスーツを纏った、白い手袋を填めた男。
加えて、本来は信者たちのために用意された長椅子には、この場には彼が召集した4つの気配が存在していた。


「ヒィ、フゥ、ミィ、ヨォ………これで皆様オ集まりニなられマシタネ。
 宜シイでショウ。今回のバーサーカーに関すル緊急収集。それニついて詳しくゴ説明致しマス」

「何かご質問ガ御座いマシタラ、適宜お答え致しマスヨ。
 但シ、人語で発音できるカタからのモノニ限らせて頂きマスガ………」

『質問をいいか? ワイズマンでなく、この場の全員にだが………』


聖堂に響いたのは女の声。
だが、声の主は長椅子の背に止まった黒羽の烏。


声の正体は銀髪の若い女。
キャスターのマスター、この地の管理者(セカンドオーナー)だ。
人語を介すこの烏は、以前セイバーのマスターとの連絡に使用した梟と同様、
相互通信機能を備えた使い魔である。


そんな彼女が疑問を投げかけたのは監督役であるワイズマンではなく、他のマスター達に対するものだ。
だが他のマスターが彼女と同様、人語を話せる使い魔を用意しているとは決して限らない。


「どうかした?」

「何?」

「どないしたんや?」


………が、そもそもそれ以外の問題であった。



『私以外何故誰一人として使い魔を使っていない!?』



そう、この場にいる使い魔は一匹だけ。




――――残りは全て、ヒト、であった。



それぞれの長椅子に腰掛ける三つの人影。

一人称「僕」。白髪和装の青年。薄の枯れ尾花の如き若人。
セイバーのマスター、石蕗七草(ツワブキ ナナクサ)。

一人称「あたし」。黒のカーディガンと緋色のフリルワンピースを着た黒髪黒瞳の少女。
アーチャーのマスター、『暴君(ティラヌス)』ネロス・ベーティア。


――――そして聖堂教会第八秘蹟会より派遣された、ライダーのマスターである。


左右二つに分けたダークパープルの髪をそれぞれ三つ編みで束ね、
ルビー色の宝球の髪飾りで止めた、見た目幼い少女。
アクセントをつけるように髪の間から小さく覗く白い双角。
瞳の色は髪と同じ深く暗い紫。

身に着ける服はカソックの僧衣ではなく、煽情を誘う露出の多い衣装。
見た限りそれは絹(シルク)というより、蜘蛛の長毛の質感に近いだろう。

そんな蠱惑的な娘の一人称は、なんと「ウチ」。
何処で習えばそんな風になるのか、非常に残念な似非関西弁で喋るのだ。


まあ、それはいいとして………



「だって僕、魔術師じゃないから」

「ウチもやな」

「引き篭もるなんてあたしがそんな臆病モノみたいなまねするわけないでしょ!」

『…………あ、うん。すまない、私が悪かった』


二人は魔術師でない、というのはまだ分かる理由だ。
けれど何故か最後は怒られた。理不尽である。

よく考えれば一方的に相手の情報が得られるのは嬉しいアドヴァンテージのはずだ。
しかしなんだろう、この微妙に負けたような気分がするのは。


「じゃあ僕からも。ワイズマン、集まるのはバーサーカー除いて六人じゃないのかい?」


次の質問は七草から監督役へのもの。
この場にいる各マスターの元に届けられた文言の内容は、バーサーカーに関する緊急召集の発令。


召喚されたサーヴァントは全七騎。
この場にはバーサーカーを除いた六人のマスターが集まっていなければならない。
しかしワイズマンが集合を確認したマスターのは四人のみ。

この場にランサー、アサシンのマスターが不在なのだ。



「ランサーのマスターは聖杯戦争の説明ガ一から必要だと思われマスので、この後時間ヲずらシテお伝え致シマス。
 後アサシンの方ハとっくに脱落シマシタよ。ホラ、この通り霊器盤の反応モ消失済みデス」

『何……っ!? もう、脱落した………だとっ!?』


ひょい、とワイズマンが全員に見せたのは六種の光点が灯る霊器盤。

現界するサーヴァントの数、クラスを把握するために監督役が保有する聖杯戦争専用の魔導器である。
クラス以外のサーヴァントの情報、マスターの情報や位置情報は伝わらないため、開示は問題ないと判断したのだろう。


霊器盤上には、確かにアサシンを示す光は既に黒く消えていた。

しかし、マスター殺しのクラスが敗退したというのはありがたい。
少なくとも、他のマスターとの正面決着を望む七草にとってはそうだ。

けれど今はアサシンではなく、バーサーカーに関しての話である。


「そんでや、監督はん。結局なんでウチら召集されたんや? バーサーカーが問題起こしたっちゅうはなしやけど」

「マア、とりあえズこれヲ見て下サイ」


ライダーのマスターの質問に、ワイズマンは指を鳴らして答える。
途端、暗幕を降ろされたように外界の光が遮断され、同時に室内の電気も落とされる。
一瞬にして光差す廃教会は、夜よりも黒い暗室へと変貌する。


そして―――――




「■■■■■■――――!!!!」



――――咆哮。



聞く者の心臓を貫く、理性無き狂戦士の雄叫び。
だが、それは本物ではない。

カタカタと廻る古めかしい映写機が、ワイズマンの背後の祭壇に映し出した映像の音声だ。

映写機が映し出す映像は、その外見に似合わぬほど鮮明。
魔術師の道具であるその装置は外見だけ映写機の姿を取った、まったく別のシロモノと言い切っていいだろう。
いや。今は機械よりもそれが映し出す映像の方が重要だ――――。


祭壇に映し出されたものは、深夜の交差点。
キャスターが結界を張った場所から数十メートルも離れた程度の場所だ。

深夜のためか、まばらではあるが人通りもあり、車道には自動車が走っている。

至って変わることの無い日常の風景――――



――――そこへ突如として姿を見せた、漆黒の暴力。



教会にいたマスターたちの眼には、それがナニカ分からなかった。

ただ黒い、ということだけ識別することが出来た。
それほどまでの速さを、その破壊者(サーヴァント)は備えていたのだ。


通行人が衝撃波に捲かれ、一瞬にして血塵に帰す。
自動車が粉砕され、破片が突然のことに立ち止まった人の頭を抉り取る。
薙ぎ倒された街路樹と電信柱が速やかに車の運転席を叩き潰す。

寸断された電線が溢す放電が、漏れ出したガソリンに引火する。
閃光、爆発、衝撃、轟音―――。


――――悲鳴をあげる者、呆然と立ち続ける者、脅えたまま膝を突く者。


それら全てを平等に、黒き暴力は殺戮す。



――――蹂躙、破壊、破壊、破壊。



画面の上下左右手前奥と、漆黒が赤い残光の筋を残しながら無尽に駆け抜ける。



――――そして約二分半の殺戮の末、疾風は漸く、脚を止めた。


赤の外套を翻す、漆黒の騎士。
枯れた金髪。鮮血の輝きを帯びた眼。顔半分を覆う鋼鉄のマスク。
腰に下げられた二振りの剣。装飾はよく見えない。



手に握られていた獲物は黒き魔力に染まった――――



――――そこで、不意に映像が途切れた。


同時に明かりが戻る。
けれどもその場にいたマスターの表情はどれも誰も、暗転する前と比較して明らかに険しくなっていた。


「確かに、狂ってるよ」

「――――ふざけてる」

「………なんや、これ」

『まさか、こんなことになってるとはな』

「昨晩バーサーカーはキャスターに勝利後、そのママ隠蔽工作の為派遣された全魔術師ヲ殺害。
 あまつサエ、結界ヲ破壊し、その後このようニ市街での虐殺ヘ移行しまシタ……当然隠蔽工作ナドせずニ」


余りにも魔術師の常識を逸脱した犯行。
其れ故、今回の件に関して魔術協会は完全な抹消を行った。
ニュースにさえ、ならなかったわけだ。


けれど、重要なのはそこではない。

映像に映った死者は、確認できただけでも30人強。
優に五十人に届くだろう。

だが、皆殺しにしたわけではない。
あのような状況でも、生き残った者がいる。
彼の漆黒の騎士を眼に焼き付けたものがいる――――。


だからこそ――――


『――――これは完全に監督側への宣戦布告だな』

「エエ、そうでショウ。魔術協会としテモこれは看過できマセン。よって監督側はバーサーカー陣営に対し、
 討伐令ヲ発令。参加者の皆様にハ対象陣営討伐まデ、他陣営同士の戦闘の一切ヲ禁止シマス。
 この禁ヲ破った者に対シテは、監督側ヨリ重度、マタは致命的なペナルティを科スものと致シマス」

『なっ!?』

「んなアホな!」

「へぇ」


驚きの声を上げたのは管理者と秘蹟会の二名。
関心の声を漏らしたのは七草。
後の一名は声を出せなかった、あるいは声を出さなかった。


討伐令ならまだいい。
だが休戦ではなく、一切の戦闘行為の禁止。それも重度の罰則付きでだ。


「討伐令撤回後も一定期間の交戦禁止、もしくハ令呪の削減とイッタ方法ヲ執らセて頂きマス。
 モチロン、貴方方ノ動向ハ魔術協会の方で監視シテおりますノデ、戦闘行為ハ全て記録してイマス」

「そげな無茶苦茶な話あるかいな! そもそもや! 
 たかが人間如き、サーヴァントに何が出来るって言………っ」


そこで少女は言葉を止めてしまった。

ワイズマンが白スーツの袖を捲って見せた右腕を見てしまったからだ。
そこにあったものは、ずらりと並んだ六画の令呪と一画の痕跡。
そしてそのどれもがこの場のマスター達が見たこともある意匠を備えていた。


――そう。それは間違いなく、己が右手に刻まれた令呪と同じ形。
同時にこの場の全マスターがワイズマンの言葉の意味を理解した。

つまり監督役から一度だけであるが、直接サーヴァントに干渉可能だということだ。
確かに令呪一画で相殺可能ではあるが、それは逆に令呪一画を無意味に失うということである。
そうなれば当然、戦況は自陣営の不利へ傾くことになる。



「――――む、無茶苦茶やないか! 予備令呪なんてそげなモン!」

「何ヲおっしゃいマスか。監督役である魔術協会ニ非協力的な態度ヲ取るのデシタラ、
 バーサーカーと同様、聖杯戦争ヲ破綻させる可能性ヲ有する潜在的危険ト解釈されても仕方がナイでショウ?」


ライダーのマスターの怒声に対して、ワイズマンの返答は明らかに嘲りを含んだものだった。
だが同じく驚きの声を上げた管理者は、
少女とは対照的に諦めたのか、使い魔越しにため息を溢す。

魔術師である彼女にとって魔術協会には絶対的な存在だ。
例えサーヴァントを連れていたところでそれに反旗を翻すなど、到底出来ることではない。


それに昨晩重傷を負ったキャスターのこともある。
冷静に考えればこの休戦期間はキャスター陣営にとっても、安心して過ごせる期間でもあるのだ。

同様に七草も、やれやれ、と肩を落とす。


「まあ、仕方は無いだろうね。僕達にはこれで終わりになるかも知れないけど、
 聖杯戦争実用化を目指す君達にとってはこれから始まるわけだし」


そうだ。この聖杯戦争は時計塔が主催する聖杯戦争実用化への第一歩。
その一歩目で躓くわけにはいかない。妨害手段を用意していないわけが無かった。

故に――――



「――――ちっ、仕方あらへんな」


――――少女は渋々承諾したのだった。


「マア、褒章は用意致しマショウ。そうデスナ、例エバ――――
 対象陣営の討伐ヲ行った陣営ニは、こちラノ予備令呪を授けまショウ」

「ほぉー」

「…………」

「なんやてっ!?」

『何っ!?』


驚き立ち上がる二名。関心の声を溢す一名、黙ったままの一名。


監督役の所有する懲罰用の予備令呪の授与。
特に令呪一画を失ったセイバー、アーチャー、キャスター達からすれば、
喉から手が出るほど欲しいものであるはずだ。

一方ライダーからしても他陣営には渡したくないモノだろう。
他者よりも先にバーサーカー陣営を討伐する―――
これでは、討伐令というよりハンティングだ。


―――教会内の空気が張り詰める。
だがそれを和らげるかのように、ハイハイと、
ワイズマンは笑みを浮かべたまま、両手を叩いて鳴らした。


「ソウ、ギスギスしないで下サイ。予備令呪ハ討伐に貢献しタ陣営、全てニ差し上げマスヨ」


一陣営だけでなく、討伐に貢献した陣営全てに配布する―――そう彼は宣言したのだ。


その言葉によっしゃあ! と真っ先に立ち上がったのはダークパープルの少女。
何か思いついた様子だが――――


「決まりやな! 今回は全員でお手つないで協力しよ――――
 …………ちょっとまちーや、嬢ちゃん。まだウチが喋っとる最中やんけ」


ライダーのマスターの声は、あからさまに不機嫌になる。


その視線の先に立っているのは黒髪の少女。
彼女―――ネロは既に席を立ち、出口へと脚を進めていた。

七草は、彼女はきっとこのまま外へ出るのだろうな、と目を閉じた。
昨日の一戦で十分に分かっている。




――――けれども、かつん、とネロは少女の呼びかけに脚を止めたのだ。



その音に、七草は目を開く。
黒髪を靡かせ、振り向いた彼女の瞳。
廃墟の教会内には陽光が差し込んでいるにも関わらず、深遠のように、深く暗い。



その眼は、その言葉は、その場の、ただ一人のみに向けられたもので――――



「あたしはね、ワイズマンの用意したこんなくだらないゲームにつきあう気はないの。
 それにひとりで問題ないから―――――だからあなたの出番はないわ、グラディウスのドミナス」



一度だけ彼女の黒の瞳が七草の顔を映し――――再び、足音が遠ざかる。



他者など不要であり無用。
バーサーカーを討伐するのは彼女一人で十分。否、彼女が行うのだ、という意思表示。

本来であれば、そんなことをわざわざ告げる彼女ではないはずだ。
ライダーのマスターの呼びかけなどに足を止めず、そのまま教会を出て行ったはずだ。

けれど彼女は脚を止め、振り返り、宣言した。
それもわざわざセイバーのマスター――――石蕗七草に対して、だ。



「なんやアイツ。ちゅーかあんちゃん、相当目ぇつけられとるっぽいけど」


黒紫の瞳を細め、憐れみを籠った視線を向けてくる少女に、
はははっ、と七草は笑って返すしかない。



――――何故ならそれは七草としても望むところなのだから。



あの戦闘で彼女が見せた【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】の権能は7つのうち、5つまで。

残る2つのうち、最低1つは切り札だと七草は考えている。
だからこそ、それを“視”せてもらわなければならない。
それを“視”せて貰えるだけの、『敵』として認識して貰わなければならない。


少なくともさっきので、あの『敵意』はまぐれで向けられたものではない確かものと分かった。
それだけでも七草にとっては途方も無い収穫である。

まあ、それ以前にバーサーカーを倒さない限り、
他クラスとの戦闘禁止は解除されず、彼女と戦うことは出来ないのだが―――



「そや、あんちゃん。ウチと電話番号とメアド交換しとかへん? あった方が何かと便利やろ?」


ダークパープルの少女が差し出したのは、今では珍しい形の携帯電話。
非折り畳み式、モノクロの液晶、画像添付不可、メール本文200字まで、というひどいものだが、
魔術師でない七草からしてみれば、現代通信機器で連絡が取れるというのは確かに助かる。


自分の運動能力、そして【物見稽古】で対応できる部分は、その能力で埋める。
だがそれで足りない部分は道具(アイテム)で補うというのが、七草の考え方だ。
故に、彼としては特段その申し出を躊躇う理由は無い。


「僕は構わないかな。てか、その世代の携帯ってまだ使えるんだ」

「オヤ、でしたらワタクシもお願い致シマス。念の為、デスが」

「魔術師やのにおっちゃんなんでスマホとか持ってねん……あんちゃんに至ってはなんやその未来道具!?」

『君達は本当に聖杯戦争をする気があるのか……?』


管理者は、使い魔越しに溜め息を吐く。
まあ聖杯戦争で殺し合う相手が仲良く電話番号交換なんて、
そう思われてもおかしくは無いかもしれない。

けれど、敵や味方は単に立ち位置の違いに過ぎないと考えている七草からすれば、そんなのどうでもいいことだ。
必要があれば昨日まで同じ釜の飯を食べていた仲でも、彼は殺せる。




…………それよりも、だ。



「君はどうするんだい? キャスターのマスター?」

『どうするも何も、私と君は同盟関係のはずだが――――』


「…………いや、君との同盟はあくまでアーチャーに対するものなんだけど。
 それに君のキャスター今重傷でしょ? 戦力にはならないというか―――とりあえず安静にね?」

「そうなんや。携帯も無い上にそれとか、残念やな姉ちゃん。大人しゅーお留守番しときぃーな」

『ああーっ! 待ってぇー!』


ところであんちゃん今日はどない動くつもりや? うん? 僕としては―――

対バーサーカーに関する今後の予定を話しながら、二人は廃教会を退出する。
それを烏は必死で鳴き声を上げながら、彼らの後を追いかける。



――――そして、その背を見送るワイズマンは静かに笑みを浮かべた。

 

ここまで
復旧してよかったー

とりあえずこれで全陣営の顔出し終了
次回からVSバーサーカー戦

ちなみに予備令呪≠預託令呪
ワイズマンのあれはルーラーの令呪システムみたいなもんだと思っていただければ結構


エセ関西弁さんがあんまり余裕ある方じゃないのは新鮮


京都弁?の人は、蜘蛛の人だよね?
最後らへんで、願いを自分のために使わなかった人

>>212の変更
ゲーム→遊戯(ルードゥス)

>>217
埋葬機関から第八秘蹟会へ格下げくらっとるんでね
スキルも根源接続者抜いた感じ

>>218
うん三十代目主人公のアトラの怪物がモデル
ただ設定が弱体化した分、他の主人公の要素もちょこちょこ混じってる


アサシン=サンがマジで脱落しとったとは……

≪────Saber VS. Berserker────≫



「なー、あんちゃん。これでホンマに引っかかるんかいな」


夜、都市南部埋立外区。
七草と共に待ち構えるのは、ナクアと名乗る聖堂教会第八秘蹟会所属の少女。

アーチャーの対城宝具使用以降、全面的に立ち入りが禁止された埋立外区。
ここならばどんなに暴れようと周囲への被害は気にしなくていい。
隠蔽工作の面についても、事前に魔術協会が設置していた結界が既に作動している。


ここで七草達セイバー陣営とライダー陣営がバーサーカー迎撃に向けて共同戦線を張っていた。
しかし七草たちの目前にサーヴァントはいない。

その代行として参戦できなかったライダーが己の代わりに提供した六頭の魔獣が陣取っている。


どれも名の知れた強力なものばかり。
これら全てがライダーの宝具か、もしくはその一部だろうか。
そうなればライダーの正体は――――

けれど今は置いておこう、と七草は思考を打ち切った。
現在の最優先目標はバーサーカーなのだから。



「引っかかる、というより来るさ。何せバーサーカーはアーチャーと同じく、
 昨夜のキャスターの陽動作戦に食いついてきた。多分、また同じ手に乗ってくる」

「あーあの丸分かりの奴やな。なんやバーサーカーのマスターもあの嬢ちゃんみたいに気ぃ強いんかなぁ」

「いや、違う。それならわざわざあんな神秘を漏洩させるような虐殺なんて手間の掛かることはしない。
 僕はあれはわざと全マスターの標的を惹き付けるための、バーサーカー陣営の陽動だと考えてる」

「……大量に敵作った方が有利になるスキルや宝具でも持ってるっちゅーことか?」

「―――――あるいは、ただの戦闘狂か殺戮者か、だね」


無意味に一般人を虐殺し、見世物の如く惨殺し、後始末もなく屍を晒させる。
それは『暴君(ティラヌス)』、ネロス・ベーティアの在り方とは真逆。
少なくとも七草は、そう考えている。

朝の時、彼女はおそらく――――


「………あんちゃんは魂喰いは認められん派か?」

「いや、無意味な殺戮は嫌いなだけだよ。本当に必要な理由があれば、ある程度はまあ―――」

『――――来たぜ、マスター。この魔力、ただの相手じゃねーな』


セイバーからの念話に、七草は言葉を切った。
 



同時に、闇夜の静寂を裂き音が響く。
ガチャン、ガチャンと金属がぶつかるような音が鳴る。
ライダーの魔獣達は爪を立て、牙を剥き、その音の方向を威嚇する。

そして―――――


「■■■■■■■■!!!」


咆哮と共に、まず一番先頭の魔獣の胸から上が四散した。
絶句するマスター二人。彼らの目には辛うじて何かが飛翔したように見えただけ。


コンクリートに着弾し、小クレーター痕を穿ったものはレンガ。
だが、唯のレンガではない。漆黒の魔力を帯びた―――宝具だった。

七草達、マスターの透視能力が与えた情報。
驚くべきことに、唯のレンガがAランク宝具と化していたのだ。
ランクだけなら、セイバーの『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』に匹敵する強度の神秘。



――――そして、ガチャン、と大きな音を立て、『彼』は姿を現した。

 


漆黒甲冑の騎士。その背に翻る赤の外套(マント)。
枯れた金色の髪。血走った眼。鼻から下、顔半分を覆う鋼鉄のマスク。

間違いなく、それは映像に映っていたあのバーサーカーであった。
その手に握られていたのは、先ほどのレンガと同じく禍々しい魔力に冒された円柱状の鉄材。
おそらくは街灯を引き千切って作ったものだろう。同様に評価ランクはA。


だが、実際に対峙したことで理解できた。



――――あれがバーサーカーの宝具だ。



その手に握った物、全てを己のAランク宝具として固定するものだ。
まったく以って出鱈目な代物。だがバーサーカー故、理性が無いのが救いか。
如何に強力であっても狂戦士は、その武器の力を単純な殴打や投擲にしか使用できない。

これで銃など振り回されてしまえばたまったものではなかった。
 


狂戦士へ向かい、まず様子を伺っていた人面の獅子が飛び掛る。
獅身獣(スフィンクス)。地中海および西アジアにて語られる人面獅子身の幻想種。

古くはエジプトの神獣として王家(ファラオ)に仕えていた存在であるが、“彼女”は違う。
男性の目を奪う美貌と乳房。屈強なる獅子の身。大空を舞う鷹の翼。生きた毒蛇の頭を備えた尾。



――――ギリシャ神話オティプス王の伝説に登場する、魔獣スフィンクスである。



炎を吐き出す器官は無く、戦闘能力も本家の神獣には及ばない。
けれど問題は無い。戦力が足りぬなら、数で追い詰める。

現在地上に待機する魔獣は、彼女を含め五頭。
如何なる英雄とはいえ、この数を単騎で相手取るのは不可能。



――――だがこの程度で、この黒騎士を止められるはずは無かった。



まず乱雑に振り回された鉄材で、スフィンクスの顔面が抉り取られた。
そのまま体を回転させ、反対側から突撃してきた大猪の頭蓋を粉砕する。
頭部を失いながらも哀れに抵抗を続ける胴を片手間に宝具化したコンクリート片で挽き潰す。

残る三頭の魔獣も連携し果敢に群がるが、戦況はやはり一方的だった。
負傷を抑えながら、バーサーカーをその場に足止めするのが限界。
 


だが、これでいいのだ。
そう―――これで、セイバーの奇襲が決まる。


戦闘が行われている埋立外区の天上。空を揺蕩う巨大な猛禽。
月夜の下。巨鳥の背に少女が立っていた。

夜風に靡く、柔らかな黒の髪。
煌く黒曜石の双眸。どこまでも美しい少女の姿。



―――セイバー、ヤマトタケルノミコト。



日ノ本ノ国、最強の大英雄。
本作戦のトドメを決めるには持って来いの能力と実力を備えた少女、
否少年は、にぃ、と片唇を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべ―――


「行くぜ―――」


そのまま彼は猛禽の背から、迷うことなく飛び降りた。
 




『草薙剣』の切っ先を下に――――不可視の霧を全身に纏った急降下。



バーサーカーの頭上からの、完全な視覚外からの気配遮断を用いた奇襲。
ライダーの魔獣達に気を取られているバーサーカーはまったく反応しない。

仮令、反応できたところで魔力効果を打ち消す『草薙剣』の前には、
バーサーカーが握るAランク宝具はただの鉄材へと戻る。



――――七草も、少女も、セイバーも、獲ったと思った。



だが――――


「■■■■■■―――!!!」

「何ィ!?」



――――バーサーカーはセイバーと同等の剣速を以ち、それを受け止めた。

 


不可視の『草薙剣』。
それを迎え撃つのはいつの間にか腰から抜かれた、煌めく白刃。
その剣も漆黒の魔力に侵食されかけるが、
ぶつかり合う『草薙剣』の効果により神聖なる輝きを取り戻す。


爆発する金属音。弾ける赤の火花。
晩秋の月光の下、一瞬世界が静止する。



そして、バーサーカーはセイバーを弾き返した―――!!



「クソ――――ッ!」


宙へ弾き飛ばされたセイバーは黒髪を翻し、態勢を立て直そうとする。
だがその巨体からは考えられぬほどの跳躍力で、バーサーカーは宙を舞うセイバーを追撃する。


――疾(はや)い。
煌めく漆黒。折れぬ戦刃。
それがセイバーの首を――――



「タゲス! エトン!」


少女の言葉に、翼開長3mの二頭の巨大な猛禽が天空から急降下する。
一頭(タゲス)がセイバーの体をできるだけ引き離し
もう一頭(エトン)がバーサーカーの攻撃を受け止める。

当然猛禽ではバーサーカーの猛攻に耐え切れない。血と羽を撒き散らし、一頭死亡した。
圧倒的な攻撃力。一太刀で真っ二つに引き裂かれたのだ。


それでも、セイバーへの致命傷は避けられた。
二度、彼が同じ轍を踏むことはない。

だが、なんだ。あのバーサーカーの異常なまでの戦闘能力は。
セイバーを押し返す筋力に、同速はあると思われる敏捷。さらに奇襲を感知する超感覚。


何か、何か情報があれば――――


「何や、これ―――!?」

「ちょっと………冗談が、過ぎるんじゃないかな」



――――ステータス:筋力A+ 耐久A+ 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具A



白兵戦の能力だけなら、セイバーすらも凌駕する“化け物”。

クラススキル、狂化C。
固有スキルもわかってるだけで蛮勇A、心眼(偽)Bと強力なものばかり。
 



それから考えられることは一つ。
ヤマトタケルノミコトと同じく、このバーサーカーは一国を代表する大英雄。
元々大英雄だったものをバーサーカーのクラスで喚び出し、更に強化するという狂気の沙汰。



ただただ強さのみを追い求めた―――目の前にいるのは、そんな“怪物”だ。



そして、そんな怪物を引き連れるほどのマスターとは――――




「みィつけたぁ~ん」



湿った、濡れた、太く低い男の声(ヴォイス)。
唾液に塗れ、艶やかな光沢を帯びた紅の厚唇。

彫りの深い、巌のような強面。
額から頬に架け、左顔面に大きく掘り込まれた稲妻状の刺青を彩る六種の色(カラー)。
それがあまりにも不気味すぎる。


身長180cm超。広く、頑丈な肩幅のせいで、大柄というより、デカイと言った方が適切だろう。

大男が身に纏う物は所謂「僧衣」として知られる、仏僧の黒衣(こくえ)。
力を要れずとも全身の筋肉が盛り上がっている様は、鋼鉄(クロガネ)の丘。
あまりにも鍛え上げられ過ぎたせいか、
僧衣越しであっても浮かび上がった筋肉の様子が良く分かる。



僧兵―――――いや、この在り様は破戒僧か?



洗っても落ちぬほどの血臭と死の気配を身に纏った仏僧。
その右手に握られているものは数多の仏骨を組み合わせ、カタチづくられたランス。
全体的なフォルムは仏門であることを意識してか、独鈷に酷似している。

そして白茶けたそのランスにぶち撒けられた黒い跡は、嗅ぎ間違えようの無い血の匂い。




――――嗚呼。成程。間違いない。この男こそ、あの惨劇の首謀者なのだ。



「アタシの名前は外道。ねぇ? アナタ名前わぁん?」

「…………七草。石蕗七草だよ」


外道、と名乗った粘ついた男の声に、七草は眉を顰め答える。

青年にしては珍しく不快感、嫌悪感を剥き出しにした表情。
昨夜のネロを相手にしたときには異なり、戦いを心待ちにする彼はいない。


如何にして目前の害悪を排除するか。
そんな、明確な殺意と害意を示していた。

だがそれを知らないのか、それとも解かった上でなのか、
視姦するが如く熱視線を青年の四肢体躯に走らせ、仏僧はじゅるりと厚唇を舌で舐める。


「それにしてもイイ男ねぇ、ア・ナ・タ。アタシと一発どおォ? 気持ち良くしてあげるわよぉん」

「――――うん。確かに僕、両刀(バイセクシャル)だけどさ。悪いけど、可愛い子専門なんだ」

「あっらぁ~残念ねぇ~アタシじゃ役不足ってワケねぇ~ん」


外道は、わざとらしく湿った吐息を溢す。
そして七草の姿が映った彼の瞳が、悪寒を懐くほどの情欲に歪められた。




「なら、仕方ないわねぇん。力尽くでブチ抜いてあげるしかないわぁぁぁああん!!!」



瞬間、眼前に迫る六色の稲妻。
距離50mは開いていたはずだ。それを、脚の長さを考慮しても速すぎる――――っ!
その勢いのまま、七草を穿つ仏骨のランスが放たれる。



――――だが、七草はあえて足を前へ踏み出した。



「あんちゃん!?」


少女の声は、七草の耳には届いた頃には既に遅かった。



――――既に遅く、七草は自らの技を発動していた。



踏み出した足から繰り出される鮮やかな跳躍。
伸びた外道の右手を支点に、白髪は宙に舞う。広がるそれは、晩秋の夜に咲く烏瓜の花か。
されど振り下ろされるは薄でも烏瓜でもなく、暴力を備えた猛禽の爪である。


身を捻り空中で反転した七草は、そのまま外道の背後から首筋に「踵落とし」を叩き込む。

決して重いとはいえぬ七草の体重。
だが、それに加えられた異常なまでの速度は―――首の骨を砕くどころの威力ではない。
外道の巨体を易く貫き、その下のコンクリートに穴を穿つほどの破壊体術。



それを――――止められた。


衝撃は、確かに巨漢の外道を吹き飛ばした。
だが噴煙の中立ち上がった彼は何事も無かったかのように、コキコキと首を鳴らした。

次いで足に感じた違和感。人肌ではないものを蹴った感触。
ネロを相手取ったときとは違う。硬い堅い―――防御膜の如き。
仏僧が用いるその種の防御魔術。となれば、


「――――結界、かな」

「ンフフ♪ ご名答よぉ~ん♪」


――――七草の“眼”が映し出した、外道の全身を覆う高硬度の防御結界。


本来は“場”に固定すべきソレを、自身の“肉体”に固定するという荒業。
運動の静止、敵の拘束といった特殊能力は無く、唯只管に硬いのだ。

単純ではあるが、同時に確実な防御方法。
必要十分な質量を伴った音速を超える物理破壊でもなければ突破できまい。
間接部などの結界に隙間はあるにはあるが、積極的に狙っていけるほどのものでもない。


だが、重要なことが一つ。
外道の結界は、“遮断”ではない。“強固”なだけだ。

ならば――――



「対処のしようは、ある――――っ!」


棚引く、薄の尾花。
白髪は月光を反射し、宵闇に線を引く。

轟、と風を粉砕し、左手に持ち代えられた仏骨のランスが迎え撃つ。
しかし七草は片手で撫でるが如く外側への力を掛け、受け流すようにその軌道を変えさせる。
傍目からは手は添えられたようにしか見えないにも関わらず、強制的に動かされる重さ100kg近いランス。


僅かとはいえ、外道の巨体が振り払われたランスの方へ引っ張られる。
正面に開いた隙間。そこへ体を滑り込ませる。


これなら―――いける。


最初に狙うのは一点だ。
まず外道の足場を崩すため、大きく踏出させた右足で彼の足元のコンクリートを踏み砕く。
敵に対しダメージを求めないならば、結界の有無は関係ない。

いやん、と喘ぎ声を上げる外道。足場のせいで体勢が崩される。
当然踏み締めるために脚は開き気味となり、180cmはあろう背の位置は低くなる。


それが七草の狙いだ。高さが一致する瞬間を逃さない。
突き出した右脚を軸に、捻った左半身から助走の加速を合わせ左拳を弾丸の如く撃ち出す。
拳骨の出っ張りの部分にのみ体重を掛け、外道の胸央へと叩き込む。



――――突破するのではない。衝撃を伝播させるのだ。



あの結界の特性から考え、尤も効果的な七草の技。
厚く硬い甲冑を貫通させ、内部の人体を破壊する「鎧通し」の体術。
この破壊術がある限り、七草に対して防御硬度の高さは何の意味もなさない。


「お、ぐぉぉ…………っ!」


今まで調子とは明らかに異なる野太い男の声。


口から吹き出る流血の小滝。
体内へ浸透した衝撃は、肋骨を砕き、そのまま一直線に心臓目掛け襲う。

ぐらりと巨体が揺れ、力を失ったように崩れる。


だが――――


「驚いたわぁん! クルわねぇぇん、アナタ!!」


はち切れんばかりに筋肉が膨れ上がった右腕が、
目にも留まらぬ速さで己が胸央に叩き込まれた七草の左手首を鷲掴みにする。

そのまま、ぎらぎらと怪しい情欲に輝く外道の目線まで持ち上げられる七草の体。
彼は口から血を溢れさせながらも、にぃいいい、と唇を吊り上がる。


「まさか――――耐えたのかい?」

「ンフッ♪ その、ま・さ・か、よぉん。肋骨と内臓、大分イカれちゃったけどねぇん」


――――即死、させられなかった。


確かに、あれは人外すら屠る致死の一撃だった。
間違いない。そういう体術を用いたのだ。
心臓へ直接衝撃を叩き込むあの技は、
身体そのものを強化していようが本来であれば耐えようは無い。

だが、この外道はそれを耐えた。それが、現実だ。
骨と器官を数個持っていけたところで、殺せぬのでは結局無意味だ。
一度結界を貫通させる手段を見せてしまった以上、次からは対応される。



―――やはり狙うべきは防御結界の隙間狙い、か。


悪くはないが、駄目だ。
今の状況でどうこうできるものではない。

毒針のような極小の暗器であれば、対処のしようはあるが、
心臓への一撃を耐えたようなこの男にそもそも毒なども通るか分からない


それよりもまずは、敵の手から逃れる手段を考えなければ。
だがやはり拘束解除相応のダメージを与えるには、外道の全身を覆う結界防壁がネックとなる。

現状、七草の習得している手段では、どれも腕一本を犠牲にする必要があるだろう。
また距離も大して離せず、その後の追撃に残りの腕で耐え切れるものか――――。


「じゃあ、次はアタシの番かしらねぇん」


ひどく粘つき、湿った外道の声。
同時にバキバキバキと音を立て、太いはずの足の筋肉がさらに膨れ上がる。


―――仕方ない。
抜け出すには、これを利用するしかあるまい。
無視できない被害はあるが、腕を持って行かれるよりはよっぽどマシなはずだ。



「この程度で死んじゃいやよぉン!!!」

「―――――」


炸裂する爆薬。放たれたそれは砲弾か。
腹に叩き込まれる膝蹴り。肉が潰れる嫌な感触。


痛みというより、ただ熱かった。
けれど七草はその、胴体を貫通する衝撃を噛み殺し、ずるりと左腕を捻る。
今度は明確な痛み。肩が外れた。けれど同時に勢いで外道の右手から、掴まれていた左腕も抜ける。

支点を失った身体は、そのまま後方へ勢い良く持っていかれる。
襤褸切れのように吹き飛ぶ七草の体。途中、血の塊を吐き出す。
右手と左膝を地についても反動でさらに十メートル近く後ろへ滑る。


それでも、蹴り飛ばされただけで済んだ。
掴まれていた腕を抜くことが出来なければ、間違いなく体を引き千切られていた。
無論喰らったのが七草ではなく、ただの人間であれば膝蹴りの威力だけで胴を寸断されただろうが。

しかし先ほどの一撃など無かったと言わんばかりに、するりと七草はその場から立ち上がった。
内臓に重度のダメージを食らっておきながら、戦闘能力の低下は無きに等しい。
脱出の際に外れた肩も、もう既に嵌め直されている。


そんな七草の姿に、外道はますます目を輝かせる。



「ンフッ♪ イイわぁん! アタシも久しぶりに昂ぶってきちゃった!」

「………そうかい。僕としてはとっとと君を片付けたいんだけど」


そんな青年の姿に、悦楽を隠し切れぬのか、外道はじゅるり、分厚い唇を舌で舐める。
だが熱情的な外道とは裏腹に、七草の返答はひどく冷え切ったものだった。


七草の戦闘狂とこの男の戦闘狂は決して相容れない。
青年が求めるのは強敵で、仏僧が求めるのは血肉なのだ。

だからこそ、七草はこの男の存在を好まない。
理由無き殺戮。成長の糧とならぬ虐殺。発展に貢献せぬ滅殺。



――――無意味に屍を積み上げる行為。



それは他者を解析し、その能力を蒐集する七草の尤も嫌うところである――――。

 

現時点のまとめ

石蕗 七草/セイバー(ヤマトタケルノミコト)
八極 三雲/ランサー(ペザール)
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
蜘蛛(ナクア)の怪物/ライダー(????)
■■■■/アサシン(■■■■)
外道/バーサーカー(????)
管理者(セカンドオーナー)/キャスター(ファフニール)

ここまで


>>120で出たランサーのマスターの名前少し変えさせて貰ったすまん

外道は一応24代目のソロモンに秒殺されたマスターが元だけど、
中身は無道にオカマ+ゲイのレイプ魔という設定くっ付けた魔改造品

ナクアは元ネタと同じく蜘蛛の神性のアイツから


>>221-222
アサシンについての話はまた後ほど


外道貴方でプレイしてみた……やっぱりいいや

>>245-246
インパクトが欲しかった
今は反省している


面白い
というかマスターみんな強いな

いやーこれは騙された口調からイリヤみたな少女だと思ったのにまさか良い歳したおっさんとは

ますます変態が増えるとか胸が熱くなるな

>>247
ある意味歴代全主人公ズの中でもぶっちぎりのインパクトです

これって去年の秋頃まであった皆鯖聖杯戦争の話?
>>1のキャラが変わった?

既に書き終わったシーンとシーン間に挟みこむと筆が遅くなる・・・・

途中までだけど投下



―――漆黒の魔力に冒された、Aランクの鉄材。
それはセイバーが捻った半身の真横ギリギリを掠め、足場となるコンクリートへ叩き付けられた。
バーサーカーの怪力にコンクリートは破裂、爆散。魔力を帯びた瓦礫が周囲を薙ぎ払う。

飛散方向は前後左右四方八方。故にそれらを跳躍で避けるセイバー。追随する魔獣達
だがしかし運の悪いことに、深手で一瞬反応の遅れた大狗が瓦礫の直撃を喰らい、左半身を抉られる。
頭蓋から尾骶までの一直線。当然、即死だ。

あくまで攻撃の余波で、である。
それでも尚、漆黒の狂戦士は付随効果のみで魔獣を屠るだけの力を有していた。
ぞくり、とセイバーの背中が逆立つ。一瞬でも遅れれば、あのようになっていたのは自分なのだ。


熊襲兄弟も、出雲健も、九頭龍も、伊吹山の神も―――――生前戦ったどの相手も比較対象に成りはしない。
この破壊の魔王(バーサーカー)は、ソレと並べて良い存在ではない。


だが、ここは彼の國だ。
そして彼の名は、この國最強の者を示す証だ。

そうだ。『最強』でなければ意味はない。
この國最強の『神の剣』であることこそ、セイバーの存在意義なのだ。


だから――――


「これ以上好き勝手されて堪るかっつーんだァ―――!!」


雄叫びと共に振り上げた『草薙剣』。だが再び、煌く白刃で遮られる。
夜の海を背に剣戟の爆音が鳴り響き、不可視の剣がぎしり、と軋みを上げる。



―――思わず、ありえねぇ、とセイバーは愚痴を漏らした。


アーチャーの『万斤丹弓』とは根本的に異なる感触。
八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を打倒した須佐之男命(スサノオノミコト)の神剣、
『天羽々斬(あめのはばきり)』の切っ先さえ欠けさせたこの剣が、硬度で負けているのだ。

確かに『草薙剣』は硬度や切れ味に重点を置いた剣ではない。
あくまで八岐大蛇の魔力を治める為の御剣(みつるぎ)である。
なればあの剣の属性こそ頑丈さに重点を置いた、おそらく折れずの剣…………『不滅の剣』――――!


利器型の『草薙剣』では打ち消せぬほど、高位の加護を受けている聖剣、神剣の類。

ただ硬いだけではあるが、それが厄介なのだ。
バーサーカー特有の高ランクのステータスで振るわれる破壊不能な宝具ほど恐ろしいものはない。


加えて、失った理性の穴を埋める野生的な戦闘直感。
このバーサーカー、最良最適の行動パターンを本能的に選択してくるのだ。
確かにその動きは読みやすい。読みやすいが、どれもセイバーにとっては最悪の攻撃パターン故対処そのものが極めて難しい。

理性がない為、セイバーが得意とする小細工もフェイントも精神誘導も通用しない。
熟練の戦士すら容易く手玉に取る偽装の技の手合いも、全て脅威的な第六感を以て看破する。もしくは力を以て正面から叩き潰す。
バーサーカーとしてのデメリットを全く感じさせない戦闘能力。


がきん、と火花が舞い、刃が離れる。
間入れず、純白の暴力が追撃する。敏捷Aの加速から繰り出される筋力A+、蛮勇Aの格闘ダメージ。

恥ずべきことだが単純な力比べでは負けてしまう。
少なくとも敵からの撃ち込みを受け止めることはできない。
このまま正面からぶつかりあっては駄目だ。ならばとセイバーは剣の腹で受け流す。


「■■■■■■――――!!!」


滑る白光の剣。その逆から追撃してくるAランク宝具の鉄材。


―――――挟撃、逃げ場はない。


『草薙剣』は未だに白刃を受け流している最中。
逆側(さかがわ)の防御には回せぬ。だが黒禍を止めねば、確実に致命傷となる。
この距離では、魔獣達からの援護も期待できない。


どうする? 何をする? 何をすればいい?


防御不可、退避不可―――――剣による迎撃不可。


―――なら、仕方ない。
おそらくこの一戦はアーチャーもどこかで見ている可能性が高い。
そのため奥の手はまだ使いたくなかったが、ここで解放するほかない。



「――――とっととくたばりやがれ、このクソ野郎」


セイバーは呼吸のリズムを静かに変更し、
同時に白剣を受け流すその反対側で在らぬ手足の形を作る。
それは現存するほぼ全ての武術を“眼”にした七草でさえ未だ“視”たことのない形。


当然だ。これこそ、既に失われた東方神流武術――――“角力”。
神代より日本に伝わる相撲、柔道――――その他数多の大和武術の源流。

本来は神前にてその力を尽くし、神々に敬意と謝意を示す神事。
神に捧げるための神道の儀礼であり、武術。

仮令、結果として相手を殺害し得る武術であったとしても、
そこには神事としての決まり事があり、礼を欠くことが無いよう作法が存在する。


だが、セイバーのソレは違う。
ルールも礼儀作法もましてや敬意や謝意など、無為無用。
そう。大碓命の四肢を千切り、九頭龍の腹を裂き、道中数多の神々を屠ってきた解体術。



――――『神の剣』たる彼の“角力”は、純粋に敵を屠るための殺人拳である。



神代のシロモノであるが故、それそのものが精霊域の神秘を帯びた暴力兵器。
ヤマトタケルノミコトを『神の剣』足らしめる武力の一つなのだ。
 


本来これは偽装の手合いと織り交ぜて使用するもの。
だが、このバーサーカーに小細工は通用しない。


故にこの際余分なものは全部捨て、最良の一撃を以て攻める――――っ!


