ほむら「仲間になってくれる魔法少女が……」(584)

女生徒1「ねぇねぇ暁美さんって、前はどんな学校に通ってたの?」

女生徒2「部活とかやってた?運動系?文科系?」

ほむら「…………」

女生徒3「えっと、暁美さん?」

ほむら「あ……何かしら。少し、ボーっとしてしまって……」

中沢「……なぁ、今あの子こっち見てなかったか?
   もしかして気があったりして……っと、お前にゃ美樹が居るから関係ねーか」

恭介「もう、からかわないでくれよ。さやかはそんなんじゃないって」

ほむら「…………」

どういうこと……。
どうしてこの時期に、上条恭介が……?

ほむら「……ごめんなさい。緊張しすぎたみたいで、気分が……。
    保健室に行かせてもらえるかしら」

まどか「……へっ?」

ほむら「保健係の鹿目まどかさん。連れて行ってくれる?保健室」

まどか「え、っと……う、うん」

本当はここでまどかに忠告するつもりだったけれど……
まず訊かなければいけないことができてしまったわね。

まどか「…………」

ほむら「…………」

まどか「…………」

ほむら「……鹿目さん」

まどか「!な、なに?」

ほむら「上条恭介くんは、いつ退院したの?」

まどか「え?」

ほむら「彼の左手と足は、もう治ったの?」

まどか「左手と、足……?え、っと、ごめんね。
    上条くんって、昔入院してたこと、あったのかな……?」

ほむら「え……?」

まさか、この時間軸は……。
上条恭介が事故に遭わなかった時間軸……!?

まどか「少なくともわたしが知り合ってからはそんなこと、なかったはずだけど……」

ほむら「そう……。ごめんなさい、ちょっと、勘違いしてしまったみたい。
    私が入院していた病院に、似た人が居たから……」

上条恭介が事故に遭わなかった時間軸……。

確かに今までの時間軸も、全てが同じだったわけじゃない。
毎回少しずつ違っていたし、イレギュラーもあった。
でも、彼が事故に遭わないなんて、そんなの……。

いえ、パラレルワールドは無限にあるんだもの。
中にはそんな時間軸があっても、不思議なことじゃないのかも知れない……。

……それなら、確認を取っておくべきことがあるわね。




放課後

さやか「それじゃ、バイバイ。まどか!」

まどか「うん、バイバイさやかちゃん。また明日ね!」

さやか「さてと…………ん?あんた、転校生の……」

ほむら「……こんにちは」

さやか「どーしたの、そんなところで突っ立っちゃって。あ、もしかして道に迷っちゃったとか?」

ほむら「そういうわけではないけど……少し訊きたいことがあるの。
    付き合ってもらえるかしら。歩きながらで良いから」

さやか「ほほう、既にこのさやかちゃんは転校生に頼られる程の風格を持ち合わせていたと。
    良かろう、なんでも訊いてくれたまえ!
    何?学校のこと?町のこと?美味しい喫茶店とかなら……」

ほむら「上条恭介くんのことなんだけど」

さやか「はい?」

ほむら「彼は、今までに大きな事故で入院したりしたことは、あった?」

さやか「?いや、別にないと思うけど……なんで?」

ほむら「それじゃあ、上条くんは今、何か楽器をやってる?ヴァイオリンか何か……」

さやか「あぁ、うん。ヴァイオリンやってるよ。っていうか、やっぱ恭介結構有名なんだ?
    転校してきたばっかの子まで知ってるだなんてさ。
    あんま実感なかったけど、やっぱすごいんだね、あいつ」

ほむら「そう……」

さやか「で、なんでこんな質問を……」

ほむら「それじゃあ、次の質問だけど」

さやか「って、まだ続くのか」

ほむら「これで最後よ。……上条くん、今誰かと付き合ってるの?」

さやか「でっ!?」

さやか「な、なんでそんなこと……」

ほむら「別に、ただの興味本位よ。それで、どうなの?」

さやか「べっ、別に誰とも付き合ったりはしてないんじゃないかなぁー。
    あたし結構一緒に居るけど、そういう話聞かないし……」

ほむら「そう……。それじゃあ、あなたとも?」

さやか「はっ、はいぃ!? あたしと恭介が!?
    い、いやぁー、よくそう言われるんだけどさぁー……。
    別に恭介とはそんなんじゃないっていうか?ただの幼馴染っていうか?」

ほむら「…………」

さやか「ま、まぁ確かに?恭介とはだいぶ仲良いし、2人で遊んだり出かけたりとかもよくするから、
    付き合ってるとか思われるのも無理はないと思うけど?
    で、でも別にそんなの意識してるわけじゃないし?
    っていうか恭介は友達だし?別に好きとかそんなんじゃないし?」

ほむら「……相変わらずね」

さやか「は、はい?」

ほむら「まぁ良いわ。質問に答えてくれてありがとう。それじゃ、さようなら」

さやか「あ、う、うん。じゃあね、ばいばい……」

これで確定した。
上条恭介は、この時間軸では事故に遭っていない。
ということは……美樹さやかが契約する危険性は、この時間軸ではかなり低いと言える。
2人の関係もかなり良好なようだし。

イレギュラーだけど、喜ぶべきでしょうね。
余計なことに気を回さず、まどかだけを守れるわ。

ただ……今日までずっと、キュゥべえがまどか達に接触する気配がまるでないのが気になる。
それはそれで良いことのはずだけど……。

翌日

女生徒「あれ。あなた、2年生の子?どうしたの?」

ほむら「はい。少し、用事があって。巴マミさんを呼んでいただけますか?」

女生徒「あぁうん、良いよ。ちょっと待っててね」

ほむら「…………」

早めに巴マミに会い、そして、協力を得る。
こちらから会いに行けば、少なくとも話くらいは聞いてくれるはず。
変に敵対しようとしてこなければ良いんだけど……。

女生徒「マミちゃーん!2年生の子が呼んでるよー!」

マミ「?2年生の子?誰かしら」


その頃、きゅうべえは・・・

マツコデラックス「え?アタシが魔法少女に?いやよそんなの!」

きゅうべえ「君は、史上最強の魔法少女になれる素質を持っている」


女生徒A「おー、流石マミ!部活もやってないのに後輩にも慕われてるんだねぇ!」

マミ「うーん、心当たりはないんだけど……」

女生徒B「マミの隠れファンとかじゃないの?あはは!」

女生徒C「あり得るから困るよ、マミの場合!」

マミ「もう、みんなして……。それじゃ、ごめんね。ちょっと行って来るね」

ほむら「…………」

巴マミ……意外と友達が居たのね。
知らなかったわ。

マミ「ごめんなさい、お待たせ。それで、私に用事ってなぁに?」

ほむら「……これを見てもらえれば、大体の予想はつくと思うわ」

マミ「これは……宝石?」

ほむら「え?」

マミ「とても綺麗だとは思うけど……でも、これがどうしたの?」

ほむら「あなた、これが何かわからないの……!?」

マミ「えっと……ごめんなさい。ちょっと見覚えがないわね……」

ほむら「そんな……!」

マミ「……?」

ソウルジェムを、知らない……?
まさか、この時間軸の巴マミは……!

マミ「……あの、もう戻っても良いかしら?私、友達を待たせちゃってるから……」

ほむら「っ……えぇ。ごめんなさい、おかしなことを訊いて……。私の、勘違いだったみたい」

マミ「そう……?それじゃあ、失礼するわね」

女生徒1「おっ、帰ってきた。何の用だったの?」

マミ「それが、なんだか勘違いだったみたい」

女生徒2「あはは、なんだそりゃ。それよりさ、放課後の話の続きだよ!」

女生徒3「そうそう、新作パフェ、みんなで食べに行くんでしょ?すっごく楽しみー!」

マミ「ふふっ、でも最近ちょっと遊びに行きすぎて、
   お小遣いが危ないかも。お母さんに怒られちゃうわ」

ほむら「……!」

“お母さん”……。
やっぱり、そうとしか考えられない。
この時間軸の巴マミは、事故で両親を失っていないんだ……。

事故に遭っていないから当然契約もしていないし、
魔女退治に時間を割かないから友人も多く居る。
こんな可能性も、あるのね……。

巴マミが、魔法少女じゃない。
だとすると、ワルプルギスの夜に対抗するための戦力が……。

……それなら、あの子は……。

風見野

ほむら「…………」

まさか杏子に会いにわざわざ隣町まで来ることになるなんて。

確か、あの子の教会はこの辺りにあったはず……。

ほむら「……え」

確かに、記憶の通りに教会はあった。
場所は私の知ってるところと変わらなかった。
でも、その見た目は……。

杏子「あのー、何か用ですか?」

ほむら「っ!」

ほむら「……佐倉、杏子?」

杏子「えっ?あ、うん、そうですけど……。えっと、信者の人?」

ほむら「……私は……」

モモ「あっ、お姉ちゃんお帰りー!」

ほむら「!」

杏子「モモ!ただいま」

ほむら「……あなたの、妹?」

杏子「うん。ほらモモ、挨拶して」

モモ「こんにちは、佐倉モモです!」

ほむら「え、っと、それじゃあ、あなたのご両親は……?」

杏子「あっ、父さんと母さんに用事?だったら、今呼んで来ましょうか?」

ほむら「……その必要はないわ。私が用があるのは、あなただから」

杏子「へっ?あたし?」

ほむら「ごめんなさい、あなたのお姉さんと話がしたいから、2人にしてもらえるかしら」

モモ「はーい。じゃあ先に戻ってるね、お姉ちゃん。おやつ準備してるから、早くねー!」

ほむら「…………」

杏子「えっと……あたしに話って?」

ほむら「あなた、家族は元気なの?」

杏子「?あぁ、うん。元気だけど……」

ほむら「昔、貧しかったことは……?」

杏子「……うん、昔は、ちょっと。
   一時期、父さんの話を信者の人たちが全然話聞いてくれなかった時があって……」

ほむら「!だったら……」

杏子「でも、1人だけ聞いてくれた人が居たんだ。たった1人、父さんの話に耳を傾けてくれた。
   そしたら分かってくれたよ。父さんの言ってることは正しいんだって。
   怪しい新興宗教なんかじゃ、絶対ないんだって」

ほむら「…………」

杏子「それからちょっとずつ、ちょっとずつ、父さんの話を聞いてくれる人が増えて……。
   希望を持っていればいつかは救われるんだって、父さんの言ってた通りだったんだ」

ほむら「……この宝石に、見覚えは……?」

杏子「ん?へえ、すっごい綺麗じゃん。高そうだねコレ」

ほむら「……見覚え、ないのね」

杏子「うん。初めて見たよ、こんな宝石」

ほむら「そう……」

杏子「ん……なんか、悪いね。困ってるみたいだけど、あたしじゃ役に立てそうにないよ……。
   あ、もし良かったら、父さんの話だけでも聞いていかない?
   それだけでもちょっとは楽になるかも知れないし……」

ほむら「いいえ、遠慮しておくわ。それじゃあ、私はもう行くわね」

杏子「え、あ、うん……」

ほむら「そうだわ。一応忠告しておくけど、これから先……。
    もしあなたに奇跡を約束して取り入ろうとするものが現れたなら、よく考えることね」

杏子「え……?」

ほむら「さもなければ、あなたは今の幸せな暮らしも、大切な家族も、すべて失うことになるから。
    それじゃあ、さようなら。佐倉杏子」

杏子「ちょ、ちょっと待って!」

ほむら「……?何かしら」

杏子「あ、あんたまさか、何か知ってるの……?
   け、契約のこととか、魔法、少女のこととか……」

ほむら「ッ!?あなた、どうして……!?」

杏子「うわっ!お、落ち着きなよ!そんな急に……!」

ほむら「っ……ごめんなさい。その……確認するけど、あなたはまだ、契約はしていないのよね?」

杏子「う、うん。あんた、やっぱ知ってるんだね……」

ほむら「……あいつが、現れたのね。あなたのもとに……キュゥべえが」

杏子「うん……その通りだよ。初めて会ったのはずいぶん昔の話だけどね」

杏子は既に、キュゥべえと接触していた……。
だったら、巴マミは?
まさか、私が勝手に無関係だと思い込んでいただけで、本当は巴マミも……?

考えてみれば、ソウルジェムを知らないから魔法少女とは何の関係もないというわけじゃない。
キュゥべえと接触していてもソウルジェムを見たことがなければ、
彼女のあの反応も納得がいく……。

杏子「で、断り続けたらぱったり出なくなったんだけど、最近また出始めて……」

QB「出るだとか出ないだとか、そんな言い方はないんじゃないかな」

杏子「うわ!出た!」

ほむら「キュゥべえ……!」

QB「やぁ、杏子。契約のこと、考えてくれたか……あれ?」

ほむら「ッ……」

QB「君は……もしかして、魔法少女かい?」

QB「おかしいな……。僕には君と契約した記憶どころか、
  出会った記憶すらない。君は一体何者だい?」

ほむら「……魔法少女よ。あなたと契約した、ただの魔法少女。
    私のことはどうでも良いわ。それより、ここに何しに来たの?
    今のこの子は数年前と違って、もう契約する理由なんてないはずよ」

QB「うん、僕もそう思って風見野は他の魔法少女に任せてたんだけど、事情が変わったんだ。
  つい最近、ここの魔法少女が居なくなってしまってね。代わりが必要なんだよ」

ほむら「それなら私がこの町を縄張りにするわ。それで問題ないでしょう?」

QB「確かに縄張りの問題はそれで解決にはなるけど……」

ほむら「佐倉杏子」

杏子「へっ?な、なに?」

ほむら「さっき言ったこと、覚えてるわね」

杏子「う、うん……」

ほむら「そのことを絶対に忘れないで。良いわね」

杏子「あ、ちょっと……!」

ほむら「それじゃあ、さようなら。来なさい、キュゥべえ。私はあなたにもう少し話があるの」

QB「やれやれ……まぁ良い。僕も君と少し話がしたいと思ってたところだ。
  じゃあね、杏子。契約のこと、一応考えておいてくれればありがたいよ」

杏子「いや、契約はしないけど……何だったんだ一体」




QB「それで?暁美ほむらと言ったね。話というのはなんだい?」

ほむら「今の見滝原の状況について教えてちょうだい」

QB「見滝原?君は見滝原から来たのかい?」

ほむら「良いから。質問に答えて」

QB「見滝原の状況と言われても、質問が漠然とし過ぎてて答えようがないよ。
  もう少し具体的にしてもらえるかな」

ほむら「……さっき風見野には魔法少女が居ないと言っていたけれど、
    見滝原はどうなの?今の見滝原に、魔法少女か魔法少女候補の子は居るのかしら」

……この質問なら、今のキュゥべえの状況もわかる。
まどか、美樹さやか、巴マミの存在に気付いていないのか、
それとも気付いた上で接触していないのか……。

QB「魔法少女候補は、居ることには居るよ。
  ただ、ずいぶん前に契約をお願いしたけど断られてしまったんだ」

ほむら「…………」

QB「せっかく少し乗り気だったのに、戦いの危険性について
   少し詳しく説明したらすっかりその気をなくしてしまった。
   訊かれたから答えただけなのに、訳がわからないよ。
   まぁ、特に契約する理由もないような子だったから仕方がないとは思うけどね」

……きっとこれが、巴マミのことでしょうね。
やっぱり彼女は既にキュゥべえの接触を受けていたんだ。

ほむら「それにしても、あなたも契約を諦めたりするのね」

QB「もちろん、それなりには粘ったさ。でもその子1人に固執する理由も特になかったからね」

ほむら「……じゃあ、現時点で、見滝原に魔法少女は?」

QB「あの町を縄張りにしてる魔法少女は今は居ないよ」

ほむら「……そう、分かったわ」

QB「あれ、もう良いのかい?」

ほむら「えぇ、用は済んだわ。さよなら」

QB「やれやれ……」

帰り道

ほむら「…………」

巴マミも佐倉杏子も、契約していない。
見滝原や風見野に、他に魔法少女が居るわけでもない……。
ワルプルギスの夜を倒す仲間が、居ない……?

どうすれば良い?
他の町から協力してくれる魔法少女を探す?
でも、自分とは関係ない町を命を張ってまで守ろうとする魔法少女なんて居るだろうか……。

それじゃあ……巴マミと佐倉杏子に、契約してもらう……?
魔法少女になって、見滝原を救ってくれと、頼んで……。

ほむら「っ!あれは……」

マミ父「どうだマミ、最近学校の方は?勉強はちゃんとやってるか?」

マミ「もう、お父さんったらすぐ勉強の話ばっかり。この前のテストの点数、見せたでしょ!」

マミ母「ふふっ、そうよねぇ。お勉強の話ばっかりして、嫌なお父さんよねー」

マミ父「あははっ、ごめんごめん。でも友達とも仲良くやってるみたいだしなぁ。
    今年は受験だからつい勉強の方ばっかり心配しちゃってな」

マミ母「それより私は、お小遣いの使い方の方が心配だけどなー。
    最近ちょーっとお金の減りが早いんじゃない?」

マミ「うっ……は、反省してます……」

マミ父「あははは!マミはまだまだ心配されてばっかりだなぁ」

マミ「も、もう、お父さんもお母さんも……ふふっ」

彼女のあんな表情、初めて見たわ……。

そうか、今まではたった1人で誰にも頼らず戦って、知り合いも年下ばかりだから、
先輩として振舞わなければいけなくて……。
でも本来なら巴マミもあんな風に、両親に普通に叱られて、普通に甘えて、
普通に幸せに生活するはずの、普通の少女なんだ……。

その彼女に、魔法少女として戦ってくれとお願いする?
辛い戦いの日々と、過酷な運命を背負わせる?

