伊織「心の中の、ハンドベル」(123)

立ったら書く

書き溜めてたらまさかの昨日被った新堂スレなので、暇なひとがいればお付き合いください

伊織「……」

からんからん、と。
手の中で『それ』をもてあそぶ度に、聞き慣れた乾いた音が響いた。


P「なんだ伊織、ぼーっとして。どうしたんだ?」

伊織「……別に。ちょっと、昔のことを思い出していただけよ」

P「へえ、伊織の昔のこと? ちょっと興味あるな」

伊織「それ、本気で言ってる?」

P「へ? ああ、本気だけど」

伊織「……いちから話そうと思うと、少し長くなるわよ?」

P「構わないさ。ちょうど時間もあることだし」

伊織「そうね。……じゃあ、こんな話から始めようかしら」

~~

いおり「しんどー!」タタッ

新堂「はいはい。どうしました、伊織お嬢様」

いおり「しんどーはいっつもおうちにいるけど、しんどーのおしごとってなんなの?」

新堂「私の仕事は、水瀬家の執事です」

いおり「ひつじ? しんどーは、ひつじさんなの?」

新堂「羊ではなく、執事です。水瀬家の皆様に誠心誠意ご奉仕するのが、私の仕事ですよ」

いおり「せーしんせーい……? いおり、よくわかんない!」プン

新堂「そうですね……。簡単に言えば、伊織お嬢様に幸せになってもらうことです」

いおり「いおりがしあわせになるのが、しんどーのおしごと? へんなのー!」

~~

おう、期待するぞ

~~

いおり「しんどー、またむずかしいごほんよんでる……」

新堂「それほど難しいというわけではないのですが……。なぜ、そう思われたのですか?」

いおり「だってしんどー、こーんなかおしてよんでるんだもん。こーんな」イーッ

新堂「そうですか、そんな顔をしておりましたか。これは申し訳ございません」

いおり「しんどーってぜんぜんわらわないわよね。いおりといてもたのしくない?」

新堂「いいえ、そんなことはございませんよ。ただ、笑顔のは苦手なものでして」

いおり「えー!? じゃあとっくんよ、とっくん! いつか、いおりがしんどーのことわらえるようにしてあげるね!」

新堂「ええ、楽しみにしております」

~~

~~

伊織母「誕生日おめでとう、伊織」

新堂「おめでとうございます、伊織お嬢様」

いおり「ありがとー! いおり、5さいになったんだよ!」

いおり「ぱぱにも、おいわいしてほしかったな……」シュン

新堂母「今日は伊織に、プレゼントがあるの。……いいわよね、新堂?」

新堂「はい」

いおり「わー、なんだろ! まま、あけてもいい?」

伊織母「ええ、いいわよ」

ビリビリ

いおり「これって…… りんりん?」


からんからん


伊織母「ええ、ハンドベルよ。それでね、伊織」

いおり「?」

伊織母「今日から新堂が、あなたの執事になるの。そのハンドベルを鳴らせば、いつでも新堂が飛んで来て、何でもしてくれるわ」

新堂「何でもと言いますと、語弊がありますが。誠心誠意、伊織お嬢様のお世話をさせていただきます」

いおり「せーしんせーい……。じゃあ、しんどーがいおりを幸せにしてくれるの……?」

伊織母「もちろん家のお仕事やお兄様たちのお仕事もしてもらうから、あんまり無理を言ってはだめよ」

いおり「ほんとにほんと!? やったー! わーいわーい!」


からんからん、からんからん

いおり「しんどー!」

からんからん

新堂「どうかなさいましたか、伊織お嬢様」

いおり「うわー、ほんとに来てくれたのね! すごいすごーい!」

新堂「……あの、ご用件は」

いおり「ううん、呼んでみただけよ!」

新堂「それでは、失礼致します」

バタン

いおり「あ、しんどー!」

からんからん

新堂「どうかなさいましたか?」

いおり「えへへ、やっぱり呼んでみただけ!」ニパ

新堂「……あまり用も無いのに呼ばれては、困ってしまいます」

いおり「え!? じゃ、じゃあ、いおりオレンジジュースが飲みたい……」オズ

新堂「かしこまりました。少々お待ちください」

新堂「お待たせ致しました」

いおり「わーい! ごくごく……。わ、これすっごくおいしい!」

新堂「それは良かった」

いおり「ねえねえ、これってしんどーがつくったの?」

新堂「ええ。どうしてお分かりになったのですか?」

いおり「だっていつものジュースよりすっごくおいしいもん! またたのんでもいい?」

新堂「勿論でございます」

いおり「にひひっ♪ やくそくね!」

~~

支援

~~

いおり「うそ……」

いおり「……どうしよ」

いおり「こんなことがパパやママに知られたら」

いおり「……しんどー」

いおり「でも……」

いおり「……うう」

からんから……ん

新堂「失礼いたします」ガチャ

新堂「おはようございます。お呼びですか、伊織お嬢様」

いおり「しんどー……。な、何でもない。やっぱり何でもないの」

新堂「左様でございますか。では、お着替えをお済ませになったら食堂の方へいらしてください」

いおり「……あの」

新堂「……どうなさいました?」

いおり「きょ、今日は自分でするから、部屋のお掃除はしなくていいわ」

新堂「は? しかし、それでは……」

いおり「いいから! とくに、おふとんは……」

新堂「布団、ですか? ベッドメイキングは私ではなくてメイドの方に」

いおり「それもいいの! 今日はいおりの部屋、誰も入っちゃだめ!」

新堂「かしこまりました。そう伝えておきます」

いおり「う、うん……。じゃあ、着替えるわね」ホッ



新堂「……あまり、寝る前にお飲み物を飲みすぎてはいけませんよ」

いおり「!?」ビク

新堂「シーツとお召し物は、私が綺麗にしておきます。置いておいてください」

いおり「う、うん……」カァ

いおり(どうして、分かったんだろう?)

