照「はなせばわかる」(197)

照「咲ー、起きてるかー?」コンコン

照(返事が無い)

照「……」

照「まったく」

ガチャ

照「おーい」

咲「……うん、」

照「起きろ咲ー」ユサユサ

咲「んんー」

照「あかん」

照「いけ、淡」

淡「サキー!!」ダキ

咲「んんん!?」

淡「この寝ぼすけー!起きろー」

咲「うわっ、淡ちゃん!?」

淡「なにが『うわっ』だよ! 二十三にもなってまだ一人で起きれないのかーっ」

咲「起きる、起きるよ! だから離れて」ムギギ

淡「うるしゃーい。こいつは罰だー」スリスリスリ

照「……」

照「いいなぁ」

 
照「どうだ、堪能できたか」プルプル

淡「なんでちょっと怒ってるの」

照「怒ってなんかないよ」

淡「どうせ姉妹だからとか余計なこと考えて、素直になれないんだよ」

照「むっ、知った口を」

淡「大当たりだね。昔はもっと本音だだ漏れのポンコツだったのにずいぶん大人しくなったもんだ」

照「さ、流石にこの年で朝のお目覚めチューはできない……」

淡「いや、そこまで言ってないけど、もしかしてマジな願望?」

照「淡……」

淡「どしたん」

照「忘れてくれ」

淡「ひひひー。これ一つ貸しね」

 
照「用意はできたか」

淡「うむ」

咲「できたよー」

照「よし、では運転だが、」

淡「私ー!」

照「淡はついこの前電柱にぶつけたばかりじゃないか。ここはわた」

咲「私が運転するよ! 正直おねえちゃんの運転も……」

照「なっ!?」

照(姉としての威厳が……まずい)

照「大丈夫だ咲、以前のようなミスはしない」

 
咲「スッテカーばりばりのミニ煽ったりしない?」

照「うん」

咲「渋滞巻き込まれても、歩道のりあげない?」

照「もちろん」

咲「高速のインターチェンジで後輪滑らせながら曲がらない?」

照「そんなことしたっけ……?」

咲「約束やぶったら、今後一切お姉ちゃんが運転する車には乗らないよ」

照「そんなぁ」

咲「いやいや交通ルールだからね」

淡「……本当仲いいなぁ二人は」クスクス

咲「……///」

スッテカー

ステッカー

 
ブロロロ

淡「というわけでレッツゴーだ!」

淡「……あれ、今日はどこ行くんだっけ?」

照「どこって大阪だよ。昨日までその話しかしてなかったじゃないか」

淡「いやー、アルコール入ってべろんべろんだったからさぁ、私って酔うと完っっ全に記憶なくなっちゃうんだ」

照「そんな、すごいだろ、って顔されても……」

咲「私なんかすぐ寝ちゃうから全然飲めなかったよー」

淡「へ? じゃあ誰が布団まで運んでくれたの?」

照「……私だよ。お前らちっとも動かないから大変だったんだぞ」

淡「テルの数少ない長所欄に酔わないって項目が増えたね」

照「……なかなか今日は挑発的だね淡……」ゴゴゴ

咲「ちょっと、さっきの誓い忘れた?」

照「ぐっ……。そうだ、今日はまともな運転を心がけないと」

淡「あ、後ろから4tトラックが煽ってきてるよテル!」

照「なんだとおおおおお!!?」ギュルルルル!




咲「予想はしていました」

照「はい」

咲「淡ちゃんも煽らないように」

淡「はい。ごめんなさい」

咲「運転は私がします」

照「はい」ショボーン

咲「言ったそばからだよ」プンスカ

照(うへー、やっちまっただー)

