「喫茶『アイドル』に集うアイドルたち」 (169)

店主「いらっしゃい、ここは喫茶『アイドル』。私の経営する、閑古鳥と物好きの憩いの場よ」

店主「25で上司に辞表を投げつけた私が始めたこの喫茶店。最近、あるお客さんのお陰で……」

店主「お店にアイドルが来るようになりました」

――case1 菊地真

真「こんにちはー!」

店主「はい、いらっしゃい。カウンターへどうぞ」

真「アプリコットティー下さい」

店主「はい。アプリコットティー一つ」

店主「そうだ、今月号入ったよ」

真「! 本当ですか? じゃあ、読ませてもらいまーす、っと!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1389869583

店主(彼女の名前は菊地真。ボーイッシュ系アイドルで、世の女性から絶大な人気を誇る女性アイドルだ)

店主(しかし、その実態は……)

真「ふわぁぁぁあああ! 今月も良いところで引くんですね!」

店主(少女漫画大好き、超乙女な女子高生が目の前に居た)

店主「真ちゃんはその漫画本当に好きね」

真「はい! こう、キュンキュンッとするというか……良いですよね、こういうの」

店主「まあ気持ちはわかるわ。私も十年くらい前女子高生だった頃は毎月ワクワクしてたし。はい、アプリコットティー」

真「あ、ありがとうございます」

店主「でも相変わらず仕事はアレなのね」

真「……そうなんですよ。聞いて下さいよ!」

店主「はいお姉さんが聞いてあげます」

真「またプロデューサーが男性服のモデルの仕事取ってきたんですよ! どう思います?」

店主「んー、『適材適所』としか」

真「えー……」

店主(彼女はどうやら「女の子らしくなりたい」と思っているらしい)

店主(私に言わせてみれば中身は完全に乙女なんだけど、世間が求める『菊地真』はやっぱりイケメンなんだろうか)

真「ボクはもっと、ふりふりフリルでキャピキャピした服とか着たいのになー」

店主「その、プロデューサーさん? に言ってみたら?」

真「言った結果がこれですよー」

店主「やっぱり世の女性達は『イケメン! 菊地真』を望んでるんだね……」

真「マスターもそう思ってるんですか?」

店主(何故かうちの店にくる客は私をマスターと呼ぶ。年下の女の子にくらい名前で呼ばれたいんだけどなぁ)

店主「別に私は別に別に。私が興味あるのは歌だし、真ちゃんが可愛い格好したいならするべきだと思うし」

真「歌かぁ……でも歌だって」

店主「『迷走mind』、特撮のテーマ曲みたいでカッコ良かったね」

真「やっぱり格好良いイメージじゃないですか! やっぱりボク可愛いイメージないのかなぁ……これじゃあなんの為にアイドルになったんだか」

店主(イケメン目指した結果女に仕立てあげられた子も居るし、アイドル業界って怖いのね)

店主「でも……」

真「?」

店主「『チアリングレター』、あれはどっちかというと可愛かったんじゃない?」

店主「確かに、世の女性ファンは真ちゃんの格好良いところを見たいのかもしれない」

店主「でも私がこうして見てる真ちゃんみたいな、『悩める乙女』って一面もある」

店主「真ちゃんは十分可愛い。ただ、それを上回って格好良いって話なんじゃない?」

真「か、かわい……。そう言われると、うーん……悪い気はしませんけど、でもやっぱり格好良いボクしか見てもらえてないような気がして」

店主「それはね、多分見せ方の問題」

真「見せ方?」

店主「真ちゃん、いつも自分の可愛いところどうやってアピールしてる?」

真「へ? そりゃあ、こう、こうして」グッキュッ



真「きゃっぴぴぴぴーん! まっこまっこr」
店主「それだよっ!」クワッ



真「なんで止めるんですか!」

店主「そんなの真ちゃんじゃないもん。それこそ誰も望んでないよ」

真「ひどい! やっぱりマスターも格好良いボクの方が似合ってるとか言うんですか!」

店主「いやそうは言ってない」

真「じゃあなんだって言うんですかー」プクー

店主「それ」

真「へっ?」

店主「今の今の」

真「これ?」プクー

店主「それ」

店主「真ちゃんは、わざとらしくする必要なんか全く無いんじゃないかな」

店主「今みたいな自然な仕草が一番可愛い」

真「そ、そうですか?」テレテレ

店主「そもそも私が真ちゃんの可愛さに気づいたのだって、うちの店に来て自然体を見せてくれたからだしね」

店主「特に雪歩ちゃんと一緒に居るときは二人共いい顔してるよ。これぞ女子高生! ってね」

店主「……はぁ、私もこんな女子高生になりたかった」

真「マスター?」

店主「は、いけないいけない」コホン

店主「つまりそういうこと。真ちゃんは自然体が一番可愛いってこと」

店主「例えば、ラジオ番組とか出てるんでしょ? そういう場で自然体で居れば、文字通り自然に『可愛い菊地真』も見てもらえるようになるはず」

真「成程……」

店主「多分プロデューサーさんも、真ちゃんの暴走が怖くて可愛い系の仕事が取れないんじゃ……?」

真「まさかそんな……。とにかく、こうしちゃいられない! プロデューサーに相談してみます」

店主「それがいいと思うよ。良い結果報告を待ってます。あ、出来れば出演するラジオとか教えて欲しいかなーって」

真「あ、じゃあメモ置いていきますね!」カキカキ

真「じゃあ、ありがとうございました。紅茶美味しかったです」

店主「ありがとう。お代210円です」

真「はい」

店主「またのお越しを」

真「また来ます!」カランカラン

店主「…………」

店主「その後、真ちゃんは同じ事務所の子のラジオ番組にゲスト出演し、『素の自分』を見え隠れさせながらトークに参加したようで」

店主「そのラジオ番組の受け持ってた子のファンを通じて男性ファンが増え、ついには冠番組を受け持ったとか」

店主「その名も『菊地真のファンシータイム』。多分少女趣味って意味で名前が付けられたんだろうけど、真ちゃんてきには、『やっと叶った幻想』ってところかな」

店主「名前といえば、うちの店の名前。うちにくるアイドルたちは皆して『Idol』だと思ってるけど」

店主「実は『idle』の方なんだよね。まあ、なんでもいいですけれど?」

Next→如月千早

今日の分はこれで。
明日か週末には続きをば。

店主「私の店では、お客さんのリクエストで店内BGMを変えてみたりすることがある」

店主「例えば彼女なんかは、いつも決まって同じものを頼み、いつも決まってCDを持参してくるわね」

店主「丁度、こんな感じに」

――case2 如月千早

千早「こんにちは」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい。カウンターへどうぞ」

店主「今日もいつもと同じの?」

千早「はい」

店主「はい、インスタントコーヒー一つ」

店主(彼女は毎回、必ずほかのどのコーヒーでもなく、インスタントコーヒーを頼む)

店主(最初は冗談でメニューに書いたけど、こうも毎回頼まれると消すに消せないからそのままにしてある)

千早「それと、これを流してもらっても良いですか?」

店主「ん、今日はどんなクラシックを……っと、『アルルの女』、しかも第二組曲」

千早「はい」

店主「『ファランドール』か、良いね。クラシックは詳しくないけどこれは好きよ」

千早「有名ですからね」

店主(彼女の名前は如月千早。今や国内で知らないものは居ないとまで言われる『歌姫』だ)

店主(アイドルとしてデビューした当時から歌手を目指していたけど、最近はアイドルも悪くないと思ってるとか)

店主(そういえば、どこかの雑誌で『ディーヴァ・オブ・アルカディア』なんて仰々しい名前付けられてたかな)

~♪

千早「今日はさっきまで番組の収録だったんです」

店主「へえ、どんな番組?」

千早「実は春香たちと一緒に子供番組を……」

店主「子供番組!? 千早ちゃんが?」

千早「自分でもなんで出たのか未だに分かりません……」

店主「録画しとこうかな」

千早「やめて下さい! あんな恥ずかしい映像!」

店主(俄然、録画したくなった)

千早「まさか犬のきぐるみで踊らされるなんて……くっ」

店主「私の目には、きぐるみ姿で童謡熱唱してる千早ちゃんの姿が見えるよ」

千早「…………」

店主「図星なのね。はい、インスタントコーヒー」

千早「ありがとうございます」

千早「それにしても、いつ来てもほかのお客さんが居ない気がするんですが」

店主「痛いところを突くわね」

店主「まあ、確かに客は少ないよ? 否定は出来ない。数人の常連客様のお陰でこのお店は成り立ってるのです」

千早「はあ」

店主「念の為言うけど、765プロのアイドル以外にも常連客は居るからね? 夜に来る客が多いからあまり合わないだろうけど」

千早「夜もやってるんですか」

店主「うん」

店主(実は765プロのアイドルにも夜の時間しか来ない子が居るけど、その話は今はいいかな)

千早「…………」ズズ…

店主「……どうしたの?」

千早「やっぱり、事務所のコーヒーと違いますね、コーヒー」

店主「市販品だけど?」

千早「でも、事務所で出てくるコーヒーはこんなに美味しくないです」ズッ…

店主「……はっはーん、成程」

千早「?」

店主「毎回毎回インスタントコーヒーばっかり頼むのは、そういうわけね?」

千早「へ?」

店主「インスタントコーヒーの作り方くらい聞いてくれればいいのに」

千早「」ブフッ

店主「ちょ」

千早「な、なんで分かったんですか!」

店主「いやね、前からおかしいと思ってたのよ……」

店主「コーヒー飲む度に机の下でメモ取ってるし」

店主「酸味がどうとか苦味がどうとか言い始めるし」

店主「挙句の果てにブラックで飲んで顔歪ませたりするし」

千早「」

店主「大方、プロデューサーに感謝の気持を~とかじゃないの?」

千早「なんでそうスラスラと分かるんですか!?」

店主「女の勘はね、時に人の秘密を簡単に暴くものなの」

店主「で、どうする? インスタントコーヒーの美味しい作り方くらいならお姉さんがいくらでも教えてあげるけど」

千早「お姉さん?」

店主「どう見てもお姉さんでしょ」

千早「……お願いします」

店主「はい。じゃあほかのお客さんも居ないし、カウンターの中に入って。見せるから」

千早「はい」

店主「じゃあ、【インスタントコーヒー講座~in 喫茶『アイドル』】、急遽開催ー」パチパチ

千早「わー」パチパチ

店主「案外ノリがいいのね」

千早「料理番組に出ることも多かったので」

店主「職業癖って怖いね」

店主「じゃあまず、どんな状況でもだいたい使える基本的な技ね」

千早「はい、お願いします」

店主「まず、大前提。最適な分量を守ること」

店主「こだわりがあるなら別だけど、分量は基本的に守らないとね。マグカップの場合はティースプーン山盛り1杯と水200ml弱くらいね」サラサラ

千早「成程」メモメモ

店主「で、今度はお湯の話。お湯は沸騰してから少し時間を置いて、大体90℃弱くらいが最適」

店主「熱すぎると渋みが出ちゃうし、ぬるいと酸味が出ちゃうから」ピーカラカラカラ

千早「そういえば、事務所ではいつも熱いままです」

店主「普通はそうしちゃうよね。あ、あとお湯を冷ますのと並行できる工夫があってね」

店主「事前に、使うマグカップとかにお湯を注いで、容器を温めておくの」

千早「コップをですか?」

店主「うん。さっきも言ったけど、お湯がぬるいと酸味が出るの。容器が冷えてるとお湯も温度が下がってコーヒーの酸味が強くなるから、先に温めておくの」コポポ

店主「インスタントコーヒーを作るまでに出来る基本的な技はこのくらいかな」

千早「これだけでいいんですか?」

店主「これだけでも十分変わるよ。で、ここからは明日誰かに話したくなるトリビアタイム」

店主「多分事務所では、好みとか分かると作った人が砂糖とか入れちゃうでしょ? わざわざ飲む人がキッチンないし作ってる場所まで行くとは思えないし」

千早「はい。と言っても、プロデューサーはブラックで飲んでますけれど」

店主「ブラック派かあ。ならさっきまでの技で十分違いに気づいてくれると思うよ。でも豆知識は止めない」

店主「インスタントコーヒーを作るときは、お湯→混ぜる→砂糖→混ぜる→ミルクの順番が基本よ」

千早「お湯と砂糖はなんとなく分かるんですが、ミルクは後なんですか?」

店主「砂糖は先に入れるとしつこくなるからなんだけど、ミルクはほら、タンパク質だからさ」

店主「コーヒーの酸と結合すると固体化しちゃうから。適度にコーヒーを冷ませばそうならないから、後回し」

千早「成程」メモメモ

店主(こんだけ熱心に勉強する程、プロデューサーに美味しいコーヒー飲ませたいのね……)

店主(そういえば一度も見てないけど、ここまで想われるプロデューサーってどんな男なのか凄い興味深いわ)

千早「ほかには無いんですか?」

店主「ん、ほかにはね――」

――――――――――――
――――――
―――

店主「と、こんなところかな」

千早「メモ帳のページが5ページくらい埋まりました」

店主「熱心でよろしい。そんだけの熱意があれば否が応でも美味しいコーヒーが作れるはずよ」

千早「はいっ」ニコッ

店主「!」

店主(千早ちゃんの満面の笑み……良い顔ね。作り物じゃない、綺麗な顔)

店主「これは……プロデューサーさんも振り向くかもねぇ」ボソッ

千早「なんですか?」

店主「うんにゃ、なんでもない」

ちょっと飯休憩

千早「…………」ズズッ

店主「どう? 自分で作ったコーヒーのお味は」

千早「美味しいです。まだマスターのコーヒーには及びませんけれど」

店主「千早ちゃんもマスターって言うのね。まあ、なんでもいいですけれど?」

千早「! それ、私の真似ですか」

店主「似せる気はさらさら無いけどね。ところで、来てから一時間くらいになるけど時間大丈夫?」

千早「はい。今日はさっきの収録で最後なので。でも、そろそろいい時間ですしお暇しますね」

店主「はい。お会計190円です」

千早「えっ、380円じゃあ……」

店主「さっきのコーヒーは、千早ちゃんの頑張りと武運を祈って、私のおごりです」

千早「あ、ありがとうございます」

店主「またのお越しを」

千早「はい、また来ますね」カランカラン

店主「…………」

店主「その後千早ちゃんは無事、愛しの? プロデューサーさんに美味しいコーヒーを振る舞えたとか何とか」

店主「砂糖とミルクの順番なんかも、事務員の人に教えたら好評だったらしく、嬉しそうに話してくれたなあ」

店主「こんな喫茶店なんかをやってると実感するけど、飲み物一杯でも人っていうのはきっかけになるのね」

店主「ところで、インスタントコーヒーの裏技にはほかにも、乾煎りしてから作るとか鍋で煮るとか塩を入れるとかあるけれど」

店主「前に大失敗して麦茶をドバドバに入れた時には目も当てられないものが出来上がったわ」

店主「本当にもう、ああいう凡ミスって誰に見られてるとかじゃなくても、思わず穴ほって埋まりたくなるよね?」

Next→萩原雪歩

今日の分はこれで。
続きはまた後日。

店主「件のインスタントコーヒーもそうだけど、割とうちの店のメニューっていい加減でね」

店主「お客さんのリクエストでメニューにないもの即興で用意したり、それがそのままメニューになったり」

店主「そんな感じでお客さんのリクエストでメニューに加わったものの代表が、この抹茶オレかな」

――case3 萩原雪歩

雪歩「こんにちはぁ」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい」

雪歩「今日はカフェ・マキアートをお願いします」

店主「ありゃ、珍しい。抹茶オレじゃないのね」

雪歩「今日は抹茶のお菓子を持ってきたので」

店主「ああ、抹茶と抹茶で被っちゃうからね。じゃあ、カフェ・マキアート一つね」

雪歩「はい。あ、今日のお菓子は手作りなんですよ」

店主「手作り? 雪歩ちゃんの?」

雪歩「春香ちゃんに作り方を教えてもらって……一人で作ってみましたぁ」

店主「それはそれは。楽しみなこって」

雪歩「ま、まずかったら言って下さいね?」

店主「私はお菓子にはうるさいぞー」

雪歩「うう」

店主「冗談よ。むしろ雪歩ちゃんの作ったお菓子がまずいわけないじゃないの」

雪歩「そうですか……?」

店主「多分」

店主(彼女の名前は萩原雪歩。いつもちょっとしたお菓子を持ち寄ってくれる子だ)

店主(犬と男が苦手らしく、仕事に失敗した時の話は大体それ絡みだったりする)

店主(因みにうちの店に一番最初に来たアイドルは、ほかでもない雪歩ちゃんだ)