~~

~~~

P「あはは、小さい頃の伊織っていうのも想像できないな」

伊織「何でよ? このスーパー美女の伊織ちゃんをそのまま子供にすればいいんだから簡単じゃない」

P「いや、見た目はともかく、純真な伊織っていうのは想像が……。あ、痛ててて!」

伊織「ど・う・い・う・意味かしら~!?」ギュウウ

P「分かった! 伊織が可愛いのは充分分かったから! それで、今持ってるのがそのハンドベルってわけか?」

伊織「……ええ。大切な、思い出の品よ」

P「なるほどなぁ」

~~~

~~

伊織「犬?」

新堂「ええ。旦那様が番犬代わりに飼ってはどうかと仰っているそうですが、どう思われますか?」

伊織「いいんじゃない? 一度、動物は飼ってみたかったもの」

新堂「左様でございますか。では、そのようにお伝えしておきます」

伊織「犬、ねえ……。可愛い子だといいけど」

新堂「番犬ですから、あまりその期待はしない方がよろしいかと……。ですが、名前くらいは決めておいても良いかもしれませんね」

伊織「名前……。うん、分かったわ」

??「」ハッハッ

伊織「お、大きい……」

新堂「番犬ですからね。ですが主人には人懐っこくなる、良い犬だと聞いていますよ」

伊織「お、おいで……」

??「くぅん……」テクテク

伊織「い、いい子ね。よし、お手!」

??「ワン!」ペタ

伊織「お座り!」

??「」ペタン

伊織「へぇ、この子本当にいい子じゃない! よし、アンタの名前は今日からジャンバルジャンよ!」

ジャンバルジャン「ワン!」

新堂「ジャンバルジャン……ですか?」

伊織「ええ。アンタが貸してくれた本の主人公から取ってみたの」

新堂「なるほど」

伊織「私を守れるような強い犬になりなさいよね、ジャンバルジャン!」

ジャンバルジャン「ワン!」

~~

伊織・自室

伊織「……はぁ」グテー

新堂「どうかなさいましたか、伊織お嬢様」

伊織「……別に」

新堂「お洋服のままで横になっては、皺になってしまいますよ」

伊織「そう、ね。はぁ」

新堂「どうなさったのですか? ご気分が優れないようなら、お医者様を」

伊織「……」フルフル

新堂「……ふむ。何か、嫌なことでもございましたかな」

伊織「!」

伊織「どうしてわかったの」

新堂「……あてずっぽうですよ」

伊織「そう。……少し、話を聞いてくれるかしら」

新堂「ええ」

しぇーん

伊織「これは、私の友達の話なのだけれど」

新堂「はい」

伊織「その子はね。わたしみたいに、かなり立派な家に生まれたの。お父様もお母様もお兄様まで、凄い人ばかり」

伊織「その子自身の器量も申し分ないのだけれど、そんな中で育ったものだから、ちょっとだけ素直になれないところがあるかしら」

伊織「『もう、アンタは私と違ってダメねぇ』なんて度々言っちゃうもんだから、ね。こないだクラスメイトに言われちゃったのよ」

新堂「…………」

伊織「『お前なんて、家の力が無かったら何の取り柄もねーよ!』ってね」

伊織「普通の悪口を言われるだけなら3倍にして言い返してやるんだけど、どうしても言い返すことができなくって」

伊織「思っちゃったのよ。本当に私自身に魅力が無かったらどうしよう」

伊織「この家に生まれていなかったら、私なんてなんの価値も無いのかしら、ってね」

伊織「新堂、あなたはどう思う? どうすれば、こんなことを言われなくなると思う?」

伊織「それとも、本当に魅力がないのだと思う?」ウル

新堂「…………」

新堂「伊織様がそこまで心配なさるということは、その『ご友人』はとても良い方なのでしょうな」

伊織「え、あ、うん。友人ね、そうね」

新堂「でしたら、何も心配することはございませんよ。私の仕える伊織さまのご友人に、魅力的でない方がおられるはずがありません」

新堂「私は伊織様が人として大変魅力的なお方だからこそ、こうして長年お仕えしているのですから」

伊織「そう、かしら……」

新堂「ええ。間違いありません」

新堂「ただし。その上で、その方が自分のことを磨く必要はあるでしょうな」

伊織「自分を、磨く……?」

4

涼ちんちんぺろぺろ

新堂「ええ。魅力は持っているだけでは意味がありません。自分はこんなにも魅力的なのだと、磨いて、磨いて、そして他人へと見せつける」

新堂「その努力を怠ることがなければ、何の価値もないなどと言われることなど、なくなるでしょう」

伊織「……」

新堂「そうして自分を高めてゆけば。ずっと伊織お嬢様のそばにいて、伊織お嬢様のことを信じ続け、裏切らない、そんな人に出会えるはずです」

伊織「……」

新堂「参考になりましたかな?」

伊織「え、ええ! ありがとう、新堂」

新堂「お役に立てましたならば光栄です」

~~

からんからん

伊織「新堂、いる?」

新堂「はい、ここに」

伊織「ちょっと聞いてほしいことがあるのだけれど」

新堂「はい、何でしょう?」

伊織「あのね。……私がアイドルを目指すって言ったら、アンタはどう思う?」

新堂「アイドル、ですか?」

伊織「ええ。パパの古い知り合いに、アイドルのプロダクションを経営してる人がいるらしいの。そこに紹介してもらうことができるって」

新堂「…………」

伊織「や、やっぱり変かしら?」

新堂「いいえ、素晴らしい考えだと思います」

新堂「……自分を磨こうと、よく考えた上での結論なのでしょう?」

伊織「もちろんよ。あ、で、でもこの間の『友達』の話は全然関係無いんだからね!」アタフタ

新堂「ええ、分かっておりますとも。応援しておりますよ」

伊織「にひひっ♪ この伊織ちゃんにかかれば、トップアイドルの座なんてすぐなんだから!」

~~

今日はいおりんスレが多くて嬉しいしえん

伊織「ああもう、なんで毎日毎日レッスンばっかりなのよ! この伊織ちゃんがステージに立てないなんて、あの社長の目は節穴なんじゃないの!?」

新堂「……伊織お嬢様。そんなことを言ってはいけませんよ」

伊織「だって!」

新堂「何事にも下積みの時代というのはあるものです。私も若い頃は、来る日も来る日も雑用ばかりという日がありました」

伊織「へ? ……新堂が?」

新堂「ええ。私は初め、下働きからこの水瀬家に勤めさせていただいたものですから」

伊織「へえ。それって相当昔の話なんでしょうね」

新堂「はい。伊織お嬢様が生まれる数十年前の話です。……ですが」

伊織「?」

新堂「あの頃が無ければ、今の自分はありません。信じられないような話かもしれませんが、一見無駄に思えた雑用でも、つい最近に役に立った知識だってありました」

伊織「……」

新堂「アイドルのレッスンがどういうものか、私は精通しているわけではありませんが。きっと伊織お嬢様も努力されているのでしょうし、ある程度の実力があるのだとは思います」

