ちなつ「結衣先輩がいれば、他に何もいらないの」(115)


『ちなつちゃん』

「結衣先輩……」

『愛しているよ、マイスイートハニ―』

「きゃっ!結衣先輩ったら」

『さぁ、二人で夢の楽園に飛び立とう』

「先輩とならどこへでも」


ちなつ「……キャー!!!結衣先輩いぃぃぃ」

ちなつ「……」

ちなつ「……こんな妄想、虚しいだけだよね」

ちなつ「先輩が好き」

ちなつ「この気持ちは誰にも負けないつもりなのに……」


* * *


ちなつ「結衣先輩、お茶どうぞ」

結衣「ありがとう、ちなつちゃん」

ちなつ「えへへ」ドキドキ

京子「ちなつちゃーん、私にもー」

ちなつ「人が浸ってる時に、もう」

ちなつ「はい、どうぞ!!」

京子「ありがとうちなちゅうぅぅぅ」

結衣「やめんか」

ちなつ「結衣せんぱぁーい」ギュゥ

結衣「よしよし」



ちなつ(燃費のいい恋だって自分でも思うよ)

ちなつ(毎晩結衣先輩と自分が付き合うところを想像して)

ちなつ(虚しくなって、寂しくなって……だけど)

ちなつ(こんなことでドキドキして心がぽかぽかして、幸せって思えて…)

あかり「ちなつちゃん!」

あかり「こないだ言ってた写真持ってきたよ」コソ

ちなつ「わぁ、ありがとう!」

あかり「ちなつちゃんが喜んでくれてうれしいよ」

ちなつ「今回は……?」

あかり「結衣ちゃんと京子ちゃんの小学校の卒業式だよ」カサ

ちなつ「……ちょっとだけ幼くて可愛い」

あかり「……懐かしいなぁ」

ちなつ「寂しかった?」

あかり「うん。ちょっとだけだけど」

ちなつ「そっか」

あかり「今またみんなと一緒に居られて嬉しいよ」

ちなつ「……あかりちゃんはなんで私と一緒にいてくれてるの?」

あかり「えっ?」

ちなつ「だって娯楽部って本当は結衣先輩と京子先輩とあかりちゃんの3人だったんだよね」

あかり「そんなの関係ないよ」

あかり「だってちなつちゃんはあかりの大切な友達だもん!」

ちなつ「……友達」

あかり「うん、友達!」

ちなつ「ありがとね、あかりちゃん」

あかり「えへへ、なんか照れるね」

ちなつ「ふふ」

あかり「友達だからね、ちなつちゃんの喜んでくれるとあかりも嬉しいんだよ」


* * *


ちなつ「友達……か」

ちなつ「そういえば、あの子は元気かな?」

ちなつ「……」

ちなつ(小学生の頃仲のよかった友達と全然連絡とってないや)

ちなつ(人の心は移ろいゆく……)

ちなつ(今は娯楽部で一緒だから…)

ちなつ(でも、それがなくなったら?)

ちなつ(京子先輩とあかりちゃんは娯楽部じゃなくても幼馴染)

ちなつ(だけど、私は……?)

ちなつ「友達だってそんな風になっちゃうんだもん」

ちなつ「ただの先輩後輩ならなおさらだよ……」

ちなつ「特別な関係になれたら、こんな不安もなくなるのかな?」


* * *

ちなつ「結衣先輩!実は今日クッキーを作ってきたんです!」

結衣「え、クッキー?」

ちなつ「みんなで食べようと思って」ニコ

ちなつ(チーナの女子力アピール作戦よ!)

結衣「あ、ありがとう(見た目が恐ろしいことに……)」

京子「お、おー。それは楽しみだなー」

あかり「お茶いれてきたよー」

ちなつ「ささ、あかりちゃんもどうぞ」ニコ

京子「……(結衣から行けよ)」

結衣「……(私は毒見役か?)」

ちなつ「……」ジー キラキラ

京子(結衣、早く!)


