勇者「魔王が弱すぎる」(178)

勇「はぁはぁ…ようやく辿り着いた…」

勇「先の戦いで犠牲になったあいつらのためにも」

勇「絶対に魔王を倒す…!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


勇「この先に魔王が……くっ!なんという禍々しい邪気なんだ…」

勇「だが…行くしかない…っ!!」グッ

.


ギギギギギィィィィ…バタン


勇「遂に見つけたぞ…!!」



勇「魔王オオオォォォォォォ!!!!」





魔「クックック…如何にも。我こそ数千万の魔物を麾下に置く…」
魔「世界の絶望の象徴、魔王である」
魔「よくぞ…ここまで辿り着いた勇者よ、褒めて遣わそう」
魔「しかし残りの仲間は既に息絶え、己の体力も僅かであり」
魔「さらに治癒の手段すら失った貴様に」
魔「一体、何ができるというのだ」

勇「ッ!……それでも俺はテメェを!」


魔「しかし…だ、幾戦の魔物を屠り、たった一人で魔物千体分の働きをする貴様を」

魔「ここで容易く葬ってしまうのは極めて惜しい…」

魔「そうだな…貴様が今ここで私の元に屈すると誓うのであれば…」

魔「世界の三分の一を貴様に分け与えてやろう」

魔「貴様にとっても悪い話ではないはず」

魔「今ここで無様に散るのか」

魔「それとも世界をその掌中に収めるのか」

魔「時間をやろう。よく考えてみるがy
勇「断る!!」

魔「」
魔「…随分と安直な考えをするものだな」

魔「良いか、もう一度聞く」

魔「我t
勇「断るッ!!!」

魔「きっ…貴様っ!自分が何を言っているか
勇「随分とゴチャゴチャうるせぇ魔王様だな…」

勇「俺は魔物に、テメェらに!親父も親友も恋人も戦友も」

勇「夢も希望も誇りも、全部殺されたんだ!」

勇「世界の三分の一?んなもんいらねぇよ」

勇「体力の限界?知るかよ、まだ俺の剣は死んじゃいねぇ」

魔「ちょっ…、えっ待って」

勇「だから俺は今ここで魔王、テメェを」

魔「待ってって…はな、話をだな」

勇「倒すッ!!!」ビュン

魔「うわあああああああああぁぁっぁあああっ!!!」ダッ

勇「うぉらぁあああああっ!!」


ゆうしゃ の こうげき


魔「いやあああああああああああああああっ!!!」ズルッ


勇「!?」カスッ

勇「ちっ…!外れたか……おい!魔王!正々堂々勝負しやがれ!」




勇「おい聞いてんのか!まお…」


魔?「」ピクッピクッ


勇「えっ」

.

魔?「………………はっ!」バッ

魔?「ここは………?」

勇「よう、起きたか」

魔?「!!ゆっ、ゆゆゆゆゆゆゆうしゃ!?」

勇「そうです私が勇者です」

魔?「あああああっあっあああっ…」ガクガク

勇「そんなことよりも…お前魔王か?」

魔?「いっ、如何にも、私がまおうです」

勇「なんでそんな幼女チックなの?」

ま「そっ…それはっ…」

勇「しかもさ…さっきのアレ、当たってなかったよな」

ま「……あっ、確かに当たってはいませんでしたけど…」

勇「…まさか、剣圧とか…いやまさか」

ま「……お恥ずかしながら…」

勇「け…剣圧で、瀕死?」

ま「……」コクン

勇「もう一度聞く」


勇「お前本当に魔王か?」

ま「そっ、そうです!私が…わ、われこそすうせんまんのまもっ、まものを

勇「うるせぇ、斬るぞ」シャキン

ま「うああああああああああっ!!!!すいませんすいませんすいませんすいません」ペコペコ

勇「はぁーーーーー…どうなってんだ一体」



~~~~中断~~~~~

勇「落ち着いたか?」

ま「はっ、はひっ」

勇「じゃあ、順を追って一から説明してくれるか」

ま「?なにを、ですか?」キョトン

勇「この状況以外になにがあるんだよ?」シャキン

ま「うわわわわわわわああああっ!すいませんすいまねん睡魔(ry」ペコペコ

勇「はぁ…話が前に進まん…」


~~~~中断~~~~

勇「で?」

ま「はい、まずこの世界を征服しようとして魔界からこの世界に降り立った、というのが」

ま「前魔王である私の父様なのであります」

ま「が、しかし突如退陣を宣言され、突如姿を消しました」

ま「そこで幼いながら魔王の一人娘である私に」

ま「白羽の矢がたった訳です」

ま「しかし私はまおうに抜擢されるまでただのんびりと生活していた訳で」

ま「当然、戦闘経験なんて皆無ですし」

ま「まして、生き物に向かって魔法すら放ったことがありません」

ま「そんな私をカバーしてくださったのが魔物の皆さんです」

ま「皆さんとても私を可愛がってくださってですね」

ま「『まおうちゃんの所に勇者の野郎が行かねぇように俺たちが全力で守ってやるからな!』」

ま「と、口を揃えて言ってくださいました」

ま「これが半年前の話です」

ま「ゆうしゃ…さん達の旅の中間地点に当たる頃ですね」

勇「…通りで急に魔物が強くなった訳だ」

勇「この城の中ボスが」

『まおうちゃんの所には…行かせぬ!』

勇「って言ってたのって空耳じゃなかったんだな」


勇「…で、あの部屋から感じたでかい魔力と、さっきのお前の魔王『らしい』姿はどうなってんだ」

ま「えっとあれはですね…父さm…父が未熟な私のために遺してくださった」

ま「ちょ…っと待ってくださいね」ゴソゴソ

ま「あ、あった」


タッタラタッタターッタター
ま「魔王(元)の魔力発生器~」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

勇「!」

ゆうしゃ の こうげき  ザシュ


魔王(元)の  /  魔力発生器 スパッ

ボカン!


