ミカサ「忘れ物」(68)

※12巻以降の本誌ネタバレ有り

ミカサ(9)「お母さん見て見て」

お母さん「ん?どうしたの?」

ミカサ(9)「泥団子。作ったの!」

お母さん「まあ、上手にできたわねー」ニコニコ

ミカサ(9)「お母さん、あげる!」ズイッ

お母さん「ありがとう、ミカサ。今日のごはんは、このお団子のスープにしましょう」ニコニコ

ミカサ(9)「……え?」

お母さん「お父さん、ミカサ、ごはんですよー」

お父さん「お、良い匂いだなー。今日のごはんは何かな?」

お母さん「ミカサが作ったお団子のスープですよ」

お父さん「おお、ミカサが作ったのか!嬉しいな」ニコニコ

お母さん「そう。美味しく出来てますよ。いま注ぎますからね」ニコニコ

ミカサ(9)「………」

お母さん「お父さん、どうぞ」コトッ

お父さん「わあ、美味しそうだな」ニコニコ

ミカサ(9)(泥団子なのに…?)

お母さん「ミカサにもすぐに装いますからね」

ミカサ(9)「!」ビクッ

お母さん「どうしたの?ミカサ」

ミカサ(9)「お母さん、私も……あの…みんな…お父さんも」

お母さん「ん?」

ミカサ(9)「ど、泥団子…なんて、食べられないよ」

お父さん「どうしたんだミカサ、泥団子なんて言い出して…?」

ミカサ(9)「だって、スープに…」

お母さん「ミカサが作ってくれた泥団子は、立派なお団子になりましたよ」ニコニコ

ミカサ(9)「え?…え?」

お母さん「だから、ね。お団子をくれたミカサにはお返しにこれ。どうぞ召し上がれ」コトッ

ミカサ(9)「ん?……お母さん、これ」

お母さん「これはあなたの忘れ物。あなたが食べ忘れたニンジンですよ」

ミカサ(9)「えー。お母さん。私、ニンジン食べ忘れたんじゃなくて残したんだよー」

お母さん「好き嫌い言わないで食べなさい」メッ

ミカサ(9)「えー…。ねぇお父さーん」クルッ

お父さん「ダメだぞミカサ。きちんと食べないと大きくなれないぞ」メッ

ミカサ(9)「えーー。お母さん、私、ニンジンは甘ーく煮たのが良い」

お母さん「はいはい。また今度ね。今日はとりあえずそれ食べなさい」

ミカサ(9)「はーい…」

アッカーマン×3「いただきます」

モグモグ

モグモグ

モグモグ

お父さん「今日は二人で出掛けるんだったね」

お母さん「ええ。ミカサ早く準備しなさい」

ミカサ(9)「え?どこに行くの?」

お母さん「あなたのお友達に会いに行くの」

ミカサ(9)「へー…?」

お父さん「はい、お母さんこれ」ドサッ

お母さん「はい、たしかに」

ミカサ(9)「何?それ」ノゾキッ

お父さん「これはね、ミカサがここに来るまでに落としてきた忘れ物だよ」

ミカサ(9)「忘れ物?またニンジン?」

お母さん「ふふ、もうニンジンは入ってませんよ」

ミカサ(9)「そっか、良かった」

お父さん「じゃあ、二人とも。そろそろ」

お母さん「ええ、そうね。ミカサ、行きますよ」

ミカサ(9)「お父さんは?」

お父さん「お父さんはお留守番なんだ」

ミカサ(9)「なんで?」

お父さん「二人がきちんと帰られるように、暖炉の火を見ていなくちゃいけないからね」

ミカサ(9)「ふーん…?」

お母さん「わかったなら、さあ行きますよ」

ミカサ(9)「はーい」

お母さん・ミカサ「いってきまーす」

ガチャッ

ミカサ(10)「ねえ、お母さん」

お母さん「どうしたの?ミカサ」

ミカサ(10)「お友達って、誰?」

お母さん「さあ?お母さんは会ったことないから」

ミカサ(10)「そうなの?私もわからないよ?その人って本当にお友達?」

お母さん「ええ、もちろん。会えばわかるわ」

ミカサ(10)「んーー…そうかなぁ?」

お母さん「そうですよ」ニコニコ

ミカサ(10)「そっかぁ…」

ミカサ(10)「あっ」

お母さん「どうしたの?」

ミカサ(10)「薪拾わなきゃ」

お母さん「まあ、そうなの?」

ミカサ(10)「うん、そうなの!」タタッ

お母さん「あらあら、もう行っちゃった」

ミカサ(10)「………」セッセセッセ

ミカサ(10)(薪をたくさん拾って帰らないと)セッセセッセ

ミカサ(10)(このくらいで良いかな)セッセ…

ミカサ(10)(はやく持って戻らなきゃ…)スック

ミカサ(10)(……あれ?)

