ほむら「いいわ、私が髪を結ってあげる」(136)

杏子「ほむらー」

ほむら「佐倉杏子……わざわざ人の家まで来て、何の用?」

杏子「けっ、愛想のなさは相変わらずだね」

ほむら「余計なお世話よ」

杏子「一晩でいいんだ、泊めてくれ。寝るだけでいい。頼む」

ほむら「……常識というものを何も知らないのね」

杏子「あん?どうすりゃいいんだよ。土産の一つでも渡せばいいのかい?」

ほむら「そんな話はしていないわ。もっと事前に連絡するとか、色々あるでしょう?」

杏子「あー、そういうことか。それは無理だね」

ほむら「そう。ではこちらの出す答えも同じよ」

杏子「違うって。ほら、外見てみなよ」

ほむら「外……? って、雪? すごい吹雪ね……」

杏子「ああ、マミの家に向かう途中で急に強くなってきやがった。これじゃ辿り着けそうもない」

ほむら「それで一番近かった私の家へ?」

杏子「まあ、そんなとこだよ」

ほむあんSSが読みたいよ

杏子「ふー凍え死にそうだよ」

ほむら「大丈夫よ、魔法少女は簡単には死なないわ」

杏子「いや、無理だって!だって外すげえ寒いし、ソウルジェムも滅茶苦茶濁るし!」

ほむら「わかったわ」

杏子「おっ、泊めてくれるの?」

ほむら「はい、ダンボールと毛布よ、これで凍える夜を耐えてちょうだい」

杏子「おい!」

くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」

マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」

ほむら「・・・ありがと」ファサ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり

杏子「仲間だろ!友達だろ!なっ、ほむら!」

ほむら「勘違いしないで、あなたとは利害が一致して一時的に組んだだけよ。仲間でも友達でもないわ」

杏子「えっ、そうなの…。あたしは友達だと思っていたのに…」

ほむら「えっ」

杏子「…じゃあいいよ、ほむらには頼らない」

杏子「…じゃあな」

杏子「…」

ほむら「わかったわよ、今日だけよ。だから捨てられて犬みたいな目をするのは止めて」

杏子「やったー!恩にきるよほむら!」

杏子「それじゃあおじゃまします!」

杏子「暖房が効いてる!金持ちはいいな」

ほむら「寝泊まりするだけよ」

杏子「なあ、晩御飯は?」

ほむら「おい」

ほむら「まあいいわ。はい、カップラーメン」

杏子「ええ晩御飯にカップラーメンかよ」

ほむら「杏子、ちょっとは遠慮とかいうものを考えないの?」

杏子「ほむらの晩御飯もカップラーメンだったのか?」

ほむら「ええそうよ」

杏子「それじゃあ、不健康だし、足らないだろ」

ほむら「あとカロリーメイト」

杏子「本当に不健康だな!」

藍花(うぅっ……ここは……どこ……?)

暗闇の中、わたし、夏見藍花は目を覚ました。

藍花(……瓦礫の…中……?)

何が起きたのかわからず、頭の中の情報を整理する。

藍花(確か、わたしは……お父さんとお母さんと一緒に……デパートに来てて、それで……)

少しずつだが、思い出してきた。
大好きなお父さんとお母さん。
デパートで買い物をして、ファミリーレストランで食事をして。
そして、三人で手を繋いで帰るはずだった。
いきなり。そう、いきなりだ。
デパートの中の照明が落ち、足場が崩れた。
手を繋いでいた両親とも、落下するウチに離ればなれとなった。

藍花(……ああ、そうか……)

よくはわからない。ただ、わかったことがひとつだけ。

藍花(………わたしは、運がよかったんだ……)

崩れゆく建物の中にいて、瓦礫の下敷きにならなかったのだ。
もちろん、わたしの他にも生きている人は何人かはいるだろう。
でも、わたしの両親は……多分、生きてはいない。
なんとなく、直感がそう告げていた。

藍花「……グス……ヒック……」

涙が零れて来る。
不安、傷の痛み、孤独感。色々なものがわたしの心の中を渦巻いていた。

藍花「……助け……誰、か……」

誰にともなく呟く。あるいは、救助隊が来てくれていれば。

藍花「誰か……わた、し……ここに……」

唯一傷の浅そうな右手を、瓦礫の中から持ち上げる。
と、目の前の瓦礫崩れたのか、破片がわたしの顔に当たった。

藍花(っ……)

咄嗟に、右手の動きを止める。
それに呼応して、瓦礫の軋みも止まった。

藍花(……少しでも動いたら、崩れる……?)

持ち上げた右腕を、地面に力無く落とす。
その衝撃によって、瓦礫が再び軋む。

藍花「ひっ……」

しかし、崩れ落ちて来ることはなかった。

藍花(………)

助かった。いや、この状況は助かった、と言えるのだろうか。
身動きは取れず、辺りは一切の光も無い状態。

杏子「しゃあない、あたしがなんか作るか」

杏子「えーと冷蔵庫の中身はと」

ほむら「勝手に人の家の冷蔵庫を開けないでよ」

杏子「冷ご飯に、卵、ミンチ肉、ニンジン、玉ねぎ、コーンの缶詰…焼き飯でも作るか」

ジュジュー

ほむら(台所から良いにおいがする…)

藍花(助けて……誰か……っ)

心の中で呟く。不安に押し潰されそうだった。
誰でもいい。助けて欲しい。
………光が……欲しい。

藍花「光が欲しい……っ」







QB「それが、キミの願いかい?」
藍花「……ぇ……?」

何者かの声が聞こえ、目を開く。そこには、白い体に深紅の眼をした、まるで人形のような生き物がいた。
辺りは闇に覆われているはずなのに、なぜかその姿だけがくっきりと見えている。

QB「初めまして。僕の名前はキュゥべえ。僕なら、キミをここから出してあげられるよ?」
藍花「ここから、出して……くれるの……?」
QB「正確に言うなら、僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ」

魔法少女……?

QB「状況が状況だから簡潔に説明するけれど、魔法少女になるということは魔女と戦う運命を受け入れるということだ。それでもキミは、それを望むかい?」
藍花「それ、は……」

いきなりそんなことを言われても、思考が追いつかない。

QB「魔法少女になれば、こんな瓦礫の中からなんて簡単に出ることが出来るよ?」
藍花「………」

迷っている暇は、なさそうだった。
もう、心身共に限界だ。一刻も早く、ここから出たかった。

藍花「……なる……わたし、魔法少女になる……だから、助けて……!」

かすれた声で、なんとかそれだけを言いきった。

QB「なら、キミの願いを聞かせてくれ」
藍花「……かり……光が、光が欲しい……っ」
QB「契約、成立だね」

キュゥべえのその言葉を最後に、わたしの意識は闇に落ちた。

―――――
―――



………眩しい。眩しい?

藍花「う……?」

眩しさを堪え、目を開けた。
光……だ。

藍花(わたし……助かった……の……?)

いつの間にか、瓦礫の山の上に倒れ込んでいた。
無意識のうちに自力で這い上がったのだろうか。覚えていない。
ふと、手の中にある感触に気付く。
握りしめた手を開き、その感触の正体を確認する。
そこには、綺麗な純白の宝石があった。

藍花(……これ、は……?)

宝石の次に、空を見上げた。淀んだ雲が、ありえないスピードで流れていく。
風も強い。台風でも起こっているのかと錯覚するほどだった。

救助隊員「おい、生存者がいるぞ!」
藍花「……」

数名の救助隊員がわたしの下へ駆け寄ってくる。

救助隊員「君、大丈夫か?意識はあるか!?」
藍花「………は、はい……あります……」

相変わらずかすれた声で、それだけ答える。
数名の救助隊員が、わたしを担架に乗せて運び出す。

救助隊員「すぐに病院へ連れて行く!もう大丈夫!」
藍花「………」

担架に揺られながら、空を見上げ続ける。
ふと、視界の端に何かが映った。

藍花(………?)