ま「ああああぁっぁ!ななななんてことするんですかっ!!」オロオロ


勇「はぁはぁ…こんな無防備な時に近距離で魔王級の魔力を食らったら」

勇「勇者とは言え人間だからな。消滅するだろうが馬鹿野郎が!」ポカッ

ま「いっ痛いいいいぃぃぃ…ゆうしゃさんが出せって言ったのに…」ヒリヒリ

勇「出せとは言ってねぇよ出せとは」

勇(なんで俺は魔王城で魔王と仲良くじゃれあっているんだろうか)

勇「はぁ…」

勇「はい。で、あの姿はどうやって創り出した?」


ま「わ…私も端くれとはいえ一応王族に身を置くものですから」

ま「魔力の才というものも多少は持っているようで」

ま「あのような外見だけの変化の術であれば、ある程度形にはできるのです」

勇「はぁーなるほどな…」

ま「…質問は以上でよろしいでしょうか?」

勇「ん…まぁとりあえずはな」

ま「…そうですか、ならば私はこのあたりで失礼を…」

勇「おお、そうか、ありがとうな」

ま「…!いえいえっお役にたてて何よりですっ!それでは失r
勇「…と、逃げられるとでも思ったか?」

ま「ひいいいいぃぃぃ!!!」ブルブルブル

勇「俺がこの城に命を懸けてまで来た理由は」

勇「お前、魔王を倒す事だ」

勇「しかしまぁ、魔王がこんなちっちゃな女の子みたいだと」

勇「達成感どころか罪悪感が残りそうだ」

勇「よし、まおう」


勇「お前、俺が鍛えてやる」

ま「え…えっ!?」

勇「そんでもって強くしてからテメェを殺すことにする」

勇「だから、強くなれ。俺に殺されるためにな」

ま「ちょ…どっ、どういうことでしょうか…」

勇「これは強制だ。従わんというならここで」

勇「殺す」ジャキ

ま「わあああああ!はい従います!強くならせていただきますっ!」オロオロ

勇「ふぅ…じゃあ行くぞ」

ま「はっ…はい…」

勇「その前にその尖がった耳と牙と、あと尻尾、隠せ。できるだろ?」

ま「わっ…わかりまひた」


ま「よ…っと」パーッ

ま「できました…」

勇「よし、じゃあとりあえず魔王城間近の町へ行こうか」ゴソッ

勇「転移」シュ


スタン

勇「よし、着いたな」

ま「わわわ…ニンゲンの町だ…」オロオロ

勇「落ち着け」

民「勇者様!ご無事でしたか!!」

勇「ああ、ただいま帰りました」

民「…っ!まさか他の皆さんは…」

勇「…残念ながら最上階を目指す中途に」

民「そうですか…しかしお帰りになったということは魔王は」

ま「」ビクッ

勇「…残念ながら魔王の姿はありませんでした、しかし囚われていたとみられる」サッ

ま「わっわっ」オロオロ

勇「少女を保護しました」

民「こんなに小さな子までも……くっ、魔王め…!」

勇「とりあえず、またこの町に滞在するつもりです」

民「はい、部屋の方は無料とさせていただきますので」

民「是非ともゆっくり疲れをお取りください」

勇「ありがとうございます。それでは」

勇「おい」

ま「はっ…はい!」

勇「今のお前はとても魔物には見えねぇから安心しろ」

ま「……」


ま「この町すごく荒れてますね」

勇「ああ」

ま「それって魔物が攻めてくるからですよね」

勇「ああ」

ま「…ということは魔物の頂点に立つ魔王である私のせいでもあるってことですよね」

勇「そうなるな」

ま「そんな…そんな所に私がお世話になってしまうのは…」

勇「別にここに留まりたくないというのならそれでもいい」

勇「その時はここでお前を斬る。それだけだ」

ま「…ッ!……わかりました…従います…」トボトボ

勇「そうか」

ガチャ
勇「今日はとりあえず一旦休もう」

勇「お前もだろうし、俺もなんだかんだで限界だからな」

勇「部屋は一緒になるが、問題は無いか?」

ま「はい…大丈夫です」

勇「よし、じゃあ俺はもう寝る」バフッ


ま「おっ、おやすみなさい」ソーッ

勇「言い忘れていたが、お前の気配くらい寝てても感じ取れる」

勇「無断で部屋も出ていこうとしたら…いいな?」

ま「…!!ははははいっ!肝に銘じますっ!」バッ

勇「……まぁいい。お前も早く寝ろよ」ゴロン

ま「…」


ま「」トテトテ

ま「」バフッ


ま(皆…皆死んでしまった…八岐大蛇さんも…デーモンさんも…皆)

ま(皆は命がけで私を守ろうとしてくれたのに…私はただ黙ってゆうしゃさんに捕まって)

ま(私はまおう、まおうなのに…挙句の果てに情けまでかけられて)

ま(……これじゃあ皆に顔向けできないよぉ…)ジワッ

.


勇(皆…皆死んでしまった…戦士も、魔法使いも、僧侶も…)

勇(やっとここまで生きてやってこれたのに…皆…俺が魔王を倒すと信じて)

勇(俺は勇者、勇者なのに…魔王に情けすらかけて)

勇(…こんなんじゃ皆に顔向けできねぇよ…)


勇「…」チラッ

ま「」ウッ…ヒクッ…

勇「はぁ…」


勇・ま(なにやってんだろう…)

.

