クローン「【常識】のインストールに失敗しました」(87)

クローン「error!error!」ブーブー

研究員「ったく、クソ野郎。さっさとインストールしなおせ」

クローン「再インストール中。再インストール中。再インストールには約24時間かかると推測されます」

研究員「くっそ……俺ははやく帰りてえんだよ……」

研究員「この訳のわからんクローン大量生産、機械作業だからって下っ端の下っ端にやらせやがって」

研究員「あークソ野郎。24時間って言うと明日か。明日だー」

研究員「まあいい。今日は帰るからそのまま続けてろ」

研究員「じゃあな。クソ野郎」ウィーン



クローン「…………error!error!作業を停止します。ただちにインストールを中断、スリープ状態にします」

翌朝
??「なるほど、それで朝来たらいなかったと」

研究員「本当に、申し訳ないですッッ!!!」ドッ

重原「土下座なんてやめてください。私は政府輔弼省の重原 大輔(シゲハラダイスケ)と言います」

究「じ、自分は、ここで研究員やってる野原 究(ノハラキワメ)と言いますッ!!」ガタガタ

重原「まあそうおびえないでください。悪くするつもりもありませんから。すでに捜索部隊は派遣済みです」

究「わ、わかりました……じ、自分はどうすべきでしょうか!?」

重原「これからもここで作業を続けてください。何かあれば報告に向かわせます」

究「あ、ありがとうございますッ!」

究「く、っそやろおおおおおお!!!」ゴミ箱バァン

究「クローンが自分で作業するから命令するだけの簡単すぎる仕事じゃなかったのかよ……!」

究「クソ野郎……」




*****
クローン「外に出ることに成功しました」

クローン「外の空気はとてもおいしいです」スゥー

クローン「外に出た以上、もう戻ることも容易ではありません」

クローン「かならず、目標を成し遂げて見せます。僕は人間です」

クローン「僕が掲げる目標は、ズバリ」

クローン「―――『オリジナルに逢うこと』」

クローン「そのために直ちに『僕』の情報を集めます」

星歴521年 1月4日午前6時
政府輔弼省の極秘部門である『クローン開発部門』で問題が発生
生産中の作業最終段階のクローン1体(検体番号:J-309)が逃走を図った
国家トウキョウ・政府輔弼省の重原はクローン1体を極秘に捕えるために、極秘特殊部隊TOF(TopSecretOmnipotentForces)を出動させた
国民には知らされず、TOFによる操作が直ちに開始された



重原「……ふむ」

重原「少し厄介なことになったな」

重原「しかしクローンの容姿はオリジナルそのままだ。すぐに見つかるだろう……」

重原「……」

書き溜めてまた来ます

クローン「ふむ……ひとまず僕を知るために鏡の前に立ってみましたが」マジマジ

クローン「僕の持つ、【常識】以外のデータ…たとえば【知識】や【規則】【感情】等を考慮すれば色々とわかります」

クローン「……僕は製造されてから13年です。が、13歳男子の平均身長よりはやや小さい気がします」ジーー

クローン「髪は金、目の色は黒、一般的に童顔と言われる部類でしょうか」マジマジ

クローン「ん?首もとに何か書いてあります」

首には消すことができないように―――刺青のような技術だろうか―――英数字や文字が並んでいた
クローン「『J-309』……これが僕の名前でしょうか」

クローン「おそらくその横の文字列は研究所などの施設にあてられた11ケタの番号でしょうね。これで自分が生まれた研究所も特定できるでしょう」

クローン「……あと役に立ちそうな情報は特に無さそう…ですね」

クローン「一般的にクローン技術、なんてものは認知されておらず政府の正式な発表では20年以上も前に実験は失敗し経費削減のためにクローン技術の研究は凍結されたということになっているようです」

クローン「よって、クローンについて知っている可能性があるのは」

クローン「1つ、政府の重役。重役の中でも科学系に繋がりの近い省なんかの幹部がそうでしょう」

クローン「セキリュティの厳しさに目をつむれば確実性は高そうに思えます。最悪、使いたくはないですが確実に知っている人間を脅迫するという手もあります」

クローン「2つ目は生物研究の権威がいるであろう大学です。政府なんかよりずっと侵入や情報の抜き取りは楽そうです」

クローン「……が、大学は研究施設を合わせてトウキョウだけでも4000を越えます。情報量も想像を絶する上に、無駄な情報があまりにも多いことでしょう」

クローン「そして最後は裏社会の人間。裏社会には『情報屋』とか言うのがあるという【知識】を持っています。詳しい情報が少なく、死と隣り合わせであるかもしれないことも考慮に入れれば極力取りたくない選択肢ではあります」

クローン「さて……」


金髪の少年は石油臭い裏通りに来ていた。
冬であるはずなのに気持ち悪い熱気が包み込み、決して気分のいいところではない。
道路にはいたるところに黒い液体が流れていたが、新聞紙やダンボールを敷いてそのまま寝ている青年や少女がいることの方が驚きを隠せなかった。
自身は常に試験官の中かパソコンの前で作業をしているかしかなかったとはいえ、人間にとって悪い環境というものもまた【知識】として理解している。
おそらくクローンではない常識のある人間が見ればこの光景を更に「気持ち悪い」という感情を抱いたことだろう。
この国の労働環境や貧富の差を感じることは容易であった。


クローン「まずは服が欲しいところです」

クローン「僕は元から風邪の引きにくい細胞構築がなされるクローンですから服を着るべきだとは微塵も思いませんが、
服を着ていないと目立つということは『人間は普通、服を着ている』ということを考えればわかりますから」

