シンジ「どうして本、読んでくれないの?」レイ「命令にないから」(125)

シンジ「僕が持ってきた本、読んでないよね?」

レイ「……」

シンジ「どうして、読んでくれないの?」

レイ「命令にないから」

シンジ「命令か……。じゃあ、もういいよ!!!」

レイ「……」

シンジ「僕が音読するから聞いててよ!!!」

レイ「……」

シンジ「山の中に、一人の赤鬼が住んでいました」

シンジ「赤鬼は、人間たちとも仲良くしたいと考えて、自分の家の前に、『心のやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます。』と書いた、立て札を立てました」

レイ「……」

シンジ「―――赤鬼は、だまって、それを読みました。二度も三度も読みました。戸に手をかけて顔を押し付け、しくしくと、なみだを流して泣きました」

シンジ「おし、まい……」

レイ「……」

シンジ「どうだった?」

レイ「こんなときどういう顔をすればいいかわからないわ」

シンジ「そっか。あまり気に入らなかったのか……ごめん」

レイ「……」

シンジ「じゃあ、次はもっと面白くするから!!待っててよ!!」

レイ「……」

シンジ「お休み!!」

レイ「……」

シンジ「どうして読んでくれないんだよ!?」

綾波「えっと…その…」

シンジ「もういいよ!」

綾波(碇くん…どうしてこんないやらしい本持ってきたのかしら)

翌日

レイ「……」

シンジ「おかえり」

レイ「……」

シンジ「じゃあ、始めるね」

レイ「……」

シンジ「カヲルくん」

カヲル「……」コクッ

カヲル「……むかし、むかしのことです。山の中に、一人の赤鬼が住んでいました」

アスカ「あー、私もニンゲンと仲良くしたいわー。何かいい方法ないかしらー?」

レイ「え……?」

アスカ「そうだ!看板でも立てみるか!」

アスカ「これでニンゲンとも仲良くなれるはずよ!」

マリ「なになにー?『心のやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます』?うわー、うそくさー」

カヲル「けれども、人間は疑って、誰一人遊びにきませんでした」

アスカ「むきー、なんでよー!!」

カヲル「そこへ友達の青鬼がやってきました」

シンジ「暴れてるね。どうしたの?」

アスカ「あ、ちょっと聞いてよ、青シンジ」

レイ「……」

シンジ「分かったよ、アスカ。じゃあ、こうしよう。僕がニンゲンのところへ行って大暴れする。そのときアスカが僕を殴って止めるんだ。そうすればみんなアスカが良い子だって分かってくれるよ」

アスカ「良いアイディアじゃないの!!」

カヲル「そしてシンジ君、いや、青鬼は村へと出かけます」

シンジ「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

マリ「きゃー、やめてー」

マリ「私には3歳になる娘もいるのにー」

アスカ「何やってんのよ!!!青シンジ!!!この!!この!!」パシンッ!!!パシンッ!!!

シンジ「やめてよ!!!アスカ!!!こうしないとみんなわかってくれないんだ!!!」

アスカ「考えがガキなのよ!!」

シンジ「くっ……!!分からず屋!!もういいよ!!!僕は帰る!!!」

カヲル「計画は成功して、村の人たちは、安心して赤鬼のところへ遊びにくるようになりました」

マリ「赤おにー、今日もあそぼー」

アスカ「いいわよー」

レイ「……」

アスカ「それにしても、最近、青シンジのこと見ないわねぇ……。あいつ、どうしたのかしら?」

カヲル「心配になった赤鬼は青鬼の家に行ってみることにしました」

アスカ「青シンジー、きてやったわよ。あけてー」

カヲル「しかし、青鬼は家に居らず、戸も固く閉ざされていました。そして、その戸のわきに貼紙がしてあったのです」

シンジ「赤鬼くん、人間たちと仲良くして、楽しく暮らしてください。もし、ぼくが、このまま君と付き合っていると、君も悪い鬼だと思われるかもしれません」

シンジ「それでぼくは旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません。さようなら、体を大事にしてください。どこまでも君の友達。青鬼」