チュンチュン

ま「…ん」ムクッ

勇「おはよう」

ま「……ああ、ゆうしゃさん、おはようございましゅ…」

勇「…目覚めは良好か?」

ま「んんー!すごく気持ちいいですねこのベット!」

ま「まだ寝れますよ~」バフッ

勇「…そうか」

勇(昨日の夜…泣いていた気がしたんだが…)

ま「~♪」フカフカ


勇(…切り替えはえー、幼いってすげぇわ)

勇「よし…じゃあ飯食ったらさっそく行くか」

ま「ん?何にですか?買い物ですか?」ゴロゴロ

勇「斬r ジャキ
ま「はははいっ!!すぐ準備しますですはいっ!」バッ

はじまりの町


勇「やってきました、はじまりの町」

ま「わーい」パチパチ

勇「ここで弱い魔物と戦ってレベルを上げてもらいまーす」


ま「…えっ?」

勇「なんの疑問だそれは」

ま「ゆうしゃさんが直接指導してくれるのではないのですか?」

勇「剣が当たらずとも死にかけるのに俺とどうやって手合わせを?」

ま「うっ…そっそれでも!あの…戦い方とかをですね…」

勇「この完全レベル制の世界で戦い方なんぞ関係ない」

勇「必要なのは経験値だけだ」

勇「そして経験値は戦闘を行うことでしか得られない」

勇「ようするにお前は戦うしかないわけだ」

勇「ドゥーユーアンダースターン?」

ま「そっそれなら…ゆうしゃさんと戦って、ゆうしゃさんがただ立っているだけでいれば…っ!」

勇「俺を倒したら意味ねぇだろ…というか俺を倒せると思ってんのか」


勇「…まぁ百聞一見だしな、丁度いい」

勇「俺とお前の戦力差を見せてやる」

勇「なにもしないから好きなだけ攻撃してこい」


ま「はっ、はひっ!わかりました!それでは…!」

ま「やっ!」

まおう の こうげき

ミス!


ま「たあっ!」

まおう の こうげき

ミス!