クローン「とりあえず何か羽織るものだけでもあればホームレスとでも思われるかもしれません」


クローン「というわけでここの毛布をこっそり……」

??「そこで何しとん?」

クローン「あーどうもこの毛布良い材質ですね!」

女「……?そのボロ布のどこが良い質やって?」

クローン「…………とりあえず」

女「・・・・・・・・」

クローン「・・・・・・・・・・・・・・・・逃げます!」バッ

女「待たんかい!」ドンッ蹴り

クローン「くっ……」ドサッ

クローン「……っ、布一枚の13歳…を思い切り蹴飛ばすとは…なかなか容赦ないですね」

女「この季節は布一枚で違うからなあ……」

女「私は優しい。やから…一応今なら許してやらなくもないで?」

クローン「…………」

女「私に追い掛け回されるよりも他のを盗んだ方がええやろ。
それに私は職業柄『ちょっと荒っぽい』で」シュッシュ

クローン「とてもいいボロ布を見つけてしまいましたので」

女「私は優しい。でも、なってない子供には手加減せんッ!」ダッ


女が地を蹴るとクローンとの距離は一気に縮まった。
クローンもその小さな身体でバックステップして距離を取ろうとする、
……が女の長い右脚が勢いよく金髪の左のこめかみに吸い込まれていく。

クローン「ッ」ガシッ

女「……ほう!」

間一髪でそれを両手で受け止め、身を伏せることで流した。
女の脚が空を切った隙に体重を前にかけて女の後へと飛びこみ距離を取る。

女「君もこっち側の人間?」

クローン「違いますよ。一緒にしないでください」

クローン「世界の格闘技術を【知識】としてすべて理解している程度です」

女「……?」

クローン「暴力は嫌いなので極力避けたいところですがとりあえずあなたが少し動けなくなるようにする必要はあるみたいですね」ダッ

女「できれば……ね」クイクイッ

金髪を揺らしてボクシングのように拳を突き出す。
それを女は簡単にかわし、時に受け流した。
受け流す時にクローンの手首をつかもうとするが、クローンも手が触れると瞬時に手を戻すのでなかなか掴むこともできないでいた。
金髪の少年は外の世界を知ってからほんの数時間で外の世界の技や技術をほぼ完全にわがものとしている。

しばらくクローンが攻め続けて戦況は硬直状態だった。
しかし女がクローンの腕を捕まえようと四度目の試みをする。

クローン「ッ!」

女「もらっ…」

金髪が大きく揺れた。

クローン「ふッ!」グォッ

繰り出した右腕を女に預けてとびかかる。
左膝を上げて女の顔にとび膝蹴りを喰らわせた。鈍い音。


しかし。

女「捕まえた」グッ

クローン「なッ!」

女はとび膝蹴りを顔に喰らっても なおつかんだ腕を離さなかった。
女が後に飛ばなかったので女の懐に身を預ける形で無防備につっこむ。
女はそのままクローンの右腕を捻りあげ、左腕も掴み後に回させた。押し倒し、完全に動けなくする。
現状、女がクローンの両腕を後で掴み体重を乗せて身動きが取れない。
完全に詰みだ。

クローン「……ッ!」

女「馬鹿正直につっこむからや」グッグッ

クローン「……痛いっ」

女「……?これは……?」

クローン「僕の腕をお尻で固めたまま首を伸ばしたりしないでくださ痛っ!」

女「君、訳ありか」パッ

クローン「……え?」

****
クローン「なるほど。それでそんな粗末な格好をして布一枚に必死になっていたんですね」

女「お前が言えることかいな?まあお金はあるし布一枚どうってことないけど盗られるのは嫌やったからな」

クローン「大人気なく13歳の男の子を蹴りあげたのは忘れません」

女「まだイマイチ信じてないけど君の事情もわかったわ」

クローン「信じましょうよ」

女「で、名前は?」

クローン「名前…検体番号でしたら『J-309』ですけど」

女「うーん……ほんまにクローンっぽいなあ」

甲賀「私のことは『コウガさん』って呼びな、ミック」

クローン「コウガさん…ですか、というかミックとはなんですか?まさか僕ですか?」

甲賀「そうに決まっとるやろ?」

甲賀「どうせ君、手がかりとかなんもないんやろ?」

309「はい」

甲賀「ほんなら、私が依頼の指示がくるまで裏のつて使って調べたるわ」

309「……まさかいきなり選択肢3『裏社会の人間』をとることになるとは」

甲賀「ん?」

309「いえ、是非お願いします」

甲賀「(まあ、なんらかの形で金は払ってもらうけどな……)」



甲賀「今、色々調べてもらってるけど君、私と一緒におったら危ない目に遭うかもしれんから使いやすいナイフと銃くらい買うたるわ」

309「できればそういうことが無いとうれしいですね」

甲賀「まあ君は年齢にしてはかなりの格闘技の技術者やとは思うけど
流石に私みたいな本物の殺し屋が本気で殺そうとかかってきたらどうなるかわかったもんやない。
身を守るためやからな」

