ミカサ「この長い髪を切る頃には」(933)

*現パロです。最初はミカサの黒髪が長いままで登場します。

*舞台は日本ですが、キャラの名前はカタカナのまま進めます。

*原作のキャラ設定は結構、崩壊。パラレル物苦手な方はご注意。

*基本エレミカ(ミカエレ)。他カプは展開次第です。

私は強い。誰よりも強い。

どんな屈強な奴と戦っても、私は負けない。

私より、強い人間なんて、この世界にいるのだろうか?

そんな風に驕っていた少女時代のある日、とある男達に喧嘩をふっかけられた。

たまたま急いで道を一人で歩いていたら、肩と肩がぶつかっただけなのに、相手のグループは私にいちゃもんをつけてきたのだ。

この辺りでは見ない顔だ。恐らく私の顔を知らないのだろう。

知っていればこんな風に難癖をつけてくる事はまずない。

男四人組の下品な風貌のそいつらに捕まって、睨まれた……のだけども。

不良少年1「……おまえ、結構、美人だな。俺、こういう長い黒髪、結構好みなんだけど。このあと、どうよ?」

と、私の髪を勝手に触って顔をしっかり見るなり、急に声のトーンを落として迫ってきた。

全く……私はそこまで暇ではないのだが。

対応するのも面倒臭くて、私は彼らを無視して立ち去ろうとした。

するとその先を阻まれてしまい、逃げられなくなった。

不良少年2「待てよ。そう、無視すんなよ。名前だけでも教えてよ」

不良少年3「いいだろ? なあ、アドレスも教えてよ」

嫌に決まっている。何故、今さっき知り合ったばかりの他人に名前やアドレスを教えなければいけないのか。

こいつらは、邪魔だ。社会の端っこで生きてるだけでも。

ここでこいつらを殺す権利を私が有していれば、間違いなく削ぐのだが。

ここは日本であり、法治国家であるので、そういう訳にもいかない。

私はただ、ため息をついてどうしたもんかと思っていた。

こいつらを叩きのめすのは簡単だが、私は、この後、用事がある。

もし万が一、騒ぎがバレて警察が来たら後々面倒だ。

時間を取られているこの事態に少々苛立ち、しかし面倒を起こすと更に時間を奪われるというジレンマに悩んでいたその時、私の目線の先に見知らぬ人物が現れた。

年は私とそう変わらないだろうか。同じ中学生に見える。

黒い学ランに、赤いTシャツを内側に着たその少年は、私と目が合う。

目が大きいと思った。黒い髪は普通の男の長さだが、全体的な顔立ちは女性っぽくも見える。

体つきは中肉中背。平均的な中学生、といったところだ。

その彼がこっちに近寄ってくるなり不機嫌そうに言い放った。

黒髪の少年「おい、そこのお前ら」

不良少年1「あ? なんだてめーは」

黒髪の少年「迷惑してんだろ。離してやれよ」

不良少年1「は? お前、この子のなんなの?」

黒髪の少年「…………か、家族だ」

咄嗟の嘘にしては上出来だと思った。

不良少年2「はあ? 嘘つけ。顔、全然似てねえだろ」

黒髪の少年「で、でも家族なんだよ! よ、よく見れば似てるところもあるだろ?!」

苦しい言い訳だと本人も思ったのだろう。

少々カミカミだったが、それでも彼は続けて庇ってくれた。

黒髪の少年「つか、いい加減にしろよてめーら。人の時間を奪ってんじゃねえぞ!」

不良少年2「はあ?! 奪ってるのはそっちなんですけど?! 邪魔すんじゃねえよ!」

いや、人の時間を奪っているのは明らかにあなた達なのだが。

全く……こういう奴らには何を言っても話は通じないようね。

私が諦めた気持ちで拳を握り、事態を片付ける最速の展開を選ぼうとしたその時、

黒髪の少年「邪魔してんのはそっちなんだよ! この子はこの後、用事があるんだよ! てめーらに構っている時間なんてねえんだよ! いいから離せっつってんだろ!」

と、叫んで私より先に手を出してしまったのだ。

殴り倒された男の仲間はその直後、カッとなり、黒髪の少年に殴り返す。

私は呆気に取られてワンテンポ遅れを取ってしまい、ハッと我に返った。

私が気がついた時にはもう、黒髪の少年は奴らに危うくボコボコにされかけていた。

しまった。私は慌てて奴らの後ろからハイキックをお見舞いして、後頭部にダメージを入れて気絶させ、奴らを一掃した。

その情景を見て黒髪の少年は目を丸くしていた。

私「………ごめんなさい。手助けが遅れて。まさかあなたが先に手を出すなんて思わなかった」

黒髪の少年「いや……つか、なんつー強さだよ」

私「あなたの方こそ少し無謀過ぎる。お節介は嬉しいけれど時と場合による」

黒髪の少年「ふん……男として間違った事はしてねえよ」

と、言って彼はひょいっと立ち上がり、晴れやかに笑ってみせた。

黒髪の少年「腕時計をずっとチラチラ見てたしな。傍から見て困ってたように思えたから。待ち合わせに遅れそうになってんのかと思ってさ」

私「うん。正解。ありがとう。そこまで気遣ってくれて」

黒髪の少年「いいって。オレもこの後に用事があるし、そういう時、邪魔されるとイライラすんだろ?」

私「え? あなたも用事があるのに助けてくれたの? いい人なのね」

黒髪の少年「あ………ま、まあ……遅刻したら相手に謝るしかねえけどな。じゃあな! オレも急ぐから!」

と言って彼は忙しなくその場を立ち去ってしまったのだった。

本当にいい人だった。この日本もまだまだ捨てたものではない。

そんな風に思いながら、自分の目的を果たすべく、私も先を急いだのだった。





私「ここね………」

私は待ち合わせのお店に到着した。

少々、お値段が張りそうな雰囲気の良い和風のお店の中に入る。

恐らく先に母が待っているだろう。予約している席に案内されると、母が着物を着て待っていた。

ミカサの母「ミカサ、遅いわよ。道に迷ったの?」

ミカサ「うん。少しだけ」

本当の事を言うわけにもいかず、私は適当な受け答えをした。そして母の隣に正座して座る。

今日は私の母の再婚の相手を紹介して貰う席なのだ。

相手の男性の名前はグリシャさんというらしい。

丸い眼鏡をかけた優しそうな男性だった。職業はお医者さんだそうだ。

グリシャ「すみません。うちの方の息子が遅れているようで…」

ミカサ「いえ、私も遅れてしまったので、構いません」

和風の卓には私と母と相手のグリシャさん、そしてもう一人、グリシャさんの息子さんが来る予定だ。

私の母が再婚するので、私には新しい家族が増える。

グリシャさんの息子さんと、仲良くやっていければいいけれど。

息子さんを待っていると、私より少し遅れて、その彼はやってきた。

バッタンバッタンと忙しない音を立てながら滑り込むようにしてその彼はやってきた。

息子「親父! 遅れてごめん! ちょっと道に迷っちまって!」

ミカサ「!」

息子「!」

彼と目が合うなり、私は驚いてしまった。

そう。あの時、私に加勢してくれたあの黒髪の彼が、グリシャさんの息子さんだったのだ。こんな偶然、あるのだろうか。

グリシャ「エレン。いいから座りなさい。早く」

エレン「ああ、すみません……(ペコリ)」

申し訳なさそうにして彼はグリシャさんの隣に正座した。

グリシャ「息子のエレンです。そちらのミカサさんとは学年が同い年になると思います」

ミカサの母「まあ、とても愛らしい息子さんですね」

エレン(むっ……)

エレン、と呼ばれた彼は私の母の感想を聞いてあからさまにむっとしていた。

どうやら「可愛い」と言われるのは好みではないらしい。

感情の起伏が激しいタイプなのだろうか。顔に気持ちが良く出ている。

グリシャ「いやいや、愚息ですよ。こんな席にも遅刻してくるような息子ですし」

エレン「だから、道に迷ったって言ってるだろ?! 大目に見てくれよ」

ミカサ「私も迷ったので、同罪です」

真実は言わないでおこう。と、私達は視線だけで合図をして頷きあった。

ミカサの母「まあまあ、いいじゃないですか。今日はいろいろ、お互いの事を話しましょう。今後の事も含めて……」

グリシャ「ですね。エレン、新しい家族になる二人とちゃんと仲良くするんだぞ」

エレン「………それはそっちの出方次第だけど」

グリシャ「こら、エレン」

エレン「ふん……まあ、女だし、守ってやろうとは思うけど?」

なんとなく、この「エレン」という人がどんな人間なのか分かってきた気がする。

ミカサ「ふふふ………」

私は先ほどの事を思い出して小さく笑ってしまった。

守ってやるも何も、守られたのはエレンの方なのに。

その意図が通じたのか、エレンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いて不機嫌そうにした。

グリシャ「全く……そんなんだから、友達も一人しかいなんだぞ、エレン」

エレン「別にいいだろ。一人いれば。アルミンと仲良くやってるし」

グリシャ「そうは言ってもね。今年の春からは高校生になるんだし、中学生の時のままの交友関係じゃいけないよ」

エレン「んー……まあ、そりゃそうだけどさ」

グリシャ「そう言えば、そちらのミカサさんは、春からはどちらに?」

ミカサ「講談高校です」

エレン「なんだ。俺と同じ高校か。じゃあそんなに頭良くねえな」

エレン「頭よかったら、集英の方に行くだろ」

グリシャ「こら、エレン」

ミカサ(…………内申点で落とされたとは言えない)

ミカサ(喧嘩をふっかけてきた相手を全員、病院送りにした過去は言わないでおこう)

点数的には集英高校でも余裕で大丈夫だったのだが、私は過去にいろいろ問題を起こしてしまっているので、内申点で落とされたのだ。

そういう訳で私は中学校ではちょっとお転婆が過ぎる「頭のいい不良少女」と呼ばれていた。

別に学校を無断で欠席したり、タバコを吸ったり、バイクに乗って暴走行為などは一切していないのだが。

ただ、ついつい、手が出るのが早いせいでいつの間にかそう呼ばれるようになってしまったのだ。

そういう裏事情があるので、集英高校は落とされてしまったのだ。

エレン「なんだよ。事実だろ? この辺は頭いい奴、皆、集英に行くしな。アルミンは集英に行く学費がなくて泣く泣く諦めたけど。そういう事情がない限りは集英に行くだろ?」

ミカサ「その、アルミンというお友達も講談?」

エレン「そうだな。アルミンは特待生扱いで講談に入った。多分、首席になるんじゃねえのかな?」

首席の成績で入学すると新入生の代表の挨拶を任される筈だ。

入学式の何日か前には連絡がくる予定とか、入学の案内書に書いてあったように思う。

きっとその挨拶の場で私はアルミンという人を見る事になるだろう。

エレン「アルミンみたいな特別な例を除けば、講談に来る奴は皆、頭悪くて運動神経のいい奴ばっかだよ。講談はスポーツに力入れてる学校だからな。全国制覇も何度かしてるし、そっちの方じゃ有名だ」

ミカサ「という事は、エレンも運動神経は良い方なのね」

エレン「まあまあかな。全国レベルって訳じゃねえけど」

ミカサ「そう。では、部活にも入るの?」

エレン「おう! なんか面白そうなのがあれば入るつもりだ」

ミカサ「一緒に、見て回ってもいいだろうか?」

エレン「いいぞ。じゃあその時、アルミンもついでに紹介するわ」

ミカサ「是非、お願いする」

そんな感じでいろいろ話して、私達は雑談を続けた。

今日のところは夕飯を食べてお開きになり、それぞれの家に帰る事になった。

来週には、私達はエレンの住んでいるおうちに住む事になる。

引越しの準備、まだ全然終わってないけれど。頑張らないといけない。

家に帰ってから雑然とした部屋の中で母が言った。

ミカサの母「ミカサ、仲良くやれそうね」

ミカサ「うん……多分、大丈夫だと思う」

ミカサの母「いろいろ大変だとは思うけど、ごめんね」

ミカサ「謝る必要はない。お母さん。私は、お母さんが幸せならそれでいい」

私の父は私の小さい頃、早くに亡くなった。

暴漢に襲われた私を庇って、父は亡くなってしまったのだ。

母もその時に大怪我を負い、肩にはまだ傷跡が残っている。

手術の末、奇跡的に助かった母は今まで、女手一人で私を育ててくれた。

喧嘩ばかりして騒動を起こす度に母に心労もかけてしまって申し訳なく思っていたのだ。

そんな母が新しい人生を歩むのなら私に反対する理由などない。

ミカサの母「そう……ありがとうね。ミカサ」

ミカサ「うん……」

グリシャさんという新しい父親。

そして、エレンという新しい兄弟との新しい生活がもうすぐ始まる。

この長い髪を切る頃には、きっと今までにない生活が始まるだろう。

不安もあるけれど、幸せな未来を想像しながら、その日の私は眠りについたのだった。

今回はここまで。
原作とは違う形ですが、エレンとミカサが家族となる現パロです。
ミカサが若干、ヤンキー娘っぽい感じですがどうかご容赦を。

そんな訳であっと言う間に引越しの日はやってきた。

母の再婚相手であるグリシャさんは、お医者さんであるだけあって、お金持ちだ。

おうちも一軒家で、とても大きい。

今までアパート住まいだった私にとっては未知の世界だ。

朝早くから引越し業者と共に新しい家にトラックで荷物を運んで貰い、私の新しい部屋にも荷物をどんどん運んで貰った。

私の荷物は非常に少ない。私の部屋は和室だと聞いていたので、ちゃぶ台とタンス、あと教科書等を置く本棚を置いた。

八畳の畳の部屋だ。空間が広くてごろ寝が出来る。

パソコンは持ってないしテレビもない。洋服も必要最低限の量しかないので私の分の荷物はすぐに運び終わった。

日当たりも良好で南向きの窓だ。ベランダまである。これなら雨の日も洗濯物が外で干せる。

これから贅沢な日々を味わえると思うと、不謹慎にもわくわくしてきた。

エレン「おー終わったか? ミカサ」

ミカサ「うん。もうだいたい終わった」

エレン「んじゃ、この後は昼飯だ。そば食うぞ」

引越しをしたらそばを食うのは定番だ。理由などない。

私達は四人で台所でそばを食べながら今後の事を話し合った。

グリシャ「昼食を食べ終えたら、必要な物があれば追加して買いに行こう。車を出すよ」

エレン「ミカサの部屋、俺より殺風景だったぞ。何か置いたらどうだ?」

ミカサ「そうだろうか?」

エレン「女の子の部屋なんだし……そうだ。カーペットとか、どうだ?」

ミカサ「畳なので要らない」

エレン「いや、色合いを女の子の部屋っぽくしていいって話をしてるんだが」

ミカサ「尚更要らない」

グリシャ「ミカサ、遠慮しなくていいんだよ。欲しい物があったら言って欲しい」

エレン「金なら持ってるからな。父さんは」

グリシャ「エレン、一言多いよ。まあ、事実だけど」

ミカサ(中身は似たもの親子のようね)

軽口を叩き合うところが似ていると思った。

しかし私は本当にカーペット等は要らないので困った。

ミカサ「今、欲しい物は特に浮かばない……」

エレン「そうなのか。んーじゃあ、俺が昔使ってた物とかやるよ」

ミカサ「いいの?」

エレン「捨てるのが面倒で押入れに入れっぱなしだった物がいくつかある」

ミカサ「では、それでいい」

エレン「おばさんは、何か新しいものを買わなくていいんですか?」

エレンはまだ、私の母に対しては少し遠慮がちのようだ。

ミカサの母「ええ。今すぐ必要な物はないわ。私の家にあった物を引き続き使えば済むことよ」

グリシャ「では午後からはどうしようか」

エレン「二人で出かけてくれば? オレ達は家にいるよ」

グリシャ「………喧嘩はするなよ?」

エレン「しねえって! 大丈夫だってば」

グリシャ「じゃあ午後からは分かれて行動するか。エレン、留守は頼んだぞ」

という訳で午後、私は早速エレンの部屋にお邪魔する事になった。

エレンの部屋は私の部屋より更に広い十畳の畳の部屋だった。

ちゃぶ台の上には漫画本、教科書、部屋の端っこにはタンス、あとテレビなどが置かれている。

部屋の中はお世辞にも綺麗とは言えなかったが、一番気になったのは敷きっぱなしの布団だった。

ミカサ「エレン、布団は干すか押し入れに入れないと」

エレン「え? 面倒くせえからいいよ」

ミカサ「折角天気がいいのだから、今からでもいい。干そう」

私は窓を開けてエレンの布団をベランダに干す事にした。

エレン「わー! 勝手なことすんなって! 馬鹿、やめろ!」

ミカサ「何を恥ずかしがっているの? 布団を干さない方が恥ずかしいのに」

エレン「そういう問題じゃねえよ。なんていうか、布団なんてたまに干せばいいだろ」

ミカサ「何日に1回のペース?」

エレン「………月一?」

ミカサ「ダニが繁殖しているに決まってる! 病気になったらどうするの」

エレン「死にゃしねえってば! その程度の事で」

ミカサ「信じられない。男の人って皆そうなの?」

エレン「あー…どうだろうな? 父さんは忙しくて家事なんてしてないし、俺もそういう話は他の奴とはしねえから分からん」

ミカサ「エレン、あと部屋の掃除もしよう。ちょっとごちゃごちゃし過ぎている」

エレン「ええ? これが普通なんだけどな……」

ミカサ「普通ではない。絶対、普通ではない。うちの母はまめに掃除をしていた」

エレン「そっかあ……うち、母さん、早くに亡くなったから、その辺はよそと違うのかもな」

ミカサ「え?」

その時、私はついつい、声を大きくしてしまった。

エレン「あれ? 聞いてねえの? 俺の母さん、俺が9歳の時に亡くなってるんだ」

ミカサ「そうなの? 偶然ね。うちは父の方が9歳の時に亡くなっている」

エレン「え? そうなのか。そりゃあ大変だったなあ」

私はベランダから部屋に戻って畳の上に正座してから言った。

ミカサ「エレンも大変だったのね」

エレン「ん? まあ、そりゃはじめは大変だったけどもう慣れた」

エレンもあぐらをかいて私の話を聞いてくれている。

エレン「母さんがいなくなってからは、口うるさく言う人がいない訳だし、ついつい自分のペースで生きてたんだよな。父さんも忙しいし、父さんはそういうのにはうるさいタイプじゃねえし」

ミカサ「ではこれからは、私が代わりに口やかましく言ってあげよう」

私が少しだけにやっとしながら言ってあげると、エレンは急にオロオロし始めた。

エレン「げげ! それは勘弁してくれよ。オレの世話なんかしなくていい!」

ミカサ「ダメ。私が定期的にチェックしようと思う」

エレン「ううう………参ったな。まさかこんな事になろうとは」

ミカサ「ふふ……」

主導権をまずは私の物に出来そうだ。これはいい。

エレンは暫く困ったように頭を掻いていたけれど、渋々諦めたようだ。

エレン「…………分かったよ。今度からは真面目に自分で掃除する。この話はおしまい。次行くぞ」

そう言ってエレンは逃げるように押し入れを開けてゴソゴソし始めた。

エレン「カーペットなら前に買った予備があったはず。緑色だけどいいよな?」

ミカサ「構わない。それを敷いておく」

エレン「他には……ああ、使ってないノートパソコンとかもあるな。XPだけどいいよな?」

ミカサ「XP?」

エレン「え? 知らねえの? パソコン触ったことねえの?」

ミカサ「授業でしか、ない」

エレン「まじか……学校じゃどのバージョンだった?」

ミカサ「2000だったような?」

エレン「古! いや、まあ、使えなくはないけど。お前、どんな中学校にいたんだよ」

ミカサ「街からは遠い、割と田舎の方かも」

エレン「そうか……東京もまだまだ発展してねえ学校もあるのか」

エレンはそんな風に言いながら何故か納得したように頷いた。

エレン「じゃあそういうのも含めて俺がいろいろ教える。あ、携帯のアドレスも交換しておこうぜ」

そう言ってエレンは私の持っている携帯とは違う機種を出した。

緑色がかった、黒っぽい色のガラケーと呼ばれる電話だった。

エレン「オレも早くスマホにしてえけどな。ついついこいつに愛着があって買い替え時期を逃してるんだよな」

私も自分の部屋から自分の携帯電話を持ってきた。

エレン「お、お前もガラケー族か。じゃあ赤外線使えるな。ほい」

ミカサ「赤外線? どれ?」

エレン「ああ、暫く使わないと忘れるよなーって、おい!」

エレンは私の携帯電話を見るなりツッコミを入れた。

エレン「これ、相当古い機種だろ?! え……まさか赤外線、入ってないとか?」

ミカサ「よく分からない。とりあえず、電話とメールは出来るけども」

エレン「いや、赤外線はあるだろさすがに………ええ?! ついてねえ?!」

ミカサ「でもちゃんと電話は出来るので構わない」

エレン「お前、これはまずいって! ガラケーの中でも最古の部類に入るって」

ミカサ「まだ使えるので大丈夫」

エレン「いや、明日にでも壊れる可能性あるぞ」

ミカサ「そ、そうだろうか?」

もしそうなったらちょっと困る。

エレン「生きてる事が奇跡だ。その携帯は。物持ち良すぎるだろ」

そうなのだろうか? でも、壊れない限りは使い続けたいのだ。

エレン「いや、そもそもそれに対応するサービスが生きてたって事の方が驚きだ。オレにとっては」

ミカサ「私はそこまで交友関係も広くないし、これで十分なのだけども」

エレン「いや、でも、これ、親父に見せたらさすがに買い替えろって言われるレベルだぞ」

ミカサ「そう……それは困る」

私も私でこの携帯電話に愛着があるので出来るなら手放したくない。

ミカサ「私はこれでいいので。エレンのアドレスに一度、メールを送る」

エレン「あ、ああ………(原始的な交換だな、おい)」

という訳で私達はお互いのアドレスを交換して登録し合ったのだった。











エレン「よし、父さんいないし、ゲームするぞ!」

ミカサ「ゲーム? 何をするの?」

エレン「テレビゲームだ。いろいろあるぞ。ミカサは何が好きだ?」

ミカサ「テレビゲームはやった事がない……」

エレン「えええ?! 今時いるんか、そういう奴」

ミカサ「ここに一人いる」

私がそう即答するとエレンは「へー」という声を漏らした。

エレン「もしかしてミカサはアレか? スポーツやってたとかか?」

ミカサ「やってない。中学は部活に入ってない」

エレン「じゃあ、家の手伝いで忙しかったとか?」

ミカサ「………まあ、そんなところ」

詳しい事は伏せる事にした。喧嘩三昧だったなんて、言えない。

エレン「そっかそっか。だったらオレのいち推しのゲームをしよう」

そう言っていくつかあるソフトと思われるケースを吟味するエレンだった。

エレン「オレはこの、ICO×ICOっていうゲームが好きなんだ」

ミカサ「イコイコ? どういうゲーム?」

エレン「アクションと謎解きだな。複雑なアクションもあるけどストーリーが泣けるんだ」

ウイイイイイン………

ディスクを読み込んでゲームが始まった。

オープニングが荘厳に始まり、操作出来るようになった。

まずは見本としてエレンが先に操作している。

どうやら小さな少年と少女の物語のようだ。

少年は木の棒のような物を振り回して黒い影のような敵をなぎ倒していく。

しかし油断すると、その黒い影達に少女が攫われてしまうので、少女を庇いながら戦わないといけない。

ミカサ「む、難しそう……」

エレン「慣れるまでが大変だった。やってみるか?」

コントローラーを渡されて私も少年を操作する事になった。

しかしあっと言う間に少女を奪われて焦る。

エレン「馬鹿! 少女を奪われたら、他の黒い影は無視しろ! 急がないと穴の中に吸い込まれるぞ!」

ミカサ「え? そうなの?」

エレン「急げ! 黒い穴に吸い込まれたらゲームオーバーだ!」

これはなんて恐ろしいゲームだろうか。

私は急いで少女の元へ走り、黒い影を殲滅した。

そして引っ張り上げてまた、少女と手を繋いで先を急ぐ。

少女を呼ぶ時に「イコイコ」と少年が声を出す以外はしゃべらないようだ。

ミカサ「ドキドキした……」

エレン「間一髪だったな」

ミカサ「こんなのがずっと続くの? 心臓に悪い」

エレン「それがこのゲームの醍醐味だからな」

ミカサ「そうなのね。分かった。気をつける」

そしてお話が進むと今度は謎解きが始まった。

このままでは先の道を進むことは出来ないようだ。

ミカサ「? 何をすればいいの?」

エレン「ここを渡るには普通の方法じゃダメなんだ。頭を使って、岩とかを運んで道を作る」

ミカサ「なるほど」

エレン「初見じゃ難しいよな。ここはオレがやってやるよ」

そんなこんなで、エレンと私は交互に操作しながらお話を進めた。

物語は単純なものだったが、操作性がかなり難しく、飽きずにずっと遊べた。

ミカサ「あ………エレン、もうこんな時間」

ゲームに夢中になってたせいであっと言う間に夕方になってしまった。

エレン「あ? 本当だ。しょうがねえ。セーブすっか」

今日のところは途中までで区切っておしまいにする事にした。

ミカサ「初めてゲームをやったけれど、面白かった」

エレン「初めてにしちゃ上出来だよ。ミカサ、運動神経いいのか?」

ミカサ「た、多分……」

体育は5段階評価で5しか取った事がない。

先生曰く、本当は7をあげたいくらいです。と、通信簿に書かれた事もあるくらいだ。

エレン「なるほどな。通りでアクションうまい筈だ。慣れるのオレより早かったぞ」

ミカサ「そう?」

エレン「んーだったら、アクション系のゲームがミカサには向いてるかもな。オレがいない時でも、好きなのあったら勝手に遊んでてもいいぞ」

ミカサ「いいの?」

エレン「いいよ。うちにあるのは一通りクリアしてるソフトだしな。全クリしてないソフトはねえし」

ミカサ「エレンはゲームが好きなのね」

エレン「ま、それなりにな。男の子だしな」

エレンといろいろ話していたらチャイムが鳴った。

グリシャさん達が帰ってきたようだ。

エレン「あ、父さん帰ってきたな。下に降りようぜ」

ミカサ「うん」

私とエレンは一階に降りた。すると、グリシャさんが嬉しそうな顔でお土産を渡してきた。

グリシャ「ふふふ………エレン、ミカサ、ちょっといいものをあげよう」

エレン「何? なんかお土産か?」

グリシャ「ああ。ほらこれ、可愛いだろ?」

グリシャさんが私に渡してくれたのは黒っぽい熊のぬいぐるみだった。

眼がまんまるで、ほっぺが赤い。口は半開きでちょっと間抜けな顔だ。

グリシャ「UFOキャッチャーで久々に取れたんだ。ミカサにあげようと思って」

エレン「その年でゲーセン行ってきたんか」

グリシャ「夕飯の買い物のついでだよ。父さん、こう見えてもうまいんだぞ?」

エレン「オレの方がうまいし」

ミカサ「あ、ありがとう……ございます」

やばい。とても可愛い。ぬいぐるみなんて初めて貰った。

エレン「オレはいらね。ミカサ、オレの分はミカサにやるよ」

ミカサ「両方貰ってもいいの?」

エレン「いいよ。部屋にでも飾っておけば?」

ミカサ「あ、ありがとう……」

私はふたつの熊のぬいぐるみを両手に抱えて部屋に戻って部屋の壁際に設置してみた。

ひとつは普通の顔。もうひとつはにっこり笑っている。

何だか仲良さそうな感じでいいと思った。

おかげで私の部屋が少しだけ、賑やかになって嬉しかった。

そんな感じで引越しの初日はとても穏やかに過ごして家族揃って夕飯を食べた。

食後はゆっくり風呂に入った。シャワーもアパートに住んでいた時と比べると性能が段違いだった。

お風呂も大きい。こんな贅沢を味わうのは初めての経験だ。

私は自身の濡れた長い黒髪をタオルに包み、体を拭いて脱衣所に出た。

その直後………

ガラッ!

エレン「ふふーん……」

ミカサ「…………え?」

エレン「…………あ」

エレンが何故か着替えを持って脱衣所で服を脱いでいた。

幸い、脱いでいたのは上だけで、下はズボンのままだったけど。

こちらは勿論、全裸な訳で…。

エレン「…………」

ミカサ「…………」

お互い片親同士で、今の今まで自由に生活していたから、相手を気遣うという発想がなかったのが仇になった。

エレンは私が風呂に入っていた事を知らず、また私もエレンに風呂に先に入るという伝言を残していなかった。

故に起きた、衝突事故のようなものだった。

エレンは私の裸を見るなり、呟いた。

エレン「腹筋すげえ……!」

私は当然、エレンの片頬を思い切り平手打ちした。







グリシャさんが爆笑していた。

いや、この場合は失笑と言ったほうが正しいかもしれないが。

私達の家庭内の風呂での衝突事故に対しての感想が、それであったのだ。

グリシャ「それは申し訳ない事をしたね。エレン、いつもの感覚で風呂に入ろうとしたんだろ」

エレン「ああ……父さんはいつも寝るのも遅いし風呂も遅いからオレが先に入らねえと思って、ミカサが先に入ってるとは思ってなかった」

ミカサ「まあ、私も伝言をしていなかったのが悪いのだけども、裸を見るなり「腹筋すげえ……!」はないと思う」

エレン「わ、悪かったよ。ついつい、板チョコみてえな腹筋だったからつい、見入っちまったんだよ」

胸より先に腹筋を注視されてしまった私は女としてのプライドが傷ついたのだ。

まあ、私の腹筋は確かに六つか八つは分かれてるのだけども。それはそれ、これはこれである。

ミカサ「今度から気をつけて欲しい。ルールを決めよう。私は8時から入るので、エレンは8時30分から入って欲しい」

エレン「ええ? 何で厳密に決めるんだよ。面倒くさいだろ。日によっては風呂の時間なんて変わるだろ」

ミカサ「そうなの? 私は8時と決めたら毎日8時に入るのだけども」

エレン「そんな時計みたいな生活は出来ねえよ。ミカサが先に入って、その後にオレに声かけてくれればそれでいい。その後に入るから」

ミカサ「でも、そうなると後の人がつかえるのでは?」

ミカサの母「いいわよ。その辺は適当で。ミカサが最初に入っちゃいなさい」

グリシャ「女の子だからな。うん、それがいい」

エレン「じゃあ、ミカサ、おばさん、オレ、父さんの順でいいか」

グリシャ「それでいいな。よし、次からそうしよう」

私以外は割とざっくりとした性格のようだ。私が生真面目すぎるのだろうか?

ミカサ「一番風呂で申し訳ないのだけども」

エレン「でもミカサは毎日、風呂入る方なんだろ? オレはゲームやりこんでる時は風呂は入らねえから」

ミカサ「え……?」

グリシャ「私もパソコンでの仕事を抱えている時は入らない事も多いな」

ミカサの母「あらあら。ダメですよ。ずっかけては」

グリシャ「すみません。似た者親子なんですよ」

と、グリシャさんが弁明する。

ふむ。そういうものなのだろうか。やはり女性と男性では感覚が違うようだ。

しかしこれから先は家族としてやっていかなければいけない。

お互いの感覚の違いは徐々に慣れていく事だろう。

エレン「じゃあおばさん、お先にどうぞ」

ミカサの母「あらあら、ごめんなさいね」

そして母は先に風呂に入っていった。

グリシャさんも部屋に戻り、リビングには私とエレンの二人。

ミカサ「…………」

エレン「まだ怒ってるのか? 機嫌直してくれよ」

ミカサ「怒ってはいないけど何だか釈然としない」

エレン「腹筋を見られた事がか? いや、あんだけすげえの見せられたらそら、胸より先に腹筋見るだろ」

ミカサ「………私の胸は腹筋に負けた。けしてペチャパイではないのに」

エレン「いや、全く見てねえ訳じゃねえけど」

ミカサ「…………エレンはムッツリスケベのようね」

エレン「お前、それを言わせるか?!」

エレンはそう言って困惑していた。顔を赤くして不機嫌そうにしている。

エレン「あーもう、今回のは事故だからな! お互いに水に流そうぜ。いいな!」

ミカサ「それは今後のエレンの態度次第」

エレン「………オレのセリフ、微妙にパクるんじゃねえよ」

エレンはそう言ってむすっとしたけれど、それ以上、言い返さなかった。

ミカサ「……嘘。冗談を言ってみた」

エレン「あっそ。じゃあ許してくれるんだな?」

ミカサ「家族になったのだから、許す」

エレン「………まあ、ならいいんだけど」

エレンは頭を掻いて私には顔を見せないようにして背中で語った。

エレン「慣れるまでは本当、気をつけねえといけないな。……お互いに」

全くその通りだと私も思った。

今回はここまで。
まだ互いにぎこちないエレンとミカサの二人ですが、宜しくお願いします。

そしてその日の夜、突然の電話が鳴った。

自分の携帯に電話がかかってくるなんて珍しい。

私は慌てて出た。何故なら相手は講談高校とあったからだ。

ハンジ『あ、夜分すみません。講談高校の者ですがミカサ・アッカーマン本人様でしょうか?』

ミカサ「はい。ミカサは私です」

ハンジ『今年の入学試験で首席成績者に連絡をさせて頂いているんですが、今年は二人、首席合格者が出まして、新入生の代表の挨拶について相談させて頂きてくて電話をしたんですが……』

ミカサ「え? という事は、私が首席合格したんですか?」

ハンジ『はい。ミカサさんとアルミンという生徒が同点でトップの成績でしたので、お二人に挨拶を依頼出来ないかと思いまして』

ミカサ「…あの、私の方は辞退させて貰いたいんですが」

ハンジ『え?』

ミカサ「その、人前に出るのが苦手なので、もう一人、首席がいるのではあれば、その方一人にお願い出来ませんか?」

ハンジ『そうですか…ちょっと確認してみますね。もしもう一人の方も辞退された場合は、お二人で話し合ってどちらかが出る形になると思いますが、それでもよろしいですかね?』

ミカサ「その場合は仕方ないですね」

ハンジ『分かりました。ではまた日を改めて連絡させて貰います。それでは」



プッ…



思わぬ事になった。まさか私も首席合格していたとは。

でも、出来る事なら目立ちたくない。何故なら、過去が過去であるが故に。

アルミンというエレンのお友達さんも首席なら彼に挨拶を任せたい。

自身の過去が多くの人に露見する事を恐れて私はそこで逃げてしまったのだ。

次の日。3月30日。日曜日。

このお休みの午前中に、突然、可愛い女の子がうちにやってきた。

誰だろう? インターフォン越しに見える金髪の美少女に私は見覚えがない。

ミカサ「どちら様でしょうか?」

アルミン「あ、アルミンです。エレン、いますか?」

アルミンと名乗ったその美少女はニコニコと屈託のない笑顔を見せている。

そう言えば以前、エレンにはアルミンという友人が一人だけいると言っていた。

まさか女の子だとは思わなかったけれど、エレンの友人なら家にあげてもいいだろう。

ミカサ「エレンは今、部屋にいます。呼んでくるので待ってて欲しい」

私はエレンにアルミンが来たことを伝えると慌てて降りていった。

もしかしたら本当は友人ではなく彼女なのかもしれない。

まだ、親には隠しているとか、そういう可能性もあると思った。

エレン「よーアルミン! あがれあがれ」

エレンも同じように嬉しそうにニコニコして対応している。

うん、これは友人というより彼女の可能性が高い気がする。

隅に置けないという奴だと思った。

アルミン「知らない声の人がインターフォンに出たからびっくりしたよ。あ、おじゃまします」

ミカサ「ゆっくりしていくといい」

アルミン「…………えっと、もしかして、エレンの彼女?」

エレン「馬鹿! 違うって! ミカサはその……」

ミカサ「彼女はアルミンさんの方でしょう?」

アルミン「え……? (青褪め)」

エレン「はあ? (青褪め)」

ミカサ「隠さなくてもいい。これだけの美少女。自慢していいと思う」

アルミン「エレン……? これってどういう事?」

エレン「いや、オレ、ちゃんと説明したぞ?!」

アルミン「じゃあ何で勘違いしてるの?! 僕は男なのに!!」

…………え?

エレン「知らねえよ! オレはちゃんとアルミンは友人だってミカサに言っておいたし!」

ミカサ「待って待って。アルミン……は、男性なの?」

アルミン「見れば分かるだろ?! 胸もないよ?!」

ミカサ「ただの貧乳だと思ってしまった」

アルミン「酷いよ! 僕は正真正銘、男の子だから! 今日だって、ラフな格好だろ?!」

ミカサ「Tシャツとズボンなら私だって同じ」

ミカサ「あと、声も可愛いと思ってしまったので女性だと思ったの」

アルミンにそう伝えると彼はすっかり落ち込んで床にのの字を書き始めてしまった。

アルミン「もう何回目になるか分からないけど、僕はそんなに女の子に見えるのかな……」

エレン「あ、アルミン、そんなに落ち込むなって……」

アルミン「だってだって……(しくしく)」

これは申し訳ない事をしてしまった。

ミカサ「ごめんなさい。間違えてしまって」

アルミン「うん。いいよ。しょうがないから。僕は小柄だし、筋肉も薄いし、声だって高いし……」

ミカサ「いえ、それ以前に顔が可愛いのが一番、間違われる要素だと思う」

アルミン「………うん。そうだね。分かっているんだけどね」

どうしよう。アルミンが落ち込んでしまってすっかりいじけてしまった。

何か、彼の機嫌を良くする方法はないだろうか。

エレン「ミカサ、冷蔵庫にプリンあっただろ」

ミカサ「あ、ある……」

エレン「後で部屋に持ってきてくれ。それで多分、大丈夫だから」

エレンはアルミンと部屋に戻っていった。

確かにおやつを食べれば不思議と気分も上昇する。

食べ物で機嫌を取るのが一番かもしれない。そう思い、私はお茶とプリンをトレイにのせてエレンの部屋に運んだ。

するとプリンを見るなり少しだけ元気を見せたアルミンだった。

アルミン「んー美味しい! 生き返った!」

エレン「アルミンは甘いもの好きだよな」

アルミン「プリンを嫌いな奴なんて見たことないよ」

エレン「オレも嫌いじゃないけどさ。アルミンは美味そうに食うよな」

ミカサ「確かに」

見ていると私まで食べたくなってきた。

エレン「ん? ミカサの分は持ってきてねえのか?」

ミカサ「うん。冷蔵庫には2個しかなかった」

エレン「あっちゃー……だったらオレのを半分やるよ」

ミカサ「いいの?」

エレン「食べたそうにしてたからな」

どうやら私も顔に感情が出ていたらしい。

ミカサ「では、残りを頂きます」

私がパクパクそれを平らげると、アルミンが不思議そうに言った。

アルミン「ところでエレン、その子は……」

エレン「ああ、前にメールで言っただろ? ミカサだよ。オレの新しい家族だ」

アルミン「ああ! やっぱり! そっか……同い年の女の子って言ってたからもしかしてって思ってたんだ」

エレン「昨日、うちに来たばっかりだ。まだ実感はねえけどな」

ミカサ「それはお互い様」

私はふふっと小さく笑ってエレンと見つめ合った。

まだお互いに慣れないけれど、エレンはいい人なので、大丈夫だと思う。

アルミン「へー……まるでエロゲの主人公みたいだね、エレン」

エレン「ぶ! あ、アルミン……それは言うなよ」

アルミン「だってある日突然、自分に血の繋がりのない家族が出来て同居だなんて、よくある設定じゃないか」

エレン「よくある設定だろうが何だろうが、現実にも起きたんだからしょうがねえだろ」

ミカサ「エロゲ? エロゲって何の事?」

私は疑問に思った事をつい、口に出してしまい、二人同時に「え?」という顔をされた。

アルミン「エロゲを知らないの?」

エレン「昨日、ようやくテレビゲームをしたような奴だから、知らないのも無理ねえか」

アルミン「え? そうなの?」

エレン「どうもミカサはそういうのに疎いらしい。まあ、エロゲっていうのは、エロいゲームの略称だよ。男の子なら一度は挑戦するゲームの事だ」

ミカサ「そう。女の子はしないゲームなのね」

アルミン「普通はやらないね。あ、そうそう。エロゲで思い出した。エレン、誕生日おめでとう」

と言って、アルミンは緑色の紙で綺麗に包装されたプレゼントを渡した。

アルミン「今回も僕のおすすめだよ。存分に楽しんで」

エレン「おう……開けるぞ。(カサカサ)……って、エロゲかよ?!」

ミカサ「どんなの? (覗き見る)」

エレン「馬鹿見るな! 女の子は見ちゃダメ!」

ミカサ「そう言われると見たくなる」

エレン「ちょ、アルミン、ミカサがいる前で渡すなよこれ!」

アルミン「えー? いいじゃない。別に(ニコニコ)」

ミカサ「いいと思う。後で私もやってみる」

エレン「お前はやったらダメだろ?!」

ミカサ「エレンは好きな時にゲームをしていいと言った」

エレン「エロゲは除くに決まってるだろ! そもそもエロゲは本当は18歳未満はやっちゃダメなんだからな!」

ミカサ「……だったらどうやって手に入れたの?」

アルミン「おじいちゃんの名義でこっそり購入した」

エレン「お前、ゲスいなー……(遠い目)」

アルミン「おじいちゃんはゲームソフトなんてよく分かんないし、作品タイトルとパッケージだけじゃそういうのだって分からないから大丈夫だよ」

エレン「まあ、おじいちゃんに感謝だけどさ。うん、ありがとな、アルミン」

お礼をいいつつエレンはやっぱりそれを返すという事はしないようだ。

やっぱりエレンはムッツリスケベなのだろう。それが良く分かった。

ミカサ「今日はエレンの誕生日なのね。知らなかった」

エレン「言ってなかったしな」

ミカサ「では、折角なのでケーキでも作ろう。少し待ってて欲しい」

エレン「え? 別にいいよ。買ってくれば……」

ミカサ「作るほうが美味しい。材料は多分、あると思うから」

そう言って私はエレンの部屋を出て台所に移動した。

そして適当な材料を使って簡単にケーキを焼き上げる。

ホットケーキミックス粉を利用したスポンジケーキに生クリームを塗りつけて簡易ショートケーキの出来上がりである。

それを上に持っていったら想像していた以上に二人に絶賛されてしまった。

エレン「ミカサ、お前、こんな特技があったんだな」

ミカサ「料理は全般出来る」

アルミン「ますますエロゲの主人公みたいだ。爆発しろ(小声)」

エレン「オレも好きでこうなった訳じゃねえんだけど?!」

ミカサ「アルミン、心配しなくていい。もし襲われそうになったら返り討ちにする自信はある」

アルミン「え?」

エレン「あ、そうだぞ。ミカサ、こう見えても滅茶苦茶強いんだ。男三人ハイキックでのした経験があるんだぞ」

アルミン「え? 男三人をのした?」

男三人どころか、もっと多い数を倒してきた経歴を持つがここでは言わない。

ミカサ「護身術の心得はあるので、襲われそうになっても大丈夫」

エレン「それ以前に家族だしな。そういう目じゃ見れねえよ」

アルミン「……ごめんごめん。僕もからかい過ぎたよ」

エレンがそう答えるとアルミンは真面目になって話題を変えてくれた。

アルミン「あ、そう言えば、昨日、僕のところに連絡が来たんだけど、ミカサの方にも来たかな?」

ミカサ「挨拶の話?」

アルミン「そうそう。今年は首席が二人って事だから、二人で挨拶するか、一人でやるか決めないといけないそうだけど、僕が受けてもいいの?」

ミカサ「お願いしたい。私は挨拶が苦手、なので」

アルミン「分かった。じゃあ僕が引き受ける方向で話を進めておくね」

ミカサ「助かる」

エレン「ん? 何の話だよ」

アルミン「ああ、だから、首席入学者の新入生代表の挨拶の話だよ。今年は僕とミカサが首席合格したんだよ」

エレン「へ? アルミンだけじゃなかったのか?」

エレンは大きな目を更に大きくして驚いていた。

エレン「つか、ミカサ。お前そんなに頭良いんならなんで集英受けてねえんだ?」

ミカサ「う……が、学費の問題が」

エレン「それだったら父さんと再婚するの決まった時点で大丈夫だった筈だろ? なんなら今からでも編入すれば……」

ミカサ「それは出来ないと思う。その、いろいろ事情があるの」

詳しい事はここでは言えなかった。

集英は内申点をかなり重視する学校なので、そこで落とされたと分かれば私が問題児だった事がバレてしまう。

エレン「ふーん、変わった奴だな。何か後ろめたい事でもあんのか?」

アルミン「まあまあ。制服目当てで講談に来る女子もいるよ。ね?」

ミカサ「! そ、そう。私は制服目当てで講談に入った」

実は講談高校の制服は結構、可愛い。

緑色をベースにした爽やかな色合いのブレザー服なのだ。

エレン「なんか取ってつけたような言い訳に聞こえるが……まあいいや」

エレンはそれ以上は興味がないのか飽きたように話題を変えた。

エレン「今日は三人揃ってるし、またゲームしようぜ」

と言ってエレンはまたゲーム機の電源を入れたのだった。









アルミン「おじゃましましたー」

エレン「おう! また遊びに来いよ!」

アルミン「うん! また来るよ。ミカサも、宜しくね」

ミカサ「うん。またお菓子でも作って待ってる」

アルミン「出来れば今度はクッキーをお願いしてもいい?」

ミカサ「構わない。リクエストがあればどんどん受け付ける」

アルミン「やった! 楽しみにしてるね」

と、言って大分薄暗くなった夕方にはアルミンは帰っていった。

ミカサ「しかし私は、運が左右するゲームは向いてないようね」

エレン「何回やっても、桃色鉄道どべばっかだったもんな」

ミカサ「スーパーキングボンビーが憎たらしい。何度コントローラーを壊したいと思ったか」

エレン「気持ちは分かるが、壊すなよ」

ミカサ「エレンもだけど、アルミンはああいう頭を使うゲームが得意のようね」

エレン「アクションは苦手だけどな。ぽよぽよとか、パズル系も凄まじく得意だよ」

ミカサ「ゲームもいろいろあるのね。奥が深い」

エレン「RPG系も結構、面白いのあるぞ。今度、ドラクエ5をやらせてやるよ」

ミカサ「うん。やってみる」

そんな感じで私とエレンの春休みはすっかりゲーム三昧になってしまった。









そして時が経ち、春休みも終わり、入学式も明日に迫ったというその日。

アルミンから残念なお知らせがきたのだ。

エレン「え? 時期ハズレのインフルエンザだって?! 入学式出れない?! どうすんだよ!」

エレン「は?! 挨拶文はメールするからミカサに託すだって? あーもう、しょうがねえな」

エレン「お大事にな。無理はすんなよ!」

エレンはアルミンと電話をしていた。そしてエレンの携帯にメールが届いた。

エレン「悪い。ミカサ。アルミン、何故か知らんが今頃、インフルエンザにかかって入学式は来れねえってさ。お前が挨拶するしかないぞこれ」

ミカサ「ううう……この場合は仕方がない」

私はメールを転送してもらい、挨拶文を暗記した。

気が重いけれど、やるしかない。

ミカサ「エレン、私の格好を見て、私だと分かる?」

私は講談高校の制服を着てエレンに姿を見せた。

エレン「そりゃ分かるだろ。一発で」

ミカサ「うう……困った。どうする?」

エレン「中学の時の自分を隠したいのか?」

ミカサ「……平たく言えばそうね」

エレン「だったらこの長い髪でも切ってイメチェンしてみたらどうだ?」

ミカサ「!」

エレン「なんならオレが今から切ってやるよ」

ミカサ「お願いする」

本当はもう少し暖かくなってから切ろうと思っていたが、言ってる場合ではなくなった。

入学式に合わせて私は思い切って髪を切ってしまう事にした。

制服を一度脱いで、私服に着替えてビニールを被り、エレンの前で椅子に座る。

エレンは洗面所に立ち、私と鏡を交互に見つめながらハサミを入れ始めた。

そして一時間後くらいだろうか。アルミンと同じような髪型の自分が完成した。

エレン「うん。これでいいんじゃねえかな」

首元がすーっとした。頭が軽い。動きやすい。

まるで新しい自分になったようで嬉しい。

ミカサ「ありがとう。エレン」

エレン「いいよ。オレ、短いのも結構好きだし」

ミカサ「え?」

エレン「あ……いや、今のは何でもねえよ」

エレンは何故か誤魔化して照れた。ふふ。可愛い。

ミカサ「エレンは髪の短い方が好きなのね」

エレン「いや、長いのも好きだけどな! 似合ってればどっちでもいいんだよ!」

ミカサ「では私はどっちが似合う?」

エレン「………短いほうかな」

ミカサ「なるほど。それは知らなかった」

髪をのばしている事の方が多かったので、短い自分は久々だ。

ミカサ「だったらきっと大丈夫ね」

この姿ならきっと、私の過去がバレる事はないだろうと思った。

そして次の日、いよいよ講談高校の入学式がやってきたのだった。

今回はここまで~。
4月なのにインフルエンザ。たまーに巷できくよね? よね?
入学式ではいよいよ、他の104期生の姿が登場します。お楽しみに!

アルミンから転送して貰った挨拶文を一応、手書きで紙にも書き写し、カンペとしてポケットの中に入れておいた。

これでもし万が一、挨拶の途中で内容を忘れた場合はカンペをチラリと盗み見ればいい。

準備を全て整えて入学式に間に合うようにエレンと私は一緒に家を出た。

電車を乗り継いで最寄駅で降りて学校までは徒歩で移動する。

新しい制服に身を包んだ私と同世代の人間が楽しそうに学校に向かう。

クラス分けはどうなっているのだろうか。

学校の門をくぐると奥に進んだ広場にクラス分けの発表がされていた。


1年1組

エレン・イェーガー


エレンは1組になったようだ。私も自分の名前を探す。

エレン「あ、あった。ミカサも同じ1組みてえだぞ」

本当だ。下の方に名前があった。五十音順に発表になっているようだ。

アルミンも1組だった。幸先のいいスタートだと思った。

エレン「校舎はどこだ? あ、あっちに案内がしてあるな」

エレンと一緒に教室に向かう。講談高校は大きな高校なので敷地も広い。

至る所に案内板が書かれているので迷う事はなかったが、それがなくなったら迷いそうだと思った。

教室に着くと半分位の席が埋まっていた。

エレンは五十音順で言うと前の方なので私の席とは大分遠い。

私は後ろの席の方だった。私の後ろには私とあまり背の変わらない長身の女子がいた。

珍しい。中学の時は私と同じくらいの背丈の女子なんていなかったのに。

やはり高校ともなるといろんなところから人が来る。少しだけ安心した。

話しかけたい気持ちは山々だったが、その時、担任の先生と思われる教師がやってきた。

キース「このクラスを受け持つことになったキースだ。宜しく」

頭の毛がない年配の男性だった。目つきが険しく、強面の先生だ。

体もそこそこ大きい。がっしりとした体格の厳しいその先生は生徒達を見るなり渋い顔をした。

キース「まだ半分くらいしか揃ってないな。まだ時間はあるが……あと15分程で入学式が始まる。少し早いが廊下に並んで待機しよう」

簡潔に挨拶を済ませると、私達は廊下に並んで待機して体育館に移動する事になった。

全員が揃った頃、一人だけ遅れてポニーテールの女子生徒が滑り込んできた。

口には食パンを加えている。実際、そういう事をする人間を見たのは始めてだった。

キース「こら! 貴様! 時間ギリギリだぞ! 食べ物を口に咥えて走るな!」

ポニー女子「はひ! もうひはへあひはへん! (はい! 申し訳ありません!)」

キース「さっさと飲み込め!」

ポニー女子(ごっくん!)

ポニー女子「はい! ギリギリで申し訳ありません!」

キース「まあいい。間に合ったからな。名前は?」

サシャ「は! サシャ・ブラウスであります!」

キース「サシャ・ブラウス、出席と。さっさと並べ! 適当に!」

サシャ「はい!」

サシャと名乗ったその女子は私の前に並んだ。背丈順に小さい子から前に並んでいるので、私の前が妥当だろうと思ったのだろう。

実際、目測で背丈を測ってみると、サシャという子の方がちょっとだけ私より背が低かった。

キース「まだコニーとかいう生徒が来てないが……待っている訳にもいかん。先に進むぞ」

キース先生は一人を放置してさっさと体育館に移動を始めた。

講談高校の1クラスの人数は35人。クラスは10クラス。1学年350人の編成だった。

これが高校の中では多いのか少ないのか私には分からないが、中学の時と比べると倍近くの人間が学校に集まるのだからやはり高校は凄いところだと思った。

体育館も中学の時より大きいし広い。二階席まである体育館の中で入学式が行われようとしている。

今更だけれども、緊張してきた。

しかも、2年、3年も同席している。保護者は二階席で待っている。

ざわざわとひしめく人の熱。その力に既に圧倒されそうだった。

校長先生の挨拶、教頭先生の挨拶、また来賓の挨拶、在校生の言葉、いろんな方の挨拶があっと言う間に終わり、いよいよ私の名前が呼ばれてしまった。

内心、「早い」と思ったが、サクサク進んでいるのは他の生徒にとっては幸いなのだろうと思う。

私も自分の挨拶がなければこの事態を歓迎していたと思う。

しかし挨拶を任された立場になると出来るだけ後にして欲しいと思ってしまう。

校長「では、入学生代表挨拶、ミカサ・アッカーマン、前へ」

ミカサ「は、はい!」

声が多少緊張で裏返ってしまった。恥ずかしい。

人生、初の、挨拶である。

手足の動きがぎこちないのを自覚しつつ、舞台にあがった。


ゴン☆


勢い良く一礼して、頭をマイクにぶつけてしまった。

音が静寂な舞台から広がって失笑が広がる。やってしまった…。

気を取り直してカンペを広げる。

ん……?

ポケットの中にカンペが、ない?

嘘。何故? 何処かに落としたのか?

脂汗が出てきた。一応、暗記もしておいたけれど、いざ、ここに立つと、内容が、出てこない。

その時の為にカンペを用意したのに、肝心の物がないなら、どうしようもない。

私がじっと沈黙しているので一同のざわめきが起きてきた。

まずい。不穏な空気だ。何か、場を繋がないと。

ミカサ「私は…強い。あなた達より強い…すごく強い……ので、私はどんな相手に襲われても蹴散らす事が出来る。例えば…一人でも」

今思うと、この時の私は相当混乱していたのだ。

口から出てきた内容が、場を凍らせているのを感じていたが、それでも無音よりはマシだと思って言葉を繋いだのだ。

ミカサ「あなた達は…腕が立たないばかりか…臆病で腰抜けだ。とても残念だ。ここで私を羨み、指をくわえたりしてればいい。くわえて見てろ」


生徒一同(゚д゚)(゚д゚)(゚д゚)(゚д゚)(゚д゚)


言葉を失い、口を半開きにして私を見つめる生徒の視線が痛くてどうしようもなかったが、私もここまで来た以上、挨拶を止められなかった。

ミカサ「この世界は残酷だ。戦わなければ勝てない。だから私は戦い続ける。この場所で、何としてでも勝つ! 何としてでも生きる!」

そう宣言して私は壇上から降りた。もはや挨拶でも何でもないのは分かっていたけれど。

こうする以外の方法を、その時の私は見つけられなかったのだ。

進行の先生「えーありがとうございました。続きましてはー……」

先生は何事もなかったかのように入学式の進行を続けた。それが余計に私の異質さを際立たせて、居た堪れなくなった。

帰りたい。私の人生の黒歴史が刻まれてしまった…。







入学式が終わると教室に各々戻り、担任の先生から今後の日程の説明があり、その日は解散となった。

午後からは自由時間だ。部活動の勧誘も始まり、教室には先輩達が入り込んでいろんな子を誘っているが、誰一人、私には声をかけてこない。

当然だろう。私は入学式早々、痛い事をやらかしてしまったのだから。

エレン「あんま落ち込むなって。ミカサ……」

教室の自分の席で落ち込む私をエレンだけが慰めてくれた。

だけど今はそれすら、悲しい。

ミカサ「ごめんなさい。エレン。私はアルミンの作った挨拶文のカンペを紛失した上に、アドリブの挨拶も碌に出来なかった」

エレン「テンパってたのは分かる。だからしょうがねえだろ」

ミカサ「そもそもカンペを何処で紛失したのか……」

ポケットの中にちゃんと入れていたのにどうして無くなったのか分からない。

体育館に移動する途中で落としてしまったのだろうか。そう、思い悩んでいると、

背の高い女「……あのさ、ミカサだっけ?」

ミカサ「?」

その時、私より背の高いクラスの女子が話しかけてきた。

背の高い女「あんた、移動の途中で紙切れ落としたよ。これ、さっきの挨拶で使うもんだったのか?」

ミカサ「!」

それは正しくカンペだった。

拾ってくれたのにどうしてすぐに渡してくれたなかったのか。憎らしい。

背の高い女「悪いな。移動の途中だったし、私もすぐ中身を確認すれば良かったんだけどさ。すぐ体育館に移動しちまったし、あんまり不審な動きすると先生に目つけられるだろ? だから教室戻ってから返そうと思ってたんだけど、まさか挨拶のカンペだとは思わなかったんだよ」

ミカサ「そ、そうだったのね……」

背の高い女「カンペ無くしてテンパった結果がアレだったんだろ? ククク……」

エレン「わ、笑うなよ。お前! ミカサは精一杯頑張ったんだぞ!」

背の高い女「いや、分かってる。それは分かってるんだが。面白かったから、ついつい」

その女は笑いのツボを突かれて一通り私の挨拶を笑った。

まあ、笑われるのは別に構わない。いっそ笑い飛ばしてくれた方が気は休まるけども。

背の高い女「下手に真面目な挨拶よりは幾分かマシだね。私はあの挨拶、気に入ったよ」

ミカサ「………」

ユミル「私の名前はユミル。ま、そのまんまユミルって呼んでくれ」

そしてそれが切っ掛けで、私より背の高い女子ことユミルと知り合う事になった。

エレン「ユミル、お前は部活入らねえのか?」

ユミル「ん? 私はクリスタ次第かな」

エレン「クリスタ?」

ユミル「そこで先輩達に囲まれて勧誘されてる金髪の美少女の事だよ」

視線の先には教室の端で3人の女子の先輩に囲まれて困った顔をしている金髪の子がいた。

確かに可愛い女の子だと思った。アルミンに雰囲気が似ているかもしれない。

目元だけならエレンにも似ているけれども。

ユミル「私はクリスタが入ったところに一緒に入るつもりだからどこでもいいんだよ」

エレン「それじゃただの腰巾着じゃねえか」

ユミル「お目付け役、と言って欲しいね。私とクリスタは一心同体なんだよ」

エレン「ふーん。ま、個人の考えには干渉しねえけど。オレはどうすっかなー」

ミカサ「見て回りたいところはないの?」

エレン「まあ、いくつかなくはないけど。ミカサ、一緒に行けそうか?」

ミカサ「うん。もう大丈夫」

私は気を取り直して椅子から立ち上がった。

いつまでも落ち込んでいてはエレンに迷惑をかける。

エレン「そっか。じゃあ、一旦、教室を出ようぜ」

そして私とエレンはユミルに別れを告げて教室から出たのだった。

今回はここまで。次回、部活を見て回ります。

エレンはとりあえず、サッカー、バスケ、野球、等の花形球技を見学しに行ったけれども、どれもイマイチな顔をしていた。

エレン「なんか、練習風景が殺伐としてて楽しそうじゃなかったな」

ミカサ「そうね。素人お断りって雰囲気だった」

エレン「まあ、厳しいのは仕方ねえけどさ。全国目指してるところは何処もそうなんだろうけど」

ミカサ「そうね。全国制覇は並大抵の事では出来ない」

エレン「オレの中では『面白そう』なところに入りたいんだよな。練習は多少、厳しくてもいいけど」

ミカサ「なるほど。面白そうな部活、ね」

エレンの琴線に触れる部活があればいいのだが。

校内をあちこち移動していると、パン! という破裂音のような音が聞こえた。

音のする方を見てみると、袴姿の女子や男子が道場と思われる場所から何名か出てきた。

エレン「お? ここはもしかして弓道部かな?」

ミカサ「弓道部?」

エレン「和風の弓矢を放つ部活だよ。アーチェリーとはまた違う弓矢だな」

ミカサ「ふむふむ」

エレン「ちょっとだけ覗いてみるか」

エレンの興味を引いたらしい。私もついていく事にした。

先輩1「あら、入部希望者?」

エレン「見学しに来ました」

先輩2「だったら、こっちにおいで。ここからの方が練習風景が良く見えるよ」

道場の入口から中の方に案内された。そこは全体の練習を眺めるのには適した場所だった。

パン! といういい音が何度響いて的に刺さる。

エレンは早速「やってみてえな」とうずうずし始めた。

先輩1「矢を射抜いてみる? うちは初心者でも歓迎するよ」

エレン「お願いします!」

エレンは先輩に一通り手ほどきを受けてから矢を構えた。

パン! と矢を放ち、的に向かって飛んでいったが……。

エレン「あれ?」

先輩1「最初はそんなもんよ。的になかなか当たらないし」

エレン「もう一回やってみます」

しかし何度も何度も何度も何度もやってもエレンの矢は的にまともに当たらなかった。

10本射抜いて10本とも外れるという事態にさすがの先輩も渋い顔をしたようだ。

先輩2「うーん。何が悪いんだろ?」

先輩1「教え方が悪かったのかなあ?」

先輩2「そっちの子にもやらせみてもいい?」

教え方が悪いなら他の子も同じように失敗するだろうと思ってか、私に声をかけてきた。

私も一通りノウハウを教えてもらってから矢を構えて放ってみた。


パン!


しかし私の場合は一発で矢が的に刺さり、居た堪れない空気になった。

ミカサ「た、たまたま当たっただけだと思う」

私はエレンの方を見てそう言ったが、エレンは物凄く落ち込んでいた。

エレン「いや、いい。これで証明されたようなもんだろ。オレには矢を放つ才能がねえって事が」

ミカサ「そ、そんな筈はない。今のはたまたま運が良かっただけ」

と、いう訳でもう一本、矢を放ったのだが、


パン!


私の願いも虚しく、的の端に矢が刺さってしまった。

わ、わざと外そうとしたのに何故刺さる?

エレン「いいよ。ミカサ。よけいに虚しくなるから」

エレンは「お邪魔しました…」と言って背中を丸めて道場を出て行ってしまった。

ミカサ「エレン!」

私は弓矢を先輩達に預けてエレンを慌てて追いかけた。

ミカサ「エレン、その…………他の部活をみましょう」

エレン「ミカサは弓道部に入れば?」

ミカサ「わ、私は別に弓道には興味ない」

エレン「ん? じゃあなんでやってみたんだよ」

ミカサ「そ、それはエレンと同じ部活に入ろうと思って……」

ピタッ

その瞬間、エレンは足を綺麗に揃えて立ち止まってしまった。

エレン「あのなあ。いくら家族になったからって、そこまで揃えなくてもいいんだぞ」

ミカサ「え………?」

エレン「一緒に部活動を見て回るのはいいけどさ。入るところは自分で決めていいんだよ。オレに合わそうとするな」

ミカサ「え? な、何故……」

エレン「だって、ミカサがオレに合わせたら、ミカサ自身が本当にやりたい事が出来ねえじゃねえか」

ミカサ「そんな事はないのだけども」

エレン「いや、そうだろ。今の弓道部だって、お前が「ふむふむ」と関心を示したから入ってみたってのに」

ミカサ「そ、そうだったの?」

エレン「そうだったんだよ。弓矢、上手だったんだから入ればいいじゃねえか」

エレンは出来なかった自分に対して拗ねているように見える。

ちょっと子供っぽいけれど、でも、私を気遣ってくれるエレンの態度が少しだけ嬉しかった。

ミカサ「いや、いい。あれは何回もやれば飽きると思うので」

エレン「そうか?」

ミカサ「うん。同じことを永延と繰り返すだけの部活は、ちょっと」

エレン「うーん。そうか。そう言われればそうかもな」

私の主張に納得したのかエレンは頭を掻いた。

エレン「じゃあ別のところにいくか。あ、でも、入りたいのが見つかったらオレに構わず入れよ?」

と、念押しするのは忘れずに。

ミカサ「………分かった」

一応、納得したフリをして私は頷いた。

私は中学時代、友達もいなかったし、中学時代の知り合いもここにはいない。

なので一人で新しい環境に入るのは心細かったのだ。

情けないと思われてもいい。エレンと一緒の部活に入れるならそれに越したことはない。

私がエレンと別の部活動を見て回ろうとした、その時、

先輩1「重い~!」

先輩2「女子の力じゃ持てないよ、これ」

先輩3「あーせめて男子が一人入れば…」

何やら大きな木のセットのようなもの(テレビ番組などで背景に見かけるようなアレ)を運んでいる女子生徒が3人いる。

よいしょよいしょっと危なっかしい足取りだ。

エレンはそれを見かねて手助けに行った。

エレン「大丈夫っすか? 手伝いますよ」

先輩1「わーありがとう! これ、体育館のすぐ傍の倉庫までお願いね」

エレン「遠いですね…」

ミカサ「私も手伝おう」


ヒョイ


先輩2「わーいきなり軽くなった?! なんで?」

先輩3「5人で抱えたからじゃない? やっぱり人数ないときついってこれ」

先輩1「よし、備品管理倉庫までレッツゴー!」

カニのように横移動をしながら私達5人はセットを運び終えた。

先輩1「ふーありがとう! 助かりました」

ミカサ「いえいえ」

エレン「困ってる時はお互い様だろ」

先輩2「なんて心の清い子達なの! ちょっとお礼したいから部室に来ない?」

エレン「え? 部室? 何部ですか?」

先輩3「演劇部だよ。うちらは大道具担当だけどね」

先輩1「男子は少ないから男子部員が欲しいんだよね。ねえ君、うちに入らない?」

エレン「うーん。演劇かー」

エレンは微妙な顔をしている。あまり琴線には触れてないようだ。

エレン「ドラマとかはあんまり見ないし、演技の興味はないんですけど」

ミカサ「私もたまにバラエティを見るくらい」

先輩1「ああ、その辺は別に関係ないよ。演劇部は役者だけでなく、裏方の仕事もあるからね」

エレン「裏方?」

先輩2「うん。演技は出来なくても入れるよ。まあ一回、うちに来てくれれば分かるから」

そう熱心に勧誘されては顔を出さないわけにもいかない。

エレンと私はとりあえず、音楽室のある校舎の4階まで移動した。

するとそこには女子生徒の先輩達が窓を開けて校庭に向かって叫んでいた。

先輩4「あいうえおかきくけこさしすせそたちつてと………」

五十音を一気に息継ぎなしで発声練習をしているようだ。凄い。

エレン「おお……なんか知らんが迫力あるな」

女子なのに大声を出している彼女らの迫力に圧倒されているようだ。

先輩1「大道具はこういう、大道具を腰にぶら下げて、舞台を走り回るのがお仕事だよ」

先輩はその練習風景を背景にして大道具の説明をし始めた。

腰に専用のポーチをぶら下げて道具を説明してくれる。

先輩2「馬鹿! そこは小道具でしょうが」

先輩1「あ、そうだった。ごめんごめん!」

わざとなのか天然なのか、先輩達は漫才のようにボケとツッコミをしている。

エレン「おお? なんか格好いい」

エレンが目を輝かせている。

道具を腰にぶら下げた先輩は動く度にガッチャンガッチャンと忙しない音を立てている。

先輩1「大道具は体力勝負だけど、その分やりがいがあるよ。舞台を裏で支える役割なんだ。どう? 私たちと一緒に裏方やってみない?」

エレン「うーん。どうするかな」

先輩2「大道具だけじゃなく、音響とか照明とかも裏方だから、選択肢はいろいろあるよ」

エレン「ミカサはどう思う?」

ミカサ「表舞台に出ないのであれば、入ってみてもいい」

舞台上で挨拶するだけでアレだけテンパったのだ。

役者なんて絶対したくないが、裏方であれば、やってみてもいいと思った。

先輩1「まあ、一回、この裏方ポーチを実際身につけてみてよ」

先輩は裏方さんが実際に使うピーチを腰につけてくれた。

見た目より結構重い。動くとガッチャンガッチャン音がする。

エレン「おお? なんかこの格好、いいな」

エレンは裏方ポーチが気に入ってしまったようだ。

エレン「分かりました。とりあえず、仮入部って形でやってみます」

先輩1「本当? いいの? やった!」

ミカサ「では私も仮入部で」

エレン「いいのか?」

ミカサ「重いものを運ぶのは得意なので大丈夫」

先輩1「ますます有難いよ! 新入部員、ゲットだぜ!」

という訳で私とエレンはとりあえず、演劇部の裏方という部署に仮入部する事になったのだった。

やっぱりキリが悪いと思ったのでちょっとだけ延長。今度こそここまで。

裏方さんの小道具ポーチは実際、
まるで立体機動装置のようにガッチャンガッチャン音がします。
歩いている様を見てたら、ついつい連想してしまったのだよ。

あ、>>1に書き忘れましたが、要所でたまに安価を使います。
次のお話の一部で使わせて貰います。言い忘れててすみません。

次の日の最初の授業は、委員会や係等の役割を決めるロングホームルームが行われた。

キース「まずは先に学級委員を決めたいと思う。誰か立候補はおらんか」

先生の声に皆、視線を交わす。

誰も自分からはなりたいと思う人はいないようだ。

キース「立候補がいないなら推薦でもいい。誰かこいつにやって欲しいと思うのはおらんか」

馬面の男「はい」

キース「ジャン・キルシュタインか。いいぞ。誰を推薦する?」

ジャン・キルシュタインと呼ばれたその彼は席を立って左隣の方の男子をチラッと見てから発言した。

ジャン「オレはマルコがいいと思います」

マルコ「?! ちょっと、ジャン!」

ジャン「こいつ、真面目だし責任感もあるし、マメだし、級長タイプだと思います」

マルコ「やめてくれよ……そんな柄じゃないって」

長身の男「それなら僕も」

キース「ベルトルト・フーバー。他にいるか?」

今度はベルトルト・フーバーと呼ばれた長身の男子が別の男子を推薦した。

ベルトルト「はい。ライナーがいいと思います」

ライナー「おいおい。俺もそんな柄じゃないんだが?」

ベルトルト「そんな事ないよ。ライナーはリーダー向きだと思う」

金髪の男子、ライナーと呼ばれた彼は困ったように頭を掻いていた。

男子は二人推薦者が出た。後一人くらい推薦者が出れば多数決で決まりそうだと思った。

しかし私は特に推薦したい男子はいない。

エレンもアルミンも級長タイプではないからだ。

すると、今度はマルコが挙手をして、

マルコ「ジャンがいいと思います」

ジャン「おい、推薦された奴がし返すなよ」

マルコ「僕よりジャンの方が向いてると思ったんだよ。ジャンは口は悪いけど面倒見がいいからね」

キース「ふむ。三人も候補があがったなら、この中から男子の級長は決めても良いだろう」

そう言ってキース先生は黒板に三名の名前を書いて多数決を取り始めた。

そして票数がばらけて、結果が決まった。

キース「ふむ。集計結果、>>52に決まったな。では、級長をお願いするぞ」

(*マルコ、ライナー、ジャンのうち、誰か一人を選んで下さい)

ライナー

ライナー「困ったな。俺も柄じゃないんだが」

キース「しかし皆の意見だ。お願いしたいのだが」

ライナー「分かりました。ま、推薦された以上は仕方ないですね」

という訳で、クラスの男子の中では大柄な方の金髪の彼、ライナーが級長に決まった。

キース「女子の方で副級長も決めたい。女子の方には立候補者はいないか? 推薦でも構わない」

おさげの女「はい!」

キース「ミーナ・カロライナか。立候補か?」

ミーナ「いいえ! 推薦です。私はクリスタがいいと思います!」

クリスタ「え?!」

クリスタ、というのはユミルが先日言っていた美少女だ。

小柄で可愛い顔立ちの彼女は推薦されて驚いている。いや、困惑している?

クリスタ「わ、私はその……皆のまとめ役なんて」

ミーナ「クリスタは面倒な事も嫌がらずにやる真面目な子なので任せてもいいと思います」

クリスタ「ちょっと、買いかぶり過ぎだって」

ユミル「…………」

ユミルの方をチラリと盗み見ると、不機嫌な顔だった。

級長になると忙しい。言い方は悪いが、先生の雑用を押し付けられる役職といっても差支えはない。

だからだろうか。ユミルも挙手をした。

ユミル「はい。私はミーナの方がいいと思います」

ミーナ「?!」

ユミル「勝気で皆をぐいぐい引っ張っていけると思います」

キース「ふむ。クリスタ、ミーナ。あと一人くらい推薦して貰おうかな」

キース先生は黒板に名前を書いている。

最後は誰が推薦されるだろうか。

サシャ「はい!」

キース「サシャ・ブラウス。芋を食いながら挙手するな。授業中だぞ」

サシャ(ごっくん)

サシャ「私はユミルがいいと思います!」

ユミル「?!」

ユミル「サシャ、お前……」

サシャ「ユミルは一歩引いて、皆のフォローをするのがうまいので」

ユミル「そんな訳ねえだろ」

サシャ「いえ、そうですよ? 意外と周りのことよく見てるじゃないですか」

ユミル「私はフォローした覚えはない」

サシャとユミルは知り合いなのだろうか。席が離れているのにも関わらず好き勝手に話し始めている。

キース先生は「おい、いがみ合うな」と二人を窘めて、

キース「では、女子はこの三名の中から決めるとするか」

キース先生は再び多数決を取り、結果、決まった。

キース「では>>54に頼むとしよう。いいだろうか?」

(*クリスタ、ミーナ、ユミルの三名のうち、誰か一人を選んで下さい)

クリスタ

クリスタ「わ、私ですか……」

キース「過半数を超えたからな。お願いしたい」

クリスタ「わ、私でいいんですか?」

ミーナ「いいと思うよ。クリスタは頑張り屋さんだからね」

ユミル「……………」

ユミルの顔つきがまた険しくなったような気がする。

あんまりチラチラ後ろを見るのは良くないのかもしれないが、こうも殺気立たれると気になって仕方がない。

クリスタ「分かりました。私で良ければ引き受けます」

キース「では早速、級長、副級長、前に出て他の委員を決めて行ってくれ」

というわけで早速仕事を任された二人は拍手喝采を受けながら前に出たのだった。

ライナーの方はクリスタをチラチラ見ては顔を赤くしている。

露骨だ。どうやらタイプの女子であるらしい。

ライナーが板書をしてクリスタが台の前に立つ。

普通は逆だと思うが、ライナーの方が気を遣って、黒板に記入している。

クリスタは背が小さいので黒板の文字を書くのに不向きだからだろう。

クリスタ「では続いて、他の委員を決めていきたいと思います」

委員会は全員強制という訳ではない。

そもそもクラス全員が担当する程の数もない。

あるのは生活委員、体育委員、図書委員、保健委員、文化委員、整備委員、緑化委員、広報委員の八つだ。

生活委員というのは所謂風紀委員の事で校則を守らせる見張り役のような委員だ。

整備委員というのは、学校の中の清掃が主な活動でるが、それ以外にも備品の管理などもする。

緑化委員は校内の木々や花々の手入れをする。毎日の水やりやお世話が主な仕事だ。

広報委員は掲示板等の管理だ。印刷物を校内に貼っていったり、印刷の手伝いをしたりする。

他の委員は説明は不要だろう。どこの学校にも同じような委員はあると思うから。

クリスタ「他の委員も立候補、または推薦を募ります。まずは生活委員から……」

と、クリスタの進行で次の委員の話合いが始まった。

生活委員も級長と同じくらい真面目な人が向いている。

校則を取り締まる側になるので、皆、敬遠しがちだ。

所謂憎まれ役を受け持つ事になるので皆、視線を交わしあっている。

クリスタ「うーん、立候補も推薦もないなら他の委員から先に決めてもいいですか?」

ミーナ「いいと思います!」

クリスタ「では図書委員から先に決めたいと思います。立候補者はいますか?」

図書委員になると、チラホラ挙手があがった。主に女子の方が。

図書委員は週に一度、昼休みに図書室の受付当番を受け持つ事になるが、それ以外の仕事はさほどきつい訳ではない。

加えて本が好きな子にとっては新刊がいち早く知れるという利点があるので、本が好きな子にとっては人気の委員だったりする。

女子の方が積極的に挙手しているのは、図書館に入ってくる雑誌目当てなのだろう。

うちの学校にはティーンズ向けの女性向き雑誌も入荷してくると、入学の案内書に小さく書いてあった。

ミーナ「はい! 図書委員やります!」

アニ「待って。図書委員なら私もやりたい」

ユミル「私もだ。やらせろ」

ハンナ「ずるい。私もやりたい」

男子は本を自分から読むタイプの人間がいないようだ。

男子は誰も挙手していないが、その時エレンが流れを遮るように手をあげた。

エレン「あの、今日は欠席してるんですけど、推薦したい奴がいるんですけど」

クリスタ「はい。ええっと、エレン・イェーガー君ですね」

台に名簿表が貼ってあるのでそれを見ながらクリスタが進行する。

エレン「はい。アルミンは小学校の頃から図書委員ばっかりやってたんで、推薦してもいいですか?」

クリスタ「そうね。男子の立候補は他にいないし、経験があるなら彼に任せてもいいかな?」

男子一同は「いいと思いますー」と適当に答えている。

休んでいる人間に押し付けられてラッキーといった風だ。

クリスタ「じゃあ女子の方を………今度は立候補者多数だからくじ引きでいいかな?」

ライナー「いいんじゃないか? 立候補だしな」

クリスタ「じゃあちょっと待っててね。くじを簡単に作るから」

という訳でくじ引きでの抽選になった。各々、神妙な顔でくじを引いている。

アニ「………」

ミーナ「………」

ユミル「………」

ハンナ「………」

(*くじが当たったのは誰だ? >>59さん、四名のうちから誰か一人お答え下さい。安価ずれたら一個↓)

アニ

アニ「よし」

ミーナ「あーハズレたあ」

ユミル「ちっ…」

ハンナ「残念」

クリスタ「当たったのはアニですね。では図書委員はアルミン君とアニさんの二人に決まりました」


パチパチパチ……


クリスタ「続いては保健委員です。こちらも立候補、または推薦で決めます」

マルコ「はい」

クリスタ「はい、えっと、マルコ君」

マルコ「保健委員、やります」

クリスタ「男子は立候補者が出ました。他はいませんか?」


シーン……


クリスタ「女子の立候補者はいますか?」

ミーナ「はい」

クリスタ「ミーナ、やる?」

ミーナ「第二希望だけど、他にいないなら保健委員でいいや」

クリスタ「じゃあ決まりね」


パチパチパチ……

クリスタ「ん? あら? 体育委員、飛ばしちゃってた?」

ライナー「ん? 順番なんてどうでもいいだろ」

クリスタ「でも折角、順番通りに書いてあるのにごめんなさい(ペコリ)」

クリスタがお辞儀をした瞬間、ライナーだけでなくクラスの男子の殆どが頬を赤らめたようだ。

エレンは……あ、ちょっと眠そうにしているけれど。

クリスタ「体育委員、も決めたいと思います。誰か……」

コニー「はいはいはい! オレ、やる!」

クリスタ「げ、元気がいいですね。コニー・スプリンガー君?」

コニー「おう! オレ、小中全部、体育委員だったから!」

クリスタ「経験者がいるなら彼でいいですか?」

一同「賛成でーす」

クリスタ「じゃあ女子は……」

コニー「サシャ、お前やらねえ?」

サシャ「いいですよー。私も体育委員ばっかりやってたんで」

クリスタ「じゃあ二人で決定ですね」



パチパチパチ……

クリスタ「次は文化委員を決めます。立候補者、また推薦はありますか?」

ジャン「文化委員って、文化祭以外は暇な委員だよな?」

クリスタ「そうね。その代わり文化祭のシーズンだけは滅茶苦茶忙しいよ」

ジャン「うーん。どうするかな……迷うぜ」

マルコ「ジャンは楽な委員に入りたいの?」

ジャン「いや、楽な割には内申点もあげられるのがいいな」

マルコ「ちゃっかりしてるね」

内申点。そうか。委員会活動をしていれば、内申点が良くなるのか。

中学時代、そういう活動も一切していなかった私は、ちょっと心が揺れた。

高校三年間で頑張れば大学に進学する時にも推薦されやすくなるのだろうか。

いや、大学に行くかどうかはまだ分からないのだけども。

キース「内申点が目当てなら級長か、生活委員が一番得点が高いぞ」

ジャン「一番きつい役職じゃないっすか……」

キース「ふん。楽して点を取ろうと思うなよ。まあ、委員会は入らないよりは入ったほうがこちらも成績をつけやすいんだがな」

キース先生がニヤニヤしながら言ってくる。

この先生は案外、親しみやすい性格をしているのかもしれない。

クリスタ「誰かいませんか? 文化委員は、文化祭以外はとても暇な委員ですよ?」

落差が激しい点を明け透けに言うクリスタにライナーもぷっと笑っている。

すると、女子が一人挙手した。

ユミル「文化祭以外は暇なら、やってあげてもいいよ」

クリスタ「ユミル、ありがとう!」

ユミル「まあ、他にやりたい奴がいれば譲ってもいいけど。いなさそうだしな」

女子一同はユミルで異論はないようだ。

ライナー「ベルトルト、お前、中学の時も文化委員だっただろ」

ベルトルト「え? ああ、そうだけど」

ライナー「だったらノウハウ分かってるだろ。またやったらどうだ?」

ベルトルト「そう? でも他にやりたい人はいないかい?」

ライナー「いれば先に手あげるだろ。ベルトルトでいいか?」

男子一同「いいでーす」

クリスタ「決まりね。次は…整備委員ね」

ライナー「地味な委員だが、ようは掃除が好きな奴が向いてる委員だな」

クリスタ「そうね。掃除が得意な人にやってもらえるといいと思う」

掃除。これだったら私にも出来そうかも。

どうする? ここで手をあげるべきか。

キース「ちなみに整備委員の担当教師はリヴァイ先生だ。先に言ってくが、生半可な覚悟では入らないほうがいいぞ」

ピタッ……

私以外にも何名か、挙手しかけていた生徒が手をあげるのをやめた。

クリスタ「リヴァイ先生? 他のクラスの先生ですか?」

キース「ああ。体育担当の先生なんだが……まあ、潔癖症の先生でな。掃除に関してはスパルタで有名だ」

生徒1「そういや姉ちゃんがそんな事を言ってたような」

生徒2「ああ。うちも兄貴から話を聞いたことあるぜ」

ヒソヒソと声が聞こえる。どうやら上の学年の人達の間では有名な話らしい。

どうする? その先生と相性が悪かったら、喧嘩になったりしたら…。

や、やめておいた方がいいかもしれない。

クリスタ「(空気が重い)……じゃあ先に緑化委員を決めるしかないようね」

ヒッチ「はいはい。私やる~」

クリスタ「えっと、ヒッチさんね」

ヒッチ「あれでしょ? 花に適当に水やっておけばいいんでしょ? 超楽そうだし」

クリスタ「ええっと、雑草をむしったり、肥料をあげたりもするんだけど…」

ヒッチ「え? でも毎日はしなくてもいいでしょ? 雨降ったら水やらなくて済むし、一番楽な委員じゃないの?」

クリスタ(園芸の地味な大変さを知らないようね。言わないでおこう)

クリスタが微妙な顔をした。内心何を思ったのかは私にも分かる。

畑仕事を一度でもしたことのある人間なら分かると思うが、園芸は地味にきつい。

あと虫と遭遇する可能性も高いのでヒッチとか言ったああいう派手な風貌の女性には向いていない。

やめておいた方がいいと思ったが、それを言う程仲が良い訳でもないし、一度やってみれば自分の選択が間違っていた事に気付くだろう。

ハンナ「あのう……私もやりたいんだけど」

フランツ「僕も……」

おっと、意外な展開だ。希望者が重なったようだ。

ヒッチ「え? まじで? 女子の希望者重なっちゃったじゃん」

ハンナ「ごめんなさい。私、花とか好きなの」

ヒッチ「そう? じゃあ仕方ないね。譲ってあげるわ」

おや? 意外と我を通さない性格をしているようだ。

見た目は派手で我が強そうに見えるが協調性はあるらしい。

クリスタ「ではフランツ君とハンナさんの二人で決定します」



パチパチパチ……



クリスタ「次は広報委員ですね」

ヒッチ「あ、代わりにそっちやるわ。掲示板に紙を貼ればいいんでしょ?」

クリスタ「そうね。印刷物を貼るのが主な仕事だよ」

ヒッチ「こっちは他に希望者いないよね?」

クリスタ「…………いなさそうね」

ヒッチ「じゃあ女子は私で決まりだね。男子は……そこのイケメン君入らない?」

視線の先に入ったのはあのジャンとか言われていた彼だった。

ジャン「はあ? なんでオレだよ」

ヒッチ「楽して点数取りたいところが気に入ったの。同じ匂いがすると思って」

ジャン「あー確かにその通りだが、お前みたいにケバいのと一緒にする気にはなれねえな」

ヒッチ「あー? ケバい? この程度でケバいとかウケるwww今日、地味にしてきてるのにwww」

ジャン「その軽い会話のノリも苦手なんだよ。オレはもっと、凛とした女が好きなんだよ」

ヒッチ「へー……凛とした、ねえ。じゃあ、あそこの黒髪の子とかそれっぽいけど、あんたのタイプなの?」

何故か私の方に視線をよこしてきた。

ジャン「バカ! 人を勝手に例えにするなよ。あくまで「そんな雰囲気」が好きなだけだ!」

ヒッチ「照れてる~ウケる~♪」

凛とした、というからには多分、私の後ろの席のユミルの事だろう。

なるほど。ジャンはユミルのようなスレンダーなタイプがいいのか。

おかっぱの男「おい、ヒッチ。脱線しすぎだ。うるさい」

ヒッチ「あ、マルロ。ごめんごめん。ついつい」

マルロ「全く……」

ヒッチとマルロは知り合いのようだ。

ヒッチ「あんたは委員会入らないの? 生活委員とか、向いてそうじゃない」

マルロ「他にやる奴がいないなら入ってもいいが……部活との両立の問題もある」

ヒッチ「何部に入ったんだっけ?」

マルロ「生徒会だ。生活委員より更に忙しい部署だよ」

ヒッチ「あらら……あんた本当にもの好きねえ」

クリスタ「広報委員の男子の方は立候補者はいませんか?」

ダズ「楽そうな委員ならやってもいいかな」

クリスタ「えっと、ダズ君ですね。他にいないなら彼で決定でいいですか?」

男子一同「いいでーす」

クリスタ「残ったのが生活と整備か……」

ライナー「マルロとか言った奴、生活の方に入る気ないか?」

マルロ「さっきも言ったが、生徒会に既に入っているからな。どうしてもってなら、入ってもいいが」

ライナー「では括弧で書いておこう。生活の方に入れそうな女子はいないか?」

女子生徒1「究極の二択よね」

女子生徒2「でもあと二人、誰か委員会に入らないと次に進まないし」

そうなのだ。ここで悪戯に沈黙しても次に決めるべき事が決まらない。

決めないといけないのは何も委員会だけではないのだ。

その時、エレンが手をあげた。

エレン「生活と整備、どっちでもいいけど、どっちかに入ってもいいぞ」

一同「!」

エレン「このままだと次にいけないだろ? 時間が勿体無い」

エレンが挙手した。だったら、私も。

ミカサ「私も、どちらかに入ります」

エレン「おい、真似すんなよ」

ミカサ「真似じゃない。空気を変えたいだけ」

エレンと同じ委員にはなれないかもしれないが、決まらないと放課後までもつれ込むかもしれない。

それはそれで嫌なので、定時で帰れるようにする為に私は思い切って立ち上がった。

マルロ「だったらミカサ、とか言った女子の方を先に決めてしまえばいい」

クリスタ「そうね。女子は今、ミカサさんしか候補がいないから、先に決めていいと思う」

その時、席に座っていたキース先生が書類をめくりながら言った。

キース「ふむ。ミカサ・アッカーマン。中学時代は無遅刻無欠席の健康優良児で成績も首席だったとあるが……委員会や部活は入ってなかったとあるな。掃除も得意で真面目にやっていたとある。経験はないが、生活でも整備でもどちらでもやっていけそうだな」

ミカサ「そ、そうでしょうか…?」

キース「ああ。どちらを選んだとしても悪くないと思うぞ」

生活委員は皆の憎まれ役である。規則違反をしてないかの取り締まる側の役目だ。

対して整備委員は校内の掃除をする。リヴァイ先生という人物に懸念があるが、掃除自体は得意なので出来ると思う。

さて、私はどちらに入ろうか。迷う。

私が先に決めないと話が進まないので思い切って決めた。

ミカサ「では私は……>>69に入ります」

(*生活、整備、どっちに入る? 二択です)

整備

ミカサ「整備の方に入ります」

クリスタ「では女子の整備委員はミカサさんに決定します」

ライナー「男子の方はエレンでいいか?」

エレン「別にいいけど」

ジャン「ちょっと待ったあああああああ!」

何故かその時、ひときわ大きい声で先程のジャンという男子が挙手した。

ジャン「オレが整備に入る。エレンとかいう奴は生活に入れ」

エレン「はあ? お前、いきなり何なんだよ」

ジャン「マルロとか言う奴は、あくまで他にいなかったら、って言ってただろ。生徒会に既に入ってるし負担が大きくなるだろ?」

マルロ「まあ、そりゃな」

ジャン「だったらここはオレが一肌脱ぐしかないだろ」

ヒッチ「ククク……露骨過ぎwwwwwお腹痛いwwww」

ヒッチという女子は何故か腹を抱えているのに笑っている。

腹痛なら保健室に行ったほうがいいと思うけど。

エレン「そりゃそうだけど、今の今まで沈黙してた奴がいきなり何なんだよ」

ジャン「別にいいだろ! 気が変わったんだよ!」

エレンとジャンは隣同士の席だ。エレンが右側でジャンが左側だ。

言い争いも近くでやるとエスカレートしそうで怖い。

エレン「怪しいな。お前、まさかミカサ狙いとか……(むぐっ)」

ジャン「さっさと書いてくれ。オレでいいだろ?」

ミカサ「待って。エレンは今、一度承諾した。エレンの気持ちをないがしろにしないで」

私はとりあえず待ったをかけた。

勢いで物事を決めるべきではないと判断したからだ。

エレン「そうだな。オレ、一回承諾したしな。ここはくじ引きするべきだよな」

ジャン「うぐっ……譲ってくれねえのか」

エレン「てめえの態度があからさまにおかしいから、嫌だ」

ライナー「じゃあくじ引きするぞ。二択だからすぐ出来る。ちょっと待ってろ」

という訳で再びくじ引きを作って引くことになった。

エレン「せーの」

ジャン「!」

エレン「よっしゃ! オレの勝ち!」

ジャン「くそおおお!」

エレンが整備委員に決まったようだ。

ジャンはすっかり肩を落としてがっくりしている。

エレン「残念だったな。お前が生活委員をやれ」

ジャン「くそ……面倒臭い委員しか残ってない」

キース「そうだな。生徒会と生活委員を両方やるのは大変だ。ジャン、貴様は何か既に部活には入ったのか?」

ジャン「いえ……」

キース「だったら生活委員に入っても損はしないぞ。ここは入ったらどうだ?」

ジャン「…………」

空気を読んだのかジャンはしばし考えて渋々承諾したようだ。

残りは生活委員の女子の方だ。こちらは立候補もあがらず、仕方ないので決まっていない女子の間でくじ引きとなって決まった。

そんな訳で他の各教科の係なども決まっていき、次はいよいよ、研修旅行の班決めになった。

クリスタ「えーっと、次は4月19日、20日の一泊二日の研修旅行の班を決めていきます」

研修旅行というのは、所謂交流会を兼ねた勉強合宿である。

新入生全員が学校から割と近いとある温泉宿で一泊するイベントがあるのだ。

ここでクラスのグループが確立するだろう。皆と問題なく仲良くしなければ。

クリスタ「クラスの人数が35名なので、5名ずつ7班に分かれます。男女は混合でも構いません。班の人数の変更は出来ないので5人ずつきっかり分かれてください。決まった班から報告してください」

ここからは自由時間だ。皆、席を離れて各々、交渉し始めている。

エレンがこっちに来てくれた。さ、誘って貰えるのだろうか?

エレン「よう! ミカサ。とりあえず、アルミンとオレんとこに来いよ」

ミカサ「うん。勿論」

エレン「あと二人、入れば班が出来るから二人組に声をかけようぜ」

エレンがそう言ったので私は思いついた人物を言ってみた。

ミカサ「エレン、ユミルとクリスタはどうだろう?」

エレン「ええ? ユミル? あの性格悪そうな奴入れるのか?」

ミカサ「ユミルは別に性格が悪い訳ではない。ただ、口が悪いだけ」

エレン「そうか? まあ、ミカサがそう言うならいいけど、声かけてみるか」

という訳でユミルを誘ってみたのだが……。

ユミル「悪い。実は私とクリスタとサシャで三人グループ作っててさ、こっちも二人組を探してるんだ」

エレン「そうか。残念だな」

ユミル「まあ、他のグループと見合わせてどうしてもってなら、私とクリスタがそっちに入ってもいいけど。サシャはコニーとも仲いいしな」

サシャ「そうですね。無理そうならコニーと組んでもいいですよ」

ミカサ「ではとりあえず他のグループにも声をかけてみる」

さて。他に二人組はいないだろうか。

と、その時、先程のジャンとかいう男子と目が合った。

すると向こうからこっちに声をかけてきた。

ジャン「よお。こっちはマルコと二人組だけど」

エレン「ああ? お前、またか」

ジャン「またかとか言うなよ。困ってるんだろ?」

エレン「マルコって、そいつ?」

マルコ「初めまして。マルコ・ボットです」

感じのいい人だ。アルミンと似たような優しげな雰囲気だ。

エレン「まあ、二人組出来てるなら入ってもいいけどよ。ミカサが女一人になっちまうぞ?」

ミカサ「そうね。でも、この場合は仕方ないと思う」

女子の中で一人でいるのは慣れているので別に構わない。

男子の中で女子一人という状況も似たようなものだろう。

ジャン「だったら決まりでいいか?」

エレン「お前を入れるのは不本意だけどな」

ミカサ「エレン、折角入ってくれる人にそんな態度は良くない」

エレン「…………」

エレンは無言でこっちを見ている。何か言いたそうにしているけど。

エレン「まあ、しょうがねえか。さっさと決めないとあぶれちまうかもしれんからな」

という訳でさっさと決まった班から順に書き込まれていった。


1班
リーダー:ライナー
メンバー:ベルトルト、ユミル、クリスタ、サシャ

2班
リーダー:サムエル
メンバー:コニー、トーマス、トム、ダズ

3班
リーダー:マルコ
メンバー:エレン、アルミン、ジャン、ミカサ

4班
リーダー:ミーナ
メンバー:ハンナ、フランツ、ミリウス、ナック

5班
リーダー:マルロ
メンバー:ヒッチ、アニ、その他モブ

そんな訳でロングホームルームは無事に終わった。

新学期は決める事が多くて大変だ。でも春が来たという感じはする。

キース「決まったな。では今日のロングホームルームはこれで終了だ」

ライナーとクリスタが清書をしてキース先生に書類を提出した。

キース「もし後で班のメンバーを交代したい場合は、変更は12日までにするように」

と、一応の注意をして1限目の授業が終わった。

これで放課後の延長戦が行われる事はないだろう。良かった。

そして2限目の授業は体力測定と身体測定だ。

男女が分かれて着替える。男子は教室に残り、女子は更衣室で着替える。

体操服に着替えて放送のアナウンスに合わせて行動しないといけない。

エレン「じゃあまたな!」

エレンと分かれて私は一人になり、更衣室に急いだ。

う……。人が多い。

皆、すし詰めように棚に群がって着替えている。

仕方ない。一学年、女子全員が使うのだ。

普段は2クラスずつの使用の筈だから、今回だけは我慢しないと。

狭いと感じる更衣室でさっさと着替えていると、何故か私の隣にヒッチとかいう女子が寄ってきた。

ヒッチ「あんたさあ、いいの?」

ミカサ「え?」

ヒッチ「あの馬面、露骨じゃん。狙われてるの気づいてる?」

何の話だろうか? 意味が良く分からない。

ヒッチ「あんまり期待させるような事しちゃダメだよ~」

一体何の忠告だろうか?

ジャンが狙っている? 誰を?

ジャンは私のような筋肉質な女より、ユミルのような凛とした女性の方がいいのだろうに。

エレンに以前「腹筋すげえ!」と驚かれた事を思い出して萎えていると、彼女は私の肩を叩いてきた。

ヒッチ「ま、モテる女は辛いよね。なんかあったら相談しなよ」

一緒に行こうと、彼女に誘われた。

いきなりの展開にただただ困惑するばかりだが、仕方がない。

話しかけられているのに邪険にする訳にもいかず、彼女と一緒に移動する事になった。

ヒッチ「ねえねえ、ミカサはどんな男子がタイプ?」

移動途中にいきなり男の好みの話をし始めた。

ズカズカ入ってくる感じが少し苦手だったが、仕方なく適当に話を合わせる事にする。

ミカサ「そうね。頼りがいのある人がいいと思う」

ヒッチ「へー……甘えたい方なんだ? ちょっと意外。ミカサは姐さんタイプかと思ってたけど」

ミカサ「そうだろうか? なんとなく思った事をいっただけだけど」

ヒッチ「見た目で言えば年下とかとつきあいそうなイメージだよ。でも、そういうのが好みなら年上の方が合ってるかもね」

年齢なんて気にした事がなかった。

そもそも、男性とつきあった経験などもない。

ヒッチ「先生とか、いいんじゃない? 狙ったの落としちゃいなよ」

ミカサ「あの……そもそも先生と生徒は恋愛してはいけないのでは?」

と、私が切り返すと、ヒッチはきょとんとした顔になり、そのあとまた、腹を抱えて笑いだした。

ヒッチ「あんた、真面目だね! そんだけ美人なのに男捕まえようとかいう発想がないんだwwwウケるwwww」

ミカサ「???」

また、ウケると言いながら笑っている。

彼女はよほどの笑い上戸なのだろうか?

ヒッチ「あーひとつ言っていい? ミカサって変わってるって言われた事、ない?」

ミカサ「ある。それが何か?」

ヒッチ「だとしたら、それは自分を知らなすぎるってところかもね。美人なのに。残念な美人って初めて見た」

残念な美人。

褒められているのか貶されているのか判断に迷うが、恐らく後者だろう。

ミカサ「ごめんなさい。残念で。これが私、なので」

ヒッチ「あ、残念は言い過ぎたかな。ごめんごめん。でも、ミカサって美人だから、よく声はかけられるでしょ?」

ミカサ「ろくでもない奴らには散々、冷やかされたけれども」

そのせいで何度、正当防衛で相手をのしたか覚えてない。

なので私はナンパな男が苦手だ。街中で声をかけられる度にそう思う。

ヒッチ「だったらさ~そいつらを利用して生きていかないと損だよ。貢がせちゃえば?」

ミカサ「そんな事、考えたこともなかった」

ヒッチ「ミカサなら出来るでしょ。出来るのに勿体無いよ~」

と、何故かさっきから悪の道にひっぱりこもうとする彼女にどうしたもんかと考えていたら、

金髪の女「それくらいにしておきなよ。ヒッチ」

と、別の子が声をかけてきた。

ヒッチ「あ、アニ。なんだ。一人?」

アニ「まあね。さっきからあんたが悪の道に引っ張りこもうとしているから、見かねてね」

ヒッチ「酷いなあ。いいじゃない別に」

アニ「誰しもあんたみたいに器用に生きれる女ばかりじゃないんだよ。離してやんな」

ヒッチ「はいはい。じゃあね~」

やっと私を開放してくれた。今度は別の可愛い女子に話しかけている。

何を基準に話しかけているのか良く分からないが、彼女なりの基準があるように見えた。

ミカサ「ありがとう。アニさん」

アニ「アニ、でいい。敬語使う必要はないよ。クラスメイトなんだし」

ミカサ「そう。では、アニ。あのヒッチという彼女はいつもあんな感じなのだろうか?」

アニ「そうだね。美人な子には必ず声をかけて自分の色に染めようとする悪い癖があるよ」

ミカサ「自分の色…?」

意味が分かりにくくて問い返すと、

アニ「まあ、真面目な奴は不真面目にさせようとするのさ。自分と同じ位置に来てくれそうな子を探してはくっついて、ふらふらしているよ」

ミカサ「そうなのね」

アニ「あんまり親身にならない方がいいよ。あの子、男無しじゃ生きられないような依存性のある子だから」

アニの忠告は真摯に受け止めておこう。

ミカサ「ありがとう。ところでアニ、一人なら私と一緒に移動して欲しいのだけども」

あと少しで体育館なのだが、そう言うと、アニは「え?」という顔をした。

ミカサ「まだ私は女子の知り合いが少ないので少しお話がしたい」

と、本音を言うとアニは困ったように眉を寄せた。

アニ「いいけど……あんたも物好きだね」

と、返されてしまったが、移動までの間、一人ぼっちではないので嬉しかった。

ミカサ「先程、ヒッチ言われたのだけども、馬面とは、恐らくジャンの事だろうか?」

アニ「え? ああ……馬面。そうね。ジャンって奴は面長な顔だちだから、馬面と言えなくもないね」

ミカサ「あんまり期待させるような事をしたらいけないとヒッチに言われたのだけども、そもそも、ジャンは凛とした女性がいいとさっき言っていたので、私が気をつけるのは違うような気がするのだけども」

と、私が言うと、アニは呆れ顔で私をじーっと見つめてきた。

ミカサ「?」

アニ「いや、………まあ、いいけど。うん。で?」

ミカサ「ヒッチの忠告は見当違いのような気がするのだけど、アニはどう思う?」

アニ「うん。まあ、そうだね。ジャンは『凛とした女性が好き』って言っただけで、別に特定の誰かを好きだと言ってないし、気にする必要はないと思うけど」

ミカサ「良かった。そう言ってもらえて」

胸の内がすっきりとした。

モヤモヤするような事を言われてしまったので、これですーっとした。

ミカサ「凛とした女性なら、私よりもアニの方がそれだと思う」

アニ「?!」

アニは何故か顔を強ばらせた。何かいけない事を言っただろうか?

ミカサ「?」

アニ「いや、まあ……ありがと」

ミカサ「うん。なので気をつけるとしたらアニの方だと思うので気をつけて欲しい」

アニ「ご忠告、どうも」

アニは頭を掻いていた。そして無言になる。

どうも、女子同士の会話というものに慣れない。

無言なのが嫌だったので話題を一生懸命探すが……。

アニ「あんた自身はどうなんだい?」

ミカサ「え?」

アニ「その……私もそういう会話に慣れてないから、アレだけど。好きなタイプとかあるのかい?」

ミカサ「なんとなくだけど、頼りがいのある人がいいと思うけど」

アニ「それはさっきも聞いた。もっと具体的にはないのかい?」

ミカサ「具体的……」

アニ「月収が50万以上とか」

ミカサ「そ、それは確かに具体的ね」

アニはしっかり者のようだ。なるほど。そういうのも有りなのか。

ミカサ「そうね。安定した収入のある人がいいかも」

アニ「狙うなら医者や弁護士や公務員だよ」

ミカサ「確かに」

私達はそんな風に言い合ってクスクス笑ってしまったのだった。

そしてあっと言う間に体育館についた。

クラス別に女子が並んでいる。男子は先に体力測定からだ。

つまり女子の方が先に身体測定をするのだ。

眼鏡の先生「では身長から始めます。1組から名簿順に並んでください」

あ、あの声は聞き覚えがある。電話してきた女性の先生だ。

名札を見ると「ハンジ」という名前が書かれていた。

ハンジ「はいはい。金髪の君からスタートね。153cm!」

アニは思っていたより小さかった。いいな。

そして次々と身長、体重、座高、胸囲が測られた。

私の番だ。この瞬間がとても嫌だ。毎年。

ハンジ「身長170cm、体重68kg……」

去年に比べて身長は3cmも増え、体重も3kg増えた。

このままずるずる大きくなるのかと思うといつも憂鬱になる。

そして名簿が私の次になるユミルがなんと、

ハンジ「身長172cm、体重63kg………」

おお…私より背が高い上に体重も少ないとは。

なんというモデル体型。パリコレに出ればいいと思う。

案の定、他の女子から「身長くれ!」とせがまれ「体重あげる」と言われて困っているユミルがいる。

きっと毎年の事なんだろう。ちょっと羨ましいと思った。

アニ「ミカサ、あんたの身長も頂戴」

ミカサ「あげられるなら3cmくらいならあげてもいい。体重も3kgあげる」

アニ「いや、体重はいらないけど」

ミカサ「何故? 見た目からしてもう少し太っていいと思うけど」

アニ「体重の比率はあんたとどっこいだよ。全く」

アニの体重は54kgだった筈。どこがどっこいなのか。

ミカサ「そんな事はない。私の方がぽっちゃり」

アニ「いや、見た目はあんたもユミルとさほど差はないよ。どこにそんだけ体重があるのか不思議なくらいだよ」

心当たりはあるけれど。私のお腹にその元凶がいる。

まあ、人には言えないのだけども。腹筋が八つに分かれているなんて。

アニ「まあいいや。私も似たようなものだから。次は室内測定だね」

体育館の中で出来る測定をする。前屈や垂直跳び、反復横跳び等である。

一通り室内測定を終えると、私とアニが先生達の賞賛の声を浴びた。

私は毎年の事だが、アニもそういう雰囲気だった。

ミカサ「アニも運動神経がいいのね」

アニ「私より運動神経がいい奴は初めて見るよ」

と、お互いがお互いに驚くという珍事件が発生した。

順位をつけるなら、私、アニ、ユミル、サシャの四名がトップ4だった。

だけどもその差はそれ程大きいものではなく、確かに私は一歩、いい記録だったけども、他の三名もかなりいい記録を叩き出したのだ。

ハンジ「1組は運動神経のいい子が揃っているようね。ふむふむ」

と、ハンジ先生は何故か眼鏡を輝かせていた。

という訳で午前中で身体測定、室内測定が終わり、一旦休憩を挟んで女子は午後からは外での体力測定になる。

エレンの姿を見つけた。エレンはこっちに来るなり「身長いくつだった?!」と聞いてきた。

ミカサ「170cm……」

エレン「う……オレとあんまり変わらないな。くそう」

どうやらエレンは身長の事を気にしているようだ。

私としてはそろそろ自身の成長が止まって欲しいのだけども。

男の子はどうやらもっと身長が欲しいらしい。あげたい。

エレン「せめて昼飯に牛乳飲んでおこう」

ミカサ「今飲んでも変わらない気がするけど」

エレン「気分だよ。気分!」

エレンとそう言い合いながら私達は教室に弁当を取りに行った。

今日はさすがに教室で食べる気にはなれない。男子の着替え後が机の上でぐちゃぐちゃだからだ。

天気もいいし、外で食べようと思う。

エレンと私は適当な場所がないかと探していたら……

アニ「あの、良かったら……」

アニが私に話しかけてきた。

どうやら一緒に弁当を食べる相手を探していたようだ。

アニ「………あ、連れがいるのか。だったらいい」

ミカサ「待って。エレン、一緒にいいだろうか?」

エレン「え? いいよ。アルミンと一緒の委員になった女子だろ?」

アニ「うん……」

エレン「アルミン、インフルエンザで休んでてさー暫く迷惑かけると思うけどごめんなー」

アニ「別にいい。構わない」

という訳でその日のお昼は三人で一緒に食べる事になった。

エレン「どっかいいところねえかな」

アニ「中庭は人気があるから、もう人で埋まってるかもしれない」

エレン「だな……あ、部室はどうだ? 演劇部の」

ミカサ「空いているだろうか?」

エレン「ダメ元で行ってみようぜ」

という訳で三人で演劇部の部室に行くことにした。

アニ「……演劇部員なの?」

ミカサ「うん。成り行きで大道具をする事になった」

アニ「へえ。なんか意外かも」

エレン「オレも自分でもそう思う。ま、これでも縁ってやつだろ」

とエレンは言いながら音楽室のすぐ傍にある演劇部の部室にお邪魔してみた。

するとそこには先輩達が先に弁当を広げて何やらアニメを鑑賞しながらお昼を食べていた。

先輩1「あ、エレン君、ミカサちゃん。どうぞどうぞ。一緒に見る?」

エレン「何見てるんですか?」

先輩2「アニメだよ。タイヤのAを観てた」

エレン「タイヤのA? 何ですかそれ」

先輩3「タイヤを毎日引っ張って走って体を鍛えてる投手が主人公の野球アニメだよ」

先輩2「これ面白いんだよね~全巻あるから読んでみなよ」

と、何故か部室に漫画本がドンと積まれていた。ボロボロだけど。

恐らく相当、皆で回し読みしたに違いない。

エレン「後で借りていってもいいですか?」

先輩1「いいよいいよ~あれ? そっちの金髪美人は誰?」

ミカサ「クラスメイトです。一緒にお弁当を食べてもいいですか?」

先輩2「いいけど……君、うちの部に入る?」

アニ「いえ、入りませんけど」

先輩2「じゃあダメだよ~」

アニ「え?」

先輩1「いや、いいから。部員しか部室使えないとか、ないから」

先輩2「チッ……ほら、そこは騙して入部させないと」

先輩1「悪評たつからやめてよ。それは」

おっと、油断も隙もない。危なく勧誘されるところだった。

ミカサ「アニ、ごめんなさい」

アニ「いや、いいけど。何だか騒がしい人達だね」

ミカサ「皆、いい先輩達なので、大丈夫」

アニ「うん。それは分かるけど。学校にアニメ持ち込んで観てもいいの?」

エレン「さあ? 校則には関係ないもん持ってきちゃいけないってあるけど、バレなければ別にいいんじゃねえ? 腹減ったから飯食おうぜ」

と、先にエレンが弁当を広げて食べ始めてしまった。

三人分の机をエレンの机とくっつけて、私達はお昼にした。

主人公の声『俺はまだ、クリス先輩に何も返してない……!』

先輩1「やばい。もう、クリス先輩好き過ぎるだろこいつwwww」

先輩2「わんこだよね。主人公わんこ化しすぎるわ」

先輩3「そこが可愛い」

何だかアニメを観ながら絶賛しているようである。

先輩達が楽しそうで何よりだ。

エレン「そう言えばアニはまだ部活入ってねえの?」

その時、エレンがアニメの声は無視してアニに話しかけた。

アニ「うん……まだ入ってないね。入るかどうか決めてない」

エレン「演劇部、見学してみねえか? 結構、練習風景は面白かったぞ」

アニ「でも、役者とかはちょっと……舞台に立つんだろ?」

ミカサ「それは裏方に回れば、舞台に立たなくてもいいそうなので」

アニ「裏方? 大道具以外にもあるの?」

エレン「ああ。いろいろあるってさ。照明、音響、あと衣装か」

ミカサ「私も舞台に立たないならと思って入ったので。目立つのが苦手でも出来ると思う」

アニ「そう……まあ、考えておくよ」

と、アニはちょっと考えたようにしてそう答えた。

アニ「………………あのさ」

エレン「ん?」

アニ「アルミンってどんな奴?」

エレン「え? ああ、アルミンはオレの幼馴染で親友だよ。いい奴だけど」

アニ「そう」

と、言ってアニは黙り込んでしまった。

エレン「ん? 何か心配事でもあるのか?」

アニ「いや、別にそういう訳じゃないけど」

ミカサ「けど?」

何かアルミンに対して不安でもあるのだろうか?

