P「春香が地下鉄の中に…?」(169)

~某山中腹~


春香「うわぁ…すごい紅葉だねぇ。」

千早「ほんとね…どうせならここでロケすればいいのに。」

春香「だよねぇ。これ見た後に屋内で撮影ってちょっとテンション下がっちゃうかも…」

千早「ふふっ でも仕事は仕事よ。」

春香「そうだね… あ、ねぇ、今度また二人で見に来ない?」

千早「いいわね。じゃあ今週末にでも。」

春香「やった。」

春香「あぁ、でも今もう少し見ていたい気分だなぁ…」

千早「仕事遅れたらプロデューサーにどやされるわよ?」

春香「あはは…そだね。」

春香「じゃあ、ちょっとだけゆっくり歩いていこうよ。」

千早「ええ。それくらいなら。」

春香「大丈夫だよね。」

千早「ふぅ…なんか久しぶりね。ゆったりできるの。」

春香「ここのとこレッスンと仕事がたくさん入ってたから。」

千早「そういえば春香、最近凄い勢いで個人レッスンとかやってもらってるわよね。」

春香「うん。みんなに置いてかれないように頑張らないと。」

千早「頑張るのはいいけど、体壊したら元も子もないんだから。気をつけたほうがいいわ。」

春香「うん。ありがと。」

千早(春香は時々とんでもない無茶するから…)

春香「ん?何?」

千早「ううん。」

春香「そっか。ねぇ千早ちゃん?」

千早「ん?」

春香「さっきから何聴いてるの?それ。」

千早「ああ、これ?私の好きな歌手の歌よ。」

春香「へぇー。千早ちゃんが好きな歌手か…物凄く上手いんだろうなぁ。」

千早「そうでもないわ。というか寧ろ、技術で言うならまだ発展途上の人よ。」

千早「でも感情表現が豊かで、それでいて素朴な飾らない歌い方をする人で。そこが気に入ってるの。」

春香「う、うん?そっか、ちょっと意外かも。」

春香(なんかよくわからないけど難しい…)

春香「ね、ちょっと聴かせてよ。」

千早「ふふっ ダメよ。」

春香「ちょっとだけ。お願い。」

千早「これは私だけの宝物だから、ダメ。それに、ちょっと恥ずかしいわ。」

春香「恥ずかしい?恥ずかしいような曲なの?」

千早「違うわよ。」ピシッ

春香「あぅっ 痛いよ千早ちゃん…」

千早「自分のプレーヤーを見られるのって、なんか恥ずかしくない?」

春香「あー、そうかな?そういわれるとそうかも…」

千早「そういうこと。決して恥ずかしい曲というわけではないわよ。」

春香「目が怖いよ千早ちゃん…」

千早「春香が変なこと言うからよ。」

春香「えへへ…ごめんごめん。」

千早「…この曲はね、落ち込んだときによく聞く曲なの。」

春香「そうなの?」

千早「ええ。この曲を聴いてるとね、元気がもらえる。」

千早「だから辛いときはこの曲と…これを歌ってる人に支えてもらうのよ。」

春香「へえー。聴いた人を勇気付けてあげられるなんて、凄い歌だね…」

春香「誰かに元気をあげられる歌かぁ…ますます気になるなぁ。」

春香「Jポップ?」

千早「ええ、といってもそこらの曲とは違うのよ。」

春香「Jポップも結構いい歌あると思うんだけどな…」

千早「この曲は変に気負ったところがなくて良いわ。」

春香「へぇ…ねぇねぇ、その曲歌ってる人くらい教えて?」

千早「この曲を歌ってる人?」

春香「うんうん。」

千早「そうねぇ。じゃあヒントをあげるわ。」

春香「ヒント? うん。」

千早「歌ってる人は、この歌にそっくりな気がする。きっとこの人自身も、純朴な人柄の人なんでしょうね。」

春香「そうなんだ…  え、今のヒント?」

千早「…ちょっとヒントらしくなかったかしら。」

千早「でも、ありのままで居られる人って、素敵じゃない?」

春香「うーん…ありのまま…そうかな。」

千早「そういう人って私大好きよ。」

春香「あれ、もしかしてそのアーティスト、男の人なの?」

千早「…」ペシッ

春香「あぅっ… また叩いたー…」

千早「バカなこと言わないの。」

春香「ごめんなさーい。」

千早「もう…」

千早「ところで春香。」

春香「うん?」

千早「もみじがたくさん植わってたところ、もうとっくに終わってるわよ?」

春香「え?うそ?あ、ほんとだ、なんか青々してる…話に夢中になってる間に終わっちゃったのかな…」

千早「春香にはまだ鑑賞は早いんじゃない?」クスクス

春香「そんなお子様じゃないよぅ。」

千早「どうだか。」

春香「もー 千早ちゃんが大人すぎるんだよ…」

千早「何を言ってるのよ。」

春香「だって千早ちゃんって大人っぽいじゃん。」

春香「冷静だし、メリハリがあるし、こう、出来る大人って感じ。」

千早「そう…かしら?」

春香「いいなぁ。私とは正反対だよ…」

千早「それは、春香のいいところだと私は思うけど。」

千早「冷静な春香って…なんか違う気がするわ。」

春香「ええっ それちょっとひどくない?」

千早「春香は春香のままが一番ってことよ。」

春香「えっ…」

春香「なんか、そう言われると…ちょっと嬉しいかも。」

春香「えへへ。」

千早「すぐ転ぶところとかは直したほうがいいと思うけど。」

春香「そんなに私転んでるかな?」

千早「少なくとも、私は記憶にある限りほとんど転んだことないわよ。」

春香「え、そうなの?」

千早「というか、それが普通だと…」

春香「うぅ…そうなんだ…」

千早(今まで周りも同じように転ぶと思ってたのね…)

春香「あっ!」

千早「どしたの?」

春香「ちょっと嫌な予感が…」

千早「?」

春香「…やっぱりない…」

千早「何か忘れ物?」

春香「…うん。」

千早「何忘れたの?」

春香「ロケの台本…」

千早「え…何やってるのよ春香…」

春香「うわぁ…さっきお昼食べたときに席に置いたままだ…」

千早「どうするの?取りに帰るとちょっと時間的にギリギリになるわよ。」

春香「まだ一時間ちょっとある…走れば間に合いそう。」

春香「ごめん千早ちゃん、私取りに帰るから、先行ってて?」

千早「一人で大丈夫?結構入り組んだ道だったけれど。」

春香「さすがに忘れものくらいは一人で取りに行けるよ。」

春香「千早ちゃんまで遅刻しちゃったら大変だし。」

千早「そう…じゃあ先にスタジオ行ってるわ。気をつけてね。転ばないように。」

春香「うん。すぐ追いつくから。」

千早「ええ。」

春香「よしっ。じゃあ取りに行ってくるね。」タッタッタッ

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~某所地下鉄~

『ドア閉まります。ご注意ください。』

春香「はぁ…はぁ…間に合ったー…」

春香「よかった…すぐ見つかって。」

春香「時間は…あ、結構余裕あるね。」

春香「私ちょっと足速くなったのかも。」

春香「ふぅ。座って一息つこっと。」

『ご利用の電車は、○○方面行き普通です。』

『終点まで各駅に停車します。』

春香「そういえば千早ちゃんはもうスタジオついたのかな。」

春香「見たかんじ、この電車には乗ってないっぽい。」

春香「…この前に何本かあったから、そっちに乗ってるよね。きっと。」

春香「メールしとこ。」パチッ

春香「あれ、電池だいぶ減ってる。」

春香「そいえば地下にいるとちょっと早く減るって誰かが言ってたっけ。」

春香「…よし。千早ちゃん気付くかな…?」

春香「…」

春香「ふぁぁあ…」

春香「走ったからかな…ちょっと眠いや…」

春香「まだ結構あるし、寝ちゃおうかな。」

春香「えい…」

春香「…」

春香(あ…結構すぐ眠れそうかも…)