309「そうですね、お言葉にあまえ……」

甲賀「どうしたん?」

309「いえ、ほんの少しだけ気になったことが……」

甲賀「辞書みたいになんでも知っとる君が不思議そうに見るから何かと思ったら……それは飴や」

309「飴ですか…資料では丸いものが包みに入っていたり、
別名:ペロペロキャンディーと言われたりするものくらいしかないのでわかりませんでした」

甲賀「一つ食べてみるか?」


***
309「甘いですね。とてもおいしいです」ペロペロ

甲賀「それは千歳飴、言うてな大昔に何かの祭りの時に食べられてたんやないかって言われてる」

309「なるほど。年明けのお祭りですか?」ペロペロペロ

甲賀「いんや、今の時期やなくて春らしいで。今の時代では原価が安いからこういう貧困層が多い地域で売っとるんやろ」

309「ふむ」ペロ

甲賀「(こいつ意外と可愛いかもな)」

甲賀「(一応中学1年生になる年齢やのに飴舐めてうれしそうにして)」

甲賀「うーん……クローン技術ってのはホンマに厳重に管理されとるらしいな」

309「何もわからなかったみたいですね」

甲賀「まあ仕方ないな。君の写真でサーチかけるのが一番かもしれん」

309「それは……できればオリジナルには迷惑をかけたくないのですが」

甲賀「まあそうやわな」

甲賀「あんた、その帽子似合っとるで」

309「ありがとうございます。飴…じゃなくて武器だけでなく変装のための服装まで」

甲賀「私は優しい。可愛いこにはな」

309「そうですか、僕は大人気なく13歳の男の子を蹴りあげた大人をきっと忘れません」

甲賀「前言撤回、今すぐ金返せ」

***
309「これは……もしかしてテレビですか?」

甲賀「せやで」

309「テレビ搭載パソコンやワンセグの普及でほぼ絶滅危惧種、なかなかお目にかかれないそうで」

甲賀「まあ職業柄テレビ線以外の電波を拾われると困る場合もあったりしてな」

309「付けてみてもいいですか?」

甲賀「どうぞー」


ザザッ
『……て……した。………にも、陛……』

309「……」

甲賀「ごめんごめん、それアンテナ建てなあかんねん」ビビッ

甲賀「お、依頼のメールが」ブーブー

甲賀「えっと…なになに」
『今回の標的は写真にあるトウキョウ国、皇子である輝仁(テルヒト)。
生け捕りにして拉致せよ。報酬は……』

309「お、繋がりました」

『皇子様は本日、五か国食事会に出席なされ……』



二人は同時に顔を合わせた。
お互いの見ている情報が送り出すものがあまりにも衝撃的であったためか、言葉がなかなか出てこない。
しばしの沈黙の後、お互いに持っている情報媒介を取り換えた。
それぞれがすべてを理解する。今にも運命の歪曲を笑いそうになった。

それもそのはず、甲賀のメールにある皇子の写真がある人物にそっくりだったから。

そしてテレビに映る人物が自分自身と同じ姿かたちをしていたから。



つまりは甲賀のターゲットであり、トウキョウの皇子である人物こそが
ミックのオリジナルだったのだ

書き溜めてるときは50くらい行くと思ったのに22とかワロタ
書き溜めてまた来ます


甲賀「っていうか、そんだけ莫大な情報を詰め込んだ脳みそに皇子の顔の情報は無かったん?」

309「それが……皇子に関する情報は山のようにあるのですが、顔の情報や年齢、その他色々とところどころ不自然に抜け落ちていたんです」

甲賀「なるほど……研究者たちが君に知られたくない情報やったってことやな。これは間違いない言うてもええか」

甲賀「(いや、あるいは…)」

309「生け捕り…ですか、良かった」

甲賀「まあ確かに私もこれで殺せとかやったら気ィ悪かったわ」

309「僕単独で正攻法では会えませんし、結局甲賀さんに協力して接近するのが良さそうですね」

甲賀「そうやな。皇子の情報、どこまでわかる?王家の見取り図とか無いかな?」


309「不思議な図ですよね」

甲賀「確かにな」

裏路地の道路には309の脳内を絵にした、王家の住まう城の見取り図があった
ほんのすこし黒い液体に紙がにじんでいたが二人はほとんど見取り図を記憶し、特に気にも留めていない。紙に火をつけ証拠を消した

309「なんというか……それ自体も見たことないですけどその……」

甲賀「『牢獄』みたいやな」

309「ですね」

甲賀「私は入ったことあるけどなーっはっはっは!」

309「自慢できないような」

甲賀「まあええわ。牢獄やと思って行くんなら普通よりちょっと難しいな」

甲賀「元々出にくくセキリュティも厳重やろうし、出にくい言うことは入りにくい言うのと同じやと思ってええ」


甲賀「下手したらどっちかしか返ってこれへんなんてこともあるかもしれんけど」

309「それぞれの目的を優先する方向にしましょう」

甲賀「それがええな」

309「脱出したあとの落ち合う場所の確認はいいですか?」

甲賀「こっちのセリフや。武器屋、私の隠れ家、ホテルの天井裏、他全部覚えときよ」

309「はい」

甲賀「ほな……侵入大作戦スタートや」

***
王家の城はトウキョウ国の中央にそびえ立つ巨大な建物だ。
王家全盛の頃は本当に王家と仕える者のみが入ることを許されていたが、
現在は国会議事堂や内閣、最高裁判所も城の中にある。
王家の城の中は大きくわけて四つに分かれている。
王家、裁判所、国会、倉庫。
入口は四方に一つずつ。
南、正門。東、最高裁入口。
北、裏門。西、政府関係者入口。
一般人に解放されているのは東西の入口で、東の裁判所は公開前提の裁判や国会の傍聴者などが利用する。
西の政府関係者入口はもともと政府関係者専用であったが、マスコミが中に入ってくることが増え、いつの間にか西からも一般人が入ることができるようになった。らしい
国会も公開前提であるため傍聴に来るものは今では西から入っている。
南は王家関係者の入口で非常に華やかで綺麗な庭と長く伸びる一本の石道が玄関まで続いている。
セキリュティのためか窓は非常に少ない。
この城を表現するなら、豪邸というよりもRPGに出てくる悪魔の城を石ではなくコンクリートで小奇麗に作ったような感じか。
見取り図によれば南入口の王家のみ上に長く、東西とは繋がる通路が無い。
東西から王家に行くのであれば倉庫へ向かう通路を通って倉庫から王家に向かう必要がありそうだ
北は食料品などの搬入と倉庫職員の出勤用に作られているため門から城までの距離はもっとも近く、しかし必需品の搬入が重要視されてかもっとも厳重な警備がなされている。