ほむら「…………」

……そんなこと、出来るはずがない。
やって良い、はずがない……。

ほとんどの時間軸で、彼女は例外なく魔法少女の運命を背負っている。
だからせめて、この時間軸だけでも、普通の女の子として、幸せになって欲しい。
それは佐倉杏子にも言えること。

だから私は……他の方法を探そう。




ほむら「……武器は、これで十分ね」

巴マミと佐倉杏子には頼らない。
そう決めてから数日、今まで以上の日数をかけて今までで以上に武器を手に入れた。
これで、武器は量・質ともに十分。

あとは……やっぱり、仲間が欲しい。
わざわざ関係ない町を守ろうとしてくれる魔法少女が居るかどうかは分からない。
それでも、仲間を集めるという選択肢を除外するわけにはいかない。
……やれるだけ、やってみるしかない。




今日は朝から、見滝原周辺の町を探し回っている。
目的はもちろん、協力してくれる仲間を探すこと。
色々と考えたけれど、やっぱり戦力を探すという選択肢は除外できない。

……なのに、いくら町を探し回っても……。

ほむら「どこにも、魔法少女が居ない……」

仲間どころか、1人の魔法少女にも出会わない。
いくつの町、いくつの結界を探したか分からない。
なのにこれだけ探して、ただの1人も見付からないなんて……。

QB「朝から随分忙しそうだね、暁美ほむら。誰か人を探しているようだけど」

ほむら「キュゥべえ……」

QB「もしかして、魔法少女でも探しているのかな?」

ほむら「ッ!あなた、何か知っているの……!?」

QB「何かというのは?」

ほむら「これだけ探しても魔法少女が見付からないのには、理由があるはずよ。
    まさか、あなたが何か……」

QB「僕の仕業だって言うのかい?とんでもない。僕だって、今この状況には困ってるんだ」

ほむら「……どういうこと?」

QB「君が今日1日探して回った町には、本当なら魔法少女が居るはずなんだよ。
  でも、つい最近次々と居なくなってしまった。正確に言うと、殺されてしまったんだ」

ほむら「殺された……どういうこと?魔女にやられてしまったの?」

QB「それについて僕の方から君に訊こうと思ってたのさ。
  暁美ほむら、君は……“魔法少女狩り”について何か知ってることはないかな?」

ほむら「魔法少女狩り、ですって……?」

QB「ここ2、3日、近辺の魔法少女が次々と殺されていってるんだよ。
  初めは魔女の仕業かと思ったけど、どうやら違うらしい。
  犯人は恐らく、同じ魔法少女だ。
  そしてこの事件は、君が現れて数日後に起き始めた」

ほむら「……私を疑っているの?」

QB「そこまでは言わないよ。ただ、何か関係しているんじゃないかと思ってね。
  こんな事態は僕としても喜ばしくないから色々と調べてはいるんだけど、
  どうにも手がかりが掴めないんだ。それで、どうだい?何か知らないかい、ほむら」

ほむら「……今日の私の様子を見ていたのなら分かるでしょう。何も知らないわ」

QB「そのようだね。一応訊いてみただけさ。まぁ、何か分かれば教えてくれると助かるよ」

魔法少女狩り……なんだろう、聞いたことがある。
いや、聞いたことがあるんじゃない。
私は、この事件を知ってる……。

まさか、そんな……。
いや、こんなにイレギュラーの多い時間軸だ。
あの程度のイレギュラー、ここで再び起こっていてもおかしくはない……!

この事件の犯人は確か……!




織莉子「ちょっとだけ、面倒なことになったわね」

キリカ「私のせい!?私のせいなの!?私がしっかりトドメを刺さなかったせいで!」

織莉子「いいえ、あなたは悪くないわ。いつかは魔法少女の仕業だと気付かれることだもの。
     それに、むしろ気付かれた方が好都合でしょう?
     その方が、私たちの目的からあいつの目を逸らしやすくなるわ」

キリカ「そ、そう?だったら良いんだけど……」

織莉子「今のところは順調に行っているわ。
     あいつは今、魔法少女狩りの犯人探しに夢中だから」

キリカ「そっか!良かったよ、安心した!」

織莉子「あら、立ち直りが早いのね」

キリカ「きみに嫌われてないことと、きみが落ち込んでないことがわかったからさ!
    それだけ分かれば私はいつだって元気でいられるよ」

キリカ「ところで、きみが視たあれの正体はまだわからないの?」

織莉子「えぇ、もう少しでわかりそうなんだけど……。
    今はまだ、誰かがあれになるということくらいしか。ごめんなさい、キリカ。
    あれの正体がわかるまで、もう少しだけあなたには働いてもらわないといけないわ」

キリカ「ヤダなあ、謝らないで欲しいな。 私と織莉子の世界を守るためだ。
    きみと一緒に居るためなら、私は何だってするよ」

織莉子「……ありがとう、キリカ。大丈夫、きっともうすぐだから。
     私たちの世界を守れるまで、きっと、あと少しよ」

学校、放課後

さやか「いやー、今日も1日勉強したなーっと!んじゃ、帰りますか!」

ほむら「……ちょっと良いかしら」

まどか「え?ほむらちゃん……?」

仁美「どうかされましたか?」

ほむら「その……私も、一緒に帰っても良いかしら」

まどか「えっ!ほむらちゃんが、私たちと一緒に?」

仁美「まぁ、嬉しいですわ。転校生の方から声をかけていただけるなんて。
   もちろん、大歓迎ですわ!」

ほむら「ごめんなさい。急にこんなことを言い出して、迷惑でなければ良いのだけど」

まどか「迷惑だなんて……そんなことないよ!
    ちょっとびっくりはしちゃったけど……ね、さやかちゃん?」

さやか「へっ?あ、あぁ、うん!もっちろん、大歓迎!」

まどか「?」

さやか「それよりまどかぁ!“ほむらちゃん”ですとー?
    まどか、あんた暁美さんといつの間にそんな仲になったのよ!」

まどか「えっ?あ、いや、これはほむらちゃんが……」

仁美「はっ!まさかお2人とも、既にただならぬ関係に……!」

さやか「いや、そりゃねーわ流石に」

さやか「そうだ、まどかが名前で呼ぶんなら、あたしも呼んじゃおっかな!ほーむら!」

ほむら「…………」

さやか「え、何その反応」

仁美「なら私もほむらさんと呼んでもよろしいでしょうか?」

ほむら「えぇ、構わないわ」

さやか「うぉおおおおい!差別か!転校後数日にしてあたしを差別する気か!」

ほむら「……冗談よ。よろしくね、美樹さん」

さやか「まったく……。でも、あんたも冗談とか言う子なんだ。ちょっと意外かも。
    ま、何はともあれよろしくね、ほむら!」

まどか「わ、わたしも、改めてよろしくね!ほむらちゃん!」

ほむら「えぇ、よろしく」

魔法少女狩りの犯人は、ほぼ間違いなく美国織莉子……それと、恐らく仲間が居る。
目的はキュゥべえの目を逸らすため……。

美国織莉子の予知にどの程度の精度があるのか分からないけれど、
まどかに辿り着くのも、時間の問題だろう。

それなら、いつでもまどかを守れる立場になっておくべき。
本来は必要以上にまどかと親しくするのは良くないけど、この場合は仕方ない。

現時点でまどかが殺されていないということは、まだまどかの存在には辿り着いていないはず。
出来ればその前に、美国織莉子を……。

まどか「……ほむらちゃん?どうしたの?」

ほむら「あ……ごめんなさい。何かしら」

さやか「なんか怖い顔しちゃって……急にどうしたのさ」

ほむら「……友達と寄り道なんて久し振りだから、ちょっと緊張してるのかも知れないわ」

仁美「まぁ……。ふふっ、暁美さんって案外可愛らしいところもありますのね」

さやか「……はっは~ん……。さてはあれですな?
    普段のクールっぷりも、実は緊張でガチガチになっちゃってるだけ、と。
    良いねぇそれ!ギャップ萌えってやつだね!どんどんキャラが立っていくじゃん!」

まどか「さやかちゃんの言ってることはよくわかんないけど……。
    でも、ほむらちゃんも緊張してるんだって聞いてちょっと安心しちゃった」

さやか「ほほう、まどかもほむらを相手にして緊張していたと!」

仁美「はっ!やっぱり2人は相思相愛……」

さやか「いや、そりゃねーわ流石に」




まどか「じゃあね、さやかちゃん、ほむらちゃん。また明日ね!」

さやか「うん、バイバイまどか!」

ほむら「また明日」

さやか「…………あのさ、ほむら。ちょっと訊いて良い?」

ほむら「何かしら、急に改まって……。大切な話?」

さやか「大切って言うか……まぁ、ちょっとね」

ほむら「私はこれから用事があるから、手短に済ませてもらえるとありがたいのだけど……」

さやか「あーごめんごめん、すぐ終わるからさ!え、っとね。
    こないださ、あたしに恭介のこと訊いたじゃん?あれって、なんで……?」

ほむら「……?知りたかったから訊いただけよ」

さやか「いやさ、だからなんであたしが恭介と付き合ってるかとか、そんなこと……」

……長引きそうね。
出来るだけ早く、美国織莉子の家を探し出したい。
少し強引だけど、この話題は早めに切り上げさせてもらいましょう……。

ほむら「1つだけ言っておいてあげるわ。あなた、早めに上条くんに告白した方が良いわよ」

さやか「なっ!?あ、あんた何を……」

ほむら「誰かに、彼を取られたくなければね」

さやか「っ……!?だ、誰か、って?」

ほむら「さぁ。意外に身近な人物かもしれないわよ。
    話はそれだけかしら?それじゃあ、私は行くわね。また明日、美樹さん」

さやか「あ、ちょっと……!そんな、まさか……」




まどか「ただいまー!」

知久「ただいま、まどか。……うーん、確かに買ってきたと思ったんだけどなぁ……」

まどか「……?パパ、どうしたの?」

知久「いや、それがちょっと買い忘れちゃったものがあってね。
   今日の夕飯に使おうと思ってたんだけど……」

まどか「あ、だったらわたし買ってくるよ!すぐ出られる格好だし」

知久「そうかい?だったら、お願いしても良いかな」

まどか「うん、任せて!」




まどか「えーっと、これと、これと……うん。全部買えたよね」

ちょっとのんびりしすぎたかな、思ったより遅くなっちゃった。
暗くなる前には帰りたいんだけど……。
あれ?

まどか「……あの人、どうしたんだろ」

何か、すごく困ってるような、慌ててるような……。

  「ぅあぁあああーっ!ないよ!ないよぅー!」

……もしかして、探し物かな?

キリカ「どうしよう!どうしよう!ないよ!ないよー!」

あんなに一生懸命探すなんて、何を……手伝ってあげた方が……。

キリカ「……あっ!!」

まどか「へっ?」

キリカ「見つけた!きっとあれだ!」

まどか「えっ、あ、えぇっ?」

こ、こっちに走ってくる!?
わたしに何か……じゃなくて、よく見たらわたしの後ろの、車道の方を見て……。

まどか「……あっ……!」

く、車が来てる……!
あの人、車道に飛び出そうとしてる……このままじゃ、もしかして……!

まどか「だ、だめ!車が来てます!止まってください!」

キリカ「あれだよ、きっとあれだ!」

まどか「っ……!」

そんな、聞こえてない!?
それにあの様子じゃ、車も見えてない……!

も、もう、迷ってる暇なんて!

まどか「だ、駄目ぇ!!」

キリカ「あうっ!?」

わたしは、すぐ横を走り抜けようとしたその人に、後ろから飛びついた。
その勢いで2人とも転んじゃって……。

キリカ「い、たたた……。キミ!なにするの!」

まどか「えっ、だ、だって、車が……」

キリカ「いきなり飛びついたりして!痛いじゃないか!ひざを擦り剥いちゃったよ!
    それに私のジャマをするなんてどういうつもりなの!?私の愛が死んじゃっても良いの!?」

まどか「あっ、え、えっと、その……」

キリカ「邪魔するんだったら、私はキミを……」

織莉子「キリカ!」

キリカ「!織莉子!」

キリカ「聞いてよ織莉子!この子が私の愛を……」

織莉子「謝りなさい、キリカ!それから、お礼も言いなさい!」

キリカ「えっ……?」

織莉子「この人はキリカを助けてくれたのよ!
     貴方が車道に飛び出そうとしたのがみえたわ。
     あのままだと貴方、きっと車にはねられてた。それを体を張って助けてくれたの!」

キリカ「え。え?え!?そうだったの!?キミは恩人だったの!?」

まどか「お、恩人?えっと……そう、なるんですかね?」

キリカ「うわぁー!ご、ごめんね!そうとは知らず、キミに酷いこと言っちゃったよ!
    キミは私と織莉子の世界を守ってくれたんだね!
    ホントにごめんね!私は恩人に何をしたら良い!?
    何をしたら恩人に報いることができるの!?」

まどか「あ、いえ、そんな……。それより、探し物っていうのは……」

キリカ「あァア!そうだよ!ないんだよ!
    あれがないと、私は死ななくても愛が死んじゃうよ!」

織莉子「……?」

キリカ「あぁー!さっき見つけたの、よく見たら全然違うやつだ……。
    どうしよう、どうしよう!ないよー!」

まどか「えっと、もしかして……そっちじゃなくて、あそこに落ちてるのがそうじゃないかなー、って」

キリカ「えっ……?う、ウワァー!ほんとだ!会いたかった!もう離さない!」

まどか「よ、よく分かんないけど、良かったの、かな?」

織莉子「何を探してたのかと思ったら……」

キリカ「ありがとう!本当にありがとう!キミは私の、二重の恩人だったんだね!
    キミのおかげで世界も愛も死ななくて済んだよ!」

まどか「あ、その……ど、どういたしまして」

織莉子「でも、本当に良かったわ。ありがとう、キリカを助けてくれて」

まどか「あ、いえ……」

織莉子「そうだわ、ぜひ何かお礼……っ!」

まどか「……?」

織莉子「……貴方、右足首を少し捻ってないかしら?」

まどか「あ……さっきこけた時にちょっと」

キリカ「え!恩人は私のせいで怪我を!?」

まどか「えっと、大丈夫です!頑張ればなんとか歩けるので……きゃっ!」

織莉子「危ない!無理をしては駄目よ。ほら、掴まって」

キリカ「あ、私が支えるよ!織莉子はそんなに力が強い方じゃないんだから。
    ほらキミ、私に掴まって!」

まどか「あ、その……す、すみません……」

キリカ「遠慮なんかしないで。恩人には礼をしたいんだから」

キリカ「恩人は愛だけじゃなくて、私と織莉子の世界も守ってくれたんだ。
    まだまだこのくらいじゃ足りないくらいだよ!」

まどか「せ、世界だなんてそんな……」

キリカ「私を守ったっていうことは、織莉子の居る私の世界を守ってくれたのと一緒だ。違うの?」

織莉子「ふふっ……そうね。キリカの言う通りだわ。
    もし良かったら今から私たちの家に来てはくれないかしら?
    あなたさえ良ければ、ぜひそこで足の治療とお礼をさせて欲しいわ」

まどか「えっ?でもわたし……」

キリカ「恩人はまだ遠慮するの?礼を拒否なの!?」

まどか「あ、えっと……そ、それじゃあ、ちょっとだけお邪魔しても良いですか?」

織莉子「えぇ、もちろん」




織莉子「これでどうかしら?痛くない?」

まどか「ん……はい!大丈夫です!」

織莉子「そう、良かった。包帯、上手く巻けたみたいね」

キリカ『上手く治療できた?恩人の怪我は治った?』

織莉子『えぇ。きちんと出来たわ。……貴方の怪我も大丈夫ね?』

キリカ『うん、大丈夫。ソウルジェムも大丈夫』

織莉子『良かった……。でも本当に、次からは気を付けるのよ。
     もし、ソウルジェムが傷付いたりすれば……』

キリカ『……うん。ごめん。本当にごめん。気を付けるよ……』

キリカ「……とにかく恩人が無事で良かった。
    恩人、もう怪我なんてしないように気をつけてね!
    私にとって恩人は、織莉子の次に大切なんだから!」

織莉子「もう、お客様の前でわざわざそんなことを言わないの」

キリカ「だって本当のことだよ。私が一番大切なのは、いつだって織莉子だよ!」

織莉子「まったく……。ごめんなさい、この子が変なこと言ってしまって」

まどか「あ、いえ!キリカさんと織莉子さん、とっても仲良しなんですね」

織莉子「!」

キリカ「あれ?ん?あれれ?私たち、恩人に自己紹介したっけ?」

まどか「えっと、会話の中に名前、何回も出てきたから……あ、合ってます、よね?」

織莉子「……えぇ、合ってるわ。私は織莉子、この子はキリカ。
    そう言えば、私たちは貴方の名前を聞いていないわね」

キリカ「ほんとだ!恩人の名前を教えてよ。私は恩人の名前を知りたい!」

まどか「あ、えっと。見滝原中学の2年生の、鹿目まどかって言います。
    ごめんなさい、すっかり紹介が遅れちゃって……」

キリカ「恩人は鹿目まどかって言うんだね。覚えておくよ!」

織莉子「よろしくね、鹿目さ……いえ、まどかさん」

キリカ「それじゃ、自己紹介も済んだところでお茶を飲もう!
    織莉子のお茶をご馳走するよ!すっごく美味しいお茶だよ!」

織莉子「ふふっ、待っててね。すぐに準備するわ」

まどか「あっ、あの、そのことなんですけど……。
    実はわたしお使いの途中で、夕飯の材料を買ったところだったんです。
    だから、えっと……。気持ちは嬉しいんですけど、早く帰らなきゃ……」

