エレン「蟻の行進」(16)

※12巻以降のネタバレ有り


エレン「はぁ…」


アルミン「あれ、随分と起きるのが早いね。それにエレンは見張りじゃないでしょ?」


エレン「アルミン……」


アルミン「…何か悩み事でもあるの?」


エレン「……自分が情けなくてな。また今回も、俺のせいで……多くの人達が死んだ。あの……ハンネスさんまでも」


アルミン「そうだね…」


エレン「今回のことで裏切り者がライナーとベルトルトであることはわかったが…俺達は何も得ちゃいない。ただいたずらに仲間を失っただけだ」


アルミン「そんなことないよ。君の新たな力が発覚したじゃないか。これは人類にとって大きな希望となるはずだよ」


エレン「俺が巨人の力を持っているとわかった時と一緒さ。馬車で移動中、あれだけ威勢良く壁を塞ぐと言ったが、蓋を開けてみればライナー達に捕まって皆に助けてもらった…
次もどうせまた何も出来なくて皆の足を引っ張るんじゃないか…そう考えちまうんだよ」


アルミン「そんなこと…」


エレン「無いって言えるのか?巨人化もまだちゃんと操れてないのに、リヴァイ班の皆やハンネスさんを守れなかったのに……そんな都合良く、硬質化や新たな力を使えると思うのか?」


アルミン「そんな否定的な考えを持つなんて…エレンらしくないよ」


エレン「……怖いんだ。お前やミカサ、ジャン達、リヴァイ兵長やハンジさん…もう俺のせいで大切な仲間を失いたくないんだ」


アルミン「…甘いよ。僕達は別にエレンの為に戦っている訳じゃない。自分の信念に従って戦っているんだ。だから君が責任を感じるのは筋違いだよ」


エレン「それこそ綺麗事だ。ハンネスさん達は自分の信念に従って死んだかもしれない…でも、結果だけ見れば俺を助ける為に死んだんだよ。その結果は揺るがない事実なんだ」


アルミン「エレン…」


エレン「それにミカサは危険な場所でも俺について来るだろ?ミカサだけじゃない…お前だってそうだ。俺はお前達を…死へと続く道に導いているんじゃないのか?」


アルミン「それは大きな間違いだよ。僕やミカサは自分の意思で君について行っているんだ」


エレン「だが、結局は俺がお前らを危険な目に合わせてんだろが…」


アルミン「……今日は凄いネガティブだな」


エレン「うるせぇ…冷静に分析してるだけだ」


アルミン(どうしたものか……ん?)


アルミン「…エレン、これを見てみなよ」


エレン「ん?……蟻が行列を作ってるな」


アルミン「この蟻が僕達なんだよ」


エレン「俺達が蟻?」


アルミン「そう…見てて」ス…


エレン「おい、なんで列に石を置いたんだ?」


アルミン「いいから見ててよ」


エレン「………行進が止まっちまったぞ」


アルミン「蟻ってほとんど目が見えてないんだ。エサを見つけた蟻がフェロモンを使ってエサまでの道を作って、その道を皆で進むんだよ。だから普通は決められた道を行くしか出来なくて、こうやって道を塞ぐと皆足止めされちゃうんだ」


エレン「……あ」


アルミン「一匹が石を避けて進んだね。その後を追って、また皆が行進していく。僕達にはこうやって新たな道を進む者、つまり皆の道標となる者がいないといけないんだよ……そう、君のようにね」


エレン「……」


アルミン「道を切り開く為に勇気が必要なのはわかってる。それが怖いのもわかってる。それでも君が最初の一歩を踏み出さないと誰も前には進めないんだ」


エレン「俺はそんなに……強くない」


アルミン「誰が君一人で進めって言ったの?弱いのなら僕達に助けを求めてよ、怖いのなら僕達が君の背中を押して上げるからさ。今だってそうだよ。弱音ならいくらでも聞くし、いくらでも落ち込んでいい。僕が必ず君をまた、奮い立たせてあげるから」