何かが空に浮かんでいるようだった。その『何か』の全てを、視界に捉えた。

??「アハハハハハ……キャハハハ……」

巨大な何かが、笑い声を上げていた。
ドレスを着た人形を、逆さまにしたような姿。
頭は下で、足に当たる部分には巨大な歯車がぐるぐると回っている。

藍花「……ひ……」

短い悲鳴が、口から漏れた。
なんだ、あれは。怖い。本能が、そう告げている。

救助隊員「もう大丈夫!何も恐いものはないからね!」
藍花「………」

救助隊員の賢明な励ましを聞きながら。
わたしは救急車に乗せられ、病院へと運び込まれた。
その間の事は、よく覚えていない。
救急車に乗せられるまでの間、ずっと『巨大な何か』から目を離せずにいた。

~~~

次に意識を取り戻したのは、病院のベッドの上だった。
体の至るところに包帯を巻かれ、右腕には点滴を打たれている。

藍花(わたし……助かったんだ……)

手のなかにある感触に気付き、それを確認する。
瓦礫の上で気がついた時に見た、純白の宝石。

藍花「……これは……?」
??「それはソウルジェム。魔力の源であり、魔法少女の証でもある」

窓際から声が聞こえて来る。そちらを向くと、そこにはあの時に現れた白い獣がいた。
確か、名前はキュゥべえと言ったか。

藍花「わたし……魔法少女になったんだ?」
QB「そうだよ、夏見藍花。そのソウルジェムを使えば、傷なんてあっという間に治るよ」

キュゥべえに言われるまま、ソウルジェムを傷口に近づける。
ソウルジェムは淡い光を放ち、わたしの左腕の傷をゆっくりと癒して行く。

藍花「……すごい。これが魔法少女の力なんだ」

魔法の力。あの時、瓦礫の中から脱出できたのも、この魔法の力でだったのだろうか。

藍花「お父さんとお母さんは……?」
QB「あのデパートから救助されたのは、キミだけのようだね」
藍花「……うぅっ……お父さん、お母さん……」

目から涙がこぼれる。やっぱり、わたしが助かったのは奇跡に近かったんだ。
……いや、わたしだってこうして魔法少女になっていなければ、死んでいたかもしれない。

~~~

ひとしきり涙を流し、落ち着いたころ。
救助隊に助けられた時に見た何かのことを思い出し、キュゥべえに問いをぶつける。

藍花「あれは……一体、なんだったの?」
QB「あれ、とは?」
藍花「救急車に乗せられる時に見たんだけれど……巨大で、笑い声を放つ何か」
QB「ああ、そう言えばキミが運ばれる時にはもう魔法少女だったね。なら、あれを見たのか」
藍花「キュゥべえは……あれが何か、知っているの?」
QB「あれは『ワルプルギスの夜』。史上最悪の魔女だ。キミ達魔法少女には見えるだろうけれど、一般人にはあの姿は見えない。だからあの災厄も、ただの天災としか認識していないだろうね」

ワルプルギスの夜……史上最悪の魔女……。

藍花「それじゃ……あの天災は、そのワルプルギスの夜が起こしたものなの?」
QB「そう。そして、その魔女を倒すのが、キミ達魔法少女の使命だ」
藍花「………っ」

ショックだった。偶然の天災ならまだ諦めはついた。
あれが……何者かの仕業だったなんて。

QB「今回の災厄によって、この街には多くの絶望が蔓延している。他の魔女も、動きが活発になるだろう。キミの出番だよ、夏見藍花」

それからわたしは、キュゥべえに魔法少女のことを教えてもらった。
魔法少女の存在意義。ソウルジェムの扱い方。
そしてキュゥべえのことが見えるのは、魔法少女と、その素質を持った者だけであること……。

藍花「………」

考えを整理したかった。ベッドから降り、点滴を外すと、わたしは病室から出る。

QB「どこへ行くんだい?」
藍花「屋上に……」

屋上で風を感じれば、落ち着いて考えを整理出来るんじゃないかと思った。

屋上の扉を、ゆっくりと開ける。
ギィィィ、と軋む音を上げながら、ドアはゆっくりと開く。

屋上の手すりに寄りかかり、天災によって変わり果てた街を一望する。

藍花「ねぇ、キュゥべえ」
QB「なんだい?」
藍花「わたし、魔女を倒す……倒し続けるよ」

もう二度と、あんな悲劇は起こっちゃダメだ。

QB「うん、そうしてくれ。それが、魔法少女の使命だからね」
藍花「ワルプルギスの夜は、いつ、どこで出現するの?」
QB「僕にもわからないよ。彼女は神出鬼没だからね。大地震や火山の噴火なんて、簡単に予測出来るものじゃないだろう?」
藍花「………」

キュゥべえは表情を変えず、そう言い放つ。

杏子「はいできあがり!」

ほむら(美味しそうね…)

杏子「いただきまーす!」

ほむら「ちょっと、私の分は!?」

杏子「その必要はないわって、言われると思って用意しなかった」

ほむら「ああ、今外に出ると寒いでしょうね、雪もだいぶ降ってることだし」

杏子「冗談だよ、冗談!だから、追い出さないで!」

QB「もしかしたら、他の魔法少女が何か知っているかもしれないね」
藍花「他の……?」
QB「近いうち、ここに現れる魔女を狩る為に、他の街から魔法少女が訪れるだろうね。さっき、グリーフシードの話はしただろう?」
藍花「……」

キュゥべえの話を聞きながら、手の中のソウルジェムをもう一度見る。
淡い光を放っていた。

藍花「ねぇ、キュゥべえ……これ……?」
QB「魔女の反応、だね」
藍花「……いいわ。まずは、一体……魔女への復讐ね」

病院の屋上から、勢いよく飛び降りる。
着地の瞬間に、足回りを強化してうまく着地する。

藍花「……こっち、ね」
QB「ソウルジェムがより強い光を放つ場所。そこが、魔女が結界を張っている場所ってわけさ」

藍花「………この辺り……」

ソウルジェムの反応を頼りに歩き、着いた先。
そこは、小学校だった。
わたしの母校。思い入れのある場所だ。
今は避難所になっており、人もたくさんいるだろう。この魔女を放っておくのは危険だ。

藍花「……?」

つま先に何かが当たった。足元を確認すると、そこには小型の懐中電灯が転がっていた。
この災害時だ、誰かが落としたのかもしれない。
その懐中電灯を拾い上げ、ポケットの中にしまう。

より強い反応を示していた場所は、体育館の裏。
なんとなくわかる。ここに、結界を張っているのだろう。
キュゥべえに教わった通り、魔法少女の姿へ変身する。
藍色と紫をベースにした、ワンピース服。

藍花(……これが、わたしの魔法少女の服……)
QB「覚悟は出来ているかい?」
藍花「……うん」

自身の衣装をひとしきり眺めた後、魔女結界に侵入する。

結界内は、まさに現実離れしている、と表現するのがぴったりだった。
数メートルはある巨大な鉛筆や消しゴム、ノートと言った勉強道具が不規則に散乱している。
ひと言で言えば狂気と混乱に満ち溢れていた。

藍花(何よここ……早く倒して、さっさと出よう……)

こんなところに、いつまでもいたくない。
結界内を歩いて行くと、大きな扉があった。
引き戸だ。その扉には窓ガラスがある。その窓ガラスから先の光景が見えるかとも思ったが、マジックミラーなのか何なのかはわからないが、何も見えなかった。
その先に、異様な空気を感じ取る。

藍花(ここが……魔女結界の、中枢なのかな)

意を決して、その引き戸を勢いよく開け放つ。

藍花(………)

教室のような空間……とは言っても、広さは体育館以上。机や椅子も、自分の背よりずっと高い。
まるでわたしが小さくなってしまったような錯覚さえ覚える。

QB「現れた!」
藍花「っ!」

キュゥべえの言葉を聞き、反射的に身を強張らせる。
教壇に当たる場所。そこに、魔女がいた。
体中至るところに目があり、内側から釘がたくさん飛び出したような姿をしている。

藍花(グロテスクな姿……っ!)

先程拾った懐中電灯を取り出し、スイッチを入れる。
と、光が出て来るはずのところから、刀身が浮かんできた。
ライトセーバーとでも表現すればいいのだろうか。
頼もしい武器が出来たと思い、それを片手に魔女に飛びかかる。

藍花「やぁっ!!」

光の剣を、上から真下に振り下ろす。
嫌な感触をわたしの手に残しながら、魔女の腕に当たる部分を切り落とした。

藍花「やった……っ!?」

切り落とした魔女の腕から、大量の鎖がわたし目掛けて飛んでくる。
その鎖は、わたしの体を強打した。その反動で、壁まで吹っ飛ばされる。

藍花「うぐっ……はっ……!」

体中が痛い。うつ伏せ状態のまま、身動きが取れなくなる。

魔女「ケタケタケタ……」

魔女はまるであざ笑うかのように、わたしの姿を見降ろしているようだった。

藍花「………っ!」

うつ伏せ状態のまま、手に力を込める。

藍花「隙アリっ!!」

期を見計らい、うつ伏せ状態から飛び上がる。
そして両手に持った懐中電灯を胸の前に突き出し、光線を繰り出した。

藍花「消し飛んじゃえぇぇっ!!」

光線は、魔女の体を大きく吹き飛ばした。

魔女「ケ……ケタケタケタケタ……」

魔女は笑い声なのか悲鳴なのかわからない声をあげながら、その姿を崩壊させていく。
それと同時に、結界も少しずつ崩れていく。

藍花「……倒した……」

結界が完全に消え、辺りは体育館裏の光景に戻った。

QB「やるじゃないか藍花!」
藍花「……」

魔法少女姿から、病院の服装に戻る。
わたしの足もとには、何かが転がっていた。それを拾い上げる。

QB「それがグリーフシード。魔女退治の、見返りみたいなものさ。キミのソウルジェム、よく見てみるんだ」

キュゥべえに言われ、手の中にあるソウルジェムに視線を移した。
純白だったはずのソウルジェムは、少しだけ濁っていた。

QB「穢れが溜まっているだろう?そこで、そのグリーフシードの出番だ。キミのソウルジェムに、そのグリーフシードを近づけてみるんだ」
藍花「………」

言われるまま、グリーフシードにソウルジェムを近づける。
すると、ソウルジェムはみるみるうちにその純白の輝きを取り戻した。

ほむら「いただきます…ほむほむほむ…」

杏子(何、その食べる時の音)