まず鉄材を振るうバーサーカーの腕の進路上へ片腕をぶつける。
勿論完全に止められるわけがない。宝具化した鉄材を破壊できるわけがない。
だから一瞬でいいのだ。一瞬、その場で静止させられればそれでよい。

空白―――星の瞬きの如き僅かな時間。
ただそれだけの間だが全身全霊を込め、
セイバーは体中の力をバーサーカーの一撃を受け止めた腕に掛けた。



「■■■■■■■■■■!!!!」



――怒りの咆哮。刹那、バーサーカーの大力が爆発する。
それだけで均衡は破られた。これでおしまい。
秒針が次の文字盤に進むよりも前にセイバーの頭は吹き飛ぶ。


同時に――――セイバーは下から上へ、バーサーカーの肘関節を蹴り上げた。


バーサーカーの腕に力を込めさせ、さらに棒のように固めさせた上での関節破壊。
必要以上の力が加えられている状態で、垂直方向からの人体破壊の一撃を喰らわせる。
セイバーのソレは高ランクの耐久値であっても易々と蹴り砕く。




―――それでもこのバーサーカーへは、腕の軌道をずらす程度の効果しか存在しなかった。



だが取り敢えずこれで、左右からの挟撃は止める目的は達成した。
次いで黒の疾風が放つ正面からの追撃を後方への大跳躍で避けながら、セイバーは思考を巡らせる。



―――剣と同様、脚に響いた異常なまでの頑丈さ。



百を超えるアーチャーの連射に耐え切ったキャスターよりは柔らかいだろうが、
それでもセイバーの筋力と武術を以てしても、本当に不自然なほどダメージが通らない。

おそらく、あれも宝具の類か。
魔力効果を打ち消す『草薙剣』であれば突破できるだろうが、
そんな一撃をバーサーカーの第六感が見逃すはずがない。




――――『不滅の剣』、『漆黒の魔力』、そして『鋼の防御』。



ただでさえ化け物じみたステータスの上、三つも宝具を持ち込んでいると来た。
本当にこの狂戦士、何もかもが常識から外れている。



「クソッ―――ふざけてやがんのかよ」



思わず悪態を吐くセイバー。しかしぼやいた所で戦況は変わらない。
現状では千日手。この状態の維持は長時間可能だろうが、打開手段そのものはまだ見えない。
やはり、マスターからの指示を待つほかあるまい。

雄叫びを上げ、コンクリートを爆砕しながら侵攻する破壊の魔王。
それを黒曜石の瞳で睨み付け、白鷺は再び地を飛んだ――――――――。

 

短いがここまで
とりあえず後編、後もう一回分くらい

>>248
今まで戦ってる連中は上位陣ばっかなんで
主に一位と二位と三位連中

>>249
実は>>94で>艶やかに濡れた男の声 の一文があった
後ロリ3人いるからもう増えなくていい

>>250
七草:両刀
ネロ:『S』と定義された嗜虐的変態性
外道:ゲイのレイプ魔
セイバー:女装趣味
ライダー:淫乱ビッチ

変態しかいない

>>251
実はアルハザードがオカマ化したのは外道の練習のためでもある

>>252
というよりは途中で投げた皆鯖聖杯大戦の縮小版


サーヴァントトップはローランかな

>>264
宝具抜き1位、総合3位くらい

所で誰が七草君の嫁になる予定ですか、それともヒロイン一人に決めずハーレムルートですか?


毎度ながら読みごたえありますな
日本最強の女装趣味vsフランス最強の狂化アホの子
金と才能のある両刀vsゲイプ魔、一体どっちが勝つんだー(棒

>>266
未定、気分次第

>>267
セイバーVSバーサーカーなら基本バーサーカー有利
流石にベオとラムセス二騎相手に有利取れる狂戦士の相手は知名度補正最大のセイバーでも単騎だとつらい

七草VS外道はわりと拮抗

前から気になってたんだけど、>>1ってASの作者?

>>269
いやちゃう
ただ最初に安価やり始めたのがAS読んで感動したからなんで影響力はでかい

七草両刀なのになんか年頃の女子と絡んでるイメージ無いんだが…w

元になった貴方は愛歌とイチャイチャしてたやろ!
あれ?あれだったよな

元貴方はどこで読めますか?

七草さんオリジナルは可愛い女の子にオラ!足舐めて服従しろや!
と言われたら大喜びで舐めまくるような人だったよね…

女は女でもロリばっかだった気がするんだが…w

http://minasabaanka.wiki.fc2.com/

この>>1の前作のまとめwiki

fc2でよかったよね

むしろ男だった気が…

七草さんの華麗なる性癖の遍歴
ヤマタケちゃん当ててコミュって攻略し、愛歌ちゃんも魅了して攻略、そして3Pへ…
番外編で男の娘あなたを性的な意味で狙いそっちは逃すもスキルコピーする
暴君あなたの足ペロペロしながらあんとくくんを調教
見事なまでにロリショタキラーです

年上を誑し込んでる七草が想像出来な
何考え込んでるんだろ俺…



―――戦闘は激化する。
剛が柔を粉砕し、柔が剛を蹂躙する。
力が技を鏖殺し、技が力を滅[ピーーー]る。

劣勢と優勢が巡るましく入れ替わり、拮抗に拮抗を重ね拮抗し続ける。
二つの動乱。二つの死合。



それら数多の殺意が渦巻く戦場で――――



「あ、あぅぅっ………あっ」



――――少女は一人、恐怖に震えていた。



当然だ。彼女は一度も戦ったことがなく、戦場へ立ったこともない。
そもそも彼女は本聖杯戦争のため、
聖堂教会に参加者代行として捕縛されたただの異端なのだ。

第八秘蹟会所属の肩書きも正規のものではなく、
彼女を聖杯戦争へ参加させるため、聖堂教会が用意した仮の立場。


彼女は混血。蜘蛛(ナクア)の血族。
魔ではなく、異端。教会の教義に反する、本来は問答無用で処断されうる存在。

だが運が良かったというべきか、悪かったというべきか――――
ちょうどその頃聖堂教会は今回の聖杯戦争への体のいい生贄を探していたのだ。



―――戦闘は激化する。
剛が柔を粉砕し、柔が剛を蹂躙する。
力が技を鏖殺し、技が力を滅殺する。

劣勢と優勢が巡るましく入れ替わり、拮抗に拮抗を重ね拮抗し続ける。
二つの動乱。二つの死合。



それら数多の殺意が渦巻く戦場で――――



「あ、あぅぅっ………あっ」



――――少女は一人、恐怖に震えていた。



当然だ。彼女は一度も戦ったことがなく、戦場へ立ったこともない。
そもそも彼女は本聖杯戦争のため、
聖堂教会に参加者代行として捕縛された唯の異端なのだ。

第八秘蹟会所属の肩書きも正規のものではなく、
彼女を聖杯戦争へ参加させるため、聖堂教会が用意した仮の立場。


彼女は混血。蜘蛛(ナクア)の血族。
魔ではなく、異端。教会の教義に反する、本来は問答無用で処断されうる存在。

だが運が良かったというべきか、悪かったというべきか――――
ちょうどその頃聖堂教会は今回の聖杯戦争への体のいい生贄を探していたのだ。




――――魔術協会側から態々提示された聖杯戦争の参加席。



『聖杯』と名前の付くものである以上、調査・監視は必要となる。
けれど今回の聖杯は始めから時計塔の魔術師が作成した紛い物だと分かっており、
過去数度の冬木式聖杯戦争へ派遣された聖堂教会側の犠牲も決して少ないものではない。

聖杯戦争の参加者にはそれ相応の高い能力が求められるが、
それだけの実力者であれば教会側としても貴重極まりない存在だ。


だからと言って、異端共の闘争を易々と見逃せるものでもない。
魔術協会から指定された席を空白にするということは、教会側の弱みを示すことにもなりかねない。



―――代わりに白羽の矢が立ったのが、審問される寸前だった彼女だ。



混血故、魔術師相手に見劣りしない最低限の戦力は保持している。
また死亡したところで教会への被害は無きに等しい。
そもそも時計塔の実力者が集結する聖杯戦争で生き残れる可能性は皆無。


更に加えて、聖杯戦争の戦場たる市街からの脱出、一定期間の経過、その他具体的な反逆行為、
それらに対し即座に着装者を銃殺する処刑用の首輪を掛けられた上での参加。


いわば、死刑執行の代わり。今すぐ死ぬか、それとも後で死ぬかの違いでしかない。

それでも彼女は構わなかった。
僅かな光明でも、それは明日への希望に変わりない。


こうして少女は、刑執行の代わりにライダーを引き連れ聖杯戦争に参加したのだが――――



――眼前で繰り広げられるのは、人外を屠る人外達による極死の数々。
一手一手が並みの人間であれば即死するような武術の応酬。

致死の一撃を互いに撃ち続け、喰らい続ける死合い。そんな、想定外の殺戮祭典。

そして、これが始めての戦場。
殺意、悪意、害意、敵意――――それらが様々に入り混じる。


―――単純に、恐怖だった。戦うのが。そんな感情の嵐に一人で曝されるのが。
だから『胎盤』が完成し、ライダーの戦力が整えられるまで、
そして彼女自身の覚悟が決められるまで、戦場へ出ず身を潜めようと考えていたくらいだ。


そんな中で今回の緊急収集と討伐令。
共に聖杯戦争を乗り越えるべきライダーも『胎盤』作成のため、現在は身動きが取れない。
戦場へは彼女一人が魔獣を引き連れて立たなければならない。

だから実のところ、最初あのワイズマンと名乗った監督役がバーサーカー討伐まで他陣営同士の戦闘を禁止すると言ったときは安堵したほどだ。
本当にそんなことができるのかと思って探りを入れたが、
確かにあのようなシステムであればデメリットを背負ってまで襲撃されることもないだろうと考えていた。


けれど予備令呪が報奨として進呈されることになり、話は変わってしまった。

少女は勝たねば生き残れない。
ライダーは確かに強力。だが分かっているだけでも、他の陣営はその上を行くのだ。
そのため他の三陣営との間に開いている現状の令呪のアドヴァンテージを確保し続けることが必要となる。


故に少女はバーサーカー討伐まで隠れ潜む選択を飲み込み、あの場での他陣営の同盟を提起した。
ライダーが動けない現状、せめて戦場に付き合ってくれる相手がいれば耐えられるかもしれない。


―――無論それを受けてくれる者がいるかどうかは完全な賭けだったが。


どちらにしろ、一人では戦えぬほど少女の心は弱かった。
それでも協力者を得れば、何とか恐怖に堪えられると考えていた。




………それが、少し触れただけでこの有様だ。



弱い自分を隠すために用意してきた仮の殻も仮面も鍍金もまったくの無意味。



だから――――



「そぉいえばぁ、もう一人居たわねぇん♪」

「あ、ああ…、イ……っ、イヤぁああああっ」




――――その殺意を直接向けられてしまえば、もう何も考えることができない。


 


……………………………………………………………………………………………………………………



――地に蹲り震える少女に背を向け、外道と相対する七草。
青年越しに彼女と向き合った仏僧はウフフフ、とその厚唇を悦楽の形へ歪め、
ランスを握る彼の左手の筋肉が今にも張り裂けんばかりに膨れ上がった。

七草の戦闘経験が、その意図を瞬時に理解する。
その上でこの距離では止められないと判断し、彼は即座に後方へ視線を走らせた。
逃げろ、令呪を使え、と声を掛ける暇はない。


仮に掛けた所で、あの様子では―――


「さあどうするのかしらん? ナ・ナ・ク・サちゃぁ~ん♪」


そう口を開くのとどちらが速かっただろう。
外道は左腕の筋肉が蓄えた渾身の力を以ち、仏骨のランスを投擲する。

ランスの目標は、彼の背後で蹲る蜘蛛の少女。
同時に、それは許さない、と七草は後方へ大きく飛び出した。


投擲の速度は、サーヴァントのように音速を超えたものではない。
だが100kg近いあの質量。身体強化の有無関係なく、人の身を容易く粉砕できるものだ。
 



―――当然、あの少女の身体は耐えられない。


あの様子では令呪を使うことすら儘なるまい。
ライダーの魔獣たちはバーサーカーの足止めの他、撤退時の足代わりなど重要な役目を一手に担っている。

セイバーとバーサーカーの戦力が拮抗している現状、
少なくともここでライダー陣営を失ってしまうのはあまりにもリスクが大きすぎる。
だから七草には、ランスを止める選択肢しかなかった。


疾い――――っ!


だが少しでも軌道をずらせれば、それでいい。
タイミングは飛翔するランスが七草の真横を通り過ぎる一瞬。

冷たい夜の風を引き裂くランスへ横から平手で力を掛ける。
触れたのは瞬き程度の時間。だが、少し軌道を変えるだけならそれで十分。
押し込めた力にほんの僅かだが先端の矛先がずれ、ランスは少女のすぐ傍を掠める軌道を描いた。


質量100kgの高速物体の通過は、
大して重くもない少女の体を風圧で数メートルほど引き摺り地面へぶつける。



――――それでも、直撃という最悪の事態は免れた。



嗚呼。けれど、あれは囮だ。
本命は――――




「ンフっ♪ ちゃんと助けにイクなんて関心するじゃなぁあいいぃぃ!!!」



ランスを投げた勢いを保ったまま、前へ踏み込んだ外道は既に七草の追撃へ移っていた。
七草が同盟相手を放置できないことを見越した上での投擲。

ランサーはこの場に不在。バーサーカーによって傷を負わされたキャスターは重傷の身。
アーチャーやアサシンが援護しているなら、既に外道は止めを刺されていなければならない。


今現在セイバーと共闘しているのはライダーのみ。
バーサーカーとの戦闘の様子から、セイバーが互角以上に渡り合うためには
ライダー陣営の協力が必要だと、当然外道は見抜いていたのである。


――――態勢が悪い。甘んじて一撃を食らう。


防壁結界により強化された握り拳。
その鋼鉄にも等しい強度で殴られるとなれば、人体がどうなるか想像することは簡単だ。


――今度は防御を行った。
腕の骨がイカれる。防御に差し出した左腕が圧し折られたのが分かる。
それでも合金板すら穿つ強烈な外道の一撃を、七草は腕一本の犠牲で防ぎきった。

殴られた反動を利用。態勢を崩さぬまま滑走し、飛ばされた少女の下まで駆け付ける。
更に左腕の痛覚を遮断。この程度、戦闘後に処置すれば直ぐ治る。


それよりもまず少女の様子だ。
令呪が使えるならすぐさまライダーを喚び出させて―――



「早く令呪を―――――っ!」


少女は、意識を失っていた。
呼吸と脈は確認できる。だが頭部を打ち付けたか、出血している。

あの男は七草と戦っている最中でも、少女の頭蓋を容易く潰せるだろう。
そうされぬよう、こちらは彼女を護りながら戦うほかない。


自身の内臓の負担、腕の骨折程度なら戦闘では無視できるもの。
けれど意識を失った同行者を護りながら戦闘出来るほどの戦力差をない。

見捨てるという選択肢も無い。
ライダーが消滅すればバーサーカーのターゲティングはセイバーへ固定されてしまう。
幾らセイバーでも正面からでは純粋にステータス差の開きが大きすぎるのだ。



――――これ以上の消耗は無意味だ、と七草は判断した。

 



「セイバー、作戦は失敗だ。撤退するよ」

『応。こっちも、埒が明かねぇところだったしな。援護するぜ、マスター』


即答だった。嫌な素振りを見せることはない。
セイバーはまさに『剣』であるかのように『所有者(マスター)』の意思に従う。


―――そこに、どこか危ういものを感じたのは気のせいだろうか?


今はそんなことを考えてる暇はない、と七草は頭を振った。
さて尤も確実な逃走経路はライダーの魔獣、巨大なる猛禽を使うこと。

だが地上へ接近するとなると僅かな時間であるが大鳥は外道の攻撃に曝されることとなる。
魔獣としての格は高くなく、また鳥類故他の魔獣より低いだろう彼の耐久で、仏僧の一撃は抵抗できるものではない。


逆に言えば猛禽に掴まるだけの時間を稼げる手段があれば問題ないのだが――――


『オレに任せな、マスター。方法ならちゃんとある』


にひっ、と少年は企み事を思い付いたと言わんばかりに笑みを浮かべる。
それが何か思考する暇もなく、セイバーからの指示が飛ぶ。
彼の言葉通り少女を担いだまま、後方へ何度も跳躍しあるいは後転し兎に角外道との距離を開ける七草。




――――攻勢から一転。当然、歴戦の仏僧はすぐさま彼の意図を汲み取った。



「あんらぁ~つまんないのぉ~ん。逃げちゃうのねェ~ん?」

「悪いけど、そうさせてもらうよ――――」


うん、と頷く七草に対し、逃がすものですか、と外道は鋼の如き巨体を射出すべく足に力を込める。
距離にして20m。仏僧にとっては遠い距離ではない。
身体能力は現状見た限り互角。その上で相手は片手を負傷し、片手に荷物を抱えている。


貰ったわぁん、と破壊僧はほくそ笑み―――


――その直後、七草と外道の合間をセイバーの剣風が駆け抜ける。
暴風と見紛う様な荒れ狂う風の奔流に、流石の外道も踏み止まざるを得ない。


一瞬の後、その風に乗り『草薙剣』の白霧――――否、峰に掛かる白雲が視界を遮断する。
無論、心眼(偽)を持つ狂戦士の足止めにはならず、
濃密な白雲を展開する分通常よりも多く魔力を消費するため、対バーサーカーには無意味な使用法。

だがそれでもマスターを逃がすための煙幕としては十分だろう。



「――――大鷲よ!」


七草が叫ぶと同時に天空から急降下する影。
セイバーを救出するため一度だけ姿を見せ、以降再び旋回状態へ移行していた巨大な猛禽である。

彼は鋭い鉤爪で少女を担いだ七草の身体を掴み上げると晩秋の夜へと天高く飛びあがる。
次いでサーヴァント特有の跳躍力で、白雲を破りセイバーは上昇する猛禽の背に飛び乗った。


「――――■■■■■■!!!」


咆哮と共にバーサーカーの投擲する宝具化した鉄材。
しかしそれは鉄材の軌道を遮る二頭の魔獣の体をそれぞれ二つに引き裂いたところで、
耐久限界を迎え粉々に砕け散る。

狂戦士は宝具化させた第二撃を用意する頃には、既に猛禽は街の彼方へ姿を消していた。


―――結果、バーサーカーの追撃は失敗に終わった。
秋夜の海風が雲を薙ぎ、外道とバーサーカーの視界を覆っていた白雲を剥ぎ取る。


冷たき青の月光が浮かび上がらせる埋立外区の戦闘跡。
粉砕され、捲り上げられたコンクリート群に、斬撃で斬り刻まれた周辺建造物。

セイバーとバーサーカー、魔獣の激突で幾つか倒壊した建物もある。
戦闘の時間は決して長いものではなかった。それにも関わらず、爆撃を受けたが如く一帯は完全に壊滅していた。


そしてそこに生ける者の姿形はない。青年も少女も、剣士の姿も見当たらなかった。
 




完全撤退―――残されたのは既に死した四頭。足止めを務めた二頭、計六頭の魔獣の屍のみ。



立つ鳥跡を濁さず、というわけにはいかないが随分と鮮やかな引き際であった。
だからこそ、逃がしたのが惜しいと外道は思う。


武芸者―――石蕗 七草(ツワブキ ナナクサ)。
風に棚引くだけの枯れ尾花と思いきや、きちんと地に根付く茎と根がある。
あれほどの逸材を壊さずに………犯さずに居られるわけがあるまい。

爛々と情欲に滾る外道の瞳。
口から零れ落ちる涎を肉厚の舌で分厚い唇へと塗りつける。



あれは他の誰でもなく、外道の獲物であり―――――



「次はぜぇったいに、逃がさないからねえん♪ 七草ちゃぁん♪」



――――ウフフフフ、と不気味な笑い声が夜空に響き渡った。

 

ここまで
三十代目と思いきや中身は六代目のナクアちゃん

あと最初ミスったから今回は>>283->>295

>>271
トン

>>272
だって変態じゃないじゃんそれだと

>>273
うん愛歌お姉ちゃんヒロイン回多いけど多分それ

>>274
>>277から七代目の項目

>>275
変態だからね仕方ないね
むしろ倒錯プレイの方が好みなキャラ

>>276
>>234
>「――――うん。確かに僕、両刀(バイセクシャル)だけどさ。悪いけど、可愛い子専門なんだ」
美人ではなく、可愛い子というのがミソ

そこは元の七代目と変わらない

>>277
wikiはそこだね

>>278
うんよかったぜ

>>279
狙ってたのは女:男=2:4で比率的に男が多いはず
ロリ2、ショタ2、男の娘2くらい

>>280
あれ? ショタ貴方のエピも書かなかったっけ?

>>281
好きなのは美人じゃなくて可愛い子だからね仕方ないね

外道vs七草の前半で援護とかしてなかったから隠れて罠でも張ってるのかな?と思ったらそういうことだったのか
初陣がコレとかそりゃそうなるよね


元のナクアとはかなり違うね
あと外道こわい

七草くん外道にロックオンされてしまいましたね、いやー変体に好かれ安い体質なのでしょうか
後アトラ貴女のモデル割にはメンタル弱いですね、元のアトラ貴女がこの貴女を観たらどう思うでしょうか?

元々のナクア貴女は能力封じられてたけどこのナクアちゃんはまだ能力封じられてないのかね

変態同士は惹かれ合うのだ

≪────Interlude Saber&Rider────≫



「――――ってトコだな。オレがバーサーカーと戦って気づいた能力は」


パーカーにスカート姿のセイバーは近くの自販機で購入した缶コーヒーを口につけながら、
白の和装を着た白髪の青年、石蕗 七草(ツワブキ ナナクサ)に先ほどの戦闘の情報を纏めて提示する。


ベンチと街灯と自販機が並ぶだけの人気の無い、夜のコンクリート林の一角。
戦闘終了後、気絶したライダーのマスターの少女と共に七草たちは、埋立外地より離れたこの工場地帯に身を潜めていた。

少女の傷はさほど深くはなく、混血特有の再生能力か出血も既に止まっている。
だがやはり戦闘中の恐怖が大きかったのか、彼女はベンチの上で膝を抱え顔を隠して蹲ったまま。


さらに七草たちを降ろした後、猛禽はすぐさまどこかへ飛び立ってしまった。
ライダーを呼びに行くつもりなのか? 兎も角何か動きがあるまで少女をここに放置したままには出来ない。


さて問題はあのバーサーカーだが――――



「――――多分ローラン、かな?」



セイバーからの情報とステータス表、そして戦闘の推移を見る限り―――七草の知り得る英雄の中で当てはまる者は彼しか居なかった。

 


一国の大英雄と思しきステータス―――フランク王国最強の聖堂騎士(パラディン)。
バーサーカーのクラス―――『狂えるオルランド』等、狂化した逸話には事欠かさぬ。


Aランクの蛮勇スキル―――十二勇士(ドゥーズペール)壊滅の理由を作った後先見ない戦闘思考。


折れずの剣―――『不滅の剣』、聖剣デュランダル。
足の裏以外の全身は如何な武器でも傷つかぬ『鋼の防御』で覆われていたという。


そして対多、対魔獣の驚異的な対応力を遺憾なく発揮した戦闘状況。


――――以上より、七草はバーサーカーの正体をフランク王国シャルルマーシュ直属騎士団
『十二振りの聖王剣(ドゥーズペール)』が筆頭、聖堂騎士(パラディン)ローランであると推測した。


「なら、手に持った武器を宝具化する例のキチガイ能力はなんだよ?」

「ローラン伯は落ちてた樫の枝で竜を撲殺した逸話があるんだ。おそらく、それだろうね」

『…………なんで神殺しまくったオレの能力がスキルで、たった一回の竜の撲殺が宝具化してるんだよ』

『一応、他にも錨で海魔(オルク)を倒した逸話とかもあるんだけど………まあ、ね』


やや不貞腐れたようなセイバーからの念話に、七草は溜息を溢す。
まあセイバーとしては知名度補正最大の地元召喚でも宝具を三つしか持ち込めなかった一方、
何処とも知れない外国の英雄が三つも宝具を持ち込んでいるのが気に喰わないのだろう。

だが世界史の教科書に載るくらいの知名度は決して無視できるものとは言えまい。
只七草としてもセイバーの気持ちはよくわかるものである。


「まあ、真名さえ分かればこっちのモンだな。で、ヤツの死因は? 毒か? 呪いか?」

「角笛の吹き過ぎによる脳溢血―――実際、ローランは気絶とかはしても他者から傷つけられた描写は一度もないんだよ」

「………マジ?」

「うん、大マジ」


マジかよ、勘弁してくれよぉ………と頭を抱えるセイバー。
一応は拮抗できるほどの力量差だったようが、
やはりあのバーサーカーを正攻法で攻略するというのは幾らセイバーでも無理ということらしい。
狂化したバーサーカーの頭に強打を加えて気絶させるのも難しかろう。


――――となれば、


「ここはマスター狙い、かな?」


外道の能力の“底”は分かった。身体能力、防御結界の硬度・隙間、武芸十八般の技量etcetc...


――――あれなら、問題なく片手だけで『解体できる』。


その状況を『編み上げる』までの数分間、セイバーがバーサーカーを足止めできればだが。



「んーまぁ、問題ねぇかなぁ? 一度戦って大体の剣筋も覚えたし、囮ならもう一人でもイケるぜ?」


戦闘で敵の能力を学習し、その対策を次回以降の戦闘に反映させる。
それは理性を封じられたバーサーカーにはない、セイバークラスが持つ特権だ。
休息、傷の手当、事前準備―――それらも含めて明日の夜であれば実行へ移せるだろう。


仮に問題があるとすれば―――


「ライダーのマスター、君はどうするんだい?」

「え、あっ………わ、わた―――ウチ、は」


ベンチの上で膝を抱え、震えている暗紫色の髪の少女はゆるゆると頭を持ち上げる。
髪と同じ色の瞳は静かに揺らめき、見下ろす七草の顔を映し出している。


――――月光の下の蒼き静寂。幾許の空白。


一人になったようで、ひどく耳に痛い孤独。
だからその無音を破り、少女は七草の言葉に対し必死に何か答えようと口を開く。



「――――やっぱり、僕らだけで大丈夫だ。君は休んだ方がいい」



―――けれど青年は少女が言葉の続きを吐き出すよりも前に、その首を横に振った。



「なん、で?」

「戦うのかい? そんな状態で?」

「あっ………」


その言葉に彼女は漸く、今の自分の状態に気づいた。

膝を抱え込んだ態勢のまま、恐怖に硬直していた手足。止めようもなく溢れ続けていた涙。
この場に鏡があれば、七草の見た生気のない顔や青ざめたままの唇も知ることができただろう。

少女の頭が力無く垂れ落ちる。小さな肩に掛かる暗紫色の髪の三つ編み。


「君にあの男色強姦魔の相手は荷が重いよ。奴は僕達だけで決着をつける。
 それよりも君はライダーと今後について話し合っておいた方がいいんじゃない?」


現状の彼女では戦線には立てまい。予備令呪獲得以前の問題。

バーサーカーの相手ができるかどうかという話ではない。その他の戦闘すらままならないだろう。
まずライダーと今後の方針を決めておくのが優先だろうというのが、七草の正直な感想だ。
 


まずライダーと今後の方針を決めておくのが優先だろうというのが、七草の正直な感想だ。

敵に塩を送るつもりはない。だが、戦うならそれなりの実力者相手でなければ張り合いがない。
聖堂教会からの参加者に彼女が選ばれた、ということは、
少なくとも能力的にそれだけの強さを持ち合わせているはずなのだ。


――――七草が求めるのはあくまで強敵である。


可能な限り、対戦相手には持てる全ての能力を活かして欲しいという彼の願い。
それに彼女たちだって今回の戦闘の情報の精査が必要だろう。

バーサーカーだけでなく、セイバーのも、だ。
マスターの透視能力に対するある程度の能力偽装を挟んではいるが、
少なくとも純粋なセイバーの力量はほぼ全て見せたと言っても過言ではあるまい。
あれらの情報から果たして彼女はどのような戦術を練り上げて来るのか――――七草としてはそれを知りたいのだ。


「…………なぁ、あんちゃんはどないして戦えるん?」


少女はいつの間にか、ぽつりとそんな言葉を溢していた。
聖杯に掛けるべき願いがある、というのは勿論そうだろう。けれど、それは前提条件。


そうではない。そうではなくて―――とにかく少女は気になったのだ。


何故あんな風に生き生きと戦えるのか。
どうして悪意と害意の塊のような敵に立ち向かっていけるのか。
自ら足を踏み出すことが出来るのか。どうして、どうして――――



「僕は強い相手と戦いたくて、この聖杯戦争に参加した。聖杯を手に入れて願いを叶える―――それは目的の半分。
 聖杯戦争に参加できる者達―――それだけの実力者の中になら、きっと僕が全力で戦えるだけの相手がいるはずだと思った」


そう。あのアーチャーのマスター、ネロス・ベーティアのような相手を僕はずっと探していたんだ。

探して探して、ここまで辿り着いたんだ。



――――青年は笑ってそう答えた。



嬉々として自ら戦場(いくさば)に飛び込むその精神。
傷つくことも死ぬことも恐れぬ酔狂。死合(しあ)いこそ望み。
少女が怖れる殺意、悪意、害意、敵意―――そんなものを自分から悦んで飲み乾す異常性。

戦いを何処までも求める有様は、まるで修羅の如く。



――――少女は、狂っていると思った。



どこまで子どもみたく曇りの無い純粋無垢な、無邪気な狂気、だと感じた。
けれどそれは同時に、あの禍々しい怨嗟の暗中でも消えることのない眩いばかりに煌く光明であり。


――嗚呼だからこそ、か。そのことを嬉しそうに語る青年の“眼”がひどく輝いて見えたのは。
その輝きに惹きつけられたのは。魅せ付けられたのは。愛おしいと思ったのは。



―――その“眼”に、自分だけを映し出して欲しいと望んだのは。



きっと自分がどうやっても手に入れられないものだったから、そう願ってしまった。
その“眼”の中に既にいる先客への嫉妬まで覚えるほどに。
その光を欲しい、と渇望するほど、少女の中のナニカは狂わされてしまった。

だから――――


「………なあ、あんちゃん。ウチ、な」


響く遠吠え。犬のものではない、低く唸るような声。
それが少女の言葉を中断させた。
少女にとってはまったく間の悪い出来事である。

この声は間違っても日本の街中で聞こえるようなものではない。
何故ならこの声の主は犬でも狼でもなく、百獣の王たるライオンのものなのだ。


――いつの間にか戻ってきた羽音。
見上げた街灯の上に止まっていたのは、巨大な猛禽。
それから蜘蛛(ナクア)の少女を護衛するように、闇夜の中を跳躍し一頭の大獅子がベンチの前に着地する。


どうやら本格的にライダーは七草たちの前に姿を現す気が無いようだ。
まあ、おおよその見当は付いているので問題は無いが。

しかし彼女の迎えが来たということは、七草達がここに留まる理由が無くなった。
とりあえずここでお別れだね、と微笑む七草に、少女はぐぃっと手で顔を拭い、ベンチから立ち上がる。
その顔には赤い泣き跡だけで、先ほどまで恐怖で震えていた時の面影はもう残っていない。


「ほな、あんちゃん! また、な」

「―――うん。それじゃまた、縁があれば」


手を振る少女に七草は片手を上げて返した。
そして工場地帯を後にする彼を、すぐさまパーカー姿のセイバーが追いかける。

獅子に中断された先ほどの言葉の続きはない。だから七草も態々聞くことはしなかった。


「そうそう。セイバー、帰ったらちょっと骨くっ付けたいから手伝って。
 後内臓の方もちょっと縫わなきゃいけないと思うから、お腹も開けるね」

「…………なんか段々人間離れしていってねーかマスター?」


自分の体を文字通り“直す”ことが当たり前であるかのように笑う青年と
完全に呆れ果てた溜め息を溢した少年は、仲良く肩を並べながら夜の工場地区を去る。


それを髪と似た暗紫色の瞳で静かに見送る少女。
それも数分も経たないうちに見えなくなる。彼らの姿は夜の中へ消え、残ったのは沈黙のみ。

溜息を吐き、再びベンチへ腰掛けた彼女へ頭上から声が掛けられた。


「随分と熱心に見つめてるじゃなぁい、マスタぁー?」

「………ライダー、いつの間にいたんや。できたんか、『胎盤』?」

「あとぉ、一日ってところねぇ。必要な『肉』は蒐集できたからぁ、後はぁ『種馬』ねぇ」


降って来たのはマスターである少女よりもさらに幼い、されど甘い甘い蜜のような毒のような娘の声。
そちらの方へ視線を向けることなく、気だるげな口調で少女は返答する。

そんな少女の首筋に絡みつく柔らかそうな白い肌の腕。
キャスターと同じく蛇の如く。けれどそれよりも柔らかくゆったりとした動作。


―――ダークパープルの三つ編みに掛かる、艶やかなピンク色の長髪。
身に纏うドレスは胸元が開いた深紅のコルセット風のボディと下着が透けて見えるほど生地が薄い紅色のスカートのセット。

両腕の装飾と黒いブーツ、胸元を彩る赤の薔薇、
そしてドレスを押し広げ臨月の如く膨らんだ白い腹が、よりその幼子の淫らさを引き立てる。


円らな紅色の瞳。蜘蛛の少女よりも幼い外見、低い身長。
それに似合わぬ妊婦の孕み腹。ひどくアンバランスな光景。

だがその娘はどんな娼婦よりも淫らに、雄の情欲と性欲を掻き立てる。



彼女こそ、少女が召喚したライダーのクラスのサーヴァント。
忌み嫌われる反キリストの淫魔。


混血の――蜘蛛(ナクア)の怪物。
怪物たる彼女に相応しいものは怪物の反英霊。
そう言って聖堂教会から渡された触媒は彼女の物。


――――ライダー、エキドナ。


ネメアの獅子、ヒュドラ、ラドン―――ギリシャの数多の怪物を産み落とした“怪物達の母”。
元はスキタイ地方の大地母神でありながら、ギリシャ神話の普及により怪物へと貶められ、
さらにキリスト教により売春婦の象徴とされた“蝮(マムシ)の女”。

どんな女よりも女らしく、どんな母よりも母らしい彼女は、
少女の暗紫の瞳を覗き込むと、くすりと小さく薄紅色の唇を緩める。
雄であればどんな生き物であれ、その動作一つ一つに煽情を覚える以外在り得まい。


「あらぁ~なぁに? 欲しいの、彼が?」

「………うん。どうなんかな? ウチ、そういうのよくわからんねん………わからんけど―――」


「――――あん人の“一番”になってみたいんや」


あの青年は相応しい敵に真っ先にアーチャーのマスター―――黒髪黒瞳の少女の名を挙げた。
さらに名指しで彼に対し敵対宣言を出した今朝の彼女の態度を鑑みるに、
あのネロという少女の方も青年のことを自身が斃すべき敵として認識しているようだ。



それが堪らなくイヤなのだ。あの“眼”に自分以外の誰かが映っているのは、絶対にイヤだ。
ならば、その眼に自分以外映らなくすればいい。彼の“一番”になればいい。


彼が求めるのは敵。それも彼が全力を出すに相応しい“強敵”でなければならない。

しかし悲しいかな。如何に混血の少女とはいえ先ほどの青年の戦闘を見た限り、動きに付いていくのが精一杯だろう。
並の代行者では相手となるまい。それだけ、青年の身体能力と運動性能は常識から外れた天性のシロモノなのだ。


拳銃程度なら素手でも処理できる超人。
蜘蛛(ナクア)の少女に、彼と互角に渡り合える手段は無い。


そうなればやはりそれを埋められるのはライダーの能力のみであり―――



「――――だからお願い、ライダー。ウチに、私に、力を貸して」



――――少女の声に最早震えは感じられない。


ダークパープルの瞳は揺れることなく、しっかりと幼いライダーの顔を捉えていた。
その動作の端々から淫らな匂いを溢しながらライダーはゆったりとした動きで、
白く細い蛇のような指を薄紅色の唇の端に当て、つっー、と静かにその輪郭をなぞる。




そして――――



「ちょうどいいわねぇ。私も欲しかったところだから」

「――――――あのセイバーを、ねぇ♪」



――――闇の中、くすくすっ、と蝮は臨月の腹を撫でながら、淫靡なる笑みを浮かべた。

 

現時点のまとめ

石蕗 七草/セイバー(ヤマトタケルノミコト)
八極 三雲/ランサー(ペザール)
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
蜘蛛(ナクア)の怪物/ライダー(エキドナ)
■■■■/アサシン(■■■■)
外道/バーサーカー(ローラン)
管理者(セカンドオーナー)/キャスター(ファフニール)


監督役:ワイズマン

ヘタレの起源きちゃったか

ここまで
ナクアの中身が六代目というのはこういうこと
変態ではないがヤンデレ属性はある

そしてようやくライダー第2位の問題児登場で全クラスのサーヴァント揃ったわけやで


七草さん人間離れしすぎててワロタ
ナクアちゃんかわいい


ところで今日はあっちも進めるの?


七草さんモテモテですね(棒
そしてエキドナって時点でそんな気はしてたけどヤマタケがモードポジかww

>>299
初陣があのオカマとかトラウマ以外の何でもないな

>>300
あのままだとポジションが外道と被るんで今回の変更を加えた感じ

>>301


>>302
あの子人間大嫌いやけどナクアは混血やからな
同じ怪物属性やけ優しいと思うで

>>303
アッチはマジもんの神霊、コッチはその血脈だけど唯の混血
そもそも封じる必要があるほどの能力はない

>>304
スタンド理論ヤメロ!

