京太郎「恩知らずでごめんな」 (347)

※拙い地の文あり

※なるべく短期で終わらせる予定

※設定捏造された京和のいいところ(予定)、たくさん知ってもらえると嬉しいです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1388925097




 ――幾つかの土地を移った私は、既に慣れていました

 同じ時を過ごした友人と別れるということに

 感謝と別れの言葉を掛け合い、その折に流す涙に、私のために流される涙に

 かつて住んでいた町がやがて遠ざかっていく光景に

 彼女ら、彼らと過ごした記憶が、私の片隅で白く光りながら次第に風化していく感覚に

 そして始まる、一人だけの学校生活に――




 中学三年生の私には、二つの道がありました

 一つは、中学校の親友と同じ長野の高校へ進学する道

 もう一つは、父に従い東京の進学校へ進学する道

 前者を選べば、親友のゆーきと共に高校生活を過ごすことができる

 高校へ進んでも、中学校と同じようにゆーきと麻雀をすることができる

 後者を選べば、私の進める道が増える

 母のように、罪を詳らかにし、悪人を裁きにかけ、正しい方向へ導けるような検察官になることができる

 父のように、他人を頭脳で護れるような弁護士になることができる

 学べば学ぶほど将来の選択肢は増えていくことは、私でも十分理解できていた

 勿論、東京へ引越すのでゆーきとは離れ離れになってしまいます

 小学三年生の時や小学六年生の時や中学二年生の時と同様に、私はまた友人と別れ、一人になる

 それは私にとっても、ゆーきにとっても辛いこと

 果たしてどちらを選ぶべきか、私は迷いました




 そうした苦悩を抱えていたからでしょうか

 私は、ミスを犯してしまいました

 それは試験が開始する7分前、既に殆どの生徒が受験会場である教室の席についていた頃

 筆箱の中から筆記用具を取り出そうとしたとき、消しゴムを忘れた事に気づいた私は失意の淵に立たされていました

 前日まで念を押して不得手な国語の勉強をしていたため机に出していた消しゴムをそのまま置いてきてしまったのです

 同じ教室に私の知人はおらず、当然私が頼れる相手などいませんでした

 今まで受けてきた学校とは差のある公立校と言えど、消しゴムを使わずに合格することには難があるように思えました


  ―さらに下手を打てば、落ちてしまうかもしれない

  ―こんな間の抜けたミスのせいで親友と離れ離れになってしまうのか

  ―私自身のせいで私は道を選ぶことができなくなるのか



 諦観して、悔しさに歯を軋ませていた

 そんな私に、話しかけてくれたのが



「これ、使って」



 彼、でした



――――よろしいんですか?

