勇者「共に歩み、共に生きる」 (144)



勇者「聖王の命により、貴様を裁く。魔を放ち、聖王国を苦しめた罪は重い」

勇者「死を以て、償え」


魔王「今の世に、自由は無い」

魔王「聖王国は正義などでは無い。奴等も、支配している点では変わりないのだからな」

魔王「世を治る者、地に立つ者が、人から魔に変わるだけの事」

魔王「我等より先に、人が立った。立つ者が入れ替わるだけに過ぎない、違うか」


勇者「聖王様は絶対であり、正義。乱す者は、悪」



魔王「ならば、その正義とやらを見せてみよ」



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ーーー
ーーー


勇者「帰還致しました」


聖王「無事で何より。これで、悪は滅んだ」

聖王「だが勇者よ、それはこの世界の話しなのだ……」


勇者「この世界、とは」


聖王「今から話す全てを信じよ。良いな」


勇者「はい」


ーーー
ーーー


勇者「此処とは違う世界、其処にも魔物が」

聖王「うむ、帰還早々に悪いが、行ってくれるか」


勇者「勿論です」


聖王「ならば、賢者の下へ行け。彼ならば、道を作れる筈だ」



勇者「はい。では、行って参ります」

ーーー
ーーー


賢者「聖王より話しは聞いている。準備は良いか」

勇者「はい、いつでも」


賢者「武運を祈る。では、始め、始め始めめめめめめめめめめめめ」


勇者「賢者様、どうしたのです」


賢者『ガガッ…ザザザッ…い、えるか? 聞こえるか?』


勇者「誰だ。賢者様に、何をした」


賢者『驚きもしない、か。正に人形だな……』

賢者『勇者、君には悪いが、少し細工させて貰う』



勇者「何をする気だ」


賢者『君を人間にする。血の通った人間に』

賢者『泣き、笑い、悩み、迷う。そんな、本当の人間に……』

賢者『あまり時間が無い。今から流す』


勇者「流す、何をだ」


ヂヂッ……


勇者「ぐっ、何だ。何が……」


ガヂヂヂヂッ!!


勇者「ガッ!? グッ、ガアアアアアッ!!」



『しかし、寿命に問題点が』

『構わん。戦える体であれば良い』

『成人の状態にしろ』


『彼が、我々の救世主か』


『戦闘経験は?』

『経過は順調です』


『では、次の段階に移れ』



『一切の疑問を与えるな』

『我々こそが、正義なのだ』


『徹底的に刷り込め』


『そろそろか……うむ、やはり美しい』


『救世主と呼ぶに相応しい姿だな』


『従順で、死を怖れぬ。正に理想的だ』


『彼をベースに次の……』




ザザザザザザ……





『ふざけるな!! 外で生きて往けるわけが無いだろう!!』

『助けて、死にたくない!!』


『子供が居るの、その子だけは』

『嫌だ、離してくれ!! くそっ、何が聖王だ!!』


『殺してやる!!』


『お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃん……』


『やめろぉぉ!!』



『死ね!! 聖王なんざ死んじまえ!!』

『逃げろ』


『あなたを、愛してるわ』


『ありがとう』


『誰もが、幸せになれるんだ』


『諦めちゃ、駄目だ』


『あんな化け物に殺されるくらいなら』

『早まるな、待て!!』


『お父さんっ、こんなの嫌だ。助けて……』



ーー情報伝達完了


ーー脳波・心拍数・確認中……

ーー心拍数に異常あり

ーー応急処置開始


ーーーーー終了


ーー心拍数・正常

ーー投与開始

ーー確認中……

ーー確認中……

ーー適合率79・3%

ーー適合率・上昇中……


ーー最終適合率91・14%



勇者「げほっげほっ!! ハァッ、ハァッ、ハァッ…」


賢者『一時はどうなる事かと思ったが、成功したようだ』

賢者『まだ感情の発露は見られないか。今は、仕方無い』

賢者『しかしこれで、君は造られた救世主でも、人形でもなくなった』


賢者『……君には、詫びねばならない。本当に、済まない』


賢者『我々は、過ちを繰り返した。私は、失って初めて、それに気付いた。私は、愚かだ……』

賢者『頼む、間違いを正してくれ」


賢者『君だけが世界の、私の希望なんだ』



賢者『そして、奴等にとっての悪魔に……ぐはっ!!』

賢者『ふっ、はははっ、もう、遅い』

賢者『父さんを、許し……』

賢者『………………』

賢者『………………………』


勇者「ハァッ…ぐっ、うぅ」


賢者「では、転移の法を施す。全ての世界を救え、悪を滅ぼすのだ」




賢者「行け、勇者よ」



ーーーー
ーーー


勇者「ん、此処は何処だ。っ、頭が」ズキッ


「無理に起き上がらないで下さい。まだ、動ける状態じゃないですから」


勇者「誰だ、此処は何処だ」


「私は女医師と言います。此処は、病院ですよ?」


勇者「(見慣れない器具ばかりだ。本当に病院なのか)」

勇者「(此処が別世界、なのか。だとしたら、まずは聖王様に会わなければならないな)」



勇者「女医師、【聖王】と言う名に憶えはあるか」


女医師「勿論。この国を統べるお方ですから」ニコッ

勇者「聖王様は、何処に居る」

女医師「…………了解」ボソッ

勇者「どうした」

女医師「今から案内します」


勇者「そうか、頼む」


ーーー
ーーー


勇者「(外に出たが、見慣れない物ばかりだ。空は硝子のような物に覆われている)」

女医師「どうしました?」

勇者「外だというのに天井のような物があるから、疑問に思っただけだ」


女医師「あれは、魔物の侵入を防ぐ為に、聖王様が造られた物です」

女医師「この国の外は、魔物で溢れていますから」


勇者「流石は聖王様。こんな大規模な防御壁をお造りになるとは」


女医師「そう、ですね…」


ーーー
ーーー


女医師「此処が、聖王様の城です」


勇者「(随分、造りが違う。何しろ高い)」

勇者「今更だが、謁見の許可を取らずに入っても良いのか」


女医師「貴方が来る事は、分かっていましたから。大丈夫です」

女医師「中に入れば、係りの者が案内してくれますよ」


勇者「そうか、分かった」ザッ


女医師「(表情も、声も変わらない。まるで人形、彫刻のようだわ)」



女医師「嫉妬する程に美しいのに、気味が悪い……」

ーーー
ーーー


聖王「早速だが、お前に命を下す」

聖王「この聖王国の外、外界は、魔物で溢れている。お前には、全ての魔物を排除して貰いたい」

聖王「武器防具は支給する。命を果たすまで、帰還する事は許さん」


勇者「承知しました」


聖王「それと、もう一つ」

聖王「外には穢れた輩がいる。奴等が語る言葉に惑わされるな」

聖王「この聖王だけを信じよ。下された命だけを実行せよ」

聖王「良いな」



勇者「承知しました」


ーーー
ーーー
外界・森


勇者「(支給された武器防具は変わった装飾だが、性能は凄まじい)」

勇者「(三十近くの魔物を斬ったが、刃こぼれ一つない)」

勇者「(一番奇っ怪なのは、目に見えぬ弾丸が射出される武器)」

勇者「(銃、とか言っていたな。これは、かなり役に立つ)」


勇者「別世界、か。ん、まだ残りがいるな」

ザンッ!!

