紬・澪「雪見大福コンビ?」 (48)

紬「ふ~ん♪」

紬「ふっふふふ~ん♪」

紬「ふっふっふっ♪ ふふふ~ん♪」

紬「ふ~ん♪ ふふふふ~♪」

紬「ふ~~~む・・・」



菫「大きなため息」

紬「あ、菫、いたんだ」

菫「うん。ずっと前からいたよ」

紬「ごめんなさい。気づかなくて」

菫「ううん、いいよ、お姉ちゃん。それで、新しい曲でも考えてたの?」

紬「ええ、でもなかなかいいメロディーが出てこなくて・・・」

紬「・・・そうだ! ちょっと出かけようかしら」

菫「え、寒いよ?」

紬「菫もくる?」

菫「う~ん・・・」

紬「ふふ。いいわ。1人で行ってくるから」

菫「うん。いってらっしゃい」


雪は積もっていないけど、とても寒い。
完全防備で出てきたのに。

ゆっくりと歩道を歩く。
一歩一歩が一小節。
その間にリズムを刻む。

それを何度も繰り返す。
何度も何度もやり直す。

気に入ったリズムが生まれたら、今度は気に入ったリズムを歩幅で刻む。
テンポよく、快活に。
ちょっと恥ずかしいけど、幸い人通りは少ない。
雪が積もっていたら、足あとが楽譜になったかな--


--と。


澪「ムギ」

紬「・・・!」

澪「こんな寒い中、何してるの?」

紬「ええ、ちょっと・・・」

澪「えっと、聞いたら不味かったかな?」

紬「ううん。そうじゃないの。そうじゃなくて・・・」

澪「いいっていいって、無理に言わなくても」

紬「ふふっ♪ ふふん♪ ふふふ~ん♪」

澪「あ・・・曲を作ってたんだ」

紬「ええ、正解っ!」



澪ちゃんはにっこりと優しく笑った。
きっと足でリズムを刻んでいた私が子供っぽく見えたんだと思う。

紬「そういう澪ちゃんは?」

澪「あぁ、私か? 私はちょっと・・・な」

紬「意味深ね」

澪「うん。できれば聞いてほしくなかったけど、聞かれたからには教えるよ」

紬「別にいいのに」

澪「雪見だいふくを買いに行くんだ」

紬「雪見だいふく・・・?」

澪「うん」

紬「どこかで名前を聞いたような気がするけど、どこだったかしら」

紬「お月様を見ながら食べる月見団子みたいに、雪を見ながら食べる大福があるの?」

澪「えっと、合ってるような違うような・・・」

澪「そういう名前のアイスがあるんだよ」

紬「冬に食べるアイスなんだ?」

澪「うん。夏にも食べるけど、今日みたいな寒い日に炬燵に入って食べたくなるアイスなんだ」

紬「ふぅん。おこたに合う味なんだ」

澪「えっと・・・それはたぶんCMのイメージのせいだけど」

澪「でも美味しいんだぞ」

澪「こんな日はホットカーペットの上で溶ける寸前に雪見だいふくを食べるのが最高なんだ」

澪「あの絶妙なやわらかさとまろやかさ、そして口溶けと言ったら・・・」


急に饒舌になる澪ちゃん。
雪見だいふく。ちょっと食べてみたくなっちゃった。
でも、今は曲を作ってる途中だし・・・。



ざっざっ。

ざっざっ。

紬「ね、澪ちゃん」

澪「うん」

紬「積もってきたね」

澪「あぁ」

ざっざっ。
ざっざっ。

紬「それで、澪ちゃん」

澪「うん」

紬「雪見だいふくを買いにいくんじゃなかったの?」

澪「あぁ。でも、ちょっとだけムギに付き合ってみるのも面白いかなって思って」

紬「ふふ、こうやって歩きながら曲を考えてるだけなのに」

澪「じゃあ私は詩でも考えてみるよ」

ざっざっ。

ざっざっ。

紬「何か思いついた?」

澪「ううん。ムギは?」

紬「駄目みたい。澪ちゃんと一緒にいるからかしら」

澪「え、私のせいか?」

紬「うん。だからちょっと付き合って」

向かったのは、私が通っていた小学校だ。
当直の先生に挨拶してから、目的の場所に向かう。
澪ちゃんは居心地が悪いみたいで、きょろきょろしている。
許可は取ったから大丈夫なのに・・・。