「困ってるんでしょ?いいよそのくらい」

「俺はシャーペンの後ろの奴使うから気にしないで」


 右隣にいた金髪の彼が差し出してくれた消しゴムはまだ新品同然の様子で、それは彼の受験への努力を表しているように思え

 このことがますます気がかりになりました


――――見ず知らずの人に迷惑をかけるわけにはいけません

「いいよ、どうせ消しゴム有っても無くても結果は変わらないし」

「さっきの君の顔、凄かったぜ」

「『どうしよう、ちょっぴりおしっこ漏らしちゃったよぅ……』みたいな顔してた」

 沈黙

「悪い!悪かったよ!つい、連れのこと思い出しちゃって……」

「あ、そうそう、俺もここん中に知り合いいないんだよ、みんな他の教室でさ」

「君もいないんだろ?同じ中学の人」

「知り合いいない同士のよしみってことで受け取ってくれよ」
 
「さっきも言ったけど、俺は大丈夫だから」


 と、よく喋る彼は私に笑顔を向けながら遠慮しました

 彼の微笑み、向けられる遠慮、迫る時間の流れに私は逆らえず、突きだそうとした右手を机の上に戻して、二度目のチャイムが鳴らされるのを待つ

 教室中に、私と彼との間には自然と静寂が訪れ、それぞれの世界に身を投じる



 これが、私と彼との出会いでした


第一話 差し出してくれた左手

優希「のどちゃんのどちゃーん、合格してたー?」

和「人で掲示がよく見えないので……わからないですね」

優希「そっかー、じゃあ学校にもどるじぇ」

和「駄目です、何を言っているんですか」

優希「私ものどちゃんも合格してるに決まってるし、途中でぱーって遊んで戻るじぇー」

和「もし落ちていたらどうするんですか、見に行きますよ」

優希「人の群れは好きじゃないじぇー」

和「そうですね、私も好きではないです」

優希「のどちゃんは囲まれる側だからいいんだじぇ」

和「囲まれるのも煩わしいものですよ」

優希「そんな台詞、一回は言ってみたいじぇ」

和「ゆーきはあっちの方ですから、ここで一旦別れましょう」

優希「わかったじぇー」



 ゆーきと私は清澄高校の合格発表に訪れていました

 清澄は難関私立や難関公立とは違い、平均的なレベルの公立高であるためか、合格できなかった悲しみに嘆くという人はあまりおらず

 合格した喜びを友人と分かち合う人が大多数

 ゆーきと別行動をすることにした私は若干の注目を集めつつ、集団の先頭へ

 私が潜り抜けた集団の中には彼の金髪は見当たらず、気落ちしながら掲示に目を移して

 掲示にある番号と、手元の番号を共に二度確認して胸をなでおろした私は、また顔を上げました

 私は彼の受験番号を見つけようとしていたのです

 受験会場となった教室の座席数を覚えていたので私の受験番号から彼の受験番号を算出して、確かめる

 傍から見ればおそらく気色悪い行為でしょう

 それでも私は、彼が合格しているのかどうかを知りたかったのです

 途方に暮れていた私に手を差し出してくれた彼と高校生活を送れるのかが、心配でした

 殆どの受験生が合格するであろう試験ではありましたが、心配でたまりませんでした

 というのも、私が一時間目の試験を無事解き終え、横目に映った彼の姿勢が心配せざるを得ないものだったからなのです



 そのとき見た彼は、机に突っ伏したまま動いていませんでした

 ペンも持たず、枕にするための腕を組んでいるようでもなく、だらりと両腕を下ろしているだけなのです

 使いづらいペンの消しゴムを使いながら試験開始三十分後に問題を解き終えることができるのでしょうか、と怪訝に思いました

 寝ていたように思える彼は、試験終了の一分ほど前に起き上がり、眠たげな表情は見せずチャイムが鳴り、監督の先生が教室を出て行った直後に彼も教室を出て行きました
 
 後ろの席に座っていた人も私と同じ感想を抱いたようでしたが、無関係な問題だと思ったらしく手元の教材に目を落としていました

 彼は監督の先生が教室に入る数十秒前に席に着き、私に見向きもせず、私もまた彼から視線を外し、試験へ挑みました

 ―あのとき、彼が寝ていなかったのだとすれば、彼は何を考えていたのでしょうか

 ―彼はしっかりと問題を解いていたのでしょうか

 その疑問が心配の根源でした


優希「のどちゃん見つかったー?」

和「……えっ」

和「あっ」

優希「?」

和「は、はいっ、受かってました」

優希「のどちゃん、なーんか隠してないかー?」

和「何でもありませんよ」

優希「本当に?」

和「本当です」

優希「本当の本当に?」

和「本当の本当って言ってるじゃないですかっ」

和「結果も分かりましたし、まっすぐ帰りましょう」

優希「学食のタコス食べてみたいじぇ!」

和「"まっすぐ"帰りましょう」

優希「頑張った自分にご褒美ー」

優希「ねえいいでしょ?のどちゃん」

和「……はぁ」

和「放課後にみんなでお祝いしてあげますから帰りましょう」

優希「おおっ!流石のどちゃん!話がわかるじぇ!」

和「あまり騒がないでください」

優希「そうそう、のどちゃんの王子様は見つかったのか?」

和「な、何を言い出すんですか!」

優希「歩調が遅いから落ち込んでるように見えるじぇ」

和「歩調……」

和「って、王子様って何ですか!」

優希「窮地に立たされてたのどちゃんを助けてくれた白馬に乗った金髪で高身長な王子様のことだじぇ」

和「彼が座っていたのは椅子です」

和「それに身長まではよく覚えていませんでしたよ」

優希「のどちゃんの話を聞く限りじゃそんな感じだったじぇ」

和「そんなに脚色していませんよ」

優希「で、結局どうだったの?」

和「……見当たりませんでした」

優希「金髪だったらすぐ見つかりそうだけどなー……あ、金髪の男子なら見たじぇ」

和「それを早く行ってください!」ガシッ

優希「キンパツノダンシナラミタジェ!」

和「その速くじゃないですよ!ありきたりなボケをしないでください!」ガシガシ

優希「気持ち悪くなるから頭揺すらないでほしいじょ……」

和「すみません」

和「……だから高身長なんて言ったんですね」

優希「確信犯だじぇ」

和「使い方が違いますよ」

優希「のどちゃんってさー、ひょっとして一目惚れ?」

和「男性を一度見ただけで好きになるとかそんなオカルトありえません」

優希「もしそうなら、諦めた方がいいと思うけど……」

和「どういうことですか?」

優希「私が見た金髪、女子と一緒にいたんだじぇ」

和「それは、ただ同じ中学校だったからなのでは?」

優希「他に同じ制服の集団がいたけど、あの二人だけ別のタイミングで来たみたいだったじぇ」

和「そもそもそんなことを言ってどうしたいんですか」

和「私はただ、彼にお礼をしたいだけです」

優希「お礼って、入試の休み時間か終わった後に言えなかったの?」

和「……それが、毎回すぐに教室を出て行って、試験開始5分前には戻ってくるのですが」

和「直後に監督の先生が入って来るので話しかけられるような機会が無かったんですよ」

和「試験が終わった後も早々と帰ってしまって、消しゴムも返せずじまいで」

和「今日会って、消しゴムを返してお礼でも、と思っていたのですけど……」

優希「じゃあその男子は受かってなかったの?」

和「なぜ、私が知っていると思うんですか」

優希「だってのどちゃん、声かけたときに違う番号見てたじぇ」

優希「金髪が合格したか見てたみたいだったし、今の言いぐさだと金髪が清澄に来ないように聞こえるじぇ」

和「…………」

優希「のどちゃん?」

和「貴女、本当にゆーきですか?」

優希「それは流石の私でも傷つくじょ……」

優希「それにしても男友達の一人もいないのどちゃんが肉食系に変貌するとは、世も末だじぇ」

和「どういう意味ですか、私にも男性の友人はいましたよ」

優希「高遠原でのどちゃんに話しかけてる男子は見たことないじぇ?」

和「高遠原に来るずっと前にいました、阿知賀にも……数人はいました」

優希「意外な事実が発覚してしまったじぇ」

和「優希の中の私はどうなっているんですか……」

優希「才色兼備冷静沈着容姿端麗八方美人最強爆乳わがままボディ難攻不落な高嶺の花」

和「急によくそこまで思いつきましたね」

優希「前にクラスの女の子たちとのどちゃんを四字熟語で表したらどうなるかを考えたんだじぇ」

和「いつの間にそんなことを……」

優希「気になるのはのどちゃんの男友達だじぇ、どんな奴らだったんだ?」

和「阿知賀の友人は日常会話をするほどの仲でしたよ」

優希「日常会話……ってどのくらいの?」

和「おはよう、とかさようなら、とかですね」

和「男女間では仲のいい方だったとは思いますよ」

優希「その基準は大間違いだじぇ、それなら私はクラスの男子全員の嫁になるじぇ」

和「それは確かに……では彼らの扱いは何なのでしょうか」

優希「のどちゃんが友達だと思えば友達なんじゃないか?」

和「ならば彼らは友人ということにしておきます」

優希「それは惨い選択だじぇ」

優希「じゃあのどちゃんは男子と遊びに行ったこともないの?」

和「遊んだことは…………」

和「……………………」

優希「無いなら無理に思い出さなくてもいいんだじぇ?」

和「いえ、遊んだ記憶はあるのですが…………よく思い出せないといいますか……」

和「こう言っているだけだとゆーきに見栄っ張りと言われそうなので思い出しているんです」

和「確かあれは…………」

和「……無事故の改新が起きた645年」

優希「のどちゃんがトリップしちゃった!?」

和「何分6年程前のことなので思い出せず、ゆーきのようにボケてみようかと」

優希「キャラに合ってないじぇ」

和「たまにはツッコまれる側の気持ちもわかりたかったんです……」

和「上手くツッコまれるのは気持ちが良いと聞いていましたが、そうでもありませんでしたね……」

優希「のどちゃんの情報源がわからないじぇ」

優希「話は変わるけど、のどちゃんは清澄に入っても麻雀部だよね?」

和「唐突ですね」

優希「唐突な話題変更は女子高生の必須スキルだじぇ」

和「どんな場面に使うんですかそんなスキル」

和「……麻雀部には入るつもりですよ」

和「入りたい部活は麻雀部くらいしかありませんし、何より楽しいですから」

和「また一緒に頑張りましょう、ゆーき」

優希「無論、のどちゃんと私の強力タッグで全国制覇するじぇ!」

優希「でも、そういえば清澄の麻雀部は壊滅寸前って聞いたよーな……」

和「本当ですか?」

優希「試験監督の先生に聞いてみたらそう言ってたじぇ」

優希「部員が二人だから本来は同好会の扱いだけど生徒議会長特権で無理矢理部に格上げしてるらしいじぇ」

優希「それで真面目な先生の中には麻雀部の扱いに是非を唱える人もいるとか、何とか」

和「……インターハイの団体戦に参加できるのは5人」

優希「団体戦と個人戦の両方で優勝が一番かっこいいじぇ!」

和「そうですよね、そうすると私とゆーき、予めいらっしゃるお二人を加えるとあと1人ですか……」

優希「……あ!いいこと思いついたじぇ!」

和「何をですか?」

優希「確実に部員を確保する方法だじぇ!」

和「ゆーきの思いつきは不安ですが……言ってみてください」

優希「まずのどちゃんが金髪を誘って入部させる!」

優希「そして金髪がさっき一緒にいた女の子を連れてくる!」

優希「これで女子部員5人、団体戦に出場できるようになるじぇ!」

優希「まさに芋づる式!完璧優希ちゃんの黄金方程式だじぇ!」

和「ツッコみどころに困るのですが」

和「そもそもなぜ彼を私が誘わなければいけないんですか!」

優希「試験の間数時間ものどちゃんの隣に座っていてのどちゃんのことを忘れない男子なんていないに決まってるじぇ」

優希「だから、こういう風に…………」

優希「――――入学して数日経つある日」

優希「『入試の時に消しゴムを貸した美少女は俺のことを覚えているだろうか』」

優希「『親切をしてあげたんだからそれなりの見返りがあってもいいはずだ』」

優希「そう思いながら登校して下駄箱を開けるとそこには美少女からの手紙が!」

優希「期待して放課後の体育館裏へ行った金髪は、のどちゃんの魅惑のボディに負けて入部届にサイン――――」

優希「こういう算段だじぇ!」

和「頭が痛いです……」

優希「団体戦の枠は埋まるし、のどちゃんは金髪と同じ部活でいいところを見せられる」

優希「金髪といられる時間が増えれば、必然的にお礼をできるチャンスも増えるはずだじぇ」

優希「全中優勝者の肩書きを持つのどちゃんなら金髪を経験者・未経験者問わず教えても不満には思われないだろうし」

優希「部活中二人っきりなら距離は急接近だじぇ?」

和「他の新入生が入ってくれる可能性があるじゃないですか」

和「それに私とは無関係な人を巻き込むのは気が引けますよ」

優希「そっかー、それもそうだなー」

和「……ですが」



 親友のゆーきと離れたくないから

 ゆーきと共に麻雀の高みを目指していたいから

 彼の親切を無駄にしたくないから


 故に私は、父に反して清澄へ進学することに決めました

 いえ、正確にいうと「予め決めていた」でしょうか

 私は、両親への反抗というものを恐れていました

 私が逆らえば、両親に負担をかけることになってしまうかもしれない

 両親の期待に私が背いてしまえば、たった三人の家族の間に亀裂が入ってしまうかもしれない

 私には両親に対抗しきれる自信が無く、けれど、両親の言葉通りに東京へ行き、ゆーきと別れる、というのも真っ平御免でした

 そうして、両親と親友を選びかねていた私の背中を押してくれたのが、彼が差し出してくれた左手なのです

 結果から言うと、意外にも両親の許可はあっさりと降り、私の反抗は実を結びました

 そうか、とだけ言った父を見て、まるで狐につままれたような感を覚え、同じような答えを返した母にも肩すかしを喰らったような気がしました

 
 
 今、こうして高遠原へのこの道を、ゆーきと笑顔で歩いていられるのは彼のおかげでしょう


 あの日の彼の親切が、幸せだと感じる今を作ってくれているのだと思うと

  ―ありがとう、とお礼を言いたい

  ―何か、お礼をしたい

 ただその感情だけが胸に湧き上がってくるのです

 いつかは必ず、この感情を届けたい






――――彼を誘う、というのは

 


 そのために、今は


「のどちゃんが金髪を誘って入部させる!」


 親友の、突飛で唐突な心のこもった提案に乗る、というのも




――――アリ……かも、しれませんね



 


  続く

ageる必要性が無いのでsage進行です

毎回の投下量はこの程度です

嫌悪感を覚えたら直ちにブラウザバックしてください

>>25 京和です

それでは失礼します

これって本スレで書いてたやつ?

>>40
経路を説明いたしますと
京怜を書いていた→総合スレ29>>772にこの元案を思いつきで書く→書いてくださる方が出現→元日の総合スレに投下ラッシュした余熱でこのスレの頭部分まで書いてしまう
→見直しなどをしているところに、以前書いてくださった方が二つ目を投下→気まずくなるかなと思い許可をもらってスレ立て

