新・学園都市第二世代物語2 (420)

(ご挨拶)

皆様こんばんは。
>>1です。

「新・学園都市第二世代物語」の第三部を投稿致します。どうぞ宜しく御願い致します。

前スレ)「新・学園都市第二世代物語」


前作)「学園都市第二世代物語」

*まとめwiki 「学園都市第二世代物語」
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/927.html
(投稿後に御指摘を頂いたおかしいところ等を修正してます他、各章にタイトルをつけてあります)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1355056774


このシリーズの時系列は進行上の都合のためやや変則的でして、御坂美琴嬢をキーにして古い順番に並べ替えますと、



新・学園都市第二世代物語 第二部   美琴 満二十歳
    ↓
学園都市第二世代物語 第一部の過去篇 美琴 満二十三歳
    ↓
新・学園都市第二世代物語 第一部   美琴 満三十二歳
    ↓
新・学園都市第二世代物語 第三部(このスレッドです)美琴 満三十五歳
    ↓
学園都市第二世代物語 第一部の前半  美琴 満三十八歳
    ↓
学園都市第二世代物語 第二部     美琴 満三十九歳



となっています。

従いまして、人間関係はこの一連のシリーズで共通であります。

正直、ここまでのシリーズになるとは当初考えておりませんでしたので、後から構築した部分が大半です。

一応破綻していない、はずなのですが……(実は2人間違えてますw)



*前スレの第二部は過去篇でしたのですっかり忘れてしまっておりますけれども、今作の主人公は第二世代ですので、オリキャラであります。

 前スレ、前作のオリキャラも登場するほか、新たに追加されます。

*エロは殆どありません。そういうのは別の機会に(笑)というか私に書けるのでしょうか?

              ↓

 と、前スレで書いておきながら、第一部、第二部ともしっかり書いてしまいました(すみません)。

 第三部であるかどうかはまだ書き上がっておりませんのでどうなるかわかりません。

 ただ、それがメインではありませんので御了承下さいませ。

 一応、えっちな場面を投稿する場合は目立たないようにsage進行のまま投稿致します。



*バトルは前作でバレております通り、才能がないので巧く書けませんのであっさり目、もしかするとないかもしれません。

*前作同様、地の文ありの小説形式です。 

 主人公が語る形式も同じで、場面によっては第三者的記述も出ますし、他の登場人物の語りになるところもあります。

*登場人物紹介は、今まではネタバレになるため完了後に出しておりました。

今回は第2作の第三部ですが、新しいスレッドなので、メインキャストのみ以下に簡単に書き出してみました。


<主な登場人物> 

*年齢は第三部における基本設定です。

御坂一麻(みさか かずま)*オリキャラです。 本作品の主人公。略称:カズ

学園都市第七学区立旭日中学校2年生 満14歳。
父は上条当麻(かみじょう とうま)、母は御坂麻美(みさか あさみ)
非嫡出子であるが、当麻は認知している。御坂家に預けられ、小学校5年生まで東京の小学校に通っていた。
とあることで発電能力が発現した彼は追われるように学園都市にやってきた。
母親似であり、もてる。


御坂麻美(みさか あさみ:元検体番号10032号)*妹達<シスターズ>の戸籍名は、当シリーズのオリジナル設定です。

満35歳。現在は冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤めている看護士。息子・一麻と再び一緒に住んでいる。
*当麻の子を産むに至った経緯は前スレの第二部(>393以降)を御参照下さい。
欠陥電気<レディオノイズ> レベル3。


上条当麻(かみじょう とうま) 満37歳。

貿易商社サイエンティフィック・インターナショナル・トレーディングに勤めるサラリーマンという表向きであるが、実は学園都市統括理事会外交委員会メンバーである。
魔術サイドとの連絡・交渉役として引き込まれた。同僚には土御門元春がいる。外交官であることは妻・美琴には内緒であるが、実は彼女はしっかり把握している。
妻・美琴との間には長女・麻琴(まこと 満12歳)がいるが、東京の当麻の実家、上条家(刀夜・詩菜)に預けている。
幻想殺し<イマジンブレイカー> レベル0


上条美琴(かみじょう みこと)旧姓:御坂  満35歳

学園都市統括理事会広報委員会所属。今なお学園都市の広告塔、イメージキャラクターである。
妹達<シスターズ>のうち2名を秘書として起用し、場合によっては影武者として行動してもらう事もある。
夫・上条当麻との間に長女・麻琴がいるが、普通の子として育ってもらう為に夫・上条の実家に預けている。
あくまでも「正妻」は自分、という立場であり、当麻が銀髪シスターや五和、はたまた妹達<シスターズ>と会っていても仕方がないと割り切っているものの、「子供」を作る事だけは認めていない。
超電磁砲<レールガン> レベル5 学園都市元第二位


佐藤操(さとう みさお) 略称:ミサちゃん 満13歳

兄は佐藤俊介(さとう しゅんすけ:略称サトシュン)で、小学校5年生の時は一麻と同級生。
そのため、小さい頃から一麻とは面識があり、いつの間にか彼に好意を持つようになった。
兄も認める仲であり、一麻が学園都市に行くのなら、自分も絶対行くといっていた彼女であったが……


御坂親衛隊

東京の小学校5年生時代、一麻のクラスの女子3名が作り上げた組織。
彼に近づく女の子を他のクラスの女子も含めて阻止し牽制する為に出来た。
彼女らのおかげでライバルの女の子は全員が横一線に並ぶ事から、彼に対して好意を持つ女子からはその価値を認められていた(消極的賛成)。
メンバーは小田雅(おだ みやび)、舘川若葉(たてかわ わかば)、長谷川優子(はせがわ ゆうこ)の3人。


御坂美子(みさか よしこ:元検体番号10039号)
学園都市広報部に勤務している上条美琴の、私設第一秘書。時によっては美琴の影役も務める。
10032号(御坂麻美)と同じく、当麻命派であり、お呼びがかかるのを楽しみにしている。彼女は陽のタイプである。


御坂琴江(みさか ことえ:元検体番号13577号)
10032号と同じく、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤務する看護士である。 真面目タイプ。
彼女のみ昔ながらの「ミサカは……します」という口調を強く残し、ややくどいのが玉に瑕。


御坂琴子(みさか ことこ:元検体番号19090号)
学園都市広報部に勤務している上条美琴の、私設第二秘書。華のタイプである。
御坂美子(検体番号10039号)が美琴の影役を努める場合には彼女が第一秘書である御坂美子の代わりになる。


*美琴を、レベル5学園都市第二位という場面がありますが、当SSシリーズでは第二位の垣根帝督の復活はなかった事になっており、従って彼女の順位は1つ繰り上がったという設定だからです。


説明が抜けました……すみません。「佐藤操」と「御坂親衛隊」の項を下記の通り差し替えます。


佐藤操(さとう みさお) 略称:ミサちゃん 満13歳 *オリキャラです。

兄は佐藤俊介(さとう しゅんすけ:略称サトシュン)で、小学校5年生の時は一麻と同級生。
そのため、小さい頃から一麻とは面識があり、いつの間にか彼に好意を持つようになった。
兄も認める仲であり、一麻が学園都市に行くのなら、自分も絶対行くといっていた彼女であったが……
*前作「学園都市第二世代物語」に出てくる「佐藤操」は同一人物です。


御坂親衛隊 *オリキャラです。

東京の小学校5年生時代、一麻のクラスの女子3名が作り上げた組織。
彼に近づく女の子を他のクラスの女子も含めて阻止し牽制する為に出来た。
彼女らのおかげでライバルの女の子は全員が横一線に並ぶ事から、彼に対して好意を持つ女子からはその価値を認められていた(消極的賛成)。
メンバーは小田雅(おだ みやび)、舘川若葉(たてかわ わかば)、長谷川優子(はせがわ ゆうこ)の3人。


どちらもオリキャラであることと、佐藤操は前作にも出ている、という点が抜けました。失礼致しました。


新・学園都市第二世代物語 <第三部>



「よ、カズ、元気してるかっ!?」

「今日もお前かよ……あ~ぁ」

「会った早々にずいぶんじゃないか、その態度? 幼なじみに今日も会えて嬉しいなって顔ぐらいしろよ」

「お前はいいよなぁ、いっつも幸せそうで」

「なんだよー朝から、何そんなに黄昏れてんだよ……? 知ってるか、陰気な顔してると陰気の神様がくっついちゃうんだぞ?」

「お前が明るすぎるんだよ」

「あのさ……それって、なんかあたしが天然バカ、って言われてるような気がするんだけど?」

「おお、なんだ、わかってるじゃん」

「……カズぅ? 年頃の女の子に向かってずいぶんじゃない?」

「あのな、女の子だっていうなら、ちっとはそれらしくしろよな? まずはその言葉遣いをなんとかしろ」



オレの名前は御坂一麻。学園都市第七学区立旭日中学校に通う中学二年生だ。

そして、この乱暴な口をきく生意気な女は長谷川優子。小学校3年生の時からの腐れ縁だ。

オレは小学校5年の時に、超能力の開発を受けていないにもかかわらず、母さんと同じ発電能力(エレクトロマスター)が発現してしまい、とあることが原因で学園都市に来ることになってしまった。

オレは今、母さんが勤める病院の社宅に、母子で一緒に住んでいる。

小学生の時にはオレは児童寮に住んでいたのだが、中学に上がったとたん、待ちかまえていたかのように母さんはオレを社宅に引き取ったのだ。

母さんはすでに、オレのために、家族用の社宅に引っ越しをしていたんだと。



ぶっちゃけ、今思うと、オヤジの言うことが正解だったかもしれない。

小学生の時は母さんと一緒でも良かったかもしれない。

正直、中学に入ってもう2年生にもなると母さんがうるさく感じられる。

とても母さんには言えないけれど、な。

最初の1週間はそりゃオレは嬉しかった。ずっと会えなかった母さんがいてくれるんだから。

たとえ、母さんが夜勤でいない事があっても、な。

でも、最初の1週間が過ぎると、お互いの考え方の違いが出てきて、衝突することが出始めた。

逆だったよなぁと反省する。やっぱ同じ男だけあって、オヤジはよくわかってたと思う。

そこをわかってくれないんだよね、母さんは。

いや、変に理解があっても、それはそれで困っちゃうんだけれどさ。


しかも、だ。

中学校の入学式で、オレは予想外のヤツに出くわした。

五年二組女傑三人衆の一人、長谷川優子がいたのだった。

最初、顔を見てもあの長谷川だとは正直思いもしなかった。

まず、五年生の時は、オレよりもあいつの方が背が高く、がっちりしていたように思うのだが、セーラー服を着たあいつはいつの間にかオレより背が低くなっていた。

まぁ、オレの背が伸びたからなんだけどさ。

髪型も違っていた。

ソフトボールのエースだったあいつの黒髪はかなりのショートだったが、今はボブカットに変わっていた。

そして、日焼けしてどっちかというと黒かった彼女は、色白とまでは言わないが、ずいぶんと変化していたのだ。

顔もまた、当時はカワイイとはお世辞にも言えなかったのだが、中学生になった優子は普通ぐらいにはなっていた。

おんなは化ける、というけれど、既にこの2年ちょっとの間でその言葉の実例を見たわけだ。



だが、変わっていないものがあった。

口の悪さと態度のでかさ、これは全く変化していなかった。

(回想)

「おー、御坂、久しぶりじゃないかー」

「? ごめん、誰だっけ?」

「うっそー!? あたしのことわかんないの? 長谷川だよ、長谷川優子だよ、5年2組で一緒だったろ!」

「へ? あの女傑三人衆の?」

「うわ、そっちで覚えてんのか……そのあだ名は正直もう止めて欲しいんだよなぁ……」

「何言ってんだよ、忘れるもんか……そうか、お前、ここに来ちまったのか……」

「なんだよその迷惑そうな声は……よろしくな? お前、私と一緒の中学になってラッキーだぞ、感謝しろよ?

お前も知った顔がいて良かったろ? 大舟に乗ったつもりで中学生生活を満喫しよう、な? あははははは」

お前なぁ……誰がラッキーなんだ? しかも、声がでかいし。

見ろ。周りの女の子も男子連中もひいてるじゃねーか?

あの子、ああ、あいつは清水遥香(きよみず はるか)だ、あれなんか露骨にオレをにらんでるし。正直迷惑なんだが。

「あー、それから館川も来たからね。学校は違うけど、学区は同じらしいからまた会えるし~♪」

ウソだろ? あいつまで来たのかよ……学校違って良かったよ。不幸中の幸いだわ。

だけど、なんでこいつはこんなに馴れ馴れしいんだ? 小学校の時とじゃエラい違いだ。なんなんだ、こいつ?

「さすが、御坂クンね。入学式そうそう見せつけてくれるじゃないさ」
「ちょっと、誰、この子? 転入生? 学園生じゃなさそうよね?」
「男みたいな笑い方、下品ですわ。フン」

うわぁぁぁ、来ちまったよ……最悪の女どもが。


陵真由美(みささぎ まゆみ)と畑仲茜(はたなか あかね)だ。清水遥香を加えた三人でいつもつるんでいる。

この三人の能力はちょっと変わっており、中学校へ上がる時には霧が丘女学院に進学するんじゃないか?、という専らの噂だったのだが、実際には、何故か旭日中にそのまま進学してきたのだ。

ちなみに、オレは、というと発電能力者<エレクトロマスター>のレベル2だ。

発電、電圧、電流のコントロールはそれなりに出来るようになったが、電磁波はまだまだだ。

これを使えるようになるとぐっと能力の幅が広がるらしいけれど、オレはまだ全然出来ない。

まぁ自分は大器晩成型と信じて頑張ってるんだけどね。

で、話を戻すと、清水・畑仲・陵の3人だが、こいつらはあの「女傑三人衆」の学園都市版だった。

始末に負えないのは、こいつらの能力は、一人一人はたいしたことはないのだが、三人集まるとそれぞれの能力が増幅されとんでもないパワーを発揮することなんだ。

清水は能力の強化、能力増強<AIMアンプ>だけれど、彼女の能力はかなり特異なものだった。

というのは、普通は能力というのは自分の何かが特別に発達するわけだが、彼女の能力は自分の身体能力は上げられない。なので1人だとレベル0なのだ。

ところが、なぜか彼女は他人の能力は上げ下げ出来るのだ。(ただ、マイナスには出来ないらしい。だから<増強>だ)

だから三人衆のうち、彼女がいわば要、キーなのだ。

畑仲は精神面、テレパスの能力者だ。彼女単独ではレベル2であるが、清水のアシストを受けて、いたずらで一度自分のえっちな姿を授業中にオレに送り込んできた事がある。

あの時はホント参った。

陵は物質の再構成。とはいっても一人の時は全然たいしたことはない。構造解析までが限界らしい。

こいつらの顔は、まぁ可もなく不可も(御坂クン!? 女の子の顔についてあーだこーだ言うのはマナー違反なんだから!)

来たよ来たぜ来やがりました。

これが畑仲のテレパスだ。

「まぁな、お前は確かにそうかもな。(ひどーい、そこは否定しなさいよ!!)お前さ、いきなりひとの頭の中に話しかけてくるんじゃねーよ」

畑中の顔を見て、長谷川は「はい?」と言う顔でオレの顔を見る。


「違う、お前じゃない。あのオンナに言っただけ」

オレは今ひとつ状況がわからない、といった顔の長谷川にそう教えてやった。

「あら、随分と御親しい関係のご様子ですこと。御紹介して下さらないのかしら」

ったく、皮肉っぽい言い方でくるのは陵だ。苦手だ、こう言うのは。

「そうね、御坂クン、御願いするわ?」

いつの間にか畑仲と清水が傍に来ていた。

「お前ら、もう中学生なんだから、小学生じゃないんだからガキみたいなことすんなよ?」

一応俺としては、双方に言ったつもりなのだが

「あーら、私たちは、中学生の模範になるべく精進してますのよ? 校則にもそうありますでしょ?」

「うん。清水さんもそーだよねー?」

「畑仲さんは少し能力の行使を控えるべきだけれどねー。あはははは」

三人衆は数の力と巧みな?チームワークでかさにかかってくる。さっさと終わらせた方がいいな。

「それじゃ、こいつら3人、第五小学校じゃ『姦しむすめ』って言われてた連中」

「あー、その言葉、禁句って言ったでしょー?」

「というコイツが畑仲茜(はたなか あかね)だ」

「ちょっと、どういう紹介なのよー!?」

「そのまんまだ。次、彼女が清水遥香(きよみず はるか)」

「よろしくね」

「で、むささび、じゃなかった陵真由美(みささぎ まゆみ)だ」

「御坂くん? あなた、私がそのダジャレがキライなのを知っていて言ったのね?」

「と、彼女はそう呼ばれるのは嫌いなので、絶対に呼ばないこと。長谷川、わかった?」

「ちょっと、そういう紹介の仕方はなくって?」

「御坂、ありがとう。わかったからちゃんとみんなに謝りなよ?」

へー、と思って俺は長谷川を見る。ちょっと見ないうちに、ずいぶん賢くなったみたいだなと。

「ということで、彼女は長谷川優子(はせがわ ゆうこ)だ。前の小学校では同じクラスだったのさ」

同じクラス、と言ったところで、「姦しむすめ」の顔が厳しくなった。なんだなんだ? なんか余計な事言ったかな、おれ?

「あら、世の中って狭いのね」

「へー、偶然?」

「それって結構な確率だよね」

すると、「姦しむすめ」を制するかのように長谷川がはっきりと言った。

「あら、わたし、御坂親衛隊メンバーですもの、追いかけてきたに決まってますわ」

あっけにとられる「姦しむすめ」の3人を前に、言い放った長谷川の顔には不敵な微笑みが浮かんでいた……。


それからの1年間。

長谷川優子は、予備テストの結果の通り、「念動力<テレキネシス>」のレベル1に認定され、努力の結果、おそらくこの春のテストでレベル2に上がるだろうと言われるようになった。

入学式の時、正面から対決した「姦しむすめ」とは、しょっちゅう角をつき合わせていたが、あることであっけなく解消してしまった。

というのは、1学期の終わりの能力テストにおいて、清水・畑仲・陵の3人を一緒にしてテストした結果、畑仲のテレパスがレベル4、陵の物質再構成能力がレベル5と判定されたことで、否応なしに全員が霧が丘女学院へ転校させられてしまったからである。

最後の日、「姦しむすめ」は、俺を呼び出して、お別れのプレゼントを渡すと泣きだしてしまった。

畑仲に至っては「あなたが好きでした」とテレパスで告白してきたし。

俺の方は正直面食らったけど、せっかくくれるというものを拒否するのは良くないと、御礼を言ってもらって帰ってきた。

俺の机の中には4人で撮った(撮らされたのだけれど)3次元ホログラムプリクラがある。

三人は嬉しそうな顔をしてるけど、真ん中の俺の顔が緊張してるのが今見ると笑える。

ぶっちゃけ、彼女にしよう、とは思わないけれど、友だちとしては悪くはなかった。

今はあいつら、どうしているのだろうか。

学区が違うし、俺らとはレベルが違いすぎるので、大覇星祭でも会うことはなかったけれど、元気でやっているのだろうか。



話は変わるが、「姦しむすめ」の重石が取れたせいか、2学期以降、長谷川がかつての小学校のようにクラスの女子を仕切始めていた。

なんせ、あの3人を相手に堂々と渡り合っていたわけで、他の女子からは一目置かれていたらしく、ある意味彼女が仕切るのは当然というような雰囲気だった、らしい。

歴史は繰り返すのだろうか。



そして、新しい新入生が入ってくるこの日。

長谷川優子とは全く逆の、色白の、小柄な、ちょっと控えめ(正確に言うと、俺以外の事には、だ)で、

し・か・し、

「わたしは、カズ兄ちゃんの嫁です」

と堂々と自ら公言するようになっていた、

ちょっと痛い困ったちゃんな佐藤操(さとう みさお)が、

小学校四年生の時から言い続けてきたとおり、ここ(学園都市)にやってきたのだった。


「カズ兄ちゃーん」

放課後の我が2-Eに響くミサちゃんの声。

ピシ、とクラスの中の空気が凍ったことにオレはすぐ気が付いた。

(誰のことだ?)
(おー、結構カワイイ子じゃん!)
(カズ? 和夫? 一麻? 宏和? 誰だよ?)という男子の空気。

(あら可愛い。ま、こないだまでランドセルだもんね)
(誰の妹よ? カズって誰よ?)
(まさか一麻クンだったら……うそ?)という女子の空気。

それぞれが、次の場面を待って息を殺す。

「すみません、入っていいですか?」

(へーカワイイじゃん! 萌える~!!)
(ちっちゃいなー)

男子の緊張が緩むのがわかる。

「あ、いいけど……」 入り口にいた佐久間翔(さくま しょう)がミサちゃんに気圧されたように答えている。

「すみません」 ペコリと頭を下げたミサちゃんはきょろきょろしながらゆっくりと入ってくる。 

教室に入ったものの、中の異様な空気にミサちゃんも気が付いたらしい。途中から歩くスピードががっくり落ちたから。

(なによこの子、馴れ馴れしいじゃない?)
(ちょっと、チビのくせに生意気じゃない?)

当然ながら同性には厳しい。女子の緊張は極端に高まった。うわ、視線が鋭い~、怖い。

そこに速水和夫(はやみ かずお)がミサちゃんに「きみ、一年生?」と声をかけた。

振り向いたミサちゃんは「ハイ! 佐藤操です」と明るいカワイイ声で返事した。こう言うところはちっとも変わってない。

(おおー)
(佐藤なんてウチのクラスにいないぞ? 妹じゃないの? じゃ、彼女なの??????)

と男子のかすかなどよめきが聞こえる気がした。

これはマズイ。ミサちゃんがいつものアレを口走りそうだ。それは危険すぎる!  

「あーミサちゃんちょっと靴箱のところで待ってて? もうすぐ帰るから」

オレは手を挙げてミサちゃんを下がらせようとした。だが、それは自殺行為だった。

「あ、カズ兄ちゃんいた!」

嬉しそうな声をあげて、ペタペタとミサちゃんがやってきた。

「あのね、あたし、買い物行きたいんだけど、一緒に……連れてってくれない、かな?」

「カズ兄ちゃんって御坂なんだ?」

オレを見るミサちゃんと、オレを見比べながら山口隆(やまぐち たかし)がミサちゃんに訊く。

女子の視線がビシビシと突き刺さる。うわ、ひでぇ、無茶苦茶痛い。

「そうですよ」

「それって、幼なじみってヤツ、もしかして?」

だめだ。いけない。ヤバイ! オレは鞄をひっ掴むとミサちゃんの前に立って叫んだ。

「行くぞ!」

「ううん? 幼なじみっていうより、わたし、カズ兄ちゃんの嫁ですから! あ、ありがとね、お兄ちゃん♪」

爆弾が、落ちた。

間に合わなかった……

「なんだそれー!!!!!」
「何よそれー!!!!!!」

男子と女子の怒号と悲鳴が渦巻く教室から、オレはミサちゃんと引っ張って脱出した。

>>1です。
本日の投稿は以上です。

ようやく第三部、始まりました。
とはいえ、ストックはいくつかありますが、中間部分が全く出来ていませんので、すぐ止まります。
申し訳御座いませんが宜しく御願い致します。

*前スレの最後のおまけ、「番外編」も現在作成中ですし(苦笑

頑張りますのでどうぞ宜しく御願いします。
最後までお読み下さいましてどうも有り難う御座いました。

作者様
いつもお世話になっています。
新作を楽しみしております。応援しています。

さて3人で最強とは面白い能力ですね。新機軸と解釈しています。
自分的にはCapacity downer cancelerなんてあれば面白いなとか思います。

ところで、原作を見ると美琴さんは生体電流に干渉できるという記述があります。
だとするなら電撃以外の手段で直接心臓を止めることなんて彼女ならできそうです。
逆にとまった心臓を電気ショックで再生とかも朝めし前でしょう。
というか電磁場というのは想像以上に応用範囲が広いので、作者をそのうちそうゆうことを
ネタにするかもしれません。

皆様こんばんは。
>>1です。

>>12さま
いつもコメント有り難うございます。

そもそもアニメのOPで彼女は電撃で不良連中を撃退してますしw
漫画ではよく黒こげにしてますが、ホントならアレは大火傷してるんじゃないかと
思いますねぇ……。


さて、本日分は誠に申し訳御座いませんが、極少量の投稿と致します。
すみません。


(おかしいわ。絶対)

「あ」

ふいに御坂未来(みさか みく:元検体番号20001号)は顔を上げ、かすかな悲鳴を上げた。

「ン? どうした?」

鋭い目になった一方通行<アクセラレータ>は、彼女を見る。どうみても顔色は悪い。

「……ううん、なんでもない……なんでも、ない」

そういうと、彼女はまた顔を伏せ、物思いに伏せってしまった。

「そうか」

なんでもないワケがないだろうがァ、と彼は思う。

だが、打ち止め<ラストオーダー>自身がなんでもない、と言い張るのだから(ああそうかい)と彼は一歩引いたのだ。

(アイツのことだ。助けて欲しいときは言ってくるし、見る限り、話すキッカケが欲しいようでもねェしな)




一人のミサカが死んだ。

遠い異国の地で。

(また、一人亡くなっちゃった……)

最終個体であり、妹達<シスターズ>の上位個体である打ち止め<ラストオーダー>こと御坂未来(みさか みく)は憂鬱と恐怖におびえていた。



ミサカ。

元々は量産能力者(レディオノイズ)計画で軍用クローンとして考案され、絶対能力進化計画で量産された彼女らは「実験用動物」的位置づけから、その寿命については全く考慮されていなかった。

実験終了後、彼女らは「身体調整治療」のため、と称して世界各国へ散らばった。

一応、基礎研究データと共に、各場所での研究臨床実験結果等は常に送付され、治療の均一化が図られることになってはいたが、当然ながら彼女らが送られた国の状況によって、その待遇に差が出ることは明白であった。

医療先進国に送られたミサカたちは、学園都市を初めとする先進医療情報をほぼ同時に入手し(最速なのは彼女ら自身のミサカネットワークを使用した場合である)迅速な対応が取れるのに対し、そうでない国・医療機関の場合はいかにミサカネットワークから情報を得ようとも、肝心の処置が受けられないのであった。

もちろん、学園都市からは「医療措置費用」なるものが該当医療機関に送られているのだが、そういう事情の国では往々にしてピンハネされ、彼女らの治療には金が回らないのであった。

もっとも、彼女ら自身が死亡してしまうと、当然ながら次からは資金が送られなくなるワケで、その医療機関としては有り難い金づるを失うことになる。

しかも彼女らのネットワークのおかげでインチキは直ぐにばれ、虚偽報告は出来ない。

従って当初は全額ピンハネしていたような国・医療機関も直ぐにその間違いを悟り、ある程度は彼女らの生存に気を配るようになった。

早い話が「生かさず殺さず」の現代版である。とにかく彼女らに死なれては困るのだ。

また、彼女ら自身も自らのネットワークを用いて、そこに自分の受けている待遇を流すことで、改善を図ることも可能であった。



しかし、いくつかの国に送られた彼女たちの中には、意図的にその国あるいは医療機関のピンハネを許すものが現れた。

それは彼女らの周りの悲惨な状況が、彼女らにそれを決断させたのである。

先進医療国家ではありえない、包帯やガーゼ・注射器の使い廻し等といった不衛生な状況の蔓延、そもそもの薬・医療用具自体の慢性的な不足、飲料水の絶対的な不足に加えて衛生的な上水道の敷設の遅れ、食糧不足による免疫不良、蔓延する風土病……etc.

そういった事例を見るに付け、彼女らは自らの生命を引換に、自分が生きる為の最低限の費用だけを使い、残りをその国・医療機関が使うことを認めていたのだった。

かくして、数十人のミサカは1年以内に死亡し、それからも毎年数十人が亡くなって行き、ミサカ達は刻々とその数を減らしていった。


ここ最近の数年間では、ミサカの死亡例は一段落を迎えて落ち着いていた。

それは、決して喜ぶべき話ではなかった。むしろ悲しい事実をそれは意味していた。

つまり、劣悪な環境下にいたミサカ達はほぼ全員が死んだ、ということであった。

もちろん、過酷な環境下から逃げだし、保護され生き残ったミサカ達もまた数多く存在したが。

その後は、年にごく数人の死亡例が出るだけで、2年前のようにゼロ、という年もあった。

それらの原因のほぼ全ては不幸な不運な原因による事故死、であった。

死亡者のデータをみると、実験中止後数年はゼロであったが、その後大きく増え、そしてなだらかに減じ、昨年は2名、一昨年はゼロ、2年前は1名というものであった。

しかし。



彼女ら、妹達<シスターズ>の数は、今年に入って再び減り始めたのだ。

今年の死亡者数は既に10名を超え20名に届かんとする勢いである。

しかも、事故ではなく、また殺されたわけでもない。もちろん実験が再開されたわけでもない。

分布を見ても、特定地域に偏っているわけではない。



「やあ、久しぶりだねぇ。元気そうで何よりだけれど、改まって僕に相談とは、どうかしたのかな?」

「最近、またミサカが死ぬ事例が出てきたの」

暗い顔で、御坂未来(みさか みく)は用件を切り出した。

彼女はリアルゲコ太と口の悪い人間がいう、あの医者の病院に来ていた。

「……そうか、亡くなられたひとにはお気の毒な事をしたね」

彼は痛ましい顔になった。

むろん彼は妹達<シスターズ>全員に会った事などないが、以前は4人の彼女らを雇い、今なお2名がここで働いている。

過去のいきさつから、彼の病院は彼女らにとっての駆け込み寺みたいになっている部分もあるのだが、彼は来るものは拒まずを貫いており、少なくない数のミサカたちが何かしら彼に助けてもらっていたことは事実である。

「で、その話を僕にしに来た、ということは、君は彼女たちの死因に何か不審な点があるんじゃないかと疑っている、ということでいいのかな?」

彼女はかぶりをふった。

「そこまでは考えていないの。でも、何かがおかしいって、何かが私に教えようとしてる」

「ふぅむ……気のせいじゃないのかい?」

「ううん、だって、ミサカの数をグラフにしてみればよくわかるもの」

「ほぅ? ずいぶん具体的だね。君は取ってみたのかい?……どれ、ちょっと君たちのデータを見てみようか?」

彼は妹達<シスターズ>のデータバンクへアクセスする。

データをソートして行くと、彼の額に深いシワが現れた。

「ううむ……きみの言う通りだね」

「ね? ミサカも怖いなって思ってるの」

データは、彼女の懸念をそのまま表していた。明らかに、異常であった。

「気持ちが悪いの」

「そうだね。きみのその直感は間違ってはいなかったようだ。調べてみよう。亡くなったミサカくんたちに何か共通項があるんじゃないかな。

それから念の為ということで、まず学園都市にいる君たちからちょっと人間ドックに入ってもらう、というのはどうかな」

「それは嬉しいですけれど……お金がかかるでしょ……?」

不安そうな顔で未来はカエル顔の医者を見る。

「ははは。確かにそうだね。君や、ここで働いている彼女らはいいとして、さあて、他の彼女らにはどういう理由を付けようかねぇ……?」

彼は、彼女の不安を和らげようと、彼女を見ていたずらっぽい笑いを浮かべたのだった。


ここ最近の数年間では、ミサカの死亡例は一段落を迎えて落ち着いていた。

それは、決して喜ぶべき話ではなかった。むしろ悲しい事実をそれは意味していた。

つまり、劣悪な環境下にいたミサカ達はほぼ全員が死んだ、ということであった。

もちろん、過酷な環境下から逃げだし、保護され生き残ったミサカ達もまた数多く存在したが。

その後は、年にごく数人の死亡例が出るだけで、2年前のようにゼロ、という年もあった。

それらの原因のほぼ全ては不幸な不運な原因による事故死、であった。

死亡者のデータをみると、実験中止後数年はゼロであったが、その後大きく増え、そしてなだらかに減じ、昨年は2名、一昨年はゼロ、2年前は1名というものであった。

しかし。



「やあ、久しぶりだねぇ。元気そうで何よりだけれど、改まって僕に相談とは、どうかしたのかな?」

「最近、またミサカが死ぬ事例が出てきたの」

暗い顔で、御坂未来(みさか みく)は用件を切り出した。

彼女はリアルゲコ太と口の悪い人間がいう、あの医者の病院に来ていた。

「……そうか、亡くなられたひとにはお気の毒な事をしたね」

彼は痛ましい顔になった。

むろん彼は妹達<シスターズ>全員に会った事などないが、以前は4人の彼女らを雇い、今なお2名がここで働いている。

過去のいきさつから、彼の病院は彼女らにとっての駆け込み寺みたいになっている部分もあるのだが、彼は来るものは拒まずを貫いており、少なくない数のミサカたちが何かしら彼に助けてもらっていたことは事実である。

「で、その話を僕にしに来た、ということは、君は彼女たちの死因に何か不審な点があるんじゃないかと疑っている、ということでいいのかな?」

彼女はかぶりをふった。

「そこまでは考えていないの。でも、何かがおかしいって、何かが私に教えようとしてる」

「ふぅむ……気のせいじゃないのかい?」

「ううん、だって、ミサカの数をグラフにしてみればよくわかるもの」

「ほぅ? ずいぶん具体的だね。君は取ってみたのかい?……どれ、ちょっと君たちのデータを見てみようか?」

彼は妹達<シスターズ>のデータバンクへアクセスする。

データをソートして行くと、彼の額に深いシワが現れた。

「ううむ……きみの言う通りだね」

「ね? ミサカも怖いなって思ってるの」

データは、彼女の懸念をそのまま表していた。明らかに、異常であった。

彼女ら、妹達<シスターズ>の数は、今年に入って再び減り始めたのだ。

今年の死亡者数は既に10名を超え20名に届かんとする勢いである。

しかも、事故ではなく、また殺されたわけでもない。もちろん実験が再開されたわけでもない。

分布を見ても、特定地域に偏っているわけではない。

「気持ちが悪いの」

「そうだね。きみのその直感は間違ってはいなかったようだ。調べてみよう。亡くなったミサカくんたちに何か共通項があるんじゃないかな。

それから念の為ということで、まず学園都市にいる君たちからちょっと人間ドックに入ってもらう、というのはどうかな」

「それは嬉しいですけれど……お金がかかるでしょ……?」

不安そうな顔で未来はカエル顔の医者を見る。

「ははは。確かにそうだね。君や、ここで働いている彼女らはいいとして、さあて、他の彼女らにはどういう理由を付けようかねぇ……?」

彼は、彼女の不安を和らげようと悪戯っぽい笑いを浮かべていた。

>>1です。

みっともないことをしてしまいました。読みにくくなってしまいましてすみません。
>>15の原稿の推敲不足でした。
投稿して気が付く、という最低なお話でした。お詫びします。

で、本日はわずかこの2コマです。
次の投稿は第二部番外編の続きになると思います。
何とか年内にあちらは終わらせたいのですが……(汗

こちらの第三部は中間が全く出来ておりませんw
ラストシーンは出来ておりまして、いかにでっち上げて繋げるか、です。
頑張りますがこちらは少々お時間を下さい。
平にご勘弁のほど、宜しく御願い致します。

最後(たった2コマですが)までお読み下さいまして本当に有り難うございました。
それではお先に失礼致します。

作者様
お疲れ様です。
確かに、第2世代物語ですから。美琴さんの同僚や、ライバル・敵が出てきては、
統括委員 御坂もとい上条美琴物語になりますね。
作品の件、品質の高い製品を気長にお待ちしています。
ところで、新約6は読まれましたか?美琴さんの作者の扱いがぐっぐと大物になりましたね。
美琴さん、ほかのlv5と比べても安定感のある存在感ですね。
では、さようなら。
Dear,Autuor
surery,Your SS is just a seconds generations story ,SO Miska Mikoto is not the most important
person in this story
If you discribe her co-worker and oppnent in your story , this story is called mikoto kamijyo
story.



皆様こんばんは。
>>1です。

すっかりご無沙汰してしまいました。ほぼ1ヶ月ぶりです。

>>27さま
コメント有り難うございました。
お返事遅くなりましてすみませんでした。

新約、即買いに行きました。
「(前略)それでも背中を叩いて送り出してやるのが良い女ってヤツよ!!」
彼女、中学2年生ですよね、この時? 
うーん、14歳でここまで……戦国時代の姫並みに悟ってますね。
立派です。 

>>27-san,
Thank you for sending comment again.
I am happy.
sincerely.

それでは本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。


それは、いきなりだった。

(御坂くん、お元気ですか?)

頭の中に響いてきた、最近とんと聞かなかった声。清水遥香(きよみず はるか)の声だった。

(今、授業中よね? 明日ね、ちょっと会いたいんだけれど時間作ってもらえるかしら?)

はぁ? 会いたい? いきなりどうしたんだ、どういう風の吹き回しだ??

(あなたのお母様の病院ロビーで待ってるから。あ、二人は来ないから安心してよね? 、えXXXXょ、あXXX彼XXXXゃXXXXXXX!

あ、ゴメンね。茜はね、ちゃっかりカレs)

テレパスはいきなり切れた。途中からノイズも酷かったが。

こっちからの声が送れない、というのははなはだ不便だ。何の事はない、あいつが一方的に言いたい事だけ言って終わってしまうんだから。

あれ、待てよ? テレパスは畑仲だよな、でも今の声は間違いなく清水だったけど? なんでだ? 

「御坂、聞いてるか? ちょっとそこ訳してみろ!」

うげ、やばい! ど、どこだ?

「47頁、3行目……」  隣の轟木友里恵(とどろき ゆりえ)が低い声でつぶやく。

サンキュ、ゆりっち。助かったぜ……


 
「おう、久しぶりだな」

「元気そうね。安心したわ。ねー、ここじゃ何だから、外に行こう?」

約束通り、一麻は母・麻美が働いている例の病院のロビーで久方ぶりに清水遥香と会っていた。

一麻にとって、私服姿の彼女を見るのは実に小学校以来のことだ。

彼女の私服は相変わらずこざっぱりしたものであったけれど、旭日中学校の制服ではあまりわからなかった胸のふくらみが、ちょっと彼をどきまぎさせた。

「霧が丘って制服なかったっけ?」

ロビーを出て、二人は病院の外へ向かう。

「あるわよ。着替えてきたんだけど、一麻くんは制服の方がよかった?」 ちょっと不安げに答える遥香。

「いやいやいや、遠慮するわ。霧が丘の女の子と歩いていたら何言われるかわかったもんじゃねぇし」 冷やかされるのは勘弁だよ、と一麻。

「そっかー。じゃぁ今度は制服にしちゃおっと♪」  いたずらっぽく笑う彼女に、

「そしたら会わねーから」  彼はそっぽを向く。

実は彼女の胸が気になるからだ。どうしても視線が下がってしまう。彼は健全な中学生男子、なのである。

「えー、なんでよぅ? 御坂くん、あたしのこと、嫌い?」  そんなはず、ないよね? という願いを込めて。

「嫌いなら今日来なかったけどな」  気が付いてか付かなくてか、一麻の返事はそっけない。が、

「ふーん……そっか。まぁいいや」 彼女は機嫌を直した。嫌いじゃない、という返事は彼女には十分だった。

実は彼女なりにこれでも少しおめかしをして来たのだ。

ゴテゴテした少女趣味満開のファッションを彼は嫌い、というのは昔聞いた事があったので、シンプルに纏めた。

見ようによってはどこかの制服そっくり、とも言えるようなものだったが、彼女は一つだけ秘密兵器を持ち込んでいた。

それはバストアップブラ、形良く存在感をアピールする悩殺兵器であった。

着替えに戻った寮を出て、待ち合わせをした病院への道すがら、彼女はその兵器の効果を身をもって体験する事になった。

すれ違う男子中高生の視線が自分を見て、次に胸に注がれる。彼女は恥ずかしさと見られているという高揚感を味わっていた。

本命の一麻が気が付いてくれるかが彼女の唯一の不安だったが、チラチラと動く彼の視線を受ける事で、思わず「やった、成功!」と心の中で彼女はガッツポーズを決めていたのであった。


俺と清水はどこへともなく、という感じで街を歩いている。

「陵(みささぎ)と畑仲(はたなか)はどうしたんだ?」

「気になるの?」  

「いや、お前らいつも三人一緒だったじゃん?」  なんでそんな顔するんだ? 喧嘩でもしたのか?

「まぁね、確かにね……まゆ(陵 真由美)とは今ちょっとね……。それと、ハタちゃん(畑仲 茜)はデートなの」

ええええ……? あいつ、最後の日に俺に告白してったよな? 泣きべそかきながらテレパスで。

それでもう次のカレ出来たって……ま、去年の話だけどさ……俺が言えた立場じゃないけど、そんなものなのか……なんか面白くないな。

おっと、顔に出たのだろうか? 清水が俺の顔を見て何とも言えない顔をして言う。

「御坂くん、茜ちゃん好きだったの?」 ぶは。直球だな、こいつ。

「いやいやいや、違うってばさ。いやさ、最後の日に、あいつ、俺にコクってさー。それで彼出来たって言われたら驚くだろ、普通?」

すると、いきなりこいつが怒りだした。角を生やす、という比喩がよぉくわかったぜ。

「やっぱり! ひっどーい、あの子。自分から言い出して、自分で破ってたなんて! 許せないわ!」

話が見えねぇ。俺に怒ってるようではなさそうだが、ハタ目には俺が怒られてるように見えるのだろうか、苦笑して通ってゆく人がいる。

「すまん、説明してくれ」

「えー、だって、ハタちゃんがね、御坂くんへのアプローチはお互い慎もう、って前ね、言い出したの。だから私、今まで黙ってたのに」

「何だそれ? どういう事だよ?」

「え……あっごめん、忘れて? 今の聞かなかった事にして? ね、御願い」

お前さ、何あわててるんだよ? わかんねぇヤツだなぁ……

つか、畑仲がねぇ……同じ小学校だったけど、話もしたことあるけどさ。

好きって言われても、嫌いじゃないけど、好きって訳じゃなかったし、特別気になる女の子じゃなかったしな……。

あれ、ちと待て、最後はどういう意味だ? 黙ってたって……ええええええ? 

お前、そ、そうなの? マジで? ウソだろ?