アニ「名簿だって私のすぐ後ろの席だろ? 入学早々、休んでるから気になっただけ」

ミカサ「そう言えば、私のすぐ後ろの席も空いていたような」

私のすぐ後ろの人も休んでいた。そのまた後ろが、ユミルの席だ。

アニ「ああ、ミリウスだっけか。あいつもインフルエンザだって聞いたような」

エレン「ええ? インフルエンザ流行ってんのか? 4月なのに?」

アニ「むしろもう一回、波がきてるらしいよ。気をつけないと」

エレン「まじかよ…アルミン、災難だったな」

インフルエンザが流行っているなら気をつけなければ。

手洗いうがいは勿論だが、食事にも気をつけないと。

ミカサ「………あの、ところで気になっていたけれど」

アニ「ん?」

ミカサ「アニのお弁当箱、可愛い……」

アニ「え? そう?」

ミカサ「うん。丸いし3段重ねだし。あまり見たことがない」

私はついついアニの弁当箱をじっと見つめてしまった。

ピンク色の容器で、3段に分かれている。中身もご飯、おかず、果物に分かれていて色合いもお洒落だった。

アニ「自分で買った。お弁当も自分で作ってるけど」

ミカサ「本当? すごい。綺麗」

エレン「ミカサも自分で作ってるだろ」

ミカサ「でも私のは茶色いので……」

アニ「でも、栄養のバランスはいいんじゃないか? 私は自分の好きなものを入れてるだけだよ」

エレン「一個、なんかくれよ」

アニ「ダメ。あげない」

ミカサ「エレン、そういう時は交換をするのが普通」

アニ「そうそう。タダで貰おうとするのはダメ」

エレン「アルミンはくれるのになー」

エレンは口を尖らせて文句を言う。アルミンはエレンを甘やかしすぎだと思った。

ミカサ「あの、交換をお願いしてもいいだろうか?」

アニ「いいよ。こっちのハンバーグと、そっちのかぼちゃ、交換しよう」

ミカサ「ありがとう……」

いつぶりだろうか。こうやってお弁当のおかずを交換するなんて。

多分、幼稚園の頃以来のように思う。

あまりの久々の女子との交流にちょっとだけ涙が出そうになった。

アニ「そ、そんなに感激しなくても」

ミカサ「ううん、嬉しい」

エレン「ちぇっ……交換ならオレはいいや。ミカサの作った分、全部食うし」

アニ「え? あんたの分の弁当、ミカサが作ってるの? 何で?」

その瞬間、ちょっとまずいと思った。

その理由を説明するとなると、同居している事がバレてしまう。

あまり人に言わない方がいい事であるのは分かっている。

エレンも顔に「しまった」と書いていた。

その気まずい空気を察してか、アニは、

アニ「ああ、あんたら付き合ってるのか」

エレン&ミカサ「「違う!!」」

二人同時に否定してしまい、ますますおかしな事になってしまった。

エレン「その、今日はたまたま、作って貰っただけで普段は違うんだ」

ミカサ「そう。今日はたまたま、私が一個多く持ってきてしまって、エレンにあげただけで」

嘘にしては苦しい言い訳なのは分かっていたが、アニの目がますます鋭くなる。

アニ「ああいいよ。別に否定しなくても。私は言いふらさないし」

ミカサ「いや、だから、その……」

アニ「そりゃにバレたら冷やかされるし面倒だしね。黙っておくからさ」

エレン「いや、違うんだ、その……」

アニ「しつこいね。私がそんなに口の軽そうな女に見えるの?」

ミカサ「いいえ、アニは口が硬そうだけど……その……」

いっそ、そういう事にしておいた方がいいのだろうか。

諦めかけたその時、エレンが先に頷いた。

エレン「ミカサ、言ってもいいか?」

ミカサ「いいと思う。変に誤解されたくないので」

アニ「何が?」

アニに誤解されるよりは真実を話した方がいいと思い、私達は同居している旨を簡単に説明した。

するとアニは「へー」という顔をして、言った。

アニ「なるほど。通りであんた達二人、仲いいと思った。それで弁当もミカサが作ってたって訳ね」

エレン「まあな。悪い。他言無用にしてくれ」

アニ「いいよ。人の家の話だし、言いふらすような事じゃないからね」

アニの理解が早くて助かった。

アニ「親の再婚か。要は連れ子同士って訳だね」

ミカサ「そうなる」

エレン「だな」

アニ「そっか……じゃあどんなに仲良くても恋人同士にはなれないわけだ」

エレン「そりゃそうだよ。何言ってんだ?」

アニ「あ、気を悪くしないで欲しい。ただ、ちょっと思っただけだから」

アニの呟きは意味深に聞こえてちょっと不可解だったけれど、アニはそれ以上その事について追求はしなかった。

アニ「ところで、ミカサ。このかぼちゃの煮付けってどうやって作るの?」

と、話題は料理の方にそれて私達は昼を食べ終えた。

エレンは食後に「牛乳買ってくる」と言って一人で自動販売機に向かった。

午後は体力測定の続きだ。アニと一緒に運動場に戻っている途中で、

アニ「………エレン、ね」

ミカサ「?」

アニ「いや、何でもない」

その時のアニが何を思ってエレンの名前を呟いたのかは分からない。

だけどアニの表情はとても複雑そうに見えた。

人の心の機微を読み取る能力がもっとあれば、その真相が分かったかもしれないが。

その時の私には、推察する事すら出来なかったのだった。

とりあえずここまで。続きはまた今度。
委員会等、決める安価、ありがとうございました。

そして午後の体力測定も無事に終わって部活に行くことになった。

今の時期は次の公演に向けての準備期間で、まだそんなに忙しい時期ではないらしい。

ただ公演前になるとその反動で滅茶苦茶忙しくなるそうなので覚悟しておかないといけないと先輩達に言われた。

今は基礎体力作りに学校の外周を軽くジョギングしたり、柔軟体操や発声練習等の基礎的な事を中心にやってるそうだ。

大道具の本格的な活動は、台本が出来てからになるらしい。

この間、大きな荷物を移動させていたのは、去年の公演で使用した物らしく、近々解体予定なのだそうだ。

エレン「あれだけでかい物を解体するんですか? 勿体ねえ」

先輩1「逆よ。勿体ないから解体して再利用するの。次の公演のセットに使用するからね」

先輩2「材料を眠らせる方がダメなのよ。これはうちの伝統なの」

エレン「へー……そういうもんなんですか」

先輩1「うちには解体の職人がいるからね。今日はまだ来てないけど」

先輩2「うん。3年にすごい人たちがいるよ。まだ紹介してないけど」

エレン「そうなんですか。どんな人だろ……」

茶髪の女子「やっほー! 久しぶり!」

と、噂をすれば影とはこの事だろう。恐らく3年生と思われる人が増えた。

2年の先輩達はすぐに立ち上がって一礼した。

先輩1「ペトラ先輩、お久しぶりです!!」

先輩2「オルオ先輩も! やっとこっち来れるんですか?!」

オルオ「おう。まあな。待たせたな。お前ら」

先輩3「グンタ先輩とエルド先輩は?」

オルオ「後から来る筈だ。今日はリヴァイ先生も来るぞ」

先輩1「まじっすか! やべええええ! 部室掃除しとかないと!」

先輩2「一年! 今から部室と音楽室の大掃除に入るぞ!」

一年一同「「「はっ! (敬礼)」」」

エレン「おお……何か急に忙しくなったな」

ミカサ「そうね。リヴァイ先生って、整備委員の方も担当していると言っていた先生よね」

ペトラ「そうだね。リヴァイ先生は忙しいからそんなにこっちには来れないけど、来たら必ず部室と音楽室のチェックが入るから、掃除出来てないとキレられて蹴り入れられるわよ」

エレン「えええ……体罰じゃないっすか」

ペトラ「愛のムチよ。愛の。これくらい耐えられないと、公演なんてもっとしんどいからね」

エレン「え?」

その時の、3年のペトラ先輩の言葉の意味はすぐには理解出来なかった。

私達一年はまだ、公演という名の地獄をまだ味わっていなかったからだ。

ペトラ「厳しさには慣れてた方がいいわよ。うん。早いに越したことはない。普段は緩いけど、うちはヤル時はやるんだから」

と言いながら既にペトラ先輩は10組の椅子と机を移動し終えている。

は、早い。口を動かしながらでも仕事が出来るタイプと見た。

オルオ「一年は窓拭きから始めろ! 2年は移動させた机を移動させた後の床部分をほうきで先にはけ! オレ達3年が雑巾がけで一気にやる!」

一同「「「「は!」」」」

オルオ「あと15分以内に仕上げろ! 遅くても30分以内にはリヴァイ先生が到着される! それまでに絶対間に合わせるぞ!」

オルオ先輩が何故か陣頭指揮を取って掃除が一気に進んだ。

そのあまりのチームワークの良さに目の裏がぐるぐる回りそうだった。

エレン「すげえ……あっと言う間に片付いていく」

普段の音楽室もそんなに汚いわけではない。

しかしこうやって改めて掃除をしてみると、その違いに驚く。

なんていうか、普段は意外と人はゴミに気づかないで生活しているのだと思い知らされたのだ。

ペトラ「エルド、グンタ! 遅い!」

エルド「悪い悪い。こっちはホームルームが長引いた」

グンタ「担任の話が長いのなんのって」

ペトラ「いいから手貸して!」

そして3年生が増えて更に掃除が綺麗に仕上がった。

演劇部は1年5名、2年5名、3年4名の計14名の人数だが、クラスで普段、掃除の時間でやる掃除とは雲泥の差があった。

こんなに早く掃除って出来るもんなんだ。と、思わされたのだ。

掃除が完了すると空気までが綺麗になったような心地になった。

ミカサ「素晴らしい。皆でやるとこんなに早く綺麗になるのね」

ペトラ「先生が来る時はやっとかないと後が怖いからね」

オルオ「おい、久々に全員で発声練習始めるぞ!」

という訳で掃除が完了した後は皆で発声練習である。

お腹の底から声を出して遠くの方に飛ばすイメージで声を出せと言われた。

私は腹筋の力が強いので声も遠くまで響くと、最初の発声練習では少しだけ褒められて嬉しかったが、アレはお世辞だったのだと、今、思い知らされた。

3年生の声が私の倍以上、大きくて遠くまで届く大音量だったからだ。

エレン「こ、声、でけえ……」

エレンも同じように思っていたらしく、ちょっとびびっていた。

エレン「どうすりゃあんな大声出せるんだ?」

ペトラ「腹筋がまだまだ甘い! 鍛えないとね!」

ミカサ「私はそこそこ腹筋ある方ではあるんですが…」

ペトラ「筋肉はあるだけじゃダメなのよ。宝の持ち腐れにならないように、使い方を意識して」

ペトラ「おへその下にたんでんって呼ばれる体の部位があるんだけど、そこに一番意識を持っていって」

ミカサ「こうですか? (手を添えてみる)」

ペトラ「うん。一回、それで声出してごらん」

ミカサ「あーーーーーーーー」

あ、本当だ。さっきより声が出しやすくなった。

ペトラ「うまいじゃない! 素質あるわよ!」

ミカサ「あ、ありがとうございます…」

ちょっとだけ嬉しかった。

エレン「あーーーーーー」

ペトラ「息が続いてないわね。一気に酸素を吐き出さないで、ゆっくり出して」

エレン「あーーーーーーーー」

ペトラ「そうそう。最初に全力で出し切ると後が続かないわよ。持久力も大事だからね」

エレン「はい!」

エレンもちょっとコツが掴めたようだ。嬉しそうに笑ってる。

ペトラ「あら? 君、笑うと可愛いわね。表情筋がいい感じね! 役者希望?」

エレン「いえ! 裏方です!」

ペトラ「あらそう? 勿体無い。気が変わったらいつでも役者に来てもいいわよ?」

何故かエレンが役者側にスカウトされてしまった。

確かにエレンはよく表情がコロコロ変わるので役者にも向いているかもしれない。

そんな感じでペトラ先輩は他の一年にも声をかけながらいろいろ指導をしていった。

発声練習が一通り終わると柔軟体操を皆でやった。

一年で一番体が柔らかかったのは私だ。股割りも出来るし前屈も得意なので皆に驚かれた。

ペトラ「今年は面白そうな子が入ってきてるわ。いい感じね」

オルオ「ま、最初はそんなもんだろ。これからが課題だな」

ペトラ「…………その、ちょっと斜めに構えた感じやめてくれる? 気持ち悪いんだけど」

オルオ「ふん。オレに命令する権利はまだない筈だが? ペトラ」

エルド「はいはい、次行くよ。折角全員揃ってるから、軽く自己紹介いこうか」

と、パンパンと手を叩いて場を切り替えたエルド先輩は自分から自己紹介を始めた。

エルド「3年2組のエルドです。役者と照明やってます。趣味は日本史・世界史。歴史全般です。夢は考古学関係の何かに携わること。今のところ教師目指してるけど、将来はインディー先生のようになります!」

と、簡潔に自己紹介が終わった。

え? これもしかして、1年にも回ってくる? 回ってくるの?

グンタ「3年2組のグンタです。役者と音響やってます。趣味は作曲。ゲーム音楽とかも割と好きです。得意なのは数学。数字には結構自信あるんで、テストの山はりは手伝えると思う。以上」

は、早い。次はペトラ先輩か?

ペトラ「3年1組のペトラです。副部長やってます。役者と衣装もやってるけど、実質は私が部長です」

オルオ「おい!」

ペトラ「何? なんか文句ある?」

オルオ「部長はオレなんだが? オレ何だが?!」

笑ってはいけないと思うけど、笑いそうになった。

エレンも頬がヤバそうに膨れている。

ペトラ「えー、まあ、部長はオルオだけど、副部長の方が実際は忙しいです。所謂何でも屋だからね。台本を書く時もあるし、本を読むのが割と好きかな。アニメ・ドラマ、両方いけます。好きな芸能人はhideさんです!」

hideって誰だろう? ヒデ……ひで……。

エレン「ライク・アンド・シェルのボーカルだよ。知らねえの?」

ミカサ「ごめん。分からない…」

エレン「背のちっこいおっさんだよ。もういい年だけど、歌はうまい」

エレンがこっそり解説してくれたのだけど、目ざとくペトラ先輩が「ちっこいおっさん言わないで!」と反論してきた。

エレン「すみません。わかりやすく言ったつもりだったんですが」

ペトラ「うぐぐ……確かにちっこいおっさんなのだけども。そこがいいのよ!」

オルオ「自己紹介させてくれよ…」

ペトラ「あ、ごめんなさい。ついつい。次いいわよ」

オルオ「えー3年1組の部長のオルオです。俺も役者と台本書いたりしてる。元々は裏方だったんだが、いつの間にか役者がメインになった。ま、俺の才能をリヴァイ先生が見抜いてくれたおかげ何だが……」

ペトラ「はいはい。自慢自慢。次は2年の自己紹介ね」

オルオ「まだ途中何だが?!」

もう、夫婦漫才にしか見えないのだけども。

仲良さそうで何よりである。

(*ここからはモブキャラにも名前をそれっぽくつけていきます)

先輩1「えー2年1組のマーガレットです。少年漫画が大好きで漫研と兼部してますが、将来はアニメーターか、イラストレーター希望です。手先は器用なので割と何でも作れます。金槌は私の相棒です。Gペンは私の恋人です。以上!」

先輩2「2年2組のスカーレットです。私も手先はそれなりに器用です。趣味は粘土で立体を作ること。フィギュアも作れます。人前に出るのは元々は苦手ですけど、作るのは好きなので、ここにいます。宜しくね!」

先輩3「2年3組のガーネットです。手芸部と兼部してます。普段は大道具メインですが衣装作るのも好きなので、衣装もやってます。特技は見ただけで人のスリーサイズをだいたい測れる事です。以上」

キラーンと、眼鏡を輝かせているところはまるでハンジ先生だと思った。

先輩4「2年4組のアーロンです。役者やってます。元野球部ですが、高校から演劇に目覚めてこっちに来ました。以上」

先輩5「2年4組のエーレンです。同じく役者やってます。俺も演劇は高校からですが、結構楽しくやってます。俺は元サッカー部です。以上」

あら? エレンと似たような名前の男子の先輩がいた。偶然とはいえ、凄い。

ペトラ「次は一年いってみよー」

エレン「はい!」

エレンが先にいった。凄い。

エレン「1年1組のエレンです。部活に入るのは初めてですが、大道具のガチャンガッチャンが格好良くて入りました。まだ演劇のことはさっぱりわかりませんが宜しくお願いします!」

先輩一同「おー!」

パチパチと拍手が起きた。大道具の面子は嬉しそうにしている。

マーガレット「分かる。このガッチャンガッチャンには何かロマンを感じるわよね」

エレン「はい! 装備品に魅力を感じました!」

スカーレット「使いこなせるようになると自分の分身のように感じるからね。うんうん」

つ、次は誰かしら?

エレン「ミカサ、次だろ?」

や、やっぱり?

ミカサ「えっと、その………」

ダメだ。また、緊張する。顔が赤くなるのが分かる。

ミカサ「1年1組のミカサです。その………特技は、肉を削ぐことです。以上」

ペトラ「ええええ?! どういう事?!」

エレン「ミカサ、端的すぎるだろ。もうちょい詳しく」

ミカサ「ええっと、料理全般、出来ます。あと掃除も好きです。あ、歌もそれなりに歌えます。それくらいです」

ペトラ「なんだ。結構特技があるじゃない。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」

エルド「いや、これは有りだ」

グンタ「ああ。期待の新人だ」

オルオ「こういうのが足りないんだよな。うちの部は。うんうん」

直後、ペトラさんのハリセンが何故か3年男子全員に直撃した。

オルオ「いってー! お前、どこからハリセン持ってきた!」

ペトラ「常備しているのよ。乙女の必需品なのよ」

オルオ「どの辺が乙女だ……悪かった。もう言わない。ハリセンしまえ」

(*一年もモブキャラに名前をそれっぽくつけます。由来は詮索しないで下さい)

一年女子「1年2組のマリーナです。役者希望です。将来の夢は声優です。男の子の声が得意なので、聞いてください」

マリーナ『僕にだって出来るさ! これくらい!』

マリーナ「こんな感じです」

エレン「うわあああすげえええ!」

オルオ「う、うまいな。一瞬で声が変わった」

ペトラ「これはまた期待の新人ね」

一年男子「1年2組のカジカジです。ガジガジではないです。カジカジです。間違えないようにお願いします。変な名前でよくからかわれますが、カジカジです。くれぐれもカジカジで覚えて下さい」

一年男子「1年2組のキーヤンです。俺も歌はそれなりに歌えます。歌って踊れる声優目指してます。以上!」

ペトラ「今年も濃いメンバーが集まったわね」

グンタ「まあ、毎年の事らしいからな」

エルド「ああ」

リヴァイ「演劇部は変人の巣窟を呼ばれている部だからな」

部員一同「?!」

リヴァイ「遅くなった。すまない」

ペトラ「リヴァイ先生?! いつからそこに?!」

リヴァイ先生は何故か音楽室の入口で立ってこちらをこっそり覗いていたのだ。

私は途中で気づいていたが、特に割り込む訳でもなかったので様子を見ていたのだと思う。

イザベル「や! 今日は私達も来ちゃったよ」

ファーラン「相変わらずここは騒がしいぜ」

ペトラ「イザベル先輩?!」

オルオ「ファーラン先輩?!」

リヴァイ「さっきそこの廊下でこいつらと会ってな。話し込んでしまって遅くなった」

どうやらペトラ先輩達より更に上の先輩、つまりOBとOGの方が遊びに来ていたらしい。

見た感じ二人は大学生のようだ。

つまりは、ペトラ先輩達より偉い人という訳で。

3年の先輩達が全員、汗を浮かべているのは仕方ないのだろう。

ファーラン「今年もそれなりに新入部員が入ったようだな。去年より少ないが……」

ペトラ「ま、まだまだ勧誘は続けます! ね?」

オルオ「はい! あと10人は増やしますので!」

ファーラン「言ったなオルオ? 二言はねえな?」

オルオ「はいいいいいい!」

オルオ先輩は自分で自分の首を絞めているようだ。

ここから更に10人も増やすなんて現実的な数字ではない。

リヴァイ「おい、オルオ。無茶するな。ファーラン。お前もだ」

ファーラン「冗談だよ。ククク……」

リヴァイ「掃除もちゃんと終わってるな。新入部員も把握できたし、今日は久々に台本の読み合せでもするか」

リヴァイ先生はそう言って一度音楽室を出て行った。

そして何冊か台本を持ってくるとそれを私達全員に配った。

こっちに近づいた時に分かったのだけども、このリヴァイ先生は相当、小さい。

160cmあるのだろうか。ギリギリか。エレンより小さい。勿論、私よりも。

年はいくつだろう? 若いようにも見えるし年を食ってるようにも見えた。

黒いスーツに何故か首元にスカーフをしている正装の先生だったが、身のこなしは、スマートだった。

見た感じ、顔つきも顔色もあまり良くない。

潔癖症というより、ちょっと暗い印象の先生だったのだけども。

黒髪はサラサラしていて、6対4くらいの分け目だった。

あと、特徴的なのは後ろの刈り上げ。

眉間に皺が寄っていて、そのせいで余計に暗い印象だ。

リヴァイ「さてと。今回は全員、くじ引きで役を決めるぞ。裏方も代役で出る場合もあるんだから一応、練習しとけ」

ミカサ「え?」

私は思わず声を出してしまった。

リヴァイ「ん? どうした?」

ミカサ「えっと、裏方も舞台に出る場合があるんですか?」

リヴァイ「ごく稀にだが、例えば出る予定の役者が怪我して出られなくなったり、そういう緊急事態の場合は裏方が役者を兼任する場合もある。だから、裏方もモブ役くらいは出来ないと困るんだ」

ミカサ「あ、モブ役ですね。メインではなく」

リヴァイ「当然だ。そもそも、裏方は裏で手いっぱいだからな。役者の練習なんてしている暇は殆どない」

エレン「なるほど」

リヴァイ「でも、例えば通行人だけでも必要な場面があったら、その時は衣装チェンジして間に合わせる事もある。まあ、表を知ってれば裏もやりやすいし、裏を知ってれば表もやりやすいんだがな」

と、リヴァイ先生の説明が終わって私達は台本の読み合わせという練習を行う事になった。

そして一通り読み合せの練習が終わると、その日はそこで解散となった。

リヴァイ「あーエレンとか言ったか。お前、ちょっと残れ」

エレン「はい?」

片付けが終わって各々帰宅しようと準備していたのに何故かエレンだけ先生に呼び出された。

私は心配になってこっそりドアに耳をあてて盗み聞きをする。

音楽室に二人だけ残った状態で話し込んでいる。

声は小さいが、一応、内容は聞こえる。

エレン「え? オレが役者ですか?」

リヴァイ「ああ。お前、裏方希望だって言ってたが、役者の方が向いてるかもしれんぞ」

エレン「そ、そうですかね?」

リヴァイ「今日の練習を見る限り、1年で一番、演技の幅があったのはお前だ。他の奴らより声は小さかったが、感情移入して台詞を読んでいただろう?」

エレン「はい。割と途中で泣きそうになりました」

リヴァイ「恐らく、性格的に向いてるんだよ。地は感情の波が激しい方だろう?」

エレン「うっ……バレましたか」

リヴァイ「喜怒哀楽が激しい事と、他者に感情移入をしやすい性格の奴は役者に多い。勿論、足りない部分も多々あるが、ハキハキ受け答えも出来るし、裏よりは表の方がいいと思ったんだが」

エレン「そ、そうなんですか……」

リヴァイ「ただ、お前の言うようにそのガッチャンガッチャンに憧れて大道具やる奴も少なくはない。一応、両方を視野に入れて、少し様子を見たらどうだ?」

エレン「分かりました。少し考えてみます」

リヴァイ「お前の相方のミカサの方は、表は無理そうだな。あいつは裏方メインがいいだろう」

うっ……やっぱり見抜かれてる。悔しいけれどその通りだ。

エレン「そうですか……」

リヴァイ「顔は悪くないんだがな。中身が表向きじゃない。ヒロイン向きの顔だが、あれだけ緊張して台詞を言う奴も珍しいな。なんかトラウマでもあるのか?」

エレン「えっと、多分、新入生代表挨拶のアレが原因です」

リヴァイ「ああ、アレか。ちょっと変な挨拶だと思ったが、そうか。あの時のアレがあいつだったのか」

変に納得されてしまった。ちょっと傷ついてしまう。

リヴァイ「ふむ。まあもう少し様子を見てみたい気持ちもあるが、とりあえずはミカサは裏メインでやらせた方がいいだろう。今年の1年は裏2名表3名で、劇よっては裏1名表4名でもいけそうだな」

エレン「そうですね。オレももうちょっと様子見てみます」

リヴァイ「そうしろ。とりあえず、俺がこっちに来れるのは週一が限界だ。他の部の顧問も兼任しているからな」

エレン「演劇以外も顧問しているんですか?」

リヴァイ「体操部だ。俺は体育教師だからな。演技については自身ではあまり出来ないが、ただ、客観的に見て指導するのは得意な方だからこちらも任されているんだ」

エレン「へー……役者をやってたとかじゃないんですね」

リヴァイ「ああ。経験は裏方だけだな。裏の方がもっと綿密に指導は出来るが、あまり口を出すような事でもないしな。怪我だけには注意してあとは自由にやっておけ」

エレン「はい! ありがとうございました!」

リヴァイ「気をつけて帰れよ」

という訳でエレンはようやく解放された。

そして帰り道。私はエレンと話しながら二人で帰った。

夜道はすっかり暗い。コンビニや信号の灯りが眩しかった。

ミカサ「……………」

エレン「元気ねえな。なんか買い食いしていくか? 腹減っただろ?」

ミカサ「いい。お腹はすいてない」

エレン「え? そりゃまずいな。もう夜の7時なのに腹減ってねえっておかしいだろ」

ミカサ「……………」

今日は身長体重が増えてたり、部活動ではちょっと凹んだり忙しい一日だった。

エレン「疲れたのか? 演劇部、馴染めないのか?」

ミカサ「そういう訳ではないけれど」

エレン「ん?」

ミカサ「なんていうか、自分を再認識して勝手に凹んでいるだけ」

私は昔から言葉遣いが「残念」だとか言われていた。

焦ったり、緊張したり、混乱したりすると言語能力が極端に落ちる癖がある。

普段もあまりお喋りではないのもあるせいか、とにかく表現力がないのだ。

故に、誰かと話すのも得意ではないし、話してもうまく話せない事の方が多い。

なのでこの悪癖を本当は直したいのだが、どうすればいいのか分からない。

エレン「あー……皆の前での挨拶、もうちょっとなんとかしたかったのか」

ミカサ「うん」

エレン「うーん。ミカサって混乱してる時って、頭の中どうなってるんだ?」

ミカサ「真っ白」

エレン「いや、真っ白なのは分かるけど。そうじゃなくて、ええっと、混乱する前! 混乱する直前はどんな感じだ?」

ミカサ「直前…?」

そんな事、考えた事もなかった。

エレン「混乱する前は必ずある筈だろ? だって混乱するんだから。するならその前もある。だから、その「あ、今、混乱し始めてるな」っていう感覚、分かるだろ?」

ミカサ「え? え? え?」

エレン「それ! 今、ちょっと意味分からなくて混乱しそうになっただろ?」

ミカサ「あ………」

本当だ。言われてみればその通りだ。

エレン「そう。そういう頭の変化の境目をさ、自分で意識出来るようになれば「今、緊張してんな」とか「今、頭が限界だな」とか分かるだろ?」

ミカサ「そうかもしれない」

エレン「そうやって自分を『客観的』に見るんだよ。そうすればそういう時はどうするべきか、分かるんだ」

ミカサ「自分を客観的に、見る……」

エレンの言っている意味の全てを理解している訳ではなかったが、それでもなんとなく、エレンが言わんとする部分は分かった気がする。

エレン「混乱したり、頭が限界に来てる時は、オレは目を一回閉じたりしてるけどな」

ミカサ「目を閉じる」

エレン「とにかくその瞬間「今、いつもの自分と違うな」っていう自分を感じるんだよ。感じたら、深呼吸でもなんでもいい。ちょっと違うことをするんだ」

ミカサ「違うこと……」

エレン「まあ、出来ないならオレがやってやるよ。ミカサが冷静じゃない時は、オレが止めてやるから」

そう言ってニカッと笑ったエレンにちょっとだけ、頼もしさを感じた。

エレン「そしたら多分、感覚が分かる筈だ。今度教えてやっから」

と、エレンは言ってくれた。

ミカサ「うん。ありがとう」

エレンはとても優しい人だと思った。

こうやって私に足りない部分を教えてくれる。

手を繋いでいないのに、繋がれているような安心感が、そこにあった。

エレン「お、家についた。腹減ったーめしめしー」

だけど次の瞬間、またいつものエレンも戻った。

飯の事を言う時のエレンは子供だと思うけど。

それが嫌ではない、自分がそこに居たのだった。

それから数日の月日が流れ、アルミンのインフルエンザもようやく完治した。

アルミン「うー……しょっぱなからついてないよ。やっと治ったけど」

エレン「治って良かったな」

アルミン「うん。でも皆、もうクラスの友達のグループ出来ちゃってるし、部活も入ったんだろ?」

エレン「ああ、まあ、オレとミカサは演劇部の裏方の大道具ってやつをやることになったよ」

ミカサ「今は今度、公演予定の背景のセットを作ってる」

アルミン「へー! 意外だな。エレンは球技系に入ると思ってたけど」

エレン「んー一応、球技も見て回ったけどな。何か思ってたより殺伐としてたから馴染めそうにないと思ってやめた」

ミカサ「演劇部は皆、いい人。仲良くやっている」

エレン「だよな。部室にはいつもお菓子とお茶があるし、練習の合間には皆で結構、喋ってるぜ」

アルミン「そうなんだ。いいなあ」

エレン「アルミンも演劇部入らないか?」

アルミン「僕は特待生だからね。部活をやってる時間はないかも。成績落としたら学校通えなくなるし」

エレン「あ、そう言えばそうだったな。悪い」

アルミン「いいよ。その代わりエレンとミカサが出る公演は観客として見に行くから」

エレン「おう! 待ってるぜ!」

話題が途切れた頃、アルミンは何かを思い出したように言った。

アルミン「あ、僕が休んでいる間のノート、写させて貰えるかな?」

エレン「いいぞ。コピー取っておくか?」

アルミン「うん。家のコピー機でコピー取ってから明日返すね」

エレン「了解」

アルミン「他に僕が休んでいる間に何かあった?」

ミカサ「委員会が決まった。エレンは整備委員会。私は体育委員。アルミンは休んでいたけれど、図書委員に推薦しておいた」

アルミン「わあ、ありがとう。図書委員、好きなんだ僕」

エレン「アルミンは小学校の頃からずっと図書委員やってたって言ったら先生も認めてくれたんだよ。だからオレが推薦しておいたんだ」

アルミン「持つべきものは友達だ。ありがとう、エレン!」

エレン「いいって!」

私はジャンの席を借りて(貸して欲しいと頼んだら何故か「喜んで!」と即答された)教室で三人でわいわい言いながらお昼ご飯を食べていたら、そこにアニが加わった。

アニ「アルミン、だっけ? インフルもう治ったなら、今日から当番にいけるよね?」

今日は4月14日の月曜日だ。

アルミンは入学式の4月8日から一週間ほどお休みしてしまった事になる。

>>109
訂正
ミカサ「委員会が決まった。エレンは整備委員会。私も整備委員。アルミンは休んでいたけれど、図書委員に推薦しておいた」

何で体育委員になってるんだ? 自分でびっくりした。

>>109
訂正2
エレン「アルミンは小学校の頃からずっと図書委員やってたって言ったら認めてくれたんだよ。だからオレが推薦しておいたんだ」

先生、は別にいらないなこれ。間違えました。

あ、正確には5日間だけども。

アルミン「うん。もう大丈夫だよ。ごめんね。エレンから聞いてたけど、僕の代わりに会議に出てくれたんでしょ?」

アニ「まあ1回だけね。どの曜日に当番するかを決める会議が一回あっただけだよ。私達は月曜日の昼休みになったから」

アルミン「分かった。今日から早速だね。じゃあもう、移動しないといけないね」

アニ「うん。じゃあ、アルミン、連れてくよ」

エレン「いってこーい」

ミカサ「いってらっしゃい」

という訳でアルミンはお昼ご飯を一旦、片付けて、食べてる途中だったけど、アニと一緒に図書室に移動した。

残りの時間どうしよう。私はもうお昼は食べ終わったけど、他にすることがない。

エレン「オレ、また食後の牛乳買ってくる」

また自販機か。エレンは最近、食後に牛乳を飲むのがマイブームらしい。

そんなに背丈が欲しいのか。あげたい(2回目)。

ジャンの席に一人で座ってぼーっとしていたら、私に話しかけてきたクラスメイトがいた。

*話しかけてくるクラスメイトを一人選んで下さい。安価すぐ↓ずれたら一個↓

ちなみに現在の1年1組の座席表はこんな感じです。
??? のところはモブキャラ扱いです。

             【黒板】

マルコ  ???  ???  サシャ   アニ

マルロ  ???  トーマス サムエル アルミン

ミーナ   ヒッチ   トム    ジャン  エレン

ミカサ   ???  ナック  ???  ???

ミリウス ???  ???  ???  クリスタ

ユミル  フランツ  ハンナ  ???  コニー

ライナー ベルトルト ???  ダズ  ???

クリスタ「ええっと、ミカサさん、ちょっといいかしら?」

確かクリスタといった金髪の小柄な美少女だ。

今日はユミルは傍にいないのか?

ああ、紙の束を持っているので彼女は級長の仕事中なのだろう。

ミカサ「なんだろうか?」

クリスタ「あのね。一応確認しときたいんだけど、今度の研修旅行、ミカサさんのいる班だけ女子一人なんだけど大丈夫?」

ミカサ「私はエレンやアルミンと一緒の班の方がいいので」

本音を言えばもう一人くらい女子が一緒にいて欲しかったのもあるが、自分の我が儘が全て通るほど世の中は甘くない。

ひとつ希望が叶えられればそれで良しとするべきである。

クリスタ「ごめんね。こっちを一回、誘ってくれてたんでしょ」

ミカサ「済んだ事なので謝る必要はない」

クリスタ「そうだけども、一応ね。研修旅行では食事とか授業の席は班別の行動になるけど、寝る時は女子と男子は分かれて大部屋だから安心してね」

大部屋…。

何だか嫌な予感しかしない。

ミカサ「大部屋というと、和室で布団を並べて寝るのだろうか」

クリスタ「その予定だよ。皆で夜中にいっぱいお喋りしようね!」

ミカサ「う、うん……」

ああ。女子会。ガールズトーク。

出来るんだろうか。小中学校、女子の中で殆どグループに属してなかった私が。

幼稚園の頃までは良かった。平和だったけれど。

小学校の途中から何故か私は女子のグループから仲間外れにされて孤独だった。

原因は、いろいろだ。

女子の中で人気のあった×××君が私の事を好きで、それをフッたらフッたで、反感をかったり。

アイドルグループの名前を間違えて覚えててそれを言ったら嫌われたり。

皆と同じような可愛い文房具が欲しくて真似したら嫌われたり。

女子には嫌われていたがその分、何故か男子には好かれた。

でも彼らは最初は普通にしていても、最終的にはキレて「どうして分かってくれないんだ!」と詰め寄ってくる。

彼らは私と男女の仲になりたかったらしく、私の望んだ関係を維持は出来なかった。

なので愛の告白はされたことは多数あるが、お付き合いはした経験がない。

高校生になり、住居も変わり、グリシャさんとエレンと同居するようになり、そしてこの学校に来てからは、あの頃のような思いはしないで済んでいるけれども。

また、どこかで間違えたら同じ道を辿るかもしれないと思うと不安は拭いきれなかった。

特にこういう交流の場になると、何かやらかしてしまうのではという不安がどうしても出てくる。

私の不安を察知してか、クリスタはジャンの後ろの席に勝手に座って私との話を続けた。

クリスタ「ミカサさんは、どこの中学校?」

ミカサ「うぐっ……」

遂に来てしまった。この質問が。

ミカサ「く、クリスタさんは」

クリスタ「クリスタでいいよ」

ミカサ「では、私もミカサでいい」

クリスタ「そう? じゃあミカサだね。うん、あのね。私とユミルとサシャとコニーとマルコは同じ中学校だよ。結構、山寄りかもね。田舎の方だよ」

ミカサ「私も似たようなもの」

クリスタ「そうなんだ。何中?」

うぐっ……。かわしたい。この質問をかわしたい。

クリスタ「…………もしかして、物凄い遠いところ?」

ミカサ「そ、そう。多分、知らないと思う」

クリスタ「そうなんだ。私はローゼ南区中学校を出てるんだ」

その中学校名は知っている。ここからもそう遠くない地区だ。

ミカサ「その中学校は知ってる」

クリスタ「そう? じゃあ、中学校名分かるかも。教えて」

しまった。自分から言わせる空気にしてどうする。

エレン「そういや、ミカサってどこ中出身なんだ? オレも知らねえや」

ミカサ「え、エレン!」

牛乳を買いに行ったエレンが戻ってきた。

エレン「ほい、ミカサにもお土産。りんごとオレンジどっちがいい?」

ミカサ「オレンジで」

エレン「じゃありんごはクリスタで」

クリスタ「くれるの? ありがとう!」

エレン「ついでだよ。んで、ミカサはどこの中学校出身だ?」

ミカサ「……………………………」

私は沈黙してしまった。言いにくい。

言ったら自分の中学時代の黒歴史がバレてしまうかもしれないと思うと言えない。

と、視線を下に下にしていたら、なんとエレンが、

エレン「ちなみにオレとアルミンはシガンシナ区中な」

ミカサ「え?」

エレン「え?」

ミカサ「エレンも?」

エレン「へ?」

ミカサ「私も、シガンシナ区中……だけど」

驚いた。まさか同じ中学出身だったとは。

エレン「え? でもオレ、ミカサと中学時代に会った覚えがないんだが?」

ミカサ「私は5組だった」

エレン「オレは1組だったけど、いや、それにしたって、すれ違うくらいならありそうじゃないか?」

クリスタ「あーでも、同じ中学でもお互いに気づかないで生活するってことあるかもね」

ミカサ「そ、そういう事なのだろうか」

クリスタ「うん。私とマルコは同じクラスになるのは初めてだしね」

エレン「何だよーその頃から知ってたならなあ」

クリスタ「そういう事もあるって」

この感じだと、エレンは私の中学時代の悪評を知らないのだろうか。

端っこと端っこのクラスでは、噂話が届かない事もあるかもしれないが。

>>37
今更ですが訂正。

私は左壁際の真ん中くらいの席だった。




座席表を見れば分かると思いますが、ミカサの席は真ん中辺りですね。

後ろの方の席と最初書いてましたが、訂正します。すみません。

クリスタ「シガンシナ区中なら私達の中学校よりもっと遠いね。講談高校までの通学も大変だったりする?」

エレン「あーまあな。でも電車はあるし、そこまで不便とは思わないな。乗り継ぎは1回だけだし」

ミカサ「通学は片道35分から45分程度だろうか」

クリスタ「へー意外。思ってたより時間かかってないんだ」

エレン「そうだな。中学の時は20分くらいだったけど、まあ、ちょっと遠くなった程度だよ」

エレンは自分の席で牛乳を飲みながら話を続けた。

エレン「遠いところから来てる奴は1時間超える奴とかもいるんだろ?」

クリスタ「いると思うよ。近い子は10分とかもいるけど」

エレン「高校来るといろんなところから来てるからな。通学遠い奴は大変だよな」

と、話は中学校から通学の話に逸れていった。

良かった。これ以上私自身についての話はしないで済みそうだ。

エレン「クリスタはどんくらいかかってるんだ?」

クリスタ「私は20分くらいかな。電車通学だけど乗り継ぎないから早いよ」

エレン「うちの高校、駅から近いからその点は楽だよな」

クリスタ「うん。あ、駅と言えばね……」

そして話題はまた逸れていった。今度は駅の話だ。

クリスタ「最近、ちょっと怪しい奴がいるんだよね」

エレン「怪しい奴?」

クリスタ「うん。まあ、ぶっちゃけると痴漢っぽい奴?」

エレン「え? 痴漢されたのか? クリスタ」

クリスタ「いや、私じゃないよ。そういう噂が出てるの。ただねーその話がちょっと奇妙で」

ミカサ「奇妙?」

クリスタ「うん」

クリスタはりんごジュースをすすりながら首を傾げていた。

クリスタ「うーんとね。まあ、その……男の子を狙う痴漢らしいの」

エレン「へ?」

クリスタ「しかも、女装男子限定っていう、まあ何ともアレな話なんだけどね」

エレン「ちょちょちょ……え? なんだそれ。そもそも何で女装男子が電車に乗る?」

クリスタ「最近、たまに見るじゃない。女装男子の子」

エレン「いや、オレは見たことないが」

クリスタ「そう? まあ、いるんだよ。で、うちらの学校の最寄駅付近で、そういう話が出てるから、女の子っぽい男子は気をつけた方がいいぞって何故かメールやら掲示板やらツイッターやら拡散情報が回ってるよ?」

思い当たる男子は身近にいるが…。

エレン「アルミン、あいつ気をつけておいた方がいいかもな」

クリスタ「いや、エレン。あなたも十分許容範囲だと思うけど」

エレン「え?! オレ?! 狙われそうなのか?!」

クリスタ「間違われそうな私服は着ないほうがいいよ。赤色とか。暖色系の服は避けておいた方がいいかもね」

エレン「やべえ……オレ、赤色の服結構、持ってるけど?!」

エレンがガクガクブルブルし始めた。無理もない。

ミカサ「大丈夫。その時は私が守ってみせる」

エレン「いやいやいや、そういう話なら暫くオレは電車通学やめて自転車に変えるぞ」

ミカサ「でも雨の日はどうするの?」

エレン「濡れてでも自転車で通ってみせる」

ミカサ「それはダメ。危ない。事故にあったらいけない」

エレン「…………父さんに車で送ってもらうとか」

ミカサ「そっちの方がまだいいと思う。犯人が捕まるまでは、特にアルミンは……」

エレン「アルミンの家はおじいちゃんしかいねえから保護者の送迎は期待出来ねえよ」

ミカサ「え?」

エレン「あ、言ってなかったか。アルミンの家、両親がいないんだ。他界してる」

クリスタ「あら……」

本人がいないところでそんな話をしていいのだろうか。

エレン「あ、って言っても亡くなったのは相当前だから。あんま暗くならないでって本人も言ってるし、好きにバラしていいって許可は貰ってる。辛気臭くされる方がアルミンも面倒なんだってさ」

クリスタ「そうなのね。ごめんなさい。何かよけいな事言ったせいで」

エレン「いいよ別に。むしろその可愛い男を狙う痴漢っていう話、知らなかったから聞けて良かったぜ。アルミンにも気をつけるように言っておくよ」

ミカサ「そうね。これはアルミンが一番気をつけるべき問題」

と、私が言ったところで丁度チャイムが鳴り、昼休みが終わったのだった。

放課後、アルミンに例の件を話すと物凄い渋い顔をされた。

アルミン「ええっと、つまり女の子に間違われそうな格好をしているとやばいって事?」

クリスタ「最初に被害に遭ってしまった子は、女装男子だったけど、それから被害が拡大して、それに近い所謂、中性的な男の子も狙われるようになったらしいんだよね。だからスカートじゃなくても、女の子っぽい色合いの格好でもアウトって話だよ」

クリスタ「ただ、アルミン君の場合は男子の制服を着てても割とその……」

アルミン「いや、それ以上言わなくてもいいよ。うん」

クリスタの言葉を遮ってアルミンは大きなため息をついた。

アルミン「はあ……もう何だか嫌な世の中だよ」

アルミンは頭を抱えて机の上に頭をのせてしまった。

アルミン「そんな話を聞いた後に一人で帰りたくない……」

ミカサ「今日は一緒に帰ろう。アルミン。少し待ってて欲しい」

アルミン「いや、僕は早く家に帰らないとまずいんだ。おじいちゃんを長く一人にはしておけない」

エレン「そうだよな。オレ達の部活の終わる時間までは待っていられないよな」

ミカサ「では今日だけは部活を休ませてもらおうか、エレン」

エレン「その方がいいかもな」

アルミン「いや、それはダメだよ。二人を巻き込んでしまうのは……」

クリスタ「ごめんなさい。私がもっと体が大きくてアルミン君を守れるくらい強ければ…」

アルミン「いや、君づけはいいから。あと女の子に守られたら僕が死にたくなるからやめてくれ」

アルミンは男心と危険性を天秤にかけて悩んでいるようだ。

エレン「気持ちは分からんでもないが………アルミン、お前は可愛いからこの事実は曲げようがない」

アルミン「………エレンだって可愛い顔立ちしてるじゃないか」

エレン「オレは背がある分、まだいいんだよ。アルミンは背丈も……」

アルミン「うわああん! 身長欲しいよおおお!」

ミカサ「エレン、これ以上追い詰めてはダメ」

エレン「悪い。しかしどうしたもんかな」

ああ、こんな時、アルミンと体を入れ替えられたらどんなにいいかと思う。

勿論、性別はそのままで。私が男で、アルミンが女として生まれた方が世の中はもっと平和だったかもしれないのに。

この世界は残酷だ……。

アニ「何をさっきから騒いでるの?」

アニが教室に戻ってきた。でも鞄は持っている。

ミカサ「忘れ物?」

アニ「ノートを忘れた。まだ帰ってないの? アルミン。あんた、部活入ってる訳じゃないんでしょ? さっさと帰ったら?」

クリスタ「実は……」

クリスタは例の噂の件をアニにも伝えた。すると、

アニ「ふーん。可愛い男の子を狙う痴漢の出没の噂、ねえ」

アニは微妙な顔をして笑いを堪えている。

アルミン「笑い事じゃないのに」

アニ「いや、その……そういう事なら騒ぎが収まるくらいまでなら、私も一緒に帰ってやってもいいけど」

アルミン「え?」

アニ「シガンシナ区までは行かないけど。途中までなら電車も一緒だし、いいよ」

アルミン「いや、でも……」

アニ「それもしたってただの噂だろ? 実際、この学校の奴らの誰かが狙われたのならまだしも、噂だけが一人歩きしてるのかもしれないし、必要以上にびくびくしてもしょうがないと思うけど?」

アルミン「………それもそうだね」

クリスタ「じゃあ私も途中までアルミンと一緒に帰る」

アルミン「わあ……両手に華だな、これ」

アニ「あんた自身が痴漢になったら、大事なところを握り潰すからね」

アルミン「それは勘弁下さい。一応、僕は男の子なので……」

そんな訳でアルミンはアニとクリスタと一緒に帰っていった。

そう言えば今日はいつもいる筈のユミルの姿がなかったけれど、どうしたのだろうか。

ちょっと気になったので明日もいなかったらクリスタに聞いてみようと思った。

そして翌日、なんとユミルもインフルエンザにかかっていた事が判明した。

クリスタ「あのね。最初はただの風邪だと思ってたらしいんだけど、次の日の朝にがーっと熱が上がっちゃって病院行ったら、インフルだって」

休み時間、その話を聞いて複雑な顔をしたのはアルミンだった。

アルミン「あっちゃー……こりゃまだ、時期ハズレのインフルの猛威はまだ収まってないね」

エレン「みたいだな。春なのにインフルって、変な感じだけど」

ミカサ「私は今まで一度もインフルエンザにかかった覚えがないのだけども」

エレン「え? そうなのか?」

ミカサ「学校を休んだ事がないので」

コニー「オレもオレも! 風邪ひいたことないぞ」

ジャン「コニーの場合は馬鹿はなんとかって奴だろ」

コニー「それはねえよ! オレは天才だからな。それにそれを言ったらミカサだって馬鹿って話になるだろ?」

ジャン「ミカサは馬鹿じゃねえよ。ミカサにはウイルスも寄り付かないんだよ」

ミカサ「? それはどういう意味だろうか?」

貶されているのか褒められているのかよく分からない。

ジャン「その……よく言うだろ。恐れ多くて、近寄れないとか」

エレン「ウイルスを擬人化すんなよ。気持ち悪いな」

ジャン「詩的と言えよ! この単細胞が!」

エレン「お前、何かとオレにつっかかってくるが、なんか恨みでもあんのか?!」

ジャン「自分の胸に聞け!」

ミカサ「二人共、喧嘩はやめて!」

高校生にもなって教室で暴れないで欲しい。

クリスタ「でも困った。もうすぐ研修旅行なのに。間に合うのかな」

ミカサ「そうね。今日を含めて4日しかない。間に合えばいいけど」

クリスタ「治らなかったらユミル抜きになるのかーやだなー」

サシャ「ですねえ。折角ですから治って欲しいですけど」

エレン「インフルだとお見舞いも無理だしな」

いつの間にか、休み時間の間、こうやってたわいもない平和な会話をするようになっている。

私自身はそう多くは会話に加わる訳ではないけれど、自然と人の輪が出来てるのが嬉しい。

そこに居てもいいという事も。嬉しい。

ジャン「祈るしかねえんじゃねえの? 4日ならギリギリ間に合うだろ。根性があれば」

アルミン「いや……どうだろ。僕の場合は実質7日は完治に時間がかかってるからね」

エレン「ちょっと長かったよな」

アルミン「うん。熱がなかなか下がらなくてね。しんどかったよ」

そうか。熱にうなされる経験はした事がないので分からないが。

偶発的な偏頭痛程度の苦痛しか経験をした事がないので、うまく想像出来なかった。

そんなこんなであっと言う間に研修旅行の前日の夜になった。

明日からいよいよ、皆と一泊二日の研修旅行である。

ここ数日、特に下手な真似はしていないし、クラスメイトとの関係も良好に思える。

喧嘩をふっかけられたり、無理なナンパもないし、私が正当防衛をする機会もない。

実に平和だった。高校生活万歳である。

エレン「ミカサーちょっといいか?」

寝る前になってエレンが私の部屋にやってきた。

ミカサ「どうぞ」

エレン「入るぞ」

私服姿のエレンだ。黒っぽい格好だ。

エレン「赤色は女っぽく見えるってクリスタに前に言われてからちょっと黒とかも私服に加えて見たんだが、どうだ?」

ミカサ「いいと思う。黒は男の子っぽい」

エレン「そっか。寝る時は私服でいいってあったから、一応確認しとこうと思ってな」

ミカサ「似合ってると思う」

エレン「ミカサは私服、どんなの用意してるんだ?」

ミカサ「教えない」

エレン「何でだよΣ(゚д゚lll)」

ミカサ「ふふ……当日までの秘密にしておく」

そう返すと、口を尖らせてしまったようだ。

エレン「ちぇっ……ちょっと見てみたかったのに」

ミカサ「普段、家でも私服姿は見ているのに?」

エレン「それとこれは別なんだよ。なんていうか、ちょっとワクワクするだろ?」

ミカサ「そうね。ドキドキする」

エレン「まあ、やる事は勉強だけどな。でも温泉もあるし、皆と遊ぶ自由時間も少しあるしな」

ミカサ「そう言えばそうだった」

自由時間。そこをどう過ごすかで今後の高校生活が決まると言っても過言ではない。

ミカサ「自由時間は特に頑張る」

エレン「おう。頑張れよ。オレも頑張る」

私達は、そう言ってお互いに笑いあったのだった。

今回はここまで。次は研修旅行編に入ります。
ユミルは欠席するのか、出席するのか。どっちがいいかな?(笑)

ユミル、是非でてほしいです!
そして、続き&エレミカを期待

>>132
了解しました。ユミル出席ルートで書いていきます。
ちょっとだけ延長戦します。





研修旅行の当日。天気も良好。晴れた。

皆でバスで移動する。時間ギリギリでユミルが間に合った。

汗だくでバスに乗り込んできたのだ。

ユミル「悪い。ギリギリだけど来た……」

キース「大丈夫か? インフルエンザはもう完治したのか?」

ユミル「熱は落ち着いてます。咳はまだ少し出るけど……」

キース「やれやれ。一応、マスクはしておいてくれ。無理はするなよ」

これは完治していない様子だ。それでもイベントに参加するあたり根性がある。

ただ、インフルエンザは普通の風邪とは違うので、どの辺で活動再開をしていいのか素人目には分からない。

私は隣の席のエレンに聞いてみた。

ミカサ「エレンはインフルエンザにかかったことある?」

エレン「あるけど、オレの場合は毎年親父に強制的に予防接種させられるから、かかったとしても症状は軽いな」

ミカサ「そうなの?」

エレン「ああ。酷くなるのは予防接種してない奴だ。ま、面倒臭いからやらない奴の方が多いけどな」

ミカサ「熱が下がっていれば動いてもいいの?」

エレン「本当は良くねえよ。けど、来ちまったからしょうがねえだろ」

クリスタが心配そうにユミルを見ている。ユミルはクリスタの隣の席についたようだ。

バスの席順は、適当だ。先に到着した順に好きなように座っている。

なので私は一番後ろの席の真ん中にいる。

アルミンが左の窓側。その隣にエレン、私の順で並んでいる。

三人が隣同士に座れる唯一の席だったからだ。

私の反対側の、右側にはジャンとマルコがいる。

つまりエレンとジャンの間に私がいるわけだ。

エレンとジャンはよく喧嘩をする癖に何故かよく一緒にいるので、私が間に入ったのだ。

ジャン「参ったな……ユミル、インフルのウイルス拡散する気かよ」

マルコ「ジャン、それは言いすぎだよ」

ジャン「だってあの様子じゃ絶対完治してねえよ? 参るぜ全く」

アルミン「うーん。治りかけって感じだね。僕もついこの間まであんな感じだったからな」

エレン「アルミンはちゃんと治るまで休んだもんな」

アルミン「いやでも、研修旅行と重なってたら僕も無理してでも来たかもしれないよ。だって、なかなかこんな機会ないじゃないか」

マルコ「そうだね。温泉に入れるのだし、やっぱり普通は来たいと思ってしまうよ」

ジャン「まあ気持ちは分からなくないが……」

と、それぞれいろいろ思いながらバスは出発した。

目指すは某県の某温泉地。

大型バスは35名と先生と運転手を乗せて走り出したのだった。






バスの中は暇だった。

なのでジャンが「ゲームでもしないか?」と私を誘ってきた。

ミカサ「何をするの?」

ジャン「トランプ持ってきてる。ババ抜きくらいならバスの中でも出来るだろ?」

エレン「揺れるのに無理だろ。何無茶ぶりしてやがる」

ジャン「お前は誘ってねえよ」

ミカサ「え? エレンも誘わないの? 席が近いのに?」

ジャン「オレとマルコとミカサの三人でやろうと思ってな」

ミカサ「それはダメ。やるなら皆でやりましょう」

エレン「おい、やるのかよ」

ジャン「エレンはやりたくなさそうだから三人でいいんじゃないか?」

エレン「別にやらないとは言ってねえが……」

ああもう。何故こうすぐ険悪な空気になるのか。

ミカサ「トランプは確かにバスの中では散らかるので不向きだと思う」

ジャン「そ、そうか……」

ミカサ「違うゲームでもいいのなら……そうだ。しりとりはどうかしら?」

子供の頃にやったゲームだ。

これなら誰でもルールが分かる筈。

ジャン「しりとりか。普通のだと面白くねえな」

アルミン「何か縛り入れる?」

マルコ「そうだね。世界の国名や地名とか?」

エレン「ああ、そういうのならちょっと楽しめそうだな」

ミカサ「では、しりとり、の「り」から始まる国名、または地名、でスタートする」

ジャン「マルコからオレ、の流れが一番いいか」

マルコ「いいよ。じゃあ「リビア」」

ジャン「アメリカ」

ミカサ「カナダ」

エレン「だ? だ………「だ」なんてあったけ?」

アルミン「この場合は「た」に変えてもいい筈だよ」

エレン「あ、そうだっけ?」

アルミン「うん。しりとりの濁点と丸は清音に変えてもいいよ」

マルコ「清音無しにしちゃうと難易度上がりすぎるしね」

エレン「じゃあ…「タンザニア」」

アルミン「また「あ」か……アラスカ」

マルコ「か………韓国!」

ジャン「く………クエートって国あったよな?」

アルミン「クウェートね。あるよ」

ミカサ「トルコ」

エレン「こ? こ……こ……こ?!」

ジャン「ククク……早くも脱落か? おい?」

エレン「いや、ちょっと待て。何かある筈……有る筈……」

エレン「コロンビアって地名あるよな?」

アルミン「あるよー。国の名前だけど」

ジャン「地名とか言ってやがるwwwww」

エレン「うるせ! いいだろクリアしたんだから!」

アルミン「また「あ」か……アメリカとアラスカは言ったから、次はちょっとマニアックなのいい?」

ミカサ「いいと思う」

アルミン「アンタナナリボ」

ジャン「はあ?! なんだその国の名前!」

アルミン「国の名前じゃない。マダガスカルの首都だよ。地名もいいんでしょ?」

マルコ「有りにしないとすぐ終わっちゃうと思ってね」

アルミン「じゃあいいよね。「ぼ」か「ほ」でお願いします」

マルコ「了解。じゃあ「ボツワナ」で」

ジャン「どこだよそれ」

マルコ「南部アフリカの内陸にある国だよ」

ジャン「そうか……マルコ、お前結構マニアックだな」

マルコ「そうかな?」

アルミン「僕よりはマニアックじゃないよ」

ジャン「アンタナナリボを言い出すあたりが確かにマニアックだが……」

ジャン「「な」だよな……ナイジェリア?」

ミカサ「また「あ」ね。あ……愛知」

エレン「日本の地名もありか。じゃあ、千葉!」

アルミン「ば……バングラデシュ」

マルコ「この場合は「ゆ」でいいのかな?」

アルミン「いいよ」

マルコ「ゆ……ゆ……ユーゴスラビアはもう名前変わってるしなあ」

ジャン「そ、そうなのか?」

マルコ「うん。今のセルビアとモンテネグロにあたるんだけど」

ジャン(全然分からん)

マルコ「ちょっとまってね。ゆ……ゆ……「湯浅!」」

ジャン「どこだっけ?」

アルミン「和歌山県にあるよ。醤油の醸造発祥の地と呼ばれてるんだけど。知らない?」

ジャン「知らねえよ。マニアック過ぎるだろ」

マルコ「歴史的な建造物が残ってる貴重な地区なのに……」

ミカサ「名前くらいなら知ってるけど」

エレン「オレは分からん」

マルコ「分かった。じゃあ変える。「夕張」ならいいよね?」

ジャン「あ、それなら分かる。メロンだろ?」

マルコ「うん。夕張メロンは有名だよね」

ジャン「じゃあ「り」か……り………り?」

エレン「お? 詰まったな?」

ジャン「黙れ。り……リビアはもう言ったよな。リベリアってなかったか?」

アルミン「あるね。西アフリカに位置する国だよ」

ミカサ「また「あ」……ジャン、「あ」を回しすぎなのでは?」

ジャン「すまねえ」

ミカサ「まあいいけど……「アテネ」」

エレン「ね?! 意外なところきたな。ね……」

ジャン「お前も詰まってるじゃねえか」

エレン「黙れ! 集中しねえと分からんな。「ね」」

エレン「ネパールしか出てこない」

アルミン「「る」だね。ルクセンブルク」

ジャン「どこだっけ?」

アルミン「さっきから聞いてばかりで大丈夫? ヨーロッパにある国のひとつじゃないか。これは知っておかないと恥ずかしいよ」

ジャン「わ、悪い……(レベルが高すぎてびっくりだ)」

マルコ「「く」だね。クアラルンプール」

ジャン「なんか聞いたことはあるんだが、曖昧で思い出せない」

マルコ「マレーシアの首都だよ」

ジャン「そうか。オレ、地理得意じゃねえからやっぱり難しいな」

ミカサ「では何故この勝負を受けたの?」

ジャン「あ? まあ、なんとなくだよ」

ジャンの行動はたまに意味不明で良く分からない。

ジャン「る……る……ルーマニア?」

ミカサ「ジャン、私に何か恨みでも?」

ジャン「偶然だから! すまん!」

ミカサ「アイルランド」

仕方ない。「あ」はいろいろあるからいいけども。

でも、回す地名によってはエレンが脱落しそうで怖い。

エレン「ドミニカ!」

アルミン「カイロ」

マルコ「ローマ」

ジャン「回すの早いなおい! えっと、あ、そうだ。マダカスカル!」

アルミン「ああ、僕がさっきマダガスカルの首都って言ったから思い出したのか」

ジャン「すまねえな。その通りだ」

ミカサ「ルワンダ」

「だ」または「た」でいけるだろうか。

エレン「ダマスカスってなんかなかったか?」

アルミン「シリアの首都だね。あるよ」

エレン「良かった。ぼんやり覚えてた」

アルミン「じゃあスイス」

マルコ「マニアックなのいってもいい?」

アルミン「あれいくの?」

マルコ「ダメかな?」

アルミン「いいよ。マルコに譲る」

マルコ「じゃあ「スリジャヤワルダナプラコッテ」」

ジャン「?! どこだよそれは!」

ミカサ「スリランカの首都。これは結構、有名」

アルミン「長い名前だから逆に覚えやすいよね」

エレン「舌噛みそうな名前だな」

ジャン「もうすごすぎてツッコミが追いつかねえ」

マルコ「はいはい。「て」だよ。出てこない?」

ジャン「ああ、待ってくれ……ああー」

エレン「ぶぶー! 時間かけすぎだ。脱落だな」

ミカサ「そうね。ジャンは脱落でいいと思う」

エレン「ミカサ、いけるか?」

ミカサ「濁音、清音切り替えありよね? では「デンマーク」で」

ジャン「あああああ! それがあったか!

ミカサ「どのみちそう長くは持たなかったと思うけど」

エレン「「く」か。く……く…」

エレン「クロアチアってなかったけ?」

アルミン「あるよ。ヨーロッパのバルカン半島にある国だね」

アルミン「また「あ」か……アムステルダム」

マルコ「「む」?! む……むってあったかな?」

ジャン「さすがのマルコも出ないか」

マルコ「ちょっと待ってね。探すから。ええっと」

アルミン「僕もさすがに「む」は一個しか出てこない」

マルコ「ということは1個はあるんだね」

アルミン「海外のだったらね。日本名ならたくさんあるけどマニアックすぎたら却下でしょ?」

マルコ「そうだね。でもどのみちどっちもマニアックだよね」

マルコ「よし、あれにする。「ムババーネ」」

ジャン「だからそれは何処だよ?!」

アルミン「スワジランドっていう、アフリカ南部の国の首都だよ」

ミカサ「スワジランドは聞いたことあるけど、さすがに首都は分からなかった」

エレン「もうそれでいいよ。「む」なんてあんまりないだろ」

ミカサ「では「ね」で続ければいいのね」

ミカサ「アメリカの州の名前でもいい?」

アルミン「あ、そっか。その手もあったか。うわー見落としてた」

マルコ「あるんだね」

ミカサ「うん。「ネバダ州」」

エレン「なんか聞いたことはあるぞ」

アルミン「アメリカの西の方の州だね。じゃあ「ネバダ」でいこうか」

エレン「じゃあオレは「だ」か「た」か……」

エレン「うーん。もう無理だ! 出ない! ギブ!」

ミカサ「ガーンΣ(゚д゚lll)」

ミカサ「エレン、ごめんなさい」

エレン「え? 何で謝るんだよ?」

ミカサ「だって、出しやすい地名をパスできなかった」

エレン「別に気遣う必要ないだろ? つか、それって手加減してたってことかよ? やめろよ、そういうのは」

ミカサ「だって……」

エレン「うーん。ミカサは本気出してなかったのか。じゃあこの三人だったらもっと本気出せるよな?」

アルミン「いやいや、僕らもそろそろやばいって」

マルコ「うん。少し前に出た分と重ならないようにするだけで精一杯だよ」

ミカサ「過去に出た分はだいたい分かるけど」

アルミン「え? 最初から言った内容覚えてるの?」

ミカサ「うん。復唱出来るけども」

アルミン「うわー……これはミカサが優勝じゃない?」

ミカサ「でも勝負はまだついてない。もう少し続けよう。アルミンから」

アルミン「分かった。「だ」か「た」だね」

アルミン「ダカール(セネガルの首都)」

マルコ「ルイジアナ州」

ミカサ「ナイロビ(ケニア共和国の首都)」

アルミン「ビクトリア州(オーストラリアの州)」

マルコ「アンカラ(トルコの首都)」

スピードが一気に早くなった。この三人でやるとだんだん地名が難しくなってくる。

でも覚えておかないと、もし被ったら失格になる。

ミカサ「ラオス(東南アジア)」

アルミン「ごめん。スワジランド」

マルコ「さっきのムババーネの国の名前がきたか」

マルコ「…ドイツ」

ミカサ「ツバル(オセアニア)」

アルミン「うわ、そこいくぅ? 渋いよミカサ」

バチカンの次に人口の少ないミニ国家である。

もしまた「つ」が来たらあとは日本名で攻めるしかない。

アルミン「…ルサカ(ザンビア共和国の首都)」

マルコ「カンボジア」

また「あ」だ。本当、あが語尾につくのが多い。

ちなみに今まで出た「あ」のつく地名は、

・アメリカ・アラスカ・アンタナナリボ・愛知・アテネ・アイルランド・アムステルダム・アンカラ

以上の8個である。

もう「あ」はお腹いっぱいなのだけども、出さないと負ける。

もういい。語尾に遠慮している場合ではないのでとにかく思いつくのをだそう。

ミカサ「アラブ首長国連邦」

アルミン「ウルグアイ」

マルコ「イタリア」

もう「あ」の呪いでもかかっているんだろうか。またか。

ミカサ「あ、秋田」

アルミン「あ、飽きたと秋田をかけたね、今」

ミカサ「うん。もう「あ」は勘弁して欲しい」

アルミン「日本名も混ぜていこうか。「種子島」」

マルコ「ま……マケドニア」

ミカサ「もう嫌だ。「あ」は聞き飽きた!」

マルコ「勝負だからね。ミカサ、頑張って」

ミカサ「ううう……青森」

アルミン「り……リマ(ペルーの首都)」

マルコ「マレーシア」

ミカサ「マルコ、あなたって意地悪なのね」

マルコ「僕だって「ま」が結構きてて困るんだけど」

ミカサ「うう……旭川(あさひかわ)」

アルミン「「わ」? わ……えっと、わ……」

アルミン「和歌山(わかやま)」

マルコ「僕は「ま」の呪いが来てるのか……マーシャル諸島(太平洋上に浮かぶ島国)」

ミカサ「やっと「あ」から脱出した! ウクライナ!」

アルミン「那覇(なは)」

マルコ「「は」でいいんだよね? は……ハイチ(中央アメリカの西インド諸島)」

ミカサ「「ち」? ち……中国(ちゅうごく)」

アルミン「釧路(くしろ)」

マルコ「ろ? ろ……ロシア」

ミカサ「そこはロシア連邦にしてほしい」

マルコ「分かった。じゃあロシア連邦で」

ミカサ「宇都宮(うつのみや)」

アルミン「山形(やまがた)」

マルコ「タイ」

ミカサ「インド」

アルミン「ドーハ。ドーハの悲劇で有名なドーハね」

マルコ「ハンガリー」

ミカサ「「い」? い、でいいのよね」

アルミン「うん」

ミカサ「イラク」

アルミン「久留米(くるめ)」

マルコ「め? メキシコ」

ミカサ「こ……コモロ(マダガスカルの近く)」

アルミン「ろ…ロサンゼルス」

マルコ「スロバキア」

ミカサ「あう。また「あ」がきた…」

私がまた「あ」に苦悩していると、その時、

エレン「あ、もう宿に着いたぞ」

ミカサ&アルミン&マルコ「「「え?!」」」

エレン「バス止まったな。お前らずーっとしりとりで白熱してたなあ」

ジャン「………」

ジャン「ちょっと質問していいか? お前らに」

ミカサ「何?」

ジャン「お前ら三人、なんでうちの高校にきたんだよ!?」

アルミン「えーそれは特待生だし」

マルコ「僕も特待生だし」

ミカサ「えっと、私は特待生ではないけど、その……集英には落ちたので」

ジャン「信じられない。特にミカサ。お前が一番おかしい。うちの高校に来るレベルじゃねえ」

ミカサ「うう……」

しまった。不審がられている。どうしよう。

ジャン「最初、入学式の代表挨拶でミカサがスピーチした時は首席とか言われても信じられなかったが……今ので納得した。何でそんなに頭がいいのに言葉の使い方は残念なんだ?」

ミカサ「そ、それは……その……」

マルコ「まあまあ。ジャン。ミカサはあがり症なだけだよ。きっと」

ジャン「そうかもしれんが、不思議でしょうがねえんだよ。悪い。ただの好奇心だけどさ。ちょっと、興味が出てきてしまって……悪気はないんだが」

ジャンはそう言って私をバスから降りるように促した。

全員、バスに降りてからもジャンは続けた。

ジャン「ちょっと見直したんだよ。オレ、ミカサ程、頭がいい訳じゃないし、もし今度、分からないところあったら勉強とか教えてくれないか?」

ミカサ「え?」

突然の申し出に驚いた。

周りに人がいる中で、こんな風に言われるとは思わなかった。

エレンの方を見ると微妙な顔をしている。

エレン「お前の頭じゃミカサから教えて貰っても、どうせ成績上がらんだろ」

ジャン「なんだと?」

エレン「オレとあんまり変わらんだろ? 今のしりとりだって、お前の方が先に脱落したしな」

ジャン「それはオレが先攻だったから不利だっただけだろうが! サシの勝負なら勝てるに決まってるだろうが!」

エレン「よーし、言ったな! じゃあテーマを変えて今度はサシで勝負してやろうじゃねえか!」

ジャン「よし、じゃあ勝ったらオレ、ミカサと一日勉強会してもいいよな?!」

エレン「ああ、いいんじゃねえの? その代わりオレも勝ったら教えて貰うけどな!」




はいいいいいい?!




何でこうなった。もう頭を抱えるしかなかった。

そして何故か私の存在が勝負の賭けの商品となり、二人は勝負することになった。

ただし今度はテーマを私が決めないといけないそうだ。

私が決め次第、二人は対決すると意気揚々としているが、さてどうしたもんか。

アルミン「あー公平になるようなテーマってあるかな?」

マルコ「難しいね。二人共似たような成績だって聞いたけど」

アルミンとマルコが相談にのってくれているが、さて。どうしようか。

お願い。神様。何かいい案を私に下さい。

そう天に願いながら私は両耳を覆ってしまうのだった。

成り行きですが、エレンとジャンが何故か勉強で対決します。
しりとりの時のように、高校生らしい何かで勝負させたいので、
高校生1年生の彼ら二人の勝負にふさわしい何かを安価します。
どんな勝負がいい? まだこの後の展開は白紙です。
決まり次第、続きを書きます。

アイデアありがとうございます!
いろいろまぜこぜにして勝負させますね。
しりとりは疲れたので今度は山手線(古今東西)でいきます。

バスを降りてから宿に荷物を移動して男女が大部屋に分かれて、荷物を確認した後、私は一応、しおりの日程表を再確認する事にした。



日程表

4月19日

11:00 宿到着

12:00 昼食

14:00 知能テスト開始

16:00 知能テスト終了

17:00 夕食

18:00 入浴

22:00 就寝


4月20日

6:00 起床

7:00 朝食

8:00 実力テスト開始(国数英)

11:00 実力テスト終了後、宿チェックアウト

12:00 昼食

13:00 自由時間開始

17:00 自由時間終了(バスで学校へ戻る)


ざっくりとした予定ではこんな感じになっている。

クリスタが言っていた授業というのはまあ、テストの事である。

知能テストは普段行う学力テストではなく、図を見て選択するIQテストに近いらしい。

自由時間までにはテーマを決めておいて欲しいとエレンとジャンに言われたのでそれまでに何とかしないといけない。

にしてもここはとても大きな宿だった。

和室の団体用の大部屋から見える景色は、とても綺麗な山々だ。

ここは私達が住むところより田舎だった。

空気が美味しい。自然の景色が素晴らしい。

サシャ「自由時間が楽しみです~♪ 馬も見れるんですよね?」

クリスタ「らしいよ。馬に乗せてもらえるところがあるって観光案内にあったよ」

女子の心はテストを飛び越えて自由時間に向かっている。

ユミル「…………」

ユミルだけはちょっとだけきつそうにしていたが。

ミカサ「大丈夫? ユミル。何なら布団を出して休んで……」

ユミル「いや、就寝時間でもねえのに布団は出さなくていい。ちょっとゴロ寝はしたいけど」

クリスタ「毛布だけ出そうか?」

ユミル「………ごめん」

ユミルは畳みの上にゴロ寝してその上に毛布を被せてちょっとだけ休憩する事にしたようだ。

まだ、だるいのだろう。治りかけで無理しているのは明らかだった。

そんなユミルに対して、ジャンの時と同じような反応をこそこそしている女子もいる。

彼女らはジャンのように口に出すことはないが、それでも微妙な顔をしていた。

まあ仕方ない。そういう反応は覚悟の上でユミルもここに来たのだろうし。

彼女の症状が悪化しない事を祈るしかない。

キース「荷物は置いたか? 班ごとに人数を確認した後、全員食堂へ移動するように」

さて。次は昼食だ。私はエレン達と合流して食堂に移動した。

そこは物凄い大きなホールだった。体育館と遜色ない面積の食堂なんて初めて見る。

ミカサ「広い……」

エレン「滅茶苦茶でけえ食堂だな」

アルミン「すごいねえ」

ジャン「席どこだよ」

マルコ「こっちだね。1組3班って書いてある」

丸テーブルの中央に1組3班という目印があった。

えっと、1クラス7班でそれが10組あるので、70テーブルある事になる。

さすがにそれだけの大人数の昼食となると迫力があった。

しかも所謂「バイキング形式」の昼食のようで、皆それぞれ、白くて丸い大きな皿に好きな食べ物をのせて食べている。

エレン「おお、好きなもん取って食っていいみたいだな。肉くおうっと」

ミカサ「肉ばかりではいけない……」

エレン「野菜もちゃんと食べるって! 全く、本当、世話焼きだな」

ミカサ「うっ……」

ついつい、口を出してしまうのは私の悪い癖だ。

エレン「あ、いや。別にいいけどさ。んじゃ、取るぞ」

という訳で私達も好きな物を皿に取って昼食を食べるのだった。

エレン「馬刺しがあった! 馬食べちゃうのか。うーん」

ジャン「…………(野菜取ってる)」

エレン「よし、食ったことないけど馬刺し食べようっと」

ジャン「…………(野菜山盛り)」

エレン「ジャン、お前さっきから野菜ばっかだな。馬刺しいかないのか?」

ジャン「馬食うのは可哀想だろ。なんか……」

エレン「そりゃそうだけど、折角あるんだから食べた方がいいだろ?」

エレン「あ、もしかしてお前、馬面だから気が引けるのか?」

ジャン「喧嘩売ってるのかてめえ……(ビキビキ)」

ミカサ「やめなさい。エレン。野菜を先に食べた方が太りにくいからそうしてるんでしょう?」

ジャン「(バレた)ああ、まあな」

ミカサ「ちゃんと健康管理をしている証拠。ジャンを見習ったほうがいい」

エレン「うっ………」

ジャン「ふん……ミカサの言う通りだな。肉ばっか食べたら頭悪くなりそうだしな」

エレン「わーったよ。オレも野菜からいけばいいんだろ! 全く!」

エレンは文句をいいながらキャベツやポテトサラダを山盛りにしていった。

私も同じように先に野菜を取って、その後に肉や魚を取っていった。

丸テーブルに各々席について食べながら、エレンに先程の勝負の件の事を聞かれた。

エレン「で? そろそろテーマは決まったか?」

ミカサ「うっ……まだ」

エレン「地理問題はもうやめてくれよ。他のやつがいい」

ジャン「おい、注文つけるなよ」

エレン「地理問題はさっきやったからだよ。歴史とかいいんじゃねえの?」

ジャン「人物名とかか? それでしりとり勝負するのか?」

アルミン「いや、しりとりはもうやめよう。また「あ」と「ま」の呪いのように、同じのが回ってくると精神的に辛そうだし」

マルコ「うん。僕、マケドニア、マレーシア、マーシャル諸島の連続は本当にきつかったよ」

ミカサ「私も、愛知、アテネ、アイルランド、アラブ首長国連邦、秋田、青森、旭川をよく出せたと自分でも思う」

語尾に「あ」のつく国名と地名が世界には多すぎると思った。

ジャン「いや、その自分で言ったのをまた復唱出来るお前らの記憶力の方がすげえよ」

エレン「本当だな。オレ、もう自分の言ったのなんてあんまり覚えてねえよ」

アルミン「あはは……まあ、だったらさ。この丸テーブルにちなんで「山手線」ルールに変えようよ」

ミカサ「山手線?」

アルミン「所謂「古今東西」だね。テーマを決めて、無作為に条件にあうものを言っていくんだ」

マルコ「ああ、そっちの方がいいかもしれないね」

アルミン「うん。それなら判定もやりやすいし、テーマも1本だけじゃなく、いくつかやれば公平でしょ?」

ミカサ「そうね。3本勝負で2本先取で、とか?」

アルミン「そうそう。引き分けになったら再挑戦で」

ミカサ「分かった。では昼食後、知能テストが終わってからテーマを考えてみる」

マルコ「今度はノートに記録しようよ。ちゃんと公平にジャッジ出来るように」

アルミン「そうだね。もし誤字があったら減点出来るね」

エレン「うっ……誤字か」

ジャン「まあ、証拠になるし、いいんじゃねえの?」

という訳で大まかな方針が決まりほっと一安心した。

そんな訳で知能テストもさくさく終わり、夕食までの自由時間、私はルーズリーフを広げてテーマを列挙してみた。

とりあえず今、思いついたのはこれくらいだ。


・植物の名前(野菜・果物含む)

・歴史上の人物(東洋・西洋問わず)

・理科系の用語(原子記号、道具の名前等)


この3本勝負なら、社会と理科と国語的要素も含んでバランスがいいだろう。

アルミンとマルコにも見せてチェックしてもらい「いいんじゃない?」とお墨付きを貰えたのでこれでいこうと思う。

私はその日の夕食後にこの3本勝負で行く事を告げて、勝負の開始は20日の自由時間を使ってやる事を二人に伝えた。

エレン「ん? ってことはちょっとだけ勉強する時間があるな」

ミカサ「どのみち、20日には実力テストもあるのだし、丁度いいと思うけど」

エレン「それもそうか。よし、勝負までにいろいろ調べて暗記してやるからな!」

エレンとジャンは実力テストよりも何故かお互いの勝負の方に熱が入ったようだ。

夕食後はいよいよ、温泉の時間である。

1組から5組までが先に入り、残りの時間は6組から10組が入浴する。

大浴場を使うのは久々だと思った。いつぶりか覚えてない。

素早く裸になってバスタオルで全身を隠してささっと移動する。

体を見られるのは嫌なのか、皆同じようにして移動している。

思春期だから仕方ない。女子同士でもあまり体を見られたくないのだ。

でも湯船に入る時はどうしても裸にならないといけない。

だから体を洗った後はまたささっと湯船に移動する。

私の先には、クリスタとサシャとアニの三人が入っていた。

クリスタ「あ、ミカサだ! おっぱい揉ませて♪」

ミカサ「?!」

ファッ?! いきなりのセクハラに度肝を抜かれた。

一応、前を腕で隠して防御していたら、アニがこっちを見た。

アニ「やめなよ。あんたさっきから胸、触り過ぎだよ」

クリスタ「ふふふ……おっぱいを吸収してあげるわ」

く、クリスタってこんな子だったのだろうか。イメージと全然違う。

サシャ「でもミカサも結構大きいですね。アニとあまり変わらない?」

アニ「胸なんて、あってもなくてもどうでもいいよ」

クリスタ「それはある人だから言える発言よ。つるぺたに謝って」

アニ「はいはい。でも今はつるぺたでも、いずれ大きくなるかもよ?」

クリスタ「努力はしているわ。1年後までにはCカップを目標にしてるけど」

クリスタは別につるぺたではないと思うけれど。

まあ、所謂普通の胸の大きさである。

アニ「いや……ミカサの場合は胸が大きいというより腰が細いのか。異様に」

ミカサ「え?」

アニ「身長の割には細いよ。なんで?」

今、湯船に入っているから厳密な腹筋は分からないはずだけども。

どうするべき? 見せたらきっと、エレンの時のような反応がくるに違いない。

サシャ「触ってもいいですか?」

ミカサ「NO!」

即座に拒否した。恥ずかしいので。

サシャ「ええ? 胸じゃないんですよ? 腰ですよ?」

ミカサ「尚更ダメ。無理無理無理……」

私は首を左右にガクガク振って拒否した。すると、

クリスタ「ダメと言われると触りたくなるのが人間よね」

サシャ「ですねえ」

ミカサ「うっ……」

サシャ「という訳でちょっとだけ……」

ミカサ「あう!」

今度は防御出来なかった。湯船の中では手の動きも少し鈍くなる。

サシャ「? 別に脂肪がついてないですけど」

アニ「脂肪がない?」

サシャ「はい。むしろ固い?」

アニ「へー」

ミカサ「も、もうやめて貰えるだろうか」

何だか涙目になっている自分がいる。ううう。恥ずかしい。

アニ「もしかして、腹筋ついてる?」

ミカサ「!」

バレてしまった。やっぱり。

ミカサ「ちょっとだけ……」

いや、本当はちょっとだけじゃないけども。

アニ「へー。なるほど。だから腰がきゅっとしてて、引き締まってるのか。私と同じだね」

ミカサ「え?」

アニ「見る? 私も結構、鍛えてるんだ」


ざばあ……


アニが立ち上がって自身の裸体を見せてくれた。

おおお。自分以外の引き締まった人の腹筋を眺めるのは初めてである。

アニ「ま、今は6つしか割れてないけどね。ちょっと最近、トレーニングさぼってたから。でもまた鍛えて8つに戻すよ」

サシャ「なるほど。アニは体を鍛えてるんですね」

アニ「実家が道場やっててね。小さい頃から親父に体を鍛えさせられた結果がこれだよ」

私と似たような体の人がいた。それだけでも嬉しい。

み、見せても大丈夫だろうか。

ミカサ「わ、私も実は……」


ざばあ……


アニ「!」

サシャ「!」

クリスタ「!」

見せてみた。反応が怖いけれど。

アニ「ま、負けた。8つ割れてる」

ミカサ「う、うん。実は私も体を鍛えてるの。自己流だけども」

私は過去に家族全員、暴漢に襲われた事がある。

あの時の恐怖に負けない為に、自身を強くする為に、体を鍛えたのだ。

………鍛えすぎてこうなってしまっているけども。

サシャ「よーし、私も裸体を見せちゃいますよ」


ざばあ…


サシャ「どうですか?!」

アニ「身長の割には細いね。羨ましい」

クリスタ「この流れだと私も?」

アニ「そうだね。ま、嫌ならいいけど」

クリスタ「別に嫌ではないよ。見せちゃうよ」


ざばあ……


アニ「ふん。ま、今後に期待じゃない?」

クリスタ「酷い!」

ミカサ「そう言えばユミルは?」

クリスタ「あ、さすがに入浴はやめとくって。もう咳は落ち着いたし大分楽になったって言ってたけど、皆に気遣わせたくないって言ってたよ」

アニ「ま、それもそうだね。もしぶり返したらやばいし」

ミカサ「治ってきているなら明日の自由時間は大丈夫だろうか」

クリスタ「うん。本人はいけるだろうって言ってた」

ミカサ「そう。それは良かった」

サシャ「あのですね。自由時間で思い出したんですが、紫色のソフトクリームが食べられるところがあるらしいんですよ」

アニ「紫芋のソフトクリームだろ? 知ってるよ」

サシャ「絶対、食べましょう! そこには食べ物のお土産もいっぱい売ってるそうなんですよ!」

クリスタ「そうだね。あ、でも班別の行動だからライナー達にも聞かないと」

アニ「こっちも一応、マルロ達にも聞かないと」

ミカサ「そう言えばヒッチは……見当たらないけど」

アニ「ああ、ヒッチ? 今頃男とイチャイチャしてんじゃないの?」

ええ? もう彼氏を作ったというのか。早い。

アニ「ヒッチは男作るの早いけど別れるのも早いんだよね。一ヶ月単位で男替わってるっぽいし」

ミカサ「一ヶ月…?」

なんて短い交際期間だろうか。

サシャ「それはまたサイクルが早いですね」

クリスタ「一ヶ月で相手の事なんて分かるのかしら?」

アニ「まあ、飽きるのが早いだけかもね。だから今頃多分、男とどっか行ってると思うよ」

ミカサ「そ、そうなのね」

クリスタ「アニは彼氏いないの?」

おっと、女子会っぽくなってきたようだ。

アニ「いないよ。いい男に出会えれば別だけど、いないし」

クリスタ「理想高そうに見えるね。どういうのが好き?」

アニ「とりあえず安定した収入を得られそうな男」

サシャ「そこですか! まあ、気持ち分かりますけど」

クリスタ「そうなんだ。まあ、私も同意するけど」

皆、そこは同意するらしい。女の本音はやはりそこなのだ。

アニ「あと付け加えるなら……あんまり現実離れした夢を持ってる人はちょっと」

クリスタ「ん? どういう事?」

アニ「ミュージシャンとかお笑い芸人とか、俳優はまだいいけど。博打性の高い職業を選んだり、自分の夢を追いかけて家族をないがしろにする男は無理かな」

サシャ「やけに具体的ですね。思う男の人でもいるんですか?」

アニ「………うちの親父がね。ちょっとアホだから」

アニは深いため息と共に愚痴を言い始めた。

アニ「格闘家、だったんだ。でも怪我をして引退して。道場開いたけど、人がなかなか来なくて。借金抱えながら経営して。一時期は相当な貧乏だった。今は何とか飯食べていけるけど、あの時は死ぬかと思ったよ」

と、遠い目をしてアニは自分の事を少しだけ話始めた。

アニ「競馬やギャンブルも好きでね。夢を持つのは男ロマンだとか何とか。貧乏なの分かってても、やめられなくてね。酷い父親だと思うけど。まあ父親だしね。縁は切れないし。でも、そういう目に遭ってきたから、自分のパートナーくらいはそういうのに無縁の男がいいかなって」

サシャ「なるほど~それならわかります!」

クリスタ「そうね。それなら仕方ないと思う」

皆、しんみりアニの話を聞いている。私もついつい聞き入ってしまった。

アニ「私の話はこれくらいでいいだろ。それよりそっちはどうなんだい?」

クリスタ「え?」

サシャ「へ?」

アニ「クリスタ、サシャ、ミカサ。あんたらもそういうの、ないとは言わせないよ」

話題が回ってきたようだ。クリスタが、ちょっと恥ずかしそうにしている。

クリスタ「わ、私は………まだ良く分からないんだよね」

アニ「分からない?」

クリスタ「うん。例えば芸能人で言うと誰? みたいな質問、あるでしょ? そういう時、咄嗟に選べなかったりするし」

ミカサ「分かる。そういうのは凄く選びにくい」

私と同じ感覚の子がいてくれて嬉しい。

クリスタ「うん。だって判断材料って顔とかプロフィールだけよね? それだけで選んでもいいのか……」

アニ「まあ、それが一番っていう人もいるしね」

クリスタ「それは分かるけども。でも、自分の中ではそこで選びたくない思いがあるのね」

サシャ「見た目で判断しない事はいい事だと思いますよ?」

ミカサ「同感」

クリスタ「ありがとう。かと言って他の判断材料があるのかと言われると、うーんってなっちゃうし、多分、まだ理想のようなものもないのかもしれないけど」

サシャ「あれですよ。好きになった人が理想ってやつですよ。きっと」

クリスタ「そうだといいな。サシャはどういう人が好き?」

サシャ「わ、私ですか? そりゃ一緒に居て楽しい人ですよ」

アニ「フィーリング派か」

サシャ「はい。一緒にいて飽きない人とかがいいですね。あと、相手が料理上手なら最高です(じゅるり)」

アニ「作って貰う気満々か」

サシャ「まあ、自分でも作りますけどね。コックさんと結婚出来たら、最高の人生だと思います」

最高の人生、か。大げさかもしれないが、サシャにとってはそうなのだろう。

クリスタ「ミカサは? どんな人がタイプなの?」

今度の質問はヒッチの時のように答えてはいけないと思った。

ちょっと、少し真剣に考えてみる。

ミカサ「うーん。いきなり手を出してくる人は、ちょっと……」

サシャ「ぶっ……それは誰だって嫌ですよ。ミカサ、出された事あるんですか?」

ミカサ「何度も、ある」

アニ「それは災難だったね。そんなふざけた男は金蹴りだよ」

クリスタ「それはそれでやり過ぎなような」

ミカサ「そこまではしないけれど、でも、あまり酷いのは手に負えない時もあって、気絶させるしかない場合もあった」

サシャ「ひえええ……激しいですね」

ミカサ「そのせいでますます強くならざる負えなかった。腹筋はその代償……」

中学時代、そういうのが多発して私は相手に怪我をさせてしまった事もある。

一応、正当防衛として認められたが、それが何度も続くとさすがに問題になり、私の方がまるで悪いような扱いを受ける事もあった。

そのせいで喧嘩になり、ますます私の印象が悪くなり、孤立を深めてしまったのだ。

さすがに中学時代の詳しい部分は伏せたが、とにかく私はそういう諸々の経緯があってあまり恋愛にいい印象がない。

なので出来る事ならのんびりと、まずは友達から関係を築いてくれるような気の長い人がいいと思った。

アニ「なるほどね。納得したよ」

アニが私に頷いてくれた。

アニ「ミカサにはせっかちな男はダメって事だね」

ミカサ「まあ、そうなる」

サシャ「まずは友達からって事ですねーいいと思いますよ」

クリスタ「だったら今、候補は結構いるんじゃない?」

ミカサ「え?」

その時、話題がちょっとカーブして意外な質問をされた。

クリスタ「だってミカサの班、他は男子でしょ? 皆、友達なんでしょ」

ミカサ「友達……」

エレンは家族だが、まあそう言われれば十分、そうなのかもしれない。

私の方は友達と思っているが、向こうはどう思っているだろうか?

クリスタ「エレン、アルミン、ジャン、マルコ。四人の中で誰が一番、理想的かな?」

アニ「気の短い奴は外していけば、見つかるかもね」

ミカサ「え……その中から選ぶの?」

クリスタ「今! あえて言うなら、誰? 誰?」

まさかそんな展開になるとは思わなかった。

ミカサ「えっと……えっと……」

ドキドキする。なんて答えよう。

ミカサ「あ、あえて言うなら……」

(*ミカサの次の台詞を考えて下さい。安価すぐ↓。ずれたら一個↓)

ここは5択でもOK。
エレン、アルミン、ジャン、マルコ、理想はいない。
のうち、どれか選んで答えてもOKです。

>>15
今更訂正その2

エレン「そうか……日本もまだまだ発展してねえ学校もあるのか」


読み直したら物凄い間違いしてたorz
東京じゃなくて、「日本」に変更します。
エレンの住んでいる場所は、まだちょっとぼかして書き進めたいので。

前回書いた現パロが東京を舞台にしてたから、
無意識に書き間違えたのだと思います。orz

今回の舞台のモデルは諫山先生の縁の地の周辺になります。
研修旅行先の描写で大体バレてるとは思いますが、
本当、凡ミスも凡ミスでした。ごめんなさい。

その時、浮かんだ顔に私自身、驚いた。

そして自身で首を傾げてしまった。

ミカサ「あれ?」

アニ「どうしたの?」

ミカサ「気の短い人は嫌な筈なのに、思い浮かんだ顔は気の短い人だった」

クリスタ「え? 何で?」

ミカサ「分からない。すぐ人をぶん殴るような短気な人なのに、何でその人の顔を思い浮かべたんだろう?」

サシャ「へ~ってことは、アルミンとマルコは除外ですね。二人は人を殴るようなタイプじゃないですし」

クリスタ「エレンとジャンの二択だね。どっち? どっち?」

アニ「……………あれ? ミカサ。顔が赤いけど」

ミカサ「え?」

アニ「なんていうか、全身赤くないかい?」

ミカサ「え? え?」

そう言われれば少し頭がぼーっとしてきた。

アニ「ちょっと長湯し過ぎたのかな。私は平気だけど、普段、お風呂ってどれくらい湯船に入る?」

ミカサ「5分くらい?」

クリスタ「ええええ?! だったら、もうそれ以上湯船に入ってるよ。こりゃまずい!」

サシャ「長湯に慣れてない人だったんですね! 立てますか?!」

ミカサ「あれ? あれ?」

そう言われれば急に頭がふわふわしてきた。

うまく体に力が入らないような…。

サシャ「あっちゃーやっぱりのぼせてたようですね。こりゃ一回、冷水かけてあげた方がいいかもですね」

クリスタ「え?! 水かけるの? こういう時は放置して風を送るんじゃないのかな?」

アニ「うーん、とりあえず、脱衣所まで運んで水気取って、それから水分補給じゃない?」

と、三者三様、私を介抱しようとしてくれている。

も、申し訳ない。

サシャ「えっと、そうですね! アニの方法が一番いい気がします! とりあえずミカサを支えて運びましょう!」

という訳で情けないことに三人の力を借りて脱衣所まで運ばれる事になった。

服を着て水を自販機で買ってきて貰い、水分補給をしたらすこし頭がすっきりしてきた。

ミカサ「ごめんなさい。まさかのぼせているとは自覚がなかった」

多分、久々のおしゃべりで私自身もテンションが知らず知らず上がっていたのだろう。

人の話を聞いているうちに自分の感覚を放置していたようだ。

アニ「いいよ。話し込んじゃったせいだし。もう大丈夫そうね」

ミカサ「うん。水を飲んだら落ち着いた」

クリスタ「良かった! で、さっきの話の続きだけど……どっち?」

ミカサ「言わないといけないのだろうか?」

着替え終わった三人に見つめられている。さてどうしよう?

サシャ「二択ですからねーうーん。まあ、でも、ミカサが嫌なら言わなくてもいいですよ」

クリスタ「そうだね。あくまで理想のタイプの話だし。あくまで現時点での話だし」

アニ「そうだね。それに理想が変わる場合もあるかもしれないし」

クリスタ「ふふふ……今後の展開に注目かな」

と、意味深に笑われて、その時は一応、解放されたのだった。

そんな感じで温泉の入浴中に多少のアクシデントはあったものの、他は概ね平和に過ごせた。

クラスの女子はアニとサシャとクリスタとユミルと少しずつ仲良くなれている気がする。

他の女子とはまだそんなに多くは話していないけれど、中学時代のような冷たい空気はそこにはなかった。

大きな和室の部屋では皆、布団を敷いて各々、就寝までは女子会話である。

私は明日の自由時間の為に準備をしていた。

確か、まだ使ってない予備の白紙の単語帳が合った筈。あ、あった。

丁度鞄の中に2個あった。明日はこれを使おう。

私は白紙の単語帳の表紙に「エレン」と「ジャン」の名前を書いておいた。

クリスタ「? ミカサ、何してるの?」

ミカサ「明日の準備をしている」

クリスタ「ええ? まさか明日の実力テストの勉強を今からするの?! 参ったなあ。さすが首席だね!」

ミカサ「ええっと……」

実は違うのだが、説明するといろいろややこしい気もする。

ユミル「へえ。単語帳を持ち歩いてるのか。どんなの? 見せて欲しい」

少し元気になったユミルが覗きに来た。良かった。今朝よりは大分表情が明るい。

ミカサ「こんな感じ。暇があれば単語帳をパラパラ見ている」

ユミル「手作り感満載だな。すごい。世界の国の名前と首都がセットで書いてある」

ミカサ「こっちは歴史上の人物等を書いている。ちょっとした時間に少しずつ書き写して作っている」

ユミル「へーこういう勉強方法もあるのか。面白いな」

ミカサ「実際、手を動かしながら覚える方法が私には合っているみたいなので、コツコツとやっている」

ユミル「私には真似出来そうにないな。こんな地味な亀のような努力は無理だ」

サシャ「私も一夜漬けタイプなので毎日勉強は無理ですね~」

と、何故かサシャまで覗きにきた。

クリスタ「単語帳か…私も手で書いて覚える方だけど、その手が使ったことなかったな」

と、クリスタまでもが興味を示してくれた。嬉しい。

ミーナ「なになに? 今頃勉強してるの?」

と、私の席の前の女子、ミーナまでもこっちにやってきた。

ミカサ「いえ、私の勉強法を皆に教えていただけ」

ミーナ「へー? どんなの? あ、可愛い!」

ハンナ「本当、これ全部手書き?」

ミカサ「うん。持ち歩くのにも便利なので」

ミーナ「いいねこれ! ちょっと問題出してもいい?」

と、ミーナが単語帳を使って皆と一緒に勉強をし始めてしまった。

こういう夜は、勉強ではなくて、いろいろ他の事をお喋りするのが普通だと思うが、私のせいで話の流れが真面目になってしまった。

それがちょっとだけ申し訳なかった。

ミーナ「………すごいねえ! なるほど。これは何か覚えやすい気がする!」

ハンナ「明日のテストに出るといいね」

ミーナ「うん。そうだね。ミカサ、ありがとう!」

ミカサ「いえいえ」

単語帳を返却して貰って、鞄に戻した。

そろそろ就寝時間だ。明日も普通に早いのでもう寝なければ。

キース先生の気配がした。そろそろ見回りに来る気がする。

パタパタパタ……

廊下から聞こえてくる足音。やっぱりそうだ。

案の定、キース先生が女子の部屋に顔を出した。

キース「就寝時間10分前だ。そろそろ準備して寝るように」

女子一同「「「はーい」」」

キース「くれぐれも就寝時間後には外に出歩くなよ。見つけたら説教だからな」

ギロッと険しい顔をますます険しくしてキース先生は帰っていった。

クリスタ「じゃあ電気消しておきます。皆、布団に入ってね」

わいわいとした気配も電気を消すと少し静かになった。

布団の位置は適当に決めた。私は背が高い方なので端っこにさせて貰えた。

何故なら、途中で起きてトイレに行く人の道の邪魔になるからである。

私の隣にはアニがいた。こっちを見ている。目が、合った。

アニ「…………ねえ、ミカサ」

ミカサ「ん?」

アニ「さっき、のぼせたのって、長湯のせいだけじゃないんでしょ」

ミカサ「え?」

アニ「…………思い浮かんだ奴って、もしかして」

ミカサ「……………」

アニ「……………まあいいや。ごめん。寝る」

と、言って反対を向いてしまった。

アニには気づかれたのだろうか。

まあ、アニは察しのいい方だから感づかれたのだろう。

自分でも驚いている。矛盾点を抱えているのに、何故……。

あの時、エレンの顔が思い浮かんだのだろうと。

私自身、首を傾げながら、瞼を閉じたのだった。

(*微グロ注意)



父が、道路に倒れていた。

赤い、赤い、血を零しながら。


『ミカサ! 逃げなさい! 早く!』

『んふぉsdfんfんsd;f?! (うるせえ! さっさとこっちに来い! 抵抗するな!)』


耳慣れない異国の言葉を叫ぶ男達が私の母に切りつけてくる。

血が、また、溢れた。

周りには、助けてくれる人は、誰もいない。


『いやああああ?!』


出血が、灰色の道を汚している。

点々、と汚している。


『さんdんsだfなf?! (しまった! どうする?! 殺しちまったか?!)』

『fなおdんふぁfn! (せめてこいつだけでも本国に持ち帰ろう!)』


そいつらは、私を追いかけてきた。

私は、逃げた。坂道を転がるように。

誰も助けてくれない。

叫び声すらあげられなかった。



『あれに乗れ!』


彼は言った。

奴らが乗っていた、車を指差して。


『なんで? 出来ない』


車に乗ってどうしようと言うのか。


『奴らが戻ってくる前に。早く!』


私は怖かった。彼が何をしようとしているのか、分からない。

恐怖心が、足を竦ませたのだ。


『奴ら、車の窓を開けたままだ。内鍵なら、これ使えば手が届く!」


少年は何やら長い棒のような物を持っていた。

そして窓の内側から鍵を開けて本当に彼は車に乗り込んでしまった。



『助手席に乗れ!』


私は、怖かった。でも。

頷いた。何が起きるのか分からなかったけど。

彼は短い足を精一杯伸ばして、アクセルを踏んだ。

そして、奴らの姿を見つけてそこに向かって車を移動させたのだ。

つまり、どうなったかと言うと…。



キキキキキキ……!



彼らは車に跳ねられて即死したのだ。

その瞬間を、今もはっきり思い出せる。

赤い。赤い。赤い。あの赤さを超える赤色を私は知らない。

悲鳴をあげられなかった。あげる力など残ってなかった。

彼はドアをあけて車から降りた。


『やったか…?』


彼は確認していた。しかしよく見ると、死体は2体。

一人足りない。

道影からもう一人、出てきた。

彼もまた異国の言葉を発しながら、少年に掴みかかった。



『のあdhそあhふぉあ!? (まさかてめえがやったのか?! このクソガキ!)』


少年は首を絞められていた。

雪の降る、寒い冬の事だ。

外には人気がない。誰もここにいない。

あるのは、白い世界を包む静寂と、エンジン音だけ。


『……!』

『なふぉんふぉあ?! (ひき殺したのか?! てめえが!!)』


その光景を見つめている自分がいる。

助けなきゃと思うのに体が動かない。


『戦え!』

『?!』

『おまえが、代わりに、こいつを……殺せ! オレごと、でも、いい!』

(出来ない……)

『今、それがある。だから…』


それ、というのは、私が今乗っている車の事だ。

手足はギリギリだ。伸ばせば届く程度だけども。


『戦わなければ、死ぬだけ……』


少年の目がこちらを見ていた。

奴がこっちに気づくまでにやらないと、今度は私が殺される。




嫌だ。

死にたくない。

父も、母も、殺されて、私も殺されるなんて。


『戦わなければ……かて、ない……!』


その瞬間、私の中の頭の中に、先程の彼が車を動かしたイメージが蘇った。

その瞬間、私は出来るようになったのだ。

見たものをもう一度、頭の中で完全に記憶を再現する、という事を。

それが出来るようになった瞬間、何でも出来ると思った。



キキキキキ………!



彼ごと、ひき殺すかもしれないと思った。

それでも、私はやった。アクセルを踏んだのだ。

目の前に広がる光景は、幸いにも、あの男だけの死体だった。

奴は車が襲ってくる瞬間、少年を手放してしまったのだろう。

少年は軽く体を打ったようだけども、気絶はしていなかった。

私は車から降りて彼に駆け寄った。


『………まだ、間に合うかもしれない』

『え?』

『戻ろう。近くにいるんだろ』



彼は私の手を引いて私の父と母親の死体の場所へ向かってくれた。

彼は体を触って何かを確認すると自身のマフラーを脱いで母の体に止血を始めた。


『今すぐ治療すれば、お母さんの方は助かるかもしれない』

『え……?』

『親父に連絡する。あと救急車も。緊急手術だ。運が良ければ助かるかもしれない』

『ほ、本当に?』

『分かんねえけど。一応、マフラーで出来る限りの止血はしといた』


今頃になって人の気配がし始めた。

悲鳴が波のように広がっていく。

雪はまだ、降り続いている。寒い。こんなに寒い日にどうしてこんな事が。


『手、震えてるぞ』

『え?』

『手袋、貸しといてやる』


彼から貰った。手袋。


『じゃあな。誰に何を聞かれても「何が起きたのかわかりません」って言って貫けよ』


そして彼は私の目の前から消えた。

名前も知らず、教えても貰えないまま、彼とは分かれた。

その数分後、ようやく警察の人が来た。

大人にいろいろ事情を聞かれたけれど、その後の記憶は曖昧だ。



覚えているのは、あの白い雪の中の、赤色。

あんなに残酷で美しい赤色を、私は知らない………。







久々に夢を見た。あの時の夢だ。

最近はあまり見る事もなくなていたのに、どうしてだろう?

起きてみると目元に涙の跡があった。これも毎度の事だ。

あの時の少年がいなければ、私はこうして今、生きてはいない。

あの時の少年の顔はもう思い出せないけれど、あの時のマフラーと手袋は今も大事に保管して家に置いてある。

マフラーの方は血に染まってしまって、まともに使えないけれど、それでも出来るだけ血抜きをして保管してある。

せめて名前だけでも聞いておけば良かったと、今でも後悔している。

体を起こして時間を確認すると朝の5時過ぎだった。私が一番最初に起きたのだろうか。

人の気配はまだ、すやすやと穏やかな物だったが、隣のアニの姿だけ見当たらない。

アニ「あ、おはよう。ミカサは二番目だね」

ミカサ「おはよう。最初に起きたの?」

アニ「朝の5時起き。習慣なんだ。道場の朝も早いからね」

なるほど。そういう事なら体内時計も狂わない筈だ。

ミカサ「顔を洗ってくる…」

アニ「ん」

アニと入れ替わりに洗面所に向かう。

顔をゆっくり洗って、深呼吸をする。

あの時の夢を見た朝は、あまり体の調子が良くない。

心臓はドクドクして胸は苦しくなるし、何より赤色を見るのが辛くなる。

例えば生理と被った日等は最悪だ。もう吐き気すらしてくる。

こんな日は何もしないのが一番いいのだけども。

こんな日に限ってテストがある。この世界は残酷だ。

まあそれでも、今回のテストは実力テストであって、定期テストよりは重要度は低い。

多少点数が落ちたところで問題はないだろう。

身支度を整えて着替えて、柔軟体操をしたりして、時間を潰したら、朝ご飯だ。

朝食の30分前くらいにエレン達と合流して食堂に向かう途中で、エレンにじーっと見られた。

ミカサ「何?」

エレン「いや、今日なんか調子悪いのかなって思って」

ミカサ「え?」

エレン「目、ちょっと赤い」

ミカサ「……洗顔の時に泡が目に入ったのかしら?」

まあ、嘘である。心当たりはあるけれど。

それをエレンにいうのも面倒だったので誤魔化したのだ。

ジャン「ああ、そう言う事もあるよな。たまには」

ジャンがそう言ってくれた。するとエレンは「お前には聞いてねえし」と口を尖らせた。

どうしてエレンとジャンはこう、すぐぶつかり合うのだろうか。

ミカサ「エレン、そうつんけんしないで」

私が諌めてもエレンの機嫌は直らなかった。

エレン「勝手に会話に加わろうとするからだ」

ジャン「何でてめえの許可がいるんだよ、こら」

エレン「オレがミカサに話しかけているからだよ」

ジャン「答えになってねえだろ、それ!」

やれやれ。また不毛な会話が始まった。

ミカサ「エレン、ジャンは別に悪気はない。ただ、私に同意しただけ」

エレン「…………………」

エレンはじーっともう一回、私を見てきた。

な、なんだろう。急に真剣な目で見られるとちょっとドキドキする。

エレン「オレも見くびられたもんだな」

ミカサ「え?」

エレン「何でもねえ。あとそのピンク色のTシャツ、あんま似合ってねえぞ」

ミカサ「?!」

急に何なのだろう。意味が分からない。

ジャン「エレン! 女の子に向かって失礼な事言ってんじゃねえぞ!」

エレン「オレは思った事を言っただけだ。赤色とかのがマシだ」

ミカサ「うっ………」

その時、私はちょっと夢の事を思い出して気分が悪くなってしまった。

今日だけは「赤色」という言葉すら聞きたくなかったのに。

さっきエレンが「目が赤い」と言った時ですら、ちょっと反応した自分がいる。

重症なのは分かっているが、あの日の夢を見た時だけは、どうしてもこうなってしまう。

普段は、普通で居られるのだけども。忘れてさえいれば。

ジャン「おいおい、大丈夫か?」

ミカサ「大丈夫。多分、昨日、食べ過ぎただけ」

アルミン「胃薬なら持ってるよ。僕ので良ければ……」

ミカサ「……後で貰えるなら頂きたい」

こういう時は仕方がない。甘えることにしよう。

エレン「……………」

エレンは何も言わなかった。

これ以上追求されずに済んだから良かったけれども、その後のテストもあまり調子は良くなかった。

まあそれでも一応、解答欄は全部埋めたし、何とか及第点は取れるだろう。

そして宿を出る前に制服に着替え直してチェックアウトとなった。

さあ、いよいよエレンとジャンの勝負である。

審判は私だ。準備していた白紙の単語帳をバスの中で二人に渡す。

ジャン「お? これに回答を書けばいいんだな?」

ミカサ「うん。回答を書いてお互いに交互に表示していって、出せなくなったら負けで」

アルミン「これなら被ってないかどうかもチェックしやすいし、いいね」

エレン「なるほどな。考えたな」

ミカサ「お昼ご飯を食べ終えたら、自由時間なので、何処かで休んで早速やりましょう」

バスは昼食用の和風のレストランに到着して、今度は皆で焼肉だった。

エレン「おお……こんな感じの和風のお店で焼肉か。珍しいな」

アルミン「焼肉屋のチェーン店なら経験あるけど、和風レストランと焼肉って変な感じだね」

ここは和風の畳みの座敷で焼肉だったのだ。

まあ、そういう形のお店も中にはあるだろうけど、洋風から一転して和風のお店でご飯を食べる事になるとは思わなかった。

ジャン「そこの肉、まだ焼けてねえぞ。食うな! エレン!」

エレン「オレはレア気味の方が好きなんだよ!」

ジャン「つかその肉、オレが置いた奴! 人の勝手に食うなよ!」

エレン「そんなのいちいち覚えてられるか! 食えそうなのから行くだろ普通!」

焼肉奉行との喧嘩である。ああ、エレンの自由な気質がここでも出てる。

アルミンは「はい、エレン」と肉をエレンに渡している。

アルミン、それはまるで女房役の仕事…。

エレン「サンキュー」

エレンもエレンで気にしてないし。ああ、甘やかされているようね。

その光景にジャンは少しげんなりしているようだ。

ジャン「お前らそれ、なに? ちょっと気持ち悪いんだが」

エレン「は?」

ジャン「アルミンもアルミンだ。エレンを甘やかしすぎだろ」

アルミン「へ?」

二人はきょとんとしている。ツッコミを入れられて初めて気づいたようだ。

ミカサ「アルミンのしている事はまるで女房役のようって言いたいのだと思う」

マルコ「ああ、まさにそれだね。アルミン、昔からそんな感じなのかい?」

アルミン「え? か、考えた事もなかった。エレンに食物あげるの、昔からだし」

エレン「アルミンは小食だからさ。給食もいつも半分しか食べられなくて、残りは全部オレが食ってた」

アルミン「うん。だからエレンに食べ物あげる癖がついちゃってたのかも」

なるほど。アニとエレンと三人でご飯を食べた時のエレンの行動の謎はそれだったのか。

ジャン「うわあ……お前らホモ臭くて気持ち悪いぞ。自覚ないんだったら尚更悪い」

エレン「はあ? 何言ってるんだ。オレ、ホモじゃねえよ」

アルミン「僕もホモじゃないよ。失礼な」

ジャン「いや、見てて気持ち悪いんでやめてくれ。女子が男子の分の肉を焼いてるのは見てても別に何とも思わんが」

ミカサ「それは私に肉を焼けと言ってるのかしら?」

ジャン「い、いや……あくまで例えばの話だってば」

ジャンはちょっと困っている。まあ、私も冗談のつもりで言ったのだけども。

エレンはそう受け取らなかったようで、

エレン「じゃあミカサに焼いてもらえばいいか。頼む」

ミカサ「え?」

エレン「さーっとでいいから。さーっと焼いてくれ」

ジャン「アホか! オレはあくまで例え話をしただけだってのに!」

エレン「え? じゃあどうすればいいんだ?」

ジャン「自分で自分の分を焼けって言ってるんだよ!」

エレン「はー? それじゃ焼く面積を等分して焼くのか? 効率悪いだろ?!」

ああ、意見が真っ二つに割れた。

エレン「だいたい、面積が丸いのにどうやって等分するんだよ! そんなやり方より、ざーっと焼いてぱぱっと食べたほうがいいだろ?」

ジャン「いや、だから焼き加減の好みがバラバラ何だから仕方ねえだろ。オレはちゃんと中まで焼けてる方が好きなんだ! ちょっと焼きすぎなくらいでもいい!」

エレン「肉が硬くなる寸前で食うって、お前の舌は馬鹿舌か? 肉の一番うめえ食い方で一回食ってみろよ」

ジャン「オレはレアが嫌いでウェルダン派になったつーの! てめえの食い方は邪道だよ!」

エレン「肉業界の人に謝れ! お前は今、肉を愛する全ての奴らを敵にまわした!!」

ジャン「上等だ! やんのかこら!」

ミカサ「ええっと、二人が喧嘩している間に肉を全て焼いてしまいましょう。ミディアムくらいで」

アルミン「賛成」

マルコ「異議なし」

ジャン「……………」

エレン「……………」

二人が黙り込んだので、私の焼き方が基準になったようだ。

そんな訳で昼食も無事(?)に食べ終えて各班でしばし自由時間となった。

私達は他の班のようにすぐに移動はせず、近くの公園の椅子に座ってエレンとジャンの対決を見守る事にした。

ミカサ「じゃあ、先攻後攻を決めましょう。じゃんけんでいい?」

エレン「おう」

ジャン「さいしょはぐー」

エレン「じゃんけんポン! (グー)」

ジャン(チョキ)

エレン「オレが勝ったから、後攻でいくぜ」

ジャン「分かった。オレが先攻だな」

ミカサ「ではジャンが先攻で。山手線ゲームスタート! 最初のお題は…植物の名前(野菜・果物含む)です! あ、ただし漢字で書いて下さい」

ジャン「はあ?! 漢字?!」

ミカサ「ごめんなさい。先に言うのを忘れてた」

アルミン「ククク……」

実はこれ、アルミンに言われてわざと二人にそう言わなかったのだ。

これくらい難易度をあげないと面白くないよって、言われたのでそう思い直したのだ。

ジャン「くそー……漢字で書くのか。自信ねえけどやるしかねえか」

ジャン「(カキカキ)……楓(かえで)」

一枚目は割と簡単な植物からきた。さて、次はエレンだ。

エレン「(カキカキ)……苺(いちご)」

ジャン「(カキカキ)……南瓜(かぼちゃ)」

エレン「(カキカキ)……西瓜(すいか)」

ジャン「(カキカキ)……梨(なし)」

エレン「(カキカキ)……人参(にんじん)」

ジャン「(カキカキ)……桃(もも)」

エレン「(カキカキ)……蜜柑(みかん)」

エレンがちょっとだけ難しい漢字を書いた。

ジャン「くそ……まあ、みかんは食べるから見たことはあるよな」

ジャン「(カキカキ)……里芋(さといも)」

エレン「(カキカキ)……唐芋(からいも)」

ジャン「(カキカキ)……柚(ゆず)」

エレン「(カキカキ)……白菜(はくさい)」

アルミン「食べ物多いね」

マルコ「まあ、まだ序盤だから」

出せる物は先に出しておくのだろう。後半が辛いと思うが。

ジャン「(カキカキ)……大根(だいこん)」

エレン「(カキカキ)……茄子(なす)」

ジャン「(カキカキ)……小松菜(こまつな)」

エレン「(カキカキ)……桜(さくら)」

ジャン「(カキカキ)……梅(うめ)」

エレン「(カキカキ)……甘夏(あまなつ)」

ジャン「(カキカキ)……栗(くり)」

エレン「(カキカキ)……玉葱(たまねぎ)」



アルミン「おっと、エレン二回目のちょっと難しい漢字きたね」

マルコ「意外と漢字に強いのかな?」

エレン「親父が再婚するまでは、オレがスーパーで買い物したりしてたから、見たことある奴ならちょっと自信ある」

ジャン「うぐ……」

ジャン「(カキカキ)……小葱(こねぎ)」

エレン「おい、それはちょっとずるくねえか?」

ジャン「別にずるくねえだろ? そういう食べ物あるだろ」

マルコ「ジャンはなかなか賢いなあ」

アルミン「だね。ここはまあ、エレンのミスかな」

エレン「ちぇっ……仕方ねえな」

エレン「(カキカキ)……貝割れ大根(かいわれだいこん)」

ジャン「オレの大根からの派生かよ」

エレン「人の玉葱取った奴に言われたくねえよ」

ジャン「ちっ…(カキカキ)……米(こめ)」

エレン「あ、そっか。それ忘れてたわ」

エレン「じゃあ…(カキカキ)……小麦(こむぎ)」

ジャン「(カキカキ)……玄米(げんまい)」

エレン「(カキカキ)……小豆(あずき)」

ジャン「(カキカキ)……大豆(だいず)」

エレン「(カキカキ)……胡瓜(きゅうり)」


アルミン「おおすごい。胡瓜はなかなか出てこないよ」

マルコ「ちょっと迷ったけど書いたね」

エレン「うろ覚えだよ。そろそろやばい」

ジャン「オレもちょっとやばくなってきた」

ミカサ「食べ物限定ではないのだけども」

ジャン「あ、そうだな。よし、ちょっと方向転換するぞ」

ジャン「(カキカキ)……紅葉(もみじ)」

エレン「(カキカキ)……銀杏(いちょう)」

ジャン「(カキカキ)……椿(つばき)」

エレン「(カキカキ)……松(まつ)」

ジャン「(カキカキ)……朝顔(あさがお)」

エレン「(カキカキ)……葵(あおい)」

ジャン「(カキカキ)……梓(あずさ)」

エレン「(カキカキ)……百合(ゆり)」

ジャン「(カキカキ)……蘭(らん)」

エレン「(カキカキ)……杏(あんず)」

ジャン「(カキカキ)……榎(えのき)」

エレン「(カキカキ)……菊(きく)」

ジャン「(カキカキ)……明日葉(あしたば)」


アルミン「あ、明日葉茶ってあるよね。飲んだ事あるの?」

ジャン「前にCMかなんかで通販のやつを見たことがあるだけだ」

アルミン「すごいね。そこから記憶を引っ張り出したか」

ジャン「そろそろやばい。エレン、もうギブアップしろよ」

エレン「嫌だね。もうちょいいける」

エレン「(カキカキ)……胡麻(ごま)」



アルミン「おっと、エレンまたもや結構難しいのきたね」

マルコ「よく覚えてたね」

エレン「胡瓜を思い出したら一緒に出てきた」

アルミン「なるほど。連想で思い出す場合もあるんだね」



ジャン「(カキカキ)……山葵(わさび)」



アルミン「ジャンも負けじといいの書いたね!」

ジャン「うろ覚えだ。確かさっき葵の字書いただろ。それで思い出した」

アルミン「エレン、敵を支援しちゃってるねー頑張れ」

エレン「くそー!」

エレン「(カキカキ)……柿(かき)」

ジャン「(カキカキ)……落花生(らっかせい)」

エレン「(カキカキ)……牡丹(ぼたん)」

ジャン「(カキカキ)……柊(ひいらぎ)」

エレン「(カキカキ)……三葉(みつば)」

ジャン「(カキカキ)……………………」


アルミン「おっと、ジャンの手が止まっている?」

マルコ「あんまり時間かかると失格だよ」

ジャン「分かってるよ。ちょっと間違えただけだ。書き直す」


ジャン「(カキカキ)……春菊(しゅんぎく)」

エレン「(カキカキ)……生姜(しょうが)」

ジャン「(カキカキ)……枝豆(えだまめ)」

エレン「(カキカキ)……山芋(やまいも)」

ジャン「…………」


アルミン「おっと、ジャンの手が完全に止まったー?」

マルコ「あと30秒以内だよ。持ち時間は1ターン1分以内だからね」

ジャン「……………ダメだ。もう出ない」

アルミン「ギブアップかい?」

ジャン「くそー! もうさすがにネタ切れだよ!」


ミカサ「一本目、エレンの勝利!」

エレン「やったー!!!」

皆さんはいくつ書けそうですか?
今回はここまでです。続きはまた今度です。おやすみなさい。

ジャン「くそう。エレン、意外と漢字に強かったんだな」

エレン「いや、お前もなかなかだったぜ」

ジャン「オレは漫画のキャラで知った奴とかしかまともに出してねえよ」

エレン「ああ、柊とか蘭とかか」

ジャン「あと、柚もだ。柚木っていうヒロイン、いるだろ」

エレン「ああ、マガジンにいるな。髪の長いヒロインな。なるほど」

アルミン「覚え方でその人となりが分かるね」

マルコ「だね…」

ミカサ「では次の勝負にいってもいいだろうか?」

エレン「いいぜ」

ミカサ「次は先攻後攻を逆にしましょう。どうも後攻の方が有利に思える」

アルミン「そうだね。じゃあ次はエレンが先攻で」

エレン「おし、了解」

続いてのお題は『歴史上の人物(東洋・西洋問わず)』だ。

ミカサ「当然、こちらも漢字で書く場合は漢字で書いて貰う」

エレン「うぐ…どっかのクイズ番組のように平仮名記入は無しか」

ミカサ「どのみち、テストでは平仮名だと△(三角)扱いになるので漢字で覚えたほうがいいと思う」

エレン「分かったよ。じゃあいくぞ」

エレン「(カキカキ)……徳川家康」

ジャン「(カキカキ)……徳川家光」

エレン「(カキカキ)……徳川綱吉」

ジャン「(カキカキ)……徳川吉宗」

アルミン「徳川シリーズからきたね」

マルコ「全員、いくかな?」

エレン「(カキカキ)……徳川秀忠」

ジャン「(カキカキ)……徳川慶喜」

エレン「(カキカキ)……豊臣秀吉」


アルミン「あれ? もう徳川シリーズ終わり?」

マルコ「全員出てないのに…」

エレン「全員覚えてる訳ねえだろ」

アルミン「そこは全員、覚えようよ」

マルコ「まあマイナーな将軍もいるけどね」


ジャン「(カキカキ)……千利休」

エレン「(カキカキ)……織田信長」

ジャン「(カキカキ)……明智光秀」

エレン「(カキカキ)……石田三成」

ジャン「(カキカキ)……足利義満」

エレン「(カキカキ)……足利尊氏」

ジャン「別に日本人だけじゃなくてもいいよな?」

ミカサ「東洋、西洋問わずなので」

ジャン「じゃあちょっと変化球入れる。(カキカキ)……ザビエル」

アルミン「そこは『フランシスコ・ザビエル』って書いてあげて!」

ジャン「分かったよ! (カキカキ)……フランシスコ・ザビエル」

エレン「外人か……外人じゃねえけど(カキカキ)……天草四郎」

ジャン「キリスト教か。じゃあ(カキカキ)……イエス・キリスト」

アルミン「順番がおかしい」

マルコ「普通、キリスト、ザビエル、天草四郎だよね」

ジャン「うるせえな! 散らかっててもいいだろ別に!」

エレン「こんなの思いついた順に書くしかねえだろ」

エレン「(カキカキ)……ナポレオン」

アルミン「苗字は?」

エレン「え?」

ミカサ「フルネームで書かないと認められない」

エレン「嘘?! えっと、ナポレオンのフルネームってなんだっけ?」

ジャン「オレに聞くなよ」

マルコ「あと30秒……」

エレン「うわーここで負けたくねえ! なんだっけ? なんだっけ?」

エレン「あ、ボナパルト! 確かボナパルトだった筈!」

エレン「『ボナパルト・ナポレオン』」

ミカサ「逆…」

エレン「あ、書き間違えた!『ナポレオン・ボナパルト』」

ジャン「今のはセーフなのか?」

アルミン「限りなくグレーだけど、まあおまけでいいんじゃない?」

マルコ「二度目はないよー」

ジャン「くそう。外人名はフルネームきついかもな」

ジャン「だったら……」

ジャン「(カキカキ)……伊藤博史」

マルコ「簡単なのに戻ったね」

ジャン「基本的なのを先に書かないとダメだろ」

アルミン「一理ある」

エレン「(カキカキ)……西郷隆盛」

アルミン「お、近代史かな。明治いくの?」

ジャン「(カキカキ)……大久保利通」

マルコ「受けてたったね。しばらくは明治が続くかな?」

エレン「(カキカキ)……樋口一葉」

ジャン「(カキカキ)……野口英世」

エレン「(カキカキ)……夏目漱石」

ジャン「(カキカキ)……福沢諭吉」

アルミン「あれ? もしかしてお金の偉人シリーズだった?」

マルコ「ああ、なんかそれっぽいね」

エレン「(カキカキ)……紫式部」

ジャン「(カキカキ)……清少納言」

エレン「(カキカキ)……小野小町」

ジャン「(カキカキ)……楊貴妃」

エレン「(カキカキ)……クレオパトラ」

ミカサ「七世のことでいいのね?」

エレン「へ?」

ミカサ「古代エジプトプトレマイオス朝最後のファラオ。普通、クレオパトラと言えば7世のことを指すのだけども、母親は5世。古代や中世には同じ名前の人物は多いので」

エレン「(そんなん知らんかった)ああ、それで」

ジャン「なんか卑怯臭いぞ。エレン……」

エレン「ミカサがジャッジしてんだからいいんだよ!」

ジャン「(カキカキ)……ブルータス」

アルミン「(ニヤリ)フルネームは?」

ジャン「え?! あ、しまった!」

アルミン「ま、普通はブルータスで正解だけどね。一応、フルネームでお願いしたいなあ(ちなみに『マルクス・ユニウス・ブルトゥス』が正解)」

ジャン「あああ……悪い! 変更していいか?」

ミカサ「時間内なら構わない」

ジャン「ええっと、じゃあ……」

ジャン「(カキカキ)……ジュリアス・シーザー」

エレン「誰だっけ? それ」

ジャン「なんか、クレオパトラのあたりで習ったような名前。多分、その辺りの歴史の人物だ」

マルコ「大雑把だけど、まあ間違ってはいないよ」

エレン「うーん。中世はそんなに得意でもないけど……」

エレン「(カキカキ)……ジャンヌ・ダルク」

ジャン「時代が飛んだな。まあいいが」

ジャン「(カキカキ)……マリー・アントワネット」

アルミン「(ニヤニヤ)フルネームは?」

ジャン「え?! これがフルネームじゃねえの?」

マルコ「違うよ。ま、でも普通はそれで覚えるよね」

ミカサ「マリー・アントワネットのフルネームは長いのでここは省略でもいいけれど」

アルミン「良かったね。ジャン。ミカサのジャッジが甘くて」

ジャン「すまん……」

ミカサ「ちなみに『マリー・アントワネット・ジョゼファ・ジャンヌ・ロレーヌ・ドートリシュ』がフルネームになる」

ジャン「長すぎるだろ!? どうなってんだよ?!」

ミカサ「王族の名前は長いのもあるので、長過ぎる場合は省略でいい。テストではマリー・アントワネットで正解なので」

エレン「いかん。カタカナはいろいろ危険だな。漢字に戻る」

エレン「(カキカキ)……劉備玄徳」

アルミン「三国志きたね!」

マルコ「三国志の人物だったら相当な数が出せるよ!」

エレン「いや、オレもメジャーどころしか覚えてないけどな。ゲームに出てくるのしか知らん」

ジャン「でも漢字で書けるってのが凄いな。エレン、やっぱり漢字強いな」

ジャン「(カキカキ)……諸葛亮孔明」

アルミン「ちゃんと『亮』の字も入れたね。通だね」

ジャン「三国志ならゲームでちょっとだけやった事あるからな」

エレン「(カキカキ)……張飛翼徳」

ジャン「(カキカキ)……関羽雲長」

エレン「(カキカキ)……曹操孟徳」

ジャン「(カキカキ)……趙雲子龍」

エレン「(カキカキ)……馬謖(ばしょく)」

ミカサ「『泣いて馬謖を斬る』の馬謖ね。なるほど」

エレン「え? そんなのあるのか?」

ミカサ「知らない? そういう故事成語もある。意味は『どんな優秀な者であっても、法や規律を違反した者の責任を不問にしてはならない』という意味だったはず」

エレン「そっちの故事成語は知らなかったなあ」

アルミン「いや、でも馬謖をすらすら書けるってエレン、やっぱり漢字強いね」

エレン「そっかな? 三国志やってればとりあえず一通り覚えるぞ。ちなみにオレは蜀派だ」

ジャン「オレはそこまでやりこんでねえよ。くそ……」

ジャン「(カキカキ)……夏侯惇(かこうとん)」

エレン「(カキカキ)……呂布奉先(りょふほうせん)」

ジャン「ダメだ。三国志はもう出てこない。先に降りる」

エレン「えーなんだよ。もっと出せよ」

ジャン「三国志限定じゃねえだろうが。違う時代にする」

ジャン「(カキカキ)……三蔵法師」

アルミン「ふふふ……ジャン、それは人物名じゃないよ」

ジャン「え?! 人物じゃねえ?」

アルミン「えっとね。所謂、一般名詞であって、固有名詞じゃないんだ」

ジャン「え? じゃあ役職みてえなもんなのか?」

アルミン「そうそう。でも多分、思い浮かんでいる三蔵法師の名前は聞いたことあると思うよ」

マルコ「漫画でも出てるよ」

ジャン「漫画……あ! そっか、こっちか!」

ジャン「(カキカキ)……玄奘三蔵」

エレン「え? なんだそれ。そんな漫画あったけ?」

ジャン「ちょっと古いが、あるだろ。タイトルちょっともじったやつ」

ジャン「あれ、うちにもあるんだ。読んでて良かったわー」

エレン「うーん。ジャンの知識は漫画からが多いのか」

エレン「まあ、オレも似たようなもんだけどな」

エレン「(カキカキ)……空海」

アルミン「宗教関係できたか」

エレン「まあな。日本にもいるだろ」

マルコ「キリストきたら仏教もいかないとね」

ジャン「(カキカキ)……シャカ」

ミカサ「漢字は?」

ジャン「え? 漢字あったけ?」

アルミン「あるよ。カタカナだと、漫画の方のシャカになるよ」

ジャン「くそー……漢字出てくるかな?」

ジャン「釈………迦? こんなんだったか?」

ミカサ「正解。うろ覚えでよく書けた」

ジャン「ふーギリギリセーフだな」

エレン「(カキカキ)……法然」

エレン「なんかこんな感じのやついただろ?」

アルミン「エレン、一応、周辺の知識もセットで覚えようね」

マルコ「南無阿弥陀仏を唱えた人ね」

ジャン「(カキカキ)……日蓮」

アルミン「対抗してきたね」

エレン「いたっけ? そんなやつ」

マルコ「南無妙法蓮華経を唱える方の宗教を作った人だよ」

アルミン「ほら、チーンと叩く方と、ポクポク叩く方の違いだよ」

エレン「ああ! そういう違いか! 仏教も宗派が分かれてるのか」

アルミン「この二つは今でも生活に根付いてるから知ってた方がいいよ」

エレン「なるほどな」

エレン「(カキカキ)……一休」

ミカサ「フルネーム……」

エレン「え?! こいつにもフルネームあんの?!」

ミカサ「ある。まあ、あまり有名ではないけれど」

エレン「えっと、その……変更してもいいか?!」

アルミン「残り30秒でいける?」

エレン「えっと、えっと……えっと…あー?!」

ジャン「ぶっぶー! 時間切れだよな!」

エレン「ちくしょー! 一休のフルネームなんてあんのかよ」

ミカサ「『一休宗純(いっきゅうそうじゅん)』アニメでは知恵者として知られる彼は、実際は自由奔放で奇行が多かったと言われている。詳しくはウィキペディア等で調べてみよう」

アルミン「まあ、お坊さんらしくはないよね。逸話を知ると」

マルコ「うん。破天荒な人だったみたいだしね」

ジャン「よっしゃああ! オレの勝ちだな」

エレン「一勝一敗か。次で決まるな」

ジャン「次は理科系用語だったな。今度も勝つ!」

ミカサ「待って。思ったのだけども、やはりこの勝負、先攻の方が不利な気がする」

アルミン「そうだね。しかも、前の人が答えた内容をヒントに次の言葉を探せるしね」

ミカサ「ここは最終問題は山手線ルールではなく、お互いに一気に、制限時間内に用語を出していくのはどうだろう?」

マルコ「被ってもいいの? 個数を競うってこと?」

ミカサ「うん。その方が平等な気がする……ので」

アルミン「いいかもね。そうしよう。じゃあ、最終問題はお互いに15分以内に書けるだけ理科系の用語を書く方で。多く書けた方が勝ちでいくよ」

エレン「分かった」

ジャン「ああ。構わないぜそれで」

ミカサ「では、用意」

エレン(原子記号……あと用具とかだな)

ジャン(宇宙関係や気象の用語でもいいよな)

ミカサ「スタート!」

(*エレンとジャン、どっちが勝つ?)