 
照「咲ー」ウルウル

咲「……」

照「そんなに怒らないでよー」

咲「……怒ってないよ」

照「怒ってる、だって」

咲「だってなに?」

照「私の目、見てくれないし、口調怖いし」ウジウジ

咲「ふー、……じゃあちょっときついこと言うよ」

照「……」

咲「お姉ちゃんはね、いつも受身なんだよ。行動が一手遅れて相手が嫌な顔してようやく慌てだす」

 
咲「あれだけ注意したのに、周りに流されちゃって、ようやく非があるとわかったら必死に相手の顔色を伺う」

照「さ、咲?」

咲「私はね、お姉ちゃんのそういうところ大嫌い」

咲「勝手で、自己中心で、事なかれの主義のお姉ちゃんが、」

咲「――嫌い」

照「……悪いとこ全部直す」

咲「遅いよ」

照「え、」

咲「もう手遅れ。わかってるでしょこれ、夢の中だってこと」



照「……へ?」

 
咲「淡ちゃんどこ行ったかわかる?」

照「あれ……?さっきまで隣に座ってたのに」

咲「気付かないんだね。ずっと私のことしか考えてなかったから」

照「夢っ、――嘘でしょ?」

咲「いい加減大人になれよ」

咲「こんな都合のいい未来なんてあるわけない」

照「嘘だ、だって昨日もお酒飲んで、旅行の話もして、」

咲「その前の日は? 一体どこから大阪へ行こうだなんてことになったの?」

咲「未だに7年前のことを引きづってるの?」

咲「自分の意志は竹井先輩に流されたくせに、『あそこで辞めさせておけば』なんて本気で考えてるの?」

咲「遅い、遅すぎる。チャンスはいくらでもあった。一番身近なお姉ちゃんが発言強いのに、結局は竹井先輩のいいなりじゃないか」

 
咲「どう? 夢の中で妹ごときに説教されている気分は」

咲「でもこれもお姉ちゃんの意志なんだよね。ただの自己否定。選択ミスを犯した贖罪のつもり」

咲「7年前の夏、インハイ決勝で淡ちゃんに壊された私を救い出したのは竹井先輩で、」

咲「お姉ちゃんは指をくわえて見てるだけだった。自力で何もせずに思考を止め、崩壊していく妹に慌てふためく」

照「やめて」

咲「やめない。なぜならお姉ちゃんが望んでいるから。お姉ちゃんの希望だから私が夢に出るんだよ」

照「お願い、やめ、」グイ

咲「お姉ちゃんはさあ、誰のために生きてるの?――――――



久「大阪来て良かったやろ?」 咲「せやなー」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1352603040/)
久「大阪来て良かったやろ?」 咲「せやなー」