あかり「いただきまーす」パクッ

あかり「甘くておいしいよ」

結衣「いただきます」

京子「パクッ」

結衣「おいしい」

ちなつ「よかったです」

京子「おいしいよ、ちなつちゃん」

あかり「ちなつちゃんは食べないの?」

ちなつ「うーん(失敗と試食を繰り返してたからお腹減らないんだよね…)

結衣「ありがと、ちなつちゃん」

ちなつ「そ、そんな!結衣先輩にはご飯を作っていただいてたりしますし…」

京子「ちなつちゃん!いつでも私の嫁になっていいんだよ!」

ちなつ「ちょっとは空気を呼んでください!」バシッ

* * *

ちなつ「どうすればいいんだろう」

ちなつ(お菓子作り女子力アピールもした)

ちなつ(勉強を教えてもらったり)

ちなつ(先輩の体育の授業の後にタオルを渡してみたり)

ちなつ(マフラーを編んでみたり)

ちなつ(一緒に笑ったり……)

ちなつ「ねぇ、あかりちゃん」

あかり「なぁに?ちなつちゃん」

ちなつ「どうすればいいのかな?結衣先輩に振り向いてもらうにはどうすればいいの?」

あかり「え……」

あかり「結衣ちゃんにとってちなつちゃんは大切な人だよ」

ちなつ「……わかってる。わかってるけど……私は、私はもっと……」

あかり「うーん…結衣ちゃんはちょっと鈍いところがあるから……」

ちなつ「えっ」

あかり「遠まわしじゃなくて、直接、言ってみたらどうかな?」

ちなつ「……っ!や、でも、だって……もし振られちゃったらって思うと、怖い……」

あかり「う、うーん」アセッ

あかり「じゃ、じゃあさ!こ、こいばな?してみるのはどうかな?」

ちなつ「恋バナ?」

あかり「ちなつちゃんが入部する前にね、ちょっとだけそういう話したことあるんだ」


ちなつ「そ、その時、結衣先輩は何て??」

あかり「……今は、興味ないって」

ちなつ「そっか……」

あかり「で、でも、今はわかんないし、あの時は、結衣ちゃんからそういう話してたから」

あかり「きっと本当は興味あるんだよ」

ちなつ「ちなみにその時あかりちゃんはなんて言ったの?」

あかり「えっと…結衣ちゃんが好きな人いる?って聞いたから、京子ちゃんと結衣ちゃんが好きって」

ちなつ「……はは。あかりちゃんらしいよ」

あかり「今はちなつちゃんのことも好きだよ」

ちなつ「ありがと」

ちなつ「じゃあ、思い切って、結衣先輩と恋バナしてみようかな?」

ちなつ(恋バナって言っても何て切り出せば……)

ちなつ(そもそも私の恋バナは結衣先輩のことになっちゃうし、それ言っちゃったら告白と同じ事だし…)

結衣「ちなつちゃん?どうしたの?」

ちなつ「えっ」

結衣「何か悩み?私でよければ聞くよ?」

ちなつ「……(もし言えたら、楽になれるのかな?)」

結衣「……」

ちなつ「あ、あの……」

ちなつ「……結衣先輩って好きな人いますか?」

結衣「え……」

ちなつ(わ……き、聞いちゃった)

結衣「うーん……いないかな」

ちなつ「そうなんですか」

結衣「うん。今はそんな余裕ないよ」

ちなつ「え?」

結衣「娯楽部は楽しいし、あいつの暴走に付き合う事で精一杯」

結衣「恋愛してる暇ないよ」

ちなつ「……(あいつ……)」

結衣「ちなつちゃんも娯楽部楽しいでしょ?」

ちなつ「はい……。」

ちなつ「結衣先輩は、あいつ……京子先輩の事が大切なんですね」

結衣「京子だけじゃない。ちなつちゃんもあかりも、みんな大切だし、大好きだよ」

ちなつ「……」

結衣「ちなつちゃん?」

結衣(いつもならここで抱きついてくるだろうに……)

ちなつ「……そうですか」


ちなつ(やっぱり私の想いと先輩の想いは別で……)

ちなつ(分かってるつもりだったんだけどな)

ちなつ(絶対に先輩を振り向かせる)

ちなつ(そう思ってたけど……)

京子「やっほーちなちゅーーーー!!」ガバッ

ちなつ「……」

京子「ちなつ……ちゃん?」

結衣「おいこら、京子」

ちなつ(きっと、届かない)

ちなつ(どんなに想っても、どんなに願っても……)



ちなつ「それでも好きなんて、馬鹿みたいですね」


京子「え、ちなつちゃん。何か言った?」

ちなつ「……」

結衣「?」

あかり「遅れてごめーん、日直長引いちゃった」

京子「遅い、罰金!いや、ラムレーズン!!」

あかり「ふぇええええ!?」

結衣「そういうならお前も払えよ、遅刻なんだから」

京子「あぁん、結衣たちだけずるい」

ちなつ「……お茶淹れてきます」スタッ

京子「結衣、ちなつちゃんどうしたの?」

結衣「うーん……何か悩みがあるみたいだけど」

あかり(ちなつちゃん……)