ほむら「意外と美味しいわね」

杏子「意外とか失礼だな」

ほむら「失礼続きの今日のあなたには言われてくないわよ」

QB「それにしても、キミの魔法はすごいね」
藍花「どういうこと?」
QB「基本、この手の魔法というものは1からものを作ったり変化させたりすることが多い。だけどキミの場合は元からある光のエネルギーを集め増幅させる力が備わっている。
   1から作る魔法と違って魔力の消耗が少ない。つまり燃費がいいんだ。まぁどの魔法を使うかにもよるけどね」
藍花「魔法少女って……みんな同じ能力じゃないの?」
QB「違うよ。基本となる力は何を願ったかによって大きく異なるんだ。キミの場合は、光が欲しいと言う願いだっただろう?
   それが元になるから、キミは光を操る魔法少女となったんだ」
藍花「……それじゃあ、光の無いところではどうすればいいの?」
QB「確かに光が無ければ、キミの魔法はその真価を発揮する事は出来ないだろう。でも、昨今では夜でも光がないなんてことはまず無いと言っていいだろう。
   それでも心配な場合は、光を発するモノ……さっき拾った懐中電灯のようなモノを常備していればいい」

キュゥべえの言葉を聞き、先程拾った小型の懐中電灯を取り出す。

藍花(……これが……)

それを、大切にポケットにしまう。

藍花「……わたしは、魔女を倒す……」

決意を呟き、学校を後にする。

QB「家に帰るのかい?」
藍花「………帰る場所が無い」
QB「そうなのかい?」
藍花「……」

例え、家が無事であっても。家族がいないのなら、それはわたしの家とは言えない。
ただ虚しくなるだけだ。
変わり果てた道を、当てもなく歩き続けた。

―――――
―――


藍花「ふぅ……」

駅のホームに結界を張っていた魔女を倒し、ひと息つく。
今回も、グリーフシードが手に入った。

QB「頑張るね、藍花。三日で五つもグリーフシードを集めるなんて。まぁ、それだけこの街に絶望が蔓延しているってことでもあるだろうけれど」
藍花「………」

わたしにとって、魔女退治は両親の復讐でもあり、人間を守る大切な役割でもあった。
頑張るのは当然のことだ。

QB「キミは無口だね、藍花。せっかく言葉という意思の伝達には最高のモノがあるのに……勿体ないじゃないか」
藍花「ごめんね、キュゥべえ」
QB「謝られるようなことではないけれどね」
藍花「………」

魔法少女の変身を解き、私服姿へと戻る。

藍花(わたし、無口だったんだ)

心の中で、反省する。

少しの休憩をはさみ、再び魔女探しを開始しようとした時。

??「ちょっと待ちな」

不意に、声をかけられた。

藍花「?」

声のした方へ向き直る。
そこには、赤い髪をポニーテールにした少女が立っていた。
口にはキャンディの棒を加えている。

QB「佐倉杏子!来てたんだね」
杏子「ったく、余計な魔法少女を増やしやがって……」
QB「そうは言っても、これが僕の仕事だからね」
藍花「……キュゥべえが見えるの?」

以前、キュゥべえが言っていた。キュゥべえの姿を見ることが出来るのは魔法少女と、その素質がある者だけ。つまり、この子は……。

杏子「……ふーん」

佐倉杏子と呼ばれた少女は、まじまじとわたしの姿を眺める。

杏子「アンタさぁ、先輩がやって来たんだから挨拶くらいしたら?」
藍花「……あ、ごめんなさい。わたし、夏見藍花と言います」
杏子「っ……」

言われた通り素直に挨拶すると、杏子さんは面食らったような顔をする。

杏子(ンだよ、調子狂うなぁ……バカ正直なタイプかよ。まぁ、いいや)
杏子「面倒だからさくっと用件言っちゃうけどさ。アンタ、この街出てってくんない?」
藍花「……え?」

予想もしていなかったことを言われ、言葉に詰まる。

杏子「もう十分グリーフシード手に入れただろ?あとはあたしに任せるのが筋ってもんさ」
藍花「で、でもここは……わたしの生まれ育った街で……」
杏子「その街をあたしが守ってやろうって言ってんだよ。わっかんねぇかなぁ」
藍花「……そんなに、グリーフシードが欲しいんですか?」
杏子「はぁ?何当たり前の事言っちゃってんの?」

藍花「なら……」

鞄の中にしまってあったあるものを、杏子さんに差し出す。
それは、この三日でわたしが集めたグリーフシードだった。

藍花「わたしがが今日まで、この街で集めた未使用のグリーフシードです。これを差し上げますから手を引いて……わたしに街を守らせてください」
杏子「なっ……」

予想もしていなかったとでも言うかのようにうろたえ、二、三歩後ずさる。

藍花「これでも……ダメ、ですか?」
杏子「っ……ざけてんじゃねぇぞ!魔法少女にとって、ソウルジェムの次に大切なモンじゃねぇか!!」

わたしの胸倉を掴み、睨みながらそう叫ぶ。
それでもわたしは、身じろぎひとつしなかい。

杏子「……くそっ!」

わたしを突き飛ばすかのように胸倉から手を離し、杏子さんはこの場から去っていく。

QB「どうしてあんなに怒ったんだろう?彼女にとってもいい条件だと思ったのだけれど」
藍花「………」

わたしは、手の中のグリーフシードをただ見つめているだけだった。

~佐倉杏子~

杏子(ったく……何なんだ、あいつは。調子狂うなんてもんじゃねぇぞ……)

ホテルへと帰って来たあたしは苛立ちを隠そうともせず、スナック菓子をヤケ食いする。
ふと、窓際にキュゥべえが座っているのに気がついた。

杏子「おい、あいつ一体何なんだよ?」
QB「夏見藍花は五日前、僕と契約したばかりの新米魔法少女さ」
杏子「どういう経緯でお前と契約したんだ?」
QB「以前、この辺りにワルプルギスの夜が現れたのは知っているだろう?彼女とその両親は、ワルプルギスの夜が招いた災厄で破壊されたデパートの中にいたんだ。
   デパートは崩壊し、彼女の両親は死亡。藍花自身は死にはしなかったけれど、瓦礫の中に生き埋めに等しい状態だった」
杏子「……はぁん。で、そこにあんたが付け込んだ、と。そういうわけか」

ヤケ食いを中断し、ソファに寝そべる。

QB「人聞きが悪いけれど、まぁ、そういうことだね。彼女の魔法は燃費がよくてね、ソウルジェムにあまり負担をかけないんだ。だから、穢れも溜まりにくい」
杏子(……なるほどな。それで、グリーフシードをああも容易くあたしに差し出すようなマネを……)

ああやって気軽にグリーフシード……魔法少女にとって二番目に大切な物を差しだすのは気に入らなかったが、その話を聞いて少しだけ納得した。

杏子「サンキュー、もうどっかに行きな」

寝そべって天井を見上げたまま、それだけ言う。
キュゥべえは、いつの間にかいなくなっていた。

杏子(ワルプルギスの夜に両親を……か……)

~夏見藍花~

藍花(……寒い……)

瓦礫の中にあった廃屋で横になりながら、そう思う。
家に帰れば……きっと、暖かい毛布にくるまって寝ることが出来るだろう。
だけど、両親のいない家には帰りたくなかった。

藍花(………)

ふと、ソウルジェムに視線が行く。

藍花(……また、あの人が来るかもしれない)

その気になれば、この廃屋だって豪華な家に出来るかもしれない。
けれど、このグリーフシードは交渉用として、取っておくべきだと思っていた。
魔法を使うということは、それだけでグリーフシードを消耗してしまうことになる。

??「見てらんねぇな」

声がした。聞き覚えがある。
体を起こしあげ、声の主を確認する。
佐倉杏子さん、だった。どら焼きを片手に、その場に立っていた。

杏子「ふぅー食った、食った」

杏子「じゃあ、次はカップラーメン食べよっと!」

ほむら「まだ食べるの!?しかも不健康とか言ってたくせに!?」

杏子「それはそれ、これはこれ」

杏子「3分経つのまだかなー」

3分経過

杏子「美味しい!やっぱ寒い時に食べるカップラーメンは最高だな!スープも全部飲んじゃお」

ほむら「本当に不健康ね」

杏子「人様を救う魔法少女が、なんで人間以下の生活をしてんだよ?」
藍花「……杏子さん」
杏子「ああもう、あたしのことは杏子でいいよ。さん付けなんて鳥肌が立つ」
藍花「……わたしには、帰る場所がないんです」
杏子「敬語もいらねぇよ。タメ口で話せ、こっちまでかしこまっちまう」

どら焼きを一気に口に含みながら、不機嫌そうな顔を向ける。

杏子「帰るとこがねぇって?んなら、あたしんとこに来るか?」
藍花「杏子ちゃんの……ところに?」
杏子「ちゃんって……はぁ、ついてきな」

それだけ言い残し、廃屋を出て行く。わたしも慌てて、その後を追った。

着いた先は、ホテルだった。その一室にまで連れてこられる。

藍花「あの……お昼のこと、だけど……」
杏子「それはとりあえず後だ。ホレ」

ポイ、と何かを投げてよこしてくる。
反射的に、それを受け取る。

藍花「……これ、は……」

それはどら焼きだった。先程、杏子ちゃんが食べていたものと同じだろうか。
テーブルの上を見ると、お菓子やら惣菜やら、色々なものが置かれていた。

杏子「どうせ、飯もロクに食ってねーんだろ?好きなモン食えよ」
藍花「………」

言われるまま、投げ渡されたどら焼きを口に運ぶ。
甘い。おいしい。どら焼きって、こんなにおいしかったっけ?