前スレです。貼るの忘れてました

◇◆◇◆◇◆
九月二十日

照「おはようございます」

 「おはよう。一月ぶりぐらいかしら」

照「ええ。開幕前の調整があって忙しくて」

 「大変ねぇ。……じゃあ、面会簿に名前お願い」

照「……はい」カキカキ

 「はいバッジ。荷物はここね」

照「これ、持って入っていいですか? 昨日焼いたケーキなんです」

 「いいけど……、フォークの扱いには注意して。一応ね一応」

照「プラスチックで先が丸いやつだから安全だと思います」

 「……あの子もいい先輩を持ったわ」

照「私の可愛い後輩ですから」

 「淡ちゃん、昔みたいに戻れるといいわね」

照「それまで通い続けるつもりです」

 
照「淡、入るよ」

 「うん」

照「おはよう」

淡「おはよ」

照「……」

淡「……」

照「……えっと」

淡「ははっ。あいかわらずテルは自分から話し出すの苦手だよね」

照「うん、苦手。……あ、これケーキ」イソイソ

淡「おお~~。中見ていい?」

照「いいよ」

淡「!!、綺麗に作れてるだと……!?」

照「練習したからね。喜んでほしくて」

淡「こういうのはすごいブサイクなんだけど、食べてみたらおいしいっていう展開だと思ったんだけどなー」

照「ぷっ、なにそれ」

淡「あるあるだよー。お約束ってやつ」

照「ちょっと作りすぎちゃったかな」

淡「大丈夫大丈夫、冷蔵庫になんも入ってないし、テルーの作ったお菓子大好きだからさ」

照「ありがと、じゃ、食べる?」

淡「うぃ~」

淡「……じゃあお茶を、」ガクッ

照「っと、大丈夫? 立てる?」

淡「……だいじょうぶだいじょうぶへいきへいき」

照「淡?」

淡「……ん。悪いんだけど代わりに淹れてもらえる?」

照「あ、ああ」
――――――
――――
――

 
照「そろそろ時間だ」

淡「……早いね。もう二時間たっちゃったんだ。久しぶりに会えたのに」

照「最近これなくて悪かった。来週、暇な時間にまた来るよ」

淡「そっか。前から思ってんだけど、照って仕事何してるの?」

照「え……? この前言ったよね……?」

淡「んん?? そうだっけ」

照「プロの……麻雀の選手だって」

淡「マージャン? なにそれ」

照「うそ、この前は麻雀のことは覚えてたのに……、なんで、」

淡「ちょっとテル、そんな顔しないでよ。私、変なこと言った?」

照「……私達は高校三年間、何をしてきた?」

淡「高校……、えっと」

淡「――――――――――――夏の、」

 
淡「――誰、この人」

照「どうし、」

淡「私の中で、目の前でっ、知らない、テルに似てる、誰、あっ―――――サキ」

淡「……ァああああああああああっ!」

照「落ち着いて!」

淡「ごめんなさいごめんなさい許して許して許してゆるして!」

照「淡、おいっ!!!」

淡「私の中に入ってこないで!お願い!謝るから!なんでもするから!」

照「だ、だれか」

 「どうしたました! っ、」

照「淡が、おかしくなっちゃって」

淡「離してっ、殺されるぅっ」

 「くそ、暴れるな」


照「――いっ……いつになったらよくなるんだ。いつになったら、」

五年前の夏に当時高校三年だった大星淡の精神は崩壊した。
大将戦の決勝卓、トップを維持できず二着で終わった。
五連覇をかけた戦いだった。ただ、その結果全てが淡を破壊した原因ではない。

卓には私の妹もいた。宮永咲。淡と同じ高校三年。

前半戦の卓を離れる瞬間に、何かを淡に囁いた。
あれが原因。それしかない。
わかっていたのに。こうなることはありえたのに。止めることができなかった。

私の妹は人の心を喰う魔物だと知っていたのに。


決勝終了直後に淡は病院へ担ぎ込まれ、当の加害者は何食わぬ顔で個人戦に参加、そして一回戦を終えた直後に姿を眩ました。


そして五年が経った。私はプロになり、チームメイトの原村和とともに麻雀を打ち続けている。

あれから、妹とは一度も会っていない。
何かしら事件に巻き込まれたのか、それとも自身の意志だろうか。
けれども生きている。それだけはわかる。

 
◇◆◇◆◇◆
十月二十二日 午後三時
ハートビーツ大宮 選手寮

照「あ、寮の鍵、どこだっけ……」ゴソゴソ

照「実家っぽい……。どうしよ」

照「……和いるかな」ピッピッ

オカケニナッタデンワハ オキャクサマノツゴウニヨリ……

照「あれー? 電源切ってるなんて珍しいな」

照「むー」

 ブロロロロ

照「監督の車だ、良かった~」

 キキッ

はやり「照ちゃん? 何してるのかな☆?」

照「鍵忘れちゃって……」テヘヘ

はやり「管理人さんに言えばいいのにー。そんなことより、物忘れ多すぎだぞ☆」

照「またかって顔されちゃうから……。物忘れは昔からです。はい」

はやり「直そうねー☆」

照「精進します。……そういや和知りませんか? さっきから電話にでないし、いつもなら寮にいるはずなんですけど」

はやり「朝に着信あったよ。はやり、朝弱いから起きれなくて気付かなかった☆」

照「でも、電源切ってるなんておかしいですよね」

はやり「そうだね、あと1時間でミーティング始まるのに……」

照「もしかしたら迷子かも。探してきます」

はやり「ちょおっと待ったー!☆」ガシ

照「ぐふへ」

はやり「あなたは大人しく待機。はやりが適当に車でこのへん回っとくから」

照「ごほごほ」

はやり「それにね、迷子になるのは照ちゃんぐらいだよ☆」

照(だから余計に心配なんだよなぁ)

 
照「ふむ……」ペラ

照「この前のは砂糖が多すぎたのか……、なんて初歩的なミスを」

照「今度は何を作っていこうかな。……ミルフィーユ」


 『お姉ちゃん、今度これ作ってよ!』


照「……咲」

照「……ちっ」

照「――忘れろ忘れろ」グシグシ


 『お姉ちゃん、どうしたの?』

 
照「うるさいうるさいうるさい!」バゴン


 『本ぐらい大切に扱おうよ』


照「うるさいっ!!」

ピピピピピピピピ

照「和……じゃない、090-xxxx-xxxx?誰だ?」

ピピピピピピピピ

照「……」ピッ

照「もしもし」

???『もしもし』

照「誰?」

 
???『誰だかは大した問題じゃない』

照(変声機?)

照「イタズラなら切る」

???『別にいいけど。困るのはそっちだよ』

照「何が困る。今私はすごくイライラしているんだ。だからさっさと、」

???『原村和』

照「……和がどうした」

???『見ればわかるよ。とにかく早くみつけてあげて。場所は大塚駅の北口から一番近い女子トイレ』

照「おい!」

???『これ、善意だから。彼女が誰かに見つかる前に。あと警察頼らないほうがいいよ」プツッ ツーツー

照「……なんなんだよ、これ」

照「……大塚駅、北口」ピッピッ

 
照「――もしもし!?」

はやり『ど、どうしたの? 大きな声出すからびっくりしちゃった☆』

照「今から東京の大塚駅まで行けますか?」

はやり『ええっ、ミーティングまであと三十分しかないから、今は無理だよ。それより和ちゃんは?」

照「和がたぶんそこにいます」

はやり『??、もしかして男捕まえに行ってたとか☆?」

照「それは色々と間違ってます。……じゃなくて、たぶん良くないことに巻き込まれたんだと」

はやり『よくわからないけど、はやりは大塚駅へ行けばいいのね☆ その後は?』

照「北口に一番近い女子トイレだと言ってました」

はやり『言ってた?相手は誰?』

照「わかりません」

はやり『……、ミーティングは照が主導で進めて。私はそこへ向かう。何かあったら逐一連絡する。いいわね』

照「はい」

 
照(さっきの番号……非通知じゃなかった)

