岡部「ギガロマニアックス?」(525)

俺は賭けに勝った。

二人のうち、どちらか一方を見殺しにするという選択を放棄し、賭けに出た。
結果、二人は今も生きている。
その代償は──思い出。

ふと、携帯に登録したアドレスの一覧に目を通してみる。
が、そこにかつてあったものは、ない。
なかったことになっている。

再び携帯を操作し、メモ欄を起動する。
表示された六つの数字を見て、ため息をついた。



          『275349』



俺は賭けに勝った。

──はずだった。



Chapter 1 『安息のフィーネ』

2010年 8月20日



「───ま」

「──うま!」

「きょうま!」

フェイリス「凶真!」

岡部「ん? お? おお?」

フェイリス「次は凶真の番だニャン!」

岡部「あ、あぁ……そうだった、悪い」

フェイリス「全く! 携帯を見ながらフェイリスの相手ニャンて、失礼しちゃうのニャ」

岡部「……」

フェイリス「しかもため息までついて……まるで恋する乙女だったのニャ!」

岡部「…………」

フェイリス「その相手は目の前にいるはずニャのにぃ~!」

フェイリス「はっ、まさかまたマユシィのことを考えて──」

岡部「よ、よし! せっかくだから俺はターミナルカード、ラインブーストを使うぜ!」

フェイリス「……ニャフフ、甘いのニャーン」

フェイリス「ラインブーストを乗せたそのカードはぁ~……ウィルスカードなのニャ!」

岡部「うぐっ!」

フェイリス「で、こっちがリンクカードニャ。はい、フェイリスの勝ちニャ」

岡部「ぐぬぬっ……」

フェイリス「携帯を弄りながら対戦できるほど、雷ネットは甘くはないのニャ」

フェイリス「大体、以前の凶真ならともかく、今の凶真はよくて中級者と言ったところなのニャ」

フェイリス「この前の雷ネットABグラチャンで優勝できたのは、フェイリスのおかげということを忘れたのかニャ?」

岡部「はい、すいませんでした……。フェイリスのおかげです……」

フェイリス「……」

フェイリス「でもでもぉ~、凶真がそばにいてくれたからこそ優勝できたのニャ」

岡部「お、おい……?」

フェイリス「凶真ぁ……」

岡部「こらよせっ! と、隣の部屋に黒木さんがいるだろうっ」

フェイリス「……また、ルーンに秘められし失われた記憶を追い求めていたのかニャ……?」

岡部「あ、あぁ……どうやら機関はどうあっても俺に目覚めてほしくはないらしい」

フェイリス「大丈夫……凶真が覚醒しなくてもフェイリスは……フェイリスだけはずっと凶真のそばにいるのニャ……」

岡部「お、おいフェイ──」

 ブーブーブー

フェイリス「あ……」

岡部「む……」

フェイリス「フニャァ、フェイリスの携帯だニャ。ちょっとごめんニャ」

 ピッ

フェイリス「どうしたのかニャ?」

フェイリス「うん、うん…………わかったニャ」

 ピッ

フェイリス「凶真ぁ……ごめんニャ、メイクイーンが窮地に立たされてるみたいなのニャ」

岡部「メイクイーンが……?」

フェイリス「魔大戦で傷ついたご主人様たちが、メイクイーンに押し寄せてきているのニャ」

フェイリス「フェイリスはその手助け──いや、前線に立ってご主人様たちを癒さなければいけないのニャー!」

岡部「くっ……魔大戦……鍛えぬかれた歴戦の戦士たちですら通用しないというのかっ……!」

フェイリス「というわけでフェイリスは混沌渦巻く戦地へと赴かなきゃだめなのニャ」

岡部「心惜しいが、従わねばならんようだな……」

フェイリス「ごめんニャ……」

フェイリス「それじゃあ、マユシィたちを助けに行ってくるニャン!」

岡部(まゆりを……助ける……か)

フェイリス「凶真? どうしたニャ?」

岡部(このままフェイリスの家でゆったりしているのも悪くないが……)

岡部「俺も一緒に行こう」

フェイリス「凶真はそんニャにもフェイリスと一緒にいたいのかニャ?」

岡部「そ、そうは言っておらんっ」

フェイリス「またまたー、照れなくてもいいのニャ」

岡部「ええい、さっさと行くぞ!」

フェイリス「ニャフフ、凶真は甘えん坊で照れ屋さんなのニャ」

~メイクイーン~



まゆり「お帰りニャさいませー、ご主人様~」

岡部(まゆり……)

まゆり「あー、ほーおーいんさんだぁー、こんにちニャンニャン」

岡部「あ、あぁ」

まゆり「フェリスちゃんと一緒に来店なんて、ジェラシィメラメラバーニングだよぉ☆」

フェイリス「ニャフフ、親友と言えど手出し禁止ニャ」

岡部「しかし、混んでるな……」

フェイリス「だからそう言ったニャ」

岡部「あ、そ、そうだったな……」

フェイリス「それじゃあフェイリスはお仕事に入るから、凶真はゆっくりしていってニャ」

 ザワザワ

岡部(やはり混みすぎて落ち着かんな。まゆりの顔も見れたし、コーヒー1杯飲んだら帰ろう)

岡部(……あの場所にも足を運んでみるか)

岡部(もうすぐ日暮れ時だというのに暑いな……)

岡部(こうして歩いているだけで汗が滴り落ちてくる)

岡部「ん?」

???「うー……!」

岡部(なんだあいつ……あんなに唸って……)

岡部(だが……どこかで見たような…………だめだ、思い出せん)

???「梨深も七海もどこいっちゃったんだよぉぉっ……」

~ブラウン管工房前~



岡部「本当に変わらないな、この場所も」


それは慣れ親しんだ風景。
幾度となく目にした風景。

二階へ上がればラボがあり──
みんながいて、まゆりがいて。
──俺の居場所があった。

が、そこにあるはずのものは、ない。
なかったことになっている。

数日前、俺はフェイリスのDメールを打ち消そうとした。

しかし、俺にはできなかった。

まゆりの命を救うためとはいえ、フェイリスの大切な人を奪うことなんてできなかった。
その責任を負うことなんてできなかった。
俺は神になんてなれなかったんだ。

だから俺は賭けに出た。
賭けたのだ──まゆりも救い、フェイリスのパパさんも死なない可能性に。

結果、二人の命が救われる世界線にたどり着いたものの……。

俺とラボメンとの関わりは、フェイリスを除き、全てなくなっていた。
俺とラボメンとの思い出は、フェイリスを含め、全て犠牲になった。

──まゆりとの思い出すら。

だがそれでいい。
消えた思い出は思い出としてしまい込んで──
これから、ここで生きていくために、俺はこの世界線の岡部倫太郎と同化する──

そう決めたんだ。



岡部(しかし……こうして思い出にすがりに来ているわけだ)

岡部(これでは想いを犠牲にしてしまった鈴羽に怒られるかもな……)

岡部(……相変わらずラボの有無以外はあの時のまま)

岡部(今にも鈴羽が店から出てきそうな光景──)

鈴羽「ふんふーん」

岡部(そう、こんな風に──)

鈴羽「今日はどうしようかなー」

岡部(参ったな。思い出にすがるあまり、妄想が溢れだして──)

岡部「ん?」

鈴羽「あれ、お客さん?」

岡部「鈴羽ぁっ!?」

鈴羽「えっ!? な、なんであたしの名前……」

岡部「お、おまっ……なんで、ここにっ……この世界線にっ……」

岡部(鈴羽がいる、間違いなく)

鈴羽「おーい」

岡部(す ず は が い る)

岡部(いや待て! 何もおかしいことはない)

岡部(俺は8月14日、α世界線からの跳躍後、ダイバージェンスメーターを確認しに天王寺家へと向かった)

岡部(そこには確かにダイバージェンスメーターが存在した)

岡部(それが示すことは……)

岡部(未来の俺が、タイムトラベラーにダイバージェンスメーターを託した)

岡部(そしてタイムトラベラーである鈴羽は未来を……世界線を変えるためにこの時代へとやってきた。ダイバージェンスメーターが何よりの証拠)

岡部(ぐうぅっ、迂闊だった! もっと注意を払うべきだった! なぜこの可能性に気づかなかったのだっ)

鈴羽「おーいってば」

岡部「きっ……きさまぁっ! 未来から来たのだろうっ!? 何しに来た!」

鈴羽「ちょ、なんであたしがタイムトラベラーだって知ってんのぉ!?」

岡部「この期に及んでまた未来を変えろ、などと言うのではあるまいな!?」

鈴羽「もしかして……君が岡部倫太郎……?」

岡部「おっ、俺はもうっ……! 受け入れたんだっ!」

岡部「大切な思い出を犠牲にしてまでたどり着いたこの世界線を受け入れ──」

鈴羽「……やっぱ君がそうなんだね……よかった、やっと接触できた」

岡部「たのに…………」

鈴羽「岡部倫太郎──」


やめろ。


鈴羽「力を貸して──」


聞きたくない。


鈴羽「未来を──」


それ以上言わないでくれ。


鈴羽「変えて欲しい」



Chapter 1 『安息のフィーネ』END

Chapter 2 『虚像妄想のリアル』



気づけば俺は、その場から逃げるように走り出していた。

ふざけるなよ。
ここ数日、俺がどんな気持ちでいたと思っている。

頭では受け入れたつもりでも、心のなかを、空虚さが占めていることに気づいて。
情けないけれど、とてもさみしくて、心細くて。

でも、やっと受け入れられるようになってきたんだ。
それなのに……。
鈴羽はまた俺に、未来を変えろなどと言ってくる。

罰なのか? 不用意に過去改変をした罰なのか?
鈴羽の想いを犠牲にした罰なのか?

もう……引っかき回すのはやめてくれ……。


岡部「なんだよ……なんなんだよ……」

岡部「俺がやってきたことはなんだったんだよ……」

岡部(世界がまゆりを殺そうとして、それから逃れるために何度もタイムリープしてっ!)

岡部(でも全て同じ結果になってっ!)

岡部(鈴羽の想いを犠牲にして、フェイリスの大切な人まで奪いそうになってっ!)

岡部(でも俺には、もう選べなくて……)

岡部(だから収束から逃れるために賭けに出た……そして賭けに勝った……)

岡部(そうじゃ……なかったのかよっ……!)

岡部「……」

岡部(鈴羽がタイムトラベルしてきた以上、未来で何かしらの異変、それもかなり不都合な状態に陥ってる可能性が高い)

岡部(ディストピア構築に匹敵するほどの未来か、あるいは……ディストピアそのもの……)

岡部(くそっ……どうしたら……どうするべきなんだ、俺は!)

???「そんなところで何してる」

岡部「──え?」

???「邪魔だ、どけ」

岡部「あ……」

岡部(この女……どこかで……?)

???「なんだ、人の顔をじろじろと……」

岡部「──あ! お前は確かっ」

???「ん……?」

岡部「蒼井……セナとか言ったか」

セナ「なぜ私の名前を……って、そういうお前は……」

セナ「そうか……白衣を着ていたから分からなかったが、あの時の妄想垂れ流し男か」

岡部「くっ!」

セナ「道のど真ん中を占領して立ち止まって……また妄想に浸っていたのか?」

岡部「なんだとっ!」

セナ「言ったはずだ、あまり妄想するな、と」

岡部「馬鹿を言うな! 決して妄想などではないっ!」

セナ「付き合いきれないな」

岡部「あ、おい! 待て! あの時はよくも──」

鈴羽「っと、いたいたーっ!」

岡部「──っ!」

鈴羽「ちょっとー! 勝手にいかないでよー!」

鈴羽「店長に捕まって大目玉食らったじゃんかー、もー!」

岡部「鈴羽……」

鈴羽「話は最後まで聞いてってば……」

岡部「……す、すまん。だが俺は……」

鈴羽「ふーっ……」

鈴羽「岡部倫太郎、ギガロマニアックスについては、もう知ってる?」

岡部「ギガロマニアックス?」

鈴羽「あっちゃー、存知してないんだっけか……説明するのが面倒だねこりゃ」

セナ「おい」

岡部「おわっ!?」

セナ「今、ギガロマニアックスと言ったか」

岡部「お、おい、襟首を掴むな、くるし──」

セナ「今、ギガロマニアックスって言っただろ」

岡部「いや言ったのは俺じゃ──」

セナ「質問に答えろ!」

岡部「これじゃ答えられなっ……ぐぇぇ」

鈴羽「言ったのは、あたしだよ」

セナ「……お前か」

岡部「げほっ……」

セナ「お前は何者だ。なぜギガロマニアックスのことを知っている!?」

鈴羽「もしかして君……ギガロマニアックスなの?」

セナ「だとしたらどうする」

鈴羽「どうもしないし、できない」

鈴羽「あたしは……阿万音鈴羽。……2036年から来たタイムトラベラーだよ」

セナ「なん……だと……?」

セナ「…………」

鈴羽「…………」

セナ「なるほど、確かに未来から来たようだな」

岡部「!?」

岡部(信じた! あっさり信じたぞこの女!)

鈴羽「あたしの思考を……読んだんだね。よかった、説明する手間が省けたよ」

セナ「そうだ、よく分かってるじゃないか」

岡部(何を言ってるんだこいつら、厨二病か!? 揃いも揃って厨二病なのか!?)

鈴羽「聞いて岡部倫太郎。未来の世界は……SERNが開発した装置、ノアによって支配されている」

岡部(またSERN……)

鈴羽「まずギガロマニアックスってのは何かっていうと、妄想を現実にすることが出来る人達のこと」

岡部「は?」

鈴羽「で、ノアは人工のギガロマニアックスを作り出す装置、SERNが開発して独占している」

鈴羽「SERN──いや、300人委員会は、ノアとその端末を使用して人々の思考を支配……ディストピアを構築しているんだ」

岡部「はっ……ははっ」

鈴羽「どっ、どうしたの?」

岡部「フハハ、フゥーハハハ!!」

岡部「ハハハ、何を言い出すかと思えば……」

岡部「妄想を現実だと? ふざけるのも大概にしろっ」

岡部「鈴羽、さてはお前……俺を脅かしに来ただけだろ。そうだ、そうに決まってる」

岡部「ついでに蒼井セナ、貴様も協力者だな? 手の込んだことをしてくれるな全く!」

岡部「だがこの鳳凰院凶真! そんな嘘に騙されるほどバカではないぞフハ、フハハ!」

岡部「大体なんだ、ギガロマニアックスというのは! センスの欠片もない!」

セナ「その女の言ってることは本当だ」

岡部「馬鹿を言うな! ぬぁにが妄想だ! そんなものに世界を変えられてたまるかっ! それこそお前らの妄想だっ!」

セナ「妄想は、電気仕掛けだ。いや、すべてのものは電気仕掛け、とすら言える」

岡部「ふん……一年前に会った時もそのようなことを言っていたな! この、電波めっ!」

セナ「……」

岡部「……?」

セナ「…………」

岡部(なぁっ──!?)

セナ「お前には、この剣が見えるか?」

岡部(け、け、け剣が、出てきたっ!?)

岡部(こ、こんなでかい剣、一体どこから……こいつ手品師か!?)

岡部「お、おい、その剣は一体何だ……」

セナ「まさかとは思ったが……見えていたのか、このディソードが……」

岡部「ディソード……?」

セナ「”見えてないフリ”をしていたとは……」

岡部(”見えてないフリ”? いや、”見えてるフリ”をした覚えはあるが……)

岡部「こ、答えろ! その剣は一体何だ! どこから出したのだ!」

セナ「世界の仕組みは3つの数字で全て説明できる。0と1、そしてマイナス1」

あやしゃん√みたいにのろしぃ生きてる?
それとも研究が残ってた?
とりあえずギガロマたちが元気ならそれで嬉しい

セナ「ディソードは、そのマイナス1を生み出す為のショートカットであり、ディラックの海へと干渉するための端末だ」

岡部「ディラックの海……空孔理論か」

セナ「ディソードがディラックの海に干渉することで粒子と反粒子を対生成される」

セナ「この時生み出された粒子こそがギガロマニアックスの妄想、エラー」

セナ「そのエラーを周りの人間のデッドスポット──視界の死角──に送り込み、個人の妄想を”周囲共通認識”として成立させることで、妄想を現実にすることができる」

セナ「量子力学的に妄想を現実にすること……それがリアルブートだ」

セナ「そしてリアルブートする力を持った人間をギガロマニアックスと呼ぶ」

岡部「に、日本語で頼む……」

セナ「できることに限りはあるが、私たち……ギガロマニアックスは妄想を具現化できるということだ」

岡部(いやいやいや、そんなことできるわけがなかろう!)

セナ「VR技術、というものを知っているか」

岡部(VR……? 確かヴィジュアル・リビルディング……)

セナ「そう、ヴィジュアル・リビルディングだ」

岡部(助手に似て髪長貧乳理系キャラだが……決定的に違うところは黒髪なのと、電波すぎるところだな)

セナ「だれが貧乳だ……斬るぞ」

岡部「お、ぉっ、落ち着けぇ! 剣を向けるな!」

岡部(……俺……今、声に出してたか……?)