黙ってしまった一麻に、遥香は(しまった言っちゃった)と思いながら彼の横顔を見る。

怒ってはいないようなので、少し安心したが、そうなると今度は自分の方が少し恥ずかしくなる。

無言のまま二人は少しの間歩いていたが、沈黙に耐えられなくなった一麻が口を開く。

「で、質問なんだけどさ」

「何?」  ホッとしたように彼女は直ぐに返事を返す。

「どうして清水の声が俺にテレパスで届いたんだ? 畑仲の声ならわかるんだけどさ」

「おおー、よくそこに気が付きましたねー、さすが御坂くん偉い!」

「お前、バカにしてるだろう?」

「ううん、違うわよ。あのね、それがハタちゃんの能力向上の証なのよ。彼女ね、自分以外のひとの声もテレパス出来るようになったの。

耳から入った音声情報を認識して、それを自分の思念と同じものとして狙いを付けた人へ送り込むってわけ。

あの時、能力演習の時間でね、ちょっと私的通信を頼んでみたってわけ」

彼女の説明に、なるほどね、という感じで答える一麻。

「おー、そう言えば確かに、今まではあいつの見たもの、とかあいつの思念?ってのは送られて来たけど……そういや声はあいつ自身のものしか来た事無かったな」

だが、その答えでまたもや遥香の顔は険しくなる。

「へーぇ、御坂くんとハタちゃんって、そういう仲だったんだ……そうなんだ」

違うから、あいつが勝手に一方的に送ってくるだけだったんだから、と一麻は説明するが、彼女は黙りこくってしまった。

ちなみに、彼女が黙っているのは畑仲茜に対して怒っていた為なのだが、一麻は自分に対して怒っている、と思っていた。


かくして、気まずい雰囲気を打破しようと彼は話題転換を図った。

「で、それはそうと、今日は何の用だったんだ?」

「あら、用がないと会っちゃいけないの?」  不機嫌さ100%という感じの声。

「は? なんだそりゃ? 深刻そうな声だったからなんかあったのかと思ったから来たんだぜ?」 そもそもお前が言い出した話だろ、と一麻。

「あは、心配してくれたんだ、私の事?」  少し機嫌を直したのか、明るい声になった遥香。

「別にそれほど心配はしてねーよ。調子に乗るない」  やれやれ、これだから女の御機嫌取るのは疲れるんだよな、と彼は心の中でため息をつく。

「ちぇ、つまんないの」

「だ・か・ら、話を戻すと、何なんだよ、今日の用事って?」

「もう、せっかちね……あのね、ちょっと御坂くんに手伝ってもらいたいことがあるの」

「何だよ?」

「ここじゃちょっと……河原、行こう?」

「え? 人がいるところはダメなのか?」

「人はいてもいいんだけど、広い場所がいいのよ」

「んーさっぱりわかんねぇ、お前の言う事」

「ちゃんと説明するから、ね、御願い」

「はいはい」



他愛もない会話を続けながら、二人はようやく多摩川の川縁に着いた。

「でさ、ここで何するのさ?」

「私の能力、知ってるよね?」

「ああ。どうなんだ、今? やっぱりレベルゼロなのか?」

「ひっどーい。面と向かってゼロか、とか女の子に良く訊けるわね」

「すまん」

「せめて、『レベル上がった?』くらい言って欲しかったな……。そうよ、ゼロのままだわよ、悪かったわね」



彼女の能力は<AIMアンプ>。特異な能力なのだが、自分自身では何も産み出さないことからレベルはゼロとされていた。

それもまたおかしな話だな、と一麻は常々思っていた。

現実に、畑仲、陵の能力はレベル2程度。それが彼女の能力によりレベル4や5にアップしてしまうのだ。

これがどうしてゼロなのだろう? 

そして、彼の父、上条当麻の<幻想殺し>もまたレベルゼロであった。

彼自身が見たわけではないが、叔母・上条美琴の強烈な電撃さえ無効に出来る能力だと言う。しかしながら、判定はゼロ。

これがどうして「無能力者」なのだろうか? 彼には全く理解出来ない話であった。



「そう怒るなよ、悪かった、って言ってるだろ」

「良いわよもう、デリカシーないんだから。それでね、私の能力の影響範囲がごく限られてる、って事も知ってるわよね?」

「ああ。だから『姦し娘』三人衆だったんだろ」

「ちょっと、その名前、やめてよね。で、いろいろ訓練しているんだけど、その範囲が広がってきたのね、といっても未だ1人だけど。

それで、2人めの対象にね、私、御坂くんを候補にしたの」

「へ……?」

彼は、彼女が言い出した話に戸惑うしかなかった。


二人は堤防の柵に寄りかかって話を続ける。

「御坂くん、今レベルいくつ?」

「レベル2だけど、それがどうした?」

「ふーん、変わってないのね……レベルアップに何が足らないって言われてる?」

「あはは、清水にそんな事を訊かれるとは思わなかったな。全部だよ」

少し投げやり気味に答える一麻。

「んもう、真剣に訊いてるのよ? ちゃんと答えてよ」

そんな彼をたしなめる口調で遥香は彼に踏み込む。

「だからそうなんだって。パーソナルリアリティの組み立てに始まって、集中力が弱い、演算速度が遅い、集中度継続力不足、えーと、あとなんだっけ……」

何よそれ、と遥香はあきれたように一麻を見る。

「それって、全部じゃないの……」

「だから最初にそう言ったろ? もう何処をどうやったらいいのかさっぱりわからないんだよねー」

あ~あ、と彼はコクンとうなだれ、そして頭をぐるぐると回し始める。

眉をひそめた遥香は「念のため、訊くけど」と前置きして、

「御坂くんね、あなた、自分の能力ちゃんと把握してるのかしら」と一麻に訊いてきた。

「発電能力者(エレクトロマスター)だってさ。それは間違いないと思うんだけど」

それがどうしたんだよ、と言う顔で彼女を見る。

「頼りないなー。学校でどういう教育受けてるのよ?」

「どうって、清水もいたじゃん。俺っちらの中学、ごく普通だと思うけど……」

らちが明かない、と見て取ったのか、彼女は宣言した。

「わかったわ。とにかく一度真面目に見せてちょうだい。見てあげる」

これに面食らったのは一麻。

「えー? いいよ別に。俺、そんなに困ってないし」

「馬鹿ね、今どきレベル2じゃ将来大変よ? 就職も難しいわよ?」

「何だよ、その話は」

「あのね、今の学園都市は中途半端な能力者だらけで溢れかえってるのよ。無能力者の方が、外へ帰れるだけましなのよ?

能力が発現してしまった人はね、ここで飼い殺しになっちゃうのよ。

それもね、希少な能力の人とか、高レベルの人ならいいんだけど、ありふれた能力の人なんか最悪よ? 

御坂くんのような発電能力者(エレクトロマスター)だと、ちょっと危ないわよ? それでレベル2じゃお先真っ暗よ、わかってるの?」

そう言う話は彼も母・麻美から聞いてはいた。だが、同学年の彼女の口から言われたことにはショックを受けた。

「知ってるさ、そんな事ぐらい」 彼はそれくらいしか答えられなかった。

「知ってるんだったらなおさらでしょ? 最低でもレベル3、ううん、レベル4まで上げないと生き残れないわよ?」

「そんな事無いさ。母さんだってレベル3だし、親父は無能力者だけど、ちゃんと仕事してるし」

「お母様は看護士なんでしょ? 十分特殊技能に入るわよ。お父様のことは知らないけど、多分あなたの知らない力があるのよ、きっと」

「……なんで、俺にそこまでかまうんだよ? ほっとけばいいだろ?」

言いくるめられ、進退窮まった彼はそう言い返してしまった。

びっくりした顔の彼女は、じっと彼を見つめ、頭を僅かに振り、ちょっと下を向いたあと、キッと彼を睨み付けて叫んだ。

「……好きだからに決まってるでしょ、このバカっ! 鈍感! 知らない! 私、帰る!」

そう言うと、赤い顔をした彼女はくるりと向きを変え、すたすたと歩き出してしまった。


「お、おい、待てよ、ちょっと」 

彼は叫ぶが、彼女は振り返らない。

「清水! おい、待てったら!」 

一麻はあわてて遥香を追いかけ、追い越すと前に立つ。

ふん、と顔を背ける遥香が泣きべそをかいている事を一麻は直ぐに見て取った。

「ご、ごめん。悪い。謝るから、な、悪かったよ、そんなつもりじゃなかったんだよ」

「……しらない」 

だが、彼女もすぐには機嫌を直さない。相変わらずそっぽを向いたままだ。鼻をぐすぐす言わせながら。

「反省するから、な、そんな事言うなよ? 頼むよ、この通り」  

頭を下げる一麻。

「……反省した?」  

しばらくの後、わずかに鼻声で、ようやく彼女は彼に言葉を返した。   

「した。大いにしたから、な、もう泣くの止めてくれよ。悪かったからさ」  

彼女が泣きやみ、返事が返ってきた事で少し彼は安心する。

「泣いてなんかないもん……ばか」  

まだひく、ひく、と彼女の上半身がひくついている。

いや、お前泣いてただろ……と一麻は思うが、どうにもこうにも分が悪い。

少なくとも女の子を、自分が泣かしたというのは余りにもばつが悪かった。

女の子を泣かしてはいけない、それは彼の信条の一つだった。

「やるからさ、見てくれよ、な? 頼むよ、俺もレベル上げたいし、それはウソじゃないから、な?」

「真面目にやる?」  

涙の跡を残したまま、赤くなった目を上げて彼女は彼を見る。、

「うん」

「うん、じゃないでしょ?」  

怒った目になる、遥香。

「はい、やります」  

「よろしい。あ、ちょっとゴメン」

彼女はポシェットからティッシュを取り出すとくるりと後を向いて鼻をかむ。

そして今度はウエットティッシュを取り出し、目の淵、頬、鼻を綺麗に念入りに拭いた。

「お待たせ。じゃ、さっきのところに戻ろう? あそこでちょっとやって見せてよね」

遥香はようやく強張った微笑みを浮かつつ、彼の左手をパッと取り、

「行こっか?」と再び河原へと向かう。

「えっ、あっ、お、おい!」

ほらほら早くぅ、時間もったいないでしょー、と彼女に手を取られた一麻は、少しどきまぎしながら。



……そんな初々しい彼らを見ていたものがいるとは、この時二人は予想だにしなかったのである。

>>1です。

本日分、短いですが以上です。
1ヶ月もかかって、これだけか? と言われそうですが、他のイベントも書いてたりしますので平にご容赦を……
一応流れはできあがりましたが、中間のイベントをどれだけでっち上げるかが勝負です。
面倒くさくなったらさっさとキメを始めればいいさ、と開き直っておりますが(汗


今回は能力開発の教育・訓練の内容がよくわからないので苦労しました。ごまかしたつもりですが、さて?
なお、本題の第二世代は当然ながら全員オリキャラになりますので、宜しく御了承下さいませ。

それではお先に失礼致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、これから投稿致しますので、どうぞ宜しく御願い致します。

待ってた

期待


翌日、いつものように俺は学校へ向かって歩いていた。

前にも話した通り、俺は母さんと一緒に病院の社宅に住んでいるので、実はクラスで一番遠いところに住んでいる。

モノレールも使えるが、駅までの距離と待ち時間を含めるとヘタするとそっちの方が遅くなるので、いつも歩いている。

とはいっても、せいぜい20分かかるか、というところだ。

寮は男女違う場所にあるが、どっちも歩いてざっと5~6分という近いところにあるのだ。

隣には速水和夫(はやみ かずお)がいる。彼はもちろん寮に住んでいる。

後に少し離れて長谷川優子(はせがわ ゆうこ)がいるのはご愛敬だ。

中1の時、ここに来た頃はやたらくっつきたがっていたのだが、クラスで冷やかされて以来、肩を並べて歩く事は殆どしなくなった。

ま、クラスの(もしかすると俺らの学年全部かもしれない)女子のしきり役が俺と一緒に学校に来ようものなら女子全員からつるし上げをくらうのは明白だし。

そこらへんは実にきっちりしている。正直、あいつのその方面の能力は大したものだと思う。

小学校ならともかく、「この」学園都市でも、だからだ。

いわゆる「超能力」では大したことはないのだが。

来年、つまり中3に上がった段階だが、多分生徒会長あたりに選ばれるんじゃないかと俺は密かに踏んでいる。



「せ、先輩、おはようございます」

パタパタという足音に後を振り向くと、予想通りミサちゃん(佐藤操)だった。

クラスにお友だちも出来たらしく、最近はそうやたら突撃してくる事はなくなった。

贅沢なもので、少々辟易していたところもあったのだけれど、来なくなるとそれはそれで少し寂しい気もする。

――― 最近『おにぃちゃ~ん』が来ないけど、どうしたんだ? ―――

当初はそんな事を言われたものだが、最近ではそういうことも殆ど無くなった。これは良い傾向だけどね。

さらに、ミサちゃんの俺の呼び方が変わった。人がいる時は「御坂先輩」「先輩」と呼ばれるのだ。

ぶっちゃけ、ものすごく違和感がある。なんか他人になったみたいで、距離が離れたみたいだから。

確かに、小学生なら「お兄ちゃん」と言われても許せるけれど、もう二人とも中学生なのだから「お兄ちゃん」よばわりは人前ではまぁ恥ずかしいわな。

……二人の時は相変わらず「お兄ちゃん」なんだけどさ。

「おはよ、サトちゃん。御坂に用?」

笑って速水が彼女に挨拶する。

 
「え、あ、おはよう、ございます! あ、あの、そういうわけじゃないですけど……」 

あはは、ちょっと照れてる、ミサちゃん。こう言うところはやっぱり可愛い。

「はいはい、邪魔者はちょっと下がりましょうかね。あ、ハセ? ちょっといいかな?」

ニヤと笑った速水は立ち止まり、後にいたむっとした顔の長谷川優子に声を掛けた。

「おはようございます。朝から何か?」  

うわー、すげー低気圧だ。暴風警報出そうなくらい。

「あはは、まぁまぁそうむくれないの。気持ちはわかるけどさー」

軽くいなしてあいつは長谷川を牽制してくれた。すまん、速水。

ミサちゃんは俺の右腕を一度強くぐい、と引っ張ると俺の顔も見ずに小さい声でこう言った。

「お兄ちゃん、昨日の女の子、誰?」  


全く予想してなかった言葉だった。

「は?」

げ、なんでミサちゃんがあのことを?

「放課後、待ってるから。ちゃんと教えてね、じゃね」

そう言い捨てて、ミサちゃんはとっとと駆けだしていった。

俺は昨日の清水との特訓(笑)のことをどこで見られたのかなぁ、と頭のなかで考え始めた。

「えらく早かったな。なんだ、デートの約束か?」

追いついた速水が憎まれ口をきく。

「バカね、あの子、怒ってたわよ? 何がデートよ、全くデリカシーがないオトコってのはもう……」

おっと、長谷川、お前までもか。驚かすなよな……

でもお前が伊達に女の子やってないって事がよくわかったよ。お前が正解だよ。

さて、やましい事は何もないんだけど……どう言おうか、なんせ、ミサちゃんは俺の「嫁」だからなぁ……。



放課後。

結局うまい言い訳は考えつかなかった。

実際、やましい事はないのだから、普通に話せばいいや、と俺はその時は簡単に考えていた。

「速水、帰るか?」

「すまん、補習あるから」

速水に振られた俺が、仕方ねぇなとカバンを持って立ち上がると、窓から校庭を眺めていた(ふりをしていた)轟木友里恵(とどろき ゆりえ)が目敏く察知したらしく、自分の席に戻ってきた。

(今日は、轟木の番か……)

じゃぁな帰るぞ、という感じで軽く右手を身体の前でひょいと立てる。

彼女はえっ?と言う顔を一瞬したが、軽く俺に会釈を返してきた。

(……ったく、あの野郎……)



笑い事ではないのだが、俺の行動はクラスの女子に見張られている。

首謀者は当然の事ながら、長谷川優子である。

小学校の時に、長谷川・舘川・小田の3人が俺の親衛隊を名乗って監視していたのは前にも話した通りなのだが、長谷川はここでも似たような事を始めたわけだ。

アイツの性格からして、本来なら絶対女子1名での監視をやらせるはずがないのだが、いかんせん長谷川本人は能力開発の補習やら一般教科の補習やらで忙しい。

加えて元々やっていたソフトボールも復活したようで(能力開発に関係しているらしい)、放課後の俺の監視は殆ど出来ない状態だった。

監視役が女の子1名だったら、場合によったらこれ幸いと監視役本人がアタック掛けてきそうな気もするのだが、みんな真面目なのか今まで一人もいない。

健全な男子たる俺としては、そういうシチュエィションにちょっと憧れているのだが、世の中うまくいかないものだ。

で、轟木だが、昨日の授業で助けてもらったし、アイスの1本でも奢るべきだろうか、と俺は考えていた。

しかし。



「御坂くーん、良かった、今日は補習なかったのね!」

みさかくーん、呼んでるよーってか……え? えええっ? お、俺か? あっお前!?

……霧が丘女学園の制服に身を包んだ清水遥香(きよみず はるか)が俺を待ち構えていた。


近くを歩いていた男子の足が止まり、彼女と、そして俺を見る。

(お、おい、あの制服)
(すげー、霧が丘じゃん)
(好みじゃねーな)
(お前、理想高杉。そもそも相手にすらされねぇよ)
(『御坂くん』って?)
(2年の、あぁいたよ、そこ、そいつだ)

なーんだ、と離れていくのもいれば、新たに何だ何だと物見高い連中もやってくる。女子も何人か立ち止まって俺たちを見る。

「せんぱーい、待ってて、って言ったのに~!」

げ、ミサちゃん? あ、そうだった! いっけねぇ、今日の放課後は!! やっば~いぜ、これ!

「もう、ひどいよー。あ、あれ?……誰? このひと?」

まずい、まずいっす。この場面。

「あれ、清水さん……? どうしてここに?」

そこへ隣のクラスの……鈴木千春(すずき ちはる)だったか、彼女が清水に声を掛ける。そうか、1年の時同じクラスだったんだっけ。

「わぁ、鈴木さん? こんにちは! 元気?」

「元気だよ! 今日、どうしたの?」

「うん、ちょっと用があって」 

そう言いながら清水が俺を見る。視線を追って、鈴木が俺を見る。

「えー、なになに、もしかして御坂くんに用ってワケ? マジ?」

「うん。ちょっと」

「キャ、やだ何それぇ、何よ、もしかしてデート?」

かすかにどよめきがおこる。

ぐい、と俺を引っ張るのがいる……ミサちゃんだ。 

(お兄ちゃん……どういうこと?) おいおい、そんな怖い顔するなよ、違うんだってば。

「そんなんじゃないの。ちょっとね、御坂くんに手伝ってもらってる事があるのよ。それで今日来たわけ」

と、清水は鈴木に答え、俺を見てニッコリと笑う……目が笑ってないんだけどな。

「へーぇ、霧が丘の貴女がわざわざ? なぁに、二人ってそういう関係だったの? 知らなかったなー」

「だから、そういうことじゃないんだってば、やめてよ変な噂立っちゃうでしょ?」

いや、それ逆効果だと思う。まさかそれを狙ってきた、と言う事じゃないだろうけどさ。

「ミサちゃん、ちょうどいいや。この子、俺とこっちの小学校で同級生だった清水(きよみず)さん。今は霧が丘女学園に通ってるんだよ」

俺はそう、怖い顔で俺を見るミサちゃんに彼女を紹介した。 でも、まだ俺の上着の裾を握りしめている。

(昨日一緒いたの、彼女だから) 彼女にそうささやくと、「そう」小さく彼女は頷いた。

「御坂くん、そちらはどなたかしら?」 と清水が余裕をみせて俺に訊く。

「ああ、この子は『私が自分で言います』……」と、ミサちゃんは手を離し、俺の前に立ってペコリと頭を下げて、はっきりと言った。

「1年の佐藤 操(さとう みさお)です、初めまして。私は一麻兄ちゃんの『嫁』です。宜しく御願いします」

しまった、最近言わなくなってたから……最悪。頭痛ぇ……。

どっと歓声が沸く。

「出たぁ!」
「この子か!」
「うらやまけしからん!」
「リア充乙」
「すげーマジ?」
「勇気あるわね……」

シューヒューという指笛やら拍手やら怨嗟の声やら、とんでもない事になってきた。

そんな中、肝心の清水遥香と佐藤操は黙ってお互いに睨み合って立っていた。


「残念だけど、お忙しいようね。また、日を改めた方が良いみたいね」

睨み合いから下りた清水は、肩をすくめて俺に向いて残念そうに言う。

「ああ、やっぱいきなりはな。ゴメン、またの機会に御願いするよ」 

わざわざ隣の第十八学区から来てくれた彼女に対して、俺はそう答えるしかなかった。

だが、ミサちゃんはその答えはお気に召さなかったらしい。

キッと後ろに立つ俺を向いて強く睨むと、俺の手首をガシッと握り、

「カズ兄ちゃん、約束でしょ? 早く行こう?」

と俺をぐいぐいと引っ張るのだ。

この小柄な身体のどこにそんな力があるのかと思うくらい。

「ちょ、ちょっと待ってミサちゃん? わかったから、ちょっとだけ、ちょっと待てよ、な?」

俺は背をかがめてミサちゃんの顔を覗き込もうとするが、彼女はそっぽを向く。

あー、こりゃ相当きてるなーと俺はため息をつくが、とにかくこの場を収めなければならない。それも早いうちに。

まわりを見ると、轟木が電話してる。

まずい、絶対にアレは長谷川に電話してるはずだ。

これにあいつが加わったらもう収拾がつかなくなる。最悪だ。

「すまん、清水、あとで連絡する。今日はちょっとこいつと先約があるんだ。ごめんな、せっかく来てくれたのに」

清水の表情は硬かったが、「連絡する」と言う言葉で、少し緩んだように見えたのは気のせいかな。

「ううん。私こそいきなり来たのは良くなかったみたいね。じゃ、連絡待ってるから。バイバイ」

小さく手を振った彼女はくるりと回れ右をして歩いてゆく。

「ちぇ、終わりか」
「なんだよつまんねぇ」
「修羅場短すぎ」
「けど、すげーな、『嫁』って自分から言うか?」
「え、お前知らないの、あの子有名だぞ?」
「あ~ぁ俺も言われてみてーよ」

ギャラリーが急速にばらけてゆく。

「みさかくーん?」

げ、来た! 長谷川の声だ! 最高にまずい!

「ミサちゃん、帰るぞ!」
「……」

黙ったままのミサちゃんを今度は俺が引っ張る形で、俺ら二人は這々の体で学校を後にしたのだった。


「お帰りなさい。あら、こんにちわ? 一麻、後の子はどちら様?」

「佐藤操(さとう みさお)ちゃん。よく言ってたろ、サトシュンって友達のこと。あいつの妹で、今年こっちに来たんだ」

「そうですか。よくいらしたわね、一麻の母です。息子がお世話になってます」

「さとう……みさお、です。初めまして。御坂先輩には、いつも迷惑掛けてます。すみません」



結局ミサちゃんはずっと黙りこくったまま、俺の左手を握りしめたまま、俺の家まで付いてきたのだった。

「母さんには、『嫁』はやめてくれな?」

さすがに、母さんにその発言は冗談ではすまなくなる恐れがあったので、俺は必死で頼んだのだが、彼女は何とも答えてくれない。

「ミサちゃん、あんまり言う事聞かないと、俺、嫌いになっちゃうぞ?」

あまり言いたくはなかったが、ちょっと脅しを掛けてみた。これで反応無かったらどうしよう……

だが、「嫌いになる」という言葉は効いたらしい、「うん」と不満そうな声が返ってきた。

そして、最初の、母さんとの初顔合わせとなったわけだ。



母さんがミサちゃんにオレンジジュースを出し、俺は自分で冷蔵庫からヨーグルト飲料を取りだして飲んでいる。

「一麻が女の子を連れてくるなんて、母は初めての経験です。もっと早く連絡くれればお赤飯を炊いたのに」

「いや、母さん、それは少し違うような気がする」

「それで、今日はどうしてこの方をお連れしたのですか?」

ぐっと俺は詰まる。どこから話をすべきなのか、非常に悩む。

「今日は、私が先輩に御願いしたんです。あ、あの学校の宿題の事で、ちょっとわからない事があって」

ミサちゃんが助け船を出してくれた。上手い!……ただ、そんなに俺の成績は良くないってのが問題だが。

果たせるかな、母さんは俺を見て、(一麻が下級生の宿題の面倒を見るのですか?)という顔をする。当たってるけど、酷いよ、それ。

「そうですか、一麻、ちゃんと教えてあげなさい? ひとに物事を教えるということは、自分にとっても大変良い勉強になるのですよ?」

そして母さんはニヤリと笑ってこう言ったんだ。

「あなたの部屋は女の子を連れ込むには不適当です。それに机の並びは2人が座れるようにはなっていませんし。

だから、そのリビングテーブルを使いなさい。夕食には未だ時間がありますから」

「連れ込むって言葉はおかしいだろ?」 

俺はむっとして母さんに突っかかった。

ミサちゃんは少し赤くなった。おいおい、意味わかってるってか?

「あ、あの、私、ここでいいです。すみません、お邪魔してしまって」

さらにミサちゃんは赤くなった。母さんはそんな彼女に柔らかい笑みを浮かべて優しく答えたのだ。

「いいえ、ウチの一麻の事、宜しく御願いしますね? 気が利かない男の子ですけれど」

何を宜しく頼むんだよ、余計だろ? 変な事言うんじゃねーよ、あーあ、ほら見ろ、ミサちゃん下向いちゃって。

「ごめんな、母さんが変な事言って。やめてくれよな!」

「ううん、平気。あの、先輩? 時間ももったいないし、宿題始めますけどいいですか?」

一生懸命真面目な顔をしてるけど、まだ赤い顔してるし。

「あ、ああ。そうだね。さっさとやっちゃおうか。問題は何?」

「理科の物理と数学です」

げ、俺も苦手なんですけれど(汗

母さん、そこで笑うんじゃねーよ!


俺たち2人が頭を突き合わせて、うんうん四苦八苦しながら宿題に取り組んでいるところに、部屋に引っ込んでいた母さんが出てきた。

「一麻、母はちょっと買い物に行ってきます。そうそう、佐藤さん、ご飯食べて行きませんか? 苦手なものはありますか? 

ああ、大丈夫、完全下校時刻を過ぎるでしょうから、寮へ連絡をしておいて下さい。私が寮まで送って行きますから安心して下さいね」

ミサちゃんはわぁ、という顔になって、「何でもOKです!」と元気な声で返事する。

今日、初めてこいつの明るい顔を見たような気がする。朝からずっと怖い顔してるし、不機嫌だったし。

「一麻、留守中におかしな事をしてはいけませんよ?」 

真面目な顔で言う母さん。

んなこと誰がするかっ! 早く行けよっ!!

ミサちゃんは赤くなって黙ってシャープペンで計算式を書き殴っている。聞こえないふりなんだろう、可愛い。

でも、ものすごく気まずい。一言余計なんだよ、母さんは。



母さんが出て行って少し経った頃、ミサちゃんが顔を上げて俺を見つめる。

「カズ兄ちゃん、きよみずさんって、どういうひとなの?」

「ちと待て、この問題終わってから答えるから」

今、ようやく問題が解け、計算をやり直してるところだった。途中で止めると流れを忘れてしまう。

……答えを出し終わった俺は、俺を見つめているミサちゃんの視線の強さに驚いた。

「なんだよ、そんな顔で睨むなよな? なんでそんなに気になるんだ?」

「質問に質問で返すのは反則です」

「だいたい、何処で見てたんだよ?」

「学校出て行く時。なんか雰囲気違ったから、脇目も振らずにさーっと出て行ったから」

「じゃ、ずっと見てたのか?」

「うん。女の子泣かしちゃダメでしょ?」

そこまで見てたのかよ……全然気が付かなかった。正直、初めて俺はミサちゃんが怖いと思った。うん、マジで。

「見てたんなら仕方ないな。えーとな、同級生だったことは言ったよな? 

で、彼女は<AIMアンプ>っていう能力者でね、ある特定の人の能力をレベルアップ出来るんだ」

ふーん、と言う感じでミサちゃんは俺の話を聞いている。

「で、その『特定』のひとの範囲がよくわからなくてね、昔からの友達2人以外ずっといなかったらしいんだけど、今年入ってきた1年生に1人見つかったらしい。

で、彼女曰く、『あなたも、もしかしたら私の能力に感応するかもしれない』なんだってさ」

「それで?」  お、おいおい、また顔が怖いぞ?

「で、昨日、河原に一緒に行って、とりあえず俺が放電ぶっ放してみた、ってわけよ。見てたんだろ?」

「うん。私、初めてカズ兄ちゃんの超能力見ちゃった……カッコ良かったよ?」

「そうか? 可愛らしいもんだと思うけどな」

「そんな事ないよ? それで、レベル上がったの?」

「いーや、全く何も変わんなかったさ。世の中そうそう簡単にはいきませんよ、ってこと」

「ふーん」 お前、なんか嬉しそうだな、おい?

「ところで、ミサちゃん、能力開発はどうなってる?」

俺は意図的に、話題を逸らす方向へと話を切り替えた。

このまま行くと、もっと根ほり葉ほり聞かれるのは目に見えていたからだ。


ミサちゃんの顔が曇る。あれ、ちょっとまずかったかな?

「全然ダメなの。判定もレベルゼロだし、悲しくなっちゃうけど……私、能力無いのかな、カズ兄ちゃんどう思う?」

「いや、ミサちゃん、最初の簡易テストでバッチリ反応出たんだろ? だから『能力』そのものはあるんだって」

「そうなんだけど……自分の能力が何なのかわからないのに、パーソナルリアリティがどうした、って言われても、さっぱりわからないの」

「……」

「みんな、どうやって自分の能力見つけてるんだろう? カズ兄ちゃんは、いつわかったの?」

「俺? 俺はさ、多分一番最初はミサちゃんとこのマンションのエレベーターのボタン壊したやつ、だろうな」

「あー、それ、バカ兄から聞いた事ある」

「こら、自分の兄貴をバカって言うんじゃないの!」

「えー、私のお兄ちゃんだもん、バカ兄でいいの! 他の人が言ったら怒るけど?」

「どういう理屈だよ……まぁ、他にも理科の実験で、電池に繋いでないのに電球が点いて破裂しちゃったり、とか。

自動改札機が誤動作したりとか、後から思うとやっぱり電気がらみのトラブル多かったからな。

あー、そう言う事なのか、ってなんか納得しちゃったよね」

母さんがレベル3の発電能力者<エレクトロマスター>なのは黙っていよう、と俺は思った。

言ってどうなるわけでもないし。

(*作者注:一般に妹達<シスターズ>は「欠陥電気<レディオノイズ>」という名称ですが、当麻・美琴を含めた彼の家族は一麻の前ではその名称を使っていない、という設定です)

「私はね、カズ兄ちゃんのように電気出したりとか、火付けたり、とか、雨降らしたり、とか、怪力出せたり、とかじゃなさそうなの。

どっちかというと、精神系? そっちらしいんだけど」

おいおい、まじっすか。それって心読めちゃうとか? それはちょっと怖いよね。

「あ、もしかして、心読まれたらヤダなって思ってる?」

ぐぇ、マジ……か?

「顔に出てるもん、カズ兄ちゃん。簡単にわかっちゃうんだから」

「そ、そうか?」

「私、そんな能力いらない。だって心、読める人なんてやだもん。私、そんなひとの傍にいたくないし、なりたくない」

「まぁな」

「でも、カズ兄ちゃんは、少し女の子のこと、わかった方がいいかも」

おっと、また危ない方向に話が戻りそうだ。まずい。そうだ、宿題やらなきゃ!

「なんだそれは……ほら、数学はいいのか? 良いなら次、物理やるぞ?」

「あ、逃げた? 物理はね……ここなの。でね、明日、私も一緒に付いていくからって、後で清水さんてひとに言っておいて?」

「あぁ?」

タブレットの物理のページを開いたミサちゃんは、澄まし顔でそう言ってのけたのだった。

お前は俺の監視役か? 監視役は長谷川だけで沢山なんだけどな……勘弁しろよな……



不幸だ。


ミサちゃんはよく食べた。

「とってもおいしい」と幸せそうな笑顔で。

うん、ミサちゃんはやっぱりその笑顔が可愛いな。見てる方もなんとなく嬉しくなるんだよね。

かくして、時計は既に夜8時をまわっていた。

「俺が送ろうか?」

一応、俺はそう言った。母さんが送っていく、とは言っていたけれど、俺、中学生だけど、男の子だし。

「一麻、女子寮にですよ、男子生徒と一緒に女子生徒が、それも完全下校時刻を大幅に過ぎて戻ってきたらどうなると思います?

操さんのことを考えてご覧なさい?」

思いっきり怒られた。確かに、それはそうだ。

「普段は送ってくれるなんて、一度も言ってくれないんですよ?」

ミサちゃんが笑いながら俺を見る。おいおい、これからは一緒に帰ってくれ、ってか?

それはちょっと勘弁してくれ。ただでさえ陰で「夫婦」とか言われてるのに、冗談じゃねぇぞ。

「母さんの前でカッコつけてもダメですよ、一麻」

くそ、黙っておけば良かった。女二人に口で勝てるわけがねぇ……



タクシーで二人が家を出た後で、俺は清水にメールした。

明日、2回目を頼む。但し、ミサちゃんがどうしても、というので一緒についてくる、と。

すると、打電してから30秒もしたかどうか、というところで音声通話が飛び込んできた。当然ながら、清水遥香本人である。

「どういうことなの?」

予想通りだ。すげー怒ってる。まぁ、そうだろうな。

「すまん、あの子も実は能力の問題で悩んでいてな」

「それがどうかしたわけ?」

「で、お前と俺とで練習してるところで、何か参考になる事はないか、ってわけで」

「そんなの、うまくいくはず無いでしょ。御坂くんとの事だって上手くできるかどうかまだわからないのに」

「いや、そうだけど、ミサちゃんの場合はわらにもすがりつきたいくらいなんだよ、わかってやってくれよ」

俺はひたすら頼み込んだ。

俺の監視、ってのが目的の殆どだろうけれど、どこかに少しくらいはそういう部分があるはずだと思っていたから。

少しの間、彼女は沈黙した。

出来れば認めて欲しかった。ダメだと言ってもミサちゃんが付いてくるのは予想出来るからだ。

どうしてもダメ、と言われたら……清水には悪いけど、やめよう、と言うところまで俺は考えていた。

「なぁ、やっぱり、ダメか? 御願いだよ、頼むよ、な?」

清水がため息をついたような気がした。

そして面白くなさそうな声で清水が話し始めた。

「わかったわ。御坂くんって、あの子にはず・い・ぶ・ん、甘いのね」

「ごめんな。いや、ダメって言ってもあいつは絶対に付いてくるからさ……すまん」

「そんなに謝るほどの事ではないわ。それとね、ひとつ、御坂くんに言っておくことがあるんだけど」

「何だよ、改まってさ」

さっきまでの面白くない、という感じがなくなっていた。真面目な声だ。おもわず、俺も居住まいを正してしまう。

「私の能力はね、私が好意を持ったひと、私に好意を持ってくれて対応してくれる人でないとダメなのよ。多分ね」


「え、どういうことさ?」

俺は思わず聞き返した。

割と冷静な清水の声が返ってくる。

「だってそうでしょ? 例えば、私に敵対する人の能力を増強したらどうなると思う? 私自身が危険になるでしょ? 

そんなバカなこと、あるわけ無いでしょ? ね? だから、多分、自己防衛本能みたいな、そんな意識が働いていると思うの。

だから、私の能力は何処の誰にでも働きかける、ってことはないのよ」

「確かに、な……」

そりゃそうだ。一応、理屈は立つ。でも、「姦しむすめ」の残り2人と新しい人1人、たった3人しかいないってのはどうなんだ?

いくらなんでも少なすぎるだろう?

「でも、これはまだ証明されたわけじゃないの、今までの結果からみて、私が勝手にそう思ってるだけなのよ」

そう言うと、清水はふふっ、と笑ったようだった。

「まゆ(陵 真由美)がね、今タイヘンなの。知ってる?」

知るわけ無いだろう、と俺は思うが、何も言わない。どうせ向こうからしゃべってくるのだから。

「あのね、実はちょっとしたことでケンカしちゃってね、それでちょっと冷戦中なのよ」

「なんでまた、ま、お前ら、仲良かったはずじゃん?」

「あはははは、そうなんだけどね。まゆがレベル5に認定されたのは知ってるよね?」

「ああ。霧が丘女学院始まって以来のレベル5だって言うヤツだろ? ごろごろ居そうなのに、今まで居なかったのか?」

「みたいね。でもね、ここってそういう次元とは違う人が多いみたいだから、気にしてなかったみたいだけど。

それにね、あくまでも『私たち3人が一緒の状態』で、という但し書き付きだったはずなのに、いつの間にかそれが忘れられてて……

ほら、レベル5って少ないじゃない、まゆったらすっかりそれでのぼせ上がっちゃってね、ちょっと偉くなっちゃったの。

最初は、私もハタちゃんも笑ってたんだけど、だんだん笑えなくなってきて、って言うよりちょっとついて行けなくなっちゃって」

「爆発したのか」

「まぁね。それほど激しくやったワケじゃないんだけど……でね、不思議な事に、私の<AIMアンプ>の効果が消えちゃったのよ」

「マジか?」

「ウソついてどうすんのよ、ホントよ。私も最初、『あれ?』と思ったんだけど、ほんとに発現しないのよ。焦ったわ。

ところがね、ハタちゃんのテレパスはなんともないのよ。ちゃんとオンオフも出来るの。

まゆの顔、面白かったわよ、最初は真っ青だったのに、ハタちゃんの能力の増幅が問題ないとわかって、今度は真っ赤になっちゃってさ」

「いや、それはちと、かわいそうじゃね?」

「何よ、だってまゆったら、『もうハルちゃんの助けはいらない。私ひとりで十分なのよ!』って言い切ったんだもん。

『レベルゼロのアシストなんか迷惑なの』って、酷いでしょ、そこまで言う?」

さすがに俺も、それは言い過ぎだろうと思う。そりゃ怒るだろう。

ん、清水、泣いてる? 声が……?

「しかもみんなの前で、よ? ハタちゃんは怒るし、私はなんか自分がバカみたいでね、あれだけみんなと一緒に頑張ってきたのに、レベル5認定受けたらこうなっちゃうのか、って。

なんか、とっても悲しくてね。御坂くんだから言うけど、私、その日、部屋でずっと泣いてたのよ……あ、今の話、忘れてね、絶対に誰にも言わないでね、ね? 御願い」

鼻声になっている。やっぱ、泣いてるのか……

「悲しいな、そう言うの……」

余計な一言だったのだろうか、

「ごめんね、ちょっと電話、切るから。少し経ったら、落ち着いたらまた電話するね」

電話は切れた。

きっと、あいつはまた泣いてるんだろう。こういう場合って、俺が泣かした事になるんだろうか?


そのうちに、母さんが帰ってきた。

「お帰りなさい」

「只今戻りました」

母さんはそう返事すると、俺の顔をじっと見て、ニヤと少し意地の悪そうな笑いを浮かべてこう言った。

「一麻もなかなか隅におけませんね、まるであなたのお父様を見ているようです」

「へ?」

俺の親父とどういう関係があるって?

「いい女の子じゃありませんか、健康そうだし。

ちょっと背丈が足りませんが、一麻はある方ですから、生まれてくる子供には問題ないでしょう」

「どういう意味だよ、母さん? 何言ってるんだよ」

「あら、二人は既に将来を誓っているのではないのですか? 母さんにはそう言う事を全然教えてくれていなかったのですね?」

あの野郎、「嫁宣言」しやがったのか、だから俺が送っていく、って言ったんだよ、バカヤロー!

「一麻、母さんはお前の決めた事には今まで強く反対しませんでした」

真面目な顔になって、母さんが俺の目を見る。

「ですが、今回のこの件については、今は母として反対します。良いですか、一麻」

――― 反対します ―――

そ、そう? 

思いもかけない言葉だった。いや、逆に認めると言われても面食らったはずだったけれど。

「第一に、あなたたち二人はまだ中学生です。世間ではまだ義務教育の年齢です。ここ、学園都市でもその点は同様です」

「第二に、あなたたちはまだ、親の庇護下にある身分です。彼女の御両親はどうお考えになるかは知りませんが、少なくとも一麻、今のあなたは私に従わねばなりません」

「第三に、あなたたちは、まだ自分たちだけでは収入を得る事が出来ません。レベル2とレベル0の奨学金では食べてゆく事は難しいのですよ?」

「第四に、結婚というものは、けっしておままごとのようには行きません。あなたたち二人には覚悟というものが決定的に不足しています」

「第五に『いいかげんにしてくれ、母さん。ミサちゃんに何を言われたのか知らないけど、結婚とかそんなこと、全然考えてないから!』」

思わず、俺は怒鳴った。

初めての事だ、母さんに怒鳴ったのは。

母さんも驚いていた、みたいだ。

目を見開いて、びっくりしてる。

「自分の宿題、終わってないから、俺、部屋へ戻るから。母さん朝番だろ? 早く寝た方が良いよ? じゃ、おやすみなさい」

そう言い捨てて、俺は部屋に戻った。

母さんは、何も言わなかった。



清水からは、結局、あの後は電話もメールもこなかった。



>>1です。

本日分の投稿は以上です。
修正しながらでしたので、ちょっと時間がかかりました。すみません。

>>38さま
エール有り難うございます。
能力開発の部分などでわからない事が多く、時間ばかりかかりまして非常に苦労しました。
結局はごまかしたのですが(汗



禁書の劇場版の上映が始まりました。当地ではもちろん上映はなく、東京まで行かねばなりませんw
いつ行けるか全くわかりません。書き下ろしSSに非常に興味があるのですが、売り切れちゃうんでしょうね……

で、4月には超電磁砲Sがスタートします。
なんとかそれまでにはこの第2作を完結させたいと思ってますが、間に合いますかどうか。
とにかく頑張ります。

それでは今日はこの辺で失礼致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

        /≦三三三三三ミト、          .  ―― .        《 二二二二二フノ/`ヽ       /       \        | l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨{ミvヘ      /      ,   !l ヽ        ト==   ==彡 》=《:ヽ     ′ ―‐ァ!l / ̄}          /≧ァ 7¨7: :ァ.┬‐くミV!ハ    |    (__   _ノ    |        ′: /: イ: /': :/ |:リ  ヽ }i! : .     |  _j_   ツ    |       i. /: il7エ:/ }:/ ≦仁ミ ト:.i|: i|   |    d   __ 、、   |       |:i|: :l爪jカV′´八ツソ Vミ :l|   |   ノ  - ノ    |       |小f} `   ,    ´  ji }} : .{    {   ┌.  ー ´    }        }小    _      ,ムイ|: :∧    .    |/   ヨ        //:込  └`   /| : :i i : :.∧   、  o   ―┐!l /         /:小:i: :> .    .イ _L__|:| :li {∧   \    __ノ / .      /′|从 :|l : i :爪/´. - 、 〈ト |ト:ト :'.   /       く             N V 「{´ /   ヽ{ハ|   `\ /        ヽ            | }人ノ/   li  V    _.′贈  惜  と  '        i´ }    //} i′′ ハ 、|   `ヽ.   り   し  ミ   !        { {     〃ノ {l l!  } :  {     }  ま  み  サ  |    rー‐'⌒ヽ  ,イ   i{| |   i      |  す  な  カ    〉一 '   ∨n     ∨   ′  ハ      |      い. は  }    `r‐‐ ´   V    |       |      !      >>1     ′     ‘r‐‐ ´    \   }/i⌒ヽ   {      .      乙    /       `¨¨` ー .、  ` < ` |    `ト、 }     ヽ     を          }}\      ̄ `ヽ ト ソ      \     /          ノi  \        } }         ` ―‐ ´           //     > .     | ノ

すまん。形崩れた。>>1 頑張れ。

        /≦三三三三三ミト、          .  ―― .
       《 二二二二二フノ/`ヽ       /       \
       | l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨{ミvヘ      /      ,   !l ヽ
       ト==   ==彡 》=《:ヽ     ′ ―‐ァ!l / ̄}
         /≧ァ 7¨7: :ァ.┬‐くミV!ハ    |    (__   _ノ    |
       ′: /: イ: /': :/ |:リ  ヽ }i! : .     |  _j_   ツ    |
      i. /: il7エ:/ }:/ ≦仁ミ ト:.i|: i|   |    d   __ 、、   |
      |:i|: :l爪jカV′´八ツソ Vミ :l|   |   ノ  - ノ    |
      |小f} `   ,    ´  ji }} : .{    {   ┌.  ー ´    }
       }小    _      ,ムイ|: :∧    .    |/   ヨ
       //:込  └`   /| : :i i : :.∧   、  o   ―┐!l /
        /:小:i: :> .    .イ _L__|:| :li {∧   \    __ノ /
.      /′|从 :|l : i :爪/´. - 、 〈ト |ト:ト :'.   /       く
            N V 「{´ /   ヽ{ハ|   `\ /        ヽ
           | }人ノ/   li  V    _.′贈  惜  と  '
       i´ }    //} i′′ ハ 、|   `ヽ.   り   し  ミ   !
       { {     〃ノ {l l!  } :  {     }  ま  み  サ  |
   rー‐'⌒ヽ  ,イ   i{| |   i      |  す  な  カ
   〉一 '   ∨n     ∨   ′  ハ      |      い. は  }
   `r‐‐ ´   V    |       |      !      >>1     ′
    ‘r‐‐ ´    \   }/i⌒ヽ   {      .      乙    /
      `¨¨` ー .、  ` < ` |    `ト、 }     ヽ     を
         }}\      ̄ `ヽ ト ソ      \     /
         ノi  \        } }         ` ―‐ ´
          //     > .     | ノ

皆様こんばんは。

今週末、どうなるかわかりませんのでイレギュラーですが本日投稿致します。
宜しく御願い致します。

>>55さま
上の>>52>>53さまと同じ方でしょうか、どうも有り難うございます。
頑張ります!

さて、ミサカにGJされたからではありませんが、本日は御坂妹の話です。
それでは投稿を始めます。


麻美(御坂麻美:元検体番号10032号『御坂妹』)は、子供だと思っていた一麻が初めて母親たる自分に反抗した事に、大きなショックを受けていた。

自分の、たった一人の「血を分けた分身」として。

自分の、たった一人の「味方」として。

自分の、たった一人の「家族」として。

自分の、たった一人の、大切に育ててきた我が子が、あの、一麻が。

――― 私に、逆らった……あの子が ―――



翌日になっても、彼女の心は不安と恐怖にさいなまれていた。

当然ながら、病院ではさんざんだった。

朝の点呼では上の空、直後の巡回でもミスを連発し、あきれた婦長から「御坂さん、調子が悪いみたいだから戻って休みなさい」と早々にダメ出しされた。

更に、事務方作業でもミスを出した事で遂に、「今日は帰ってゆっくり休みなさい」と帰宅を命じられるハメになってしまった。

看護士として、それなりに自負心もあった自分のあまりのふがいなさに、彼女は打ちひしがれ、とぼとぼと自宅へと戻った。



(一麻が、あの子が私から、離れてゆく……?)



そもそもは、自分のものだと思っていた我が子が、異性の、「女の子」を家に連れてきた事から始まったことだった。

とっさに、「お赤飯を炊きましょうか」とごまかしたものの、彼女は大いにとまどった。

(あの子が、女の子のお友だちを……)

「ミサちゃん」とあの子を呼ぶ一麻の顔は、彼女が知っていた息子の顔ではなかった。

自分の息子とそっくりであるが、でもどこか別の若い男の顔のように見えたからである。

彼女は動揺した心を、かつてのように無表情の仮面の下に押し隠し、我が子には未だかつてなかった毒舌を飛ばし(もちろん手加減はしたが)取り繕った。

狼狽した彼女は、子供たちの「一緒に勉強する」という言葉にこれ幸いとリビングテーブルを明け渡し、自分の部屋にこもった。

彼女は、あの女の子に、そして一緒に居る「自分の息子」に、自分はどう対応したらよいのか、わからなかったのだった。

彼女は不安だった。

自分の知らない一麻が現れたことに。

彼女はおぼろげに感じ取っていた。

少しずつ、一麻が、「子供」ではない、自分の知らない、一人の男に変化しつつある事を。



もしも麻美が一麻と生活を共にしていたならば、彼女の驚きや衝撃はずっと緩和されていたことであろう。

例えば仮に、これが御坂美鈴であったならば、「あらー、一麻くん、この子、ガールフレンド?」とでもちゃかしたことであろう。

彼女は、一麻が女の子の間で、いや母親達にまで人気があった事を知っていたからである。

いや、あるいは(当麻くんに似てきたわねー)と苦笑したかも知れない。

また、彼が「うるさい」と反抗してきても、(まぁ何てこと……ま、思春期だから仕方ないわね)とでも受け流し、(一麻くんも、大人への階段を上り始めたのね)と、ある種の感慨にひたったかもしれない。

美鈴は、一麻がごく小さい時から小学校5年生まではずっと一緒であり、子供が大きくなる、ということがどういうことなのか体験してきたからだ。

もちろん、彼女自身の娘・美琴での体験や、自分の子供時代の経験も加わって。


しかし、麻美にとっては、息子・一麻は4歳の時点で止まっていた。

もちろん、小学校5年生になった彼をここ学園都市に迎え、何度も息子とは会ってはいた。

しかし、彼は基本的に小学校の寮に住んでおり、日々の行動や、心身の成長などを麻美は一緒に見てきたわけではなかった。

そして不幸な事に、クローンであった彼女自身が、本来なら自身の成長を見守ってくれたはずの「親」というものを知らない。

病院で、小さな子供や、小学生、あるいは中学生といった子供たちを相手にしてきた経験は、ここに至って、何の役にもたたない事を彼女ははっきりと悟った。

当然の事ながら、学習装置(テスタメント)にも、そんな項目は全くなかった。

なまじ、「自分の子供」という意識があるが故に、彼女は息子にどう対応すべきなのか、全くわからなかった。

彼女は、途方に暮れるしかなかったのである。



そして、逃げるように彼女は家を出た。

「買い物に行く」ことを口実にして。

息子に言うと見せかけて、女の子に向かって「私の息子に手を出すな」と言う意味の、大人にあるまじき言葉まで吐いて。

息が詰まりそうな家を出て、少しは気が休まるかと思った。

とんでもなかった。

留守の間、二人は勉強をしているのだろうか?

二人きりで、どんな事を話しているのだろうか?

学校の事だろうか?
               
その瞬間、彼女の脳裏に閃くことがあった。

まさか、と彼女は思う。

先日、具合が悪い、と言ってやってきた女子中学生が妊娠していた事件のことである。

彼女の勤務する病院は総合病院であるが、彼女は小児・婦人科を担当したことがなかった為、そういう事例に遭遇するのは初めてだったのである。

その事例では、当人はよもや自分が妊娠しているとは思ってもおらず、何かの病気だと思っていたらしい。

その子は軽い精神錯乱状態に陥り、学校と相談の上で「母体に影響の恐れアリ」という判断の下、中絶手術を受けた。

後で、ナース同士のおしゃべりの中で、彼女は初めてそういう事例が決して少なくはない事を知ったのだった。

麻美は、哀れな水子の運命に衝撃を受けた。その「子」にかつてのミサカ達の運命に重ね合わせてしまったからである。

「ま、女の子に興味がない、ってのはそれはそれで困りものだけどさ」
「えー、そんな男の子いるの? 普通じゃないよ、そんなの?」
「まぁ、あの年の男の子って、考える事って言ったら、そのことばっかだもんね」
「そ、ヤリたいって顔に出てたりするし」
「でも、結構まだコドモって男の子も多いけどねー」
「言えてる、あの年頃だと女の子の方がその点ませてるもんねー」
「何、その人ごとみたいな言い方、あんたどうだったのよ?」
「そんな昔の事は忘れたわよ」
「でも、避妊はして欲しいわよね、最終的にソンするのは女の子なんだからさ、わかってないのよね」

その時のナースの会話を思い出した麻美の心に、どっと不安が押し寄せてきた。

そして、彼女は自分自身のことを思い出す。

そう、一麻を身ごもった時のことを。

あのひとの下に押しかけたのは、他ならぬ自分であったことを。

(早く、帰らなくては)

もはや献立も何もなく、彼女は手当たり次第に食料を詰め込んだ彼女は慌ただしく会計を済ませると、脱兎の如く家に戻った。

扉を開けた彼女は、脇目も振らずに真っ直ぐにキッチンに行く。



二人は頭を抱えて唸りながら物理の問題を解いていた……。


(あの女の子は、私の知らない一麻を知っている)

麻美は思い返す。

当たり前の事なのだが、しかし麻美にとって、自分の知らない息子の事を年端もいかない子供の「女」から聞かされることは屈辱にも似た感情を呼んだ。

(私の息子の事、どうしてそんなに知っているのですか?)
(貴女は、いったい、一麻の何なのですか?)
(貴女は、私の息子を、私から取り上げようとしてるのですか?)

それは、ようやく満13歳になろうかという少女に対する大人の感情ではなかった。

それは、あたかも「嫁」に対する「姑」の感情、であったかもしれない。

「おんなの敵はおんな」という、同性なるが故の警戒心、感情的な反発、とでも言うべきだろうか。

どちらにせよ、端から見ればあまりにも大人げない反応であった。

子供が自分と、自分の友人との世界を作ってゆくのはごく自然な事である。

また、子供が親から離れる、離れようとするのはおとなへの第一歩であり、特に思春期を迎えた子供にその傾向が顕著に出ることは極めて正常なことである。

だが、「親」を知らずに育った検体番号10032号、「御坂麻美」は、そのことに気づかなかった。

---------------

「御坂先輩って、お母さん似なんですね」

タクシーの中で、「佐藤操」と名乗ったあの女の子はそう、私に話しかけてきた。

「昔、あの子が小さかった時は、よく言われました。ですが、最近ではあの子の父親の面影が出てきました」

お世辞だろうか、いや、こんな子供にムキになるのは大人げないことだ、と思った私はそう小柄な中学生の女の子に答える事にした。

「そうなんですか? あの、お父さんはどうしてるんですか?」

反射的にあの子はそう聞いてきた。

しまった、ちょっと良くない答えだった。答えにくい質問を誘発してしまった、と麻美はほぞを咬む。

「諸般の事情で、一緒に住む事が出来ないのです。ここ学園都市にに住んでいるのですが」

とりあえず、私はぼかして答えた。全部話す必要はどこにもないからだ。

「すみません」

聞いてはいけない質問だった、と気が付いたのだろう、あの子は下を向いてしまった。

ふむ、結構気が回る子のようだ、と私は感じ取った。

「一麻は、学校ではどうしているのですか? ちゃんと勉強はしているのでしょうか?」

話題を変えようとして、私はタマをあの子に投げてみた。

「この間の中間テストでは、先輩は上の方にいましたよ? 確か、20番めくらいだったかな……」

確か、旭日中学校の1学年は200人ほどだったと思う。上位10%にいるのなら、我が子としては立派なものだ。

あのひとは、頭が悪い、とまでは言わないが学業はかなり怪しかったはずだし……私に似たのだろう、良い事だ。ふふふ。

「そう言う事、家では先輩言わないんですか?」

「そうですね、まぁまぁだった、としか言わなかったように覚えています」

「えー、まぁまぁで20番目ってすごいですよぅ、私なんかまだ真ん中すら遠いのに……」

ということは、この子は勉強はイマイチ、なのか。ふん、そうですか。

「今日の勉強はどうでしたか? 一麻は上手に教えていましたか?」

「はーい。あの、私も先輩も同じところで突っ掛かってるんですよ、なのでちょっと嬉しかったりして、エヘヘ」

屈託無い笑い顔が可愛らしい。あの子もこの顔に惹かれたのだろうか?

自分は逆立ちしてもこんな顔は出来ないだろう。羨ましい、と私は思った。

「一麻とは、いつ知り合ったのですか?」

私は二人の関係を知るべく、そう訊いてみた。


小首をかしげたあの子は、いつだったっけ? と言う顔をして、少し考えて答えてきた。

「はっきりとは覚えてません。私の兄さんと仲が良かったから、しょっちゅう遊びに来てたんです」

これには少々驚いた。私が居ない時は知らないが、少なくともあの子が友達を家に連れてきたことは、数えるほどしかない。

友達のところに行って遅くなる、ということもあまりなかった。初耳だった。

(作者注:これは、一麻が『補習』とか『部活』等と言って、母親である彼女をごまかしていただけの事である)

「そうですか、一麻がずいぶんとお世話になっていたのですね、それはどうも有り難うございました」

「いいえ、楽しかったですから。母さんも賑やかなのが好きでしたから喜んでましたし。

それに、先輩は昔からカッコ良くて、人気あったんです。小学生なのに親衛隊まであったの、知ってますか?」

いよいよ知らないことだらけになってきた。

「しんえいたい」とは何だろう? 「親衛隊」? ナチスドイツの? どういう事だろうか?

「しんえいたい、ってどういうことですか?」

私がそう訊くと、彼女は「あ」と言う顔で答えてきた。

「えっと、先輩の同級生の女の子が作ったんです。先輩に女の子が抜け駆けするのを見張ろう、ってことで、いつも先輩に女の子が近づかないように見張ってました」

「はい?」

さっぱり理解出来ない。女の子が女の子を見張る? それが「親衛隊」? 

むう……そう言えば、ミサカネットワークでは、あのひとを追いかけるミサカが沢山いて、皆がそれぞれライバルだけれど、検体番号20000号のような跳ねっ返りに対しては全員があのひとの盾になっている。
  
そういうようなもの、だろうか?

「言い出しっぺは気の強い上級生、あ、その人たち、3人とも先輩と同じクラスのひとで、1人のひと、今も先輩と同じクラスにいますよ」

聞き捨てならない話だ。確認しなければいけない。

「一麻と同じクラスにいる、ということは、その女の子も学園都市に来た、ということですね?」

「えっと、そのひとは小学校はそのまま卒業しましたから、中学に上がる時に学園都市に来たんだと思います。わたしと同じですね」



   ――― わたしと同じですね? ―――



さらに聞き捨てならない言葉だ。

ということは、その子もこの子も、一麻を追いかけて学園都市に来た、と言っているわけだ。

なんと言う事だろう。困ったものだ、まるであのひとそっくりだ。

むう、「フラグ一級建築士」をあの子は受け継いでしまったのか……そんなところは似て欲しくなかったのだが。

「親衛隊のひと、怖いんです。いつも見張ってておしゃべりすることも出来ないんです。

先輩も言ってました、『なんで女の子に監視されなきゃいけないんだろう』って」

「可愛そうに」

可愛そうな一麻。

まるでストーカーではないか。度が過ぎている、と私は思った。

「私、でも考えたんです。兄さんと一緒に帰れば、兄さんは先輩と一緒に帰るから、私も先輩と実際は一緒に帰れるんじゃないかって」

策士だ、この子。小学生でそこまで考えるとは……この子は決してバカじゃない、と私は感嘆した。


私は彼女のその結果が知りたくなったので、そう気取られないように訊いてみた。

「うまくいったのですか?」

「何回かは、でも……」

「どうしたのです?」

「私とお兄ちゃんと先輩が一緒に学校から帰って来る途中、その親衛隊に見つかって、騒いでる時に不良っぽい男の子たちに絡まれたんです」

「それはいつのことですか?」

「えっと、私が4年生の時ですから……3年、ううん、2年半前のことです」

ん? すると一麻が5年生の時……え、もしかして?

「親衛隊の女の子が、その男の子に突き飛ばされて、それで先輩がものすごく怒って、その男の子に飛びかかったんです。

そしたら、先輩が掴んだその男の子が『わぁっ』って叫んで気を失っちゃって……仲間の不良が先輩に飛びかかったら、同じように……」

「一麻が、電撃を飛ばした……のですか?」

「その時はわからなかったです……今思えば、きっとそうだと思います。でも、先輩も腕に大けがしちゃって……」

「……」 

あの子ったら、そんな事があったなんて一言も言わなかった。そんな大事な事を、どうして?

あのひとも、私に何も言わなかったけれど、知らなかったのだろうか? 

「あ、すみません、ここでいいです」

あの子が言う。

どうやら寮に着いてしまったようだ。 まだまだ聞きたい事があったのだが、仕方ないか。

「ちょっと待っていて頂けますか? また家に戻って欲しいので。この子を送り届けてきますから」

私は運転手さんにそう言い、先に降りて、彼女が出てくるのを外で待つ。

「もう大丈夫です。今日はごちそうさまでした。どうも有り難うございました」

しっかりした子だ。家庭での躾がしっかりしていたのだろう。

「管理人さんが居るのでしょう? 私が挨拶した方が多分スムースにいくでしょうから」

私は、そう言ってニッコリと笑った。

あ、と言う顔であの子も笑顔で答えてきた。

「えへ、そうですね。そうかもしれません」

「一麻のこと、宜しく御願いしますね」

私は、心にもない事を言った。正確に言えば、社交辞令を述べたのだ。表面上はあくまでもにこやかに。

それに対して、あの子は少し照れたように、あの「可愛らしい」笑顔で、私の心胆を寒からしめる言葉を吐いたのだった。

「はい。大丈夫です! 私、一麻兄ちゃんの嫁ですから!」



……その時、私はどんな顔をしただろうか。私は記憶がない。

あの子は「あっ!」と両手で顔の下半分を覆い、真っ青になって私にバッとお辞儀をすると一目散に寮の玄関に飛び込んでいってしまった。



……いつの間に、一麻はあの子と結婚したのだろうか?

……いや、それにしては、あの子の左手には指輪はなかった。

……いや、私だってあのひとから指輪は未だにもらっていないし……

我が家の前まで戻ったタクシーの運転手さんが私の顔を覗き込むまで、私の頭の中は、あの子の「一麻兄ちゃんの嫁」という言葉で一杯だった。

>>1です。

例によって短くて済みません。
本日分は以上です。

この後ですが、いろいろとつじつま合わせがタイヘンでして、時間かかってますが、なんとか仕上げたいと思っています。
頑張ります。

それでは皆様、よい週末を!
お先に失礼致します。

皆様こんばんは。
>>1です。

これより本日分の投稿を始めます。
今日の投稿はいつもより更に短いのですが何卒御了承下さい。

それでは宜しく御願いします。

まってたでー


(どうしてあんな言葉を投げつけたのでしょうか、母親ともあろうこの私が、事もあろうに我が息子に向かって……)

既に時計は夜の11時をまわっていた。

ここに至って、ようやく彼女は自分の行動を振り返る事が出来るまでなんとか落ち着きを取り戻していた。

(あの子は、もう風呂は済ませたのだろうか)

今、彼は一人で風呂に入っている。

一麻と最後に風呂に入ったのは、実に4年前。インペリアル・ホテルのスイートルームの浴室が最後であった。

親子なのだから別に良いではないか、と彼女は思うのだが、彼は断固として一緒に入ろうとはしなかった。

脱衣所にそっと入ってみると、既に洗濯機が静かに廻っていた。

一麻が自分の衣類を洗っているのだった。



中学に上がる時に、彼女はようやく息子一麻を引き取り、病院の社宅に入った。

実に10年ぶりに親子で住むことになったわけであるが、親子二人っきりというのは実は初めての事であった。

彼女としては、一麻が4つの時に別れて以来、ずっと息子に対して負い目を感じていた。

彼を引き取った事で、今まで我が息子にしてやれなかったことをこれから取り返すのだ、という使命感、あるいは期待、楽しみというような気持ちを持っていたのだったが、そのアテはあえなく外れることになった。

御坂美鈴の躾が行き届いていたのだろうが、彼自身の性格もあったのだろう、男の子でありながら彼はかなりマメであった。

掃除、洗濯、炊事と一通りの家事は楽々こなしてしまうのである。

(そう言えば、あのひともこう言うところは問題ありませんでしたね) 

確かに、父親である上条当麻も苦もなくこなしていた事を彼女は思い出す。

とはいえ、嫌いだったら、あるいはルーズな性格だったら、とてもこうはいかないだろう。

実際のところは、御坂美鈴が教えていた事もあるが、やはり学園都市にやってきて小学生ながら寮に入り必要に迫られて覚えた、というのが正しい。

特に、食事について言えば、彼は寮のご飯は2ヶ月で飽き、恐る恐るではあるが、自炊に挑戦したのである。

始めてみれば、案じるより生むが易し、であり、瞬く間に彼はレパートリーを増やし、普段の食生活にはなんら問題が無いところまで来ていた。

最初、麻美は半信半疑であったが、ものは試しで彼に作らせた夕食を食べてあっさりと兜を脱いだ。

やや大ざっぱで荒削りな点と、少々コストに無頓着な「男の料理」であること等、ケチをつけるところはあるのだが、ついこの前まで息子が小学生だったことを思えば驚天動地の出来映えであった。

かくして、彼女の夜勤明けの朝食、日勤の残業時の夜食の担当は息子の一麻が担当する事になったのである。

この話を聞いた彼女の看護士仲間は驚嘆の声を上げ、「素晴らしいお子さんね」と褒め称えたのであるが、麻美本人は少々複雑であった。

もちろん、彼女の作った食事を彼は常に綺麗に平らげ、満足げな息子の顔を見る事は麻美にとって張り合いのあることであった。

「母さん、ご飯まだ?」

一麻にそう言われる事が、息子と一緒に暮らしているのだ、という実感がわく、と言うこともあった。

二人で一緒に食事を取る、ということも、一人の味気ない食卓とは雲泥の差であった。

しかし、そんなことよりも、息子に食事を作ってあげるということそのものが、彼女にとって、ようやく母親らしいことが出来るようになった、という満足感を与えていたのだった。

であるからこそ、彼女は本当は全部作りたかった。

旭日中学校には給食があるので、弁当を作る必要もなかった。

高校に上がれば弁当を作る事になるので、彼女はその時こそ、と密かに心に決めているのだが。


(手がかからない、というのは少々つまらないものですね)

彼女の記憶では、子供の頃の一麻はおもちゃを散らかすのが好きな子であった。

整理整頓すると泣き暴れ、またもや思い切りぶちまけるのが常であった。

それが、今の彼の部屋は男の子の部屋とは思えないほどきちんとしていた。

記憶にある息子のイメージとのあまりの違いに、彼女は大いに戸惑ったくらいである。

これも、美鈴の躾に起因することであったが、麻美にはわからない。

そもそも寮から引っ越してきた時の彼の荷物はかなり少ない方で、用意した部屋に楽々収まってしまったくらいである。

その荷物の整理は全部彼自身が行い、母である麻美には一切手を触れさせなかった。

看護士仲間にそうぼやくと、やはり高校生の息子を持つ女性看護士はニヤニヤと笑って言ったものである。

「そりゃね、男の子には、親に見せられないものを隠し持ってるものよ?」

年頃の男の子ならベッドの下やスツールの底にそういう本を隠しているものだ、という看護士同士のシモネタ話を聞いた彼女は、ある日彼の部屋をチェックしたのだが、案に相違してそういうものは全く発見出来なかった。

さすがにPCをハッキングするのは気がひけたので、彼女は彼のPCの中は見ていない。

(あの子は、異性に興味がないのでしょうか? それはそれで気に掛かりますけれど)

……繰り返すが、彼は真っ当な中学生男子である。

興味が無いわけではない、いいや、人並みにある正常な14歳であった。

本は表紙を取り替えて堂々と本棚に並べ、PCの隠しホルダにはその種のデータが存在していた。

彼が自分の下着・靴下などを自ら洗濯するのはそのためであったし、母親と風呂に一緒に入るなど、今や絶対にあり得ないことであった。

これが佐天涙子であったら、いとも簡単に見つけ出してしまったことであろうが、御坂麻美にとっては無理な話であった。



そんな息子が、いきなり家に連れてきたお友だちは、なんと異性。それは可愛らしい女の子。

彼女の頭にあった息子のイメージと、余りにも違った彼の実像は彼女を混乱させるに十分であった。

(一麻も、普通の男の子、だったのですね)

ほっとした気もする。なんやかんやと気に掛けていたことが、バカバカしく思えてしまう。

ただの独り相撲だったのだ、と。

だが、それは彼女にとって、一方では寂しい事であった。いや、考えたくなかった。

彼女は、一麻が、唯一の味方の彼が、自分の元から離れようとしていることを認めたくなかった。

彼女は我が子を、手元に置いておきたかった。

ずっと、ずっと。



なぜなら。


中学校に入り、制服を着た我が息子の姿に、彼女は息を呑む思いだった。

息子の制服姿のなかに、彼の父親である、上条当麻の面影を見つけたからであった。

自分に似た顔立ちの一麻のなかに、彼女は確かにはっきりと、あのひとの面影を見いだしていたのだった。

そう、瀕死の自分を「死ぬな」と叱りつけ、ボロボロになりながらも相手を打ち倒した、

命の恩人の、

自分が愛した人の、

若き日の面影を。



彼女は自分の部屋へ戻り、書棚から一冊のアルバムを取りだした。

厚い頁をめくる。

そこには、まだ赤ん坊の一麻を抱く、自分の写真があった。

思わず、彼女の顔がほころぶ。

あの時の、可愛らしい一麻のことは忘れる事はないと思う。

自分の乳首に、必死に吸い付き、小さなちいさな手を握りしめたり開いたり。

初めて見る我が子の全てが、彼女には珍しく、可愛らしく写った。

死ぬのか、と思うような激痛の後、生まれたこの子。

自分の腹から生まれた、自分の血を分けた男の子。



ふと、彼女は、思い出したように奥に仕舞ってあった衣料ケースを取りだした。

そこには、小さい男の子用の半ズボンとシャツ、セーターが入っていた。

学園都市から戻れなくなった時、御坂美鈴が送ってきた彼女の荷物に入っていたものである。

最初の頃はずっと飾ってあったものであるが、息子が学園都市にやって来た今、もはや意味のないものとして再び奥にしまわれた、その服。

彼女は、その服をベッドに置いてみた。



――― あの子は、こんなに小さかった ―――



今や、自分より遙かに大きくなった一麻が、こんな時もあったのねというように、それはそれは可愛らしいものだった。

自分を必死に追いかけてくる一麻。

可愛らしかった、一麻。

私の、一麻。



麻美は、ベッドに顔を埋め、声を殺して泣いた。



(あんなことさえなかったなら、私は一麻とずっと暮らせていたはずなのに……)

それは、一麻と離れ離れになるきっかけとなった、遠い日の出来事。

>>1です。

>>64さま
エールありがとうございます。
修正掛けていたら結構大がかりになってしまいまして、本編投稿まで時間がかかってしまいました。
すみません。

で、本日は以上たった3コマです。
本来ならば、前回の投稿に含めるべきものでしたが、ちょっと完成しきれませんでした。

さて、>>67の後半部分は、「レ・ミゼラブル」の終わりの部分を使わせてもらっています。
ジャン=バルジャンが麻美(御坂妹)、コゼットが一麻です。
このシーン、娘を持つ男親であれば落涙すること必定のシーンでありますが、さてどんなものでしょうか。

この後ですが、当方に医学知識がないもので未だに苦労しております。
ごまかしちゃう、というのもありですがうーむ。

それでは本日はこの辺で。
お先に失礼致します。

最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

乙~

「レ・ミゼラブル」見てきましたか、いい映画でしたね
ただコゼットが完璧にエポニーヌに食われてて「ガラスの仮面」を思い出したのは自分だけではないはず


皆様こんばんは。
>>1です。

なんとか一通り完成しました。

>>69さま(>>64さまですね)
コメント有り難うございます。

映画批評でも結構高評価だったようですね。
当方は実は見ていません(苦笑
小学生の頃に「ジャン・バルジャン物語」という名前で抄訳されたものを読んでおりました。
こども向けには「ああ無情」という名前の方が有名でしょうか。
高校の図書館にあった「レ・ミゼラブル」を試験前に読み通した様な覚えがあります。抄訳の3倍くらいあったような。

それでは本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。


それは、一麻が四歳のある日のこと。



幼稚園から戻った一麻はその足で公園で友達と遊んでいた。

麻美は数日前から風邪気味であり、朝から身体が重かった。

彼女は母親達の輪から少し離れて木陰のベンチで一麻たちが無邪気に遊ぶ様子を眺めていた。

「おかぁちゃーん」

自分を呼ぶ一麻に手を振ろうとしたその瞬間、麻美の身体に突然激痛が襲った。

「ぐ?」

地面が反転したかのように、彼女の身体はぐらりと大きく揺れ、ぱたと片手を椅子につき、身体を支えようとした。

「おかあ、ちゃん?」

異変を感じ取ったのだろうか、すぐさま一麻が走り寄ってくる。

だが、彼女はもはや一麻の顔を見る事すら出来なかった。

「おば、さまを…」

かろうじてそう答えたものの、彼女は身体のバランスを失い、椅子からゆっくりと地面へと転がってしまった。

必死で立ち上がろうともがいたのもほんの数秒、再び襲ってきた激痛は、彼女の意識を奪った。

「おかあちゃん! おかあちゃん!?」

母の異常に気がついた一麻は立ったまま火がついたように叫び出す。

その声で、何人かの子供たちとその母親たちは麻美が倒れていることに気がついた。

バタバタと、倒れた麻美の傍に彼女らが駆け寄る。

「御坂さん? どうされました?」
「御坂さん!」

返事がないことに、異常事態と見て取った母親たちの1人が携帯で救急車を呼ぶ。

「おかあちゃん、おかあちゃんてば?」

一人は彼女の脈を取り、異常なその早さに驚く。

「何これ? ちょっと大変!」

もう一人の母親が、泣き叫び続ける一麻を見て、しゃがんで彼に聞く。

「御坂くん、おうちに誰か居る?」

訊かれた一麻は、その母親の顔を見て叫ぶ。

「おばあちゃんいる!」

「そう? ここから近いよね? 俊介、あんた操のこと見てなさい!? ちょっとここにいなさいね! 

母さん、御坂くんのところに行って来るから! 高橋さん、うちの二人見ててくださいます? 御願いします!」

そう言うと、佐藤操の母、敦子(あつこ)は一麻とともに彼の家へと走り出したのだった。


幸いなことに、御坂美鈴は家に居た。

麻美が公園で倒れたという知らせは彼女を驚かせるに十分だった。

「いつもの公園で?」

「ええ、一麻君の声で気がついたら、麻美さん、倒れていて…」

「救急車は?」

「寺崎さんが電話してたと思います」

「ありがとうございます! さ、行きましょう!、早く!!」

美鈴は一麻をおぶって、佐藤敦子と一緒に小走りに駆け出した。



公園に着くと、既に救急車が来ており、何事かと集まった人たちが遠巻きに見ている。

「ありがとうございました」

「いいえ、こんなときですから」

頭を下げる美鈴に、少し強張った表情で答えた佐藤敦子は、今度は自分の子・俊介と操を預けていた高橋秀美を探しに行った。

美鈴はおんぶしていた一麻を下ろす。

「ねぇ、おかあちゃん、大丈夫?」

美鈴がいるということで、一麻の興奮は少し落ち着いていたが、彼の不安は消えていないことを見て取った美鈴は明るい声で一麻に答えた。

「うん、知ってる先生のところに行けばすぐに直っちゃうんだから、大丈夫よ?」

「ふーん」

そんなことを言い合いながら二人は小走りに駆けてゆき、そこにいた救急隊員に美鈴が尋ねる。

「あの、すみません、倒れた御坂麻美の養母(はは)ですが、大丈夫でしょうか?」

「あ、御親族の方ですか? よかった、この方のかかりつけの病院とか、そういうのを御存知ですか?」

「はい、ちょっと距離がありますが、築地の聖ルカ病院がそうだ、と聞いたことがあります」

「聖ルカですか……先生の名前とか、わかりませんか?」

「そこまでは…すみません。あ? そうだ、この子の姉なら知っているかもしれません。聞いてみます」

「ではこちらも連絡してみましょう。向こうが知っているかもしれない」

救急隊員は聖ルカ病院へ連絡を入れ、一方の美鈴は娘・美琴へメールを打った。

”麻美ちゃんが倒れた。聖ルカの先生の名前知らない?”

メールを打って2分後。

「あの子が倒れたって、何があったの!?」

美琴の興奮した声が美鈴の携帯に飛び込んできた。

「公園で倒れたの。一麻くんは今私と一緒に救急車の前にいるわ。聖ルカ病院の担当の先生の名前知りたいの」

「わかったわ。2分で折り返すわ」

美琴の電話は切れた。

「もうすぐわかります」

救急隊員はホッとした声で答えてくる。

「宜しく御願いします。こちらでは『わかりません』という答えなもので……」

(そうか、この子、もともと存在自体が秘密だったわね……こんな時まで)

痛ましそうに、美鈴は救急車の中にいる麻美を見た。


美琴は直ぐにリアルゲコ太、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>に連絡をいれ、担当医師の名前を聞き出した。

最初、カエル顔の医者は「学園都市に連れ帰って来れないだろうか」と言い出し、「既に救急車に乗って居るんですよ!」と叫ぶ美琴と険悪な空気になりかかった。

担当医師の名前を教えた後も、彼は「許されるものなら自分が行きたいくらいなんだがね」と珍しく未練げな言葉を吐いた。

美琴は後になって、彼の、その御坂麻美こと検体番号10032号の卒倒に強い興味を示した言葉の意味を理解することになるが、当時は意にも介さなかった。

彼女もまた、自ら飛び出したかったのである。

それに、姑・上条詩菜に預けっぱなしの我が娘・麻琴がどうしているか、元気だろうか、という気持ちも心の中にはあった。

が、以前のペーペー委員ならともかく、今の彼女のポジションはそれを許すようなものではなくなっていた。

何事ですかお姉様<オリジナル>、と興味津々で食い下がる御坂美子(元:検体番号10039号)をごまかす事もまた一仕事だった。

なにせ、うかつに家を空けるとでも言おうものなら、これ幸いと「今日はお姉様<オリジナル>の身代わりです」と当麻に言い寄るのは確実だったからである。



かくして、救急車はサイレンをカン高く鳴らしながら築地へと向かった。

直ちに滅菌集中治療室に運び込まれた麻美は急性肺炎に加え、多臓器不全症を発症しかかっていることが判明した。

彼女は半月に渡り、瀕死の状態に陥り、懸命な治療の結果、かろうじて一命を取り留めたのであった。

異常な出来事であり、彼女が集中治療室を出たのはおよそ1ヶ月後のことであった。

集中治療室を出た、とはいっても絶対安静という状態であり、面会謝絶のまま1週間後、彼女はドクターヘリで学園都市のカエル顔の医者の居る病院へ緊急搬送され、精密検査を受ける事になった。

当然の事ながら、その病院に勤める御坂琴江(元:検体番号13577号)には内密とされ、突貫工事で新たな調整室が麻美のために作られていた。

それには、彼女の病気の発症原因が何らかのウイルス等によるものだった場合に備え、他の妹達<シスターズ>に伝染させない為でもあった。



目を覚ました麻美は、一瞬そこがどこだかわからなかった。

意識がはっきりしてくると、そこがかつて入院した事がある聖ルカ病院の個室である事に彼女は気が付いた。

(ここは……あなた? ミサカは……寂しいです)

あの時は、目が覚めた時にそこには愛しいひとの顔があった。

だが、今度はそこには誰もいなかった。

(私はひとりぽっちなのですね……えっ? 違う! そう、一麻は!? 一麻はどこに!?)

彼女ははっきりと息子・一麻の事を思い出した。

母親達と一緒に、私は幼稚園帰りの一麻を出迎え、あの子がいつもお友だちと一緒に遊ぶ公園に行って……

行って、それから?

それから? まさか……ええっ??

ぞっとして、起きあがろうとした彼女は、自分の身体に力が全く入らない事に気が付いた。

(いったい、どうしたのでしょう、私の身体は……情けない! 寝ている場合ではないのに!!)

点滴のチューブが左腕に繋がっているのが見える。右手を動かすしかない。

彼女は長い時間を掛けて、身体を動かし、ようやくのことでナースコールのセンサーに手を当てた。


しばらくして、看護士が姿を見せたが、彼女にとってそれは恐ろしく長い時間に思えた。

「どうされました?」

「もっと早く来て下さい。私ならもっと早く来ています」

か細い声ながら、けんか腰で剣突をくらわせた麻美に看護士の目が丸くなる。

「そうですか? ごめんなさいね。汗でもかきましたか?」

一瞬何を、という顔をした看護士はそれでも優しく語りかけた。

「私には息子がいるのです……早く帰らなくてはいけないのに、どうして身体が……」

「それは無理ですよ、御坂さん? 貴女は1ヶ月の間死線を彷徨ったのですよ? 体力も落ちてますし、とても動ける状態ではないです。

そうそう、貴女のお母様とお父様が交代でいらっしゃってますよ? えっと……かずまくん、お子さんのことですよね? 男の子ですね?

元気にしているから、大丈夫だから、と御言伝を頂いてますから」

話を聞き終わると、麻美は目を閉じた。

「すみません、取り乱しました……失礼な事を言ってしまいました……」

「いいえ。貴女も看護士さんなんでしょう? 看護される側になるのも良い経験よ? それで、御用事はなんでしょう?」

そう言って彼女は優しく笑った。

「いえ、今のお話で用事はすみました……ありがとう、ございます」

「そう。子供さんのことは母親なら気になるわよね。ご安心なさい、良いおじいちゃまとおばあちゃまがいらっしゃるんだもの。

貴女は早くゆっくり休んで、じっくりと抵抗力を付けなさいな」



看護士が去った後、麻美は思う。

(病人とは、不安なものなのですね……なるほど……)

冥土帰しの病院で働いていた時に、彼女は何度か患者に理不尽な要求を受けた事があるが、今、彼らが何故そんなことをしたのか自分が同じ立場に立って、初めて彼女は理解した。



さて、実は麻美は何度かそれまでも目覚めては居た。

しかし、その時の彼女の意識は朦朧としたままであり、きちんと五感の情報を体系立てて分析出来るほどの状態にはなかった。

このため彼女の朦朧とした意識は何度かネットワークに流れ込み、話題をまいた。

(彼女の彼女の首にかけられていたMNW疎外化装置は滅菌集中治療室に搬入される直前に取り外されていた為)

その大半は「わけのわからない想念」であったが、その中でまれに小さな男の子の姿が流れることがあった。

このためにミサカネットワークでは「ミサカの中に子持ちがいる?」と話題になったのである。

死んではいないものの、ミサカネットワークに接続してこない、いわば行方不明状態のミサカは100名近くに上っていたので、幸いな事にその「子持ちミサカ」が検体番号10032号かどうかはわからなかったのだった。



そして、その翌日、彼女は主治医から驚くべき話を聞く事になる。

「貴女はまだ完治していない。またいつ何時倒れる可能性を否定出来ない。

ついては原因調査の為に学園都市にて精密検査と身体の再調整を受けて下さい。

事と次第によっては、これは貴女一人にとどまらず、他の妹達<シスターズ>全員に波及するかも知れないそうですので」


聖ルカ総合病院での話は衝撃だった。

もう、完治していたと思っていたのに。

もう、あのような「調整」治療とは縁のない身体になったと思っていたのに。

悔しい。

「完治していない」

そんな……

また、あそこへ戻らねばならないのか。

……一麻は? 

あの子は?

そんな。

あの子をここに置いたまま、私一人が?



……一麻を置いて戻るなど、いやだ。

あの子は、わたしの宝物だ。

あの子は、私が産んだ、私の血を分けた、私の子供。

私は、あの子と一緒に暮らしたい。

私は、あの子を育てたい。



でも、連れて帰ったら、学園都市が何をするか……お姉様<オリジナル>ですら、娘を預けていると聞いているのに。

学園都市の顔、レベル5の第二位に君臨しているお姉様<オリジナル>ですら、信用していないのに。

無力なわたしが守りきれるわけが、ない。

わたしが、学園都市からここへ、戻れれば良いのだけれど、果たして、戻れるのだろうか?

もしかしたら、私は死ぬのだろうか?

能力者が学園都市外で死ぬと大事になる、と言う話を聞いた事がある。

それで私を学園都市に帰そうとしているのだろうか?

それならそれでかまわない……いいえ、違う。

そんなことは、ない!

私は、今死ぬ事は出来ない。

あのひとに、私は、死ぬ事をまだ許されていない。



……いいえ、そうじゃない、それだけじゃない。

私には、あの子がいる。

一麻にもう一度会う前に、私は死ねない。

一麻が、一人前になるまでは、絶対に、私は。



……私は、死なない。

>>1です。

本日分の投稿は以上です。

なんとかこのイベントの終わりは見えました。
が、次のイベントのラストをどうしたものか、
そしてその次のイベントをどうケリをつけるか。
あと一つ、なんとか作りたいイベントがあるけれど、書き上げられるだろうか?
ま、なんとか100は超えそうな感じですw

とある科学の超電磁砲S、PVも出来て非常に楽しみです。
図書館らしきシーンがあるのですが、いきなりの食蜂さん登場ですかね?
彼女は妹達<シスターズ>編が一旦終わってからの方が良いと思うのですが。

公式ツイッターが、
>12話で一瞬映った「カノジョたち」気づきましたか?
と「アイテム」の4人衆に言及しているのを見てわくわくしてます。
ああ、ようやく動いてしゃべる彼女たちが見れるんだ、と。

麦野沈利はゲームと同じ小清水さんなのか、放送禁止用語はどうするのか(爆
フレンダは誰が演じるのでしょうか? 金髪というとあの御大かしら……
リトルダイナマイト絹旗最愛は誰が演じるのか?
眠そうな、でも体晶で人が変わってしまう滝壺理后は誰がやるのでしょう?
楽しみです。
とにかく「アイテム」出しておかないと禁書3期出来ませんからねー。

そうそう、エレベーターは当然(ry

当方も負けないように頑張ります。
それではお先に失礼致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

作者様
こんにちわ
先月号の電撃大王みました?美琴さんのスーツ姿なかなかですね。
作者の描く上条美琴委員のスーツ姿もたぶんなかなかなんでしょうね?
ところで、上条美琴委員の仕事てマスコミ関係が主なんでしょうけど、広告代理店なんか
だと接待なんてあるんでしょうかね?

皆様こんばんは。
>>1です。

>>77さま
コメントありがとうございます。

すみません、雑誌までは手を伸ばしておりませんので、コミック化までじっと耐えております。
接待する側か、接待される側か、それが問題ですね。
いわゆる「事務打ち合わせ」という名の会食は普通にありそうですが。
自分の妄想では、どっちかというと「取材させて下さい」という方が多いと考えてますので、そうなると接待される側、ですけれど、さてどんなものでしょうか。

それでは本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。


御坂麻美がようやく築地・聖ルカ病院の滅菌集中治療室を出た、その日の学園都市では。



「御坂、入ります」

「やぁ、いらっしゃい。どうかね、身体の具合は?」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の執務室にやってきたのは御坂未来(みさか みく)。

幼かった打ち止め<ラストオーダー>も、今や成人式を終えた女子大生である。

「私は健康ですよ、もちろん。元気いっぱいです!」

「そうかい、それは何よりだね。健康な身体あっての人生だからねぇ」

「えー、なんか爺むさいですよ、その言い方?」

「ははは。僕も実は結構な年なんだよ? いや、君を見てるとなんだか自分が年取ったな、と身につまされるね」

「それはそれは、どうも失礼致しました。ふふっ」

憎まれ口を利き、ぷくっと頬を膨らませる未来。

髪を伸ばした彼女は、お姉様<オリジナル>である上条美琴の面影を残しているが、天真爛漫かつ表情が豊かなところは彼女特有のものであった。

ふと、真面目な顔になった彼女は小首を傾げて、彼に小声で言う。

「…先生なんか変ですよ? 何かあったんですか?」

「そう思うかい? まぁ、ちょっと来てごらん?」

「はい」

ひょこひょこと未来はカエル顔の医者の傍へ来る。

「以前、君が言っていた君達・妹達<シスターズ>の死亡原因なんだがねぇ…」

「何かわかったんですか?」

「すまない、さっぱりわからないんだよ」

「…そうですか」

えー、そんなぁと言う顔の彼女。

「見てくれるかな、これを」

彼はモニターを未来に見えるように位置をずらした。

彼女は画面を何度もスクロールさせて、自分たち妹達<シスターズ>のデータを食い入るように見て行った。

「…見事にバラバラですね…」

むぅ、と唸るように未来は答える。

「そうなんだね。何か関連性があるんじゃないかと思って調べているんだが、これではね」

苦り切った顔のカエル顔の医者。

未来は諦めきれないかのように、再び画面のデータを睨む。

再びスクロールさせていた彼女が「あれ?」とつぶやいたのを、カエル顔の医者は聞き漏らさなかった。

「何か気が付いたかね?」

もう一度最初から最後までチェックした後、未来はカエル顔の医者に向き直ると「大したことじゃないですけれど」と前置きして話し始めた。

「…あの、ちょっと不思議なんですが、どうして日本だけ、学園都市はもちろん日本にいるミサカは全員無事なのでしょう?」

彼女が言い終わると、カエル顔の医者は笑い顔で「それは」と言いかけたところで、未来もニッコリと笑い、

「僕がいるから」
「先生がいるから」

と二人の声は綺麗に重なり、その後に二人の笑い声がしばらく執務室に響いていた。


ひとしきり笑った後、「コーヒー飲むかい?」と訊くカエル顔の医者に、「頂きます」と答える未来。

備え付けのコーヒーメーカー(御坂未来が寄贈したものである)で香り高いコーヒーが2つ用意された。

「キリマンジャロですね」

「そうかい? 僕はよくわからないんだがね」

未来はバッグから袋に入ったクッキーを取り出すと、テーブルに置いた。

「どうぞ?」

「君はそれを持ち歩いてるのかい?」とカエル顔の医者が訊く。

「えへへ。小腹が空いた時の為、かな?」

いたずらっぽく笑う未来。



「話を戻すと、単に確率の問題じゃないのかな? 誰も死んでいない国は日本だけじゃないと思うけれどね?」

再びカエル顔の医者は話を始める。

「いえ、でも日本にいるミサカはおよそ200人ですが、全員無事です。

たとえばアメリカには確か350人ほど居ましたが、既に26人のミサカが亡くなっていますよ? 7.5 %にもなります。

ほら、ここ、フランスは70人のうち、10人も」

モニターのデータを指し示す未来。

「ううむ、言われてみればそうかな……食生活の問題だろうか?」

彼が問い返すと、未来は目を閉じて真剣な顔になっている。

「ちょっと待ってくださいね…やだ、ちょっと14968号、何やってるの?」

しばらくブツブツと御坂未来がつぶやき、そして再び話を再開する。

「確かにアメリカにいるミサカは問題があるかもしれませんね。高カロリー品の摂取が多すぎます」

「聞いたのかね?」

「はい。もう深夜なのに、なんか肥えたブタみたいになったミサカが…うっさい! 文句があるんならやせる努力しなさいってば!

そんなことだからオトコ出来ないのよ!?」

唖然とするカエル顔の医者。その視線にはた、と気が付いた未来はあわてて頭を下げる。

「す、すみません。ちょっとやりあっちゃいました」

「いや、それでそのアメリカのミサカくんたちの死因なんだがね、成人病とか生活習慣病のようなものではなさそうなんだがね」

「そうですね。あれ、あの、ちょっと、もう一度その、インドのところを?」

「ん? インドで何かな…3人か、ほう、全部が原因不明か。どういうことだろうね」

「他にも原因不明というのは? ううむ、そういう目で見るとあるね、ううむ……全部で18人か」

「何故、原因不明という診断になったのか調べることは出来ませんか?」

「聞き方が難しいけれども訊いてみよう」

「もし難しいのなら、現地にいる無事なミサカに訊かせてもいいですよ?」

「いや、それは止めておこう。医療関係者同士の方が案外口を開くものだよ。こういう場合はね」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>という異名の彼は、そう答えるとニッコリと笑ったのだった。


そして一週間後。

ここは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院のヘリポートである。

青い空にぽつんと浮かんだ黒点が、見る間に大きくなり、ヘリの形に変化した。

白く塗られた胴体に大きく描かれた赤い十字マーク。

あの忌まわしい「六枚羽」ではないが、学園都市の技術をふんだんに盛り込んだ高速ヘリである。

それを庭から眺める2人の女性。

一人は、当病院の看護士である御坂琴江(みさか ことえ:元検体番号13577号)。

もう一人はお姉様<オリジナル>、上条美琴であった。

「帰ってきたのですね、検体番号10032号……」

「そうね」

「いつの間にかいなくなって、5年近くも行方不明になって、そしてようやく帰って来たと思えば、よりによって病院ヘリとは……。

なんと可哀相なのでしょうか、とミサカは不憫な検体番号10032号の運命に涙します」

「全然泣いて無いじゃないの」

「心で泣いているのです、とミサカはなんてガサツなお姉様<オリジナル>なのでしょう、という思いをぐっと堪えて微笑みを浮かべてみます」

「アンタ、ホント良い根性してるわねぇ?」

他愛もない口げんかをしながら、二人はヘリが無事着陸するのを見届けていた。



「ダメなのですか!? どうして?」

今にも掴みかからんばかりの勢いで訊ねる上条美琴。

カエル顔の医者は、面会したいという彼女に対し、「面会謝絶なんだよ、申し訳ないがね」とキッパリと答えたのだった。

かろうじて命を取り留めた状態にある御坂麻美の状態について、彼は一つの仮説を立てていた。

妹達<シスターズ>だけを狙った、ある種の病原体による攻撃、であった。

これとて、妹達<シスターズ>全員が発症していれば頷ける話であったが、事実はそうではない。現在のところ、健康体でいるミサカの方が圧倒的に多い。

また、世界中で起きている彼女らの死亡原因と、今回の御坂麻美の発症事例とが同じ原因に基づくものなのかどうかもはっきりしていないのである。

そもそも、どうして彼女らを攻撃する必要があるのか、これにも頷けるような答えは出てこなかった。

だが、もし仮に病原体による攻撃であれば、迂闊に彼女に他の妹達<シスターズ>が接触した場合には同様の事態を招きかねないのだ。

カエル顔の医者はそう考え、妹達<シスターズ>の1人である御坂琴江に情報をオープンにした際に、明確に接触を禁じたのである。

そして、同一の遺伝子を持つ、彼女らのお姉様<オリジナル>である、上条美琴に対しても。

「元気づけてあげたいけど、会えないんじゃどうしようもないわね……」

ぽつり、とつぶやいた美琴に、ニヤリと笑った琴江が水を向ける。

「元気づけるのならば、適役のひとがいると思うのですが、とミサカはあたかも今気が付いたようにお姉様<オリジナル>に自分のアイデアを打ち明けてみます」

「誰よ……って、アンタ!?」

「検体番号10032号を元気づけられるのは、むしろあの方の方が宜しいかと思いますが、とミサカは自ら『GJ!』のサインを見せつけます」

「残念だけど、今アイツは仕事で東京にいるわ。実家で娘と遊んでるかもしれないけどね。あ~あ、麻琴、元気かなぁ……」

「会いたいのですか、お姉様<オリジナル>?」

「当たり前でしょ、これでもね、母親なんだからね? 私は……落第だけど、さ」

そう言うと、美琴は琴江の視線から逃れるようにくるりと背を向け、空を見上げたのだった。


会いたい、あのひとに。

せめて、もう一度。

もともと、このミサカは死ぬはずだった、検体番号10032号の次に。

あれから気がつけば10余年の年月が過ぎた。

一度だけれど、あのひとに会えた。

握手も出来た。

でも、ちゃんとお話、出来なかった。

このミサカを抱いてはくれなかった。

ミサカは、あなたに抱いて欲しかったのに。

あなたに悦んで欲しかったのに。

でも、それは叶わぬ夢。



もうすぐ、このミサカは死ぬ。

私には、わかる。

このミサカの身体の、自身の生体電流は、明らかに異変を示している。

どうしてこうなったのかは、さっぱりわからない。



もうすぐ、このミサカは死ぬ。

ネットワークにわずかな記憶を残して。

このミサカが死んでも、誰も気にも留めてくれないだろう。

それは寂しいことかもしれない。怖い気もする。

でも何のことはない、20年前と同じだけのこと。



ひっそりと、このミサカは死ぬ。

一方通行<アクセラレータ>に実験体として殺される代わりに、なんだかわからない理由で。

でも、その前に。もう一度でいい。

あのひとに、せめて、一言でいいから。

この身体が、動くうちに。

ミサカが、言葉を話せるうちに、せめて一言、言いたい。

でも……

会ってくれるだろうか、こんな汚れたミサカに。

あのひとに会うのが、ちょっと怖い。

それでも、でも。ミサカは、ミサカは。



ふらつきながら、ミサカは家を出る。

東京の、安アパートの一室から。

ほどなくして、もう一人のミサカがあわてたように彼女の後を追って行った。

>>1です。

本日分、短いですが以上です。

年度末ということで忙しくて結局全然書き上げられませんでした。
この後は少しだけ書きためがあるのですけれど、どう締めるかが難しいところです。
でも頑張ります。

超電磁砲S、PVも複数出てきましたし、ラジオでも「妹達<シスターズ>編」について盛んに匂わせる内容のお話をされてますね。
検体番号9982号の哀れな最期はどう描かれるのか、ミサカがミサカ達の亡骸を無表情に片づけて行くシーンはどう描かれるのか、非常に興味深いところです。ヘンに悲劇的に描かれない事を祈ります。
そして、アイテムとの死闘。1話じゃ終わりっこない話ですから、2話、それとも3話使うのか、超電磁砲S前半のキモですからしっかりと描いて欲しいものです。

それでは今日はこの辺でお先に失礼致します。
最後までお読み下さいまして有り難うございました。

皆様、こんばんは。
>>1です。

遅くなりましたが、本日分、これより投稿致します。
どうぞ宜しく御願い致します。


彼女、検体番号10033号は学園都市に戻って当麻・美琴との対面を果たし、「御坂亜美(みさか あみ)」という名前をもらったものの、もう一人のミサカ、検体番号17863号と共に行方をくらましていた。

彼女らは特別接待要員の地位に戻ることを良しとしなかったからである。

派遣された国に残っているミサカたちに情報が漏れることを恐れ、彼女ら二人はネットワークからも降りた。

結果から言えば、それはマイナスに作用してしまった。

行方不明になった二人は、御坂旅掛の探査から零れ落ちてしまったからである。

残っていた特別接待役の妹達<シスターズ>は、彼の働きで解放され、いったん日本へ戻されたのち、日本国籍を与えられ名前も付いた正式な日本人として再スタート出来たのである。

日本に残ったものは婦人自衛官や警察官になったものがおり、これはもともとの素質を生かした良い例であった。

だが、10033号と17863号の二人を待っていた運命は過酷だった。

徒手空拳で学園都市を飛び出したかたちの二人は、たちどころに生活に窮した。

1週間を待たずに所持金はほぼ底を付き、生活の算段は立たなかった。

金を稼ごうにも、そのすべを彼女らは全く知らなかった。

そんな彼女らが街のチンピラに引っかかるのは火を見るより明らかであった。

学歴なし、戸籍不明、だが美人での双子、という若き女性は裏家業、風俗産業にとってはウェルカムである。

彼は二人をとある店に売り飛ばしたのだった。

彼女らを買い取った形になった雇用主は、二人を試してその肉体とテクニックに圧倒された。

彼は直ちに二人を看板泡姫に祭り上げた。彼女らからの依頼で、完全顔出しNGにしたこともプラスに作用した。

顔良し、スタイル良し、テクは抜群の若き双子姉妹、その実体はお店で、となれば人気が出るのは当然のこと。

一切メディアには顔出しせず、というハンディもなんのその、口コミかやら@ちゃんねるやらで絶賛され予約3年待ち、という伝説まで出来た。

だが、あまりの人気に警察に踏み込まれ、二人は電撃で捜査官を沈め逃亡する羽目になる。

しかし、この件が原因で彼女ら二人の注意書のおふれが業界中に廻り、二人はこの業界でも職を得ることが出来なくなった。

貯金口座を作れなかった二人は給料を雇用主名の口座に溜め込んでいたが、摘発されたことで口座は凍結されてしまい、再び一文無しになってしまう。

美琴クラスになれば、ハッキングによるデータ改竄をしてお金を取り出すことも可能であったが、運悪くこの二人にはそれだけのスキルがなかったのである。

一方、電撃をくらい、捜査を妨害された警視庁と東京国税局は学園都市統括理事会へ合同調査を申し込んできた。上条美琴を名指しの上、である。

この話はとりあえず本編には関係がないので省略する。



それから十数年。

彼女ら二人は生きていた。

「上坂亜美(かみさか あみ)」と「上坂美耶子(かみさか みやこ)」という名前で。

「御坂」ではすぐに足が付くことに彼女らはほどなく気がつき、憧れのひとの「上条」とお姉さま<オリジナル>の「御坂」から取っていた。

名前は、あのときにもらった名前をそのままに。


二人は、それぞれ自動改札機を誤作動させてタダ乗りし、なんとか学園都市の入り口までやってきた。

十数年ぶりに見る、学園都市の高い壁。

「…ミサカの…生まれた街…あのひとが…お姉さま<オリジナル>が居るところ…」

肌身離さず、長い間の放浪生活においても無くすことのなかったIDカード。

そのカードを取り出しゲートへ歩みを進めようとしたところで、ついに検体番号10033号はくずおれてしまった。

なんだなんだ、どうした? と人が集まってくる。

「おい、意識がないぞ!」
「血、吐いてるじゃないか?」
「救急車呼べ!」

「亜美!」

御坂美耶子こと検体番号17836号が人だかりの中に駆け込んでくる。

彼女は、10033号の異変に気が付いていた。

彼女の発する生体電磁波が、最近とみに異常を示していたからだ。

そして、今、目の前の検体番号10033号からのそれは、今にも消えそうな、か細いものであった。

ここに至ってついに検体番号17863号は長らく使うことのなかったミサカネットワークに接続をした。

「誰か、誰か来て下さい! 検体番号10033号が倒れました! きっと死んじゃう! 誰か助けて!」

間髪入れず、すぐさま返事が返ってくる。

【緊急】検体番号17863号から緊急コール!【拡散】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001
17836号!? 無事だったの? どこ、どこにいるの?

2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15774
10033号も一緒なのですか?倒れたとはどういうことですか?

3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577
撃たれたのですか? ケガの具合は? 流血の具合は?

長いこと行方不明だったミサカの接続は、ネットワークに大きな波紋を呼ぶ。

99 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600
ええい、肝心な事が抜けてます! 17836号、貴女は今どこなの?

100 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17836
学園都市…の、ゲート前です…

101 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001
どこの!? ゲートを見て! はっきりと!

102 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577
ミサカはゲコ太のところへ報告と、緊急患者搬入に備える準備にとりかかります!

103 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039
わかりました! 第二十三学区ですね!

104 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14651
17836号、貴女は無事なのですか? 今までどこにいたのですか?

ネットワークが騒ぐことから検体番号17836号は無口になる。



「こんなところで何が? あ、ちょっとごめんさないよっと…どうしました?…って、あれ? もしかして、ミサカ?」

出来すぎた話のように、数人が集まっている中に現れた男、それは上条当麻であった。


「どうしたんだ、おい?……あれ? おいおい、倒れてるのもミサカか? 何だ、どうしたんだ?」

「その顔、声はもしかして上条さん、でしょうか?」

地獄で仏にあったかのように、緊張と恐怖に強張っていた検体番号17836号の顔が緩み、血の色が戻った。

「お、おう。上条当麻本人だけど? ひどくやつれてるな、何があったんだ?」

「あ、あの、亜美が、検体番号10033号が、どうしてもあなたに会いたいと言って……でも、この子、突然ここで倒れてしまって」

ほっとしたのだろう、彼女は手短に状況を当麻に話す。

「何だって!? ま、とにかくここじゃどうしようもない。すぐに入ってあっちで病院に行こう! はやく先生に見てもらわなきゃ!」

「は、はい」

即断する当麻に、喜色も露わに検体番号17836号は深く頷く。

「IDカードは?」

「これです。このミサカのものもここに」

「おう、わかった……その前に、脳波はどうかちょっと見てくれるか?」

倒れている検体番号10033号の頭に手を当て、気を集中した検体番号17836号は緊張した顔で答えた。、

「このミサカは医学の詳しい事には門外漢ですが、とりあえず脳波に乱れはありません。ただ、非常に弱いのが気がかりです」

「よかった。脳出血ではないんだな。じゃ、少し動かすぐらいなら大丈夫だろう」

だが、そう言って倒れている検体番号10033号を抱き上げようとする当麻に対し、周りで一部始終を見ていた人々から声があがった。

「ちょっとあなた、このひとをいったいどうするつもりなんだ?」
「学園都市に連れ込む気かい?」
「救急車を呼んでるんだ、その判断を待つのが先だろう?」
「動かしたらまずいんじゃないか?」

「え? あ、ああ。ご心配なく。僕は実は彼女たちを良く知ってるんです。その……彼女達にはかかりつけのお医者さんが中にいるんですよ。

その先生はですね、僕の右腕、ぶった切られた事もあるんですけど、その先生は完璧に治してくれたほどの人でして」

そう言って、彼は右腕を見せつけるが、当然の事ながら外部の一般の人にはよくわからない話ではある。

「はぁ…?」
「そんな……」

それでもなお、彼を訝しむ空気が変わらないのを見て取った当麻は、おもむろにバッグからあるものを取りだした。

「あ、僕、こういうものです」

彼はパスポートとIDカードを取り出して見せる。

「実は、私、これでも学園都市の外交官でして」

「へー」
「ほう……」

さすがに外交官のパスポートは、一般人への影響力大であった。ふうん、という顔の人々に向かって、彼は笑顔で軽く会釈する。

「決して怪しいものではありません。正直に言えば、彼女らは、僕の親戚なんです。ご心配下さり本当に有難うございます」

そう言うと彼は優しくミサカ10033号を抱き上げ、ゲートへと向かう。

彼の後をあわててミサカ17836号も追う。

後には数名の人間がゲートに入ってゆく彼らを見送っていた。


入管の健康管理室に運ばれ、ベッドに寝かされている御坂亜美こと検体番号10033号。

応急措置として点滴と酸素吸入を行ったところで、彼女の容態はとりあえず安定し、弱々しいながらも規則正しく呼吸を続けている。

当麻は既にあのカエル顔の医者に直接連絡を取っており、後は救急車の到着を待つばかり、であった。



「えっと…彼女は亜美ちゃんだっけ?」

「はい。ちなみにこのミサカは美耶子です」

当麻と検体番号17836号こと御坂美耶子とは、寝かされている亜美の傍に椅子を寄せ、小声で話をしていた。

チラチラと寝ている亜美を見ている美耶子は、憧れの当麻と直接話が出来る事に心なしか少し興奮を覚えていた。

「そうか。すまない、全員覚え切れないもんでさ。チェックしておくね」

「気になさらないで下さい。あの短い時間でミサカたち全員の名前を覚えられる人間はいませんから。それより、これから宜しく御願いします」

いや、それが出来るヤツが居たんだよな、と当麻は心の中で思う。

「完全記憶能力」という力を持っていた、一人のシスターを。

「で、二人は今まで何処にいたんだ? 二人一緒に?」

当麻は、二人に興味を持ったのでいきさつを訊く事にした。

「今までは日本のあちこちを転々としてました」

「へー。なんかそう言う仕事?」

「ええ、まぁ」

美耶子は言葉を濁した。あまり大っぴらに言える事ではない内容だと言う事を彼女は知っていた。

「ま、いろいろあるよな……で、彼女、いったいどうしちゃったんだ?」

美耶子の様子から、あまり言いたくないのだ、と見て取った彼は話を変える事にした。

「彼女は長いことネットワークから離れていますので、私にも今の彼女の状態はつかめません。

ですが、ここ数日で、急激に彼女の具合がおかしくなったのは事実です。

ミサカたちはお互いの生体電磁波を感じ取る事が可能ですが、彼女は私が傍にいる事に気が付かなくなっていましたし、私も彼女の生体電磁波が不規則になっている事に気が付いていました」

「そうか……確かにな、見てて絶対にやばそうだものな。美耶子は身体に問題ないのか?」

「全く問題はありません」

その直後、いいえとんでもないですぅ、というように彼女のお腹が返事をする。

赤くなる美耶子に、当麻は気にするな、と言う調子で

「はは、でもお腹はすいてるようだな。落ち着いたら飯食おうか?」と水を向ける。

美琴や美子が聞いたら砂鉄剣やら電撃が飛んでくる事間違いなし、というお誘いなのだが、当麻は全く気が付いていない。

「御願いします」

顔を赤らめた美耶子は恥ずかしそうに返事を返す。

心の中ではガッツポーズ、なのだが。



だが、亜美の容態が急変した。

「ゲボッ」 と赤黒い血を吐き、彼女はゴホゴホと咳き込み苦しむ。


「お、おい! 大丈夫かっ!」 身体を寄せ、上体を抱き起こす当麻。彼はタオルを当て、吐き出す血を受け止める。

「まだ、救急車はまだですか!?」 泣き叫ぶ美耶子。

「あと少し! もう少しで来る!」 管理室から声が返ってくる。衛生管理官はどうしたのだろうか?

「ミサカ! しっかりしろ! 目を開けろ! お前は死んじゃだめだ! 生きなきゃダメだ!」

「その……声は」 弱々しく目を開け、焦点を合わせようとする亜美が痛々しい。

「ああ、俺だッ、かみじょう、とうまだ!」

「……え?……え??……本当、ですか?……本当に、かみ……じょう……さん?」

焦点がようやく合った彼女の目が当麻を見る。

喜びの色が目に浮かび微かに微笑みが浮かんだようだった。

彼は、亜美の肩に僅かに力がこもったのを感じたが、そこまでだった。彼女にはもう腕を上げる力がないことを当麻は理解せざるを得なかった。

彼は、亜美の荒れた右手をしっかりと自分の右手で包み込む。

「気が付いたか? しっかりしろ! もう少しで救急車が来る! 死ぬんじゃない! 頑張れ!」

「ふふ…嬉しい……このミサカに、死ぬなと……10032号の気持ちが……わかりました」

彼女の口元に笑みが浮かんだような気がして、彼はそれにすがる思いで亜美と自分を励ます。

「そうだよ! 生きるんだよ! な、死ぬなんて思うな! 気持ちをしっかり持つんだ! 亜美!」

「あなたに、その名前で……叱ってもらえて、ミサカは……ちょっと嬉しい」

「おまえ…」

「けほっ」 血を吐く亜美。

「お、おい! しっかりしろ! もう少しであの医者に会える!」

彼女の吐血がかかったことも気にせずに、当麻は亜美の耳元に口を寄せ、力強い声で励ます。

「誰か、テレポーターはいないのですか? 御願いです、ミサカを、ミサカを助けてください!」 床にぺたりと座り込み、嗚咽する美耶子。

「今来る。あと2分だ!」 傍に詰めている職員が叫ぶ。が、

「ミサカを、抱いて……下さいません……か?」

死の影が亜美を覆ってゆくのが、もう全員には明白だった。

「わかった! な、もうしゃべるな、しっかりしろ!」 泣きながら、当麻が励ます。

「10033号の意識が、繋がった? ちょっと、あなた目がもう見えてないの? 10033号、しっかりして!」

美耶子も傍に寄り添い、彼女を励ますが、もはや最期の時は目前だった。

亜美の目が力無く閉じられる。

「このミサカは……あなたに抱かれて……死ねるのですね……わたし……最初の……ミサカ、ふふ……覚えて……もらえる」

「そんな最初があるかっ!? そんなことで喜ぶなっ! バカ言うんじゃない!!」

「ミサ……しあ……わせ……でし、た……」

がっくりと頭が、落ち、ずっしりと重みが当麻の腕にかかる。

「亜美! あみっ!」 叫ぶ当麻。

思わず美耶子は手を亜美の胸に置き、心臓に電撃を送るが、彼女の心臓は再び鼓動することはなかった。

「10033号の意識が…消えました。死亡を確認」

「亜美!」

「患者は誰ですか?」

なだれ込んできた救急隊員が見たのは、天を仰ぎ涙を流す男と、傍で泣き崩れる女性。

そして、その男性に抱きかかえられた、吐血の後も生々しいが、どこか微笑みを浮かべて寝ているように見える、もう一人の女性の姿だった。

>>1です。

本日分の投稿は以上です。

今週末にはいよいよ超電磁砲Sがスタートしますね。
南條さんが歌う「sister's noise」もなかなかいいです。期待しますです、はい。

結局、超電磁砲Sが始まる前に完結出来ませんでした……情けない。
頑張ります、としか言えませんが……

それでは本日はお先に失礼致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

皆様こんばんは。
>>1です。

先週は突発的に実家へ戻っておりましたので、投稿も御連絡も出来ませんでした。
すみませんでした。

それでは本日分、これより投稿致します。
どうぞ宜しくお願い致します。


「お、お前……」

「あら、ちょっと? 久しぶりにお会いしたというのに、その態度は随分じゃありませんこと? いやですわ、その顔。

霧が丘女子学園初のレベル5、そのわたくしがわざわざ来て差し上げたというのに」



いつものように放課後の校門に行くと、

いつものような人だかりの中心にいたのは、

いつものように待ってくれているはずの、

清水遥香(きよみず はるか)、ではなかった。

「いや、久しぶりだったからな……まさか陵がいるとは思わなかったし」

そこにいたのは、陵 真由美(みささぎ まゆみ)であった。

彼女もまた、かつての「姦しむすめ」の一人であったわけであるが。

「まぁ、御坂くんたら。清水さんでなくておあいにく様ですわ……わたくしが来ちゃお邪魔だったかしら」

少しばかり拗ねた目つきで俺を睨み上げる陵。

確かに、清水の言う通り、ちょっと性格が変わったのだろうか、俺は違和感を感じた。

ここまでひねたものの言い方はしなかったと思うのだが。

とはいうものの、なんで清水の名前が出てくるのだろうか?

俺が清水に能力開発の勉強を手伝ってもらっていることを知っているのだろうか?

「ちと待て。なんでそこに清水の名前が出てくるんだ?」

すると彼女はチラリと俺を見て視線を逸らして皮肉っぽい言い方で答えてきた。

「御坂くん? わたくしが何も知らないと思っていて?」

陵はそう言って俺の顔を睨み付けると、ふん、とそっぽを向いた。

御機嫌はどうも麗しくなさそうだ。あー、なんて女ってこう面倒臭いんだろうか。嫌になってしまう。

とにかく黙っているのはまずい。何か言わなければ、コイツが言った事を全面的に認める事になってしまう。

いや、確かにそうなんだが、素直にそれを認めるのはどうも宜しくなさそうな雰囲気だからだ。

「そういう目つきで俺を睨むなよな……久しぶりだったし、まさか陵がここに立ってるとは思わないからさ、すげー驚いただけだっつーの」

「……」

「で、どうしたんだ、今日は? 誰か待ってるんだ?」

この質問は、はっきり言って愚問だった。大失敗だった。

「いやですわ、あなたに決まってるでしょう?」

おおおーっ、という静かなどよめきが伝わってくる。

(なんで御坂ばっかりなんだよ)
(御坂先輩、やっぱりもてるんだなぁ)
(どうして母さんは俺をイケメンに産んでくれなかったのか)
(どうでも良いけど邪魔なんだよな)

あたりになんかどす黒い怨念のようなものが漂い始めたのを俺は感じ取った。

陵、お前さ……女の子だろ? 

女の子なら、もう少し恥じらいってものを見せて欲しいもんだ。あけすけすぎるだろう? ちっとも可愛くねぇし。 

よっぽど畑仲の方がましだった……ああ、それでか。

なぁ陵、清水? 畑仲に彼氏が直ぐに出来たってのは、そういうところが好まれたからなんだぞ?

そう心の中で毒づいたのが痛恨のミスだった。

「清水といい、お前といい、今頃どうしたんだよ?」 と俺は思わず口にしてしまったのだ。


ガン、と鋭い目が俺を見る。

「ほらやっぱり! 本当だったんですのね!?」

ぐいぐいと彼女が俺に迫ってくる。なんか怖い。陵ってこんな女の子だったっけ? なんかイメージ違うような……

「酷いですわ! しかも、よりにもよって、わたくしより清水さんの名前が先だなんて! 信じられないですわ!」

うわぁ、目、つり上がってるって! すげー怖いって。

俺、そんな酷い事したっけ? なんでこんなに怒られるわけ? 不幸すぎるって!!

「あ、まゆ~?」

一瞬即発、というピリピリした空気の中に、突然の乱入者が現れた。

この脳天気な声の主に、俺は今日、初めて深く感謝した。

「あ、ルミちゃん!?」

「久しぶり~! まゆさぁ、レベル5になったんだって!? すっごいよね!」

高橋留美(たかはし るみ)、俺のクラスにいるヤツだが、確かこいつは1年の時は違うクラスだった。

おそらく陵と同じだったのだろう。

彼女の「レベル5」発言で、廻りにいた連中の半分くらいがゲッと言う顔で一歩下がる。

「お止めになって。そんなこと、大きい声で言うもんじゃなくてよ?」

そう言いながらも、陵はまんざらでもなさそう。

(あれ、確かウチの学校にいた3人の中の1人だろ?)
(そうそう、3人纏まるとレベル5になるって面白い連中)
(だよな、だからウチみたいなところにいたんだって聞いたぞ、オレ)

「あたし、びっくりしちゃって……だって、今さ、学生でレベル5って、ついこの間までたった6人しかいなかったんだよ? 

まゆが7人目なんだもん。学園都市の学生のうちの150万人のうちの7人の一人なんだよー?」

確かにそうだ。

昔、ピーク時には学園都市に180万人もの学生がいたという。

その当時でも何故かレベル5は7人しかいなかったそうだ。7人以上は作らない、というような決まりでもあるのだろうか。

で、美琴おばさんは中学生の時、既にレベル5、その第三位という地位を占めていたのだった。

もちろん今もレベル5だし、ナンバー2という女性ではトップの地位に君臨している。

ここ、学園都市の看板ともいえる人だ。

美琴おばちゃんを筆頭としたレベル5の人を第一期生というなら、その一期生が成人となり大人になったあと、不思議とレベル5は産まれてこなかった。

正確に言えばゼロではない。2人ほどいるらしい。だが、一期生の7人に対して次の世代がわずか2人というのはやはり少ないだろう。

こういうものにも流れというものがあるのかもしれない。

そして、ちょうど僕らが産まれて小学校に入ったあたりから、また再びレベル5は生まれ始めていた。そう、陵でちょうど7人目だったのだ。

「で、まゆ、今日はなあに?」  無邪気に訊ねる高橋。

「え? い、いえ、ちょっと……」 言葉に詰まった陵の目が俺を見る。

その視線を読んだ留美が素っ頓狂な声をあげた。

「ええええ? やだぁ、まゆも一麻クンなのぉ? うっそー!?」

「ルミ? 声大きいですわ!? 何てはしたない! それに、わたくし『も』とは、どういう事ですの?」

「えー、だってこの間から、清水さんがね、ほとんど毎日のように一麻クンに会いに来てたもん。アツくて参っちゃってたのにぃー」

あ、てめぇ余計な事を! せっかく話が離れてたのに、また元に戻しやがって、しかも余計な尾ひれつけて!


「ふうん、そうでしたの……」

高橋と話していた隙に少し距離を取ったのに、またもや陵が怖い顔で近づいてくる。

「そう逃げ腰にならないで頂けます? まるでわたくしが、あなたを折檻でもするみたいですもの」

いや、そんな怖い顔で言われてもまるで説得力ないですけれど?

「で、俺に用って何よ?」

「別に大したことではありませんの。あなたの連絡先を聞きに来ただけですのよ」

はぁぁぁぁぁぁ? 何だよそれ? そんな事なら、清水でも畑仲にでも聞けばわかるだろうに?

……あ、今、こいつ、二人と揉めてるんだっけ? 

そうか、やっぱり……本当なのか?

「なんでだよ、携帯落としたのか? 俺の番号知ってるだろ?」

えー、やっぱりそうだったの? と言う顔の高橋はさておき、当然の質問を陵に投げ返す。

「先日の能力開発テストで壊してしまいましたの。予想より能力の影響範囲が広かったのですわ」

かすかに照れを見せて答える彼女に、あれ? と俺は思う。

こいつ、清水とケンカして能力はレベル5から元々のレベル2に落ちてしまったんじゃなかったっけ?

隠してるのか? ま、確かに人には言えないよな……あれ、でもそれなら能力開発授業なんかで直ぐ判るはずだよな?

むぅ……なんかおかしいな。

「教えて頂けません?」

上目遣いで小首を傾げる陵。

うーむ、仕草は可愛いけど、顔がまだ怖いんだよな、目が笑ってないし。

可愛い子ぶるのも簡単じゃないんだよ、陵。その点は、ミサちゃんの方が遙かに可愛いし。

やべ、ミサちゃんがここに来たら!? 最高にまずい!!

――― ミサちゃんは、今日は補習授業である ―――

あ、そうだった……

内心一瞬焦ったが、直ぐに思い出し、事なきを得る。

「そりゃわざわざ……大変だったな。バックアップ取ってないのか?」

俺はそう言いながら自分の携帯から赤外線通信でデータを送る。

「ありがとうございます。おかげで助かったわ」 嬉しそうな顔で陵が微笑む。そうそう、そういう顔は可愛いんだよ。

「えー、あたしには教えてくれないの?」 羨ましそうな顔で高橋が俺を見る。なんなんだ、お前?

「わかったわかった、ホレ、早く出せ」 俺はあー、めんどくせぇと思いつつ、高橋の携帯にデータを送る。

ふと陵の顔を見ると、またすごい顔になってる……あー、そういうことか……。

「あ、あの、私、1年D組の恵庭秀美(えにわ ひでみ)って言います! すみません、私も、良いですかっ!?」

お、すげー、最新型じゃん?……って、キミ、誰?

「スイマセン、私も! 1年D組の佐々木悦子(ささき えつこ)ですっ! 御願いしますっ!」
「ずるーい、私も私も!! 1年A組の水野沙也香(みずの さやか)でーす!」
「勢いで私も! 2年C組、渡辺優香(わたなべ ゆうか)よ! 御願いね!」

どどどどどど、と女の子が押し寄せてきた。うは、これはこれですげー怖いって! 何なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

「な、なんですの、この騒ぎは……?」
「ま、良いんじゃない? ねぇまゆ、この後、どうすんの?」

あきれ果てたと言う顔の陵真由美と、自分たちが起爆剤の役を果たしたことに全く気が付いていない高橋留美の二人は、俺の連絡先ゲットのバカ騒ぎを横目で見ながらおしゃべりを続けていたのだった。


「くれぐれも、清水さんには気を付けなさいな」

俺は、混乱していた。

陵の話は、清水の話とまるで違っていたからだ。

陵真由美と清水遥香がケンカした事だけは事実のようだが。

陵に言わせれば、尊大になったのは清水の方だという。いわく、

「この三人ではね、私がキモなのよ? あなたたち、何か勘違いしてるんじゃないの?」
「私がいなけりゃ、アンタなんかレベル2止まりなのよ? 誰のおかげで今のあなたがあると思ってるの? 自惚れるんじゃないわ!」
「悔しかったら自分一人でレベル5になってごらんなさいよ?」

まぁ何があったのかは知らないけれど、二人の話はいわゆる「売り言葉に買い言葉」らしいから、どっちもどっちと言う事だろう。

それから、彼女の能力の事。

確かに、清水とケンカして以来、彼女のアシストはなくなったのは事実らしい。

そして、清水の能力のアシストが消えて、一旦彼女のレベルがレベル3に落ちたのも事実だそうだ。

注目すべきは、元々の彼女のレベルはレベル2だったが、そこまで落ちなかった事も注目すべきだろう。

既にこの時点で話の内容は違っている。

陵自身も努力したそうだ。最初は青くなったのはその通りだと言う。

能力開発の先生もそりゃ必死だったらしい。

その辺は俺でも容易に想像出来る。

「霧が子学園初のレベル5が、友達とケンカしたらレベル3になってしまった」なんて馬鹿な話、他へ聞こえたら笑いものになってしまうからだ。

ただ、人間の頭脳ってのはすごいものらしい。

例えきっかけは他人の能力による強制的な能力アップであっても、それを覚え込んでしまうらしい。

つまり、例え他人の手による道筋でも、それを覚えてしまえばあたかも自分が付けたように出来るらしい。

2週間でレベル4まで戻り、今はおおよそ元通りのレベル5クラスにあるらしい。

すげぇよな。もう助けいらないんだものな。

そう思うと、清水ってちょっと可哀相な気もする。使われるだけ使われて、そして御用済みってなぁ……

……まてよ?

それなら、誰でも清水に頼んで能力アップの道筋付けてもらえば目出度くレベル5になるんじゃねぇか?

楽勝じゃないか、何も苦労する必要なんかないんじゃないか?



――― 私が好意を持ったひとだけに作用するの ―――



あはは、そうだったな。

これ、結構厳しいよな。なんせ好かれないとダメだって言うんだから。

……俺に好意、持ってくれてるよな、多分。そう言うニュアンスだったし、結構楽しそうだしな。

あ、でも俺の能力、前と変わってるようには思えないよな、なんでだろう? 

あはは、案外、男には効かないとかそんな例外があったりしてな。

……実際、そうだったりしてな。笑えねェよ、マジで。

「男、か」

テスト


(全然違うじゃんか……)

陵と清水とで、決定的に違う発言があったのだ。

「畑仲さん? 元気よ。彼女がどうかしたの?」 

「彼氏とはうまくやってるのか?」

「姦し三人娘」のもう一人、畑仲茜(はたなか あかね)のことだ。

清水は、彼女には新しく彼氏が出来た、と言っていた。

しかし、陵は。

「ええっ? 何を馬鹿な事を……彼女に彼氏なんか出来るわけないでしょう?」と言下に否定したのだ。

しかも誰がそんな事を? と非難する目で俺を見た。

「い、いや、そんな話をちょっと聞いたからさ」 とまるで違う話に俺は面食らった。

あんたってほんとバカね、という顔で彼女は俺にはっきりと言ったのだ。

「ハタちゃん、ううん畑仲さんはね、あなた、御坂くんの事が好きなのよ? 他に彼なんか作るわけないですわ、絶対にありえませんわ。

そんな話聞いたら、彼女泣き出してしまいますわよ? 決して冗談でも言ってはなりませんことよ、良いですわね?」

そう、真剣な顔で。



俺は一人でぶらぶらと家に向かって歩いていた。

陵と別れた後、俺は畑仲のデータを呼び出した。どっちの話が本当なのか、確かめる為に、だ。

ただ、少し落ち着いてくると、どう切り出せばよいのか判らなくなってしまったのだ。

なんせ理由がない。転向して以来、一度も会っていないし、あんな告白聞いた後、恋愛感情もない女の子と話をする事は躊躇われたからだ。

「お前、彼氏出来たんだって?」  

ダメだ。いきなりそんなこと訊けない。失礼すぎる。

それに、そんなタメ口利けるような仲でもなかったし……

「そっちどうだ? 新しい友達とか、出来たか?」

うーん、今頃になってそんなこと聞くのはなぁ……もっと前ならおかしくなかったけどなぁ……まさかこんな事になるとはおもってなかったし。



気が付けば家が見えるところまで戻ってきた俺は、ままよ、とばかりに畑仲にメールを打ったその時。



「だーれだっ!?」

いきなり柔らかいものが背中に飛びついてきた。

「わぁっ!?」



清水遥香だった。


「ご、ごめんね、そんなに驚くなんて思わなかったの」

「お前さぁ、人間はなぁ、後には目がねーんだよ!」

しゅんとする清水の姿は、後から思えばとても可愛らしかった、はずだ。

薄い夏服の今、背中にあたる彼女の胸の感触も覚えている。

だが、その時の俺は、心臓が飛び出るかと思ったくらい驚いた直後でとてもそんなことに気を払う余裕はなかったのだった。

それに、陵の話のこともあった。

――― 彼女には、注意しなさい ―――

何をどうしろと?

「なんでお前、こんなところに?」

「あ、あのね、今日は私、遅かったから、学校行ってももう会えないだろうと思ったからね、最初からこっちに来たの。

だって、そのね、あの、練習しなきゃダメでしょ? 御坂くんもそうだけど、私の練習でもあるし」

マジか。

(あ、あの、御坂くん、メールありがとう!)

俺の頭の中に、畑仲茜(はたなか あかね)の声が響いたのはその時だった。

(うわ、最悪のタイミングで返事が来ちまった!)

まさか、清水がこの瞬間に現れるとは思ってもいなかったし。

「あ、ゴメン、ちょっと電話させてくれる?」

俺はとりあえずそう言うしかなかった。

清水はちょっと変な顔をしたが、直ぐにうん、と頷いてくれた。

音声通話を選択して畑仲へ電話すると、直ぐに回線が繋がった。

(わぁ、ほ、本当に電話してくれたんだ) 電話からではなく、彼女の声は直接俺の頭に響いてくる。

「いや、ちょっと気になったもんで連絡してみたんだよ」

(そう? 確かにこっちに転校したら、全然お話することなかったもんね) 

「姦しむすめ」の三人の時とはまるで違う調子で、彼女の声は響く。

「ごめん、ちょっと今、あんまり長く電話できなくなっちゃったんで……えっ?」



予想もしない事が、目の前で起きていた。

いつの間に来たのだろう、スキルアウトのような格好の男3人が、清水遥香を一瞬の間に抱え込み、直ぐ隣にいる車の方へ……

まるで、テレビドラマのようなスローモーションでそれは起きていて、



……次の瞬間、俺は頭に衝撃を受け、目の前が真っ暗になった。

>>1です。

サーバーの調子が今ひとつのようです。
エラーというか、接続が切られてしまうのです。
ま、私が初めてこちらへ投稿した時の収容されている作品数は1000ぐらいだったように記憶していますが、今は1600ですものねぇ……

本日分の投稿は以上です。相変わらず短くて申し訳ございません。

超電磁砲Sでは、麦野沈利も登場しましたし(もう多分出てきませんが)、動き喋る彼女の姿、いや感動致しました。
小清水さんのべらんめぇ調、なかなか良かったですねぇ。杞憂でした。失礼しました……

それでは本日はお先に失礼致します。
引き続き最後まで頑張りますので宜しく御願い致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

皆様こんばんは。
>>1です。
なかなか投稿することが出来ず申し訳御座いません。

本日分、これより投稿致します。
それではどうぞ宜しく御願いします。


(う、うそ、これって、ホントの出来事なの?)

轟木友里恵(とどろき ゆりえ)は物陰から一部始終を覗いていた。自らの能力を用いながら。



彼女は長谷川優子(はせがわ ゆうこ)の作った「御坂親衛隊」の一人である。

彼女の能力というのは”保護色偽装<カメレオンフェイカー> ”、レベル2に該当するものである。

この能力には3つ問題があった。

1つには、彼女の体表の色(髪等の体毛も含む)を廻りの色に合わせて変化させるのだが、それは彼女の目の認識した色にかかっている。

従って赤外線暗視カメラで見られると全く役にたたないのである。熱源探知機でもモロバレである。

次に、体表の色を変えているだけなので、晴天の場合等では影が写ってしまう事である。

そして、一番の難問、彼女自身にとって大変困った事だが……服の色は変えられないので、つまり、素っ裸でないとならないのである。

冬の屋外では絶対に使えない、いや、それどころか人前では使えない能力であった。

その彼女が何故?



彼女は、自分の席の隣、御坂一麻を十分意識していた。はっきり言えば、「恋して」いた。

彼女が彼と初めて会ったのは入学式の時。

(わ!! すっごいカッコいいっ!)

だが彼とはクラスが違ってしまい、引っ込み思案な彼女は一麻と言葉を交わすチャンスは遂に一度もなかった。

2年生になって、彼と同じクラスになった時、彼女の心は躍った。

しかも、運命の女神の気まぐれか、くじ引きの結果、彼女は彼の席の右隣の席をゲットしたのである。

彼女は思わず神に感謝した。

当然ながら彼女は一部の女子からやっかみを受けることになるのであるが、彼女にとってそんなことは気にもならなかった。

教室の隣の席には憧れの君がいるからである。

そして彼女は「同じクラスだし、隣にいるし」という理由で、「しぶしぶ」(実は欣喜雀躍して)長谷川優子が仕切る「御坂親衛隊」に入ったのである。



彼女は自分の容姿に自信を持っていなかった。親を恨んだ事もあったほどである。

そんな自分が、自分のような不器量な女の子が彼に認めてもらえるわけがない、と彼女は諦めていた。

でも、席が隣になったことで彼女には一縷の望みが生まれた。

何かの拍子で言葉を交わすことがあるかも知れない。

そう、彼が落とした消しゴムを拾ってあげた時とか、何かちょっときっかけがあったら……と彼女の想像(妄想とも言うが)は膨らむのだった。

念のため言えば、そう言うことは実は親衛隊規則違反である。だが、彼女の頭の中では、それは全く矛盾していなかった。

幸いなことに、御坂親衛隊の中には、いや旭日中学校の全校生徒の中には読心能力を持つものはいなかったのである。

しかし、彼女の淡い期待はわずか数日で木っ端微塵に打ち砕かれることになった。

新たに入ってきた1年生の女の子。

恐れもせずに上級生である自分たちの教室に現れ、あろうことか「カズ兄ちゃん」と馴れ馴れしく彼を呼び、あまつさえクラス全員に宣戦布告の如き言葉を言い放った彼女。



――― わたし、カズ兄ちゃんの嫁ですから ―――



「佐藤 操」(さとう みさお)……


彼女はその名前を記憶した。


さらに、肝心の御坂一麻の態度が彼女に、いや御坂親衛隊に衝撃を与えた。

佐藤操は、自分の大事な友人と男の約束をしたのだと。

それは、学園都市に暮らすことになる彼のたった一人の「妹」、彼女の面倒を見て欲しい、というものだと。

自分は、その約束を守る、守らなければならない、と。

これを聞いた長谷川優子と数人の女子は押し黙った。

(そぉんなのぉ、かぁんけーねぇーんだぁよォォォォォォー!)と叫ぶような子はいなかったのは幸いだった。

だが、さすがは親衛隊創設者であり、一番長い付き合いのあった長谷川女史は簡単には引き下がらなかった。

「御坂クンは、お友だちの『妹』の面倒を見るのよね?」

「あ、ああ」 何を言い出すのか、という一麻。

「じゃぁ間違っても、その子は『カノジョ』ということじゃないわよね?」 冷ややかな目で睨む長谷川。

「ば、ばか言うんじゃねェよ。俺とミサちゃんとはそんな関係じゃねーよ!」



これは必ずしも一麻の本心100%ではない。心の何処かには、(もしかしたら、このままミサちゃんと……)という気持ちが無いわけではない。

彼にとって、佐藤操は少なくとも意識する女の子であった。

彼女の実家、つまり友人佐藤俊介(さとう しゅんすけ)の家で、制服を着た彼女を初めて見た時の衝撃は忘れられなかったくらいである。

見慣れていたはずの、自分の通っている旭日中学校指定のセーラー服を纏った彼女は少し大人びて、小学生の時とは全く違った雰囲気を醸し出していたからである。

仮に「あの子は、御坂クンにとって、どうでも良い子なんだ?」と聞かれたら、彼はそんなことはない、と断言したであろう。

だが、同い年の女の子から、「あの子、御坂クンの彼女なんだ?」と面と向かって言われたら、思春期の中学生男子としては本心はともかく「そんなことない!」と否定するのが普通だろう。

しかも相手は昔からよく知る、かなり生意気な、加えて少なくとも恋愛感情は起きないであろう「ただの」女の子からそんな挑発的な言葉を投げられたら、反射的に否定するのは当然であった。

かくして、彼はまんまと罠にはまった。

「そう。なら御坂くんもあの子がベタベタするのは迷惑よね、彼女じゃないんだから? 私たち、あの子に『御坂くんが迷惑だって言ってたから止めなさい』って、そう言ってもいいのよね?」

「くっ……わかったよ、俺が言うからオマエらミサちゃんに余計なこと言うんじゃねぇ」

長谷川優子は、御坂一麻に「佐藤操といちゃいちゃしないこと」を約束させたのである。

(うまい!)
(さすが長谷川さん、やるゥ!)

よくやった、ダテに親衛隊作っていないねぇ、ざまぁ、と親衛隊の面々は心の中で長谷川優子に喝采を送った。



とはいえ、何人かの女子は100%安心はしていなかった。

(陰でこそこそやるんじゃないのかしら)と、疑うものが何人かいた。轟木友里恵もその一人だった。

彼女は、彼を監視する番が回ってきた時は無論のこと、そうでない時も時間がある時はその役目を率先して引き受けていた。

ある意味役得でもあるはずのこの担当を、彼女が熱心にやることに対して不思議と他の女子からの陰口はなかった。

それは、彼女が「安パイ」だから、器量が悪いから間違っても御坂一麻とどうにかなることはあり得ないはず、という他の女子らの思惑からであった。

それを彼女は逆手に取ったのである。

当初、佐藤操は自分たちを見張る彼女らに驚いたようで、しょっちゅう後を歩く親衛隊の女子を振り返っていたものであったが、それは彼女らにとってせめてもの嫌がらせであった。

しかし、彼ら二人がそれに慣れてしまったのか、はたまた無視することを覚えたのかわからないが、暗い楽しみは長続きはしなかった。

親衛隊の女子の殆どは知らなかった。

小学校の時から彼には「親衛隊」がいたことを。そして、佐藤操がそれを知っていたことも。

もっとも、佐藤操は外部から来たばかりであったために補習漬けになったこと、そして彼女にも友人が出来たこともあり、当初ほど二人が連れだって帰る事はなくなった。

彼が一人で帰る時、轟木友里恵は「私と一緒に家に帰る」のだ、と勝手に夢想することで自分だけの密やかな楽しみの時間を過ごしていた。

だが、佐藤操と入れ替わる形で新たなる彼女の敵が出現した。


能力開発のエリート校の1つ、霧が丘女学院の制服に身を包んだ女子、清水遥香(きよみず はるか)が彼の傍に立ったのだった。

これには彼女も唇を咬むしかなかった。

相手が佐藤操だった時は、彼女はレベルゼロ、無能力者であり、使い道があまりないとはいえレベル2である自分よりも格下である、ということで彼女の自尊心はかろうじて保たれていた。

しかし、霧が丘女学院へ転校した清水遥香は逆に彼女の上を行く存在だった。

しかも容姿も顔つきも、自分とは比べものにならないほどだった。

彼女が清水遥香に勝てる要素はどこにもなかった。

彼女は暗い嫉妬の炎を燃やしながら、彼ら二人の能力UP訓練(彼女にはいちゃつきにも見えていた)を見守っていたのだった。



そんなある日、清水遥香と練習を終えて彼女を別れた御坂一麻は、家に帰る途中何を思ったか、彼の後を少し離れて付いてくる彼女、轟木友里恵を呼んだのだった。

「轟木、こっちこっち」

「え?」

まさか、自分の名前を呼ばれるとは思いもしなかった彼女は思わず足を止める。
       
彼女が予期しない、いや正確に言えば、妄想の中では幾度となくあった場面ではあるのだが……

ど、どうしようと思いながら、彼女は呼ばれるまま夢見心地の足取りで彼の方へ歩いて行く。

「お前もしかし、よくやるよなぁ……この間の借りがあるからさ、ほら」

彼は自動販売機からオレンジジュースを取り出し、彼女にほれ、と差し出す。

「さっきのとこのは、ヘンテコなものしかなかったからな。ここはまともだから」

彼女はあまりのことに立ちすくむ。

「だいぶ経っちゃったけど、こないだの英語の授業の時、助けてくれたじゃん? その時の礼だよ。ありがとうな」

「そんなこと……」 

とうやく、彼女はそれだけを答えられた。

普段の妄想ではもっと一杯喋ってるのに、肝心なこのときに、うまく言葉が出ない。

彼女は焦る。汗が出る。

「ああ、俺も飲むから、それならいいだろ?」

そう言うと、彼は小銭を取り出し、自販機に投入する。

(あ、それは!)

彼女の妄想の中では、(じゃ、あたしがあなたの分、買ってあげる! それでおあいこね? えへ♪)

という場面があったのだが、世の中は自分の想像通りには行かないものなのである。

「あー、生き返るわ……お前ってオレンジジュース、嫌いだった?」

さっさとプルトップを開け、ぐいぐいとコーラを飲んだあと、手を付けない彼女の様子に(俺まずった?)と言う顔で訊く一麻。

「そ、そんなこと、ない」

まるで心ここにあらず、と言う感じで答える彼女。

「そう? ならいいけどさ……しかし、お前、やたら俺の番にあたってるけど、何かあるのか? 長谷川にでもいじめられてるのか?

俺んち遠いのに、お前しょっちゅうじゃん? 何かあるんだったら長谷川に言ってやるぞ? どうなんだ?」

(え? 気が付いてたの? うそっ、やだ、恥ずかしい!!!)

その言葉に動転した轟木友里恵は、彼のコーラ缶をひったくるように取り上げると、

「こ、これ捨てとくね! あ、ありがと! バイバイ!!」

それだけを叫んで、その場から逃げるように彼女はオレンジジュースの缶を小脇に挟んで駆け去った。

狐につままれたような顔の一麻をそこに残して。


自分の部屋に戻った彼女は、嬉しさと恥ずかしさで舞い上がっていた。

(御坂くんと、お話ししちゃった♪)
(御坂くんが、私のことを見ていてくれたの♪♪)
(御坂くんが、私のこと、気にしてくれてたなんて♪♪♪)

傍目ではどう見ても「お話しちゃった」とは言えない、かなり一方的なものであったのだけれど、彼女の頭の中では立派に会話が成立していたのである。

家に着くや否や、彼女は、一麻が飲んだコーラの空き缶を恭しく机の上に置いた。いつも自分が使っているコースターに載せて。

握りしめていたので少しへこんでいたけれど、そんなことは気にもならない。

(ここから、御坂くん、飲んだんだよね)

彼女の妄想では、何度となくあった、間接キッスの場面。

だが、彼女はそっとその部分を指でなぞっただけで満足した。

自分みたいな女の子の唇でそこに触れるのは、なにか大切なものを汚すように思えたからだった。

そして、彼女は今度はカバンの中からそっとオレンジジュースの缶を取りだし、コーラの空き缶と並べてみる。

傷がそこここにあるのは、最初、無意識に小脇にかかえて走ったものの、一麻が危惧した通り落っことしたからである。

そのことで我に返った彼女は、落とした缶をあわてて拾い上げ、砂や小石で汚れた缶をハンケチで綺麗にぬぐい、カバンに入れた。

缶の結露でカバンの中は濡れまくっていたけれど、彼女はそんなことは気にもしなかった。

何故なら、このオレンジジュースは彼が自分の為に買ってくれたものだから。

彼女はベッドに寝転び、机に2本並んで立つ缶を眺めてにんまりし、枕を抱きしめてゴロゴロと転がる。

天にも昇る気持ちとはこういう事をいうのだろう。

「今日、サイコーだったぁ!!」

……のちに、コーラの空き缶には虫が湧いてエラいことになるのだが、今の彼女がそんなことに気が付くはずもなかった。



(御坂くんに、しちゃおうっと。この間の、ジュースの御礼です!って♪)

それから間もないある日、恋する彼女は舞い上がったまま、彼女の妄想をひとつ、実行に移すことに決めたのである。

彼の家の前で一麻を待ち構え、帰ってきた彼に飛びつく、という恥も外聞もない「愛情表現」を。

だが、その時、彼女の目の前で起こったことは。



先に、一人の女の子が、自分が狙っていた場所に立っていたこと。

そして、その女の子は、自分がしようとしていたことを、完璧に先に実行してしまったこと。

そして、一麻が連れ去られたこと。

彼女の「敵」とも言うべき、清水遥香が連れ去られたことはまだしも、憧れの彼までもが。

暫くの間、茫然としていた彼女はようやく目の前の出来事を理解した。

大変なことが起きたのだ、と。

(ど、どうしよう、ジャッジメント、い、いやそれよりもアンチスキルの方が、ああっ、携帯持ってきてないし! だ、誰かいないの?)

不思議なことに、まるで人払いでもしたかのように人が来ない。

うろうろと歩き回る彼女の耳に、ようやくスクーターのエンジン音が響いてきたのは少し後のこと。

(あ、人が来た!) 反射的に彼女は大型スクーターに向かって走り寄る。

「すみませーん! 止まってくださーい!!」

ギャギャギャーとタイヤを鳴らしてスクーターは止まり、後部座席に座っていた人が軽業師のように跳んで路面に立つ。

「何も見えませんが電磁波に乱れが!?」
「近くに何かいます! そこかっ?」

その直後、轟木友里恵は電撃を受けて昏倒した。

>>1です。
本日分、短いですけれど、以上です。

書いてしまえばわずか4コマなのですが、時間がかかりました……
よく見ると、話が全く進んでいませんし。
なんとかもう少しペースを上げられれば良いのですけれど。

引き続き頑張ります。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。
それではまた。
お先に失礼致します。

了解です

皆様こんばんは。
>>1です。
月一投稿みたいになっていて申し訳御座いません。

>>132さま
いつも有り難うございます。
頑張ってはいるのですが……すみません。

それでは本日分、これより投稿致します。


「こ、これは?」

「やりすぎです、検体番号17600号!」

「姿が見えなかったので致し方ありません。ですが致死電流量にはほど遠いレベルですから、とミサカは言わずものがの説明をします」

「しかし、何故にこの子は全裸なのでしょう?」

「それは本人に問いただすしかないでしょう。見たところ、中学生くらいのようですが、事件性はないようですね。

……とにかくここに置いてはおけません。あなたの家に運んだ方がよいとミサカは具申します」

「その前に簡単にチェックします。今暫く……検体番号17600号の言う通りかと。少し休ませて活を入れれば目を覚ますレベルですね、とミサカは安堵のため息をつきます」



スクーターの2人というのは、勤務を終え買い物をしてきた御坂麻美(みさか あさみ:検体番号10032号)を乗せた御坂忍美(みさか しのみ:検体番号17600号)であった。

麻美は門と玄関のロックを解除し、忍美は裸の轟木友里恵を抱き上げて家の中へ運び込む。

(いきなり裸の女子中学生が現れるというのは、非常に不自然ですね……そういえば、まだ一麻は帰っていないようですが、今日はなにかあったのでしょうか? 

……おや、あれは何でしょうか?) 

倒れたスクーターを起こしスタンドを立て、散らばった買い物袋やらおかずやらを拾い集めていた麻美は、すこし離れたところに落ちていた女物の服を拾い上げ、家へ戻った。



「何故にソファーですか? ここではなく、私のベッドに運ぶべきでしょう、とミサカは検体番号17600号の気の利かなさにあきれます」

「検体番号10032号が自分の家の間取りをネットワークに流さないから目に付いた比較的良さそうな場所を選んだまでですが、とミサカは少しむっとします」

「どこの世界に自分のプライベートな部分をネットワークに全開するミサカがいるのですか、とミサカは検体番号17600号に反論します」

「おっと! そう言うことを言うと……黙らっしゃい、検体番号20000号! 

みなさい、余計なことを言うからヘ・ン・タ・イ<検体番号20000号>が出てきたではありませんか!」

「放っておきなさい、とミサカは無視することを強く勧めます。それに検体番号17600号ですら自宅を公開していないではありませんか」

「自慢ではありませんが、このミサカの家は学園都市でもそう滅多にないボロ屋ですのでとても公開出来るものではありません」

「ああ、めんどくさい、このミサカが運びます、と役にたたない検体番号17600号にため息をつきます」

あきれた、と言う顔で麻美はまだ目を覚まさない轟木友里恵を抱き上げるとあごで忍美に自分の部屋のドアを開けろと指示する。

「うう、まさか同じミサカにアゴで使われるとは思いもしませんでした、とミサカは自分の立ち位置を悲観します」

「嫌なら明日からもう来なくてもかまいませんが、とミサカは検体番号17600号に『明日から自由<クビ>』という選択肢を指し示します」

「くぅぅ、このミサカには正社員の道はないのか、と自らの不遇を心の中で嘆きます」



御坂忍美こと検体番号17600号は、現在はコンビニのバイトと学園都市にいる妹達<シスターズ>のパシリで生きていた。

はっきり言って楽な生活ではない。むしろ学園都市外にいた時の方が彼女は人並みの暮らしをしていたのである、女探偵として。

だが、ある時学園都市に入って以来、彼女はここ学園都市で生きる道を選んだ。

尊敬するお姉様<オリジナル>である上条美琴と、

自分たちを救ってくれた上条当麻の存在と、

そして、いつでも直接会える、自分と同じ妹達<シスターズ>(上位個体もその中に含まれている)と、

そして、彼女らが絶大な信頼を寄せる冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>。

彼らの存在が、彼女をここにとどまらせる全てであった。

……例え、貧乏であってもなお。


「あれ……? みさ……か、くん?」

「確かに私は御坂ですが、どうしてあなたは私の名前を?」

「え…………?  あれっ!? 御坂くんは? ここは? 私どうして?」

轟木友里恵が目を覚ましたのはそれからしばらく経った後のことだった。

ぼんやりと目覚めたばかりの彼女の目に写ったのは、

――― 愛しの御坂一麻クン ―――

の面影を強く残した、自分の母親と同じくらいの女性の顔だった。

「みさかくん、というのはもしかして私の息子のことでしょうか?」

「は? いえ、あの、は、はい。そうですけど、あの、あなたは?」

「私は御坂麻美、御坂一麻の母です。そして、ここは私の家です。それで、あなたは? 見たところ、中学生のようですが」

なるほど、このひとが御坂くんのお母さんなのか、カレはお母さん似なんだ、と彼女はまだ十分働いていない頭でそう考える。

「あ、あの、私、轟木友里恵(とどろき ゆりえ)っていいます。区立旭日中学校2年E組です」

「E組? 一麻と同じクラスなのですか?」  ほう? という顔の麻美に、友里恵は恥ずかしげに「はい」と小さく頷いた。

その様子に、麻美の心の中に得も言われぬ感情が巻き起こる。

「ときに」 彼女は口を開いた。哀れな裸の少女に向かって。

「道端に服が落ちていたのですが、あなたは見覚えがありますか?」

その指差す先を目で追っていた友里恵の視線がサイドボードの上に乗っている下着、靴下、そしてTシャツにキュロットスカートに落ちる。

最初、彼女は自分の服が何故そこにあるのか? という顔であった……が、自分の身体を見た次の瞬間、

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

と叫ぶとベッドから飛び出し、その服を抱きかかえるとぺったりと床に座り込んでしまった。

その一部始終を見ていた麻美が追い打ちをかける。

「その服はあなたのもので間違いないのですね?」

視線を床に落とし、赤くなった顔のまま彼女はぶんぶんと頭を上下に振る。そんな友里恵を見ながら麻美は追撃する。

「とりあえず、裸のままではなんですから、その服を着た方が……!!!」

麻美の言葉が詰まった。

裸でぶるぶる震えていた轟木友里恵の姿が消えたのだ。


「え……?」

一瞬、麻美は動転した。

(テレポート、か?) 

だが、彼女の電磁波は、まだ直ぐ近くに人間がいることを明確に捉えていた。

「ん?」

麻美は気が付いた。

床に、影だけが動いていることに。

そして、可愛らしいデザインのピンクのショーツが独りでにひらひらと動き出し、するするとある位置に止まる。

次に同じくピンクのブラジャーがやはりある位置で止まる。

二つの下着のおかげで、麻美はそこにナニやら人間らしき物体が隠れていることを認識することが出来た。

更に落ち着いて念入りによく注視すると、その部分だけ向こう側のベッドに欠けがあって、見えない部分があるのだ。

確かにパッと見では透明人間のようなのだが、よく見れば明らかに人間の身体らしいものがそこに見える。

「あなたの能力は、カメレオンのように皮膚の色を変化させるものですか?」 

麻美は、空間に溶け込んでいる人間に向かって訊ねると、

「はい」  

中途半端、といっては少し可哀相だが、溶け込んでいる空間から消え入りそうな声が聞こえる。

服が人間の身体を覆うかのような位置に納まった瞬間、そこには先ほどの女子中学生が立っていた。

「保護色偽装<カメレオン・フェイカー>っていうんです」 

俯いたまま、轟木友里恵は自分の能力名を答えた。

麻美は僅かに微笑むと、

「私は、自分の身体から発する電磁波の反射で、近くにある物体の位置を把握することが可能なのです。

ですから、あなたが直ぐ近くにいることは判っていましたが、なかなか面白い能力なのですね」

と自分の能力の一部を彼女に話した。

それを聞いた轟木友里恵は、ああ、なるほどと言った顔で、

「御坂くんの能力は、お母さんから受け継いでいるん……」と途中まで返事を返したが、突然叫んだ。

「そ、そんなことよりっ! たっ、大変ですっ!! 御坂くんが、御坂くんが大変なんですっ!!」

「一麻がどうしたのですか?」

「わ、わたしっ、見てたんですっ! 霧が丘の女の子と、一麻クンがふざけてたら」

麻美の顔がえっ、と一瞬ひきつる。

(あの子ったら、そんなところは父親似ですかっ!?)

先日、我が家に連れてきた年下の女の子の顔が一瞬彼女の頭をよぎる。

だが、次の轟木友里恵の叫びでそんなことはどこかへと飛んで行ってしまった。

「いきなり、襲われて、女の子がクルマに連れ込まれて、御坂クンも殴られてそのまま一緒に!!」



衝撃的な言葉だった。

もっとも、麻美はその瞬間、(ああ、とうとうこの時が来てしまったのか)という異様に冷めた感慨を覚え、それをまた不思議とも思わなかったが。


「そうですか、ならば母である私は息子を取り返さねばなりません」

「……え?」

すぐにアンチスキルに連絡しなくては、というような答えを想像していた友里恵は、予想外の麻美の言葉にとっさに反応出来なかった。

「検体番号17600号、どこですか? 直ぐにここへ!」

「ちょ、今おかゆの準備中なのに?」 キッチンから声が返ってくる。

「緊急事態です。直ぐに!」 有無を言わせない強い調子で麻美は言葉を返す。

何事ですか、まったくもう、と言う顔で入ってきた忍美は、泣きそうな顔の友里恵と、かつての自分たちの顔、「クールビューティ」と言われた無表情の麻美を見た。

だが、その麻美の目に憎悪とでも言うべき強烈な感情が宿っていることに忍美はざわっと毛が逆立つのを感じ、一気に緊張した。

「あなたは直ちに私の病院に戻り、例の装置の準備にかかって下さい。

このミサカはこの子を寮へ送ってから病院に向かいます。タクシーを呼んで下さい」

「待ちなさい、検体番号10032号。あなたはあれを使うつもりですか? いったい何があったのですか?」

「一麻が、このミサカの息子が連れ去られました」

「何ですって!?」

「子供の危機に際して、母であるこのミサカが行動を起こさなくてどうしますか」

「わかりました。ですが、アテはあるのですか?」

「あなたは『スネーク』ではないですか? 今こそあなたの本領を見せるべき時ではないのですか?」

「めちゃめちゃ御都合主義満開ですね、とミサカは思いの丈をぐっと堪え、行動を起こします」

「宜しく」

飛び出して行く忍美の背にそう言い捨てると、麻美は不安げな轟木友里恵を見て微笑み、

「轟木さん、一麻のこと、教えて下さって有り難う。

本当ならば御夕飯でもご一緒すべきなのでしょうけれど、危急の事態が発生してしまいました。御免なさいね」 

と、麻美は頭を下げた。

「い、いえ、その、大丈夫ですから」 恐縮する友里恵。

一方、忍美はスクーターのタイヤを鳴らすと、爆音を響かせてあの病院へとすっ飛んで行く。

麻美はその音を確認すると、緊張している友里恵に優しく声をかける。

「タクシーがもうすぐ来ます。少しだけお待ちなさい」

「わ、私、歩いて寮へ帰れますから、大丈夫です!」

「何を言うのですか、もう完全下校時刻を過ぎていますよ」

と、麻美は時計を指し示す。時刻は既に午後7時をまわっていた。

「あの、一麻くんは、アンチスキルに連絡しなくていいんですか……?」

「子供を心配しない親がいると思いますか? あなたの御両親は貴女のことを気にしていないとでも?」

「……」

友里恵は、学園都市へ入ったその日、入り口で緊張した顔で自分を見送った父の顔を、行かないで欲しいと泣いて家から出ず、見送りに来なかった母の顔を思い出した。

今でも、お父さんは私を応援してくれるっていってたけど、お母さんはどうなんだろう? 

お母さんの言うことを聞かずにここへ来た私を、お母さんはそんな私を、まだ気にしてくれているのだろうか? と。



俯いてしまった友里恵を見ながら、麻美はクローゼットを開け、ごそごそと袋をいくつか開け、そのうちの1つを取りだした。

「どうやらタクシーが来ましたね」

麻美は友里恵を促し、家に鍵をかけ、彼女と共にタクシーに乗り込んだ。


その頃、ミサカネットワークでは、検体番号10032号の息子が拉致された、ということで大騒ぎになっていた。



【緊急】10032号の子供が攫われました!!【事態】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

検体番号10032号の息子さんが拉致されました!


2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15002

2げっとー!


3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18863

>>2


4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

>>2 非常識!


5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

久々にやったろうじゃん!


6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12503

お姉様<オリジナル>には?


7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

お姉様<オリジナル>は今日は香港出張です
あーあ、今日はあのひとと一晩過ごせるはずだったのになー


8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10777

いい気味です、検体番号10039号!


9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

ところで肝心の10032号はどうしているのですか?


10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

自分で助けるつもりです、アレを使う模様
ところで検体番号11848号はどうしてます?


11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11848

はいはい、しっかりチェック中ですよ
ところで、「アレ」とは……ええっ?


12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

わぁ……このミサカも忘れてました 
さすが10032号、よく覚えてますねぇ




13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

検体番号11848号、ターゲットの動きを報告して下さい


14 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11848

ターゲットは現在動きを止めています! 目的地の可能性が高いです
場所は第八学区!


15 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

第八学区? なんでまたそんなところに?


16 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

「アレ」はこの通り……エネルギー充填開始!
メンテはしっかりしてるのですよね、検体番号19090号?


17 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

当然です!
……ね、検体番号10032号、アレ、このミサカがやった方が良いんじゃない?


18 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

心配御無用……このミサカが装着します
貴女はこのミサカへの助力を御願いします


19 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

病院到着……このミサカはこれより戦闘態勢に入ります


20 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

そこまで言うのなら、まかせます
病院到着まであと1分と16秒!



そうこうしているうちに、タクシーは旭日中学校の女子寮に着いた。

促され、一旦は寮の入り口に手をかけた轟木友里恵であったが、思い詰めた顔で振り返ると、麻美にまくし立てた。

「あ、あの、私、このまま何もしないでいるのは嫌です! 何かお手伝いさせて下さい!!」

有り難う、と麻美は柔らかな笑顔で御礼を言ったが、直ぐに厳しい顔になり、

「あなたは中学生。ここからは大人の世界です。大人の汚れた世界を見るのはもっと経験を積んだ後で見るべきです」

とピシャリと言い切った。

「アンチスキルには私の仲間がいます。既に連絡済みですから安心して大丈夫です……目撃者と言うことで事情を訊かれる可能性はあります。

その際はすみませんが、あなたの見た通りのことを話して下さい」

友里恵は、歯を食いしばり黙ったまま麻美をぐっと睨み付けることしか出来なかった。

「……学校では一麻のこと、宜しく御願いします。お休みなさい」

そう彼女に話した麻美は、ニッコリと笑うと再びタクシーに乗り込み、寮の前から去った。



轟木友里恵は、タクシーが見えなくなった後も、しばらくそのまま立ちつくしていた。

>>1です。
本日投稿分、以上です。

>>138でレスアンカーの表示ミスりました……(汗

この調子だと、TV放送中の「超電磁砲S」の方が先に終わってしまいそうです。
情けない……

前作を久しぶりに少し見てみましたが、テンポ早いですね。
我ながらよくぞ書けたものだと感心してしまいます。
それに比べてこの第三部の体たらくはもう……

言い訳しても始まりません。
ともかく頑張ります。

最後までお読み下さいまして有り難うございました。
本日はこれにてお先に失礼致します。

乙です

把握

皆様こんばんは。
>>1です。

先週はすっぽかしまして失礼致しました。深くお詫び致します。

>>156さま、>>157さま、>>158さま、
どうも有り難うございました。

本日分、短いですがこれより投稿致します。
どうぞ宜しくお願い致します。


一方、こちらは結標のグループ。

彼女と、飛燕龍太・畑仲茜とはそれぞれ違った場所にテレポートしていた。

「飛燕、どこにいるの?」

結標がインカムで飛燕を呼ぶ。

「ここは…下にいちご銀行のATM出張所があるビルの屋上です。二人とも無事です。結標さんは?」

「こちらは、さっきの場所から北に約50m離れたマンションの上。異常なしよ」

「えっと…じゃ僕らは結標さんよりおよそ100m離れてます。すみません、ちと方角を間違えて飛びました」

すいません、と言う調子で飛燕の応答が入る。

あんたねぇ、と喉元まで出掛かった言葉を飲み込み、平静を装い結標淡希は次の確認を行う。

「畑仲さんは?」

「無事ですが、目をまわしてます。空中中継テレポートは初めてだったみたいで……」

「あーら好都合じゃないの。失神してるなら扱いも楽よ? さっさとこっち来なさい……ところでさっきの爆発は何だと思う?」

「ちょっと見て見ます……おー、ラッキーだ! キャパシティダウナーの反応がありませんよ! さっきのはコイツが吹っ飛んだってことじゃないですかね?」

インカムから飛び込んできた飛燕の報告に、結標の脳裏には先ほどの妹達<シスターズ>の顔がよぎった。

(やったのは、あいつら、か……? そうだ、あいつら、軍用クローンだったはず!)



  ――― 妹達<シスターズ> ―――



改めて彼女は先ほどのクローンの一人、「みさかみつる」と名乗った女を思い出す。

(待てよ……あの子(畑仲茜)の彼氏、『みさか』と言ってなかったっけ? じゃ超電磁砲の、いや今は名字が変わってるから違うか……)

(いや、もしかしてあの子の彼氏って、あのクローンの子供なんじゃないの?)

(そうよ、思い出したわ! 私、以前、土御門のバカに嵌められて、クローンの赤ちゃんを救出したじゃないのよ!)

(すると、ひょっとしてあの時の赤ん坊? どういう因果かしら、二度も同じ子供を助けるなんて…って、うわぁ、私が歳取るわけよねぇ…ああっ思い出さなきゃ良かったわ!!)

あの赤ん坊が今や制服を着てる男の子だなんて、と彼女は否応なしに、過ぎ去ってきた時間(とき)を時を思いだし、ブルッと肩を振るわせた。

(あれ? でもクローンには超電磁砲<レールガン>なんて撃てるわけないし…まさか御本人? クローンの子供を助けるために?

ちょっと待って、確か父親って同じオトコじゃなかったっけ? うわぁ信じられない、っていっけなーい、そんなヒマなかったわ!) 

「飛燕、遅れないように! 突っ込むわよ!」

雑念を振り払い、彼女はインカムに怒鳴る。

自分は特殊チームメンバーなのだ、もう一つのチームに、あの女に、あのレベル5に負けるわけにはいかない、と。

「え、ええっ? ヤバくないですか?」

「だからさっさとかっ攫う! ぼやぼやしてるとこっちも危ないわよっ! いいわねっ!?」

了解しました、という答えを聞くと、結標淡希はふっと姿を消した。


「キャパシティダウナー、沈黙」

「目標、完全に破壊されました」

「検体番号10032号、具合はどうですか?」

「こちら検体番号10032号、問題はありません」

超電磁投射砲を抱えた、御坂麻美(みさか あさみ:元検体番号10032号)がゆっくりと立ち上がる。

「こちら検体番号17600号、これより捜索に入ります。突撃役の検体番号19090号は?」

「いつでもOKです、とミサカは応答します。で、検体番号11848号、あとどれくらいですか?」

「すみません、あと30mです、とミサカは返答します」

「了解しました。検体番号10039号が代わりに後方支援に入っていますから、彼女の代わりをお願いします」

「了解です」

その時、ドン、という鈍い音が響く。

「ん? 何、今の音?」

妹達<シスターズ>はお互いに顔を見合わせるが、当然音の原因はわからない。

「……ときに、検体番号10032号はどうしました?」

さっきまでいたはずの彼女の姿が見えないことに、御坂忍美(みさか しのみ:元検体番号17600号)が不審の声を上げる。

「既に先行しましたが、とミサカは嘆息します」

まったくもう、という口調で答えを返してきたのは御坂琴江(みさか ことえ:元検体番号13577号)。

「仕方がありませんね。ミサカ、突撃します」 

御坂琴子(みさか ことこ:元検体番号19090号)がやれやれ、と言う感じで報告してくる。

「了解。このミサカも行動開始します」と御坂美子(みさか よしこ:元検体番号10039号)も駆け出して行く。



残った忍美と琴江、そして遅れて戻ってきた御坂美津留(みさか みつる:元検体番号11848号)が言葉で会話を始めた。

ネットワークに余計な雑念を送り込まないように接続もカットして、である。

「遅いです、検体番号11848号」

「すみません、途中で不審人物を誰何したところ、テレポートされて遠くに飛ばされてしまいました」

何ですって? という顔で忍美が訊く。

「テレポーターですか?」

「はい。私と同じアンチスキルですが、特別任務部隊の人でした」

「アンチスキル? 何故?」

「特別任務部隊? そんな部署があるのですか?」

興味津々という顔で琴江が話に割り込んでくる。

「はい。レベル4クラスの能力者で編成されたチームだとか。まだ試行中で、公には発表されていないはずです」

「そうですか、良かった、とこのミサカは胸をなで下ろします。

病院勤めだとそういう世間常識がうとくなっちゃうから、このミサカだけ知らないのかと思ってしまいました」

琴江は、ずっとカエル顔の医者の病院に勤めており、検体番号10032号の麻美と同様、ベテランのレベルにあった。

「何故、そんな極秘の部隊が出てくるんでしょう?

確かに私たちにとって、検体番号10032号の男の子はかけがえのないものですが、内容的には単純な未成年者の誘拐監禁です。

しかもやり方は非常に杜撰極まりないもので、こうして容易く居場所は捕捉されています。それなのに何故そんな秘密部隊がわざわざ…?」

考え込む忍美。


「キャパシティダウナー、沈黙」

「目標、完全に破壊されました」

「検体番号10032号、具合はどうですか?」

「こちら検体番号10032号、問題はありません」

超電磁投射砲を抱えた、御坂麻美(みさか あさみ:元検体番号10032号)がゆっくりと立ち上がる。

「こちら検体番号17600号、これより捜索に入ります。突撃役の検体番号19090号は?」

「いつでもOKです、とミサカは応答します。で、検体番号11848号、あとどれくらいですか?」

「すみません、あと30mです、とミサカは返答します」

「了解しました。検体番号10039号が代わりに後方支援に入っていますから、彼女の代わりをお願いします」

「了解です」

その時、ドン、という鈍い音が響く。

「ん? 何、今の音?」

妹達<シスターズ>はお互いに顔を見合わせるが、当然音の原因はわからない。

「……ときに、検体番号10032号はどうしました?」

さっきまでいたはずの彼女の姿が見えないことに、御坂忍美(みさか しのみ:元検体番号17600号)が不審の声を上げる。

「既に先行しましたが、とミサカは嘆息します」

まったくもう、という口調で答えを返してきたのは御坂琴江(みさか ことえ:元検体番号13577号)。

「仕方がありませんね。ミサカ、突撃します」 

御坂琴子(みさか ことこ:元検体番号19090号)がやれやれ、と言う感じで報告してくる。

「了解。このミサカも行動開始します」と御坂美子(みさか よしこ:元検体番号10039号)も駆け出して行く。



残った忍美と琴江、そして遅れて戻ってきた御坂美津留(みさか みつる:元検体番号11848号)が言葉で会話を始めた。

ネットワークに余計な雑念を送り込まないように接続もカットして、である。

「遅いです、検体番号11848号」

「すみません、途中で不審人物を誰何したところ、テレポートされて遠くに飛ばされてしまいました」

何ですって? という顔で忍美が訊く。

「テレポーターですか?」

「はい。私と同じアンチスキルですが、特別任務部隊の人でした」

「アンチスキル? 何故?」

「特別任務部隊? そんな部署があるのですか?」

興味津々という顔で琴江が話に割り込んでくる。

「はい。レベル4クラスの能力者で編成されたチームだとか。まだ試行中で、公には発表されていないはずです」

「そうですか、良かった、とこのミサカは胸をなで下ろします。

病院勤めだとそういう世間常識がうとくなっちゃうから、このミサカだけ知らないのかと思ってしまいました」

琴江は、ずっとカエル顔の医者の病院に勤めており、検体番号10032号の麻美と同様、ベテランのレベルにあった。

「何故、そんな極秘の部隊が出てくるんでしょう?

確かに私たちにとって、検体番号10032号の男の子はかけがえのないものですが、内容的には単純な未成年者の誘拐監禁です。

しかもやり方は非常に杜撰極まりないもので、こうして容易く居場所は捕捉されています。それなのに何故そんな秘密部隊がわざわざ…?」

考え込む忍美。

>>1です。

エラー表示が出たのでやってみたらダブリ投稿になってしまいました。

すみません、>>162は無視して下さい。大変失礼しました。


「突入した3人は大丈夫でしょうか、特に検体番号10032号は簡単には取り外せない武装をしてますし、敵と誤認される恐れも……」

琴江が心配そうな顔で2人に訴えかけてくる。

「え、検体番号10032号はあの武装をしたままなのですか?」と美津留が驚いて問いかけると、

「困ったことに」「そのまま突撃しました」と琴江と忍美が答える。

「いや、それは如何なものかとこのミサカは危惧を覚えますが」

第一、嵩張るから屋内での戦闘になったら圧倒的に不利ですし、そもそもアレは遠方からの砲撃用なのに、と美津留が疑問を差し挟むと、

「母親の勇ましい姿を息子に見せたかったのでしょうかしら?」と忍美が相づちをうち、

「いや、いきなりあの姿を見ることは少年にとってかなりのショックを与える恐れがありますと、ミサカは微妙な少年の心を思います」

と琴江が看護士らしく答える。



「何だい、今の……爆発か?」

突然の男性の声に3人はハッと自分たちの立ち位置を思い出した。

「そんなことより、住民が出てきました! 急いで封鎖を!」

「ですね」「はい!」

3人の妹達<シスターズ>は、そんなことをネットワークで会話しながら、とある家を目指して駆け出して行く。



既にあちこちの家からは何事か、と家から通りに出ている人がいた。

御坂美津留、琴江、忍美の3人がジャッジメントの腕章を見せながら(当然琴江のは、それらしく作ったまがいものである。また忍美は以前に何度か臨時で雇われたことがあり、その時の『臨時』の腕章をガメて着けていた)説明に廻っていくが、野次馬の数はだんだんと増えて行く。

「私たちはジャッジメントです。現在、犯罪者と見られる人物を強制捜査中です! 危険ですから家から出ないで下さい!」

家に戻る人もいるが、レベル3クラスの能力者なのだろうか、逆に協力しようと出てこようとする人も現れてきた。

「検体番号19090号、10032号、10039号、状況報告願います! 予想より野次馬が多いです! 抑えきれなくなりそうです」

忍美がネットワークで叫ぶ。

「こちら検体番号10039号了解。可能ならそちらへ戻ります。先行した検体番号10032号と19090号、そちらの状況を報告願います」

美子からは直ぐにネットワーク経由で返事があった。

だが2人からは何の連絡もない。何かが起きているのだろうか、と危惧した忍美はもう一度ネットワークで叫ぶ。

「検体番号19090号、10032号、無事ですか? 返事願います!」

少しのラグをおいて、検体番号19090号の琴子からネットワークで返事が返ってきた。

「検体番号19090号より報告、二人とも無事。検体番号10039号は戻って、しばし連絡を待て」

非常に簡潔であるが、かなり緊張したものである。

しばらく待っていると、美子が戻ってきた。

彼女の、夜間戦闘服に暗視ゴーグル、そしてサブマシンガンというその出で立ちに、数人の野次馬から「おほぅ」という声があがる。

しばらく待ったもののその後の連絡がないので、再び忍美がネットワークで問いただそうとしたその時、

「ケリが付いたようだ」 という琴子からの簡単な報告が飛び込んできた。

ほっとした空気がネットワークに漂うが、よく考えると肝心の麻美の息子の状況がこれでは全く判らない。

「御坂一麻くんの状況報告をお願いします」



少しの間をおいて、今度はネットワークではなく、インカムから麻美の声が流れてきた。

「こちら検体番号10032号。私の息子は無事保護されました」

自分の息子が無事保護されたというのに、何故か彼女の声に喜びの色は全くなかった。


「それは良かった……検体番号10032号にケガはなかったのですか? あるいは何かおかしな事でも?

何かあったのですか?」

美子がネットワークを通じて心配そうな声で訊ねる。

「いえ、何も問題ありません……アンチスキルが出動しているようです。我々は速やかに撤退すべきと考えます」

淡々と説明口調で答えてくる麻美。

「そのアンチスキルとは、テレポーターの人ではありませんか?」

美津留が訊くと、

「その通りですが、知っていたのですか検体番号11848号?」

と訝しむような、麻美の声に初めて少し感情らしいものが混じった。

「やはりそうですか。このミサカはここに集まる前に、不審な人物を誰何したところ、テレポートされてしまったのです。

その人は『結標淡希(むすじめ あわき)』と名乗りませんでしたか?」

美津留が言い訳がましく答えると、麻美は

「そんな名前を言っていました。状況はわかりましたが、戦闘態勢なのですからネットワークに上げておいて欲しかったですね」

と皮肉を込めていう。

「あ」 と美津留はショックを受けた。その通りだったからだ。

(そうだった)(しまった)と琴江と忍美がほぞを咬む。

わざわざネットワークを切って彼女の話を聞いていたからである。

「ところで検体番号10032号、息子さんは? 無事だそうですが、念のためウチに運んだ方が良いのではありませんか?」

話題を変えるべく琴江が麻美に問いかける。

妹達<シスターズ>は全員が、麻美からの「そうしましょう」という返事を予想していた。



が、インカムから聞こえてきた彼女の返事は、誰もが予想すらしなかった内容であった。

「残念ながら、息子は取り調べを受けることになったそうです。私は手出し出来ませんでした。

アンチスキルの病院に送られるそうですから、一通りの処置は施してもらえるようです」

そこで、彼女の声はぶつりと切れた。

妹達<シスターズ>はお互いに顔を見合わせる。

(怒ってる?)
(怒ってるね)
(うん、あれは間違いなく怒ってる)
(おこなの?)
(ええ、激おこですね)

(えー、そんなのってありなのー? ミサカはちょっと納得出来ないなー、検体番号10032号、それで納得しちゃったの? ね、誰か訊いてみてよ、ねー?)

ネットワークに、上位個体である御坂未来(みさか みらい:元検体番号20001号)の声が飛び込んできたが、返事する者は誰もいなかった。



アンチスキルの装甲車の赤灯が続々と現れるのを見て、妹達<シスターズ>は姿をくらました。

アンチスキル指令統括部員である美津留も撤退するのを見た忍美が訊ねる。

「検体番号11848号はアンチスキルなのですから、残った方がいいのではないですか?」

すると彼女は、キャリーケースをポンポンと叩き、すまして答えた。

「事務方がこんな格好で、しかもアサルトライフルなんて物騒なものを持ち出していたなんてわかったら、そりゃエライ目に合いますもの。

許可も受けてませんから、このミサカ、三十六計逃げるにしかず、ですわ」

>>1です。

本日の投稿は以上です。僅か4コマで申し訳御座いません。

なんとか終わりに結べそうな気がしてきました(苦笑
引き続き頑張りますので宜しくお願い申し上げます。

それではお先に失礼致します。最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。


二人とも驚き、後へたたらを踏むが、今度はあちらも大人。

すぐさま顔を突き合わせた二人が罵り合う。

「危ないでしょっ!」

「こっちのセリフだ、バカったれ!」

「フラフラ歩かれると困るのよね、ちゃんと安全ポイント選んでるんだからっ!」

「だったら、ちゃんとあらかじめアンチスキルにでも、これから飛ぶから空けとけとか、全市民に周知徹底させとけ!」

「言っといたわよ部下に! って……貴女のその襟章、ジャッジメント?」

「そういうテメェはどこの……って、お前、アンチスキルかよ?」

「そ。アンチスキル特別任務委員、結標淡希(むすじめ あわき)よ」

「むすじめ……? ほほぉ……その名前、聞いたことあるわね。

確か……テレポーター初のレベル5を蹴った女……それから、『窓のないビル』の案内人、ってのもあんただっけ?」

「そりゃどうも。どっちも随分昔の話よ、で、その襟章といい、この様子から見て、貴女」

「はいはい、自分で名乗るわよ。麦野沈利(むぎの しずり)、ジャッジメント特殊任務委員、ね」

二人はお互いに「ふぅん」「へぇー」という顔で睨み合う。

「なーるほど」
「今回のお仕事での」
「ライバルってのは」
「「あんたのことか」」

「なら話は早いわね」

「そう。さっさと帰りなさい」

「ええ、そうさせて頂くわ、その子を早く病院に連れて行かなきゃなりませんもの」

「何だと?」

再び険悪な雰囲気になったところに再びテレポートして来たのは、先ほどの彼、飛燕龍太(ひえん りゅうた)であった。

「結標さん、御坂くんを発見しました!」

(みさか?)

麦野の頬が僅かに動いた。

「骨折れてるみたいです! 意識も無くて、呼んでも答えないんです! 畑仲さんでもダメです!」

「わかったわ。あなた、彼を病院へ運びなさい」

「どこでもいいですか?」

「ちょっと考えさせて……ウチらの所にしましょう。この時間だと……当番は前河原先生ね。番号わかる?」

「ジャッジメント総合病院ですか? 近いですけどここ第八学区ですよね? 学校や家から遠くないですかね?」

「ちょっとね。気になるところがあるから。それに一応、その子も関係者だから、安定したら調査しないとね」

「あ……そうですね。わかりました」

「そうそう、その前に、私の車から上着と救急セット取ってきてくれるかな?」

結標はチラと視線を倒れている半裸の清水遥香に投げると、飛燕はわかりましたと頷き、姿を消した。
 
「ちょっと聞きたいけど、『みさか』って誰よ?」

黙ってやりとりを聞いていた麦野が口を開いた。


「何よ突然に……貴女、知らなかったの?」

質問の真意を量りかねるように結標は質問で返してくる。

「おいおい、『御坂美琴(みさか みこと)』を知らないわけねーだろが。どこの素人さんだってばよ」

当たり前のことを聞くな、と麦野が揶揄するが、

「ま、そうよね。でも、彼女、今は『上条美琴』よ? 『みさか』じゃないでしょ?」

この人、聞いてなかったのかしらね、と彼女は思い、それなら質問も判るわと判断したが、あえてそのことは言わずに 

「今回はね、オ・ト・コの子、中学生ね。それで、ウチの子がね、お熱ってとこかしらね」

と結標はさらりと流した。

「はぁ? なんだそりゃ、もう色づいてるってか? ばかばかしい……しかしませたクソガキだな。で、そいつはさぞイケメンなんだろうな?」

「あら興味あるの? そうね、書庫(バンク)見て御覧なさいな。笑っちゃうくらい母親そっくりだから」

結標はそう言って笑ったが、麦野は全く違うことを想像した。

(母親、似か……あの子は今……)
(ええい、何を考えてるんだ、私は!)

直ぐにその想いを打ち消したのだが、一瞬だけ彼女の眼に浮かんだ動揺を結標は見逃さなかった。

「あら、どうしたの? 貴女、お子さんいらしたっけ?」

「うっせぇんだよ、ひとの事に余計な口挟むんじゃねぇ!」

ブン、と青白い電子線が彼女をかすめるように飛び、壁に大穴を開けた。

「ちょっと、何興奮してんのよ、危ないでしょ?」

「余計な詮索は不要だって言ってるのよ」

またまた険悪になった空気を払うかのように、そこへ再び飛燕が荷物を持って帰って来た。

「これで良かったですか?」

「ご苦労様。オッケーよ、ちょっとあんたは向こう向いてて?」

え、なんですか?と言う顔の飛燕に結標は半裸状態のの清水遥香の方にアゴをしゃくった。

「あ? あぁ、はい! わかりました! じゃ、僕は御坂くんと畑仲さんを連れて、先に行ってきます!」

「彼はケガしてるのよね?」

「はい。おぶるのは無理なので、抱き抱えた形で飛びます。距離を縮めれば問題ないですから」

「あの子も行くって?」

やれやれ、と言う顔で結標が訊くと

「もうしがみついて離れません、って感じですよ。アテられちゃいますって。羨ましいですよほんと」

ちくしょうめ、と言う感じの飛燕に、

「飛燕? なんならそこの『おねーさん』に腕の1本でも折ってもらうよう頼んでみてもいいわよ?」

と笑いながら言うと麦野は「あほらし」と相手にしない。

「シャレになりませんよ、止めて下さい! それじゃ、お先に失礼します!」

と飛燕はかき消すように消えた。


「あのね、つまらない話に他人を巻き込まないで欲しいんだけど」

麦野は結標に仏頂面で言うと

「ごめんなさいね。で、ちょっと手伝ってくれるかしら」

そう言いながら結標淡希は救急セットから半透明なバッグを取り出す。

「これに彼女をを入れるの、手伝ってほしいんだけど」

バックを開き、つまみをクイとひねるとシュパーッと音を立てて膨らんだ。

「便利なものだな」

「ま、携帯寝袋がベースらしいけど……見たところ、ケガなさそうだから保存液はいらないわね」

「何それ?」

「手足が飛んだ時とか、大けがしてる時にはとりあえずこの中に入れて、その液体を入れておくと殺菌と組織の腐敗等を防ぐって代物みたい。

私はまだそういう場面に出くわしてないけど」

「あいつみたいに頭吹き飛ばされた時でも役に立つのかしらね」

「それは無理でしょ」

二人はそんなことを言い合いながら緊急輸送寝袋にまだ目を覚まさない清水遥香を収めた。

「これ、いいわね」

「でしょ? 外から見えないし、断熱保温機能もあるから」

上から寝袋に入った清水の顔を眺める二人。

「こうやってみると。結構かわいい顔してるわね」

「何を考えてこんな馬鹿なことやったのかしら」

「とても、非合法機関『フリーダムクロス』と繋がりがあるようには見えないんだけどねぇ」

「あーら、麦野さんからそんな言葉が聞けるとは思いませんでした」

「茶化すな。ま、これから調べりゃわかるでしょ」

「そうね。まかせておいて」

「あら、バカねぇ、私が連れて行くのに」

「あ~ら、おあいにく様。私の方がこう言う時は圧倒的に早いのよ? 貴女のように2本の足で走るよりずっと早いもの?」

「どうだか。川に落ちたり、壁に埋まったりしたらあんたはともかく、この子が可哀相でしょ? 

急がば廻れ、という諺、知ってるかにゃーん?」

お互いに挑発仕合い、この野郎、となったその瞬間、二人の視線が同時に入り口へと移動した。

(誰かいるわ)
(敵か?)
(私飛ぶから牽制を!)
(当たっても悪く思うなよ!)

瞬時に麦野の身体が青白く光り、電子線が部屋の入り口へ飛び、壁をぶち抜く。

そして次の瞬間、結標がテレポートして消えたかと思うと、直ぐに不審者を連れて姿を現した。

どうやら女性らしいが、その異様な姿を見て、麦野は眉をひそめた。

戦闘ロボットとは大立ち回りしたこともあり、レベル5の超能力者とも闘ったこともあるが、このような武装をした人間と相対したことはあまりないからだった。

「また随分と物騒な出で立ちだな」
「うん。昔、武装ナントカってフィギュアがあったけど、それに似てるわね?」

麦野と結標の二人が適当に思ったことを言い合うと、今まで黙っていたその女性が口を開いた。

「その子をどうしようというのですか?」


二人は顔を見合わせると、麦野がまず腕組みをしたまま答える。

「どうしようもこうしようも、私はジャッジメントメンバーなんだが?」

「私はアンチスキルだけど?」

結標もそう答える。

すると、くだんの武装した女性は

「おお、そうでしたか、わかりました。お二人に敵意はありません。大変失礼しました」

そう言うと、やおら暗視ゴーグルを外し、二人にその顔を向けた。

麦野、結標の二人はその顔を見て一瞬息を呑む。

「……超電磁砲<レールガン>?」
「上条……美琴?」

「いえ、私はお姉様<オリジナル>ではありません。御坂麻美と申します」

「……みさか? ははーん、そうか。なるほど、あんたが超電磁砲のクローン、そうね?」

「むぅ、その通りですが、そのことを知っている貴女はどちらさまでしょうか?」

自分を無遠慮にじろじろと眺めている麦野にむっとして麻美は若干の非難の眼差しと共に問いかけたのだが、麦野の方は全く気にも掛けずに

「麦野沈利、と言えばわかるかしら」

ふん、と言う感じで素っ気なく言い放った。

一方、結標は黙って麻美を見つめている。

「むぎの、しずりさん…レベル5、原子崩し<メルトダウナー>……元学園都市第三位、ジャッジメント特殊任務委員ですか」

一瞬のラグの後で、麻美がそう返してくる。

「そう。最後の肩書だけど、よく知ってるわね? 表には出していないんだけど」

「書庫(バンク)によればそうなっています……ああ、ランクSですね、そういえば」

「おいおい、ハッキングか? ち、そんなところまで超電磁砲の真似しなくてもいいのに。

で、あなた、何しに来たの、こんなとこに? そんな物騒なスタイルで」

「この部屋の様子と貴女の様子から見て、私よりも此処の方がよっぽど物騒だったのではないですか?

それはさておき、私は息子を捜しに来たのです。ここには拉致された私の子供がいるのです。お二人は御存知ではありませんか?」

(なん……だと?)

ぴくりと麦野の顔が一瞬動く。

(しまった、そうだ! 超電磁砲の子供は女の子だったじゃないか! あの女の子供のはずがないのに! ああ、勘違いした!)

「あなた、子供産んだの、クローンで?」

「はい。私は確かにクローンですが、幸いにして子供を授かりました。……で、もう一度お聞きしますが息子を御存知ではないのですか?」

だが、麦野は

「ふん、やれやれ……私もヤキがまわったもんだ。あん畜生に一泡吹かせられると思ったのに、あー損したわ」

と一人ブーたれる。

ひとしきり麦野のボヤキが収まったところで、初めて結標淡希が口を開いた。

「私は結標淡希。あなたと、あなたの息子、『御坂一麻』クンとは、私は初めてじゃないわよ?

御坂さん、貴女の息子さんが誘拐・拉致されるの、これが初めてじゃないでしょう?」


これには麻美のみならず、麦野も驚く。

「どうしてそのことを?」
「何だと、どういうことだ?」

二人を「まぁまぁ」と制して、結標は昔を思い出すように言う。

「やっぱりそうだったのね。あ~あ、私が歳食う訳よねぇ……あの時の赤ちゃんが一麻クンなんだもんねー。

なに、早とちりの馬鹿者がね、このひとのお姉さん、『上条美琴』さんの赤ちゃんと勘違いして誘拐したってことがあったのよ」

麻美は結標の顔をじっと凝視している。

麦野の顔はどうしたわけか蒼白になっている。

「でね、ちょうどその頃、私は教員免状取る取らない、って時でさ、あるクソッタレの甘言に乗っかって、子供の奪回に協力したってわけ」

結標がそこまで言った時、やおら麻美はグイと前に進み出ると、

「有り難うございました。その節は、息子と、私を助けて頂きまして、本当に有り難うございました。この御恩、このミサカ、一生忘れません。

本当に、本当に有り難うございました」

と、彼女の手をとり、押し抱くようにそっと握りしめるのだった。

……麻美がかがむと、背に装着されている超電磁投射砲の放熱板が結標の方に倒れかかってくるので、彼女は気が気ではなかったのだが。



麦野は、二人の感動の場面に背を向けてじっと佇んでいた。

結標の声が麦野に聞こえてくる。



――― 私はまだ子供産んだこと無いですけど、やっぱり母親なら、我が子が攫われたと聞いたら、そりゃ必死ですよね ―――



――― 自分の命に代えてでも我が子を守ろう、助けよう、それは母親ならごく自然なことなんでしょうね ―――



麦野の顔が天井を向いた。


麻美はひたすら頭を下げて、結標のその話を聞いていた。

「でも、実力行使に出るのは、いくらそういう武器があるからと言っても問題ですわね」

結標の声は変わらないが、俄然、その内容は現実に戻り、厳しい内容に変わった。

「それで、貴女の息子さんですが、一応今回の事件の関係者になります。

従って、意識が戻り、事件の調査にご協力頂いた後、問題がなければ無罪放免となりますが、そうでない場合は簡単にはすみません。

その点はあらかじめ御承知下さいね?」

「ちょっと待って下さい。息子が何か問題を起こしたのでしょうか? 

私は何もあの子から聞いておりませんし、先生からも何も問題行動について連絡は受けていません!」

愕然としながらも、麻美は強い調子で息子の無罪を結標に訴えかける。

「ええ。ですから、調査にご協力をお願いする必要があるのです。

息子さんは、我々の指揮下にある『ジャッジメント総合病院』へ入院措置を取りました。もう救急処置は取られているはずです。

緊急信も入ってきませんから、状態は良いのでしょう。調査が終われば面会可能ですから安心なさいな?」

諭すように、しかし有無を言わせない調子で結標は麻美にキッパリと断言した。

麻美はまた俯き、

「ジャッジメントの総合病院ですか……私の所だったら、私が面倒見れたのに」

と小さくつぶやく。

それが彼女に聞こえたのかはわからないが、

「いっけなーい、この子、病院連れて行かなきゃいけないんだったわっ!」

結標が叫ぶ。

麦野もハッと我に返ったように、

「そんなうっかりものには、恐ろしくてこの子は預けられないな、やっぱり私が」

とドヤ顔で威圧するが、

「はいはい、好きにののしってなさいな。私はこの子の方が大事だもの」

そういうと、結標はひょいとマグライトを振った。

瞬時に清水遥香の姿がかき消すように消える。

「あっ!」

「じゃぁね、原子崩し<メルトダウナー>。またいつかお会いしましょう」

「待ちやがれ、このコソ泥野郎! ひとの手柄横取りすんじゃねぇぞ!!」

だが、麦野の怒鳴り声もむなしく、してやったりと笑った結標淡希はすっとその場から姿を消したのだった。


唇を咬んだ麦野は頭の中で考えを巡らせる。

(ちくしょうめ……くそったれ、やはりウチにもテレポーターは必要ね。今度のレポートと月例会議で要員追加を上申しよう。

何なら陵と入れ替えてもかまわないし。あの子は先頭に出るより、後始末の方がむしろ向いてるわ)

さて、そういやうちの役立たずはどうしたのか、と陵真由美の方を見ると、御坂麻美が介抱しているのだった。

「ほっとけばいいのよ、そんな役立たずは」

苦虫をかみつぶしたような顔で麦野が吐き捨てるようにいうと、

「見たところ、まだ中学生ではありませんか、そんな言い方は可哀相ですよ?」

と、麻美は取りなすのだが、

「あんたのお姉様<オリジナル>とやらだって、私に闘いを挑んだ時はまだ中坊のガキだったわよ。

残念だけど、あんたのお姉様<オリジナル>の方が、この子より数倍は使えたね。

……これで本当にレベル5なんかね、随分安くなっちまったもんだ」

と麦野が嘆息する。

そんなことには頓着しない麻美は

「一応、簡単に計測してみましたが、特に健康状態には異常はありませんでした。一時的なショックによる気絶状態でしょう。

問題ありません」

と麦野に報告する。

それに対して麦野はほぅ? と言う顔で、彼女に訊く。

「あんた、看護士なのか?」

「ええ、第7学区の、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院で働いています」

ゲッと言う顔になる麦野。

だが、直ぐに真顔になると、

「ふぅん、それで、あいつ<結標淡希>に『ジャッジメント総合病院』って言われてむくれたのか」とちゃちゃを入れた後、

「あんた、息子は可愛いか? 息子を愛してるか?」

と突然聞いてきた。

「もちろんです。あの子は私の、たった一人の、私の血を分けた、大事な大事な子供です。あの子は絶対におかしな事などしません!」

そう静かに、しかしはっきりと麻美が言い切ると、微かに微笑を浮かべた麦野は

「可愛い息子を合法的に看病出来なくて残念だったわね。ま、それは仕方ないと諦めるのね。

それはともかく……あんた、自分の子を大事にしなさい。いつか、自分の手を離れて独り立ちするその日まで、しっかりと守るのよ」

そう言って、やおらまだ目を覚まさない真由美を抱き上げると、静かに廊下へと出て行った。



後には超電磁投射砲を纏った麻美がただ一人残った。

遠くには、続々とやってくるアンチスキルの装甲車のサイレンが聞こえていた。

>>1です。

本日の(日が変わってしまいました)投稿は以上です。
沢山書いたつもりでしたが、たった9コマでした。
まだストックはあるのですが、場面が変わるので投稿を控えました。まだ完成してませんし。

麦野沈利を出してからは非常にすいすいと話が出来上がりましたが、細かいところで修正を必要としましたので投稿に非常に時間がかかってしまいました。すみません。

あわきんですが、名前を「結標淡希」を「むすじめ」で登録した為に、何カ所かでフルネームになってしまっています。
修正漏れですのでお詫び致します。

間が空きすぎたことで、前の投稿と辻褄があわなくなったりして全面書き直しが必要になったりして余計な時間がかかりました。やはりコンスタントに書かなければいけませんね。

それでは本日は失礼させて頂きます。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

乙です

皆様こんばんは。
>>1です。

>>189さま
どうもありがとうございます。

それでは本日分、これより投稿致しますので、どうぞ宜しくお願い致します。


とんでもないことになった。

病院から出してくれないのだ。

冗談じゃねぇぞ。

俺は御坂一麻(みさか かずま)、健康な中学2年生だっつーの。

なんでこんな所にいなきゃいけないんだよ、しかも母さんの病院ならともかく。

何なんだ、このジャッジメント総合病院ってのは。

どこもおかしくないよ。

健康だよ!



……正確にいうと、正直、ちょっとひっかかるところはあるんだけどさ。

まず、左腕が骨折してるということで、添え木+手首にギプス付き。

幸いなことに単純骨折だったのと、利き手の右手じゃないだけましだったけど、結構不便なんだよね。

それから全身打撲だったんだけど、その後遺症らしくて、思わぬことでズキッとくる。

もちろん普通に歩けるし、緩い速度なら走ることも出来る……んだけど、予想しないところでズキッとなるのには参ったね。

軽い時もあれば、酷い時は息をするのも難しいくらいだ。

なので、リハビリもやってるんだ、うん。そんな大がかりなもんじゃないけどさ。

それと、これは関係あるのかわからないけど、微熱が下がらないってことかな。37度を中心にしてプラマイ2分ってあたりだ。

問題なのはこの3つだね。

でもさ、こんなことくらいで退院出来ないのって、おかしいだろー???

見舞いに来てくれた母さんに文句言って八つ当たりしちゃった。母さんの困った顔見て反省したな、あの時は。



それにだ、予想もしなかったことが一つ。

ご丁寧に毎日、1日遅れでレポートと宿題が送られて来るんだよ。

ぶっちゃけ、これで勉強しないですむか、と思ったらそうは問屋が卸さなかった。

この点に関してだけは、俺はもっと難しい病気で寝込みたかったね。

なんせ、「健康」なんだから、と言うことで量が半端じゃない。

早い話、学校に行っていない分、ざっと1週間分が纏めて送られてきた量を見て、最初、何が来たのかと思ったよ。

開けてぶったまげたね。

どうせヒマだから、と思って最初はそれなりにやってたんけれど、面倒くさくなって、一度サボったらあっという間に山積みになってしまって往生した。


そしたら、日曜日の朝に突然、長谷川優子が轟友里恵と高橋留美を引き連れて、提出が遅れている宿題の処理手伝いと称して乗り込んできた。

最初はあいつらも大人しく、「勉強会」をしていた。

大人ぶって俺にあーだこーだと先生の講義宜しく講釈をたれ(なんせ自分らもやったばかりだから良く覚えている)、なんとかそれなりにレポートは消化した。

もちろん自分たちの宿題もやっていたけど、ま、それはいいんだよ。そこまではね。

しかし、先が見えたとなると、今度はあの野郎どもはひとの病室をあっちこっち引っかき回し始めやがった。

終いには「あたし、御坂くんの下着、お洗濯してあげるー♪」と高橋が脳天気に叫んだのがきっかけで、長谷川と轟との三つどもえになって、最初はじゃれ合いだったのが途中から真剣な騒ぎになってしまい、看護士さんが飛んでくる騒ぎになった。

なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ? 

あのですね、俺は被害者なんだよ!

だいたい、どこに同級生の女の子にパンツ洗ってもらう男子がいるってか? 

ありえねーだろ?

ありえねーよ!! 

そんなこっ恥ずかしいことされたら、俺、二度と学校行けねーよ!

ちなみに、看護士さんが飛んで来たのは異常事態に備える為に監視カメラがあり、バッチリ大騒ぎが見られていた事による。

それで、看護士さんの説教が終わってナースセンターに戻って行くと、あの長谷川がこう言ったもんだ。

「いやー、カメラがあるって教えてもらってよかったー。カズにチューしてるところなんか見られたらやだもんねー」

な……んだ、と?

俺は耳を疑ったね。どこをどうすれば、あの長谷川からそんな言葉が出るんだろうって。

まだ轟が言う方が信用出来るよ、マジで(ものすごい顔で長谷川を睨んでいて、俺、正直ちょっと怖かったね)。

高橋は目を丸くしてえええええええー? って顔で硬直してるし。

そのくせ言った後であいつ、赤くなってたけどさ。恥ずかしいと思うんなら最初から言うんじゃねーよ、バーカ。

「あのさ、残りやっちゃおうよ? あたし、全部終わってないし」

高橋、お前はエライ。

でもな、さっきの大騒ぎの発端は、お前のあの爆弾発言だからな? 何かあったらお前、責任取れよな? 



……とりあえず、俺の3日分と、各人の宿題を夕方までに仕上げることが出来て、全員ほっと一息。

そんな所に母さんが見舞いにやってきてまたまた病室は大騒ぎ。

アレッ? と思ったのは、轟と母さんの間がちょっと変だったことだ。どこかで会ったことがあるらしい。

当然ながら彼女は長谷川と高橋に糾弾されていたが、彼女は赤い顔で黙っていたし、母さんも適当にはぐらかしていた。

後で母さんに訊いてみたんだが、大したことじゃなかった。絶対あれはウソだな。何があったんだろう?



母さんも帰って消灯の夜10時過ぎ。

……俺は、この日、2つのことに感謝した。

一つは、

――― 完全下校時刻 ――― があって助かったことだ。

そうでなければ、こいつらは夜まで騒いでいたに違いない。

そして、

第七学区から遠い、この第八学区にあるジャッジメント総合病院でよかったと思う。

なまじ母さんの病院に入っていたら、こいつら、毎日来ていたに違いないからだ。


姦しむすめ三人組のことを話さなければならないよね。

まず、事の起こりはやはり清水遥香(きよみず はるか)だった。

一言で言えば、三文芝居にありそうな筋書の話なんだけれど、彼女は一生懸命考えて実行に移したというわけ。

ヒロインはもちろん彼女自身であり、ナイト(騎士)が俺だ。

芝居ッ気のあるスキルアウトに話を付け、俺と彼女が一緒にいるところを襲い、俺らをとある場所に監禁させる。

で、そこで、お姫様に襲いかかる悪漢どもを正義感溢れる俺が追い払い、感動した彼女が目出度く俺にくっつき、二人は晴れて恋人に、という話だ。

な? どっかで聞いたことのある筋書すぎるだろ? でも彼女はものすごく真剣だったんだよ。

で、うまくすればそこで俺の能力は彼女の<AIMアンプ>で増強され、レベルアップするんじゃないか、新たな実績も生まれるんじゃないか、という読みもあったらしい。

道理であいつの様子がところどころおかしかったりするわけだよ。

そもそも監禁されてるはずの部屋から簡単に出れたしさ。

ところが実際はというと、途中で筋書は大きく変わっちゃったんだな、これが。

最初に頼んだスキルアウトはまぁ真面目? なひとだったらしい。

ところが出演者をつのった段階で、ヤバイ連中が入っちゃったらしい。

加えて、蛇の道は蛇、ということで、依頼者が清水遥香ということから、彼女の能力、<AIMアンプ>に注目した連中がこれ幸いと話に乗り、彼女を研究対象として独占するチャンスを考えたらしい。

清水自身、自分の存在価値というものがどういうものか全然わかってなかった、ってことなんだよね。

かくして、彼女は飛んで日にいる夏の虫、まんまと彼らの手に落ちた、というわけ。

ちなみにその場にいた俺は只のおまけ。当初は騎士(ナイト)役だったのに、ひでー話だよね?

でも、すごいのは、そういう企みがある、ということはとっくにアンチスキルにバレてて、その人たちが素早く動いてくれたので彼女と俺は無事救出されたんだそうだ。

ま、俺の全く知らない世界の話なんだけどさ。

俺は被害者である、ということは最初の調査でわかってくれてたらしくて、調査はたった1回で終わった。

その調査ってのがまた問題なんだけどね、後で話すよ。



それで清水の方はというと、そもそもの発案者だということで100%は信用されていないらしくて、現在は保護観察中、らしい。

彼女はスキルアウトによるケガの治療で2日間やっぱりここで治療を受けて、退院後は違う場所で療養生活をしているそうだけど、実際には謹慎処置なのだそうだ。

学校には病欠で届けが出てると。



……と、俺の調査終了後、二番目にお見舞いに来てくれた畑仲茜(はたなか あかね)と陵真由美(みささぎ まゆみ)が教えてくれた話はこれでおしまい。

なんか、策を弄したわりには間抜けな結末になっちゃったよな、と思う。

俺を好きになってくれたのはやっぱり嬉しいし、俺もあいつのこと意識するようになってたのに、馬鹿だよなぁ……



ちなみに、俺が吹っ飛ばされて気絶していた(全身打撲と左腕の骨折で済んだのは不幸中の幸いだと言われた)隣の部屋では、犯人の一人が死んでいたそうだ。

畑仲は廊下で吐いたって言うし、陵は気絶したとか言うから、なんでそんな場所に行ったんだ? と聞くと、二人ともジャッジメントなんだそうだ。

あまりに予想外だったので、『へー』と気の抜けた返事したら二人揃って怒りやがったけどね。

お前らがジャッジメントだなんて、全然似つかわしくないんだもん。

……ま、道理で清水のことに詳しいわけだ。普通そんなこと知るわけないもんな。


そこから今度はジャッジメントの話になった。

陵は結構不満あるらしい。

彼女の能力、物質創造<マテリアルクリエーター>はかなり便利なもので、レベル5というのもわかるよね。

そのせいもあって、彼女は普通とは違う部署(はっきりとは教えてくれなかった)に配属されたんだそうだ。

手当も高いし、自分の能力が認められてのことなので、最初はすごく嬉しかったんだそうだ。

ところが、親分がちょっと……らしい。

女性なんだけど、やたら自分をこき使うし、口が悪いし、すぐキレるし、最悪ですわとぼやいていた。

ま、俺としてはなんとも慰めようがないので大変だな、としか言えなかったけど、「世の中って理不尽なことばかりですわ」とため息ついてしみじみと語っていたなぁ。

畑仲の方はごく普通の部署だそうだ。

今回はアンチスキルのあるところから応援要請があって、もう一人のメンバーと臨時で出たらしい。

陵は盛んに「もう辞めたい。ハタちゃんの方に行きたい」と言っていたっけ。



そうそう、畑仲に

「お前、彼氏出来たのってホント?」

と聞いてみたら、ジャッジメントの任務で組む相手が大抵の場合男子なので、そう見られて困る、と赤くなって真剣に否定するんだよ。

「なんだよ、違うのかぁ」

と言ったら、陵が

「目の前にいるひとが大好きだもん、ねー?」

とあいつの肩をぱんぱんと叩きながら爆弾発言したもんだから、「ばかっ! 知らないっ!」と叫んで帰っちまった。

陵もあわてて、挨拶もそこそこに後を追いかけていったけどね。

ちと待て、以前、畑仲にはその話絶対するな、って言ってたの、陵じゃなかったっけ?

何やってんだよ、あ~あ。

これ、俺のせいじゃねーからな。



……やっぱり畑仲、俺のこと好きなのか。

うーん、俺、どうしてこんなにもてるんだ? 変だよ。 

嬉しいことだけど困っちゃうよな。これから意識しちゃうじゃん……



結局のところ、清水と畑仲の問題から起きた話だったわけなんだな、俺、どうすりゃいいんだよ?

あいつらは女の子だけど、みんな良いヤツだし、話してても面白いし、こんな俺なんかの面倒見てくれるし。

普通の友達って訳にはいかないんだろうか。

ダメかなぁ……女の子だもんな……。

清水、ちゃんと学校に戻れるんだろうか、ほんと、それだけが心配だ。



それからあいつら、一度も来てないんだ。毎日来られたら困るけど、全然来てくれないってのも正直、寂しいよね。

>>1です。

すみませんが本日の投稿は以上、4コマです。
投稿に備えて読み返していたところ、自分の設定と異なる内容の話になってまして、書き直さなければならなくなりました。
話の順番を入れ替えるだけですが、例によって話が膨らんでしまい冗長になってしまいましたので見直します。
すみませんが御了承下さいませ。

それではお先に失礼致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

乙です

年明けて久し振りに来たら進んでた。
いい。やっぱり面白い。
今年も無理しない範囲で頑張って下さい。

皆様こんばんは。
>>1です。

>>196さま
いつもご声援有り難うございます。

>>197さま
カキコ有り難うございます。頑張ります。

ふと、気が付きましたら、この第3部のスレを立ち上げたのは一昨年の12月でした。丸1年たってまだ終わってません。
いくらなんでもちょっと……ですよねー。
で、この「新・学園都市第二世代物語を立ち上げたのは3年前の7月。途中で転勤を挟んだとはいえ…情けないです。
そんな大作でもないのに。

というわけで、これより本日の投稿を始めますのでどうぞ宜しくお願い致します。


男子の話がない?

野郎ばっかりの見舞いの話っていってもなぁ……ま、いいか。

クラスメートの連中はほぼ全員が来てくれた。ま、一度は行かなきゃ、というような義務感みたいなものだろうけれど、それでも嬉しいもんだ。

中でも速水和夫(はやみ かずお)と山口隆(やまぐち たかし)は何回か来てくれている。

もちろん差し入れを持って、だ。

第七学区では売っていない18歳以下禁止のえっちな本とかお宝画像入りのメモリーとか(笑



「まー、健康な男子には辛いわなー」と速水はニヤニヤしながら言う。

「おまえ、看護婦さんとかから誘惑されたりしないの?」 山口がホレホレ、という感じで訊いてくる。

あほかお前ら。そんなエロゲみたいな展開ないっての!

「ほら、身体拭いてもらう時なんかに立っちゃって、『まぁ元気ねぇ』とかでさ、『おねぇさんがシてあげるね』とか、そういう雰囲気ねーの?」

ねーよ。

そんな羨ましいことなんか一度も……ねーよ。(アレはちょっと違うし)

ああ、お前の言う通り、期待してた俺がバカでしたよ! 

「女の子なんかが、結構来てんだろ? いいなぁ、オレも入院して花もらってみたいぜぇ」

「ヤマ、今すぐにでも替わってやるよ。喜んで替わるって。俺はもう飽きてるんだ、こんな生活」

「確かになぁ、どこにも行けないもんな。リハビリ、まだ続けてるのか?」

「他にやること無いからな。だいぶ良くなったのはわかるよ。たま…にズキっと来るくらいでもう殆ど直ったね」

「そっか。あ、明日あたり、ハセがまた来るらしいぞ、多分。お前、また宿題溜めてねーか?」

「えー、マジかよ……すまん、じゃさっきのこれ、悪いけど一旦返すわ。この前な、あいつらここ家捜ししやがったんだよ、ヤバイんだよこれ」

「ホントかよ。じゃぁお前がわからないとこに隠しておいてやるわ。

ハセが見つけたら大騒ぎだぜぇ? 『やぁだー、御坂クンたらこんなエッチな本隠してたー』とか、アハハ」

「おう、それいいな。俺も明日、少し遅れて『カズ、これ頼まれたヤツな』ってエロ本をガバッとあいつらの目の前で」

二人が腹を抱えて笑う。

「……お前らなぁ、俺をおちょくって楽しいのかよ?」 

ちょっとムカッと来たのは事実だ。

「当然じゃん、普段からお前モテすぎてるんだから、たまには白い眼で見られてみろ。俺らの気持ちがわかるってさ、アハハハ」

山口は速攻で俺に言い返し、空気がおかしくなりかけたところに速水が話題を少し変えるように話を振った。

「いや、それでさ、ハセとか轟なんかがお前が好きなのは前からはっきりしてたんだけど、結構他にもいたのな。

浦崎とかさ、綿貫とか、あ、そうそう、厨川ももそうなのな、びっくりしちゃったよ」

「でもさ、最近は特にハセがお熱なんだよ、速水もそう思うだろ?」

「うん。でもまぁハセの場合はさ、親衛隊なんか作るくらいだから最初から隠してなかったけどな。

カズさぁ、あいつ、お前の幼なじみなんだろ? お前にくっついてきたんだから、お前が面倒見なきゃダメだろ?」

速水が真面目な顔でそう言うのに、俺はちょっと面食らった。


「あのな……長谷川は確かに俺の幼なじみだけど、俺はあいつに『一緒に行こう』なんて言ったことないし、そもそもあいつがここに来たことすら最初は知らなかったんだぞ?」

「わかったわかった。しかしハセも可哀相だな、あんなに真剣なのに、肝心のカズがこれだもんなぁ」

少しムキになって言い返した俺の剣幕に、速水はハイハイという感じで受け流しにかかった。

「そうだぞ、ホントは一人で来たいのに、ちゃんと仲間連れてくるんだからさ……多分浦崎と厨川らしいな、明日のメンバー」

「ヤマ、なにげにお前、親衛隊に詳しいな? なんでだ?」

「……だって俺の隣」

「ああー! そうだ、ハセだもんな。そりゃそうだな」 

「アホらしくてやってらんねーよ。『御坂クンがどーしたの、こーしたの』ってずっとだぜ? 

あいつらのアタマにゃカズしか他の人間はいねーのか、ってくらいずーっとお前の話ばっかだぞ?

女って、よく飽きもせずあんな話延々とできるもんだって正直尊敬するわ、マジ」

「そう言う話を聞いてるお前も同類じゃね?」

「聞いてねぇよ、聞こえんだよ。そりゃ最初は面白かったけどな、女のうわさ話ってのも……もう飽きたよ。

それに一度『その話前に聞いたぞ』って言ったらさ、『やだー盗み聞きしてるこのひと~!』って言われて睨まれてさ。

あれだけでかい声で喋ってて周りに聞こえないわけねーだろが、わけわかんねぇ」

「そういやお前、最近休み時間、席にいないよな」

「いや、早弁する時はいるよ。さすがにひとのところでメシは食えねぇ」

……速水と山口の話を聞きながら、俺は長谷川の顔を思い出していた。

長谷川優子。俺を追いかけて、東京から学園都市にやってきた女の子。

俺のどこが良いんだろう? こんな俺のどこがあいつは気に入ったんだろう……わからねぇ。  

二人の話が途切れ、静かになる。

カバンからペットボトルを出した二人がスポーツドリンクをごくごくと飲むのを俺は上の空で見ていた、らしい。



そんな俺に向かって、速水が再び訊いてきた。

「そうそう、ところでさ、お前の嫁さんはちゃんと来てるか?」

「毎日じゃないけど、来てる」

「「 おおおおおおおおお」」 

「なんだよその雄叫び」

「いや、俺は『お前の嫁さん』としか言ってないのに、お前はそれが誰を指すのかちゃんと理解して返事したじゃん?

つまり、お前はあの子を『自分の嫁』としてきっちり認識してるってことさ」

「さすが『夫婦』だねー、いや~熱いねぇ、ホント暑いなぁ」

「てめぇ……」

俺は失敗を悟った、と同時に確かにその通りだな、とも思った。

即答だったし。

俺自身、ミサちゃんのことだと無意識のうちに解釈していた。

こいつらに言われる通り、俺はミサちゃんを、彼女が言う「嫁」すなわち「彼女」として認識していたのだった。


山口がおどけて言う。

「いやいや、ミサちゃんの努力はようやくカズを射止めることに成功したってことか……俺、泣いちゃうね。あの子、このこと教えたらすんげぇ喜ぶだろうなぁ」

「止めろ、それだけは止めてくれ」

「でも、さすが『カズ兄ちゃんの嫁』だよなぁ。ここまでちゃんと来てるんだもんな」

「カズさ、このところものの見事に彼女、教室に来ないんだよね。正直、『カズにいちゃ~ん』が聞けないってのはちょっと寂しくてさ」

「ハヤ、お前、あれを楽しみにしてんのかよ」

「冗談だよ……あのさ、カズさぁ、お前こそ、彼女どう見てるんだよ? あの子十分可愛いじゃん? お前に一途だから誰も(そう言う目で)見てないけどさ?」

これには俺もぐっと詰まった。

どう思ってるのかって、どうって……

何故か、答えが素直に口をついて出た。

「……そりゃ……好きだよ」

「おおー!!」
「やっと白状したか!」

あいつらも驚いたが、俺も正直びっくりしていた。

なんでこいつらの前でこんな大事なことを言ってしまったのだろうか、って。

こんなことをこんな時に言ってしまって良いのか、ってね。

でも、なんかすっきりしたのも事実だ。

俺は、ミサちゃんを好きなんだって。

自分で言ってみて、改めてはっきりと認識したんだよ。

「いやいや、これで目出度く両想いだねぇ」

「めでたく『夫婦』だなぁ。いやー良かったよかった」

二人がそう言うのを聞いて、ちょっと俺は不安になった。

ちょっと違うんじゃないかって。

「でもなぁ、なんか違うんだよ、そう言うことじゃなくて……」

「おいおい、今さら何言ってんだよ?」

「いや、ミサちゃんは可愛いよ? 顔も、性格も。それに、お互いよく知ってるしな」

「なら問題ないじゃん?」

「違うんだよ。好きだけど、なんて言うのかな、汚しちゃいけない、っていうか、大切に守っていかなきゃ、っていうのか……うまく言えないな」

山口は「?」って顔をするが、速水はなんとなくわかるな、とつぶやいた。

しばらく沈黙の時が流れたんだが、ふいに山口がとんでもないことを言い出した。もう雰囲気ぶち壊しのトンデモ話だった。

「でもなぁ、あの子を抱っこしてるお前想像すると、なかなか絵になると思うんだよなぁ。

今度やってみろよ、『カズ兄ちゃん、やだぁ恥ずかしい』とか言ってさ、真っ赤になって、でも喜ぶぞ?」、

「うわぁ……」 

「……お前の想像力にはホント尊敬するわ。あのな、ここには監視カメラってもんがあるの。そんなこと出来ないの!」

「じゃ、なかったらする、のか?」

「するわけねーだろ、俺とミサちゃんとは清い交際なの!」

「へいへい、ごちそーさまでした……さーてと、そろそろ帰ろーぜ、ハヤ」

「そうすっか。あんまりお邪魔するのもマズイか……んじゃ、カズ、ミサちゃん来たら仲良くなー♪」

「うるせー、ほっとけ!」

……あーあ。とんでもないこと言っちゃったなー……あ、あいつら、エロ本持って帰るの忘れやがった!! どーすんだよこれ!


次は、俺が「調査」なるものを受けた時のことを話すね。

――― どこだ、ここ? ―――

起きると、全然見たことのない天井が見えた。

夢を見ていた記憶は全くなかったから夢の続きとも思わなかったし、あの時はちょっと怖かったよね。

とにかく起き上がろうとしたんだけれど、全く身体に力が入らない。

少しだけ頑張ったけれど、金縛りにでもあったかのように反応がなかった。ホント、ぞっとした。

正直、夢の中なのか、とも思ったよ。

それで手を上げようとしたけれど、全くもって無理。

それでもね、なんとか右手の指を動かせた感覚はあったんで、よかったぁ、と思った。いや嬉しかったね。

でも左手は全く駄目だった。なんかしびれてる感じでね。

仕方ないので右手だけごにょごにょしてたら、手首も少しひねる事が出来るようになったんだけれど、それ以上出来なくて疲れちゃった。

首も回せないので。周りの全貌がさっぱりわからない。

眼だけは動かせたから、目の届く範囲だけでしかないけれど、ここはどうやら病室らしい、って事はわかった。

他に人はいない。個室みたいだ。

両側に何やら機械らしきものがあって、チューブやコードらしきものが俺の方へ伸びているのはわかったけれど、どこに繋がっているのかは見えない。

(俺、どうしちゃったんだろう?)

なんだか頭がぼーっとしていて、物事をまともに考えられない状態だった。

ひどく時間が経ったような気がしたんだけれど、俺が意識を取り戻したことはセンサーでナースセンターはわかったそうだ。

だから俺が思ってたよりはずっと短い時間だったらしいんだけどね。

扉が開く音がして、

「おはようございます」

という声が聞こえ、ひとが近づいてくる気配があって直ぐ、俺の視界にそのひとが入った。

「みさか かずま、くんですね?」

母さんの病院の制服とは違う、でも綺麗な看護士のお姉さんだった。

はい、と言おうとしたが、声が出ない。

(ええっ、うそっ!?)

コレには俺も焦った。

俺の動揺がわかったのだろう、看護士さんは優しく

「ああ、御坂くん、ごめんなさいね? 安心して、貴方の身体はね、今、全面的に治癒、自分の身体を治す事ね、そっちの方向に動いてるの。

だから、今は絶対安静の状態になってるので、声も出ないし、多分どこも動かせないんじゃないかと思うの。私の言ってることの意味、わかりますか?」

俺はわかります、という意味で右手でOKのサインを出してみた。

「えっ?! スゴイ! 手、動かせるの? でも他は無理でしょ?」

はい、と言う意味でOKサインを戻すと、

「有り難う。わかったからもう無理しないでね? 本当は全く動けないはずなんだから」

そう言いながら俺のふとんをめくり、テキパキと俺の身体から何かのコードを外していくのが見え、プチプチというその感覚が伝わってくる。

「まだしゃべれないと思うけれど、それも今だけだから安心して下さいね? 今日の夕方くらいには声は出せると思います。

ちゃんと舌が回らないはずなので、ちょっと恥ずかしいかも知れないけれど。明日には普通に戻ってるはずですよ?」

ふわぁ、助かったぁ。このまましゃべれなくなったらどうしようかと思ったよ……

「驚かせちゃってごめんなさいね、でも治療上必要だったの。大丈夫よ」

思わず涙がにじんだ俺の顔を、看護士さんは優しく拭いてくれた。恥ずかしかったけど、すっごく安心したんだよね、俺はその時。


「貴方へは今、栄養を点滴で供給してます。右腕についてるのがそうですから、気を付けて下さいね?」

なるほど、これがそうか。

「左腕は骨折してますから、今はギプスしてます。単純骨折だったので修復剤を使いました。

直ぐに直りますけれど、その代わり左手を含めて2日間は全く動かせませんから注意して下さいね」

え、そうなの? 道理で左手の感覚がないわけだ……骨、折っちゃったんだ……。 

「まだ身体は動かないはずですが、今日寝て、明日にはもう大丈夫、普通に動かせるはずですよ?

でもね、貴方はまるまる4日間寝たきりでしたから、身体が怠けてしまってますから、直ぐには思うようには動けないかもしれません。

それに全身打撲だったので、状態にもよりますが、4日はリハビリが必要でしょうね」

ええー、4日も寝っぱなしだったの? マジかよ……よくまぁそんなに寝れたなぁ……。

俺がこのジャッジメント総合病院へ担ぎ込まれて今日は5日目、ってことか……。

じゃ10日間くらいここにいなきゃいけないのか? うわぁ……学校休んじゃったよ……どうしよう?

「あと、少しだけお熱があるかな? まぁお薬も効いてますからそのうち下がるでしょう。

それで、何か用事がある時は、遠慮無く呼んで下さいね。えーと、これを付けて、ここを」

看護士さんが俺の頭の下に手を差し入れて、頭を持ち上げ、リモコン? で、ベッドが動いて背もたれのようになった。

今思うとさ、その時、俺の頭、なんか柔らかい部分に当てられてたんだよね……あれ、絶対、おっぱいだったはずなんだよ。

アニメでさ、よくある「あ、当たってる」ってあれの事だったんだって。

でもさ、その時はさ、全然わからなかったんだよ! 後になって気が付いたんだよ!

ホントだよ、あーなんて、もったいないコトしちゃったんだろうって、すんげー落ち込んだんだよ!

そのときはさ、お姉さんの熱がほんのりと暖かくてさ、そっちでドキドキしちゃってたんだよ!

……たぶん、そんなことに頓着してなかったと思うんだけど、看護士のお姉さんは片目のグラスを俺の頭に装着してくれた。

「そこに、ナースコール、って書いてあるの見えますよね?」

えっと…ああ、ある、な。これだろうな。

「そこを睨んで見て?」

えーと、これでいいのかな?

すると、ちょっとの間をおいて、看護士さんの両袖と胸元が点滅し始めた。

「ナースセンターから私に連絡、ってこと。ちょっと待ってて?」

ニコッと笑ったお姉さんは僕の頭の上にあるらしい受話器を取って

「はい、はざまやです…はい、その部屋です。今、テストしました……クランケ、エヌ、ピィです…はい、それでは」

と話をしている。

あのさ、その時なんだけど、俺の直ぐ眼の前にはさ、はざまやさん? の胸があったんだよ。呼吸で上下に動いてるんだよ、うん。

思わず……って、そっちは大丈夫なのかって……信じられねぇけど、ちょっと安心したけどさ(何をだ?)。

「何かあったら、遠慮無く呼んで下さいね? あ、私はちなみに」

そう言うとネームプレートを外して俺の前に持ってくる。

「硲舎佳茄(はざまや かな)、です。ふふ、ちょっと読めないでしょ、この名前?」

うん。確かに言われなけりゃ読めないっす。

「それじゃお大事に」

そう言って彼女は部屋を出て行った。

綺麗なお姉さんで良かったー。ラッキー!

……これは、ヤマが言った「エロい話」には入らないからね! だからノーカンだからね!



その後、背もたれに寄りかかる形で少しうとうとしていたところに、そのひとは突然やってきた。



「みさか、かずまクンだよねぇー? それじゃぁ、ちょぉっとだけおねーさん、キミのこと調べさせてもらうからねっ?

ウソつこうと思ってもぜーんぶわかっちゃうからぁ、無駄な努力しても無意味なんだゾー☆?」って。

その言葉の意味を考える間もなく、何をどう調べるのかもさっぱりわからないうちに、おねーさんの「調査」は終わったらしい。

「らしい」というのは、ほんと、一瞬何かが頭の中を通り過ぎた様な気がした直ぐ後に、

「ウン、ごうかーく! キミの正直力は満点だったゾー☆」

と、やっぱり意味不明の言葉で調査終了宣言みたいなことを言われたからだった。

更にさらに、

「硲舎ちゃんが気になるみたいねぇー、まぁ女子力あるしぃ、カワイイからわかるわぁ☆」

でも、そのひとは急にちょっと怖い声になって、

「あんまりあっちこっちの女の子に気を持たせるようなことしちゃ、いけないんだゾー?」

そして何が何やらさっぱりわからないってのに、その『おねーさん』は

「ミサちゃんが好きならキミがちゃんと言ったげなきゃダメよぉ、男の子なんでしょぉ?

女の子はね、好きなひとから告白されるって、そういうシーンにすごぉく憧れてるものなんだからねー☆」って。

正直、ぶったまげた。

ど、どうして彼女の事を知ったんだろう?

なんで、「ミサちゃん」って呼び名を知ってるんだ? 「佐藤操」ならまだわかるけど…… 

まさか……このひと、俺の心を読める……の? そんなのって……

ぞっとしたね。

「まぁ、そこらはお父さんの血のなせるワザかも知れないケド」

って言うんだよ。父さんを知ってるのかな、このひと。

俺の不審そうな顔を読んだらしい。

「そぉよー、おねーさん、キミのお父さんを実はとぉっても良く知ってるしぃー、昔から。

もっちろん、キミのお母さんも、お母さんの御姉妹も知ってるんだゾー☆」と言った。

え?

母さんと、美琴おばちゃんと、どういう関係なんだろう、このひとは。

「まぁ、私のことなんかどうでもいいのよぉ、キミはともあれ無関係ってことでこれで調査は終了よん☆

あはは、ちょぉっと驚かせちゃったみたいねぇ? あのねぇ、おねーさん、とぉっても口が堅いって信用力高いしぃー、大丈夫よぉ? 

じゃぁ、ちゃんと男子力ばっちりつけて頑張るのよぉ☆」

何がなんだかわからない、調査って何を調査されたのかもわからない。



……おかしなことに、そのひとの顔も姿も思い出せないんだよ。

むちゃくちゃしゃべり方に特徴があるひとだったんで、会えばわかるはずなんだけど、それっきりだし。

言われたことは何故かよく覚えてるんだけどね。

夢じゃない、とは思うんだけど……。



そして、母さんと、その、佐藤操(さとう みさお)ことミサちゃんのこと。

俺はざっと丸4日ちょっと意識不明で寝ていたわけだけど、後で硲舎さんや伊織さん(いおりさん:もう一人の看護士さんだ)の話、母さんから聞いた話をまとめると、全身打撲の後遺症を軽くする為に俺は意図的に眠らされ、その間にいろいろと負荷を軽減する治療が行われていたそうだ。

母さんは初日にここの先生から俺に対する処置を聞いていて、俺が目覚める日をちゃんと把握していたらしい。

そしてミサちゃんはというと、俺がここに担ぎ込まれた次の日、つまり俺が学校を2日連続で休んだ事で心配になって俺の家に来て、初めて俺がこの病院に入院していることを知ったわけだ。

当初、俺はあの事件の関係者の疑いがあったので、ジャッジメント総合病院に担ぎ込まれたことは内緒になっていたのだそうだ。

ま、普通なら入院するにしても第七学区の病院だもんね。

ミサちゃんは、次の日学校を早退してこの病院まで来てくれたそうなんだが、残念ながら俺はまだ目覚めてなくて面会謝絶状態だったので帰るしかなかったんだって。

でも、確かに俺がそこにいることがわかって安心した、とも言ってくれた。

ホント、ごめんな。



確か、最初に聞こえたのはミサちゃんの「あ、寝てる」という声だったと思うんだ。

例の「調査」の後、なんだかくたびれちゃって、4日間も寝てたというのに俺、また寝ちゃったんだよね。

あ、ベッドは伊織かをるさんに来てもらって、フラットにしてもらってた。

で、その声でパッと目を開けると、驚いた母さんの顔があって、直ぐ傍にブワッと涙がこぼれ落ちたミサちゃんのべそかいた顔だったんだよ。

(ええっ!?)

いや、正直驚いたよね。ミサちゃん泣いてるんだもん。いったい何が起きたのかと思ったよ。

でも、母さんとミサちゃんがいることには不思議とその時は「おかしい」と思わなかったんだよね。

泣いてたのには驚いたんだけどさ。

今思うとさ、母さんとミサちゃんがいるってのは、ホントならありえないはずなんだよ。

なのに、ミサちゃんの顔を見て「ああ、ミサちゃんいたのか」って、安心したってことは、さ……。

いるのが当然、ってことなんだよな。

――― 俺はやっぱり、ミサちゃんが一番好きなんだ ―――



で、話を戻すとさ、

ミサちゃんが泣きじゃくりながら

「カズ兄ちゃん心配したんだから、もう起きなかったらどうしようって、もう、馬鹿ぁ!」

てなことを言ってたり、

「一麻、母は本当に心配しました。でも、本当によかった」

って、ミサちゃんいるのに母さんにぎゅっと抱きしめられたり(今思うと恥ずかしいんだけど、あの時は気持ちよかったんだよ、うん)

動けないし、声も出ないのが辛かったね。声掛けたかったし、話したかったのにさ。

翌日来てくれれば、ちゃんと話せたし、少しは動けたので、その、ミサちゃんを抱きしめることも、ね。

あー、チャンスだったんだけどなぁ、残念だったよ。



ひとつ言うと、ミサちゃんはそれから母さんと一緒にやってくるようになった。

確かに、母さんと一緒であれば、完全下校時刻を過ぎてもミサちゃんは問題なく寮に帰れる訳だけど、母さん、ミサちゃんを認めたって事でいいんだろうか?



最後は、父さんと、美琴おばちゃんかな。

>>1です。
本日分の投稿は以上です。

さて、この後ですが、場合によっては物語のネタバレをしてしまう可能性がありますもので、そこをカットするか、はたまた最後まで繋げてしまうか、今ちょっと考えております。
また、内容も日常のほのぼのではない部分が出てきますので、調べものをしなければなりません。

といいつつ、全然進まなくて見切り発車してきた前科がありますので、どうなるかさっぱりわからないんですけれど。
一番いいのは一気に書けてしまうことなんですが、ちょっとそれも出来なさそうですし。

とにかく頑張ります。

本日はこれにてお先致します。
最後までお読み下さいまして本当にどうも有り難うございました。

>管理人さま
復活おめでとう御座います&修復作業お疲れ様でした。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。

皆様こんばんは。
>>1です。

これより投稿を始めます。
およそ40コマ。最後まで一気に参ります。
途中で改修の為遅れるかも知れませんが宜しくお願いします。


(あの子に会わせるったって、そりゃ無理よ、まだ……)

美琴は戸惑っていた。

「ふーん、いつか会ってみたいな」

一麻の声が甦る。

(そっくりだもん、会ったらびっくりするだろうな)

母こそ違え、兄と妹。会わせても良いかな、と思う気持ちも少しはある。

「麻琴、あんたにはね、腹違いのお兄ちゃんがいるのよ?」

そう言ったら、あの子はどんな顔をするだろう?

――― お兄ちゃんがいるの? ―――

目を輝かせて言うだろうか?

――― やっぱり、私、妹なの? ―――

そう言うかも知れない。いや、そんなことよりも。

(ダメだ)

――― 腹違いって、どういう意味なの? お父さんが、他の女の人と? ―――

(と麻琴に聞かれたらどう答えるのよ?)

いつもここで止まってしまう、お決まりのパターン。

(言えない。絶対言えない)

腹違いの「兄」がいるなんてことは。

自分の父親と、一麻くんの父親が同じだなんてことは。

あの子が聞いたらショックを受けるのは火を見るより明らかだ。

それは、避けたい。だから……会わせられない。

「兄」だと明かさずに会わせる方法もある。

彼は自分の立ち位置を良くわかっている。あらかじめ言い含めておくことも出来るかも知れない。

とはいえ、自分の父親のことを「妹」には隠しておいてちょうだいね、というのは気がひける。

彼の心を傷つけるだろう、それは。

二人の子供たちに責任がある話ではないだけに、この質問の答えはどう取り繕っても誰にも良い結果を生まないのだ。

(麻美の事だって、まだ何も教えていない)

あの子は少なくとも麻美(元検体番号10032号)と琴江(元検体番号13577号)には会っているそうだから、私たちは少なくとも三つ子以上だとは思っているだろけれど。

彼も、まさか自分の母親が、私の「クローン」だとは思ってはいまい。



当麻の母、自分の姑である上条詩菜(かみじょう しいな)は、未だ麻美を未だ許していなかった。

孫である一麻が生まれてもなお、彼女を「息子を誑かした女」と敵視していた。彼女の前で、麻美の名前は禁句であった。

一麻くんに責任はないのに、そこまで嫌わなくともいいのに、と思うようになった美琴ではあるが、この点については正直、感謝する気持ちもあった。

(もしかしたら、お義母さまは、意図的に?)そうしたのだろうか、と美琴は考えることがある。

麻琴が自分に腹違いの兄がいることを全く知らずに来たのは、ひとえに詩菜のおかげであったと言えるからだ。

仮に、もし漏れる可能性があるとすれば、詩菜の家に居候していたことがあり、そして麻琴と事実上姉妹のようになっている佐天利子(さてん としこ)の母親、佐天涙子(さてん るいこ)ぐらいだった。

確かに、彼女は美琴の結婚式で美子(元検体番号10039号)を見ており、妹達<シスターズ>の話も知ってはいる。

だが、幸いなことに佐天は麻美とは会っておらず、また個人的接点も今のところは無い。

更に、琴江や琴子(元検体番号19090号)を含む他の妹達<シスターズ>とも、彼女は奇跡的に接点がなかったのである。


一方、佐天の大親友である初春飾利(ういはる かざり)は、妹達<シスターズ>そして麻美の妊娠も知っていたけれど、この件については固く口を閉ざしてくれていた。

そして、彼女は佐天の東京の家に来たことも、上条の実家にも来たことはなかった。

そう考えると、彼女ら二人から麻琴に一麻の存在が漏れることはまず考えられなかった。

(ホントにもって、あのバカッタレは!)

そこまで考えると、原因の一人、当麻に美琴の矛先は向かうのだ。

(麻琴と一緒に暮らしたいって、一麻くんの前でよくもまあ平然と答えられるものよね……あの子だってアンタの実の息子でしょうが!)

自分と、麻美の2つの家族。あのバカ、どう折り合いを付けて行くのだろう?

(あはは、家族っていってもみんなバラバラじゃないの、ウチは)

自嘲の苦い思いが胸にこみ上げる。

麻美のところは二人とも学園都市におり、父親こそめったに加わらないが、最小の「家族」は形成されていた。

一方の自分の所はといえば、一人娘は東京におり、彼ら夫婦はバラバラに行動していることが多く、夫婦としての会話も、営みもまたそう多くはなかった。

(まぁ、そうなってもいいや、って思ってたけど、まさか本当にこうなると、夫婦っていったい何なのかなって思っちゃうな)

(学園都市の仕事がうまく行ったら、その時はアイツをいっそ麻美に譲って)

そう思う時もある。

自分は一人でも、ううん、私は麻琴と一緒に生きて行ける。その自信はある。

(麻琴は、私の子供だもの。私が、お腹を痛めて産んだ、私の血を引いた、たった一人の娘)

でも、麻美は違う。あの子には、アイツが必要だもの。



彼女ら妹達<シスターズ>は、元々そう長くは生きられない宿命だった。

だが、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>を始めとする多くのひとの善意(つぐない)もあって、彼女たちはその生を繋いでいる。

薬の製造ミスで数千人が死亡してしまうほど、一人一人は脆弱な命。

それなのに、もう30歳を超えたというのに、未だにひたすらアイツを慕い続ける多くの妹達<シスターズ>。

(冷え切った自分なんかより、あの子たちの方が、よっぽどアイツを大切にするんじゃないのかな?)

美子(みさか よしこ:元検体番号10039号)を見よ。

美耶子(みさか みやこ:元検体番号17836号)を見よ。

(あの子たちの想い、とっても純よね……ははは、私、なんか最悪の女よね、あ~あ、どうしてこうなっちゃったかなぁ)

彼女の思念が行き着く先は、いつも同じであった。

そして、美琴はある話を思い出す。



――― ママ? あのね、マコ、弟が出来たらいいなぁ ―――



ある日、当麻と美琴が詩菜の家を訪れていた時だった。 

佐天涙子と利子の母娘は、自分の家に帰った後のことである。

来年に迫った小学校の入学式について話が弾んだのだった。

「はは、弟が欲しいんだ、麻琴は?」

「うん。マコは妹だからね、あたし、弟が欲しいの」

父・当麻に抱っこされて御機嫌だった彼女は当麻と美琴の顔を見ながらそう小さい声でおねだりする。

「あら、麻琴は誰の妹なの?」

どういう事なのか、と美琴は麻琴を抱く当麻の傍に座る。


「リコねーちゃんの妹だもん、マコ」

「あらあら、麻琴ちゃんは利子ちゃんの妹になっちゃったのね?」

テーブルの向こうから、お茶を入れていた詩菜がそう麻琴に声を掛けた。

「え? 母さん、どういう事?」

話が見えないという感じで母に問いかける当麻。

一方、美琴は(やっぱり、そうなるわよねぇ)とその話を聞いていた。

佐天利子と上条麻琴とは同い年、である。

だが、明らかに利子の方が身体も大きく、そして性格もしっかりしていた。

どっちかというと、やや甘やかされている(と美琴は思っている)麻琴と比べて、利子の方が間違いなく年上のように見えた。

もちろん、その理由を美琴は知っているからこそ、ある意味仕方のないこと、と理解していたのだけれど。

「そうね、リコちゃんはかっこいいもんね? 優しくしてくれる?」

美琴はそう娘に聞くと、

「うん。おねーちゃんはね、マコのことが大好きって言ってくれるの。

でもね、幼稚園じゃマコがリコねーちゃんを守ってるんだよ?

リコねーちゃん、本気で怒るとすごく怖いのね、だからリコねーちゃんはあまり怒らないようにしてるの。

だから、マコがリコねーちゃんが怒る前に代わりに怒ってあげてるの」

当麻は、娘の話がどうもうまく飲み込めないらしい。

美琴は、娘が言う「佐天利子が本当に怒ったら怖い」という事がなんとなくわかった。

(確かに、『お母さん』の性格受け継いでたら、すごく怖いわね)と。



……あの子は、「お姉ちゃん」って言われてみたいのね。

普段の自分の裏返しで、頼られてみたいのだろう。

それも、男の子から。「弟」という存在から。

夜、当麻にしがみつくようにして寝ている可愛らしい麻琴の姿を見て、美琴はそう思った。



でも、今ですら義母に子育てを押しつけてしまっているのに、更に2人目もお願いします、とは絶対に言えなかった。

2人目はもう誰にも頼めない。自分で、学園都市で育てなければならない。

……そんなことが出来るのなら、最初から麻琴を自分自身で育てるべきだったんじゃないの? 

……今さら、そんなこと出来ない。お義母さまは、麻琴を自分の娘のように可愛がって育てて下さっている。もう後戻りは出来ない。

ごめんね、麻琴。私はあなたをお姉ちゃんにしてあげられない。私、母親、失格だわね……



――― やっぱり、無理だ ―――

――― もし、お正月、一麻くんが会いたいと言ったら、詩菜お義母さまにお願いして海外あたりでお正月迎えてもらうようお願いしてみよう ―――



だが、美琴の悩みは取り越し苦労で終わることになった。

とはいえ、彼女は今でも二人を会わせた方が良かったのか、会わせなくて正解だったのか、結論が出せずにいる。

「ママ! 常盤台高校、受かっちゃった!!」

かつての自分の面影を、学園都市に来てしまった娘に見ながら。

自分に兄がいたことを、遂に知らずに終わった娘を見ながら。



「白血病?」

「はい。急性リンパ性と呼ばれるものですが、通常の日本人、とりわけお子さんにはかなりまれなケースでして、他の一般的な疾病の疑いが捨て切れなかったため診断の時間をロスしました」

麻美は目の前が真っ暗になる思いだった。



      ――― 白血病 ―――



そ・ん・な……

馬鹿、な。



いつものように一麻を見舞おうとした麻美はナースセンターで呼び止められ、そのまま彼の担当医師と面談することになったのであったが、告げられた息子の病名に彼女は色を失った。

「それで?」

「直ちに病棟を移し、治療を開始したいと思っています。なぁに大丈夫ですよ、昔は確かに生存率も低かったですが、今は大幅に改善されています。

決して治らない病気ではないのは御存知ですよね? ご安心下さい」

難しい病気ですし時間はちょっとかかりますけれど、治療法はありますからという医師の言に、取り乱しかけた麻美はなんとか心を落ち着ける事が出来た。

かつて、自分もまた瀕死の重篤状態に陥り、ここ学園都市に戻り調整を受ける事で生きながらえることが出来、今に至っている。

そう思うことで、彼女は必死で心の不安を打ち消そうとした。

(ここは学園都市。絶対に大丈夫。あの子は病気に勝つ)

だが、心に渦巻く不安はそんな彼女の努力をあざ笑うかのようにどんどん大きくなってゆくのだった。

「お母様の骨髄を少量頂く事になることになると思います。ご都合の宜しい日を……」

彼女は、医師の話をどこか遠くの世界の出来事のように上の空で聞くのだった。



ウォッシュルームで彼女は鏡を見る。

そこには血の気がない、おびえた顔の女が写っていた。

(これでは、一麻が心配してしまう。いや、佐藤さんが真っ先に異変に気づく。あの子たちに不安を与えるような顔でどうするのです?

しっかりなさい、検体番号10032号! 貴女は看護士でしょう?)

崩れ落ちそうになる身体とおびえる心を叱咤激励する麻美。

ようやくのことで彼女は、クールビューティと評された無表情な顔を作りだし、病室に向かった。

「すみません、先に来てました」

彼女の顔を見るなり、佐藤操は椅子から立ち上がり、会釈する。

「かまいません。先にどうぞ、と言ったのは私ですから」

いつものように麻美は操と一緒にここを訪れたのであるが、ナースセンターで呼び止められた麻美は彼女に「先にお行きなさい」と言っていたからである。

「母さん、呼ばれたんだって? 俺の退院の話? 俺さぁ、今日も検査されてるんだけど、何か言ってなかった?」

どきり、と胸が早打つのを麻美は感じる。

「そうですか? いえ、そういう話ではありませんでした。この母への質問等でしたから」

そう、彼女は答えた。


「えー、なんだ、つまんねーな…一体いつになったら俺、ここから出られるんだろ?」

「カズ兄ちゃん、だってお熱下がらないんでしょ? それにまだ痛いところあるって」

「いや、そうだけどさ、もう腕もギプス外せそうだし、もう走る事だって出来るんだぜ? あとは通院すりゃいいんじゃないのかなぁ。

それにさ、お金だってかかってるんだし」

一麻はふて腐れた顔で、麻美と操に不満をぶつけてゆく。

「お金は心配しなくて言いのです。母は看護士ですから、共済保険からお金が出るので大丈夫です。

そんなことよりちゃんと薬は飲んでいるのですか? ちゃんとお医者様の指示は守っているのですか?」

「あったりまえじゃん。規則正しい毎日ですよ! 品行方正にしてるよ! 模範患者だよ!  

ねえ、俺はここ出たいんだよ、家に帰りたいんだよ、家で母さんのメシ食いたいんだよ!! みんなとバカやりたいんだよ! 

学校行って遅れを取り戻さないと、進級出来なくなるじゃんか、やだよまた2年生やるのなんて、冗談じゃねーよ!

高校受験の特別テストだってもう1回パスしちゃったしさ、能力開発だって未だ中途半端なまんまなんだよ?

母さんからも言ってくれよ、もういいだろ? 退院させてほしいって頼んでくれよ!!」

遂に感情を爆発させた一麻であったが、最後の方は哀願調になってしまっていた。

彼は焦っていた。入院して既に2ヶ月が経過していた。

レポートは相変わらずしっかり送られてくるものの、お見舞いと称して遊びにくるクラスメートは激減した。

かろうじて来ているのは親衛隊長・長谷川優子、速水和夫くらいであり、それとて週末だった。

(忘れられていくのだろうか) 彼の心は病気のことよりも、むしろ忘れられる不安で一杯だったのである。

佐藤操は荒れる彼にどう対応してよいのかわからないのだろう、おろおろするばかりである。

麻美は、実はこういう患者を今までも何人も見てきていた。

ある時はひたすらなだめすかし、それでも言う事を聞かない患者は逆に脅したりして。

だが、今、目の前にいる患者は、自分の愛するたった一人の息子なのだった。

しかも、その病気は「白血病」。

医者が言うように、かつては「死病」の代名詞とも言えたこの病気であったが、学園都市においては発症例が少ない病気であった。

しかし、「ゼロ」ではなかったのである。よもや、その病気がこともあろうに我が子に襲いかかるとは。

「情けない事を言うものではありません、一麻。あなたの身体は今、健康を取り戻すべく、あらゆる障害と闘っているのです。

そのための発熱です。そのための痛みです。それにお医者様がまだ、ということはその闘いが終わっていない、ということなのです」

「そんなのわかってるよ! 自分の身体が本調子じゃないってことぐらいわかってるさ! だから通院じゃだめなのかってことな…!?」

叫んでいた一麻の状態が急変する。

半身を起こしていた一麻の身体がゆらり、とふらつくと、まるでスローモーション映像を見ているかのようにどさっと、崩れ落ちたのだった。

「カズ兄ちゃん!? お兄ちゃん!?」

「一麻!」

悲鳴を上げて一麻にすがりつく操に対して、さすが麻美は看護士だった。

「操さん、離れて下さい」と言いながらやや強い力で彼女を一麻から引き剥がし、息子の息を確認する。

続いて脈拍の強さを確認、そして瞳孔をみ、意識がない事を確認するや否やすぐにナースコールボタンを押し、スピーカーに向かって叫ぶ。

「御坂一麻の母です。息子の容態が急変し、意識を失って倒れました。脈拍通常より早く、血圧低いです。呼吸は異常なし」

「は、はい? わ、わかりました。すぐに向かいます!」

看護士が飛び込んできたのはそれからすぐ後のことだった。



それから後のことは、麻美はまるでTV番組を見ているようであった。

ひきつった顔の佐藤操をしっかりと抱き抱える麻美。

直ぐにやってきた看護士と医者はバタバタと彼を移動式ベッドに載せ、直ちに緊急治療室へと送り込む手はずを取った。

「ER07へ送ります!」
「準備は?」
「手配済みです」
「宜しい。では直ちに」
「はい!」



彼が搬送された後には、空っぽになったベッドと、茫然と佇む二人が残された。

床には、彼女のノートが落ちている。

「カズ兄ちゃん……」

ぽつり、と操がつぶやく。

「さっきまで、馬鹿話してたのに……明日、学校祭の打ち合わせがあるって、大覇星祭の下準備の打ち合わせがあるって話してたのに」

誰にともなく、操のうわごとのような独り言が続く。

「それまでには出られるはずだから、二人でどこ見に行こうか、って話をしてたのに……」

ふいに、涙でぼろぼろの顔を麻美に向けて、それでも必死に泣き出すまいと堪える顔で、彼女が麻美に訊く。

「お兄ちゃん、大丈夫ですよね? 来月には、きっと退院してますよね?」

麻美は胸が詰まった。

「もちろんです。興奮しすぎたのでしょう、私も病院で経験がありますから……本当に困った子ですね、貴女に心配ばっかりかけて」

それは、自分に言い聞かせる言葉でもあった。



あの子は絶対に完治する。

実験終了まで生きていればいい、というようなクローンの私たちを、20年以上生存させることに成功した学園都市の生命技術。

二度も瀕死の際まで行ったこのミサカを、甦らせる事に成功したこの街の医学。

人間同様に、新たな生命を育ませることを可能とした私たちクローンを産み出した、この街の科学。

大丈夫だ。

絶対、大丈夫だ。

一麻は、きっと大丈夫だ。

そう彼女は念じた。

「じゃ、私たちはどうすればいいか、ナースセンターに行って聞いてきましょうね? 大丈夫。明日にはきっと照れ笑いして『ごめん』って謝ってますよ」

そう、麻美は操に話しかけるのだった。


その頃、第七学区にある冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院では……



「ようやくデータが届いたんだがね、僕の予想はあながち間違っていなかったようだ」

「はい」

「未来くんに教えてもらった、結婚して妊娠している、あるいは既に出産したミサカくんたちに協力してもらって、得られたデータを分析してみたんだがね、こういうことだった」

そういって冥土返しは御坂未来(みさか みく:元検体番号20001号)にデータパッドを見せようとしたところで一旦手が止まる。

「あら、大丈夫ですよ先生。ここへ来る時は基本的にネットワークからは離脱してますから安心して下さい」

「ははは、そうなのかい。しかし、統括個体である君がそれでいいのかな?」

「まぁ正論はそうですけど、もう昔のようなお人形の集合体じゃありませんからね。よっぽどの緊急でもなければ、あとは暇つぶしですよ」

「う~ん、まぁ普通の人間にはない能力だからね。でも、普通の女性の集まりになってゆくのは決して悪い事じゃないかもしれないね」

「それで、先生、お話を」

「ああ、そうだったね。これを見てほしい」

渡されたパッドを見る未来。

その顔から見る間に血の気が引く。

「……そんな、そんな」

言葉が出ず、ひたすらうめく未来を痛ましそうに見る冥土帰し。

「ああ。最悪だったね。未来くん、全てのミサカくんたちに警報を出してほしい。

特に、妊娠したことのあるミサカくんと、もしお子さんがいればその子もだよ」

「子供、もなんですか!? じゃ、検体番号10032号の」

悲鳴のような声を上げて、詰め寄る未来。

「ああ、なんと言ったっけ『一麻くんですよ!』そうだったね、一麻くんの状態をすぐに聞かなければならないね」

「で、どうするんですか?」

「うむ……今、とりあえずは該当するミサカ君たちへはこの遅延型細胞分裂成長促進薬を再度服用してもらう必要があるね。

まずはともかく、妊娠により抜け落ちてしまった成長促進剤を大急ぎで補給しなければならないんだ。

最終的には各人の身体の状況に応じてバランスを取る必要があるけれど、これは一時しのぎにはなるはずなんだよ。

それから、それ以外のミサカくんたちには、もう一度新しい薬に切り替えてもらって調整を受けてもらわなければならないね。

今までの薬を使い続けるのは危険だからね」

今朝、製薬会社に発注したからね、試作とテストを経てからになるから最速でも2ヶ月はかかるかな、と彼は言う。

だって、と言いかけた未来に優しく冥土帰しはうなずいた。

「昔、10032号のミサカくんに処方された薬はこれではない。彼女の場合は一刻を争ったからね、もっと強力なものだった。

その代わり、君も知っての通り、彼女はその後長期間……そう、数年以上副作用と闘う事になってしまったからね。

今また、同じ事を繰り返すのは愚の骨頂だと僕は思う」

未来は、子供を置いて来てしまった検体番号10032号の嘆き哀しみ、後悔と慟哭を知っていた。

一度だけ、好奇心で彼女の心を覗いたからだった。

彼女は自らの行為を恥じ、深く反省した。

ネットワークに接続してこないミサカたちへ強制接続するのを控えるようになったのはそれからだった。


「それで問題は、一麻くんを始めとする子供たちなんだよ。彼らは逆だ。

細胞分裂成長促進薬の効果を止める方がいいか、君たちと同じように効果遅延型効力成長安定剤を投入すべきか、だよ

ただ、いかんせんデータが全くないんだ」

「投薬してみないとわからない?」

「残念だが、その通りだ。成長期の子供に、こんな薬を与えてみたまえ。劇的な効果を上げるかも知れないが、逆だったらどうなると思うかね?

こう言っては何だが、どちらの方法もリスクは避けられないんだよ」

「やっぱり、ミサカたちは『実験動物』というくびきから逃れられないのですね」

「ミサカ君」

しばし沈黙した未来がうわごとのようにつぶやいたその言葉に、カエル顔の医者は厳しい声で叱責するが如く彼女を呼ぶ。

だが、それに気づかぬかのように彼女が続けた言葉に彼は言葉を呑む。

「ミサカたちが……普通の人間の、普通の女性であることの証のはずの…子供を産んだことが、ミサカ自身と、その子の命を奪うことになったなんて」

空調ダクトの音だけが部屋に響く。



重苦しい沈黙を破ったのは冥土帰しだった。

「すまない。そこまでは気がつかなかった」

その言葉がきっかけになったのだろうか、未来の眼から一気に涙が溢れ頬を伝い、ぼとぼとと服に落ちてゆく。

「こんな、ことって……酷いです、むごいです」

バッグからハンドタオルを取りだした未来は顔を覆った。

泣き伏す彼女を、カエル顔の医者は黙って痛ましそうに眺めることしかできなかった。

ひとしきり嗚咽したところで、彼女は少し落ち着いた。

「すみません、ちょっと化粧直してきます」

タオルを口元に当てて、未来がバックを持って部屋を出て行く。





「確かに、そうかもしれないね」

そうつぶやいたカエル顔の医者は、ぬるくなったコーヒーを飲み干した。


10分ほどして、彼女は帰ってきた。

目元はまだ腫れぼったく、赤い眼をしていたが、その眼に生気は戻っていた。

「お見苦しいところを見せまして、どうも失礼しました」

それを見た冥土帰しは、ふと、何処かでこういう場面を見たような気がしたのだったが、誰のどういう事だったのか思い出せない。

歳は取りたくないものだ、と心の中で彼は思う。

「いや、きみのあの言葉はこたえたね。命を預かる医者として、改めて肝に銘じるよ」

「そんな、こちらこそ失礼なことを申し上げました。すみませんでした」

頭を下げたその仕草で、彼はようやく思い出した。



――― 御坂美琴くんだ…10032号のミサカくんに会いに来たときの ―――



やっぱり君たちは、お姉様<オリジナル>と同じところがあるんだね、と彼は改めて気が付いたのだが、今はそんなことを冗談にでも言える雰囲気ではない。

カエル顔の医者は脱線しかかったアタマを元に戻し、頭を下げた未来に答えた。

「10032号のミサカくんの時、気がつけばよかったんだが…」

だが、未来の言葉は彼の予想を裏切るものであった。

「ううん、先生、ミサカたちはまだいいんです。そもそも私たち妹達<シスターズ>は、そういう目的で作られたのですから。

元々は、実験のためにだけ作られた命。せいぜい半年から1年保てば良いという割り切りで作られたヒトでした。

でも、でも、子供たちは違います。

あの子達は、ミサカたちの希望でした。私たちとは違う、最初から普通の人間のはずでした。

なのに、どうしてあの子達は呪われなければならないんですか?」

パウダールームで、単に未来は化粧を直していたのではなかった。

彼女は久方ぶりで使う強制緊急伝達を使い、音信不通等で現状が不明な妹達<シスターズ>に調査を行ったのである。

その中で、数十人のミサカは既に結婚しており、そのうちの何人かは既に我が子を失っていたのであった。

未来は歯がみした。

当麻命だの、一方通行萌えだの浮かれているミサカたちの片隅で、ひっそりと幸せを見つけ、新しい人生を伴侶と共に歩き始めたはずのミサカたちがいたこと。

そして、その結果、めでたく子宝に恵まれ、生きる喜びを見つけたはずのミサカたちを襲った悲劇を、自分は知らなかった。

何が上位個体か、と彼女は自分を責め、その過失を償うには次の犠牲を出さないこと、と心に誓ったのである。

「ああ。子供たちに罪はない。僕らには、彼らを助ける義務がある」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>はきっぱりとそう言いきった。

「有り難うございます、先生」

この先生なら、きっと……と未来は一縷の望みを託した、カエル顔の医者を見る。

「こう言っては何だが、10032号のミサカくんの息子さんに強力してもらう必要があるんだが、今電話しても良いか訊いてもらえるかな?」

「そんな回りくどいこといいですよ、このミサカが訊きます。検体番号10032号?」

未来がミサカネットワークで検体番号10032号、御坂麻美と話を始めた…が。

「せ、せんせい、遅かった!」

未来が真っ青な顔で叫んだ。

「一麻くん、白血病って!」

「なんだって?」
                 


カエル顔の医者は直ちにジャッジメント病院へ連絡し、彼のデータを取ってもらおうとした。

が、担当医師は彼の申し出に難色を示した。

「白血病の患者にどうしてそのようなデータを取らねばならないのですか?」

「彼の病気の根本的原因は、遺伝子異常等によるものではなく、ある投薬によるものだと考えているからね。

だからその投薬効果を消すか、あるいはその効果を上回る逆の薬を使うかの選択が必要なんだ」

「尊敬する先生に対して無礼な発言を予めお詫びしますが、仰ることの意味がよくわかりません。

白血病であれば、その対応策はほぼ確立しています。たしかに難病ですが、現在、治療方針に則りその子への治療は順調に行われています。

何かありましたら御相談しますので、その節は宜しく御願いします」

平たく言えば、「余計な事をいわないでくれ」ということである。

カエル顔の医者はため息をつくしかなかった。

自分の病院ならともかく、患者はジャッジメント総合病院という別の場所にいる。

担当医にもプライドがあるし、しかも全く未知の病気ならともかく、治療法がある患者に対して、訊かれてもいない外部の医者がああだこうだと口を挟む事は御法度であった。



カエル顔の医者は勤務表データを開く。

御坂麻美はおとといから1ヶ月の長期休暇を取っていた。

今までほとんど年休を取らなかった彼女としては異例である。

「子供のため、だからねぇ」

勤務表を閉じた彼は思う。

(うまく言ってくれれば、それに越した事はないのだが)



一方の御坂麻美は悩んでいた。

彼女は看護士であり、この業界の掟は熟知していた。

それだけに彼女は言い出せなかった。

「私の病院に転院させてほしい」と。

そんな時に麻美は上位個体である御坂未来からの通信で、他にも子を産んだミサカがいることを知った。

しかも、そのうちその子を亡くしたミサカもまたいるという事を聞いた彼女は愕然とした。

(まさか、一麻も? いいえ、そんなことは)

まとわりつく不吉な予感を払いのけようとする麻美だったが、その予感は消えるどころか強まる一方であった。



だが。


一麻に対して行われた白血病の緊急治療は効果を上げ、2日目には意識が戻り、翌々日には集中治療室を出て専用病棟の専用個室へと移った。

ちなみに前回同様専用個室なのは、彼が能力者であり、その暴走に対応できるようAIMジャマーを準備してあるためである。

「一麻、具合はどうですか?」

母、麻美は事実上付きっきりで彼の面倒を見ていた。

「まぁ、ね。なんか身体がだるいんだよ。これじゃ退院は先だなぁ情けねぇけど」

「カズ兄ちゃん……」

「ごめんな、ミサちゃん。ちょっとしばらくかかりそうだよ」

「ううん、いいの。カズ兄ちゃんが寝てたとき、私、悲しかったけど、でも今、こうやってお話できるから、私嬉しいの」

「あーあー何泣いてんだよ、まったくもう。ほら、そんなに泣き虫じゃなかっただろ? な、泣くなよな」

「うん。そ、そうだよね。縁起でもないよね、えへへへ」

つんつんとおでこをつつかれた操は、くしゃくしゃの顔を一麻に向ける。

「……そういうこと」

「一麻、喉は渇いていませんか?」

麻美の唐突な発言に操はチラとテーブルを見る。先ほど沸かしたばかりの湯が入ったポットと急須がある。

「うーん、ちょっと冷たいもの欲しいかな? のど渇いたし」

「甘いものと炭酸入りはだめですよ?」

「じゃ、私買ってきます。甘くなくて炭酸入ってないのって……緑茶かミネラルウォーター?」

「つまんねーな……あーコーラ飲みてぇ」

「またそう言う…だから炭酸はダメだって? お水買ってくるね!」

「あ、お金は?」

「それぐらい平気だもん!」

泣きべその顔をごしごしと制服の袖でこすっただけの顔のまま、操は飛ぶように部屋を出て行く。

彼女が出て行った後、麻美が居住まいを正して息子の傍らに座った。

「勘のよい子ですね、操さんは」

「なんだ、そう言う意味だったの?」

「一麻、この母は貴方に謝らなければなりません」

「なんだよ急に」

「貴方の病気は、この母の胎内にいた時に始まったのだという話がありました」

「またそんなこと……先生はそんなこと言ってないよ? だいたいいつの話だよ、もう俺14だぜ?」

「ええ。一麻の病気は珍しい例ですが、他にも同じような症例の子供たちが出てくる可能性があるのだとその先生は仰っています」

「……」

「ですから、その先生は、一麻に会って、データを取りたいのだと仰っています」

「ふーん。それはいいよ? 俺の病気が他の人の役に立つっていうなら喜んで」

「ですが、その先生はこの病院にはいないのです。母の病院にいるのです」

「じゃ、どうしようもないじゃん? その先生がここへ来ればいいんじゃないの? 俺はかまわないよ?」

「一麻の気持ちはわかりました。それにはまず貴方の体力回復が先です。後は母がなんとかします」

「えー、なんだか脱走するみたいだな…」

「一時的にはそうかもしれません」

「ちょ、マジで? 俺が直るまで待てないのかな……そうか、直ったら意味ないのか……仕方ないな」

一麻は深くため息をついた。


一麻の容態はその後めざましい回復を遂げ、激しい運動は無理であったが、一人で歩けるほどになった。

麻美が「このまま、一麻は完治して退院出来るのでは? 先生のお話は最悪の場合だったのでは?」と思うほどであった。

そうしたある土曜日。

「一麻、明日の朝食後、私の病院に行きましょうね」

「え? もう直っちゃったのに行くの?」

「ええ。それにまだ『完治した』とは先生も仰ってないでしょう? もうすぐでしょうけれど」

「まぁ、いいけど。でもここまで直っちゃった今、俺のデータ取っても意味あるのかなぁ」

「母は、きっとあると思いますよ」

「ふーん」



そしてその翌日、日曜の朝。

「一麻くん、すっかり元気になったわねぇ」

叔母である上条美琴が彼の部屋にいた。母・麻美は自分の病院で彼を待つことになっていたからである。

「でしょう?」

「うん。ホント、前来た時は倒れた後じゃない、今だから言うけど、ほんとあの時はヤバイんじゃないかと思ったくらいよ?」

「えー、ひでぇなぁ」

「あのぅ、上条さん?」

部屋の入り口付近に大人しく立っていた女性が美琴に声を掛けた。

「あぁ、ごめんね黒子、紹介するわ。こっち来てくれる?」

「はい。それで、こちらの方でいらっしゃいますの?」

「そう。私の『妹』の息子さんで、一麻くんね。」

「おはようございます、初めまして。わたくし白井黒子(しらい くろこ)と申しますの。今日は上条さんのたっての御願い、ということでやって参りました」

「は、はい。僕、御坂一麻です。初めまして」

「御坂? もしかしてあの、お母様はシングルマザーでいらっしゃるのかしら?」

聞かれたくなかった事を訊いてきた黒子に美琴の目がつり上がる。

「黒子! 余計な事は詮索しない約束でしょ!!」

「あ、そ、それは失礼致しましたわ。ごめんなさいね」

すみません、と頭を下げる黒子。

「いえ、気にしないで下さい」

「ちなみにおいくつですの?」

「14歳です。中学2年生」

「まぁ、私のところと同じですのね……え?」

(お姉さまのところのお嬢様はまだ小学生のはず。なのにこの子は中学2年生。ということはお姉さまより先に妹さんの方が御結婚されたということですの?)

