文尾「ブンビーカンパニーを設立して四年目か……」(55)

私の名前は文尾。
中小企業の内とは言え、今や立派な会社になったブンビーカンパニーの社長である。

ブンビーカンパニーとは何か? よくぞ聞いてくれた。
平たく言えば、何でも屋である。法に触れない限りどんな事でもやる。
犬の散歩。猫の散歩。インコの世話に豚小屋の掃除。時に探偵のように調査。
時に運送業の真似事をしたり、時に引っ越し業者の真似事をしたり。

そう言った雑用を請け負うのが、ブンビーカンパニーである。なんだか昔の自分を思い出す社風だ。

ところで、私は社長である。
社長。素晴らしい響きだ。権力を持ち、部下に敬われ、好きに部下をいじれる。
社長。素晴らしい、夢のような役職だ。

文尾「あー、河合(カワイ)くん。……おい河合くん」

文尾「……無視かよ。おい切間(キリマ)くん!」

切間「は、はい社長! なんでございますか」

文尾「この報告書だけどねきみィ。困るよこんな成績じゃあねきみ」

切間「お、おっしゃる通りでございます……」

ふふふ、歯を食いしばってる食いしばってる。これだからこの立場はやめられんよ。

こんな感じで、私は社長をやっている。私の名前は、文尾。

みんな昼飯何?

ブンビーカンパニーの社員はバイトを含めて大体七人。

最初にこの会社にやってきた、河合くん。
恐ろしき事に、彼はあのカワリーノさんにそっくりな人。外見も、中身も。冗談じゃない。
働いてくれないし、社長の私の言う事聞かないし、私を顎で使うし……。

次にやってきた、切間くん。
あのギリンマくんにそっくりな彼は、やっぱり、ギリンマくんにそっくりだった。
ただし、彼よりは向上心があって、彼よりも意志が強くて、彼よりも仕事ができない。
精一杯やっているのは伝わってくるが、それだけじゃあ駄目なんだな。

彼を社員に含めて良いのかは分からないが、アルバイトの釜野(カマノ)くん。
ガマオくんのように短気で面倒臭がり屋だが、仕事を失敗しても我が社に戻ってきてくれる。
人員不足だったあの頃は、何度もウチに来てくれる釜野くんの存在がありがたかった。

初めての女性社員は、新子(アラコ)くん。名字で呼ばれるのが嫌いらしく、名前で呼ばせる。
彼女はプライドが高くて跳ねっ返りが強いから、いじめるのには適していない。
ブンビーカンパニーの中では仕事ができる方なので、優秀な人材と見て間違いない。

ああ、この四人が揃った時は、「これじゃあただのナイトメアじゃないか」と思ったものだ。
あの日々程、誰かがいなくならないか心配で心配で胃に穴が開きそうになった時は無い。

交尾に見えた

結局私の心配は無駄に終わり、更に社員が集まってくる。

そろそろ秘書が欲しいなと思った私は、秘書を募る事にしたのだ。
新子くんは……正直秘書には向かないよなあ。いじめると言い返されるから。

そしてやってきたのが……アナコンディさんそっくりな近田(コンダ)くん。
彼女よろしく、近田くんはよく働いてくれる。気が利くし、私以上に部下をいじめるし。
ただ、怒らせるとすごく怖い。ギラリと睨んで、髪の毛が蠢くのだ。恐ろしい。

会社はどんどん大きくなった。
次は、ムカーディアさんそっくりな向井(ムカイ)くん。百井だったら、雇わなかったと思う。
彼は正直言って、社員として欠点が無い。報告書を書くのが上手くて、冷静で、ハンサム。
そして、ちょっとでもいじめようとすると近田くんが怒る。新人の分際で……。

そして……彼自身は、近田さんよりも前に来ていた。ただ、このメンバーの中ならば、紹介するのは最後だろう。
彼は、周防(スオウ)くん。あのスコルプさんにそっくりな人だった。
私は、感動した。彼がスコルプさんとは無関係な人であると分かっていながらも、喜んだ。
仕事振りは、可もなく不可も無く。ただ、失敗が少なく、無茶な仕事以外は易々とこなしてくれる。