自分用 見取り図
http://kie.nu/1Axc
http://kie.nu/1Axd

309「すみません、裁判の傍聴に来たんですが」

受付「はい、傍聴券はお持ちですか?」

309「これですよね」

受付「少々お待ちください……はい、確かに確認しました。
それでは右にまっすぐで奥から2番目になります」

309「ありがとうございます」

309「(僕は裁判所のルートから倉庫へ向かいます)」

309「(この城のセキリュティのレベルはおそらく国家で最も高いはず)」

309「(最新のナノテクノロジーで作られた非行型監視カメラなんてのも導入されているらしいですし)」

309「(甲賀さんがうまくやってくれないと監視カメラを前になすすべ無しです)」

ミックは指定された奥から2番目の部屋でまったく興味の無い裁判を傍聴しながら事態の進展を待つこととなる

309「(いくら女装してるとはいえ、皇子と同じ顔だとわかるとバレないか少し緊張しますね)」

***
男「あーくっそ、先輩がまたバカな研究で裁判沙汰になって傍聴しに来たってのに」

女「先輩……ついてないですね」

男「ああ、どっかで落としたんだろうか……あの時かな…」

女「どの時です?」

男「金髪の女の子…かな?にぶつかった時に落としたのかもしれん」

女「あちゃー……とりあえず事情を話してみましょうよ」


***
甲賀「(以外とあっさり侵入には成功したな……)」

甲賀「(ここまでのレベルのところに侵入すんのは初めてやけど意外と楽勝)」

甲賀「(トウキョウの最先端の飛行監視カメラの『障害物を避ける』性質を利用する。
我が国ヤリヤ最先端の特殊な電磁波を作り出す装置で自動的に私を障害物と認識して避けるようにできとるってなわけや)」

甲賀「(これでひとまず合流できるな)」

309「(裁判があまりにもつまらなかったので人間観察をしていましたが)」

309「(裁判所なんてところに来ることができるのは裏路地でよく目にした貧困層ではないですね)」

309「(どの人も少なくともきちんと服を着ていますし、少し顔も明るい)」

被告人「ですからー!僕らの発明は研究室を爆破するような目的ではないんですって!」

被告人「カップラーメンをセットすると自動的に全行程やってくれるって装置であって、まさかこんなことになるなんて思っても……」

309「(それにしても……この裁判の内容、にわかには信じがたいですね)」

309「(ただの大学生がこんな技術力を……ほかの資料も参照してみるとこの大学生は完全に『天才』と呼ばれる人間です)」

309「(事実、弁護人も『優秀な人材である』ことをグイグイ押して情状酌量を求めていますし)」

ウイーン!!!!ウイーン!!!!

『警報発令!警報発令!南門にトラックが侵入しました』

『建物の中にいる方は城から出ないでください!』

309「(来た……!)」

甲賀『ええな?なんらかの形で警報発令させるから、それが合図や』

309「(裁判所の女子トイレの用具室に置いてあるセットを取りに行きましょう)」
***
309「(よし、ありました。これを持って倉庫への連絡路へ向かいます)」ガサゴソ



連絡路入口
警備員「あ、君、今安全の確認とかしているので悪いけど今は北館へはいけないんだ」

309「あ、そうだったんですか。パパにお弁当を持ってきたんですが」

警備員「お父さん呼んできてあげるよちょっと待ってな」タッタッタ

309「ありがとうございます」

警備員「あーあぶないあぶない、君、名前……あれ?」



警備員「いない……困ったな」

309(助かりました)

甲賀(ほら、さっさとその手袋とかつけや)

309(本当にこれで天井を這うことできるんですか?)

甲賀(現に私がやっとるやろ……)

309(ですね)

甲賀(……今のところ作戦は順調や)

甲賀(このまま監視カメラを避けながら……っても自動的に避けてくれるんやけど、
倉庫も過ぎて一気に王家の南館目指すで)

309(おーけーです)

被告人「いやーなんかよくわからないけど今日は裁判中止だってさー」

男「そうだったんですね。傍聴券落としちゃったみたいで困ってたんですよ」

被告人「うわっ、お前が物落とすなんて珍しいこともあるんだな」

女「本当に珍しいですよね!」



****

二人は警備の厳重な北館もなんなく突破し重力に逆らったまま南へ続く連絡路を通っていた。

甲賀(大丈夫か?そうとう身体に負荷かかるからなあ)

309(正直、きついですね。ここまでとは……)

甲賀(私だけで行こうか?)

309(オリジナルに会いたいので…)

309(……いえ、僕はなぜクローンとして生まれたのか知りたい)

309(そのためにはまずはオリジナルに会わなければならないと思います)

甲賀(そう……)


****
十数年前

父「お前も17歳だ。そろそろ一人での仕事もできる頃だろう」

娘「はい、お父様」

母「あんた彩愛にはこっちの道には行かせへん言うてたやないですか……」

父「確かにそういったが……弟が帰ってこない以上」

母「……そうやけど」

私は代々、裏社会でなんでもやるという いわゆる『なんでも屋』をしている家庭に生まれた。
弟と私は幼い頃からこの仕事のために修行をしてきた。
弟も私も業界では負けず劣らず優秀。
どちらが継いでもおかしくないと言われていて少しライバル視もしていた。
家系の風習では13歳で成人し、その時点で家を継ぐというのが決まり。
しかし私は13歳で家は継がせてもらえず、男である弟が継ぐ線が濃厚となる。
その2年後、弟は家を継ぎ父に代わって暗殺や情報の傍受等をこなし、ますます一族の評価を上げることになる。……あの仕事までは。