新堂「ですが、当たり前のことを当たり前にこなせない内は、まだまだ一人前にはほど遠いのです」

伊織「当たり前のことを、当たり前に……」

新堂「もう一度だけ、言わせていただきます。何事にも、下積みの時代というのはあるものです。それを耐えて来なかった者が、上の立場で満足に物事をこなすことはできません」

新堂「耐えるということは、とても辛いことではありますが……。今の伊織様には、それができるはずです。もう伊織様は子供ではなく、立派な淑女にご成長なされたのですから」

伊織「……ふん。分かったわよ。そこまで言うならもうちょっとだけ我慢してみることにするわ」

新堂「ご気分に障られたなら申し訳ありません。ですが……」

伊織「分かってるわよ。……新堂が私のことを思わないでこんなこと言うはず、ないもの」

~~

~~

からんからん

伊織「新堂! 新堂! いる!?」

新堂「どうしました、伊織お嬢様」

伊織「やーっと、初ライブの日が決まったのよ! 当然、新堂は見に来てくれるわよね?」

新堂「……見に行きたいのはやまやまですが、私には屋敷の仕事がありますので」

伊織「あ……」

伊織「そうだったわ。そりゃそうよね」

新堂「申し訳ございません」

伊織「ふん、別にいいわ!この伊織ちゃんのファーストライブを見られなかったことを公開しても知らないんだからね!」

~~

~ライブ会場~

ザワザワ

伊織(い……いけない。心臓がどきどきしてきちゃった)

伊織(まさか、緊張してるっていうの? この伊織ちゃんが?)

伊織(ふ、振り付けと歌詞、見直しておかなくちゃ。頭から飛んじゃいそう)

伊織(『当たり前のことを当たり前に』って。こういうことだったのね、新堂)

やよい「……おりちゃーん、伊織ちゃん!」

伊織「ひぇっ!? ど、どうしたのよやよい」

やよい「そろそろ出番だから、呼びにきたんだけど……。伊織ちゃん、だいじょうぶ?」

伊織「だ、大丈夫に決まってるじゃない! この伊織ちゃんがき、緊張なんてするはずないでしょ」

やよい「きんちょーしてるときは、手のひらに人って言う字を3回書いて飲み込むといいよ、ってお母さんが言ってましたー!」

伊織「だ、だから緊張なんてしてないってば!」

やよい「そうなの? だったら安心だね!」ニパ

伊織「う……。ま、まあ一応、アドバイスは受け取っておいてあげるわ。やって損になることでもないでしょうしね」

伊織(ひと……ひと……ひと……ごくん)

やよい「どーお、伊織ちゃん?」

伊織「なんか空気を飲み込んだせいか、より気分が悪くなったような……」

やよい「ええーっ!? た、大変! どうしよーっ!?」アタフタ

伊織「まあ、大丈夫よやよい。このくらい多分なんとかなるわ」

やよい「じゃ、じゃあ、観客の人たちを野菜だと思うっていうのはどう? 私はいっつもこれで緊張がほぐれるんだよ!」

伊織「へえ、野菜ねえ。それは面白いかも」キョロキョロ

伊織「……っ!」ピク

やよい「どうかしたの、伊織ちゃん?」

伊織「……なんでもないわ。でも、本当に緊張はほぐれたみたい。ありがとう、やよい」

やよい「それなら良かったですーっ!」

伊織「この伊織ちゃんがカンペキなステージを見せてやるんだから、そこでしっかり見てなさいよね! じゃあ、行ってくるわ」タッ






伊織(新堂の、うそつき。パパとママの説得には、どれくらいかかったのかしら?)

伊織(……でもこれで、緊張なんてしてる場合じゃなくなったわね)

伊織(新堂が見てる前で、ブザマなところなんて見せられないものね!)

ライブ後

新堂「お帰りなさいませ、伊織お嬢様」

伊織「ええ、ただいま。……それで、どうだったかしら? 私のライブは」

新堂「……私は屋敷の仕事がありましたので、見には行けないと申し上げた筈ですが」

伊織「あら、とぼけるつもりなの?」

新堂「何のことでしょう」

伊織「大体、あんな仏頂面でアイドルのステージを見る人が他のどこに居るっていうのよ」クス

新堂「……まさか、見つけられていたとは思いませんでした」

伊織「まあ、ちょっとした偶然でね。おかげで少し驚いちゃったわ」

新堂「左様ですか。それは申し訳ございません」

支援

伊織「と、ところで私のステージはどうだったかしら? お客さんは喜んでくれていたと思うんだけど」

新堂「私にはもったいないほどの、とても素晴らしいステージでございましたよ」

伊織「それにしては最初から最後まで表情を変えなかったわよね……」

新堂「いえ、そんなことはありませんよ。ただ、昔から笑顔は苦手なものでして。心から嬉しいときなどは、笑っているとは思うのですが」

伊織「それはまさか、この伊織ちゃんのステージが心から楽しめなかったと言っているのかしら?」

新堂「いいえ、滅相もない。遠かったから気づかなかっただけではないでしょうか」

伊織「……ふん。まあいいわ。今日はたかが始めの第一歩にすぎないもの。いつかトップの座まで駆け上って、アンタを満面の笑みにしてやるんだから!」

新堂「そのときを楽しみにしておりますよ」

~765プロ事務所~

春香「あ、そろそろ来るみたいだよ! みんな、準備はいい?」ヒソヒソ

亜美「ばっちりですぜ→」ヒソヒソ

真美「はるるんこそ、転んじゃだめだかんね!」ヒソヒソ

伊織「こらあんたたちうるさい! 気づかれたらどうすんのよ!」ヒソヒソ

雪歩「き、緊張しますぅ……」ボソボソ

真「へへっ、タイミングが大事だね」

千早「みんな、いくわよ。せーの」

ガチャ

やよい「おっはよーございまーす! ってひゃあああああっ!?」パーン、パーンパーン!

