千川ちひろ「ヴィンテージレディトーク」 (124)



モバマスお姉さんシリーズ完結編(総集編)です。




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―元日・MBプロ事務所にて(12:00p.m.)―



 シュンシュンシュン…



記者『三船さん!今回の映画出演について何か一言お願いします!』パシャッ!! パシャッ!!

美優『は、はいっ!素敵な監督さんと共演者さんに恵まれまして、と、とても良い経験を
   させてもらいました。皆さんにも楽しんで戴けると、う、嬉しいですっ!』ドギマギ

記者『最近とみに美しくなられましたけど、素敵な出会いがあったんですか?』パシャッ!!

美優「ええっ!? そ、そんなことは……」アセアセ

記者『『お嫁さんにしたい女性ランキング』連覇は確実と言われていますが、もしかして
   来年にもご結婚の予定があるのでは?』パシャパシャパシャパシャパシャパシャ!!

美優『あの、えっと、あうぅ……』カアア





P『はい会見中止しま~す!記者の方はさがってくださ~い!』グイグイ

記者『うおっ、なんだアンタは!? 』グイグイ

記者『三船さ~ん!何でもいいですからコメントお願いします~!』グイグイ

P『そうですね、職業柄素敵な女性と出会う機会は多いのですが不思議とご縁が無くて、
  ついに結婚しないまま30歳を過ぎてしまいましたよ。実家の両親は早く孫の顔を
  見せろとうるさいし、どうしたものでしょうハハハ』サワヤカスマイル

記者『アンタの話なんて誰も聞いてねえよ!ちったぁ空気読め!』グワッ!!



 ギャー ギャー



キャスター『いや~、本当にお綺麗ですね三船美優さん。2014年は彼女から目が離せません。
    それでは次のニュースは、各地から初日の出の様子を……』





瑞樹「P君も大変ね。美優ちゃんを守る為に記者の人達とケンカしちゃって」グデー

留美「美優もまだまだね。せっかくの囲み取材なのにあれくらい軽く受け流さないと。
   女優として貫禄が出てきたと思ったんだけど」ダラダラ

楓「それも美優さんの魅力ですよ。レッドカーペットでレッドフェイス……ふふっ」ゴロン



ちひろ「……事務所の倉庫からわざわざコタツを引っ張り出して来て、テレビを見ながら
    何をだらだらしてるんですかあなた達は。まんま寝正月じゃないですか」







瑞樹「いいじゃない。事務所は大晦日と元旦は閉めてるし、アイドルミズキはクリスマス
   にいっぱい頑張ったからお正月はお休みよ」ゴロゴロ

ちひろ「確かに今日はお休みで誰も来ませんが、ここで仕事している人もいるんですよ。
    それに茄子ちゃんと歌鈴ちゃんはフルで稼働していますし。皆さんのお休みを
    邪魔するつもりはありませんが、事務所で休まないで下さい」ジト…

留美「ちひろさんも今日くらい休んだらいいのに。今日はいつものブレザーを着てないし
   休日出勤でしょ?仕事のペースも普段よりゆっくりよ」

ちひろ「事務所に届いた年賀状と年賀メールのチェックをしているんです。お正月は営業
    してませんよって言っても、送ってくる取引先の人が結構いるんですよ。中には
    次の仕事につながりそうなものも混ざっていますから、毎年元旦の午前中だけは
    来ているんですよ。でももう終わりましたし、私もそろそろ帰りますよ?」




留美「事務員の鑑ね。じゃあ帰る前にお昼にしない?今日はおせち料理を作って来たのよ。
   ちひろさんは去年も元旦から仕事してたって聞いたから差し入れよ」ゴトン

瑞樹「重箱3段ってずいぶん本格的ね。これ1人で作ったの?」マジマジ

留美「作ったのは1人だけど、お正月前まで真奈美にコーチをしてもらって練習したの。
   あの子も来てくれたら良かったんだけど、先約があったみたいでね」パカッ

楓「私もとっておきのお酒を持って来ました。皆さんで楽しく飲みましょう」サッ

ちひろ「さすがにお昼からお酒は遠慮しておきますけど、ご馳走になります。やかんの
    お湯も沸きましたし、お茶淹れてきますね」スタスタ





***



 シュンシュンシュン…



瑞樹「寒いわ。ねぇちひろさん、エアコン入れましょうよ」パク

ちひろ「ダメです。ストーブとコタツがあれば十分でしょう。仕事でもないのに新年早々
    余計な光熱費を出すわけにはいけません」キッパリ

留美「去年のお正月も、この年季の入った小さな灯油ストーブだけで暖まりながら仕事
   していたの?コタツも出してなかったみたいだし風邪引くわよ」モグモグ

ちひろ「昔はストーブとコタツで乗り切っていたんですよ。事務所を立ち上げて1年目に
    エアコンが壊れて、夏場は扇風機とうちわで頑張っていました。今のエアコンを
    設置したのは今から4年くらい前ですね」ズズ…

楓「私が事務所に来た年ですね。その年の秋に業者さんがエアコンを設置していたのを
  憶えています。ちひろさんがとても喜んでいましたから」パクパク





ちひろ「ウチの事務所はスタッフに優しくないですから。昔は今ほど仕事もなかったし、
    プロデューサーさんもアイドルの皆さんも営業に走り回っていて事務所にあまり
    いませんでしたから私1人だと灯油ストーブで十分だって言われて。アイドルが
    増えて事務所で待機する子が出てきたから、今のエアコンを設置したんです」

瑞樹「へえ、そんな経緯があったのね。でもあの礼子さんがよく何も言わなかったわね。
   あの人がちょっと言えばすぐに設置してくれそうな気がするけど……」

ちひろ「ふふ、実はこのコタツを持ち込んだのは礼子さんなんですよ。礼子さんも最初は
    エアコンを設置して欲しいって社長とプロデューサーさんに言ってましたけど、
    コタツを持って来てから何も言わなくなりました。私もですが、昭和生まれは
    冬はコタツがあれば満足だってDNAに刷り込まれているんですよ」ズズ…

留美「え?このコタツって礼子さんの私物だったの……?」サー…

ちひろ「大丈夫ですよ。エアコンを設置してからは倉庫の奥から出していませんでしたし、
    礼子さんもこのコタツの存在をとっくに忘れているでしょう。昔はとても大切に
    されていましたけどね」パクパク




瑞樹「そ、そうだったの。道理でボロ…格式高いアンティーク家具の風格が漂っていると
   思ったわ。汚さないように大事に使わせてもらわないとね……」ビクビク



楓「あ、黒豆が」ポトッ



留美「楓えええっっっ!!!!!! あんた今の話聞いてたのおおおっっっ!!!??? 」グワッ!!

瑞樹「だ、大丈夫よ留美ちゃん!すすすすぐに取ればシミは残らないわ!」バタバタ!!

ちひろ「だから大丈夫ですって。礼子さんは自分が寒かったからというのもありますけど、
    元々アイドルの子達の為に持って来たんですから―――――」






―――



楓「お~さ~け~!お~さ~け~!」グイグイ!!

留美「ダメよ。酔っぱらってまたコタツの上にこぼされたらたまらないもの。どうしても
   飲みたいならコタツから離れた所で飲みなさい」ディフェーンス!!

楓「ううぅ…… 私が買って来たお酒なのに……」グスン





瑞樹「まあまあ楓ちゃん。それよりせっかくのお正月だし、おしるこでもどう?おやつに
   しようと思って持って来たから、具は白玉団子だけど」サッ

楓「甘いのはあまり好きじゃありません…… 酒飲みは辛党なんです……」イジイジ

瑞樹「塩昆布もあるわよ。北海道産の高いやつだから美味しいわよ」ニッコリ

楓「……おしるこはつぶあんですか?それともこしあんですか?」チラッ

瑞樹「つぶあんよ。嫌いだったかしら?」

楓「いえ、好きです。こしあんはアンフェア……ふふっ」




ちひろ「温めてきますよ。おしるこをこちらにもらってもいいですか?」

瑞樹「あら、私がやるわよ?持って来たのは私なんだし」

ちひろ「いえ、大丈夫ですよ。お昼ご飯をご馳走になったお礼ですから、皆さんはここで
    ゆっくりしていて下さい」ニコッ



 スタスタスタ…





瑞樹「ところで留美ちゃん、真奈美ちゃんはお正月早々どこに行っちゃったの?」

留美「CGカンパニーのレッスンを見学したいとかで、昨日の朝早くからハリウッドに
   飛んで行っちゃったわ。瞳子も一緒らしいけど」

楓「礼さんも真奈美さんについて行くって言ってましたよ。たまには海外で新年を迎えて
  みたいって言ってました。『チーム・九州』ですね」フフッ

瑞樹「へえ、面白い組み合わせね。真奈美ちゃんはレナちゃんと一緒だと思ってたわ」

留美「レナさんは仕事だったと思うわよ。確か今頃生放送の特番で……」ピッ ←テレビ




アナウンサー『さぁお正月恒例『アイドル羽根つき選手権』決勝戦!前回の大会チャンピオン
    鷹富士茄子選手に挑むアイドルは、今大会最年長の兵藤レナ選手です!』

茄子『レナさんと勝負が出来るなんて、新年早々ついてます~♪』ニコニコ

レナ『ここまで来るのに苦労したわ…… 着物は動きづらいし、若い子達は元気だしね……
   でもあんたを倒せば全て報われるわ!その顔を真っ黒に塗り潰してあげるから覚悟
   しなさい!あとアナウンサー!さっきから最年長ってうるさいわよ!』ビシッ!!