春香(…)

春香「すぅ…すぅ…」

春香「…」

春香「…」

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ギギィィッ
ガタンッ


春香「うわっ」ゴツンッ

春香「いたた…あれ、急に電車止まっちゃった。」

春香「駅…じゃないみたいだけど。」

春香「どうしたんだろ。」

春香「もう終点近いのかな…すごい静か。」

『お客様にお知らせいたします。』

春香「あ、アナウンスだ…」

『列車の電力取り入れ装置故障の為、只今停車をしております。』

『復旧のめどが立ち次第、御連絡をさせていただきます。』

『お忙しい中、真に申し訳ございません。復旧まで暫くお待ちください。』

春香「へぇ。電車って壊れるんだ…珍しいもの見ちゃった。」

春香「なんかいいことあるかも。明日千早ちゃんに話してあげよ。」





春香「…まだかなぁ。ちょっと時間がやばいかも。」

春香「修理っていうからうるさいのかと思ったら、すっごい静か…」

春香「なんか誰も車両にいないと広く見えるなぁ…」





春香「…すぅ…すぅ…」zzz

春香「んぅ…あれ、寝ちゃってた…?」

春香「今何時だろ。携帯携帯…」パチッ

春香「うそっ!?もう撮影始まってる時間!あわわ…どうしよう。」

春香「と、とりあえずプロデューサーさんに電話を…」パチッ

-圏外-

春香「地下って電波届かないんだった…どうしよう」

春香「とりあえず次の駅で降りて早く電話しないと。」





春香「まだかな…もう一時間以上たってるけど、あれからアナウンスもないし。」

春香「寝てる間にあったのかな。」

春香「誰かに聞いてみよ。」

春香「…あれ?隣の車両にも誰も居ない…」

春香「…こっちも誰も居ない。」

春香「えー…もしかして私一人?」






春香「まーだっかなー。まーだっかなー。」

春香「さすがにそろそろだよね。車掌さん修理頑張って…」





春香「うーん…さすがにそろそろ本当にやばいよ…」

春香「修理ほんとに進んでるのかな。何もさっきから音がしないけど。」





春香「…ちょっとおかしいよ。」

春香「もう四時間近くたってる。修理するみたいだったけど、何も音しないし…アナウンスも入らないし…」

春香「もしかしてさっきの衝撃で車掌さん、怪我して動けなくなっちゃったのかな…」

春香「どうしよう。先頭車両、行ってみようかな…」

春香「後尾の車掌室には誰も居ないし。」

春香「後ろの電車もきっとこの線路通れなくて困ってるだろうし…いってみようかな。うん。」スッ

コツ コツ コツ

春香「うわぁ…ほんとに誰もいないや。」

春香「いつもなら終点まで乗ってく人けっこういるのにな…」

春香「これ何両目だろ。一番後ろにのったから…これが前から2両目かな?」

春香「もうすぐだね。よし。」

ブツンッ

春香「ひゃああぁああっ!?」

春香「なに?く…暗い!?あれ、電気が…」

春香「と、とりあえず落ち着かないと・・・深呼吸深呼吸…」

春香「あ…そっか、壊れたのは電力を取り入れるとこだっけ。バッテリーが切れたのかな・・・あるのか知らないけど。」

春香「そうだ、携帯にライトがあったはず。」

春香「…薄暗いと余計怖いような気もするけど…躓いたら大変だし。えい。」カチッ

春香「よし、ついた…」

春香「ぅぅ…やっぱり余計怖いよぅ…」

春香「ん?」

春香「今何か、人影が見えたような…」

春香「あれ、あそこに居るの、もしかして人?」

春香「やった。人だ!よかったぁ。私一人だったらどうしようかと思ったよ…」トコトコ

春香「あれ?暗くてよく分からないけど、あの髪型…なんか千早ちゃんに似てる…?」

春香「それに手に持ってるのは…楽譜だよね。」

春香「しかも、タイトルが「蒼い鳥」って、間違いないや。千早ちゃんだ!」

春香「先に行ってるって言ってたけど…この前の電車が満員だったのかな。」

春香「まぁいっか。千早ちゃーん!こっちこっち!同じ電車だったんだね!」タッタッタッ

春香「千早ちゃん!ああ、一緒でよかったぁ… あれ…千早ちゃん?」

春香「音楽聴いてるのかな?千早ちゃんってばー。」

春香「おーい千早ちゃ…」

ドサッ

春香「ひっ…」

春香「千早ちゃんじゃ・・・・ない?首が…」

春香「なにこれ…」

春香「土?みたい… どうして土の人形なんかがこんなとこに・・・」

春香「よりにもよってこんなときに見つけちゃうなんて…足が震えて動けないや…」

春香(あれ、なんだろう、背中がすごい、ぞわぞわする…)

春香「うぅ…もうライト消そう…先頭車両に行けば車掌さんがきっと…」

コツ コツ コツ

春香「なんだろ…この先が一両目のはずなんだけど…」

ギィィッ

春香「えっ…すごいドアが重い…」

春香「空いたけど、大丈夫だよね…」

春香「うん。頑張れ私っ。」

コツッ コツッ コツッ

春香「何ここ。すごい寒い。」

春香「でもあと少し…あと少しで運転席だ…」

春香「よかった。ここには変な土人形ないや。」

春香「…さっきの、やっぱり千早ちゃんに似てたな。千早ちゃんは大丈夫だよね。」

春香「千早ちゃんなら、こんなときでも冷静に状況分析とかしちゃうんだろうなぁ。」

春香「あ、でも意外と寂しがりやだから、こんなに人が居ないとおろおろしちゃうかも。」

春香「あははっ なんか想像したら可愛い。うん。ちょっと元気出てきた。」

春香「…ここだね。」

『車掌室 無断での立ち入りを禁ず。照明反射防止のためカーテンを閉じさせて頂きます。』

春香「あのー、すみません。」

コンコンコン

春香「車掌さん、大丈夫ですか?」

コンコンコン

春香「あの、誰かいませんか?」

春香「…」

春香「どうしよう…中で気を失ってるのかな…」

春香「でも鍵閉まってるよね、きっと。」

春香「…試してみようかな。」

ガラガラッ

春香「わっ 開いちゃった…」

春香「っ…何この臭い…」

春香(うぅ…いっそ開かなければよかったかも)

春香「澱んだ水みたいな臭い…どうしたんだろう。」

春香「あの、すみません、大丈夫です…か?」

春香「…」

春香「嘘…」

春香「誰も居ない…」

春香「嘘だよこんなの…だってこの電車、ちゃんとさっきまでたくさん人が居たのに。」

春香「今、私一人なの…?」ゾクッ

春香「どうなってるの。」

春香「携帯で…誰かに助けを…」

春香「あれ?私鞄どうしたっけ?」

春香「席においてきちゃったのかな…戻らないと。」クルッ

春香「っ…!?」

春香「ぁ…い…」

春香「いやぁぁああああああああああああああああっ」

春香「あ…あぁ…何あれ…何なの…」

春香「さっきまで何もなかったのに」

春香「誰もいなかったのに」

春香「なんであんなにびっしり…」

春香「土人形が…?」

春香「あ…い…」

春香「嫌…」

春香(あれ…視界が暗くなって…)

春香(駄目…今気を失ったらあの人形に…)

春香(殺…され…)

春香(…)