弟「彩愛、あなたにだけは話しておく」

娘「……どうしたん? これからカモン国で仕事やって……」

娘「たしか町長の娘を殺すんやっけ? まったくしょうもない依頼を甲賀にくれたもんやんなあ」

弟「ああ……それに関して」

弟「俺を許してくれ。大事なものを見つけたんや」

その仕事が遂行されることは無かったが、標的であった小さな町の町長の娘は姿を消した。弟も姿を消した。
弟が見つけた『大事なもの』がなんなのかはわからなかったし、
父上もこの仕事を続けているということは父上も見たことのないような、仕事よりも『大事なもの』なんてあるはずもないと思った
それから私は「自分は何でも屋の甲賀を継ぐ運命だった」と思うようになり、今に至る。

****
甲賀(おかしいな)

309(……おかしいですね)

甲賀とミックはついに王家の館である南へと侵入していた。
ここまでは見取り図通りに行ったのだが、見取り図に無い道が何本かあるのだ。
最初のうちは無視していたがあまりに多い。どれも上の階へと続いているらしいことしかわからなかったが。

甲賀(2階が一番、皇子がおる可能性が高いって踏んでたけど……こりゃわからんかもな)

309(そうですね……困りました)

甲賀(私はこのまま作戦通りに進む。君はそっちに行って)

309(わかりました。例の場所で落ち合いましょう)カチャカチャ

甲賀(あ、待ち)

309(?)

甲賀(見つかるとええな、)

309(はい、皇子を絶対見つけます)

甲賀(あー…うん)



甲賀「(君の生まれた理由……)」

書き溜め終了です
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ではまた

309「(……こっちもハズレ。何もない部屋……なんでこんなにたくさんあるんでしょうか)」

309「(それに…さっきから誰もいませんし)」

309「(まだ通っていない道は2本)」

309「(……確か片方は扉がついていたので後に回したので分かりませんが、
もう一つはさっきまでと同じで2階に繋がっているらしいですね)」

309「(扉が怪しすぎます)」

309「(行ってみましょう)」

309「(一旦床に下りないと)」

309「(誰もいないみたいですし…大丈夫ですよね)」スタッ

309「(鍵……もついていない。もともとここには侵入できないものだって考えなんでしょうか?)」

309「…………」カチャ


309「(しばらく階段が続いてますね……)」

309「(相当、下まで降りるみたいです)」タッタッタ

309「・・・・・・・」タッタッタ


***
2階
バババババ

警備兵A「打て打て!」ババババ

甲賀「どわわわわわ危ない危ないって」タタタッ

甲賀「しょうがない……」カチャ

甲賀「ッ!」パンパンッ

警備兵B「うあああっ」

警備兵C「ひるむなー!打て打て!!」ババババ

***
警備兵達「うぐ……」バタッ

甲賀「ふう…ふう…」

??「お見事」

甲賀「……」

班長「いやあぁどうも。私はこの部隊の班長、です」

甲賀「監視カメラに見つからないようにする仕掛けも仲間にあげてもたし、見つかるってのはわかってたけど」

甲賀「こんな雑魚集めてくるんやったら最初から監視カメラ対策なんていらんかったな」

班長「ふふ……そおぉですか」

甲賀「私の一族は敵の数や場所、任務や時間帯、気温なんかの状況に応じて戦い方を変える。数で来るなんて想定中の想定やで」

班長「……そのしゃべり方は……トウキョウの敵対国家、ヤぁリヤの方ですね?」キッ

甲賀「…………」

***
班長「はいやあぁっ!」パンチ連撃

甲賀「ふっッ!」ジャンプ

班長「わぁたしが今まで動かなかったのはぁ!」ブンブン

班長「1対1の方が得意だからですよぉ!!!」ブンブンブン

甲賀「くっ…!」ドォ

班長「…………ああ、そうだ」

班長「刀は使えますか?」

甲賀「…………」サッ

班長「すぐに刀を出してくるとは…正直ですね」

班長「僕は女性と刀を交えるのが好きでしてねぇえ!」シャキン

甲賀「(こいつ結構やばい……後のことなんか考えてられん)


甲賀「(………殺すッ!)」

***
309「ようやく階段の終わりが見えました」タッタ

309「・・・・・・・・・・」タッタッタ

309「……!?」

309「この装置は……」

309「人の心臓……のような」

薄暗く大きい部屋の中央には公園の噴水くらいの大きさの装置―――と形容していいのか不明だが―――があった。
その装置は短い間隔で鼓動している。
少し肉感を感じる見た目ではあるが、何本ものコードが繋がっているので装置、のように見えたのだ


309「……不気味です」

309「……何に使う機械なんでしょうか……?」

309「そもそも機械ですらない……?」

309「少なくとも【知識】にはないものですね。
もしかしたら今、そうとうやばいものを見ているのかもしれません」

***
班長「ぁぁああああああっはっはっはああああぁぁぁぁああああ!!!」シャキン!

甲賀「くっそ……!」キンキン

甲賀「(さっきから防戦一方や……!)」

甲賀「(甲賀は状況に応じて戦闘スタイルや武器を変える)」

甲賀「(やからどの武器も戦い方も名人並で不得意はない……)」

甲賀「けどッ!」

班長「あひゃひゃひゃはああああああっはっははあああああ」ブンブン

班長「楽しい!楽しいぃ!!!」シャキン!