あかり「あ、あかり、ちなつちゃんのお手伝いしてくるよ」スタッ


* * *

あかり「ちなつちゃん……?」

ちなつ「……告白する前に振られちゃった気分だよ」

あかり「……」

ちなつ「ねぇあかりちゃん」

あかり「……なに、ちなつちゃん?」

ちなつ「人を好きになるのをやめられる方法ってないのかな?」

あかり「……え?」

ちなつ「届かないって分かってるのに好きでいるなんて、辛すぎるよ」

あかり「……ごめん」


ちなつ「あかりちゃん……私、そんなに強くないや」ハハハ

あかり「……今日はもう帰ろ?」

ちなつ「……うん、そうしようかな」

あかり「あかり、荷物取ってくるね」

ちなつ「ありがと、あかりちゃん」

あかり「ううん……。ごめんね、ちなつちゃん」

あかり「あかり、何もできなくて」


* * *

ちなつ(あぁ、今日もまた学校を休んじゃった)

ちなつ(何やってんだか)

ちなつ「でも、さすがに仮病ももう限界だよね……」

ちなつ「なんで、ほとんど振られたも同然なのに、いまだに先輩の夢を見るんだろ」

ちなつ「なんで夢だと両想いで、付き合って幸せなんだろ」

ちなつ「……バカみたい」

ちなつ「なんで好きになっちゃったんだろ」

ちなつ「好きになんてならなきゃよかったのに」

ちなつ母「ちなつ、お友達来てるよ」ガチャッ

京子「ちなちゅー!!」

結衣「こら!ちなつちゃん体調悪いんだから大声を出すな」

あかり「……ぁ、ちなつちゃん……」

結衣「ちなつちゃんが帰った次の日から学校休んでるって聞いたから心配したよ」

京子「ちなつちゃんがいないと寂しいゾ☆」

ちなつ「……心配をおかけして、ごめんなさい」

京子「体調はどうなの?」

ちなつ「……わかんないです」

結衣「ちょっとおでこ失礼」ピト

ちなつ「……っ!」

結衣「熱はない、みたい」

ちなつ「……ぅぐ……ぐすっ…」ポロポロ

京子「え、あ……」

あかり「ちなつちゃん!」

結衣「え、だ、大丈夫?」

ちなつ「……うぅ……」

あかり「ね、二人とも、ちょっと出よう?」

京子「う、うん」

結衣「あ、うん」

京子「ちなつちゃん、お大事にね」

結衣「なんかごめんね」

あかり「ちなつちゃん……ごめんね」


* * *


ちなつ「私が私である限り、私が娯楽部にいる限り……」

ちなつ「きっと、逃げられないんだ」

ちなつ「好きな気持ちも消せないし、結衣先輩からも離れられない」

ちなつ「……娯楽部、辞めたくない……」

ちなつ「だったら、我慢するしか……ない……ないんだよ…」

ちなつ「今まで出会った友達のように、卒業して、離れて、忘れて……」

ちなつ「私の心には強烈に結衣先輩が刻み込まれても、結衣先輩はそうじゃないんだ」

ちなつ「ただの後輩。」

ちなつ「それだけ。」


* * *

京子「ちなちゅー!」ギュッ

ちなつ「……」ニコッ

京子「元気になったんだね?」

ちなつ「はい、心配をおかけしました」

結衣「もう大丈夫なの?」

ちなつ「はい、もう」

あかり「ちなつちゃん……」

ちなつ「大丈夫だよ、あかりちゃん」

京子「とは言ったものの……やっぱりなんか元気ないよなぁ」

ちなつ「そんなことないですよ」ニコッ

結衣(どこか頭打ったとか……ないよな)

京子「よしっ!ハイキング行こうぜ!」

結衣「突然どうした?」

京子「あの山が私を呼んでいるのだよ」

ちなつ「いいですね」

ちなつ(こうやって狭い空間でいつも通りに過ごすより、気が晴れるかもしれない)

京子「ちなつちゃんもこう言ってるんだし」

結衣「あかりは?」

あかり「……楽しそうだね」

結衣「わかったわかった」

京子「よしっ!じゃあ今週の土曜日な」


* * *

あかり「昨日は雨だったけど、今日はいい天気でよかったね」

京子「娯楽部の晴れ女は誰だ!?」

京子「それは私!歳納京子!」

結衣「はいはい」

ちなつ「……」

京子「それじゃしゅっぱーつ!」

京子「そう言えば結衣!お昼は作ってきた?」

結衣「うん」

京子「さすが結衣さん」


結衣「結構ぬかるんでるみたいだから足元気をつけろよ」

京子「がってんだ!」

あかり「ちなつちゃん」

ちなつ「大丈夫だよ、私のことは気にしないで」

あかり「でも……」

ちなつ「大丈夫だから」


* * *

京子「結衣の作ったお弁当うめー」

結衣「はいはい」

京子「おかげで京子ちゃん食べすぎちゃったぜ☆」

ちなつ「……」

結衣「ご飯、あまり食べてなかったけど、大丈夫?」

ちなつ「……ちょっと食欲なくて」ニコッ

結衣(なんなんだろう…この前から、この笑顔……)