アナウンサー『ひっ!? し、失礼しました!! 』ビクッ!!




歌鈴『れ、レナさ~ん、もうレナさんの顔に墨を塗る場所がありませ~ん!』オロオロ

レナ『まだ耳があるでしょ!右耳と左耳で2セットは勝負出来るはずよ!』

アナウンサー『激戦に次ぐ激戦で、レナ選手の顔はラッツ&○ターばりの真っ黒フェイスになって
    います!普通のアイドルは後々のイメージを考えてこうなる前に降参しますが、
    何が彼女をそこまで勝負に駆り立てるのでしょうか!? 』




歌鈴『プ、プロデューサーさ~ん、レナさんをとめてくださ~い……』グスッ

レナ『プロデューサー!わかってるわよね!』ギンッ!!

アナウンサー『おっとまたまた出ました!墨塗り役の道明寺審判による棄権勧告です!MBプロの
    プロデューサーはどう判断するのでしょうか!? 』



P『レナさんの気の済むまでやって下さい……』ハア



アナウンサー『出ました~!準々決勝から数えて3度目のプロデューサーのゴーサインです!
    もはや諦めの境地に入ってます!大丈夫なのかMBプロ!? 2014年の兵藤レナは
    アイドルからお笑い芸人に転向するのでしょうか~!? 』

レナ『しないわよ!私のどこが芸人に見えるのよ!? 』グワッ!!






 ワハハハハハハ… イイゾレナサ~ン!! プロデューサーヨクイッタ!! ガンバレ~!!



瑞樹「う~ん、どう見ても芸人よねえ。 歌鈴ちゃんも容赦なくべったり塗ってるから、
   レナちゃんがコ○ンの犯人みたいになってるじゃない」マジマジ

留美「どんな勝負でもいいから今年は茄子に勝つって燃えているらしいわよ。お正月は
   茄子の為にあるような季節なのに、無謀にもほどがあるわ」フフッ

楓「~~~~~~っ!! 」バタバタ!!

瑞樹「楓ちゃん、真っ黒な顔をしたレナちゃんが面白いのはわかるけど、コタツの中に
   潜って笑いをこらえるのはやめなさい。あまり空気が綺麗じゃないわよ」





留美「夏美は明日の箱根駅伝を応援するとかでパッションの若い子達と今日から現地入り
   して、早苗さんは麻理菜と白馬のスキー場に行くって言ってたかしら。相変わらず
   あの4人は全員フリーダムね」

瑞樹「凄いわねあの4人は。私達も頑張らないとね」クス

留美「そうね。私達も負けられないわ」フッ

楓「 ? 」ヒョコ

ちひろ「みなさんお待たせしました。おしるこ出来ましたよ~♪」スタスタ





***



ちひろ「先程お二人の会話がちらっと聞こえちゃったんですけど……」チラッ

瑞樹「あら?そうなの」パク

留美「別に聞かれて困るような話はしてなかったと思うけど?」ズズ

ちひろ「去年はお正月休み関係なくバリバリ仕事をしていたお二人が、今年はのんびり
    寝正月されているのはレナさん達が関係しているのですか?楓さんは例年通り
    ですけど……」

瑞樹「別にレナちゃん達に圧倒されて怖気づいたわけじゃないわよ?ただ肩肘張らずに、
   私達も自然体でやっていこうと思ったのよ。カッコつけたりしないでね」フフッ

ちひろ「カッコつけたり……ですか?」






留美「『大人の女だから』とか『アイドルは若い子達がメインだから』って変に無理を
   したり逆に遠慮したりして、私達はレナさん達と比べて自分で自分の活動の幅を
   狭めていたんじゃないかって以前から話していたの。だから今年はもっと仕事を
   楽しんで、型に嵌まらずにのびのびとやっていこうって決めたの」



ちひろ「それでズバっと休むなんて大胆ですね…… でも瑞樹さんは結構自由奔放にやって
    いたイメージがありますけど。パジャマ姿で若い子達の中に突撃したり、ブルー
    ナポレオンに入って千枝ちゃんと活動したり……」





瑞樹「それでもやっぱり、目線は若い子達とはズレていたと思うわ。だから中途半端に
   張り切って痛い感じになっちゃったり、ミス・アンチエイジングなんてネットに
   書き込まれたりしたし……」ブツブツ

ちひろ(瑞樹さんもちょっと気にしていたんですね。これはプロデューサーさんに一度
    相談した方がいいかもしれません……)



瑞樹「まぁそれはそれとして、大阪人としては結構オイシイんだけどね。笑美ちゃんにも
   すごくうらやましがられるし、今の路線も悪くはないわ」ケロリ



ちひろ「あ、そうですか。瑞樹さんとしては全然オッケーなんですね」アッサリ





瑞樹「でも同じ歳の早苗や、1つしか変わらないレナちゃんが年齢関係でネタにされる事が
   少ないのは納得いかないわ。むしろレナちゃんより若い留美ちゃんや美優ちゃんの
   方がそっち系のネタでいじられる始末よ。おかしいわよね?」
 
留美「そうよね。別に私はウェディングドレス着て新郎役のPさんと撮影をしたくらいで
   結婚を意識してないし、料理の仕事をしたくらいで花嫁修業だなんて思ってないわ。
   ゼ○シィを定期購読してるのも仕事のうちよ。結婚なんて全然意識してないわ」

ちひろ「へーそーですかーふーん」キキナガシ

楓(塩昆布おいしい……)パクパク





瑞樹「まぁ去年レナちゃん達がMBプロに来て、私達も色々刺激されたのよ。特に一番
   変わったのは美優ちゃんじゃないかしら。主演女優じゃないけど有名監督の映画
   出演のオファーを受けるなんて、ちょっと前までの美優ちゃんだったら考えられ
   なかったわ。P君も思い切ったわよね」フフッ

ちひろ「あの仕事はプロデューサーさんも賭けだったみたいですけど、大当たりでした。
    おかげで昨年末から美優さんを使いたいってオファーが殺到していますよ」

楓(みなさんが油断してる今なら、こっそりお酒を取り戻しても……)ソローリ…



留美「楓。私が気付いてないと思ってるの?」ジロリ

楓「あうぅ…… 留美さんの目はLUM○X……」シュン





瑞樹「本当に楓ちゃんはいつも自然体ね。近くに楓ちゃんという良いお姉さんアイドルの
   お手本がいたのに、どうして私は見習わなかったのかしら?」

ちひろ「瑞樹さんには瑞樹さん、楓さんには楓さんのキャラクターや個性がありますし
    無理に変えなくてもいいと思いますよ。それに大人組がみんな楓さんみたいに
    なってしまったら、プロデューサーさんが心労で倒れてしまいます」

楓「む、なんだか失礼な事を言われている気がします」プクー



留美「気のせいよ。古葉監督が小馬鹿にされている気がするみたいなものよ」サラリ



楓「コバカントク……?」ハテナ?

ちひろ「え?」キョトン

瑞樹「……ああ!昔いた広島の監督さんね!」ポンッ!