週末にグンマーへ行くことになってしまったので次回投下は日、月、火辺りになると思われます



 清澄に入学して一週間が過ぎました

 まだ名前も知らない彼は、たまに通学路で背中を見たり、廊下を歩いているのを教室から見かける程度

 追いかけて、声をかければ届く距離

 それにも関わらず、私は彼に話しかける勇気を持ち合わせていませんでした

 クラスこそは知っているものの、彼の名前は知らないまま

 私と彼の問題で面倒をかけるのは気が進まないので、ゆーきに彼に話しかけてきてくれるように頼む、ということはできず

 彼と同じ中学校に通っていた同級生の方と仲良くはなりましたが、
 
 彼女から彼について聞き出すことも気恥ずかしく、とてもできるようなことではありませんでした


第二話 踏み出した足

和「こんなことで大丈夫なのでしょうか……」

優希「朝から元気無いぞ!のどちゃん!」

和「今日は早いんですね」

優希「エトペンの目覚ましより三十分も早く起きられたんだじぇ!」

和「私があげた甲斐があったというものですね、偉いですよ、ゆーき」

優希「ふははーもっと褒めて遣わすじぇ」

和「それは逆の立場で言う言葉ですよ」

和「早く起きた分は何をしていたんですか?」

優希「えーっとねー……」

優希「40分くらい二度寝してたじぇ」

和「プラスマイナスゼロどころか寧ろマイナスではないですか!」

優希「目覚ましに勝ったことに変わりはない!」

和「どうしてそう胸が張れるんですか……」

優希「のどちゃんは垂れやすそうだじぇ」

和「慣用句ですよ、余計なお世話です」

優希「見てると半分くらい分けて欲しくなるじゅるり……」

和「そういう語尾にもできるんですね」

優希「そーだ、のどちゃん、今日の放課後は暇?」

和「暇じゃないですよ、忘れたんですか?」

優希「じょ?」

和「今日麻雀部に突撃しようって言っていましたよ」

優希「じぇじぇじぇ!?」

和「入学式へ行くときにゆーきが言ったんですが」

優希「んー…………」

優希「そう言えばそんな気がするじぇ」

和「ゆーきが忘れていてどうするんですか」

優希「てへっ☆」

和「てへっ☆じゃないですよ、しっかりしてください」

優希「今の可愛かった!もう一回頼むじぇ!」

和「やったところでどうする気なんですか」

優希「携帯で撮って全世界に発信!」

和「脅迫に使う文句の一例ですよね!?」

優希「のどちゃんのその可愛さはもっと有効活用するべきだと思うじぇ」

優希「グラビア撮影の依頼とか来ないの?」

和「来ませんよ、されてもしません」

優希「そう言うと思って去年の夏に撮っておいたのどちゃんのスクール水着と麻雀部プールに遊びに行った時の水着写真を奥っておいたじぇ!」

和「何を勝手にしくさってですかあああああっ!」ガシッ

和「どこに!どこに送ったんですか!」ガシガシッ

優希「うぷっ……ラーメンタコスをリバースしそうだじょ……」

和「朝からどんなものを食べているんですか……」

優希「ラーメンの残り汁にタコスを漬けて食べるんだじぇ」

和「…………シチュータコスよりはマシみたいですが、食文化が違いすぎます」

優希「タコスであれば何でもいけるじぇ!」

和「わかってましたが凄い雑食ですね」

優希「それほどでもないじぇ~」

和「まったく褒めてません」

優希「送ったって言うのは冗談だじょ」

和「そういう冗談ばかり言っていると友人が減りますよ」

優希「のどちゃんがずっと友達でいてくれるから気にしないじぇ」

和「褒めても昼食のタコスしか出ませんよ」

優希「やった!のどちゃん太っ胸!」

和「意味が分かりません」

優希「こう、器が大きい、みたいな?」

和「納得してしまったのが悔しいです」

和「それは太っ腹、というのですよ」

優希「のどちゃん太っ腹!」

和「最近気にしてるんですからやめてください!」

優希「どう言えばいいのかわかんないじょ!?」

優希「閑話休題、須賀京太郎とはどうなったの?」

和「須賀……京太郎?」

優希「例の金髪だじぇ」

和「須賀君、というのですか?」

優希「知らなかった?」

和「……はい、お恥ずかしながら」

優希「クラスは1-B、のどちゃんからのクラスだと少し遠いくらいだじぇ」

和「そんなことを調べてくれたんですか?」

優希「のどちゃんの恩人は私の恩人でもあるからな!」

和「そうですか……ありがとうございます」

優希「いくら教えたところでのどちゃんがヘタレのままじゃ意味ないんだけどね!」

和「うっ…………ゆーきの言う通りです」

優希「そーこーでー!」

優希「今日須賀京太郎を麻雀部に誘ってみるじぇ!」

和「今日ですか!?」

優希「今日だ!」

和「今日なんですか!?」

優希「今日だじぇ!」

和「そ、それは些か急というか……」

優希「今の内に先制攻撃しておかないと、他の部活に入っちゃうじぇ?」

和「ですが、彼と話すのは……っ」

優希「やる前から諦めていたら、何もできない」

優希「恥ずかしい、恐い――――そうやって諦めていたら、須賀京太郎はもっと遠くに離れちゃう」

優希「一回勇気を出すだけ、もう少しだけ精一杯」

優希「のどちゃんなら、多分……ううん、絶対大丈夫だじぇ」

和「優希……」

優希「頑張れ!のどちゃん!」

和「わかりました!私、頑張ります!」

和「今日話しかけて、須賀君を誘います!」



 私の隣にいる子は正真正銘ゆーきなのか

 学校に着くまでタコスの話を飽くことなく延々と続けるゆーきを見ていると、そんな疑念はいつの間にか消沈していました

 クラスの下駄箱へ歩く間にB組の方の下駄箱を一瞥して、早速気にしてるじぇ、というゆーきのからかいを一蹴

 今度こそはと決意を握りしめて、私の今日は始まりました

 



 


 ところが、彼の身にあんなことが起こっていようなどと

 この時の私は、知る由もありませんでした――――


 


――翌日


「須賀君なら今日風邪で休みだよ」


和「ぇ――――――――――――っ」

和「せっかく……せっかく勇気を出したのに……」

優希「何て言うか、まーそんなこともあるじぇ」

和「はぁ……」

優希「麻雀部に無事入部できて、部長たちもいい先輩で良かったからプラスマイナスゼロってことでいいんじゃないか?」

和「そうですね……」

優希「須賀京太郎の住所も調べたけど、行く?」

和「ちょっとアグレッシブすぎやしませんか」

優希「隣の席の子が同じクラスだったらしいので教えてもらったんだじぇ」

和「よくそこまで聞き出せましたね」

優希「今朝言ったのどちゃんの水着写真二枚あげたら大喜びで働いてくれたじぇ」

和「冗談だと言っていたではないですか!何しているんですか貴方はぁっ!」ガシッ

和「去年もその写真を男子に一枚二千円で売っていましたよね!そろそろ懲りましょうよ!」ガシガシッ

優希「ううっ、揺れる空がデジャブだじょ……」

和「そろそろ腕が痛くなってきました」

優希「のどちゃん太りがちだからいい運動になるじぇ」

和「気にしなくて結構ですよ!」

――翌日、昼休み


「須賀君なら、他の教室に行ったみたいだけど?」

和「アッハイ」




――また翌日、昼休み


「今日は須賀君いるよ、呼んでこようか?」

和「え………………」

和「あ………………………………」

和「う………………………………………………」

和「ふ、腹痛が痛いので今日はやめておきます……」




――そのまた翌日、昼休み


和「行って来ます!」

優希「頑張れのどちゃん!草葉の陰から見守ってるじぇ!」

和「物陰から見守っていてください」

和「……すぅー」

和「はぁー……」

和「…………」

和「はぁー…………」

和「はぁー……………………」

京太郎「よっ、原村さん」

和「!?」

和「ごほっ、げほっ、えほっ、げぼぉっ!」

京太郎「女の子らしからぬ声!?原村さん大丈夫!?」

和「……はぁっ、はい、大丈夫です、至って問題ありません」

京太郎「そっか、病気かと思ってヒヤヒヤしたぜ」

和「……あの、どうして私のことを……」

京太郎「ほら原村さん有名人だし、昨日俺に用があったんでしょ?」

和「あ……はい」

京太郎「立ち話も難だ、学食行こうぜ」

和「お昼ご飯でしたら私が払います」

京太郎「ははっ、そんなのいいよ」

京太郎「女の子に払ってもらうなんて真似させられないもんな」

和「いえ、お礼をさせてください!」

京太郎「お礼……って、そんなん寧ろ……」

京太郎「…………!」ピコーン

京太郎「じゃあ一つ頼みごと、いいかな?」

和「はい!」

和「レディースランチです」

京太郎「ありがと!原村さんは頼まなかったの?」

和「私はお弁当がありますので」

京太郎「もしかして自作?」

和「……はい」

京太郎「すっげー!やっぱ原村さんって何でもできるんだな!」

和「そんなことありませんよ」

京太郎「いやいや、だってすごく美味そうだぜそのお弁当」

京太郎「可愛い、スタイルいい、お弁当もおいしそう、勉強できる、運動もできる、麻雀が強い!完っ璧だろ?」

和「いえ、その……可愛いなんて…………」カァァ



 須賀君はまるで、昔からの友人であるかのように、私と話してくれました

 私がどもっても話し出すのを待ってくれて、しっかりと応答してくれて、とても楽しそうに私との会話を続けてくれる

 会話の内容は、お互いの自己紹介に始まり、中学校のことや、あの日のこと

 彼と和やかな雰囲気で過ごす昼休みは至福に感じられました

 ゆーきや他の生徒の視線も忘れて、彼との会話を楽しみました

 

京太郎「原村さんに消しゴム渡した後、照れくさくなっちゃったんだよ」

京太郎「ほら、原村さん可愛いから」

京太郎「テレビにも出てるの知ってて、テスト中に気付いた」

京太郎「それから休み時間に原村さんの隣にいるのがなんか恥ずかしくて」

和「ああ、通りで……」

京太郎「気分悪かったよな、ごめん」

和「全く全然これっぽっちも……少し不思議でしたが」

京太郎「でっすよねー」

京太郎「原村さん五限何?」

和「数Ⅰですね」

京太郎「そっか、俺は化学で別棟だからさよならだ」

京太郎「トレー下げてくるよ、じゃあね」

和「あっ…………す、須賀君!」



 背中を向けた彼に、声を
 
 教室の前で話しかけるのに、勇気は不必要でした

 彼との会話に、恐怖は感じませんでした

 羞恥も感じませんでした

 彼の先回りが私から臆することを忘れさせてくれたのです

 けれど、これからの私の発言は彼が知りもしないこと

 彼の先回りのしようのないこと

 つまり、私自身で勇気を出して、恐怖も羞恥も取り払わなければならないこと

 「一回勇気を出すだけ、もう少しだけ精一杯」

 一歩だけ、足を踏み出そう

 振り向いた彼に、声を


和「入試の日!本当にありがとうございました!」

和「感謝しきれないほど、ありがとうございました!」

和「あ、あと!話は変わりますが……」

和「私と……私と、麻雀部に入ってくれませんか?」

京太郎「うん、いいよ」

和「二つ返事!?」



 


  続く

グンマーから帰還して古鷹を愛で、寝て永遠の0を見に行って古鷹を愛で、文章考えながら古鷹を愛でていたらこんな時間になってしまいました

グンマーは観光目的では無かったのでただ疲れただけでした

来週は土曜日から再来週一週間青森行きなので、次回更新は再来週になります

乙!
ところでこのSSのタイトルが不穏なんですが大丈夫なんですかね…?

某和京スレみたいに表面上は仲良くしてても
実はお互い相手を邪魔に思ってるドロドロの関係になる…なんてことになりかねんな

>>52をかなり大雑把に捕捉しておきますと
隣の席の同級生さんと仲良くなる
→同級生さんと京太郎が挨拶しているのを見かける
→同級生さんから京太郎と同じ中学出身とだけ教えられる


一年生はそれぞれ別のクラスです

原作を読む限り咲と優希が孤立しているのは確定っぽいんですけど、京太郎と和はよくわからんので別々にしました

>>79 可能性は否めないかと

>>85
そのスレはちょこっと読んだだけなんですよね、なのでどのくらい修羅場ってたのかはわかりませんが、当スレにドロドロ、修羅場はありません

血噴き肉千切るような修羅場じゃないと満足できませんし、今の私には書く気も力も無いので……


今週中の更新はやはり無理なようなので、>>77の通り次回更新は林檎の名産地から帰って来ての再来週になります

失礼します

>>1は青春18切符で旅行でもしてるのかと思うくらい他県に行くなぁ

咲と優希が孤立しているのは確定って情報あったっけ?

