隣国の姫「ねえ、起きて」(47)


童話の「眠り姫」を百合っぽくしたものです。
苦手な方は戻ってください。



むかしむかし、と言ってもそれほどむかしでは
ないくらいのむかしの話。


あるところのある国には、それはそれは
美しい姫がおりました。

どのくらい美しいかというと、周りの国じゅうから
求婚がくるほどです。それもまいにち。
なにしろ姫は、日向のようなあたたかい黄金色をした髪をもち、
瞳は朝露がきらめく若葉の色でした。

周囲の王子たちが日夜おくりものをしてくるのも
むりはありません。

ですが姫は、ひとりの魔女に魔法をかけられ、
100年の眠りについてしまいました。


これは、そんな眠り姫と、ひとりの隣国の姫のおはなしです。


隣国の姫は、うつくしいものがすきでした。

なぜかというと、じぶんがうつくしくないからです。

まわりからみるとそうでもないし、兄たちは、「あいつけっこういける
じゃん。隣の国の眠り姫ほどじゃないけど。」とおもっていました。

けれど姫はじぶんが大嫌いでした。

艶やかな黒い髪は夜空みたいで、瞳も、カワセミの羽根のように
澄み切ったあおいろでした。

でも、継母は姫が小さいころに、
「あなたは世界で一番おろかでみにくい、きたない子、いらない子」と
こっそり言い続けてきたので、やっぱり姫は、じぶんはおろかでみにくくて
きたない、いらない子なのだと思っていました。

それどころか継母は、いらない子のじぶんに親切にも忠告してくれた、
やさしいひとだとかんがえていました。

やっぱりちょっとおろかなのかもしれません。


そんな隣国の姫が、うつくしいと評判の姫が
眠ってしまったことを知りました。

隣国の姫「あの黄金色の髪をした姫が呪いに?」

侍従「ええ、どうやら魔女の呪いで眠らされたようです」

隣国の姫「チャンスだわ」

侍従「どうしてですか?(まさか姫が眠っているうちに求婚にきていた
   一番お金持ちの王子とむりやり結婚しようと?やるなあ)」

隣国の姫「だって、姫が起きているときは人も多いし、それに
     はずかしくて直接お会いできなかったんだもの!」

侍従「ああ、そっちですか。(そうだった、うちの姫はこういう方だった
   ことを忘れていた)」

隣国の姫「そっちってどっちよ?」

侍従「いえなんでも」

 >3 ぬる百合片思い的なかんじです(あいまいですみません)


