P「響が156センチになったら」 (68)

響「ねぇねぇプロデューサー!」

P「んー?」

響「一体いつになったら、自分を彼女にしてくれるのっ?」

P「そうだなー」

響「…………」

P「響の身長が、156センチくらいになったらなー」

響「もー!」

響「プロデューサー!」

P「あ、響。ポッキー食うか?」

響「うん!」

P「ほら」スッ

響「わーい! ありがとっ!」ポキポキ

P「はっはっは」

響「おいしー」ポキポキ

P「よかったなあ」

響「って、何誤魔化してるんさ!」

P「5本も食ってからツッコむなよ……」

響「う、うるさい!」

響「大体プロデューサー、言ったよね!?」

P「プリッツもあるぞ、響」

響「わーい! ……って、だから違くて!」ポリポリ

P「とか言いながらしっかり食ってるじゃないか」

響「う、うるさい!」ポリポリ

響「自分、17歳のときにプロデューサーに告白したよね」

P「おう」

響「そのとき、プロデューサーも自分のこと好きって……そう言ってくれたよね」

P「ああ」

響「でも、そのときはまだ自分がアイドルで、トップアイドルになるまでは付き合ったりとかはできない、って。そう言ったよね」

P「言ったな」

響「だから自分、それから、今まで以上に一生懸命頑張って」

P「うん」

響「18歳の時に、トップアイドルになれたんだ」

P「そうだな」

響「……プロデューサー」

P「ん?」

響「……プリッツもう無いの?」

P「はいはい」スッ

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響「そうしてトップアイドルになれたのに、プロデューサー、まだ自分とは付き合えない、って」ポリポリ

P「ああ。せっかくトップアイドルになれたのに、ゴシップ記事とか書かれちゃ敵わんからな」

響「……それはまあ、そうかもしれないけど」

P「だろ?」

響「……だから自分も、そういうことなら、って……我慢してたんだ」

P「…………」

響「自分がアイドルでいるうちは、プロデューサーを困らせるようなことを言うのはやめよう、って」

P「…………」

響「でも、自分は、19歳の……今年の夏の単独ドームライブで、アイドルを引退した」

P「ああ」

響「これからは、歌手と女優の両輪で頑張っていくって、そう決めたんだ」

P「そうだな」

響「なのに……」

P「ん?」

響「なんでまだ、プロデューサーは自分を彼女にしてくれないんだよーっ!」

P「響、トッポもあるけど」

響「ありがとうっ!」ポリポリ

響「トップアイドルになれたら、とか」

P「うん」

響「アイドルを引退したら、とか」

P「ああ」

響「そういう理由ならまだわかるよ。でも……」

P「…………」

響「背が伸びたら、って、何!?」

P「あっはっは」

響「笑い事じゃないぞ!」

P「いやすまん、ぷりぷり怒る響があまりにも可愛くてな」

響「か、かわっ……そ、そんなことではごまかされらっちゃられら!!」

P「カミカミファーストバイトか女優志望」

響「上手くないからね!?」

P「いやだがな響。ちょっと聞いてくれ」

響「……何?」ムスー

P「むくれてる響もかわいいぞ」

響「だっ、だからそういうのいちいち挟まなくていいからっ!」

P「はっはっは。いやほら、よく聞くだろ? 男女の理想的な身長差は15センチって」

響「……?」

P「俺、171センチ」

響「うん」

P「響、152センチ」

響「そうだね」

P「その差、19センチ」

響「…………」

P「…………」

響「……だから自分が156センチになったら、って言うのか?」

P「おう」

響「…………」ギリリリ

P「む、むごんでほっぺをひっひゃるないはいいはいいはい」

響「もーっ! 自分もうすぐハタチになるのに、今更背なんて伸びるわけないぞ! しかも4センチも!」

P「いやいや、分からんぞ? 23歳の誕生日の朝までは伸びるという説もある」

響「えっ! ほ、本当!?」

P「ああ、だから多分きっと大丈夫だ」

響「そっかー! えへ、えへへ……」

P「あっはっは」

響「……って、今から更に三年も待てるわけないでしょ!」

P「ですよねー」

響「……もしかして、プロデューサーはもう自分のことが好きじゃなくなっちゃったのか?」

P「それだけは全宇宙が滅んでもありえん」

響「そ……そこまで言ってくれるんなら、なんで……」

P「…………」

響「…………」

P「……響」

響「……?」

P「……ポッキー」

響「もういいよっ!」

小鳥「……響ちゃん、怒って出て行っちゃいましたね」

P「あ、音無さん……すいません、騒がしくして」

小鳥「いえいえ。でもまあ、響ちゃんの気持ちも分かりますよ。もう三年ですもんね」

P「……はい」

小鳥「……まあでも、プロデューサーさんには、プロデューサーさんなりのお考えがあるんでしょう?」

P「…………」

小鳥「ふふっ。ただそうはいっても、あんまり待たせすぎると……」

P「……?」

小鳥「私が響ちゃんを奪っちゃいますよ?」

P「ええっ! そ、それはちょっと」

小鳥「ふふっ。なんちゃって」

P「も、もう……変な冗談やめてくださいよ」

小鳥「でも、女性を長く待たせるのは本当にだめですからね?」

P「……肝に銘じておきます」

小鳥「ふふっ」

―――それからさらに少しの月日が流れ。

―――今日は、20××年10月9日。

―――明日は、響の20歳の誕生日だ。


P(……あれから、響とはあんまり話せなかったな)

