オティヌス「見つめる世界」トール「忘れ物を捜しに」 (47)


・オティヌス×トール(どう略せばいいかわからん)

・キャラ崩壊、設定壊変あり

・更新は不定期

・時間軸は旧約完了後

・雑談、質問は気軽にどうぞ

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十月三十日。第三次世界大戦終結。
オティヌスはそれに乗じる形で科学と魔術の融合組織『グレムリン』を結成した。
ただ、一人だけ彼女の声に応じなかった少年がいる。
雷神トール。
北欧神話を母体とする『グレムリン』において、彼は重要な存在だった。本来ならオティヌスに次ぐナンバーツーの地位を占めていたはずだ。
魔術サイドにおける戦争代理人。生粋の戦闘型。
オティヌスは誰もいない部屋のソファでふと彼との会話を思い出す。
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――――――
――――
――

真っ赤な夕日が見える丘で、トールはボーっと何かを見ていた。
何を見ていたのかは、オティヌスにはわからない。

『私の組織に来い』

神らしく、傲慢で自分勝手な誘い文句だった。
しかしこれでも応じる人間は応じる。彼も受けいれるだろう。オティヌスはそう思っていた。
だが。

『……悪いけど、それはできねえ』

彼は間こそ開けたが、さしたる迷いも見せずに答える。
オティヌスがわずかに怪訝な表情をした。

『……なぜだ? お前の上にいる私という存在が不満なのか?』

オティヌス、正確には魔神オーディンは北欧神話における最高神で、トールはそれに次ぐ存在。つまり、トールよりオティヌスの方が格としては上である。個人主義の魔術師としてそこが気に入らないのかとオティヌスは思った。

『そうじゃねえよ。……俺はそこにいる資格がない』

『資格……? 「グレムリン」にそんなものはない。第一、組織の長たる私が直々に出向いたのだ。これ以上の資格などないだろう』

『確かに、そうかもしれねえがこれは俺の主義だ。……お前だって個人の都合でトップに立ってるんだろ? だったら俺だって個人の都合でその誘い蹴っても構わないはずだ』

『……』

オティヌスには彼が何を言っているのかわからなかった。
いや、きっとトールも自分がどうしたいのかよくわかっていないだろう。
だって、彼は当てもなく真っ赤な夕焼け空を見上げるのだから。

『……綺麗だな。本当に、綺麗だ』

トールの独り言はまるでオティヌスを忘れているかのように風に消されていく。
オティヌスはそんな呆けた老人のようなトールに背を向ける。そして最後に問いかけた。

『……「グレムリン」に入る事はお前の思惑から遠ざかるのか?』

『いいや? 俺、そんな事言ったっけ?』

『ならば、どうしてだ』

トールは初めてオティヌスの方へ振り返った。
少年らしからぬ白く、綺麗な肌が夕日で赤く染まっていく。

『忘れ物があるんだ。それを探しに……』

そう言ってほほ笑んだ少年はゆっくりとオティヌスに背を向け、歩きだす。
彼の言っている事の意味はわからないし、知る必要もないのだろう。
ただ、何となく思った。
意味も必要もない事だけど……考察し、思索してみる価値はあるんじゃないか、と。
――
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結局、彼の『忘れ物』が何なのかオティヌスは今もわかっていない。
そもそも本人がわかっていないのにその答えを他人である彼女が探そうとする事自体どうかしていた。
しかし不思議と考えさせられた。
『魔神』になるには最低限の知識が必要だ。その最低限も常人からすれば膨大な量で、とても処理しきれるものではない。オティヌスはそれをいとも簡単に手に入れている。つまり彼女は無意識のうちにインプット、アウトプットを好む傾向にあるという事だ。
端的に言えば「知的探究心をくすぐられる」と言ったところだろうか。
ソファによりかかり、唯一口に含める葡萄酒を少し大げさに飲みほしながら彼女は考え続けた。
トールの忘れ物について。
彼が忘れたのは強力な霊装なのか。
そもそも彼ほどの魔術師がそんな間抜けな事はしないだろう。
だとすれば自分の力を高められるヒントなのか?
前提として彼はそんな安っぽく、安易な方法はとらない。彼は、戦闘の中でだけ己を高めてきた。
仮説を立てては否定する。その繰り返し。

