小梅「ともだちの作り方」 (13)

・アイドルマスター シンデレラガールズの二次創作です。
・ト書き形式ではなく、一般的な小説形式です。人によっては読みにくいかもしれません。
・約3500字、書き溜め済みです。数レスで終わりますので、さっと投下します。

前置きは以上です。お付き合いいただけると嬉しいです。

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 誰かと仲良くなるって、どうすればいいんだろう?
 ときどき私は、おとなの人や同じ学校の子たちに訊いてみたくなる。
 変な子だって思われるから口には出さないけど、
 それは私がいつもぶつかる、すごく難しい問題。

 コミュニケーションがうまく取れない。
 他人に言われなくても、自覚はある。
 こうやっていろいろ考えたりしてるけど、実際誰かの前に立つと、
 緊張して、恥ずかしくて、だめになっちゃう。
 よく言葉がつっかかっちゃうし、あんまり長くも喋れない。
 だから私には、友達もほとんどいなかった。

 夜更かしばかりでできた深い隈も、伸ばしっぱなしの前髪も、
 陽に当たらない白い肌も、両手を隠す長い袖も、私が好きで身に着けたもの。
 今更変える気もないけれど、きっと“これ”が原因で近づかない人もいたのかな、って思う。
 映画や心霊スポットの話をしても全然趣味が合わない。
 どころか、前には一回泣き出す子までいた。
 私だけにしか見えないらしい『あの子』も含め、趣味のことを人に教えなくなったのも、その時から。

 そういう積み重ねがあって、気づけば私は学校でもほとんどひとりだった。
 暗くて、外に出なくて、不気味な子。
 みんなは私をそんな風に見てたんだろうし、私も、そう見られても構わなかった。

 苦手なことなんて、誰だって進んでやりたくない。
 私にとってはそれが、人との会話だったってだけのこと。

 ……仕方ない、よね?

 みんなが嫌いなわけじゃない。
 ただ、困らせたくない。必要以上に嫌われたくない。
 学校で女の子たちがわいわい楽しそうにしてる外で、毎日私はぽつんとしてた。
 たまに見かねた子が話しかけてくるけど、長くは続かない。
 私と話したって、面白くないから。

 囲まれて、明るくて、会話の中で“ともだち”を笑わせたりする——そんな子を、すごいと思ってた。
 ほんのちょっとだけ、あんな自分になれたらな、とも。

 だから、かもしれないけど。
 プロデューサーさんにスカウトされて、
 趣味以上に楽しいことが、もしかしたら見つかるかもって。
 アイドルになれたら——
 今よりうまく、誰かと仲良くなったり、できたらいいな、って。

 おなじ事務所には、本当にいろんな人がいた。
 びっくりするくらいみんな年齢も性格もバラバラで、
 最初はやっていけるのかなって心配になったけど……
 結構すんなり馴染めたのは、いい人しかいなかったから、かもしれない。
 気難しそうだな、近づきにくいな、って思ってた人でも、
 ちゃんと話してみればそんなことなくて、打ち解けられたりもした。

 あるいは私も、そう見られてたのかな。
 私が他人をそうやって見てたように。
 だとしたら、努力が足りなかったのは私の方だったのかもしれない。
 もういいやって諦めるのが、早過ぎたのかもしれない。

 ……自分から歩み寄ることを、もう一度がんばろうと思った。
 積極的に私から話すのは、事務所の中でもプロデューサーさんだけ。
 もちろん他のみんなと全く話さないってことはないけど、
 仕事の話も趣味の話も、全部包み隠さず言えるのは、
 今のところプロデューサーさん以外にいない。

 少しずつ、でも。
 アイドルになろうって決めた時みたいに、変わっていけたら。
 そう、決意した私の前に——あの子が、現れた。

「赤城みりあ、十一歳です! よろしくおねがいしまーす☆」

 彼女が入るまで、事務所で一番の年下は私だった。
 だから、小学生の子をスカウトしてきた、なんてプロデューサーさんが紹介した時は、
 いったいどんな子なんだろうってどきどきしてたんだけど——初対面で、そんな気持ちは全部吹き飛んだ。
 あいさつもそこそこに、彼女はその場にいた一人一人の手を取って、
 笑顔で「仲良しの握手だよっ」ってぶんぶん振り回した。当然、私に対しても。

 なんて返事をしただろう。
 確か「よ、よろ、おね……」みたいな感じで、まともに言えてなかった気がする。
 それくらい衝撃的で、困った。
 たとえ相手が年上でも全く物怖じしない。
 私が憧れた、学校のクラスメイトみたいな子だった。

 自己紹介で、
「カワイイものにたーっくさん囲まれて、楽しいことをたーっくさんできるアイドルになりたいです!」
 なんて言ってたところは、なんだかすごく年相応というか、
 こどもっぽかったけど……そういう、いい意味でのこどもらしさを、
 プロデューサーさんはたぶん気に入ったんだろう。

 私からすれば、彼女は嵐のようだった。
 例えば先日、初めて一緒にお仕事をした時の話。

「ねえねえ小梅ちゃん、今日はよろしくねっ! あ、私のことは、みりあって呼んでいいよー♪」
「じゃ、じゃあみりあちゃん、で……というか、こ……小梅、ちゃん……?」
「うんっ。年も近いし、小梅ちゃんは小梅さんって呼ぶより似合ってる気がしたんだ」