キリカ「え!恩人はお使いの帰りだったの?」

織莉子「まぁ……だったら、仕方がないわね」

まどか「ごめんなさい、言いそびれちゃって……」

織莉子「いいえ、こっちも強引だったわ。ごめんなさい、無理に連れて来てしまって。
     ご家族が待っているのなら、早く帰った方が良いわね」

まどか「そんな、無理にだなんて……。とても嬉しかったです。
    誰かにあんなに感謝されるなんて、今までなかったから。だから、気持ちだけで十分……」

キリカ「私と織莉子の世界が、感謝の気持ちなんかと同等だと思って欲しくないよ!
    ……そうだ、恩人。キミ、またここにおいでよ!」

まどか「えっ?」

キリカ「礼はまたその時に改めてすることにする。
    キミが守ってくれたのが、私たちの世界が、愛が、
    どれだけすごいものか恩人に知っていてもらいたい。ね、織莉子!」

織莉子「キリカ……ふふっ。えぇ、そうね。
     私だって、この感謝の気持ちを気持ちだけで表すなんてできないわ。
     だから、まどかさん。貴方さえ良ければ、今度改めてお茶会を開かせてもらいたいのだけど」

まどか「えっ、そんな、そこまでしてもらえるなんて……」

キリカ「また遠慮!恩人は遠慮しかしないの?」

まどか「その……す、すごく嬉しいです。ありがとうございます!」

織莉子「あらあら。お礼をするのはこちらの方なのよ」

まどか「あっ……そ、そっか。えへへ……」

織莉子「それじゃあ、都合の良い日は――」




さやか「えっ、用事?」

まどか「ごめんね。今日はちょっと……」

仁美「そうですの……それなら仕方ありませんわね」

まどか「うん。だから今日はわたしは先に帰るね」

ほむら「……実は私も、今日は用事があって。鹿目さんと一緒に帰るわ」

さやか「!そ、それって何の用事?」

ほむら「ちょっと、用のある人が居て」

さやか「用のある人って……?」

ほむら「?あなたは知らない人よ」

さやか「ほ、本当?」

まどか「……?さやかちゃん?」

さやか「えっ?あ、あー、ごめん。なんでもないよ!
    えーっと、2人とも用事って言うんなら、仁美どうする?
    あたしたちだけで喫茶店寄っちゃう?」

仁美「あ、その……私も今日はお稽古事がありますの。
   ですから、せっかく行ってもすぐに帰らないと……」

さやか「あらら。なーんだ、じゃ仕方ないね。今日はみんなで仲良く直帰しますかー!」

ほむら「……えぇそうね。そうしましょう」




キリカ「まだかな。恩人まだかなー」

織莉子「見滝原中学も下校時刻はもう過ぎてるはずだから、きっともうすぐ来るわ。
    それにしても、ずいぶん楽しそうに待つのね。そんなにまどかさんが気に入ったのかしら?」

キリカ「?織莉子もしかして嫉妬してるの?私が恩人と仲良くしたそうだから?」

織莉子「ふふっ、私だってまどかさんを大切に思ってるわ。
    だって彼女は、キリカを守ってくれたんだもの。
    それはつまり、私たちの救世の道を守ってくれたということに他ならないわ。
    でも……そうね。貴方があんまりまどかさんと仲良くすると、嫉妬してしまうかも知れないわね」

キリカ「なーんだ。そんなの心配いらないよ!私の一番はいつだって織莉子だ。
    私が恩人を大切に思ってるのは、一番大切なきみとの世界を守ってくれたからだよ!」

キリカ「だから私は、全てにおいて恩人より織莉子を優先するよ!わかってるくせに!」

織莉子「ッ……!」

キリカ「えっ。えぇ!ヤダヤダ、どうして怖い顔をするの!
    私は何か変なこと言っちゃったの!?
    嫌いになっちゃイヤだよ!きみに嫌われたら私は腐って果てるよ!」

織莉子「キリカ、行くわよ」

キリカ「?行くって……もしかして、魔女?」

織莉子「私たちの恩人が、危ないわ」

キリカ「え!?」




まどか「えーっと、ここを曲がって……あれ?」

お、おかしいな。
もしかして、道、間違えちゃった?
そんなぁ……。
地図も貰ったし、そんなに難しい道でもないから迷うことなんてないと思ったんだけど……。

まどか「……ま、待って。変だよ、おかしいよ……。こんなの、地図に載ってない……」

……ううん、それだけじゃない。
道が、どんどん変わってる……!?

使い魔「ケケケケケケ!」

まどか「ひっ!?な、なに?何なの!?な、何か居る……!?」

使い魔「ケケケケケケ!」

まどか「や、やだっ!来ないで!誰か、誰か助け……」

キリカ「恩人、伏せて!」

使い魔「グギャァ!」

まどか「えっ……?」

織莉子「良かった……間に合ったわね」

まどか「お、織莉子さん、キリカさん!?」

キリカ「使い魔まで私たちの礼の邪魔してくれちゃってさ!さっさとやっちゃうよ!
    そして恩人に織莉子のお茶をご馳走する!」

織莉子「えぇ……。早く片付けてしまいましょう」




使い魔「ギャァアアアアアアア……!」

織莉子「今ので、最後だったみたいね」

キリカ「あははッ!使い魔が何匹居ようと余裕余裕!」

まどか「あ、あの、えっと……」

織莉子「大丈夫だったかしら、まどかさん。怪我はない?」

まどか「は、はい。え、っと……さ、さっきのは……」

織莉子「少し、長い話になってしまうわね。
     場所を移しましょう。せっかくお茶の準備もしているんだもの」




まどか「ま、魔女に、魔法少女……」

織莉子「黙ってるつもりはなかったのだけど、わざわざ言うようなことでもないから……」

まどか「その……怖くないんですか?あんなのと戦ってて……」

キリカ「怖い?怖いだって!あはははは!そんなはずないよ!あんなののどこか怖いもんか。
    私が怖いのは、織莉子が怒ることと、織莉子が悲しむことと、織莉子に嫌われることと、
    織莉子との愛が死んじゃうことと、織莉子との世界が終わっちゃうことと……」

織莉子「もう、キリカったら。でも、そうね。私たちには魔女なんかを恐れている暇はないわ。
    だって、魔女を殺すことなんかより、もっと大きな……救世を成し遂げる使命があるから」

まどか「……!」

織莉子「あ……ごめんなさい。少し怖い顔になってしまったかしら」

まどか「あ、いえ……。ちょっと、びっくりしちゃっただけです、すみません……。
    でもなんていうか……かっこいいですね!
    魔法少女になって、悪い魔女を倒して、世界を救うために頑張ってるなんて!
    そういうのって、わたし、ちょっと憧れ……」

キリカ「駄目」

まどか「えっ……?」

キリカ「だめだめだめだめ。絶対だめ。恩人は魔法少女になんかなっちゃだめ。
    キミは恩人なんだからだめ。恩人はだめ。契約なんかしちゃだめ。
    魔法少女になっちゃだめ。あいつに騙されちゃだめ。魔女になんかなっ……」

織莉子「ストップ、キリカ。それ以上は言うべきでないわ」

まどか「あ、あの……」

織莉子「まどかさん……私から1つ、お願いがあるわ」

まどか「は、はい」

織莉子「まず訊くけれど……貴方は今、幸せかしら?」

まどか「え、っと……はい。たぶん、幸せなんだと思います」

織莉子「そう……だったら、絶対に魔法少女になんてなっては駄目。
     魔法少女になった者は、みな例外なく、辛く苦しい運命を背負うことになるわ。
     そうなれば、今のあなたの幸せな生活をすべて失うことになる」

まどか「っ……!」

織莉子「あなたを魔法少女にしようとするものが現れても、
     決してそいつの言いなりになってはいけないわ。
     自分の人生が大切なら、魔法少女になんて絶対にならないで。
     あなたは、私たちの恩人。私たちにとっても、大切な人。
     だから、お願い。あなたは決して、魔法少女になんてならないで」

まどか「……は、はい。わかりました……」

織莉子「もし何かあったら、少しでも奇跡に頼りたいなんて思ってしまったら……。
     まず私たちに相談して欲しいの。きっと力になれるわ」

キリカ「そうだよ!あいつなんかに頼らないで、私たちを頼ってよ!」

まどか「あ、ありがとうございます」

織莉子「ふふっ……それじゃ、堅苦しい話はこのくらいにして、お喋りを楽しみましょう?」




まどか「あの、今日はありがとうございました。
    助けてもらった上に、お茶とお菓子までご馳走になって……」

キリカ「それもこれも全部礼だよ。これでわかったくれた?
    キミが守ったものが私たちにとってどれだけ大切なものだったか、わかってくれた?」

まどか「あ、はい!とってもよくわかりました!」

キリカ「よろしい、恩人は合格だね!」

織莉子「私たちも、とても楽しかったわ。お客様を招いてお茶会なんて、本当に久し振りだったから。
    ぜひまたやりましょう?」

まどか「はい!わたしも先輩とこんなにお話することなんてあんまりなかったから、
    とっても楽しかったです!ぜひまたお願いしますっ」

織莉子「えぇ。それじゃあ、気を付けて帰ってね」




織莉子「まどかさん、やっぱりとても良い子だったわね。
     最初は緊張してたみたいだけど、途中からはぎこちなさも取れて。
     楽しそうにしてくれて良かったわ」

キリカ「ちぇっ。なんだい織莉子ったら。
    私に嫉妬しちゃうなんて言って、織莉子のが楽しそうだったじゃないか。
    私が嫉妬しちゃっても織莉子は良いの?」

織莉子「あらあら、ごめんなさい。
     貴方以外に名前で呼んでくれる子が居て、つい嬉しくなってしまったみたいね」

キリカ「名前で呼ばれるのか嬉しいなら何回だって呼んであげるよ!
    織莉子織莉子織莉子織莉子!
    ほらほら私の方が恩人よりたくさん名前で呼んでるよ!」

織莉子「もう、またそんな子どもみたいなことを言って」

キリカ「なんだいなんだい!きみはすぐそうやって私を子ども扱いするんだ!
    子どもって言うなら、恩人の方がずっと子どもっぽいじゃないか」

織莉子「あら、まどかさんは見た目が少し幼いだけで中身はしっかりした子だわ」

キリカ「アァ!織莉子はやっぱり恩人のことが好きなんだ!
    ふんだ!織莉子なんか織莉子なんか!」

織莉子「嫌い?」

キリカ「だいっ好き!」

織莉子「そう、良かった」




まどか「えへへ……先輩と一緒にお茶会って、なんだか良いな」

キリカさんは元気で面白いし、織莉子さんはおしとやかで優しいし。
2人ともとっても良い先輩。

そうだ、今度みんなも連れてきて良いか訊いてみよう!
さやかちゃんに、仁美ちゃんに、ほむらちゃん。
みんなで一緒にお茶が飲めたら、それはとっても嬉しいな、って……ん?
あれ、もしかして……。

まどか「ほむらちゃん?こんなところで偶然だね!」

ほむら「鹿目さん……!あなた、家に帰ったんじゃ……」

まどか「うん。実は、先輩と一緒にお茶会してたんだ!
    ほむらちゃんこそ、こんなとこでどうしたの?」

ほむら「私も、この近くに用事があって。それより、先輩とお茶会って……」

まさか、巴マミ?
この時間軸でも、私の知らないところで2人は接触を……?
でも巴マミの家はこの辺りとは全然……。

まどか「えーっと、多分ほむらちゃんは知らない人じゃないかなぁ。
    1人は見滝原中の人だけど、もう1人は違う学校の人だし。
    確か白女の人だったかなぁ?あ、白女っていうのはね、すごいお嬢様学校で……」

白女、ですって?
それって確か……。
いえ、まさか。
そんな偶然、あるはずが……。

ほむら「……その先輩の、名前は?」

まどか「うん、美国織莉子さんって言うの。それから、見滝原中の人は呉キリカさん」

ほむら「ッ……!?」

まどかと美国織莉子が、既に接触を!?
そんな……!

いえ、でも……不幸中の幸いかもしれない。
もし美国織莉子がまどかの結末を知っていたなら、
きっともうとっくにこの子は殺されていたはずなのだから。

……むしろ、これはチャンス。
美国織莉子がまどかに好意を抱いているのだとすれば……。

まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「……もうすぐ日が暮れるわ。あなたは早く帰りなさい。ご家族が心配するわよ」

まどか「えっ?う、うん、でもほむらちゃんは……」

ほむら「私はこれから用事があるから。それじゃ、気をつけて帰ってね。さようなら」




ほむら「…………」

“美国”……この家で間違いないわね。
もう覚悟は決まった。
最悪の事態に備えて、グリーフシードも準備している。

……出来れば戦いは避けたい。
このグリーフシードを使わないことを祈るわ。

インターホンを押す。
数秒待ち、住人がインターホン超し……ではなく、直接出てきた。

キリカ「あははッ!忘れ物なんて、やっぱり恩人は子どもだね!」

ほむら「……!」

呉キリカ……!
そうだ、覚えてる。
以前もこの子は、美国織莉子と一緒に居た……!

キリカ「ん?あれ?んー……。キミ、織莉子に用事のお客?」

ほむら「……えぇ、そうよ。美国織莉子さんを呼んでもらえるかしら」

キリカ「わかった。ちょっと待ってて」

……呉キリカは、私のことを知らないようね。
でもきっと、美国織莉子はそうでないはず。
あの光景を視たのだとすれば、私のこともきっと……。

織莉子「ごめんなさい、お待たせしました。私に何かご用……ッ!」

ほむら「……こんにちは。美国織莉子さん」

キリカ「?織莉子?」

織莉子「貴方は……あの時あの場所に居た……」

キリカ「あの時あの場所にって……まさか!」

ほむら「…………」

織莉子「その様子……。私のことを、知っているのね?」

ほむら「……えぇ」

織莉子「私たちの目的も、これから為そうとしていることも、全て?」

ほむら「えぇ。そこまでわかっているのなら、私がここに来た理由もわかるわね」

織莉子「わからないわ。貴方はここに、話をしに来たの?戦いに来たの?」

キリカ「織莉子、下がって」

織莉子「キリカ……」

キリカ「よく分からないけど、この女は危険だ。
    織莉子に危険を及ぼす可能性が少しでもあれば、私は躊躇しない。
    すぐに排除するよ」

ほむら「私は争いに来たんじゃない。お願いをしに来たの」

織莉子「お願い……?」

キリカ「こんな奴の言うこと聞く必要なんてないよ!
    そうだ、こいつもあいつの目を逸らすために利用……」

ほむら「鹿目まどかを助けたい。それが私の願い」

キリカ「っ!?」

キリカ「どうして恩人の名前を?恩人と知り合いなの?」

ほむら「あの子は私の……たった1人の、大切な友達なの」

織莉子「まどかさんを助けたい……それは、あれを止めるということ?
     世界の終末という運命を変えるということ?
     貴方が私たちに協力してくれるということかしら」

ほむら「そうであるとも、ないとも言えるわ」

織莉子「…………」

ほむら「私の言っていることが分からないのなら……鹿目まどかの運命を視てみなさい」

織莉子「なんですって?」

ほむら「どうせいつかは至るのなら……今ここで視なさい。そして、私の話を聞いて欲しい」

織莉子「まどかさんの、未来、を…………ぇ……?」

キリカ「……織莉子?」

織莉子「…………ぁ……ぁあ……そんな、そんな……!」

キリカ「織莉子!顔が真っ青だ!大丈夫!?織莉子!」

織莉子「……まどかさんが、あれだった……」

キリカ「えっ……」

織莉子「世界を滅ぼす魔女……その正体が、まどかさんだった……!」

キリカ「え。え? 恩人が?恩人があれ?そんな。
   恩人が、あれだって。あれが恩人だって。そんな……」

ほむら「あなた達は……まどかを殺すつもりだったわね。
    そうやって魔女化を阻止し、世界を救うつもりだった。
    でも、私の目的は違う。私の目的は、まどかを絶対に魔女になんてさせないこと。
    契約なんてさせないこと。まどかに、普通の女の子として生き続けてもらうこと」

織莉子「っ……」

ほむら「私の目的は、あなた達と同じであり正反対。だから……私はあなた達にお願いに来たの」

織莉子「……鹿目まどかを殺すな。そういうこと?」

ほむら「……そうよ」

雰囲気が変わった……。
美国織莉子、やっぱり簡単に説得されてはくれないみたいね。

織莉子「つまり貴方は、この世界を滅ぼすつもりかしら?」
    
ほむら「…………」

織莉子「私はもう知っているわ。もう視ているもの。貴方の方法では世界を救うことはできない」

ほむら「……そうね。私は今まで何度も何度も失敗してきた。
    色々な方法で、同じ方法で、何度も繰り返し挑んでは、失敗してきた」

キリカ「何度も何度もだって?何を言って……」

織莉子「……やっぱり。それなら貴方の存在が理解できるわ。
    貴方は時間を繰り返し、何度も何度も同じ光景を見てきたのね」

ほむら「…………」

織莉子「でも……そうであれば尚の事。貴方には世界を救えない。
     それを貴方自身が証明してしまっていることに気付かないの?」

ほむら「今までは確かに駄目だった。でも今回は違う」

織莉子「同じだわ。私は知っている。貴方は、今回も失敗するわ。今までと同じように、失敗する」

ほむら「違うわ。今回は今までと違う。この時間軸には……あなたたちが居る」

織莉子「……私たちが協力すれば、鹿目まどかを殺さなくても世界を救える。
    貴方は、そう思っているのね」

ほむら「その通りよ。あなたが視た未来は、あなたが干渉することでいくらでも変えられる。
    今までだって、そうやって少しずつ未来を変えてきたのでしょう?」

織莉子「鹿目まどかの魔女ほどではないにしても、ワルプルギスの夜は現時点では最大級の魔女。
    勝てるかどうかも分からない相手に挑むより、私は……確実な方法を取るわ」

ほむら「っ……」

今回なら……美国織莉子がまどかと親しく接しているこの時間軸なら。
まどかを殺すことを躊躇するかも知れない、そう思った。
でも、彼女の意志がこれほどまでに固いなんて……。

やっぱり、駄目なの……?
今回もやっぱり、美国織莉子と敵対するしか……

キリカ「あ、あのさ、織莉子。私は、どんな魔女にだって負けないよ?」

ほむら「っ!」

キリカ「たとえその……ワルなんとかの夜が相手だって。私は負けたりなんかしないよ」

織莉子「キリカ、貴方……」

キリカ「あ、え、まぁ、その、えっと、もちろん、私は織莉子の判断に従うよ。でも、だから、あの……」

揺れてる……?
意外だわ。
呉キリカの方がまどかを殺すことに躊躇うだなんて……。
でも、それならまだ諦めるわけには……!