アスカ「わーん。青シンジ、ごめんねー」

カヲル「赤鬼は、だまって、それを読みました。二度も三度も読みました。戸に手をかけて顔を押し付け、しくしくと、なみだを流して泣きました、とさ。めでたし、めでたし」

レイ「……」

カヲル「おかしいね、シンジくん。拍手がないよ?」

シンジ「あ、それは……。あ、綾波、お願い」

レイ「……」パチパチ

カヲル「ありがとう」

マリ「やっばいなぁ。今の演技、イザベラ・ロッセリーニ級って感じ?」

アスカ「誰よ、それ?」

カヲル「いい演技だったね。惜しむらくは音楽がなかったことぐらいかな」

シンジ「綾波、どうだった?」

レイ「……」

シンジ「綾波?」

レイ「ごめんなさい……。どういう顔をしたらいいのかわからないの……」

シンジ「そんな……。折角、二人を呼んだのに……」

アスカ「はぁ!?私の演技が不服ってわけぇ!?」

マリ「じゃあ、次はモンローウォークで登場するから」

カヲル「なんてことだ。求めるものが高いんだね。それは時に自分を貶めてしまうものなのに」

レイ「……」

アスカ「あーあ、白けちゃった。私は帰るわ」

マリ「私もかえろーっと。んじゃねー」

シンジ「ありがとう」

カヲル「僕も先に戻るよ。また明日ね、シンジくん?」

シンジ「うん」

レイ「……」

シンジ「綾波……」

レイ「……」

シンジ「僕の知ってる綾波だよね?僕が助けた綾波だよね?!」

レイ「知らない」

シンジ「だから……。本を読まないの……?」

レイ「綾波レイなら、そうするの?」

シンジ「前の綾波なら涙を流しながら拍手して、ブラボーって叫んでたよ」

レイ「……そう」

シンジ「本当に綾波じゃないんだね」

レイ「……」

シンジ「分かったよ。もういいよ」

レイ「……」

シンジ「今度はもっと面白くするから」

レイ「……え?」

シンジ「待っててよ!!」

レイ「あ……の……」

シンジ「うわぁぁぁぁ!!!」

レイ「……」

レイ「こんなとき、綾波レイならどうするの……?」オロオロ

翌日

レイ「……!?」ビクッ

シンジ「おかえり」

レイ「……あの……」

シンジ「また、本、読んでないんだね」

レイ「め、命令にないから……」

シンジ「うん。分かってるよ。今の綾波が本を読まないのは。だから、今日も見ていってよ」

レイ「……」

シンジ「カヲルくん!!」

カヲル「やろう、シンジくん」

レイ「……」

カヲル「……むかし、むかしあるところにあるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」

レイ「……」

冬月「茶がうまいな」

ゲンドウ「ああ」

冬月「そろそろ、川に洗濯にいかないとな。お前も山へ芝刈りにいく時間だろ?」

ゲンドウ「ああ……。そうだな。行ってくる」

カヲル「おばあさんが川で洗濯をしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました」

冬月「これはいい土産になるな。持ってかえろう」

カヲル「おばあさんは家に桃を持って帰り、そして、おじいさんとおばあさんが桃を食べようと桃を切ってみると、なんと、中から元気の良い男の赤ちゃんが飛び出してきました」