セナ「……VR技術を用いて、ある物体の情報を神経パルスへと変換──それを人の脳に認識させ、五感をコントロールすることができたなら……」

セナ「その物体はそいつにとって”存在する”ことにならないか?」

岡部「たしかにそうだがっ……それはあくまで個人の脳が認識しているに過ぎないだろ!」

セナ「もう一度いう、この世界はすべて電気仕掛けだ。”目に見えたことこそがすべて”なのではない」

岡部「しかしだな……」

セナ「……まだ信じられないのか」

鈴羽「実際に見せた方が早いんじゃないかな」

セナ「…………」

岡部「うおっ!? ガ、ガルガリ君が何もないところから出てきた!? また手品か!?」

セナ「…………」

岡部「!? ま、まただ……」

鈴羽「岡部倫太郎……あたしはそのガルガリ君を、”蒼井セナが最初から持ってた”そう認識してるよ」

岡部「へ……?」

鈴羽「蒼井セナ、君がリアルブートしたんでしょ?」

セナ「そうだ」

岡部「鈴羽、お前本当にこれが最初からあったって思ってるのか? 今出てきただろ! 何もないところから!」

鈴羽「そのことを証明する手立ては無いけど、本当だよ。あたしは”最初からアイスがそこにあった”って知覚している」

セナ「ギガロマニアックス以外の人間には、リアルブートされた現実でも、”最初からそこにあった”としか認識できないからな」

岡部(バカな……それではまるで記憶の再構成……)

鈴羽「君たちの会話を聞いて、リアルブートしたんだろうなって推測しただけ」

岡部(というかそのガルガリ君は本物なのか? 俺が幻を見せられてるだけじゃないのか?)

岡部「ある……実体は……ある……」

岡部「お、おい……これって、食えるのか?」

セナ「もちろんだ」

岡部「そ、そんな……嘘だろ……? 本当にこれが妄想から作られた存在なのか……?」

セナ「だが私は食べないことにしている」

岡部「? ……なぜだ」

鈴羽「じゃああたしにちょうだい」

セナ「……食っていいぞ」

鈴羽「サンキュ」

セナ「そのガルガリ君は99%ガルガリ君ではある──が、100%ではない」

岡部「なに?」

セナ「私はガルガリ君について知り尽くしている、当たり札の割合まで知っている」

セナ「その情報を元に、限りなく本物近い形で具現化したが、所詮は人のイメージ。100%とは言えない」

セナ「つまり、100%のガルガリ君をリアルブートすることはできない」

岡部「ふむ……?」

セナ「故に私はそのガルガリ君を食べないことにしている」

セナ「店に売っている100%のガルガリ君以外は……邪道だ!」

岡部「何を熱弁しているのだ貴様は……」

セナ「……こほん」

鈴羽「ねえ……そろそろ説明に入りたいんだけど、いいかな」

鈴羽「未来がどうなっているのか、と……未来を変えるための方法について」

岡部「…………」

買ってるシーンや買いだめもあるけど
普通にどこからともなく取り出して食べてた気が…
ぼ、僕はコーラ味がいいです……

~大檜山ビル2階~



岡部「ラボ──いや、この部屋はお前が使っていたのだな」

鈴羽「最初は店長のお家にお邪魔させてもらってたんだけど、つい最近貸してもらったんだ」

鈴羽「空き部屋だし、ちょうどいいってことで、格安でね」

岡部(だから店長の家にダイバージェンスメーターがあったのだな……)

鈴羽「それに……」

岡部「それに?」

鈴羽「なんだか、すごく思い入れがあるんだよね、この場所」

岡部(……フェイリスと同じように、鈴羽にもリーディングシュタイナーが発動したのか?)

鈴羽「一応さ、ギガロマニアックスの力について、もう一度おさらいしてみようか」

岡部「あぁ……」

岡部「ギガロマニアックス……妄想の剣ディソードを持ち、妄想を現実化することの出来る人間」

岡部「これでいいな」

セナ「もっとも、ギガロマニアックスの力は様々な使い道がある」

セナ「ディソードをリアルブートし、現実の剣として使用すること」

セナ「他人の思考を読む、見る」

セナ「他人に思考を読ませる、見させる」

セナ「人の記憶を改変したり、五感をコントロールし洗脳することも可能だ」

セナ「力の強い者が望めば、生物すら作り出せる」

岡部「やりたい放題ではないか……」

セナ「だが弱点がないわけではない」

岡部「と言うと?」

セナ「一つは、周囲の人間に対して認識するよう働きかけなければならないので自分だけでは使用できないということ」

セナ「もう一つ、は肉体の再生はできないということ」

セナ「脳が痛みを認識してしまう為、怪我の治療などには使えない」

岡部「ふむ……」

セナ「また、特殊な例だが……他人の心の声が音声として、強制的に頭の中に流れてくるという能力を持った者もいる」

岡部「強制的に……」

セナ「制御はできないらしい」

セナ「他人のむき出しの心の声が無制限に聞こえてしまうというのも、本人にとっては耐え難い苦痛だ」

岡部「そう言われれば、そうなのかもしれないな……」

セナ「……」

 ガターン

拓巳「セナァァァァ!!」

セナ「やっときたか」

岡部「お前は……さっきの……」

鈴羽「えっと……誰?」

セナ「西條拓巳、私が呼んだ」

岡部「……! どこかで見覚えがあると思ったら、ニュージェネ事件のエスパー西條か!」

拓巳「セ、セナ! な、七海たち見つかったのっ!?」

セナ「……いや」

拓巳「って、どっ、どこにも居ないじゃないかっ……」

拓巳「ぐぞぉぉぅ、僕にギガロマニアックスの力が残ってればぁぁぁっ」

岡部(こいつもギガロマニアックス……? でも能力は失われているのか?)

セナ「落ち着け西條、私だって梢たちを助けたい」

拓巳「って、あ……こ、この人達は……?」

鈴羽「阿万音鈴羽、よろしく」

岡部「……鳳凰院凶真だ」

拓巳「う、うそ! マ、マ、ママジ!? あの凄腕雷ネッターの? で、でもなんでセナと一緒に……」

────
───
──


鈴羽「さっきも言ったけど、未来の世界はSERNが支配している。人工のギガロマニアック装置、ノアを使ってね」

拓巳「ちょ! う、うそ……でしょ? つか、み、未来って……なんぞ……」

セナ「だが、プロジェクトノアを企てた野呂瀬はすでに死んでいる。ノアⅡも破壊されたはずだ」

拓巳「そ、そうだぞ! の、の、野呂瀬は死んだし、ノ、ノアⅡも破壊した!」

鈴羽「プロジェクトノア……ニュージェネ事件や渋谷崩壊を引き起こす元となった計画」

岡部(この世界線でも渋谷崩壊はあったのか……)

鈴羽「2009年に野呂瀬玄一をはじめとした首謀者の死亡、及びノアⅡが破壊されたことにより計画は阻止された」

鈴羽「だけど、SERNが再びノア──いや、ノアⅢを開発した。そして──」

鈴羽「ノアⅢの力を独占し、プロジェクトノアを引き継ぐ形で、世界人間牧場化計画を実行したんだよ」

拓巳「ノア……Ⅲ……?」

セナ「バカな……」

鈴羽「SERNはノアⅢを使って人々の思考──攻撃性や欲望といった感情をコントロールすることで、ほぼ完全なディストピアを構築してる……」

セナ「だが……野呂瀬はSERN……300人委員会に対し反旗を翻そうとしていたはず」

岡部(300人委員会……いや、SERNならば不思議はない、か)

セナ「なぜその委員会がプロジェクトノアを引き継いだんだ?」

鈴羽「技術をSERNが盗んだか……最初から野呂瀬が踊らされていたのか……って考えるのが自然だろうね」

岡部(自然……なのか? α世界線ではノアのことなど一切聞かなかったが……)

岡部(……しかしタイムマシンではなく、妄想を現実にする装置でディストピア構築とは……一体どんな心変わりを?)

岡部(いや、電話レンジがないのだから、タイムトラベル研究が頓挫する……のか)

拓巳「と、とすると、な、七海たちがどっか行っちゃったのも、SERNの仕業……なの?」

鈴羽「恐らくそうだよ」

岡部「どういうことなんだ?」

セナ「今、私の周りで、ギガロマニアックスの力を持った人間が次々と行方不明になっているんだ」

セナ「4日ほど前に、梢……私の友人が」

拓巳「こ、こずぴぃを探してたら……こ、今度は梨深と七海が……」

鈴羽「計画の邪魔にならないよう、さらったか……もしくは……」

セナ「ギガロマニアックスが力を使う過程で放出する特殊な脳波のサンプル、コードサンプルを採取するため……か?」

岡部「コードサンプル?」

セナ「ノアの完成には、ハードウェアとは別にギガロマニアックスのコードサンプル──いわばソフトウェアに当たる部分が必要になる」

岡部「ということはつまり、まだ開発段階……ということでいいな?」

鈴羽「うん。ノアⅢの稼働は、2012年12月21日」

鈴羽「このままじゃノアⅢが完成してしまう。早く未来を変えないと──」

拓巳「なんだよそれ……」

岡部「お、おい……?」

拓巳「なんだよそれなんだよそれなんだよそれぇっ!」

セナ「おい、西條……落ち着け」

拓巳「せ、せっかく! ぼっ、僕が野呂瀬を倒したっていうのになんだよそれ!!」

拓巳「死ぬとこだったんだぞ! め、めちゃくちゃ怖かったんだぞ! つ、つか一回死んだも同然でしたしー!!」

拓巳「妄想の中で三日三晩拷問みたいな痛み味わってさ! それなのに……また……」

拓巳「ま、また僕に世界を救えっての……? 僕は英雄なんかじゃ……」

鈴羽「ちょっと、落ち着いてよ西條拓巳」

拓巳「お、落ち着いてなんて……」

鈴羽「未来を変える鍵は君じゃなく、岡部倫太郎が握っている」

拓巳「へ……?」

鈴羽「岡部倫太郎も君も、話を最後まで聞かないんだから、まったく」

岡部「……悪かったな」

拓巳「つか、さ、さっきから未来って……。なに? なんなの? み、未来って何さ。こ、この人も電波なの?」

鈴羽「あぁ、君にはまだ言ってなかったっけ」

セナ「こいつはタイムトラベラーだ」

拓巳「へっ?」

鈴羽「そう、あたしはタイムトラベラー・ジョンタイター」

拓巳「え? ええええ!? そ、そ、それって7月の終わりに@ちゃんで、ま、祭りになってた!?」

鈴羽「2036年から来たんだ。未来を変えるために──」

岡部「……」


鈴羽はまた、未来を変えろ、などと言ってくる。
正直、俺は迷っていた。
確かにまゆりとフェイリスのパパさんを助けるためにした選択は、逃げだ。
鈴羽の思いを犠牲にしておきながら、無責任であった、と言える。

しかし──

未来を変えたら、その先は一体どうなるんだ?
また世界線を不用意に変えてもいいのか?

俺は受け入れたんだ。
この世界を……。
二人が生きているこの世界を……。



Chapter 2 『虚像妄想のリアル』END

Chapter 3 『惜別のデジャヴュ』



岡部「…………」

セナ「アトラクターフィールド理論……過程は違えど必ず行き着く結果は同じになる、ということか」

鈴羽「そうだよ」

セナ「2036年ではそのような理論が提唱されているのか。……驚いたな」

鈴羽「そして、世界線を移動しても記憶を持ち続けることのできる岡部倫太郎こそが世界を救う鍵なんだよ」

拓巳「つかジョンタイター存在したんだキタコレ!
    祭りも沈静化してたから完全に忘れてたってばよ!
    ポーター共のいたずら乙って決めてた僕のバカバカ!
    それにしてもこんなにかわいいおにゃのこがタイターとかムネアツすぎ!」

拓巳「み、未来人のしょ、証拠、み、見せて、ほ、ほ、ほしいなチラッチラ、なんて! ふひひ」

鈴羽「証拠って言われてもなぁ……ラジ館にめり込んでる機械がタイムマシンだよ、ってくらいかな」

拓巳「うそ! あれ、タッ、タイムマシン!? まっじかよ! じっ、人工衛星じゃねーじゃんっ!」

岡部「鈴羽」

鈴羽「ん?」

岡部「未来を変えろ、といったな」

鈴羽「う、うん……」

岡部「俺は……お断りだ」

拓巳「へ?」

鈴羽「へ?」

岡部「俺はもう、受け入れたんだ、この世界線を……」

岡部「まゆりとフェイリスのパパさんが生きてるこの世界線を……」

拓巳「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなの無責任だろおっ!?」

岡部「これ以上世界線を不用意に変えて、二人が再び命を落とすことになったら……俺は……」

拓巳「そ、それじゃあ捕まってる七海たちは、どっ、どうなるのさ!」

岡部「……」

鈴羽「岡部倫太郎……」

岡部「すまない、俺は……」

鈴羽「椎名まゆりも、SERNに捕まるって言ったら、どうする?」

岡部「何……? それはどういう意味だ……?」

鈴羽「そのままの意味だよ。椎名まゆりはSERNに捕まる」

鈴羽「コードサンプル採取の目的でね」

セナ「ということはつまりそいつも──」

鈴羽「そう──」

鈴羽「椎名まゆりはギガロマニアックスの素質を持っている」

岡部「馬鹿な……」

拓巳「そうか……ぼ、僕の力がなくなったことでコードサンプルが十分じゃなくなったんだ……」

拓巳「だ、だから他のギガロマニアックスも捕まえて、ノアをより完璧に仕立て上げるために……」

岡部「くっ……まゆりっ!」

鈴羽「大丈夫、椎名まゆりが拉致されるまでは時間がある」

岡部「でも!」

鈴羽「今君が行っても、どうにもならないでしょ」

岡部「確かに、そうだがっ……」

鈴羽「2010年8月25日、SERNに捕らえられた椎名まゆり」

鈴羽「彼女はその後、拷問の果てにギガロマニアックスとして覚醒することになる」

岡部「ご、拷問だと!?」

セナ「ギガロマニアックスの素質を持つ者がギガロマニアックスとして覚醒するには……」

セナ「想像を絶する程の肉体的、精神的苦痛に耐え抜かなくてはならない」

岡部「は!?」

セナ「その苦痛を受け入れた時……」

セナ「それまで風景に溶け込んでいたディソードが持ち主の前に姿を現す」

セナ「故にディソードを持つギガロマニアックスは、誰もがみな……一度は心が壊れているんだ」

拓巳「ぼ、僕の時も大変だったよ……みんなして僕をいじめてさ……」

セナ「あれはお前がヘタレすぎたんだ」

拓巳「セ、セナに言われたくない……」

鈴羽「ギガロマニアックスのコードサンプルを取られた椎名まゆりは……」

鈴羽「いや、SERNに捕らえられたギガロマニアックス達はみな……処分されることになる。ノアⅢの稼働とともに」

岡部「そんな……」

拓巳「う、うそ……でしょ……?」

鈴羽「覚醒したギガロマニアックスに、ノアⅢの洗脳はほとんど効かないしね……」

鈴羽「邪魔な存在ってことで、消されたんだと思う……」

岡部(この世界線でのまゆりも助けられないっていうのか……)

岡部(それも拷問だなんて……そんなのあんまりだろ……)

鈴羽「そして岡部倫太郎。君もギガロマニアックスとしての素質を持っている」

岡部「俺も……?」

拓巳「そ、そうなの?」

セナ「さっき私の剣を見ただろう」

岡部「あ、あぁ……」

セナ「リアルブートする前のディソードを見ることが出来るお前は、ギガロマニアックスとしての素質を持っている」

セナ「あの時……”見えてないフリ”をしていたとはな、まんまと騙された」

岡部「……?」

岡部(確かに俺は一年前、こいつに会った時”剣が見えるか”と問われたが……)

岡部(結局剣などどこにも存在していなく……)

岡部(その当時は厨二病全盛期だったので、”見えるぞ? 妖刀朧雪月花か”と、ホラを吹いたのだが……)

岡部「俺がギガロマニアックスの素質を……」

鈴羽「でも岡部倫太郎、君だけは処分されなかった」

岡部「……なぜだ」

鈴羽「一つは、君の妄想力がそこまで高くなかったってこと」

岡部「……貶されてるのか、褒められてるのか、分からんな」

鈴羽「もう一つは、タイムトラベルに関する知識を持っていたこと」

鈴羽「SERNはさ、タイムトラベルの研究も行なっていたんだ」

岡部(前の世界線ではむしろそちらの方が本来の目的だったが……)

鈴羽「世界線を越えても記憶を持ち続ける力、リーディングシュタイナー。君はSERNにその力を持ちかけて、処分を逃れたんだ」

鈴羽「後に君は脱走しSERNに対抗するレジスタンスを結成することになる」

岡部「レジスタンス……」

鈴羽「未来では人々の意思なんて無いも同然。まさに家畜同然の扱いを受けている」

鈴羽「ただ生かされ、ただ死んでいく……。洗脳が効かない者は容赦なく殺される……」

鈴羽「そんな世界を変えるためにレジスタンスを結成した君は、SERNに抵抗を続け──」

鈴羽「父さんたちレジスタンスの仲間と共にタイムマシンを開発──」

鈴羽「世界を……未来を変えるのは父さんの意志でもあり……そして、君の意志でも、あるんだよ」

岡部「俺の……意志……」

鈴羽「そう、椎名まゆりを救おうとする意志だけじゃない。世界に自由をもたらす立派な志だよ!」

岡部(そう言えば、α世界線でも似たような会話をしたな……)

あああ、これ見てたら混沌の扉が見たくなってきた
なんで当時ニトロプラスコンプリート買い逃したんだよ。氏ね!