留美「……コホン。今のは忘れて頂戴。私達もアイドルになって2年目だし、ファンが
   求めているイメージは把握しているつもりよ。それを守りつつも色々挑戦しようと
   思ってね。向井さんの猫ちゃんと撮影した仕事も評判が良かったし、ビジネスには
   冒険も必要よ。アレルギーが大変だったけど……」

瑞樹「私も自然体で撮影したクリスマスの仕事が好評だったわ。アイドルなのに少し地味
   じゃないかしらって心配だったけど、あれはあれでアリだったみたいね」

ちひろ「瑞樹さんは元々美人なんですから、無理にネタに走らなくても正統派アイドルで
    行けますよ。それでも粘ってケーキの上にご自分の人形を乗せてましたけど」

瑞樹「だって普通に仕事しても面白くないじゃない。やるからには精一杯、思いっきり
   楽しまないとね!私も今年はレナちゃんみたいに芸人の仕事をしようかしら?」

留美「レナさんはアイドルのつもりみたいだけどね。でも自分のやりたいことを全力で
   やって楽しむ事は大事よね。その為にアイドルになったんだし」ニヤリ




楓「私も今年はもっと色々チャレンジしようかな。ちひろさん、真奈美さんが着ていた
  『メタリックレディウルフ』私も着てみたいです」ズイッ

ちひろ「あれは真奈美さんだから着こなせるのであって、ちょっと楓さんのイメージとは
    違う気がしますけど。一応プロデューサーさんには報告しておきます」

楓「わーい♪」




留美「楓はウルフってイメージじゃないわね。キツネ?いえ、タヌキかしら?」

瑞樹「わかるわ。楓ちゃんは目が大きくてぱっちりしてるし、お茶目で愛嬌があるから
   スリムだけどどことなくまるっこいイメージがするのよね」



楓「[メタリックレディタヌキ・高垣楓]ちょっとアンバランスな気が……」ウ~ン



ちひろ「[新緑のたぬき・高垣楓]なんてどうでしょう?某カップうどんみたいな名前に
    なっちゃいますけど、メタリックより柔らかい雰囲気がしませんか?」





瑞樹「あはは!それだと『しんりょく』じゃなくて『しん・みどり』になっちゃうじゃ
   ない!東○水産からオファーが来ちゃうわよ!」ゲラゲラ

楓「あれは[新緑の淑女]でいいです。確かに私は緑色の衣装が多いですけど……」ムスッ

留美「怒らない怒らない。わざわざ真奈美の衣装を着なくても、Pさんがあんたに合った
   衣装を用意してくれるわよ。まぁ同じ事務所のアイドル同士、今年も一緒に仲良く
   やりましょう―――――」





***



―5:00p.m.―



 シュンシュンシュン…



ちひろ「瑞樹さん達とおしゃべりしていたらすっかり遅くなっちゃいました。皆さんも
    とっくに帰りましたし、私もいい加減に帰らないと……」ゴソゴソ



 prrrrr…… prrrrr……



ちひろ「あら?事務所の電話?誰からかしら……」スタスタ





ちひろ「はい、MBプロです」ガチャ

菜々『あ!ちひろさんですか?よかったぁ~、まだ事務所にいたんですね!』

ちひろ「菜々さん?どうしたんですか?何か問題でも?」キョトン

礼子『すみません、訳は後で話しますから事務所を空けてもらってていいですか?今少し
   手が離せなくて…… ああ!? ダメですよドア開けちゃ――――』プツッ



ちひろ「もしもし菜々さん?切れちゃった……」ツー… ツー…






―――



菜々「ほら志乃さん事務所に着きましたよ!しっかりしてください!あ、ちひろさん、
   新年あけましておめでとうございます」ガチャ

志乃「うう~ん……」フラフラ

礼子「あら、コタツが出てるじゃない。菜々、とりあえず志乃はコタツの中に放り込んで
   おきなさい。ひと眠りしたら勝手に起きるでしょう」スタスタ

ちひろ「あらら、志乃さんが酔い潰れたんですか。それで礼子さんが車で迎えに……」

菜々「午前中の撮影の後にPさんと茄子ちゃんと歌鈴ちゃんとお別れして、ナナ達残りの
   メンバーは志乃さんに送られて寮に戻る予定だったんですけど、帰りに志乃さんが
   お昼をご馳走してくれるって行きつけの料亭に連れて行ってくれまして……」

礼子「で、そこで志乃が飲み過ぎたらしいのよ。一緒にいた春菜と梨沙とナターリアは
   寮に送ったけど、菜々と志乃のマンションは遠いから事務所に寄ったの」フウ





菜々「すみません礼子さん、お休みだったのに迎えに来てもらって……」シュン

礼子「いいのよ。私も業界の新年パーティーに退屈していたし。それに悪いのはあんた
   じゃなくて志乃でしょ。さっさと連れて行きなさい」クイッ

菜々「わ、わかりましたっ!ほら志乃さん、コタツまで頑張ってください!」ズルズル…



 ヨイショッ、ヨイショッ… 






礼子「あのコタツまだあったの?もうとっくに捨てたと思っていたわ」

ちひろ「元々礼子さんの私物ですし、私が勝手に捨てるわけにはいけませんよ」

礼子「そうだったかしら。誰か来てたの?あんた1人だと出さないでしょあれ」

ちひろ「お昼過ぎまで瑞樹さんと留美さんと楓さんがいました。みんなでおせち料理を
    食べてテレビを見ながらおしゃべりしてたんですよ」フフッ

礼子「へえ、それは良かったわね。私も少しコタツで休憩していこうかしら。今ここを
   出ても前の道で渋滞につかまりそうだし。ちひろ、お茶淹れてくれる?」

ちひろ「わかりました。私も沸いたお湯がもったいないと思っていたんですよ。少し
    待ってて下さいね」スタスタ





***



ちひろ「お待たせしました。どうぞ」コトン、コトン

礼子「ありがと。車じゃなかったらそこの日本酒飲みたいんだけどね」チラ

ちひろ「楓さんが忘れて帰ったみたいですね。片付けておかないと」

菜々「ごくり……」ジ―…

礼子「あんたは飲んでもいいわよ。帰りは駅までなら送ってあげるから」

菜々「はっ!? そそそんなつもりで見ていたんじゃありません!ナナは17歳です!」ギクッ!!



礼子「今日くらいウサミン星人も休みなさい。17歳で思い出したんだけど、あんた今から
   17年前のお正月に開催された『新春関東新人アイドルオーディション』に出ていた
   わよね?私が神奈川選出で、あんたは千葉か埼玉だったような……」

菜々「ア―――ア―――、キコエマセン、ナナハナニモシリマセン」ミミミン☆





ちひろ「すごく不思議な気がしますね。菜々さんはどう見ても[ピー]歳には見えないのに。
    今年は思い切ってカミングアウトしてみましょうか?」

菜々「イヤです!今年もウサミン星から来た17歳のアイドルでお願いします!」グワッ!!

志乃「うぅ~ん、うるさいわねぇ……」ゴロン

菜々「あ、ごめんなさい志乃さん。大丈夫ですか?気持ち悪くありませんか?」ポンポン

志乃「すぅ……」スヤスヤ




ちひろ「ふふっ、まるで志乃さんのお母さんみたいですね。そうしていると菜々さんは
    17歳の女子高生には見えませんよ」クスクス

菜々「これでもナナ一応、志乃さんより年下なんですけど……」ズ―ン

礼子「歳をとらないわねあんたは。17年前も」菜々「ミミミンミミミンウーサミン☆」




ちひろ「でも志乃さんどうしちゃったんでしょう?いつも半分酔ってるみたいな感じの
    人ですけど、立てなくなるくらい酔っぱらっちゃうなんて……」ナデナデ

礼子「潰し屋の件や外資の参入で委員会の仕事が忙しかったみたいよ。年が明ける前に
   何とか片づいて、羽目を外したくなったんじゃない?」ズズ…

ちひろ「社長とプロデューサーさんもてんやわんやしていましたね。私もあっちこっちに
    振り回されましたし。礼子さんは何もしてくれませんでしたけど……」ジト

礼子「何もするなってPと志乃が私に言ったから、言われた通りにしていただけよ。私は
   元々ただのアイドルだし、あれこれ口出しする権利はないはずよ」プイ




菜々「(普段はあれこれPさんに口出ししまくってる気がしますけど……)」ヒソヒソ

ちひろ「(礼子さんは面倒事はああ言って逃げるんです。下手に暴れられると焼け野原に
    されてしまいますし、じっとしてもらった方がいい事もありますけど……)」ヒソヒソ



礼子「何よ。何か文句でもある?」ジロリ

菜々「い、いえ全然!でもいいんですか礼子さん、CGカンパニーさんと業務提携の話は
   進んでいるみたいですけど、このままだと礼子さんがずっと守ってきたMBプロが
   なくなっちゃうかもしれませんよ……」オソルオソル

礼子「別に私が守っていたわけじゃないし、私はCGカンパニーとの業務提携を反対して
   いるわけじゃないわよ。社長も乗り気だし、Pの負担も減るならいいんじゃない?
   誤解のないように言っておくけど、私は今まで自分の力を使ってアイドルを守った
   事はあるけど事務所経営に介入した事は一度もないわ。ねぇちひろ?」





