ニート「七つの大罪……?」 (133)

<ニートの家>

ニート「七つの大罪……?」

天使「はい、あなたは七人のうちの一人に選ばれたのです」

ニート「ふうん……」

ニート「七つの大罪っていったら、あれだろ……?」

ニート「『このマンガがすごい!』で五位になった漫画だよな?」

天使「漫画の話ではありません」

ニート「もちろん、毎週読んでるよ」

ニート「ネットで無料ダウンロードしてね」ニッ

天使(クズ野郎が……)

ニート「七つの大罪っていったら──」

ニート「怠惰、傲慢、嫉妬、色欲、強欲、憤怒、暴食、だっけ?」

天使「はい」

天使(よく知ってたな……。どうせ、漫画やアニメで得た知識だろうが)

ニート「で、俺はどれなわけ?」

天使「“怠惰”です」

ニート「あ~、やっぱり」ニヤニヤ…

天使(やっぱり、じゃねえよ)

ニート「なにしろ、生まれて二十数年、一銭も稼いでないからね」

ニート「つうか、家のことすらやってないし」

ニート「もちろん、これからも記録更新するつもりだ」

天使「…………」

天使「まぁ、それはともかく、話を続けます」

天使「実は……今、人間界で八人の“能力者”が悪事を働いているのです」

ニート「能力者?」

天使「彼らはいずれも、自分に敗れた人間の魂を奪い取る能力を持っています」

ニート「ふうん」

天使「こんなことができるのは、魔界に巣食う悪魔しか考えられません」

天使「黒幕である悪魔は、能力者に魂を奪わせることで」

天使「それを糧として力をつけ、人間界や天界を支配しようと企んでいるのです!」

ニート「へぇ~」

天使(もう少し、真剣に反応しろよな……)

天使「八人の能力者は、それぞれAからHまでの文字を持つ能力を持っています」

── B BLADE(刃)

ザシュッ!

警官「ぐはァ……!」ズォォ…

剣士「吾輩に斬られた者は……この刃に魂を吸い取られるのだ」



── C COOKING(料理)

美食家「く、悔しいが……うまいっ! ──うっ!?」

ズォォォォォ……

料理人「ワタシの料理に感銘を受けたら、魂はワタシのモノさァ!」



── D DISCUSSION(議論)

インテリ「もう反論できないようですね……では魂をいただきましょう」

評論家「うっ、うわぁぁぁっ!」ズォォ…

インテリ「フフフ、だいぶ魂が溜まりましたね」

── E ENDURANCE(忍耐)

坊主「この我慢比べ、おぬしの負けじゃ」

修行僧「うぐわぁぁぁっ!」ズォォ…



── F FLASH(光)

ズォォォォ……

占い師「私の光を浴びてしまったら……魂が抜け出てしまうのよ」



── G GAME(ゲーム)

棋士「ま、参った……!」

ゲーマー「ボクの勝ちだね、魂はいただくよ」



── H HELL(地獄)

霊能力者「さあ、亡者たちよ。魂を奪ってしまいなさい! ホ~ッホッホッホ!」

亡者「ウオォォォォン……」

天使「──と、このような能力者です」

天使「しかも彼らを倒すには、彼らのルールに従った上で彼らを超えねばなりません」

天使「従わねば、たとえ核ミサイルでも彼らを倒すことはできないのです」

ニート「へぇ……。あ、ところで、“A”の能力者は?」

天使「表舞台に出てきていないので、まだ分かっていません」

天使「おそらく彼ら七人を倒すと、出てくると思われます」

天使「もしかすると、“A”の能力者こそが悪魔なのかもしれませんが……」

ニート「なんだよそれ……ちゃんと働けよな」

天使「(ぐっ……!)す、すみません」

ニート「てかさ、そもそもなんでお前がこいつらを何とかしないわけ?」

天使「それは……天界の神様や我々天使は、人間に干渉できないからです」

天使「ですから、こうやって見込みのある人間に啓示をして」

天使「八人の能力者を倒してもらうしかない、というわけです」

ニート「ふうん……。で、選ばれたのが、俺を含めた“七つの大罪”ってわけか」

天使「はい」

天使「今頃、他の天使もあなた以外の六人に啓示をしているハズです」

ニート「ハァ~……」

天使「(ため息……)たしかに急にこんな話をされても、困るでしょうが──」

ニート「いや、そうじゃなくてさ」

ニート「七つの大罪もそうだけど、能力者とか、魂抜き取るとか、ありきたりじゃん」

ニート「ありきたりなだけならいいけど、展開も唐突だし……色々と強引だし……」

ニート「もし、これがアニメだったら、一話で切るね」

天使(できることなら、今すぐお前を切り裂きたいよ)