ま「えいやっ!」

まおう の こうg



~~~~10分後~~~~


ま「」ヒューヒュー
勇「まさか1ダメージも与えられんとは…」

勇「…まあいいか、これでわかっただろ」


勇「今のお前に俺を倒すのは不可能だ」

ま「…そんなっ…でもっ!」バッ

勇「いくらお前でもスライム相手に負けることはないだろう」

ま「待って…!まだ方法があるはずです…」

勇「どうしてそんなに魔物と戦いがらない、同族だからか?」

ま「そんなの当然じゃないですか!」

ま「皆…皆優しくて…いい方たちなんです…」

勇「だったらなんだ?人間でも殺すか?」

ま「そっ…それは…」

勇「人間は魔物に比べて連帯意識が高い」

勇「もしかしたらお前でもガキの一人くらい殺せるかもしれない」

勇「だが間違いなく捕縛され、後に魔物であることも暴かれるだろう」

勇「そうなればお前は子供に化けて国民を殺めた魔物ということになる」

勇「当然処刑は避けられん」

勇「殺されるんだ」

勇「何千人の国民の前で凄惨にな」


ま「……ッ!」ビクッ

勇「例え、一人殺して逃げ果せたとしても」

勇「その繰り返しでレベルを上げるまで何年かかるか知らんが」

勇「それでもいいのであれば止めはしない」


ま「…うっ…」


ま(私にニンゲンを殺せるだろうか)

ま(でもお世話になった皆を殺めるよりは…)

ま(…覚悟を決めて!私!)



ま「…わかりました」


ま「私はニンゲンを…殺します」

勇「…そうか」

勇「なら、日没の頃に迎えにくるから」

勇「いいか?逃げようなんて考えんじゃねぇぞ」

勇「じゃあな」ザッ




ま「…よしっ」


町内


ま「小さい子…」トコトコ



ワーワーキャーキャー!

ま(……いた!)
ま(1,2,3…4人も…)
ま(う……ううん!私はまおうなんだから!)

ま(ゆうしゃを倒すためなんだもん!)

ま(だっ…だからっ…!)ドキドキ

ま「」ドキドキ

ま「」ドキドキ

ま「」ドキドキ


ま「よs  子「ねぇ、何してるの?」

ま「うひゃああああああああああ!!!!!??」ビクッ

子「うわあっ!」ビクッ

ま「ななななっなんですか!?!?」

子「いっ、いや…ずっと僕たちのこと見てたから…」

子「一緒に、遊びたいのかなって…」

ま「なっ…!!」

ま「ちっ違います!私はあなっ、あなた達を」

ま「殺しに来たんですっ!!!」


子「……へっ?…」


ま「………ああっ!!」

ま(かっ陰からコソッと倒すつもりだったのにっ!)

ま「えっ…えっと、その…」



子「あははははははははははっ!」

子「キミおもしろいねっ!」

ま「……へっ?」

子「キミこのあたりの子じゃないよね?」

子「でも大丈夫だよ、皆すごく優しいんだ」

子「絶対に仲良くなれるよっ!」

子「さっ、皆で遊ぼ!」グイッ

ま「ちょっちょっ、いや、そんなつもりじゃなくて…」ズルズル

子「いーよーいーよ、恥ずかしがらなくてさ」グイグイ

ま「ま、待って…話を…」ズルズル

子「皆ー!この子が一緒に遊びたいってー!」


ワーカワイー!
ヤッタ!オンナノコガフエタァ!
オナマエナンテイウノー?


ま「えっ…えっとそのぉ…」

ま(なんでこんなことになってるのー!?)アセアセ


ま(…いや、逆にこれはチャンス…?)

ま(遊んでると見せかけて…油断させて…一人ずつ…)


ま(消す!)ドンッ




カァーカァーカァー


子「じゃあまたね!」

ま「さよーならー!また遊びましょうねっ!」ブンブン


勇「…なにやってんだ」

ま「ひくっ!」ビクッ

勇「…それで今日は何人殺したのかな?」

ま「え…えっと…それは…」アセアセ

勇「はぁ…」


勇「まあいい、帰るぞ」

ま「はっ、はい!」

勇「それと、明日からは」


勇「魔物と戦ってもらうからな」


ま「…えっ?」

勇「お前は今日自分で決めたことを守らなかった」

勇「だから俺の言うことに従ってもらう、当然だろう?」

ま「あっ明日は…やりますからぁっ!」



勇「一応言っておく」

勇「俺はお前を赦した訳じゃないんだ」

勇「殺そうと思えばいつでも殺せる」

勇「お前は自由の身なんかじゃない」

勇「そのことをよく覚えておけ」



ま「………はい」

Lv.1 はじまりの町


勇「それじゃあ始めようか」

ま「…」

勇「ここら辺りでスライムが出るはずだ」


デデン!
スライム が あらわれた !


勇「ほらきた」

ス「おっお前は勇者っ!なんでこんなところにっ!」

勇「よぉ」

ス「く…くそっ!俺の命もここまでか…!」

勇「ははっ、いまさらスライム一匹倒したところで1mmも経験値になんねーよ」

勇「今日お前と戦うのは」グイッ

勇「こいつだ」

ま「……ツ!」


ス「…誰だこの小娘?お前の新しい仲間か?」

勇「あれ?知らないのか?まぁ無理もないか」

勇「こいつ魔王だぞ」


ス「………はぁ?」

ス「どうした、あまりの旅の辛さに頭がおかしくなったか」

勇「殺す」シュッ


スライム は にげだした!


しかし まわりこまれた!



ス「わあああああすいませんすいませんすいません」ガンガンガン

勇「…まあコレ見て信じろって方が無理な話か」

勇「ほら、元の姿に戻ってみろ」

ま「……」コクン

ま「」パーッ


ス「…!この小娘、魔物だったのか!?」

ス「確かに魔王様の面影がある…」

ス「そういえば魔王様が退任して新しいまおう様が誕生したと…」

ス「……ということは…」


ス「ああああああ!」スザーッ

ス「すいません!小娘とか生意気言いましたッ!まじすいません!だから小指だけは勘b(ry」ガンガン

ま「……ッ」


勇「まあまあ、今のこいつLv1だから、頑張りゃお前でも勝てるかもしれないぞ」

ス「なっ…!…そういえば何故まおう様が勇者なんかと一緒に…」


ス「…!まさかっ…!」

ス「まじすいませんでした」


勇「…はぁ、あまりにもコイツが弱いんでな」

勇「魔王城で拉致って捕虜にした」

ス「くっ………そういえば俺とまおう様が戦うと言ったな」

ス「それはどういうことだ?」


勇「どうもなにも、コイツは弱すぎる」

勇「俺どころか、一兵士にも瞬殺されるぐらいにな」

勇「だから俺と戦えるまで強くなってもらう」

勇「そのためにはレベル上げが必要なわけだが…」

勇「コイツに人は殺せなかった」

勇「だから魔物と戦わせる」

勇「そういうことだ」

ス「…そんな!……まおう様…それでいいんですか!?」

ま「……!」ビクッ

勇「おいスラ…」


ま「…そんな訳、ないです…」

ま「なっ仲間を…殺したいわけないじゃないですかぁ!」ポロポロ

ま「でもっ…だからといって私は…ニンゲンも殺したくないんです…」ポロポロ

ま「前はニンゲンを殺そうしました…敵だから、やれると思ったんです…」

ま「でも…っ!…皆優しかった…温かかった…」

ま「あんなに良い人たちを私は…殺せません…」

ま「魔物も…ニンゲンも…私には誰も…」

ま「……殺せません…」ポロポロ

勇「……そうか」



勇「もういいや」

勇「ここでお前を殺す。」

勇「それで終いにしよう」シャキン


ま「うっ…ぐすっ…は、はい…」ポロポロ

勇「じゃあな、まおう」ブンッ



ス「…待てよ!」

勇「!」グッ


ま「…スライム、さん?」


ス「まおうさま」

ス「…俺を、殺してください」

ま「えっ…?」

ス「あなたは俺たちの希望だ」

ス「この野郎、勇者を倒すのはあなたにしかできない」

ス「俺たちの野望は勇者を倒し、世界を征服すること」

ス「そのために、あなたはここで死んじゃあダメだ」


ス「だから」

ス「俺を殺して、勇者を倒すための礎としてください」

ま「そんな…ッ!できない!できないよっ!」

ス「まおう様ッ!!!」

ま「…っ!」ビクッ

ス「ご決断を」

ス「今ここで全てを諦め、魔物達を絶望の淵へ叩き落とすのか、それとも」

ス「お…私の命を以て、勇者と戦い、そして」

ス「魔物達を希望の光へと導くのか」

ス「どちらも…あなたにしか決められないことです」

ス「ただ俺…わた…俺は!」


ス「あなたには生きていてほしいのです、まおう様」ニコッ


ま「……うっ」


ま「ううううううううううううっ!」ポロポロ

ま「わかりました…私はスライムさん…あなたを」


ま「殺させていただきます…っ」

ス「……はい」フッ


勇「おい、これでいいのか?」

ス「なぁ勇者」

勇「うん?」

ス「お前の方が魔王に相応しいよ、この屑野郎」ギロッ

勇「……はは、かもな」


ス「さぁまおう様、いつでも来てください」

ま「…はぁはぁはぁはぁ」バクバク

ま「………………」

ま「あああああああああああああっ!!!!」ダッ

