真「明日に向かって撃て!」(161)

「っ――!」


最初、それに気付いたのはボクだけだった。
朝の生中継の収録を終えて、プロデューサー達と事務所へ帰る道中。
視界の端に、猛スピードで走る車が見えた。


貴音「さて、収録も終わりましたことですし、遅ればせながら朝餉に参りましょう!」

P「朝餉ってお前なぁ……ラーメン屋のクーポン握りしめて……」


車は勢いを緩めることなく、こちらへ迫ってくる。歩道がガードレールで仕切られていない、細めの道。
ボク達を気遣う様に車道側を歩くプロデューサーも、ようやくその音に気付いて振り返った。


P「っ! 二人とも、危ない!」


プロデューサーが、貴音とボクを脇へ押しやろうとする。けれども、ボクの反応と動きの方が早かった。


P「まこっ――?!」

貴音「何を――!?」


一番外側に居たボクは、何も言わずにプロデューサーの手を思いきり引いた。
その反動で、二人の間をするりと抜け、ボクは車の前へ躍り出た。

ほう

そして。


「「――」」


後ろから、プロデューサーと貴音の声が、ゆっくりと聞こえてきた。
ドップラー効果? じゃないよね。

車もスローモーションのようにゆっくりになって、じわりじわりと近づいてきた。
あれかなぁ、事故に遭う時やプロボクサーは感覚が云々って言う。

迫ってくる車を中心に、光の帯がいくつも放射状に見えた。
帯の一つ一つに、色々な思い出が詰まっていて。その帯が、ボクの身体を包み込んだ。


……走馬灯ってやつ?


ああ、ボクは死ぬのかな。意外と率直に、そんなことを思った。
帯の中を覗くと、本当に色々なことがあった。
嬉しかったこと、怒ったこと、悲しかったこと、楽しかったこと。




ボクは、幸せだったのかな……?

続けたまえ

真が覚醒して車を破壊

――――
―――
――


貴音「真」

「うわぁっ! ……ゆ、夢かぁ。それにしてはリアルな夢だったなぁ……」


頭の中がぼけーっとして、何も考えられない。ここは……事務所?


貴音「夢を?」

「ああ、うん。居眠りして変な夢を見ちゃっただけだよ、あはは」


なんだか、貴音が神妙そうな顔をしてる。
ボク、そんなに変な事言ったかなぁ……?


貴音「真、それは夢ではありません」

「え?」

貴音「確かに真は、車に撥ねられたのです」


貴音、何を言ってるの?

不思議お姫ちん

でもほら、この通り、怪我も何もないじゃないか。
そんな真顔で冗談を言わなくたって……。


「ちょっと笑えない冗談だよ、貴音」

貴音「では、何故わたくしが夢の内容を知っているのか、ご説明いただけますか?」

「……それは」

貴音「本当は、分かっているのでしょう?」


……はぁ。
貴音って、やっぱり不思議だなぁ。
どうしてそうすらすらと、人の心の中を読めるんだろう。


「夢じゃ、なかったんだね」

貴音「はい」

「ボクはプロデューサーを庇って」

貴音「車に、撥ねられました」


珍しく、貴音が辛そうに顔を歪める。
これは、冗談を言ってる表情じゃ、ないよね。

RS持ちの貴音

「ボクは、死んだのかな」

貴音「いいえ、まだ亡くなってはおりません」

「え……」


まだ死んでないの?
てっきり、あのままお陀仏になっちゃったのかとばかり。


貴音「この世界は、生と死の、境目なのです」

「境目……」


境目、かぁ。
三途の川とか、そういうのを想像してたんだけど、思ったより日常的な場所なんだね。


貴音「わたくしは、機会をお伝えするためにここへ参りました」

貴音「再び生の世界で生きるための、一度きりの機会です」

「!」

貴音不思議可愛いよ貴音

戻れる? みんなのいる場所へ?


「ど、どうすれば!」

貴音「真は今、この世への"未練"を引っ掛けるようにして、何とか踏みとどまっている状態です」

「そういう遠回しな話はあとでいいからさぁ、もっとバシッと!」

貴音「落ち着いて、最後までお聞きなさい」

「は、はい」


貴音の言葉に、思わずベッドの上で正座になる。
改めて自分を見てみると、車に撥ねられた時の服のまま寝てたのか。
な、生々しく思い出されてやだなぁ……。


貴音「……『本当に幸せだったのだろうか?』」


貴音の言葉に、ずきっと、胸が痛んだ。
ああ、それは、あの時ボクが考えていたことだ。
貴音は、何でもお見通しだなぁ。

しえん

貴音「撥ねられる直前に、どうにか真の強い想いを捉え、引き止めることが出来ました」

貴音「今、真がやるべきことは、その想いの"答え"を見つけることです」

貴音「その未練を、"まことの幸せ"へと昇華させてください。心の奥底からの、本当の幸せへ」

貴音「願いを叶え、真の、まことの幸せを知ってください」

貴音「弱気は、死への近道です。幸せを知り、心より渇望する事で、生への執着、活力としてください」


そ、そろそろ限界かも。
ボクの、頭の許容量的に。


「え、えっと」

貴音「そして、注意していただかねばならないことがあります」

「な、何?」


ま、まだあるの!?
そろそろストップしてくれないと、許容量オーバーだよ……!

万能お姫ちん

お姫ちん何者wwww

貴音「この夢の世界へ引き止めることができたとは言え、それはごく限られた時間です」

貴音「わたくしが引き止めていられるのは"今日限り"」

貴音「日の境目を越えてしまったら、わたくしには為す術はありません」

貴音「何としてでも、今日の内に願望を叶えてください」

「リミットは……今日限り」


0時ピッタリ、なのかな。
シンデレラの魔法みたいだなぁ。
万が一間に合わなかったら……うぅっ。


貴音「そして、ただいま申し上げたように、ここは夢の世界。真実と虚構が混じり合っています」

貴音「偽物と本物が入り乱れ、時に誘惑し、時に諭すでしょう」

貴音「見極めてください。わたくしは、これ以上お助けすることはできません」

「……ありがとう。ここまでしてくれただけで、十分だよ」


あとは、ボク自身が頑張らなきゃいけないこと、なんだよね。
ボク自身の幸せを、見つけるために。

貴音「では、わたくしはこれにて」

「どこに行くの?」

貴音「夢の世界とて、仕事は仕事。収録へ行って参ります」

「り、律儀なんだね……出来れば付きっ切りで色々教えて欲しいんだけど……生死がかかってるし」

貴音「申し訳ありませんが、これ以上はわたくしにも分からないのです」

「そっか……行ってらっしゃい」

貴音「幸運をお祈りしております」


貴音はそう言い残して、事務所から出ていってしまった。
仮眠室を出ると、ボクは一人取り残されて、ぼーっとする他なかった。


「どうしようかなぁ……幸せなんて急に言われても分からないよ」


でも、貴音はやっぱり不思議だ。普通ならあんなこと言われたら、困惑するか疑うか。
貴音に言われると、なんだかすんなり受け入れられちゃうんだよね。

……けど、なんで貴音がここにいるんだろう。本当に、何者なんだよ……。


その時、ドアが開く音がした。
ボク、警戒してるのかな。ついつい身構えちゃったよ。

いいよ

P「ただいま。ん、いるのは真だけか?」

「あ……プロデューサー!」


うぅ、プロデューサー!
プロデューサーを見たら、つい色々な感情がこみ上げてきちゃったよ。


P「うわぁっ! ど、どうしたんだ、いきなり抱き着いて来たりして」

「ぷろっ……ぷろでゅーさー……!」

P「な、泣いてるのか?」

「う、ひっく……泣いてないです……」

P「……よしよし」


いきなりこんなじゃ、プロデューサーもびっくりしてるはずだよね。
でも、涙が止まらないボクを、優しく撫でてくれる。
優しいなぁ、プロデューサーは。

サンダンス・キッドとかの話かと…

「ご、ごめんなさい、いきなり……」

P「何か辛いことでもあったのか?」

「えぇ、辛いと言えば、まぁ……」


ひとしきり泣いたら落ち着いてきて、すると今度は一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。
ボクは何をやってるんだろう……!


