黒猫姫「お前を食い殺してやる」 (12)


男「俺を食い[ピーーー]?」

黒猫姫「ああ、貴様は我が一族に手向けられた贄である。よって食い[ピーーー]」

男「ま、待ってくれ。そんな話は聞いていない」

黒猫姫「お前が聞いていなくとも我々は聞いている、こいつを捕えろ」

男「だから待てって!!俺食ってもうまくないから!」

黒猫姫「うまいかどうかは我々が決める、どっちみちお前は死ぬ」

男「やなこった!!!」

黒猫姫「あっ!こら待て!!奴を捕えろ!!!」



男「捕まった」

黒猫姫「往生際の悪い奴よ」

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男「話し合おう、殺すなんて酷いことだとは思わないのか!」

黒猫姫「生き物を殺して食うなんて事は貴様ら人間もよくやっているだろうに、どこが酷い?」

男「俺たちは意思疎通ができる奴らは食い物として見てない」

黒猫姫「屁理屈はいい、そろそろいいか? ナタの用意を」

男「ま、待て待て。時間をくれ」

黒猫姫「うっとうしい。何の時間がいるというのだ」

男「俺を食ってどうなる?そもそも贄とはなんのことだ。どうせ死ぬなら聞かせてくれてもいいだろうに」

黒猫姫「ほう、観念したか。それならば教えてやらんこともないぞ哀れな贄よ」

男「いや観念はしてないが」

黒猫姫「……」


黒猫姫「観念していないのか」 ジャキッ

男「そのやばそうなものを閉まって教えろよ!怖いだろうが!」

黒猫姫「ふーむ、貴様本当に何も知らないのか?」

男「ああ、突然村の奴らに布袋をかぶせられてここに縛られていたところにお前らが来たんだ」

黒猫姫「今まで何人かの贄を食らったがそやつらは皆すべてをわかっていた風で抵抗もしなかったのだがな」

男「そんな訳ないだろうが!殺して食うんだろ!?誰だって抵抗したはずだ!
  諭されてはいそうですか死にますって人間がいるわけないだろう」

黒猫姫「お前、本当に知らないのか」

男「何がだよ!」

黒猫姫「うーむ」

男「悩んでないで教えてくれよ」

黒猫姫「贄とは我々にとっての気の事である」

男「気?チャクラか?」

黒猫姫「そう捉えてかまわん。我々は気の充満している人間から定期的に気を手に入れて生活の糧としているのだ」

男「殺して食ってか?」

黒猫姫「おそらくお前の想像している「殺して食って」ではない」

男「え?」

黒猫姫「人間としては確かに殺すが、別に意識がなくなったり痛くなったりすることはない。
    ……ただ、人間ではなくなってしまうというだけだ」

男「恐ろしいことをさらっと言うな!」

黒猫姫「話は最後まで聞け。人間ではなくなるが、見た目はほとんど人間であった時と変わらない」

男「どういうことだ?」

黒猫姫「まぁ私みたいに猫耳としっぽが生えるというだけだ」

男「地味に嫌だな」

黒猫姫「失礼な奴だ。とにかくそういうわけだから我々に食われろ、気を渡せ、そして我々の側に来い」

男「断る」

黒猫姫「なぜだ?」

男「気とかいうものは俺にはない。俺は平々凡々なただの人間だ。お前らが期待しているような気みたいなのは持ってない」

黒猫姫「いや、お前は持っている」

男「持ってない」

黒猫姫「お前が気づいていないだけだ。私にはわかる、お前はとても大きな……いい気を持っている」

男「うるさい!俺は帰る」

黒猫姫「こいつを拘束しろ」

男「離せ!」

黒猫姫「お前には莫大な量の気が眠っている。ここ100年で1,2を争う量だ。逃すわけにはいかん」

男「なぜそんなに気とやらが必要なんだ!お前らも普通に飯を食って生活すればいいだろ!」

黒猫姫「ああ、生活の糧という表現が間違っていた。我々はその気を使って戦を行うのだよ人間」

男「戦?」

黒猫姫「そうだ。そして気を提供した人間は私の手下となって戦に参戦する」

男「……なぜ戦をしている」

黒猫姫「我々に敵対する勢力がいるからだ」

男「そいつらと何で敵対している」

黒猫姫「さぁ、1000年も前の出来事が発端だと聞いているからな。今はお互いの誇りをかけて戦っている」

男「そうか、そんな意味のない戦に参加しなきゃならないならば絶対に俺は気とやらを渡さない」

黒猫姫「……往生際が悪いぞ」

男「争いは嫌いだ」

黒猫姫「お前に選択肢はない」

男「ふん。俺が死ねば気は渡らないだろう?」

黒猫姫「え?……やめっ!!……こいつ舌を!!!すぐに治療させろ!!!!」

        