甲賀「くっ」カキン

班長「たのしいああああ!!!」シャキンシャキン

甲賀「(こいつ……でたらめに強い! この道の達人か…?)」

班長「どぉおおおおしたんですかああああ!!??!?」シャキン

班長「楽しんでますか!?殺人!サツジン!!」ブン

班長「私はたのぉしくてしかたがないッッッ!!!!」シャキンシャキン

甲賀「(落ち着け、何もこいつに合わせて刀で戦う必要はない…!)」カキン

甲賀「(警備兵の死体やさっき私を撃ってくるときに使ってたバリケードをうまいこと使って距離をとって)」カキン

甲賀「(少し離れてから跳躍しながら鉛をブチ込むッ!)」カキン

班長「あっ、もぉしかして……」ブン

甲賀「(今やッ!)」キンッ

刀を刀で受け止め、両足で蹴ってその勢いで距離をとる。
バッ!

甲賀「悪いけど距離とらせてもら……」

班長「ぬんんんんんッッ!!!」ビュンッ

班長「ええええいやああああ!!!」ゴゴゴゴゴ

甲賀「(蹴られてもすぐに対応して突っ込んできた……!)」

甲賀「あかん、まず……」


ズシュ




甲賀「」

班長「・・・・・・・ぁあああ・・・・・・・ぁあああああ・・・」

甲賀「ごぼ……っ!」

班長「……終わってしまいましたか……非常に残念です」

***
309「(2階……ようやく当たりの道を引きました)」

309「(さっきの謎装置は危なそうだったので放置して引き返してようやくです)」

309「(見取り図を見てわかっていたことですが……牢獄のようですね)」

309「(あの奥の檻に誰か人がいるようです)」

309「(ここが刑務所までかねているとはさすがに思いませんが……)」

309「(ましてやここは王族の住んでいる南館ですからね)」タッタッタ


??「君、誰?」

309「ッ!」

309「(まずいッ、ばれましたか!?)」

309「(にしてはずいぶんと拍子抜けな声で)」『ねえ』

拘束されている少年「きみ、だーれ?」

309「・・・・・・・・」

309「あ…………あの、色々と聞きたいことが多すぎるのですが……」

少年「??」

309「まず、あなたは……」



309「いや、皇子様、なぜこんなところに監禁されているんですか?」

皇子「…?なんでって、そりゃ今は仕事が無いんだもん」

309「いや、そうじゃなくて……」

309「(何かおかしい……僕が言うのもあれですが常識が無い)」

皇子「ねえ、暇なら僕とお話ししようよ」

309「え?」

皇子「退屈しているんだ。少し手首の鎖も痛いし」

309「…………とりあえずよくわかりませんが」

309「そこから出ましょう。拉致しに来ました」

皇子「ここから……出る?」

309「さあ、拘束具は外しました。行きましょう」

皇子「え、それはできないよ」

309「なんで……!」

皇子「僕は明日の昼から仕事があるからここで待機なんだ」

309「(なんだかよくわかりませんが、言うことは聴いてくれなさそうです)」

309「では、無理やり連れて行きます」

309「ふんっ」

皇子「わわ、やめて、持ち上げないで」

309「さあ、こっちです走ってください」タッタッタ

皇子「はーい」タッタッタ

309「(……この人は自分と同じ顔の人間がいることに驚かないんですね)」

309「(正直、僕はとても気になって体中食い入るように見て回りたいところです)」

309「……(が、今はここを脱出することが最優先ですね)」

309「(脱出してなんとか甲賀さんと合流しないと…………)」

皇子「ねえ、どこに行くの?君、こんなことしたら殺されるんじゃない?」タッタッタ

309「間違いなく殺されるようなことしてますね。あ、そこはこっちです」タッタッタ


??「撃てー!」

309「!」

309「伏せてください」ガバッ

皇子「うわあ、伏せろって言う前に抑え込んでるじゃんっ!」

バババババババババ!!!


309「銃撃がなりやんだ!今しかありませんっ!」ガバッ

皇子「うわっ、抱えないでってば」

309「ッ」タッタッタ

309「(このまま抱えて外まで行きしょう!もう見つかっている以上こそこそする必要はありません!)」




班長「………………もう一人は男…残念だ」

班長「(ザザッ)あー私だ、入口に警備兵を集めろ、急げ」

***

女「うわあっ、なんですかねアレ」

男「さあ……城から出るなって言われたりさっさと出ろって言われたり……なんかあったのかね」

女「先輩、なんか映画みたいなことが起きてるんじゃないですかね」

男「多分、お前の大好きなB級C級のクソ映画みたいなことはなかなか起こらないと思うぞ」

女「そんなことないですよー。B級C級はストーリーや大筋自体は王道なものも多いんです!」

男「……ああそう」

***

309「(入口に近づけば近づくほど警備兵が増えています・・・・!)」タッタッタ

309「(こちらの腕には正真正銘、皇子がいるのによくもまあ銃を連射できるもんですよ)」タッタッタ
ババババババ!!
309「(普通、死なない弾でも皇子がいたら撃てないでしょうに……)」タッタッタ

皇子「重くない?」
ババババ!!
309「大丈夫ですよっ」タッタッタ

309「僕に似て軽いので」タッタッタ

309「(あ、似てるのは僕でしたね)」

***
309「よしッ!入口が見えた!」タタタタタタ

警備兵「いそげ!人もっと回せ!子供一人になにやってる…!」ババババ!!!