「フフ……」

気づけばオティヌスは、自嘲するような笑みを浮かべていた。
何をしているのか、自分を疑いたくなる。
今の自分は世界を脅かす存在となる組織のリーダー。あんな男一人を気にかける必要なんてどこにもない。

「……ロキ」

オティヌスが自分の気持ちを切り替えるように呟く。
その小さな声と同時に、どこからともなく執事服の老人がオティヌスの後ろに現れた。
悪神ロキ。何度も神々をだましては困らせる。そんな神の名を冠する老人。

「お呼びでございましょうか、オティヌス様」

老人は『執事』と呼ぶにはふてぶてしい態度でオティヌスへ問いかける。
しかしオティヌスはそんな態度を歯牙にもかけない。

「……これより計画通りハワイを襲撃する。手はず通りに行動させろ」

「かしこまりました。……時にオティヌス様」

「……何だ。計画の説明を二度する気はない」

オティヌスの辛辣な言葉にロキは「いえいえ」と首を振る。
そしてまたふてぶてしく言った。

「オティヌス様は想いをよせる男性がいらっしゃるのでしょうか?」

「……?」

オティヌスには一瞬、ロキの問いかけの意味が理解できなかった。
ただなぜか、あの日のトールの姿が思い浮かぶ。
白い肌に少しだけオレンジを反射させ、ほほ笑むあの少年の姿が。

「……いると思うか?」

「これはこれは……」

ロキはオティヌスの気分を害したと判断したのか、後ろで頭を下げる。
しかしロキはそこで終わらなかった。

「ただ……不肖、私の経験から判断させていただきますと、オティヌス様は多少なりとも恋心を持っているようです」

「ほう……そう思った根拠は?」

「根拠と言われますと弱いですが、そういうものは目を見ればわかるものです」

「目……か」

ふと思い出すトールの純粋で、まっすぐな瞳。
だがそこでオティヌスはその思考を振り切った。
ロキに言われる全ての言葉がトールとのわずかなやりとりに集約されている。
これではまるで――――

「ロキ……無駄口は時間の無駄だ。さっさと行け」

「……かしこまりました」

オティヌスの制する声にロキはしぶしぶといった調子で姿を消した。
ロキがいなくなると同時にオティヌスは緑の隻眼を閉じる。
暗い、暗い暗闇の中で何が見えてくるのか確かめたかった。
しばらくたって。
何も、浮かばない。
そして、笑う。

「残念だったな、ロキ。お前の予想は……外れだったよ」

瞳を開けたオティヌスは立ち上がる。
そう、これでよかった。そのはずなのに。
何も見えなかった彼女の表情はどこか虚しく、さびしげだった。

今回はここまで。

安価スレと並行します。

てか、オティヌス×トールってどう略すんだ……?

魔神雷神? なんかお笑いコンビみたいでやだなあ…

何か投票始まってた…

個人的にはトルティヌですかね




投下。

平和な世界について考えてみた。
かなり、つまらない。
なら戦争だらけの世界ならどうだろう。
そんな悲惨な世界はいやだ。
戦って、負けて、少し学習して、次に戦ったら何とか勝てた。そんな積み重ねで彼は――雷神トールは強くなってきた。
そしていつの間にか『戦争代理人』なんて大げさな通り名までつけられてしまった。
正直、自分には重すぎると思う。
平和に耐えられないくせに戦争は大嫌い。戦うくせに戦争は大嫌い。
でも人は絶えず争うし、殺しあう。自分な不要になる日なんてこなかった。
じゃあ変わらなくていいや。
そう思ってるうちに、彼は何かを見失った。
それが何だったのか探してみる。
積み重ねてきたものが多すぎて、探すことなんて無理だ。
だからトールは世界をまわる事にした。
この強さも。積み重ねてきたものも。元をたどれば世界から吸収してきたものなんだから。
――
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――――――――

トールは一人でロンドンを歩く。
目的があるわけじゃない。行きたい場所だって特にはない。
ただ、自分が忘れたものが何なのかを知りたかった。
だがロンドンの趣ある街並みは自分には少し持て余すようで。
トールはその道端で立ち止まり、頬を指で掻いた。