これが、我がブンビーカンパニーの社員たちである。

文尾「まったくもう、頼むよホントに……はい、なんでもおまかせブンビーカンパニー」

切間くんへの説教もそこそこに、電話に出る。いつか殺してやると言わんばかりの視線を感じるが、気にしない。

支援

これは期待

仕事を終えた後、私は一つ決めている事がある。

定期的にではあるが、部下の誰かと、飲みに行く事に決めているのだ。
どの部下とも、一ヶ月に一度は飲みに行く事にしている。

これは、罪滅ぼしなのかもしれない。
かつての私の部下だった彼らに似ている今の部下たちを代わりにして、そうして自分を慰めているのかもしれない。
分かっている。どれだけそっくりでも、彼らと、彼等は、違う。

だから私は、彼らと似て、しかし異なる対応を心掛けている。
もう二度と、部下を無くさないように。

この行為は、昔の自分を引き摺ると同時に、昔の自分との決別を意味している。
私は、そう思う。

文尾「周防くん。どうだね、これから一杯」

周防「社長。ええ、お付き合いします」

今日は、周防くんの番である。

文尾「最近、どうかね」

周防「好調です。向井の奴も、手が掛かりませんし」

文尾「その内、追い抜かれちゃうかもね」

嫌みをちょこっと言って、グラスの酒を一気に呷る。

周防「やめてくださいよ。先輩としての、意地がありますから」

文尾「地位にこだわっているようじゃあ、まだまだ青いなあ」

周防「ふっ……そうかも、しれませんね」

文尾「……なあ、周防くん。私は、嫌な上司かい?」

周防「……正直に申し上げますと、そうなりますね」

周防「ただ、私の前の職場の上司は、社長以上に嫌な奴でした。それに比べたら、マシですよ」

文尾「そうかい? なんだか素直に喜べないけど……」

周防「……皆は口にしませんが、私たちは誰もが、社長が好きです」

周防「社長は……私たちの事を気にかけてくれますから」

文尾「……そうか」

気にかける。昔の私には、やりたくてもできなかった事だ。

別の日。私たちは変わらず、忙しさに駆られている。

文尾「はい、なんでもおまかせブンビーカンパ……え、ええ~~! か、釜野くんがまた逃げたァー!?」

文尾「えええらいこっちゃ……か、河合くん、すぐに代わりに向かってくれたまえ!」

河合「部下の尻拭いをするのが上司の役目ですよ」

文尾「そりゃ三度目だろうが! ええい、私が行く!」

まったくあの男は、毎日毎日雑誌ばっかり読んで、全然仕事してくれないんだから、給料泥棒だよまったく!

文尾「近田くん、後は頼んだよ!」

近田「はい。行ってらっしゃいませ、社長」

文尾「新子くんが帰ってきたら、すまないが次の仕事も任せるよう伝えてくれ、それじゃ!」

指示もそこそこに、私は急いで釜野くんがトンズラした依頼場所に向かう。
はあ、また釜野くんの給料を下げなければいけない。悪循環だ。

文尾「忙しい、忙しい!」

仕事を終え、会社に戻る最中の道で、私は街角の巨大スクリーンから流れる音楽で顔を上げる。

文尾「あ、あれは……」

巨大なスクリーンに映っていたのは、間違いない、プリキュアの一人。
アイドル、春日野うららだった。

女優を目指してを頑張っていた彼女は、今もまだ頑張り続けている。
あの頃より、少し大きくなった。それでいて、大人びたように見える。
思えば、あれから四年。四年たったのだ。当時中学一年生だった彼女も、もう、高校生。