結衣「病みあがりだし、無理しちゃだめだよ」

京子「結衣ー!私を置いていくというのか!?」

結衣「あー、あかり。京子の方頼んだ」

あかり「えっ……」

ちなつ「……」ニコッ

京子「あかりまで私を見捨てる気かー」

結衣「ちなつちゃんのことは私に任せて」

ちなつ「あかりちゃん……」

あかり「でも……」

ちなつ「大丈夫だから、ね?」

京子「あーかーりーーー!」

あかり「……京子ちゃん、大丈夫?あかり、胃薬持ってるよ」

京子「さすがあかり」

結衣「じゃ、先に進もっか?」

ちなつ「はい」

ちなつ(私のことを気にしてくれて嬉しい)

ちなつ(だけど、苦しい)

結衣「ちなつちゃん…?」

ちなつ(前は嬉しいだけだったんだけどな)

ちなつ(名前を呼ばれると、気にしてもらうと、苦しさが止まらなくなる)

ちなつ「……!」ズルッ

結衣「ちなつちゃん!!」ガシッ

ちなつ(……結衣先輩が私の手を握ってくれてる)

結衣「今助けるから!」

ちなつ(真剣な表情で私を見つめてる)

結衣「ちなつちゃん…!」

ちなつ(必死に私の名前を呼んでくれてる)

結衣「京子、あかり!早く!」

ちなつ(でも、先輩の心に私の居場所はないんでしょ?)

結衣「早く!!」

ちなつ(中学を卒業したら、高校を卒業したら…私の存在なんてなくなっちゃうんでしょ?)




 もし、今私が死んだら?




ちなつ(結衣先輩の手から私の手がすり抜け、先輩の目の前でここを落ちて行ったら…?)

ちなつ(きっと、結衣先輩は悲しみ、自分を責める)

ちなつ(私を結衣先輩の心に刻みつけることができる)

ちなつ(私は、私という存在は結衣先輩の中に永遠に残る)


結衣「ち、ちな……」スル

ちなつ「……あっ」

結衣「ちなつちゃーん!!!!!!!」


ちなつ(結衣先輩、大好きです)





 吉川ちなつの存在を船見結衣の心に永遠に……



ちなつ(ん……眩し)

ちなつ(白い……天井?)

結衣「ちなつちゃん!」

京子「……よかった」

あかり「ちなつちゃああぁん」

ちなつ(……私、生き残っちゃったんだ……)

ちなつ「……ッ?」

ちなつ(足が、動かない…?)

ちなつ(これはきっと報いだね…)

結衣「ごめん、ごめんね…」

ちなつ「出ていってください……」

京子「私がハイキングなんて言い出さなければ……」

ちなつ「……今は一人にしてもらえませんか?」

あかり「……結衣ちゃん、京子ちゃん、行こう」

ちなつ「……いつもいつも空回りしちゃってるなぁ、私……」

ちなつ「自業自得だよね」

ちなつ(好きになったら、いけなかったのかな)

コンコン

ちなつ「……はい?」

結衣「……」

ちなつ「結衣先輩……」

結衣「ごめん。ごめんね、ちなつちゃん」

ちなつ「……」

結衣「私のせいで……ちなつちゃん、一生歩けなくなっちゃった」

結衣「私のせいで……」

ちなつ「……(胸が痛い)」

結衣「どんなことをしても許してもらえないと思うけど」

結衣「私のせいだから……」

結衣「これからは私がちなつちゃんの足になる」

ちなつ「……!」

結衣「足を交換することはできないけど、ずっと面倒見るから」

結衣「ごめん、それくらいしか、私にはできないけど……」

ちなつ「……いいです」

結衣「えっ……?」

ちなつ「私は、大丈夫ですから」

ちなつ「……帰ってください、結衣先輩」

結衣「……ごめん……ごめんね……ごめん……」

パタン


ちなつ(いいの、だって、本当は私が悪いのに……)

ちなつ(あんなに結衣先輩を傷つけた)