ミカサ(10)「お母さーん」タタタッ

お母さん「あらミカサ、早かったのね」

ミカサ(10)「うん、お母さんあのね」

お母さん「どうしたの?」

ミカサ(10)「私、いつも一人で薪拾ってた?」

お母さん「さあ?どうだったかしらね?」

ミカサ(10)「………」

お母さん「あなたはどう思うの?ミカサ」

ミカサ(10)「…わからない」

お母さん「そう」

ミカサ(10)「………」

お母さん「大丈夫よ。じきに何もかもわかるようになりますよ」

ミカサ(10)「本当?」

お母さん「もちろん。…薪拾いご苦労様」

ミカサ(10)「あ、うん」

お母さん「薪拾いのお返しに忘れ物をひとつ返しましょうね」ゴソゴソ…

ミカサ(10)「………」

お母さん「ああ、これ……」

ミカサ(10)「なになに?見せて。私の忘れ物」ズイッ

お母さん「…はい」スッ

ミカサ(10)「ひっ…!」

お母さん「ミカサ、取りなさい。あなたのものですよ」

ミカサ(10)「し、知らない。お母さん、私こんなもの知らない。このナイフ、血がついてる…っ」イヤイヤ

お母さん「でも、たしかにあなたのものなのミカサ。…受け取って?」

ミカサ(10)「でも…」

お母さん「………」

ミカサ(10)「………わかった」スッ

お母さん「……よく出来ました。強い子ね、ミカサ」

ミカサ(10)「うう…。でもこれ怖いよ、お母さん」

お母さん「服のポケットにしまっときなさい。見えないように」

ミカサ(10)「うん…」ゴソゴソ…

お母さん「でもね、ミカサ。ポケットにナイフが入ってるって忘れてはダメよ?」

ミカサ(10)「うん」

お母さん「転んだりしたら危ないからね」

ミカサ(10)「うん」

お母さん「でも……怖いなら思い出さないようにしなさい…」

ミカサ(10)「うん」

お母さん「…いい子ねミカサ」ギュッ

ミカサ(10)「ん」

お母さん「さあ、行きましょう」

ミカサ(10)「うん」

ちょっと中断

期待

お母さん「ねえ、ミカサ」

ミカサ(11)「何?お母さん」

お母さん「少し歩くの早くないかしら?疲れない?」

ミカサ(11)「え、そうかな?もっとゆっくり歩いた方が良い?」

お母さん「……ううん。ごめんなさい。ミカサがきつくないなら良いわ」

ミカサ(11)「お母さん疲れたの?それならゆっくりでも…」

お母さん「良いの。全然疲れてなんかいませんよ。ちょっと聞いてみただけ」

ミカサ(11)「そう…」

お母さん「そうよ」

ミカサ(11)「あっ」

お母さん「どうしたの?」

ミカサ(11)「あの荒野、冬が来る前に開墾してしまわないと」

お母さん「あら、そうなの?」

ミカサ(11)「うん、そうなの。だからお母さんちょっと待ってて」

お母さん「お母さんも手伝いましょうか?」

ミカサ(11)「ううん、大丈夫。お母さんは待ってて」タタタッ

お母さん「あら、そう…」

ミカサ(11)「………」ザッシュザッシュザッシュ…

ミカサ(11)(はやくはやく冬が来る前に)ザッシュザッシュザッシュ…

ミカサ(11)(耕してしまわなければ)ザッシュザッシュザッシュ

ミカサ(11)(私たち三人とも雪の中働くことに…)ザッシュザッシュザッシュ