魔物「ギャッ…」




ザシュッザシュッ!! パンッ…ザシュッ!!




勇者「もうじき、日も暮れる。今日はこの辺にしよう」


ーーーー
ーーー


パチパチッ……


勇者「暖かい」


『時間が無い。今から、流す』


勇者「あの時、確かに『何かが』流れ込んできた」ズキッ

勇者「見た事の無い景色、人々の声。あれはとても、とても……」



勇者「悲しそうな、声だった」ギュッ

ーーー
ーー


「良いのですか?」

「外の連中に懐柔されれば、我々に牙を剥く可能性も」



「何も問題は無い。【聖王】の命は絶対なのだからな」

「奴が何を施したか知らんが、所詮は造り物。人になどなれん」

「アレが魔物を排除する。我々は、其処に新たなドームを建設する。それだけだ」

「アレは、死ぬまで戦い続ける。しかし、魔物を全滅させるなど不可能だ」

「よって、帰還することなど有り得ない」

「アレが死ねば、次なる【勇者】を造り出せば良いのだ」


「実験は、順調に進んでいる。何も怖れる必要は無い」

ーーーー
ーーー

三日後


勇者「この森は、片付いたな。次の場所に向かおう」


???「アナタ、人間よね?」


勇者「誰だ」


???「後ろにいるよ。あっ、私は魔物じゃないから、絶対に斬らないでね!!」


勇者「お前、妖精か」

???「うん。私はピクシー。よろしくね」ニコッ

勇者「何の用だ」


ピクシー「案内人になってあげる。迷子になると大変だから」


勇者「そうか、宜しく頼む」


ピクシー「何も疑わないの? 貴方を迷子にさせるつもりかも知れないよ?」


勇者「行き先に魔物が居るなら、迷子だろうと関係無い」

ピクシー「怖くないの?」

勇者「何を怖れる必要がある。聖王様の命に従って死ぬのなら本望だ」


ピクシー「私は悲しいな、アナタが死んだら……」



勇者「何故だ。お前に、何の、関係」ズキッ



『愛してるわ』

『死なないで!!』


ピクシー「どうしたの? 大丈夫?」

勇者「何でもない。気にするな」

ピクシー「そう……なら、いいけど」


勇者「何処に向かうんだ」


ピクシー「とりあえず、私に着いて来て」



勇者「洞窟か、入り口が塞がれているな」

ピクシー「ちょっと待っててね」


勇者「行ってしまった」


勇者「(魔物の住処、では無さそうだな)」

勇者「(こんな場所、ピクシーが居なければ、見つける事は出来なかっただろう)」


ピクシー「お待たせっ、入っていいよ」

勇者「中に居るのは、人間か」


ピクシー「そうだよ? ダメだった?」



勇者「聖王様に、外界に居るのは穢れた者達だと聞いている」


ピクシー「ふーん。じゃあ、どうするの? 接触するのもダメ?」

勇者「いや、接触は禁じられてはいない」

ピクシー「じゃあ、大丈夫だね」


『何が聖王だ!!』

『出ていけだって!? 死ねっていうのか!!』


勇者「(何か、分かるかも知れない。あの光景、あの声が、偽りだとは思えない)」

勇者「行こう」


ピクシー「うんっ」



洞窟内


勇者「思いの外、広い。人も多い」


ピクシー「この洞窟の他にも、こういう場所は沢山あるんだよ?」

勇者「そうなのか。それで、何故此処に連れて来た」

ピクシー「えーっと、この先に長老さんが居るから、話しを聞いてあげて」

勇者「聞くだけならな」

ーーーー
ーーー


長老「良く、来てくれたね」


勇者「お前が長老か。話しを聞く前に、聞きたい事がある」


長老「構わんよ? 何でも聞いてくれ」


勇者「追い出される人々を見た。聖王様を呪う人々を見た。泣き叫ぶ人々を見た」

勇者「愛してると言い、それを失い、嘆く者も見た」ズキッ


長老「…………」

ピクシー「……」


勇者「……レが、オレが見たのは何だ!?」

勇者「お前達は何だ!? 何故泣く!? 何故悲しむ!?」


勇者「聖王様こそが正義!! その筈だろう!!」ダンッ


長老「……………」

ピクシー「お、落ち着いて。ねっ?」


勇者「ハァッ、ハァッ……」ギリッ


長老「何処で何を見たのか知らないが、随分混乱しているね……」

長老「恐らく君が見たのは、我々の過去だろう。聖王に国を追われた、我々のな」


勇者「何故、追い出す?」


長老「今の若者は教えられないのかな? 簡単な話し、増えすぎたのだよ。それ故の人口削減、間引きだ」


勇者「……正しい判断だ」

長老「本当に、そう思うかね?」


勇者「ああ、聖王様の判断に間違いは無い」


長老「なら何故そんな顔を? 君は疑問に感じているのではないのかな?」


勇者「……まれ」


長老「だから、知りたいのだろう?」


勇者「黙れ!!」ガンッ


ピクシー「きゃっ」ビクッ


長老「おやおや、まるで子供だな。聞いてきたのは、君の方だというのに」

長老「まあ良い。次は、私の話しを聞いてくれるかな?」



勇者「…………」


長老「では、勝手に話させて貰うよ?」

長老「実は最近、洞窟近辺に魔物が増え始めてね。満足に食料を調達出来ない」

長老「君が良ければ、我々の手助けをして欲しい」


勇者「……聖王様の命には、含まれていない。オレは行く」ザッ



長老「そうか、残念だが仕方無い」



ピクシー「ねえ、いいの? アナタは、後悔しない?」クイッ

勇者「道案内は、もう必要無い」パシッ

ピクシー「あっ…」


ーーーー
ーーー

洞窟近辺

勇者「魔物の根絶。それが、オレに与えられた命だ」

勇者「悩む事も、後悔する事も無い。聖王様は絶対の存在」

勇者「穢れた者の言葉に、惑わされるな」


自身に言い聞かせるような呟き。

突如発現したそれに、戸惑い、怖れている。

その姿は

内から湧き出る何かを、必死で抑え込んでいるようにも見えた。



一週間後 洞窟近辺


勇者「(森の時から疑問だったが、妙に魔物が寄って来るな)」

勇者「(手間が省けるし効率も上がるのだから、本来なら良しとする)」

勇者「(だが、姿を隠しても見付かるのは、おかしい)」

勇者「(まるで何かに引き寄せられているような……)」



勇者「ちっ、駄目だな。あれから、色々と考え過ぎている。水でも被るか」



洞窟近辺・川


勇者「随分と汚れていたんだな。全く気にならなかった」

勇者「返り血か、髪も真っ黒だ」


バシャ……ガシガシッ


勇者「たまには、水浴びも良いかもな。すっきりする」

勇者「ん、あれは」


川から出ようとした時、一体の魔物が現れた。何かに、引き寄せられているかのようだ。


彼の存在には、全く気付いていない。



勇者「(何故、オレに向かって来ない? 奴は何を見ている?)」


剣を手に取り岩場に身を潜め、魔物の行動を観察。

どうやら、川縁に置かれた防具に向かっているようだ。


勇者「(食料は携帯していない。一体何に……まさか、防具か?)」


魔物は、彼に引き寄せられていたわけでは無かった。

彼が身に付けていた防具、それに引き寄せられていたのだ。

魔物は防具に噛み付き、爪を立て、引き裂く。


勇者「(なる程、そういう仕掛けだったわけか)」



一体何と勘違いしているのか、魔物は防具を喰らってしまった。



勇者「防具のみを喰らい、衣服には損傷が無い」


勇者「何かが塗り込まれていたのか、そういう素材で造られたのか……」

勇者「ともかく、それによって、多数の魔物が引き寄せられていた」

勇者「くく、はははっ」


勇者「これではまるで、魔物ではなく、オレを排除したいかのようだな」


口元を歪め、不敵に笑う。

彼は、気付いているのだろうか?