ほむら「……美国織莉子。
    あなたは覚えていないでしょうけど、私はあなたに言われたことがあるわ。
    “自分は道が昏いなら自ら陽を灯す。違う道に逃げ続けている貴方とは違う”と」

織莉子「……それが何か?」

ほむら「私はあなた達が歩もうとしている道よりも、より明るい道を示した……。
    それなのに今、違う道に逃げようとしているのは、誰かしらね」

織莉子「っ……黙りなさい、馬鹿なことを言わないで。私は……!」

まどか「あの、すみませーん……」

織莉子「ッ!」

ほむら「っ……!?」

まどか「わたし、忘れ物を……えっ?ほむらちゃん……?」

まどか!?
こんな時に、なんてタイミングで……!

キリカ「!織莉子、待って!」

ほむら「っ……!」

まどか「お、織莉子さん?」

しまった!
まどかに気を取られた一瞬のうちに、美国織莉子はもう攻撃の態勢を……!
まずい、変身を、時間を、駄目、このタイミングじゃ、間に合わな……

ほむら「ッ……まどか、逃げてぇえッ!!」

織莉子「……ごめんなさい」

まどか「え……」

ほむら「…………え……?」

まどか「あ、あの……えっと……?」

織莉子「…………」

キリカ「織莉子……?」

もう、無理だと、おしまいだと思った……でも……。
美国織莉子は、まどかを攻撃しなかった……?

織莉子「ごめんなさい、お父様……。私は、機会を一度、みすみす、逃します……」

まどか「……?」

織莉子「……どうぞ、まどかさん。忘れ物はこれでしょう?」

まどか「えっ、あ、はい……」

織莉子「……あなた、まだ名前を聞いてなかったわね」

ほむら「……暁美、ほむら」

織莉子「暁美さん……。あなたに、協力してあげるわ」

ほむら「!本当に……!」

織莉子「ただし、全て協力するわけではない。
     詳しいことは……また後日、お話しましょう。
     今日はもう、帰っていただくわ。まどかさんを、送って差し上げて」

まどか「え、えっと……?」

織莉子「さようなら、まどかさん。また一緒にお茶を飲める日が来ることを、楽しみにしてるわ」

まどか「……は、はい。それじゃ、失礼します……」




キリカ「織莉子、きみ……」

織莉子「貴方、私があの子に攻撃しようとした時、“待って”と言ったわね。
    私たちの救世を成し遂げる最大の機会だったのに……どうしてあんなことを言ったの?」

キリカ「それは、その、えっと、あの、だって、あの……」

織莉子「怒ってるわけじゃないわ。ただ訊いてるだけだから。落ち着いて話して?」

キリカ「う……。そりゃあ、織莉子は私の一番で、全部の中で一番で、
    全てにおいて優先順位は一番だ。そして恩人は二番だ。
    織莉子が一番で、恩人は二番…。でも……」

織莉子「でも?」

キリカ「……まどかは、私の二人目の友達なんだ」

織莉子「……そう」

キリカ「それじゃあさ、織莉子は……織莉子はどうして、さっき攻撃しなかったの?
    暁美ほむらは防御も回避も反撃も間に合ってなかった。
    やろうと思えばやれたはずなのに。どうしてやらなかったの?」

織莉子「まどかさんの姿を見た時はもちろん、やるつもりだったわ。
    でも……あの子に名前を呼ばれたら……体が止まってしまったの。
    私だって、本当は、あの子を……」

キリカ「織莉子……」

そう、あの子は……私を私として見てくれる二人目の子。
それも初めてできた、私を私として慕ってくれる、可愛らしい後輩……。
だから私は、出来るのなら、本当に出来るのなら、あの子を殺したくなんてない。

……それでも。

織莉子「それでも私は、自分の使命を忘れない。私の使命は、この世界を救うこと。
    暁美ほむらには一応の協力姿勢を見せるけれど、必要に迫った時には……」

キリカ「うん……わかってる。恩人は確かに恩人で、友人だ。私たちの世界を守ってくれた。
    でも、あの子が今度は私たちの世界を滅ぼそうとするのなら……。
    私は、恩人でも友人でも、故人にすることができる」

帰り道

ほむら「鹿目さん、あなた……彼女の正体を知ってたの?」

まどか「正体って……魔法少女のこと?」

ほむら「……やっぱり、知ってたのね」

美国織莉子の変身に対しての反応から推測はできたけれど……。

ほむら「いつ、どこで知ったの?」

まどか「あ、うん……。実はね、今日みんなと別れたあと、魔女に襲われちゃって……。
    その時に織莉子さんとキリカさんが助けてくれたの」

ほむら「っ……そう、だったの」

そう言えば不自然に消えた結界が1つあったけれど、まさかこの子が巻き込まれていたなんて。
まどかを守るはずの私がこの子の危険に気付きすらせずに、
まどかを殺そうとしていた彼女たちがこの子を救った……皮肉なこともあるものね。

ほむら「……さっきは、驚かせてしまってごめんなさい。
    ちょうどあなたが来たのと同時に、魔女の気配がしたから……」

まどか「あっ、そうだったんだ。えっと、ほむらちゃんも……」

ほむら「えぇ、魔法少女よ」

まどか「それじゃ、ほむらちゃんも契約して……?」

ほむら「……えぇ、そうね。契約して、魔法少女になったわ」

まどか「…………」

ほむら「鹿目さん?」

まどか「あ……ううん、ごめんね。その……ほむらちゃんはさ。今、幸せじゃ、ないの……?」

ほむら「え……?」

まどか「あ、えっとね、えっと……織莉子さんに、言われたんだ。
    絶対に魔法少女なんかになるな、って。今の幸せな生活も、全部なくなっちゃうから、って。
    そ、そうなの?魔法少女って、そんなに辛いものなの……?」

ほむら「……彼女の言う通りよ。魔法少女なんて、絶対にならない方が良い。
    魔女との戦いは命がけだし、実際に……私の先輩も、友達も、みんな命を落としたわ。
    数え切れないほどの死を、私は見てきた」

まどか「っ……」

ほむら「それに、願いが叶ったからと言って、それが必ずしも良いことだとは限らない。
    他人の幸せを願ったのに、結果として他人も自分も不幸にしてしまった子もいる」

まどか「そ、そんなのって……」

ほむら「……あなた、まだ契約を持ちかけられてはいないわね?」

まどか「う、うん……」

ほむら「これから先、あなたに奇跡を約束して取り入ろうとするものが現れるかもしれない。
    でも、絶対にそいつの言いなりになっては駄目よ。約束して」

まどか「お……織莉子さんにも、同じこと言われたよ……」

ほむら「!そう……。それなら、わかってくれるわね」

まどか「うん……。最初はちょっと、かっこいいななんて思っちゃったけど……。
    キリカさんや織莉子さん、ほむらちゃんにもおんなじこと言われちゃったら、
    やっぱりわたしの考えが甘かったんだな、って……。ありがとう、ほむらちゃん」

ほむら「分かってくれたなら良いの。あなたは、魔法少女になんてなる必要はないわ」

……美国織莉子も、私と同じことを……。
考えは似ているはずなのに、どうしてここまで食い違ってしまうのかしら。

でも今回はなんとか協力まで漕ぎ付けた。
今までの時間軸とは、何もかもが違う。
この時間軸なら、今度こそきっと、まどかを救えるかも知れない……。
いや、救い出してみせる……!

翌日、放課後

まどか「――さやかちゃん、さやかちゃん?」

さやか「……へっ?あ、ご、ごめん、何?」

仁美「一緒に帰ろうと、さっきから何度も言ってますのに……」

まどか「今日1日中ぼーっとしてたし……ううん。
    今日だけじゃなくて、最近なんだか変じゃない?何かあったの?大丈夫?」

さやか「あー、あはははは!ごめんごめん!
    いやー、最近ね、久し振りに漫画読み返してたら止まらなくなっちゃって……。
    それでちょーっと寝不足気味なのよね!」

仁美「まぁ……。でも、良かったですわ。てっきり病気か何かかと思って心配しておりましたのよ?」

まどか「ただの寝不足なら良いんだけど……」

さやか「悪いね、心配かけちゃってさ!それから更に申し訳ないんだけど、
    あたし今日ちょっと用事があって……待たせといてごめん!先に帰るね!」

まどか「あっ……行っちゃった」

仁美「寝不足という割には、ずいぶん元気ですのね……」

ほむら「…………」

最近、美樹さやかの様子が何かおかしい。
まさか、キュゥべえの接触を受けた……?
いや、それは考えがたい。
美樹さやかに接触しておいてまどかを無視するなんて、考えられない。

だとすれば、何か他の理由……?
それとも私の考えすぎで、本当にただの寝不足?

……気になるけれど、正直今はそれどころじゃない。
特に今日は、私も外せない大切な用事があるのだから。




ほむら「……こんにちは」

キリカ「…………」

織莉子「意外と早かったわね。急いで来てくれたのかしら」

ほむら「あなたなら私が来る時間も知っていたんじゃないの?」

織莉子「私だって、いつでも未来を視ているわけじゃないわ。魔力だって使うのだから。
    これから協力する上では、予知能力をあまり万能なものと思ってもらっては困るわね」

ほむら「万能でなくて助かったわ。まどかを殺される前にあなたたちに会えたから」

キリカ「ねえ!キミはそんな話をしに来たの?早くこれからのことについて話そうよ!」

ほむら「……そうね、ごめんなさい。これからの話を始めましょう」

織莉子「まず確認させてもらいたいのだけど……貴方の魔法は、時間操作ね?」

ほむら「その通りよ。基本的には、時間を止めるだけだけど」

織莉子「時間を巻き戻す魔法は、あまり多くは使えない?」

ほむら「えぇ。だから私が戦闘で使うのは、時間停止だけ」

織莉子「そう。私たちの魔法については知っているの?
     貴方は既に私たちに“会っている”のでしょう?」

ほむら「そうね……一度だけ。ただ、呉キリカさん。あなたの魔法についてはあまり知らないわ。
    速度操作、ということで良いのかしら」

キリカ「間違ってはいないけど惜しいね。私のは速度低下。速さを上げるのはできないよ」

織莉子「1つ……訊いても良いかしら」

ほむら「構わないわ。何?」

織莉子「その世界の私たちは……救世を成し遂げることができたの?」

ほむら「……えぇ。あなたたちは、あなたの目標を達成したわ」

織莉子「それはつまり……」

ほむら「まどかを殺すことで、世界を救った」

そう、まどかは殺された。
みんな絶望を乗り越えて、協力して。
全員でワルプルギスの夜を越える望みが生まれたと思った、次の瞬間。
まどかは殺された。
せっかく希望が生まれたのに、こいつらに、まどかは……。
こいつらのせいで、まどかは……。

キリカ「っ!」

織莉子「……貴方」

ほむら「…………ごめんなさい。嫌なことを思い出してしまって……。
    話を本筋に戻しましょう。確認するべきことはまだあるわ」

織莉子「えぇ……そうね。話を進めましょう」

ほむら「美国さん、あなたは“全て協力するわけではない”と言っていたわね。
    あれは、どういう意味かしら。あなたはどの程度協力してくれるの?」

織莉子「まず……ワルプルギスの夜との戦いだけど。
     これを手伝うのはキリカだけ。私は離れた場所で待機しておくわ」

ほむら「……なぜ?」

織莉子「鹿目まどかを監視するためよ。彼女があいつに唆されないよう、私が監視する。
     だから、私は戦えないわ。そもそも私の能力は戦闘では回避くらいにしか役に立たない。
     貴方の時間停止とキリカの速度低下があれば、私の予知は必要ないでしょう」

……協力するわけでないと言う割には、十分に協力的ね。

確かに彼女の言う通りかも知れない。
今までは全員であいつと戦うことしか考えていなかったけれど、
ワルプルギスの夜との戦いの間、誰かがまどかを見張っていれば、
キュゥべえに唆されて契約してしまうこともなくなる……。

美国織莉子の魔法なら、監視の効果は十分すぎるほど期待できる。
けれど、不安がないわけじゃない。
それはまどかの監視ではなく……。
本当に2人だけであいつに勝てるのか。

確かに、呉キリカは強い。
魔法少女狩りなんて事件を起こして、本人はまったく無事でいられるくらいだ。
その戦闘能力の高さは、並みの魔法少女を遥かに上回っているのだろう。
でも……。

ほむら「正直、戦力は少しでも多い方が良いのだけど。加勢は期待できないかしら」

織莉子「言ったでしょう。私が加わったところで、大した戦力にはならないわ。
    確かに攻撃の回避率は上がるでしょうけど、それだけよ。
    それなら鹿目まどかを見張っていた方が効果的だとは思わない?」

ほむら「……そうね」

織莉子「もし戦力に不安があると言うのなら、更に仲間を増やすという手もあるわ。
     見滝原と風見野には素質を持った子が居る。
     彼女たちに魔法少女になってもらえばワルプルギスの夜を倒せる可能性は上がると思うのだけど」

ほむら「……私は、あの子たちにも魔法少女になって欲しくない」

キリカ「へー。暁美ほむらはすごいね、すごいすごい。
    恩人だけでなくその子たちまで守ろうとしてる。キミは聖人にでもなるつもりなのかな?」

ほむら「そんなつもりはないわ」

織莉子「犠牲を出さずに全てを救うつもり?
     そんな甘いことを言っているようでは、覚悟が足りていないように感じてしまうわね」

ほむら「……犠牲なら、今まで嫌と言うほど出してきた。でもそれでは駄目だったの。
    だから今度は、違う方法を試してみるだけよ。
    それに、戦い慣れていない魔法少女なんて、足手まといになるだけ。
    ワルプルギスの夜が来るまで十分な時間があるわけではないのだから。そうでしょう?」

織莉子「……まぁ、その通りね。それに、あまりキュゥべえに見滝原周辺をうろつかれても迷惑だし。
    そのために魔法少女狩りなんて起こしたんですもの」

ほむら「その魔法少女狩り、まだ続けるつもり?」

織莉子「えぇ。本当はあれの正体を見つけたらやめるつもりだったけれど、
    少なくともワルプルギスの夜が来るまでまどかさんから目を逸らさないといけないのでしょう?
    だったら、まだ続けるわ。……残念だけど、これも仕方のない犠牲よ」

ほむら「…………」

キリカ「まさか止めたりなんてしないよね?それとも何か、キミには良い案があるの?」

ほむら「……いいえ。わかったわ、魔法少女狩りを続けてちょうだい。
    あの子からキュゥべえの目を逸らすために」

キリカ「ちぇっ、なんだ。“続けてちょうだい”だって。結局人任せか」

ほむら「私はあまり目立ちたくないの。
    私が目を付けられれば、傍にいるまどかの存在に気付かれてしまう恐れがある」

織莉子「キリカ、気持ちはわかるけれど暁美さんの言う通りよ。
     まどかさんから目を逸らしたいのなら、暁美さんには大人しくしておいてもらった方が良いわ」

キリカ「ま、全然良いんだけどさ。今までだって私1人で余裕だったんだしね」

織莉子「でも、あれの正体が分かった今なら、少しだけあなたの負担を減らしてあげられるわ。
     まどかさんから目を逸らすための、必要最低限の戦いで済ませられる」