岡部(あの時俺は、その意志をくだらないと一蹴したが──)

拓巳「たっ、頼むよ……七海たちの命もかかってるんだよぉっ……」

岡部「……いいさ、やってやるよ」

岡部「まゆりを助けるためなんだろ? それならなんだってやってやる」

岡部「言っとくがこれはまゆりを救うためであって、世界を救うためじゃない」

拓巳「お、女絡みっすか……」

鈴羽「良かった……」

岡部(この世界線での俺とまゆりはほとんど他人といっていいようなもの)

岡部(だが他人になったからと言って……殺させるわけにはいかない)

岡部「そういえば……」

岡部「紅莉栖……牧瀬紅莉栖は未来ではどうなっていた?」

岡部(あいつがいてくれれば心強いが……いや、巻き込むわけにもいかないか?)

鈴羽「……まさか君からそんな名前が出るなんてね」

岡部「……?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖……あいつはSERNでタイムトラベル研究に従事していた」

岡部「なに……?」

鈴羽「2036年現在でも、研究はうまく行ってないみたいだけど……」

鈴羽「それでもSERNに協力する科学者なんて、許せないっ……!」

鈴羽「ノアⅢに加えてタイムマシンなんて作られた日には、それこそおしまいだよっ……」

岡部(バカな……)

岡部(この世界線での紅莉栖やダルはSERNに拉致される理由もないはず……)

岡部(だとしたら紅莉栖が自発的に? くそ、訳がわからんぞ……)

岡部(でも……この未知の世界線ですらまゆりの命が失われるというのであれば……)

岡部「……で? どうすればいいのだ?」

鈴羽「世界を救う鍵……未来を変える方法は、IBN5100にある」

岡部「……IBN……5100……」

鈴羽「ノアⅢの構築プログラムのデータ──いわばハードウェア部分の設計図だね」

鈴羽「未来の君が掴んだ情報によれば 、そのデータは今、SERNの最重要機密のデータベースにのみ存在している」

鈴羽「そしてノアⅢの開発は、すべてのギガロマニアックスのコードサンプルが採取されない限りスタートしないんだ」

岡部「ということはつまり……」

鈴羽「IBN5100を使ってSERNのデータベースにクラッキングを仕掛け──」

岡部「ノアⅢの構築するためのデータを消してしまえば──」

鈴羽「未来を変えられる──」

鈴羽「ホントはもっと早く君に接触して、この情報とIBN5100を託すつもりだったんだけど……」

鈴羽「時間が掛かっちゃったね。ごめん……」

拓巳「で、でもSERNにクラッキングとか、む、無理じゃね?」

岡部「それは、マイフェイバリットライトアームに頼めば問題ない」

セナ「なんだそれは……」

拓巳「で、でもさ、仮にできたとしても、ノアⅢの設計図はど、どうやって探すのさ?」

拓巳「希テクノロジーが開発したんだよ? わ、分かるの?」

セナ「問題ない、私が解析できる」

拓巳「あ──そ、そうか、セナのお父さんって……希のしゃ、社員だったんだ」

セナ「……」

拓巳「あ、ご、ごめ……」

岡部「よし、ならば早速IBN5100を──」

鈴羽「うん、君に託すために……1975年に……飛ぶよ」

鈴羽「思った以上に事態は深刻みたいだしね……」

鈴羽「大分岐によって、捕まったギガロマニアックスたちの運命も変えられればいいんだけど……」

岡部「……いや、待て」

鈴羽「ん?」

岡部(フェイリスは確か、パパさんにIBN5100を売らないようにDメールを送ったはず)

鈴羽「どうしたの?」

岡部(だとしたらパパさんがIBN5100を持っている?)

岡部「早速フェイリスパパに──」

岡部「ってちょっと待て! あの人は今、海外に飛んでるのだったっ……!」

岡部(いや…………もしかすると)

鈴羽「ちょっとー、どうしたのさー? 説明してよー」

岡部「すぐ戻る!」

~柳林神社~



岡部「はぁっ……はぁっ……ふぅっ……はぁっ……」

るか「お掃除終わりっと……」

岡部(ルカ子……)

るか「あ……」

岡部(相変わらず巫女服が似合っている、だが……どっちだ?)

るか「えっと、参拝の方……ですか……?」

岡部「……あ、いや……少し尋ねたいことがあるので、お父上を呼んできてもらえるか?」

るか「お父さん……ですか? 分かりました、呼んできますね」

岡部(やはりこの世界線では俺とルカ子に面識はないみたいだな)

────
───
──


栄輔「おやおや、これはこれは、どうされました?」

岡部「ええと、その……昔、この神社に古いパソコンが奉納されたりはしませんでしたか?」

栄輔「古いパソコン……ですか?」

栄輔「……あぁ。奉納という言葉が正しいかどうかはわかりませんが、昔古いパソコンが預けられたのは確かです」

岡部(やった!)

栄輔「それがどうかしましたか?」

岡部「もしよろしければ、貸していただきたいのですが」

栄輔「ええ、分かりました。少し待っててくださいね」

岡部(よし……)

────
───
──


栄輔「おかしいですねえ……」

岡部「ど、どうかしたんですか?」

栄輔「いえね、確かにあったはずなんですが……なくなっていたんです」

岡部「え……」

栄輔「去年の大晦日まではあったんです。……るかも覚えてるよな?」

るか「はい……確かにあったと思います。ボクも大掃除の時に、確認しましたから……」

────
───
──


岡部(どういうことだ……? フェイリスパパが奉納したのはルカ子の父上の証言からも明らか……)

岡部(……ルカ子のDメールか……もしくは萌郁のDメールが関係していると?)

岡部(だとしても、俺にはもうどうすることもできない……)



~大檜山ビル2階~



拓巳「あ、か、帰ってきた」

鈴羽「ちょっとー、説明もなしにどっか行かないでよー」

拓巳「そ、そうだぞっ」

拓巳「お、おかげで僕は両手に花……じゃなくて、たっ、大変だったんだからなっ」

鈴羽「あっはは、全然喋ってなかったよね君」

拓巳「そ、そもそも2036年の科学とか話されても、ぼっ、僕には理解できないっつーのっ」

ロボノ勢は種子島で小学生だからキツくね?

うぴぃ!

|д<◎>).。oO(その目だれの目?)

鈴羽「で、どうしたの?」

岡部「IBN5100を探しに……な」

鈴羽「嘘! あったの!?」

岡部「いや、なかった……」

鈴羽「……そっか」

岡部(くそ、一体どこに行ってしまったんだ……)

鈴羽「じゃあ、あたしは行くよ」

拓巳「い、行くってどこへ……」

鈴羽「1975年、IBN5100の発売された年」

拓巳「ま、まじっすか!」

岡部「……」

鈴羽「……」

岡部「鈴羽よ……お前、この時代へは、父親を探しに来たんじゃないのか?」

鈴羽「そうだったんだけど……探してる暇も、もうないかな……」

鈴羽「タイムマシンオフ会でも、結局見つけることはできなったし……」

鈴羽「今は一秒でも早く、君にIBN5100を託さないと、ね」


鈴羽はどこか憂いを帯びた表情をしている。
やはり、行ったら戻ってこれないのだろう。


岡部「俺はっ……お前の父親の居場所を知っている」

鈴羽「う、嘘! ホントに!?」

~メイクイーン~



鈴羽「ホントにこんな所にいんのぉ?」

岡部「あぁ……恐らく、来ているはず」

鈴羽「ここってさ、メイド喫茶ってヤツだよね。と、父さんって一体……」

岡部「一応、覚悟はしておけ」

鈴羽「まさか、メイド服来て登場とかしない……よね」

岡部「それはない」

まゆり「おかえりニャさいませー、ご主人様~」

フェイリス「ニャニャ、凶真、また来たのかニャン?」

岡部「ああ」

フェイリス「ニャフフ、やっぱり凶真はフェイリスのことが──って」

フェイリス「凶真……その後ろのかわいい女子は誰かニャ……」

岡部「え? い、いや、こ、これはだな──」

フェイリス「フェイリスが前線で必死に戦っているときに凶真は……凶真は……!」

フェイリス「凶真のニャンばかーっ!」

岡部「お、落ち着けェーっ!」

ダル「ちょっとちょっと! なにフェイリスたんと馴れ馴れしくしてるのさ!!」

岡部「ダ、ダル!」

ダル「って、よく見れば鳳凰院氏じゃないっすかー、また会えて感激っす」

フェイリス「ダルニャンには少し黙っててもらいたいのニャ。今はフェイリスが話してるのニャ」

ダル「ぐは……」

まゆり「フェリスちゃんはダルニャンくんに容赦ないねー」

岡部「おい鈴羽……心して聞くがいい」

鈴羽「え? なになに?」

フェイリス「凶真? 何こそこそと話してるのニャ」

岡部「この帽子をかぶった大男こそがお前の父親、橋田至だ」

鈴羽「え? 父さんこんなに太ってなかったよ?」

岡部「痩せたのだろう。信じろといっても無理かもしれないが……事実だ」

鈴羽「そ、そっか……」

フェイリス「凶真ぁ!! フェイリスを差し置いて内緒話とはどういうことニャ!」

岡部「ええい、いちいち勘ぐるでない! これは必要な儀式なのだっ」

鈴羽「……」

ダル「う、うぇぇ?」

フェイリス「フニャ!?」

まゆり「わわーっ!?」

鈴羽「……とうさ──ううん」

鈴羽「あたし……やり遂げるから……」

ダル「え、え……?」

鈴羽「君たちがやり遂げようとしてたこと……あたしが……必ずやり遂げるから……」

鈴羽「だから、見てて欲しい……」

ダル「え? えっと、み、見てるよ……う、うん」

鈴羽「……」

鈴羽「あ、あはは……ごめんね、いきなりこんな事言われても、分かんないよね」

ダル「え、あ、う……」

鈴羽「っと、ごめん、もう行かなきゃ!」

岡部「もう……いいのか?」

鈴羽「これ以上居たら、この時代に、未練が残っちゃうかもしんないし、さ……」

鈴羽「ホント、いきなりゴメンね! さよなら!」

ダル「あ、ちょ!」

岡部「すまんフェイリス、俺も失礼する」

フェイリス「きょ、凶真!?」

まゆり「ほぇー……」

ダル「……」

フェイリス「ダルニャン?」

ダル「……モテ期キタコレ?」

まゆり「お~、ダルニャンくんにも春が来ました~」

~ラジ館8階~



岡部「やはり、ここに跳躍していたのか……」

鈴羽「あはは、別の世界線でもここだったんだ、なんだか不思議だね」

拓巳「ひょほーーー! これタイムマシン!? マジ!? 激アツ、激アツなんだけど!」

セナ「実際に間近で見るとやはり驚かされるな……」

拓巳「ねえねえ、ぶ、無事に1975年へ行けたらさ、75年の伝説の魔法物、ラ、ラジカルオミットちゃんのセル画を──」

岡部「自重しろ!」

拓巳「ふひひ、サ、サーセン!」

岡部「店長にあいさつはすませたのか?」

鈴羽「うん、今時のわけーもんはー、って怒られちゃった」

岡部「今時……ではないのだがな」

鈴羽「あはは、確かに」

鈴羽「そうだ、これ」

岡部「ダイバージェンスメーター……」

鈴羽「君にあげるよ」

岡部「俺以外が持っててもしょうがないからな」

鈴羽「あれ、どうしてあたしが言おうとしたこと……」

岡部「いや……」

鈴羽「まあいいや」

鈴羽「岡部倫太郎……」

鈴羽「必ず、君にIBN5100を託してみせるから──」

鈴羽「きっと、未来を変えてね……今みたいな自由な世界に……変えてね──」


ふと既視感。
俺はこのまま鈴羽を1975年に送り出していいのだろうか。


岡部「な、なぁ鈴羽!」

鈴羽「ん?」

岡部「そのタイムマシン、壊れてたりしない……よな?」

鈴羽「え? えーっと……うん、大丈夫だけど?」

岡部「そ、そうか」

鈴羽「ちょっとー、不安になるようなこと言わないでよー」

岡部「あぁ……すまない」

拓巳「で、でもさ……過去方向しか跳躍できないとか……そ、それじゃタイムマシンじゃなくね?」

セナ「そう言うな。過去方向へのタイムトラベルを成功させただけでも大したものだろう」


          『いえね、確かにあったはずなんですが……なくなっていたんです』

あ──

まずい。
このままでは。
結局、俺の手にIBN5100が渡ることは──ない?


鈴羽「それじゃあ、短い間だったけど──」

岡部「鈴羽! ま、待て!」

鈴羽「え? また? ど、どうしたの?」

支援だよ、ビシィ!

そ、そうだね…星来たんこそメインヒロインだと思うよ。ふひひ

岡部(鈴羽がIBN5100を手に入れ、フェイリスパパに託し、彼が神社に奉納したとしても、いずれなくなることが決まっている……)

岡部(どうすれば……)

岡部「そ、そうだ!」

岡部「IBN5100は! できるだけ複数購入するよう頼む!」

鈴羽「あっはは、軽々しく言ってくれるなこのー!」

鈴羽「当時の値段でも結構高いんだぞー?」

岡部「……」

岡部(恐らく……この世界線での鈴羽も、2000年前後に収束によって……)

岡部(どうする、引き止めるか……? いや、止めてどうする……)

岡部(死を仄めかしてもこいつは1975年に飛ぶだろう……)

岡部(ならば俺は……俺にできることは……)

岡部「そ、それとだな」

岡部「もし手に入れたら2000年までに俺の家に直接渡しに来てくれ!」

鈴羽「え? い、いいけど……なんで2000年なの?」

岡部「いや……」

鈴羽「……」

鈴羽「分かったよ。とにかく……絶対君に託すから、信じて待っててよ」

────
───
──



鈴羽「それじゃ、また……会おうね」

拓巳「げ、元気でね!」

セナ「健闘を祈る」

岡部「……」


ハッチが閉じ、しばらくすると、タイムマシンから静かな唸り声が上がり始める。
同時に、目が眩むほどの光を放つタイムマシン。
それでも俺は、この時代に鈴羽がいた形跡を必死に目に焼き付けようとした。

数秒後、タイムマシンは跡形もなく消失した。
俺の視界からも、この場所からも──

俺は……過去を変えることが出来たのだろうか。
俺に……未来を変えることが出来るのだろうか。

今度は、鈴羽の思い出を消さずに済んだのだろうか。


Chapter 3 『惜別のデジャヴュ』END

Chapter 4 『不可逆のモナド』



セナ「行ってしまったな」

拓巳「35年か~、な、長すぎだろ常考……」

セナ「孫がいてもおかしくないな」

拓巳「ぜ、ぜひ幼女であって欲しいです、ふひひ」

セナ「……」

拓巳「ちょ、ちょっと! ディ、ディソード出さないでよ!」

岡部「……」


          『 .275349』


岡部(ダイバージェンスの値が……変わっていない……)

岡部(落ち着け……これは想定された事態だ、まだ分からない……)

岡部「……二人は大檜山ビルに戻っていてくれ」

拓巳「え?」

~岡部宅~



岡部「なぁ、親父。昔、誰かから古いパソコン、譲り受けなかったか?」

岡部の父「古いパソコン? えー……あぁ、確かにもらったなぁ」

岡部「本当か!? 今、どこにある!?」

岡部の父「それなんだがなぁ……」

岡部の父「売っちまったんだよ」

岡部「……は?」

岡部の父「鈴さんには悪いと思ったんだが……」

岡部「鈴……橋田鈴か!?」

岡部の父「って、覚えてないのか? おめーもよく小さい頃遊んでもらってたじゃねーか」

岡部「小さい頃から……遊んで……?」

岡部(この世界線の過去の記憶を、俺は知らない……)

岡部の父「お前が生まれる前からの付き合いだったよ。良い人だった」

岡部「……」

岡部(鈴羽は確かに……俺にIBN5100を託してくれていたんだ……なのに……」

岡部「ど、どうして売ったんだよっ!」

岡部の父「お前……覚えてないのか?」

岡部「は? 何をだよ」

岡部の父「前に話しただろ。母さんがお前を身篭ってる時に誘拐されたって話。えーと、あれは……91年の8月くらいだったか……」

岡部「誘拐……?」

岡部の父「で、その誘拐の身代金が払えなくて手をこまねいてたら……」

岡部の父「ちょうどフランスの実業家が、そのなんちゃらっていうパソコンを高額で買い取りたいっていう話を持ちかけてきてな?」

岡部の父「それで仕方なく、だ」

岡部(また……フランスの実業家……フェイリスのパパさんの時も……)

岡部の父「その誘拐事件のこと、鈴さんは随分気に病んでたな……」

岡部の父「鈴さんに責任はねーってのに……」

岡部「鈴……橋田鈴は、今……どこに……」

岡部の父「2000年の6月に……亡くなったよ、本当に覚えてないのか?」

岡部「もしかして……自殺……?」

岡部の父「バカ言っちゃんじゃねえ、病死だよ!」

岡部「……」


分かっていた。
十分想定された結果だった。
だがこのままではSERNのデータベースをクラッキングすることができない。
それはつまり、ノアⅢが開発されるのを防げないということ。
訪れるのはディストピア。

──そしてまゆりはギガロマニアックスとして覚醒させるための拷問を受け。
苦しみながら死んでいくことに。

────
───
──



その後俺は、大檜山ビル2階に戻り、事の顛末を二人に語った。
西條は引きつった笑いを浮かべ、信じられないというような表情をしている。
セナは”そうか”と一言呟き、目を閉じ何かを考え込んでいる。