P「落ち着いたみたいだな。確か真の仕事は午後遅めだし、ちょっとソファーで休んでな」

「はい……」


プロデューサーは座席に着くと、書類を取り出して何やら書き込み始めた。
ボクはというと、内心まだ収まり切らず、ココアを入れて飲みながら、ぼーっと考え事をしていた。

ボクの幸せって、なんだろう?


P「あ、なんだかんだでもう昼なのか」

「そうですね」

P「……よし、ちょっと待ってろ」

プロデューサーは携帯電話を取り出すと、どこかにかけ始めた。
後ろを向いて、ぼそぼそと何かを話してる。仕事の連絡かな。


P「よし、終わりっと。じゃあ、今日は昼食を奢ってやるか」

「本当ですか!?」

P「現金なやつだな……言ったとたん元気になって」

「へへっ」


だって、嬉しいものは嬉しいからね!
とは言っても、プロデューサーならせいぜいが弁当とかファーストフードとか、その辺りだろうけど。
それでも、プロデューサーと一緒にお昼を食べられるのは嬉しいよ。


「さ、行きましょう、プロデューサー!」

P「おいおい、そう急かすなよ。今案内するから」


案内?



――――
―――
――

「こ、ここって……高級ホテルじゃないですか!」


連れて行かれた建物に入ると、おしゃれなクラシックが耳に入ってきた。
きっと趣味が良い、のかな? そんな雰囲気のテーブルやイス。
とてもじゃないけど、普段のプロデューサーからは考えられないようなところ。


P「真だって女の子なんだから……やっぱり、エスコートするならそれなりじゃないと、ね」

「え、エスコートぉ!?」


つい、素っ頓狂な声を上げてしまった。
ぷ、プロデューサー! いきなり、どうしたんですか!?


P「どうしたんだ、真?」

「あ、いえ……」

P「ほら、席に行こう。すみません、予約を入れていた――」


プロデューサーが近くにいたウエイターに声をかけると、奥の席に連れて行かれた。
座席には『予約席』と書かれたプレートが置いてある。
ウエイターがイスを引くと、プロデューサーはボクに座るように促した。

涼ちんちん

「こ、こんなおしゃれなところでお昼だなんて……」

P「あ、すまん。お気に召さなかったか?」

「い、いえ、とんでもない!」


そんなわけないじゃないですか。
プロデューサーとお食事できるだけでも嬉しいのに、こんな立派な場所で……。


P「給料入ったばかりだから、遠慮しなくていいぞ」

「えへへ、じゃあ遠慮せずいただきますね!」

P「あぁ、なんでもいいぞ」


何がいいかなぁ……って、すごく高い!
どれも、ボクが夕食をちょっぴり贅沢した時よりも高い!
飲み物だけで千円近いって……。


P「俺は……このランチコースにするかな」

「ひ、昼間から豪華ですね……」

P「真も好きなもの選べよ。エスコートする側が気を遣わせたんじゃ、笑い話にしかならないからな」

「じゃ、じゃあボクもそのコースで」

しえん

プロデューサーは事も無げに注文すると、ボクを見てにっこりと笑った。
でも、いきなりどうしたんだろう……何かいいことでもあったのかな。


P「真もこれからトップアイドルになるんだから、こういう場所にも慣れていかないとな」

「な、慣れる必要があるなら自分で払って食べに来ますって」

P「それに、俺が真をエスコートしたかったんだよ。迷惑だったか?」

「そそそ、そんなことありません!」


うわぁ、うわぁ、うわぁ!
今、絶対に顔が真っ赤だよ!
嬉しいなぁ、どうしよう!


「へへっ、すっごく幸せです!」

P「そうか、良かった良かった」


そう言いながら、プロデューサーはにこにこ笑った。
幸せだなぁ……。


幸せ?

『――』

P「――」


ウエイターが順番に料理を運んでくる。
一つ一つがきらびやかな宝石みたいで、手をつけるのすら躊躇われるようで。
まぁ、しばらくしたら気にせずに食べ始めちゃったんだけど。


P「――」

「――」


プロデューサーはこちらの様子を窺いながら、邪魔にならないタイミングですっと話題を振ってくる。
大人の余裕、だなぁ……。ボクが答えづらい、話しづらい話題は一つもない。


P「――」

「――」


本当に楽しい昼食。完璧なエスコート。
プロデューサーと一緒の、天国のようなひと時。

でも、何故だか会話の内容は頭に残らなかった。

ボクは、本当に幸せなのかな?

やっぱり真がナンバーワン

食べ終えてホテルを出ると、プロデューサーがボクに訊ねてきた。


P「お口には合ったかな?」

「えっと……あんな高いもの食べるの初めてだから、うまく言えないんだけど……美味しかったです!」

P「そっか、良かった」


プロデューサーは僅かにほっとしたように笑った。
そこで強気に出ない辺り、やっぱりプロデューサーなんだな。
そんなところがいいところなんだけど。


「プロデューサーは、この後は?」

P「ん? 事務仕事はあらかた終わったからなぁ……あとは真の付き添いだけだよ」

「だ、だったら、このままデートしません?!」

P「で、デート!?」


ボクが思い切って言うと、プロデューサーは流石に驚いたようで、小さく叫んだ。
暫く悩むように天を仰いでから、ちょっと照れくさそうに言った。

P「分かったよ。今日は仕事まで、真をエスコートする」

「本当ですか?! やーりぃ!」


へへっ、言ってみるもんだなぁ!
照れくさそうにしながらも、プロデューサーも満更じゃない表情! ……な気がする。


P「あ、じゃあちょっとここで待っててくれ。仕事の手続きで払い込みだけしなきゃいけないから、済ませてくるよ」

「分かりました。待ってますね!」


プロデューサーは小走りでコンビニへと向かっていく。
一人残されたボクは、またまたぼーっと道路を見ていた。


「今お昼過ぎだから……あと、10時間強、かな」


何ともなしに時計を見る。
一日の終わりはまだ遠いように思えるけれど、人生の終わりだと思うと……途端に身震いがする。


「……あ」


赤信号で車が走っていない道路を、男の子が一人歩いている。
やや広い車道の真ん中に差し掛かったところで、車の信号が青になった。

映画の方とは関係ないのか・・・

「っ……危ないっ!」


一瞬、自分の事を思い出して身体が竦んだ。
でも、何止まってるんだよ、ボクは!
ここで動かなかったら、もう前を向いて歩けないよ!


「こっち!」


車道に飛び出して、咄嗟に男の子を抱き抱え、一気に走り抜けた。
うわっ、クラクション鳴ってる! ごめんなさい!