~~~~30分後~~~~



ま「…はぁはぁ」ボカッ

ス「…ぐっ!」ズサッ

勇「…そろそろか」

ま「はあああああっ!」ボカッ

ス「うわああぁぁ!」グラッ


ス「へへっ、やりましたね…まおう様」バタン

ま「…!スライムさん!スライムさんっ!」ギュ



ス「…いつかきっと…必ず…勇者を倒して」

ス「皆が恐れる魔王様になって…世…界を…」

ス「」



ま「スライムさん…?」

ま「いや…」


ま「アアアアアアアアアアアアアアアア!」

ま「スライムさん!?スライムさんっ!!!!」


ス「」


フッ


ま「!?」

勇「…死んだ魔物は消える。そういうシステムだ」

ま「やっ……やだぁ、ス…スライムさん…っ、ごめんなさいごめんなさい」ポロポロ

ま「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」ポロポロ



テレレレッレレレー!

まおう は レベル が あがった!



テレレレッレレレー!

まおう は レベル が あがった!




勇(スライムを倒しただけでレベルが2つも上がるとは)
勇(流石まおう…と言ったところか)

勇「おい、まお…」

ま「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

ま「ごめんなさい…っ」ポロポロ



勇「…はぁ、今は放っておくか…」




カーカーカー


ま「…」パンパン

勇「…何作ってんだ?」

ま「…スライムさんのお墓です」

勇「これからもっと魔物を殺していくんだ」

勇「そんなもの一つ一つ作っていってもキリがないぞ」

ま「いいんです、それでも私はここをお墓にします」

ま「これから私のために散ってしまうであろう魔物さん達の」


ま「ゆうしゃさん」

勇「…なんだ?」

ま「私、決めました」

ま「もう戦うことから逃げません」

ま「そして、いつか、絶対に」


ま「ゆうしゃさん、あなたを」


ま「殺します」



勇「!」ゾワッ

勇「…そうか、その日が早く来ることを祈るよ」

ま「…はい。それでは」


ま「帰りましょうか」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Lv.3 はじまりの町


ま「……ということなんです」

スライムB「なるほど…」

B 「…わかりました。協力しましょう!」

ま「…本当にすいません」

ま「私が不甲斐無いばかりに…」

B「いえ…、これも勇者を倒すためだというのなら」

B「私は喜んでその生贄となりましょう」

ま「……ありがとうございます」ペコッ


ま「では」グッ


ま「はああああぁぁっ!」ズバシッ

ス「ぐはぁっ!」ズドーン フッ



テレレレッレレレー!

まおう は レベル が あがった!



勇「おおっ、スライム程度なら一撃か」

勇「今日はここで戦って明日には別の町に行こう」

ま「…はい」

.


ま「たあああっ!」ズシャ

O「ぬわーーっっ!!」ドサッ


テレレレッレレレー!



勇「よし、一休みしようか」



飯屋

ま「そういえば、ゆうしゃさん」

勇「なんだ?」モグモグ

ま「ゆうしゃさんのご両親はこの町にいるんでしょう?」

ま「会いに行かなくて、いいんですか?」

勇「……お袋には旅立つときに随分心配をかけた」

勇「中途半端に顔見せて、また出ていくなんて言ったら」

勇「余計な心労になりかねん」

勇「それに言ったろ?」

勇「親父は死んだよ。この町の恋人も親友も、な」

ま「あ……す、すいません…」

勇「…俺も数えきれないほどの魔物を屠ってきた」

勇「お前が謝ることないさ。おあいこだ」

ま「…」

勇「さて、そろそろ戻るぞ」

ザシュ


テレレレッレレレー!



勇「すげぇな…」

勇(たった一日で15レベルまで)

勇(しかも相手は最弱のスライム)

勇「…こりゃ最終決戦の日も近いな…」



ま「……」

勇「よし今日はこれで帰ろう」

ま「はい、その前に」

トコトコ

ま「……27匹」

パンパン

勇「まじで倒した全員分作る気なんだな…」

勇「…はぁ、まあいいか…」



勇(俺が勇者として旅立ったのは今から2年前)


前勇者であった俺の親父の魔王討伐が失敗してから15年後。
自分が勇者の素質を受け継いでいるとも知らずに
幼いころから交友のあった、いわゆる幼馴染を妻として迎え、子供を授かり
平凡ながら満ち溢れてた生活を送っていた、そんなある日。
普段町の門を守っている衛兵の不在を突き、魔物の群れが市中へと侵入した
レベルは低い魔物とはいえ、一般の市民に対抗できる者もおらず
それが群れともなれば、その知らせが城へと届き、兵が町に下ってくるまでに
甚大な被害が及ぼさせることが誰にでも容易に予測できた

俺たち夫婦は家の中へと身を隠し、兵が到着するのを待った
そのまま数分が経過したが、あたりは沈黙に包まれている
痺れを切らした俺は窓から外の様子を窺がった
いや、窺がってしまったんだ。