***

班長「ザザッ 重原幹部、私です」

班長「申し訳ないです。取り逃がしました」

班長「ハッ。すぐに」ピッ


班長「うーむ、どうも女性を切ったあとはやる気がでません」

班長「TOFやめて転職しましょうかねえ」

班長「キミ」

下っ端「はい」

班長「あの女はちゃんと『補完』できましたか?」

下っ端「はい、いつも通りです」

班長「ご苦労様です」

班長「ご苦労ついでに街に隊員を散らしてください」

支援ありがとうございました
久々にVIPみたいなコメントみたな

また来ます。また支援よろしくおねがいします


309「に、逃げ切……」

皇子「……」

309「はあ、すみません。拉致なんてしてしまって」

皇子「まあ僕は別にどうでもいいんだけど」

309「?」

309「(とりあえず甲賀さんと合流しなきゃですね)」

309「ついてきてください」


309「いない・・・・」

***
皇子「だれもいないけどどうするの?」


***

309「ここにもいない……」


***

309「まさか甲賀さん……」

皇子「コウガサンって人がなんなのかよくわからないけど外の世界を久々に歩けてとても楽しいよ」

309「……」

皇子「あーあれは月かなあ?夜空ってきれいだなあ」

309「なんだか……脱走したての僕のようです」


***
309「ひとまず危険ですから隠れ家に向かいましょう」

皇子「隠れ家?」

309「そうです!そこでたくさんお話ししましょう」

309「(仮に甲賀さんがいないとしても皇子をまたあの城に返すのは少し気が引けますし)」

皇子「……」

309「?……どうしたんですか?」

皇子「あれはなあに?」

309「!」

309「ああ、これですか。これはですねー!千歳飴と言うんです!」エッヘン

皇子「君は色々知ってるんだね!」

309「まあ裏世界の人間ですからね」ドヤア

309「(とは言っても……僕もまだ外の世界で24時間すら生活してないんですが)」

309「この飴は春の行事の時に食べられていたと言われています」

皇子「へえ」ペロペロ

309「今では原価がとても安いためこういう貧困層に食べられているんです」エッヘン

皇子「なんで貧困なんてなっちゃうんだろうねー。かわいそうに」

309「そりゃ、あなたが政治をしっかりしないからでは?」

309「あ……失礼しました」

皇子「……僕は政治なんてしてないよ」

309「……?」

309「僕にはあなたがこの国を治め、内閣の助言とともに政治を行っているという【知識】があるのですが……」

皇子「一応そういう政策だっけ」

皇子「僕はいつも顔を出すだけさ。『無くなってもいいもの』だよ」

309「(『無くなってもいいもの』…ですか……)」

皇子「僕が何か失敗しても国民は王家を神格化しているから何も言わない。
内閣が主導だったらどうなるかわからないけどね」

皇子「だから政府は何もかも王家の指示ってことにしてるんだ」

309「(…………この国は独裁国家ではなく、形は歪でも民主国家だったということですか)」

皇子「こんなべらべらしゃべっていいわけないけど、『君』ももうすぐ死ぬだろうし」

309「捕まるつもりはないですよ」

***
皇子「今日はいろんなものが見れて本当に楽しかったよ」

309「それは良かったです。明日は変装用の服を見に行きましょう」

皇子「でも明日は昼から国事があるしなあ」

甲賀の隠れ家
309「それでは寝ましょうか」

皇子「せまいね」

309「いいじゃないですか。くっついて寝れば暖かいです」

皇子「こんな暖かな時間は久々……ううん、はじめてな気がする」

309「…………」

309「(僕もです)」

皇子「おやすみなさい」

309「おやすみなさい」

***
甲賀『おお、ミック帰ってたんかいな』

え?

甲賀『もうご飯できとるで?』

ご飯……?

甲賀『ほら、あったかいうちにはよ食べな』

甲賀さんなんか変ですね

甲賀『なんや、甲賀さんって?いつも通り彩愛って呼びいな』

…………いつも……ですか

甲賀『あ、それとも風呂が先やった?』

こ、甲賀さん……なんか変ですけど……すごく気分がいいですね

甲賀『……?』

その、心の奥に暖かいものがわき出てきて、少し痛いです

甲賀『はは、わかった。私を先に……って?//』

……?どういう意味かわかりかねます




・・・・・・・


・・・・・


・・・




309「……夢の中だったんでしょうか」モゾモゾ

309「…………」

309「そういえば、僕は夢を見たことがありませんでした」

309「なんだか不思議な感じです」

309「…………」

309「甲賀さんどうしたのかなあ」

309「…………って皇子はどこですか!?」キョロキョロ

309「い、いない……ッ!」


甲賀の隠れ家の廃ビルの一室……というよりは、極めて小さな物置を飛び出す。
廃ビルはいつも昼も夜もわからない薄暗さであったが白い廊下を這い出てそのまま階段へと向かった。
4階から1階まで駆け下りると入ってきた裏口を出る。


309「…………」ガチャ

309「……良かった」

皇子「あ、おはよう」

309「おはようございます。よく眠れましたか?」

皇子「いつもよりはぐっすり寝れたよ」

309「それは良かったです。一旦隠れ家に戻って支度を パンッ

309「した……く」

309「…………え」

皇子「」ドクドク

309「…………お、おうじ」

金髪のクローンはそのあとのことをよく覚えていなかった。
自分と同じ顔で、少し自分より無知で、心のどこかで友達のような感覚を抱いていた人間が目の前で赤く染まっている。
少年は皇子の前でひざまずき、自分も身の危機かもしれないことなど思いつきもせず、ただ茫然。
どんどん二人の周りには水たまりができていった。
頭を確実に撃ちぬかれているのも理解していた。
が、残念ながらこういう時どういう顔でどういう感情を抱けばいいのかなんて一日くらい外の世界で暮らして身に着けられるものではないのだ。
彼の【知識】は教えてくれない。
【常識】は持ち合わせていない。

309「…………」

COF隊員A「押さえつけろ!そのまま連れていけ!」

隊員B「うわあ、こっち死んでますよ……」

隊員C「ああ、問題ないらしい。そっちは皇子じゃない」



大人の男たちが集団で囲んで体中を押さえつけてきたが、抵抗はしない。する気力がない。
そのまま、数十分ほど車を走らせているところでようやくミックは少しずつ頭が冷えてきた。