P「ま、真!」


さっきまで居た辺りから、プロデューサーがボクの名前を叫んだ。
その時には無事、反対の歩道に辿り着いていた。
嫌な汗をかきながら、ボクは男の子を放した。


「大丈夫?」


言葉もなく頷くと、怒られると思ったのか、そのまま走り去っていった。
全く、人騒がせな子だなぁ。

P「真、大丈夫か!?」


横断歩道を渡って、プロデューサーが追い付いてきた。
大丈夫ですよ。心配性だなぁ。


「大丈夫じゃなかったら、こんなに余裕じゃないですよ!」

P「でも……顔、真っ青だぞ?」

「……えっと」


うぅ、思い出したショックをまだ引きずってたかぁ……。
平静、装ってるつもりなんだけど。


「子どもが轢かれそうになってて」

P「……真は、頭より先に身体が動くからな」

「し、失礼ですよその言い方!」

P「でも……本当に心配だったんだ」

「……はい」

良い話の予感

それは……ごめんなさい。
ボクだって、プロデューサーがあんなことしたら、心配しちゃうよ。


P「あの子は?」

「もう行っちゃいました。怒ったりしないのになぁ……」

P「ともあれ、二人とも無事なら良かった。さ、行こうか」

「はい!」


そう答えた時、後ろから声が聞こえた。
振り向くと、知らない人たちが数人、ボク達のことを見ていた。


『もしかして、菊地真さん、ですか?』


うっ、しまった。ちょっと派手にやりすぎた?
もうこれ、完全にバレてるなぁ……プロデューサーと一緒だし、変に隠すと逆に面倒かも。


「あ、はい、まぁ……」

支援

『えっ、ホンモノ?!』

『ねぇ、ちょっとちょっと! 真ちゃんだよ!』

『うっわ! カワイー!』

『ねぇねぇ、写メらせてよ!』


えっ、ど、どうしたんだろう?!
最初に声をかけてきた女の人よりも、一緒にいる男の人達の方がテンション上がってる?


『横の人、カレシ!?』

P「いや、彼女のプロデューサーで……」

『やっべぇ、生で見るとテレビの百倍可愛いじゃん!』


ボクは今、とても動揺している。
そ、そりゃあこれまでも、中には可愛いって言ってくれる男性ファンはいたけれど。
こんな……可愛いことが前提になってるような言われ方は、初めてだよ。


『ちょっとちょっとこっちこっち! 真ちゃんいるよ!』

『嘘!? うわっ、本当だ! 可愛すぎるだろ!』

いやいや初めから可愛いだろ

「えっ、ちょ、あの……」

P「不味いな……真、行くぞ!」

「は、はい!」


プロデューサーに手を引かれるまま、人のいない方へ走り出した。
うわぁ、走りやすい服装で良かった!
今ばっかりは、普段から女の子らしい服を着てない自分に、感謝しなくちゃ……。


P「ふぅ……撒いたか」

「び、びっくりしましたよ……」

P「俺も軽率だったな……真くらいのアイドルになれば、これくらいは予想してないと」

「でも、普段のボクなんて町中じゃ、せいぜい女性ファンが恐る恐る声をかけてくるくらいですから、仕方ないですよ」

P「何言ってるんだお前……むしろ男性ファンだけなら、765プロでも三指に入る人気だろう」


え? ボクが? 男性ファンに?
ボクの頭の中がクエスチョンマークで埋まっている間に、プロデューサーがスマートフォンで何かのサイトを見せてくれた。


P「765プロ人気ランキング。圧倒的な男性からの支持だ」

「うそ……」

支援は紳士のつとめ

ボクのグラフが、美希と並んでる?
あは、あはは……ちょっと驚きすぎて声が出ないよ。


P「俺も軽率だったが……真も、もう少し気をつけてくれよ?」

「は、はい」


有り得ない。認めたくはないけれど、ボクは、765プロの中でも男性人気は相対的には低い方だ。
少なくとも、男性人気が女性人気を上回るなんて、絶対にない。


「と、とりあえず、すみませんでした。以後、気を付けます」

P「ああ……折角のデートなのに小言を言うみたいで悪いな。ここからは、しっかりエスコートするから」


そうだった。プロデューサーとデートしてるんだった!
……そっか、ここ、夢の中なんだよね。男性に人気がある世界、かぁ……。


「嬉しいなぁ」

P「デートが、そんなに?」


それもそうですけど、女の子として、認められてるんだ。可愛いって、みんなから思われてるんだ。

でも、幸せ、なのかな?

しえ

「でも、こっちに逃げてきて正解でしたね!」

P「あぁ。こんなところがあるのは、俺も知らなかったよ」


暫く歩くと、公園があった。
真ん中に噴水があって、鳩が水を飲みに来てる。
ベンチもあって、横にはクレープ屋台。


「プロデューサー、アレ食べましょうよ!」

P「さっき昼食食べたばかりなのに?」

「甘味は別腹ですって!」


ちょっと強引に腕を引っ張ると、困ったように笑いながらついて来てくれた。
屋台に近づくと、クレープを焼くいい匂いがする。
薄い円がふわりと舞う度、ボクの胸は高鳴った。


P「すみません、苺チョコ生クリームと、チョコバナナ生クリームを」


すかさずプロデューサーがボクの目線で察知したのか、クレープを注文する。
そ、そんな確認を取らずに注文できるほど、凝視しちゃってたかなぁ。
は、はしたない……。

支援は紳士のつとめ

お金を払ってしばらく待つと、できたてほやほやのクレープを手渡された。
生クリームの白とチョコレートの黒、そして苺の赤のグラデーションが、必要以上にボクの食欲を掻きたてる。


「いっただっきまーす!」

P「頂きます」


近くのベンチに腰かけて、並んで食べる、出来立てクレープ。
シンプルで、どこもあまり味は変わらないけれど、変わらず食べ続けたいこの味。


「へへっ、やっぱり甘いものって美味しいですよ!」

P「あはは、美味しそうに食べる真も可愛いよ」

「えっ……」

P「あ……い、いや、なんでもない」


プロデューサーは慌てたようにクレープを食べ始めた。
な、なんですかその反応は……!

「い、今何時ですかっ!?」

P「え、えっと2時過ぎだな……」

「じゃあ、もうちょっと時間がありますね!」


クレープを食べ終えて立ち上がると、プロデューサーもちょうど食べ終えたところだった。
どうしようかなぁ、どこかに行ってる時間はないけれど、このまま仕事に行くには勿体ない時間。


「そうだ、プロデューサー」

P「ん?」

「あっち側ならさっきの騒動の場所とも離れてますし、少しウィンドウショッピングしましょうよ!」

P「でも……」

「エスコート、してくれるんですよね?」

P「……仕方ないな」

「やーりぃ!」


今日は徹底的に、ボクに付き合ってくれるらしい。
時間は長いわけじゃない。そうと決まれば、早速出発だ!

――――
―――
――


「へ~、これが今季の新作かぁ」

P「全体的に、可愛らしさが前面に押し出されてるな」


さっきファンに囲まれたエリアからは少し離れたショッピング街。
その中のブティックの一つで、ボク達はふらふらしていた。


「こういうのも可愛いなぁ……でも」


こんなフリフリ。ボクには似合わないんだろうなぁ……。
買ったら雪歩に怒鳴られそうだ。


P「いいんじゃないか?」

「え?」

P「とりあえず試着してみたらどうだ? 着るだけならタダだよ」


そ、それもそうかぁ。
ここで着ても、雪歩に見られるわけじゃないしね! ……多分。

「じゃ、じゃあちょっと待っててください」

P「ああ、時間はまだしばらくあるから大丈夫だよ」


試着室に入ると、正面の鏡にボクが映し出される。
そうだよね、ここにいるのはこのボクだけなんだ。
何を着たって、文句は言われない。はず。


「ふんふんふん♪」


自然と鼻歌が漏れる。
やっぱり、女の子であるからにはこういう服、着たいよね!