>血噴き肉千切る
どんな修羅場だよ・・・

青森からこんばんは

せんべい汁が美味しいです

動く良子さんとエロいと噂の佐藤アナを早く見たいです

>>99
去年は1道1府5県行ったのでまだ序の口ですよ
内旅行目的だったのは岐阜だけっていう

>>102
優希は原作にもある全国編2話で、優希の担任のササヒナ先生が応援メッセージで優希の名前のみを挙げたことから

咲は、原作1話開始時まで和を知らなかったことから和とは別クラス、京太郎がレディースランチを頼ませに咲を探していたことから

※あくまで私の推測です


>>104
ご想像にお任せします…


次回更新は土曜日辺りになります、これから一ヶ月以内には終わらせたい所存

それでは失礼します

青森からわざわざ乙
1ヶ月以内ってずいぶんハイペースだな

絹ちゃんの中の人何してんすか……

和「こんにちは」

京太郎「失礼しまーっす」

久「あら原村さん、片岡さんは?」

和「学食へタコスを買いに行っています」

久「そう、それじゃあそこの男子は……彼氏?」

和「ちっ、違います!」

久「彼氏同伴で初部活なんて見せつけてくれるわね~」

和「違いますってば!」カァァ

久「それで、君は?」

京太郎「俺、須賀京太郎っていいます!」

久「須賀君、仮入部の子?」

京太郎「もう本入部で!」

久「はっは~ん、なるほど~」

久「原村さんやるじゃない、身体を武器にして部員を確保してくれるなんて」ヒソヒソ

和「してませんよ」ヒソヒソ

久「えー?放課後の体育館裏に彼を呼び出して原村さんのボディで魅惑して入部届にサイン―――」

久「こんな感じじゃないの?」ヒソヒソ

和「何故ゆーきと同じ発想に行き着くんですか」ヒソヒソ



 須賀君の軽い返事を受けた日の放課後、私は彼を連れて部室を訪れました

 彼は本気で入部するつもりのようで、部長も新しい部員の加入に喜んでいました

 部長が部の説明をしているうちに、染谷先輩とゆーきが部室へ、そのまま部員五人の自己紹介を行いました

 染谷先輩も須賀君を歓迎してくださり、その後は4人で須賀君に麻雀のルールを教えました

 簡単な役、大まかな流れを話した後、ゆーき、部長、染谷先輩、須賀君の四人で卓を囲み実践指導

 須賀君の手牌を見て、プレーに口添えをする私

 須賀君のおぼつかない打牌で容赦なく和了るゆーき

 そんなゆーきに呆れる染谷先輩

 昨日と同様に口を綻ばせながら打牌する部長

 そして、油断した部長から初めて点を奪った須賀君

 三倍満を浴びせられた後のタンヤオであったのにも関わらず、嬉しがっている須賀君

 その日の部活もとても楽しく、時間は早く過ぎていきました



                                            ,.ー-‐.、
                                            ヽ、   ヽ  __

                       / ̄\                 /,..-ニ‐- '"_,..)
           _,.‐-、        /     ヽ              ' ´/  , _ 、´
       _ _     ' 、 .ノ      /      _|          ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\
    i'´ ` !    r   ヽ     /      <_       ,..-、 , ',. -一' ./..'/     .}
    i    ヾ、_  !    l    `ー-イ       \    /   / ,. '′  ,..,.  ,/    ./
    し  , iヽ、i !     !    _,/      ,.イ ̄`'´ // /    {  \ヽ      i'
    /  ヾ |  l      !  / ̄          //    / ー'´  ゙、    `´\ ヽヽ   !
    ヽ  r'´. .└! .i! .!┘ 〈          \|     | |   |   ,.'⌒   `,. l   !
    ヽ  !   .  l !l .!    ヽ   r/           ヽ/    |   ! ゝ-‐'´ /l  .!
     i ゙、     l .l ! l     ヽ__//  _    r、__,    ,、  __,ノ   \  /  }  .}ー"ヽ  ヽ
     | ト、゙、    l .! l .!        /  / |   |   ≧、__|  ̄       `ヽヽ  j  ノ`ー-、   }   .
___ ノ」__ン__ __r' 」 l、゙、__ / ./ /|   |__________  __゙、`'   /__ ヽ/_____
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ "'´ ̄ ̄ ゙、.   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ }   ./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                          ヽ、ノ                    ヽノ


第三話 ときめいた胸


 



――多分二週間後


まこ「今日は京太郎と一緒じゃないんじゃな」

和「古典が少し長引いてしまって、染谷先輩こそどうなさったんですか?」

まこ「わしもちぃと職員室に用事があってのう」

まこ「京太郎のことじゃけえ、てっきり和を迎えに行くと思ったんじゃが」

和「……どういうことですか?」

まこ「京太郎は和が放課後の体育館裏に呼び出してあれこれして入部届を出させたんじゃろ?」

和「…………」ジトッ

まこ「冗談じゃ、冗談」

和「どうして三人の冗談がここまで被るんですかねぇ……」

まこ「もう一人女子が入ってくれれば久がもっと喜ぶんじゃろうが、さてさて」

和「あと一人……」

「須賀君、やめて!」

「部長、俺はもう我慢が出来ないんです!」

「そこはダメ……てぇ……あっ!」

「本当は、期待してるんでしょう?」

「この棒を……れることを、キモチイイですよ?」

「それは、わかってる……けどぉっ!」

和「」

まこ「」

「ダメ!ダメよ須賀君!」

「こんな……こんなこと……」

和「ふたりとも!部室で何をしているんですか!」ガチャッ

バタム パタッ

久「あ」

京太郎「あ」

和「え」

パタパタパタパタ……

久「私の点棒ドミノがぁー!」

和「点棒ドミノって……」

久「六限が休講で暇だから部室に来て点棒でドミノ作ってたのよぉ、ぐすっ」

京太郎「放課後になって俺が一番乗りだと思って来たらほとんど完成してて」

京太郎「二人で完成させて、喜んで、倒すタイミングを見失ってたのに、こんな……」

京太郎「こんなことってないよ!」

まこ「あるわ、あほんだら」

まこ「むしろ和が倒して正解じゃったろ」

まこ「はやく点棒を元に戻しんさい」

久「はーい」

京太郎「ういーっす」

和「染谷先輩が部長に相応しいと思うのは私の気のせいでしょうか」

京太郎「原村さん今日もお願いしまっす!」

優希「私も京太郎のこと教えたいじぇ」

久「優希は感覚派だから教えるのには向いてないのよ」

優希「やれやれ、天才はこれだから辛いじぇ」

まこ「褒めては無いじゃろうに……」

和「ゆーきは前向きなんですよ」

京太郎「バカとも言うな」

優希「それだー!じゃないじょこのバカ京太郎!」

京太郎「バカって言った方がバカなんだよー」

優希「それだと先に言った京太郎の方がバカになるじぇ」

京太郎「あ、そうだな」

和「馬鹿なこと言ってないで始めますよ」

和「カラテンリーチしてどうするんですか!河を見てください!河!」


和「うわぁぁあ!どうして伍萬を切るんですかぁ!一向聴なのに!」


和「フリテン!フリテンですよそれ!リーチかけてしまったら遅いですよ!ああああああっ!」


和「どうして親の部長のリーチがかかってるのに槓するんですか……」チラッ

和「ほらぁあぁぁあぁああああ!新ドラ全部部長が持ってますよぉおおおおおおおお!」

久「ちょっと和!?」

久「今日はここまでにしておきましょうかね」

まこ「お疲れさん」

京太郎「お疲れ様でした!」

優希「お疲れだじぇ」

和「……さま、でした」チーン

優希「のどちゃん疲れすぎだじぇ」

京太郎「俺が下手だから悪いんだよ、そりゃ原村さんも疲れるさ」

まこ「いや、和も和じゃろ」

優希「指導法がヒステリックだじょ」

優希「清澄は帰りに寄り道できないのが難点だじぇ」

和「小母さんが心配しますよ」

優希「何もしないで帰ると返って心配されるじぇ」

京太郎「寄り道か、それならこの間いい感じの店見つけたぜ」

京太郎「雑貨屋的な、駄菓子屋的な、コンビニ……的な?」

優希「うーん、よくわからないから行ってみたいが……」チラッ

和「……どうか……しましたか?」

優希「京太郎はのどちゃんを送っていくじぇ!」

京太郎「は?」

和「え?」

優希「こんな疲弊したのどちゃんを見たら暴漢に襲われるじぇ、だから京太郎、お前がのどちゃんを守れ!」

和「ちょっと、ゆーき!」

京太郎「だな、原因俺だし」

和「須賀君まで!?」



 まばらな街灯が照らす道

 ゆーきと別れて、私と須賀君との二人っきり

 当たり障りのない会話をしながら、二人で歩く

 私の歩調に合わせてゆっくり歩く須賀君を見上げてみたり

 目が合いそうになると慌てて顔を逸らしたり

 そんなことをしてやり過ごす帰り道

 あんなに激しい指導をしたのに、笑いかけてくれる須賀君に、疑問を投げかけました

和「本当に、良かったんですか?」

京太郎「原村さんを守れるならたかが30分くらいどうってことないぜ」

和「……そ、そうではなくっ!」カァァ

京太郎「あ、麻雀部?」

和「はい」

京太郎「別に入りたい部活があったわけでもないし、いっかなって」

和「運動部に興味はなかったんですか?」

京太郎「きつめの運動はできないから、小二だか小三の頃に足怪我しちゃってさ」

和「そうだったんですか」

京太郎「原村さんを抱っこして家まで送るくらいなら全然平気だぜ!やってみせるか?」

和「け、結構です!」

京太郎「そういや、原村さんって携帯持ってる?」

和「一応は……」

京太郎「あいぽん4……」

京太郎「羨ましい……いや、羨ましくは……」

和「何も言わないでください」

京太郎「ああ、5sまで出てるのでなんで今更?とか思ってないよ」

和「思いっきり思ってますよね!言ってますよね!?」

和「それにしても、何故携帯なんて」

京太郎「連絡先、登録してなかったなーと思って」

京太郎「電話ができれば、いつでも麻雀教えてもらえるだろ?」

和「真面目ですね」

京太郎「原村さんが全国行くんなら、俺も行きたいし!」

和「~~っ!」

和「ぜっ、全国の壁は高いでしゅからね!ビシバシ行きますよ!」

京太郎「よろしくお願いしましゅね!原村さん!」

和「か、からかわないでください!」カァァ

京太郎「ほら、ちょっと貸して」

和「自分で打てますよ」

京太郎「俺の方からメール送るからさ」

和「近い……です」

京太郎「おわ、ごめん」

京太郎「メール送っといたから、後で登録しといてくれよな」

和「わかり、ました」



 まばらな街灯が照らす道

 携帯を弄る須賀君はすぐ近くに

 制服が触れ合うほどに近くにいて

 私のほんの少しの胸騒ぎも関係無しに、歯を見せる彼がいて

 そんな状況で立ち止まる帰り道

 



「……原村さんのこと、和、って呼んでもいいか?」


――――え?


「さん付けだと壁感じて嫌なんだよな」


「先輩とか部長は仕方ないけど、これから三年間一緒なんだから」


「どう、かな?」


――――…………




 そう言って、彼はまた先回りをしてきました

 私の心を知ってか知らずかわかりませんが

 彼の一言が、また私の胸をほんのりと、少しだけ温かくさせるのです


「おっけ、これから頑張ろう、和」


「そうだ、俺のことも名前で呼んでいいぜ」


――――えっ、じゃ、あ……きょ……きょぅ……


 言われて五分ほど、私は日本語を発することはなく

 結局、須賀君の名前呼びは断念しました







  続く

前回の誤字修正
>>57
優希「そう言うと思って去年の夏に撮っておいたのどちゃんのスクール水着と麻雀部プールに遊びに行った時の水着写真を奥っておいたじぇ!」

和「何を勝手にしくさってですかあああああっ!」ガシッ



優希「そう言うと思って去年の夏に撮っておいたのどちゃんのスクール水着と麻雀部プールに遊びに行った時の水着写真を送っておいたじぇ!」

和「何を勝手にしくさってんですかあああああっ!」ガシッ

戒能さん動いてるぜヒャッハァー!