隣国の姫「ちょっと眠り姫に会えないかお父様に訊いてもらってくる」

侍従「いってらっしゃいませ(こういうときだけやたらアクティブ
   だよな・・・・)」


隣国の姫「駄目だって。お義母様が「あなたはそんなところに
     行って、わが城を恥さらしにするつもりですか!」って。」

侍従「また姫様はそのようなお戯れを本気でうけとって・・・・。
   (あのクソババアいつか殺す)」

隣国の姫「お義母様はお優しいから、わたしにほんとうのことを
     教えてくださってるのよ」

侍従「・・・・俺は、姫様のこと、かわいいと思います。
   (言ったーーーーー!!言っちゃった!!!ついに!!)」


隣国の姫「・・・あなたはうそつきね」

侍従「・・・・。(決して嘘ではないけれど、こういうときの
   姫は何を言ってもききいれてくださらない)」

隣国の姫「気晴らしに散歩にでも行こうかしら」

侍従「お供します」


~深い森~

隣国の姫「・・・あれは、なにかしら?」

そこには、たくさんの花で飾られた白い棺がありました。
そして、その中には眠っている美しい少女が。

侍従「姫様、お待ちくださいー!」

隣国の姫「!!」

隣国の姫「・・・帰る」

侍従「え?」

隣国の姫「もう疲れたから、帰るわ」

侍従「かしこまりました。(姫の様子が変だ)」


~城~

侍従「姫、さきほどはどうかされたのですか?」

隣国の姫「なんでもないわ、放っておいて」

侍従「・・・・かしこまりました」バタン


隣国の姫「よし、行ったわね」

隣国の姫「・・・・行かなきゃ」


~深い森~

隣国の姫「見つけた・・・!!」

姫は、先ほど見つけた棺桶のガラスの蓋を開きました。
白いドレスをまとった、金髪の少女は、どうやら眠っているようです。

隣国の姫「きれい・・・・」

うつくしいものがだいすきな姫は、眠り姫のかがやくような髪に、
陶器のような肌に、眠り姫のそのすべてに目を奪われました。

隣国の姫「あなたが、おとなりのお姫様?」

隣国の姫「きれいな髪ね・・・触れてもいいかしら?」

隣国の姫「ふふ、天然パーマなの?くるくるしてて、とても愛らしいわ」

隣国の姫「いったいどうしてここで眠っているのかしら?」

隣国の姫は、眠り姫に話しかけました。
何度も、何度も。
答えが返ってくることはないというのに。


隣国の姫「あなたが目覚めるまで、あと百年もあるのね・・・」

隣国の姫「わたしそれまで生きていられるかしら」

隣国の姫「かなうなら、あなたの宝石のような緑の瞳を見たいな」

隣国の姫「それで、この森で2人だけでおしゃべりして・・・・」

と、そのとき。

がさがさと草木をかきわける音がしました。

隣国の姫「誰?」


魔女「おやおや、かわいらしい姫様だこと」

それは、眠り姫に呪いをかけた魔女でした。

隣国の姫「あなたは・・・?」

魔女「わたくしはただのあわれな老婆でございます」

隣国の姫「そうは、見えないのだけれど」

魔女「姫様は勘が鋭くていらっしゃるようですねぇ」

魔女は、にちゃりとわらいました。

魔女「ここでお会いしたのも何かのご縁、姫様の願いを
   叶えて差し上げましょうか?」

隣国の姫「そんなことできるの?」

魔女「ええ。姫様は、そこの眠り姫のために、どんなことでも
  できますか?」

隣国の姫「ええ、もちろんよ!この子の声がきけるなら、
    みにくいわたしなんか死んだって構わない!」

魔女「さようでございますか。では、このわたくしめにおまかせを・・・」


魔女は、姫が100日間ずっとここにくることができたなら、
眠り姫をめざめさせる、といいました。

姫の命を対価として。

もちろん、100日かかさずくることができなかったならば、
その時点で命をいただきにくる、と言い残し、魔女は
姫がまばたきをした間に、煙のようにいなくなりました。


隣国の姫「大丈夫、あなたはわたしが助けるから」



侍従「・・・姫」

隣国の姫「!!」

侍従「聞いていましたよ、すべてを」

隣国の姫「だって、でも・・・・わたしは・・・」

侍従「言い訳は無用です。帰りますよ」

隣国の姫「・・・・・」

侍従「・・・はぁ。てこでもうごかないつもりですか?」

隣国の姫「わたしは、あのことずっとお話ししてみたかったの・・・!!」

侍従「ですが、魔女との契約は絶対です!取り消すことなどできないし、
   100日たったらあなたは死んでしまうんですよ!?」

隣国の姫「それでも、かまわないわ」

隣国の姫「わたしはあのこのことが、ずっとすきだった!」

侍従「っすこしは、あなたを慕っている者たちのことも
   考えてください・・・・!!」

隣国の姫「そんな人いないわ。わたしは、みにくくて、おろかな
     城の飾りにもならないどうしようもないお姫さまだもの」

隣国の姫「知っていた?あなた、女中たちの間じゃ、「姫さまの犬」なんて
     呼ばれているのよ」

侍従「そんなこと、知っています」

侍従「姫様は、いつも俺の言葉をきいてはくださらない」

侍従「ですが、今回だけは別です。どうか、俺の話を聞いてください」


そうして侍従ははなしはじめました。

自分が、じつは未来からきた人間であること。

童話として語り継がれている「眠り姫」を一目みたくて
この世界にやってきたこと。

童話では、隣国の姫がでてこないこと。

すべてを、はなしました。

侍従「姫様には、恩義を感じています。なのにいままで黙っていて、
   申し訳ありませんでした。」

隣国の姫「そう。あなたはわたしが、村はずれでぼろぼろになっているところを
     ひろったのよね」

侍従「ええ。あの時はこの世界に来たばかりでしたので、姫にひろわれたことは
   ほんとうに幸運でした」

隣国の姫「で、はなしというのはそれだけ?」


侍従「いいえ。ですがこの話は、城に帰ってからにいたしましょう。
   もうじき日が沈みます」

隣国の姫「ねえ、魔女と約束したこと、だれにも話さないでくれる?」

侍従「ええ。もちろん」

侍従「ですが姫様も、俺が未来からきたこと、はなさないでくださいますね?」

隣国の姫「当然よ。今もまだ半信半疑だもの」

侍従「ではなぜ信じてくださるのですか?」

隣国の姫「なんか、あなたってそういう感じするもの。
     人と違う、誰も知らないことをしっているような」

いつのまにか侍従フラグたってますがちゃんと百合に
もってけるようがんばります


~城~

それから侍従は、「眠り姫」の童話のあらすじを
姫にはなしました

隣国の姫「じゃあ、明日からあの棺のまわりには、茨が生えるのね」

侍従「はい、おそらくは」

隣国の姫「かまわないわ。どうせ、あと100日もしたら死ぬんだもの。
      私は眠り姫とお話しできればそれでいいの」

侍従「・・・では、もう行かなければ」

隣国の姫「どこへ行くの?」

侍従「俺は、未来の人間であることを知られてしまった。だから、
   もう帰らなくてはいけないんです」

侍従「さようなら、姫」

隣国の姫「ええ。あなたのいれる紅茶、おいしかったわ」

侍従「光栄です。・・・・・では、お元気で」

隣国の姫「死ぬ人間に対してお元気で、なんて変わってるわね」

侍従「・・・・俺は、あなたの幸せを祈っています」



侍従(姫に幸せになってほしいからこそ、言えない。
   100年の眠りから王子の口づけで目覚めた眠り姫は、
   王子と結婚して幸せに暮らしました・・・・なんて、残酷なハッピーエンドは。)