「よしっ、バッチリ!」


さて、それじゃあプロデューサーにお披露目だ。
……なんて言うかなぁ……また引き攣った顔で笑うのかな。


「ど、どうですか、プロデューサー!」


思い切ってカーテンを開ける。
ちょっと怖くて目を瞑っていたけれど、ゆっくりと瞼を開けると、呆気に取られたような表情のプロデューサーがいた。

「あ、あはは……やっぱり、ダメですよねぇ……」

P「……真、すごく似合ってるじゃないか!」

「えっ?」


やけにテンションの高いプロデューサーが、ボクの手を取って叫んだ。
わわっ、ちょ、ちょっと声が大きいよ!


P「あっと……すまん、ついテンション上がっちゃって」

「い、いえ」


ちらりと周りを見ると、他のお客さんがこっちを見てる。
うぅ……ハズカシイ。晒し者じゃないか!
プロデューサーの馬鹿!

でも。


『可愛いなぁ』

『すげー』

『ファッションモデルかなにかかな?』

「えっ……」

サンダウン・キッドがアニーのシミーズクンカクンカするのかと…
支援

聞こえてきた声は、ボクを褒める声ばかりだった。
しかも、露骨なお世辞ではなく、誰もが独り言のように、心からの感想を。


P「真は何を着ても似合うけど、これは特にいいよ!」

「そ、そうです、か……?」


可愛いフリフリ。
いつかの中継企画で、雪歩に罵倒される勢いでダメ出しを受けたような服。
似合ってる?


P「……そうだ! その服、そのまま着て仕事に行こう!」


そ、そんな事したら雪歩の目に!


「は、恥ずかしいですよ」

P「何を言ってるんだ。こういう服は、見せるために着るものだろう?」

「そ、そうですけど」

P「確かに似合ってなかったら恥ずかしいけど……真は誰よりも似合ってるよ。掛け値なしに」

「そう……ですか?」

試着室の鏡を覗く。
フリフリの服を着たボクが、心配そうな表情で立っている。
にこっと笑ってみると、本当にまるで、シンデレラのように見えた。


「……わ、笑われませんか?」

P「笑う理由がないよ。もし笑うやつがいたら、そいつの感性がおかしい」


プロデューサーの目、本気だ……。
ボクも、こういう服、着ていいんだ。


「ぷ、プロデューサーがそこまで言うなら……」

P「よし! 店員さん、この服、お願いします!」


早速、買った服を着て外を出歩く。
心なしか、道行く人の視線を集めてる気がする。
というか、ちょっと見回せば分かる。
気がするんじゃなくて、実際に集めてるじゃないか!


「プロデューサー……」

P「どうした?」

「や、やっぱりこの服は……周りの人も……」

支援

(やべっ、すっかり見惚れてた・・・)

むしろ現実でこうならないのがおかしい

P「うーん、雪歩みたいなことを言うなぁ。周りの目、よく見てみろって」

「目?」


視線が向いてることしか考えてなかったけれど、プロデューサーに言われて見てみると……。
……え、これって奇異の視線じゃなくて、羨望の眼差し?
みんな、見惚れたように、羨ましそうに、ボクのことを見てる。


「こ、この服……そんなに、似合ってます?」

P「何度も言ってるだろう? そうでなければ、わざわざ買ったりしないって」


そ、そうだよ、ね。
自信持っても良いんだよね!
よぉし! ボクだって可愛いんだ! 負い目なんて感じないで!


「ボクだって、可愛いんだ!」


そう言ってガッツポーズを決めた時、通りすがりの男の人とぶつかってしまった。

いかん、読むのに夢中で支援忘れてた

「うわっ! す、すみません!」


謝ると、男の人も軽く会釈をして、そのまま歩いて行った。
う、うぅ……今の人、ボクのことを見て少し笑ってたよ……。


P「おいおい、少し落ち着こう」

「は、はい……」

P「さ、気を取り直して! そろそろ時間だな」

「はいっ。プロデューサー! 仕事、行きましょう!」

P「おっ、いつもの真らしくなってきたな? 今日も精一杯やるぞ!」

「はいっ!」


もう一度、フリフリのスカートを見る。
プロデューサーにも、みんなにも褒められた、この格好を。

へへっ、幸せだなぁ。



――――
―――
――

「みんなー、こんにちはー!!」


今日の仕事は、軽いトークとミニライブ。
ちなみに、シークレットゲストとして、事前には告知されていない。
ボクがステージに出て来た途端、張り裂けんばかりの歓声が飛んできた。


「うわわわっ!?」


お、思わずマイクを持ったまま驚きの声を上げちゃったよ……。
マイクもしっかり拾ってるし……。
すると、予想だにしない反応が返ってきた。


『えっ、今日のゲスト真ちゃんなの!?』

『びっくりしてる真ちゃん可愛い!』

『まこにゃん! まこにゃん!』

『やっばいあの服めっちゃかわいい!』

『こっち向いてー!』


観客からの音に、再び身体を圧される。
でも、こっちだってプロなんだ。
まだトップとは言えないけれど、人気の、アイドルだ!

「ごっめんねー! 皆が凄すぎるから思わずのけぞっちゃったよ!」


気合を入れ直して、マイクに向かって喋る。
一言一言に観客が騒ぎ、叫び、歓喜する。
しかも、殆どの観客が、男性だ。


「それじゃあ、いくよーーーっ! せーのっ……」


し、しまった!
お、思わずテンションが上がりすぎてやっちゃった!
ええい、もうやるしかない!


『「まっこまっこりーん!」』


ボクが叫ぶのと、全く同時に。
観客側からも、特大のコールが聞こえてきた。


「みんな元気いっぱいだね!」


今、ボクは、フリフリの服を着て、まっこまっこりんと叫んだ。
かつて、プロデューサーに苦い顔をされ、美希をドン引きさせて、雪歩に一時間かけて説教されたこの掛け声。
それすらも、今は当たり前のように叫べるんだ!

SS誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
エーベルージュ
センチメンタルグラフティ2
Canvas 百合奈・瑠璃子先輩のSS
初恋ばれんたいん スペシャル
ファーランド サーガ1、2
MinDeaD BlooD 4
【シヴァンシミター】WOG【クリムゾンクルセイド】
『銀色』 現代を背景で輪廻転生した久世×石切
アイドルマスターブレイク高木裕太郎

雪歩……いや、わかるけど、うん

「今日は急遽、ゲストで呼ばれちゃってさぁ――」


ボクが何を話しても。何を着ていても。何を試しても。
心地良い、精一杯の歓声が返ってきた。


「この服、来るときに一目惚れして買っちゃったんだけど……どう?」

『『『可愛い!』』』

「へへっ、ありがとー!」


フリフリのスカートの端を押さえてちょこんとお辞儀すると、最大級の声援が飛んできた。
もう、嬉しくて嬉しくて、たまらなかった。

メイン司会の人も交えて、軽いトークが始まる。


「少女漫画が好きで、最近は――」


ちらりと、ステージ横にいるプロデューサーを見る。
嬉しそうな表情で、ずっとボクのことを見ていた。

狭間に夢見る世界なのだと思うと
切ないというか…真が可愛いのはわかっているけど!