シンジ「僕は桃から生まれた!!!碇シンジです!!!」

冬月「やったな、碇。男の子だぞ」

ゲンドウ「ああ。我々の計画通りだ」

カヲル「おじいさんとおばあさんは桃から生まれたので、桃太郎と名づけました」

レイ「え……」

カヲル「桃太郎はスクスク育って、やがて強い男の子になりました。そしてある日、おじいさんは桃太郎を呼び出しました」

シンジ「な、なに、父さん……?」

ゲンドウ「鬼が島に行け」

シンジ「え?何言ってるの?僕には無理だよ、そんな急に……」

ゲンドウ「やれ」

シンジ「なんだよ!!いきなり呼び出して!!どうしてそんなこと言うんだよ!!」

ゲンドウ「行くなら行け。でなければ、帰れ!!」

シンジ「そんなのできるわけないよ!!!」

ゲンドウ「……そうか。ならばもういい。お前は用済みだ」

シンジ「……っ」

カヲル「桃太郎は強い子です。おじいさんにこう言われると、逃げちゃダメだと自分に言い聞かせます」

シンジ「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……。―――行きます。僕が行きます!!」

カヲル「こうして桃太郎の鬼退治の旅が始まりました」

レイ「……」

カヲル「桃太郎は旅に出る前、おばあさんに三体のエヴァを貰いました」

冬月「困ったときは、この3機のエヴァを使え」

シンジ「はい。分かりました」

カヲル「そうして、桃太郎は出かけました。そんな旅の途中で桃太郎は犬と出会いました」

アスカ「桃シンジ、どこに行くのよ?」

シンジ「ちょっと鬼が島まで」

アスカ「ふーん。じゃ、その後ろのトレーラーに積んでるエヴァを1機くれたら、お供してあげてもいいわよ?」

シンジ「うん、いいよ。どれがいい?」

アスカ「そうね……。この赤い奴でいいわ」

シンジ「じゃあ、それに乗ってよ、犬アスカ」

アスカ「わんわん」

カヲル「桃太郎は犬をお供にし、旅を続けます」

レイ「……」

カヲル「次は猿に出会いました」

マリ「ちょーっと、まった。桃太郎さん。なんかいい物もってるじゃない。どっか行くの?楽しい場所ならつれていってよ」

シンジ「鬼が島なんですけど……。楽しくは……」

マリ「えー?それって鬼と戦うってことでしょ?いいじゃん、たのしそー。私もいくー」

シンジ「いいの?」

マリ「勿論、無条件ってわけにはいかないけど……。そーだ、後ろのエヴァを1機くれたら、いいよ?」

シンジ「どうぞ」

マリ「やっりぃ。えーと……じゃあ、この機体にしようかなっと」

シンジ「じゃあ、行きましょう、マリ猿」

マリ「うきっき」

カヲル「桃太郎は犬と猿をお供にしました」

レイ「……」

カヲル「その次はキジに出会いました」

カヲル「よし。時は満ちた。行こうか」

レイ「……」

シンジ「君は?」

カヲル「カヲル。渚カヲル。キジさ」

シンジ「キジなんだ」

カヲル「どこに行くんだい?この先は終焉の岬。君が歩むべき道じゃない」

シンジ「僕は鬼が島に行くんだ」

カヲル「鬼が島?流石は桃太郎くん。世界を救うために始まりの扉を開こうというんだね?」

シンジ「……」

カヲル「わかったよ。僕も行こう。その代償として、君の持つ器を僕にくれるかい?」

シンジ「エヴァのこと?うん、いいよ。あと、1機しかないけど」

カヲル「構わないさ。これも運命だからね」

レイ「……」

ゲンドウ「こうして、桃太郎は犬と猿と雉をお供にして、鬼が島へと向かった……」

アスカ「ここが鬼が島。辛気臭い場所ね」

マリ「これぐらいのほうがスリルがあっていいじゃん?」

カヲル「絶望の園は桃太郎くんによって、希望の楽園に還元される。君ならできるよ」

シンジ「ありがとう、キジくん!!」

ゲンドウ「桃太郎一行が鬼が島に入ると、そこでは鬼たちが近くの村からぬすんだ宝物やごちそうをならべて、酒盛りの真っ最中だった」

ミサト「くぅぅぅぅ!!!サイコー!!このビールいけるわー」

リツコ「飲みすぎよ、ミサト?」

加持「そうだぞ、他の鬼たちに示しがつかないんじゃないか?」

ミサト「だーいじょーぶよー、これぐらい。ニンゲンなんてちょっち脅せば裸足で逃げ出すんだから」

マヤ「そうですね」

リツコ「そうね」

加持「確かに」

ゲンドウ「鬼たちが好き勝手に言うのを聞き、犬が怒った」

アスカ「がるる……食いちぎってやるわ……!!」

レイ「……こわい」

シンジ「よし、みんな行こう」

ゲンドウ「桃太郎の声でお供たちは一斉に鬼たちへ襲い掛かった」

マリ「ごようだ!ごようだ!!」

アスカ「おりゃぁぁぁぁ!!!!」

カヲル「さあ、パーティーの始まりだ」

ミサト「なんですって!?」

リツコ「ここまで侵入を許すなんてありえないわ!!」