照「……」ピッピッ

照「……」プルルルルル

プルルルル プルルルル

照「でろ」

プルルルル

照「出ろ、」

???『もしもし』

照「和に何をした」

???『……賭けの代償を』

照「賭け? お前と和は何を賭けたんだ」

???『そんなことどうだっていいでしょ。それより見つかった?』

照「まだだ」

???『……そう』

 
照「和に何かあったら、」

???『……』

照「……お前を絶対に許さない」

???『変わんないね』

照「ああ?」

???『昔からずっとそう。あなたのそれは表だけのうすっぺらい信念。虚勢だけで、あとは空気を読むだけ』

照「おまえ……!」

???『久しぶりの会話がこれって……。まぁいっか』

???『……和ちゃんによろしく。……ごめんって』プツッ

照「……」

照「……咲? ……もしもし」

ツー ツー

照「咲、咲」ピッピッ

オカケニナッタデンワハ

照「咲、出てよ。お願いだよ。……咲」

 
◇◆◇◆◇◆

照「――であるから、明日のオーダーについては私が大将を務める。誰か質問は」

 「あ、あの、オーダー変更については先ほども説明されましたよ?」

照「え゛、……すまない。じゃあ次に、」

 「監督が不在……は、しょうがないかと思いますが、しかし原村さんは?」

 「中堅がいない状態で進められてもしょうがないかと。どこにいるんですか?」

照「えっと、それは……」

ピピピピピピピピ

照「ごめん、少し失礼」

 
照「監督、和は、」

はやり『急いで病院来て』

照「病院?」ビクッ

はやり『うん××病院。そっからタクシー拾って三十分でつくから』

照「何があったんです」

はやり『今はだめ。みんなには解散を伝えて。監督命令としてね。じゃあ切るよ』

照「……」

照「……いかなきゃ」

 
二年前のインハイ決勝を今でも思い出す。
あの年は例年にも増して実力者が多く、大会全体で見れば過去最高のハイレベルな戦いだった。
決勝の解説を任され、無難に、時には熱く、プロとして文句の言われない仕事をこなしていた。

「宮永プロは学生時代、どのような思い出がありますか?」

実況との会話が途切れたとき、温存しておいたであろうネタを出された。
予想できた質問である。

「団体戦三連覇の瞬間ですかね、あの日はすごい舞い上がっちゃって、まるで眠れませんでしたよ」

「おお~、意外ですねー。失礼ながら宮永プロの可愛い一面を見れて満足です」

本当は椅子でくずれ落ちていく咲の姿しか頭になかった。
水滴が落ちた。

「え、あれ、み、宮永プロ? 何か私まずいことを」

それだけで入社二年目の新人アナをパニック状態へと至らしめるには十分な効果があった。

「いえ、ごめんなさい。少し昔のことを。――あ、親がテンパイしましたよ」

「は、はい失礼いたしました。鹿児島の永水女子――」

あの日は少しだけ妹の話題が蒸し返された。といってもそこらの二流の麻雀誌の小話程度だ。
<宮永プロの実妹、未だ消息つかめず>
五年前はそれなりの騒ぎになったが、今では表紙にさえ見出しはない。
これでいいのだと思った。私には妹などいなかった。ひたすら嘘をつき続ければ、それが本当のことだと脳みそが勘違いしてくれる。
現状に不満はそれほどない。そんなつもりだった。

