ハルヒ「ねえ、朝倉涼子って今なにしてると思う?」キョン「しらん」(529)

部室

古泉「では、ここで僕は転職と行きましょうか」

キョン「折角、医者になったのにか。お前、人生を舐めてないか?」

古泉「そうですか?僕としては転職し新しい世界を見るのもまた、人生の楽しみ方だと思うのですが」

キョン(能力のあるやつが言う台詞は腹立たしいね。俺みたいな奴は崖に噛り付いて生きなきゃならんというに)

ハルヒ「ねえ、キョン」

キョン「なんだ?お前もやるか、人生ゲーム」

古泉「涼宮さんも参加するなら、初めからになりますね。ここまでの世界をリセットしましょうか?」

ハルヒ「朝倉涼子って今なにしてると思う?」

キョン「しらん」

キョン(反射的に答えたが、模範的な回答に違いない。今の発言から会話を広げれば、とんでもないものを呼び寄せてしまいそうだったからな)

長門「……」

ハルヒ「あたしは思うんだけど、朝倉って転校したんじゃなくて誘拐されたんじゃないかしら?」

キョン「は?」

ハルヒ「だって、二ヶ月も経たないうちに転校なんてやっぱり怪しすぎるもの。これは誘拐されたのよ。で、未知の組織に人体改造を施されて地球の平和を影で守っているとか」

キョン「アホか。特撮ヒーローの見過ぎだ」

キョン(それをやってるのは今、部屋の隅で横で静かに本を読んでいる長門だ)

長門「……」

ハルヒ「そうかしら?でも、意外と良い線いってると思うのよねぇ」

キョン「何を藪から棒に。お前、今更朝倉のことが気になり始めたのか?」

ハルヒ「そうよ。朝倉涼子からは不思議の匂いがプンプンするわっ」

キョン(なんで、半年が経とうとするこの時期に気になり始めるんだよ。お前の好奇心は時差ボケでもしてんのか)

ハルヒ「有希、一緒のマンションだったんでしょ?なんか新情報掴んでない?」

長門「ない」

ハルヒ「そう……」

キョン「おい、ハルヒ。あいつはカナダに行ったんだ。それで解決だ。納得しとけよ」

ハルヒ「そんなのありえないわよ。急な転勤にしても急すぎる。これは国家権力も動いているわね。間違いない」

>>5
キョン(それをやってるのは今、部屋の隅で横で静かに本を読んでいる長門だ)

キョン(それをやってるのは今、部屋の隅で静かに本を読んでいる長門だ)

キョン「ねーよ。仮にそんなことがあったとしても、お前じゃその真相には辿り着けないと思うがね」

ハルヒ「そんなことないわ。そろそろ半年が経つんですもの、その内道端に倒れていて記憶を失っている状態で見つかったりするのよ」

キョン「は?」

ハルヒ「そこで良識ある人の家でお世話になりつつ、自分の使命を思い出して、奔走する。これで決まりね」

キョン「SOS団自主制作ムービーの構想か?割かし面白いと思うぞ?」

ハルヒ「なによ。あたしの考えが間違ってるとでもいうわけ?」

キョン(その間違った考えが正しいものになるからこっちは困るんだよ)

古泉「それにしても涼宮さん、どうして急に気になったのですか?何かきっかけでもあったのでしょうか」

ハルヒ「気になったんだから仕方ないじゃない」

古泉「そうですか」

朝比奈「あ、あの、でも、朝倉さんの父親って人から学校に電話があったんですよね?それならカナダに行ったでいいんじゃ」

ハルヒ「それも宇宙人がボイスチェンジャーとか使って父親を語っただけかもしれないでしょ?しかもどうして父親なのよ。普通は母親じゃないの、そういう電話をするのって」

キョン(こいつはどうでもいいところで勘が冴えてやがる。というか、このままだと朝倉が復活しちまうんじゃないのか、おい)

長門「……」

キョン(長門。そんなことはないよな?)

ハルヒ「今週末の不思議探索は朝倉涼子探索にしようかしら」

キョン「やめろって」

ハルヒ「なんでよ?失踪したクラスメイトを探すだけじゃない」

キョン「万が一、いや、そんなことは絶対にありえないが、朝倉と出会ったらどうするつもりだ?」

ハルヒ「やっほーい、涼子ちゃん。元気してた?って感じでフレンドリーに話しかければ問題ないわよ」

キョン「お前、朝倉とそんなに親しかったか?朝倉が狼狽するだけだぞ」

ハルヒ「いっつも向こうから話しかけてきてたから、少なくともあっちはあたしのことを好意的に見てるでしょ」

キョン「それは委員長としてお前が心配だったからだろうが」

キョン(あと自律進化の可能性がどうので近づいてたんだろうけど)

ハルヒ「なら、今でもその心配はしてるでしょ。あの子、評判は良かったみたいだし」

キョン「……」

古泉「ですが、涼宮さん。転校してしまった人を街で目撃するのは難しいと思いますが」

ハルヒ「探すだけならタダよ。それにね、見つけられなくても痕跡ぐらいはあると思うのよね。半年経過したといっても三年前の足取りは掴んでるし、居たのは間違いないんだから」

キョン(いい加減にしてくれ……)

ハルヒ「よし、きめたっ。今週末の不思議探索は朝倉探索に変更しますっ」

朝比奈「ひぇぇ……」

キョン「おい、ハルヒ。いるわけねえ奴を探す時間があれば、別の不思議を探したほうがまだ有意義だぞ」

ハルヒ「朝倉涼子も十分に不思議な存在よ。だって、不自然に転校して、そして半年後に街にひょっこり戻ってきてるなんて」

キョン(ああ、もうハルヒの脳内では朝倉は帰還しているようだな。今から防弾チョッキぐらい用意しておいてもいいかもしれん)

ハルヒ「異論は?ないわね」

古泉「んふっ」

朝比奈「あぁぁ……」

長門「……」

キョン(長門、なんとか言ってやれ。もう朝倉は南極にいて、今は永久凍土の中に埋まったとかよ)

ハルヒ「うん。満場一致で朝倉探索に決定します!!それじゃ、みんな明日いつも通りに集合だから。いいわね?」

キョン「待て、ハルヒ」

ハルヒ「異議なら月曜日に申し立てなさい」

キョン「な……」

ハルヒ「最後の人、鍵閉めよろしくねっ」

古泉「これは予想もしていなかった提案ですね。まさか涼宮さんがあの朝倉涼子に執着するとは……。いえ、ですがSOS団に勧誘してもいい存在だったのですから、この流れは当然……?」

キョン「古泉。お前には話したよな。朝倉が俺に何をしようとしたのか。忘れたのか?」

古泉「まさか。貴方の言葉はしっかりと覚えていますよ。何月何日何時に何を発言したのかも、全て」

キョン「相変わらずの気持ち悪さだな、おい」

古泉「冗談ですよ。そんなことができるのは長門さんぐらいでしょう」

キョン「長門」

長門「現時点では朝倉涼子の再構築は為されていない」

キョン「いないんだな?」

長門「いない」

朝比奈「はぁ……よかったぁ……。またキョンくんが刺されちゃったらわたし……わたし……ぐすっ」

キョン(朝比奈さんの心配も最もだ。朝倉が蘇って喜ぶのは俺以外の一般人だけだからなぁ。アホの谷口あたりは狂喜乱舞して、3日は正気を取り戻せないんじゃないか)

古泉「よかったですね。どうやら涼宮さんも本気で出会える、または帰ってきているとは思っていないのでしょう」

キョン「なら、どうしてあんなことを言ったんだよ」

古泉「こういうことではないでしょうか。漠然とした『不思議』を探すよりも、特定の或いは固有の『不思議』に注目して捜索するほうがいいと考えたのですよ」

キョン「それは『宇宙人を見つける』から『火星人を見つける』っていう目標に変わっただけだろうが」

古泉「いえ。それでも宇宙という広大な範囲から、火星という局地的な範囲になったわけですから、発見の可能性は格段にあがります」

キョン「発見してほしくないな」

古泉「同感ですが、長門さんが感知していない以上、現在は何も心配いりませんよ」

キョン「現在は、だろ?この先どうなるかわからん。日付が変わったと同時に朝倉が次元の裂け目から産声をあげたらどうする?」

長門「心配ない。私が対処する」

キョン「長門……いいのか?」

長門「朝倉涼子は非常に優秀。再構成され、活動を再開させることがあれば危険。最優先で処理する」

キョン(そりゃ朝倉の相手は長門に任せるしかない。俺や朝比奈さんは文字通り瞬殺だろうし、古泉だってなんの変哲もない場所で狙われたら致命傷は避けられない)

長門「……」

キョン「長門、悪いがまた頼む」

長門「……」コクッ

朝比奈「い、一応、わたしたちのほうでも警戒しておいたほうがいいでしょうかぁ」

古泉「そうですね。貴方の家に泊まりこんで警護する、なんてどうでしょうか?」

キョン「遊び相手が増えたと勘違いした妹が喜ぶだけだ。やめろ」

古泉「おや、残念」

古泉「まぁ、安心してください。貴方の身の安全を守ることは我々の最優先事項ですから」

キョン(最優先事項ね)

朝比奈「キョンくん、何かあったらわ、わたしに連絡して、いつでも時間平面を移動できるようにしておくから」

キョン「はい、助かります」

長門「……貴方の自宅近辺の見回りを強化する」

キョン「……え?」

長門「貴方は通常通りの生活に準拠すればいい」

キョン「長門、お前は俺の家の周りを巡回してるのか?」

長門「たまに」

キョン(ああ、これはいつか長門を温泉旅行にでも連れて行ってやらないといけないな)

古泉「それでは、また明日」

朝比奈「さようなら、キョンくん」

キョン「ええ、また明日」

長門「……」

キョン(表情に出ない分、判断が難しい。疲れたからもういいって言って大の字で寝てくれたら分かりやすいんだがな)

キョン宅

キョン「ただいまー」

妹「おかえりー、キョンくんっ」テテテッ

キョン「おう」

妹「キョンくんにお客さんきてるよー」

キョン「俺に?誰だ?」

妹「あさくらりょーこって言ってた」

キョン「あさくら、なんだって?」

妹「あさくら、りょーこっ。今、リビングでシャミとあそんでるの」

キョン(長門、話が違うぞ。もう生まれてるじゃねーか)

妹「どうしたのー?りょーこちゃん、待ちくたびれてるよ?」

キョン「お前、どうして知らない人を家にあげるんだ?ダメだろ」

妹「でも、キョンくんに会いたいって言ってたし、制服もキョンくんの学校のだし……」

キョン(落ち着け……ここは長門に連絡をとって……瞬間移動でここへ……いや、このまま俺が家を出て長門のところに向かうのがいいか……)

妹「りょーこちゃーん、キョンくんかえってきたよー」テテテッ

キョン「ばか!!呼ぶんじゃない!!」

妹「へ?」

ガチャ

朝倉「―――おかえりなさい。外寒かったでしょ?」

キョン「朝倉……」

朝倉「コート貸して。掛けてあげるから」

キョン「何のつもりだ」

朝倉「……」

キョン「何が目的だ……朝倉……」

朝倉「……」

キョン(ナイフか……それとも包丁か……。ここには妹もいる。せめて妹だけは……)

妹「キョンくん?」

朝倉「貴方しかいないの」

キョン「何のことだ?」

朝倉「貴方、私が誰が知ってるわよね?ううん、知っていてくれなきゃ困るのだけど……」

キョン「なんだと?」

朝倉「私の名前は朝倉涼子。あなたはええと……キョンくんよね?」

キョン「あ、ああ……」

朝倉「貴方は私のことを覚えてるわよね?」

キョン(忘れるわけがない。お前は俺を殺そうとしたんだからな)

朝倉「よかった……。その様子だと覚えているのね」

キョン(なんだ、この感じは。まさかと思うが、ありがちな展開だと思うが、この朝倉……)

朝倉「私、記憶がないの。気がついたら貴方の家の前に倒れていて……」

キョン(やっぱりか)

朝倉「覚えていたのは自分の名前と貴方の顔と名前だけなの」

キョン「この家が俺の家だっていうことも覚えていたのか?」

朝倉「いいえ。丁度、妹さんが私のことを見つけてくれて。事情を話したらここがそうだって」

キョン「なるほどな」

キョン(信じるわけにはいかないが)

朝倉「よければ私のことを教えてくれない?」

リビング

妹「キョンくん、おちゃーいれたよ」

キョン「サンキュ」

朝倉「……」

キョン(さてと、まずな長門に連絡を入れたいところだが。連絡を入れようとした瞬間に斬りかかって来る可能性もある)

妹「シャミー、シャミシャミー」

朝倉「この猫、温かいわね。いつまでも抱いていたいぐらい」

妹「そうでしょー?」

キョン(そもそもいつこっちに戻ってきたんだ。長門が感知していないと言ってたし、30分ほど前まではこの世にいなかったんだよな)

朝倉「……あの」

キョン「な、なんだ?」

朝倉「そろそろ……教えてほしいな。私のこと」

キョン「何から話せばいいか整理しているところだ」

朝倉「もしかして、貴方とは深い関係だったの?」

キョン「ある意味な」

朝倉「そうよね。でないと、貴方のことだけを覚えているなんて変な話だもの。でも、妹さんは私のことを知らなかったみたいだし、まだご両親に紹介するような関係ではなかったのね」

キョン(そうだな。殺人未遂犯を両親に紹介するような物好きがこの世界にいるなら是非とも会ってみたいもんだ。紹介されたほうは度肝抜かれるぜ)

朝倉「まだ、まとまらない?」

キョン「ああ。本当に困ってる」

キョン(お前が宇宙人であることをこの場で告げるのは問題が多い。妹もいるしな)