文尾「過ぎたんだなあ、時間が……」

うらら『はい! 私の友達に、すごく明るい子がいるんですけど……』

すごく明るい子。恐らく、彼女の事だろう。
キュアドリーム。私を地獄から救った、明るい太陽のように眩しい、元気な少女。
あの子は、今、元気なのだろうか。

文尾「…………」

何を考えているのだ、私は。

あの子は今、きっとパルミエ王国を復興させて、その後……どうなっても、私には関係無い。
いいや、違う。私が関係無いのだ。

あの子は、あの子の人生を歩んでいる。私はその子に救われた。
その関係で、十分じゃないか。

文尾「さあ、帰ろう、帰ろう!」

ふむ

でき婚してそうだなドリーム

文尾「……やってくれたね、釜野くん」

立ち飲み屋にて、私は釜野くんと一緒に焼酎を一杯ひっかけていた。

釜野「……すんません」

文尾「謝る事は誰にだってできるんだよ、釜野くん」

釜野「……すんません」

文尾「……次こそ、真面目にやってくれるね」

釜野「また、俺を雇ってくれるんスか?」

文尾「それはきみの心次第だよ釜野くん」

釜野「……文尾さん。俺、どうしたらいいんでしょう。頑張るのは、嫌です」

文尾「そうだろうなあ。でも、頑張らないと、どうしようもできない」

文尾「……頑張ればいつか、誰かが認めてくれる。きっと、誰かが」

釜野「その保証は」

文尾「私の経験則だよ、釜野くん」

私は泣きじゃくる釜野くんの背中を摩りながら、焼酎を一口、啜った。

あくる日。

新子「社長!」

出勤してくるなりものすごい剣幕で歩み寄り、私の机を叩く新子くん。

文尾「うわあびっくりした……な、なんだね新子くん」

新子「聞いてください社長! 私、また痴漢にあったんですよ!」

文尾「しらねぇよ……」

新子「今月に入ってもう三度目です! 社長!」

文尾「はい、はい聞いてます!」

新子「どうしたらいいと思いますか?」

文尾「だからしらねえって……とりあえず、乗る電車を変えたらいいんじゃないかね?」

新子「嫌です。その為の時間調整が手間ですから」

文尾「あー、そう……どうしろってんだよ」

新子くんは、いつもこんな調子だ。仕事ができて他の人に迷惑かけない事を除けば、正直クビにしたい。

今日も私は依頼を受けて現場に向かう。

羽出名「あーら、いらっしゃい文尾ちゃん」

文尾「あ、はい、毎度お世話になっています、羽出名(ハデナ)さん」

この女、ハデーニャさんにそっくりな女だ。横柄な所も傲慢な所も、そっくり。

この仕事だけは、他の誰にも任せられない。信用が第一だ。それだけに、失敗は許されない。
こう言った厄介なお得意さんの相手は、私以外に任せられない。そう言う事だ。

羽出名「今日も私のピーちゃんのお世話、よろしくねぇ」

そう言って羽出名さんが突き出すのは、鳥かごに入ったオウム。
嫌な事にハデーニャさんの本来の姿そっくりの色合いをしているのだ。

文尾「はいはい、承りました」

羽出名「んじゃあ、私はこれから仕事に行くから。帰ってくるまでよろしくねー」

文尾「はーい、行ってらっしゃい」

私は羽出名さんを見送り、ピーちゃんを見る。

文尾「ったく、ピーちゃんって面じゃねえだろ……」

ピーちゃん「ピーチャンッテツラジャネーダロ! ピーチャンッテツラジャネーダロ!」

文尾「おわわああ、やめろ、忘れろ忘れろ!」

羽出名さんが帰ってきた事で、私の仕事は終わった。
私は羽出名さんの家を後にし会社に戻る。

文尾「あー、ただいま」

切間「おかえりなさい、社長」

近田「おかえりなさい、社長」

文尾「おや、切間くんと近田くんだけか……そうだなぁ、切間くん」

切間「は、はい!」

文尾「時間も時間だし、今日は上がってもいいよ」

切間「本当ですか!」

文尾「近田くん、悪いけどここに残って、出かけてる社員みんなに伝えてくれるかな?」

近田「畏まりました」

文尾「じゃあ、切間くん。ちょっと、飲んでいかないか?」

切間「はい! ご一緒させて頂きます!」

この腰巾着な感じが、ギリンマくんとホントそっくりだ。
その代わり、私を慕っている感じがひしひしと伝わってくる。
だからこそ私は、彼の前では尊大に、威張らなければならない。

街の隅っこにあるような居酒屋で、私と切間くんは焼き鳥にパクついていた。

文尾「いやあ、ここの焼き鳥は本当に美味しいねえ」

切間「はい。まったく、その通りでございます」

文尾「みんなはどうかね、切間くん。ちゃんと馴染めてる?」

切間「わ、私が見るに、特に目立った問題は無いかと……」

文尾「そう……それならいいんだよそれなら」

切間「……社長。私は、本当にやっていけるのでしょうか?」

文尾「ん? どう言う事?」

切間「私は、後に入ってきた根矢(ネヤ。新子の名字)さんや、周防さんほど仕事ができません」

切間「このまま、ブンビーカンパニーにいて良いのか……」

文尾「馬鹿だねきみは。ほんとーに変わらない」

切間「えっ……?」

文尾「私はきみを必要としたから雇ったんだよ。きみはただ、頑張ればいい」

文尾「使い捨ての道具なんかじゃあ、決して無い。きみは……きみたちは、私の会社の社員だ」

切間「しゃ、社長……」

文尾「飲みたまえ。せっかくの酒が不味くなっちゃうぞ?」

切間「うぐ、う……はい! 頂きます!」

いつかの日。今日の私は、運送業の真似事をしていた。
個人に対して小さな荷物を運ぶ場合、我が社に頼んだ方が安くて早いともっぱらの人気である。。
それも日頃重ねた信頼の賜物であると考えると、感慨深い。