ニート「ところで、ちゃんと見返りはあるんだよな?」

天使「はい」

天使「この紙に、あなたの願いを書いて下さい」スッ…

天使「そうすれば、八人の能力者打倒後にどんな願いも叶えられます」

ニート「絶対?」

天使「はい、あなた自身が権利を放棄しない限り、絶対です」

ニート「マジで? よっしゃ、じゃあ──」カリカリ…



『一切働かず、幸せに天寿をまっとうできるようにして欲しい』



天使(なんつう願いだ……。さすが、“怠惰”なだけのことはある)

天使「では……あなたを天界までお連れします。行きますよ!」

ビュオッ!

<天界>

ニート「ここが天界か……ふうん」

天使「人間がここに足を踏み入れるなど、めったにないことですよ」

ニート「俺の場合、部屋を出ることすらめったにないしな」

ニート「最近じゃ、トイレもペットボトルで済ませるようになったし」

天使「…………」

天使(そのうち呼吸するのもめんどくさいとかいって、死ぬんじゃないかコイツ)

天使「あの建物が、神様がいらっしゃる神殿です」

天使「さ、どうぞ!」

<神殿>

神「我が神殿へようこそ……」

神「悪魔が生み出した“能力者”に対抗しうる力を持つ」

神「“七つの大罪”たちよ……」



“怠惰” ニート

“傲慢” ブラック社長

“強欲” セレブ

“嫉妬” ヤンデレ女

“憤怒” DQN

“色欲” ビッチ

“暴食” デブ



天使(この七人が……“七つの大罪”か……)ゴクッ…

天使(さすがに七人が七人とも、いやぁ~な空気を放ってるな……)

神「君たちに“能力者”を倒してもらわねば、人類に未来はない……」

神「どうか──」



ニート「めんどくせえ……」

ブラック社長「なにが神だ! 神様はお客様だ! 身を粉にしてサービスしろ!」

セレブ「神殿というわりには、ずいぶん質素で貧相ですのねぇ~」

ヤンデレ女「フゥ~……フゥ~……」

DQN「なに偉そうにしてやがんだ! クソジジイ!」

ビッチ「神様とかァ~、チョ~ウケるんだけどォ~」

デブ「腹減ったぁ~」



神「…………」ピクピクッ

神「大切な話をしておるのだ! マジメに話を聞かんかァ!」



ニート「うるせえな……」

ブラック社長「何様のつもりだ! 会社で一番偉いのはこの俺だぞ!」

セレブ「あらやだ、お下品ですこと」

ヤンデレ女「フゥ~……フゥ~……」

DQN「あァ!? うざってえんだよ! 今すぐケンカすっか、コラァ!?」

ビッチ「え、なんでいきなりキレてんの? アハハ、ウケる~!」

デブ「腹減ったぁ~」



神「ぐぬぅ……なんなんだこいつらは……!」

天使「我慢ですよ、神様。なにしろ、“七つの大罪”なんですから」

神「すでに天使から話は聞いているだろうが……」

神「君たちの使命は、八人の能力者を倒すことだ」

神「しかし、八人目の能力者の正体はまだ分かっていない」

神「ゆえに、まずは配下である七人の能力者を倒してもらうことになる」

神「“B”から“H”までの能力者を倒せば──」

神「きっと“A”の能力者が姿をあらわすだろうからな」

神「というわけで、さっそく各々の対戦相手を選んでもらう!」

神「そして、選んだ相手のもとに、このワシがワープさせてやろう」

ブラック社長「俺は、この苦労を知らなさそうな奴にしよう」

セレブ「では、わたくしはこの方にしますわ」

ヤンデレ女「ウフフッ、ワイルドでかっこいい彼にする……!」

DQN「お、コイツいけ好かねえツラしてんな。コイツにしとくかァ!」

ビッチ「この人でいっかな」

デブ「オレはもちろんこの人にするよぉ!」

ニート「…………」

神「どうした、ニート」

ニート「やっぱり……行かなきゃダメ? なんか、めんどくさくなってきて……」

神「天界まで来ておいて、なにをいってるんだ!」

天使(さすが“怠惰”……とことん動きたくないらしい)

神「他の六人はもう対戦相手を選んだから……お前は残る一人の相手だ!」

神「とっとと行けっ!」

バビューン!