一同「やよい、誕生日おめでとう!!!」

響「ぺっぺっ。うー、ちょっとクラッカー多すぎたかな……」

美希「ミキはこのくらい派手な方が好きだなー」

やよい「な、何ですかこれっ!? 誕生日!?」アタフタ

あずさ「そうよ~。お誕生日おめでとう、やよいちゃん」

律子「みんなからのサプライズよ。勿論、プレゼントも用意してあるわ」

貴音「こちらにはケーキも準備しておりますよ」

やよい「うわー、すごーい! こんなにいっぱい、本当にもらっちゃっていいんですかぁ!?」

伊織「勿論よ。今日はアンタが主役なんだから、早く真ん中に座りなさい」

やよい「うん! 伊織ちゃんありがとー!」

伊織「そう言ってくれると、みんなで早く来て準備した甲斐があるってものね」

やよい「うん! 今日はいろんな人に祝ってもらえて、とっても幸せだよ!」

小鳥「いろんな人? 私たち以外にも?」

やよい「はい! 実は今日、出かける前に弟たちがこれをくれたんです!」

小鳥「これって……。まぁ、四葉のクローバーね」

やよい「そうなんです! 『姉ちゃんに幸せが来ますように』なんて言われちゃって。毎日川原ですっごく苦労して探してくれたみたいで、私本当に嬉しくって……」

伊織「へえ……。いい家族なのね」

真「参ったな、ボクたちのプレゼントが霞んじゃいそうだよ」

やよい「そ、そんなことないですよ!? みなさんの気持ちも、とーっても嬉しいです!」アタフタ

一同「あはははは……!」

やよいは天使だなぁ

HAHAHAHAHA

からんからん

伊織「新堂、先週の日曜日にやったライブの映像あるかしら?」

新堂「少々お待ちください」



新堂「ここに」

伊織「流してくれる?」

新堂「ええ。……復習ですか?」

伊織「そうよ。聞いて驚きなさい。律子ったら、この伊織ちゃんを新しいユニットのリーダーにするっていうの」

新堂「それはすごい。……なるほど、それで」

伊織「ええ。リーダーになるっていうのに、不甲斐ないところは見せられないからね。少しでも直せるところは全部直しておくのよ。あんたも何か気付いたことがあったら言いなさいよね、新堂」

新堂「ええ。……っ!」コホコホ

伊織「あら、やあねえ、風邪? 私は今が大切な時期なんだから、感染さないでよね?」

新堂「承知しました。心より気をつけます」

伊織「そうして頂戴」

雲行きが怪しくなってきましたぞ

~早朝 川原~

伊織「んー。エレガントな朝ね。空気が澄んでるし、最高の散歩日和だわ」

伊織「アンタもそう思うでしょ、ジャンバルジャン?」

ジャンバルジャン「ワン!」


やよい(毎日、川原ですっごく苦労して探してくれたみたいで……)


伊織「そういえば、やよいがそんなことを言ってたわね」

伊織「……時間は、まだたっぷりあるわね」

伊織「クローバーなんて、本当にそんなに見つからないものなのかしら? ちょっと試してやろうかしら」

伊織「…………ない」

ジャンバルジャン「」ハッハッ

伊織「…………無いわね」

ジャンバルジャン「」クゥン

伊織「あーもう! 全然見つからないじゃない! この伊織ちゃんを馬鹿にしてるわけ!?」

ジャンバルジャン「」ペタン

伊織「これだけ探しても見つからないなんて、やよいの弟たちはどれだけ頑張ったのよ……」

伊織「こうなったら意地でも見つけてやりたくなってきたわ。それで新堂にでも見せつけて、驚かせてやるんだから」

伊織「……もしかすると、新堂の笑った顔すら見られるかしら、ね」

伊織「ふん」

伊織「み、見つからない……。もしかすると、この辺りのは探しつくされちゃってるのかしら」

伊織「人があまり行かないようなところの方が、見つかるのかもしれないわ」

ジャンバルジャン「……」


伊織「そうだ、川岸は……」テクテク


ジャンバルジャン「」テクテク

伊織「」ゴソゴソ

伊織「!」

伊織「あるじゃない……。やっぱり、目の届く所は取り尽くされていたのかしら」

伊織「でもちょっと、ぎりぎりね……。手を伸ばして届くかどうか」

伊織「昨日の雨で、ちょっと流れは速くなってるけど。少しくらいなら、大丈夫よね?」

伊織「絶対、新堂に渡してやるんだから」

伊織「んー、あとちょっと……」ググ

伊織「このお……届きなさい、よっ!」グッ

ブチ

伊織「やった……!?」

ズルッ

伊織「!!?」

ジャンバルジャン「ワン!」

バシャン


ザァァァァァ

ザァァァァァ

伊織(ま、まさか本当に落ちちゃうなんて……馬鹿じゃないの、私は!?)

伊織(深さはないのが救いだけれど……)

伊織(お、思ったより流れが速い!)

伊織(なんとか片手で木の枝を掴めたからいいけど)

伊織(立ってるのが精一杯、かもっ……!)

ザァァァァ

ザァァァァ

伊織(それに、水がすごく冷たいし)

伊織(ちょ、ちょっとずつ力が抜けてきたかも……)

伊織(早く、早く戻らないと……)

伊織(少しずつ、少しずつ……。転んだら、終わりよ)

伊織(…………)

伊織(……ダメ、このままのペースじゃ腕がもたない!)