岡部「……」

拓巳「ど、どうすんのさ……」

セナ「……」

拓巳「IBN5100がな、な、なないと、未来がヤバいんでしょ!?」

拓巳「優愛たちも連絡つかないし、あぁぁっ……もっ、もうだめだぁぁぁっ……」

岡部「おい、西條……?」

セナ「ギガロマニアックスの力を持った人間が消えている、という話はさっきしただろう」

岡部「あぁ……」

セナ「先程、楠と岸本──ギガロマニアックスの能力を持った二人に連絡を入れようとしたんだが……」

拓巳「ぐぐぐ……」

セナ「二人とも連絡が付かなくなっていた」

岡部「なに……?」

セナ「そしてラジオ会館からここに来るまでに、私たちに尾行がついていた」

岡部「もしかしてラウンダーか!?」

セナ「ラウンダー? なんだそれは」

岡部「SERNの……治安部隊とも言うべき存在だ……」

セナ「ギガロマニアックスの力を持った者はいるのか?」

岡部「それは分からない……前の世界線ではいなかったように思える……」

セナ「……その部隊の中にギガロマニアックスがいる可能性も考えておいた方がいいかもしれないな」

岡部「どういうことだ……?」

セナ「力を持たない人間に咲畑や岸本が捕まるとは考えられないからだ」

拓巳「で、でも! た、確かに七海やこずぴぃに比べたら、け、警戒心は強いけどさ!
    梨深はどこか抜けてる所あるし、あ、あやせは電波だし、優愛は病んでるし……」

拓巳「ギッ、ギガロマニアックスがいるとは限らないじゃないかぁっ……」

セナ「不安なのは分かるが気をしっかり持て、西條」

拓巳「うぅぅ……」

セナ「ともかく、お前も警戒を怠るな」

岡部「あ、あぁ……」

翌日 8月21日

~岡部宅~



岡部「……」

 カタカタ

岡部(結局あのあと解散。各自IBN5100を探索、という流れになったものの……)

岡部「今更ネットで調べてもな……」

岡部(セナに頼んでIBN5100をリアルブートしてもらおう、とも思ったが……)

岡部(セナがそれをしないということは恐らく完璧に再現するのは難しいのだろう)

岡部「早くしなくては……」

岡部「ん……なんだこの文書ファイルは……禁書目録?」

岡部(こんな文書ファイル、作った覚えはないが……)

 カチカチッ

岡部「……パスワードが必要? ……おのれ」

fun^10×int^40=Ir2

岡部「……シュタインズゲート……エルプサイコングルゥ……12141991……」

岡部「……だぁーっ! 通らん!」

岡部「たかが文書ファイルにパスなどつけおって!」



岡部「……何パターンか試してみたが……やはりダメか」

岡部「……ヤツを頼ってみるか」



────
───
──



ダル「うひょー! 鳳凰院氏のお部屋拝見キタコレ!」

岡部「あまり引っ掻き回すなよ?」

ダル「ふんふん、ごちゃごちゃしてますな。意外っちゃー意外」

岡部「で、頼みたいのはこの文書ファイルなのだが……」

ダル「んーと、どれどれ?」

岡部「いけそうか?」

ダル「や、まだ調べてみないことにはなんとも」



────
───
──



ダル「んんんー……」

岡部「……」

ダル「んんんんんんー……」

岡部「おい、ダル……?」

ダル「ちょっと鳳凰院氏。一体どんな文書なのさ……コレ」

岡部「いや、その、だな」

ダル「硬すぎ、暗号化複雑すぎ、ぶっちゃけソーシャルハッキングじゃないと無理ぽ」

ダル「文書のプログラム自体がオリジナルでさ、僕じゃどうにもならないお……」

岡部「そうか……」

ダル「つか鳳凰院氏がパス設定したんしょ? ヒントプリーズ」

岡部「そ、それが……完全にど忘れというか……」

ダル「いや、ありえんしょ」

岡部「ともかく、パスワードに関する情報は一切分からんのだ!」

ダル「それじゃあ諦めたほうがよさげ」

岡部「くっ……」

ダル「つかこんなひた隠しにするほどの文書ファイルって一体なんなのさ?」

岡部「……」


分からない。
この世界線の俺は何を考えていた?
鳳凰院凶真と名乗り、凄腕の雷ネッターとして活躍していたというが……。

2000年以降が書き換わっているのだから、俺が雷ネットにのめり込んでいてもなんら不思議ではない。
いや、正確には1975年以降か?

──ふと、違和感が頭の中を掠める。

鳳凰院凶真……鳳凰院凶真……鳳凰院……凶真……。

頭の中で反芻する。
何かが引っかかっていた。


ダル「あーでもなんつーか」

ダル「僕がプログラム組むとしたら、こんなの組むかもわからんね」

────
───
──



岡部「IBN5100の探索はひとまず置いておいて……この世界線とα世界線の大きな違いについて纏めてみるべきか……」

岡部「少しでもIBN5100に近づく手がかりになるかもしれん」

岡部「まずは……」


橋田鈴と俺の家につながりがあり、俺の母親が1991年前後に誘拐されていたこと。
ラボは出来ておらず、ラボメンと俺との関わりがフェイリスを除き、全てなくなっていたこと。
そのフェイリスと俺は雷ネットで知り合い、コンビを組んで戦ううちに恋人になったこと。
SERNが構築するディストピアは、タイムマシンを使ったものではなく、ノアⅢという装置を使ったものであること。


岡部「……」


α、β世界線でもニュージェネ事件や渋谷崩壊は起きていたことから……。
恐らくそれを引き起こしたプロジェクトノア計画はα、β世界線でも実行された。
そしてエスパー西條や他のギガロマニックス達のおかげで計画は阻止。

岡部「だが……」


プロジェクトノアは再び始動……。
未来ではノアⅢによって人々の思考は操作され、SERNが世界を支配していると行っても過言ではない。


岡部「……」

岡部「フェイリスパパに”IBN5100を絶対に売るな”という旨のメールをしただけでここまで変わるのか?」

岡部「バタフライ・エフェクト……いったい何がどう作用して……」


俺はしばらく、モニタ上の文書ファイルをじっと眺めていた。
ただじっと。

このファイルが、大きな鍵になるような気がしてならなかったのだ。



Chapter 4 『不可逆のモナド』END

Intermission 『猫娘のメランコリィ』



8月14日、その日、私の王子様は消えてしまった。
ううん、別の人になってしまったって言ったほうがいいかも知れない。

それでも彼は、私と一緒にいることを選んでくれた。
これからも、彼のことを好きでいてもいいの? という問いに、頷いてくれた。

だけど──
時折彼は、とても悲しそうな顔をする。
まるで、私の前からまた消えてしまうんじゃないかと思っちゃうくらいに……。



8月22日

~フェイリス宅~



フェイリス「凶真、よくきたニャン」

岡部「うむ……」

フェイリス「どうしたニャ? なんだか、疲れた顔をしてるみたいニャけど……」

岡部「いや、なに、寝不足気味でな……」

岡部「それより……」

岡部「フェイリスのパパさんとママさんはまだ帰っていないのか?」

フェイリス「二人ともまだ海外だニャ」

岡部「随分長く出張しているのだな……」

フェイリス「パパとママは多忙の身だから仕方ないのニャン」

岡部「そうか……」

フェイリス「パパとママがどうかしたのかニャ?」

岡部「い、いや、なんでもない」


目をそらさなくてもいいのに。
今の私にあなたの心を読む度胸なんて、ないよ。

神光の救いあれ

────
───
──



岡部「……」

フェイリス「ニャフフ、熟考なのニャ」

岡部「あ……」

岡部「よ、よし! 鳳凰流秘奥義ウィルスチェッカーだ!」

フェイリス「こんな序盤に使っちゃって大丈夫なのかニャーン?」

岡部「う……ま、まずかった……か……?」

フェイリス「そうやって動揺するところが今の凶真のダメなところなのニャン」

岡部「ぬぬっ……」

────
───
──


岡部「くっ……9戦9敗とはっ……この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の名折れどぅあっ……!」

フェイリス「ニャハハ、今の凶真はすぐ顔にでるのニャ」

岡部「……」

岡部「なぁフェイリス……。俺は……鳳凰院凶真は……どんな奴だったんだ? 本当に強かったのか?」

フェイリス「それはもう、雷ネットの申し子とも言うべき強さだったのニャ!」

岡部「ほう……」

フェイリス「フェイリスと初めて死闘を繰り広げた時も、対戦中にフェイリスの特殊能力に気づいたのニャ」

岡部「相手の目を見ると、考えてることが何となく分かるという、あれか」

フェイリス「そう……魔眼チェシャーブレイク……」

フェイリス「そして凶真は……”フェイリスが心理を読んでいる”ことを逆手に取り──」

フェイリス「圧倒的演技力と優れた洞察力で怒涛の攻めを展開していたのニャ!」

フェイリス「あれこそ魔技グランドジャッジメント、凶真に隙を見せたら最後。相手は死ぬのニャ」

岡部「はは、それはすごいな……」

フェイリス「そして凶真は試合の後、こう言ったのニャ」

岡部「ん?」

フェイリス「”人の心を読めるとはな……。だがその力はあまり使うな……”」

フェイリス「”他人の闇の感情で、心が押しつぶされるぞ……”って」

フェイリス「ニャハハ、ご丁寧に後ろ斜め向いてポケットに手を突っ込んで言ってきたのニャン」

岡部「……厨二病全開ではないか」

フェイリス「でもでもぉ~、フェイリスはそう言われてグッときたのニャ」

フェイリス「相手の心理がまるわかりというのも、実際は中々大変なのニャ」

フェイリス「表ではいい顔してても、嘘をついてるって、分かっちゃうと辛い時も……あるのニャ」

岡部「フェイリス……」

フェイリス「だから凶真に分かってもらえた時はすっごく嬉しかったのニャ」

フェイリス「あの時から……フェイリスは、凶真に惹かれていたのニャ……」

岡部「今の俺には……とても真似できそうもないな……」

フェイリス「凶真……?」

岡部「……」

フェイリス「ABグラチャンの決勝戦……」

フェイリス「凶真がいてくれて、とても心強かったのニャ……」

岡部「……え?」

フェイリス「フェイリスはずっと一人で戦ってきたから……」

岡部「……」

フェイリス「凶真がいたからこそ優勝できたのニャン……」


フェイリス「ふふ、思い出が消えてしまっても……凶真は凶真だよ……」

岡部「……」

フェイリス「厨二っぽいところとか、そっくりだニャン!」

岡部「フッ……厨二は余計だ」

フェイリス「凶真の本質は、何も変わらないのニャ!」

岡部「すまない。……色んな事を考えすぎていたようだ」


──大丈夫。
あなたが忘れてしまっても、私は覚えているから。



Intermission 『猫娘のメランコリィ』END

Chapter 5 『焦心苦慮のアンジェロ』



8月24日

~岡部宅~



岡部(結局あれからIBN5100の情報は入らないまま……)

岡部(西條たちからも連絡が無いということは、進展がないままなのだろう)

岡部(このまま時間がすぎるのを待つしか無いっていうのか……!)

 プルルルル

岡部「? 電話?」

 プルルルル ピッ

岡部「俺だ」

『おっおっおっ』

岡部「その声……西條か?」

拓巳『おっ、岡部くん……たす、たすけて……』

岡部「!? おい、どうした!」

拓巳『セナが……セナが連れてかれちゃったんだよぅうぅ……』

岡部「なに……?」

拓巳『す、数人のお、男が僕らの前に現れて、そ、それでセナが抵抗して……。
    ら、楽勝だと思ってたら、い、いつの間にかセ、セ、セ、セナがいなくなってて……。
    ぼ、ぼ、ぼ僕、何もできなくて……』

拓巳『うぅぅうぅぅ……』

岡部「あの女……人に警戒を怠るなと言っておいて……」

拓巳『あ、相手はきっとギガロマニアックスに違いないよ……そ、そうだ、そうに決まってる。
    じゃないと、突然セナが消えた説明がつ、つかないよ……』

岡部「くっ……妄想を見せられていた……ということなのか……?」

拓巳『あああぁぁっもう! ど、ど、どうしたらいいんだよぅうぅっ……』

拓巳『ぼ、僕はギガロマニアックスの力が無ければ……二次元の嫁にハァハァしてるだけのキモオタで……』

拓巳『あ、あ、あの時だって追い詰められて、か、覚醒しただけであって。
    もう……あ、あの時みたいな、こ、怖い思いはだぐざんなんだようぅぅっ!』

岡部(とは言ったものの……事態は非常にまずいことになっている)

岡部(まず、IBN5100についての情報が全く得られていないこと)

岡部(そして敵にもギガロマニアックスがいる可能性が濃厚だということ)

岡部(くそ! どうしたら……!)

岡部(俺にも……ギガロマニアックスの素質はあるんだよな?)


拳を掲げ、何もない空間から剣を取り出そうとしてみる。
が、反応はない。


岡部「……」

岡部(俺はレジスタンスを結成後も生きていることは確定済み……)

岡部(ならばSERNに対し命がけで強行手段に出ても死ぬことはない……)

岡部(やってみるか……? それで覚醒できれば……)

岡部(いや待て! それでは俺のコードサンプルも取られ、結局ノアⅢの完成を助長することに……)

岡部(どうすればっ……!)

岡部(どうすればいいっ……!)

~メイクイーン~


まゆり「お帰りニャさいませ~、ご主人様~」

岡部「……」

まゆり「あ、ほーおーいんさん、こんにちニャンニャン~」

まゆり「えっとねー、今日はフェリスちゃん、お休みだよー?」

岡部「まゆり……」

まゆり「も~、だから、マユシィ・ニャンニャンだよ~」

岡部(どうする……まゆりを連れて逃げるか? だがこの世界線での俺とまゆりは他人……)

岡部(それに……どの道収束によって捕まる可能性が高い……)

岡部(何か手はないのかっ……!)

まゆり「え、えっと……どうしたのかな……」

岡部「……」

まゆり「そ、そんな顔されるとね、なんだかとっても悲しいのです……。フェリスちゃんと、ケンカでもした……のかな?」

岡部「いや、なんでもない……なんでもないんだ」

岡部(結局俺は……どうすることも……できない……)

~岡部宅~



岡部「……」

岡部(IBN5100の情報は手に入らない……)

岡部(まゆりを警察に匿うなどしても、結局捕まる可能性が高い……)

岡部(俺は知ってるんだ……この世界が、どれだけ不条理にできているか……)

 ピンポーン

岡部「……?」

岡部「なんだ……?」

拓己ってギガロマニアックス使えないの?
8bitでは使えてたよな

────
───
──



 ガチャリ

岡部「……どちら様──」

???「あの私ま──」

岡部「おっ、お前はっ……」

???「え?」

岡部「クリスティーナァ!?」

紅莉栖「いやだからっ、私はクリスティーナでも助手でもないと!」

岡部(ど、どういうことだ? なぜ助手が俺の家に……)

紅莉栖「ってあれ……なんで私……」

紅莉栖「そ、それよりっ! え、えっと私、牧瀬紅莉栖と言います。岡部倫太郎さんいらっしゃいますか?」

岡部「……?」

>>222
LCCで「将軍の力を借りていたから~」「(使えなくなると)タクミが予想してた」とある
ロボノツイぽでも「僕もかつてギガロマニアックスだった」と書き込んでいる
またバイオリズムが上昇したら再覚醒の可能性はあるかもね

岡部「俺とお前は……初対面……か?」

紅莉栖「そうですけど。てゆーかチェーンなんかかけちゃって……どうしたんですか?」

岡部「……お、岡部倫太郎は俺だ」

紅莉栖「あぁ、そうだったんですか」

岡部(助手にもフェイリスの時のように、リーディングシュタイナーが発動した……のか?)

岡部「な、何の用だ?」

紅莉栖「それなんですけど……」

紅莉栖「これ、見てください」

岡部「携帯……?」

From:chris-m@docono.ne.jp
Sub:
本文:電子レンジを

 ピッ



From:chris-m@docono.ne.jp
Sub:
本文:岡部倫太郎に

 ピッ



From:chris-m@docono.ne.jp
Sub:
本文:返してあげて


岡部「これはっ……! 送信日時が未来からになっている……」

紅莉栖「このメールが未来から届いて、ずっとあなたを探していたんです」

岡部「いやそれより! 電子レンジというのは!」

紅莉栖「あぁ、それなんですけど、車に積んであるので手伝ってくれませんか? 一人じゃ重くて……」

────
───
──


岡部「こ、これは、紛れもなく電話レンジ(仮)ではないか!」

紅莉栖「電話レンジ……?」

岡部「ある……ペケロッパも変圧器も……その他Dメールを送るのに必要な器具も揃ってる!」

岡部(なぜこの世界線に電話レンジ(仮)が……いや、それよりも……)

岡部「なぜ助手が電話レンジ(仮)を持っているのだ!」

紅莉栖「だから私は助手じゃないと……それが私にも、よくわからないんです」

岡部「は?」

紅莉栖「気づいたらこれがあって……」

岡部「なに……?」

紅莉栖「誰かから預かった大切な物だっていう記憶はあったんですけど、それが誰なのか全然思い出せなくて……」

紅莉栖「あぁ、後、過去にメールが送れる電子レンジだということも覚えてます」

紅莉栖「……でもあなたのだったんですね」

岡部(ど、どういうことなんだ? リーディングシュタイナー? いや、違う気がする……)

紅莉栖「でも過去にメールが送れるって言っても、ちっとも送れないし……正直荷物になってて困ってたんです」

紅莉栖「そしたら本当に未来からメールが送られてきて……。やっぱりコレって本物なのかしら」

紅莉栖「良ければお話を聞かせてもらえませんか? どういう原理なのか興味深くて……」

岡部(一体コレはどういうことなんだ……? サッパリ分からんぞ?)