>>320
ソロモン回で鱗片あったけどまあそんな感じ

>>322
恋する乙女は可愛いから・・・・中身はさておき

ちなみに拳銃で殺せない元ネタは零崎一族
ライフル弾もナイフとかあれば数発まで弾ける

>>323
うーん微妙
10時か11時超えてなかったら多分明日の夜

>>324
男の娘のエロがなきゃ書かないわけで
エロと触手とロリ枠を一人で埋められるエキドナ便利すぎ


現時点で聖杯戦争成らぬ嫁戦争で一番有利なのは誰ですか?
管理者貴女ですか、暴君貴女ですか、アトラ貴女かそれとも大穴で外道とか

ランサー組だけはまともであってほしい 主に性癖とか

偏執的狂気かー

≪────Interlude────≫



――――ある神(おとこ)の話。



古代中国のとある神話。そのひとつ。


ある時、地上に一つずつしか出ないはずの太陽が十も現れるという出来事が起こった。

当時太陽を運んでいたのは、上帝の子である十匹の火烏。
毎日一つだけ、太陽を運んでいた彼らであったが、
もし十個の太陽が現れたどうなるのか同時に運んでみよう、という悪戯を思いついた。


そして現れた十の太陽に、地上は灼熱の地獄となる。
作物は乾き、水は枯れ、民は口にするもの無く死んでゆく。
人だけでなく、妖怪や猛獣、湖や森でさえ、息絶え消え逝く。


三皇五帝が一人、当時の天子である堯(ぎょう)は上帝に願い出た。



“このままでは民が死に絶えてしまいます。どうかあの太陽達を止めて下さいませ”と。



その願いは直ちに上帝に聞き届けられ、天界より一人の射手が派遣された。



――――射手の名は、羿(ゲイ)。
弓の神とまで謳われた、天下無比の射手である。


地上に降りた羿は早速堯から依頼を聞き、
彼は天を廻る十の太陽に万斤の重さの弓に千斤の重さの矢を構えた。


始め、羿は火烏達に説得を試みた。
殺さずに済むならその方が良い、と彼は考えたのだ。

だが火烏達は威嚇に矢を撃った後でさえ、
太陽を運ぶのを止めず、地上を休み無く炎々と照らし続けた。


仕方なく羿は十の火烏のうち、九を撃ち落すことを選んだ。
矢を撃つ度に天を飛ぶ太陽は貫かれ、三足の烏は地上で死んだ。
一羽を残し、他の全ての太陽が落とされたとき、ようやく地上は元の平穏を取り戻したのだった。

そして人々はこの灼熱地獄を解決した、堯の偉業に惜しみない賞賛を送る。

お、これは羿さんの夢か




―――しかし羿は天界に戻ることを許されず、妻共に不老不死の証である神籍を抹消された。



理由はただ一つ。上帝の子である火烏を射落としたため。
天界を治める上帝は如何に子が原因とはいえ、
彼らを射殺した羿を許すことなどできなかったのだ。


当然、羿にしてみればあまりにも理不尽な決定だということは上帝も理解していた。

だが羿本人はその決定に反対することは無かった。
彼の答えはただ一つ。



“わかりました、それが貴方様のご意思ならば”



彼は最高神たる上帝の決定通り、そのまま地上に残ることを受け入れた。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

≪────Archer Side────≫



―――――夢を見ていた。



少女は瞼を開く。
ベッドの上、白のシーツ。見慣れた室内。
彼女がこの市(まち)での拠点としている洋館の寝室である。


誰かの、夢を見ていた。
嗚呼。きっとあれがアーチャーの回想(かこ)なのだろう。

けれどネロス・ベーティアの中には、そのことについての興味も関心も何も一つ残らなかった。
今の少女にとって、アーチャーの過去など取るに足らないもの。
残った印象など、調べていた羿の伝説と相違なかった。その程度のものである。


それよりも現在の最優先事項はバーサーカーの始末だ。
何としてもあの狂戦士を自身の手で滅ぼさねば、彼女の怒りは収まらない。
しかしその怒りは悪行を憎む道徳的な良心からでも、神秘の漏洩に対する魔術師的な思考からでもない。

もし仮にこれがどこか別の聖杯戦争であれば、彼女もここまでの憤怒を燃やすことはなかっただろう。
 


だが、今回は違う。
此度の聖杯戦争―――これは“技術者”として、彼女自身が手がけた聖杯戦争なのだ。
バーサーカーの行為は彼女が手がけたその舞台を踏み躙り、泥を塗り付けるものに他ならない。

それをネロは彼女自身に対する挑戦だと捉えた。それも彼女の傑作を穢し貶めるという最低最悪の形で、だ。
ならば、聖杯戦争を穢した愚者は彼女によって処刑されるしか在り得ない。


―――それ以外に、彼女の怒りを静める術はない。


彼女の研鑽の集大成とも言える聖杯戦争を穢した者へ対する憤怒と憎悪。
その意味では昨朝の緊急収集における、ワイズマンへの憤りも少なからず彼女の中で渦巻いていた。


―――そもそも予備令呪など、この聖杯戦争には存在しない。
あれは各マスターをバーサーカー討伐へ動かすために、ワイズマンが用意した方便。
過去八度行われた冬木式聖杯戦争のデータを元に今回の聖杯戦争のシステムを完成させたのはネロ本人だ。

あの男が聖杯戦争のために用意したものは触媒を除けば、各マスターに開示したあの霊器盤くらいのものである。


理論(ロジック)の作成、機構(システム)の構築―――全て、ネロ一人の手によるもの。


その間に何者かが口を差し込む余地も、手を加える隙も一切存在しない。
そしてネロは、監督役の聖杯戦争への直接介入を可能とする予備令呪システムなど作っていないのだ。

あくまであれはあの場のマスターを騙し、余計な行動を封じるための偽装刻印。
精巧に作られて入ること以外、実のところ何の効力も持っていない唯の偽物。
 




―――文字通り、ワイズマンが発令した討伐令は『くだらない遊戯(ルードゥス)』に過ぎないのだった。



故にネロはそんな無駄な遊びに付き合う気など更々ない。

しかしだからと言って討伐令の出ている間、他の陣営にその弓を向ける気はない。
あるべき本質は異なれど、彼女が求めるものは結果として七草と同じ全力での戦闘である。


仮令、それが不本意なものであれど“他陣営との戦闘を禁ず”という声明が出ているならば、
彼女の中のものが他者と同じ足場(ルール)を破ることをひどく嫌うのだ。
ルールを破るという卑劣な手段は少女にとって、相手より一段下に立つことに他ならない。


―――誰よりも高みに立つ“君臨”の体現たるネロがそんなことできるはずがない。


無論だからと言って、他の誰と組むことはありえない。
あくまでネロの望みは自身一人の手で以って、バーサーカー陣営を葬り去ることなのだから。


さて。昨夜のセイバー・ライダー陣営とバーサーカーの戦闘は既に確認した。
そこからバーサーカーの大まかな能力を読み取ることができた。
セイバー以上のステータス、体躯、そして迎撃能力。

それを仕留める方法は一つしかあるまい。
初手から最強の一撃――――対城宝具『千斤神矢・陽』を以って決着させる。




そのためには対城宝具が使える広場―――例えば埋立外区への誘導が必要だ。



陽動作戦なんて少女のガラではない。ガラではないがやらなくてはいけない。

まあ、するべき事なんてもう決まっているのだが。
今までバーサーカー陣営は兎に角サーヴァントの物と思われる魔力の気配を狙って襲撃している。
ならばその行動パターンを利用し、囮を用いて対象をアーチャーの宝具が使用可能なポイントまで誘導する。


本来これはセイバーとキャスター達が行ったように、他の陣営と同盟を結んだ上で初めて可能となる作戦。
だが、この少女はそれをアーチャー陣営単独でこなそうというのだ。


―――サーヴァントに匹敵する魔力(デコイ)の作成。
それは他のマスターでは出来ない、圧倒的な魔力を保有するネロだからこそ可能な離れ業。

『円環(ポトニア・テローン)』の血を現代(イマ)に残す神子の末裔にして完成形。
時計塔の誇る“怪物”、『暴君(ティラヌス)』ネロス・ベーティアのみに許される力任せの手段。


何はともあれ今日やるべきはその仕込みからだろう。
そう思考を動かしたネロは、とん、と軽い音を立てベッドから着地する。
 



それから顔を洗って、湯船に浸かって、服を着替えて、身嗜みを整えて、食事を摂って――――


「――――でるわよ、アーカス」

「了解しました。参りましょう、主」


支度を終えたネロは玄関の扉に手をかける。
開かれた扉から差し込む白い光が少女の黒い瞳を焼く。


それに瞳を細めた少女は唇を噛み締め、館の外へ一歩足を踏み出した。
 

ここまで
アーチャーの回想はセッション時と変更なし
バーサーカー戦、もう少しお付き合いくださいな

>>327
管理者はない

>>328
多分まとものはず

>>329
『愛』に対する偏執的狂気やな
アライメント的には混沌・中庸あたり

>>332
他のサーヴァントもそのうちね

管理者貴女ヒロインではないと、戦力外通告ありがとうございます


ネロさんにフラグの足音が

つまり管理者貴女はファフニールを旦那に選ぶと、いや有り得ないな

>>340
トン

>>342>>344
多分そういう系の役回りじゃないんだよなぁ、彼女

>>343
ようやく出番が来たかという感じ

≪────Lancer VS. Berserker────≫



――――透き通る氷青の髪を靡かせ、ランサーは一人、夜の街を疾駆する。



マスターはいない。念話も繋げていない。
完全に一人きりの単独行動中だ。

マスターの少年、八極三雲(ヤギワ ミクモ)は現在長期の睡眠状態にある。
否、ランサー―――氷の魔女ペザールが眠りの魔術で強制的に意識を喪失させたのだ。
理由は簡単。バーサーカーの討伐令に対する互いのスタンスの致命的な違いから。


昨晩、監督役を名乗るワイズマンという魔術師から接触があった。
内容は主に此度の聖杯戦争の概要やルール等。
そして、現在発令されているバーサーカー陣営の討伐令に関して。

特にバーサーカー陣営への討伐令に対しては映像付きの説明だったせいか、
彼女のマスターは思いもよらぬほど迅速に行動を起こしていた。


―――マスター単騎での探索。
サーヴァントという存在が如何なるものか、アサシンの襲撃で身に凍みていたにも関わらず、
彼はまるでコンビニへ行くように、一時間も経たない内にもう事件現場へ情報収集に赴いていたのだ。

唯の情報収集。今はまだ、その段階である。
だが居場所を特定できれば、直ぐにでも少年はバーサーカーの元へ向かっていただろう。
だからランサーはそれ以上の少年の独断行動を防ぐため、昨夜から彼の意識を魔術で拘束している。


契約当初から少年の性格はある程度理解していたが、あそこまで来るともはや狂気に近い。
そしてランサーはそれを許可できない。

必ず叶えねばならない願いを持つランサーとしては、
彼の意思がどうであれ、決してマスターを失うようなわけにはいかない。



――かつて彼女が犯した大罪。
それを償うために、どれ程の犠牲を払ってでも聖杯を手に入れなければ―――



――――ランサーの思考は、轟音と震動によって突如として打ち切られた。



ランサーの先ほどまで居た路地に、ソレは着弾した。否、着地した。

――尤も着地の被害は巨砲の砲撃と大差ないものだったが。
周囲は致命的な衝撃波で円状に薙ぎ払われ、運悪くその場にいた全通行人は即死した。
周辺建造物に無造作には叩き付けられたヒトガタ達は、臓物が潰れ、全身の穿孔から血を噴き出させる。


仮令それで生き残れたとしてもついで着地時に踏み砕かれ飛散した瓦礫が、
壁に貼り付けられた肉塊を十分な質量と速度を以って原型が残らぬまでに圧迫(プレス)していたが。

魔力効果を付帯された瓦礫の一撃はランサー程度、優に死に至らしめるほど。
仮にも彼女が生き残れたのは、ソレが落下した場所が一つ隣の路地だったからに他なるまい。
 


破壊状況に反応したのか、事前に敷設された魔術協会の隠蔽結界が起動する。

外部からの侵入の拒絶、内部の光景、音波の遮断、隠匿。
周囲の非魔術師、または非マスターの記憶抹消もしくは操作改竄。
それらをほぼ一瞬で終わらせるランサーから見ても高位の設置型大魔術、呪術儀式。

一時的な応急処置に過ぎないが、少なくとも被害が出たこの一帯は一晩は人目に付くまい。


―――全てが十秒にも満たぬ出来事だった。
そして十秒が過ぎた後、漸くこの惨劇の下手人はランサーの前に姿を見せる。


――思わず、彼女は息を呑んだ。
クレーター痕を穿ち、吹き上がる粉塵を裂き、ごぅん、と漆黒の砲弾は立ち上がる。
大柄な体躯。開いた肩幅。それはまるで古代の城壁を体現したような。


それから――――黒い甲冑。赤の外套。枯れた金髪。鋼鉄の覆面(マスク)。血走る眼。


間違いない。あれが討伐対象のバーサーカー。破壊の魔王、漆黒の騎士である。
身に着けている甲冑の装飾から察するに、
おそらく欧州(ヨーロッパ)の聖堂騎士(パラディン)あたりだろう。


これほど近距離での接近。目標との遭遇。
運が良かった? 否、これを最悪として何というのだ。

実際に目にして、理解できた。
これは無名も同然のランサーの手に負える敵ではない。
一国の、それも名の知れた大国の中でも最強クラスの大英雄―――っ!。


同時にランサーは自らの死を確信した。
立ち向かえる相手でもなく、同時に逃げ遂せる相手でもなく。
マスターの三雲を眠らせたことが完全な裏目に出た。令呪による撤退も期待できない。


「………どうやら私もここまでのようだな」


小さく息を吐く。
己の民とそしてマスターに詫び、ランサーは覚悟を決める。


……だが一向にその止めの一撃が来ない。それ以上にランサーは驚きを隠せなかった。
バーサーカーは次なる場所へ移動するためか、ランサーに背を向けたまま体勢を整えていたのだ。

これだけ近く。普通なら既に戦闘状態に移行していなければならない。
なのに、バーサーカーは一切ランサーの存在に反応していないのだ。




――――気づかれていない、のか?



これが他のクラスであれば彼女に隙を作らせるための気が付いていないフリ、という可能性の方が高い。
だが、相手はバーサーカーだ。そのような知能、思考力は残っていないように見受けられる。

だから、彼女は迷ってしまった。
他のクラスならば間違いなく仕掛けようとはしなかった。
しかしバーサーカーなら、本当に気づいていないという可能性を捨てられないのだ。


加えて、ランサーではあの狂戦士の正面からの撃破はまず不可能。
この魔法の槍を解放すれば仕留められるかも知れないが、その反動は令呪一画にはあまりにも見合わない。
だがこの距離。そしてこの状況ならおそらく、奇襲的にランサーの大魔術を叩き込むことが出来る。

それが決まれば、ランサーにも勝ちの目は出てくる。
唯でさえ弱小の英霊。勝ち残るには討伐の報奨である予備令呪の獲得は必須といえよう。
これはもしかしたら逃すことの出来ないチャンスなのかもしれない。


気が付けば、いつの間にか氷槍を構えていた。
最大出力。現在使えるだけのありったけの魔力を込めた、致死の一撃。

――Aランク対軍規模の魔術。
この位置、このタイミングであれば、如何に耐久が高かろうと
対魔力のないバーサーカー相手ならば間違いなく致命傷を刻み込める。



――――大気が凍て付く。



晩秋の夜にしても、低すぎる零度が辺りに渦巻く。
魔力収束から発動までの一秒。殺気立つ魔力の気配に漸くバーサーカーが振り向いたときには、全てが遅かった。

氷槍を中心軸に、回転する氷風の石臼。異国の詠唱と共にそれは放たれた。
拳大、岩石大の雹を含む獄風が破壊と死を撒き散らしながら直線を駆け抜ける。
アサシンを微塵も残さず殺戮せしめた吹雪(ブリザード)は、そのままバーサーカーの巨体を呑み込み―――




「■■■■■■………ッ!!」



――――放たれた氷結は、漆黒の唸りと共にただ一振りの前に掻き消された。



「莫迦、な。魔術殺しの魔剣、だと………っ!?」



―――何時の間に腰の鞘から抜かれていたのだろう。


漆黒の魔力に冒されながらも、輝きを失わぬ美しき装飾の一太刀。
『芸術賛美』のスキルを持ち、且つ魔女でもあるランサーには、
それが一体誰の物なのか、一目でその正体に辿り着いた。

嘗て魔法庭園の主、魔女ファレリーナが所有していた最高位の対魔術礼装。
その性能は宝具であってもおかしくないほどのシロモノ。
そしてそれを強奪したバーサーカー、聖堂騎士(パラディン)の名は――――


当然、最高位の対魔術礼装たる魔女ファレリーナの剣は、ランサーのAランク魔術など苦もなく両断する。

暴風は止む。氷塊は砕ける。冷気は失せる。
魔術の消滅と共に視界すべてを塞ぐ白嵐は弾け、バーサーカーはその向こうに立つ女の姿を捉えた。
 




「■■■■■■――――!!」



――咆哮。体の芯を凍てつかせる絶度の恐怖。
冷気の女王。氷の魔女たるペザールでさえ、動きを止める黒色の死。


しかし硬直を踏み越え、本能的に体を右へ動かす。
バーサーカーの右腕から新たに握られていた投擲物が放たれたのだ。
ペルシアの女王、ペザール。ほとんど無名に等しい彼女の実力は下位のサーヴァント程度。

だがそれでもランサークラスの標準の敏捷Aを備えた彼女に回避はお手の物だ。
防御力自体も戦闘継続能力も高くはないが、足だけなら負けない。


―――そう。負けないはずだった。


彼女を胸を穿つだろう必殺の一撃を、確実に避ける。完璧な、間違いなくベストな動き。
そして、彼女の真横を駆け抜けた氷風は明らかな熱をランサーの肢体に刻み込んだ。



「…………え?」


何が起こったのか、わからなかった。何をされたのか、理解できなかった。
だが、自分の左上半身のほとんどを持って行かれたことだけは辛うじて認識できた。


「え、ぇ、ぇ、あ、あ、ああぁぁぁああああ!!!」


斬られたのではない。抉られたのだ。
線ではなく、面ごと持って、逝かれた。
痛みという形はなく、もはやそれを唯の熱としか感じられない。

左肩から先、それらから左乳房に肋骨に左肺の約半分。
主要血管を巻き込み、それらの部分が彼女の体から忽ちの内に失われた。


そして何より恐るべき事実は、これが回避に成功した結果だということ。
ただ掠っただけ。それでも防御力が皆無なランサーにとっては十分すぎる致命傷。
僅かに触れただけという当たり所が最も良くて、この結果。

功名心に煽られ、仕掛けた代償がこれなのだ。
真、愚かということしかできまい。
マスターの不在、英霊としての経験不足、状況判断の失敗―――完全にランサーの失態であった。


当然、戦闘など話にならない。
―――逃げる。逃げる。振り向くことなく、逃走。

損失した左上半身の熱に堪え、そこから流失する血液と魔力を
応急程度の治療魔術で止め、彼女は無様に渾身の力を以って夜の闇の中へ敗走する。


後ろを見ては死。少しでも足を止めても死。
相手が一歩、前へ踏み出しただけでも死。

そこには死しかなかった。
漆黒の鉄を纏った破壊の魔王の前には、単純に命の終わりがあった。それ以外、何もなかった。
 


――だが、バーサーカーは彼女を追撃しない。否、敵としてさえ認識されていなかった。
バーサーカーにとって彼女はただ小煩い蠅に過ぎなかった。
あくまで先ほどの戦闘の最中でもバーサーカーの僅かな思考力を占領していたのは、埠頭近辺の強大な魔力。

それはランサー以上に強力な――例えば昨日のセイバーほどの――魔力の気配。
彼女など話にならぬほどの、明らかな強敵の存在をバーサーカーはその魔力から嗅ぎ付けていた。


故に、邪魔者がいなくなったバーサーカーは魔力の気配への接近を再開する。

姿勢を低くし、脚部に全身のエネルギーを収束させる。
ギギギ、と甲冑の足部が軋みを上げる。それは鎧の鉄板同士が擦れ合う音だけではない。
今にも破裂せんと内部から装甲を押し広げる狂戦士の筋肉の音だ。


その、聞く者全ての鼓膜を切り刻む不快音が数秒に渡り続き―――突如として止んだ。


否、何かが爆ぜる轟音に押し潰されたというべきか。
それほどの快音。それほどの爆音。

まず、瀝青(アスファルト)が完全に陥没する。
地を蹴るバーサーカーの暴力。
既にクレーターが穿たれていた路面に、深淵の如き夜の闇よりも黒い穴が口を開いた。


遅れて放たれた衝撃波(ソニックブーム)が残っていた周囲の硝子全てを粉砕し、進行上に木々を根元から薙ぎ倒す。
残るのは、海へと向け直線状に累々と積み上げられた崩壊物の屍。

魔力放出による加速でも、ましてや対軍宝具による突撃でもない。
ただの跳躍。その反動だけで、バーサーカーはその一帯を瓦礫の山へと変貌させたのだ。



――宙(ソラ)に浮かぶ鉄塊。直線距離一キロ近い、驚異的な跳躍能力。
漆黒の疾風が晩秋の月夜を裂く。目的地は昨夜と同様、埋立外区。


それが罠だと言う考えなど微塵も思い浮かぶことはなく、
本聖杯戦争最悪の狂戦士は新たなる戦乱の渦中へと、嬉々として飛び込んだのだ。
 

ここまで
喧嘩を売って撃退されるいつものペザールちゃん
コンマのときもそうだけど何故か彼女微妙に戦績悪いんだよね

日が開いてしまった反省
予定より遅れてるので当分はこっちを優先的に更新するつもり


両方見てるぞ


ペザール可愛いよペザール


ぺザールちゃんマスターに魔術とか教えないんですか?サーヴァント維持出来るならそっち系の素質もあるのでは

ペザールちゃんの幸の薄さはまさにランサー

>>359>>362
トン

>>360
大した英霊でも無い癖に妙にドヤ顔したがるペっちゃん
使ってる武器の霊格が高かったんで引きずられて英霊の座に登録とかある意味前代未聞
どっかでピザイベントも入れなあかんな

>>361
ランサーは道具作成持ってるし可能性はまああるかな
今の状況でもランサー魔翌力カツカツだからそこまで余裕があるかどうかが問題だが

>>363
3回出てどの聖杯戦争でも不幸ENDというのがやばい
一番マシなので最後の打ち切り気味の26代目のあれとか
なお完全に主人公の道具として使い捨てられた20代目はもはや黒歴史

というか現状この陣営ガチヤバなんで本格的に梃入れも一考せなあかんな


もしぺっちゃんが、ショタと蹂躙王のどっちかに気に入られてお持ち帰りされてたら、どうなってましたかねぇ?(ゲス顔


容易くやられるところを見るとやっぱりぺっちゃんだなと思う。

ホムンクルス貴方は設定とキャラ良くて楽しみだったのに残念やったわ
あのタイミングで負けるペッちゃんの運と9騎目が悪いんや

>>366
偉大なる蹂躙王様の評価
判定3:滅んだ国にすがる愚か者に興味はない

生前の弱者補正:+2付いた上での11(ダブルファンブル)

一方のショタ貴方からはその存在自体を憐れまれて可哀相な娘と止めを刺される

もうこのときからぺっちゃんの不幸属性決まってたかもしんね


>>367
このどうしようもない感がぺっちゃんなんだよな
何故か悪い方向に進んでしまうという


>>368
あのマスターはペザールを攻略させるために過去設定とか決めた言わばオーダー品
多分他の歴代主人公当てても攻略できる奴思いつかないわ

機会があればもう一回あのマスターとペザールでやってみたいんだけど
はくのん&エリちゃん組がハッピーエンド過ぎてもう手を加えられないんだよあの回
加えたくないというか、そんな感じ

≪────Archer VS. Berserker────≫



――闇に黒の軌道を残し、晩秋の星空の下、目標は作戦エリアに着地する。
拓けた埋立外区。そこを在りもしない敵の姿を求め、黒騎士は凄まじい地響きと瓦礫を撒き散らし落下した。


ネロの設置した、肉泥で形作られた高密度の魔力の囮(デコイ)
―――サーヴァントの模造品(レプリカ)に誘き寄せられたのだ。

少女にしか出来ぬ力業。かなり無理な完成。
だがそれでも、確かにバーサーカーは罠(トラップ)に引っ掛かった。


気になることは埋立外区に現れた人影が一人分のみということ。
マスターの姿を見えない。けれど、構わない。
元よりネロとしては此度の聖杯戦争では、可能な限りサーヴァントにマスターの相手はさせぬと決めていた。

だから今まで彼女はアーチャーにマスター殺しを目的とした狙撃を行わせなかったのだ。
始めからその戦法を取っていれば、何者も寄せつけることなく彼女はこの聖杯戦争に圧勝していた。
―――にも関わらず、彼女はそれを禁じ手としてこの聖杯戦争に参加している。


それは己に絶対の自信があるからこそ侵せる愚行。
そして仮令、相手が憎憎しくてたまらぬあのバーサーカー陣営であったとしても、
彼女は彼女の遣り方を、在り方を捻じ曲げることはない。

マスターが居ようが居まいがどちらにせよ、こうして愚かにも
アーチャーの前に出てきた時点で、既にバーサーカーに生存の術は残されていないのだから。
 


漆黒の狂戦士へ狙いを定め、ギリギリ、と強弓を限界まで引き絞るアーチャー。
番えられたのは赤羽の矢。九つの太陽のうちの一つ。



―――A+ランク対城宝具『千斤神矢・陽』。



着弾地点を中心温度一万度、周辺温度数千度に達する光球と火柱を以て焼き尽くす。
二日前のセイバー戦では埋立地最端を崩落させ、地形を変えるほどの威力を見せ付けた。


それを今度は事前の狙撃なく、初手から解放する。

目標地点までおよそ10km。備える暇は与えない。
事前の狙撃がなければ赤矢の存在に気がつけるのは、着弾まで1秒未満の距離だ。
マッハ10の極音速からみれば、既に令呪すら起動できぬ。回避、不可能。


現代の学び舎に等しい面積を焼き払う大火力攻撃。
如何なるサーヴァントとて令呪の補助なしでは脱出不能の範囲砲撃。
奇襲を察知する驚異的第六感を保持していようと、訪れる結果は変わらなかった。




―――灼熱の死。紅煉の地獄。



噴き上がる火柱。一万度の高温が地上を焼き払う。
二度目のA+ランクの対城宝具解放。其の破壊力は、二日前の戦闘となんら変わることなく。
広域に渡る地面を半球状に抉り溶かし、再び埋立外区の一端が崩壊、否消滅する。

視界を覆う白熱の蒸気。中心で滾る融けた赤の熔液溜まり。
地盤を融解させたそれは原初の大気の如く、浴びる者を根絶やしにする灼熱と猛毒を帯びている。
同エリア内の生命体は極小の単位までの全てが消失。



動く影も気配も命もない―――まさしくそれは地上の誰もが経験したことがない、地獄の再現。



実にあっけない終焉だった。
一切の手加減も容赦も遊戯もない戦闘の結果。
それが少女の聖杯戦争を穢したバーサーカー陣営へ下された罰であり―――――
 




「■■■■■■■――――!!!!」



――――迸る漆黒の魔力が白煙を無惨に引き千切り、バーサーカーは憎悪の咆哮を轟かせた。



「――――ウソ。耐えたの?」

「はい………っ! 驚くべきことですが、そう考えるしかないかと」


驚きに目を見開く少女と、淡々としかし僅かだが確実な焦りを言葉に滲ませる神話の射手。

堕ちた太陽の残滓。あらゆる生の存する処を許さぬ、紅煉(ぐれん)の釜。
その直撃に巻き込まれながらも尚、狂戦士は生存していた。
枯れた金髪は焦げ、深紅の外套は焼き払われ、甲冑の所々が融解、剥離している。


だが、バーサーカー本体には致命的な損傷は見られぬ。
昨夜の戦闘でバーサーカーもキャスターと同様に『鋼の防御』があることは確認していた。

それでもあくまで近接戦のダメージを抑え、白兵戦を有利にするものであり、
地上を小太陽で蹂躙するアーチャーの対城宝具を耐え切れるような代物ではなかったはずなのだ。


実際、昨日のセイバーや魔獣達との戦闘でもバーサーカーは多少の傷を負っていた。
その程度では『千斤神矢・陽』を無力化できない。なのに、何故――――




――――ネロとアーチャーは二つ見誤っていた。



バーサーカーの防御宝具は決してキャスターの再現能力のような、頑丈さに任せたものではない。
攻撃の「遮断」―――本体へのダメージをシャットアウトする絶対無敵の防御膜。



――――その名を、『聖なる天鎧(エンジェル・アーマーロラン)』という。



対象の攻撃に対して無防備であるほどその防御膜は遮断性能を増加させる。
外道はそれを利用し、令呪を以ってバーサーカーにその場での『静止』を命じたのだ。

完全防御状態であれば、ライダークラスのA+ランク対軍突撃宝具すら無傷で受け止める天の加護。
『騎士は無形の太刀にて勝利せん(ファントムソード・オルランド)』による強化の恩恵を受けている今、
『聖なる天鎧』はアーチャーのA+ランク対城火力宝具ですら、
行動可能レベルの損傷に押さえ込む凶悪な防御膜と姿を変えていた。


「鉄壁」と「遮断」―――似ているようで非なるその性質をネロは把握し損ねたのだ。
 


加えて、マスターである外道の行動の推測ミス。
確かに黒衣の仏僧はサーヴァントと思しき魔力の気配を片っ端から襲撃する行動パターンを取っていた。
行動パターンだけを見るなら極めて分かりやすい相手―――そう見ることができるかもしれない。


だが、外道とて愚かではない。
まずサーヴァントに先行させ、その場のサーヴァントを引きずり出した上で本体(マスター)として戦場を踏む。

バーサーカーはあれほどの化け物だ。
止めるためには必然的に迎え撃つ側も総力を挙げなければならない。


その総戦力を確認した上で、且つ敵のマスターがいる場合にのみこの男は獲物を狩るために姿を見せる。
単身で行動するが、無意味に突撃するほどこの男は落魄れた思考をしておらぬ。

それにどうせ戦闘にはすぐ終わらぬ。
外道の身体能力であれば、問題なく戦闘に飛び込める。
故に外道は目標地点より距離を取り、その場所を随時監視していたのだ。


―――結果、それは正解であった。
アーチャーに捕捉されなかったばかりか、事前に『千斤神矢・陽』の魔力を感知することが出来た。
得られた時間は2秒。それだけあれば令呪でバーサーカーに『止まれ』と命じるには十分すぎる。

『聖なる天鎧』の“遮断”障壁の最大稼動。
それによる『千斤神矢・陽』の事実上の無力化。
 




――――初戦はまず、外道の勝利であった。



続いて、第二戦へと移行する。
ここからは迫りくるバーサーカーを如何にアーチャーが迎撃できるかという戦い。
距離を考えれば圧倒的に不利なのはバーサーカーの方。

故に外道は躊躇うことなく二つ目の令呪を切った。



『アナタの力をぜぇんぶ使って、絶対にあの弓兵ちゃんの元まで辿り着くよぉぉおおん!!!』



――その令呪に応えるように、バーサーカーは起動する。
完全無敵の静止状態から、一歩前を踏み出す。これで、『聖なる天鎧』の“遮断”障壁は解除された。

今の状態であれば、再び『千斤神矢・陽』を放てば通るだろう。
だが当然――“眼”を宿す彼であればともかく――そんなことをネロやアーチャーが知るはずがない。


二射目解放に対する僅かな戸惑い。
その間隙を付き、バーサーカーは脅威の跳躍力を発揮。戦場より離脱した。
発射までの3秒。それだけの時間で埋立外区の目標地帯から脱出したのだ。
 



否――――こちらに駆けて、来るっ!


対象は林立する高層ビル街を足場に市街地上空を亜音速で移動。
地上への被害が大きすぎるため、対城宝具の使用はもはや不可能。


………令呪一画でも届かない距離だったのが幸いだ。
もしこれが擬似的な空間転移となっていれば、迎撃する暇もなかった。

だが、これなら戦える――――


「アーカス、はやくあのベルセルクを撃ち殺しなさい」

「善処致します――――っ!」


通常狙撃に切り替え、アーチャーは各ビル屋上を足場に接近するバーサーカーに狙いを定める。



――――質量600kg、速度マッハ10、Aランク対人宝具。



それを――――



「■■■■■■――――!!!」



――――咆哮と共に放たれた漆黒の砲弾が軌道を逸らした。



破壊力だけならアーチャーの狙撃の方が圧倒的に上。
事実、コンクリート塊は如何にAランク宝具といえど、鉄矢の破壊力に耐え切れず粉々に砕け散る。

しかし軌道をずらすだけならそれで十分なのだ。
狙いが逸らされた鉄矢はバーサーカーの鎧の端を抉り、すぐ横の着弾地点を崩壊させる。
屋上の床を貫いた矢はそのままビルの床を数階分、貫通した。
到底、対人宝具とは言えぬ破壊規模。けれどこれはまだ序の口だ。


―――間を置かず放たれる第二射、第三射。


それをバーサーカーは新たに握った鉄柵と瓦礫の宝具で撃ち落す。
片方は先ほど同様ビル屋上から十階近いフロアを貫通、粉砕。もう一方は道路に着弾し、
キャスター戦と同じく路面のアスファルトを捲り上げ、地下の下水道を剥き出しに曝した。


だが、バーサーカーへの命中は無し。
弓の構造上、一度に多数の矢を放てないというアーチャー唯一の弱点。
それを補うために強力な一撃一撃を以ってその場に釘付けにし、じわじわと嬲り殺しにするのがアーチャーの対英雄用戦術だ。

しかしセイバーすら容易く足止めし討ち取ることのできるその戦法が、このバーサーカーには通用しない。
Aランクの敏捷を以て、A+ランクの筋力とAランク蛮勇の格闘性能より投擲されるAランク宝具。
それら全ての行為に、外道という優れたマスターが下した令呪の強化が適用されている。

だがそんな状況であってもアーチャーからすれば、投擲宝具で軌道を逸らされるのは別段問題ない。
続く第二射が身を守る物を失った敵サーヴァントを貫くだけの話だ。

 



それが量産されるとなれば話が違う。
握る物全てがAランク宝具となるバーサーカーの異能。あれでは弾切れは望めない。

付け加えるなら、A+ランクの耐久も致命的だ。
Bランクだったセイバーとは異なり、バーサーカーはその倍以上の戦闘持続能力を持っているということ。
衰弱狙いは不可能に近い。令呪による補助も考えれば、おそらく魔力切れよりも速くこちらに辿り着いてしまうだろう。


ならば、撤退しかない。今なら、まだ間に合う。
今すぐ弓を畳み、陣地を畳み、森に駆け込んでしまえば、
幾ら怪物的な戦闘能力を誇るバーサーカーでも追跡できるだけの能力は持ち合わせていない。
令呪の補助があろうと、場所が分からねば追撃のしようもないのだ。


この距離なら、この位置なら。まだ、まだ――――


「撤退しましょう、主。あの様子では彼らがこちらに辿り着く方が速い」


何時の間にか、疾走するバーサーカーの背に外道が乗っている。
亜音速で発生する身を刻む空気の壁を結界で流しているのか、
平然とバーサーカーの上で胡坐を掻き、その厚唇を卑しく吊り上げていた。

だが主の命だ、主のやり方だ、主の在り方だ。――マスターは、狙えぬ。
ならばせめて、せめて撤退のご決断を―――――

 




「………逃げる? なにを言ってるの、アーカス。たたかうからちょうどいいでしょ?
 このあたし直々にさばいてあげる―――『暴君(ティラヌス)』、ネロス・ベーティアの『獣』で」



――――だが、当の少女はこれから起こる一方な嗜虐行為を想像し、瞳を緋色に輝かせながら嬉しそうに微笑み返した。



そう。ここは『獣』の領土。直径1kmに渡り広がる大魔法円の直上。
緋色に輝く大地は、全てが少女の支配下にある。



―――この場所に立つ以上、少女に敗北はない。



『黙示録(Apocalypse)』の赤き獣。七つの首其々が宿す七大の権能。
それがある限り、この少女は最強である。


元より敵のマスターはネロ自身の手で葬り去るつもりだったのだ。
そうでもなければ気が晴れない。そうでもしなければ気がすまない。

彼女の聖杯戦争を穢し貶めた罪を、それ以外の手段で償うことなど出来ない。
だから少女は自らの欲望のまま、この場での黒衣の仏僧との戦闘を選択した。
 




つまりそれは、その間アーチャーにあのバーサーカーを抑えていろということでもあり―――



「――――御意。どこまでも御供致します、我が主」



―――なれば、私は私に出来る最善の事をしよう。



そう。アーチャーは特に異論を溢すことなく、再度弓を構える。
狙うは着地の一瞬。バーサーカーの硬直が解けぬ、その間を狙う他在るまい。

それが失敗したら? 彼の主が敵のマスターを倒すまで、何とか持ち堪えさせるのみ。

この地が『獣』の領土内である以上、少女の戦闘能力は圧倒的なのだ。
少なくとも【十の支配の冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリウム)】が発動している限りは無敵。
精霊を宿した概念武装や精霊そのもの、それか宝具でもなければ少女を傷つけることは不可能。


あの仏僧のランスではそれらの条件は満たせない。
少女が敵マスターを屠るまでバーサーカーの一撃に耐えれば良い。


だからこの一撃も―――――

 



………硬直時の隙を狙い放った矢は『聖なる天鎧』に遮られた。
そして着地を許した以上、次を番える時間はない。あとは白兵戦のみ。


だがセイバー以上の怪力と格闘性能。相手が悪すぎた。
強弓は瞬く間に漆黒の煌きに弾かれ、跳ね上げられる。その無防備を、狂戦士は見逃さない。

まず右腕が絶たれた。続けて腹を横一直線に剣が切り裂く。
噴き出る血潮、零れ落ちる臓物。鮮やか過ぎる赤が、大地に輝く緋色を穢す。


幕引きの一撃。渾身の怪力を以って、頭を割るように振り下ろされた剣は何とか弓で受け止める。
但し敵は両手。こちらは片手のみ。この拮抗は、一分と持つまい。
だがそれでも。それだけあれば彼のマスターはあの黒衣の仏僧にとどめを刺せる。


だからこの時点で勝負はアーチャー陣営の勝利であり―――――

 




「うっふぅぅ~ん♪ ソコ、ねぇえ~~ンンン!!!」


きぃん、と甲高い音色が響き――――『獣』の領土は消失した。


少女は、驚愕に目を開く。
その瞳から緋色の光は失われ、普段の黒へと変色する。
言葉すら、出なかった。思考すら、静止した。

辛うじて、ウソ、と声亡き口を動かせただけ。


何が起こったのか理解できない―――それが今の少女の全てだった。


外道の手に握られた、目が奪われる程美しき装飾の両刃剣。
いつの間に抜き取っていたのか。バーサーカーの持つ二振りの剣の片方。
それを地を走る緋色の光脈の一本に突き立てていたのだ。


――――魔術無力化の剣。


まだバーサーカーの正体に辿り着いていない少女は知らぬだろう。
かつて魔法庭園の主、魔女ファレリーナからローランが奪い取った秘蔵の魔法剣。
一振りで如何なる魔術も打ち消す、最高クラスの対魔術礼装。
 



それでも、だ。だからといって少女の大魔法円が一太刀の下に無効化されるなど本来有り得ない。

展開された666本の擬似魔術回路。
それぞれが“独立”して、『獣』として一つのカタチを成している魔術だ。
当然ネロとて【十の支配の冠(ドミナ・コロナム)】への致命傷となる対魔術礼装への対策くらい、用意してある。


故に適当な一箇所を無効化されたところで、領土そのものを破壊することはできない。
1kmに渡る広域に影響を及ぼすような魔術無効化であればまだしも、
『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』やバーサーカーの魔術無力化の剣が一太刀で切り裂けるものではない。


それをこの男は無力化してみせた。
この男は、結界の天才ではなかったのか?


―――違う。外道は確かに結界の達人であるが、天才ではない。
折り重なる結界を積み上げ、固有結界じみた空間を作り上げると言った繊細な真似はこの男は得意分野ではない。

外道の真なる能力。それは結界破壊、陣地解体の天才的慧眼。
一目見るだけでこの男は、その結界・陣地の急所や脆弱性を本能的に看破するのだ。


それは一定領域を自らの支配下に組み込むネロの【十の支配の王冠】すら例外ではない。
緋色に花開く大魔法円。奔る666本の擬似魔術回路。直径1km。
まともに考えればこれほどの領域の中から、ただ一点の脆所の見抜くことなどできるはずもない。

けれど外道は、それを捉えたのだ。
バーサーカーが跳躍し、着地するまでの僅かな滞空時間。
その一瞬だけ目にした全体像から、直感的に魔法円の急所を発見した。

 




――――故に、付いた渾名が「破壊僧」。



これが外道の真の実力である。
武芸十八般を鍛え抜いた肉体よりも、全身を覆う高硬度の防御結界よりも、
重量100kg近い仏骨のランスより、何よりもこの結界破壊の特化能力こそ外道の真髄だったのだ。


そして今、この地を支配していた何もかもがなくなった。
少女を守護する絶対防御の権能も、少女の操る肉の海も、少女が放つ紫電の緋華(ひばな)も、
『獣』の有する七大権能全てが仏僧の一撃を以て、大魔法円の消失と共に完全に沈黙した。


領土の再掌握は出来ない。
時間もなく、余裕もなく、仮に出来たとして再度無力化されるのが結果(オチ)だ。

残されたのは、正面から外道を撃破するという方法のみ。
だがもはや少女に外道を打破する手段は無きに等しかった。
サーヴァントに匹敵する彼女の類稀なる強さは、【十の支配の王冠】あってのもの。
 



現在の彼女が使用できる攻勢魔術の種類、出力は高位の魔術師レベルと言ったところ。
数多の実力者を屠って来たあの黒衣の仏僧に対抗するには役不足。


同様に至近戦用にと鍛えた体術も“一の丘(カピトリウム)”の補助下、
もしくは魔術戦の最中に敵の懐に潜り込み、魔術師相手に止めのラッシュをかけるためのものだ。
故に『獣』の権能の補助無しに、元から武術に卓越しているあの青年や外道の相手を出来るものではない。


一方のアーチャーは致命傷。令呪を使ったところで相手はあのバーサーカー。
そしてこの距離での白兵戦。弓は間に合わず、逃走できる可能性も皆無だ。
 




…………だから、この勝負の結末は呆気の無いものだった。



「あ、うぅぅ…………ぁ、ぁ、あ…………か、ぁぁ」

「チョロイわねん、ア・ナ・タ。七草ちゃんと比べるまでもないわぁ~ん♪」


細く白い首を締め付けられる鋼の豪腕。
それは万力の如き力で、繊細な少女の喉を押し潰す。

必死にそれを引き剥がそうと少女は外道の指や手に爪を立てるが、所詮は蟷螂の斧に過ぎぬ。
僅かに力を加えるだけでネロの首は枯れ枝のように軽い音だけを残し折れるだろう。


幾等強かろうとネロは、外道にとっては唯の雌餓鬼。
男でない以上、性欲も情欲も覚える対象ではない。



…………故に、彼女には速やかに殺される以外の選択肢など在り得なかった。



「それじゃあねぇ~ん。存分にイっちゃいなさぁ~いん♪」


厚唇を吊り上げ、ンフッ♪ と湿った息を漏らす外道。
忽ち、ごきり、と少女の首を掴む彼の手の骨が鳴り―――――




「――――少し待ってくれないかな。彼女、僕のエモノなんだよね」



――――ガキン、とその手の甲に銃弾が撃ち込まれた。



硬い結界に阻まれ、皮膚に傷は付かない。
それでもその衝撃は外道に手を開かせ、少女の身体を助け出すには十分過ぎるものだった。
地面の落ちた衝撃で少女は咳き込みながらも呼吸を戻すことに成功する。


だが一体誰が。誰が、あの銃弾を―――。
そして、その発砲者の姿に黒衣の仏僧は愉悦に顔を歪ませ、少女は驚愕に目を見開いた。


靡く白い髪。白い着流し。女とも取れる端正な顔立ち。
華奢な体躯。見た目すらりと伸びた手足は、しかし必要分の筋肉は備えているようで硬い。

けれど其のどれよりも見た者を魅了するのは、廻るましく色彩を変える“眼”。
それはまるで変幻(プリズム)の光華(カレイドスコープ)。

 





現世に迷い出た幽霊。あるいは夜風に揺られる薄の尾花の如く――――




「やあ、ネロ。助けに来たよ」




―――――爽やかな声で闇を裂き、石蕗七草(ツワブキナナクサ)が其処にいた。


 

ここまで


東北大戦で登場したけどようやく外道の真の能力『破壊僧』をお披露目
見ての通り完全なネロ用のメタ能力という

何はともあれ次回でバーサーカー編も終了
大暴れしまくったローラン君の出番もここまでです

ちょっとやりすぎた感も否めないけど、ありがとう! フランク王国最強のアホの子!


いやー七草君かっこいいですね、もう主人公彼で良いのではないでしょうか


アホの子マジアホの子外道マジ外道で七草が七草で安心した
凄い燃えた。いつも楽しみにしてます


バサカローランにタイマン白兵戦で勝てる人っておるんかね? 

>>391
御三家主人公なんで他の連中もこれからこれから

>>392
変態じゃない七草は違和感あるという
狂戦士アホの子は麻尋回の一回しか出なかったからまたいつか出したいと思ってた
ゲイのレイプ魔は………ノーコメで

>>393
格闘ベオでも単騎は無理だからなぁ……
相性的に悪竜モードファフニールも正面相手はきつい

アマノムラクモか千斤神矢・陰解放なら勝てるかな、ぐらい

今別のスレでやってるテセウスさんが七草君の鯖だった場合相性はどうでしょうか?