伊織(でも、こっちの手は……)

ザァァァァ

増水した川はマジでヤバイの

ザァァァァ

伊織(嘘でしょ……このままじゃ)ゾク

伊織(誰か……誰か)

伊織(お願いよ)

伊織「助けてよ、新堂っ!!!」

新堂「伊織お嬢様っ!」


伊織「し、新堂!?」

新堂「これにお掴まりくださいっ!!」

伊織「え、ええ!」ガシッ

新堂「しっかり掴まっていてください。ゆっくり引っ張りますから」グッ

伊織「……」ギュ

伊織(これは……ジャケットとベルトを使って即席のロープを作ったのね)

新堂「ふう……。大事が無くて、何よりです」

伊織「本当に助かったわ、新堂。でも、どうしてここに?」

新堂「ジャンバルジャンが、教えてくれました。血相を変えて吼えるものですから、慌てて駆けつけました」

ジャンバルジャン「ワン! ワン!」

伊織「そう、アンタが……。助けられちゃったわね、よしよし」ゴシ

ジャンバルジャン「」クゥン

新堂「それで、伊織お嬢様。どうしてあのようなことに?」

伊織「う……。実は、これを新堂に渡したくって」

新堂「これは……。四つ葉の、クローバーですか」

伊織「ええ。アンタへの日ごろのお礼よ。受け取りなさい」フン

えんだあああ

新堂「…………」

伊織「ど、どうしたのよ。嬉しくないの?」

新堂「……伊織お嬢様。先に謝罪の言葉を申し上げておきます」

伊織「は? 何をわけわかんないこと言って」

ゴツン

伊織「いっ……たっ!」

新堂「あなたは、大馬鹿者です、伊織お嬢様」

伊織「ばっ……!?」

新堂「あなたがどれだけの人の期待を背負っているのか知っているのですか。あなたに何かあれば、どれだけの人が悲しむか分かっているのですか」

新堂「それを、こんな……。小さな草切れ一枚のために」

伊織「そ、そんな言い方!」

新堂「伊織お嬢様が、わたくしのためにと思ってなさってくださったことは嬉しく思います」

新堂「ですが、当の伊織お嬢様に何かあっては、全く意味がありません」

伊織「…………」

新堂「私の全ては、伊織お嬢様が幸せになるためにあるのですから。……分かりましたか」

伊織「……分かったわよ」

新堂「それが分かれば良いです。出すぎた真似をしてしまったことを、咎めてくださっても構いません」

伊織「そんなこと……。できるわけ、ないじゃない」

~~

からんからん

伊織「喉が渇いたわ。新堂、何か飲み物をちょうだい」

伊織「……」

シーン

伊織「新堂?」

からんからん

伊織「もう、どうしたっていうのよ。いつもならすぐ来るのに」

ガシャン

伊織「? 何かしら、今の音……。部屋の外から?」

伊織「…………」

伊織「気のせい、かしら?」

伊織「何か、気味悪いわね……」ガチャ

おい

伊織「新堂ー。飲み物を……」ゴッ

伊織(えっ? ドアが、何かに引っかかって……)

新堂「ぅ……ぐ……」

伊織「し、新堂! アンタ、なんでこんなところで倒れてるのよ!」

新堂「……ぁ」

伊織「さっきの音はこれ!? しっかりしなさい! ちょっと、新堂! 新堂!」 ユサユサ

新堂「……!」

伊織「しっかりしなさい、新堂!」

伊織「きゅ、救急車! 救急車を……!」

だからおい

やめて

~病院~

伊織「……過労、ですって?」

新堂「はい。私も年ですかな。無理が祟ってしまったようです」

伊織母「そう……。大したことがないのなら良かったわ」

新堂「ええ。どうしても、しばらくお休みをいただかねばならないというのが心苦しいですが……」

伊織母「そんなことは気にしなくていいのよ。もう子どもたちも大きくなったし、代わりのお手伝いさんも見つけたのだから。今までたくさん働いてくれた分、新堂はゆっくり休んでちょうだい」

新堂「お優しいお言葉、痛み入ります」

伊織母「それじゃあ、私は帰ろうかしら。伊織ちゃんはどうする?」

伊織「……私は、直接仕事に向かうからいいわ」

伊織母「そう、じゃあ先に帰るわね。新堂、お大事に」

新堂「ありがとうございます」

バタン

伊織「……それで?」

新堂「はい?」

伊織「本当はどうなの、って聞いてるのよ」

新堂「……なんのことですかな」

伊織「とぼけないで。いっつも憎らしいくらい完璧なアンタが、自分の疲労くらい把握できないわけがないでしょ?」

新堂「……」

伊織「予想外にやってきた、アンタでも隠し通せないほどの重大な病気だった。……違う?」

新堂「……」

伊織「それとも、この伊織ちゃんにも話せないってわけかしら? ……なら、潔く諦めるわ」

新堂「……敵いませんな、伊織お嬢様には」

伊織「!」

新堂「本当はお伝えするかどうか迷っていたのですが……。お話し、いたします」

ハイアクセイシュヨウ、とか。
ショウサイボウガン、とか。
ホウシャセンチリョウ、とか。

日常生活で使わない言葉ばかりで、脳の認識は全然追いついてはくれなかったけれど。
そのときの新堂の言葉の中で、一つだけ。
理解したくないのに理解させられてしまう、シンプルな言葉があったの。

―――もって、半年とのことです

って。

伊織(皮肉なことに、あの日の前後から私の仕事は順風満帆になった)

伊織(CDやラジオの収録はもちろん、全国ツアーや県外へのロケ。休みを見つけることが難しいくらいにハードなスケジュール)