勇者「オレは馬鹿だ。よくよく考えれば、怪しい所ばかりじゃないか」



確実に、変化、している事に。



洞窟前


勇者「戻って来てしまった。いや、魔物は排除したわけだし、報告ぐらいしても問題は無い」

勇者「命に逆らったわけでも……そう!! 魔物の根絶が目的なのだか」


???「一人でブツブツ言ってる所悪いけど、何してるの?」


勇者「!! あ? はぁ、何だ、お前か」

ピクシー「ひっどいなーって言うか、どうしたの?」


勇者「いや、此処一帯の魔物は排除したんでな、長老にでも、その…」ポリポリ



ピクシー「言わなくても、みんな知ってるよ?」

勇者「は? 何故」


ピクシー「私が隠れてアナタを尾行して、報告してたからっ」

ピクシー「本当は優しいんだね、アナタって」クスッ


勇者「やかましい。それより、皆はどうだ? 悲しくなってないか?」


ピクシー「……大丈夫、みんな喜んでる。お礼が言いたいなーって、言ってた」

ピクシー「せっかくだし、顔見せてあげなよ? ねっ?」クイッ



勇者「そう、だな」


一旦休憩。


蜀埼幕


洞窟内


長老「彼女から話しは聞いていたよ。本当に、ありがとう」

長老「皆が、君に感謝しているよ」


勇者「どの道、魔物は排除しなければならなかった。気にするな」

ピクシー「あっ、素直じゃなーい。さっきまで、うじうじしてたクセに」

勇者「やかましい、目の前で飛ぶな」


長老「ふむ、変わるものだな」


勇者「変わる? 何がだ?」



長老「君だよ。一週間前に初めて君を見た時、感情の欠片も見えなかった」

長老「混乱していたのか、君は激昂したが、それでも人間味は薄く感じられたよ」

長老「しかし今は、表情も声にも、温もりがある。生きている」


勇者「生きているのは、当たり前だろう」


長老「そういう意味じゃない。何と言えば良いのか……」

長老「血が通ったと言うか。優しい心を、持っているよ」


ピクシー「うんうん、アナタは優しいんだよ?」



勇者「……長老」


長老「何かね?」


勇者「オレは今、揺らいでいる。聖王様に疑念を抱いている」

勇者「追い出す以外に道は無かったのか、貴方達が悲しまずに済む方法は無かったのか」

勇者「聖王様は、絶対だ。こんな事は考えてはならないのに、そればかりが、頭を過ぎる」


ピクシー「…………」


長老「確かに我々、下級市民は追い出された。しかし、救われた者が居るのも事実」


長老「未だに恨む者も居るだろうが、現状は変えようが無いのだよ」



長老「私個人としては……」


勇者「構わない。はっきり言ってくれ」


長老「魔物が消えても、人が変わらなければ、世界は変わらない」

長老「平和や安息。それを求めるあまり、人は醜くなってしまった」


勇者「…………」


長老「皆が優しく生きられれば、他者を労り、真に愛すれば、こうはならなかった……かもしれない」

長老「爺の理想に過ぎないがね」



勇者「聖王様には、それが無いと?」



長老「追い出された身としては、そうなるのかも知れないな」

長老「向こうでは、どうか知らんがね」


勇者「……ありがとう。話せて良かった」


ピクシー「へー、アナタって、お礼言えたんだねっ」ツンツン


長老「ふむ。何か、決めたのかな?」


勇者「ああ、一つ決めたよ。確か、コイツが言うには……」ガシッ

ピクシー「ち、ちょっと、離してよ!!」


勇者「他にも此処と同じような場所があるらしい。其処へ行こうと思う」



ピクシー「バカッ、ヘンタイ!! うー!!」ジタバタ


長老「それは何故かな?」


勇者「何かが、そう命じるからだ。悲しみは、見ていて気分の良い物じゃないからな」


ピクシー「………かっこつけちゃって」


勇者「何とでも言え」


長老「なら、今日は此処に泊まって行きなさい。きっと子供達も喜ぶ」

長老「それに見た所、防具を失ったようだね。替えの物を造らせよう」



勇者「それは有り難いが、一日で造れるのか? 材料はどうする?」


長老「君が倒した魔物の骨や皮があれば、すぐに造れる」

長老「物作りが好きな人物が居るからね」


勇者「そうか、なら早速取って来よう」パッ

ピクシー「わっ!?」トスン

勇者「おい」

ピクシー「いたたっ、なによー?」



勇者「お前も来てくれ」




ピクシー「道案内はいらない……とかって言ったクセに」

勇者「それは、済まなかった」


ピクシー「それだけー?」ニヤニヤ


勇者「お前が居ないと……」

勇者「いや、違うな。お前が傍に居ると安心するんだ。頼む」


ピクシー「なぇ? あ、あっそ。別にいいけど?」プイッ

勇者「そうか、助かる」



ピクシー「ほ、ほらっ、早く行こっ」


洞窟周辺


ピクシー「うわっ、気持ち悪いぃ」

勇者「嫌なら見るな」


ピクシー「そうする。うぇっ」


勇者「(魔物、か……)」

勇者「(以前の世界では魔王が原因だったが、此処にも魔王が居るのだろうか?)」


勇者「一つ聞きたい」


ピクシー「なーに?」


勇者「何故、魔物が蔓延る? 原因は何だ」



ピクシー「はぁ? そんなの、人間が造ったに決まってるでしょ」


勇者「待て、造っただと。そんな馬鹿な話し」


ピクシー「本当だよ!! 嘘じゃないよ!?」

ピクシー「ずーっと昔に、戦争で人間が死ぬの禁止!! って言った人がいたの」

ピクシー「えーっと、それで変なバイ菌を造って、動物とかに移して……それが魔物になって、えーっと」


勇者「バイ菌? 風邪みたいなものか」


ピクシー「うーん、詳しくは分からないけど、それが魔物の始まりだよ」

ピクシー「でもね? そのバイ菌が人間とかにも移っちゃって、それで世界がこんな風になっちゃったの」



勇者「彼等は大丈夫なのか? バイ菌が移ったりしないのか」



ピクシー「わくちん? を摂取したから大丈夫だって聞いた」

勇者「よく分からないが、大丈夫なんだな」