>>395
意気投合することはなくてもコンマ次第で決裂することはあるから
そういう意味で相性は悪い方

特に七草は敵と戦いたがる傾向にあるんで絶対叶えなきゃならん願い持ちの英雄との相性はいいとはいえない

≪────Saber VS. Berserker(2)────≫



――――五分。



あの重傷の身で、相手はこの狂戦士。
結論から言えば、よく保った。奇跡のようだ、と褒め讃えるべきだろう。

だが所詮奇跡の紛い物は紛い物でしかなく、紛い物である以上、
結局アーチャーに生存という道は残されていなかった。


頭蓋を割るバーサーカーの怪力に、『万斤丹弓』を圧し折られずとも防御を肩ごと持って、イカれた。

纏めて幾本もの骨が砕ける音。途端、腕が下がる。

あれほどの重量の弓を持ち上げ、引くのだ。
自慢ではないが頑丈さは取り柄だったのだが、とどこか悠長なアーチャーの思考。


一方防御が失われたと見るや目前の狂戦士は、即座に漆黒の魔力で冒された輝きの剣を振り上げる。



「■■■■■■――――!!!」



咆哮と共に放たれる致死の一撃。この直撃にアーチャーは間違いなく耐えられない。



結果論も含まれてしまうだろう。
だが、この事態を招いたのは間違いなく彼のマスターの判断ミスだ。
故に彼には、少なくとも戦況判断に関して責められるべき落ち度は何も無い。


それでも最期まで彼の心中に在ったのは、少女への謝罪の言葉。
一介の狩人では到底力の及ぶところではありませんでした。申し訳ありませぬ、我が主―――



――――振り下ろされる漆黒の剣。



瞬く程の短い時間が、水飴の様に引き延ばされて見える。
せめてどちらか片方でも腕が動けば、抵抗し暫しの時間を稼ぐことが出来るのだが。
あの怪力を五分も耐えていたせいか、脚がコンクリートにめり込んでしまっており直には動けそうも無い。

垂れ下がった頭の上から覆い被さる翳り。
月がある故、下を向いていても地に映る影で狂戦士の動きは手に取るようによく分かった。
分かったところで打つ手は既に失われているのが、残念でならない。


申し訳御座いません、我が主。
そう彼はもう一度謝罪の言葉を溢し、止めとなる狂戦士の一撃に目を閉じて。

 




―――それを突如として吹き荒れた暴風が弾き返した。



あのバーサーカーの巨体が押されている、押し返されている。
奇襲的とはいえ、彼の狂戦士を怯ませ、足止めし、あまつさえ追い返すほどの力。



―――伊勢神風。数多の外敵を撃退し続けた護国の暴風。



あくまでそれを想起させるが如き風というだけであり、本物ではない。
けれど間違いなくその大気の津波はアーチャーを護る為にバーサーカーへ向け放たれた物だった。

だが誰が、どうして。
アーチャーのその疑問は直ぐに氷解した。



「――――よぉ、優男。随分ボロッボロじゃねぇか。弓以外、ホント無能だなテメェ」



聞き覚えのある憎まれ口。
当然だ。一度それこそ一昨日、殺し合った仲なのだ。

忘れるわけがない。この声の持ち主は、あの――――




そして何時の間にか、彼女――――否、彼がいた。



靡く漣。長髪は烏の濡れ羽の如く、艶やかな光沢を帯びた黒。
その澄んだ双眸はまるで黒曜石のように煌いていて。
服装こそ違うものの、やはり纏う衣装の種類はパーカーとスカート。

何時もの様に見えざる剣を手に少女の姿をした少年(セイバー)は、
傷ついた神の射手を護るという明確な意図の元、漆黒の狂戦士と相対していた。


にひっ、と片口を吊り上げ、セイバーは驚いた表情のアーチャーを一瞥すると
野生の猛獣にも似た唸り声で威嚇するバーサーカーへ、その不可視の切っ先を向ける。


「セイバー、バーサーカーを頼んだよ。アーチャー達は僕らの獲物だ!」

「おっけぇ、りょーかいしたぜ! んじゃあかかって来な、この脳筋猿人(サル)野郎!」


青年(マスター)の掛け声に、彼は嬉しそうに笑みを浮かべ、
彼流の礼儀と言わんばかりに狂戦士へ嘲笑った口調で罵声を投げ付ける。
それも理性無きバーサーカーにも分かりやすいように、動作一つ一つに侮蔑を込めて、だ。
 




「■■■■………■■■■■■■■――――!!!」



セイバーの挑発に、バーサーカーは明らかな怒りに満ちた咆哮と共に襲い掛かる。
理性を喪失したとはいえ、態度と雰囲気で己が馬鹿にされていることに気づいているのか、
バーサーカーの周囲に渦巻く漆黒の魔力はより濃密となり、同時にバーサーカーの攻撃の苛烈さも増す。

しかしセイバーは叩きつけられる連撃の瀑布を、にやにや笑いを崩すことなく次々受け流す。
そんな彼の表情がさらに狂戦士の本能に怒りの火を点し、剣戟の重量と破壊力を加速度的に増加させていく。

以前の戦闘よりも、より残虐で容赦のない斬撃の雨。
だが、それでもバーサーカーはセイバーを攻め落としきれない。


セイバーが陽動と防御に徹しているというのも一つ。
だがそれ以上に黒髪の少年は剣術に武術を絡め、正面からの防御、鍔迫り合い、受け流しを織り交ぜながら、
音速の数倍はあろうバーサーカーの打ち付ける滝の如き猛攻をすべて捌き切る。


――――そう。自身のステータスと戦闘力を上回る狂戦士相手に、少年は確かに互角に渡り合っていた。

 




―――纏う、風。今までの戦闘では見られなかったその能力。



或る時は脚を取り巻き、バーサーカーの暴力を受け止める補助柱となり、
或る時は身体を覆い、バーサーカーの攻撃を逸らす大気の壁となり、
或る時は剣を風の断層で包み、敵に防御を必要とさせる程の強烈な一撃となる。

剣での斬撃。さらに腕、脚に乗せることによる角力の強化。纏う物は武器、肉体を問わず。
千変万化するその姿。実体無き、それでも明確に存在する力。
対バーサーカー戦のために七草が用意させたキャスター謹製の魔装具による後天的な付与スキル。



『魔力放出(風)』―――自身の魔力を風として放出し、身体や武器に纏わせるスキルである。



剣速の向上、攻撃の受け流し、移動力の強化、一斉放出による全方位攻撃等、応用の範囲は非常に幅広い。
攻防一体の強力なスキルだが燃費は必ずしもよいとはいえないのが欠点だ。

それでもこの魔力放出はセイバー単騎でのバーサーカー攻略には必要不可欠なスキルなのだ。
事実セイバーは昨晩の戦闘で学習した敵の剣速、太刀筋などの知識と併せ、
あのバーサーカー、ローランを時間稼ぎを目的した足止めの戦闘とはいえ、完全に封じ込めていた。



――――現状、防戦ではあるがこの場において二騎の実力は完璧に拮抗していた。



相手より戦力が劣るのなら、収集した魔道具(アイテム)で埋める。
物見稽古や自身の身体能力だけでない。この黄金律もまた、七草の戦力である。


なお、報酬はこれまた黄金造りの財宝。
女王ゼノビアの体を縛り、辱める目的で鋳造された黄金の鎖である。
七草が召喚用の触媒として用意していたソレを、キャスターは自らの報酬として欲したのだ。

無論マスターである管理者(セカンドオーナー)の方へは、
可能な限りキャスターへの討伐令報奨の令呪贈与の口添えに協力するということで話が付いている。


さて、何はともあれこれで戦況は固定された。
バーサーカーは完全に封殺され、ネロとアーチャーは動けぬ。


―――――残るは、白髪女形の青年と残虐黒衣の仏僧。



「やあ、外道。昨日の借り、返しに来たよ」

「あっらぁ~ん、会いたかったわぁん。七草ちゃぁん♪」


二人が出遭ったのは昨晩。
だが七草は外道を不倶戴天の敵と睨め付け、外道は七草を千載一遇の獲物と舌舐め擦りをした。
両者の感情は真逆。しかし求める結果は相違無い。


故に――――




「さぁ、覚悟はいいかい外道? 君なんて、片手だけで十分だ」



――――青年は外道に右手のリボルバーを突き付けた。



――黒の瞳の少女、ネロス・ベーティアは静かにその戦いを見守る。
先程の結果を見ていなかったわけではあるまい。この男に銃弾など通用しない。
与えられた衝撃も彼女を助け出す程度。決して損害を与えられるものではない。


―――では、どうするというのだ。


この白髪の若人はどうやって、あの悪魔の如き法力僧を仕留めるというのだ。
武装らしきものは右手のリボルバー銃と、左手に填めている皮製と思しきオープンフィンガーグローブ。

とてもあの防壁結界と仏骨のランス相手に遣り合える装備とは考えられない。
青年では、この怪物相手に勝てるとはネロには到底考えることができない。



――――そして、戦闘が始まった。

 




「うふぅ~ん、いいオ・ト・コ♪ 嗚呼、ホントにぃ………嬲って殺(や)らなぁくちゃぁねぇええ―――!!!」



最後は艶声すらない、男の咆哮。ランスを構え、直線で駆ける破戒僧。
勿論サーヴァントのように音速を超える突進ではない。
だが、人の域は優に超えている。自らの身を限界まで鍛え上げた武芸十八般の成果だ。

さらに彼の全身を隈なく覆う高硬度の防御結界。
先程の結果を見るに、少なくとも銃弾が通用しないのは確かだ。
結界の隙間も抜かりなく、銃弾を通さないギリギリの幅に設定されている。


そんなこと、昨日の段階で分かっていた。
あくまで右手のリボルバーは囮。本命は―――――



「悪いけど、君の技術(わざ)を借りるよ―――アスマ」



――――既に、『編み上がっている』。



だから青年はただ、無造作に開いていた左手を握り締めた。
それで、終わり。
 



―――決着は、一瞬だった。
駆ける破壊僧。対する青年はその場から動かない。



――――銀の糸が舞う。



檻成すは糸の監獄。曲弦糸の極地。
四方八方、前後右左上下全方位から襲い来る銀糸(ギロチンカッター)。

何時の間にか気がつけぬうちに周囲に張り巡らされていた極細の鋼鉄糸(ワイヤー)。
その数、82本。それを青年は片手の、握るという動作のみで操って見せた。



――――『破壊魔(ジグザグ)』。曲弦師の操る殺戮技巧。



宙を走る銀線は、獲物を絡め取る蜘蛛の如く。
そして82本全ての極細糸が青年の操作通り防御結界の僅かな隙間を潜り抜け、外道の肉体へ触れた。
 



「あ」


喘ぎは途中で遮られた。
防御結界の内側で紙を切る鋏よりも易く、外道の肉体を寸断する鋼鉄糸。
全箇所切断まで一秒足らず。自分の身に何が起こったのか、外道の脳は理解する暇もなかっただろう。

晩秋の夜の静寂が、一際耳を貫き―――
それから重力に牽かれるように鋼の山の肉体は彼の足先から崩れ去る。
転がる輪切りの肉片が無常に血溜りに沈む。



――――バラバラバラとなった彼の体と命は既に停止していた。



相手は、ネロを殺しかけたほどの強敵だった。
だがこの青年は一歩も動くことなく、鮮やかに解体、切断した。
一滴の返り血も浴びず、一点の穢れも無く、彼は戦いに勝利したのだ。



それも少女が思わず息を呑んでしまうほどの――――



「まったく………随分とつまらない勝負だったね、外道」



――――それほどまでに、この青年の強さは圧倒的であり、
これが【物見稽古】が正しく機能したときの青年、石蕗七草(ツワブキ ナナクサ)の実力であった。

 



そして外道の死と同時にバーサーカーもその動きを止めた。
糸が切れた操り人形のように狂戦士は、がくん、とその動きを止め――――



「■■■………■■ド………■ード………オ」

「――――じゃあな、ローラン伯」



――――次の瞬間、セイバーの見えざる剣は鮮やかにその首を斬り落とした。



神代の蛇神、八岐大蛇の怨念を宿す『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』の刃は、
狂戦士を護る天の加護、『聖なる天鎧(エンジェル・アーマーロラン)』を歯牙にも掛けなかった。


霊核を喪失したバーサーカーの肉体は崩れ落ち、速やかに漆黒の粒子へと分解する。
暗黒の輝きを煌めかせながら、極光が鏤められた星空へと昇華していく。

最後の足掻きを警戒したのか、それとも消滅の間際で理性を取り戻させないよう図ったのか。
兎に角、その一太刀を以ってセイバーは確実にバーサーカーの活動を終了させた。
 

ここまで

ということでバーサーカー脱落
倒した相手はいないけどローラン君の戦績ちょっと半端なさすぎた

アサシン以外の全陣営相手取ったぞコイツ

安定のロラン。マスター共々インパクト大きくて熱かった!
あとアスマ=サンの犠牲が無駄では無さすぎてヤバい。乙!

乙、
七草君いつの間に男娘の技の破壊魔(ジグザグ)覚えたんですか?
いや、お祭り企画でジグザグ習得してましたけどあれがここで出るとは

バーサーカー、ローランくんの戦績

1.キャスターに重傷を与え一方的に撤退へ追い込む
2.セイバーと魔獣6頭相手に優勢
3.ランサーを即撤退させる
4.アーチャー相手に距離を詰めて脱落寸前まで追い込む
5.強化されたセイバー相手になお互角
  セイバー側が時間稼ぎ目的の徹底した防戦に持ち込んでこれ

強い(確信)

>>410
結局セイバーはローランに勝ててないという
あくまで勝ったのはマスターの方

ちなみに外道に狂ローランを当てたのは8代目狂陣営のセルフオマージュ
後ニンジャじゃねえから!


>>411
この世界線だとどこかで戦って習得
遊馬側は負けたが死亡はしていない設定

安価スレでも使ってたしどうしても見せ場が欲しかった技
外道の高硬度防御結界もこの技のための設定であるところが僅かにある


>>412
トン

どうしてこの化け物が闊歩する聖杯戦争にペっちゃんは喚ばれてしまったのか

日本最強、フランス最強、弓の神、怪物たちの母、最強の幻想種にして神代の魔術師、NINJA

そして、ぺっちゃん


魂魄塊のときより無理ゲーや!

なんでや!
宝具だけは負けとらんやろ!

≪────Interlude Saber&Archer────≫



――――死線の銀を巻き上げる。



特注の鋼鉄線(ワイヤー)。蒐集した触媒群ほどではないが、やはり値が張る代物だ。
引張強度、最小ワイヤー径、耐摩耗・疲労性etc―――どれもが市販品はおろか軍需品よりも高水準の数値を叩き出す。

別に金額に目を瞑るのであれば捨て置いても構わない品かもしれない。
だがやはり、特注品となれば作成に時間が掛かるのが実情。


同じ量を再度鋳造して貰うとなれば、二週間は待たねばなるない。
此度の聖杯戦争の期限はおよそ半月。既に五日が経過しそうだということを考慮するならば、
武装選択幅の減少は到底七草の望むところではない。

本来、銀線とて必ず使うつもりで用意したものではないが、
今回のように計らずも使わざるを得ない場面が今後出てくる可能性も否定できない。

だからこそ七草は蛇蝎の如く忌み嫌った法師の血肉に穢れていようと、
銀線を単なる塵として捨てるわけにはいかないのであった。


嘗て技を競った例の殺し屋は毎回のように後始末を行ってきたのだろうか。
曲弦糸はこういうところが面倒だよね、と何時もの様に七草は多大な疲労感を溜息と共に溢した。

 


………………………………………………………………………………………………………………


青年のオープンフィンガーグローブの内に回収される銀線を、少女は呆然と眺めていた。


未だ想い起こされるのは、月光の下での光景。
奔る、蜘蛛の糸。裂く、極細の刃。一拍置いて、血肉は崩れる。
全工程完了まで一分を切る、鮮やかな手際。


――静止した世界での、無音の景色。
見る者全てを惹きつける殺戮技巧は、発動の間少女に一度の瞬きも許さなかった。

一昨日の晩とは次元の異なる戦闘能力。今と比べれば、
あの夜の彼はまるで枷でも着けられていたような有様だった。


けど自分も随分と低く見積もっていたものだ。認識を改める必要がある。
ホンキ程度じゃ、ダメ。彼の相手は、全力じゃないと―――



「やあ、ネロ。怪我はないかい?」

「あっ………うん、だいじょうぶ。ケガは、ないわ」



不意に声を掛けられ、反射的に返答してしまうが、
一方の青年は、ならよかった、と心底安堵したように笑みを浮かべる。
 



正直、ネロには意味が分からなかった。
覚えている。目の前の青年とは一昨日の戦闘で殺しあった仲だ。
あの戦闘でネロをアーチャーを危険視され、バーサーカー共々始末に来たというのであればまだ話は分かる。


しかしこの青年は何が目的か、敵であるネロとアーチャーを助けたのだ。
………まさか少女偏愛の異常性癖を持った変態とでもいうのか?

もしそうならネロとしては、残念ね、成長がとまってるだけで実はあたし25なの、と伝えるしかないワケだが。


いや、そうではない。それではないのだ。
少女は彼に言わねばならぬことがある。伝えなければならぬことがある。
青年の目的や本心がどうであろうと、結果的にネロは彼に助けられた。

それだけは絶対忘れてはならない事実であり――――


「ねぇ」

「ん?」

「………ぁ、りがと」


今にも消え入りそうな小さい声だが、言葉は確かに青年の耳には届いた。
だから青年も、どういたしまして、と静かな笑みで答えを返す。
 



そんな青年の笑みを見て、ネロの懐いた感想は唯一つ。



―――――この顔、泣/鳴/啼かせてみたい。



一方の七草としても先程の遣り取りで、少女から若干意外な印象を受けた。
あんな性格だ。てっきり、何故助けたの? という罵倒が来るかと期待したのだが―――
いやはや少々自信過剰な処があるだけで、礼を失する程の常識知らずでは無いようだ。

取り敢えず、もう一度サシでの死合の申し込みから、と行きたい所。
アーチャーの回復までにどの程度時間を要するか分からないが、
それまでにネロの【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】の攻略を確立する必要がある。


互い互い、考えを巡らせるネロと七草。
だが次の瞬間、彼らの思考は突如鳴り響いた耳を劈く爆音に因って掻き消された。

 




――――軽快な金属音と重厚な金属音。同時に夜闇に閃光が咲いた。



弾かれるようにマスター両者、己がサーヴァントの方を振り返る。

闇の中、鉄(くろがね)共の音源が輪郭を現す。
弓兵の頭蓋へ喰らい付く無色透明の剣の軌道を、朱塗りの強弓が辛うじて遮っていた。

仕掛けたのはセイバー、仕掛けられたのはアーチャー。
本来は確実に頭部を両断したであろう一撃が奇跡のような弓捌きで阻止されていた。


―――左肩の骨が動かせる程度に再生したのが幸いだった。
初撃を『万斤丹弓』で受け止める。だが元々の筋力の高さに加え、魔力放出による加速の上乗せ。
防御は一撃が限界。セイバーの馬鹿力に、アーチャーは体ごと地面へ引き倒された。

地に着いた左腕を少年の足が踏み砕いた。痛みに、思わず射手は歯を噛み鳴らす。
再度の損傷。骨は完全に粉砕され、『万斤丹弓』は持ち上げられない。


「セイ……バ、ぁ……ッ……何、を………」

「オイオイ、動くんじゃねぇーよ優男。マスターの命令だよ。お前だって聞いてただろ?
 アーチャー陣営はオレたちがエモノだってな。マスター、ちょっと待っててくれ。サクッと終わらせちまうからさ」


七草へ呼びかける声は何時もの様に、何時もの通りで。
笑顔だって変わることなく、セイバーは不可視の剣を奔らせる。
 



刃渡りは見えずとも、おおよその軌道は判別できる。
首を狩る太刀筋。身を守る術はない。
純粋なまでに磨き上げられた殺意の具現化たる必殺の逕路。


令呪を用いた回避であってもバーサーカー戦での消耗が回復し切れていない以上、
交えるのは幾合が限界。セイバーは追撃で確実にアーチャーを仕留められる。
仮にアーチャーが助かった所で、次にセイバーが剣を向けるのは間違いなく彼のマスター。

故に迫る結末を変えられるのは、唯一人であり。



「『止まれ、セイバー』!!」



―――急停止(フリーズ)。


ガクン、と剣を振り下ろす体勢でセイバーの身体は硬直する。
アーチャーの首筋を触れた刃。主の右手から伸ばされた戒めが、薄皮一枚を裂いたギリギリのラインで留める。

使用令呪は一画。対魔力Aのセイバーからすれば全力で抵抗すれば喰い千切れる程度の鎖。
相手は手も足も武器も機能しないアーチャー。
力と意思任せに静止を振り切り、このまま剣を振り下ろすことも不可能ではない。

 



―――けれど少年はそうしなかった。続ける意思もなかった。


彼は『剣』。つまり武器だ。否定されたままでは彼は剣を振るうことができない。
何よりもまず彼の所有者(マスター)に、
射手を討ち取れる絶好の機会で、剣(セイバー)を止めた理由を問い質さねばならない。


少年は一度震えを抑えるように薄紅色の唇を噛み締めると、
有りっ丈の大声で胸の内に溜まる全ての蟠りを吐露する。


「――――っ! なんでだよ! 何で止めんだよ! コイツら敵だろ!?
 アンタも言ってたじゃねーか! コイツは俺たちのエモノだ、他には渡せねーって!!」

「…………だから、だから、斃さなくちゃいけねぇんだろっ!」


嗚呼、そうだ。そうだ、間違いない。確かに七草はセイバーにそう言った。
そう言って、バーサーカーからアーチャーを守らせた。

ならば眼前の惨状と令呪という代価は、文面通りに行動した結果。
何の不足があろう。何の不満があろう。何の問題があろう。


全部、全部、マスターのご命令通りの内容をやったまでだ。
   




これがアンタの望んでいたことじゃなかったのかよ――――そう漏らす少年の言葉は、最後には嗚咽にも近いひどい声となる。



水を湛え、揺らめく黒曜石の瞳が縋りつくように青年の顔を映し出す。
今の少年は、見る者の胸を悲愴感で締め付ける可憐な華だ。
計算尽くされたものか、或いは無意識に利用してしまっているか。

彼が同性だと知っていても、若しくはそうとは知らなかったとしても。
老若男女、分け隔てなくこの少女、いや少年に魅了されたことだろう。
熊襲兄弟、出雲健等、自ら破滅の道を選んだ者もいた程、少年の美貌は魔性であり、



「――――違うよ、セイバー。君のやろうとしたことは、全く以て見当外れだ」



―――けれど、冷ややかに青年はセイバーの全行為を否定した。

   


セイバーの瞳が大きく見開かれる。
顔から色が失われ、手から剣が滑り、地に音を立てて落ちる。

本聖杯戦争トップクラスのサーヴァント、アーチャーやバーサーカーへ剣を振るった時にすら
欠片も見せなかった恐怖という表情を、今初めて彼は表に出した。



「僕が戦いたいのは今の彼女達じゃない。今じゃなく、もっと全力の僕と対等に殺し合える万全の状態の――――」



それでも七草は淡々と言葉を続ける。少年の過ちを、少年の誤りを明確に示していく。

何故彼がアーチャーを襲撃するという暴挙に出たのか。
何故彼はマスターからの否定に対し恐怖を示したのか。
不幸にも今の青年にはセイバーの動機に、否セイバーの根本的な在り方にまで頭が廻らなかった。



「ありがとう、助かったよセイバー。でも、この場での君の仕事は終わりだ。
 だから今は休んで。ここからは僕がやるよ」



最後の締めの言葉すら、一切の容赦は無い。
謝意を示しながらも冷徹に突き放つ己がマスターの言葉に、セイバーは俯いた儘、唯黙って霊体化した。

 


………………………………………………………………………………………………………………


他方、少女は傷ついたアーチャーへ治癒魔術を掛けていた。
両腕の破壊、腹部の内臓露出の損傷、脚部の骨折等。此の場での完全回復は難しい。
やはり拠点での術式を用意した上で休息させる必要があるだろう。

が、応急処置程度であれば簡易的治療でも十分のようだ。
心配ないわね、と少女は己のサーヴァントを霊体化させた。

けれど問題は全て解決できたわけではない。



―――少女は白髪女形の青年の方へと視線を向ける。



名も知らぬセイバーのマスターが行った不可解な行動の数々。

黒衣の仏僧を寄せ付けぬ、圧倒的戦闘能力を持っているのに。
戦局的に利益のない加勢や令呪まで使用したセイバーへの攻撃停止命令。
そして、言葉の端々から見え隠れするネロへの執着。

以上の共通点。彼のホントの目的は…………
   




――――そこまで考えて、あっ、と少女は小さな声を溢した。



「ナニよ、そんなコトだったの」



あの青年がここまでネロに拘る理由は余りにも明白だったのだ。


ひどく単純な、彼の行動原理。
彼女が唯一、物見稽古を使った彼と凌ぎを削り、潰し合えるかもしれぬ存在故。

―――死合に死合を重ね、死線に死線を潜り、幾百。あるいは幾千。
戦を積み上げた先。此度の聖杯戦争という舞台で、漸く見出すことを許された好敵手の存在。
千載一遇の此の機を逃せば、再び対等の者と出逢えるかどうかさえ分からない。


今までの利益度外視の介入は、だからこそ。
己が信念―――ネロとの邂逅の為、その他一切を彼は擲ったのだ。

そこまでやられたのなら、少女としては応えないワケにはいかない。
彼女の対敵として見合うだけの能力と対価と精神。
相応のものを魅せられたのだ。放られた手袋に、キチンとネロも報いなければならない。
   



………それに、少女も同じだった。


彼女も探していた。己の暴力を存分に振るえる程の敵を。
【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】の全解放を前に十全に戦う事の出来る強者を。


――――聖杯を用いて願いを成就させ、少女が人の域でなくなった後でも。
更なる高みを君臨する前の―――今の、“人間”であった頃の彼女の全てを覚えていられる相手を。


きっとあれなら、あれだけ強いなら出来るだろう。
ホンキ、ではない。『全力』の彼女を、100%の力を発揮した彼女を相手取ることができる。
その身に全部教え込ませて、決して忘れぬよう記憶に直接刻み込んであげるのだ。

彼こそ此度の聖杯戦争、少女の最後の敵(フィナーレ)を飾るに相応しい。
そうとなれば、決まり。
   



「携帯、あるでしょ? かしなさい、グラディウスのドミナス」

「あ、うん。これしかないけど――――」

「えっ――――ナニ、これ? ………ねぇ、これどうやってつかうの?」

「まぁ………はい。これでいいはずだよ」


流石の七草も、まさかいきなり連絡先の交換を持ちかけられるとは思わなかった。
しかも持ち出されたのは最新型のタブレット端末。
ワイズマンといい、魔術師が機械に疎いという設定は一体何なのだろう。

まあ更に未来(さき)を行く次世代型通信端末を使っている七草も七草であるが。


「ねぇあなた、名前はナニ?」


不意に少女は口を開いた。
先程に続き、また彼女らしくもない質問だと思う。

けれど同時にそれは彼自身のことに踏み込んだ質問である。
この機会を逃せば、次は無いかもしれない。だから応えるしかないと七草も口を開く。
   




「―――――石蕗七草(ツワブキ ナナクサ)。七草で構わないよ」

「そう、じゃあナナクサ。一度だけ、あなたのことたすけてあげる。
 あたしのちからが必要になったら連絡しなさい。それで今回の借り、かえしてあげるから」



礼だけでは足りない。あくまで、受けた恩義には同等の代価を以て返す。
借りっ放しは趣味ではない、ということだろう。

――一度の加勢には、同じく一度の加勢で。
思いの外、少女の答えはひどく分かりやすいものだった。


手馴れた操作。魔術師が機械に疎いという話が唯の冗談に思えてくる。

数分後、登録を終えたのか、はい、と少女の白い手が差し出される。
彼女の手から自身の携帯端末を回収する七草。
確かにネロス・ベーティアの名で彼女の連絡先が登録されていた。


まったく思いも依らぬ収穫である。
別に青年は、何らかの対価を求めて少女を助けたわけではないが、
結果としてアーチャー陣営への協力要請権を手に入れることができたワケだ。
   



唯やっぱり支払った代償は重いね、と疲労困憊した七草は溜め息を溢す。


「令呪一画使っちゃったしなぁ………まぁ後でワイズマンから貰えるし
 これで差し引きゼロと考えれば――――」


その言葉で何か思い出したのだろう。
あっ、そうだ、とネロは付け加えるように口を開く。


「あと、いいことおしえてあげる。ワイズマンがいってた予備令呪の話、あれウソだから」

「え”っ?」


突然のことに、思わず七草は変な声を漏らしてしまった。
いやいや! でも仕方ないだろうこれは。というか、一体どういうことなのか?


予備令呪の話が嘘となれば、バーサーカー陣営の討伐令は根本から崩壊することになる。
此度の討伐令は監督役が令呪一画分の生殺与奪権を保持しているという前提で行われたもの。

マスターは令呪一画分の罰則を嫌い、
反対に一画分の報奨を与えられるという話だからこそ参加の意を表明したのだ。

幾ら胡散臭いワイズマンとはいえ、何も全マスターを敵に回すような行為はしない………と信じたい。
  


それ以上に、何故この少女が知っているのか。
だが七草がその疑問と投げかけるより早く、ネロの方が口を開いた。


「ねぇ、ナナクサ。ここの聖杯をつくった御三家ってわかるわよね?」

「うん。土地の“提供者”、聖杯作成の“技術者”、そしてこの僕、“出資者”だ。
 で、土地の提供者は管理者(セカンドオーナー)だから、残る“技術者”は…………あっ」

「そう、あたしが“技術者”。汎用型理論の提唱もあたしだからホントは“開発者”なんだけど
 ――――とにかく、ここの聖杯をつくった“技術者”はあたしなんだからしってて当然よ」


やっと気がついたの? とネロは不満げに漏らす。
よくよく考えれば、彼女が“技術者”で当然のことだ。
聖杯戦争の参加者の中でも相応しい実力者、且つ魔術師となれば彼女しかいない。

だがどうしてワイズマンの令呪が偽物と断言できるのか――――


「だってあたしつくってないもの、そんな機能。一度の聖杯戦争で令呪は三画×七騎ぶん、
 合計二十一画しか用意されないのよ。しんじられないならワイズマンに連絡してみることね」


ゼッタイ渡してもらえないから、と少女はサディステイックな笑みを浮かべる。

冬木式聖杯戦争において、一度の聖杯戦争で配布される令呪の数は7×3の21画。
未使用の令呪は大聖杯によって回収されるが、取り出せるのは聖杯戦争終了後。
   



現在大聖杯内にはアサシンとバーサーカーのマスター、
二人が使用しなかった分の令呪が蓄えられているが、今の段階での回収手段は無い。
予備令呪の話が嘘となれば、他に追加で令呪を得る方法などほぼ無きに等しく――――


「え、ちょちょっと待って! お願いだから! ちょっとネロ!」

「またね、ナナクサ。ナニカあったら電話しなさい」


今までの様子から一転、慌てふためく七草に少女は悦びの笑みを隠し切れない。
更に加えて助けを求める彼を置いて帰るという行為に、言いようもない恍惚感を覚える。

それに事前に伝えたはずだ。電話からの連絡でのみ、協力に応じると。
今この場でどのように乞われようが求められようが、
ネロは七草の手助けをする気など彼女には微塵もなかった。


所謂、放置プレイの一種。この少女、どこまでもサディストである。
   



―――だが彼女の眼に狂いはない。
此度の聖杯戦争、最後まで残るのは彼と彼女だ。

一回分の協力要請権。頼まれれば、ネロにどれだけ不利な条件だろうが彼女は手を貸す。
仮令代償に令呪を求められようとも、一度決めたことを彼女は決して覆さない。
青年には其れだけの価値があると、少女は確信しているのだ。



「――――だから、ゼッタイいきのこりなさい」



ナナクサ、と少女は漸く出逢えた愛しき好敵手の名を呼んだ。

     

ここまで
某所の指摘どおり指示語を減らすように頑張ってみた


ということでネロが七草の名前を知ったところまで
そしてついにセイバーの問題面も露出
大まかにどういうものかは、まあ七代目シナリオお読みの方はお分かりかと

次回からはちょっと休息回
乙やねん

お通夜ねん


これワイズマン後で責め立てられるよね

>>415
不幸(ランサー)だからさ

>>416
実は宝具の関係からNINJAの方が無理ゲーやねん
黄帝から始皇帝まで出た二十六代目も別の意味でやばかったが

>>417
まともに使うなら令呪二画必要なあの欠陥宝具ですね!
そしてインド勢は槍の完全上位互換を持ち込んでくるという

>>437
お通夜やないねん

>>438
けど実質的な損害を被ってるの七草だけという・・・・

でもこれワイズマンがはいお疲れ様!これ報奨の令呪ね!と令呪プレゼントしてきたら七草さんアレ?って思っちゃうよね
ネロちゃんがウソついてないんでワイズマンが何か聖杯システムあたりに細工してるってことに
…8騎目のフラグですかね

ネロは何か良いツンデレキャラになってきましたね、凛ちゃんさんだろうか

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≪────Interlude Assassin────≫



暗黒より。



「――――以上、報告終リ。主殿、是ヨリ如何ニナサル御心算デ?」



――抑揚も、冷暖も、感情も、何も無い声。
男か女か子供か老人かさえわからない、喩えるなら雑音混じりの機械音声。
曖昧模糊たる音色に相応しく、声の主の姿も是はまた朦朧とした人形(ヒトガタ)を示していた。


唯一明瞭なるは、闇より浮き出た面貌のみ。



――――鬼、であった。鬼面、であった。



無論、面だけが宙に浮いているわけではない。闇より下に、肉体はある。
だが彼又は彼女の身に纏う黒子装束が余りにも自然に闇と一体化している故、事実として視認が不可能なのだ。
唯鬼面の位置から、一方の膝を地に着け、他方の膝を立て、面を下げた体勢なのだろうと推測できる。

紛う方無き、主君に忠義を誓う姿勢。
そして、其れは間違いではない。
    




――――彼又は彼女の正しき主(マスター)は、今眼前に立っている。



黒夜に隠れ、姿は見えず供、居る。
人で無きアサシンには己が主の存在を捉えることに支障は無い。

実の所、忍びは敗北などしていない。
アサシンは主が作成した偽装刻印を令呪と偽り、一人の魔術師を偽のマスターへと仕立て上げた。
大した家系も才能も持たぬ、聖杯戦争に関する知識すら人並みに過ぎぬ愚か者を騙すのは非常に容易かった。


配布された令呪は偽装刻印だった、構築されたパスが一時的なものに過ぎなかっただけでなく、
再契約が正しく成されていないことすら気が付かない。真、愚かと嘲笑う他あるまい。

名は確か、只野鎌瀬と言ったか。随分と身の程を弁えた名である。
故に死に様もあれが妥当だろう。仕事上の関係でなければ、二度と願い下げである。
しかしまあ、本職の仕事人であるアサシンに
此処まで言わせるなどあの男は実に阿呆極まりない人物であった。


――無論、アサシンの被害も無視できるものではなかった。

路地裏でのランサーとの遭遇戦は、完全に予想外だった事もある。
回転する獄寒の石臼より逃れるための一画に、魔女に気付かれぬ様身代わりと入れ替わる為の一画。
暗殺者は聖杯戦争開始時点で既に計二画の令呪を浪費しているのだ。
   




――――だが、その甲斐在って今や全マスターがアサシンは脱落したものだと考えている。



事前の仕込みはあったが今や霊器盤でさえ、アサシンの存在を捉え切れない。

闇の中、主の唇が開かれる。
そこから零れる言葉をアサシンは一言も逃す事無く脳裏へと刻み込んだ。



「御意」



次なる指令は承った。では、機を見て実行致そう。
そして、アサシン――――風魔衆五代目頭領風魔小太郎は、唯一浮かび上がっていた鬼面の貌をぬるりと闇の中へ溶け込ませた。



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現時点のまとめ

石蕗 七草/セイバー(ヤマトタケルノミコト)
八極 三雲/ランサー(ペザール)
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
蜘蛛(ナクア)の怪物/ライダー(エキドナ)
■■■■/アサシン(風魔小太郎)
外道/バーサーカー(ローラン)【脱落】
管理者(セカンドオーナー)/キャスター(ファフニール)

監督役:ワイズマン

ここまで

>>441
聖杯の、特にシステム周りは完全にネロの独壇場だから他の連中が手を加えられる要素は一切無い
実力、才能ともにネロ>ワイズマンなんで

>>442
ツンデレでもないし凛ちゃんさんでもないかな
わりとストレートやでこの子
尚ストレートにサディスティックな模様

乙 アサシンのマスター・・・一体何者なんだ・・・

乙 これで今回参加鯖の全員面子が割れました、それにしても随分色濃い正規の英雄て日本武尊と羿とローランだけで
後は怪物とか反英雄とかばかりですね。

>>449
断じて何スロットではない・・・・・っ!

>>450
五次で召喚された鯖も正規の英雄と呼べるのはアルトリアと兄貴とヘラクレスくらいだったし大丈夫大丈夫(白目)

設定的に言えば汚染された四次、五次、制限度外視のスノーフィールドも参考にした上に、開発者が反英雄代表の獣系列の魔術師だから、とか
ここまでくるとむしろ正規の英雄が呼ばれてる方が奇跡なのかもな・・・・・

管理者だけ名前ないな

四神変化は龍の無敵設定でパワーアップしてる感じ?

≪────Interlude────≫



叔母に初めて会ったとき、一目見るなりこう言われた。



「貴方様はヒトでは御座いません。されど、剣でも御座いません。
 貴方様はヒトであり、ツルギであり――――謂わば命ある『神の剣』で御座います」

「ですが努々お忘れ無きよう。ヒトとしての幸とツルギとしての幸。
 一方であれば、易く手に入りましょう。しかし、決して両立は致しません――――」



その時のオレは、彼女の言葉の意味を理解するには、まだ少し幼過ぎた。



……………………………………………………………………………………………………………



ヤマトタケルノミコト(日本武尊、倭健命)という名は、熊襲兄弟を討伐した際、弟建から譲り受けた名前とされる。
彼がそう名乗る以前は、小碓命(オウスノミコト)または倭男具那(ヤマトヲグナ)と呼ばれていた。

彼には一人の兄がいた。名を大碓命(オオウスノミコト)という。
ある時、大碓命は大切な儀式に参列せず、食事にも顔を出さないようになった。
理由は、父である景行天皇の寵妃二人に手を出したためである。


そこで景行天皇は弟である小碓命に、大碓命へ食事の席に顔を出すよう伝えなさいと命じた。
天皇は兄が寵妃二人に手を出したことを怒ってなどいなかった。
この勅命もあくまで、何時までも顔を見せぬ兄を案じての言だったのだ。

天皇である父から初めて言い渡された頼み事。
まだ少年になったばかりの小碓命は喜び勇んで、説得するべく大碓命の元へ向かった。
無論、幼き日の小碓命は彼の意図に気づくことはない。



――――思えば、このとき既に彼の運命は狂っていたのだろう



天皇からの説得に応じぬ大碓命。
初めは小碓命も賢明に彼を説得していたのだろう。
しかし大碓命は一向に食事の席へ顔を出す気配はない。
 



何度も何度も小碓命は、兄の元へ説得へ赴いた。
徐々に幼い彼の心を焦りが蝕んでいく。何せ、父親とはいえ天皇直々に頂いた勅命である。

失敗すれば、父上はきっと自分を見捨てるに違いない。
父はきっと自分を頼りにしなくなるに違いない。

ただその考えがざわざわと彼の心を這い寄り、侵してゆく。



――――ああ、そうだ。父に逆らう、この兄が悪いのだ。



結局、初めての過ちを犯したのは翌日のことだった。
小碓命は懐に剣を忍び込ませ、いつものように大碓命の説得にやってくる。

いつもと同じように大碓命は彼の話を聞かず、二人の寵妃と共に楽しげに遊戯をしている。
無防備な背中。背後に座る弟のことなど気にとめていないように、彼は呑気に酒を飲む。


天皇からの言葉に一向に耳を貸さない兄。
そこで、彼の中で答えは決まった。
 




――――討ち取らなければならない。この男は、父の敵だ。



後は簡単だった。
小碓命は眼前に晒されている男の背中を一太刀で切りつける。

僅かに、浅い。
悲鳴を上げ、一目散に部屋から逃げ出す寵妃達。
しかし彼はそんな彼女らには、目もくれず、ただ剣を構え直す。

驚愕と恐怖が綯い交ぜになった凄まじき形相で、大碓命が彼を見上げる。
そんな兄だった男を、小碓命は冷たく沈んだ黒曜石のような瞳で見下ろす。


助けて、と恐怖に震える唇を開く大碓命に、


「アンタはあの御方の敵だ。だから、死ね」


少年は銅の剣を突き立てた。


兄だった物を小碓命は手早く始末した。
四肢を引き千切り、胴を筵に包み部屋の外へ投げ捨てた。

そして彼は初めて討ち取った兄(てき)の頭を抱きかかえ、
血まみれのまま喜び勇んで、父である景行天皇の元へ向かった。
   




――――それからどうなったか、など言う必要はあるまい。



初めての過ち、たった一度の過ち。
それで、全てご破算。

かくて少年は苛烈で冷酷で、救いのない物語に囚われた。

以降続くのは、無数の死体を積み上げるだけの話。
無数の死を踏み続けるだけの話。



――――結局少年は欲しかった物を二度と手に入れることはなく、最期は白猪の山神の呪詛により、速やかに命を落とした。

   



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

≪────Saber Side────≫



―――瞼を貫く白。目を開く。朝日だ。



「―――夢、だったみたい、だね」


市内最高クラスのホテルの最上階フロア。街で最も早く朝日を見れる場所。
全面ガラス張りの展望からは、天蓋を包んでいた暗藍が明けの白金に駆逐される様を克明に望むことが出来る。
だが同時に。東光は白髪の青年を、否が応でも微睡みから引き摺り上げた。

ぐらつく頭を押さえながら、七草は一人ゆっくりとベッドから頭を起こす。
東方の輝きにチカチカと瞬いていた思考が、漸く安定した。


昨日は戦闘後の処理の方が大変だったせいか、疲労が取れていないように思うのは決して気のせいではないだろう。
無言のセイバー、そしてワイズマンが行っていた不誠実なる違反行為。
後者は特にひどかった。ライダー、キャスター両陣営にも伝達済みで、どちらも確認が取れたそうだ。
要は、ネロを除く全参加者がワイズマンの狂言に騙され、茶番劇に参加させられていた訳だ。


管理者(セカンドオーナー)を通して時計塔へ直接抗議も考えたが、
おそらくは監督役は変えられない上、他のリスクも大きいだろう、というのが彼女の見解だった。

主だった関係者は既にワイズマンの傘下。
他の優秀な魔術師も、好き好んで極東の僻地へ足を運ぶわけがない。
ついでにあまり表立った抗議を行えば、暴力装置の執行者共が送られてくる可能性も否定できない。
    



連中が監督代行となるよりは、まだワイズマンの方がマシだというのが管理者の見解だった。
加えて別部門の介入となれば、価値を知った連中が聖杯を簒奪する危険性を否定できないのも理由の一つ。
好敵手を見出した折角の戦いに水を差されたくないのは七草も同じ。

加えて言えば、ワイズマンは監督役としての仕事(だけ)は問題なくこなしている。
少なくとも最悪の事態は無い。諸々可能性を考えた結果、結局七草と管理者は彼への警告に止めることを選択したのだった。
昨日七草が済ませたのは、ここまで。



――――それから、セイバーのことだ。



英雄の夢(カコ)。ひどく鮮明な赤が脳裏に焼き付いて、消えない。
七草の見た光景は幼き日のセイバーが起こした出来事なのだろう。

兄の殺害というたった一度の、しかし決定的な過ち。
以後、彼と父親との関係を決して相容れぬ物へと変貌させた元凶。
何度武勲を立てようと、幾度平定を繰り返そうと、既に少年の命運は定まってしまっていた。


積み上げ、踏み続けた累々たる屍の山々。
変わる事無く変わる事無く、辿り着いた最期は伊吹山の山神が齎した呪詛による病死。
だが決して少年の人生は不幸そのものだったというわけではない。

六人の妃に、子は数多。内、十四代目仲哀天皇は彼の息子。
皆、ヤマトタケルの死の際に彼の元へ集い、白鷺となった彼を見送っている。
東征の路にて妻や義理の兄を失うものの、彼は『人』としての幸福は確かに掴んでいる。
   



今朝の夢には出ずとも、普段の彼の振る舞いから七草は少なくともそう感じていた。



けれど同時に『剣』としての幸福―――当時の彼の所有者・景行天皇からの愛情を最期まで向けられなかったは明白だった。



おそらくは生前手に入らなかった所有者からの寵愛こそ、
ヒトでもあり、ツルギでもある『神の剣』たる彼が最も欲する処であり。

今の『彼(セイバー)』の所有者はマスターである七草。
そして所有者の青年が不用意に投げ付けた昨日の言葉は、生前の彼の父が見せた拒絶と同類で――――


「あーうん。随分ひどいこと言っちゃってたのか、僕」


ああいう夢はもっと早く、少なくとも昨日の段階で見せて欲しかった。
なら細かくはっきりと目的を伝えてたし、令呪の浪費や静止の時ももう少し言葉を選べたはずだ。
だがやはり責任はマスターの七草にある。

ネロの事に執着し己の相棒(サーヴァント)の事を放置し、
意思疎通の致命的な齟齬を引き起こしたのは、間違いなく自身のせい。
更に言えば、はっきりとした予兆はバーサーカーとの初戦の際に感じていたはずだ。