(*>>222さんの回答の秒数が偶数ならエレン、奇数ならジャン勝利ルートで続けます)

どっちでしょう

18秒なのでエレン勝利ルートですねー。

アルミン「さーて、確認してみようか」

マルコ「エレンの書いた個数を数えるよ」


【エレンの解答】

H(水素)

N(窒素)

C(炭素)

Mg(マグネシウム)

Ca(カルシウム)

K(カリウム)

プレパラート

顕微鏡

シャーレ

メスシリンダー

アルコールランプ

スポイト

フラスコ

三角フラスコ

試験管

ピンセット

U字磁石



アルミン「全部で17個かな?」

ジャン「おい、三角フラスコとフラスコを別でカウントするのって有りかよ」

アルミン「うーん。似てるけど別物だしね。丸いフラスコと三角のふたつあるし」

マルコ「これは別で考えてもいいと思うよ」

ジャン「ちくしょう。その手があったか」

アルミン「続いてはジャンを数えるよ」

【ジャンの解答】

恒星

惑星

小惑星

ビックバン

星座

星団

自転

公転

軌道

銀河系

隕石

黒点

コロナ

フレア

赤外線

紫外線



アルミン「あーおしい! 16個だ!」

マルコ「同じ理科系でも好みが違うね。全然かぶってないってすごいな」

アルミン「だね。よほどエレンとジャンはタイプが違うらしい」

エレン「ってことは、オレの勝ちでいいんだな?」

ミカサ「そうね。エレンの勝利」

エレン「よっしゃああああ!」

ジャン「くそおおおおおお! (がっくり)」

エレン「これでジャンはミカサとの勉強会は無しだな」

ジャン「くそう……(ギリギリ)」

ミカサ「待ってエレン。これって普通、負けた方に教えてあげた方がいいのでは?」

エレン「え?」

ジャン「ん?」

ミカサ「だってそうでしょう? 負けた方が学力が劣っているという証明になるのだから、勉強を教えてあげるべきなのは、負けた方なのでは」

実は最初に勝負を決めた時からずっと疑問に思っていたのだ。

負けた方が学力が下の筈なのに、何故勝った方に教えないといけないのか。

だから私はそう、思わず言ってしまったのだが、エレンは「えっと、それは…」と微妙な顔をしている。

すると、先程まで落ち込んでいたジャンが急に嬉しそうになって、

ジャン「そ、そうだよな! 負けた方が学力が劣ってるっていう事になるよな! だったら、負けたオレはミカサに教えてもらえるよな?!」

と言ってきた。私は勿論頷いた。

ミカサ「その必要があるのであれば……」

ジャン「よしゃああああ! 勝負には負けたが結果的には勝った!」

エレン(ギリギリギリ)

エレンが何故か歯ぎしりをしている。

何か間違った事を言っただろうか…。

釈迦って一族の名前じゃないかい?今更だが…

マルコ「良かったね。ジャン。ミカサとの勉強会が出来て」

ジャン「ああ! あの、ミカサ……今度、是非うちで」

と、ジャンが私の手を取って顔を近づけてきた。

しかしその間に入ってエレンが「やるんだったら図書館行け!」と妨害してきた。

ジャン「ああ?! どこでやろうが勝手だろうが! 邪魔すんなよ!」

ミカサ「いえ、やるんだったら図書館の方がいい。調べ物をするのに適しているので」

ジャン「うっ……でも、家にパソコンとかあるし」

ミカサ「ネットの情報は間違っている場合もたまにあるそうなので、やはり書物で調べる癖をつけた方がいいと思う」

アルミン「うん。ソースとしてはネットの内容は信憑性を疑う場合もあるよ。まあ、歴史の人物名等はさておき、例えば経済の内容とか、時事問題に関して言えば、たまに変な主張してる人の記事にあたっちゃう場合もあるからね」

マルコ「そうだね。それに図書館の方が静かだし、集中も出来るよ」

ジャン「………まあ、そこまで言うならそれでもいいけど」

ミカサ「では決まりで。いつがいいだろうか?」

ジャン「来週の日曜日とかどうだ?」

ミカサ「27日ね。特に予定もないし、大丈夫だと思う」

ジャンがその瞬間、何故か小さくガッツポーズをした。

よほど勉強がしたいのだと思う。いい事だ。

しかしその様子をエレンはまだ微妙な顔で見つめている。何か言いたげに。

ミカサ「? エレン? どうしたの?」

エレン「その勉強会、やっぱりオレも混ぜてくれ」

ジャン「はあ?! 勝手についてくるなよ!」

エレン「いや、だって、勝敗は紙一重だったし。勝ったけど、さっきの最終問題だって、1個差だったし」

ミカサ「でもそうなると、勝負をした意味がなくなるような」

ジャン「そうだぞ! 何の為に勝負したと思ってんだ」

ミカサ「一人で二人の面倒を見るのはさすがに私も難しい。ので、ここはアルミンとマルコにも協力して貰いたい」

と、私が妥協案を出すとアルミンとマルコは同時にニヤッとした。

アルミン「ああ、なるほど。僕とマルコがエレンを、ミカサはジャンを担当して一緒に図書館で勉強すればいいのか」

ミカサ「お願い出来るだろうか」

マルコ「全然いいよ。皆でやった方が楽しいだろうしね」

ジャン「マルコ! アルミン?!」

すると何故かジャンがまた、すごく落ち込んだ顔をして、二人に詰め寄っていた。

小声で何か抗議をしているようだが詳しくは聞こえない。

>>228
物凄い遠い記憶なのですが、釈迦の漢字を書き間違えて、
世界史で減点を食らった記憶があるので、
世界史のテストに出た筈…と思って出しました。

一応、調べたところ、存在自体が怪しいと思われていた釈迦ですが、
その生前を記録するものが見つかったとウィキにはありました。
ただ没時に関する正確な記述は諸説あるそうで、
正確な死んだ時期は今も分かってないそうです。

まあ、日本で言う聖徳太子さんみたいに遠い存在なので、
もし間違ってたらすみません…。

まあアルミンに
「ゴータマ・シッダッタ(シッダールタ?)の方が正解」と言わせても良かったんですが、
確か、「釈迦」でも正解にする場合があるので、ちょっと判断に迷ったんですよね。

今の現役の高校生さん、どっちで習ってるんだろう。
もし、今の教科書と違ってたらすみません。

そして暫くの間、三人は言い争って、ジャンはがっくり肩を落として戻ってきた。

ジャン「ああもう、それでいいよ。それで決定でいい!」

ミカサ「では、来週の予定は決まりね。定期考査に向けて少しずつ頑張りましょう」

講談高校は集英程ではないにしろ、定期的にテストはある。

中間テストの予定は確か、5月12日から14日までだった気がする。

エレン「あー中間テストの後は体育祭だったよな。5月25日だったけ?」

アルミン「そうだね。まだ先だけど」

エレン「テストの後に体育祭か。まあ、体育祭あるからテストも頑張るか」

ミカサ「エレン、テストの方が重要なのでは?」

エレン「いや、それは分かってはいるが、気持ち的には体育祭の方が楽しみなんだよ」

と、エレンはちょっと苦笑いをしている。するとジャンも、

ジャン「ああ、その気持ちは分からんでもない」

エレン「だろ? 女子と一緒に体育が出来る機会って、体育祭だけだもんな」

ジャン「そうだな。女子の走るところとか、玉入れとか、見たいよな」

中学の時から男女は分かれて体育の授業を行っているので当然ではあるが、確かに言われてみれば年に1度だけ、である。

エレン「ああ。ジャンプしている女子を見れるのは楽しみだ」

ジャン「くそ……エレンに同意したくないのに同意してしまう自分がいる」

エレン「素直になれよ、ジャン」

アルミン「エレン、ミカサの前でそれ以上下世話な話はやめようね」

エレン「あ、悪い悪い」

ミカサ「?」

今の会話の何処に下世話な話が入っていたのだろうか? 分からない。

ミカサ「でも体育祭の前に球技大会もあるのでは」

私がそう言うとアルミンも頷いた。

アルミン「ああ、26日にあるね。でも球技大会は会場が男女別だよ」

マルコ「女子が体育館で、男子が外だからね」

エレン「女子はバレーで、男子がサッカーだったけ?」

ジャン「雨降ったら男子も体育館だけどな。バスケだろ」

エレン「オレ、サッカーよりバスケの方が好きだけどな」

ジャン「オレはサッカーの方が好きだな。ボール来ない時はさぼれるし」

エレン「それじゃつまらんだろ。参加してる雰囲気を味わえる方がいいだろ?」

ジャン「オレはそこまで真面目じゃないんでね。適度に休めるスポーツの方が好きだな」

アルミン「じゃあ野球とか? 攻撃側は打席に入らない時は休めるし」

アルミンが言うと、ジャンはちょっとだけ微妙な顔で答えた。

ジャン「ああ。好きだな。割と」

好きだという割には顔が浮かない。はて? するとマルコが、

マルコ「……というか、僕達二人、中学までは地域の野球チームに入ってたから」

あら、意外な事実が判明した。

ジャン「馬鹿! マルコ、言うなって!」

ジャンが照れ臭そうにしている。何故だろう?

マルコ「高校入ってお互いに野球やめちゃたけど、ジャンは野球うまいよ。バッテリー組んでたんだ」

エレン「ああ、通りで仲がいいと思ったぜ」

ジャン「あんまり恥ずかしい事、言うなって…」

と、何故かジャンが頭を掻いている。

ミカサ「何故恥ずかしいと思うの? 野球はいいと思うけど」

マルコ「それがね……」

ジャン「マルコ、それ以上言ったら友達やめるぞ」

マルコ「ああ、ごめん。ごめん。じゃあ言わないでおくよ」

アルミン「ええ? そこまで言って黙秘? 気になるー!」

私も気になってきた。

ミカサ「気になる……」

ジャン「うぐっ…」

マルコ「ミカサが気になるんじゃ、言った方がいいんじゃない?」

ジャン「くそ……その、あれだよ。髪! 髪で分かるだろ?」

エレン「髪?」

ジャン「髪、のばしたかったんだ。高校野球はコニーみたいに全員、丸刈りが必須だろ? それだと、彼女作れないって思ってさ」

エレン「……………関係なくねえか?」

エレンの鋭いツッコミに私も頷いた。

ミカサ「私もそう思う。髪型は、別に関係ないと思う」

中学時代の記憶を探ってみる。

ミカサ「モテる人はどんな髪型でもモテる。現に坊主頭でも彼女のいる男なんて、中学時代にざらにいた」

エレン「だよな」

マルコ「僕もそれは言ったんだけどジャンが頑なに拒否してね。高校に入ったら絶対、彼女を優先にするから野球はやめるって……」

ジャン「そもそも野球部入ったら自由な時間が殆どねえだろうが! マネージャーと付き合うならまだしも!」

ミカサ「ん? つまりジャンは彼女を作って、彼女優先の高校生活を送るつもりなのね」

ジャン「お、おう。そうだよ」

と、ジャンは肯定した。するとエレンはげんなりした顔で、

エレン「そこまでガツガツするのはちょっと引かねえか?」

とツッコミを入れた。

ジャン「うっ……」

アルミン「だよねえ。僕もそう思う」

マルコ「でも気持ちは分からないでもないよ。彼女、欲しいと思う気持ちは僕も共感出来る」

ジャン「マルコ……お前は親友だ」

ジャンが何故かマルコの肩を叩いた。味方がいて嬉しいようだ。

ジャン「お前らは、格好つけ過ぎ。体育祭だけで満足すんのか?」

エレン「うっ……それを言われると辛いが」

アルミン「で、でも、それが普通じゃないのかな?」

ジャン「本性を隠すんじゃねえよ! 本当は彼女欲しいんだろ?! 曝け出せよ!」

マルコ「いや、ジャン。曝け出しすぎるのも良くないと思うよ?」

ジャン「何だよ。さっきは味方した癖に、優等生ぶる気か?」

マルコ「僕はあくまで共感すると言っただけで、実際に彼女を作りたいかどうかは別だよ」

何だか込み入った話になってきた。うぬぬ。

男の子同士の会話はちょっと分かりづらい部分もある。

ジャン「どう違うんだよ」

マルコ「彼女は欲しい。でも、誰だっていいわけじゃない。ちゃんと恋愛して、この人とならいいなって思える子を探して、それから友達になって、っていう手順をちゃんと踏んだ上で、最終的に彼女になって欲しいって告白したいんだ」

ジャン「いや、それだったらオレと同じじゃねえか。どこが違うんだ?」

マルコ「ジャンの場合は、アンテナを張り過ぎ。そんなに焦らなくてもいいんじゃないかって言いたいんだけど」

ジャン「でも高校生活なんてたったの三年間だぞ! 気合入れないとあっと言う間に過ぎるだろうが」

マルコ「そうだけどさ。彼女の事も大切だけど、自分の時間だって大切だよ?」

エレン「あーそれは分かる。自分を犠牲にしてまで女に時間を割くのはちょっとなあ」

ジャン「でも、デートの約束と自分の用事が被った時、彼女を出来るだけ優先するのは普通じゃないのか?」

マルコ「それは内容によると思うけどね。自分の用事を犠牲に出来るなら、僕も彼女を優先するけどさ」

アルミン「ジャンの場合はそれを全部、犠牲にしそうで怖いんだよね」

ジャン「それのどこが悪いんだよ。彼女を大事にするんだぞ?」

エレン「重いと思うぞ? それをされる側は」

ジャン「そ、そうなのか…? み、ミカサはどう思う?」

ミカサ「え?」

いきなりこっちに話題の矛先がきてびっくりした。

な、何故、私の意見を求めるのだろうか?

アルミン「女の子の側の意見も聞いてみたいよね。ミカサ、どう思う?」

なるほど。女子代表の意見を聞きたくて私に話がきたのか。

ミカサ「えっと、その…」

私は一生懸命考えてみた。

ジャンは、彼女を作ったら、自分の時間を犠牲にしてでも相手に尽くしたいと思うタイプ。

エレンは、彼女を作ったとしても、自分の時間を大切にしたいと思うタイプ。

これで間違ってない筈。

ミカサ「つまり、ジャンのようなタイプと、エレンのようなタイプ、どちらがいいかジャッジすればいいの?」

マルコ「そうだね。女の子はどっちが好きかな?」

一般論を求められていると考えていいのだろう。

よし、ここは女子代表として、答えなければ。

私の意見は……。

(*ジャンとエレン、どっちのタイプがいいと答えるか)

(*多い方で進めます。皆の素直な意見を↓にどうぞ)

(*続きは明日書くので締切は明日の夜21:00まで)

集計結果

ジャン1票
エレン3票

とりあえず、ここまでで締切ます。安価サンクス!

ミカサ「エレンのようなタイプの方がいいと思う」

ジャン「うがっ……!」

私が率直な意見を伝えると途端、ジャンが凄く悲しそうな顔になった。

なので、私はもう少し詳しく説明する事にした。

ミカサ「ジャン、勘違いしないで欲しい。ジャンのようなタイプが悪いと言っている訳ではない」

ジャン「………?」

ジャンは少しだけ気持ちが浮上したようだ。よしよし。

ここは丁寧に説明しないと誤解を生むかもしれない。慎重に行こう。

ミカサ「ジャンのように一途に愛されれば相手の彼女もとても幸せだと思う」

ジャン「そ、そうか?」

ミカサ「うん。自分の方に合わせてくれるのはとても嬉しいと思う」

アルミン「ん? じゃあなんでミカサはエレンタイプを選んだの?」

ミカサ「女の子は、自分に合わせて欲しいと思う半面、男の子に格好良くいて欲しいという願望もある」

マルコ「格好良く…」

ミカサ「そう。例えば、部活等で活躍している姿を見るのとか、自分以外の事であっても、それに夢中になってがむしゃらに頑張っている姿は格好いいと思う」

ジャン「そ、そういうもんか?」

ミカサ「うん。ジャンは野球が得意であるのであれば、その姿を見てみたいと思う。彼女という立場になればそれが普通だと思う。なのに、自分のせいで活躍する姿を見れない、となると、罪悪感に似た感情を覚えると思うの」

ジャン「うううううう~~~~ん」

私が丁寧に説明すると、ジャンが頭を抱えて唸りだした。

ジャン「それは盲点だった。くそう……そういう場合もあるのか」

ミカサ「あくまでも例えではあるのだけども。中学時代、部活で活躍している男子がモテるのはそのせいだったと思う。私も、頑張っている人を見るのは割と好き。例えそれが出来ていても出来なくても」

エレン「下手くそでもいいっていうのか?」

ミカサ「結果がすぐに結びつくわけでもない。努力する事が大事だと思う」

ジャン「そうか……オレ、頑張っている姿を学校で見せてなかったからモテなかったのか」

マルコ「いや、それだけが原因だとは思えないけど、まあ野球は学校の外でやってからね」

それは勿体無いと思った。

ミカサ「それは一因にあるのかもしれない。ジャン、モテたいと思うのなら尚更、何処か部活に所属した方がいいと思う。野球部は丸刈りが義務で嫌であるのならば、別の部活でもいいと思う。あなたのその才能を枯らしてしまうのは非常に勿体無い」

ジャン「そ、そうか……そういう考え方も有りだな」

目的は不純ではあるが、それでも何かに打ち込むというのはいい事だと思う。

ジャン「ありがとう。ミカサ。何だかすっきりしたぜ」

ミカサ「お役に立てて何より」

エレン「…………」

エレンが何故か口を尖らせている。拗ねているようだ。何故?

ミカサ「どうしたの? エレン」

エレン「別に。何でもねえよ」

ミカサ「では何故、不機嫌な表情をしている?」

エレン「別に不機嫌じゃねえし」

ミカサ「嘘。エレンはすぐ顔に出る。何か気に障るような事を言っただろうか?」

あり得るとすれば私とジャンの会話の中の何かだろうか。

しかし、私はあくまで一般論を言っただけのなので、特別、エレンを傷つけるような事を言った覚えはないのだが。

エレン「………お前、ブーメランって言葉知ってるか?」

ミカサ「知っている。こう、投げると自分に返ってくる武器の事よね?」

エレン「いや、武器の説明じゃなくてさ……まあいいや」

何か言いたげなエレンだったが途中で放置したようだ。

アルミン「………つまりミカサは、自分の時間を大事にしている男の方が格好いいと思うんだね」

ミカサ「生活の中心を彼女にしてしまうのは、される側は嬉しい半面、申し訳ない気持ちも出てくると思う。だから適度に自分の時間を楽しんでいる人の方が余裕があっていいと思う」

あんまり他の事に夢中になって放置されると、それはそれで嫌だけども。

エレン「………………」

エレンは一際大きなため息をついている。どうしたんだろう?

エレン「いや、何でもねえから。続けろ」

ミカサ「そう? まあ、つまりはそういう事なので、面倒臭いとは思うけれど、束縛し過ぎず、放置し過ぎず、が理想的だと思う」

マルコ「それが一番難しそうだね」

アルミン「まあ、彼女のいない僕らの言う事じゃないけど」

ジャン「これから作るんだよ! お前らも受身ばっかじゃダメだろ。気になる子とかいないのか?」

その瞬間、アルミンとマルコがほぼ同時に肩を揺らした。

ジャン「ははーん、その反応だといるな? 吐け! 二人共!」

アルミン「なんのことかな? あはははは……(ダッシュ)」

マルコ「僕はまだまだ、そんな……(ダッシュ)」

ジャン「あ、逃げやがった! オレに勝てると思ってんのかこの野郎!」

と、何故か三人で公園内で追いかけっこが始まってしまった。

実に長閑な光景である。

エレン「…………」

エレンは何故か参加していないが。はて?

ミカサ「エレンは追いかけないの?」

エレン「人の事はどうでもいい。いいたきゃ自分から言うだろ」

ミカサ「エレンとジャンは本当に正反対の性格をしているようね。喧嘩さえしなければ、いいのに」

エレン「反対だからこそぶつかるんだろ、多分な」

エレンは首筋を触りながら言った。

エレン「結構、時間潰しちまったな。これからどこか行くか?」

ミカサ「そういえば特に決めていなかった」

エレン「まあ、オレはお土産さえ後で買えたらそれでいいけどな。ミカサ、どっか行ってみたいところとかねえの?」

ミカサ「うーん。そう言えばサシャが紫芋のソフトクリームを食べるとか何とか言ってたような」

エレン「じゃ、他の奴らが反対しなけりゃ、そこ行くか」

と、ようやく私達も移動する事になったのだった。

バスや列車を乗り継ぎ、途中でタクシーを使ってその場所に移動してみると、沢山の人がいた。

家族連れもいるし、お年寄りの人もいる。訪れたその物産館では、多くの新鮮な野菜やお弁当が売られてた。

手作りのクッキーもある。美味しそうだ。買っていこうかな。自分用に。

ミカサ「エレン、決まった?」

エレン「おう。オレはいきなり団子とあと父さんに酒のつまみ系の何か買ってく」

エレンと私はさっさと会計を済ませると、アルミン達より先に外に出た。

すると偶然、ソフトクリームを外で食べているサシャとクリスタと出会った。

サシャ「あ、ミカサ! こっちにきたんですね!」

クリスタ「やっほー! もう紫芋ソフトクリーム食べた?」

ミカサ「いいえ、さっき来たばかりなので。今から買おうと思ってる」

サシャ「早くしないとなくなりますよ! 一日限定個数販売ですから!」

ミカサ「そ、そうなの? それは知らなかった」

どうやら紫芋ソフトクリームは人気の商品のようだ。

子供達や女性が多く並んでいる。私も後ろの列に並んでみた。

しかし私の番になると残り一個と言われてしまった。

ああ、エレンの分が買えない。

ミカサ「エレン、食べたい?」

エレン「まあ、そりゃあ……でも残り一個なら、半分こするしかねえよ」

ミカサ「そうね。では半分こしましょう」

エレンに紫芋のソフトクリームを手に持ってもらい、先に譲った。

ミカサ「お味はどう?」

エレン「あんめ! あ、でもほのかに芋の味もするぞ」

ミカサ「で、では私も……」

私がエレンの残りを食べようとすると、その時、

ジャン「ちょっと待ったああああああ!」

と、何故かジャンが私に大声で待ったをかけた。

ミカサ「?」

ジャン「さじ! さじで食え! 買ってくるから!」

ミカサ「面倒なのでいい」

ジャン「いや、ダメだって。つか、気づいてねえのか?!」

ミカサ「何が?」

ジャン「何がって、そういう食べ方、間接キスっていうだろ?!」

………………………ああ!

指摘されてようやく気づいた。そう言われればその通りだ。

ミカサ「ごめんなさい。気づいていなかった。エレン、そういうの苦手?」

エレン「んにゃ別に。ほら、早くしないと溶けるぞ」

ミカサ「おっとっと」

少したれてきたそれを慌ててすくって舐めた。

うん。甘い。そして美味しい。これはヒット商品なのも頷ける。

私はジャンに反対されたけれども、溶けるのが勿体ないので残りを急いで全部平らげた。

ジャン「………………」

ミカサ「ジャンも、もしかして食べたかったの?」

エレン「運が悪かったなー。残り一個だったんだよ。悪いな」

ミカサ「ひ、一口あげれば良かったのかしら。ごめんなさい」

ジャン「いや、そういう話じゃないんだ。うううう……」

ジャンがすっかりいじけてしまった。やはり分ければ良かっただろうか。

いやしかし、溶け始めてたし、急いで食べないと落ちるし。

エレンの言うように、仕方ないと思った。

ミカサ「ジャン、そんなに落ち込まないで。いつかまた紫芋のソフトクリームを食べる機会はきっとある」

ジャン「いや、ソフトクリームはどうでもいいんだが……はあ。もういいよ」

ジャンがとぼとぼ何処かに去っていってしまった。

何だか申し訳ない事をしてしまった気がする。

エレン「あんま気にするなって。ジャンはいろいろ気にし過ぎだ」

ミカサ「そうね。ちょっと神経質な部分があるのね。きっと」

アルミン「いや、君らの方が大雑把な気がするけれど」

と、何故かアルミンがげんなりした顔で私達にツッコミを入れた。

ミカサ「そう? でも、せっかくのソフトクリームが」

アルミン「いや、それは分かるけども。ここ、周りに人がいっぱいいるし、どう見てもその感じ、ただのカップルにしか見えないよ」

ミカサ「え?」

エレン「はあ?」

アルミンの言い分に私達は同時に驚いてしまった。

ミカサ「そ、そんなつもりはなかった……」

エレン「オレもだよ。なんだそれ。何でソフトクリーム一緒に食うだけでそんな風に見られる?」

アルミン「その距離感、だね。いや、君らが仲いいのは認めるけども。ちょっと外では自重して欲しいかな」

ショックだった。まさかそんな。

ああ、つまりジャンは私達のそれを見て勘違いしてしまったと、そういう事なのか。

ミカサ「誤解なので、ジャンに説明してくる……」

アルミン「やめといたほうがいいよ」

ミカサ「ど、どうして?」

マルコ「今、下手にジャンを突っつくと、藪蛇だと思うよ」

ミカサ「そうなの? では私はどうしたら……」

アルミン「何もしなくてもいいけど、今後はちょっと気をつけよう。お互いにそういうつもりがないのだとしても、周りはそうは見ない場合もあるんだからね」

ミカサ「分かった」

私はエレンに深々と謝った。

ミカサ「エレン、ごめんなさい。私のせいで、面倒なことになって」

エレン「いや、オレの方こそ悪かった。でも、あんま気にするなよ。オレ達は普通にしてりゃいいんだ」

ミカサ「うん………」

エレンは本当に普通だった。私も普通にしなければ。

マルコ「ジャンは僕が回収してくるね」

マルコがフォローしてくれるようだ。助かる。

ミカサ「マルコ、その……きっぱり否定しておいて欲しい!」

マルコ「分かってる。大丈夫だから」

マルコがジャンを追いかけてくれた。これで大丈夫だと思うが。

ん? ちょっと待って。

ミカサ「アルミン、ひとつ聞いてもいいだろうか?」

アルミン「何?」

ミカサ「ジャンは何故、逃げてしまったのだろうか?」

アルミン「え?」

ミカサ「その………自意識過剰だと言われてしまうかもしれないけれど、ジャンは、もしかして」

アルミン「………………その質問を答える権利を僕は持ってないからノーコメントで」

ミカサ「エレン」

エレン「知らねえよ。自分で聞けば?」

ミカサ「……………」

ど、どうしたらいいんだろう。

折角、いい感じで友人が増えて嬉しくて、舞い上がってたけれど。

ジャンはまさか、私に好意を寄せてくれているのだろうか?

だから、私がエレンと仲良さげにしているのを見てショックだった、とか。

もし本当にそうだったとしたらどうしよう。

ミカサ「やっぱり、確認してくる」

アルミン「ミカサ?」

ミカサ「曖昧なままではダメ。ちゃんと、向き合わないと」

私はエレンとアルミンをそこに放置してマルコを追いかけた。

すると、その先に落ち込んでいるジャンとマルコが話し合っている声が聞こえた。

喧騒の中の端っこで二人は木陰で休んでいる。

マルコ「だから誤解だって言ってたよ。感覚って人それぞれじゃないかな?」

ジャン「そうだとしても、やっぱりあの二人は何か怪しい。何かあるんじゃねえのかな」

マルコ「単に気の合う異性の友人の一人なんじゃない?」

ジャン「そうかな。そうだと思いたいが……」

私は堪らず、その場に乱入した。

ミカサ「ジャン!」

マルコ「ミカサ……」

ジャン「!」

ミカサ「その、誤解なので。エレンとはそういう関係ではないので。勘違いしないで欲しい」

ジャン「そ、そうか……」

ミカサ「その……自意識過剰だと思われるかもしれないけど、聞きたいことがある」

ジャン「何?」

ミカサ「ジャンは、私の事を、異性として好きなのだろうか?」

ジャン「!!!!!!」

マルコの顔が強ばった。ジャンよりも。

ジャンの顔は、青い。あれ? 何か予想していた反応と違う。

もし本当にそうであれば、ここは普通、赤面する筈……。

ジャン「ば、馬鹿! そ、そういうんじゃねえよ! ただ、オレは、自分より先にカップルが出来ちまったら、先を越されたみてえで悔しいなって思っただけだよ!!!」

ミカサ「!」

なるほど。ああ、そういう事だったのか。

ミカサ「ああ……そうね。それもそうね」

ああ、恥ずかしい。今まで散々、男に言い寄られてたからと言って早ガッテンが過ぎた。

ミカサ「私の勘違いね。良かった。ごめんなさい。ドジで」

ジャン「全く、本当だよ。ミカサはドジだな。あはははは……」

ミカサ「では、ジャンは私の事は友人として好きだろうか?」

ジャン「お、おう! それは当然だろ。いい友達だと思ってるぞ」

ああ、良かった。これで彼との友情を続けられる。

ミカサ「私も、ジャンとはいい友達でいられそうな気がする」

と、手を差し出して、握手を求めた。

すると、ジャンも嬉しそうに握り返してくれた。

ジャン「これからもよろしくな。ミカサ」

ミカサ「うん。宜しくお願いする」

という訳で、ジャンの誤解も解けたし、友情を再確認できたし、雨降って地固まるとはこのことだと思った。

そして三人でエレンとアルミンのところに戻ると、今度は何故かエレンが不機嫌そうにしていた。

エレン「…………遅かったな」

ミカサ「少し話し込んでしまった。ごめんなさい。遅くなって」

ジャン「携帯のアドレスとか交換してたんだよ。ミカサとはまだ交換してなかったからな」

エレン「へー」

エレンの目つきが半分になった。何か、様子が変だ。

ミカサ「エレン?」

エレン「いや、別に。いいんじゃねえの? 友達が増えるのは」

ミカサ「エレンもジャンと交換しておけば……」

エレン「オレはいらねえ。オレはまだ、ジャンと友達だとは思ってねえもん」

ジャン「気が合うな。オレもだ」

マルコ「ああもう、二人共。その遠まわしな愛情表現はやめなって」

マルコは苦笑いをしている。全くその通りである。

エレン「その代わりマルコのアドレスは知りたいかな。マルコは友達だと思ってる」

マルコ「ええ?」

アルミン「あ、それは僕も欲しい。交換しよ」

マルコ「いいの? ジャンの分は……まあ、僕から教えておくよ」

ジャン「余計な事すんなって!」

ミカサ「ジャン、ここはマルコに任せるべき」

ジャン「……はい」

よし。素直で宜しい。

という訳で少々遅くはなったが、私達の班はお互いに連絡先を交換し合った。

そして残りの自由時間をどうするか話し合った。

アルミン「もうそこまで遠いところにはいけないと思うよ。戻る時間を考えると」

マルコ「そうだね。近くだったら……カドリードミニオンくらいかな?」

カドリードミニオンというのは、動物と触れ合える動物園のような場所である。

ジャン「それか馬に乗るくらいか? やれることと言ったら」

ミカサ「私は時間の余裕を見てもう戻り始めても構わないのだけども」

集合に遅れると周りに迷惑をかける。

もし時間が押して帰りが遅くなったら怖い。

エレン「でも折角だしさ。最後、馬に乗ってみねえか?」

アルミン「そうだね。なかなか馬に乗れる機会は少ないし……そっちに行こうか」

ミカサ「時間は大丈夫だろうか」

マルコ「ゆっくりしなければ大丈夫だよ」

という訳で私達は馬に乗れるその場所へ移動する事になった。

するとその先でもサシャとクリスタと会った。

クリスタはユミルと二人乗りしている。

ユミル「おーお前らもこっちにきたのか。結局、コースかぶってるな」

ライナー「なかなか楽しいぞ。馬に乗るのは初めてだが」

クリスタ「私は慣れてるけどね。親戚の家が牧場だから」

サシャ「楽しいですね~おっとっと。揺れるのに慣れるのが大変ですが」

と、サシャ達の班はもうすっかり馬に慣れている。

インストラクターの方に説明を受けて、早速馬に乗れる事になった。

ミカサ「眺めが全然違う…」

初めて体験する目線の高さに驚いた。

ちょっと不安定だけれども、でもとっても楽しい。

エレン「おー……こりゃいいなあ」

エレンがこっちに近寄ってきた。馬同士が仲良さげだ。

ジャン「あ、てめえらまた……」

エレン「オレ達じゃねえよ。馬同士が仲いいんだよ」

ミカサ「馬が勝手に仲良くやっているので」

ジャン「馬にも相性があるんかな」

エレン「あるんじゃねえの? 人間にもあるんだしな」

と、たわいもない話をしながらポクポクと昼間の草原を歩かせて貰った。

風が、とても気持ちいい。

雄大な自然の山々の中を、馬と共に歩いていく。

まるで異世界にきたような気分なのに、どこか懐かしい気持ちにもなる。

きっと、ご先祖様は馬に乗って生活していただろうから、その血が覚えているのかもしれない。

アルミン「おっとと……あっという間だけどもう時間だよ」

エレン「えーもうかよ」

アルミン「仕方ないよ。また今度、ゆっくりここに来よう」

エレン「そうだな。また馬に乗りに来たいぜ」

短い時間だったけれど私達の研修旅行はこうして終わった。

いろんな事があったけれど、無事に終わってほっとした。

自宅に帰り、夜になると、ジャンやマルコ、アルミンからメールが着ていた。

それを確認してたどたどしく返信すると、その日の夜は布団に入った。

思っていたよりも疲れていたのか、布団に入るとすぐに眠くなってきた。

うとうとしていると、何故かエレンが私の部屋にやってきた。

エレン「ミカサ? まだ起きてるか?」

ミカサ「もう寝るところ。何…?」

むにゃむにゃと返すと、エレンは「あ、眠いんならいいや」と気になる事を言って帰ろうとする。

ミカサ「待って。中途半端に起こさないで。用があるなら言って」

エレン「いや、大した用じゃなかったんだが」

ミカサ「だから、何?」

エレン「……………ジャンの事だけど」

ジャン? ジャンがどうかしたのだろうか。

エレン「あいつを演劇部に誘うのだけはやめてくれよ」

ミカサ「え?」

エレン「あいつが入ってきたら仲良くやれる自信はねえ」

ミカサ「それはジャンが決めることなので。私が口出す話ではないけれども」

エレン「いや、まあ、それならいいけどさ。なんかあいつ、入ってきそうで怖いんだよな」

ミカサ「もしそうなったとしても、それを止める権利は誰にもない」

エレン「…………まあ、それもそうか。悪い。らしくねえな。おやすみ」

と、言ってエレンは部屋を出て行った。

私も眠気が取れなかったのでそのまますやすやと眠ったのだった。





数日後、遅れてジャンが演劇部に入ってきたので、部の先輩達は新入部員が増えた! と、とても喜んでいたようだった。

ジャン、ヘタレジャン! の回でした。部員増えました。
エレンとミカサは無自覚にイチャコラしているようですが、
本人達は自覚がないようなので許してあげてください。ではまた。

口内炎が出来てて食べ物が美味しくない…。
でもあんまり更新の間を開け過ぎたくないので、展開に安価使わせてくれ。

4月26日。土曜日。球技大会の日がやってきた。

この日は晴天となり、男子はサッカーが行われる事になったようだ。

女子はバレーなので体育館だ。1年と2年、組別対抗の試合でトーナメント戦である。

3年生は大学受験の準備があるので球技大会には出ないそうだ。

私達1組は抽選の結果、3試合目からの出場となったが、あっと言う間に一試合目を勝ち抜いた。

何故なら私とユミル、そしてサシャとアニの四名のコンビネーションがうまく噛み合ったからである。

ユミルはブロック。サシャとアニはレシーブがうまいようで、相手に点数を殆ど与える隙もなく勝つことが出来た(ちなみに私はサーブとアタックが得意である)。

そのおかげであっと言う間に決勝まで勝ち上がり、なんと2年生のチームも接戦の末、負かした。

通常の球技大会は2年生が優勝する事が多いそうなのだが、今年は番狂わせだったらしい。結果、女子は私達1組が優勝を果たした。

ユミル「すげえな、ミカサ。お前のサーブ、滅茶苦茶はやかった」

クリスタ「うん! サーブだけで半分位点数取ってたよね」

そう。私のサーブの番になると殆どの女子がレシーブ出来ずに零していたのだ。

ミカサ「ふふふ……サーブとアタックは得意なので」

サシャ「凄かったですねえ。敵に回したくないですよ~」

アニ「同感。味方でいてくれて良かったと本当に思った」

ユミル「だな」

ミーナ「あんな高速サーブ、レシーブしたくないよね」

と、参加した皆が口々に言っている。

クリスタ「あ、でも予定より早く試合終わったおかげで男子の方も見学出来るんじゃない?」

ユミル「ん? ああ……なるほど。そうか。それでか」

ミーナ「それでって?」

ユミル「男子の方も見たいから試合、急いだんだろ? ミカサ」

どうやらバレてしまったようだ。

ミカサ「うん。男子の様子を見学したかった……ので」

アニ「男子はまだやってるみたいだよ。サッカーだし。時間かかりそうだね」

ミーナ「コートを片付けてから見に行こうか!」

と、言う訳で体育館の後片付けが終わった後、私達女子一同の殆どが男子のサッカーを見学しに行ったのだった。




さてさて。試合はどうなっているだろうか。

サッカーコートの外には先に試合が終わった女子達が歓声をあげて応援していた。

その女子の間に入り、コートを覗いてみる。

1組男子はベルトルトがゴールキーパーをしているようだ。

190センチを超えた長身のゴールキーパーなのでリーチも長い。

1組はDF(ディフェンダー)は3人、MF(ミッドフィルダー)は5人、FW(フォワード)は2人のシステムで試合をしているようだ。

それ以外の詳しいポジションはちょっと良く分からないが、エレンは前衛左のFW、右にはライナーが入っているようだ。

真ん中あたりにはジャンとマルコとコニー、その後ろにミリウスとナックがいる。後ろの方にはアルミン、トーマス、サムエルがいる。

あ、アルミンがフランツと交代したようだ。息を切らせてコートから出ている。

スコアを見てみると2試合目の後半戦に入っていた。2-1で現在負けているようだ。

ユミル「どうした男子ー! 女子は優勝してきたぞー!」

と、ユミルが発破をかけると男子は「まじで?!」という顔をした。

クリスタ「うん。優勝決めてきたよ。男子もガンバ!」

その瞬間、ライナーの動きが俄然、良くなった。うおおおおと、叫び声をあげながらヘディングでゴールに押し込んだ。

2-2。同点である。気合で追いついたようだ。

アニ「残り時間は5分くらいか」

ミカサ「同点に追いついたのだからきっと大丈夫」

本来のサッカーの試合は前半・後半45分ずつで1試合90分だが、この球技大会は試合数が多い為、短縮で前半・後半15分ずつの計30分のミニゲーム形式の試合になっていた。

なので本来のサッカーの試合の戦略より短期決戦となる為、戦い方が変わってくる。

トーナメント形式なので、4試合、または5試合勝てば優勝だ。

優勝するチームは30分×4、または5試合分動く事になる。

つまり勝ち抜くには体力の配分も重要になってくるのだ。

コートは2面ずつ使っているようだ。上に勝ち上がれば勝ち上がる程、休憩無しで次の試合に挑む事になるだろう。

サシャ「時間ないですよー! 急いでー!」

引き分けにもつれ込んだら当然、PK合戦である。

PKになれば運の要素も絡んでくる。果たしてどうなることか…。



ピー!



しかし無情にも笛がなった。同点だ。PKにもつれ込んだ。

PK戦は確か、5本中先に3本先取した方が勝ちだ。つまり最短で3-0で勝つ場合もある。

先攻後攻を決めて後攻になったようだ。相手チームのシュートは……よし!

ベルトルトが死守した。さて、1組は誰が蹴るのだろうか?

ライナー「俺からいこう」

ライナーが最初に蹴るようだ。果たして、成功するか…。

(*次の方のレスの秒数が偶数なら成功。奇数なら失敗です)

ピー!

ライナーが合図と共に左に蹴った。

相手のGKは反対側に山を張っていたようで反応が遅れてボールがゴール端に決まる!

クリスタ「やったあああ! まずは先取点!」

ユミル「よし! いいぞライナー!」

ライナーがこっちに向かってVサインをしている。嬉しそうだ。

次は相手の攻撃だ。うっ……ベルトルトも意表をつかれて反対側にゴールを決められてしまった。

ミカサ「1対1ね」

ユミル「ベルトルさん、長身の利を生かせてないぞ」

運動神経は良いようだが、どうやら心理戦に弱いようだ。

彼は逆をつかれると動揺が顔に出てしまうタイプのようだ。

2回目の後攻。次はジャンが蹴るようだ。

ジャンがこっちを一度見た。手を振ってあげると、物凄く嬉しそうに笑った。

ユミル「ん? なんだ。ジャンに手を振ってやったのか」

ミカサ「ジャンが決めれば有利になるので」

先に点をリード出来る方がいいに決まってる。

さて、ジャンが右側にボールを蹴った。結果は果たして…。

(*次の方のレスの秒数が偶数なら成功。奇数なら失敗です)

ジャンのシュートも決まった! よし!

これで2対1である。次、ベルトルトがセーブすれば俄然有利になるが…。

ユミル「あっちゃー…ベルトルさん何やってんだよ!」

そう思った途端、追いつかれてしまった。2対2だ。

そして次のマルコのシュートが……外れた。

これで現在の戦況はこんな感じだ。

2組 × ○ ○

1組 ○ ○ ×

この場合は先攻が取ったとしても、後攻で取り返せば続けられるが、もし後攻でダメだった場合は負ける。

ユミル「あ、GK交代するみたいだぞ。ライナーに変わった」

アニ「ベルトルトは性格的にGKに向いてないのかもね」

サシャ「体格はGK向きなんですけどねえ」

ミカサ「仕方がない。誰にでも向き不向きはある」

ベルトルトはプレッシャーに弱いタイプのようだ。体は大きいけれどGK向きではないようだ。

その点、ライナーはベルトルトに次いで体が大きい上に気も強い。いい選択かもしれない。

相手チームのシュートが……よし! 防いだ!

ミカサ「ここで決めれば1組の勝ちね」

クリスタ「誰が行くんだろ……」

アニ「あ、エレンがいくみたいだよ」

じゃんけんで決まったようだ。エレン、頑張って…。

エレン「いくぞ!」

笛の合図と共にエレンが走り出した。結果は……!

(*次の方のレスの秒数が偶数なら成功。奇数なら失敗です)

ミカサ「やった!」

エレンの放ったシュートはゴール端に突き刺さった!

これで1組の勝利である。3回戦に駒を進められる!

エレンがこっちを見た。Vサインをしてみせるので、私も同じくVサインを返してあげた。

エレンはクラスメイトに頭を叩かれて「よくやった!」と褒められていた。

ライナー「本番に強い奴だな!」

エレン「たまたまだって!」

アルミン「でもよく決めたね! エレン、すごいや」

エレン「へへへ……ま、格好悪いところは見せられんだろ」

周りをよく見ると2年女子もエレンに声援を送っている。

2年女子1「あの子可愛いね! 名前なんていうんだろ!」

2年女子2「エレンとか言ってたよ。結構イケてるよね」

2年女子3「私は最初にゴールを決めた子も結構好きかも」

と、1年生男子を値踏みしているようだ。

おお、ゴールを決めるとモテるようだ。なるほど。

エレンもやはり男の子である。女子の前では格好つけたいのだろう。

アルミン「あのね、1試合目と2試合目の試合内容を見て思ったんだけど……」

アルミンが1組男子を集めて何やら作戦会議を始めたようだ。

その様子をこっそり覗き見る私とユミルだった。

地面に何やらポジション変更の図を書いているようだ。

アルミン「今のライナーの動きを見て思ったんだけど、ライナーはGKに向いてると思う」

ベルトルト「うん。それは僕も思ったよ。出来るなら3試合目もお願いしたい」

ライナー「いいのか? 俺で」

アルミン「うん。ベルトルトは反応はいいけれど押し込まれると弱いみたいだ。多分、性格的にはDFの方が向いてると思う」

ベルトルト「僕自身、そう思うよ」

マルコ「でもそうなると右のFWは誰が代わりに入るんだい?」

アルミン「僕は右のFWにはコニーが一番向いてると思うんだ」

コニー「オレか?」

アルミン「うん。コニーはMFなのに前線よりに勝手に動いてたし、あんまり複雑な動きを要求されると頭混乱するんでしょ?」

コニー「バレたか」

アルミン「だから、来たボールをゴールに押し込む単純なポジションの方がいいと思う」

ジャン「だったらコニーの場所は誰が入る?」

アルミン「それも踏まえて、僕が考える新システムはこうだ」


FW エレン コニー

MF ミリウス ジャン ナック

DF サムエル ベルトルト マルコ トーマス フランツ

GK ライナー


マルコ「DFの方が人数多いね」

ジャン「これじゃ攻めきれないだろ。せめてMFは4人必要じゃないのか?」

アルミン「いや、僕が言いたいのはMFの司令塔をジャン、DFの司令塔をマルコに任せたいと言う事なんだ」

マルコ「司令塔を二つ立てるっていうのかい?」

アルミン「それに近い感じだね。だからマルコにはMFとDFの橋渡し的なポジションに入って欲しいんだ」

ジャン「ああ、それを考えるとオレが受け取るのが妥当か」

アルミン「二人の呼吸は傍で見ててもぴったりなのが分かるからね」

マルコ「責任重大だなあ」

ジャン「ま、でもやるしかねえだろ」

エレン「アルミンは出ないのか?」

アルミン「僕はちょっと、ずっと試合に出続けるのは無理かな……」

ライナー「まあ、アルミンは監督ポジションで皆を客観的に見てくれる位置でも構わんさ」

フランツ「そうだね。3試合目はこの新しいシステムでやってみようか」

男子一同「おー!」

何やら新しい作戦が決まったようである。コートが空き次第、次の3試合目に入る。

私は3試合目が始まる前にアルミンに何故このシステムに変更したのかを聞いてみた。

アルミン「ええっとね。この布陣は皆の性格を踏まえた上で考えたんだ」

ミカサ「性格?」

アルミン「ベルトルトってさ。身体能力は高いのにプレッシャーに弱い部分がある。でも、周りに味方が大勢いるって思えば普段よりリラックスしてプレイ出来ると思ったんだ」

そして3試合目が始まった。次は5組と対戦するようだ。

ユミル「……ああ、本当だ。さっきと動きが全然違うな」

確かに。GKの時は緊張していたのが傍から見ても丸分かりだったのに、DFに入った途端、ベルトルトの動きが俄然良くなっていた。

アルミン「でしょ? 周りに味方が大勢いるってだけで精神的に安定してプレイが伸び伸びし始めた。ほら、これでカウンターを決められるよ」

ベルトルトの蹴りはGKの時より凄まじく伸びた。

……ので、あっと言う間にコニーのいる付近までボールが届いたのである。

相手チームは突然のカウンター攻撃に慌てている。

しかも、そこに滑り込んだコニーがゴールを決めた。開始3分でなんと先取点である。

ユミル「よしゃあああ! いいぞベルトルト!!!」

1組女子はベルトルトに声援をあげた。本人はちょっと照れくさそうにしている。

ミカサ「なるほど。身体の大きさだけではポジションは決まらないのね」

アルミン「むしろ身体的なものより性格の方を重視した方が噛み合うと思うんだ。サッカーはチームプレイのスポーツだからね」

敵の反撃をジャンとマルコが防いでいる。中央のフィールドは彼ら二人の領域ようだ。

アルミン「よしよし。攻撃と防御のリズムが噛み合ってきた」

アルミンはすっかり監督のポジションで小さくガッツポーズをしている。

アルミン「ベルトルトは後ろにライナーがいるっていう安心感があるから、プレッシャーを感じる度合いが少なくなったと思うよ」

ユミル「そうか。基本的にあいつ、ライナーの腰巾着なところあるからな。なるほど」

アルミン「でもベルトルトの身体能力は高いから、カウンターが出来る。敵から見たらこれほど厄介な布陣はないと思うよ」

ふむふむ。なるほど。アルミンの考えたこの布陣はベルトルトの良さを引き立てる為の物だったのか。

アルミン「しかも、カウンターを決めた後はエレンとコニーの両翼がいる。あの二人の思い切りの良さは皆も知ってるよね」

今度はエレンの方がシュートを放った。おお、あっと言う間に2点目だ。

ミカサ「これは思っていた以上にうまくいってるのでは?」

2試合目の時と様子が違った。ポジションが変わるだけでこうも試合内容が変わるのだろうか。

私の感想はそのまま男子も思ったようで、ジャンやマルコも嬉しそうにしている。

ジャン「この新システム、案外いいな!」

マルコ「ああ。ベルトルトのカウンターがこうもうまく機能するなんて思わなかった」

敵はベルトルトを恐れ始めている。GKの時より驚異に感じているようだ。

その分、ライナーがちょっと暇そうにしている。

ライナー「GKの時にそれをやってくれよ、ベルトルト」

ベルトルト「うっ……面目ない」

ライナー「まあ、最後の砦って言う意味でのポジションで責任重大なのは分かるがな」

しかしそれを見抜いて采配したアルミンもまた凄いと私は思った。

ユミル「だがそうなると、敵はベルトルさんとの勝負を避けてくるんじゃねえか?」

アルミン「だろうね。トーマスとフランツの右翼側にボールが集中し始めたね」

ミカサ「あ、でもマルコがすかさず、フォローに入った」

アルミン「3対1だとさすがに相手も引くよね。でも、そこに……」

そう、ジャンが加勢してボールを取り戻したのである。

ミカサ「これは、攻めても攻めても攻めきれない…」

アルミン「そう。守備の人数を増やせたのもベルトルトのカウンターのおかげ。そうなるとこっちには余裕が生まれる」

3回目のシュートだ。今度はコニーが蹴ったが、惜しくもGKに防がれてしまった。

アルミン「ベルトルトを突破するか、トーマス、フランツ側を突破するか。相手も迷ってるうちに、今度はマルコが奪いに来る。いいリズムが出来てきたよ」

クリスタ「すごいね。アルミン! 皆、すごく動きが良くなってるよ!」

アルミン「噛み合ってきた、というべきかな。うん。最初の布陣を修正して正解だった」

そんなこんなで3点目が入った。3-0で前半戦を終えると、男子全員、アルミンにハイタッチをしてきた。

エレン「アルミン作戦、すげえうまくいってるぞ! やったな!」

ベルトルト「アルミン、ありがとう。おかげですごくやりやすくなったよ」

アルミン「へへへ……そう言ってもらえて嬉しいよ」

フランツ「…………あの」

その時、フランツが何やら深刻な顔で挙手した。

フランツ「ごめん。さっきの接触の時に足を捻ったかも…」

アルミン「え?!」

トーマス「ああ。敵も右翼側をこじ開けようと必死だったからな」

ベルトルト「うっ……それって僕との勝負を避けたからかな」

エレン「馬鹿! それは仕方ねえだろ! ベルトルトのせいじゃねえよ!」

ライナー「どれ、足を見せてみろ」

捻挫だろうか。歩けないほどではないようだが、これ以上のプレイは念の為にやめた方が良さそうだった。

エレン「仕方ねえな。フランツのポジションに別の奴入れるしかねえな」

ジャン「アルミン、出れるか?」

アルミン「ぼ、僕でいいの?」

マルコ「この新しい布陣を考えたのはアルミンだからね。アルミンも出た方がいいよ」

アルミン「でも………」

エレン「アルミンがいいに決まってるだろ! 体力きついなら、途中で交代してもいいからさ!」

ライナー「そうだな。途中交代を挟みながらでもアルミンには出てもらいたいな」

アルミン「皆……」

ミカサ「アルミンも出るべきだと思う。皆もそれを望んでいる」

アルミンは迷っていたようだが、フランツのポジションに出ることを決意したようだった。

そして後半戦が始まった。敵はやはりアルミンの位置を狙ってきた。

アルミンも善戦はしているが、やはり体格では及ばない。あっと言う間に抜かれてボールをゴール付近に押し込まれそうになる。

アルミン「くそっ!」

歯がゆそうだ。しかしそこには、トーマスとマルコが下がってフォローに入る。

敵からボールを奪い返して一度体勢を整えるようだ。

アルミン「ごめん、マルコ、トーマス」

マルコ「謝るのは無しだよ。まずは落ち着こうか」

マルコは慣れたように周りを見渡してベルトルトにボールを渡す。

ベルトルトの蹴りの飛距離は軽く前線に届くので、あっと言う間に反撃出来る。

しかし今度は敵も読んでいたのか、エレンの前に3人程集まっていた。

アルミン「あっ……」

その時、アルミンは何かに気づいたのか、ベルトルトに耳打ちしていた。

ベルトルト「え? 本当に?」

アルミン「間違いないと思う。読まれてるよ」

ベルトルト「ど、どうしたらいいかな?」

アルミン「いっそ、エレンとコニーの間に落としてもいいと思う。はっきりしたパスをしてはダメだ」

どうやら敵はベルトルトの癖を分析して、エレンとコニー、どちらにパスを回すかを先読みし始めたようだ。

だったらはっきりしたパスを出すのはまずい。

でも真ん中に落としたらそこに滑り込む選手はいないのでは…。

ボールが奪われてまた、敵が攻め込んできた。しかしそこをやはりベルトルトが防ぐ。

ユミル「ベルトルさん、GKの時よりよほど守護神してるじゃねえか」

全くである。DFなのに守護神という、奇妙な状態だが。

しかしベルトルトは自分のポジションを得てから本当に動きがいい。

アルミンの言うように、人には性格に合ったポジションという物があるようだ。

ベルトルトの蹴りは前線中央あたりに飛んだ。そこには誰もいないと思われたが…。

クリスタ「あ、あれは……!」

滑り込んだのは、ジャンだった。

MFである筈の彼がFWのエリアまで移動してシュートを放ったのである。

敵も意外な顔をしている。まさかジャンが攻撃側に回るとは思わなかったのだろう。

不意打ちのシュートが見事、決まった。この時点で4-0だ。

もはや勝負は決したと言えるだろう。

1組は追撃の手を許さぬまま3回戦も突破。次はいよいよ決勝戦である。

ユミル「ベルトルさん、すげえな。もはや守護神じゃねえか」

エレン「ははは! だよな! GKじゃないのにベルトルトが守護神だったな!」

皆にからかわれてベルトルトも照れくさそうにしている。

ライナー「全くだ。GKが一番暇だったんだが」

マルコ「まあまあ。暇なのはいい事だよ」

アルミン「にしてもまさか、敵がベルトルトの癖を見抜いてくるなんて思わなかったな」

ベルトルト「そんなにわかるもんかな? 蹴る方向って」

アルミン「どうだろうね。でも、敵の動きは明らかにベルトルトの蹴る方向を読んだ上でエレンの傍に集まった。やはり何処かで読まれてたとしか思えないよ」

ジャン「もしそうだとしたら、ちょっと厄介だな。オレもそう何度も前線に上がれないぞ」

マルコ「そうだね。となると、ベルトルトのカウンター頼みの作戦も危ないって事になるね」

と、何やらまたいろいろ作戦会議が始まったようである。

アルミン「うん。ベルトルトのカウンターを軸にもう一本、攻撃のパターンを作る必要性が出てきたね」

エレン「つーと、普通のパスルートも同時に考えておくのか?」

アルミン「うん。ベルトルトからエレン、コニー以外のルートも考えよう」

ライナー「それだったら、一度、俺にボールを戻してくれないか?」

と、その時ライナーの方から提案をした。

ライナー「蹴る飛距離で言えば俺もベルトルト程ではないが、そこそこ飛ばせる。ジャンのいる辺りまでなら一気に蹴れると思うが」

アルミン「なるほど。ベルトルトルートからライナールートの二択だね。いいと思うよ」

マルコ「つまり攻撃の軸を両翼だけじゃなくて3本柱にするって事だね」

ジャン「オレの仕事が増えるじゃねえか……」

サムエル「いい事じゃないか。女子に見られてるんだぞ?」

コニー「そうだぞ。モテるかもしれないぞ」

ジャン「そ、そうかな……?」

皆、おだてるのがうまいなあと思った。

マルコ「何よりあの子の見てる前で、サボるなんて真似出来ないだろ」

ジャン「マルコ、それ以上は言うなよ」

マルコの耳打ちの内容は詳しくは聞こえなかったが、何を囁いたのだろうか?

ジャン「まあいい。しょうがねえ。やるしかねえか」

決勝戦を前に皆で円陣を組んでいるようだ。

アルミン「いよいよ、決勝戦だ。このまま女子と一緒に優勝しよう!」

男子一同「おー!」

GKって心臓強くないと務まらないよね。と思い直し、
ベルトルト→ライナーにバトンタッチさせた。ごめんね。
ほら、ベルトルさんってライナーっていう存在がいてこそだからさ。
きっとDFの方が生き生きプレイ出来そうだと思ったんだ…。

あと、読み直したら安価、コニーはDF指定だったね。
見間違えて最初、MFに入れてた。わざとではない。許して…。

今回はここまで。続きはまた今度。

気合を入れ直していよいよ決勝戦である。

ギャラリーは女子だけではなく、敗退した男子も大勢いる。

決勝戦は2年1組と1年1組の偶然にも、1組同士の対決となった。

2年1組女子1「サッカー部の意地を見せなさいよ!」

2年1組女子2「そうだぞー! 1年に負けるな!」

2年1組男子1「おう! 1年には負けられん!」

どうやら決勝の相手の組には現役のサッカー部員がいるようだ。

こちらは運動神経のいいメンバーは揃ってはいるが、サッカー部員はいなかった筈。

その点が不利ではあると思ったが、アルミン立案の新システムがうまく機能している今、勝てない相手ではないと思う。

そしてホイッスルが鳴り、試合が始まった。

敵のチームは素早く中に切り込んで、アルミンのいる側を狙っている。

敵はやはりアルミン狙いのようだ。

アルミン「くそっ…!」

アルミンは運動が苦手だと言っていた。だからだろうか、動きが固い。

まるでGKをしていた時のベルトルトのようだと思った。

アルミンのいる右翼側が突破されたが、そこはライナーが防いでカウンターを放つ。

ジャンのいる付近までボールが戻って試合展開は拮抗を保っている。

こんなことを言うのも何だけども、アルミンはDFに向いてないのだろうか?

ミカサ「ユミル、アルミンの動きが硬いように思えるのだけども」

ユミル「ああ、まあそうだな。でも元々アルミンって確か、運動神経は良くないって自分で言ってなかったか?」

ミカサ「そうだとしても、ちょっと硬すぎるような気がする。これはベルトルトの時と同じく、ポジションが噛み合っていないのでは?」

ユミル「んー……もしそうだとしても私達が口出す事じゃねえしなあ」

と、ユミルがあくまで観戦者の立場を崩さない。

クリスタ「アルミンがDFに向いてないとしたら、他の何処がいいのかな?」

ユミル「うーん。やっぱり司令塔のポジションじゃねえの? ジャンかマルコのいる辺りか?」

サシャ「でも、あの辺は最も運動量が激しいポジションですよ? 体力ないと出来ないと思いますよ」

ユミル「だよな。まあ、アルミンのいる場所はどうしても敵に狙われちまいそうだな」

ユミルの言う通り、やはり敵はアルミンのいる辺りにボールを集めてくる。

アルミンの場所を突破されると、すぐライナーの所までいってしまう。

今のところ全部、ライナーがセーブしているからいいものの、このままでは先取点を奪われかねない。

ベルトルトがアルミンのいる方に寄っている。心配なのだろう。

しかしその時、アルミンが叫んだ。

アルミン「ダメだベルトルト!」

ベルトルト「え?」


ドン!


その時、敵はパスを切り替えてベルトルトの領域を突破した。

ベルトルト「しまった!」

なるほど。敵の真の狙いはこっちか。

アルミンを狙い続け、味方のフォローの動きに合わせてベルトルトの横を抜く。

さすが現役のサッカー部のいるチームだ。作戦がうまい。

ライナーの守るゴールは危うく奪われそうになったが、そこをジャンピングパンチでセーブした。

ベルトルト「あ、危なかった……」

ライナー「ベルトルト、アルミンが心配なのは分かるが持ち場を必要以上に離れるな」

ベルトルト「う、うん……」

ライナー「敵はサッカー部員のいるチームだ。今まで以上に厄介な相手だぞ」

ベルトルトは自分のミスを肝に銘じてそれ以後は持ち場を離れる事はなかった。

だがこのままではアルミンが弱点として狙われ続けてしまう。

ライナーとベルトルトのカウンターも3試合目の時程はうまく機能せず、前半戦は0-0で折り返してしまった。

アルミン「ふー……相手もさすがに研究してきたね」

アルミンは水を補給しながら何やら考えているようだ。

エレン「何か、3試合目の時ほどうまくリズムに乗れないよな。何でだろ?」

コニー「だよなあ。オレ達二人の攻撃、読まれてるのかな?」

ジャン「まあ、攻撃パターンが分かればカウンターもそこまで怖くはねえよ」

マルコ「うん。3試合目のカウンターは、ベルトルトの蹴りの飛距離を甘く見てた敵の油断があったからこそ、だもんね」

アルミン「まあそうなるね。1、2試合目の時のベルトルトの動きと、全然違ったから、敵も動揺したんだと思うよ」

ベルトルト「じゃあ、今はもう、僕の存在を恐れてないって事か」

アルミン「加えて敵もDFの数を大目にしてる。カウンターに対抗して持久戦で挑むつもりなんだよ」

ライナー「つまり同じような布陣で戦い合ってるから、ジリ貧になってるのか」

アルミン「そうだね。ここはまた、ちょっとポジションを変更する必要が出てきたかも」

アルミンは木の枝で地面に文字を書きながら作戦を練り直しているようだ。

アルミン「あのね、ちょっと奇策に近い布陣なんだけどさ」

エレン「ん? 奇策? ってことはあんまり見ない陣形って事か?」

アルミン「うん。ちょっと変な陣形になるけど、こういうのはどうだろう?」



FW エレン ジャン コニー

MF ミリウス ナック マルコ トーマス サムエル

DF ベルトルト ライナー

GK アルミン


エレン「ええええ?! DFが二人だけ?! ちょっと無謀じゃないか?!」

マルコ「さっきとは打って変わって攻撃的な布陣だね」

ジャン「つか、アルミン、GK出来るのか?」

アルミン「あんまり自信はないけど、まあ所謂『背水の陣』戦法かな」

マルコ「これって僕のポジションを抜かれたらやばいよね」

アルミン「責任重大だよ。マルコの場所が実質、守備の扇の要になるからね」

ジャン「なるほど。これだけ前線よりに人がいれば、突破するのもいけるんじゃないか?」

マルコ「いや、でももしカウンター食らったらベルトルトとライナーだけになっちゃうよ」

ベルトルト「……………でも、これならこっちのカウンターを打つルートがかなり増やせるよ」

アルミン「ベルトルトの言う通りだ。これなら、ベルトルトがカウンターを蹴るルートが全部で7つになるんだよ」

ライナー「ん? 8つじゃないのか?」

アルミン「マルコはMFと言っても、実質DF寄りに守って貰うから。マルコだけはMF&DFみたいな位置になるよ」

ジャン「あーなんだっけ。そういうポジションって別に言い方があったような」

アルミン「うん。CB(センターバック)またはCH(センターハーフ)だったかな?」

マルコ「なるほど。だったら、DFは2.5人って考えればいいのかな」

アルミン「そんな感じだね。後あれだよ。僕がGKをする事によって、皆に危機感が生まれるでしょ?」

エレン「うっ……まさか、そういうプレッシャーのかけ方するのか?」

アルミン「吉と出るか凶と出るか分かんないけどね。でも、これで一度やってみない?」

ライナー「わかった。アルミン作戦2ってところだな。いくぞ、皆!」

男子一同「おー!」

そしてアルミン作戦2による後半戦が始まった。

敵は案の定、カウンターを決めて中に切り込んできた。

マルコのいる場所が抜かれた。焦る表情が分かる。

やはりDFの層が薄過ぎる。と、皆が焦ったように思えた、その時、

ライナー「うおおおおおおお!」

ライナーが突進するようにボールを奪い返した。

そしてベルトルトにパスしてカウンターが決まる!

ライナーの動きがいい。何故だろう?

ライナー「いやーGKで休ませて貰った分、働かないとな」

そうか。GKはボールが来ない間は休憩できるという利点がある。

瞬発力と心臓の強さが必要なポジションではあるが、GKには試合中に休めるのだ。

ミカサ「あ、なるほど。だからアルミンがGKになったのね」

ユミル「ん? どういう意味だ?」

ミカサ「アルミンは体力がない。持久力がないからずっと走りっぱなしは出来ない。となると、走らなくてもいいポジションなら、アルミンにも出来る」

ユミル「でもボールが来たらあの手足のリーチじゃ防ぐのきついんじゃないか?」

ミカサ「そこは休憩していたライナーがフォロー出来る。現にDFとしてのライナーは二人分くらい走っている」

アルミン作戦2は、アルミン作戦の進化バージョンだが、案外うまく機能しているようだ。

何故なら、ベルトルト、ライナーの両翼のDFを敵チームはまだ突破出来ていないからだ。

ベルトルト「ライナーが横にいると思うと心強いよ」

ライナー「お前は本当に小心者だな」

ベルトルト「うん。自分でもそう思う。けど、アルミンがこの布陣に切り替えたのはきっと、僕ら二人のコンビネーションを見越してだと思うよ」

ライナー「ああ、だろうな!」

そして二人の蹴りの飛距離は、どちらも長い。

つまり敵は攻めてはまた戻らされ、攻めてはまた戻らされて徐々に体力を奪われていくのだ。

2年1組男子1「くそ! DFの数が減ったのに何で攻めにくいんだ?!」

2年1組男子2「あの長身二人組の息が合ってるからだろ! 名采配だな!」

しかも攻撃側には多くの人数がいる。敵のDFの数も多いが、そこはジャンがうまくパスを回してミリウス、ナック、と戻してはまたエレンに渡してじっくりかき回す。

そしてエレンがジャンに戻して、ジャンがゴールを狙う!

2年1組GK「させるか!」

ジャンピングパンチでボールが零れた。

しかしその隙を、エレンは見逃さなかった。

ヘディングシュートが決まって、後半戦、遂に先取点を取ったのである!

女子が、一気に湧き上がった。エレンが大注目されている。

外野女子「格好いいー! キャー!」

ジャン「くそ、おいしいところを持って行かれた!」

エレン「こぼしたお前が悪いんだろ! 一発で決めろよ!」

ジャン「ああ?! ここまでこれたのは、オレの戦略があってこそだろうが!」

何故かジャンとエレンがゴールを決めたのに喧嘩を始めてしまった…。

サムエル「おいおい、試合中だぞ! 喧嘩すんなって!」

ミリウス「喧嘩は後でしろ!」

エレン「ちっ……」

ジャン「くそ……FWはいいよな! ゴールを決めて目立ててよ!」

エレン「ああ?! 今はお前もFWだろうが! 自分で決めればいいじゃねえか!」

サムエル「蒸し返すなエレン! 全く……この二人を並べるのはまずいんじゃないか?」

ミリウス「一回、タイム取らせて貰おうぜ」

そんな訳で急遽、タイムが取られてしまった。

エレンとジャンはお互いに顔を背けている。これでは二人でFWをするのは難しそうだ。

アルミン「弱ったね。FW同士で喧嘩になっちゃうとは…」

エレン「オレは別に悪くねえだろ。自分の仕事をしたまでだ」

ジャン「こいつは、つなげたパスに対する感謝の念が足りねえよ!」

エレン「オレは別に感謝してねえとは言ってねえよ! 皆のパスがあってこそのFWだと思ってるよ!」

コニー「まあ、ジャンはヘタレだからFW向いてねえのかもな~」

ジャン「ああ?! なんつったコニー!」

アルミン「コニーまで余計な事言わないで…」

アルミンが頭を抱えているようだ。無理もない。

アルミン「仕方ない。ポジション、修正しようか」

渋々、現在のアルミン作戦2を、3に変更するようだ。


FW エレン コニー

MF ミリウス ナック ジャン トーマス

DF ベルトルト マルコ ライナー

GK アルミン


アルミン「攻撃力は下がるけど、ジャンはMFに戻そう。これから攻守のバランスも取れていいと思う」

マルコ「そうだね。1点先制したし、今度は無理に点を取りに行かなくてもいいからこれで十分だね」

アルミン「1点を守りきろう。敵は全力で残り時間、攻めてくるよ」

アルミンの予想通り、この後の敵の布陣は変わった。

残り時間で同点に追いつくべく、攻撃側に人数を割いてきたのだ。

しかしそこはDFにマルコが加わった布陣は強かった。

DFに余裕が生まれているおかげで、更に守備力が強化されて、敵も中に攻め込めない。

アルミンはGKであるが殆ど活躍の場はなかった。

ミカサ「もうこのまま決まるかしら」

ユミル「いや、油断は禁物だぜ。サッカーは残り5分からでも逆転がある」

ユミルは真剣に観戦しているようだ。案外、スポーツ観戦が好きなのだろうか?

クリスタ「このまま逃げ切って……!」

クリスタも祈っている。女子一同も固唾を飲んで見守っている。

しかし残り5分を切ったその時、ユミルの言った通り、ゲームが動いた。

ベルトルトの動きが急に悪くなったのだ。横を抜かれて、遂にアルミンが1対1の対決になる。

敵のシュートがアルミンの頭上を飛び越えて行きそうになる。

ミカサ「!」

しかしその刹那、アルミンはジャンプしてヘディングでセーブをしてボールが前面に零れた。

ミカサ「まずい!」

敵のフォローが早い。体勢の崩れたアルミンでは間に合わない!

蹴りと共にボールが放たれた。かなりの至近距離だが……


ドゴオオオオ!


アルミンが顔面でセーブした。ボールは跳ね返り、ライナーの方へ転がる。

笛が鳴った。審判がタイムをかけたのだ。

審判「大丈夫ですか? 怪我は?」

アルミンは鼻血を出していた。当然だ。至近距離のシュートを顔面でセーブしたのだから。

ボタボタと血が落ちていく様に女子もざわついている。

アルミン「大丈夫です。大した事ありません」

審判「それを判断するのは君じゃない。立てるかい?」

アルミン「はい……(フラッ)」

審判「ダメだね。担架を用意。保健室で治療を受けてきて」

アルミン「………分かりました」

アルミンは青褪めた表情で担架に運ばれる事になった。

エレン「ひでえラフプレーだなおい」

心配でゴール付近まで戻ってきたエレンが毒ついていた。

2年男子1「わざとじゃねえよ。つか、顔で受け止めるとか。素人か」

エレン「ああ?! 素人に決まってるだろ。何言ってやがる!」

エレンが2年の男子の胸ぐらを掴んでしまった。彼の方はバツの悪そうに視線を逸している。

2年男子1「普通はああいう時は避けるだろ! 何で自分から当たりに行ってんだよ!」

エレン「それはGKだからだろ! アルミンはそういう奴なんだよ!」

ああ、エレンの頭に血がのぼってる。まずい。

審判「やめなさい! 警告出しますよ!」

エレン「ちっ……」

エレンは舌打ちしてようやく離れた。怒りを溜め込んでいるようだ。

体を張ってセーブしたアルミンに尊敬の念と、心配の念が入り混じっているように見えた。

男子の何名かは一度、コートの外に出てアルミンの代わりを誰にするか話し合っていた。

ライナー「アルミンが抜けた以上、また布陣を変えないといけないな」

ベルトルト「………………ライナー」

ライナー「ん?」

ベルトルト「僕、GKに戻ってもいいかな?」

その時、何かを決意したようにベルトルトが自分からそう言い出した。

アルミンの体を張ったセーブに何か思うところが出てきたのだろうか。

ベルトルト「僕のせいだ。僕が最後、抜かれたからアルミンは無理をしたんだ」

ライナー「そんな事は考えなくていい。体力が消耗してきてたんだろ。お前は身体能力は高いが、持久力はそこまである方じゃないからな」

ベルトルト「うん……少しだけ疲れが出てきたんだ。でもまさか、抜かれるとは思ってなかった」

ライナー「敵もサッカー部員がいるだけあるってことだ。体力配分は向こうの方が上なんだろ」

マルコ「まあ、後半のこの時間が一番、辛い時間帯だよね」

ジャン「野球で言うところの9回裏スリーボールツーストライクツーアウトってところだな」

コニー「どういう意味だ?」

エレン「正念場って事だろ」

コニー「なら最初からそう言えよ!」

ジャン「いや、分かれよ。コニー野球部入ってんだろ」

コニー「はあ? その時間は一番、楽しい時間だろ! 辛いとか意味分かんねえよ」

ジャン「お前ポジションどこだ」

コニー「サード! 今は7番打者だけど将来は4番になるぜ!」

ジャン「悪かった。オレが今言ったのは、投手の立場だよ」

マルコ「つまり向こうにとっては、打者で、僕らは投手って事だね」

ジャン「ああ。オレはそう言いたかったんだよ」

コニー「ああ、そっか。オレ、打者のつもりで言っちまった」

コニーはちょっと勘違いをしていたようである。

エレン「まあいい。ここを逃げ切れれば勝ちなんだ。ベルトルトがGKに入るなら布陣をまた変更するぞ」

ライナー「ではこんな風に変えるのはどうだろうか?」


FW エレン

MF ミリウス ナック サムエル トーマス 

DF ライナー マルコ ジャン ダズ コニー 

GK ベルトルト


ライナー「ここはもう、逃げ切る事を前提にFWは一人でいいと思うんだ」

ジャン「コニーをDFまで下げるのか」

ライナー「ああ。コニーは複雑な指示をされると混乱するから、MFには向かないしな」

コニー「今度は守る方だな。いいぜ!」

エレン「オレがFWに残るのか」

マルコ「エレンはFWとして一番、活躍しているからね。ここは残って欲しい」

エレン「了解した」

ライナー「残り時間、逃げ切るぞ。もし同点に追いつかれたとしても、陣形は変えない」

エレン「ああ。もし追いつかれたらベルトルトのカウンターでオレがゴールを決めてやる」

ライナー「よし、じゃあ、いくぞ!」

男子一同「おおお!」

さあさあ。正念場だ。後半戦。残り5分を切ったところから再開である。

ホイッスルの合図と共にボールが動き出した。

ライナーの蹴りがマルコ、ジャン、サムエル、トーマス、と右翼側に繋がる。

敵は残り時間、全力で攻めてくるが、こっちもそれ相応に防御している。

特にコニーがうまい具合に敵のボールを奪い返している。

マルコ「コニーは単純な作業をやらせたらピカイチだね」

コニー「まあな!」

要は攻めるか、守るか。どちらかしか出来ないのだろう。

MFの場合は攻めるか守るか、その判断を瞬時にケースバイケースで判断しないといけない為、頭を使うポジションだ。

なので最初にMFをコニーにやらせてしまったのはミス采配だったと言えるだろう。

2年男子1「くそ……しぶといなこいつら」

2年男子は1年の動きが鈍っていない事に驚いているようだ。

ジャン「ははは! 元野球少年を舐めんなよ! 走り込みなら散々やらされてるんだよ!」

ジャンは後半になってもまだ動けるようだ。スタミナが違う。

ボールを奪い返してまたパスを繋いでいる。あと3分程度か。残り時間が刻々と過ぎていく。

だが、1組にはアルミンの代わりに入ったダズという穴があった。

ダズにパスが渡った瞬間を狙われてパスカットされる。

ジャン「げっ……!」

しかもゴール付近だった。これはまずい。

一気に空気が変わって敵がシュート体勢に入った。

ここで決められたらきっとPK戦にもつれ込む。

残り1分。時計が刻む途中で、そのシュートは放たれた。

ベルトルトが飛ぶ。果たして、結果は……。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならベルトルトのセーブ成功。奇数なら失敗です)

その時、運命の女神は悪戯をしたようだ。

ベルトルトの指先は確かにボールを弾いた。そしてゴールを守ったのだ。

しかしその直後、ボールは無情にもゴールの枠の部分に当たり、つまりビリヤードの球当ての要領に近い動きで、ゴールの中にボールが吸い込まれてしまった。

運のない。まさに運のないとはこの事だ。

ベルトルトのセーブ失敗に、空気が変わる。

敵チームは俄然、勢いに乗って全員の顔色が変わったのだ。

追いつかれる側というのは、プレッシャーだ。

残り時間は、1分を切っている。

ライナーがベルトルトに耳打ちをしていた。

恐らくここで蹴るベルトルトのカウンターが勝負の行方を決する事になるだろう。

ベルトルトは辛そうな表情ではあったが、奥歯を噛み締めて大きく蹴った。

一人だけ前線に残っていたエレンがそのボールに追いつき、今回最大のカウンターが始まった。

エレン「うおおおおおおおお!」

3対1だ。エレンは一人、抜き、また一人抜き、また一人抜いた。

終盤に見せる神がかった集中力に外野も息を飲んで試合を見守る。

エレンのシュートが、放たれた。

恐らくここが最後の攻撃だろう。残り時間は、10秒もない。

果たして結果は……。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならエレンのシュートが成功。奇数なら失敗です)

ボールは、ゴールの左端の枠に当たってしまった。

ただしこちらはベルトルトの時とは逆に大きく弾かれ、シュートが失敗してしまう。

その直後、ホイッスルが鳴った。後半戦が終了したのだ。

PK合戦にもつれ込んだ。1組は今度は先攻になったようだ。

ライナー「誰から行く?」

責任重大なこの場面、誰から行くのだろうか…。

ライナー「…………おい、皆、顔が暗いぞ。気持ちを切り替えろよ」

エレン「…………」

ライナー「特にエレン、ベルトルト。お前ら二人、暗過ぎる。女子の前でそんな顔してどうするんだ」

ライナーの発破に二人はようやく顔をあげた。

私は遠くからエレンに「頑張れ」と声をかけるしかない。

エレンはまだ顔色が優れなかったが、頷いてくれた。

ライナー「よし、ここは俺からいくぞ。まずは先取点を取ってくる」

ピー!

ホイッスルが鳴った。ライナーが、位置について走り込む。

ボールは右端に飛んだ。結果は果たして…。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならライナーのシュートが成功。奇数なら失敗です)

ミカサ「よし!」

ユミル「よしゃあああ!」

クリスタ「決まったああああ!」

アニ「まずは先取点だね」

ライナーのキックはうまい具合にゴールに突き刺さった。

これで空気が変わったかもしれない。次はベルトルトのセーブだが…。

ベルトルト「ライナー、やはり僕はGKに向いてないかもしれない」

ライナー「おいおい」

ベルトルト「この大事な場面、防げる自信がない。キーパーを替わって貰えないだろうか」

ライナー「それは構わないが、お前、本当にそれでいいのか?」

そう言って、ライナーは私達女子の方を見ている。

ふと、ライナーの視線の先を追うと、誰かを見ているような気がした。

その正確な位置は分からないが、ライナーはベルトルトを説得しているようだ。

ライナー「格好いいところ、見せたくないのか? あいつに」

ベルトルト「うぐっ………」

ライナー「まあ、譲ってくれるっていうなら、俺もクリスタにいいところを見せられるからいいけどな」

ベルトルト「……………」

ベルトルトは何やら迷っている様子だ。と、そこに治療を終えたアルミンが帰ってきた。

アルミン「ベルトルト! 頑張れ!」

アルミンは鼻の部分に一応、包帯とガーゼをしていた。

ミカサ「アルミン、まさか骨折?」

アルミン「いやいや、そこまではないよ。ただ、鼻血が止まるまでは止血してるだけ」

と、アルミンが言ったので一応ほっとした。

アルミン「ベルトルトは体格で言えば一番、GKに向いているんだ! 自信を持って!」

ユミル「そうだ! アルミンの言う通りだ! リーチの長いお前がゴールを守れ!」

ベルトルトは外野の声援に驚いた表情を見せている。

ライナー「俺はどっちでもいいぞ。だが、今回だけは自分で決めろ」

ベルトルト「ライナー………」

ライナー「こんなに盛り上がってる場面で、GKをやれる機会なんてそうはないと思うがな」

周りを見ると恐らく2年1年、殆どの女子と、試合に敗れた男子が見学している。

こんなに大勢の人間がグラウンドに集まる機会はそう多くはないだろう。

ベルトルトは、暫く悩んでいたようだが、気持ちを固めたようだ。

ベルトルト「わかった。やる。やらせてくれ」

ライナー「ああ、ベストを尽くそう」

コニー「そうだな! ベストを尽くそうぜ!」

ジャン「頼んだぞ」

マルコ「大丈夫だよ! ベルトルト!」

サムエル「気持ちを楽にな!」

トーマス「手足の長さを活かせば大丈夫!」

ダズ「が、頑張ってくれ……」

ナック「自分に負けるなよ」

ミリウス「お前なら出来る!」

エレン「ベルトルト、頼む」

皆の声援に見守られてベルトルトが再びGKのグローブを身につけた。

さあ、敵の攻撃をセーブ出来るか否か。

勝利の女神はどちらに微笑みかけるのか。

ピー!

シュートが、放たれた。ベルトルトのセーブは果たして…。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならベルトルトのセーブが成功。奇数なら失敗です)

ミカサ「おおお!」

ユミル「よしゃああああ!」

クリスタ「防いだあああ!」

ベルトルトが見事にボールを弾いた。迷いなくボールを防いだのだ。

これには敵チームも少し気落ちしたようだ。よしよしよし。このまま勝って欲しい。

ライナー「次は誰が行く?」

コニー「オレ、やりたい!」

ライナー「よし、じゃあコニーに打たせよう。決めろよ!」

コニー「おう!」

1組の女子は「コニーガンバレー!」と声援を送る。

ピー!

コニーのシュートが放たれた。ボールは……。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならコニーのシュートが成功。奇数なら失敗です)

ミカサ「おお?!」

ユミル「左端いった!」

クリスタ「キーパーの手が届かない!」

ごおおおおおおる! コニーのシュートはギリギリ入った!

コニー「よしゃああああああ!」

勢いがついてきた。このままいけば勝てる! きっと勝てる!

次はまたベルトルトのセーブだ。今のベルトルトならきっとセーブ出来る。

アニ「頑張れ」

アニが小さく呟いた。多分、ベルトルトの耳には届かない声だけれども。

敵チームがシュートを放った! その結果は…。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならベルトルトのセーブが成功。奇数なら失敗です)

はっ

キーパーやってるライナーはオリバー・カーンで再生された。

>>305
実は内心、私もそう思って書いてました。似てる…。
41秒なので失敗ルートで続き書きますね。残念!

ミカサ「ああ……」

ユミル「おう……」

アニ「セーブ失敗か…」

ため息が外野から溢れてしまった。いや、ここはため息をついてはいけない。

口にチャックをして見守る。ベルトルトは非常に悔しそうだった。

ベルトルト「……ここでセーブ出来れば、有利なまま進められたのに」

ライナー「まだ大丈夫だ。逆転された訳じゃない」

ベルトルト「ごめん……」

ライナー「大分、疲れが見え始めているな。集中力が切れかかってるなら、GKを交代してもいいぞ」

ベルトルト「でも………」

ライナー「格好いいところは見せられただろ? 最後の美味しいところは俺に譲ってくれないのか?」

ベルトルト「………ありがとう。ライナー」

どうやら次のGKはライナーに替わりそうだ。

現在の勝負の行方はこんな感じだ。

1年1組 ○ ○ 

2年1組 × ○

ジャン「次はオレがいってもいいか?」

ライナー「ああ、いいぞ。決めてきてくれ」

ピー!

笛が鳴った。ジャンが走り込んで、蹴る。

右端にボールが飛んだ。その行方は…。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならジャンのシュートが成功。奇数なら失敗です)

ミカサ「おお!」

ジャンのシュートが一瞬弾かれてダメかと思いきや、ゴールの枠に当たって中に入った。

ラッキーゴール再びである。今度はこっち側が幸運に恵まれた!

ジャン「よしゃああああああ!」

女子は大盛況である。これで次、セーブを決めたら私達1年1組の優勝になる!

ライナー「じゃあ、いってくる」

美味しいところでライナーの登場だ。ここでセーブを決めたら明日から彼はヒーローだろう。

敵チームも緊張の面持ちだが、ここで登場したのはサッカー部員の彼だ。

アルミンにうっかり顔面シュートを放ってしまった彼は外野のアルミンを一度見ると軽く頭を下げた。

あれはやはり事故だったのだろう。決してわざとではなかったようだ。

ピー!

シュートが、放たれた。運命が決まる一瞬だ。

勝利の女神は、どちらに微笑みを浮かべるのか…。

(*次の方のレスの秒数が偶数ならライナーのセーブが成功。奇数なら失敗です)

ライナー「ふん!!!」

正面に飛んできたボールをライナーは気合と共に防いだ。

それと同時に優勝が決まり、その瞬間、なんと1年1組は男女でダブル優勝を果たすという快挙を遂げたのだった。

男子は全員、ライナーの元に走って駆け寄り、大いに勝利を喜んだ。

ジャン「やったなライナー! さすがだぜ!」

マルコ「凄いよライナー! よく止めた!」

グラウンドは拍手喝采だった。女子の中には泣いている者もいる。

クリスタ「凄かったあ。ライナー格好良かったよ~」

ユミル「いや、ベルトルさんも頑張った。皆、よくやったよ」

アニ「おめでとう」

ミカサ「しかしよく止めた。左右にボールが飛ぶのが多かったから、釣られるかと思ったのに」

敵味方合わせて殆どのキッカーが左右に振り分けて蹴っていたので、キーパーはどちらかを先読みして飛んでセーブする事が多い。

ボールが飛んでから反応しても間に合わないからだ。

しかしライナーは左右に飛ばずに来たボールを素直にそのまま受け止めた。

その度胸の良さは、賞賛に値する。

ライナー「ああ、まあ……そろそろ正面にも来るかなと、何となく思ったんだよ」

ライナーは照れくさそうに笑っていた。いや、そう思ってもなかなかそれに賭けるのは難しいことだと思う。

ベルトルトは感動で泣きべそをかいている。そんな彼をライナーは「泣くな泣くな」と宥めていた。

エwwwレwwwンwww
あんまし活躍してないwwww

2年1組の対戦相手達は全員、悔しそうにしていた。

サッカー部員の彼はそれでも、ライナーに握手を求めた。

読み合いで負けた事に対して思うところもあるだろうが、それでも勝ったのはこちらだ。

負けた側は悔しさを飲み込んで勝った方に祝福を述べたようだ。

そしてサッカーコートの整備が終わった後、体育館に全員、再び集まって表彰式が行われ、この日の球技大会は幕を下ろしたのだった。

球技大会が終わった後の放課後は、それはもう、賑やかなものだった。

何故なら今回活躍したライナー、ベルトルト、ジャン、コニー、そしてエレンは女子の注目を浴びて早速、声をかけられていたからだ。

おまけにライナーとベルトルトはサッカー部からも勧誘されているようだ。

私の方も何故か今頃になってバレー部からお声がかかってしまったが、既に演劇部に加入している旨を伝えると物凄い勢いでがっかりされてしまった。

バレー部員「あああ何で入学式のすぐ後に声かけなかったんだろ!」

と、すっかり落ち込んでいる。まあ、私のスピーチがアレだったせいで声をかけずらかったのだろう。

私の代わりにユミルとサシャ、あとアニもバレー部から勧誘されていたが、ユミルは「クリスタ次第」の一点張りだし、サシャは「お腹がすくので無理です」とよく分からない拒否をしているし、アニは「実家が道場経営してるんで」と家の事情を理由にして断っていた。

これだけの逸材が揃っているのに、現在、まともな運動部に所属しているのはどうやらコニーだけらしい。

運動部の先輩達が「才能の無駄遣いのクラスだ!」とすっかり嘆いていた。

ミカサ「ライナーは運動部には入らないの?」

ライナー「うーん。まだ迷ってるんだよな。ラグビーとバスケとバレーとサッカーと野球部から声がかかっているんで、返事を保留にして貰っている」

ミカサ「そ、それはなかなか選択肢が多いようね」

ライナー「ははは……まあ、体がでかいのと、運動神経がいいのが取り柄だからな」

ベルトルト「いや、それに加えて勝負強さもだよ」

その時、ベルトルトが会話に自ら加わってきた。

ライナー「お前も確かバレー部から誘いが来てただろう?」

ベルトルト「うん…でも今回のサッカーでも思ったよ。僕はライナーとコンビが組める部に入りたい」

ライナー「おいおい。お前も相変わらずだな。まあ、だったらもう少し時間をくれ。じっくり考えて決めたいんだ」

と、ライナーとベルトルトは教室の席に座って話し合っている。

二人はいずれ、どこかの運動部に所属するつもりなのだろう。だとすれば才能の無駄遣いにならずに済みそうだ。

ユミル「いやだから、私はまだ運動部に入るとは言ってないですって!」

その時、少し離れた席ではまだバレー部の先輩が居残ってユミルを勧誘していた。

バレー部員「いや! せめて一人くらいは勧誘しておかないと! こっちも困るのよ!」

ユミル「そんな無茶な……助けてくれ、クリスタ」

クリスタ「そんなに熱心に勧誘してくれるなら、バレー部でもいいけど」

ユミル「バレー部に入ったら突き指とかする事もあるんだぞ? クリスタの手先を怪我させたくない」

クリスタ「うーん。そうか。突き指はちょっと嫌かな」

ユミル「そうそう。もっと安全で楽しめるスポーツにしよう。後、変な男に注目されないやつがいい」

ユミルの条件は非常に難しいように思われた。

スポーツには怪我はつきものだ。怪我をしにくいのと言えば水泳くらいしか思いつかない。

しかし水泳は水着になるし、男子に見られたら、注目されるに決まっている。

その二つの条件を満たすスポーツなんてあるのだろうか?

水泳部員「安全性で言ったら水泳部が一番だよ! 怪我しにくいし!」

ユミル「でも溺れたら危ないじゃないですか」

水泳部員「うっ……そ、それはそうだけども、でも、他のスポーツよりは安全だからさ!」

バレー部員「いや、バレーだってちゃんと練習すれば大丈夫だから! 何より楽しいし!」

バスケ部員「それを言ったらバスケも楽しいよ!」

テニス部員「いや、テニスだって楽しいし!」

ああ、もう、第二次勧誘合戦が始まってしまった。

演劇部に所属していて良かったと思う瞬間である。

私の場合は既に演劇部に所属していると伝えたら、渋々諦めてくれたのだ。

勿論、掛け持ちでもいいとは言われたが、いきなり掛け持ちで部活を両立させられる程、私は器用でもないので断ったのだ。

ユミル「ううーん」

クリスタ「ユミル、ここは何処かに入らないと帰して貰えそうにない空気だよ?」

ユミル「クリスタは何処に入りたいんだ?」

クリスタ「私はユミルがいれば何処でもいいよ」

ユミル「それは私も同じなんだが」

クリスタ「じゃあ、私が個人的に、ユミルにやって欲しい部活でもいいの?」

ユミル「ああ、まあ……それでもいいけど」

クリスタ「じゃあねーユミルには>>318に入ってほしいな!」

(*ユミルに似合いそうな部活をあげてください)

(*ちなみにここでユミルが入る部にクリスタも入ります)

(*するとクリスタに釣られて、ライナー、ベルトルトも一緒に入ります(笑))

弓道

ユミル「弓道部? また意外なところをついたな」

クリスタ「そう? あのしゅぱーんと矢を放つところ格好いいじゃない!」

バレー部員「えええええ?! 弓道部?! あの何とも言えない部活がいいの?」

クリスタ「むっ…何とも言えない部とは失礼ですよ」

バレー部員「あ、ごめんごめん。でも、ユミルはその、長身を生かした部に入るほうがいいと思うなー」

テニス部員「そうそう。体格を生かした部の方が活躍出来ると思うなー」

ユミル「いや、今回の球技大会で思ったが、体格とスポーツは必ずしも一致しないってわかったからな。ベルトルさんがいい例だろ」

クリスタ「そうだったね。ベルトルトはライナーが傍にいないと力を発揮出来なかったもんね」

ユミル「そうそう。私の場合は団体競技はそこまで好きって訳じゃないし……マイペースにやれる部の方がいいかもしれん」

クリスタ「じゃあ弓道部に見学しに行ってみる?」

ユミル「おう、いいぞ。一緒に行くか」

クリスタ「将来的にはね、流鏑馬(やぶさめ)が出来るようになって欲しいんだ」

ユミル「あの馬に乗りながら矢を放つあれか?(てくてく)」

クリスタ「そうそう…! 絶対格好いいよ! (てくてく)」

教室をフェードアウトしていく二人に、先輩達は嘆き悲しむ。

先輩達「「「「ああああああ……(がくり)」」」」

勧誘失敗のようである。残念である。

ライナー(ガタッ)

ベルトルト「ライナー?」

ライナー「俺も弓道部を見学してくるぞ」

ベルトルト「ええええ? まさか……ライナー」

ライナー「ベルトルト、すまない! 俺はこう見えても健全な高校生なんだ…!」

ベルトルト「うん……分かったよ。ライナーに任せるよ」

ん? 何故かライナーがクリスタとユミルを追いかけて行った。ついでにベルトルトも。

どうやらあの四人は弓道部に入るようだ。球技系の先輩達は全員、可哀想な顔をしている。

バレー部員「ミカサ! こうなったら掛け持ちでいいから是非うちに!」

テニス部員「お願いします!」

バスケ部員「お願いします!」

水泳部員「お願いします!」

陸上部員「お願いします!」

運動部の人って何でこう強引なんだろう? この押しの強さが返って逆効果なのに。

ミカサ「何度も言いますが、掛け持ちは無理です」

バレー部員「試合の時だけの助っ人でもダメ?」

ミカサ「それでは他の部員に対して心証が悪くなるでしょう?」

バスケ部員「おお、他の部員の事もちゃんと気遣えるとは、なんていい子なの! 是非とも欲しい!」

ミカサ「今頃言われても遅いです」

そろそろお昼ご飯を食べたい時間だ。あまり時間を取られると午後の部活動に差し障る。

ミカサ「では、先輩達、さようなら」

私は強引に先輩達から離れてエレンのところに向かった。

エレンはエレンで運動部から声をかけられたり、女子に囲まれたりしているようだ。

でもその顔色はあまり良くない。元気がない様子だ。

疲れているのだろう。あれだけ動き回った後なのだ。早くご飯を食べたい筈。

ミカサ「エレン、お昼を食べよう」

アルミンは午後の授業がない時は先に帰る。なので土曜日は私とエレンは二人でお昼を食べる。

エレン「お、おう。もうそんな時間か」

エレンも先輩達の輪から抜け出して教室を出た。

エレン「どこで食べる? 今日は中庭も空いてるんじゃねえか?」

部活に入っていない子達は先に帰宅している為、確かに校内の生徒の数は少し減っている。

ミカサ「天気もいいし中庭で食べよう」

という訳で中庭の東屋を確保してエレンとお昼をとる事にした。

エレン「はあああああ」

弁当を広げるなり大きなため息をついたエレンだった。

ミカサ「どうしたの?」

エレン「いや……今日の球技大会、活躍出来なかったなあって」

ミカサ「そんなことない。エレンは頑張った」

エレン「でもよー1番、決めたい時にすかしたんだぞ。あの場面は、シュート決めたかった…」

恐らく後半戦の最後のシュートの事を言ってるのだろう。

エレン「PK戦にもつれ込む前にあそこで逆転してりゃあな…くそ、オレもジャンの事言えたもんじゃねえな」

そう言えばシュートを決めなかったジャンに対して文句を言ってたような。

ミカサ「エレン、それは結果論。エレンは十分頑張った」

エレン「そうだけど……やっぱりあそこで決めた方が格好良かっただろ?」

ミカサ「ううん。エレンはずっと格好良かった。今日の試合、皆、格好良かったと思う」

私は素直な感想を述べた。出場している男子全員、汗を流して格好良かった。

ミカサ「前にも言ったと思うけど、結果が伴わない事もある。それよりも、それに向かって頑張っている姿が好き」

エレン「そうだろうけど、やっぱり男は結果を出したい生き物なんだよ!」

と、エレンはブチブチ言っている。男の子はいろいろ面倒臭い生き物だ。

エレン「はー……特に前線に出る奴は結果を出してこそだしな。皆のパスを最後に決められないとFWの意味はねえし」

ミカサ「それは分かるけども」

エレン「だろ? 皆に支えて貰ってる立場なんだから、結果は出してえよ」

エレンは本当に優しい人だと思う。こういうところは本当に尊敬出来る。

ミカサ「エレンはやはり、表側の人間なのね」

エレン「ん?」

ミカサ「皆の光。その前向きな明るさは、皆を明るく照らしていると思う」

私がそう、素直な思いを告げるとちょっとだけ悲しそうな顔になった。

エレン「いや……それを言ったら、多分、ライナーの方がそういう奴だよ。本当はオレもPKに出るべきだったんだろうけど、すぐに気持ち切り替えられなくて、言い出せなかった。情けねえけど」

ああ、だからエレンはすぐに立候補しなかったのか。

エレン「だからコニーやジャンが決めてくれて助かったと思ったよ。もし、後半までもつれ込んでオレの番まで回ってきてたら、決められてたかどうかは分からねえ」

ミカサ「そう……」

エレン「ライナーにはかなわねえな。やっぱりあいつはすげえ奴だよ」

エレンはライナーの兄貴っぷりに尊敬しているようだ。

確かにあの場面、エレンがシュートを外してベルトルトが気弱になっている場面で、空気を変えたのはライナーだった。

皆の頼れる兄貴分なのは間違いない。級長に選ばれたのも妥当だと思った。

エレン「ライナーはまだ部活入ってないとか言ってたが、勿体無いよな。バスケとかバレーとか似合いそうだがサッカーもいけそうだし」

ミカサ「ライナーは恐らく弓道部に入ると思う」

エレン「はあ?! 何でそこで弓道?」

ミカサ「クリスタが弓道部に興味を示しているので、後ろを追っていったのを先程見た」

エレン「えええ……まさか、クリスタの後を追うつもりかよライナー…」

先程までの尊敬の念が少し消えてしまったようだ。可哀想に。

エレン「女の尻追いかけてる場合かよ……ライナーなら運動系なら何でもいけるだろ」

ミカサ「弓道も一応、スポーツに入るけれども」

エレン「いや、それは分かってるんだが、もっと合うところあるだろって話だよ」

ミカサ「好きな人を追いかけて同じ部に入るのはそんなに悪い事だろうか?」

エレン「…………いや、まあ、個人の考えはそれぞれだからオレは反対はしねえけどさあ」

と、エレンはまたブツブツ言いながらお弁当のおかずを啄いている。

エレン「ライナーはそっか。クリスタが好きっぽいなとは思ってたが、本気なんだな」

ミカサ「あの態度を見ればほぼ確定だと思う」

エレン「まあ報われるといいけどな。クリスタは競争率高そうだけど」

ミカサ「エレンも先程、2年女子に囲まれてたけれど……」

私がそう突っつくと、エレンはごっくんと、喉を詰まらせかけた。

エレン(ゲホゲホ)

ミカサ「?」

エレン「あーいや、その………まあ、なんかいろいろ声はかけられたよ。うん」

ミカサ「告白されたの?」

エレン「いや、それはねえけど、何か勝手にアドレス渡された。メル友からお願いとか何とか」

ミカサ「それは良かった。エレンはモテている」

エレン「別に嬉しくはねえよ。相手のこと殆ど知らんのだし」

ミカサ「嘘。本当は嬉しいくせに」

エレン「お前な……オレがモテても何とも思わないのか?」

ミカサ「? モテるのはいい事では?」

私が素直に賞賛するとエレンは何故かがっくり肩を落とした。

エレン「そこは嘘でもいいからヤキモチ焼く素振りを見せろよー」

ミカサ「え? 何故?」

エレン「その方が女の子らしいだろ?」

ミカサ「そうかしら? 女らしくなくてごめんなさい」

エレン「いや、素直に謝る必要はないんだが……」

と、エレンは私の方をじーっと見つめてきた。

ミカサ「何?」

エレン「いや、ミカサって美人だよな。オレよりも、モテるんじゃねえの?」

ギックー!

忌まわしき過去の記憶が蘇り、ついつい青褪めた表情になってしまった。

ミカサ「大丈夫。私はモテない。中身が残念なので」

エレン「いや、そんな事はないと思うが……あいつはミカサ狙いっぽいし」

ミカサ「え?」

エレン「いや、何でもねえよ。ま、もし将来彼氏が出来たらちゃんと紹介しろよ。見定めてやるから」

ミカサ「そう? エレンの審査を通さないといけないの?」

エレン「だって義理の義理の兄弟になるかもしれんのだし……って、気が早いのかもしれんが」

とエレンはちょっとだけ照れたように言った。

エレン「……悪い。ちょっとお節介が過ぎたか。やっぱり無しで。ちゃんと好きになった奴なら認めてやるよ」

ミカサ「そう……」

そんな風にたわいもない話をしていたら、そこに、

ジャン「お前らここに居たのか」

と、何故か途中でジャンが合流してきたのだった。

そして私の隣に入って「ここいいか?」と一言。

エレン「ダメだ。お前はこっちの席だ」

と、何故か自分の横を指定するエレンだった。

なんだ。エレンはちゃんとジャンのこと、好きなのね。素直ではないようだ。

ジャン「ちっ……小舅か。てめーは」

ジャンの言うことはあながち間違いではない。

ジャン「いやーにしても参った参った。サッカー部の先輩達にさっきまで熱心に誘われててよ」

エレン「ああ、だろうな。オレもさっきまでそうだった」

ジャン「でもオレは演劇部に入ってるって言ったらすげー残念そうにされてさー」

エレン「オレもそうだよ」

ジャン「掛け持ちでもいいからさー入ってくれないかって言われてどうするか迷ってたら遅くなったんだよな」

エレン「オレは迷わなかったけどな」

ジャン「お前はいちいち突っかかるなよ。オレはミカサに話してるんだよ」

エレン「ミカサも同じような目に遭ってるんだからだいたい想像はついてんだよ」

ジャン「そりゃそうだが、報告するのはオレの勝手だろ」

ミカサ「二人共、飯時に喧嘩しない」

ああもう。何でこの二人は近づくといつもこうなるのか。

ミカサ「ご飯は楽しく食べたいので、喧嘩はしないで欲しい」

ジャン「すまん……」

ジャンの方は反省してくれたようだが、エレンはツンとしている。

エレン「はあ。全く……どいつもこいつも青春しやがって」

ミカサ「?」

エレン「何でもねえ。ちょっと愚痴を言っただけだ」

言ってる意味がさっぱり分からなかった。しかしジャンには意味が通じたようで、

ジャン「は! エレンはまだまだお子様なんだろ」

エレン「ああ?」

ジャン「初恋もまだとかいうタイプなんじゃねえの? そうなんだろ?」

エレン「んなわけあるか。初恋くらいなら既にしてるに決まってるだろ」

ミカサ「え? そうなの?」

それは初耳だった。

ジャン「ほーあれか? 幼稚園の先生とかか?」

ミカサ「そうなの? エレン」

エレン「いや、違うけど」

ジャン「じゃあいつだよ。小学校か? 中学か?」

エレン「………………………小学生だ」

これは意外。エレンは既に初恋を済ませていたのだ。

ジャン「ふーん。ま、オレと似たようなもんか」

ミカサ「いいな。私はまだ、初恋もない」

ジャン「え……」

エレン「え……」

ミカサ「恋をしたことがないので、恋愛感情が分からない。とても羨ましい」

と、私が言うと二人はちょっとだけ無言になった。

ミカサ「? 何か変な事を言っただろうか?」

エレン「いや……そっか。まあでも、これからだろ、きっと」

ジャン「ああ、きっとそうだ。運命の相手がきっと現れる」

ミカサ「そうだといいのだけれども」

ジャン「身近にいるかもしれない。周りの男をよく見ればいると思うぜ」

ジャンがそう、言ってくる。もしそうなら嬉しいけれども。

ミカサ「では今後は注意して見てみよう。部の先輩やクラスメイトも含めて」

ジャン「おう! きっといる! 頑張れよミカサ!」

ミカサ「うん」

ジャンは何故か応援してくれる。いい人だと思った。

エレン「飯、食い終わったならぼちぼち部活行くぞ」

ジャン「あ、ちょっと待ってくれ。あともうちょい」

エレン「早くしろよ。1年が遅れたらまずいだろ」

ジャン(もぐもぐ…ごっくん)

ジャン「悪い。待たせた」

エレン「じゃ、ぼちぼち移動するか」

ミカサ「そうね」

そして私達三人は昼食を食べ終わって部室に移動する事になった。

音楽室にはこの間、部員紹介の時にはいなかった女子がいる。

先輩女子「あーーーーーーー」

発声練習をしているようだ。あ、でも、この人は前にも見覚えがある。

確か、エレンと一緒に初めて音楽室に訪れた時にいた女子生徒達だ。

あれ? そう言えばあの時の女子は、部員紹介の時にはいなかったような。

でも何故、ここで発声練習をしているのだろうか?

先輩女子「あ、そっちの馬面の子は初対面だっけ?」

ジャン「は、はい」

先輩女子「どーも! パクです! 元部員の2年です。時々発声練習させて貰ってるんだ」

エレン「あれ? 確か俺達が初めてここに来た時にいましたよね? てっきり部員かと思ってました」

パク「うん。元部員なんだ。実は私、劇団に在籍しててね。メインはそっちで、こっちはたまに助っ人でやってるんだ」

ミカサ「劇団所属……」

ジャン「え?! って事はまさか、プロって事ですか?」

パク「そうだよ~スカウトされたから、今は劇団の公演中じゃないんで、こっちにも顔出してるんだ。ユウとユイも劇団所属だよ」

ユウ「どうも! 初めまして!」

ユイ「初めまして。ユイです」

おおお。なるほど。そういう繋がりもここにはあるのか。

パク「将来本気で役者か声優目指す子は演劇部に所属している間にスカウトされて、プロの劇団に移籍する例も珍しくないんだ。ペトラ先輩達もスカウトされた経験あるけど、進路が違うから断ったみたいだけど」

ユウ「公演の出来によってはスカウトの声がかかる事もあるよ」

ユイ「私達三人は去年、声がかかって2年から移籍したんだ」

おおおお。すごい。何だかドキドキしてきた。

パク「今日は暇だったからこっちにも遊びに来たんだ。私達以外にも、劇団所属の元部員はいるから追々紹介してあげるね」

エレン「はい! ありがとうございます!」

これだけ女性との縁があればきっと、ジャンのお眼鏡に叶う女性もきっと現れるのではないだろうか?