雪歩「これなんですけど……」ガサゴソ

店主「わお、凄い。抹茶のカップケーキ? 美味しそう」

雪歩「甘納豆が乗ってるのと、乗ってないのがあります。どうぞ」

店主「じゃあ私は乗ってる方を」ヒョイッ

雪歩「じゃあ私も乗ってる方を」ヒョイッ

店主「あ、これお皿ね」

雪歩「ありがとございますぅ」

店主「で、マキアートね。エスプレッソにスプーン一杯のミルク、これがベスト」

雪歩「そうなんですか?」

店主「本場イタリアでは元々そういうものらしいよ。豆知識ついでで言うと、マキアートも「染みがついた」って意味のイタリア語だし」

雪歩「へぇ、そうなんですか」

店主「昔働いてた会社の上司がイタリアかぶれでさぁー、嫌でも覚えたわ。まさか役立つとは思わなかったけれど」

雪歩「コーヒーに注いだミルクが染みに見えるって意味ですかねぇ?」

店主「多分そうだと思うよ。詳しくは知らないけれど。はい、カフェ・マキアート」

雪歩「あ、ありがとうございます」

店主「そうそう。この間雪歩ちゃんに教えてもらったお店で茶葉買ってみたよ」モグモグ

雪歩「本当ですか? あそこのほうじ茶は本当に美味しいですよ」モグモグ

店主「買ったし飲んでみたよ。あれ美味しいね、うちじゃ今麦茶に替わって食卓のお供だよ」モグモグ

雪歩「抹茶はどうでした?」ズズ…

店主「やっぱちゃんとした所で買うと違うね。スーパーで安物買ってたのがアホらしくなっちゃったわ」

雪歩「抹茶はピンキリ激しいですからね。スーパーで売ってるようなものから、それこそ取り寄せないと買えないようなものまで」

店主「流石に私は本職じゃないからそこまでしないけど、やっぱより美味しいものが手に入るならそっちだわね」

雪歩「道具とかってどうしてるんですか?」

店主「学生時代に作ってたやつをそのまま。手入れさえしてれば使えるもんだね、道具って」

雪歩「中高生時代、でしたっけ。マスターが茶道やってたのって」

店主「そう。その時一式揃えてから買い足したのは消耗品の懐紙くらいだよ」

雪歩「物持ちいいんですね」

店主「物が捨てられないだけよ。物が増えて困る困る」

雪歩「でも、お陰で私はお茶の話が出来る人が見つかったんですけどね」ニコ

店主「まあ、中々居ないわね。茶道の話出来る相手なんて」

雪歩「プロデューサーも誘ってみたんですけど、敷居が高いって言われて……」

店主「否定は出来ない」

雪歩「でも茶道って、元々男性のやってたことじゃないですか」

店主「戦国時代の武士がやってたからね。秀吉、信長、有名な利休だって皆男だし」

雪歩「なのに最近、茶道=女性みたいになってるじゃないですか。だからプロデューサーを誘ってみたんですけど……」

店主「まー、敷居が高いのは正直本当だからなぁー。お金もかかるし」

店主「そういえばサラッと流してたけどプロデューサーさんって男だよね? 大丈夫なの?」

雪歩「プロデューサーは……最初は怖かったけど、今は大丈夫です」

店主「犬は?」

雪歩「ダメです」

店主「今この店にブルドック連れた筋肉モリモリマッチョマンが入ってきたらどうする?」

雪歩「どうにかして気絶します。そうすれば怖くないですから」

店主「そこまでか」

店主「……んー、まあ、遠慮するプロデューサー無理に誘うわけにもいかないからね」

雪歩「そうですよね。とりあえず、お茶の話はマスターとすることにしますぅ」

店主「あい、お姉さんはいつでも待ってます」

雪歩「ところで、ちょっと相談があるんですけど……良いですか?」

店主「もちろん。見ての通りお客さんが居なくて暇だからね」

雪歩「実は今度、お茶の番組に出ることになったんです」

店主「茶道の番組?」

雪歩「はい。これをきっかけに誰かが茶道を始めてくれたら、ってコンセプトの番組なんですけど……」

雪歩「共演者の人、殆どが男の人なんですぅ……」

雪歩「私が出れば私のファンの人が見てくれて、誰かがお茶を始めてくれるかもって思ってオファーに応えたんですけど」

雪歩「まさか共演者の人に女性が一人だとは思わなくて……」

店主「あー、はいはい。それは……気の毒に」

店主「でも番組には出たいんでしょう?」

雪歩「はい。でも、緊張して上手くテレビの前の皆に茶道の良さを伝えられなかったら……」

店主「んー、まあ聞く限り雪歩ちゃん所のプロデューサーさんは優秀っぽいから、席配置とかそういう都合はどうにかしてくれそうね」

店主「その上で雪歩ちゃんが緊張を恐れているなら、どうすればいいか一緒に考えてあげる」

雪歩「っはい!」

店主「って言っても私人の前に立つの嫌いだから緊張するシチュエーションに殆どなったこと無いんだけどね」

雪歩「えー……」

店主「私が人の前で何かする時、緊張なんかよりも早く帰りたい気持ちでいっぱいだから」

雪歩「そうなんですか」

店主「だから私が今できるアドバイスはないけど、一緒に考えるくらいはさせてもらうよ」

店主「……さっきのカップケーキ代くらいはね」

雪歩「お願いしますぅ……」

店主「それにしても緊張ね……そもそも茶道の普及目指してるのに茶道家の男の人怖いって駄目じゃない?」

雪歩「お点前してる姿は大丈夫なんです。ただ、トークとなると……」

店主「話すのが駄目なのね。うーん、どうしましょうか」

店主「『茶道家』『男性』『全国放送』……『イチジクのタルト』『カブトムシ』……」

雪歩「マスター?」

店主「はっ、何か別のことを考えてた気がする」

雪歩「普段は緊張をほぐすのにイメージトレーニングとかするんですけど、結局あまり意味がなくて」

店主「雪歩ちゃんの緊張は、普通の人が感じる緊張とは少し毛色が違うからね……どうしたものか」

雪歩「あと、本番前にお茶を飲んだり……?」

店主「……!」ティントキタ

店主「そうか……お茶だよ雪歩ちゃん!」

雪歩「へ?」

店主「先に聞いておくけど、茶道の番組って言うくらいだから収録は和服?」

雪歩「はい。男性が袴で、女性は着物を」

店主「アクセサリー類は?」

雪歩「えーっと、ピアスとか腕時計とか金属系のものは禁止ですけど、割と自由です」

店主「ならいける」

雪歩「???」

店主「んー、作り方覚えれば自分でも作れるから、ちょっと雪歩ちゃんもこっちに」

雪歩「作る? 何をですか?」

店主「まあ、見てれば分かるわ」スッ

雪歩「フライパン……?」

店主「ここに、雪歩ちゃんが教えてくれたお店で買った煎茶の葉っぱがあります」

店主「軽く炒めます」ボッ

雪歩「茶葉を炒めちゃうんですか」

店主「本当に軽くね。こうすると香りが新鮮な茶葉に近づくの」キュッ

店主「炒めた茶葉は冷まして、ガーゼにくるむ」

雪歩「いい匂いですね……」

店主「でしょう? で、これを小さな巾着とかに入れるの」

店主「巾着袋なら腕に提げても和服と合うし、収録現場に持ち込めるでしょ?」

雪歩「はい……あ、もしかしてこれって」

店主「匂い袋。お茶でリラックスするのは何も飲むだけじゃないってね」

店主「これなら、少しくらいは緊張もほぐれるでしょ?」

雪歩「なんだか、そんな気がします」

店主「家でも簡単に作れるから、作ってみると良いよ」

雪歩「はい!」

店主「とりあえず一個作ってみた」

雪歩「袋越しでも結構香り届きますね……ふわ、良い匂い」ポワァ

店主「小さいものならこうしてインテリアにも出来るし、簡単に持ち運びできるし」

雪歩「なんかこういうの良いですね。おばあちゃんの知恵袋っていうか」

店主「誰がおばあちゃんだ」

雪歩「ま、マスターのことじゃないですー!」

店主「冗談冗談」

店主「っと、ここで一つ、上司直伝のアドバイスを思い出した」

雪歩「上司って、さっき言ってたイタリアかぶれの……?」

店主「そうそう。これが偉そうで傲慢な人でさあ、人の前に立っているようで常に上から見下ろしているような人」

店主「そんな上司がくれたアドバイスというか忠言がこれ」

店主「『自分の素質を信じろ。無駄な心配は自分の価値を地に落とす』」

雪歩「……凄い人ですね」

店主「まあ実際凄い人だったから返す言葉もなかったよ」

雪歩「それに、なんだか強い言葉。自分の価値とか」

店主「結局は自信を持てってことなんだけど、心の隅に置いとくと良いかもね」

雪歩「そうですね……覚えておきます」

店主「うん、頑張りなさいな。放送を楽しみにしておくから」

雪歩「はい。じゃあ、そろそろ私は帰りますね」

店主「お会計260円です」

雪歩「はい」チャリン

店主「丁度お預かりします。では、またのお越しを」

雪歩「またお菓子持って来ますね」カランカラン

店主「…………」

店主「結局雪歩ちゃんは、緊張もしたけど収録自体は大成功。番組を見てた私も満足の良い映像が出来上がってた」

店主「ただ私がビクビクしたのは、放送された映像の中で雪歩ちゃんが匂い袋の匂いを嗅いでるシーンが映っちゃったことだったんだけど……」

店主「逆にこれがきっかけで、『萩原印の匂い袋』なんてものが発売されることに。もちろん緑茶の香り」

店主「何が起こるか、分からないものね……。それに、このお陰で雪歩ちゃんはお茶のイメージが強くなったみたい」

店主「ここまでプッシュされたら、雪歩ちゃんとお茶はもう切っても切り離せない存在ね」

店主「これはもう、お茶屋さんかお茶農家の人とコラボするしかないっしょ→」

Next→双海姉妹+?

今日の分はこれで。
次回からは複数人のパターンも。

店主「うちの店は、確かにアイドルがしょっちゅう来るけど、別にそれ以外のお客さんが居ないわけじゃあない」

店主「例えば火曜日の夕方には毎週来てくれるきさくなお爺さんが居るし、時々閉店間際に来てはカルピスだけ飲んで帰ってく常連のお姉さんも居る」

店主「そんな常連の一人に、いつもブラックコーヒーの良さを語りたがるこんなお客さんが居るのよ」

――case3.5 黒井崇男

黒井「ウィ、邪魔するぞ」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい。お久しぶりで、ごきげんいかがです?」

黒井「ここ最近忙しくてな、安々と飲みに行くことも出来ん。いつもの頼む」

店主「はい、ブラックコーヒー一つ。砂糖は無しで?」

黒井「任せる」

店主「じゃあスティック一本入れちゃいますかー」

黒井「私はイマイチ砂糖の分量が分からなくてな、面倒でいつも無糖だからたまには良いだろう」

店主「因みに私のおすすめはスティック三本。簡単に甘いブラックコーヒーの出来上がり」

黒井「では三本にしよう」

店主「かしこまりました、っと」

黒井「それにしても相変わらず人の居ない店だな」

店主「余計なお世話です」

黒井「フンッ、もったいない話だ。ここのコーヒーの味を知らない奴らが可哀想でしかたがないね」

店主「あら珍しい。随分と持ち上げてくれるんですねぇ、社長さん」

黒井「いかがわしい呼び方をやめたまえ。これでも私はこの店を気にいっているんだぞ?」

店主「それは光栄ですけれど。一社長のお墨付きとはね」

黒井「この間記者との打ち合わせに適当な喫茶店に入ったのだがな」

店主「うちに来ればよかったのに」

黒井「ここは遠い。それで、私はいつもの様にブラックコーヒーを注文した、ブラックコーヒーだ」

黒井「そうしたらどうだ、砂糖の数も聞かずに店員が行ってしまったんだよ。お陰で私は外に出かけてまでいつもと同じ無糖コーヒーを飲む羽目になった」

店主「もうこの際自分で砂糖入れればいいのに……」

黒井「打ち合わせ中に砂糖のために席を外すわけにもいかんだろう」

店主「……まあ、最近はブラックといえば無糖・ミルク無しだと思われてますしねぇ」

黒井「そんなもん日本だけだ。海外じゃミルク無しのコーヒーがブラックコーヒーだ」

店主「んまあ、そこら辺はどうしようもないかなあ。今度からは素直に砂糖の数も先に指定すれば良いんじゃない?」

黒井「どうでも良いが君、段々敬語使うの面倒になっているだろう」

店主「この際聞くけどタメ口でいい? 私実は敬語苦手なんだよね」

黒井「聞いてれば分かる、好きにしろ」

店主「じゃあお言葉に甘えて」

黒井「別に職場の関係ではないんだ、こういう会話の場ではむしろその方が話しやすい」

店主「仕事の愚痴とか?」

黒井「愚痴だと? フンッ、順調すぎて愚痴など欠片も出ないなぁ、ハッハッハッハ!」

店主「それはそれは」

店主「こんな名前の店なのに、来る客来る客、皆して仕事熱心でね。まあ、お悩み相談はどんと来いってカンジだけど」

黒井「idleか。確かに仕事熱心とは無縁の言葉だな」

店主「楽しくなければ生きている意味が無い、が私の持論でね。遊び心を忘れた大人はつまらない」

黒井「私への当て付けか? 言っておくが、私とて遊び心がないわけではないぞ」

店主「ほほう?」

黒井「今度のライブはサプライズ要素を多く取り入れてみた。観客の裏をかく演出をいくつも用意したからな」

店主「ライブ……やっぱりJupiterの? 今人気だからねえ」

黒井「フッフッフ、一度は負けたが次は負けんぞ765プロォ……」

店主「でも765プロと戦うのにJupiterって分が悪いんじゃないの?」

黒井「なにぃ?」

店主「それなら、同じ女性アイドルの美希ちゃんとかをぶつけた方が……」

黒井「……実はだな」

店主「はい」

黒井「プロジェクト・フェアリーで売りだした三人は、765の連中とコラボ企画をやらせすぎてだな……」

黒井「世間的にライバルのイメージが……」

店主「あー、はいはい。ファン層が同じになっちゃったわけね」

黒井「そうなったらターゲット層の異なるJupiterで勝負するしか無いだろう」

店主「真ちゃんに勝てるように頑張って」

黒井「ところで良い加減コーヒーが飲みたいんだが」

店主「あ、お湯沸かすの忘れてた」

黒井「貴様、良くそれで店が成り立つな」

店主「いや、話が盛り上がっちゃって。まあ、味は良いから」

黒井「自画自賛か? まあ、否定はせんがな」

黒井「ふぅむ……どうしたものか。プロジェクト・フェアリーの三人はここ最近一緒の活動が増えたからな、ユニットにしてもいいかも知れん」

店主「あれ、私てっきりあの三人はユニットだと思ってたんだけれど」

黒井「元々はユニットではないんだがな、プロジェクト・フェアリーという新人アイドル売り出し計画で同時にデビューさせたせいで、そういうイメージが付いてしまったのだ」

黒井「この際正式にユニット結成させても良いかも知れん」

店主「ユニットじゃなかったのかぁ……ってことは、あの三人って担当マネージャーとか違ったの?」

黒井「いや、彼女らにマネージャーは居ない。私が直接売り出していたからな」

店主「社長直々にプロデュースされるアイドルって一体」

黒井「だが私も暇じゃないのでな、Jupiterにはマネージャーを付けたし、フェアリーの三人も最近はセルフプロデュースだ」

店主「そうしていつの日か社長の手を離れ……」

黒井「やめたまえ、未遂とはいえ起こりかけたんだ」

店主「あ、そうなんだ」

黒井「もうIUのことは思い出したくない……くそっ、あの男、言うに事欠いて私のことを負け犬などとぉぉぉぉ……」

店主「酒でも回ってるの?」

黒井「いいや、素面だ」

店主「まあ、肝心の社長がこの感じならアイドルが離れてくってこともないでしょう。仕事も順調だろうし」

黒井「なにか引っかかる物言いだがまあ良い、見逃そう」

店主「はい、ブラックコーヒー」

黒井「遅い」

店主「すいません」

黒井「美味い」ズズ

店主「それはどうも」

黒井「コーヒーだけは評価するぞ」ズッ

店主「コーヒー以外も自信はあるんだけどね」

黒井「酔っ払い用にタンポポコーヒーでも作ってみたらどうだ」

店主「頑なにコーヒーなのね」

黒井「仕事中にこのコーヒーが飲めれば良いんだがな、秘書の作るコーヒーは焙煎が深すぎる」

店主「それは秘書に言って下さいな……」

黒井「それもそうだな。さて、ではそろそろ私は帰るとしよう」

店主「お会計50万です」

黒井「本当に払うぞ」

店主「嘘です、190円です」

黒井「この店もカードに対応した方が良いんじゃないのか?」スッ

店主「カード使うお客さんなんて黒井社長くらいしか居ないし……。はい、お釣り810円です」

黒井「では、また暇が出来たら来てやる」

店主「またのお越しを」

黒井「では、アデュー」カランカラン

店主「…………」

店主「とまあこんな感じに、アイドル以外にも面白い客さんがうちの店には居るのよってこと」

店主「果てさてその黒井社長だけど、この間ラーメン屋で見かけたわ」

店主「アイドルの女の子三人と肩を並べてラーメンを食べる社長……って中々シュールな光景だったけれど」

店主「あれだけ仲よさげなら心配するようなことはないでしょう」

店主「一人だけシルエットが真っ黒ですぐ分かったわ。っと、シルエットといえば」

店主「最近ウチの店に、クリームソーダばっかり注文する怪しい客が来るようになったんだけど……」

店主「……どっかで見たことある気がするのよね」

Next Half Story→???