ちひろ「睨みを利かせるような行動はよくやってる気がしますけど。CGカンパニーにも
    ウチの事務所とは別の名刺を渡していましたし……」ハア

菜々(ウサミン星から危険信号を受信しました!ここは深く聞かない事にします!)ピピッ



志乃「うふふ…… あんたがアイドルをやっていることが問題なのよ。私と社長とPさんの
   営業努力にもっと感謝しなさい。あとちひろさんにも……」ムクリ



礼子「あら、起きてたのあんた。あんたの方こそ、酔い潰れたあんたをわざわざここまで
   運んであげた私と菜々に感謝しなさい。次は知らないわよ」フンッ





菜々「も、もう大丈夫なんですか志乃さん、お茶ありますよ!」サッ

志乃「ありがとう菜々ちゃん…… ふう、久しぶりに飲みすぎちゃったわ。ワインなら
   何杯でもいけるんだけど、日本酒だと加減がわからなくてね……」ゴク

礼子「だらしないわね。大体あんたはレナと真奈美に振り回されすぎなのよ。一応ウチの
   スポンサーなんだし、もっと堂々としなさい。クィーンの名が泣くわよ」ギロリ

志乃「泣かせておけばいいのよそんなの。私はあんたと違ってキングだのクィーンだの
   つまらない肩書や面子を気にしないから。それにレナちゃん達の相手をするのも
   私が好きでやっている事だしね。あの子達はいつでも仏頂面のあんたと違って、
   コロコロ表情が変わってとっても面白いわよぉ……」ウフフフフ…

礼子「どうやらまだお酒が抜けてないみたいねえ……」ゴゴゴゴゴ…




菜々「あわわ、お、落ち着いてください2人とも!新年早々ケンカなんて……」アタフタ

ちひろ「大丈夫ですよ菜々さん、あれはおふたりのいつものやりとりですから」クス

志乃「そうよ菜々ちゃん。ちょっとしたじゃれ合いみたいなものよ。ね、礼子?」ウフフ…

礼子「……馬鹿馬鹿しい、勝手に言ってなさい飲んだくれ」シュウウウウ…

菜々(あ、礼子さんから怒りのオーラが消えました……)







志乃「それにしても歳はとりたくないものね。自分の体なのに思い通りに動かなくなるし、
   新しい考えをなかなか受け入れられずに無意識のうちに守りに入っちゃうしねぇ。
   レナちゃん達を見ているとそう思うわ。ねぇ菜々ちゃん?」



菜々「そうですね…… って!? ナナに同意を求めないで下さい!! 」ガタッ!!

ちひろ「お昼に来ていた瑞樹さん達も同じような事を言ってましたよ。今まで大人組の
    枠にとらわれ過ぎて、どこか無理してアイドルをしていたんじゃないかって。
    でも志乃さんはそんな風には見えませんでしたけど……」






志乃「アイドル活動は楽しくやらせてもらっているし、Pさんのプロデュースも満足して
   いるわよ。でも『私のアイドルとしての人生はこのあたりで落ち着くのね』って、
   何となくだけど引退までのストーリーをいつの間にか自分の中に作っていたのよ。
   30を過ぎた女がいつまでもやるような職業じゃないしね」ゴク

菜々「志乃さん……」



志乃「今だから言うけど、本当は去年アイドルを辞めるつもりだったのよ。そろそろ本腰
   入れて実家の柊ワイナリーを継ぐ準備もしないといけないし、委員会は前から私が
   アイドルをしている事を快く思ってないしね。礼子も昔よりも大人しくなったし、
   もう私が近くで見張らなくていいかしらって考えていたの」クス

ちひろ「薄々そんな気はしていましたよ。私も事務員として、今まで引退したアイドルを
    沢山見てきましたから……」





志乃「でもLIVEバトルとその後の処理で、結局辞めるタイミングを逃しちゃったわ。
   全部片付いた時は事務所のクリスマスパーティーで、聖ちゃんと一緒に誕生日を
   祝ってもらって思わずじ~んと来ちゃってね。うふふ、歳を取ると人の優しさや
   温かさに弱くなるからいけないわね……」

礼子「クリスマスパーティーなんて毎年やってるじゃない。あんたは誕生日とかぶって
   いるから毎年祝ってもらっているし、今更喜ぶ歳でもないでしょ。仕事で疲れて
   心が弱っていたんじゃないの?」



志乃「そうなんだけど、でも去年の誕生日は今までで一番嬉しかったわ。だから今年も
   アイドルを続けようって思ったの。いつもはお正月は休むけど、今年は元旦から
   仕事を入れたのも私なりの決意表明みたいなものかしら……」ウフフ…






礼子「酔い潰れるのがあんたの決意表明なの?そんな事を言ってたらバチが当たるわよ。
   あんたはアイドルを引退しても、何かと理由をつけて事務所に来て飲んだくれて
   そうだし今とあまり変わらないんじゃない?」ジロ



志乃「あら?そういうあんたこそ引退するつもりなんじゃないの?PさんがMBプロを
   辞めたら、あんたがアイドルを続ける理由もなくなるでしょう……?」ウフフ…



礼子「…………チッ」



このシリーズ好き 支援



菜々「えっ!? PさんMBプロ辞めちゃうんですか!? 」ギョッ!!

ちひろ「志乃さん、まだその話は決定したわけではありませんよ」ジロリ

志乃「あら、そういえば菜々ちゃんもいたわね。今のは忘れて♪」ウフフ…

菜々「忘れられませんよ!どういう事ですかちひろさん!? 説明して下さい!」グワッ!!



ちひろ「……プロデューサーさんは委員会から次世代のプロデューサーを指導・育成する
    『プロデューサーリーダー』にスカウトされているんです。あの人は業界でも
    経験豊富ですし、そろそろ後進を育ててもいい立場なんですよ―――――」



折り返しです。ちょっと休憩します。再開は21:30から。

>>47
ありがとうございます。最後までお楽しみ戴けると幸いです。




***



菜々「プロデューサーリーダー……ですか?」



志乃「またの名を『アイドルマスター』とも言うわね。一流プロデューサーだけが務まる
   役職で、今のリーダーは765プロの高木社長と876プロの石川社長だったかしら。
   でも2人は自分の会社も経営しているから、リーダーの仕事に専念出来ないのよ」

ちひろ「委員会は専業のプロデューサーリーダーを作りたいみたいです。それで腕の良い
    プロデューサーを何人かリストアップしてスカウトしているのですが、ウチの
    プロデューサーさんもその中に入っているそうなんですよ」





志乃「でもPさんは正直に言うと、リーダーの実力を兼ね備えているか微妙なのよねえ。
   Pさんのプロデュースは1人のアイドルをSランクに育てるやり方じゃなくて、
   10人のアイドルをAランクに育てるようなやり方だから。委員会の中ではPさんが
   Sランクを育成できるのか懐疑的な声もあるわぁ」ウフフ…



礼子「Sランクならここにいるでしょ。私1人じゃ不満なの?」ムスッ



志乃「あんたは傲慢で扱いにくいし、委員会の言う事も聞いてくれないからノーカンよ。
   Sランクアイドルを育成するのってとても大変だし、今回のLIVEバトルで優勝した
   瞳子ちゃんもPさんはSランクアイドルにはしないでしょうねえ……」ウフフ…

菜々「ど、どうしてですか!? 瞳子ちゃんはSランクになれないんですか!? 」ガタッ!!






礼子「Sランクになっても良い事ばかりじゃないわよ。ギャラが高くなりすぎてTV局や
   イベントでは煙たがられるし、出場出来るオーディションやLIVEバトルも制限
   されるしね。それに一度Sランクになると常にSランクの重圧やプレッシャーと
   戦わないといけなくなるし、並の精神じゃもたないわよ」



菜々「だ、だからSランクのアイドルさんはすぐに引退してしまうんですか……」



礼子「そういう事よ。だからウチの社長とPはSランクを作りたがらないの。Sランクを
   育成すれば大きな実績になるから事務所とプロデューサーの評価は高くなるけど、
   アイドルは引退するか嫌なら日本を離れて海外で活動するしかなくなるしね」



ちひろ「ヘレンさんのように世界を目指されているならSランクを目指してもいいかも
    しれませんが、MBプロは『女の子は誰でもシンデレラ』という理想を掲げて
    皆さんが楽しくご自身の思うように活動される事を第一に考えていますから、
    Sランクアイドルになる事はおすすめしていません。ご理解戴けましたか?」



菜々「わかりました。まぁ元々、Sランクアイドルになれる人はどれだけ才能があっても
   ほんの一握りだと聞いてますし、第一線で活躍しているトップアイドルと呼ばれる
   子達は大体Aランクですしね。Aランクになるのも大変ですし……」←Bランク





志乃「委員会としては、PさんにはもっとSランクアイドルを沢山育成して世界に日本の
   アイドルを宣伝して欲しいんだけどねぇ。PさんはAランクアイドルの育成実績は
   ダントツで多いし、その気になればSランクも育成出来そうだけど……」←Aランク

礼子「だったらあんたがSランクアイドルになりなさいよ。ただしSランクを目指すなら
   あんたの大好きなワインツーリズムをする余裕なんてなくなるでしょうけどね」

志乃「それは困るわねえ。でもPさんのポリシーを否定する訳じゃないけど、これからの
   アイドルは嫌でもSランクになって、世界に向けて戦わないといけなくなるわよ。
   今年のアイドル業界は荒れるわ……」ウフフフフ…