キリカ「そっか。ありがとう織莉子!」

ほむら「今日話しておくべきことはこのくらいね。
    ワルプルギスの夜対策については、また後日、私の家で話し合いましょう」

キリカ「ワルプルギスの夜対策ぅ?そんなのするのー?」

ほむら「あいつの強さは、私が一番よく知ってる。
    いくらあなたが強いと言っても、何の対策もなしに勝てるほど甘い相手じゃないわ」

織莉子「貴方がそう言うのなら、そうなのでしょうね」

ほむら「理解が早くて助かるわ」

キリカ「ふーん……ま、私は織莉子に従うよ。その対策ってのやれば良いんでしょ?
    でも魔法少女狩りの方もあるからね。あんまり時間は取れないよ」

ほむら「えぇ……わかってるわ。それじゃあ、また後日、私の家で」




キリカ「ねえ、織莉子。ホントに暁美ほむらのこと信用しても良いの?
    今日暁美ほむらが見せた顔。織莉子も見たよね?あれはかなり危ないよ」

織莉子「確かにあれは……私たちのことを本気で憎んでいる表情だった。
     でも、彼女は私たちを裏切ることはないわ」

キリカ「どうして?」

織莉子「それほど憎んでいる相手に協力を願い出るということは、相当の覚悟が要るはず。
     彼女の意志が揺らがない限り、裏切ろうなんてしない。
     それに、私の魔法を知っている以上、下手なことはできないはずでしょう?」

キリカ「……だったら良いんだけどさ」

織莉子「貴方も、変に彼女に敵対意識を持ったりしては駄目よ。
     私たちの世界を守るためですもの。
     手を組んだ相手のことは信用して、精一杯協力しないと」

キリカ「うん……。織莉子がそう言うなら」

織莉子「良い子ね、キリカ」

翌朝

今のところは、順調に行っている。
美国織莉子も呉キリカも、一応は私を信じてくれているようだ。
問題は、ワルプルギスの夜への対策を3人でどの程度立てられるかと言うことね。
魔法少女狩りをまだ続けるというのであれば、日時も臨機応変に設定しないと……。

まどか「おはよう、ほむらちゃん」

仁美「おはようございます」

ほむら「おはよう。……美樹さんは、まだ来てないの?」

まどか「あ、えっとね。さやかちゃん、今日はちょっと遅れるから先に行ってて、だって」

ほむら「……そう」

学校に着いて、しばらく経った。

美樹さやか……この時間軸では大丈夫のはずだけど、やっぱり少し気になってしまう。
ただ寝坊して遅れているだけの可能性だって……むしろ、そう考えるのが普通なのに。
イレギュラー続きの時間軸で、少し神経質になりすぎているのかしら……。

さやか「おはよー、みんな!」

まどか「!さやかちゃんだ。おはよう、さやかちゃん!」

良かった、登校はしてきたようだ。
安心し、声の方を向く。
すると……

恭介「みんな、おはよう」

中沢「おっ?今日は夫婦揃って登校かよ!見せ付けてくれるじゃねーか、おい!」

恭介「あはは、からかわないでくれよ」

さやか「ふ、夫婦って、もう!気が早いって!」

まどか「あれ……?さやかちゃん、いつもは“そんなんじゃない”って否定するのに……」

仁美「…………」

さやか「いやー、ごめんねみんな、遅れちゃって」

まどか「先に行ってて、って……もしかして、上条くんと一緒に登校するためだったの?」

さやか「えへへ……うん、まぁね」

ほむら「……美樹さん」

さやか「!ほむら……。あのさ、昼休み、ちょっと時間良いかな」

ほむら「えぇ……構わないわ。ちょうど私も、あなたに話を聞きたいと思っていたの」

昼休み

ほむら「それで、あなたの用件は何?」

さやか「うん……その、ほむらにはなんて言ったら良いのか。実はまだ、考えがまとまってないんだ」

ほむら「……私に、何か言うことがあるの?」

さやか「えっと……あたしさ。恭介と、ちゃんと、正式に付き合うことになったんだよ」

ほむら「……!やっぱり、そうだと思ったわ。良かったじゃない、おめでとう」

さやか「え、あぁ、うん……ありがとう」

ほむら「でも、どうしてそれをわざわざ私1人に?
    さっき、みんなの居るところで話せば良かったのに」

さやか「いや、それは……だって、ほむらがああ言ってくれたから、あたしは……。
    ほむらさ、言ってくれたでしょ?“早く告白した方が良い”って」

ほむら「言ったわね」

さやか「えっと、さ。だから、その……お、お礼を言うべきなのか、
    謝るべきなのか……ちょっと、わかんなくて」

ほむら「謝る?」

さやか「す、好きだったんだよね?恭介のこと……」

ほむら「……誰が?」

さやか「えっ?だからさ、ほむらも恭介のこと、好きだったんでしょ?」

ほむら「え?」

さやか「自分も恭介のこと好きなのに、あたしに発破かけてくれて……。
    その、本当にほむらには、なんて言ったら良いか……」

ほむら「待って。何を勘違いしてるの?私は別に上条くんのことはなんとも思っていないわ」

さやか「へっ?い、いや、だって。“誰かに取られたくなければ早く告白しろ”って……」

ほむら「“誰か”とは言ったけど、私だなんて一言も言ってないじゃない。
    それに、転校してきたばかりで上条くんとは初対面なのよ」

さやか「で、でもあれはどう考えても……」

ほむら「…………」

さやか「ほ、本当に?本当に、ほむらは恭介のことなんとも思ってないの?」

ほむら「だからそう言ってるじゃない」

さやか「じ、じゃあ、あたしの、勘違い……?は、恥ずかしいなぁ!もう!
    いくら美人だからって転校生なんかに取られてたまるかーって、すごく焦っちゃったんだよ!
    それなのに全部勘違いかよ!バカ!あたしって、ほんとバカ!恥ずかしい!」

放課後

まどか「わっ!やっぱりそうだったんだぁ!おめでとう、さやかちゃん!」

仁美「本当に……おめでとうございますわ」

ほむら「…………」

さやか「えへへへ……ありがと」

仁美「それにしても、お2人は付き合ってはいなかったですのね。
    口では否定していても、本当は付き合っているものとばかり……」

まどか「そう言えば、みんな“やっぱり付き合ってたんだ”って言ってたような……。
    確かに、ずーっと噂されてたもんね。
    “本人たちは否定してるけど付き合ってるようにしか見えない”って」

さやか「えっ、マジで?な、なんか恥ずかしいなぁ……。
    で、でも本当に、昨日までは付き合ってなかったんだよ!」

仁美「……そうと知っていれば……」

さやか「……へ?なに、仁美。何か言った?」

仁美「……ふふっ。なんでもありませんわ。……さやかさん」

さやか「ん、何?」

仁美「私、心から祝福いたしますわ。幸せに、なってくださいね」

さやか「いやぁー、あはは……て、照れるなぁ。でもありがとう、仁美!」

まどか「ねぇねぇさやかちゃん!どうやって付き合うようになったのか教えてよ!」

さやか「ウェッ!?」

まどか「なんて言って、告白したの?」

さやか「や、やだよ!言わないよ!恥ずかしいもん!」

仁美「そうですわね、私も知りたいですわ。
   さやかさんが上条くんのハートをどのように射止めたのか、ぜひ!」

さやか「い、いいい良いってそんなの!」

ほむら「…………」

美樹さやかが上条恭介と付き合って、
志筑仁美がどう反応するか少し気になっていたけれど……。
思ったより普通で安心したわ。
やっぱり、元々あの2人が仲が良かった分、志筑仁美も諦めやすかったということかしら。

仁美「あら、もうこんな時間……。ごめんなさい、お先に失礼しますわ」

まどか「あれ、今日もお稽古?」

仁美「えぇ、今日はピアノですの」

ほむら「私も、そろそろ帰らないと」

さやか「なんかほむらも結構忙しいねぇ。やっぱ、転校したばっかだから色々あるわけ?」

ほむら「えぇ、まぁ」

さやか「そんじゃ、バイバイ2人とも!」

まどか「また明日ね!」

ほむホーム

ほむら「今日は大丈夫なの?」

織莉子「えぇ。“魔法少女狩り”が印象付いた以上、何も毎日事件を起こす必要はないわ。
     それに、この子にあまり負担をかけたくないもの」

キリカ「私は全然なんてことないよ!」

織莉子「もちろんそれだけじゃないわ。
     何か起きた時にすぐ対処できるよう、あまり見滝原を離れない方が良いでしょう?」

キリカ「あ。そっか、確かに」

ほむら「考えあってのことなら良いの。それじゃあ、早速対策会議を始めましょう」




ほむら「それから、この魔女は……聞いてるの?」

キリカ「んあっ?あー。大丈夫大丈夫、聞いてたよ」

織莉子「ごめんなさい。この子、最近頑張りすぎて寝不足気味で……」

ほむら「だからと言って居眠りはやめて欲しいわ」

キリカ「だから聞いてたって!寝てなんかない!ただちょっとウトウトとしてただけじゃないか!」

ほむら「それを居眠りと言うのよ。子どもみたいな言い訳はやめなさい」

キリカ「!だ、れ、が、こっここ、子どもだァ!!」

ほむら「そうやってすぐ感情に任せて行動するところよ」

キリカ「この!このこのこのこの!私が感情ならキミは体型だ!
    体型が子どもだ!子ども体型のくせに!子ども体型のくせして!」

ほむら「なんですって……?」

織莉子「2人とも、落ち着きなさい」

ほむら「私は落ち着いているわ。落ち着きがないのはそこの子どもだけよ」

キリカ「あァア!また言った!織莉子!私は暁美ほむらのことが嫌いだ!」

織莉子「もう、昨日言ったでしょう?暁美さんのこと信用して、協力しないと駄目だって」

キリカ「織莉子が言ったから信用はする!協力もする!でも嫌いだ!」

ほむら「別に好きになってもらう必要はないわ。信用と協力さえ得られれば、私はそれで構わない」

キリカ「そういうところが嫌いだ!このッ……」

織莉子「2人とも!黙って!」

キリカ「えっ。やだやだ!怒っちゃ嫌だよ!謝るよ!だから怒らないで!」

織莉子「今すぐ廃工場に向かって!急いで!」

ほむら「廃工場……?まさか!」




まどか「さやかちゃんと2人で寄り道なんて、久し振りじゃない?」

さやか「あー、そういやそうだね。ほむらが転校してきてから、2人でってのはあんまり……あれ?」

まどか「さやかちゃん?どうしたの?」

さやか「あそこ歩いてるの、ほら。仁美じゃない?」

まどか「えっ?あ、ほんとだ。お稽古どうしたのかな?」

さやか「さては……サボりですな!優等生の仁美もついにワルの道へと走り出しちゃいましたか!
    なんてね。おーい、仁美ー!何やってんのー?」

仁美「……?」

まどか「仁美ちゃん、今日お稽古じゃなかったの?」

さやか「ひっひっひ!サボりとはお主もワルよのぉ!」

仁美「あらぁ……?鹿目さん、美樹さん、ごきげんよう……!」

さやか「?仁美……?」

まどか「仁美ちゃ……あっ、ま、待って!どこに行くの?」

仁美「どこって……ここよりもずーっと素晴らしい場所、ですわぁ……」

まどか「ひ、仁美ちゃん……?」

さやか「なんだかわかんないけどさ……や、やめといた方が良いんじゃない?仁美……。
    素晴らしい場所って、あんまり良い予感がしないって言うか。
    お稽古サボるくらいなら良いと思うけどさ、そういうのはあんまり……」

仁美「あぁ、そうですわ……お2人もぜひ、ご一緒に……。
   えぇそうですわ、それが素晴らしいですわぁ……!」

さやか「ちょ、ちょっと、待ちなって……!」

まどか「ひ、仁美ちゃん、どうしちゃったの?ねぇ、仁美ちゃん!」




男「こんな工場ひとつ、満足に切り盛りできなかった……。俺はもう、駄目なんだ……」

女「…………」

まどか「えっ……あの人が持ってるの、あれって……」

さやか「あの洗剤……や、やばいやつじゃん!やめさせなきゃ……うわっ!?」

仁美「邪魔をしてはいけません、あれは神聖な儀式ですのよ?」

まどか「な、何言って……」

さやか「っ……離せ!!」

まどか「あっ、さやかちゃん!?」

さやか「お、りゃぁあああ!!」

さやかちゃんは仁美ちゃんの制止を振り切って、バケツのところまで走って行って、
そのままバケツを投げ捨てた。
良かった、これで……

まどか「……!?」

な、何?
みんな、さやかちゃんの方を見て……。

さやか「っ……く、来るな!来るなぁ!」

わたしなんか無視して、さやかちゃんの方に……!

まどか「や、やめて……!逃げて、さやかちゃあん!!」

まどか「ど、どうしよう、どうしよう……!」

さやかちゃんは、たまたま開いてた部屋の1つになんとか逃げ込んだ。
わたしはただ、部屋に群がる人たちを遠くから眺めていることしかできていない……。

駄目、早く、なんとかしなきゃ、あんなたくさんの人……いつ扉が壊されちゃうか……!

だ、誰か……警察、警察に、電話を……!

まどか「……そんな……!」

繋がらない、どうして……!?
走って誰か呼びに行っても、そんなの……。
このままじゃ、さやかちゃんが、さやかちゃんが……!

 「彼女を助けたいかい?それなら、僕が力になってあげられるよ」

まどか「えっ……?」

QB「初めまして、僕の名前はキュゥべえ!
   今あそこに居る人たちは、魔女の呪いを受けておかしくなってしまっているんだ」

まどか「ま、魔女!?そんな……」

QB「おや……君は魔女を知っているのかい?だったら話は早い。
   あの人たちを、そして君の友達を救えるのは、魔法少女だけだ」

まどか「魔法少女、だけ……」

QB「そして君には、そのための力が備わっているんだよ。
   人々を魔女の呪いから救い出すための力がね」

まどか「っ!わ、わたしに、助けられるの?さやかちゃんを、仁美ちゃんを、助けられるの!?」

QB「もちろんさ!だから僕と契約して、魔法少女に……」

ほむら「その必要はないわ……!」

QB「!暁美ほむら……」

まどか「ほむらちゃん……!た、大変なの、さやかちゃんが、仁美ちゃんが、魔女に!
    は、早く助けてあげないと……!」

ほむら「心配しないで、鹿目さん。あの子たちなら大丈夫だから」

まどか「えっ……?」

さやか「ま、まどかぁ!」

まどか「さやかちゃん!だ、大丈夫だった?なんともなかった!?」

さやか「う、うん。変なおばけが出てきて、周りの景色が変わって、
    もう駄目だと思ったら、この人たちが……」

まどか「お、織莉子さん、キリカさん!あの、ありがとうございます!」

キリカ「礼には及ばないよ。それより……」

織莉子「……キュゥべえ……」

QB「まさか君たちとほむらが手を組んでいたなんてね。意外だったよ」

織莉子「あら、そうかしら?魔法少女同士でチームを組むのはいけないこと?」

QB「そうは言ってないさ。ただ、あまり多いケースでもないからね。
   それより、僕から1つ提案があるんだけど」

ほむら「…………」

QB「チームを組むということは、仲間を欲しているということだろう?
  それなら、ここに居る2人が仲間になってくれるかも知れないよ。鹿目まどかと、美樹さやかがね」

キリカ「必要ない。3人も居れば十分だ。十分すぎる」

QB「そうかい?まぁ、チームを組むかどうかと、まどかとさやかが契約するかどうかはまた別の問題だけどね」

ほむら「……言いたいことは分かったわ。もう行って良いわよ」

QB「2人に魔法少女について説明くらいはしておきたいんだけど」

ほむら「説明なら私たちでしておくわ。だからもう、消えなさい」

QB「やれやれ、わかったよ」

仁美「ん……あら、私……?」

さやか「ひ、仁美!」

仁美「……?私、どうして……?」

まどか「……!」

さやか「え……な、何も覚えてないの?」

仁美「えぇ……なんだか、頭がぼんやりして……」

さやか「な、なんだかわかんないけど、元に戻ったんだよね……?
    良かった……良かったぁ……ぐすっ」

仁美「……何か、心配をかけてしまったようですわね……」

ほむら「きっと集団幻覚か何かでも見たんでしょうね。
    救急車を呼んでおいたから、検査を受けてきた方が良いわ」

仁美「集団、幻覚……。私、一体どうしてしまったのか……。
    ごめんなさい、みなさんに迷惑をかけてしまったみたいで……」

さやか「そんな、迷惑だなんて……。とにかく、仁美が無事で良かったよ、ほんと!」

仁美「さやかさん……」

さやか「ん、何?」

仁美「……いえ。なんでも、ありませんわ……ぐすっ……」

さやか「ひ、仁美!?大丈夫、どこか具合悪いの!?寝てた方が良いよ、ほら、横になって!」

仁美「っ……ひぐっ……ぐすっ……」




さやか「……本当に寝ちゃった」

ほむら「ちょうど良かった。志筑さんは寝かせておいて、早くここから離れましょう」

さやか「えっ!な、なんで?」

ほむら「じきに救急車やパトカーが来る。そうなれば私たちまで無駄に時間を取られることになるわ」

まどか「えっと、仁美ちゃん、本当になんとも……?」

織莉子「えぇ、大丈夫。魔女はもう倒したから、今は本当にただ寝ているだけだわ」

さやか「ま、魔女って、さっきのおばけのこと……?」

キリカ「……サイレンの音が聞こえてきた。行くなら早く行こう」

ほむら「そうね、行きましょう。説明はまた、その後でするわ」

さやか「う、うん……。ごめん、仁美。また明日ね!」




ほむら「――この説明で、理解できたかしら」

さやか「ま、まぁ……。ていうか、まどかは知ってたんだ?」

まどか「うん……前に一度、魔女に襲われたことがあって。
    その時に助けてくれたのが、織莉子さんとキリカさんなの。
    あ、でも実際にキュゥべえを見たのは、今日が初めてだよ」