岡部「というか! お前アメリカに帰ったのではなかったのか!?」

紅莉栖「え? 確かに、私はアメリカの大学を卒業してますが……」

岡部「だったらなぜ日本にいる!」

紅莉栖「……いちゃ悪い? バリバリの日本人ですが何か」

紅莉栖「それより、この未来からのメール、説明してもらえませんか?」

岡部(なんにせよ……電話レンジが戻ってきた、ということは……)

紅莉栖「……? ちょっと、聞いてます?」

岡部「……してやる」

紅莉栖「え?」

岡部「説明してやるから、今すぐ車を出してくれ!」

紅莉栖「あ、ちょ、ちょっと何勝手に乗り込んで──」

~大檜山ビル2階~



岡部「クックク、ミスターブラウンめっ、鍵なんぞかけおって」

岡部「だがその抵抗も虚しいかな」

岡部「この鳳凰院凶真! 鈴羽から鍵を受け取っていたのだっ!」

岡部「決して返すのを忘れていたわけではない」

岡部「フッフフフ! フハハ」

岡部「フゥーッハハハハハッ!」

紅莉栖「その笑い方やめて……」

岡部「電話レンジ(仮)が帰ってくればこっちのものどぅあ!」

紅莉栖「ねえ、さっさとメールの説明を……」

岡部(説明してやると言ったが、そんな暇はない。今は世界線を変える手立てを考えるのだ)

岡部(どうする? どうメールを送ればIBN5100が手に入る?)

岡部(柳林神社に奉納されていたが、すでに失われていた……この事実が指し示すことは)

岡部(フェイリスのDメールを取り消さず新しく送ったことが要因か、もしくは──)

岡部(ルカ子のDメールか萌郁のDメール。順番から言ってルカ子のDメールの可能性を当たった方が無難か?)

岡部(……だが俺はルカ子の母親のポケベル番号を知らんっ!)

岡部(一応、ルカ子に確認してみるか)

紅莉栖「あ、ちょっと! 待って! 待ちなさい!」

岡部「すぐ戻る」

~柳林神社~



るか「あ、こ、こんにちは。確か……岡部さん、でした……よね?」

岡部「あールカ子よ……」

るか「え、えっと、ボクの名前は……る、るか、ですけど……」

岡部「あ、あぁ……るか……よ」

岡部「……」

るか「……?」

岡部(ええい! どうすればいいのだ!)

るか「え、えっと……ボクに何か……用でしょうか……」

岡部(考えろ、俺は灰色の脳細胞を持つ狂気のマッドサイエンティスト……)

岡部(こんな少女を騙すなど、造作も無い! だが男だ!)

岡部(い、いや、どっちだ……? くそ、混乱している!)

岡部(そ、そうだ……)

岡部「その、お前の母親のポケベルに、変なメッセージ……」

岡部「例えば、野菜がどうとかいうメッセージを受信した……などということはないか?」

るか「お母さんの……ポケベルに……ですか?」

岡部「ああ」

るか「ちょっと、ボクにはわからないです……聞いてきましょうか?」

岡部「頼む……」

岡部「後! お前の母親のポケベルの番号も教えてもらえればなおありがたい!」

るか「え? 番号も……ですか?」

岡部「頼めるか?」

るか「え、えっと……あ、あの……お、お母さんはっ……」

岡部「……?」

岡部「……?」

るか「もう、け、結婚してて……」

岡部「…………?」

るか「その、不、不倫は、よくないと思、思いま──」

岡部「不倫などせんわっ!」

るか「──すっ……え?」

岡部「第一、聞くなら携帯の番号だろうっ! 俺が聞いてるのはポケベルだっ」

るか「あ……そ、そうですよね、やだ、ボクってば……」

岡部(ま、まぁ、ルカ子の母親なら、相当な美人なのだろうが)

るか「じゃ、じゃあちょっと聞いてきます……」

────
───
──



ラボに戻ってきた時、すでに紅莉栖の姿はなかった。
ただ説明求ムというメッセージと連絡先を残して。

結局、母親のポケベルに変なメッセージは届いていなかった、とのことだった。
世界線が大きく変動して1975年以降が書き換わったせいだろうか?
この世界線に移動してしまったおかげで、図らずともルカ子のDメールを取り消す形になってしまったのかもしれない。
つまりルカ子は男、という可能性が高い。

すまない、ルカ子……。


岡部(しかし……こうなると、IBN5100を手に入れるためには、どうDメールを送ればいいのか……)

岡部(いや、もはやIBN5100ではなく、他の手段で……)

岡部(何か手は……だが、迂闊に過去改変するような真似もしたくない……)

岡部(そういえば……なぜ助手が電話レンジを持っていたのかも気になる。本人は覚えていないと言っていたが……)

岡部「……そうだ」

岡部(あのパスワードがかけられた文書ファイル! あれを見ることが出来れば何かわかるかもしれない!)

岡部「となると……」

────
───
──

 バチバチバチバチ

岡部「来た! 放電現象!」

岡部(送信日時はあのファイルの最終更新の少し前の8月3日……)

岡部(このDメールで俺が応じるかは分からない……)

岡部(過去が変わらなければ、もう一通送るまで……)


To:mad-phoenix-kyoma@egweb.ne.jp
Sub:
本文:禁書目録パス
    steinsgateに
    変えてくれ


岡部「頼む……!」

 ピッ


指に力を入れた瞬間、世界が琥珀色に包まれぐにゃぐにゃと揺れ始める。
強烈な目眩とともに平衡感覚は失われていき──

──世界がぼやけている。
徐々に歪みが矯正され、感覚が戻ってきた。


岡部「……」

岡部(リーディングシュタイナーは発動した、過去が変わった……)

岡部(早速俺の部屋に──)

~岡部宅~



岡部(ダイバージェンスの値が変わっている……)


          『 .409420』


岡部「……」

 カタカタカタカタ カタ

岡部「……よし、通った!」

 カチッ


その文書は、この世界線の”鳳凰院凶真”がどう行動してきたかを知る鍵であり。
紅莉栖が電話レンジを持っていた謎を解く鍵でもあり。
ノアⅡの後継であるノアⅢへ迫る鍵でもあった。



Chapter 5 『焦心苦慮のアンジェロ』END

Chapter 6 『禁書目録内のフェニックス』



岡部「日記のような形式になっているようだな……」


────────────────────────

2009年 6月

野呂瀬玄一という男が接触してきた。
どうやら俺はギガロマニアックスとかいう能力者らしい。
長年不思議に思っていたが、妄想を現実にする能力を持っているだとか。
人の心を読めるのも、そのおかげらしい。

剣の名前もディソードだと判明。
ネーミングセンス?である。
鳳凰院凶真の持つ魔剣の名は、ミストルティンと決まっているのだから。

話はずれたが、野呂瀬はギガロマニアックスのコードサンプルとやらを集めているらしい。
協力してやっても良かったが、丁重にお断りした。

プロジェクトノア?
人々の思考を支配だと?

笑わせるな。
世界の支配構造を塗り替えるのはこの狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の役目である。

故に、奴の野望を打ち砕く崇高なる記録をここに記していく。

ネーミングセンス?である。



ネーミングセンス×である。


っす、さーせん

────────────────────────

2009年 7月

野呂瀬がしつこい。

というか脅された。
どうしてもギガロマニアックスのコードサンプルを集める必要があるという。
話によると、素質がある者を拷問し、覚醒させてサンプルを取る手法も行なっているらしい。
ファンタズムのボーカル、FESも野呂瀬に拷問されて覚醒したようだ。
もしその話が本当だとしたら非常にまずい。
俺は覚醒済みだからいいが……。

あいつは……。

俺は仕方なく奴に協力を申し出た。

────────────────────────

2009年 8月

野呂瀬に計画の概要を聞く。

プロジェクトノア……ノアⅡという人工のギガロマニアックスの装置を使い人々の思考を支配する計画。
それにより人々は攻撃性を失い、争うこともなくなるという。
だがそれは所詮作られた平和。まやかしだ。
俺は奴の野望を黙って見過ごす訳にはいかない。

なぜなら!
世界の支配構造の変革はこの鳳凰院凶真こそが担うべきだからだ。

だが正直奴の力は強大である。
畏怖を覚えざるを得ない。
正直、俺など足元にも及ばないほどのギガロマニアックスのようだ。

奴の計画を打ち砕くには慎重に事を運ばなくてはならない。
故に、ダルと共に、奴の会社である希テクノロジーを調べることから始める。

決して逃げてるわけではない。
別のアプローチから攻めるのも、立派な作戦である。

俺をナメたことを後悔するのだな野呂瀬玄一!

────────────────────────

2009年 9月

どうやら希テクノロジーには色々と黒いつながりがあるようだ。
正直、自分がとんでもないことに足を突っ込んでいるような気がしてならない。

天成神光会の教主。
明和党の議員。
大企業の名前もある。

さすが希グループのトップ。

ダルに頼んで、強固なセキュリティを組んでもらおう。

────────────────────────

2009年 10月

世間ではニュージェネ事件がお茶の間を賑わせている。
ダルの調べによると、一連の事件は、とあるギガロマニアックスを覚醒させるために起こしているらしい。
そいつのコードサンプルが手に入ればノアⅡは完璧に近い形になるという話だ。

たったそれだけのために猟奇殺人を何件も起こしてまわるとは。
プロジェクトノア……恐ろしい計画だ。

まゆりが素質持ちで野呂瀬に目を付けられていたんなら
保留とはいえ高校は翠明学園に集められたのかな
七海と同級生のまゆしぃ。るかはいないが…いいな

────────────────────────

2009年 11月1日

まゆりと一緒にゲロカエルんを買いに渋谷へ。
正直渋谷には行きたくなかったのだが、無理やり付き合わされた。
一人で行かれて、野呂瀬に捕まっても困るしな。
途中スニーキングフェードアウトが発動し、まゆりを見失う。

探していると、ディソードを振り回している女がいた。
非常に危なっかしい。
名を蒼井セナという。

奴らのエージェントかと思ったがどうやら違うらしい。
だが油断は禁物なので、俺がギガロマニアックスだということは伏せておく。
ごまかしたら、膝の裏に蹴りを食らって股間を踏んづけられた。
あのクソアマ……。

────────────────────────

2009年 11月3日


雷ネットの大会に出たら、決勝で思わぬ苦戦を強いられた。
どうやら俺の心理を読んでいたようだが……。
もしかしてあの女もギガロマニアックスか?

が、そんな気配はなかったように思える。
結局奴がギガロマニアックスなのかはわからずじまいだった。
訳の分からない設定ではぐらかされまくった。

にしてもフェイリスという女……。
どこか俺と似た波動を感じる。

だが俺と奴との決定的な違いは──

俺が話すことは常に真実であり──
奴のは自分を悟らせないための嘘だということだ、フハハハ。

覚醒後タク>野呂瀬・将軍・覚醒前タク>あやせ>梨深>こずぴぃ>セナ>優愛>七海

オカリンどこー?

>>284
覚醒前のタクは一番下じゃね?

────────────────────────

2009年 11月7日

信じられない。
渋谷が崩壊してしまった。

だがノアⅡは破壊され、野呂瀬も死んだようだ。
その他の首謀者もほとんど死亡。

これで俺の長き戦いは終わった。
ギガロマニアックスとして覚醒させられるためにまゆりが苦しむことも、もうないだろう。



野呂瀬よ、この鳳凰院凶真をナメたことを地獄で後悔するのだな!

>>285
ソースは漫画らぶChu2巻の5pb.突撃レポ
設定で順番があるらしいので確か

────────────────────────

2010年 7月28日

@ちゃんでジョン・タイターという未来人が降臨して祭りになっている。
どうやら未来ではSERN──300人委員会がノアⅢを使ってディストピアを構築しているらしい。
馬鹿馬鹿しい。

希社員のいたずらか?

野呂瀬は委員会とは独立して動いていたはず。
いや、むしろ出し抜こうとすらしていた。

気になったので、再びダルにハッキングを頼み、SERNを探る。

────────────────────────

2010年 8月1日

まずいことになった。

──委員会の連中はプロジェクトノアを蘇らせようとしている。

どうしてだ?

野呂瀬は死んだし、天成神光会の教祖も明和党の議員も死んだはず。
希テクノロジーも野呂瀬という舵取りがいなくなったせいで株価は下落。

となると残るは……?

……しかもSERNはノアⅢに加えて、タイムトラベル研究すら行なっている。
もっとも、そちらはあまり上手くいっていないようだが……。

SERNのデータベースにはダルですら解析できないデータもあった。

何にせよヤバすぎる。
遊びじゃすまないぞコレ。

ジョン・タイター……本当に未来人だったのか?

────────────────────────

2010年 8月3日

過去へメールを送れる機械、電話レンジ(仮)。
ロト6を当てることはできなかったが、これは対SERNの絶大な武器になる。

さらなる実験で事象のコントロールを確実なものとしたいところである。
しかし実験となると、助手が相変わらずキャンキャンとうるさい。

少しは指圧師やルカ子を見習え。

────────────────────────

2010年 8月4日

ヤバい、ヤバすぎる。
ダルが新しく仕入れた情報によると、SERNはギガロマニアックスの連中の誘拐を企ているようだ。
コードサンプルが目的か?
それとも邪魔者は消すということか?

野呂瀬に一度コードサンプルを取られている俺は、狙われる対象に入っているはずだ。
このままだとまゆりにも危害が及ぶ可能性がある。

まずい……。
このままでは……。

────────────────────────

2010年 8月5日

まゆりを遠ざけるべきだろうか?
だがあいつが素直に言うことを聞いてくれるだろうか?
昔からあいつは強情なところがあるからな。

止むを得ないが……。
一時的に俺とまゆりの関係をなかったことにする方がいいかも知れない。
まゆりを守るためだ。

まゆりだけではない。
ラボを引き払い、ダルや紅莉栖、フェイリス、指圧師、ルカ子、フェイリス、バイト戦士、ミスターブラウン、天王寺綯。
ラボが出来たことで構築された記憶を改竄させてもらう。
俺の記憶も同様だ。

ラボメンはこれよりラボメンではなくなる。

だが許して欲しい。
これで彼らに危害が加わる可能性も低くなる。
電話レンジは紅莉栖に預かってもらおう。

リフターに代替する物の正体はまだ分かっていない。
──が、もし俺の身に何かあったとしても、紅莉栖ならばきっと……。

俺の記憶も同様だ。



俺に関する記憶も同様だ。


に変換してくれ、ミススマン

────────────────────────

2010年8月6日

さらにまずいことになった。
フェイリスが秋葉の大地主の娘だった……だと?
確か……希とつながっていた大企業の中に、秋葉幸高が社長をしている会社も……。

信じられない。
いや、信じたくない。

まさか彼女が人の心を読めるというのもノアⅢのおかげ?
いや、そんなはずはない。
端末を持っていないし……。
それとも、小型化された?

心を読もうにも、迂闊なことを聞いたらまずい……。
俺はすでに狙われていたのか?

────────────────────────

2010年8月8日

全てなかったことにした。
一時的とはいえ、思い出を消してしまったこと、許して欲しい。

これから俺は、SERNにプロジェクトノアを持ちかけたであろう人物を探らなくては。
そして電話レンジを使い過去を変える。

SERNがノアⅢを完璧なものとするために、まゆりに手を掛ける可能性はまだ十分ある。
敵はあまりにも強大だ。



フェイリス……信じて……いいんだよな?

彼女自身が無関係だとしても、彼女の父親が無関係だとは思えない……。
希と秋葉幸高の会社がつながったのが、2004年……。
プロジェクトノア開始の年。

────────────────────────

結構フェイリス√で上手くできてるな…
オカリンディソードのデザインと花言葉が気になる

岡部「…………」

岡部(そうか……そういうことだったのか)


鳳凰院凶真という名前。
感じていた違和感の正体。

今、分かった。

──そうだ。
──鳳凰院凶真は。
──まゆりを連れて行かせないために生まれた俺のペルソナ。

この世界線でも鳳凰院凶真は、生まれていたんだ。
まゆりを守るために。



Chapter 6 『禁書目録内のフェニックス』END

Chapter 7 『不可解のアリヴェ』



~岡部宅~



岡部「この文書を見て、どう思う……」

拓巳「すごく……厨二病です……」

岡部「ウホッ、ってやかましいわっ!」

拓巳「でも、仲間を守ろうとするあんたの心意気……き、嫌いじゃないぜ……」

岡部「……」

岡部(だが結果的に、俺はラボメンの思い出を自ら消してしまっていたのか)

岡部(そしてそのわずか数日後に跳躍してきた。なんという運命のいたずら……)

岡部「にしても、こんなことが可能なのか? 記憶の改竄、などと……」

拓巳「できると思うよ、君が望めば」

拓巳「ぼ、僕と、僕の友達もやられたことあるし。き、記憶の改竄と洗脳」

拓巳「っつっても、妄想力の、つ、強すぎる人には、あんまり効かないみたいだけどね、ふひひ」

岡部「ふむ……」

拓巳「つ、つか自分でやったことなんでしょ?」

岡部「前に言っただろう。俺は8月14日に別の世界線から来たせいでそれまでの記憶がなかったのだ、と」

拓巳「あ、あぁ、そっか。リーディングシュタイナーだっけ、ふ、不便な力だね」

岡部「……秋葉幸高と野呂瀬の関係については、どう思う」

拓巳「じ、実際に僕が調べてた訳じゃないからなんとも」

拓巳「で、でも、彼が協力者だったとして……野呂瀬が死んで、どうしようもなくなって、計画を引き継ぎSERNにノア計画を持ちかけた……い、一応辻褄は合うんじゃね」

岡部「ふむ……」

岡部(フェイリスパパと野呂瀬が繋がっていて、計画を引き継いだ……?)