「はいっ、じゃあここを借りて、一曲歌っちゃいますね!」


直前に伝えられた曲は、普段なら絶対に歌うことがない曲。


「友達の歌を借りるよ! 菊地真で、Do-Dai!」


いつもなら、こういう歌をボクが歌うと静まり返っちゃうんだけど。
曲名を言った途端、構えていてすら一瞬びくっとしてしまう声量がぶつかってきた。


「♪本日はみ・ん・な・に、私のとっておきの、恋バナを――」


今か今かと、観客はみんな、うずうずしている。


「♪聞ーかせて、あ・げ・ちゃ・う・よー!」

『ワァァァァァァァァア!!!!』


湧き上がる歓声。ボクが一言歌う度に、会場全体から『可愛い』と聞こえてくる。
可愛いって言われることが嬉しいんじゃないんだ。いや、嬉しいけど。
当たり前のように、女の子として扱われてて。
それが本当に、嬉しかったんだ。

「♪デートしてくれま・す・か?」

『OK!』


やっぱり、ボクはアイドルをやってて良かった。
いつもいつも、かっこいいと言われてきて。
それでも今は間違いなく、可愛い女の子としてみんなが見てくれる。


「まだまだ行くよー! 次も借りちゃって……キラメキラリ!」

『『『ウワアアアアアアアアアアアア!!!!』』』


熱い声援に包まれて。
ずっとずっと願っていた目で見てもらって。
もう、カッコイイ服を優先されるようなボクじゃなくて。


あぁ、なんて幸せなんだろう。
ボクは、本当に幸せだよ。



――――
―――
――

P「お疲れ、真」

「あ、プロデューサー!」


ステージも大盛況の内に終わって、ボクはプロデューサーを待っていた。
スタッフの人にも可愛いって褒められちゃった。
へへっ、ボクだってやればできるんだ!


P「あの服、脱いじゃったのか?」

「さすがに、ステージ出て汗かいた服のままじゃ帰れませんよ」

P「それもそうか。あの服はこっちでクリーニングに出しておくよ。その後はそのまま、私服にするといい」

「ありがとうございます! その、服まで買ってもらっちゃって」

P「いいんだいいんだ! 昼も言ったように給料日直後だし、貯まってるし。何より……」

「何より?」

P「……俺が、あの服を着てる真を見たかったんだから」


ぷ、プロデューサー……!
どうしてそう言う言葉がポンポンと……あぁもう!
ボク、また顔が真っ赤になってる気がする!

P「……どうした? 熱っぽいのか?」

「や、やっぱり……大丈夫ですよ!」

P「やることは終わったし、早く帰ろう。ほら、駅まで送るよ」

「は、はいっ!」


仕事を終えてすっかり日が落ちた道を、ボク達はゆっくりと歩いた。
プロデューサーはボクが本当に体調を崩したと思ったみたいで、時々気遣う様に。
もー、そうじゃないって言ってるのになぁ!


P「なぁ、真」

「はい?」


急にプロデューサーの雰囲気が変わった。どうしたんだろう。


P「真は、これから先のことって、考えてるのか?」

「先、ですか? ……できるところまでアイドルを続ける、ってことくらいしか」

P「いつかはアイドルを辞める日が来る。そしたら、どうする?」

「どうする、って言われても」

そんな先のことは考えてなかったなぁ。
生涯アイドル! とかできたらカッコいいけど、現実問題無理だろうし。

かと言って、アイドル辞めても芸能界に残るような気にはなれないし……。
引退したら、ダンスの講師でもやろうかな?


「何でしょうね……ダンス教室とか?」

P「あー、いや。そうじゃなくて」


どうしたんだろう。プロデューサーにしては、妙に歯切れが悪いなぁ。
もっとビシッ! ズバッ! っと言ってくれればいいのに。


「どうしたんですか? ストレートに言っちゃいましょうよ!」

P「あー、うん。じゃあ率直に言うけど」

「はいっ!」

P「……配偶者のこととか、どう考えてるのかな、って」

「……えっ!?」


ははは配偶者?! って、旦那さんのことだよね……!
ええええええ?! いやいやいやいや! 急に一体……!

P「そういうことを考える時になったら、俺……」

「は、はい」

P「俺じゃ、ダメかなー、とか……」

「はい……えっ!? ぷろっ、今、な、なんてっ!?」


一瞬、頭の中が真っ白になった。
何だコレ、何だコレ!! 何が起きてるの!?


P「……ここまで言っちゃったからな。この際だから、言っておくぞ」


何を? ぷろでゅーさぁ、何を言うつもりなんですか?!
もうここまでだけで、頭の中がパンクしそうで! 破裂しそうで!!


P「俺は……一人の異性として、真のことが好きだよ。この先もずっと、一緒に居たいと思ってる」


ボクの頭は、破裂した。


P「今すぐじゃなくてもいい。心の準備が出来たら、答えて欲しい」

「ぷ、ぷろでゅー、さー……」

幸せだ
幸せそうだからこそつらい

P「……ほら、駅に着いたよ」


トンと、背中を押される。
ボクが振り向くと、プロデューサーは、やっちまった、といった表情でこっちを見て苦笑していた。


P「俺は、ちょっと事務所でやり残してることがあるからさ、徹夜しないと。また、明日な」


ボクは頭が破裂したままで、考えることも返事をすることも出来ず、呆然とプロデューサーを見送った。
プロデューサーが視界からいなくなった頃、ようやくボクの頭を血が回り始めた。


「えっ……えっえっえっ!?」

「ぷ、プロデューサーから……告白、されたぁ……!」


やばい、どうしよう! 今、多分、今日一番の真っ赤で変顔してる!
いくら落ち着こうとしても、口角がだらしなく上がったまま戻らない!
だって……だって、仕方ないじゃないか。
嬉しかったんだ。
本当に、本当に、嬉しくて。



幸せだったんだ。

うわ これたまらんなぁ…何か辛いな。
まこりん…

「へへっ、ぷろでゅーさぁ……♪」


さぁ、家に帰ろっと。本当は、プロデューサーを追っかけようかとも思ったけど、もう遅いしね。
どうせ明日会えるんだから。慌てることはないよ。


「切符切符」


券売機に向かって駆け出そうとした時、誰かにぶつかった。
ついよろめいてしまって、転びそうになった。
ぶつかった相手は、すぐにボクの手を握って、支えてくれた。


「す、すみません」

『いいえ、こちらこそ』


見ると、一人の男性だった。
どこかで見たことある気がするなぁ……。


「あ、昼間、道端でぶつかった!」


そうだそうだ、あの時、ちょっと笑われちゃった人だ!
……でも、それ以外でも見たことある気がするんだけどなぁ?

書き溜めあるの?