~同時刻 765プロ事務所~

『…只今、電話に出ることができません。』

『留守番電話サービスに接続します。』

千早「なんで出ないのよ春香…お願いだから出てよ…」

P「落ち着け千早。」

真美「千早お姉ちゃん…さっきからずっと携帯使ってるよ。その、電池とか大丈夫?」

千早「電池なんていつでも充電できる…でも春香は今まさに危ない目にあってるかもしれないじゃない…」

真美「…ごめんなさい。」

P「千早。」

千早「すみません。でも、春香が…」

『○○県営地下鉄で発生した列車脱線事故の原因は、トンネルの落盤と特定されました。』

『しかし、その影響で救助隊が現場に入れず、救助作業は依然として難航しています。』

P「やはりなかなか進まないな。」

千早「私が…私が先に行くなんていったから… 一緒に居れば、春香一人で…こんな…」

あずさ「落ち着いて千早ちゃん。こうなることは誰にも分からなかったわ。自分を責めないで。」

真「そうだよ。春香が電話してきたときにそんな涙声聞かせたら、不安になっちゃうよ。」

千早「…本当に電話…来るのかしら。」

P「千早、厳しいことを言うようだが、春香よりずっと安全なところにいる俺達があきらめてどうする?」

P「俺達が信じないでどうする。春香は『行方不明』つまり安否の確認が出来てないだけだ。」

P「望みを捨てるにはあまりに早すぎるぞ。」

千早「…そう、ですよね。すみません。私、現場に行って来てもいいですか?」

P「止めといたほうがいい。恐らく崩落の危険があるから周りは規制されてるだろうし。」

伊織「それに救助されても多分、千早の目には入ることなく病院へ運ばれるわ。」

伊織「だったら情報がいち早く入ってくるテレビの前にいるのが一番いいはずよ。」

千早「そうですか…わかりました。」

やよい「大丈夫ですよ、千早さん。きっと転んだときに携帯落としちゃっただけですよ。」

千早「それは…十分あり得そうね。春香はほんとによく転ぶから。」

貴音「信じて待ちましょう。」

P「…そうだ、そういえばさ。」

P「今時の携帯ってGPS機能がついてるんじゃないか?」

P「春香の携帯は地下にあるからつながらないだけで、GPS機能は使えるとかないかな?」

千早「GPS?」

伊織「簡単に言えば、今その携帯がどこにあるか遠隔で知ることが出来る機能よ。」

千早「本当?なら早く…」

伊織「でも知ることが出来るのはその携帯の位置だけ。春香があの事故現場にいるのはもう分かってるんだから、うまく特定できても『携帯が壊れていない』ってことしか…」

P「位置表示が動いてれば、春香が生きてるって証拠にならないか?」

伊織「まぁ…そこまで特定できればね。地下だから精度は期待できないし、そもそも特定できるかどうかも怪しいわ。」

千早「それでもいいわ。お願い。春香に関する情報なら…少しでも、ほんの少しでも欲しいの。」

伊織「そう。分かったわ。じゃあすぐ特定させる。でもあまり期待しないで。」

千早「ありがとう。」

亜美「…ねえ千早お姉ちゃん。」

千早「何?」

亜美「はるるんが帰ってきたときのためにさ、ケーキつくろうよ。」

千早「亜美…貴女こんなときに何を」

響「お、いいかもな。」

千早「響まで…」

P「千早、怖い思いした春香に、帰ってきたら美味しいものの一つも食べさせてやりたくないか。」

千早「…」

律子「何かしていたほうが気がまぎれるわよ。思いつめちゃ駄目。」

千早「そうですね…じゃあそうしましょう。」

やよい「じゃあ私材料買いにスーパー行って来ますねー」

千早「駄目っ!」

やよい「え?」

千早「駄目…外に出たら車がいるもの…」

やよい「えっと…」

千早「もし事故にあったらどうするの?」

やよい「そんな…大丈夫ですよ。」

千早「事故にあった人は皆、きっとそう思ってたわ。」

千早「優だって、春香だって…」

千早「私の大切なものは…全部乗物が奪っていくの…」

やよい「千早さん…」

P「千早。ちょっと休め。さっきから支離滅裂なことばっかり言ってるぞ。」

小鳥「春香ちゃんならきっと大丈夫よ。千早ちゃんも知ってるでしょう?春香ちゃんは強い子だもの。」

千早「…そうですよね。すみません。少し横になってもいいですか。」

小鳥「ええ。ソファしかないけど。あ、これ、ブランケット。使って。」

千早「ありがとうございます。」

小鳥「事務所の冷蔵庫にも色々材料はあるから、あるもので何かつくりましょ?」

千早「すみません。御迷惑おかけして…」

小鳥「仕方ないわ。こんな状況ですもの。」

千早「…」

千早(誰か…どうか春香を助けて。)

千早(春香まで居なくなってしまったら、私…)