藍花「……う……ひっく……」
杏子「お、おいおい、そんなにうまいのか?」
藍花「うん……おいじい……」

久しぶりに、人のぬくもりと言うものを感じたような気がする。
涙を堪えることもせず、ボロボロと涙を流しながらどら焼きを食べ続けた。

藍花「……ねぇ、杏子ちゃん。杏子ちゃんは、なんでこんなに優しくしてくれるの?」
杏子「あん?……あー、まぁ、なんつーか、キュゥべえから聞いたんだよ。あんたの身の上を、な」
藍花「………」
杏子「あたしもな、家族がいないんだ」
藍花「えっ?」

杏子ちゃんは、自分が魔法少女になった経緯や家族を失った経緯を、大ざっぱに語ってくれた。

杏子「………ま、あんたに同情するわけじゃねーけどさ」
藍花「……」
杏子「って、あたしの話なんてどうでもいいんだ。こっからが本題」

杏子ちゃんは食べる手を止め、わたしの方に真剣な眼差しを向けて来る。

杏子「お前はこの街で魔女を倒したい。だけど、特別グリーフシードが欲しいってわけじゃねぇんだな?」
藍花「……うん」

そうだ。わたしは、ただ。わたしが生まれ育ったこの街を、自身の手で守って行きたいだけだ。

杏子「だったら、こういうのはどうだ?あたしがアンタの魔女狩りに力を貸してやる。
    そして、手に入るグリーフシードの分け前は……そうだな、比率3:1ってところで。その代わり、あんたの衣食住はあたしが保障する」
藍花「……!」

杏子ちゃんの提案は、わたしにとっていい事ずくめだった。
これだけの好条件を、断る理由が無い。

藍花「杏子ちゃんがそれでいいって言うんなら、喜んで!」
杏子「交渉、成立だな」

杏子ちゃんが、左手を差し出してくる。

杏子「ま、お近付きの印に、って奴だ」
藍花「うん、よろしく、杏子ちゃん」

差し出してきた左手に、わたしも自分の左手を重ねた。
がっしりと、力強く握手する。

藍花「それじゃ、このグリーフシードは……」
杏子「それまであたしが受け取るわけにいかねぇよ。それはお前が一人で魔女を狩って集めたもんだろ?自分で使え」
藍花「……」
杏子「何を言おうと、あたしはそれを受け取るつもりはねぇよ」

そう言うと、杏子ちゃんはベッドに倒れ込んだ。

杏子「とりあえず、もう寝ろ。明日も朝は早いからな……」
藍花「うん、わかった。おやすみ、杏子ちゃん」

杏子ちゃんに言われるまま、隣のベッドに倒れ込む。
ふかふかのベッド。……なんだか、すごく久しぶりな気がした。
……疲れが溜まっていたのだろうか。横になると、すぐに眠気がやってきた。
その眠気に逆らうことなく、わたしは眠りについた。

~佐倉杏子~

藍花「……すぅ……すぅ……」

藍花が、ベッドの横で寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。
あたし自身は……何故だか、なかなか寝付けなかった。

杏子(コンビを組んで戦うなんて、マミとの事を思い出すな……)

天井を見上げながら、そんな昔のことを思い出す。

杏子(はん……あたしとしたことが、ガラじゃなかったな)

その思考をすぐに遮断し、あたしも寝ようと目を閉じた。

藍花「……お父さん……お母さん……」

藍花の寝言が、あたしの耳に届いて来た。
ちらりと、横で寝入っている藍花を見てみる。
……寝ながら、涙を流していた。

杏子(………はぁ。ったく、面倒な奴だな……)

少しだけ乱れていた布団を、しっかりとかけ直してやる。

杏子(ま、いっか。あたしも……寝る……か……)

~夏見藍花~

翌日。川沿いを歩いていると、使い魔の結界を発見した。

藍花「杏子ちゃん、あれ!使い魔の結界だよね?」
杏子「あん?ああ、そうだな」
藍花「倒さなきゃ……!」

懐からソウルジェムを取り出し、魔法少女姿に変身する。
そして懐中電灯を片手に、その使い魔に攻撃を仕掛けようとしたところで。

杏子「おいおい、だからあいつ使い魔だっての」

杏子ちゃんが、わたしの腕を掴んでその動きを止めていた。

藍花「え?うん、わかってるよ。だから、倒さなきゃ……」
杏子「……まさかアンタ、正義の味方を気取るタイプじゃねぇだろうな?」
藍花「別に気取るわけじゃないけど……わたしは魔女に復讐するの。その魔女になりかねない使い魔だって、わたしの標的だよ」
杏子「だったら、使い魔が魔女になるまで待ってその魔女を倒しゃいい。グリーフシードだって手に入るし、お前は魔女に復讐も出来る。一石二鳥だろ?」

杏子ちゃんのその言動で、頭に血が登るのがわかった。
思わず、杏子ちゃんの胸倉を掴む。

藍花「っ……」
杏子「あたしと一戦交えるつもりかい?上等じゃないのさ」
藍花「違う……ごめん、ついカッとなっちゃって」

掴んだ胸倉を離し、頭を下げる。
そんなわたしを尻目に、杏子ちゃんは自身のソウルジェムを取り出していた。

杏子「いいぜ……あんたの力を見る意味もある。一戦交えようじゃん」
藍花「………」
杏子「覚悟は出来たか?」

やるしか……ないのかな。
懐中電灯を両手で持ち直し、杏子ちゃんの正面に相対する。

杏子「おい、ふざけてんのか?それが武器のつもりかよ?」

杏子ちゃんは嘲笑する。そんな杏子ちゃんを気にすることなく、懐中電灯のスイッチを入れた。
懐中電灯の先から、光の剣が姿を現した。

杏子「! ……へぇ、そいやキュゥべえが言ってたな。光を操る魔法少女だって」
藍花「………」
杏子(……今日は天気がいいな。つまり、藍花の武器がそこらじゅうに満ち満ちてるってことか。まぁ、ハンデにゃちょうどいいかもな)

杏子ちゃんはわたしが出した光の剣を見て、なにやら思考を巡らしているようだった。

一瞬の瞬きの後。
わたしの正面から、杏子ちゃんの姿が消えていた。

藍花「っ!? ど、どこに……」
杏子「敵の姿を見失うたぁ、余裕しゃくしゃくじゃねぇか!」

わたしの頭上から、声がする。杏子ちゃんは、空高く跳躍したようだった。
両手で槍を回転させながら、わたしに向かって一直線に飛びかかってくる。

藍花「くっ!?」

そんな杏子ちゃんの姿を確認すると同時に、光の剣を不器用に横一線に薙いだ。
光の剣は、杏子ちゃんの槍を真っ二つに叩き折った。
……はずだった。

杏子「はんっ!甘いねぇ!」

その槍は多節棍のように展開し、わたしの攻撃を器用にいなしていた。
そして、多節棍の先端。それが、わたしの脇腹を強打する。

藍花「あぐっ……!!」

強烈な痛みが脇腹を襲い、無様に転げまわる。

杏子「なんだ、この程度かよ?期待はずれだなオイ」

杏子ちゃんはわたしから数メートル離れたところでしっかりと着地し、わたしのことを見降ろしているようだった。

藍花「……敵を前に油断するなんて、余裕しゃくしゃくだね、杏子ちゃん?」
杏子「あぁ?」

片手に持った懐中電灯を、太陽のある方向へかざす。

藍花「その位置じゃ、すぐには攻撃出来ないでしょ?」
杏子「何を……っ!?」

杏子ちゃんは、わたしの意図をすぐさま読み取ったようだった、
だが、遅い。

藍花「光の速度を……かわせる?」
杏子「ちぃっ!」

地を蹴り、更にわたしとの距離を取る。
わたしの攻撃には、距離など無意味だ。

藍花「はぁっ!」

太陽に向けてかざしていた懐中電灯を、杏子ちゃんの方へ振り下ろす。
光の散弾が、杏子ちゃんに襲いかかる。

杏子「ぐああぁっ……!」

杏子ちゃんは手に持っていた槍で攻撃をいなしているようだったが、全てを防ぐことは敵わなかった。
散弾のいくつかが、杏子ちゃんの体に命中する。

杏子「……ちっ、やるじゃん」

それだけ呟き、杏子ちゃんも倒れ込む。
そのまましばらく、二人して青空を眺めていた。
どこか、清々しい気分だった。
杏子ちゃんも、多分同じ気分に違いなかった。

ほむら「ごちそうさま」

杏子「ごちそうさま」

ほむら「それにしてもあなたが料理できるとは意外ね」

杏子「マミほどじゃないけど、それなりのものはできると思うぞ。ほむらは料理作るの?」

ほむら「私は作らないわね。効率的に考えて、作るよりすぐ食べれる物の方がいいわ」

杏子「それじゃあ男の子にモテないぞ♪ってマミが言ってた」

ほむら「別にかまわないわよ」

杏子「女の子にもモテないって言ってた」

ほむら「えっ!」

ほむら(料理のできない女をまどかはどう思うかしら…今度マミに料理を教えてもらった方がいいわね…)」

杏子「藍花……最後の攻撃、手加減しただろ?」
藍花「当たり前だよ……共闘する相手に、本気で攻撃なんか出来ないよ」
杏子「甘い奴だな、お前……」
藍花「そういう杏子ちゃんだって。しっかりと、急所は外してたよね?」
杏子「はん……甘いのはお互い様ってか?」