伊織(空くのはいつも朝早くや夜遅くばかりで、迷惑になることを恐れてなかなかお見舞いに行くことすらできなかった)ウロウロ

伊織(そして今日、久しぶりに私は新堂の病室に来た……のだけれど)ウロウロ

看護師「どうか致しましたか? あら、あなたどこかで見たような……」

伊織「な、なんでもないんです! ごめんなさーい♪」タタッ

伊織「は、入りづらい……。こういうときって、どうやって入ればいいのかしら」

伊織「そうだ、確かカバンの中にあれが……!」

あぁぁぁ……

からん、からん



新堂「……!」

新堂「伊織お嬢様、ですかな?」

伊織「ええ。……久しぶりね、新堂」

新堂「お久しぶりです。ご活躍は、常々拝見させていただいておりますよ。お元気そうで何よりです」

伊織「と、当然よ! 今やこの伊織ちゃんの竜宮小町は、注目度ナンバーワンのユニットなんだから!」

新堂「ええ、そうですね。ですが、疲労などは溜まっておりませんか? 無理はしておりませんか?」

伊織「アンタねえ……。そんなこと、入院患者に、言われたく、ないわよ」

新堂「違いありません」

伊織「……で、どうなのよ、具合は」

新堂「変わりありませんよ。すこぶる元気なものです」

伊織「……そう。それは良かったわ。なかなか顔を見せられなくて悪かったわね」

新堂「いえいえ。今や伊織お嬢様の話題は、目をつぶっていても聞こえてくるくらいですからな。私も鼻が高いです」

伊織「実はね。今日はあんたにこれを渡しに来たの」

新堂「これは……。携帯電話、ですかな?」

伊織「そうよ。病院内でも使用の心配の要らない特別製よ」

新堂「どうしてこれを私に?」

伊織「……ベルの代わりよ」

新堂「は?」

伊織「アンタ、私がベルを鳴らしたらいつでも来てくれたじゃない。だから、その代わり」

伊織「いつでも……は無理かもしれないけど。アンタが私の声が聞きたいと思ったら、そこに登録してある番号に電話でもメールでもしなさい」

新堂「……」

伊織「出来るかぎり時間を作って、お話してあげるから。いわばこの伊織ちゃんとの直通回線ね! 全国のファンなら何百万積んででも欲しがる代物よ!」

伊織「……それを、アンタにあげる。かけてこなかったら、許さないんだからね」

新堂「かしこまりました。必ずおかけいたします」

伊織「約束、よ」

順平かと思ったわ

伊織(新堂は、嘘つきよ)

伊織(私のためといって、嘘ばっかり)

伊織(私は、新堂の代わりに、新しい執事長ができたことも)

伊織(私が入る前の病室の中から苦しそうな声が聞こえてきたことも知っているのに)

伊織(それでも新堂は、嘘ばっかり)


―――だから私は、この携帯電話がこの先決して鳴ることがないということも、知っていた

ああ

重いな……

~~

律子「ついに、ここまで来たわね」

春香「プロデューサーさん、ドームですよ、ドーム!」

P「ゴールデン生放送で行われる、765プロ合同ライブ。これで俺たちも、トップアイドルの仲間入りだ」

千早「感無量、です……」

伊織(やっと、やっとここまで来た)

伊織(新堂、見てる? アンタに後押ししてもらってここまで来たの)

伊織(この伊織ちゃんのステージを見るまで、くたばるんじゃないわよっ……!)

ワァァァァァァァァァ!!

伊織「みんなー、今日はこの伊織ちゃんのためにわざわざ来てくれてありがとーっ♪」

伊織「他のアイドルなんかに色目使ってないで、アンタたちは私の姿だけを目に焼き付けて帰りなさいよねっ!」

ワァァァァァァァァァ!!

亜美「ちょっとひどいよいおり→ん!」

あずさ「みなさ~ん、私たちのことも忘れてもらっては困りますよ~?」

伊織「それじゃあ行くわよ? 一曲目は竜宮小町で―――」

~ライブ後~

ワァァァァァァァ! アンコール! アンコール!

春香「みんな、凄かったよ! 大成功!」

伊織「このくらい当然よ! それより春香、アンタアンコールでこけるんじゃないわよ?」

春香「こ、こけないよ! ひどいよ伊織!」

真「よーし、それじゃあみんな、最後まで突っ走るよー!」

一同「おーーーー!!!」

律子「待ちなさい」

やよい「へ?」

伊織「な、何よ……水を差すんじゃないわよ、律子」

律子「伊織、あなたはアンコールは出なくていいわ」

伊織「はぁ!? 何、を……?」

伊織「……まさ、か」

律子「プロデューサーが特別にこの位置に車を回しているわ。あなたは、急いでそちらに行きなさい」

伊織「……でも」

律子「まだ、間に合うかもしれないわ」

伊織「……!」

律子「…………」

春香「よーし、じゃあ伊織が居ない方が盛り上がっちゃうくらい、すんごいライブにしようよ!」

響「そうだな! 765プロは竜宮以外だってすごいんだってことを、見せてやるんだ!」

美希「デコちゃんひとりくらい居なくたって、全然関係ないと思うなー」

やよい「うっうー! なんだか、すっごくやる気が出てきちゃいましたー!」

伊織「……みんな」

伊織「ごめん!」ダッ



一同「……」グッ

あずさ「頑張りましょう、みんな。伊織ちゃんのためにも」

~病室~

伊織「新堂っ!」バタン

伊織母「……」

伊織長兄「……」

伊織次兄「……」


伊織父「……少し、遅かったな。伊織」



ピーーーーーーーーーーー



伊織「嘘、でしょ……?」

医師「残念ですが……つい、先ほど」

伊織「そん、な……」

伊織父「……事実だ」

伊織母「……新堂はね。ついさっきまで、あなたのライブを見てたのよ」

伊織「わたし、の……」

伊織母「この人でも、私でも、長兄でも、次兄でもなく。あなたが、最高に輝いているところを見て、逝ったの」

伊織母「そのことを、誇りに思いなさい、伊織」

P「……」

伊織「認めないわ」

伊織母「え?」

伊織「絶対認めないから、こんなの」

伊織(私の、カバンっ……!)

伊織「絶対絶対絶対! こんなの認めないっ!」

からんからん

伊織「返事をしなさい、新堂。これは命令よ」

からんからん

伊織「アンタ、この音を聞いたら必ず来てくれたじゃない」

からんからん

伊織「どれだけ忙しくたって、どれだけしんどくたって、来てくれたじゃない!」

からんからん

伊織「この、伊織ちゃんの言うことが、聞けないっていうの……?」

からんからん

伊織「トップアイドルの仲間入りをしたのよ! 私が!」

からんからん

伊織「アンタのおかげなのよ! 何とか言いなさいよ! 感謝の言葉くらい、言わせなさいよ!」

からんからん

伊織「返事をしてよ、新堂っっっ!!!!」

からん、からん......

看護師「せ、先生! あれを!」

医師「……なっ!」

伊織父「……」

伊織母「……まぁ」

伊織長兄「……新堂」

伊織次兄「……ああ」

P「……」

医師「信じられない……」

伊織「あ……あ……」






伊織「わ、らって、る……?」

医師「確かに、心臓も脳波も止まっているはずなのに……」

看護師「こんなことって……」


伊織「……この、バカ執事」

(じゃあとっくんよ、とっくん! いつか、いおりがしんどーのことわらえるようにしてあげるね!)