誰かに似てるのかな……。
うーん、すぐには思い出せないや。


『お怪我は』

「大丈夫です! そちらこそ、大丈夫ですか?」

『いいえ、大丈夫ですよ。菊地真さん』

「えっ……ボクのこと、知ってるんですか?」


ファンの人かなぁ……時間も時間だし、ちょっとまずかったかな。


『ええ、知っていますよ。娘がいつも、お世話になっております』

「娘……? じゃあ、765プロの誰かのお父さんですか?」

『はは、まぁ。……ところで、あなたは今、幸せですか?』

「え、急に何を……? まぁ、これ以上ないくらいに幸せ、ですけれど……」


そう答えると、男の人は寂しそうな表情をした。
少し切り出しにくそうに、言いあぐねる様に。

『与えられた幸せというのは、非常に儚いものです』

『その存在は与えてくれる人に依存し、それがなくなってしまえば、脆くも崩れ去る』

『本当に、夢のようなものです』

「夢……」


ボクが感じている幸せ。これは、夢なんかじゃないはずだ。
本当の、本当の幸せの。


『……あまり、私が口を出していいことでもないのですが』

『娘一人、幸せにしてやれない父親です』

「あなたは――」

『会うことがあれば、これからも、娘と仲良くしてやってください。家と、兄と離れて、寂しがっています』

『それでは、失礼』


そう言い残すと、男の人は夜の闇に消えていった。
またもや、ボクが返事をする間もなく。
でも今度は、頭が破裂してたわけじゃない。
万全の態勢で、ボクは何も、答えられなかったんだ。

そうか、ひび……

「……帰らなきゃ」


改めて券売機に向かって、切符を買う。
改札を通るころには、さっきまで感じていた幸せが、どこかに飛んで行ってしまったようだった。


「うー寒い寒い……」


急に、寒さを感じ始める。さっきまで、あんなに暖かかったのになぁ……。
次の電車は、23時30分発。すぐに来るね。

そう思った瞬間、駅のアナウンスが鳴った。
暫くして、ホームに電車が滑り込んでくる。


「暖房車だといいなぁ……」


ボクが乗り込んで数秒後、ドアは閉まった。

ボクが乗った車両には、他に人は殆ど乗ってなかった。
遠くの方にちらっと会社員みたいな人が見える。
なんだか、ドッと疲れちゃったなぁ。座ったら寝過しちゃうかな……。


ふと視線を変えると、男の子が一人で座ってるのが見えた。
こんな時間に? あんなに小さい子が?
い、いくらなんでもこれはまずいんじゃないかなぁ……。

「ねぇ、キミ……」

『なぁに?』


男の子が顔を上げると。


「あっ、キミ、お昼の!」

『あ、助けてくれたお姉さんだ』


車に轢かれそうになっていた男の子。
なんでこんなところで、一人で乗ってるんだろう。


「キミ、一人なの? マズいなぁ……お母さんとかは?」

『一人だよ』

「うぐ、これは次の駅で駅員さんに言うしか……」


丁度その時、電車が駅に止まった。
もう終電近いけど、まぁ大丈夫だよね。

「こんな時間、一人じゃ危ないよ。駅員さんの所に行こう」


そう言って手を引くと、何も言わずに着いてきた。
電車を降りると、男の子から声をかけてきた。


『お姉さん、いつもありがとう』

「え? 何が?」


いつも? この子、知り合いだっけ?
うーん、ボクの知り合いに、こんな子どもはいないけどなぁ……。


『お姉ちゃん、いつも楽しそうに友達の話をしてくれるの。真さんのことも』

「お姉ちゃん?」

『うん。大好きなお姉ちゃん!』


弟がいるというと……やよいかな?
でも、やよいの弟にこんな子いたかなぁ……。
というか、やよいの家が、こんな小さい子を一人で歩かせるなんて有り得ないよねぇ。

そうか、この男の子もか

『ねぇお姉さん、なんでそんなにつまらなそうな顔してるの?』

「え、つまらなそう……?」

『お姉ちゃんは、もっと幸せそうな顔してるよ! お歌を歌ってくれるときとか、ほんとに!』


歌を。

そうか、この子は。

そして、さっきの男の人は。


「……キミ、そうだったんだね」

『え?』

「そういえばここって、そういう夢、だったね」

『お姉さん……?』


そんな心配そうな顔しないでよ。
大丈夫、ボクは大丈夫だよ。


「ねぇ、キミ」

『なぁに?』

「ありがとね」

『え、えと……どういたしまして……?』

「ははっ、偉い偉い!」


そりゃ、こんな弟に歌ってあげたら、幸せになれるよね。
羨ましいな、なんて言ったら……傷つけちゃうかな。


「ねぇ。歌ってくれてる時のお姉ちゃんって、本当に幸せそうだったんだろうね」

『うん! いっつもにこにこしてたよ!』

「そうだよね、そう、だよね……」


丁度同じホームに電車が来た。


「引き止めてごめんね。ほら、電車が来たからお帰り」

『駅員さんの所に行くんじゃないの?』

「それはもういいや。気を付けて帰るんだよ」

『はぁい!』

男の子は元気に電車に乗った。
ドアが閉まると、傍の窓から顔を覗かせて、笑顔で一生懸命手を振っていた。
もう、本当に可愛い弟だったんだろうな。


「やっぱり羨ましいよ……ボクもあんな弟、欲しかった」


駅の時計を見ると、時刻はもう23時45分を過ぎていた。
急いで階段を駆け上って、反対側のホームへと走り込む。
それと同時に、電車が滑り込んできた。ナイスタイミング!


「急がなきゃ……ボクは、行かなくちゃいけないんだ」

「待たせてるから、ね」


でも、さすがは定時刻に定評のある日本の鉄道。
どんなに慌てても、のんびり構えても、到着する時間は一緒だからね。
電車の中では、美希ばりにのんびりとしちゃったよ。

代わりに、駅についてドアが開いた瞬間、ボクは走り出した。
改札なんて、飛び越えて。

駅を駆けだしてすぐ、またあの男の人に会った。
ボクは男の人の前で立ち止まった。


『おや、忘れ物ですか?』

「もう、とんでもないものを忘れちゃったみたいで」

『そうですか。急ぎなさい、間に合うかは分からないが』

「間に合わないですよ、もう」


時計は、50分過ぎを指してる。
シンデレラの命は、あと僅か。


『……何か、私に用でも?』

「ありがとうございました!」


ボクは深々と頭を下げた。
男の人もさすがに驚いたみたいで、言葉を失っていた。
へへっ、なんだか一本取ってやった気分!


「人から貰った幸せじゃ、やっぱりダメだったみたいです」

『……そうですか』

さるかな

e

あとひとつ

たぶんこれで書けるはず。クライマックス

おう来いよ

見届けないと寝れない

支援

「教えてもらったんです、友達の弟に」

『……?』

「幸せは、自分で掴み取らなきゃダメだって」

『……そうですね。彼女は弟に歌ってあげる時、本当に幸せそうだ』

「彼女だけじゃない。みんなそうですよ。勿論、娘さんも」

『ああ……あの子は、本当にいい友達を持ったみたいだ』


男の人は、ハンカチを取り出して目元を押さえた。
あれって……いや、そこを言っちゃうのは野暮ってものさ。
ボクは努めて明るく、男の人に言った。


「それじゃあ、ボクも行ってきますね」

『……ええ。どんな結果になるかは私にも分かりませんが――』


男の人はハンカチを仕舞って、ボクに始めて満面の笑みを向けた。


『後悔のないように』


背中を押されて、ボクは走り出した。

もうなりふり構わず、とにかく走った。
走り出す直前、時計は55分くらいだったかな……?
事務所までは、到底間に合わないよね、こりゃ。


『わたくしが引き止めていられるのは"今日限り"』

『日の境目を越えてしまったら、わたくしには為す術はありません』


昼前の、貴音の言葉が耳の中で響く。
分かってるってば……ごめん、貴音。

最後の角を曲がると、突き当りに765プロの事務所が見えた。
窓の灯りが光って、一人の影が動いているのが見える。


「あと、少し……!」


最後の力を振り絞って、ボクは踏み込む足に力を入れた。

ふと、腕時計を見る。



秒針が、文字盤の10を越えた。



「もう少し――」



「あとちょっとで――」



「事務所に――」



「あと、本当に少しで――」



「明日を――」








腕時計を付けている左手が、めくれ上がった。

完結するまで寝れない

はよ

「ぁ……あ……!」


指の先から、一気に皮膚がめくれ上がるように遡り始めた。
ゾワゾワとした感覚が腕を一気に駆け上る。
それと同時に、足のつま先からも同じような悪寒が、大腿、腹部、胸部と、身体の中を蝕むみたいに。