P(でも、それも今日で最後だ)

P(明日になれば、俺は……)

クィドルルルル クィドルルルル

P「ん? メールか……響!?」

ピッ

P「……『今から事務所の屋上に来て』……い!? 今から!?」

P「な、なんで今日……?」

P「……ええい! なんかしらんが行くしかないか! 待ってろよ、響!」

P「っと、そうだ。一応『あれ』も持って行こう」ゴソゴソ

P「予定より一日早まっちまうかもしれんが……まあこの際仕方ない」

P「よし! 今行くぞ! 響!」

~事務所の屋上~

P「しかし何だってこんな場所に……?」ガチャッ

P「――――あ」

響「…………プロデューサー」


―――そこにいた響は、真っ赤なドレスに身を包んでいた。

―――普段とは少し違う、大人びた雰囲気。

―――背後の夕陽の紅とまざって、とても。


P「……きれいだ」

響「……へへ」

P「……ここで、着替えたのか?」

響「うん。流石に、こんなカッコじゃ街歩けないよ」

P「だから、ここに呼び出したのか……」

響「えへへ……そういうことっ」

P「…………」

P「今月の給料が50円ってどういうことですか!」

社長「くると思ったんだがね、ケンタウルスホイミ」

響「ていうか、プロデューサー?」

―――カツカツと、俺に詰め寄る響。

P「え? な、何だ?」

響「何だじゃなくて、もっとなんか言うことないの?」

P「あ、ああ……と、とてもきれいだよ。響」

響「それはさっき聞いた!」

P「あ、ああ……ええと……うん?」

響「…………」

P「響、お前……」


―――背が。


響「……へへ。やっと気付いた?」

P「あ、ああ……そうか、ヒール……」

響「当たりっ! 急にヒールだけはいたらおかしくなっちゃうからね。それで服もこういうのにしたんだっ!」

P「な、なるほど……」

響「……ねぇ、プロデューサー」

P「…………」

響「ちょっぴり反則かもだけど、自分……156センチになったよ」

P「…………」

響「だからさ、その……」

P「……響」

響「!」

P「……悪かったな、今まで……」

響「…………」フルフル

P「……本当は、明日言うつもりだったんだけど……」

響「…………」

P「……今はまず、これを受け取ってほしい」スッ

響「……これは……」

響「プロデューサー名義の……銀行の通帳?」

P「ああ」

響「え、ええと……?」

P「中を」

響「いいの?」

P「ああ」

響「じゃ、じゃあ……って、え? ぜ、ゼロが1、2、3……え? こ、これって……?」

P「……響」

響「プロデューサー……」

P「俺な、響と両想いだったって分かったときから、ずっと考えてたんだ」

響「…………」

P「響のこと、自分のこと、二人のこれからのこと……」

響「…………」

P「響がアイドルやってるうちは付き合うなんてもってのほか。でもそれなら、引退したら?」

響「…………」

P「『付き合おう』って口で言うだけなら簡単だ。そうすれば俺達は恋人同士となり、いわゆるカップル達がしているようなことをするようになるだろう」

響「…………」

P「でも俺は、響とそれだけで終わるような関係になろうなんて、微塵も考えたことは無かった」

響「…………」

P「俺が考えていたのは、そのもっとずっと先……」

響「…………」

P「そしてもう一つ考えていたのは、この俺の気持ちを、考えを、想いを響に伝えるには、どうすればいいのかってこと」

響「……じゃあ、それが」

P「ああ、これだ」

響「…………」

P「もちろん、お金が全てだなんて思わない。でも俺の本気を……覚悟を響に知ってもらうには、これが一番分かりやすいって思ったんだ」

響「…………」

P「……まあでも、トップアイドルになった響からすれば、全然大したことない額だろうけど……」

響「そっ! そんなことないぞ! だってこんな金額……」

響「……プロデューサー……自分がトップアイドルになってからも、後進のアイドルの育成にもすごく力を入れてたよね」

P「……ああ」

響「それだけじゃない。かつての仇敵だった961プロとのコラボイベントなんかも精力的に企画してくれて」

P「…………」

響「本当にいつ休んでるの? って思うくらい、毎日、毎日、遅くまで働いて……」

P「…………」

響「それもこれも全部……このため……だったんだね」

P「……ああ」

P「響」

響「……はい」

P「結婚しよう」

響「……はい!」

P「……随分長く待たせちゃって、ごめんな」

響「…………」フルフル

P「本当は、明日……響の20歳の誕生日に言おうと思ってたんだけど」

響「えっ? そ、そうだったの?」

P「ああ。でも今日急に、響から呼び出されたから」

響「そ、そうだったのか……ごめん」

P「いいって、元々俺が悪かったんだし」

響「……プロデューサー……」

P「改めて……これからよろしくな、響!」

響「うん!」

P「でも何でまた、今日にしたんだ?」

響「あっ。それはその……もし本当に、プロデューサーにその気がないんだったら、もう、10代のうちに終わりにしてもらおうと思って……」

P「……なるほどな」

響「でも、たとえそうだしても……できる限りのことはしておきたくて、それで……」

P「……156センチ、か」

響「…………」コクッ

P「お前は本当に可愛いな」

響「かっ、かわっ――ん!?」

P「――――」

響「――――」

P「……っは」

響「……あぅっ……」

P「…………」

響「…………」

P「……な? ちょうどいいだろ? 15センチって」

響「……ばかっ」







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