ちなつ(私の存在を結衣先輩の心に刻みつけようとした結果、あんなに結衣先輩を傷つけた)

ちなつ「ばかだな、私。ほんとばか」

ちなつ「自分の気持ちしか考えないで、結衣先輩を傷つけた」

ちなつ「こんな私が結衣先輩を好きでいたり、見返りを求めるなんておかしいよ」

ちなつ「ごめんなさい、結衣先輩。本当にごめんなさい」


* * *

二日連続落下とは…


ちなつ「ん……(まぶしい?)」

ちなつ(昨日カーテンは閉めたはずなのに……)

ちなつ(なんで?……怖い、怖いよ)

結衣「あ、ごめん、起こしちゃったかな?」

ちなつ「……結衣先輩?」

結衣「おはよう、ちなつちゃん」

ちなつ「……」

ちなつ「……あぁ……夢かぁ」

結衣「ちなつちゃん……ちなつちゃんは私のことなんて許せないかもしれないけど」

結衣「ちなつちゃんをこんな風にしちゃった私からの施しなんて嫌だろうけど」

結衣「ごめん、こういう事以外に償い方が見つからなかったんだ」ポロポロ

ちなつ「……!」


結衣「邪魔だったら、そう言って」

ちなつ「邪魔だなんて……」

結衣「その時は二度と……」

ちなつ「それは、やです」

ちなつ「それで結衣先輩の気が晴れるなら……」

結衣「ありがとう」

結衣「……何でもするから」

ちなつ(……断りきれないのは、私の弱さだ)

結衣「なんでも言うこと聞くよ」




 「約束する。ずっとちなつちゃんのそばにいる」



ちなつ「……」

ちなつ(だめだよ、私が結衣先輩を傷付けたんだから)

ちなつ(求めちゃだめだよ……だめだよ)

* * *

結衣「今日もちなつちゃんは笑ってくれなかった」

京子「結衣のせいじゃないよ、私がハイキングなんて言い出さなければ……」

結衣「ううん、違うよ。私がちゃんと手を握っていれば…ちゃんと見ていれば…」

京子「……ちなつちゃんは私達のことを恨んでるのかな…?」

結衣「恨まれて当然だよな…」

京子「もう、戻れないのかな」

結衣「……」

京子「…ごめん」

結衣「ううん。あ、あかりは?」

京子「ちなつちゃんと話がしたいって」

結衣「そっか…」

結衣「……ちなつちゃんが幸せになれるなら、私はもうどうなってもかまわないよ」

京子「結衣……」


* * *

あかり「ちなつちゃん」

ちなつ「あかりちゃん。一人?」

あかり「うん」

ちなつ「……」

あかり「……」

ちなつ「諦めよう…って思ったんだよ」

ちなつ「だけどなんで、なんで……あの人は…毎日毎日……」

ちなつ「こんな私なんかのために……!」

ちなつ「私、バカだから…わかんないよ」

ちなつ「いっそ、死んじゃえばよかったんだよ」

あかり「違うよ!」

ちなつ「……!」

あかり「それだけは絶対違うよ」

あかり「あかりは、ちなつちゃんが生きててくれて本当に嬉しかったんだよ?」

ちなつ「……」

あかり「結衣ちゃんも京子ちゃんも、あかりも、みんな責任感じてる…」

あかり「ちなつちゃんの代わりにはなれないけど、何かしたいって思ってる…」

ちなつ「……期待しそうな私がバカなんだって、分かってるよ」

あかり「違う違うよ、あかりはそんなことを言いたいんじゃないよ……」

あかり「……ごめん。ごめんね、あかり…」

ちなつ「ううん、こっちこそごめん」

あかり「ちなつちゃん…あかりは頼りないけど、何もできないけど、何でも聞くよ」

あかり「話せば気が晴れることもあるかもしれないし」

あかり「それに……あかり、こんなことくらいしかできないから」

ちなつ「あかりちゃん……」

あかり「じゃあ、また明日ね」

ちなつ「うん」

ちなつ(嬉しいよ。だけど言えないよ)

ちなつ(あの時私は自分から落ちたんだよ)

ちなつ(結衣先輩を傷つけた。好きでいる資格なんてないのに……)

ちなつ(毎日毎日、私のために来てくれるんだ)

ちなつ(私のために……)

ちなつ(私だけのために……先輩は……)