~事故列車内~


春香『千早ちゃん、走らないと仕事に遅れちゃうよ?』

千早『そうね。生ラジオだから遅れたら大変だわ。走りましょう。』

春香『わぁ…風きると寒いけど気持ちいいね、千早ちゃん。 …千早ちゃん?』

千早『どうしたの春香。遅れちゃうわよ、そんなもたもたしてたら。』

春香『千早ちゃん、あれ…千早ちゃん?』

千早『もう。先に行ってるわよ。』

春香『えっ…待って…置いてかないで…』



春香「千早ちゃんっ!」

春香「…っうぅ」

春香「っ頭痛い…」

春香「あれ…私仕事に向かってて…」

春香「千早ちゃんにおいてかれちゃって…って 夢だったのかな・・・」

春香「あれ、真っ暗…」

春香「…」

春香「っっ!そうだ、私、変な人形がたくさんいて、気絶したんだ…」

春香「人形…あれ、無い…?暗くてよく見えないけど。」

春香「携帯の電池まだ残ってるかな。」

春香「あ、よかった。ライトつくかな。」カチッ

春香「よし、ついた。」

春香「やっぱり人形消えてる。足元の土くれは…残骸?」

春香「何があったんだろう…」

春香「怖い…」

『早く外に逃げなさい。』

春香「ひぅっ 誰?誰かいるの…?」

『早く外へ逃げなさい。』

春香「誰…あなた。」

『早く。』

春香「…あなた、乗客さん?」

『元は…そうでした。今はもう…』

春香「そうよね…透けてるもん。あはは、私もう駄目かも。」

『早く外へ出なさい。生きたければ。』

春香「あはは。こんな幻覚見るなんて、もう狂っちゃったのかな。」

『貴女を想っている人がいます。いきなさい。』

春香「私を想っている人…いるんだ。」

『大勢います。だからいきなさい。外へ逃げるのです。』

春香「もうどうにでもなっちゃえ…」

『外へ…』

春香「あ…消えちゃった。」

春香「あれ、携帯のライトが消えてる。つけ直さないと」パチッ

春香「!?」

春香「着信履歴…46件?」

春香「プロデューサーさんに、お母さんに、やよい、真美…765プロの皆からの電話だ。」

春香「それに、千早ちゃん。あはは…すごい回数かけてきてる。」

春香「…私を想ってくれる人、か。」

春香「気絶してる間に電波がたまたま通じたのかな。」

春香「それとも…さっきの人が何かしてくれたのかな。」

春香「外へ行けって言ってたっけ。」

春香「…そうだよね。もうこの電車動かなさそうだし、外に出て駅まで歩けばきっと出られるはず。」

春香「よしっ。」

ジャリッ

春香「そういえばドア開くのかなぁ。」

春香「んっ…やっぱり開かないよね。どっかにハンドルみたいなのないかな。」

『非常用 手動ドア開閉装置  ハンドルを回すとドアを手動であけることができます。』

『線路に下りる際には、他の電車にご注意ください。また、これをみだりに扱うことは法律により禁じられています。』

春香「あった!これだ。」

ガコンッ

春香「ロックが外れた音かな。これで外出られるよね。」

ギィッッ

春香「ん、ドア重い…」

春香「よし、これで出られる。」

春香「…行こう。」



春香「うぅ…何ここ。なんか耳が痛いよ。」

春香「しかも変な音がしてるし。風かな…?」

春香「…風?」

春香「風が入ってきてるってことは、近くに駅とか通風孔とか、外につながる場所があるんじゃ…?」

春香「そうだよ。きっとそうだ。やった、これで出られる。」

春香「風は前から来てるから…とりあえず前へ行ってみよう。」

コツン コツン コツン

春香「…うわぁ。トンネルってすごい音反響するんだねぇ。」

春香「なんかもう、ちょっと吹っ切れてきたかも。これくらいの心持のほうが楽でいいや。」

春香「とはいえ怖いものは怖いけど。」

春香「千早ちゃんならきっと、『歌のことを考えれば何も怖くない』とか言いそうだよね。」

春香「はぁ…千早ちゃん、心配してるかな…そうだったら、早く帰らないと。」

春香「…あれ、風向きが変わった。通風孔通り過ぎちゃった?」

春香「あ、反対側のあの穴ってもしかして、そうかな?明かりは見えないけど、網網になってるし、そうっぽい。」

春香「んしょっ…外れない…」

春香「んぐ…この…」

バキィッ

春香「きゃぁあっ」ガッシャァン

春香「いったたた…なんかほんとに私よく転ぶなぁ…」

春香「あっ 外れてる!」

春香「やった、これで出られる!」

春香「よかった…案外簡単に外出られて。」

春香「ああ、怖かった…もう暫く地下鉄なんか絶対乗らない。」

春香「よし、行こ。よく頑張った私っ。」



春香「うわぁ…なんか坂になってる。上れるかな。」

春香「随分長いなぁ。しかも暗いし。あ、そだ、携帯のライト。」

春香「…あれ、携帯どこやったっけ。」

春香「うそ、ポッケに入れたはずなのに。」

春香「無い…鞄に入れたっけ。」

春香「…やっぱり無い。」

春香「さっき転んだときに落としちゃったのかな。探さないと。」

春香「手探りで見つかるかな…」

春香「どこなのー?おーい携帯さーん。」

こわい(震え声)

春香「おーい…痛っ」

春香「っつ…何か刺さった?ガラスみたいだけど。」

春香「…ガラス?」

春香「なんか嫌な予感がする…」

春香「このあたりにガラスがあったから、もしかして…」

春香「あった!携帯だ。」パチッ

春香「…」

春香「…画面が割れてる。」

春香「もう…どうしてこういう予感ばっかりあたるの…」

春香「今日はほんとについてないなぁ。」

春香「はぁ。もういいや。慣れれば見えるかもしれないし、行こう。」



春香「ちょっと狭い。屈まないと通れないや。」

春香「しかも曲がりくねってて、頭打ちそう。…こんなとこで土人形が出てきたら逃げられないね。お願いだから出てこないでよ…」

春香「なんか言葉にしたらほんとに来そうで嫌だな。」

春香「あ、あれ。」

春香「今なんか見えた…ような。もう少し行けば見えそう。」

春香「うわっ なんか足元が滑る…これ、濡れてる?」

春香「…やっぱり濡れてる。それにこの湿った臭い…土の匂いだ。」

春香「ってことは、えーっと。」

春香「外だ…外だよ!やっぱり外に通じてたんだ。じゃあさっき見えたのは外の光ってことだね。」

春香「やった!…私、ちゃんと帰れそうだよ。」

春香「やっと…外に…」

『通風孔の格子戸は点検時以外施錠しておくこと。無断での開錠及び常時開放を禁ず。』

春香「?」

春香「あれれ、もう2、3歩で外に出られるのに、おかしいな。何この格子。」

ガタン  ガタン

春香「開かないなぁ。開かないよ。すぐそこなのに…」

春香「誰か!誰か出して!誰かいませんか!閉じ込められてるんです。鍵を開けてください!」

春香「…」

春香「誰か…誰でもいいから、ここから出してよ…」

春香「誰か…」

春香「もしかして、朝になったら誰か来てくれるかな?だとしたら…あと何時間だろ。」

春香「あ、そっか。携帯壊れちゃったんだった…腕時計してこればよかったな。」

春香「…ちゃんと朝来るのかな。」

春香「よく考えたらへんなことばっかりだよ。乗客は誰もいなくなるし、変な人形は出てくるし、おまけに幽霊に話しかけられるし…明らかに、普通じゃないよね。」

春香「きっと朝なんて来ないんだ。私、このまま死ぬのかな。たかが格子戸なんかのせいで。誰にも会えないまま死ぬのかな。」

春香「あーあ…」

春香「…なんで私がこんな目に」

春香「何か悪いことしたのかな…もう嫌だ…」

春香「千早ちゃん…」

      , ‐、 ,- 、
     ノ ァ'´⌒ヽ ,
   ( (iミ//illi)))   うっうー

     )ノ`リ・ω・ノ(   高ムキやよいに任せてくださいっ
 _, ‐'´  \  / `ー、_ 
/ ' ̄`Y´ ̄`Y´ ̄`レ⌒ヽ

{ 、  ノ、    |  _,,ム,_ ノl
'い ヾ`ー~'´ ̄__っ八 ノ

 ヽ、   ー / ー  〉
   `ヽ-‐'´ ̄`冖ー-く

~同時刻 765プロ事務所~

千早「ん…」

千早「…」

千早「っ!私、うっかり寝て…」

P「おはよう、千早。」

千早「春香から連絡は!?」

P「残念だけど、まだ何も…」

千早「…そうですか。救助作業の方は?」

P「落盤したところから連鎖的にトンネルの崩壊が進んで、ほとんど作業は進展してないらしい。」

千早「…まだ安否は確認できてないんですね。」

P「ああ。」

伊織「それから、GPSの件だけど。あそこの地下は、ギリギリGPS再放射システムの圏内に入ってたみたいで、場所は大まかに特定できたわよ。」

千早「本当!?じゃあ、春香は無事なのね?」

伊織「まだ試験段階だから不安定で、場所も大まかにしか分からなかった。残念だけど、生きてるかどうかまでは分からなかったわ。ごめんなさい。」

千早「いえ…ありがとう。春香がいるって分かっただけでも、少し安心したわ。」

伊織「…ちょっといいかしら、プロデューサー。」

P「ああ。」

伊織「こっち来て。」

P「なんで別室に?」

伊織「いいから付いて来なさいよ。」

P「ん、ああ。」

ガチャッ バタン

伊織「千早にはちょっと、聞かれたくない話なのよ。」

P「悪い知らせか?」

伊織「ええ。さっきね、春香の携帯のGPS位置表示が消えたの。」

P「消えた?動いて圏外へ出たってことか?」

伊織「そこまでは分からないわ。」

P「…そうか。」

伊織「あんな弱った千早にこれ伝えたら、今度こそ本当に絶望しちゃうわ。」

P「そうだな。」

伊織「ただ、あんたには伝えておいたほうがいいかとおもって。」

P「うん。」

伊織「圏外へ出たか、電池が切れたか、あるいは崩落に巻き込まれて…春香を信じてないわけじゃないけど、あんたはアイドルの監督者みたいな立場なんだから、最悪の場合も覚悟しときなさいよ。」