~翌日~

侍従「おはようございます。本日から姫様のお世話をさせていただきます」

隣国の姫「ええ。よろしく」

侍従「朝食はどうなさいますか?」

隣国の姫「紅茶だけでいいわ」

侍従「かしこまりました」カチャカチャ

隣国の姫「・・・・まず」


~深い森~

隣国の姫「きゃっ、茨が・・・」

隣国の姫「痛い・・・」


侍従のいったとおり、茨が眠り姫をつつむようにはえていました。

それでも姫は、服が裂け、体が傷ついても、毎日、毎日、眠り姫のもとにかよいます。

隣国の姫「あなたの瞳は、輝いた新緑の色をしていたわね」

隣国の姫「とても、とてもきれいだった・・・・」

隣国の姫「あなたよりきれいな人間なんて、きっとこの世にいないわ」


姫はそれからもずっと、朝起きてすぐ森に行き、
日がしずむころかえってきました。

いつもぼろぼろのすがたでかえってくる姫をみて、従者たちだけでなく、
国王や姫の兄たちもきみわるがりました。

もともと内向的な姫にはなしかけるものはおりませんでしたが、
とうとう城では、だれも姫にかかわろうとしなくなりました。

国王は姫が森でないをしているのかたずねましたが、姫が
「止めるのならば、わたしはいまここででも死にましょう」というと
それ以上はもうなにもいいませんでした。

それに、継母にできた赤子のことで、城全体がさわがしかったのです。

だから姫はそれからもまいにち森へいきました。


そうした生活がつづくうちに、姫はどんどんやつれていきました。

ごはんもあまりたべず、茨がどんどんはえてくるせいで、姫の体にはいまや
無数の傷跡がついています。

それでも姫は、森へゆき、まいにち眠り姫にはなしかけたり、
世話をしたりしてすごしました。

そんな、あるひのこと。


がさがさと、茨をかきわけてだれかがやってくる音に、姫は気がつきました。

他国の領地に勝手に侵入していたとなれば、姫でもただではすみません。

とっさに、近くの木の陰に身をひそめました。

茨をきりすてながらやってきた人物は、どうやら海のむこうの王子のようでした。

姫も、一度だけ本で、王子のような服装のものをみたことがあります。

王子「おや、こんなところにうつくしい姫が眠っている」

王子「いったいどうして?」

姫は、眠り姫に近づかないで、とさけびたかったけれど、みつかって
切り殺されては、眠り姫を助けるチャンスをうしなってしまいます。

それに、やつれはてた姫には、もう大声をだすちからもありませんでした。

王子「それにしてもうつくしい。こっそりキスしてしまおうか」

そういった王子が、棺のふたをあけるのを、姫はただぼうぜんとみていることしか
できません。なにしろ、さけんでいるつもりでも、のどからはかすれた音しか
でないのです。


王子が口づけたその瞬間、眠り姫がぱちりと目をあけました。

姫は、しんじられないおもいで、眠り姫がおきるのをみていました。

隣国の姫「どうして?・・・そういえば、今日は何日だったかしら?」

姫が魔女と契約してから、今日でちょうど100日でした。

隣国の姫「どうして、わたしじゃないの・・・・!!」

ああ、どうしてあの王子がわたしではないのだろう?

どうして、眠り姫が笑いかけているのはわたしではないのだろう?

どうして、侍従はこの結末を教えてくれなかったのだろう?

どうして?

そのことばだけが、姫のあたまのなかをぐるぐるとまわっていました。

そんな姫に、現実はどこまでも残酷です。

眠り姫「わたしをおこしてくれてありがとう!あなたはどなたかしら?」

王子「海の向こうの国の第一王子です。姫、わたしと一緒にきませんか?」

眠り姫「うれしい!ご一緒いたしますわ」


あんなに眠り姫の声をきくことを望んでいたのに、姫はちっとも
うれしくありませんでした。


ぽろぽろ、ぽろぽろ。

姫の目から透明な滴がこぼれます。

「ああ、あの子は、小鳥がさえずるような声で、すきとおった目をもっているけれど、
わたしにはなしかけてくれることも、瞳にうつしてくれることもないんだわ」


いつしか、眠り姫も王子もいなくなっていました。

あるのはただ、茨とからっぽになった棺だけ。

姫は、かつて眠り姫が眠っていた色とりどりの花で飾られた棺に、
そっと体を横たわらせて、ふかくふかく眠るのでした。


夜になり、城から姫を探しにきた兵たちが棺を見つけた時には、
そこにはもう、だれもいませんでした。

おしまい!


百合というか隣国の姫の一方通行になってしまいました。

ここまで読んでくださったかたありがとう!

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