ピクシー「大丈夫じゃなかったら、とっくに魔物になってるよ」


勇者「……それも、そうだな」


勇者「いやちょっと待て。だったら、お前のような妖精は何だ?」

勇者「まさかお前も、そのバイ菌とやらで」



ピクシー「ううん。私はちょっと違う。私は……えっ?」


勇者「どうした?」


ピクシー「ま、魔物が、魔物を食べてる」


勇者「奴は川で…そうか、今は奴が魔物を引き寄せて……っ、マズい」


ピクシー「ど、どうしたの?」


勇者「説明している時間は無い。オレは、奴等を殺さなければならない」


勇者「いいか、お前は此処に居ろ。絶対に来るな」ダッ



勇者「(始末すべきだった。ちょっと考えれば、予想出来た筈だ!!)」


見れば、その魔物に他の魔物が群がっている。

防具を喰らった魔物だ。

あれが多数の魔物に喰われれば、【魔物を引き寄せる魔物】が増え続けるだろう。


勇者「(ぐずぐずしていると、魔物が増える。銃で数体片付ければ、どうにか出来る)」



遠距離だが、当たらぬ距離では無い。

頭部に狙いを定め、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ……

しかし、四体目の頭部に照準を合わせ引き金を引いた時、切れた。


勇者「流石に、そこまで都合良く行かないか。仕方無い」


魔物は共食いに夢中、見向きもしない。防具に含まれる物質は、魔物を虜にしているのだろうか。

行くしかない、飛び込むしかない。

まだ離れているとは言え、もし洞窟内に侵入されでもすれば、彼等に為す術は無い。


一体が入れば、それに惹かれて複数体がやってくるだろう。



勇者「そうなる前に、何とかする。元はと言えば、オレの不始末なのだから」


十体程だろうか、それも殆どが大型。

この世界の誰よりも戦闘経験のある彼といえど、流石に厳しい数だろう。


勇者「うおぉぉぉ!!」


不意打ちが目的ならば、決してしてはならない行為だが、目的は別にある。


共食いを中断させ、注意を引く。

それは、成功した。


魔物は振り向き、彼を認識する。



勇者「それでいい」


そこからが、早かった。

手前一体を斬り伏せると中心へ飛び込み、一気に数体を斬り伏せる。

敢えて間に入り攻撃範囲を狭める、が……


勇者「ちっ、お構い無しか」


極度の興奮状態にあるのか、滅茶苦茶に剛腕を振るう。

間一髪で避けたが、危うい。



何よりも厄介なのは、逃げ出そうとする魔物。



勇者「逃がすか……」


剣を投擲、円を描いた剣は見事命中し、首を切断。

しかしそれ故に体勢が崩れ、動作が遅れてしまう。

待っていたのは、迫り来る剛腕。


勇者「がっは!!」


咄嗟に両腕で防ぐが、魔物の剛腕の前では枯れ枝同然。

あらぬ方向へ曲がった腕、最早、剣を握る事は出来ないだろう。


吹き飛ばされた先は、もう一体の魔物の足下。


魔物は躊躇い無く、彼を踏み潰す。


ピクシー「やめてっ!!」

勇者「なっ!? 馬鹿、早く逃げろ!!」


彼と魔物の間に割って入り、彼女は叫ぶ。


通じずとも、叫ぶ。

彼女の行為は、無駄。

命を晒すだけの、無謀な行動。


そして


ピクシー「あぅ…うぅ……」


赤子の首を捻るが如く、容易く掴まれ、万力のような力で締め上げられてしまう。




勇者「止めろっ、そいつを離せっ!! 殺すぞ!!」


両腕を失った者の恫喝など通用する筈も無く、徐々に、死に近付いて往く。


ピクシー「あぐっ!!」


『愛してる』

『死なないで!! あなた!!』

『奴等にとっての、悪魔に…』


勇者「ぐッ、がッあぁぁぁぁっ!?」


瞬間、変貌。

体中に光のヒビが入り、同時、骨格が叫び、筋肉がうねる。

皮膚は硬質なものに変化、爪は鋭い刃へ。

彫刻のようだと評された美しい顔は、怒りに染まり、最早面影は無い。


切れ長の瞳、裂けた口、牙。

逆立った頭髪は、角にすら見えた。


黒に塗り潰されたい裸体には、幾つもの紅い線が走っている。


煌めくそれは、己に血が通っている事を、証明、主張しているかのようだった。


瞬時に彼を上位の存在と認識した魔物は、その姿に恐怖した。

その一瞬で、全てが決定する。


勇者「シッ!!」


跳躍、顔面に手刀を突き刺し、肘から突出した骨格の刃が、彼女を掴む腕を切り裂く。

指を切り落とし、すぐさま彼女を解放。

間を置かず後ろへ跳び、蹴りを放つ。


其処には、彼の腕を砕いた魔物。

蹴り脚は腹部を貫通しているが、終わらない。


勇者「ガッアァァッ!!」


怒りとは別種。

嘆き、苦しんでいるかの様である。

その悲痛な叫びは、大地を揺らし、何処までも轟く。


勇者「カッ」


貫通した脚をそのままに後方一回転、それは腹を裂き、頭上へと抜けた。




勇者「ハァッ、ハァッ…魔物に、バイ菌でも移されたか?」


勇者「ははっ、別にどうでも良いか。取り敢えず、今は防具の欠片を処分しないとな」


勇者「捨てたら喰うだろうし、川に流しても同じ。解決にはならないな」

ピクシー「…………」

勇者「脈は、ある。良かった」


彼女は、生きている。

だが、未だ意識を失っている。もたもたしては居られない。

少しだけ悩んだ結果……


勇者「オレが、喰うか」



彼は、取り敢えず喰った。

ーーーー
ーーー


ピクシー「ん、あれっ?」

勇者「ようやく気が付いたか、良かった。もうすぐ洞窟に着くぞ」


ピクシー「……アナタ、何で上半身裸なの?」

ピクシー「まさか、私が気を失ってる間に!!」


勇者「やかましい」

勇者「袋を忘れたから、服と毛皮で魔物の骨を包んでいるんだよ」


ピクシー「ふーん。寒くないの?」


勇者「背中は温かい。落ち着く」


ピクシー「ヘンタイだねっ」


勇者「降りろ」

ピクシー「やーだね。アナタ、寒そうだし、くっ付いててあげる」

勇者「おい」

ピクシー「なーに?」


勇者「その、助かった。ありがとう」