「……どうしよう」

あたりを見回す。どこに行っても独特の個性がありそうだから困る。
限られた所持金を握り締めて祭りの屋台を見回す気分だ。
直後だった。
トールの周囲から唐突に人の気配が消える。

(……人払いか)

そして消えた人と入れ替わる形でトールの前には一人の女性が刀を携え、たたずむ。
神裂火織。世界に二十人といない聖人の一人。
彼女は長いポニーテールを揺らしながらゆっくりとトールへ歩み寄る。

「……『戦争代理人』と呼ばれるあなたがロンドンに何の用ですか?」

神裂の張りつめた声にトールはわずかに肩をすくめた。
おそらく魔術サイドは『グレムリン』が短期間で急激に台頭した事に目くじらを立てているのだろう。
ましてや『トール』という名は魔術サイドではそこそこ知られている。北欧神話という共通項がある以上、彼女の警戒は当然だった。

「そうやって喧嘩売られると買いたくなるからやめろよ。……目的なんて言うほどのものじゃないんだ」

「でも全く目的がないわけでもない……ですか?」

「まあな。……ちょっと忘れ物を捜してんだ。この世界のどこかにあるはずなんだけど、なかなか見つからなくてな」

トールは心底困った、というような表情をとる。
しかし、そんな突拍子もない話が他人に理解されるはずがない。

「……はぐらかさないでください」

「悪いな。俺はこれでもかなり真面目なんだ。まあ、当てのない世界旅行だと思ってくれ。組織の思惑なんて大それたものは含まれてねえよ」

神裂はじっとトールの目を見つめた。
とても嘘をついているようには感じられない。
でも、

(……私個人で判断できる事ではありませんね)

結局、トールは一時的にイギリスへ滞在する羽目になった。
彼としてはどうでもいいのだが、向こうの事情はそんなに甘くないらしい。

「……で? 俺はどうしてればいいの?」

「基本的にここでおとなしくしてれば制限は設けません」

「つまりロンドンから出るなって事ね……了解、と」

あまりにも素直にトールは応じる。
しかしそれが逆に神裂に疑念を与えた。

「……やけに素直ですね。もう少し渋るかと思いましたが」

「ここにとどまる理由も離れる理由もないしな。今の俺は……無意味だ」

今の自分は誰なのか。『戦争代理人』や『雷神トール』と名乗るには弱すぎる気がした。
でもただの人間です、と答えるには自分は少し強くなりすぎた。
ひゅう、と風が二人の間でなびく。
トールの泣きだしそうな表情から神裂は何かを感じた。

「……わかりました。私はこれで」

「ああ……」

トールが瞬きをした一瞬で神裂は姿を消し、人払いが消えさる。

「さて、と」

トールは先ほどまでの表情を笑みに変えた。
それはまるで今までが演技だったかのような変わり身だった。
神裂には悪いがロンドンにとどまる気はない。いや、止められたからこそ出なければならない。
トールは空を見つめぼそりと呟く。

「……オティヌス」

トールはロンドンをさまよう。
もちろん目的はあった。

「……またあなたですか」

神裂火織。
彼女ともう一度会うためだ。
トールは自分の中にあるもやもやを押し殺すように明るく言った。

「いやー、悪いな。一日に二度も会っちまって。……どうせだからどっかで食事でもしない?」

「……わかりました。どこにします?」

「そーだなあ……お前、日本人だしうどんっての食ってみたい」

「……、」

神裂は無言でトールの横に並び歩き始めた。
――――――――
――――――
――――
――

神裂は雷神トールという人物をもっと好戦的で嗜虐的な思考の持ち主だと思っていた。
それは『戦争代理人』という通り名が生んだ暗示のようなものかもしれない。
しかし、その人物は。