朝倉「あ、分かった。それなら、貴方の部屋で話しましょう?」

キョン「どうしてそうなる?」

朝倉「妹さんの前では言えないような関係だったんでしょ?あまり、想像したくはないけど、体だけの関係とか……」

キョン「断じて違う」

朝倉「そうなの?妹さんの耳には毒で、深い関係といったらそれぐらいしか」

妹「なんのはなしー?」

キョン「お前には関係ありません。シャミセンと部屋で遊んでいなさい」

妹「でもー」

キョン「いいから。二人っきりで話したいんだ」

キョン(せめてお前だけは遠くにいてほしい。血の海の中にいてほしくはないからな)

妹「もー。シャミー、いこっ」

シャミセン「ニャァ」

朝倉「―――妹さんには言えない関係かぁ。恋人の類ではないのね。残念」

キョン「どうして残念なんだ」

朝倉「だって、貴方良い人そうだもの」

キョン(谷口にも言われたな。崖まで同伴するようなお人よしだと)

朝倉「それで、私は一体誰なの?」

キョン「朝倉、本当に記憶がないのか?」

朝倉「ええ。自宅もわからないし、親の顔も思い出せないの」

キョン「長門有希って名前に覚えはないのか?」

朝倉「ながと、ゆき……さん?ごめんなさい、誰かしら?」

キョン「なら、涼宮ハルヒは?」

朝倉「いいえ。でも、その名前は何となく懐かしい感じがするわね。もしかして、私の姉妹とか?」

キョン「どちらかというと長門のほうがそれに近いな。血縁ってわけじゃないが」

朝倉「そうなの。その涼宮さんに会えば何か分かる?」

キョン「いや。会ってもわからないだろうな。特に向こうはお前のことをあまり覚えてないだろうし」

キョン(ってことにしときたい)

朝倉「そう。なら、長門さんはどうなの?血縁関係に近いってどういうことかしら?私とは幼馴染なの?」

キョン「どうなんだろうな。それが一番近い表現かもしれないが」

朝倉「キョンくん、もしかして私のことあまり覚えてないの?」

キョン「よく覚えている。お前は俺のクラスの委員長であり、学年、いや学校全体で見てもトップクラスの容姿だからな」

朝倉「嬉しい。キョンくんは、私のこと好きだったの?」

キョン「……ノーコメントだ」

朝倉「照れなくてもいいのに」

キョン(苦手とか嫌いとかの次元じゃないんだよ。殺されかけた身になればわかるが、俺にとってお前は恐怖の対象以外何物でもないんだ)

朝倉「……これからどうする?」

キョン「え?」

朝倉「貴方さえよければ、私を家まで案内してほしいんだけど……」

キョン(迷子なら交番まで連れて行ったらいいんだが。朝倉はそうもいかないからな。このまま長門のところに連れて行くべきか……)

朝倉「貴方しか頼れる人がいないの。ねっ、お願いっ」

キョン「今から、長門に連絡を取る。いいか?」

朝倉「ええ。勿論。私からもお願いするわ」

キョン(襲ってくる様子はないな……。本当に記憶がないのか。ハルヒの脳内設定のおかげで俺は命拾いしていることになるが……)

朝倉「……」

キョン(考えても仕方ない。覚悟を決めて長門に連絡をするしかない)

キョン「……」ピッピッ

キョン「―――もしもし、長門」

長門『……』

キョン「あのだな、長門。お前が嘘を吐いたとかは全然思ってないんだ。ただ、その事態を飲み込めない」

長門『なにかあった?』

キョン(事実を告げれば、あの長門もひっくり返るんだろうか)

朝倉「キョンくんっ、代わってくれない?私も長門さんと話をしてみたいから」

キョン「なに?」

朝倉「お願い。長門さんなら私ことを知っているんでしょう?色々、聞きたいなぁって思って」

キョン「それは当然の考えだが……」

朝倉「ね、いいでしょ?」

長門『そこに誰がいる?』

キョン「……朝倉だ」

長門『すぐに行く。待っていて』

キョン「あ、おい。長門!?」

朝倉「キョンくん、どうかしたの?貸してっ」

キョン「もう切れた。長門がこっちに来るそうだ」

朝倉「そうなの?わざわざ長門さんから会いにくるなんて。もしかして私は行方不明になってから時間が経っていたのかしら?」

キョン「ああ。半年以上、見かけなかったぜ。お前のことは」

朝倉「半年……?そんなにも私はどこでなにをしていたのかしら……。誘拐とか?学校では私がいなくなったことについてどう説明されていたの?」

キョン「親の都合で海外に行ったことになってる」

朝倉「海外……。飛行機に乗った覚えなんて欠片もないけど……」

キョン(長門が用意したシナリオだからな。あってもらっては困る)

―――ピンポーン

朝倉「あら?もう来たの?2分も経ってないのに、もしかしてご近所さん?」

キョン(お世辞にも近所ではないが。もしかして巡回中だったのか)

朝倉「キョンくん、出てあげて」

キョン「あ、ああ……。そこに居ろよ。立つなよ?」

朝倉「どうしたの?私は他に行くところが無いんですもの、どこにも行けないわ」

キョン「あ、ああ、そうだな」

朝倉「……」

キョン(記憶がないとはいえ、ハルヒの脳内設定を鑑みれば何かの拍子に思い出すんだろうな……。そのトリガーが長門やハルヒじゃないことを祈るしかねえ)

キョン「―――長門」ガチャ

長門「どこ?」

キョン「リビングにいる」

長門「……」

キョン「長門、あのな……」

長門「こちらの不手際。謝罪する」

キョン「そんなことねえよ。で、長門。お前の見解を聞かせてくれないか?」

長門「私はまだ朝倉涼子の存在を確認できない」

キョン「な、何いってんだよ。もう5メートル先には朝倉がいるんだぜ?お前にわからないわけ」

長門「確認できない」

キョン「長門……」

長門「……」

キョン「とにかく、上がってくれ。朝倉はハルヒの言ったとおりの状態になっている」

長門「記憶の損失?」

キョン「ああ。自分と俺の名前以外は忘れているみたいだ」

長門「分かった」

キョン「長門、大丈夫なんだよな?」

長門「分からない。これは不測の事態」

キョン(不測?長門にとって不測の事態だと?文化祭では淡々と予言を披露していたお前が?冗談だろ?)

長門「……」

キョン「ハルヒが原因か?」

長門「まだ分からないが可能性はある」

キョン(ハルヒ。朝倉にどんなパワーを与えたんだよ。長門ですら慎重になるなんて、朝倉を出世させすぎだろ)

朝倉「あ。貴方が長門さん?」

長門「そう」

朝倉「ごめんなさい、ここまで来てもらって。長門さんは私のこと知っているのでしょ?」

長門「知っている」

朝倉「なら、教えて欲しいな。キョンくんは何も喋ってくれないし」

キョン(どれを喋っていいのか俺には判断ができないんだよ)

長門「貴方は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースであり、私のバックアップ」

朝倉「え?」

キョン「長門、いきなりそれをいうのか?」

長門「今から三年前、惑星表面を覆った情報フレアの中心にいた涼宮ハルヒを監視する為に情報統合思念体によって生み出された」

朝倉「……?」

長門「涼宮ハルヒの監視中、貴方は独断専行し、彼を抹消しようとした。その際、私は貴方の情報連結を解除し、消去した」

朝倉「……キョンくん、長門さんって変な人なの?」

キョン「いや……そういうわけじゃ……」

長門「全て事実」

朝倉「あの、たいゆうきなんとかって言われても私には分からないわ。もっと分かりやすく言ってほしいな」

キョン「簡単にいうとだな……」

長門「宇宙人」

朝倉「う、ちゅうじん?」

キョン(俺と同じリアクション。今の朝倉は本当に記憶喪失になった普通の人間なのか?)

長門「貴方と私は同じ存在」

朝倉「キョンくん……私ってこういう人だったの?オカルトマニアとか?」

キョン「そうだな……。長門、どうなってるんだ?やっぱり、朝倉は記憶を失っているのか?」

長門「不明」

キョン「なんでだ?」

長門「朝倉涼子の形をした個体を解析することができない。ノイズが発生している」

キョン「なら、どうする?」

長門「私が連れて帰り、監視及び解析を続ける」

キョン「まあ、それしかないか」

長門「ない」

朝倉「キョンくん、もしかして記憶障害だからって私をからかってるの?」

キョン「そんなつもりはない。ないが……」

長門「家まで案内する」

朝倉「え?」

長門「一緒に来て」グイッ

朝倉「いや、はなしてっ」バッ

長門「……」

キョン「おい、朝倉」

朝倉「キョンくん、おねがい。キョンくんが私の家まで案内して」

キョン「長門に任せたほうがいい」

朝倉「自分のことを宇宙人って言う人を信じられないもの」

キョン「なら、そんな相手を紹介した俺も同類だろ」

朝倉「ううん。キョンくんは私が覚えていた唯一の人だもの。きっと何かあるはず」

キョン(それはお前が俺を殺したくて仕方ないとかそういうことじゃないだろうか)

朝倉「キョンくん、私には貴方しかいないの。見捨てないで」

長門「ダメ」

朝倉「いや、こないで」

キョン「お、おい。朝倉」

朝倉「キョンくん、長門さんには帰ってもらえるように言ってくれない?」ギュッ

キョン「抱きつくなよ」

キョン(悪寒が走ったぞ、今。ここから頚動脈を切られないか心底不安だ)

長門「貴方のことは私が請け負う。こっちへ」

朝倉「いやだって言ってるでしょ」

長門「貴方はここに留まるべきではない」

朝倉「だから、キョンくんに送ってもらうから」

長門「……」

キョン(俺を見るな、長門よ。どうしたらいいんだ……。って、俺が長門のマンションまでついていけば解決か)

キョン「わかった。俺も付き添う。それでいいな?」

朝倉「うれしい、キョンくんっ。ありがとう」

長門「……」

マンション

朝倉「キョンくんの家から随分と歩いたわね。ここがそうなの?」

キョン「ああそうなるな」

長門「……」

キョン「(長門、朝倉はどうするんだ?部屋を用意するのか?)」

長門「(明日でないと用意はできない)」

キョン(そういえば長門たちはきちんとした手続きを踏んでマンションの一室を買っていたみたいだからなぁ……。今すぐに入居は無理なのか)

朝倉「私の部屋はどこにあるの?えーと……朝倉……朝倉……」

キョン「あー、朝倉、悪いんだが……」

長門「貴方の住居は存在しない」

朝倉「え……?」

長門「私の部屋に招待する」

朝倉「……キョンくん……どういうことなの……?」

キョン「ええとだな……」

朝倉「私のお母さんやお父さんはどこにいるの?半年の間に何があったの?」

長門「貴方に親類は存在しない」

朝倉「私はキョンくんに聞いたの」

キョン「朝倉、長門の言うことは真実なんだ。残念だけどな」

朝倉「……私、独り暮らしだったの?」

キョン「そうだ」

朝倉「こんな駅の傍の高層マンションに?私、そんな良い暮らしをしていたの?」

キョン(完全に怯えている。部室に拉致されてきた朝比奈さんを思い出す)

朝倉「キョンくん……私って……一体……」

キョン(なんて言えばいいんだ。本当に何も覚えておらず、一般人に成り下がったのならお前は宇宙人なんて言っても信じるほうが可笑しい。むしろこっちの頭を心配されるぜ)

朝倉「キョンくん、おしえて……おねがい……私は……誰なの……?」

長門「貴方は対有機生命体―――」

朝倉「長門さんには聞いてないわ!」

長門「……」

キョン(これはやはりハルヒの脳内設定が現実のものになっているんだな……。だとするといつかは自分の為すべきことを思い出すことになるんだが……)

朝倉「こわい……なにがどうなっているの……」

長門「とにかく、今日は私の部屋で休むべき」

朝倉「いやっ!!」

キョン「朝倉、長門はお前のことを心配している。それだけは間違いない。保障する」

朝倉「キョンくん……」ギュッ

キョン(重症だな……。未知とのファーストコンタクトはやっぱり大事なんだな)

長門「……」

キョン(俺を見つめても答えはでないぞ、長門。俺の頭脳は一般人より少し劣るんだからな。摩訶不思議には場慣れしているだけが強みだ)

長門「貴方はどうしたい?」

朝倉「キョンくんの傍にいる」

キョン「なに?!」

朝倉「だって、もうキョンくん以外にいないもの……信頼できる人が……」

キョン「しかしだな、お前を俺の家には置いておくことはできないぞ?」

朝倉「……っ」ギュッ

キョン(これが演技なら、大女優だな。アカデミー主演女優賞を余裕で取れちまう。ジョディ・フォスターも裸足で逃げ出すだろうね)

長門「……分かった」

キョン「何が分かったんだ?」

長門「貴方も私の部屋に泊まって」

キョン「はぁ?!な、何言ってるんだよ!?」

長門「それしかない。彼女を貴方の自宅に待機させるのは極めて危険」

キョン「確かにそうかもしれないが」

長門「ここにいて欲しい」

キョン(長門の家に泊まるって、まあ三年間も泊まっていたわけだし、今更1日ぐらい宿泊して何の問題があろうか)

キョン(それにこれは長門からの誘いでもあるし、加えて俺の家族の身を守るためでもある)

朝倉「……」

キョン(ライオンを前にした小動物の如く震えている朝倉だって、演技でないと誰が言い切れる。そもそも長門が分からないって判断しているんだ。俺に見分けがつくはずもない)

長門「……」

キョン「(一晩で大丈夫、だよな?流石に二晩もなんて精神衛生上負担が大きい)」

長門「(一晩でいい)」

キョン「……わかった。なら、泊まることにする」

長門「感謝する」

キョン「俺も一緒なら、いいだろ?朝倉」

朝倉「……え、ええ。キョンくんがいるなら」

キョン「よし。長門、そういうわけだ」

長門「……」コクッ

朝倉「キョンくん、私のこと守ってくれる?」

キョン「あ、ああ……」

キョン(俺だって長門にそれを訊きたいところなんだが……)

朝倉「……」ギュッ

キョン(こんなにもしおらしい姿、春先での一件がなければ一発で恋に落ちているところなんだがな)