お互い様、か。確かに、本気の殺し合いだった場合、これは甘いのかもしれなかった。
でも、今回はこれでいいよね。お互いに本気で殺すつもりはなかったんだし。

藍花「ねぇ、杏子ちゃん……わたしの力、どうかな?」
杏子「ま、悪かねぇけど……まだまだってとこだな。あんたの能力は便利すぎる分、その便利さに頼り切ってる部分がある。応用を広げりゃ、いくらでも強くなれると思うぜ」
藍花「……そっか、ありがと」
杏子「別に褒めてはいねぇぞ?」
藍花「でも、いくらでも強くはなれるんだよね?」
杏子「都合のいい奴だなぁ……」

それだけ言葉を交わしたところで、使い魔のことを思い出した。
が、気配は既になかった。多分、わたしと杏子ちゃんの戦いを察知して逃げだしたんだろう。

藍花「使い魔は……倒さない方がいいの?」
杏子「損得を考えりゃ、そうなるな。ま、ここは藍花の守る街だ。藍花がそうしたいってんなら、あたしはそれに従うよ。元々よそ者はあたしの方だしな」
藍花「……ありがとう」

脇腹の痛みも薄れ、立ち上がれるほどまでに回復する。
杏子ちゃんの方も、怪我は癒えているようだった。

藍花「それじゃ、さっきの使い魔、倒しに行こう?」
杏子「お、おいっ!」

集中して気配を探ると、使い魔の気配を掴むことが出来た。
わたしは杏子ちゃんの手を引き、走りだす。
杏子ちゃんの顔が少し嬉しそうに見えたのは……きっと、見間違いじゃなかったと思う。

先程の使い魔の気配を追って行くと、次第に魔女の気配が漂って来る。

杏子「……はん、たまにゃ使い魔と鬼ごっこもしてみるモンだな!魔女んとこに逃げてくらしいぜ!」
藍花「魔女……っ!」
杏子「おい藍花、魔女に憎しみを持つのは結構だが、それに飲み込まれるようなことだけはすんなよ?
    危なくなったら、あたしが助ける。お前は一人じゃないんだからな?」
藍花「……うん、わかってる」

大丈夫、わたしは自分を見失ったりしない。
使い魔の気配を追って辿りついた先は、路地裏だった。
そこに、魔女が結界を張って待ち構えているようだ。

杏子「後輩は先輩の背中に隠れとけ。んじゃ、行くぞ!」
藍花「うんっ!」

杏子ちゃんが、槍の先端で結界に穴をあける。そこから、魔女結界の中へと侵入した。

結界内部は、まるでガラスの世界のようだった。
最初に倒した魔女結界とは違い、明るい世界。
綺麗な結界のはずなのに、神秘的な雰囲気は微塵も感じない。どこか狂気を感じる内部だ。
その辺りが、やはり魔女の結界なのだろうと納得する。

杏子「油断すんなよ、藍花。どっから使い魔が飛び出してくっかわかんねぇからな」
藍花「うん、わかってるよ」

辺りに気を配りながら、中枢目指して歩いて行く。

途中、何体か出て来た使い魔を蹴散らしながら、中枢に辿りつく。

魔女「――――」

杏子「……鏡の魔女、ってとこか?」
藍花「………」

魔女の体は、その全てが反射鏡になっていた。
わたしと杏子ちゃんの姿も、いびつな形となって映し出されている。

杏子「行くぞ!」

杏子ちゃんが地を蹴り、魔女目掛けて槍を構えながら突進を仕掛ける。
わたしはわたしで、懐中電灯を取り出して光の剣を出現させる。それを両手で握り、魔女の方に向き直る。

杏子「おらぁっ!」

槍を横一線、薙ぎ払う。
魔女の体を構成している鏡が、その槍の攻撃によって割れ……なかった。

杏子「ちっ、硬いな!」
藍花「杏子ちゃん、下がって!」

光の剣を片手に持ち直し、空いた左手に力を込める。
そして、溜めこんだ力を魔女向けて発射する。
光線。光の収束に、わたしの魔力も織り交ぜている為、その破壊力は相当な物のはず。

しかし、その攻撃は。

魔女「――――」

魔女の反射鏡によって、そのままわたしの方に跳ね返ってくる。

藍花「え……?」

その事実を頭で理解するのが遅れた。
そして……わたしが放った攻撃によって、わたし自身が吹き飛ばされていた。

藍花「うぐあああぁぁぁっ……!?」
杏子「藍花っ!?」

数メートル吹き飛ばされ、結界の壁に激突する。

藍花「くはっ……!」

光の剣もいつの間にかその姿を消しており、わたしはその場に片膝をつく。

杏子「大丈夫かっ!?」
藍花「う、うんっ……」

幸い、吹き飛ばされたと頭で理解した瞬間に治癒魔法を使い始めていたから、大事には至らなかった。

杏子「この魔女は……藍花には天敵だな」
藍花「で、でも杏子ちゃん一人で戦わせるのは……」
杏子「いい、大人しく見てろ。見せてやるよ、先輩の実力って奴をな」

杏子ちゃんは不敵な笑いを浮かべ、再度魔女目掛けて突進を仕掛ける。

杏子「おら、あたしが相手だっ!!」

槍を引き延ばし、多節棍を展開する。
そして、魔女の体を四方八方から殴打する。

藍花「……すごい」

変則的な動きだ。あの時にも多節棍は展開していたけれど、ここまでの動きではなかった。
やはりあの時は、相当手を抜いていたんだろう。

魔女「――――!―――――!?」

魔女が、杏子ちゃんの動きに翻弄されていた。
そして、どれだけ打撃を与えてもヒビひとつ入らなかった魔女の体に。
お腹に当たる部分だろうか。そこに、少しの亀裂が入った。
それを杏子ちゃんは見逃さなかった。