さやか「そっか……。それにしても、魔法少女ねぇ……。
    悪い魔女からみんなを守る正義の魔法少女って言うと、
    確かにかっこいい気もするけど……でも命がけかぁ……。
    それはちょっとなぁ。別に叶えたい願い事があるわけでもないし……」

織莉子「その考え方で正しいわ。命がけて叶えたい願いごとがないのなら、契約なんてする必要はない」

さやか「契約って、あのキュゥべえってやつがして回ってるんですよね?
    それじゃあ、あいつも正義の味方なわけ?」

ほむら「いいえ。あいつは正義のためだとか、人々を守るだとか、そんなことは一切考えてないわ」

さやか「えっ、マジ?」

まどか「そ、そうなの?」

さやか「じゃあなんで契約なんか……」

まどか「な、何か目的があって、契約するんだよね……?」

ほむら「……1つだけ言えることは、あいつは私たちを利用しようとしているということ。
    奇跡をチラつかせて魔法少女を生み出し、自分たちの目的のために利用してるの。
    そのためには魔法少女がどうなろうと関係ない。
実際にあいつに利用されたおかげで不幸になった魔法少女を、私はたくさん見てきた」

まどか「そ、そんな……!」

さやか「な、何よ。それじゃあいつ、ものすごく悪い奴じゃん。そんなの、放っておいて良いわけ……?」

ほむら「キュゥべえを殺したところで、何の解決にもならないわ。
    それに、あいつは自分のしていることが悪いことだとも思っていないから。
    魔法少女が不幸になろうとどうなろうと、奇跡の正当な対価だと言い張るだけ。
    人類とはまったく違う価値観を持った生き物なの」

まどか「そう、なんだ……。だからみんな、魔法少女になっちゃ駄目だって……」

さやか「……なんか、すごくブラックな話だね。
ちょっと前までの魔法少女のイメージが完全に崩れ去っちゃったって言うか……」

ほむら「それで良いわ。あなたたちは魔法少女になる必要なんてない。
    ……きっとキュゥべえは、これから何度もあなたたちの元へ現れる。
    そして言葉巧みに契約を迫ってくるわ。
でも絶対にあいつの言葉に耳を貸しては駄目よ」

さやか「う……うん、わかった。ありがとう、ほむら。
    えっと……織莉子さんと、キリカさんも、ありがとう」

キリカ「ん。恩人の友人は礼儀正しいね」

織莉子「今度からは何かおかしいと思ったらすぐに暁美さんに連絡を取った方が良いわ。
     まどかさん、あなたもね」

まどか「は、はい、気をつけます……」

ほむら「それじゃあ、帰りましょうか。念のため家まで送るわね」




キリカ「それにしてもキミ、ずいぶん喋ったね」

ほむら「何のこと?」

キリカ「キュゥべえのこと。契約もしてないただの人間にあそこまで話すとは思わなかった。
    流石に魔女化のことは伏せてたみたいだけど」

ほむら「キュゥべえがあの子たちに接触した以上、ああするのが一番効果的だと思ったから」

キリカ「ま、そうだね。効果はあると思うよ。
それにしても……なんでいきなり未来が変わったのかなぁ。
私たちが止めないと、恩人は今日契約してしまってたんだよね?
“ワルプルギスの夜がやって来た時に契約する”っていうのが恩人の未来だったはずなのにさ」

ほむら「……きっと、私のせい」

キリカ「キミの……?どういうこと?」

ほむら「志筑仁美が魔女に魅入られた原因は、失恋なの。
    そしてその失恋は、私の一言が原因で起きたわ」

キリカ「……あーあ……。あのね。キミは恩人を守りたいんでしょ?
    それなのにキミが引っ掻き回してどうするの?気をつけてよね。まったく」

織莉子「違うわ……」

キリカ「え?」

織莉子「私が視た未来は、私が干渉しなければ変えられない。
     変わったと言うことは、私が干渉したということ。
     つまり、キュゥべえと彼女との接触が早まったのは……私のせいだわ」

キリカ「えっ、でも、でもさ。織莉子は何もしてないよ。
    未来が変わるようなこと、織莉子は何もしてないよ!」

ほむら「……直接関わらなくても、多くの因果関係が連なって……。
    そうして最終的な結果が変わってしまうこともある。……そういうこと?」

考えてみれば確かに、私が美樹さやかにあの発言をしたのは美国織莉子の件で焦っていたから。
そしてその結果、まどかの契約の時期が早まってしまった……?

美国織莉子の魔法、自分が少しでも干渉する物事に対してはここまで脆いものなのね。
もちろん、今回のようなケースはごく稀でしょうけど……。

自分自身の未来を視ようとしないのも、その脆さを少なからず自覚しているからということかしら。
いえ、そもそも視ることができないのか……。

織莉子「……ごめんなさい、私のせいで」

ほむら「…………」

織莉子「未来を変えてしまったとしても、それにもう少し早く気付いていれば、
     あいつとまどかさんとの接触を防げたはずなのに……間に合わなかった……」

ほむら「……済んだことを嘆いても仕方がないわ。それに、きっとこれが最良の結果よ」

織莉子「あなたの予知がなければ確実にまどかは契約していたでしょうし、
     あなたたちが今日は魔法少女狩りをせずに見滝原に居てくれたおかげで、
     契約を止めることができた。そういう意味では、間に合っていたのよ」

織莉子「暁美さん……」

ほむら「それに、違う時間軸の人間の私は、きっとこの世界ではイレギュラー。
    こんな間接的とも言えない程度のあなたの干渉で未来が変わってしまった原因は、
    やっぱり私にあると思う。あなたが気に病む必要はないわ」

織莉子「もしかして……励ましてくれてるの?」

ほむら「私は事実を述べているだけよ」

織莉子「……そうね。済んだことを悔やんでいても、仕方がないわね。
    今は契約を防げたことを喜んでおきましょう」

キリカ「そ、そうだよ!きみのおかげで恩人をまた救えたんだ!落ち込むことなんてない!」

織莉子「ふふっ……ありがとう、キリカ」

キリカ「良かった……。元気になってくれた」

織莉子「これからは未来が変わってもすぐ動けるように常に構えておかないといけないわね。
     特にまどかさんの未来に関しては注意して……」

キリカ『……ねぇ、暁美ほむら』

ほむら『何かしら』

キリカ『礼を言うよ……。キミのおかげで織莉子は元気になった』

ほむら『お礼には及ばないわ。さっきも言ったけど、私は事実を述べただけ』

キリカ『それでも結果的に織莉子は救われた。ありがとう』

ほむら『……どういたしまして』

ほむら「今日はもう時間も遅いし、そろそろ解散にしましょう。それじゃあ、また」

翌日、学校

さやか「いやしかし、集団で夢遊病とは。珍しいこともあるもんだねぇ」

仁美「本当に……。こんなこと、今までなかったのに」

まどか「体はどこか具合悪いとことかないの?大丈夫?」

仁美「自分では大丈夫のつもりだけど……。今日も精密検査ですから、その結果次第ですわ」

ほむら「体はきっと異常なしだから、心配することはないわ」

仁美「ふふっ、ありがとうございますわ、暁美さん」

そう……体は何の心配もない。
問題は心の方だ。
魔女に付け込まれたタイミングから考えて、きっかけは恐らく、失恋。
もう何もなければ良いのだけど……。

……一応、確認しておいた方が良いかもしれないわね。

ごめん、出かけてくる。
15時頃には帰ってくると思う。
保守してくれると嬉しい。

新・保守時間目安表 (休日用)
00:00-02:00 10分以内
02:00-04:00 20分以内
04:00-09:00 40分以内
09:00-16:00 15分以内
16:00-19:00 10分以内
19:00-00:00 5分以内
新・保守時間の目安 (平日用)
00:00-02:00 15分以内
02:00-04:00 25分以内
04:00-09:00 45分以内
09:00-16:00 25分以内
16:00-19:00 15分以内
19:00-00:00 5分以内

ほしゅーん

昼休み

仁美「それで、話というのは……?」

ほむら「単刀直入に訊くわ。志筑さんあなた……もう、立ち直ったの?」

仁美「……何のこと……いえ。ごまかしても、無意味ですわね。
   上手く隠していたつもりですけど……鋭い方ですのね、暁美さん」

ほむら「……少なくとも、昨日の夜までは……」

仁美「えぇ。昨日みなさんと別れてから、家に帰って……部屋でずっと、泣いていました。
   さやかさんが上条くんと付き合っていないと知っていたなら、
   もしかしたら、私にもチャンスがあったかも知れないと、そう思うと……。
   悔しくて、妬ましくて……。そしたら、いつの間にか、あの工場に倒れていて……。
   あの時私は、心の病気になってしまったのかも知れませんわね」

仁美「でも……目を覚まして、さやかさんの顔を見た時……。
   不思議と悔しさも妬ましさもなくなってしまいましたの。
   私を本気で心配してくれているさやかさんの顔を見て、
   “この人には、幸せになって欲しい”と……。そう、思えました」

ほむら「…………」

仁美「今私にあるのはただただ、親友への心からの祝福と、ほんの少しの切なさだけですわ」

ほむら「……すごいわね。失恋をそんなに早く乗り越えるなんて。
    どこかの誰かにも見習わせたいわ」

仁美「ふふっ、ほむらさんにそう言っていただけると嬉しいですわね」

ほむら「とにかく、安心したわ。ごめんなさい、休み時間を削らせてしまって」

仁美「いえ、構いませんわ。私も言葉にして口に出すことで、自分の気持ちを再確認できましたから。
   ほんの少し残った切なさを糧に、また新しい恋を探すことにしますわ」

本当に、あの子には志筑仁美を見習って欲しいわね。
いえ、失恋で魔女に魅入られてしまう辺り、もしかしたら似たもの同士なのかも知れない。
まぁ、とにかく……私の杞憂に終わって良かったわ。
今度こそ、この子は大丈夫ね。




ほむホーム

ほむら「1つ確認だけど……もう魔法少女狩りはしないということで良いのかしら」

織莉子「えぇ、そのつもりよ」

キリカ「もうやる意味もあんまりないしね」

織莉子「ただ、このタイミングでやめれば、あいつは事件の犯人とその目的に気付くでしょうね。
     尤も、私たちの仕業だということくらいは薄々気付いてたかもしれないけれど」

ほむら「確かにその通りね……。だけど、キュゥべえは既にまどかの素質に気付いてる。
    私たちがあの子の契約を阻止しようとしていることを知ろうと知るまいと、
    あいつが手を尽くして契約を迫ることには変わりないわ。
    それに、いつまでも隠しきれるものでもないしね」

キリカ「なるほどね……。どっちにしろ恩人が契約を迫られるのなら、
    守る方に集中した方が良いってことか」

ほむら「そういうこと。その方が魔力の消費も少なくて済むし、
    ワルプルギスの夜の対策にかける時間も多く取れるわ」

数日後、ほむホーム

QB「やれやれ……やってくれたね、3人とも」

ほむら「……何のことかしら」

QB「まどかとさやかに何を言ったんだい?
  あの日から何度も話をしに言ってるんだけど、まるで取り付く島もないよ」

キリカ「あははッ、それは残念だね」

QB「今なら確信を持てるけど、魔法少女狩りなんて騒ぎを起こしたのは君たちだね?
  そうやってまどかから僕の目を逸らそうとしていたんだろう?」

織莉子「さぁ、どうかしら」

QB「まったく……それに君たちはワルプルギスの夜の襲来まで知っているみたいじゃないか。
  しかもこれはほむら、君が1人で調べ上げたんだろう?
  織莉子の手を借りたわけでもなく、1人で。
  前にも同じ質問をしたけれど、君は一体何者だい?」

ほむら「何度訊かれようと答えは同じよ。私はあなたと契約した魔法少女」

QB「やれやれ……君みたいな子は初めてだ。
  君が現れてから色々おかしくなったような気さえするよ」

ほむら「用はもう済んだかしら。それなら消えなさい」

QB「まぁ、僕はまどかと契約するためにチャンスを待つとするよ。
  それからワルプルギスの夜との戦い、君たちがどこまでやれるのか見届けさせてもらうよ。じゃあね」

キリカ「……ま、とにかく。恩人はちゃんとあいつのこと疑ってるみたいだし、
    このままなら恩人が契約する心配はないんじゃない?
    少なくともワルプルギスの夜が来るまではさ」

ほむら「そうね……でも油断は禁物よ。
    また以前のように、何かがきっかけで未来が変わるかも知れない。
    美国さん、あなたには今まで通り、まどかの未来を頻繁に視続けてもらう必要があるわ」

織莉子「えぇ、わかっているわ。
     その代わり、グリーフシードの回収も今まで通りよろしくね。
     今でもそれなりの量が集まってるけど、まだまだ心もとないわ」

キリカ「任せてよ!すぐに織莉子の家がいっぱいになるくらい集めてやる!」

織莉子「ふふっ、頼もしいわね」

ほむら「…………」

……準備はほぼ整った。
武器は十分。
呉キリカとは何度か共闘して魔女を倒し、2人での戦い方にもかなり慣れてきた。
あとは、ワルプルギスの夜が来るまでに可能な限り対策を練り上げる。

戦いの最中にまどかが契約してしまうことも、
美国織莉子が居る以上あり得ないと言って良いだろう。
あいつを倒すことだけに集中できる。
そして今度こそ、運命を変えてみせる……!

安心したいのにまったく出来ない

当日

ほむら「……いよいよね」

キリカ「それじゃ、行って来るよ。恩人のことよろしくね、織莉子!」

織莉子「えぇ……」

キリカ「え、あれ、織莉子。顔色が悪いよ。大丈夫?」

織莉子「……大丈夫よ。少し、不安なだけ」

キリカ「不安なんて感じる必要はないよ。きみは絶対に世界を救うんだって言ってたじゃないか。
    きみがそう言ったんだから間違いない。
    きみは世界を救えるんだ。私たちの目的は、必ず達成される!」

織莉子「そうね……。きっとその通りね」

ほむら「時間がないわ、そろそろ行くわよ」

キリカ「じゃあね、織莉子!またあとで!」

織莉子「えぇ、またあとで」

……確かに貴方の言う通りだわ、キリカ。
確かに、私には世界を救える。
世界を救う絶対確実な唯一の方法を私は知っている。
それは私もわかってる。

でも、違うの。
私が心配なのは……キリカ、貴方よ。

何故なら私は……貴方たちの戦いの結末を、知っているから。
視てしまったから。

暁美ほむらと手を組むと決めてから、何度も戦いの結末を視た。
2人の戦いの結末を視た。
視るたびに、少しずつ少しずつ視える光景は変わった。
でも……最終的な結末だけは、とうとう変わらなかった。

そう、暁美ほむらは失敗する。
今回もまた、失敗する。
視るたび、対策会議を重ねるたび、少しずつ形を変えていった未来も、
結局この結末だけは変わらなかった。

……それなのに私は、期待している。
また以前のように、何かがきっかけで突然未来が変わることを期待してしまっている。
だから私は、この未来を誰にも教えていない。
自分の中だけに隠して……ほんの少しだけ、信じて待っていてあげるわ。