今日の運び先は、ブレッドさんのお宅。
名前でお気づきだろうが、ブラッディさんのそっくりさん……と言うかもはや本人だ、あれは。
一応他人で、ブレッドさんは人間らしいが……念の為、絶対に河合くんは連れてこない。

ブレッド「おつかれ、文尾さん」

文尾「あ、こりゃブレッドさん! 今日はブンビーカンパニーをご利用頂きありがとうございます」

ブレッド「君の会社は誠実だからね、故に、私もこうして依頼する」

文尾「ありがたい話です、はい」

ちょいとした会話をしてから、私はブレッドさん宅に必要な物を運びこむ。
今日の荷物は少しばかり大きく、重いため、御老体たるブレッドさんに運ばせるわけにはいかないのだ。

ブレッド「すまないね、文尾さん」

文尾「いえいえ、これくらいなんて事ありませんよ……ああ、ちょっと釜野くんちゃんと持って!」

釜野「す、すんません社長!」

ブレッド「文尾さん……少し、話があるのだが、良いかね?」

一仕事を終えて、私と釜野くんは会社に戻ろうとしていたその時だった。

文尾「あはあ、ブレッドさん。釜野くん、先に帰ってくれたまえ」

釜野「うーっス」

文尾「えー、失礼しました。はいどんな御用件で?」

手を揉みながら、用件を聞く。小物臭いが、昔からの癖で目上の人と話す時はついそうしてしまう。
悪い癖だとは分かっているし、お客様にも失礼だろうからどうにかしたいのだが……。

昔のトラウマと言うべきか、中々離れてくれないのだ。

ブレッド「……文尾さん。きみは、将来の事を考えているかね?」

文尾「えっ、えっとそのー、将来?」

ブレッド「うむ。きみはきみの会社を続け、歳を取り、やがては他の人間に後を託すだろう」

ブレッド「そうなった時、きみはどうするか、考えているか?」

文尾「そ、そんな事を唐突に言われましても……」

ブレッド「私は、いつの間にか歳を取っていた。その時、私は何をするべきか、戸惑ってしまったのだ」

ブレッド「結局、こうして隠居生活を楽しむ事を選んだがね……それでも、少なからず後悔しているよ」

ブレッド「若かりしあの頃を羨みながら、今の自分を、恥じている」

ブレッド「きみはとても良い人だ。だから、私のような目にあって欲しくない」

ブレッド「老いて古ぼけた人間の、どうしようもない昔話だよ……」

しかし、その言葉は私の心に重く突き刺さった。決して他人事では無いからだ。
ブレッドさんの言葉通り、歳を取った私は、ブンビーカンパニーを他の者に任せて去るだろう。
その後、私は何をするのか。何をするべきなのか。

一度だって、考えた事は無い。
今の私は、ただひたすらに会社を大きく、ビッグな組織にする事だけを考えている。
仕事と言うのはある種の麻薬のようなもので、没頭すると他の事などこれっぽっちも考えられない。

文尾「……その時の事は、私も良く分かりません」

……望みが叶うとするのなら、一つだけ。
そうして歳を取った後も、誰かの役に立てたら良い。

文尾「ですが……」

ブレッド「うん?」

そうだ、私がブンビーカンパニーを立ち上げたのはその根底に「人助け」があるからだ。
あのプリキュアたちのように。あの、キュアドリームのように。
そのようにして、いつでも誰かを、助ける事ができたらと、考えたからだ。