ミカサ「ジャン、良かった」

ジャン「え?」

ミカサ「綺麗なお姉さん達がいっぱい……きっといい人がいる」

ジャン「……………」

あれ? ジャンが何故か無言だ。

ジャンは彼女が欲しくて演劇部に入った筈だが…。

と、その時、オルオ先輩達三年生の四人組が部室にやってきた。

オルオ「お? 今日はパク達も来てるのか」

パク「あ、どーも! お邪魔してます!」

ペトラ「ちょっと聞いてよパクー! オルオと脚本煮詰めてたんだけどさー」

と、先輩達は何やら込み入った話を始めたようだ。

ペトラ「絶対、新選組系の時代劇やるっていって聞かないんだよー予算考えてよって言ってるのに、融通きかないし!」

パク「新選組ですか? 去年も冬公演でやりましたよね? またやるんですか?」

オルオ「今度はスポットを別のキャラに当てるんだよ。題して『侍・悲恋歌』だ」

ペトラ「私は純愛路線やりたいのに! ちょっと私の書いたの読んで!」

と、ペトラ先輩は別の路線を押しているようだ。

パク「ふむふむ。ちょっと速読しますね。…………オリジナルファンタジー系ですね」

ペトラ「そう! 恋愛メインの女性ウケしそうなやつなんだけど」

パク「タイトルは『仮面の王女』ですか。ふむ……絶世の美女と噂される王女が敵国に政略結婚をされそうになるが、それを破談にする為に、自らの顔に火傷の細工をして偽り、仮面をかぶる。見合いの席で破談にさせようとするものの、予定した相手とは違う王子と結婚させられる、といったお話ですか」

ペトラ「そんな感じ! どう?!」

パク「ちょっと尺が長くなりそうな劇ですよね。どちらも。もっと短くて普遍的な物語の方がいいと思いますが」

ペトラ「えーそう? やっぱり既存の物語のアレンジの方がいいかな?」

パク「まあオリジナル劇の方がやりがいはありますけどね」

エレン「あの、一度脚本を読ませて貰ってもいいですか?」

と、エレンもうずうずして挙手した。

ペトラ「いいよ! はい、どうぞ!」

と言う訳でオルオ先輩とペトラ先輩の脚本を両方読む事になった。

侍・悲恋歌の方は新選組のメンバーがメインではなく、そのメンバーの元に嫁いだ女性が主人公で、所謂女スパイのお話だった。

暗殺するつもりで嫁いだその女性は、一緒に過ごしていくうちに夫を殺せなくなり、自分の命と世界の命運との狭間で揺れ動く物語だ。

対して仮面の王女の方も女性が主人公だ。こちらは嫁がされた先の相手との純愛がメインの物語だったが、その途中で本当は自分の顔の火傷の偽りがバレてしまい、本来の夫となる筈の男に激昂されてしまい、略奪されてしまうという展開があるものの、現在の夫の方が妻を助けに行くというお話だった。

どちらも純愛といえば純愛に見えるのだが…。

エレン「どちらも面白いと思いますが、個人的にはチャンバラシーンのある方がいいです」

ジャン「オレも殺陣のシーンは好きだな」

男の子は時代劇が好きみたいだ。

ペトラ「ミカサはどっち!? どっちでいきたい?!」

ミカサ「ええっと……」

なんて答えようか?

1.オルオ先輩の時代劇

2.ペトラ先輩のファンタジー純愛劇

3.それ以外の既存の物語劇

4.私も脚本書きたい

(*4択です。番号でお答え下さい)

あ、3番の場合は、赤毛のアンとか若草物語とか、指定があれば善処します。
(全く知らない物語だとちょっと書くのが厳しいですけど)

4番の場合はミカサが脚本を書いてやる劇になります。
ミカサが脚本を悪戦苦闘して頑張って書くので、安価使う予定です。

んー安価取りづらいのかな?
よし、変更しよう。次のスレの秒数が、

 0~14秒だったら1番
15~29秒だったら2番
30~44秒だったら3番
45~59秒だったら4番

でいきます。適当にレスして下さい。

15秒なのでペトラ脚本ルートいきまーす。

ミカサ「私はペトラ先輩の脚本の方が好きです」

ペトラ「おっしゃあああ!」

オルオ「うぐっ……」

エレン「えー? でもこっちはベタベタな恋愛劇だぞ?」

ミカサ「それは時代劇の方も同じ。ただ、暗殺という要素はちょっと重すぎるような気がしたの」

ペトラ「あーなるほど。言われてみればそうかもね。ちょっとそういうのを受け付けない人もいるかも」

オルオ「そうか……そういう視点もあるのか」

ジャン「男から見たら別にそこまで思わないよな」

エレン「ああ。時代劇だったら必殺シリーズとかもろに暗殺だからな」

パク「今回の脚本は総文祭用のものですか? だったら確かにあまりグロい描写は入れられないと思いますよ」

ユウ「そうだね~所謂、一般向けの物か、コメディか、恋愛物が多いよね」

ユイ「時代劇やりたいなら、学校の文化祭とかの方が向いてるかもね」

ああ、何だ。この脚本は学校で発表するものではなかったのか。

ミカサ「総文祭、とは」

ペトラ「全国高等学校総合文化祭の略。夏に予選があって、8月頃に全国大会があるんだ。所謂、文化部のインターハイみたいなものだよ」

オルオ「俺達3年はこの舞台で最後になるからな。気合入れて今から脚本を書いているんだ」

ミカサ「なるほど…」

8月に向けて今から準備を進めているのか。これは大変だ。

ペトラ「うーん、でも確かに男子の言うようにチャンバラシーンも捨てがたいのよね」

ミカサ「だったら和風ではなく、西洋風で戦うシーンを入れたらどうだろう?」

ペトラ「そうね。フェンシングの動きに近いものを入れられないか調整入れてみるわ」

オルオ「頼んだぞ」

ペトラ「オルオの脚本は秋の文化祭用に一応、残しておいたら? 同時進行で今から準備勧めていれば楽だし」

オルオ「それもそうだな。分かった。俺は俺で書き進めておくよ」

と、二人は何やら詳しい話を煮詰めるようだ。

エレン「何か徐々に動き出してる感じだな」

ミカサ「そうね。ちょっとだけわくわくする」

ジャン「でも『仮面の王女』の方をするっていうなら、ヒロイン役は誰がやるんだ?」

と、その時ジャンが最もな質問を言った。

パク「それはちゃんとオーディションで決めるよ。ペトラのイメージに一番近い子を選ぶよ。男子だろうが、ね」

エレン「え? まじっすか?」

パク「うん。女性役を男子がやるのも珍しくないよ。其の辺は平等に審査するから」

おおお…そうなのか。何だかドキドキする。

ミカサ「エレン、やる?」

エレン「いやいやいや、ヒロイン役は無理だぞ」

ジャン「ミカサはやらないのか?」

ミカサ「私は裏方なので、役者はやらない」

ジャン「え? そうだったんか?」

ジャンが驚いている。あれ? 言ってなかったのだろうか。

私の記憶違いで申し訳なかった。

ミカサ「うん。私は裏方希望でここにいる」

エレン「オレはケースバイケースってところだな。役者の数が足りない時は表もやるけど、基本は裏方だな」

ジャン「まじかよ……じゃあオレ、お前らとは活動場所が違うじゃねえか」

エレン「役者希望だったっけ? でも、一緒にやるのは同じだから別にいいだろ」

ジャン「そうだけどさー……くそ、今更オレも裏方希望しても無理そうだよな」

ミカサ「裏方やりたいの? だったらそれを伝えたほうがいいと思うけど」

エレン「でも、適正で言ったらジャンは役者っぽい感じもするけどな」

ジャン「其の辺はオレにも良く分からんが……まあいい。状況を見て判断するよ」

と、ジャンは今は曖昧に判断したようだ。

確かに劇の内容によっては役者の数が足りなかったり、逆に裏方が足りない場合もあるだろう。

ジャンはどちらでも動けるように考えているようだった。





そんな訳でその日の活動は基本的な体力作りと発声練習、柔軟、あと既存の台本での演技練習や、演劇に必要な基礎知識の講習(裏方には独特な用語があるそうだ)などを受けてその日の部活は終了した。

特に裏方さんには奇妙な用語が沢山あるのでそれを予め覚えないといけないらしい。

なので家に帰宅してからも私はその用語集に目を通していた。

ミカサ「バミる……役者の立ち位置を決めるテープを舞台上に貼っておく事。なるほど」

用語集をプリントアウトしたものを少しずつ覚える事になった。

こういうのは割と嫌いじゃない。新しい事を覚えるのは得意分野だ。

ミカサ「あ、そう言えば……」

裏方の先輩達から大道具は黒装束が必須だと言われた。

なので私服で黒い衣装を自前で揃えておくようにと言われたのだった。

ミカサ「参った。私は黒っぽい服をあまり持っていない」

私の好みはピンクや白、水色など、薄い色の私服が多いので、黒は殆ど持っていなかった。

ミカサ「これは明日の休日に買いに行くべきか」

えっと、ああ。でもダメだ。明日はジャン達とお勉強会の予定が入っている。

さて、どうする? まあ、買い物は別の日でもいいのだが。

ミカサ「………黒い服を買うだけだからそんなに時間はかからない筈」

と、思い、私はジャンに午前中は買い物に行くので勉強会は午後にして貰えないかという内容をメールした。

すると即座に『OK』の返事が貰えたのでほっとする。

そしてその事を自室にいるエレンにも伝えると「一人で行くのか?」と言ってきた。

ミカサ「そのつもりだけど」

エレン「オレも一緒に行ってもいいか?」

ミカサ「え? でもエレンは黒い私服は持ってる筈……」

エレン「いや、何か話によると途中で何度も汗かくから着替えは何枚か用意してた方がいいって言ってたからさ。オレも追加して買いたいんだよ」

ミカサ「なるほど。では、一緒に午前中に買い物をすませましょう」

と言う訳で明日の予定は買い物と勉強会に決まったのだった。

午前中はエレンと服のお買い物です。
洋服以外になんか寄って欲しいところある?
何もなければそのまま進めていきます。

ではお昼は二人で外食かな? そんな感じで続けます。




次の日。私とエレンは早速、洋服を買いに行く為にとある洋服屋に出かけた。

そこは大手のチェーン店である。デザインはシンプルな物を多く取り揃えている。

無地で色違い物等も沢山ある。私はすぐに男性用のコーナーに向かった。

エレン「ん? 女性用のコーナーに行かないのか? 先に買ってきていいんだぞ」

ミカサ「男性用の方が種類があるので」

背の高い女性なら「あるある」と共感して貰えるだろうが、170cmともなると、女性用のコーナーで探すより、男性用の方が早かったりする。特にTシャツ等は。

ズボンやシャツだとそうはいかないが、先輩達は「黒Tシャツが一番」と言っていたのでこれで十分である。

ミカサ「あった。2Lサイズ。これを何枚か買っていく」

エレン「え? Lサイズでよくねえか? 男性用なんだぞ?」

ミカサ「エレン、私の背丈はまだ伸びている」

エレン「あ、そっか! なるほど。先を見越して買うのか」

ミカサ「エレンも2Lサイズを買うといい」

エレン「いや、実はオレ、男性用だとLでも少し大きいくらいなんだよな」

ミカサ「MとLの間くらいなの?」

エレン「そうそう。胸板薄いからな。悲しいことに」

ミカサ「でも後から背が伸びたら困る。洗濯で若干縮む場合もあるし」

エレン「うーん。それも確かにそうだが、ぶかぶかだと格好悪くないか?」

ミカサ「可愛いと思うけど」

エレン「それが嫌なんだよ!」

ああ、なるほど。そういう事ならちゃんとサイズを合わせた方がいいだろう。

ミカサ「なら仕方がない。Lサイズにするといい」

エレン「………いや、でも、背丈は伸ばそうとしている訳だし」

エレンの中にある葛藤の様子がよく見える。可愛い。

ミカサ「ふふふ……まあ、エレンが迷っている間に私はズボンの方も見てくる」

エレン「おう。ゆっくり見てこい」

という訳でそこで一旦、エレンとは別行動を取る事にした。

ズボンは男性用を買うわけにもいかない。しかし女性用の方もなかなかサイズを探すのが大変だ。

値段もサイズもよさげな黒いズボンを試着したが…。

ミカサ「うぬぬ……」

なんていうか、私の場合、基準のサイズのお尻に合わせるとウエストが余り、ウエストに合わせるとお尻がだいたいパツパツなのだ。

私は腰のくびれとお尻の大きさのバランスが極端なのだろうか。

仕方がない。お尻の方に合わせてウエストは妥協しよう。腰が余る分はベルトで調整するしかない。

そんな訳で黒いズボンも2着買い、エレンの元に戻ると、エレンは結局2Lサイズを何枚か選んでいた。

エレン「将来、背が伸びることを期待して買った。これで後戻りは出来ん」

ミカサ「ふふふ……」

暫くはちょっと可愛いエレンが見れそうで何より。

エレン「ズボンはもう買ってきたのか?」

ミカサ「うん。ウエストが少し余ったけれど、お尻が大きいので仕方がない」

エレン「え? ああ、そうなのか? まあ、確かにくびれてる方ではあるけれど」

エレンにじろじろ見られてしまった。店内ではちょっとやめて欲しいのだが。

ミカサ「エレンはズボンは買わないの?」

エレン「ああ、黒のズボンは持ってる。今回は黒Tシャツだけだな」

ミカサ「そう。では家に一旦帰りましょう。荷物を置きたいので」

エレン「え? ロッカーに預けておけばいいんじゃないか? 駅にあるだろ」

ミカサ「!」

なるほど。そういう手段もあるのか。思いつかなかった。

エレン「図書館から帰る時に駅に寄って荷物持って帰ればいいだろ?」

ミカサ「凄い。その発想はなかった」

エレン「え? お前今までどんな生活してたんだよ」

エレンに困惑されてしまった。うぬぬ。どんな、と言われても。

エレン「友達と街に遊びに行ったり買い物したりする時は、ロッカーを利用したりしないのか?」

ミカサ「した事ない……」

エレン「そうか。まあオレもアルミンに言われて始めた事だけどな」

と、エレンは苦笑する。

エレン「まあいいや。ついでに昼飯も駅の何処かで食べようぜ。なんかあるだろ」

と言う訳で、私とエレンは洋服を買い終わると電車を乗り継ぎ、街の中心部の駅の中にあるロッカーに荷物を預けて、駅の中の飲食店を見て回った。

お昼には少しだけ早い時間帯だ。駅の構内にはたい焼き屋や、たこ焼き屋、あとクレープ屋さんもあった。

エレン「お、どれもうまそー」

ミカサ「エレン、それはデザートで良いのでは?」

エレン「そうだな。先に飯食うか」

という訳で、適当なお店を探す。さて、お昼は何を食べようか。

エレン「んー……あ、ドッキリドンキーがある。ここにしようぜ」

そこはハンバーグのチェーン店だった。木の丸い皿にハンバーグとご飯とサラダをまとめてのせてくれる。

ミカサ「ふむ。まあ手頃なお店なのでここにしよう」

エレンに異論はなかった。歩き疲れたので少々、高カロリーな物でも構わないと思ったからだ。

店の中は少し早い時間だからか、人が少なかった。すぐに席に案内されて適当にメニューを選ぶ。

エレンは普通のハンバーグにトッピングにチーズをのせていた。私もエレンと同じものを頼んだ。

エレン「意外と早く買い物済んだな」

ミカサ「そうだろうか? 元々買うものは決まっていたので」

エレン「いや、ほら、ついでに他の物に目移りして一緒に買うのかと思ったんだよ」

ミカサ「私は必要な物以外は買わないので」

エレン「うちの母さんとは正反対だな。母さん、買い物すると長かったからなあ」

エレンは今は亡き自分の母親の事を思い出しているようだ。

エレン「うちの親父とオレはいつも待たされて、本屋で時間を潰すのが日課だったな」

ミカサ「なるほど。エレンのお母さんは買い物が好きだったのね」

エレン「ああ。買い物が趣味みたいなところがあったな。あ、でも別に無駄な買い物をする訳じゃねえぞ? 選ぶのに物凄く時間がかかってただけだ」

ミカサ「私から見ればエレンも十分、選ぶのに時間がかかってる」

エレン「うっ……オレ、母さんに似てるのかな?」

エレンはちょっとだけ呻いている。恐らくそうなのではなかろうか?

ミカサ「私は母親に顔は似ているけども、性格は似ていないと言われる」

エレン「おばさんはおっとりしてるもんな。ミカサはどちからといえばキリッとしてる」

ミカサ「父もおっとりしていたので、誰の性格に似たのか良く分からない」

もしかしたら祖父や祖母似なのかもしれないが、私が生まれた頃には祖父母との交流はなかったので何か訳ありだったのだろうと思う。

エレン「まあでも、ご先祖様の誰かのが遺伝してるのは間違いないだろ」

ミカサ「そうね。きっとそう」

エレン「オレは親父の頭の良さをもうちょっとだけ欲しかったけどなー」

と、エレンが愚痴ったその時、注文の品が届いた。早い。さすがはドッキリドンキー。

ミカサ「エレンは決して馬鹿ではない。普通」

エレン「ははは………まあ、十人並みだとは思うけどな」

エレンは苦笑を浮かべてチーズハンバーグを頬張った。

エレン「(もぐもぐ)でもさ、アルミンとかミカサを見てたら……やっぱりもうちょっと頭良かったらなあとは思うぜ」

すげえ・・・300まで行くなんて・・・ 支援です

まあ確かに成績はいいことに越したことはないが。

ミカサ「(もぐもぐ)でも足りない部分は努力で補えると思う。その為の勉強会なのでは?」

エレン「(もぐもぐ)まあな。午後は頼むぜ」

ミカサ「(もぐもぐ)大丈夫。皆でやれば怖くない」

もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……。

味はまあ普通の味だがボリュームがあって満足出来た。

二人共残さず完食すると、エレンが先に会計を済ませて店を出た。あれ?

ミカサ「エレン、会計、割り勘…」

エレン「ああ、いいよ。面倒だからオレが出しといた」

ミカサ「そんな……お小遣いを切り詰めさせるのは忍びない」

エレン「いや、うちは結構ざっくりしてるからそんなに気遣わなくていいからさ」

ミカサ「エレン、それでは将来困るのでは?」

いくら医者の息子だからといって、何でもかんでも奢っていてはよくない。

エレン「え? 何で? 昨日、親父に「ミカサと外食するかも」って前もって言っておいたから多めに金貰ってたんだけど」

ミカサ「お小遣いとは別に貰ってたの?」

エレン「ああ。うちは毎回そんな感じだ。必要な時に必要な分だけ、貰う感じ」

ミカサ「月にいくら、とかではないの?」

エレン「え? 何それ。月に一回しか金貰えないって何?」

金の使い方の感覚がここまで違うとは…。エレンの将来が心配になった瞬間だった。

>>346
このペースで高校三年間書いちゃったら確実に1000超えるwwww
毎回ゴールは考えて書かないので、どこまで続くかはエレンとミカサ次第です。

ミカサ「エレン、それでは人と感覚がズレてくると思う」

エレン「え? そんなに変か?」

ミカサ「普通はお金は月に一度、貰う程度だと思う。それをやりくりするのでは?」

エレン「何でそんな面倒臭いことするんだよ」

ミカサ「収入と支出の割合を大まかに見る為だと思うけど」

エレン「ん? 収入は親父のしか分からんだろ。何でオレが収入の分を計算しないといけないんだ?」

ミカサ「ええっと、確かに家の全体の収入は把握できないけれども、そういう意味ではなくて……」

いけない。ここは慎重に説明しないと。エレンが混乱する。

私は頑張って頭の中を整理しながらエレンに説明した。

ミカサ「エレン、日本人は殆どの人が会社や何かに属して収入を得ている」

エレン「ああ。そうだな」

ミカサ「人によっては年単位の収入の人もいるけれど、普通は月一くらいで収入を得る」

エレン「ああ、そうらしいな。うちは良く知らないけど」

ミカサ「だから、月の収支を把握する癖はつけた方がいい。将来的にも必要だと思う」

エレン「サラリーマンになるかもしれないから、家計簿つけろっていうのか?」

ミカサ「そう! つまりそう言う事」

これで伝わっただろうか? 不安だけれども。

エレンは頭を捻っている。ううう………大丈夫なのか。

エレン「家計簿だったらうちもつけてるぞ。ただうちの場合は年単位で計算してるが」

ミカサ「え? 年単位?」

エレン「そうそう。うちはこういう必要経費は全部、領収書を取っててさ。全部パソコンで記録して年単位でファイル作ってるって親父が言ってた」

ミカサ「何故、年単位…?」

エレン「さあ? 昔から1年単位でざっくり計算するのが親父のやり方だからなあ。その方が都合がいいんじゃねえの?」

ミカサ「そ、そうなの?」

エレン「ああ。だからミカサも親父に言えば、その都度金はくれると思う。ただし、その買い物の内容は前もって言わないと出してくれないけどな」

育ちの違いという奴なのだろうか。エレンの家庭はちょっと普通とは違うような気がした。

ミカサ「その都度、申告しないといけないの?」

エレン「え? 普通そういうもんじゃねえの?」

ミカサ「私はお小遣いの範囲内で自由に買って良かった。…ので、その内容を親に報告した事はない」

と、私が伝えるとエレンの方が今度は驚く番だった。

エレン「うちと全然違う。え? もしかしてそっちの方が普通なのか?」

ミカサ「わ、分からない。けど、うちはそうだったので」

エレン「うわー…これはちょっと親父に聞いてみる必要があるな」

と、今更ながらエレンはブツブツ言いだしたのだった。

エレン「もしそうならオレ、親父に騙されてた事になるな。くそ! 頭いいな親父!」

ミカサ「あ、アルミンのご家庭はどうなの?」

アルミンの家も違うのだろうか? 気になって質問してみると、

エレン「アルミンもうちと同じだよ。その都度貰うって言ってた」

ミカサ「そ、そうなの? でもそれだと無駄遣いをしてしまうのでは…」

エレン「え? 何でだよ。必要な物を買う時だけしか貰わないんだぞ? 余計な物を買う余裕はねえよ」

案外、そのやり方の方が金を無駄に使わないで済むのだろうか?

ミカサ「驚いた。私の方が少数派だったのね」

エレン「いや、そうとは限らねえよ。ジャンとマルコにも後で聞いてみよう。気になる!」

エレンはそう言いながら、デザートにクレープ屋でチョコバナナに目をつけていた。

エレン「頭使ったらなんか甘いもの欲しくなった。ちょっと買ってくる。ミカサも食うか?」

ミカサ「そうね。ちょっと食べたい」

エレン「じゃあ買ってくる。2本な」

エレンはチョコバナナを買ってきてくれた。それをペロペロ舐めながら、私達は駅の中の適当な椅子に座った。

バナナを口に咥えながらエレンは神妙な顔をしていた。いろいろと思うところが出てきたらしい。

エレン「オレ、もしかして親父に甘やかされて育てられてるのか…?」

うぐっ……。エレン、私の視点から見れば若干、そう見えるけども。

エレン「オレ、このままだとまずくないか? この感覚ってやばいのか…?」

ミカサ「え、エレン……その……」

エレンは裕福な家庭で育っているからきっとお金に関してはアバウトなのだろう。

だがそれを言ってしまうのも失礼な気がしたし、どうしたもんかと悩む。

エレン「…………ミカサの目から見たらやはりそうなんだな」

返事が出来なかった。無言を肯定と受け取られたようだ。

エレン「そっか。そうだな。いや、それが分かっただけでも収穫だ。ありがとな、ミカサ」

ミカサ「うう……」

エレンは微妙な顔をしているが、それでもお礼を言ってくれた。

私は別に何もしていないのだが……。

エレン「今度、親父の暇な時に話し合ってみる。どういうつもりでそういうやり方でオレに金くれてたのか、真意を確かめたいしな」

ミカサ「そうね。そうした方がいいかもしれない」

話の途中でチョコレートが溶けてきたのでそれを零さないように吸い付くように舐めた。

おっとっと。勿体無い。

その様子をじっと見られた。ん? エレンのも溶け始めている。

ミカサ「エレン、端っこ、溶けてる」

エレン「あ、ああ……悪い」

エレンはよそを向いて一気にチョコバナナを食べきった。

私も一気に食べてしまう。残すのも勿体ない。

お腹いっぱいになったので、この後はどうするか。

ミカサ「そうだ。皆にお菓子のお土産を買っていこう」

エレン「え? 別に要らねえよ」

ミカサ「でも、勉強の途中で甘いものはだいたい欲しくなる」

エレン「図書館の中って飲食しても良かったっけ?」

ミカサ「確かラウンジのある図書館もある。休憩スペースと分けて設置されている筈」

エレン「へーそうなのか。普段行かねえから知らなかったぜ」

と、エレンは感心している。

ミカサ「もしかしてエレン、欲しい本もいつも買って貰ってた?」

エレン「ああ。オレは図鑑とか見るのが好きだったし、親父自身も本好きで、親父の書斎には4つ本棚あるしな。小さい頃に買って貰った本は今も書斎にあるかもしれん」

エレンはやはりおじさんに相当、自由に育てられているようだ。

ミカサ「私はなかなか買って貰えなかった。だから図書館で借りて読んだり学校の図書館で読むことが殆どだった」

エレン「そ、そういうもんか。オレの家は本はすぐ買うもんだったからな」

エレンと歩いて駅の中を移動する。人がちょっとだけ増えてきた。お昼を過ぎたからだろう。

エレン「……オレ、よく考えてみたら親父に「買っちゃダメ」って言われた記憶がねえ」

おお…。なんと羨ましい。

エレン「ただ、買う時は「どうしてそれを買いたいんだい?」と理由を聞かれてた気がする」

ミカサ「理由も聞かれたの?」

エレン「ああ。そうだ。親父は必ず「理由」を聞いてくる。だからオレは毎回説明してた。ただ何となく欲しいって言った場合は「理由がない筈がない」と言って理由を言うまで買ってはくれなかったけど、言えば必ず買ってくれたんだよ」

理解があるというべきかもしれないが、普通はなかなかそこまではしてくれない。

おじさんはやはりエレンのとても良き理解者であると思う。

エレン「だからずっとそれが普通だと思ってた。でもそうか……家によっては違う場合もあるんだな」

ミカサ「そうね。それはひとつ勉強になった。私も自分の感覚が絶対のモノとは思わないようにする」

他人同士が触れ合うことで新しい発見もあるのだと、この時、私は初めて知った。

こんな風に深く触れ合う機会は今までなかったせいもあるが、エレンを通じて新しい世界が開けたようなそんな感覚があった。

エレン「そうだな。オレも今後は気をつける。じゃあお菓子は安いその辺のコンビニのスナック菓子で…」

ミカサ「え? 皆で食べるのにスナック菓子はちょっと」

エレン「…………え?」

エレンは目を丸くしている。何か変な事を言っただろうか?

エレン「贅沢はしない方がいいんだよな?」

ミカサ「そうは言っていない。使うべき時は使う。特に皆で食べる時はお金をかけるべき」

エレン「…………やっぱりその辺の感覚がオレとは違うんだな」

エレンは首を傾げている。うん。確かに違うと思った。

ミカサ「あそこに和菓子屋さんがある。買ってきてもいいだろうか?」

エレン「ああ、お菓子の蒼海だな。いいぞ。ここは昔ながらの名店だもんな」

老舗の店ではあるが、昔からある有名なお菓子のチェーン店である。

店内に入ると感じの良い女性達が「いらっしゃいませー」と一斉に声をかけてくれた。


おもしろいっす!
期待!

ああ、どれも美味しそうだ。ええっと、一人1個ずつでいいだろうか。

図書館のラウンジで食べるなら、あまり手を汚さない系のお菓子がいいだろう。

となると、やはりお饅頭系のお菓子がいいだろう。このひよこの形の饅頭にしよう。

エレン「え、そっちにするのか?! なんか食うの可哀想じゃないか?」

ミカサ「そういうデザインなので……」

エレン「オレはこっちの変な顔のせんべいがいいな」

ミカサ「せんべいは食べかすが出るので、外で食べるのには向かない」

エレン「あ、そっか……じゃあこっちのちっこいバームクーヘンみたいなのは?」

ミカサ「こっちの方がいいの? 美味しいの?」

エレン「いや、知らないけど」

ミカサ「食べたことないのに買うの? 味が分からないのに」

エレン「別にいいだろ。まずかったらまずかったで話のネタになる」

店員さんはむっとした表情だ。エレン、店の前でその発言は頂けない。

店員「どちらも味は保証しますよ。30年近く続く銘菓ですし」

伝統の味を誇らしげに伝えてくる。あーもう、断りづらくなった。

ミカサ「分かりました。両方で」

エレン「え? 両方買うのか?」

ミカサ「私はこのひよこの饅頭が昔から好きなので」

たまにしか食べないが、味は確かに美味しいのだ。

エレン「ふーん。そうなのか。じゃあ両方買えばいいか」

ミカサ「すみません。それぞれ5個ずつ包んで下さい」

という訳でお土産も買ったし、用事はこれで全て済んだ。後は合流する図書館に向かうだけだ。

そして約束の図書館の入口に合流すると、そこにはアルミンとマルコ、ジャンの三人が既に待っていてくれた。

時間には遅れてはいない筈だが、それでも前もって待っててくれたようだ。

皆、それぞれの性格が出ている私服姿だ。

アルミンは黒と白のシンプルな色合いだ。下が黒で上が白。ジーンズ生地の男の子らしい黒いジャケットを上から着ている。

恐らくこの間、女の子に間違われた事をよほど気にしているのだろう。申し訳ない。

マルコはTシャツに春物の淡い色のカーディガン。全体的に優しい色合いのファッションだった。

そしてジャンは……。えっと。何故スーツ姿でわざわざ来たのだろうか?

これでは学校の制服と大して差がないような…(男子も制服は緑色のブレザー服だ)。

ただ今日のジャンは紺色のスーツ姿だった。ネクタイもちゃんとしている。

この中だとエレンのパーカーにジーンズ姿が一番高校生らしいのかもしれない。

ちなみに今日の私のファッションは、無地の薄い水色の緩めのワンピースだ。

ズボンを買う時にズボンをはいていくと、試着の繰り返しが面倒臭いのでワンピースで出かけたのだ。

ジャン「よ、よう! 早かったな」

ミカサ「そちらの方が早かった。ごめんなさい。遅れて」

ジャン「いや、待ち合わせ時間には遅れてねえよ。その、こっちはたまたま早く着いだだけだ」

マルコ「じゃあ中に入ろうか。今日はビシバシ鍛えるからね」

と、マルコは教師役としてやる気に満ちているようだ。いい事だ。

そして私達五人は全員が座れるテーブルを確保してそれぞれ席に座った。

エレンとジャンが隣同士で座り、その向こう側にマルコとアルミンと私が座った。

さて。まず何から始めるか。とりあえず、授業の復習からいくか。

エレン「この間の実力テストの復習からいっていいか?」

ミカサ「ああ、そう言えばテストの返却はされていた。忘れていた」

エレン「忘れてたって事は点数良かったんだな」

ミカサ「いえ、いつもよりはさすがに点数は下がっていた。今回は首席は取れないと思う」

アルミン「仕方ないよ。あの時、ミカサは体調を崩し気味だったから」

と、アルミンはあの時の事を覚えていてくれたようだ。胃薬を貰ったので申し訳ない事をした。

ミカサ「アルミンのおかげで持ち直した。感謝している」

アルミン「うん。まあそういう時もあるよね。じゃあまずはテストの復習からいこうか」

と言う訳で、エレンとジャンの回答を見ながら問題を解説していく私達だった。

エレンは国語と英語はまあ良かったが、数学がてんでダメで、ジャンは逆に数学が良くて国語と英語は平均点だった。

文系と理系の分かり易い分かれ方だと思った。

アルミン「あーあ。エレンは数学苦手だねえ。相変わらず」

エレン「小難しい数式を覚えるのが面倒なんだよ。将来役にたつのかこれ」

ジャン「んな事言いだしたら勉強は全部、役にたつか分かんねえだろうが」

エレン「いや、にしても数学を実生活で利用する場面なんてあんまりねえだろ。算数は別にして」

ジャン「数学は頭の体操だと思えよ。パズルみてえなもんだろ」

アルミン「ジャンの言うことは一理あるかな。感覚的には僕もそれに近い」

エレン「暗記科目の方がまだいい。国語と英語は漢字と英単語覚えれば割と点数取れるからな」

ミカサ「でもエレンは古典が苦手みたいね。現国の部分との差が激しい」

エレン「うぐっ……古典もその、実生活の何処に役に立つのか分からんから」

と、また同じような言い訳をする。

マルコ「そんな事言いだしたら、勉強の全てが無駄に思えちゃうよ」

エレン「いや、オレは全部が無駄とは思わねえよ。現国と英語は生活するのにも使うし、社会だって歴史も地理も公民も、それぞれ使う部分はあるし。ただ数学と古典に関してだけ言えば、何で勉強するのかいまいち分かってないだけだ」

ジャン「理由なんて何でもいいだろ。とりあえず、流されて覚えればいいんだよ。深いこと考えるとそれこそ頭のエネルギーの無駄使いだ」

エレン「オレは嫌だね。流されて生きていくのはごめんだ。ちゃんと理由があれば真面目にやるさ」

ミカサ「二人共、今はそういう話は後にして」

ここは図書館である。どうしてこの二人はすぐお互いの価値観やら意見をぶつけ合うのか。

本当は仲がいいんだとは思うけれど。毎回バチバチさせるのはやめて欲しい。

アルミン「うーん。エレンの言うことも一理あるけど、ジャンの言うことも間違ってないよね」

マルコ「分かる。両方の感覚、あるよね」

と、今度はアルミンとマルコがお喋りを始めてしまった。

アルミン「でもさ、将来、何が役にたって何が役に立たないかって、現時点じゃ誰にも分からないんじゃない?」

エレン「そうか?」

アルミン「うん。それぞれの進路によると思うよ。例えば教師になりたい人なんかは、こういう知識を今度は次世代に教えるっていう意味で役に立つし、科学者だったら、国語は使わないけど科学分野の知識は豊富に必要になるし、歴史学者になったら、古典の知識が大いに必要になるし」

エレン「ああ、そうか。なるほどな」

エレンはアルミンの説明になんとなく理解を示したようだ。

エレン「そうか。オレ、自分のことしか考えてなかったな」

アルミン「まあ、普通はそうだけども。所謂僕らは、作物の「種」みたいなもんで、どこの大地で埋まって育って広がって行くかはこれからだからね」

マルコ「詩人だねえ、アルミン」

アルミン「いや、あくまで例えだからね?」

アルミンはちょっと照れくさそうにしている。うん。でも、悪くない例えだと思った。

ミカサ「その理論で言うと、学校の勉強は作物でいう土の「栄養」の部分ね。どの栄養成分を吸収するかは、種の種類によるから、必要のないものは無理に取り込まなくてもいいけれど、栄養は多いに越したことはない」

アルミン「そうそう。だからエレンも、将来を見据えた上で頑張らないとね」

エレン「ううーん。将来か。まだ漠然としているのが一番の問題な気がするが……」

と、エレンは頭を違う意味で悩ませている。

エレン「皆は高校卒業したらどうするか決めてるのか?」

アルミン「え? 入学したばかりでもう卒業後の話?」

エレン「3年間なんてあっという間だろ。どうするか決めてるのか?」

アルミン「とりあえず、僕は今の成績を維持して卒業する事しか考えてないな」

マルコ「僕もまだ、今はそれだけだね」

エレン「ミカサは? 何か将来やりたいことあるのか?」

ミカサ「特にない」

ジャン「オレは一応、あるけど」

おお? 意外な回答がジャンの方からあがった。

エレン「………どうするつもりなんだよ」

ジャン「公務員。片っ端から受ける。警察、消防、自衛隊、地方公務員、国家公務員。何でもいいけど、民間には属するつもりはねえな」

アルミン「安定志向だねー。大学行かないの?」

ジャン「成績次第だな。ただ、高卒で取ってくれるところがあれば受ける。コネがある訳じゃねえけど、夢なんだ」

ミカサ「公務員が夢なの?」

これはアニとは相性がいいのではないかと思った。アニの理想にかなり近いように思える。

ジャン「いや、公務員が夢っていうより、安定した収入と、その……嫁さんを早くもらって家庭を作りたいのが夢」

マルコ「おおお、大人な発言だね。結婚願望あるんだ」

ジャン「当たり前だろ。だから彼女を高校時代に作っておきたいんだよ。卒業したらすぐにでも結婚出来るように」

ジャンは私よりも大分ませているように見えた。すごく大人に見える。

マルコ「ああ、焦っているように見えたのはそのせいだったのか」

ジャン「まあな。思い通りにはいかねえかもしれんが、一応、それが今のオレの願望だ」

ミカサ「具体的に夢があるのはいい事だと思う」

私は素直に賞賛した。というより少し羨ましくもあった。

何か目標がある、というのは素晴らしい事だ。

エレン「そうか。この中で具体的なのがあるのはジャンだけか」

エレンも私と同じような心境なのだろう。表情が、そう語っていた。

アルミン「羨ましい限りだね」

マルコ「全くだよ。だったら尚更、早く彼女を見つけないとね」

ジャン「お、おう……」

ジャンは少し照れくさそうにこちらをチラッと見た。

私もジャンを応援したいと思う。出来る限り。

ミカサ「頑張って。ジャン。あなたならきっと出来る」

ジャン「そ、そう思うか?」

ミカサ「うん。きっといい人が見つかる」

ジャン「…………」

あれ? また、ジャンが少しだけ悲しそうな顔になった。

前にもこの表情を見たことがある気がする。はて?

エレン「オレの場合は勉強よりも目標を先に見つけた方がかえってはかどる気がするな」

と、その時エレンが話題を変えた。

アルミン「ダメだよエレン。そんな風に言って現実逃避しちゃ」

エレン「うっ………バレたか」

アルミン「付き合い何年だと思ってるの。エレン、数学分かんないなら僕がマンツーマンするよ?」

エレン「頼む。数学はアルミンの説明の方が先生のより分かり易い」

と、エレンも勉強に身を入れ始めたようだ。

ジャンは国語の方でいくつか分からない部分があるようだ。

ジャン「解説を頼む」

と、ジャンが言い出したので私も出来る限り頑張って答えた。

皆で勉強をしたので思った以上にはかどった。

そして時間はあっと言う間に過ぎておやつの時間になった。

ミカサ「そろそろ一回、休憩を入れましょう。おやつは買ってきている」

ジャン「え? わざわざ買って持ってきてたのか?」

ミカサ「一人2個ずつ。食べよう」

ジャン「あ、ありがとう……」

ジャンが何故か物凄く喜んでくれた。良かった。どうやら好みのお菓子だったようだ。

キリ悪いけど今回はここまで。

お勉強会が終わったら次は体育祭まで一気に時間を進める予定。
体育祭のネタ、やって欲しい事あったら書いてていいです↓
んじゃ寝る。おやすみなさい。

乙!
久しぶりに来たらすげえ進んでてビックリしたw
体育祭でやる事といったら創作物的にベタなところで
二人三脚とかフォークダンスあたりかな…?

>>312
エレン「だよな……」
ミカサ「そんな事ない」

遅レスすまん。読み返して今気づいた。
後半戦ラストで活躍できなかった事はエレンが一番、悔やんでますね。

>>356
あざーす! 物凄い長くなりそうな予感…。

>>365
二人三脚とフォークダンスですね。了解です。

マルコ「ラウンジの方に一度、移動しようか。お茶も飲みたいし」

アルミン「そうだね。一度、移動しようか」

と、言う訳で私達は席を離れて少し離れたラウンジまで移動した。

幸い人も混んでおらず、席を確保するのは容易かった。

ジャン「……………」

マルコ「ジャン? 食べないの?」

ジャンはお菓子を握ったままぼーっとしている。どうしたのか。

ジャン「は! 悪い。食べる。食べるよ」

ワンテンポ遅れて何故かジャンは包装を剥ぎ取った。そして一口で食べる。

ジャン「!」

ミカサ「そんなに急いで食べなくても」

喉を詰まらせかけたジャンの背中をさすってあげる。全く。子供のようだ。

ジャン「(ごくん)悪い。慌てた」

ミカサ「ゆっくり食べればいい。そんなに慌てる必要はない」

アルミン「(もぐもぐ)うん、和菓子は特に味わって食べないとね」

アルミンは小さくちょっとずつ食べている。

エレンは無言で食べている。何故か、ちょっと不機嫌な顔だ。

ミカサ「美味しくないの?」

エレン「んにゃ、うまいけど」

ミカサ「にしては浮かない顔ね」

エレン「いや、さっきミカサと話してた事をふと思い出しててさ」

ミカサ「ああ、お金の使い方の話?」

エレン「そうそう。マルコとジャンはどうなんかな、と」

マルコ「何の話?」

マルコが食いついたので、私はエレンと話したお小遣いについての話を聞かせた。

するとマルコもジャンも意外な表情になって「そりゃミカサのが普通だって」と言ってくれた。

エレン「やっぱりそうなのか。オレん家とアルミンところは珍しい例なのか」

アルミン「だろうね。うちの場合はおじいちゃんしかいないからっていうのもあるけど」

ジャン「ああ。いちいち親に全部、買うもの報告してたら、その……バレたくない物も買えないだろ」

バレたくないもの? はて? 何の事だろうか。

マルコ「ああ、まあ……いろいろあるよね。中学生くらいになったら欲しくなるよね。そういうのは、どうしてたの?」

エレン「んー……」

エレンは少し言いにくそうに答えた。

エレン「そういうのは、買ったことねえよ」

ジャン「は? 買ったことない? 嘘つけ」

エレン「本当だって。つか、そういうのって別に買わなくてもネットとかでも探せるだろ」

ジャン「ああ、じゃあ画面越しに見るだけで満足してたんか」

エレン「まあ、なあ……あとはアルミンから貰ったり、とかな」

アルミン「僕のところはおじいちゃん、騙すのは簡単だからね」

マルコ「酷いなあ。アルミン」

酷いといいつつも笑っているマルコである。

ジャン「いや、でも今後もし彼女が出来た時はどうするんだよ。まさか避妊具が欲しいから金くれって言って金貰うつもりなのか?」

エレン「………それは無理だな」

ジャン「だろ? 悪いことは言わん。ミカサの家のやり方に変えて貰った方がいいぞ」

エレン「だよな……オレもその方がいい気がしてきた」

ミカサ「でも……エレンのおうちはおじさんが大黒柱。そのうち私もそのやり方になぞった方がいいかもしれない」

と、私が本音をぽつりと漏らすと、アルミンが「あ、やばい」という顔をした。

マルコ「え? 何でミカサがエレンの家のやり方に染まるの?」

ジャン「今、おじさんって言った?」

ギックー! しまった。またやってしまった。

ジャンとマルコにはまだエレンとの同居の件は伝えていない。

エレンは「あーあ」という顔をしているが、面倒臭そうに説明した。

エレン「あ、まだ言ってなかったな。実はオレの親父と、ミカサの母親、再婚したんだ。だから今年の春からオレ達四人、一緒に住んでる」

ジャン「は……?」

その瞬間のジャンの表情は何とも言えない複雑な顔だった。

エレン「義理の兄妹、いや姉弟か。になっちまったんだ」

ジャン「は、初耳だぞそれ!」

エレン「言ってなかったからな。あ、言っとくがあんまり言いふらすなよ。クラスの他の奴に。面倒臭いから」

マルコ「ああ、人の家の事情だし、それはしないけど……へえ、だから、か」

マルコは何だか妙に納得した様子だった。

マルコ「二人がやけに仲良さそうだったのは、一緒に住んでるからだったんだね」

ミカサ「うん……ごめんなさい。黙っていて」

マルコ「いや、いいよ。言いづらいことだろうし。こっちこそごめんね。言わせちゃって」

エレン「いいさ。いずれはバレるだろうと思ってたし」

エレンはもう2回目だからか、慣れたように言った。

エレン「そういう訳で、親父を説得しないことにはオレん家は今のままの制度なんだよな」

アルミン「難しい問題だね」

エレン「ああ……金の事だしな。今はいいけど、いずれは自由に使える金がないと困る場面もあるかもしれんし」

ジャン「………」

ジャンが物凄く複雑な顔を続けている。悔しそうで、悲しそうで、でも嬉しそうで。

表情が定まらないとはこの事だと思った。

エレン「まずは親父にどうしてそのやり方できたのか聞いてみる。それを踏まえた上で、よその家じゃうちみたいな例が少ない事も言ってみる。んで、出来たらミカサの家のやり方に変更して貰えるようにやってみるよ」

ミカサ「そうね。高校生になったのだし、自由がないと大変かもしれない」

マルコ「うん。話し合うべき時期なのかもしれないね」

アルミン「だね」

ジャンはまだ、黙り込んでいる。一人だけ違うことを考えているようにも見える。

ミカサ「ジャン?」

ジャン「ん? ああ……悪い悪い」

ジャンが急にニヤニヤし始めた。ちょっとだけ気持ち悪い。

ミカサ「どうしたの?」

ジャン「何でもねえよ。何でもねえ。ああ、何でもない」

3回も言われたら何でもなくないように聞こえるが。

マルコ「…………そろそろ、勉強再開しようか」

アルミン「そうだね」

二人がそう言い出したので、私達はラウンジを出て図書館の方に戻った。

そして閉館の夕方5時近くまで居座って、今日のお勉強は終了。

皆それぞれ自宅に帰る事になった。

私とエレンは当然、駅に寄ってロッカーの荷物を回収したのちに帰宅する。

すると夕方に差し掛かっているせいか、電車の中は人ごみが多少増えてきたようだった。

エレン「ミカサ、こっちに寄れ」

ミカサ「うん」

エレンと一緒に端っこに寄る。手荷物があるせいでちょっと窮屈だった。

電車はスムーズに進んでいる。ガタンガタン……ガタンガタン……と、いつものリズムだ。

しかしその時、


キキキキ………


急ブレーキが起きた。その衝撃に、電車の中が大きく揺れる。

何だ何だ? 人身事故だろうか?

アナウンスを待つ。どうやら、次の駅の方でトラブルが起きたようだ。

ざわざわざわざわ……

皆、落ち着かない。電車の中は不安な空気が流れていた。

ミカサ「大丈夫かしら?」

エレン「…………」

ミカサ「エレン?」

エレンの方を見ると何故か赤い顔をしていた。視線が合うとすぐに逸らされたけれど。

エレン「いや、別に。いいけど」

ミカサ「え?」

エレン「その……太ももでオレの足、挟んでる」

ミカサ「!」

今の電車の衝撃のせいでどうやら、エレンに寄りかかり過ぎてしまったようだ。

ミカサ「ご、ごめんなさい(パッ)」

慌てて少し距離を取った。申し訳ない事をした。

ミカサ「わ、わざとではないので」

エレン「いや、分かってる。大丈夫だ」

エレンは一応頷いているけれど、ちょっと困っているようだ。

電車はまだ動かない。早く復帰して欲しいけれども。

エレン「………………」

エレンは電車の外を見てこっちを見ていない。私もエレンの方をあまり直視出来なかった。

困った。変な空気になってしまった。アクシデントが憎い。

そして数分が経ってようやく電車の動きが再開した。ほっとした。

無事に家に帰り、私は部屋に戻ると今日買った洋服のタグをその日のうちに外してタンスに入れた。

買った物はすぐにタグを外さないと外し忘れるからだ。

夕食はオムライスだった。母の作るオムライスはとても美味しい。

母とエレンと私の三人で夕食を先に食べる。おじさんは少し遅い時間に帰宅した。

夜の10時頃に帰宅したおじさんと、エレンが早速話し合っているようだ。

おじさんは夕食を取りながらテーブルの席でエレンと何やら話している。

その様子を、皿を洗いながら聞き耳を立てて聞いている私なのであった。

エレンの家は東側に冷蔵庫やレンジを置いて、ガスやまな板やシンクは西向きに作られている。

つまりテーブルを見渡せる対面式キッチンなのだ。

テーブルは北側の腰高の窓に一面をつけていて、四人座れる長方形の物。

こちらから見れば、エレンの顔はよく見えるがおじさんは背中しか見えない。

おじさんはちびちびお酒を飲みながらエレンとゆっくり話していたが…。

グリシャ「つまりエレンはミカサの家の今までのやり方でお金が欲しいと言うんだね」

エレン「ああ。そっちの方が普通だって聞いたし」

グリシャ「何か、やましい物でも欲しくなったのかな?」

エレン「いや、そういうんじゃねえけど」

グリシャ「エレン、嘘はいけない。親に言いたくないような物が欲しくなったんだろ?」

エレン「………いずれは必要かもしれねえんだよ」

と、エレンはとうとう白状したようだ。

グリシャ「ふむ。いずれ、ね。だったら必要になった時に切り替えればいいんじゃないかな?」

エレン「え、じゃあ……その時になったら切り替えてくれるのか?」

グリシャ「いや、切り替えないけど」

エレン「ええ……期待させるなよ、父さん」

グリシャ「ふふふ……エレン。一応、我が家の金は私が稼いでいるんだよ。その使い方を決める権利は私にある」

エレン「…………」

エレンがすっかりいじけてしまった。

エレン「どうしてもダメなのか?」

グリシャ「エレンの動機が弱いからね。いつも言ってるだろ? 「理由」をちゃんと言いなさいって」

エレン「…………バイトしようかな」

エレンがぽつりと、そんな事を言い出した。

エレン「うちの高校、別にバイト禁止してねえし。そう言う事ならオレ、自分の交遊費くらいなら自分で……」

グリシャ「もしそのせいで学業が疎かになったら私は学費をビタ一文も支払ってあげないよ、エレン」

エレン「うぐっ……!」

おっと、手厳しい答えが返ってきた。

グリシャ「そういうのを本末転倒と言うんだよ。エレン。アルバイトはまだ早い」

エレン「そ、そっか……じゃあ父さんはミカサに対しても同じようにするつもりなのか?」

グリシャ「それはミカサ次第だよ。私はミカサとは血の繋がりがない。扶養家族ではあるけれど、それ以前にミカサのお母さんの娘さんなんだ」

エレン「そ、そうなのか」

グリシャ「うん。エレンとミカサを同じようには考えてはいないよ。ミカサには選択する権利はあるが、エレンにはない」

エレン「まあ、それは分かるけども」

エレンはますます落ち込んでしまっている。

エレン「オレ、ショックだったんだよな。普通は親に買った物を報告したりしないっていうの。管理されている事が当たり前だと思ってたのに、それが違ってたなんて……それを知らない自分が恥ずかしかったんだ」

グリシャ「エレン、私が交友関係を広げなさいと言っていた意味が分かったかい?」

エレンは一拍置いて、すぐに頷いた。

エレン「ああ。父さんの言ってた意味、ようやく分かった。オレ、ミカサとの関係がなかったら、それを知るのがもっと遅かったと思う。アルミンとかしかまともに話してなかったから、それ以外の世界を知らなかった」

グリシャ「それが分かったのなら、もう少し詳しく説明してあげよう」

と言っておじさんはエレンに詳しい説明を始めたようだ。

グリシャ「お金というものは、大事な物なんだ。生きていく上では必ず必要な物だ」

エレン「それは分かる……」

グリシャ「でも同時に、その使い方を誤れば、身を滅ぼす物でもあるんだよ」

エレン「身を滅ぼす…? どういう意味だ?」

私にもその意味はいまいち分からなかった。するとおじさんは、

グリシャ「お金があれば欲しいと思った物を手に入れられる。それはとても怖い事なんだ」

と、まるで怪談話でも始めるような声色で話を続けた。

エレン「怖い…? 何で?」

グリシャ「例えば、ここに仮に100万円あったとしようか」

と、おじさんはティッシュの箱を100万円の代わりにして話を進めた。

グリシャ「この100万円を全部自由に使っていいとするよ。エレン、なら何に使う?」

エレン「え? 全部使っていいなら、そりゃあ……まずは食物を買うかな。後は生活に必要な衛生用品とか。それから新しい洋服、んで余ったら、漫画でも買うかな」

グリシャ「ふふふ……いい順番だ。だけどね、エレン。そういう使い方が出来ない人間も世の中には大勢いるんだ」

エレン「ど、どういう事?」

グリシャ「つまり、酒、タバコ、女遊び、ギャンブル。この四つにつぎ込む人間もいるって事だ」

エレン「え……そうなのか? オレはそんなのには使おうとは思わねえけど」

グリシャ「そういう思考を育てる為に、私は今まで小遣い制にしなかったんだよ」

と、おじさんはその真意を説明し始めたようだ。

グリシャ「お金を使う時に『何故それが必要なのか』という思考を何度も繰り返す事によって、本当に必要な物を優先するような子に育って欲しかったんだ。現に今、エレンは臨時収入が入っても、まず一番最初に「食物」と答えた。これは私の育て方が間違っていなかった事を証明しているよ」

エレン「そ、そうなのか。父さんはちゃんと目的があって、オレの買い物を管理していたのか」

グリシャ「うん。加えて言うならこういう思考の訓練は社会に出てからも確かに役に立つ。もし将来、エレンが会社を起こすような事があれば、会社の物を全て管理する必要が出てくる。そういう時に、予算を組んだりする場合に理由付けが出来ないと、やっていけないしね」

エレン「? んーんと、父さんはオレに会社を起こして欲しいのか?」

グリシャ「あくまで例えだよ。それ以外にも、エレンはちゃんと考えて行動するだろ? 私はそういう子に育って欲しかった」

エレン「そうだったのか……」

エレンが感動しているようだ。こういう話を聞くのは初めてなのかもしれない。

グリシャ「………というのは建前で、本当は未成年に酒タバコをやらせない為なんだけどね」

エレン(ズコー)

エレンは直後、顔を前のめりに伏せた。

エレン「と、父さん……」

グリシャ「高校生ともなれば誘惑も多いと思うけど絶対ダメだからな、エレン」

エレン「別に酒タバコに興味なんてねえよ……」

グリシャ「今はなくとも、いずれは、だろ?」

エレン「うっ……」

エレンは自分の言ったことがブーメランのように返ってきたようだ。

グリシャ「余計な金は持たないに限る。自分の自由になる金が欲しいのなら、まずは学業を優先させて少しでもいい大学に入りなさい。社会に出る前に勉強しないといけない事は山ほどある」

エレン「やっぱり父さんはオレに大学に行って欲しいのか」

グリシャ「出す準備はしているよ。必要なら大学院まで出してもいいと思ってる」

エレン「オレ、そんなに頭がいいほうじゃねえんだけど」

グリシャ「それはエレンがまだ、将来が漠然としているからだよ。目標が見えたらきっと、成績は伸びる。エレンはちゃんと努力出来る子だからね」

エレンがすっかり意気消沈しているようだ。これはどうてみても、ノックアウトである。

エレン「分かったよ。父さんがそこまで言うならお金は今まで通りでいい。ただ……」

エレンはそこで少し言いにくそうに呟いた。

エレン「もし万が一、本当に万が一、高校生の間に彼女が出来たら、その時だけは、その……」

グリシャ「ああ、その時は全部「デート代」でくくってあげるから。詳しい内容は聞かないよ」

エレン「…………助かる」

エレンの懸念は消えたようだ。まだ顔が赤いようだけども。

そんな訳でエレンは話が終わると自分の部屋に帰っていった。

グリシャ「まだ皿を洗ってるのかい? ミカサ」

ギクリ。

本当はとっくの昔に洗い物は終わっていたけれども。ついつい。

グリシャ「話は聞いていたんだろ? ミカサ。これからお金の使い方はどうしていきたい?」

ミカサ「私は……」

選択肢を突きつけられてしばし悩んだ。

選んだのは……


1.今までどおり、月々のお小遣い制を続けたい。

2.エレンと同じようにその都度貰う形に切り替える。

(*次のレスの秒数が偶数だと1番。奇数なら2番ルートで続けます)

13秒なので、エレンと同じようにその都度貰う形に切り替えるルート行きですね。
自由はないけれど、割と金額は使えるルートです。
グリシャさんが「いいよ」と言ってくれればだいたい買ってくれますので。

続きはまた今度で。もう寝ます。おやすみなさい。

ミカサ「私もエレンと同じやり方にしたい」

グリシャ「どうしてだい?」

ミカサ「この家の大黒柱はおじさんだから。私はもう、この家の子だから」

グリシャ「そうか。そう言ってくれると嬉しいね」

と、おじさんは少しはにかんで見せた。

グリシャ「でもそうなると、秘密のお買い物が出来なくなるよ。いいんだね?」

ミカサ「秘密にする程の物を欲しいと思った事はない」

グリシャ「今はないだろうけど、いずれ必要になると思うよ。ミカサもいつかは誰かのお嫁さんになるのだから」

そう言われてついうっかり、ぽっとなってしまった。

お嫁さん。確かにそうなれればいいなとは思うけれども。

まだ遠い先の未来に思える。だって私はまだ10代なのだから。

ミカサ「うん。大丈夫。秘密にはしない」

グリシャ「そうか。ではこれからは二人共、私のやり方でお小遣いをあげていくようにするね」

私は頷いた。そして台所を片付けて自室に戻る事にした。

おじさんはまだ一人で新聞を読みながらお酒を飲んでいる。

母は今、風呂に入っている。少しずつだけども、この家のリズムのような物を感じるようになった。

こんな風に何気ない日常が積み重なって徐々に新しい家族になっていくのだろう。

私が2階に上がると、エレンが階段のところで待っていた。

エレン「ミカサはどっちにしたんだ?」

それが知りたくて待っていてくれたのだろう。

ミカサ「エレンと同じやり方に変えて貰った」

エレン「いいのか?」

ミカサ「うん。私もこの家の子だから。おじさんの意向になぞるべきだと思う」

エレン「親父はミカサは選んでもいいって言ってたのに」

ミカサ「でも案外、おじさんのやり方の方が節約もうまくいくのかもしれない。以前の家計簿と比較してみるもの面白いかもしれないと思って」

エレン「……そうか。そう思うのならまあいいか」

そしてその時、丁度母が風呂からあがってきてエレンに声をかけた。

エレンが下に再び降りていく。母には「どうしたの?」と不思議がられた。

ミカサ「うん。お小遣いについておじさんと話してた」

ミカサの母「あらあら。そう言えば、ミカサの分のお小遣い、今月はまだ渡していなかったわね。うっかりしていてごめんなさい」

ミカサ「ううん。いいの。おじさんと話し合って、私もエレンと同じようなやり方にして貰う事になった」

ミカサの母「まあ、そうなの。あの人は本当に、甘やかすのが好きなのね」

ちょっとだけ困ったようにそう言う母だったがその心の底は嬉しそうだった。

ミカサ「でもちゃんと必要な物だけを買うので大丈夫」

ミカサの母「うん。ミカサは無駄遣いしない子だから信頼しているわ」

と、母は言ってくれた。そう言われたのが嬉しかった。

そんなこんなで、お金の問題は無事に解決して、明日の用意をしようと部屋に戻った。

そう言えばまだ時間割を紹介していなかったように思うので、ついでなので紹介しておく。


  月  火   水  木   金  土

1 現国 世界史 数学 世界史 物理 現国

2 数学 日本史 公民 日本史 化学 体育

3 英語 英語  地学 現国  地理 数学

4 地理 数学  生物 古典  英語 家庭

5 体育 古典  英語 公民  数学

6 体育 音楽  美術 体育  現国
           (保健)   


6限目までみっしりある上に土曜日は4限目まであるので最初はちょっとびっくりしたものだ。

中学時代より授業の量が多くなったし、何より種類が一気に増えた。

社会は世界史、日本史、地理、公民になったし、理科も地学、化学、物理、生物のよっつにバージョンアップした。

美術、音楽、家庭が週に1回ずつしかないのがちょっと寂しい。

木曜日の体育は、雨が降ったりしたら保健の授業をやることもある。

ちなみに一日の開始は8:30からショートホームルーム。

1限目は8:45分からの開始。50分ずつの授業だ。

もっと凄い進学校になると60分や70分も珍しくないそうなので、うちは普通の高校レベルだろう。

授業はだいたい、夕方の4時頃には終わる。それから7時、または8時頃までが部活だ。最大延長は確か9時迄だそうだ。

課外授業は3年生になったら希望者は受けられるそうだが、義務ではない。

学校によっては朝課外や夕方課外もあるところもある。

集英高校は全員強制で1年の頃から朝課外があるとパンフレットには書かれていたように思う。

>>383
時間割ズレまくりんご…orz
ちょっと見づらいのでtake2

月 現国 数学 英語 地理 体育 体育

火 世界史 日本史 英語 数学 古典 音楽

水 数学 公民 地学 生物 英語 美術

木 世界史 日本史 現国 古典 公民 体育(保健)

金 物理 化学 地理 英語 数学 現国

土 現国 体育 数学 家庭

こっちの方が見やすいかな? ごめんね。

明日は現国からか。現国のイアン先生はスマートで格好いい男性だ。女子の間でも人気がある。

数学はネス先生。エレンはアルミンの方が教え方がうまいと言ってたけれど、決してこの先生の説明が分かりにくい訳ではない。

私の経験上で言えば、ネス先生の教え方は分かり易い部類に入ると思う。ただエレンは数学に苦手意識があるせいでそう感じるのだろう。

英語はうちの担任のキース先生。あの強面で意外な科目を担当していると思ったが発音は完璧だった。人は見かけによらない。

体育は男子はリヴァイ先生で、女子はリコ先生。眼鏡をかけた小柄な女性の先生だ。

世界史はエルヴィン先生。大柄の金髪の男性の先生だ。日本史のナイル先生と良く一緒にいるところを見かける。

古典はキッツ先生。皆からは何故か「小鹿先生」と裏では言われている。

地学はモブリット先生。生物のハンジ先生と良く一緒にいるところを見かける。

噂ではモブリット先生の片想い説が浮上しているが…。真相は分からない。

化学はミケ先生。物理のトーマ先生や公民のゲルガー先生、地理のナナバ先生とも話している姿をよく見かける。

音楽はダリス先生。昔の音楽家のような髪型と顔立ちをしている。

美術はピクシス先生。この間、女子に「男子の裸体画を描かせたい」とセクハラ発言をしていたちょっとエッチな先生だ。

家庭科はイルゼ先生。そばかすのある若い女性の先生だった。

以上が、現在お世話になっている先生達だ。

………あ、用務員に警察を早期退職したハンネスさんという方がいたのを忘れていた。
 
ハンネスさんはエレンとの古い知人らしく、学校で会った時にエレンが凄く驚いていたのを覚えている。

あ、そう言えば肝心の校長先生と教頭先生を忘れていた。

校長先生は大変忙しい先生らしく、入学式の時にしか顔を見ていない。

確かまだ校長先生にしては若い男性だったように思う。体が凄く細い人だった。

名前は確か「ハジメ先生」だった。ちょっと珍しい名前だと思ったのを覚えている。

教頭先生は「バック先生」と言っていた。ハジメ先生よりも教頭先生の方が学校にいる率は高いんじゃないかと思う。

そんな感じで私の高校生活もあっと言う間に4月の後半だ。

新しい家族、新しい友達。そして先生達や先輩達。

毎日が慌ただしく過ぎていて充実していると思う。中学時代に比べるとはるかにいい。

明日の準備を夜のうちに終えて、早めに寝る事にする。もう11時に近い。

ミカサ「おやすみなさい」

壁際に並ぶ黒い熊のぬいぐるみ2体に寝る前の挨拶をして、私は布団の中に入ったのだった。






そして少し月日が流れて、4月30日。水曜日。

この日の6限目の美術の時間に、ちょっとした揉め事が起きた。

ピクシス先生が「やっぱりモデルは女子の方がいいかもしれんの」と言い出したのだ。

先週は静物画の鉛筆デッサンだったのに。この気分屋なところはまさに芸術家だ。

ピクシス「誰かモデルになってくれる女子はおらんか? モデルになってくれれば点数をボーナスしてやるぞい」

女子一同(ざわざわ…)

女子は顔を見合わせている。楽に点数を貰えるならと、ちょっとだけ心が揺れているようだ。

と、その時、ライナーが挙手した。

ライナー「ピクシス先生、あの、希望を言っても良いですか?」

ピクシス「なんじゃ?」

ライナー「モデルになる女子を男子の間で多数決で決めたいのですが」

女子一同「「「「えええー?!」」」」

ライナー「ダメだろうか?」

女子1「だってそれじゃまるで総選挙みたいじゃない」

女子2「アイドルのアレじゃあるまいし…」

ライナー「うっ……まあ、そう言われてしまえばそうなんだが」

ジャン「多数決だとまあそうなるよな」

実質、これでクラスのマドンナ決定戦になるので、女子は現実を見るのが辛くて渋い顔だ。

アニ「値踏みされているようで気分が悪いんだけど」

ユミル「そうだな。それはちょっと不公平じゃないか?」

ベルトルト「不公平?」

ユミル「ああ。そんな事言うんだったら、女子は女子で男子を選びたいよな?」

ミーナ「そうだね。女子も女子で投票したいよね」

ミカサ「だったらモデルを男子一人女子一人で行えばいいのでは?」

どのみち、イーゼルを組んで周りを囲んで絵を描くのだ。

グループを男女で分けても別に問題はない気がする。

ジャン「ミカサの言う通りだな。男子は女子をモデルに、女子は男子をモデルにして描けばんじゃねえの?」

ピクシス「なるほど。一理あるのう。では、今からモデル総選挙を行うぞ」

ピクシス先生はやけにノリノリである。こういうのが好きなのだろう。

という訳で、授業の最初にモデルを決める総選挙が行われた。

男子が選ぶ女子は>>389>>390の同点決勝となり、二回目の投票が行われる事になった。

(*同じ人物は選ばないで下さい。誰と誰を対決させたい?)

クリスタ

ミカサ

ジャン「だ、誰だミカサに入れた奴は……」

ジャンが何故か周りを見渡している。そんな犯人を探すような目をしなくともいいのに。

ミカサ「有難い事だけども、クリスタの方が多いかと思ってた」

クリスタ「ええ? 私はミカサかなと思ってたよ」

と、お互いに顔を見合わせる。

ピクシス「セクシーなのとキュートなの、どっちがタイプかという事じゃな。では最終決戦にいくぞ」

と言う訳で二回目は私かクリスタのどちらかだ。

さてさて、開票の結果…。

(*次のレスの秒数が偶数ならミカサ、奇数ならクリスタがモデルになります)

ミカサ「?!」

私が11票、クリスタが9票で2票差でなんと私が勝ってしまった。

ジャン「ってことは、モデルはミカサで決定だな」

ライナー「くそお……」

ライナーが悔しそうにしている。クリスタをモデルに描きたかったのだろう。

何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだけども、11人もの人が私を推してくれたのだから頑張らねば。

ピクシス「よし、ではこちらのチャイナドレスか、ナース服か、婦人警官の格好になって貰うぞ」

ミカサ「?!」

どこからそんな衣装を用意したのか3着が出てきた。

ライナー「な、なななな……そんな衣装まで用意していたんですか?!」

ジャン「用意が良すぎる……」

ライナーとジャンは顔を赤らめつつも反対はしないようだ。

ピクシス「ほんの遊び心じゃよ。ちょっとサイズがきついかもしれんが、それはそれで良かろうて」

サイズを見てみるとMサイズだった。これは、上はよくても下半身がやばい気がする。

ミカサ「あの……洋服のサイズがMだとかなりきついんですけど」

クリスタ「Mサイズしかないなら、私がやった方が良かったかもね。私、Sサイズだからちょっとぶかぶかかもしれないけど、ピチピチよりかはいいもの」

ライナー「うおおおおおお!」

ぶかぶかの衣装を着たクリスタを想像してしまったのか、ライナーは血の涙のようなものを流している(あくまで比喩だが)。

ピクシス「大丈夫じゃ。多少伸びるように生地はストレッチ素材だしの」

びよーん。あ、本当だ。割と伸びる素材で出来ている。

さて、どの衣装を着ようか。チャイナかナースか婦人警官。

ミカサ「チャイナが一番無難かもしれない」

スリットがあるけれども、これが一番スカート丈が長いので足が隠れる。

ミカサ「チャイナにします。いいですか?」

ピクシス「構わんよ」

という訳で私はチャイナ服を着てモデルをやる事になってしまった。

ピクシス「続いては女子による男子の総選挙じゃな」

女子は15名の奇数なので、ここは恐らく一気に決まるだろう。

ピクシス「では開票していく。あ、男子は別に衣装を用意しておらんから、パンツ一枚でよかろ」

男子一同「「「?!」」」

ジャン「まじかよ。ヌードじゃないだけマシだけど」

アルミン「寒そうだね…」

と、男子はざわざわし始めた。可哀想に。

ピクシス「一番多かったのは……>>394じゃな」

(*1組の男子の名前をお答え下さい)

(ちなみに候補はアルミン、エレン、コニー、サムエル、ジャン、ダズ、トーマス、トム、ナック、フランツ、ベルトルト、マルコ、マルロ、ミリウス、ライナー(五十音順)になります)

ベルトルト

ベルトルト「えええ? まさかの僕?!」

ユミル「私はベルトルさんにいれたぞ」

アニ「私も」

クリスタ「私も!」

ミーナ「うん、この間の球技大会、格好良かったもん」

女子はベルトルトを囃し立てている。確かに勇気を振り絞ってGKに戻ってきたベルトルトは格好良かった。

見ているところは皆、見ているのだ。

ライナー「良かったじゃないかベルトルト。人気者だぞ」

ベルトルト「で、でもパンツ一枚って……」

ユミル「あ、ポーズは出来れば体育座りで頼むぞ。お前の一番楽なポーズだろ?」

ミーナ「分かる。ベルトルトの体育座りって何故か和むよね」

ベルトルト「皆、酷い……」

という訳で男子は私のチャイナ。女子はベルトルトのパンツ一枚、体育座りのポーズを描く事になった。

そう言えば私の方はどんなポーズをすればいいのだろうか?

ピクシス「出来れば足は組んで椅子に座って欲しいのー」

ミカサ「こうですか?」

ジャン「!」

エレン「?!」

ピクシス「そうそう。いいぞいいぞー。そのポーズで30分じゃ。誰か写メもとっておけ。来週も同じポーズを続けて描くからの!」

ベルトルト「ええええ……今日だけじゃないのか」

ベルトルトはがっくりしている。1時間だけでは確かにじっくり描けないのでそれが妥当だろう。

そんな訳で美術の時間は椅子に座って足を組んだポーズでじっとしているという何とも暇な時間になってしまった。

体を動かさないというのも、逆に辛い。あと皆に一斉に見られているというのも、変な気分だ。

まあ、無言でいればいいだけなので、それはそれで楽だけども。

ふと、エレンの方を見ると何故か視線を逸らされた。

首を傾げると「動くなよ」と小声で言われてしまった。ああ、そうだった。

そんな訳でたまにあくびをしながら、美術の時間はのんびり終わった。

来週もまた同じような事をするけれど、仕方がない。これも授業だ。

皆の途中経過はどうだろうか。授業が終わった後、皆のスケッチブックを見せて貰った。

ミカサ「!」

ユミルの絵が凄くうまかった。なんというか、似てる。

ベルトルトの可哀想な雰囲気というか、その特徴がよく出ていて、見ていて和む絵だった。

クリスタはまだ顔は描いていないが、全体の体のバランスがよく取れていた。

サシャは……まさかに画伯のような絵だったとだけ言っておこう。

アニ「皆、結構うまいね」

ミカサ「アニはどこまで描けたのだろうか?」

アニ「まだ全然。絵を描くのは難しい」

アニは美術に少し苦手意識があるようだ。でもよく描けていると思う。

アニ「ベルトルトの体のバランスが、描いてみると意外と難しかった」

クリスタ「190cm超えているだけあるよね。手足長いなあって思った」

ユミル「そうだな。でも描いてて結構楽しかったぞ」

サシャ「ですね! 来週もまた楽しみです」

ユミル「男子の方の絵も見せて貰おうぜ」

ユミルがライナーやエレンの絵を覗き込んでいた。

ライナーは私の体を全体的に捉えてバランスよく描いてくれていた。

ユミル「なんか普通の絵だなあ。もうちょっとバランスずらしてもいいんじゃねえか?」

ライナー「そうか? どっちにずらしたらいい?」

ユミル「そうだなー…私だったらミカサの体の位置をもうちょい右にずらすな。こう、トリミングして…」

と、ユミルは両手を使って四角を作って端を切り落とすような動作をした。

ライナー「おお、なるほど。そっちの方が確かにいいな」

ユミル「まあ好みによるんだろうけどな」

ライナー「いやいや、助かった」

クリスタ「エレンはどんな風に描いたの?」

エレン「…………あんまりうまくはねえよ」

と、エレンは言いながらも途中の絵を見せてくれた。

エレンの描いた絵は……上半身より上の私の姿だった。

ユミル「何で下半身描いてねえの? 椅子に座ってるポーズなのに手抜きだろこれじゃ」

エレン「手抜きじゃねえよ。顔の方を描きたかったんだよ」

ユミル「いや、ポーズとその意図を汲み取れよ。多分これだと減点されるぞ」

エレン「え……まじか。でももうここまで描いちまったし描き直すのは嫌だな」

ユミル「だったら相当気合入れて顔の表情を描けよ。そっちで魅せるしかねえな」

エレン「分かった。頑張ってみる」

ユミルが何故か男子にアドバイスをしている。

確かにこの中だったらユミルが一番、絵心があるように思えた。

ユミル「ん…? ぶっ……コニーの絵、すげえ!」

サシャ「ぶっ……これは斬新な構図ですねえ」

コニーのスケッチブックを覗き込んだ二人は爆笑していた。どんな絵なのだろう?

私も気になったので見せてもらったら……。

ミカサ「お、おっぱいの部分が一番、大きい。というか顔が入りきれてない」

コニー「悪い。胸から先に描いたら顔が入らなくなった」

ミカサ「酷い。これでは私である必要がない」

コニー「わざとじゃねえって! 計算通りにいかない事もあるだろ?!」

アニ「いや、普通は計算して描くもんだからね」

と、アニがツッコミを入れている。全くだと思った。

コニー「他のやつらはちゃんと顔まで入れてるのか?」

と、コニーは他の男子の絵も見に行った。

コニー「ジャン、お前のどうなん? 見せてくれよ」

ジャン「ああ? まだ全然途中だよ。ほれ」

ユミル「!」

クリスタ「!」

サシャ「おおお……これは」

ミカサ「凄い。まるで写真みたい……」

ユミルの絵が似顔絵師が描く絵(所謂漫画の絵に近い感じ)だとすれば、ジャンのそれは写真のような絵の描き方だった。

しかも私の足のラインがとてもうまく描けていて、まるで額縁に入れて飾って置ける絵だと思った。

ユミル「負けた……一人だけレベルが違いすぎるだろ」

ジャン「そうか? まだこれでも5割ってところだが」

サシャ「これで半分って事ですか?! 完成品は絵から浮き出てきそうですね!」

ジャン「ああ、浮き出るような立体感がまだ足りてねえからな。陰影足りてねえし」

ミカサ「もう十分完成しているようにも見えるけども」

これ以上まだ描き進めるというのか。凄い。

ジャン「あ、ああ……オレの絵はまだまだだよ。本物に比べたら」

と、何故かジャンが私を見てふいっと視線を逸した。

コニー「瓜二つに描くつもりなのか。すげえな。なんかコツとかあんの?」

ジャン「コツっていうか……鉛筆の先をヤスリで削ってから描いたりするけど」

コニー「すげえ! 準備がいいな! へー!」

ジャン「ヤスリがねえなら普通にカッターで鉛筆削って先の方を少し細めにしておけば、それだけでも大分描きやすさが違う」

コニー「そりゃいい事聞いたぜ! サンキュ!」

と、コニーは早速カッターで先を削る事にしたようだ。

ごめん。キリ悪いけどここまでで。眠い。

体育祭まで一気に時間飛ばすつもりだったけど、
美術の授業を挟むつもりだったの忘れてた。間違えてすまん。
この先生の授業風景が見たいとか、
希望があれば出来るだけ合間合間に出していきます。

ではまたノシ

乙です!いつも楽しみにしてます!ベルトルさんの体育座りが想像できておかしいvv


授業じゃないがエレン達がハンネスさんと関わるところが見たいな

ミカサのチャイナ…!
足がさぞかし綺麗だろう

>>401
ベルトルトさん、パンツ一枚で体育座りというシュールなモデル。
超描きたいと思いました。個人的に。

>>402
了解です。ハンネスさんの出番出す。

>>403
ジャンは気合入れて描いてますwww
エレンはちなみに照れくさくて足を描けてないです。


体育祭の前にもうちょい書きたいことが増えたので寄り道する。

ジャン「もうちょい続けて描きたい気分だが、続きは来週だな」

と言いながらジャンも後片付けを始めた。

ジャン「………そう言えばミカサ、GWは何か予定とか入っているか?」

ミカサ「いいえ。特に何も」

演劇部の方でも特に何も言われていないし、恐らく家にいる事になると思う。

その事をジャンに伝えると、ジャンの方から「だったらミカサの家に遊びに行ってもいいか?」と誘われた。

ミカサ「え? 私の家?」

ジャン「ああ。その……マルコも一緒に」

しかし私の家はエレンの家でもあるので、エレンの許可無しに人を招待するのは良くないだろう。なのでここはエレンにも念の為に聞いてみる。

ミカサ「エレン、いいのだろうか?」

エレン「はあ?! 何でうちに来るんだよ」

後片付けをしながらエレンが不機嫌そうに答える。

エレン「マルコは別にいいけど、ジャンはダメだ」

マルコ「まあまあエレン、そう意地悪しないであげてよ」

ジャンが少しだけ涙目だ。確かに意地が悪いと思った。

ミカサ「何でそうジャンに意地悪するの?」

エレン「それは……別にいいだろ。オレとジャンはそんなに仲良くねえし」

アルミン「まあ、でも喧嘩するほど仲がいいとも言うよね」

エレン「アルミン、どっちの味方だよ」

アルミン「え? 僕? 僕はどっちの味方もしないよ」

と、意味深に笑っているアルミン。

アルミン「GWは僕も予定は今のところ何もないかな。遊びに行ってもいい?」

エレン「おう、勿論いいぞ。うち来い」

マルコ「だったら皆で遊べばいいじゃない。ね? エレン」

エレン「………分かったよ。仕方ねえな」

ジャンがその直後、何故かガッツポーズをして喜んだ。

やっぱり仲間外れにされるのは誰だって悲しい筈だ。うん。

ミカサ「では、私もそのつもりで準備しておく」

と言う訳で、また先の予定が埋まりそうだ。

皆で集まるなら何かお菓子でも焼いて用意しておこう。

そんな風に思いながら、その日は終わったのだった。





次の日。5月1日。この日は放課後、委員会活動が行われた。

月の初めの日、月に一度のペースで委員会の会議が行われるようだ。

私達は演劇部の方でもリヴァイ先生とは会っていたが、委員会の方で会うのは初めてだった。

リヴァイ先生の担当クラスは3年1組なので3年生のクラスに初めてお邪魔する事になった。

実は1年生は3階、2年は2階、3年生は1階という教室の割り振りになっている。

音楽や美術や家庭などの特別教室は4階。文化系の部室も4階にほぼ集合している。

別館の3階には生物、地学、化学、物理の理科系の教室。

別館の2階には校長、教頭先生の部屋。別館の1階には職員室がある。

まだ校舎内の全ての部屋を見て回った訳ではないが、だいたいこんな感じだ。

リヴァイ「今日は新しい委員の紹介と、あと委員長と副委員を決めたいと思うが……」

リヴァイ先生は集まった生徒を見渡して、

リヴァイ「多数決で決めるのも時間の無駄だから指名して決める。3年1組のオルオ、ペトラ。お前らやれ」

実はオルオ先輩とペトラ先輩はここでも縁があり、一緒の教室にいた。

まさか委員会でも顔を合わせるとは思わなかったが、いやはや。

オルオ「じ、自分でいいんですか?」

リヴァイ「不服か?」

オルオ「いいえ! とんでもないです。ご指名とあれば、是非ともやらせて頂きます!」

と、言う訳で整備委員長はオルオ、整備副委員はペトラ先輩に決まったようだ。

リヴァイ「整備委員の活動は月に一度、校内の全体の点検を行うのが主な仕事だ。まず各クラスの掃除用具の点検。不備のある用具が見つかったらチェックして報告しろ。新品と交換する。その後は、校舎の外に出て落ち葉の清掃や危険物(割れたガラス等)がないかのチェックだ。それが終わったら……」

と、細々としたいくつかの仕事があるようだ。月に一度とはいえ、地味に大変な気がする。

リヴァイ「……以上だ。手早くやればそう時間はかからん。全員で一気に終わらせるぞ」

一同「「「はい!」」」

という訳で、普段の掃除の時間とはまた違った校内清掃が始まったのだった。





リヴァイ「ふむ。終わったようだな」

リヴァイ先生のチェックも全員分済んで無事に終わったようだ。

前評判では恐れられていたリヴァイ先生だが、こうやって見てみるとさほど怖い先生には見えなかった。

心配が杞憂に終わりそうでほっとしていたら、直後、リヴァイ先生の顔色が変わった。

リヴァイ「……おい、お前」

3年男子1「は、はい…!」

報告していた男子がびくっと肩を震わせた。

逃げようとした彼の頭をひっつかみ、何かを確認している。

リヴァイ「………髪の毛にタバコの匂いが微かに残っている。どこで吸った」

3年男子1「いえ、吸ってません! 吸ってるのは父親で、移り香です!」

リヴァイ「分かった。では保護者に確認しよう。少し待ってろ」

3年男子1「!」

途端、男子の顔色が変わった。ああ、どうやら嘘をついていたようだ。

携帯で何やら男子生徒の担任の教師に連絡を取っているようだ。

3年男子1「す、すみません! 嘘をつきました! その……昼休みに校内の便所で少しだけ、吸いました」

と、その男子が白状した瞬間、リヴァイ先生は携帯を切っていきなりその男子の頭を掴んで一発、腹バンを決めた。

エレン「!」

明らかに行き過ぎた指導だった。これは暴力教師として訴えられてもおかしくない。

タバコを吸った男子生徒は確かに悪いが、皆が見ている前で腹バンは酷い。

エレンはちょっとだけ汗を掻いて驚いている。

リヴァイ「………未成年の喫煙は校則ではなく、法律で禁止されているのは知っているよな?」

3年男子1「は、はい……(うげえ…)」

リヴァイ「知っていて、その上で校内で吸ったという事は、そのせいで他の奴らにまで迷惑がかかる事も知っているよな?」

3年男子1「は、はい……」

リヴァイ「それでも誘惑に負けて吸ったと言うことは、貴様自身が悪いって自覚はあるんだな?」

3年男子1「は、はい! もう二度と吸いません! 絶対に!」

リヴァイ「……………二度目はないぞ」

と、リヴァイ先生はそれ以上は言わず、今回だけは見逃すことに決めたようだ。

エレン「き、厳しい先生だな……」

皆が解散した後、エレンがポツリと言うとオルオ先輩は「そうか?」と首を傾げた。

オルオ「あれでも丸くなった方だぞ。オレ達が1年の頃は、もっと厳しかった」

ペトラ「そもそもリヴァイ先生に会うって分かってる日にタバコ吸ってくるってのが舐めてる証拠よね」

と、二人共男子生徒を全く擁護しない。

だが1年生は初めて目の当たりした体罰に目を丸くしているようだ。

それもその筈だ。私達の世代は体罰に関してはかなり厳しく問われて育っているからだ。

解散の言葉があったのにも関わらず、まだ何名かの生徒は今の指導に対して動揺を示している。

ミカサ「でももし、今のを訴えられたらリヴァイ先生が不利なのでは……」

私が本音をポツリと言うと、ペトラ先輩は「それはないと思うよ」と言った。

ペトラ「そもそもあの男子がタバコ吸ったのが悪いんだし。もし訴えたらその事実が保護者に露見しちゃうでしょ」

ミカサ「でも、そういう自分の子供の非を棚に上げて訴えてくる親も多いので……」

私は過去にそういう場面を見たことがある。小学生の頃は特にその傾向が酷かった。

オルオ「まあ、でもそん時は見ていたオレ達が証人になるしかねえよ」

ペトラ「そうね。というか、この程度の事でウダウダ言う方も言う方よ」

と、さすが3年生なのか二人は全く動じていない。私自身は、少しだけ複雑な心境だったが。

ペトラ「さてと、委員会の方は終わったし、遅くなったけど部活に合流しましょ」

と、ペトラ先輩はのんきに言っていた。その後ろ姿を私達も追う。

エレン「………」

エレンは何やら思案げな表情だった。

ミカサ「エレン?」

エレン「いや、オレの親父とは違った意味で、大人だなって思っただけだ」

と、どうやらエレンは自分の父親とリヴァイ先生を比べていたようだ。

エレン「今のってさ、どう見てもリヴァイ先生の方が立場、不利になるよな。それなのに、指導したって事は、それだけ相手に情がねえと出来ねえよ」

なるほど。そういう見方もあるかもしれない。

エレン「なんか、リヴァイ先生ってタバコに対して恨みでもあるのかな。憎んでいるようにすら見えたけど」

ミカサ「そうね。ちょっと傍で見ていて神経質過ぎるような気もしたけれど」

リヴァイ先生にとってタバコには何か因縁があるのかもしれない。

だがその時点はその真相は分からず、ふとした偶然のおかげで、その真相を知る事になる。

部活が終わった後、下駄箱に向かう途中で、ハンネスさんとリヴァイ先生が話し込んでいる姿を偶然目撃したからだ。

エレン「あ、ハンネスさんだ。こんばんはー」

時間は既に7時を過ぎているのでそう挨拶するとハンネスさんも「よう!」と返した。

ハンネス「今、帰りか?」

エレン「ああ。部活終わったから帰る」

リヴァイ「では今日の分の点検結果の補充の発注を頼む」

ハンネス「了解了解♪」

と言ってリヴァイ先生は先に職員室に帰っていった。

エレン「それ何?」

ハンネス「ああ、今日委員会があっただろ? 整備委員のお仕事の引き継ぎだ。補充する分の掃除用具の発注は俺の仕事なんだよ」

エレン「へーそうなんだ。事務員さんじゃなくて用務員の仕事なのか」

ハンネス「事務員さんは書類の作成の仕事の方がメインだな。俺は校内の雑用係だよ」

エレン「そっかー…ハンネスさんが用務員になったと知った時はびっくりしたけど、板についてきたみたいだな」

ハンネス「ははは……まあな。俺もまさかこの学校でエレンと再会するとは思わなかったよ」

ハンネスさんはエレンの小さい頃からの知人で、近所に住んでいるそうだ。

怪我が原因で警察をやめて第二の人生を歩いていると言っていた。

ハンネスさんとは部活終わりにこうやって時々会う。丁度、校内の見回り時間とかち合うのだ。

ハンネス「再会で思い出したが、まさかあのリヴァイが学校の先生とはねえ…」

エレン「え? ハンネスさん、リヴァイ先生の事知ってるの?」

ハンネス「ああ。知ってるも何も、俺が若い頃、警官の頃に何度も補導したよ。あいつを」

エレン「ええええ? リヴァイ先生を補導したって……」

ハンネス「中学、高校生の頃かな。有名な不良だったんだよ。毎日タバコ吸っててさ。彼は所謂不良チームの頭だったんだよ」

おお、まるで何処かで聞いたようなドラマの先生の経歴だ。

ハンネス「今はタバコを吸ってないようだが……アレかな。思春期の頃に吸いすぎたせいで身長が伸びなかった事を気にしているのかもしれん」

エレン「え……じゃあ、まさか……」

ミカサ「恐らく、そうなのかもしれない」

ハンネス「ん? どうした?」

私は今日のリヴァイ先生の指導の件をハンネスさんにちょっとだけ説明した。

するとハンネスさんはぶっと吹き出して笑いを堪えきれずしゃがんでしまった。

ハンネス「あーははっはあ! こりゃあたまげたぜ。それは確実にタバコを吸ってた事を後悔しているな」

エレン「身長伸びなくなるっていうのは本当か? ハンネスさん」

ハンネス「まあ、統計学的に見ればそうだな。成長期に酒やタバコをやりすぎるとそうなるっていう説はある。遺伝的要素もあるが、成長は外的要因もかなり影響するからな。その辺の事は、イェーガー先生の方が詳しいんじゃないか?」

エレン「なるほど……オレ、絶対酒とタバコはしないでおくよ」

エレンは身長を気にしているので余計にそう思うのだろう。

ハンネス「まあやらないに越したことはないがな。イェーガー先生もその辺の事は厳しいだろうし」

お医者さんという職業上の立場もあるだろうが、確かにおじさんも厳しいと思った。

ハンネス「ただあんまり真面目に生きるのもそれはそれで問題だぞ、エレン」

エレン「え? 何でだよ」

ハンネス「自分の体の酒の限界がどの辺にあるのか早めに知っておけば、社会に出た時に役に立つ。知りたいなら、今度俺の奢りでこっそり飲ませてやるよ」

エレン「元警察官が未成年に飲酒を勧めてくるなよな!」

エレンがふーっと怒ってる。この場合はエレンの方が正しい。

ハンネス「ははは! 冗談だよ。ま、二人共気をつけて帰れ。最近、変な奴も多いからな」

エレン「おう! じゃあまたな! ハンネスさん!」

と言う訳でハンネスさんとはそこで分かれて私達は家に帰る事になった。

エレン「にしてもリヴァイ先生が元不良だったなんてなあ、想像つかねえや」

ミカサ「…………」

エレン「ってことは喧嘩とかも強いんだろな。きっと。ちょっと見てみたい気もするけど」

ミカサ「…………」

エレン「ん? どうしたミカサ?」

しまった。ついつい黙り込んでしまった。

ミカサ「何でもない。リヴァイ先生の過去がちょっと意外だと思ってただけ」

本当は少しだけ違うのだが、誤魔化した。

エレン「そうだなー。見た目は真面目そうに見えてたから余計にそう思うぜ」

と、エレンは私の内心の葛藤に気づかずにいるようだ。

実はこの時、私はハンネスさんの言葉を思い出していたのだ。

そう、酒やタバコは成長を阻害する効果もあるという説について。

私の場合は身長を「止めたい」と思っているので、もしかした効果があるのか? とうっかり考えてしまったのだ。

いやいや、でもダメ。私はエレンと同じお金の使い方をすると決めたので。そんな誘惑に負けてはいけない。

私は未成年なのだから、酒やタバコはしてはいけない。おじさんに怒られる。

エレン「人は見かけによらねえって事だな」

とエレンは言いながら、私達は今日も無事に家に帰り着いたのだった。








そしてまた月日が流れて、GWに突入した。

部活の方はGW中は一日だけ活動があるようだったが、全員強制ではないようだった。

予定が先に入っている子は無理に出てこなくてもいいと部長のオルオ先輩に言われたので、今回だけは自分の予定を優先させて貰う事にした。

5月3日。その日の午前中に多めにクッキーを焼いておき、遊びに来るジャンとマルコとアルミンの三名を待っていた。

12時頃に三名はうちにやってきた。玄関で出迎えるとジャンは「でけえ家だなおい」とびっくりしていたようだった。

その気持ちは良く分かる。私も引っ越してきた当初はその大きさに驚いたものだった。

まずイェーガー家には駐車スペースが2台分ある。

南西に位置する駐車場から右にあがって玄関。家全体の位置からすると南向きの中央玄関だ。

入ってすぐ左側、西側には南北に長いおじさんの書斎がある。

玄関から入って左側にはリビング、そして和室の六畳程の仏間があり、お縁もある。

リビングと仏間の北側が食堂と対面式の台所だ。

風呂やトイレや洗面は食堂の西側にある。家の全体で見ると、中央北寄りだ。

そして階段は家の中央あたりにある。玄関を入ってすぐ左側の廊下を進んで右手に螺旋階段があり、そこを登って、左手に曲がると私の部屋。階段を登って右手に南に進むと、エレンの部屋だ。

おじさんの寝室は西側だ。エレンの部屋は真ん中になる。私が東側だ。

そして私の部屋とエレンの部屋は大きなベランダを通じで行き来も出来るようにもなっている。

以上がイェーガー家の大体の間取りである。あ、ついでに言うならお庭も少しあるので、ガーデニングも出来る。

この間取りを見て「広い家だな」と思わない人はよほどのお金持ちの家に育った方だけだろう。

エレン「まあ、親父が建てた時に広めに作ったおかげだけどな」

ジャン「広めどころじゃねえよ。いいな……いい家に住みやがって。羨ましい」

と、ジャンは遠慮無しに感想を言っている。

エレン「広いと掃除が結構大変だけどな。三人とも、昼飯は食ってきたのか?」

マルコ「うん。食べてきた」

アルミン「僕は食べてないや」

ジャン「パンしか食ってねえな」

エレン「バラバラだな。まあいいや。じゃあ腹減ってる奴はミカサが朝に作った肉じゃがの残りでいいよな?」

ジャン「料理はミカサが作ってるのか?」

ミカサ「毎日ではないけれど。今日は朝から母とおじさんが出かけているので」

新婚さんなのだ。その辺は気を遣っているのである。

エレン「親父の休みもそんなにある訳じゃねえしな。休みの日はおばさん優先だよ。食べたい奴は手あげろ」

マルコは食べてきたというのに結局もう一回食べる事にしたようだ。

そして三人が昼食をとった後、エレンの部屋に皆集まる事になった。

ジャン「くそ……オレの部屋の倍近くある」

エレンの部屋に入るなりまた嫉妬するジャンにエレンもうんざりしているようだ。

エレン「いちいち嫉妬するなよ。面倒臭い奴だな」

ジャン「いや、するなって言うほうが無理だろ。なあ、アルミン」

アルミン「え? 僕はもう慣れたよ。小さい頃から遊びに来てるし」

と言いながら勝手知ってるエレンの部屋のゲーム機にスイッチを入れているアルミンだった。

ジャン「ゲーム機いろいろあるな。うあ……お前、まだSFC(スーパーファミコン)持ってるんか?!」

エレン「まだ現役だが何か?」

ジャン「いや、SFCには名作多いから分かるが、今はもうWiiやPS3の時代だぞ」

エレン「そっちもそっちで持ってるけどな。でもソフト数で言ったらSFCとPSとPS2の方が多いかもな」

アルミン「あ、プレステ2のスイッチ入れちゃったけど、SFCの方やるの?」

エレン「ジャンは何がやりたいんだ?」

ジャン「この中だったらこれやってもいいか?」

ジャンが手に取ったソフトは………。

(*ゲーム名を記入下さい。>>1が知らない場合はウィキ等で調べてくるので続きに時間がかかるかも)

(*タイトルは若干、本物を適当にもじるのでご了承下さい)

皆で鑑賞モードで行きますね。64でいい?
細部は省略挟んでそれっぽく書いていきます。

エレン「セルタの伝説~時のオカリナ~か~でもそれRPGだから皆でやるのには向かないぞ」

アルミン「しかもそれ、64の方だよね。最近、64は全然やってないけど」

エレン「ちょっと待て。押し入れに片付けてる筈……ああ、あったあった」

と言ってエレンは押入れからまた別のゲーム機を取り出した。エレンはゲームコレクターのようである。

エレン「まあオレもやるの久々だし、細部は忘れてると思うからいいけどな」

ジャン「そうか。いやオレ、昔これ欲しかったんだけど、結局買えなくてやれずにいたゲームなんだよ。不朽の名作ってやつだろ?」

エレン「ん~まあ好みは分かれると思うけどな。オレは割と好きだぞ」

と言う訳でPS2は一旦、消してセルタの伝説をやる事になった。

ウイイイン………

ゲームソフトを読み込んで早速スタートである。

主人公の名前は変更も出来るようだが、ここはリンクのまま進めるようだ。

光る妖精がふわふわ飛んでいる。金髪の緑色の三角帽子をかぶった少年がベッドで寝ている。

妖精『リンク! ねえ、おきてよリンク!』

リンク『ZZZZZ』

妖精『デクの樹サマがお呼びなのよ、リンク、おきなさい!』

少年が妖精に無理やり起こされるところから始まるようだ。

妖精『んもう! こんなねぼすけがハイラルの運命をにぎってるなんて、ホントかしら…?』

ミカサ「ハイラルとは何だろう?」

エレン「まあ、追々分かる」

あ、やっと主人公の男の子が目覚めたようだ。

妖精『やっと目がさめたのね? ワタシ、妖精のナビィ!』

ナビィ『デクの樹サマのご命令でこれからワタシがアナタの相棒よ、ヨロシクね』

いきなり相棒が出来た。展開が早いと思った。

ナビィ『デクの樹サマがお呼びよ! さあ、いっしょに行きましょ!』

主人公を操作出来るようになったようだ。リンクの部屋はまるで、木の中に部屋を作ったような不思議なお部屋だった。

そこを出て行くと、そこには、



コキリの森


部屋から出ると、少女が駆け寄ってくる姿が見えた。

全身の髪と洋服が全体的に緑色に染まっている。

その少女の傍にもナビィと同じような妖精らしきものが浮遊している。

少女『やっほーリンク!』

主人公を動かして少女の元に駆け寄ると、

少女『わぁ~っ、妖精ね! やっと、リンクのとこにも妖精がやってきたんだ! よかったネ!』

うふふと笑っている。

少女『何だかサリアまでうれしくなっちゃう!』

この緑色の少女はサリアと言うらしい。

サリア『これでリンクもりっぱなコキリ族の仲間よネ!』

サリア『え? デクの樹サマのご用なの?』

サリア『スゴイじゃない! デクの樹サマとお話しできるなんて!』

サリア『アタシ、ここで待ってるからデクの樹サマのところへはやく行ってあげて!』

ジャン「あれ? なんか動かしにくいな……」

エレン「64だからな。慣れるまで頑張れ」

ジャンは苦戦しながらコントローラーを操作しているようだ。

途中で何故か、横走りを始めて奇妙な動きを繰り返したので、ちょっと面白くて笑ってしまった。

ミカサ「ジャン、その動きは一体……」

ジャン「わざとじゃねえ! わざとではないんだ!」

エレン「まあ、頑張れ」

エレンはニヤニヤ意地悪そうに笑っている。コツを教えてあげればいいのに。教える気はなさそうだ。

>>413
訂正。

玄関から入って右側にはリビング、そして和室の六畳程の仏間があり、お縁もある。

ごめん。左側が書斎なのに、二回左側って書いてた。
正しくは入ってすぐ右側がリビング、和室です。

先に進むと何故か男の子に通せんぼをされた。

男の子『なんだ、「妖精なし」!』

酷いあだ名をつけられているようである。

男の子『デクの樹サマになんの用ダ! 妖精もいない半人前のくせに…アレ?』

よく見てみよう。目の前にいる。

男の子『なに~っ!? デクの樹サマに呼ばれたって? なんだよっ!』

男の子『なんでこのミドさまじゃなくてオマエなんだよっ!』

どうやらこの男の子はミドという名前らしい。

ミド『お、おもしろくね~っ!!』

ミド『オイラはみとめねぇゾ! オマエなんてまともな「そうび」もしてないジャンか!』

ミド『剣(ケン)と盾(タテ)ぐらい持ってなくちゃデクの樹サマのお手伝いなんてできないゼ!』

ミド『ま、オイラも持ってないけどナ…』

持ってないのか。ならミドもお手伝いは出来ない。

ミド『ここを通りたきゃ剣と盾ぐらい「そうび」してきナ!』

ジャン「所謂、ここはチュートリアルだな」

ミカサ「?」

エレン「ゲームの中で必要な操作方法をキャラクターが丁寧に教えてくれる場面の事だ」

ミカサ「なるほど。剣と盾を探して来ないといけないのね」

ジャンは画面の中をいろいろ動かして剣を見つけたようだ。


コキリの剣(けん)を入手した!

そうび画面に切りかえて、カーソルで選んでAでそうび。


なんて丁寧なゲームなのだろう。初心者には非常に有難いゲームだと思った。



コキリの仲間の宝物。

しばらくの間借りておこう! 表に出たら「れんしゅう」だ!


剣を回収して次は盾だ。

ジャンが主人公を動かした瞬間……

リンク『あいた! (ビシッ!)』

大きな岩が転がってきてダメージを食らったようだ。可哀想に。

ジャン「ちょ、いきなりくるなよ!?」

エレン「ククク……まあ、初見じゃこうなるよな」

アルミン「ああ、遠い記憶が蘇るよ」

どうやらエレンとアルミンも経験者のようだ。

ジャン「ああもう、盾は買ってくる」

地味にお金が溜まっていたようなのでジャンは盾を買うことにしたようだ。

盾を購入して装備したリンクは先程のミドのところに戻る。

ミド『デクの樹サマのとこ行きたきゃ剣と盾くらいは「そうび」してこい…っアレ?』

ミド『なんだ、デクの盾つけてるじゃん』

ミド『あ!?』

ミド『そ…それ、「コキリの剣」? ちくしょーっ!!』

ミド『でもヨ、そんなモン持ってたってヨワいやつはヨワいんだかんナ! フン!!』

ミド『このミドさまはオマエなんてぜ~ったいみとめねぇかんナ!』

ミド『ちくしょー…なんでデクの樹サマも、サリアもオマエなんかを…ブツブツ』

ジャン「なんかこのミドって奴、憎めねえな」

マルコ「ちょっとジャンに似てない?」

アルミン「雰囲気というか、嫉妬深いところが似てるかもね」

ジャン「うっ……感情移入しちまったのはそのせいか」

顔は全然似ていないが、そう言われればそうなのかもしれない。

あ、ミドが渋々通してくれた。いよいよデクの樹サマとやらに会えそうだ。

うお? 途中でいきなりニョキッと植物が生えてきた。青いバラのような物が急成長する。

それをザクザクを伐採して先に進むと、いよいよデクの樹サマに会えそうだ。

ナビィ『デクの樹サマ…ただ今戻りました!』

大きな樹が出迎えてくれた。樹にはまるでおじいちゃんのような顔(?)のようなものがある。

デクの樹『おぉ…ナビィ…戻ったか…』

デクの樹『そしてリンク…よく来てくれた…』

デクの樹『森の精霊である…このワシ、デクの樹の話を聞いておくれ…』

デクの樹『お前は最近、毎日のように恐ろしい夢を見ているはずじゃ』

デクの樹『その夢は、今この世界に忍び寄る邪悪な気配そのもの…お前は、それを感じたのじゃ』

デクの樹『リンクよ…今、ここでお前の勇気をためさせてほしい』

デクの樹『ワシはのろいをかけられておる。お前の知恵と勇気でそれを解いてほしいのじゃ』

デクの樹『その覚悟があるかな…?』

選択肢が現れた。

→はい

 いいえ

ここは「はい」を選ばないと進まないのでは…。

ジャン「いいえを一度は選びたくなるよな…」

アルミン「時間が勿体ないから「はい」でいってね」

ジャン「了解」

すると口が大きく開いてデクの樹サマの体の中に入ることになったようだ。

デクの樹『では、リンクよ。ナビィと共にワシの体内へ入るがよい…』

ゴゴゴ……

デクの樹『妖精ナビィ…リンクの力となれ…』

デクの樹『よいかリンク…ナビィが語りかける時、▲を使い耳をかたむけよ…』


デクの樹サマの中


植物をザクザクと伐採してアイテムを手に入れた。


デクの実を手に入れた!

Cアイテム画面で← ↓ → にセットしよう。

Cを押して、投げてみよう!

ピカッと光って目くらまし!

敵の動きが止まります。



ナビィ『ヘイ! リッスン!』

お、ナビィが喋りだした。

ナビィ『見て見てリンク! このクモの巣の下! ▲でのぞけるよ!』

おお、なるほど。こうやってナビィがいろいろ解説してくれるのか。

ジャン「後回し」

エレン「え? ▲押さねえの?」

ジャン「他のところも見てからだ」

ナビィ『リッスン!』

ナビィ『このカベ…ツタがからみついててリンクなら登れそう』

ジャン「じゃあ登ってみるか」

エレン「そっち先にいくんか」

壁を登るとその先に宝箱があった。ダンジョンマップを手に入れたようだ。

ジャン「お、これはいいもん手に入れたな」


青い部屋は行った場所。

点滅するのは現在地。上下でフロアを選ぶ。


わざわざその都度解説してくれる親切設計ゲームだと思う。


ジャン「ん? 壁の方に何かいるな」

そちらに注目するとナビィが解説してくれた。

ナビィ『スタンウォール 触らないように気をつけて!』

ジャン「触らないようにして壁を登っていくのか…』

ザッザッザッ……

バシ!

ジャン「あああああ……」

うっかり当たって地面に落ちた。その様子をエレンとアルミンは笑いを堪えて見ている。

ジャン「わ、笑うなよ!」

エレン「いや、ベタな凡ミスだったからつい…」

ジャン「ああもう、ここは飛び道具でもないと無理だろ!」

という訳でジャンはパチンコを手に入れて切り替えたようだ。


デクのタネを手に入れた!

カタくてちっちゃな花のタネ。

パチンコのタマに使えるゾ!


ジャン「よし、いいのも手に入った」

こんな感じであちこちダンジョンの中を冒険しては伐採しつつ先に進む。

詳しい部分はちょっと省略する。ここからはただの探索なので。

途中で口を尖らせた変な顔の敵(?)が命乞いを始めた。

敵『ゆるしてッピ! もーしないッピ! みのがしてくれたらいーこと教えるピー』

敵『この先にいる三つ子デクナッツは、決まった順にやっつけないと復活しちゃうッピ』

敵『その順番は…2 3 1「ニイさんイチバン」だッピ!』

敵『オイラって…ヒドイやつ?』

と言い捨てて何処かに逃げてしまった。

先に進むとナビィがまた『リッスン!』と言ってきた。

ナビィ『水に入ってからAを押したままにすれば、深くもぐれるよ』

このゲームは前にエレンとやったICO×ICOをもう少し簡単にしたアクションRPGゲームかもしれない。

水に潜るアクションの先には敵がいっぱいいた。囲まれてちょっとやばいような…。

ジャン「あ、やっべ! これは……」


ダラララーン……


あー…ゲームオーバーになったようだ。

エレン「あーあ、終わっちまったな」

ジャン「いきなり敵の数増えすぎだろ…」

エレン「まあこんなもんだろ、初見だし」

アルミン「ミカサの方がアクションうまいかもね」

ジャン「何? そうなのか?」

エレン「こいつ、ICO×ICOが初ゲームプレイだったのにも関わらず、ゲームオーバーは殆どせずにラスボスとのところまで行ったからな」

ミカサ「でもさすがにラスボスのところでは何回か死んだ……強かった」

エレン「いやでも初見であれだけやれたら上出来だって。ジャンの代わりに続きやってみるか?」

という訳で続きは私が引き継ぐことになった。

時のオカリナは実際はやった事ないですが、まあ雰囲気で。
エレン達がゲームをやって楽んでいる風景をお楽しみ下さい。
今日はここまで。またねノシ

緑色の目玉の変な敵をジャンの代わりにサクサク倒して後を引き継ぐ。

奥に進むとまた違う敵も出てきたが、そいつらも難なく倒して先に進んだ。

ジャン「本当だ……ノーミスじゃねえか。64したことあるのか?」

ミカサ「いいえ。今日が初めて」

ジャン「すげえ。アクション得意っていうのは本当だな」

ミカサ「むしろ謎解きの方が苦手。迷子になる」

私は主人公をウロウロ動かして頭を悩ませた。

火をつけて先に進むのは何となく察する事は出来るが、それ以外の要素も絡むとちょっと時間がかかってしまう。

前回エレンとやったアクションゲームは謎解きの部分はエレンにほぼ任せて先を進めたので、自分で謎を解くのは難しかった。

アルミン「ヒントあげないの? エレン」

エレン「んー……オレもはっきりとはもう覚えてないんだよな。全クリしたの相当昔だし。アルミン、覚えてるか?」

アルミン「まあ、見れば大体は何となく思い出すけど」

エレン「ミカサが詰まったらアルミンに交代だな」

と言ってくれたのでとりあえず安心である。

先に進むと先程と同じような口の尖った敵が3体現れた。

2、3、1、だったはず。これでいいのだろうか?

敵を倒すと、敵が喋りだした。

敵『どーしてオイラたちのヒミツ知ってるピー!? くやしーッピ!』

敵『あんまりくやしーからゴーマさまのヒミツもバラしちゃうッピ!』

ゴーマ、というのが次の敵の名前らしい。

敵『ゴーマさまにトドメをさすにはひるんだスキに剣で攻撃だッピ』

敵『ゴーマさま…ゴーマんなさい』

敵『なんちて』

どうやら次がボス戦のようだ。くぐった先に、奴がいる。

ミカサ「? どこにいるの?」

あれ? 見当たらない。すぐボスがいると思ったのに。音はするけど。怪しげな。

エレン「あー思い出した。ここは……ククク……」

アルミン「ネタバレしちゃダメだよ」

カメラの視点を切り替えてみる。上からくるとか?

と、パチンコを構えて上を見ると、その変な目玉の敵が現れた。

目の中に『÷』という字が浮かんでいる。ちょっと気持ち悪い。

ドシン、とやっと降りてきた。

甲殻寄生獣 ゴーマ

というのがボスの名前のようだ。

とりあえず離れる。音楽が変わった。

周りに雑魚敵もちょこちょこいるのでそいつらもついでに倒してしまう。

ミカサ「目の色が変わるようね」

こういう場合はどちらかの色の時に叩けば大体いい筈。

一応、ナビィの言葉を確認すると赤い時に叩けばよさそうだ。

ジャン「おお……ボス戦なのに全然怯んでないな」

ミカサ「ICO×ICOのラスボスの方が難しかったので大丈夫」

あのゲームは本当に心臓に悪かった。あれに比べればなんて事はない。

コントローラーの動かし方はジャンのそれを見ていたので大体分かる。特に躓くところもなく、ボスは倒せた。

ボスを倒すと光に包まれて外に出たようだ。

デクの樹サマ『よくやってくれた、ありがとうリンク…』

デクの樹サマ『お前の勇気…たしかに見せてもらった…』

デクの樹サマ『お前はワシの願いをたくしにふさわしい少年であった…』

デクの樹サマ『では、あらためてお前にワシの願いを伝えたい…』

デクの樹サマ『聞いてくれるかな…?』

→ はい

  いいえ

ミカサ「また選択肢ね。ここもはいでいいのよね」

アルミン「確かいいえを選んでも強制的に引き受けてたような」

ミカサ「……ではあえていいえを選んでみる」

ジャン「ぶっ…」

先程ジャンが「いいえ」を選びたそうにしていたのでどちらでもいけるならいいえにしてみる。

デクの樹サマ『いや、リンクよ…聞きたくないではすまされぬ。ワシにはもう時間がない…』

ミカサ「なるほど。選択肢の意味がなかったようね」

エレン「だよな」

エレンはおかしいのかニヤニヤしている。

デクの樹サマ『では…心して聞いてくれ…ワシにのろいをかけた者は黒き砂漠の民じゃ…』

炎の中を駆ける馬と鎧の騎士が見えた。

デクの樹サマ『あの者は邪悪な魔力を操り、ハイラルのどこかにあるという聖地を探し求めておった…』

ミカサ「ハイラルという言葉がまた出た。国の名前と思えばいいのかしら」

エレン「まあ、それは話を見てればだんだん分かってくる」

デクの樹サマ『なぜなら…聖地には、神の力を秘めた伝説の聖三角、トライフォースがあるからじゃ…』

デクの樹サマ『世に理なく、命未だ形なさず。混沌の地ハイラルに黄金の三大神、降臨す。すなわち、力の女神ディン…知恵の女神ネール…勇気の女神フロルなり』

デクの樹サマ『ディン…そのたくましき炎の腕をもって、地を耕し、赤き大地を創る』

デクの樹サマ『ネール…その叡知を大地に注ぎて、世界に法を与える』

デクの樹サマ『フロル…その豊かなる心により、法を守りし全ての命を創造せり』

デクの樹サマ『三大神、その使命を終え、彼の国へ去り行きたもう』

デクの樹サマ『神々の去りし地に、黄金の聖三角残し置く』

デクの樹サマ『この後、その聖三角を世の理の礎とするものなり』

デクの樹サマ『また、この地を聖地とするものなり』

暫くの間、長い回想シーンのようなものがあり、それが終わるとデクの樹サマの顔のアップに戻った。

デクの樹サマ『あの黒き砂漠の民をトライフォースに触れさせてはならぬ! 悪しき心を持つあの者を聖地へ行かせてはならぬ!』

デクの樹サマ『あの者はワシの力をうばい死ののろいをかけた…やがてのろいはワシの命をもむしばんでいった…』

デクの樹サマ『お前は見事にのろいを解いてくれたが、ワシの命まではもとには戻らぬようじゃ…』

ミカサ「え? ではまさか、ここで死んでしまうの?」

エレン「………」

アルミン「………」

二人は無言で画面を見ている。おっと、静かに進めよう。

デクの樹サマ『ワシはまもなく死をむかえるじゃろう…』

デクの樹サマ『だが…悲しむことはない…』

デクの樹サマ『なぜなら今こうして…お前にこの事を伝えられたこと…』

デクの樹サマ『それがハイラルに残された最後の希望だからじゃ…』

ハイラルというのは、国の名前ではなく世界の名前そのものなのかしら?

と、ようやく何となくこのゲームの世界観を掴めたような気がしてそう思ったが、口には出さなかった。

デクの樹サマ『リンクよ…ハイラルの城に行くがよい…』

デクの樹サマ『その城には、神に選ばれし姫がおいでになるはずじゃ…』

デクの樹サマ『この石を持ってゆけ…あの男がワシにのろいをかけてまで欲したこの石を…』



コキリのヒスイを手に入れた!

デクの樹サマからたくされた、森の精霊石(せいれいせき)だ。



デクの樹サマ『たのむぞ、リンク…お前の勇気を信じておる…』

デクの樹サマ『妖精ナビィよ…リンクをたすけ、ワシの志をついでくれ…』

デクの樹サマ『よいな…ナビィ…さらば…じゃ…』


その直後、デクの樹サマの全身が灰色に変わってしまった…。


ナビィ『行きましょ、リンク! ハイラル城へ!!』

ジャン「切り替え早!! もうちょっとなんかないのかよ!!」

マルコ「だね……ここは『デクの樹サマー!』とか叫ぶシーンがあってもよさそうだけど」

ナビィ『さよなら…デクの樹サマ…』

エレン「馬鹿、そこはもう、薄々死期を感じてたんだよ、ナビィも」

アルミン「でも最初見た時はこのシーン、純粋に悲しかったなあ」

エレン「一気に色が灰色に変わるんだもんな……」

ミカサ「枯れたのが良く分かる表現ね」

というわけで、デクの樹サマの犠牲を無駄にしない為にも先に進まないといけない。

村の外に出ようとすると、画面が変わった。

サリア『行っちゃうのね……』

サリア『サリア、わかってた…リンクいつか森を出て行っちゃうって…』

サリア『だってリンク…サリアたちとどこかちがうもん』

サリア『でもそんなのどうでもいい! アタシたちず~っと友だち! そうでしょ?』

サリア『このオカリナ…あげる! ずっとたいせつにしてネ』


妖精のオカリナをもらった!

サリアとの思い出の品だ。Cにセットし、吹いてみよう。

Cアイテム画面で、←↓→にセットしてセットしたボタンで使おう。

CでオカリナをかまえAと4つのCで演奏できる。やめたい時はB。


サリア『オカリナふいて、思いだしたらかえってきてネ』


ハイラル平原


ミカサ「画面が一気に変わったようね」

エレン「さーここからが本番だぞ」

ミカサ「本番、とは?」

アルミン「ええっとね。敵がいろいろ一気に増えるよ」

エレン「懐かしいなーここ、夜になると面白いんだよ」

ミカサ「では楽しみにしておく」

というわけで散策開始である。

ふくろう『ホホーゥ!』

走っている途中でふくろうが急に話しかけて来た。

ふくろう『リンクよ…こちらをごらん』

ふくろう『やっとお前の旅立ちの時がきたようだの』

ふくろう『お前は、この先多くの苦難に会う。それがお前の運命…それをうらんではならん』

ふくろう『この道をまっすぐ行くとハイラル城が見えてくる』

ふくろう『おまえはそこでひとりの姫に出会うであろう…』

ふくろう『もし、進むべき道に迷うたならマップを見るがよい』

ふくろう『お前の進んだ道はマップに残る。スタートでアイテムモードにしてマップ画面で確認することだ』

ふくろう『もし、マップにある点が光っておればそこがお前の進むべき場所じゃ』

ふくろう『わかったかい?』

→いいえ

 はい

また、選択肢だ。ここまで丁寧に説明されて分からないなんて言ったら失礼な気もする。

ふくろう『それではワシはひと足先も行くとしよう。待っておるぞ。ホホ~ッ!!』

ミカサ「結局、名前も名乗らずに飛んで行ってしまった。説明するだけで終わった」

エレン「まあ、そこはつっこんでやるな」

アルミン「ゲームだからね」

ハイラル平原を駆けていく。たまにわざとでんぐり返しをしてみたり。

ジャン「ぶっ……意味不明な動きだな」

ミカサ「敵が出てこないので暇だから」

すると徐々に画面が薄暗くなっていき、夕方になった。

そろそろ夜になりそうだ。夜になったら多分、敵も出てきそうな予感。


ヴォンヴォンヴォン…


ミカサ「?!」

奇妙な音と共に骸骨が出て来た。いきなり来た! しかも二体!