夜になったら双海姉妹編をば。
因みに、>>40のラーメンの話は、私が前に書いたSSのほんのワンシーンの話です。
良ければこちらもどうぞ ※夜は閲覧注意 http://456p.doorblog.jp/archives/34015861.html

店主「子どもは人に迷惑をかけるのが仕事、なんて言った人も居たとか何とか」

店主「そうでなくても、悪戯心なんて子どもなら誰でも少しばかり持ってるもの」

店主「それでも半端な悪戯じゃ大抵許されちゃうのが、子どもの特権ってやつかなあ」

――case4 双海姉妹+α

亜美「おっす→」カランカラン

真美「来ったよ→ん」

店主「はい、いらっしゃ――」

伊織「ちょっと私も居るわよ」

やよい「お邪魔しまーす!」

店主「あり、伊織ちゃんと……えーと」

やよい「はじめまして! 私、高槻やよいって言いますー!」

店主「……! 高槻やよいって、『お料理さしすせそ』の!?」

やよい「知ってるんですか? うっうー! ありがとうございますー!」

亜美「さっきまで一緒に収録だったからそのまま来たんだYO!」

真美「お仕事の後はあま~いものが欲しくなりますなぁ~」

店主「ならティラミスなんてどう? 名前からして、疲れた時には丁度いいし」

亜美「おおー、名前の意味は分からないけど中々良さそうですなー!」

伊織「じゃあ、ティラミス4つ?」

やよい「え、私今そんなにお金持ってないよ……」

店長「どうせ残っても困るし、お茶の一つでも頼んでくれたらそれにサービスで付けるよ」

真美「おおー、太っ腹ですなー」

店長「誰の腹がドラム缶だって?」

伊織「誰も言ってないしアンタそんなに太ってないでしょうが」

店長「そりゃどうも」

店長(彼女たちは、皆765プロのアイドル。本当、雪歩ちゃんは福の神か何か? アイドルがこんなに通う喫茶店も中々無いわよ)

店長(私が案内するまでもなくカウンターに座ったのが双海亜美と双海真美姉妹。ちょっと髪が長いほうが真美ちゃんね)

店長(で、ウサギのぬいぐるみを抱えたお嬢様っぽい、というよりお嬢様の子が水瀬伊織。さっきの亜美ちゃんと同じユニットね)

店長(で、今日初めてうちにきた子が高槻やよい。時々見る料理番組の『お料理さしすせそ』は彼女の冠番組だ)

店長(巷で『ロリカルテット』と呼ばれる四人ね。ユニットを越えた四人セットの仕事も多いらしいし、プレイベートでも仲が良いのね)

亜美「じゃあ亜美ミルクティーね!」

真美「じゃあ真美レモンティー!」

伊織「いつもの」

やよい「私は……カルピスで」

店主「はいよー、紅茶M、L一つずつ、オレンジジュース一つ、カルピス一つ。それに、ティラミス四つね」

やよい「てぃらみす? が、なんで疲れた時に丁度いいんですかー?」

店主「いつもなら私が誇らしげに説明するところなんだけど、今日は適任の子がそっちに居るから」

やよい「どうして? 伊織ちゃん」

伊織「なんで私に振るのよ……まあ知ってるけど」

亜美「教えてよーんいおりーん」

真美「真美も知らなーい」

伊織「ええい! あんたらはうっとおしい! ひっつくな!」

伊織「ぉほん、いい? ティラミスは元々イタリア語で「Tirami su!」って言って、『私を元気にして』って意味があるのよ」

店主「だから私は疲れた時は自分でティラミス作って食べてるのよ。まあ、ある意味自己暗示みたいなものだけど、案外元気になるものよ」

やよい「へぇー、イタリア語知ってるなんて凄いね! 伊織ちゃん」

店主「あれ、私は?」

亜美「マスターのはどうせ豆知識っしょ→?」

真美「いおりんのはガチだからね。海外行き慣れてる発言は兄ちゃんを驚かせたかんね」

店主「まあ、私のイタリア語知識は殆ど元上司の受け売りだけどさー」

亜美「ねー、ミルクティーまだー」

真美「真美のレモンティーもー」

伊織「少しは静かにしてなさいよ……」

店主「はい、オレンジジュースとカルピス」

真美「ちょ」

店主「いや、だってジュース類は、ねえ?」

亜美「ふっ、でも紅茶の方がオレンジジュースより大人っぽいし……」

店主「いや、よく分からない」

やよい「私は二人のお茶が出てくるまで待ってるね」

真美「おおっ、ここに天使が居る……!」

伊織「ちょっ、もう飲んじゃったじゃないの」アタフタ

店主「慌てる伊織ちゃんも中々可愛いもんだけどね」

伊織「なっ」

真美「マスター、兄ちゃんと同じ事言ってるー、変態さんだー」

店主「変態とは失礼な。っていうかプロデューサーさん変態呼ばわりされてるのか……」

亜美「前普通に胸触ってきたしね」

店主「変態じゃないの」

伊織「仕事は出来るのにああいうところが惜しいわ……」

やよい「そうなの? 私そういうことされたことないよ?」

亜美「流石の兄ちゃんも天使の前には手が出せなかったか……」

真美「兄ちゃんにもそういう心はあったんだね……」

店主「酷い言われようねプロデューサーさん」

伊織「まあ私と亜美は担当プロデューサーじゃないけどね」

亜美「あっちはあっちで恐いけどね」

伊織「恐ろしさで言ったら段違いね」

真美「二人共、それはりっちゃんに聞かれたらアウトだよね」

店主「765プロって恐ろしいところだね」

店主「はい、ミルクティーとレモンティー。分かってると思うけど熱いから気をつけてね」

真美「大丈夫だYO! 真美たちそんなにおこちゃまじゃ」

亜美「あちっ」

真美「…………」

店主「…………」

亜美「なんだろう、凄く冷たい視線を感じる……視線は冷たいのに舌は熱い」

店主「誰が上手いこと言えと」

伊織「アイドルが舌火傷するとか冗談じゃないわよ」

亜美「マスターが言うの遅いからだよ!」

店主「逆ギレも甚だしいわ」

やよい「マスター……? なんでマスターって呼ばれてるんですか?」

店主「分かんない。いつの間にか皆そう呼んでたから」

店主「雪歩ちゃんは最初の頃名前で呼んでくれてたはずなんだけどな……おかしいなあ……」

伊織「でもマスターって呼び方もまんざらじゃないんでしょ?」

店主「ここが喫茶店じゃなくてバーだったら喜んでたけどね」

亜美「バーだったらママって呼ばれてる気がするな」

店主「私まだそんな年じゃないもん!」

真美「ピヨちゃんとあんまり変わんない気がするけど」

店主「二人はなんなの? 同じ事務所の大人に恨みでもあるの?」

伊織「それが天然よ」

店主「恐ろしい双子……」

やよい「カルピス美味しいですー!」

店主「嬉しいけどそれ作ったの私じゃないから複雑」

真美「これは手作りティラミスに期待ですなぁ」

亜美「ティラミスと契約して亜美たちを元気づけてYO!」

店主「誰が魔法少女か」

店主「という訳ではい、ティラミス。ボロボロするから気をつけてね」

亜美「ほほう、これはこれは」

真美「高級っぽい見た目ですなぁ」

伊織「ん、中々美味しそうじゃない」

やよい「はわっ! てぃらみす? ってケーキだったんですか!」

伊織「何だと思ってたの?」

やよい「……プリン?」

店主「成程、ティラミス風プリン……良いかもしれない」

真美「変な所でマスターが刺激されてるよ」

亜美「やよいっちのじゆーなかんせーの革モノだね」

伊織「それを言うなら賜物でしょうが」

やよい「へぇ~……これがティラミスって言うんだー……」

伊織「……食べないの?」

やよい「え? あ、そうだね! 食べよっか!」

亜美「じゃあ」

真美「いっただっきまぁーす!」

伊織「頂きます」

やよい「頂きます!」

店主「はい、召し上がれ」

亜美「ふむふむ」モグモグ

真美「これはこれは」モグモグ

伊織「美味しいじゃない……ちょっと甘すぎる気がするけど」

やよい「んん~! 美味しいですぅー!」

店主「それは良かった」ニコ

店主「そういえば、私基本的に自分用に作るおやつ類ってティラミスが基本なんだけどね」

亜美「ふむ?」モグモグ

店主「ティラミスって調子に乗って作ると後の方飽きてきてさ、食べきれないってことが割りとあり得るのよ」

真美「まあ確かに、何日も連続で食べるには辛い味ですな」

伊織「元々味が濃いからしょうがないっちゃしょうがないけどね」

やよい「でも食べきれなくて捨てちゃうのはもったいないかなーって……」

店主「で、色々考えた結果、面白い食べ方を思いついたわけよ」

亜美「ほほう?」

真美「真美たちに普通に食べさせておきながら後出しとは感心しませんなー」

店主「まあ余談程度だから。なんならリクエストで今度から出すよ?」

伊織「ふぅん、うちでもティラミスは良く食べるし、聞いておこうかしら」

店主「まあ食べ方って言っても、凍らすだけなんだけどね」

真美「ケーキを凍らすの!?」

店主「食感が変わるだけで結構変わるわねあれ。アイスケーキってあるじゃない? あんな感じ」

やよい「あっ、それだったら私もやったことあります! チーズ蒸しパンを冷凍庫に入れておくとチーズケーキみたいになるんですよ!」

店主「…………」

伊織「…………」

亜美「あり、二人が凍っちったよ」

真美「へんじがない ただのしかばねのようだ」

店主「……ティラミス、余りそうだから持って帰る……? やよいちゃん」

やよい「え、ティラミス貰っても良いんですか? そしたら弟達にも食べさせてあげられます!」

伊織「チーズケーキも、食べたかったらいつでも用意するわよ……」

やよい「えっ、そんな、悪いよ伊織ちゃん」

真美「いつも通りな感じだね」

亜美「いつも兄ちゃんがやってることをマスターがやってるだけだね」

店主「確か奥にタッパーが……」

亜美「あ、これ兄ちゃんみたいに口だけじゃない、ガチだ」

店主「そういえば、四人とも一緒に収録って言ってたけど何の番組だったの?」

やよい「子供番組で使う歌のPVの撮影と、そのCDの宣伝ラジオ生放送です!」

店主「あー生放送だったのかー。知ってたら聞いたのに」

亜美「実は亜美たち四人じゃないんだけどね」

伊織「まさかこんな所で961プロとコラボするなんて思わなかったわ……」

店主「ん? コラボだったんだ」

真美「新曲は『ビジョナリー』って言うんだよ。CD出来たらプレゼントしてあげるYO!」

店主「おお、それは嬉しい。765プロのCDは集め始めるとキリがないね。ほら、そこのCDラックみてよ」

伊織「うわ凄い。デビュー直後の私のCDまである……」

亜美「うわー懐かしい! この頃って真美と二人でやってたんだよね!」

やよい「でもこの間出たばっかりのCDもあるよ」

店主「一部は貰い物だけど、半分以上は自分で揃えたよ。いやあ、カネがかかる」

真美「765プロにハマっただけでよかったね。これがCGプロモーションだったらマスター大破産だよ」

店主「所属アイドル数が桁違いじゃない。あそこと比べたら大体の所は負けるわ」

伊織「それにしても節操のないラインナップね。ジャズにクラシックにアニソンに私達のCD……あ、『プリコグ』もあるじゃない」

亜美「むむ、こちらには『オーバーマスター』もありますぞいおりん隊員」

店主「ジャズは元々の趣味、クラシックは千早ちゃんの影響で、アニソンも趣味ね。あと、ラックには置いてないけど演歌も聴くわよ」

伊織「守備範囲広すぎよ」

真美「そろそろメタルバンドとかに手出しそうだね」

やよい「見て、伊織ちゃん! 私のファーストアルバムもあるよ!」

亜美「やよいっちが楽しそうでなによりだYO」

店主「ん、ところでそろそろ五時回るけど大丈夫? 日も落ちてきたけど」

亜美「んー、まだ大丈夫だけど」

真美「でもそろそろ帰った方がいいかもね」

亜美「そういえば事務所に真美のゲームギア置いてきちゃったよ」

真美「ちょっ、借りたものを忘れるとか最悪っしょ! 取りに行かないと」

店主「渋いなチョイス」

やよい「私もそろそろ帰りますー。今日はタイムセールが六時からだから、帰りにスーパー寄らないと」

伊織「近くまで送りましょうか? あ、でもそうしたら早すぎるわね」

店主「あ、伊織ちゃんが送っていけるなら、先にやよいちゃんの家に行ったらどう? ほら、タイムセールにこれは邪魔だろうし」ドンッ

真美「タッパー一杯に詰まったティラミスとか初めて見たYO」

亜美「圧巻としか言いようがないね」

やよい「本当に貰っていいんですか?」

店主「もちろん」

伊織「じゃあ、一旦やよいの家に行ってからスーパーまで送りましょうか」

やよい「お願いしてもいい? 伊織ちゃん」

伊織「当然よ、伊織ちゃんに任せなさい」

真美「そんなことより真美は事務所に放置されたゲームギアが心配だよ」

亜美「マスター! お勘定!」

店主「うちは飲み屋か。えーと、二人はそれぞれ210円ずつね」

亜美「亜美がまとめて払うから真美はあとで返してね」チャリン

真美「あいあいさー」

店主「はい毎度あり。お釣り80円ね」

伊織「私たちもお願い」

店主「二人とも160円ね」

伊織「一々小銭出すのめんどくさいわね」チャリン

やよい「うっうー! ご馳走様でした!」チャリン

店主「はい、ありがとございました。またのお越しを」

亜美「じゃあ、まったねーん」カランカラン

真美「また来るよー!」

伊織「今度からカード対応にしたら?」

店主「それ誰かにも言われた」

やよい「私もまた来ますね! ティラミスありがとうございますー!」

店主「はい、どういたしまして」

店主「…………」

店主「件の四人が撮影したというPVを見るため、子持ちでもないのにこの歳になって子供番組を見てみたり」

店主「成程あれは可愛いね。コラボしてた子が意外だったけど、そういえば事務所の方針変更からはクールキャラやめたんだっけ」

店主「そういえば、本人のイメージと歌のイメージが一緒じゃない子って案外居るわね。あの子も普段から想像つかない乙女チックな曲歌ってたし」

店主「普段は湯気が怖くてコンタクトだけど、ちょっと真似して……」

店主「私のメガネ、好き? 嫌い? なーんてね!」

Next→秋月律子+?

今日の分はこれで。
響だと思った? 残念、りっちゃんでした!

どうでもいいけど私が初めてプレイしたアイマスがSP星なので、ワンダリングスターのアイドルには愛着があります。
今は秋月P(自称)だけど。

店主「眼鏡にとって梅雨と冬と湯気は天敵。あと雨と砂もそうね」

店主「私は仕事中コンタクトだけど、うっかり気まぐれでラーメン屋にでも入った日には大変よ」

店主「なんて話を出来るのは、うちに来るアイドルで目立つのはあの子くらいかな」

――case5 秋月律子+α

律子「うーっ、寒い。こんにちは」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい。カウンターへどうぞー」ガチャガチャ

律子「何やってるんですか?」

店主「天井にスピーカー付けたから、ラジカセと繋いでんのよ。よし、これで繋がったはず」

律子「あ、そうだ。また持ってきましたよ、CD!」

店主「おお! ありがとうりっちゃん」

律子「誰がりっちゃんですか」

店主「して、今日のブツは?」

律子「うちの事務所からこの間出たばかりの『Vault That Borderline!』のシングルと、ニューアルバム『MUSIC♪』を」

店主「これって、確かこの間の夏の新曲でしょ? CDになるのはずいぶん遅かったのね」

律子「コラボ相手の961プロと発売記念イベントの日程を決めてる内に……」

店主「記念イベントに左右される発売ってどうなんだろうね」

店主「そうだ! テストついでに早速流してみようかな」ウィーン

律子「いいですね」

店主「前まではこのラジカセから直接音流してたから、店の逆側だと殆ど聴こえなかったけど……天井のスピーカーなら」

~♪

店主「よし」

律子「なんか自分の曲を喫茶店の中で聴くのは不思議な気分ですね」

店主「んー、私はアイドルじゃないから分からん」

律子「そうですか。とりあえず、CDはどうぞ」

店主「毎度ありがとー」

店主(この子の名前は秋月律子。今は765プロでプロデューサーをやっているが、何年か前にはアイドルをやっていた)

店主(私が初めてテレビで好きになったアイドルが彼女なのだが、そのことは話してないから誰も知る由もない)

店主(因みに、うちの店にあるアイドルCDの約半分は、彼女が事務所から「所属アイドルが世話になってるから」と贈ってくれたものだ)