P「分かった。」

コンコンコン

P「はい。」

千早「あの、プロデューサー。」ガチャッ

P「どうした、千早。何か進展あったか?」

千早「いえ…その、何か悪い知らせでしたか?今の。」

P「ん?ああ、違う違う。天下の水瀬グループといえどもさすがに電話系統は管轄してないからな。無理やり携帯会社にお願いして調べてもらったから、ちょっとばかりコレが必要になって。」

千早「お金…ですか?」

P「まぁ俺のポケットマネーでなんとかなるレベルだから気にするな。」

千早「すみません…」

P「謝ることはないだろう。それより千早、もう少し休め。どうせ今夜寝ないつもりなんだろ。」

千早「ええ。寝てる間に春香から連絡がきたり、進展があったら大変ですから。」

P「はは、困った奴らだな。」

千早「?」

P「千早が寝てる間に、他のみんなも同じこと言って聞かなかったんだ。」

千早「皆が…?」

P「ああ。みんな春香のこと大切に思ってるんだろうな。で、今夜は事務所に泊まってくって。千早はどうする?」

千早「勿論私もそうします。みんなと一緒の方が、心が多少なりとも楽です。」

P「うん。春香だって今きっと心細いはずだ。弱気になるなよ。」

千早「はい。」

P「じゃあ俺はちょっと社長に連絡してくる。」

伊織「私も行くわ。」

千早「ええ。気をつけて。」

バタン

千早「…」

千早「プロデューサー、あんな嘘ついて…」

千早「聞こえたのは、春香の携帯の反応が消えたってことだけだったけれど…もしかして、もっと事態は悪くなってるの…?」

千早「…駄目よ。弱気になっちゃ。春香だって頑張っているんだもの。みんなのところに戻りましょう。一人だと…気が滅入るわ。」ガチャッ バタン

千早「あの、みんな。」

真「ん?」

貴音「どうしました?」

千早「今日泊まるっていってたけれど、夕食とかはどうするの?」

律子「さっき食材とかブランケットとか、一式買ってきたわ。シャワールームもあるし、そこは心配ないわ。」

千早「そうですか。」

千早(なんか、充実しすぎているというのも少し心苦しいわね。春香は今だって、寒くて暗い地下に閉じ込められているというのに。)

千早(私が助けに行っても、現場に入ることさえできやしない…神様…いるならお願い。春香を助けてください。)

千早(あの子だけは、失いたくないの…)




『任せて…千早お姉ちゃん。』

千早「え、真美?」

真美「んん?どったの?」

千早「え、今何か言わなかった?」

真美「何も言ってないよ。」

千早「え、じゃあ亜美?」

律子「亜美なら今お手洗いにいってるわ。」

千早「そう、ですか。」

千早(でも今確かに、千早お姉ちゃんって。あんな呼び方するのは亜美か真美しか…)

千早(!)

千早(まさか…)

千早(もしそうなら…どうか春香を助けて。)

真美「千早お姉ちゃん、一体どうしたの?」

千早「幻聴でもいいから、何かに縋りたくなったのよ。」

真美「?」

千早「いえ。なんでもないわ。 早く…春香の声が聞きたい。」

真美「そうだね。はるるん、早く帰ってくるといいね。」

千早「ええ。あ、そうだ。音楽プレーヤーに…」

千早(録音されて、楽器とミキシングされた声でも、きっと心の休めくらいにはなるわよね。)

千早「…あら?」

千早「確か、いつも右のポケットに入れてたのに…落としたわけはないし、どうしたのかしら…」

響「プレーヤー無くしたのか?」

千早「…かもしれない。」

千早「どこかに置き忘れたのかしら。」

千早(何か…悪いことが起きないといいけれど。もう頼れるのは、救助隊か、あるいは…あの子だけね…)




~通風孔~

春香「ぅぅ…もう……嫌だよぅ…誰か…幽霊でも人形でもいいよ…ここから出してよ…」

春香「誰か…」

カツンッ カランッ

春香「…何、今の音…コンクリート片でも落ちたのかな…」

春香「確か…このあたりに…あった。何これ?四角い…」

春香「ん、暗くてよく見えないけど、これ、音楽プレーヤーかな。まだ温かいや…人の体温が残ってる。あはは…誰のかもわからないのに、ちょっと安心するかも。」

春香「あの、誰かいるんですか?プレーヤー落としましたよ。」

『それはお姉さんが持っていて。』

春香「へっ?うそ、ほんとに人?」

『ごめんね。人…ではないんだ。』

春香「…幽霊?」

『うん。』

春香「そっか…でもさっきの幽霊も私に脱出方法教えてくれたし、幽霊って悪い人ばっかりじゃないのかな。」

『うん。本当に怖いのは…生きている人間だよ。』

春香「そう…なの?まぁいいや。あの、ここの鍵、外すことできない?」

『出来るよ。』

春香「ほんと?ほんとに開けられるの?」

『うん。というかね、ここの扉に鍵の機能なんてそもそも無いんだよ。』

『もう気付いてると思うけど、ここは、お姉さんが住んでる世界じゃない。形だけは一緒だけど、人はいないし、太陽も月もない。だから誰かが鍵を持ってきてくれることはない。』