エレン「アルミン…」


ミカサ「なら私がエレンに近づく敵を薙ぎ払おう」


エレン「ミカサ!?いつからそこにいたんだ?」


ミカサ「エレンが『はぁ…』と溜息をついた時から。本当はその時に声を掛けようと思ったのだけども、アルミンに先を越されてしまったから盗み聞きをしていた」


アルミン「ハハハ、ミカサらしいね」


エレン「…お前、さっき何て言った?」


ミカサ「私がエレンに近づく敵を薙ぎ払うって言った」


エレン「お前はいつまでそうするつもりなんだよ…」


ミカサ「いつまでも…死ぬまでそうするつもり。だって…エレンは強くないのでしょ?」


エレン「ぐっ、確かにさっきはそう言ったけど、そういう意味じゃねぇよ!」


ミカサ「そう、エレンはとても強い。あの時も今回も私を守ってくれた。ハンネスさん達が死んだのがエレンのせいなら、私達が生きているのはエレンのおかげ」


アルミン「ミカサの言う通りだよ。エレンはいつだって僕達を守ってくれていた。そしてこれからもきっとそうなんだと思う。だから…いつまでも僕達を守ってよ」


エレン「…落ち込んでるのにプレッシャーを与えるのかよ」


アルミン「この程度のプレッシャーに負けるほど、エレンは弱くないからね。それに僕は慰めるなんて一言も言ってないし」


ミカサ「そう、エレンを慰めるのは私の役目。ので、いつでも甘えていい」


エレン「結構だ!」


アルミン「アハハハ、エレンも恥ずかしがらずにミカサに甘えなよ」


ミカサ「さすがはアルミン。私達を正解に導いてくれる」


エレン「どこが正解なんだよ!まったく………でもありがとな、二人共。何か悩んでるのがバカらしくなってきたよ」


アルミン「誰だって寄り道ぐらいするさ。でも、エレンは進んでいく道を絶対に途中で諦めたりしない。それにもし道に迷いそうになったら僕が正してあげるからね」


エレン「あぁ、頼りにしてるぞ。俺の到着地点(ゴール)は遠いけど、絶対に辿りついてやるから、お前らもしっかりついて来いよ」


ミカサ「もちろんついて行く。でも、エレンは私達を置いて先に行く癖がある。ちゃんと後ろが追いついてから進んでほしい」


エレン「わかったよ…さっきから注文が多いな」


リヴァイ「じゃあ俺も注文していいか?」


エレン「リ、リヴァイ兵長!?」


リヴァイ「そこの二人は喋ってないでとっとと見張りの配置につけ。お前は中で大人しくしてろ。何の為に見張りを付けてると思ってんだ?」


ミカサ「少し話をしていただけ…ここではそれすらも許されないの?」ギロッ


アルミン「ほ、ほら、見張りに行くよ、ミカサ」アセアセ


アノチビ…ヤハリイツカワタシガ、シカルベキムクイヲ……
オチツイテヨ、ミカサ!


エレン「す、すいませんでした、リヴァイ兵長!」


リヴァイ「いいからお前は中に入ってろ…」


エレン「ハイ!」バッ


ガチャ
     バタン


リヴァイ「………」


ヒョコ


ハンジ「リヴァイも素直じゃないね。最初から外にいて、注意しないで彼らに話させてあげていたクセに」


リヴァイ「お前は何処にでも湧くんだな」


ハンジ「虫みたいに言わないでよ…」


リヴァイ「…お前もニック司祭の件で少しは堪えたみたいだな」


ハンジ「生憎、私も弱い一匹の蟻だからね…でも、私達は行進を止めてはいけない。例え、列の後ろの方の蟻が死んでも、先頭付近にいる蟻は歩みを止めてはいけないんだ。死んでいった者達の為にも…」


リヴァイ「…あぁ、そうだな」


ハンジ「巨人の恐怖から解放される為に、その恐怖に立ち向かう…それが調査兵団だ」


リヴァイ「俺にとっちゃ巨人の恐怖なんて無いがな」


ハンジ「ははは、さすがはリヴァイだ……私にとって先頭を歩く蟻はリヴァイだからね、頼りにしてるよ」


リヴァイ「……気色悪いこと言うな。調子が狂うだろ」


ハンジ「…あの子達は到着地点まで行けるかな?」


リヴァイ「何を言ってんだ。俺達も行くに決まってんだろ…」



エレン(そうだ…俺は止まってなんかいられないんだ。何処までも行進し、必ず手に入れてみせる!)



俺達の自由を!



Fin

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