律子「じゃあ、ウインナーコーヒー下さい」

店主「浮かべる方? 沈める方?」

律子「沈める方で」

店主「はい、ウインナーコーヒー一つ。流石にりっちゃん相手には豆知識披露は出来ないなー、さらに解説加えられそう」

律子「あら、もしかして最近亜美たちがイタリア語に凝ってるのはマスターのせいかしら?」

店主「さあどうだか。私も別にうんちく知ってるだけで話せないしね」

律子「私も、豆知識とかは結構知ってますからね」

店主「明日人に教えたくなるようなムダ知識?」

律子「懐かしいですねそれ」

店主「たまにあるホラー系の奴怖かった。ガチャピンの歌初めて知ったのもあれだったし」

律子「ある意味最強のアイドルですよね、ガチャピン」

店主「なんでも出来るしね。歌って踊って戦って舞って飛んで羽ばたいて泳いで潜って」

律子「きりがないです」

店主「同じ緑色として何か一言」

律子「美希に任せます」

店主「まあ色的には美希ちゃんの方が近そうだけどね」

律子「私はまだ潜水士の資格とかは持ってないので」

店主「……いずれ挑戦するつもりなの?」

律子「…………」

店主「目そらさないで」

律子「ん? あれって、もしかして……」

店主「どれ? ああ、あれはサインだね。結構前に人気出ずに居なくなっちゃったけど、私と年が近くて好きだったアイドルの」

店主「街頭ライブやってるのに出くわして、一目でファンになって即効でサイン頼んだ。テレビで見ることは殆どなかったけど」

律子「『スキップバード』、聞いたことない名前ですね」

店主「そうかー、私結構好きだったんだけどなー。そのサイン色紙も私にとっては宝物だけど、多分売りに出しても買う人が出ないんだろうなあ」

律子「なんか悲しい話ですね」

店主「その点りっちゃんは良いよ、今も時々ライブ出てるんでしょ? ファンの視点から言えば、かなり嬉しい話だと思うよ」

律子「そうですか? まあ、私もステージに立つのは、嫌じゃ……ないですけど」

店主「ふふ、ファンも喜ぶ、りっちゃんも楽しむ。ならライブに出て損はないじゃない」

律子「そうですね。今度のライブでも、出してもらえるよう頼んでみるかな……」

店主「……そうだ!」イソイソ

律子「?」

店主「りっちゃん……サイン下さいッ!」バッ

律子「えっ、え、私のですか!」

店主「もちろん!」

律子「で、でも、この店には私より人気のアイドルがいっぱい来るんだし……」

店主「世間の人気は私の好みとは関係ないの。私はりっちゃんのサインが欲しい」

律子「本当に私ので良いんですか?」

店主「むしろ」

律子「……分かりました。じゃあ渾身のを……あ」

店主「ん?」

律子「ちょっとサービスしちゃいますかね」キラーン

店主「お、眼鏡が光った」

律子「ちょっと電話してきますね」

店主「ん、いってらっしゃい」カランカラン

店主「さて、今のうちにコーヒーを……」

律子「うまうま」ズズ

店主「りっちゃん、メガネメガネ」

律子「もうなれました」

店主「あらそう」

律子「……そろそろ来る頃かしら」

店主「誰か呼んだの?」

律子「まあまあ。あの子が来たら一緒にサイン書きますから」

店主「一緒に……ってことはアイドルの誰か――」カランカラン

涼「こんにちはー……あ、律子姉ちゃん! 突然どうしたの?」

律子「んー、ちょっとね」

店主「もしかして、こちらの方は……」

律子「私のイトコの涼です」

涼「はじめまして、秋月涼です」

店主「はじめまして。さて、これでうちに来たアイドルは何人になったのだか」

律子「ほら、ここ座りなさいよ」ポンポン

涼「うん」

律子「じゃあ、ここにサインして」

涼「え?」

律子「良いから」

店主「りっちゃん、強引なセールスか婚約迫る関白嫁っぽい」

涼「例えがおかしい! いだだだだだだ律子姉ちゃんそっちに手首は回らないから!」

店主「それ以上いけない」

律子「もう、じゃあ先に私が書いちゃうからその隣に書いちゃって」

店主「説明してあげなよ……ていうか私も分かんない説明して」

涼「サイン? なんだ、最初からそう言ってくれれば良かったのに」

律子「私達のセットのサインなんて中々ありませんよ、マスター!」

店主「本当にありがとうございますもう今日はタダで注文して下さいはい」

律子「え、ちょ、ちゃんとお金は払いますからね!」

涼「折角来たんだから、僕もなにか頼もうかな」

店主「この間メニューに書き足したばっかりのメロンティーなんかおすすめだけど」

律子「あ、スイカティーだって、涼。あなたこれにしなさいよ」

涼「なんか地雷臭がするんだけど……」

店主「はい、スイカティー一つ」

涼「店長さん!?」

律子「涼、あの人のことはマスターと呼ばないとダメよ」

店主「いやそんなルールないから」

涼「あ、すいませんマスター」

店主「秋月の一族はノリがいいの!?」

涼「勝手にスイカティー作り始めた人が言いますか!?」

律子「良いじゃない、案外美味しいかもしれないわよ」

店主「多分、美味しいんじゃない、かなー、って」

涼「マスターの言い方がすでに美味しくなさそうなんだけど……」

律子「キノセイヨ」

涼「律子姉ちゃん? なに美味しそうにホイップクリーム飲んでるの?」

店主「はい、スイカティー」

涼「あ、ありがとうございます」

涼「思ったより普通に紅茶っぽいけど……味は」

店主「ちょっとミネラルウォーター持ってくるわね」

涼「マスター!?」

涼「あ、思ったよりまずくない」

律子「美味しい?」

涼「…………」

店主「美味しくはないわ」

律子「店員が断言して良いんですかそれ」

店主「美味しくないものは美味しくないからねー、でも好きな人居るかもしれないし」

涼「ぐむっ」

律子「涼!?」

涼「なんか急にスイカの強烈な匂いが込上がってきた……」

店主「ある意味強力なトラップね。序盤はまだ飲めるだけに」

律子「調子に乗って頼まないで良かったー」

涼「僕に毒味させたの……?」

律子「ごめん」

涼「目が泳いでるよ」

律子「これはコーヒーの湯気が目に入っちゃって」

涼「そうかー、それじゃあ仕方ないね。マスター、スイカティーもう一つ」

律子「!?」

店主「はい、スイカティー一つ」

―――――――――――――――
―――――――――
―――
律子「んむぐぁ!」

涼「ほら、まだ半分残ってるよ」

店主「なんか涼ちゃんの恐ろしい片鱗を見た気がする」

店主「ん? 涼くん? どっち?」

涼「どっちでも良いですけど……くんの方が良いですかね」

店主「じゃあ涼くんで」

店主「それにしても、実は男の子でしたーって報道された時には心底びっくりしたわ」

涼「僕だってドキドキでしたよ。元はといえば律子姉ちゃんとまなみさんのせいで……」

律子「私は紹介しただけで、女装デビューさせたのは石川社長じゃない」

涼「僕が876プロに行ってなかったら765プロで女装デビューさせられてた気がするんだけど」

律子「……キノセイヨ」

涼「律子姉ちゃん、目を合わせて言ってくれないかな」

店主「女装してた頃は、腕とか脚とかどうしてたの? 水着の仕事もあったらしいけど」

律子「それが聞いて下さいよマスター。この子ったら! ムダ毛の一つも生えちゃいないんですよ!」

律子「ヒゲすら生えないんですよ! どうにかしてると思いません!?」

店主「それは妬ま、羨ましい限りね」

涼「女装してた頃っていうか、今も時々そういう仕事が来るんだよなあ……僕はもっとイケメンなアイドルになりたいのに」

店主「なんかこの間似たような相談を受けた気がするわね。真ちゃんに」

涼「真さんも来るんですか? この店」

店主「うん。たまにだけれど」

涼「そうなんですか」

店主「面識あるの?」

涼「デビューした頃、レッスンに付き合って貰ってたんです。何故かゴシップ記事になっちゃいましたけど……」

律子「あれはひどかったわね。『菊地真 やはり男か!?』って、真が男なんじゃないかって検証までついてて」

店主「ひどい話ね」

涼「その後記者会見まで開いて……人生で初めての記者会見が、まさかあんなものになるなんて」

律子「貴重な経験ってレベルじゃないわね。かつて無いわよ、女装して女性アイドルとレッスンしてたら自分は女だと思われたままゴシップ記事作られたアイドルなんて」

店主「そりゃ居ないわ」

涼「あー、イケメンになりたいよー」

店主(真ちゃんに普段来てる仕事を教えてあげたいわ)

涼「どうしたらイケメンになれますかね?」

店主「私に聞かれても……強いていうなら、顔は悪くないんだからファッションとかメイクの問題じゃない?」

律子「ファッション(笑)」

涼「笑わないでよ! 最近はマシになってきたんだから!」

律子「この間作られたゴシップ記事忘れたの?」

涼「うっ……」

律子「『天ヶ瀬冬馬 秋月涼 秘密のデート!?』って、共演した後クレープ食べに行っただけなのに写真撮られて、その上二人ともチェックのシャツ着てるしそもそも男だし」

店主「……涼くんはあれなの? なにかそういう悪運を呼びこむ力でもあるの?」

涼「分かりません……しかもあの後の記者会見、完全に僕が女の子の体で話進められてたし」

律子「いっその事本当に女だったほうが楽だったわね」

涼「本当だよもー……」

店主「災難続きなのね」

涼「そろそろドーン! っと幸運が降ってきてもいい気がするんですけどね」

律子「そう簡単に降ってきたら苦労しないわよ」

涼「分かってるよう」ブー

店主(ふくれっ面がりっちゃんと真ちゃんを足しで二で割ったみたいな面影なのよね。可愛い)

律子「さて、そろそろ私は帰りますか。涼はどうする?」

涼「律子姉ちゃんが帰るなら僕も」

店主「ん、そう」

律子「お会計お願いします」

店主「一緒でいい?」

律子「別々で」

涼「即答!? まあ、そのつもりだけど」

店主「えー、お会計660円で……りっちゃんが450円、涼くんが210円ね」

律子「えっ」

涼「スイカティー」

律子「あっ」

律子「くっ……やられた。今度うちの事務所で涼の小さいころの写真ばらまいてやる」チャリン

涼「そういう地味な嫌がらせやめて!」チャリン

律子「冗談よ。流石にそこまでやらないわよ」

店主「はい、丁度頂きました」

律子「じゃあ、また来ますね、マスター」カランカラン

店主「いつでもどうぞ、またのお越しを」

涼「僕もまた来ますね。今度は一人で」

店主「待ってるわ」

店主「…………」

店長「ライブビューイングというものを知って、会場に行かなくてもライブが見れると知ったので見に行ってみた」

店主「そしたらりっちゃんが『DazzlingWorld』を歌ってて驚いたわ。今度の876プロのライブでは涼くんが『魔法をかけて』を歌うらしいから、そっちも見に行かないと」

店主「そういえば涼くんはあの後、真ちゃんとCMで共演してたわね。残念ながら、配役は明らかに二人の希望とは逆に見えたけど」

店主「まあ、真ちゃんが少しずつ女の子らしい自分を掴んでるように、彼もいつかイケメンの自分に近づけるでしょう」

店主「ところで、秋月コンビのサインを見た765プロのアイドルたちが我も我もとサインを書いてくれたお陰で、壁にどんどんサインが……」

店主「765プロ自体とは何の関わりもないのに、こんなに飾ってて大丈夫かな……大丈夫か、お客さん居ないし! ……ハァ」

店主「そういえば、765プロと言って良いか分からないけれど、ここまで来たらあの子のサインも欲しいの。あはっ」

Next→星井美希



店主「いい年して「あはっ」とか何言ってるんだろう……」 ミミミン ミミミン ウーサミン>

今日の分はこれで。
なんだかいつにもましてgdgdになってしまった気が。

とりあえず17歳さんの歌は電子ドラッグの一種か何かだと思ってる

>>1です

本日は四条貴音生誕祭ということで、予定を変更して『case5.5 Venus』を書くことになるかと思います。
美希編を期待していた方の期待も酌み、いわゆるフェアリーメンバーでお送りする予定です。

それでは、また今夜。

店主「誕生日が素直に喜べなくなったのはいつ頃か。少なくともこの間の27の誕生日には一人寂しくハッピバースデートゥーミーだったのもあって嬉しさはなかった」

店主「そんな寂しい私の誕生日はどうでも良いとして、どうせなら誕生日は誰かに祝ってもらいたいもの」

店主「誰か自分を祝ってくれる人が居るっていうのは、それは結構幸せなことなのかもしれないね」

――case5.5 Venus

響「はいさーい!」カランカラン

店主「はいたい。いらっしゃい」

美希「らっしゃいなのー」

響「あ、美希先に来てたのかー。自分が一番だと思ってたのになー」

店主「とは言っても十分も差ないけどね」

美希「んー、マスターのキャラメルマキアートは美味しいのー」

店主「カフェラッテにキャラメルシロップ足した程度のものなんだけどね」

美希「じゃあカフェラッテが美味しいの、きっとそうなの」

響「うー、自分もなんか温かいものが欲しいぞ」

店主「ジンジャーティーがおすすめだけど」

響「じゃあそれをもらうぞ」

店主「はい、ジンジャーティー一つ」

響「で、美希は用意してきたのか?」

美希「もちろん買ってきたの。ちゃんとお姉ちゃんに教えてもらってラッピングもしたし」

響「自分は自分で編んだんだぞー。今回は力作さー!」

店主「随分力入れてるのね」

響「なんてったって仲間だからな!」

美希「ミキだってこういう時には本気出すよ?」

店主「んっふっふ、でも私だって珍しく気合入れたからね、負けないわよ」

響「おっ、もう作ったのか?」

店主「連絡貰ってすぐに作り始めたわよ。と言っても、普通のお店並みのクオリティは期待しないでよ」

美希「そこまでは求めてないの。大事なのは空気だって思うな」

店主「ふふ、違いない。さて、じゃあ主役を呼びましょうか」

響「自分、電話してくるぞ!」

貴音「こんにちは」カランカラン

\パンッ/

美希「はっぴーばーすでーなの!」パンッ
響「誕生日おめでとう、貴音!」パンッ

貴音「……なんと」

店主「散らからないクラッカーって偉大だね」

貴音「これは、一体……」

響「今日はマスターに協力してもらって、貴音の誕生日パーティー用に貸し切りだぞ!」

店主「貸し切りと言っても普段からこの時間は誰も来ないし実質普段と同じだけどね」

美希「ほら! 早く座るの」

貴音「は、はい」

響「貴音は誕生日だから真ん中なー」

美希「じゃあ、マスター頼んだの!」

店主「ほいきた、私流バースデーフルコース!」

~一品目~

貴音「これは……」

店主「前菜、タコとアボカドのサラダよ」

美希「予想以上にお洒落で戸惑ってるの」

響「居酒屋みたいなのが出てくると思ってたぞ」

店主「あんたら私の事何だと思ってるの?」

美希「マスター」
響「マスター」

店主「どうして居酒屋になるのよ……」

貴音「ふむ……あぼかどですか。美容にいいと聞きますが、食べたことはありませんでしたね」

店主「通称『森のバター』とも呼ばれる果実の王だからね」

貴音「頂きます」パクッ

貴音「美味しいです……!」テーレッテレー

店主「ッシャァ!」

響「マスターが今まで見たことのないテンションでガッツポーズを!」

店主「さあ、まだまだ行くわよ!」

美希「ちょっとキャラが変わり始めてるの」

店主「自分の料理を褒められて嬉しくない人がいるものですか」

~二品目~

貴音「これは?」

店主「名称不明のスープ。ミニトマトと人参、それとパプリカで作ってみたわ」

美希「見た目クリームスープっぽいの」

店主「でも名称不明。ある意味私の創作料理だし、似たような料理があっても私は知らないし」

貴音「ふむ」パクッ

貴音「……これは、中々良いですね。トマトの味がくどくないので、いくらでも飲めそうです」パクパク

響「貴音の場合比喩に聞こえないぞ」

美希「あるだけ食べちゃいそうなの」

貴音「ふぅ、ご馳走様でした」

店主「さあ、次からはメインゾーンよ!」

~三品目~

店主「魚介メニューは定番のムニエル。今回はサーモンを使ってみたわ」

貴音「香ばしく、食感もサクサクとして良いですね。それに、ハーブの香りが食欲を誘います」サクサク

美希「本当に美味しそうに食べるの」

響「見てるこっちまで幸せになってくるぞ」

貴音「ダンスの仕事の後というのもあるのですが、先程までのサラダとスープで胃が落ち着いているのでどんどん求めてしまいますね」カリサクッ

店主「たまに無性に魚が食べたくなった時は、これ作って食べてるの。楽だし美味しいし、工夫次第で幅は広がるし」

店主「今回は私好みのハーブと、レモンで爽やかな感じにしてみたわ」

貴音「道理で、とまらないわけです」

~四品目~

店主「多分貴音ちゃんには必要ないであろうけど、腹休めのシャーベットよ」

響「! なんかすごい色してるぞ!」

美希「あれ? この色どこかで……」

店主「これはバースデーというか、新ユニット結成記念かな」

店主「新ユニット『Venus』結成おめでとう、美希ちゃん、響ちゃん、貴音ちゃん」

貴音「なんと……、何故知っているのですか?」

店主「うちのお客さんの情報よ」

店主(そのお客さんって、黒井社長のことだけどね……)

店主「まず美希ちゃんのフッレシュグリーンは、グリーンバナナのシャーベットね」

店主「で、貴音ちゃんのカーマインは、和風なイメージで紫芋のシャーベット」

店主「一番苦労したのは響ちゃんだけど、ライムシャーベットに着色してターコイズブルーにしてみたわ」

貴音「ふふ、私達のように肩を寄せあって可愛らしいシャーベットですね」

店主「二人にも、はい」

美希「凄いの! マスターのこと尊敬するの!」

響「頂きます!」

店主「はい、召し上がれ」

美希「ぐっ……これは罠だったの」キーン

響「落ち着いて食べないからだぞ……」

貴音「っ」キーン

響「貴音ぇ……」

~五品目~

貴音「私の記憶が正しければ、シャーベットの次は……!」

店主「よくお分かりで。お待ちかね、肉よ!」ドーン

貴音「これは、ローストビーフですか」

店主「牛もも肉のローストよ」

貴音「ワインが合いそうですね」

店主「貴音ちゃんはまだ一年待ちましょうか」

響「一年後もここに来たらマスターが奢ってくれるってさ、貴音」

店主「ちょっ」

美希「今の内に高いお酒ねだっておくの」

店主「ちょ」

貴音「では、一度ろまね・こんてぃというワインが……」

店主「やめて」

貴音「うふふ、ジョークです」

店主「じゃなかったらどうしようかと」

響「ナイフとフォークでお肉食べてるの見ると、貴音がますますお姫様っぽいぞ」

美希「絵になるってこういうのを言うんだって思うな」

貴音「今度黒井社長に言ってそういった料理店に連れて行ってもらいましょうか」

店主「ていうかさっきから一切音立てずに肉食べてるけどどうやってるの?」

貴音「とっぷしぃくれっとです」

~六品目~

美希「さて!」

響「真打ち登場だぞ!」

店主「私渾身の力作! ズッパイングレーゼ!」

貴音「なんと、ケーキがボウルの中に入っています」

店主「ズッパイングレーゼは水っぽいケーキだから、基本的にこんな感じね」

店主「今回はアルケルメスってリキュールを染み込ませたスポンジとカスタードクリーム、それと生クリームにイチゴで作ってみたわ」

貴音「リキュール……お酒、ですか」

店主「もちろんアルコールは飛ばしてあるけどね。さあ、じゃあ食べましょうか」

美希「美希このイチゴが欲しいな」

響「美希ぃ、貴音が先だぞ」

店主「はいはい順番に切り分けるから」

貴音「マスターはまるで二人のお母さんのようですね」

店主「こんなデカくて手のかかる子ども、この年で欲しかないわ」

美希「ひどいの」

響「デカイって言われたぞ」

美希「響、そうじゃないの」

店主「ええい、貴様らに170センチある女の何が分かる!」

響「うがー!」

美希「今のマスターなんだか社長っぽかったの」

貴音「……面妖な」

響「で」モグモグ

美希「で、なの」モグモグ

貴音「まこと美味しいですね」モグモグ

店主「私まで食べてるわけだけれど。美味し」モグモグ

響「自画自賛?」

店主「自己賞賛」

美希「何が違うの?」

店主「変わんないかな」

貴音「…………」モグモグ

響「ちょ、貴音! ボウルから直はまずいって!」

貴音「これは、やめられなく……」モグモグ

店主「ハハハ、好評で何より……さて、じゃあここらで二人に任せようか」

美希「なの」

響「貴音、こっち向いてー」

貴音「はい」モグモグ

響「とりあえず一旦ボウルを置いて」

貴音「仕方がありませんね、しばしの別れです」スッ

響「そこまで!?」

響「コホン……じゃあ、改めて」

響「貴音、誕生日おめでとう!」
美希「おめでとうなのー!」

貴音「……はい、ありがとうございます」ニコリ

店主(貴音ちゃん……目尻がうっすら光ってるよ)