菜々「そ、それはどうして……?」ゴクリ






ちひろ「MBプロが日本のアイドル業界に大量に外資系企業を引き込んだからですよ。
    『グローバル化』や『世界が近くなった』と言えば聞こえはいいですが、つまり
    私達はこれから過酷な国際競争に晒されるんです。CGカンパニーのような巨大
    企業と戦う為には、日本のアイドルもSランクにならないといけません」



志乃「日本のアイドル業界なんて、世界と比べれば小さくて弱いものよ。油断していると
   あっと言う間に世界に食べられちゃうわ。だから私達委員会はSランクアイドルを
   育成する環境作りの為に、Pさんのプロデュースのノウハウが欲しいのよ」



ちひろ「いつものプロデューサーさんでしたらきっぱり断るのでしょうけど、この状況を
    作ったのはウチですから、委員会にそこを突かれると弱いんです。ウチの社長は
    プロデューサーさんが765プロの高木社長のように、本業と兼任出来ないか打診
    していますが委員会はなかなか納得してくれなくて……」



菜々「そ、そんな……」






志乃「MBプロは所属アイドルが多いし、リーダーとの兼任なんて不可能よ。Sランクの
   アイドルを育てるプロデューサーを育てる仕事ですもの。アイドルを育てるよりも
   もっと大変よ。育成する時間が十分あるわけでもないしねえ……」クスクス



礼子「本性を現したわねこの女狐。やっぱりあんたは委員会の人間なのね。MBプロの
   プロデューサーがあいつにしか務まらない事くらい、あんたもよく分かっている
   でしょ。それでもあんたは私達からあいつを取り上げるの?」ギロリ



志乃「『女の子は誰でもシンデレラ』いい言葉よねぇ。でもね礼子、シンデレラになれる
   のはMBプロのアイドルだけなのかしら?私達委員会はMBプロだけじゃなくて、
   全てのアイドルの子達にシンデレラになるチャンスを与えなくちゃいけないの。
   MBプロだけ特別扱いは出来ないわぁ……」ウフフフフ…



菜々「ち、ちひろさん、何か良い方法はないんですか……?」オロオロ

ちひろ「残念ですけど、私にはどうする事も出来ません。社長とプロデューサーさんは
    最後まで悪あがきしてやるって言ってましたが、どんな秘策があるのか……」






 prrrrr…… prrrrr……



ちひろ「あれ?また事務所の電話が鳴ってる…… ちょっと失礼しますね」スクッ

ちひろ「はい、MBプロです」ガチャ

P『あれ?ちひろさん事務所にいたんですか?携帯電話にかけてもつながらなかったので
  もしやと思って事務所にかけたんですけど……』

ちひろ「プロデューサーさん?携帯は……あ、すみませんマナーモードにしていました。
    それでご用件は何でしょうか?」





P『ちひろさん、千夏がどれくらいフランス語を話せるかご存知ですか?』

ちひろ「え?千夏ちゃんですか?」キョトン

P『はい、千夏が大学でフランス語を勉強していたのは知ってますけど、日常会話程度は
  話せるのか、それとも文章が読めるくらいなのか把握していなくて……』

ちひろ「ちょ、ちょっと待って下さいね。礼子さん、千夏ちゃんってフランス語を普通に
    話せましたっけ?」クルッ






P『礼子?礼子も事務所にいるんですか?』

ちひろ「はい。志乃さんと菜々さんもいますけど……」

P『ちょうどよかった!ちょっとスピーカーフォンに切り替えてもらえますか――――?』








***



志乃「日常会話程度なら私も話せるわよ。フランスには一時期仕事でよく行ってたし、
   ウチのワイナリーにもフランス人がいるしね」

菜々「ヘレンちゃんは世界中の言語を話せるって言ってましたよ。それからレナちゃんと
   夏美ちゃんも少しくらいならフランス語を喋れるって言ってましたけど……」

P『そうですか!フレデリカも言葉は分からなくても仲良くは出来そうかな。俺も社長も
  英語は何とか喋れますがフランス語はカバーしていなくて、一緒に仕事が出来るか
  心配だったんですが何とかなりそうですね』ホッ






礼子「今度はハーフじゃなくて本物のフランス人の子でもスカウトしたの?ろくに話せも
   しないのに、どうやってプロデュースするつもりなのよ」ハア



P『いや、アイドルじゃなくてプロデューサーなんだ。社長がCGカンパニーでスカウト
  したらしいけど、コミュニケーションが取れるかどうか心配でな。一応英語と片言の
  日本語は話せるそうだが、細かいニュアンスはどうしてもな……』



ちひろ「フランス人のプロデューサーさんが来るんですか?」キョトン



P『はい、来月から来る予定です。ついでにイギリス人とブラジル人のプロデューサーも
  来ます。この2人は日本語がペラペラなので問題ないそうですが。いざとなったら
  ケイトとナターリアもいますしね』





志乃「ずいぶん色々な国から来るのねえ。でもまたどうして突然、プロデューサーを
   増やそうと思ったの?ずっとPさんが1人でやっていたのに……」

P『業務提携の一環です。MBプロがCGカンパニーから舞台の仕事を協力してもらうのと
  引き換えに、俺と社長がCGにプロデュースのノウハウを提供します。それでCGの
  プロデューサーを受け入れる事になりまして。少し変わり者らしいですけど、社長が
  言うには優秀な人材らしいので問題ないですよ』



礼子「そいつらはどう変わり者なの?」ギラリ



P『え?いや、それは…………』ドギマギ

礼子「社長やあんたは問題ないかもしれないけど、プロデュースされるのは私達なのよ?
   場合によってはそいつらの受け入れを考えさせてもらうわよ」






P『……フランス人はオネエ系のゲイで』



菜々「えっ!? 」



P『…………イギリス人は普段から女性用下着を愛用していて』



志乃「へえ……」



P『………………ブラジル人は陽気なハゲらしい』



ちひろ「え?それって何か問題なんですか?」



P『……………………というわけなんだが。で、でもな礼子、みんな少し変わってるけど
  仕事は出来るらしいから、プロデュースも問題なく……』

礼子「断固拒否よ。私の事務所に一歩たりとも入れないから」バッサリ





P『い、いやほらゲイだったらアイドルの子達が襲われる心配がないし、女性用の下着を
  着用する事でアイドルの気持ちがより深く分かるみたいだし、ハゲはほら、えっと、
  そうだ!ライトが故障した時に現場で役に立つし……』アセアセ

礼子「そんなフォローで私が納得すると本気で思ってるの?ブラジャーを付けた男なんて
   死んでも嫌よ。目の前に現れたら早苗の仲間の前に突き出してやるわ」

P『頼むよ礼子、俺もみんなのプロデュースを他人に任せるなんて嫌で嫌で仕方ないけど、
  こいつらに手伝ってもらわないと俺はMBプロを辞めさせられちまうんだよ……』



ちひろ「プロデューサーさん……」






P『俺がプロデューサーリーダーになる事はもう避けて通れないんだ。だからMBプロの
  プロデューサーと兼任が出来るように、俺が不在の時に仕事を任せられる奴が絶対に
  必要なんだ。社長は俺の為にCGカンパニーとの業務提携を受け入れてくれたんだし
  俺も中途半端にみんなのプロデュースを放り出したくないんだよ』



菜々「社長もそこまで考えて……」






P『心配するな、今回プロデューサーリーダーになるのは俺だけじゃない。他にも何人か
  いて交代で受け持つ予定だから俺だけ委員会に縛られるわけじゃない。俺もお前と
  同じで委員会は大嫌いだし、あんな所に1秒も居たくないからな!』ハハハ



志乃「あらぁ?Pさぁん、私がいる事を忘れてないかしらぁ……?」ウフフフフ…



P『げっ!? し、志乃さん、今のは聞かなかった事に……』アセアセ






礼子「……ひとつ条件があるわ」



P『ん?なんだ?』



礼子「私のプロデュースは必ずあんたがしなさい。あんたのプロデュースじゃないと、
   私は絶対に仕事しないからね」



P『わかっているよ。お前をプロデュース出来るプロデューサーなんて、世界中のどこを
  探しても俺だけだろ。俺もお前を他人に任せるなんて考えられないさ』



礼子「お、思い上がってるんじゃないわよ!あんたなんてそのへんのプロデューサーと
   大して変わらないんだからね!」アタフタ

菜々(なぜでしょう、聞いているこっちが恥ずかしくなります……)カアア







P『それにレナさんと真奈美さんもCGカンパニーには任せられないしな。あの2人を
  相手にするのは難しそうだから勘弁して欲しいってCGのボスから直々に頼まれた
  らしいし、俺も今年はレナさん達から目が離せなさそうだよ……』ヤレヤレ


  
礼子「…………ふーん」イラッ

志乃「うふふふふふふふ、残念、ふふふ、だったわねぇ礼子……」プルプルプル…

ちひろ(またこの人は……)ハア






P『どうした礼子?急に機嫌が悪くなったような気がするが……』

礼子「大の男が揃いも揃って小娘2人に振り回されているんじゃないわよ。提携しようが
   委員会に行こうが好きにすればいいけど、もし腑抜けたプロデュースをしたら承知
   しないから覚悟しなさいよ」フンッ!!