佐藤さんも大人っぽくて良かった良かった、あれで京太郎と同じ誕生日っていうんだから京アナはたまらない

>>107
なるたけ早く終わらせてソチのアイホを観たいんで、あくまで意気込みです

また今夜に投下できるやもしれません、期待薄目

それでは失礼します

怜→病気で暇なので立直棒を立てる技術を習得
久→一人で暇なので立直棒を立てる技術とオリジナルツモを習得

やっぱり昼の夜で二回投下は無理でした、タイムリープスレ読み直しつつリランカクルージングしてたら無理でした

旅先でインハイスレとタイムリープスレを一緒に読んでて楽しかったです、京健の良さに初めて気づかされたので感謝

次回更新は来週末になります

恋歌の悠木さん可愛いースゲーと思ってたら永井さん……

進行に関して見通しを決めたので報告

…の前に説明しよう!
リランカクルージングとは艦これのプレイングの一つである!
まるゆのレベリングを行うと共にボーキサイトの収穫も図れるので楽しいのである!
推奨はできませんが、ウィークリー受注前、全遂行後にお試しあれ

このSSは前回の投下で折り返しの全6話構成、余力があればエピローグも書こうかと

次回は原作の合間を縫う感じなので場面転換多めです

説明終わり、失礼します

白望「私のまわりには幸せがいっぱい」

白望「きみのまわりには何がある?」

京太郎「……しろみ?」

白望「なにそれこわい」


あー寝ぼけて何書いてるんだ私

昼間に帰宅していざ書こうと思ったら寝てしまう不始末、申し訳ありません

京ミカか京えり書いてエンジンかけて書き上げるので、明日中には更新できるよう頑張ります

それではまた



「和!俺、役をようやく全部覚えたぜ!」

 ダジャレ交じりに報告する満足気な須賀君と見上げた朝の空を、また望む

 雲ににごった空を眺め、東風に揺れる髪を押さえながら初夏を感じる

 部員五人で遊びに行ったりして親睦を深めたゴールデンウィークが過ぎて一週間ほどたった土曜日、半日授業を終えた昼頃

 例のごとく学食へタコスを買いに行くと言うゆーきと別れ、私は部室へと足を運んでいました

 部室のある旧校舎へ続く、緑に挟まれた緩やかなカーブを描く道を歩いていると、右の方に見慣れた金色が目に入りました

 彼の方へ顔を向けると、木陰に人影がいるのがわかって

 彼女も私と同じタイミングで気づいたのか、視線が合いました



 たまに通学路で背中を見たり、廊下を歩いているのを教室から見かける程度に

 彼女の容姿は見かけることが多かったので覚えていました

 いつも須賀くんの隣にいた彼女を、私は覚えていました

 やがて、羨望の混じった視線は別れ

 橋を渡って来た須賀くんと軽い挨拶をして

 後ろの二人の話し声を聞き流しながら

 私は部室へと足を運びました

第四話 押した背中


 
咲「京ちゃん遅いよー」

京太郎「歩いて五分の図書館に遅れて来るお前にゃ言われたかねーよ」

咲「そんな二年前のことは時効ですー」

まこ「おんしら二人のことは知らんが、その荷物は何じゃ?」

和「異様に大きいですが……」

優希「犬のことだからエロ本かティッシュ箱に決まってるじぇ」

京太郎「おい何だその想像」

京太郎「ぐごー」

優希「ふひひ、のんきに寝おってー」パシャッ

和「須賀くんに何をしているんですか」

優希「寝顔を撮って永久保存して後々京太郎を辱めてやるんだじぇ」

咲「優希ちゃんも携帯持ってるんだ……すごいな」

和「PCだけでなく携帯まで持ってないんですか?」

咲「うん、私じゃそういうの使いこなせないと思うから」

久「ちなみに須賀くんの荷物はPCよ」

咲「ええっ!?またあれをやるんですか……」

久「咲の戦績グダグダだったじゃない、頑張りなさい」

咲「はぁ……」

優希「のどちゃんも撮るなら今の内だじょ?」

和「わ、私はそんな……」

和「…………」ウズウズ

和「ぅ…………」チラッ

和「…………っ」ギュッ

和「…………」チラッ

和「すぅー、はぁ……ょし」

和「!」ガバッ

京太郎「あれ、俺寝てた?」

和「」

優希「二十分くらいなー」

和「」

咲「京ちゃんいびき凄かったよ」

和「」

 ――――――――――


和「はぁ……」

優希「たこしゅ……たこしゅだじょ……」

咲「京ひゃん、しょんなとこさわっちゃらめらよ……」

まこ「ん…………」

久「Zzz」

和「……寝れません」



 窓からこぼれる月の光

 静かに寝息を立てて寝る先輩二人

 容易にその内容を想像できる寝言を放つ親友

 どんな夢を見ているのかがとても気になる新しい友人

 長風呂のしすぎでのぼせたからか、ゆーきの言ったことに胸を躍らせているのか、私はなかなか寝付くことができませんでした

「……この天井の上には…さっきの星空があるのかな」

 もう一度、あの星空を見てみたい

 そう思った私は、音をたてないようにしながら布団を発ちました



 『麻雀?』

 『東京の進学校を蹴ってまで続けることがそれか』

 『中学で一人友達ができたんです』

 『高校でも……』

 『だからここに残りたい……』

 『こんな田舎の友達がなんの役に立つ』

 『麻雀だってほぼ運で決まる不毛なゲームだろう』

 『練習して大会だなんてバカバカしい』

 『では……』

 『高校でも全国優勝できたら……』

 『ここに残ってもいいでしょうか……』

 『…………』

 『できたら考えよう』



京太郎「だーれだ?」

和「きゃっ!」

京太郎「だーれだ?」

和「……さあ?」

京太郎「乗る気無しだ!?」

和「驚かせないでくださいよ、もう」

京太郎「ごめんごめん、咲によくやっててつい」

京太郎「んで、こんな時間に何してんだ?」

和「寝付けないので、散歩に」

京太郎「奇遇だな、俺も行こうと思ってたんだ」

和「須賀くんも寝付けないんですか?」

京太郎「バスん中で寝ちゃったからかわからんけどな」

京太郎「合宿所の人に聞いたんだけどさ、この辺に滝があるらしいんだ」

和「滝?」

京太郎「そ、滝」

和「それは楽しみ……ですね」

京太郎「だよな!山とか滝とか、そういう自然好きなんだよ」

和「……ふふっ」

京太郎「俺、なんか変なこと言った?」

和「いえ、奈良にいたころの友達と同じ趣味だな、と」

京太郎「転勤族だっけか」

和「ええ……?どうしてそのことを?」

京太郎「あ……ほら、前に優希が言ってたじゃん」

和「宮永さんと来たときですか」

京太郎「そそ……あ、あとありがとな、咲のこと」

和「宮永さん?」

京太郎「あいつさ、俺と初めて会ったとき人と仲良くしようとしてなかったんだ」

京太郎「気になった俺があいつと無理矢理仲良くなんなかったら今頃どうなってたことか」

京太郎「いつも一人で本読んで、何もできなかったあいつが麻雀部に入るなんて正直意外だった」

京太郎「和と優希と仲良くなってくれて本当に良かった」

京太郎「だから、ありがとうな」

和「私はそんな、宮永さんとは喧嘩してしまいましたし……」

和「感謝で言えばまだ、あの日のことで十分お釣りが来るほどですよ」

京太郎「いや、そんなん…………そうか」

和「?」

京太郎「滝……滝だ!」

和「結構近かったですね」

京太郎「んだんだ」

京太郎「夜空とも相まって綺麗だなー」

和「そうですね、綺麗です」

京太郎「和の方が、綺麗だぜっ☆」

和「何を言い出すんですか!」カァァ

京太郎「じょーだんじょーだん、あ、流れ星」

和「どこですか!」

京太郎「ほらあの辺……まただ!」

和「あ……!」



 満天の星空を流れる一筋の光

 私と須賀くんで一緒になって、声が漏れ出る

 二人とも願いは秘密にしたまま、宿舎へ

 ……本当は、知りたかったのですが

「ありがとな、咲のこと」

 なぜでしょうか、私は須賀くんの答えを恐れて

 宿舎で別れるまで話を切り出せませんでした

 お礼の話もできずじまいで、近くに須賀くんがいて何もできないままでしたが


「そんじゃまた明日な」

「俺たち一緒に全国行こうぜ!」


 彼の台詞はとても心強いものでした

――――そして、長野県個人戦



「ロン、12000」


「ツモ、4000・8000!」


「ツモ、6000・12000!」


京太郎「ずがーん!」



 という感じで、須賀くんは敗退してしまい

 そんな須賀くんに部長は……


「じゃ、午後のおやつの買い出しお願いね」

「ずがーん!」


 ゆーきにもタコスの補充を頼まれた後、須賀くんはそのまま、走り去ってしまいました

 そんな須賀くんを心残りにして、一日目の個人戦は午後の部に突入しました

和「……ふぅ」

京太郎「お疲れさん」ピタッ

和「ひっ!」

和「……驚かせるの好きですね」

京太郎「まーな、ほらこれ、バナナと振る夏みかんゼリー」

和「なんですかそのチョイス」

京太郎「バナナは部長がな、あとここの自販機で売ってた夏みかんゼリー」

和「……はぁ、ありがとうございます」

京太郎「しっかしみっともねえよなー俺」

京太郎「一緒に全国に行こう、って言ったのに午前敗退とかよ……」

和「何回落ち込むんですか?」

和「頑張ったんですから、胸を張ってください」

和「そんな顔、須賀くんらしくないですよ」ムニッ

京太郎「へっ……そうだよなぁ……」

京太郎「ありがとう、和」

ピンポーン

京太郎「試合、頑張れよ」

和「はい、絶対勝ってきます」

 試合開始前の放送を聞いて、須賀くんと別れました

 私が見えなくなるまで須賀くんは手を振って大声を出していてくれました

「頑張れー!和ー!」

「和なら勝てる!絶対勝てる!」

「気合だぞ!和!」

「世界一愛してるぜ和ー!」


――――恥ずかしいのでやめてください!





  続く

文章力高くて筆速いとか凄いなぁ、何時間もどんな時間帯でも書き続けられる環境が何より良い

次回更新予定は木曜日、音沙汰なければ土曜か日曜のどちらかで

京ちゃんのお友達はでてこないのか?