岡部(しかし、α世界線ではノアⅢではなく、タイムマシンによるディストピア構築だったはず)

岡部(それはパパさんが生きていようといまいと変わらなかった……ならばプロジェクトノアの再計画はなかった……?)

岡部(いや、それを確かめる術はない……あったかもしれないし、なかったかもしれないのだ)

岡部(なんにせよ……)

岡部(パパさんが生きていたことと、IBN5100を売らなかったこと──)

岡部(この二つが、この世界線での未来を変える要因──ノアⅢによるディストピアを構築する要因になった可能性は高い……)

岡部(α世界線からこの世界線への移動はその二つのDメールが要因なのだから……)

拓巳「で、でも良かった。レンジ、も、戻ってきたんでしょ? 七海たちがさらわれないように過去にメールを送れば……」

岡部「いや、Dメールはまだ送らない」

拓巳「え!? ど、どうして!」

岡部「Dメールによって改変される過去には不確定要素が多すぎる」

岡部「日本語で18文字しか送れないのだ」

拓巳「た、たった18文字……」

岡部「それに……プロジェクトノアという元を断たねば、収束によって捕まる可能性が高い」

拓巳「そんなぁ……」

岡部「やはり……接近してみる他に、ないか……」

岡部(フェイリスも一枚噛んでいるのか? いやだが、とてもそんな風には見えない……)

岡部(だがパパさんは……)

支援なのら

岡部(……パパさんはいつ帰ってくるんだ? もうあまり時間はない。早くフェイリスに……)

拓巳「に、にしても……この紅莉栖って人のこと、随分信頼してたみたいだね……」

拓巳「過去を変えることが出来る機械を、あ、預けちゃうなんて……」

岡部(恐らく……あいつが未来でSERNの研究に従事した理由は……)

岡部(過去の俺に電話レンジを返すため。そして俺たちにタイムマシンの研究データを渡すため……)


          『全部のDメールを取り消すなんて……』

          『あぁ、結構重労働だな……だがやるしかない』

          『……気をつけて』


岡部「……紅莉栖」

岡部(俺はお前の言うことを聞かず、賭けに出て……)

岡部(未知の世界線にきてしまったのにも関わらず……再び俺を窮地から救ってくれた……)

岡部「……」

岡部「奴は……最高の助手であり、大切な仲間だ」

拓巳「は、恥ずかしいセリフ乙」

岡部「……」

 プルルルル

 ピッ

フェイリス『ニャニャ、フェイリスニャ! どうしたのニャン? 珍しいニャ、凶真からかけてくるなんて』

岡部「……」

フェイリス『凶真?』

岡部「いや、その、だな……」

岡部「なぁ……フェイリス。お前のパパさんは、いつ帰ってくるんだ?」

フェイリス『パパ? それなら今日の夜ニャ』

岡部「……そうか」

フェイリス『この前といい、パパに何か用事があるのかニャ?』

岡部「あぁ……ちょっとな」

フェイリス『……ふ~ん、珍しいのニャ』

岡部「パパさんが帰宅したら、連絡くれないか」

フェイリス『分かったニャ』

 ピッ

岡部(まゆりが連れて行かれるのは明日……)

岡部(それまでになんとかしないと……)

その夜 8月24日

~フェイリス宅~



拓巳「す、すげー……こっこっ、高級マンションの最上階とかどんだけセレブなんだよう!! つかリアル執事キタコレ! メ、メイド、メイドはどこ!?」

フェイリス「ニャフフ、それならここにいるのニャ」



幸高「やあ岡部くん、久しぶりだね」

岡部「……お久しぶりです」

幸高「それと……君は?」

拓巳「あ、えっと、に、西條拓巳です。よ、よ、よろしくおながいします……」

幸高「私は秋葉幸高、岡部くんの友人かな?」

拓巳「あ、はい、そ、そうです……」

幸高「それでは私は調べたいことがあるから失礼するよ」

岡部「ま、待ってください! 今日は、あなたに用事があってきたんです」

幸高「私に?」

岡部「単刀直入にお尋ねします、あなたは……ノア……プロジェクトノアについて、ご存知ですね?」

幸高「……」

幸高「留美穂、しばらく部屋に行ってなさい。私は彼らと話がある」

フェイリス「嫌ニャ……」

幸高「留美穂」

フェイリス「パパと凶真が何をお話するのか検討もつかニャいけど……」

フェイリス「それでも凶真が何かしようとしてることだけは分かるのニャ!」

フェイリス「だったらフェイリスも……フェイリスも聞きたいのニャ!」

岡部「フェイリス……」

幸高「……分かった」


彼は渋々といった様子だったが、納得したようだった。
フェイリスがここまで食い下がるのは意外だったが、娘がいる前で強引な手段には出まい。

一瞬でもそう思った自分に反吐が出そうだった。

────
───
──



幸高「君は……どこまで知っている?」

岡部「……」

岡部「あなたと野呂瀬が繋がりを持っていたことは、すでに知っています」

幸高「なるほど……」

岡部「あ、あなたなんですか!? SERNにノアの技術を提供したのはっ!!」

幸高「ん?」

幸高「はは、ははは」

拓巳「な、なにがおかしいんだよぅ……」

幸高「いや、そう来たか、と思ってね。失礼」

岡部「……?」

幸高「結論から言おう」

幸高「私はSERNと通じてはいないよ」

オカリンとタクミは同じ大学で知り合いとか聞いたことあった気がするけど違うのか

岡部「え……?」

幸高「確かに、私と野呂瀬はお互い協力関係にあったと言っていい」

幸高「だがそれは表向き」

拓巳「ど、ど、ど、どういうこと?」

幸高「さて、どこから話したものか」

幸高「……2000年4月、留美穂が誘拐されたとの知らせが入ってね」

フェイリス「……」

幸高「身代金は1億円、とても払える金額じゃあなかった」

幸高「と、その当時、渡りに船と言わんばかりに、IBN5100を高額で買い取りたいという人物が現れていてね」

幸高「フランスの実業家……だったかな」

岡部(……またフランスの実業家)

幸高「しかし、結局売ることはなかったんだよ。私にIBN5100を預けた橋田教授にも悪いと思ったしね」

幸高「それで、後々誘拐はいたずらだと分かったんだが……」

幸高「しばらくして、再びIBN5100を高額で買い取りたいという人物が現れた」

岡部「え……」

幸高「その人物こそ希テクノロジーの社長、野呂瀬玄一」

拓巳「へ……」

幸高「当時、すでに橋田教授の言いつけ通り柳林神社にIBN5100を預けていたし、彼に売ることもなかったんだが……」

幸高「誘拐のいたずらと関連して”IBN5100を高額で買い取りたい”」

幸高「これはどうも都合がよすぎる──そう思った私は彼を探るために近づいたんだ」

幸高「一度だったら不思議には思わなかっただろうね」

フェイリス「パパ……」

幸高「そして私は彼と表では協力関係を築き、裏では彼を調べていたんだ」

>>338
LCCのセナ√エピローグではセナとタクが共に
ヴィクトル・コンドリア大学(紅莉栖の大学)に進学するけど
優愛√では優愛と同じ大学(普通に日本のだと思う)に入る予定なので矛盾してて
トゥルー√がない以上、タクの進学先ははっきり書かれてないんじゃないかな

幸高「もっとも、彼は私のことを露程にも気にしていなかったようだが……」

幸高「いざとなればギガロマニアックスの力を使えばいい、とでも思っていたんだろう」

岡部「あなたは……計画をご存知だったんですか?」

幸高「あぁ……彼はとんでもない計画を立てていたようだね」

拓巳「プロジェクトノア……」

幸高「そう。去年11月、渋谷が崩壊──野呂瀬も死に、他の首謀者たちも死亡」

幸高「私は安心しきっていたんだが……」

幸高「プロジェクトノアが再び始動しようとしている……」

岡部「な、なぜそれを!」

幸高「……ジョン・タイター」

拓巳「あ……」

幸高「彼が未来人なのか確かめる術はない」

幸高「しかし私には、SERNがノアを使ってディストピアを構築するという情報──これが嘘だと思えなかった……」

幸高「だから海外へ飛び、SERNに精通している海外の友人を尋ねて色々と調べてたというわけだ」

幸高「プロジェクトノアを知りながら何もできなかった。今回こそはなんとかしたい、そう思ってね」

拓巳「じゃ、じゃあニュージェネ事件とかも……」

幸高「……何も力になってやれなくてすまなかった」

拓巳「し、知ってたのかよぅうぅ……」

幸高「岡部くんも君なりに調べていたようだね」

岡部「ええ……」

フェイリス「……」

幸高「友人の話ではノアⅢの開発も直に始まるらしい……」

岡部「くっ……」

幸高「しかしわからない点が一つある」

岡部「何がです?」

幸高「野呂瀬をはじめとした首謀者たちは死亡。ノアの構築プログラム、コードサンプルのデータ共々私が抹消したはずなんだが……」

拓巳「え……」

幸高「どういうわけか、それをSERNが引き継ごうとしている」

幸高「いや、正確には300人委員会か……しかし、これは一体……」

フェイリス「その、野呂瀬って人が300委員会ってのと繋がっていたとかは考えられないのかニャ?」

幸高「いや、彼は委員会を出し抜くためにノアを完成させようとしていた。それは考えにくいんだ」

岡部「他に……協力者がいた、と?」

幸高「……」

岡部(どうする、Dメールを使うか? だがどう送ればいい?)

岡部(もしα世界線に戻ってしまったら……今の俺はSERNの施設に拉致されているはず……)

岡部「くそ、IBN5100さえ手に入れてれば!」

幸高「IBN5100か……私も柳林神社には行ってみたんだが……」

岡部「あなたも行かれたんですね……」

幸高「去年の12月まではあった、そうおっしゃっていたが、なかったようだね」

岡部「……はい」

拓巳「…………」

拓巳「でも……ど、どうして野呂瀬はIBN5100を買い取ろうとしたんだろう……」

岡部「そういえばそうだな……。パパさん、あなたは何かご存知ですか?」

幸高「それについては分かっていない……」

幸高「だが彼はIBN5100を手に入れていたようだ」

岡部「そうなんですか?」

幸高「あぁ、私に話してくれたよ”もう手に入った”と」

拓巳「……

岡部「ふむ……」

拓巳「そ、それだ……」

岡部「え?」

拓巳「の、野呂瀬は強力なギガロマニアックスだ。ひ、人の思考を読むなんてたやすい……」

拓巳「IBN5100が無いことを告げられた野呂瀬は……」

幸高「私の思考を読み、柳林神社へ向かった、と?」

拓巳「そ、そうに違いないよ! そ、そこで野呂瀬は手にしたんだ、IBN5100を……」

岡部「だ、だが! それだと去年の12月まであった、という証言と噛み合わない」

岡部「いや待て、それこそ野呂瀬がルカ子たちの思考を操作したのか……?」

岡部「IBN5100があると思い込ませていた……?」

拓巳「そ、それはありえない……だ、だって野呂瀬は2009年の11月に死んでるんだもん」

拓巳「力を使っても2009年の12月まであると思い込ませるなんて、ふ、不可能だ……」

岡部「となると……IBN5100は確かに12月まで柳林神社にあった……」

岡部「……そして野呂瀬は柳林神社にIBN5100があることを知っており、かつIBN5100を手に入れた」

拓巳「だ、だとすると──」



────
───
──

翌日 8月25日

~柳林神社~



栄輔「おや、これはこれは、また参拝ですか? ご苦労様です」

岡部「一つお尋ねしたいことが……あります」

栄輔「なんでしょう?」

岡部「あなたは……野呂瀬玄一という男をご存知ですか?」

栄輔「野呂瀬……? いえ、初めて聞きましたが」

岡部「……」

フェイリス「この味は……嘘をついてる味ニャ!」

岡部「……っ」

フェイリス「フェイリスの目はごまかせないのニャ!」

栄輔「……」

栄輔「……もしかして、そのお嬢さんはギガロマニアックスなんですか? そんな気配は感じませんが……」

岡部「や、やはり、あなたがっ──」

栄輔「るかの記憶から君のことが抜け落ちてるので奇妙だとは思っていたんですが……」

岡部「SERNとノアをつないだ──」

栄輔「気づかれたからには放っておくわけにはいかなくなりましたよ、鳳凰院くん」

岡部「協力者か──!」



Chapter 7 『不可解のアリヴェ』END

Chapter 8 『次元跳躍のメガロマニア』



~昨晩~



岡部「ルカ子の父上……漆原栄輔が協力者だとでも……?」

拓巳「す、少なくとも野呂瀬が神社でIBN5100を手に入れたのは、ま、間違い無いと思うよ」

拓巳「野呂瀬ほどの強力なギガロマニアックスなら、洗脳してそれでおしまい」

拓巳「で、でも、それだとその、漆原って人の証言と、あ、合わない」

岡部「……」

拓巳「だ、だとしたらその人が野呂瀬と繋がってた可能性も、考えるべき、だよ」

幸高「そのような人には、見えなかったが……」

岡部「俺も同感だ」

拓巳「こ、今回、プロジェクトノアを再始動させた人物は、の、野呂瀬より用心深いと、思う……」

拓巳「野呂瀬はさ、覚醒したギガロマニアックスを用済みと言わんばかりに、解放してたんだ」

拓巳「で、でも今回は違う……僕に姿を見せなかったり、ギガロマニアックスを解放しなかったり……かなり用心深いよ……」

拓巳「SERNが関わってるし、一度失敗してるってのも、あ、あるんだろうけど……」

岡部「……彼が協力者だと仮定して、IBN5100は……まだあるだろうか?」

拓巳「ど、どうかな……そればっかりはちょっと……」

岡部「鈴羽の情報によれば、まゆりが連れて行かれるのは明日……」

フェイリス「マユシィが……?」

岡部「このままでは……」

拓巳「に、逃したほうがいいんじゃないかな……」

岡部(しかし収束によって捕まる可能性が高い……)

岡部(そしてSERNに……奴らに心を壊されるんだ……コードサンプルのためにっ!)

岡部「こうなったら……俺が直接彼に話を聞きに行く」

拓巳「あ、危ないよ……。きっと君もつっ、捕まっちゃうよ……」

岡部「だがIBN5100を手に入れる可能性はそこしかっ!」

岡部(いや、もはやIBN5100などと言ってられる場合でもないかもしれない……)

岡部(IBN5100を使ってSERNサーバー内のデータを消しても、西條の妹たちが捕まってるという事実がなくなるわけではない……)

拓巳「でも、協力者だったとしたら、す、素直に渡すとは、と、とても思えない、よ……」

岡部「もしそうだった場合は……Dメールを使って世界線を変える」

幸高「Dメール? 世界線? なんだねそれは」

岡部「あぁ……それは……」


俺はパパさんに世界線理論やアトラクターフィールド理論、Dメールの作用について話した。
大の大人、それも大企業の社長である彼に、信じてもらえるか自信はなかった──
が、彼の知識は豊富で、意外にもタイムトラベルに関しても肯定的であり──


幸高「そうか……未来を変えるためには、世界線というのを大きく変えなくてはいけないのか……」

フェイリス「……」

岡部「ええ、そのためにIBN5100が必要だったんです……」

幸高「それにしても……なんだか相対性理論超越委員会を思い出すよ、はは」

岡部「……なんです? それは」

幸高「いや、昔の話だ。すまない、気にしないでくれ」

幸高「それでは私たちはそのギガロマニアックスの素質のある少女を逃がすために尽くそう」

フェイリス「マユシィを連れて行こうとするニャんて、絶対に許せないのニャ!」

岡部「俺はルカ子の父上にあたってみます。もし彼がSERNとつながってたら……」

拓巳「……で、できるだけ時間稼ぎ、だね」

岡部(いや、時間を稼いでも、収束によりまゆりが捕まる可能性は高い……)

岡部(その場合はDメールで過去を変えるためのヒントを探る……)

フェイリス「ならフェイリスは凶真についていくのニャ」

幸高「留美穂、お前は私と一緒に来なさい」

フェイリス「こればっかりはパパの言うことでも聞けないのニャ!」

幸高「しかし……」

フェイリス「それに、その人がもし嘘をついたりしたら、凶真に見破る方法はないんじゃないのかニャ?」

岡部「確かに、そうだが……」

フェイリス「フェイリスなら大丈夫ニャ! もし危なくなったらすぐに逃げるのニャ!」

幸高「全く……漆原さんが無関係であることを祈るばかりだ。……岡部くん、娘を頼むよ」

岡部「……はい」

────
───
──



気づけば、漆原栄輔の手に一本の剣が握られていた。

それは剣と呼ぶには、あまりに長く。
一振りすれば折れてしまいそうなほど細い。
極々なめらかな曲線を描いていて。
見る者を釘付けにするかのような気品と。
純粋な殺意を形にしたかのような美麗さを持ち合わせ。

まるで体の一部のような──

──剣。

いや、刀と呼ぶべきか。

その野太刀のようなディソードと宮司の格好が妙に釣り合ってる。
などと的はずれなことを考えていたら──
普段の物腰穏やかな彼からは想像もできない冷厳な声で──


栄輔「SERNの協力者というのは少々語弊があります」

岡部「はっ……!」

岡部(ルカ子の父上も……ギガロマニアックスだった!?)

栄輔「私は野呂瀬くんの遺志を引き継ぎプロジェクトノアを完遂させたい」

栄輔「そして争いがなくなる世の中を創りあげたい、ただそれだけなのですよ」

岡部(どうする、逃げるか……?)