だからお願い。
未来を変えて、暁美ほむら……。




ほむら「もうすぐね……。作戦は頭に入ってる?」

キリカ「作戦?……ああ。うん。入ってる。大丈夫。入ってるよ」

ほむら「……あなた……」

キリカ「なに、その目。入ってるってば!ホントに!」

ほむら「覚えていないなら変な見栄を張らずに正直に言いなさい。子どもじゃないんでしょう?」

キリカ「うっ……。こ、細かいとこは危ないかも知れない」

ほむら「……まぁ良いわ。基本さえ抑えていれば問題ないから。元々あまり期待していなかったし」

キリカ「あのさ!キミいちいち一言多いんじゃないの!?」

ほむら「あなたを悪く言ったわけじゃないわ。
    短期間で全てを覚えることがそもそも難しすぎたということ」

ほむら「戦いに関してはむしろ頼りにしてるくらいよ」

キリカ「えっ。へー、へー。意外だね。頼りにしてるなんて。意外だ」

ほむら「お喋りはそろそろおしまいにしましょう。……来るわよ」



キリカ「やっとか。待ちくたびれたよ」



ほむら「戦闘中でも、分からないことがあったらすぐに訊くのよ」



キリカ「はいはい。まあ安心してよ。作戦、キミが想像してる以上には覚えてると思うからさ」



ほむら「だと良いわね」



キリカ「さて……即行で片付けちゃうよ!」

ワルプルギス「アハハハハハ!ウフフフ、アハハ、アハハ、アハハハハハハハハ!」

避難所

織莉子「……こんにちは、まどかさん」

まどか「織莉子さん!え、えっと……」

織莉子「その様子……キュゥべえから何か聞いたのね」

まどか「は、はい……。この台風が、魔女の仕業だって。
    今ほむらちゃんとキリカさんが戦ってるんだって……」

織莉子「…………」

まどか「そ、その……すごく強い魔女なんですよね?
    2人がかりでも勝てるかどうかわからないくらい……。
    お、織莉子さんは行かなくて良いんですか?」

織莉子「私の役目はここに残ることなの。
     それにあの2人なら大丈夫。だから心配しなくても良いわ」

まどか「で、でも……」

織莉子「……まどかさんには教えてあげるわね。私の魔法のこと」

まどか「えっ?」

織莉子「私の魔法はね、予知なの。私には、未来が視える。
     だから、2人の戦いの結末も知っているわ。
     2人なら大丈夫。ワルプルギスの夜に勝って、この町を守ってくれるから」

まどか「ほ、本当ですか!」

織莉子「えぇ、本当よ。だから貴方は安心して、ここで待っていて」

まどか「よ、良かったぁ……」

織莉子「…………」




キリカ「はいはいはいはいはい邪魔しないでよッ!」

使い魔「キャァア!」

キリカ「私が用があるのはそこのでっかい奴だけだからさ!」

ワルプルギス「アハハハハハ!アハハハ、ウフ、アハハハハハ!」

キリカ「あははははッ!バカみたいに笑っちゃってさ!面白バカみたい!でも、ちょっとうるさいよッ!!」

ほむら「……流石ね」

行け行けドンドン

キリカ「暁美ほむら!そっちに行ったよッ!」

ほむら「えぇ、わかってる」

使い魔「キャァア!」

呉キリカは、速度低下を上手く使ってる。
魔女と使い魔の速度だけを落としているから、
私も時間停止に頼りすぎることなく攻撃を回避できる。

彼女の一撃の攻撃力は高くはないけれど、速さと手数で補っている。
今のところ、こちらにダメージはない。
対して、ワルプルギスの夜には少しずつだけど確実にダメージが蓄積されている。

残りのグリーフシードの数から考えてギリギリの勝負にはなるでしょうけど……。
でも、勝機は十分にある……!

まど




織莉子「……駄目ね」

まどか「?織莉子さん?」

織莉子「いえ、ごめんなさい。なんでもないわ」

……駄目だ。
やっぱり、駄目だった。
2人がどんな戦いをしてるのかは分からない。
でも、結果だけは分かる。
やっぱり……駄目だった。

最後にもう一度だけ……そう思って、少しの期待を込めて未来を視た。
でも、変わらなかった。
変わっていなかった。
結局、最後まで、結末は変わらなかった……。

そう遠くない未来。
あと1時間も経たないうちに……2人は負ける。

……もうこれ以上は待てない。
覚悟は決めた。
やるしかない。
周りに人は居ない。
今なら……

まどか「あの、織莉子さん」

織莉子「っ!……何かしら?」

まどか「えっと……ほむらちゃんとキリカさん、無事に帰ってこられるんですよね?」

織莉子「……えぇ、もちろん。どうして?」

まどか「その……魔女に勝って帰ってきても、
    怪我とかたくさんしてたらどうしようって、やっぱりちょっと心配で……」

織莉子「っ……」

まどか「大丈夫ですよね?無事にっていうことは、怪我もあんまりしないんですよね?」

この子は……優しすぎる……。
どうして、この子が……。
どうしてこの子があんな恐ろしい力を持ってしまったんだろう……?
こんなに優しくて、他人のことを思いやれる、すばらしい少女なのに……。
どうしてこの子が……どうして……!

まどか「織莉子さん……?」

(´・ω・`)

織莉子「……もちろんよ。2人とも、大きな怪我もせずに帰ってくるわ」

声が震えるのを抑えて、最後の嘘をついた。
せめて、最後のこの瞬間まで幸せでいてもらおう。
何の不安もなく、幸せな未来だけを信じたままで、苦痛も感じずに、逝ってもらおう。
流れる涙を見られる前に。
漏れる嗚咽を聞かれる前に。

織莉子「まどかさん……少しだけ、目を瞑ってもらえる?」

まどか「?はい、瞑りました」

まるで疑いもせずに……この子は……

織莉子「……本当に、優しい子ね」

まどか「えへへ、どうしたんですか?突然そんなこ」




ワルプルギス「ウフフフ……アハハハハハハ……!」

キリカ「だめだめ当たらないよッ!そんな攻撃、かすったりもするもんか!」

ほむら「少し、ペースが悪いわ……!グリーフシードもずいぶん消費した。
    もうあまり悠長に戦っている暇はないわよ……!」

このペースだと、私の時間停止が使えなくなる可能性がある。
それだけはなんとかして避けないといけないわ……。

キリカ「ちぇっ……。分かったよ。なら少しだけでっかい攻撃して、さっさと終わらちゃうよッ!」

ほむら「ッ!爪が増えた!」

呉キリカは攻撃力を上げて、早めに終わらせるつもりだ。
高速でワルプルギスの夜に詰め寄り、そして……ッ!?

ほむら「呉さん!駄目!!」

 カチッ

時間を止めて、呉キリカの元へ急ぐ。

彼女がワルプルギスの夜へ接近し、今まさに爪で切り裂こうとした、その瞬間。
今までにない広範囲の攻撃が彼女を襲った。
いくら速度を落としていると言っても、あの至近距離で避けられる攻撃じゃない。
時間を止めて、彼女を安全な場所まで……。

けど……彼女と私との距離が離れすぎていた。
そのせいで余計な時間がかかって……!
駄目だ、これ以上時間を止めてはいられない。
十分に安全な距離ではないけれど、時間停止を解除するしか……!

 カチッ

キリカ「っ!」

ほむら「攻撃に備えて!魔力で防御を!」




ほむら「っ……はぁ、はぁ、はぁ……!」

なんとか、防ぎきった……。
でも、ダメージは少なくない。
魔力もかなり消費してしまった……。

ワルプルギス「アハハハハハ!アハハハハハハハ!」

まずい、行ってしまう……追いかけないと……!

織莉子「……残念だわ」

ほむら「!」

その声に振り向くと、そこには美国織莉子と、彼女に抱きかかえられた呉キリカの姿があった。

ほむら「美国さん……!呉さんは無事なの?」

織莉子「……この子はもう、戦えない」

織莉子「貴方なら未来を変えてくれるかと思ったけれど……本当に、残念だわ」

ほむら「え……」

初めは、加勢に来てくれたのだと思った。
でも、彼女の目を見てすぐにそれは違うと感じた。

ほむら「あなた、何を……。そ、それより、あなたの役目はどうしたの!?まどかは……」

織莉子「私の役目は、もう終わったわ」

ほむら「え……?」

織莉子「私たちはここを離れるわ。貴方も離れたらどうかしら。
     その様子では長くは戦えないでしょう?勝ち目はない。それに、戦う理由もない」

嘘だと言ってよ

ほむら「な、何を言ってるの……?戦う理由なら……」

織莉子「……そうね、貴方にはまだ、次の世界があるんだったわね。
    きっと、もう二度と会うこともないでしょう。さようなら、暁美ほむらさん」

ほむら「何を、言って……そんなはずない、そんなはず……」

QB「やれやれ……やってくれたね、織莉子は。
   せっかくの素質を潰してしまうなんて、どうかしてるよ」

ほむら「キュゥ、べえ……?な、何、どういうこと……」

QB「君ももう気付いているだろ?美国織莉子は、鹿目まどかを殺してしまったのさ。
  そうやってまどかが魔女になるのを防ぎ、世界を救ったということだろうね」

やはりそうなってしまったのか・・・

ほむら「…………そんな」

QB「どうしてそんなにショックを受けているんだい?織莉子と君の目的は一緒のはずだろう?
  まどかが魔女になるのを阻止し、人類を救う。織莉子は見事にその目的を果たしたじゃないか」

ほむら「違うわ……私は、私は……」

QB「もっとも、まどかを殺したことで織莉子のソウルジェムは
  かなりの穢れを溜め込んでしまっている。
  彼女が魔女になるのも、時間の問題じゃないかな。
  まぁ、織莉子の場合はそうなる前に自分でソウルジェムを砕く可能性もあるけどね。
  まったく……穢れを溜め込むくらいなら殺さなければ良いのに。わけがわからないよ」

ほむら「…………」

結局、そうなのね……。
“全て協力するわけではない”
薄々は、気付いていた。
でも、仲間だと思って、信用しようと思って、気付かないふりをしていた……。

でもあいつは、あの女は……まどかを殺すことしか考えていなかった……。
私には結局……仲間なんて、居なかった。

QB「ところで、ワルプルギスの夜を追わなくても良いのかい?」

ほむら「……私の戦場はここじゃない」

 カシャン





  おしまい

とりあえずおしまい

別エンドも一応準備してあるから今からそっち行くお

やはりまどかの魔力が概念レベルになるまで繰り返すしかないのか




まどか「それにしても……未来予知だなんて、すごいですね」

織莉子「ありがとう。でも、あまり便利なものでもないわ。意外と簡単に、未来は変わってしまうから」

そう、未来は些細なことで変わる。
でも……私が繰り返し視たあの結末だけは、何度視ても変わらない。

……今は、どうなっているだろう。
何か変わっただろうか。
そろそろ……覚悟を決めなければいけない。

もう一度だけ視て、そして決めよう。
これが最後の望み。
これで、やはり同じ結末であるようなら……

まどか「……キリカさん、大きな怪我とかしないと良いですけど。
    初めて会った時みたいに、周りが見えなくなったりしてたらと思うとやっぱり心配で……」

織莉子「え…………ッ!?」

未来を視ようとしたその時、キリカの名前が耳に入り……そして、何かが視えた。

はっきりと視えた。
それは戦いの結末ではなく……キリカの未来。
ワルプルギスの夜の大きな攻撃がキリカを襲う未来。

織莉子「……キリカ……!」

どうする、どうする……!
このままでは、キリカがあの攻撃を受けてしまう。
そうなれば、きっとただでは済まない。
悪くすれば、死んでしまうかもしれない……!

覚悟はしていたはずだった。
戦いの結末が絶望である以上、キリカの無事はあり得ない。
そう覚悟していたはずだった。
だけど……!

はっきりと視てしまった。
キリカがおぞましい魔力の塊に飲み込まれてしまうところを……!

もしかして……この攻撃が原因で、2人はワルプルギスの夜に負ける……?
あの攻撃はキリカだけじゃない、暁美ほむらも飲み込んでいた……。
あの攻撃を受けてしまうことで、2人は負ける……?
それなら、この攻撃さえ凌げば……。
勝てるかも、知れない……?

……いいえ、そんなことは分からない。
そんな願望に似た推測なんて、する意味がない!
私には、ここに残って、やるべきことが……!

……やるべきこと……?
それは何?
まどかさんを殺すこと?

そうだ、まどかさんを殺す。
そうすれば、世界を救える。

キリカを見殺しにして?
大切な人を、2人も殺すの?

キリカを殺して、まどかさんを殺す、それが本当に、私の、やるべき……

まどか「あの、織莉子さん……?“キリカ”って、どうしたんですか……?」

織莉子「っ……え、っと……」

まどか「もしかして……キリカさんに、何かあるんですか!?
    何か、視えたんですか!?き、キリカさん、大丈夫なんですか!?」

この子は……本気でキリカを心配してくれている……。
じゃあ、私は……?
キリカを救えるのに、見殺しにしようとして、その上、キリカのお友達を……殺そうと……。

そういや俺夕方からインキュベーターを抑え込んどく仕事があるんだったわ




ワルプルギス「ウフフフ……アハハハハハハ……!」

キリカ「だめだめ当たらないよッ!そんな攻撃、かすったりもするもんか!」

ほむら「少し、ペースが悪いわ……!グリーフシードもずいぶん消費した。
    もうあまり悠長に戦っている暇はないわよ……!」

このペースだと、私の時間停止が使えなくなる可能性がある。
それだけはなんとかして避けないといけないわ……。

キリカ「ちぇっ……。分かったよ。それなら少しだけでっかい攻撃して、さっさと終わらせ……」

織莉子「駄目よ、キリカ!!」

キリカ「え?え、あれ、あれ?え!?織莉子!?」

ほむら「っ!?あなたどうして……!」

織莉子「あいつから距離を取って!大きい攻撃が来るわ!その位置では巻き込まれる!!」

キリカ「あ、え、う、うん!わかった!!」

織莉子「……来た……!」

ワルプルギス「アハハハハハハハハハハ!!」

ほむら「……あんな、広範囲を……!」

キリカ「っ……もし突っ込んでたら直撃だったね。
   ありがとう、織莉子。でもどうしてここに?恩人は?」

織莉子「……視えたの。貴方たちが今の攻撃を受ける未来が。
    まどかさんには最後の警告をして、避難所に残ってもらったわ」

ほむら「……さっきの攻撃さえ凌いでしまえば、ワルプルギスの夜に勝てるということ?」

織莉子「わからないわ……。この戦いの結末は、もう私にはわからない。
    ……少なくともさっきまでは絶望的だったけれど」

【まどか☆マギカ】巴マミ×キュゥべえスレ5 【キュゥマミ】
幾多のキュゥマミSSを見たがいまだにこのネタを使ったキュゥマミSSはない
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」
パターン1
マミ「あなた誰なの?違う! 私のキュウべえはあの子だけよ!」
QB「確かに “この僕” は、三時間ほど前まで君のそばにいたのとは別の個体だよそちらは暁美ほむらに撃ち殺された」
黒い魔法少女。暁美ほむら。あの女だけは、絶対に許さない。
まどか「わたしの願いでマミさんのそばにいた子を蘇生すれば、ほむらちゃんのこと許してあげられませんか?」
パターン2
QB「うううっ……マミ、どうして、死んじゃったんだよ、マミを蘇らせて欲しい」
まどか「私の願い事はマミさんの蘇生。叶えてよQB!」
パターン3
マミ「あなた誰なの?」 QB「前の個体は処分した」
QB「『前の僕』、は精神疾患を『患い』かけていたからね。『僕達』にとっては、『煩わしい』存在でもあったしね」
マミ「違う! 私のキュウべえはあの子だけよ!」
こんな感じの旧QB蘇生キュゥマミ魔法少女全員生存ワルプルギス撃破誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって

ほむら「そう……絶望的だったとすれば、それはあなたが居なかったからでしょうね。
    正直、さっきまでかなり危なかったから。あのままだと勝てなかったかも知れない」

キリカ「つまり織莉子が加わった今!私たちの勝ちは確定したってことだよ!」

織莉子「……そうね。そういうことにしておきましょうか」

ワルプルギス「アハハハ……ウフフ……!」

ほむら「早く片付けましょう。まどかの不安にキュゥべえが付け込む前にね」

キリカ「さてと。織莉子が増えたけど、作戦の基本は一緒で良いんだね?」

ほむら「えぇ。美国さんが増えても問題ない作戦にしておいたから、大丈夫」

織莉子「あら、気が利くのね」

……お父様、私は今、新しい救世への一歩を踏み出そうとしています。
どうか、力をお貸しください……!