気のせいだと考えていた、と言うのは流石に無理のある言い訳だ。
違和感があったなら見過ごすべきではなかった。無視するべきではなかった。
   



だが、こうやって愚痴を溢していても仕方ない。
全て、過ぎた事なのだ。

故に、やるべきはこれからの事。
令呪残り一画で進めるためのプラン。そして、セイバーにどう謝るべきか。
一層、両方やる事にしようか。



「――――うん、やっぱりこういう時は体を動かすのが一番かな?」



――稽古だ。セイバーに稽古をつけてもらう。
古今東西、仲直りは殴り合い宇宙……もとい体術VS体術が基本だと考えている。


英雄との運動性能、身体能力差なんて知った事じゃない。
人ではなくとも強者(つわもの)であるなら、七草としては技術を模倣(コピー)しない訳には行かない。

それに、彼には教えて欲しい技がある。
   




―――角力。もはや現存しない、相撲、柔道その他数多の日本武術の原点となった神代の格闘技。



是非とも習得したい、一瞬だけ“眼”が捉える事の叶った神業。
物見稽古の解析結果が正しければ、あれならきっと―――



「いるんでしょ、セイバー。マスターとしての命令だ。ちょっと稽古に付き合ってくれないかな?」



―――ネロの【十の支配の王冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリウム)】を突破できるはずだ。

    

ここまで
最初の方のChapter抜けすまんねん


というわけでセイバーの夢イベント終了
古事記なら大碓命が厠に行ったところを襲って四肢解体の後簀巻きにして部屋の隅に転がしてたけど
以前の夢の方が狂気具合が上だったので特に変更することなくそのまま採用

まあ教え諭すよう頼んだら、何故かその身内をコロコロしてくるってそりゃ誰だってドン引きっすわ


後古事記だと予定にない出雲建闇討ちとか色々やっちゃってるから
多分もろもろ含めて遠ざけられたんだよなぁこの子

特に改変なしに古事記基準でも父との疎遠は全部本人のせいというのがなんとも・・・・

>>452
名前は特に思いつかなかったのとセカンドオーナー一人しかいないし
このままでいいかなとサボった結果

九龍風水傳は多分変更入るかなぁ・・・・
固有結界そのものじゃなくてあらやんみたいな固有結界じみた魔術って扱いになると思う
龍はねーマジでどうっすっべ

乙、日本武尊生前お父さんに嫌われて出兵ばかりされられてたんでしたね。
七草君は別に悪気あった訳じゃないけどちょうと誤解されちゃいましたね、

こうやって解説されるとヤマタケちゃんマジ狂気のさた
管理者は龍紋的なシンボルで擬似的な竜種としての云々

御三家主人公でまだ夢イベント起きてないのは管理者貴女所だけですね、好感度足りないでしょうか?
まあファフニール夢は日本武尊や羿と違って結構自己中心的な夢になりそうですけど

≪────Saber Side────≫



―――四方、白の壁に囲まれた広間。



靴を脱いだ素足が触れる冷たい柔道畳。
稽古をつけて欲しい、と七草がセイバーを連れて行ったのは、ホテル内に備えられた柔道場であった。
壁は全て防音使用。内部の音が外部に漏れることはない。


二人とも道着ではなく、何時も通りの出で立ち。
白の着流しと、宝具『斎宮衣裳』による偽装の女形。
肩まで伸びる薄の枯れ尾花と、流れる川のような烏の濡れ羽色。

互いを変幻(プリズム)と黒曜石の双眸で見つめあう。


「なぁ、マスター。オレはここで一体何を、何をすればいい?
 教えてくれよ、マスター。答えて、答えてくれよ…………マスター」


答えを求める少年の声はひどく不安そうに怯えていた。
今までとは違う、完璧なまでに自信を喪失した声。
彼の今の暗澹たる思いを拭ってやれるのは、マスターである七草を除いて他にいない。

稽古に入る前にまず、そこから。
  




「セイバー、昨日は本当にごめん! あんな事を言って、僕が悪かった!」



――――頭を下げる。


謝罪の言葉。ああ本当に、昨日の七草はどうかしていた。
どんな事情があろうが、間違っても自らのために働いてくれた者に投げる言葉などではない。
本当に恥ずかしくて仕方ない。昨夜の愚行を何故起こしたのか、今となっては分からないほどだ。


だが、慌てたのは他でもないセイバーだった。
自身の所持者を絶対として仕える『剣(セイバー)』にとって、
よりによってその主(マスター)が自分に頭を下げるなど完全に想定外だったのだろう。

即座に状況を呑めなかっただろう彼はまず混乱した仕草を見せ、
主の謝罪に反応を返すことができたのは数分の空白の後。


「な、なんでマスターが謝んだよ!? 悪いのはアンタの指示で勘違いしたオレなんだぜ!?」


悪いのは自分。何があろうと主を絶対の所有者と見做すセイバーはそう判断する。
責があるのは、咎があるのは、自分の方だと考えるのが少年にとってはごく当たり前のこと。

相手もああ言ってるし、もういいじゃないか。
でもそんな彼に甘えているだけの答えでは七草の方が納得できない。
  



「例えそうだとしても、あんな言葉を吐くべきじゃなかった。
 君は僕の為に剣を振ってくれたんだ。それだけはどうあっても否定するべきじゃなかった」


欠けた夢(かこ)を見て、漸く気が付いた。
彼の生前叶えられることのなかった『剣』として幸福。

少年の本当の願い―――己の存在理由、存在価値を主(マスター)に認めて貰うこと。
出逢った時、セイバーが口にした「主の願いを叶える」という望みもそこから零れ落ちたもの。



――――彼とて誰かの為ではない、自分の為の願いくらい持っていたのだ。



知らずとはいえ、七草の一言はそんな彼の唯一の願いを否定した。
あの愚行を埋め合わせできるとすれば一つ。今度は、七草が彼の願いを叶える番。



「――――セイバー、僕は君を手放したくない。聖杯戦争が終わっても付いてきて欲しいんだ」



君は僕のたった独りのサーヴァントだから。青年の言葉は真剣だった。

万能の願望器たる聖杯の力を用いれば、サーヴァントの受肉はなんら難しい話ではない。
仮にリミッター解除という七草の願いと同時に叶えられなくとも、
彼の魔力量であれば聖杯の補助がなくともセイバーの現界維持も問題なく可能なはずだ。
  


魔術を行使できぬだけで、青年に宿る魔術回路は莫大且つ緻密。そして精巧。
セイバーを十全の性能で運用できるのも、其れ故。
だからきっと、七草ならセイバーの願いも叶える事ができるはずだ。


その思いと共に、伸ばされた手はすらりとしなやかで、けれど同時に硬くて力強くて。

柔らかな曲線しかない己の手とは違う、完成された完全なる完璧な肉体。
矛盾を内包する美しさに少年は僅かに見惚れてしまう。
伸ばしかけた手の動きが止まるほど、息を呑んでいた。


「…………それとも、やっぱり僕がマスターじゃ駄目、かい?」

「なっ!?」


彼がぶつけた言葉は決して許されるものではないのは分かっている。
加えて、先程の言葉も結局は青年の唯の独りよがりに過ぎない。
セイバーの願いを叶えるという体で自分の望みを押し付けているだけ。

彼のような大英雄がそれを見抜けぬわけがあるまい。
少年の様子を思い違いした青年は、肩を落とし在らぬ心配を吐き出す。
   




「まぁ、仕方ないよね。ごめん、セイバー。さっきの話忘れて――――」

「なことあるかよ!? オレは! アンタがマスターじゃきゃイヤなんだよぉ!!」



――――セイバーは七草の襟を掴んでそう叫んだ。



着流しが引っ張る力は抵抗を赦さぬ程強い。
七草はぐぃ、と彼の方へ顔を惹き寄せられた。5cm程度の身長差など、すぐゼロになる。

眼前一杯に映し出されたのは少女の―――少年の表情。
揺れる、潤んだ黒曜石の瞳が、変幻(プリズム)の瞳を捉える。
知っている。この瞳は知ってる。忘れるはずもない、昨日と同じく泣き出す直前の瞳だ。


「んなの、ヤだよぉ………忘れろとか、言うんじゃねぇよぉ………」


言葉は間に合わなかった。間に合わず、セイバーは静かに泣き出していた。
ぽろぽろと目から大粒の涙を流しながら、子供のようにヤダヤダと、彼は青年の胸に顔を押し付ける。
捨てられたくないと必死なその姿は、どこか夢で見た幼き日の彼と被る。

よかった、自分の思い違いだった。
思わず、ごめんと溢しそうになる己の唇を七草は寸での処で噛み締めた。

    



―――謝っては駄目だ、と彼の“眼”が告げる。
謝ってしまえばきっと彼は、先ほどの言葉がマスターに心労を与えたものと取ってしまうだろうから。
そうなればまた逆戻り。主の重荷になることを嫌う彼に、二度もつらい思いをさせたくない。

だから今一番相応しい言葉は―――――



「――――うん、ありがとうセイバー」



七草は縋り付く少年の頭を優しく撫でる。
絹のような滑らかな感触を指先に残すセイバーの黒髪。
どんな女髪にも負けぬだろう、何時までも触れていたくなるほど心地よい触り心地。

手を置かれたことに、驚いたように七草の顔を覗き込むセイバー。
しかしすぐに彼は、えへへ、という嬉しそうに表情を綻ばせた。


    



これで一段落、だろうか。一件落着とまでは行かないも、収まるべき鞘に戻ることはできた。
彼は剣。担い手たる七草の腕次第で名刀にも鈍にも変わる。
正直、青年の「正面からの全力戦闘」というのはセイバーの最も得意とする奇襲戦法を封じ込める悪手に間違いない。

だがセイバーはそれでも構わないと言った。
なら、七草には彼の思いに応えられるよう自ら定めた条件の中で彼を全力で運用する責務がある。


一度聞いた以上、聞き過ごすことは許さない。
一度約束した以上、果たさぬことは許さない。


最高の武器のセイバーと共に、聖杯を手に入れる。
目下最大の敵はアーチャーのマスターであり、魔術師としても規格外の実力者であるネロス・ベーティア。


少女の異能の名は、【十の支配の冠(ドミナ・コロナム)】。
『黙示録(Apocalypse)』の『獣(Beast)』の名を冠した七大権能の再現魔術。

大気に質量を加え、擬似的な“重圧”効果を生み出す“二の丘(パラティウム)”。
“肉泥の海”の一部を召喚し、自在に操作する“三の丘(アウェンティヌス)”。
収束させた魔力光の圧倒的な火力で敵を焼き払う“七の丘(ウィミナリス)”。

    




――――そして、精霊未満の存在からのあらゆる敵対干渉を『否定』する“一の丘(カピトリウム)”。



火力に汎用性に絶対的な防御を備えた古代の要塞都市。
小柄な肢体からは思いも依らぬほど、少女は此度の聖杯戦争における強大な壁だ。


だが、少女を斃す術は身近にあった。

セイバーがバーサーカー戦で幾度となく魅せた角力。
技そのものに精霊に匹敵する神秘を宿す彼の武術なら使い手が七草でも、
理論上は【十の支配の王冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリウム)】を突破できるはずだ。


後は、英霊の技を何処まで七草がコピーできるか。
盗み見た技の情報を解析できている以上、決して理解できぬ動作ではない。
問題は技の動きに人間の肉体が果たして付いていけるのか、ということだ。

技を使う度に筋肉や神経が断裂するような有様では、とても使い道はあるまい。
数多にあるだろう技の中から、多少劣化しても七草の肉体スペックでも発動可能なものを見繕う必要がある。



わざわざ修練場を貸し切ったのは、安心してセイバーに技を教えて貰うためであり――――

   




「で、オレの体術を? そんでアーチャーのマスターが殺(や)れんのか」

「うん。簡単なやつでいいから僕にも使える奴で――――」


「安心しろ、マスター! オレがみーっちり教えてやるからな♪
 じゃあとりあえず基本技の三百から行くぜ! 今からマスターに教えてやるからしっかり構えとけよ」

「え”っ?」


次の瞬間、有り得ない速度で宙を舞った青年は英雄というのが
如何に現代の人間から外れた存在か、死なない程度にその身体で学習することになったのである。



…………やっぱりちゃんと話は聞かせるようにするべきダナー

    

ここまでまた一週間以上空いてすまん
休憩回はどうしても筆が落ちる

今回は第七回でセイバーの夢イベント後のリメイク
けど挟むとこ間違えたかなーこの後の中ボス戦後のイベントでもよかったかなとも思わなくない
書き直すことがあればまた構成考えてみるかって感じで

>>465
嫌われたというか恐れられたというか
まあしかたないよね、としか言えん

>>466
悲劇の英雄じゃないよ! ただ自業自得なだけだよ!ってな感じで
青龍は基本形態から切り札に格上げとか、単純に水行操作の能力にするとか
まあまだでない予定

>>467
好感度は十分足りてるよー多分割りとすぐある
夢はお楽しみにって感じで

乙、七草くん日本武尊と仲直りできて良かったですね

>>479
うーんやっぱ解消速かったかね、読み返して山になってない
Chapter7か8に回せばよかったかな?
もうちょっとイベント構成慎重に考えてみるわ

すまんがChapter6-1の途中の>>460から書き直し
>>459までは変更なし
>>460-から今回の>>482-以降に変更で



今朝の夢には出ずとも、普段の彼の振る舞いから七草は少なくともそう感じていた。


けれど同時に『剣』としての幸福―――当時の彼の所有者・景行天皇からの愛情を最期まで向けられなかったは明白だった。


おそらくは生前手に入らなかった所有者からの寵愛こそ、
ヒトでもあり、ツルギでもある『神の剣』たる彼が最も欲する処であり。

今の『彼(セイバー)』の所有者はマスターである七草。
そして所有者の青年が不用意に投げ付けた昨日の言葉は、生前の彼の父が見せた拒絶と同類で――――


「…………随分ひどいこと言っちゃってたなぁ、僕」


ああいう夢はもっと早く、少なくとも昨日の段階で見せて欲しかった。
なら細かくはっきりと目的を伝えてたし、令呪の浪費や静止の時ももう少し言葉を選べたはずだ。
だがやはり責任はマスターの七草にある。

ネロの事に執着し己の相棒(サーヴァント)の事を放置し、
意思疎通の致命的な齟齬を引き起こしたのは、間違いなく自身のせい。
更に言えば、はっきりとした予兆はバーサーカーとの初戦の際に感じていたはずだ。



気のせいだと考えていた、と言うのは流石に無理のある言い訳だ。
違和感があったなら見過ごすべきではなかった。無視するべきではなかった。


とりあえず、まず謝るところからしないと………
しかしなんと切り出せば。彼のことだ。
七草のせいでも、自身の責任と思い込んでいる彼に、単純な謝罪ではおそらく逆効果。

けれど、このままでいけないのは確か。
兎に角、セイバーの様子を確認しておかなくちゃ。



――――だが、セイバーを呼び出そうとする青年の声は直前で止められた。



タイミング悪く、掛かってきた電話。
相手は蜘蛛(ナクア)の少女。ワイズマンについての話だろうか?
それとも――――
      





『あんちゃん、ウチな。答え、出たで。今日の夜、沿岸南のコンテナ街。
 ライダー連れてまっちょるけ、あんちゃんもセイバー連れてきてくれな』


『正々堂々やろうや、あんちゃん――――絶対、退屈はさせへんけん』




――――七草の想像通り、その電話は少女からの招待状だった。


      

≪────Lancer Side────≫



「調子はどうだミクモ? 後に残るようなものはない、と思うが………」

「まだ頭イテェ………人間って冬眠できるような体のつくりしてねぇだろ。で、お前はどうなんだ、ランサー」

「芳しい………とは到底言えんな。左腕の復元を最優先とすれば今晩には再構築させる
 が、内臓等他の部位の損傷まで取り除くとなれば―――完全回復まで明日丸一日は掛かるだろう」



昼。拠点たる主、八極三雲(ヤギワミクモ)の自宅。
側頭部を押さえ、不快感を訴える少年(マスター)の言葉に、
僅かに顔を曇らせ、自嘲気味な笑みを浮かべながら純白の呪布に覆われた左肩を摩るランサー。



――――その先は、無い。



昨夜のバーサーカー戦で受けたランサーの傷。
帰還した彼女は左肩周辺から先を、完全に失っていた。
バーサーカーの戦力を読み違えるという己が愚行により得た、屈辱的な敗北。

更に昨晩女々しくもランサーが逃げてから、あまり間も空かぬ内に、
セイバー組により見事バーサーカーは撃破されたという連絡が監督役より齎された。
       



マスターを昏睡させ、単独で探索を行い、挙句の果て千切れ飛んだ左腕の損失は完全な無駄だった、ということ。
あまりにも莫迦莫迦し過ぎて、本当に笑ってしまうしかない。


だが今は回復に専念する他無い。
彼女のマスターはほんの僅かな回路しか持たぬ一般人。
結果、ランサーは消耗を抑えるために本来は必要ないはずの睡眠を取る必要があったのだ。


……何故か、マスターを鞍替えしようという気は起きなかった。
実力は無く、魔術知識は皆無。その癖、独断で行動を行う―――何一つ褒められた所はない。

しかし少年は魔女を責めなかった。丸一日以上意識を失わせた彼女を怒ることはしなかったし、
腕を失い帰還した彼女を己のように心配してくれた。


誰かに身を案じられるなど、おそらく初めてのこと。
生前、槍の呪詛で腐敗していた彼女は、民はおろか事情を知る臣共にも遠ざけられていたというのに。
逆に新鮮だったというか、嬉しかったというか。なんというか…………ああ、もうっ!


まったく以って無駄な思考だ、とランサーは思議を中断する。
同時に、何かの完成を告げる甲高い機械音がひどく爽やかに鳴った。
確かオーブン、と言っただろうか。そういえば先程ミクモが何かを作っていたようだったが―――
        



「おーおー焼けた焼けた。出来たぞ、ランサー」


どん! とテーブルの上に置かれた白の大皿。
皿の上には大量のチーズやソーセージその他具材が盛られた円状のパンのトーストが乗せられていた。


肉の脂とチーズが余熱で立てる音が鼓膜を震わせ、
沸き立つチーズと肉とパンの焼けた香ばしい匂いがランサーの鼻腔を擽る。

魔力不足から失われていたはずの欲求が、いつの間にか彼女の内で鎌首を擡げていた。
目の前に置かれたトーストに惹きつけられるランサーの視線に、
少年は食べやすいよう、ナイフで生地を8等分に切り分けながら年相応の笑みを浮かべる。


「食事でも一応魔力は回復するんだろ? なら一日三食、きっちり取ってりゃ
 少しでも早く回復できるんじゃねえかなぁと思ってな。ピッツァなら片手でも食べられるだろ?」

「ぴざ? ミクモ、なんだそれは?」


ピザじゃねぇピッツァだと、少年は律儀にランサーの発音を訂正する。
しかし知らないというのは意外だったというのが、少年の感想だった。
ランサーの話では、聖杯から現界の間必要な現代知識を与えられているらしいのだが………
       



「平べったく引き伸ばしたパンの上に色んな具材を乗っけて釜で焼くイタリアの伝統料理。
 ピッツァの起源は諸説あるけど名前自体は997年初出らしいし、ランサーは知らなくても当然かもな」

「ほぅ………」


興味深そうに大皿に盛られたパンとチーズとソーセージとその他食材のオードブルを覗き込む。
彼女の口が知らず知らずのうちに緩んでいるのを、少年は見逃さなかった。
やっぱり、食い付いていた。分かりやす過ぎて逆に困るレベルだ。


「で、どうだ? 食ってみないか。っていうかお前のために作ったんだから」

「私の為に、だと? ふ、ふんっ! 誰がそんなことをたの―――」


「なーんだいらねぇのか。残念だなーじゃあ俺一人で食べるとす――――」

「い、いやま、待て! あ、あの、その、だな………私の国には無かったものだから、その、少しばかり…………」


「少しばかり、なんだ? 続きを言わねぇとわからねーですよ、ランサーさぁ~ん?」


んん~? といい表情で首を傾げる少年とは対照的に、
ランサーは焦りを通り越し、今にも泣きそうな表情になっている。
魔力不足で本来感じるはずのない欲求が復活したというのは、如何程のものだろうか。


それもこんな香ばしい匂いと音を立てる料理が置かれているというのに、だ。
流石に観念したか涙腺上に水滴を浮かべた魔女は鼻を啜り、俯きがちながらも確かに口を開く。
       




「…………いただき、ます」

「ったく。それでいいんだよ、ランサー」



少年の溢した言葉は果たして届いたか。
ランサーはそろりそろりと、皿の上のピザに手を伸ばす。

そして手にした1ピースを持ち上げ、そのまま口に。
まず、一口。白い歯で噛み締め、淡い唇で締め付け、舌で味わい。



「で、どうだ味は?」

「…………おいしい。ああ、これはおいしいぞミクモ!」



魔女は破顔した。間違いなく少年が彼女を召還して以来、初めて見る表情だった。
大きく開いた琥珀の瞳を輝かせる今のありようは、純粋な少女のように。
その笑顔のまま、1ピース目を瞬く間に完食した彼女は2ピース目、3ピース目と手を伸ばす。

       




「………おいおい。一人で食うなよ、太るぞ」

「ししし失礼な! さささサーヴァントは太らんわ!」



嘆息雑じりの忠告に、何故か焦るランサー。受肉でもしない限り、サーヴァントの肉体は変化しない。
老化もしないし、睡眠、食事も本来は必要ない。

けれども本来必要の無い、どうでもいい心配をする彼女からは、
出逢った時に感じていた凍えるほどの雰囲気が何時の間にか消えているようだった。


古今東西やっぱりメシの力は偉大だな、と考えながら、
少年はランサーとは反対側から1ピース、ピッツァを摘んだ。



…………………………………………………………………………………………………………………………………………



「そういえば、貴様。この家に一人で住んでいるのか? 他に家族は?」


食事を終えて。
炊事場で皿を洗う少年へ、ソファーに寝そべるランサーは
この家に来たときから感じていた疑問を投げかける。

状況的にはあまりにも好都合で忘れていたが、少年の家には何故か少年以外の人の姿は見当たらない。
少年以外にも人が住んでいたであろう部屋があるにも関わらず、
大半は片付けられ空き部屋となっていた。

唯どの部屋にも年季の入った家具が置かれていることからも、間違いなく誰かが暮らしていた形跡がある。




それに今の時代、少年程の年齢ではまだ保護者の監督下にあるはずなのだが―――



「そういや言ってなかったっけ。俺以外は全員、交通事故で死んじまったよ。生き残ったのは俺だけ」



食器を洗いながら淡々と少年は語る。
先程までと変わらぬ声色。あまりにも自然で、悲壮さの欠片もない声。
まるで、ちょっと世間話でもするようなノリだ。


今から2年と3ヶ月ほど前。中学3年の夏休みの終わり頃。
旅行からの帰りに、巻き込まれた交通事故。

死者30人超の大惨事だった。
生存者は僅かに数名。その中の一人が少年、八極三雲。
油と鉄の入り混じる赤の地獄で父も母も兄も死んだ中、彼一人が生き残ったのだ。



そして亡くなった両親の代わりに隣県の親戚に引き取られることになったが―――

        




「親戚に高校卒業するまではどうしてもこの家で暮らしたいと頼み込んで、許して貰った。
 だから、今この家に住んでるのは俺一人。それも卒業まで―――後1年半で終わりだけどな」

「ほぅ」


「おいおいもうちょっと驚いてくれよ、ドライすぎるだろその反応」

「何、家族を皆失った程度昔ならよくあった事だ。特に私の国は小国の癖に戦略上重要な場所にあったらしくな。
 ことあるごとに諸国がちょっかいを掛けて来て………そのせいで辺境では村ごと皆殺し、なんて事も結構あったぞ」



会話が続かない。というか続けられない。
別に同情を引こうという意図はないのだが、話した以上は少年としてももうちょっと反応が欲しかった。

だが返ってきたのは、ほぅと、その程度か、という含みを持たせたような一言。
少年の身に降りかかった出来事など、彼女が生きていた時代から見れば日常茶飯事。
お前の人生など不幸でも何でもない、ということらしい。


まあいいですけどぉお、と溜息を零す少年の想像とは裏腹に、更に続けてランサーは淡い色の唇を開いた。
動きこそ小さいが、やけにはっきりと耳に届いた彼女の声。
      





「そうだな。では、貴様にも私の話をしてやろう。まず、私の願いだが――――」




初めて聞く、ペルシアの女王ペザールの話。
少年は思わず、皿を洗う手を止めてしまう。




「――――『トゥレンの息子達の槍を奪われないこと』。それが、私の願いだ」




――――そして、魔女は己が罪の懺悔を始めた。


           

ここまで

Chapter6-1の>>460-以降と以前のChapter6-2はなかったことにしてくれ
あまりにも面白くねえしつまらんすぎたから忘れろ

引き続き更新ペースをあげて頑張ろうと思いますのでよろしくお願いします

乙、蜘蛛娘方動きだしましたか、果たして七草くんに勝って彼を手に入れる事出来るのか次回に期待

乙 男娘の触手プレイはまだですか?

>>495
次回も大体終わってるからすぐに更新できるはず

>>496
もうちょっと待て

乙 女の子の触手プレイは無いんですか?

≪────Saber VS. Rider────≫



銀に輝く月が、地上に灯りに僅かに紫味を帯びた空に孔を穿つ。

埋立地、コンテナ街。ある程度決まった高さの段差が各所に配置された特異な戦場。
通路を挟み、林立する合金箱は月光の加減でまるで荒地に点在する岩山のようにも見える。

予定通り七草とセイバーは二人、この場所に立っていた。
相手はライダーのマスター、暗紫色の髪の少女から。



――――答えが見つかった。ライダーを連れて待っている。



つまり戦闘の申し込み。当然、七草は彼女の申し出を受けた。
ライダーの正体は分かっている。



――――ライダー、エキドナ。



ネメアの獅子、ヒュドラ、ラドン―――ギリシャの数多の怪物を産み落とした“怪物達の母”。
元はスキタイ地方の大地母神でありながら、ギリシャ神話の普及により怪物へと貶められ、
さらにキリスト教により売春婦の象徴とされた“蝮(マムシ)の女”。

対バーサーカー戦に投入された魔獣のほとんどが嘗て彼女が産み落とした怪物達だったのだ。
      


無論引っ掛ける意図を以って選出された、という可能性も否定できない。
だが同時にライダーの用いる魔獣にはエキドナの息子達が多くいたのは確かな事実。
少なくとも猛禽、獅身獣(スフィンクス)、そしてネメアの獅子(ライオン)の存在は確認している。

だから判明している怪物に関する攻略法を事前に検証するだけでも七草は大きな収穫だと考えた。


懸念があるとすれば、一つ。


「セイバー、僕は………」

「大丈夫だマスター。オレ、もう分かってるから」


マスターが口を開く前に、少年はそう笑みを浮かべた。
七草の言葉通り、敵(ライダー)が姿を見せるまでセイバーは『草薙剣』を振り上げない。


結局、セイバーに謝ることは出来なかった。
エキドナの文献蒐集、魔獣の伝承からの能力推察、
そしてライダーおよび各魔獣攻略法の確立――――他のことに時間を回せる余裕はなかった。

歯車は食い違ったまま。それでも今の所は破綻は見えず回り続けているようだ。

          



……否、単に七草がセイバーの心情を把握できていないだけに他ならない。
中が見えないから、故障していないように見えているだけ。そういうことだろう。


けれど、もう意識を向けることはできない。
セイバーが周囲を包囲する10を超える魔獣の存在を捉え、
青年は数十メートル先の闇に、花のように笑んだ蜘蛛(ナクア)の少女の姿を見出した。

夜の静寂は耳に痛い。澄んだ空気は冷たく、肌を撫でる。
しかし、一切の不浄はなく。美しい夜だ、と自然体の構えのまま青年は少女と対峙する。


挨拶はない。挨拶はなく、前口上もなく、少女は一礼をした後に口を開く。
それは紛れもなく戦いの合図であり。



「ほな、はじめよかあんちゃん――――ウチらの聖杯戦争を、なぁ」



―――蜘蛛の少女の声と同時に、大気の流れが変わった。



ダークパープルで彩られた彼女の隣で収束する魔力。
ライダーが実体化する。その姿は薄紅色の扇情的なドレスを纏った―――
        




――――瞬間、先ほどまでの済み切った紫夜が一拍の後、腐敗した。



………空気が澱む。甘く、脳を熔かす薄紅色の毒。
鼻腔を通して、意識を白光が焼き尽くす。思考能力が融解する。

身体を支える力を失った七草は、突如としてその場に崩れこんだ。
衝撃が原因か、それとも条件反射か。同時に、普段考えられないほどの量と粘度の精液を、射精した。

力が入らず、頭が働かない。念話でセイバーに自らの状況を伝えることさえできない。
思考は激しく点滅し、身体は陸に揚げられた魚のように何度も射精と痙攣を繰り返す。



「あらぁ? ごめんなさぁい。ちょおーっとぉ、毒が強すぎちゃったみたい、ねぇ」

「………ライダー、あんちゃんは壊さんよう、よろしゅう頼むゆうといたやん。あんちゃんが死んじゃ意味ないんや」



聴く者の脳を蜜の如く蕩けさせる甘ったるい少女の声(ヴォイス)とため息を吐くマスター。
心など籠っていない謝罪の言葉だが、七草の頭は既にライダーの言葉の意味を理解できるほど機能してなかった。

何とか思考を巡らせることに成功したのは、歪む視界から辛うじて“眼”が読み取ったスキルについてのみ。
          




ランクA+の固有スキル――――名は、『誘惑の蛇』。



薄紅色のドレスの少女―――エキドナの全身から発せられる雄を発情させ誘惑する魔性の芳香(フェロモン)。
魔力を帯びた薄紅色の靄は雄であれば種族を問わず思考を蕩けさせ、抵抗する意志を容易に簒奪する。

ヘラクレス程の剛の者すら手玉に取る雌の色香。
精神防御など紙切れの如く。唯一対抗できるのは最高ランクの対魔力のみ。
たかが人間風情が耐えられるものではなかった。


真名は間違っていなかった。しかし誘惑能力の高さは、完全なまでに予想外。
ただそこにライダーが立っているだけで、七草は敗北していた。

だがまだ全てが終わったわけではない。セイバーがいる。
最高ランクの対魔力を保持するセイバーは芳香の影響を受けず、ライダーと向かい合う。
淫靡なる蝮の女と対峙する少年の表情は、明確に怒りを表していた。


「…………覚悟はできてんだろうなぁ、テメェら」

「安心してぇいいわぁ。貴方のマスターには直接、手は出さないからぁ。
 あくまでサーヴァントの相手はサーヴァントがしなくちゃぁ、ねぇ? クスクスクス♪」


サーヴァントの相手はサーヴァントで。
ライダーの言葉に相違無いと応えるように、包囲する魔獣共は殺気の矛先を全てセイバーに向けていた。
言ったとおりでしょ? と怪物共の母は、薄紅色の唇を淫靡に持ち上げた。

        


だが少年はまるで関係ない、というように水気を纏う剣を振るう。
どう理屈を紡いだところで、ライダーがマスターの七草に手を出したのは事実。
故にこの時点でライダーは、セイバーにとって決して見逃すことなど出来ない仇となっていた。


問題は、マスターを連れ淫毒で満たされたコンテナ街から逃げるか、
このままライダーを斬り殺すか。正直、魔獣の群れに囲まれた時点でどちらも悪手。


――3秒間の思考の後、セイバーはライダーの撃破を目標に決めた。
撤退も戦闘もリスクは同じ。ならば、殺す方が後の事も考えれば手っ取り早い。
セイバー自身としても、マスターを裏切ったあのライダーは一秒たりとも生かしてはおけない。

懸念事項は、マスターがどの程度持つかということ。
セイバーの評価で30分と少し。なら、問題ない。
現在のライダーの戦力が相手なら、少年はその半分の時間も掛からずに勝負を決められる。


故に、見えざる切っ先はぴたりとライダーの眉間に向けられ。

     




「売婦が。テメェの命でもって贖いやがれ」

「えぇ、さぁ存分にイっちゃいなぁい。私のセイバぁ」



―――甘く蕩ける猥らな少女の返答と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。



先陣を切ったのは双頭異形の黒皮魔犬。サイズは大型のジープほど。
脚力でコンクリート面を瓦礫に変え、セイバーへ襲い掛かるオルトロス。
強靭な四肢を用いた突撃。英雄とて容易く向かえ討てるような生易しい速度ではない、はずだった。

しかし牙を剥く双頭の魔犬はすれ違い様、一太刀で両断され、
返す刃から放たれた剣風が、背後で顎(あぎと)を開いた不可視の魔獣(クリュンヌ)を口元から引き裂いた。
早速、二頭の魔獣が呆気もなく惨殺された。
     




―――月光が翳る。頭上を覆う巨影。翼を広げた獅子。



人面獅身――――魔獣スフィンクス。



翼を生やし夜空を舞う、美しき貌と乳房を備えた異形(メス)。
だが彼女はファラオを守護する畏敬の神獣などではなく、怪物としての正しき恐怖の対象である。

今、宙(ソラ)を戦場とする魔獣はスフィンクス、タゲス、エトンの三頭。

力は弱いとはいえ、頭上を取られるのは確かに脅威。
地上よりもまず奴らを優先的に始末するべきだな、とセイバーは即座に判断する。
ならばちょうどいい。オルトロスが突撃の際に撒き散らした、辺りの瓦礫を利用させて貰おう。


セイバーは手頃なサイズのコンクリート片を魔力風と共に脚で蹴り上げる。
魔力放出で生成した風を纏わせた高速射出。初速は超音速を超え、極音速に至る程。

蹴り上げた質量砲は回避を許さぬ高速を保ちながら狙い通りの完璧な軌道を描く。
瓦礫は人面の脳と獅子の心臓を一直線に駆け抜けると、遅れ伴った空気の円錐壁で残る肉を削ぎ落とす。
           



これで三頭目。次は追撃だ。脚に力を入れ、大きくジャンプ。

続いて落下する獅身獣の屍を足場に、セイバーはさらに大空高く駆け上がる。
魔力放出による圧縮空気をブーストにした、文字通りの飛翔。高度200m以上の夜空に届く。
慌てて離脱しようとする2頭の大鷲よりも高く高く、月を背にしてセイバーは不可視の剣を振り上げた。



「アンタらには助けて貰った礼はあるが――――死んでくれ」



背を向ける大鷲のうち、一頭を落下速度に大気の踏み込み、それに魔力放出を加算した超加速で葬り去り、
もう一頭の頭部を落下途中に返した剣先から、圧縮空気の刃を射出し両断する。


空を舞う魔獣は全て片付けた。
落下するまま、セイバーは地上を這う次なる獲物に目をつける。

重力加速度、大気の蹴速および魔力放出による加速。
超音速にも達する一撃は如何なる魔獣であっても確実に斬り殺すだろう。
そう。セイバーが新たに目をつけた大型の装甲車程もある四足の巨獣王であっても、だ。
        



ここまでの戦闘時間、3分掛からず。
時計の長針が三歩進まぬ間に、セイバーはおおよそ5頭の魔獣を屠り殺した。

残数8頭――――それでも全滅させるまでに10分も必要ない。
今までの魔獣たちと同じ強さであれば、だが。

      



………渾身の力で振り下ろしたはずの『草薙剣』が停止する。神の加護すら断つはずの蛇刃は先へ進まない。
只管に硬い、毛皮。まるで城壁に刃を立てているような感触だ。
そして次の瞬間、城壁は牙と爪を剥き出しにした。



―――月光に照らされる鋭牙は蒼に燃ゆる。



まず闇に閃光が咲き、続いて金属同士が噛み合わさる重低音が鳴り響く。
神速の顎(あぎと)。英雄とはいえ、ほとんどの者は反応できまい。

だが瞬間的に風を放出し横に身体をずらすことで、セイバーは蒼牙の負傷を皮一枚に留めた。
けれど攻撃は止まない。次は前脚。左から、右から。衝撃波を伴った銀爪が華奢な少年に襲い掛かる。


一撃一撃はひどく大振りで隙が多い、ように見えるだけ。
魔獣とセイバーではそもそもの体躯(サイズ)が違う。
セイバーにとって大きな動きを強いられる攻撃であっても、獣にとっては児戯に等しい動作。

前腕の接地と同時にコンクリートの欠片が炸裂する。
破壊力はバーサーカーより若干劣るが、サイズのせいか規模は比べ物にならない。
それが続けざまに何度も振り下ろされるのだ。周囲に足場と呼べるものはもはやない。

    



「クソッ! 反撃の隙が見えねぇ!」


悪態を吐くセイバー。前座で時間を食っている暇はない。
薄紅色の淫毒の霞の中、マスターの脳の耐久時間にも限界がある。
眼前の魔獣を始末し、手早くライダーを片付けねば。


―――後方への跳躍と同時に、溜めた魔力を脚部より一度に放出。
大きく距離を引き離し、セイバーは改めて魔獣の姿を観察する。


重装甲車ほどもある大獅子。七草から話は聞いていた。
ヘラクレスに与えられた12の試練、最初の難門―――ネメアの大獅子である。

直下に異常発達した筋肉が緻密に敷き詰められた皮膚は、
如何なる剣も矢も弾く重厚なる装甲としての役割を持ち、
ギリシャ最大の英雄ヘラクレスでさえ傷つけることを許されなかった。


同時に、弱点も分かっている。
まず傷はつけられぬが衝撃は通る。殴打で気絶させることは十分可能。
続いて気管の圧迫。獅子は不死でも無敵でもなく、他の生物と同様窒息死をする。

流石に窒息死まで狙う余裕はない。よって気絶までに留める事にする。
最も効果的なものは頭部、または頚部への殴打。
だが唯近寄っただけでは、あの蒼の牙と銀の爪の餌食となるだけ。

なれば――――

         



思考よりも速く、セイバーは駆け出した。
目標まで一直線。地を蹴り、覚束無い足場でもバランスを崩すことなく的確に前へ進む。

耳を劈く咆哮を以って、彼を迎え撃つ大獅子。
煌く銀の鋭爪。風を裂き、風を纏い、風を砕き、セイバーをも切り刻まんと差し迫る。
獣ながらタイミングは完璧。獅子の武装は、高度な試算の上で尤も効率良く生命を狩る無慈悲な軌道を描く。


―――加速したところで避けられまい。
当然獅子もセイバーの魔力放出を計算に入れているからだ。

だから、セイバーは足を止めた。
唯止めるだけでなく魔力放出まで使い、爪の予測軌道寸前で慣性まで含んだすべての動きを静止したのだ。
運動を停止するために態々魔力を回す―――流石のネメアの大獅子としても、彼の行動はまったくの予想外の事であり。


………一度力を込めた動きを止められず、前脚は振り下ろされた。
空振り。満身の力が込められた一撃は虚しく足場を砕くのみ。

再度腕を振り上げる動作は、端から間に合わない。
セイバーが加速する。足に纏わせた圧縮空気を一斉解放しジェット噴射の如く飛び出す。
先ほどまでの疾走ではなく、白鷺の姿を幻視する飛翔の一撃。狙うは、額中央の一点。


獅子の眉間へ、超音速から放たれる剣の柄を用いた殴打を叩き込む。
腕に走る痛み。衝撃に骨が軋む。罅が入るほどの悲鳴。けれど、それは獅子も同様。

いや。腕ではなく頭蓋という場所を考慮すれば、より致命的なのはネメアの方だろう。
セイバーは確かに腕で、皮膚越しに大獅子の頭骨を粉砕した感触を感じ取っていた。
         



僅かな空白の後。圧倒するほどの巨体を持つ大獅子の肉体が面白いように飛んでいく。
そのまま高く積まれたコンテナの山に突っ込んだ獣は、轟音と共に無数の鉄箱の下敷きにされた。

死んではいない。元より殺せるほどの時間もない。
けれど頭蓋ごと脳の一部を粉砕。加えてコンテナの下敷きにした以上、再度立ち上がるまでに間違いなく時間は掛かる。
5分か10分か―――再び起き上がる前に、ライダーの首を狩る。


直後、セイバーは飛び出した。休息を挟む事はしない。
有りっ丈の魔力をライダーへの接近に注ぎ込む。


―――紫の夜を裂く黒烏の羽。
何時もは漣の如く柔らかな少年の長髪も、
今ばかりは彼の殺意を反映したように鋭く刻む刃の光沢を宿す。

地を割き、奇襲的に伸ばされた女怪(スキュラ)の触手を真空刃で薙ぎ払い、
突撃する牝猪(パイア)の半身を抉り貫き、両手を広げ道を遮る竜女(デルピュネー)の首を斬り捨てる。

      



先程の獅子以外に、もはやセイバーの超音速に対応できる魔獣は残っていなかったらしい。
そしてその愚鈍さは母たるライダー、エキドナも同様。


ライダーの敏捷は平均値のCランク。
敏捷AランクにAランク相当の魔力放出で加速するセイバーには余りにも彼女の動きは鈍間過ぎた。
首を狙う少年の殺意から辛うじて頭部を逸らすのが精一杯。

『草薙剣』の蛇牙は、肩から袈裟掛けで一閃。
大きく膨らんだ少女の孕み腹を躊躇なく切り開いた。

        




―――突如、溢れる毒。それを感じ取った瞬間、セイバーはようやく己の過ちに気づいた。



吸い込めば、たちどころに肺を腐らせる紫の死。触れるだけでも皮膚が焼け爛れる。
仕方なくセイバーは沸いて出た毒霧を、旋風の全方位放出で追い払う。
しかしそれらは唯の前菜。余計に魔力消費させただけ。本命は、直に姿を現した。


伸ばされた九つの鞭。ライダーの割れた腹からサイズを無視し広がるそれは、まるで濡れた赤の花弁のよう。
一度放射状に展開された九つの幹は、瞬間セイバーを包み込むように凝縮する。
白い肢体に幹が巻きつく。拘束するように、何重にも巻き上げる各々の首は優れた弾力性を以ってセイバーの筋力を封じ込めた。



「こんのぉっ! はなしやが――――んぐ、ふぅっ!?」



更なる抵抗を封じ込めるが如く、鎌首を擡げた一体がセイバーの口に黒々とした己の頭を捩じ込む。
突如口内に広がった悪感触に一瞬動きを止めるセイバー。致命的な隙。
僅かな反抗の空白を逃すことはなく、蛇たちは少年の手足に各々の毒牙を撃ち込んだ。
        




―――この時点で、セイバーの敗北は確定した。
大英雄ヘラクレス第二の試練にして、最大の難所と謳われた毒蛇ヒュドラ。
九つの首より吐き出される猛毒は忽ちにして肺を腐らせ、体内より生成される毒液は生命を簒奪する。


Aランクの対魔力も、触れた万象の魔力効果を打ち消す『草薙剣』さえ蛇の毒の前には無力。
たちどころに全身に回る激痛。痛みが意識を奪い、意識を覚醒させる無間地獄。
セイバーが死んでいないのは幸運からでも何でもなく、唯ライダーが彼を必要としているから。


母の命に従い、九頭蛇は注入した毒の量を調整したのだ。
身体の自由が聞かない。呼吸するたびに激痛が肉を焼き、脈打つたびに血が煮沸する。
ウロボロスの如く永延と円環を描く失神と覚醒のループに、少年の抵抗する意志は数秒も持たず瓦解した。

        





――――以上を以ち、本聖杯戦争最優たるセイバー陣営は壊滅した。



セイバー陣営は、マスター、サーヴァント共に戦闘不能。
一方ライダー陣営はマスター、サーヴァントの両方が健在な事に加え、
彼女たちの元にはヒュドラやネメアの大獅子等名立たるギリシャの怪物たちが一同に集っているのだ。
もはや七草とセイバーの運命は彼女たちの手に委ねられていると言っても過言ではない。


ぺたぺたぺた、と暗紫色の少女は素足で青年の元へ歩み寄る。
そんな彼女の背後には、いつの間に復活したのだろう、ネメアの大獅子が戦車程もある巨体を聳えさせていた。



――――赤(ルビー)を湛えた蜘蛛の瞳が、変幻(プリズム)の光華(カレイドスコープ)を覗き込む。



ここまで、か。僅かに回る思考を巡らせ、七草は自らの敗北を認識した。
完敗だった。手も足も出なかった。何も、できなかった。
ネロとの約束を果たすこともなく、セイバーへの謝罪すらも儘ならず、今日此処で石蕗七草は死亡する。

少女が青年を生かす理由はなく、意味もなく、
冷酷なる銀の月光を帯びた獅子の爪が間も無く青年の戦いを終わらせるであろう。

        



ごめんネロ、セイバー。
快楽に焼き尽くされる寸前の脳髄で、青年は謝罪の言葉を思い廻らせ―――



「すまんなぁ、あんちゃん。どぉーしても、令呪だけは回収しとけってライダーはんがゆうんでな」



明るい少女の声と共に、銀爪が振り下ろされる。
痛みは快楽の渦に飲み干されている。けれど令呪の刻まれた右手が骨から断たれた音は聞こえた。

大事な何かが欠けてしまったような感触。とても大事な、そんな何かが。
そして切り落とされる手はライダーに拾われた。彼女たちは何が目的か、その時点でようやく七草は気がついた。


やめろ、それは。彼は、僕のサーヴァントなんだ。
だからソレは持って行かないで、くれ。



「回収完了♪ さぁイキましょう、マスタぁー」

「ほなな、あんちゃん。セイバーはもらってくで」



蜘蛛の少女は一度言葉を切る。
言葉を切り、地に伏した青年と視線を合わせるようにしゃがみ込み、
        




「…………ウチ、待っとるで?」



―――――赤色の瞳は確かにそう微笑んだ。



微笑んだ後、何事もなかったかのように少女は立ち上がる。


そして蛇毒に痙攣するセイバーを捕獲し、生き残った魔獣を含めたライダー組は、
セイバーのマスター“だった”青年を一人残しコンテナ街より立ち去った。

発生源たる少女が姿を消した故、一帯を包み込んでいた淫霧は徐々に大気に溶け失せる。
理性を削ぐ薄紅色の猛毒が薄れてゆく。非日常は惨状だけを残し、終わりを告げる。

         



―――思考が晴れる。苦痛が戻る。状況を認識する。
蹂躙尽くされたコンテナ街に一人。ライダーも、ライダーのマスターも、セイバーもいない。
残された最後の一画も、手首から断たれた右手ごと簒奪された。


状況は絶望的。否、完全に脱落している。
サーヴァントは不在。再契約のための令呪も無し。命あるだけ幸いと言えよう。

でもまだ手はある。まだ終わっていない。
七草は未だ覚束無い手元で、懐から取り出した端末を起動した。
この状況を打開できる唯一の行動は―――




「――――ネロ、僕だ。頼む、助けてくれ」


       

石蕗 七草/
八極 三雲/ランサー(ペザール)
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
蜘蛛(ナクア)の怪物/ライダー(エキドナ)
■■■■/アサシン(風魔小太郎)
外道/バーサーカー(ローラン)【脱落】
管理者(セカンドオーナー)/キャスター(ファフニール)

ライダー陣営/セイバー(ヤマトタケルノミコト)

監督役:ワイズマン

      

今回はここまで

とりあえずこれで予定の半分、折り返し地点です
アニメでいう第一期終了

とりあえず、ここまで読んでくれた皆さんありがとうございます
そしてこれからもよろしくお願いします

乙、ライダー良くやった、いやー正直ライダー方応援してましたこれからセイバーの調教シーンだと思いますが
それも楽しみです

乙 ナクアは何で七草君お持ち帰りしなかったんですか?
七草の事が好きならライダーのように奪えば良かったのに

これで七草くんがネロちゃん連れてきたらナクアちゃん嫉妬でプッツンしますね

ヒュドラの頭ちっちゃ!