目が、
たまたま通りかかった一匹の魔物と目が合った




すぐに体を翻し窓枠の下へと姿を隠した
やばい、逃げなければ。という危機感と
しかしどこへ。という絶望感
いや、もしかしたら俺の気のせいかもしれない、という逃避

三つ巴の感情が入り混じり、ただただ魔物が俺たちの気配に気づかないことを祈った
緊張と沈黙が、数分続いた。
体の硬直がだんだんと解け、ああやっぱり勘違いだったんだという
安堵感へと変わっていくのが分かった


しかし、この世界に神など存在しない




ガッシャーン!という破壊音が響き、ガラスを突き破って魔物が侵入してきた
この数分間で仲間を集めてきたのだろう

敵は5匹。
ダメだ、もう助からない。諦めよう


…しかし、妻といまだ胎内にいる子供はどうなる?
…一緒に死ぬのか、ああだめだ、そんな
嫌だ…そんなこと、絶対に…
やるしかねぇ、やるしか…
絶対に…守り切ってみせるッ!


俺はただひたすらにごく普通のナイフを片手に持ち
振って、斬って、刺して、抉って
そんなことを繰り返し、気付くと
真っ赤な5匹分の魔物の屍と、深紅色に染まった妻がいた。

震える妻に、もう大丈夫だよ、と手を差し伸べた
すると、妻は怯えまるで命乞いをするかのような瞳を俺に向けた

信じられなかった。先程まで魔物に向けていた瞳の色そのものを
今度は俺に向けてきていることに

…そんな、俺はお前を守るために戦ったのに…何故…


……ああ
魔物は、俺だったのか



ただ震え続ける妻と、ただ立ち尽くす俺の返り血をたっぷり浴びた姿の前に
城の兵士が姿を見せるまでそんなに時間はかからなかった



そこからは、記憶にあまりない

数日後に王からの召集の詔があり、
勇者としての素質を見出され、勇者として数人の仲間と共に
冒険へと旅立った
妻とは旅立つその日まで、一度も会うことはできなかった。

そしてその半年後、
親友であった友人と妻が、共に遺体として発見されたと知らせを受けた
町の外の山小屋で一夜を過ごしていた所を
夜間になり狂暴化した魔物に惨殺されたそうだ
遺体は全裸で、衣服はご丁寧にも畳まれていた

ということは、つまりそういうことなのだろう
悲しみは微塵も湧かなかった
ただ、あの時の妻の瞳だけが脳裏にベッタリと張り付いていた

それから…


「…しゃさん?」

「ゆう…さん」


ま「ゆうしゃさん!」

勇「あ…ああ、悪いな」

ま「終わりました、27匹の皆さんの分」

勇「そうか…じゃあ帰ろうか」

ま「はい」




あれから2年たった今でも考えることがある。


俺は本当に勇者なのだろうか


それとも

翌朝


チュンチュン

勇「…ん、朝か」

勇「おい…まおう、起きろ。まお…」



勇「えっ」


ま?「はふ…おはようございます、ゆうしゃさん…」



勇「…誰だお前」

ま?「はい?…まおうですけど?」

勇「お…おお、まじか」

勇「…成長はえーな、おい」

ま「ああ、これですか?」

ま「この前は2つしかレベルが上がらなかったのであまり変化ありませんでしたが」

ま「私の体はレベルが上がるごとに成長していきます」

勇「なるほど…そういうことは先に言ってくれ…」

ま「今はニンゲンで言うと…12才程の容姿でしょうか?」

勇「じゃあレベル上げまくったら婆さんになるのか?」

ま「いえいえ、上がるところまで上がったらしばらくは若々しい状態を保てますよ」

勇「へぇ~」

ま「これでも私も100年は生きてるんですからねっ!」

勇「なんだって」

某途中の町



ま「はっ!!!」ズバシッ

魔物「うぎゃあああああ!!」ズドーン



勇(まおうはみるみる内にレベルを上げていく)

勇(初めのような躊躇いはもうない)

勇(本気で俺を殺そうとしているようだ)


勇「……っはは」

勇(まおうが勇者を倒すために修練する)


勇「…どっちが勇者だって話だよ」

カァーカァーカァー



勇「…さて、今日もここまでにしようか」

ま「そうですね…」

勇「俺は帰るが…お前は?」

ま「はじまりの町まで戻ってお墓を作ります」

勇「…そうか、これ転移石」

ま「あ、大丈夫です、転移魔法、覚えましたから」

勇「わかった、じゃあ俺は帰るから」

勇「あまり遅くならないようにしてくれ」

ま「はい、それでは」パーッ
フッ


勇「……」

チュンチュン


翌朝


勇「…またでかくなってんな、お前」

ま「…う、そうですかぁ?」ポワポワ

勇「だんだんとその喋り方がきつくなり始める年頃だ」

ま「はわっ、そ、そうなんですか!?」

勇「はわっ、って…」

ま「ううう~精進します…」

勇「…中身はあんま成長しないんだな」

魔王城間近の町


勇「今日からはここでレベル上げをしよう」

ま「はい」


勇「じゃあ、俺はまた例に倣って見て…」デデン!

勇「おっ、丁度現れたみたいだ」


トロール「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」

勇「ここらあたりのは獰猛なのが多いからな」

勇「お前をまおうと認識してないみたいだな」


ま「……ごめんなさい」シュッ

ト「!?」ガクッ

バタン!…

テレレレッレレレー!


勇「!!」

勇(なっ…!!)


勇(俺でさえこの魔物は一撃で倒す事はできない)

勇(こいついつのまに俺のレベルを超えやがった…!)

