ミカサ「……家族です」(35)

イアン「そうか、勘違いして悪かった。それじゃ作戦に戻るぞ」

ミカサ「……やはり恋人に見えますか?」

イアン「え?」

ミカサ「訓練兵時代からそう言われることは度々ありました。やはりそう見えてしまうようですね……」

イアン「アッカーマン?」

ミカサ「いえ、仕方ないことです。私とエレンの仲睦まじい様子を見ればそう思うのも無理はありません」

イアン「おい、作戦に戻るぞ!」

ミカサ「いいんです、イアン班長。私とエレンがラブラブカップルに見えてしまうは当然のことなのですから」

イアン「アッカーマン、悪かった。気に触ったのなら謝る。お前とイェーガーは全く恋人同士には見えない。だから早く作戦に……」

ミカサ「恋人同士に見えないんですか!?」

イアン「!?」

ミカサ「おかしい、そんな訳はない! 私とエレンはどう見てもベストカップルのはず……イアン班長、本当に私とエレンは恋人同士に見えませんか!?」

イアン「い、いや……恋人同士だと、思った……」

ミカサ「ですよね。それならいいんです」

イアン「アッカーマン、今は人類の命運がかかった局面だ。納得したなら早く……」

ミカサ「でもイアン班長、実は私とエレンは付き合っていないんです」

イアン「……そうか。それより作戦に……」

ミカサ「いえ、今はまだ、というだけで行く行くそうなることは分かりきっているのですが」

イアン「おい、今どういう状況かわかってるのか?」

ミカサ「わかっています」

イアン「よし、言ってみろ」

ミカサ「巨人によって壁が破られました。このままではウォールシーナ内が巨人に満ちてしまうので、巨人化したエレンが大岩を運んで壁の穴を塞ぐ作戦中でしたが、エレンが制御不能に陥った為、彼を回収するまでの時間を稼いでいるところです」

イアン「そこまでわかっていて何故……」

ミカサ「私が世話を焼くとエレンは嫌がってみせますが、彼は本当は嬉しく思っているはずなんです」

イアン「まだ続けるのか」

ミカサ「エレンは危なっかしくてついつい構ってしまうんです。確かに人前でイチャつくのは年頃の男の子には恥ずかしいのかもしれません」

イアン「そうか。話は作戦が終わったいくらでも聞いてやる、だから……」

ミカサ「でも訓練兵の身分ではなかなか2人きりになる時間は取れなくて……明日から今までよりも自由な時間が増えてエレンと過ごせると思うと胸が踊ります」

イアン「おう……その明日を守る為に今は作戦に戻ってくれ。頼むよ」

ミカサ「そういえば昔こんなことがありました」

イアン「アッカーマン、お前マジか」

ミカサ「木登りをしていたエレンが体制を崩して落ちてきたんです。なんとか受け止めることはできたものの、私は膝を擦りむいてしまいました」

イアン「アッカーマン見て、仲間が死んでる」

ミカサ「慌てるエレンに『こんな怪我、唾でもつけておけば治る』と言ったところ、エレンはすぐさま私の膝にしゃぶりつきました」

イアン「アッカーマン、聞こえてるか」

ミカサ「“濡れる”という感覚を初めて知ったのはその時です。10歳でした」

イアン「アッカーマン、赤裸々すぎるぞ」

ミカサ「このマフラーですか? そうです。エレンから貰ったものです」

イアン「聞いてないけど」

ミカサ「え? 『そんなのほとんど婚約指輪みたいなもんじゃないか』って、やめてください、そんなことはありません」

イアン「お前には何が聞こえているんだ」

ミカサ「訓練兵時代の私とエレンのエピソードも聞きたいですか?」

イアン「聞きたくない。お前の口からは『作戦に戻る』という言葉しか聞きたくない」

ミカサ「あれは対人格闘訓練の時でした……」

イアン「また俺の声は届かなかった」

ミカサ「エレンはアニと組んでいて……アニと言うのは私たちの同期なんですけど、あれは酷い女です。嫌がるエレンと無理やりペアを組んで接点を得ようとする狡猾な人間です。人間の屑です。機会があれば両手の指を切り落としてやりたい」