ブレッド「……ふむ」

文尾「今と同じような事ができていたら、良いと考えています」

ブレッド「……そうか。気を付けて、帰りたまえ」

文尾「はい! それでは、失礼します。またの御利用をお待ちしています!」

そうして、私はブレッドさん宅を後にした。
心に、まだ見ぬ老後の事を秘めて。

数日後。私は、会社の入り口前で河合を待っていた。
今日は、会社に重要な荷物が運び込まれる。その運搬を河合に頼んだのだが、大丈夫だろうか……。

文尾「それにしても遅いなまったくもう……」

靴の先で地面を鳴らし、いらいらを抑えながら待つ事数十分。
ようやく、カートに荷物を乗せた河合が現れた。予定していた時間より大分遅い。

文尾「あー、やっと来たよ。河合くーん、こっち、こっち!」

私は手を振り、河合に指示をする。あの男、まったく悪びれていないな、腹立たしい。

文尾「そこ、溝があるから気を付けて……」

と、言った傍から、早速カートの車輪をその溝に挟んだ。
時既に遅しとは正にこの事で、そうして行動をキャンセルされたカートから、荷物が零れ落ちる。

文尾「ってあらららららららら!」

私は悲鳴を上げながら、落ちる荷物に駆け寄る。

その中に、見てしまった。

不気味に笑う白いマスクと、黄色と緑の奇妙なボールを。

文尾「ま、まさか、アレはっ……!」

その二つは、何の因果か、地面に落ちた荷物の上に重なって、同化した。

その二つこそ、かつて私が所属していたナイトメア、及びエターナルで使用されていた兵器のようなもの。
コワイナーとホシイナーを作りだす為の、悪魔の兵器だ。
どうしてアレが、あんな所に。どこかから、漏れたのだろうか。

いや、重要なのはそんな事では無い。

その二つが今、再び、命を宿した――――。

コワイナー「コワイナ~~~~~~!」

ホシイナー「ホシイナーーーーーー!」

黒い泥のようなコワイナー。道具を怪物へと変化させるホシイナー。
巨大なその二つが影を作り、今度は、私の前に立ちはだかった……!

河合「な、なんだ……これは……!」

いや、それどころでは無い。奴等の傍にはまだ、河合くんがいる。

文尾「河合くん! 逃げたまえ、すぐに! 逃げるんだ!」

河合「しゃ、社長……しかし、荷物が!」

文尾「私がなんとかしよう、だから、きみは早くそこから逃げるんだ!」

河合は私を見て、二つの怪物を見て、もう一度私を見て。
見た事も無い怯えた顔を見せて、その場から逃げて行った。

文尾「ふふふ……カワリーノさんのあんな顔、初めて見たよ……」

そんな事を言いながら、二つの怪物に臨む。奴等は既に、私を目標と見定めたようだ。

文尾「この姿に戻るのは久しぶりだが……私の会社に傷を付けると言うのなら」

私は構えながら、肉体の構造を変化させる。いや、元に戻す。
あの頃……忌まわしき悪魔の組織に属していたあの頃の自分に、体を戻す。

ブンビー「容赦はしないッ!」

コワイナー「コワイナ~~~~~~~!」

ホシイナー「ホシイナーーーーーーー!」

コワイナーとホシイナーは、同時に私へと襲いかかる。
私のすぐ後ろには、私の会社がある。ここを、破壊させるわけにはいかない。

ブンビー「うおおお、はーーーーーっ!」

右腕から針を打ち出す。時間はかけられない。なるべく早く、なるべく正確に狙いを定め、複数放つ。
幾つもの針は二手に別れ、それぞれ怪物へと衝突する。威力は低く、その挙動を僅かに逸らすだけに終わる。

ブンビー「くっ……」

そして、私の体には酷い痛みが走る。
スランプがあったからか、それとも……これが老いか。

ブンビー「さあ、こっちだ!」

苦しんでいる時間は無い。すぐにその場を離れ、コワイナー、ホシイナーの後ろへと周り、叫ぶ。
遠く、離さなければいけない。人がいない、そんな場所へと誘導をしなければならない。

私の声に反応して、コワイナーとホシイナーは振り向く。
それでいい、私はそうしてコワイナーとホシイナーを挑発しながら、移動する。

ブンビー「ほら、どうした! どうした!」

時に、少しでもダメージを与えようと細かい針を撃つが……あまり効果が見られない。
そんな時、ちょうど、人がいない、開けた場所に出た。ここならば、周囲を気遣う憂いも必要無い。

ブンビー「おおお、ハアッ!」

先ず一撃、コワイナーの体に一撃を、上気味に叩き込む。
そうして上空に吹き飛んだコワイナーの、更に上に回り込み、今度は振り下ろした拳によって地面に叩きつける。

ホシイナー「ホシイナーーーーーー!」

ブンビー「甘いんだよォ!」

その隙を狙い跳んだホシイナーの、振り払った腕をかわす。
その懐に、力の限りの回し蹴りを叩き込もうとしたその時。

コワイナー「コワイナ~~~~~~!」

ブンビー「ぬぁにッ!」

戻ってきたコワイナーの拳が、私の体を捉えた。

ブンビー「ごはっ……!」

鈍い痛みだ。地面に叩きつけられる事は……慣れていないわけではない。
しかし、久しい痛みだ。まるで忘れていた、戦いの痛み。
あの頃の私ならば、例えコワイナーとホシイナーを同時に相手しても勝つ事ができただろう。
いや、その倍、更に倍は余裕だったはずだ……たぶん。