長門「あがって」

キョン「おう」

朝倉「おじゃま、します……」

キョン「そういえば、長門の家も久しぶりだな」

長門「……こっち」

朝倉「……」

リビング

朝倉「何もないのね……」

キョン「長門はそういう奴なんだよ」

朝倉「そう……なんだ……」ギュゥゥ

キョン(これは俺の理性が試されているのだろうか)

長門「……飲んで」

キョン「サンキュ」

朝倉「……私はいいわ」

キョン「毒も幻覚剤も入ってないぞ」

朝倉「……キョンくんがそういうなら飲むけど」

長門「……」

キョン「長門、これからどうする?泊まるのはいいんだが、着替えもないし」

長門「私が用意する。心配はない。それよりも食事はどうする?」

キョン「飯か。なんでもいいぞ」

長門「そう。買ってくる」

長門「―――どうぞ」スッ

キョン(コンビニ弁当か。長門らしい)

朝倉「お料理しないの?」

長門「しない」

朝倉「ふぅん」

キョン「朝倉は料理できるのか?」

朝倉「分からないけど、できるような気がする」

キョン「長門、朝倉はその辺りの能力はあったのか?」

長門「彼女は私と違い、高いコミュニケートが可能。より人間に近い活動を得意としていた」

キョン「それは家事ができるってことか?」

長門「我々にとってそれは必ずしも必要なことではないが、朝倉涼子という個体はその能力を比較的重視していた傾向にある」

キョン(よく見てはいないが、朝倉はきちんとした弁当を持ってきていた気がする。やっぱり宇宙人も個性は出したいのだろうか)

朝倉「言っている事がよくわからないし、怖いわね」

長門「……」

キョン(俺には朝倉、お前のほうがよっぽど怖いぜ。あの長門ですら困惑させるんだからな)

キョン「―――ご馳走様でした」

朝倉「ご馳走様」

長門「……」コクッ

キョン「腹も膨れたし、なにする?」

長門「シャワーを使用するならどうぞ」

キョン「お、おお……」

長門「一通りの洗剤も用意してある」

キョン(石鹸やシャンプーも長門にとっては洗剤か。まぁ、当然だけどな)

キョン「朝倉、風呂に入ってきたらどうだ?今日は疲れただろ?」

朝倉「キョンくんも一緒?」

キョン「そんなことできるか!!」

朝倉「……」

長門「どうぞ」

朝倉「……それじゃあ、お先に……」

キョン(やれやれ……。明日はハルヒと会うんだぞ。大丈夫か……)

キョン「長門よ。まだ何もわからないのか?」

長門「あの朝倉涼子は生命体」

キョン「それは見れば分かる」

長門「……」

キョン「それだけか?」

長門「解析不能。構成情報にノイズが発生している。あの個体がどのような経緯で生み出されたのか分からない」

キョン「未知の生物ってことか。UMA朝倉か」

長門「……」コクッ

キョン「古泉に話しておいたほうがいいな」

長門「古泉一樹に話したところで事態は好転しない」

キョン「それはそうだが、俺たちだけが抱えてても何も起こらないだろ」

長門「……」

キョン「とにかく話すだけ話してみようぜ、な?」

長門「……」コクッ

キョン(古泉に訊かずとも朝倉を消す方法は分かってるんだけどな。それは長門も承知しているはずだ)

古泉『―――涼宮さんが朝倉涼子の件から手を引けば解決でしょうね』

キョン「やっぱり、そうなるか」

古泉『ただ、現状では厳しいでしょう。少なくとも明日までは涼宮さんの好奇心は尽きないでしょうし』

キョン「あいつのことだ朝倉と会うまでは探索を続けるかもしれない」

古泉『そうなってしまうと朝倉涼子を涼宮さんに会わせた方がいいかもしれませんね』

キョン「そうなって俺が殺されたら恨むぞ」

古泉『冗談です。そのような危険行為を僕が勧めるわけないじゃないですか』

キョン「ふん。お前はどう見る、UMA朝倉のことを」

古泉『長門さんでも解析できないとなると、何を言っても妄言の域はでませんがよろしいですか?』

キョン「どうせ言いたくて仕方ないんだろうが」

古泉『ありがとうございます。実はその通りでして』

キョン「なんだ、言ってみろ」

古泉『ポイントはいくつかありますが、最も注目すべきところは長門さんでも全容を知ることができないというところですね』

キョン「そらそうだろう。寧ろ、それ以外になにがある」

古泉『長門さんサイドが解析できない生命体は、初めてではない。そんな生命体に心当たりはありませんか?』

キョン「ハルヒしかいない」

古泉『大正解です。涼宮さんこそ長門さんたちが知りあぐねた存在の第1号ですから』

キョン「それがなんだ?」

古泉『UMA朝倉さんも同類なわけですから、涼宮さんと何かしらの接点がある』

キョン「あいつの頭から生まれたなら接点もあるだろうな」

古泉『ええ、まさしくその通りですよ。思い出してください。涼宮さんは朝倉涼子なる人物に対してどのようなイメージを持っていたか』

キョン「謎の転校生か」

古泉『はい』

キョン「本当に謎の生命体になったってことかよ」

古泉『涼宮さんが朝倉涼子は謎の存在であると認知し、そんな朝倉涼子がここにいると考えた。そうなったら生まれてくるのは誰にも中身が伺い知れない生命体しかありません』

キョン「お前の考えるあの朝倉は一体なんだ?」

古泉『神から派生したもう一人の神。涼宮さんとは別の唯一神なるものかもしれませんね』

キョン(ハルヒ、宇宙人の委員長を神にまでしたのか。大出世させたな、おい)

古泉『まあ、これは飽く迄も僕個人の考えですから。間違っているかもしれません』

キョン「朝倉に願望実現能力があるかもしれないってことか?」

古泉『そこまではなんとも言えませんが、涼宮さんの力を分け与えられた存在ならあるいは、といったところですか』

キョン(末恐ろしいことだ。ハルヒみたいな何でもありの能力者がもう一人いるなんて)

古泉『こちらも警戒しておきます。それにもう一つ』

キョン「なんだ?」

古泉『長門さんが存在を感知できないのも非常に興味深いです。人間の五感でのみその存在を認識できる生命体など、中々いませんからね』

キョン(銀河を探しても一人もいないだろうな。いや、そもそも朝倉ぐらいしかいないんじゃねえか?)

古泉『長門さんの傍に居る限りは大丈夫でしょうが、注意はしてください。知らない間に貴方がこの世から消えたなんてことになれば、僕は首を吊らねばなりませんからね』

キョン「俺だって目を開けたら三途の川が広がってるなんていやだぜ」

古泉『とはいえ、涼宮さんから生まれた存在であれば、貴方に危害を加えるような行動は取らないでしょう。貴方に依存するかのごとく信頼しているのは涼宮さんの思考が影響しているかもしれませんし』

キョン「そうだといいな。朝倉はただの美人な女子高生に格下げでいいし」

古泉『では、また明日。くれぐれも涼宮さんと朝倉涼子は邂逅させないようにしましょう。涼宮さんの設定通りなら、それが引き金となって貴方を殺害しようとするかもしれません』

キョン「言われなくても分かってる」

古泉『おやすみなさい』

キョン(古泉のは全部想像。確かな情報でもなんでもない。チラシの裏に書くようなことだ)

キョン(だが、聞いちまった以上、意識はするな。以前の朝倉とは違い、俺を襲ったりはしないってことを)

朝倉「ふぅ……さっぱりした」

キョン「……っ」

朝倉「どうしたの?」

キョン「いや、なんでもない」

キョン(風呂上りは外見的魅力が5割増しだな……)

長門「貴方もシャワーどうぞ。着替えはある」

キョン「お、おう……」

朝倉「キョンくん、お風呂はいるの?」

キョン「まぁ、入らないとな」

朝倉「そうなると私は長門さんと二人っきりになるのね」

長門「……私も入浴する」

キョン「俺はいい!!1日ぐらい入らなくても大丈夫だ!!」

長門「……そう」

朝倉「キョンくん、いいの?私は嬉しいけど……」

キョン(よくはないが、長門が乱入してくるならそれは避けないといけない。おれ自身のためにも長門のためにもな)

キョン「朝倉、明日はここで一人で留守番しておいてくれるか?」

朝倉「私もついて行っちゃダメなの?」

キョン「ああ。悪いがな」

朝倉「涼宮さんと会うなら、是非とも連れて行って欲しいわ。私のことを知っている人には出来るだけ会っておきたいし」

キョン(それをしたらお前が暴走するかもしれないんだよ)

朝倉「そう。キョンくんがそういうなら。……ここに帰ってきてくれる?」

キョン「それは……」

キョン(明日は流石に家に帰らないとヤバい。ここにずっといることはできないしな。長門にだって迷惑がかかる)

朝倉「キョンくん……」

キョン「ああ、帰ってくる」

朝倉「約束よ?小指だして」

キョン「なにをするんだ?」

朝倉「指きり」ギュッ

キョン「やれやれ……」

キョン(この女の子が半年前にナイフを振りかざしていたとは思えないな)

キョン「……やることもないし、そろそろ寝るか?」

長門「……」コクッ

朝倉「どこで寝るの?」

長門「寝室で」

キョン「長門、三人並んで寝るのか?」

長門「そうなる」

朝倉「私はキョンくんの隣じゃないと寝ないから」

キョン「お、おい」

長門「分かっている。彼を中心にして就寝する」

キョン「長門。それは……」

長門「我慢して」

キョン(できるか……一晩って長いぜ……?)

長門「寝るだけ」

キョン「そうだけどな。朝比奈さんと三年間寝たときはまるで状況が違うぞ?」

長門「心配いらない。目を閉じれば済む」

キョン「本当か?」

長門「横になって、目を閉じて」

キョン「あ、ああ……」

キョン(一体、何をするんだ……長門よ。お手柔らかに頼むぜ)

長門「―――起きて」

キョン「え?」

長門「……」

キョン「……今、何時だ?」

長門「午前6時」

キョン「……そ、そうか」

長門「そう」

キョン(流石は長門だぜ。一晩のロマンスもないとは。いや、長門に何を期待しているんだ)

長門「どうかした?」

キョン「何でもない。朝倉は?」

長門「向こうにいる」

キョン「朝倉は寝たのか?」

長門「貴方が就寝してすぐに」

キョン「それはいいことだ」

朝倉「あ、キョンくん。おはようっ」

キョン「おう、おは―――」

朝倉「どうかした?」

キョン「朝倉……何もってやがる……」

朝倉「包丁」

キョン「……」

朝倉「なに、私が包丁もってちゃいけないの?」

キョン「何を切るつもりだ?」

朝倉「勿論、お魚だけど」

キョン「……あ、朝ごはんか?」

朝倉「ええ。もう少しまっててねっ」

キョン(やっぱり、トラウマになってるな)

キョン「―――さてと、そろそろ行ってくるな」

朝倉「うんっ。何時頃帰ってくるの?」

キョン「多分、5時過ぎになるだろうな」

朝倉「そう……。その間、何をしていようかしら」

長門「貴方の好きにすればいい。貴方が日頃使っていたものは用意しておいた」

朝倉「え?」

キョン「裁縫道具にレシピ本、掃除用具……?朝倉は本当にこんなことをしていたのか?」

長門「していた」

朝倉「お掃除や編み物でもしていろっていうのね?」

長門「そう」

朝倉「ふぅん……あ」

キョン「まぁ、いい時間つぶしにはなるんじゃないか?」

朝倉「……」

キョン「……朝倉?どうした?漂白剤なんて見つめて」

朝倉「混ぜるな危険ってあるから、混ぜたどうなるのかなって思って。深い意味はないのだけど」

キョン「混ぜるなよ?」

朝倉「ええ。気をつけるわ」

キョン(帰ってきた途端、塩素中毒で死ぬなんてごめんだぞ)

長門「……そろそろ時間」

キョン「あ、ああ。それじゃあな、大人しくしてろよ」

朝倉「いってらっしゃいっ」

キョン「……長門」

長門「なに?」

キョン「いつかのように連結解除でどうにかならないのか?」

長門「あの朝倉涼子は情報統合思念体は全く異質の存在となっているため、私では彼女を消去することはできない」

キョン「そうなのか?」

長門「既に試している」

キョン(俺の家に来た段階で長門はあらゆる手を尽くしていたんだろうな。それでも朝倉はああして元気でいる。これはハルヒに一任するしかないのか)

長門「……」

キョン(表情にこそ出さないが、長門もうんざりしているんだろうか……)

駅前

キョン「長門、いつも約束の1時間前に来てるのか?