ちなつ(駄目なのに……駄目だって分かるのに……)ポロポロ


* * *

ちなつ「なんで先輩は毎日来てくれるんですか?」

結衣「いや?」

ちなつ「そうじゃないですけど」

結衣「私がちなつちゃんのために何かしたいんだ」

結衣「全部私のせいだから」

ちなつ「そんなこと……」

結衣「ちなつちゃんの笑顔が見たいんだ」

ちなつ「……っ」

ちなつ「こんな……私なんかのために……?」

結衣「私が奪っちゃったちなつちゃんの幸せを少しでも埋めたいんだ」

ちなつ「……う、うぅ……」ポロポロ

結衣「ち、ちなつちゃん」


ちなつ(駄目だって分かってるのに…なのに…)

結衣「ちなつちゃん」ギュッ

ちなつ(私、それでもいいって思っちゃってる…)

ちなつ(だって、結衣先輩が私のことを想ってくれてるんだもん)

ちなつ「……が、…きで…」ポロポロ

結衣「ん?」

ちなつ「…好きです……」

結衣「ちなつちゃん」ギュッ

結衣「私がそばにいて幸せなら、私はずっとそばにいるよ」

ちなつ「う…うぅ……」ポロポロ


* * *

数日後…

ちなつ「そばにいるって言われた……だけど好きって言葉は貰えなかったな…」

ちなつ(だからかな?そばにいないと不安になる……)

ちなつ(常に繋ぎとめておかないと離れて行きそうで怖い)

ちなつ(結衣先輩が今、私を想ってくれてる)

ちなつ「早く…はやく来て……先輩」

結衣「ごめんね、ちょっとHRが長引いて」

ちなつ「結衣先輩!」

京子「やほー、来たよん」

あかり「こんにちはー」

ちなつ「……」チリッ

京子「今日さー…」ペラペラ

ちなつ「……」チリッ

結衣「おいこら、病室で騒ぐなよ」

京子「だって、もうすぐ退院なんでしょ?嬉しくてつい」

結衣「だからって……」

ちなつ「……」

あかり「ちなつちゃん……」

ちなつ(一緒にいるのに、不安がこみ上げてくる)

ちなつ「結衣先輩、ちょっと……」

結衣「え?」

ちなつ「そばにいてくれるんですよね?」コソッ

結衣「もちろん」

ちなつ「……」ホッ


ちなつ「ちょっとだけ、ぎゅっってしてくれませんか?」

結衣「あ、うん」ギュッ

ちなつ(結衣先輩が私を想ってくれてる)

ちなつ(私は、結衣先輩を、手に入れたんだ)

ちなつ(心も、体も……全部、全部……)

ちなつ「好きです、先輩」コソッ


ちなつ(もう、なんでもいいや)