春香「じゃあ、ここはあの世…なの?」

『違うよ。でも生きた人間の世界じゃない。』

春香「そっか…」

『うん。今、開けてあげるね。」ガチャッ

春香「あ、ほんとに開いた…」ギィィィッ

春香「開いたよ…外だ!ありがとう。本当にありがとう。もう一生ここから出られないかと思ったよ…」

『どういたしまして。お姉さんのこと、待ってる人たくさんいるから。』

春香「さっきの人も言ってた…」

春香「よいしょ。ちょっとふらふらするけど、これで…みんなのところに帰れる…」

『頑張ってね。お姉さん。』

春香「もう地下抜けたから、ひたすら歩くだけだもん。大丈夫だよ。」

『…』

春香「ありがとうね。えっと、あなたは…あれ、どこかで見たような…」

春香「確か…千早ちゃんの家で…あの、もしかしてあなたって…」

『お姉さんと、お姉さんが大切にしているものを信じて進んで。それでもくじけそうになったら、役にたってくれるかもしれない。』

春香「え?このプレーヤー?」

『うん。じゃあね。頑張って。』

春香「あ、ちょっと待って!あなたって、やっぱり千早ちゃんの…」

『千早お姉ちゃんは、待ってるよ。お姉さんのこと。』

春香「!」

春香「あっ…消えちゃった…」

春香「ありがとう。千早ちゃんが待っててくれるなら、私頑張れるかも。」

春香「よし、急がないとね。ちょっと走ろ。」

春香「森の中の一本道…か。いかにもって雰囲気だな…」

春香「また体の震えが戻ってきちゃったよ…でもさっきより心強い。さっきの子のお陰かな。千早ちゃんが傍にいるような気がする。」

春香「さっきの話だと生き物は居ないみたいだし、襲われる心配はないよね。あと少しだけ。あと少しで戻れるよ…」

春香「待っててね。千早ちゃん。」ダッ

春香「はっ…はっ…はっ……」

春香「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

春香「はぁっ……はぁっ…」

春香「んくっ… はぁ…はぁ…」

春香「まだかな…先がっ…」

春香「見えないけど…よく考えたら…出口ってどうなってるんだろ…」

春香「はぁ…はぁ… 聞いとけばよかったなぁ…」

春香「うぅ…胸がちょっと苦しい…でもきっと、あと少し…道は間違えようがないもんね。」

春香「もう少しだけっ。」ダッ

春香「きっと…もう少しで…みんなのところに…」

春香「みんなぁ…っ」

春香「あれっ…?なんか明るくなってない?」

春香「はぁ…はぁ… やっぱり明るくなってる…太陽も月もないはずなのに…あれ?あそこ、光ってる?」

春香「光の玉が浮かんでる…もしかして」

春香「あれが、出口!?」

春香「きっとそうだよね。あんなに分かりやすいなんて思わなかった…あはは…やっと出られるよ…」

春香「よかった… あれ、緊張が解けたからかな…膝が笑ってる…」

春香「うぅ…もう、本当に怖かったんだから…帰ったら暫く千早ちゃんに泊まりにきてもらおうかな。」

春香「よし、もう行かないとね。あとほんの少し。」

春香「3歩…2歩…1歩…  到着…これで…出られる!」

春香「触れればいいのかな。えいっ。」

春香「うわっ…眩しっ!あわわわ 私浮いてる?なんか飛んでるみたい。」

春香「うぅ…すごい光…でもよかった…これで元の世界に…みんなのとこに戻れるんだね。」

春香「やった…私やったよ!千早ちゃん!お母さん!プロデューサーさん!私戻れたよ!」

春香「どれくらい時間たっちゃったんだろ。すぐ事務所行くからね…!待ってて!」

ドシャッ

春香「いたっ…  いったたた…」

春香「何これ…板?木の床だ…」

春香「ん…」

春香「あれ…ここって、レッスン室前の廊下…?この手触り…それにこの埃っぽい匂い…間違いない。レッスン場だ!」

春香「あぁ…ほんとに戻ってきたんだ。もう、ほんとに駄目かと思った…」

春香「あれ?中でレッスンしてる人がいる。きっと765プロの誰かだ。よかったぁ。ちゃんと現実だぁ… うん、早く会っちゃおう。」

春香「おーい!戻ってきたよ!私、帰ってきたよ!」ガチャッ

春香「おーい…って、あれ? あの後姿…」

春香「私?」

春香「あのジャージ…あのリボン… 私…だよね、あれ。」

春香「え、でも春香は私だよ。じゃああれは誰…?」

春香「…もしかして、まだ戻ってない…?」

春香「そんなわけないよね。出口を通ったもん。そうだ、きっと夢を見てるだけだよ。」

春香?『きゃっ』

トレーナー『ちょっと春香。何回目よ、そこでミスするの。いい加減にしてよ。』

春香?『ごめんなさい…』

春香「あはは…夢でまで私おこられてるよ。」

トレーナー『貴女ねぇ、もうすぐ全国ライブなのよ?他の人はもう纏め上げに入ってるのに。』

春香?『すみません…』

トレーナー『自覚あるの?ちゃんと。』

春香?『すみません…次回までに自主練してきます。』

トレーナー『そうしてちょうだい。貴女はね、他の765プロの子とは違うのよ?貴女には他の子みたいにウリが何も無いんだから、技術磨かないと駄目でしょうが。』

トレーナー『5分だけ休憩して、再開するわよ。』

春香?『はい…』

春香「特徴が無い、かぁ…他人事とは思えないな、今の。」

春香「あ、あれも私なんだから当たり前か。」

春香「…うずくまってる。私も怒られた後ってあんな感じなのかな。」

春香(すごい震えてる…トレーナーさんどっかいっちゃったし。声、かけたほうがいいのかな。)

春香「あ、あの、えっと、大丈夫で…」

グシャッ

春香「す…か…?」

春香「へ…?」

春香「い…」

春香「いやぁぁぁぁあああああああああああああっ」

春香「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

春香「ああああああああああああっ……げほっ……うぇ…っ…何今の…」

すまんちょっと飯落ち
すぐ戻る

春香「いきなり…潰れた…?」

春香「あ…あぁ…」

春香「なんでこんな夢見るの…私…もう…」

『私は貴女。』

春香「ひっ… 喋った…?」

『未来の貴女。』

春香「…来ないで…私…違うよ……そんな風に死んだりしないよ…」

『未来の貴女の、象徴。』

春香「象徴…?未来…? …どうやって喋ってるのよ…そんな、に、肉の塊なのに…」

春香「うぇっ…げほっ…っうぅ…」

『私は貴女。押し付けられた責任と期待の重さに潰されてしまった貴女。』

春香「何…それ… なんでこんなことばっかり起きるの…?」

『これは貴女が迎える未来。』

春香「もう何なの…早く帰してよ…もうこんな変な世界嫌だよ…」

春香「貴女は私なんかじゃないよ。私はそんな風になったりしないもん。」

『そうかしら。』

春香「っ…! え、いつの間に?なんで私が二人も?」

春香「二人じゃない…三、四…え…なんでこんなに私が沢山いるの…?」

春香「しかも皆、ひどい怪我……    嘘だ。」

春香「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ…こんなの嘘だ。こんなの夢に決まってる早く覚めろ覚めろ覚めろ…」

春香「覚めてよ…」

『私は貴女。』

春香「もうやめてよ…」

『足を失ってしまった貴女。』

春香「…なんでそんな無表情なの…痛くないの?」

『仕事にがんじがらめにされて、自由を失ってしまった貴女。』

『私は貴女。目を失ってしまった貴女。』

『芸能界に毒され、真実を正しく見られなくなってしまった貴女。』

『私は貴女。腕を失ってしまった貴女。』

『手をとってくれる人も、手をとるべき人も失い、孤独のうちに生きる貴女。』

『私は貴女。頭を失ってしまった貴女。』

『機械のように生活を管理され、自分で考えることが出来なくなってしまった貴女。』

春香「違う…違う違う違う違う…そんなの私じゃない…私の未来はそんなんじゃない…」

『真実。これが現実に戻った貴女を待っている未来。』

春香「そんなわけ…」

『私は貴女だから分かる。貴女は、心の片隅で、もしかしたらそうなるかもしれないと、思っている。』

春香「思ってないよそんなこと…」

『本当に?』

春香「…」

『ねぇ貴女。』

春香「何…もうやめてよ…」

『貴女は、自分が好き?』

春香「自分が?」

『自分のことが好きになれる?』

春香「そんなの、好き…になれるわけないじゃない…」

春香「歌が上手いわけでも、ダンスが上手いわけでも、話が面白いわけでも、スタイルがいいわけでもないし。きっと、普通の高校生だったらこんなこと思わないんだろうけど…私はアイドルだから…」

春香「あの765プロの中に居たら…自分のこと好きになれるわけないよ。」

『皆が羨ましい?』

春香「…ちょっとそうやって思うこともあるけど…そりゃ、みんなみたいにすっごい得意なことが私にもあればいいんだけど、ないから…努力するしかないもん…」

『ならば、ここに居なさい。』

春香「嫌だよこんな変な世界……ここに居なさいってことは、これは夢じゃないの?」

『ここは、貴女が先まで居たところと同じ世界。』

春香「なんで…?出口通ったのに…」

春香「もう帰してよ…早く帰して。もう嫌だよ。みんなに会いたいよ…どうしてこんなことするの…?」

『貴女の願いは、ここでなら叶えられる。』

春香「私の願い?」

『ほら。』

春香「…? あれ…怪我した人たちが消えてる…」

春香「わっ…眩しい…」

『あれは、貴女がここでつかめる未来の象徴。』

春香「また私の未来?…あれ、また私がたくさんいるけど、今度は怪我してない…?」

春香「何あれ…すごい人数のファンに囲まれた…私?」

『私は貴女。如月千早を凌ぐ歌声を手に入れた貴女。世界中のトップアーティストと肩を並べるほどの名声を手に入れた貴女。』

春香「あの輝いてる人が…私?」

『私は貴女。菊地真と比肩する程の運動神経を手に入れた貴女。アイドル活動のみならず幅広く活躍し、テレビの女王と呼ばれるまでになった貴女。』

春香「私が、あんな激しいステップを綺麗に踏んでる…」

『私は貴女。四条貴音のような、人を惹き付けて止まない雰囲気を手に入れた貴女。世間の話題をさらい、IAで圧巻の優勝を飾った貴女。』

春香「すごい…あんな大勢が…私を囲んでる…」

『ここでなら、手に入る。貴女が好きになれる貴女。』

春香「私が好きになれる、私…?」

『そう。ここは、貴女の願いが叶う世界。』

春香「そんなわけないよ…だって私、ずっと出たいと思ってても出られなかったもん…」

『形無いものは、具現化しない。』

春香「わけがわからないよ…何が何なの…」

春香「幽霊はでるし、変な土人形もいるし…」

『あれは貴女の願いが叶った証拠。貴女は確かに願った。一人じゃなかったら、友人がいたなら、貴女はそう思った。』

春香「それは思った…今も思ってるけど…あんな人形じゃないよ…」

『弱い思いは相応の結果しか産まない。けれど、私は貴女だから分かる。貴女の自分を変えたいと思う気持ちはとても強い。それだけの願いがあれば、あの輝いた自分達になれる。いとも簡単に。』