ミカサ(11)(………あれ?)ザッシュザッシュザッシュ

ミカサ(11)「お母さーん」タタタッ

お母さん「あら、ミカサもう終わったの?」

ミカサ(11)「うん。見てお母さん。黒くて立派な畑になったでしょう?」

お母さん「まあ、本当。よく働いたわね、ミカサ。良い畑だわ」

ミカサ(11)「ん…」

お母さん「素敵な畑のお返しに、またひとつ忘れ物を返しましょうね」ゴソゴソ

ミカサ(11)「ねえ、お母さん」

お母さん「ん?どうしたのミカサ」

ミカサ(11)「私、どうして荒野を耕してたのかな」

お母さん「さあ、どうしてかしら」

ミカサ(11)「………あとね」

お母さん「うん、どうしたの?」

ミカサ(11)「荒野を耕してたのって、私とお母さんとお父さんの三人?」

お母さん「いいえ、お母さんたちは耕していませんよ」

ミカサ(11)「そうだよね………?」

お母さん「あ、これね、ミカサの次の忘れ物」ゴソ

ミカサ(11)「なに?」

お母さん「本の切れ端みたいね」スッ

ミカサ(11)「ん?」

お母さん「………」

ミカサ(11)「お母さん、これ…」

お母さん「何?」

ミカサ(11)「壁の外のことについて書いてある本だよ」キョロキョロ…

お母さん「あら、そうなの?」

ミカサ(11)「うん。見つかったら捕まっちゃうよ」オドオド

お母さん「まあ、大変。そこの畑に埋めてしまいましょうか」

ミカサ(11)「そんな…っ。ダメだよ…!」

お母さん「ダメなの?」

ミカサ(11)「うん。ダメなの」

お母さん「ミカサは壁の外に出てみたいの?」

ミカサ(11)「そんな、ものすごく外に出たいわけではない…けれど…」

お母さん「けれど?」

ミカサ(11)「でも、埋めたりしちゃダメだよ…」

お母さん「そうなの」

ミカサ(11)「うん」

お母さん「だったらポケットの中にしまいなさい。誰にもばれないように」

ミカサ(11)「うん」ゴソゴソ

お母さん「きちんとしまえた?」

ミカサ(11)「うん。大丈夫」

お母さん「そう。じゃあ行きましょうか」

ミカサ(11)「うん」

ミカサ(12)「ねえ、お母さん」

お母さん「ん?」

ミカサ(12)「今から会う私のお友達って何人いるの?」

お母さん「さあ、何人かしらね」

ミカサ(12)「お母さんはわからない?」

お母さん「お母さんは会ったことがないから」

ミカサ(12)「そうなの…」

お母さん「ええ」

ミカサ(12)「あ…」

お母さん「どうしたのミカサ?」

ミカサ(12)「お母さん、あそこに井戸がある。私、水汲みしないと」

お母さん「あら、そうなの?」

ミカサ(12)「うん。だからちょっと行ってくるね」タタッ

お母さん「………」

前書きも気持ち悪いしクッソつまんねえ

なんか目汗がウルウルしてきた……

ミカサ(12)「………」カラカラカラ…

ミカサ(12)(水はどのくらい汲めば良かったっけ…?)バシャー…

ミカサ(12)(水瓶がいっぱいになるまで……つまりは何人分?)カラカラカラ…

ミカサ(12)(私たち三人家族の分ではとうていありえない…)バシャー…

ミカサ(12)(私はどうして水を汲んでいるの…?)