美希「というわけで、プレゼントなの」

貴音「開けて見ても?」

美希「もちろんなの! 開けて開けて」

貴音「これは……カチューシャとヘアブラシ、ですか?」

美希「いつもカチューシャ付けてるから、美希が選んでみたの。それに、それだけ長いと手入れも大変そうだから、絡みにくいって噂のヘアブラシなの」

貴音「ふふ、ありがとうございます」

響「じゃあじゃあ、次は自分だぞ!」ガサゴソ

響「じゃーん! 定番だけど手袋と、耳あてだぞ! 頑張って作ったんだ」

美希「ぶー! 響の耳あてで美希のカチューシャが隠れちゃうの」

響「いや、流石に耳あては屋外だけだと思うぞ……」

貴音「これは、暖かそうですね。ありがとうございます、響」

響「へっへーん、自分完璧だからん!」

美希「ぷふっ、だからん……」プルプル

響「うがー! なんで自分は大事な所で噛むんだー!」

店主「まあ、それも響ちゃんの良さってことだよ。……プフッ」

響「マスターまで笑うなぁ!」

美希「ん? マスター、その手に持ってるのって……」

店主「ん、これ? もちろん、私からもささやかなプレゼントをね」

貴音「なんと、よろしいのですか?」

店主「よろしいもなにも、ファンからアイドルにプレゼントなんて日常茶飯事でしょう。はい、これ」

貴音「これは……なにやら箱のようですが」

店主「開けてみて」

貴音「……まあ、ネックレスですね」

店主「肌にやさしい木製ネックレス。首に巻く部分はゴムで、アクセサリー部分は私の手作りだからいびつでも許してね」

美希「凄いの、ハート型の輪っかがくっついてるの」

響「マスターってもしかして凄いんじゃないのか……?」

店主「手先が器用なだけが取り柄だから」

貴音「ありがとうございます。大切にさせて頂きます」

店主「そう言ってもらえると作った甲斐があるね」

貴音「ふふ、アイドルになる前は、じいやと妹が私を祝ってくれましたが……今年は新しく妹と姉が出来たような気分です」

店主「姉、か……まあ、悪くないね」

店主「その後、なぜか居場所を嗅ぎつけて飛んできた黒井社長と、無理矢理連れて来られてきたJupiterも加わり、カオスなバースデーパーティー第二幕が始まったとか何とか」

店主「因みにあの場では渡さなかったけど、実は事務所宛にほかにもネックレスを贈っておいたのよ」

店主「それぞれ金星と木星の惑星記号をかたどったのを三つずつね。黒井社長なら使ってくれるでしょう、顔なじみだし」

店主「ところで、ここにもう一種類、誰にも渡してないネックレスが一つ……土星の惑星記号は作るのに苦労したわ」

店主「これが誰のためのものかはご想像にお任せして……まああの人気なら分かっちゃうだろうけど」

店主「そういえばこんな言葉があるわ、『アイドルだって人なんだ、結婚くらいするだろう』」

店主「……人なのにこの年で彼氏の一人も出来たことのない私ってなんだろう。私はもう誕生日が怖いわ」

Next Half Story→???

今日の分はこれで。
お姫ちん誕生日おめでとう! マジおめでとう! らぁめん食べよ! らぁめん!(必死)

関係ないけど最近、おもちゃのチャチャチャのリズムで「子安めハハハ」ってテラ子安ボイスで脳内再生されて辛いので誰か助けて下さい。

店主「ライバルっていうのは良い物よね。プライドの高い人なら、ライバルは向上心を刺激する良い材料だし」

店主「アイドル業界なんて周り皆敵だらけみたいな業界なんだから、ライバルが居るのは当たり前」

店主「その中でも、彼女らは良い関係といえるんじゃないかな」

――case6 星井美希+α

???「…………」カランカラン

店主「いらっしゃいませ。カウンターへどうぞ」

???「あ、いえ、出来れば端の方の席が良いのだけれど」

店主「そうですか? ではそちらの席へどうぞ」

???「ありがとう。アールグレイティーを頼むわ」

店主「はい、アールグレイティー一つ」

店主(コートにソフト帽にサングラス、それに席の指定とは徹底してるわね……この店じゃそんな心配要らない気がするけど)

???「……ん? このCD……」

店主「あ、そちらのCDラック、気になる音楽があったら言って下さいね。流しますから」

???「え? じゃあ、これお願いしていいかしら」

店主「……『ラッキースター!』ですね。私もお気に入りなんですよ、この歌」

???「そ、そうなんですか」

店主「じゃあ、今流しますね」

美希「たのもー! なの!」カランカラン

店主「お、美希ちゃんいらっしゃい」

美希「キャラメルマキアートよろしく、マスター!」

店主「はい、カウンターへどうぞ」

美希「はいなのー」

~♪

店主「……よし」





???「……!? 星井美希……?」

美希「教えてハァニィー♪」

店主「店内BGMもお構いなしに上機嫌だね、美希ちゃん」

美希「だって今日は久しぶりにデコちゃんに呼ばれて来たから。きっと何かあるの」

店主「へえ、呼び出しとは珍しい」

美希「黒井社長と律子、あと876プロの社長っぽい人がこの間事務所の社長室で話してたから、多分その関係なの」

店主「社長っぽい人って何?」

美希「黒かったの」

店主「ああ……顔とかよく覚えてないよね」

美希「ミキ、未だに黒井社長の似顔絵描けって言われたら口から下しか描けそうにないの」

店主「同じく」

美希「なんか、合同……ライブ? とか言ってたから、三事務所合同でコラボイベントでもするんだと推理してるの」

店主「推理も何もそれ以外なさそうね、それ」

美希「んー、美希は千早さんともう一回デュエットしてみたいなー」

店主「言ってみれば? Venusくらいの売れっ子ならわがままくらい通るでしょう」

美希「もし本当に合同ライブなら言ってみるの」

店主「あの社長ならやってくれそうだけど。はい、キャラメルマキアート」

美希「待ってましたなのー!」

店主「ところで伊織ちゃんはいつ頃来そうなの?」

美希「デコちゃんなら――」

???「伊織ぃー!?」ガタッ

店主「」ビクッ

美希「な、なんなのなの!?」ビクッ

???「あっ」

美希「……ん? なんか、どこかで見たような……」

???「あ、いや、私は――」

伊織「邪魔するわよ」カランカラン

店主「いらっしゃい」

美希「あ、デコちゃん」

伊織「デコちゃん言うな!」

伊織「あら、もう二人とも揃ってたのね。私が最後とは、売れっ子は辛いわね」

店主「二人? ってことは……」

美希「マスターも合同ライブに!?」

店主「な訳あるか。そっちの人でしょう」

???「な、伊織! ハメたわね!」

伊織「ハメたとはなによ」

???「星井美希が来てるなんて聞いてないわよ!」

伊織「言ってないもの」

???「~~~ッ!」

伊織「とまあ冗談は置いておいて、久しぶりね。麗華」

店主「麗華……? って、まさか……!」

麗華「そうよ! 東豪寺プロ所属Sランクアイドルの東豪寺麗華様よ! 忘れたとは言わせないわよ、星井美希!」

伊織「二人を呼んだのにはちゃんと理由があるのよ」

麗華「理由もなしに呼んだならアンタのそのデコに頭突きかましてたわ」

伊織「逆にかち割ってやるわよ」

美希「デコちゃんなら出来そうなの」

伊織「話がややこしくなるからアンタ喋んないで」

伊織「実は、うちの事務所と961プロ、876プロが今度コラボライブを開くことになったんだけど」

美希「やっぱりそうだったの」

伊織「アンタまだ喋るなって言ってから一分も経ってないわよ……」

麗華「話が進まねーな」

伊織「進めるわよ。それで、このイベント基本的には普通のライブと同じなんだけど、コラボライブだからね、特別なこともしたいのよ」

伊織「例えば今律子……うちのプロデューサーね。律子が考えてるのは、961の天ヶ瀬冬馬、876の秋月涼、うちの菊地真でオリジナルユニットを作るってものよ」

美希「涼ちゃん逆ハーレムなの」

伊織「真だから、逆ハーレムなの真だから」

美希「え……?」

伊織「わざとらしいくらい怪訝そうな顔するな」

麗華「で、それがどうしたのよ」

伊織「……二人は当然だけど、面識はあるわね?」

麗華「忘れるわけねーだろ。こいつにボロ負けして魔王エンジェルは生まれ変わったようなもんだからな」

美希「今度は美希だけじゃなくて、Venusとして受けて立つよ?」

麗華「ケッ、叩き潰してやるよ」

伊織「それは結構だけど、ちょっと私の提案を聞いて」

伊織「私達でオリジナルユニットを組んでみない?」





店主(私この話聞いてていいのかなー)

美希「面白そうなの」

麗華「なんで私が!」

伊織「……予想通りの反応だわ」

麗華「そもそも私961でも876でも、ましてや765でもないのに参加できるわけねーじゃん」

伊織「その点は心配ないわ、うちの社長から言われてるから」

伊織「『おお、水瀬くんは魔王エンジェルのプロデューサーと顔見知りなのか! ちょっと交渉してきてくれないかね?』」

伊織「プロデューサーっていうか兼リーダーだし、顔見知りもなにも幼馴染だし」

麗華「……だ、だとしてもだ! それじゃあ、ともみやりんは……」

伊織「それも心配ないわ。ちゃんと魔王エンジェルのパフォーマンス枠も作れる」

麗華「ぐっ……」

美希「麗華はミキたちとユニット組むのヤなの?」

麗華「あったりめーだr」

美希「」ウルウル

麗華「ぐっ……」

麗華「……とりあえず、私だけじゃ決められないからな。二人にも相談する。それからだ」

伊織「それじゃあ、考えてくれるのね?」

麗華「考えるだけ考えといてやるよ」

美希「」ウルッ

麗華「っ……な、なんとか話つけてやるから」

美希「あはっ! 良かったの」ケロッ

麗華「てめぇぇぇええええ騙したな!?」

伊織(麗華は本当にカモ体質ね)

美希「ミキたちでユニット組んだら、凄いステージが作れる気がするの」

麗華「はぁ……いつか絶対潰す」

美希「響と貴音が一緒のミキに負けはないの」

伊織「私も、優秀なプロデューサーと愉快な仲間たちが一緒だから。絶対に負けないわ」

麗華「アンタらも、魔王の前にひれ伏す用意をしておきなさい」

店主「さて、お仕事熱心な三人にサービスでこれをあげよう」

麗華「ん? これは……」

伊織「ホットケーキね」

美希「食べるの!」

店主「ハチミツとチョコシロップと……とりあえず色々あるから好きなモノ使って」

伊織「気前がいいわね」

店主「まあついでだから」

伊織「ついで?」

店主「ん。いつか渡そうと思ってた品を……どうぞ受け取って下さい」

麗華「……え、私?」

店主「正しくは魔王エンジェルに。まあ使おうと使わまいとどっちでもいいけれど」

麗華「……ネックレス? しかもこれ、木じゃない」

美希「あ、ミキも持ってるよ。ほら」チャラ

店主「美希ちゃんのは、Venusだから金星の惑星記号。あとJupiterにも木星の惑星記号のを贈ったわ」

店主「で、魔王エンジェルには魔王だからSaturn、土星の惑星記号で作ってみたの」

麗華「ありがとう」

伊織「あら珍しい、素直じゃない」

麗華「アンタに言われたくないわよ。私はあれ以来、ファンを大切にするようにしたのよ」

伊織「いい心がけよ」

麗華「ファンクラブ向けに罵倒CDなんて出してるアイドルに言われたくないわ」

伊織「需要があるから良いのよ!」

店主「麗華さんにも需要ありそうだけどね」

麗華「麗華で良いわ、私だけさん付けっていうのも気に入らないし」

店主「じゃあ麗華ちゃん」

麗華「ちゃん……」

美希「あー、そういえばお店に入った時に流れてた歌もそういえば魔王エンジェルのだったの」モグモグ

麗華「偶然CDラックの中に見つけたから流してもらったのよ」モグモグ

伊織「ここのCDラック、アイドルソングの揃いが異常に良いのよね。あ、オレンジジュース頂戴。のどが渇いて仕方ないわ」モグモグ

店主「はい、オレンジジュース一つ」

美希「喉が渇くのはホットケーキのせいだと思うな」

伊織「アンタがいらんことでつっこませるせいよ!」

麗華「伊織……本当変わらないね」

伊織「アンタはアンタで何を懐かしんでるのよ! そうよ、伊織ちゃんは昔からスーパーアイドルよ」

麗華「そういうところとか」

伊織「むきー!」

美希「……ん? ねえマスター、あのギターって弾けるの?」

店主「ん、ギター? ああ、弾けるよ。私高校の時は軽音楽部だったし」

美希「ふーん……。ねえマスター」

美希「美希たちの曲って弾ける?」

店主「楽譜持ってるやつなら弾けるけど。暇な時やってるし」

美希「ちょっとこの曲とこの曲を……」コソコソ

店主「ふむ? ……ああ、なるほど、おもしろそうね」コソコソ

伊織「ちょっと、二人して何やってるのよ」

美希「麗華……さっき、ミキのこと潰すって言ってたよね?」

麗華「今からでも叩き潰したいわ」

美希「じゃあ美希とここで勝負なの!」

麗華「……は?」

美希「マスターがギターで曲を弾いてくれるから、二人で歌ってデコちゃんに判定してもらうの」

伊織「私審査員枠なの!?」

店主「曲目は『ゆるして☆パイタッチ』と『オーバーマスター』」

麗華「なんで『ラッキースター!』じゃなくてそっち!?」

美希「はい、マイク」

麗華「ん……って、なんであるのよ」

店主「こんな事もあろうかと」

麗華「凄いわねこの店!」

美希「じゃあ、ミュージックスタートなのー!」

――――――――――――
――――――
―――
伊織「声が重なってさっぱり分からないわ」

店主「だと思った」

美希「もうデコちゃん! そこはちゃんと聞き分けて欲しいの」

伊織「こんな狭い場所で熱唱されても、千早でもない限り聴き分けられないわよ!」

麗華「歌い損じゃねえか!」

美希「じゃあやっぱり決着はライブなの」

麗華「よーし分かった。二人とも説得して合同ライブ出てやるよ、そしてアンタらをまとめて喰ってやる!」

伊織「待ってるわ」

美希「チョロいの」

麗華「うるせぇ!」

美希「全く、そんなに怒ってるとデコちゃんみたいになっちゃうよ? オデコが」

伊・麗「「どういう意味よそれ!」」

店主「仲良いわねー」

伊織「これが仲良く見えるなら少し休んだほうが良いわよ……」

麗華「なんで喫茶店に来てライブ後並に疲れなきゃならないんだ……」

美希「そんなんじゃライブは美希たちの勝ちだね、あはっ」

麗華「……もう怒る気力もない」

麗華「さて、話も終わったし私はそろそろ帰るかな。お会計、お願い」

店主「はい、お会計190円です」

麗華「小銭出すのめんどくさいわね……カード対応してれば良いのに」チャリン

店主「ぶふっ」

麗華「!?」

店主「い、伊織ちゃんと同じ事言ってる……」プルプル

麗華「……なぜだか凄く悔しいわ」

伊織「どういう意味よ……」

美希「似たもの同士なの」

伊織「アンタもう黙ってて疲れる」

麗華「じゃあまた連絡するわ……ん?」

麗華「あっちの壁、あれって全部サイン?」

店主「うん。765プロのアイドルのサインは全部あるよ。あとこの間JupiterとVenusにも書いてもらったし」

麗華「ふぅん。じゃあ、私も書くわ」

店主「davvero!?」

美希「聞いたことない言葉が出てきたの」

伊織「『マジで!?』って言ったわね」

店主「ま、まままま魔王エンジェルのサインなんてそう簡単に手に入るものじゃないのよ!?」

麗華「ふふん、私一人のサインなんてそれ以上に希少よ。感謝しなさい」

店主「お願いします!」サッ

麗華「今度来た時にはともみとりんと一緒に書いてあげるわ。はい」カキカキ


美希「帰っちゃったね」モグモグ

伊織「帰ったわね。私も帰ろうかしら」モグモグ

美希「ホットケーキ食べきるまでは居るべきだと思うな」

伊織「止まらないわねこれ。オレンジシロップが合うわ」

美希「マスターは麗華のサインに見惚れてさっきから動かないの」

伊織「アンタに打ち負かされる前の魔王エンジェルがやったことは教えないでおきましょうか」

店主「あ、それ知ってるよ。あ、梅味の茎わかめ美味い」コリコリ

伊織「あらそうだったの。アレ知ってたら幻滅するもんだと思うけど」

店主「まあ、ファンになったのはそれ知った後だしね」コリコリ

伊織「……って、でちょん!? いつの間に!」

店主「魔王エンジェルのやってたことは知り合いの芸能関係者からちょろっと聞いてたよ。でもまあ、過去は過去、今は今だから」

伊織「そういうものかしら」

店主「まあファンの多くはそうじゃないだろうけど、私はそういうタイプだから」

美希「過去は過去、いい言葉なの」

伊織「アンタは若干意味が違うでしょ」

美希「でも律子に怒られながらレッスンやってた時期も楽しかったよ? 今考えれば」

伊織「……まあ、それもある意味、過去は過去、今は今ってものなのかしら」

美希「そーいうことなの」

美希「で、デコちゃんや麗華を倒すのは未来のミキなの。今のミキが頑張った分だけ、未来のミキは無敵になるの」

伊織「言うじゃない。絶対勝ってやるわ」

店主「競争社会って私嫌いなんだけどさ、美希ちゃんたちみたいなライバル関係って、なんか良いね」

伊織「私は疲れるだけだけどね」

伊織「さて、そろそろ私は帰ろうかしら。ホットケーキも食べ終わったし」

美希「じゃあミキもそろそろ事務所で寝るの」

伊織「寝るんかい!」

美希「だって黒井社長が晩御飯連れてってくれるって言ってたんだもん。Venus全員で高級イタリアンなの!」

伊織「あの社長はアイドルに甘いわね。まあいいわ、お会計お願い」

店主「はい、伊織ちゃんは160円、美希ちゃんは320円ね」

美希「デコちゃんの二倍なの」チャリン

伊織「キャラメルマキアートなんて高いに決まってるでしょ」チャリン

店主「またのお越しを」

美希「またねなのー」カランカラン

伊織「また来るわ、ご馳走様」

店主「…………」

店主「この数日後、魔王エンジェルの三人と、一時期だけメンバーに加わっていた佐野美心さんがうちの店にきてサインを置いていってくれました」

店主「はぁー……アイドルカフェでもないのにこんなにアイドルのサイン置いてあって良いのかなあ。嬉しいけれど」

店主「そういえば、合同ライブはニュースになるほどの盛況ぶりだったらしいわ」

店主「大手アイドル事務所三社と、新鋭事務所一社のコラボイベントだからね、ニュースにもなるわ」

店主「私の作ったネックレスが衣装に採用されてて、感激しちゃったわ……ファンとしては夢の様な話よね」

店主「ところでこの間、真ちゃん監修のアクセサリーが発売されたって聞いて大型ショッピングモールに出かけたんだけど」

店主「ああいう所って入り組んでて迷っちゃうわね。本当、困ったわ~」

Next→三浦あずさ

今日の分はこれで。
すいません、魔王エンジェルの話が書きたかっただけです。美希Pの人は、出番が二回あったと思って許してください。(伊織も二回出てるけど)

「ゆるして☆パイタッチ」ってどんな曲なのか。私、気になります!