長門「……」コクッ

キョン「何故だ?」

長門「情報共有のためでもある」

キョン「それは古泉や朝比奈さんとかと何かやり取りがあるのか?」

長門「涼宮ハルヒは約束の30分前に到着する。私たちが意見を交換する時間は30分」

キョン(日頃から俺の知らないところでなんかしてるんだなぁとは思っていたが、小さな時間を見つけてはそんなことをしてたのか)

キョン(古泉はともかく、長門と朝比奈さんには申し訳ない)

古泉「おや。貴方と長門さんが一緒ですか。てっきり時間をズラしてくるものかと思いましたが」

キョン「たまにはハルヒが一番遅くてもいいだろ」

古泉「後が怖いですがね。今回はそうも言っていられませんが」

朝比奈「あ、キョンくんっ!大丈夫?!」テテテッ

キョン「朝比奈さんも聞いたんですね」

朝比奈「もう、本当に心配しました。怪我はない?」

キョン「ええ。長門もいるんで心配はいりませんよ」

朝比奈「よかったぁ……。刺し傷がたくさんあったら、どうしようかと……」

キョン(それはあれですか。俺が血だらけでここまで来ることを想像していたのでしょうか、朝比奈さん)

古泉「それで現状に変化は?」

キョン「特にない。朝倉が塩素ガスを発生させていないかだけが気がかりだ」

古泉「そうですか。ならば、あまり好ましい状況ではありませんね」

キョン「そんなもん言われなくても分かる」

古泉「一番の問題は朝倉涼子がどこで自分の使命を思い出すか、です」

朝比奈「でも、涼宮さんの力で生まれたなら、朝倉さんは別の存在じゃないんですか?」

キョン「俺もそれは思いました。朝倉は長門が半年前に消した。ハルヒの力で生まれたなら、ありゃ別人じゃないのか」

古泉「涼宮さんが思い描いた朝倉涼子ということですか?」

キョン「そうだ。少なくとも宇宙人である朝倉涼子をハルヒは知らないわけだしな」

朝比奈「わ、わたしもそう思います」

古泉「涼宮さんの設定はこうです。『良識ある人の家でお世話になりつつ、自分の使命を思い出して、奔走する』。もし涼宮さんの思い描いた朝倉涼子なのだとしたら、その使命とはなんでしょうか?」

キョン「そりゃ謎でいいんじゃねえか。今居る朝倉は謎の生命体なんだから」

古泉「謎の部分が恐ろしいのですよ。誰かを殺害する使命を持っていてもなんら不思議でありませんからね」

キョン「ケーキを山ほど食うとかかもしれないだろうが」

朝比奈「わぁ、それ可愛いですね」

古泉「如何なるものでも可能性はあります。用心したほうがいいでしょう」

キョン「用心と言ってもな。もし俺たちが知っている朝倉なら、止められるのは長門ぐらいなもんだぜ?」

長門「……」

キョン「その長門も今回はかなり困っているんだ。いくら気をつけていても音速で飛んでくるミサイルを回避なんてできないぜ、古泉」

古泉「回避はできなくとも予測することはできます」

キョン「あの朝倉はステルス状態だろ。どうしろっていうんだ」

古泉「それはまだなんとも」

キョン「無責任だな」

古泉「我々も戦々恐々です。長門さんが対処できないものを一人間に手が打てるわけないですからね」

キョン「手っ取り早いのはハルヒにさっさと朝倉探索を飽きてもらうことだな」

古泉「それしかないでしょう。涼宮さんが興味を惹かれるものをなんとしても探し出さねばなりません」

キョン(どっかにツチノコでも這ってないだろうか)

ハルヒ「……む?」

キョン「よう、ハルヒ。遅かったな」

ハルヒ「なんでキョンがいるのよ?」

キョン「今日は目覚めが良かったんだよ」

ハルヒ「……」

キョン「一番遅れた奴は奢り、だよな?」

ハルヒ「さ、班分けしましょう?」

キョン「おい、喫茶店はいかねえのかよ」

ハルヒ「つべこべ言うな」

キョン(このやろう。つまり俺の奢りじゃないと喫茶店にはいかねえのか)

古泉「おや、無印です」

朝比奈「私もです」

長門「……」

キョン「俺と長門だな」

ハルヒ「あ、そ。しっかり探しなさいよ!!キョン!!いい?朝倉涼子を探すんだからねっ!!」

キョン「ハルヒ、聞こうと思ってたんだが。どうして朝倉に拘るんだ?いくらなんでも急すぎるだろ?」

ハルヒ「別に深い理由はないって言わなかった?」

キョン「そりゃそうだろうけど、きっかけぐらいあるだろう?」

ハルヒ「ふと思い出したからよ」

キョン(こいつの思考回路はどこかでショートしてんじゃないのか?)

ハルヒ「さ、いくわよ。みくるちゃん、古泉くん!」

朝比奈「は、はぁい」

古泉「了解しました」

キョン「やれやれ。ハルヒが朝倉に何を望んでいるのか分かればいいんだが、あの様子じゃただ朝倉に居てほしいって願ってそうだな」

長門「……」

キョン「行くか、長門」

長門「……」コクッ

キョン(ただの思いつきで朝倉を蘇生するんじゃねえよ、ハルヒ)

キョン(はぁ……短期決戦で済むことを心より願うね)

長門「……」

夕方 駅前

ハルヒ「成果は?」

キョン「何もなかったな。それらしい人もいなかった」

朝比奈「ご、ごめんなさい。よく目を凝らしたんですけど」

ハルヒ「みくるちゃんとデートしただけじゃないでしょうね!?」

キョン「あのな、ハルヒ?朝倉はもう日本に居ないんだよ。天狗でも探したほうがマシだって」

ハルヒ「天狗ですって?」

キョン「おう」

ハルヒ「ふんっ。今は朝倉涼子のほうが見つけられる可能性は高いでしょ?」

キョン「それはそうかもしれんが……って、どっちにしろ0だろ」

ハルヒ「なら朝倉を探してもいいでしょ?」

キョン「……」

ハルヒ「とにかく今日は解散!!月曜日は反省会だからねっ!!」

古泉「どうやら、一週間延長決定ですね」

キョン「どうでもいいが、俺はどこで寝泊りすりゃいいんだよ」

朝比奈「キョンくん、長門さんのところにいるんですよね?」

キョン「朝倉は長門の傍に置いておかないと危険ですからね。問題はその朝倉が俺から離れようとしないところですが」

朝比奈「はぁ……」

古泉「ですが、このままにしておいてはいけませんね」

キョン「ああ。その通りだ」

古泉「あなたと長門さんが間違いを犯すかもしれませんし……んふっ」

キョン「断じてそれはない」

長門「……」

キョン(そもそも長門にそんな真似してみろ。ブラックホールの中に放り込まれる)

古泉「……朝倉涼子に会ってみましょうか」

キョン「なに?」

古泉「色々と確かめたいこともありますし、我々のことを信頼してくれるなら貴方の負担も減らせます」

キョン「まぁな」

古泉「よろしいですか、長門さん?」

長門「構わない」

長門宅

キョン「ただいま」

朝倉「おかえりなさい、キョンくんっ」

長門「……」

古泉「どうも。お邪魔します」

朝比奈「お、お邪魔します……」

朝倉「キョンくんのお友達?」

キョン「ああ、そうだ」

古泉「どうも、古泉一樹です」

朝比奈「あ、朝比奈みくるです」

朝倉「朝倉涼子よ。よろしく。えっと、私のこと知っている人なのかしら?」

古泉「残念ながら、僕もこちらの朝比奈さんも貴方のことは良く知りません」

朝倉「そう……」

キョン「何、してたんだ?」

朝倉「編み物よ。家事は一通り済ませたから、マフラー編んでたの」

古泉「編み物ですか。お上手ですね」

朝倉「ありがとう。外寒いし、無駄にはならないと思って」

キョン「そ、そうか」

朝比奈「……」

長門「座ってて」

古泉「お構いなく」

朝倉「この分だと明日中には出来上がると思うわ。楽しみにしててね」

朝比奈「手際がいいんですね……」

朝倉「体が覚えているみたいで」

朝比奈「いいなぁ……」

キョン(朝比奈さん、羨望を向ける相手が相手だけに俺が気が気じゃありません)

古泉「(素敵ですね)」

キョン「(何がだ。顔が近いぞ)」

古泉「(貴方のことを想い、手編みですよ。これは愛の為せる業です)」

キョン「(これも全部、ハルヒの仕業なのか?)」

古泉「(僕の考えとしましては、涼宮さんがしたことを朝倉涼子が実行している。そう考えます)」

キョン「(どういうことだ?)」

古泉「(涼宮さんが誰かのために手編みのマフラーを用意することはまずありません。ですが、涼宮さん本人はそうしたいと願っている)」

キョン「……」

古泉「(深層心理を体現した存在なのかもしれませんね)」

キョン「(そうだったとしたら、朝倉の使命はマフラーを編むことなのか?)」

古泉「(その可能性もありますね)」

キョン(そんな愛らしい使命を持って生まれてきたのか、今度の朝倉は。それなら個人的には大歓迎だがな)

古泉「本当に長門さんとは別のものですね。これならば、問題はないかもしれません」

キョン「問題がないって、朝倉をこのままにしておく気か?」

古泉「(涼宮さんの想いを表現してくれるいい媒体です。彼女がいるかぎり、閉鎖空間は発生しないかもしれません)」

キョン「(どうしてだ?)」

古泉「(涼宮さんは朝倉涼子を通してしたいことをする。故に溜め込むことはないですから)」

キョン「(溜め込むことはない……ね)」

朝倉「ふんふふーん♪」

古泉「(ストレスのはけ口を別の形で確立したのでしょう。涼宮さんもかなり成長しましたね)」

キョン「……」

朝比奈「あの、どうしたらそんなに手早く編めるんですか?」

朝倉「さぁ。指が勝手に動くから。その質問は困っちゃうな」

朝比奈「私も編めるようになりたいです」

朝倉「練習あるのみよ。あとはひたむきな愛情、かしら」

朝比奈「なるほど」

キョン(ああ、和むね。ただ、このまま心を許してもいいものかは悩みどころだ。何と言っても謎の部分が多すぎるからな)

長門「……飲んで」

キョン「サンキュ」

長門「……」

キョン「ふぅ……」

古泉「ともかく、注意は必要ですが、警戒することはなさそうですね」

キョン(命の危険がないならなんでもいい。あと長門に負担がないのなら完璧だがな)

朝倉「あ、間違えちゃった」

古泉「ところで長門さん、現時点で気がついたことはありませんか?」

長門「ない」

古泉「対策もないのですね?」

長門「ない」

古泉「そうですか。では、僕はこの辺で失礼しましょうか」

キョン「お前、俺の負担を減らすんじゃないのかよ」

古泉「明日、また来ますから」

キョン「てめえ。俺にもう1日、ここに泊まれっていうのか?!」

古泉「おや、嫌なのですか?」

キョン「そういうわけじゃないが」

古泉「なら、いいではありませんか。両手に花なのですから」

キョン「茶化すなよ」

古泉「申し訳ありません。長門さんが放置していてもいいと判断しているなら杞憂なのでしょうが、くれぐれも油断だけはしないでくださいね」

キョン「分かってるさ。そもそも体が勝手に警戒している状態だからな。油断できるほど心が弛緩しない」

古泉「感服いたします。それではまた明日」

俺「キョン、よければ変わってあげようか?」

キョン「結局、また泊まりか……」

朝比奈「キョンくん、私も泊まりましょうか?」

キョン「い、いえ、朝比奈さんまで一緒だと……その……」

朝比奈「はい?」

キョン「困ります……いろんな意味で」

朝比奈「そうですか……」

キョン(すいません、朝比奈さん。朝比奈さんと一夜を共にするなんて、想像しただけでリビドーが溢れかえります)

朝比奈「キョンくん」

キョン「は、はい。なんでしょうか?」

朝比奈「朝倉さんなんですけど……」

キョン「何か気づいたことがありましたか?」

朝比奈「いえ。あのマフラーすっごく長いんです」

キョン「そうなんですか?」

朝比奈「あれは……きっと……恋人同士で使うやつです……」

キョン(朝倉は何を望んでいるんだ)

俺「俺と一緒に使うために編んでくれたんだな」

キョン「それでは朝比奈さん、月曜日に」

朝比奈「うん。見送りありがとう」

キョン「いえいえ」

キョン(本当は俺も自宅に戻るために朝比奈さんと一緒にここをあとにしているはずなんだがな)

朝比奈「あのね、キョンくん……一つだけ言わせて」

キョン「はい、なんですか?」

朝比奈「朝倉さんはやっぱり、普通じゃないと思います」

キョン「そりゃ、謎の存在ですからね」

朝比奈「そうじゃないの。えっと、上手く言えませんけど……とにかく気を許しちゃダメ、だと思う」

キョン「朝比奈さん……」

朝比奈「お願い、キョンくん。信じて」

キョン「古泉にも言われましたから大丈夫です。それに長門がついているんですから。いざってときは助けてもらいます」

朝比奈「うん……そうですね……。それじゃ、キョンくんまたね」

キョン「はい。おやすみなさい」

キョン(朝比奈さん、不安そうにしていたな。古泉も念を押していたし……。まあ、挙動にさえ注意を払っておけばいきなり刺される心配はないだろうな)

朝倉に刺すって?(難聴)

朝倉「ふぅ……ちょっと休憩にしようかな」

キョン「マフラーはもうすぐ完成するのか?」

朝倉「ええ。8割は完成してるの。どう?可愛いでしょ?」

キョン「やけに長いな。二人用か」

朝倉「長いほうが巻きやすいから」

キョン「そうか。でも、あまりに長いと地面についちまうんじゃないか?」

朝倉「そこまでしないわ。きちんと考えているもの。大丈夫っ」

キョン「なら、いいけどな」

長門「食事にする?入浴にする?」

キョン「ああ、えっと……風呂に入ろうかな」

朝倉「私も一緒にはいろうかな」

キョン「ダメだ」

朝倉「キョンくん、私を長門さんと二人きりにさせる気なの?」

キョン「いいだろ?20分ぐらいなら」

朝倉「でも……やっぱり、怖いし……一緒に、ね?」ギュッ

あーさー王ー

ほも

>>185

>>214

      _人人人人人人人人人人人人人人人_

        >      な、なんだってー!!    <
        ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
   ∩___∩              ∩____∩
   | ノ     u ヽ            / u     u └|  ∩____∩
  / # ●   ● |           | ●   ● # .ヽ/  u    └|
  | u   ( _●_)  ミ          彡   (_●_ ) u  |●   ● # ヽ
 彡、   |∪|  、`\        /     |∪|    彡  (_●_) u   |
/ __  ヽノ /´>  )       (  く   ヽ ノ   / u   |∪|    ミ
(___)   / (_/        \_ )      (  く   ヽ ノ     ヽ

浴室

キョン(ふぅ……いいお湯だ。結構大き目の風呂で、カビ一つない。三年間も人が住んでいるにしては真新しい)

キョン(長門が風呂を使っていないのか、それとも長門の宇宙的パワーで常に清潔に保っているのか。どちらにせよ素晴らしいことだ)

朝倉『キョンくん、しりとりでもしよっか?』

キョン「お前は大人しくしていてくれ」

朝倉『ざんねんっ』

キョン(混浴を強請る朝倉も何とか説得して、脱衣所で待機することで妥協してもらったが。扉の向こうにチラつく朝倉のシルエットは不気味だ)