ミカサ(12)「………」チャプンチャプン

お母さん「あらあらミカサ、大きな桶に汲んできたのね」

ミカサ(12)「うん」チャプン

お母さん「さあ、この水瓶に入れなさい」

ミカサ(12)「うん」

お母さん「これで当分の間お水に困らないわ。ありがとう」

ミカサ(12)「うん………」ザバー…

お母さん「水汲みのお返しに忘れ物を返しましょうね」ゴソゴソ

ミカサ(12)「………」

お母さん「あら、次はこれなのね」ゴソ

ミカサ(12)「何?お母さん」チラッ

お母さん「ハサミですよ」

ミカサ(12)「そんなハサミ、私、知らないよ?」

お母さん「ええ、そうね。今度はこのハサミそのものではないの」

ミカサ(12)「何なの?」

お母さん「ミカサ、髪を切りましょう」

ミカサ(12)「え?」

お母さん「さあ、そこの椅子に腰掛けなさい」

ミカサ(12)「え…うん」ストッ

お母さん「お母さんが切ってあげますからね」

ミカサ(12)「私の髪、切っちゃうの?」

お母さん「ええ、そうよ。嫌ならやめましょうか?」

ミカサ(12)「え…」

お母さん「どうする?」

ミカサ(12)「でも、なんだか…」

お母さん「うん?」

ミカサ(12)「切らないと…長すぎる、ような気がする」

お母さん「そう。じゃあ切りましょうね」シャキン

ミカサ(12)「うん」

チョキン、チョキン…

お母さん「出来ましたよ」

ミカサ(12)「ありがとう、お母さん」

お母さん「うん、よく似合ってるわ」ニコニコ

ミカサ(12)「そうかな」

お母さん「ええ、とても。ミカサ、素敵よ」ニコニコ

ミカサ(12)「お母さん、ありがとう」

お母さん「どういたしまして。さあ、行きましょう」

ミカサ(12)「うん」

お母さん「少し暗くなってきたわね」

ミカサ(13)「日が暮れてきたのかな」

お母さん「いいえ、これはね、家から遠ざかっているからですよ」

ミカサ(13)「家から?」

お母さん「そう、家に近いほど明るいの。お父さんが暖炉の火を絶やさないでいてくれるから」

ミカサ(13)「へえ、そうなんだ」

お母さん「ええ、そうですよ」

ミカサ(13)「………」クルリ

お母さん「どうしたのミカサ?」

ミカサ(13)「わあ、家の明かりがここからも見えるよお母さん」

お母さん「まあ、本当ね」

ミカサ(13)「金色に輝いて、すごく綺麗」

お母さん「ええ…」

ミカサ(13)「あ、お母さん。あそこにジャガ芋が」

お母さん「あら本当」

ミカサ(13)「皮を剥かなきゃ」

お母さん「全部?」

ミカサ(13)「そう、全部」

お母さん「手伝いましょうか?」

ミカサ(13)「ううん、大丈夫。私が全部剥くので、お母さんは見てて」

お母さん「そう。だったら見てるわね」

ミカサ(13)「うん」

ミカサ(13)「………」ショリショリ

お母さん「………」ジィー

ミカサ(13)「ねえ、お母さん」ショリショリ

お母さん「ん?」

ミカサ(13)「誰かものすごく芋が好きな女の子いなかった?」ショリショリ

お母さん「さあ、そんな娘いたかしら?」

ミカサ(13)「んー…誰かいたと思う…」ショリショリ

お母さん「よく考えてみなさい。きっと思い出しますよ」

ミカサ(13)「…うん。なんだか…」ショリショリ

お母さん「どうしたの?」

ミカサ(13)「他にもたくさん思い出さなきゃいけないことがあると思う」ショリショリ

お母さん「そうね。…少しずつ思い出しなさい」

ミカサ(13)「うん」ショリショリ

お母さん「包丁の使い方が随分上手になったわね、ミカサ」

ミカサ(13)「そうかな?」ショリショリ

お母さん「ええ、そうですよ。ミカサはきっと良いお嫁さんになれますよ」

ミカサ(13)「お嫁さん…。でも…」ショリショリ