ピクシー「……うんっ」ギュッ



洞窟前


勇者「はぁ、もう真っ暗だな。重いだろうが、頼む」


ピクシー「ここに来るまでは魔物出なかったし、入っても大丈夫じゃない?」

ピクシー「だって、防具の破片は処分したんでしょ?」


勇者「まあな。だが、破片を喰らった奴を一匹仕留め損ねた」

勇者「此処に現れない、という保証は無い」


ピクシー「そっか。じゃあ、コレ渡し終わったら服持ってくる」

勇者「ああ、頼む」


ピクシー「じゃっ、ちょっと待っててね。うっ、重っ」フラフラ


勇者「逃げた一匹は、オレだ。とは言えなかったな」

勇者「あれだけ返り血を浴びれば、バイ菌も移るか。わくちん、があれば治るのだろうか?」

勇者「まあ、下半身を露出せずに済んで良かった」


ピクシー「おーい、服持って来たよー」


勇者「(何となくだが、あいつには嘘を吐きたくない)」


勇者「(でも、話したくもない。何だ、この感覚……オレは変わった、のか?)」


洞窟前


パチパチッ…パチッ


勇者「お前まで、外に出る必要は無いだろうが」

ピクシー「私がそうしたいから、いいの」フフン


勇者「(話すべきだ。コイツにだけは、話した方がいい)」

勇者「ちょっと、いいか」


ピクシー「どーしたの?」

勇者「今から話すのは、本当の事で、嘘じゃない」



ピクシー「話して? 私、ちゃんと聞くから」


勇者「お前が魔物に掴まれて、気を失った時、オレは悪魔? になったみたいだ」

勇者「全身は真っ黒、幾つもの紅い筋。それが紋様みたいに……折れた両腕も治っていた」


勇者「後、破片を喰った」


ピクシー「は、はぁっ!? バッカじゃないの?」


勇者「お前は死にそうに見えたし、迷ってる暇もなくて、つい」

ピクシー「つい、ってバカ。大体、悪魔なんて言ってるけど、アナタは人間でしょ?」


勇者「勿論人間だ。良く分からんが、本当に体が変わったんだ。バイ菌の所為かもな」



ピクシー「えっ? アナタ、わくちん、してないの?」


勇者「そんな物を貰った憶えは無い。この世界に来て、まだ日が浅いんだ」

ピクシー「ん? ちょっと待って、この世界って、どういう意味?」


勇者「オレは、此処とは違う世界に居たんだ。言ってなかったか?」


ピクシー「聞いてないし。しかも違う世界って……アナタ、頭大丈夫?」

勇者「実際、気付いたらこの世界にいたんだ。色々と違って見えた」


ピクシー「うーん。じゃあ、信じた上で聞くけど、何が違ったの?」


勇者「建造物、人間、武器。銃なんて、以前の世界では考えられない代物だった」


ピクシー「建造物と人間は、どう違ってた?」


勇者「人間は、お前みたいにころころ表情を変えない」

勇者「誰かが魔物に殺されても、あまり悲しそうでは無かったな」

勇者「建造物は、上手く言えないが、もっとゴツゴツしていた。四角くて、やたら高い建造物なんて存在しない」


勇者「だが、聖王だけは変わらないな。考えると、おかしい事だらけだ」


ピクシー「……アナタの、名前は?」



勇者「勇者、と呼ばれていた」



ピクシー「そっか、アナタが勇者なんだ」

勇者「オレを知っているのか?」

ピクシー「ちょっと違う。私は【勇者】を知ってるだけ」


勇者「話してくれないか?」


ピクシー「今から話すのは、本当。だから、信じて」



勇者「信じる」



彼女は、ゆっくりと語り始めた。

自分と、勇者と、ある研究者の話しを……何かを辿るように。



語られた事実。

それは荒唐無稽で、理解が及ばず、俄に信じ難い内容であった。


造られた人間、造られた妖精、非人道的実験。

それを結ぶのは、主任である一人の男。


その人物とは、彼女の父であった。


聖王に、ある計画を任され、研究に研究を重ねる日々。


当初、彼に迷いは無かった。


人工的に新たな生命を生み出すという、神に背く実験。

彼は、それに高翌揚し、酔いしれた。

あたかも、自身が神になった感覚でいたのかも知れない。


我が子が、実験体に選ばれるまでは……


彼は神などでは無かった。

聖王の命に従う隷に過ぎなかったのだ。


逆らう事など出来ず、結果として、彼は娘を失った。

眠り続ける我が子を見て、彼は決意する。


何としても、甦らせる……と。


だが、何をしようと、娘は目覚めない。

そこで、彼は諦めた。


娘を甦らせる事を諦め、娘を【生み出す】事にしたのだ。


別種。そう、人間でなくとも良い。

正しく、狂っていたのだろう。通常の発想では無い。


あらゆる技術と知識を駆使。

幾度の失敗を経て、別の生物として生まれ変わらせる事に成功した。


いや、この時点では、まだ成功では無い。


問題は、記憶の引き継ぎ。


その点で、彼は何度も躓いた。

娘本体から記憶を読み取り、生み出した生物に刷り込む。

だが、上手く行かない。その為、多くの脳を、消費した。


だが、遂に結実する。


全てとは行かず、知識に偏りもあるが、記憶を移植する事には成功し、娘を新たに生み出した。



それが彼女、妖精・ピクシーである



特に、記憶伝達、情報伝達の技術は高く評価され、皆は彼を天才だと持て囃した。

しかし、彼は怖れていた。


やっと甦らせた娘が、再び実験の道具にされてしまうのではないか?


彼は、綿密な計画を立て、下級市民が新たに追放された際、彼女を逃がしたのだ。

疑われる事も当然考慮していたが、皮肉にも実験への【貢献】が、それをさせなかった。



娘を甦らせようとしていたその間。

平行していたもう一つの実験があった。


それが、勇者。


魔物を廃し、人類に平和を齎す者。



彼が改良を加えた情報伝達システムをフルに活用し、洗脳。


より従順で、完璧な兵を生み出す。


だが、肉体の強化・成長促進により、寿命が短いという問題点が発覚。

加えて、人型の生物を造るのが至難。


魔物の根絶が目的ならば、人間でなくとも良いのでは?