天使「全員……飛んでいきましたね」

天使「どうでしょうか……神様」

天使「“七つの大罪”は“能力者”たちに勝てるでしょうか?」

神「なんともいえぬ」

神「しかし、並みの人間では能力者には到底及ばぬし……」

神「彼らが勝てなければ、人類も天界も、未曾有の危機を迎えることになろう」

ヤンデレ女「うっふっふ……一目惚れしちゃったの」

剣士「吾輩になにか用か」



デブ「腹減ったぁ~」

料理人「むむ、ワタシの料理を食べにきたのかい?」



DQN「このヤロウ、ブッ倒してやるよォ!」

インテリ「やれやれ、私と勝負するつもりですか?」



坊主「なるほど、おぬしがワシの相手というわけじゃな」

ニート「だるい……」

占い師「なによあなた?」

セレブ「庶民に、真の光というものを教えてあげなくてはね」



ブラック社長「こんな茶番……とっとと終わらせてやる。俺は忙しいんだ」

ゲーマー「フフフ、ボクに勝てるかな?」



霊能力者「ホ~ッホッホッホッホ! さあ始めるわよ!」

ビッチ「やだ~、超キモイんだけど」



七つの大罪 VS 能力者 バトル開始!

剣士「女性を手にかけるのは本意ではないが……覚悟!」ギュアッ

ガキンッ!

剣士「む!? 我が剣を受け止めただと!?」

ヤンデレ女「ウフフ……愛してるわ」ギラッ

剣士(包丁!? この女、包丁を常備しているとは……料理好きか)

ヤンデレ女「だからこそ……動けないようにしてたっぷり愛してあげる!」

剣士「ふむ……我が“刃”の獲物に相応しい」



デブ「ご飯、ご飯~!」チンチン

料理人「ずいぶん、せっかちなお客さんだなァ!」

料理人「じゃあ……さっそく“料理”を作ってあげよう!」

デブ「早く、早く~!」

料理人(これが君の最後の食事になるとも知らずにねェ……)ニヤ…

DQN「かかってこいや、オラァッ!」

インテリ「おっと、“議論”でなくば、私にダメージを与えられませんよ」

インテリ「ところで、議題はどうしましょうか?」

DQN「ギダイだァ!? んじゃ、タバコだ、オラァ!?」

インテリ「よろしい……では、喫煙を本格的に規制するか否かで議論しましょう」

インテリ「私が喫煙規制派、あなたは喫煙容認派で、よろしいですね?」

DQN「来いやァ!!!」



ニート「なんだここ? なにもない空間だ……」

坊主「ここはワシが作り出した異空間である」

坊主「勝負がつくまでこの空間からは出られず、ワシとおぬしは互いに干渉できん」

坊主「この“忍耐”力の勝負……先に声を出した方が負けだ」

ニート「分かった、それでいいや」

坊主「では……勝負開始!」

占い師「私の水晶から放たれる光に耐えきれば、あなたの勝利」

占い師「あなたが少しでもまぶしいと感じてしまえば、私の勝利よ。いいわね?」

セレブ「よろしくてよ」



ゲーマー「このボードゲームで勝負しよう! 駒を動かし合って戦争するんだ!」

ブラック社長「ボードゲーム……? ようするに、チェスのようなものか」

ゲーマー「そのとおり! ただし──」

ゲーマー「このゲームの駒は、本当に生きているんだよ」ニヤッ

ブラック社長「ほう……」



霊能力者「さあ、地獄から亡者が集まってきたわよ~!」ウォォォン…

霊能力者「あなたの魂も奪い取って、地獄の亡者にしてあげるわ~!」ウォォォン…

ビッチ「キャハハ、地獄だってぇ~!? 超ウケるんだけどぉ~!」

天使「…………」ゴクッ…

天使「いよいよ始まりましたね……」

神「うむ……」

天使「相手のルールに従わなきゃならないというのは不利ですが……」

天使「“七つの大罪”ならきっと勝ってくれるハズです……!」

神「…………」

天使「どうしました?」

神「できれば、共倒れが理想だ……」

天使「もちろん、私も本音はそうです」

“強欲”セレブ VS “F”占い師

占い師「さあ、いくわよ」

占い師「この水晶玉からあふれ出る、閃光を受けてごらんなさい!」

ピカァァァ……!