お母さん「でも?」

ミカサ(13)「お嫁さんになる前に私、強くならなきゃ」ショリショリ

お母さん「まあ、どうして?」

ミカサ(13)「どうしてって……それは…」ショリショリ

お母さん「それは?」

ミカサ(13)「………お母さん、金色の瞳の男の子知らない?」ショリショリ

お母さん「さあ、わからないわね」

ミカサ(13)「さっき見た家の明かりみたいにキラキラした瞳の男の子」ショリショリ

お母さん「誰かしら?」

ミカサ(13)「………」ショリショリ…

お母さん「あら、全部剥き終わっちゃったわね」

ミカサ(13)「あ、本当」

お母さん「ジャガ芋のお返しに、またひとつ忘れ物を返さないとね」ゴソゴソ

ミカサ(13)「うん………」

お母さん「はい、どうぞ」スッ

ミカサ(13)「これは、服?」

お母さん「ええ、そうね。ジャケットみたい」

なんだこれ
期待

ミカサ(13)「………」バッ

お母さん「まあ、良い生地だわ」

ミカサ(13)「これ、調査兵団の制服じゃない」

お母さん「まあ、そうなの?」

ミカサ(13)「そうだよ。この自由の翼。調査兵団のシンボルだもの」

お母さん「そうなのね。少し大きいけれど着てみたら?」

ミカサ(13)「うん」ゴソゴソ

お母さん「…よく………似合ってますよ」

ミカサ(13)「…少し大きい」

お母さん「そうみたいね」

ミカサ(13)「………」

お母さん「行きましょうか」

ミカサ(13)「うん」

お母さん「だいぶ暗くなってきたわね」

ミカサ(14)「うん」

お母さん「ミカサ、もう少しゆっくり行かない?」

ミカサ(14)「お母さん、疲れた?」

お母さん「いえ、そうではなくて。………足元が暗くて危ないから」

ミカサ(14)「そっか。そうだよね」

お母さん「ええ」

ミカサ(14)「あ、お母さん、あそこ」

お母さん「え?」

ミカサ(14)「シーツが干してある、取り込まないと」

お母さん「まあ、本当」

ミカサ(14)「ちょっと行ってくるね」

お母さん「ええ」

ミカサ(14)「………」バサッ

ミカサ(14)(…大きなシーツ)サッサッ

ミカサ(14)(私の家では見かけない。真っ白で…)サッ

ミカサ(14)(私の家では洗濯物は庭に干してる…)

ミカサ(14)(ならば…家の屋上?に洗濯物を干していたのは…誰?)

ミカサ(14)(いや、あれは屋上ではなくて、ベランダ…?)

ミカサ(14)(お母さん…ではなかった)

ミカサ(14)(だれ…?)

ミカサ(14)(このシーツも…)

ミカサ(14)(寮にいた頃は皆これを使ってて…)

ミカサ(14)(………寮?)

お母さん「ミカサ、どうしたの。突っ立ったまま」

ミカサ(14)「お母さん…私…」

お母さん「……シーツを取り込んでくれてありがとう、ミカサ」

ミカサ(14)「あ………うん」

お母さん「お返しに忘れ物をひとつ返しましょうね」ゴソゴソ

ミカサ(14)「お母さん」

お母さん「何?」

ミカサ(14)「私…私、家とは違う場所で暮らしてた……ことがある?」

お母さん「さあ、あったかもしれないわね」ゴソゴソ

ミカサ(14)「………」

お母さん「あったわ。これね。ミカサの忘れ物」バサッ

ミカサ(14)「これは、マント?」

お母さん「そうみたいね。ジャケットとお揃い」

ミカサ(14)「うん」

お母さん「………似合ってますよ」

ミカサ(14)「……うん。…本当?」

お母さん「…もちろん」

ミカサ(14)「そう…」

お母さん「行きましょう」

ミカサ(14)「うん」

お母さん「足元に気をつけてね」

ミカサ(14)「うん」

ミカサ(15)「………」

ミカサ(15)(さっきは確かに何かを思い出しそうだった)

ミカサ(15)(ベランダで?シーツを取り込んでいたのは誰?)