京太郎と咲は既に付き合ってる可能性

>>204 出ません、私自身元ネタがよくわからないので

>>206 ないっすよ、多分

福与恒子(23)
佐藤裕子(25)
村吉みさき(26)
針生えり(28)




針生えり(28)

いつか京えり立てようかと思ってるけど……うわぁーい


次回更新は木曜日確定で、ただでさえ短いいつもよりもさらに短くなるかもしれません

優希「バスが出るじぇー」

咲「じゃあね、京ちゃん」

京太郎「忘れ物は無いか?」

咲「大丈夫だよ」

京太郎「こっちからでも応援してるぜ」

咲「うん、頑張って来る」

京太郎「あっちに行っても達者でな」

咲「ありがと、毎日電話するよ」

京太郎「や、咲にそれされんのはなんか嫌だわ」

咲「そんなー」

和「何を二人してふざけてるんですか」

優希「バスガ出るじぇー」

まこ「行くわけでもないじゃろうに、見送り御苦労じゃの」

京太郎「俺も麻雀部の一人っすからね、モチのロンですよ」

まこ「連れていけなくてすまんの」

京太郎「女子の中に男子で俺一人って気まずいんすよ」

久「本音は?」

京太郎「風越の部長さんとお近づきになりたかったですッ!」

久「ああ、福路さん、美人よね」

京太郎「あの人とッ!混浴ができるならッ!俺は命を投げ捨てる覚悟だッ!」

咲「京ちゃん……」



和「…………」



 定期試験は無事終わり、私たちは四校合同合宿に参加しました

 ……須賀くんを置いてけぼりにして

 仕方が無かったこととはいえ、部長の申し出に須賀くんは笑って応えました

 須賀くんに罪悪感を覚えた私は、他の皆さんに提案して、集合時間よりも前に集まり、書置きを残しました

 書置き、といっても付箋メモに一言を書いて部室のPCに貼り付けただけですが


「この埋め合わせはいつかしてあげなくちゃね」

「そうじゃのう、優希とおんしら二人は特にな」

「じぇー」

「あ、裏に書いちゃった……」

 

第五話 撫でた頭

京太郎『上級卓、行ける気がしないんだけど』

和「須賀くんのレベルなら落ち着いて打てば目指せないわけではないと思いますよ」

京太郎『期待してくれるのね』

和「須賀くんはまだ伸び代がありますよ」

京太郎『伸び代かぁ……』

京太郎『明日も頑張るよ』

和「良い報告を待ってます」

京太郎『おう、おやすみ』

和「おやすみなさい」

和「…………」

京太郎『…………』

京太郎『切っていいんだぜ?』

和「ふふっ、そちらこそ」

京太郎『……じゃあ、俺が切るよ』

和「おやすみなさい」

京太郎『おやすみー』

ピッ

咲「原村さん、京ちゃんどうだって?」

和「ウサギは寂しいと死んじゃうんだぞ、と脅してきました」

優希「ウサギというより犬だじぇ」

まこ「寧ろおんしの方が犬に見えるがのう」

久「私の愚痴とかこぼしてなかった?」

和「いいえ、一言も」

久「ガンガンをお腹に挟まなくて済みそうね、良かったぁ」

和「どんな心配してるんですか」



 予選で負けて、秋まで何もすることのない須賀くんの声にはもう落ち込んでいる様子はありませんでした

 それどころか、麻雀にさらに意欲的になり、最近は毎晩私に電話をかけてくるようになりました

 ネット麻雀の牌譜を見たり、相手をしながらアドバイスをして、他愛もない会話をして終わり、というのがほとんどです

 どれだけラスになっても、箱割れをしても須賀くんが挫けることはなく

 
『勝てたら御の字だけど、勝てなくても麻雀は楽しいから』


 そう言って続ける須賀くんへの教授に私も一層熱を入れるようになりました

 それと同時に、私は充足感を得ていました
 
 須賀くんと二人きりで話すことに、楽しさを

 須賀くんを教えることに、喜びを

 須賀くんから頼られることに、嬉しさを

 いつからか、こんな充足感が私の胸を温かくするようになりました

 



――――合宿明け初の部活


咲「カン!カン!カン!カン!」

京太郎「うわぁアぁああああもうだめだぁぁあァァあアい!」

和「須賀くぅーん!?」

 ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・


優希「新幹線なんて初めてだじぇー!」

京太郎「ふんっ、お子様だなー」

優希「何をー!」ガシッ

京太郎「しがみつくなって!荷物重いんだから!」

優希「犬は私を引きずって歩けー!」ヤイノ

京太郎「誰がやるもんか、離れろー!」ヤイノ

まこ「おい二人とも、置いてくぞ」

優京「はーい」

咲「仲良いよね、京ちゃんと優希ちゃん」

和「そうです……ね」

咲「あれ?和ちゃんどうかした?」

和「いえ、別に問題ありません」

久「席順はどうしましょうか?」

優希「私は窓際がいいじぇ!」

久「はい決定」

咲「私はどこでもいいです」

和「私も同じです」

京太郎「右に同じー」

まこ「右に同じー」

久「じゃあくじ引きねー」

優希「仲間外れにされた気がっ!」

優希「結局窓際だったじぇ」

咲「隣だね、和ちゃん」

和「はい、よろしくお願いします」

京太郎「隣だな、和」

和「はっい!よろしこ願いします!」

京太郎「よろしこ?」

和「何でもありません!」

優希「東京に行くのも初めてだじぇ」

和「私は久しぶりです」

咲「和ちゃん、奈良の前に東京に住んでたんだよね」

和「東京と言っても西東京の方ですよ」

咲「お姉ちゃんたちと同じ辺り?」

和「白糸台までは少し時間がかかったと思いますが、その認識で合ってます」

咲「そうだ、京ちゃんも……」

京太郎「……」Zzz

咲「もう寝てる……」



 新幹線に乗っている間のことは途中で寝てしまったのであまり覚えていません

 須賀くんに寄りかかってしまっていたそうで、後からそのことを聞かされて恥ずかしかったです

 だらしない姿を見られたら……と思いましたが須賀くんが終始寝てくれていたのが幸いでした




 東京の日々はあっという間に過ぎていきました

 開会式を終え、一回戦を終え、花田先輩の試合を見て、二回戦を終え、穏乃たちの試合を見て

 穏乃たちと再会をして

 決意を新たに、私たちは準決勝に挑みました

京太郎「和、頑張って来いよ」

和「どこに行ってたんですか、皆さん心配してましたよ」

京太郎「悪い悪い、これ作ってたんだ」

和「……タコス?」

京太郎「そ、腹減ってるかなと思ってさ」

京太郎「俺からの差し入れって意味も込めて」

和「……ありがとうございます」

京太郎「もっとみんなの力になりたいけど、俺にはこれくらいしかできないんだよ、ごめんな」

和「いえ、気持ちだけで十分ありがたいです」

京太郎「そっか、あんがと」

和「いいえ、こちらこそ」

京太郎「頑張れ」



 ぽんと頭に置かれた手に優しく髪が撫でられる

 頭から須賀くんの温もりがあることが感じられると、笑顔の彼に目を向けるのが気恥ずかしくなり

 沸騰しそうな勢いの熱さが顔から広がっていきました

 須賀くんと別れた後もしばらく、その熱さは身体から放れませんでした

 



 須賀くんのタコスは絶品でした

 トルティーヤの中では食感を実感できるシャキシャキのレタスと、その冷たさに対を成す熱々の挽き肉が共存して

 柔らかい生地とそれより歯ごたえの増した瑞々しさ、反発する肉塊は居心地の良い食感を生み出す

 甘みを放つトマトが舌をリラックスさせ、口の中にどろりと広がるサルサソースが具のすべてを仲良くさせる

 居心地のいい食感と味わいがちょうどよく合わさり、噛めば噛むほど、感じれば感じるほどにその美味は幅を利かせていきます

 用意してくれていた紙のフキンで口周りのソースを拭き取り

 口の中に須賀くんの幸せが余韻を残したまま、私は対局室へ歩み入りました

 彼が応援してくれている限り、私は負けられない、負けない

 その決意を持って、卓に着きました

 ・  ・  ・  ・  ・

 ・  ・  ・

 ・

 父の声が脳裏に響く

 私は、最悪の結果を残してしまいました

 気付いた時には、順位は落とされ、最下位から点差を詰められ

 削られていく山に気を焦らせながら

 河が満たされていく度にため息を吐きながら

 私の背筋を、暗く熱い絶望が這っていく

 それは、半年前に味わったものよりも強力で

 私は無慈悲なブザーに居ても立ってもいられず、対局室を飛び出しました




 また、離れ離れになる

 私のミスのせいで、築き上げた関係が壊れる

 部長と

 染谷先輩と

 咲さんと

 ゆーきと

 須賀くんと

 みんなと離れてしまうなんて、辛い

 慣れていても、辛い

 ―こんなことになるなら、初めから誰とも親しくならなければよかった

 そう考えてしまう自分が、厭だ

 ―半年前と同じじゃないですか

 私は対局室を出ても、控室には戻りませんでした

 今は誰とも話したくなかったから



 ……だというのに、どうして


和「……どうして、貴方が」

京太郎「探したぞ、和」

和「……どうして」

京太郎「和はよく頑張ったよ」

京太郎「大丈夫、みんな何とも思ってないよ」

京太郎「また次があるし、咲が何とかしてくれる」

京太郎「ほら、戻って咲の応援しようぜ」

和「……次」

和「次、って何ですか」

和「貴方が、私の何を知ってると言うんですか」



 歯止めの利かない口が言葉の堰を切る

 視界が滲んで、首筋が熱くなって

 身体が震えて、言葉も震えて

 こんなこと言いたくないのに

 須賀くんに責任は無いのに

 また助けに来てくれたのに

 励ましてくれていたのに



――――何も知らないくせに!



.

.