春香「…」

春香「…簡単に…変われる…」

春香「あんな輝いた私に・・・変われる?」

春香「でもそんなの偽ものだよ…?」

『いいえ。この世界では、貴女の願いが真実となる。作り出した全てが、見える全てが、この世界の真実。』

春香「…真実…本当に、あんな私に変われるの…?」

春香(…そんなわけない、そんな簡単に変われないから…みんな苦しむんだよ…)

春香(でも本当に変われるんだったら…少し・・・少しだけ、なってみたい…かも…)

春香(少しだけ輝いてる私を…くすんだ私じゃない私を…見てみたいかも……)

『…ふふっ』

春香「…きゃぁっ?!」

春香「何っ?何かが、足首を掴んだ…?」

春香「っ…!」

春香「何これ…離してっ…離してよ……気持ち悪い…」

『もう遅い。無駄よ。』

『その、貴女を掴んでいる腕は、貴女自身だから。』

春香「何…この手、私のなの…?」

『言ったでしょう。ここは願いが叶う世界。』

『今貴女を掴んでいるその腕は、この世界に居たいという貴女の欲望。』

『もう逃れられない。自分の欲望からは逃れられない。』

春香「嘘…嘘…もう少しで出られるはずだったのに…」

春香「痛っ…痛いよそんなに引っ張らないで…っ」

春香「何で…なんで増えてるの…?腕が…4本も…」

春香「誰か…誰か助けて…」

春香「きゃっ」ドサッ

カンッ  カラン

春香「っ…いたいよ……あれ…私、何か落として……これ、さっきの子にもらったプレーヤー…」

春香「困ったときに助けてくれるんじゃないの…?なんとかしてよ…」

春香「何か…何かないの?」

春香「………え?あれ?」

春香「この貼ってあるプリクラって…千早ちゃんと、私?」

春香「二人で初めてとったプリクラだ…それにこの形…この色…このプレーヤー、千早ちゃんのだ…」

春香「……あはは…」

春香「そういうことだったんだね…」

春香「これをもってれば…たった一人で死ぬことはないってこと…そういう意味の助けだったんだ…」

春香「そっか…じゃあ、もう私…死ぬんだ…このまま、この世界に取り残されて…」

春香「っ…痛いよ……あはは…すごい数の手…このまま私、きっと握り潰されて死んじゃうんだね…」

春香「死んじゃうんだ…」

春香「…千早ちゃん…」

春香「………プレーヤーの電源、つけてみようかな。」

春香「そしたら、なんだか千早ちゃんが傍にいるような気がしそう。一人で死んじゃうのは…やっぱり嫌だよ…」カチッ

春香「ん、明るい…」

春香「目が霞んできた…」

春香「そういえば、千早ちゃん、何聴いてたのかな…」

春香「…」

春香「…」

春香「タイトルは……た、い、よ、う、の…ジェラシー?」

春香「…アーティスト、天海、春香…」

春香「…」

春香「私の曲だ…」

春香「なんで私の曲が…?」

春香「これ、私がデビューしたばっかりの頃の曲で…ほとんど売れなかったし、もう絶版になってるのに…」

春香「どうして千早ちゃんのプレーヤーに…?」

【感情表現が豊かで、それでいて素朴な飾らない歌い方をする人で。そこが気に入ってるの。】

春香「…」

春香「もしかして…」

春香「これ、千早ちゃんがあのとき聴いてた曲…なのかな…」

【これは私だけの宝ものだから。】

春香「…じゃああの言葉…私の曲に対して言ったの?」

春香「…」

春香「千早ちゃん…」

【この曲を聴いてるとね、元気がもらえるの。】

【辛いときはこの曲と…これを歌ってる人に支えてもらうのよ。】

【そこらの曲とは違うのよ。変に気負ったところがなくて良いわ。】

春香「千早ちゃん…私の曲、そんなに好きになってくれたんだ…」

春香「嬉しいな…」

【この曲を歌ってる人?】

【きっとこの人自身も、飾らない素朴な人柄の人なんでしょうね。】

【ありのままで居られる人って、素敵じゃない?】

【そういう人って私大好きよ。】

春香「あ…」

春香「あの言葉、私に向けて…?」

春香「…」

春香「千早ちゃん…そうだったんだ…」

【ねぇ春香。】

春香「うん。」

【春香は春香のままが一番よ。】

春香「…えへへ。私って単純だな… なんだろ。すごく、帰りたい。戻って、千早ちゃんにありがとうって言いたい。」

春香「こんな大事なこと忘れちゃうなんて、私どうかしてたね。ごめんね千早ちゃん。」

春香「私、やっぱりこの世界には居られない。」

『貴女はあの現実へと帰りたいの?』

『なんの売りも無いのに、責任と仕事だけを押し付けられて潰れるのを待つしかない世界に?』

春香「それは…そんなことは分からないよ。」

春香「だって、未来は誰にも見えないもの。」

『この世界の幸福を捨てて現実に帰る価値、あるの?』

春香「どうかな…でも、あの世界には、ありのまま私を見てくれる人がいる。」

『現実の世界の、劣等感を抱いた自分を好きになれるの?』

春香「…やっぱり、好きって自信持ってはいえないよ。でも、ありのままの私を好きって言ってくれる人がいる。」

春香「私の大切な人は、今の私のことを好きって、大切って言ってくれる。だったら、ちょっとは好きになれるかもしれない。自分のこと。」

春香「その人のこと、私は大切に思ってるもん。その人の大切なものも、大切にしてあげなきゃいけないよね。」

『詭弁ね。』

春香「そうかな?でも、私がその人のこと、大切に思う気持ちは嘘じゃないよ。」

春香「その人が言ってくれた言葉も、きっと嘘なんかじゃないって信じてる。千早ちゃんはね、こんな私を好きって言ってくれる。」

春香「今の自分を捨てちゃったら、申し訳ないよ。」

『…』

春香「あれ…引っ張る手が…止まった…?」

春香「千早ちゃん、助けてくれたんだね…」

春香「うん。もう迷わないよ。私は絶対現実に戻る。もう惑わされたりしないよ。貴女も私なら、分かってくれるよね。」

『…』

春香「この手、もうはずれる?」

『その手は、貴女の欲望。』

『…貴女がこの世界に対して何の欲望も持っていなければ、その枷は消える。』  

春香「そっか。…よかった。もう消えてる。」

春香「…こんな怖いとこ私は二度と御免だよ。ほんとに…」

春香「そこに立ってる私達が苦しむような未来には、きっとしないから。自分の力で、ありのままの自分で、あの輝く私達みたいになってみせるから。」

『…そう。』

春香「っ…?」

春香「あれ…なんか…眩暈が…」

春香(駄目…立ってられない…)