キョン(昔プレイしたサウンドノベルのゲームを彷彿とさせる。バラバラにされたりしないよな、俺)

朝倉『キョンくん、明日はどこかに行くの?』

キョン「明日は特に予定はない。ただ、そろそろ自宅に戻らないとな」

キョン(親だって同級生の女子の家に二日も泊まりこむ息子を決して良くは思わないからな)

朝倉『ふぅん。私も一緒でいいわよね?』

キョン「来るなって行ってもついて来るんだろ?」

朝倉『あたりっ』

キョン(やれやれ、扱いに慣れてきた自分が怖いぜ)

翌日 キョン宅

妹「キョンくん、おかえりー!!」

キョン「いい子にしてたか」

妹「うん!あ、ゆきちゃん、りょーこちゃん。おかえりー」

朝倉「ただいまっ」

長門「ただいま」

キョン(おいおい。宇宙人とUMAが家族か?テレビに出たら一生遊んで暮らせるぐらいの特殊な家族だな)

朝倉「シャミセンはどこかしら?」

妹「こっちだよー」

朝倉「じゃ、キョンくん、私は向こうで遊んでいるから」

キョン「おう」

長門「……」

キョン「お前もリビングに行ってくるか?」

長門「……」コクッ

キョン(ま、そんな家族も決して悪いもんじゃない。朝倉も長門も普通にしていればティーン誌のモデルになれるほどの容姿なんだからな。そんな家族が居てくれるなら素性なんてどうでもいい)

リビング

キョン「はぁ……。長門、借りた服は洗って返すから」

長門「いい。貴方に譲与する」

キョン「いいのか?」

長門「貴方のために用意したもの。構わない」

キョン「そうか。ならありがたく貰っておくな。長門からもらった服だし、余所行きにしておくか」

長門「……」

シャミセン「ニャァ」

朝倉「ふふ、可愛いわね。警戒心が無いところがとくに」ナデナデ

妹「シャミはねー、もう家族だもん。ネー?」ナデナデ

長門「……」ナデナデ

キョン(シャミセンよ、されるがままだな。正直、代わってほしいぜ)

キョン「長門、ちょっといいか?」

長門「……」コクッ

キョン(これからのことは話しておかないとな)

自室

長門「一つだけ判明したことがある」

キョン「なに?」

長門「彼女は異時空同位体」

キョン「どっかで聞いたフレーズに似ているな。異次元同位体の親戚か」

長門「異なる時空で生まれ、同じ情報で構築された存在」

キョン「どういうことだ?同じ情報で構築って、今リビングにいる朝倉は五月にお前と戦った朝倉だってことか?」

長門「そう。生まれた場所が違うだけで、彼女は貴方も知る朝倉涼子本人」

キョン「待ってくれ。それならどうしてあんなに性格が違うんだ。いや、まぁ、ああいう部分もあったのかもしれないが」

キョン(長門は古泉と全く反対の結論を出したのか。対抗心を燃やしたのだろうか)

長門「性格の不一致は記憶の損失が主な原因として考えられる」

キョン「記憶がないからか。確かに記憶喪失になれば性格に違いが出ても不思議ではないけどな」

長門「ない」

キョン「なら、あの朝倉は長門たちと一緒と考えてもいいんだな?」

長門「彼女のパーソナルデータは完全に破損。そのため我々が行使する情報操作、並びに次元操作の力は使えないと判断する」

キョン「なるほどな……」

キョン(宇宙人ではあるものの、その能力を根こそぎ持っていかれ、しかもご丁寧に記憶もないときた。それはつまり、俺と変わらない一般人ということになる)

長門「朝倉涼子の処理は貴方に一任する」

キョン「え?」

長門「彼女は貴方にとって脅威ではないから」

キョン「処理しろって言ったら、どうするつもりだ?」

長門「物理的手段で彼女を消去する」

キョン「駄目だ。そんなのことは許可できない。相手があの朝倉でもな」

長門「そう」

キョン(正当防衛でもなんでもない。それはつまり一方的な虐殺行為だろ。長門だってそれを望んでいないことぐらい俺にもわかるぜ)

長門「……」

キョン「これからのことだが、朝倉はどうする?」

長門「住居の手配をする。今日は貴方の家に宿泊させるべき」

キョン「やっぱりそうなるのか……」

長門「彼女は私に悪印象を抱いている。貴方の傍に置いておくほうがいい」

キョン(そういって長門は去ってしまった。あの長門が現金抱えて、書類に印鑑を押すところは見てみたかったがな)

妹「りょーこちゃん、なにしてるのー?」

朝倉「マフラー編んでるの。あなたもやってみる?」

妹「うんっ」

キョン(傍から見ている分には姉妹だな)

朝倉「どうしたの?マフラーが楽しみ?」

キョン「まあ、興味がないといえば嘘になるな」

朝倉「期待しててね。貴方にピッタリのになるはずだから」

キョン「そうかい。何か飲むか?」

朝倉「えっと、コーヒーをお願いできる?ブラックでいいから」

キョン「分かったよ」

妹「あたし、ココアー」

キョン「はいはい」

キョン(古泉と長門の意見は正反対だが、共通している部分もある)

キョン(それは、今居る朝倉は無害だってことだ)

妹「すぅ……すぅ……」

キョン「また、こんなところで寝て……」

朝倉「しーっ。いいじゃない、寝かせておいてあげれば?」

キョン「何回かこれで風邪をひいてるからな、こいつは」

朝倉「毛布でもかけてあげればいいんじゃない?」

キョン「……そうするか」

朝倉「いいお兄さんをしてるのね」

キョン「お前のほうがよっぽど出来た姉だと思うがな」

朝倉「あら、そう?なら、本当のお姉さんになっちゃおうかなぁ」

キョン「冗談だろ?」

朝倉「さあ、どうかな?少なくとも今よりも面白いことになると思うけど?」

キョン(前にも同じような台詞を聞いたな。本質的にはやっぱり朝倉涼子なんだな)

朝倉「どうしたの?」

キョン「いや、なんでもない。少し思い出していただけだ、昔のお前をな」

朝倉「それ、私が今一番知りたいことなんだけど」

妹「きょんくぅん……ふふ……」

キョン「お前は誰からも信頼される委員長だった。容姿も抜群だし、成績もいい。人当たりも良好。まさに非の打ち所がない生徒の鑑だ」

朝倉「へぇ。キョンくんもそう思ってた?」

キョン「まぁな。リーダーシップは十分にあったし、お前が進める会議はなんでもスムーズだった。その反動で文化祭のときなんか悲惨だったからな」

朝倉「キョンくんは私がいないと駄目なのね」

キョン「俺だけじゃねえよ。クラスメイト全体だ」

朝倉「その中に貴方もいるでしょ?なら、間違ってはいないわ」

キョン「……まあ、そうだな」

朝倉「そっかぁ。私はそんなに立派だったのね……」

キョン「……」

朝倉「半年間も私はどこでなにしてたんだろう……」

キョン「朝倉……」

朝倉「もう元の生活にはもどれないのかしら」

キョン(それだけはご勘弁願いたい。お前が元の生活に戻ったら、ターミネーター化するのは目に見えてる)

朝倉「でも、不思議ね。今、こうしていることにそこまで不安はないの。すごく落ち着いてる」

キョン「そうなのか?」

朝倉「きっとキョンくんが傍にいるからだと思うなっ」

キョン「なっ……?!」

キョン(その無邪気な笑顔は反則だぞ、朝倉。やめてくれ、昔のことを水に流してしまいそうになる)

朝倉「さてと、続き編まないと。今日中に完成させるからね、キョンくんっ」

キョン「おう」

キョン(俺は今、そこまで朝倉を警戒してはいな。刃物を握ればその限りではないが)

朝倉「……」

キョン(ソファーで編み物をしている分には誰もが目を奪われるほどに魅力的だだからな)

キョン(それに古泉と長門の助言もある。神経質になることはないはずだ。ただ気になるとすれば、朝比奈さんの言っていたことだ)

キョン(普通ではないとは何を意味しているのか。朝倉の身体能力か、それともまだ見せぬ裏の顔か)

朝倉「あ、間違えちゃった」

キョン(ま、心配し過ぎてデメリットがあるわけでもない。慎重になりすぎるぐらいが丁度いい)

キョン(朝倉の行動次第で俺の警戒態勢も緩和していけばいい。それだけだ)

朝倉「もー、からまっちゃった」

キョン(朝倉の新住居手続きは終わったらしく、明日には引越しさせるようだ。そんなわけで朝倉は予定通り今日は俺の家で一泊となる。長門のマンションにはもういけないし、朝倉も拒否するだろうからな)

妹「りょーこちゃん、お泊りするのー?」

朝倉「ええ。キョンくんがいいって」

妹「わーい。あたしの部屋であそぼー」

朝倉「分かったわ。でも、少し待っててね。もう少しで完成するの」

妹「うん」

キョン「朝倉、晩飯だが」

朝倉「私が作るわ。お母さんにもそう伝えておいたから」

キョン「なに?」

朝倉「一泊させてもらうんですもの、それぐらいは当然でしょ?」

キョン「何もそこまでしなくても」

朝倉「させてっ」

キョン(そのお願いポーズはお前の武器なのか。破壊力あるな)

朝倉「キッチンを穢すようなことはしないし、食べられるものを作るから、ね?」

キョン「分かった、好きにしろ。期待はさせてもらうけどな」

自室

キョン(朝倉の手料理は美味かった。宇宙人時代に築き上げたものが発揮されたのだろう)

キョン「……包丁を握ったときだけは身震いしてしまったが」

キョン(朝倉に刃物。これはことわざとして登録してもらいたい。類義語としては肌に粟を生ずとかその辺だ)

キョン「……」

妹『りょーこちゃん、むねおおきいねー』

朝倉『あなたもすぐに大きくなるわ』

キョン(またありがちな会話して。俺を誘惑するなら直接部屋にきてやれ。廊下でするな)

キョン(明日になれば朝倉もまた長門の監視下に戻るし、ハルヒと出遭わせなければ大きな問題も起こるまい)

キョン(とはいっても応急処置に過ぎず、これからのことを考えるとやはり不安だ)

キョン(長門のことだから、朝倉の戸籍やらは捏造するんだろうがな。これから復学させることも考えているのだろうか)

キョン「北高だけは駄目だぜ、長門。光陽園学院辺りがいいんじゃないだろうか。向こうの制服姿の朝倉も見てみたい気がする」

妹『ねーねー、部屋でなにしてあそぶ?』

朝倉『シャミセンを撫で回しましょうか』

キョン(ああ、シャミセン。羨ましいやつ)

翌朝

朝倉「朝よ、キョンくん」

キョン「ん……?おわっ?!」

朝倉「遅刻するわよ?」

キョン「あ、ああ……朝倉……」

朝倉「どうかしたの?」

キョン(やはり、トラウマになってるみたいだな。不意打ちの朝倉アップは心臓に悪い)

朝倉「ほら、朝食はできてるから顔洗ってきて」

キョン「おう……」

朝倉「それとも、目覚めのキスのほうがよかった?」

キョン「な、なにをいってるんだ?!」

朝倉「嘘よ。可愛いわね。でも、目は覚めたでしょ?

キョン(いかん。朝倉に振り回されるなんて。これじゃあ、タイプの違うハルヒと居るみたいだ。あいつの頭から湧いて出てきたなら、あながち間違ってもいないのだろうが)

朝倉「キョンくん、ほら、はやくっ。お味噌汁冷めちゃうわ」

キョン「分かったから押さないでくれ」

キョン「行ってきます」

妹「いってきまーす」テテテッ

キョン(うぅ……今日も寒いな……)

朝倉「キョンくん、忘れ物っ」

キョン「なんだ?」

朝倉「寒いでしょう?これ、つけていって」

キョン「完成したのか。でも、やっぱり少し長いなこのマフラー」

朝倉「いいじゃない。長いものには巻かれておくものよ?」

キョン「意味が違うぞ。まあ、暖かいのには変わりないが」

朝倉「でしょ?一生懸命編んだんですもの」

キョン「サンキュ」

朝倉「巻いてあげるわね」

キョン(今、絞殺される場面を想像してしまう自分は正しいはずだ……)

朝倉「はい、できた。いってらっしゃい。キョンくん」

キョン「いってきます」

通学路

キョン(冷静に考えると、朝倉に見送られるときのあれは恋人のそれか……?ああ、駄目だ。朝だから気が緩んでるな)

鶴屋「やぁやぁ、キョンくん!!おはようっさ!!」

キョン「鶴屋さん、おはようございます」

朝比奈「おはよう、キョンくん」

キョン「朝比奈さん、おはようございます。今日も寒いですね」

朝比奈「本当ね。ベッドから出るのに時間がかかるようになってきちゃった」

鶴屋「おやおや?キョンくん、そのマフラー手編みかい?」

キョン「え、ええ。わかりますか?」

鶴屋「わかるよー。手編みはやっぱり編んだ人の味がでるからね」

キョン「へえ、そんなものですか」

朝比奈「キョンくん……それって……」

キョン「ええ、そうです」

鶴屋「ん?もしかして、みくるのかい?!いいなー!!あたしにもおくれー!!」

朝比奈「ひぇ?!いえ、私が編んだのじゃないんです!!」

共同玄関

谷口「よっ。キョン」

国木田「あれ、キョン。そのマフラーどうしたの?」

キョン「もらい物だ」

谷口「匂う、匂うぜ。キョンから女の匂いがするっ!!」

キョン(アホのクセに鋭い奴だ。事情を知っていてカマをかけているんじゃないだろうな、谷口)