 私は、最低だ







  続く

冬休み万歳、なお明日は三時起きの模様

遅れましたけど郁乃さんとエイスリンが可愛かったです、のよーさんの出番も増やしてほしいです、ニセコイのるりちゃん良かったです

次回更新は土日のどちらかに

それでは失礼します、おやすみなさい

開会式感動したーと思って寝たら起きたのが今から二時間前っていう

予告通り今夜投下します

違うわ、昼ごろに京尭落として二度寝したんだ



 
 昔、俺は事故に遭った

 それで脚を酷く骨折してしまった俺はそのまま入院することになった

 見舞いに来てくれる同級生もいて、入院生活に不満は感じなかった

 退院してクラスに戻ったが、小学生の人間関係の発展は案外に早く

 脚が痛むので外で遊ぶことのできない俺は、校庭でサッカーをして遊ぶ男子の同級生を眺めることしかできなくて

 女子のグループに混ざることもあまり上手にできなかった

 入院する前に仲良くしていた奴らは俺を外したグループで仲良くなっていて、俺は、孤独感と寂寥感を覚えた





 母の再婚が決まり、新しい父の転勤と共に、俺は東京から長野へ引越すことになった
 
 クラスでお別れ会が開かれたが、居心地は悪く

 別れの言葉も激励の言葉も彼らの笑顔もすべて全て取り繕ったもののように感じた

 二か月も学校を離れていた俺に向けられたものは全て薄っぺらいものに感じてしまった

 次第と俺は彼らの一言一句に虫唾が走るのを知った


 ―仲良くしていなかったくせに、こういう時に限って善人ぶるなよ

 ―仲間外れにしていたくせに、こういう時に限って友達だとか言うんじゃねえよ


 人と接することを放棄していた俺は、他人に責任転嫁をして情緒を乱し

 そのまま暴れた




 同級生と最悪の別れ方をしてしまった俺は、春休みに入って引っ越すまでの間、家に閉じこもっていた

 外でクラスの奴らに会ったら気まずくなるからだ

 その間、俺への来客はただ一人としていなかった

 優しい新しい父が構ってくれたが、俺は同級生たちに対するものと同じ感想を抱いた

 小学二年生の俺には、変わってしまった環境や新しい環境への適応力が足りていなかったのだと今になって思う

 ようやく迎えた引越しの日、俺は引っ越すことへの不安を誰にも吐き出せずに抱えてしまっていた

 引っ越して新しい生活をすることになるんだと実感したくなかった俺は、業者さんが来るまでに荷造りを終え、しばらく出ていなかった外へ出た

 同級生が来ないような、小さな公園で時間を潰していた

 唯一の遊具のブランコでふらふらしていると、不意に声をかけられた


「お隣、よろしいですか?」


 声の主は今まで見たことのない女の子だった

 同い年くらいの、めちゃくちゃ可愛い女の子

 



 二つのブランコが揺れて、金具の音が俺らの間に寂しく響いていた

 俺はいつの間にか、彼女に話しかけていた

 どうせ見知らない、今日一日だけの関わりしかないからと俺は悩みを打ち明けた

 クラスのお別れ会でしてしまったこと

 転校先での人間関係への不安

 その他

 一方的な俺の話を、彼女はしっかりと聞いてくれていて

 大人びた彼女はその身の上を話してくれた

 彼女の家は転勤族で今日ここに越してきたばかりだそうで、俺よりも別れを経験しているらしかった

 悩みに共感してくれた彼女に親近感が湧いて、自然と話が弾んだ

 他の人と話すのは楽しいな、と小学生なりの感想を抱いた





 長野では、もっといろんな人と話してみよう

 いろんな人と仲良くしよう

 彼女の回答を聞いて、彼女と話して、俺はそう思った

 胸の中を灰色に染めていた不安は彼女に退けられ、新たな希望を抱いた

 彼女との会話が、彼女の言葉が俺を救ってくれたような気がした
 

「もうすぐお昼の時間なので、お暇します」

――――あ、俺も昼飯だ

「では、途中まで一緒に行きましょうか」


 そう言って、微笑んで、

 差し出してくれた右手に、恩返しがしたくなった




.



 入試の日、彼女と再会したときは思わず目を疑った

 試験が始まってから、数順の会話をした彼女があのときの女の子だと気付いた
 
 横目から見ると、彼女は以前よりもずっと綺麗になっていて、特に一部分が著しい成長を見せていた

 運命の巡り合わせ、そんなオカルトに照れて、その日は彼女と話すことを避けた




 あのとき、差し出した左手
 
 教室のドアの前で立ち止まってる彼女に、踏み出した足

 一瞬だけ目が合って、ときめいた胸

 励ましてくれた彼女の、大声で押した背中

 勢いのまま、撫でた頭

 ―今までで、俺はどれだけ恩返しができたんだろう

 涙を見せながら走り去っていく彼女を見て、ふと考えた




 怒鳴られたあとで、彼女の事情に気づいた

 涙を見たあとで、彼女の心情を察した

 無神経なことを言ってしまった

 和は、苦しんでいたのに


――――恩知らずでごめんな 

 
 一人残された廊下で、呟いた




                           ,.ー-‐.、
                           ヽ、   ヽ  __

                           /,..-ニ‐- '"_,..)            / ̄\
        _,.‐-、                 ' ´/  , _ 、´              /     ヽ
         ' 、 .ノ    _ _         ,. ''" ,. -‐/ _  ̄\          /      _|
        r   ヽ  i'´ ` !       , ',. -一' ./..'/     .}      /      <_       ,..-、
         !    l i    ヾ、_   / ,. '′  ,..,.  ,/    ./        `ー-イ       \    /   ヽ
         !     ! し  , iヽ、i / /    {  \ヽ      i'        _,/      ,.イ ̄`'´ /!  ゙、
        l      ! /  ヾ |   ー'´        `´\ ヽヽ   !      / ̄          //    / /    |
       └! .i! .!┘ ヽ  r'´          ,.'⌒   `,. l   !     〈          \|     | |   |
         l !l .!   ヽ  !           ! ゝ-‐'´ /l  .!      ヽ   r/           ヽ/    |
        l .l ! l    i ゙、           \  /  }  .}ー"ヽ  ヽ ヽ__//  _    r、__,    ,、  __,ノ
         l .! l .!   | ト、゙、             `ヽヽ  j  ノ`ー-、   }   ./  / |   |   ≧、__|  ̄
 ____r' 」 l、゙、_ノ」__ン____________゙、`'   /__ ヽ/_/ ./ |   |________
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ }   ./ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄"'´ ̄ ̄ ゙、.   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                ヽノ               ヽ、ノ



第六話 差し出してくれた右手

京太郎「和、か」

和「……はい」

和「応援してくれたのに八つ当たりしてしまって、ごめんなさい!」

和「私……どうかしていました」

京太郎「んなことねえよ」

京太郎「むしろ俺の方がごめん」

和「どうして須賀くんが謝るんですか」

京太郎「俺と和はこれでいいの」

和「訳が分かりません」

京太郎「まあわからなくていいよ」

和「なんですかそれ……」

京太郎「つか、そろそろ晩飯食べに行かないん?そっちはもう時間っしょ?」

和「夕食は各自自由で外で食べてきていいそうです、東京を満喫しなさい、と」

京太郎「えっ、俺聞かされてないんだけど……」

和「でしたら、一緒に食べに行きませんか?」

京太郎「おっけ、奢るぜ」

和「お、奢られるなんてとんでもありません!私が奢りますよ」

和「私は須賀くんに恩があるんですから」

京太郎「恩……か」

和「はい!ですから今夜は私が持ちます」

京太郎「それなら尚更俺が奢るよ、努力賞だ」

和「だからいいですよ」

京太郎「いいよ、俺が奢る」

和「ダメです」

京太郎「俺が!」

和「私が!」

京太郎「俺!」

和「私!」

ハギヨシ「いいからとっとと行かんかい!」

京和「「ハギヨシさん!?」」

京太郎「東京は夜でも暑いな……」

和「ですね……」

京太郎「買い出しに行ったときに良さげな店があったから、入ってみたけどやっぱいい感じだな」

和「そうですね」

和「イタリアン、須賀くんは何が好きなんですか?」

京太郎「俺はカルボナーラとか、ピザはマルゲリータかな」

京太郎「そうそう、知ってるか?」

京太郎「元々イタリアでは前菜にスープかパスタが出るんだ」

京太郎「だからどちらを選んでもいいようにスプーンとフォークが置いてあるだけで、両方使えって意味じゃないんだけど」

京太郎「それを間違って両方使ったのがアメリカ人でそれを真似したのが日本人らしいぜ」

和「龍門渕さんも同じことをおっしゃっていたような……」

京太郎「そっか、結構有名なんかな」

和「……須賀くんが私を名前で呼んでくれるのに私が名字呼びなのはおかしいですよね」

京太郎「すっごい今更だな」

和「だから長野に帰るまでは須賀くん呼びを変えられるように頑張ろうかと」

京太郎「今日この瞬間とかじゃないんだ!?」

和「ふふっ、冗談ですよ、京太郎くん」

和「もっと早くから呼べればよかったんですけど、時間かかってしまいましたね」

京太郎「な、なんかこの間と比べてあっさり……」

和「京太郎くんの方があっさり呼んでくれたじゃないですか」

京太郎「そうかぁ?」

和「そうですよ」



 いつも他愛ないけど、いつも少しの変化がある

 そんな会話を繰り広げる俺たちの関係がもっと続いてほしいな、と思う

 どちらも恩なんて関係なく接することのできる関係でありたいと、いつからか思うようになった

 だっておっぱい大きいし、可愛いし

 俺の方が恩恵を受けているのだから、和の恩返しはすべて有耶無耶にする

 恩返しのつもりは無かった再会したときのはとりあえずノーカンだとして、

 和自身は憶えてない、あのときの恩をいつかはちゃんと返したい

和「私が払いますよ」

京太郎「いいからいいから」

和「……じゃあ私も払います」

京太郎「いや、それは面倒くさいからさ」

和「……この恩知らず」

京太郎「それ、使い方違くない?」

和「受けた恩を知らない、と言う意味なので合ってます」



 それはこっちの台詞だ、と言いたくなるけど黙っておこう

 財布を取り出して、こっちを見て機嫌の悪そうな店員さんに英世先生を差し出す

 店員さんは多分、俺たちが金払うのが遅いから怒ってるんだろう

 そして、俺はふくれっ面の和にこう返すんだ



京太郎「恩知らずでごめんな」





  ずっと続く

約一か月間お世話になりましたー

えっ

こういった終わりもまた良し
乙です

次回作予定あります?

乙ありがとうございます

明確な終わりにさせない〆に挑戦してみたんですけど失敗みたいですね、私は書きたいものが書けたので満足ですけれど

エピローグは書けて木曜日辺りになってしまうのですが、要りますか?