占い師(決まったわ……)

占い師「やはり占い通り、この勝負は私の勝ち──」

セレブ「あ~ら、この程度ですの?」

占い師「!?」

占い師「な、なんで!? なんで私の光が通じないのよ!」

セレブ「オホホ、決まっているでしょう」

セレブ「ご覧あそばせ! わたくしの服を!」バサッ

占い師「!?」

キラキラキラキラキラ……

占い師「な、なにこれ……」

占い師(上着を脱いだら……全身にダイヤやルビーをはじめとした宝石が……)

占い師(これじゃ光が乱反射して、威力が弱まってしまう!)

セレブ「この太陽のような輝きに比べれば」キラキラ…

セレブ「アナタの光なんて、月の光も同然ですことよ」キラキラ…

占い師「くっ……!」

セレブ「しかも、この時価数百億円の宝石たちを使えば──」

セレブ「あなたが放った光を、まとめてお返しすることも可能ですのよぉ~」

占い師「な、なんですって!?」

セレブ「光を集積して……お返しいたしますわ!」ピカッ

バシュゥッ!

ズガァァァンッ!!!

占い師「あ、あがが……」プスプス…

“傲慢”セレブ ○ ─ × “F”占い師

“暴食”デブ VS “C”料理人

料理人「お待たせェ!」

デブ「うん、うまい!」ガツガツ…

デブ「おかわりィ~!」

料理人(よく食う奴だ……しかも早い! たった五分で二十人前は食べている……)

料理人(しかし、なぜだ……?)

料理人(ワタシの料理に感銘を受けた者は、魂を奪われるはずなのに……)

料理人(なんで、コイツの魂は奪えないんだァ!?)

デブ「うん、うまい!」ガツガツ…

デブ「おかわりィ~!」

料理人「……ちょ、ちょっと待て!」

デブ「なに~?」

料理人「なぜだ! なぜ魂を奪われない!?」

料理人「キミは、ワタシの料理がおいしくないのかァ!?」

デブ「えぇ~、おいしいよぉ」ゲップ…

デブ「でも、オレの場合、ある程度の味なら何でもおいしく食べられるからね」

デブ「レトルト食品も、あなたの料理も、みぃ~んな美味しい!」

料理人「!」ガーン

料理人(レトルトと……ワタシの料理が……同レベル!?)ピシッ…

料理人(ワタシの……料理人としてのプライドが……崩れていくゥ……)ピシピシ…

パリィンッ!

ドサッ……

デブ「あれ、倒れちゃった! どうしたんだろう?」

デブ「ま、いっか。キッチンにある食べ物、全部食べちゃお~っと」

“暴食”デブ ○ ─ × “C”料理人

“嫉妬”ヤンデレ女 VS “B”剣士

キィンッ! ガキンッ! キンッ!

ヤンデレ女「ウフフ……やるじゃない……。私が見込んだ通りの男性だわ……」

剣士「吾輩と互角とは……なぜお前、ここまでの剣の腕が!?」

ヤンデレ女「あれは大変だったわぁ……」

剣士「?」

ヤンデレ女「剣道の有段者だった彼が、もう別れようっていった時は……」

ヤンデレ女「常に木刀を持っている彼を包丁で刺すため、猛特訓したもの……」

ヤンデレ女「死闘の末、脇腹を刺して病院送りにすることに成功したわ……」

剣士(こ、こいつ……)

剣士(剣道経験者を刺すためだけに、これほどの腕に!? どんな執念だ!?)

剣士(イ、イカれている……!)

剣士「お前はイカれている! お前などになびく男がいるものか!」

ヤンデレ女「!」ピクッ

ヤンデレ女「なんですって……?」

ヤンデレ女「なんですってえええええええええええ!!?」

ヤンデレ女「許さない……許さないィィィィィッ!」

ヤンデレ女「きえええええええええええええッッッ!!!」

ギュオッ!