栄輔「境内は目立ちますので、こちらへ……」

 キィィィン

岡部(ディソード……リアルブート……)

フェイリス「きょ、凶真ぁ……」

岡部「フェイリスは……逃げるのだっ」

フェイリス「で、でも……」

栄輔「逃げられると思いますか?」

岡部「くっ……」

────
───
──



岡部(落ち着け……今俺がすべきことは……)

岡部「IBN5100は……まだこちらにあるんですか?」

栄輔「すでにノアプログラムのバックアップと共に、SERNへ送り届けてあります」

岡部(やはりもう、Dメールを送って過去を変えるしか……)

岡部「野呂瀬とは、やはりIBN5100を探しに来た時に接触を……?」

栄輔「Dメールとやらを送って過去を変えるつもりですか?」

岡部(!? 心を読まれた!?)

栄輔「じきにノアの開発が始まります。それまで、大人しくしていてもらえませんか?」

岡部「なぜあなたがプロジェクトノアを引き継ごうなどと!」

栄輔「……」

岡部(話さないつもりか……!)

 ピリリリリ

栄輔「……」

 ピッ

栄輔「はい……はい、分かりました。そのギガロマニアックスの素質を持った少女はくれぐれも丁重に扱うようお願いします」

栄輔「連れの方も、同様に」

岡部「まさか……まゆりがっ……捕まっ……た?」

フェイリス「そんな……パパ……マユシィ……」

栄輔「安心してください、コードサンプルを採取すればすぐにでも解放しますので……」

岡部(だが覚醒させるために心を壊されるんだろ!?)

栄輔「それに、今では比較的苦しまずに覚醒させるマニュアルも確立されてます」

岡部(そして用済みとなったら殺される……そんなの、あんまりだ……)

栄輔「ギガロマニアックスの少女たちも、ノアⅢの開発が終わり次第、解放することを約束します」

岡部「だが! 未来では俺以外全員殺されている!!」

栄輔「そんなこと、私がさせません」

岡部(……この人も結局、SERNに利用されているのだ……)

岡部「まゆりをっ……まゆりを連れてなんて行かせないっ……!」


俺は彼に飛びかかろうとする。
しかし飛びかかったと思いきや、彼の姿が消え──


岡部「うぐっ」

フェイリス「きょ、凶真……? 一体……」


渾身の体当たりは虚しく空を切り、俺は前のめりに倒れこむ。
彼は数秒前とは全く別の場所に立っている。


岡部「う……まさか」

岡部(見せられていた……? くそ、こんなの勝てるわけがないじゃないか……)

岡部「……頼む、まゆりを……まゆりを連れて行かないでくれっ……!」

岡部「お願いだ……っ! なんでもする……っ!」

栄輔「もうじき、ラウンダーの方々も来るのでそれまでおとなしくしていてください」

栄輔「あまり手荒な真似はしたくないので──」


彼がそういったかと思うと、意識が次第に遠くなり、やがてブラックアウトした。

リアルブートもDメールも“あるはずのない(なかった)もの”を作り出すのでほぼ同じ
完全に書き換えられず、花壇が妄想だったと知覚できるギガロマは強いRS持ちみたいなもの
ダイバージェンスメーターはオカリンのRS(主観)から作ったものなので
渋谷で色々リアルブートしてもオカリンには関係ない→RS発動せずダイバージェンスも変わらない
落書き作文は2002年のものだけど構想自体は2000年に完成ってことで、2000年のRSはIr2での“分岐”かも
世界規模に影響しただろう2009年にRS発動していないのは、プロジェクト・ノアはB√だろうとなんだかんだで成功しないから
2010年のはα→β→α→シュタゲの3回くらいはギガロマも感じてただろうけど、原因不明の眩暈を疑問に思う程度で終了

みたいな脳内妄想ならプレイ時してた

────────────────────────
────────────────────────


視界に光が灯り、俺の意思とは関係なしに視点は動く。

……目の前に、まゆりがいる。


(まゆり……? よかった、お前無事だったんだな……)

まゆり「あれ~? まゆしぃのカイチュ~止まっちゃってるー……」

まゆり「おっかしいなぁ……さっき、ネジ撒いたばっかりなのに……」

(え……?)


プツン、とテレビのチャンネルが切り替わるように──

────────────────────────
────────────────────────


再び光が戻る。

銃が突きつけられていた。
その銃口の奥は深く闇に沈んでいる。
やがて銃口の向きはゆっくりと隣りにいるまゆりに向けられ──


(やめろ……)

まゆり「……萌郁……さん?」

萌郁「椎名まゆりは、必要ない」


 パキッ


視界の右端に、一筋の亀裂が走る。

────────────────────────
────────────────────────


まゆり「ねえねえ、オカリンっ、ど、どこいくの?」


まゆりの手を引きながら路地を走り抜けていた。
視界に生じている亀裂がなんとも鬱陶しい。

夢中で走っていると、目がくらむほどの光とともに、路地裏から車が飛び出してくる。
俺たちは一歩も動く事ができないまま──


まゆり「あ──」

萌郁「死んだのは、椎名まゆり。ええ、岡部く、岡部倫太郎は拘束した」

(やめてくれ……)


 ピキッ


また、亀裂。

────────────────────────
────────────────────────


地下鉄のホームで、電車を待っている。
隣には、まゆり。
まばゆい光と共に轟音が近づいてきて──


綯「まゆりおねーちゃーん!」

(もうやめてくれ……)


線路へと投げ出され、光りに照らされるまゆり。
何が起こるのか分かっているのに、体が動かない。


 ピキッ パシッ 


視界の亀裂が、増える。
三本、四本。

────────────────────────
────────────────────────


祖母の墓の前で、鈍色の空を見つめるまゆり。
俺は、それを少し離れた場所から見つめる。

ふと陰鬱な雲が開けて。
一筋の光が、空から降ってくる。
まゆりが、その光に誘われるかのように華奢な腕を掲げたかと思うと──


(どこにも、行かせないぞ……)

「どこにも、行かせないぞ……」

(連れてなんて、行かせない……)

「連れてなんて、行かせない……」


その意志に呼応するかのように”俺”はまゆりを抱きしめていた。
まゆりがその場から消えてしまうんじゃないかと思って。

「ま、まゆりは、俺の人質だ……人体実験の生け贄なんだ!」

(そう、どこにも、行かせない……)


腕に力を込めようとする。
絶対に連れてなんて──

その寸前、まゆりは光に包まれる。
光は無数の細かい粒子へと変わり──
次々に弾けていったかと思うと──
まゆりが──
俺の腕から消えていた。


(あぁ……あぁぁ……)


うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ──



Chapter 8 『次元跳躍のメガロマニア』END

Last Chapter



まゆり「オーカリン♪」


まゆりの声がした。

視界は縦横無尽に走る亀裂に覆われており、まゆりの姿を視認することができない。
声のした方向と光を頼りにまゆりの姿を探す。


まゆり「みーつけた♪」


見つけた。

空から降り注ぐ光を浴びてまゆりは呟く。

し、支援…眠い

まゆり「まゆしぃはね、オカリンを追いかけて、たっくさーんの世界線のオカリンを探してきたのです」

(まゆり……?)

まゆり「ここにいるオカリンも、たくさんいるオカリンのうちの一人だっても言えるしオリジナルだっても、言えるし」

(なにを……)

まゆり「ここにいるまゆしぃも、たくさんいるまゆしぃのうちの一人だっても言えるし、オリジナルだっても、言えるの」

(言っているんだ……)

まゆり「でね。オカリンもまゆしぃも、ここで死んじゃうと思うんだ」

(殺させない……絶対に、殺させない……)

まゆり「でも、きっと別の世界線のオカリンとまゆしぃまで、意志は連続していくんだって、思うなー」

(まゆり……)

まゆり「鳳凰院凶真さんはね、この世界線には、もういないから」

(ちがう……)

まゆり「もう、大丈夫だね。まゆしぃが、人質じゃなくても」

(まってくれ……)


まゆりを連れて行こうとする強い光を当てにして、手を伸ばす。

だが──

届かない。
掴むことができない。

俺は結局、ここでもまゆりを助けることができないのか?
鳳凰院凶真は……。
もう……死んだのか……?

そうだよな……。

俺が消したんだもんな……。

ああ……。











「───ま」

「──うま!」

「きょうま!」

俺は……。


フェイリス「凶真!!」


そうだ。
俺は。

鳳凰院凶真。

俺は。
まゆりを──

助ける!



まゆりを連れて行こうとする強い光を当てにして、手を伸ばす。


──その時。
その強い光に手が届いて──
気づけば俺の手は”それ”を握りしめていた。

覚醒キター

それは、剣。


だがそれは──


剣と呼ぶには、あまりにも歪で。
あまりにも異様。
一刃の長い刃から、数本の小振りな刃が枝分かれしていて。
およそ、人を斬るためには不向きな剣。


しかし──


その一刃一刃はすべて端然としていて。
歪さすらも包み込む蒼白い優美を放ち。
今にも折れそうなほどの繊細さと。
空に向かって突き伸びようとする力強さとを兼ね備えている。

そして一際目立つ中央の刃は。
天にも届くかと思うほど、凛々しく美しかった。



──視界の亀裂は一瞬にして弾け飛び、意識は収束する。

フェイリス「しっかりして……凶真……!」

岡部「ククッ……クッククク……」

フェイリス「凶真……?」

栄輔「まさか……もう戻ってきたと……?」

岡部(戻ってきた)

岡部「感謝する漆原栄輔。そしてフェイリス・ニャンニャン」

岡部(戻ってこれた)

岡部「ずいぶんと長いこと……忘れてしまっていた……」

岡部「そう──」

岡部「我が名は──」

岡部「鳳凰院っ──」




岡部「──凶真だっっっ!」

フェイリス「凶真ぁ……」

岡部「やはりこの俺がっ! 世界をっ! 変えてやらねばならないようだなぁっ!」

岡部「このディソード──いや、魔剣ミストルティンを使ってな!」

岡部「この禍々しさ、まさに魔剣と呼ぶにふさわしいではないかぁ!」

岡部「フハ、フハハ、フゥーハハハハハッ!」

栄輔「何を……」

岡部(だが事態は好転したか、と問われればそうとも言い切れない)

岡部(何しろ奴は、セナやその他のギガロマニアックスを捕獲したほどの実力者)

岡部(覚醒したばかりの俺が奴の攻撃をかいくぐり、ラボに逃げ果せることが出来るのか?)

栄輔「逃しませんよ」

岡部「……!」

岡部(また心を……)

栄輔「妄想攻撃が通用しないというのであれば──」


栄輔が素早く間合いを詰め、袈裟斬りを仕掛けてきた。


岡部(まずいっ! ど、どうすれば!?)


          『できると思うよ、君が望めば』



俺は周囲共通認識を作り上げ、ディソードをリアルブート。
斬撃をすんでのところで受け止めた。
ディソードとディソードがぶつかり合い、激しく火花が散る。


岡部「くっ……」

岡部(斬り合いにしても妄想攻撃を仕掛けるにしても勝てる気がしない……!)

岡部(ならばっ……!)

岡部「フハハハ、漆原栄輔よ! なぜ貴様はノア計画を引き継ごうなどと思ったのだ!?」

岡部(読め、心を。思考を。”記憶”を──今の俺にならできるはず!)

栄輔「……」

岡部「……なるほど、当時いじめを受けていた我が子のためか!」

栄輔「……!」

岡部「それでノアを使って人の攻撃性や欲望といった感情を抑えこもうとしていた野呂瀬に賛同した、と!」

栄輔「私はるかのような子らが笑える平和な世界を作りたいだけなんです」

岡部「ふむ、ルカ子はルカ子のままでいい、そう言ってやったのだな」

栄輔「…………」

岡部(確かにβ世界線でルカ子と出会った時、卑屈といっても言いくらい自分を責めていたが……)

岡部「素晴らしい志だな、だが──」

岡部「なぜ我が子を信じてやらないっ!」

栄輔「……っ」

岡部(斬り合いでも妄想攻撃でも勝てないのなら──!)

岡部(精神攻撃を仕掛けるまで──!)

その合間に次々と襲い掛かる鋭い斬撃。
その一つ一つをかろうじて受け続けつつ──


岡部「聞かせてもらおう! 野呂瀬がIBN5100を手に入れようとした理由を!」

栄輔「……」

岡部「……そうか」

岡部「奴はSERNのタイムトラベル研究に対抗するためにIBN5100を欲していたのか」

フェイリス「タイムトラベルの……?」

岡部「なるほど、せっかくノアを完成させても、SERNにタイムマシンを開発されてしまえば大きな障害になる……」

栄輔「……」

岡部「野呂瀬は……プロジェクトノアの開始と共にSERNにクラッキングを仕掛け──」

岡部「研究データの破壊、及びIBN5100を使って通信傍受システムに重大な障害を起こさせたのか!」

栄輔「…………」

岡部(だからこの世界線のディストピア構築は、タイムマシンではなく、ノアⅢによるものだったのか!)

襲いかかる斬撃は速く、間合いも広い。
次の攻撃も、そのまた次の攻撃もなんとか受け止めるが、次第に受けきれなくなり──
脚、腕、脇腹、次々と斬られていく。

防戦一方。


岡部「うぐっ……」

フェイリス「凶真っ……もう……やめっ……」

岡部(……俺がここまで受け切れてるのも収束のおかげかもしれないな)

岡部(だがこのままでは俺は倒れ、捕まり……ノアⅢの完成を防ぐことも叶わない)

岡部(くそ……ここまでなのか?)


そう思った瞬間、ふっとと力が抜け、片膝をついてしまう。
そんな俺に影が近づき、腕を振り上げ──


岡部(……結局、収束には抗えないのか?)

フェイリス「や……やめてぇー!」

栄輔「野呂瀬くんは詰めが甘かった。私は──」

岡部「……っ」


──刀が振り下ろされた。


岡部「…………っ」

岡部「…………?」


ディソードは俺ではなく、何もない床に突き刺さっている。
これは一体……?


「それは妄想だ!」

岡部「え……」

セナ「よく耐えたな」

栄輔「なぜ君がここに……」

岡部「セナ……?」

拓巳「ふ、ふひひ、お、おまたせ……」

栄輔「西條くん、まさか……」

拓巳「セ、セナが今日、か、海外行きの航空便で連れて行かれることは、し、知ってた」

岡部「まゆりを逃がすために空港に行ったんじゃ……」

拓巳「そ、それだけじゃないよ、た、ただ二重の策をと、とっただけ。もしかしたら”見られてるかも”ってお、思ったから」

拓巳「だっ、だから僕が執事の黒木さんにお願いしたってわけさ、ふ、ふひひひひ……」

岡部「西條……」

拓巳「いっ、今の僕は、だっ、誰かを頼らなくちゃ何もできないけどっ。
    そ、そんな僕にも助けてくれる人は、い、いるんだようぅっ……。
    ギ、ギガロマニアックスの力がな、ないからって、な、なめないでよねっ」

拓巳「わ、わかったらさっさと降参しろおっ!」

栄輔「……」

拓巳「ひっ……に、にらむなよぅ……」

セナ「岡部! 送れ! Dメールとやらを!」

岡部「あ……」

岡部「……感謝する!」

岡部「フェイリスも来い!」

フェイリス「わ、わかったニャ!」

~大檜山ビル2階のドア~



岡部「うおおおおっ!」

フェイリス「凶真……ドア、斬っちゃって大丈夫なのかニャ……?」

岡部「問題ない、後で直す!」

岡部(というか、Dメールを送ればなかったことにできる)

岡部「よし……まだDメールを送るための機器は残っている!」

岡部(ミスターブラウン、あなたが物臭な性格で良かった!)



────
───
──



岡部「どうしてだよ、ここまで来たのに……」

岡部「ぐぐぐっ……電気が来てないっ」

岡部「おのれミスターブラウン、変なところでマメな性格をしおって……」

フェイリス「ど、どうするのニャ……?」

岡部(どうする……考えろ……)

岡部(セナがあの場を持ちこたえられなかったら、アウトだ)

岡部(悠長にミスターブラウンに交渉してる場合じゃない!)

岡部(考えろ……電気を発生させる方法を……!)


          『できると思うよ、君が望めば』


岡部(いけるのか……?)

フェイリス「凶真……?」

岡部(試してみる価値はある。イメージするんだ、電気が通ってると──)

岡部(俺とフェイリスの周囲共通認識にするんだ!)

岡部「…………っ」

 ブゥーン

岡部「きた! レンジが起動した!」

岡部「これでDメールを送ることができる!」

フェイリス「凶真……誰になんて送るのかニャ……?」

岡部「そう、後は文面だけ……」

岡部(どう送る? 誰にどういうメールを出せば未来が変わる……?)

岡部(α世界線に戻ってしまうようなメールを送るのが一番まずい。慎重に……慎重に考えなくてはならない)

岡部(フェイリスのパパさんに野呂瀬たちを止めてもらうような文面で送るか?)

岡部(もしくは、ルカ子が虐められないように……。だめだ、どちらも不確定すぎる)

岡部(いや、野呂瀬とルカ子の父上の接触が問題なんだ……!)