ゲンドウ「犬は鬼の尻に噛み付き、猿は鬼の背中を裂き、雉は嘴で鬼の目をくり貫く」

アスカ「がるるるぅぅ!!」

ミサト「いやぁ!!やめて!!」

マリ「うきっきぃー」

リツコ「あんっ」

カヲル「サヨナラだよ。鬼さん」

加持「……ここまでか。短くてもいい夢が見れた。ありがとう、葛城……」

レイ「……」

シンジ「まだやるんですか?今の僕なら240秒もあれば鬼が島の半分は潰せますよ?」

ミサト「うぅ……」

マヤ「今の桃太郎ならやりかねませんね……」

アスカ「ふんっ。ま、この天才犬のアスカ様にかかればこんなもんね」

マリ「まだやるぅ?」

カヲル「無益な争いはしたくないんだ。もう抵抗はやめるんだ」

ミサト「わ、わかったわ。降参。降参するし、お酒以外のお宝も持っていっていいから、許してぇ」

ゲンドウ「全く反省の色を見せない鬼は手をついて謝った。心優しき桃太郎は、そんな鬼たちにこう告げた」

シンジ「なら、もうニンゲンに迷惑はかけないでくださいね」

カヲル「桃太郎くん、それだけじゃだめだ。ちゃんと釘を刺しておかないとね」

ゲンドウ「雉はそういうと槍を持ち、鬼に突き刺しました」

シンジ「カヲルくん!!」

カヲル「これでいいんだ。君がこの罪を背負うことはない」

シンジ「そんな……どうして……」

レイ「……」

ゲンドウ「桃太郎と犬と猿と雉は、鬼から取り上げた宝物をエヴァに背負わせ、元気よく家に帰りました」

シンジ「ただいま!!」

冬月「おお……帰ったか」

ゲンドウ「桃太郎……」

シンジ「鬼退治……終わったよ……」

アスカ「おめでとう」

マリ「おめでと!」

カヲル「おめでとう」

冬月「おめでとう」

ゲンドウ「おめでとう」

シンジ「……ありがとう!!」

ゲンドウ「そしてみんなは、宝物のおかげで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

レイ「……」

カヲル「じゃあ、キャスト紹介をしておこう。カヲル、キジ」

アスカ「アスカ、犬」

マリ「マリ、猿!うきっき!」

ゲンドウ「爺だ」

冬月「お婆さん役だ」

シンジ「僕、桃太郎!!!」

ミサト「鬼よんっ」

リツコ「鬼の家来」

マリ「家来その2です」

加持「その3だ」

レイ「……」

シンジ「おしまい」

カヲル「素晴らしいね、シンジくんの脚本は。でも、どうして終幕したのに会場は静かなんだろう。僕は不思議でならないよ」

シンジ「あ、綾波!!」

レイ「あ……。ブ、ブラボー……」パチパチ

シンジ「どうだった?会心の1作だと思うんだけど」

レイ「え……あの……」

アスカ「なによぉ?まぁだ、文句あるわけ?」

マリ「だからさぁ、桃太郎じゃなくてマッチ売りの少女にしようっていったじゃん。あっちのほうが感動できるって」

カヲル「グリム童話のほうがよかったかもしれないね。勿論、改訂される前のほうで」

アスカ「うぇー、悪趣味ー。シンデレラが怖い奴でしょ?」

カヲル「いい教訓だよ、あれはね。全てのリリンに知って欲しいぐらいさ」

ゲンドウ「どうだ、レイ。楽しかったか?」

レイ「えっと……」オロオロ

冬月「そうか。やはり、荒削りな演技では納得せんか」

ミサト「レイって意外と辛口なのね」

マヤ「はい。かなり、頑張ったんですけど」

レイ「あの……」

シンジ「綾波……ごめん。でも、今の僕にできるのは、これが精一杯なんだ。あとは題材を変えるぐらいしか……」

レイ「そ、そうじゃなくて……」

シンジ「なに?」

レイ「どうしてこんなことするの?」

シンジ「どうしてって、綾波に本を読んでほして……」

レイ「……」

シンジ「もしかして、迷惑だった?」

レイ「……」

アスカ「ぬぁんですって!?このアスカ様の演技を見て迷惑ってなによぉ!!!」

マリ「あちゃー、ほら、やっぱり、白雪姫とかのほうがよかったんだって」

カヲル「シンジくんの脚本に意見するなんて……。なんて、業の深さなんだ……」

シンジ「綾波……ごめん……。じゃあ、もうしないよ」

レイ「え……」

シンジ「みんな、ありがとう。今日は本当に助かったよ」

マリ「ま、次の機会があったらよんでー」

アスカ「あー、時間の無駄だったー。かえろー」

カヲル「さよなら」

シンジ「ミサトさんたちも遠いところからわざわざありがとうございました」

ミサト「いーのよ。でも、次に会うときは敵同士だからね?」

シンジ「はい」

冬月「さてと、戻るか」

ゲンドウ「ああ」

冬月「喉が渇いたな。茶でも入れよう」

ゲンドウ「ああ」

レイ「……」オロオロ

シンジ「それじゃあ、綾波。またね」

レイ「……」

シンジ「……」スタスタ

レイ「い、碇、くん……」

シンジ「え?」