ピザさんチョロかわ

≪────Interlude Saber&Archer────≫



――――耳に触りの良い声に、目を覚ました。



「ナナクサ、おきたの?」



覗き込む黒の瞳。七草の顔に、好い香りを放つ柔らかな黒髪がかかる。
開かれた視界一杯に映し出されたのは、見知った少女の顔。

名は、ネロス・ベーティア。
本聖杯戦争の御三家の一人、“技術者”にしてアーチャーのマスターである。


何故君が?、という言葉は寸でで飲み込めた。
彼女を呼んだのは他ならぬ七草自身。不用意に彼女を怒らせる真似はしたくない。
そして今は一刻を争う事態。そんな時間もないはずだ。
      



「ごめん、ネロ。すぐ起きる」

「コラ、あわてちゃダメよナナクサ」


ベッドから身を起こそうとする七草の両肩を、ぽん、と少女は押した。
少女の力で軽く押されただけ。青年からすれば何でもない衝撃のはず、だった。

がくん、と右肩からバランスを崩し、再び柔らかなベッドマットの上へ倒れこんだ。
そこで初めて気がつく。体を支えるべき、右手の感触がない。


嗚呼。そういえば―――と今になって思い出す。


仰向けの七草が掛け布団の下から取り出した、空白の右。
包帯が巻かれている手首より先は、無い。


「――――手、切り落とされたんだね」

「ええ、令呪ごともってかれちゃったみたいだわ」


損傷したのは右手一つ。されど喪失したのは人一人分。
改めて、セイバーが奪われたという現実を認識する。
      


しかし、まだ何も終わらず。
肉体的なダメージは右手のみ。他は心身共々満足に機能する。
この身であれば、幾度でも再起できるだろう。

そういえば、と七草は辺りを見回す。
どうやら自分のいたホテルではないようだが――――


「………ここは?」

「あたしの館。よろこびなさい、あなたがはじめてのおきゃくさんよ!」


やけに自慢げなネロの声。
だが、青年は彼女の言葉の半分も聞き取れていなかった。
七草の視線は部屋の内装に、完璧に釘付けとなった。


第一印象は、古代ローマの宮殿。加えて、神殿。
七草が宿泊していたホテルのものよりも、更に柔らかく体が沈み込む天蓋付きのベッド。
所々に黄金と宝石、そして彫刻があしらわれた室内の装飾は豪華で派手だが、決して過多ではない。


是程の業、如何なる匠の手によるものか―――思わず“眼”が疼く。

     




「やっぱりキレイ――――万華鏡みたいね、あなたの“眼”」



顔に手が添えられる。何時の間にか、少女の顔がすぐ傍まで近づいていた。
先ほどよりもさらに近い、今にも鼻がぶつかりそうな距離。
息遣いさえ、はっきり聞き取れる。


「あの、」

「うごかないで」


強い口調で静止され、思わず七草は、はい、と答えてしまう。
白く柔らかな両手で、ぐぃ、と頬を挟むように顔を固定される。


力は確かに少女のもの。けれども如何として抵抗し難い。
先ほどの一言で、まるで七草の主導権の全てを握られたといわんばかり。

合わさる瞳と眼。そして彼女が浮かべているのは、好奇の表情。

     




――――少女の黒き瞳は、七草の“眼”を覗き込んでいた。



「ふぅん、魔眼じゃないのね。あくまで受容器としての機能の強化―――あなたの場合、解析に特化。
 それもただの高度な情報分解の域―――事象の本質を理解しているのは、やっぱり脳のほうなのかしら」


驚くほどの的確な分析だった。彼の『物見稽古』は“眼”と脳が一セット。
“眼”はあくまで、情報を構成因子(ファクター)にまで分解する受容器(レセプター)。
彼の能力の本質は、分解した情報を分析、整理、再構築する――――情報理解に特化した頭脳にこそある。

彼の能力を欲する者がいるとすれば、眼球だけではなく脳機能まで簒奪もしくは転写する必要がある。
………今のところ、ネロは興味があるだけ、なのが幸いか。



「色(コロル)は――――『変幻(プリズマ)』ってところね」



“視”る情報に応じて巡るましく“眼”の色を変えるその様。まるで万華鏡の如く。
仮に魔眼としてのノウブルカラーを与えられるとしたら――――虹でも、宝石でもない、『変幻(プリズム)』。

ネロの【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】と互角に渡り合える、七草の異能。
初めて出逢った、最高にして対等の敵(ライバル)。
       




「ナナクサってば、ホントにステキね。大スキ!」



子供らしい感情の表現、なのだろうか。
少女特有の瑞々しい唇でそう呟いた後、漸くネロは七草の顔から手を離した。


「それでナナクサ、あなたはあたしにナニをシテほしいの?」

「――――セイバーを助けたい。手を貸してくれ」


即答だった。迷いは無い。
目的はライダーの撃破ではなく、セイバーの奪還。
つまり単純な火力のごり押しは通用せず、実際に敵の本拠地に乗り込みセイバーを助け出す必要がある。

敵陣に踏み込む必要上、難易度も極度に跳ね上がる。
―――とは言っても、ネロとしてはそれを断るつもりはない。


「ねぇ、あなたはどうしてそこまでセイバーにこだわるの?」


唯、聞いておきたかった。そこまでセイバーに拘る理由を。
無論、聖杯を手に入れるためにはサーヴァントが必要だ。
      


けれどそうではないはずだ、彼の場合は。
ネロが対等の敵として認めた、彼はそんなつまらない人間ではないはずだ。


「………まだ謝れてないんだ、彼に。あの喧嘩は、僕が悪かったのに」


七草は、口元を自嘲気味に歪める。
恐らくネロを救った際、彼がセイバーの行動を咎めた為に起こった決裂の事。
青年が少女に助力を求めたのは、聖杯のためでもなく、セイバーに謝罪の機会を得たいが為。

ネロを助けたのも見返りを求めた行動ではなく、唯彼女と戦いたかったという理由から。
そんな理由でバーサーカー陣営の討伐はおろか、令呪を消費してまでアーチャーを助けたのだ。


石蕗七草(ツワブキ ナナクサ)の行動基準は、価値観は、本当に狂っている。
自身の利益からではなく、損得抜きに自身の欲するところから行動を成す。
だからこそ、ネロス・ベーティアの最後の敵として相応しいのだろう。

そしてネロとしても彼の精神(ありかた)は嫌いではない。
寧ろ、彼女の好みにストレートである。
      




「いいわよ、ナナクサ。あたしの力、かしてあげる」



あたしの目にくるいはなかった、と少女は微笑む。
令呪の喪失と霊器盤より未だ現界するセイバーの存在から想定できた、七草からの要請内容も予想通り。
ちょうど先ほど到着したらしい“彼女”を呼んだのも、無駄足ではなかったらしい。
        




「――――というわけだけどいいかしら? 魔術師(マギア)のドミア」

「ああ、問題はない。当然報酬は頂くがね、アーチャーのマスター」



部屋の中に、朗々とした声が響く。
七草の視線の先。開いた扉に背を預ける人影。

身長は160cmか弱、程。
後ろで纏められた髪は短いためか、ポニーテールになりきれていない。
解いた所で、肩にかかる程度の長さしかないだろう。


「――――お初お目にかかる、で間違いないだろうか、セイバーの元マスター。
 君とは何度も遣り取りをしたことはあるが、何分今まで電話か使い魔越しだったからな」


黒を基調としたチャイナドレス。そのせいか、体の線がよく分かる。
起伏はほとんどない、すらりとした体躯。よく言えばスレンダー、悪く言えばまな板。

特に胸囲は、下手をすれば明らかに幼いネロと同じレベルかもしれない。
などと、随分と失礼なことを考えつつ、漸く七草は声の主を思い至たることができた。
       





「私はこの地の管理者(セカンドオーナー)。御三家の一人、霊地の“提供者”だ」




そう、変化の乏しい表情で銀髪の麗人――――管理者(セカンドオーナー)は七草へ視線を向けた。


        

ここまで

ようやく管理者本人(表舞台に)登場
全然出番のなかったキャスター組にもようやく機会がきたでー

>>498
多分ない、かなー

>>522
まあ待ちな

>>523
>>315-316
このあたり参照

>>524
んーいやそうはならんかもなー

>>525
いやぁーノリで書いてたせいで全然考えてなかった
すまん、実際そこまで小さくないか産まれたてだからってこいで

>>526
ペっちゃんはチョロい
だが今回三雲以外のマスターは攻略できん連中ばかりという

乙 恩は売って置くもんですね普段は人助け何て絶対しないネロが七草くんを助けるとは
しかし恩を売ったネロともかく管理者方も七草に協力するのは意外でした

乙、管理者の胸て慎ましい方なんですね気になったんですかこのSSでの女性の胸バストの順位て決まってるんですか?
もしよければ1の想像で良いので教えてください

>>539-540
同一人物か?

>>539
報酬がそれだけ魅力的ってこった

>>540
判定:1だったしな風水師貴女

胸の大きさはこんな感じ
ローラン≧外道>(大胸筋の壁)>ランサー(Cほど)>(話にならない壁)>その他女性陣

ちなみにサーヴァント階位
1位アーチャー
2位セイバー(知名度補正込み、他の地域ではバーサーカーと逆転)
3位バーサーカー
4位キャスター
5位ライダー
6位アサシン
7位ランサー

本来は英霊ですらないペっちゃんは最下位

>>541
>>1も毎回そう思ってしまう

サーヴァント階位は対城宝具含めての戦力評価だと思っていいのかな、天叢雲が出番ないせいで違和感が少しあるけど
vsライダー戦でセイバーが開幕天叢雲しなかったことに理由とかありますか?

ナクアちゃんハードモードまったなし!
セイバーに何かあったら失恋もまったなしだな

最強の悪竜と、怪物殺しのエキスパートのタッグに、エキドナさんと怪物たちもハードモードだな

早く子作りしないと・・・(使命感

≪────Interlude────≫



────自分のものではない、夢を見た。



閉ざされた氷の城。
美しく、そして恐ろしいほど寒々しい場所。

只の人ならば長時間の滞在は困難なほどの冷気の塊。
故に城の内部に人の気配は無く、ただ世界の全てが死に到ったような静寂だけが唯一の存在であった。


国を護る魔法の槍を管理する宝物庫であり、槍の担い手が住まう場所。



――――それは王の城とは名ばかりの、氷の監獄であった。



そこで彼女は一人、氷の玉座に腰を下ろしていた。
全身を覆うのは、一見拘束服とさえ見間違えるほど隙間無く身体に巻きつけられた呪布の束。
けれどそれは、今にも崩壊しそうな体の外形を維持するための応急処置に過ぎない。
     


実際、呪布が剥がれ落ちた左手の指先は、
黒く変色し、木乃伊のように腐敗し、乾き切っていて、
呪詛は左手だけに留まらず、既に全身に伝播してしまっている。

既に感覚など当の昔に喪失してしまっており、動かすことさえままならないだろう。
いや。さらに言わせてもらえば、この状態で生きていることすら不思議と呼ぶしかない。



――――これが、槍を使用した代償。これが灼熱の毒槍の呪詛。



今、最盛期の姿で召喚された彼女とは比べ物にならないほど、零落れ、穢れた姿。
けれども彼女は一切不服な表情を見せることなく、その痛みと不自由と呪詛を受け止めている。

そして――――
   



「女王様! ――――の国が我が国に宣戦布告を!」

「そう――――か。わかっ、た。すぐに、向か………う」


息絶え絶えに屋外の控所から駆け込んできた厚着の臣下の言葉に、
彼女は蟇のように醜く耳障りの悪い、潰れ掠れた声をようやく音として搾り出した。

しかし臣下は女王の言葉に御意と返すことさえなく、
気味の悪い生きながらに腐れ朽ちる女王と
彼女を幽閉する氷の城から逃れるように急いで玉座の間を後にする。


そんな臣下に少しだけ視線を向けた彼女は、玉座のすぐ傍に置かれた氷の釜から、
城の中で唯一氷で作られていていない、封じられた魔法の槍をぎこちない手つきで掴んだ。

彼女の肉体は、既に死んでいるも同義。
そんな状態にも関わらず、彼女は崩壊を防ぐ呪布と
そして魔術を使って、己の身体を無理矢理にでも動かす。

けれど、どんなに足に力を入れても、立ち上がる、という基本的な動作でさえ不可能。
結局槍を支えとして、彼女は身を起こす。
    



戦場に待つのは、速やかな死か、緩やかな死でしかない。
けれども、彼女は進むことを止めない。その歩みを止めない。

歩みを止めることは、彼女の国の滅亡を意味する。



…………だから彼女は、変わらぬ死の運命にあるとしても槍を携え、戦場へと向かうのだ。

     


……………………………………………………………………………………………………………………………………………



…………場面が変わる。



戦場ではなく、氷の城の氷の玉座の上。
ダイヤモンドのような輝きの氷床に、溝を作りながら暖かな鮮血が流れる。
額を割られ、玉座から床に崩れ落ちているのは、氷の魔女たるこの国の女王。


勝者は、鮮血に染まる黄金の林檎を携えた漆黒の外套を纏う三人の詩人。

彼らは彼女の手から滑り落ちた封の施されたままの槍を拾い上げ、
最期まで槍に手を伸ばそうとした彼女にはもはや眼を向けず、次なる財宝を回収するべく氷の居城を後にする。

略奪者たちの背中には、魔女の静止も、哀願も、憎悪も、怨嗟も届くことはない。




――――そして、氷の城に一人残された彼女は、このまま死んで終いであった。


     

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



同時に、彼女の回想は終わりを迎えた。
後は何もない。ただ黒々とした静寂だけが続く。

ランサーの話によれば、国防の要たる槍を失った彼女の国は、
すぐさま周辺諸国に蹂躙され、国は滅亡した―――ということらしい。

けれども少年は、昨日聞いた彼女の願いとその回想との間に、ある違和感を感じた。


『―――そうだ。国のため、民のためだ。民は、私を怨んでいる、憎んでいる、怒っている!
 私のせいで国が滅んだのだ。私があの戦士どもを宮殿に招きいれたせいで! 私が殺さなかったせいで!』

『民は、私を恨みながら蹂躙されていった! 私を憎みながら陵辱されていった!
 民は、私を蔑みながら滅亡していった! ………全て、この魔女のせいだと嘆きながら死んだのだ』


『そういうわけだ。私は、自らのミスで国を滅ぼした愚かな魔女だ。罵られるべき愚王だ。
 罪を償うためなら、どんな罰でも甘んじて受ける。生前と同様、槍がこの身を滅ぼすことになっても構わん』

『だから私は、私の国と民共の為、トゥレンの息子達から槍を取り戻さなければならんのだ』
        




「………いや待て。おかしくねーか? どうして死んだ後の事なのに国が滅亡する時の事を知ってんだ?」



滅亡した、という事実ではなく、滅亡する時の事を、
何故滅亡以前に死んだランサーが知る余地があるんだ?



―――その言葉と同時に、世界は反転した。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

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視界全てが赤に染まる。
少年の身体は、轟々と音を立てる濁流に飲み込まれる。


直感的に分かった。
おそらくこれがランサーの言っていた憎悪、激憤、怨嗟の声。


―――コールタールのように重く粘ついた怨念の大渦であった。


おそらくこれがランサーを苛む原因――臣民の声という奴か。


だがもしそうであるなら、本物であって欲しい。

赤渦に巻き込まれた少年は祈り、耳を澄ませる。
そうでなければ、あまりにも彼女の願いは憐れで―――
    



死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ネ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死!!!




―――魔女を殺せ! 死んで詫びろ! 




―――お前のせいだ! 我々の破滅も、国の滅亡も全て全てあの魔女のせいだ!




―――何故お前だけのうのうと死んだ! 何故お前だけ安らかに死んだ!




―――何故だ!? 何故何故何故何故!?


       




「マジかよ………救いようがねえじゃねえかこんなモン」



赤の濁流に揉まれながら、少年は呆然と呟いた。
先程のランサーの記憶の中で感じた違和感、疑念。今やそれは確信へと変わる。



「アリエねぇ、これが死者の声ってか? 違うだろ、どう考えても」



これは、民の怨嗟でも、国の嘆きでも――――犠牲者の憎悪でも、なんでもない。



「違う、違うんだよこれは………本当のな、本当に犠牲になった死者の声って言うのはな――――」



――――これが人の怨嗟でない理由など、唯一つ。

       




「なんで皆が皆、ランサー(てめぇ)を責める言葉しか吐いてねえんだよ!」


少年は地獄を見た。
規模は国一つとは比較にならぬ程小さい物だが、確かにその身に地獄を体験した。
だから分かったのだ。何かの犠牲となった死者達が、異口同音を口にすることは決してないと。


何故、彼女を攻め立てる言葉だけなのか?
何故、他の言葉が無いのか。


助けを求める者の声、死に抗おうと抵抗する者の声、
他の誰かの身を案じ続ける自己犠牲の声、意味も分からずパニックのまま死んだ者の声。
呼ぶ者、励ます者、罵る者、祈る者―――千差万別なのだ。

彼らの声に方向性はなく、四方八方へ無秩序に当て所なく広がる烏合の衆に過ぎない。
故に先程の怨嗟の如くぺザールを責め続けるだけの死者共の声など在り得ない。


つまりこれは彼女を責める民の声でもなんでもなく、
彼女の罪悪感から生み出された、唯の自傷的な妄想空想に過ぎず。
      




―――永きに渡って彼女の心を縛り付けているのは、他でもない彼女自身の心。



それが分からぬ限り、ランサーは永遠と暗黒の内を彷徨い続けるしかない。


自ら望んで苦行を背負うなら、少年は何も言わなかったろう。
だがランサーは違う。彼女は、あの赤が自罰による物と知ることなく背負おうとしている。

無意味だ。無駄だ。それどころか、あんなもの死者への冒涜でしかない。
無論、ただ愚か者が墓穴を掘り続けているだけだと、見捨てることも出来る。


―――が、あいにく少年はそこまで薄情には成り切れない。


知ったからには、何とかしてやりたいというのが心情。
特にあの地獄で、死ぬ逝く者達の声を聴いた生還者としても伝えておきたい。
あの赤禍は死者などではなく、お前が自分を責める声なんだ。


そう、言ってやらなくちゃ、と。

     

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

≪────Lancer Side────≫



目を覚ます。
視界に映る琥珀色の瞳。涼しげな氷青色の長髪。


まるで少年、八極三雲(ヤギワ ミクモ)の目覚めを待っていたように。


そういえば、聖杯戦争の説明をされたときにランサーから、
マスターとサーヴァントはパスを通して互いの記憶を過去の夢として見る、と聞いたことがある。
何処を見られたかはわからないが、見られた事は分かる―――確かそう言っていたような。

こうやって出迎えてくれたという事はやはり過去を見た、ということを把握しているのか。
だったらちょうどいい。忘れないうちに、とっととケリをつけてしまおう。


「なぁ、ミクモ。どうだった私の過去は? 国を滅ぼした女王の末路は?
 民に責められ、怨まれ、蔑まれて当然の―――愚かな氷の魔女だっただろう?」

「ああ、お前ってすっげぇ莫迦ってだってことが分かって安心したぜ、ランサー」


淡い唇を開いた彼女の声は、冷たく震えていた。

わざわざ夢(カコ)の感想を聞いてくるなど、本人も心の何処かで分かっているから。
それを認めたくないから、他者の認証を取り付けようとしているだけ。

だから少年は婉曲(オブラート)なしに、直接言葉をぶつけることを選んだ。

   





「―――自分(テメェ)の贖罪を死者(ダレカ)の怨嗟に掏りかえんじゃねえよ、莫迦ヤロウ」




直球なら、嫌でも分かる。嫌でも向き逢わねばならない。
この言葉に逃げ道はないことなど分からぬほど、魔女は愚かではないはずだ。

そして少年の想像通り、その言葉に琥珀色の瞳が一際大きく開かれ―――




…………直後、少年の目の前は漆黒に覆われた。


         

ここまで

完全に本編に取り残されちゃってるけど
ランサー陣営の方も平行してエピソード進行中ですん

さて決戦も間近ですんでよろしくお願いしますん


一体誰が勝つのか
個人的には七草を応援してるけど
みんないいキャラしてるなぁ

乙 ランサーの願いに踏み込んじゃいましたか八極貴方、それにしてももっとソフトに伝える事は出なかったんですかね。
行動自体は間違ってないけど先生が生徒に教えるように諭すように伝えれば良かったですけど、

ペッちゃんから溢れるハブられ感
なにが悲惨って本編シナリオかすれば即死しかねないとこ

>>543
宝具込みの評価

対城宝具を解放しなかったのは、
淫毒の影響下にあるマスターへの負担に不安があったこと
障害物の多いコンテナ街では濁流にマスターを巻き込む危険性があがることから

>>544
在りうる・・・かな?

>>545
ただライダーにはまだ切り札の■■■が・・・・

>>546
ごめんね
ちょっと難産なのよ

>>562
元はみんな主人公だったからね
生存者をどうするか割と決まってないところがある

>>563
まだ少年だからね
心遣いまで回せる余裕は無いのね

>>564
本編に掠る=死ぬ
ぺっちゃん他の連中と戦力差がありすぎて本編に介入させらんない・・・

≪────Rider Side────≫



赤。赤。赤。赤。赤―――全てが瑞々しい赤に染められた部屋。



肉の天井、肉の壁、肉の床。



――――そこは見渡す限りの肉の海だった。



ライダーの保有スキル、自己改造:Aにて作成された巨大な有機要塞。
固有結界『幻想再誕・魔胎神殿(モンスターメイカー・テュポエウス)』―――ライダーの宝具を内包した巨大な『胎盤』である。



その内部。深層に近い一室―――比較的初期に形成された生殖/繁殖部屋である。



周囲に散らばる遺骸の群れ。
皆、雄だ。種馬として用いられたのだろうか。

少年、青年、中年、老人………生殖器が機能するのであれば、年齢・容姿問わず。
また人間だけでなく、犬、猫、猪、鳥類―――精子を保有する動物の屍も多く見られた。
だが、既に息絶えている彼らが現世に何らかの影響を及ぼすなどもはやない。

今の部屋の主は彼らではなく――――
      



鼻を突く熟れた肉の芳香。空間を満たす薄紅色の淫毒の靄。
光源も無しに物を視認できる程度の薄明かり。


「あっ、ぐっ……………う、ぐぅうううっ!」

「あんっ♪ 本当、いい声で啼くわねぇあなた」


そんな血と肉と死にまみれた空間で、二人の少女が交わっていた。
四肢を肉塊に捕らえられた、黒曜石の瞳と烏の濡れ羽色を持つストレートヘアの少女。

そして黒髪の少女に跨っているのは、
彼女よりも幼い体躯の、肌が透けて見える程薄い淡い紅色のドレスを纏った少女。


否、内黒髪黒瞳の一人―――セイバーは少年であり。
薄紅色のドレスの少女―――ライダーが身動きの取れない彼の肢体を一方的に貪っている状況である。


唯の色仕掛けや快楽による拷問であれば、セイバーが屈することはなかったはずだ。
日ノ本ノ國、最強の英雄である彼に耐えられないわけがない、はずだった。
        




―――少女の肉体は、甘く蕩けた蜜のようだった。



視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。
その全てを以って、彼女の肢体はセイバーの脳を焦がす。
彼女(ライダー)ことエキドナに対する、尤も的確な表現は、“砂糖”。


生温い砂糖水。人の体温よりもやや高い程度の曖昧な熱。
自ら掴めず、ただぬるりとした粘り気を残し指の間を滑り抜ける感触。

毒のように侵すのではなく、蜜のように快楽だけを残していく。
しかも厄介なことに彼女が与える快楽は異種のものではなく、
生命体の生存本能に直接根ざした必要不可欠な欲求のひとつ。


だから、拒絶できない。
砂糖は毒ではない。故に生物は拒絶できない。
このライダーのもたらす快楽は、それと同様のもの。

生命として必要な刺激であるが故、雄である以上何人もコレを拒絶する機能を持ち併せない。
       




―――故にセイバーにできることなど、彼女の一挙手一投足に悦ぶ己の肉体を抑え込もうと抵抗することだけだった。



対魔力のおかげで、未だ意識だけは保てている。

だがそれもいずれ限界となるだろう。
エキドナは一時とはいえ、彼の大英雄ヘラクレスさえも肉体の虜としたのだ。
セイバー、ヤマトタケルではどう足掻いても抵抗できない。



――今もライダーの着衣に隠れた結合部からは、
セイバーの分身をやさしく食む、湿った水音が聞こえる。

幹を貪る唇状の肉輪(リング)。
唾液の代わりに吐き出される淫液(ローション)。
浮き出た血管をひとつひとつまで舐めしゃぶる肉厚の舌。
周囲を包む粘膜は、肉棒を嬲るように流動する。


それらをまとめてぐっぷぐっぷと粘ついた音を立て、歯のない下の咥内で咀嚼する。
肉でとぐろを巻き、押し潰し、締め上げ、搾り上げる。

加えて与えられるのは、直接中のものを根こそぎ吸い上げる程の強烈な吸引。
まるで延々と喉の奥で飲み込まれているような感触が、セイバーを苛む。
     



「く、うぅぅうぅ…………っっっ!!!」

「あはっ♪ またでたぁ♪」


奥歯を噛み締め、嬌声を殺すセイバー。
しかし絶頂に身体を痙攣させる彼の反応に、ライダーは舌舐めずりをして歓喜の表情を浮かべた。

ライダーの生殖器はソレ自体がまるで別種の生き物であるが如く、内部で肉が犇き蠢きあっていた。
中に一滴も残さぬよう圧縮した肉厚の輪(リング)が、唇の様にセイバーの肉棒を下から上へと搾り上げ、
子宮はライダーの下腹部が凹むほど激しく、 ごぼんごぼんと音を立て激しく精を吸い上げる。


子宮に吸い上げられた精子は、すぐさま卵子と結びつき受胎する―――のだが、
今、ライダーの胎内にある温かい肉の海は彼女自身のものではなく、
『幻想再誕・魔胎神殿』が展開されている有機要塞内の何れかの子宮兼育児嚢となる肉袋へと繋がっている。

固有結界の外部展開により子宮としての器官を増やしたライダーは、
一体の魔獣に子宮を占領されることなく、一度に多数の魔獣の出産を可能としているのだ。
     




「クスっ♪ まだまだ元気いっぱいねぇ。これならもぉっとイケるわよねぇ、セイバぁー」



そう搾精され続け、幾十幾百。しかし肉棒も性欲も萎える事はない。
体液交換という形で直接流し込まれる淫毒は常にセイバーの心身を蝕み続け、
射精という形で消耗した魔力は、肉塊からの強制的供給で補填し続けられているが故。

更に、柔らかな触手の小絨毯が臀部から陰嚢を丸ごと包み込み、
優しく揉み解すことで更なる精子の生成を促進させる。
ほぐされた尻は押し広げられ、前立腺を圧迫する触手塊によって勃起を強制的に維持させられる。


突如、玉(ダマ)になった触手が腸内で体積を膨らませた。
ゴムのような弾力性。それが、さっきよりも強く前立腺を押し潰す。



「あっ、ぐっ、ぅうう………やめっ、あっ、あっ、あぁああああ!!!」



また、射精した。吐き出す量も有り得ないほど大量で、濃度も粘度も高い。
先ほどと異なり今度は肉輪(リング)ではなく、膣そのものの圧縮運動により搾り出し、
幹に浮き出た血管一本一本にまで隙間なく密着し、内粘膜がやわらかに握り潰す。

黒髪の少年は、なんとか悲鳴を抑えようとするがうまくいかない。
しっかり結び損ねた口元から零れた唾液は顎から首筋を伝い、肉床に大きな溜まりを作っている。
      




―――しかし、ライダーの追撃はまだ終わらない。



「あはっ♪ ホントあなたの精液は、味も、香りも、質も最高よぉっ!
 もっと、もっと私の子宮(なか)にちょうだぁい♪」



生殖器の圧搾はセイバーの男性器に萎える事を許さず、
玉袋、前立腺への刺激と併せ、二発目に続けて途切れることなく三発目の射精をさせた。

それでも怪物の母たるライダーは満足しない。
彼女は、セイバーから更に多くの精子を採取しようと膣内部の器官を変化させた。



「次は直接吸ってあげるわねぇ。いっぱぁーい、愉しんでねぇ♪」



新たに形成されたのは、セイバーの精巣(なか)から直接吸い上げるための細い肉管。
それは少年の尿道口に狙いを定めると、外すことなく一息で奥まで潜り込む。
度重なる射精で開きっ放しになっていた彼の尿道に、ほとんど抵抗はない。
          




「~~~~~~っっっっっ!!!!」



衝撃。但し、苦痛ではなく圧倒的な快楽の爆発。
昨夜から与えられ続けているライダーの甘き毒は、セイバーの全身を性感帯へと書き換えていた。
本来は痛みを感じるだけの尿道への挿入も、射精を促す新たな刺激(アクセント)にしかならない。

反射的に、白濁した体液が噴出そうと輸精管を昇っていく。
ライダーの肉管は強力な吸引でそれを吸い上げながら、道中の前立腺を捏ねくり回し押し潰し、更に先へ。
輸精管の中をゆっくりと這い進み、その奥の精巣へと紐状の肉は二本に分岐した上で各々に管を伸ばした。



「さぁ。ここから本番よぉ、セイバぁー」



ヒドラ類の如く管の先端が幾本もの触手に分かれ、直接精巣へとしゃぶりつく。
触手は精巣を優しく締め上げながら、やけに粘度の高い淫毒の原液を注ぎ込み、陰嚢の中を満たす。

………許容量以上の淫毒で満たされた玉袋は、見事なまでに膨れ上がってた。
玉袋の皮は皺一つ一つまで伸ばされ切っており、
表面には中で蠢く触手の一本一本が、くっきりと浮かび上がっている。
        


そして、セイバーの中で触手は活動を開始する。
陰嚢が不規則に蠢く。中で精巣を触手が転がす度、
ぐっちゅぐっちゅ、と内側から何度も粘っこい音を鳴り響く。


神経を直接柔毛で擦られるような強烈な刺激とそれ以上の快感は、
触手表面に出現した繊毛がぞりぞりと優しく精巣を揉み撫でる感触によるもの。

耐え切れるわけがない。
セイバーは大きく腰を痙攣させ――――



「それじゃぁ、直飲みいただきまぁっす♪」

「あっ、あっ、あっ、あああぁ―――――っっっ!!!」



悦びに溢れたライダーの一言と共に、各触手先端の口は満たされた淫毒ごと生産された精液を勢い良く吸い上げ始めた。
じゅるじゅると激しい音を立て、作られたばかりの精液を吸い上げられる。

快楽の暴力に、セイバーは視界の中に火花を幻視する。
過剰なまでの快感を訴える嬌声は、最後は音ですらない絶叫となっていた。
        



―――これらを昨夜より休憩なく20時間以上。まともな生命体が持つ時間ではない。
されどセイバーは英雄。この程度で息絶えることはない。が、それでも衰弱著しい。


一時的とはいえ全身を蝕んだヒュドラの猛毒の負荷に加え、
今度は心身を溶かし尽くすライダーの淫毒。

そしてマスターとのパスの強制切断。
現在、セイバーが限界出来ているのは切り落とされた「右手」を依代とし、
要塞で生成された魔力を無理矢理彼に注ぎ込んで維持しているからに他ならない。


生命維持装置で以て、無理に生かし続けられる―――彼が体験しているのはまさにそんな拷問だ。
             




――――けれど天国でもあり地獄であるだろう拷問も一時、休止のときを迎えた。



ぺちゃぺちゃぺちゃ、と柔らかな肉を踏む素足の音。
闇の中から姿を現した、暗紫色の髪。赤色(ルビー)の瞳。白の角。

ライダーのマスターにして、混血の怪物。蜘蛛(ナクア)の少女が姿を見せた。
しかし少女の表情は怒り半分、呆れ半分といった、決してプラスの感情を表していない。
彼女はセイバーとの行為に夢中(おねつ)で、念話にさえ反応しないライダーを態々呼び出しに来たのだ。



「お楽しみ中すまへんけどなぁ、ライダー。そろそろきなくさくなってきとるでぇ」

「りょぉかい。それじゃあ、またねセイバぁー。また、あとで相手してあげる」



ずるりと陰茎を抜き出し、ライダーは立ちあがった。
抜き出された男性器に、精液は残滓も付着していない。
怪物の母(エキドナ)の名の通り、一滴残さず子宮で喰らい尽くした、というわけか。

まったくウチのサーヴァントながら頭痛うなるなぁ、と少女は溜息を吐く。
性行為の最中、ライダーは念話にすら反応しなくなる。
そのため、迎えに行ってやらなければ彼女は敵の存在すら忘れてしまう程なのである。


名残惜しそうに後ろを振り返るばかりのライダーの手を引き、
蜘蛛の少女はセイバーの監禁部屋を出た。
        


……………………………………………………………………………………………………………………………………………



――筋肉が圧縮し、部屋を回廊と隔離する肉の障壁が閉まる。
少女とライダーはゆったりとしたカーブを描く、果てなく長い廊下へと足を踏み入れた。

ここは巨大子宮たる中央の大円を取り囲む円環回廊のほんの一部である。
通路はやや濁り気味な透明生体ガラスを通して、淡い緑色の燐光が放つ羊水に照らし出される。


だが燐光の淡い緑色は本来の肉壁の赤々しさと混ざり合って、
視界一帯をえも言えぬおぞましく不気味な色彩へと仕上げていた。


さてライダーはん、と蜘蛛の少女は話を切り出す。
まずは状況の把握と行きたいところだ。


「それで、敵はんの数はどうなんや?」

「後衛にアーチャー、前衛にキャスターと、そしてセイバーのマスターよ」



要塞周囲に感知した気配はキャスターとセイバーのマスターたる青年。
そして遠方に配した索敵用の魔獣が発見した、後衛のアーチャーとそのマスター。
     



事前に予想した通りの陣形でやってきてくれた。


最初、青年が連絡先を交換していたのはキャスターとライダーのみ。
しかしバーサーカー戦後に、アーチャー陣営と連絡先を交換していたのを“観察”しており、
実際にライダー戦後、アーチャー陣営がコンテナ街で動けなくなっていた彼を回収していたのも把握している。

ならば青年が乗り込んでくるとなれば、戦力はアーチャー陣営。
加えても連絡先が分かっているキャスター陣営だけのはずだ、というのが蜘蛛の想定だった。


事実、彼女の考え通りに事態が動いたわけだ。
だったらやる事は既に決めた通りに。


「予定通りやなぁ。ほなライダー、キャスターの相手は頼むで」

「あらぁ? いいの? もしかしたら、あのアーチャーのマスターも来るかもしれないのに?」


マスターの方針に甘い声で釘を刺そうとするライダー。
乗り込んでくる相手が青年とキャスターだけとは限らないはずだ。

戦力で劣るだろうキャスターのマスターはまだしも、
魔獣の相手すら可能なあの「獣の少女」は殴りこんできてもおかしくないだろうに。
      




けれど、問題ない、というようにダークパープルカラーの少女は首を横に振った。



「いや、来んへんよ流石に。アーチャーの魔力供給で手一杯やろし、そもそも来てもあの『百獣母胎』は使えへんねん。
 ここはライダーの領土。『百獣母胎』の権能はライダーの方が上や、やから上書きは出来へん」



確かに、アーチャーのマスターは非常に強力な能力を行使する。
だが同時に欠点もある。それは、設置地点から動けないということ。

直径1kmという大規模領域を支配下に置けることを考えるなら、本来は考えなくても良い程度のデメリット。
けれど自ら敵陣に乗り込むときは、その限りではない。
領域掌握には相応の時間が掛かることは、一昨日のバーサーカー戦を盗み見た時に把握している。


魔獣共を退けながら陣を構築できるとは考えにくく、
それ以前に大地母神―――『百獣母胎(ポトニア・テローン)』としての性能が違いすぎる。


仮に黒髪黒瞳の少女の『百獣母胎』が最低ランクのE-評価だとした場合、ライダーはBランク相当の格(ランク)は保持している。

如何に怪物として貶められたとしても、ライダーは元々スキタイ地方の大地母神。
たかが魔術で再現された程度の子供遊びとは、保持する権能も能力も文字通り『格が違う』。
アーチャーのマスター程度の力では、ライダーの領土を掌握することなどできやしない。
      




―――だから蜘蛛(ナクア)の少女は、部外者の存在を無視してあの青年との戦いに興じることが出来る。



「意外に考えてるのね、マスターも。それもこれも、ぜぇんぶあの人のため?」

「―――うん、そう。証明してみせるよ、ライダー。私が一番だって。
 あの子より私の方があの人の敵に、一番相応しいって」


止めを刺さなかったのは、全てこの時のため。
己が陣で、最高の状況を以て、最強の蜘蛛(ナクア)と戦って貰うため。

セイバーを奪ったのもライダーからの要求という理由以上に、
必ず青年にこの『幻想再誕・魔胎神殿(モンスターメイカー・テュポエウス)』に乗り込んで貰うためである。
この場所であれば、少女は十全以上の性能を以て戦うことが出来る。
     




「しっかし、ほんまライダーはんには頭あがらへんわぁ。ウチのためにここまでやってもろーて」

「あらぁ、いいのよ別に。全ての怪物は私の子。子供のために出来ることなら何だってしてあげるわ。
 それに、いざとなればこの子だっているもの。私たちが負けることなんて、万が一にもないでしょう?」



母(ライダー)の言葉に、ごぼりと羊水の中の百頭が唸り声で応える。
背後に見える半透明の生体ガラス。その向こう側に、巨大なナニカがいた。

生体ガラスは数十メートルの長さに渡り続いているにも拘らず、
あまりも大きすぎるせいで、全容を納めきれない。

ただ淡い燐光を帯びた羊水に照らし出されたものは、ずらりと一列に並んだ大盾程もある黄金の鱗、の群。
呼吸の度に光の加減が変化し、煌くその様はまるで海中の魚の大群を思わせて。
     




百頭。黄金。神獣。竜。



――――黄金神竜、ラドン。



ヘラクレス12の試練、第11の試練。
何者にも辿り着く事の出来ぬ、ヘスペリデスの園。
そこに実る黄金の林檎の守護者。全長1kmを超える超巨大怪獣。

仮に宝具ランクをつけるならば、A++ランク対城宝具。もしくは対都、あるいは対国。
アーチャーの対城宝具ですら討伐は不可能―――これこそ、ライダー陣営の真の切り札であった。


しかし幾ら最高品質のセイバーの魔力を種にしたといえど、神竜は未完成。
もし仮にラドンの力が必要となれば、覚醒には三画の令呪を必要とするだろう。
故に、できることならあまり使いたくはないのだが。
       




「そろそろくるわよ、マスター。濃厚な一発目、がねぇ」



蕩ける様なライダーの声。こちらが攻撃を受けようかというときに、相変わらず緊張感がない。

兎も角、偵察に放った魔獣が高密度の魔力収束を確認したらしい。
初撃はアーチャー。並べられた数枚重ねた城壁以上の硬度を誇る外殻に、孔を穿つ為の一撃。
推測通り、獣の少女が命じたのは地味な狙撃ではなく、弩派手に小太陽を撒き散らす対城火力であり。



「じゃあ始めましょう、お兄さん。私達の聖杯戦争を――――」



――――蜘蛛(ナクア)の微笑みと共に、肉の要塞へ向け、饗宴の開始(はじまり)を告げる灼熱が炸裂した。

      

ここまで
書いてるときなんかすっごい精神力使った


後訂正
>>532
「ねぇ、あなたはどうしてそこまでセイバーにこだわるの?」

→「ねぇ、あなたはどうしてそこまでグラディウスにこだわるの?」

乙 
いやー濃密でしたね
ラドンはぺっちゃんが対国宝具で華麗に始末してくれるよね?(棒


ライダー&魔獣軍団vsアーチャー&キャスター陣営の対決は近いですね
でも戦いでライダー陣営ラドン動員したら確実町一つ消えますね、周りの一般人とか非難させてるんでしょうか?