「はむ……ずるずるっ、うどんってこんなに美味しいんだな! 日本の食文化を舐めてたぜ!!」

「……お口にあったようでなによりです」

「食べ応えありすぎだろ、コレ」

うどんをがっついていた。

「ふー……食った食った」

「一人前だけで満足なんですね。あの勢いなら三、四杯はいくと思いましたが」

「バーカ、俺の体みりゃわかるだろ。食べるのも満腹になるのも早いんだよ」

トールはそう言って呑気に大きく背伸びをした。
そこに、さっき感じた哀愁はない。

(……気のせい? いや、そんなはずは――――)

「なあ、」

神裂の思考を遮るようにトールは口を開く。
また、空気が変わった。

「まあ冗談言い合うような仲じゃねえし、さっさと本題に入るわ。……俺さ、ずっと迷ってたんだよ。自分の生き方に」

「迷う……? あなたの功績はそんな人間が残せるようなものではないでしょう」

確かに、とトールは肯定した。
だけどその後、ゆっくりと息を吐く。

「……たとえばさ、子供が棚の上にあるお菓子を取ろうとするだろ? 自分でとれるのにわざわざ親を呼ぶヤツなんていない。俺は……俺にできる事をやってきただけだ」

「……世の中、それをできる人間は多くありません。諦め、妥協……そういう折り合いに縛られないあなたは充分すぎますよ」

神裂も『グレムリン』の調査の際にトールの情報はある程度入手している。
彼の経歴はトゲのある『グレムリン』の中でもさらに異様だった。
いくつもの紛争を一人で請け負い、千の軍勢を切り裂き万の軍勢を屠る。そうして得た勝利はその戦いを早く終わらせ、被害を確実に減らしていた。
その一方で、強力な魔術師に喧嘩を売っては世界を渡り歩くという一歩間違えれば世界を敵に回す無謀さを持つ。そんな荒削りでもよかったのだ。

そう、充分だった。外から見れば。
ただ……ただ彼には――――

――――ゴールがなかった

彼には目標がない。誰より強くなりたいとか、誰に勝ちたいという行き先がない。強いヤツと出会って、自分の経験値になりそうだから戦う。そんな、行き当たりばったりのやり方だった。
でも、だけど。
彼はその前に一人の人間だった。魔術師を名乗る前に一人の少年だった。
トールも本来なら学校へ行き、部活とか恋愛とか、そんな他愛もない体験をするべき少年の一人である。
だが、世界は彼の才能をそんな『平凡』に置いておく事を許さなかった。
気づけば彼は戦争に駆り出され、守りたいものもないのにその力を振るい勝利だけを奪い去っていく。
誰もがヒーローに感謝しただろう。誰もそのヒーローの心なんか気にしなかっただろう。
誰も少年の弱さを、敗北を認めなかった。
だからある日突然、少年の中で何かの糸がプッツリと切れた。
そして少年は何かを失い。
圧倒的な力だけが少年を高みへと昇らせ続けた。

「……なあ神裂。これっておかしい事なのか? 俺にはオティヌスの気持ちがよくわかるんだよ。アイツを理解できちまうんだよ」

「……悪役の心をヒーローが理解するな、という事ですか」

「俺は一度としてヒーローになったなんて思った事ねえけどな」

何が問題だったのか。
ただやりたいように戦った結果、何人かの命を守ってしまった事か。
それとも自分の力の危険性を正しく理解して、周りへの被害を最小限にとどめた事か。
そんな事は彼にとって礼儀作法にすぎなかったのに。周りはその当たり前を称賛し、トールを担ぎあげた。
そしてその声を見過ごせる程、トールは非常になりきれなかったのだ。

「俺は……」

「……俺は、何のために戦えばよかったんだ?」

「……、」

神裂は瞳を閉じる。
自分の魔法名はなんだ。その意味はなんだった。
答えは、単純。

「あなたのため、ですよ。あなたがそうやって戦ってきたのなら、それはもう変えられるようなものじゃないのでしょう。誰かを救う事に疲れたのなら、投げ捨てても構いません。……その重さを背負うのが私です」

