櫻子「就職決まった」撫子「おお、やったな」(110)

撫子「それで、どこの企業?」

櫻子「工場! イトイロボウとかいうとこ」

撫子「糸井……きかないなぁ。事務?」

櫻子「食べ物つくる」

撫子「あんた機械とか大丈夫なの?」

櫻子「手づくりだとかなんとか」

花子「食事当番もサボろうとするくせに」

櫻子「これからはプロだからな。お金とるぞ」

撫子「なんにせよ、よかったよ。おめでと」

櫻子「じゃあ向日葵に報告してくるよ」

撫子「うん。ひま子も心配してたからね、安心させてあげな」

花子「櫻子」

櫻子「ん? なんだ」

花子「……うちから通うし?」

櫻子「いや、寮に入る」

花子「……そっか」

櫻子「もしかして私がいなくなって寂しいか? 花子」

花子「黙れ。さっさとでてけし」

櫻子「おおこわ」

花子「いつから?」

櫻子「来週」

花子「そっか」

花子「休みにはちゃんと帰れし」

櫻子「寂しいのか?」

花子「黙れし」

櫻子「でも研修があるから頻繁には無理だろうな」

花子「……まぁ、甘えを叩き直してもらえし」

櫻子「お給料入ったら札束でビンタしてやるからな」
花子「じゃあお給料もらったらまっすぐ帰ってこいし」

櫻子「寂しい?」

花子「黙れし」

櫻子「おっと、向日葵のとこいかなきゃ。じゃあな」
花子「櫻子」

櫻子「なんだよ」

花子「おめでとう」

櫻子「ありがと」

花子「じゃあ」

櫻子「いや、来週までいるからね?」

花子「チッ」

櫻子「最後までひどいな、お前」

櫻子「――というわけだ」

向日葵「みんな心配してたんですわ」

櫻子「まぁ、私の実力ならちょろいもんさ!」

向日葵「……しばらく会えませんのね」

櫻子「毎日メールとか電話するよ」

向日葵「……はい」

櫻子「そんな顔すんなよ。辛くなっちゃうだろ」

向日葵「……そうですわよね、ごめんなさい」

櫻子「いっぱいお金ためてさ、美味しいもの食べたりどっか旅行いったり、そんで――」

向日葵「それで?」

櫻子「いつか一緒に暮らそ」

向日葵「はい」

櫻子「ご飯できたよー」

撫子「ずいぶん手の込んだもん作ったね」

花子「明日は雹だし」

櫻子「お前は食べるな」

撫子「はりきるのもいいけど、無理はしないでよ」

櫻子「夢と希望にあふれてる私は止まらない」

花子「ひま姉と一緒に暮らす前に倒れたら元も子もないし」

櫻子「なっ!? お前なんで知って――」

撫子「ひま子が熱く語ってたよ」

櫻子「あのおっぱいめ……」


撫子「なんにせよ、希望を持つのは大切だよ」

櫻子「行って来ます」

「行ってらっしゃい」

櫻子「あ゙ー疲れたー!」

櫻子「まぁ、でも初日だからな。そのうちなれるだろ」

櫻子「おっ、向日葵からメールきてる! さみしがりやめ」

櫻子「じゃあとりあえず花子に写メ10通送って……よし」

櫻子「向日葵に電話しよっと」

櫻子『おっぱい、元気?うん、うん。いや、楽勝――』

櫻子「今日も疲れたなぁ」
櫻子「明日も仕事かぁ……Zzz」

櫻子「!! あ、メール返さなきゃ」

櫻子「……今日は電話いっか」

櫻子「メール、メール……」

櫻子「ただいま」

櫻子「メール……明日でいいや」

櫻子「……ハァ」

花子(最近、櫻子から連絡ないし……)


花子「まったく、世話がやけるし」

花子「えっと、櫻子の職場の住所は……」

花子(……なんかここ寒いし)

警備員「関係者以外は立ち入り禁止だよ」

花子「あ。あの、大室櫻子の――」

警備員「関係者以外は立ち入り禁止だよ」

花子「いや、社員の家族――」

警備員「関係者以外は立ち入り禁止だよ」


花子「……なんだし」

花子(気味の悪いやつだし)

花子「すいません、工場見学を――」

受付「申し訳ございません。見学はお断りしております」

花子「あ、予約がいるなら改めて――」

受付「申し訳ございません。見学はお断りしております」

花子「なんなんだし……」
受付「申し訳ございません」

花子(仕方ない、とりあえず帰るし)