* * *


ちなつ「どこに行ってたんですか?」

結衣「あ、ちょっと娯楽部で……」

ちなつ「京子先輩やあかりちゃんと遊んでないで、私と一緒にいてくださいよ」

結衣「ごめん、でも……」

ちなつ「約束……破っちゃうんですね」

結衣「!」

ちなつ「先輩のばかっ!」バッ

結衣「痛っ」

ちなつ「……」バッ

結衣「痛っ!」

ちなつ「ばか!ばか!ばか……」ポロポロ

結衣「!」

ちなつ「……もう来ないかと思った」

結衣「……ごめんね、ごめん。心配させて、不安にさせて……ごめん」

ちなつ「先輩……結衣せんぱぁい……」グスッ

結衣「ちゃんとそばにいるから」

結衣「約束は破らないよ……ずっと一緒に……」

結衣「そうだ、今度はここで娯楽部をやろう?」

ちなつ「いや」

結衣「えっ」

ちなつ「私は先輩がいればいいんです」

ちなつ「他はもういらないの」


* * *

結衣「ちなつちゃんのところに行かないと……」

京子「なぁ結衣、たまには……」

結衣「だめだよ」

京子「じゃあ私とあかりも行く!」

結衣「二人はいいよ」

京子「えっ」

結衣「ごめん、ちなつちゃんは望んでないんだ」

京子「え、なんだよ、それ」

結衣「じゃあ急がないといけないから」

京子「え、あ…ちょ、ちょっと!」

京子「い、行っちゃった……」

あかり「京子ちゃーん」

京子「おう、あかり」

あかり「どうだった?」

京子「今日もだめみたい」

あかり「これでもう1カ月くらい?」

京子「かな……?」

あかり「大丈夫かな、結衣ちゃん」

京子「明らかにやつれてるもんな」

あかり「ちなつちゃんもあかりたちを入れてくれないし」

京子「……行ってみる?」

あかり「えっ」


京子「二人の様子をさ」

あかり「大丈夫かなぁ」

京子「でも心配じゃん」

あかり「うん」

京子「じゃあ決まり!」


* * *


もうチーナ壊れてもうてますやんか

京子「家には入れてもらえるんだ」

あかり「うん。だけど部屋には…」

京子「シッ」

あかり「!」

京子「中から声が……」

 コソコソ

ちなつ「結衣先輩、今日はどこに寄り道したんですか?」

結衣「寄り道なんてしてないよ」

ちなつ「だけど……5分の遅刻ですよ」

結衣「トイレに寄ったんだ……」

ちなつ「ふーん……理由はいいです」

結衣「ごめん」


ちなつ「この遅刻分です」バシッ

結衣「痛っ」

ちなつ「先輩、約束したでしょ?」バシッ

結衣「うん」

ちなつ「私を不安にさせるなんてひどいですよ」バシッ

結衣「ごめん」


 バシッ バシッ バシッ


京子「……!」

あかり「と、止めないと」オドオド

ちなつ「結衣先輩」チュッ

結衣「ちなつちゃん」

ちなつ「ごめんなさい。だけど不安で……」

結衣「分かってるよ、ちなつちゃん」

ちなつ「先輩…先輩……」

結衣「ちなつちゃん」チュッチュッ

ちなつ「先輩……結衣先輩……」

ちなつ「先輩は、私のものなんですからね」チュッ

結衣「うん」

ちなつ「そして、私は先輩の……」チュッ

結衣「うん」

ちなつ「んんぅ……んちゅ……ん」

結衣「ちゅ……ん……ぷは」

ちなつ「激しくして、先輩」

ちなつ「全部結衣先輩でいっぱいにしてください……」

結衣「ちなつちゃん……」チュチュ



京子「……な、なんなんだよ……」

あかり「え、え、ど、どういうこと」

京子「くぅっ!」

ガチャガチャ

あかり「ちょ、ちょっと、京子ちゃん?」

京子「あ、開かない……」

あかり「え……」ガチャガチャ

京子「か、鍵がかかってる……」





  「今夜も帰しませんよ、先輩」




結衣は自分の責任だからとちなつの我儘を受け入れた。

少しずつおかしくなっていく日常。

日に日にやつれていく結衣を京子は呼びだした。

結衣「なんだよ、突然」

京子「……結衣」

結衣「どうした?京子がこんなに真剣な表情をするのは珍しいな」

京子「なんか変だよ」

結衣「何が?」

京子「結衣とちなつちゃんだよ」

結衣「どこが?」

京子「ちなつちゃんは私やあかりを部屋に入れてくれなくなった……」

京子「扉の向こうから無感情な声で聞かれるんだ、“結衣先輩は来ないんですか?”って」

京子「結衣は……私達と一緒にいることがなくなって、ちなつちゃんとばっかり」

結衣「それは……」

京子「私たちが結衣と遊んだりした後に、結衣は痣作ってたよね」

京子「あれってちなつちゃんでしょ?」

結衣「……」


京子「変だよ!なんかおかしいよ!」

京子「このままじゃ…、このままじゃちなつちゃんも結衣も壊れちゃうよ!」

結衣「……私が悪いんだから、ちなつちゃんを優先しなかった私が責められるのは当然だろ?」

結衣「ちなつちゃんも、私がいなくちゃダメなんだよ」

結衣「京子たちをちなつちゃんが部屋に入れてくれなかったのは悪かったけど、それは私がいないのがいけなかったから」

京子「……」

結衣「私のせいでちなつちゃんは足を……だから、私はそれを償わなくちゃいけないんだよ」

結衣「変なんかじゃない。全部当然のことなんだよ」

京子「結衣……」

京子「ずっと黙ってたことがあるんだよ…」

結衣「……?」

京子「あの時の、ちなつちゃんが転落したとき」





「あの時、ちなつちゃんは自分から結衣の手を離したんだよ!」



駄目みたいですね(冷静)