◇◆◇◆◇◆
××病院

照「っ、すいません!」

 「え!? は、はい!」

照「ここで入院、いや、運ばれてきた、原村って人、どこですか?」

 「運ばれきた? 救急車ですか? それとも自家用車で?」

照「えっと、わかんないです!」

 「そうなると、こちらで把握するには、」

 「あなた原村さんて言いました?」

照「はい」

 「ほら、さっき、口外禁止でって」

 「ああ、あの――、申し訳ありません、お名前よろしいでしょうか」

照「宮永です。宮永照」

 「……少々お待ちください」

 「…………」

 「確認がとれました。こちらへ」

 
照「監督」コンコン

はやり「一人で来た?」

照「、はい」

はやり「じゃあ鍵開けるよ。騒がないでね」

ガチャ

シュコー シュコー

和「……すぅ」

照「なんなんですかこれ。何で和が呼吸器つけてベッドで寝てるんですか?」

はやり「静かに」

照「なんで、何があったんですか!」

はやり「静かにして」

照「監督!」

はやり「黙れっづってっら!」

照「……っ」

はやり「ええがや? よー聞け。――和ちゃんね、……暴漢に襲われたのよ」

 
はやり「私が見つけたときは死体袋のようなものに入れられてて、薬で眠らされてた」

はやり「――顔、きれいでしょ? でも体、痣だらけで、」

はやり「……股から出血の後があって、太ももに精液がこびりついてた」

照「警察、……警察呼ばないと」

はやり「駄目」

照「早く、犯人を」

はやり「警察は駄目。この子が入れられていた袋にDVDが入ってたわ」

照「中身は、何が……あっ」

はやり「うん。和が二人の男に犯されているところをひたすら撮られていた。脅しね。警察に行けばネットでも流すとか」

はやり「そのためにここの病院に口外しないよう頼み込んだわ」

はやり「ねぇ、さっき電話で聞いたって言ったわよね?相手の声で誰かわからない?」

はやり「……照?」

 
照「咲だ……、咲が、ごめんって」

はやり「さき……? 妹さん?」

照「なんで、あいつは、和に、」

照「和が何したって言うんだ、何で、」

和「主将、」スルッ

はやり「和ちゃん! 良かった、意識が戻って」

和「――ご迷惑を、お掛けしました」

照「おい、体を起こすな。安静にしろ」

和「何言ってるんですか、明日は横浜との三連戦の初日ですよ? ここで寝てても、……ぐっ……」ガタ

照「……自分が何されたかわかっているのか?」

和「道端で男に捕まり暴行されました。それだけです。私はこんなことより明日のほうが大事なんです」フラッ

はやり「座れ」

和「」ビクッ

はやり「あんたはそれでいいかもしれないが、私は大事な教え子を傷つけられたんだ。犯人を本気で殺したいと思っている」

照「!!っ、……」

 
はやり「照、『咲』といったな」

照「は、はい」

はやり「なぜ妹の名が出た。答えろ」

照「それは……」

和「っ、主将はパニックに陥って、それでわけもわからず咲さんの名を呼んだのでしょう」

はやり「お前に聞いてない。今は照が答える番だ」

和「……咲さんは関係ないです」

はやり「照」

照「あの、その……」モゴモゴ

はやり「……わかった。何か答えられるようになったら、私に連絡しろ。今から寮へ行く」

和「私も行きます」

はやり「そんな状態で明日の試合に臨めるとでも?」

和「問題ありません」

はやり「明日は補欠と交代だ。監督命令。わかるよね」

 
和「……わかりました」

はやり「和――ちゃん」

和「はい」

はやり「無理はしないでほしいな」

バタン

和「……っ」

 
照「ごめん」ギュ

和「なんで主将が謝るんですかっ」

照「ごめんね」

和「やさし、しない、くださいっ」

照「私がいるから」

和「……った」

和「――怖かっ、た、ずっと殴ら、れて、あそこに、入れっ、」

照「もう怖くないから、」

和「咲さん、助けてくれなかっ……た」

照「……」

 
◇◆◇◆◇◆

照「コーヒー」

和「……ありがとうございます」

照「落ち着いた?」

和「さっきのあれ、油断しただけです。一つ貸しです」

照「はは、いつもの和だ」

和「……今日のこと全部話します。でも、その前に、」

照「なに?」

和「なぜ、咲さんが関係していると?」

照「電話があってな。和を見つけてくれって。その時に声は変えてあったけど、口調とか、あと昔を知っているそぶりがあったからかな」

和「そう、ですか」

照「今日何があった?」

 
和「見つけたんです」

照「?」

和「咲さんの居場所。日本に帰ってきていました」