ミカサ「ふっ! この!」

腕が鳴る。一気にザシュザシュ切りつけてやる。

ジャン「おーうまいな」

エレン「なんだ、意外とびびらなかったな」

ミカサ「エレンが前もって言ってくれたおかげ」

エレン「ちっ…だったら黙っておけばよかったかな?」

何の前情報もなかったら確かにここはちょっとビビる場面かもしれない。

ミカサ「?!」

しかし切りつけても切りつけても後からどんどん湧いてくる。

ミカサ「!」

これはまずい。数で押し切られそうだ。一端撤退しよう。

とりあえず逃げて走り回っているといつの間にか朝になった。

ミカサ「なるほど。これは夜は注意しないといけないのね」

エレン「ああ。あ、すぐそこがハイラル城だぞ」

ミカサ「門が開いている。そうか。夜の間は閉まっているのね」

というわけで城の中に入る事にした。

門番『ここはハイラル城下。平和で豊かな町だ』

とりあえず散策をしてみる。すると……

ミカサ「?!」

壺が沢山置いてある建物の中に入った。ここは荒稼ぎ出来そうな予感。

奥に人がいる。声をかけてみよう。

兵士『たいくつだ…もっと世の中にモメごとがあるほうが楽しいぜ、きっと…おっと、コレはナイショだぜ』

兵士『ツボでも割ってストレス解消! ツボのそばでAで持ち上げる。も一度Aで放り投げるんだ』

なんて駄目な兵士なのだろうか。

まあでも割っていいというのなら割るしかないだろう。

パリンパリンパリンパリンパリン…!

なるほど。これはなかなか楽しい。中から沢山お金が出て来た。

ミカサ「あれ?」

操作ミスをしてしまって剣で壺を切ってしまった。なんだ。切れるのか。だったらこっちの方が早い。

エレン「壺、切るのかよ!」

ミカサ「こっちのが早いので」

エレン「まあ、別にいいけどさ」

というわけで全部の壺を割ってお金をガッポリ稼いで城下町に戻った。

赤い服の男『ハ~ッハッハッハッ!! バッカで~コイツ!!』

町の人に話しかけてみる。何やら楽しそうである。

赤い服の男『セルタ姫に会いたいからって城に忍び込むなんてよ!』

赤い服の男『このバカのせいでお城の警備がキビしくなったんだぜ! ハッハッハッハッハ!』

迷惑千万な事である。青い服の男にも話しかけてみる。

青い服の男『セルタ姫に会ってみたいよ~!』

青い服の男『兵士の目をかいくぐり…』

青い服の男『お堀に身を沈め…』

青い服の男『もうちょっと…ってとこでつかまっちまったんだよ~っ!』

青い服の男『城の右奥に忍び込めそうな小さな水路を見つけたんだけど抜けらんなくなちゃったんだ~!』

ミカサ「これは何かのヒントなのかしら?」

エレン「まあヒントだな」

ミカサ「肝に銘じておく」

他のキャラクターにも話しかけてみよう。

少女『このコッコ、つかまえられないの~!』

ミカサ「コッコ? ああ、にわとりの事ね」

画面を走り回る鶏がいる。こいつを捕まえればいいのだろうか?

にわとりを追いかけていたら、別のキャラクターにぶつかってしまった。

女性『おどってんじゃないのよ、ぼうや。せなかがかゆいのよ…イヤン』

ミカサ「それは可哀想に。掻いてあげられないけれど」

隣の男にも話しかけてみる。

男性『やあ、いなかっぽい少年。これがハイラルの町だ。ゆっくり楽しんでいきなよ』

特に有力な情報ではないようだ。と、思っていたら、

男性『ハイラル城の見学は正面の大通り、町の裏なら左の路地へ行きな』

ミカサ「なるほど。ちゃんと道案内をしてくれるキャラだったのね」

こういう事もあるので、やはりちゃんとキャラクターの話は聞いておかないといけない。

今度は別のキャラクターにも話しかけてみる。

少女『キミ、かわったカッコしてるネ。町のコじゃないでしょ? どこからきたの?』

少女『………………………』

少女『へーっ、森の妖精のコなんダ…アタシ、牧場のコ。マロン』

少女『マロンはネ、とーさんまってるの。とーさん、お城に牛乳とどけにはいったままでてこないんダ…』

ミカサ「何だかこの『とーさん』と関わり合いになりそうな予感がする」

エレン「まあ、助けてやらんと大体話は進まないからな」

一応、頭に入れておいて今度は別のキャラクターに話しかける。

二人でグルグル回っている男女がいた。踊っているようだ。

女性『ウフ…アナタって…ハイラル王みたいに…ス・テ・キ…』

女性『ウフ…』

ジャン「ちっ……リア充爆発しろ」

マルコ「ジャン、ゲームだから……」

アルミン「気持ちは分かるけど、イライラしない」

画面の奥の方にも注目してみる。男の人がいる。

男性『ウォッホン! エッホン!』

男性『このヒゲが私のジマンです。カッコよかろ~!』

男性『ん、なに? ロンロン牧場のオヤジ?』

男性『お、そ~いえば…』

男性『カッコわる~いヒゲのオヤジがお城の中へ荷物を運んでるのを見たぞ』

ミカサ「牧場? そう言えば先程のマロンとかいう少女も牧場のコと言ってたような」

エレン「お、ちゃんと覚えてたな。まあつまりそういう事だ」

ミカサ「後でそのカッコわる~いヒゲのオヤジと遭遇しそうね」

建物の中に入ると、『なンでもや』という店に入った。

ミカサ「?!」

店長の胸毛が凄かった。これはなんというか、接客向きとは思えないのだが。

話しかけて正面から見るとますます胸毛が目立った。ちょっとキモイ。

胸毛の店長『いらっしゃい!』


左右で品物見てよ!

→店主とはなす

 買い物をやめる


ミカサ「い、一応、話しかけてもいいだろうか?」

エレン「好きにしろ。そんなにビクビクせんでも、取って食われたりはしねえよ」

ミカサ「そうね。人を見かけで判断してはいけない…」

強面の胸毛の店長に思い切って話しかけてみる。

胸毛の店長『今、ハイリアの盾がオススメだ。ボーヤにゃ、ちょっと重いがナ』


ハイリアの盾(たて)80ルピー

ハイリアの騎士が持つ大きな盾。炎攻撃を防ぐ。


他のアイテムも一応、見てみよう。


バクダン(5コ)35ルピー

Cで取り出しもう一度Cで投げる。ボム袋がないと買えません。

矢(10本)20ルピー

弓を使ってうてます。弓がない人には売れません。

矢(30本)60ルピー

弓を使ってうてます。弓がない人には売れません。

矢(50本)90ルピー

弓を使ってうてます。弓がない人には売れません。

デクの棒(1本)10ルピー

デクの樹から採取した長い枝。武器にもなるが、折れます。


ミカサ「そろそろ弓が手に入るのかしら?」

エレン「のちのちな」

ミカサ「買う時は50本ずつ買った方が少し単価が安くなるようね」

店の中に居る昔のアイドルのような格好をした緑色の服の男に話しかけてみる。

緑の服の男『この世にはハイリアの盾を食べちゃう怪物はいるっていうウワサがあるんだよ』

緑の服の男『見たことある?』

ミカサ「これはのちのちのフラグなのだろうか?」

エレン「まあ、ノーコメントで」

ミカサ「今はお金が足りないのでハイリアの盾が買えない。また後でここに来よう」

という訳で一旦、店の外に出る事にした。

今度は別の店に入ってみる。『クスリ屋』という店らしい。

店の中におじいさんがいる。話しかけてみよう。

おじいさん『この世には究極のクスリをつくることのできるクスリ屋がいるっていうウワサだけど…』

ミカサ「うわさだけ、のようね」

とりあえず、話はそこで終わったので店長に話しかける。

イケメン(?)店長『いらっしゃい!!』

ミカサ「…………なんかどこかで見たようなキャラね」

アルミン「僕は最初、昔のキムタクみたいな髪型だと思ったよ」

ミカサ「ああ! それっぽい。確かに」

私はアイドルにそこまで詳しい訳ではないが、キムタクは国民的アイドルなのでさすがに分かる。

このキャラは昔のキムタクの髪型に似ているのだ。だから見覚えがあったのだ。

こちらもアイテムを見て行こうと思う。


緑のクスリ 30ルピー

飲むと魔法の力が回復する。1回分。

赤いクスリ 30ルピー

飲むと体力が回復する。1回分。

妖精の魂 50ルピー

あきビンがないと買えません。戦いのおともにどうぞ。

青い炎 300ルピー

あきビンがないと買えません。使うとさわやかなすずしさ!

ビンづめのムシ 50ルピー

あきビンがないと買えません。見たところただのムシです。

サカナ 200ルピー

とれとれピチピチ! ビンに入れて保存できる。

ポウ 30ルピー

ビンにつめこんだオバケの魂。ものずきな人に売りつけよう。

デクの実(5コ) 15ルピー

投げると目つぶしになる。持てるだけしか買えません。


キムタク店長に話しかけてみる。

キムタク店長『ぼうや、クスリがほしいなら、入れ物がいるよ』

とりあえず今はあきビンがないのでここで買い物は出来ない。また来よう。

店の外に出るとすぐ傍に男性が居た。ついでに話しかけてみよう。

男性『ぼーや、ロンロン牧場に行ってみたかい?』

男性『あすこの牛乳は絶品だよねえ。娘さんはカワイイしねえ』

男性『ロンロン牧場へ行くなら、町を出て、平原をまっすぐ南。一度は見に行かなきゃねえ』

ミカサ「いずれはロンロン牧場に行かないといけないようね」

エレン「まあ、後でいい」

とりあえず、左の方へ移動してみる。お墓のような物が4つ並んでいる。

ミカサ「これ、デクの樹サマのところにも同じようなのがあったような」

試しに叩いてみる。すると、

ボヨヨヨ~ン!! ただいま09時14分です!

ほらやっぱり。同じような反応がきた。これは何の意味があるのだろうか?

良く分からないのでスルーしよう。奥の建物の中に入ってみると……


時の神殿


音楽が変わった。荘厳なメロディーだ。神様でも降りてきそうな曲だ。

奥に進むと何やら祭壇(?)のような物が設置されていた。触ってみると、

『三つのくぼみがあり、文字が刻まれている…』

『三つの精霊石を持つ者、ここに立ち、時のオカリナをもって時の歌を奏でよ』

と、刻まれている。そうだ。

ミカサ「オカリナは前に貰ったような」

アルミン「いや、それは時のオカリナじゃないから」

ミカサ「そうなの? 吹いてはだめなの?」

エレン「まあ、吹いても別に構わんけど。何も起きないけどな」

ミカサ「そう……なら先を進めましょう」

どうやらここはのちに必要になりそうな場所のようだ。とりあえず建物から出て別の場所に移動してみる。

別の店の中に入った。『おめん屋』という奇妙なお店があった。店の中には髭を蓄えた紫のズボンを着た男性が佇んでいる。

ミカサ「見た目がまるでおねぇのダンサーのようね」

エレン「ぶっ…!」

アルミン「それは言わないであげて、ミカサ…」

ジャン「なんかポーズもそれっぽいな」

マルコ「駄目だ、もうそれしか見えなくなった」

皆、笑いを堪えている。私のせいだけども。

紫ズボンの男性『この店、いつオープンするのかな? そこのカンバン、読んだけど、やっぱりへんな店だな…』

看板を読んでみる。すると確かに奇妙な事が書かれていた。


しあわせのお面屋 ご利用前にぜひお読みください

当店のシステム説明

当店は、商品であるお面をお売りするのではありません。あくまで『お貸しする』のです。

貸し出したお面はお客様ご自身に売ってきていただくシステムです。

売っていただいた『代金』を当店に納めていただけば、さらにニューモデルをお貸しします。

見事お売りいただいたお面はその後もお貸しいたしますが、売ることはできなくなります。ぜひご利用下さい。



ミカサ「? これは何だか怪しげなお店ね……どうしたらいいの?」

エレン「んー……言っちゃたら面白くねえだろ?」

アルミン「まあねー。とりあえず、ミカサの好きにすればいいよ」

ジャン「オレだったらこんな怪しげなのには関わり合いたくねえけど、これゲームだから、やっぱり利用しないと先に進めないんじゃねえのか?」

ミカサ「………今すぐに必要とは思えないのでもう少し散策を続けてみる」

現実でも怪しげなものにはすぐに飛びつかないのが一番である。

>>1です。
ようやく執筆再開のめどが立ちそうな気配です。
長らくお待たせしていて本当に申し訳ない。
近々、ぼちぼち再開していくので宜しくお願いします。

店の外に出てみると、にわとりが丁度通りかかった。あ、そう言えば捕獲するのを忘れていた。

追いかけてみるが、あれ? なかなか捕まえられない。えいえいえい。

ミカサ「むー……これは捕まえられないのかしら?」

エレン「………」

ミカサ「まあいい。にわとりは後回しにしよう」

良く分からないので放置する。すると傍におばあさんがいた。

おばあさん『もーかった…もーかった…』

おばあさん『またなにか売れそうなモノを探しに行こうかねぇ』

おばあさん『ハイリア湖に行ってみようかねぇ。あそこにはいろんなモノが流れつくからねぇ。ヒヒヒ…』

ミカサ「ハイリア湖ね、覚えておく」

そして別のキャラクターにも話しかけてみる。

おじいさん『ぼうや、闇の民族の話を聞いたことがあるかな?』

おじいさん『我々ハイリア人の「影」…シーカー族という者たちじゃ』

おじいさん『代々ハイラル王家に忠誠を誓い王族の身辺を守っていたそうな…』

おじいさん『しかし、平和な時代になってシーカー族を見た者はおらん…じゃが、うわさでは…』

おじいさん『お城に一人だけシーカー族の女がいるらしいんじゃ…』

今度は耳の長い別の女性に声をかけてみる。

耳の長い女性『町の北東にある時の神殿って知ってる?』

耳の長い女性『時の神殿は聖地への入口だ、という言い伝えがあるのよ。知ってた?』

ミカサ「ん? もしかして先ほど行った時の神殿が、それなの?」

エレン「まあな」

ミカサ「なるほど」

後ほど重要な場所になりそうな予感がする。

そして今度は違う店の中に入ってみる。


ボムチュウボウリング


ミカサ「? ボウリングをするの?」

画面に「ボムチュウボウリング」という文字が出た。受付のお姉さんは居眠りをしている。

話しかけても起きないようだ。スースー寝ている。

……あ、やっと起きた。どうやらまだ準備中らしい。

ミカサ「………六角形の的がある。ちょっと気持ち悪いデザインね」

エレン「かもな」

ミカサ「もしかして、房中術(ぼうちゅうじゅつ)とかけているのかしら?」

アルミン「み、ミカサ………(ドキッ)」

エレン「ぼうちゅうじゅつ? なんだそれ?」

アルミン「エレン、解説は後でしてあげるから、今はゲームを進めて、ミカサ」

ミカサ「分かった」

連想してしまったのは、どうやら私だけではなかったようだ。

この内側に吸い込まれるような六角形を見て、ちょっとだけそういう発想をしてしまったのは、イケナイ事かもしれないが。

アルミンには意味が通じたようなので、多分、アルミンも私と同じ事を過去に思ったのだろう。

房中術を知らない方の為に解説するが、房中術は中国で昔行われたという言い伝えがある、医療技術の事である。

男女の交わりを介して気を操作して、相手の体を回復させるという技術なのだが、実際にそれが行われていたのは大昔の話で、現在ではどうだかは分からない。

ゲームの製作者側が何を意図してこの画面を作ったのかは分からないが……。

まあ、本筋とはあまり関係のない遊びの部分かもしれないので、気にしない事にする。次に行こう。

店の外に出て2階に上がると男の人がいた。

男性『我々ハイリア人の耳は、神の声を聞くために大きいんだってよ』

男性『オレにゃ聞こえないけどサ』

ミカサ「……………」

ツッコミを入れるのも可哀想なのでスルーする。

別の店の前に立ってみる。


 たからばこクジ

準備中 夜だけ営業


ミカサ「町の中でも夜の概念があるのね」

町の外では夜になったりしたが、町の中ではないパターンではないようだ。

そして路地裏に入ってみる。おじいさんが一人、道の端っこにいた。

おじいさん『ぼうや、いいことをおしえてやろう』

おじいさん『お城の近くにはふしぎな泉があるらしいぞぃ…』

ふむ。お城に行った時に気をつけておこう。

路地裏の更に奥に入ると今度は若い男性が一人いた。

若い男性『なぜか夜になると町に犬がふえるんだ。ふしぎだよな、ぼうず』

ミカサ「………夜のイベントには気をつけておいた方がいいみたいね」

一応、気に留めておこう。

路地裏を抜けて別の店の中に入る。画面には「的あて屋」という文字が出た。

受付の男性『ゲーム……20ルピーでやる?』

→やる

 やめとく

所持金が78ルピー。今、やれなくもないけれど。

一応、内容を確認してみる。10コの的に15発以内でぜんぶヒットしよう! と看板には書いてある。


10発命中…パーフェクト賞

8発以上…再チャレンジ

7発以下はざんねんでした


なるほど。10発以上当てればいいのか。さて、どうしょう。

アルミン「やってみれば? ミカサならきっとできるよ」

ジャン「ミカサなら出来そうだな」

マルコ「是非とも見てみたいね」

エレン「おう、やってみろよ」

ミカサ「では、期待に応えて」

ゲームなので楽しまないと損である。ダメ元でやってみよう。

受付の男性『オッケーイ!! ここはオトナのプレイスポット! ハイラル名物、的当て屋! そこの台から狙って、狙って! 10コの的を全部うてるかな? ショットチャンスは15回!』

受付の男性『BでかまえてじゅんびはOK? パーフェクトめざしてがんばりナ!』

今回はここまで。続きはまた。

英文でレスされている方、すみません。
自分、英語苦手なので、文章の意味を半分も分かっていません…。
なので何か要望・苦情等があれば出来れば日本語でお願いします。
(意味が理解出来ないので対処のしょうがないです)

という訳で、Bで構えて……

バシュ! パリン!

ジャン「おお、命中した」

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

バシュ! パリン!

ジャン「おおおお!」

アルミン「すごい! 初見でパーフェクトだ!」

ミカサ「? 意外と簡単だった」

構えていたのが馬鹿らしいくらい簡単だった。このミニゲーム、難易度が低すぎる。

エレン「くそ……オレが初めてやった時は3発くらいしか当てられなかったのに」

アルミン「僕もだよ。すごいねえミカサ。やっぱり才能があるんだね」

ミカサ「そうなのだろうか?」

うーん。自分ではそうは思わないのだけども。

ミカサ「これでだいたいのところは見て回ったからしら? お城に行ってもいい?」

エレン「そうだな。そろそろ移動してもいいぜ」

という訳でいよいよハイラル城まで移動してみることにする。

道の途中で例のあのふくろうが話しかけてきた。

ふくろう『おい、リンク! こっちじゃよ』

ふくろう『お姫様はこの先のお城の中…見張り兵に見つからぬようにな。ホッホ~』

ふくろう『この地上では時はいつでも流れておる』

ふくろう『だが、町の中では時の流れは止まったままじゃ』

え? でもさっき、夜のイベントが有りそうな台詞があったような。

いったいどういう事だろうか?

ふくろう『時間を進めたければ、一度町から出てみるがよい』

ミカサ「ああ、なるほど」

面倒なシステムである。

ふくろう『時がたてば、変化する物もあるじゃろうからのぉ』

ふくろう『さて、城にたどりつくまでにどんな出会いがお前を待っておるか、楽しみじゃ』

そしてまたふくろうは颯爽と飛び立っていった。

門の前には兵士がいた。話しかけると、

兵士『セルタ姫にお会いしたいだと?』

兵士『お前も町の評判をきいてやってきたな?』

兵士『かえれ! かえれ! 姫がお前のような者にお会いになるわけがないわ!』

ミカサ「あら……門前払いになってしまった」

ミカサ「ふむ。別のルートを探すしかないようね」

とりあえず、外のルートからいけないか考えてみる。

町の外にでて水路の周辺を探し回ってみる。

エレン「……………」

ミカサ「何もないようね」

だんだん日が暮れてきた。あ、敵が出てきたのでついでに倒しておく。

???『おい、リンク! ちょっとおまち!』

ミカサ「?」

???『この先はカカリコ村。ハイラルの姫には会ったかの? まだならお城へ行きなさい』

ミカサ「あれ?」

城に行くルートを探す筈が、外れて脱線していたようである。

ジャン「おお、新設設計だな」

エレン「まさかここで外に出ちまうとは……」

ミカサ「エレン、間違ってるなら言ってくれてもよかったのに」

エレン「いや、間違うのもゲームの醍醐味だと思ってな」

全くもう。意地悪い。軌道修正して町の方に戻る。

ミカサ「………あ」

思い出した。そういえば、青い服の男が何かヒントを言ってたような。

ミカサ「ちょっと再確認してみる」

二度目、話しかけるとやはりヒントを言っていた。

ミカサ「城の右奥の小さな水路ね」

エレン「お、気づいたか」

ミカサ「外がダメなら、もうここしかない気がする」

という訳で移動してみる。

城に戻ると、あ、先ほどのマロンとか言った少女がつたの壁の前に立っていた。

彼女曰く、とーさんを探してきてほしいとのこと。

そしてアイテムを手に入れた。『ふしぎなタマゴ』というアイテムだ。

なんかゴドゴト動いている様子。……ヒヨコが生まれるのだろうか?

まあ後のお楽しみにしておこう。

つたのある壁をよじ登り、先に進む。はしごがあった。とりあえず下に降りようと意識を向けたその時…

ピー!

兵士『オイ、止まれ! そこの小僧!』

ミカサ「?!」

ハイラル城の門の前まで強制移動させられた。

エレン「きたきたきたー!」

アルミン「厄介なのがきたね」

ミカサ「え? これってもしかして」

エレン「そういう事だ。兵士に見つかったらアウトだぞ」

ミカサ「むむむ………」

まるで泥棒のような扱いである。不審者である事にはかわりないけれども。

ミカサ「分かった。次は気を付ける」

そしてここからが、今までとは違った意味でのアクション満載のターンだったのである。

ピー!

兵士『オイ、止まれ! そこの小僧!』

ミカサ「うぐうう……!」

また見つかってしまった。

どうもこういう繊細な動きを要求されるアクションは、どうやら私には向いてないらしい。

ジャン「意外だな…さっきみたいな射的は得意なのに」

ミカサ「何かに当てたり攻撃したりするのは得意だけども……」

エレン「ここは交代するか?」

ミカサ「お願い……」

エレン「マルコやってみるか?」

マルコ「いいのかい?」

エレン「いいぜ。マルコギアソリッドを見せてくれ」

ジャン「ぶふっ!」

ミカサ「?」

という訳でここからはマルコの捜査に交替してもらって先を進める事にした。

マルコ「うーん、あ、なんかここいけそうだね」

壁を伝ってマルコが先に進む。おかげで大分、城に近づけた。

水路の中を移動してお金ゲットしながらあちこち探索している。

マルコ「あっ…これ、もしかして」

???『ムニャムニャ…』

???『いらっしゃ~い…ムニャ…ウチの牧場は…楽しいだ~よ……ZZZ…』

マルコ「これはどうみても、マロンのとーさんっぽいね」

ジャン「だな」

マルコ「どうやって起こす?」

ミカサ「剣でつつくとか…?」

アルミン「怖いよミカサ…」

ジャン「あ、さっきもらったタマゴは使えるか?」

マルコ「そういえばそんなのがあったね。使ってみようか」

あ、タマゴから鶏がいきなり生まれた。鳴き声のおかげでとーさんの目が覚めたようだ。

とーさん『なんだーよ? せっかくキモチよく寝てたのに…』

とーさん『オマエだれだーよ?』

とーさん『そうだーよ、オラがロンロン牧場の牧場主タロンだ』

タロン『お城に牛乳とどけにきただが、ねむくなってついウトウトと…』

タロン『え? マロンがオラを探してた?』

タロン『し、しまっただ~よ!! マロンをほっといたままだ~よ!』

タロン『また怒られるだぁ~っ!!』

ミカサ「い、行ってしまった…」

マルコ「すごい走り方だったね…」

確かに。でもこれで先に進めるような気がする。

マルコ「この木箱、あからさまに怪しいよね」

アルミン「確かに」

マルコ「引っ張って動かせたりする? あ、できた」

ジャン「なるほど。木箱を橋みたいにすんのかな」

マルコ「多分ね。こういうのなら、得意だよ」

おお、さくさく進んでいく。頭脳プレイはマルコの得意とするところのようだ。

ぴろりろぴろりん♪

マルコ「おっし」

ジャン「これでクリアみたいだな」

先に進めるようだ。そして次に出てきたのは…



城の中庭


エレン「きたー」

アルミン「きたねー」

マルコ「な、なに? 二人して」

エレン「マルコギアソリッド、お手並み拝見だぜ」

ミカサ「そのマルコギアソリッドとは?」

ジャン「あー……某ゲームで、ミッションをこなしていくゲームがあるんだが、所謂隠密行動をしていくんだよ」

アルミン「転じて、隠密行動をする事を~ギアソリッドと言ったりするね」

ミカサ「では私がする場合はミカサギアソリッドになるの?」

アルミン「そうそう。今回はマルコ、頑張ってね」

マルコ「うん。頑張ってみるよ」

という訳で、マルコギアソリッド(?)のスタートである。

兵士が、庭の中を歩いている。一応、身を隠す場所はあるが、これは……

エレン「兵士が後ろ向いた瞬間がチャンスだぞ」

マルコ「うん。分かってる……」

タイミングが命綱だ。気づかれないように、そーっとそっと…

ジャン「よし、一個目の関門突破!」

マルコ「ふー…」

息を殺す緊張の一瞬だった。次は噴水のある中庭のステージだ。

兵士が二人に増えた。これは難しそうだ…。

と、思ったら一気に駆け抜けてクリアした。なんて大胆。

ジャン「おおおすげええぞ、マルコ!」

マルコ「今の瞬間しかないと思ってね」

アルミン「うまいうまい。マルコ、うまいよ」

今度は白い階段のある中庭だ。あ、中央にお金がある。兵士もいるが。

ジャン「ああああ…金に釣られたら見つかるパターンじゃねえのかコレ」

マルコ「それっぽいねえ」

階段を上っていくのが安全な道のようだが、さて。マルコはどちらを行くのか。

マルコ「………兵士の後ろを尾行すれば金とれるかも」

ジャン「おおお? あえて難しい方にいくのか」

マルコ「やってみていい?」

アルミン「いいよいいよ」

そろり。そろり。あえて難しい方法でやるマルコ。半周、お金が取れた。

もう半周。大丈夫だろうか…。

ジャン「うおおおお?! マルコ、うめえな!」

エレン「さすがマルコだな。仕事が丁寧だ」

アルミン「あともうちょい、頑張れ!」

残り半周、一気に逃げて……

ジャン「よっしゃああ! 抜けたぜ!」

アルミン「すごいマルコ! よく挑戦したね!」

マルコ「ふー……緊張したあ」

ミカサ「これはすごい。マルコを見直した」

ジャン「うっ……」

ジャンが何故か唸っている。はて?

ジャン「最後のところだけ、オレもやってみていいか?」

マルコ「ん? ジャンもスニーキングミッション、やりたくなった?」

ジャン「ああ。まあそんなところだ」

ジャンがマルコと交替する。しかし………。

ピー!

ミカサ「あーあ」

ジャンに交替した直後に兵士に見つかってしまった。

エレン「おま、ひでえな」

アルミン「せっかくマルコが奇跡のクリアを果たしたのにもったいない」

ジャン「うぐっ……!」

マルコ「まあまあ」

という訳でやはりこのミッションはマルコが向いていると判断し、最初からやり直しになった。

城の中庭の音楽が変わった。祭壇の中央には少女が立っている。

エレン「ついに姫のお出ましだな」

アルミン「長かったねー」

セルタ姫『!』

セルタ姫『だ、だれ?』

セルタ姫『あ、あなただれなの…?』

セルタ姫『どうやってこんなところまで…』

エレン「やってることは不審者と変わりないけどな」

アルミン「それを言ったらゲームが崩壊するからつっこまない」

ゲームあるある、のようである。

セルタ姫『あら…?』

セルタ姫『それは…』

セルタ姫『妖精!?』

セルタ姫『それじゃ、あなた…森から来た人なの?』

セルタ姫『それなら…森の精霊石を持っていませんか? みどり色のキラキラした石…』

セルタ姫『持っているのでしょう?』

→はい

 いいえ

ここでも選択肢だ。当然、はい。である。

セルタ姫『やっぱり!』

セルタ姫『わたし、夢を見たのです』

セルタ姫『このハイラルがまっ黒な雲におおわれてどんどん暗くなっていくのです…』

セルタ姫『そのとき、ひとすじの光が森からあらわれました…』

セルタ姫『そしてその光は、雲を切り裂き、大地をてらすと…』

セルタ姫『妖精をつれて、みどりに光る石をかかげた人の姿に変わったのです』

セルタ姫『それが夢のお告げ』

セルタ姫『そう…あなたがその夢にあらわれた森からの使者だ…と』

セルタ姫『あ…! ごめんなさい!』

セルタ姫『わたし、夢中になってしまって…まだ、なまえもお教えしていませんでしたね』

セルタ姫『わたしはセルタ。このハイラルの王女…』

セルタ姫『あなたのなまえは…?』

セルタ姫『………』

セルタ姫『リンク…ふしぎ…なんだかなつかしいひびき…』

セルタ姫『じゃあ、リンク…』

セルタ姫『いまからこのハイラル王家だけに伝わる聖地のひみつをあなたにお話しします』

セルタ姫『だれにも言ってはいけませんよ!』

→はい

 いいえ

当然、ここははい。である。

セルタ姫『それはこう伝えられているのです…』

ここからのお話は少々長くなるのでかいつまんでいこう。

セルタ姫曰く、三人の女神様は神の力を持つトライフォースを隠された。

トライフォースを手にした者の願いを叶える力があるそれを、悪しき者の手に渡らないようにする為、古の賢者達は『時の神殿』を作ったそうだ。

つまり時の神殿は地上から聖地へ入るための入り口でもあるわけだった。

その入り口は『時の扉』と呼ばれる石の壁で閉ざされているそうだ。

その扉を開くには『三つの精霊石』を集め、神殿に納めよ、と伝えられいる。

そしてもうひとつ必要なもの、王家が守っている物が『時のオカリナ』だ。

ミカサ「なるほど。ここでようやくゲームのタイトルと関わってくるのね」

エレン「おう。時のオカリナがこのゲームの肝だからな」

セルタ姫『わたしは…いま、この窓からみはっていたのです』

セルタ姫『夢のお告げのもうひとつの暗示…黒い雲…それがあの男…』

赤い髪の、緑色の肌をした鼻の長い奇妙な男がいた。

恐らくこの男がこのゲームの中の敵、なのだろう。

セルタ姫『あれが西の果ての砂漠から来たゲルド族の首領、ガノンドロフ…』

セルタ姫『今はお父様に忠誠を誓っているけれどきっとウソに決まっています…』

セルタ姫『夢に見た、ハイラルをおおう黒い雲…あの男にちがいありません!』

ミカサ「?!」

こっち見た。チラリと。にやりと笑いながら。

ミカサ「あからさまに悪そうな男ね」

エレン「だよな」

セルタ姫『どうしたのです? 気づかれたのですか?』

セルタ姫『かまうことはありません!』

セルタ姫は相当、あの「ガノンドロフ」とかいう男を毛嫌いしているようだ。

ガノンドロフに人格を父親に信じてもらえず、ないがしろにされているようだ。

セルタ姫『でもわたしにはわかるのです! あの男の悪しき心が…』

ガノンドロフの評価を下げまくる発言をした後、セルタ姫はリンクに詰め寄った。

セルタ姫『リンク…今ハイラルを守れるのはわたしたちだけなのです!』

セルタ姫『わたしは…怖いのです。あの男がハイラルをほろぼす…そんな気がするのです』

セルタ姫『あなたはのこるふたつの精霊石を見つけてください』

セルタ姫『ガノンドロフよりも先にトライフォースを手に入れてあの男をたおしましょう!』

ミカサ「旅の目的がより明確になったようね」

エレン「こっからが本格的なスタートだからな」

ミカサ「ここまでくるのに長かった」

マルコ「そういえば、今何時?」

時間を確認すると…………え? もう夕方の6時?!

ミカサ「嘘……ぶっ続けてそんなに長い時間プレイしてたの?」

エレン「あーゲームやってればあるある」

アルミン「でもちょうどキリもいいし、いったん休憩にしない?」

マルコ「そうだね。ちょっと肩も凝ったし」

ミカサ「そうね。このお姫様のイベントが終わり次第、セーブしましょう」

という訳で、長い道のりだったが、まだゲームは序盤だ。

今はとりあえずセーブをして、いったん休憩してからまた再開しよう。

という訳で、ここでいったん区切ります。続きはまた。
ゲームやってると、6時間くらいならあっという間に過ぎるよね。
若い頃って、やるよね?

セーブをし終えてからエレンが言った。

エレン「三人とも、今日は泊まっていくつもりなんだよな?」

ジャン「お、おう……着替えは持ってきてるぞ」

エレン「全員、オレの部屋で寝てもらうからな。くれぐれも、ミカサの部屋に入るなよ」

ジャン「ななな……そんなのは当たり前じゃねえか。何言ってるんだ、エレン」

エレン(じと目)

ジャン「レディの部屋に入るなんて、そんな恐れ多いだろ…!」

ミカサ「別に入るくらいなら構わないけれども」

エレン「そういう事はいうんじゃねえよ、ミカサ」

ミカサ「そう? 別に見られて困るような物は置いてないけれども」

アルミン「そういう問題じゃないよ、ミカサ……(呆れ顔)」

アルミンが一際げんなりしているようだ。むむむ。アルミンがそう言うならきっとダメなのだろう。

ミカサ「分かった。では私の部屋は立ち入り禁止で」

ジャン「お、おう……」

ミカサ「夕食を用意するので少し待ってて欲しい。準備する」

ジャン「いや、オレ達も手伝う。今日は何を作るつもりなんだ?」

ミカサ「>>497を作るつもりだったけれども。それでよいだろうか?」

(*皆で夕食を食べます。メニューを決めて下さい)

定番だけどカレーと野菜サラダ

ジャン「イエス! (小さなガッツポーズ)」

ミカサ「?」

ジャン「いや、何でもない。十分だ。カレー食べようぜ」

エレン「…………」

アルミン「………………」

マルコ「まあまあ、皆で作ろうよ」

マルコが何故か宥めている。一体どうしたというのだろうか?

ミカサ「エレン? アルミン?」

エレン「いや、何でもねえよ。下に行こうぜ」

という訳で皆でキッチンに向かい、一緒に夕食を作ることになった。

カレールーは辛口、中辛、甘口、一応、三種類とも用意している。

ミカサ「辛さはどうしたらいい? 甘口と辛口、二種類作った方がいいなら作るけども」

エレン「うちはいつも中辛だけど、お前らは?」

ジャン「中辛で構わん」

マルコ「うん、大丈夫だよ」

アルミン「うっ……この中で甘口派は僕だけか…」

ミカサ「だったら中辛と甘口で分ける。私は甘口派なのでちょうどいい」

ジャン「だったらオレも甘口でいいよ」

ミカサ「? 中辛派ではないの?」

ジャン「あ、いや……どっちも食うよ。その方が鍋も減っていいだろ?」

なるほど。それも一理ある。

という訳で、二種類の辛さのカレーと野菜サラダを作ることになった。

調理の最中、ジャンがやたら張り切って野菜を切ってくれたけれども、正直、手慣れてない感じがあって危なっかしいと思った。

でも、折角手伝ってくれているのでその好意は有難い。苦笑する場面もあったけれども、何とか全ての工程を無事に終えることが出来た。

後は暫く煮詰めるだけだ。ご飯も丁度いいタイミングで炊けたようだ。

皿にご飯をよそいで、カレーをかけてカレーライスの出来上がり。

野菜サラダも添えてついでに漬物も出しておく。

ミカサ「うちで漬けてる漬物だけども、良かったら一緒にどうぞ」

ジャン「おおお……自家製か。すごいな」

ミカサ「口に合うといいけれども」

ジャン「ああ、有難く頂く」

という訳で皆で手を合わせて一緒にカレーを食べることになった。

ジャン「美味い……ミカサは料理上手だな」

エレン「ああ。ミカサの料理はいつも美味いぞ」

ジャン「お前には言ってねえよ! ミカサ、その……もし良ければ漬物を少し分けて貰えないか?」

ミカサ「持って帰る? 待って。タッパーを用意する」

エレン「後にしろ! 後に! ミカサもいちいち構うなよ」

ミカサ「………そんな言い方しなくても」

マルコ「いや、ミカサもゆっくり食べ終えてからでいいと思うよ」

ジャン「ああ、悪い。もちろん、後ででいいんだ。すまん…」

ジャンが眉を下げている。何だか申し訳ない。

ごめん、どーでも良いことなんだけどミカサの語尾や会話中、「けれども」「けども」が多いのが気になる
方言みたいで雰囲気がつかみづらいからちょっと気にしてみて欲しい
内容はすごく面白いので楽しみにしてます

>>500
あれ? そんなに多いのか。自覚なかったです。
無自覚だった。申し訳ない。次から気を付けます。

ミカサ「ジャンが謝る事ではない。私は嬉しかった」

ジャン「!」

ミカサ「ついでに余ったらカレーも持って帰っていい。タッパーならいっぱいあるので」

エレン「おいおい、そこまでしなくてもいいだろ……」

アルミン「あ、それなら僕だって欲しいよ。余った分、おじいちゃんと食べたいな」

ミカサ「勿論、構わない」

ミカサ「マルコも持って帰る?」

マルコ「え、ええ……なんか悪いなあ」

エレン「………はあ、全くもう」

エレンは呆れているけれど、食べて貰えるのは有難いのだ。

余らせるよりきっちり食べて貰った方が作った方としては嬉しいのだから。

ジャン(ニヤニヤニヤ)

エレン「おい、ジャン」

ジャン「なんだよ」

エレン「その馬鹿面やめろ。気持ち悪い」

ジャン「は? 何言ってんだ。嫉妬は見苦しいぞ、エレン」

エレン「嫉妬じゃねえよ。つか、オレはいつでもミカサの飯食えるし」

ジャン「は! そりゃ家族ならそうだろうな。オレが言ってるのはそこじゃねえよ。お前も本当は気づいてんだろ」

エレン「…………だったら何だってんだよ」

まずい。また、険悪な気配になってきた。

無意識にエレンがミカサ意識してる感じが可愛い
ミカサ無防備やな…かわいい

ミカサ「二人とも、喧嘩はやめて。ご飯がまずくなる」

エレン「ぐっ………」

ジャン「悪い悪い。オレのせいだな。飯は楽しく食べようぜ♪」

エレン「…………」

ジャンの機嫌はいいけれど、対照的にエレンがふてくされている。

どうしてエレンはこう、ジャンといつも衝突してしまうのだろうか?

首を傾げる場面が多々ある。どうしたらこの問題は解決できるのだろうか…。

マルコ「まあまあ、ご飯の時くらいは喧嘩はひっこめよう、エレン」

アルミン「そうそう。折角のカレーだしね」

エレン「…………」

エレンは無言でご飯をかきこんで、先に食べ終えてしまった。

……と、思ったら、え? おかわり?

ミカサ「え? 2杯目いくの? 珍しい…」

エレン「悪いかよ。残さなければ、おすそ分けする必要ねえだろ」

ジャン「!」

アルミン「なるほど、そうきたか」

ジャン「てめえ、何意地はってるんだよ!」

エレン「うるせえな! 腹減ってんだからおかわりしていいだろ?!」

ミカサ「え、ええ……いいけど」

今度はジャンの顔色が悪くなってしまった。

それはそうだ。だってルーが余らないと、タッパーでカレーは持ち帰れない。

ジャン「てめえええ……くそ、そっちがその気なら!」

ガツガツガツ……

ジャン「おかわりお願いします!」

ミカサ「ええええ……」

今度はジャンがおかわりしてしまった。

エレン「てめええ……」

ジャン「お前に全部食われてたまるか!」

ミカサ「あの、二人とも、アルミンと、マルコの分も残して……」

エレン「は! 食いだめしていく気か? そうはさせるか!」

ジャン「あ! てめえ、ぬけがけすんなよ!」

ミカサ「…………」

ダメだ。もう、二人は聞く気がない。

アルミン「あーあ」

マルコ「あはは……」

ミカサ「ご、ごめんなさい。二人とも」

アルミン「いいよいいよ。また今度、で」

マルコ「うん。漬物だけでも、十分だしね」

二人は苦笑して許してくれたけども、なんだかちょっとだけ申し訳ない気持ちになってしまった。

そんなこんなで、結局カレーは余らず、2鍋分、5人で食べてしまう事になった。

カレーが余らないって、なかなか珍しい事態ではあるが、まあ、食べきったからよしとするべきなのか……?

意地を張り合って大食い対決(?)になってしまったエレンとジャンは、リビングでぐったりしている。

ミカサ「…………先に風呂に入ってきてもいいだろうか?」

エレン「お、おう……いってこい」

エレンとジャンは食休みでリビングで休憩中なので、その間に風呂に入ることにした。

私は風呂に入りながら、どうしてあの二人はこう、張り合ってしまうのか改めて考えてみた。

研修旅行の時もそうだったが、良く理解出来ない事をきっかけに何故か勝負ごとに発展してしまうのだ。

今回のカレーの件もそうだ。どうしてこうなった。と、思わずにはいられない。

ミカサ「はあ……」

振り返って考えてみる。あの時と、今回の件。共通点は…。

ミカサ「ん?」

そういえば、私がジャンに何かをしようとすると、エレンは決まって不機嫌になっているような気がする。

勉強の時もそうだ。私がジャンに勉強を教えると言ったら、何故か、割って入って…。

今回も、ジャンにカレーをおすそ分けするといったら、邪魔をした。

まるでやきもちを焼いているようにも見える。しかし…

エレン『嫉妬じゃねえよ』

と、エレンはきっぱり否定しているし、それに対しても、ジャンは特に否定するような事はなかったので、ジャンも嫉妬ではないと認めている事になる。

ジャン『オレが言ってるのはそこじゃねえよ。お前も本当は気づいてんだろ』

ジャンは一体「どこ」を「そこ」と言っているのか。

ミカサ「まるで穴埋めの文字を読んでいるようで難解過ぎる…」

ドコとかソコとか伏せないではっきり言えばいいのに。あーもやもやする。

あんまり考え込むとまた温泉の時のように長湯してのぼせかねないので適当な時間で風呂からあがる。

ミカサ「エレン、風呂が空いた……ので」

エレン「あ、ああ……」

ジャン「!」

ミカサ「ジャン、まだ苦しいの?」

ジャン「もう治ったぞ! ああ、大丈夫だ!」

ジャンがくるっと起き上った。良かった。

ミカサ「今日の風呂の順番は……」

エレン「………オレとアルミンが先だ。ジャンとマルコは後にしろ」

ジャン「あ、ああ……」

ミカサ「四人で一緒に入らないの?」

エレン「男四人じゃさすがにきつい。二人ずつでいいだろ」

ジャン「ああ、ああ……」

ん? ジャンがまだぼーっとしているようだ。

ミカサ「では私はその間、片づけをしておくので」

エレン「おう、任せた」

ジャン「て、てつだ……」

ミカサ「いい。皿洗いは私の担当なので」

エレン「下手な奴がやると皿を割りかねないからな。手伝うなよ」

ジャンは少ししょげてしまったけれど、こればかりはさせられないので仕方がない。

ジャンが家事に慣れているなら話は別だが先ほどの料理の時に分かった。

彼は普段、家でそう多く、家事仕事をしている訳ではなさそうだ。

恐らく、母親が全部やってくれているご家庭なのではなかろうか。

勿論、手伝いを申し出てくれるのは嬉しい。

だけどそれに甘えては自分の役割を果たせなくなるのでここは任せて欲しいのだ。

いつものように皿洗いを済ませて手早くキッチンを片付けると、丁度エレンとアルミンが風呂からあがった。

そしてジャンとマルコも風呂を済ませて、先ほどのゲームの続きをする事になった。

ゲームの電源を入れなおして、いざ再開。

エレン「えーっと、姫のところのイベントは全部終わったから、次はロンロン牧場いくか」

アルミン「あーエポナのところだね」

ミカサ「エポナ?」

ヒロインがまた出てくるのだろうか?

エレン「まあ、行けば分かる」

ジャンが再び操作する。ロンロン牧場に着いた。

小屋の中には牛がいる。あら可愛い。

ジャン「ん? ここで何するんだ?」

エレン「まあ、いいから探索しとけ」

ジャン「ちっ…」

ジャンは舌打ちしながらあちこちウロウロしている。

部屋の中に入ると……

ジャン「?!」

鶏が大量に現れた。何羽いるのだろうか? ちょっと数えきれない。

あ、タロンさんが鶏の中に埋もれている。また寝ているのだろうか?

タロン『ムニャ…ムニャ…はい、おきてますだーよ!』

ジャン「嘘つけ、寝てただろ、こいつ」

アルミン「だよねー」

タロン『ん? おおっ、だれかと思ったらこないだの妖精ぼうや! あの時はたすかっただーよ』

タロン『あの後マロンのきげんをなおさせるのに苦労しただ』

タロン『今日はなんの用だーよ? もし時間があるならちょこっとアソんでいくだ』

タロン『オラの持ってる3羽のコッコは特別製のスーパーコッコだーよ』

タロン『今からこのコッコたちを普通のコッコの中に投げ込むだ』

タロン『ぜんぶ見つけたらぼうやの勝ち! イイものやるだーよ。見つけられなきゃオラの勝ち』

タロン『10ルピーもらうけど、やる?』

→はい

 いいえ

ジャン「どうすっかなー」

ジャンは迷っているようだ。

ミカサ「とりあえずやってみればいいと思う」

ジャン「じゃあやるか」

タロン『持ち時間は30秒だ。そんじゃ、いくだーよ。スーパーコッコはいりま~す!』

その直後、

ジャン「?!」

む? ち、違いが分からない。

ジャンの眉間にも皺が寄る。これはどう本物と見分けたら…。

タロン『時間切れだ~よ。残念でした~っ』

ジャン「ああああ……」

こ、これは難しい…。

ジャン「くそ、30秒って短すぎるだろ?!」

エレン「ククッ……まあ、そうだろうな」

アルミン「ここ、地味に難しいんだよね」

マルコ「これは確かに難しいね」

ミカサ「コツはないのかしら?」

エレン「あー……アルミン、任せた」

アルミン「ええ? 僕も久々だからなあ」

と言いながらもアルミンに交替である。

タロン『1回5ルピーでやる?』

→やる

 やめる

あら? 2回目は何故かお安くなっている。これはいい。

アルミンがスタートした。アルミンは片っ端からコッコ(鶏)を持ち上げて捨てている。

アルミン「とにかくここ、持ち上げまくるしか手がないんだよね」

エレン「運ゲーだからな」

ジャン「そうなのか?」

アルミン「見た目の違いはないよ。ただ、一度持ち上げたら緑のマークがつくから、とにかく全部持ち上げれば数打ち当たる…だったかな?」

という訳でアルミンは持ち上げまくった。しかし間に合わず、時間オーバー。

アルミン「ああ…ダメだったか」

エレン「ミカサもやるか?」

ミカサ「いいの?」

エレン「まあやってみろ」

という訳で交替である。よし、今度こそ。

タロン『おっ! そいつは本物だーよ! その調子その調子! あと2羽~っ!』

良かった。まずは1羽確保!

タロン『あわわっ! そいつも本物だ! だどもこれからが勝負だーよ。さあ! あと1羽~っ!』

よし! これで2羽確保!

さあさあ、どいつが本物なのかしら?

さくさく持ち上げて捨てるのを繰り返すと……

たったら~♪

タロン『うお~っ! やられただ~よ! スゴイだ~よ!!』

タロン『それでぜんぶだーよ! こっちへおいで』

ジャン「おおお、すごいなミカサ」

ミカサ「良かった。全部捕まえられた」

タロン『おまえ、最高のカウボーイになれる「さいのう」ってのがあるだ!』

ゲームの中の話でも、褒められると嬉しいものである。

タロン『マロンのムコさんにならね~だか?』

→はい

 いいえ

ミカサ「!?」

え? いきなり結婚? なんていう急展開。

ミカサ「ええっと、これは……」

ジャン「やめとこうぜ。どうみてもメインヒロインはセルタ姫だろ」

エレン「まあ、そこはミカサの好きにしろ」

ミカサ「ジャンの言う通り、メインヒロインを優先で…」

と、思ったのにボタンを押し間違えて「はい」を選んでしまった。

タロン『いや~じょーだん、じょーだん! まだちっちゃすぎるだが? わはははっ!』

何だ。ただの冗談だったのか。ほっとした。

タロン『そーだ、約束どおりオラのじまんのロンロン牛乳やるだーよ! のんだとたんに元気になるだ』

タロン『のみおわっても、このビン持ってくれば、いつでも買えるだーよ』

ロンロン牛乳をビンにつめた!

滋養強壮! 栄養補給!

Cで使えばハートが回復!

回復するのはハート5コ。

1回飲むとビン半分。2回飲んだらカラになる。

ミカサ「おおお……これは必須アイテムね」

エレン「序盤では絶対いるからな。これないときつい」

ミカサ「なるほど、だからロンロン牧場に来たのね」

エレン「それだけじゃねえけどな」

そして一度外に出て、牧場の奥の方へ行くと……

たらら~たらら~♪

何だか懐かしさを感じるノスタルジックなメロディが流れている。

ミカサ「あら……」

馬がいた。可愛い。

マロンの横にはもう一回り小さい馬(?)がいる。

マロン『アラ、こないだの妖精クン!』

マロンちゃんはこの間のお礼を言った後、

マロン『あ、そうだ! 妖精クンにしょうかいするわ、わたしのともだち…』

マロン『このウマなの。エポナってゆーのよ。カワイイでしょ!』

同意。確かに。可愛い。乗りたい。乗れるのだろうか?

触ろうとしたが、ああああ……逃げられてしまった。

ミカサ「ガーン……」

ジャン「逃げるのかよ」

マロン『エポナ、妖精クンのこと怖がってるみたい…』

何故……?

もう一回話しかけると、

マロン『この歌、おかーさんがつくったの。いい歌でしょ? マロンといっしょに歌いましょ!』

ミカサ「???」

ど、どういう意味だろうか?

ミカサ「私は何をすればいいの?」

エレン「んー…」

アルミン「ここは教えてあげた方が」

エレン「まあそうだな。オカリナを見せてみろ」

ミカサ「オカリナ?」

エレン「今流れてるメロディを教えてもらうんだ」

ミカサ「なるほど」

という訳で、マロンにたらら~♪を教えてもらった。

エレン「これで後でエポナをゲット出来る」

ミカサ「本当? 良かった」

エレン「エポナの歌でエポナと仲良くなっておかないと大人時代にエポナ取れないんだよな」

ミカサ「そうなのね。良かった」

ジャン「ミカサは馬が好きなのか?」

ミカサ「動物は割と好き。馬も例外ではない」

ジャン「……………」

ミカサ「?」

ジャン「いや、何でもない。続けてくれ」

ジャンの質問の意味が分からなかったが、そのままゲームを続ける事にした。








ミカサ「……………………………は!」

しまった。途中で寝落ちていた。あれ? あれ? あれ?

エレン「よお、ミカサ、起きたか」

ミカサ「エレン……今、何時?」

エレン「朝の4時半くらいかな」

ミカサ「?!」

ミカサ「げ、ゲームは……」

エレン「ああ、途中でセーブして一旦、止めたけど」

ミカサ「み、皆は…? あ、寝てる」

エレン「ああ。さっきまでジャンが起きて続きをやってたけど、さすがに限界だったみたいだな。寝ちまったよ」

畳の上の布団を敷いた上にジャンもマルコもアルミンもそのまま寝ている。

ミカサ「エレン、まだ寝てないの?」

エレン「オレ、夜更かし得意だからさ。ミカサが起きるまで起きとこうかと思ってな」

ミカサ「な、なんで?」

エレン「いや、オレの部屋、広いけど、5人寝るのにはさすがに狭いしな」

ミカサ「ご、ごめんなさい…」

エレン「謝る事じゃねえよ。んじゃ、そろっと起きて部屋に戻れ」

ミカサ「う、うん……」

続きは自分の部屋で寝ることにしよう。

ミカサ「エレン、先ほどのゲームはどこまで進んだのだろうか?」

エレン「ん? リンクが大人になって………」

お、おう。もうそんな先の方まで進んでいたのか。見れなくて残念だ。

ミカサ「大人リンクがイケメンになったのは覚えてるけど……そこから先もだいぶん、進んだのね」

エレン「まあな。ジャンが意外と後半、操作に慣れてきてな。思ってたよりはサクサク進んだよ」

ミカサ「そう……」

エレン「ゲームなんだからまた、見たければもう一回プレイすればいいだろ」

ミカサ「そうね。うん、いつかまた」

エレン「…………」

ミカサ「?」

エレン「いや、なんか、その………」

どうしたのだろうか。私の部屋の入り口で、エレンが、物凄く、困った顔をしている。

エレン「何でもねえ。やっぱりいいや」

ミカサ「気になる言い方しないでほしい」

その、出して引っ込める。という言い方はやめて欲しい。

ミカサ「前にも似たような事があったような」

エレン「あ、そうだったか?」

ミカサ「(こくり)エレンはたまに気になる言い方をするので困る」

エレン「…………」

ミカサ「言いたいことははっきり伝えて欲しい。もやもやさせないで」

エレン「分かった。じゃあ言うけどさ……」

ミカサ「うん」

エレン「あ、朝飯は、おすそ分け出来るようなもん、作るなよ」

ミカサ「え?」

エレン「じゃあな。おやすみ。オレも、もう寝る」

ミカサ「……………」

エレンはそれだけ言って、自分の部屋に戻っていった。

い、今のはいったい……?

ミカサ「何故、おすそ分けをしてはいけないのだろうか?」

エレンの真意が分からず、首を傾げるしかなかった。

ようやくゲームで男子会(?)編終了です。
一度、ゲームでまったり遊んでいるエレン達を書いてみたかったのだ。
思ってた以上に長くなってしまってすみません。
次からは(おそらく)普通の学校生活に戻ります。
今回はここまで。続きはまた。

作者の真意はわからないけど無意識嫉妬なのか!くそかわいいじゃないか

読みなおしたら、本当にこのシリーズのミカサ「けれども」多いなwwwww
ガチャポンシリーズの方のミカサはそうでもないのになんでだろう?
このシリーズ特有の変な癖が無意識についてたようだ。指摘サンクスです。

>>503
無自覚ラブで進みます。進展のろいですけどね。

>>519
このシリーズは今まで書いたエレミカの中では一番、展開が遅いと思います。
その分、じっくりゆっくり書いていく予定ですので暫くはじれったいのが続くと思われます。







エレンの真意が良く分からなかったが、朝は一応要望に沿う献立にした。

味噌汁と納豆、そして焼き魚を1匹ずつ。簡単な朝食を作ってふるまった。

ジャンがやたら「うまい!」を連呼してくれて、こそばゆかった。

作った側としてはそんなに喜んで貰えると自然と頬が緩んでしまう。

勿論、アルミンもマルコも「美味しいよ」と言ってくれた。

エレンは「いつも通りうまい」と、淡白な感想だった。

ジャン「エレン、もっと感謝の気持ちを出せよ。贅沢な奴だな」

エレン「あ? ああ……うまいうまい」

ミカサ「表情と感想が一致してないような…」

エレン「ん? んな事ねえよ」

ミカサ「嘘、ついてない?」

エレン「……………強いて言うなら、いつもよりちょっとだけ味噌汁が濃いかなってくらいか?」

ミカサ「そう? んー……あ、本当だ。ごめんなさい。お湯を足して」

ジャン「そうか? オレは丁度いいけどな」

マルコ「うん……いいと思うよ」

アルミン「ははは……エレン、細かいねー」

エレン「いや、昨日はミカサ、いつもと違うリズムで寝たからさ。調子悪いかなと思って、別にこれでもいいかと思ったんだよ」

ジャン「………………」

ジャンが何故かエレンを睨んでいる。何故……?

ミカサ「ジャン?」

ジャン「あ、いや、何でもねえよ」

エレンはすまし顔で食べ続けている。今日はジャンにつっかかる気配はない……。

エレン「飯食ったら、とりあえずいったん帰れよ。そろそろ親父達も帰ってくるだろうし」

アルミン「あ、うん。そうだね」

ジャン「ゲームの続きはまた来た時にさせてもらってもいいか?」

エレン「えー……もう、面倒くせえから、本体ごと借りて行けよ」

ジャン「は? え? いいのか?」

エレン「通われるのは面倒くさい。…………別にどうしても通いたい理由なんてないだろ?」

ジャン「うぐっ………分かった。じゃあ借りていくよ」

太っ腹なエレンである。ちょっと意外だった。

そんな訳でジャンは本体ごとエレンからゲームを借りて、私は三人に漬物のお土産だけ渡して、皆を送って行った。

家に帰ってからエレンと二人きり。話すこともなく帰り道を歩いていたら……

エレン「しっかしミカサ、お前って本当、すげえな」

ミカサ「え? 何が」

エレン「いろいろ。初見で大体の事、こなしやがって。オレが初めてセルタをやった時はあんなにサクサクプレイはやれなかったぞ」

ミカサ「そう? でも、兵士にはすぐ見つかった」

エレン「あれはそれが普通だよ。マルコはマルコで異常だな。ま、でもなんか懐かしかったな」

ミカサ「そうなの?」

エレン「ああ。うちにゲームがいっぱいあるのはさ、親父が元々ゲームが好きっていうのもあるけど、母さんが亡くなってから、親父がオレに寂しがらせないようにいろいろ買ってくれたんだと思うんだよな」

そうか。なるほど。だから、あんなに一杯あるのか。

エレン「親父は毎日忙しいしさ。あんまり構う暇、なかったし、オレもそれで仕方ないと思ってたし、でも、やっぱり一人でするゲームより、誰かとやるゲームの方が断然、面白れえよ」

ニカッと、嬉しそうに笑うエレンに私も釣られてしまった。

ミカサ「そうね。また、機会があれば皆で違うゲームをやってもいいかもしれない」

エレン「おう。今度は桃色鉄道でもいいかもな」

ミカサ「うぐっ……桃鉄はちょっと」

何だか嫌な予感しかしない。エレンとジャンが戦争を起こしそうだ。

エレン「そうか? まあパワプロとかも好きだけどな。Wiiでやってもいいか」

ミカサ「パワプロ?」

エレン「野球ゲームだ。実際に体を動かしてやれるゲームだからミカサに向いてる」

ミカサ「では、次はぜひそれをやろう」

と、談笑しながら、私達は家に帰宅したのだった。





楽しい連休を終えた後は、中間テストがやってくる。

その後は慌ただしく体育祭だ。5月25日。この日は晴天に恵まれて無事に開催される事になった。

私はクラスの推薦でいろんな種目に出ることになった。

50m走、100m走、400m走、騎馬戦、そして団対抗代表リレー。

一人最低、2種目は出ないといけない規則だけど、上限はなかったので時間配分の可能な限り出場する事になったのだ。

団の組み分けは縦割りだった。つまり3年1組、2年1組、1年1組が同じ団になる。

色は毎年抽選で決まるらしい。団長のオルオ先輩が緑色を引き当てたので私達は緑色の鉢巻をして参加する事になった。

観客は中学の頃に比べると、父兄よりも同級生やOB、OGの数の方が多い気がする。

そうか。中学時代の同級生や先輩等が体育祭に遊びに来たりもするのだろう。

ま、まさかとは思うけれど、私の知ってる顔は遊びに来ていないといいが…。

思わず顔を隠すように下を向いていると、隣の席のエレンが不思議そうに顔を覗き込んできた。

エレン「? ミカサ、気分でも悪いのか?」

ミカサ「い、いえ……別に」

エレン「喉乾いたなら、ポカリあるぞ。飲んでおけよ」

ミカサ「あ、ありがとう…」

エレン「ほら、アルミンの出番だぞ。技巧走が始まるから応援しようぜ」

技巧走というのは、所謂障害物競争の事である。途中でいくつかの罠をかいくぐり、ゴールまで目指す競技なので、体力のない選手の大半はこれに出ているそうだ。

エレン「アルミン、がんばれー!」

アルミンはスタートは遅かったけれど、あれよあれよと挽回してトップに出て1位でゴールした。

途中の罠をかいくぐるスピードがダントツだった。他の選手はまだまごついている。

エレン「いいぞアルミーン!」

エレンも嬉しそうだ。アルミンもこっちに気づいて手を振っている。

そうだ。今は体育祭に集中しなければ。気にしてもしょうがない事に気を取られている場合ではない。

放送『続きましては……女子騎馬戦に出る選手は東門に集まって下さい』

エレン「お? ミカサの出番だな。行って来い」

ミカサ「うん」

そろそろ準備だ。私は一人で席を立ち、東門の方に移動しようとしたのだが……

金髪の男「おい、おまえ、ミカサか?」

ミカサ「?」

その途中で見知らぬ男性に声をかけられた。誰だろうか?

金髪の男「髪、切ってたから一瞬分からなかったが……やっぱりミカサだよな」

ミカサ「!」

思い出した。この人は、中学時代、私に迫ってきた先輩の一人だ。

名前はもう忘れてしまったが、彼には肋骨を何本か折る怪我をさせてしまった。

思わず警戒して一歩引く。すると彼は、

金髪の男「おいおい、そう露骨に引くなよ。傷つくだろ」

ミカサ「あの、私はもうすぐ競技に出るので」

金髪の男「ああ? ああ……そうか。ここの生徒だもんな。そっか」

ミカサ「失礼します」

金髪の男「ちょっと待ってくれ。少しだけ、時間くれよ」

ミカサ「急いでいるので……」

金髪の男「ちょっとくらいいいだろ。話したい事があるんだよ」

ミカサ「やめて下さい。その……」

腕を掴まれてしまった。嫌だ。触られたくない。

でも、ここで無理に振り切るのもまずい。どうしたら……

ジャン「おい、そこのアンタ」

その時、私の背後から覚えのある声がした。

今回はここまで。体育祭編に突入です。
最近、急にキーボード叩き過ぎて手首痛いので、
暫く休憩します。ちょっと頑張りすぎた。すまんね。

ミカサに迫るモブになりたい。そしてボコボコにされたい

金髪の男「あ? なんだよ」

ジャン「アンタ、ミカサの何なんだ。もうすぐミカサは出番なんだよ。邪魔するなよ」

その時、丁度偶然、ジャンが通りかかってくれた。私を隠すように前に出てくれる。

金髪の男「…………なんだよ。もう、新しい男作ってんのか、ミカサは」

ミカサ「は…?」

金髪の男「おいお前、ミカサとはもうヤッたのか?」

ジャン「は? 何言ってるんだ?」

ジャンが苛立って言い返す。当然だ。

私も少々、苛ついてきた。

金髪の男「まあ、無理かもな。こいつ、人に散々、期待させといて貢がせといてヤらせない、ずるい女だもんな」

その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。

ビリビリと、体の中に電気が走るような感覚を覚えた。

イケナイ。ダメ。

自分の中の理性が、そう訴えるのに、体は言う事を聞かなくて。

でも、私が拳を握るよりも先に、なんとジャンが、

自身の拳を振り下ろしていたのだ。

それを目に入れた瞬間、私は我に返った。

ダメ…!

ジャン! その手を汚しては……

止めに入ろうとした時に、私よりも先にジャンの拳を止めた人がいた。

ジャン「!」

エレンだ。ジャンの拳を振り下ろされる前に後ろから、ジャンの背中を蹴ったのだ。

ジャン「てめえ! 何しやがる!」

エレン「それはこっちの台詞だ。こんな人の往来の激しいところで何しようとしてんだ」

ジャン「でも、こいつは……!」

エレン「ミカサ、次、女子の騎馬戦だろ。アナウンス、名指しで呼び出されてんのに気づいてなかったのか?」

耳を傾けると私の名前が何度も響いていた。まずい。遅刻だ。

エレン「早く行け。待たせたら全体の進行が遅れるだろうが」

ミカサ「…………」

私は怒りを押し殺して、唇を噛みしめて気を落ち着かせた。

そして一度大きく頷いてその場を後にする。駆けだして東門に急ぐ。

だけど、頭の中は先程の言葉が響いてこびりついて離れない。



『人に散々、期待させといて貢がせといてヤらせない、ずるい女だもんな』


私は彼に期待させたつもりは一切無いし、貢がせた覚えもない。

勝手に好意を寄せてきたのは向こうなのだ。なのに、なのに。

私はその後の騎馬戦で、そのストレスを全てぶつけた。

何かにエネルギーをぶつけないと、涙が零れそうだったからだ。

サシャ「み、ミカサ……今日のミカサは何だかすごいですね」

クリスタ「うん、そうだね。気合入ってるね」

ユミル「ミカサがいると楽勝だな」

と、周りに私の異変は気づかれなかったのは幸いだった。

今はこのイライラを全て騎馬戦にぶつける。

そのおかげで私達緑団は騎馬戦で圧倒的リードを獲得した。

騎馬戦が終わってから緑団の席に戻ると案の定、ジャンとエレンが口論を続けていた。

ジャン「なんで止めた! あんな野郎、殴って当然だろうが!」

エレン「気持ちは分かるがミカサの前でトラブル起こすなっつってんだよ! 下手したらお前が停学くらってただろうが!」

ジャン「そうだけどよ! くそ……あの野郎、今度あったら絶対、陰でぶん殴ってやる!」

ミカサ「やめて、ジャン。貴方が手を汚してはいけない」

ジャン「ミカサ!」

ジャンは私の顔を見て心配そうに駆け寄ってくれた。

ジャン「ミカサ……あいつは一体誰なんだ?」

ミカサ「……………」

言おうかどうか迷う。彼の事を話せば私の過去も同時に話さないといけなくなる。

そうなった時にジャンは私の事をどう思うのか。

エレン「…………ジャン、そんなのはどうでもいいだろ」

ジャン「どうでも良くねえよ! ミカサに暴言吐く奴なんて許せないだろうが!」

エレン「そうだとしても、それはミカサのプライベートな部分だろうが。今、ここで話すような事じゃねえよ」

エレンは私とジャンの間に入ってくれた。それが少しだけ有難かった。

ジャン「うっ……そ、それはそうだが」

ジャンも少し頭が冷えたようだ。

ジャン「分かった。今は聞かないでおくけどよ……もし、何か困った事態が起きたら絶対、オレに話してくれよ、ミカサ!」

ミカサ「う、うん……」

ジャンは次の玉入れ競技に出る予定の筈だ。

なので彼は西門の方へ移動して、席には私とエレンだけが座った。

エレンは何も聞かず話さず無言でいる。本当に聞く気はないようだ。

そういえば以前、エレンはジャンがアルミンとマルコをからかっている時もそれに便乗したりしなかった。

エレンのそういう部分は有難い反面、後ろめたさのような物も感じた。

私から話さなければ、きっとエレンは聞く気がないのだろう。

どうするべきだろうか? 私はエレンに自身の過去を話すべきなのだろうか。

…………ダメ。やっぱり話せない。

こんな事、話すべきではない。エレンになんて思われるか。

ミーナ「あいたたた……」

と、考え込んでいたその時、足を引きずって緑団のテントにミーナがやってきた。

ハンナ「大丈夫? ミーナ」

ミーナ「さっきの騎馬戦で足ひねっちゃったあ」

ハンナ「困ったね。玉入れの後の、二人三脚出る予定だったでしょ。マルコと」

ミーナ「そうなのよねーどうしよう」

マルコ「無理しない方がいいよ。誰か代わりにやってくれる人を探そう」

ミカサ「!」

今は、他の事をしていたい。丁度良かった。

ミカサ「だったら私が代わりにでよう」

マルコ「いいの? ミカサ」

ハンナ「え、でもミカサ、確か他にもたくさん種目出てなかったけ? きつくない?」

ミカサ「体力なら余っている。問題ない」

マルコ「ミカサがいいならいいけど……」

マルコはチラリと何故かエレンの方を見た。

エレン「何だよ」

マルコ「いや、いいかな? エレン」

エレン「本人がいいって言ってんだ。いいよ」

マルコ「じゃあ、ミカサを借りてくね」

という訳で、急遽私はマルコと二人三脚に出る事になった。





マルコとの二人三脚は無事に1位でゴールした。

マルコ「ミカサ、足早いよ……男子と変わらないね」

ミカサ「ごめんなさい。早すぎただろうか」

マルコ「いや、僕は女子の速度に合わせるつもりだったから、ガチで走るとは思わなくてね。ちょっとびっくりしちゃったよ」

ミカサ「走りにくかったならごめんなさい」

マルコ「まさか! むしろ走りやすかったよ。申し訳ないのはこっちの方だよ」

マルコと一緒にテントに帰ると、ジャンが迎えてくれた。

ジャン「マルコ、これはどういう事だ?」

マルコ「かくかくしかじか…」

マルコがミーナの捻挫の件を伝えるとジャンは露骨にがっかりして見せた。

ジャン「なんだよそれ! くそう……」

マルコ「まあまあ、突発的にそうなったんだから仕方ないだろ」

ジャン「まあ、それなら仕方ねえけど」

ジャンが落ち込んでいる。顔を少し合わせづらい。

ジャンは目だけで先程の事を気にしている素振りを見せている。

そんな目で見ないで欲しい。分かっている。分かっているのだが。

エレン「おい、次、男子の綱引きの準備だぞ、移動だ」

マルコ「ふー忙しいね。今度は東門だっけ? 西門だっけ?」

エレン「西門だ。ほら、移動するぞ」

午前中のプログラムが全て終わるまではそんな感じで、移動やら何やらですれ違い、先程の件はあやふやになった。

お昼の休憩の時もエレンは何も言わず、アルミンと今日の事を話したりしていた。

今日はグリシャさんは仕事なので当然来れず、私の母も応援には来ていない。

高校生ともなると、保護者が応援に来ているのは全体の半分くらいになる。

なのでお昼はエレン、私、アルミンの三人で食べていた。アルミンは騒動の件を知らない筈だが、

アルミン「………ミカサ」

ミカサ「何?」

アルミン「元気ないね? 疲れちゃったのかな?」

と、察しの良いアルミンは私の異変に気づいてしまったようだ。

エレン「こいつ、二人三脚も急遽、助っ人で出たからな。人の2倍は働いてるんだよ」

アルミン「そりゃ大変だったね。殆ど休み無しだったんじゃない?」

ミカサ「いえ、それは大丈夫なので心配しなくていい」

アルミン「でも、無理したらいけないよ。ミカサ。ちゃんと休める時に休んでね」

ミカサ「うん。心配してくれてありがとう」

エレンのおかげで深くは突っ込まれなかった。

エレンは本当に普通にしている。ジャンとは全く違う。

…………ん?

ミカサ「エレン? どこを見てるの?」

エレンの視線が不自然だ。私ではなく、私の後ろの方を見ている。

エレン「ん? いや、何でもねえよ」

ミカサ「嘘、誰かを探しているような目を…」

思わず、私は周りを見渡してしまった。私達がいる場所は、学校の端っこだ。

中庭は人気があるのでこういう時は場所を取りづらい。

なので人気の少ない日陰になる倉庫の隣辺りでシートを敷いてそこで昼食をとっていたのだが…

ミカサ「!」

今、一瞬、気のせいか。

いや、気のせいじゃない。さっきの金髪の男の姿が見えて、そして奥に引っ込んでいった。

ぞっとした。まさか、まだ私にコンタクトを取ろうとしているのだろうか。

エレン「馬鹿、ミカサ。目合わせるんじゃねえよ」

エレンの言う通りにした。向き直って相手を無視する。

私の様子にアルミンも察したのか、

アルミン「さっきからのチラチラうっとしい視線、ミカサ狙いだよね」

エレン「ああ」

アルミン「…………ミカサ、今日は一人になっちゃダメだと思うよ」

と言ってくれた。

ミカサ「う、うん……」

まだ、彼は私に話す事があるのだろうか。こちらには何もないのに。

アルミン「こういう外部の人が校内に入れるイベントの時は気をつけないとね」

エレン「ああ。不審者も混じれるからな。用心しとかねえとな」

私は頷いた。その通りだと思った。

そしてさっさと昼食を済ませて午後のプログラムに入った。

午後は午前より種目は少ない。メインはやはり得点競技ラストの団対抗リレーだ。

これが終わると3年生のフォークダンスがあって、結果発表があり、全日程が終了する。

リレーまではもう少し時間がある。先にトイレ休憩しておきたい。

でも一人で移動するのは怖いので誰か女子に…。

皆、わいわいテント内で雑談している。だ、誰に頼もうか。

一人静かにしているのは………アニだ。

ミカサ「あ、アニ……」

アニ「ん? どうしたの?」

ミカサ「一緒にトイレに行って貰えないだろうか」

アニ「え? 何で? 一人でいかないの?」

ミカサ「詳しい事は後で話すので、お願いしたい」

アニ「………分かった」

アニは察してくれたようだ。良かった。






女子トイレの洗面所で私はアニに事情をかいつまんで話した。

アニ「ふーん、中学の時の先輩が来てるんだ。んで、一人の時に会いたくないから頼んだ訳ね」

ミカサ「面倒をかけてごめんなさい」

アニ「別にいいけど……その先輩って元彼とかなの?」

ミカサ「違う。ただ、昔、何度か告白されただけ。ちゃんと断ったのに、向こうは私に話したい事があるみたい」

アニ「何度か…って事は結構、強引に迫ってくるタイプか」

ミカサ「……かもしれない。それ以前はそれなりに仲が良かったけど」

告白される前は親切にしてくれた先輩の一人だったのに。

彼との騒動が起きたせいで、私は周りからの目線がガラリと変わってしまった。

ミカサ「今はもうあまり会いたいとは思わない。なので困っている」

アニ「以前、いきなり手を出してくる人は、ちょっと…って言ってたのはその先輩の事だったんだね」

私は頷いた。アニは納得してくれたようだ。

アニ「なるほどね。分かった。そういう事なら今日は出来るだけ一緒に居てあげる。後、もしそれが続くようなら早めに警察なり相談した方がいいよ。こじれてストーカー事件に発展するケースもあるからね」

ミカサ「そ、そうだろうか」

アニ「ストーカーや防犯対策に格闘技を習いにうちにくる女性も少なくないんだよ」

ミカサ「!」

アニ「だからその手の話はよく耳に入ってくるんだ。ミカサ自身は護身術の心得はあるかもしれないけど、精神的な面から攻められたら、どんなに肉体が強くても、壊れちまうよ。だから自身を過信しちゃダメだ」

ミカサ「わ、分かった……」

アニの話は非常に為になった。肝に銘じておこう。

今はまだ様子を見るしかない。

でも、もし向こうが法的な部分を超える行為を行おうとしたら、その時はこちらもそれなりの覚悟で対処するしかない。




そしていよいよ、団対抗の代表リレーを迎えた。私は1番目に走る。

1年女子、1年男子、2年女子、2年男子、3年女子、3年男子。

100mずつ走り、アンカーのみが200mを走るリレーである。

うちのクラスは女子は私、男子はライナーが走る。アンカーはオルオ先輩だ。

ざわざわ……。

間もなく最後の点数競技が始まる。ここで一発逆転も十分あり得るので気は抜けない。

エレンとアルミン、ジャン、マルコ、コニー、サシャ、ユミル、クリスタ、ベルトルト、ミーナ、ハンナ、他の皆も応援してくれている。

さあ、アキレス腱をしっかりストレッチして準備完了。


パーン!


ピストルの合図と共に一斉に走り出した。

女子の間では当然、私がトップに躍り出たのだが。

トラックを走る途中で私は、見てしまった。

先輩が、私を外野から見つめているのを。

それはほんの刹那の瞬間だった。

だけど絡みついたその視線にまるで足を奪われるかのように、油断してしまい……

エレン「あっ……!」

バトンを落とすという、凡ミスをしてしまったのだ。



しまった。その瞬間、他のクラスに抜かれてしまった。

最下位までは落ち込まなかったものの、順位は大きく下回り、ライナーには当然、中盤の順位でバトンを渡す羽目になってしまった。

悔しい。この程度の事で動揺している自分が、嫌だ。

何だかだんだん腹が立ってきた。

どうして私がこんな思いをしなければならないのか。

腹の底から湧き上がるエネルギーが私自身を突き動かした。

傍から見たらそれは無謀な行為に見えたと思う。

だけど、この時の私は一言、文句を言ってやりたくて堪らなかった。

外野の群集をかき分けて先輩を探す。すると、帰ろうとしていたのか学校の外へ出ようとしていた。

ミカサ「先輩!」

金髪の男「……ミカサ」

ミカサ「待って下さい。話したい事があるので」

金髪の男「ああ。こっちも話したかったんだ」

ミカサ「ちょっと外れましょう」

私は先輩を誘って少し木陰に移動した。喧噪は聞こえるが、群衆からは見えにくい位置で立って話す事にした。

ミカサ「………」

息を整えて深呼吸する。彼とは絶対、決着をつけなければと思った。

ミカサ「もう、こういう事はやめて下さい。前にも言いましたが、私は貴方の気持ちには応えられない」

金髪の男「………知ってるよ、そんな事は」

ミカサ「では何故、リレー観戦なんてしてたんですか! うっとおしい!」

金髪の男「そんなのはこっちの勝手だろ。見ちゃ悪いのか」

ミカサ「気が散るに決まってるでしょう! バトンを落としたのもそのせい……」

金髪の男「へえ……動揺したんだ。嬉しいな、それは」

寒気が、した。

一体、何を言ってるのだろうか。この人は。

ミカサ「嬉しい…? 何故……」

金髪の男「だって自分の存在が少しでもミカサの中に引っかかってた証拠だろ」

金髪の男「忘れ去られるよりよほどいい」

ミカサ「いい加減にして下さい。私は貴方の事を忘れたいのに……」

金髪の男「なかった事にしたいって? 本当、ひどい女だな、ミカサは。でも…」

金髪の男「それでも、こっちは消えないんだよ。それだけ、ミカサの存在が大きいんだ」

ミカサ「…………」

金髪の男「話したかったのは、あの時の事だ。謝ろうと思ってた。ずっと」

金髪の男「あと、さっきは言いすぎた。悪かった。なんか、仲良さげな男が傍にいたから、つい……」

金髪の男「ミカサはモテるからな。いろんな男に言い寄られるだろ」

金髪の男「美人だし、優しいし、料理上手だし、気遣いも出来るし、たまにドジだけど……」

金髪の男「そこもカワイイと思ってる。多分、ミカサのそれは欠点じゃないんだ」

金髪の男「あー何言ってるんだ、オレ」

金髪の男「とにかく、そういう事なんだよ」

金髪の男「…………やっぱりオレじゃダメなのか?」

ミカサ「ごめんなさい……」

それ以外の返事は出来なかった。答えは初めから決まっているのだ。

金髪の男「……他に好きな奴でも出来たか?」

ミカサ「そ、それは………」

金髪の男「彼氏がいるなら、きっぱり諦めもつくんだけどな。いねえの?」

ミカサ「…………(こくり)」

生憎、彼氏はいない。頷くしかない。

金髪の男「いや、でも……もうすぐ出来るのかもな」

ミカサ「え?」

金髪の男「そんなに睨まなくても、何もしねえよ」

先輩の視線は私の後ろの方にあった。

後ろには、エレンとジャンの姿があった。

ミカサ「えっ……どうして」

エレン「あんな顔でグラウンド抜けたら誰だって気になるだろうが」

ジャン「何もされてないか、ミカサ」

ミカサ「う、うん……」

金髪の男「人をストーカーみたいに言うなよ。何もしてねえよ」

ジャン「は! どうだかな!」

エレン「ミカサ、帰るぞ」

ミカサ「うん……」

話は終わった。もう先輩とは顔を合わせる事はないだろう。……多分。

………でも、このままで本当にいいのだろうか。

私は足を止めて振り返った。

そして学校の外へ出ていく先輩の後姿を見つめて、叫ぶ。

伝えなければ。そう思って、自然と声が出た。

ミカサ「先輩!」

エレン「!」

ジャン「!」

ミカサ「肋骨を、折っちゃってごめんなさい!」

エレン「え?」

ジャン「え?」

すると、先輩は苦笑して、手を振ってくれた。

金髪の男「もうとっくの昔に治ってるから大丈夫だ!」

と、別れ際に叫びながら、私達は、今度こそ本当に別れたのだった。






エレン「肋骨、折った……?」

ジャン「何の話だ?」

二人は首を傾げている。でも、私は二人に話す事にした。

ミカサ「あの人は、私を初めて押し倒そうとしてきた人」

エレン「はあ?!」

ジャン「なななな!」

ミカサ「その時に私は抵抗して、彼の肋骨折ってしまった。ボキッと」

エレン「はー?!」

ジャン「え? 本当に折っちまったのか?」

ミカサ「本当に折った。肘鉄で反撃して、病院送りにした。彼以外にも、何名か、やった」

エレン「え……何名か、って、えええええええ?!」

エレンもジャンも目を白黒している。

ドン引きするならしてもいい。もう、隠すのはやめる事にした。

ミカサ「だって全員、こちらの同意も無しに事を進めようとした。……ので、当然の報い」

二人が口をポカーンとしている。まあ、予想通りの反応だ。

ミカサ「でもそのせいで、私の評判は地に堕ちた。それまでは普通の生徒だったのに。集英高校もそのせいで内申が悪くなって落ちた。点数的には問題なかったけど、暴力沙汰を起こしたような生徒は要らないと跳ね除けられたの」

ジャン「そ、そうだったのか……」

ミカサ「なので講談高校の方に拾ってもらった。こっちの高校は私の言い分を正当性があるとして認めてくれて、内申で落とされる事はなかった。本当、拾われて良かった…」

もしこの高校に受からなかったら恐らく今頃、県外の高校に進学するしかなかっただろう。

ミカサ「ごめんなさい。なかなか話すふんぎりがつかなくて。今まで話せなかった」

ジャン「いや、それは仕方ないだろ。そういう事なら仕方ねえよ」

エレン「ああ……同感だ。でも、なんか納得したぞ」

と、二人とも頷いている。

エレン「ミカサと初めて会った時、すげえ強い女だなって思ったけど、ソレが原因だったんなら、講談に来たのも頷ける」

ジャン「でもオレにとってはかえって良かった。ミカサとこうして会えたんだしな」

ミカサ「そうかしら?」

ジャン「集英の方にいってたら、こうして一緒に話してないだろ」

ミカサ「そうね。すれ違ってもいないと思う」

ジャン「だったら、この偶然に感謝しねえとな」

ミカサ「………私の事、怖くないだろうか?」

エレン「えっと、全く怖くないと言えば嘘になるが……」

エレンはちょっとだけよそを向いている。

エレン「元々悪いのは、その無理やり言い寄ってきた奴らだろ。ミカサは悪くねえんだし、別にいいよ」

ジャン「そうだな。っていうか、それくらい貞操観念がしっかりしている女の方がオレは…………」

ミカサ「え?」

ジャン「……な、何でもねえ!」

ジャンは何か言いかけて打ち切ったようだ。はて?

ついに言った

ジャンうぜぇwww

エレン「…………(半眼)」

エレンもジャンを見つめている。ジャンは口笛を吹き始めてしまった。

あら、意外とうまい。

エレン「しかし、反撃されるの分かってて迫ってくる奴らがいたって……どれだけドМな奴らだ」

ジャン「むしろそれが目当てだったんじゃねえか?」

エレン「あり得るな。十分あり得るぜ」

ミカサ「え? どういう事?」

エレン「いや、ミカサにぶん殴られたい願望の奴らがその事件を切っ掛けに群がってきたのかと思って」

ミカサ「は? ぶん殴られたい……? 意味が分からない」

エレンの解説に私は目が点になってしまった。

するとエレンは天を仰ぎながら続けてくれた。

エレン「あー……なんていうかな。子供の頃、親父にわざと、ブーンとかやられなかったか?」

ジャン「こう、乱暴に扱われるというか……ジャイアントスイングみたいな奴だろ?」

エレン「そうそう。高い高いだったり、ちょっとそういう、ドキドキ? みたいなもんを好むというべきか……そういうのが異常に好きな変態も世の中にはいるんだよな」

ミカサ「え、えええええ………」

そんなのは初耳だ。そんなのは困る。

ミカサ「では私が反撃していたのは逆効果だったのだろうか…?」

エレン「いや、反撃は勿論していいんだが、そっちが目当てで近寄ってた奴も中には少なからず居たのかもしれん。でねえと、そう何人も病院送りにする事態にはならねえと思うんだが」

ジャン「ミカサ、病院送りにしちまった奴らから陰湿な報復を受けたりした事あったか?」

ミカサ「いえ……というより、同じ人から何度も迫られてしまったり、同じ事の繰り返しで辟易していた」

ジャン「だったら決まりだな」

エレン「ああ……確定だ。ミカサに惚れてた奴らは、ドМだ」

ミカサ「え、えええええ………」

なんて事だ。では私はSMプレイの女王様のような役目を知らずにやってしまっていたのか。

ミカサ「ではその彼らがドМだったせいで、私の悪評が立ってしまった訳なのね」

エレン「ん? 悪評? そんなもん、あったのか?」

ミカサ「周りからは『頭の良い不良少女』とか呼ばれてた。まるでスケ番のような扱いを受けていた……ので」

エレン「あー……その、不良集団の頭の男に『オレの女になれ』みたいな事言われたとかか?」

ミカサ「どうして分かるの?!」

ジャン「いや、まあ……ありそうな話だな、それは」

ジャンまで頷いている。察しがいい二人に驚かされた。

ミカサ「そうなの。撃退しても撃退しても、次々と、アプローチがきてしまって……」

そのせいで要らぬ誤解を生じる事も多々あった。特に先生たちには良く誤解された。

ミカサ「しまいにはそれらしい不良っぽい同級生に『あたいの男を取るな!』と言いがかりをつけられたり、決闘をさせられたり……もう散々な中学時代だったの」

ああ、思い出したくない。忌まわしい黒歴史。

ミカサ「孤独だったの。あの頃は。喧嘩を吹っ掛けられる事も多くて……こっちから仕掛けたことは一度もないのに、周りが私を放っておかなかった」

エレン「大変だったな……」

ミカサ「(こくり)今は、もうそういう事はないので助かっている。たまに変なナンパはあるけど」

ジャン「何っ……くっ……(拳握る)」

ミカサ「先輩には悪いとは思っている。けど………こちらの気持ちを無視して事を進めようとする男の人に魅力は感じない。強引なのはダメ」

ジャン「そ、そんなのは当たり前の話だろ」

エレン「まあな」

ミカサ「同意してくれてありがとう。つまり、そういう訳なのでお騒がせして申し訳なかった」

エレン「いいさ。こっちも事情を知れてほっとしたよ」

ジャン「そうだな。今度もし、またミカサに無理やり言い寄るような奴がいたら、駆けつけて加勢してやるよ」

エレン「…………………(冷たい目)」

ミカサ「ありがとう。でももう、大丈夫だと思う。気持ちだけでも嬉しい」

私はジャンにお礼を言った。彼にも迷惑をかけてしまったから。

放送『3年生によるフォークダンスを始めます。3年生は東門の方へ集まって下さい。繰り返します…』

アナウンスがグラウンドに響いた。もうすぐ体育祭も終わる。

結果はどうなるか。現在点数の集計中の筈だ。

お馴染みの音楽が流れて3年生が踊りだした。オルオ先輩と、ペトラ先輩が一緒に手を繋いでいる。

ペトラ先輩の方はちょっとだけ嫌そうな顔をしているのが可笑しかった。

でも、頬は少しだけ赤くなっていた。多分、素直でないだけなのだろう。

私達1年はそれを眺めながら、雑談をしながら、まったりと時間を過ごした。

そして爆竹が鳴り響き、全日程が終わった。

結果発表だ。今年は……ああ、残念。優勝は逃してしまった。

緑団は2位だった。やはりラストでバトンを落としてしまったのが痛かった。

エレン「また、来年もあるさ」

エレンがそう言ってちょっとだけ慰めてくれたのが幸いだった。

ミカサ「うん」

私はエレンに頷いて、微笑み返したのだった。




体育祭の後片付けも無事に終わり、放課後、アニにも事情を説明した。

するとアニも安心したように、

アニ「そっか……じゃあとりあえずは解決したんだね。大事にならなくて良かったね」

ミカサ「心配かけて申し訳なかった」

アニ「いいよ。それくらい。でも…まさかアンタが私と似たような経歴を持ってるとはね」

ミカサ「え?」

アニ「あ、いや……こっちの話。何でもない」

ごにょごにょ言われてしまった。どうしたのだろうか?

ミカサ「?」

アニ「ねえ、もしかして、シガンシナの春麗(チュンリー)って、アンタの事だったのかな」

ミカサ「え? な、なにそのあだ名……知らない」

アニ「うちの中学では噂になってた。やたら強い女子がシガンシナにいるって。黒い長い髪をなびかせて、2メートルを超える跳び蹴りを必殺技にした女子がいるって……」

ミカサ(滝汗)

大体合ってる。

アニ「そいつならきっと、竜巻旋風脚が出来るんじゃないかとか、ゲームの技なのに、リアルにやれそうとか勝手な噂が回ってたよ」

ミカサ「竜巻旋風脚?」

アニ「ゲームの技だよ。リアルでやれる訳ない。私はストヘスのキャミィとかふざけたあだ名つけられてたけどね」

ミカサ「キャミィ? それもゲームのキャラ名なのだろうか」

アニ「そうだね。詳しい事は自分で調べて」

ミカサ「分かった。後でエレンに聞いてみよう」

エレンならきっと知ってる筈。ゲームならエレンだ。

アニ「じゃあ私は先に帰るね。電車の時間だ」

ミカサ「うん。ではまた……」

アニと分かれてエレンの方に向かう。エレンはライナー達と雑談していた。

ライナー「馬鹿野郎! 逆転シリーズの真のヒロインはあやめだろうが!」

アルミン「異議なし!」

エレン「はあ?! メインヒロインはまよいちゃんだろ? 何言ってんだ」

ライナー「メインはまよいだ。しかし、なるほどうの初恋の相手という、不動の位置に存在している」

エレン「いやいや、それは分かるが、真のヒロインは言いすぎだろ」

ライナー「あやめの良さが分からんとは、つまらん奴め」

アルミン「僕は分かるよ、ライナー」

ライナー「同志よ!(ガシィ!)」

ミカサ「………何の話?」

さっぱり分からない話をしているようだ。

エレン「逆転弁護士っていうゲームの話。先月、シリーズの総集編版のソフトが出たからさ。やったことあるかって話してたらいつの間にかヒロイン論争に発展しちまった」

ミカサ「そうなの…」

ベルトルト「僕はめいが好きだけど……」

ライナー「鞭を振るう暴力女だぞ? あんなののどこがいいんだ?」

ベルトルト「うっ……でも、実は優しいところもあるじゃないか」

マルコ「あー分かる。テンプレ的なツンデレキャラだよね」

コニー「オレはちひろさん好きだなーあのおっぱいがいい」

ジャン「おめーはおっぱいがあれば誰でもいいんだろ…」

コニー「いや! 大きければいいんじゃなくて、形も大事だぞ」

ジャン「はいはい」

マルコ「ジャンは誰が好き?」

ジャン「あー……特別好きって程のキャラはいねえが、強いて言うならオレもめい派かもな」

ベルトルト「良かった。めいもいいよね」

ジャン「ああ、あのキリッとしたところ、いいじゃねえか」

エレン「でもあいつ、結構面倒臭くねえか? まよいちゃんが一番だろ」

アルミン「エレンはああいう明るい子がいいの?」

エレン「んーなんていうか、一緒に居て一番しっくりくるヒロインだろ」

エレン「逆境の中に居てもいつも、頑張ってるっていうか……」

エレン「なるほど君の横にいるのは、まよいちゃんが一番だろ」

ライナー「いや、そういう意味なら確かにまよいが一番だが」

ベルトルト「僕たちが言ってるのは、自分の嫁にするなら、って意味だよ」

エレン「へ? 嫁?」

ライナー「そうだ。単に好みの話をしている。もし付き合えるなら、どのキャラがいいかって事だ」

エレン「うー……(唸ってる)」

ミカサ「なるほど。妄想の話なのね」

ベルトルト「そうそう。妄想だからいいんだよ。エレン、強いて言うなら誰?」

エレン「オレは………>>556かなあ」

(*逆転シリーズの女性キャラ限定でお答え下さい)

めい

ジャン「おま、さっき面倒臭いって言ってなかったか?」

エレン「いや、それはなるほど君の相棒として見た時の話で、ゲーム中でもそういう場面、多々あっただろ? 自分の好みの話なら別だよ」

ライナー「ドМ共め。鞭にしばかれたいのか」

アルミン「僕は遠慮したいなあ…」

あやめ派の二人はじと目でエレン達を見ている。

エレン「いや、別にしばかれたい訳じゃねえけど、なんていうか、強いんだけど、弱いところに惹かれたかな」

ミカサ「強いけど、弱い???」

矛盾する言葉である。首を傾げてしまう。

ジャン「そうだな。気は強いけど、弱いところもあるところがいいよな」

エレン「ああ。守ってやりたくなる感じだな。………ジャンと意見が重なるのは珍しいが」

アルミン「守ってやりたくなるのはあやめの方じゃない?」

ライナー「ああ。彼女ほど、可憐な女性キャラはいないだろう」

私はその「あやめ」も「めい」も詳細を知らないので皆の話の中核がぼんやりしている。

ミカサ「ん? あやめもめいも可憐なキャラなの?」

エレン「いや、めいの方は可憐とは言えないが……あえて分類するなら、あやめはクリスタみたいな感じで、めいはアニっぽい感じかな」

マルコ「ん? めいはミカサっぽいような気がするけど。ビジュアル似てない? 同じおかっぱだし」

ミカサ「そうなの?」

エレン「いや、ミカサはめいほどプライドが高い感じじゃねえし。ちょっと違うかな」

ジャン「雰囲気で言うなら、年齢は違うけど、検事の方のはかりさんの方に似てるかもな」

エレン「ああ、分かる。却下! って木槌振り下ろすのは似合いそうだな」

ミカサ「? では実際にやってみよう」

木槌はここにないので、代わりに長い定規で真似っこしてみる。

ミカサ「却下!」

エレン「ぶふーっ」

ジャン「ぶふーっ」

アルミン「あははは! 似合ってるよミカサ」

皆、大爆笑してくれた。おお、そんなに似合ってるのか。嬉しい。

ベルトルト「ああ、ここにアニがいてくれたらなあ……先に帰っちゃったしね」

マルコ「見たかったね。アニの「異議あり!」も」

アニ「何が見たいって?」

その時、何故かアニが教室に戻ってきた。

ミカサ「? 忘れ物?」

アニ「今度は弁当箱忘れた……まったく、自分が嫌になるよ」

そういえば前にも忘れ物をしていたような気がする。アニもドジをする事があるようだ。

エレン「アニ! 鞭を構えて「異議あり!」やってくれよ」

アニ「はあ? 何の話なの」

コニー「おお、似合いそうだな。見てみてえかも!」

エレン「絶対似合うって。やってくれよ」

アニ「無理。なんで私がそんな事を……」

その時、何故かライナーが縄跳びを持ってきた。用意がいい。

アニ「?! ちょっと、ライナー! 何をやらせる気なの」

ライナー「真似だけでいいんだ。頼む。この通り!」

アニ「電車の時間、余裕ないんだけど……」

ライナー「電車なんて1本遅らせればいいだろう」

アニ「………全く、この借りは後で返して貰うからね。じゃあ、そこで誰か四つん這いの馬になってよ(キリッ)」

コニー「馬と言えばジャンだな」

ジャン「なんでオレだよ。別にぶたれたい訳じゃねえよ!」

バシーン!

その時、縄跳びを使いこなしてアニは言った。

アニ「誰でもいい……やらないなら帰る」

ライナー「ベルトルト、いけ」

ベルトルト「ええええ?! 僕?!」

マルコ「最初にめい派って言ったのはベルトルトだしね」

エレン「そういえばそうだったな。じゃあベルトルトで」

ベルトルト「しょ、しょうがないなあ……」

ベルトルトが本当に四つん這いになった。

アニ「いくよ……」

バシーン!

アニ「異議あり!(キリッ)」

エレン「ぶふーっ」

ジャン「ぶふーっ」

ライナー「ぶふーっ」

ミカサ「格好いい……惚れる」

同性なのにうっかりトキメキそうになった。

ベルトルトは背中を縄跳びでぶたれて声にならない悶絶をして耐えている。

アルミン「予想以上にはまってるねえ」

アニ「ふっ……狩魔は完璧をもって良しとする」

マルコ「台詞まで完璧だ……」

アニ「………これでいいかい? もう帰るよ」

エレン「ああ、ありがとうな! アニ」

縄跳びを返して貰って今度こそアニは帰って行った。意外とノリノリだったのが面白かった。

エレン「あいつ、実は逆転シリーズやりこんでるな」

アルミン「だね。でないと咄嗟にあそこまで出来ないよ」

エレンとアルミンはにやにやしていた。いいな。私もその逆転をやってみたい。

ミカサ「その逆転シリーズとやらを私もやってみたい」

エレン「おお、いいぜ。やってみろ。ミカサがどんな反応するか楽しみだな」

ジャン「だな」

という訳で、家に帰ってから早速エレンに逆転弁護士を借りる事になり、空いた時間にやってみる。

全部で3作品が合体した総集編的ソフトを起動する。

まずは1をやってみる。順番通りにやらないと。

ミカサ「エレンの言っていた「めい」というキャラは2から出てくると言っていたので、2までは一気にやってしまおう」

と、思いながら、明日はお休みなので(体育祭の振り替え休日)ちょっとだけ夜更かしする事にした。















ミカサ「………………は!」

ちょっとだけ夜更かしのつもりが、気が付いたら朝の5時だった。

逆転あるある。
今頃リアルにこんな状態の逆転ファン、続出中ですよね。

とりあえずいったん、区切ります。続きはまた。

>>546
>>547
体育祭編で遂にミカサもちょっと吹っ切れました。
そして確かにジャンがうぜええと思いました(笑)。

>>531
のようにボコボコにされても愛の冷めない兵(つわもの)もいるので。
先輩も同じような人種だと思います(笑)。

ミカサは中学時代に悪評が立ってしまったと思っていますが、
実際は本人が思っている程、酷い物ではないです。(その証拠にエレンは噂を知りませんでした)
殴られた方もむしろご褒美だと思うような人種が、ミカサにまとわりついてました。
ただ、それが度々起きたせいで先生達に見つかってしまったのです…。
(*ちなみにアニも似たような目に遭ってます(笑))

しまった。徹夜するつもりはなかったのに。

どうしよう。今日は午後から部活もあるのに。

ふら~……3DSの電源を切った直後に頭がフラフラしてしまった。

あう。私とした事が。ゲームの魔力にとりつかれてしまった。

セルタの時は途中でちゃんと寝たのに。寝るのも忘れるなんて、思わなかった。

でも仕方がない。どうしても「めい」というキャラクターが気になったからだ。

エレンとジャンが選んだキャラクターがどんな性格をしているのか知りたかったのだ。

やってみたら、確かに彼女は魅力的だった。

鞭をブンブン振り回す欠点はあるが、頭の回転も速く、はきはきと受け応える。

美人で、ツンツンしているが、ラストは……とても感動的だった。

そう、私はうっかり1と2を続けて最後までやってしまったのだ。

まだ3は残しているが、これ以上はさすがに続けてプレイは無理だ。

ミカサ「うう~~画面を見過ぎてちょっと頭が痛い」

ゲームをやりこみ過ぎるとこんな風になるという経験を初めて経験してしまった。

私は力尽きてつい、両目を閉じてそのまま布団の上に倒れてしまった。

………そして次に目が覚めた時、誰かに揺り起こされた。

エレン「…………ミカサ、おい、ミカサ」

ミカサ「ん……?」

エレン「今日は午後から部活だろ。昼飯どうすんだ? 食う時間なくなるぞ」

ミカサ「!」

うわあああああ! なんていうことだろうか。

寝過ごした! 徹夜した挙句、朝から寝て昼まで寝るなんて!

なんていうグータラ! 怠惰! ダメ人間!

あああああああああ!

エレン「何、世界の終りみたいな顔してんだ。たかが寝坊くらいで…昨日、体育祭で疲れてたんだろ?」

ミカサ「ち、違うの……!」

涙目で私はエレンの前で土下座した。

ミカサ「ご、ごめんなさい! ゲームをやり過ぎて、徹夜して、寝たのが朝方だったの! そのせいで、起きれなくて……ご飯も用意出来なかった!」

エレン「え? まさかあの後、一気にクリアしちまったのか?」

ミカサ「1と2まで。3はまだだけど…こんな筈じゃなかったの。本当にごめんなさい!」

どうしよう。どうしよう。どうしよう。

ご飯の用意、今からしても到底間に合わない!

エレン「あーあるある。良くある事だ。気にすんな」

ミカサ「でも!」

エレンは苦笑するだけで私を怒らない。いっそ怒られた方がすっきりするのに。

エレン「じゃあ昼飯はカップラーメンだけにするか。確かストックあっただろ」

と、先に下に降りてしまった。私はそんなエレンの優しさがいっそ恨めしかった。

ミカサ「なんで怒ってくれないの?!」

エレン「はあ?」

階段で立ち止まって後ろを振り向くエレンに私は言い放った。

ミカサ「だって、こんなの……ダメ。私は悪いことをしたのに」

エレン「大げさだな……気にすんなって言っただろ? それに逆転シリーズは面白いからな。つい徹夜で一気にクリアしたくなるゲームだし、ミカサだけじゃないだろ。全国に似たような奴は一杯いると思うぞ?」

ミカサ「そ、そんなの関係ない! わ、私は……自分の仕事をサボってしまった!」

ゲームはあくまで娯楽だ。生活に支障をきたすようなプレイをしてはいけない。

エレン「あーもう、反省は後々! 急がないと部活に遅れるぞ! 早く身支度済ませて降りて来い」

と、エレンは呑気に階段を降りてしまった。

そんな訳で心の中はすっかりブルーだったけれど、部活に出る為に学校に向かった。

今日は確か「仮面の王女」のキャスティングのオーディションをする予定の日だ。

台本は9割出来上がったらしく、主役の王女「レナ・サジタリアース」のキャスティング会議から始まった。

ペトラ「彼女の一番の特徴は、普通の女性は興味の示さないような男性の趣味を理解出来るところです。メカいじりが趣味ですから」

と、ペトラ先輩の説明が続く。

ペトラ「なので、多少理系っぽいインテリ系の雰囲気を持つ女性の方が合うかもしれないです。あと、自身の顔を隠して生活するという、奇抜なアイデアを実行する実行力も持ち合わせているので、大胆な部分もあります。全員、いくつか台詞を行って貰いますので、順番にお願いします」

キャラクターの説明を聞いた後、いくつか出来上がっているシーンを試験的に演じる。

勿論、この場合女子だけでなく男子も同じように演じる事になった。

全員の演技を見てペトラ先輩は唸り始めた。

ペトラ「うう~~~~ん……」

オルオ「どうしたペトラ」

ペトラ「あのね、我儘を言ってもいいかしら?」

エルド「別にいいが」

ペトラ「一番イメージに近いの、ミカサかもしれない……」

ミカサ「………はい?」

ちょっと待って下さい。ウェイト!

ミカサ「わ、私は役者は無理です。その、今のは一応、全員やれって話だったからやっただけで…」

ペトラ「それは分かってる! 重々分かってるんだけど…!」

ペトラ先輩が腕を組んで唸り続ける。

ペトラ「でも、イメージぴったりなんだよね。知的な雰囲気で、落ち着いてて、所作も綺麗なのに、力仕事も似合うっていう。スパナ持ってるところとか、すっごい様になってたし…」

ミカサ「で、でも…しゅ、主役なんですよね。絶対、無理です!」

ペトラ「そこを何とか! お願い! (合掌)」

オルオ「でも台詞の按配は棒読みだったぞ。オレはエレンでもいいかなって思ったが」

エレン「オレっすか?!」

オルオ「ああ。演技力はエレンの方があった。この姫様は、ボーイッシュな部分もあるから、男子がやっても問題はないぞ」

エレン「う、ううう……」

エレンが唸っている。こうなったらエレンにお願いするしかない。

ミカサ「エレン! お願いする」

エレン「でも、脚本書いたペトラ先輩はミカサを推薦してんだろ。脚本家の意見を優先した方が……」

ミカサ「でも部長はこう言っている……ので問題ない」

エレン「ううう………」

エレンは悩んでいるようだ。もうひと押し。

誰か、三人目の意見を貰えれば、きっとエレンが引き受けてくれる!

その時、様子を見ていた一人がポツリと呟いた。

グンタ「俺は………>>569の方がいいな」

(*ミカサかエレン、どっちが主役をするか決めて下さい。グンタの意見で決まります)

面白そうなのでエレン

エレン「え……グンタ先輩、オレっすか」

グンタ「ああ。ペトラのいう事も一理あるが、いかんせん、ミカサは台詞の読み方が棒過ぎる。本人も無理だと言ってるのに無理強いは出来ないだろ」

エレン「ううっ……そうっすね。じゃあオレが主役のヒロイン役やります」

良かった。エレンが折れてくれた。ほっとした…。

エレン「顔、出さなくていいのが唯一のメリットか」

ミカサ「そうそう。顔は一切出さないので大丈夫」

エレン「開けるのは目と口のところだけっすよね。視界悪いんすかね」

ペトラ「それだけが難点なのよね。でも頑張ってもらうしかないわ」

エレン「分かりました」

エレンがちょっとだけ遠い目をしているけど。こればっかりは仕方がない。

ペトラ「じゃあ続いて相手役のタイ・カプリコーン王子の役を決めます」

ペトラ先輩はちょっとだけ残念そうにしてたけれど、気持ちを切り替えたようだ。

ペトラ「タイ王子はものぐさで面倒臭がり屋よ。結婚とかより、自分の趣味に生きるような人なの。周りの女性からも偏屈として見られてて、自身も女性に対しては苦手意識があるの。でも、適齢期になるとさすがに周りもいろいろうるさくなってしまって、ますます引きこもるようになるの」

ジャン「ダメ人間だな…」

ペトラ「まあね。でも、タイ王子の兄、ライ王子がレナ王女の顔の傷を理由に破談する場に何故か彼も同席させられてしまうのね。父親の命令で。王様はレナ王女の実家の国と関係を作りたかったから、ライ王子の代わりに引きこもりの息子、タイ王子の方と無理やり結婚させる事にしたの」

エレン「政略結婚の道具じゃねえか」

ペトラ「そんな感じね。渋々結婚したタイ王子だけど、女性の扱いなんて良く分からない。最初はレナ王女とも距離があったけれど、自分の趣味に一緒につきあってくれるレナ王女に次第に心を開いていくようになるわ」

ペトラ「つまり、自信家でやり手の長男、ライ王子と引きこもり気味の次男、タイ王子を決めていきます」

という訳で、続いて他のキャラのキャスティングオーディションが始まった。

その結果……

ペトラ「ライ王子はオルオ、タイ王子はジャンで決定でーす」

ジャン「ま、まじっすか…!」

ペトラ「うん。マジ。男同士でラブシーンやるけど頑張ってね♪」

エレン「………なんとなく、そうなる予感はしてたんだよな(遠い目)」

ジャン「よりによってエレンとラブシーンかよ……(がっくり)」

ペトラ「どんまい☆ 大丈夫。キスシーンはあるけど、実際はしなくていいから」

ジャン「げげっ…! そうなんですか?!」

エレン(遠い目)

ペトラ「観客席からそう見える立ち位置に立ってそれっぽくして貰うだけよ。まあ、うっかり本当にやっても全然問題ないけどね」

オルオ「本当はやった方が面白いけどな」

エレン「絶対しませんよ!」

ジャン「絶対するか!」

おお、これをいい機会にエレンとジャンの仲がもっと良好になればいい。

ペトラ「あ、タイ王子は黒縁眼鏡キャラだから、出来れば今日からジャンは伊達眼鏡をかけて本番まで慣らしておいてね」

ジャン「え? そこまで徹底するんですか?」

ペトラ「眼鏡の仕草は1日2日じゃ身につかないよ。あとエレン、あなたは髪切るの禁止」

エレン「げっ……のばすんですか?」

ペトラ「うん。カツラ買うお金をケチりたいから、髪は地毛でやってもらうわよ」

エレン「長髪なんて今まで一度もなったことないですよ」

ペトラ「なら、今からなるのよ。という訳で、二人とも頑張ってね!」

そんな訳で、キャスティングが大体決まったところで練習に入る事になった。

基礎練習、台本の読み合わせ等をやって一日を終えると、エレンは微妙な顔で帰宅した。

ミカサ「…………エレン?」

リビングに飾ってある、写真を見つめている。どうしたんだろう?

エレン「あ、ああ……別に何でもねえよ」

ミカサ「写真、見てなかった?」

エレン「ん? ああ……その、なんだ。そういや、この写真ミカサに見せたっけ?」

私はリビングに飾ってあったエレンとグリシャさん、そしてエレンそっくりの女性の三人の写真を見た。

ミカサ「見せて貰ったというより、勝手に見た。その女性がエレンのお母さんよね」

エレン「ああ。今のオレ、女装したら多分、母さんそっくりになるよな」

ミカサ「!」

エレン「………ま、そういう事だ。それがちょっとだけ、な」

なるほど。だから少しエレンは迷っていたのか。

それを思うと、申し訳ない気持ちになる。

エレン「でも結果的にはオレで良かったかもな。相手役がジャンなら、ミカサにヒロインはさせられん」

ミカサ「え?」

エレン「あ、いや……こっちの話。何でもねえ。夕飯、食べようぜ」

エレンはごにょごにょ誤魔化して先にキッチンに向かってしまった。

…………やっぱりエレンは、その。もしかして。

いや、でも、そんなまさか。

ミカサ「…………」

自意識過剰はやめよう。

そう自分に言い聞かせて私もキッチンに向かうことにした。





6月に入ると雨が降る機会が増えてきた。

それに比例して洗濯物の乾きも遅くなるのが面倒臭い。

でも、この時期にものぐさになると後々の方が面倒なので、びしっとする。

洗濯物を畳み終えてタンスに収納して掃除して。

休日の午前中は家事仕事を大体終わらせる。

最近、母が少しずつパート勤務を再開し始めたので、以前のように私の家事仕事量が増えてきた。

グリシャさんは「専業主婦で十分なのに」と渋い顔をしていたが、母は母で「ずっと家の中にいるのも体に悪いの」と言って外に出るようになった。

その気持ちは理解出来る。仕事はないよりあった方がいい。

そんな訳で雨である。掃除も終わったし、この後は昼食の準備に入ろう。

エレン「…………おーい、ミカサ」

リビングでエレンに声をかけられた。

ミカサ「何?」

エレン「最近、逆転進んでるか? 分からないところあったら教えるぞ」

ミカサ「ごめんなさい…実はあれからあまり進めてないの」

エレン「え? 何でだよ」

ミカサ「だって……あのゲームは魔物だから」

一度始めたら一気に最後までやりたくなってしまう。

アレに時間を割いてしまうと他の事が全く出来なくなってしまう。

もう二度と、あんな醜態は晒したくない。だから今はちょっと止めているのだ。

エレン「ええ? 3が一番面白いのに。勿体ねえな」

ミカサ「………そうなの?」

エレン「ああ。シナリオのボリュームもすげえし、何よりゴドーが出るし」

ミカサ「ゴドー?」

エレン「3の新キャラだよ。すっげえ面白いキャラだぞ。人気キャラだ」

ミカサ「ううう………」

誘惑しないで欲しい。またやりこんでしまう。

エレン「ミカサは普段、しっかりしてんだからさ。たまには息抜きしたらどうだ?」

ミカサ「そ、そう言われても。アレは気合が抜けすぎるので困る」

エレン「…………そうか? オレは気合抜けてるくらいで丁度いいと思うけどな」

ミカサ「え?」

エレン「まあでも、ミカサが嫌なら無理強いはしねえよ。気が向いたら再開してくれ」

とだけ言ってエレンはキッチンに向かってしまった。

ミカサ「…………」

今日は幸い、午後からの部活はない。

一日オフの日だ。だから、ゲームをやる事は出来なくはない。

エレンのせいでムラムラしてきた。そうだ。本当は続きが気になって仕方がなかった。

ミカサ「~っ!」

もうダメだ。我慢してた分、反動が来てしまった。

私はキッチンに急いで移動して、パスタとレトルトのミートソースを使って昼食を出した。

ミカサ「エレン、ごめんなさい! 今日は手抜きさせて!」

エレン「ん? ああ……別にいいぞ」

ミカサ(もぐもぐもぐ)

さっさと食事をかきこんで自分の部屋に戻った。

3DSの電源を入れて再開する。3の方はオープニングしか見ていない。

だから再開した後はもう、手が止まらなかった。

気が付いたら、また…………。

ミカサ「……………………」

3になると2より更に難易度が上がっているように感じた。

というか「えええええ?!」と思うような場面も多々あり、驚きと興奮でいっぱいになった。

そしてまた私は時間を忘れてゲームに没頭した。

ふと我に返ると、夜中の12時を過ぎていた。

ミカサ「!?」

青ざめた。また、やってしまった…。

キッチンに戻ると明かりはなく、しかも皿は私以外の誰かが片付けていた。

恐らく私の代わりに母がやってくれたのだろう。

ミカサ「はううううう……」

こんな事、初めての経験だ。不甲斐ない。自分が不甲斐ない。

急に自分が恥ずかしくなった。こんなダメな自分、認めたくない。

ミカサ「も、もう……ダメ。こんなの、しちゃいけない」

セルタのようなアクションゲームなら止め時はいつでもOKだが、ああいった推理アドベンチャーは言うなら、面白すぎる読書と同じだ。

最後まで気になってしょうがない。セーブはいつでも出来るのに、止め時が分からなくなるのだ。

私は決意した。まだ全クリアしていないけれど、エレンにゲーム機ごと返却しようと思った。

こっそりエレンの部屋を覗いてみる。するとエレンはまだ起きていて、演劇の台本を読んでいた。

どうやら演技の復習をしているようだ。目が合うと、かあっと赤くなった。

エレン「馬鹿っ……勝手に覗くなよ」

ミカサ「ごめんなさい。エレン、その……ゲームをクリアしたので返そうと思って」

嘘だけどそう言って返しておくのが一番だと思った。

エレン「えらい早かったな。3が一番手こずると思ってたんだが」

ミカサ「う、うん……難しかった。かなり」

エレン「だろだろー? でも面白かったよなー3が一番、シナリオいいよなー」

どうやらエレンは3派のようだ。

エレン「でも、法廷パートのラストの証拠品は泣けるよなーまさかアレがああなるとは…」

ミカサ「う、うん……泣けた。とても感動的」

最後の方のシナリオは分からないが話を適当に合わせておく。

エレン「だろ? オレ、男キャラならゴドーが好きだな。あの仮面の裏側にまさかあんな傷を隠してたなんてなー」

ミカサ「そ、そうね……傷跡を隠していたから仮面をしていたのね」

エレン「もうなんていうか、男として格好良すぎるぜ。ああいう男らしい男には憧れるんだよな」

ミカサ「そ、そうね…」

ドキドキ。嘘がばれない様に会話を合わせなければ…。

ミカサは嘘を突き通せるのか?
……という訳で次回に続く。今回はここまでです。またね。

あぁあぁー寝れると思ったら気になって寝れん!

モテ男イアン先生の授業と、
ハンジ先生に振り回されるリヴァイ先生、オロオロするモブリット先生が見たい!