良く見たらこれ、フェアリー組(Venus)のメンツ、各話の最初にやってる店主によるキャラ紹介してないわ。うわー、失敗した。

店主「私の家は店から自転車で二十分程の所にあって、毎朝開店準備に間に合うくらいの時間には家を出るようにしている」

店主「家と言ってもどこにでもあるようなアパートだし、建ってる場所だってなにも特別なところじゃないけどね」

店主「だから、まあ、こんなことがあるなんて全く思いもしなかったわけで」

――case7 三浦あずさ

店主「…………」

あずさ「あら~? 確かあの角を曲がったら……」

店主「待って、あずさちゃん待って」

あずさ「あ、あら! マスターさん、奇遇ですねこんな所で」

店主「うん本当に。奇遇ってレベルじゃないけど」

あずさ「今日はオフなので、お店にお邪魔しようと思って少し早く出たんですけど……ここはどこでしょうか?」

店主「私の家よ」

あずさ「あ、そうだったんですか?」

店主「まさか朝6時に家を出た途端にアイドルの顔を見ることになるとは思わなかったわ」

あずさ「いつも迷っちゃうから少し早めに出れば開店までに間に合うかと……」

店主「その見立ては正しかったようでなによりよ」

店主「んー、別に急ぐ必要もないし、今日は自転車じゃなくて歩きで行こうかな。あずさちゃんと行くならそれが良いわ」

あずさ「すみません、私のせいで」

店主「まあまあ気にしないで」

あずさ「じゃあ、行きましょうか」

店主「あずさちゃん、そっち商店街と中学校しかないから」

あずさ「あ、あら~?」

店主「もう、私に付いてきて」

あずさ「すみません~」

店主「りっちゃんって凄い、改めてそう思った」

あずさ「そういえば」テクテク

店主「ん?」

あずさ「マスターって私のことちゃん付けで呼ぶんですね」

店主「あずさちゃんも私のことマスターって呼ぶのね」

あずさ「あれ、駄目でしたか?」

店主「いや、もう慣れたけど……。あずさちゃんこそ、ちゃん付け嫌だった?」

あずさ「あ、いえ、そういうワケじゃないんですけど……私実年齢より上に見られることが多くて、そうでなくても事務所では一番お姉さんですし」

あずさ「年上の人にもさん付けで呼ばれることが多くて、ちょっと新鮮なんです」

店主「まあ、私はあずさちゃんより5つは上なんでね」

あずさ「ふふ、お姉さんが出来た気分です」

店主「前にも誰かにそんなこと言われたなあ。妹が増える一方だわ」

あずさ「嫌なんですか?」

店主「いんや、まんざらでも? 妹がアイドルなんて楽しいだろうし」

あずさ「そういえば、うちの事務所にも兄弟がいる人って結構居るんですよね~。美希ちゃんもお姉さんが居たはず」

店主「貴音ちゃんも妹が居るって言ってたし、響ちゃんはお兄ちゃん。Venusの子は皆兄弟が居るのね」

あずさ「マスターは兄弟は居ないんですか?」

店主「私は居ないなあ」

あずさ「私と同じですね」

店主「あずさちゃん妹にならない?」

あずさ「考えておきます~」

店主「それやんわり否定してるニュアンスじゃない……」

あずさ「でもお姉さんっぽいとは思ってますよ?」

店主「さっきの否定の後に喜んでいいのかどうか……っと、着いた着いた」カランカラン

あずさ「お邪魔します~」

店主「開店時間前だけどめんどうくさいからもう開いちゃう」<OPEN

あずさ「じゃあ、このグレープティーっていうのを頼もうかしら」

店主「メロンティー、スイカティーと並ぶイロモノを躊躇なく頼むその姿勢は、流石あずさちゃんね」

あずさ「前からちょっと気になってたんです」

店主「まあ、味は悪くないけど……グレープティー一つ」

あずさ「あ、本棚見ても良いですか?」

店主「ご自由にどうぞー。雑誌は、私が読む奴は最新号が、読まない奴は適当に突っ込んであるから」

あずさ「あ、CDラックも見て良いですか~?」

店主「どうぞー。リクエストがあったら流すから言ってね」

――5分後――

店主「はい、グレープティー……ん?」

店主「…………」

店主「あずさちゃんどこ!?」

<アラー?

店主「ちょっ、なんで本棚とCDラックの間を動いてるだけで厨房に……なんで厨房に居るの!?」

あずさ「どのCDを流してもらおうか迷っていたらいつの間にか……」

店主「恐るべし三浦あずさ……私は今、あずさちゃんがテレポーターである可能性を否定できそうにないわ」

あずさ「あ、グレープティー。綺麗な紫色なんですね~」

店主「ああ、それは皮ごとティーバッグに……って、マイペース!」

あずさ「はあ~、ブドウのいい香りがしますね」

店主「ああ、うん、今伊織ちゃんの気持ちがわかった気がする」

あずさ「そうだ、チェスしません?」

店主「どこから出したの!?」

あずさ「特殊ルールはどうしますか?」

店主「んー、キャッスリングとプロモーションはアリ、アンパッサンはナシで」

あずさ「じゃあ、私白で良いですか?」

店主「お好きな様に。言っておくけど、私は負けないからね」

あずさ「強気ですね」

店主「強いもん」

あずさ「あ、今のちょっと可愛かったですね~」カツン

店主「この歳になって可愛いって言われてもなんだかなー」カツン

あずさ「女の子はいくつになっても女の子ですよ?」カツン

店主「私はもう女の子を名乗ることすらおこがましいから」カツン

あずさ「そうですか? プロデューサーさんがこの場に居たら勧誘されるくらいですけど」

店主「事務員に?」

あずさ「アイドルですって」

店主「無理があるでしょう」

あずさ「私がこの間共演した方は28歳の方でしたけどアイドルでしたよ?」カツン

店主「尊敬するわ」カツン

あずさ「やってみません? アイドル」

店主「やりません。それよりも事務所の美人事務員さんが居るでしょうに」

あずさ「誘ってるんですけどねぇ~、いっつもフラれちゃいます」

店主「それが当たり前の反応なのよ」カツン

あずさ「一緒にステージに立てたらきっと楽しいと思うんですけどねぇ」カツン

店主「まあそれは……おっとキャッスリング!」カツンカツン

あずさ「あっ、ナイトで狙ってたのにぃ~。惜しいわぁ」ムキー

店主「あ、今のあずさちゃん可愛かった」

あずさ「そうですか? ありがとうございます~」

あずさ「…………」

店主「…………」

あずさ「……引き分けましたね」

店主「あそこでサクリファイスしておけば……! まさかポーンしか残らないなんて」

あずさ「どうします?」

店主「オセロならあるけど」

あずさ「じゃあオセロをしましょう」

店主「盤面真っ黒に染めてやるわ」

あずさ「あら~、どうしましょう」

店主「そういえば、竜宮小町の活動の方はどうなの? りっちゃん曰く超順調らしいけど」パチン

あずさ「それはもう、超順調ですよ~。全日オフなんていつぶりか分からないくらいです」パチン

店主「うひゃー、私なら耐えられそうにないなあ」パチン

あずさ「でも、アイドル活動は楽しいですから」パチン

店主「ほう?」パチン

あずさ「なんて言うんですかね、私の姿を誰かが見て応援してくれてるって考えると……アイドルやってて良かったなって思うんです」

あずさ「その点では律子さんに感謝ですね。ソロ時代にくすぶってた私がここまで有名になれたのは、律子さんが竜宮小町に誘ってくれたお陰ですから」パチン

店主「成程。そういう話なら私も分かるかも」パチン

あずさ「?」パチン

店主「この店やってたお陰で皆と会えたわけだからね」パチン

あずさ「……ふふ、そうですね」パチン

店主「あ、もらい」パチン

あずさ「あ」

店主「嗚呼、オセロ盤というステージが私一色に染まっていく感じ……良いわ」

あずさ「ま、マスターが今までにないほど恍惚の表情を……」

店主「オセロ盤でバツ印作る奴なんかよりはよっぽど強い自信があるもん」

あずさ「どなたのことでしょう……?」

店主「知り合い」

ナナちゃんってアイドル知ってる? 十七歳なんだって

あずさ「負けました」

店主「勝ちました」

あずさ「どうしましょう。サンドウィッチ下さい」

店主「流れるように注文入れるのね」

あずさ「そういえば朝ごはん食べてませんでしたからお腹すいて……」

店主「そういえば私も、いつも開店準備の時に食べてたから忘れてた。私もサンドウィッチ食べよ」

あずさ「良いですよね、サンドウィッチ。移動中に簡単に食べられるから良くコンビニで買っちゃいます」

店主「コンビニのサンドイッチに慣れたあずさちゃんの舌、私のお手製サンドウィッチの虜にしてくれるわ!」

あずさ「楽しみです。あ、そういえば」

店主「?」

あずさ「マスターは女の子の髪の毛、長い方と短い方どっちが好きですか?」

店主「これまた唐突な。んー、どっちかというと長い方が好きかなー。かく言う私もロングだし」

あずさ「むむ、これで5対4です。あら~? 困ったわ~、全然決まらないわ」

店主「6対5?」

あずさ「事務所で、同じ質問を皆にしたんです。そうしたら、綺麗に分かれちゃって……。髪の毛伸ばそうか悩んでて、皆に聞いてみようかと思ったんですけどねぇ」

店主「成程ね。私は長い方が好きかなあ、短いのも悪くないけど」

あずさ「ありがとうございます。うーん、どうしようかしら……」

店主「10人ってことは……プロデューサーさんにも聞いたのね?」

あずさ「はい。プロデューサーさんは長い方が好きらしいです」

店主「りっちゃんは?」

あずさ「長い方が」

店主「もう伸ばしていいんじゃない?」

あずさ「そうですか?」

店主「ていうかもしかしなくても、アイドルの皆、自分の髪を基準に答えてるんじゃあ……」

あずさ「あ」

店主「…………」

あずさ「髪、伸ばしてみますね」

店主「うん、そうすれば良いよ」

あずさ「皆が言ってたとおりだわ~」

店主「何が?」

あずさ「ここに来れば悩みがなくなるっていつも皆言ってたから、私もと思って」

店主「別に私はなにもしてないけどなあ」

あずさ「真ちゃんはマスターのお陰でやりたい仕事が出来るようになったって喜んでましたよ?」

あずさ「雪歩ちゃんも緊張に強くなったって言ってましたし、千早ちゃんもコーヒーを淹れるのが上手になってましたし」

あずさ「それに、私も今悩みを解決してもらいました。ふふ、ありがとうございます、マスター」

店主「うー、面と向かって言われると恥ずかしいなあ……」

あずさ「あら、可愛い」

店主「可愛いって言わないで」

あずさ「かーわいい♪」

店主「やーめーてーよー!」

あずさ「ふふ、マスターが高校とか短大で二個上くらいの先輩だったら面白かったかもしれませんね」

店主「高校ねぇ……私の先輩は皆個性的だったからなあ。路上ライブやった軽音楽部の先輩とか」

あずさ「それは……凄いですね」

店主「歌は滅茶苦茶上手かったけど。私のギターが飲み込まれるくらいに」

あずさ「あら、マスター、ギター弾けるんですか?」

店主「うん。この間もリクエストがあって二曲ほど弾いたよ」

あずさ「良かったら聴かせてくれませんか?」

店主「どうせならあずさちゃんも歌わない?」

あずさ「良いですね。じゃあ、曲は……『キラメキラリ』にしましょう」

店主「まさかの!?」

あずさ「ギターソロカモーン♪ って、一度言ってみたかったんです」

店主「まあ、弾けるけどね。じゃあ、よっと」

あずさ「せーの、JPY!」

店主「なにそれ!?」

店主「結局、『キラメキラリ』に収まらず、ギターにも関わらずこの後『9:02pm』『Mythmaker』『津軽海峡・冬景色』、その他色々弾く羽目になったわ」

店主「あー、指痛い。でも、あずさちゃんの生歌が聴けたんだから安いものね。ファンに怒られそうなくらい安いわ」

店主「……ところで、あずさちゃんが帰る時に言った「ジューシー・ポーリー・バーイ」ってどういう意味かしら」

店主「あ、そうそう。そこで画面を見ている君。そう、君だよ君。ちょっとこっちに……は来れないわね。そこでいいわ」

店主「リーダーとボスの違い、って分かる? どちらも組織の重要な立場ではあるんだけど」

店主「そう、私がまだ語ってないあの子はまさに……うん。リーダーですよっ! リーダーっっ!!」

Next→天海春香

今日の分はこれで。
なんか短くなった上にうっすいですね。あずさPの方々すいません。

次回に関して、少しレスを募集したいと思います。
天海春香編は、今までどおりのほのぼのと、シリアスの二種類の構想があります。
そのどちらが見たいか、レスが多かった方を書こうと思います。

あと、天海春香編の前にHalf Storyを一つはさみます。一日レスお待ちしております。

あと>>101、ウサミンは17歳だから。来年も再来年も17歳だから。

これもう明日待つ必要なさそうだけど、それはそうとJupiter+SJBさん編は書きたいから明日はHalf Storyで

千早は貴音とユニット花鳥風月を組んでたり春香は雪歩や響とユニットsproutだったり、やよいと真美でわんつ→ているずだったりするのかな

>>115 お姫ちんとひびきんは961だから花鳥風月とSprouTは無理かな

店主「今の私には縁のない話だけど、職場や仕事仲間っていうのは結構大事よね」

店主「彼らもかつての961プロなら長く続かなかったでしょうけど、改心した敏腕社長が付いている今は全く心配ないわね」

店主「まあもっぱら……彼らに付いてるのは敏腕社長じゃなくて、優秀なマネージャーって話だけれど?」

――case7.5 Jupiter

冬馬「邪魔するぜ」カランカラン

北斗「チャオ」

店主「はい、いらっしゃい。あれ、今日は二人なの?」

北斗「翔太は今日ソロでTVの仕事が入ってるので、あとから来ます」

店主「成程」

冬馬「ユニットだから休みも結構被るけど、たまにこういうことがあるな」

北斗「まあ、それだけ俺達が一人ひとり売れっ子ってことさ」

店主「で、その売れっ子さん方、ご注文は?」

冬馬「クリームソーダ」

北斗「いつもそればっかだね……俺はコーヒー、ブラックで」

店主「砂糖は?」

北斗「小さじ二杯」

店主「小さじで指定されたのは初めてだわ。まあ、出来るけど」

店主「じゃあ、クリームソーダ一つにブラックコーヒー一つね」

冬馬「ここのクリームソーダはシンプルだけど美味いんだよな」

店主「ありがとう。まあ、ソーダ水とメロンシロップをチョメチョメして作ってるだけなんだけど」

冬馬「チョメチョメってなんだ、混ぜてるだけじゃないのか?」

店主「チョメチョメはチョメチョメだよ」

北斗「そういえばメロンシロップの着色料って虫が原料らしいですね」

冬馬「北斗てめぇ、今からクリームソーダ飲む奴の前でそういう話するか!?」

店主「イチゴシロップも虫だっけ」

冬馬「その話やめろ!」

店主「それにしても、毎度のことだけど北斗くんはオシャレな変装してくるね」

北斗「まあ、アイドルとして変装は不可欠ですし……でもみっともない格好をするのは、ねえ?」

店主「ははっ。プライベートでも気を抜かないのね、北斗くんは」

冬馬「プライベートでもって言うか、北斗は常に天然の女たらしだろ……」

店主「…………」

冬馬「な、なんだよ」

店主「いや、初めてうちに来たときもそうだけどさ……冬馬くんは、もう少しオシャレした方がいいと思う」

冬馬「お、大きなお世話だ!」

店主「町中で憧れのアイドルがチェックシャツ着て歩いてるの見たファンのこの気持ちも考えてやりなさいよ!」

北斗「冬馬、お姉さんの言う通りだ」

冬馬「俺そこまでダサいのか!?」

店主「いや、そこまでじゃないけど……イメージとは合わないかな」

冬馬「くそっ……マジかよ」

北斗「この間社長も「あれはないだろ」って言葉濁してたぞ」

冬馬「うわ、おっさんに言われてるってショックなんだけど」

店主「黒井社長いっつもスーツ着てるけど私服どんなんなのか想像つかないわね」

北斗「アロハシャツとか」

店主「うわぁ……」

冬馬「そこまで引くことなのか?」

北斗(着ることがあるんだろうか)