「気持ち悪い――!」


手はまるで土気色。昔誰かが亡くなった時に見た、あの色。


「それでも……行かなきゃ、行かなきゃ――」


ボクの願いに反するように、ずるりと足が崩れ落ちた。
前のめりになるように、ボクは思いっきり倒れ込む。

へへっ、まるで春香みたいだなぁ。なぁんて言ったら、春香に失礼かな。

でも、悔しいなぁ……事務所まで、あと10mもないのに。


「……っうぐっ!?」

ま、まこっ……

土気色になった手に、激痛が走る。
今度は指先から、どんどん痛々しい傷跡が駆けあがってくる。


「い、たぁっ……?!」


転んだ時に前へ伸ばした右手が、血に染まるように赤くなっていく。
少し動かすだけでも激痛が走る。
足はもう、動かない。


「痛い……よっ……プロデューサー……!」


ボクが呻くと同時に、事務所の灯りが消えた。
街灯の灯りだけが残って、ボクは一人ぼっちになった。


「……れ、でも……それ、でもぉっ……!」


ずるずるとボクは進む。
這いつくばってでも。
どんなに惨めでも。
泥水を飲んでも。

ボクは止まるわけにはいかないんだ。
行かなきゃ、行かなきゃいけないんだ。

寝れねえ・・・

もう、生きるとか死ぬとか、関係ない。


みんながいる暖かい場所に戻れるかどうかなんて、関係ないんだ。


ボクは、伝えなきゃいけない。


示さなきゃいけない。


ボクの幸せを。


ボクの、まことの幸せを。


やっと気付いた、ボクの、真の、まことの幸せを。


その向こう側に、何が見えるのか。


その向こうに見える明日は、どんな世界なのか。


その欠片だけでも、ボクの幸せの欠片だけでも。

 ―

「シンデレラが本当に幸せになったのは」


「魔法が、解けた後だったんだ」


「一歩」


「もう、一歩」


「誰かに貰うんじゃなくて」


「貴音に手伝ってもらってでも、なくて」


「ボクが、ボク自身で」


「掴まなきゃ、いけないんだ」


「その先に見える、まことの幸せを」


「その先にある、明日を」

事務所の階段を、誰かが下りる音がする。
必死に顔を上げると、ビルの中から、プロデューサーが歩いてきた。
ボクの指先から、1mくらいのところで止まる。


「プロ、デューサー」


プロデューサーは何も言わずに、ボクのことを見ていた。
見下したり、嫌悪したり、といった目ではなく。
優しい眼で、ボクのことを見ていた。


「プロ、デューサー、ボク、は」


ボクは必死に、痛みに堪えて。


P「真、好きだよ」

「……違うんだよ」

P「真、愛してる」

「聞いて、プロデューサー」

P「ずっと、一緒に居て欲しい」

「プロデューサー!」

しえん

ボクが痛みを無視して叫ぶと、プロデューサーは口を閉じた。
そして、ボクに右手を差し出してくる。
その手には、一輪の薔薇が握られていた。


「いら、ない」


ボクはまた、声を絞り出す。
プロデューサーは他意のない微笑みと共に、ボクに薔薇を差し出してくる。


「ねぇ、プロデューサー」


砕け散りそうな腕を杖にして、ボクは上半身を上げた。
一瞬でも力を抜いたらきっと、ボクはこのまま地面に落ちて、ガラスのように砕け散ってしまうんだろう。


「聞いてよ」


プロデューサーの持っていた薔薇は、いつの間にか消えていた。

プロデューサーの目は、もう優しくなかった。
でも、あんな上辺の優しさ、いらないよ。


「さっき、さ。プロポーズ、してくれたよね」


今のプロデューサーは、どんな表情もしてないけど、真っ直ぐ、ボクを見てくれてる。


「心の準備ができたら、答えてくれ、って。だから今、返事をするよ」

「ごめんなさい。ボクは、プロデューサーの気持ちには応えられない」


ホンモノのプロデューサーじゃないけれど、胸がずきんと痛んだ。
ボクは何様なんだろう。何を思い上がってんだろうね、ボクは。


「ここで応えてしまったら、最期まで、ボクの幸せは与えられるだけだから」


プロデューサーの瞳の奥が、僅かに揺れた気がした。
それとも、ボクの目が、揺れてるだけかな。
何かボクの視界を揺らすものが、目に入ってるんだ。


「だから最期は、ボクから言うんだ」

「プロデューサー、大好き、です」

保守

寝たか?

「本当に、好きでした」


「情けないところも」

「ちょっとケチなところも」

「全然スマートじゃないところも」

「ファンに見つかった時にごまかすのが下手なところも」

「女の子を誉めるのが下手なところも」

「本番中、いつもおろおろしながら心配そうなところも」

「でも、本当にボク達を大切にしてくれるところが」

「決して偽ったり、飾ったりしないところが」

「ボク達を、ボク達として見てくれるその目が」

「上手く行った時にくしゃくしゃと撫でてくれるその手が」

「失敗して泣きそうなとき、何も言わずに慰めてくれるその手が」

「そんなかけがえのない、プロデューサーという人が」



本当に、全部全部、ボクは、好きでした。

がんばれ真
がんばれ>>1

「プロデューサー、ありがとう」


こんなボクに、幸せをくれて。


「プロデューサー、ありがとう」


こんなボクに、幸せを感じさせてくれて。


「プロデューサー、ありがとう」


今、この感謝の言葉を伝えさせてくれて。


「プロデューサー」


ありがとう。
何も言わずに、全部、聞いてくれて。

まっこ

まっこ

りーん

P「真」


ずっと黙り込んでたプロデューサーが、口を開いた。
あの優しい表情ではなく、無表情のまま。


P「真」

「……プロデューサー」


もう、足の感覚は完全になかった。

そう思った次の瞬間、とうとう、ボクの腕が砕け散った。


「ぁ――」


砕け散った欠片が、細かい粒子になって、光になって、そのまま大気の中に消えた。
そしてボクは、顔から、無様に地面に落ちる。

でも、地面は思ってたよりも柔らかかった。


「プロデューサー……?」


ボクを仰向けに抱き抱えたプロデューサーは、ボクの目を見たまま、何も言わなかった。

支援支援

へへっ、プロデューサー。
ボク、やっと幸せっていうのが、分かった気がします。


「まことの幸せって、案外、近くにあるんですね」

P「真」

「……なん、ですか?」

P「俺は、待ってるよ」

「プロ、デューサー」


プロデューサー。

ボクが持ってる想いは、全部撃ち切りました。

撃てる限り、全て撃ち尽くしました。

もう、残弾はありません。

もう、これ以上伝えたいことは、何もありません。


ボクが撃った想い。


届きましたか――?