戦いの場を離れていたと言うのは、それだけ重い事なのだろうか。

ブンビー「……仕方ないだろう、私はもう、戦わないと決めたのだから……」

言いながら、立ち上がり、コワイナーとホシイナーを睨む。
やつら、未だにピンピンしていやがる。まさか、高級品か……?

ブンビー「だが、私は戦うぞ! 社員の為に、会社の為に!」

跳躍し、一気にホシイナーに迫る。私はかつて幹部だった男だ。
たとえ衰えていても、この速さだけは捉えられるわけにはいかない。

ブンビー「道具の分際で、図に乗るなア!」

怒りのままに、二度、三度、四度、拳を打ち込む。
最後の拳を一際強く、そうしてホシイナーを吹き飛ばして、次はコワイナーだ。
その流れのまま、一発の蹴りを、一気に振り抜く。コワイナーはそれで吹き飛ぶが、まだだ。
私は更に迫り、コワイナーに追撃を加える。

ブンビー「おおお、おおお、おお、おおおおお!」

ゼリーのような感触だが、手応えはある。

ブンビー「お前は、私の最大の壁だ!」

ブンビー「だから……ここで、お前たちを、潰してやる!」

言葉の終わりと共に、強く、コワイナーを殴り付ける。ホシイナーと同じ場所に、殴り飛ばした。
その方へと狙いを定め、右腕の砲身に力を籠める。今の私の体が耐えられる限界まで。

ブンビー「消え去れええええ!」

叫びと共に、巨大な弾とも取れる針が射出される。
真っ直ぐに突き進み、コワイナーとホシイナーに直撃、爆発。
土煙りが上がり、確認はできない。が、あれほどの威力の攻撃を受けたならば、無事では済むまい。

ブンビー「……さらば、ナイトメアとエターナルの負の遺産」

そう思っていた、その時まで。

「コワイナ~~~~~~~!」

「ホシイナーーーーーーー!」

私の上空から、悪夢のようなその声が聞こえるまで。

思わず、見上げた。その時には、既に、遅かった。
私の体は二つの怪物によって潰され、蹴り飛ばされ、宙を回る所を殴られ。
無様に、地面に転がった。変身も解け……私は、人間の姿になっていた。

文尾「あ、が、は……」

私の力は、そこまで衰えていたのか。私は、そこまで老いていたのか。
忘れていた時間と言うのは、そこまで重くのしかかるのか。

私はここで、負けてしまうのか。
私が負けたら、会社は、社員は……。

ああ、こんな時。

文尾「プリキュアが、いたらなあ」

とうとう、言ってしまった。その泣き言を。

文尾「すまない……すまない、みんな」

大人げなく、私は泣いた。目の前の怪物を、どうにかする事ができなかった。
私は社員を守れなかった。プリキュアのようになれなかった。

コワイナー『コワイナ~~~……』

ホシイナー『ホシイナーーー……!』

私は……。


『ブンビーさん!』


とうとう、幻聴まで聞いたらしい。キュアドリームが、私を呼ぶ声だ。
いや、呼んだ記憶と言うのが正しい。ああ、ほら、私の目の前に、走馬灯が見える、
最近の走馬灯と言うのは、優しいものだ。実態が、ある。

そう、私の前に、五つの光が……。

五つの、光。

私は意識を繋ぎとめて、しっかりと目を見開く。

間違いない。そこにいるのは、あのシルエット。

ピンクのシルエット。赤いシルエット。黄色のシルエット。緑のシルエット。青のシルエット。
私がかつて戦い、その結果、憧れたあの姿、影。
その姿は……。

文尾「プリキュア……」

その中の一人、ピンクのプリキュアが振り返る。キュアドリームが……。

「大丈夫ですかっ?」

違う。キュアドリームでは無い。キュアドリームとは違う、別の少女だ。

「なんや、バッドエンド王国ちゃうんかい!」

「で、でも、ものすごく怖いよ……」

「新手の敵ってわけだね……」

「気を引き締めて行きましょう」

「大丈夫だよ、おじさんは、そこでじっとしてて」

少女は優しく微笑み、かと思えば勇ましい顔をして、コワイナーとホシイナーに向かう。

「いくよ! サニー! ピース! マーチ! ビューティー!」

文尾「プリ、キュア」

私には分かる。彼女たちはプリキュア。しかし、私が知るプリキュアとは別人だ。
いや、今はそんな事、どうでもいい。彼女たちは、掛け声と共にコワイナーとホシイナーへと飛びかかった。