杏子「おおおおぉぉぉらっ!!」

多節棍を手元に引き寄せ、元の槍の形状に戻す。
そして、それを両手でしっかりと構えたかと思うと、力強い突きを亀裂目掛けて叩きこんでいた。

魔女「―――!!?」

その亀裂が、少しずつ、少しずつ広がって行く。

杏子「こいつでトドメだ!」

最後に距離を置きながら、槍を投擲する。
槍が魔女の体に着弾したかと思うと、魔女の体が爆ぜた。

杏子「……っと。ま、ざっとこんなもんだ」

しっかりと着地し、得意げな笑顔をわたしに向けて来る。
魔女が力尽き、その結界も完全に崩壊する。後に残ったのは、グリーフシードだけだった。

杏子「ほい、グリーフシードゲット、ってな」
藍花「すごい、すごいよ杏子ちゃん!」
杏子「はん、褒めたってこのグリーフシードはわたさねぇぜ?」

心強い。杏子ちゃんと一緒なら、どんな魔女でも倒せるような気がした。

杏子「ふぁー…おなかがいっぱいになった事だし、眠くなっちゃったな」

ほむら「杏子、布団に入る前にお風呂に入りなさい。あなた、雪の中を歩いてきたんだから汚いでしょ」

杏子「えっそこまでしてもらっていいの?」

ほむら「汚い体で布団に入ってもらいたくないだけよ」

杏子「いやいいよ、お風呂まで入らせてもらうなんて。そこまでほむらに迷惑かけられないよ」

ほむら「だから、汚い体で布団に入るなって言ってるでしょ!何でこんな時だけ遠慮するのよ!」

~~~

杏子ちゃんと協力して魔女を狩るようになってから、二十日余りが経過していた。
不思議なことに、わたしはちょっとだけ魔女との戦いが楽しくなり始めていた。
二人ならば、安全に魔女退治が出来る。

昼間。杏子ちゃんと一緒に当てもなく街を歩き回る。
杏子ちゃんの手のひらにはソウルジェムがあった。
魔女の気配は無いようだ。

杏子「魔女の出現率も減ってきてるな。流石に狩りすぎたか?」
藍花「いいことじゃない?」
杏子「ま、この街にとっちゃいい事かもしんねぇけどさ」
藍花「ほら……街に希望が戻ってきてる」

街を行きかう人々は、復旧に力を入れている。
人間は元より、立ち上がる力を持ってるんだ。

藍花「……そういえば、最近キュゥべえを見ないね?」
杏子「あいつのことだ。どっか別の街で契約の押し売りでもしてんだろうよ」


QB「僕を呼んだかい?」
藍花・杏子「!」

キュゥべえが、物陰からその姿を現した。

杏子「……相変わらず、神出鬼没な奴だな」
QB「キミ達が僕を必要とするのなら、僕はいつでも姿を現すよ」
杏子「別に必要となんか……」
藍花「ちょうどよかった。はい、キュゥべえ。限界が近いグリーフシード」

キュゥべえに向けて、数個のグリーフシードを放る。
それを、キュゥべえは身を翻して背の中に収納していた。

杏子「………」
QB「で、必要となんか……なんだい?」
杏子「うるせぇっ!」
藍花「ねぇ、キュゥべえ。ワルプルギスの夜について、詳しく知ってそうな魔法少女って、いるのかな?」
杏子「藍花っ!?」

杏子ちゃんはびっくりしたような声を上げる。

藍花「どうかしたの、杏子ちゃん?」
杏子「んなこと聞いてどうするってんだよ!?」
藍花「決まってる。わたしのお父さん、お母さんを死に追いやったあの魔女だけは……わたしが、この手で……」

握りこぶしを作り、わたしの決意の固さを現す。

杏子「っ……はぁ……」

杏子ちゃんは何かを言いたそうにしていたが、結局は何も言わずため息だけをつく。

藍花「それで、どうなのキュゥべえ?そんな魔法少女、いる?」
QB「ワルプルギスの夜に詳しいかどうかはわからないけれど……見滝原に、イレギュラーの魔法少女がいる。
   もしかしたら、彼女なら何か知っているかもしれないね」
杏子「見滝原ぁ?まさか、マミの事じゃねぇだろうなぁ?」
QB「違うよ。確かに見滝原にはマミもいるけれど、マミとそのイレギュラーの魔法少女……暁美ほむらは、敵対、とまでは言わないけれど、良好な関係であるとは言い難い仲だね。
   まぁ、行ってみればわかるんじゃないかな」
藍花「………見滝原……」

どんなところなんだろう?ちょっとだけ興味をそそられる。
杏子ちゃんも見滝原がどんなところなのか知ってるみたいだし。

杏子「まったく、ほむらも人が良すぎるな」

ほむら「ええ、まったくそのとおりだわ」

杏子「服はどうしよう」

ほむら「私のを使いなさい」

杏子「サイズ合うかな」

ほむら「だいたいの確率で合うと思うわ」

杏子「何故そう思う?」

ほむら「統計よ(私と杏子は胸が無いから、合うと思うなんて言えないわ)」

~~~

夜。わたしと杏子ちゃんはいつも通り、ホテルの一室でくつろいでいた。
杏子ちゃんはテレビを見ながら、ロッキーを食べている。
わたしはと言うと、地図を広げて見滝原の位置を調べていた。

藍花(……行ってみたい、かな)

この街を離れるのは気が引けるが。人間、興味には勝てないものだ。

藍花「ねぇ、杏子ちゃん。わたし……見滝原に行ってみたい」
杏子「はぁ?なんだよ藍花。アイツの言うことを鵜呑みにすんのか?」
藍花「その……暁美ほむらさん、だっけ?その人に会って、話をするだけ。何も知らないようだったら、すぐに帰ってくるよ」
杏子「……まぁ、藍花が行きたいってんなら止めねぇけどさ。この街の守りはどうすんだ?」
藍花「それは、その……」

言い出しにくかった。
わざわざ杏子ちゃんの方から共闘を申し出てきてくれたのに、わたしが留守の間この街を守って欲しい、だなんて。
完全にわたしのワガママだもんね。

杏子「……はぁ。顔に書いてあんぞ?『杏子ちゃんにこの街を守って欲しいな~』って」
藍花「えっ、嘘っ!?」

あたふたとして、顔を両手で隠す。

杏子「はは、冗談冗談。ま、わかったよ。藍花が留守の間は、あたしがこの街を守ってやる。その代わり、少しでも早く帰ってくるんだぞ?」
藍花「杏子ちゃん……ありがとう!」
杏子「ただし、その間この街で手に入れたグリーフシードはあたしの総取りだかんな?」
藍花「それはもちろん!それじゃ、早速準備をしなくっちゃ!」