受付「――はい。はい。お客様」

花子「ん?」

受付「少々お待ちください……はい…女の子です……やせ形……血色はよし…はい…はい…独りです……はい」

花子「?? あの、なn」

受付「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」

花子「えっ?」

受付「こちらにどうぞ」スタスタ

受付「担当の者をお呼びしますので少々お待ちください」

花子(見学お断りのくせに担当? 意味がわからんし)

工場長「お待たせしました。見学をご希望で?」

花子「あ、はい。突然押し掛けて申し訳ございまs」

工場長「いえ、現在不足していたので大歓迎でございます」

花子「不足?」

工場長「では参りましょう」

工場長「見学ご希望ということは入社を検討いただいてると考えてよろしいでしょうか?」

花子「(櫻子どこだし……) は、はい」

工場長「ありがとうございます。お客様、この工場で何を製造しているかご存知ですか?」

花子「え、たしか……ハンバーグ」

工場長「はい。それも特別な肉を使ったハンバーグです」

花子「特別な肉?」

工場長「申し訳ございません。企業秘密です。入社いただいたならお教えできるのですが」

花子「は、はぁ……」

工場長「特別な肉を手捏ねで作るのです」

花子「(たしか櫻子は『作る』って言ってたし!) ぜひ、その行程を見学したいのですが……」

工場長「お客様は他のセクションの方がよろしいと思いますが……」

花子「いえ、ぜひ手捏ねを!」

工場長「……まぁ最後は同じかぁ」

花子「えっ」

工場長「いえ、かしこまりました。こちらです」

花子(櫻子ぉ……)

工場長「こちらです」

花子(遠くてよくわからんし……)

工場長「送られてきたタネをぺちぺちこねこねするのです」

花子(――! 違ったし……)

工場長「始業から終業までぺちこねぺちこねぺちこねぺちこね」

花子(白衣にマスクだからみんな同じに見えるし)

工場長「実に単純でやりがいがある仕事です。入社します?」

花子「あの……」

工場長「アルバイトでも結構ですよ」


花子「もっと近くで見学したいのですが」

工場長「……チッ」

花子「ダメですか?」

工場長「構いませんよ」

花子(これでもっとわかるし!!)

花子(これ本当に……人間?)

ペチ…コネ…ペチ…コネ…ペチ…コネ…ペチ…コネ…ペチ…コネ

工場長「みんな夢中でやっているでしょう?」

花子(……怖い)

工場長「手捏ねは30人で担当――」

ツカレタァ…

工場長「!!」

警備員「……お前、休憩するか」


工場長「続けましょう。現在、手捏ね担当は29人おります」

花子「あの人だけ休憩なんですか?」

工場長「みんなの士気を下げたらダメですよねぇ」

工場長「さぁ次に行きましょう」

花子(櫻子――あっ!!)

櫻子「……」ペチ

工場長「どうしました?」

花子「もう少しだけ……入社のために…」

工場長「わかりました。作業員の邪魔はしないでくださいね」

花子「櫻子」ボソッ

櫻子「……」コネ

花子「なんで連絡しないし」ボソッ

櫻子「……」ペチ

花子「みんな心配してるし」ボソッ

櫻子「……」コネ

花子「撫子お姉ちゃんも、ひま姉も」ボソッ

櫻子「……」ピクッ

花子「……後でまた話すし」ボソッ

櫻子「……」

工場長「いかがでしたか? 入社の意志は」

花子「ますます強くなりました」

工場長「それはそれは。では――」

花子「こちらは寮もあるのでしょうか?」

工場長「もちろんございます。こちらへ」

花子(大室、大室……よし259室か)


花子(郵便受けにメモはいれたし。あとは夜だし)