「すげえな、お前」

「救われぬ者に救いの手を。それが私の魔法名ですから」

殺し名ではない。そうあっていいはずがない。
この魔法名はただ一つ。
自分のためにあるのだから。

「そう、か……そうだな。そうする」

トールは席を立つと、大きく背伸びをした。
その表情は先ほどまでと打って変わり、明るい。

「ありがとな、神裂。お前のおかげでちょっと元気でた」

早い足取りで去っていくトールを見送りながら、神裂は呟く。

「ええ、そのようですね。……私にうどん代押し付けてるんですから」

今日はここまで。

新しいカップリングに挑戦しなければと思った(使命感)


意見・質問があれば気軽にどうぞ。ネタとか提供してくれても嬉しい…

日常をやろうと思っていた時期もあった…








投下

「……始まったか」

オティヌスは空を見上げて呟いた。
他の人間にはわからないが、彼女の隻眼には学園都市の上空を漂う『ラジオゾンデ要塞』は彼女と敵対する人間達を驚愕させているはずだろう。

「……さて、」

呟いて。
オティヌスは部屋を出る。
部屋の外にある廊下を歩くのは三日ぶりくらいの事だった。
本来なら呼び出すだけで十分なのだが、今は何となく歩かないと落ち着かない気分なのだ。
理由はわかっている。

「……らしくもない」

いつまでもロキの言葉が引っかかる。まるで蟻地獄にはまったかのようだ。
だから考えてみた。もしあの老人の言っている事が自分にとって図星だとして。
対象になる男はたった一人しかいない。
雷神トール。
でも。
彼にそこまでの価値は感じなかった。
自分は何を見つめていて、何を目指しているのか。
そこに彼は、必要ない。
そう思って笑う。

「あ……オティヌス。こんなところにいたの? 全く、部屋にいないから焦ったじゃないの」

後ろから聞こえた唐突な声にオティヌスは足を止めて振り向く。
そこにたたずむ金髪の女性は、その強烈な視線に少し気押されながらも言う。

「えーと、『要塞』にトールが来てるっぽいんだけど……大丈夫かな?」

瞬間。
オティヌスの中で何かが蠢いた。

白人の女性――――シギンの話を聞いた時にはすでにオティヌスは本来の目的を忘れていた。
彼女は魔人の力を行使すると一瞬で、学園都市上空にある『ラジオゾンデ要塞』へと到達する。

(いくら五分の確率で失敗するとはいえ、ここで失敗されては少々……困る)

彼女は別に自分の誘いを蹴ったという事には何も思わない。
だが、彼が明確に自分の敵になるというのなら行動が必要だろう。
そう。
決して、彼が自分以外の誰かと一緒にいるからではない。




「……しっかしすげえ要塞だな。オティヌスの野郎はこんなもの使って何がしたいんだ?」

「それは私たちが知る必要のない事でしょう。……それよりも無人なんですね、この要塞は」

神裂もまさかここが本拠地とまでは思っていなかったが、まさか無人だとも思わなかった。
トールもそう思い、一歩踏み出す。
直後だった。

「……そこで何をしている、トール」

後ろから響く少女の声にトールは勢いよく振り返る。
そしてたったそれだけの行為を完了させる間に、後ろの魔神は聖人を屠っていた。

「――な」

トールが声を上げる間などない。
神裂を確認しようと視界をずらした隙に、彼の体は空を漂う要塞の地盤にたたきつけられた。

「……トール。こんなところで何をしている?」

「ったく……お前は客人をまともにもてなす事もできねえのか」

「不法侵入罪だよ、お前らは」

軽く言葉を交わし、二人の神は動き出す。
トールはその指先から長い溶接ブレードを光らせた。本来なら、あまりの強力さに加減するところだが、無人の要塞ではその必要もない。しいて言うならふっ飛ばされた神裂くらいだ。
しかしいくらトールと言っても、その上に君臨するオティヌスには届かない。
最初こそオティヌスの五分五分の可能性が負の方向に傾いてくれたが、それだていつまでも続かなかった。
打つ手なし。
何をしても最後は負ける。
結局、トールは地面に倒れ伏した。しかも今度はオティヌスが馬乗りになる。
彼女の隻眼がトールを見据えた。
そのあまりの殺気にトールは本気で死を覚悟する。

(……好奇心だけで踏み込むべき領域じゃなかったか?)