国木田「もしかして涼宮さんのお手製?」

キョン「あいつがこんな面倒なことをすると思うのか?」

谷口「なら、朝比奈さんか。あの人ならやりかねん」

キョン「残念だが、それも違う」

国木田「となると長門さん?でも、長門さんならもっと綺麗に編みそうだけど」

キョン「お前らが知らない奴だ」

国木田「佐々木さんも違うんだ」

谷口「おい、キョン。お前、女に不自由したことねえだろ?」

キョン(周りにはそりゃもう見紛うことのない美少女揃いだが、生憎と深い関係になったことはない。手が届きそうで届かないのは辛いんだぜ、谷口よ)

教室

キョン「よう、ハルヒ」

ハルヒ「ん?」

キョン「どうした?」

ハルヒ「そのマフラーどうしたの?」

キョン「もらい物だ」

キョン(つか、なんで皆してその質問なんだ。特にハルヒが俺の小物にまで目をつけるとは思わなかった)

ハルヒ「……誰から?」

キョン「誰でもいいだろ」

ハルヒ「みくるちゃん?有希?古泉くん?」

キョン「全部違う。あと古泉はおかしいだろ」

ハルヒ「あっそ」

キョン(何がそんなに気になるんだろうね。荒波を立てないようにこのマフラーは身に付けないほうがいいのかもな)

ハルヒ「……」

キョン(最初の授業は数学か……。小テストとか言ってたような気もするが。ま、日頃から何もしてないし、結果は焦ったところで一緒だ。寝てよ)

放課後 部室

ハルヒ「寒いわね。みくるちゃん、お茶入れて」

朝比奈「はぁい」

古泉「今日もどうですか、人生ゲーム」

キョン「そのゲームみたいに面白おかしく生きてみたいぜ」

古泉「このゲームはよく出来ていると思いますよ。我々は常に賽を投げながら歩んでいますからね。出た目によって全てを決められる。人生の縮図です」

キョン(ハルヒのおかげで出る目の殆どが凶なのは如何なものかね)

古泉「(それで、朝倉さんのことはどうなりましたか?)」

キョン「(長門に聞いてくれ。今日から長門の管轄だ)」

古泉「(それはどうでしょうか)」

キョン「(なにがいいたい?)」

古泉「(もう一人の神。涼宮さんの代行者である朝倉涼子。彼女の賽は、貴方ではありませんか?)」

キョン「(俺が朝倉の行動を決めるっていうのか)」

古泉「(少し違いますね。貴方の行動が朝倉涼子の運命を決める。といったところでしょうか)」

キョン(またもっともらしいことを言いやがって。俺はハルヒだけで手一杯なんだからな)

ハルヒ「ふーん……」カチカチ

朝比奈「どうぞ、涼宮さん」

ハルヒ「ん」

朝比奈「……」ソーッ

ハルヒ「なに?」

朝比奈「ひぇ?!な、なんでもありません!!」テテテッ

キョン「ハルヒ、ネットサーフィンもいいだろうけど、何も議題はないのか?反省会をするとか言ってた気がするが」

ハルヒ「それ中止」

キョン(身勝手な奴だ。今更だがな)

朝比奈「どうぞ、キョンくん」

キョン「どうも」

古泉「朝比奈さん、涼宮さんは何を閲覧していたのですか?」

朝比奈「よ、よく見えませんでした……」

古泉「そうですか。残念です」

キョン(早く帰りたいね。時間の浪費だぜ)

ハルヒ「有希、ちょっと」

長門「……」

ハルヒ「これなんだけど……」

長門「……」

キョン(長門に何を吹き込んでるのやら。俗なことは教えてやるなよ、ハルヒ。長門は素直にそれを常識をして受け入れちまうからな)

古泉「……」

キョン「どうした?長門に熱視線でも送ってるのか?」

古泉「いえ。少々疑問が浮かびまして」

キョン「疑問?」

古泉「長門さんが金曜日にここでなんといったか覚えておられますか?」

キョン(さあ、なんだったか。長門の台詞はいつも淡白で短いからな。印象に残るときと残らないときの差が激しい)

古泉「朝倉涼子は非常に優秀。再構成され、活動を再開させることがあれば危険。最優先で処理する。こう言っていました。一言一句間違ってはないと思います」

キョン「それがどうした?」

古泉「どうしたもなにも、長門さんは未だに処理を施してはいません。これはどういうことでしょうか?」

キョン「そりゃ処理する必要がないからだろう。古泉、お前も一昨日はそれで納得して帰ったし、昨日だって少し様子を見て安心したって言ってすぐに帰ったじゃねえか」

古泉「ええ、そうですが」

キョン(夕食前に突然、俺の家に来たときは驚いたが、玄関で朝倉の顔を見て古泉は踵を返した。何も問題はなかったと俺は捉えたが)

古泉「処理する必要がないのか、それとも処理を施したのか。どちらでしょうか」

キョン「は?」

古泉「我々は騙されているのかもしれませんね。長門さんの計略によって」

キョン「何を根拠にそんなことを言うんだ?」

古泉「危険な存在をわざわざ留まらせておく理由がないということです」

キョン「危険はないってことだろ」

古泉「置かれている凶器自体に危険はないでしょう。しかし、誰かが握ってしまうとそれは恐ろしい武器になります」

キョン「朝倉を利用できるやつなんて」

古泉「いるでしょう。この学校には喜緑さんという方もいらっしゃいますし、ほかの端末も無数に存在しています」

キョン「待てよ。ハルヒの頭から生まれたから朝倉は謎の生命体なんだろ?長門も以前に行った情報連結解除とかいうのができないのもその所為だって言ってたぞ。朝倉はもうそんな操れるレベルじゃないだろ」

古泉「長門さんの言うことが真実である保障はどこにあるのでしょうか?」

キョン「……!」

古泉「新しい仮説を立てたのですか、聞いてくださいますか?」

休憩所

キョン「早くしろ。寒いんだからな」

古泉「場所を変えてもうしわけありません。流石にあれ以上、長々と話をしていると涼宮さんに感付かれると思いまして」

キョン「さっさといえ」

古泉「では、短くまとめます。―――長門さんは朝倉涼子をもう一度バックアップとして再利用しようと考えている」

キョン「なるほどな。いいことだ。地球に優しい」

古泉「しかし、一つ問題が発生した。それは涼宮さんの願いで再構築されたために、完全な制御下に置くことができないでいる」

古泉「また暴走を起こすかもしれない。でも、長門さんは朝倉涼子を使役したい。彼女は朝倉涼子を特別気に入っている節がありますからね」

キョン「朝倉の能力は買っているみたいだな」

古泉「利用価値があるが故に処理せずに放置している。現状では彼女に力がないのは明白でしょうから、放置しても安全というのは真実かもしれませんが」

キョン「長門は危険と思ったものならすぐに処理するだろ。今までもそうしてきた」

古泉「三年前、貴方は長門さんに会い、今までのことを話したはずです」

キョン「七夕までのことだろ」

古泉「では、何故朝倉涼子をわざわざ貴方が襲われるまで放置したのか。疑問には思いませんでしたか?貴方の口からも朝倉涼子の異常行動は語られたはずなのに」

キョン「……」

今おきた

古泉「長門さんは朝倉涼子を大切にしている。派閥は違えど能力の高いものを置いておきたくなるのはどこも変わりません」

キョン「つまりなんだ、何が言いたい?」

キョン(あまり聞きたくはないが)

古泉「端的に言いましょう。長門さんは自身のために貴方を危険に晒している。これは由々しき事態です」

キョン(そんなわけあるか。長門はいつでも俺の命を救ってきてくれたんだぞ)

古泉「無論、貴方を死なせるような真似はしないでしょうが、多少の傷は構わないと考えている可能性もあります」

キョン「古泉、本気で言ってるのか?」

古泉「死なせるまではいかないにしても、そこでなんらかのアクシデントが発生してからでは遅いのですよ」

キョン「アクシデントってなんだ?」

古泉「例えば、涼宮さんと朝倉さんが出会ってしまう。そこで朝倉涼子に何か異変が発生し、貴方に危害を加える。涼宮さんの目の前で」

キョン(それは恐ろしいキャットファイトが始まるな。見たくない)

古泉「貴方は死ななくても大問題です。閉鎖空間の発生もあるでしょう」

キョン「だが、朝倉はハルヒが生み出したものだろ?朝倉が消えるだけかもしれない」

古泉「長門さんが既に処理を終わらせていれば、その限りではありません。既に朝倉涼子は長門さんの手によって個体としては完全復活していることも考えられますから」

キョン「朝倉が完全復活だと?元の朝倉に戻ってるっていうのか?残念だが、古泉。それはないって言い切る。今朝もあいつは俺の知らない朝倉だったからな」

古泉「それは今朝までの話です。もう6時間以上経過しています」

キョン(次に出遭ったときが最後ってことか)

古泉「気をつけてください。今の長門さんは我々の味方とは言えません」

キョン「古泉。悪いが俺は長門を信用している。長門なりの理由があるはずだ」

古泉「貴方のことを裏切ってまでする理由なんて、あるのでしょうか」

キョン「言っておくがな、俺は長門だけじゃない。朝比奈さんの言うことも、お前のことだって信頼している。金を貸してくれって言ってくても、今ならいくらでも貸してやるぐらいにはな」

古泉「……」

キョン「お前の考えは邪推だ」

古泉「そうですか」

キョン「そうだよ」

キョン(そんなわけがない。長門に限ってはな)

古泉「……申し訳ありません。朝倉さんの出現で気が立っているようです。確かに貴方の言う通り、長門さんがそのようなことをするとは思えませんね」

キョン「古泉、最後に聞かせろ。長門や朝倉が敵になったら、お前はどうするつもりだ?」

古泉「戦います。貴方を守るために」

キョン「……そうかい。感謝しておくぜ」

あなたを守るために♂

男と女の四角関係か…

部室

キョン(古泉は帰宅しちまったか。まぁ、あれだけのことを言った手前、今日のところは部室に居たくなったのかもな)

ハルヒ「あーもう!!有希!!これじゃないわけ?!」

長門「違う」

ハルヒ「むー……」

キョン「朝比奈さん、ハルヒの奴は何をしているんですか?」

朝比奈「えっと、よくわかりません。地図を見ているみたいですけど」

キョン「地図?」

キョン(UMA探しでも始めたのか。グーグルマップにそんなのが載っていたら今頃ネットは大騒ぎだぞ)

朝比奈「あの、キョンくん」

キョン「なんでしょうか?」

朝比奈「このマフラー、朝倉さんのですよね?」

キョン「え、ええ」

朝比奈「あの……絶対に気を許しちゃだめです。得体の知れないもの……っていったら、語弊はあるけど、絶対に安全なんて、ないから……」

キョン(本音としては長門を信じるなと言いたいのかもしれない。でも、分かりますよ、朝比奈さん。あの長門を疑えるわけがない。あいつに何度も助けられてきたのは他でもない、俺たちなんですから)

通学路

ハルヒ「今日も成果はなかったわね」

長門「……」

キョン(朝倉探索がどうと言い出したり、ネットのマップで不思議を探したり、面白い奴だな)

朝比奈「……」

キョン「朝比奈さん?」

朝比奈「え?な、なんですか?!」

キョン「いえ、ずっと俯いていたら危ないですよ?」

朝比奈「え、そんなだいじょ―――きゃっ!?」

キョン「おっと。ほら、危ないですよ」

朝比奈「ご、ごめんなさい……キョンくん……」

ハルヒ「おらぁ!!エロキョン!!!なにしてるのよ?!公然猥褻でしょっぴくわよ?!」

キョン「朝比奈さんが躓いただけだ」

長門「……」

キョン(おう、長門さん。貴方も躓くなら支えてやるから、心配するな)

キョン宅

キョン「ただいま」

妹「おかえりー」

キョン「朝倉はもう出て行ったのか?」

妹「うん。でも、夕飯には来るってー。もうすぐ来るとおもうよ?」

キョン「そうなのか……」

キョン(そういえば朝倉の家ってどこなんだ。長門のマンションじゃないだろうし……)

ピンポーン

妹「あ、りょーこちゃんきたー」テテテッ

キョン(妹が懐きすぎているのがどうにもな……)

朝倉「キョンくん、帰っていたのね。おかえりなさい。寒かったでしょう?」

キョン「お前のマフラーのお陰でかなりマシだけどな」

朝倉「そう。嬉しいわ」

キョン(やっぱり俺の知らない朝倉だ。今のこいつは宇宙人ではない)

朝倉「さ、夕飯作るから待っててね」

キョン「ごちそうさま。美味かったよ」

朝倉「あれぐらいならいつでも作ってあげるわ」

キョン「お前の家、どこなんだ?」

朝倉「ここから歩いて10分ぐらいのところにあるワンルームマンション。長門さんが借りてくれたみたいで。でも、私、家賃とか払えないのに……」

キョン「長門が肩代わりしてくれるから大丈夫だろ」

朝倉「どうしてそこまでしてくれるのか、わからないけど……。半年前の私と長門さんにはどんなことがあったのかしら」

キョン(壮絶すぎる過去になるな。迂闊なことを言えば怯えられるかもしれないから言う訳にはいかないが)

朝倉「今度、長門さんとゆっくり話をしてみようと思うの」

キョン「それはいいことだが、お前は長門のことあまりよく思ってないんだろ?」

朝倉「正直、言うとね。怖いわ。だって、会っていきなり「ワレワレハウチュウジンダ」なんて言い出すんだもの。普通は怖いって思うでしょ?」

キョン(俺も長門に始めてそれを告げられたときは頭痛を覚えそうになったからな)

朝倉「でもね、ここまでしてくれるのにはきっと訳があると思うから……」

キョン「そのときは俺も一緒に行ってやるよ」

朝倉「ほんと?ありがとっ。貴方がいてくれるなら、心強いわっ」

キョン(朝倉に頼りにされるのも悪くないな。マフラーのお礼もあるし、これぐらいは付き合ってもいいだろう。……って、やっぱり朝倉に対して甘くなってきてるな、俺)

朝倉「お邪魔しました」

キョン「気をつけてな」

朝倉「ええ。それじゃ、またねっ」

キョン(いい笑顔だ。今はもうさっぱり恐怖を感じない。刃物を持たない限りはな)

朝倉「あ、そーだ。キョンくん、聞きたいことがあったの」

キョン「なんだ?」

朝倉「今、好きな人っている?」

キョン「いきなりだな」

朝倉「いる?」

キョン「……別にいない」

朝倉「そう。あんしんっ」

キョン(朝倉……おいっ……。それは勘違いしてくださいって言ってるような台詞だぞ)

朝倉「おやすみ、キョンくんっ」

キョン「あ、ああ……」

キョン(やれやれ……。このまま朝倉のペースに嵌りそうで嫌だな……)

やばいノンケになりそう

>>257
鶴屋さんの鬱陶しさは安定しているな
消えて欲しい

>>324
は?