>>579
朝になりましたが、寝ましたか?先に寝てすみませんwwww
たまには普通の時間に寝る事もあります>>1です。
あんまり夜遅くまでUPすると、読む方が大変かなーと思いつつ。
気になるところで区切るのと、キリのいいところまで夜遅くまでUPするの、
どっちがいいんですかねー? 試行錯誤です。

>>580
そういやまだ先生たちにあまりスポットライト当ててなかった。
そのうち授業風景も書きたいですね。

エレン「ミカサは3作品の中で誰が一番好きだ?」

ミカサ「ええっと……なるほど君がいいと思った」

王道だと思うけど、表情の豊かな主人公が可愛いと思った。

エレン「おお! なるほど君いいよな! 見ていて飽きないよな。ツッコミが絶妙だし」

ミカサ「そうそう。会話の端々に鋭いツッコミがあって面白かった」

逆転3の第4話の途中までは終わらせている。

4話、5話の話題さえ無ければ切り抜けられる筈だ。

エレン「ツッコミで思い出したけど……オレ、第5話のさ、ましすの絵には爆笑したなあ」

エレン「あの絵がなければ切り抜けられなかった訳だけど、それにしても、そこから推理を展開させるなるほど君は天才だと思ったぜ」

ミカサ「う、うん……」

ましす、とは誰だろう。5話の新キャラだろうか。

ミカサ「そ、その新しいキャラクターのおかげで切り抜けられた。確かに」

ミカサ「逆転シリーズの登場人物は皆、個性豊かで面白い」

エレン「………まあ、そうだな。皆、キャラが濃いよな」

エレン「でもましすの濃さは群を抜いてたな。まさかあんな風になるとは…」

うう、ましすってどんなキャラなのか。分からないから話を合わせにくい。

話の中心をましすから変えたいのに、エレンはましすがお気に入りのようだ。

エレン「人は見かけによらないよな。まさかましすにあんな才能があったとは…」

エレン「ミカサもそう思っただろ? ましすの絵の才能、すごかったよな。ある意味で」

ミカサ「そ、そうね……」

ましすは画家。恐らくそうだろう。

ミカサ「天才画家よね、ましすは。確かに」

エレン「…………」

ミカサ「………エレン?」

エレン「……………」

うぐっ…? 何か間違えたのだろうか。

エレンは逆転のソフトを刺したままの3DSをそのまま私に突き返した。

ミカサ「?」

エレン「異議あり! ミカサはまだ、全クリアをしていない!」

ミカサ「ぎ、ぎくうう! (何故バレた?!)」

エレン「その証拠は、セーブデータの続きを見ればわかる!」

ミカサ「!」

エレン「全クリアしていれば、つづきから、を見た時に第5話の途中からの筈だ!」

ミカサ「うぐうう!」

エレンは電源を入れなおして、確認した。

エレン「……4話目の途中までしかやってないじゃねえか」

ミカサ「ううう……」

ミカサ「ど、どうして気づいたの?」

エレン「それは、お前が5話までやれば分かる話だ」

きっと矛盾する発言をしてしまったのだろう。嘘はつけないと思った。

エレン「…………何で途中で返すんだ? 面白かったんだろ?」

ミカサ「ううう………」

エレン「ミカサが途中で詰まらなく思って返すんなら、全然いいんだけどさ。何で「面白い」と思ったのに途中で止めるんだよ」

ミカサ「ううう………」

そ、それは…。

サイコ・ロックをかけたい気持ちでいっぱいである。

でも、ここで黙秘をしてはエレンが納得しないだろうと思い、真実を話す事にした。

ミカサ「じ、自分の生活が乱れるから……」

エレン「え?」

ミカサ「さ、皿洗いを忘れる程、没頭するなんて、ダメ。こんな事を続けたら、か、家族に迷惑をかけてしまう」

実際、徐々に時間の感覚が狂っている。

こんなフワフワした状態を続けるのは良くないと思ったのだ。

ミカサ「だ、だから……面白いけど、ここで止める事にする。もう、十分楽しんだ……ので」

と、私が本音を伝えるとエレンは凄く、なんていうか、不機嫌な表情になった。

エレン「迷惑だなんて思わねえよ。それは心配のし過ぎだ」

ミカサ「でも! 実際に私は今日のお昼のお皿を洗うのを忘れていた。母に洗って貰ったのなら、それは……」

働き始めた母に負担はかけたくない。そう思っていたのに。

しかし次の瞬間、エレンはとんでもない事を言い出した。

エレン「え? 皿洗ったの、オレだぞ。おばさんはやってねえよ」

ミカサ「え?」

エレン「つか、言おうかどうか迷ってたけどさ……もう、この際だからはっきり言ってもいいか?」

エレンは私と改めて向かい合い、まっすぐに見つめてきた。

エレン「お前、うちに来てからちょっと働き過ぎじゃねえか? そんなに完璧に家の仕事こなさなくても別にいいんだぞ?」

ミカサ「え? え?」

エレン「オレも母さんが亡くなってからは親父の代わりに家事やってたんだしさ…そりゃミカサに比べたら下手かもしれんが、皿洗ったり、料理したり、買い物行ったりする事ぐらいは一人でも出来るぞ。一通り」

ミカサ「そ、そう……」

そう言われればそうか。エレンも片親で育ってきたようなものだ。

出来なけば今までの生活は成り立ってはいない。

エレン「だからさー…洗濯物とかも、山が出来たらすぐ畳んでタンスに仕舞わなくても別にいいし、料理もたまには手抜いたって、全然かまわねえよ。それよりも、家にいる間はさ、ミカサもこう……たまには寛いで欲しいんだよな」

ミカサ「く、くつろぐ……?」

そんな事、考えた事もなかった。

エレン「そうだよ。逆転の狩魔めいじゃないんだからさ、完璧をもって良しとしなくてもいいんだよ。というか、それをやられると、オレの方が居心地悪く感じてしまうんだよな」

ミカサ「うぐっ……!」

何という事だろう。まさかそんな、気づかないところでエレンが。

エレンが、居心地の悪さを感じていた、なんて。

ミカサ「ご、ごめんなさい…」

エレン「いや、別に謝るような事じゃねえんだけどな。その………家族なんだし、ミカサが家事やりたくない時はオレが交替してやるしさ。もうちょっと、こう……な? 気抜いてくれたっていいんだよ。この間の、ジャン達が泊まりで遊びに来た時だってそうだ。土産まで持たせるほど、相手に気遣わなくていい。どうせまたあいつら、別の機会に遊びに来るだろうし…毎回土産持たせるような空気なったら、その度にミカサが大変だろうが」

ミカサ「そ、そう……」

ああ、だからエレンはあの時、様子が少し変だったのか。

エレン「あんな気遣いはそれこそ、恋人が出来た時にとっとけよ。じゃねえといろいろ勘違いされるだろ。ミカサのそういうところは、いいところでもあるけど、やり過ぎると、ダメだぞ?」

釘を刺されてしまった。

そうか。なるほど。エレンのいう事も一理あるのかもしれない。

ミカサ「わ、分かった。今度から気を付ける」

エレン「おう。逆転、あともうちょっとで終わるだろ? その間は、オレがミカサの代わりに家事をやっとくからさ。折角だから最後まで頑張ってみろよ」

ミカサ「うん……」

私はエレンの言葉に甘える事にした。

第4話の後半と、残す5話を今夜、続けてやる事にする。

案の定、次の日、寝不足で頭がフラフラしてしまったけど……

その代償に見合う達成感は得られた。最後までやって良かった。

本当に面白かったのだ。こんなに一気にやって楽しいゲームは初めてだった。

そして何故、あの時エレンが私の嘘を見破ったかも理解した。

ミカサ「ましすはやはり君の作家名だったのね…」

しかも画家、ではなく「絵本画家(たまご)」のだったのだ。

なるほど。微妙に間違っていたのだから嘘がバレて当然である。

ミカサ「私は嘘をつくのは向いてないようね」

と、つくづく思いながら、しんみりと、エンディングを眺めた。

私がゲームを全クリアし終えた後、エレンは言った。

エレン「今度は検事の方もやってくれよ♪」

ミカサ「ええ? まだシリーズがあるの?」

エレン「おう! 是非全クリアしてくれよな!」

ミカサ「うう……エレンが私を誘惑する……」

嬉しいやら困るやら、である。ああ、どんどんダメ人間になっていく気がする。

だけど、エレンが嬉しそうに笑うので、まあいいか、とも思った。

エレンに染められているような気がするけど……

それが私の新しい生活のリズムなら、受け入れようと思ったのだった。






7月に入ると、エレンの髪がちょっとだけのびて小さなしっぽが出来た。

ジャンも伊達眼鏡に慣れてきたのか、最初は違和感があったけれど、今ではクラスの皆も見慣れたようだ。

初めの頃はコニーやサシャが「似合わない!」と爆笑していたけれど、本番はこれに黒髪のカツラ(演劇部の備品に元々あった物を使う予定らしい)も入る予定なので、きっと別人のようになるだろう。

そして7月と言えば水泳の授業である。

月曜日は午後からの体育だから良いとして、土曜日の体育は2限目にあるので、その後の授業が眠くてしょうがない。

ユミル「あーまじだりぃ……水泳はいいけど、後の授業を思うとだりぃ…」

と、文句を言ってるのはユミルだった。

アニ「同感……」

アニも面倒臭そうに順番を待っている。

ちなみにノルマは25m×10本、クロール、平泳ぎ、バタフライ、背泳ぎ。なので、一種目250m、計1000m泳ぐのだ。

時間で言うと40分くらいでそれをこなさないといけないので、結構なハイペースで泳がないと終わらない。

終わらなかった生徒は放課後、もう一回泳がされるという理不尽な目に遭う。

ので、皆、放課後の時間を取られたくないので頑張って泳いでいるのだ。

つまり平均で1分以内に25mを泳がないと終わらない。

25mのタイムで1分以上かかることはまずないが、それはあくまで25mだけ、泳いだ場合である。

25mを何本も泳いでいけば次第にタイムは落ちるので、どちらかといえば瞬発力より持久力を鍛える授業になっているのだ。

リコ「はーい、じゃんじゃんおよげー」

ぴ!

笛の合図でどんどん進む。しかし一人だけ、その速度が遅い生徒がいた。

クリスタ、である。

クリスタのいるレーンでは、次第に遅れが出ていた。

なのでクリスタと同じ班の女子は少し苛立っているようだ。

ミーナ「ううう……クリスタ、もうちょっと急いで欲しいんだけどなあ」

ハンナ「頑張ってー」

悪気はないんだろうが、ミーナもハンナも困っている。

アニ「クリスタ、泳ぐの苦手なの?」

ユミル「ああ……得意、ではないな。馬に乗れるから下半身は丈夫な筈だが…」

アニ「ふーん、筋肉が足りてなくて泳ぎが下手な訳じゃないみたいだね」

恐らく、使い方の方が間違っているのだろう。一度間違って覚えてしまった癖はなかなか抜けないものだ。

授業が終わった後、クリスタはあとちょっとだけノルマが足りず、放課後の居残りが決まってしまったようだ。

クリスタ「ううう……部活に遅れちゃう」

ユミル「ああ、それは私が伝えておくよ。クリスタはノルマを優先しな」

クリスタ「ごめんね、ユミル」

ユミル「仕方ないだろ。こればっかりは……」

何だか可哀想に思えた。何とかならないだろうか。

ミカサ「そうだ。クリスタ。明日、私と一緒に泳ぎの特訓をしよう」

クリスタ「と、特訓?」

ミカサ「私でよければ泳ぎ方のコツを教える。恐らくクリスタは変な癖がついているだけなので、それをとってしまえばもっと速く泳げるようになると思う」

クリスタ「い、いいの? でもミカサは部活の方があるんじゃないの?」

ミカサ「活動は午後からなので、午前中は空いている。丸一日、時間を割いてはあげられないけど、それでも良ければ」

クリスタ「わ、悪いよミカサ。そんなの、だって……」

ユミル「あーでも、その方がいいかもな。毎回、ノルマこなせなくて土曜日残る事になったら、さすがに部の先輩達に対して心証も悪いし」

クリスタ「ううう……」

クリスタはすごく申し訳なさそうにしているが、これくらいの事、お安い御用である。

クリスタ「では、お願いするね、ミカサ」

ミカサ「うん。明日は頑張ろう」

という訳で、私とクリスタは次の日、町のプールで特訓する事になった。










ミカサ「…………」

私とクリスタが明日、午前中、町のプールに行く事が何故か知れ渡ってしまい、当日、気が付いたら同伴者が沢山増えてしまった。

ライナー「クリスタのピンチだ。俺も力になりたい」

アルミン「実は僕も泳ぎが苦手なんだ。ついでに教えて欲しいな、ミカサ」

ジャン「お、泳ぐのならオレもそれなりに出来るぞ」

マルコ「たまには体を動かさないとね」

ユミル「嫌な予感がしたから、私もついていく事にしたよ」

アニ「……最近、ちょっと太ったから、もう少し体を動かそうと思ってね」

ベルトルト「ライナーが行くっていうから僕も来ちゃった」

サシャ「プール、楽しいですよね! 後でかき氷食べましょう!」

コニー「そうだなー!」

エレン「お前ら、集まり過ぎだろ! なんだこの団体一行様は!」

そして何故かエレンも同行している。全部でええっと、11人も集まってしまった。

ミカサ「あの、皆……今日は午前中しか泳ぐつもりはないけど……いいのだろうか」

ここまでの団体様になるなら丸一日自由に時間が使える日の方が良かっただろうか?

ライナー「ああ、構わん! というより水泳は1~2時間泳いだら、一度休憩した方がいいぞ。思っている以上に体力を消耗するからな」

クリスタ「皆、なんかごめんね」

サシャ「謝る事じゃないですよ! クリスタに便乗して、皆、自由に泳ぎたいだけですから!」

コニー「そうそう。授業じゃただ、泳がされてるだけだしなー。自由に遊びたいよなー」

気持ちは分かるが、あまりはしゃぎすぎないで欲しい。他のお客さんもいるのだから。

ミカサ「では、私はクリスタと……アルミンもよね。泳ぎ方の指導をするので、他の皆は自由に遊んでて欲しい」

ユミル「いや、私は一緒に見とくよ。ミカサの泳ぎ方も見てみたいしな」

アニ「うん。そうだね。私もいい?」

エレン「………オレも見てていいか?」

クリスタ「あ、あんまり大勢にみられると恥ずかしいんだけどなあ」

と、クリスタがつい赤くなっている。アルミンも同じく。

ミカサ「……だ、そうなので泳げる人は自由にしておいて欲しい。申し訳ないけど」

エレン「そっか。じゃあ仕方ねえな。着替えたら、一度集合して、その後分かれるか」

ジャン「あ、ああ……了解した」

と、いう訳で男女分かれて更衣室に向かい、また再び集合した。

ミカサ「あれ? 皆、スクール水着じゃない…」

スクール水着は私だけだった。クリスタは白いワンピース型の水着だし、ユミルは競泳用の太ももまで隠れる水着だ。サシャは赤いビキニ型で、アニは、花柄のワンピースで、パレオまで持参している。

クリスタ「うっ……折角、町のプールだし、と思って違うの持ってきちゃった」

アニ「ミカサはスクール以外、持ってないの?」

ミカサ「うん、持ってない」

サシャ「だったら今度、買いましょうよ! プールの次は海ですね!」

ミカサ「うん。是非」

今回は仕方がない。まあ泳ぐのには支障がないのでこれでいいだろう。

私達女子がプールサイドに出ると、男子の視線を感じた。男子の方が着替えるのが早かったようだ。

ミカサ「では、まずはストレッチから……」

私の合図で皆、一応、一通りのストレッチをした。

そして水を体に慣らしてから入水する。クリスタは水が怖い訳ではないようだ。

ミカサ「クリスタは水が嫌いなわけではないのね」

クリスタ「うん……むしろ好きだよ。でも泳ぐ速度は何故か遅いんだよね」

ミカサ「何が原因なのか、良く観察して見たいので一度、一通り泳いで欲しい」

クリスタ「うん、分かった」

クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ。

4種目見せて貰ったが……どこか、変だった。

何だろう? この違和感の正体が分からない。

進んでない訳ではないが、極端に遅いのだ。

よくよく観察して見る。………ん?

ミカサ「ストップ、クリスタ」

原因が分かった。

クリスタ「え?」

ミカサ「クリスタ、膝から蹴ってる。足をバタバタさせ過ぎているようね」

クリスタ「え? 膝から?」

ミカサ「動かすのは、太ももの筋肉。むしろ膝はあまり動かさない方がいい」

要は無駄な動きが多かったのだ。これでは馬力が出ないのも頷ける。

ミカサ「イメージとしては……そうね。鞭のようにしなるキックを意識して欲しい」

クリスタ「しなるキック…」

ミカサ「足首に力を入れないように。ぶらぶら、自然な感じで」

クリスタ「こ、こうかしら…?」

少し良くなった気がする。大分、膝が曲がらなくなった。

アルミン「ぼ、僕もやってみるよ」

アルミンも見様見真似で始めている。うん。いい感じだと思う。

一度、コツを教えたらクリスタがぐんぐん成長していった。

うん。これでもう大丈夫だろう。

クリスタ「すごーい、今までと全然違う。無意識にしてた事を、意識的にすると全然動きが違うんだね」

ミカサ「でも、油断するとすぐ昔の癖が出ると思う…ので、暫くは意識して矯正をしていった方がいいと思う」

クリスタ「うん、体力がきつくなってくると、癖が出たりするよね。気をつける」

クリスタは大分良くなったが、問題はアルミンの方だった。

キックは先程より良くなったが、それを長い間続けられないようだ。

ミカサ「アルミン、アルミンの場合はまだ、ビート版で呼吸のタイミングの練習をした方がいいかもしれない」

アルミン「え? そ、そう?」

ミカサ「どうも、息継ぎがうまくいってないように見える。だからすぐバテてしまうのではないだろうか。クロールの息継ぎは難しいので、平泳ぎから先に練習しよう」

という訳で、アルミンの指導も始める。アルミンは平泳ぎはそこそこ泳げるようだが、クロールが苦手なようだ。

だったら、平泳ぎである程度体力をつけてから、クロールに移行した方がいいかもしれない。

そんな訳でその日は前半はクリスタ、後半はアルミンの指導をしたらあっという間に時間が過ぎた。

そろそろプールからあがった方がいいだろう。そう思い、時計を見上げた直後……

エレン「馬鹿! サシャ、こっちくんな! (ザバザバ)」

サシャ「ふははは! まてえええ! (ザバザバ)」

ドン☆

水中で鬼ごっこのような物をしていたと思われるサシャとエレンがこっちに向かってきた。

エレン「ミカサ! どいてくれ! (ザバザバ)」

ミカサ「え? え?」

急に言われても困る。ちょっと、え……きゃ!

ドン☆ むにゅ。

ミカサ「?!」

エレンとプールの中でぶつかった。

エレンの顔が、その……私の、胸に飛び込んできた?!

エレン「ぶふっ!」

サシャ「はーははは! エレン、アウトー! タッチです! 次はエレンが鬼ですよ!」

エレンの背中にタッチして逃げ出すサシャ。

しかしこっちはそれどころではない。頭の中は、真っ白で。

エレン「くそおお……残り何分だ?!」

しかしエレンは私の胸に飛び込んできた事など気にしてないようで、残り時間を気にしている。

エレン「あと1分か! くそ、逆転してやる!」

エレンは私を放置して今度はコニーに向かって水中でダッシュしていった…。

アルミン「………」

クリスタ「だ、大丈夫? ミカサ…」

ミカサ「う、うん……大した事じゃないけど」

びっくりした。一瞬とはいえ、エレンが、その、胸に飛び込んできたのだから。

エレン自身は、ゲームに気を取られて気にしてないようだけど。

エレン自身は、ゲームに気を取られて気にしてないようだけど。

エレンはコニーの背中にタッチしたようだ。直後、慌てて逃げている。

コニー「げえ?! 残り30秒かよ! かき氷、おごんのやだよ!」

ジャン「てめえが言い出したんだろうが! 負けた奴が全員分、おごるってな!」

なるほど。かき氷代をかけて水中鬼ごっこをしてたのか。

通りでエレンも必至になっている訳だ。

…………。

まだ、胸がドキドキしている。お、落ち着こう。

エレンは多分、気にしてない。私も気にしてはいけない。

ミカサ「さ、先にあがろう」

私は自分にそう言い聞かせながら、ゆっくりとプールから上がった。

頬が高揚しているのは、水に入ったせいだと、そう思う事にした。

夏と言えばプールだ! 海だ!
ミカサだけスクール水着ですみません。
今度、新しい水着を着せてあげたい。何がいいかな?

という訳で今回はここまで。続きはまた。

乙です
今日も楽しかったよ~

水着かぁ
やらしくない可憐で女の子らしいビキニ姿を見たいけど…
きっと彼女は腹筋を気にするから、スカートの着いた淡い色合いのワンピースがいいな
首の後ろにリボンが着いて、胸元が綺麗に見えるタンキニなんか良くないかな?

>>598
タンクトップ+ビキニ=タンキニ
とみていいのかな? 初めて知りました。
今はいろんな水着がありますね。昔懐かしのハイレグは消えたけど…(笑)
いろいろ見てみます。あざーっす。




ジャン「くそ! ラスト10秒で逆転された……」

水中鬼ごっこの勝敗はジャンが負けたようだ。

最後の最後でコニーに捕まり、そのままタイムアウトになったようだ。

コニー「ごちになりやーす!」

サシャ「ごちでーす!」

10人分のかき氷代を渋々出しているジャンである。1個250円なので、2500円もの出費だ。

ミカサ「あの……ジャン……」

何だか可哀想だ。彼の昼飯代はパーになったのではなかろうか。

ミカサ「お、お昼はお弁当持ってきてるの?」

ジャン「いや、今日は持ってきてねえよ。昼は途中でパンでも買って部室で食おうと思ってたんだが…」

涙目のジャン、である。ますます可哀想だ。

ミカサ「…………」

お昼抜き、なのだろうか。それでは午後は持たないと思う。

でも私も余分なお金は持ってないし、お弁当も自分の分しか持ってきてない。

今日はプールを終えたらそのまま学校まで移動して、部室でお昼のつもりだった。

どうしようか。少しくらいなら分けてあげてもいいけど…。

と、その時、クリスタが、

クリスタ「おにぎりで良ければ、ジャンに1個分けてあげようか?」

ジャン「いいのか?」

クリスタ「いいよ。今日はお弁当持ってきてるし、何も腹に入れないのは辛いでしょ?」

その直後の、ライナーとアルミンの悲壮な顔に圧倒された。ちょっと引くくらいだった。

ジャン「わ、悪いな……」

ジャンが少し照れている。クリスタが先に行動を起こしたので、私も便乗する事にした。

ミカサ「ではおかずは私の物を後で分けてあげよう」

ジャン「え?!」

ミカサ「部室で一緒に食べよう、ジャン」

すると今度はエレンがこっちを睨んできた。

エレン「ぞれじゃ罰ゲームになんねえだろうが!」

ライナー「そ、そうだ! かえって得しているではないか!」

コニー「ジャンのくせに生意気だぞ!」

ジャン「うるせえよ! ゴチになった奴らが文句言うな!」

乙です。
今回も楽しく拝見させていただきました。
皆さん水泳でこんなに泳げるなんてすごいですねー。距離もですが、泳げる種類もあまりない自分は憧れてしまいます。

あの、水着の上から短パン(ミニスカ?)みたいなのをはいているタイプのものがちょっぴり気になります。太ももの筋肉が一部隠されていて、足を曲げると少し見える感じの。アニさんとはまた違う筋肉のつき方してそうで、格好良さそうだなーと。

ジャンが言い返している。尤もだと思った。

ブチブチ言ってたけど、ベルトルトとマルコが他のメンバーを宥めていた。

そして全員、午後はそれぞれの用事の為、解散し、私とエレンとジャンは演劇部の方に移動した。

お昼を食べてから、今日は衣装合わせのチェックから入る事になった。

ミカサ「お、おおおお………」

エレンが着る予定の衣装は、採寸して一から自分達で作ったそうだ。

ギリシャ神話に出てきそうな白い布をそれっぽく作ったドレスをエレンが着ている。

衣装班の技術に圧倒されるばかりである。私も裁縫はそれなりに出来るが、ここまで本格的な衣装は作ったことがない。

ペトラ「ちょっと緩めに作ってあるけど、大丈夫かな? 肩とか落ちない?」

エレン「丁度いいっすよ。問題ないです」

ペトラ「じゃあ今日は一日、このエンパイア・ドレスで過ごしてみて。足さばきに慣れて貰うわよ」

エレン「了解しました」

しかしすぐには慣れないのか、歩くだけでこけそうになるエレンだった。

エレン「うお? む、難しい…」

>>601
体育に力を入れている学校だと、
女子はマラソンでは10キロ、男子は20キロ走らされるとかざらに聞いてたので…。
(進学校は5キロくらいなのに倍走らされててびびった記憶がwww)
しかもノルマこなせないと放課後居残り、とかも実際あるそうです。
(*ソースは某高校卒業生の話です)

進撃メンバーはこれくらいは余裕じゃなかろうかと思い、沢山泳がせました。
速い人は25mを15~20秒くらいでいくそうですよ。
(あとクリスタみたいに膝で蹴ると労力の割に前に進まないです。ご注意をw)

水着は短パンスタイルも有りですかね?
ちょっとボーイッシュな感じになりますが、いいかもですね。

エレンが四苦八苦しているようだ。確かにこれだけ長いスカートだと私でも苦戦しそうだ。

ペトラ「このエンパイア・ドレスは結婚式のシーンで使うからあまり汚さないように気をつけてね」

エレン「え、あ……そっか。結婚式のシーンあるのか…」

エレンはジャンと結婚式の真似事をするという事態にげんなりしているようだ。

男同士だから仕方ないとはいえ、見ている分にはちょっと面白い。

ペトラ「ふふふ……その嫌そうな顔、いいわあ。実際の演技でも、二人はお互いに嫌そうに結婚するから好都合だわ」

エレン「政略結婚だから当然か…」

ジャン「だな……」

妙に納得する二人である。確かに、政略結婚ならそうなるだろう。

ペトラ「今日はついでにメイクものせてみようか、エレン♪」

エレン「え? メイクもですか?」

ペトラ「いいじゃなーい。折角だしー。うふふふふ……美少女にさ・せ・て♪」

ペトラ先輩がノリノリだった。エレンが若干引いている。

しかし先輩命令なので渋々受け入れているようだ。

そして約1時間後……

ペトラ「もう、化粧のノリがいいのなんのって! エレン、素晴らしい逸材よ!」

出来上がった女装エレンに歓声が沸いた。

ミカサ「綺麗……」

ジャン「い、意外と悪くないな」

オルオ「お? うまく出来たな」

エルド「可愛いな」

グンタ「ペトラの化粧技術もうまいが……確かにいいな」

エレン「ま、まじっすか…?」

まだ鏡で自分の顔を見ていないエレンは汗を掻いている。

女装アルミンは公式ででたけど、エレンも負けてないと思うんだ。多分。
そんな訳で、美少女エレン完成です。
舞台上ではジャンエレです。腐っててすみません(笑)。
続きはまた。

ペトラ「んじゃ、自分とご対面~♪」

エレン「…………」

鏡で自分の顔を見ている。かあ~っと赤くなってる。エレン、可愛い。

エレン「こ、これがオレなのか……なんかこそばゆい感じ何だが」

肩をプルプルしているエレンが可愛い。ああ、可愛い。

何度でも言おう。可愛い。大事な事なので3回言った。

ペトラ「うふふふ~その初々しい反応いいわ~オルオとは全然違うわね」

ペトラ「オルオの初女装の時は、ちょっとイラッとしたもんね」

オルオ「ふん……オレくらいになると、女装も難なくこなせるんだよ」

エルド「おばちゃん役、似合ってたもんな」

グンタ「ああ……あんなにおばちゃんが似合うとは思わなかったな」

どうやら過去にオルオ先輩も女装を経験しているようだ。

マーガレット「先輩、小道具大体完成したんですけど、こんな感じでいいですか?」

ペトラ「おおお、サンキュー! いい仕事してくれてるわね!」

マーガレット先輩が持ってきたのは舞台上で使う小道具だった。

マーガレット「立体機動装置ヴァージョン4.5ってところですかね」

大道具さんが腰にぶらさげるような感じで機械を腰に下げるらしい。

ミカサ「立体機動装置? とは一体…」

マーガレット「ええっと、タイ王子が独自に開発させている兵士用の機動力向上用の機械って感じかな。元々あった、古の機械、立体機動装置を更に独自に進化させたって設定なんだ」

ミカサ「古の機械、ですか……」

マーガレット「そうそう。この世界にはかつて、巨人と呼ばれる人類を食らう化け物がいたんだけど、それを人類が長い長い闘いののち、絶滅させたの。その時に使われたのがこの立体機動装置。巨人がいなくなってから、人類は次第に巨人の存在を忘れていった。だから、そんな古の機械に興味を示すタイ王子は周りから奇異な目で見られていたのね」

ミカサ「ほうほう…」

何だか面白そうな設定である。

マーガレット「そんなタイ王子に唯一、理解を示したのがこのヒロイン。レナよ。レナだけは、立体機動装置の存在を否定しなかった。そこから二人の愛が芽生え始めるのよねー」

キャッキャッと楽しそうである。

愛が芽生え始めるとの言葉にエレンがちょっとだけうっと呻いている。

ペトラ「今日はゆっくり時間があるから、出来てる分の衣装と小道具を合わせながら通し稽古しよっか」

と、ペトラ先輩の合図で私達は練習に入ることになった。

エレンとジャンの演技は前半は良かったが、後半になればなるほどダメ出しが多くなった。

それもその筈だ。初めの頃は喧嘩や諍いのシーンが多い。険悪な場面は違和感なく出来たが、後半は……その、こそばゆいシーンも出てくるのだ。

そういうシーンが出る度にエレンが吹き出して笑ってしまい、NGを連発してしまうのだ。

ペトラ「ちょっとちょっと、エレン。笑い過ぎよ!」

エレン「す、すみません……」

笑いたくなる気持ちも分かるけど、これでは先に進まない。

ジャン「おい、エレン。お前真剣にやれよ」

エレン「分かってる。分かってるんだが、真剣にやればやるほど、くそ……」

何故、こんな状態になるかと言うと、ジャンが気障な台詞を吐くシーンがあるからだ。

ジャンは割と頑張ってそういうこそばゆいシーンもこなしているが……

いかんせん、それを受け取る側は、居たたまれない気持ちになるのだろう。

ペトラ「参ったわねーエレン、ジャンを愛せるように頑張ってよ」

エレン「無茶言わないで下さいよ。オレ、そっちの趣味はないですよ」

ペトラ「しょうがないなー…じゃあ、エレンとジャンは一回休憩して別のシーン、練習しようか」

とりあえず小休止である。エレンは肩をがっくり落としていた。

エレン「やっぱり男同士でラブシーンは無茶なんじゃないか?」

ジャン「演劇なんだからそういう事もあるだろ………多分」

オルオ「ああ、あるぞ。女同士の場合もあるしな。その辺は演技が問われる部分だな」

エルド「コツを言えば、相手を脳内で別の人間にすり替えるって手もあるぞ」

グンタ「ああ。相手役を本当に愛する必要はないからな。演技中は自分の好きな人を思い浮かべて重ねるってのも、手だ」

ジャン「…………」

エレン「そ、そうっすか」

先輩達にアドバイスを貰って複雑な表情の二人である。

そんなこんなで今日のところは演技の調整をしつつ、部活動が終わった。

家に帰ってからも渋い表情のエレンである。

ミカサ「エレン、大丈夫?」

エレン「あ? あああ……」

ミカサ「やはり女性の役は難しいのだろうか」

エレン「いや、それ以前の問題だ。その………例え男役だったとしても、ラブシーンは難しいと思うぞ」

ミカサ「そうなの?」

エレン「ああ。なんか、こう、分かってるんだが、誤魔化したくなるんだよ。むずむずしてさ」

ミカサ「つまり、そういう空気その物が苦手なのね」

エレン「言ってしまえばそういう事だ」

ミカサ「…………」

だったらそれはもう、慣れるしかないと思う。

なので覚えている台本のワンシーンを再現してみる。

ミカサ『レナは私の妻だ。例え兄上であろうと、譲る気はない。レナを返して頂きたい!』

エレン「!」

ミカサ『レナ、大丈夫か。何もされなかったか』

エレン「………」

ミカサ『良かった。本当に……』

エレン「や、やめろ。そのシーンが一番、こそばゆいだろうが!」

エレンが照れている。ふふふ。面白い。

ミカサ「エレンが慣れるまで、私がタイ王子の代役をやっても良い」

エレン「やめろ! おま、ヒロインは嫌でヒーロー役はやるって本末転倒だろうが!」

ミカサ「練習は全然平気。本番で舞台上にあがるのが嫌なだけ」

エレン「この我儘が!」

エレンが真っ赤になって抗議している。

エレン「大体なあ、ペトラ先輩のイメージだとミカサの方が近かったんだぞ。オレの方がある意味、代役だろうが! だったらミカサがオレに見本を見せるべきなんじゃねえのか?!」

ミカサ「そう? でも棒読みだとオルオ先輩には言われた」

エレン「いや、それは皆が見てたからだろ? オレの前だけなら、自然に出来るかもしれないだろ」

そう言わればそうかもしれない。

ミカサ「では、練習で私がレナ王女、エレンがタイ王子の方をやってみる?」

エレン「おう、いいぞ」

キャスティングを交替しての演技練習を試しにやってみる事にした。

躓きやすいシーンを重点的にピックアップしてみる。

ミカサ『また、徹夜されたのですか? タイ様』

エレン『あ、ああ……すまない。ついつい、研究の手を止められなくてね』

ミカサ『以前から気になっていたのですが……一体何の研究をされているのですか?』

エレン『ん……女性にはあまり興味のない代物だよ。機械いじりだ』

ミカサ『まあ! 一体、どんな機械をいじっているのですか?』

エレン『…………興味があるのかい?』

ミカサ『ぜひ! 見せて下さい。私にも』

機械がここにないので、ティッシュ箱を代わりにする。

ミカサ『これは……見たことのない装置です。これは一体……』

エレン『だろうね。これは大昔、兵士が使っていたと言われる「立体機動装置」の原型だ』

エレン『その昔、人間は巨人と呼ばれる怪物に支配されていた時代があった』

エレン『それを絶滅させる為に人類が開発した装置、それがこの「立体機動装置」だ』

エレン『我が国に一つだけ残された、その原型がそれだ』

エレン『もう錆びている部分が殆どで、動力源も残っていないが、その構造自体は理解出来た』

エレン『だからそれを原型にして、もう少し軽量化して、長時間使える物を作れないかと思って、独自に研究していたんだ』

エレン『………まあ、何の為にやってるんだ、と突っ込まれたら「趣味だ」としか言えないんだけど』

ミカサ『まあ……なんてロマンチックな研究! それなら是非、私にも手伝わせて下さい』

エレン『え?』

ミカサ『私、機械をいじるのは得意なんです! こう見えても、工作が得意なんですよ!』

エレン『し、しかし……』

ミカサ『着替えてきます! ああもう、こんなヒラヒラした服とはおさらばよ! うふふふ♪』

エレン『ちょ、ちょっと待ってくれ、レナ! その……気持ちは有難いが、知識のない人にあまり研究室に出入りされてもらっては……』

エレンが私の手を引っ張る。部屋を出ていこうとするのを止める。

ここで初めての、まともな接触だ。今までは虫を触るような接触しかしてきていない。

ぎゅっと、手を握られてしまう。その一瞬、お互いに照れる。

そのシーンを何度もNGを出してしまった。エレンの表情を見ると……

ミカサ『!』

困ったような、照れくさいような、微妙な表情を目の当たりにして釣られる。

暫くの間、お互いに無言になって、ちょっとだけ俯いて。

我に返って、手を放す。

その直後、母の声が聞こえた。夕飯らしい。

ミカサ「ど、どうだっただろうか?」

エレン「あ、ああ…なんか、参考になったかも」

エレンが照れている。良かった。それなら成功だ。

エレン「あ、ありがとうな、ミカサ。おかげでヒロインのイメージがようやく掴めたかもしれん」

ミカサ「ほ、本当?」

エレン「あ、ああ……多分、な」

エレンの役に立てたのなら、それは何よりだ。

エレンと一緒に下に降りる。夕飯を食べて、また空いた時間に一緒に練習した。

その際に、エレンから頼まれたのが、

エレン「ミカサ、家にいる間だけでいいんだが、ロングスカートを貸してくれねえか」

ミカサ「え? 着るの?」

エレン「ああ。前半だけとはいえ、ロングスカートで演技するからな。慣れておかねえと、こけたら怖いし」

レナ王女は前半はロングスカート、後半はツナギでいる事が多い。

確かに慣れておいた方がいいかもしれない。腰ゴムタイプのロングスカートならエレンでも着れるだろう。

という訳で、それから暫くはエレンは自宅にいる間だけロングスカート生活になった。

そしてそれを切欠に、エレンからやたら見つめられる機会が増えた気がした。

理由を聞いても「内緒」としか言ってくれない。理不尽だ。

そんなこんなで部活と授業とあっという間に時間が過ぎて、期末テストの時期になった。

期末テストは7月14日、15日、16日。終業式は19日。

その後はいよいよ、夏休みに突入する。

夏休みと言えば、海だ。そう言えばサシャがやたら「海! 海!」とテスト後に連呼していたが…。

イアン「残念、サシャ・ブラウス、コニー、スプリンガー。二人は赤点の数が多いから夏休み、補習決定だ」

サシャ「げげ!」

コニー「まじっすか!」

イアン「まじだ。いくらうちが学力緩めの学校とはいえ、平均点の半分以下の奴らを進級はさせられん。みっちり教えてやるぞ」

サシャ「そんなあ……」

コニー「まじかよ~」

期末テストの返却時、二人が同時にがっくりしていた。

イアン「特に二人は現国の成績が一番悪いみたいだな。たまには読書もしろよ?」

サシャ「うひい……」

コニー「漫画なら読むけどなあ」

すっかり落ち込んでいる二人である。

休み時間になると、クリスタがサシャに言った。

クリスタ「海はどうする? 夏休みの補習ってどれくらいあるの?」

サシャ「うう…一週間くらいですかね」

クリスタ「じゃあ、海はその後だね。頑張ってね、二人とも」

コニー「くそー……補習のせいで、部活の方もいけねー」

勉強はやれる時にやるべきである例である。

ミカサ「では、皆で海に行く話は……いつ頃にしよう?」

クリスタ「んー…やっぱり7月の終りの方かな」

ユミル「平日の方がすいてるかもな。28日くらいにするか?」

サシャ「そうですね。そのあたりで考えておきましょう」

ではその前に新しい水着も買っておくか。私だけまたスクール水着なのはちょっと恥ずかしい。

ミカサ「では、その前に新しい水着を買いたい……ので、誰かいい店を教えて欲しい」

クリスタ「いいよ。一緒に行こうか。いい店知ってるよ」

ユミル「ああ。そうだな。買いに行くか」

という訳で、私とクリスタ、ユミルの三人で水着を買いに行く事になった。

終業式が終わって午後からの時間が空いたので、その日に買いに行く事になったのだが…。

ミカサ「…………」

何故かまた同伴者が増えた。この間程の大人数はないけど、何故?

ユミル「ほら、荷物持ちがいた方がいいだろ。男の手が必要だから」

と、にやにやしているユミルである。荷物くらい自分で十分持てるのだが…。

(*荷物持ちの男の手は誰にしますか? 二人選んで下さい。>>616さん指定どうぞ)

エレンとライナー

ライナー「ああ、女性の荷物を持つのは男の仕事だからな。構わんぞ」

エレン「…………まあ、別に荷物持ちぐらいいいけどな」

ミカサ「申し訳ない……」

エレン「気にするな。で、電車でこのまま移動するのか?」

クリスタ「途中でお昼食べようよ。あのね、美味しいパスタ屋さん知ってるんだ♪」

ユミル「最近、良く食ってんな、クリスタ」

クリスタ「うっ……いいじゃない。食べ盛りなんだから」

と、わいわい言いながら私達5人は途中でパスタ屋さんに寄って、その後、電車に乗って移動した。

所謂、いろんなお店が融合したショッピングモールに到着した。

おお…こういう大きなお店に来るのは久々かもしれない。

普段、自分の洋服等を買う時は、チェーン店の方が多いからだ。

うちの高校は寄り道禁止、とかではないので制服姿で買い物等しても咎められたりはしないが、学校によってはダメなところもあるらしい。

こういう時は自由な校風の学校で良かったと思える。

水着売り場にはシーズンなだけあっていろんな種類の水着が店頭に並んでいた。

クリスタ「ミカサーどんなのにする?」

ミカサ「どんなのがいいだろうか?」

ユミル「こういう、際どいのとかどうよ?wwww」

ミカサ「! そういうのは、無理」

布の面積がかなり少ない物をわざと持ってきたユミルにエレンとライナーは赤くなっている。

ライナー「まあ、オレは有りだが」

エレン「うっ……いや、オレは無理だ」

ユミル「ふふふ……エレン、嘘ついてんじゃねえぞー」

エレン「う、嘘じゃねえし! ミカサはそういうのより、こういう、スポーティなのが似合うだろ?」

と、エレンが手に取ったのは、上がタンクトップタイプの水着だった。

ユミル「タンキニか。まあ悪くないな。じゃあ下が短パンのでも大丈夫か?」

エレン「ああ、いいんじゃねえの? その……腹は隠れてるタイプの水着がいいだろ」

ユミル「え? 何で」

クリスタ「! う、うん、そうね! 女の子だもんね!」

クリスタは空気を察して頷いた。そういえばユミルにはまだしっかりとは私の腹筋を見せた事がない。

更衣室で着替える時とかに見せても良かったが、わざわざ見せるようなものでもないので、ユミルは知らないのだろう。

ミカサ「うん。お腹は隠れている水着の方がいい」

ユミル「じゃあビキニ型は外すか。タンキニの中から選ぶか?」

ミカサ「そうね。下は短パン(ホットパンツ)で、上はキャミ型でいいかも」

ユミル「そうだなータンキニは露出が少なめだから鎖骨くらいは出しておかないとな」

そんなわけで、いくつか候補を絞った。候補は三つだ。

1.黒ベースの白い水玉柄のタンキニ

2.薄い紫色ベースに白いチェック入りのタンキニ

3.ピンク色ベースに少しだけ白いフリル入りのタンキニ

さて、どうしようか。

ミカサ「エレンはどれがいいと思う?」

エレン「お、オレは……>>620かな」

(三択です。お好きな柄を選んで下さい)

うーん、1か2で迷うけど2で!

ミカサ「では薄い紫色ベースのチェックで」

クリスタ「うん、可愛いと思うよ」

ユミル「イメージに合うな。いいんじゃないか?」

ライナー「うむ。ミカサらしい色合いだ」

エレン「………オレが決めちまってよかったのか?」

ミカサ「いい。客観的な意見が聞きたかったので」

ユミル「エレンの好みに合わせたかったんだよな。察しろよ、エレン」

エレン「え?! ………いや、その……よけいになんか悪いな」

ミカサ「? 何が?」

エレン「いや、何でもねえ」

ごにょごにょされてしまった。一体、どうしたのだろうか?

ミカサ「?」

クリスタ「まあまあ、次は洋服を買いに行きましょうか」

ミカサ「え? 水着だけではないの?」

クリスタ「海に行くんだから、帽子とかも要るよー。ね?」

ユミル「そうだな。上から羽織る夏物とかもついでに買いたかったしな」

なるほど。だから人手を頼んでいたのか。そういう事なら、私も帽子が欲しい。

麦わら帽子があればいいなと思いながらいろいろ店を見て回った。

【紫外線100%カット! 大きなリボンがエレガントなUVハット】

【小顔効果抜群! 綿麻素材を使用したオシャレなUVハット】

【ストローハットでノスタルジックに。ニュアンスリボン付き】

等など、いろんな宣伝ポップがついている。

色も沢山あって迷う。どれにしようか。

人気ナンバーワンの麦わら帽子には5種類の色があった。

1.ジェットブラック(ベースもリボンも黒)

2.ブラウン(ベースブラウン、リボンが黒)

3.ブラック(ベースベージュ、リボンが黒)

4.ピンクベージュ(ベースベージュ、リボンが淡いピンク)

5.ネイビー(ベースベージュ、リボンが紺色)

人気ナンバーワンと言われると何故か目をひいてしまう。

とりあえずピンクをかぶってみる。似合うだろうか?

エレン「おーいいんじゃねえの?」

ミカサ「ツバは広めだけど、これくらいでいいだろうか?」

エレン「ああ、違和感ねえよ」

ミカサ「色はどうしよう…」

(参考資料は楽●の通販サイトです。5色のうち、どれにする? >>624さん決めて下さい)

4!

エレン「今かぶってる色でいいんじゃないか? 似合ってるぞ」

ミカサ「そうだろうか?」

クリスタ「うん、可愛いよ。ピンクのそれにしちゃいなよ」

値札を見ると………1900円くらいだ。お、おお……。

エレン「どうした? 普通だろ。この値段なら」

クリスタ「お手頃価格だよ」

ミカサ「も、もちょっと安い方がいいかと」

エレン「予算いくらだよ」

ミカサ「1000円くらいで」

エレン「はあ? そんな安物じゃなくてもいいだろ。すぐやぶけちゃったらどうすんだ」

ミカサ「で、でも…」

エレン「金が足りない訳じゃねえんだろ?」

ミカサ「ギリギリだろうか」

エレン「じゃあいいじゃねえか。もし足りなかったらオレ出しといてやるし」

ユミル「ひゅーひゅー男らしいな、エレン」

エレン「馬鹿、そんなんじゃねえよ」

ミカサ「………むー」

先程の水着だけ買うつもりだったから、予算的には本当にギリギリだ。

しかしこれも何かの縁だろう。ここを逃すと次に来た時にはもう売り切れていそうだ。

何せ「人気ナンバーワン」のシリーズの麦わら帽子なのだから。

ミカサ「分かった。私はこれで今日の買い物をお仕舞にするので、買う」

エレン「おう、いいと思うぞ」

という訳で今日は水着と麦わら帽子を買った。

財布の中身はかなり軽くなったが、まあこういう事もたまにはあるだろう。

クリスタ「私も同じシリーズの色違いを買おうかな♪」

ユミル「おお、いいかもな。このブラウンとか似合いそうだぞ、クリスタ」

クリスタ「えへへ~そうかな~?」

クリスタの髪色は金髪なので、色の濃い物が似合うようだ。

ライナー「ああ、いいと思うぞ」

エレン「似合うな」

という訳で、帽子は買い終わったので次はユミルの上着を買いに行く。

コーナーを移動して、海に来ていくのに適当な上着を探す。

ユミル「男物のパーカーでいいかなあ」

クリスタ「ええ? もうちょっと女の子っぽいのにしようよ」

ユミル「っつっても、サイズがなあ。男物の方が種類合ったりするんだよな」

170cmを超えると女性の洋服より男性物の方が種類が豊富だったりする。

でもユミルの場合は私よりスレンダーなので、女性物も探せばあると思う。

ミカサ「これとかどうだろうか?」

ユミル「えらいまた、可愛い色の夏物カーディガンだな。パステルカラーって、私の柄じゃねえよ…」

クリスタ「そんなことないよ。薄い緑色だから似合うよ」

ユミル「そおかあ? うーん、まあ悪くはないけど……」

(*ユミルはどんな上着を買う? 迷っているので安価↓に自由に書き込んでどうぞ。いいのがあったら採用します)

エレン「………ユミルはグレーとかも似合いそうじゃないか?」

と、エレンが手に取ったのはグレーのノーカラーの薄手のジャケットだった。

エレン「ちょっと羽織ってみたらどうだ?」

ユミル「ん……じゃあとりあえず」

という訳でエレンの選んだそれをユミルは着てみた。

おお、大人っぽい雰囲気だ。確かにこっちの方がいいかもしれない。

ユミル「着心地も悪くない。値段は2980円くらいか。まあ予算内かな」

クリスタ「それにしちゃう?」

ユミル「ああ、意外とエレンの選択は悪くないのが多いしな」

エレン「そうか? まあ、それならいいんだが」

そんな感じでさくっと上着が決まった。これで買い物は終わりか。

と、私の意識が逸れたその時、ユミルが「お前らは水着を買わなくていいのか?」とエレンとライナーに言った。

ライナー「ん? スクール水着で十分だろう。わざわざ買うような物でもない」

エレン「だな」

ユミル「ふーん、そっか。ライナーの男物ビキニとか見てみたいなあとクリスタと前に話してたんだけどな」

クリスタ「ちょっとユミル!」

ライナー「何? 本当か、クリスタ」

クリスタ「うっ……じょ、冗談に決まってるじゃない! 本気にしないで!」

ライナー「クリスタが見たいのであれば、買うのはやぶさかではない」

ライナーが何故か急にキリッとして男物の水着コーナーに移動してビキニを選び始めた。

その様子をエレンは遠くから冷たい目で見つめている。

ミカサ「エレンは新しい水着を買わないの?」

エレン「買わねえ。必要ねえよ」

ミカサ「そう……」

エレン「男のビキニなんて、それこそライナーくらい体格が良くないと似合わないだろ」

ミカサ「いえ、別にビキニが見たい訳ではないけど」

エレン「けど?」

ミカサ「男物の水着も今はいろんな種類があるから、ひとつくらい持っていてもいいような気がして」

エレン「うーん、そうか? いや、でもなあ」

エレンが迷っているようだ。その間に、ライナーは決めてしまったようだ。

ライナー「この緑色のビキニにするぞ。クリスタ、楽しみにしていてくれ」

クリスタ「んもう、ユミルの馬鹿…」

ユミル「ククク……」

と、ライナーも買い物をし終えたようだ。

エレン「……皆、結局、1個以上買い物しちまったな。オレ以外は」

エレン「んー……まあ、買ってもいいけどさ。どんなのがいいんだ?」

ミカサ「それは、エレンの自由に」

エレン「おま、人には選ばせといて自分は選ばないのかよ」

ミカサ「……では、>>629などどうだろうか?」

(*エレンも新しい水着を買います。どんなのがいい?)

数字間違えた。テイク2

ミカサ「……では、>>632などどうだろうか?」

(*エレンも新しい水着を買います。どんなのがいい?)

白、グリーン、ブルーのボーダーの爽やか系サーフパンツ

エレン「サーフパンツか…」

ミカサ「エレンの体系だとSからMサイズになるようね」

エレン「うっ……普通の服とは何でそんなに違うんだ?」

ミカサ「さあ? 規格は物によって違うからでは?」

エレン「うーん、まあボーダーなら無難だし、いっか」

という訳で、エレンも男性用の水着を買うことになった。

白がベースのグリーン、ブルーのボーダーが入った爽やかな柄だ。

ミカサ「ではこれで買い物も済んだし、そろそろ帰り支度を……」

クリスタ「え?! もう帰っちゃうの? まだ時間はあるよ。余った時間、遊ばない?」

ミカサ「しかしもう遊ぶお金はないので……」

クリスタ「少しくらいなら奢ってもいいよ?」

ミカサ「そ、それは申し訳ないので、ダメ」

金銭のやり取りはちゃんとしたい方なので断ると、クリスタが少ししょんぼりした。

ユミル「あー……この間の水泳のお礼も兼ねてなんかしてあげたかったんだよな、クリスタ」

クリスタ「う、うん……まあそんなところだけど」

ミカサ「え?! いや、それは気にするような事では…」

エレン「まあ、ここは奢られておけよ。そういうもんだぜ? なあミカサ」

ミカサ「いいのだろうか……」

ライナー「うむ。もうちょっとだけならいいと思うぞ」

エレン「ミカサは何して遊びたい?」

ミカサ「そもそも、あまり遊ぶ場所を知らない……ので」

そう率直に答えると、クリスタは言った。

クリスタ「じゃあミカサ向きの遊びをしようよ。ボーリングとか、どう?」

ユミル「いいな。ボーリング、久々にやりたいな」

ライナー「お、いいぞ。ボーリングは得意だ」

エレン「おし、じゃあボーリングするか」

ミカサ「ボーリングとは、あの、ボールを投げてピンを倒すアレよね」

エレン「そうそう。やったことあるか?」

ミカサ「いえ……テレビで見た事があるだけ」

クリスタ「でもミカサは運動神経いいからすぐ上達すると思うよ。移動しよっか」

という訳でボーリングをする事になってしまった。

クリスタに1ゲーム分、奢って貰うことになり、いざ開始。

私達以外にも制服姿で遊びに来ている学生さんのグループがちょこちょこいる。

今日は終業式だったので、学校帰りにそのまま寄って午後は遊んでいる学生も多いのだろう。

シューズはボーリング用の物を借りる。必要なら靴下も買う事が出来るようだ。

ユミル「一番倒せなかった奴は罰ゲームにしようぜ。皆に一発芸を見せるとか」

エレン「一発芸?!」

ユミル「金もかからん罰ゲームだろ? それならいいよな」

ライナー「ああ、構わんぞ」

エレン「うーん、分かった。それでいこう」

ミカサ「一発芸……分かった」

クリスタ「うう……私が一番不利かも~」

と言いながらゲームスタートである。

クリスタ→ユミル→ライナー→エレン→私の順番でボールを投げていった。

一番、成績が悪かったのは……

(*ドベは誰? >>636さん、お答えください)

http://kids.yahoo.co.jp/

安価がずれちゃったんで、変更します。

次のレスの方の秒数が
00~10秒→エレン
11~20秒→ミカサ
21~30秒→ユミル
31~50秒→クリスタ
51~59秒→ライナー

が負けた事にします。次の方、どうぞ。

エレン敗北決定wwwww

エレン「あーくそ! 2回ガーターしたのが痛かった!」

結果はエレンが負けてしまった。

ユミル「よし、なんか一発芸しろ(ニヤニヤ)」

エレン「って、言われてもなあ……」

エレン「あー……」

エレン「ミカサ、旦那の役をやってくれ」

ミカサ「? いいけど…」

ミカサ「ガチャ」

ミカサ「ただいまー(こんな感じ?)」

エレン「おかえりなさい、貴方♪(新妻風)」

エレン「ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・り・ど・り?(鷲のポーズ)」

ユミル「ぶふーっ!」

クリスタ「ぶー!」

ライナー「ぐふっ……く、くだらない…」

ミカサ「? 何が面白いのか分からない…」

エレン「そこは分からないならそれでいい。サシャがコニーとよくこのネタやってるのを見ててな。思い出したんだよ」

ユミル「いや、まさかエレンがやるとは思わなかったが……まあ、良しとするか」

クリスタ「そうね。一発芸だもんね」

ミカサ「???」

良く分からないが、私以外の皆は微妙に笑っているようだ。

そんなこんなで放課後の買い物と遊びは終わり、家に帰宅した。

ミカサ「………お笑い番組を見て研究した方がいいのだろうか?」

と、真剣に悩んでいたら、エレンに「そこまで真剣に考え込まんでいい」と突っ込まれたのだった。











7月28日。その日はコニーだけがどうしても野球部の都合で来れない事になり、コニーを除いたメンバーで海に行く事になった。

ジャン「野球部は夏が一番忙しいからな。今、予選の真っ最中だろ」

サシャ「そうみたいです。残念です……」

マルコ「仕方ないよ。練習の方が大事だよ」

サシャ「いっそ、負けてしまっていれば暇になったと思いますが」

ミカサ「サシャ、そんな事は言ってはいけない」

サシャ「うっ……すみません」

ミカサ「予選の決勝大会はいつの予定なのかしら」

ジャン「ああ、30日だって言ってたな。29日が準決で、勝ちあがったら二試合連続になるって言ってたな」

ミカサ「では今日は調整練習をしている真っ最中ね」

ライナー「明日はコニーの方の試合を見に行ってやるか」

ベルトルト「そうだね。明日も暇だしね」

ミカサ「弓道部の活動は忙しくないのだろうか?」

ユミル「ああ、個人競技だから、調整はある程度出来る。週に3~4回くらい行けばいいかな」

クリスタ「演劇部の方はどうなの?」

ミカサ「8月に入ったら一気に忙しくなる。8月10日から県予選、17日からに九州大会、31日からが全国大会という日程になっている」

エレン「皆で遊べるのは今日までだな。明日からはオレ達も暇なくなるんだよ」

クリスタ「じゃあ皆ではコニーの応援にはいけないのね。残念…」

ジャン「中継で見てやるしかねえな」

アルミン「僕達は見に行ってもいいかも」

マルコ「そうだね。野球は生で見る方が楽しいよ」

アニ「………でも、暑くない?」

マルコ「暑いよー。観戦する方も体力勝負だよ」

ベルトルト「アニは見に行かないの?」

アニ「見に行ってやってもいいけど……」

クリスタ「じゃあ行こうよ。折角だしさ」

ユミル「演劇部組を除いてになるが、仕方ねえな」

ミカサ「私達の分まで応援してあげて欲しい」

クリスタ「うん、応援してくるよ」

と、列車の中でわいわいお話ししながら移動する。

海に行くのは久しぶりだ。天気も良好で、いい海水浴日和だ。

最寄り駅についた。列車から降りると潮風を感じた。

徒歩で海岸まで移動する。わいわい。私達以外の若いグループが同じように海に向かって歩いている。

ミカサ「おおお……」

平日だからすいてる…と思ってきたのに、そんな事はなかった。

家族連れやカップルやら、かなりの人だかりが既に出来上がっていた。

ユミル「やっぱ、夏休みだから多いかー」

そして海の家ではトウモロコシや焼きそば、アイス、かき氷、等々の店が展開していた。

サシャ「うひょー! 海いいいいい!」

と、叫びながら海の家にダッシュするサシャ。

ユミル「おい、サシャ! 泳ぐ前に食う気か?!」

サシャ「はい! 食べてから泳ぎます! 朝ご飯抜いてきたんで、お腹ぺこぺこなんですよ!」

クリスタ「あーあ、これじゃ海に来たと言うより、食べに来たって感じだね」

思わず苦笑するクリスタ。その通りだと思った。

総文祭の実際の日程は大体もう少し早いんですが、
お話の都合上、ちょっとだけ日程を後にずらしました。すみません。

ここから皆で海(コニー除く)編です。
何か、やって欲しい事があれば↓にどうぞ。
何もなければ、自分の趣味に大爆走する予定です(笑)。
続きはまた。

大体了解しました。ではぼちぼち、続けていきます。

仕方がない。私達はサシャより先に着替えてしまおう。

男女分かれて更衣室に向かって着替え終わると、男子達から「おお」と言われた。

私は勿論、この間買った薄い紫色ベースの白いチェックのタンキニ。

そしてピンクのリボンの新しい麦わら帽子をかぶってみた。

ジャン「す、すっごく似合ってるぞ、ミカサ…」

ミカサ「ありがとう。エレンに選んで貰った」

ジャン「何?! 一緒に買いに行ったのか?! (ガーン)」

ミカサ「? そうだけど……」

ジャン「誘ってくれたらオレも行ったのに……(がっくり)」

ミカサ「いや、そもそも本当は女子だけで行く予定だったのを、ユミルが予定外にエレンとライナーを連行した…ので」

最初は知らなかったのだから私にはどうにも出来ない。

するとジャンはユミルの方を振り向いて拳を握った。

ジャン「ユミル~(歯ギリギリ)」

ユミル「いや、あんまり人数多いのも面倒だし、二人くらいでいいかと思ったんだよ」

ジャン「二人も三人も大して変わんねえだろ?!」

マルコ「まあまあジャン、そういう事もあるよ」

ミカサ「………ジャンも新しい水着を買いたかったの?」

ジャン「いや、別にそういうんじゃねえけど、その……女子の買い物に付き合うのは、男の役目というか…」

ライナー「ははは! 光栄な役目は、オレ達が担ったから、今回は残念だったな!」

ジャン(しょんぼり)

ふむ。そういう物なのだろうか。今度から気を付けよう。

アルミン「クリスタも…その茶色の麦わら帽子、可愛いよ」

クリスタ「ありがとう! ユミルに選んで貰ったんだ~♪」

ベルトルト「ライナー……そのアグレッシブな水着は一体……」

ライナー「うむ。クリスタのリクエストだ」

クリスタ「! ちょっと、ライナー! 言いふらさないで! (真っ赤)」

ライナーのビキニも似合っていた。体ががっしりしているのでバランスがいい。

私達が着替え終わる頃にようやくサシャが食べ終わったようだ。

こっちに手を振ってサシャも合流する。

サシャ「あ、みなさん着替えてきたんですねー(げほー)」

アニ「あんた、いきなり食い過ぎじゃない? お腹出てるよ」

サシャ「(てへぺろ☆)私は荷物番してますんで、皆さん自由に泳いでいいですよ。食った直後は動きたくないんで」

クリスタ「でもサシャ一人だと、ナンパされそうで危なくないかな」

ユミル「誰か男も一緒にいた方がいいな」

アルミン「じゃあ僕が一緒に居るよ」

ライナー「いや、アルミンが一緒に居たら余計にナンパされるだろ」

ジャン「そうだな……」

アルミン「うっ……そ、そうかな」

エレン「じゃあオレも一緒にいてやるよ。男2人に女1人なら大丈夫だろ」

という訳で、サシャ、アルミン、エレンは荷物番に残して残りのメンバーは海に入る事になった。

海の手前側は子供達が溢れていた。足のつかない深さになると、ボートをこいだりしているグループもいる。

ライナー「あまり奥まで泳ぐなよ。離岸流に巻き込まれたらまずいからな」

ミカサ「離岸流…とは」

ベルトルト「潮の流れが海側に流れている領域の事だね。巻き込まれると海岸側に戻れなくなるよ」

ミカサ「なるほど。気をつけておこう」

そう言われれば奥の方は「これより先危険」の目印が浮いている。

あそこを越えないようにして泳ごう。

クリスタ「プールと全然、感じが違うね~泳ぎにくいかも…」

と、慣れない感じで泳いでいるクリスタだった。

確かにプールと違って波があるので、抵抗しながら泳がないといけない。

私も最初は波に慣れなかったが、それは時間が解決していった。

そんな感じで自由にその辺をすいすい泳いでいたら、クリスタの周りに見知らぬ男子達のグループが寄り集まってきた。

男子1「ねえねえ、君、どこから来たの? この辺じゃ見かけないね」

男子2「君可愛いね~オレ達と一緒に…」

と、その直後、ライナーがクリスタにおいついて「あ?」と睨み返した。

すると「男連れか…」と、すごすごと逃げて行った。

ユミル「ウオール・ライナーだな。さすが」

ライナー「ふん……」

ウオール・ライナー。なるほど。ライナーという壁を越えないとクリスタはナンパ出来ない。

ライナー「クリスタ、今日は絶対一人になるなよ。変な男に絡まれる」

クリスタ「う、うん……大丈夫だよ(ニコッ)」

ユミル「こういうところに来ると、ナンパがうっとおしいのが難点だよな、クリスタ」

クリスタ「う、うーん、でも、ユミルもライナーも、皆もいるし、大丈夫だよ」

と、言っている。私も今日は皆からはぐれないように気を付けよう。

ジャン「ミカサも気をつけろよ。何かあったらすぐに呼んでくれ」

ミカサ「ありがとう。迷子にならないように気を付ける」

この間、私の黒歴史を教えたジャンは人一倍、心配してくれている。それが有難かった。

そんな訳で、皆で適当な時間、海の中で遊んで、一度上がると、エレンが手をあげた。

エレン「おかえり」

ミカサ「ただいま……サシャ、眠ってしまったようね」

エレン「ああ。飯食って眠くなったみたいだ」

ミカサ「折角海に来たのに、泳がないでいいのだろうか?」

エレン「いいんじゃねえの? 楽しみ方は人それぞれだし」

ミカサ「ではエレン、交替しよう。エレンも泳いできたらいい」

しかしエレンは「あー」と渋い顔をした。

エレン「オレはいいわ。日陰で待機で」

ミカサ「え? 何故…」

エレン「実はさ、ペトラ先輩に『海に行くのはいいけど、絶対、顔を焼かないでね。焼いたら殺すw』とにこやかに言われてるんだよ」

ミカサ「あ……なるほど」

女優さんは日焼けが天敵だ。それと同じなのだろう。

エレン「だからあんまり日に当たり過ぎたくねえんだ。今日は一応、日焼け止めもしてるけど、それでも夏の日差しは強いからな。用心に越したことはねえ」

ミカサ「そうね。でも…残念ね。エレンだけ遊べない」

エレン「いいよ。別に。潮風に当たるだけでも気持ちいいしさ」

と、目を閉じてパラソルの下で風を感じているエレンを横から眺める。

その様子に、何故かドキッとした。

エレン「ん? どうした?」

ミカサ「な、何でもない…」

色っぽい。と、言ったらきっと変に思われるだろう。

男の人に言う言葉じゃない。だから言葉を飲み込んだ。

その様子を首傾げて反応するエレン。じーっと見つめ返してきた。

ミカサ「な、なに…?」

エレン「いや、顔赤い気がして……大丈夫か?」

ミカサ「だ、大丈夫……(ドキドキ)」

エレン「日差しに当たり過ぎたのかもな。待ってろ。もうすぐアルミンがこっちに戻ってくる筈…」

アルミン「あ、ミカサおかえりー」

と、その時、アルミンが本当に二人分のかき氷を持って戻ってきた。

エレン「アルミン、オレの分、ミカサに先にやってくれ」

アルミン「え? いいの?」

エレン「オレはオレで買ってくる。ここで待っててくれ」

と言ってエレンは私の麦わら帽子を借りて、一人で出店までさっさと行ってしまった。

エレンの分のかき氷を貰ってしまった…。

ミカサ「何だか申し訳ない」

アルミン「別にいいんじゃない? ちょっと休憩しなよ(パクパク)」

ミカサ「…………」

アルミン「水分補給は大事だよ。ほら、溶けちゃうと勿体ないよ」

アルミンの言う通りだろうか。では、仕方がない。

パクパク頂く。うん、いちご味が美味しい。

ミカサ「…………」

かき氷を食べ終えてもまだエレンが戻ってこない…。

アルミン「混んでるのかな? あれ? でも、さっきはそうでもなかったのに」

アルミンが首を傾げている。どうしたのだろうか。

何だか嫌な予感がする…。

ミカサ「まさか、迷子になったのだろうか」

アルミン「いや、それはさすがに……」

ミカサ「ちょっと探してきてもいいだろうか?」

アルミン「え?! だ、ダメだよ。ミカサ、一人で行動しちゃ」

ミカサ「しかし……」

アルミン「もうちょっと待とうよ。大丈夫だって」

ミカサ「…………」

ううう…。本当に大丈夫だろうか。

クリスタ「あー泳いだ泳いだ」

と、その時、クリスタとユミルが戻ってきた。

ユミル「ん? ミカサ、浮かない顔だな。どうした?」

水分補給にきたユミルがすぐに気づいてくれた。

ミカサ「エレンが戻ってこない…」

アルミン「かき氷買いに行ったんだけど、ちょっと遅いねって話」

クリスタ「んー……迷子かな?」

アルミン「でも、すぐそこだよ? 僕は一人で買えたし、迷うって事はないと思うけど」

ユミル「じゃあ逆ナンでもされてんのかな。エレン」

ミカサ「!」

クリスタ「あー……あり得るかも? エレンって何気にモテるよね」

ミカサ「さ、探してきてもいいだろうか?」

クリスタ「あ、待って。そういう事なら……」

クリスタは男子を一旦全員、パラソルに集合させた。

ジャン「何?! 逆ナンされてるかもだと?! 許せん!」

ライナー「ああ、許せんな。邪魔してやろう。探しに行くぞ」

と、いう訳で、私とジャンとライナーの三人でその辺を捜索する事になった。

辺りを見ると、男性が女性をナンパする光景だけでなく、その逆もそれなりにあった。

カッコいい外見の男性の周りに2~3人の女性が群がっているのも珍しくない。

ミカサ「………」

想像して、胸がざわめいた。

エレンが逆ナンパされていたらと思うと、妙に落ち着かない。

ジャン「あの野郎……本当に逆ナンパされてたら一発殴ってやる」

ジャンにちょっとだけ同意してしまう自分がいる。

こんなもやもやした気持ちは初めてかもしれない。

でも…どうして?

辺りを捜索して暫くして、ようやくエレンの姿を見つけた。

ミカサ「!」

エレンが髪の長い女性に声をかけられていた。

ほ、本当に逆ナンパされてる…。嘘…。

ジャン「エレン、てめえ何してんだよ!」

ジャンが真っ先に邪魔しに行った。するとエレンが振り向いて、

エレン「え? あ、ああ……悪い。ちょっと、な」

???「あはははー! 皆来てたんだね! 偶然だね! うぃ~」

謎の女性はエレンにもたれかかる。ガーン…。

エレン「ちょっと、酔っ払い過ぎですよ! しっかりして下さいよ!」

だだだだだ誰なのだろう。この美人の女性は。

ライナー「ん? どこかで見覚えのある女性だな」

ジャン「………あ、もしかして、ハンジ先生っすか?!」

ハンジ「イエース! 皆、青春してる~?」

えええ? き、気づかなかった。

髪をおろして、眼鏡もないので誰かさっぱり分からなかったのだ。

ジャン「何だよ…逆ナンされてるかもって思ったじゃねえか」

エレン「あ? ああ……ある意味では確かに逆ナンパだな」

ハンジ「イエース! エレン少年を逆ナンパしてました! うふ♪」

エレン「はいはい、もう……連れはどこですか?! どの辺ではぐれたんですか?!」

ハンジ「んふー♪ たーぶん、この辺の筈なんだけどねえ~」

という訳で迷子のハンジ先生と共に辺りを散策する。

すると、また見覚えのある顔と遭遇した。

リヴァイ「このクソ眼鏡……どこほっつき歩いてやがった…」

そう。リヴァイ先生だ。

ハンジ「ごめんごめんー迷子になっちゃった♪ あいた!」

一発頭を殴られていた。心配していたのだろう。

リヴァイ「てめえは顧問の自覚はあるのか? 遊びに来たんじゃねえんだぞ?」

ハンジ「ごめんってばー! 殴らなくてもいいじゃない」

リヴァイ「女子の体操部はてめえの担当だろうが。女子の分まで俺に押し付けるな」

ハンジ「いやほら、顧問なんて席を外した方が彼女達も青春出来るだろ? 人気者のリヴァイと話せるチャンスを作ってあげようと…」

リヴァイ「余計なお世話だ。大体、合宿に来てるのに、顧問が酒飲んで遊ぶ奴があるか。戻るぞ」

ハンジ「ああ~せめて焼きそばだけは食べさせて~」

リヴァイ「知るか!」

と、いう訳でリヴァイ先生がハンジ先生を回収していった…。

エレン「そういや、リヴァイ先生は体操部の顧問もしてたんだっけな」

ミカサ「忙しいみたいね」

リヴァイ「おい、エレン!」

エレン「はい! なんすか?」

遠くからリヴァイ先生が叫んでいる。

リヴァイ「演劇部の方の合宿も大会前にやる予定だからな。忘れるなよ!」

エレン「は、はい!」

真面目な先生である。顔は怖いけど。

ハンジ「……あれ? そういや私、眼鏡どこやったっけ?」

リヴァイ「あ? ああ……そう言われればないな。落としたのか」

ハンジ「かもしれない。おーい、そこの少年たち! 先生を助けて!」

エレン「え、ええええ………」

立ち去ろうとしたその時、また呼び止められてしまった。

リヴァイ「全く……」

リヴァイ先生もがっくりしている。それはそうだろう。

とりあえず、眼鏡を探す。この辺に落ちていればいいのだが…。

あ、あった。多分、これだ。

ミカサ「ありました」

ハンジ「ありがとー♪」

ああ、やっぱりハンジ先生は眼鏡がないと落ち着かない。

ハンジ「じゃ、ありがとねー」

何故か投げキッスのお礼を受けて私達は帰る事にした。

エレン「ふーやれやれだ」

ジャン「でもハンジ先生って、ああやってみると美人だよな」

ライナー「ああ。眼鏡を外して髪をおろすと印象がまるで違ったな」

ジャン「でもああいう破天荒な女性はお守りをする方が大変だな…」

ライナー「言えてるな。確かに。リヴァイ先生も大変だな」

と、しみじみ思いながら私達はパラソルに戻った。

事の真相を話すと皆に苦笑いされた。

アルミン「そりゃ大変だったねー。そうか、合宿で海の近くに来ている人達もいるんだね」

アニ「砂浜でのトレーニングは下半身の強化になるしね」

ミカサ「なるほど。砂浜で体を動かすのもいいのね」

アニ「砂に足をとられるから、しっかり足を動かさないといけないしね」

クリスタ「あ、じゃあ次はビーチバレーしない? ボールは持ってきてるよ」

ライナー「いいな。是非やろう」

と、いう訳で今度は2対2ずつでビーチバレーを始めた皆だった。

>>600
今更ですが訂正。

11人分のかき氷代を渋々出しているジャンである。1個250円なので、2750円もの出費だ。

人数を数え間違えてました。
プールにはミカサ含めて12人で行ったので、おごった代金は2750円です。
ミカサの分を含めないで計算してました。すみません。





くじ引きでペアを決めてブロック戦をした。

私とアニ、ユミルとベルトルト、ライナーとクリスタ、ジャンとサシャ(やっと起きた)、マルコとアルミンの戦いは一進一退だった。

負けたペアは優勝ペアに昼食代を奢る約束だ。負けられない。審判はエレンだ。

体育館でする普通のバレーとはまた違った感じで面白い。

ユミルとベルトルトは長身コンビなので、ブロックが強いが、レシーブ力で言えば、私とアニの方が上だ。

とにかく粘り強く拾って反撃の機会を作る。ここで勝てたら私達の優勝だ。

負けたら、今度はユミルペアがマルコペアと戦って、そこでユミル達が勝ったら優勝だ。

ミカサ「くっ!」

スライディングしてボールを上げる。アニ、決めて!

アニのアタックが決まるが、ダメだ。高すぎる。

ベルトルトのブロックに阻まれて負けた。高い壁だった…。

アニ「ちっ……大型め」

ベルトルト「うっ……」

アニは小さいので、大きいベルトルトに嫉妬しているようだ。

ミカサ「負けてしまった…」

残念だ。やはり普通のバレーとは勝手が違う。

そしてそのままユミル・ベルトルトペアが優勝した。

マルコ「負けちゃったかー」

アルミン「ご、ごめんマルコ…」

マルコ「いいって、気にしないで」

マルコとアルミンペアが最下位だった。ので、ユミルとベルトルトは二人にゴチになるようだ。

サシャ「そろそろお腹減りましたー」

ジャン「おま、さっき食ったばっかだろうが」

サシャ「動いたらお腹減りますよー。皆でお昼にしましょう!」

ミカサ「そうね。時間も頃合いだし……どこで食べる?」

お店は沢山ある。どこの店に入ろうか。

サシャ「あそこ! 海の幸が食べられるっぽいですよ。あそこにしましょう!」

オシャレな洋風のレストランが海沿いにあった。でも人気のある店のようだ。行列が出来ている。

クリスタ「並ぶのはちょっとなあ…」

ユミル「あっちの居酒屋風のでも良くないか?」

サシャ「あ、そっちでもいいですよー! あっちも美味しそうですね!」

サシャは美味しければ特にこだわりはないようだ。

という訳で、そこそこすいている、居酒屋風のお店に団体で入ることにした。

ここはお酒も出してくれるようだ。しかし私達はお酒は当然飲めないのでウーロン茶等を注文する。

店員「オレンジ3つ、ウーロン3つ、カルピス1つ、クリームソーダ1つ、アイスコーヒーが2つで間違いないでしょうか?」

ユミルとクリスタとライナーはオレンジ、私とエレンとジャンがウーロン、カルピスがアルミン、クリームソーダがサシャ、アイスコーヒーがベルトルトとアニだ。

ジャン「マルコは飲まないのか?」

マルコ「あーうん、ちょっと待って」

マルコは注文を迷っているようだ。

マルコ「じゃあこのミックスジュースで」

店員「かしこまりました。ミックスジュースを追加ですね」

という訳で飲み物を先に注文して各々、好きな物を注文することになった。

サシャ「彩り野菜のバーニャカウダ、とりあえずの枝豆、タコわさ、とろっと半熟卵のポテトサラダ、ネギホルモン、卵焼き~明太子マヨソースで~、ブラックペッパー&チョリソーセージ、春雨ともやしのピリ辛炒め……後は…」

ジャン「ちょちょちょ! 一気に注文しすぎだろ! 少しは遠慮しろ!」

サシャ「ダメですか?」

サシャは食べる気満々のようだ。

アルミン「ダメじゃないけど、もし残したら勿体ないからちょっとずつ注文しようよ」

サシャ「残しませんよ? 全部食べますから!」

マルコ「いや、でも、万が一があるから。とりあえず今言った分だけ注文しとこう」

サシャ「うーん、まあそれもそうですね。ではそれで!」

サシャが大体決めてしまったが、他の皆も決めるのが面倒だったのかそれに便乗したようだ。

料理が来る前にソフトドリンクがきて、各々飲んでいる。

ウーロン茶を飲んでいると、何故か体がポカポカしてきた。

ミカサ「………?」

生姜(ジンジャー)入りを頼んだ訳ではないのだが。はて?

ミカサ「エレン、暑くない?」

エレン「ん? いや別に……」

ミカサ「そう……」

気のせいだろうか? いや、でもなんか変な気がする。

フワフワしてきた。何だか愉快な気分にもなってきた。

まあでも、美味しいからいいか。と、大して気にも留めずに全部飲んだ。

喉が渇いていたからか、とても美味しく感じたのだ。

料理が次から次にやってくる。おお、美味しそうだ。

ミカサ「はふはふ……」

熱い。でも美味しい。特にこのソーセージ、美味い。

店員「ウーロン茶のお客様ーどうぞー」

エレン「? もう、ウーロン茶きてますけど」

店員「え?! あっ……(まずい、ウーロンハイと間違えて渡してる?!)」

店員「も、申し訳ありません……商品を間違えてお渡ししてたようで……すぐ交換致しますので! (ササっ)」

エレン「は、はあ……」

ミカサ「あら、ではこれはウーロン茶ではなかったの?」

エレン「みてえだな。………ミカサ?」

ミカサ「なあに? (ぽやん)」

エレン「…………まさか」

ミカサ「ん?」

エレン「お前、全部飲んでたよな」

ミカサ「美味しかった……ので(ぽやん)」

エレンが何故か天井を見上げて顔を覆っている。

エレン「ジャン、お前全部飲んだか?」

ジャン「いや、ちょっとしか飲んでねえけど……まさか」

エレン「多分、ウーロン茶とウーロンハイ、間違えて渡されてたんじゃねえか?」

ジャン「げげ! まじか! じゃあミカサ、1杯飲んじまったのか?!」

エレン「多分な……いや、これは店側の過失だからバレてもいい訳は出来るけど」

ジャン「だ、大丈夫かな。ミカサ、気分悪くないか?」

ミカサ「じぇーんじぇん♪」

ウーロンハイ? ウーロン茶とどう違うのだろうか。

ミカサ「むしろ気分がいい。とても楽しい。うふふふふ……」

こんな愉快な気分は初めてかもしれない。

エレン「ば、バレねえようにしねえとな。ミカサ、大人しくしとけよ」

ミカサ「うん……エレンがそういうなら大人しくする」

良く分からないが、そう言われたのでそうする。

でも暑いから、上着が脱ぎたくなってきた。

水着の上から上着を一枚はおっていたが、ここで脱ぎたい。

……と、いう訳で脱ぐことにした。

ジャン「!?」

エレン「おま! 大人しくしとけって言っただろ! 脱ぐなよ!」

ミカサ「でも…暑いので」

エレン「我慢しろ! あ、こら! それ以上脱ぐなあああ!」

暑い。暑いので水着も脱ぎたくなってきた。

胸元に汗がたまっている。せめてそこをタオルで拭きたかった。

しかしエレンに止められる。何故?

アニ「なっ……ちょ、ミカサ、何してるの」

ユミル「おいおい、店の中だぞ、常識的に考えろよ」

ミカサ「脱いではいけないの?」

ユミル「ダメに決まってるだろ。イチャコラしたいなら飯食ってからにしろ」

エレン「そういう話じゃねえんだよ!」

ジャン「実はさっきのウーロン茶、ウーロンハイだったみたいで、ミカサが全部飲んじまってたんだ」

ユミル「………たった一杯で酔っちまったのか? 嘘だろ?」

エレン「こいつ、酒飲んだ事ねえんだよ、多分。ああもう、暴れるなミカサ!」

お酒? では私は間違ってお酒を飲んでしまったのか。

通りで意識がフワフワすると思った。

でも、店側の過失なので、私の責任ではない…筈?

ミカサ「だったら汗拭いて! エレン!」

エレン「はぃ?!」

ミカサ「汗かいた。気持ち悪い。お願いします」

深々と土下座する。すると困ったように視線を逸らされた。

クリスタ「み、ミカサ……それはダメだよ。私が代わりにしてあげるから、お手洗い行こう?」

ユミル「だな。ちょっとミカサ確保するぞ」

クリスタとユミルに連行されて私は女子トイレに運ばれてしまった。

ユミルとクリスタに汗を拭いてもらって少し落ち着いた。

まだ頭はふらふらするけど……

ユミル「しかし参ったな。酒が抜けるまで休ませるしかないな」

クリスタ「そうだね。海の家、部屋借りる?」

ユミル「部屋空いてればいいけどなー…」

そんなこんなで、ユミルとクリスタは私の世話をやいてくれた。

しかし人が多いせいもあり、海の家はどこも満杯で、休める場所がなかったそうで。

お店に戻ってきた二人は困ったように「どうする?」と皆に相談した。

アルミン「お店側の過失なんだから、ここで暫く休ませて貰ったらどうだろ?」

マルコ「でもどの店員さんに渡されたか覚えてないよ。もし向こうが認めなかったらどうする?」

アルミン「あ、それは大丈夫。さっきの眼鏡の若い人が回収してたの見てたし」

アルミンは抜け目がない。早速事情を話すと、なんと店長さんまで出てきて謝罪された。

どうやらこう言った場合は、未成年に酒を出したお店側に責任が発生するらしく、店長さんが店の裏で私を休ませてくれる事になった。

店長が何度も平謝りしていた。しかもお昼ご飯の代金まで免除して貰った。

おお、結果的にはタダ飯になってしまった。サシャが喜んでいた。

さすがに全員、裏で休むわけにはいかないので、エレンとジャンが私の傍に残ってくれた。

エレン「すまねえな、気づいてやれなくて…」

ミカサ「いえ、変だなと思いながらも飲んでしまったのが悪かった…ので」

横になったら大分落ち着いた。心配をかけて申し訳なかった。

水を飲んでアルコールを体内から出すと早く酔いも冷めるそうで、とにかくお水を沢山飲ませて貰った。

少し眠くなってきたので寝かせて貰う。一時間くらいは寝ただろうか。

仮眠を取ったら大分体が楽になった。もう大丈夫だろう。

ジャン「顔色も戻ったな。良かった」

エレン「起きれるか?」

ミカサ「うん…」

という訳で、酔いも大体抜けたので海に戻る。

皆も心配していたようだ。皆にも深々と謝る事にした。

ミカサ「ごめんなさい。迷惑をかけた…」

クリスタ「ううん、いいって。良かったね。アルコール抜けたみたいで」

ユミル「でも一応、今日はこれ以上は泳がない方がいいな」

ミカサ「確かに。皆はもう少し泳ぐ?」

ユミル「んー……今何時だっけ?」

クリスタ「3時半くらいかな」

ユミル「もう体力的に疲れたから……砂遊びしようぜ」

クリスタ「いいよ。お城作ろうか♪」

ユミル「ライナー埋めてやろうぜ♪」

ライナー「何? 何をする気だ?!」

ライナーが拉致されてしまった。ああ、埋められるんだろうな。きっと。

人の数が最初来た時より減った気がする。夕方になればもう少し人も減るだろう。

ジャンもマルコもアルミンも、便乗して砂遊びを始めたようだ。

ベルトルトとアニはそれを眺めて何か二人で話しているようだ。

私はエレンの隣にいた。エレンはそういえば、まだ私の帽子をかぶっていた。

エレン「ん? ………ああ、悪い悪い。借りっぱだったな」

エレンから麦わら帽子を返して貰った。

>>670
ちょっとだけ訂正。


エレン「はぁ?!」

小さい「ぃ」じゃなくて「ぁ」のつもりで書いてたのに書き間違えた。
エレンといえば、「はぁ?!」ですよね。驚き方は。

まあ、原作では「は?」の方が多いけど、
アニメだと「はぁ?」って感じ。こまけーよw
と、思われるだろうけど、そんなイメージです。

……と、その時、

ぴゅううううう……

ミカサ「あ」

風が、邪魔をした。潮風が一度強く吹いて、飛んでいく。

慌てて追いかけた。海の方に行きそうになる。

ああもう、どこまで飛んでいくのか。折角買った新品なのに。

拾ってくれたのは、髪を茶色に染めた男達だった。

うっ……帽子を拾ってくれたけど、正直あまり関わり合いたくない部類の人達だ。

ミカサ「すみません。ありがとうございます」

お礼を言ってさっさと返して貰おうとしたけど…。

男1「お姉さん、人にお礼をいう時は人の目を見て言ってよー」

男2「そうそう、上目づかいで、ちゃんと、胸を寄せて」

男3「なつかしの、だっちゅーのポーズでしょ!」

何の話か分からないが……面倒臭いが仕方がない。

胸を寄せるのは論外だが、ちゃんと目を見てお礼は言うべきだろう。

もう一度、お礼を言い直したら、今度は口笛を吹かれた。

男1「いいね、お姉さん、名前なんていうの?」

ミカサ「…………あの、帽子を」

男1「まだ返さないよ。お姉さんが名前と携帯番号を教えてくれないとね」

やっぱり…。この手の人間か。

面倒臭い。ため息をつくと、私の後ろからエレンが追い付いてきた。

エレン「おい、帽子返してくれよ」

ミカサ「エレン……」

エレン「ミカサ、何も教えるなよ。こいつらには」

ミカサ「う、うん」

男1「おいおい、随分な言い方だな。折角ミカサちゃんの帽子を拾ってあげたのに」

男2「そうだよな。それが人に対する態度か?」

エレン「だから返してくれって言ってるだろ」

男1「ミカサちゃんの携帯番号と交換だな。じゃねえと返さないよん」

こういう時はデタラメな番号を渡して逃げるという手もある。

からかわれているだけなのだろうが、こうなったら嘘の番号を教えてやるべきか。

ちょっと迷ったその時、遅れてジャンもマルコもこっちにやってきた。

ジャン「おい、なんの騒ぎだ」

マルコ「どうかしたのかい?」

男1「うっ……」

男の数が増えると相手は急にしおらしくなって、

男2「なんだよ。逆ハー状態かよ。だったら無理か~」

男3「悪い悪い。ちょっとからかいすぎたわ」

と、さっきまでのしつこさは消えて帽子を返してくれた。

エレン「…………」

ジャン「なんだぁあいつら。変な奴らだな」

エレンが凄く不機嫌だ。やっぱり、迷惑をかけてしまったからだろうか。

ミカサ「ごめんなさい、エレン。私のせいで……」

エレン「は? 何の話だよ」

ミカサ「だって、私が彼らに絡まれたから」

エレン「そんなのは、良くある事なんだろ。つか……」

エレンはその後、凄く悔しそうに、

エレン「ジャン達が来た途端、引きやがって。やっぱオレって舐められてるよな。男として」

と、ポツリと呟いたのだ。

ミカサ「そんな事ない」

エレン「そんな事、あるんだよ。だってそうだろが。くそっ…」

ミカサ「………」

私はなんて言ったらいいのか分からなかった。

ジャン「ナンパだったのか?」

ミカサ「ええ、まあ…」

ジャン「全く。油断も隙もねえな。気持ちは分からなくはねえが……(ごにょごにょ)」

ミカサ「ジャン?」

後半が聞き取れなかった。何と言ったんだろう?

ジャン「何でもない。とにかく、エレン。今みたいな時はすぐ応援を呼べ。相手はお前を舐めたんじゃなくて、数で引いただけだ。だからあんまり気にするんじゃねえよ」

珍しい。ジャンの方からエレンをフォローするなんて。

エレン「……………分かった」

エレンは納得していない様子だったけど、ジャンの言葉に一応頷いたのだった。









人の数が大分減った。夕方になるとそろそろ帰り支度を済ませている人も多い。

しかし私は何となく、消化不良のような物を起こしていた。

エレンは先程の件があってから無口になってしまい、私ともあまり話してくれなかった。

荷物番をしている私とエレンだが、空気はひたすら重い。

そんな中、ジャンがこっちにやってきた。どうやら砂の作品が完成したそうだ。

ジャン「ミカサ! 出来たぞ。どうだこれ」

ミカサ「おおお……」

ジャンはこの短時間でなんと、日本のお城のような物を作ったのだ。

何という手先の器用さだろう。そう言えば美術のデッサンの時も絵が上手だった。

ジャンはこういう才能があるのだろう。羨ましい限りだと思った。

ミカサ「記念写真、撮ってもいいだろうか」

ジャン「勿論だ。一緒に写ろうぜ」

アルミンに頼んで城を挟んで二人で写真を撮った。

いい記念になると思った。そうだ。ライナーはどうなったのだろうか。

ちょっと疲れたので今回はここまで。またね。

酔っぱらったミカサが人気でワロタwww
ではそろそろ続けます。

ユミル「ぶははは! いい出来だなこれ」

クリスタ「ひどい……いや、いい意味で、だけど、これは酷いよユミル!」

二人して爆笑している。ライナーは何故か女体化していた。砂をかぶせられて。

ライナー「一体、どんな状態なんだ…」

寝かせられているライナーは詳細が見えないのだろう。困った顔をしていた。

ユミル「記念撮影しようぜ! 皆集まれ! サシャ、お前も食ってばっかいないでこっちこい!」

サシャ「はひはひ(はいはい)」

サシャは一人だけソフトクリームを食べていた。砂に埋まったライナーを中心に記念撮影する。

アルミン「撮るよーエレンもこっちおいでよ」

エレン「あ? オレはいい。荷物あるし」

エレンはパラソルから動かなかった。少しくらいなら離れてもいいと思うのに。

ジャン「本人がいいって言ってるから仕方ねえよ。アルミン、撮ってくれ」

アルミン「しょうがないなーじゃあチーズ」

パシャ☆

そんな訳で記念撮影終了である。後でライナーがどんな反応をするか楽しみだ。

ライナー「もう起きてもいいか?」

クリスタ「いいよー」

ライナー「やれやれ……」

砂から起き上って作品が壊れた。儚い時間だった。

ジャンのお城もきっと、放っておけば明日には消える。

砂で出来た作品なので保存できないのが難点だ。

でも、楽しかった思い出はきっといつまでも胸の中に残るだろう。

ベルトルト「帰りの時間、どうする?」

マルコ「あー…あんまり遅くなると、良くないよね。そろそろ帰り支度する?」

クリスタ「んーでも、まだ時間が微妙かも。あと一時間くらいずらさないと乗り継ぎが面倒かも?」

アルミン「今の時間は混んでいるかもね。あとちょっとだけ、居ようか」

マルコ「だったら、エレンもちょっと遊んだら? ほとんどパラソルにいただろ?」

エレン「え?」

マルコ「夕方になってきたし、真昼より日差しは弱いから、少しくらいならいいんじゃない?」

エレン「いいのか?」

マルコ「うん、パラソル番、交替するよ」

エレンは起き上って夕方の海を歩くことにしたようだ。

それについていこうとしたら、

エレン「悪い。ちょっと一人にしてくんね?」

と、拒否されてしまった。うっ…。

ジャン「なんだ? まだ落ち込んでんのかあいつ。面倒臭い奴だな」

ジャンがその様子を見て呟いた。

ジャン「格好つけやがって……そんなにミカサの騎士(ナイト)でいたいのかよ」

ミカサ「…………」

そういえば初めて会った時も、全力で私を救おうとした。

エレンは根っから正義感が強いのだろう。

私は、そうしようとしてくれただけでも十分、嬉しいのに。

エレンは結果に拘るタイプだ。出来なかった時は、落ち込むのだ。

ミカサ「エレンはそういう人、なので……」

ジャン「全く。あいつ、自分の気持ちに気づいてなければいいが………」

ミカサ「ん?」

ジャン「何でもねえよ。ミカサ、暇ならオレと一緒にその辺、散策しようぜ。貝殻とか、土産にしないか?」

話を逸らされてしまった。さっきからジャンもいろいろ怪しい。

けど、それを問い詰めても多分、答えてはくれないだろう。

ミカサ「うん、では貝殻でも探そう」

と、エレンの事を気にしながらも、私はジャンと一緒にいる事にした。





ミカサ「………」

エレンの帰りが、また遅い。

アルミン「エレン遅いね~どこまで行ったんだろ」

マルコ「皆で探してみる?」

アニ「携帯で呼んでみたら?」

アルミン「それが……電源が切れているみたいなんだよね。電池が切れてるっぽい?」

ジャン「充電ちゃんとしてから海に来いよ。アホか、あいつ」

マルコ「まあまあ」

ライナー「全く、世話の焼ける奴だ。列車の時間もある。手分けして探してみるぞ」

アルミン「皆の荷物は僕とマルコで預かっておくよ。エレンが戻ってきたらすぐ知らせるから」

私達は既に水着から私服に着替え終わっている。

エレンは何処まで一人で行ってしまったんだろう。

ユミル、クリスタ、ライナーが東側を、私とジャンとアニとベルトルトとサシャは西側を重点に置いて探した。

人の気配はまばらだ。今の時間は海水浴よりもサーファーの人達の方が多い。

さすがにもう、逆ナンはないと思うが……まさか、海に入って溺れていたりとかはしてないだろうか。

そう、一瞬だけ悪い想像をして身の毛が逆立つ自分がいた。

止められても、やはりエレンの傍にいるべきだっただろうか。

ミカサ「エレーン!」

叫んでも返事がない。だんだん、胸が苦しくなってくる自分がいる。

ジャン「おかしいな……何か事故にでも巻き込まれたんかな」

ジャンも少しだけ焦り始めている。すぐ見つかるだろうと、彼も思っていたらしい。

ジャン「そこまで広い海水浴場じゃねえんだが……他に探すとこあるかな」

アニ「ここからまた二手に分かれてみる?」

サシャ「そうですね。西側を更に探しましょう。どう分かれます?」

ベルトルト「2対3に分かれよう。僕側とジャン側で」

ジャン「だったら、ミカサとオレで散策する。そっちは三人で頼む」

アニ「分かった。見つけたら、知らせて」

という訳で、更に分かれてエレンを探すことになった。

聞き込み調査を交えながらエレンを探し続ける。でもなかなかそれらしい情報を得られない。

皆からの報告もない。太陽は少しずつ、地平線を隠れ始めていた。

ジャン「………」

ジャンの口数も減った。彼も本気で心配し始めているようだ。

ミカサ「エレーン!」

どうしよう。このまま見つからなかったら…。

私が悲痛な表情でいたせいか、ジャンが私の肩を冷やさないよう、自分の上着を私に着せてくれた。

上着は着ているが、薄手なので、確かに少々寒いとは思っていたが。

ミカサ「ジャン……」

ジャン「絶対見つかる。焦るな。あいつはフラフラどっか迷子になってるだけだ。きっと」

ミカサ「う、うん…」

そうだ。きっと迷子になっているだけだ。

そう、自分に言い聞かせる。

…………おーい……

………助けて………おーい……

遠くから声が聞こえた。この声は、エレン?!

幻聴かと思ったが、いや、確かにエレンの声だ。

耳を澄ませると、遠くの小島の方から声が聞こえる。

ジャン「あ……まさか、あいつ、あの小島にいるのか?!」

時間帯によっては、歩いて渡れる小島がある。満潮時はいけないが、引き潮の時に歩いて渡れる小島があった。

どうやらそこにエレンは一人で行ってしまって取り残されているようだ。

ジャン「あんのアホがああああ!」

ジャンがキレキレで急いでボート乗り場まで行ってボートを借りてきた。

私とジャンがボートに乗り込んで小島までたどり着くと、エレンと………

誰だろう。知らない女性がいる。アルミンに似た黒髪の女性だ。

エレン「わ、悪い……まさかこんなに早く満潮になるとは思わなくて」

???「すみません! 私が無理を言ったせいで」

ジャン「そちらの方は……」

ニファ「ニファと言います。講談高校の3年です。その、私のせいなんです。ここの石を持ち帰ると、願い事が叶うと言われる逸話があってそれを探しに行きたくて、でも、一人だと心細かったんで、たまたま一緒になった彼に、その……手伝って貰って」

ミカサ「…………」

そうか。人助けをしていてこんな事態になっていたのか。

ジャン「せめて連絡しろよ……心配したんだぞ」

エレン「すまん。携帯の電池が切れててな」

ジャン「外出する前は充電をちゃんとしとけよ! 全く…」

と、プリプリ怒りながらもジャンの顔は安堵していた。

ニファ、という女性も連れだってエレンはアルミン達のところに合流して謝罪した。

そしてようやく帰りの列車に乗ることが出来た。

クリスタ「…にしても、似てたね。アルミンに。他人のそら似かな」

アルミン「う、うん……僕もびっくりした。しかも同じ高校の先輩だったなんて」

ジャン「演劇部の先輩達に聞いてみるか」

ミカサ「そうね。3年同士なら知っているかもしれない」

エレンは先程から列車の席で「すまねえ」と連発している。

エレン「あの小島にある、ピンク色の石を持ち帰ると、恋愛成就するっていう逸話があってな。それ、探すの手伝っていたらいつの間にか満潮になってたんだ」

ライナー「ほほう。それはロマンチックだな。しかしエレン、本当は逆ナンパされていたのではないのか?」

エレン「は?!」

ベルトルト「言い訳でつき合わせただけ……の可能性もあるね。アドレスとか交換した?」

エレン「いや、そういうのはねえけど……」

エレン「今度お礼をさせてくれって、学年とクラスは聞かれたな」

ユミル「何? それは怪しいな。本当はエレン狙いだったんじゃねえか?」

エレン「は? んなわけないだろ…!」

クリスタ「どうだろう? アルミンに似てる女性だったでしょ? 可愛いよね。ありえそうじゃない?」

アルミン「あははは……」

アルミンだけは苦笑いしているが…。

何故だろう。この話題にあまり参加したくない自分がいる。

エレンがちょっとだけ、照れているのが分かるからだ。

球技大会の時は、先輩達にアドレスを渡されても微妙な顔をしていたのに。

逆ナンパだったのか否か、微妙なラインだったのに、エレンは満更でもなさそうだ。

ジャン「逆ナンパだったら許せねえな……この野郎」

ライナー「全くだ。許せんな」

エレン「ち、違うだろ…? た、多分…」

クリスタ「あ、許せないで思い出したけど、この間のプールの時のアレ、ちゃんと謝ったの? エレン」

エレン「へ? プール?」

話題が逸れてエレンが変な顔をした。

クリスタ「私がミカサに泳ぎ方を教えて貰ってた時の事だよ! 皆が水中鬼ごっこしてた時、最後の方でミカサの胸に突撃して、ぶつかったじゃない」

ジャン「な、なんだってー?!」

ああ、そういえばそんな事もあったな。すっかり忘れていた。

ジャン「てんんめえええええ! 逆ナンパより許せん! このラッキースケベ野郎が!」

エレン「な、あれは事故だろうが! その、ミカサ……すまん、謝るの忘れてたけど」

ミカサ「別にどうでもいい。骨折した訳でもあるまいし」

私が不機嫌にそう対応すると、周りの空気がシーンとなった。

エレン「み、ミカサ……怒ってるのか?」

ミカサ「何が?」

エレン「いや、その、すまんかった」

ミカサ「だから、何が?」

エレン「プールでの事だよ。怒ってるんだろ?」

ミカサ「別に怒ってない。むしろ忘れていたくらいなので」

エレン「じゃあ何でそう、怖い顔してんだ…?」

ユミル「………ニファとかいう先輩の件だろ? 察しろ」

ユミルがそう言うが、別にその件で怒っている訳ではない。

断じて違う。私はそんな事では怒らない。

ミカサ「違う。怒ってない」

エレン「いや、怒ってるだろ。その、何だ。何かすまん」

ミカサ「もういい。別にどうでも」

シーン…

空気が重くなってしまったが、私も少々疲れたのだ。

エレンがもしかしたら溺れているかもしれない、と思って探し回った挙句、知らない女性と一緒に居たので、安堵もあったけど、その…理不尽な気持ちにもなったのだ。

エレンは一人になりたいと言って皆から離れたのに。

結局、それは嘘だったのだろうか。いや、嘘ではなかったのかもしれないが、そんな風に別の誰かと一緒に居られるのであれば、私と一緒に居ても良かったのではないかとも思うのだ。

………心配していたのに。

マルコ「ま、まあまあ……エレンも無事だったんだし、細かい事は水に流そうよ」

ベルトルト「そうだよ。下手したらエレン、そのまま一晩、その小島に閉じ込められていたかもしれないしね」

アルミン「いや、一晩は大げさだけど、そうだね。うん、見つからないのよりはマシだよ」

ミカサ「……………」

満潮と引き潮のリズムを考えれば、一晩中閉じ込められるという事はなかっただろうが、薄暗い中、男女が二人きりになっていた可能性はあった。

それを想像すると、また、ムカムカ胃に吐き気がしてくるのを感じる。

………………。

おかしい。

以前は、エレンが他の女性と一緒にいたり、モテても別に何とも思わなかったのに。

今は少し、焼きもちを焼いている自分がいる。

でも、何故焼きもちを焼いてしまうのだろう。私にとっては、エレンは恋人ではない。

一緒に暮らしている家族だ。家族でもそういう「焼きもち」のような物を感じる事はあるのだろうか。

エレンは両肩を落としてがっくりしている。

何とも言えない空気に皆も顔を見合わせている。

申し訳ないとは思うけど、私もどうしたらいいのか分からない。すると、

アニ「………そのラッキースケベの件といい、今回の先輩の件といい、ちょっとエレン、ミカサに対する態度が酷くない?」

エレン「え?」

アニ「ミカサが怒っているのは、そういう部分なんじゃないの? 違う?」

アニが私の気持ちを代弁してくれた。そうなのだ。そういう事なのだ。多分。

エレン「そうなのか? ミカサ」

ミカサ「…………」

エレン「お、オレはどうしたらいいんだ?」

アニ「そんなのは自分で考える事だよ。まあせいぜい、暫くはミカサの機嫌取りに努める事だね」

ユミル「だな。そうした方がいいな」

クリスタ「だね」

サシャ「何か美味しい物を食べさせた方がいいですよ」

クリスタ「それはサシャ限定だよ」

と、女子の皆が味方してくれた。

エレンは眉を寄せていたが、納得したようだ。

エレン「そっか……まあ、うん。分かったよ」

エレンも少々反省したようだ。だったらいいのだが。

そんな訳で、今回の事は一応、水に流すことにしたのだが……。

この後、思わぬハプニングが起きる事になる。

列車で駅までついて、交通センター(バスや電車などの中継地点的存在)に移動して、それぞれが分かれて自宅に帰る。

そこまでは良かったが、なんとエレンがバスを乗り間違えて、家と反対方向の路線に乗ってしまったのだ。

それに気づいたのが、ある程度、進んでしまってからだった。

なので慌てて、途中で下車して帰りのバスの時刻を見る。

エレン「嘘だろ……次の路線がもうねえ」

青ざめた。ここは何処だろうか。良く分からない場所で降りてしまった挙句、お金もそんなに持ち合わせていない。

ミカサ「え、エレン……お金はあるの?」

エレン「いや、オレもそんなに余分な金はねえ。どうしよう。どうやって帰ろう…」

お互いにお互いを見合わせて困惑する。ついでに言うなら、エレンの携帯の電池は切れたままだ。

私は慌てて自宅に電話した。すると母が出てくれて、

ミカサ母『あらあら…それは困ったわね。仕方ないわ。どこか近辺で泊まれるところを探して、明日帰ってきなさい』

ミカサ「でも、ここは何処か良く分からない…」

ミカサ母『とりあえず、コンビニを探しなさい。店員さんに聞けば、どうにかなるわよ。エレン君もいるんだし、大丈夫よ。お金が足りなかったら、後で私がそっちに行って払ってあげるわ』

と、母は呑気なものだった。

ミカサ「……と、いう訳だけど」

エレン「そうか……しょうがねえな。コンビニ探そう」

幸い、近くにコンビニはあった。店員さんに聞くと、とりあえず一軒だけこの近くにホテルはあるらしい。

教えて貰ったそこに行くと……なんと、そこは……。

エレン「温泉旅館、か……」

ミカサ「温泉旅館、ね」

少し古い感じの温泉旅館だった。部屋が空いているといいけど。

中に入ると若い女将さんがいた。一応、部屋は空いていたが、和室の一部屋だけだった。

別に部屋を取る事が出来ず、渋々、一緒に寝泊まりすることになったのだった。

……という訳で、エレンとミカサの初のお泊りイベントっす。
続きは、また。ちょっと時間かかるかも? ではでは。

なんか思ってたより筆が進んだので、もうちょっとだけ続ける。








エレン「………」

ミカサ「………」

先程の件もあり、少々気まずい空気だった。エレンが先に、

エレン「おばさんに旅館の場所、伝えておいた方がいいよな」

と、言ってくれた。そうだ。泊まる場所が決まったので連絡しないと。

すると母は安心したように『分かったわ。明日迎えに行くから』と言ってくれた。

帰りの交通費がなくなってしまったので迎えに来て貰うしかない。

まさかこんなトラブルが発生するとは思わなかった。

エレン「親父にもう少し大目に金、貰っておけば良かったな。遠出する時は気をつけないと。勉強になったぜ」

ミカサ「そうね。思わぬトラブルが発生する事もある」

エレン「………飯はついてねえけど、腹は減ってるか?」

ミカサ「そんなには。でも、後で減るかもしれない」

エレン「………売店でパン買うくらいしか出来ねえな」

ミカサ「それでも十分なので、一応買っておこう」

という訳で、二人でパンを1個ずつ買って部屋に戻った。

テレビを見ながらもぐもぐ食べて、部屋にあるお茶を飲んで…。

もう、することが無くなった。どうしよう。

風呂は備え付けではない。大浴場の方にいかないといけない。

ミカサ「お風呂、入る?」

エレン「あーそうだな。一応、入っておくか」

という訳で、暇だったのでお互いに大浴場の方に入ることにした。

大浴場にはおばちゃんが大勢いた。若い女性は私くらいだった。

ミカサ「…………」

お風呂は広くて気持ち良かった。リラックスすると先程の苛立ちも少し落ち着いてきた。

一緒の部屋で一晩過ごすのだ。あまり険悪な空気で居続けるのも、良くないだろう。

私はそう自分に言い聞かせて、風呂からあがると、エレンの方が先にあがっていた。

女子の風呂の入り口で待っていてくれていた。

エレン「おかえり」

ミカサ「ただいま」

………。

髪が濡れたままだ。乾かさないのだろうか。

ミカサ「エレン、髪を乾かさずに出てきたの?」

エレン「あ? ああ……そうだな」

エレンはちょっとぼけっとしているようだ。

ミカサ「それはいけない。部屋に戻ったら乾かそう」

エレン「ああ、そうだな」

二人で部屋に戻り、エレンは洗面所に向かった。

もう一度、テレビをつけてみる。でも特に面白い番組はなかった。

ただ、音をBGMにして聞いておく。無音だと空気に耐えられないからだ。

エレンが髪を乾かして戻ってきた。

さっきから視線を合わせない。私もあまりエレンを見ようと思わなかった。

何だろう。家にいる時と違って妙に落ち着かない。

風呂に入ったせいか、喉が渇いた。お茶よりも水が飲みたい。

自販機で買ってこようと思う。エレンにそう伝えて一人で行こうとしたら「オレも行く」と言われた。

しかし自販機には水がなかった。残念。売り切れだ。

仕方がないのでジュースを買う事にした。

飲み残したジュースは冷蔵庫に入れておくことにした。

ミカサ「ん?」

すると冷蔵庫の中に別のジュースが入っていた。開けてない物だ。

備え付けか? 前の人の飲み残し、だろうか。蓋をあけていない。賞味期限も切れてない。

これは、後で飲んでもいいのだろうか?

まあいいや。一応、気に留めておこう。

エレン「………そろそろ寝るか?」

ミカサ「そうね」

することも特にない。なのでさっさと寝る事にした。

お互いに布団の中に入ると、すぐに眠気がきた。

今日は泳いだり遊んだり、歩き回ったりで疲れた。

一度深い眠りを得て、そして夜中に目が覚める。また、喉が渇いたのだ。

夏場はどうしても水分をまめに欲しくなる。

冷蔵庫の中を開ける。余っていたジュースを飲み終わる。

開けてない方のジュースも気になった。飲み足りない。飲んでもいいかしら?

まあいいや。飲んでしまおう。私はそれに手をかけた。

グビ……グビ……

ミカサ「あら、美味しい」

自販機で買ってきたジュースより美味しかった。

あと2本ある。全部飲みたいくらいだった。どうしようか。

でも、もしエレンが夜中に起きて飲みたくなったら困るので、自分が飲むのは2本目までにする。1本は残しておこう。

という訳で、私は小さい缶のそのジュースを計2本飲み干した。

ミカサ「………今日は暑いのかしら」

熱帯夜だ。エアコンは利かせているのに、汗が出てきた。

温度を下げるべきだろうか。でも、エレンが寝ているのに勝手に温度を下げたら、エレンが風邪ひくかもしれない。

現在の温度は25度。これ以上下げたらいけないだろう。

まあいいや。薄着になって寝ればいい。そう思い、私は下着姿になって寝る事にした。

思えばこの時の私は、あの時の自分と同じだった。

そう、一回目の飲酒の時と同じだったのだ。

エレン「ん……?」

私が服を脱いでいる気配に気づいてエレンが目を覚ましたようだ。

エレン「?! な、なにやってんだミカサ?!」

ミカサ「暑い……ので」

エレン「エアコンさげりゃいいだろ?! 服脱ぐな馬鹿!」

ミカサ「にゃー……」

脱いでいる途中で邪魔されて、ムッとした。

ミカサ「また邪魔してーもう、ひどい。エレンの馬鹿」

エレン「ひどいのはどっちだ! ああもう……まさかとは思うが、冷蔵庫の備え付けのチューハイ、勝手に飲んだな?!」

ミカサ「ちゅーはい?」

エレン「ラベル見なかったのか?! 缶チューハイだっただろ?! アレは旅館のサービスじゃねえから! 飲んだら後で代金支払うんだぞ?!」

ミカサ「そーなの?」

それは知らなかった。参った。そういうシステムだったのか。

エレン「何本飲んだ?」

ミカサ「にぃ~」

2本飲んだことを伝える為、ピースサインをした。

するとエレンは何故か、口を手で隠してよそを向いた。

ミカサ「どうしたの? (首かしげ)」

エレン「何でもねえよ! くそ……何なんだよ今日は。厄日か?!」

ミカサ「厄日? エレン、ついてない?」

エレン「ああ、ついてねえよ! なんだってこうトラブルばっか起きるんだ今日は!」

ミカサ「そう……ごめんなさい。私のせい? (しゅん…)」

私がドジをしたせいだろう。エレンに迷惑ばかりかけて申し訳ない。

エレン「いや、オレも「冷蔵庫のやつは飲むな」って言えば良かったな。今日、あんな事があったばかりだったのに」

ミカサ「そんな事ない。私がイケナイ事をしただけ」

反省する。お酒に弱いのだから、気を付けないといけなかったのだ。

ああ、でも、気分がいい。何だかまたフワフワする。

おじさんがよく、仕事が終わった後にビールやお酒を飲んでいる理由が分かった気がする。

でもまた、汗が出てきた。気持ち悪いので、タオルを探す。

今度は自分で汗を拭く。しかし胸元に汗が溜まる。

もうこのまま今日はタオルを胸の間に挟んで寝た方がいいかもしれない。

こてっと、そのまま布団の上に横になるとエレンに驚かれた。

エレン「おま、そのまま寝るのか…」

ミカサ「イケナイ?」

エレン「いや、別にいいけど。その……暑いんだろ?」

ミカサ「正直言えば、暑い。けど、エアコンの温度を下げ過ぎるとエレンに迷惑」

エレン「横でダラダラ汗掻きながら寝られる方が迷惑だ」

ミカサ「じゃあ下げる?」

エレン「いいよ。下げよう。ちょっとだけな」

23度まで下げたら少し落ち着いてきた。ふう。心地よい。

この温度なら丁度いい。しかし……。エレンは少し寒いんじゃなかろうか。

難しい。二人で寝るという事はどちらかがどちらかに合わせないといけない。

ミカサ「エレン、寒くない?」

エレン「寒くねえよ」

嘘ばっかり。本当は寒そうだ。

エレンの部屋の冷房は大体いつも、25~26度くらいだ。

なので寝る時の適温はそのあたりだ。ちなみに普段の私は27~28度にして寝る。

元々は冷えやすい体質なのだ。なので冷房もそんなにはきかせない。

だけどまさか、お酒を飲んだ時はこんなにポカポカするとは。

慣れない感覚に戸惑う。でもエレンの様子を見ると、25度に戻すべきだろうか。

ミカサ「エレン……」

エレン「何?」

ミカサ「やはり、私が薄着になるので、エアコンの温度を元に戻そう」

エレン「は? 別にいいって。このままで」

ミカサ「良くない。エレンの方に合わせるべき」

エレン「いや、いいんだって。そういうのはやめろ」

ミカサ「どうして?」

エレン「男がこんくらい我慢できなくてどうすんだ」

意地っ張りだと思った。しかし意地っ張りの度合いは私も負けない。

ピッ。

ピッ。

エレン「あ、てめ、このやろ」

ピッ。

ピッ。

ミカサ「む……」

ピッ。

ピッ。

2度間の戦争、である。お互いにリモコンを奪い合って戦う。

エレン「返せ」

ミカサ「ダメ」

エレン「汗、掻いてるくせに何言ってんだ」

ミカサ「汗は拭けばいい…ので問題ない」

エレン「寝苦しいだろうが。つか、お前、オレの前でそんな、薄着になって、抵抗ねえのか」

ミカサ「?」

エレン「オレも、一応、男だぞ」

ミカサ「エレンは家族なので……」

エレン「そうだけど、その前に、男だ。だからお前も女らしく、しておけよ」

ミカサ「女らしく……」

エレン「男に甘えておけって言ってるんだよ。いいから、元の温度に戻せ」

ミカサ「………エレンが不快に思うなら、私は外で寝よう」

私はその時、ふと思いついて廊下で寝ようと立ち上がった。

するとエレンも立ち上がって私を引き留めた。

エレン「何馬鹿な事しようとしてんだ! この酔っ払いが!」

ミカサ「では、エアコンの温度を元に戻してくれる?」

エレン「~~~っ!」

私が薄着になればいい話だ。なのに何故そんなに抵抗されるか分からない。

エレン「くそっ……腹立つな」

と、言いながらもエレンはようやく温度を元に戻した。

暑いけど、私は下着姿になったので大丈夫だ。タオルはブラジャーで間に挟んでおく。

ブラジャーとパンツだけの格好で布団の上に寝転がると、エレンにじっと見つめられた。

ミカサ「ん?」

エレン「…………ミカサ」

ミカサ「何?」

エレン「その、なんか、水着と違って、なんか……」

言い淀んでいるエレンだった。どうしたのだろうか?

部屋の明かりはオレンジ色の、アレだけだ。もっと、見たいなら電気をつけねば。

私は立ち上がって部屋の明かりをつけなおした。すると、

エレン「何やってんだよ」

ミカサ「しっかり見たいのかと思って」

エレン「いや、そうじゃねえけど、つか、いい加減、寝ろ!」

電気を消されてしまった。

ミカサ「? 違ったの?」

エレン「いや、あのな、ミカサ……お前、そういちいち、気遣うなよ。今日、一日疲れただろ?」

ミカサ「さっき、一度深く寝たので、今はそこまで眠くない」

エレン「ああそうかよ……参ったな、これどうしよう」

ミカサ「?」

エレンは俯いている。これとは、一体?

エレン「便所、いってくるか。お前、先に寝てろよ?」

ミカサ「うーん、まあ、寝れたら、寝る」

エレン「寝てくれ。頼むから。はあ……」

と、言ってエレンはヨロヨロ便所へ向かった。

その後は、なかなか戻ってこなかった。お腹でも急に痛くなったのだろうか?