早速わたしは、数少ないわたしの荷物をまとめ始める。
あっさりと許可を取れるとは思っていなかったこともあり、わたしは浮かれていた。
そのせいで、杏子ちゃんがあまりいい気じゃなさそうだったのは気付くことが出来なかった。

~~~

次の日。わたしはいいと言ったのだけれど、杏子ちゃんは駅までわたしを見送りに来てくれていた。

杏子「じゃ、また会おうぜ」
藍花「うん、杏子ちゃん。わたし、杏子ちゃんがいなかったらずっと孤独だったと思う。ありがとう、杏子ちゃん」
杏子「おいおい、別れ際にんなこと言うな!まるでもう二度と会えないみたいに聞こえるじゃねぇか!」
藍花「あはは、そんなことないよ。それじゃ、杏子ちゃん……行ってきます」
杏子「おう!」

杏子ちゃんは笑顔でわたしを送り出してくれる。そんな杏子ちゃんの笑顔を背にし、わたしは泣きそうだった。

わたしの街……煌華(こうか)町から見滝原へは、結構な距離がある。
数回の乗り継ぎを経て、わたしは見滝原の地に辿りついた。
駅から出ると、空は茜色に染まっていた。

藍花(……綺麗な街だな)

街がとても穏やかだ。ここを守る魔法少女も、魔女だけでなく使い魔を倒すのにも頑張っているのがよくわかった。

藍花(杏子ちゃんにメール、送っておこう。無事に着いたよ!……っと)

送信ボタンを押したところで、携帯をポケットにしまい込む。

藍花(さて、と……)

行動を開始する。魔法少女と出会うには、やはり魔女や使い魔の結界で待ち伏せするしかないだろう。
でも、そんな都合よく魔女が出現するだろうか。

藍花「……!」

そんなことを考えている間に、わたしのソウルジェムが反応を示していた。
この大きさは、おそらく魔女だ。
ソウルジェムを手のひらに乗っけて、魔女の居場所を探り始める。

街の中、病院の近く。そこに結界を発見した。

藍花(あった……!)

魔法少女の姿へと変身し、結界に侵入する。

結界の中はやはり魔女結界特有の狂気に満ちていた。
辺りには薬品のカプセルやらお菓子を模した物体やらが無造作に転がっていた。
そしてその結界の中を、何かを探すように歩きまわる丸い姿をした魔女の手下。

藍花(……とりあえず、ここの魔女を先に倒しちゃおう)

わたしの目的とする魔法少女がこの場所にいなかったとしても、魔女の気配が消えたとなれば不審に思うはずだ。
そう決めたわたしは、手下を蹴散らしながら結界の中を進んでいく。

??「……誰?」

結界の中を少し進んだところで、話しかけられた。声がした方に顔を向ける。
大きなリボンで体を拘束されている人がいた。長く黒い髪に、頭にはヘアバンドをした少女。

??「……いえ、誰でもいいわ。お願い、わたしを解放して!このままじゃ、マミが………!」

切羽詰まったかのような口調で言われ、少々戸惑う。

杏子「おっ結構綺麗な浴室だな」

ほむら「お背中流しましょうか?」

杏子「なっ!ほむら!」

ほむら「体も洗ってあげるわよ」

杏子「やっ止めろ!どこ触ってんだ!」



杏子「…ってな具合になったりしないか心配だ!どうしよう!」

ほむら「心配無用よ。あなたが来る前に先に入ったわ」

藍花「ええと……そのリボンを、切っちゃえばいいのかな?」
??「それでいいわ、早く……!」

言われるまま、彼女を拘束しているリボンの端を光の剣で斬る。
と、その瞬間。彼女の姿は、あっと言う間に消えた。瞬きをする間に、である。

藍花「え、えっ!?」

何が起きたのかわからず戸惑っていると、結界の奥の方から爆発音が響いて来る。
それも、ひとつじゃない。ふたつ、みっつと。
数回の爆発音を繰り返した後、結界が崩れて行く。

藍花「な、何が……?」

結界が完全に崩れ、辺りは先程の街の光景に戻っていた。わたしから数メートル離れたところに、四人の少女、それとキュゥべえがいた。

QB「藍花!見滝原に来たんだね」
藍花「う、うん……」

先程拘束されていた黒髪の少女は、わたしとキュゥべえの会話など意にも解せず、金髪の魔法少女に話しかけていた。

??「命拾いしたわね、巴マミ。この子が結界に来ていなければ、ソウルジェムごと頭を食いちぎられていたところだったわ」
桃色髪の少女「よかった、マミさん……!」
青髪の少女「………」
マミ「……わたしを、助けてくれたの?」
??「……ええ」

わたしの事などそっちのけで、二人は話を進める。
取り残されたわたしは、現状を把握出来ずにいた。

藍花「え、ええっと……とりあえず、名前を教えてもらってもいいですか?」
ほむら「わたしを解放してくれてありがとう。わたしの名前は暁美ほむら。そして、この金髪の魔法少女が巴マミ。青髪の子が美樹さやか。桃色髪の子が鹿目まどかよ」
藍花「丁寧にありがとう。わたしの名前は夏見藍花」
ほむら「夏見さん、ね。早速で悪いのだけれど、わたしの家まで来てくれるかしら?少し、話がしたい」

ほむらさんはそれだけ言うと、歩き始める。その場に残された三人の事も気にはなったが、とりあえずはこの少女の後について行こう。
わたしの後ろでは、マミさんを励ますように、さやかさんとまどかさんが話しかけていた。
キュゥべえは、どうやらわたしとほむらさんについて来るようだった。

ほむらさんの先導で着いた先。人気が少ない住宅街の一角に、彼女の家があった。

ほむら「入って。もてなしの用意はないけれど、ね」

言われるまま、中へと入る。
外観からは想像もつかないほど中は広かった。頭上には巨大な振り子のようなものが動いており、壁には絵画がたくさん飾られている。

ほむらさんは椅子に座り、真剣な顔をしてわたしのことをその鋭い視線で射抜く。

ほむら「あなた……何者?」
藍花「……夏見藍花、です。さっき、名前言いましたよね……?」
ほむら「敬語なんて使わなくていいわ。年なんてあまり変わらないでしょうし。それに、わたしは名前とか年齢を聞いているのではない。
     あなたがどういう内容で契約し、どういった経緯でこの街に来たのかを知りたいの」

ほむらさんはわたしを真っ直ぐ見据えて、そう言い放つ。

藍花「ええっと……」

別段隠すような事でもない。
ほむらさんの真剣な眼差しに少しだけ不安を覚えながらも、ゆっくりとこれまでの経緯を話した。

ほむら「……なるほど。ワルプルギスの夜の情報を求めて……ね」
藍花「う、うん。ね、ねぇキュゥべえ。キュゥべえが言ってたイレギュラーの魔法少女って、ほむらさんのことだよね?」

ほむらさんから視線を逸らし、一定の距離を置いて佇んでいたキュゥべえに話しかける。

QB「うん、そうだよ」

……よかった、すぐに会えて。早々に、この街での目的を達成することは出来そうだ。

藍花「ねぇ、ほむらさん。ワルプルギスの夜について……何か、知っていることがあったら教えて欲しいの」
ほむら「残念だけれど、わたしもあいつの事を詳しく知っているわけではないの」
藍花「………」

予想していたこととはいえ、少しばかり落胆する。これで、振り出しに戻ってしまった。

ほむら「ただ、奴についてひとつだけ、確かな情報がある」
藍花「! 本当!?」
ほむら「ええ。今から約三週間後……この街に、ワルプルギスの夜が襲来するわ」
藍花「……!」

期待していた情報とは違った。
だが、それは何より求めた情報でもあった。

杏子「ふーさっぱりした」

ほむら「髪の毛バサバサね。ちゃんと乾かして整えなさいよ」

杏子「いいの、いいの。どうせ寝るだけなんだし」

ほむら「そんな事したら変な寝ぐせがつくし、髪の毛も痛むわよ」

杏子「へーき、へーき」

ほむら「もーいいから私の言う事聞きなさい!」

杏子「うわ!何すんだほむら!」

ほむら「あなたみたいに髪を大切にしない人を見るとイラっとくるのよ!伊達にファサッを毎回してないわよ!」

藍花「……本当、に?」
ほむら「確かな情報よ」
藍花「どこで、それを……?」
ほむら「………」

更に一歩踏み込むと、ほむらさんの眼つきが鋭さを増した……ような気がした。
そしてその視線は、わたしじゃなく……キュゥべえに向けられているようだった。

QB「………」
ほむら「ごめんなさい、情報の出所については教えることが出来ないの」
藍花「……そっか、ごめんね」
ほむら「いえ、気にしていないわ。それで、あなたはそれを聞いてどうするのかしら?」
藍花「……決まってる」

そうだ、決まっている。
ワルプルギスの夜がこの街に姿を現すと言うのなら。わたしはそれを迎撃するまでだ。

ほむら「ワルプルギスの夜と、戦うつもりかしら?」
藍花「うん」

はっきりと、そう返事をする。

ほむら「まず、ドライヤーをあてて」

杏子「熱っ!熱いぞほむら!」

ほむら「十分乾いたら、櫛でとかす」

杏子「なんか頭がむずかゆい!」


ほむら「どう綺麗になったでしょ」

杏子「おお!サラサラヘアーだ!」

ほむら「これであなたもファサッができるわよ」

杏子「ファサッ。ほんとだファサッができる!」

ほむら「……そう。なら、わたしと共闘することになるわね」
藍花「えっ?」

意外、だった。わたしの認識が正しければ、ワルプルギスの夜と戦おうなんて奇特な考えを持つ魔法少女なんて、いるはずがない。
杏子ちゃんだって……多分、ワルプルギスの夜とは戦いたくないに違いない。

ほむら「わたしからお願いする形になるかもと思っていたけれど、そういうことなら話が早い。わたしに、力を貸してちょうだい?」
藍花「………」

正直なところ、この人の言うことを全て信じてしまっていいのだろうか、と言う疑念が渦巻いていた。

藍花「それに返事する前に……ほむらさんが、ワルプルギスの夜を倒そうとする理由を、教えて欲しい」
ほむら「………」
藍花「それが出来ない、と言うのなら……悪いけど、首を縦に振るのは難しい、です」
ほむら「……………そう。わかったわ。なら話はこれでおしまいね」
藍花「話す気は……ない、と言うこと?」
ほむら「わたしの目的は……誰にも理解されないと思うもの」

ほむらさんはそう言うと、寂しげな顔をする。

藍花「……共闘の話はひとまず置いておいて、他の話を、聞かせてもらってもいい?」
ほむら「わたしが答えられる質問なら、いいわ」
藍花「ほむらさんは……どうして、さっきの人……マミさんと険悪な仲なの?」
ほむら「……彼女、巴マミは新しい魔法少女を誕生させるつもりでいる。でも、これ以上新しい魔法少女は生み出すべきではないの」
藍花「……確かに、魔法少女が多くなればグリーフシードは手に入りづらくなるけど……魔法少女になるならないっていうのは、個々の自由、なんじゃないのかな?」
ほむら「あなたの言うことも一理あるわね。でも、わたしは生み出させるべきではないと思っている」

そこまで言って、再びキュゥべえに視線を向けた。
ほむらさんの意思は、固いようだった。

QB「……やれやれ。どうやら僕は邪魔みたいだね。失礼させてもらうよ、ほむら、藍花」
ほむら「………」

キュゥべえはそれだけ言い残して、この場を去って行った。

藍花「……これ以上、深い話は聞けそうにない、ね」
ほむら「………秘密だらけでごめんなさい。こんな状態で共闘してくれ、だなんてムシがよすぎるわよね」

ほむらさんは自嘲気味にそう言う。
………同じ、だ。わたしや、杏子ちゃんと。魔法少女って、みんな孤独なんだ。

藍花「わかった。ほむらちゃんの秘密は、聞かないことにする」
ほむら「! 今、わたしのこと……」
藍花「うん。共闘、しよう?そして、全てが終わったら。その時は、ほむらちゃんの目的も、聞かせてもらえるよね?」
ほむら「ええ、それはもちろん。わたしの全ては……あいつ、ワルプルギスの夜なのだから」
藍花「それなら、いいよ。わたしも、何も聞かない」
ほむら「……ありがとう、夏見さん」
藍花「あはは、夏見さん、だなんてそんな距離の置いた呼び方しないでよ。今からわたしたち、仲間、だよね?だったら、下の名前で呼んで欲しいかな」
ほむら「わかった……藍花。あなたの助力、ありがたく受けることにするわ」

わたしはほむらちゃんに、右手を差し出す。
ほむらちゃんはそれに応えてくれる。
そうして、わたしとほむらちゃんは堅い握手を交わした。

落ち着いたところで、携帯の着信音が鳴る。
画面を確認すると、杏子ちゃんからだった。

藍花「ちょっとゴメンね」

ひと言断りを入れて、その電話に出る。

杏子『もしもし、藍花か?どうだ、ワルプルギスの夜の手掛かりは手に入ったか?』
藍花「うん……今から約三週間後に、この見滝原に姿を現すみたい」
杏子『はぁっ!?見滝原にぃ!?』
藍花「うん」
杏子『……で、藍花はどうすんだ?』
藍花「もちろん、この場に留まって、ワルプルギスの夜と戦うよ」
杏子『はぁ……やっぱりなぁ』

電話越しではあるが、杏子ちゃんがやれやれと言った風に頭を掻いている姿が容易に想像出来た。

藍花「で、よかったら杏子ちゃんにもこっちに来て欲しいんだけど……」

わたしが杏子ちゃんの名前を口に出すと、ほむらちゃんはハッとしたような反応をする。
気にはなったが、今は杏子ちゃんと電話中だ。

杏子『そう言い出すと思ったよ、ったく……この街の守りはどうするつもりなんだ?』
藍花「え、あ、それは……」

しまった、その事を考えていなかった。
わたしの生まれ育った街を、野放しにするわけにはいかないし、どうしよう……。

杏子『なんてな。悪い、ちっとイジワル言った。実を言うと、この街でまたキュゥべえの野郎が節操も無く新しい魔法少女を生みだしちまってな。この街はそいつに任せりゃいい』
藍花「キュゥべえが……」

わたしがキュゥべえの名前を出すと、今度はほむらちゃんの顔が明らかに険しくなるのが見て取れた。

ほむら「それじゃあ後は寝るだけね」

杏子「ええー!寝る前にゲームとかしたりテレビとか見ようぜ」

ほむら「早く寝ないと、私の場合起きれないのよ」

杏子「別にいいじゃん、明日遅くなってもさ」

ほむら「年中休みのあなたと違って私は学校があるのよ」

杏子「ちょっとだけな、ちょっとだけ」

ほむら「少しだけよ」

杏子『正直気は進まねぇけど……行ってやるよ、そっちまで』
藍花「うん、ありがとう杏子ちゃん。待ってるね」

そこで、通話は終了した。間髪いれずに、ほむらちゃんが問いをぶつけて来る。

ほむら「今、杏子って……」
藍花「え、うん。佐倉杏子ちゃん」
ほむら「…………」

ほむらちゃんは不思議そうな顔をしていた。

ほむら「……世界は狭いわね」
藍花「杏子ちゃんの事、知ってるの?」
ほむら「ええ、よく知っているわ。もっとも、彼女はわたしのことは知らないでしょうけれど」
藍花「……?」

ほむらちゃんが何を言わんとしてるのかがわからず、わたしは終始顔に疑問符を浮かべていた。

ほむら「あなた、今夜の寝泊まりの場所は確保出来ているのかしら?」
藍花「………あ」

当面の目的にとらわれ過ぎていたせいで、そこまで考えていなかった。

藍花「な、なんにも決まってないや……」
ほむら「……だろうと思った」

ほむらちゃんは穏やかな笑顔を浮かべていた。

ほむら「あなたさえよければ、泊まって行ってもいいわ」
藍花「本当?」
ほむら「仲間、なのでしょう?わたしたちは。その仲間を、夜の外に放り出すなんてしないわよ」
藍花「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

夜中。わたしとほむらちゃんは、チェスで勝負していた。
最初はルールがわからなかったのを、ほむらちゃんが教えてくれて駒の動かし方などを覚えた。
でも、所詮は素人。最初からルールを知っているほむらちゃんに勝つことなんて、そうそう出来るモノではなかった。

ほむら「ワルプルギスの夜を倒す……最終目標はそれだけれど、それ以外にも協力して欲しいことがあるの」
藍花「何?」
ほむら「美樹さやかを監視して、魔法少女の契約を阻止して欲しいのよ」
藍花「さやかさん……?」

夕方に出会った三人の顔を思い出す。
さやかさんは確か、ショートヘアにヘアピンをつけてた子のことだ。

ほむら「ええ。鹿目まどかはわたしが監視する。……お願い出来るかしら?」
藍花「それは構わないけれど……なら、わたしからも聞いていいかな?」
ほむら「何かしら?」
藍花「………ええと……」

いざとなると、何を聞いたらいいのかがわからなくなった。
マミさんと険悪な仲な理由も、ほむらちゃんの目的も……語ってくれそうにないし。

藍花「あっ、そうだ!マミさんが契約した経緯とかって、教えてもらってもいいかな?」
ほむら「巴マミの?わたしは構わないけれど……本人の意思を無視して、話していいものかしら」
藍花「あ、そうか……」
ほむら「まぁ、あなたも彼女と似たような境遇だし……いいわ、教えてあげる」
藍花「え?」

わたしと、似たような境遇?

ほむら「彼女の願いはね、事故で失われそうになっていた自身の命を繋ぎとめる為の祈り」
藍花「………」

確かに、似ていた。わたしも……あの時キュゥべえと契約していなければ、そのまま死んでいただろうし。

ほむら「あなたが彼女を説得してくれれば……あるいは、彼女もわたしたちに力を貸してくれるかもしれないわね」
藍花「わたしが、マミさんを?」
ほむら「ええ。共感出来る部分、あるでしょう?」
藍花「うん……そうだね」

マミさん……一度、ちゃんと話してみたいな。

ほむら「それじゃ約束通り、美樹さやかの監視をお願いね」
藍花「うん、わかった」
ほむら「ふふ、それと……チェックメイト」
藍花「………あ」

また負けた。容赦ないよ、ほむらちゃん……。

杏子「おっしゃババ引いた!」

ほむら「ぬぅぅぅぅぅ!今度は神経衰弱よ!」


ほむら「記憶力は私の方が上のようね」

杏子「くそっ!今度はポーカーだ!」


ほむら「ロイヤルストレートフラッシュよ!」

杏子「あっ!ほむら!てめえ時間止めてカードを変えただろ!」


杏子「ああ楽しかったな」

ほむら「結局、遅くまで起きてしまった…」