勇(いや、違うレベル差はまだ広いはず…)


勇(……これが『魔王』の素質…)



勇「…やーべぇな…」

カァーカァーカァー


勇「まおう」

ま「あ、はい。…あの私は…」

勇「おう、早くな」

ま「わかりました。では…」フッ



勇「そろそろか…随分と早く来たもんだな」


ガチャ

ま「ただいま帰りました、ゆうしゃさん」

勇「おかえり」

勇「飯、そこに置いてあるから」

ま「あっ、ありがとうございます」

勇「なぁ、まおう」

ま「はい?」モグモグ



勇「今日で最後にしよう」


ま「……はい?」

勇「お前はもう俺と十二分に戦える力を付けた」

勇「これ以上俺も待つ必要はないと判断した」

勇「だから、明日明朝ここを発ち、」

勇「そして俺を、王座にて待て」


ま「…もう、ですか?」

勇「ああ、お前はもう強い」


ま「は…ははっ、そうですか…」

ま「わかりました」


ま「明日決着を、付けましょう」

魔王城


ギギギギギィィィィ…バタン



勇「いよいよだ」



勇「お前を殺す」



勇「魔王」




魔「…クックック…如何にも。我こそ数千万の魔物を麾下に置く…」

魔「世界の絶望の象徴、魔王である」

魔「よくぞ…ここまで辿り着いた勇者よ、褒めて遣わそう」

魔「と、まあそんな決まりきった定型文なんてどうでもいいんです」

魔「私の中にはあなたを殺すため、そして私の未熟のせいで犠牲となった」

魔「98匹の魂が未だ存在しています」

魔「私を信じて命を奉げてくれた仲間のためにも私は」


魔「あなたを殺す」



魔「勇者」ジャキン

勇「ははっ…言ってくれんじゃねぇか…」

勇「死ぬのはテメェだ…」

勇「魔王ォォォォォォォォ!!!」ダンッ!


ガキィン!!



勇「はああああぁっ!」ブンッ

魔王「…遅いですね」シュッ


勇「言ってろ…!」バチッバチッ

勇「おら!喰らえッ!」シュン


勇「百刃怒濤ッ!!」ガガガガガガガッ

魔「…」カカカカカカカン!!

勇「うるあぁぁぁああ!」ザンッ!

魔「…」ガンッ!


勇「!!」




勇「百連撃が全て…防がれただと…?」

魔「その程度ですか、勇者」

魔「今度はこちらから行きます」

魔「生き物は相手に使いたくは無かったのですが」

魔「全力でいきます」パーッ



魔「『雷の巻・第八拾九・滅』」バチィィツ!!

勇「なっ…」

勇(避けきれ…っ)


勇「ぐっああああああああああぁぁ!」ドォォン!

勇「…ぐっ」ドサッ



魔「…拍子抜けですね勇者」

魔「その程度ですか」

魔「…もう終わりにしましょうか」




勇「………ははっ」

魔「?」

勇「その程度…?つい先日までスライムに手古摺ってた奴が」


勇「笑わせんじゃあねぇよ!!!」シュン!

魔「!」

魔(はや…っ!)


勇「オラアッ!」ザンッ!

魔「くっ…!」サグッ

勇「オラオラオラオラオラァアアアアアアアア!!」ビュン!

魔「ぐっ…は」ザシュ


魔「…うっ」ヨロ

勇「終わんねェよ!!」バチッバチッ


勇「『緋凰絶翔斬』ッ!!」ズバッ



魔「ぐはぁ…ッ」バタッ

勇「この程度か?」

勇「拍子抜けだな魔王」

勇「そろそろ終わらせようぜ」




魔「うふふ…真似されちゃいましたね…」ヨロッ

魔「いいでしょう、私も」


魔「本気で行きます」ゴゴゴゴゴゴゴ


勇「行くぜ…」ヒュン


勇「魔王オオオオオオオオオオオオッ!!!」ダンッ


魔「勇者アアアアアアアアアアアアッ!!!」ダンッ




ザンッ!!

勇「」スタッ

魔「」スタッ



勇「」

魔「」



勇「」バタッ

魔「…」クルッ



魔「私の勝ちです…ゆうしゃさん」

勇「…ああ…負けたよ…まおう」

魔「勿体ぶらずにあの時殺していればよかったんです」

勇「…そうだなぁ…」


魔「……何故」

勇「うん…?」


魔「何故…力を抜いたのです…?」

勇「…あれ?…バレてたかぁ…」

魔「あの瞬間、斬れた筈です。私のことを…」


勇「…ははっ、…ちょっとだけ俺の話を聞いてくれるか?」

魔「…はい」

勇「俺はさー、勇者って世界の希望になれるモノだって思ってた」


でも実際は、ただの象徴でしかないんだよ
魔王を倒せるかどうかなんて問題じゃない
ただ、世界が一つになって敵に立ち向かっているっていう綺麗事の象徴


お前と一緒にはじまりの町へ戻った時
誰も俺の顔を覚えている奴はいなかった
一緒に食いに行った飯屋あるだろ?あの店は俺があの町にいた頃よく行ってた店なんだ
だが、あの店の店主もそう。
俺のことを覚えてないらしかった


お袋に何で顔を見せないのか、って聞いたな
あのとき言ったの、あれ嘘だ
本当は怖かった。お袋までもが俺の顔忘れてしまっているような気がして

そもそも魔王は勇者でなくては倒せない、なんてことを一体いつ誰が決めたんだ?