P『何を怒っているんだよお前は…… そういう事ですからちひろさん、詳しい事は明日の
  午後に社長が真奈美さん達とハリウッドから戻って来ますから、その時また話します。
  それから遅くなりましたが、今年もよろしくお願いしますね』
  
ちひろ「あ、こちらこそよろしくお願いします」ペコリ

P『志乃さんもよろしくお願いします。今日の着物姿とてもお綺麗でしたよ。お互い仕事が
  一段落したら、また一緒に飲みましょう』

志乃「うふふ、約束よぉ?楽しみにしてるからね……」クスクス



菜々『それから菜々さん、今日思い出したんですけど、菜々さんって17年前のお正月に
   開催された新春関東新人アイドルオー』菜々「その話はもういいです!」ガチャン!!






礼子「真奈美は社長もハリウッドに連れて行ったのね。抜け目ないわねあの子は」

志乃「17年前の例のオーディションって、Pさんもいたの?」クスクス

菜々「……ええ、ナナも思い出しましたよ。礼子さんの近くでノートを持って、あれこれ
   サポートをしていた男の子を。最初は礼子さんの弟さんかなって思ってましたけど
   よくよく顔を思い出すとPさんでした……」ハア…

礼子「頼んでもないのに私の隣にいつもぴったりくっついて、横であれこれと口うるさく
   対戦相手のデータとか審判の好みとか一方的に喋ってたわ。あいつは高校生になる
   まで背が低かったから、周りからよく姉と弟に間違えられたわ」

志乃「ふふ、本当にあんた達は昔から一緒だったのね。Pさんを委員会にスカウト出来れば
   私が独り占め出来たのに、あんたがくっついているからうまくいかないわねぇ……」





礼子「あいつが私にくっついているのよ。私はいい加減に解放して欲しいのに、あいつが
   離してくれないから、私は30過ぎてもまだアイドルやってるのよ。もうSランクに
   なっちゃったし、これ以上アイドルを続けても仕方ないんだけど」ハア



菜々「でも日高舞さんは、今の礼子さんよりすごかったですよね……」ポツリ



礼子「」ピキッ



ちひろ「な、菜々さん!? 日高さんの話は礼子さんの前では……」ギョッ!!






菜々「ナナは分かりますよ。あの時のオーディションで優勝したのは礼子さんでした。
   礼子さんは当然みたいな涼しい顔をしていましたけど、Pさんはまるで自分が優勝
   したみたいに泣きながらものすごく喜んでいました。」フフッ



志乃「へえ、Pさんらしいわねえ……」フフ



菜々「だから礼子さんが日高舞さんに全く歯が立たなかった事は、Pさんもものすご~く
   悔しかったはずです。礼子さんと同じように、Pさんもとっくの昔に引退した日高舞
   さんをずっと追いかけているんです。Sランクなんてランクに収まらないような、
   日本アイドル史上に残る怪物を……」



ちひろ(菜々さんも当時の日高舞のすごさ、いえ『恐ろしさ』を知っているんですね。
    礼子さんみたいに直接やりあった事はなくても、同じ時期に全力でアイドルを
    していた菜々さんなら彼女との力の差を痛感したはずです……)






菜々「若い子達は世界と戦うのを怖がるかもしれませんが、ナナは全然へっちゃらです。
   あの時の日高舞さんを相手にする事に比べればどうって事はありません。それに
   礼子さんも分かっていると思いますけど、日本のSランク程度では日高舞さんを
   超える事は絶対に出来ません。だからナナは世界バッチこいですよ!」ニコッ



ちひろ(アイドルとしてデビューしただけで『嬉しすぎてもう死んでもいいです!』って
    泣いて喜んでいた菜々さんが、今度は日高舞を超えようとしてるなんて……)






礼子「どうやら私は、あんたに余計な事を話したみたいね。これだから昔話は嫌いなのよ。
   日高舞はアイドルの憧れじゃなくて『呪い』なの。当時あの女の近くにいた人間は
   その実力に圧倒されて、自分の無力さに絶望して、この業界に二度と近づけないか
   永遠に縛られる呪いをかけられたのよ。私達は後者みたいね」



菜々「ふふっ、そうですね。日高舞さんを超えない限りナナ達はアイドルを引退出来ない
   みたいです。プロデューサーさんもきっと、死ぬまでアイドルのプロデューサーを
   辞められないでしょうね」クスッ





志乃「難儀ねあんた達は。まぁ私としては、世界相手に挑戦してくれるのは嬉しいけど。
   私は当時の日高舞がどれくらいすごかったか知らないけど、過去のアイドルは成長
   しないから今のアイドルのあんた達が超える事は不可能じゃないわ。私達委員会も
   サポートするから頑張りなさい」フフフ…

礼子「何を他人事みたいに言ってるのよ。あんたもウチのアイドルなんだから一緒よ。
   いつまでもダラダラAランクで遊んでないで、さっさとSランクになりなさい。
   あんたがいい加減だと下の子に示しがつかないでしょうが」ギロリ

菜々「そうですよ!頑張りましょうね志乃さん!」キャハ☆

志乃「あ、あら~、私も余計な事を言っちゃったかも……」タラリ

ちひろ「志乃さんが追いつめられるなんて珍しいですね」クスクス




礼子「さぁ、そろそろ帰りましょうか。ちひろ、あんたも送ってあげるからさっさと支度
   しなさい。先に外に出て車を回しておくから。行くわよ志乃、菜々」スクッ

ちひろ「ありがとうございます。5分で行きます」スクッ

志乃「ねぇ菜々ちゃん、昔の礼子ってどんな感じだったの?」

菜々「今とあまり変わりませんよ。あ、でもあの時のオーディションはとっても寒くて、
   洟が垂れた礼子さんをPさんが慌ててハンカチで拭いて……」

礼子「菜々、それ以上喋るとただじゃおかないわよ」ギンッ!!

菜々「ひっ!? ナ、ナナは何も知りません、ナナは17歳ですから!」ウーサミンッ!

志乃「面白そうな話ねぇ。ゆっくり聞かせてもらおうかしらぁ……」ニヤニヤ





 <ソレデハナタレレイコハ… <ダマリナサイ <ミミミンミミミン…



ちひろ(ふふっ、プロデューサーさん、レナさん達だけに気を取られていると痛い目に
    遭うかもしれませんよ?今年の大人組は一味違うみたいですから)

ちひろ(確かに留美さんの言う通りアイドルは中高生の子がメインで、大人組の人達を
    前面に押し出す事は難しいかもしれません。しかし彼女達は色々な経験を経て
    アイドルになっていますし、なにより仕事への覚悟が違います。それに年齢も
    常に意識しているので、一度走り出すと止まりませんよ)



ちひろ「でももし、大人組の皆さんが総選挙1位になったらどうしましょう。皆さんに
    あまり若いカッコをさせるのはキツ…… なんとかなるでしょう」スタスタ






ちひろ「あ、そうだ!プロデューサーさんの机にエナドリ置いとこっと。お正月ですから
    サービスしてあげますよ」コトン、コトン


ちひろ「うふふ、今年も一緒に頑張りましょうねプロデューサーさん♪」ニコッ



おわり



乙。面白かった。
雰囲気的に過去作があるのかね?
あったら教えてプリーズ。

おっつおっつ


訂正

>>71
×菜々『それから菜々さん、今日思い出したんですけど、菜々さんって17年前のお正月に
    開催された新春関東新人アイドルオー』菜々「その話はもういいです!」ガチャン!!

○P『それから菜々さん、今日思い出したんですけど、菜々さんって17年前のお正月に
   開催された新春関東新人アイドルオー』菜々「その話はもういいです!」ガチャン!!

>>81
「モバマスお姉さんシリーズ」という名で、25歳以上のお姉さんを中心に書いてます。
リクエストがありましたので後ほど列挙しておきます。

>>82
23:00からおまけを少し投下しますので、そちらも読んで戴けると嬉しいです。



このシリーズ大好きでした
潰し屋が潰れていく詳細を知りたかったけど




おまけ・その他のお姉さん達の元旦



―長野・白馬のスキー場にて(麻理菜・早苗)―



麻理菜「いやっほ―――――っ!! 」シュバ―――ッ!!