と、研究者は聖王に掛け合ったが、それを拒否。


民に希望を与える存在は、美しくなくてはならない。


それが、拒否した理由。

研究内容と同じく、聖王も狂っているのだろう。



彼女が知るのは、此処までである……


今日はここで区切り。多分、次の投下で終わると思います。

早くて2日後、遅くなったらごめんなさい。


今日で終わりそうだから、投下する。



それから、二カ月が経った。


二人は変わったかと言うと、そうでもない。

勇者は、彼女から語られた事実に混乱したが、受け入れた。

いや、受け入れたのか理解したのかも分からないが、否定はしなかった。


その時、勇者が口にしたのは


「そうだと言うのなら、そうなのだろうな。突拍子も無い話しだが、信じる」

「ただ、聞いておいて何だが、あまり関心が無いんだ」


「お前が傍に居てくれれば、それで良い。そんな気がする」


それだけだった。


彼女は頬を朱に染め、それを受け入れ、二人は旅を始めた。

世界を知り、人々を救う為の旅である。


悪魔化については、不明。

知る術は、ドームにある。


ドーム内の研究施設に行けば、すぐに判明するだろう。



だが勇者は、危険を冒してまで行く気にならず、其処までして知りたいとも思わなかった。

屈託無く笑う彼女が傍に居れば、それだけで、心が満たされたからだ。


現在、二人は瓦礫の街に居る。


地下の人々と出逢い、少しでも安心して暮らせるよう、地上の魔物を排除。

地下の人々は大いに喜び、感謝し、歓迎した。


聖王国に追放、見放された彼等の心に、希望が灯りつつあった。



『勇者なら、間違いを正してくれるのではないか?』





聖王を打ち倒すとかでは無い。

外界でも生きて行けるのだと、そう思い始めていたのだ。


しかしその夜、予想外の人物が、二人の前に現れた。



ーーーー
ーー


「目標を確認」


倒壊したビルの上、其処には、ライフルを構える女性の姿。

気高さと美しさが、月明かりに照らされ、より一層際立っている。

彼女の装備は、当初の勇者が着用していた物と同じ。

一つ違いがあるとすれば、彼女に魔物が寄ってこない事。


スコープ越しに目標を観察する瞳には、感情らしきものは見受けられない。


「勇者を抹殺、する」


が、彼女に異変が起きた。

引き金に掛けた人差し指が、動かない。何やら、苦しそうである。


「頭が、っ…」


それは、勇者が体験した痛みと同一の物。だが、彼女に『それ』は有り得ない。


過程は違えど、記憶は消去、洗脳された、完全なる人形なのだから。


事実、勇者を追う最中。

外界に住む人々に聞き込みを行った際、こんな風にはならなかった。

誰が、どんな表情を見せようと、彼女は変わらなかった。

彼とは違い、彼女は一切の疑問も湧かない。


「予定変更。剣による近接戦闘」


今までに無かった出来事。

頭痛は止まず、照準に狂いが出ると判断した彼女は、狙撃を断念。


彼が一人であったなら

此処に居るのが彼女でなければ

狙撃は、確実に成功していた事だろう。


「この感覚は、何」


彼女は、聖女という。


勇者の次に造られた存在である。

聖王の命により、欠陥品である彼を抹殺し、遺体を持ち帰る。

より良い【勇者】を造るには、彼が必要だと考えたのだろう。


結果、それが災いを齎す事になるなど、聖王には予想出来ていない。


人間に、管理出来る筈も無い。


何故ならそれは

偶然か、或いは、運命と呼ばれるものなのだから。



瓦礫の街 地上


ピクシー「まだ心配なの?」

勇者「オレが? 何を心配する」


ピクシー「だって、違う街とかに来ても、いつも外で寝てるから」

ピクシー「魔物が寄ってくるの、心配なのかなーって」


勇者「あぁ、言われてみれば確かに、あの時以来、習慣になっていたのかもしれないな」

勇者「まあ、怖いんだろう」


ピクシー「誰かが悲しむのが?」



勇者「ああ、そうだ。折角、沢山の人々と出会えたのに、そんなのは御免だ」


ピクシー「魔物の毛皮着てるクセに、変なのっ」クスッ

ピクシー「今は慣れたけど、あの時は笑ったなー」


勇者「頑張って作ってくれた服なんだ。笑うな」

勇者「……確かに、やり過ぎな気もするけどな、コレは」ファサッ


ピクシー「あはははっ、ダメっ、止めてっ、お腹が苦しい」バタバタ

ピクシー「腰巻きにマント、弓と槍まで作ってくれたもんねっ」


勇者「笑いすぎだぞ、全く。腰巻きやマントはともかく……」


勇者「この鎧は優れているし、弓と槍にも満足してる」

勇者「凄い技術だ。またいつか、一瞬に会いに行こう」


ピクシー「うんっ」ギュッ

勇者「おい、止めろ」


ピクシー「って、言うだけで嫌がらないよね、アナタってさ」モゾモゾ


ピクシー「はぁー、暖かい」



勇者「マントを馬鹿にしていた割に、気に入ってるな」

ピクシー「嫌いだなんて言ってないし、ふかふかしてて、好きだよ?」


勇者「(いつまでも、このままでいられたら。それが、幸せってやつなのか?)」

勇者「(それとも、愛してるってやつか? 愛してる……か、悪くないかもな)」


ピクシー「いたっ」ズキンッ

勇者「おい、どうした?」


ピクシー「分かんない。なんか、急に頭が……」ピクッ



ピクシー「何か、来る。アナタ、気を付けて」



勇者「魔物か」


ピクシー「違う、魔物じゃ…ない」ズキンッ

勇者「おい、無理するな。お前は地下に」


ピクシー「出来ないよ、そんなの。絶対、離れたくない」

ピクシー「私は、アナタの傍にいる」


勇者「だが、かなり顔色が悪い」


ピクシー「傍に居てって、そう言ったのは、アナタだよ?」

勇者「……そうだったな、分かった。オレの後ろに居ろ」