今までに一度でも魔王に挑もうとした軍隊はいるのだろうか?
俺は冒険の中で様々な立派な城と兵士を見てきたが
その中で魔王討伐を謳った軍は一度も見たことがない
必死なのは魔王城付近の町の民だけだ
だからこそ、俺のことを希望という光を通して見てくれる



それに皆わかってるんだ
魔王を討ったところで魔物が消えてなくなるわけではない
魔物はもう既にこの世界の生態系の一部として根付いてしまっている

だから本当は皆、魔王なんてどうでもいいんだよ

俺たちが旅立たされたのもただのパフォーマンス
俺たちはただの道化に過ぎなかったんだ
何度も何度も魔物を殺して、何度も何度も死にかけて

いたさ、命乞いをしてくる魔物も
そういう奴も例外なく皆斬った

そうすることが皆のためになると思ったから


けど、もう誰も俺たちになんて興味がなかった
俺に残ったのはただ魔王を倒さなければならないという使命感と
罪なき多くの魔物を殺してしまったという罪の重さだけだった

ただ俺たちはひたすらに魔王城を目指し、そして辿り着いた

もしかしたら期待していたのかもしれない
魔王という存在が実は俺が圧倒的に叶わないほど強くて
俺なんか一瞬で消し去ってくれるのを。



…そしたら、お前がいた訳だ

どうしていいかわからなかったよ
俺を殺してくれるはずの魔王はスライム以下の最弱。
俺は心底困った。ここでお前を殺してしまえば
俺に残るものはもうない

仲間も死に、ただ1%の達成感と99の虚無感を手に
誰も待っているわけではない町へと帰るだけ。

だから俺はお前を捕え、強くなることを強要した
結果的にお前は強くなり、こうして俺を殺そうとしている

勇「……だから、全ては結果オーライ。これでよかったんだ」


魔「ゆうしゃさん…」



勇「ぐは…ッ」ブシャ

勇「はぁはぁ…俺はもうダメだ」

勇「最期はお前の手で殺せ、魔王」

魔「そんな…」グッ

勇「その体の中には98の魂が籠ってんだろ?」

勇「なら殺せ、そいつらのためにも」

魔「…ッ!……はい」


勇「…悪かったな、まおう」

勇「俺のせいでたくさんの魔物を殺させてしまった」

勇「…本当に、済まなかった…」

魔「……いえ、いいんです」

魔「嫌な言い方ですが、こうして私が『魔王』でいられるのは」

魔「ゆうしゃさんのおかげですから」ニコ

勇「……ありがとう…」


魔「…では、いきます」

勇「…ああ、じゃあな」

勇「…お前と過ごした1週間悪くなかった」



魔「…」シャキン



魔「…さようなら」




ザクッ

.




(ああ、やっとだ、やっと解放される)
(ありがとう。『まおう』)



フッ





魔「……私も…ですよ…『ゆうしゃ』さん」ポロポロ


テレレレッレレレー!






.

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

十年後…


「あなたまで行ってしまうのね…ウッウッウッ…」


「そう言わないでくださいお婆様」


「お爺様と、お父上のためにも必ず」


「魔王を倒して見せます…!」








ギギギギギィィィィ…バタン

勇「遂に見つけたぞ…!!」


勇「魔王オオオォォォォォォ!!!!」

魔「クックック…如何にも。我こそ数千万の魔物を麾下に置く…」

魔「世界の絶望の象徴、魔王である」

魔「よくぞ…ここまで辿り着いた勇者よ、褒めて遣わそう」

魔「しかし残りの仲間は既に息絶え、己の体力も僅かであり」

魔「さらに治癒の手段すら失った貴様に」

魔「一体、何ができるというのだ」

勇「ッ!……それでも僕はお前を!」

魔「…まぁよい」

魔「かかってこい」ニヤッ


勇「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」タタタッ




魔「えっ」



fin

>>12と繋がってんのか

以上でした

見返したらなんとまあ辻褄の合わない&伏線の回収されていないことか
でも完結させられてよかったです
どうもありがとうございました!

意味わからないところ質問あったらどうぞー

>>157
最後のは普段結構勇者が弱くて魔王(女)がそれを育てるっていうSSを
見るのでそれに繋がる感じに、って思ったんですが
予想以上にわかりづらかったですね、すいません

んー・・素人意見だけど、
もう少し、魔王がなんで魔王をやっているのかとか
出ているとよかったかも。

>>165
前魔王を勇者父にしようかと迷ってたのですが
結局訳わからなくなって諦めてしまったわけですw
なので前魔王失踪。という謎設定だけ残されてしまいました
今後書く際は改善したいと思います
貴重なご意見ありがとうございました

叩かれそうだけど俺の中で勇者はずっとピッコロだった

>>150が一瞬全部魔王のセリフに見えた

>>167
ピッコロ…なんでや…

宣伝ですが最近では
女「くっ…!右手が疼く…!!」
http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1809852.html
とか書いてた人です
よかったら見てやー

>>168
あああ…やっぱり見づらかったですか
なんとか30に収めようとしたらこんな結果に
ありがとうございました

親魔王が失踪後に子が受け継ぐのは良いとして、
例えば、子が受け継がなかったら魔族同士で覇権を争って
分裂するからやむなく引き継いだとか、
魔物がなんで人間を襲うのか、人を襲わないと
魔物が絶滅してしまう何かがあったとか。
それを知って勇者も迷うとか。

でも、総じて好みの話ではあったよ
では乙でした

>>171
なるほど…そこを組み入れたらよかったのか…
ありがとうございます
やはり背景設定もきちんと考えて入れるべきなんですね
参考にさせていただきます
乙でしたー

では、ないようなので…
つまらない、って言いながらを最後まで
見ていただいてどうもありがとうございました
もっと質の高いSSを提供できるように日々精進したいと思います
では、おやすみなさい

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