店主「黒井社長がアロハシャツか……似合わないなあ。あ、はいクリームソーダとブラックコーヒー」

冬馬「おっ、さんきゅ」

北斗「いただきます」

店主「冬に暖かい部屋で食べるアイスって美味しいよね」シャリシャリ

冬馬「そのアイス絶対クリームソーダの残りだろ」

店主「残り物は出さないのが私のモットーでね」

北斗「エコですね」

店主「ところでさ」

冬馬「?」

店主「テレビで冬馬くん見かける度に、初めて店に来た時の変装思い出して笑いそうになるんだけどどうすればいいと思う?」

冬馬「そこまでダサかったか俺!?」

北斗「良かったじゃないか冬馬、レディが君の事が頭から離れないと悩んでいるんだぞ」

店主「ポジティブすぎるわ」

冬馬「……俺どんな格好してたっけ」

店主「サングラスにマスク、バンダナを頭に被って赤チェックのシャツにジーパン。ついでにカーキのリュック」

北斗「くっ……ぷふっ」

冬馬「北斗……」

北斗「流石に、それは……くふっ……無いと思うぞ」プルプル

店主「テレビで顔見る度にこうなる私の気持ちを、な?」

冬馬「ダサくて悪かったな! くそっ、こうなったら私服を一新してやる!」

翔太「お待たせー」カランカラン

三条馬「お邪魔します」

店主「あ、いらっしゃ……ん? そちらは、どちら様?」

翔太「ジョバちゃんだよ」

店主「ジョ……なんて?」

三条馬「はじめまして。私、Jupiterマネージャーの三条馬静と申します。これ、名刺です」スッ

店主「あ、どうも」

三条馬「うちの子たちがいつもお世話になってるようで」

店主「大丈夫です、彼らなんてうちでお世話になってるほんの一部ですから」

冬馬「あの壁見れば分かるわな」

三条馬「壁? ……って、うわぁ、凄い! サインが一杯……」

北斗「765プロの所属アイドルの分は全員分あるみたいですね」

店主「876の涼くんと、なんと! 東豪寺プロ、魔王エンジェルのサインもあるのよ!」

三条馬「ぎょ、業界人でもここまで持ってる人は居ませんよ!?」

店主「この店やってて良かったわ……」

翔太「ねーねー、冬馬くん北斗くん。僕たちのサインも飾ってもらおうよ」

北斗「ん、良いね」

冬馬「765のやつらだけ目立たせる訳にはいかないもんな! よし、マスター、色紙はないのか?」

店主「もちろんここに」

冬馬「よし!」

三条馬「ん……? これは……」

三条馬「この『スキップバード』って……」

店主「ああ、それは私の宝物よ。昔のアイドルのサイン」

三条馬「なんか、名前は聞いたことあるような気が……」

店主「私と年が近ければ知ってるかもね。静さんはいくつ?」

三条馬「私は26です」

店主「私は27。それなら知ってるかもねー、一時期はちょろっとだけラジオとかテレビにも出てたし」

翔太「何の話してるの?」

店主「昔のアイドルの話。まあ、翔太くんは知らなくて当然だけどね」

翔太「昔のことはあんまり知らないな―、僕」

三条馬「うーん……名前は知ってるのに、どんなアイドルか思い出せない……モヤモヤする」

店主「まあまあ、それは置いておいて。ご注文は?」

翔太「あ、僕アップルジュース」

三条馬「じゃあ私はアールグレイティーで」

店主「はい、アップルジュース一つにアールグレイティー一つね」





冬馬「北斗」

北斗「ああ、多分同じことを思ってるよ」

冬馬「だよな。あの二人……」

北斗「静さんとマスターだよね」

冬馬「ああ、あの二人……」

冬馬「なんか似てないか?」

北斗「でもあの感じだと姉妹って感じでもなさそうだし、他人の空似レベルかな」

冬馬「確かに、そっくりってワケじゃないよな。どことなく面影が似てるっていうか」

北斗「同じ作画でキャラデザインしたみたいな?」

冬馬「まあそんな……って、なんでそういう喩えなんだよ」

北斗「冬馬が一番分かりやすいやつかと」

冬馬「俺をオタクみたいに言うんじゃねえよ! 次回予告で作画監督が分かる程度だ」

北斗「人はそれを重症と呼ぶんだよ」

店主「あ、そうだ! この間のライブ映像DVD買ったんだけど、流そうか?」

三条馬「この間の……って、四事務所合同ライブのですか?」

北斗「確か、冬馬がオリジナルユニット結成した時のだっけ」

冬馬「ああ。気分的には男一人だったぜ、あのユニット」

店主「あ、冬馬くんは真ちゃんのことちゃんと女の子認識してるんだ」

冬馬「当たり前だろ」

翔太「ところで、流すってどうするの?」

店主「こうするの」ガラガラ

翔太「スクリーンが降りてきた!?」

店主「そっちにプロジェクターがあるから、簡単に再生できるのよ」

三条馬「高機能ですね……」

店主「無駄にね。あと、静ちゃんも敬語じゃなくて良いわよ」

三条馬「静……ちゃん?」

北斗「お姉さんはそういう人ですから」

店主「因みに、うちの客で私をお姉さんって呼ぶのは北斗くんと翔太くんだけだから」

三条馬「私はなんて呼べば……」

北斗「マスター」

翔太「マスター」

冬馬「そんなことより早く見ようぜ」

翔太「そこは空気を読もうよ」

店主「はは、じゃあ流そうか」ウィーン

黒井『Ladies and Gentlemen! ようこそ、一夜限りの大祭へ』

三条馬「黒井社長のアナウンスは新鮮ね」

翔太「クロちゃん張り切ってたもんね、格の違いをーとか言ってたけど完全に遠足前の小学生だったよアレ」

北斗「喩えが的確すぎるよ」

店主「なんとなく想像できるから怖いわ」

黒井『さあ、トップバッターは我が961プロより……降臨せよ、Venus!』

美希『派手に……行くのォーッ!』

三条馬「Venus、竜宮小町、Dearly Stars、魔王エンジェル……そうそうたるメンバーね」

北斗「特に、一時はトップアイドルの名を蹂躙していた魔王エンジェルとコラボしたことはニュースにもなりましたからね」

冬馬「で、次が俺のオリジナルユニットか」

黒井『ここからは、今日限りのオリジナルユニットによる楽曲をお楽しみいただこう』

黒井『天ヶ瀬冬馬、菊地真、秋月涼の三名で構成される一夜限りの豪華ユニット、BOY Meets Girl!』

~♪

店主「『エージェント夜を往く』。涼くんはカバーの経験があったけど、冬馬くんはこの時が初めてだったわよね?」

冬馬「フンッ、だからって俺が遅れをとる訳がねぇぜ!」

翔太「話を聞いた時からずっと練習してたもんね」

冬馬「しょ、翔太! 言うんじゃねえよ!」

北斗「冬馬は努力家だからね」

涼『踊るわ激しく!』

冬馬『この身の限りに!』

真『燃やすわ激しく!』

翔太「ヒュー」

三条馬「あー、私舞台裏じゃなくて客席で見たかったわ、これ」

店主「私もこればかりは会場で見てみたかったわ……」

冬馬「今度俺達のライブのチケットいるか?」

店主「是非とも」

石川『続きまして次のユニット。今日を逃せば二度とはお目にかかれないであろうユニットをご覧に入れましょう』

翔太「あ、アナウンス替わったね」

店主「876プロの石川社長ね。黒井社長みたいに表に出てくることが少ないから、初めて知った人も居るんじゃないかな」

石川『水瀬伊織、星井美希、そして東豪寺麗華の三名でお送りするユニット、PLANETS!』

~♪

翔太「『オーバーマスター』。Venusの曲だね」

北斗「しかもこのユニットのために黒井社長が歌詞を書き直してるんだよね」

美希『自由が欲しいと思ってる♪』

麗華『ダメよアナタは私の……隷下♪』

伊織『カタキと見なせ 勝つためには♪』

三人『牙を立てるの♪』

三条馬「社長もマメね……」

店主「まあ、元々がVenusの為に作られた曲だから思い入れがあるのかもね」

三条馬「オリジナルユニットの後は、Jupiter、765エンジェルズを挟んでまたオリジナルユニットね」

律子『はいはーい! りっちゃんですよー!』

三条馬「765のアナウンスは社長じゃなかったのよね」

冬馬「合同ライブに感極まりすぎてぎっくり腰になったって菊地から聞いたぜ」

北斗「高木社長……」

店主「張り切っちゃったのね……」

律子『お次は、ちょーっと趣向を変えて、こんなユニット! 皆さんも一緒に歌ってみてくださいね』

律子『我那覇響、朝比奈りん、高槻やよいのトリオ、フィフステールズで『キラメキラリ』!』

~♪

北斗「響ちゃんがクール路線を続けてたら出来なかったね、これは」

冬馬「あいつなんでクールキャラなんてやってたんだろうな」

店主「本人あんなんなのにね」

三条馬「社長のプロデュース黒歴史時代の話はやめてあげてください」

翔太「ミステリアスな白銀の王女、って貴音さんのことを売り込んでたしね」

冬馬「四条もまんざらではなさそうだったけどな、当時」

店主「で、765プロの伊織ちゃんに貴音ちゃんが負けるまで黒井社長の黒歴史製造は続くと」

冬馬「黒井だけにな」

北斗「でも、その後にJupiterは竜宮小町とフェスで勝利するわけで、伊織ちゃんとはなにか縁があるみたいですよ」

冬馬「スルーはやめてくれ、刺さる」

店主「魔王エンジェルと繋がりがあったり961プロと因縁があったり、876の水谷絵理と知り合いだったり、伊織ちゃんってなにかと人との関わりに縁があるみたいね」

翔太「ところでネットで僕が『男版デコちゃん』って呼ばれてるのも伊織さんのせいだと思うんだ」

三条馬「それはどっちかというと美希ちゃんのせいじゃないかしら」

麗華『さて、次のユニットの曲は……鳥肌注意よ、サイリウムを落とさないように注意しなさい』

店主「ここで麗華ちゃんか」

翔太「あの人も伊織さんに似てるよね」

麗華『ユニット名、氷仙花。三条ともみ、水谷絵理、如月千早の三名でお送りするわ』

~♪

冬馬「このユニットは……やばかったな」

翔太「最初から最後まで鳥肌立ってしょうがなかったよ」

北斗「『蒼い鳥』……ここまで人の心を揺れさせる歌も中々無いよ」

三条馬「…………」

店主「どうかしたの、静ちゃん」

三条馬「なんかあの青い人、私と苗字被ってる気が」

店主「ごめん、全員青くてわからない」

黒井『今日限りのオリジナルユニットは、次で最後……最後に相応しいメンバーをご用意しました』

黒井『日高愛、水瀬伊織、星井美希、東豪寺麗華、そして天海春香で……legEND(レジェンド)!』

~♪

冬馬「まあ、さっきの氷仙花もこれには勝てないな……」

三条馬「皆、いい顔してるわね」

店主「まさにアイドルって感じね」

北斗「本当に」

翔太「……これってユニットのリーダーだけで構成されてるんだから、冬馬くんが居ても……」

冬馬「殺す気か! こいつらのファンに大ブーイングくらうわ!」

北斗「ノリノリで『GO MY WAY!!』歌う冬馬も見てみたいけどね」

三条馬「腹筋が鍛えられそうな組み合わせね」

店主「私弾けるけど」

冬馬「歌わねぇよ!」

店主「で、最後は出演者全員で『思い出をありがとう』か」

翔太「いい最終回だったね」

冬馬「なに終わらそうとしてるんだよ」

翔太「僕もオリジナルユニットやってみたかったなあ」

店主「水瀬伊織、東豪寺麗華、御手洗翔太」

北斗「どんな組み合わせか一瞬で分かりますね」

翔太「ヤだよそんなユニット!」

三条馬「……アリね」

翔太「何が!?」

三条馬「日高愛、双海真美、伊集院北斗」

北斗「やめてください、凄く絵面が危険です」

店主「町中で見かけたら、私なら迷わず通報するわね」

冬馬「北斗……ロリコンだったのか」

北斗「冬馬は何を言ってるんだい!?」

翔太「そういえば全部見てたから日も落ちちゃったね」

三条馬「あら、本当……って、ああ! 私まだ事務仕事残ってるの忘れてた!」

店主「ちょ、社会人!」

三条馬「じゃあ、お金は置いていくから、さようなら!」カランカラン

冬馬「おう、また事務所で、マネージャー」

店主「千円札置いてったけど、これは皆の分もまとめて出すってことでいいのかな」

翔太「じゃあお釣りの分でも何かを……」

北斗「こらこら」

店主「普段女の子たちばっかり来るからね。こうしてたまには、男の子たちと話すのも楽しいものよ」

店主「そういえばこの間、765GSっていうのをネットで見つけたのよ」

店主「765プロの皆が男の子だったら、っていういわゆる男体化ものだったけど、出来が良くて面白かったわ」

店主「まあそれはともかく、Jupiterは国内の男性アイドルで人気トップの売れっ子。そんな彼らが足を運ぶこの店の客が増えないのはなんでなんだか」

店主「そんな売れっ子を育て上げた三条馬静というマネージャー……765のプロデューサーといい、業界は化け物だらけね」

店主「961プロにもそんな凄腕マネージャーが居たなんて、実際に会うまで全く知らなかったしね」

Next Half Story→???

今日の分はこれで。
明日はついに映画ですねえ、感慨深い。見るのは夕方になりそうですけど楽しみです。

とりあえず、皆relationsは読むべき。2のライバルが魔王エンジェルじゃなくてJupiterなのは何故か疑問に思ったこともあるけど、とりあえず私はどちらも好きです。