(ええ、楽しみにしております)

(心から嬉しいときなどは、笑っているとは思うのですが)

伊織「笑うのが苦手なんじゃなかったの」

伊織「心から嬉しいときに笑うんじゃなかったの?」

伊織「……なんで、こんな時に笑ってんのよっっ!?」


(いつかトップの座まで駆け上って、アンタを満面の笑みにしてやるんだから!)

(そのときを楽しみにしておりますよ)

からん

















からん

4

タタタ

律子「やっと着いた……。プロデューサー、伊織は」ヒソヒソ

P「……」フルフル

律子「……そう、ですか」ヒソヒソ

P「俺たちは、ちょっと外に出ていようか」

律子「……そうですね」

伊織「待ちなさい、そこの2人」

P&律子「!」

伊織「私は、絶対にトップアイドルになるわ」

伊織「……トップアイドルの仲間入り、なんかじゃあ満足しない。本当の、トップに」

P&律子「……」

伊織「だから」

伊織「だから私に」

伊織「力を、貸して頂戴」

P&律子「……」ジッ

P&律子「」コクン

律子「そもそも、トップにならないうちに私が満足するわけ、ないでしょ」

P「当たり前だ。力になれることがあったら何でも言ってくれ」

伊織「……ありがとう、2人とも」

~~

~翌日~

P「伊織、復帰までには当分かかるだろうな」

小鳥「家族同然……。いえ、家族そのものの大切な人がいなくなったんですもの。仕方ありません」

律子「ちょうどライブ直後でスケジュールに余裕があったのが不幸中の幸いです。……言葉通り、という感じで少し嫌な感じですが」

高木「そうだねえ……。数日から一週間は見たほうがいいだろうか」

伊織「なーに雁首そろえて、辛気臭い顔してんのよ」

律子「い、伊織!?」

P「お、お前! 今日は休みって伝えただろ!?」

伊織「だから明日以降のスケジュールを聞きに来たんじゃない」

律子「明日以降って、あんた……」

伊織「大丈夫、よ。私は大丈夫。だから」

伊織「2人とも、私との約束のことを、忘れないでいて」

~レッスンルーム~

伊織「こら亜美!! また腕の動きが左右逆! あんたそこさっきも間違えたでしょ!」

亜美「ご、ごめんよいおり→ん!」

伊織「あずさ! あんたは最初のステップが半歩遅い!」

あずさ「ご、ごめんなさい~」オロオロ

伊織「ぐっ……また、ワンテンポずれた……」ヨロ

あずさ「伊織ちゃん、あんまり無理したら……」

伊織「無理なんてしてない! あんたは自分のことに集中しなさい!」

いおりんマジタフネス

律子「伊織がおかしい?」

あずさ「そうなんです……」

亜美「最近のいおりん、ちょっとすごすぎるよ→……」

P「……確かに。いつもより気持ちが入りすぎている気はするな」

律子「そうですね。薄々感じてはいましたが……」

亜美「このままじゃ亜美たちもだけど、いおりんがパンクしちゃうよ→」

P「どうするんだ、律子?」

律子「……もう少しだけ、様子を見ます。支障が出るようなら、私の方からそれとなく伝えます」

あずさ「お願いします、律子さん」

P「…………」

4

~夕方 事務所~

伊織「」フゥ

伊織「……」

伊織(何をやっているのかしら、私は)

伊織(このままじゃいけない。から回ってる。そんなことは分かっているけど)

伊織(どうすれば、いいのかしら……)

からん、からん

伊織「なんて、ね」

伊織「もうアイツは、いないんだもんね」

P「お呼びになりましたか、伊織お嬢様」

(お呼びになりましたか、伊織お嬢様)



伊織「…………っ!?」


P「なんて、な」

伊織「あ、あんた……! ……いったい、どうして」

P「どうして、というほどのことはないんだけどな。ひとつ、渡すものを預かっていて」

伊織「渡す、もの……? 私に?」

P「ああ、伊織に。……新堂さんから、だ」

伊織「……!」

P「手紙、みたいだな。渡すように頼まれたんだ」

伊織「新堂が、アンタに」

P「中身は俺も読んでない。じゃあ、確かに渡したからな」

伊織「待ちなさい」

P「?」

4

伊織「……い、一緒に読んでくれないかしら」

P「え? 俺がか?」

伊織「ええ」

P「何と言うか、その。いいのか?」

伊織「……お願い。1人では、読めそうにないから」ブルブル

P「! 分かった」

伊織お嬢様へ

あなたがこれを読んでいるということは、私はもうこの世にはいないということなのでしょう。
私がもう長くないということはずっと前から分かっておりました。だから1つだけ。
万が一私が直接伝えられなかったときに言っておきたいことを、プロデューサー様に託すことにしました。