そういやそろそろフウマ=サンも本格的に出てくるころだろうか
この戦いなんてライダーもアーチャーキャスターもお互いに消耗しあってたら…

≪────Archer VS. Rider────≫



今夜は、珍しく曇りだった。
星空は遠く。雲越しに月明かりが僅かに感じられるだけ。

立ち入り禁止となり、無人となった埋立外区南方。
そこに、それはいた。あった。



――――子を孕んだ巨大な蝮は蜷局を巻き、静かに腹を波打たせる。



否。そのように幻視するだけで、実際の姿は半球状の肉のドームである。
だがしかし直径数百メートルはあろう肉の要塞は、
まるで“大地の蛇(ミドガルズオルム)”や“日食の蛇(アポペ)”が蜷局を巻いているが如く。

瑞々しい赤の肉―――ライダーの保有スキル、自己改造:Aにて作成された巨大な有機要塞。
人間や産み出した魔獣を含む周辺地域の有機体資源を基礎とした上で、
霊脈からの多量の魔力を簒奪し、過剰までに細胞増殖を繰り返した結果ついに完成したのだ。


この肉塊を自らの『胎盤』に見立て、
ライダーは固有結界『幻想再誕・魔胎神殿(モンスターメイカー・テュポエウス)』を展開した。
       



一度に行える魔獣の出産量は、以前とは比べ物にならない。
2日あれば、半時間程度で街の住人全てを喰らい尽くせる数の魔獣を用意できるだろう。
さらにそれだけの量の優秀な魔獣を生産可能とする最上級の種馬も手に入れた。

気休め程度の霧の結界による隠蔽が施されているが、もはや不要のもの。
通常の聖杯戦争であれば、これが完成した時点でカタが着いていただろう。
哀れこの街は魔獣の群れに飲み乾され、英雄は化物の濁流に膝を突き、聖杯は怪物共の母の手に渡っていた。



―――されど。此度の聖杯戦争に集った英雄よりしてみれば、危機の内にも入らぬと鼻で嘲笑うだろう。

         




――――業火を眼に焼き付けよ異形共。



突如、外殻北東側が白熱に包まれた。
赤ではなく、白。まず眸(すがめ)を潰す極光を以って、直後に矢は紅煉の地獄を生成する。
灼熱の地獄の釜。否、地獄ではなく嘗て天に廻っていた九つの太陽の一つ。その残滓である。



――――A+ランク、対城宝具『千斤神矢・陽』。



アーチャーの保有する大火力宝具。
ライダーの有機要塞のような、超大型の怪物を相手取った際に真価を発揮する。

幾層に重ねられた城壁すら上回る強度を誇るはずの外殻。
内4割を舐めるが如く焼き尽くす、地表の陽光。

高熱で焼き払われた傷口は直には再生できぬ。侵入経路の確保は出来た。
だが同時に開かれた傷口は胎内で誕生した魔獣が外へ出るための格好の噴出孔となる。
      



黒金長髪の童女。否、童男―――キャスター、
ファフニールの考えを裏付けるように、『幻想再誕・魔胎神殿』より怪物の群れが溢れ出す。
その中でも一際目を引く、星天を舞う黄金の流星。

尾を引く二つの流れ星は、対城宝具に巻き込まれぬよう要塞より数百mの地点に
待機するキャスターの位置を的確に把握すると左右に分かれ――――同時に彼の方へ飛び込んできた。


純白の鋸歯と、深紅の蛇舌と、漆黒の咥内(あな)。
遥か昔、神代に君臨した死の象徴が童男の眼前に広がる。

―――煌く金鱗金翼の火竜。
エキドナの子にして、コルキス王の秘宝『金羊毛』を守護する不眠の黄金竜。
それが2頭。雁首を揃え、左舷右舷より顎(あぎと)を抉じ開け、キャスターを挟撃する。


コルキスの竜はドラゴンとしては下位。
神霊すらも手玉に取るファフニールから見れば、本来は歯牙にも掛けぬ雑魚である。
だが今の彼は唯の魔人(ドヴェルグ)。種族としての格差は余りにも絶大。

打破するならば宝具の解放が必要であるが、
聖杯を望むキャスターとしては自ら真名を晒す等余りにも馬鹿馬鹿しい。
だから――――
     




「処理を頼むぜアーチャーのおにぃさん! ぎゃはははははっ!」



童男の濁声と同時に、飛来する一矢。
竜達が音すらも置き去りにした矢の存在に気づいたときには、全てが終わっていた。


剣すら通さぬはずの高硬度の甲鱗。空を翔る城壁。
しかしマッハ10、重量600kgの鉄矢は苦もなくそれを食い破り竜の上半身を四散させる。

夜空に舞い散る黄金の鱗は光の雨の如く。されど鼻を突く芳香は噎せ返るほどの血臭。
竜を一撃で仕留め殺す。眼前の光景にキャスターは思わず、すげぇや、と声を溢した。



――――アーチャー、羿(ゲイ)。弓の神と謳われた、中華神話の大英雄。



神の射手は竜種すら一矢の元に葬り去る。
捕食獣(プレデター)の頂点たる自ら(ドラゴン)を、射殺す狩人(ハンター)。
生前出遭う事のなかった規格外の存在に、残された金竜は恐怖という感情に顔を歪める。

そして無様に翼を羽ばたかせると、怖れの余り大口を開き紅蓮の火炎を防壁として吐き出す。
だが次の瞬間には炎の城壁は引き裂かれ、
コルキスの竜は先ほどのモノと同様腹部より上部を全て喪失し、死亡。

残った半身は重力に引かれ落下。
重量を持った肉塊に押し潰され、十頭近くの魔獣が巻き添えを食らった。
     



阿鼻叫喚の地獄絵図。
拡散する血の匂いに童男は興奮に顔を紅潮させながら、ごくりと息を呑む。

だが、血臭に酔うキャスターを叱咤するように、すぐ真横にアーチャーの鉄矢が射ち込まれた。
衝撃と破片と爆音。それら纏めてモロに食らって吹っ飛ばされたが、相変わらずキャスターに傷はない。

キャスターの方も狙撃を受けたにも関わらず、
やれやれ仕方ないね、と首や肩の骨を鳴らし何事もなく立ち上がった。



「まー令呪一画前払いでもらっちゃってるわけだし、僕ちゃんも少しは働かなくちゃね!
 けど、神殿に籠もりっきりだったかんなぁー身体が鈍っちまってないといいけどね!」



ぎゃはははっ、と噴出する哄笑。溢れ出す溢れ出す。
そして、蛇を思わせる白く痩せ細った指が、ふわりと宙を舞う。


まず彼は、眼前まで迫って来た大型の黒妖犬に狙いを定めた。
長い髪を振り乱し、童男は魔獣の頭を踏み砕き、それを足場に更に跳躍。

当然、魔術師のクラスであるキャスターのステータスは高くはない。
特に肉弾戦に影響を与えるステータスも筋力C、敏捷Dと並やや下、程度と言わざるを得ない。
    


だがオーディン、ロキ、ヘーニル、名立たる北欧の三神を相手取った実力は、
例えキャスターのクラス制限下においても完全に無価値まで劣化することはなく。
荒れ狂う風のように、捕食者(プレデター)は魔獣の波を魔術ではなく暴力を以って殲滅する。

細い腕は蛇の如く撓り獣の首を捥ぎ、
同じく痩せた脚は牛の頭蓋を潰し、白い指先は眼球と共に蜥蜴の脳髄を抉り出す。

ここまでキャスターは一度も攻勢魔術を使わず。使用はアーチャー戦で発動した全身の硬化のみに留める。
アーチャーも見ている戦場で、まだ毒を使う気はない。



「………に、してもやっぱアーチャーやべぇなオイ。ブッパるたびに敵さん半ダースは死んでんじゃんか」



アーチャーが弦から指を離す度、音を置き去りにし大地が派手に舞い上がる。
人間など軽く挽き潰す程の瓦礫が宙に浮き上がり、地面に深さメートル単位の陥没孔を穿つ。
個人携帯可能な現代火器では到底再現不可能な大火力。

それが3秒未満の間隔で発生しているのだ。
手練のキャスターでも暴力だけなら一頭の始末に数分は必要であるにも拘らず、だ。
尋常ではない処理速度。魔獣の全滅も時間の問題だろう―――本来なら。
    


しかし相手は怪物共の母、エキドナ。
そして敵の切り札たる『幻想再誕・魔胎神殿』は既に完成している。
孔より湧き出す幻想種の数も底を知らず。海原より押し寄せる波のように、絶えることなく戦場(おか)に打ち付ける。

だがアーチャーの火力が突破口を切り開き、キャスターの暴力が魔獣の残党を屠り殺す。
黒禍に活路が開かれる様は、まるで海を割るエクソダスを思わせて。



「今だぜおにぃさん! アクセル全開でぶっ飛ばすんだね!!」



―――キャスターの呼び声と共に、後方の闇にピンクの単眼(ヘッドライト)が煌く。



月の無い夜。爆音を上げ、蒼い炎(ボディ)が迸(かけ)る。
前面に鋭い刃と流線型の甲殻を配置した重装甲改造二輪車(バイク)を、
負傷した右手の代わりにキャスター謹製の鋼鉄義手(メイル)を填めた七草が自在に駆る

強風および外敵から騎手を守るため、同時に重量増加を最小限に抑える意図で、
前面にのみ装甲パーツを集中させた上で、更に全体の形状を流線型に近づけた。
加えて正面には障害を的確に排除するための、尤も頑丈な神鉄製の鋭刃を備えた角槍が装着されていた。
         


最小限の、しかし無視できない重量増加を補うため、馬力を更に強化。
増加した重量を計算に加えた上で瞬間速度500km/h超を叩き出すモンスターマシーンと化した。

だが無論大飯食らいの上、燃費は最悪。
重量確保によるタンクの縮小は、稼働時間の低下という弊害も齎している。
ぶっちゃけ、要塞に乗り込む片道分の燃料しか搭載できない。


キャスターによる禍々しいまでの魔改造。
バイクとしても、兵器としても欠陥品。
雀の涙程度であるが一応操作性は確保されていると言っても、だ。

だが、これでいいのだ。
元々機体に求められている性能は『一度のみ騎手を無事に有機要塞に侵入させる』ことだけ。
一度使用すれば二度と使われることはない、使い捨ての魔術礼装。
      




――――名は“KÄMPFER”。ドイツ語で闘士、戦士を意味する単語である。



兎にも角にもコイツは、突撃強襲にのみ特化した改造バイクである!!



拓かれた海道(但し悪路)でぶっ飛ばす400km/h近。
刃が、不意に立ちはだかった大狼(リュカオーン)を無残に引き裂く。
両断された屍は左右に分かれ地に弾き飛ばされ、撒き散らされた血に前面を覆うフードが汚れる。

だが、前方の視界が塞がれても七草の操縦に狂いはない。
例え視覚、聴覚、嗅覚、味覚。それら全てが封じられようとも、
バイクを操る術は、既にあの怪異(ぼうれい)から習得している―――!
    



「キャスター乗って!」

「悪いねお兄さん! 後ろ借りるよ!」


擦れ違う一瞬。七草の指示に、ぎゃはははっ! と哄笑しながら童男は、跳ねた。
そのまま鮮やかにシート後部へ飛び移ったキャスターは、
バイク後方から飛び掛ろうとした蛇女(ラミア)の頭を蹴りで千切り飛ばす。

更に背後から追撃に移ろうとする魔獣共は、アーチャーの狙撃により阻まれる。
後続は封じた。そして、前方より噴出する魔獣の姿も著しく疎らになる。


成程、残りは内部で待ち受ける、というわけか。
やってやろうじゃないか、と七草はきつく口元を結ぶ。

ぽっかりと広がった暗黒に鉄の騎馬を突っ込ませる。
これで、ライダーの有機要塞への侵入には成功した。
後はセイバーを救出し、ライダー陣営を討ち取るだけ。



――――待っていてくれ、セイバー!

     

ここまで
まずは前哨戦から

バイクはすまん深夜テンションで悪ノリした
ちな>>1は角付きモノアイ大好きです

クシャトリヤとかモロ好物


七草君かっこいいですね、前回ライダー陣営にしてやられたのが嘘みたいです

>>586
トンー
やりたいシチュはほとんどやってるから難産だった
ぺっちゃんは、まぁ頑張ればね

>>587
戦場は立ち入り禁止となった埋立外区
なので数分だけなら被害が出ないと思われる

神秘の秘匿は一応立ち入り禁止後、
最大規模で埋立外区全体に隠蔽用の結界自動式が構築されてる感じで
埋立外区内だけならまぁ大丈夫

>>588
まあ一大決戦だし消耗は激しいよね
セイバーも直ぐには復活できないし


要塞攻略に遠距離砲撃と突撃騎兵、燃えるわー

>>601
トン
コンマスレだとあんまり活かせなかったけど物見稽古って要は
コンセプト的に一度負けて、再戦は絶対に勝つとか主人公的能力だから

>>603
とん
最初は砲撃後、普通に乗り込ませるつもりだったけど
書いててなんかつまらんかったからケンプファーに乗らせた

ちなみに調べたところスズキ・ハヤブサの改造バイクが501.94km/hの世界記録出してるらしい
人類ぱねぇ

割といまさらだけど、テセウスさんが誘惑の蛇ラーニングしたらどうなるの? 強制ホモ祭りなの?

>>605
あーうん・・・そうなるかなぁ
一応制御できるから使わないとか、そもそもコピーしないかもしんないけど

はぁ、ラーニングできるのかこのスキル・・・・

ネロを攻略できるという意味ならラーマのが上だけど、相性自体はどちらもあんまり変わらない

ネロ主人公の物語ならラーマ>羿
ボス、強敵としての役割(ロール)を持たせるなら羿>ラーマ


羿は、間違い以外は反論とかほとんどないから淡々と進んでいって終わりも静かなものになる
ラーマだといい保護者分発揮してネロが反発しながらも徐々に仲良くなってく感じ

ラーマが選ばれた理由は羿が緋色(ルビウム)陣営にいたので奴に対抗できるアーチャーが必要だったこと
そこから同じ中華か、インド出身かーって話で、螺旋繋がりで青年シモンのAAに決まっていた彼が採用


ちなみにネロは君臨、支配属性持ちなんで、同じ混沌善でもカガセオとの相性は最悪

≪────Caster VS. Rider────≫



────肉塊の間(なか)を騎馬(バイク)が駆ける。



巨大な魔獣を通すためか、道幅は異様に広く、天井はやけに高い。


だが道は軟らかい悪路。鼓膜には血管の脈動音がこびり付く。
噎せ返るほどの臓物の匂いが常に鼻の奥を突くような最悪の環境。

更に視界は薄暗い上、薄紅色の霞に覆われている。



────要塞内を覆い尽くす薄紅色の芳香。



ライダーの固有スキル、『誘惑の蛇』。ランクはA+。
精神防御を貫通する魔性の淫毒は、最高ランクの対魔力によってのみ対抗できる。


この場にいる青年、キャスター両名とも男性。

だが青年はキャスターより渡された最高(A)ランクの対魔力を発揮させる装飾品(アミュレット)を、
キャスター自身は魔術炉心『竜血の心臓』に由来するAランク対魔力により、
芳香(フェロモン)の効力を完全に無力化することに成功していた。
      


要塞内には最初よりは少ないとはいえ、それでも多くの魔獣が潜んでいた。
蜘蛛(アラクネー)、海魔(オルグ)、猛牛(クサリク)―――その他様々な異形諸々。


それらをバイクの刃角が、あるいはキャスターの痩腕が、細脚が、
切り裂き、ひき潰し、吹き飛ばし、自ら活路を拓いて疾走する。

兎に角、進めるところまで進まなければ。



突如、七草の鼓膜が風切り音や肉塊の脈動ではない、筋肉が軋むような音を捉えた。



「―――飛び降りて、キャスター!!」

「あっ? …………ンッ!?」



――――一瞬の後、重装甲二輪車は圧壊した。



落差15m以上。高台からの跳躍。そして正確な着地。
爪を備えた前脚が、重量で以って改造マシンを押し潰す。
大型重装甲車並の体躯は、体重のみで圧壊したバイクを肉の床に減り込ませた。
     



だが直前に飛び降りたことで、辛うじて七草とキャスターは無事だった。
400km/h近のバイクから飛び出した七草の体を、長髪を靡かせた童男が受け止め無事着地する。
童男の背後から、青年は眼前の魔獣に眼を向けた。



――――顔(おもて)を上げる。



吼ゆる獅子。大気を揺らし、魔獣降臨。
ネメアの大獅子。記憶としては曖昧―――だが、覚えている。

セイバーの超音速にさえ喰らい付いた、魔獣の中でも最上位の性能を誇る百獣の王。
今までの魔獣共とは一線を画する魔獣の頂点。
     



月光無き要塞内。牙は蒼に、爪は銀に煌く事無し。
されど、切れ味に衰えも無く。


迫る神速の顎(アギト)。セイバーですら完全にはかわし切れなかったソレを、
俊敏さでも反応速度でも劣るキャスターが避けられる筈がない。

幾重の廻る金輪は蜥蜴の眼の如く。
大きく見開かれたキャスターの瞳には、黒々と口蓋(アナ)を剥き出しにした死が映る。
重装甲車程の巨体を持った獅子からしてみれば、矮躯のキャスターの頭部一つ噛み切るのは容易かろう。



「キャスターっ!」



青年の叫びは絶望的なまでに遅い。
獅子の顎が呆然と見上げるしかない、童男の頭蓋を飲み干した。
      


だが、牙はそこで止まった。
頭に喰らいついたにも関わらず、それ以上牙が進まない。
それ以上牙は進まず―――生温い闇の中で、魔人は口元を邪悪に吊り上げた。



「おいおいおいおいおい! その程度かよ!? マジで期待はずれじゃねえか!
 僕ちゃん残念すぎて嘲笑いがとまんねぇよ! ぎゃはははははっ! 弱っ、死ねよカス」 



溢れ出す哄笑と共に、キャスターは魔猛毒(ドレーキエーター)を吐き出した。
それも噛み付いた大獅子の咥内に直接―――万物を腐敗させる、悪竜ファフニールの猛毒のブレスを、だ。


―――絶叫、悲鳴。獣の口から零れるなど、七草ですら初めて聞いた。
魔獣はその場から飛び跳ね、キャスターを吐き出す。
そして大獅子は無様に肉床に崩れ落ちると、悲鳴を上げながら激しく巨躯を悶えさせる。

口蓋より、瀑布の如く噴出する血肉。止まらない、止まらない。
眼球がポロリと取れ、鼻は豆腐のように潰れ、耳は蝋燭のように垂れ落ちる。
顎が腐り、肉が焼け、骨が溶かされ――――そして最期に、頭部がずるりと液体の如く融解し、ネメアの獅子は朽ち果てた。
      


圧倒的なまでの強さ。
初めて解放された、キャスターというサーヴァントの真の実力。その一端。
七草でさえ、驚きに息を呑み込み――――


「さっすがぁ。乗り込んで来るだけのことはあるわねぇ、キャスタぁ」


突如、脳を焼く薄紅色の声が本能を奮わせた。
一挙手一投足が快楽を呼び起こす妖艶さ。全身の細胞へ甘く染み込むその様はまるで砂糖。


二人、顔を上げる。
何時の間にか、少女が立っていた。


艶やかなピンク色の長髪。
身に纏うドレスは胸元が開いた深紅のコルセット風のボディと下着が透けて見えるほど生地が薄い紅色のスカートのセット。

両腕の装飾と黒いブーツ、胸元を彩る赤の薔薇、
そしてドレスを押し広げ臨月の如く膨らんだ白い腹が、よりその幼子の淫らさを引き立てる。


円らな紅色の瞳。童男(キャスター)よりも幼い外見、低い身長。
それに似合わぬ妊婦の孕み腹。ひどくアンバランスな光景。

だがその娘はどんな娼婦よりも淫らに、雄の情欲と性欲を掻き立てる。

彼女こそ、蜘蛛(ナクア)の少女が召喚したライダーのクラスのサーヴァント。
忌み嫌われる反キリストの淫魔。
        




――――ライダー、エキドナ。



ネメアの獅子、ヒュドラ、ラドン―――ギリシャの数多の怪物を産み落とした“怪物達の母”。
元はスキタイ地方の大地母神でありながら、ギリシャ神話の普及により怪物へと貶められ、
さらにキリスト教により売春婦の象徴とされた“蝮(マムシ)の女”。

どんな女よりも女らしく、どんな母よりも母らしい彼女は、
雄であればどんな生き物であれ、その動作一つ一つに煽情を覚える以外在り得まい。
実際、七草も一度、彼女の固有スキル『誘惑の蛇』に敗北した。


けれど、今回は違う。事前に手を打ってきた。
Aランク相当の対魔力アミュレットに、同じくAランク対魔力を持つキャスターの援護。
以前のように何も出来ずに無様な敗北を記すことはない。

相対しても膝を着くことは無い。
その事実にライダーは、客を出迎える娼婦のように
両手でスカートを摘み上げ、色欲の見え隠れする嬉しげな笑みで口を開いた。
        




「いらっしゃぁい、待っていたわぁ二人とも。早速だけど、はじめましょう?
 キャスター(あなた)の相手は私。そして青年(あなた)の相手は―――――」



天井に開口した孔(アナ)より、吐き出された蜘蛛の束糸。
まるで誘うかのように、七草の眼前で束糸が揺れる。

明らかな罠。だが。
当然とでも言うように、躊躇うこと無く青年は糸の前に立つ。



青年の敵は、蜘蛛の少女。
キャスターの敵は、ライダー。



それを青年が望むなら、キャスターとしては止める気は無い。


「行ってくるよ、キャスター」

「おう、がんばってくるんだね! おにぃさん!」


糸を掴んだ七草は、そのまま天井の孔の内へと引き上げられる。
彼の身体が完全に呑み込まれた後、筋肉が収縮し孔が閉じる。これにてマスターとサーヴァントは分断された。
      




―――彼を見送った後、キャスターは改めて眼前の売婦へと向き直る。



くすり、と淫靡な笑みを浮かべる少女。
されど彼女の名はエキドナ。ギリシャ神話の名立たる怪物共の母親である。
そして幼き躰の母を護る様に、キャスターを阻むように彼女の息子が姿を現した。



―――迎え撃つは九つ首。幻獣、海蛇ヒュドラ。



汚濁の紫。垂れ流される猛毒は、水を、土地を、大気を穢す致死の吐息。
微量であっても取り込めば、たちどころに全身へと廻り、激痛と共に行動力を奪い取る。
更に吸い込めば命すら奪うどころか、不死や不滅の加護でさえ冒す程。

また解毒の難易度も最高レベルであり、治療には魔術ではなく、医術の神の手を借りる他ない。
肉床を満たす紫。それは徐々にキャスターの方へと近づいてくる。

だが――――
       




「ぎゃははははっ! しょっぺぇ毒だなオイ! 所詮蛇ってワケか?
 しっかたないなぁ、この可愛い可愛いキャスターちゃんが本当の猛毒っていうのを見せてあげるよ!」



哄笑する哄笑する。嘲笑う嘲笑う。
ヒュドラ―――猛毒を持った蛇の怪物の代名詞など、彼を除いて他にいるものか。
だがこの程度毒でも何でもないとキャスターは口元を愉悦に歪め見下す。



「腐敗せよ―――“魔毒の死霧(ドレーキエイター)”」



―――魔猛毒。



紫と緑と赤黒の色が混ざる事無く交じり合った、視覚に悪い原色の色彩。
その気味の悪い魔猛毒に触れる度、ヒュドラの口蓋より零れ落ちる紫煙が、毒が、呑み込まれていく。
否、キャスターより吐き出した息吹(ブレス)が触れる端からヒュドラの猛毒を腐敗させ、消滅させているのだ。

自然界の猛毒の更に上位。毒というより、最早魂まで腐らす必滅の呪詛。
当然、ヒュドラの猛毒を溶かし消すも赤子の手を捻るが如し。
         




ヒュドラの毒は殺すための毒。
だが、ファフニールの毒は滅ぼすための毒。

蛇と竜。
始めから、格が違う。



―――結論から述べよう。
猛毒を無効化され、逆にキャスターの“魔毒の死霧”の直撃を受けたヒュドラ。

彼の肉体は不死と謳われた中央の首を残し、他は腐敗死。
残る一本の首も叩き潰され、暴力に曝されるがまま肉塊の内に埋め込まれた。
完全に死んではいないが再起不能。所謂リタイアしたのである。

圧倒的なまでのキャスターの強さに、歓喜の笑みを浮かべるライダー。


「すっごぉい。年数は経てないとはいえ、その子一応幻獣よぉ?」

「おいおいおい! おねーさん。僕は幻想種じゃないぜ?
 こんな可愛い僕ちゃんだけど、実は英霊の端くれだよ! ぎゃははははっ!」


そう。キャスター、ファフニールは幻想種ではなく英霊。反英雄である。
故に、彼の存在は幻想種としての枠には当てはまらない。
魔獣、幻獣、神獣といった尺度など、彼の前にはまるで無意味なのだ。
      




「毒はダメ、ねぇ。なら――――」



では、お次。
薄紅色のドレスの少女は指を鳴らした。



「炎はどうかしら?」



――――その言葉と共に、キャスターの眼前に灼熱が奔る。



沸騰する大気。襲い来る熱風の暴力。
煌々とした赤々しさに、眼を庇いながら顔を上げる。



――――見えた。大型バスほどの体躯。獅子と、山羊と、毒蛇。

      




――――幻獣キュマイラ。



灼熱の息を漏らす、三つ頭の幻想種。性別は雌。
リュキアの山脈を根城とする、テュポーンとエキドナの娘。
ペガサスを駆る英雄ベレロフォンの策略によって、熔けた鉛を呑み込まされ退治された。

武装は三つ首、強靭な肉体、そして獅子の口から吐き出される地獄の業火(ブレス)。


特に炎の息吹は厄介だ。あれはファフニールの魔猛毒で遮れない。
無論悪竜時であれば、あの程度の灼熱なら容易に遮断する強固な結界の性質を与えられる。

だが宝具を解放してしまえば、間違いなく魔力の気配からアーチャーやセイバーに自身の正体を感知される。
たかがあんな灼熱程度でそのようなリスクは負いたくない。


故に、それ以外の手を以て、潰す。
当然、これから使う手もキャスターの真名に辿り着くヒントにはなる。
だが知ることが出来るのは、敵たるライダーのみ。そして、彼女はここで死ぬ。キャスターが殺す。

故に――――




「――――さぁ、見よ。お前たちの絶望は、我に在る」



――――問題ない、と悪竜(ファフニール)は眼を開いた。



蜥蜴じみた眼球の、中。回転する幾重の金輪。まるで歯車の如く。
その中央。最奥の金色(ゲート)の鍵が外され、赤が、咲いた。



魔眼『恐怖の兜(エーギスヒャールム)』――――開眼。



重圧、恐怖、死――――死死死死死死死死死死死死!!



在らん限りの絶望を、眼前のキマイラの精神へ叩き込む。
激痛が奔る。耐え切れず、幻獣は引き裂かれんばかりの悲鳴を上げる。

更に魔眼の力は、背後に座すライダーの元にまで強烈に届いた。
距離による減衰、周囲の大魔力(マナ)の完全掌握、
対魔力による抵抗に加え、『百獣母胎』特権による一律40%の敵対干渉の削減。


これらを組み合わせてもまだ、完全な無効化には至らない。
       




「おみごとよぉ、悪竜ファフニール。でもぉ、まだなぁんにもぉ終わってないわぁ。イキなさい、キュマイラ」



甘く蕩ける幼声に、絹を引き裂くような絶叫が応えた。


母(ポトニア・テローン)の命令には逆らえず、脳を今にも破壊せんとす
苦痛に悶えながら、獅子の頭は紅蓮の業火を迸(はしらせ)る。

高さ7m、幅20mは優に超えるという炎の津波。
白の極光が瞬くアーチャーの宝具ほどではないが、鋼すら優に溶解させる1600℃近い高温は、
如何に英雄言えど近寄ることも儘ならず、下手をすれば忽ちの内に命さえ呑み込まれてしまいかねない。


だがキャスターは、そんなキマイラの炎を暴力で引き裂いた。
鮮血に染まる腕―――否、鮮血の如き紅き甲殻を纏う腕。
宿る爪はまさしく竜のそれであり。



――――『突き刺す者(フロッティ)』という名で伝えられる、キャスターの所有する武装。



正体は、限定解除されたキャスターの宝具。
魔力による甲殻の再現ではなく、純然たる肉体の再構築である。
硬度、頑丈さは先程までとは比べ物にならず。

アーチャーの対城宝具にすら耐える甲殻は1600℃程度の灼熱(ぬるまゆ)を容易く引き裂き、
撥条が如く踏み出した痩脚は、明確なまでに驚愕と恐怖の表情を剥き出しにしたキマイラに肉薄する。
      




「ぎゃはっ! ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!」



哄笑、哄笑。湯水の如く、嘲笑う。
魔眼全開。恐怖に怯える合成獣は絶叫を上げながら、後退ではなく迎撃を選択した。
振り下ろされる剛爪。巨体と併せ、キャスター程度の矮躯等苦も無く圧殺する、はずだった。


だが、魔術で構築された『竜血鋼鱗(ドラグーン・シュラウド)』はキマイラの一撃などで傷つくはずがあるまい。
逆に砕け散ったのは、無理な力を加えられた獅子の剛爪の方。
次いで『突き刺す者(フロッティ)』のアッパーで振り下ろされたままの右前腕を文字通り粉砕し、路を拓いたキャスターは跳躍。

その勢いのまま鮮血の赤腕で獣の下顎から口蓋を貫通させ、
獅子側の脳を破壊し大型バスほどはあるキマイラの背へと飛び乗る。
獅子、山羊、毒蛇の頭部を持つキマイラは、その通り三つの頭を喪失させねば生命を止めることはない。


故にキャスターは鮮やかな手際で山羊の首を斬り落とし、
奇襲的に伸ばされた蛇の頭を摑み力に任せたまま、それを引き千切った。
          




「はい、いっちょ終わりっと! ったく、骨がねぇーよライダー。ぎゃはははははっ!
 まさか、これで終わりなんて言わないよね? そんな事言われたらさすがの僕ちゃんもがっかり過ぎるってもんだ」



音を轟かせ、崩れる巨躯。
倒れる幻獣から華麗に着地したキャスターは、
挑発するように引き千切った蛇頭をライダーの足元に投げつけた。

獅子、海蛇、合成獣―――目立つライダーの配下は大方葬り去った。
そして規格外の魔術炉心『竜血の心臓』を保有するキャスターの魔力は未だ十全であり、万全な戦闘が可能。


魔獣、幻獣では、キャスターを止められぬ。

ならば求められるのは神獣、または竜種。
だが『要塞』という立地では広さに限界があり、翼を有すコルキス竜の戦闘能力は十分に活かせない。
残りは、ケルベロスか? それとも。



「さぁて、どうするんだい? エキドナのおかぁーさん?」



次なる魔獣は何かと愉しみに歪む大蛇の視線に、蝮は変わらぬ淫靡な笑みで応えた。
      




そして――――




「えぇ、あなたには私の最強の子で迎え撃ってあげる。ねぇ、マスター」




――――その言葉と共に突如、肉床(だいち)が割れた。

       

…………………………………………………………………………………………………………………………………
≪────Saber VS. Rider(Masters.1)────≫



待っていたのは、壁の四方に床天井、すべてが肉に囲まれた大広間。
下の通路よりも明らかに空気が重く、粘ついている。


そこに、いた。
彼女は、座していた。



――――深層に巣を張る、遠大な何か。



――――大いなる蜘蛛(アトラク=ナクア)であった。



蜘蛛(ナクア)の少女―――混血たる彼女の源流。



大いなる蜘蛛の化生(カランゲジェイラ)。
先祖を模した肉の甲冑。要塞(ライダー)が出産した、その模倣。
     




――――ただ、巨大の、一言だった。



蜘蛛には在り得ない巨体に、首と頭部を持った異形。
実際の寸法では在り得ない程の長さを持った脚部と直立を可能とする特徴的な間接。
異常なサイズも相まって、到底届くことのできない高みにまで自らの胴部を持ち上げている。


電柱以上の高度から、大いなる蜘蛛の頭は首を傾け、青年を見下ろしていた。
本来複眼があるべき場所には、ただ一つぐるりと回る緑の大硝子球が嵌め込まれているのみ。

緑の色は内部を満たす淡い燐光を放つ羊水の色。
その中に、七草の右手を大事そうに抱えている蜘蛛(ナクア)の少女がふわりと浮かんでいた。



――――赤色(ルビー)の瞳が、的確に青年の動きを捉える。



直後、振り下ろされる脚。
末端速度は尋常ではなく、元の重量と合わせ肉床に大きな陥没孔を穿つ。

まるで自分の手足であるが如く、変幻自在に八肢を操り、大いなる蜘蛛は一帯を薙ぎ払う。


一撃、間を空けず、二撃、三撃、四撃―――!
息をつく暇もない連続攻撃。速度と正確さだけならネロの触手すら上回る。
七草の運動性能でさえ、ついていくのが精一杯。
     




――――“眼”を開き、“視”る。



対処手段は――――?
羊水内部から少女を引き摺り出す以外、手はない。
破壊は―――まず、試してみよう。


破砕音と共に起動するプレス機。振り下ろされる度、衝撃が大気を震わせる。
それが連続。蜘蛛の少女は、縮地と見紛おう程の速度と脚捌きで移動する七草の位置を正確に捉えていた。

四連撃で一セット。だが、四撃目が振り下ろされた瞬間には、
既に一脚目が持ち上がっているため事実上の隙はなく。



けれど、ナイフ一本を通す程度の防御的空白なら、ある――――っ!。



ちょうど、首を曲げ下を向く大いなる蜘蛛。
まだ起動していない二脚目、三脚目の隙間を縫い、ナイフを滑らせる。
キャスターの道具作成Aスキルにより鋳造された、神鉄製の超高硬度ナイフ。

切れ味と頑丈さだけが取り柄だが、変な付随効果がついていない分この方が七草としても使いやすかった。

ドス、と鈍い音を立て、羊水を包む生体硝子に突き刺さるナイフ。
罅割れは見えないが、それでもナイフの膜の途中までは突き刺さったらしい。
      


だが、わかった。
アレが生体組織でできている限り破壊可能。


問題は、どうやって上に昇るか。
この反応速度。普通に昇るつもりでは振り落とされる。

ならば、一本一本脚部を斬って落とすか。
八脚のうち、片側四脚を落とせばバランスを崩し転倒するだろう。


試しに、接地直後の脚部を狙う。
高硬度キチン質外殻に守られた脚部へ「鎧通し」の体術を叩き込む。
外殻を無視し、透過した衝撃は構造組織を内部より破壊。

直後、熟れ過ぎた果実の如く、黄濁した体液を撒き散らしながら内部からの圧力で破裂する。



だが――――大いなる蜘蛛はバランスを崩すことはなく、破裂した脚部は瞬く間に再生する。



その間一秒あるか、ないか。
再生速度を見る限り、全ての足を順に破壊していく様では間に合わない。
三脚目を落とした時には、一脚目は復活している。
      




―――となれば、有効手段と成り得るのは四脚同時破壊だろう。



幸い武装はある。念のために、と用意した鋼鉄製の極細ワイヤー。
バーサーカーのマスター、外道を一糸の元に解体した『曲弦糸』用の暗器である。

オープンフィンガーグローブは右手の鋼鉄義手で代用できる。
ワイヤーが耐えられるかは分からないが、試してみる価値はゼロではあるまい。


もし失敗すれば―――。


ワイヤーを引き伸ばし、奔る。その巨体故、蜘蛛の脚部を引っ掛けるのは手早く行わねばならない。
蜘蛛からはなるべく右手の動作を見られぬ様、身体で隠しながらトラップを掛ける。

先端を固定し、地を這わせる輪を作る。数は四。
構築時間数秒足らず。ワイヤーを張り巡らせているわけではなく、速度優先。


発動は、第四脚を振り下ろされるのと第一脚が持ち上げるのと同時。
開いた右義手を握り締める。奔る銀糸(ワイヤー)。
中空にて鋼鉄糸(ギロチン)は、蜘蛛の脚を切断――――。
   



だが、蜘蛛は大きく半身を滑らせ、糸を膂力で以って引き千切った。
馬鹿な。ワイヤーの存在は目視も、感知できなかったはずだ。

読まれていた? だが彼女は『曲弦糸』の技術を知る機会はないはず。
一体、どういう――――。


漸く、最初の違和感が正体へと結びついた。
空気が重い。物理的に、粘度を帯びているかのよう。
まず暗所。更に肉の要塞内という異常な環境。加えて無効化しているとはいえ、未だ一帯を漂う淫毒の芳香。


他の妨害要素に紛れて分からなかったが、漸く捉えた。
目に見えない極細の蜘蛛の糸が、この大広間の到る所に張られている。

あらゆる糸の行き着く先は、蜘蛛の硝子球。
おそらく蜘蛛の糸をセンサー代わりとして、あの少女は大広間すべてをカバーしているのだ。
頭部を動かし、硝子球が視覚を担っているように見せたのはフェイクだろう。
   



少女は見えずとも死角の情報はおろか、青年の一挙手一投足さえ把握していた。


ならばもう一つの狙い、肉床に対するダメージも正確に計算しているはずだ。
肉の床に大穴を穿つ八脚の連撃を逆手に取り、床に崩落させ、敵を下のフロアーに落とす手も考えていた。
だが大いなる蜘蛛の立ち回りを見る限り、その作戦も望めそうに無い。


人間相手ならば敵対干渉の完全否定まで行使する、
ネロの【十の支配の王冠/一の丘(ドミナ・コロナム・カピトリム)】ほどではないにしても、現状での打倒は困難。


七草は苦渋を滲ませる。
一方蜘蛛の少女は、彼の表情に安堵の笑みを浮かべる。

このまま行けば青年を倒すだって可能。
そうすれば、自分のことを“一番”として――――
      





だからこんなところで負けるわけには行かない。マスターも、サーヴァントも。
少女はライダーからの要請通り、幾重の蛇が絡み合った令呪を掲げる。




「令呪を以て命ずる―――『ラドンを産み落としなさい、ライダー』。さらに二画、是に重ねる」




――――令呪三画の使用。直後、肉塊が揺らいだと同時に大地が崩れた。




…………………………………………………………………………………………………………………………………

≪────Archer VS. Rider(2)────≫



―――直径数百メートル。蜷局を巻く大蛇を割き、竜が姿を現す。
底の見えぬ漆黒の暗闇から、血に塗れ、けれど損なわれる事無き黄金の輝きが溢れ出る。
喩えるならば財宝。喩えるならば秘宝。神々の宝。真なる黄金(エターナル)。

否。秘宝でも財宝でもなく、ソレは守護者の煌き。
ヘラクレス12の試練の11番目。ヘスペリデスの園の黄金の林檎を守護する、黄金の神竜。



――――竜の名はラドン。怪物の父テュポーンと母エキドナの間に誕生した、12の試練最大の難所にして最強の怪物。



全長1km。だが横に大きく広がる100つの頭(かしら)のせいで、更に巨大なように錯覚してしまう。
事実、巨大なのだ。アーチャーの対城宝具でも全て飲み込めるかどうかさえわからない。

当然、撃破などそれ以前の話だ。
いや、如何に出力が高くとも対城規模の武装でのラドン討伐は間違いなく不可能。


故に、流石のキャスターも驚きの表情を隠せなかった。
おそらくだが、戦えば敗北するのは悪竜ファフニールの方であろう。
唯一、“毒竜砲(ドルング)”のみが対抗し得る手段となるが―――
     




『――――駄目だ。“毒竜砲(ドルング)”の使用は許可できない。分かっているだろう、キャスター』



対国ブレス、“毒竜砲(ドルング)”。魔猛毒、ドレーキエーターの最上位。
唯一度吐き出すだけでこの街はおろか、周囲の地形までも丸ごと融解し尽くす必滅の呪砲。
アーチャーの対城宝具など始めから比べ物にならない最凶最悪の殲滅兵装。


魂の一片すら残さず平らげるブレスの前に、生存を許されるのはファフニール本人唯一人。
市街の消滅など、神秘の隠匿どころの話ではない。
神竜一頭が相手としても、何十万単位の犠牲者を積み上げるわけには行かぬ。
しかも、だ。幾ら犠牲を積み上げてもあくまで対抗手段程度であり、決してラドンの打倒を確約するものではない。


だが、キャスターにはそれ以外の手がないというのも事実。
更にキャスターが宝具を使わずともラドンの体躯であれば、市一つ潰すのに30分も掛かるまい。
遅いか速いかだけで齎される結果そのものは、ドルングを使わない場合と何も変わらない。


残る手段は唯一つ。
      



『…………見えるな、アーチャーのマスター』

「ええ。ここからでもはっきりみえるわ」


使い魔からの通信を受け取る。
埋立外区南より10km離れた、山に近い高層マンションの屋上に陣取る黒髪緋瞳の少女と若き弓兵。
そこまで離れた場所でさえ魔力による強化を使わずとも、黄金の輝きはよく捉えることが出来た。


全長1kmという途方もない大きさ。
女神ヘラが不死の果実園の守護者として選定した、相応しき神竜。
成程、確かにこんな怪物を退治することのできる英雄は極一握りの者に限られるであろう。