イアン「怖すぎるぞお前」

ミカサ「あの時アニはこともあろうにエレンに寝技をかけていました。体を密着させてです。私だってエレンが起きている時にはそんなことしてないのに……!」

イアン「寝てる時はしてるのか」

ミカサ「私は手近にあったライナーをアニに向かって投げ飛ばし、エレンを助けました」

イアン「ライナーってのは人名だよな? 名前からして男のようだけどお前はどんな筋力をしてるんだ」

ミカサ「で、でもっ……せっかく助けたのにエレンは『訓練の邪魔すんな!』って私を睨んでっ……う゛う゛う゛う゛う゛」

イアン「今度は泣き出したぞ。情緒不安定すぎるだろ」

ミカサ「……っく、照れ隠しだとわかっててもぉ……ううっ。やっぱり辛くてぇ……ううううう……」

イアン「お、おい泣くな。イェーガーも思春期なんだ、多めに見てやれ」

ミカサ「うっうっ……はい。すみません、取り乱しました」

イアン「よし、落ち着いたか? ならいい加減作戦にだな」

ミカサ「エレンから告白してもらうにはどうしたらいいと思いますか?」

イアン「んもう!」

ミカサ「エレンも私のことを好きに決まっているのですが、なかなか勇気が出ないみたいで」

イアン「誰だよこいつに才能与えたのは……」

ミカサ「私がリードしてもいいんですが、こういうのはやっぱり男のエレンを立ててあげるべきかと」

イアン「話が終わる気配を見せない」

ミカサ「いえ、“私がリード”“男のエレンを立てて”とはそういう意味じゃありません。やめてください。セクハラですよ」

イアン「頭大丈夫か? いや、大丈夫じゃないんだろうな……」

ミカサ「まあエレンがそういうことを望むなら私の方も吝かではないのですが、やっぱり手順を踏んでからというか……」

イアン「もう好きにしてくれ」

リコ「おい! 何タラタラしてるんだ!」

イアン「リコ! 助かった! アッカーマンを説得してくれ!」

リコ「そんなこと言ってる間にイェーガーが他の女に取られてもいいのか!?」

ミカサ「!!」

イアン「リコお前もか」

リコ「さっきから聞いてたけど、そんなことじゃイェーガーと恋人同士になるなんて夢のまた夢だな」

ミカサ「そんな! でもエレンだって私のことが好きなはず……」

リコ「ああ、今奴に1番近い女はお前だろう。だが他の女達がイェーガーを放っておくと思うか?」

ミカサ「それは……たしかに」

リコ「あいつはまだまだヒヨッ子だが確固とした目的のある目をしている。顔だって悪くない。いい男だと言っていいだろう」

ミカサ「当然です」

イアン「今は巨人化して顔の上半分がないけどな」

リコ「私の見立てではさっき話に出てきたアニってのもイェーガーに惚れている」

ミカサ「やはり……!」

リコ「ぼやぼやしてると周りの女共に持って行かれてしまうぞ!」

ミカサ「では……では私はどうすれば」

リコ「告白しろ」

ミカサ「!!」

ミカサ「しかし、心の準備が」

リコ「イェーガーはまだ若い。別の女に言い寄られたら心変わりしてしまうかもな。それでもいいのか?」

ミカサ「それは……それだけは嫌です!」

リコ「ならやることはわかってるな?」

ミカサ「はい! 告白します!」

イアン「よし、無事に帰ったら告白でもなんでもしてくれ。だから今は作戦に戻ろう」

リコ「そんな悠長なこと言ってられるか! 今だ! 今告白しろ!」

イアン「ええええええ?」

ミカサ「い、今ですか!?」

リコ「そうだ! 思い立ったが吉日だ!」

イアン「俺か? 俺が余計なことを言ったのが悪いのか?」

イアン「よし、無事に帰ったら告白でもなんでもしてくれ。だから今は作戦に戻ろう」

リコ「そんな悠長なこと言ってられるか! 今だ! 今告白しろ!」

イアン「ええええええ?」

ミカサ「い、今ですか!?」

リコ「そうだ! 思い立ったが吉日だ!」

イアン「俺か? 俺が余計なことを言ったのが悪いのか?」

ミカサ「ありがとうございます……背中を押して下さって」

リコ「気にするな。こう見えて私も女だからな。放っておけなかっただけだ」

ミカサ「では……伝えてきます」

リコ「ああ、行ってこい! いい報告を待ってる」

イアン「酒が飲みたい」

リコ「イアン、勤務中に酒はよくない」

イアン「お前今が勤務中だとわかってて……! いや、そうだな。すまん」

ミカサ「エレン!」

エレン「……」

ミカサ「私は! ……私は、エレンのことが好き。ずっと一緒にいたいと思ってる」

エレン「……」

ミカサ「エレンはどう……?」

エレン「……」

ミカサ「……」

ミカサ「アッカーマン戻りました」

リコ「ご苦労。どうだった?」

ミカサ「OKだと……! 嬉しい……夢のようだ……!」

リコ「そうか! やったなアッカーマン!」

イアン「イェーガーと話せたのか!? 意思疎通ができたのか!?」

ミカサ「いえ、話はできませんでしたが全身からそういう雰囲気を醸し出していました」

イアン「……そうか」

ミカサ「あと……」

イアン「なにか進展があったのか!?」

リコ「どうした?」

ミカサ「『今夜は寝かさないぜ?』と言っているような空気を感じました」

リコ「ははっ、頑張れよアッカーマン! 避妊はちゃんとするんだぞ?」

ミカサ「は、はい!」

イアン「無駄死にだ。仲間はみんな無駄死にだ」

ミカサ「それと……」

イアン「今度はなんだよ……」

ミカサ「エレンが起き上がって大岩を運び始めました」

イアン「!?!?」

エレン「オォ……」

イアン「よかった……本当によかった……」

リコ「安心するのはまだ早いぞイアン! イェーガーを援護だ!」

イアン「そ、そうだな! 精鋭班、イェーガーを援護!」

リコ「まったく、こんな時に気を抜くなんてどうかしているぞ」

イアン「……すまん」

ミカサ「……ということがありました」

エレン「まったく覚えてねぇ……」

ザックレー「……なぜ今その話をした?」

ミカサ「あれからエレンと話す機会がなかったので、久々に会えて、つい」

ザックレー「そうか……関係のない話は控えるように。では裁判を続ける」

おしまい

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