避難所

まどか「…………」

QB「ようやく話ができるね、まどか」

まどか「キュゥべえ……話って?」

QB「君は、一応は僕の話を聞いてくれるから助かるよ。
  さっきまでさやかの所に居たんだけど、あの子はまったく聞く耳を持とうとしない。
  一度思い込むとなかなか聞かない子みたいだね。
  まぁ、君も僕のことを信用してないことには変わりないみたいだけど」

まどか「…………」

QB「さて、本題に入ろう。君は本当にあの3人がワルプルギスの夜に勝てると思っているのかい?」

まどか「思ってるよ」

QB「へぇ、ずいぶん自身ありげに言い切るね。それは何か根拠があってのことかな?」

まどか「根拠はないけど……。でも、わたしはみんなを信じることに決めたの」

QB「その根拠のない信用で、3人が命を落とすとしても?」

まどか「…………」

QB「本当は君も不安で仕方ないはずだよ。織莉子の慌てようを見ただろう?
  彼女の魔法が予知だというのは本当だ。
  そして織莉子は、きっと何か恐ろしい光景を視たんだろうね。
  普段あれだけ落ち着いている織莉子があそこまで動揺するんだから」

まどか「っ……」

QB「君が魔法少女になれば、ワルプルギスの夜を倒すことなんて造作もない。
  それだけの力が君には備わっているんだ。
  それなのに君は僕を疑うあまり、友達を救うチャンスを自ら放棄しようとしてる。
  そもそも僕を疑う理由も、ただ単に彼女たちにそう言われただけであって、
  根拠のあるものじゃないだろう?」

まどか「……それでもわたしは、みんなを信じるって決めたの……!」

QB「やれやれ……。君の考えはまったく論理的じゃない。
  感情に支配されすぎだ。わけがわからないよ」

さやか「おーい、まどかー!」

まどか「!さやかちゃん!」

さやか「あっ……こいつ!やっぱりまどかのとこに居た!」

QB「僕がまどかと一緒に居たらいけないのかい?」

さやか「まどかにちょっかい出すんじゃないわよ!
    何企んでるのか知らないけど、あたしたちは魔法少女になんてならないって言ってるでしょ!
    あっち行った!しっしっ!」

QB「やれやれ……。まぁ契約したくなったらいつでも言ってくれ。
  戦いが終わってからでも間に合うからね。待ってるよ」

さやか「はぁ?戦いが終わったら契約なんてするわけないじゃん!」

QB「まぁ、契約する必要の無い結末を迎えることを祈ると良いよ」




織莉子「っ……!また大きいのが来るわ!2人とも下がって……!!」

キリカ「わかった!」

ワルプルギス「アハハハハハハハハ……!」

ほむら「……でも、最初ほどの威力も範囲もない……!
    もうあいつの力もあまり残っていないわ……!」

織莉子「こっちも……そんなに余裕はないけれどね」

キリカ「あのさ!そろそろ良いんじゃないの。決めちゃっても!」

ほむら「そうね……!2人とも、手を!」

 カチッ

キリカ「へー!すごいね。これが時間停止か」

織莉子「当たり前だけど本当に何もかも止まっているのね」

ほむら「驚いている暇はないわ。呉さん、お願い」

キリカ「はいはい。……速度低下!」

呉キリカは時間の止まった世界で、自分と美国織莉子以外の速度を落とした。
もちろん、私の速度も落ちる。
それはつまり……時間停止の効果時間が延びるということ。

魔女結界の持続時間を速度低下で延ばしたという話を聞いた時に思い付いた案だけど、
これなら時間の止まった世界を、いつもよりずっと長く持続させられる。
ただし私の動きは遅くなっているから、これから攻撃するのは……

キリカ「片手だけで攻撃するなんて初めてだけど……。
    でも手が1本減った分!“手数”を増やさせてもらうよ!ついでに威力もね!」

織莉子「暁美さん、私たちの動きはかなり速く感じると思うわ。
     振り切られないよう、しっかり手を握っていてね」

ほむら「手榴弾と間違えたわ」

>>484
お前にレスしたみたいになっちゃったじゃないか!

キリカ「あははははははッ!!なかなか新鮮で良いね!動けない相手を攻撃するのもさ!」

織莉子「キリカったら。趣味が悪いわ」

ほむら「っ……!」

動きの速い相手に、手を繋いだまま動き回られるというのは、思ったより大変ね……。
でも、こんなに長く時間を止めているのに魔力をあまり消費していない。
速度低下の効果は十分のようね。

キリカ「ふー……。流石にそろそろ疲れたよ。これ以上は魔女化する」

ほむら「……さらっと恐ろしいことを言わないでくれるかしら」

織莉子「でも、かなりの攻撃を加えることができたわ。
     私も予知の必要がないから攻撃に専念できたし」

ほむら「それじゃあ……少し離れましょう。残りの時間は私が自分で使うわ」

>>486
ごめんよ

ワルプルギスの夜から少し距離を取り……2人から手を離す。
そして……

ほむら「喰らいなさい……私の残った、全ての火力を」

重火器、小火器を問わず、持てる全ての力を。
今までよりも多くの時間をかけて集めた全ての兵器を。
時間を止めていられる残りわずかな時間に、全て注ぎ込み、
そして……時間を動かす。

 カチッ

ワルプルギス「ッ…………!」

キリカ「すごい!すごいすごい面白い!見てよ織莉子!あの爆発!」

織莉子「あの攻撃の全てが一瞬に集約されると、あれほどまでになるのね……」

爆発が収まり、煙の中から現れたワルプルギスの夜の姿は……

ワルプルギス「ア……ハ……ア、ハ……」

織莉子「……驚いたわ。あれだけの攻撃を受けて原形を少しでも保っているなんて……」

キリカ「でもま、流石に……平気なわけはなかったみたいだね」

ワルプルギス「……ア……ハ……」

ほむら「……ワルプルギスの夜が……消えていく……!」

織莉子「……視たことがない……。この光景は、初めて見るわ……!」

キリカ「ふー。ま、大したことなかったね。結局あいつの攻撃は全部避けたわけだし。
    魔力は空っぽ、だけど、さ……」

織莉子「キリカ!!」

キリカ「あは……ごめん。ちょっと、疲れちゃったみたいだ」

どうだ

ほむら「無理もないわ……。戦いの初めから速度低下を使い続けていたのだから。
    このグリーフシードを使いなさい。もうずいぶん穢れを溜め込んでいるから
    気休め程度にしか回復できないけれど、少しはマシになるはず」

キリカ「ん……ありが、と……すぅ……すぅ……」

織莉子「寝てしまったわ……。本当に、頑張ってくれたのね。ありがとう、キリカ。
    …………ねぇ、暁美さん?」

ほむら「何かしら」

織莉子「私は……運命を変えられたのかしら?世界を、救えたのだと思う……?」

ほむら「未来の視えるあなたが、どうしてそんな質問を?」

織莉子「……私の役目は、もう終わったのよね……」

ほむら「待って。あなた……どこへ行くつもり?」

織莉子「私は……たくさんの命を奪ったわ」

織莉子「必要な犠牲だったと自分に言い聞かせてきたけれど、本当は……」

ほむら「あなた、まさか……」

織莉子「その犠牲を本当に無駄にしないために、私は今まで生きて、役目を果たそうと努力した。
     そして……見ての通り、ワルプルギスの夜はもう倒した。
     まどかさんが契約に追い込まれる理由は、もうない……。
     私は役目を果たしたわ。だから、最後に私の罪を償わなければならない」

ほむら「……残された呉さんはどうするの?
    この子は、あなたの居る世界を望んでいたんじゃないの?」

織莉子「キリカなら、わかってくれるわ。この子は、私のことを心から信じてくれている。
     私と一緒に死んでと言えば、きっと一緒に死んでくれるほどに、信じてくれている。
     でも、この子に罪はない。大勢の命を奪うよう指示したのは、私。すべては私の責任だから。
     それにキリカには、私でなくてももう友達が居るわ。
     まどかさんに……それに、きっと貴方も良い友達になってくれると私は思う」

ほむら「……本気なの?」

織莉子「えぇ、もちろん」

ほむら「本気で……死者のために命を捨てるつもり?」

織莉子「……それが私の責任だから」

ほむら「死んだ人間のために命を捨てたって、何の意味も持たないわ。
    それこそ、ただ無駄に命を捨てているだけ。無駄な死を1つ増やしただけよ」

織莉子「なら……どうしろと言うの……?私に死ぬなと言うの……!?
    たくさんの人を殺しておきながら、のうのうと生きろと言うの!?」

ほむら「そうは言っていないわ。自分の罪を、死を以て償うという考え方は、理解できる。
    だけど……本当に今死ぬの?」

織莉子「……どういうこと……」

ほむら「確かにあなたはその命を捧げて罪を償わなければならないかも知れない。
    でもどうせなら死んだ過去の人間にではなく、
    生きている未来の人間に、その命を捧げなさい。
    魔女に殺されるはずの命を1つでも多く救ってから死になさい」

織莉子「……綺麗事ね……」

織莉子「貴方の考え方も、きっと正しいわ……。でも、私はもう、生きていることなんて……!」

ほむら「綺麗事では納得できないかしら。それなら……本音を言うわ」

織莉子「え……」

ほむら「私は、まだあなたを許していない。
    私の目の前でまどかの命を奪ったあなたを許していない。
    確かに今までは仲間として協力し、信用もしてきた。
    だけど……心の底から許せていない……」

織莉子「っ……」

ほむら「もしあなたが死を選んでも、私は許せない。
    あなたは死ぬことで罪を償うつもりでしょうけど、
    まどかを殺した罪は死では償えない……。私が、許さない……!」

実際数レス前に殺したばかりです

ほむら「あなたは1つの時間軸でまどかの命を奪った……!
    それならこの時間軸では!最後までまどかを守りぬきなさい!
    まどかを殺した罪を、まどかを守りぬくことで償いなさい!
    まどかの命を奪ったあなたが、今度はその命を、まどかに捧げなさい!!」

織莉子「……まどかさん、を……」

ほむら「言っておくけど……私は呉キリカも許していない。
    あなたは私に、彼女と友達になってくれと言ったけれど……断るわ。
    あなたが死ねば、私はまどかと呉キリカを引き離す。
    呉キリカを孤立させる。一生、まどかをあの女に関わらせない。
    それでもまだ……あなたは今、死ぬつもりかしら」

織莉子「……死んでも罪は償えない、キリカも不幸にしてしまう……。
     そんなの……死ねるわけが、ないじゃない……」

ほむら「えぇ、そうよ。あなたの罪は、今死ぬことでは償えない。死ねば、私が許さない」

織莉子「……辛いわね、とても。
     1人罪を背負ったまま、生き続けなければならないと言うのは……」

キリカ「……あれ。あ、寝ちゃってたのか」

織莉子「!キリカ……」

キリカ「ん、え?どうしたの、織莉子。座り込んだりして。疲れたの?」

織莉子「……えぇ……背負ったものが多すぎるの。重くて重くて、立ち上がれないの……」

キリカ「?よくわかんないけど、何かでっかい荷物を持ってきたから疲れたってこと?
    よし、じゃあ!私が半分持ってあげよう!」

織莉子「……!」

キリカ「あ、そっか。疲れて立てないのか。だったら私が支えるよ!
    織莉子が疲れたなら、私が支える!荷物も半分持ってあげる!」

ほむら「……だそうよ、美国さん?」

織莉子「…………ありがとう、キリカ……。ごめんなさい、ありがとう、ありがとう……!」




ほむら「……やっぱり見滝原に比べると、ここは平和ね」

杏子「あれ?よぉ、今日も精が出るね」

ほむら「!佐倉さん……どうしたの?」

杏子「お使いだよ。協会の手伝いの一環でね」

ほむら「そう。あなたも頑張ってるのね」

杏子「へへっ、まぁね。ところでさ、聞いたよ。
   あんた、でっかい魔女倒して見滝原守ったんでしょ?すごいじゃん」

ほむら「もしかして……あなたのところにもあいつが?」

杏子「あぁ、うん。あたしなんかが行っても力になれるなんて到底思えなかったから、
   流石に契約はしなかったけどさ。でも、無事で良かった。祈りが神様に通じたみたいだね」

ほむら「……祈ってくれてたの?」

杏子「まぁね。結構本気で祈ってたんだよ?教会に篭もってさ。
   おかげで家族には何があったんだーってちょっと心配されちゃったけど」

ほむら「そう……ありがとう」

杏子「お礼を言うのはこっちだよ。いつもこの町のみんなを守ってくれてありがとう。
   あんたは裏方だから誰にもわかんないと思うけどさ、あたしは覚えておくよ」

ほむら「!」

杏子「そんで、あたしもいつか父さんみたいに表からみんなを救えるようになる。
   あんたとあたしで、裏と表からみんなを救うんだ。悪くないでしょ?」

ほむら「えぇ……そうね、悪くないわ」

杏子「だから、魔女にやられたりなんかしないでよ?毎日祈っててあげるからさ」

ほむら「えぇ、約束するわ。……それじゃ、私はそろそろ行くわね。用事もあるし」

杏子「用事?まさかまだ魔女退治かい?」

ほむら「いいえ、違うわ。ちょっと……先輩の家で、お茶会を」




織莉子「うーん……どのケーキにしようかしら。このお店初めてだから、よくわからないわね……」

キリカ「わ。わ、わ!見て見て織莉子!この貼り紙のケーキ!すっごく美味しそう!!」

店員「申し訳ありません。そちらのケーキ、数に限りがございまして……。
   今残っているものは既に予約されているお客様のものばかりで……」

キリカ「え……つまりもう売り切れたってこと!?私たちはこのケーキを買えないの!?
    あんまりだよ!そんなのってないよ!絶対おかしいよ!」

店員「も、申し訳ありません……」

織莉子「キリカ、わがままを言わないの。他のケーキにしましょう?
     ほら、他にも美味しそうなものたくさんあるわ?」

キリカ「くすん……どれも今の私にはかすんで見えるよ……」

マミ「あ、あのー……。良かったら、お譲りしましょうか?」

マミさん(゜∀゜)!

キリカ「え?えェ!?」

マミ「私、あのケーキ予約してるので……もし良ければ、ですけど」

織莉子「そんな、悪いです。せっかく予約までしてるのに……」

マミ「いえ、遠慮なさらないでください。……すみません、予約してたものをお願いします」

店員「あ……はい、こちらになります」

マミ「ありがとうございます。……はい、どうぞ」

キリカ「うわぁー!ありがとう!ありがとう!ケーキだァ!」

店員「えっと、それじゃあマミちゃん、何か違うものを買って行く?」

マミ「そうですね……それじゃあ、このモンブランをお願いします」

店員「ふふっ、はい。かしこまりました」

織莉子「本当に、ありがとうございます。あの……こちらのお店には、よく?」

マミ「えぇ。一度ここで買ってから気に入ってしまって……。
   いつの間にか、顔と名前まで覚えられちゃって。ちょっと、恥ずかしいですけど」

織莉子「その、もし迷惑でなければ、いくつかケーキを選んでもらえませんか?
     どれが良いのか、よくわからなくて……」

マミ「構いませんけど……でも、私なんかで良いんですか?」

織莉子「はい、ぜひ」

キリカ「キミのセンスならきっと間違いないよ。キミならきっと、美味しいケーキを選んでくれる!」

マミ「え、っと……それじゃあ、一緒に選びましょうか」

キリカ「うん!」

ええ子や




まどか「わぁ!このタルト、すっごく可愛いですね!」

さやか「このモンブランも!」

キリカ「味も良いはずだよ!なんてったって、選んでもらったんだからさ!」

ほむら「選んでもらった……お店の人に?」

織莉子「いいえ、お客さんよ。常連の人がたまたま居て。
     ケーキも選んでくれたし、キリカに自分のケーキを譲ってくれたの」

さやか「へぇー!それはまた太っ腹な」

織莉子「そう言えば見滝原中学の制服を着ていたわ。たぶん3年生だと思うけれど」

さすがさやかは言う事が違う

まどか「えっ、そうなんですか?そんなに優しい人なら、一度会ってみたいなぁ」

織莉子「もしかしたらもうすぐ会えるかも知れないわ。
     その人もお茶やケーキが好きだって言っていたから、
     すっかり意気投合してしまって。一緒にお茶会をしようという話も出ているし」

ほむら「……そう。それは楽しみね」

キリカ「それより!早くお茶会始めようよ!私のお腹はもうお茶会モードだよ!」

織莉子「はいはい。それじゃあ、お茶をいれるわね。キリカ、砂糖は何個?」

キリカ「3個!あとジャムも3個!」

ほむら「まるでシロップね……」

キリカ「あァッ!今バカにしたでしょ!」

さやか「あちゃー……また始まったよ」

キリカ「織莉子は良いけどね!キミなんかには子ども扱いされたくないよ!」

ほむら「別に悪いことじゃないわ。味覚が子どもであっても困ることはないもの」

キリカ「子どもって言った!子どもって言ったァ!
    すぐ私を子ども扱いするんだ!!ほむらなんかほむらなんか!!」

ほむら「大嫌い?」

キリカ「……好きじゃない!!」

ほむら「そう」

まどか「ほっ……良かったぁ」

さやか「この2人すぐケンカするから、こっちもだんだん慣れてきたよ」

織莉子「さぁ、キリカもほむらさんも席に座って。お茶の準備が出来たわよ」

キリカ「わーい!いただきまぁす!」




QB「……思ったより上手くやっているようだね。
  ワルプルギスの夜と言い、あの子たちには驚かされてばかりだ。
  それに、杏子やマミとの繋がり……上手く契約に利用できれば良いんだけど」

ほむら「させると思う?」

QB「おっと。君は僕以上に神出鬼没だね」

ほむら「あの2人と知り合ったと言うのは、やっぱり巴マミだったのね。
    確かに魔法少女と知り合ってしまったのはあまり良くないかも知れないけれど、
    でも絶対にあなたの思い通りにはさせないわ。
    まどかもさやかも杏子も巴さんも、魔法少女にはさせない」

QB「果たしてそんなことが可能なのかな。かなりの長期戦になると思うよ」

ほむら「私だけなら難しいでしょうね。
    でも、そうじゃないわ。私には……仲間が居るもの」





  おしまい

付き合ってくれた人ありがとう、お疲れ

マミやさやかや杏子の契約原因がなくなったのは前の時間軸のまどかの願いなの?偶然が重なっただけなの?

>>537
偶然やで

乙乙~

>>508
>キリカ「え……つまりもう売り切れたってこと!?私たちはこのケーキを買えないの!?
    あんまりだよ!そんなのってないよ!絶対おかしいよ!」

つまり、「そんなの絶対おいしいよ」というわけだな。

あれ、どこかで見たような? そういうタイトルのSSがあった気がしてきた。

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