レイ「……」

シンジ「どうしたの?」

レイ「綾波レイは、いつも貴方たちの劇を鑑賞していたの?」

シンジ「うん。週に3回は見てたよ」

レイ「そう……」

シンジ「勿論、演劇が出来ない週もあったんだけど、そのときの綾波は本当に凄かったよ」

レイ「凄い?」

シンジ「うん。もう涙とか鼻水とか顔から出るもの全部出しながら、僕にすがり付いてきて「劇、やってください」って頼まれて……」

レイ「……」

シンジ「でも、今の綾波はそこまで劇が好きじゃないみたいだし、もうやらないよ」

レイ「綾波レイは劇が……」

シンジ「好きだったんだ」

レイ「好きってそういうことなの?」

シンジ「そうだよ」

レイ「……」

シンジ「じゃあ、綾波。おやすみ」

レイ「……」

レイ「綾波レイは……本を読んで……劇も週に3回も見る……」

レイ「でも、私は違う」

レイ「……」

アスカ「ちょっと」

レイ「……」

アスカ「はい、これ」

レイ「これは?」

アスカ「泣いた赤鬼と桃太郎の絵本よ」

レイ「……どうして?」

アスカ「普通の本が読めないなら、こういうのから始めたら?」

レイ「……名前がある……『あやなみ れい』……?」

アスカ「それ、前の綾波レイが読んでたやつ」

レイ「……」

アスカ「じゃーね」

レイ「あ……」

レイ「……どうしたら……」

マリ「いやー、メガネ、忘れちゃったにゃぁ……。お、なにしてんの?」

レイ「これ、貰って……」

マリ「おー、それね。読んであげよっか?」

レイ「え……」

マリ「ほら、ほら、こっちおいで」

レイ「え、ええ……」

マリ「いい?いくよー?むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました」

レイ「……同じ話?」

マリ「違うのがいいって?じゃあねーそうだなーちょっとエロいのいってみようか?」

レイ「いい……」

マリ「お、良いの?じゃあ、読むよ。―――とある教会にとても美しいシスターが居ました。しかし、そのシスターは夜の教会でヌード写真を撮るのが趣味だったのです。そんなある日―――」

レイ「やめて………」

翌日

シンジ「おかえり」

レイ「碇くん……」

シンジ「どうかした?」

レイ「今日は何の劇をするの?」

シンジ「しないよ。ここに積んでいた本を元の場所に戻しに行こうと思って」

レイ「そう……」

シンジ「何かあったの?」

レイ「少しだけ……本を読もうと思って」

シンジ「綾波……!」

レイ「あと……劇も……」

シンジ「本当に?!」

レイ「ええ。そうしないとまた、あの人が来るから……」

シンジ「あの人?」

マリ「おーい!!今日はもっとどキツイのもってきたよー」

レイ「きた……」ササッ

シンジ「綾波?」

マリ「あれ?なんでわんこくんの背中に隠れるかなにゃー?」

レイ「碇くん……」

シンジ「綾波がまた、劇を見たいって言ってます。練習しましょう」

マリ「マジ?じゃあ、次はマッチ売りの少女ね!」

シンジ「分かりました」

マリ「んじゃ、今日は音読やめってことで。これはまた今度にしよっと。演劇が無い日の楽しみにとっておかないと」

レイ「……」ブルブル

シンジ「さてと、僕も脚本がんばらないと」

レイ「碇くん……」

シンジ「なに?」

レイ「必ず劇を……見せて」

シンジ「うん。がんばるよ」

翌日

カヲル「シンジくん」

シンジ「どうしたの?」

カヲル「エヴァの調整に入る。演劇は……中止だ」

シンジ「そっか……」

レイ「碇くん……だめ……」ギュゥゥ

シンジ「あ、綾波……?!」

レイ「劇……やって……おねがい……」

シンジ「そういうわけには行かなくなったんだ……ごめん、綾波……」

レイ「だめ……行かないで……劇を……」

カヲル「行こうか」

シンジ「うん」

レイ「あ……」

レイ「碇くん……」

マリ「お、いたいたー」

レイ「……!!」ビクッ

マリ「演劇中止だし、今日からは暫く私が本読んであげるから。前もずっとそうだったから、もう習慣だし」

レイ「や……」

マリ「今日は……ジャン!『溺れる女教師』ってやつ」

レイ「……」

マリ「これ、私のオススメ。前の子も感動して泣いてたなー」

レイ「……」ブルブル

マリ「んじゃ、いくねー」

レイ「……っ」ウルウル

マリ「魅惑の肉体を持つ女教師ヒカリが大勢の男子生徒の手によってとある場所へ連れて行かれる。そこは男の欲望だけが渦巻く男子便所の個室だった……」



碇くん。私は本を読まないわ。

本には怖いことしか書いてないから……。


おしまい。

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