2日後

男「……んn」

黒猫姫「気がついたか人間よ」

男「ここは、どこだ」

黒猫姫「私の私室だが」

男「俺は……死んだだろう?」

黒猫姫「己で舌を噛み切る胆力は驚嘆に値するぞ。しかし我々の治癒力も舐めてもらっては困る。
    1000年もの間戦をし続けているのだ」

男「……」

黒猫姫「しかし参ったよ。お前から気を貰えないと我々は奴らに勝てそうにないのだ」

男「俺から気を取ることは諦めたのか?」

黒猫姫「死なれちゃかなわん。目の前で死ぬのは人間であろうとも嫌だ」

男「動物を殺すのと変わらないような言い方をしておいてナタまで出した奴がいう台詞かよ」

黒猫姫「あのナタで人を切れば気を吸い取る気孔を大きく開けることができるのだ。
    痛みは感じない、それに殺すという概念を貴様らと同じように説明したほうがわかりやすいと思ったのだ
    我々にとって「気を取り込む」という事は、貴様ら人間にとっての「生き物を殺して食って栄養とする」と同義である」

男「戦を行うのに気が必要なだけであってお前らも普通の人間と同じように栄養を取るんだろうに」

黒猫姫「……チッ お前に屁理屈は通じそうにないな」

男「どうせさっさと気を渡す気になるように脅したんだろうが」

黒猫姫「お前みたいな贄は初めてだからやり方は間違えたかもしれんがな。
    今までの贄は皆我々の仲間になることに同意していた奴ばかりだった」

男「そもそも俺はお前らの存在さえ知らなかったぞ」

黒猫姫「我々の存在を?この地域の人間ならば山奥の黒猫一族は有名だろうに」

男「そう言われてもな」

黒猫姫「親などに聞かされて育ったろう、山奥に潜む黒い一族の事を」

男「親は俺が5歳の時に山賊に襲われて殺された」

黒猫姫「……そうだったな」

男「!!おい……気があるというのは」

黒猫姫「なんだ」

男「いつからわかってたんだ」

黒猫姫「お前が生まれた時からだ。お前は特に気の埋蔵量が多い、すぐにわかったよ」

男「ふん……だったら村の奴らが余所余所しかった理由がわかった」

黒猫姫「……」

男「最初からわかってて生かされていたのか俺は。贄として」

黒猫姫「まぁそういう事だ、我々の仲間がお前をずっと監視していたからな。村の人間の何人かはこの事を知っている」

男「なぜだ」

黒猫姫「ん?」

男「なぜ俺の親が殺されるのを黙ってみていた」

黒猫姫「……お前が無事ならば我々としてはそれでよかったから、だ」

男「この野郎!!!!」


黒猫姫「……その事について、何も弁明する気はない」

男「助けてくれても、よかったじゃねぇか」

黒猫姫「この話は終わりだ。もう村へ帰れ」

男「……帰すのか」

黒猫姫「ただし、我々の拠点に来た人間で下界に戻った奴は過去にいない」

男「脅してるのか」

黒猫姫「事実を言っているだけだ」

男「……安全は保障できないと?」

黒猫姫「我々の敵対勢力、白猫一族は黙っていないだろう」

男「お前らの白版か」

黒猫姫「まぁそうだな。我々よりも過激な連中だ」

男「俺は生きて人生を全うしたい、それだけだ」

黒猫姫「別にここに残ってもいいぞ?」

男「……」

黒猫姫「もう襲わないさ。うちの連中にも言っておく、というかだな」

男「なんだ」

黒猫姫「いざとなったら容赦なく自分を殺せる胆力を持ったお前にあいつらが敵うわけがない」

男「……」

黒猫姫「正直この私でさえ、お前の自死の選択には度肝を抜かされた」

男「あの時は、どうしてもお前らに気を渡すわけにはいかないと強く思ったんだ」

黒猫姫「思ったところであんな行動を取るとは……」

男「あの時の俺は何か、俺の意思とは別に……」

黒猫姫「ほう」

男「いや……なんでもない」

黒猫姫「面白い。我々に気を使わせたくないお前の中にある深層心理のナニカが、お前に自死を選ばせたと」

男「そんな大そうな捉え方をされても俺には何もわからない」

黒猫姫「とりあえず、お前はここでしばらく暮らせ。ほとぼりが冷めるまで」

男「なんのほとぼりだ、そしてそもそも冷めるのかそれは」

黒猫姫「それはわからない」

男「はぁ……なんでこんなことに」

黒猫姫「まぁ、気を取らないと決めた人間に対しては贄としての感情も湧かず、ただの人間として接するさ。
    そして人間自体は別に我らの敵ではない」

男「俺はお前らを恨む理由が2つほど見つかったがな」

黒猫姫「……まぁな」

男「安全が確保されるまではいさせてもらう……その黒い仮面をそろそろ取れ」

黒猫姫「これは、だめだ」

男「なぜだ。ここで暮らすんだ、君の悪い仮面女と住むのはごめんだ」

黒猫姫「この仮面の中身を見せるのは我が一族の中でも極一部。私の顔は重要機密事項なのだ」

男「狙われるからか?」

黒猫姫「そうだ……まぁ、お前にはいいか」


カパッ


男「……そんな顔か」

黒猫姫「ああ。こういう顔をしている」

男「人間だったら美人だな」

黒猫姫「ああ」


黒猫姫「私ももともと人間だ」

男「!?」

黒猫姫「ようこそ我が黒猫一族の拠点へ、個人的には歓迎しよう」

男「……」

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