岡部(この世界線では俺がIBN5100を手にしなくとも、SERNがタイムマシンを完成させることはない)

岡部(となれば……)

岡部(野呂瀬とルカ子の父上が接触しなければ……)

岡部(野呂瀬が柳林神社に行く事がなければ……)

岡部(フェイリスのパパさんが”野呂瀬”にIBN5100を売ってしまえば……)

岡部「これだ! 野呂瀬がIBN5100を手にし、かつルカ子の父君と接触しないDメール!」

フェイリス「凶真、Dメールの内容は、決まったのかニャ?」

岡部「あぁ……」

岡部「フェイリス、お前のパパさんが柳林神社にIBN5100を奉納した日、わかるか?」

フェイリス「確か、2001年の4月ごろだったかニャ……」

岡部「となれば……2001年の3月辺りに……」

 ピッピッ ピッ


To:future-gadget8@hardbank.ne.jp
Sub:
本文:IBN5100を
    奉納せず
   野呂瀬に売れ


岡部(パパさんが文面通りに動いてくれるとは限らないが……)

岡部(奉納しなければ少なくともルカ子の父上と野呂瀬の接触は避けられるはず!)

岡部「後はメールを送れば……!!」


──ふと、背中に柔らかな感触。
ふわりと優しい匂いが鼻腔をくすぐった。


岡部「……フェイリス?」

フェイリス「また、行っちゃう、のかな……」

岡部「いや、お前との関係が無くなるわけでは……」


そう言いかけて、思い出す。
世界線が……未来が変わったら、俺がギガロマニアックスの素質を持つ可能性は低くなる。
恐らく素質を持った要因は91年に俺の母親が誘拐されたこと──

もともと俺には、ギガロマニアックスとしての素質はなかったのだから。

そうなれば──
こいつとの恋人としての関係は、恐らくなかったことになる。

だがこのメールを送らなければ……。
プロジェクトノアの再計画をなかったことにしなければ……まゆりが……。


岡部「まだ……他の方法があるかも──」

フェイリス「ううん、もういいの。またあなたを迷わせるような真似、したくないから……」

岡部「え……?」

フェイリス「パパを助けるためにメールを送ってくれた、んだよね……」

岡部「ま、まさか……記憶が……?」

フェイリス「なんとなく、この場所に来たらデジャブみたいなのがあって、それで……」

フェイリス「パパのこと……助けてくれてたんだね……」

フェイリス「過去に送れるメールを、使って……」

岡部「あ、あぁ……」

岡部(前の世界線でリーディングシュタイナーを発動させたように、この世界線でもまた……)

フェイリス「8月14日……」

岡部(α世界線から跳躍してきた日か……)

フェイリス「あの時から、倫太郎の心の中から私は消えてしまった」

岡部「そ、そんなことは……」

フェイリス「ううん、倫太郎が見ていたのは別の世界の私」

フェイリス「それでもずっと……そばにいてくれたよね、倫太郎は優しいから」

フェイリス「その優しさが嬉しくて……でも寂しくて……」

フェイリス「私は倫太郎のことを縛り付けてるんだって……」

岡部「……」

フェイリス「責任、感じてくれてたんだよね……」

フェイリス「ごめんね……」


たどり着いたのは、フェイリス以外の繋がりがなくなっていた世界線。

その状況を寂しいと思った。
心のなかを、空虚さが占めていることに気づいた。
だから唯一の繋がりであるフェイリスと一緒にいることで、心に空いてしまった穴を埋めようと──

──でもきっとそれだけじゃなかった。

俺は、変えてしまった未来に対して責任を感じてもいたんだ。
そのためにこの世界線の岡部倫太郎と同化しようとしていたんだ……。

岡部「すまない…………フェイリス」

岡部「俺は……また……」

フェイリス「……」

フェイリス「ニャフフ、いいのニャ! フェイリスは、もう十分、夢を見れたのニャ!」

フェイリス「マユシィたちを助けるためなら……仕方がないのニャ……」


俺はまた、こいつの前から消えようとしている。
それだけでなく、こいつの思い出すら……。
鳳凰院凶真がかけた言葉も、すべてなかったことに。

────
───
──



設定は完了した。
放電現象も直に始まる。


岡部「後は……メールを送信するだけだ」


フェイリスは涙をこらえたまま微笑んで。
かすかに頷いた。

賭けに勝ったはずだった。
だが賭けは終わってなんかいなかった。
まだ続いていたんだ。

俺は──
ボタンを押そうと──
指に力をこめて──

今度こそ──

勝つ!


 ピッ


フェイリス「バイバイ、私の王子様……」


強烈な目眩とともに世界の形は崩れ始める。


────────────────────────
────────────────────────

世界がぼやけている。
徐々に歪みが矯正され、感覚が戻ってきた。


岡部「うぐっ……」

岡部「ここは……」

岡部「…………」

岡部「ラジ館前前……?」

岡部(瞬間移動……? いや違う、世界線が変わったからそのように見えるだけ……)

岡部(タイムマシンは……)


ラジ館にタイムマシンがめり込んだ形跡は、ない。


岡部「……」


試しに何もない空間からディソードを取り出そうとしてみる。
が、反応はない。


岡部(やはり……)

岡部(すまない……フェイリス……)

~ブラウン管工房前~



岡部「はぁっ……はぁっ……ラボは……どうなっている?」


それは慣れ親しんだ風景。
幾度となく目にした風景。

二階へ上がればラボがあり──
みんながいて、まゆりがいて。
──俺の居場所があった。

しえ

大いなる意志の導きよ

岡部(……相変わらずあの時のまま、といった感じだ)

岡部(まるで今にも鈴羽が店から出てきそうな光景──)

鈴羽「ふんふーん」

岡部(そう、こんな風に──)

鈴羽「今日も暇だなー」

岡部(参ったな。思い出にすがるあまり、また妄想が溢れだして──)

岡部「ん?」

鈴羽「あれ、岡部倫太郎じゃん?」

岡部「鈴羽ぁっ!?」

鈴羽「ど、どうしたの? ……いきなり名前で呼ぶなんて」

岡部「お、おまっ……なんで、またここにっ……この世界線にっ……」

岡部(鈴羽がいる、間違いなく)

鈴羽「おーい」

岡部(ま た す ず は が い る)

鈴羽「おーいってば」

岡部「きっ……きさまぁっ! タイムトラベルしてきたのだろうっ!? 何しに来た!」

鈴羽「ちょ、なんであたしがタイムトラベラーだって知ってんのぉ!?」

岡部「この期に及んでまた未来を変えろなどと言うのではあるまいな!?」

鈴羽「え? 未来を変えろ? なんのことぉ?」

岡部「おい、教えろ、何をしにきたのだっ!」

鈴羽「えーっと……それは、禁則事項で……あははは……」

岡部「ぐっ……」

岡部「わ、わかった。ならば一つだけ答えてもらおう」

岡部「SERNはノアⅢを完成させ、ディストピアを構築したのか?」

鈴羽「ノアⅢ? ディストピア? なにそれ」

岡部「……」

鈴羽「SERNってあれだよね、研究機関の……それがどうかしたの?」

岡部「未来は平和……それでいいんだな!?」

岡部「まゆりもっ……みんな無事なんだなっ!?」

鈴羽「んー、それくらいなら問題ないか……」

鈴羽「安心してよ岡部倫太郎、未来は平和そのものだから」

岡部「……そ、そうか……良かった」

岡部(ルカ子の父上は野呂瀬とは無関係だし、SERNもディストピアを構築しない……)

岡部(平和な未来が訪れているんだ……)

岡部「我が子のために狂った聖者は……もういないんだな……」

鈴羽「にしてもあたしのこと存知してたんなんてねー」

岡部(いや待て)

岡部(……ならばこいつは一体何をしに?)

岡部「そ、そうだ! ラボはあるのか!?」

鈴羽「何言ってんのさー、君が設立したんじゃん」

岡部「そうなのか!? よ、よし!」

鈴羽「あ、ちょっとー!」

~ラボ~



 ガターン


そこには信じられない光景があった。


ルカ子と。
まゆりと。
紅莉栖と。
ダルと。
萌郁と。
フェイリスと。


倫太郎「なん……だと……?」

萌郁「え……」
ダル「ちょっ!?」
紅莉栖「岡部が……」
まゆり「ふ、二人いるよー!?」
るか「こ、これは一体……」
フェイリス「どういうことニャ!?」


うわ、なんだこれ! 俺っ!

俺!? 俺だ!


岡部「だ……」

倫太郎「だ……」



岡部・倫太郎「「誰だ貴様ぁっ……!」」

岡部(まさか……タイムトラベルした俺……?)

岡部「いやっ、夢か!?」

鈴羽「おー、もうこの時にはもう増えてたんだねー」

岡部「は? え? はっ!?」

岡部「まさか……妄想……? リアルブート……?」

鈴羽「うん、君のコピーじゃないかな」

鈴羽「あ、君がコピーの可能性もあるのか」

鈴羽「どっちがどっちかサッパリだね、あっはは」

岡部「…………」

倫太郎「こ、答えろっ! き、貴様は一体な、何者だっ……。こっ、このっ、機関のエージェントめっ……!」


俺が俺を指さす。
だが俺もいる。


岡部・倫太郎「「こっ……こ、これがシュタインズゲートの選択だというのかっ……」」



Last Chapter 『不死鳥のアナザーセルフ』END

Epilogue 『史上最強のパートナー』



俺がリアルブートされた。

これがどういうことなのか、西條やセナに尋ねるため街を散々歩き回っていたのだが──
どうやらこの世界線でも、俺と彼らは、関わりがあったようだ。
携帯のアドレスに登録されているのを見つけた時には一日経過していた。


拓巳「な、なんでギガロマニアックスのこと、し、知ってるの? もしかして、セナ教えちゃった?」

セナ「教えていない。お前が教えたんだろ西條」

拓巳「ぼ、僕じゃないよっ……」


この世界線の俺とこいつらとは幻のレトロPCを探しあったようだ。
ダルがネット上の西條と連絡を取り合い、それに俺が付きそうという形だったらしい。
結局見つけることはできなかったみたいだが。

将軍クラスで半年昏睡なのに誰がリアルブートしたんだ…
まぁ単純コピーなら記録捏造したりの根回しの必要がなくなるだろうけど

で──

聞いたところによると、強力な力を持ったギガロマニアックスならば、人間すらも作り出すことができるらしい。
過去にも人間をリアルブートをしたおかげで1年近く眠り続けたギガロマニアックスがいたとかいないとか……。

全く無茶な話である。

俺をコピーした本人は漆原栄輔。
我が子のために狂ってしまった聖者はもういない──そう語ったが前言撤回。



やはりルカ子父は壊れておいでだった。



目覚めたら一言文句を言ってやらねばなるまい。

とは言え、未来はノアⅢに支配されることもない。
鈴羽がそういうのだから、そうなのだろう。
他のギガロマニアックスの少女らの無事も確認した。

にしても……。

岡部「彼はなぜ俺のコピーなどと……」

あやせ「大いなる扉が開かれたのよ。邪心の導きによって……ね」

岡部「は? 邪心……?」

梢「んーとんーとー、消したいならー、ドカバキグシャーってしたら、いいと思うのらー」

岡部「ど、どかっ……?」

優愛「じ、自分が二人いるなんて……。
   あの……やっぱり、私も消した方がいいと思います。
   消しますよね?
   消さないなんて言わないよね?
   消すに決まってる。
   消・せ」

岡部「えっ? い、いや、その……。 えっ!?」

梨深「だ、だめだよ楠さん。彼のコピーはもうすでに周囲共通認識が成り立ってるんだから、たはは……」

岡部「ふ、ふむ……」

七海「もう、おにぃのバカ!」

拓巳「っておまっ……。そ、それ言いたいだけ、ちゃうんかと……」

岡部(な、なんなのだこの濃さは!)

8月27日

~ラボ~



ダル「ぐぇー! 牧瀬氏そのカードはらめぇぇぇ!」

紅莉栖「うっさい! どうせウィルスカードなんだろこのHENTAI!!」

萌郁「写真、取らせて欲しい。悪いようには、しないから」

るか「え……で、でもボク……その、こ、困ります……」

まゆり「スズさんも食べるー? ジューシー唐揚げ~」

鈴羽「おっ、もらうもらうっ」



倫太郎「……」

岡部「……」

倫太郎「おい」

岡部「なんだ」

倫太郎「いい加減、どちらが妄想の存在か、決着をつけようではないか」

岡部「フッ、俺には世界線を漂流してきた記憶すらある。どちらが本物かは明白だろう」

倫太郎「馬鹿を言うな! 俺にだって岡部倫太郎としての記憶がある!」

岡部「だが、その記憶とやらも、ところどころ曖昧なのだろう? んん?」

倫太郎「世界線漂流などと妄想を垂れ流す貴様に言われたくないわっ!」

岡部「なんだと! 決して妄想などではないわっ!」

岡部・倫太郎「「ぐぬぬっ……」」

まゆり「二人ともケンカはダメだよぉ」

フェイリス「そうニャ、血を分けた分身同士で争っていてもなーにも始まらないのニャ!」

岡部「おのれっ……勝手に人のコピーを取りおってっ」

ダル「最初はドッペルゲンガーきたこれって思ったけど、どっちかはルカ氏のパパが作り出した存在なわけっしょ?」

紅莉栖「ギガロマニアックスだっけ、信じがたい話よね。一度開頭して調べてみたいもんだわー……」

まゆり「奇跡も魔法も、あるんだよー☆」

ダル「おぉ、まどマジの名台詞きたこれ!」

紅莉栖「独りぼっちはさみしいもんなってか」

ダル「え?」
まゆり「え?」
紅莉栖「え?」

紅莉栖「……ごほん!」

倫太郎「しかし、両親にはどう説明したものか……」

岡部「大学とかもどうすればいいのだ……?」

紅莉栖「いっそのこと漆原さんのお家にお世話になったら?」

岡部「いやいやいや!」

倫太郎「なぜそうなる!」

るか「えっ、えっと……」

紅莉栖「文字通り、あんたらどちらかの”パパ”なんだから」

るか「ぼ、ボクも……凶真さん、だったら……」

岡部・倫太郎「えっ……?」

紅莉栖「私も一人出してもらおうかしら。助手としてこき使ってあげるわ」

まゆり「えー? だったらまゆしぃも欲しいなー」

岡部・倫太郎「「これ以上増やすなっ!!」」

岡部「時に助手よ。前の世界線では随分世話になったな」

紅莉栖「はぁ? 何の話?」

岡部「今ならばお前との父親の仲を取り持つための青森行きの約束、付き合ってやるぞ」

紅莉栖「何よそれ、私がいつそんな約束した?」

岡部「なにっ!?」

紅莉栖「て、てゆーか別に、パパとケンカとかしてないし」

岡部「そ、そうなのかっ!?」

紅莉栖「まあ、そりゃ、一時期は口も聞いてくれないこともあったけど……今では仲がいいっていうか……いや、そこまでいいってワケじゃないけど!」

フェイリス「クーニャ~ン……」

紅莉栖「──ってわぁぁぁっ、もう! いきなり耳元でささやかないで!」

フェイリス「メイクイーンでバイトしてくれるって話、どうなったのかニャン?」

紅莉栖「言ってない! 一言も言ってないから! っていうかしつこい!」

フェイリス「クーニャンならフェイリスのライバルとして上り詰められると思うのニャけど~」

紅莉栖「だが断る!」

岡部「……これは……一体……」

倫太郎「……」

倫太郎「フン、やはり貴様のほうこそ妄想の存在だということが証明されたな、フハハ」

ダル「もう、どっちがどっちだか全然わかんね」

るか「でも、どちらも、岡部さん……ですよね」

まゆり「うんうんっ、どっちもオカリンだよ~、えっへへ」

フェイリス「確かに~、本質は、どちらの凶真も凶真なのニャけど……」

フェイリス「一つだけ、決定的に違うところがあるニャ!」

鈴羽「それってなに?」

萌郁「こっちの岡部君は、私に、冷たい……」

岡部「……」

フェイリス「ニャフフ、そうじゃないニャ」

紅莉栖「じゃあ、なにかしら」

フェイリス「フェイリスにはちゃーんとわかってるのニャ!」

岡部「お、おいィ! いきなりくっつくなっ」

ダル「ちょ!」
紅莉栖「ちょ!」

倫太郎「む……?」

岡部「よせっ、みなが見てるだろ!?」

フェイリス「こっちの凶真からは、フェイリスラブのオーラがあふれてるのニャ!」

岡部「なっ! そ、そんなわけっ」

フェイリス「ニャッフッフ、フェイリスの魔眼はごまかせないのニャ!」

まゆり「えー、フェリスちゃんずるいよ~」

るか「そ、そうですよ……!」

まゆり「じゃあまゆしぃはこっちー」

倫太郎「おいこらまゆりっ!?」

るか「あっ、まゆりちゃんっ!」

紅莉栖「あ、あんたたち!?」

萌郁「椎名さんも……ずるい」

鈴羽「あっはは、モテモテだねー、岡部倫太郎」

フェイリス「今度パパとママにも紹介するのニャ!」

ダル「許さない、絶対にだ」


どうしてこうなった。


岡部・倫太郎「「くっ……!!」

倫太郎「俺だ……あぁ、機関が派遣したエージェントは、まだ真の姿を現さないつもりらしい」

岡部「俺だ……なに? 委員会の連中が動き出しているだと?」

倫太郎「クッククク……問題ない、必ずしっぽを掴んでやるさ」

岡部「心配は無用だ。こちらには能力者がいるのだからな」



岡部・倫太郎「「これも」」

岡部・倫太郎「「シュタインズゲートの選択だ」」

岡部・倫太郎「「エル・プサイ・コングルゥ……」」




Epilogue 『史上最強のパートナー』END

長くなりましたがこのSSはこれで終わりです
書き込んでくれたすべての思いに感謝を
カオヘ勢はごめんね

乙。一言でもこずぴぃが見れてよかった
SSとしても充分以上に面白かったしありがとう

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom