アイドル「私が癒し系アイドルだよー!!みんな癒されるかなぁー!?イエーイ!!」 (21)

イベント会場

アイドル「さぁ! 世の中の荒波にもまれて荒んだ心を私が癒してあげるよー!!」

アイドル「だって私は癒し系アイドルだもん!!」

観客「……」

アイドル「それじゃあ、私の癒し系ソングきぃーてくーださいっ!」

アイドル「私は〜あなたのぉ〜テラピーになりた〜い〜♪」

アイドル「フゥーフゥー!!」

観客「……」



マネージャー「……あいつ、いつになったら癒し系アイドルになれるんだろうな」

スタッフ「前説にしては頑張ってますね」

マネージャー「お恥ずかしい限りです」

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楽屋

アイドル「……」

マネージャー「スタッフの人たちが褒めてくれてたぞ。前説であそこまでやってくれる子は中々いないって」

アイドル「そうですか」

マネージャー「元気ないな。癒し系がそんなんじゃダメじゃないか?」

アイドル「いえ……。いつまで前座やればいいだろうかって考えちゃって」

マネージャー「デビューして間もないし、仕方ないさ」

アイドル「そうですけど……」

マネージャー「それじゃあ、俺は次の現場に行くから。気をつけて帰るんだぞ」

アイドル「はい」

マネージャー「気をつけて帰れよ」

アイドル「わかってますよ」

マネージャー「なら、いいんだ」

アイドル「……はぁ」

アイドル(癒しがほしい……。かえって寝よう)

自宅

アイドル「ただいまぁー」

妹「おかえり、お姉ちゃん。お仕事、どうだった?」

アイドル「まぁまぁ、かな。私の歌声で癒された人も多いと思うし」

妹「すごーい!! さすが癒し系アイドル!!」

アイドル「あはは、ありがとう」ナデナデ

妹「お姉ちゃんはいつも私のこと癒してくれるから、当然だけどね」

アイドル「そう?」

妹「前も、私が膝を怪我したときに絆創膏はってくれたし」

アイドル「……」

妹「指切ったときも、舐めてくれたし……。それから……」

アイドル「ねえ」

妹「なぁに?」

アイドル「ずっと私の傍にいてね」

妹「うんっ!!」

自室

アイドル「ふぅー……」

アイドル(もうデビューして三ヶ月……。売れる兆し、無し……)

アイドル(癒し系で行こうって言われたけど……)


社長『ただの癒し系ではライバルのアイドルには勝てない。既存の癒し系とはまた違うものを出していかないとな』

アイドル『違うもの……ですか?』

社長『とにかく元気いっぱいな面をアピールしていこうじゃないか。癒し系といえばおっとりとか人を和ませることができるタイプのことだろ?』

社長『活発な面を出しつつもそれらは十分に引き出せるはずだ』

アイドル『で、できますか?』

社長『できるできないじゃない。やるかやらないかだよ』

アイドル『な、なら、やります』


アイドル「……」

アイドル「キャラづけ……失敗したかなぁ……」

妹「おねーちゃーん!! おかーさんがごはんできたってー!!」

妹「それでね、私のクラスの男の子がー」

アイドル「……」

妹「お姉ちゃん? どうかしたの?」

アイドル「え? ああ、ごめんね。何の話だっけ?」

妹「もう寝る?」

アイドル「そうね。ちょっと疲れちゃったし」

妹「うん! それじゃあ、お姉ちゃん!! また明日ね!!」

アイドル「……ああ、ちょっと」

妹「なにー?」

アイドル「今日は一緒に寝ない?」

妹「いいのー!? やったー!!」

アイドル(もう妹を抱いて寝ないと、やってられないし……)

妹「おねーちゃーん!」ギュッ

アイドル「よしよし、それじゃあねよっか」

妹「うんっ!!」

翌日 事務所

アイドル「おはようございまーす」

マネージャー「よう」

少女「あら。今日はオフじゃなかったの?」

アイドル「あ?」

少女「ああ、ゴメンナサイ。今日、も。だっけ?」

アイドル「……」

マネージャー「お前もだろ」

少女「私はこの子よりも仕事多いけど?」

マネージャー「どんぐりの背を比べてどうする」

少女「なんですって!?」

アイドル「貴方もスケジュールの打ち合わせでしょ?」

少女「まぁ、そうなんだけどね」

マネージャー「とりあえず、座ってくれ」

アイドル「はい」

マネージャー「とりあえず、この先も営業はあるからな」

少女「デパートの屋上とか、イベントの前説なんてもうやめて欲しいんだけど?」

マネージャー「仕事があるだけマシだろ」

少女「そうはいっても」

マネージャー「電気街の歩行者天国でゲリラライブでもするか?」

少女「私はそういう売り方はしてないもの。正統派清純アイドルだしね」

アイドル「へぇ……。ドMアイドルじゃなかったんだ」

少女「それは社長の方針よ!!」

マネージャー「とりあえず一週間後は二人とも同じ現場だからな。場所は国立公園だ」

アイドル「内容はなんですか?」

マネージャー「イベントがあるから、そこで場を盛り上げてくれ」

少女「司会ね」

マネージャー「いや、風船とかチラシを配ってくれてればいい」

アイドル「それ、私たちがやらないとダメなんですか?」

マネージャー「それを条件に会場でお前たちが歌ってもいいって主催側が言ってくれたんだよ。写真撮影会もありだし、顔を売るチャンスだと思ってくれ」

社長ぇ…

支援

少女「このイベントのメインは、この子だもんね。それだけの時間をくれただけでも感謝しないといけないか」

アイドル(あ、超売れっ子の人だ。いいなぁ……)

マネージャー「そういうわけだから、よろしくな。明日はわかってるな?」

少女「デパートの屋上で踊ればいいんでしょ」

アイドル「私は……。自宅待機です」

少女「あはははは」

アイドル「わらうなー!!!」

マネージャー「やめろって。それじゃあ、今日は解散。おつかれ」

少女「これぐらい電話かメールでいいじゃない」

マネージャー「なら、もっと売れることだな。こうやって事務所に顔を出すのも新人の務めだ。色んな人に顔を覚えてもらわないといけないからな」

少女「そんなの顔写真とか配ればいいでしょ」

マネージャー「おまえな……」

アイドル「失礼します。お疲れ様でした」

マネージャー「ああ。気をつけてな」

アイドル(はぁ……。また前座かぁ……。仕方ないけど……)

一週間後 イベント会場 楽屋

アイドル「おはようございます!!」

少女「おはようございますぅ」

スタッフ「おはようございます。ええと、君たちが今日前説をやってくれるっていう」

アイドル「は、はい。あと、風船配りやチラシ配りもしろって言われてますけど」

スタッフ「すいませんね。人手がないわけじゃないけど、主催がアイドル自身にそういうことやらせたら面白いんじゃないかって言ってて」

少女「いいんですよぉ。お仕事ならなんでもやりますからぁ」

スタッフ「そうですか?」

少女「その代わり、私が歌うときはぁ、そのぉ……時間をのばして……ほしいなぁ……なんてぇ……」

スタッフ「え……」

少女「もし、時間をのばしてくれるならぁ……靴でもなめますよ……」

アイドル「ここでキャラ出しても意味ないんじゃないの?」

少女「キャラっていわないでよ!!」

スタッフ「あぁ、びっくりした……。なるほど、そういうアイドルなんですね」

アイドル「ちなみに私は癒し系なんで、癒しが必要な仕事があれば是非、私に」

スタッフ「それじゃあ、ここで来場に配ってもらえますか?」

少女「はぁーい」

アイドル「わかりました」

スタッフ「開場は20分後なんで。では、よろしくお願いします」

アイドル「がんばります」

少女「はぁ……。どーして、私がこんなことを……」

アイドル「お仕事はなんでもがんばるんでしょ」

少女「あなたは嫌じゃないわけ?」

アイドル「まぁ……。理想とは違うけど……」

少女「そうでしょう? アイドルってステージの上で歌って躍って、キモオタに媚びうって、汚い手を握ってればいいだけど思ってたけど」

少女「まさか、こんな仕事までしなきゃいけないなんてね」

アイドル「私たちはまだマシだって。多分」

少女「そうかしら? このまま光を浴びずに終わるなんてことになったら……」

アイドル「……」

アイドル(まぁ、デビューしてすぐに歌も売れて、テレビにもいっぱい出てる子いるしなぁ……)

>>11
スタッフ「それじゃあ、ここで来場に配ってもらえますか?」

スタッフ「それじゃあ、ここで来場者に配ってもらえますか?」

子ども「わーい。風船ちょーだーい!!」

アイドル「どうぞー!!! 私の癒しの風船を持てば、空まで上っていけるからねぇー!!!」

子ども「ひっ」

アイドル「どうしたのー、ボクー!? 私の癒し風船、あげるよっ!!!」

子ども「わーん!!」

アイドル「あ、あれ!? ど、どうしたの!?」

少女「何やってるの? 子どもを泣かせてどうするわけ?」

アイドル「でも、子どもにどんな風に接したらいいかなんて……」

少女「あの売れっ子アイドルさんのファン層を考えれば子どもが来るのも当然でしょ? そういうのは想定しておかないとダメじゃない」

アイドル「えっと……どうすればいいの?」

少女「まぁ、見ておきなさい。——ごめんなさい、ぼくぅ?」

子ども「え……?」

少女「泣かないで、私のお尻を思い切りぶってもいいからぁ、なきやんで、ね?」

子ども「わーん!!」

アイドル(子ども相手になにやってるのよ……)

「あぁ、あの……会場は、こっちでいいんですか?」

アイドル「はいっ!! そーでーす!!!」

少女「あぁ、ご主人様ぁ、こちらのチラシもどうぞ。イベントの情報が、満載ですからぁ……」

「はは、はい……ど、ども……」

アイドル「私たちも歌いますから、是非是非!! きていってくぅーださいっ!!!」

少女「あなたのために、恥ずかしながら、うたいますぅ……」モジモジ

「わ、わわ、わかりました。ど、どうも……」タタタッ

少女「……チッ。オタクのくせに、もうちょっと食いついてきなさいよ」

アイドル「怖いだけじゃないかな」

少女「貴方だってグイグイ行き過ぎじゃない。あれじゃあ、オタク系の男は引いちゃうでしょ」

アイドル「元気癒し系なんだからしかたないじゃん!! というか、貴方もおかしいでしょ!!」

少女「社長にいいなさいよ!!」

マネージャー「おーい。キャラ崩すなって」

アイドル「あ、やっときた。遅いですよ」

マネージャー「もっと自覚を持て。お前たちはもうプロなんだからな」

少女「そうは言っても私たちのことなんて誰も見てないでしょ?」

マネージャー「そんなことはない。いつでもアイドルは人に見られてると思ったほうがいい」

アイドル「でも……」

マネージャー「きちんとキャラを保っていないと、ファンになりかけた人も離れるかもしれないだろ」

アイドル「そうなんですか?」

マネージャー「お前みたいな元気癒し系が普段は根暗だって知れたら落胆するだろ」

少女「ギャップ萌えがあるじゃない」

マネージャー「マゾのお前が好きだったやつは離れる」

少女「む……」

マネージャー「だから、いつでもキャラは崩すなよ。仕事場なら尚のことだ」

アイドル「がんばります」

少女「仕方ないわね……」

スタッフ「すいませーん。そろそろステージのほうにおねがいしまーす」

アイドル「——はーい!! 会場にきたみんなをいやしまぁーす!!!! イヤッホーイ!!!」

少女「あぁん、そんなぁ、こころのじゅんびがぁ、まだですぅ……」

ステージ裏

ガヤガヤ……

アイドル「うわぁ……。結構、いるなぁ」

少女「私たち目当てじゃないし、気を張る必要はないでしょ」

アイドル「そうは言っても緊張するし」

スタッフ「では、お願いします」

少女「あ、はぁーい。私、イキまぁーすぅ」

アイドル「はい!! 私、癒します!!!」

少女「——みなさぁん、おまたせしましたぁ」

アイドル「どうもー!!! 癒し系アイドルでーす!!!!」

少女「苛められ系アイドルですぅ……」

「「……」」

アイドル「今日はこのイベントに足を運んでくれてありがとうごいまーす!!! お礼に癒してあげますからねー!!!」

少女「私に対してはぁ、歓声よりもぉ、罵声をおねがいしまぁす」

アイドル「ではでは!! 私の癒し系ソングから、いきますっ!!! きぃーてくーださいっ!!!」

楽屋

少女「ふぅ……」

アイドル「お水いる?」

少女「ありがとう」

マネージャー「客の反応薄かったなぁ」

アイドル「あの、やっぱり、このキャラおかしいと思うんですが」

少女「私もそう思ってたところよ」

マネージャー「そう思うなら社長に直談判してみたらどうだ?」

アイドル「それは……」

少女「キャラはいいとして、もっといい宣伝の仕方はあるんじゃないの?」

マネージャー「例えば?」

少女「握手会とかサイン会とかあるでしょ」

マネージャー「うーん、人が来ると思うか?」

少女「……」

アイドル「な、なら、えーと、前に言っていた、ゲリラライブとか」

マネージャー「検討してみるか」

少女「私は嫌よ。そんなの。そんなことするならファンとの交流会のほうがいいわ」

マネージャー「ファンなんているのか、お前たち」

少女「10人ぐらいはいるかもしれないでしょ!!」

アイドル(私は5人ぐらいいてほしいなぁ……)

マネージャー「交流会って何するんだ?」

少女「えーと……ほら、私のお尻をぶつイベントとかでもいいじゃない。キャラを売るならそれぐらいしても」

マネージャー「ゲリラライブのほうがよくないか?」

アイドル「私は癒し系だから……。あ、1日だけ病院の院長をするとかどうですか?」

マネージャー「今どきそんなことしてもなぁ」

アイドル「でも、ほら、癒し系ですから」

マネージャー「分かった。社長に言ってみよう」

少女「そうだわ。私は握手会じゃなくて、罵声会ってどう? 私に対して罵声を飛ばしてストレスと発散してもらうっていう感じでやればいいのよ」

マネージャー「……それは、アリかもな」

アイドル(私なら欝になるかも……)

駅前

マネージャー「真っ直ぐ帰れよ。それじゃあ、お疲れ様」

少女「ふぅ……」

アイドル「疲れたね」

少女「そうね」

アイドル「清純派アイドルなんだよね、貴方は」

少女「売れるためならなんでもするわよ」

アイドル「そうなんだ」

少女「清純でしょ?」

アイドル「どこが」

少女「目的のために手段を選ばないところがよ」

アイドル「ああ。そう……。罵声会やるんなら、頑張ってね」

少女「ふん。言われなくても。というか、貴方もいい売り方考えないとダメじゃないの? 元気な癒し系ってただでさえちょっとズレてるんだから」

アイドル「わかってますぅ」

少女「それならいいけど。それじゃあ、お疲れ。またね」

自宅

妹「お姉ちゃん、おかえりっ!」

アイドル「ただいまー」

妹「今日、お姉ちゃんの応援に行けなくてゴメンね」

アイドル「いいよ。場所も遠かったし」

妹「でもね、友達が行くって言ってたから、ちゃんとお姉ちゃんが出ること、言っておいたよ」

アイドル「そうなの? ありがとね」ナデナデ

妹「えへへー」

アイドル(可愛い妹が苛められなきゃいいけど……)

妹「そういえば、お姉ちゃんはあの人と一緒にお仕事したんでしょ? どんな人だったの?」

アイドル「あの人って?」

妹「この人ー」

アイドル「あぁ……売れっ子の……。残念だけど、同じ場所にいたってだけで、一言も話してないの。ごめんね」

妹「そうなんだー」

アイドル(今の小学生は皆、夢中なんだよね……。悔しいけど、あの人はやっぱりすごいなぁ……)

期待乙

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