オティヌスの手がゆっくりとトールに迫り触れる――――
――――直前に

「……私を、舐めないでください!」

すさまじい速度で神裂が突進し、オティヌスの体を吹き飛ばした。
オティヌスは地面をしばらく転がっていったが、大したダメージも感じさせずに立ち上がる。

「やれやれ。さすがは『聖人』と言ったところか。並みの魔術師なら今の一撃で死んでいるぞ」

よけられなかったのではない。その必要がなかった。
状況がリセットされたなら、された分だけやり直せばいいのだから。

絶望的な状況は、好転しない。
どっちが勝つかなんて見え見えだ。
だが、神裂には仕事というものがあるし、トールもここで逃げるほど臆病ではない。
いや、仮にそうしたとしてもそうした瞬間に殺されるだろう。
だがあくまで前に突っ込むなら五分の勝ちが拾えるかもしれない。

「甘いな……運任せで私に勝てると思うなよ」

いや、そもそも無理だった。
全力は尽くしたつもりだ。やれる事も全てやった。
でも。

「今のお前らなど、『槍』を欲する必要もない。――つぶれろ」

オティヌスの言葉は。
そのとおり、実行された。
――――――――
――――――
――――
――

トールが目を覚ましたのは簡素なベッドの上だった。
体を起こそうとするが、体に激痛が走る。

「……っ、」

トールがその痛みに表情を歪めると同時に、部屋に神裂が入ってきた。

「起きられましたか……すいません、私がいながらあなたにそんな深手を負わせてしまって……」

「それより……要塞はどうなった?」

「……空中分解しました。オティヌスはまるで飽きたおもちゃを捨てるようにあれほどの規模を誇る要塞を放棄したんですよ」

「そう、か……」

トールは神裂の言葉に顔を俯けた。
今までだって負けた事はある。でも、あそこまで何もできなかったのは初めてだった。
全く予測できなかった事ではない。こうなる事はうすうす感じていた。
だが、行かなければいけない気がしたのだ。自分を誘ったオティヌスが何をしようとしていたのか自分の目で確かめるべきだと思った。
トールは起き上ろうとしていた体の力を抜く。

「……すまなかったな、神裂。勝手についていって足手まといになっちまった」

「いえ……私はあなたより先にやられてしまいましたから。目を覚ました時にはぼろぼろのあなたがいるだけで……」

「お前はほぼ無傷なのに、俺はこの様か。……どうやらオティヌスは相当怒ってるみたいだな」

「そのようですね。あなたはもう今回の事に関わらない方がいいのでは?」

「かもな。……でもここでやめちゃいけない気がするんだ。何か……つかめそうなんだ」

トールの目は力強く神裂を見据えていた。
どこか見覚えのあるその目に神裂はため息をつく。

「言っても聞かないつもりですね。……わかりました。でも今は治療に専念してください。私が面倒見ますので」

「わかったよ。……あーあ、退屈しそう」

トールの大きな嘆息が部屋に響いた。

今回はここまで。

引き続きネタというものを求めております

面白い!
そういえばトールって今どうしてんの?

>>35
ありがとうございます
神裂さんといちゃいちゃしてんじゃない?(適当)





投下。

オティヌスは夢を見た。
それはとてつもなく広く、どこまで続くかもわからない荒野に一人立たされるという夢。
歩いても、歩いても、他に何も見えなかった。
別にその事に絶望はしない。彼女にとってはどうでもいいことだったのだ。
だが。
やがて一人の人影を見つける。
彼は長い金髪を風になびかせていた。
そしてオティヌスの方を振り向くと、笑って呟く。

『やっと、見つけた』

「……何をだ」

こんなものは自問自答に等しい。
でも自然と問いかけていた。
その言葉に少年に口は動き――――

――――目が覚めた

「……、」

オティヌスは体をソファから起こすと、唯一口に含める葡萄酒を一杯あおった。
彼女にとってはただ一つの飲食物になるわけだが、こんな風に口に含むのは初めてだった。
まるで、何かを忘れるように。