長い話は苦手ですので、単刀直入に申し上げます。
私があなたに伝えたいことはたった1つ。これだけです。

わたくし新堂は、水瀬伊織様というお方のお陰でずっと幸せでした。

新堂

伊織「……ぁ」

P「どうした、伊織?」

伊織「私は……。私は、この言葉を信じて、いいのかしら」

P「どういう意味だ?」

伊織「私は。ずっとずっと、不安だったの」

伊織「そう思わないようにしてはいたんだけれど。でもずっと、心のどこかにそうなんじゃないかっていう疑念があって」

P「何がだ?」

伊織「私のせいで。新堂が、不幸になっているんじゃないかって!」

P「!」

伊織「だってそうでしょう!? 私が小さい頃から、ずーっとつきっきりで! 私が呼べばいつでもきてくれて、自分の時間なんて全然持たないで!」

伊織「『伊織お嬢様が幸せになることが私の幸せ』なんて言っていたけど、そんな保証どこにもなくってっ……!」

伊織「最後だって! 最後だって、鬱陶しい私から離れられたから、嬉しくて笑ったんじゃないかってっ……!」

ギュ

P「馬鹿だな、伊織は。新堂さんがそんな人なわけないだろう」

伊織「そ、そんな証拠! どこにあるのよ! そんなに人に尽くすことで幸せになる人間がいるなんて!」

P「証拠は、すぐには用意できないけど。俺が証明するのじゃだめかな?」

伊織「は……?」

P「俺が。ずっとお前の傍にいて、お前のことを信じ続け、裏切らない」

P「そんな人が1人でもいることが分かれば、新堂さんのことだって信じられるだろう?」

伊織「あんたは……。馬鹿よ。大馬鹿よ」

伊織「途中で裏切ったりしたら……承知しないんだから、ね!」ギュ

P「ああ、任せておけ」

P「あれ、この封筒。手紙の他にもう一枚入ってるぞ」

伊織「……まさか、続きがあるっていうの?」

P「いや、手紙とは違うみたいだ。これは……栞?」

伊織「え?」

P「へえ、年季が入ってるな。新堂さんって読書家だったのか?」

伊織「ええ、まあ。…………っ!!?」

P「ふうん、それにしても新堂さんってロマンチストでもあったんだな」ニコ

P「四つ葉の、クローバーだなんて」

~~

カチ、コチ、カチ、コチ

伊織「長くなるとは思っていたけれど。随分と、遅い時間になっちゃったわね」

P「……このハンドベルは、そんなに大切なものだったんだな」

伊織「ええ。言ったでしょう。思い出の品だ、って」

P「なるほどな。……しかし、なんだって今になってこんな話を?」

伊織「だから、その。つまり」

P「?」

伊織「ああもう! だから、アンタには感謝してるってことが言いたかったのよ!」

P「おお、ありがとう」

伊織「何でそんなに軽いのよっ!!」

P「まあ、今更だからなあ」

伊織「っっっっもういい!! 明日は早いんだから、もう寝るわよ!」

P「はいはい。おやすみ、伊織」

伊織「……お休みなさい」

リンゴン、リンゴンと鐘の音が鳴る。
それは私の聞きなれている鐘の音とは違うものだったけれど。
確かに、私に幸せを伝える鐘の音だった。


亜美真美「いおり→ん! おめでと→!」

小鳥「むむむ……。まさか伊織ちゃんに先を越されるなんてー! でも、おめでとう!」

美希「でこちゃーん!!! 幸せにならないと承知しないのー!!!」

春香「プロデューサーさーん! 伊織ー! おめでとー!!」

小鳥さんは俺が貰おう

P「行こうか、伊織」

伊織「……ええ」


もう、新堂はいないけれど。
私の隣には、ずっとコイツが居てくれる。

それに、新堂はずっと私の中に居る。私をずっと後押ししてくれた新堂は、いつでも見てくれていると信じてる。
だから私は、こうして嬉しいことがあるたびに。
心の中のハンドベルを鳴らして、アイツを呼びつけて言ってやるのだ。

わたくし水瀬伊織は、新堂という執事のお陰でずっと幸せです、ってね。
にひひっ♪

おわり

いいハッピーエンドだった

以上です
最後またさるったのでID違うのは気にしない
執事日記さんと被りネタ多くてすみませんでした

支援保守etcくださった方がまだいればありがとうございます、ほんとに助かりました
おやすみなさい

乙おやすみ

>>1
とても良かった…乙でした。いおりんは本当にいいな
俺も涙もろくなったな歳か…

新堂さんはまだまだお仕えルートも、伊織お嬢様を頼みましたルートもじんと来てしまうな…
新堂さんと>>1に乙を

 (ヽr'^)
 (_ノ、) >>1
  ノ 

                             |
                             | アイドルマスターの水瀬伊織たんの可愛さは異常
                             |

                   r-、_,.._........_  .|                 ミ /〉__人__
                ___ rィ_ノ: : : : : :_: : : : > 、  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  // )  ( ピシッ ̄ ̄ ̄ ̄
                 〈_,ィ: : : : :_,. - ''`ヽ、: : : : :\      人_     ミ//  `V´
                /:///: : :/        \: : : : :',.     `Y´      //
                  {:.j//: :_/  ´`ヽ、      ヽ: : : :      _!_        //
                    ': |/: イ        `-'  、  ∨: : ::.      !       //.  _!_
        人     /: :{: __:|   、___,.       ̄`∨: : :.         //     !
         'Y´     / : : /rィ{     ¨¨    ィ斧ミ、 }: : : ::.        //
             /: : ,八 、.         弋ソ ノ ∧: : : :.',       /,イ
.           * /: /: : :|`∧   ,. - 、  `   イ: :{、: : : :.',    _///
           /: /: : : : /: : : i、   {    У   /,ノ: :ム' ,: :.ム    ///,イ
         /: /: : : : :,.- 、: : :|  、 ` ー ´  ..イ: : : : : ヽ}: : : :}  ノ//.ノリ  _!_
       /: : イ: : : : :/    ヽ、   ー r: : ´: : |: : : : : : :.| : : /  {〈/レレヘ}   !
        /: /: : :/´       } `    {_: : : : : {: : : : : : /: :./\ | / ` /
      ,: : !: : : {,.ニヽ、     l :._      `ヽ、- 、: : : /:/: : : : イ  ,ィ´   *
       {: : | : /   \ム   '  乂乂乂ヽ、____ヽ ヽ {: :(__,ィ: : : |  {: :`ヽ、
       、: /    /〉}_,..ィ         乂乂ヽ  乂__/:ヽ 、|  |: : : : : \*
        /     /:ー'、              ;     ∨ヽ、: : : :.Ⅵ  |ー 、 : : : : : .、
     , ´     ,. :´: : : : : :∨       _..::ノ     .::}   ` 、: ;   |   \: : : : :\
    /     , ´ `ヽ、: : : : :.ヽ  、___,|   \  __.人        }: 、_    ヽ: : : : :}
    {  ヽィ       \: :}: : ∨´__,|_--ミ } Y  }: : : `: . 、     j: : : :`ヽ   ,: : : |
     、    \        }/: : /´ |    / ̄}`ー'、_|: : : : : : : `: . .  / ̄`ヽ: :〉* }: : /
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       、    \  ,.イ         /   /   |: ヽ ヽ: : : : : : : /       /  /.  `Y´
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