剣士(消えた!? ──ど、どこにっ!?)

ドスッ……!

剣士(背中……!)グラッ…

剣士「む、無念……」ドサッ…

ヤンデレ女「あなたがいけないのよ……」フゥフゥ…

ヤンデレ女「あなたが浮気なんてするから……!」フゥフゥ…

“嫉妬”ヤンデレ女 ○ ─ × “B”剣士

“色欲”ビッチ VS “H”霊能力者

霊能力者「オ~ッホッホッホ!」

ウォォォン……

霊能力者「霊感のないあなたにも、この地獄の亡者のうめき声が、聞こえるでしょう?」

ウォォォン……

霊能力者「今すぐ、あなたも地獄に──」

ビッチ「えぇ~? よくわかんなぁ~い?」

霊能力者「は?」

ビッチ「ジゴクとかモージャとかいわれても」

ビッチ「アタシ、生きてる男にしかキョーミないしぃ~」

ビッチ「もち、イケメンで金持ってるヤツ限定ね」

霊能力者(な、なんなの……この娘……)

霊能力者「!」ハッ

オォォ……

霊能力者(聞こえる……)

ウォォォォ……

霊能力者(この娘に弄ばれ、捨てられた、哀れな男たちのうめき声!)

ウオオォォォ……

霊能力者(私の能力が“地獄”なら、この娘の力はまさに“生き地獄”!)

ウウオォォォォォォォ……!

霊能力者(イヤ、やめて! 聞きたくない!)

ウオオオォォォォォォォォン……!!!

霊能力者「イヤァァァァァッ!!!」

ドサッ……

ビッチ「アハハッ、よく分からないけど勝っちゃった」

“色欲”ビッチ ○ ─ × “H”霊能力者

天使「す、すごい……すごいですよ!」

天使「あの手強い能力者たちを、すでに四人も倒しました!」

神「うむ……予想以上の強さだ」

神「これならば、きっと残る三人も勝ってくれることであろう」

天使「はいっ!」

神「ところで、今のうちにあの七人の願いを確認しておきたい」

神「七人が書いた“願い”を見せてくれるか」

天使「かしこまりました!」

“怠惰” ニート
『一切働かず、幸せに天寿をまっとうできるようにして欲しい』

“傲慢” ブラック社長
『経営者は社員をどのように扱ってもよい世界にして欲しい』

“強欲” セレブ
『100兆円欲しい』

“嫉妬” ヤンデレ女
『私の恋路をジャマした人間は惨死するようにして欲しい』

“憤怒” DQN
『いくら人を傷つけても、罪に問われないようにして欲しい』

“色欲” ビッチ
『イケメンとお金持ち以外の男は消えて欲しい』

“暴食” デブ
『世界中の食べ物を自分のものにしたい』



神(なんだこりゃ……)

神「なんだこれは!?」

神「もし、この七つの願いが全て成就してしまったら──」

神「世界はとんでもないことになる!」

神「はっきりいって、悪魔に支配された方がまだマシかもしれん!」

天使「し、しかし……もう取り消すことはできませんよ!」

天使「彼らがこの戦いに勝利してしまったら」

天使「これらの願いは叶ってしまうのです!」

神「なんてことだ……!」

神「くそっ……残り三人、誰でもいいから負けてくれ! 頼むっ!」

“傲慢”ブラック社長 VS “G”ゲーマー

ゲーマー(このボードゲームは駒が本当に生きている)

ゲーマー(だから……駒がやられると悲痛な叫び声をあげて、死ぬ……)

   \ ギャー /   \ タスケテー /   \ オカーサーン /

ゲーマー(プレイヤーは罪悪感から、たとえ最善手であっても)

ゲーマー(駒を犠牲にするような手を打てなくなり、ボクに敗れていった……)

ゲーマー(一流のチェスプレイヤーや棋士でさえ、そうだった……)

ゲーマー(なのに……)

ゲーマー(目の前のこの男は、平然とゲームをプレイし続けている!)

ゲーマー(ボクでさえためらうような手を、眉一つ動かさず選んでくる!)パチッ

   \ ウゲェー /

ブラック社長「また一人死んだか。役立たずが」パチッ

ゲーマー(なんでだ!?)