ミカサ(15)(男の子が叱られていたはず)

ミカサ(15)(誰?)

ミカサ(15)(金色の瞳がまぶしくて…まぶしくて)

ミカサ(15)(何かを思い出しそう。大切なこと)

ミカサ(15)(あの子は…私の…)

ミカサ(15)「っ…!?」

お母さん「ミカサ!?どうかしたの?」

ミカサ(15)「お、お母さん。なんだかほっぺが痛い」ソッ…

お母さん「ちょっと見せなさい…!」

ミカサ(15)「…手に血が…。切れてる」

お母さん「本当ね、切れてるわ。どこで切ったの!?」

ミカサ(15)「っっ!!??」

お母さん「どうしたの?ミカサ!?」

ミカサ(15)「脇腹が?…肋、が痛い」

お母さん「どうして?ミカサ…どこかにぶつけたの?」

ミカサ(15)「いや、これは…」

お母さん「これは?」

ミカサ(15)「ぶつけてない…」

お母さん「じゃあどうしたの…!?」

ミカサ(15)「………」

お母さん「大丈夫?しゃべることは出来る?」

ミカサ(15)「………」

お母さん「ミカサ!?」

ミカサ(15)「………」

お母さん「………」

ミカサ(15)「……………エレン」

お母さん「………!!」

ミカサ(15)「ほっぺも…エレンが…」

お母さん「エレンが?」

ミカサ(15)「エレンを…助けようとして…」

お母さん「………」

ミカサ(15)「ほっぺも、肋も、私がエレンを助けたくて……」

お母さん「………」

ミカサ(15)「エレンだけじゃない、アルミンも、サシャも、クリスタも、ジャンもコニーも……他にも…たくさん思い出した」

お母さん「………」

ミカサ(15)「…ハンネスさん、も」

お母さん「………」

ミカサ(15)「でも、ハンネスさんは……」

お母さん「…ミカサ」

ミカサ(15)「…お母さん……」

お母さん「…ミカサ」

ミカサ(15)「………」

お母さん「…今まで、よく頑張ってきたわね」

ミカサ(15)「お母さん、私は……死んだ…の?」

お母さん「いいえ、あなたは生きていますよ」

ミカサ(15)「本当に?」

お母さん「ええ、もちろん。ただ、少しの間迷子だったのよ」

ミカサ(15)「ほ、本当?」

お母さん「ええ、本当」

ミカサ(15)「どうすれば…私は」

お母さん「お父さんが家で暖炉の火を見ていてくれているでしょう?」

ミカサ(15)「うん」

お母さん「だから家から遠ざかるほど暗くなる」

ミカサ(15)「うん」

お母さん「だからね、暖炉の火の影が濃くなる方へ濃くなる方へ進みなさい」

ミカサ(15)「暗い方へ?」

お母さん「ええ、そうよ。そうすれば元の場所に戻ることができます」

ミカサ(15)「そうなの?」

お母さん「ええ」

ミカサ(15)「はやく、はやく戻らなくちゃ。…エレンとアルミンが待ってる」

お母さん「…そうね」

ミカサ(15)「うん」スック

お母さん「あ…」

ミカサ(15)「痛っ…!」ドッ

お母さん「ミカサ!?」

ミカサ(15)(肋が、痛くて…)