「……バカバカしい」

オティヌスはそう呟くと、テーブルの上にあるチェスの駒を一つ動かした。

一方、その頃。
このオティヌスの変化をロキが二人の人物に話していた。
一人はウートカルザロキ。
もう一人はシギン。
老人は神妙な面持ちで二人に言う。

「……どうかご協力ください。他に頼める人はいないのです」

「まーそりゃそうだな。ベルシとマリアンは論外。フレイヤも境遇を考えりゃ酷だし……雇われどもにこんな事を言えるはずもない」

自身の金髪をいじながら、ウートカルザロキは皮肉交じりに言った。
横でシギンがため息をつく。

「……女遊びと恋愛は全然違うんだけどなあ」

「はあ? じゃあお前は真剣に付き合った相手でもいるのか?」

「なくても私の力はそういうのには持ってこいだし」

シギンは勝ち誇ったように答えて立ち上がった。
そしてビシ! とウートガルザロキを指さす。

「まずはアンタのお手並みを拝見するわ。オティヌスから情報を引き出してみなよ」

「楽勝だろ。そんなもん。せっかくなら勝負しねえか? オティヌスからより多くの情報を聞き出した方が勝ちって寸法だ」

「いいわね、それ。じゃあ罰ゲームは負けた方が一日絶対服従って事で」

「オーケー」

二人はくだらない火花を散らしながら部屋を出る。
後に残るのは老人の嘆息だけだった。

翌日。
三人は簡易的な談話スペースで落ち合った。
最初に口火を切ったのはシギンだ。

「さて……始める前に一つ聞いておくわ。何でアンタそんなにぼろぼろなの!?」

「いや……いろいろあって」

そう。
シギンの目の前には体中が傷だらけのウートガルザロキがいた。
彼はその口を重々しく開く。
――――――――
――――――
――――
――

「よお、オティヌス」

「……どうした」

ウートガルザロキはオティヌスの不機嫌そうな様子を見て、確信する。
何かある、と。
大方、何か考えていたのだろうと目算をつけて彼は会話を続ける。

「いやー、何か最近のお前が変だから心配になちゃって」

「……あの爺の入れ知恵か? まあいい。部下にそういう事を気にかけさせる訳にもいかん」

オティヌスはそう言って、ウートガルザロキを引き連れる。
そして自身の書斎に彼を招く。

「……女の部屋で二人きり、か」

「あまりふざけた事を抜かすと私はお前を粛清してしまうかもな」

「おー怖い怖い」

ウートガルザロキは少し大げさに肩をすくめてからソファに腰をかける。
ここからが問題だ。
あまり下手な事をすると本当にここで人生が終わりかねない。

「えーと、さ。気づいてるみたいだしはっきり言う。……お前、トール誘うの失敗してから少し変だぞ?」

「本気で受け売りか? 確かにアイツがこっちに来なかったのは少し意外だが、別に気にする程ではない。誤差の範囲だ」

「そうかね? 俺にはお前が少しばかり無理してるように見えんだけど」

「……そこも同じだ。なぜお前たちは根拠のない理論ばかり並べたがる」

「いやいや……俺はあくまでお前の様子が変わった大体の目安を言っただけで、『トールが来ないから様子がおかしくなったな』と断言してねえぞ?」

「……、」

オティヌスがわずかに言葉につまる。
その隙にウートガルザロキは畳みかけた。

「もっと言えばアイツが来ない事がお前にとっての計算外だったなんて俺は知らなかった。それこそチェスの捨て駒と同じくらいにしか思ってないと感じてたんだ。……全く、魔神様にはアイツがどんな風に見えたんだ?」

「……そうだな、」

オティヌスは考え込むように葡萄酒をいれたワイングラスを見つめる。
ウートガルザロキがその口元に注目した瞬間だった。
唐突に彼の首元にオティヌスの手が伸び、ウートガルザロキの体が壁に押し付けられる。