ゲーマー「おかしいよ、アンタ!」

ゲーマー「駒は生きているっていっただろう!?」

ゲーマー「なんでそんな残酷な手を打てるんだよ! それでも人間か!?」

ブラック社長「なにをいっている」

ブラック社長「駒が主人のために死ぬのは当然だろう」

ブラック社長「社員が社長のために過労死するのは当然なように、な」

ゲーマー「!」ガーン

   \ ウギャッ /   \ ギエー /   \ ムネン… /

   \ グフッ /   \ シニタクナーイ /   \ ヒデブッ /

   \ グエエエッ /   \ ヒイッ /   \ イヤダー /

ブラック社長「俺の勝ちだな」

ゲーマー「負け……ました……」ガクッ

“傲慢”ブラック社長 ○ ─ × “G”ゲーマー

“憤怒”DQN VS “D”インテリ

インテリ「──以上が、タバコによって当事者及び周囲の人間に想定される害だ」

インテリ「よって、喫煙は規制されるべきである」

DQN「ハァ~!?」

DQN「意味わかんねーんだけど、意味わかんねーんだけど!?」

インテリ「だから……」

DQN「だから、じゃねえよ!」バンッ

インテリ「机を叩くな!」

インテリ「議論する気があるのかい!? 君は!?」

DQN「してんじゃねえかよォ~!? あぁ~~~~~ん!!?」

インテリ「一度話を戻そう……」

DQN「何を戻すんだよ!」

DQN「ハァ?」

DQN「ハァ~!?」

DQN「ハァ~~~~~!!?」

DQN「お? お? お? やんのか、コラ! あ? あ? あ?」

インテリ「叫んでちゃ議論にならない。一度落ちついて……」

DQN「ざっけんなよ! 落ちついてんだろうがよッ!!!」

インテリ(もういやだ……)

インテリ(これ以上、こいつと話したくない……関わりたくない……)

インテリ(アメーバを相手に議論する方が、よっぽど有意義だ……)ドサッ…

DQN「あ!? ブッ倒れやがった!」

“憤怒”DQN ○ ─ × “D”インテリ

“怠惰”ニート VS “E”坊主

坊主「…………」

ニート「…………」ゴロゴロ…

坊主「…………」

ニート「…………」ゴロゴロ…

坊主「…………」

ニート「…………」ゴロゴロ…

坊主(こんな軟弱そうな男が、なぜこうも“喋らない”ということに耐えられる!?)

ニート(いやぁ~喋らずにいるだけの勝負なんて、楽でいいや)

ニート(そういや、あの天使と会話するまで、俺二年間ぐらい喋ってなかったもんな)

ニート(このまま、ゴロゴロしながら妄想してよっと)

坊主(うぬぬ……)

坊主「…………」

ニート「…………」ゴロゴロ…

坊主「…………」

ニート「…………」ゴロゴロ…

坊主「…………」

ニート「…………」ゴロゴロ…

坊主「…………」プルプル…

坊主「なんかしゃべらんかァ!」

ニート(うるせぇな、妄想がいいとこだったのに)

坊主「!」ハッ

坊主「うおおおおおお……ワシの負けぇ……」ドサッ…

ニート(お、勝った)

“怠惰”ニート ○ ─ × “E”坊主

??『ほう……』

??『あの七人では歯が立たなかったか……神め、生きのいい人間を集めたようだな』

??『ならば、次は私が相手だ!』

??『七人全員、私の城に招待してやろう!』パチンッ



ニート「ん?」シュンッ

ブラック社長「なんだこの声は」シュンッ

セレブ「あら?」シュンッ

ヤンデレ女「なによ」シュンッ

DQN「あぁ!?」シュンッ

ビッチ「え、なんなの~?」シュンッ

デブ「腹減ったぁ~」シュンッ

天使「神様」

天使「敗れた七人の能力者及び、奪われていた魂は全て回収いたしました」

天使「能力者は力と記憶を消してから人間界に戻し、魂は元の肉体に戻します」

天使「このぐらいの干渉であれば、我々でも可能ですから」

神「うむ、ご苦労」

天使「それと……“七つの大罪”全員が……人間界から消えました」

天使「おそらく、黒幕によって呼び出されたのでしょうね」

天使「つまり、いよいよ最後の戦いというわけです」

神「…………」

神「“七つの大罪”が負けてくれ……! 頼むっ……!」

天使「もう、我々でも彼らの戦いを見ることはできません」

天使「彼らが負けてくれることをここで祈りましょう……」

天使(まぁ……無理だろうけど……)