文尾「プリキュア……プリキュア」

私の中には、複雑な感情が渦巻いていた。プリキュアに会えたが、「プリキュア」ではない。
しかし彼女たちは戦っている。プリキュアが戦っている。
その後ろで、私は見ているだけなのか。あの時とは違い、届く場所なのに。

文尾「……私は……」

彼女たちが戦っているのは、コワイナーとホシイナー。
奴等は言わば、私が片付けなければならない過去だ。私が、けじめをつけなければならない。
それならば、私は……。

ブンビー「私も、戦うぞっ!」

再び、二つの怪物目掛け、跳躍する。

今度ばかりは、私も逃げやしない。

「くぅ……!」

目の前で、ピンクのプリキュアがコワイナーに押されている。
他のプリキュアは……上手く分断されてしまったらしく、ホシイナーの相手をしている。

ブンビー「プリキュア!」

跳躍の勢いを殺さず、プリキュアの隣を過ぎて、そのままコワイナーを蹴り付ける。
狙った事ではあるが、勢いが強すぎた。コワイナーは、引き寄せられるように吹っ飛んでいった。

「へ? うわ、うわわ! なに!?」

プリキュアは私を見て慌てふためき、しかし攻撃の構えは取らない。
明らかに悪役然とした姿だが、自分を助けた相手だ。そのあたりを悩んでいるのだろう。

ブンビー「大丈夫か、プリキュア!」

「え? あ、はい……あの、あなたは?」

ブンビー「……私の事など、後で良い! それより、こいつらをどうにかする方が先だ!」

ブンビー「こいつは私が相手をする。きみは、仲間と共にあっちを相手してくれたまえ!」

横目で、プリキュアの仲間とホシイナーを見る。
苦戦と言うほどではないが、そこそこに手こずっているように見える。
しかし、プリキュアは揃って本当の力を発揮する。

この少女があちらに行けば、戦況は大きくこちらに傾く。
いや、勝利が確定する。

「でも、それじゃああなたは!」

この状況でも、私の事を心配する。お人好しは、プリキュア共通なのだろうか。
そう思い、つい、笑ってしまった。私はサムズアップを見せてやる。

ブンビー「私は大丈夫だ……早く行くんだ、プリキュア!」

プリキュアは少し躊躇った後、力強く頷いた。

「……頑張って!」

そして、プリキュアは仲間の方へと走っていった。

ブンビー「……頑張るさ、私は」

コワイナー『コワイナ~~~!』

本当に、頑丈なコワイナーだ。もう私の方へと走り寄ってくる。

ブンビー「……さっきはよくもやってくれたねえ。だけどね……」

拳を握りしめて、迫るコワイナーを睨みつける。

ブンビー「今度はそうはいかないんだよ……」

その状態のまま、腕の砲身に力を籠める。力を籠めて、凝縮する。

コワイナー『コワイナ~~~~~~~!』

ブンビー「私は、負けるわけにはいかないのだよ!」

限界点まで達した「弾」の拳を、力の限りコワイナーにぶつける。
続いて、放つ。超至近距離による必殺の針だ。その上、先ほどよりも威力を高めてやった。

ブンビー「せえあありゃりゃりゃりゃりゃりゃアアアッ!」

まだまだ、油断はしない。極大の針をぶつけた後は、小型の針を連射する。ひたすらに、ただ、ひたすらに。

私の気合いの攻撃は、祈りは、通じたのだろうか。蓄積されたダメージが相当なものだっただけかもしれない。
コワイナーのマスクにひびが入り、そして砕けた。

ブンビー「はあっ、はあっ、はあっ……」

気付けば、私は肩で息をしていた。こんなに動いたのは久しぶりである。
日頃重労働と言えばそうだが、戦いに比べたら生温いものであると、改めて思い知らされる。

コワイナーの消滅を見届けた私の後ろで、強烈な光が発生する。
きっと、プリキュアの必殺技だろう。きっと、そうだ。

やっと、私は解放された。
ナイトメアの悪夢から。エターナルの恐怖から。

「おじさーん!」

感傷に浸る私の方に、プリキュアたちは駆け寄る。

「大丈夫でしたか?」

ブンビー「あ、ああ……」

サニー「……この人、敵ちゃうんか?」

ピース「ちょ、ちょっとカッコイイかも……」

マーチ「バッドエンド王国のやつらとは違うみたいだけど……」