~~~

翌日、わたしはほむらちゃん達が通う学校の近くのビルの上に立っていた。
日中はさやかさんは学校にいる為、監視する必要がなかった。

ほむら『……藍花。聞こえる?』
藍花「!」

突然、頭の中に声が響いた。

ほむら『テレパシーで話しかけているの。魔法少女なのだし、それくらいはあなたも知っているでしょう?』
藍花「てっ、テレパシーっ!?」

想像はしたことがあるけど、これが……!
すごい、なんだか感動だ。

ほむら『……話を続けていいかしら?』
藍花『あ、ごめんほむらちゃん。それで、何?』
ほむら『巴マミは今日、学校に出てきていないらしいのよ。場所を教えてあげるから、ちょっと彼女のマンションに行ってみてくれないかしら?』
藍花『マミさんのマンションに?うん、いいけど……さやかさんの監視は、大丈夫?』
ほむら『それは問題ないわ。放課後になる前に戻ってきてくれればいい』
藍花『うん、わかった。ちょっと、行ってみるね』
ほむら『お願い。場所は―――』

ほむらちゃんに教えてもらった場所を目指して、住宅街を歩いて行く。

ほむら「それじゃあ今度こそ寝るわよ、ほんとうに」

杏子「わかってるよ」

ほむら「しまった、布団をクリーニングに出してたせいで、一人分しか布団がない!」

杏子「しかたねえな。誰にでもそういう事はある」

ほむら「ごめんなさいね」

杏子「それじゃあ、ほむらはソファーで」

ほむら「今度こそ追い出すわよ?」

杏子「冗談だよ、冗談。もうパターンってわかるだろ」

ほむら「わかってても腹が立つわ」

杏子「それじゃあ、あたしはソファーで寝させてもらうよ。」

ほむら「それじゃあ、おやすみ」

杏子「おやすみ」

ほむら「…」

杏子「くしゅん!」

ほむら「!」

ほむら(くしゃみかしら…)

ほむら「…」

杏子「くしゅん!」

ほむら(また…そういえば寒い中歩いてきたのよね)

杏子「ずずずっ」

杏子(鼻水まででてきた)

ほむら「ああもう!」

ほむら「布団の中に入りなさい!」

杏子「えっ、でもほむらをソファーを寝させるわけにはいかないし」

ほむら「いつ私がソファーで寝ると言ったの!私とあなたでいっしょの布団で寝るのよ!」

杏子「そこまでしてもらうのは悪いよ…くしゅん!」

ほむら「何でこういう時だけまた遠慮するのよ!風邪でもひかれたらこっちが困るわ!」

杏子「布団の中暖かい…」

ほむら「最初っから意地なんかはらなければ良かったのに…」

ほむら「聞いてるの杏子?」

杏子「ぐぅーぐぅー」

ほむら「寝るのはや!」

ほむら「まあいいわ、学校があるのだし私も寝ましょ」

ほむら「…」

杏子「すぴー」

ほむら「…眠れない」

杏子「むにゃむにゃ、もう食べられないぜ…」

ほむら「べたな寝言を言いよって…」

杏子「くらえー…ろっそ…ふぁんたずまー…」

ほむら「ほんとうにうるさい…」

ほむら「ええい気にしては駄目よ。眠るのに集中しなくては…」

ほむら「まどかが一人、まどかが二人、まどかが三人、まどかが四人…」

杏子「あたしたち…ゾンビに…されたような…もんじゃないか…」

ほむら「うるさくて眠れない!何で杏子を泊めてしまったのかしら…」

杏子「ほむらー…」

ほむら「えっ!?」

杏子「お前は…仲間だ…あぶない時は…助けてやるから…むにゃむにゃ」

ほむら「杏子…」

ほむら「ふぅー…今日ぐらいは許してあげるわ」

杏子「おはよーほむら」

ほむら「ええ…おはよう…杏子」

杏子「どうした?元気ねえじゃん」

ほむら「何でもないわ…(結局少ししか寝れなかった)」

杏子「うん!?これは…」

ほむら「魔女の反応!」

ほむら「すぐに行くわよ」

杏子「待ちな!ここはあたしに任せてくれ!」

ほむら「急にどうしたの?」

杏子「ほむらには学校があるだろ。それに昨日はたくさん世話になったしな」

ほむら「そう…ありがとう杏子。それじゃ今日は頼むわね」

杏子「お互い様さ。それじゃあ、ちょっくら倒してくる!」

ほむら「ちょっと待ちなさい杏子!あなた髪!」

さるくらったので携帯で書き込みします


杏子「いいよ、今急いでるんだし」

ほむら「髪を結うほどの余裕もないの?」

杏子「あたし一人でやると時間がかかってしまうんだ。あたし不器用みたい」

ほむら「いいわ、私が髪を結ってあげる」

杏子「いいよ、いいよ」

ほむら「だから前も言ったでしょ!何で私から言う時は遠慮するのよ!」

ほむら「それにお互い様でしょ」

杏子「それじゃあやってもらおっかな」

ほむら「ほらできたわよ」

杏子「はやっ!ちゃんとできてるか鏡見ないと」

ほむら「信頼しなさい、それに急いでるんでしょ!」

杏子「そうだな、すぐに行かないと!」

ほむら「いってらっしゃい」

杏子「あっ、昨日はありがとう。色々楽しかった!」

ほむら「ええ、こちらこそ楽しかったわよ」

終わり

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