勇者「オレから、絶対に、離れるな」


ーーー
ーー


勇者「お前は、誰だ?」

聖女「私は聖女。勇者は、貴様……貴方で間違い無いな」ズキッ


勇者「(あの装備は……と言うことは、コイツも同じなのか?)」

勇者「ああ、勇者はオレで間違い無い。何の用だ」


聖女「聖王様より、貴方の抹殺を命じられた。任務を遂行する」

勇者「随分、素直に話すな。勝てる自身があるからか?」


聖女「勿論」


ピクシー「……私、なの?」



勇者「何だって?」


ピクシー「やっぱり、私の体。なんで……」

ピクシー「二度と目覚めないって、言われてたのに」


聖女「何を言っている。私は、聖王様の力により生まれた」

聖女「お前などでは、無い」


勇者「(何がどうなってる。聖女が、コイツの本物?)」

勇者「(いや待て、体は残っていると言っていた)」



勇者「(それにカガクとかを使って? 駄目だ、分からない。)」



ピクシー「聖女は、忘れてるだけだよ」

ピクシー「お父さんや、色んな研究の事も……」


ピクシー「私は、お母さんから生まれた。聖王なんかじゃ…ない」ズキンッ


聖女「っ、何だ。この、痛み」ズキンッ


何かが繋がっている。

恐らくそれは、記憶伝達時の、名残。


共鳴、のようなものだろう。



勇者「おい、しっかりしろ!!」


二人共に、その場に崩れ落ち、止まない頭痛に悶えている。

特に苦しんでいるのは、ピクシー。

汗も酷く、呼吸も荒い。


聖女「(知らない、こんなの知らない。見たく無い、嫌だ……)」


鍵は、開いた。

凄まじい量の記憶が、彼女に流れ込んで往く。


父や母、飼っていた犬、花……


そして、実験。


聖女「いやっ、助けて……お父さん、助けて」


混濁、彼女は記憶の中でもがいている。いや、体験しているのだろう。

だがそれも一瞬。

次に見た景色は、彼女の物では無かった。


それは、もう一人の自分の記憶。




ザザザザザザ……



『それだけー?』


『お前が居ないと……』

『いや、違うな。お前が傍に居ると安心するんだ。頼む』


『やめてっ!!』

『なっ!?  馬鹿、早く逃げろ!!』


『ようやく気が付いたか、良かった。もうすぐ洞窟に着くぞ』


『……アナタ、何で上半身裸なの?』

『まさか、私が気を失ってる間に!!』



『ヘンタイだねっ』

『降りろ』

『やーだね。アナタ、寒そうだし、くっ付いててあげる』


『おい』

『なーに?』

『その、助かった。ありがとう』

『……うんっ』


『何かが、そう命じるからだ。悲しみは、見ていて気分の良い物じゃ ないからな』

『………かっこつけちゃって』



『何とでも言え』





『そうだと言うのなら、そうなのだろうな。突拍子も無い話しだが、信じる』


『それに何というか、あまり関心が無いんだ』







『お前が傍に居てくれれば、それで良い。そんな気がする』






伝わってきた情報、記憶。

それは何よりも温かく、心地の良い物だった。

しかし、その情報を得てしまった為に、彼女は暴走する。



聖女「其処は、私の……」ギリッ



ピクシー「はぁっ、はぁっ……うっ」ズキンッ

勇者「しっかりしろ。っ、地下に連れて行けば、何とか」ギュッ



生まれ出たのは、嫉妬。


頭痛に耐え、彼女は立ち上がった。

彼女の想いを知った彼女は、感情に目覚めたのだ。

そして、彼の想いは、自分では無く、彼女に向けられている。


怒り、憎しみ。


本来、一つである彼女は、分かたれた為に、悲劇を生む。



聖女「アナタと共に居たのは、私」ズキンッ

聖女「ソレは、私の偽物。其処は、私の場所っ!!」グッ


彼に抱かれる彼女に向けて、発砲。

奪われたと、そう感じたのだろう。


いや、そもそもから違う。彼女は、ずっと傍に居たのだ。

彼女(ピクシー)は、彼女(聖女)に違いないのだから。


ピクシー「あっ…」

勇者「えっ……お、い。なに…何で」


聖女「私は、私は此処に居る!!」



聖女「アナタは、私に傍に居て欲しいって、そう言った!!」




ピクシー「はっ、はぁっはぁっ……」


勇者「……頼む。目を、開けてくれ。いつもみたいに、笑ってくれ」ギュッ


ピクシー「私、は、アナタ、を、愛してる」

ピクシー「だ、から、私を、嫌いに、なら、ないで? ねっ」ニコッ


ガクンッ………


聖女「私が、アナタの傍、に…」ズキンッ

聖女「あ、れ?」ブツッ


ドサッ……


ーーー
ーー


勇者「何が、何だか……でも、オレは」


ピクシー「……………」

聖女「………………」


勇者「オレは、【彼女】を失ったんだな」

勇者「涙、まさか自分が流すとは思わなかった……」



勇者「は、はははっ…くっ、うぅっ」






勇者「間違ってる!! 全て!! 世界も、人間も、狂ってる!!」


勇者「オレは、誰も悲しまないようにしたかった!!」


勇者「ずっと、ずっと共に居たかっただけだ!!」


勇者「何故奪う!! 彼女が何をした!! ふざけるな!!」



勇者「ガアァァァァッ!!」



吼える。

天を仰ぎ、月を睨み、只々、吼える。



勇者「………そうだ。人でありながら、人を苦しめ、支配するなど」


勇者「神の如く振る舞うなど、許されない」

勇者「聖王。お前の、言う通りだ」









勇者「悪は、滅ぼさなければならない」









「お前が、今も尚、そうであるように」


「オレは、オレ自身が、お前を悪だと断定し、裁く」




区切り。続きは夜に投下します。


書けたので、投下。



その日以降、世界は闇に包まれた。


ドームに住む者は、一時の出来事だと、深くは考えなかった。

誰かが、誰かが何とかしてくれるだろう、と。