自室

キョン「朝倉か……」

キョン(谷口の言うとおり、あいつは性格まで良いみたいだな)

キョン(とはいえ、古泉の言うことも一理はある。長門は何のために朝倉を置いているのか)

キョン「……」

キョン「そういえば長門の奴、朝倉の処理を俺に一任したよな。あれはどういうことだ?」

キョン(長門が意味もなくあんなことをいうことはないはずだ)

キョン「長門、俺に朝倉を託したのか?それとも……」

キョン(深く考えてもわからんもんはわからん。今度、長門と話をすると言っていたし、そのときにでも聞けばいい)

キョン(長門だって何でもかんでも話すわけじゃないだろうしなぁ)


『長門さんは自身のために貴方を危険に晒している』

『得体の知れないもの……っていったら、語弊はあるけど、絶対に安全なんて、ないから……』


キョン(嫌な台詞だけは鮮明にリフレインするな……)

キョン(さっさと寝るか)

翌日 放課後 通学路

ハルヒ「あー、なっかなか見つかんないわねぇ」

長門「……」

朝比奈「ふぅ……」

古泉「……」

キョン(なんだろうな、この空気。三人が牽制し合ってるのか)

古泉「申し訳ありません。この度のことは稀に見る大事件なものでして」

キョン「そんなことは分かってる。別に誰が悪いわけじゃない。ハルヒを除いてな」

古泉「そう言っていただけると、ありがたいですね」

キョン(長門も朝比奈さんも古泉も、それぞれの思惑があるのは知っている。だが、それを超えて背中を預けているのもまた事実だ)

キョン(俺がとやかく言う必要は何もない)

古泉「個人的には早急に朝倉涼子の処理をして欲しいのです。相応のリスクがありますので」

キョン「俺に言われても困る」

古泉「貴方が朝倉涼子の賽を握っているはずですが……。おや、僕の勘違いだったでしょうか?」

キョン「その賽はお前が考えてるほど軽くはないんだよ。多分な」

ハルヒ「それじゃ、みんな。また明日ね」

朝比奈「さようなら」

古泉「失礼しますっ」

長門「……」

キョン「じゃあな、長門」

長門「待って」

キョン「どうした?」

長門「一緒に来て」

キョン「どこにだ?」

長門「私の自宅」

キョン「何かあるのか?」

長門「来たら分かる」

キョン「朝倉絡みか?」

長門「……」

キョン(長門、こっちも訊きたいことが溜まってるからな。色々質問はさせてもらうぞ)

長門「……」

キョン「ん?」

朝倉「あ……」

キョン「朝倉、お前、どうして?」

朝倉「な、長門さんと話そうと思って……」

キョン「俺も一緒に行くって言っただろ」

朝倉「妹さんには伝えておいたのよ。キョンくんに長門さんのマンションまで来るようにって」

キョン「そうなのか」

長門「入って」

キョン「朝倉、一人で話し合おうと思ったのか?」

朝倉「いつまでもキョンくんに甘えるのはダメかなって思って」

キョン(そりゃいい傾向だ。あまりべったりされたらそろそろ俺の警戒レベルが0になる)

朝倉「でも、キョンくんこそどうして長門さんと一緒に?」

キョン(それはなんだろうな。また長門にする質問が一つ増えた)

朝倉「まぁ、いいわ。いきましょ」

リビング

長門「……」

朝倉「え、えっとね……。あの……」

長門「……」

キョン(長門、無言で見つめるのはやめてやれ。朝倉が震えてるじゃねーか)

朝倉「長門さん、私と貴方はどういう関係だったの?」

長門「……」

朝倉「どうして住む場所も提供してくれたの?」

長門「……」

朝倉「答えて」

長門「……先に謝っておく」

朝倉「え?」

キョン「長門?」

長門「貴方を修復することはできなかった。故にここで貴方を消去する」

朝倉「は……?」

んふっ

ふぅ

キョン「長門、何言ってる?」

長門「涼宮ハルヒの作り出した構成情報は私では到底解析できないほどの膨大なものだった」

長門「三年前に惑星を覆った情報フレアに匹敵する規模。朝倉涼子は―――」

キョン「そんなことが聞きたいんじゃない。どうして解析できないからって消去するんだ」

長門「朝倉涼子という情報体が内包する危険因子があまりには不明瞭。このまま置いておくことはできない」

朝倉「な、何を言っているの……」

長門「許して」

朝倉「いやっ」ギュッ

キョン「朝倉……」

朝倉「や、やっぱり、私が間違ってた……貴方と話そうとしたことが……間違ってた……」

長門「……」

キョン「長門。危険はないって言っただろ」

長門「……」

キョン「消さなくてもいいんじゃないのか?」

長門「貴方がそういうなら消去の実行はしない」

つまりキョンは朝倉と結婚すると

キョン「まて、長門。色々と質問させてもらうぞ」

長門「……」

キョン「そもそもどうして朝倉を置いておいた?消すなら人知れず消せばよかっただろうが」

長門「消去したと同時に不具合が発生する恐れもあった。それを調査するまでは実行に移すことはできない」

キョン「消した途端、爆発するとかか?」

長門「概ね」

キョン「本当にそれだけか?なら、どうしてお前は三年前の七夕のとき、三年後の自分と同期したんだよな?で、俺たちに何があったのかを知ったはずだ」

長門「……」

キョン「そのときに朝倉を消去しなかったのはどうしてなんだ?異常動作することは知っていたんだろう?そのときに消していれば今回のことも起きなかったんじゃないのか?」

長門「……」

キョン「答えろ」

長門「貴方には理解できない」

キョン「長門……本気で言ってるのか……?」

長門「……」

キョン(なんだよ、長門。その目は。どうしてそんなに悲しそうなんだよ……!!)

結婚endまだー

朝倉「キョンくん、出ましょう。もういいわ」

キョン「だけど……」

長門「エンターキーは貴方が押して」

キョン「長門。どういうことだ。どうして俺に託す?」

長門「私に決定権はないから。朝倉涼子は涼宮ハルヒが生み出したものであり、我々とは異なる存在。貴方が処理をするべき」

キョン「……嫌なのか?」

長門「……」

キョン「朝倉を消したくないのか、長門?」

長門「……」

キョン「そうなのか?」

長門「……」

キョン(そういうことか。長門。お前が朝倉を消さなかったのは……)

朝倉「キョンくん、いきましょ」グイッ

キョン「あ、おい」

長門「……」

結婚してから決めよう

駅前

朝倉「はぁ……はぁ……。ごめんね、キョンくん」

キョン「いや、良いんだけどな」

キョン(さて、これからどうする……。俺としてはこのまま朝倉に居てほしくなっちまったわけだが)

朝倉「ねえ、キョンくん。貴方の家に住んでもいいかしら?」

キョン「は?」

朝倉「このまま長門さんの用意した家にいるのは、怖いから……」モジモジ

キョン「それは経済的にもな」

朝倉「アルバイトぐらいならするから。おねがいっ」

キョン(それ反則だって)

朝倉「どうしてもだめなの?」

キョン「だってな……」

朝倉「そのマフラーあげたのになぁ……」

キョン(マフラー一つで住むところが確保されるなら、俺だって100個ぐらい量産するぜ)

朝倉「いいでしょ?キョンくんっ」

俺「いいよっ」

>>372
朝倉「ごめんなさい、あなたはキョン君じゃないから」(グサッ

>>373
俺「んほおおお気持ちいいよぉぉぉ」

キョン「まだ高校生なのにそういうわけにはいかないだろ。こっちは両親もいるんだ」

朝倉「そっか。なら、キョンくんが私のマンションに来てくれれば解決ね」

キョン「どうしてそうなる?」

朝倉「だって、私には初めから貴方しかいないかったから……」ギュッ

キョン「あ、朝倉……」

朝倉「キョンくん……ずっと一緒にいたいな……」

キョン(俺だってそうしたいがな……)

ハルヒ「―――キョン」

キョン「……!?」

朝倉「え?」

ハルヒ「……」

キョン「お前……どうして……?」

ハルヒ「朝倉涼子を探してたのよ。この辺で見かけたって目撃情報があったから」

キョン(なんで……こんなときに……)

ハルヒ「そこの女、朝倉涼子ね?どうして一緒にいるの?」

(キョン!交換転移だ!俺と変われ!)

キョン「あ、えっと……」

朝倉「もしかして貴方が涼宮さん?」

ハルヒ「覚えてないの?」

朝倉「実は記憶喪失で……。それで私のことを知っている人に当たってたんだけど」

ハルヒ「キョンとはいつ知り合ったの?」

キョン「今だ!!」

ハルヒ「そう言う風には見えないわね。今あったばかりの奴に手編みのマフラーをどうやって今日の朝に渡せるの?タイムマシンでも使ったの?」

キョン(ああ、名探偵ハルヒ。ここに現る)

ハルヒ「答えなさい」

キョン「あのだな……」

キョン(なんていえばいいんだ。誰か教えてくれ。今なら何でも言うこと聞いてやるからよ。模範回答もってこい)

朝倉「キョンくんは困っている私を助けてくれただけなの」

ハルヒ「……」

朝倉「それでそのお礼にマフラーを編んだだけで……」

ハルヒ「ふぅん……」

朝倉!いまだ!

朝倉「あ、あの涼宮さん。私のこと何か知ってる?知ってるなら教えて」

ハルヒ「いいわよ。アンタの名前は朝倉涼子。北高1年5組の女子生徒でクラス委員長。有希と同じマンションの505号室に住んでいたわね」

朝倉「……」

ハルヒ「5月になって急にカナダで引越しが決定した。それだけでも噴飯ものだけど、アンタの過去は色々可笑しかったわ」

朝倉「おかしい?」

ハルヒ「そう。進学校でもなんでも県立の北高にわざわざ別地域から入学してくる。なのにアンタは三年前から、あの駅に近い場所に一人で住んでいた」

朝倉「え……」

キョン「おい、ハルヒ」

ハルヒ「しかも賃貸じゃない。あのマンションは分譲よ。分譲。立地的もそれなりに高額だし、それほどまで金を持て余しているなら別の私立高校に行くでしょ、普通は」

朝倉「そ、そうね……」

ハルヒ「あなた、今までどこに居たのよ?宇宙人にでも誘拐された?」

朝倉「……!」

キョン「ハルヒ!!おい!!」

ハルヒ「なによ?!キョン!!どうして朝倉と一緒にいるのか説明しなさいよ!!」

キョン(そりゃ、お前の脳内設定がそうさせたんだよ。文句があるなら、自分の脳みそに言いやがれ!!)

ハルヒ「ったく、これは看過できない事態だわ」

キョン「お前な……。つーか、どうしてこんな時間にここにいる?」

キョン(虫の知らせにしては万能だな。俺にも一匹分けてくれ)

ハルヒ「だって、有希が……」

キョン「長門?」

朝倉「……キョンくん、いきましょうか」

キョン「朝倉?」

ハルヒ「どこに行くのよ?」

朝倉「ふふっ……もう、分かったから」

キョン「何がだ?」

朝倉「キョンくん……マフラーとっても似合ってるわよ?」

キョン「お、おい……」

ハルヒ「ちょっと……」

朝倉「キョンくんっ」ギュッ

キョン「あ、さくら……?!」

ハルヒ「な、なにして……」

朝倉「……」ギュゥゥ

キョン「がっ……!?あさく、ら……!?」

朝倉「所詮、私は何度生まれ変わってもバックアップなのね。初めは長門さん、次は涼宮さん。なら、その次は誰かしら……」ギュゥゥゥ

キョン(くびがぁ……!?)

ハルヒ「や、やめなさい!!なにしてるの?!」

朝倉「見てわからない?マフラーを巻いてあげてるの」

ハルヒ「首が絞まってるじゃないの!!」

朝倉「そう?ごめんなさい。私には有機生命体がどの程度の力で息絶えるか、わからないのよ」ギュゥゥゥ

キョン「かっ……?!あ、さ……?!」

朝倉「ふふ……」

ハルヒ「やめて!!!」グイッ

朝倉「邪魔する気?」

ハルヒ「キョンが死んじゃうでしょ!?」

朝倉「可笑しなことをいうのね、涼宮さん。これ、貴方が望んだことでしょ?」

ハルヒ「なにを……」

キョン「ぐっ……やっ……」

朝倉「嫌なんでしょ?ほかの女に取られるのが。それならいっそのこと殺したほうがいいって、思ってるくせに」

ハルヒ「そ、そんなこと思ってない……」

朝倉「嘘つきっ」ギュゥゥ

キョン「あ……あぁ……!?」

ハルヒ「やめてっていってるでしょ!!!お願い!!やめて!!!」

朝倉「いいわ。そのまま情報を爆発さ―――」

長門「―――させない」グイッ

朝倉「……」

ハルヒ「有希!!」

キョン「ごほっ……おぇ……。長門……」

ハルヒ「有希。なによ、こいつ!!本当に有希が探してたのってこいつなの?!」

キョン(探してた……?)