あかり「ちなつちゃん」

ちなつ「……結衣先輩は?」

あかり「ううん、あかりだけ」

ちなつ「……そう」

あかり「入っていい?」グッ

ガチャガチャ

ちなつ「鍵がかかってるから入れないよ」

あかり「じゃあ、開けてよ、ちなつちゃん」

ちなつ「無理だよ」

ちなつ「だって鍵は結衣先輩が持ってるんだもん」

あかり「……」

あかり「じゃあ、扉越しでいいからこのままちょっとあかりの話を聞いてくれないかな?」

ちなつ「……」

あかり「最近、調子はどう?」

ちなつ「……普通」

あかり「そっか」

あかり「ねぇ、ちなつちゃん」

あかり「あかりも京子ちゃんも櫻子ちゃんも向日葵ちゃんも……みんなちなつちゃんを心配してるよ」

あかり「みんなちなつちゃんのことが好きなんだよ」

あかり「みんなちなつちゃんに会いたがってるよ」

ちなつ「……」

あかり「何か悩みがあるなら相談してよ……」

あかり「前みたいにさ、なんでも言ってよ」

あかり「ねぇ、ちなつちゃん……」

ちなつ「悩みなんてないよ」

あかり「えっ……」

ちなつ「もう悩みなんて何もないよ」

あかり「じゃ、じゃあさ……。」

あかり「あ、あかり、ちなつちゃんの笑顔を見たいな」

ちなつ「……あかりちゃん」

あかり「あ、久しぶりに名前で呼んでくれたね、ちなつちゃん」

ちなつ「私ね、結衣先輩がいればいいの」

ちなつ「結衣先輩だけがいればいいの。世界に愛されてもそんなの興味ないの」

あかり「ちなつちゃん……?」

ちなつ「結衣先輩だけが心配してくれればいいの」

ちなつ「結衣先輩だけが好きでいてくれればいいの」

ちなつ「結衣先輩だけが会ってくれればいいの」

ちなつ「私は、結衣先輩のためだけに笑うの」





 「私は、結衣先輩のためだけに生きてるの」



 「結衣先輩がいれば、他に何もいらないの」




結衣「……ねぇ京子」

京子「だから結衣があそこまで責任を感じることなんか……」

結衣「私がさ、気付いてないと思った?」

京子「え……」

結衣「とは言っても気付いたのは最近だけど」フフフ

京子「ゆ、結衣……?」

結衣「私はね、京子。あの一件から気付いたんだ」

結衣「ちなつちゃんにはさ、私がいないとだめなんだ」

結衣「そしてね、私にも、ちなつちゃんがいないとだめなんだよ」

結衣「気付いたんだ。ちなつちゃんの存在の大きさに。自分の気持ちに」

京子「でも……!」

結衣「ねぇ、京子」

結衣「京子たちはさ、私たちを引き離す?」

京子「……だって、きっと、このままじゃ……」

結衣「そっかぁ……。京子もそう思ってるんだ……」

結衣「私はさ、今は感謝してるんだよ、ちなつちゃんの行為に」

京子「は?」

結衣「だってちなつちゃんが手を離してくれたおかげで、私たちはこうやっていられるんだよ?」

結衣「今ならちなつちゃんの気持ちがわかるよ」

京子「……」

結衣「もし、今の自分があの時の自分と入れ替われるなら……きっと私から手を離したよ」ニコッ

京子「……」ゾワ

ヤンデレ×ヤンデレ…


結衣「でも、そっかぁ……。京子もみんなと同じだね」

結衣「京子なら分かってくれると思ってたんだけどな。みんなは私たちを引き離そうとしてるのか……」

京子「ゆ、結衣……」

結衣「そろそろ行かなきゃ、ちなつちゃんが待ってるんだ」

結衣「京子は止めないよね?」

結衣「ばいばい、京子」ニコッ


 足が動かなかった。
 私は去って行く親友を見送るしかなかった。

 そしてそれは、親友が私に見せた最後の笑顔だった。




ちなつ「ここは……?」

結衣「親戚の別荘なんだ」

ちなつ「素敵ですね」

結衣「気に入ってくれたみたいで嬉しいな」

ちなつ「誰もいないですね…」

結衣「……ちなつちゃん」

ちなつ「はい…?」

結衣「近くに湖があるんだ。行ってみない?」

いや自殺エンドはないやろ

ないやろ




ないやろ(釘押し)



ちなつ「わぁー……」

結衣「……」

ちなつ「綺麗ですね」

結衣「風が気持ちいいね」

ちなつ「静かですね」

結衣「二人きりだね」

ちなつ「まるで世界に私達しかいないみたい……」

結衣「ねぇ、ちなつちゃん」

結衣「―――――――――――――」

ちなつ「……先輩とならどんな世界でも輝いてます」

ちなつ「だから、私……」


結衣「ちなつちゃん」ニコッ

ちなつ「はい?」

結衣「愛してるよ」

ちなつ「うふふ、私も愛してますよ、結衣先輩」




        最後に見えたのは最愛の人の優しい微笑み


 


  ばいばい、私の愛した人。

 



fin
 

おわり
読んでくれた方ありがとうございます
ヤンデレ難しい

少ないけど結衣先輩にヤンデレなちーなは可愛い

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