照「……、咲、外国にいたってこと、だよね。どうやって知ったの?」

和「彼女がいなくなってからずっと探してました。父の弁護士の人脈も使ってやれることはやって、」

和「一週間前です。イタリア籍のアジア人が入国した際にトラブルがあったらしく、その筋の人間から顔写真をもらいました」

照「それが、」

和「はい、咲さんです。帽子を被っていましたが、すぐにわかりました」

和「そこからは簡単で、彼女の使用した交通ルートを洗い出して、一昨日の夜に居場所をつきとめました」

照「……」

和「国外マフィアと繋がりのある輸入業の事務所です。そこで彼女と会いました」

照「……、なんで和は襲われたんだ」

 
和「賭けに負けたからです」

照「咲も賭けが、って」

和「私は咲さんにそんな連中から手を引いて戻ってきてほしいと頼みました。だけど、無理だって言われ」

和「……、麻雀で勝ったら。それが条件で勝負をしました」

照「和が負けたら、お――犯されることを条件に?」

和「本当は、両腕の切断と貞操でした。無茶苦茶な提示をして身を引いて欲しかったんだと思います」

照「でも、両手は無事だった」

和「……この程度で許してくれるなんて、咲さんは本当に優しいです」

照「!!っ、和、本気で言っているのか?」

和「本気です。このぐらい、」

照「目を覚ませ! あいつは、咲は、親友が暴行されている間、助けようとしなかったんだろ!?」

和「助ければ、彼女自身に危害が及んだでしょう。当然の判断です」

照「……おかしいよ、そんなの」

 
照「これからどうするつもり?」

和「私はまだ諦めきれません」

照「次は本当に腕を取られるよ。もしかしたら命も」

和「それは、」

照「……和も私の前からいなくなっちゃうの?」

和「え?」

照「また、私の大切な人間が、せっかく仲良くなれたのに、」

和「て、照さん?」


照「あいつはまた奪うのか」

 
照「和、私が咲を連れてかえる。その事務所の場所、教えて欲しい」

和「私もついていきます」

照「警告を受けた和が顔を見せたら間違いなくこの話は終わる」

和「一人じゃ危ないですっ」

照「一人でつっこんでったやつが吐いていい台詞じゃないよ」

和「それはそうですけど……」

照「心配しないで、」

和「……」

照「……それに私にも姉としての責任があるんだ」

◇◆◇◆◇◆
ぼごっ

和『んぐっ、誰かたすけて!』

 『黙らせろ』

和『んーっ、』

ぼごっ

和『――きさん!、たす』

ずっ

和『……あっ、……』

ずっ ずっ ずっ

和『おぇっ、』

びちゃびちゃ

 『Vaffanculo!』

ぼごっ

 『そこまで。もういいよ』

ピッ

 
十月二十二日 午後八時

戒能「……」

健夜「……、ふーん。少なくとも食事中に見るものじゃないかな」

はやり「君の教え子がやらかしてくれたわけだけど、感想はそれだけ?」

健夜「久しぶりに食事に誘われたと思ったら、こういうのを見せたかったんだ。はやりちゃんて悪趣味だね」

はやり「……今、はやり、すごーいむかついてんの☆ もっとマシな意見を聞きたいな」

健夜「お互いが提示した条件を飲んでの結果でしょ?私は当事者じゃないし、はいひどいですね、ぐらいしか言うことないんだけど」

はやり「へー、でも元々の原因はすこやんにあると思うんだけどな」

健夜「原因か。ま、それは否定できないかな」

はやり「この落とし前、どうつける☆?」

健夜「私の腕とか? でもそんなのいらないか。そもそもあげるつもりもないけど」

はやり「宮永咲の身柄」

健夜「それは無理」

はやり「なんで☆?」

 
健夜「あの子はもう私が制御できない領域にいる」

はやり「あの、外人連中、もしかしてすこやんの私兵じゃなかったの?」

健夜「正真正銘、咲ちゃんの私物だよ。この五年間、いろいろあったからねー」

はやり「聞かせて欲しいな」

健夜「嫌だと言ったら?」

はやり「実力行使で、」

健夜「なるほど、わざわざ一部屋借りたわけはそういうこと」

はやり「……ふ、」

 
ピタッ

戒能「暴力はおやめください」

はやり「――やっぱり良子ちゃんもそっち側だったんだ☆」

戒能「私は、」

はやり「一瞬でラチェットナイフを首筋に。それ、カタギの技術じゃないよね。先生は誰? それとも自己流?」スッ

パシン ヒョイッ

戒能「!!」

はやり「はい、ナイフ没収~☆。まだまだ甘いね。会話に乗せられちゃって。それにね、」

はやり「殺意が篭ってないんだよ。そんなんじゃ脅しにならない」

 
健夜「しょうがないな、まぁ、減るもんじゃないしね」

はやり「最初からそうしなよ」