お母さん「ちょっと待ちなさい、ミカサ」

ミカサ(15)「でも」

お母さん「まだ、あなたの忘れ物が残っています」ゴソゴソ

ミカサ(15)「え?」

お母さん「最後は、これ。マフラーね」

ミカサ(15)「ああ、マフラー…!」

お母さん「大事なものなのね」

ミカサ(15)「うん。エレンから貰った…から」

お母さん「そう。大切なお友達なのね」

ミカサ(15)「エレンは……大切な人なので…だから…」

お母さん「そう。ほら、マフラー。はやく取りなさい」

ミカサ(15)「でも、お母さん」

お母さん「何?」

ミカサ(15)「私、今何も持ってない。マフラーと…交換できるようなことしてない」

お母さん「ああ、ミカサ。確かにそうね…」

ミカサ(15)「………」

お母さん「でもね、大丈夫よ」

ミカサ(15)「どうして?」

お母さん「お母さん、あなたの肋の怪我を代わりにもらうから」

ミカサ(15)「お母さん、そんな。ダメだよ」

お母さん「どうして?」

ミカサ(15)「痛いよ」

お母さん「大丈夫ですよ。帰ったらお父さんと分けますから。ちっとも痛くありませんよ」

ミカサ(15)「でも」

お母さん「お父さんもお母さんも、もう、何年もミカサに甘えてもらってないもの。たまには甘えなさい」

ミカサ(15)「お母さん…」

お母さん「わかった?」

ミカサ(15)「………うん」

お母さん「いい子ねミカサ。こっちにいらっしゃい」

ミカサ(15)「うん」

お母さん「マフラーを受け取りなさい」

ミカサ(15)「うん」スッ

お母さん「少しだけ、抱きしめさせて」

ミカサ(15)「うん…」

お母さん「…大きくなったわね」

ミカサ(15)「うん」ジワァ…

お母さん「肋の怪我をもらいますよ」

ミカサ(15)「うん」グスッ

お母さん「もう、次は迷子になるんじゃありませんよ」

ミカサ(15)「ぅん」グス…

お母さん「今度家に来るのは、あなたがおばあさんになってからですよ。ニンジンを甘ーく煮ながら気長に待ってますからね」

ミカサ(15)「うん、でも」ポロ…

お母さん「でも?」

ミカサ(15)「お、おばあさんになってしまったら…私ってわからないよ」ポロポロ…

お母さん「わかりますよ。お母さんだもの」ギュウッ

ミカサ(15)「ほ、本当?」ポロポロ…

お母さん「もちろん。さあ、もう泣くのはやめなさい」

ミカサ(15)「ぅん…」グスッ

お母さん「もう肋は痛くないわね?」

ミカサ(15)「ん、治ってる」グス…

お母さん「そう、なら早く行きなさい。一人で行けるでしょう?」

ミカサ(15)「うん」

お母さん「行きなさい、ミカサ」

ミカサ(15)「うん、行ってきます。お母さん」

お母さん「行ってらっしゃい、ミカサ」

――――――――
――――――
――――

ミカサ「………」パチッ

エレン・アルミン「ミカサ!」

エレン「ミカサ、大丈夫か!?意識は?」

アルミン「僕、医者を呼んで来る」タタッ

ミカサ「エレ…ン、アルミン…」

エレン「おい、無理してしゃべるなよ」

ミカサ「ここ、どこ?」

エレン「兵団の医療施設だよ」

ミカサ「………」

エレン「お前、壁の上に引き上げた後、意識がなくなってたんだ。丸一日寝てたぞ」

ミカサ「そう…だったの…」

エレン「今アルミンが医者を呼びに行ったからな。すぐ来る」

ミカサ「怪我は、もう治った」

エレン「いや、お前、こんな時にやせ我慢しなくても」

ミカサ「本当。治ってる。どこも痛くない」

エレン「じゃあお前、なんで泣いてんだよ」

ミカサ「………」

エレン「まあ良い。じきに医者がくるから」

ミカサ「…痛くない、本当に」

エレン「あーもう、わかったよ。でも医者には診てもらうからな」

ミカサ「治ってる」

エレン「わかったって。もうしゃべるなよ」

ミカサ「痛くない」

エレン「もうしゃべんなって」

ミカサ「うん…」

ミカサ(治ってる)

ミカサ(痛くない)

ミカサ(でも…)

ミカサ(涙が止まらない)



―おわり―

ごめん、昨日は寝落ちした
最後まで読んでくれてありがとうございました

こういう系はズルい
とても良かった、乙

良かった


好き

泣いた
乙でした!

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