千秋「負けないわよ!」シャッ、シャッ、シャッ!!

千夏「ちょっと二人とも、あまりスピード出すと危ないわよ」スイ―ッ、スイ―ッ





麻理菜「はいゴール!私の勝ちー!」ザザッ!!

千秋「ありえないわ…… どうしてボードなのにそんなに速いのよ……!? 」ハア、ハア…

麻理菜「あら、私元々スノーボードからサーフィンに入ったクチよ?サーファーでプロに
    なったけど、競技歴はこっちの方が長いわ。それに長野は私の地元だし、ここの
    スキー場も昔はよく通ったしね♪」オホホホホ♪

千秋「くっ、地元で『北海道のハヤブサ』と呼ばれたスキーヤーの私が負けるなんて……
   もう一回勝負よ!」ビシッ!!

千夏「待ちなさい千秋。早苗さんまだ来てないから」ストップ





早苗「はぁ、はぁ…… ふたりとも、どうして、そんなに上手いのよ……?」ズルズル…



千夏「だって私達、小学校から普通に体育でスキーがあったし」←道民

千秋「北海道の人間ならこれくらいは出来て当然よ。音葉も運動はあまり出来ないけど、
   スキーは滑れるって言ってたわよ」←道民



早苗「だったらもっと早く言ってよ!2人ともお正月休みなのに実家に帰らずに、寮で
   ダラダラするって言うから鍛えてあげようと思ったのに!」ブワッ!!





千秋「別にダラダラするとは言ってないわ。寮で歌の勉強をするって言ったのよ」サラリ

千夏「運動ならレッスンで間に合ってるわ。それにあんな風に言われるとねえ」ジロリ



早苗「うぐ……」ビクッ!!






~回想~



早苗『2人とも寝正月?ダメよ若いうちからそんな不健康な生活じゃ!しょうがないなあ、
   お姉さんが麻理菜ちゃんと一緒にスキーに連れて行ってあげる!』ビシッ!!

早苗『安心しなさい!私こう見えても雪国生まれだし、スキー結構上手いのよ?警察に
   なってからはしばらくは行ってなかったけど、私くらい極めちゃうと体が憶えて
   いるのよねえ~♪』クイ、クイ

早苗『千夏ちゃんいつも本ばかり読んでいてあまり運動してないでしょ。たまには外で
   思いっきり遊ばないと老け込んじゃうわよ?千秋ちゃんもお仕事ばかりしてると
   つまらない女になるわ。お姉さんがオトナの遊びを教えてあげる!』エッヘン!!






―――



千秋「で、私達に何を教えてくれるのかしら早苗お姉さん?」シラ―

千夏「極めていたのはスキーじゃなくてかまくらの作り方じゃないの?毎年雪まつりで
   自衛隊の人が雪像とか作ってるし、早苗さんも作れるでしょ」ゴーグルクイッ

麻理菜「こらこらやめなさい2人とも。早苗さんも反省してるんだし、大人をいじめる
    ものじゃないわよ。無理してまた腰痛が再発したら大変だし……」ドウドウ



早苗「」ブチッ






麻理菜「……早苗さん?どうしたの?」キョトン



早苗「うわ―――――ん!おぼえてなさいよあんた達―――――っ!! 」ダダダッ!!



―――その後早苗お姉さん(笑)はスキーコースにスノーモービルで乱入しようとし、
   通報を受けて駆けつけた長野県警に取り押さえられてたっぷりシメられた






―神奈川・箱根駅伝のコースにて(夏美)―



夏美「うわ~!ここがあの有名な『花の2区』なのね!テレビで見るよりキツそうな
   上り坂なのねえ~!」ペタペタ

いつき「やっぱり箱根駅伝といえば2区ですよね!9区も捨てがたいですけど観戦出来る
    のは往路の明日しかありませんし、明日はここで応援しましょうか」ニコニコ





洋子「よし!それじゃ2人とも走ってみようよ!私は準備万端だよ!」ポキポキ

夏美「ホントに走るの洋子?……と言いつつ、私といつきもランニングウェアに着替えて
   るんだけどねー♪」イッチニ、サンシ…

いつき「まだ交通規制はかかっていませんから、車の邪魔にならないように沿道を軽く
    走る程度にしておきましょう。暗いですからヘッドライトを忘れずに……」



 ダダダダダダダダダ… ドドドドドドドドドド…



夏美「ん?なにこの足音?すごい速さで下から駆け上がってくるような……」クルッ






ヘレン「ヘ――――――――――イッ!! 」ダダダダダダダダッ!!



のあ「ふんふんふんふんふん…………っ!! 」ドドドドドドドドッ!!



夏美「ひっ!? 」ビクッ!!

いつき「ヘレンさんっ!? 」洋子「のあさんっ!? 」






ヘレン「あら夏美。こんな所で何をしているの?」ピタッ

夏美「それはこっちのセリフよ!あんた達こそ何やってんのよ!? 」グワッ!!

のあ「その服装…… どうやら貴女達も私達と同じ志を持つようね……」←ランニングウェア

いつき(同じだと認めたくないなあ……)




ヘレン「そうなの。あなた達も明日沿道を選手と一緒に走るのね」フッ

夏美「んなアホな事しないわよ!? 現役の駅伝ランナーと一緒に走れるわけないでしょ!!
   他の観客の迷惑になるからやめなさい!! 」

のあ「阿呆とは聞き捨てならないわね。貴女に私の何が分かるの……?」ギンッ!!

ヘレン「失望したわ夏美。同じバニー同士あなたとは仲良く出来ると思ったのに」ハア…

夏美「え?なにこの流れ?私なんで怒られてがっかりされてるの?」





洋子「じゃあさじゃあさ!せっかく5人いるんだしみんなで区間ごとに分担しない?
   フルで走るのは無理でもそれならいけるっしょ!」



いつき「ええっ!? そういう問題じゃ……」

ヘレン「面白そうね。私は2区を走るから、後はあんた達で決めなさい」ニヤリ

夏美「ちょ!? 何を勝手に決めてるのよ!私はまだOKしてないわよ!」

のあ「いえ、2区は私が走るわ。ヘレン、貴女には5区を任せるわ」キッパリ

ヘレン「……一応理由を聞かせてくれるかしら。どうして私が5区なの?」ギロリ





のあ「私の地元は山が多いから、坂道を走るのは慣れているわ。駅伝はチームで戦うの。
   皆で力を合わせ、誰かが遅れれば次の誰かがその遅れを取り戻す。そうしながら
   たすきをつないで勝利を掴むのよ」

ヘレン「あなたの言いたい事がわかったわ。つまり私は全員の遅れをカバーして、最後の
    5区で鮮やかに逆転すればいいのね。世界レベルの私にふさわしいじゃない」ニヤリ

洋子「ちょっとヘレンさん!私達が最初から足手まといみたいな言い方しないでよね!
   これでもフルマラソンちょくちょく出てるんだから!」ウガー!!

いつき「ほ、本当にやるの洋子ちゃん?だったら私は一番短い4区がいいな……」

夏美「目を覚ましなさいいつき!この3バカに取り込まれてるんじゃないわよ!」グワッ!!





のあ「夏美、貴女は一番目立つ1区をお願いするわ。自分の存在をアピールする事で、
   『相馬といえばファミレス店員』という世間のイメージを覆すのよ」



夏美「余計なお世話よ!! 別に私はかわいそうまさんじゃないから!! 」ムキ―ッ!!



―――こうして結成された『チーム・ヘレンと愉快な仲間たち』は、沿道の観客をかわし
   ながら快走し、非公式ではあるが往路1位という記録を打ち立てた。特に2区を
   走ったのあは『山の女神』と呼ばれ、たまたま実家のテレビで見ていたアーニャは
   木彫りの熊を握りしめて応援し、みくは餅をのどに詰まらせた






―アメリカ・ハリウッドのホテルにて(真奈美・瞳子・礼)―



真奈美「はぁ……」ガックシ



瞳子「まだ気にしてるの真奈美?別にゲイでもいいじゃない。芸能界には結構多いし、
   若い子達も見慣れているから抵抗ないわよ」

礼「そうよ。社交ダンスでもパートナーの動きを研究する為に、ドレスにヒールで練習
  していた男のダンサーもいたわよ。別に犯罪者でもないし気にしすぎよ」ナデナデ





真奈美「わかってるさ。ゲイでも女装でもハゲでも特に問題ない。しかし1人づつなら
    平気でも、そんな男達を3人同時に受け入れられるか?下手をすれば事務所を
    辞める子達が出て来るかもしれない……」ウ~ン