乙です

長野から東京に行くには新幹線でなく特急電車な

明確な終わりにさせないエンドは
それなりに長い話の終わりにもってこないと
ただの途中放棄にしか見えない場合がある

了解しました、エピローグ有りで

>>283
次は怜春えり憧塞灼成良泉憩のどれかになると思います

>>288
東京に行くのは新幹線に乗ってたみたいなんですよね

>>290
ああ、なるほど確かに、以後気をつけます
アドバイスありがとうございます

では木曜日か金曜日にでもまた来ます

京太郎『……つうわけだから』

京太郎『和は恩返しとか考えなくてよかったんだよ』

京太郎『ずっと俺が恩返しする側なんだ』

和『納得できません』

和『私が忘れてしまったことの恩返しなんて要りません』

和『私が恩返しをするべきなんです』

和『京太郎くんがいたから、私は今こうしてここにいるんですよ』

京太郎『そんなの俺だってそうだ、和がいなかったら今の俺は無いんだよ』

京太郎『和が答えてくれたから、俺はまた和に会えたんだ』

京太郎『和がいてくれたから、俺は和を救えた』

京太郎『俺は、何もやってないんだよ』

和『……納得できません』

京太郎『それにさ、恩返しするっつっても俺は和には十分恩返ししてもらってるよ』

京太郎『俺のこと応援してくれて、麻雀も勉強も教えてくれただろ』

和『そんなことは京太郎くんも同じですよ』

和『京太郎くんも私を応援して、放課後は家まで送ってくれて』

和『休日でも、今日みたいに遊びに誘ってくれるじゃないですか』

京太郎『いや、それは、俺が……』

和『俺が?』

京太郎『俺、が……』

京太郎『…………』

京太郎『今は……言えない』

和『そう……ですか』

京太郎『……あ、もう着いちまったな』

和『……もう、ですか』

和『今日はありがとうございました』

京太郎『おう、また明日、学校でな』

和『……京太郎くんといる時間は、楽しくて、好きです』

和『京太郎くんが楽しい時間をくれるので、しっかり恩返しはされてますよ』

和『私にまだ恩返しがしたいと言うのでしたら、また今度、楽しませてください』

和『納得は、していませんけれど』

京太郎『……なら、また誘うわ』

和『楽しみにしてます』



 インターハイが終わり、俺が和を誘ってプールへ遊びに行った日の帰り道で、俺は和に昔のことを打ち明けた

 高校生の俺の最後の夏が終わって一区切りがついたから、和に話す決心がついたんだ

 やはり和は俺との出会いを憶えていなかったようで、故に俺はこんな感じで和と揉めてしまった

 ……遊びへ誘うのが恩返しなんて思ってはなかった

――――今は……言えない

 いつかは言ってやる、そう決めた

 そう決めてから、もう半年が経った



 ダメじゃん



 長野の雪の脅威はようやく撤退を始めたようだ

 高校生活最後の日に相応しく空は蒼い顔をのぞかせている

 春とはとても言えないような寒さが道を行く高校生たちの背中を丸めさせる

 茶色やら紺色やらのコートとひらめく青いスカートの下には黒に包まれた脚が目立つ

 黒ストに締められた脚って至高だよね

 まあ、去年のプールに和が着けて来たビキニと溢れんばかりのおっぱいの方が究極だったけど

 ……なんで二人だけで行ったのに何も言えてないんだよ、俺

 竹井部長がいなくなってから、染谷先輩がいなくなるまでの時間は早く経った

 和が部長になってから、今までの時間はもっと早く経った

 ちなみに俺は元副部長、この三年間で男子部員の入部は0

 笑えてくる、実績無いから仕方ないけど0って言う数字は笑えてくる

 女子はあれから六人入ったって言うのにさ……はぁ

 俺の大会の戦績はあまりぱっとしない、精々去年のインターハイで4位だったことぐらいしか目立ったことが無い

 4位なので決勝卓で目立った1位、2位の人とは違って俺にはインタビューとか全然来なくて俺は空気同然だった、泣いた

 だけどおかげで和のおっぱいで疑似ぱふぱふができたから結果オーライだった

 ありがとう、なんか顎の尖った人

 二年弱をかけて、俺と和の関係は名字呼びから名前呼び

 前はごくまれに部活の帰りに家まで送ってたけど今は勉強のためにお互いの家を訪れるように……

 そんな感じの進展を果たした……だけ

 お、これいけるんじゃね?と思うような雰囲気になったことは結構あったけど怖気づいて何もできないばかりだった

 咲にヘタレヘタレ言われるようになったのが癪に障る今日この頃である

 俺だって何もしなかったわけじゃないんだけどなぁ

 ……こぼれるあくびを塞いだ拍子に細めた目がなじみのピンク色を捉えた

和「ほろほろははひへふへはへんは?」

京太郎「和のほっぺが柔らかかったから仕方ない」

和「変な責任転嫁しないでください」

京太郎「ホント柔らかいんだよ和のほっぺ、魔性のほっぺだなこりゃ」

和「何ですかそれ」

京太郎「吸い付いたら離れられない、もっちもちのほっぺ」

和「そこまでですか?」

京太郎「なんなら俺と比べてみろよ」

和「……はぁ」フニッ

京太郎「……和の指もやわらかいな」プニッ

和「勝手に感じないでください」フニーッ

和「こんなとこ、知り合いに見られたらどうするんですか」

京太郎「ダイジョーブダイジョーブ、先っちょだけだから」

裕子「ちょっ、二人とも!邪魔するなって!」

京太郎「ん?」プニッ

和「今の声は……」フニッ

マホ「おはよーございます!」

裕子「すいません、こいつら黙らせます」

ミカ「柔らかい……吸い付く……感じる……勝手に……先っちょ……」カァァ

京太郎「何か発想がおかしい子がいる!?」

裕子「私たちは先に講堂行くので、さよなら」

マホ「また放課後に会いましょー!」

ミカ「失礼します」

京太郎「……仲良いな、あいつら」

和「私たちの学年も似たようなものですよ」

京太郎「あー、そうかもな」

優希「よっ、京太郎!」バシィッ

京太郎「なんで鞄の角で叩きやがったこんにゃろー!」クワァッ

咲「優希ちゃん!京ちゃんも……」

和「まあ放っておきましょう」

和「あの二人は本当に変わらないですよね」

咲「あはは――だね」

咲「――和ちゃんは、変わりたいと思う?」

和「どういう意味ですか?」

咲「そのまんまかな」

和「変わる……ですか」

京太郎「ぎゃーっ!モモカン入ったぁーっ!」ゴロゴロ

優希「ざまあみろだじぇ!」

和「……はい、今日こそは」

咲「そっか、頑張ってね、応援してるよ」

和「はい……絶対」

 高校三年生になって、京太郎くんと私は同じクラスになりました

 一度目の席替え以来、私と京太郎くんは隣の席になり続けていました

 部活の書類関係などの雑務は部長の私と副部長の京太郎くんとでこなすことが多くなり、同じクラスなので昼食は大抵一緒に食べていました

 誕生日を祝ってもらって、祝ってあげて

 遊びに連れて行ってもらって、お宅にお邪魔して勉強を教えてあげて

 私と京太郎くんの距離は一年生の時よりもずっと近づいたと思います

 ―でも、もっと近づきたい

 いつからか、ゆーきと仲良く騒ぐ京太郎くんを見ていると胸がふつふつとざわついて

 京太郎くんに頭を撫でられる咲さんが羨ましくなって

 クラスのあちこちで会話を繰り広げる京太郎くんを目で追うようになって

 京太郎くんに家まで送ってもらった日の夜は胸が押し潰されるような、でもどうすることもできない変な感触を覚えていました

 これが、京太郎くんへの恋心であることを実感したのは、いつでしたっけ

 卒業式はあっという間に終わり、裕子たちが開いてくれた送別会もとても楽しいものでした

 このあとのことは任せてください!と胸を張る裕子、鼻水を垂らして涙を流すマホと、マホを慰めているはずがもらい泣きをしてしまったミカ

 他の子たちも、私たちのことを惜しんでくれました


「原村部長、御達者で!」

「優希先輩!私、優希先輩みたいに強くなります!」

「宮永先輩はずっと憧れてました!大学リーグでも頑張ってください!」



「……俺は!?」

 泣いて、笑って、みんなと別れたときにはもう家屋から漏れる明かりと街灯ばかりが目立っていました

 一日経っても、何も変われなかったなぁ……

 大きく白い息を吐いていると、後ろから声がかけられました

 聞き慣れた、優しくて、時々格好よさを見せる声

 声の主は京太郎くん、私のため息の原因でした

 ここ暗いから送ってくよ、と手を握った京太郎くんに頷きました

 まばらな街灯が照らす道

 何度も二人で歩き慣れた道

 私と京太郎くんとの二人っきり

 思い出話に花を咲かせながら、二人で歩く

 二人で星空を見上げて、これは何座だとか適当な話をして過ごす帰り道

 いつもとあまり変わらない帰り道

 気が付くと話は途切れていて、二人して俯いていました

 いつもありがとうな、と徐に顔を上げた京太郎くんが笑いました

 こちらこそ、と返して私たちはまた黙りこみました

「和ちゃんは、変わりたいと思う?」


 ……そうだ、これは最後の機会

 これを逃せば、同じ大学とは言え、京太郎くんが他の子に奪い取られてしまうかもしれない

 たった一言、しっかりと口に出せばいい


「一回勇気を出すだけ、もう少しだけ精一杯」


 頭の中で決心がつきました

京太郎「あー、あのさ、俺、和に言いたいことがあるんだ」

和「え?」

京太郎「言いたい、ってか言わなきゃいけないこと」

和「……奇遇ですね」

和「私も、京太郎くんに言いたいことがあります」

京太郎「……そっか」

京太郎「じゃあ、同時に言ってみるか」

和「……ええ、そうしましょう」

京太郎「おっけ、んじゃ――――せーの!」





 言葉が、重なる


 二つの音が、重なる


 沈黙が、重なる


 笑い声が、重なった



.

エピローグ 重なる心

以上で完結でよろしいですよね

アイスホッケー三戦に最新話で憩ちゃん滅茶苦茶かわいい再登場に良裕増量で試験勉強さえ無ければ今週はいいことばかりで喜ばしい限りです

次はいつになるかわかりませんが、怜、えりちゃん、成香、良子さん、はるるのどれかにします

いつか私のSSを読む機会があれば、読んで下さるとありがたいです

それではまた、どこかのスレで


質問などあれば、どうぞ


憩ちゃんはよ

乙です
アイスホッケーといえば>>1はホッケーマンだったっけ


他に書いたSSありますか?

えりちゃんとか敬語使う人と組ませると京太郎っぽさが出ないのってなんだろうね、あれ

>>337
憩ちゃんはまだ大雑把な感じのイメージしか出来てないので当分先っす
いくのんもエイスリンも霞さんも書きたいんですけどムリポ

>>339
下手の横好きで10年程ですが、そんなことよく覚えてましたね

>>340
京太郎「清々荘にて」
京太郎「そっくりさんカーニバル?」


もう何も無いようなので失礼いたします

一ヶ月の間お付き合い頂きましてありがとうございました

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