ビューティー「虫……なのでしょうか?」

ああ、この子たちは、プリキュアでは無い。だけど、「プリキュア」だった。
性格も違う、好きな物も違う、ばらばらな五人で形成された、プリキュアだった。

シエン

言いたい事は、沢山ある。
きみたちは誰なのか。きみたちは、どうしてプリキュアになったのか。
きみたちは戦うのが辛くないのか。きみたちはなんの為に戦うのか。

きみたちは、「キュアドリーム」を知っているか。

……私はそれらの言葉を飲み込み、笑って見せた。

ブンビー「ありがとう、プリキュア諸君。きみたちのおかげで、助かったよ」

「え、えへへ……どういたしまして」

ブンビー「一つ、聞かせて欲しい。きみは、なんて名前なんだい?」

「えっと、私、ほしぞ……じゃなくて。キュアハッピー。私は、キュアハッピーです」

キュアハッピー。「嬉しい」と言う意味の、プリキュア。

ブンビー「……ありがとう、キュアハッピー。では、私はここで失礼しよう」

私と言う時代遅れなお邪魔虫は、彼女たちの前にいるべきではない。
踵を返し、その場を立ち去る。

ハッピー「あなたは! あなたは、なんて名前なんですか!」

ブンビー「……ブンビー、だ」

ハッピー「……またね、ブンビーさん!」

あの日の事は、私だけの秘密にしている。

文尾「あーっ、ちょっと河合くんちゃんと働いて!」

河合くんには……「夢」と言う事にして誤魔化しておいた。
無駄なトラウマを植え付けずに済むのであれば、それが一番だろう。

文尾「あわわ、切間くん、急いで現場に向かってくれたまえ!」

それから、我が社はいつもの風景に戻った。人知れず私だけが変わったのだ。
だけどあの一日で、私は、色々と考えた。

文尾「げげえー! か、釜野くんがまた逃げだしたァー!?」

私はやはり、人の役に立つ仕事をしたい。今も、これからも、ずっと。
誰かに助けられると言うのはとても気持ち良くて、嬉しい事だから。
プリキュアのように、誰かを助けたい。それが、私の将来の夢だろう。

文尾「あ、新子くんはまだ来ていないのかね!」

……年甲斐も無い、と思う人もいるだろう。時々、私も思う。
でも、私がそうしたいのだ。ならば、今はそれでいい。

文尾「くそっ、私が行く! 近田くん後は頼んだよ!」

文尾「いってきまーす! あわわ大変だぁ……!」

文尾「ひー! こりゃ間に合わん!」

あの日以来、私はプリキュアに会っていない。私がそうするべきと思ったのだから、当然だ。
とは言え、キュアハッピーは「またね」と言った。

「みゆきちゃん、こっちこっち! はーやくしないと、ドーナツ売り切れちゃう!」

なんて事無い一言だが、彼女はプリキュアだ。

「ま、待ってくださーい、のぞみさーん!」

もしかしたら……そんな事もあるかもしれない。そうとも、考えてしまう。

文尾「うわっ!」

「わあっ!」

「の、のぞみさん! 大丈夫ですか!」

文尾「あいたたた……わ、悪かったね、きみ……」

「こちらこそ、すみませんでした……」

万が一として、そう言う事があった時。

「……ブンビーさん?」

文尾「へ?」

ちょっとした奇跡も、ついでに起こるのかもしれない。

おわり

こんな事もあるかもしれないし、あったらいいねブンビーさん
スマイルプリキュア終わる前にやりたかっただけなんだけど、もう少し待ったら良かったよ
ムカーディアの出番無かったけどあいつは多分アナコンディといちゃいちゃしてるからいらないよね


ほんと、あるといいな

今気付いたけどビューティーじゃなくてビューティだったよごめんねれいかさん


この時間の進み方だとのぞみとゆりさんが同い年になってるはず

そうだよ、みんな高校生以上だよ
最初はのぞみたちを出そうと思ったけど大学生もいるのにプリキュアって正直きついと思った
ちょうど五人のプリキュアやってるからそっちに出てもらった、あとちょっとで最終回だけど

ブラァッはいま何歳になったの
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