ハルヒ「有希!!何とか言いなさい!!貴方の親友なんでしょ?!違うの?!」

やっぱりキョンじゃだめだったんだ
俺じゃないと…俺がやらないと

>>417
いや、もっと邪魔なのがいるだろ
ほら、あいつだよ
デコハゲ

長門「……」

朝倉「親友、なんだ?」

キョン(やっぱり、そういうことか……。長門……)

朝倉「親友。長門さん、私のことをそんな風に思ってたの?そっかぁ、だから記憶が無かった私と1から始めようって思ったのね?」

長門「……」

朝倉「でも、残念。私を懐柔しようなんて、無駄なの」

キョン「ちが、う……長門は……」

朝倉「あーあ、もうちょっとだったのになぁ。キョンくんも油断してたし、涼宮さんも都合よく目の前に現れたのに……」

キョン「なんだと?」

朝倉「涼宮さんの力で記憶がなくなったと思ってた?実はね、自分で記憶を封じたの」

キョン「……!?」

朝倉「だって、余計なメモリーがあればきっと貴方は警戒してしまうでしょ?だからね、私は自分で自分をフォーマットしたの。最低限のことは記憶しておいてね」

キョン「それが俺なのか」

朝倉「そう」

キョン(てことは、ハルヒは元々、朝倉そのものの復活を願ったのか……。いや、そうじゃねえ。きっと、ハルヒは長門の親友の復活を願ったんだ。だから。こんなことに……)

>>420
いい加減にしろよハゲ

長門「朝倉涼子を敵性と判定」

朝倉「やってみる?今の私は涼宮さんによって構成情報が書き換わっている。以前の私じゃないのよ?」

長門「……」

ハルヒ「なによ……なにがどうなって……」

キョン「ハルヒ!!こっちに―――な?!」

朝倉「この空間域は既に閉鎖済み。あとで殺してあげるからまってなさい」

キョン「ハルヒはどこだよ?!」

朝倉「外にいるわ。安心して」

キョン(朝倉……どうして、長門の気持ちに気付いてやれないんだ)

キョン「朝倉!!長門はお前と友達になりたかったんだよ!!!生み出された三年前からずっとなぁ!!!」

朝倉「……」

キョン「長門はお前のことが好きだったんだ!!料理も出来るし、性格もいいし、明るくてみんなにも人気者のお前が!!」

キョン(そんな朝倉の性格を長門は羨ましいと思っていた。そして同時に派閥とかを無視してもいいほど、お前に惹かれてたんだよ。朝倉)

朝倉「……そうなんだ。それで、それがどうしたの?」

キョン「どうしたって……!!」

俺についてこい!

朝倉「私にはそんな感情プログラムは用意されていないわ」

長門「知っている」

朝倉「長門さん、私は何とも思わない。残念ねっ」

長門「知っている」

朝倉「なら、邪魔しないで」

長門「できない」

朝倉「目的があるの」

長門「許可できない」

朝倉「いいわ。死になさい」ゴォォ

長門「……」ギィィン

キョン(俺は蚊帳の外か……。この戦いに参加することはできないからな……)

長門「―――アクセス許可申請。空間連結、承認」

朝倉「え?―――誰を呼んだの?」

古泉「長門さん!!ご無事ですか!!」

朝比奈「ひえぇぇぇ!!おちるぅぅ!!」

ハルヒを消去して代わりに朝倉を入れよう(提案)

キョン「古泉?!朝比奈さん?!」

朝比奈「ふぎゅ?!いたた……。キョンくん!!」

古泉「まさか、このようなことになっているとは」

朝倉「足手まといを呼んでどうするつもり?」

長門「……」

キョン「長門?」

長門「私は、貴方を消す」

朝倉「何を言い出すの?」

古泉「……」

朝比奈「へぇ?」

長門「三年前からのエラー。排除する」

朝倉「ふっ……やってみれば?」

長門「彼を安全な場所へ」

古泉「わかりました。行きましょう」

キョン「待てよ!長門を置いていくのか?!」

朝倉はおいていけよ

古泉「我々にできることはありません」

キョン「だけど!!」

古泉「朝比奈さん」

朝比奈「は、はい!!正しい時空平面に移動しまぁす!!」

朝倉「逃がすと思うの?」ゴォォ

朝比奈「ひぇぇぇ!!!」

古泉「ふっ!!!」ギィィン

朝倉「やるのね。でも、出力を上げれば」

長門「させない」グイッ

朝倉「くっ……!!」

長門「貴方の相手は私」

古泉「朝比奈さん、今です!」

朝比奈「は、はい!いきますっ!!」

キョン「長門!!おい!!」

長門「すぐに合流する。心配ない」

駅前

キョン「……は?!」

朝比奈「あ、気がつきましたか?」

キョン「あれ……?」

朝比奈「よかった。事前に平面移動の許可申請を出しておいて。不安が的中しました」

キョン「そういえばそんなこと言ってましたね……」

朝比奈「うん」

キョン「ハルヒは?」

古泉「こちらで眠っています。あまりの出来事に気を失ったみたいですね」

キョン「……閉鎖空間は大丈夫なのか?」

古泉「特大のが発生しましたので、僕も行かねばなりません。涼宮さんのことお願いできますか?」

キョン「ああ……。古泉」

古泉「なんでしょうか?」

キョン「助かった」

古泉「当たり前のことをしただけですので、お気になさらず」

子淵

ハルヒ「すぅ……すぅ……」

朝比奈「涼宮さん、朝倉さんのことを気にしたのは長門さんのことを想ってのことなんですか?」

キョン「多分、そうだとそうでしょうね」

キョン(ハルヒ、長門になにか言われたんだろ。私の親友を探してなんて長門がいったとは思えないが)

朝比奈「長門さん、大丈夫でしょうか……」

キョン「心配はいらないでしょう」

キョン(戦いの心配はいらない……。問題はそのあとだ)

長門「……」

朝比奈「長門さん」

キョン「戻ったか」

長門「……」

キョン「朝倉は?」

長門「……」

キョン「そうか」

長門「朝倉涼子は初めに私とのコミュニケートを図った。それは己の能力を計測するためだった」

>>361
キョン「本当にそれだけか?なら、どうしてお前は三年前の七夕のとき、三年後の自分と同期したんだよな?で、俺たちに何があったのかを知ったはずだ」

キョン「本当にそれだけか?お前は三年前の七夕のとき、三年後の自分と同期したんだよな?で、俺たちに何があったのかを知ったはずだ」

>>448
キョン「多分、そうだとそうでしょうね」

キョン「多分、そうでしょうね」

キョン(長門は滔滔と語る。生み出された翌日に朝倉が訊ねてきて、お手製のおでんを振舞ったこと。貴方にできないことを私がすると言われたことを)

長門「私という個体は朝倉涼子を信頼していた」

キョン「俺が三年後の情報を持ってくるまでは、か?」

長門「……」コクッ

朝比奈「それからどうにもできなかったんですか?」

長門「……」

キョン(三年の間、長門は必死に朝倉の体を弄りまくってたんじゃないかと想像するのは容易い。初めて出来た友人を長門だって消したくなかったんだ)

長門「彼女は急進派だから」

キョン(長門、お前はそれで納得したのか?俺に消すことを委ねたお前が、その理屈で耐えられるのかよ)

長門「……」

キョン(なんて声をかければ良い。元気だせとか俺も友達だろ。なんて軽い慰めを長門が欲しているわけがない)

朝比奈「あ……ぁ……の……」

キョン(朝比奈さんも同様のようだ)

長門「これで終わった。あとは涼宮ハルヒの記憶情報を改竄しておく」

キョン「長門……」

ハルヒ「すぅ……すぅ……」

長門「……」

朝比奈「キョンくん、これでよかったんでしょうか……」

キョン(良い訳がない。どう見ても長門は得心していない。あいつはまた自分ひとりで背負い込んでやがる)

キョン(何がしてやれる……。俺に何が……)

長門「気にしなくていい」

キョン「……なに?」

長門「貴方に必要な情報を与えず、混乱させたのは私。これは私の責任」

キョン「朝倉が死んだのもか?」

長門「……」

キョン「長門」

ハルヒ「ん……?うるさいわねぇ……」

キョン「ハルヒ……」

ハルヒ「あれ?キョン、みくるちゃんに有希も……あれ?あたし、何してたっけ?」

キョン「散歩でもしてたんじゃないのか?」

ハルヒ「そうだっけ?有希の友達を探していたような……」

長門「気のせい」

ハルヒ「そう?」

キョン「……ハルヒ。それは気のせいじゃないぜ」

長門「……」

朝比奈「キョ、キョキョ、キョンくん!?」

ハルヒ「え?どういうこと?」

キョン「お前は長門の友人を探していた。気立てが良くて、面倒見がいいお姉さんタイプの奴をな」

ハルヒ「ふぅん……そっか。でも、イメージわかないわねえ」

キョン「そうか?朝倉みたいな感じでいいんじゃないか?」

ハルヒ「朝倉って朝倉涼子のこと?」

キョン「そうそう」

ハルヒ「うーん……なるほどね。確かに有希にはああいうタイプがいいのかもねえ……。あ、それってあたしでもいけるんじゃない?」

朝比奈「キョンくぅん!!どういうことですかぁ?!」

キョン「今度は完全なハルヒのイメージですから、朝倉が復活することはありませんよ」

長門「……」

キョン「長門、余計なお世話かもしれないけど、これしか思いつかなった。会いたくないなら探さなくても良いし、見かけても無視すりゃいいと思う」

長門「……」

キョン「悪いな」

長門「別にいい」

ハルヒ「あー、なんか寝たらスッキリしたし、かえろっか」

朝比奈「は、はい」

ハルヒ「キョンのおごりでなんか食べましょー」

キョン「なんだと?!ちょっと待てよ!!おいっ!!」

朝比奈「あ、あの……私も少しだしますぅ」

長門「……」

キョン「長門、行こうぜ」

長門「……ステーキ」

キョン「ス、ステーキか……分かった」

ハルヒ「あたしも特上ステーキがいいわ!!よっし!!それにしましょう!!」

翌日 学校 廊下

古泉「涼宮さんらしい行動だったわけですね」

キョン「特上ステーキ追加で頼むのがか?勘弁してくれ。身の破滅だ」

古泉「そちらではありません。長門さんの消えた親友をずっと探していた。良い話です」

キョン(その所為で長門は苦しんだわけだがな)

古泉「ですが、長門さんもそれを願ったのでしょう?もう一度、彼女とやり直すチャンスを涼宮さんに願った」

キョン「そういうことになるんだろうな」

古泉「朝倉さんとの戦いは避けては通れないもの。彼女は必死に抗おうとしていたのですね」

キョン(長門が世界を変えちまったとき、朝倉が通い妻のようなことになってたのは、長門がああいう関係を望んだからなんだろうな……)

古泉「それにしてもあの長門さんが、全くもって予測できませんでした」

キョン「俺はこう思うね」

古泉「なんですか?」

キョン「長門も不測の事態だといった。つまり、長門もびっくりしたんだろ。まさかマジで復活するなんてってな」

古泉「冗談で言ったことが実現したということですか?」

キョン(長門が自ら欲望を表に出したりはしない。ハルヒが野性の勘で長門の心の隙間を埋めようとしたんだろ)

部室

朝比奈「私、長門さんのこと良く知りませんでした」

キョン「それは俺も同じですよ」

朝比奈「ずっと寂しかったんですね。三年前から」

キョン(待機モードが長すぎるんだ。あれなら中学校にも通わせておくべきだったんだ。何を考えてやがるんだ、長門のボスは)

朝比奈「あれ、キョンくん。あのマフラーはどうしたの?」

キョン「ああ、あの異次元空間から出たときはもうなかったんですよ」

朝比奈「へぇ……。あ、でしたら。こ、これ……」

キョン「え?」

朝比奈「わ、私も編んでみたの……。よかったら、使ってください」

キョン「いつのまに……ありがとうごいざいます」

朝比奈「風邪、ひかないでくださいね」

キョン「鶴屋さんにも渡したんですか?」

朝比奈「はい。とても喜んでました」

キョン(鶴屋さんとペアのマフラーになっていそうだ)

通学路

ハルヒ「有希がね、呟いたのよ。丁度不思議探索をしているときだったわ」

キョン(長門が呟くか……)

ハルヒ「なんて呟いたかは忘れたけど、人の名前だったわ」

キョン(それは朝倉だったのかそれとも涼子だったのか……)

ハルヒ「でね、有希の友達を探そうと思ったのよね」

キョン「やっぱりな」

ハルヒ「でも、一体誰を探してたっけ?キョン、覚えてる?」

キョン「しらん」

キョン(ここで朝倉なんて言えばまた復活するんだろうな)

ハルヒ「うーん……さくらが関係していたと思うのよねぇ……」

キョン「ハルヒ」

ハルヒ「なによ?」

キョン「お前、優しいな」

ハルヒ「は、はぁ?!何言ってるのよ!!いきなりそんなこと言っても平団員から総団長とかにはなれないんだからねっ!!!」

数日後 駅前

ハルヒ「いい、キョン!!今日こそは不思議を見つけてきなさいよ!!」

キョン「わかったよ」

ハルヒ「ふんっ!!」

キョン「……行くか?」

長門「……」

キョン「探してみたりしたのか?」

長門「してない」

キョン「そうか」

長門「彼女とは相容れることができなかった」

キョン「……」

長門「それだけ」

キョン(古泉は言った。長門は他の宇宙人とは異質の存在だと。異質だからこそほかの連中も長門には近づいてこないのかもしれない)

長門「……」

キョン(同じ仲間でご飯を食べたり、くだらないことを喋ったり、並んで下校したりすることをお前は望んでいたのか。長門)

朝倉の半分は包丁で出来ています

図書館

キョン「ここで待ってるから」

長門「……」コクッ

長門「……」キョロキョロ

長門「……」

「ねえ、このマフラー貴方のじゃないかしら?」

長門「……」

「これ、落とさなかった?かなり長いんだけど……。向こうの彼と一緒に使っていたとかじゃないかしら?」

長門「……私ではない。多分、貴方の」

「それはないと思うんだけど……。まあ、仕方ないわね」

長門「長門有希」

「え?ああ、そうね。名前も聞かずにごめんなさい。私は―――」



END

乙これはポニーテールがうんたらかんたら

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