まっこ

まっこ

りーん

 



『先生、急患が』


『処置を』


『急げ』


『最後まで』


『絶対に』


   ――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――『願いを叶え、真の、まことの幸せを知ってください』――――
―――――――――――――――
   ――――――――――――――――――――――


――――――――――
――――――――
――――――
――――

うぅ……身体中が痛い……。

腕が……めくれて……。

辛い……辛い……。

でも……。


……?


何か聞こえる……。


『真!』


声……?


『真ぉ!』


誰だろ……?




「プロデューサー……?」

まっこ

まっこ

りーん

復活の呪文が入力されました

P「真!!」


叫ぶような呼び声で、ボクは目を覚ました。
ここは……何だろう。
いっぱい、白衣を着た人がいる。


P「真! 俺が分かるか!?」

「ぷろ、でゅーさー……」

P「良かった……! よく、よく目を覚ましてくれた……!」

『まだ油断はできません。菊地さん、意識をしっかり保って!』


な、なんなんだよここぉ……って……?!


「……いったぁっ……!」

P「頑張れ! 頼む! もう少し、もう少しだけ頑張ってくれ!」

「痛い、けど……」


さっきの痛みに比べれば、こんなの……!

――――
―――
――



P「本当に、本当に良かった……!」

「もう、そんなに手を握らなくても……いたたっ!」

P「す、すまん!」


プロデューサーは慌てて手を引っ込めた。
本当に、この人は。
夢の中のスマートぶりとは大違いだ。


P「でも、本当に良かった……」

「怪我自体は、どうなんですか?」

P「幸い、完治さえすれば、あとは軽いリハビリだけで復帰できるそうだ。ただ、半年から一年は、まともなステージは無理だな……」

「うぐ、悔しい……」

P「でもその後には差し支えないし、復帰自体も回復力や頑張り次第では早まる場合もあるみたいだ。頑張っていこうな」

「……はい!」

余韻たっぷりに書いてくれていいんだぜ

こんこんと、ドアをノックする音がした。
ドアの曇りガラスの向こうに人影が見え、すぐに開いた。


貴音「お見舞いに参りました」

響「真、大丈夫か!?」

千早「響、あまり大きい声は……」

P「お前たち……」

貴音「あまり大人数でも迷惑かと思いましたので、三人だけで参りました」

「そんな気を遣わなくてもいいのに……ありがとう」


でも、この三人がお見舞いとは、何の因果だろう。
貴音は分かるけど。……いや、一番の謎だけど。


「貴音のお蔭で、戻ってこれたよ」

貴音「わたくしは、殆ど手助けできませんでした。灰かぶり姫の、執念の賜物です」

P響千早「「「貴音のお蔭?」」」

「あーうん。何でもないよ、忘れて」

貴音「ふふっ、トップシークレット、です」

「あ、そうだ。響」

響「ん?」

「ボク達、ずっと友達だからね」

響「な、ななな何をいきなり?!」

「寂しかったらいつでもおいで」

響「じ、自分寂しくなんてないぞ! ハム蔵達がいるからな!」

「へへっ、それでも、だよ」


頼まれちゃったからさ。
これからも、仲良くしてくれって。


「まぁ、頼まれなくたって嫌がられたって、どうせ仲良くするんだけどね」

響「真、頭がどうかしちゃったのか……?」


随分失礼なことを言われてるなぁ……。
でも、ま、いっか。仕方ない仕方ない。

ニューアメリカンシネマならこのあとバッドエン…

「あと、千早」

千早「?」

「気分を悪くしないで欲しいんだけど……今度、弟さんのお墓参りに行きたいんだ。ダメかな?」

千早「え、いいけれど……どうして?」

「助けてもらったんだ」

千早「! そう……優が……。それなら、断る理由もないわね」


良かった。気分を悪くされるどころか、心なしか嬉しそうだ。
やっぱり千早は、笑ってる、幸せそうな顔が似合ってるよ。


千早「来てくれれば、優も喜ぶわ。きっと、真に懐いてるもの」

「え、なんで?」

千早「ふふっ。あの子、懐いた人としか、あまり喋らないから」

「そっかぁ。……じゃ、二人で一緒に歌でも歌ってあげようか」


まだ、ボクの歌声は聴かせてないからね。
喜んでくれると良いんだけど……。

支援

優「カ・・・カッケェ!」

響「千早はなんとなく分かったけど……じ、自分はなんであんなこと言われたんだ?!」

「あはは、いろいろあったんだよ。響の家族って、暖かいね」


こんな他愛もない会話。他愛もない日常。
しばらくしたら、きっと他のみんなも、嵐のように見舞いに来るんだろうな。

ごめん、ボクは大嘘をつきました。
みんながいる暖かい場所に戻れるかなんて関係ない、なんて。
やっぱり、大切だよ。大切な大切な、この場所。


響「も、猛烈に気になるぞ……」

千早「長居しても迷惑ですし、そろそろおいとまするわね」

「気を遣わなくていいのになぁ」

貴音「しっかりと休むのですよ。それでは」

響「うー、バイバイ」

P「お疲れさん」


三人が頭を下げて出ていく。
貴音だけ一瞬ボクの方を見て、珍しくウインクをして出て行った。
結局、貴音は何者なんだろう。
ボクの人生において、火星人以上の永遠の謎になるな、これは……。

これで残ったのは、また、プロデューサーだけ。


「ねぇ、プロデューサー。一つ、聞きたいことがあるんですけど」

P「ん?」

「もし担当の現役アイドルにプロポーズされたら、どうしますか?」

P「え゙っ!?」


案の定、驚いてる驚いてる。
見るからにあたふたして、目線が泳ぎまくってるよ。
もう、情けないったらありゃしないなぁ……。


P「それは、その……応えるわけには、いかないだろうなぁ」

「アイドルとプロデューサーだから、ですか?」

P「まぁ、ね」


だろうと思った。
ヘタレで朴念仁で超奥手だけど、しっかりしてるところは妙にしっかりしてるんだよね。

P「ただ……」


ただ?


P「きっと……俺は、待ってるよ」


プロデューサーがそう言った時、締め切られたこの部屋で、風が吹いた気がした。
風を感じて窓の外を見ると、一本の樹が揺れていた。

この樹が何の樹か、どんな花を付けるのかは知らないけれど。
5年後か、10年後か。今の風で、この樹の花が舞う時。

明日の明日の明日の、そのまた明日の……。

そのいつかの明日、きっとボクは、あの今際の際に見えた幸せを、全身で浴びているんだと思う。

そんな予感。



なんてことを考えてプロデューサーを見ると。

プロデューサーもボクを見ながら、少し照れくさそうに笑っていた。



おわり

乙乙

長時間の投下 乙でした!
まこりん正ヒロインで良かった…

今日も今日とてこんな時間で支援してくれた人まじ㌧クス、さるさんうぜぇ
地の文有りの練習も兼ねてやってみたけどむずいな
最後が焦って駆け足になったのがちょっとアレだった

あと、映画のパロだと思って見に来た人はまじすまん
本当に偶然だったんや、同名の映画があるなんて思わなんだ

とりあえずまこにゃんかわいい乙



Pはちゃんと庇ってもらったお礼を言うべきだ

>>153
あ、すまん、それは俺が完全に忘れてた
ごめんよまこにゃん

真が自爆したわけじゃなくとよかった~

真の口がオメガになるのは最高だと思うの

乙でござった!

おつ!

乙!

真は天使


真はまじでお姫さまだと思う

いやあ、俺得なスレでしたね

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