 一応私の方が年上なのに。中学生なのに。
 ……とは、もちろん言えなかった。
 お仕事自体は当然まだ不慣れで、おぼつかないところも山ほどあったけど、
 プロデューサーさんやスタッフの人たちにいっぱい話しかけて、
 あっという間に溶け込んでしまった。私じゃそうはいかない。

 帰りの車の中で、どうして私とみりあちゃんを組ませたのか、
 ってことをなるべく遠回しに訊いてみた。
 赤信号で停まったところでプロデューサーさんは、
 初めてのお仕事で疲れて寝てるみりあちゃんと、私を交互に見てから、

「きっと二人のためになると思ったからね」
「で、でも……私、うま、く……やれるか……」
「大丈夫。心配なら、とりあえずは俺を信じてくれればいいよ」
「……そういう、ことなら……わかりました」

 たぶんこの時点で、プロデューサーさんは見越してたんだと思う。
 それが大人だからなのか、プロデューサーさんだからなのかは、私にはわからないけれど。

 趣味はおしゃべりだって言ってた通り、みりあちゃんは本当によく話す子だった。
 とにかく会話のペースが早い。そして話題も多い。
 昨日のテレビでやってた番組とか、最近流行りのものとか、
 事務所であったこととか、お仕事の時に感じたこととか。
 空いた時間があれば、まず私に声をかける。
 そうしてスプラッタ映画で見たマシンガンみたいな速度で、
 受け止めきれない言葉が私の耳に飛び込んでくる。
 結局私はあいづちのひとつさえつけずに、そのテンションに圧倒されて、黙って俯いてしまうばかり。

 彼女自身がまるでめげないからか、気まずくはならなかったけれど、
 私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 うまく返事もできない、口下手な話し相手で、彼女も困ってるだろう。

 ほんとはちゃんと、お話ししたかった。
 私がどう思ってるか。何を考えてるか。
 お仕事の話。事務所のみんなの話。学校の話。趣味の話。
 頭の中の言葉を伝えて、共有して、一緒に笑ったり、楽しんだりしたかった。

 ……どうして、うまくできないのかな。
 お前は“変な子”だって、改めて突きつけられた気がした。

 事情が変わったのは、少ししてから。
 お仕事の前、二人きりになった時、いきなり「ごめんねっ!」と頭を下げられた。
 いきなり過ぎて、どうすればいいのかわからなかった。

「えと、あ、あの……べ、べつに、謝ること、ない……と思う」
「ううん。私、小梅ちゃんのこと、ちゃんと考えてなかった。
 だって私がお話ししてた時、小梅ちゃんずっと聞いてばっかりだったもんね」
「……でもそれ、わた、私が……うまく、話せないから」
「あのね、昨日の夜、ママに相談したんだ。
 なかなか仲良くなれない子がいて、どうしたら仲良くなれるのかなって」

 みりあちゃんのママは、彼女にこう言ったらしい。
 世の中には、みりあみたいに誰とでもお話しできる子だけじゃないの。
 別に話せなくたっていいって子もいるし、話したいけどうまく言えない子だっているわ。
 もし、自分のことをうまく言えない子だったら、
 あなたはまず、ちゃんと話を聞いてあげなさい。
 自分の話をするだけじゃなくて、ね?

「だから、小梅ちゃんの話、いっぱい聞かせて!
 小梅ちゃんのこと、いろいろ教えてほしいなっ」

 ——誰かと仲良くなるって、どうすればいいんだろう?
 その答えを、私は、彼女から教えてもらった。
 諦めないこと。
 お互いに、歩み寄ること。
 だったら次は、私の番。
 いろんなことを話そう。
 あんまり理解されない趣味のことも、学校でともだちができないことも、
 アイドルになって上達してる歌のことも。
 ……彼女と、ちゃんと“ともだち”になりたいことも。

 お仕事が始まるまで、そしてお仕事が終わった後にも、私たちはたくさん話した。
 私はやっぱり口下手で、どもって、たどたどしい喋りになっちゃってたけど、
 みりあちゃんは楽しそうに聞いて、割とズバズバ物も言って、
 最後に「これでともだちになれたかな?」って、手を差し出してくれた。
 私は袖をまくって、その手を握る。

 こうして私に、年下の“ともだち”ができた。
 みりあちゃんに関して、新しく知ったことはふたつある。
 ひとつは、頭を撫でると小動物っぽくてかわいいこと。
 もうひとつは、

「それでね……振り向くと、斧を持った……男の人が、目の前に、いて……ね」
「きゃあー! きゃあー!」
「……今度……一緒に、見る……?」
「も、もうちょっと大人になってからで〜!」

 こどもらしく、怖い話が苦手ってこと。
 なかなか私の趣味は、理解してもらえないらしい。

以上になります。
文学少女じゃないですけど、実は頭の中で色々考えてるのに上手く喋れなくて無口な子、っていいですよね。
小梅ちゃんにとって、アイドルになったことはすごくある意味前向きな気持ちの表れなのかなと思います。

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白坂小梅(13)

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赤城みりあ(11)

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