麻痺している。


いつまでも、世界に存在していられると錯覚しているのだ。

終わりなど、滅びなど、彼等には考えられない。



現実に生きながら、現実を生きていない、彼等には。


そんな彼等には、知る由も無い。


魔物やウイルス、新たな生命の創造。


それは命を、神を冒涜する行為に他ならない。


人間が生み出し、行ってきた多くの罪、それを裁く存在。

ウイルス等という紛い物より、もっと怖ろしく、抗いようの無い、大いなる存在。




正に、神と呼ぶべき、絶対の存在の目覚め。



聖王の言う通りである。


彼は、人間では無い。

彼は、暗黒に染まり、滅びの化身と化したのだ。


たった一人の女性、彼と共に過ごした唯一の【人間】。

彼女を失ったが為に、彼女を奪ったが為に、世界は滅ぶのだ。


あまりに傲慢で身勝手。


愛する者を失った為に怒り狂い、世界を滅ぼすなど、許されない。


だが、彼を許す事など、まして罰する事など誰が出来ようか。


彼は、神。


今や、全てを破壊し尽くさんとする暗黒。

彼は、それだけの力を持っている。


弓を射れば山は忽ち崩れ、歩めば大地が震え、槍は魔を焼き尽くした。

三日三晩、愛する者を背負い、泣き叫びながら、世界を歩き続けた。



彼女と歩んだ道を辿り、怒りを撒き散らし、破壊しながら。



そして、辿り着く。


彼の始まりの地であり、王を語り、神を気取る人間が住む場所へ。

目視出来る距離でしかないが、彼女を背から降ろし、彼は弓を手に取る。


「……………」


弓を射ると、ドームを包む防御壁は、容易く砕け散った。

彼には、一つだけ目的がある。


何を破壊しようと、何を奪おうと、彼女を救う。

ーーー
ーー



「彼女を救え。さもなくば、殺す」


警備兵など太刀打ち出来る筈も無く、彼は目的の場所へ向かった。

其処は、研究所。

彼と、彼女が生み出された場所である。


「わ、分かった。分かったから殺さッギャアアアッ!!」

「早くしろ。殺しはしない」


研究所に入り、全ての実験、全ての事実を知った彼は、凄まじい勢いで知識を吸収した。


その後、研究員を集め、指示を与え、従わせる為に、数名を殺害。


「い、言われた通りにしました。だから、助けて下さい!!」

「血、血がッ!! は、早く助けて」


懇願する研究員達を無視、指示通りかを確かめる。

問題点が無いか、再度点検しているようだ。


「問題は無いでしょう!? お願いします、早く手当てさせて下さい!!」


「黙れ。この部屋から出ろ、脚が無い者は、這ってでも出ろ」


「死にたくなければ、早くしろ」

ーーーー
ーーー


全ての研究員は部屋から出たが、全員が深い傷を負っていた。

中には、部屋を出てすぐに息絶えた者もいる。


彼等は神に懇願したが、返ってきた言葉は、無慈悲なものだった。


「その傷では、どの道助からない」


神は、罪人にそう告げると、その場を後にした。

中には口穢く罵る者もいたが、その者は一瞬にして焼失。


他の者達は口を噤み、運命を、受け入れた。

ーーーー
ーーー



「びる、だったな。人を見下ろし、神を気取るか」


見上げたのも束の間。

跳躍し、硝子を叩き割り、神は、王の前に立つ。


「な、何だ……貴様はだ…れ?」

「お前を裁く者だ」



気付けば、眼前に立っていた。

驚愕に見開かれた瞳は、絶望に染まっている。


王は地を這いずり、神によって踏みつけられる。

叫び、泣き喚き、懇願し、罵り、罪を擦り付け、また叫ぶ。

その一切が、人の暗部を象徴しているかのようだった。


「殺されたくなければ、救われたければ………」

「其処から、飛び降りろ」


割れた硝子窓を指差し、命を下す。

その声には、途轍もない威厳、逆らえぬ力があった。


自らを踏みつけ、見下す、大いなる存在。


それがよもや、自身が発案した研究の産物などとは、思いもしないだろう。


王は這いずり、硝子窓を目指す。



「ひひっ、神が言うのだ。飛べば、絶対に助かる筈だ」

「はぁ、はぁ、ふっ、ふぅっ……わぁあああああ!!」





「神など存在しない」

「もし存在するなら……」





「彼女を見殺しにする神など、この手で、殺してやる」





その後、暗黒は去り、再び、太陽が世界を照らす。


魔は消え去り、人々は真の自由を得た。


彼等は、救われたのだ。


皆は言った。



勇者が闇を打ち払い、光を取り戻したのだと………





人々は、知らない。








世界に光を取り戻したのは

たった一人、たった一つの、笑顔だということを……





ーーーEND


最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。


もう書かないと思うので、今まで書いたやつ晒します。

他にもありますが、未完なので。全般的に厨二です。

個人的に、厨二でもいいと思ってます。クサい台詞も好きです。

下手くそでも、書きたい物を書けばいいと思います。

ありがとうございました。


魔王「せつねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs


もう書かないと思うので、今まで書いたやつ晒します。

他にもありますが、未完なので。全般的に厨二です。

個人的に、厨二でもいいと思ってます。クサい台詞も好きです。

下手くそでも、書きたい物を書けばいいと思います。

ありがとうございました。


魔王「せつねぇ」

鬼姫「早く来ないかしら」

吸血鬼「俺はお前の血を飲みたくない」

少年「それが、僕の名前……」

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