健夜「五年前、咲ちゃんが消えた理由、あれは私のせいなんだけど、」

健夜「元はといえば、咲ちゃんが私との約束を破ったせいかな」

はやり「……それで?」

健夜「白糸台の淡ちゃん、彼女もなかなか素質の持ち主でね。彼女も開発してあげようと思ってたんだ」

健夜「それをね、咲ちゃんたらさ、『半壊程度ね』っていう約束無視して完全に壊しちゃったの。だから、」

はやり「大星淡を? 彼女もあなたのおもちゃ候補だったの?」

健夜「そうだよ。壊して強くして私の相手をしてもらう。それだけ」

はやり「……っ」

健夜「続けていいかな?……それでね、私は咲ちゃんに罰を与えたの」

はやり「罰?」

健夜「拉致して、イタリアに連れてってそれで知り合いのヤクザさんに預けたんだ」

はやり「あんたねぇ、それ完全に犯罪なんだけど」

 
健夜「落ち着きなよ。こっからが面白いのに」

健夜「あっちも賭け麻雀が盛んだったりする。ということは代打ちなんてのもあるわけ」

健夜「あの子が負けたら、何をされてもいいっていう条件で代打ち契約。まぁ条件を結んだのは私なわけだけど」

健夜「身寄りもお金もない咲ちゃんはそこで生き残るには、勝ち続けねばならない」

はやり「……」

健夜「最初はずうっと泣いてたよ、『お姉ちゃんお姉ちゃん』って。淡ちゃん壊しといてどの面下げてんのかって感じ」

健夜「だけど負けたらどうなるかわからない。選択肢は一つだけ。あっちにはスナッフビデオっていう文化があるし」

健夜「それ見せて『もしかしたらね』なんて言ったら大泣きしちゃってさ。あの日は大変だったなー」

はやり「こんの下衆が……!」ガシ

戒能「はやりさん!」

はやり「ガキャあだまっちょれ! さとも、おめーはきゃん話きーち平気でおんのか」

戒能「……それは、私だって」

 
健夜「122人」

はやり「あ?」

健夜「咲ちゃんと戦って廃人になった人の数。あの年で私兵持つなんて普通じゃないよね――」

健夜「すごいんだよ。咲ちゃんあっちで無敵でさ、全部の勝負に勝っちゃったの」

健夜「だから結構な地位もらってるんじゃないかな。といっても裏の世界だけど」

はやり「そんなに嬉しいか」

健夜「え?」

はやり「他人の人生めちゃくちゃにすることがそんなに嬉しいか」

健夜「私はね、もう昔みたいに麻雀だけやってるんじゃ楽しめないんだよ」

健夜「『吸血鬼』はさ、人の命が糧になるの。気に入ってるんだよ、昔の通り名」

はやり「あんたを楽しませるために、周りの人間は生きてるんじゃない」

健夜「娯楽は必要だよ。それがどんな形であれ、ね」

 
健夜「……そろそろ手、離してもらえる? 私をどうしようが事態は何も好転しないよ?」

健夜「むしろ、ここで原村さんが手を引けば全てが収まる。原村さんは賭けに負けて処女を奪われ、咲ちゃんは現状維持。それでいいじゃん」

健夜「傷穴広げる前に、さっさと元の世界に帰れば?」

はやり「……」ストン

健夜「キレたら相手の首袖掴むクセ直したほうがいいよ」

はやり「すこやん、本当に変わった」

健夜「人間は常に変わってるよ、良くも悪くも。だから咲ちゃんだって、可能性の一つの終着点がこれだっただけ」

はやり「そんなの言い訳だよ」

健夜「ま、とにかく責任は私にも存在するでしょう。だからといって何をしようってわけじゃないけど」

はやり「協力して」

健夜「何を?」

はやり「宮永咲を元の世界に返す。これだけ」

健夜「さっきも言ったけど、私はどうすることもできない。国内でさえ私の力では手が出せない」

 
健夜「私にできることなんかないよ。そもそも、あったとしても協力するとは限らないし、……そこに私を満足させるようなイベントがあれば話は変わるけど」

健夜「……中華おいしかったよ。じゃあね」


はやり「満足させれば協力するのか」

健夜「かもね。でも期待してないから」





はやり「……」

戒能「……」

はやり「……」

戒能「……」

はやり「……いかないの?」

戒能「私はもう、彼女の犬ではないので」

はやり「だったらあいつの顔を殴らせてよ……!」

 
戒能「ここに来たのはあなたの身を守るためです。小鍛治プロに誘われたというのは建前ですから」

はやり「なによそれ」

戒能「小鍛治プロ、あの性格からしてなにかしらの報復は考えていたでしょう……。以前のあなたはもっと冷静でした。今日はいくらなんでも、」

はやり「安い挑発に乗りすぎたっていいたいの?――自分のチームの子がレイプされて素面でいられるほど私は強くない」

戒能「そう、ですね。失礼しました。今の失言は忘れてください」


戒能「……私は咲さんに望みすぎました」