瞳子「パっと見、一番抵抗あるのはフランスの彼ね。歩き方もクネクネしてるし……」

真奈美「一番目立っているのはブラジルの奴だがな。あいつは発光しているのか?」

礼「あんた達…… 何を真剣な顔をして馬鹿な事を言ってるのよ……」プルプル…




真奈美「笑い事じゃないぞ礼さん。プロデューサーとアイドルは一心同体だ。私達の
    プロデュースについては一応P君がメインで彼らはしばらくサポートだが、
    そのうち彼らが主導で行う仕事が出て来る。その時に彼らを心の底から信用
    出来るのか、これは重要な問題だ」

礼「その時はその時よ。どこの業界でもこれくらいの障害はあるし、乗り越えないと
  やっていけないわ。むしろ今まで私達はPさんに過保護に守られ過ぎてたんじゃ
  ないかしら。ねえ瞳子?」

瞳子「心を許さないといけない相手が障害というのもおかしな話だけどね。でもこれから
   アイドル業界はもっと厳しくなるし、それにデビューする機会に恵まれなかった
   暗黒期に比べれば変人と仕事するくらい……」ブツブツ…

真奈美「お前はすぐにネガティブになるなよ。まぁ仕事は熱心だし、私が何とかしよう。
    彼らの受け入れはCGカンパニーとの業務提携の一環だし、今後の為にもここで
    失敗するわけにはいかない。しばらく注意しないとな」フウ




礼「ふふ、頼もしいわね。あんたとレナがいたらMBプロは大丈夫だって思うわ」クスクス

真奈美「どうして私とあいつがワンセットなんだ?」キョトン



瞳子「それはあんたとレナさんが『世界を知っている』からよ。あんた達は技術や知識
   じゃなくて『感覚的に』世界を知っている。だからあんたは国の枠組みに縛られ
   ないし、レナさんもまず世界基準で考えている。そんな感覚を持ってない私から
   すればうらやましいわ」クスッ





真奈美「それほど大層なものじゃないぞ。私はトレーナーの世界しか知らないし、レナは
    カジノの世界しか知らない。私達はたまたま外国で働いていただけだ」

礼「外国で働いたくらいで、そういう感覚は身につくものじゃないわよ。確固たる自分の
  基盤があって、自分の事をよく分かっていないと、人間なんてあっと言う間に自分を
  見失ってしまうわ。そうなると軸がぶれて世界を認識出来ないからね」フフッ

真奈美「それはそうだ。レッスンをつける時は自分の信念がないと相手に伝わらないし、
    レナも自分を見失うとギャンブルは勝てないだろう。だが私達は完璧ではない。
    あいつもきっと今頃、茄子との勝負にムキになって自分を見失っているだろう」

礼「よくわかったわね。さっき楓からメールが来たんだけど、レナは羽根つき選手権で
  茄子にストレート負けしたそうよ。顔に墨を塗る所がなくなって、最後は歯にまで
  塗ろうとしたそうだけど流石にそれはストップがかかったらしいわ」クスクス




真奈美「今年は芸人にでもなるつもりなのかあいつは…… いくらCGカンパニーでも
    コメディアンの育成は行ってないぞ」ヤレヤレ

瞳子「レナさんが自分を見失ったら、あんたがまた元に戻してあげればいいじゃない。
   それがパートナーってものでしょ?グローバル競争が激化しても、あんたとレナ
   さんがいればMBプロは安泰よ。だから頼りにしているわよ」ポン

礼「そうよ真奈美。レナとあんたが日本のアイドル業界とウチの事務所に世界を持って
  来たんだから、きちんと責任取りなさい。それが大人の仕事よ♪」ポン



真奈美「フッ、好き勝手にプレッシャーをかけてくれるな。しかしこれくらい想定囲内だ。
    去年は様子見も含めて大人しくしていたが、今年は遠慮なく暴れさせてもらう。
    私の前に立ちはだかるなら、格の違いを見せてあげよう―――――」



END





以上です。「ヴィンテージ」は25年以上経たものを指すそうです。ちひろさんメインと
いうよりは、ちひろさん目線でのお姉さん達のお話になりました。
今回のSSはシリーズの補足的な意味もあります。礼子さんが所属している謎組織は巨大な
秘密結社的なものだとお考えください。 潰し屋さんは委員会の正当な手段で業界から排除
された事にしておきます。礼子さんに○されていませんよ!

あとフランスとイギリスとブラジルの方、本当にすみませんでした。このSSは全てが
フィクションですのでどうかお許し下さい。プロデューサーの風評被害の件については
都市伝説だと割り切って戴ければ。作者はCoPですが下着は男物ですw

それでは最後にお姉さん達に栄光あれ!では。




シリーズ完結お疲れ様です


千川ちひろ(?)
http://i.imgur.com/PJ0zYFo.jpg

川島瑞樹(28)
http://i.imgur.com/hDpiamW.jpg

和久井留美(26)
http://i.imgur.com/QZDIxao.jpg

高垣楓(25)
http://i.imgur.com/iFZw451.jpg


三船美優(26)
http://i.imgur.com/l7q0pdp.jpg


長い間お疲れ様でした


鷹富士茄子(20)
http://i.imgur.com/qmKOecN.jpg

兵藤レナ(27)
http://i.imgur.com/VeV10as.jpg

道明寺歌鈴(17)
http://i.imgur.com/eUvYc1H.jpg



安部菜々(Forever17)
http://i.imgur.com/h3GodYw.jpg

柊志乃(31)
http://i.imgur.com/egfVvNh.jpg

高橋礼子(31)
http://i.imgur.com/gBYYBvD.jpg



沢田麻理菜(26)
http://i.imgur.com/rXQnlmc.jpg

黒川千秋(20)
http://i.imgur.com/yAwtPHK.jpg

相川千夏(23)
http://i.imgur.com/GKsDDX6.jpg

片桐早苗(28)
http://i.imgur.com/GZVHreP.jpg





相馬夏美(25)
http://i.imgur.com/UPUpGIk.jpg

真鍋いつき(22)
http://i.imgur.com/pl0uHKo.jpg

斉藤洋子(20)
http://i.imgur.com/d7Tm1Lv.jpg

ヘレン(24)
http://i.imgur.com/z5xO7ON.jpg

高峯のあ(24)
http://i.imgur.com/GnOoBdG.jpg



木場真奈美(25)
http://i.imgur.com/9fs6yb2.jpg

服部瞳子(25)
http://i.imgur.com/6lPXYvi.jpg

篠原礼(27)
http://i.imgur.com/lN2xlrp.jpg




モバマスお姉さんシリーズ

1.兵藤レナ「遊んでいかない?」
2.三船美優「フルオーダーメイド」
3.相馬夏美「空の上で」
4.服部瞳子「アシンメトリー」
5.高垣楓「くせもの」
6.川島瑞樹「ローカルマドンナ」
7.片桐早苗「署までおいでよ」
8.和久井留美「デイドリーム」
9.篠原礼「大人のおつきあい」
10.柊志乃「ホーリークーデター」
11.高橋礼子「絶対女王政」
12.木場真奈美「プロミネンス」
13.沢田麻理菜「海の女と鮫の女」
14.千川ちひろ「ヴィンテージレディトーク」

以上です。


>>84
>>107
>>109
長い間お付き合いいただきありがとうございました。
それでは。



訂正>>31
  ×礼子『すみません、訳は後で話しますから事務所を空けてもらってていいですか?今少し
      手が離せなくて…… ああ!? ダメですよドア開けちゃ――――』プツッ

  ○菜々『すみません、訳は後で話しますから事務所を空けてもらってていいですか?今少し
      手が離せなくて…… ああ!? ダメですよドア開けちゃ――――』プツッ

まとめサイトを見て気付いた。このままだと礼子さんが危険運転で警察に捕まってしまうw


温かいレスを沢山ありがとうございました。シリーズ自体は木場さんの回で一応終わらせていたので
「終わる終わる詐欺かよ!」とお叱りを受けるかと思ってましたがw ここだけの話、本当は去年の
末に忘年会でお姉さん全員集合の大宴会SSを書いて綺麗に〆るつもりでしたが、どう考えても収拾が
つかなくて挫折しました。そうこうしているうちに年が明け、正月シーズンも終了し……季節ものは
難しいですね。奈緒とふ○っしーにも散々振り回されたし、次はもっとさっさと書きますorz

「このシリーズを読んでお姉さんが好きになった!」と言われたのが嬉しかったです。早苗さんや
楓さんはよく見ますが、大人組の活躍が今年はもっと増えるといいなと思います。運営頼みますよ!
ちなみに作者はレナさんが好きでこのシリーズを書いていましたが、お気に入りは夏美さんですw
スッチーというインテリな職歴(コスプレかもしれませんが)と、パッションで全力がモットーの
体育会系キャラクターが面白いと思います。ウチではツッコミキャラにしてましたが、もしかして
ボケかも?まだまだ謎の多い人なので、今年はSR化されてその辺も明らかになるといいなあ。

では長々と書きましたがこの辺で。読んで戴いてありがとうございました。

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