無論、これまで使用したアーチャーの宝具でも到底打倒できるものではあるまい。
それはキャスターも同じ様で―――


『私のキャスターにはあの黄金の神竜への対抗手段はない。だから―――』

「だから? ちゃんといってくれきゃわからないわ?」


『なっ!? 遊んでる場合ではないんだぞ、アーチャーのマスター! このままでは………』

「あそんでるつもりはないわ、あたし」


焦り気味な管理者(セカンドオーナー)からの通信に、
少女は意地の悪い(サディステックな)口調で首を傾げた。
    


圧倒的な強者の余裕。
事実、少女ネロス・ベーティアのアーチャーは、
唯一矢を以て黄金神竜を撃ち滅ぼす最強の宝具を所有しているのだ。

協力の報酬として与えられた令呪一画と、アーチャーの情報。
そこから、唯の推測であった白尾羽の矢の実在を確認した。


あの宝具でなければ、ラドンは打破出来ない。

損得計算の結果は明らかだ。管理者は即座に決断する。
屈辱を奥歯で噛み殺し、震える唇で無理矢理に言葉を繋いだ。


『お、お願いします………っ! どうかあの竜(ドラゴン)始末してっ!!』

「ネロさま、は?」


『お、お願いしますっ! ネロ、様!』

「うん、よろしぃ♪ アーカス、やっちゃって」

「――――御意」


管理者の懇願に、嗜虐欲が満足したのだろう。
花が咲いたような少女の声に、アーチャーは反発する弦を無いごともないかのように大力で抉じ開ける。
      


軋む強弓に番えられた品は、赤羽根ではなく白尾羽の鉄矢。
尾の色以外は、今までに3度放たれた『千斤神矢・陽』と異なることは無く。

だが矢先を中心として収束する魔力は、対城宝具たる赤羽の矢すら超え――――



「…………マジ、かよ。これ、EX宝具じゃねえか!?」



キャスターの驚きも、無理はない。

アーチャーの宝具評価はA++。
しかし、使用された切り札は予想されたランクを遥かに上回る評価規格外(EX)。



対神、対星宝具―――――『千斤神矢・陰』。



嘗て天を廻る9つの太陽を撃ち穿った際、使われなかった最後の一本。
本来のアーチャーの知名度では、持ち込めるはずのない宝具。

だがネロの手により触媒として用いられた神造兵装は、今正しく所有者の手に戻ったのだ。
      




――――悠久の時を経て、終に残る一矢が神の射手により放たれる。



ひょう、と風を切り、白羽の矢は美しい白光の軌道を残し、夜を駆け抜ける。
矢の軌道跡を舞う微細な氷の結晶は、月光を受け煌煌と瞬き輝く。

されど其れは太陽すら討ち滅ぼす、忌むべき絶対零度の冥矢の残滓であり。



――――そして矢は音もなく、黄金神竜の頭蓋を貫いた。



無音、静寂。耳が切り裂かれる程に、透明で澄んだ夜。
けれどそれは僅かな時の錯覚に過ぎなかった。

ラドンの全身から急速に輝きが失われてゆく。
黄金の輝きが失われるにつれ、罅割れる轟音と共に全長一キロの百頭神竜の全身に亀裂が走る。
最後に、完全に漆黒(にっしょく)に飲み乾されたラドンの肉体は地鳴りをあげ、ゆっくりと崩壊していった。


…………………………………………………………………………………………………………………………………

≪────Saber VS. Rider(Masters.2)────≫



膨大な魔力を湛えた宝具が発動した気配。次いで僅かな静寂。そして罅割れる轟音。
それらを確かに、要塞内部の七草は聞き止めた。

この状況で考えられるのは唯一つ。
アーチャーが解放した何らかの宝具が、黄金神竜ラドンを仕留めたのだ。


思ってもみない幸運。七草の予測が正しければ、おそらく来る筈。



――――思考の直後、間を於かず衝撃が薙ぎ払う。



巨大な建造物が崩壊する震動に、軟性の肉床が激しく波打つ。
黄金神竜、ラドンが倒れる際の地鳴り。その勢いを利用し、飛び上がる。
タイミングを合わせ、床を撥条(カタパルト)に、高く跳躍(ジャンプ)する。

震動に耐えるため、足を広げ高さを下げた蜘蛛の頭上を越え、もっと高く。
身体を反転。天井を足場に、加速。そのまま身を捻り、大蜘蛛目掛け、踵を振り下ろす。


目標越しにコンクリートに穴を穿つほどの威力を誇る、七草の破壊体術。
更に腱速を加えた上での「踵落し」。落下の高さも併せ、威力十倍近く。

      



標的は羊水を湛えた球体硝子、直上の神鉄製ナイフ。
最初の牽制から突き刺さったままだった其処目掛け、踵の一撃を叩き込む。
踵の面積をさらに狭く、より硬度な刃先へと集中させる。

足の骨から全身へ衝撃が響く。けれどそれも一瞬。
直後、硝子に罅が入った。ナイフを中心に、蜘蛛の巣のように放射状に広がる。
刹那、硝子越しに視線が交錯した。


だが先程までとは立場は逆転。
赤色(ルビー)は地より見上げ、変幻(プリズム)は天より見下ろす。



そして――――蜘蛛(ナクア)の少女の頭上で、硝子(ソラ)が割れた。



噴き出す羊水。淡い緑の燐光を放つ生命の水が、蜘蛛の頭部から滝の如く肉床へ流れ落ちた。
少女は外気に触れる。肌寒さを感じ、鳥肌が立った。
肉塊の大半が崩壊したせいで、秋夜の冷気が流れ込んできているのだろうか。
       




――――嗚呼、けれど。胸の奥はこんなにも熱く。



――硝子を砕いた後、ナイフは撥ねる。
バランスを失い回転しながら失速する柄を、落下しながらも青年は掴んだ。
そして更に加速の勢いを上げながら、踵(おの)の刃先を少女へと向けた。


肩ごと左半身を削ぎ落とす、致命傷。
だが其程の負傷を負っても尚、混血の娘は死なず滅びず。右手も離さず。


同時に七草の踵落しも其程では止まることを知らず。


破壊力はそのままに、まずは少女ごと大いなる蜘蛛の外殻を突き破る。
更に今までの戦闘で少なからぬダメージを受けていた肉床を貫き二十メートル下のフロアへ落下。
      




落ちる。落ちる。落ちる―――――



崩落する肉床。足場が崩れ、屑肉とともに落下する少女と青年。
その間、決して互いに視線を逸らす事は無く。

赤(ルビー)は変幻(プリズム)を、変幻(プリズム)は赤(ルビー)と交差する。
嗚呼。此の時が永遠であればいいのに、と少女は願い―――



そして――――着地の直前、少女の心臓を青年は神鉄のナイフを以て貫いた。



……………………………………………………………………………………

≪────Saber VS. Rider(2)────≫



マスター同士の決着がついた時と同じ頃。
晩秋の夜。曇天の下、サーヴァント同士の戦いにも最後の終止符が打たれた。

薄紅色のドレスの少女。ライダー、エキドナ。
口と胸から零れ落ちる鮮血が、ドレスをよりはっきりとした赤へと染め上げる。



「あはっ♪ ヤっちゃった、ぁ………」



――――ライダーの胸(しんぞう)を鉄が貫く。



だがそれはアーチャーの矢でも、キャスターの爪でもなく、
セイバーの宝具――――『草薙剣(くさなぎのつるぎ)』。

夜風に靡く、鴉の濡れ羽色の長髪。冷酷な敵意を宿す黒曜石の瞳。
『斎宮衣裳(いつきのみやのきぬも)』を纏った少女の如き少年は、確かにライダーの心臓を貫いていた。
     


触れるものの魔力効果を打ち消す神剣の前には、ライダーの自己再生宝具
『幻想再生・闇黒神殿(リジェネレイター・ゲリュオーン)』もたちどころに無力化される。

『神統記』にて不死身と謳われたエキドナの肉体。
夜間であれば仮令、頭部を失おうと心臓を貫かれようと、
あるいは肉片しか残っていない状況でも何事も無かったかのように再生できたはずだ。



―――しかし『草薙剣』で貫かれた以上、宝具はもはや効力を発揮しない。



そしてこの傷では如何に「百獣母胎」による干渉削減効果があったとしても耐えられはしない。
つまりもはやライダーに生存の道はないということであり。


「それにシテも、よく抜け出したわねぇ。あの種馬部屋から」

「テメェらが調子ぶっこいて、要塞半壊させてくれたおかげで助かったぜ。
 この要塞は生きてんだ。ここまでぶっ壊されちゃ、幾ら何でも機能に支障が出るだろうよ」


ザマァねぇぜ、と嘲笑う少年に対し、ライダーは、ああそうねぇと
あくまで何時もの口調で、張本人があまり気にしていなかった今回の事態を理解した。
      



ラドンが誕生したことで肉塊要塞の大半が崩落。
崩落していない部位でも、要塞へのダメージは無視できず。
結果、セイバーを拘束していた肉塊が緩み、彼の脱出を許してしまった。

加えて外気が流れ込んできたことにより内部に散布されていた淫毒の濃度が急激に薄まったことも一つ。
何より種馬として維持するため強制的に魔力を注ぎ込んでいたのが裏目に出た。


それさえなければ解放されたところで、
即座に戦闘に移れる程の体力をセイバーは確保できなかったはずなのだ。

その結末が、セイバーによるライダーの殺害。
アーチャーとキャスターの二騎に、意識を完全に取られていたライダーは、
気配遮断したセイバーの存在に気づくことは出来ず、見事背後からの奇襲を許してしまった。


だが復活した瞬間、真っ先に敵(ライダー)を殺しに来るとは――――
     




「ホント、あなたってばステキ。ねぇ、セイバー」

「うぜぇ、とっととおっ死ねよこの売婦」



返答は辛辣。彼の罵声には文字通り、怒りと憎しみしか感じられない。


しかし怨み辛みに手を鈍らせることなく、ライダーへの対処は的確に。
刃が離れれば即座に再生するため、剣は抜かず。
ホント、トドメもしっかりしてるわねぇ、と少女は微笑む。


元より彼女が聖杯を求める理由は希薄であり、今回の結末にもあまり後悔はない。
嗚呼、でも―――――





「――――ごめんなさいマスター。失敗、シちゃったわ」




あの混血(ナクア)の娘の願いを叶えてあげられなかったことだけが、唯一の未練。



――――そしてライダーは心臓を貫かれた凡そ10分後、漸く息の根を止めた。



ライダーの身体が消滅していく。

光の粒子は、もはや地を踏み締める力を失った足から順に上へ。
光の渦は太股、腰、腹、胸、腕、肩、首―――最期に頭を呑み込み。
そして彼女の消滅と同時に、立ち込める砂糖のように甘い芳香は夜風に失せて消えた。


…………………………………………………………………………………

≪────Interlude Saber&Rider(Masters.3)────≫



「ウチみたく、こーんな幼気(いたいけ)な女の子にも容赦無いんやなぁー。さっすが、あんちゃん」



肉の要塞最下層。生温い体温を保持した軟らかな床に、左半身を失った少女は仰向けに倒れていた。



「―――ちゃんと、殺してくれるんやな。ちょっと、安心したで」



胸央に突き立てられたナイフはまるで墓標の如く。

青年の一撃は確かに、彼女の心臓を破壊していた。
今も尚混血特有の生命力で何とか息を繋いでいるが、保って後数分もないだろう。
胸部を隠す、暗紫色の蜘蛛の毛蓑は血を吸い、更に暗く濃く変色してゆく。
       




「ああ、殺すさ。だって君は敵だからね」


「あのいけ好かへん、嬢ちゃんもなんか?」

「うん、殺すよ。敵だからね」



青年は少女が握り締めていた、右手を拾い上げる。
羊水の中につけられていたためだろうか。傷口は新鮮で腐敗は見られず。
残る令呪一画も、あの時と同じようにちゃんと刻まれたまま。



「………令呪、取ってなかったんだ。ライダーの自己改造スキル使えば簡単だったんじゃないかい」

「取れるわけ、ないやん。それ、あんちゃんのやで。ウチにできるわけ、ないやんか。
 ウチはあんちゃんに、勝ちたかっただけや。勝って、一番相応しいのが、私だって、認めて貰う―――」



徐々に途切れ途切れになってゆく少女の言葉。
それを耳にして、漸く青年の疑問が氷解した。
    




――――何故、彼女が自分を自分を生かしたのか。



――――あの時の「待ってる」という言葉はどういう意味だったのか。



よーやっとわかったんかいなぁ。
口から下を血で穢しながら、少女ははにかむ様な笑みを浮かべた。



「で、どうやった、あんちゃん? ウチ、ケッコー頑張った、んやけど」

「………そうだね。殺し合う相手として、君は中々悪く無かった。だけど、ごめん。二番が精一杯だ」



見積もっても、あれは【十の支配の王冠(ドミナ・コロナム)】の五つの能力を
発動させた状態のネロと同等か一歩及ばず、と言った評価。
まだ2つも隠し玉を持つ「獣の少女」と、同じ格(ランク)として見る事はできない。



だから、君の期待には応えられない。ごめん。そう、溢した。

   




「あー、やっぱフラれた、んかウチ。しゃーないなぁー。
 しゃーない、よなぁー………ぅぁぁぁ………ぁっ、ぅうわぁぁ……ぁぁぁ…………ぁっ!」



赤色(ルビー)の瞳が、涙を湛えていた。
やっぱり、悔しかった。あれほど手を尽くして、ライダーの力まで借りたのに。
セイバーを奪い取って、彼を自らの元まで引き摺り出す事ができたのに。



――――それでもなお、蜘蛛(ナクア)は獣(ベースティア)には及ばなかった。



それだけが堪らなく悔しくて悔しくて、仕方なかった。どうしようもなかった。

嗚呼。けれど、負けたのだ。
負けは負け。どんなに悔しくても、認めるしかないだろう。



…………でも、最後くらい。最後くらい、いいだろうか。



お兄さんだって自分は二番目と言ってくれた。
だから、そのくらいならシテも大目に見てくれる、はずだ。
      




「なぁ、あんちゃん。ウチの、最期の頼み。ちぃーと顔、貸してくれへん?」

「ん、どうしたん――――」



要求通り差し伸ばされた少女の右手に、顔を近づける青年。
彼の言葉は、途中で切れた。


―――唇に触れる。温かく、けれど失われてゆく温度の感触。
ぬるりとした粘り気。咥内に広がる、鉄錆の味。
静止した時。錯覚だが、紛れも無くこの時間は永遠であり―――。


何かは、分かった。何故かも、分かっている。
それでも尚、何か言わねばと口を開く青年の唇に少女はそっと白い指を当て。



「――――お兄さん、大好きでした」



最後に耳に残された言葉。
柔らかくも寂しい、恋の告白(ささやき)であり。
そして青年の唇に僅かな温かさと鉄の苦味を残し、蜘蛛(ナクア)の少女は静かに息絶えた。


……………………………………………………………………………………

……………………………………………………………………………………




―――曇天の夜。埋立外区、南。
ライダー、エキドナ陣営はここに脱落した。


        

石蕗 七草/セイバー(ヤマトタケルノミコト)
八極 三雲/ランサー(ペザール)
ネロス・ベーティア/アーチャー(羿)
蜘蛛(ナクア)の怪物/ライダー(エキドナ)【脱落】
■■■■/アサシン(風魔小太郎)
外道/バーサーカー(ローラン)【脱落】
管理者(セカンドオーナー)/キャスター(ファフニール)

監督役:ワイズマン

ここまで、長くてごめんなさい

予想以上に時間掛かったけどライダー編終了
これでも筆が間に合わなくてだいぶ削ってんだよなぁ、ランサーとか特に

石蕗くんは鑢くんと違って相手が女の子でも容赦ありません
敵なら躊躇なくぶっ殺しに掛かります


次回からだいたい終盤の予定
お疲れ様でした

乙、
ナクア少女の初恋は叶わなかったようですね、初恋は叶わないものと良く言いますがまあ七草ルートに行きたいんだったら
最低でも彼より強い事が最低条件のような気がすます

乙でした
しかしようやく2陣営か…とてもそうとは思えない規模の戦いだったな

>>658
トン

>>659
まぁ元から無理ゲーってわけで
聖杯戦争じゃなけりゃねー勝てる可能性もあるんだけど

>>660
ラドンとか明らかに大きさの単位おかしい
こっからもバンバン落としていきますんでオナシャス!


しかしネロは今回気前が良すぎますね、いくら管理者に頼まれたと言え虎の子の矢を使ってしまうなんて
ラドンが大暴れして他の参加者を潰してくれた後に使えば楽に勝ち残る事が出来るのに。


性格的にそんな漁夫の利みたいな真似は無理なんじゃないかな
キャスターの攻撃性能も大分ヤバい事になってるみたいだけどそのせいで全力戦闘させてもらえなさそう

七草に助けられた借りを返すのが目的だから管理者関係ないんじゃない?
性格的に出し惜しみやセコイ真似しないだろうし
頭下げさせたのは気質的なもんだろうし

しかしランサー陣営が何もしてない内に話は進んでいく

ペッちゃんは本編にかすったら死んでまうし仕方ない

ラ、ランサー陣営にはアサシンに襲撃くらうお仕事残ってるし!

ラドン倒すのはランサーだと思ってた時期が私にもありました

1は公式のアキレウスさんのステータスみましたか、あれみてオデュッセウスさんの言ってたアキレウスはおかしいの、
発言は正しかったんだと今思います

≪────Interlude────≫



────終わる夢を、見た。



明ける夜。黒の帳は静かに剥がれ落ちる。
東より差し込む白光は、優しげに地上の惨劇を照らし出す。

一切合財が燃え尽きた、最果て。
大地には、灰も何も残らず。山という山が遮るもの無き平地へと姿を変えていた。
山脈が岩盤を剥き出しにする様は、巨人が掌で抉ったが如く。



目に映る全てが地平線(パノラマ)。そんな世界の最果てで――――



『…………なぁ英雄さんよぉ。なんて名前なんだ?』



――――紅き、竜(ドレキ)がいた。



悪竜ファフニール。北欧神話、最強の竜。
鮮血の如き深紅の甲殻を纏った、翼を持たぬ大蛇(ワイアーム)。
地を這う蛇(オルム)であるが故に、図体はまるで大木のよう。


だが――――
     




『ザイフリート? おいおいおい。クソつまんねぇ嘘吐くんじゃねえよ、おにぃさんよぉ』



――――竜は、血溜まりの海に沈んでいた。


どんな剣も矢も通さぬと謳われた無敵の甲殻は、ひどく罅割れており。
万象を熔滅させると畏れられた猛毒を吐き出すだけの力ももはや無く。

形が残っているのは左半分のみ。後は勇者の二撃(ほうぐ)で失われた。
首より下、右半分は二度目の『運命られし破滅の剣(グラム)』の熱量で跡形も無く消し飛んでいた。


全てはザイフリートと名乗った、四脚ではなく直立二足で大地を踏み締める金髪の小さき種族(にんげん)の手によるもの。


だが知っている。管理者(ワタシ)は、知っている。
北欧神話において、悪竜ファフニールの討伐した者の名は――――



『安心しな。死に間際の怨念(のろい)なんぞ掛けやしねーよ。僕は約束を破んねぇ主義なんだからね! ぎゃはははははっ!』


呪詛は掛けないと、悪竜は誓いまで立てる。
約束は破らないとは、随分と悪竜らしくない主義。


だが同時に、彼が遵守する唯一の法則。
彼が父を殺害したのは黄金に目が眩んだことに加え、父が分けると言った黄金の分け前を渡さなかったから。
軟弱なレギンの手を借りるまでも無い。全ては彼一人の手で片がついた。

勿論端から約束などしていないレギンに黄金は分譲されることなく、魔人ファフニールは悪竜へと姿を変えた。
     




『ソレともナンだ? 今更僕の怨念(のろい)如きに怯えるってのかいこの臆病者。オカマかいテメェはよぉ』



本来の名を口にしない勇者に、とうとう悪竜はキレた。
死に瀕した者の怨念(ことば)が呪いになる―――だがその程度を怖れるというのか、この勇者は。



自らを―――北欧最強の竜たる自分を討ち斃した、金髪美丈夫の大英雄は。



故に、神すらも怖れぬ悪竜はいとも簡単に主神(オーディン)さえ侮辱する言葉を吐き出してみせた。
勇猛なる戦士(エインヘルヤル)達にとっての最大の侮辱は、臆病者(タマなし)呼ばわりをされること。

それを吐き出した時点で彼は、怒りに任せた若き勇者に殺されてもおかしくなかった。

だが勇者は怒り任せに剣を振り下ろすことない。
振り下ろすことは無く、威風堂々と死に逝く悪竜に、北欧最大の英雄となる己の名を告げた。
     



『ふーん、シグルドかぁ。いいねぇ! 悪くない名だよ! ぎゃはははははっ!』

『あーそれにしても、あの黄金の持ち主はみんなこうなる運命(さだめ)かよ、チックショー。
 とんだ呪いを掛けてくれやがったアンドヴァリのヤロー。テメーはゼッテー許してやんねぇーからな』


大量の血と共に、おめぇーには一生指環を取り戻せない呪いでも掛けといてやるよ、とドラゴンは吐き捨てた。
呪詛が果たして本物であったかは分からないが、全ての所有者が滅んだ後、
黄金を取り戻しにやってきたアンドヴァリの手元には、あの黄金の指環だけは戻らなかった、と伝えられている。

黄金の呪いに滅ぼされたのは自業自得とも言えよう彼に、果たしてその資格があったのかは定かとしてだ。


『そうそう、僕に勝ったんだ。黄金は好きに持ってって構わねーぜ、おにぃーさん。
 遅かれ早かれどうせ僕と同じ運命を辿る事になるんだ。せいぜい残りの寿命を楽しむことだね!』


………態々、教える必要の無い黄金の呪いの存在を教えてしまう。
黄金の所有者は皆逃れようの無い破滅に囚われるのだと、口を開いてしまう。

冥土の土産に自分を殺した者の名を覚えて行くだけのつもりだったのに、何を言っているんだ僕は。


そもそもからしておかしい。呪いは掛けずとも、だ。
死の淵だと言うのに。自らを殺した相手だというのに。恨みの一つも懐かないのは。
       




『………一つ、聞かせてくれよシグルド。なんで小さき種族(ニンゲン)の分際で、僕を斃せたんだ?』



寧ろ、羨ましいとさえ思ってしまったのは。
神々ですら手を出すことを許さなかった最強、悪竜ファフニール。

それを何故、唯の人間に過ぎぬシグルドが?
如何にしてその小さき体に、我を討ち果たす力を湛えられたのかと。僅かな憧憬を含んだその問いに。



「ニンゲン様の絆(ちから)をナメんじゃねぇぞ、化物(ドラゴン)風情が。
 確かにお前は強かった。けどな、一人だから負けたんだ―――ひとりぼっちのお前が最強になれるわけがない」



シグルドの言葉に、悪竜は瞼を開いた。
蜥蜴の眼の奥で回転する幾重の金輪の動きを止めて。
青年の碧眼を凝視する。

沈黙。しばし耳を擦り抜けるのは平地となった山を風の音だけであり。
続いて、流血の瀑布と共に有らん限りの力を以て、ファフニールは聴くに堪えぬ濁声で哄笑を吐き出した。
   




『ぎゃぁーはっはっはっはっ! くだらねぇ! 実にくだんねぇなぁ! おにぃーさん!
 ぎゃはははははっ! 最期の最期で、この僕を嗤い殺す気かよ! 冗談きついぜ! ぎゃはははははは―――』



彼の背後には父がいて、ムカつく義父(レギン)もいて、
知恵の神のオーディンがいて、そして幾千幾万の英雄(エインヘルヤル)達の魂がいて。



ああそうか。本当に、僕が欲しかった黄金(モノ)は―――――。



『…………じゃあね、シグルド。くれぐれも黄金の災いには気をつけなよ。君に、幸あれ、と』



――――誰かとの財宝(キズナ)だったんだ。



死の間際に、彼は漸く本当の願いを悟り。
一頻り嘲笑った後、自らを殺した相手への態度としてはむしろ好意的とも呼べる態度で、
悪竜(ファフニール)は勇者(シグルド)の未来を告げ息絶えた。
        

何だか鋼の錬金術士のグリードみたいだな…本当に欲しかったモノとか

中途半端だけどここまで
ちょっとだけ展開に迷ってるところがあるので少し掛かるかも

そして夢はファフニールの最期
安価スレ時代の設定からあったシグルドの問答をようやく回収
混沌・悪なのになんで協力的だったのかはこういう理由です

ついでに代理AAが出夢くんの理由の一つ
一人が最強なわけがねぇーんだよ、三人揃って化け物だってモンスターズ+でも言ってたじゃないか

乙でした

確かに混沌、悪にしては話が良く通じる方だとは思いましたがそうゆう理由もあったんですか
自分は単に利害の一致かビジネスライクの付き合いで中が良いのかと思ってましたが


……ギュンター一家と出会う前のシグルドって友人とか居たのだろうか
ブリュンヒルデと出会うのもファフニール倒した後だった気がするし

>>663
それまずすぐ傍で戦ってる七草が死んじゃう
後特に管理者が言わなくてもネロは神矢・陰を使う気マンマンだった

>>664
一応神秘に隠匿とかあるからね
場所を考えればドルング以外は使える

>>665
それで間違いないね
管理者関係ないし、神秘の秘匿も関係ない

ぺっちゃんは・・・・・

>>666
三人のどれと当たっても死ぬという
しかもマスターがマスターだから街中で宝具の解放なんて許して貰えないし

>>667
そんなかませみたいなこと言っちゃ可哀想そうでしょ!
なおメイン三人誰と当たってもかませにすらなれない

>>668
白矢の出番がね欲しかったんだよ・・・・

>>669
B+AA+CDだっけ?あたまおかしいよね

>>677>>679
トン
強欲の実は善人系キャラで改心やらせるこうなるのは仕方ない

>>680
まあ混沌らしく最初の選り好みは激しいから・・・・
今回は皆が皆キャスターが嫌いなタイプじゃなかったからよかっただけと考えることも
後この子ビジネスライクとかはできない

>>681
流石にいるんじゃないかな腐っても王子だし
後グラニもいるし


ファフニールの願いが実にFate的でした。

>>683
公式アキレウスも大概だけど、ここのヤマタケや太陽剣の時のラーマも大概だと思うんだ……

あとこのスレのおかげで円環少女を読み始めました。メイゼルちゃん可愛い!

≪────Caster Side────≫



「おはよう、おねぇーさん。僕の記憶(ユメ)、見たんだろ?」



朝。日光を歓迎する眼球を覗き込むのは、幾重に回転する金輪(リング)。
爬虫類じみた瞳の持ち主は、黒金の髪を鋭く撫で下ろした童女。否、童男。


キャスター、悪竜ファフニール。
管理者(セカンドオーナー)の相棒(サーヴァント)にして、終わった夢の主である。


分かってしまった、知ってしまったんだろう? と確認するような口調。

けれど彼の様子は、記憶を覗かれたことへの怒りや憎悪といった感情ではなく、
ばれちゃった、と舌を出す悪戯が見つかってしまった子供のようで。



「キャスター、君が本当に欲しかった物は――――」



管理者の言葉に、静かにファフニールは頷いた。




ファフニールが求めている黄金の名は、絆――――即ち、誰かとの繋がりである。



友情や恋愛などではなく、もっと根本のモノだ。


確かに黄金を護る悪竜は、途方も無く強大な存在だった。
数多の英雄共の屍を積み上げ、魂の一片も残さず朽ち果てさせた。
傲慢な北欧の神々でさえ、望んで彼に挑戦しようという愚か者はいなかった。



だが、結局は敗れたのだ―――唯の人間、シグルドに。



何故敗北したのか?
簡単なこと。ファフニールは一人であり、シグルドは一人ではなかった。それだけだ。



――――シグルドの後ろには、多くの者達がいた。



例えば、シグルドに英雄としての力を受け継がせた父シグムンドであり、
例えば、野心を持ちつつも最強の剣を鍛え上げた悪竜の弟レギンであり、
例えば、悪竜退治を指南し、道中でも彼を手助けした知恵の神オーディンであり、



最後の最後で彼の力(グラム)を覚醒させた、多くの英雄(エインヘルヤル)共の魂であった。

     




――――故に、仮令最強でも孤独では弱いとファフニ―ルは悟ってしまったのだ。



だから羨望した。だから切望した。
仮に、今一度現世に戻る機会を得られるのなら、
生前に捨て去ったダレカとのキズナというものをもう一度手にしてみたいと。


そんなキャスターが聖杯戦争に召喚されたのはある意味必然のことであり、
現時点で彼の望みは、もう叶ったと言ってしまってもいいだろう。

管理者という相棒(マスター)を得て、セイバー陣営という同盟者と手を結び、
一時とはいえアーチャー陣営という強敵と共闘することが許された。

生前なら望むことの出来なかった聖杯戦争という状況で初めて、
彼はシグルドの背後で輝いていた希望(ヒカリ)を手に入れる機会を得たのだ。




「…………だが、それも終わりだな」



共闘の理由となっていたバーサーカー、ライダー陣営は敗退し、残るは三騎士とキャスターのみ。
特にランサー陣営は、絶好の襲撃機会だったろう二大陣営の乱戦の最中にも、
一向に姿を見せなかったことから殆どの確率で英雄とも呼べない矮小な英霊が召喚されている。


互いの顔合わせも済んでいる以上、聖杯戦争は既に佳境に差し掛かっているといっても良い。
そして聖杯の起動に必要な魂は六騎分。願いを叶えられるのは一組のみ。
“技術者”たる「獣の少女(ネロ)」は、中途半端な決着など許さない。



―――仲良し小好し。手を取り合って全員生存の大団円(ハッピーエンド)は存在しない。



「だからこそ、キャスター。君が懐く願いは――――」

「………うん、そうだよおねぇーさん。僕は、戦いたいんだ。あのヒトたちと」



ならば、ならばせめて。自らが幕を下ろすかもしれない者、自らに幕を下ろすかもしれない者。
それは彼らであって欲しかった。



端的に言えば、悪竜ファフニールに相応しき強敵(トモ)として、二陣営を相手に戦いたい。



その声色は何処までも悲しげであり―――彼はそう、自らの、切なる願いを溢した。

      

短いが今回はここまで
多分次は比較的すぐいけると思います

ありがとうございました

>>685
ラーマは完璧に黒歴史
ヤマタケちゃんはまあブリテンで呼ばれたアルトリアみたいなもので

後円環少女読んでくれてありがとう
実はネロが英語読みじゃなくて、ラテン語読みを採用してるのはあぷる的なオマージュから
考証とかやってないから名詞の形とか今読み返すとかなり適当だけどね

乙、ファフニール合えて不利と知りつつも2対1戦いを求めますか
 それほど真似に七草くんとネロを気に入っていたんですね


ぺっちゃん(+アサシン)蚊帳の外な間に、なんだか最終決戦っぽい雰囲気でワロタ

≪────Interlude────≫



――――ある英雄(おとこ)の話。



神を降ろされた羿は妻の嫦娥(こうが)と共に地上に残ることとなった。
だが嫦娥は下界の暮らしに耐え切れず、ついに己が身の不自由を羿に訴えた。


『天帝の子を射たのは貴方ではないか。何故私までこのような仕打ちを受けねばならないのでしょうか』、と。


地上に堕とされたのは羿のせいではない。だが、非情にも彼女は夫の所業を感情の侭に責め立てた。
彼も、自らと同じ境遇に置かれていることにも気づかず。

けれど羿は、嫦娥を責めることはなかった。
それどころか彼は、己の責でないにも関わらず妻の言を是と認めたのだった。


“――――確かに、これは私のせいだ”


そう考えた羿は数多の山河を越え、昆侖山に住まう西王母へ向かった。
下界から仙界、昆侖山へ向かうなど狂気の沙汰である。
如何に弓の神と謳われた羿でも無理だ、と皆が皆口を揃えた。
    


―――羿は躊躇うことはなかった。
只、巻き込んでしまった妻への贖罪を果たさなければならないと
彼女の願いを聞き届けなければならぬという想いだけを胸に、彼は脚を踏み出した。


長い長い危険な旅の果て。幾度も訪れる死の危険。
それでも彼は膝を折ることも、手を地に着けることもなく、只管仙界を目指して進む。

そうして。ようやく辿り着いた羿に西王母は快く天界へ戻るための霊薬を差し出した。


しかし残念なことに、薬は一つ分しかない。


“一人でこれを飲み干せば、神籍を取り戻し天界へと戻れるでしょう。
 二人で分けて飲めば、神には戻れませんが不老不死を取り戻すことはできます”


西王母の言葉に羿は礼を言い、妻の嫦娥の元へと不老不死の霊薬を持ち帰る。
そして羿は満月の夜にそれを嫦娥と分けて飲もう、と告げた。
彼は神に戻れずとも、地上で嫦娥と永く暮らせればよいと考えていたのだ。
 



………けれども、地上の暮らしに耐え切れなかった嫦娥は、
神に戻り、天界へ昇天するため薬を一人で持って逃げてしまう。

だが彼女は天界には戻らなかった。
やはり夫を裏切ってしまったことが心に引っかかっているのか、
天界へ行く事もできず、かといって今更地上に戻ることもできず、
彼女は結局どこへも行くことがなく、月で蟇へと姿を変えてしまう。


一方、一人地上に残された羿は、嫦娥を責めることなく、悔やみ、そして涙を流した。


何故私は、妻に二人で別けようなどと溢してしまったのか。
彼女は天への帰りたかったと言っていたのではないか、と己の無思慮さを詫び。

妻が霊薬を持って逃げた事にではなく、
如何して私如きの身を案じて、天界へ戻らず月で蟇になってしまったのか、と悲しんだ。


最早神で喪くなった羿には、月へ飛び彼女を助け出せる程の力は残っていない。

それでも、少しでも月に一人取り残された彼女への慰めにはなれば善いと、
彼は、満月の夜には欠かすことなく、月にいる妻へ下界から団子を捧げたのだった。
 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

≪────Archer Side────≫



―――――夢を視ていた。



少女は瞼を開く。
深く柔らかく身体を受け止めるベッドの上、白のシーツ。
見慣れた緋色と黄金の天蓋。刻まれた彫刻絵画は古代ローマの神殿を幻視する。


彼女が、この市(まち)での拠点としている洋館の寝室である。


誰かの、夢を視ていた。
似たような夢を視た覚えがある。確か、あれはアーチャーの回想(かこ)だったか。

始めて視た時は、ネロス・ベーティアの中には興味も関心も何も一つ残らなかった。
今の少女にとって、アーチャーの過去など取るに足らないもの。
残った印象など、調べていた羿の伝説と相違なかった、程度のものである。


けれど、今は――――
     




「………ねぇ、アーカス。あなたの願いはナニ? あなたは、ナニを望んで召喚に応じたの?」

「―――貴女の願いの為、貴女の声に応じて参上致しました。我が弓の一切は貴女の為、再度御誓い致しましょう」



――――目の前の小娘(マスター)に、淡々と頭を垂れる狩人の存在が初めて心に触れた。



………否、逆鱗に触れた。
押し殺されたマグマではなく、零下に吹き荒ぶ風のように。
彼の返答に、そう、と答えた少女の言葉には、訊く者の心臓を切り裂く鋭利な冷たさがあった。

何故あのような仕打ちをされ、黙っていたのか。
何故あれほどまでに踏み躙られたにも関わらず、異議の一つも唱えなかったのか。
どうして、怒らない。どうして、悔しがらない。どうして、憎まない。


どうして。どうして。


どうして、唯の一度でさえ自分の為に、弓を取ろうとしない――――?


まさか誰かの為に弓を引くこそが、
自らが産まれて来た意味だとでも思っているというのか?
    



……それなら。徹底的に使い潰してあげる。文句はないでしょ?
少女はそう結論づけ、実際の所アーチャーも彼女の判断に粛々と従うだけだろう。


そう決まれば、とネロは勢いよくベッドから飛び降りる。
本格時に戦いが再開する前に済ませようと思っていたことが、一つあった。

きっと今夜や明日では、もう望めまい。
セイバーも、アーチャーも、キャスターもまだ魔力を消耗し、戦闘は避けるだろう今だからこそ可能な。


「―――あたし、ナナクサのトコあそびにいくから、護衛しなさい」


少女の愛敵たる白髪女形の青年。
一度は彼と戦場ではない場所で、腹を割って話してみたいと思っていた。
   




彼が聖杯に掛ける願いと理由(ワケ)―――戦いの中では決してわからないだろう、それを。



―――彼の願いだけは、叩き潰す前に訊いておきたいと、ずっと、想っていた。



果たして、少女の願いと釣り合う物かは判らない。

けれどナカミの大小を問う心算は毛頭ない。
内容はさておき。願いを胸に、青年が此処まで辿り着いたという事実だけで、少女にとっては十分であり。


「いくわよ、アーカス。準備して」

「御意」


きっと、他の魔術師ならば嗤うことだろう。
これから潰えることが決まっている他人の願いを聞く行為など、無意味であり無価値だ、と。


―――その通りだろう。
意味は無いかもしれない。価値は無いかもしれない。
それでも、彼との邂逅はきっと無駄にはならないはずだから。



―――「獣(ベースティア)の少女」は珍しく、本心から笑顔を浮かべていた。

        

ここまで
もう一方のスレのユミルちゃんが聖杯戦争に参加する羽目になった元凶パート

一旦この辺でほとんどの陣営のまとめに入りますので戦闘まではもう少しお待ちください
お読みくださりありがとうございました


ネロ的にユミルは寒川さんポジ?

≪────Interlude────≫



――――その少年は、神童と呼ばれた。



古武術の旧家に産まれた彼は、正に天才と呼ぶに相応しい存在だった。

生まれ持って完成された身体機能。恵まれた幸運。
そして、“視”る万象(もの)全てを解析する、卓越した“見稽古”の才。
子宝に慶んだ一族の者達が、彼の異常性を正しく認識するにはそう時間は掛からなかった。


6の月には“走行”機能を構築、一の齢を過ぎた時には言語能力はほぼ“完了”。

武道を習い始めたのは一歳半。
基礎を半年で修得した後、一族の技を完遂したのは三つの歳を迎える前。


以後他流試合を通し、他家の秘奥すら易々と取り込みならず、近遠古現問わぬあらゆる武器術の会得、
機械すら上回る精確無比な模写技能、一点の濁り無き完璧なまでの味の投影、一拍乱れぬ演奏・歌唱を再現する絶対音感等々。
以上、少年の天資はあまりにも異端過ぎた。


「解析して」「再現する」分野において、少年は他の追随を決して許さなかった。
   




――――だが少年には、一つだけ欠けていたモノがあった。



何かを創造する才能。
たちの悪い呪いのように、それだけが忽然と欠落していた。

幾ら再現が巧かろうと、幾ら模写に秀でていようと、少年は誰かの真似をすることしかできなかった。


彼の人生は、常に誰かが積み上げたものの後追い。
一度誰かが歩いた足跡を、同じように辿って歩むだけ。
他者を踏み台にすること以外の一切が、少年の指先から零れ落ちてゆく。


残るのは齢10過ぎの少年に総ては奪われ、骸の如き風体を曝す達人達のみ。
当然だろう。一生を掛けて極めた数十年、あるいは一族を掛けて追求した数百年の業を、
経った一度“視”せただけで、少年は自らの手足のように使いこなしたのだから。

少年が奪った業を見せて、二度と武を交えようと思わなくなった者はまだ良い方。
絶望から己の拳を潰す者、精神を病む者、あるいは業の再現を見せられた途端、心臓の音を失った者さえいた。
そして、辛うじて心は持ち堪えた者も含め、誰一人として新たな術を極め、少年の前に現れることはなかった。



――遺された物は、幾許の寂寥と羨望と、それ以上の自責。
他人の努力は易々と踏み躙れる癖に、自分では何一つ出来ない。
少年はそれが堪らなく嫌だった。誰かの技(ちから)を借りなければならぬ、己が無力さが。


しかしその様な彼の心境をつゆも知らず、一族の者はただ歓ぶだけ。
少年の存在など、所詮噂だと一笑する愚鈍な達人(エサ)を連れて来て模倣(くわ)せることを只管繰り返す。
まるで憑物にでも憑かれたかのように、より強き者と少年を戦わせたがった。


『あの家の者でも七草様を倒せなかった』『では、彼の流派など如何だろう?』『ふむ、あの狙撃手は?』

『駄目だ、刃も銃も話にならん。もっと好き者を連れて参れ』『そうだな、暗殺を生業とする奴等は?』

『では、私はツテを使って混じりものを当たってみましょう』『相手であれば、異邦の者共も役立つのではないか?』

『最早坊ちゃんはヒトのカタチをしたモノでは満足できまい。どれ、ワシは魔の獣でも買ってくるとしよう』


――何時からか相手は、裏家業の暗殺者から混血、異国の呪術師に加え魔術師と呼ばれる輩、
あるいは人造人間(ホムンクルス)や機械絡繰(ゴーレム)、最後にはヒトガタですらない土着の妖魔や辺境の幻想種まで。
一族の者達は金と労力を惜しまず、各々が競い合うように、ありとあらゆる怪物(モノ)と死合(たたか)わせた。




無論、少年も望んで死合(それ)を受け入れた。


この際、創造の才能は一旦諦めよう。
代わりに、今の自分と対等に殺し合える相手が欲しい。
普通ではない連中であれば、如何なる豪傑(こんなん)さえ、
隙間風のようにするりと攻略してしまう物見の才能でも超えられぬ者が、きっといるはずだ、と。



――――だが、結局少年の見稽古の才は超えられた者はおらず、一族を更なる狂喜へと駆り立てただけに過ぎなかった。

     


……14の歳、少年は家を出た。
もうこの時点で、少年の相手足りうる者が簡単には見つからなくなっていたからだ。

幸いにも、より己を高めるという名目で当主はそれを許してくれた。
その頃には家の者達は自分達がどんな化け物を飼っていたのか、正しく認識していたのだ。
やろうと思えば、彼は自分達など荷物造りの片手間にでも鏖殺できるのだ、と。


幾年もの間、少年は世界のあちらこちらを目的も無く、流浪した。
産まれ持っての身体の頑丈さ故、始めから怪我や病気には無縁であり、
持ち前の幸運から金銭や衣食住に不自由することもなかった。身を守る術は、言わずもがな。

東西南北各地を流離い、芸術を楽しみ、美食に舌鼓を打ち、技術(わざ)を覚(み)た後で、
思い出したように強者と顔を合わせ、僅かな期待を懐き、あっさり殺して、溜息を零し次の場所へ向かう。


終着点無き巡礼。意義も目的も見出せぬ、根無し草の旅。
けれど、物語の始まりは突然やってきた。
    




『――――聖杯戦争、トイウものヲご存知でショウカ?』



終りの見えぬ繰り返しの果てに、彼は一人の魔術師と出逢った。
白いスーツを身に纏い、白いハットを被った“真なる魔法使い(ワイズマン)”と名乗る異邦人。
始めて出逢った【物見稽古】が捉えられなかった彼は一礼した後、少年に聖杯戦争への招待状を差し出す。



『――――ナナクサ様、あなたノお力ヲ貸シテ頂きタイのデス』



白い正装の男が求めたものは、“出資者(パトロン)”としての役割。
何処の柵(しがらみ)にも囚われず、聖杯戦争を運営できるだけの資金を調達できる個人を、監督役たる彼は必要としてたのだ。


桁外れの資産を持ちながら、風に流されるがままに
一人放浪していた少年は尤も必要十分条件に合致した存在。

一方の少年からしても、“万能の願望器”というフレーズは闇を照らす光明であり。
    




「――――いいよ。その代わり、二つ、約束して貰いたいお願いがある」



少年が望んだことは二つ。
一つ、聖杯戦争への参加権を優先的に配布し、
優勝した暁には、聖杯の使用権を行使させること。

更に、もう一つ。
自分を相手にできる、強大な存在(エネミー)。
聖杯戦争に、それが確約できる実力者を参加させること。


少年の提示した二つの条件に、ワイズマンは快く頷いた。
以後、少年は“出資者”として、
黄金律により手元に流れ込む資産のほぼ全てワイズマンへと提供することになる。


――そして、家を出てから6年の歳月が過ぎた今。
少し時間が掛かりすぎて青年になってしまったが、
それら二つを望んだ少年(ナナクサ)は確かに、聖杯戦争(ここ)に立っている。
     

ここまで
今回は七草の過去
各陣営のまとめのChapter8前半はちょいと長めですが、お待ちください

お疲れ様でした

>>692
トン

>>693
ぶっちゃけ言うと実力は現状互角
特に七草/セイバー組は序盤から何度も礼装のやり取りもやってたくらいだし

>>694
大丈夫! ちゃんと本編に絡むからそいつら!

>>703
その役はユミルじゃなくて別にいる

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年04月19日 (土) 16:22:20   ID: 7F72DmY_

自分が参加した皆鯖が活躍するのはなんというか感慨深い
一段落着いたみたいだし次の敵も期待

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