澪「あ、ここは」

紬「ええ、音楽室。このピアノはね。なかなか思い出深いものなのよ」

澪「たとえば?」

紬「う~ん、多すぎて何から話せばいいのかわからないけど、とにかく全部」

紬「はじめて友達ができるきっかけになったのもピアノだったし」

紬「はじめて先生に褒めてもらったのもこのピアノだったの」

澪「へぇ、ムギの大切な相棒だったんだ」

紬「うん。だからね。たまに曲作りに悩むとこうして触りにくるの」

軽く白鍵を叩く。
ぽろんぽろん。あの頃と変わらない音が響く。

澪「いい音」

紬「そうでしょう」

澪「くすっ」

紬「・・・?」

澪「ムギ、自分が褒められたみたいに嬉しそうだ」


笑う澪ちゃんをよそに、私は鍵盤を叩く。
雪の上で描いていたイメージを実際に音にする作業。
鍵盤と向かい合う孤独な作業。
少しずつ自分の意識を溶かして、音だけに集中する。

その旋律を唯ちゃんだったらどう楽しむのか。

梓ちゃんが満足できるだけの質があるのか。

りっちゃんがノリノリで演れるか。

澪ちゃんがどんな詩をつけてくれるのか。

音と向い合って、ひたすらに。
ただ、ひたすらに。





澪「1人で曲を作るの、久しぶりじゃないか?」

紬「最近はみんなと一緒に作ることが多かったね」

澪「どうしてまた1人で?」

紬「実はね、ずっと1人でもやってたの」

澪「そうなんだ?」

紬「ええ。みんなで作る曲ばかりだと、自分の色がなくなってしまうから」

紬「みんなの色と混ぜた時、面白いものが出来なくなっちゃうから」

澪「ふぅん、ムギもいろいろ考えてるんだ」

紬「えっへん!」

澪「それで、作曲のほうは?」

紬「もうしばらくかかりそうなんだけど・・・」

澪「待つよ」

紬「退屈じゃない?」

澪「大丈夫」

再び曲作りに没頭する。
澪ちゃんはこちらをじっと見ているわけでもなく、聴き入ってるわけでもなく、ただそこに居てくれた。
たぶん、私を邪魔しないようにしてくれたのだ。

随分長い間ピアノと向かいあっていたと思う。
私はやっと曲を作り終わった。


澪「できたんだ?」

紬「ええ。ちょっと聞いてくれる」

澪「うん」


通して曲を弾いてみる。
澪ちゃんは目を閉じて聴き入ってくれる。

澪「うん・・・うん・・・」

紬「どうかな」

澪「うんっ、すごくよかった!」

紬「そっか」

澪「あれ、喜ばないんだ」

紬「うん。だって澪ちゃんがそう言うのはわかってたから」

澪「むぅ・・・」

紬「澪ちゃんが好きな曲を作ったから」

澪「えっ」


一週間ほど前に遡る。


梓「なるほど、手作りで何かプレゼントをあげたいと」

紬「ええ、でも私は憂ちゃんみたいに上手にお菓子を作れないし」

紬「りっちゃんみたいに編み物のセンスもないから・・・」

梓「普通、こういう場合『下手でも気持ちがこもっていればいいです』というのが常套句だと思います」

梓「でも、ムギ先輩にはあるじゃないですか、上手に作れるものが」

紬「えっと・・・もしかして紅茶のこと?」

梓「紅茶もそうですが、もうひとつ」

梓「曲です」

紬「曲をプレゼントするの?」

梓「はいです。澪先輩きっと喜ぶと思います」

紬「ふふ、面白そうね」

梓「決まりですね」

紬「ありがとう、梓ちゃん」

梓「あ、どういたしまして。それにしてもムギ先輩と澪先輩ですか・・・」

紬「うん?」

梓「あ、いえ。なんだか雪見・・・・


そういえばあの時、雪見だいふくって梓ちゃんが言ったような。
なんで言ったんだろ。あの日は雪も振ってなかったのに。
でも、まぁいっか。



紬「ちょっと遅れちゃったけど、誕生日プレゼント」

澪「この曲が?」

紬「ええ」

澪「ムギからの誕生日プレゼントなら、誕生日にもらったのに」

紬「でも、あれは形に残らないから」

澪「くくっ」

紬「・・・?」

澪「ムギは時々抜けてるなって。曲だって形に残らないじゃないか」

紬「あ・・・」

澪「でもさ、ありがと。嬉しいよ、ムギ」

澪「言葉にできないぐらい」


そう言うと、澪ちゃんは私をあたためてくれた。


おしまいっ!




追伸♪
澪ちゃんは言葉にできないなんて言ってたけど、ちゃんと歌詞をつけてくれました。

澪ちゃん誕生日おめでとう
遅れてごめん

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