戒能「彼女の実力なら力の使役は楽でしょう。だから私も愛宕さんもGOサインを出したのです」

戒能「大星さんへの恨みは予想以上に強かったようで、まさか二年間も本意を隠されたまま麻雀を教えることになるとは……」

はやり「それ以前に宮永咲を開発していたことさえ知らなかったよ。ただの師弟程度だと思ってた。すこやん、もうやらないって言ったのに」

戒能「私で味を占めたんだと思います。ドイツの脳医学研究所で子供相手に人体実験もしてました」

はやり「麻雀するために?馬鹿らしくない?」

 
戒能「およそ、施設の目的は第三世代兵装実現のためのESP開発でしょう。小鍛治プロは7年間の咲さん成長レポートや私のデータやら、あとは彼女自身の財力でしょうか、ひたすら取引していたそうです」

はやり「ひどい相互関係ね。戦争と遊び相手が同列じゃあ、私らの倫理感とは相容れないわ」

戒能「東欧諸国の、ソ連崩壊前の研究者たちの残党ですから、それほど資料には困らなかったようです。実験台もほとんど旧ソのモルダビアから調達していました」

はやり「……、そういえば良子ちゃん、この情報どこで拾ったの? すこやんのことだから飼い犬にも漏らすはずないんだけど」

戒能「その前に一つ、今回の咲さんが来日するまで異常なほど情報が絞られていたこと、気付いてました?」

はやり「照ちゃんと和ちゃんがプロの片手間と言えど、死に物狂いで探してたのに一向にしっぽ掴めなかったからね。おかしいとは思ってた」

戒能「イタリアンマフィアは統制社会を形成し、日本の暴力団に比べると情報規制が厳しく秘密主義なのはご存知ですね」

はやり「そっか。だから手も足もでなかったんだ」

戒能「ですが、髪の毛一本残さない神隠しは、こちらに対して攻勢的な隠蔽工作がなければ不可能です」

戒能「……竹井久、という女性を知っていますか?」

はやり「うん、七年前、清澄が初めて全国出場したときの部長さんでしょう? 和ちゃんの先輩だから知ってるよ」

戒能「彼女が原村さん達への情報かく乱の主犯であり、私への情報提供者です」

 
◇◆◇◆◇◆

 <うん、『交通料』は渡してあるから、……そうそう、いつも通りにID申告だけすれば中までは見られない>

 <……ほんとこれだからイタリア人は……。欲しいもの買ってあげるからって伝えて>

 <『おーいお茶』……そんなのでいいの? わかったよ。関税ひっかからない程度にいっぱい買っとく>

久「こんばんわ。まるでお母さんみたいね」

 <ごめん、もう人来たから、――うん、気をつけて>ピッ

久「もういいの?」

 「ええ。お久しぶりです。竹井先輩」

久「私はあんまり久しぶりって気はしないわ」

 「そうですか。……そうですよね、あれだけ嗅ぎまわってれば」アハハ

久「それにしても髪伸びたわね。お姉ちゃんそっくりよ――咲」

咲「やめてくださいよ。私にはもう、姉はいませんから」

 
久「今日はずっと暇?」

咲「日が変わるまでに戻ることができれば」

久「例の事務所?」

咲「あそこは既に売り払いました。タダ同然で不動産に押し付けましたよ」

久「……和、止められなかったわ。ごめんなさい」

咲「……」

久「……今日はそれを、」

咲「清澄、行きませんか?」

久「こんな時間に? たぶん後輩は帰ってるわよ」

咲「いや、流石に部に顔は出せませんよ。一応行方不明者ですし。ただ見て回るだけです」

 
清澄高校

咲「やっぱり日本のタクシーはいいですね。便利で接客態度も良好」

久「ミラノは……、人柄は悪くはないんだけど、ぼってくるのよねー」

咲「先輩もやられました? 日本人だって言うと急に態度変わりますよね」

久「頭にきて、自分はICPOだってフランス語でまくしたてたら無料にしてくれたわ。咲もこれ使うといいわよ」

咲「私、英語とイタリア語しか喋れないですよ」

久「それでも十分じゃない。私は職業上必要なだけだしね」

咲「アメリカの私立探偵……でしたっけ? 正直その経歴も怪しいんですけど」

久「謎が多い女は魅力的でしょ? やっぱりというか、私のことも調べられているのね」

咲「うちは敵が多いですから。いつボスのこめかみにライフル弾が突き抜けていくかわかりませんし」

久「ふーん。マフィアって大変なのね」

別スレより
新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内

新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

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