春香「何をしたの…?」

『現実の世界は、この世界ほど、優しくない。』

『せいぜい、潰されないようにしなさい、私よ。』

春香「…帰してくれるんだね。私頑張るよ。今までよりもずっと。」

春香(あっ…目の前が白くなってきた…これで今度こそ帰れるんだよね…)

春香(千早ちゃん…みんな…やっと会えるんだね…)

春香(よかった…)

春香(……)

千早『遅れちゃうわよ、そんなもたもたしてたら。』

春香『千早ちゃん、待って速いよぅ…』

千早『もう。先に行ってるわよ。』

春香『待って…置いてかないで…』

千早『ふふっ…冗談よ。そんなに泣きそうな顔しないの。』

春香『えっ?』

千早『春香には、笑顔が一番似合うわよ。』

千早『なんて、ちょっと気障だったかしら。』

春香『ううん…そんなことない。』

春香『ねぇ千早ちゃん。ずっと言いたかったんだけど…ありがとう。大好き。』

千早『急にどうしたのよ…変な春香ね。』

千早『ほら、行きましょう。』


春香「……うん…」

「…か!…」

「…るか!…」

春香「あれ…その声…」

千早「春香!あぁ、春香…よかった…目が覚めたのね…よかった…本当に…」

春香「千早…ちゃん…?」

千早「うん。…もう目を開けないんじゃないかと…よかった…」

春香「えへへ…千早ちゃん、苦しいよ…そんなにぎゅってしたら…」

千早「ごめんなさい…でも離れたくないの…」

春香「そっか…ごめんね千早ちゃん。」

伊織「まったく…さんざん心配かけたのに随分けろっとしてるわね。千早に感謝しなさいよ。あんたの手、2日も夜通し握り続けてたんだから。」

真「千早の方が体壊しちゃうんじゃないかって勢いだったもんね。」

春香「そうだったんだ…ありがとう。千早ちゃん。」

春香「あのね。私、千早ちゃんのお陰で戻ってこれたんだよ。」

春香「そんなに泣かないで。千早ちゃん。」

千早「だって、だって……」

春香「…よしよし。」

P「ああ…良かったな。俺ちょっと親御さんに連絡してくるよ。」

春香「ありがとうございます。」

春香「あ、あの…ここって、どこですか?」

P「?見ての通り、病院だよ。」

春香「病院?」

P「春香、トンネルの落盤事故に巻き込まれたんだ。」

春香「え?」

P「トンネルが落盤して、その破片が電車の電力取り入れ装置のあたりにぶつかったらしい。そんで電車は脱線。春香は座席で気を失っていた所を救助隊員に助けられたんだ。」

春香「…そうだったんだ…」

春香(夢、だったのかな。)

P「しかし、間一髪だったな。生還者より、犠牲者の方が多いような事故だったから…」

『…先日発生した地下鉄落盤事故による犠牲者は100名を越えると思われ…』

『今日新たに、二名の遺体が発見されました。』

伊織「バカ!なんでテレビなんかつけとくのよ。春香はこの事故に巻き込まれて…本当に恐ろしい目にあってるのよ?」

P「あ…そうだよな。すまん、すぐ消す。」

春香「ううん。私は大丈夫。」

春香「…!あの写真の人…」

律子「…もしかして、近くに居たの?」

春香(えっと…あのとき私を電車から逃げるようにって言った幽霊の人…だよね。あれ。)

春香「うん。えっと、命の恩人、かな… あの人に助けてもらってなかったら、私帰ってこれなかったかも。」

律子「そう…」

春香「うん。」

高木「電車の管理会社と工事を行った会社は立ち入り検査を受けるそうだ。」

高木「二度とこんな痛ましい事故が起きないといいね。」

春香「そうですね…」

貴音「皆でそう祈りましょう。」

真「うん。春香、そんなに体起してて大丈夫なの?」

春香「あ、うん…ちょっと横になろうかな…」

春香(ん?あれ、ポッケに何か入ってる…)

春香(これ…さっきのプレーヤーだ…)

春香(私を救ってくれてた、千早ちゃんのプレーヤー…ちょっと名残惜しいけど、返さないとね。)

春香「ねえ千早ちゃ…」

千早「…」

千早「…すぅ…すぅ…」

春香「ありゃ…寝ちゃった?」

小鳥「千早ちゃん、結局二日間ほとんど徹夜だったのよ。きっと緊張の糸が切れて、疲れが一気に来たのね。そのまま寝かせてあげて。」

春香「うん。」

春香「千早ちゃん、ありがとう。これ、返すね。これのお陰で、帰って来れたよ。」

響「あれ?それ、千早の音楽プレーヤー?」

春香「うん。」

響「どうして春香がそれを…?」

春香「自分でもわかんない。」

響「…?どういうことだ?」

春香「奇跡…なのかな。」

貴音「不可思議なことがあるものですね。…きっと、そこには誰かしらの思いがあったのでしょう。」

春香「思い・・・か。そうかも。」

春香「千早ちゃん。」

春香「私の大切な人…」

春香「いつも私を見てくれてありがとう。」


春香「あと…」





春香「大好きだよ。」

~事故数週間後 某日~

千早「春香、そんなに走って大丈夫なの?」

春香「うん。もともと体の怪我はあんまりなかったし。」

千早「でも無理しないでね。」

春香「うん。ありがと。」

千早「…あの、聞いてもいいかしら。」

春香「ん?」

千早「どうして、いきなり優のお墓参りに行きたいって言い出したの?」

春香「ああ、それはね。」

春香「…千早ちゃん、この前ちょっとだけしたあの話、覚えてる?」

千早「春香が捕まってたっていう、あの世界のこと?」

春香「うん。私ね。あの世界で、優君に助けてもらったんだ。」

千早「優に?」

春香「うん。」

千早「そっか。そうだったのね。ふふっ。」

春香「千早ちゃん?」

千早「ううん。きっと優も、春香が助かって喜んでるわ。」

春香「そかな。優君、とっても優しい子だったよ。にこってした顔が、千早ちゃんにそっくりで。」

千早「ふふっ。そう?」

春香「うん。  あ、着いたみたいだね。」

千早「ええ。あそこのお墓よ。」

春香「お礼、ちゃんと言わないとね。よいしょ。」

春香(…あのとき、助けてくれてありがとう。優君が来てくれなかったら、私、きっとここにいないよ。)

春香(本当に、ありがとう。)

千早「…」

千早(優、聞こえる?本当に春香を助けてくれたのね…ありがとう。あなたのお陰で…私、これからも頑張れそうよ。)

春香「…よしっ。」

千早「それじゃあ、日が暮れる前に戻りましょう。」

春香「うん。」

千早「じゃあ優、またくるわね。」

春香「私も、また来るね。」

『無事帰れたんだね。おめでとう。』

春香「えっ?」

『千早お姉ちゃんのこと、よろしくね。』

春香「優・・・君?」

春香「…うん。任せて。」

『ばいばい。お姉さん。』

春香「優君…お姉ちゃん思いなんだね。」

春香「よっし。」

春香「ちょっと休んじゃった分、明日から頑張らないとね。」

春香「千早ちゃん!今度ボイトレ付き合ってくれない?」

千早「うん?いいけど、どうしたの?急に。」

春香「なんか、頑張りたい気分なの。」

千早「そう。じゃあ、私も厳しくやろうかしら。」

春香「うぇっ?」

千早「ふふっ 冗談よ。」

春香「もぅ 千早ちゃんってば…」

春香「…」

春香「…あれ、千早ちゃん。」

千早「何?」

春香「また音楽聴いてるの?」

千早「え?ええ。」



千早「大好きな、あの人の曲よ。」







fin

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