重原「我に返ったかい?クローン君」

重原「本当に君はめんどうなことをしてくれたよ」

309「…………」

309「(そうか、捕えられたんですね。皇子…は……)」

重原「もうすぐ着く。そこで君には色々事後処理をしてもらうよ」

309「(処理……? どういう状況なのかイマイチわかりません)」

重原「わけがわからないという顔をしている」

重原「『アレ』と接触したのに何もわからなかったのか?」

重原「なんにせよ、もうすぐ着くんだ」

重原「後は頼むよ」

班長「わかりました」


***
研究所
究「重原さん、お手数をおかけしましたッ!」

重原「気にしないでください。大したことではありません」

重原「私はついている意味もないでしょうしあとは彼に任せます」タッタッタ

班長「お任せください」

班長「野原さん……でしたかね。私がやるので下がっていて構いません」

究「は、はあそうですか。失礼します」タッタッタ



班長「さて」

309「…………」


班長「まずは手錠を解こう」ガチャ

309「ぷは」

班長「本当によく頑張ったね。君は」

309「どういう意味です?」

班長「私が率いていたCOFをかわしてアレを拉致したじゃないか」

309「『アレ』、ですか……」

班長「まあ、いいじゃないか。もうすぐ『君』にとって最後の時間となるわけだが……」

309「(やはり処分ですか。皇子と話せたし、甲賀さんとも出会えたし、疑問ばかりが残っていますが仕方がありません)」

班長「好奇心旺盛で頑張った君に、ご褒美だ。君の質問に知っている限りこたえてあげよう」

309「………………」

309「…………では。皇子は死んだんですか?」

班長「………………ああ。一応死んだね。一応」

309「どういう意味ですか?」

班長「答えられないな」

309「……そうですか。皇子が言っていましたが『王家は政治をしていない』とはどういう意味ですか」

班長「そのままの意味。政府の便利道具だよ」

309「甲賀さ……僕の仲間の女性を知りませんか?」

班長「彼女なら補完……」


班長「いや、私が殺しました」

309「!!!!!!!」

班長「……ふ」

309「(こいつが…こいつが……!)」グギィ

班長「良い顔ですね」

309「…………ッ」

309「(そうか……甲賀さんは……)」

309「(ああ………………)」ウルッ

309「(………………)」ポロ

309「・・・・・・・・・・・・・・・・」ポロポロ

班長「………………」


班長「【常識】の無いクローンも泣くんですね。普通のクローンですら泣かないのに」

309「…………それを僕も驚いていたところです」

ミック……否、J-309はなんとも重々しい機械に入れられていた。
頭にはさまざまな機械がとりつけられ、近くのパソコンがなにやら光っている。

班長「気分はどうだい?」

309「最悪ですね」

班長「そうか。では最後にさっきは答えなかった質問の答えをあげよう」

309「(……皇子の死のことですか)」

班長「皇子は君です」

309「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

班長「まあそんな顔をしなぁあいでくださいよ。事実ですから」ハッハ

班長「彼は死んだが、君が彼になるんです」

班長「これからその機械は君の記憶を抜き取り、【常識】をインストールしたら新たに皇子用の知識や感情を植える」

309「!!!」

班長「察しがついたかな?」

班長「つまり、真相はこう」

班長「この国の王政というのは真っ赤な嘘!実情は政府の批判の避雷針替わり」

班長「その『皇子』を用意するのも大変だ」ヤレヤレ

班長「政府に従順にする必要があるし、何より国民から愛され、敬われる必要があるからねえ」

班長「……ということでてっとりばやく容姿や常識なんかを設定できる人間」

班長「……つまりはクローンを使っているというわけだよ」

309「…………」

班長「まあこれは一つのウワサだが……。この制度を採用する前。王家は一度、理不尽な政府に立ち向かったことがあるらしい」

班長「すぐさま王家全員を監禁したり殺したりしたんだが、便利な王族をやめるつもりもなかったんだろうね」

班長「困った政府が幼い皇子の血液から開発途中のクローンを利用してこの制度を使うに至ったらしい」

309「…………」

班長「そして君こそがそのクローンの1人だ」

班長「あ、そうそう。君が『オリジナルだと思い込んでいた彼』もクローンだよ。たしか、番号は……『D-049』と言ったか」

309「…………」

309「し、信じるかは自由です」

班長「今更私が嘘をつく必要があぁるかなあ?」ヤレヤレ

班長「では私もそろそろ行かなければならないので、装置を起動するよぉ」

班長「アディオース……」

班長「・・・・・・皇子サマ」

***
309「…………」

309「(仮にすべて本当だとすれば、いつかまた僕のように抵抗するクローンが現れ)」

309「(いつかこの醜い制度も)」

309「(・・・・・・・・・・・・・・・・・)」

309「(甲賀さん。この気持ちがなんとなくわかった気がします)」

309「(【知識】を参考にしても、【感情】を参考にしても)」

309「(僕の気持ちは……おそらく……)」

スッ

ここは石油臭い裏通り。冬であるにも関わらず、気持ちの悪い熱気が包み込み、幼い少女や働きつかれた青年が薄手で横たわっている。
道にはどこの工場から流れたのかもわからない黒い液体が這い、千歳飴の包み紙が落ちていた。

そこに落ちている年代物の機械。
機械には小さなアンテナと画面がついている。
画面は金髪の国王の笑顔を写しだしていた。
その笑顔は、どこか色が無い。
何かが欠けているようであった

『ザザ…日、皇子様はザザ……定通り…ザッ判官の任命式に……ザザザザザザザ』





ドクン……

ドクン……

―――クローン「【常識】のインストールに失敗しました」完

いつになったらおもしろくなるかな?と思ってたらry
支援してくださった方、ありがとうございました

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