花子(櫻子、櫻子)キョロキョロ

櫻子「……花子」

花子「櫻子! なんでずっと連絡しないんだし!」

櫻子「……ごめん、働くのが精一杯で……休みもずっと寝てて……」

花子「みんな心配してたし! そんな痩せこけた顔して……」

櫻子「……ヒック ヒック」

花子「そんなに辛いなら辞めればいいし。ここなんか変だし」

櫻子「辛い……辞めたい……でも無理だよ」

花子「なんでだし?」

櫻子「私……馬鹿だから……他のとこは雇ってくれないよ……」

花子「なに言ってるし!!」

櫻子「だって向日葵と約束したんだ! 『一緒に暮らそう』って」

花子「……」

櫻子「だからお金ためなきゃ。辛くても辞めたくても頑張らなきゃダメなんだよ」

花子「でも――」

櫻子「それに、私を拾ってくれたのに裏切るなんて……」

花子「!? それは違うし」

花子「ここは櫻子を利用してるだけだし」

櫻子「お前なに言って――」

花子「みんな痩せこけてるのに工場長は一言も触れなかったし」

櫻子「でも工場長は『そろそろ人が増えるから就業時間が短くなる』って言って……」

花子「櫻子が入ってから周りの人はどうなってるし」
櫻子「……みんな違う部署に異動してる」

花子「顔みたし?」

櫻子「……最近みてない」
花子「櫻子、おうち帰るし」

 _| ̄|_    //ヽ\

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   l|       \ l 彡l     ;. l |     | !
   |l      トー-.   !.    ; |. | ,. -、,...、| :l
   ll     |彡     l    ; l i   i  | l
   ll     iヾ 彡     l   ;: l |  { j {
   |l     { 彡|.      ゝ  ;:i' `''''ー‐-' }
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  |!  |!  |!   l彡|    ::.     `ー-`ニ''ブ
  o  o  o   l      :.         |

櫻子「ダメだ! 私は向日葵との約束守るんだ!!」
花子「いままさに約束破ってるし」

櫻子「何言ってんだ!」

花子「『メールとか電話する』って約束は?」

櫻子「うっ、でも……」

花子「ひま姉ずっと泣いてるし」

櫻子「そろそろ休みがとれるんだ、そしたら――」

花子「前も言ってたし」

櫻子「……」

花子「櫻子、なんのためにお金貯めてるし?」

櫻子「言ってるだろ、『向日葵と一緒に暮らす』んだよ」

花子「『一緒に』だし」

櫻子「え?」

花子「いまの櫻子は頑張ってお金ためて、ひま姉を独りぼっちにしようとしてるし」

花子「櫻子」

櫻子「……なんだよ」

花子「ひま姉のメール読んでるし?」

櫻子「……最近は読んでない」

花子「みてみるし」

櫻子「……」カチャ

[体にだけは気を付けなさい]

向日葵『そうそう看病に行けませんから、風邪には十分気を付けなさい』

櫻子『わかってるよ、うるさいな!』


[なんなら櫻子の一人や二人、私が養いますわ]

櫻子『……またお祈りメール』

向日葵『いままでの会社は櫻子に合わなかっただけですわ』


[逢いたい]

櫻子『いつか一緒に暮らそ』

向日葵『はい』


櫻子「……」

櫻子「……ヒック ヒック」

櫻子「私も向日葵に逢いたいな……」

花子「ここを出れば会えるし」

櫻子「……また就活か」

花子「……難しいのと出来ないのは違うと思うs」

ダッソウダー

ツカマエロー

櫻・花「!?」

    -  - 、     __           ___
  /(● ●)ヽ   /- -\       /     \
  ゝ (_人_)_ノ  / (● ●)ヽ   / ─   ─ \
  f´     ,.}   ム  (_人_) ノ.  /  (●)  (●) \
  ,ム ィ´_}._.小. / .`   ̄  _`Y |     (__人__)    |
  Y.ゝ‐´   |. ∨ーfト. __ . 、 廴}|  \    `⌒´    /
  :| ヽ ゚ .ノ!゙1 /:|       ト._リ  ,。-`   ー‐   く
 .弋._ノ`{:  | 弋リ f、   。  |   /            }
       }、.ノ     ! ` 、_ .ノ!   |   {_ .-、      f: メ.
     {. リ    ‘.   :|'__ノ    l  / 三! .  ノ|´ l
     弋_)      マ リ       マ   ア~    ̄ !、 ‘.
               { ー'|       〉r‐'       l! マ 〉
             }: {       i |    o    ハ `´
              { ヘ         | } 、      ノ !
              ̄       l   `::ァγ´   :!
                    ゝ==イ `|    ,'
                             ‘.   /
                             ハ  ,{
                          | ¨ リ
                         }  /
                           |  {
                           廴. 〉

工場長「何事だ!!」

警備員「懲罰室のやつらが逃げ出したとのことです!」

工場長「拾ってやった恩を裏切りやがって……」


櫻子「あ! あの人、つれてかれた人だ!」

花子(『休憩』の人もいるし)

櫻子「花子、今のうちに逃げよう」

花子「うん。早くみんなを安心させろし」

撫子「連日ニュースだね、まったく」

花子「強制労働が明るみに出たから当然だし」

向日葵「まるでシベリアですわね」

撫子「まぁ、櫻子が無事で何よりだよ」

花子「また真面目に就活したのが驚きだし」

向日葵「今日の最終面接、大丈夫かしら……」

櫻子「ただいまー」

撫・花・向「!!」

櫻子「再就職決まった」

花子「よかったし」

向日葵「おめでとう」

撫子「今日受けたのはたしか……」

櫻子「オワタ水産」



おわり

遅くまでありがとう

何とかまとめようとしたらこうなたよ

おやすみ

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