心配していたらようやくエレンが戻ってきた。

エレン「……寝ろって言っただろ」

ミカサ「遅いな、と思って」

エレン「ちょっと、な。もう大丈夫だから心配するな」

エレンがそう言うなら心配いらないのだろう。それを信じる事にした。

そして私は目を閉じて、そのまま寝る事にした。

意識が落ちる直前、エレンが何か呟いた気がするが……

その声は遠くてはっきりとは分からなかった。

でも、

エレン「…………」

ぼんやりする意識の中で、一つだけ残ったのが、エレンの手の温もり。

エレンは私のほっぺを触っていたようだ。ゆっくりと、静かに。

その按配が心地よくて、私はそのままこてっと寝てしまった。

そして翌日。目が覚めると……

酔いが冷めてから我に返った。結局、下着姿で寝たのは覚えている。

慌てて服を着なおして、起きる。

エレンはまだ寝ていた。良かった。先に起きれた。

ミカサ「…………」

き、昨日は醜態を晒してしまった。

普段では考えられないような行動をしたのを覚えている。

は、恥ずかしい。忘れて欲しい。でも多分、それは無理だろう。

エレンと顔を合わせるのが気まずくて先に洗面所で顔を洗ったりする。

身支度をして、時間を確認する。

チェックアウトギリギリの時間まで寝ているエレンを揺り起こす。

ミカサ「エレン、起きて。そろそろ出る準備をしないと」

エレン「んー……」

エレンはむっくり上半身を起こす。布団もどけてあげる。しかし、

エレンの私服のズボンの布が夏物で薄かったせいか、私はそれを見てしまった。

所謂、これが保健体育で習った、男性特有の生理現象。

ミカサ「!?」

じ、実物を見るのは初めての経験だった。

あんまりじろじろ見るのも失礼なので視線を外すと、

エレン「ん? ああ……悪い。便所行ってくる」

エレンは気づいているのかいないのか。寝ぼけたまま便所に行ってしまった。

部屋に戻ると元に戻っていた。どうやらそういうものらしい。

ん? アレ? でも待って。

今の、本当に初めて見たのかしら?

既視感があった。私は以前、同じような物を目に入れてないだろうか。

ぼんやりしている。思い出せない。珍しいけど、でも見た事がある感じだ。

ミカサ「……?」

何処で見たんだろう? 父のそれを見たのか?

いやでも、そんな昔の事を覚えている物だろうか?

エレン「ミカサ、出るぞ。忘れ物すんなよ」

ミカサ「う、うん……」

もやもやした。でも、それを確かめる術がないし、確かめるのも変な話だ。

私はあまり気にしすぎないようにして、旅館を出て母と合流し、やっと自宅に帰る事になったのだった。

エレンは男を見せませんでした。いや、ある意味では見せてるけど(笑)
エレンが便所に逃げる直前に、ミカサは実はアレの状態を見ちゃってるんですが、はっきりとは覚えてません。
いつ、思い出すかは、そのうち。ではまた。

おっと、バレたか。
そうです。ニファ先輩は合宿に来てました。女子体操部です。
ではでは続いては演劇部の風景へ続きます。



次の日の部活で、ペトラ先輩にニファ先輩の件を尋ねたら物凄く嫌な顔をされた。

ペトラ「それ本当? ニファの奴、そんな事してたわけ?」

ミカサ「お知合いですか?」

ペトラ「ああ…まあ、ね。3年2組の女子体操部のキャプテンよ。あの子、まさか……」

爪を噛んでギリギリしている。ちょっと怖い。

するとそこにオルオ先輩も加わって、

オルオ「ああ、もしかしたらそうかもな」

ペトラ「むきー! あの女狐め! リヴァイ先生に手出したら絶対許さん!」

ミカサ「え? もしかして、ニファ先輩の相手って、リヴァイ先生なんですか?」

オルオ「んーそういう噂があるけどな。オレは直接本人に聞いたわけじゃないけど、結構、あからさまにリヴァイ先生にアプローチしてるっていう話だが」

ペトラ「リヴァイ先生は優しいから、生徒のそういうのを無下に出来ないだけよ!」

オルオ「お前も大概だけどな。ニファとどっこいだろ」

ペトラ「う、うるさいわね! しょうがないじゃない! 好きなんだから!」

ミカサ「え? ペトラ先輩、あのリヴァイ先生の事、好きなんですか?」

そうだったのか。知らなかった。

ペトラ「その……憧れなのかもしれないけど、うん。今、一番好きなのはリヴァイ先生…かな?」

手を合わせて照れている先輩が眩しかった。

そうやって、好きな人を誤魔化さず言えるってスゴイ事だと思う。

ペトラ「体操部の合宿は確か7月末までだったはずよ。8月に入ったら、今度は演劇部の番よ。絶対取り返しちゃる」

ペトラ先輩は意気込んでいる。ニファ先輩はペトラ先輩の恋のライバルといったところか。

でも相手は先生だ。成就する可能性は難しいかもしれないが。

でも、きっと、ペトラ先輩にはそんな事は関係ないのだろう。

オルオ「全く……リヴァイ先生はモテるんだから、お前みたいなちんちくりんを相手にする訳ないだろ」

ペトラ「そんなのはあんたに言われなくとも分かってるわよ! いいのよ。報われなくとも! でも、ニファにも渡さないわ!」

乙女心は複雑そうである。

マーガレット「お見合い時の衣装、完成しましたー」

エレンがまた違った女装姿で出てきた。おお、こっちはなんというか、中世のお姫様に近い感じだ。

こっちはこっちで綺麗だ。足さばきも慣れてきたのか自然になっている。

ペトラ「おお? いいわね! エレン、大分、うまくなったわね」

エレン「そうっすかね」

ペトラ「その調子でお願いね! 演技の方もよろしくね!」

そして今日も練習である。今日は以前に比べるとNGも減ってきた。

何よりエレンが途中で吹き出さなかったのだ。これは大きな進歩だ。

ジャン「………エレン、お前」

エレン「ん? なんだよ」

ジャン「所作が急にうまくなったな。なんていうか、ミカサみてえだ」

エレン「ああ、ミカサを真似してるからな」

ミカサ「え? そうなの?」

エレン「細かい動きはミカサの普段の生活の仕草を参考にしてんだ。その方が女らしくなるだろ?」

ああ、通りでエレンによく観察されているな、と思ったのだ。

つまり演技の為に私を見ていたのか。謎が解明した。

ジャン「通りで急にうまくなったと思ったぜ。くそ……悔しいが綺麗だ」

エレン「お前のそういうとこは、嫌いじゃねえんだがな」

ジャン「は? 急に何の話だ」

エレン「自分に正直だろ、ジャンは。そういう奴の方がオレは好きだ」

ジャン「…………お前に好かれても気持ち悪いだけなんだが」

エレン「だろうな。オレも言ってて自分で気持ち悪い」

ジャン「だったら言うなよ、アホかお前は」

エレンとジャンが珍しく談笑している。おお、ちょっとだけ関係が良好になっている?

エレンが女装をしている時はジャンもほんの僅かだが、エレンに対しての対応が柔和な気がする。

ああ、いつもこんな風に普通にしてくれていればいいのに。

そんな訳で練習の方は順調に進んでいた。

特別なトラブルもなく、このままうまくいけばいいなと思っていたら……

エルド「おい、ペトラまずいぞ」

ペトラ「え?」

エルド「今の通し稽古のタイムを計ってたら……尺オーバーになった」

ペトラ「ええ?! どれくらい?」

エルド「かなりある。10分くらい、オーバーだ」

ペトラ「嘘……マジで?! 私、脚本の量多かった?!」

エルド「いや、うーん、ギリギリってところか? でもこのままだとまずいぞ。いくつかシーンをカットしないと、規定時間をオーバーする可能性が高い」

ミカサ「尺オーバー? 制限時間を超えているんですか?」

エルド「ああ。規定は1時間以内だ。1秒でもオーバーしたら失格になる」

そ、それは厳しい規定だ。どうしたらいいのだろうか。

ペトラ「うーん、どうしよう。どこをカットするべきなのか」

エレン「キスシーンをカットしてください!」

ジャン「キスシーンをカットするべきだと思います!」

ペトラ「ええ?! でも、そこは一番盛り上がるところなのよ?! そこを外してどうするのよ!」

エレン「でも、尺がオーバーするなら背に腹は代えられないですよ!」

ジャン「そうですよ。そのシーンがなくても、二人の愛はもう、伝わりますよ観客には!」

よほどキスシーンが嫌だったのか、二人してカットを要求している。

ペトラ先輩は頭を悩ませている。唸っている。

ペトラ「でも恋愛劇でキスシーンがないなんて、メインディッシュのないフルコースのようなもんじゃない。困ったわ…」

エルド「台詞をいくつかカットして、平均的に巻いていくっていう手もあるが…」

ペトラ「いや、それだと忙しない劇になるからそれは最後の手段よ。やるべきなのは、要らないシーンをカットする方が先だわ」

オルオ「キスシーンをなくす代わりに、別のやり方で表現するって手もあるぞ。その辺は演出次第なんじゃないか?」

ペトラ「うう~ん……」

唸り続けるペトラ先輩に周りも困惑している。

まさかここにきてこんな根本的な問題が発生するとは思わなかった。

マーガレット「まだ背景セットが全部完成している訳ではないので、場転の時間も加えたら更にオーバーする可能性もありますしね。確かに、大幅なカットは必要かもしれないです」

ペトラ「でもそうなると、折角作ってもらったセット、無駄にする可能性もあるのよ?」

マーガレット「その時は仕方がないです。それが大道具の宿命ですから」

お蔵入りになっても構わないという事か。なんという儚い役目なのか。

ペトラ「分かったわ…話の辻褄が崩れないように調整しながら、脚本を見直してみる」

ペトラ先輩はすっかり落ち込んでしまった。

大会までまだ時間はあるが……そう、余裕がある訳でもない。

限られた時間の中でどれだけ調整できるのか。不安だろう。本人が一番。

とりあえず、今日のところは練習をそこまでにして、解散になった。

帰り道、エレンが妙に上機嫌だった。よほどキスシーンが嫌だったらしい。

エレン「♪」

ミカサ「エレン、楽しそうね」

エレン「え? ああ……そりゃなあ。野郎同士でキスシーンしなくて済むかもしれんのだから、そら浮かれるわな」

ミカサ「でも、恋愛物でキスシーンがないのは、味気ないのでは?」

エレン「そうか? オレはないならなくても全然平気だが」

ミカサ「つまりエレンは、恋人とキス出来なくても構わないのね」

エレン「は? それは嫌に決まってるだろ。何言ってんだ?」

エレンが首を傾げている。だったら、やはりキスシーンはカットするべきではないと思う。

ミカサ「エレン、それが普通だと思う。だったらタイ王子にキスをさせないのは酷だと思わないの?」

エレン「ええ……ああ、そういう事か。いや、でもなあ」

エレンは困っている。真剣に。

エレン「オレは逆にご都合主義のような気もするけどな」

ミカサ「ご都合主義?」

エレン「んーなんていうか、キスってさ。基本的に人前でするもんじゃねえだろ? オレだったら、周りに人がいる時にはしねえけどな。確かに妻を救い出した直後に、感情が高ぶって…というのはあるかもしれんが、オレだったら、あの場面じゃしねえなあ」

キスシーンは妻(レナ)を助け出した後にラストにするのだが、あのタイミングは不自然だと言うのか。

ミカサ「だったらどのタイミングなら、いいの?」

エレン「そりゃ、家に帰ってほっと息をついた時だろ。安らぎの時間、つまり夫婦の時間が始まる前にするもんじゃねえの?」

ミカサ「なるほど。確かにその通りかもしれない」

そっちの方がリアルではあるが、でも、それを劇中でするのは変な気がする。

ミカサ「でも、それでは劇にならないような」

エレン「それは分かってるが、リアルだとそうだよなって話だよ」

ミカサ「じゃあエレンが脚本家だったら、どう変更する?」

エレン「オレ? んーそうだな」

エレンはしばし考えて、

エレン「あ、レナにマフラーでも巻いてやって、そのまま手繋いで帰るかな」

ミカサ「マフラー?」

エレン「だって、ラストのレナは部屋着の薄着だろ? 寒そうにしてんだし、まずは上着でも着せてやった方がいい。でも、タイ王子は上着を着てきてなかったし、だったらマフラーかなって」

なるほど。そういう手もあるのか。

エレン「まあ、手袋とかでもいいけど、とにかくそういう事だよ。そっちの方がいいんじゃねえかな」

ミカサ「………」

マフラー。手袋。その言葉で思い出すのは、あの日の紅。

一瞬、蘇った映像に思わず立ち止まる。

エレン「……?」

ミカサ「あ、そ、そうね」

しまった。一瞬、思考が停止していた。

エレン「どうかしたのか?」

ミカサ「いいえ、ちょっと、ね。確かに普通は、救出した相手を温めるのが先かもしれない」

エレン「だろ? まあ決めるのはペトラ先輩だけどさー」

と、エレンは私の異変に気付かなかったようだ。ほっとした。

そんな訳で、エレンの言ったように、ラストのキスシーンは少し変更になった。

偶然ではあるが、結果的にはエレンの演出に似たような感じになったのだ。

次の日、ペトラ先輩が持ってきた案は「タイ王子に上着を着せる」案だった。

ペトラ「何も着ないで慌てて飛び出すシーンにしようかと思ったけど、タイ王子に上着だけはひっかけて飛び出させるわ。んで、妻を救出後には、自分の上着を着せてそのまま連れ帰る。んで、手を繋いでいるところを後ろから照明を映して……フェードアウト。それでいきましょ」

これなら少し時間を短く出来る。という事だったのでそれに変更になった。

エレンとジャンが同時にガッツポーズをした。息ぴったりである。

マリーナ「そうですか……残念ですね」

マーガレット「まあ、仕方がないよ。そういう事もある」

キーヤン「いいんじゃないっすか」

と、他のメンバーも頷いている。

オルオ「でも、キスシーンっていう分かりやすい記号がなくなるから、かえって難しくなるぞ」

エレン「え?」

オルオ「見つめ合うだけで、愛しあっているのを表現するんだぞ。演技の難易度はかえって高くなった。二人とも、覚悟しろよ」

エレン「うぐっ」

ジャン「わ、分かってますって」

エレンとジャンが同時に青ざめた。息ぴったりである(2回目)。

そんな訳でいくつかの変更点を交えながら練習が進んでいった。

私は裏方なので練習風景を見ていたり、実際の大道具の動きのリハーサルをしたり、セットを作るのを手伝ったりした。

ペトラ「ふーちょっとお昼の休憩しようか」

午前中から活動しっぱなしだったので、そうペトラ先輩が言うと、

ジャン「あ、そういえばそろそろ、決勝大会の中継始まる頃じゃないっすかね」

ペトラ「あ、そうだったね! テレビつけようか!」

8月30日。この日は予選の決勝大会だ。

ジャン「おお、4回まで進んでたか。……って、コニーの打席じゃねえか!」

コニーがテレビに映ってる。無事に決勝戦まで勝ち上がっていたらしい。

ジャン「あー2-0で負けてるか。やっぱ、決勝なだけあって相手も強いな」

エレン「相手どこだ?」

ジャン「小学館高校だな。ここも毎年勝ち上がってくる常連校だよ」

ジャンは野球に詳しいようだ。表情が明るい。

皆もテレビの前に集まって、見入っている。

ジャン「あー追い込まれた! 三振はすんなよ、コニー!」

ジャンが一番盛り上がっている。さて、どうなるか。

審判『ファール!』

コニーは粘っているようだ。投手に球数を投げさせている。

コニーは決勝を制するのか?! …という訳で続く。またね。

>>716
訂正。

7月30日。この日は予選の決勝大会だ。


夏の予選は大体、このあたりの日程が決勝戦になりますよね。
一か月タイムワープしてた。間違えてすみません。

ジャン「相手投手は……左のアンダースローだと?! 珍しい投手だな」

エレン「そうなのか?」

ジャン「ああ、左ってだけでもすげえのに、それにアンダースローなんて、滅多にいねえぞ」

さすが元野球少年。詳しい。

アナウンサー『粘りますね~さすが、小さな巨人と呼ばれるだけありますね。コニー・スプリンガー君は小学生の頃から野球をやっているそうです。そのバッティングのフォームがミスター巨人こと、長島選手の若い頃のものと似ているところから、小さな巨人と呼ばれるようになったそうですが…』

解説『対する投手のキタロー・キタオオジ君は中学時代に左のアンダースローの投げ方をマスターし、エースピッチャーとして活躍するようになりました。先日の、彼の完全試合の記録はまだ記憶に新しいと思いますが、今日の調子はまずまずといったところでしょうか』

アナウンサー『しかし球数を投げさせて疲労させる作戦のようですね。もう20球近く粘っていますよ』

解説『決勝大会ですからねー。さすがのキタロー君も疲れが出始める頃だと思いますよ』

キン……!

わあああ……

ジャン「おしゃあああ抜けたあああああ走れ走れ走れ!」

コニーが遂にヒットを打った。1塁に出た。おおお、試合が大いに盛り上がる。

アナウンス『8番、捕手、フランツ君』

ミカサ「あら、フランツも野球部だったの?」

エレン「あの髪型の奴らは大体野球部だろ」

ミカサ「1年なのにレギュラーなのはスゴイ。二人とも頑張ってる」

フランツがバントを決めてコニーが進んだ。

アナウンス『9番、投手、キュクロ君』

ジャン「あれ? 坊主頭じゃない奴がいるな。珍しい」

エレン「本当だ。あんな奴、うちの学校にいたっけ?」

ミカサ「他のクラスの子ではないだろうか」

ジャン「ちっ……投手だから優遇されてるのか? 気に食わねえな」

ジャンは髪型に拘って野球部には入らなかったのだ。

画面を見てみると、両校とも確かに殆どの選手が丸刈りだ。この投手が珍しいのだ。

ジャン「!」

エレン「!」

第一球目、なんと初球から打った。

アナウンサー『おおっと、のびるのびるのびる………入った! ホームランです! 初球に甘く入ったところを遂に狙われました!』

解説『今の球は甘かったですねー…いやはいや、でもまだ2-2ですから。試合はこれからですよ』

ジャン「すげえ、投手なのにホームラン打ちやがった」

エレン「実力のある選手だから、坊主も免除されてんのかな?」

ジャン「か、かもしれんが……いや、でもすげえな」

そんな感じで試合は拮抗して進み、なんと延長までもつれ込んだ。

ジャン「あのキュクロとかいう投手、速球派のいい球投げるな」

エレン「分かるのか?」

ジャン「ああ、手元でのびるストレートだ。相手は技巧派のアンダースローだが、対照的な投手だな」

ミカサ「ジャンも投手やってたのよね」

ジャン「あ、ああ……オレは打たせて取るタイプだったけどな」

三振をばしばし取っていくキュクロ投手。キタロー投手は打たせて取る。

本当に対照的な二人だと思った。なかなか試合が崩れない。

そしてまた、コニーの打席が回ってきた。ここで点を取れば逃げ切れる。

講談高校は裏の攻撃だ。点を取れば、さよなら出来る。

試合が大いに盛り上がる。2アウト。塁にはランナー無し。

コニーはまた、粘っていた。相手投手の球はここにきて速度が上がっていた。

ジャン「うわっ……典型的な尻上がり型かよ。やりにくいだろうな、コニー」

ミカサ「尻上がり?」

ジャン「試合の後半、球の速度が上がったり、キレが良くなる投手の事だ。所謂スロースターターだな」

ミカサ「なるほど」

ジャン「完投型の投手には多いんだ。コニー、負けるなよ」

コニーは粘っている。そして球を選んで4ボールで塁に出た。

ジャン「よしよしよし! それでいいぞ、コニー!」

そして先程と同じく、フランツが……あ、でもダメだ。2アウトだから送れない。

……と、思ったらなんとコニーがここにきて盗塁を決めた。

ミカサ「すごい度胸……」

エレン「間一髪だったな」

ジャン「いや、投手にいいプレッシャーかけてるぜ。いけいけ!」

その直後、捕手のエラーでなんと、フランツが振り逃げした。

ジャン「おおおおお……チャンスが回ってきたぞ!」

2アウト、2塁、1塁。打者は4回でホームランを打ったキュクロ。

運命の交差点だ。ここでキュクロが打てば講談高校は甲子園出場である。

ドキドキ。ドキドキ。

ブラスバンドの音が大いに盛り上がる。

ププププープーププププープー♪

プププププププー♪ プープー♪

どうなる? どうなる? 果たして結果は…。

アナウンサー『番組の途中ですが、放送時刻が終了いたします。結果はWEBで発表させて頂きます!』

ジャン「だあああ! (ズッコケ)」

エレン「嘘だろ?! 決勝大会なんだから最後まで放送しろよ!」

ジャン「いや、延長はいっちまったからな……そうなるだろうな」

ミカサ「放送予定時刻を大幅にオーバーしていたようね」

ペトラ「はいはい、残念だけど気持ち切り替えて! 練習続けるわよ」

ジャン「はい~」

エレン「とほほ」

試合を見に行ったアルミン達に後で結果を聞こう、と思った。

そして部活後、アルミンに尋ねると、凄い興奮した声で、

アルミン『うん、最後はね、キュクロ君がライト側にヒットを打って、コニーが物凄い勢いで走って……相手のレーザービームとの一騎打ちだったよ! でもコニーの足が一歩速くてさ、さよなら勝ちだった! もう、すっごい興奮したよ~!』

エレン「おお、ってことは甲子園出場か! めでたいな!」

アルミン『だね! 僕、野球観戦初めてだったけど、生で見てよかったよ!』

と、いういい報告を貰えたので私も嬉しかった。

エレン「甲子園か~……応援に行ってやりてえけど……」

ジャン「部活の日程と被るかもな。残念だけど」

エレン「だな。くそ~!」

こういう時は、フリーの身である人達が羨ましいが。仕方がない。

ジャン「あーやっべ。見てたら野球やりたくなってきた」

ミカサ「ジャン、野球部に入らなかった事、後悔してない?」

ジャン「あ? いや、後悔はしてねえよ。でも、キュクロっていう投手を見てたら、羨ましいなとは思ったぜ」

エレン「ああ、あの投手凄かったな。140キロ代の球をバシバシ投げてたよな」

ジャン「いや、そこじゃなくて……明日からあいつ、女子にモテモテになるだろうなって思うとなー」

エレン(ズコー)

エレンが面白いくらい大げさにずっこけた。

学校の玄関でずっこけたら危ない。私は慌てて駆け寄るが、エレンは「大丈夫だ」と言った。

エレン「お前なあ……」

ジャン「だってそうだろ? 絶対あいつ、モテモテになる。オレが投手始めたきっかけも、それだしな」

ミカサ「投手はモテるの?」

ジャン「結果を出せば、な。オレは残念ながら、投手としてはそこそこで、中継ぎが殆どだったしな」

なるほど。ジャンが野球をやめた本当の理由はそこなのかもしれない。

ジャン「限界だなと思ったんだ。マルコのリードがうまかったおかげで勝てた事もあるけど、マルコ以外の捕手だと、大抵ダメだった。そんな使いにくい投手、監督もやりにくいだろ? マルコはここには特待生で入ってるし。一緒に野球を続けようぜとは言えなかったんだよ」

エレン「あー……そっか。なるほどな」

エレンは凄く納得している。

エレン「お前みたいな扱いにくい奴、マルコ以外で相手すんの無理だもんな」

ジャン「エレン、お前もアルミン以外の奴と組んだら似たようなもんだろ」

エレン「…………そういう意味じゃオレ達は似てるのかもな」

ジャン「やめろ。お前と同じにはなりたくねえ」

エレン「お前が先に言い出したんだろうが」

ジャン「まあそうだが……もうこの話は止めようぜ」

と、雑談をしながら私達は校門で分かれた。ジャンとは帰宅の方向が正反対だからだ。

そしてエレンと二人で駅までの道を歩いて帰っていると……

エレン「ジャンも馬鹿だな」

ミカサ「え?」

エレン「もし続けたいって言ってたら、マルコの事だ。一緒にやってたと思うけどな」

ミカサ「うん。マルコならきっと、そうだと思う。でも、ジャンはマルコに負担をかけたくなかったのでは?」

エレン「うーん、野球と勉強の両立は難しいかもしれんが……それでも、マルコは待ってたのかもしれねえよ?」

ミカサ「そうね。すれ違っていただけなのかも。エレンがジャンの立場なら、どうする?」

エレン「………………あー、アルミンも無理しそうだな。うん。やっぱ、ジャンの選択と同じだったかもな」

と、苦笑を浮かべてしまうエレンだった。

ポツ……ポツ……

エレン「ん?」

ミカサ「あ」

ザー……

エレン「げえ?! 雨かよ?! 夕立ちか!?」

ミカサ「エレン、雨宿りしないと」

幸い近くにコンビニがあった。とりあえずそこに駆け込んで、雨が収まるのを待つ。

コンビニに傘が1本だけ売ってあった。透明のビニール傘だ。1本500円。

今日は生憎、折り畳み傘を持ってきていない。買って帰るべきか。

と、思っていたらエレンが先に傘を買った。行動が早い。

エレン「ほい、ミカサ。これ使え」

ミカサ「エレン……私はいい」

エレン「駅までだから。濡れるの嫌だろ?」

ミカサ「エレンだけ、濡れている方がダメ」

エレン「別にいいよ。家帰ったら風呂入るし」

ミカサ「………一緒に使わない?」

駅までなのだ。そう長い間、ではない。

そう提案すると、エレンは「え?」と顔を赤くした。

エレン「あ……いや、でも、ダメだろ。それは」

ミカサ「どうして?」

エレン「だ、誰かに見られたらどうすんだ」

ミカサ「この時間帯なら、学生も少ない」

エレン「で、でも…万が一がある。やめとこうぜ」

ミカサ「では、雨がやむまでここで待つ」

ザーザーザー

雨が止む気配はないが、濡れるのよりはいい。

見ると、私達以外の大人の人もコンビニで雨宿りしている。

でもここで雨宿りをしていたら帰るのが遅くなるだろう。

そう思っていたら、エレンが傘を広げてしまった。

ミカサ「?」

先に帰るのだろうか。と、思ったら「仕方ねえな」と妥協してくれた。

エレン「駅まで、だからな。相合傘」

ミカサ「改めて言われるとちょっと照れる」

エレン「お前が言い出したんだろうが! ったく……」

ほんの5分程度だったけど、私達は相合傘で駅まで帰る事にした。

キュクロは明日から女子にきっとモテモテ。そしてシャルルに嫉妬される。

夏は夕立ちが曲者ですよね。
という訳で相合傘で帰宅するエレンとミカサでした。
続きはまた。









家に帰って着替えてからリビングのテレビをつけると、ヒーローインタビューの様子が映っていた。

キュクロという投手は2年生エースのようだ。インタビューにたどたどしく答えている。

コニーもインタビューに答えていた。クラスで見る時のコニーよりしっかりしていて大人びて見えた。

あんな風に凛としたコニーを見るのは初めてかもしれない。

コニー『……はい、あの時は行くしかないと思って、思い切って走りました』

コニー『一か八かだったんですけど、ベンチの指示は任せるとあったので』

コニー『ピクシス監督のおかげっす。感謝してます』

そしてピクシス監督……え? 美術のピクシス先生が野球部の顧問だったのか。知らなかった。

ピクシス『ふむ。時には選手に任せるのも野球のひとつの手じゃて」

ピクシス『無論、そこで失敗する可能性もあった。ただ、わしは普段の彼の足の速さを知っておったからな』

ピクシス『向こうの投手よりも、攻めるなら捕手だと思ったんじゃ。結果は御覧の通りだが』

ピクシス『甲子園は久々の出場じゃからな。次も狙いますよ、当然』

と、にこやかなピクシス先生のインタビューが終わり、番組は他県の試合結果などを放送していた。

エレン「おー何か、別人みてえだったな、コニーの奴」

ミカサ「そうね。すごく大人っぽく見えた。クラスでの彼とはまるで違う」

エレン「だな。あいつ、野球好きなんだな」

と、クラスメイトの活躍をテレビで見れるのはやはり嬉しいものである。

そして翌日。7月31日。早速学校には「甲子園出場おめでとう!」の垂れ幕が屋上から掲げられた。

私達もコニーに負けられない。明日からは学校で合宿だ。

8月1日から5日まで学校のセミナーハウスを借りての合宿だ。

セミナーハウスは他の部の合宿にもよく使われる宿泊施設だ。

施設の宿泊は人気があるので予約制だ。希望が被った場合は抽選になるそうだ。

今回はペトラ先輩が前々からその日程を押さえてくれてたそうだ。

ペトラ「明日からハウスでの合宿が始まります。食事は自分達で用意することになるから、材料の調達は私達3年でやるけど、調理は1年にやってもらいます。掃除は2年生ね。集合は朝の9時から。皆、遅れないように集合して下さい。以上、解散!」

その日の活動は軽めに流して、明日からの合宿に備える事になった。

自宅に帰ってから荷物の確認をする。着替えは多めに。うん。大丈夫。

ちょっとドキドキする。合宿。研修旅行とはまた違った感じになるだろう。

しかも今回は5日間も一緒に過ごすのだ。

今回はテスト勉強はしないけど、一応、夏休みの宿題くらいは持っていこうと思う。

そして開始予定時刻の9時にきちんと集合して、全員の点呼が終わったその時……

オルオ「えー皆に残念なお知らせがある」

部長のオルオ先輩とペトラ先輩が落ち込んでいるように見えた。

良く見れば顧問のリヴァイ先生も、微妙な顔をしている。

オルオ「野球部が甲子園出場を決めたのは知ってるよな」

オルオ「その関係で、野球部の合宿が延長になったそうだ」

オルオ「つまり、オレ達は1部屋、野球部に譲らないといけなくなった」

オルオ「………ここで選択肢がある」

オルオ「1部屋を、男女混合で使うか。今回の合宿を諦めるか、だ」

エレン「えっ………1部屋譲るっていう話はもう確定なんですか?」

オルオ「そうだ。急な話で申し訳ないんだが……リヴァイ先生」

リヴァイ「ああ。そういう事だ」

ざわざわざわ。私達は顔を見合わせた。

リヴァイ「本来なら年頃の男女を同じ部屋で寝泊まりさせるというのは、倫理的にはアウトなんだろうが……無茶を言ってきたのは向こうだ。だから今回の件は、お前らに判断を任せようと思う」

ミカサ「……………」

リヴァイ「好きな方を選べ。男女混合で合宿をするか。中止にするか。中止にする場合は、練習時間が短くなるのは否めないが」

エルド「俺達3年は別にそれでも構わんが……2年と1年の気持ち次第だな」

ペトラ「そうね。今更別に同じ部屋で寝泊まりしても、問題ないし」

と、3年生は合宿続行でもいいという事だったが……。

マーガレット「うー…男女を別に分けないんですか。それはちょっと…」

スカーレット「いろいろ問題ありますよね」

ガーネット「困りましたね」

マリーナ「うーん、寝起きドッキリは勘弁してほしいです」

ミカサ「寝起きドッキリ?」

マリーナ「やられそうで怖いじゃないですか。ノーメイク見る気でしょう?」

アーロン「いや、それはさすがにしないが」

エレン「部屋の広さは一部屋どれくらいなんですか?」

リヴァイ「20畳くらいだったか? はっきりとは覚えてないが、畳の部屋だ」

ペトラ「リヴァイ先生を含めて16人ですね。ちょっと狭いかもしれないけど」

アーロン「この場合は仕方ないんじゃないんですか? オレは続行でも構いません」

エーレン「オレも異議なしです」

ミカサ「エレンは?」

エレン「オレ? うーん、まあ、男子は見られても別に困るようなもんねえし、女子の気持ち次第じゃねえの?」

女子のグループはお互いに顔を見合わせた。

ペトラ「大丈夫よ。襲われたりとかは絶対ないって。もし変なことしてきたら、返り討ちにする自信あるし」

オルオ「むしろ女子に襲われそうで怖いよな。ペトラ、くれぐれもやるなよ」

ペトラ「や、やらないわよ。やる訳ないでしょ!」

ペトラ先輩が汗を掻いている。何故?

ジャン「………」

ジャンだけはノーコメントを貫いている。はて?

ミカサ「ジャン?」

ジャン「あ、いや……エレンの言う通りだ。女子が嫌なら、諦めるしかないと思うぞ」

その顔が何故か緩んでいるように見える。もしかして女子と一緒に過ごせるのが嬉しいのだろうか。

ミカサ「ジャンのエッチ……」

ジャン「ごはああああ!」

思わずそう呟いてやるとジャンが地面に堕ちた。

ジャン「ご、誤解だ! 決して女子と一緒に過ごせることを喜んでいる訳ではなくて、その…! この場合は女子の判断に委ねるしかねえし、その……!」

ミカサ「冗談のつもりだったのに」

ジャンは真に受けてしまったようだ。すると、ジャンは胸を撫で下ろして、

ジャン「と、とにかくその……いつまでもここで立ってる訳にもいかねえし、方針を決めませんか」

ペトラ「男子は全員、続行OKね。女子の中に一人でも嫌な子がいたら、中止にするわ。それでいい?」

オルオ「構わんよ」

ペトラ「じゃあ女子は全員、こっちに集まって」

という訳で女子だけの話し合いが始まった。

ペトラ「皆、本当に申し訳ないんだけど……ここは私に免じて、お願い!」

ミカサ「ペトラ先輩……」

ペトラ「どうしても、合宿をやりたいの。リヴァイ先生との思い出を作りたいの。何なら金一封出してもいいわ。だから協力して!」

恋する乙女は盲目だ。こんな事態になっても、逆にチャンスだと捉えているようだ。

マーガレット「はー……夏コミの本、5冊奢ってくれます?」

スカーレット「じゃあ私はフィギュア1体奢って貰おうかな」

ガーネット「今度のイベントでペトラ先輩もコスプレ参加決定で」

ペトラ「はいはい、何でもやるわよ! マリーナ、ミカサ! どう?」

マリーナ「仕方ないです。これも縦社会だと思う事にします。あ、後でお菓子でも奢って下さいね」

ペトラ「ミカサは?!」

ミカサ「大丈夫です。信頼します」

ペトラ「じゃあ、合宿続行OKね? 本当にいいのね?!」

女子全員で頷くと、ペトラ先輩が手を大きく振り上げた。

ペトラ「合宿、やるわよ! スタートよ!」

その顔はとても晴れやかで、恋する乙女は可愛いと思えた。

ふう。初日からいきなりのハプニングだったけど、仕方がない。

という訳で私達は男女混合で同じ部屋を使うという、特殊な合宿をスタートさせたのだった。







コニー「お、お前ら来たな! わりーな、今回は」

荷物を部屋に運んでいたら、先に到着していたコニーが野球部のユニフォーム姿で声をかけてきた。

ジャン「あーそっちは甲子園出場決めたんだから、仕方ねえよ。仕方ねえ」

コニー「とか言っちゃって。本当は嬉しいんだろ? ジャン♪」

ジャン「う、嬉しいとかじゃねえよ。なあ、エレン」

エレン「え? ああ……まあな。寝るところ狭くなるしな」

コニー「えー…このハプニング、超楽しそうじゃん。そっちはいいよなー女子いるし。こっちはマネージャーのシャルルしかいねえんだぞ。しかもキュクロの恋人っぽいし」

ジャン「まじか……やっぱりエースとマネージャーは付き合うケース多いよな」

コニー「本人達は否定してるけどなー。ま、そんな訳で、こっちは花が一輪しかないわけよ。その点、そっちは女子とも交流あるし、恵まれてるだろ。だから今回は我慢してくれ」

ジャン「そのつもりだが……女子の方は親には内緒にしといた方がいいかもな。いろいろ言われそうだ」

ミカサ「う? そ、そういうものかしら」

リヴァイ「ああ、言うのを忘れていたが、親御さんには今回の件の詳細を伏せておけよ」

と、リヴァイ先生が低血圧っぽい表情で話に加わってきた。

リヴァイ「合宿の通達の時点では男女分かれて部屋を取る旨を伝えてあるしな。もし変更になった点を知られたら、絶対、中止にしろと言ってくる。でもお前らは合宿続行を望んだから、顧問としてはやらせてやる。くれぐれも、この件は外部には漏らすなよ」

コニー「え? でも、オレ達野球部がハウスに入ってるから、どのみちバレるんじゃ」

リヴァイ「最中にさえ、バレきゃいい。事後報告でごり押しする」

ジャン「えええ? リヴァイ先生、それ、結構やばくないっすか?!」

と、汗を浮かべるジャンに対してリヴァイ先生は言う。

リヴァイ「何か問題を起こされたら、困るがな。問題さえ起こさなければ大丈夫だ」

と、余裕の表情である。さすが元ヤンキーの頭。度胸が違う。

コニー「つっても、組み合わせ抽選会が8月5日にあるから、その前日の4日の早朝には野球部はここを出発するんだけどな」

ミカサ「では、全部の日程を男女一緒に過ごすわけではないのね」

コニー「そっちは5日までハウス使うんだろ? 4日の朝からは部屋空くし。ええっと、1、2、3日までか。たった3日間だろ。いいじゃん、そんくらい」

ジャン「いや、たった3日。されど、3日だ。問題起こしたらリヴァイ先生の首は飛ぶな」

リヴァイ「ああ。まあ、一応、部屋は真ん中で男女を区切らせて貰うけどな。境界線上に俺が寝る」

リヴァイ先生が間に寝るなら、その上を跨ごうとする奴はいないだろう。

リヴァイ「まあ首が飛んだら飛んだ時だ。その時考える。今は俺の事より、お前ら自身の事を考えろ。言ってなかったが、合宿を続行する場合は、3日目までは野球部との合同練習を予定しているからな」

ジャン「へ?」

エレン「は?」

ポカーンと間抜け面を浮かべた二人を放置して、リヴァイ先生は「さっさと着替えろ」と言い放つ。

リヴァイ「演劇も体育会系だって事を、この合宿で教えてやる」

その言葉は決して嘘ではなかった…。

という訳で、夏合宿編です。
普通は男女は分かれて部屋取るもんですが……。
その辺は話のご都合主義という事でご容赦ください(笑)。
では続きはまた。

乙です!ジャンの動揺っぷりに笑ったvv
キュクロも出てきてうれしい。

ペトラ必死やなw
まさかのvsニファに笑った
外伝キャラも出てきて世界が広がってるな

ペトラかわゆい
演劇はバスケとかよりはやや緩めの運動部だ。あれは。





まずはウォーミングアップ。ランニング。体操、ストレッチ。

ここまでは同じだった。ここからが野球部特有の練習メニューだった。

キャッチボール、シートノック、バッティング練習。この三つをまずやる。

今日は大会前だという事で軽めのメニューらしいが、それでもそれなりに大変だった。

特にシートノック(守備練習の事。選手が守備位置につき、ノッカーの打つボールを捕球し。各塁などへ送球を行ってチーム守備を訓練するもの)は最初、説明だけは理解出来ず、何度も送球先を間違えてしまった。

エレン「あれ? 投げるのどっちだ? (キョロキョロ)」

ジャン「1塁だ! 早く投げろ!」

ジャンがいちいちフォローしてれたから良かったけど、それがなかったら多分、もっと苦戦していただろう。

でも、何故今このタイミングで野球部の練習に混ざるのか。理解出来なかった。

バッティング練習の順番待ちの空き時間に私は思い切ってペトラ先輩に尋ねてみた。

ミカサ「あの……この練習には一体、何の意味が……」

ペトラ「えっとね。意味はないのよね」

ミカサ「意味がない?」

不思議な回答をされた。するとペトラ先輩は苦笑して続けた。

ペトラ「そう。毎年合宿の時は、他の運動部の練習に混ぜて貰うの。これ、うちの演劇部の伝統なのね」

ミカサ「でも、他の部に迷惑なのでは……」

ペトラ「でしょうね。でも先生達にはちゃんと了解取ってあるから大丈夫よ」

オルオ「意味がねえって事はねえけどな。ただ、意味があるものにするか否かは本人次第って話だろ」

ミカサ「???」

本人次第? ますます意味が分からない。

先輩達はそれ以上は説明せず、練習が続いた。

バッティング練習の時、ジャンが何度も打っていて、コニーに「お前、打つのセンスあんじゃん!」と驚かれていた。

コニー「何で野球部入ってないんだよ。うち入れよ!」

ジャン「はあ? 今更何言ってんだ。無理言うな」

コニー「いやいや、マジだって。途中加入大歓迎よ?」

ジャン「甲子園出場を決めたような部に途中から入る馬鹿がいるか」

コニー「え? キュクロは途中加入だけど? 何か?」

ジャン「はあ?! 嘘だろ? マジで?」

衝撃の事実! といった具合にジャンが驚いていた。

するとコニーはけろっと答えた。

コニー「まじまじ! あいつ入ってきたの、7月の予選大会始まる直前だったかなー? 何か、一人でボール投げてるところたまたま見かけてさ。オレ、声かけたんだよ。最初は野生動物かって思うくらい警戒心強くてさ。会話も成り立たなかったんだけど、次第に慣れて、うちにきたんだよ」

ジャン「へ、へええ……」

ジャンが微妙な顔をしている。あ、これは嫉妬している時のジャンの顔だ。

でもそんなジャンの内心には気づいてないようで、コニーはケラケラ続ける。

コニー「だからさ、別に途中から入っても全然問題ないんだって! 野球やれる奴なら大歓迎よ?」

ジャン「いや、だけどな、オレはもう、こっちに入ってるし。無理だって」

コニー「ちぇー…うち、打撃力がいまいちだから、打力ある奴が欲しいんだけどな」

スカウト失敗のようである。ジャンは微妙な顔を続けていた。

確かに客観的に見て、ジャンは野球に向いているように思う。

マルコとバッテリーは組めないけど、打者として活躍するという手もある。

本人も野球が好きなようだし、髪型の件さえクリア出来れば、野球部の方が彼には合ってるのかもしれない。

なので私は気になって、コニーに尋ねてみた。

ミカサ「コニー、そのキュクロ君の事だけど、彼が丸坊主ではないのは、何故?」

コニー「あー……」

するとコニーはちょっとだけ言いにくそうに言った。

コニー「一応、オレがバラした事は言うなよ? あいつ、実は体のあちこちに、傷があるんだ」

ミカサ「傷?」

コニー「そ。いろいろ事情が複雑みたいでさ。頭や額にも結構酷い傷跡があるんだ。丸坊主にしちまうと、それが目立つからって事で、ピクシス監督が気遣って免除してくれたんだよ」

ミカサ「では、彼だけ特別扱いという訳でないのね」

コニー「ん? ああ…実力があるから、って? そういう話じゃないな。本人は、丸坊主にしてもいいって言ってたけど、ピクシス監督がそういうのを晒すものじゃないってさ。ま、そういう事なんだ」

ミカサ「なるほど」

だったら仕方がない。

コニー「あーでもそっか。丸坊主が嫌で野球部を敬遠する奴は多いもんなー。オレは坊主好きなんだけどな」

ジャン「…………」

ジャンがそっぽ向いている。彼もその一人だからだ。

コニー「ジャン、お前もそうなんだろ?」

ジャン「コニー、お前サボってていいのか? レギュラーなんだろ? 他の奴らに示しがつかねえぞ」

コニー「おっと、脱線しすぎたか。わりーわりーまたな!」

と、コニーは自分の持ち場に帰って行った。

ミカサ「……………」

ジャン「ミカサ、気持ちは嬉しいが、この件はもうあんまり突っ込まないでくれ」

ミカサ「う、ご、ごめんなさい…」

ジャンが少しだけ怒っているようだ。しまった。首を突っ込み過ぎた。

本人が演劇部に在籍しているのに、未練を呼び起こすような事をしてしまった。

思わずしゅん、と反省していると、ジャンが私の頭をポンポンしてきた。

ジャン「オレはこっちの方がいいんだよ。ミカサがいるんだし」

ミカサ「え………?」

顔を見上げると、そこには困ったような、照れているような、ジャンの顔があった。

じっと、見つめられているのが分かる。え? え?

エレン「おい、そこ。サボってるんじゃねえぞ。終わったんなら、次のメニュー行くぞ」

と、その時、エレンが声をかけてきた。

ミカサ「あ、うん。今、行く」

ジャンが舌打ちしてたけど、私としては助かった。

今、ちょっとだけ、ジャンの様子が、その、変だった、ので。

…………。

その、なんていうか、甘い? 空気のようなものが、あった、ので。

……………。

気のせいだったのだろうか? 疑問に思いながら、次のメニューに移動する事にした。





ベースランニング、大縄跳び、タイヤ運びダッシュ、8の字走ダッシュ、踏み台昇降、そして綱上り。

特にラストの綱上りは最初は慣れなくてなかなか登れなかった。

コツを掴むまでに時間がかかってしまった。その後は、何とかなったけど……

一個一個のメニューの量は多くないけど、次々といろんな事をさせられるのは、ちょっとだけしんどかった。

ミカサ「ふぅ……」

いい汗を掻いた。3年の先輩達も汗を掻いている。メニューをこなした後も余裕の表情だが……

2年と1年は私とジャン以外は、バテているようで、エレンはかなりぐったりしていた。

エレン「くそ! お前ら平気なのか?」

ジャン「ああ? 平気じゃねえよ。顔に出すな馬鹿!」

エレン「出してねえし!」

何だ。この中で余裕があるのは私だけか。

リヴァイ「ほう……まだ余裕があるな」

ミカサ「はあ……」

普段、自分でまめに筋肉トレーニングをコツコツ行っているので、そのおかげだろう。

と言っても、本音は小休止をしたいのだが。

リヴァイ「1年は昼食の準備に入れ。2年、3年はこの後の声だしランニングに合流だ」

3年「はい!」

2年「は、はい…(ぐったり)」

カジカジ「た、助かった……」

マリーナ「初日からハードだったあ…」

キーヤン「あーきつかった」

エレン「………」

ミカサ「エレン、大丈夫?」

エレン「あ? だ、大丈夫だ」

顔色はあまり良くないように見える。

ジャン「あーでも、最近体なまってたから、丁度いいわ」

エレン「あ? 嘘つけ。お前もへばってただろうが」

ジャン「勘が戻れば、なんてことねーよ。おめーの方がへばってるだろ」

エレン「へばってねえし!」

ミカサ「二人とも、さっさと手を洗って欲しい。準備を手伝って」

次は調理をしないといけないのだ。時間が勿体ない。

メニューは大体決めてある。それに沿って作らないといけない。

ミカサ「初日はオムライスと、サラダとコンソメスープね」

ジャン「お、オムライスか」

ミカサ「まずは野菜を刻みましょう。人参と玉ねぎね」

体力の余っている私がリーダーになって昼食の下ごしらえを始めた。

カカカカカカカカ…

時間がないので本気を出す。この間のカレーライスの時のようにのんびりとは作っていられない。

ジャン「! は、早い…」

エレン「ジャン、ぼーっと突っ立ってないで、どけ! ミカサが動きづらいだろうが!」

ジャン「わ、悪い…!」

ジャンに構っている余裕はなかった。とにかく頭の中で素早く段取りを考えて指示を飛ばす。

ミカサ「手、空いてる人は卵を準備して!」

エレン「分かった。ボールに割ればいいんだな?!」

ミカサ「殻を入れないように注意して! 混ぜ方は軽めでいいから!」

エレン「了解した!」

マリーナ「サラダ準備終わったよ! ドレッシングある?」

キーヤン「買ってきてあるぞ。先にかけた方がいいか?」

ミカサ「待って! ドレッシングは各自でいい。それよりスープの方を取り分けて!」

わいわいガヤガヤ。

キッチンスタジアムと化したそこで、30分で準備を済ませた。

中途半端ですが、ここまで。続きはまた。

>>737
キュクロが投手やってるのと、
シャルルがマネージャーやってる図がぴったりと思ったのでw

>>738
リヴァイ先生はモテモテです。
リヴァイ先生自身は、恋愛に疎いんですけどね。
ちなみに夏合宿でペトラがリヴァイに惚れたエピソードを書く予定。

>>739
普段はゆるゆる、舞台当日が超体育会系。それが演劇。
そんな感じでしたが、もしかして主も演劇経験者かな?
多少、今とは違うかもしれないですが、
まあ私も青春時代はいろいろありました(遠い目)。

配膳を完了して皆が集合する。2年、3年生が「おお」と声をあげた。

オルオ「これは……」

エルド「当たり年だな」

一同「「「いただきまーす」」」

ガツガツ。皆で食べるご飯は美味しい。

オルオ先輩が………涙を流してる?! 

オルオ「美味い…」

エルド「ああ、美味い」

グンタ「美味い!」

オルオ先輩だけじゃない。3年の男子メンバーが全員泣いていた。

感動してくれている。ちょっと嬉しい。

ジャン「ああ、美味いな。このトロトロ加減が絶妙だ」

ミカサ「うっ……でもこれ、本当は手抜きなの。時間短縮の為に半熟にした」

今回のオムライスはチキンライスの上に半熟オムレツをのせて真ん中で包丁で線を入れて広げる方法で盛ったのだ。

この場合だと、半熟でいけるので、時間が大幅に短縮できるし流れ作業もやりやすい。

本来のオムライスの場合は卵を焼いてその上にチキンライスをのせて、フライパンの上でくるくる回して包むのだが、その方法だと、それが出来る人にしか焼けないので、時間がかかると思ったのだ。

オルオ「これが手抜きだって? 冗談だろ? ペトラに比べたら、雲泥の差だ。こいつが作った年はな……」

ペトラ「ちょっとオルオ! バラさないでよ馬鹿!」

エルド「砂糖と塩を間違えて入れて悲惨な食事になったもんな」

ペトラ「エルドやめてよー! (涙)」

食卓が一気に賑やかになった。皆笑いを堪えている。

エレン「ベタな間違いですね」

ペトラ「しょ、しょうがないじゃない! 1年の頃はまだ体力無くて、ふらふらな状態でご飯作ったんだもの! 間違えるわよ!」

リヴァイ「ああ、懐かしいな。アレは確かにしょっぱいおかずだった」

ペトラ「あああ…思い出さないで下さい先生ー!」

ペトラ先輩の顔がトマトくらいに赤くなっている。ちょっと可愛い。

私の隣の席のエルド先輩がこっそり、

エルド「でもな、そんなくそまずいおかずをリヴァイ先生は全部、残さず食べたんだ。残すのは勿体ないって言ってな。その男気に、ペトラはコロッと堕ちたんだよ」

と、教えてくれた。なるほど。そんなエピソードがあったのなら堕ちてしまうのも頷ける。

リヴァイ先生は見た目は怖いが、実は優しい側面も持っているようだ。

ペトラ「い、今は普通に作れますから! 大丈夫ですから!」

オルオ「本当か? 怪しいな。料理が苦手なのは変わらんだろ?」

ペトラ「う、うるさい! 人間、欠点のひとつくらいあるもんでしょ?」

オルオ「ふん……花嫁修業は早めにしておかないと貰い手がなくなるぞ」

ペトラ「酷い! それでも、も、貰ってくれる人はいるわよ、多分!」

ペトラ先輩がそう主張すると、

リヴァイ「ああ、大丈夫だろ。ペトラは」

ペトラ「!」

リヴァイ「ペトラは同じ失敗を何度も繰り返す馬鹿じゃない。違う失敗は繰り返すが、それを重ねていけば、それなりにうまくなっていくもんだ」

リヴァイ「失敗しない奴なんていない。問題はその後どうするか、だ」

ペトラ「は、はい……」

おお、なんかいいこと言っているような気がする。

エレン「リヴァイ先生も、失敗したことあるんですか?」

リヴァイ「ある。むしろ失敗だらけだ」

エレン「へー…そういうイメージは全然ないっすけど」

エレンが感心している。すると、

リヴァイ「まあそれでも、その都度、悔いのない選択をするしかない。失敗は、その為の物だ。そう思うようにしている」

と、答えてリヴァイ先生は食後の紅茶をついでいた。

不思議な持ち方をしながらそれを飲んで、

リヴァイ「一度、大きな失敗をすれば失敗を恐れるようになる。それは悪い事のように見えるが、お前らには必要な事だ。だから、失敗してもいい。その為に俺がいる」

と言ってくれた。おお、こそばゆいくらい格好いい。

ペトラ先輩を見ると……案の定、目がとろんと溶けていた。

リヴァイ「飯食ったら、昼寝するぞ。1時間休憩だ。その後はまた野球部と合流する」

一同「「「はい!」」」

と、いう訳で私達は素早く食事を済ませて午後休憩を挟んでその日の日程を終えたのだった。










部屋の真ん中に天井からカーテンを下すことになった。

これで便宜上、一応部屋を二つに分ける事が出来る。

ペトラ「ああ、嘆きの壁ならぬ、嘆きのカーテン…」

と、残念がっているのはペトラ先輩だった。

マーガレット「いや、むしろこっちの方がエロくないですか?」

ミカサ「そうですか?」

マーガレット「シルエット、見えるんだよ? 男子の。想像しない?」

ペトラ「!」

ペトラ先輩が復活した。現金なものである。

ペトラ「リヴァイ先生の着替えのシルエットが見えるかもしれない……確かに(ハアハア)」

オルオ「おい、音は丸聞こえだぞ。自重しろ、ペトラ(カーテンから顔出す)」

ペトラ「おっと、そうだった。ごめんね(てへぺろ☆)」

オルオ「全く……(顔戻す)」

と、言って顔を戻したオルオ先輩だった。

お風呂はじゃんけんで二つの班に分けた。

今、部屋に残っているのは、女子は私とマーガレット先輩とペトラ先輩。

男子はオルオ先輩とエルド先輩とジャンとエレンだった。

空いた時間、さて何をしよう。

宿題でもやっておくか。と、思ったら、

ペトラ「あーミカサは真面目ねえ。宿題持ってきたんだ」

ミカサ「一応。まだ全部は終わってないので」

ペトラ「どれどれ、お姉さんが教えてさしあげよう」

と、いう訳でペトラ先輩の講習が始まってしまった。

ペトラ「なつかし! 今、ここ習ってるんだ」

ミカサ「はい。分かりますか?」

ペトラ「んーとね。思い出すね。ちょっと待って」

と、ペトラ先輩はすらすら解いていった。おお、さすが先輩だ。

ペトラ「……は! しまった。私が解いちゃダメよね。勝手に問題解いてごめんね」

ミカサ「いえいえ。一問得しました。ペトラ先輩は、勉強が出来る方なんですね」

ペトラ「まあね。一応、教育学部系目指してるから。将来は教師になるのが目標よ」

マーガレット「物凄く分かりやすい動機ですね」

ペトラ「バレバレ? まあいいじゃない」

ミカサ「専攻は?」

ペトラ「一応、国語かな。一番得意だし。二人は進路決めてるの?」

マーガレット「いえいえ、まだまだそんな」

ミカサ「漠然としてます」

ペトラ「まあ、それもそうか。でも、決めるなら早くした方がいいわよ。もし大学行くなら、最低でも3年の始めには志望校を決めた方がいいから。早い子は2年の初めで決めるしね」

マーガレット「うぐっ……」

耳が痛い情報だ。

マーガレット「つまり、2年の周りは早い子は決めてる訳ですね」

ペトラ「うん。私も2年の2学期には設定したからね。この夏が終わる頃にはせめて学部だけでも考えてた方がいいよ」

マーガレット「現実が攻めてくる。ああ……」

と、落ち込むマーガレット先輩だった。

ミカサ「大学に行く人は多いんですか?」

ペトラ「んー半々かな。半分くらいが大学進学で、残り半分が就職・専門・家業の跡取りとか? かな。そのままフリーターになっちゃう子も毎年いるらしいけど」

ミカサ「なるほど」

ペトラ「うちは他の進学校に比べたら緩い方よ。課外も希望者だけだし。自由な校風な分、選択は早い方が有利よ。ずるずる勉強しないでいて、後で後悔しても遅いしね」

マーガレット「ああ、耳が痛いです」

いやいやする気持ちは分からなくもない。

ペトラ「分かんないところあったら教えるわよ。エルドも教えるのうまいしね。あいつ、学年首席だし」

マーガレット「あ、後でお願いしようかな……」

マーガレット先輩は遠い目をしている。これは絶対、後で頼まないパターンと見た。

ミカサ「そうですね。先輩たちがいると思うと心強い……ので」

ペトラ「うふふ。まあ、任せておきなさい。力になるわよ」

マリーナ「お風呂空きましたー」

と、お風呂に先に入ってた組が戻ってきた。

カーテンがしゃーっと開いた瞬間、風呂上がりの男子も見えた。

その先には、風呂上がりのリヴァイ先生も…。

ペトラ「ぐふうう……風呂上がり!」

リヴァイ「?」

リヴァイ先生はきょとんとしていた。当然だろう。

ミカサ「先輩、いきましょう」

ペトラ「ああ……」

ペトラ先輩を引きずって風呂へ連れていく。リヴァイ先生(風呂上がり)を見つめていては先に進まない。

名残惜しそうな先輩を運んで風呂に入る私達だった。

とりあえず、ここまで。続きはまた。






風呂に上がって、布団を用意して、すぐ寝た。

皆疲れていたのか、寝入るのは早かった。

しかし……。

ミカサ「………」

一度寝て、途中で起こされてしまった。何故なら、一人だけ凄まじいイビキが聞こえてきたからだ。

研修旅行の時も、多少の寝言やイビキはあったがここまで酷いのは初めて経験する。

だ、誰がイビキをしているのだろうか…。

ペトラ「ううう……オルオの奴、またなのぉ?」

と寝ぼけ眼でペトラ先輩も起こされたようだ。

ペトラ「ちょっと叩き起こしてくる」

と言って、カーテンを開けて、オルオ先輩の頭を叩いたペトラ先輩だった。

オルオ「んはぁ?!」

ペトラ「あんた、イビキうるさすぎ。どうにか出来ないの?! (小声)」

オルオ「む、無茶言うなよ……無自覚に起きている事をどうにか出来るか! (小声)」

ペトラ「でも、他の子も起きちゃったのよ。ほら、ミカサ(小声)」

ミカサ「すみません。起きてしまいました(小声)」

オルオ「うーん、すまん。しかしどうしたらいいのか(小声)」

ペトラ「寝るな。徹夜しなさい(小声)」

オルオ「それこそ無茶だろう! (小声)」

ひそひそ他の人を起こさないように注意しながら会話する。

リヴァイ先生も寝ている。こちらは何故か壁際にもたれ掛かって座ったまま寝ているが…。

ペトラ「………うふっ♪ (ごそごそ)」

オルオ「こら、スマホを取り出すなペトラ。写すんじゃない(小声)」

ペトラ「一枚だけ! 一枚だけ! (小声)」

バレたら後で怒られそうな気がするが…。

すると、

リヴァイ「ん? 誰だ。カーテンを開けた奴は(目パチパチ)」

ペトラ「う、すみません……オルオのイビキがうるさくて、つい」

リヴァイ先生を起こしてしまったようだ。

まあ、これだけひそひそ人の気配がしたら起きるだろう。

リヴァイ「そうか………オルオ、仰向けで寝ないで横向きで寝てみろ」

オルオ「横向きですか」

リヴァイ「とりあえず、それで改善される場合もある。それでも治らない場合は病院に行った方がいいぞ。無呼吸症候群かもしれん」

オルオ「わ、分かりました…」

という訳で横向きで寝たオルオ先輩だった。

……………。

今度は大丈夫のようだ。静かな寝息が聞こえる。

ペトラ先輩は女子側に戻ってきた後、にやにやしていた。

ペトラ「見て見て。無音で撮っちゃった♪(小声)」

ミカサ「…………これって盗撮みたいなものですよね。大丈夫なんですか? (小声)」

ペトラ「内緒にしててね。宝物にしたいの(小声)」

ミカサ「いえ、それは別に構いませんが…(小声)」

良い子の皆さんは真似しないようにして頂きたい。これは悪い例だから。

恋する乙女はいろいろと綱渡りをするようだ。

その危ない情熱がこれ以上、暴走しない事を祈るばかりである。

そんな訳で翌日の朝。昨日の疲れは少し残したままだが体を起こす。

どうやら私が一番最初……と、思いきや、私より早く起きた人がいたようだ。

リヴァイ先生である。

歯磨きをしているところを、洗面所で遭遇してしまった。

ミカサ「おはようございます」

リヴァイ「ん」

凄く丁寧に磨いているようだ。もしや綺麗好きなのか?

ミカサ「…………」

洗面所を譲って貰って顔を洗わせて貰う。顔を洗い終わっても、まだしゃこしゃこしていた。

ミカサ「すごく念入りに磨かれるんですね」

リヴァイ「ん」

そしてようやく口を漱いでリヴァイ先生は言った。

リヴァイ「朝は口の中が一番気持ち悪いからな。一番嫌な時間だ」

と、もう一回、歯磨き粉を取り出して歯磨きアゲインである。

スゴイ。朝から2回も歯磨きするのか。

まあ、それは人それぞれだからいいけど…。

私も歯磨きをする。しゃこしゃこ。特に会話らしい会話もない。当然だが。

お互いに歯磨きを終えて……。

どうしよう。何か会話をした方がいいかしら?

でも、こっちから話題を触れる程、器用でもないので困ってしまう。すると、

リヴァイ「おい、ミカサ」

ミカサ「何でしょう?」

リヴァイ「昨日のオムライス、美味かったぞ。一年にしては上出来だ」

ミカサ「!」

驚いた。まさか今頃感想を言われるとは。

リヴァイ「料理の出来栄えでその年の新人の体力を推し量れる。今年の一年の中ではお前が一番、体力があるようだな」

ミカサ「そ、そうでしょうか」

リヴァイ「ああ。悪くない。ただ、強いて言うならもっと手抜きをしても構わん。オムライスも、半熟ではなく薄焼き卵をフライパンで焼いたものをのせたものでも十分だった」

ミカサ「! そ、それは手抜きにも程が…」

リヴァイ「それでも十分、皆、美味いと言って食っていただろう。裏方仕事は長丁場だ。抜くべきところで力を抜かないと後が持たないぞ」

ミカサ「…………」

リヴァイ「なまじ体力があると自覚のないまま体を酷使する事があるからな。ペース配分も勉強のうちだ。疲労には十分注意しろよ」

と、言ってリヴァイ先生が洗面所を離れていった。

確かに今日はいつもより体がだるいけど、まさか疲労が残っている事を悟られるとは思わなかった。

エレン「うー……体だりぃ……」

と、洗面所にやってきたのはエレンだ。

エレン「ん? ミカサ起きてたのか。おはよー」

ミカサ「おはよう。エレン、私、そんなに疲れて見える?」

エレン「んー? いや、そこまでは。普段とそんなに変わらんが」

ミカサ「そうよね」

極端に具合が悪い場合はさすがに周りに悟られるが、今日くらいなら、気づく方が変なのだ。

リヴァイ先生は油断ならない先生である。神経質なのにも程がある。

エレン「んー……あ、でもちょっと髪が跳ねてるな。軽く寝癖ついてんぞ」

ミカサ「……エレンの方が酷い」

エレン「だろうな! あーもう、なんか知らんが、疲れてると髪がぐちゃぐちゃになりやすいよなー」

ミカサ「そうなの?」

エレン「オレはそうだな。艶がなくなるんじゃねえの? 多分」

まさか、そういう部分を見てリヴァイ先生は私の疲れを見抜いたのだろうか。恐ろしい先生だ。

ジャン「うー……おはよー」

ジャンも起きてきた。ジャンの髪型は……エレンよりは酷くない。

ミカサ「ジャン、疲れてる?」

ジャン「ん? ああ……そりゃちょっとは疲れてるさ。でもあんくらいのメニューで疲れたなんて言ってられないだろ。多分、今日はもっと増えるぞ」

エレン「げっ……そうなのか?」

ジャン「オレが野球してた時はそうだった。同じメニューの量を徐々に増やしたりしてたな。つか昨日のアレは、野球部の正規のメニューの半分だったし、手加減して貰っていたんだぞ。多分」

エレン「くっ……アレで手加減したメニューだったのか」

ジャン「オレ達はあくまでお客さん扱いだよ。体験入部に近い感じだ。ま、野球の経験が全くない奴にやらせるメニューとしては妥当だけどな」

エレン「………でも、何でそんなもんをオレ達にやらせるんだろうな?」

ジャン「さあな。基礎体力つけるだけなら、別に野球部のメニューでなくともランニングで十分だし……別の狙いがあるんだろうけど、オレには分からん」

と、考える事を放棄したジャンだった。

そんな訳で野球部の合同練習2日目である。

この日は実際の試合形式での練習を主に参加させて貰った。

レギュラー以外の、所謂2軍と呼ばれるメンバーとの試合である。

メンバーは演劇部の部員と野球部員の混ぜこぜで紅白戦である。

野球部のレギュラーはまた別の練習メニューをこなしていた。

その中にはコニーとフランツ、キュクロ投手の姿もあった。

普段の元気のいいコニーの姿はそこにはなかった。きつそうだ。汗だくだくである。

でも、必死に頑張っている姿は格好いいと思った。

試合結果は一試合目は2-3で私のいるチームが勝った。二試合目は3-1で負けてしまった。

試合中、私は8打席中、計4本のヒットを打つことが出来た。

女子に打たれて相手投手はショックだったようだけど…。

どうやら私は筋がいいらしい。ジャンにも大げさに褒められた。

エレンは何故かバントを当てるのがうまくてジャンにびっくりされていた。

エレンはバント職人の才能があるようだ。と、いうのはジャンの談。

その分、ヒットが打てなくてがっくりしていたのでちょっと可哀想だった。

そんな訳で2日目の野球部との合同練習は夕方には終わった。

今日の夕飯はシチューを予定している。まずはじゃがいもの芽と皮を剥かないと…。

ああでも、時間はあまりない。ちんたら作ってはいられない。

エレン「なあ、じゃがいもの芽だけむいて皮は剥かないで、そのままぶちこんだらダメか?」

ミカサ「食べられなくはないけど……美味しくはないと思う」

エレン「でも皮ついてた方が栄養はあるって父さんが前に言ってたぞ」

ミカサ「そんな事言い出したら皮を剥く意味がなくなる」

美味しくないから外すのだ。料理とはそういうものだ。

ミカサ「うー、どうしたらいいかしら」

迷っている時間が勿体ないような気もする。この中でまともに野菜の皮を剥けるのは私とエレンとマリーナだ。

ジャン達は手際がいいとは言えない。ピューラーがここにあれば良かったが、家から持参すればよかった。

ミカサ「……順番を逆転させましょう。じゃがいもは皮つきのまま茹でて、粗熱を取ってから皮むき。これならジャン達でも出来る」

正規の作り方ではないが、じゃがいもを最後に鍋に入れる方法でやろう。

とりあえず、そのやり方でシチューを完成させた。味はまずまず。3年の先輩達にも好評だった。

リヴァイ「美味いな」

今回はその場で感想を言ってくれた。

リヴァイ「……しかし、時間がギリギリだったな。完成するのに」

ミカサ「うっ……」

それは分かっていた。でも、ギリギリいけると判断したのは私だ。

オルオ「ギリギリまで頑張ってくれたんだな。有難いな」

エルド「ああ、これならすぐにでも嫁に行けるぞ」

ペトラ(じろり)

エルド「おっと、口が滑った」

と、笑いが起きた。しかしリヴァイ先生の顔は「美味い」と言いながらも微妙な顔をしている。

嘘をついている訳ではなさそうだが……。

何が気に入らなかったんだろう。気になる。

エレン「オレは皮つきのままぶち込んで煮たら早いかなと思ったんですけどね」

リヴァイ「(ぴく)ほう、そういう案も出したのか、エレン」

エレン「手抜きっすけどねー。でもミカサに止められたんで。ま、こっちの方が美味いんで、ミカサの判断の方が良かったって事っすかね」

リヴァイ「…………」

な、なんだろう。意味深な沈黙が怖い。

美味しい料理を作ったはずなのに、まるで責められている気分だ。

リヴァイ先生は私の「何か」を気に入らないのか、美味いと言いながらも眉を寄せている。

そんな風に気になる態度を取られつつ、合宿3日目。

この日はなんと、夕飯の支度をする時間が殆どない時間まで練習をさせられた。

慌ててハウスに戻ったものの、夕食の予定時刻まで残り15分しかない。

15分でどうやって、まともな料理をしろというのか。

16人分の食事を15分で作るなんてやった事がない。どうしよう。

頭の中が真っ白になりかけてたその時、エレンが「15分か~じゃあ、出来る事は限られるな」と呑気に言っていた。

エレン「とりあえず、手洗おうぜ。んで、今日のメニューは豚汁かあ。野菜切ってる暇はねえな。豚肉と小葱だけ入れて出しておこうぜ」

ミカサ「そ、それでは豚汁とは言えない!」

あまりの手抜き感にびっくりして抗議するとエレンに逆に驚かれた。

エレン「ええ? でも里芋とか人参切ってる時間はねえぞ? 豚汁は豚肉入ってりゃ豚汁だろ?」

ミカサ「そ、そうかしら…」

エレン「ほらほら、急がねえと小葱入れる時間もなくなるぞ~」

という訳でエレンの案で豚汁を作って出したら……

案の定、3年生に文句を言われてしまった。

オルオ「なんだこの豚汁……本当に豚肉しかねえのか」

エレン「小葱も一応ありますよ?」

オルオ「こんな豚汁は初めて食べるぞ…………」

と、恐る恐る食べて貰ったけど…。

オルオ「………案外、食べられるな」

エルド「ああ、まあ、まずくはない」

グンタ「でも、昨日のとかに比べると見劣りするな」

オルオ「ああ、まあそうだが……食えない事はねえな」

と、微妙な反応だった。

しくしくしく。もう、あと10分あれば、完璧な豚汁を出せたのに。

酷い。こんな仕打ちは初めての経験である。

しかしリヴァイ先生はさっきからニヤニヤしている。意地の悪い顔だ。

リヴァイ「なるほど。大体分かった」

オルオ「え? 何がですか?」

リヴァイ「いや、こっちの話だ。気にするな」

エルド「そう言われると気になりますよ。先生」

リヴァイ「ふん……まあ、別にネタばらしをしてやってもいいが」

と、前置きしてからリヴァイ先生は言った。

リヴァイ「作品を作り上げる時に一番大事な事は何だ?」

オルオ「え?」

リヴァイ「オルオ、答えてみろ」

オルオ「ええっと、作品に自分の名前や作品名を書き忘れないようにする事…ですかね」

リヴァイ「惜しい。それも含む。もっと大枠で言うなら『規定を守る事』だ」

と、リヴァイ先生のお話が始まってしまった。

リヴァイ「演劇という作品もそれに当てはまる。この場合は「時間」だな。演劇という作品は限られた「時間」の中でしか発表できない。それをオーバーしたらよほどの事がない限り即失格になる」

リヴァイ「だから時間の使い方が重要になってくる。劇中では想定外の事が多々起こる。そのせいで遅れが生じたり逆に時間が余り過ぎたりする。そういう「予定外」の事が起きた時、どう動くのか。それが問われる」

一同「……………」

リヴァイ「一年の事はまだ、あまり良く知らないんでな。手荒い方法なのは悪かったが、人間性を見てみたくて試させて貰った。「料理」というのはそいつの人となりを見るのに一番、手っ取り早いからな」

ミカサ「では、15分しか調理時間がなかったのも、そのせいですか」

リヴァイ「その通りだ。15分で16人分のおかずを作るのはかなりの発想の機転をきかせないと無理だ。そういう意味では、一番逆境に強いのはエレンのようだな」

エレン「え? オレっすか?」

リヴァイ「ああ。こっちは予定時間をオーバーするだろうと思って待っていた。そのオーバーする時間がどの程度になるのか、それを見るつもりだったのに、規定内におさめてきやがった。料理そのものは、大した事なくても、一応完成させて場に出す方が難しい。そういう意味では、エレンはなかなか優秀だ」

エレンは急に褒められてびっくりしている。目をパチパチさせて。

エレン「え、でも…こんなの、誰だって作れると思いますよ? 多分、ペトラ先輩でも」

ペトラ「エレン? それはどういう意味かしら? (ゴゴゴ)」

エレン「いや、そうじゃなくて、ええっと、オレは大した事はしてないって意味ですよ。それよりミカサの方が料理について詳しいし、指示も的確だったし…」

と、エレンは私の方を持ち上げてくれるが、

リヴァイ「確かに。味で言えばミカサの料理が上だ。しかしもし3日目の夕食をミカサに任せていたら、断言しよう。予定時刻には間に合わなかった」

ミカサ「うっ……」

確かに。私はあの時、即座に対応が出来なかった。私のやり方では到底間に合わなかっただろう。

リヴァイ「これが演劇の場合、どんなにミカサの演技がうまくても、点数的にはエレンの方が上になる。それがルールだ。規定とはそういうものだ」

ミカサ「…………」

リヴァイ「エレンは里芋と人参を捨てた代わりに野菜の中で小葱だけは最低限入れた。豚汁の中で人参と里芋を捨てるのは、なかなか普通の神経じゃねえ。ある意味、異常だ。料理人としてはな。だが、時としてそれが必要な場面は多々ある。そういう場合、それをやれるか否か。そこが難しい問題なんだ」

と、リヴァイ先生は言った。

エレンの豚汁を飲みながら、続けて、

リヴァイ「誤解のないように言っておくが、これはエレンが正しいとか、ミカサが間違っているとかそういう次元の話じゃない。単にタイプの話をしている。エレンのような判断が必要な時もあれば、ミカサのようにギリギリまで粘るのが必要な場面だってある。人生はケースバイケースだからな」

と言った。何だか小難しい話になっている気がするが、大事な話だと思うので真剣に聞いておく。

リヴァイ「野球部の練習に混ぜて貰ったのも、慣れない環境下でどこまで出来るのか。お前らの適応力を見てみたかったからだ。演技力とは、そういう部分に直結するからな」

ジャン「ああ、なるほど。通りで……」

ジャンが思わず呟いた。謎が解けたといった顔だ。

リヴァイ「この3日間で1年の大体のところは分かった。明日からはそれを踏まえて実践的な練習に入る。ペトラの脚本が尺オーバー気味だという話も聞いてるし、裏方の動きも含めて削れる部分はもう少し削っていくぞ。いいな」

一同「「「はい!」」」

という訳で、リヴァイ先生のお話も終わり、私達は簡素な夕食を終えたのだった。

ミカサ「…………」

リヴァイ先生がすっかり顧問らしくて驚いた。

たまにしか演劇部の方に顔を出してなかったのに、ちゃんと指導をしてくれるとは。

そして今回の件で自分の悪い部分を目の当たりにして凹んでしまった。

確かに私は、エレンに比べると応用力がないのかもしれない。

エレン「ミカサ、何凹んでんだ?」

部屋の隅っこでしょんぼりしている私にエレンは声をかけてきた。

エレン「さっきの事、気にしてんのか? リヴァイ先生も言ってただろ? 単にタイプの話だって。それを見る為にわざとしたんだって」

ミカサ「そうだけど………」

何だろう。もやもやするのだ。このもやもやをどうしたらいいのか。

ミカサはもやもやしてますが、もやもやしたまま続きます。ではまた。

全員「ごちそうさまでした。」

合宿中、ミカサはプロ野球を観戦してテレビで見ている。
ミカサはエレンが楽天ファンの為、ミカサは楽天好き。エレンは嶋だが、ミカサは銀次のようだ。

3年B組リヴァイ先生!

コメントいっぱいきててびっくりした。皆ありがとう。
そして残念ながらリヴァイ先生は3年1組担任です。
B組にしておけば良かったかな(笑)。

今まで諸事情で途中で書く時間が取れなかったんで、いろいろ爆発しとる。
ので、出来るだけ書いていきます。
ただあんまり続けて書くとガチで手首痛くなるので、たまに休憩はさむ時もあると思います。
その時は「あー手首痛いんだな」と思っててくだしあ。

ミカサ「私は、出来なかった……ので」

エレン「ん? 何がだよ」

ミカサ「思うように出来なかったので、悔しい」

もっと時間があれば。もっと完璧な豚汁が作れたのに。

それが凄くストレスになっていた。そのせいでもやもやする。

すると、エレンは「何当たり前の事言ってんだ」と言い返してきた。

エレン「そんなの、皆そうだろ? でも、いろんな条件が重なって万全なとこまで出来ねえなんて良くある事じゃねえか」

ミカサ「そうだけど……」

凹む。ああ、こんな面倒な感情、嫌だ。

エレン「ミカサは出来る事の方が多いから、出来ねえ時の凹み方が激しいんかな」

ミカサ「え?」

エレン「まあオレも人の事は言えねえけどな。出来ないと落ち込む気持ちは分かるけど……」

ミカサ「…………」

エレン「オレとしては、そんな風に落ち込んでいるミカサを見ていると……」

ミカサ「見ていると?」

エレン「凸ピンしたくなる(ピシ!)」

ぴしっ!

ミカサ「いた! 酷い、エレン……」

エレン「リヴァイ先生も言ってただろ? 失敗はしてもいいって。今回の失敗を次に生かせばいいんだよ」

ミカサ「では、どう対応すれば……」

エレン「んー……一番理想なのは、手抜きをして美味い料理を作ることじゃねえの?」

そんな無茶な。

ミカサ「エレン、料理はひと手間かけるから美味しいのであって、反比例する事を同時には無理」

エレン「そこをどうにかするんだよ! ほら、発想を逆転させろ!」

逆転シリーズの名言だ。うう、そんな事を言われても…。

ミカサ「では、美味しくて手抜きの料理を作るという事?」

エレン「そうなるな。手抜くって事は、工程を一個省く事だから、使う材料を減らしたり、自分じゃなくても出来る事は誰かに仕事を回したり、すればいいんじゃねえの?」

ミカサ「でもそれで美味しくするにはどうしたらいいのか」

考えがループする。エレンのいう事をすれば、大抵味のクオリティを捨てる事になるのだ。

うーん。考えがまとまらない。

結局、その日の夜は頭の中でうんうん唸りながら眠ることになってしまった。








そして合宿4日目。その日は体育館のステージでの通し練習になった。

音楽室での通し稽古とはまた違った本格的な練習だった。

今回は実際に、出来上がっている背景セットを大道具が運んだり、照明、音楽も合わせたりする。

その様子をリヴァイ先生、オルオ先輩、ペトラ先輩の三名が中心になって見ながら、調整を行っていった。

リヴァイ「動線を考えた時、背景セットは上手と下手、どっち側から運んだ方が入れやすく感じる?」

ミカサ「どっちでもいいですけど」

リヴァイ「………マーガレット、お前はどっちだ」

マーガレット「そうですね。入れるのは上手からの方がやりやすいかもです」

リヴァイ「しかし次のセットの関係で下手には置けないんだったな。だったらそこを調整するぞ」

リヴァイ先生は頻繁に「動線」という言葉を使った。

基本的には入れ方、出し方は一方通行で、上手から入れたら下手、下手から入れたら上手に出すのが基本らしい。

その方が動きの流れが良いというのもあるが、舞台裏の面積には限りがある。

当然、下手、または上手側に背景セットや道具を偏らせたらどうなるか。

そう、役者さん達の動きが制限されてしまうのだ。

勿論、脚本によっては例外もある。ただ例外はあくまでどうしても止むおえない時だけであり、裏方は極力、役者さんを危険な目に遭わせないように配慮して動いていかないといけないそうだ。

リヴァイ先生は脚本の内容よりも先に裏方の動き方の無駄を徹底的にあらって、どんどん削いでいった。

役者のように台詞はないけど、大道具もある意味では影の「役者」と言えるだろう。

こんな風に細かく計画を立てて動きを決めるとは当初は思わなかった。

書き込みがどんどん増えていく。メモ書きが凄まじいことになっていった。

リヴァイ「……目立つ粗はこんなもんか。あと、ひとついいか、ペトラ」

ペトラ「はい」

リヴァイ「ラストシーンを尺を巻く為に調整したそうだが……お前、本当にそれで納得しているのか?」

ペトラ「うぐっ!」

ああ、ペトラ先輩が微妙な顔をしている。

リヴァイ「……その顔は、納得してないな」

ペトラ「で、でも仕方ないです。尺オーバーは厳禁だし、リハの段階で既に尺がギリギリですし…」

リヴァイ「ペトラ。手を抜く部分を間違えるな。ラストシーンは、劇の肝と言ってもいい。そこがコケたら、劇全体がダメになるぞ」

ペトラ「ううう……では一体どうしたら……」

リヴァイ「役者を集めろ。特にジャンの意見が必要だ。おい、ジャン! こっちにこい!」

休憩中だった役者達を集めて会議が始まった。

リヴァイ「実際演じているジャンに問う。お前、演じてみてどこか違和感を覚える個所はなかったか?」

ジャン「違和感っすか?」

リヴァイ「そうだ。お前自身の心に問う。感覚的なものでいい。断片的にでも、構わん。何かないか」

ジャン「んーそうっすねえ」

と、ジャンは水分補給をしながら考えたようだ。

ジャン「なんていうか、立体機動装置の研究を通じて仲が良くなるのは分かるんですが、その後の展開が急すぎる感じもしますね」

リヴァイ「ほう? というと?」

ジャン「この相手役の彼、最初は女性が苦手という設定だったじゃないですか。なのにレナを意識し始めてから割と、それが大丈夫になっているというか……そんなに急に変わるもんかな? っていうのはありましたね」

ジャン「むしろ、相手の事を好きになればなるだけ……その、普通はうまく出来ないもんじゃないっすかね? 女性が苦手だったのなら、なおさら」

リヴァイ「なるほど。俺は恋愛感情が良く分からんが、そういうもんか」

ジャン「そうっすね。そういう「躊躇」や「葛藤」するシーンが少ないかな? とは思いましたね」

ペトラ「ああ……そっか、冷静に考えればその通りよね」

と、ペトラ先輩が項垂れてしまった。

ペトラ「ごめんなさい。無意識に自分の願望もぶちこんでたのかも。リアリティを置いてけぼりにしていたわ」

リヴァイ「いや、願望や理想をぶち込むのは構わん。劇とはそういうもんだ」

と、リヴァイ先生がフォローする。

リヴァイ「劇はリアルにすればいいってもんでもない。観客は劇の中に「理想」を見るんだから、理想は入れるべきだ。ただ、その理想がかけ離れ過ぎていると、感情移入もしづらくなる。そのさじ加減が難しい。その為には役者側の意見も必要なんだ」

エレン「つまり、リアルと理想の割合を丁度いい感じにしないといけないって事ですか?」

リヴァイ「まあそうだ。何でもさじ加減次第だ。塩も砂糖も入れすぎるとまずくなる」

と、リヴァイ先生は料理に例えながら、

リヴァイ「そういう意味ではラストシーンはほんの少し、砂糖が少なく感じたんだが……減らし過ぎたんじゃないのか?」

ペトラ「……かもしれないですね」

リヴァイ「ジャン、お前ならどうする? この味付けを、最後どうしたい?」

ジャン「え? オレが決めるんですか?」

リヴァイ「エレンでも構わん。二人で少し話し合え。ここがこの劇のターニングポイントだ」

エレンとジャンは顔を見合わせて、そして「分かりました」と答えて皆から離れていった。

リヴァイ「ラストシーンで、二人のキャラクターの核の部分が決まるだろう。それが決まり次第、脚本をもう一度見直して、直すべき部分は変更するぞ。そうすれば尺オーバーも防げるはずだ」

ペトラ「分かりました。調整します」

一生懸命、折角書いた脚本を変えるというのはどんな気持ちなんだろう。

私ならきっと耐えられない。無理だ。それなのにペトラ先輩は笑顔で答えている。

強いな、と思った。ペトラ先輩は本当に、凄い。

ミカサ「ペトラ先輩…」

ペトラ「ん? 何?」

ミカサ「その、お疲れ様です」

他に声をかける言葉が思い浮かばず、そう言ってしまった。すると、

ペトラ「あはは! ミカサもお疲れ様! 大道具、初めてだからいろいろ慣れないでしょ?」

ミカサ「いえ…こういうのは、割と得意なので」

ペトラ「みたいだね。でも、無理して荷物を一気に抱えたりしたらダメよ。腰を痛めるから」

ミカサ「腰、ですか」

ペトラ「そうそう。オルオも昔、頑張り過ぎて腰の筋膜剥離やっちゃった経験あるからねー」

ミカサ「そ、そうですか…」

ペトラ「えっとね、コツはね。一度体を全部、落とす事。中腰は絶対ダメよ。こう、すっとしゃがんで、下から持ち上げるの。これを癖つけといてね」

ミカサ「分かりました」

肝に銘じておこう。怪我をしたら元も子もない。

ミカサ「あの……大丈夫ですか?」

ペトラ「え? 何が?」

ミカサ「その、いろいろあって、脚本がだんだん、原型からかなり変わってしまっている……ので」

ペトラ「え? ああ……凹まないかって? そりゃ、全く凹まないって言うのは嘘だけど、でも、それが宿命みたいなものだから」

ミカサ「宿命、ですか」

ペトラ「そ。別に劇に限った話じゃないわよ。原型が変わっていくなんて、良くある事よ。むしろそれがない方が怖いわ」

ミカサ「…………」

それがない方が怖い、とはどういう意味だろうか。

ペトラ「変化することを恐れてたら成長しないって事よ。勿論、それが悪い方に転がる場合もたまにあるけど、でも、自分の作品が皆の力で化学変化を起こして、更に進化するのって、楽しいじゃない」

ミカサ「化学変化、ですか」

ペトラ「そうよ。実際に演じるのは役者なんだし、脚本家や演出家が専制君主になる劇ほど、つまらないものはないわ。作品は作り手と受け手が合わさって初めて完成するの。だから、いいのよ」

ペトラ先輩を眩しく感じた。私はそこまで気持ちを割り切れないからだ。

料理に関してもそうだ。自分の思うように作れなかった事に対してもやもやが残ったままだ。

ペトラ「それにリヴァイ先生は「ああしろ」「こうしろ」って自分の演出の意見を押し付ける訳じゃないし、とてもやりやすいわ。私が中学の頃の顧問の先生は、もー酷かったわよ。何でもかんでも全部自分で決めちゃうんだもの」

ミカサ「それはやりにくいですか?」

ペトラ「え? やりにくくない? 命令されるの。高圧的なのは苦手よ、私」

ミカサ「私は……決められたものを忠実にやる方が、やりやすいです」

例えばレシピがここにあったとしよう。

そこに書かれているやり方を忠実にこなす方が気持ち的には楽なのだ。

ペトラ「む? そ、そういうもん? んーこれもタイプの話かなあ」

と、ペトラ先輩は唸る。

ミカサ「そうかもしれません。だからその……応用力がないのかもしれないですが」

ペトラ「ん? もしかして昨日の夕食の事、まだ気にしているの?」

ミカサ「…………」

素直に頷くと、ペトラ先輩に「うぬぬ…」と顰め面をされた。

ペトラ「私から言わせればなんて贅沢な悩みとしか言えないけど……そうね。永遠の命題よね」

と、ペトラ先輩は言ってくれた。

ペトラ「私もね、本当は「ああこのシーンを入れたかった!」とか「ここは削りたくない」と思いながら泣く泣く原稿を削いでいったわ。削いでも削いでも、それでもまたオーバーするんだから、本当、下手くそよねー」

ミカサ「そ、そんな事はないです」

ペトラ「いいのよ。でもそうやって、やりながら考えて経験していくうちに慣れていくしかないんじゃないかな? ミカサも、あんまり思いつめないで、周りにもっと甘えなさいよ」

周りに、甘える。それが一番難しいのだが。

ペトラ「ん? やっと決まったのかな。エレン達が戻ってきた」

視線を動かすとエレン達が戻ってきた。

エレン「あー……提案したことが出てきたんですが」

ペトラ「聞かせて」

エレン「思い切って、タイ王子をもっと、ヘタレにしたらどうっすかね?」

ペトラ「ヘタレ? どういう事?」

ジャン「その……キスはしたくて堪らないけど、王子は勇気が出なくて結局出来ない。っていう感じの方が自然かと思いまして」

エレン「オレもその意見には賛成です。キスシーンは入れなくても、それで十分いけるんじゃないかと」

ペトラ「ヘタレ王子ね。うん、とりあえず、それをやってみましょうか」

そんな訳でまたラストシーンが微妙に変更になったようだ。

ペトラ「どうですか? リヴァイ先生」

リヴァイ「さっきよりはいいな。大分良くなった」

と、リヴァイ先生から合格が出た。

リヴァイ「王子の方の性格をヘタレを軸に考えるなら……この辺りのシーンもカット出来るな」

と、矛盾する場面をどんどん削いでいく。

リヴァイ「どうだ? ペトラ。一度この流れでやってみるぞ。違和感があったら止めろ」

ペトラ「分かりました」

という訳で、ラストシーンのちょっと前から実演する。

すると、ペトラ先輩は「ううーん」と首を傾げた。

ペトラ「難しいわ。これでいいのかしら? マーガレット! 萌えを感じる?」

マーガレット「萌えの観点で言えば、男同士の方が萌えますが何か?」

ペトラ「そこは置いといて! さすがにBLを劇でやるのはまずいわよ!」

ミカサ「BL? 何の話ですか?」

マーガレット「ググったら分かるよ」

マーガレット先輩がにやにやしている。何だか嫌な予感がするのでやめておこう。

リヴァイ「BLは規定違反になるんだったか?」

ペトラ「え?! いや……どうでしたっけ? いや、厳密にいえばダメではないかもしれませんが、さすがにBLを劇でやってるところは見た事ないですけど」

リヴァイ「前例がないならそれも有りかもしれんな。ヒロインの性別を変えるって手もあるぞ」

ペトラ「えええええ?! ちょっと、それはさすがに勇気が……!」

マーガレット先輩の目が光った。怖い。

マーガレット「ああ、いいですねそれ。そう言えばチョイ役でレナ王女にレキ王子という弟キャラがいましたよね。その子とレナ王女が実は入れ替わってたとか、でもいいんじゃないんですか? 仮面をかぶっている必要性がもっとリアルになりますし」

ペトラ「えええええ………いや、確かにそれは出来なくはないけど、いやしかし、でも…」

ペトラ先輩が葛藤している。物語の根源を直前で変えるなんて前代未聞だ。

エレン「ええと、つまりそうなると、主人公がレナじゃなくてレキの方になるんですか?」

ジャン「台詞とか覚えなおすの難しいんじゃないんですか?」

リヴァイ「いや、台詞は殆ど変えない。ただ、設定が変わるだけだ。どうする? ペトラ」

ペトラ「す、すぐには決められないですよ。こんな大事な……」

リヴァイ「今、決めろ。時間の余裕はねえ。変えるのか、変えないのか。どっちだ」

ペトラ「ううううう………」

(*設定を変えるか否か。安価取ります。>>783さんお答え下さい)

ホモはちょっと…

ペトラ「や、やっぱりダメです! BLは客層を狭めます! ここはNLでいくべきです!」

マーガレット「ちっ……」

マーガレット先輩が舌打ちした。黒い顔だった。

リヴァイ「分かった。そこは今のままで行くんだな。だが、最後のシーンがまだしっくりきてない様子だったが……その原因は自分でも分からんようだな」

ペトラ「すみません。我儘言ってしまって……」

リヴァイ「構わん。ただ、NLで行きたいと思った理由を自分なりにもっと深く考えてみろ。恐らくそこが分かればきっと、ラストシーンに繋がる筈だ」

ペトラ「分かりました…」

リヴァイ「今日はここまでにしよう。最終日にもう一回、全体練習をやってみる。ペトラも明日までには新しい案を考えておけ。以上、解散」

一同「「「はい!」」」

という訳で、今日の練習はそこで終了となり、直後、ペトラ先輩が崩れ落ちた。

オルオ「だ、大丈夫か? ペトラ……」

ペトラ「だ、大丈夫じゃない……けど、大丈夫」

どっちやねん、とツッコミを入れたそうなオルオ先輩だったが、さすがにそれはしないようだ。

ペトラ「焦った……まさかのBL物に変化しそうになるなんて」

マーガレット「ダメですかねー?」

ペトラ「BLは客を選ぶからね。私はそういうのをやりたい訳じゃないのよ」

マーガレット「んー……? BLでは出来ない部分をやりたいって事ですか?」

ペトラ「うん……男女の恋愛でしかやれない劇の方がいいわ。BLはBLでしかやれないものがあるように、男女の恋愛物も、それでしか出来ないものが有るはずよ」

マーガレット「うーん、どっちも恋愛物っていうカテゴリで考えればさほど差があるようには思えませんが」

エレン「いや、モーゼの川くらいに溝がありますって」

ジャン「ああ、男女と男同士では、全然違いますよ」

ミカサ「えっと、BLというのは、男同士の恋愛という意味で捉えていいのかしら?」

会話の流れから推測するとエレンに「ああ」と頷かれた。

エレン「オレも女子として演技するから出来るんであって、もし男同士っていう設定だったら恋愛物は無理ですよ」

ジャン「ああ、オレも同じだ」

マーガレット「そんなあ……そんなにダメかな? やってる事は変わんないよ?」

エレン「いや、気持ちの持ちようが180度変わりますって。うまく言えないですけど」

ジャン「180度どころじゃねえな。もっと、角度がありそうな感覚ですね」

エレンとジャンはお互いに頷いている。まあ、確かにその通りなのかもしれない。

ペトラ「うん。今回はもう、男女物って決めてるし。そこは動かしたくないのよね。やってる人間は男同士だけど、でも、ごめん」

マーガレット「いや、謝らないで下さいよ。私もちょっと調子に乗り過ぎました。すみません」

オルオ「…………なあ、ふと思いついたんだが」

と、その時オルオ先輩が口を挟んだ。

オルオ「ベタかもしれんが………タイ王子が妻をお姫様抱っこで連れ帰る、とかはダメなのか?」

女子一同「「「「?!」」」」

オルオ「女子って、そういうのが好きなんだろ? そういう「夢」を見るのが演劇の醍醐味だとオレは思うんだが」

ペトラ「それ採用おおおおおおおおお!」

と、何故か即決でペトラ先輩がGOサインを出した。

ペトラ「それいいわ! オルオ、よく思いついたわね! そうなの! 女の子はそういうのが好きなのよ!」

ジャン「えええ? オレ、エレンを抱えるんすか?! お前体重何キロある?」

エレン「63キロだ。それなりにあるぞ」

ジャン「まじかよ……分かった。まあ抱えられん事もないだろう。やってみるさ」

ペトラ「失敗したらしたでいいわ! それはそれでヘタレだし!」

エレン「あ、だったら抱えられなくて「重い…」ってなるのでも有りですね」

ペトラ「ヘタレ度倍増ね! それは萌えるわ!」

良く分からないが、ペトラ先輩が大興奮している。

ペトラ「ああもう、オルオあんた、実は天才ね! 見直したわ! そうなのよ! 男女物の恋愛は女の子の夢を詰め込めるの! ドリーム爆発させるのよ! 私がやりたいのはそこなのよ!」

オルオ「お、おう……」

オルオ先輩が若干引いている。でも、ちょっと嬉しそうかな?

ペトラ「持ち上げて、舞台はけるところまで運んで、はけてから失敗してしまった音声だけ流す感じにするの。どう?!」

ミカサ「いいと思います」

エルド「そっちの方が華もあるし、いいと思うな」

ジャン「あーしばらくは姫抱っこの練習か…」

ジャンが照れている。でも満更ではなさそうだ。

ペトラ「エレンと同じか、それ以上の体重の子は交替でジャンに協力してね! 本番までに練習しておいて!」

一同「「「はい!」」」

ペトラ「では、以上で解散! 一年は夕食お願いね!」

という訳で、4日目の夕食の準備に取り掛かる私達だった。

(*四日目の夕食、何食べる? 献立考えるの、だんだん面倒になってきた…(笑)安価すぐ↓)

ミカサ「………」

指示(ホワイトボード)には「ヤキソバかパスタ」とあった。

んもう、もやっとする。

ミカサ「どちらかに決めて欲しいのに」

エレン「オレはヤキソバの気分だな!」

ジャン「オレはパスタがいい」

マリーナ「私もパスタで」

キーヤン「男はヤキソバだろうが」

カジカジ「ヤキソバだよな」

エレン「ヤキソバが多いからヤキソバにしようぜ♪」

ジャン「待て。ミカサの意見がまだだ」

ミカサ「私は……別にどっちでも」

エレン「ヤキソバだよな?」

ジャン「パスタにしてくれよ」

困った。もめている。もういっそ、どっちも作るか。

ミカサ「今日は時間も余裕があるので、どちらも作りましょう」

エレン「え? いいのか? 大変じゃないか?」

ミカサ「大丈夫。両方作れる……ので」

どちらも定番料理だ。作り方は分かる。

エレン「んーだったらそれよっか、二つに分けないか? ヤキソバ食べたい奴はヤキソバで、パスタはパスタで」

ジャン「その方が早いかもな。そうしようぜ」

ミカサ「でも…」

エレン「大丈夫だって! ミカサはパスタの方を作ってくれよ。そっちが人数少ないだろ?」

ミカサ「………分かった」

大丈夫だろうか。エレンがリーダーになってヤキソバを作るようだが。

ピカチュウ「ピカピカ(僕もちょうだい。)」

出来上がった料理を盛る前に今回はセルフサービスにする旨を伝える。

ミカサ「えー……ヤキソバか、パスタとありましたが、決まらなかったので両方作りました。好きな方を選んで自分で皿に盛って下さい」

リヴァイ「ほう」

リヴァイ先生は先にパスタを盛っていった。

オルオ「両方貰ってもいいか?」

ミカサ「構いません。量は多めに作ってありますので」

オルオ「じゃあ遠慮なく頂くぞ」

オルオ先輩はひとつの皿に両方のせていった。

ペトラ「私もパスタかな~」

エルド「俺はヤキソバで」

グンタ「俺もヤキソバで」

マーガレット「パスタ貰っていくわ」

ガーネット「んじゃ私もパスタで」

スカーレット「ヤキソバ頂き~」

アーロン「ヤキソバで」

エーレン「こっちだな。ヤキソバで」

大体半分ずつ分かれていった。良かった。

>>790
ピカチュウにヤキソバとか与えても大丈夫なのか? お腹壊さない? 食えるの?www

あんまレスに反応すると馴れ合い始まりそうだからある程度スルーして欲しいな…

ピカチュウ「ピカピカ(食べよう!)」
モグモグ。
ピカチュウ「美味い!」
ピカチュウ「あれ?喋った?」
ミカサ「か…可愛い!」

エレンはピカチュウに対して冷たい顔を見ている。

>>793
ああ、ちょっとびっくりしてうっかり反応しちゃったよ。すまんね。
まさかピカチュウがやってくるとは思わなくてね。

脱線したので戻ります。では続けるよ。

オルオ「パスタもヤキソバも美味いな。両方とも、ミカサが主体で作ったのか?」

ミカサ「いえ、今回は2班に分かれて作りました。パスタチームとヤキソバチームで」

オルオ「おお、それはいい方法だ。何だか得した気分だな」

ペトラ「ヤキソバも美味いの? じゃあ食べようかな」

パスタチームも、ヤキソバチームも結局は両方食べていき、麺はすっかり空になった。

ミカサ「あら……」

多めに作ってたつもりだったのに、一気になくなった。

皆、お腹が減っていたのか。だったら怪我の功名である。

リヴァイ「…………」

リヴァイ先生はまた紅茶を不思議な持ち方で飲んでいる。

また、何かツッコミを入れるつもりかしら?

思わず構えていると、「ん?」と視線が合った。

ミカサ「いえ……何でもないです」

リヴァイ「安心しろ。今回は別に性格判断でも何でもねえ」

ミカサ「そうですか…」

リヴァイ「ただ、ヤキソバとパスタと書いたら、両方お前が作る気がしてな。ヤキソバかパスタって書けば、2班に分かれて行動するだろうと思ったんだよ」

ミカサ「? 意味が良く分かりませんが」

リヴァイ「ふん、分からんならそれでいい」

と、リヴァイ先生は意味深に答えた。

チラリ。視線をペトラ先輩の方に向けると……

ペトラ「…………」

ま、まずい。これは女の嫉妬、5秒前の顔だ。

ライナー「焼きそば派。ベルトルトは?」
ベルトルト「パスタだ。アニは?」
アニ「麺類苦手…。」

私は慌てて首を左右にブンブン振った。ペトラ先輩は分かっているという風に頷いているけど、やっぱり怖い。

リヴァイ「?」

しかし当然リヴァイ先生はその意図に気づいていない。

私は居た堪れなくなってお茶を飲み干してすぐにテーブルを離れた。

ふう。女の嫉妬は怖い。今まで散々な目に遭っているので余計にそう思う。

しかしその後も、最終日も似たような事が多々起きた。

私が裏方に入っているせいもあり、リヴァイ先生の方から私に話しかける機会があり、何かと気にかけて貰っている。

その度にペトラ先輩の視線が突き刺さり、申し訳ない気持ちになった。

休憩時間、私は一応、ペトラ先輩を宥めようと声をかけたが……

ペトラ「え? 気を遣わなくていいわよ。ミカサは大道具の新人なんだし、リヴァイ先生も裏方出身なんだし、気にかけるのは当然じゃない?」

と、言葉と顔が全く一致しない態度を取られてしまった。

ミカサ「でも、その…あの…」

ペトラ「ただ、ちょーっと、ミカサに対してだけは甘い気がするのが気になるのよね。ただ、それだけだから」

ミカサ「…………」

ダメだ。こういう状態になってしまっては、私が何を言っても通じないだろう。

実況(ピクシス)「クリーミーなパスタか、ワイルドの焼きそばか、審査員はエルドさんです。」
エルド「宜しく!」
焼きそばか?パスタか?運命の選挙!

い、胃が重い。どうしたらいいのか…。

エルド「どうしたんだ? ミカサ。何か元気ないな」

と、エルド先輩にまで心配されてしまった。

でも、こんな事、先輩に相談してもいいのか。

エルド「んー? 疲れてるんじゃないか? ちょっとそこで休憩しようか」

ミカサ「はい……」

エレンとジャンは休憩時間も台本の読み合わせをやっている。

なんだかんだであの二人はうまくいっているようだ。喧嘩もたまにあるけど、今のところ大きな騒動は起きていない。

私とエルド先輩は体育館の窓際で座って休憩した。

ミカサ「あの……リヴァイ先生なんですけど」

エルド「うん」

ミカサ「何故か、私に対してちょこちょこ気にかけてくれているみたいで、それがその……」

エルド「ああ、不思議でしょうがないって? なるほど。それで胃が痛い訳か」

ミカサ「……はい」

全部を説明しなくても大体察してくれたのは有難かった。

食堂の中にテレビがあったのだ。番組は「麺類最強選挙!日本一美味い麺類は誰?」と言う番組だ。

エルド「ミカサは可愛いからね。リヴァイ先生の好みなのかもしれないぞ?」

ミカサ「冗談にしては笑えません」

青ざめる。もしそうなったら、私は、ペトラ先輩に殺されかねない。

エルド「ははは! なんてね。ま、それは冗談だけど、今、ミカサは彼氏いないんだったか?」

ミカサ「はい……」

エルド「だったら、さっさと彼氏を作ってしまえばいい。そうすればペトラも安心する」

ミカサ「え! で、でも…そんな、急に言われても」

エルド「もしくは好きな人がいる、とかいうのでも有りか。とにかくリヴァイ先生の事なんか眼中にないってペトラにアピールしておけば、大丈夫だろ」

ミカサ「なるほど…」

それはいい手かもしれないが、でも、そんな嘘をついてもいいのだろうか?

ミカサ「……………」

エルド「おーい、ペトラ! ミカサに好きな人がいるらしいぞー」

と、エルド先輩が体育館中に聞こえる声でそんな事を言い出したので、エレンやジャンまでこっちを見た。

エレン「えっ……」

ジャン「な、なんだってー?!」

ペトラ「え? そ、そうだったの? 知らなかった。誰?」

わいわいわい。皆こっちに集まってきてしまった。

どどどどどどどうしよう。

ミカサ「エルド先輩……その……」

エルド「実はな………」

ミカサ「だ、ダメです! やめて下さい!」

エルド「えー? しょうがないな。じゃあヒントだけだな。同級生だってさ」

ペトラ「そ、そう……(ほっ)」

ペトラ先輩が途端に安心した顔を見せた。

ペトラ「そっか、ミカサ、うまくいくといいわね」

ミカサ「うっ………」

成り行きで好きな人がいる事になってしまった。

皆、ニヤニヤしている。いや、エレンとジャンを除いてだけど。

オルオ「青春だな……」

グンタ「ああ、青春だ」

と、何故かしみじみ、言われてしまった。

ああもう、何でこんな事に…。

と、ぐったり思いながら、休憩を終えて合宿最後の稽古に入ったのだった。

タムス「エルドはん。どうしたけら。」
エルド「タムスさん。なぜここに?」
タムス「ワイはな、サシャに会ってな、ちょっと焼きそばやパスタのことを調べろと頼んだんバイ。」
ミカサ「それで?」

今のNGだよ。ゴメンね。









ペトラ先輩の台本の変更部分をチェックして、リヴァイ先生からのOKも出た。

リヴァイ「あ、言うのを忘れていたが、道具等の学校名と名前の記入漏れがないように気を付けろ。後で全員でチェックして漏れがないか、確認しておけ」

オルオ「分かりました」

リヴァイ「衣装の方にも忘れずにやれよ。学校名と名前を刺繍しとけ」

ペトラ「了解です」

リヴァイ「あとQシート、一応予備のコピーをくれ。万が一、紛失した場合の為に俺も預かっておく」

グンタ「はい、わかりました」

エルド「了解です」

と、リヴァイ先生からの細かい指示も受けていく。

何だか気合が入る。これで合宿も終りかと思うと、長いようで短かった。

リヴァイ「………今日は最終日だからな。お前らに特別サービスしてやろう」

と言って、リヴァイ先生が腕まくりをして、自前のエプロンを装着した。

リヴァイ「お前らに、うまいもんを食わせてやる。席について待っていろ」

一同「「「あざーっす!」」」

なんと最終日の夕食はリヴァイ先生の手作りディナーになったのだ。

一方…影で、悪の組織が今現れようとした。
???「ミカサ…。ずいぶんと可愛いじゃねーか。そろそろ、我々アルアル団も動きますか。」
ハンジ「そうだね。ここに行く必要もないね。ミカサを誘拐しなきゃ。」
ミケ「エルヴィン…リヴァイ…お前の命を奪って、ミカサを誘拐しよう。」
彼らはアルアル団。富士山の中に眠れる遺跡があり、その中には、巨人文明が残している。それには、魔法が必要なのだ。魔法を知るミカサを連れ、魔法をとく。

じゅわわあああああ…………

いい匂いがする。皆、席について待ってろと言われたのにソワソワしている。

エレン「やべえ……匂いだけでマジやべえ……(クンクン)」

ジャン「め、メニューは出来上がるまで分かんねえのか」

ミカサ「うまいもん、としか言わなかった……ので」

待っている時間がもどかしい。て、テレビでもつけようかしら…。

でも誰もつける勇気がないようで黙って待っている。

オルオ「あの、先生。テレビつけて待っててもいいですか?」

リヴァイ「構わん。好きにしろ」

という訳でオルオ先輩がテレビをつけてくれた。

ええっと、テレビをつけるとそこには、全国高校野球大会の抽選会の様子が放送されていた。

そうか、そういえば8月5日は抽選会があるとコニーが前に言っていた。

講談高校は何処と当たるのだろうか…。

翌朝
ミカサ「おはよう…ハンジさん何のよう?」
ハンジ「実は富士山に行くことが決まったんだ!ミカサ!早く来て!」
プシュー
ミカサは気を失った。
ハンジ「全ては作戦どうり!」

アナウンサー『F県講談高校はT都カプコン高校と当たる事になりました』

ジャン「ぶふーーーーー! いきなり強豪校きたな、おい」

ミカサ「そうなの?」

ジャン「ああ、大体毎年、甲子園行きを決めてるような常連高校だ。うわー運がねえ…」

ジャンが物凄く残念そうな顔をしている。

カプコン高校の生徒たちが紹介された。おお、確かに皆、筋骨隆々な生徒ばかりだ。

コニーの倍近く大きい。ライナー並みの大柄な選手ばかりだった。

オルオ「だがくじ運でそうなってしまった。仕方がない」

エルド「試合は……8月10日の第一試合か。朝の8時からか。とても中継を見れないな。残念だが」

ジャン「録画しますよ。うちは。後で見るしかないけど…」

ざわざわざわ。

野球部の話題をしていたら、あっという間に夕食が出来上がったようだ。

リヴァイ「ほら、残さず食え。今日はゴーヤチャンプルーだ」

夏の料理の定番メニューがきた。

リヴァイ「あと、冷やし中華と素麺も用意した。フルーツ食べたい奴はスイカも切ってある。好きに取れ」

オルオ「あ、ありがとうございます!」

一同「「「「いただきまーす!」」」」

皆で手を合わせて楽しい夕食が始まった。

ミカサ「!」

お、美味しい。ゴーヤチャンプルーが、こんなに美味しいのは初めてだ。

エレン「オレ、ゴーヤちょっと苦手だけど、これはいける!」

ジャン「うめええええ!」

オルオ「うまいっすー!」

ご飯のおかわりがしたくなってきた。あ、男子が先にご飯を取ろうとしている。

ミカサ「エレン、おかわり早い……」

エレン「だってうめえんだもん(もぐもぐ)」

リヴァイ「冷やし中華の方も食えよ」

ペトラ「食べます食べますー!」

もぐもぎゅもぎゅもぐ。

皆、流し込むように食べている。お腹がすいていたのもあって、遠慮なくいく。

私も例外ではない。

そんな訳で皆、残さずリヴァイ先生のご飯を食べて、後片付けをした。

明日(6日)の早朝にはハウスを出る。今夜は皆で眠れる最終日だ。

途中まで男女混合で寝ていたが、特別な問題も起きずに無事に終わったし、男子と女子が分かれてからも、特に問題はなかった。

ただ、この日は先程の私の発言のせいで、布団を敷いて眠る頃、マーガレット先輩に捕まり「詳細をkwsk」という顔をされた。

ミカサ「ええっと……実はそれなんですけど……」

嘘をついたとバラそうとして……やめた。

ペトラ先輩が近くにいるこのタイミングで真相を話すわけにもいかない。

マーガレット「ん? エレン君かな? ジャン君かな? どっちかな? うりうり」

既視感を覚えた。前にも似たような場面があった気がする。

ああ、そうだ。研修旅行の時、お風呂で問い詰められたのだ。

テレビ
ジャー
???「ご機嫌。諸君。今さっき我々アルアル団が市民体育館を乗っとりました。貴方の友達もここに…。」
コニー「助けてよ!このままではアルアル団に射殺される!」
ミカサ「え?アルアル団?」
エレン「知っているのか?」
ミカサ「アルアル団。犯罪組織。目的は私の魔法を解き、全ての日本を支配すると言われた。」
ミカサ「狙いは私…」

ああもう、どうしてまた同じような事が起きるのか。

困った。嘘を重ねるのは良くないのに。でも、ペトラ先輩に嫌われたくはない。

ペトラ「よしなさいよ。本人が言いたくないのに無理に吐かせちゃダメよ」

マーガレット「うっ……」

ペトラ「好きな人がいるってだけで、もういろいろ一杯一杯何だから……ね?」

と、ペトラ先輩が助けてくれた。ああ、有難い。

マーガレット「仕方がないですね。ま、経過報告はいつでも待ってるからね」

マリーナ「教えてね♪」

女子は恋バナが大好物だ。もう、ハイエナ並みに嗅ぎ付けてやってくるのだ。

ミカサ「わ、分かりました…」

と、一応答えて、その日は寝かせて貰った。

マルロ「ふん、ペトラめ…。このアルアル団の恐ろしさを思い知るがよい。」







6日の朝。部屋のチェックをしてハウスを出る。

今日は一日オフになるが、7日からまた練習が始まり、9日まで続けて稽古だ。

10日はいよいよ本番だ。会場には現地集合になる。

前日には背景セットなどを業者に預けて当日、会場まで運んで貰う手筈になっている。

本番が迫ってきた。ちょっとドキドキする。

私にとっての初めての、舞台。

裏方だけど、精一杯頑張ろうと思う。

リヴァイ「怪我や体調管理には十分注意しろ。合宿の疲れは今日中に取れ。以上、解散!」

一同「「「はい!」」」

そして帰り道、エレンが私に、

エレン「ミカサ、お前、アレ、言わされたんだよな?」

ミカサ「え?」

と、わざわざ確認してきた。

エレン「なんか、様子が変だったからさ。アレ、エルド先輩がからかっただけ何だろ?」

ミカサ「う、うん……」

エレンにだけは真実を伝えようと思う。

誤解されたくなくて、そう釈明したら………



ピシっ!


また、凸ピンされた。

ミカサ「痛い……何するの」

エレン「おしおき」

ミカサ「何で?!」

エレン「何ででも、だ!」

と、何故か拗ねたように言われて困惑するしかない私だった…。

……という訳で一気に、夏合宿編終わった。
リヴァイ先生の風呂上がり、就寝姿(座り寝)、手作り夕食はサービスです(笑)。

続きはまた。

アルアル団のこと無視?
酷いよ…(泣)

うーん、手首のHP(体力)を考えると、レスのお返事しない方が効率はいいけど、
しなさすぎるのも寂しいかなと思ってたから、出来るだけレス返すようにしてたけど、
レスが多すぎると、毎回返すのは体力的に大変になってくるんだよね。

出来れば本編に集中したいんでここから先は体力温存も兼ねて、
レスは有難く読むけど、レス返す回数控える方針に変えるね。

あと、安価以外の提案は、拾っていくと、こっちの予定してた物が書けなくなる場合もあるから、
決して無視している訳じゃないんで。そこは誤解しないでね。
重なったら、それは先の展開を読者に読まれたということです。

んじゃ、そういう訳で。続きはまた。

ごめんなさい
続きをどうぞ!
アルアル団のこと、無視しないでね。






一日オフを挟んで練習再開。しかしそこで何故か、ジャンのNGが連発した。

ミカサ「?」

集中力が切れて台詞が飛ぶようになったのだ。

その回数が多くてさすがにペトラ先輩が一旦止めた。

ペトラ「休憩いれましょーか。10分休憩!」

と、異変に気づいて進行を止める。ジャンの調子が悪いようだ。

ペトラ「どうしたの? 風邪でもひいた?」

ジャン「いや、体調は完璧です! その……」

ペトラ「もしかして途中でキャラ変したから台詞こんがらがってる?」

ジャン「いや、そうじゃないんですけど……すみません。気持ちを入れ替えます」

ふーと、息をついてジャンが頭を振っている。

何か悩み事でもあるのかもしれない。

ミカサ「ジャン、何か悩んでいるの?」

ジャン「!」

ジャンが私と目を合わせようとしない。あれ?

ジャン「大丈夫だ。心配かけてすまん。もう大丈夫だ」

全然、大丈夫には見えない。

エレン「……………ジャン、ちょっとこっち来い」

エレンがジャンを連行していった。そして端っこで何やら話して……

ジャンが飛び上がって、そして胸を撫で下ろしていた。

そして晴れやかな顔で戻ってくる。あ、もう大丈夫みたいね。

ジャン「お騒がせしてすみませんでした!」

ジャンの様子を見てペトラ先輩も大丈夫と判断したようだ。

何が原因だったのか分からないけど、いつものジャンに戻ったようだ。

良かった。エレンのおかげで何とかなったようだ。

もしかしたらスランプだったのかもしれない。エレンがいい助言でもしたのだろう。

その後の練習はスムーズにいった。尺オーバーの問題もクリアしたし、順調だった。

このままいけばいい。誰もがそう思っていただろう、その時……。



ビリッ………



音楽室を切り裂く嫌な音がした。

ペトラ「あああああああああああ」

オルオ「あーあ」

ミカサ「エレン……」

エレン「す、すみません!!!!!!」

エレンが遂にやっちゃった。ロングスカートを引っかけて、破いてしまったのだ。

ペトラ「あーもう、セクシーになっちゃって……」

ロングスカートにスリットが入ってしまった。

マーガレット「今から直します?」

ペトラ「しかないわね。ほらほら脱いで! (グイグイ)」

エレン「ちょ! ここで脱がさないで下さいよ! (赤面)」

ペトラ「時間が勿体ないからさっさと脱ぐ!」



ポイッ



という訳で、一気に下をパンツ一丁にさせられたエレンだった。

エレンは慌ててズボンを取りに行く。その様子がちょっと滑稽だった。

ズボンに戻ってからエレンが「あービビった」と息をついた。

エレン「どこで引っかけたんだ? 気をつけてたのに…」

ミカサ「恐らくこれじゃないかしら?」

見つけたのは、釘だ。壁に打ち付けてある釘が一本だけ、ほんの少し出ているのがある。

校舎にはこういう、気をつけないといけない個所がいくつかある。

たまたまそこにひっかけたのだろう。

エレン「うわ! こんなの、気づかねえよ。くそ……あぶねえなあ」

ミカサ「そうね。応急処置をしておきましょう」

トントントン

なぐり(金槌の事)で釘を埋め込んでおく。これでもう二回目はないだろう。

エレン「お前、なぐり持ってるの、様になってんな」

ミカサ「そうだろうか?」

エレン「ああ。その大道具姿も、格好いいぞ。くそー羨ましいぜ」

本当は裏方希望だったエレンだ。申し訳ない。

ミカサ「ごめんなさい。エレン」

エレン「え? 何が?」

ミカサ「ヒロイン役を押し付けたようなものなので」

裏方をやりたい気持ちを犠牲にしたのだ。

エレン「今頃言われてもな! でも、しょうがねえだろ。実際、ミカサの大道具は似合ってるし。でも怪我には気を付けろよ。こういうの、処理する役目なんだから」

こういうの、とは今やった釘の事である。

釘が出ていたら打ち付けていったり応急処置をするのが大道具のお仕事だ。

ミカサ「うん。気を付ける」

ペトラ「はい、とりあえず、直しておいたわよ。予備の布がもうなかったから、今回はスリット入れたまんまにしましょ」

エレン「ええ? スリット入りですか?!」

ペトラ「解れは縫っておいたわよ? だから大丈夫よ。もう引っかけないでね」

エレン「とほほ」

という訳で、ロングスカートには少しだけ、スリットが入ってしまった。

まあ、この程度のスリットなら普通に売ってあるロングスカートでも良くある。

ペトラ「あ、でもまずいか」

ミカサ「? 何がですか?」

ペトラ「脛毛よ! 脛! 脛の処理が必要になるわね、これだと」

エレン「えええええ……」

あ、そういえばそうだ。今までは足が完全に隠れてたので処理は必要なかったが、一瞬とはいえチラチラ脛がほんの少し見えるので処理はした方がいいかもしれない。

エレン「オレ、脛毛は濃くないから大丈夫じゃないっすかね…?」

ペトラ「ちょっと失礼(スッ)あ、本当ね。意外と生えてないわ」

ミカサ「エレンはまだ体毛が薄いの?」

エレン「そういう言い方はやめろ! 傷つくだろ!」

何故か涙目だ。え? 何で?