天海春香編はほのぼのいつも通りで決定しました。

店主「リーダー。『先頭に立つ者』を意味するこの言葉は、今や組織のトップを意味する言葉になりつつあるわ」

店主「同じく組織のトップを意味するボスとの違いを考えてみると、ボスが指示者であるのに対しリーダーが先導者である点かな」

店主「彼女はまさしくリーダー。それも事務所単位の話じゃない、最早、そう、この国のアイドルの……リーダー」

――case8 天海春香

春香「おっ邪魔しまーす」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい」

春香「オランジェット持ってきたんですけど、食べますか?」

店主「いただきます」

春香「力作ですよ! あ、あとアップルティー下さい」

店主「はい、アップルティー一つ」

店主「最近どう? って、聞くまでもないかな」

春香「もう順調ですよー」

店主「テレビで見ない日はないってくらいだしね」

春香「一年二年前なら考えられませんけどね、私がトップアイドルって呼ばれてるなんて」

店主「でも、それだけの頑張りはしてきたわけでしょう?」

春香「自分で言うのもなんですけど、練習だけは人一倍してきたつもりですから」

店主「それに結果が付いてきただけのことよ。春香ちゃんの頑張りの賜物が、今の人気ってことね」

春香「途中、諦めかけたりもしたんですけどね……全然お仕事無くて」

春香「でも、その頃プロデューサーさんが入ってきたんです。それで、もう少し頑張ろうって」

店主「成程ね」

春香「それで今これだけの人気が出たんですから、プロデューサーさんには感謝してもしきれないです」

店主「765プロのプロデューサーさんは、本当にアイドルたちに好かれてるね」

春香「律子さんがプロデューサーになって竜宮小町を結成するまで、アイドル全員のプロデュースをしてましたからね」

店主「え、全員!? 全員って言ったら、えーと……」

春香「亜美と真美はアイドルとしては一人として活動してましたけど実際には二人ですし、その頃は美希も事務所に居たので11人ですね」

店主「うひゃあ……一体どんな体してたらその仕事量で耐えられるのか」

春香「私も思ったんですけど……一度も体壊したこと無いんですよね、プロデューサーさん」

店主「やっぱり業界人は化け物だらけだわ。はい、アップルティー」

春香「あ、ありがとうございます」

春香「そういえばずっと疑問だったんですけど」

店主「ん?」

春香「私たちアイドルが散々出入りしてるのに、週刊誌に載ったりしないこの店って凄いですね」

店主「褒めてるのか貶してるのか」

春香「いや、でも凄くないですか?」

店主「まあ……仮に載っても困るんだけどね」

春香「単純にお客さんが増えるだけならまだ良いんですけどね」

店主「アイドル目当てに店に来られても困るだけだもん。そうしたら皆は来れなくなるし」

春香「困りますね」

店主「これからも変な雑誌に取り上げられないことを祈るわ」

春香「この間もお気に入りのCDショップでファンの人に見つかっちゃって」

店主「そういう点で、アイドルって大変ね」

春香「でも最近は変装してるから見つかる頻度は低くなりましたけどね」

店主「そういえば、うちに来る時変装してないのは美希ちゃんだけね」

春香「美希変装してないんですか!?」

店主「全く」

春香「ますますこの店が話題にならないのが不思議になってきたんですけど……」

店主「そうね……」

春香「帽子でリボンを隠しただけで八割くらいバレなくなりますよ!」

店主「それってどうなの?」

春香「良いんです……これは私のアイデンティティなので……」

店主「良いのかな……それで」

春香「前は着替えの後にリボン付けるの忘れてレッスンに出たら部外者と思われて追い出されかけたんですよ」

店主「皆顔で覚えてないのね……」

春香「まあ社長を見るとこれでも良いかなあって」

店主「なんで社長?」

春香「いや、だってあれ……特徴……」

店主「……? んー、ん? 特徴……あったっけ」

春香「……黒い?」

店主「それを言ったら黒井社長も黒いし」

春香「石川社長も黒いですしね。オーディションの審査員の人はなんか赤かったりしますし」

店主「赤い人って何」

春香「赤いものは赤いんです。あ、でもオーディション中に段々透明に……」

店主「段々透明になるってそれ本当に人なの!?」

春香「多分?」

店主「やっぱり業界人は分からない」

春香「い、一部だと思いますよ?」

店主「一部でもアイドル業界以外でそんな人見たこと無いもん……」

店主「ところでさっきから気になってるんだけど」

春香「はい」

店主「鞄からはみ出してるその紙は何?」

春香「あ、これですか? チケットです」

店主「チケット? ライブか何かの……」

春香「マスター!」

店主「はい?」

春香「銀幕デビューですよ、銀幕デビュー! 765プロダクションドキュメンタリー!」

店主「ああ、上映今日からだもんね」

春香「正しくは今日の日付変わった瞬間でしたけどね」

春香「今ちょうど、映画の舞台挨拶の帰りでここに来たんです」

店主「疲れてないの……?」

春香「バリバリ元気です!」

店主「凄いね春香ちゃん」

春香「で、このチケットはマスターにあげようかと思ってもらってきたんです」

店主「え?」

春香「特別前売券ですよ! 上映劇場ではいつでもどこでも使えますから」

店主「……春香ちゃん、店の前に出しておいた看板見た?」

春香「へ? 今日は閉店を早めるって書いてあったやつですか?」

店主「うん。なんで早めたかって言うとさ」ガサガサ

店主「7時からの上映見ようと思ってさ」ピラ

春香「あ、持ってたんですか」

店主「だって観たいもん」

春香「でも、入場特典ランダムですし! 二回観ても面白いですよ!」ズイッ

店主「分かったから! ありがたく頂きますからちょっと近い近い」

春香「で、それと関係してるんですけどね」

店主「うん」

春香「事務所が大きなビルに引っ越すことになりまして」

店主「凄いじゃん。むしろ今まで移転しなかった方が不思議なほどよ」

春香「それでですね、事務所の規模も大きくなったので後輩が入ったんです」

店主「後輩! へえ、新しいアイドル?」

春香「はい。だから、今度は後輩の皆と一緒に来ますね!」

店主「それは良いね。気に入ったら、CDくらいは買ってあげるわ」

春香「新しい子たちは何人か映画にも出てますから」

店主「へえ……楽しみになってきた。やっぱり五時からにすれば良かった」

春香「もう始まってますよ……」

店主「流石におやつ時から店閉めることはしないわ、私も」

春香「あ、オランジェット食べましょうか」

店主「貰う」パクッ

店主「美味しい」テーレッテレー

春香「オレンジの砂糖漬けから作りましたからね!」

店主「アイドルやめてうちで働かない?」

春香「やめませんよ」

店主「分かってるわよ」

春香・店主「「えへへへへへへ」」




店主「それにしても765プロも大きくなったね……」

春香「今や東豪寺プロ、961プロと並ぶ最大手アイドル事務所ですからね」

店主「所属アイドルの数では圧倒的に少ないのにね」

春香「所属アイドルといえば、この間設立されたばかりの事務所……あそこも凄い人数ですね」

店主「なんだっけ、Cinderella Girlsプロだっけか。所属アイドルが日に日に増えてるっていう」

春香「なんか、事務所の専属のプロデューサーがスカウトマンもやってるらしくて、凄く勧誘が上手いらしいんです」

店主「今は質より量の状態だけど、もしそれぞれの子が実力を付けたら……恐ろしいわね」

春香「私たちもウカウカしてられませんね! もう少しトップアイドルの名前は渡しませんから!」

店主「その意気よ。期待してるわ。ファンとして、アイドル行きつけの喫茶店店長としてね」

春香「じゃあ私は、期待に応えられるように頑張りますね。アイドルとして、とある喫茶店のファンとして」

店主「……ふふ」

春香「ところで……そろそろ時間じゃないですか?」

店主「ん? あ、そろそろ閉めないと間に合わないわ」

春香「じゃあ私は帰りますね。お会計お願いします」

店主「お会計210円です」

春香「はい、ちょうどです」チャリン

店主「またのお越しを」

春香「はい、また来ま……ぉのわぁ!?」ドンガラカランカランドシャーン

店主「看板直していってねー」

店主「あの純粋な明るさは、真似しようと思って真似できるものじゃないわね」

店主「それにしても、後輩か……春香ちゃんたちも、もうそんなに大きな存在になってきたんだものね」

店主「まったく、私みたいな普通の、ただの一般人がお茶飲みながら話せるような相手じゃないはずなんだけどねえ」

店主「それはそうと、映画は面白かったわ。なんだかちょっと泣けちゃったけれど」

店主「仲間とともに悩み、仲間とともに育ち、そして仲間を先導し、引っ張っていく……リーダー」

店主「春香ちゃんは、そんな輝きをずっと失わないでいて欲しいな……」

Next→???

「マスター! お邪魔しま……うわぁ!」ドンガラガッシャーン

「あ、天海先輩!?」

店主「いらっしゃい」

「あいたたた……はい、こんにちは!」

「こんにちは」

店主「……ようこそ、喫茶『アイドル』へ」

  fine.

喫茶『アイドル』、これにてひとまず終了でございます。
ついさっき映画を見て帰ってきたばかりなので、午前中に書いた原稿を切り貼りしただけになってしまいました。

明日、余談を追加してこのスレをお終いとさせていただこうと思います。
その余談ですが、内容的にはアイマス本編の設定と大きく離れるものとなりますので、興味のない方は天海春香編をもってこのスレをお終いとすることをオススメします。

なお、まとめサイト様がこのスレをまとめる場合には、明日の余談はカットでお願いします。

店主「Trust yourself~♪ どんな時も~♪」prrrr…

店主「ん、いいところなのに」pi

店主「もしもし……え? いやいや、もう私会社辞めてから二年……あっ、ちょ」

――case0 スキップバード

高木「音無くん」

小鳥「はい、なんでしょう社長」

高木「ちょっと、社長室まで来てくれるかね。話がある」

小鳥「はい」

ガチャ バタン

亜美「ん~? 怪しいですなぁ、二人っきりで社長室とは……」

律子「馬鹿なこと言ってないで、レッスン行くわよ」

伊織「そうよ、レッスンよレッスン。麗華には負けてられないわ!」

あずさ「私、今度は少し可愛らしい曲が歌ってみたいわ~」

ガヤガヤ

真美「あずさお姉ちゃんが可愛らしい歌ですと?」

やよい「なんだろうね? あ! 『キラメキラリ』なんて良いかも!」

真「ボクも『ふるふるフューチャー☆』とか歌ってみたいなあ」

雪歩「真ちゃん、それ事務所違うから流石に無理じゃあ……」

千早「でもこの間のライブもあったし、やろうと思えば企画は作ってもらえるんじゃないかしら」

春香「じゃあ私は響ちゃんとデュエットしてみたいなあ」

ワイワイ



小鳥「それで、話っていうのは……」

社長「ああ、実はだね……君に、出演のオファーが来ているんだ」

社長「アイドル、スキップバードとして」

小鳥「……!」

高木「引退済みのアイドルだけで歌番組を組みたいという人が居てね。そこに、スキップバードも名前が挙げられているんだ」

小鳥「そんな……だってスキップバードは、人気も全然無くて、今はもう誰も覚えていないようなアイドルですよ?」

高木「日高舞」

小鳥「!」

高木「彼女が、スキップバードの居ない舞台には立たないとまで言ったそうだ」

高木「決断を急ぐ必要はない。番組はまだ随分先だ。なにせ、テーマがテーマだから出演者を集めるのに手間取るのは承知の上だからね」

高木「だが私は、スキップバードというアイドルをもう一度見たいという気持ちがある」

高木「かつてのプロデューサーとして、そして、一人のファンとして」

小鳥「……それは、私だけでは決められません」

小鳥「スキップバードは、一人じゃありませんから」

高木「その点は大丈夫だ」

高木「スキップバードは一人じゃない。そしてスキップバードのプロデューサーだって、一人ではないからね」





店主「まさか、退社後二年経ってから社長直々にお呼び出しされるとは、思いもよらなかったわ」

店主「で、一体どういう用件なの? たまの休日に呼び出すだけの用事なら良いんだけれど」

店主「ねえ、黒井社長」

黒井「君は本当に、この事務所が嫌いだったようだな」

店主「当たり前でしょう。元々私は競争社会ってやつが嫌いなの。会社内でさえ競わされてちゃたまったものじゃないわ」

黒井「フン、君らしい考えだ」

店主「そういえば、私の同期の社員は誰か残ってるの?」

黒井「独立した者、異動した者、退社した者、様々で今ここには居ない」

店主「そう……」

黒井「で、用件だったな。実は私の古い付き合いの男から、とある歌番組を作りたいと言われてな」

黒井「スキップバードを、使いたいそうだ」

店主「……!」

黒井「やるきはないか?」

店主「王者でなければ生きてる価値がない、じゃないの? 社長の持論は」

店主「言っておくけど、スキップバードは有名でもなんでもない。言っちゃ悪いけど、今や私と同年代の子でさえ覚えてる人は居ない底辺アイドルよ」

店主「彼女が出演するメリットがない」

黒井「彼女が……か」

黒井「楽しくなければ生きてる価値がない。それが君の持論だそうじゃないか」

黒井「なら君は、ステージに立つのが楽しくないと?」

店主「……小鳥は」

店主「小鳥は私に、小さい頃からアイドルに憧れていたと何度も語っていた。けれど、その夢は叶わなかったも同然」

店主「その彼女を、半端な理由でステージに戻すなんて私は賛成出来ないわ」

店主「スキップバードは二人で一人。片割れが楽しめないステージで、私が楽しめるわけがない」

黒井「成程な……予想通りの返答だ」

黒井「しかし君のその理屈は、つまり音無くんが「出る」といえば出演するということになるな」

店主「まあ、私自身はステージになんの執着もなんのトラウマもないしね」

黒井「恐らくは音無くんも同じことを言っているだろうな。君が出なければ出ない、と」

店主「なら、出ない。それで良いじゃない」

黒井「日高舞」

店主「!」

黒井「君達が出ないのなら彼女も出ないという。そうなれば番組としては大きなセールスポイントを失うことになる。もしかすると企画がなくなるかもな」

黒井「君達の引退のきっかけを作ったあの女に、一矢報いる気はないかね」

黒井「君達が涙を落としたあのステージに、君は一切の未練がないというのか」

黒井「君は、どうしたいんだ」

店主「……小鳥と、話がしたい。決断はそれからでも遅くないわよね」

黒井「もちろんだ」

店主「…………」pi prrrrr



黒井(スキップバードは十年ほど前に一年半だけ活動していたアイドルユニットだ)

黒井(活躍は芳しくなかった。一時期ラジオやテレビへの露出があった程度で、ライブだってお粗末な箱でしか行うことは出来なかった)

黒井(だが私は知っている。オーガとまで呼ばれたあの日高舞はスキップバードを恐れていた。だから彼女は引退を焦った。自らの全盛期で幕を閉じるために)

黒井(しかしそれがスキップバードを引退に追い込んだ。勝負をかけた決死のライブが、日高舞引退のニュースに埋もれて)

黒井(私は断じて認めん。一人のファンとして、プロデューサーとして、私の育てたアイドルは日高舞なぞ余裕で踏み潰していくという自信を持っていた)

黒井(私はどうしてもこの番組で世間にスキップバードを認めさせてやりたい。そして私と高木の決別を生んだ、スキップバードの失墜という歴史を塗り替えるのだ……!)

高木「……彼女からかい」

小鳥「はい」

高木「なんと、言っていた」

小鳥「私はもう一度ステージに立ちたい、って。ハッキリ言われました」

高木「そうか。じゃあ、音無くんは」

小鳥「はい。私も、出たくないわけじゃないんです。ただ、少し怖かっただけなんです」

小鳥「パートナーが居れば。孤独じゃないのなら、ステージにもう恐怖はありません。もう一度私も、ステージに立ちます」

高木「そうか……! では、私からディレクターの方に連絡をとっておこう……ふふ、いかんな。年をとると涙腺が随分ゆるくなる」

小鳥「もう、社長ったら。どうせ泣くなら、私たちのステージを見てからにしましょうよ」

高木「ふふ、そうだね……楽しみだ」



黒井「話はついたか」

店主「番組には出る。ステージにも立つ。引退後、いや、アイドル時代も含めて最初で最後の大舞台かな」

黒井「私としては、そのまま再デビューしてもらって構わんのだがな」

店主「冗談。私もそんな年じゃないわよ」

黒井「某事務所には28のアイドルが居る、まだいけるぞ」

店主「喫茶店と兼業で良いならね」

黒井「フンッ、まああのコーヒーが飲めなくなるのは困る。アイドルの件は諦めよう」

店主「私のアイドルの価値はコーヒー以下?」

黒井「それだけコーヒーが美味いということだ」

司会『さあ、次は! あの日高舞がライバルと公言したユニット。スキップバードで、『花』』

~♪

春香「小鳥さんって、アイドルだったんだぁ……」

やよい「ダンスも歌も格好良いです!」

律子「道理で最近、レッスン場が一部屋貸し切られてたわけね」

真「それにしても、ユニットって……もう一人の人も綺麗だけど、誰だろう?」

伊織「ポニテに眼鏡って、若干律子と被ってる気がするけど……」

千早「音無さんもだけど、歌のレベルが半端なものではないわ……アイドルの枠で呼んでいいのか分からないほどハイレベル」

あずさ(あの声……どこかで聴いたような?)

雪歩(なんだろう、凄く知ってる名前だった気がする、もう一人の人)

亜美「今度ピヨちゃんも誘ってカラオケいこ→YO!」

真美「死ぬほど聴かせてもらうもんね!」

高木「…………」

P「社長?」

高木「ああ、いや。なんだか感激してしまってね」

高木「嗚呼、彼女らはまさしく、アイドルだよ」

高木(黒井、君も見ているんだろう)





響「凄いぞ……なんで765プロの事務員なんかやってるんだ……」

翔太「もう一人の人も、ダンスのキレが……ねえ、冬馬くん。これ僕たち勝てる?」

冬馬「勝てる。とは、断言しきれないな……この二人、動きがお互いの邪魔をしないように考えられながらもステージを大きく使ってる」

美希「魅せる方法をわかってるって感じなの」

貴音(それにしても……あの方は)

北斗(俺の予想が正しければ、あの声の感じからして……)

三条馬「スキップバードって、喫茶『アイドル』にサインが置いてあったアレよね? こんな凄いアイドルだったのね……」

黒井「フンッ」

黒井(日高舞はトリか。まあ良い、今この番組を見ている者全てに見せつけてやれ。君達の輝きをな……。オーガを喰らう怪鳥となるのだ)

店主「はい、ノワールスペシャル」

小鳥「ただのブラックコーヒーじゃない?」

店主「黒井社長お気に入り、シュガースティック三本入りの甘々ブラックコーヒーよ」

小鳥「ふぅん。あ、美味しい」ズズ

店主「豆にはこだわりが、ね」

小鳥「……それにしても、社長が来なかったのは好都合だったわね」

店主「まさか生放送なのに現場に居ないってどうなの? 私たちもうただの一般人なのに」

小鳥「まあまあ、ディレクターさんがアイドル時代から知ってる人だったから良かったじゃない」

店主「黒井社長の古い知り合いっていうだけはあったわね」

小鳥「……こうしてると昔を思い出すわね」

店主「レッスンの後は私が作った甘ったるいカフェオレ飲みながら談笑したもんね」

小鳥「どんな話してたかしら」

店主「学校の事とか、これからの事とか、あとは女子高生らしく恋バナとか?」

小鳥「あー、した気がする」

店主「お互いそんな話とは今のところ縁がなさそうだけどね」

小鳥「言わないでよ……未だに私、初恋を引きずってるんだから」

店主「……私が恋敵じゃなくて良かったね」

小鳥「そう言う貴女だって、初恋引きずってるんじゃないの? バレバレよ」

店主「…………」ズズ

小鳥「プロデューサーが二人でよかったわね」

店主「仰るとおりで」

小鳥「ところでテレビ出ちゃったけど、良いの? 格好が違うとはいえ、声とかで何人かにはバレてるかもしれないわよ」

店主「まあ、それはそれで。ていうか私の心配をするより先に小鳥は事務所に戻った時のことを考えたほうが良いんじゃない」

小鳥「ピヨッ! そうだわ、私みんなにアイドルだったこと話してないから……あわわわ、質問攻めの予感が!」

店主「なるべく私のことは内緒で頼むわ」

小鳥「道連れよ!」

店主「そんな!」

店主「その後、スキップバードは番組を見た人の間で話題になり、日高舞と合わせてネット上で軽いお祭り状態になった」

店主「それを受けて番組制作側は、出演者の代表曲を合わせたCDを発売することを決め、私たちの歌は再び日の目を見ることになったというわけよ」

店主「一夜限りのちょっとした夢のはずだったんだけど、これはこれで、悪く無いわ」

店主「そうそう。小鳥だけど、ああは言ってたものの私のことはアイドルの子たちに内緒にしておいてくれたみたい。気づいた子も何人か居たけどね」

店主「それにしても小鳥は良いわねえ、初恋の人が同じ職場で。私なんか自分から辞めちゃったけど」

店主「さて、そんなこと言っててもしょうがないわ。喫茶『アイドル』は今日も開店中だからね」

「にょわー☆ おじゃまー☆」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい」

店主「ようこそ、喫茶『アイドル』へ」
  
  fin.

余談でした。
オリジナル設定はアイマスSSのタブーだけど、店主とスキップバードの関係はずっと一貫して決めてたので。

因みにこれに登場する高木とは順一朗の方です。
一週間そこら、読んでくれた方々ありがとうございました。

ありがとう! そしてありがとう!

でもさ、まだ出てないアイドル居るよね、2,300人くらい……

流石にモバグリは気力がもたないw


いつか書くかな(遠い目)

書くならまたスレ立てるかな。一応このスレはこれで完結、と締めくくったから。

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