「……今後、その話はするな」

意識を失う直前。
彼が聞いたのは怒りの混じった魔神の声だった。

――
――――
――――――
――――――――

「……え、」

ウートガルザロキから話を聞いたシギンは唖然とした表情で口を開いた。
ロキと顔を見合わせ、わずかに笑う。
半分冗談かと思ったがこれはあり得る、と。

「……てか、話したがらないとか露骨すぎない?」

「私もそのように思います」

「……っ、普通好きな男の話はしたがるもんじゃねえのか?」

ウートガルザロキの痛みを耐えながらの言葉をシギンは鼻で笑う。

「そんなんだからぼろぼろになんのよ。……もうちょっと慎重に攻めなきゃ。私なんか頑張ったんだからね!」

「じゃあ聞かせてもらおうか! ……ってて」

「アンタ、本気で大丈夫?」

――――――――
――――――
――――
――

シギンがオティヌスと会ったのはウートガルザロキが文字通り吹き飛ばされてから、数時間後の事だった。
彼女は書斎を直接訪れると、軽い調子でソファにつく。

「……今度はお前か」

「たまには女二人ってのも悪くないかなって」

「マリアンやフレイヤに女らしさを求める気?」

「……それもそうだな」

さすがにその辺はわきまえているのかオティヌスはあっけなく肯定する。
そして葡萄酒を一杯、シギンへ差し出した。

「……飲むといい。私が術式の関係で飲んでいるものだが、中身は普通のそれと変わらん」

「ありがと」

差し出された葡萄酒を素直に飲み干す。
若干、アルコールが強い気もしたがこの程度は問題ないだろうとシギンは判断した。
だが。
何度かおかわりをしていくうちにシギンの頬が赤みを増す。
さらにもう一杯飲む頃には呂律も怪しくなっていた。

「だぁからぁ……オティヌスはトールに来てほしいんでしょ!? なりゃさっさと行くべきだと思うんだけど!!」

「……ほう、なぜだ?」

「アイツは見かけはいいからモテるよ? とられちゃうよ? いいの?」

「ふむ……確かにあの力がこちらに向くのはさらなる誤差を生むか?」

「そぉじゃなくてぇ……オティヌスちゃんはトールともう一回会ってみたいんでしょ!? ドキドキしてんでしょ!? って話ぃ……」

「……、」

シギンの方がいささか信用できるのか。
彼女はウートガルザロキのように吹き飛ばす、という事はしなかった。
それはシギンの力の性質を気にしての事なのかもしれない。
しかし既にベロンベロンのシギンにはそんな彼女の心の微細な動きなど気にかける余裕はなかった。

「オティヌスちゃん、最近ボーっとする事多いよね? トールちゃんの事考えてるんでしょ? 自分の気持ちに素直になった方がいいよ? 若いんだから」

「……お前よりはるかに長生きしてるのだがな」

「むぅ……じゃあ、私がトール連れてくるから!」

「ほう……いつ?」

「明日! 任せといて!!」

シギンは誇らしげに立ち上がり、書斎を出る。
彼女の陽気な鼻歌がオティヌスの耳に届く。

「……トール、か」

オティヌスはそっと目を閉じる。
そこにはあの金髪の少年が静かに写りこむだけだった。
――――――――
――――――
――――
――

「どう?」

「……いやいや、」

ウートガルザロキは手を横に振ると、どうだと言わんばかりの表情をするシギンに呆れた目線を向けた。

「お前、自分が何言ったかわかってんのか!? こうなったらオティヌスは絶対に行かせるぞ!」

「酔った勢いでやった。後悔はしていない」

「遠い目しながら言うな! ……とりあえず賭けは俺の勝ちだな」

「はあ!? さらりと勝利すんなし! ここはロキが決めるべきだよ。第三者として」

シギンは自分の勝利を確信してそう宣言する。
しかしロキは二人の顔を見合わせ、歯切れ悪く言った。

「……大変申し上げにくいのですが、」

ロキはゆっくりと二人の後ろを指さす。
そこには。

「……お前たちは私を使って賭けに興じていたのか。いい度胸じゃないか」

異様な雰囲気を放つオティヌスがいた。
彼女は血走った目で二人にを見据える。

「そうだ。そんな仲良しの貴様らには二人でロンドン……トールの元へ飛んでもらおう。無論、骨を拾う気はない」

「「oh……」」

二人は為す術もなくうなだれるばかりだった。

今回はここまで。一回まるまる小ネタに使うという…

そしてウート×シギンはずっと考えてました
あの金髪コンビは仲よさそうですよね

小ネタ・質問は常に受けつけつけております

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