<悪魔城>

悪魔「よくぞ来た! 私こそが、八人目の能力者にして黒幕……悪魔だ!」

ニート「あぁ、お前が“A”か。すっかり忘れてた」

ブラック社長「悪魔だと? 下らん」

セレブ「あらいやだ、さっきの神殿以上に貧相なご自宅ですこと」

ヤンデレ女「ブサイクね、私の好みじゃないわ……」フゥフゥ…

DQN「悪魔だかなんだか知らねえが、とっととブッ殺してやるよォ!」

ビッチ「えぇ~!? なにここ、どこよぉ~!? 超ウケるんだけどォ~!」

デブ「腹減ったぁ~」

悪魔「数の上で有利ということで、粋がっているのだろうが……」

悪魔「私の“A”の能力があれば、貴様らなどいくらいても恐れはしない!」

悪魔「貴様らを倒し、再び能力者を作り、人間界と天界を征服してやる!」

悪魔「私の能力は──」

── A ANTITHESIS(正反対)

悪魔「神に逆らう者に相応しい、あらゆる力を正反対にする能力!」

ニート「なんか聞いたことあるような能力だなぁ……期待ハズレだよ」

悪魔「ほざけ!」

悪魔「私にかかれば、勇敢なる者をどうしようもない臆病者にすることも容易い!」

悪魔「貴様らがあの七人を倒した力を、今すぐ逆転してくれるわ!」ババッ



ズアッ!!!



シュゥゥゥゥゥ……

悪魔「フフフ、これで貴様らは無能なただの人間に過ぎん!」

悪魔「……む、なんだこれは!?」

働き者「ようし、人々のために働くぞぉっ!」キリッ

若社長「我が社の社員の安全のため、この俺が悪魔を倒してみせる!」キリッ

主婦「とっととアナタを倒して、家に帰って晩ご飯作らないと!」キリッ

サッパリ女「失恋は恋愛につきもの! たっぷり泣いてスッキリしましょ!」キリッ

若者「よっしゃ、青春するぞ!」キリッ

大和撫子「私なんかでお役に立てますでしょうか……」シトッ

スマート「体が軽いや……」キリッ



悪魔(え!? 同一人物のハズなのに、雰囲気がガラリと変わった!?)

悪魔(むしろ……さっきよりパワーアップしてないか!? なんで!?)

働き者「みんな、いくぞぉっ!」ダッ

六人「オオオォ~ッ!」ドドドッ

悪魔「わぁっ!? ま、待て──」

ズドゴォォォォォンッ!!!

“七つの大罪” ○ ─ × “A”悪魔

<神殿>

神(八人目を倒し、“七つの大罪”が戻ってきたが──)

神(みんな雰囲気が変わっている……なにがあったのだ?)

神「よくやった。ところで、お前たちの願いなのだが──」

働き者「それについてなのですが、この七人で相談しました。辞退します」

神「え?」

働き者「俺は一生懸命働いて、自力で願いを叶えてみせます」

若社長「気に入った! ぜひ我が社に入ってくれ!」

主婦「主人は資産家だけど、それに頼らず節約しなくっちゃね」

サッパリ女「いっぱい恋しよっと! 包丁でお料理も頑張ろう!」

若者「勉強に恋にスポーツに……自分を高めるぞ!」

大和撫子「これからはおしとやかに生きていきます……」

スマート「食事は少食に限るね!」

神(なにがあったんだ!? ……まぁ、いいけど)

天使(価値観が変わっちゃうぐらいの、よほどすごい死闘だったんだろうなぁ……)

働き者「よぉ~し、バリバリ働くぞ!」

若社長「これからは社員のために尽くす社長になる!」

主婦「こんな宝石はさっさと売り払って、家計の足しにしなくちゃ」

サッパリ女「ねえ、私と付き合ってくれない?」

若者「いいぜ!」

大和撫子「おほほ……茶道や華道でも習おうかしら」

スマート「あぁ~、体が軽いっていいなぁ~」ピョンピョン



神(頑張れ、人間たちよ……!)



この後、元“七つの大罪”が人間界で大いに活躍したことはいうまでもない──





                                     <完>

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