ペトラ「うーん、体毛薄いのね。むかつくわー」

ペトラ先輩は何故か舌打ちしている。

ペトラ「なら剃らなくても大丈夫ね。まあ、剃った方が本当はいいけど」

そんな訳でちょっとしたハプニングはあったけど、大きな問題もなく、練習が終わった。

帰り道、エレンが落ち込んでいた。

ミカサ「エレン、ごめんなさい」

エレン「……いいよ、もう。どうせオレはまだお子様だよ」

と、拗ねてしまった。

ミカサ「脛毛は生えてた方がいいの? でも、海に行った時、他の男子も似たようなものだった」

エレンだけではない。他の男子もそんなにはもじゃもじゃではなかった。

強いて言うなら、ライナーが少しだけ毛があったかな? という程度だ。

それでも、そこまで気になるような物ではない。

しかしエレンは「生えてる方が男らしいんだよ」と言った。

ミカサ「そう……」

でも、あんまりもじゃもじゃだと邪魔な気がする。

エレン「いや、こればっかりは体質だから、仕方ねえけどな」

と諦めたようにエレンは肩を落とした。

ミカサ「私は毛の薄い方がいいと思うけど」

エレン「あ? 体毛濃い男は嫌いか?」

ミカサ「嫌いではないけど………」

私の父はちょっと髭を生やしていたので、たまにわざと髭でうりうりされて、痛かった記憶がある。

チクチクしたのだ。なので、毛があるとチクチクしそうなイメージがある。

ミカサ「チクチクする、のであんまり好きではない」

エレン「チクチク?」

ミカサ「うん。接触したときに、チクチクする、ので」

と、素直にそう言うと、エレンが顔を赤くした。

ミカサ「?」

エレン「あ、いや、そうか。そうだな。それは盲点だったなー」

と、変な方向を見て答えるエレンだった。

今回はここまで。続きはまた。

サシャ「ククククククククククククククク…。」
エレミカ「!!!」

ミカサ「うん。特に髭は……亡くなった父がちょっとだけ生やしていたので」

エレン「! ああ……そっか」

思い出を掘り起こしてしまった事に対してエレンは気まずそうだった。

私は、首を左右に振って、

ミカサ「いい。きっとエレンも、今は薄くても、父と同じくらいの年齢になれば髭も生える」

エレン「…………だといいけどな~」

と、エレンが顰め面で笑う。この顔に髭をのせて想像してみる。

ミカサ「………ぷっ」

エレン「あ、てめ、このやろ。今、想像しやがったな」

ミカサ「そんな事はない」

エレン「嘘つくなよー」

と、こづかれた。

ふふふ。何だかそんな未来を想像するのが、とても可笑しかった。




そしてあっという間に大会当日が訪れた。

8月10日。この日は天候に恵まれて汗ばむくらいの暑さだった。

大会の開演時間は午前10時からを予定している。私達部員は午前7時には会場に入りして荷物や小道具、衣装、背景セット等を確認した。

その日は会場入りしてから、リヴァイ先生も大道具の格好に着替えた。

黒装束に腰に大道具セットをぶら下げて、口元にはマスク、頭には頭巾をかぶっていた。

しゃべる時は一応、マスクはずらして、

リヴァイ「道具リスト、2回目のチェックは済んだか?」

オルオ「はい、全部完了してます」

リヴァイ「開始時刻は10時からだったな。他校の奴らにも会ったら必ず挨拶しろよ」

一同「「「はい!」」」

場所はA会場、B会場に分かれていて、それぞれ2日間にかけて行われる。私達がいるのは、A会場の方だった。

午前中に2校、午後は4校。計6校分の演劇が一日で上演される予定だ。

リヴァイ「ちっ……今年も仕込みの時間が殺人的だな。正気の沙汰じゃねえ」

ミカサ「?」

リヴァイ「普通の神経してたら生徒にこんな危ない真似はさせないもんだが……改善する気が全くねえな、上のアホどもが」

ミカサ「リヴァイ先生?」

リヴァイ先生はスケジュール表を見ながらブツブツ文句を言ってるようだ。

何か、不満でもあるのだろうか?

オルオ「でも俺達の代に比べればマシになってますよ。会場搬入が7時半からになってますし、8時からだった時に比べると……」

リヴァイ「いや、これでもまだ足りん。これだけの規模なら、本来なら仕込み時間は3時間、欲しいところだぞ。それを40分で済ませろっていうスケジュールを組ませる側がおかしい」

ミカサ「?!」

調理時間を半分にするどころの話ではなかった。

ゾッとする。リヴァイ先生の舌打ちする気持ちが分かる。当然だ。そんな無茶は聞いた事がない。

リヴァイ「これを実際にやるのは高校生の素人集団だぞ。正気の沙汰とは思えん。全く、わざわざ直訴したのに結局は反映してねえな」

ペトラ「でも10分増えてますから。その10分はリヴァイ先生のおかげですよ」

リヴァイ「………くそ、今年も後でまた同じ直訴をするしかねえな」

と、言ってリヴァイ先生はスケジュール表を折り畳みポケットに入れた。

リヴァイ「会場搬入が始まる前にいくつか注意事項を言っておく。大会は他校だけでなく、一般の方の来場者も大勢来る。挨拶は必ず気合を入れろ」

一同「「「はい!」」」

リヴァイ「それと、もし具合が悪くなったらすぐに誰かに言え。ギリギリまで我慢をするな。急に倒れられたら、そっちの方が迷惑だからだ。早めに言うようにしろ。後の事は必ず俺が調整をする。だから心配せずに言ってくれ」

一同「「「はい!」」」

リヴァイ「あと、自分の荷物は自分で管理しろ。もし紛失した場合はすぐ「遺失物管理」の係に届ける事。拾った者も同様だ。それ以上の事はするな。時間の無駄になるからな」

一同「「「はい!」」」

リヴァイ先生の注意事項がどんどん増えていく。

聞き漏らさない様に真剣に聞いていく。

リヴァイ「…………あと、これは余計な事かもしれんが、他校の異性との交流は、大会期間中は携帯メアドの交換までにしろ。それ以上の事をやりやがった奴は、後で締める」

一年一同「「「ぶふーっ!」」」

一年は皆、吹き出した。思わぬ注意事項だったからだ。

エレン「んな事やる奴、いないっすよ……」

リヴァイ「いや、毎年いるんだ。こっちがクソ忙しい時にナンパをしてくる他校の奴らがな。そいつらに構ってたら時間を無駄にする」

と、リヴァイ先生は言う。

リヴァイ「特に女子はヤバいと思ったらすぐ俺か男子に助けて貰う事。最悪の場合は叫べ。会場中に聞こえても構わん」

ミカサ「は、はい」

マリーナ「はい…」

リヴァイ「逆ナンパもしかりだ。女子の集団に囲まれたら、嘘でもいい。彼女がいるという事にでもして逃げろ。いいな」

男子一同「「「は、はあ……」」」

何だか面妖な注意事項である。

これは、始まりでは無かった。相手は沢山点を取り、試合が五回まで続いた。
※むしろ、俺を書き込んだとき、NGするんやめろよ。ちゃんと書き込んでるから…

>>838違った!俺がだ!一同「「「「おーーー!」」」」

リヴァイ「とにかく今日は時間との勝負だ。無駄話は極力するな。だが、分からない事が出てきたら遠慮なく誰かに聞け。疑問に思ったら、行動を起こす前に一度、立ち止まるようにしろ。自分の仕事に責任を持つ為にはそれが必要だ」

一同「「「はい!」」」

リヴァイ「では各自、準備運動とストレッチを始めるぞ」

入念な準備を行って、いよいよ舞台が始まる。

搬入ゲートが開いた。大物の背景セットは前日に入れているが、それ以外の物は今から搬入する。

8時までには全校分の搬入を完了させないといけない。

8時から8時40分までが仕込み。そして9時30分までが合同リハーサルだ。

正直、かなりきついスケジュールだとは思うが……大会とはそういう物なのだろう。

スタッフ『順番にお願いします! 会場内は絶対に走らないで下さい!』

と、会場側のスタッフさんもインカムで叫びながら協力してくれている。

さあ、暑い一日のスタートである。








他校の生徒達も交えて大道具、照明、音響、衣装、受付、広報、会場のグループに分かれた。

受付、広報、会場というのはその会場に来て下さったお客様に対応する側の係であり、主に役者をやる人間が兼任している。

私はすぐさま大道具のグループに集合して説明を聞いた。

リヴァイ先生以外にも男性の顧問の先生がいるようだ。他校の先生だろう。

先生達からの簡単な説明が終わり、すぐに行動に移った。やるべき事は山ほどある。

次から次に仕事を頼まれてこなしていく。大道具チーフのマーガレット先輩に従い、私は私のやるべき仕事をこなしていった。

照明を当てながら、6校分の場見(役者の立ち位置を決める印)がつけられていく。

こうやって改めてみると、その数はかなり凄い。

合宿時の、裏方の動きを削る際の、場見の数を極力減らせというリヴァイ先生の指示を聞いていて正解だった。

必要最低限の場見でないと、舞台に立った時、それを見分けるのは難しい。

役者はこの上に立つのか、と思うとその気苦労を察してしまう。

3年大道具「誰だ?! なぐりをこんなところに置きっぱなしにしている奴は!」

1年大道具「す、すみません!」

3年大道具「動線上に道具や物を置くなっていつも言ってるだろ! クソが!」

1年大道具「ひいいいい」

そして大道具は口が悪い人が多いというのも初めて知った。

他校の大道具の男子は先程からこんな調子で暴言ばかりだ。うちとは大違いだ。

あんなに怒鳴らなくてもいいのに。正直、煩い。

つい、顰め面でいると、

マーガレット「ミカサ! 汗! 舞台に落としたらダメだって!」

ミカサ「あ、すみません…(ふきふき)」

今日は特に暑いので、油断するとすぐこうなってしまう。

首からタオルを下げているのに、額から汗が噴き出ているのだ。

水分をとってもとっても追いつかない。ああ、携帯用の水があっという間に空になってしまった。

照明器具を動かしているからか、会場の冷房が追い付いていない。

人の熱気も合わさって、舞台はさながら戦場のようだった。

マーガレット「よし、これでこっちは終了! はけるよ!」

背景セットの方の場見も終了した。急いで撤収である。

そしてその直後、

他校大道具「すみません、なぐり貸して貰えませんか?!」

と、その時、いきなり他校の大道具さんに声をかけられた。

ミカサ「どうぞ」

他校大道具「ありがとうございます! (タタタ…)」

マーガレット「ちょっとミカサ!」

ミカサ「なんでしょう?」

マーガレット「今の子、知り合いなの?」

ミカサ「いいえ」

マーガレット「だったらダメだよ! 知らない子に私物を貸しちゃ! 借りパクされるって!」

ミカサ「え、でも……」

マーガレット「なぐりは凶器だよ?! 信用出来る子にしか渡したらダメだから! ちょっと返して貰ってくる!」

と、マーガレット先輩が慌てて追いかけていってしまった。

困った。チーフが現場から抜けてしまった。私のせいで。

呆然としていると、スカーレット先輩がこっちに来てくれた。

スカーレット「ミカサ? 何かあったの?」

ミカサ「ええっと…それが……その…」

リヴァイ「おい、ぼーっとするな! ミカサ! そっちはどこまで終わった!」

と、その時、私の不審な動きに気づいてか、リヴァイ先生が声をかけてきた。

ミカサ「役者の場見とセットの場見は終わりました」

リヴァイ「よし。なら水分補給に行って来い。携帯用が空になる頃だろ」

ミカサ「はい」

リヴァイ「ついでに俺の分も頼む。1本、これに入れてきてくれ」

携帯用のペットボトルはしずくがたれないようにボトル入れを各自用意している。

リヴァイ先生のそれを預かって、控室に戻り、急いで舞台に戻ると…。

マーガレット先輩が戻っていたが、首を振っていた。

マーガレット「ダメだった。見失った。ごめん」

ミカサ「す、すみません……」

マーガレット「会場は広いから別のところでセットの修理とかしてるのかも。あるんだよね。本番直前で壊れたりして、その場で緊急で直したりするの。参ったな……他校の場見が終わんないと、合同リハ始められないじゃん…」

ミカサ「………」

マーガレット「そういう時は場見が優先なのに、ああもう、頭悪い奴! 大道具の風上にもおけん!」

スカーレット「落ち着きなよ、多分相手は1年だよ。パニくってるだけだって」

リヴァイ「おい、何があった」

と、その時、リヴァイ先生もこっちにやってきた。

私はついでにペットボトルも渡しながら事情を説明すると…。

リヴァイ「そうか。分かった。だったらミカサはなぐりの必要な仕事はするな。マーガレット、スカーレット、二人のなぐりを使え。その生徒については、俺が遺失物管理の方に届けて会場アナウンスを流して返しに来て貰うようにするから、三人は自分の仕事に集中しろ。いいな」

と、素早くやるべき事を判断してそこを離れていった。

他の顧問の先生に引き継ぎをしてからリヴァイ先生が一時的に離脱する。

それと入れ替わりに舞台の方に何故かエレンがやってきた。

エレン「おーい、ミカサ。なぐり届けに来たぞ」

ミカサ「エレン? どうしてここに?」

エレン「あ、さっき、その辺の廊下に落ちてたからさ。ついでだし届けに来たんだよ。ダメだぞ。大事なもんなんだから、置きっぱなしにしちゃ……」

と言ってエレンが舞台の上にひょいっと登ってきたのだ。

しかしその後ろから、他の生徒達が背景セットを運ぼうとして……

ミカサ「危ない!」

他校の生徒たちはエレンの姿が見えてない様子だった。

急に舞台に現れたエレンに気づかずにそのまま進もうとして、そして、



ドン……!



他校大道具女子「きゃ!」

ドシーン……

なんと途中でぶつかって、軽い事故が起きてしまったのだ。

エレン「ててて……」

背中がぶつかって痛そうにするエレン。

他校大道具女子「すみません! バックで運んでたんで、まさか人がいるなんて気づかなくて」

他校大道具男子「大丈夫か?! 怪我してないか?」

他校大道具男子「あんた、どこの高校だ?! 仕込み中に勝手に舞台に上がらないでくれよ! 危ないだろうが!」

エレン「す、すんません……」

その直後、リヴァイ先生が戻ってきた。

リヴァイ「おい、何があった」

エレン「えっと、実は……」

エレンが事情を説明すると、リヴァイ先生の顔が急激に強張った。

そして、


ゴス!


リヴァイ先生の膝蹴りが、エレンの腹部を打ったのだ。

エレン「!」


ざわっ……。


突然の体罰に辺りは騒然となった。勿論、他の生徒も先生も見ている。

しかしリヴァイ先生はそれに構わず何度もエレンの腹に体罰を加えて、仕舞には転がして、腹を踏んづけるところまでやったのだ。

他校大道具男子「ちょっと、あの……」

キレていた他校男子もこれには青ざめて困惑している。

ミカサ「先生! やめて下さい! いくら何でもやりすぎ……」

と、私が止めようとしたところをマーガレット先輩に止められた。

何故?! 意味が分からずにいると、

リヴァイ「俺は前もって言った筈だ。自分の荷物は自分で管理しろ。もし紛失した場合はすぐ「遺失物管理」の係に届ける事。拾った者も同様だ。それ以上の事はするな。とな」

エレン「………」

リヴァイ先生を見上げるエレン。見下ろすリヴァイ先生は冷たく続ける。

リヴァイ「エレン、何故俺の言った事を守らなかった」

エレン「そ、それは……」

リヴァイ「当ててやろうか。『そろそろ仕込みも終わる頃だ。舞台裏がどんな風になってるのか、ちょっと覗いてみてえなあ』っていう下心があったんだろ」

エレン「!」

エレンの表情が強張った。

リヴァイ「場見の時、一瞬しか見れなかったから、本当はもう少しじっくり見てみたい。そう、思ったんじゃないのか」

エレン「…………はい」

エレンは白状した。どうやらそれは嘘ではないようだ。

エレン「なぐりを拾ったんで、ミカサのところに行くついでに、見れたらな、と思いました」

リヴァイ「そうか。だがお前は役者としてやってはいけない事をやった。そのせいで事故が起きた。もしそのせいで二人が死んでいたら、お前は責任が取れたのか?」

エレン「…………」

エレンが何も言えずに口をパクパクしている。ここは助けなければ!

ミカサ「事故は、軽傷です! そこまで大げさにしなくてもいい!」

他校大道具男子「あの、そうですよ。こっちは別に怪我した訳じゃないんで」

他校大道具女子「こっちもちゃんとバックを見てなかったのが悪かったですし」

リヴァイ「だがそれはたまたまだ。この二人が抱えていたセットがもっと大きくて重い物だったら、運が悪けりゃ下敷きになって本当に死んでいたかもしれない」

エレンは顔面蒼白になっていた。血の気が全くない。

リヴァイ「舞台裏は命賭けの現場だ。何の為に裏方が命を張ってるのか考えろ。お前ら役者の為だろうが。お前らを危険から守る為に神経張りつめている。それを役者のお前が邪魔したら、本末転倒だ。言ってる意味は、分かるな?」

エレン「………はい」

リヴァイ先生はようやく足をエレンの腹から降ろした。

そしてエレンを起き上らせて、エレンの頭を押さえつけ、自分も一緒に深々と相手の大道具の二人に謝罪した。

エレン「…………すみませんでした」

エレンは涙声で自分の非を詫びた。

相手は「いいですって」と答えてくれたけど……。

私の心の中は、ぐるぐると禍々しい黒い炎が着火してしまっていたのだった。





午後のお昼休憩時間になった。昼食はお弁当だ。

控室で皆で集まってお弁当を食べていると、オルオ先輩にもペトラ先輩にもエレンは怒られてしまっていた。

オルオ「おま、それ、最悪だぞ。仕込み中は自分の立ち位置をバミってる時以外は、役者は絶対、舞台にあがっちゃいかんぞ」

ペトラ「ましてや、他校の背景セットをバミってる時にそれやっちゃうとは……死人が出なくて幸いよ」

エルド「本当だな。いや、でもこれは……」

グンタ「ああ、俺達の教育不足だった。こんな基本的な事、伝え忘れてたなんてな」

ペトラ「ごめんね。エレン。お腹、大丈夫?」

エレン「腹は腹筋鍛えてたんで大丈夫っすけど……」

ペトラ「けど?」

エレン「み、ミカサの機嫌がえらいことになりました…」

と、エレンがこっちを恐る恐る見る。

当然だ。身内に対してあんな仕打ちをされたら誰だって不機嫌にもなる。

エレン「ミカサ、いい加減その顔やめろよ。本気で怖いぞ」

ミカサ「……(もぐもぐ)」

あのクソちび教師。体罰にも手加減というものがあるのを知らないのか。

エレンは大丈夫、と言ってるがそんなものは嘘である。青あざ出来てる。

幸い衣装で隠れるからいいものの。下手すればエレンは舞台に上がれなくなるところだ。

マーガレット「教育不足だったのは私も同じです。道具は知ってる奴にしか貸すなって前もって言っておくべきでした」

ミカサ「うっ…すみません」

その件についても私は申し訳ない気持ちだった。

そうだ。私がなぐりを貸出したりしなければ、エレンが傷つく事もなかった。

自分のせいだ。そう思うとますます落ち込んでしまう。

スカーレット「私はなぐりとポーチを繋げられるように自分で改造してますしね」

と、先輩が見せてくれた。なぐりの端っこに紐をつけてポーチで繋いでいる。

スカーレット「着脱式だからすぐ外せるけど、基本は繋いだまま使うね。これなら置き忘れも防げるし。今度改造してあげるね」

ミカサ「お、お願いします」

ペトラ「あー本当、うちらはまだまだね。先輩として不甲斐ないわ」

オルオ「だな……今頃きっと、リヴァイ先生、呆れかえってるだろうな」

リヴァイ「ああ、その通りだな」

一同「「「「!」」」」

その時、リヴァイ先生が戻ってきた。やっと先生の仕事がひと段落ついたようだ。

リヴァイ「………なんだその面は。しけた面しやがって」

オルオ「うっ……すみません」

リヴァイ「だから何を謝っている」

ペトラ「私達、先輩として不甲斐ない、ですよね」

リヴァイ「? 何の話だ」

エルド「先生、今の会話聞こえてたんですよね? 俺達に呆れてるんじゃ…」

リヴァイ「どうしてそうなる。呆れるのは自分自身だ」

と、リヴァイ先生は少し苛立った表情で席について弁当を広げた。

あぐらをかいて、持参の水筒から紅茶をついで飲み始めた。

リヴァイ「これでも頑張っている方なんだが……俺は表現力が足りねえ。圧倒的に。ハンジにもよく言われる。あいつが傍に居たら、俺の言葉をもっと分かりやすくお前らに伝えられたかもしれんが」

と、ため息交じりに先生が続けた。

リヴァイ「俺自身の言いたい事がしっかりとは伝わってなかった。お前らの性格は大体把握してたつもりだったのに……すまなかった」

と、まるで自分の責任のように言うのだ。

リヴァイ「エレンが元々、大道具志望だったのは知っていた。興味があればつい、裏方を覗きたくなる事もあるだろう。だからもっと、舞台裏の危険性を俺が前もって言っておくべきだったんだ」

エレン「いや、今回の事はオレが横着したのが悪いんすよ! 先生!」

リヴァイ「いや、エレンが好奇心が強くて思い切りのいい性格なのは分かっていた。出ないとあんな突飛な豚汁は作れん」

と、リヴァイ先生は言う。そして更に、

リヴァイ「それとミカサ、お前もだ。基本的にお前は人がいい。自分が無理をしても相手に尽くしてしまう傾向にある。だからなぐりの件も、ちゃんと前もって注意するべきだった」

ミカサ「………」

そんな事を言われてしまったら怒りの矛先をどこへ向けたらいいか分からなくなる。

リヴァイ「失敗のパターンというのは、そいつの性格に大体繋がっている。俺の場合は、表現力だな。自分の言いたい事が伝わり切れなくて失敗する。だから本来は上に立つリーダータイプじゃねえんだが……」

と、ブツブツ続けている。

リヴァイ「それでも、一応お前らの顧問だ。やれる事はやってやるつもりだ。午後の本番までには気持ち切り替えておいてくれ。いいな」

一同「「「「はい!」」」」

ミカサ「………」

私以外の皆は返事をした。

エレン「ミカサ!」

エレンに言われて渋々、

ミカサ「………はい」

と、その場では一応答える事にした。

キリがいいのでこの辺で。続きはまた。

書き込んだ人に対して、NG扱いはやめ。
リヴァイ「………………………ミカサ…………とにかく…………。」

乙です。
ハンジがいたら翻訳するんでしょうね。

つまりこれからも頑張ろうぜ
ってリヴァイは言ってんだよね

相手の敵ピッチャーはコサメ君だね。

コサメ「僕がエレン君を三振を取ります。」
エレン「かかってこい!」

>>854>>855=正解。

ではそろそろ再開します。








昼食を終えて会場に戻ると、丁度そこにアルミン、マルコ、アニの三人が到着していた。

アルミン「あ、エレン! ミカサ! ジャン! おーい」

広い会場の中、偶然会えた。嬉しい。見に来てくれたのか。

アルミン「間に合ってよかったよ! 初めて来る会場だから道に迷いかけてね」

マルコ「………にしても人が多いね。席、取れるかな」

アニ「最悪、立ち見でも構わないけど……」

ジャン「ああ、学校別に大体席を区切ってあるから、オレらが出演してる時は、オレ達の席で座って見てればいい。案内してやるよ」

と、ジャンがエスコートしていた。皆で移動していると、

アルミン「…………ミカサ、大丈夫? 顔色良くないよ?」

ミカサ「いいえ。私は大丈夫」

エレン「まあ、ちょっとな。いろいろあって、な」

アルミン「? うーん、今日は暑いからね。熱中症にだけは気を付けてよ」

と、アルミンは扇子をパタパタさせながら言った。

ジャン「そういや、サシャ達いねえな。あいつら、甲子園の方に行ってるのか」

アニ「うん。サシャがどうしてもコニーの応援行きたいって言って。夜行バスでライナー、ベルトルト、ユミル、クリスタの4人を引き連れて5人で行ける旅行パックで行ってくるって」

ジャン「まじか。ビデオ頼んでおけば良かったな」

マルコ「それは大丈夫。僕がライナーに預けてきたから」

ジャン「お? さすがマルコ。気が利くな」

マルコ「ジャンがきっと後で見たいだろうと思ってね」

と、話していたらあっという間に席に到着した。

ジャン「この真ん中辺りが講談高校の席だ。この辺で見ててくれ。午後は二つ目だ」

アルミン「うん、分かった」

エレン「オレ達はそれぞれの係とかあっから、一緒に居てはやれねえけど、楽しんでくれ」

アニ「うん。こっちはこっちでやっとくよ」

という訳で、アルミン達と分かれてそれぞれの持ち場に戻る私達だった。





午後の開演が始まった。大道具は他の係と違って、他校の裏方も手伝うので休憩時間が少ない。

私達の前に公演する学校は、リヴァイ先生よりも年を取った男の先生が中心になって舞台裏で指導していた。

年配の男性教諭「いいか、ちゃんと俺の演出通りの動きをするんだぞ。間違えた奴は次の公演では使ってやらんぞ!」

と、脅すような事を平気で生徒に言っている。

年配の男性教諭「それと他校の大道具さん。うちのセットを少しでも傷つけたりしたら弁償させるからな。くれぐれも丁寧に運んでくれよ」

と、世話になる筈の他校の生徒にまで高圧的だ。

年配の男性教諭「恐らく九州大会でも使うからな、このセットは。大事に扱ってくれ」

まるで既に予選を通過したかのような言い方だ。

スカーレット「そんなこと言われると逆に悪戯したくなりますよね(ボソッ)」

マーガレット「こら、ダメだって」

スカーレット「いや、しませんけど。集英高校って去年もあんな感じでしたよね」

マーガレット「常連校だしね……先生が演出、脚本やってる学校は強いよ。毎年」

と、ひそひそ話しながら私達大道具3人組は陰で話していた。

スカーレット「劇団行けばいいのに。生徒を利用して自己満足に浸ってるんでしょうかね?」

マーガレット「こらこら、それは言い過ぎだって。効率考えたら、先生が指導する方がまとまるからでしょ」

スカーレット「でも、それやっちゃうと毎回ワンパターンになりません? 私はあんまり同じ人が続けてやるのは好きじゃないんですけどねー」

と、スカーレット先輩は批判的だった。

ミカサ「ペトラ先輩と同じ意見、なんですね」

スカーレット「ん?」

ミカサ「ペトラ先輩も、中学時代にそういう顧問の先生だったそうで、やりにくかったと話していたので」

マーガレット「学校によっては大分やり方に差があるからね。うちみたいに脚本も演出も生徒主体の方が珍しいんじゃないかな? リヴァイ先生の方が変なのよ」

スカーレット「ですね。まあ私はリヴァイ先生のやり方が好きですけどね」

と、ペトラ先輩と同じくスカーレット先輩もリヴァイ先生派のようだ。

マーガレット「うーん、私は一長一短だと思うけどね。リヴァイ先生のやり方にもデメリットはあるし。勝ちたいと思うなら、素人よりそれが分かってるベテランが指揮を取った方が勝ち上がれる可能性が高くなるのも事実よ」

スカーレット「まあ、それもそうですけどね……」

と、渋い顔のスカーレット先輩。それはどういう意味だろうか?

マーガレット「まあ、私の言ってる意味は袖で集英の公演を見てれば分かるわよ。じゃ、そろそろおしゃべり止めようか」

開演10分前のベルが鳴る。もうすぐ集英高校の公演が始まる。

幕が上がり、夢が始まった。

>>860
訂正。

午後の日程が始まった。

微妙に間違えました。午後は

1.集英高校 2.講談高校

の順番です。まだ集英の公演始まってない。

皆で見る夢、演劇の舞台。その上で描かれる、素敵な幻想の世界。

集英高校の演目は『金と銀の時』というタイトルで、人と人がとある事故で魂が入れ替わる逆転劇だった。

一人はクソ真面目の警察官。リヴァイ先生に似た雰囲気の堅物。

もう一人は不真面目なプータロー。何でも屋。だるそうな眼をしている。

二人は腐れ縁で何故かよく一緒に居て、でも顔を合わせると喧嘩ばかりして。

仲が悪い。エレンとジャンと似たような関係だった。

その二人がある事故を境に魂が入れ替わり、お互いが入れ替わってお互いの生活をするという物。

畳みかけるようなギャグと、アクション。

長い台詞を怒涛の勢いで噛まずにハイテンションで演技が進む。

凄い。なんていうパワー。圧倒される。

こんな風にぐいぐい引き込まれる舞台は初めてだ。

他の学校も悪くはなかった。でも、この学校は群を抜いていたのだ。

だ、ダメだ。笑ったらいけないのに、吹き出しそうになる。

特に二人が入れ替わってから、二人の色にそれぞれ染まっていく仲間が、可笑しくて。

見ている他の大道具も笑いを堪えている。上演中は裏方は物音厳禁なのに。

つ、つらい。早く次の場転がやってきてほしい。

そして怒涛のギャグが終わった頃、急にシリアス展開になった……かと思いきや、またギャグになった。

まるでジェットコースターのような劇だ。展開は早いし、出演者も多い。慌ただしい事この上ない劇だけど、見ていて本当に楽しめる。

そしてクライマックスシーン。殺陣が入る。格好いい。

先程のギャグとのギャップが凄かった。あ、いや、殺陣の中でもギャグが散りばめられている。

もう、笑ったらいいのか泣けばいいのか。忙しい。

そして最後のオチも酷かった。面白かったけど、下品なネタも織り込んで、会場は笑いの渦に包まれていた。

>>863
だから、無視しないで

>>863
ギャグ?野球みたいなストーリーじゃなかったの?

>>864
気にするな!
エレン「リヴァイさん…ご飯粒ついてますけど…。」

こ、この演劇の後に私達の劇をやるのか。非常にやりづらい…。

会場はまだ、ざわざわしていた。「面白かったー!」という観客の声がまだ聞こえる。

スカーレット「今年も安定してますね。さすが集英」

マーガレット「王道の要素を交えながらギャグとシリアスとアクション。そして普遍的なテーマ性。やっぱり先生が指揮しているだけはある」

スカーレット「あれだけの長台詞、相当練習積んでますよ。全く。進学校に本気出されては敵いませんな」

と、先輩達は悔しそうにしている。

集英高校が撤収していよいよ私達の番だ。

準備を素早く済ませて幕の裏側で皆で円陣を組む。

オルオ「あー集英の後ってのは非常にやりづらいが……俺達は自分の劇をやるだけだ。余計な事は考えない。台詞忘れても劇は止めるな。アドリブで繋げ。それっぽく。怪我には注意だ。楽しんで、最後までやるぞ!」

一同「「「「おー!」」」」

と、気合を入れて皆、定位置についた。

ベルが鳴る。心臓の音が、聞こえる。

エレンが私のすぐ傍にいる。エレンも緊張しているようだった。

触れるか触れないかの至近距離。皆、密集している。

マリーナのナレーションの声が聞こえた。

そして、幕が遂に上がった……!





劇は順調に進んでいった。予定通り。尺もオーバーする気配はない。

だけどやはり先程の集英高校の劇の方がコメディ要素が強かったせいか、私達の劇は客の反応がイマイチだった。

特に男性のお客さんの反応が薄い。恋愛物だからか、それとも劇自体が詰まらないのか。

でも、そんな事を考えていたらダメ。今は劇に集中しなければ。

ペトラ先輩が少し渋い顔をしている。小声で「もっと声出して」と言っている。

確かに練習よりも全体的に声が小さく思えた。

集英高校の生徒は全員、張りのある大きな声で会場中に聞こえた。

滑舌も良くて噛まなかった。なのに、

ああ、オルオ先輩が1回噛んだ。あ、でもそのおかげで笑いがちょっとだけ起きた。

今のは演出と思われたのかもしれない。実際はただの素だけど。

ペトラ「あっちゃー(小声)」

やっちゃったーという表情のペトラ先輩だった。

ペトラ先輩はオルオ先輩(ライ王子)の正妃役だ。

一夫多妻制の王家の、所謂後宮の主のような役どころだ。

正妃がいても、第三、第四夫人を迎えるのは別に王家では珍しい事ではない。

ライ王子がレナ王女に執着するのが許せない、嫉妬深い王妃役である。

しかしレナ王女が実は顔に傷がある(という設定)なのを知ってころっと態度を変えるあたり、素のペトラ先輩に近い王妃だ。

ペトラ先輩の出番が来た。袖から抜けて優雅に登場する。

王妃(ペトラ)『あら? 何をそんなに残念がっているのかしら? あ・な・た?』

ライ王子(オルオ)『ぎっくー!』

BGMが急に変わって王妃登場である。ここは数少ないギャグシーンだ。

夫婦漫才のワンシーンで緩衝材になる。小さいけど笑いも起きた。

集英のような大きな笑いじゃないけど、少し空気が良くなった気がする。

王妃(ペトラ)『あら。また新しい妃を迎えるの? 困りますわ。私の断りもなく…』

ライ王子(オルオ)『いや、今回は断ろうと思っている。父上の持ってきた話だが……年齢的にも弟のタイの方が合っている。そうは思わないか?』

王妃(ペトラ)『あら? 第三夫人のダイアナはレナ王女と同い年ですわよ?』

ライ王子(オルオ)『うぐっ……そ、そうだったかな?』

王妃(ペトラ)『レナ王女と言えば、この近辺では一番美しいと言われたサジタリアース国、マリア王妃と瓜二つの美しい王女と噂されていますわね。あなた、面食いですものね。だから妃に迎えようと思ったんじゃありません? (ゴゴゴ)』

ライ王子(オルオ)『(滝汗)い、いやそのレナ王女だがな……つい最近、事故で顔に火傷を負ったそうで、見るも無残な顔になってしまったそうなんだよ』

王妃(ペトラ)『あら……それはお気の毒(毒気が抜かれる)』

王妃(ペトラ)『顔に傷を負ってしまうなんて……嫁の貰い手がいないんじゃありません?』

ライ王子(オルオ)『ああ、だがタイの奴なら、気にせず嫁に貰うだろう。というか、押し付ける。今回の婚姻関係は、今後の外交にも影響するからな。破談には出来ん』

王妃(ペトラ)『あらあら……タイ王子もお気の毒ね。まあでも、そろそろ一人くらいお妃を迎えるべき年齢ですし、丁度良かったのかもしれないですわね』

と、言い残してニコニコ退場する王妃。ほっと安堵するライ王子(オルオ)。

そして別のお姫様の縁談を、ニヤニヤして選んでいる。

ライ王子(オルオ)『まあレナ王女がダメなら別の姫でもいいか。今度はどの姫にしようかな~』

王妃(ペトラ)『あなた~聞こえてますわよ(再登場)』

ライ王子(オルオ)『んfsdfksbgslsd……!』

オルオ先輩の動揺っぷりに笑ってしまった。そしてペトラ先輩の名演技。

王妃(ペトラ)『うふふ♪ 本当、若い子が好きね、貴方(どす黒い顔)』

ライ王子(オルオ)『じょ、冗談に決まってるだろ~あはははは』

と、家の中では立場の弱いライ王子である。その分、外では態度がでかい。

そのギャップが何だか可愛いとも思える、憎めないキャラだった。

そして遂にお見合いの席。

一応形式上、段取りを前もって決めていたので顔を合わせるだけのつもりだったレナ王女は、その見合いの席で別の男性と引き合わされて心の中で「聞いてねえええええ」という女子にはあるまじき叫び声をあげる(録音)。

レナ(エレン)『ええっと……これはどういう事でしょうか?』

すっかり作戦成功。破談になると思っていたレナは、動揺している。

国王(キーヤン)『聞いての通りだ。予定していた息子ではないが、代わりにタイ王子との結婚をすすめたいとこちらは思っている』

タイ王子(ジャン)『………(そっぽ向いてる)』

レナ(エレン)『…………あの、でも、本当にいいんですか?』

レナ(エレン)≪何で断ってくれない?! 正気かこいつ?!≫

レナ王女の心の声は口が若干悪い。心の声は前撮りの録音だ。

国王(キーヤン)『ああ、予定を急に変えて申し訳ないが、特に問題はないだろう?』

レナ(エレン)≪大ありだあああ! ちくしょう!≫

レナ(エレン)『ええっと、その……何度も言いますが、私、こんな顔、なんですよ?』

と、観客には見せないで仮面を外して素顔を見せるレナ。

タイ王子(ジャン)『ああ……うん、別に(目合わせない)』

レナ(エレン)≪別にって何?! 我慢してるんなら断ってよ!≫

国王(キーヤン)『こいつはそういう部分で女を選ぶ男じゃないんでな。この縁談を逃したらそちらも困るのではないかね?』

レナ(エレン)≪余計なお世話だっつの! ああもう……何でこんな事に≫

リアクションだけで微妙な内心を録音に合わせて動いて表現する。

マリア王妃(マリーナ)『ええ、二人が二つの国の友好の懸け橋になる事を祈りますわ』

国王(キーヤン)『では早速、日取りの方を決めていきましょうか』

レナ(エレン)『………』

実の母親の命令に逆らえず、頭ではこの結婚が、必要である事は分かっていたが……。

レナ王女は渋々、その日を迎える事になる。

レキ(カジカジ)『姉上……では本当に、嫁がれるのですね』

レナ(エレン)『ええ……』

レキ(カジカジ)『いやだ……姉上! 意に沿わない結婚なんでしょう?! どうして母上は、そんな無理強いを』

レナ(エレン)『し、仕方のない事なのです。レキ、母上を頼みます』

レキ(カジカジ)『姉上ー!』




兄弟の別れ。そして異国の地に嫁ぐ王女。

慣れない環境。そして周りからの嘲笑。

あの風変わりなタイ王子に嫁がされた可哀想な王女。と言われたり、

傷物を嫁に貰った、可愛そうな王子。とも言われたり。

周りは嫌がおうにも風評が広がる。耳障りな毎日。

それが面倒臭くてしょうがないと思いながらも日々が過ぎていく…。

>>872
訂正。

姉弟の別れ。そして異国の地に嫁ぐ王女。

変換ミスです。

ちょっと疲れたので休憩。続きはまたね。

リヴァイ「順調にいってるぜ!」
エレン「気をつけてください…床にバナナの皮がありますから…」
ツルン

3年A組リヴァ八先生編
銀魂とパクリですか?




王宮は贅沢なパーティーを夜な夜な行っている。

しかしタイ王子はパーティーには出ない。部屋に籠って出てこない。

また、一人でパーティーに行かないといけないのか、と思うと気が重い。

レナ王女は一人でパーティーに出席する。その席で一人の召使いがドジをする。

召使い(エーレン)『あ、も、申し訳ありません!』

レナ(エレン)『いい。それよりそちらは怪我をされなかった?』

召使い(エーレン)『お、お気遣いは無用でございます!』

レナ(エレン)『あら、ダメよ。ちゃんと手当をしなければ。こちらにいらして』

控室に召使を連れていく。その様子をぎょっと見つめるギャラリー。

この時は私も背景のモブ役(当然、台詞はない)で舞台に立っていた。

大道具の腰ポーチを外して上から羽織るだけの衣装を着て、このシーンが終わったらすぐ元に戻る。

今のシーンを驚いて見ているだけのモブ役だ。これくらいなら私でも出来る。




この事件を切っ掛けにレナ王女へ対する奇異な視線と風当りが酷くなり、王宮内では評判がガタ落ちする。

そんな非常に面倒臭い事態にレナ王女は辟易していた。

レナ(エレン)『この国の人々は下々に対する感謝の念という物を知らない』

レナ(エレン)『彼らに支えられているのは私達の方なのに』

レナ(エレン)『価値観がまるで違う。ああ、この国を好きになれる日が来るのだろうか?』

レナ(エレン)『帰りたい。あの風の美しい我が国に……』

レナ王女の葛藤。孤独な毎日。それを癒してくれるのは、自国から嫁入りの時に持ってきた、しゃべらないロボット。

自作のロボットだ。彼女は歌や踊りやおしゃべりよりも機械をいじる方が本当は好きなのだ。

丸い形をした可愛らしいロボットに愚痴を零す毎日。

嫁いだ先の夫はまともに相手をしてくれず、話しかけても喧嘩をするばかり。

タイ王子(ジャン)『だから、行きたくないなら無理してまでパーティーになんか出なくたっていいって前から言ってる。アレは兄上の趣味で行っているのだし、そこまで義理堅く、周りと交流なんてしなくていいんだよ!』

レナ(エレン)『しかし……一度くらい一緒に出て貰えませんか? 私達は夫婦として一度も公式の場に出ておりません。周りから何と言われているかご存じならば、せめて……』

タイ王子(ジャン)『言わせたい奴には言わせておけばいいんだ。こっちは忙しい。そんなくだらない事に時間を割かれるのはまっぴらだ。君は自由に過ごしてくれて構わないんだよ』

せめて王女としての役目を果たそうとするものの、タイ王子は結婚当初から頑なな態度を続ける。

そしてレナ王女はタイ王子が毎晩毎晩、何故引き籠っているのかこの時点ではまだ知らない。

レナ(エレン)『はあー分かりました。では私、そうさせて頂きます!』

バタン! また、同じ事の繰り返しだった。

レナ(エレン)『………一体どうしたらいいんだろう』

言い争った後にすぐ後悔する。これでは何の為に我慢してまでこの国に嫁いできたのか分からない。

レナ(エレン)『もういっそ、ここを脱走してやろうかしら』

でも、何処へ? 何も知らない異国の地で一人でどうやって生きるのだ。

籠の中に囚われたような気持ちになる。自由はあるようで、ここにはないのだ。

レナ(エレン)『外の……世界……か』

女性は男性のお供を無しに外出する事は許されない世界だ。

つまり既婚者は夫を共にしなければ、外に出る事も許されない。

夫に放っておかれるという事は、事実上、ただの籠の鳥と同じ。

レナ(エレン)『少しだけでいい。外の世界の空気を吸いたい……』

そう願い始めたレナ(エレン)は、呟く。

レナ(エレン)『あの鳥のように、自由に、空を……!』






そして場転。

ここからはタイ王子の場面へ移る。

タイ王子(ジャン)『すまない。研究室(ラボ)に来る前に妻に捕まってしまってね。今日も小言を言われたよ』

技術屋(アーロン)『いいんですか? 新婚さんなのに』

タイ王子(ジャン)『構わんよ。今はこっちの方が自分の本当の妻のようなものだ』

技術屋(アーロン)『わはは! 王子は本当、酔狂なお方だね。ま、でもこいつに夢中になっちまうのは、技術屋としては共感できますが』

タイ王子(ジャン)『復元の方は出来そうか?』

技術屋(アーロン)『その点は心配いりません。原型はかなり残ってますし。文献も、正確ではない部分もあるでしょうが、8割方は残っています。ただ、この動力源として使われていたと思われる氷瀑石のガスに関してはわが国で採れる物ではないようです。代替エネルギーが必要でしょうね』

タイ王子(ジャン)『候補はいくつか絞れそうか?』

技術屋(アーロン)『その点も大丈夫でしょう。旧時代の発明品ですからね。いくつか改良点を加えて、軽量化も進めれば……人が人の力で空を飛ぶのに近い物は出来上がると思いますよ』




そしてここから、回想シーン。

かつて。この世界の人類は巨人に支配されていた。

人々は巨人を恐れ、壁の中に安住の地を求めた。

しかし巨人との戦いの為に作られた『立体機動装置』が人類を反撃へと導く。

長い長い戦いの末……

人類は巨人を滅ぼし、再びこの地に平和をもたらしたとされる。

(*このシーンは簡潔に映像を作ってスクリーンに映した。立体機動装置を使って、私が巨人(作り物)を切ったり、戦っているシーンをCGを使って映像化している。マーガレット先輩の作)




技術屋(アーロン)『しかし奥さんほったらかしにしてまで、どうしてこいつを作るんです? 私にはそこだけは理解出来ませんが』

タイ王子(ジャン)『……山を登る登山家は、何故山を登る?』

技術屋(アーロン)『そこに山があるから……ですか。なるほど。理屈じゃないんですね』

タイ王子(ジャン)『ああ。こいつを復元させることが出来れば……自分の力で空を飛ぶ事が出来るのかもしれない。そう想像すると、わくわくしてくるだろう?』

技術屋(アーロン)『まあ、気持ちは分かりますがね。完成品を使って、実際それを動かす段階になったら、まずは訓練している兵士にやらせて下さいね。いきなり本人が試運転して怪我されたら、こっちが困りますよ』

タイ王子(ジャン)『うっ……それは分かっているよ。大丈夫』

タイ王子(ジャン)『でも自分もいつか、この空を舞う、鳥のように、自由になってみたいんだよ』





再び、場転。レナ(エレン)のターン。

徹夜して王宮脱走計画を立てる(妄想)。スケッチブックに書き殴っている。

レナ(エレン)『うふふふ…ここをああしてこうして、こうすれば……出来る! 誰にも気づかれずに王宮を脱出する事が!』

レナ(エレン)『ただし! ここにそれを作る材料がない!』

レナ(エレン)『はあ……(がっくり)』

レナ(エレン)『妄想して発散したけど、一人では部品を買いに行くのすらままならない』

レナ(エレン)『せめて、ロボットのメンテナンス用の油くらいは、旦那様に買ってきて頂かないと…』

レナ(エレン)『………』

レナ(エレン)『もう朝の5時か……』

レナ(エレン)『せめてメモ書きでもドアに残して伝言しておきましょう』

メモ書きを持って、てくてくてく…。

レナ(エレン)『あら? タイ様のお部屋に明かりが……』

コンコン。

レナ(エレン)『また、徹夜されたのですか? タイ様』

タイ王子(ジャン)『あ、ああ……すまない。ついつい、研究の手を止められなくてね』

レナ(エレン)『以前から気になっていたのですが……一体何の研究をされているのですか?』

タイ王子(ジャン)『ん……女性にはあまり興味のない代物だよ。機械いじりだ』

レナ(エレン)『まあ! 一体、どんな機械をいじっているのですか?』

タイ王子(ジャン)『…………興味があるのかい?』

レナ(エレン)『ぜひ! 見せて下さい。私にも』

立体機動装置を二人で眺める。

レナ(エレン)『これは……見たことのない装置です。これは一体……』

タイ王子(ジャン)『だろうね。これは大昔、兵士が使っていたと言われる「立体機動装置」の原型だ』

タイ王子(ジャン)『その昔、人間は巨人と呼ばれる怪物に支配されていた時代があった』

タイ王子(ジャン)『それを絶滅させる為に人類が開発した装置、それがこの「立体機動装置」だ』

タイ王子(ジャン)『我が国に一つだけ残された、その原型がそれだ』

タイ王子(ジャン)『もう錆びている部分が殆どで、動力源も残っていないが、その構造自体は理解出来た』

タイ王子(ジャン)『だからそれを原型にして、もう少し軽量化して、長時間使える物を作れないかと思って、独自に研究していたんだ』

タイ王子(ジャン)『………まあ、何の為にやってるんだ、と突っ込まれたら「趣味だ」としか言えないんだけど』

レナ(エレン)『まあ……なんてロマンチックな研究! それなら是非、私にも手伝わせて下さい』

タイ王子(ジャン)『え?』

レナ(エレン)『私、機械をいじるのは得意なんです! こう見えても、工作が得意なんですよ!』

タイ王子(ジャン)『し、しかし……』

レナ(エレン)『着替えてきます! ああもう、こんなヒラヒラした服とはおさらばよ! うふふふ♪』

タイ王子(ジャン)『ちょ、ちょっと待ってくれ、レナ! その……気持ちは有難いが、知識のない人にあまり研究室に出入りされてもらっては……』

さあさあ来た。エレンがNGを連発した問題のシーンが。

ここからが、この劇が変わっていくポイントだ。ここを乗り切ればきっとうまくいく。

レナ(エレン)『!』

その時、思わぬハプニングが起きた。

タイ王子(ジャン)がレナ(エレン)の手を強く引っ張り過ぎたのか、レナ(エレン)の仮面の留め具が衝撃で緩んで、仮面がそこで外れてしまったのである。

火傷の言い訳は、実際にそういう特殊メイクをしている訳ではない。あくまで設定だ。

つまり、観客側にエレンのすっぴんがバレてしまった訳で。

こんなの、台本にはない。どどどどどどどうしよう?!



カツーン……


仮面が舞台に落ちる音がこだました。静寂が、辺りに波紋のように広がる。

ペトラ先輩は顔面蒼白だった。誰もが、言葉を出せなかった。

ここから先はエレンがどうにかするしかない。

エレンが劇を進めなければ、ここで全てが終わってしまう…。

エレンとジャンが見つめあう。

長い長い間のように感じたが、実際は10秒にも満たなかったそうだ。

とにかく劇中の私達はこの時、頭の中が真っ白で、何も考えられなかった。

ただ、エレンを除いて。

レナ(エレン)『あ! (指を適当にさす)』

タイ王子(ジャン)『え? (視線逸らす)』

レナ(エレン)『そ、そうですよね。ごめんなさい。私とした事が、はしたない真似をしてしまって。妻の領分を超えるところでしたわ(仮面をさっと拾って顔を隠す)』

タイ王子(ジャン)『え? え?』

レナ(エレン)『では後で、この油だけ買ってきて頂けませんか? 必要な物なので。お願いします。(メモを渡す)それでは、失礼致します! (ダッシュではける)』

タイ王子(ジャン)『れ、レナー?』

タイ王子(ジャン)『………触ってしまった』

タイ王子(ジャン)『この自分が、か?』

タイ王子(ジャン)『……………(真っ赤になる)』

タイ王子(ジャン)も逃げる。早歩きでレナ(エレン)とは反対側にはける。





戻ってきたエレンがペトラ先輩に小声で謝り倒していた。

エレン「すんません、まさか仮面が途中で外れるなんて思わなくて……大幅に台詞を変えたら減点対象になるし、あれ以上の事は出来なかったです(小声)」

ペトラ「上出来よエレン! 良く劇を止めなかった。本当にありがとう……(小声)」

オルオ「おい、でもこの後どうするんだ。台詞を替えずにこのまま話を進めたら、矛盾する箇所が出てくるぞ(小声)」

ペトラ「そそそそそうよね。タイ王子はレナの顔を見て惚れる訳じゃない。あくまで研究を通じて好きになっていくのに、こんなシーンがあったら、あの時素顔を見ちゃったから、好きになったように観客に思われる(小声)」

エレン「細かい部分は流れに任せましょう。今は、とにかくこのまま続けますよ! (小声)」

エレンの汗が凄かった。それはそうだ。ずっと仮面をつけていたのだ。

仮面のせいで顔は余計に蒸し暑く感じていたはずだ。

今は、その汗をタオルで軽く押さえてあげるくらいの事しかできない。

エレン「……サンキュ、ミカサ(小声)」

ミカサ「頑張って(小声)」

もうこの劇の行方はエレンのアドリブ力にかかってしまった。

乗り込んだ船だ。エレンの舵に任せるしかない。

とりあえず、ここまで。続きはまた。

ジャンが再び舞台に戻る。

メモ紙を見つめながら、ブツブツ続ける。

タイ王子(ジャン)『この油は……食用油ではない。まさか、本当に? 彼女は機械工学に通じているのか?』

タイ王子(ジャン)『女性でありながら、こういった泥臭い作業が好きなのか?』

タイ王子(ジャン)『いや、でも、彼女はほぼ毎日パーティーには出席していた』

タイ王子(ジャン)『一人でも出席するくらいだ。パーティーが好きなのだろう』

タイ王子(ジャン)『……でもこんなマニアックな油の名前を、何故彼女が…』

タイ王子(ジャン)『分からない。分からない……』

ツナギ姿のレナ王女。ロボットの解体をしている。

タイ王子(ジャン)『?! レナ?!』

レナ(エレン)『あ、おかえりなさいませ、タイ様』

レナ(エレン)『油の方はございましたか?』

タイ王子(ジャン)『ああ、あったよ。それに使うのか?』

レナ(エレン)『ええ。動力部分に適度に油を刺さないと動きが悪くなるので』

そして再び組み立てて見せる。少し時間がかかる。かちゃかちゃと音がする。

レナ(エレン)『はい、完成です。見ててください。ちゃんと動くんですよ』

ウイーン……

これはアシモ君のような小さなロボットを想像して貰うと一番分かりやすいかもしれない。

スカーレット先輩が実際に作ったミニロボットだ。フィギュアとか立体造形に関してはスカーレット先輩はエキスパートなのである。

まさかロボットもいける口だとは知らなかったが、簡単な動き(手をあげたり足をあげたり)が出来る物を作った。

エレンが舞台上でやってるのは、油をさすふりをしながら、一回電池の蓋をあけて、また入れなおしている動作だけである。

タイ王子(ジャン)『おお?! これはすごい。動力源は一体……』

レナ(エレン)『サン・単電池という物です。太陽のエネルギーを蓄えて動力源にしているんですよ。我が国で独自に開発した技術を使っているんです』

タイ王子(ジャン)『…………』

タイ王子(ジャン)『レナ。君が機械に携われる知識を持っているというのは、どうやら本当のようだな』

レナ(エレン)『はい。あくまで基本的な部分ですが、助手程度であれば出来ると思いますが』

タイ王子(ジャン)『では、本当に………一緒に研究室に入ってもらえるのか?』

レナ(エレン)『むしろ、させて下さい。私にも触らせて下さい』

タイ王子(ジャン)『………分かった。では早速今日から、お願いするよ。レナ』

レナ(エレン)『はい!』




それから数日間、夫婦は研究室に籠りっぱなしになり、滅多に人前に顔を出すことが無くなった。

そしてようやく研究の大枠が固まり、立体機動装置の改良版の試作品1号が完成する。

それが完成した時、やっと二人は外の光を目に入れた。

レナ(エレン)『うっ……眩しい』

睡眠不足の頭に朝日は眩しいものである。

タイ王子(ジャン)『ああ……でも、いい朝だ』

レナ(エレン)『あとはこれを実際に動かせるかどうか。協力して貰える兵士を募らないと……(ヨロッ)』

タイ王子(ジャン)『レナ! (支える)』

レナ(エレン)『!』

タイ王子(ジャン)『…………』

レナ(エレン)『だ、大丈夫ですよ(照れる)』

タイ王子(ジャン)『あ、す、すまない……つい(照れる)』

レナ(エレン)『ええっと、ちょっとお手洗いに……』

タイ王子(ジャン)『ああ……どうぞぞうぞ』

むずがゆいシーンがきた。練習中はここもしょっちゅう、エレンが笑い出してしまってNGを連発したものである。

今では大分慣れたが、それでも見ている分にもむずむずするのは否めない。

そしてレナ(エレン)のお手洗い後のシーン。

ここの台詞が少しだけ矛盾点をはらんでしまう。エレンはどうするのか…。

レナ(エレン)『……………』

考え込んでいるようだ。大幅な台詞の改良は減点対象になる。

多少の語尾や言い回しの変更は許容範囲だが、劇の内容を変えるような物はNGだ。

レナ(エレン)『ああ、やっと。タイ様の素顔を見る事が出来た。こんな事ならもっと早く、旦那様の事をもっと知ろうとするべきだったわ』

レナ(エレン)『でも彼に本当の事を打ち明けなくて、いいの?』

レナ(エレン)『彼は本当の自分を見せてくれたのに。私は素顔を隠し続けたまま……』

レナ(エレン)『本当は火傷なんかしていない。アレは縁談を破談にさせる為の嘘だったのに』

レナ(エレン)『もし、彼にいつか、本当の事を知られてしまったら、どうしよう……』

というのが、本当の台本の台詞だ。

これはあくまで火傷のない素顔をタイ王子(ジャン)に知られてない事が前提の台詞まわしだ。

でもここをこのまま言ったら、『さっきバレたじゃん』という話になってしまう。

レナ(エレン)『……………』

エレンはどう、切り抜けるのか。頑張って……。祈るしかない。

レナ(エレン)『ああ、やっと。タイ様の素顔を見る事が出来た。こんな事ならもっと早く、旦那様の事をもっと知ろうとするべきだったわ』

レナ(エレン)『でも彼に本当の事を打ち明けなくて、いいの?』

レナ(エレン)『彼は本当の自分を見せてくれたのに。私は自分を隠し続けたまま……』

レナ(エレン)『本当は火傷なんかしていない。アレは縁談を破談にさせる為の嘘だったのに』

レナ(エレン)『もし、彼にいつか、本当の事を知られてしまったら、どうしよう……』

一部だけ変更した。素顔→自分を変えてきた。この程度の変更なら恐らく許容範囲だろう。

でも、自分を隠す? え? どこを隠しているの?

レナもタイ王子に自分の趣味を曝け出したし、火傷のない顔もバレてしまった。

他に隠している事、あったかしら?

レナ(エレン)『………いっそ、本当に火傷をするべきかしら』

レナ(エレン)『そうね。それが一番、いい方法なのかもしれない』

レナ(エレン)『でも、それが出来なかった私は、本当は臆病者なの』

レナ(エレン)『自分を傷つけるのは怖い、卑怯者』

レナ(エレン)『だから、逃げる事ばかり考える。空想するの。現実から、逃げる自分を』

レナ(エレン)『機械を弄っている時だけは、現実を忘れられる』

レナ(エレン)『夢中でいられる時間が終わると、急に夢から醒めてしまうのよ』

レナ(エレン)『ふー……』

レナ(エレン)『何だか頭がぼーっとするわ。寝不足ね』

レナ(エレン)『少し疲れちゃった。ラボで休ませて貰おう』

ラボに戻ると、タイ王子(ジャン)が先に仮眠用のベッドで眠っていた。

その隣でレナ(エレン)も眠る。そして、暗転へ移動した。

眠い。もう限界。寝ます。続きはまたね。




そして少しの月日が流れ。



タイ王子(ジャン)『レナ』

レナ(エレン)『なんでしょう?』

タイ王子(ジャン)『やはり君は立体機動装置を使用するのはやめた方がいいのでは…』

レナ(エレン)『い、いやです! 絶対、完成したら私も一度、使ってみたいんです!』

タイ王子(ジャン)『しかし……いつまで逆さまでいる気だい?』


ブラーン……


レナ(エレン)が立体機動装置の訓練用の装置でひっくり返っている。

レナ(エレン)『うっ……今はバランスを取れませんが、いつかは必ず!』

タイ王子(ジャン)『でもなあ……やはりこの装置を使うにはある種の才能が必要なのかもしれないよ』

と、タイ王子(ジャン)がレナ(エレン)を元に戻してやるが、また、ブラーンと逆さまになってしまう。

タイ王子(ジャン)『ん?』

タイ王子(ジャン)『あ』

レナ(エレン)『え?』

タイ王子(ジャン)『すまない。良く見たら体を支える留め具が緩んでいたようだ。整備ミスだ。ちょっと一回、外すよ』

カチャカチャカチャ

タイ王子(ジャン)『よし、これでいいはずだ。もう一回やりなおすぞ』

今度はちゃんと、レナ(エレン)はブランコのようにバランスを取れた。

レナ(エレン)『やった! これで私も、あの装置が完成したら使う事が出来ますね!』

タイ王子(ジャン)『………本当に大丈夫かな』

レナ(エレン)『文献に残っていた訓練方法がこれ、なんでしょう? 正確に再現して器具を作りましたし。大丈夫ですよ』

タイ王子(ジャン)『うん……』

レナ(エレン)『それに女性も多くこれを使って空を飛んでいた、とあります。大柄な男性より小柄な女性の方が使いやすいのかもしれないですよ?』

タイ王子(ジャン)『でも、失敗したら死ぬよ。確実に』

レナ(エレン)『そ、その為の訓練です。大丈夫です。私、毎日練習しますから』

タイ王子(ジャン)『………やれやれ』





場転。王宮内。

ライ王子(オルオ)がタイ王子(ジャン)に話しかける。

ライ王子(オルオ)『お、久しぶりだな。引きこもり王子』

タイ王子(ジャン)『兄上……お久しぶりでございます(ぺこり)』

ライ王子(オルオ)『夫婦そろって顔を全く見せないとは……アレか? 子作りにでも専念してんのか? (ウリウリ)』

タイ王子(ジャン)『はあ?! 何を馬鹿な事を言ってるんですか!』

ライ王子(オルオ)『隠すなよ~夫婦で部屋で籠ってやる事なんてひとつだろう。ま、お前にはお似合いのお姫様なんだろ? どうなんだ? 夜の方は』

タイ王子(ジャン)『下世話な話はやめて頂きたいのですが、兄上』

ライ王子(オルオ)『おっと、お節介が過ぎたか。まあたまには俺のパーティーにも顔を出せ。出ないとますます誤解されるぞ。ふふふ』

と、意味深に笑ってからかって退場するライ王子(オルオ)。

タイ王子(ジャン)は仕方なく、一度だけ、レナ(エレン)とパーティーに出席する事を決意する。



場転。王宮内。夜のパーティー。

レナ(エレン)『……どういう風の吹き回しですか? あんなに嫌がっていたのに』

タイ王子(ジャン)『聞かないでくれ。とにかく、今夜だけは出る事にしたんだ』

レナ(エレン)『? はあ……』

はてなが浮かんだままのレナ(エレン)。

そして次から次へやってくる来賓の挨拶。それをにこやかに答えて対応するレナ(エレン)。

タイ王子(ジャン)の方はそっぽを向いて遠巻きにしている。

来賓1(マーガレット)『お初にお目にかかります。私、一度、レナ様とタイ王子様とずっとお会いしたかったのですわ。最近、なかなか顔をお見せ頂けなくて、とても残念でしたから余計に、今日という日を喜びに感じますわ』

レナ(エレン)『ありがとうございます。ずっと席を外していて申し訳なかったわ。いろいろ諸事情がありまして』

来賓1(マーガレット)『いえいえ、分かっていますのよ。新婚ですものね。みなまで、察しておりますわ。うふふふふ』

レナ(エレン)『?』

来賓1(マーガレット)『早く第一子の御子がお生まれになられると、きっと両国の陛下もお喜びになられると思いますわ。うふふ』

レナ(エレン)『え……っと……』

ここでようやく事情を察したレナ(エレン)。赤くなってタイ王子(ジャン)に視線を送って確認する。

タイ王子(ジャン)は微妙な顔をして頷いていた。

レナ(エレン)『そ、それは御神が決める事ですので……おほほほほ』

と、愛想笑いでかわして逃げるレナ(エレン)だった。

そんなレナ(エレン)を遠くから眺める召使い(エーレン)。

そこには明らかに思慕の念が混ざっていた。



パーティー後。自宅の宮に帰還後。

レナ(エレン)『なるほど……二人して引き籠っていたから誤解されていたのですね』

タイ王子(ジャン)『ああ。今度からは面倒だけど、片方ずつ、交互に必ず出席しよう。兄上にいろいろ邪推されるのは面倒だ』

レナ(エレン)『そ、そうですか……』

レナ(エレン)『あの、でも…そういう事でしたら』

タイ王子(ジャン)『ん?』

レナ(エレン)『これからは、一緒に公式の場に出た方が良いのでは』

タイ王子(ジャン)『何で?』

レナ(エレン)『片方だけ社交場に出席すると不仲説が蔓延しますし、それは両国にとってもプラスにはなりません』

タイ王子(ジャン)『そんなに体面が大事かな?』

レナ(エレン)『少なくとも、私にとっては両方引き籠って蔓延した噂の方がまだマシです』

タイ王子(ジャン)『……………そういうもんかな』

と、困った顔をするタイ王子(ジャン)。

タイ王子(ジャン)『自分にとっては正直、どうでもいいんだけどな。そういうのは』

レナ(エレン)『ならこのまま研究の為に再び引き籠りましょう。私はそちらの方が一挙両得ですわ』

タイ王子(ジャン)『うー……』

もっと困った顔をするタイ王子(ジャン)。

タイ王子(ジャン)『分かった。そこまで言うなら仕方がない。パーティーは苦手だが、なるべくレナに協力するようにするよ』

レナ(エレン)『ありがとうございます(ニコッ)』

タイ王子(ジャン)『…………ま、君にはいろいろ世話になったしね』

と、ブツブツ言い訳している。

レナ(エレン)『では今夜も遅いですし、休ませて頂きますわ』

タイ王子(ジャン)『ああ、お休み』

そして夫婦は別々の部屋で寝る。レナ(エレン)が自室に戻ったその時……

コンコン。

レナ(エレン)『? 何かしら』

レナ(エレン)『タイ様、何か忘れ物でも…』

しかしドアの前に居たのは、あの時の召使い(エーレン)。

レナ(エレン)『こんな夜分にどうしたの? 何かあったのですか?』

召使い(エーレン)『いえ、その……あの……』

レナ(エレン)『あの、そのじゃ分かりません。貴方の主人は? ライ王子のところの召使いよね、あなた』

召使い(エーレン)『………………』

レナ(エレン)『?』

召使い(エーレン)『お、』

レナ(エレン)『お?』

召使い(エーレン)『お慕い申して、おります! レナ様。どうか、無理を承知でお願いしたい。この私を、貴方様の物にして頂けませんか!』

レナ(エレン)『え?』

召使い(エーレン)『この国の法律では、階級の下の者は、上の者同士の金銭のやりとりで所有権を移動させる事が出来るのです。どうか、私を……そちらの宮付きにさせて下さい』

レナ(エレン)『ちょっと待って頂戴。そんな大事な話を夜中にするものではありませんよ。それに貴方、一人でこんなところに来ては、もしそれが主人にバレたら、罰せられるのは貴方の方でしょう?』

召使い(エーレン)『レナ様であれば、きっと、ご内密にして下さると思い、ここに来ました。私も覚悟の上でございます』

レナ(エレン)『………参ったわね』

レナ(エレン)『そんな事は私の独断では決められません。この宮の主人はタイ様であり、私ではありません。貴方を買う権利を有するのは私にはないのですから』

召使い(エーレン)『では、タイ様にどうかお話を御通し下さい。それまでは宮の外で待たせて頂きます』

レナ(エレン)『旦那様はもう、お休みになられました。無理を言わないで下さい。どうか、お引き取りを』

召使い(エーレン)『……………』

レナ(エレン)『…………』

召使い(エーレン)『では、せめて』

召使い(エーレン)『そのご尊顔を拝見させて下さいませんか』

レナ(エレン)『は?』

召使い(エーレン)『レナ様の本当の御顔をどうか……』

レナ(エレン)『………………(はあ)』

レナ(エレン)『私の事情を知った上でおっしゃるのであれば、それは不敬罪として訴える事も出来るのですよ?』

召使い(エーレン)『…………』

レナ(エレン)『…………』

タイ王子(ジャン)『おい、一体何の騒ぎだ』

タイ王子(ジャン)が戻ってきてしまった。

召使い(エーレン)(ビクン)

タイ王子(ジャン)『君は……兄上のところの召使いだったな。何か火急の知らせか?』

召使い(エーレン)『…………』

タイ王子(ジャン)『また、アレか? 兄上の悪戯か? 全く。人の家の中をこそこそ嗅ぎ回らないで欲しいんだが…』

タイ王子(ジャン)『仕方がない。ほら、これで今夜のところは帰れ』

と言って、タイ王子(ジャン)は召使いに小銭を握らせて宮を追い出した。

レナ(エレン)『また? とは…』

タイ王子(ジャン)『ああ、たまに兄上が悪戯で、用もないのに自分の召使いをこっちの宮によこして、人の家の中を嗅ぎ回ったりするんだよ。やめろって前から何度も言ってるんだが……今の子は、前にも何度かうちの宮に来た事がある。面倒だがその度におっぱらうしかないな』

レナ(エレン)『…………』

タイ王子(ジャン)『びっくりさせてしまってすまない。レナも今度から、対応しなくていいからね』

レナ(エレン)『分かりました』

しかしレナには一抹の不安が残るのであった。

劇中劇パートが長くて申し訳ない。もうちょっとだけ続くが、
ここで一旦区切ります。続きはまた。




レナ(エレン)とタイ王子(ジャン)の仲は順調に良くなっていく。

割と頻繁にパーティーにも顔を出すようになり、下々の間ではレナ(エレン)の評判が良くなっていく。

他の姫様と違って気位も高くなく、優しくて思いやりのある王女だったからだ。

そして人々の間では、次第に、レナ(エレン)の仮面の下の火傷を治して差し上げたいという話が出てきたり、薬を王宮に届けようとする者まで現れる始末。

勿論、それに困ったのはレナ(エレン)自身だった。

タイ王子(ジャン)『受け取ったらダメだよ。キリがない』

レナ(エレン)『わ、分かっております』

タイ王子(ジャン)『ところで………その、火傷の件、何だが』

レナ(エレン)(ギクリ)

ああ、ここも。本当ならタイ王子(ジャン)が素顔を知らない設定で話が進む筈なのに。

既に知られている設定で、どう切り抜けるんだろう。

タイ王子(ジャン)『治したい気持ちがあるなら、名医を探す手配くらいは出来るよ。時間はかかるかもしれないし、完璧には治せないかもしれないが、レナ自身、ずっとこのままでいるのは辛くはないか?』

というのが本当の台本の流れである。

ジャンは一体、ここをどうやって、切り抜けるんだろう。

タイ王子(ジャン)『………』

ああ、考え込んでいる。ジャン、頑張って……。

タイ王子(ジャン)『………………』

ああ、ダメだ。ジャンは長い間を置いている。

ジャンも気づいているのだ。この台詞をこのまま言う訳には行かない事を。

タイ王子(ジャン)『………………………………』

ジャン! 何かアクションを起こして! 出ないと劇が進まない!

その時、ジャンの「あーうー」という態度に、エレンが、

レナ(エレン)『私の事は気になさらずに』

タイ王子(ジャン)『!』

レナ(エレン)『どうか、お願い致します(深々と頭を下げる)』

タイ王子(ジャン)『……………分かった』

うわあ。大幅カットになってしまった。

ジャンの台詞を1個飛ばして、尚且つエレンの台詞まで短くなった。

本当なら、『私にかけるお金があるなら、研究費に回してほしい』という旨の台詞も入るのだが、そこも全面カットする事にしたようだ。

ペトラ『う、うまい……エレン、これで何とか、タイ王子に素顔の事を触れさせない空気を作ったわ(小声)』

オルオ『ああ、ツッコミたくても突っ込めない空気を作っちまった。タイ王子は、何となく事情を察した風になってるぞ(小声)』

減点対象にはなるだろうが、とにかく劇の大筋を狂わせない方向にはなったようだ。

タイ王子(ジャン)『レナがそういうのなら、そうしよう』

タイ王子(ジャン)『ではせめて、他の事で何か、欲しい物とか、ないか?』

レナ(エレン)『欲しい物ですか?』

タイ王子(ジャン)『ああ、出来るだけ手配させよう。可能な限り』

レナ(エレン)『では……新しい六角レンチを用意下さいませ。5ミリ以下の小さいサイズがないのは不便でしたし』

タイ王子(ジャン)『ああ…そうだな。ついでにレナ用の工具も一式揃えないといけないな』

タイ王子(ジャン)『では早急に手配しておこう(タタタ…)』

タイ王子(ジャン)が先にはける。

レナ(エレン)が舞台に残って、しばし俯いている。

そしてタイ王子(ジャン)を追いかけて、二人は舞台袖にはけた。

ジャン「もうどうすんだよこの先……(小声)」

エレン「し、仕方ねえだろ! このままいくしか…! (小声)」

ペトラ「うん、今のは良かったわよ。エレン、でかしたわ(小声)」

オルオ「だがペトラ。話の筋が少しずつズレている以上、減点対象は免れねえ。ここから先は、台本無視でもいいから、とにかくエレンのアクションに任せる方向にしないか? (小声)」

ペトラ「そうね。もうこうなったら腹括るしかないわ。エレン、貴方がこの舞台を指揮して。皆を導いて(小声)」

エレン「……すんません、オレのせいで」

ペトラ「ううん。私が甘く見てたのが悪いのよ。最後の方で素顔を見せるシーンを優先するあまり、エレンの素顔に特殊メイク入れなかったんだもの」

万が一の事を考えて、やはり特殊メイク(火傷入り)を実際に入れて仮面をかぶるべきだったのだ。

もしそうしていれば、先程の仮面が外れたシーンも辻褄を合わせられたのに。

メイクを外す時間が間に合わないかもしれない事を考えて、火傷の細工のシーンは、あくまでそういう『設定』という風の演出にしたのがここにきて悪い方向に転がってしまったのだ。

役者さんは舞台に上がる際に『ドウラン』という油の濃いメイクを入れる。

それは照明の熱から顔を守る為であり、またそれによって、いろんな役どころを演じる事が出来る。

エレンも仮面の下には女性の顔を作っていた。

エレンの素顔は直接的には観客には見せないが、鏡越しに一瞬だけジャンがエレンの素顔を見るシーンを入れていたので、その関係で最初から素顔の上に仮面をかぶっていたのだ。

お客さんの席の角度によってはエレンの素顔が見える可能性もあるし、真実がバレるシーンで、その設定を無視したらそれこそ劇が進まない。

故に素顔を優先した。これはリヴァイ先生が言った『裏方の動きを省略する』過程で行った物である。

リヴァイ先生の提案が、悪い方向に転がった、とも言えるのだが…。

今更そんな事を言ってもどうしようもない。

今、舞台で私達の公演を見て肝を冷やしているのはリヴァイ先生自身だろう。

でも、先生の失敗だとしても、それを受け入れて行ったのは私達、生徒。

修正する事が出来るのも生徒の私達だ。

すみません。出来ればキリのいいところまで書きたいけど、
明日は予定有るんで、夜更かしできない。時間ない。

演劇大会編を出来れば1000レス以内に収めたいとは思いますが、
途中でコメント入っちゃうと、レスが(絶対)足りなくなるので、
ここから先はどうか、気持ちを押さえてレスをお控え下さい。ご協力お願い致します。

あ、ちなみに1000超えても、次スレ立てて続きは書きます。
2はある。予告しておきます。






………もし収まらなかったら、2で続けるけど、
すっごくキリが悪くなると思う。まあ、そん時はその時で。ではまた。

エレン「………」

エレンは何か考え込んでいる。そしてふと、私の方を見た。

エレン「……ミカサ(小声)」

ミカサ「何? (小声)」

エレン「お前ならどうする? (小声)」

ミカサ「私? (小声)」

エレン「もし、自分の好きな人……愛する人に隠し事がバレてしまったら、それをずっと誤魔化し続けるか?」

私は、即座に首を左右に振った。

ミカサ「いいえ。嘘を突き通せる程、私は器用ではない……ので(小声)」

エレン「………だよな(小声)」

エレンの顔が、何故か確信を得たように笑った。

私の言葉で何かいい案を思いついたようだ。

エレン「ペトラ先輩、この後のシーン、少しアレンジを入れさせて下さい(小声)」

と、前もって言ってエレンは自分の案を説明し始めた。





レナ(エレン)がお風呂に入って脱衣所を上がって、鏡の前で着替えている。

そこにタイ王子(ジャン)が偶然やってくる。その時、タイ王子(ジャン)は鏡越しにレナ(エレン)の火傷のない素顔を初めて目にする。

その気配に気づいて慌てて仮面を被りなおす、というのが、当初の予定のシーンだったが、実際の劇中では既にその件はバレてしまっているので、そこに話の辻褄を合わせて演技も変えていくしかない。

エレンはどう、ここを変えていくのか。ぶっつけ本番でやるしかないが…。

レナ(エレン)『あっ………』

ここの驚き方が、少し弱くなっていた。台本では『あっ……!』である。

レナ(エレン)『タイ……様』

ここも、『タイ……様?!』と大げさに困惑するのが本来の演技。

でもエレンは平然としている。

同じセリフでニュアンスが大幅に変わっていた。

そして何より、本来ならここで仮面を被りなおすのに、エレンはそのまま続行した。

顔を隠さないでいるのだ。つまり、観客にはエレンの顔が丸見えである。

観客は少しざわめいている。エレンの顔を凝視しているのだ。

この変更が意味するのは、恐らく重要な何か。

タイ王子(ジャン)『……顔……火傷……してない』

ここも本来なら『……顔……火傷……してない?』と驚くところだ。

でもジャンもニュアンスを変えている。そうか。

レナ(エレン)の素顔を見るのは2回目だから「やっぱり、そうだったのか」という確信を持つシーンに変えたのか。

レナ(エレン)『…………』

タイ王子(ジャン)『あの時は、嘘をついていたのか』

ここも本来なら『あの時は、嘘をついていたのか?』という疑問を浮かべる。

そこも確認する意味での、自分に対する説明的な台詞に変更になった。

レナ(エレン)『………はい』

タイ王子(ジャン)『……もしかして、兄上に見初められるのが嫌で……か?』

ここはそのまま。

レナ(エレン)『はい。加えて言うなら、カプリコーン国との婚儀そのものを壊すつもりでした』

タイ王子(ジャン)『……すまなかったね。そうとは知らず、自分が代わりに君を貰ってしまった』

レナ(エレン)『いいえ。それは…』

タイ王子(ジャン)『よほど、結婚が嫌だったのだろう? 今からでも遅くはない。君が望むのであれば、今の関係も解消して……』

レナ(エレン)『それは嫌です! (食い気味に)』

タイ王子(ジャン)『!』

レナ(エレン)『その……離縁になれば両国の関係が悪化しかねないですし、その…今更そんな事をする意味が…』

タイ王子(ジャン)『しかし自身の気持ちを犠牲にするのは意味がない。君自身に無理強いをさせているのだとしたら…』

レナ(エレン)『無理はしておりません! (再び食い気味に)』

タイ王子(ジャン)『? そ、そうか…では、今まで通り、私の妻でいると、いうのか』

レナ(エレン)『……はい』

この時、エレンは赤面して、下を俯いた。

か、可愛い。やばい。何、あの生き物。と、女の私がそう思ってしまった。

タイ王子(ジャン)『分かった。しかし、君が本当は火傷を負ってなかった事が、もし兄上にバレたら……………面倒だ。その仮面は今まで通りつけ続けてくれるか?』

レナ(エレン)『それは、勿論です(こくり)』

タイ王子(ジャン)『………二人きりの時は、外していても構わないが』

レナ(エレン)『え?』

タイ王子(ジャン)『あ、いや、何でもない! そこは君の自由にしていてくれ!』

と言って、先に舞台をはけるタイ王子(ジャン)。

レナ(エレン)は照れくさそうに仮面をつけなおす。そして追いかけるようにはける。

レナ(エレン)の素顔を前面に観客側に押し出す、という大幅なアレンジを加えた事以外は、ほぼ台本通りに進んだ。

ここから先はもう、今までの台本通りに進める事が可能だ。

山場を乗り越えて、エレンが袖でふーっと息をついた。

ペトラ「エレン! 良くやった! 今のシーンのおかげで流れを修正出来たわ! (小声)』

オルオ「ああ。ここから先は台本通りでいける。もう心配いらないな(小声)』

エレン「……まあ、演じてるのが男だって全面的にバレたでしょうけどね(小声)」

ペトラ「そこはもう、いいわよ。問題はそこじゃないもの(小声)」

オルオ「ああ。問題は男だろうが女だろうが、レナを「美少女」として観客が認めたかどうかだ(小声)」

そうなのだ。エレンが仮面をつけていた理由はもうひとつある。

レナを美少女設定にしてしまった以上、演じる人間がある程度「美少女」でないといけない点だ。

もし美少女ではない人間が美少女役を演じたらどうなるか。

大抵の観客は「あの程度で美少女? ぷっ!」と、言って嘲笑するだろう。

そうなると劇の印象が悪くなってしまう。例えどんなに演技力があっても、顔のインパクトでマイナスになってしまうのだ。

加えて言えば、例えどんなに美少女でも、100人中100人が美少女と認めるような少女はごく稀にしかいない。

なので劇中は観客側がそれぞれ思う、理想の美少女をレナの仮面の下に想像させる方が良いと思ったのだ。

エレンの顔は、私から見たら十分美少女だと思う。

でも、難癖をつける人間は必ずいる。「ブスに美少女役をさせるな」という中傷だってくるかもしれない。

そのリスクを背負っても、エレンは話の筋を修正する方を選んだのだ。

そしてお話は進み、召使い(エーレン)が遂にレナ(エレン)の秘密を知り、それを主人であるライ王子(オルオ)に進言する。

ライ王子(オルオ)はレナ(エレン)の秘密を知れば、自分の妃に迎え入れようとするだろう、と。そう考えて。

案の定、ライ王子(オルオ)は真実を知ってブチ切れる。

ライ王子(オルオ)『なに?! それは真か? あのレナが、本当は火傷など負っていないと?』

召使い(エーレン)『はい、確かに。この耳で聞き、目で確認しました。あの仮面は、偽りでございます』

ライ王子(オルオ)『という事は何か? タイの奴は、その、美少女を自分の嫁にしているのか?!』

召使い(エーレン)『はい、毎日仲睦まじく、過ごされておられます』

ライ王子(オルオ)『うぬぬ……許せん! タイのくせに生意気だ! 弟の身分でこの俺の嫁より美女を嫁にするとは……』

悪い顔をする、ライ王子(オルオ)。

ライ王子(オルオ)『では、その真偽をこの目で確かめたい。タイの奴に気づかれないように、レナを連れてまいれ!』

召使い(エーレン)『御意』







レナ(エレン)が攫われて、冷静でいられないタイ王子(ジャン)は正面突破では恐らく門前払いを食らうと思い、別の手段でレナ(エレン)を奪還する事を決意する。

そう、開発を進めていた「立体機動装置」を真夜中に使用する事にしたのだ。

技術屋(アーロン)『正気ですか?! 昼間ならまだしも、夜中にこいつを使うなんて自殺行為ですぜ?!』

タイ王子(ジャン)『………(無視)』

カチャカチャカチャ……

技術屋(アーロン)『本気、なんですね』

タイ王子(ジャン)『ああ、今回はばかりは兄上もやり過ぎた』

タイ王子(ジャン)『もうここには戻らない。今までありがとうな』

技術屋(アーロン)『分かりました。では……ご武運を!』

タイ王子(ジャン)が夜の王宮を飛び回り(ここはスクリーンで表現)、ライ王子(オルオ)の宮まで単身潜入する。

ライ王子(オルオ)とタイ王子(ジャン)の真夜中の決闘が始まった。

フェンシングに近い動きをどこかに入れたいと話していた件はここに入れられる事になった。

数分に渡る戦いの末、タイ王子(ジャン)が見事に勝って見せる。

ライ王子(オルオ)『な…お前、引き籠ってばかりいたくせに、どこにそんな力が!』

剣術で負けたライ王子(オルオ)はショックで青ざめる。

タイ王子(ジャン)『………それを教える義理はない』

タイ王子(ジャン)『レナは私の妻だ。例え兄上であろうと、譲る気はない。レナを返して頂きたい!』

レナ(エレン)『!』

タイ王子(ジャン)『レナ、大丈夫か。何もされなかったか』

レナ(エレン)『はい。何もされておりません』

タイ王子(ジャン)『良かった。本当に……』

タイ王子(ジャン)がレナ(エレン)を確保して背景セットの方に向かう。

ライ王子(オルオ)『待て! タイ、そこの窓から降りるつもりか?! ここは7階だぞ! 落ちたら死ぬぞ?!』

タイ王子(ジャン)『自分の事は死んだ事にして下さい。さようなら……兄上』

レナ(エレン)『あ……あー?!』

二人で窓の外に飛び降りる(背景セットの裏側に移動するだけ)事で脱出する。

しかし立体機動装置のおかげで、二人は無事に地面に着陸する。という事にする。

レナ(エレン)『こ、怖かった……(ドキドキ)』

タイ王子(ジャン)『ごめん。まだ立体機動装置を使い慣れてなくてね』

レナ(エレン)『いいえ、大丈夫です……(フラフラ)』

タイ王子(ジャン)から離れて立とうとするものの、腰が抜けているレナ(エレン)。

タイ王子(ジャン)『! …………』

ここで、タイ王子(ジャン)の姫様抱っこのシーンだ。

腰の抜けたお姫様を抱えて、背景セットを通って舞台袖にはける。

お姫様抱っこをした瞬間、観客が「きゃああ」と歓声をあげた。

やっぱりここはお姫様抱っこで正解だったようだ。

レナ(エレン)『た、タイ様……』

タイ王子(ジャン)『ん?』

レナ(エレン)『その、どちらに行かれるんですか? その……そっちはタイ様の宮の方向では……』

タイ王子(ジャン)『うん。まだ決めてない。何処へ行くかは』

レナ(エレン)『え?』

タイ王子(ジャン)『レナの行きたい場所でいい。王宮以外の場所なら何処でも。こいつがあれば、どこへだって行けるよ』

と、言ったのは腰にぶらさげた立体機動装置。

この辺りからBGMが変わる。

流れるのは、ライク・アンド・シェルの『自由への招待』だ。

タイ王子(ジャン)『………………』

タイ王子(ジャン)『……………………』

長い、長い間が入る。早く言ってー! ヘタレ王子!

タイ王子(ジャン)『い、一緒に………』

レナ(エレン)『はい!』

タイ王子(ジャン)、がくっと、する。

まだ言ってないのに。食い気味でOKを貰ってしまったのだ。

その瞬間、湧き上がる、小さな笑い。

照れくさそうに笑う、タイ王子(ジャン)。

二人が完全にはけてから、音声だけが響く。

タイ王子(ジャン)『早いところ、二台目の立体機動装置、作らないとな…』

タイ王子(ジャン)『レナ、ちょっと重いし……』

バシッ! 叩かれる音。

タイ王子(ジャン)『…………ごめん』

…………………………。

お、終わった。

終わったああああああああああ!

ライク・アンド・シェルの『自由への招待』がいい感じの余韻を残してエンドロールだ。

幕が徐々に降りていく。終わった。とにかく終わったのだ。

ハプニングを切り抜けて、何とか終わった。

幕が完全に降りた直後、エレンとジャンが同時にぶっ倒れてしまった。

それを慌ててペトラ先輩とオルオ先輩が抱えて撤収する。

オルオ「急いではけるぞー!」

一同「「「「おー!」」」」

私達は、風のように舞台を撤収したのだった。












控室に戻ってわいわい言いながら、メイクや衣装を外して制服姿に戻る。

大道具の私達は次の学校の手伝いがあるのでまだ仕事が残っているが、役者達はここで自分の役目は終わったようなものだ。後はそれぞれの係に戻るだけである。

エレン「あーしんどかった。まじで心臓止まるかと思った……」

ジャン「同感だ……仮面外れた時、やばかったな……」

マーガレット「にしても変ですね。仮面の留め具、入念にチェックしてたのに」

スカーレット「………留め具じゃなくて、紐の方がなんか怪しい」

マーガレット「え?」

スカーレット「まさかと思うけど……誰かに悪戯されたのかな」

ペトラ「えええ? 嘘?! 誰に?!」

マーガレット「考えられるのは他校の生徒じゃないですか? うは! まるで硝子の仮面みたいな展開ですね~」

ペトラ「笑ってる場合じゃないわよ! もしそうだとしたら許せん! 犯人捜しちゃる!」

オルオ「やってる場合か! もう、舞台で仮面が外れるのを見せちまった以上、もし勝ち上がったとしても、この流れのまま行くしかねえぞ」

ペトラ「うっ……そうね。アレはアレで確かにいい演出にはなったけど」

ペトラ「にしても、ごめんね。エレン……結局、顔出ししちゃった」

エレン「あーもう、しょうがないっすよ。ま、美少女設定に説得力がなくなったとしても、そこはそこで」

ミカサ「そんな事はない。エレンは美少女だった」

マーガレット「そうよ! エレンは綺麗だった。だからきっと大丈夫よ」

ジャン「これが本当に女だったら、まあ、オレも放ってはおかなかったかもな」

………………。

その発言後、マーガレット先輩の目が光った。怖い。

マーガレット「やだ、ジャン。ちょっと目覚め始めてる? もしかして、そうなの?」

ジャン「ちょっと……その目やめて下さい! あくまで「女」だったらって話ですからね?!」

マーガレット「隠さなくてもいいのにーうりうり♪ 先輩、そういう話が大好物なのよ?」

エレン「………(冷たい目)」

ジャン「エレンもそんな目で見るな! 悪かったよ! 今のは無しだ!」

と、控室でわいわいおしゃべりしながら(でも手は休めない)ドウランを落としたり、掃除をしたりする。

そんなこんなで私達の出番は終わり、大道具の私は他校の公演を手伝った。

全ての公演が終わり、結果発表までしばし時間が空いた。

その間、舞台裏の後片付けをしていたら、大道具の先輩と思われる他校の生徒に声をかけられた。

大道具3年「ねえねえ、君、講談の1年だよね」

ミカサ「…………(無視)」

作業中だ。無駄話をしている場合ではない。

大道具3年「もう公演は終わったんだし、そう急いで片付けなくてもいいだろ? 後で、メルアド……」

リヴァイ「おい、そこの3年」

大道具3年「は、はい!」

リヴァイ「さっさと終わらせろ。場見の外し忘れをするなよ」

大道具3年「は、はいー(くそー)」

よしよし。遠足も帰るまでが遠足である。後片付けもちゃんとしないといけない。

そんな中、私の耳にある噂話が入ってくる。

観客女子1「ねえねえ、集英の演劇ってさ。どっかで似たような話、見た事ない?」

幕は下ろしたままでも、観客の声がこっちまで聞こえる事はある。

恐らく前列のお客さんが話しているのだろう。

観客女子2「入れ替わりネタだからじゃない? よくあるじゃん。その手の話」

観客女子1「いや、そういう次元の話じゃなくて……ああもう、はっきりと思い出せないんだよね」

観客女子2「でも集英って「創作脚本」でしょ「既存脚本」の方じゃないから、ちゃんと誰かがオリジナルで書いてるんじゃないの?」

観客女子1「うーん、でも、どっかで見覚えあるんだよねー。どこでだったかなー?」

観客女子2「え? それってまさか、既存の脚本をパクッて創作って言い張ってるかもしれないってこと?」

観客女子1「え? あー……もしそうなら、やばくないかな? バレたら失格になるんじゃないの?」

観客女子2「ええ?! 集英に限ってそれはないでしょ……多分」

観客女子1「そ、そうだよね。私の勘違いかな? あはは」

今の話の半分くらいしか理解出来なかった私は、特に気にも留めずに手を進めていたが、マーガレット先輩の目の色が変わった。

マーガレット「…………」

ミカサ「先輩?」

マーガレット「確かに、私も見覚えがある。あれと似たような話をどこかで……」

マーガレット「!」

マーガレット「ミカサ、ごめん! 後、お願い!」

ミカサ「え?」

マーガレット先輩が仕事を放棄して駆け出してしまった。

リヴァイ「おい、チーフ! どこに行く気だ!」

マーガレット「クソしてきます!」

リヴァイ「ならよし!」

ならいいんだ。ちょっとびっくりした。それもそうか。

にしても、一体どうしたんだろう。何かあったのだろうか。

スカーレット「………いや、まさか。でもねえ」

ミカサ「スカーレット先輩、どうしたんですか?」

スカーレット「いやね。集英が既存の話をパクッて創作だと言い張ってるかもって話。幕の外で話してた子、いたじゃない?」

ミカサ「その、既存と創作の違いって何ですか?」

スカーレット「ああ、劇はね、既存の話。つまり既に世の中に発表されている作品を舞台化するパターンと脚本を自分で書く場合と二種類の舞台があるの。私達がやったのは「創作脚本」の方ね。今は創作脚本の方が多いのかな? 既存のやつだと、舞台化する時に、著作権料を支払う場合もあるのよ」

ミカサ「タダで舞台化してはいけない…という事ですか?」

スカーレット「そう。だからもし万が一、世に出ているお話を勝手にパクッて、舞台化したら、それは著作権の違反になるのね。だから、その辺の審査は厳しいはずだけど…集英高校、限りなくクロに近いシロ、なのかもしれないわ」

ミカサ「そ、それは卑怯なのでは……」

スカーレット「ええ、卑怯よ。でも、審査員が気づかなかった場合はシロよ。その確認に行ったんじゃないかな? マーガレットの家には、週刊少年ジャンプーのバックナンバーが1年分、山積みされてるし」

ミカサ「1年分?!」

それはすごい量だ。でも、そんなのを今から確認して間に合うのか?

スカーレット「大丈夫。うちらには、OBとOGという、強い味方がいるから。今頃応援を頼んでいるはずよ」

何だかとんでもない事になってきたような気がする。

そしてマーガレット先輩が汗だくで帰ってきた。そしてぐっとサイン。

マーガレット「イザベル先輩達に連絡とってきた。うちの家に寄って貰って、怪しい号をこっちに持って来てくれるって。役者組の方に確認作業任せてみる。もし黒だったら、絶対訴えてやる!」

ミカサ「ほ、本当にパクってるんですか?」

マーガレット「話の大筋はかなり。設定も似てる。審査員の人達は年配の方が多いから、気づかないとでも思ったのかしら。うふふふ……オタクなめんなよ」

と、マーガレット先輩の顔が怖い。

そして後片付けを済ませて控室に戻ると、エレンとジャンが「確かに似てるかも?」と頷いた。

エレン「あーそう言われれば、この漫画の金魂の話に似てるかもな。でも、設定そのものはかなり弄ってなかったか?」

ジャン「微妙なラインだなー…パクリと言われればパクリにも見えるが、違うと言い張られたら、認めざる負えないような…」

マーガレット「でも台詞の独特の言い回しとか、似てなかった? 絶対これ怪しいよ!」

ガーネット「そうねえ……でも一番の違いは「あまんと」が出てこなかった点じゃない?」

スカーレット「そうね。SF要素は全部カットされていた。というか、ノリには金魂の同人みたいな?」

ガーネット「オマージュですって言い張られたら、こっちはどうにもならないわよ」

マーガレット「うぐっ……」

マーガレットが非常に悔しそうだ。

マーガレット「悔しいいいいい! プロの漫画のネタを舞台脚本化したら面白いに決まってるじゃない! そんなの勝てる訳ないわよ!」

スカーレット「まあまあ……でもこれって、審査員の中で誰かが気づく可能性もあるよ?」

マーガレット「でも審査員の人達、年食ってる人ばっかりだったわよ。ジャンプー読んでいる世代がいるとは思えないけど」

オルオ「そこは読んでいる審査員がいると信じるしかねえだろ。……賭けだが」

ペトラ「……そうね。ここで私達がうだうだ言ってても仕方がない。このジャンプーをもって直訴しても、私達では……」

リヴァイ「ふむ。だったら俺が一応、提出しておこう」

その時、ひょいっと戻ってきたリヴァイ先生がジャンプーを持って行った。

リヴァイ「これが証拠なんだろ? 俺たち教員は劇の点数をつける訳じゃないが、一応、出すだけ出してみる」

マーガレット「先生!」

リヴァイ「まだ審査中の筈だ。間に合えば、空気を変えられるかもしれん」

と言ってリヴァイ先生が出て行ってしまった。

残された私達は、審議の時間、ただ待ち続けるしかなかった…。









チクタク。チクタク。

全ての審査が終わり、いよいよ結果発表の時間になった。

私達はやれるだけの事はやった。後は祈るしかない。

会場は生徒達で埋まっている。神聖な空気が漂っていた。

審査員『では、審議の結果を発表させて頂きます』

ドクン……ドクン……ドクン……

審査員『小学館高校………優良賞』

優良賞はまあ、努力賞のようなものだ。

A会場の中で一番良かった、つまり1位のみが九州大会へ行ける。

A会場、B会場でそれぞれ1校ずつ。それを2日間行うので、計4校が九州大会へ行けるのだ。

審査員『竹書房高校………優良賞』

審査員『集英高校………優良賞』

ざわっ……。

空気が動いた。観客の予想は恐らく集英高校だったのだろう。でも集英は予選敗退だ。

審査員『岩波高校………優良賞』

審査員『偕成高校………優良賞』

審査員『講談高校………最優秀賞』

聞き間違いではない。

勝った。

私達の、勝ちだ。

審査員『更に講談高校には舞台美術賞の方も同時に贈られます。では、壇上へどうぞ』

パチパチパチ……

トロフィーを受け取った先輩達だ。ペトラ先輩は信じられない顔をしている。

席に戻ってからもまだ、顔色が戻っていなかった。

審査員『では続きまして、総評に移らせて頂きます』

審査員『審査委委員長から、お願いします』

マイクを受け取って審査委委員長が話し始めた。

審査委員長『えー今回の演劇大会ですが、非常にバラエティに富んだ物を見せていただきました』

審査委員長『ギャグ、シリアス、恋愛、ミステリー、悲恋、ファンタジー。あらゆる要素を見せてもらったといえるでしょう』

審査委員長『ただ、まだまだ彼らにも未熟な部分もあります。特に基本的な発声がまだ、出来てない高校もありました』

審査委員長『しかし後半、総合的に良くなっていった高校もあり、弱点を克服していく様も見せて貰いました』

審査委員長『演劇は総合芸術であり、ひとつの芸に秀でていればそれで完成するものではありません』

審査委員長『役者、裏方、衣装、音響、照明、そして演出。どれを欠いても劇としては成り立ちません』

審査委員長『そういった意味では、チームワークが問われる球技スポーツと通じる物があるでしょう』

審査委員長『今回、審査員の中でも、意見がかなり分かれました』

審査委員長『テニスで言うならば、完成された熟年のオールラウンダーと、若いサーブアンドボレーヤーの戦いに似ていました』

審査委員長『戦況は、オールラウンダーの方が優勢ではありました。しかし……』

審査委員長『後半、若きサーブ&ボレーヤーの、サーブだけではなく、ボレーの方も活きてきた』

審査委員長『結果は、紙一重でした。しかし今回はその紙一重が明暗を分けました』

審査委員長『そういう意味では、ヒロインをあえて男が演じるという劇も少なくなっていると思います』

審査委員長『私達は今回、演劇の原点に還り、彼の演技力を評価し、彼の今後に期待して、今回は特別に彼に主演特別賞を与えたいと思います』

審査委員長『エレン・イェーガー君、壇上にどうぞ』

ざわざわざわ……

すっぴんのエレンが壇上にあがると、ざわめきが更に広がった。

「え? 男?」「嘘だろ?!」という悲鳴に近い声がひそひそと聞こえる。

審査委員長「私は本気で女性が演じていると途中まで勘違いしていたよ」

エレン「え?」

審査委員長「『エレン』という名前は女性に多いじゃないか。まあ、男性にもいなくはないが。君の演技は大変素晴らしかった。これからも頑張って下さい」

エレン「あ、ありがとうございます……(照れる)」

パチパチパチ………

審査委員長『そして講談高校は、舞台美術に関しても一切、手を抜かなかった。背景セットは当然だが、小道具に対する愛情は他の高校の群を抜いていた。その点も評価したいと思います』

マーガレット先輩達は顔を赤くしていた。褒められ慣れてないらしい。

審査委員長『勿論、他の学校も素晴らしかった。しかし、勝負は紙一重の世界です。その一歩先の評価を得るには、多くの時間を犠牲にする事でしょう。しかしその経験は、皆さんの血となり肉となり、更なる今後に繋がっていく事になります。敗退した側も、勝ち上がった側も、今後も弛まぬ努力を続けて下さい。では今回はこの辺で総評とさせて頂きます』

パチパチパチ………













大会が終わって気合が抜けた。

皆、ぼーっとしながら会場を後にしている。

ペトラ「…………」

トロフィーを持ったまま、まだ実感の沸かない様子の先輩達だった。

ペトラ「………結局、脚本賞は、集英が持って行っちゃったわね」

そう。舞台美術とは別に、脚本賞というものもあるそうで、そっちは取れなかったのだ。

ペトラ「ま、そらそうよね。素人が書いた脚本だもの。粗があって当然よね」

マーガレット「というか、パクリ疑惑があるのに脚本賞って……」

リヴァイ「ああ。会議では一応提出したが……そもそも「入れ替わりネタ」自体が古くからよくある手だという事になってな。あの程度でパクリだとか何とか言ってたら、他の劇も似たような要素があるから、という話になったんだ」

マーガレット「そうですか……」

一番残念そうなのはマーガレット先輩である。

ちゃららら~らら~らら~らら~♪

リヴァイ「ん?」

電話だ。リヴァイ先生の携帯電話のようだ。

リヴァイ「ああ、そっちも終わったか。B会場は……白泉高校か。分かった」

ぴっ。

リヴァイ「ファーランから連絡があった。B会場は白泉高校が勝ち上がったそうだ」

オルオ「今年もやっぱりきましたね」

ペトラ「強いわね。さすが古豪」

ミカサ「確か、白泉は女子高でしたよね」

記憶を引っ張り出す。確か白泉は古くからあるお嬢様女子高校だった筈。

制服がすごく可愛らしかったのを覚えている。

リヴァイ「ああ。あそこは大女優、チグサ・ツキノカゲを輩出した演劇の名門校だ」

今は往年の女優だが、60歳を過ぎてもなお、20代の役をやったりする通称「お化け女優」の異名を持つ。

あの女優さんの出身の高校なら、確かにライバルとしては手ごわいかもしれない。

リヴァイ「九州大会では今回の失敗の反省点を踏まえていろいろ調整するぞ」

一同「「「「はい!」」」」

リヴァイ「今日は全員、疲れただろう。早めに帰って休………」

と、言いかけたその時、

ハンジ「やっほー! リヴァイお疲れー!」

エルヴィン「お疲れ、リヴァイ」

ニファ「お疲れ様です」

女子体操部員「「「お疲れ様でーす」」」

男子体操部員「「「お疲れ様でーす」」」

リヴァイ「お前ら……何でこっちに」

ハンジ「今から打ち上げやるんでしょー? カラオケ店押さえておいたから、皆で行きましょうか!」

リヴァイ「ちょっと待て。こっちは疲れ切ってるんだぞ。早めに帰って休ませて……」

ハンジ「ええ? ダメだよーもう予約しちゃったし。いいじゃん、引率いるんだし」

リヴァイ「よくねえよ……こっちは一日中、フル稼働で動いて………」

ぐう………。

リヴァイ先生の(恐らく)腹の虫が、鳴った。

リヴァイ「……ちっ」

ハンジ「リヴァイ、素直じゃないねえ。お腹減ってるじゃない。ほらほら、カラオケ店でご飯食べればいいじゃない! 皆もすぐ、お腹に何か入れたいでしょう?」

エレン「まあ、本音を言えば……」

ジャン「弁当だけじゃ足りなかったのは事実です」

ハンジ「じゃあ決まりだね! 体操部と合同だけど、いいよね?」

オルオ「別にいいですよ。でも金は出しませんよ」

ハンジ「おっと、奢られる気満々だね! いいよ! 今日はエルヴィンいるし」

エルヴィン「慰労会だ。遠慮はいらないよ」

一同「「「あざーっす」」」

という訳で、私達はそのまま会場を後にして、団体でカラオケ店で打ち上げをする事になってしまった。






わいわいわい。ええっと、何人いるんだろう。

演劇部と体操部の合同打ち上げ会なので、………数えるのが面倒だ。

多分、30人くらいはいるだろう。部屋を二つに分けて、適当に分かれて、ご飯を食べながら、カラオケ大会だ。

演劇部員はとにかく先にご飯を食べた。歌は体操部が殆ど歌っている。

リヴァイ先生もお腹が減っていたようだ。ガツガツ食べている。

私も遠慮はしない。このポテト、うまい。から揚げとか、摘まみやすいものをどんどん注文して食べていった。

ニファ「リヴァイ先生、差し入れです(すっ)」

手作りのクッキーを差し出してきた。ああ、アルミンによく似た彼女だ。

ニファ「先生の好きなアールグレイも持って来てますよ。どうぞ」

リヴァイ「ああ、ありがとう。頂く」

おおっと、ペトラ先輩の目が一気に険しくなった。オルオ先輩は心配そうに見つめている。

ペトラ「ちょっとニファ?! こんなところで得点稼ごうなんてずるいわよ?!」

ニファ「あら? 何の事ですか?」

ペトラ「わざわざ差し入れを持参する辺り計算してるでしょ!」

ニファ「そんな……計算、だなんて。たまたまですよ(ニコッ)」

おおっと、女の戦いが勃発している。席を離れて逃げておこう。

関わらないのが一番である。うむ。

エレンはまだ、ぼーっとしているようだ。

ミカサ「エレン、食べた?」

エレン「ああ、食べた食べた」

ミカサ「今日はお疲れ様。舞台、大変だったでしょう?」

エレン「あ? ああ………」

エレンはこっちに体を向き直して私に言った。

エレン「ミカサ、ありがとうな」

ミカサ「え?」

エレン「あの時、オレの質問に答えてくれて」

ミカサ「あの時………ああ!」

舞台袖で問われたアレか。

ミカサ「別に。あの時は、素直にそう思った事を言ったまで」

エレン「ま、そうなんだろうけど……アレがオレにとってのターニングポイントだったんだ」

ミカサ「そうなの?」

エレン「ああ。アレがなかったらきっと、劇の辻妻をうまく考え出せなかった」

と、ジュースを飲みながら言っている。

エレン「仮面外れた時は本当、ひやっとしたけどな。でも、アレはアレでかえって良かったのかもな」

ミカサ「そうね。あの瞬間、物凄く、劇の中に引き込まれた」

静寂が広がった瞬間、ドキドキしたのだ。

あんなドキドキ、なかなかそう味わえるものではないと思う。

ミカサ「凄く綺麗だった。エレンも、ジャンも。素敵だった」

エレン「そっか……」

ジャン「オレはミカサと演技する方が良かったけどな……」

と、エレンの隣に座っていたジャンが急に話に入ってきた。

ジャン「最後の姫様抱っこ、本当重かったんだぞ。女子の方が軽いし、そっちの方がオレは楽だったが……」

ミカサ「私、エレンより重いけど………」

ゴーン……。

気まずい空気が流れてしまった。だって本当の事だ。

ジャン「そ、そうだとしても! 女子を抱える方が心理的に楽というか……」

と、慌ててフォローを入れるジャン。もう、別にいいけど。

エレン「ははは! ミカサが演じてれば、最後のシーンはもっとリアルな声になったかもな!」

ミカサ「エレン、酷い……」

ジャン「そ、そうだぞエレン! レディに失礼だぞ!」

ミカサ「ジャンも酷い…」

ジャン「すまん……」

ああもう。拗ねるしかない。

エレン「でもさ、今回もし、男女で演じてたら、勝ち上がれなかったと思うぞ」

ジャン「うっ……」

エレン「審査委員長が言ってただろ? 演劇の原点に還って評価したって。オレ、女役、ちゃんとやれたって事だよな。観客を騙せてたって証拠だよな?」

ジャン「ああ。悔しいが、お前の女役の演技はうまかった。ミカサを真似してたって言っても、それでも限界があるだろ。よくやれたよな……」

エレン「んー……」

エレンは頬を掻いた。言いにくそうに。

エレン「いや、オレよりも、もっと頻繁に女に間違われる身近な親友がいたのも、勝因のひとつかもな」

ジャン「…………あ、あああ!」

手をポンと打って納得するジャンだった。

ジャン「アルミンか! そうだな。確かに。言われてみればその通りだ」

エレン「女として間違われるくらいの演技って、実際そうなってる奴を見た方がいいだろ? まあ、複合的に観察していろいろ要素を混ぜこぜにしたんだけどな」

ジャン「いや、それにしてもすげえな。お前……そう割り切ってたとしても、実際やれるか否かは別だろうが」

エレン「そうか? うーん、まあ、あの時はもう、やるしかねえって感じだったけどな」

と、ジャンとエレンは話し続ける。

エレン「でも、ジャンの演技も良かったと思うぞ。なんていうか、ヘタレなところ。ヘタレ王子って感じだった」

ジャン「うぐっ………」

エレン「明日からヘタレ王子と呼んでもいいか?」

ジャン「やめろ。広まるだろうが」

エルド「お、ヘタレ王子ー」

グンタ「お疲れ、ヘタレ王子ー」

ジャン「早速、広めないで下さいよ! 先輩!」

笑いが起きた。皆、ようやくリラックス出来たようである。

そんな中、ハンジ先生が何やら怪しげな顔で、リヴァイ先生のグラスと自分のグラスを入れ替えていた。

ミカサ「あ」

ハンジ「しっ!」

ミカサ「?」

何で入れ替えたんだろう? 何か悪戯する気かしら?

ああ、だとしたらいい気味なので、スルーしてやる。

エレンの腹ゲシゲシの件をまだ、私は許していない…ので。

リヴァイ(ごくごくごく)

おお、飲んでる。飲んでる。激辛とか? 激甘とか?

リアクションをわくわくして待つ。さあ、吹き出せ。

リヴァイ「……………」

あれ? ノーリアクション?

リヴァイ「………(赤くなってる)」

あれ? でも、顔は赤い。

リヴァイ「………暑い。脱いでもいいか?」

ハンジ「いいよー! どんどん脱いじゃってー!」

リヴァイ「マイクを貸せ」

ハンジ「はいはい、ライク・アンド・シェル、入れといたよー」

リヴァイ『ああ? それを歌えばいいのか? ふん……聞かせてやる。俺の歌声を』

ペトラ「?!」

何故かリヴァイ先生がステージに上がった。そしてかかる曲は……

ああ、『自由への招待』だ。リヴァイ先生が一人で歌い始めてしまった。

しかも何故か上半身裸で、なおかつ、マイクは逆手持ちで。

ハンジ「エルヴィン! 撮影OK?」

エルヴィン「ああ、ばっちりだ。明日、このネタでリヴァイを憤死させよう」

ハンジ「本当、アルコール入ると、ノリノリだよね。後で我に返って憤死するけど」

なるほど、先程、ハンジ先生はリヴァイ先生にアルコールをこっそり飲ませたのか。

それはいいことを聞いた。私も写真に取って、ネタにしていじめてやろう。

ペトラ「いやあああああ! (連続撮影中)」

ペトラ先輩がスマホでリヴァイ先生を撮影しまくっている。

後日が楽しみだ。うふふ。うふふふふ。

リヴァイ『ふっ……他に歌ってほしい曲はあるか? お前ら』

ニファ「次はザ・リレクテッド・ヒーローズをお願いします! (シュバッ)」

リヴァイ『あ? 良く分からんが……適当に歌ってやるぞ(ヒック)』

ああ、酔っぱらってる。ダメだ。マイクを独占されてしまった。

ペトラ「ちょっと、次はフラワーでしょ!?」

ニファ「ライクばっかり嫌ですよ! あ、フォーエバーもお願いします」

ペトラ「絶え間なく注ぐ愛の歌は歌わせない!」

喧嘩? のような言い争いだ。あーあ。知らない。

エレン「…………んーどうする? オレらも何か歌うか? 隣の部屋で」

ジャン「そうだな。こっちはリヴァイ先生に支配されちまったし」

ミカサ「そうしましょう」

そんな訳で隣の部屋に私達は移動して、体操部のメンバーと合流して順番に歌った。

ミカサ『おーとこにーはーおとこのー♪』

エレン「ナカジマ派かよ?!」

ジャン「淡々と歌いこなしてるな…」

古い歌で申し訳ない。けど、歌いやすいので好きなのだ。

ジャン『ラブ♪ ソースィーッ♪』

エレン「ラブソングばっかりかよ!」

ジャン『うるせえな! いいだろ別に』

そしてエレンの番になると、

エレン『いらなーい、なにも~すててしまおう~♪』

ミカサ「まさかのラブファントム」

ジャン「ラブ繋がりか。よし、受けて立とうじゃねえか!」

その後は「ラブ」縛りで何故かジャンとエレンの歌合戦。

ネタが出なくなったら負け、という勝負に発展した。

結果はジャンが勝った。

ジャン「よっしゃー! どうだ! ミカサ!」

ミカサ「うん、うまいうまい」

エレン「くそー! もうさすがに分からん! ラブソング! でねえ!」

何でこう、この二人はすぐ張り合うのか。意味が分からない。

という訳で、皆で楽しくわいわいやっていたらあっという間に時間が過ぎた。

るるるる……カラオケ店からの「終了」の電話だ。

ハンジ「はいはい。10分前ですねー了解です」

何故かハンジ先生がこっちに来ていた。電話を応対している。

ハンジ「はい。延長はなしでーす。すぐでまーす」

という訳でカラオケはお開きになりそうだった。

ハンジ「はい! もう時間だから店出るよ! 片付け片付け! 撤収!」

撤収はお手の物である。私達はさっさと片付けて店を出た。

リヴァイ先生は………うわあ。酔い過ぎてエルヴィン先生におんぶされてる。

エルヴィン「では今日はここで解散だ。皆、気を付けて帰るように」

一同「「「「はい!」」」」

エルヴィン「寄り道するなよ。この辺は不審者や痴漢も多いからな。男子は女子を送ってあげるように。いいね」

男子「「はーい」」

エルヴィン「では、解散!」

という訳で、各自、それぞれ帰る事になった。

リヴァイ「すまなかった……削り過ぎた………むにゃむにゃ」

ハンジ「あらら……珍しく愚痴ってる。何か失敗したのかな?」

エルヴィン「ふふっ……次の店で吐かせてやろう。いろいろあったようだからな」

ハンジ「だねー♪ リヴァイの愚痴を聞くのがいい酒の肴だもんねー♪」

と、先生達は笑いながらリヴァイ先生を運んでいた。

ペトラ先輩は物凄くぽーっとしている。

ペトラ「我が生涯に一片の悔い無し……」

マーガレット「ダメですよ! 昇天したら!」

オルオ「………気持ちは分からんでもないが、やれやれ」

オルオ先輩はペトラ先輩を送っていくようだ。

オルオ「女子は一人では帰るなよ。男子が送ってやれ。いいな」

一同「「はーい」」

私は当然、エレンと一緒に帰る。

電車を乗り継いで自宅にたどり着くと、すっかり夜も深まっていた。

エレン「あー……」

ミカサ「?」

玄関に入る前に、エレンが家の前で、立ち止まった。

ミカサ「エレン? 入らないの?」

エレン「ミカサ」

エレンは私を見上げて、笑っていた。

その笑顔は普段と同じもので。

だからこの時、私は想像もしていなかった。

まさか、エレンがあんな事を言い出すなんて。

エレン「オレも隠すの、やめにする」

ミカサ「え?」

エレン「だから、オレも、レナと同じく、自分を隠すの、やめる事にする」

ミカサ「……………」

急に何の話だろうか。

エレン「つっても、いきなり言われても、困るかもしれんが……」

ミカサ「うん?」

エレン「オレ、たぶん、いや………」

そして、エレンは私に言ったのだ。

レナを演じている時よりも、もっと素直な表情で。

エレン「オレ、ミカサの事、好きだ」

…………………と。














エレン「この長い髪を切る頃には」に続く(予定)

次はエレン視点で話が進む予定です。

何か、レス足りないかも…やばいやばいやばい……
とか焦って書いてたら実際は意外と余裕あった。

でも、レス足りないかもと思いながら書くのは心臓に悪いので、
次も残り100レス超えたらレス自重のお願いを勧告するかもです。

新スレは出来れば早く建てたいけど、
たまに立てられない場合もあるので、その時は待ってみます。
あんまり乱立すると、新しいスレ立てにくくなるみたいだしね。

では、次のスレでまたお会いしましょう。それでは。

エレン「この長い髪を切る頃には」
エレン「この長い髪を切る頃には」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/comic/6689/1398969061/)

続きはこちらで。リンク貼っておくの忘れてました。
一応貼っておきます。

タイトルが何故、エレン「この長い髪を切る頃には」なのかは、
まだ秘密です。ネタバレになるんで、言いません。

では引き続きよろしくお願いします。

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