一麻を凝視し続ける黒子に、堪忍袋の緒が切れた美琴は彼女を一麻の前から引き離し、黒子の肩を抱き込むようにして、一麻に背を向けた。

「く・ろ・こ~、ア・ン・タ、余計な事聞くなって言ったでしょう??????」

さすがに火花は飛ばない(飛ぶとキャパシティダウナーが動作してしまう)のは、美琴お姉様も大人になった証拠ですのね、と黒子はとんでもないことを想像したが、

「す、すみませんですの! つい、その仕事柄、あの、いろいろと訊いてしまいますの」

この辺の口の巧さは相変わらずであった。

「そ、それではわたくし、先に行ってますの」

美琴がようやく黒子を開放すると、彼女はそそくさと部屋を出て行った。


「おばちゃん、どうしたの、いったい?」

怪しげな行動を取る美琴に不安を感じたのか、一麻は彼女に声をかける。

「まぁ気にしないで。あ、ちょっと伝言があったんだっけ」

あらあらこめんねー、と美琴はバッグからパッドを取り出し、ピッピッと入力して行き、「ちょっと見て?」と一麻の前にそれを示す。

「……え? ホントですか、これ?」

驚く一麻に美琴は茶目っ気たっぷりの顔で

「お母さんから聞いてたでしょ?」と言う。

「え、ええ」

「怖い?」

「い、いや、でも俺、初めてだし」

「どうってことないわ。むしろ面白いからやみつきになっちゃわないようにしないとね」と美琴は笑う。

「そういうもん……かな」

「そうよ。じゃ、一緒に散歩に行こうっか?」

「わかりました。じゃ、外出用のジャージ着るから、おばちゃん、外で待ってて?」

「いいわよ別に? ここで着替えちゃっても気にしないけど?」

「やめてくれよおばちゃんたら! 俺だってもう小学生じゃないんだから! 女の人の前で裸になれっかよ!」

美琴は一瞬きょとん?としたが、

「あー、ゴメンゴメンそうよね。失礼失礼! じゃ待ってるね」

ちょっと赤い顔になった美琴は部屋を出る。

(いけないいけない、子供のつもりでいたけど、もう中学生だもんね、そりゃちょっと恥ずかしいか)



そんな美琴のところに義母・上条詩菜から「今日は麻琴ちゃんのお祝いでお赤飯炊いたのよ」という連絡が来るのは、この1週間後。

もし何もなければ当然ながら彼女は東京へ飛んで行き、突然の事にとまどう娘を元気づけていたことであろう。

……だが、美琴どころか夫・当麻すら学園都市を離れられなくなる事態が起きようとは彼女はこの時想像だにしなかった。                                


「あー、やっぱり外は良いなぁ」

一麻と美琴は並んで病院のリハビリコースを歩いている。

「やっぱり、病室って嫌よね?」

「まぁね。個室だからいいけどさ、でももう飽きたよ。早くこんなところ出たいよ。ヘタすっと俺、進級出来無くなっちゃうし」

その言葉を聞いて、美琴は一瞬、夫・当麻の高校時代を思い出す。

「何?」

「ううん、お父さんがね、高校生の頃を思い出したの。進級がヤバイって心配するところ、なんか似てるなぁってね」

「なんかあったの?」

「お父さんってね、昔から熱血漢でね。困ってる人見るとほっとけない人だったのね。

で、お節介にも首突っ込んでね、その結果よくケガしちゃってね、病院に指定部屋まで出来てたのよ?」

「あ、なんかそんな話聞いたことある」

「でさ、お見舞いにね、くそ高い有名店のクッキー買っていったらさ、『こう言う時は、へったくそな手作りクッキーじゃないのか』って言ったのよ?」

「えー、そんなこと面と向かって言ったの? それは酷いなぁ」

「でしょ?」

「うん。でも父さんの気持ちもわかるなぁ」

「ちょっとー、一麻くんまでそう言う事言うんだ?」

「いや、だってさ、女の子がさ、自分の為にクッキー作ってくれるんだよ? それってサイコーじゃん、憧れちゃうなぁ、そういうの」

美琴は思い出す。結局渡せなかった、あの時のクッキー。

あの頃の、純な心は、いったい何処に行ってしまったのだろうか、と。

佐天さんにおちょくられながら、それでも必死に作り、断られたらどうしようかと不安で一杯だった、あの時の初心な自分はどこに行ってしまったのだろうと。

苦い想い出を美琴は振り払うかのように、不思議そうに自分を見る甥っ子を見る。

「一麻くん、そう言うこと無かったの?」

「チョコなら沢山もらったけどね」

「 」 

美琴は絶句する。

「そ、そうなんだ」

「自慢するつもりはないんだけどさ、沢山来るからさ、市販のヤツは後回しにするんだよ。

こりゃ手作りだなってのはさ、わざわざ俺なんかのために作ってくれたわけでしょ? それ思うとさ、やっぱり食べたげなきゃ悪いじゃん? 

でもさー、とにかく多くてさ、ぶっちゃけ地獄だったよ、マジで」

(どれくらいもらってたのよ?)と、美琴は彼に聞こうと思ったが、バレンタインチョコなんて考え出したヤツ、ぶっ殺してやりたい、とぼやくのを聞いて、彼女は思いとどまった。

「お待ちしてましたわ、一麻さん?」

突然、二人の前に先ほどの女性が立った。

「わっ!」

一麻が驚く。

「じゃ、黒子、頼むわね」

「承りましたの。では一麻さん、参りましょうか、お母様の病院へ」

「あ、は、はい、よろし」

彼が返事を返したか、と言うタイミングで白井黒子と御坂一麻の姿はかき消えた。

(頼んだわよ、黒子)


いやー、参った。

すんげーびびったよ。

確かに俺、テレポートって初めてだったんだけれどさ。

あれって瞬時に世界が変わるんでアタマが付いていけないのな。

目をまわしそうになっちまったよ、正直言うとさ。

途中で「休ませてくれぇ!!」って言ったら、このおばさん、ニタッと笑ってさ、「御気分でも悪くなりましたの?」だぜ?

くっそー、絶対俺のことおもちゃにしてやがる、って確信したね。

それでまたさ、このおばさんがとんでもねーところを中継点? にするんだよ。

ビルの屋上をかならまだいいよ、足が付くからね。

空なんだよ、そう、大空とか青空のあの空<そら>なんだよ!

空中って勘弁して欲しいよ。

いきなり何もないところにポンって出るんだぜ?

マンガでよく崖っぷちから空中に飛び出して、あれ、下が……ない? なんていうシーンがあるけどさ、実際は違うんだよ。

出た瞬間に落ち始めるんだよ。

いや、風圧と風切り音がすごくて、ろくに口は開けないし、おばさんが何言ってるかまるで聞こえねーんだよ。

でさ、直ぐに次に飛んでくれればいいのに、わざと少し落ちてから飛ぶんだよ。

ひでーだろ?

いや、帰りは素直にタクシーで返してもらおうと思ったね。こんな事されるんじゃさ……。

で、途中で休ませてもらって、ゼーゼー言ってたら

「わたくしもジャッジメントですの。本来ならこんな違法行為は出来ませんけれど、わたくし共の病院の対応にも問題が無いとも言えませんし、他ならぬ美琴お姉様のお願いでもありますし。

他のテレポーターに違法行為をさせるよりは、まだわたくしが行った方が良かれと思いましたの」

やっぱり違法行為なのか。

しかし、なんでそうまでして俺を病院に連れて行く必要があるんだろう?

「そこまではわたくしも聞かされておりませんので、その質問には答えられませんわ。

ですが、あのお医者様が貴方のデータを取りたいというのであれば、それは貴方のみならず他の人にも有用なものなのでしょう」

ふーん、そうなのか。

「では、参りましょうか」

え? と思う間もなく、俺はまたテレポートされていた。

ただ、今度は空中中継はなくて全部足場があるところだったし、しかも数秒間そこに止まってくれたので、前よりはずっと楽だった。

ったく、最初からそうしてくれよなー!!!!


「一麻、具合は悪くありませんか?」

私は思わず息子にそう声を掛けた。

いったいどうしたのだろう、この有様は。

「うん、ちょっと気持ち悪いかも」

その答えを聞いて、私は息子を連れてきた白井黒子というオセロゲームのような名前の女性を睨み付けた。

「も、もう少し休み休み来た方がよかったでしょうか……」とその女は冷汗をかきながら私と目を合わさずに答えてきた。

「いえ、お忙しいところどうも有り難うございました」

私はそう言い放ち、息子を車いすに乗せて、後も振り返らずにリラクゼーションルームに向かった。

まさか念のため準備しておいた車いすを本当に使うことになるとは……。



「ほう、もう着いたのかい、随分早かったね?」

先生に連絡すると、驚いたような答えが返ってきた。

確かに、予定時刻より1時間半ほど早く着いている。さすがテレポーターだ。

だが、肝心のこの子が疲労しきっている。これでは話にならない。

とりあえずこの子の疲労と緊張を解き、平常状態に戻さねばならない。

私が説明すると、先生は笑って

「ははは、そりゃどっちがよかったのかさっぱりだね。時間には少し余裕を見たから、10時半に総合調査室に来てもらえるかな?」

と仰ってくれた。2時間あれば、もう落ち着くことだろう。すみません、先生。



10時半前、息子はすっきりとした顔でリラクゼーションルームから出てきた。

「すごいね、ここ。なんか疲れが全部取れちゃったよ。また来たいなぁ」

嬉しそうな顔で私に感想を伝えてくる一麻。この子のこんな顔を見るのは久しぶりのような気がする。

……最初から、ここに入っていれば。







私は、一生、この時のあの子の顔を忘れることはないだろう。

私の、自慢の息子の明るい笑顔を。


順調に彼の身体チェックは進み、なんとか夕方には全ての身体検査が完了した。

「急がせてすまなかったね。疲れたんじゃないかな?」

申し訳なさそうな顔で一麻の容態を確認するカエル顔の医者。

「いえ、大丈夫です。リラクセーションルームのおかげですっごく楽になってましたから、どうってことないです」

「そんなに気に入ったのかい?」

「そうですね、また来たいですよ」

「あはは、そうかい、でもね、ここは病院だからねぇ。君のお父さんみたいに常連になるのはどうかと思うよ?」

「母さんから何度も聞きましたよその話。いやぁ、病気になるのはもう沢山ですよ。リラクゼーションルームだけですよ、来たいのは」

「ははは、それならまぁ安心だね」

「一麻、早く帰らないと、あちらの先生たちが心配しますから」

看護服から地味な服に着替えていた麻美が一麻をせかす。

「じゃ、先生、あとは宜しくお願いします。僕のデータがみんなの為になるんでしたら喜んで」

「ありがとう。君のおかげで助かったよ。これから産まれてくるだろう子供たち、そして今生きてる子供たちに役にたつよう、僕らも頑張るから、君も頑張ってくれ」

「ええ。退院したらまた挨拶に来ます」

「それじゃ、今日は本当にありがとう」

「さよなら」

「ああ。また今度」

麻美と一麻は、美琴が差し回したハイヤーに乗り込み、ジャッジメント総合病院へと戻っていった。

-----------------

午後。

「黒子、ちょっと」

「は、はい」

「アンタ、一麻くんに何したの?」

「い、いえ別に何も」

「何もしないのに、病院に着いたあの子が車いすの世話になるわけ無いでしょッ!」

バッと美琴の前髪から放電が起こる。

「早いほうが良いかな、と思いまして、結構急いだのは事実ですけれど……」

「あの子、病人なのよッ!? わかってんのアンタ!」

「も、申し訳ございませんですの」

……というわけで、帰りは白井黒子さんの厄介にはならず、お姉様からせめてもの償いと言うことで、ハイヤーで帰ることになったのだそうだ。

だが、帰りはやはり道が混んで遅れてしまい、その結果外出していたことがばれ、私と一麻は担当看護士から説教を喰らってしまった。

はぁ……。

「母さん、これでよかったのかな」

「当然でしょう。一麻、まだ完治していないのだから疲れたでしょう? 早く休みなさい?」

「えー、大丈夫だよ。もう少し起きててもいいだろ?」

「そういえば、レポートは出来たのですか?」

「それは明日やるから大丈夫。ちゃんと中見てるし、アテは付いてるから問題ないよ」

そういうと、一麻は私にThumbs up のサインを示して、笑顔でふとんに潜り込んだ。

私はその笑顔が可愛らしくて、照明を落とし、彼が寝付くまでずっとその寝顔を見つめていた。

明日の月曜日は、私が再検査を受ける日だった。

>>1です。

現在18コマを投稿したところです。
一気に投稿するはずでしたが、ちょっと所用ができまして投稿を中断させて下さい。
すみません。

乙です

>>1です。

大変失礼致しました。
これより投稿を再開致します。

>>239さま
いつもいつもチェック有り難うございます。




そして月曜日。

朝7時定刻、いつものように一麻は目覚めた。

が、直ぐに自分の体調が今ひとつなのに気が付いた。

(昨日でやっぱり疲れたのかなぁ)

情けねぇなぁと思いつつ、朝の検温。

36度9分。やはりまだ高い。昼には37度を超すのは確実だった。

(どうなってるんだか) 彼は小さくため息をつく。

いつものように歯を磨き、顔を洗って食堂へと向かう。

現在、彼は食事制限が外されており、何でも食べられるようになっていた。

朝定食は和風と洋風が準備されているが、今日はどうしたことかどっちを見ても食欲が湧かない。

(疲労かな、それともテレポートで空飛んで、風邪でもひいたのかな)

そんなことを考えつつ、彼は洋食を選んだ。

冷たい牛乳が気持ちよい。少し具合がよくなった様な気がする。身体が目覚めて行く様な気がする。

スクランブルエッグをトーストに載せ、かぶりつく。

(はー、うまい)

結局、彼はいつものように朝定食を綺麗に平らげた。

ぷらぷらとロビーを歩き、部屋へと戻ろうとし、階段に足をかけたその時。



     ――― え? なに、こ ―――



自分の身体の中を、体電流がまるで嵐のように走りまわり、暴走したのだ。

「ゲボッ」

食べたものが逆流し、彼は吐きながらその場に崩れ落ちた。

「おいおい、汚ったねーなぁ! 何やってんだガキが!」

たまたま通った人がそう彼に非難の声を上げるが、ピクリとも動かない彼を見て、異常を悟り、声を張り上げた。

「すいませーん、看護婦さんか先生か、誰かいませんか???!!! 子供がひっくり返ってるんだよ!! おーい誰かぁ!!」



直ちに御坂一麻は緊急治療室に担ぎ込まれ、状況チェックが行われた。

食中毒から始まり、消化不良、胃炎、等々。

その日一日、彼の意識は戻らなかった。


朝イチでの急患の外科手術を終え、シャワーを浴びてさっぱりとした状態で部屋に戻ってきたカエル顔の医者のところに、いくつかの書類が届いていた。

彼はその封書を開け中を見る。

「何だって?」

彼は直ぐにPCを操作し、データベースにアクセスし、その詳細データをチェックにかかった。

しばらくの後、彼はうめくようなつぶやきと共に椅子に倒れ込む。

「あの子が……あんな良い子が……なんということだ……」

彼は、直ぐに勤務表データを開ける。

「御坂麻美くんを……あ、彼女はそういえば休みを……?」

彼女は長期休暇を取っていたはずだった、と彼は思い直すが、いや、昨日は此処にいた事を思い出す。

「そうだ、彼女は」

彼女は、ここで精密検査を今まさに受診中なのである。それを決めたのは自分だったはずだ。

改めて勤務表データをみると、今日は朝9時から午後3時まで検査漬けのスケジュールが表示されていた。

(何をやっているんだぼくは。医者がこんなに慌ててどうするんだ? とにかく彼女の検査が終わってからだ)

そう思い直した彼は、データの取り纏めを大急ぎで始めたのだった。



(疲れた……)

「御坂さん、お疲れ様でした」

同僚の看護士がニコニコしながら彼女にねぎらいの言葉をかけてくる。

「いいえ、こちらこそ。皆さんに宜しくお伝え下さい」

そう言って帰ろうとした彼女に、その看護士は

「そうそう、帰られる前に先生が大至急来て欲しいって仰ってましたわ」 と麻美に伝言を伝えたのだ。

滅多に「至急」という言葉を使わないカエル顔の医者が「大至急」だという。

それは彼女の胸に疑心暗鬼の暗雲を呼び起こすには十分であった。

「はい、わかりました。有り難うございます」

麻美は早足であのカエル顔の医者の執務室に向かう。

(大至急、って、まさか、まさか何かあの子に?)

検査の受診で身体が疲れていることも気にならない。

彼女はその「大至急」という言葉が何よりも恐ろしかった。


「急がせてすまなかったね。身体検査で疲れていないかい?」

カエル顔の医者の顔は緊張していた。

彼の顔を見た瞬間、麻美は(よくない知らせがあるのだ)と察知した。それも「大至急」私に伝えなければならないほどの。

「お話を先に承ります」

「……そうか」

「よくない知らせなのですね」

「……」

「一麻の事なのですね」

「そう…なんだ。そのとおり、君の息子さんの話なんだがね」

彼女は思わず手を握りしめる。やはり、一麻のことだった……

「お話下さい。このミサカは、母として、息子のことを聞く義務があります……知る権利があります」

ひた、と彼女の視線はカエル顔の医者を捉えたまま動かない。

彼も覚悟を決めた。

「残念な話をしなければならない。母親である君にこのようなことを告げなければならないのは医者として痛恨の極みだ」

麻美の顔は変わらない。が、彼には彼女の顔から血の気がひいたように見えた。

「彼の身体はそう長くは持たない。もって1週間以内、早ければここ数日。

病名は、全身ガン。既に各臓器に転移しており、手の付けようがない。

主原因は、僕の推測だが、遅延型細胞分裂成長促進薬によるものだ。彼の体内から、若干変性してはいるが、この薬と同じ組成物質が確認されている。

これにより、彼の体内では異常な細胞分裂が進行し、ガン細胞化している」



御坂麻美は、カエル顔の医者の声が途中から聞こえなくなっていた。

あの子が……

一麻が……

私の、、わたしのたった一人の息子が……

わたしのお腹を痛めて、産まれてきたあの子が……



  ―――――― 死ぬ ――――――



「そんなはずはありません!!」

突然叫び出した麻美に驚くカエル顔の医者だが、直ぐに自分の話を止め、彼女を見る。

「あの子は、昨日、ここに来たではないですか? 

あの子はあんなに元気ではなかったですか?

あの子はあんなに笑っていたではないですか?

あの子は白血病に打ち勝っていたではないですか? 

あの子が、あの子が死ぬなんて、そんなことがある訳がありません!!

何かの間違いではないのですか?」

我を忘れて激昂した彼女は椅子から立ち上がり、ふらりと揺らめいた後、くたくたと床に崩れ落ちた。

「御坂くん!?」


片手を床に着き身体を支えている彼女の脇に、彼はしゃがみ込み、

「大丈夫かな、立てるかい?」と聞く。

荒い息の麻美は彼の顔を見て答える。

「すみません、先生。ちょっと頭に血が上ったようです……大丈夫です」

「そうか。そこのソファに移ろう」

と手をさしのべるが、麻美は

「大丈夫です、一人で立てますから。すみません、先生」

そういうとテーブルに左手をかけ、右足を立てよろよろと立ち上がり、ソファへと転がり込んだ。

「水がいいかな、コーヒーにするかい?」

「いえ、先生。お話を続けて下さい」

「大丈夫かい? 君が倒れてしまっては元も子もなくなってしまうんだがね?」

「このミサカは大丈夫です。お話の続きをお願いします」

顔は血の気を失い、青白くなってはいるが、目はしっかりとしているのを見たカエル顔の医者は

「では、話を続けよう。

僕が直に治療に当たれないのはまさに隔靴掻痒以外の何者でもないんだがね……でもやるべき事はやろうと思うんだね。

これでも医者の端くれだからね。

それで、緊急を要する一麻くんに対して」

そこで一旦言葉を切ったカエル顔の医者は、彼女に1枚の紙を渡す。

「これは……先生?」

「母親である君の承認が欲しいんだ。効果があるかどうかは投与してみないとわからないのが難点だが、事態は緊急を要している。

君に辛い事実をもう一つ告げなければならないのは痛恨の限りなんだが、一麻くんは今日の昼前、意識不明の状態に陥ったそうだ」

「えっ……?」

驚愕の2つ目の事実に、今度こそ麻美は叩きのめされた。

ぐらり、と彼女の身体は傾き、そのままソファに横倒しに崩れたのだった。


「本当なら、即刻休養させたいのだが、ミサカくん、すまないな。もう少しだけ頑張って欲しい」

そう言うと、気を失っている彼女に彼は覚醒用酸素吸入器を当て、スイッチを入れた。ものの数秒で彼女は目を開け、ゲホゲホと咳き込む。

「申し訳ない。検査で疲労しているキミに精神的ショックを与えてしまって……」

「いいえ、こちらこそすみません。あの子は今も病魔と闘っているのです。母たるこのミサカがのんびり休息を取っているわけには参りません」

そう言いつつ、彼女は咳き込む。

「レモン水だ。これを飲んで少し落ち着こうじゃないか」

*精神安定剤が含まれている(作者注)

むせながらも麻美は少しずつ出された水を飲み込む。

「ありがとうございます……それで、先ほどの?」

「誓約書だね。これがないと製薬会社に製造を始めてもらえないのでね、乱暴な起こし方をしてしまった。申し訳ない」

「いえ、こんな非常時に気を失うミサカの方がだらしないのです。失礼して、もう一度中身を見せて頂けますか?」

彼は誓約書を麻美に渡し、彼女は食い入るようにそれを読んで行く。

「わかりました。サインします」

バッグを目で探す彼女に、彼は「これを使いたまえ」とペンを渡し、彼女は直ぐにサインを書いた。

「一応、拇印を押してくれるかな?」

彼は机に戻るとスタンパーを持って来た。麻美は左親指を当て、拇印を押す。

「じゃ、直ぐにこれを送ろう」

彼はそれをスキャナーに掛け、送信を掛けた。

「既に下準備には掛かってもらっている。これは時間との勝負だからね」

そう言うと、彼は彼女を見る。

「多分、あちらの病院では手を付けあぐねているはずだ。今まで無い症状のはずだからね。

明日、そういうところにこのメーカーのプロパーが、『新しい抗ガン剤が出来た』と言って訪問することになっている。

渡りに船だ。使おうとするはずだよ。明日もキミは息子さんの病院に行くのだろう?」

「もちろんです」

「であれば、一両日中にキミに打診がくるはずだ。こういう薬を投与してみたい、と」

麻美の顔が少し明るくなる。

「直るのですか?」

「元から断ち切るからね。劇的に復活すると思うんだが、効き過ぎる可能性も捨てきれないがね」

「是非お願いします。息子を、一麻を助けて下さい、お願いします!」

「僕はね、一度でも自分が診た患者は忘れないんだ。それに、なんと言ってもキミの息子さんだからね……今に始まった訳じゃないだろう?」

「ありがとうございます……それで、あの、もしお話が終わったのでしたら、私、あの子の元へ戻りたいのですが」

「戻るのかい、そんな状態で?……と言っても無駄のようだね」

「ええ」

「ならば、これを処方するからもらって行きなさい」

チーという音と共に、処方箋がプリントアウトされる。中は栄養剤であった。

「有り難うございます。先生」

「無理はしないようにね」

麻美が飛ぶように部屋を出て行く。

(間に合えばいいのだが)

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の顔には険しさが戻っていた。


その日、そしてその翌日も一麻は集中治療室から出てこなかった。

この頃にはジャッジメント総合病院でも御坂麻美の顔はそれなりに覚えられてきており、すれ違う看護士たちから挨拶されたり「早くよくなると良いですね」と声を掛けられるようになっていた。

だが、火曜日の夜が来ても、彼女に「新薬の投与の打診」は来なかった。

3日目、水曜の昼になっても何の音沙汰もないことに、麻美はいらだっていた。

(このひとたちは一麻を見殺しにする気なのでしょうか?)
(何を言うのです。製薬会社の営業マンがお話を持って来たのは昨日のはず。昨日来て直ぐOKが出るはずが無いでしょう?)
(そんなことを言って、一麻は必死で病気と闘っているのです、一刻を争うというのに、そんなことでいいのですか?)
(貴女はお医者様でもないのに何を知ったかぶりをしているのですか、慎むべきです)

そして、その日の夕方。

集中治療室の近くにあるリラックスルームに一人ぽつんと詰めていた麻美の前に、主治医と主任看護士が現れたのだった。

「御坂一麻くんのお母様、でいらっしゃいますよね?」

「はい。一麻の母、御坂麻美です」

「主治医の神原と申します。手短に申し上げます。病因については、当初は急性リンパ症の白血病でしたが、ただ、これについては相当のところまで回復したようです。

その点は御認識されていらっしゃいますでしょうか?」

麻美は無言でうなずく。

そう、あんなにもあの子は元気だった。

だった……。

「ところが、一昨日の月曜の朝に一麻くんは突然倒れ、直ちに集中治療室に運び込まれた訳ですが……予想外の事態が起きておりました。

正直、あまりの激変に我々としては目を疑ったのですが……全身ガン、と言うような状態が起きておりました。

しかも、誠に失礼な言い方で申し訳ないですが、異常なほど、進行が早いのです。こんな事例は見たことがありません。

当病院で現在やれることは全てやりましたが、残念ながらお子様の容態は予断を許しません。

今現在、一つだけ手を付けていない方法があるのですが、この薬はまだ安全が確認されておりません。

成功する確率は半分あるかどうかです。危険性も全部は解明出来ておりません。ですが、これを試さなければ、結果は見えています」

麻美は主治医の話を黙って聞いている。

「この治療方法を施療するにはお母様の承諾が必要です。急を言って申し訳ありませんが、御承諾を頂けますでしょうか、それとも」

「承諾致します。宜しくお願い致します」

最後まで言わせずに、麻美は承諾する旨を述べ、頭を下げた。

「わかりました。実はまだこの薬は出来ていないのですが、急がせます。あさっての朝、遅くとも昼には着くでしょう。

そこまでなんとか彼の体力が持てば回復する可能性は高いです。それでは、二階堂さん?」

主治医は二階堂という名の看護士に指示を出す。

「後で、承諾書にこちらの御坂さんのサインと捺印をもらっておいて下さい」

「はい、わかりました」

「有り難うございました」 と頭を下げる麻美に「いえ、どうも」という感じで手を挙げた主治医は疲れた様子で専用通路へと姿を消した。

「御坂さん、お部屋はこのE棟です。10階の8号室ですので、E-1008と覚えておいて下さい。

ナースセンターは各階のエレベーターホール脇にありますので、病室に入られる前、お帰りになる際にお立ち寄り下さい。

面会時間は全棟共通で8時から22時まで、一緒ですね。何か御質問は御座いますか?」

「いえ、どうも有り難うございました」

「それでは、すみません、先ほど先生が仰いました承諾書にサインをお願いしたいので、私と一緒に事務所に来て頂けますか?」

やっと、やっと来たか……と麻美は看護士について廊下を歩いて行く。

(一麻、少しだけ辛抱するのですよ、きっと、きっとこの薬で貴方は……)

病魔と闘っている息子・一麻を思う麻美であった。


その日、そしてその翌日も一麻は集中治療室から出てこなかった。

この頃にはジャッジメント総合病院でも御坂麻美の顔はそれなりに覚えられてきており、すれ違う看護士たちから挨拶されたり「早くよくなると良いですね」と声を掛けられるようになっていた。

だが、火曜日の夜が来ても、彼女に「新薬の投与の打診」は来なかった。

3日目、水曜の昼になっても何の音沙汰もないことに、麻美はいらだっていた。

(このひとたちは一麻を見殺しにする気なのでしょうか?)
(何を言うのです。製薬会社の営業マンがお話を持って来たのは昨日のはず。昨日来て直ぐOKが出るはずが無いでしょう?)
(そんなことを言って、一麻は必死で病気と闘っているのです、一刻を争うというのに、そんなことでいいのですか?)
(貴女はお医者様でもないのに何を知ったかぶりをしているのですか、慎むべきです)

そして、その日の夕方。

集中治療室の近くにあるリラックスルームに一人ぽつんと詰めていた麻美の前に、主治医と主任看護士が現れたのだった。

「御坂一麻くんのお母様、でいらっしゃいますよね?」

「はい。一麻の母、御坂麻美です」

「主治医の神原と申します。手短に申し上げます。病因については、当初は急性リンパ症の白血病でしたが、ただ、これについては相当のところまで回復したようです。

その点は御認識されていらっしゃいますでしょうか?」

麻美は無言でうなずく。

そう、あんなにもあの子は元気だった。

だった……。

「ところが、一昨日の月曜の朝に一麻くんは突然倒れ、直ちに集中治療室に運び込まれた訳ですが……予想外の事態が起きておりました。

正直、あまりの激変に我々としては目を疑ったのですが……全身ガン、と言うような状態が起きておりました。

しかも、誠に失礼な言い方で申し訳ないですが、異常なほど、進行が早いのです。こんな事例は見たことがありません。

当病院で現在やれることは全てやりましたが、残念ながらお子様の容態は予断を許しません。

今現在、一つだけ手を付けていない方法があるのですが、この薬はまだ安全が確認されておりません。

成功する確率は半分あるかどうかです。危険性も全部は解明出来ておりません。ですが、これを試さなければ、結果は見えています」

麻美は主治医の話を黙って聞いている。

「この治療方法を施療するにはお母様の承諾が必要です。急を言って申し訳ありませんが、御承諾を頂けますでしょうか、それとも」

「承諾致します。宜しくお願い致します」

最後まで言わせずに、麻美は承諾する旨を述べ、頭を下げた。

「わかりました。実はまだこの薬は出来ていないのですが、急がせます。あさっての朝、遅くとも昼には着くでしょう。

そこまでなんとか彼の体力が持てば回復する可能性は高いです。それでは、二階堂さん?」

主治医は二階堂という名の看護士に指示を出す。

「後で、承諾書にこちらの御坂さんのサインと捺印をもらっておいて下さい」

「はい、わかりました」

「有り難うございました」 と頭を下げる麻美に「いえ、どうも」という感じで手を挙げた主治医は疲れた様子で専用通路へと姿を消した。

「御坂さん、お部屋はこのE棟です。10階の8号室ですので、E-1008と覚えておいて下さい。

ナースセンターは各階のエレベーターホール脇にありますので、病室に入られる前、お帰りになる際にお立ち寄り下さい。

面会時間は全棟共通で8時から22時まで、一緒ですね。何か御質問は御座いますか?」

「いえ、どうも有り難うございました」

「それでは、すみません、先ほど先生が仰いました承諾書にサインをお願いしたいので、私と一緒に事務所に来て頂けますか?」

やっと、やっと来たか……と麻美は看護士について廊下を歩いて行く。

(一麻、少しだけ辛抱するのですよ、きっと、きっとこの薬で貴方は……)

病魔と闘っている息子・一麻を思う麻美であった。


わずか4日前には元気だった一麻が。

もう退院出来るのではないか、と思っていた息子が。

白血病という恐ろしい病気に打ち勝っていたはずのあの子が。



木曜の朝一番に、指定された病室に飛ぶが如く入った麻美は、息子の変わり様を見て足がすくむ思いだった。

彼の顔色は土気色でむくみ、髪の艶は落ち生気を失い、肌は荒れていた。

彼の身体には生体モニターからの配線が這っており、モニターの画面は彼の生命活動のさまが表示されていた。

今まで多くの患者を見てきた彼女には、今の息子の状態が手に取るようにわかった。



   ――― こ、 れ、 は ―――



彼女の視線は画面に食いついたまま離れない。

(もはや、末期、ではないか)

彼女が今まで見てきた、「死」を迎えることになった患者そっくりだったのだ。

(この子は、死ぬ、のか)

ぞっとした。

思わず天井を見上げる。

真っ白な無機質な天井に張り付いた死神が、じっと息子の死を待っているかのように思えたのだ。

彼女自身はオカルト信者ではない。

だが、数多くのミサカたちがテレビ・雑誌・本・ネット等のメディアから得てきた内容で、神や悪魔、仏、そして天国や地獄といった事も知識として知っていた。

看護士として、幾多の生死を見続けてきた彼女だったが、血を分けた可愛い我が子が死の淵に立たされた今、その知識の一部が思い出されるのだ。

(こう言う時、ひとは『神にすがる』というのでしょうか?)

彼女は、息子が助かるのであれば、それがたとえ悪魔であろうとも喜んですがりつきましょう、と思うのだった。


昼、一麻は目覚めた。

「あれ……母さん? どこ、ここ?」

声に力はない。だが、紛れもない息子の声に、少し麻美は安堵する思いだった。

「ここは、ジャッジメント総合病院ですよ? よく眠れましたか?」

「ジャッジメント総合病院……? 部屋違ってない?」

「替わりました。前より眺めのよい部屋になったのですよ?」

「そうなんだ……よかった。何処かと思ったよ……あれ? 身体、動かないや」

「まだ麻酔が効いているのです。無理してはいけません」

一麻は面白くなさそうに目を閉じた。力が抜けたのがわかった。

しばらくして、彼は目を開くと

「母さんさ、自分の生体電流ってわかる?」 と、視線を天井に向けたまま訊いてきた。

麻美はどきっとした。 

(この子は、自分の生体電流の調子から、自分の容態を認識してしまったのではないだろうか?)と。

   

彼女は発電能力者である。欠陥電気<レディオノイズ>というレベル3であるが、それでも自分の生体電流の動きはわかる。

20年という年月を重ねてきた彼女は、自分の身体が正常な時はどうか、生理の時はどうか、風邪をひいた時はどうか、それぞれのパターンを覚え込んできた。

故に逆に生体電流のパターンから自身の身体の調子がわかるのである。

「ええ。もちろんですよ。母もレベル3の発電能力者(エレクトロマスター)ですからね。貴方もわかるのですか?」

「……わかるっていうのかな……今まであまり気にしたことなかったんだけど……俺の今の身体って、めちゃくちゃなんだなって」

「普段と全然違うのね?」

「……うん。いつもはさ、何も感じないんだよ……今思うとね、確かにさ、風邪ひいた時なんかは、ヒーターぶちこんだように発熱するような動きをするんだよ。

そうか……これが、そうだったんだってさ……」

麻美は体温の項を見る。38度1分。かなり高めだ。

「熱が上がっています。喉は渇きませんか?」

「少し」

「では湯冷ましにしましょうか」

「コーラはダメ?」

「それはダメです」

「ダメか……」

力無く微笑む一麻がいじらしかった。

コーラでも何でも、好きなだけ飲ませてやりたかった。

母親なのに、何一つ子供の頼みを聞いてやれない自分の無力さが悔しかった。歯がゆかった。

情けなさに、涙がこぼれそうだった。


そして金曜日。

美琴が朝一番に飛んで来た。

今日は幸い大した用事もなかったので、美子と琴子に全部押し付けてきたのである。

尤も、彼女らも麻美の子供が病気だということは知っており、二人とも嫌な顔もせずに引き受けてくれたのである。



だが、彼女はちょうど廊下で出くわした麻美の顔を見るなり、驚愕した。

化粧で誤魔化しているが、げっそりとやつれていたからである。

「ちょ、ちょっとあんた、大丈夫なの?」

「お姉様<オリジナル>、今日はいいのですか?」

生気のない目を美琴に向けて訊く麻美に、彼女は

「良いも何も、一麻くん、大変じゃないのよ! それで飛んで来たら、あんたまで……鏡見たの?」と問いかける。

「私は……私なんかより、あの子の方がもっと辛い目にあっています。このミサカの苦しみなど、取るに足りません」

「バカ! あんたのそんな姿見たら、一麻くんが心配で眠れないでしょ? ちゃんと食べてるの?」

麻美は目を伏せる。

むかっと来たのだろう、美琴はバッグから紙パックを取り出し、その包装を乱暴に破く。

「そんな調子じゃ、あんたが先にぶっ倒れるわよ……ほんとにゲコ太の話どおりじゃないのよ、まったくもう……ほら、口開けなさい!」

「お姉様<オリジナル>、それは?」

「良いから黙って飲み込みなさい!」

美琴が半分ほどむき出しになったゼリースティックを強引に麻美の口元に突きつけると、彼女は観念したようにそれを飲み込んだ。

「そうよ、どう、自分のとこの栄養剤の味は? 患者には食べさせてるんでしょ?」

どうだ、と言う顔の美琴に、麻美は無表情のまま、

「味が、わかりません」と小さく答えた。

「わかんなくてもいいから、ほら、あと2つ! 死ぬ気で食べる!」

ぐいと突き出された、そのゼリースティックを、麻美は受け取った。

「馬鹿ね、そんな死にそうな顔で子供の前に出ちゃだめでしょうが……」

美琴の声が震えていることに、この時の麻美には気づくだけの余裕はなかった。


そっと部屋に入った美琴は、その情景に眉をひそめた。

生命維持装置のようにも見える機械類から伸びる数多いコード類。

その先はふとんに隠されている。

静かに枕元に近づいた美琴は思わず息を呑んだ。

(これ、誰よ……まさか、ほん、と、に、かず、ま、くん?)

数日前、一緒に並んで歩いたはずの一麻はそこにはいなかった。

1週間も経っていないのに、その変わりようを美琴は信じることができなかった。

そこにいたのは、やつれ果て、赤茶けた髪に変わってしまった男の子。

無表情の麻美が無言で隣に寄り添う。

(まさか、あの時、無理に呼び出したのが?)

「一麻がこうなったのは抜け出したせいではありません。お姉様<オリジナル>を責めることはありません」

(そんなこと、気にしてないわよ) そう言おうとして美琴は出掛かった言葉を飲み込んだ。

「あれ、おばちゃん?」

一麻が起きたからであった。

声は弱かったが、いつもの一麻の声。

外見が別人と思えるくらい衰えてしまっているだけに、その声に一層哀愁を感じてしまうのが、辛かった。

「びっくり、しちゃった?」

「ちょっとね、びっくりしたな」

そう、美琴はまじめな顔で彼に答えた。

「だよね……俺自身、びっくりしちゃったもん…鏡持ってきてもらって見たらこれだもんね…自分でもマジで驚いちゃった…」

苦笑する一麻。

「具合は、どうなの?」

「体力が落ちてて、参っちゃった……もう、麻酔効いてないはずなのに、身体を思うように動かせないんだよ?

なんかさ、この間のことが嘘みたいでさ…そうだよ、おばちゃんと庭を歩いたよね、あれ、1週間も経ってないよね?

ほんと参っちゃった……マジで俺、重病人だよね」

「一麻、少し休んだらどうですか?」

疲労の色が消えない息子を気遣って、麻美が会話に割り込むが、

「せっかく来てくれたんだよ……? 寝てばっかりじゃおばちゃんに悪いじゃん?」

「そんなことない、ごめんね、おばちゃんのこと気にしないでいいのよ?」

「そう? ごめんね、ホント情けないね、俺……」

「ううん、一麻くんの身体は病気と闘ってるんだもん、労わってあげなきゃ駄目よ」

「そう、だよね……」

そう言うと、彼はまた眠りに吸い込まれていった。

(お姉さま<オリジナル>、外へ)

小声で話しかけてきた麻美に美琴は青い顔でうなずくと、部屋の外へ出た。


飲料の自動販売機が並び、小テーブルがいくつか並ぶ休憩室に麻美と美琴はいた。

「どういうことなのよ、あの医者はろくに説明もしないで、『ミサカくんに聞いてほしい』って逃げるし、肝心のあんたは死にそうなくらい酷くやつれてるし。

一麻くんはあんな調子だし……もしかして、こないだの身体チェックのせいなの? それが原因なの?」

声は低いが、火の出るような勢いで矢継ぎ早に問いかける美琴。

前髪から放電していないのはさすがにお姉さま<オリジナル>も大人になったのだろう、と麻美はどうでもよいことを考えていた。

「ちょっと、麻美、あんた、本当に大丈夫なの? 私の言ってることわかる?」

「……あの子は、死にます」

ぽつりと、彼女はそう答え、美琴は絶句した。

「あの子は全身をガンに侵されています。痛みを抑える為に麻酔薬を投与されているので、身体を動かすことが出来ません。

でも、最後の頼みが……あの子を死の淵から救い出す薬が出来ると……それだけが私の、いえ、一麻の希望です」

「そうなの!? そんな薬があるの? じゃ、早くそれを投与すれば! 何してるのよ?」

美琴の顔がぱっと明るくなる。

「まだ、出来ていないのです、お姉さま<オリジナル>」

「何ですって、じゃいつ出来るの?」

「今日か明日、というところらしいのですが……」

「そんないい加減なことってあるの? 一麻くん、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょうに。

いいわ、私が聞いてきてあげる。何ならそこに乗り込んだっていいわよ? 

麻美、あんたは一麻くんに付いてなさいな、母親だものね。私に出来ることなんて、そんなことぐらいだから」

そう言い切った美琴はさっさとどこかへと向かう。

麻美はそんな姉を黙って見送ることしか出来なかった。



結局、脅しまがいに薬の製造元を聞き出した美琴は、その足で製薬会社へと向かい、細かいことを詰めてきた。

ある特定の原材料の在庫が日本国内になく、それは航空貨物で送られてくることになっていたのだった。

それが到着するのは今日の朝方の予定だったのだが、航空会社の機材の問題で到着が遅れ、昼過ぎになっていた。

最速で通関しても、製薬会社の工場へ到着するのは夕方。

普通に考えれば製造にかかるのは明日の朝から。出来上がるのは夕方から夜頃になると見られていた。

美琴が精力的に交渉した結果(脅したと世間では言われるであろうレベル)、すぐに製造に取り掛かる(実際のところ、人間の手が必要なのは最初だけであった)ことになった。

朝には薬は出来上がっているはずなので、検査員には早出してもらい(費用は広報委員会が負担し、美琴個人が穴埋めする)チェックを行った後、緊急車両で搬入することになった。

ジャッジメント総合病院への納入推定時刻は10時から11時。

これ以上は難しかった。

美琴は時間にこだわり、薬の納入時間を少しでも早めようとノーチェックを強く推したが、製薬会社がその話には首を縦には振らなかった。

ならば、と美琴が次に提案したのは、薬を搬入するのに緊急車両からテレポーターに変更することであった。

製薬会社のタイムスケジュールではここに1時間を当てていた。

彼女はそこを突いたのだったが、これも製薬会社が頑強に抵抗した。

自社の人間以外に任せるのは責任が取れないと言うのである。

「そうですか、仕方ありませんね」

美琴はわりとあっさりと引き下がった。

もちろん、明日の朝、テレポーターである白井黒子が、その薬を運ぶ人間ごと運んでしまえばいいと腹をくくったからである。

白井黒子は、自分のせいで御坂一麻の病気が悪化したのではないかと自責の念に駆られており、それを和らげる意味もあったのである。


(やることは、全部やった。あとは、一麻くんがどれだけ持ちこたえられるか、だわね……)

さしもの彼女も、こればかりはもうどうにもならない。

出がけに見た、彼の様子からすると、非常に厳しいのではないかと彼女は思っていた。

彼女が時間にこだわったのは、そのせいだった。

(しっかりしなさい、美琴! 悪いことばっかり考えても仕方ないでしょ?)

ろくでもないことばかりが頭に浮かんでしまう彼女は、自分の心を叱り付ける。

「さっきのジャッジメント総合病院へまた戻ってちょうだい。大至急ね!」

----------------------------------------

「あ、上条さん!?」

クルマを下りた美琴に声をかけてきたのは女子中学生。

佐藤操だった。

「えっと、佐藤さん……よね? 一麻くんのお見舞いに来てくれたの?」

「はい……でも、関係者以外面会謝絶だって言われて……」

「まぁ……」

そのとき、ちょっといたずらめいた気持ちが美琴の心に浮かんだ。

「貴女、『私は彼の嫁ですから』って言ってみた?」

びっくりした顔になる操。

(まずかったかな?) そう思った美琴に対して、操の反応は

「そうでした! そう言えば良かったんですね、もう一度戻ってちょっと言ってみて来ます!」

(ちょ、ちょっと、冗談を真に受けられても困っちゃうわ!)

「あ、佐藤さん、一緒に行きましょう?」

あわてた美琴は今にも駆け出そうとする彼女を止め、

「何か言われたら、私の娘ってことにするからいいわね?」と彼女に諭したのだった。

……幸いなことに、何か言われることはなかったのだが。



部屋に入ると、一麻は起きていて、母・麻美と話をしているところだった。

「カズにいちゃ……ん? どうしたの、その顔?」 と操はいきなりかましたのだった。

美琴は(なんてことを病人に言うの!?) と頭に血が上り、麻美はというと、逆にすっと血の気が引いたように(そう美琴には)見えた。

だが、一麻本人はというと、「だよなぁ、ひでーよな、こんなんじゃ。びっくりしただろ?」と笑っていうのである。

「病室も変わってるし、関係者面会謝絶って言われるし、嫁に断りなしでいろんなことされると困ります」と操は返す。

(ちょ、本気で『嫁』って言ってる? 麻美、どうなのよ?)

美琴は麻美の顔を見るが、彼女の顔にはいつの間にか血の気が戻っており、予想もしないことに、微笑みまで浮かんでいた。

(え、え、ええ??? 良いの? ほんとに?)

普段の一麻と操の会話を殆ど聞いたことのない美琴が面食らうのは無理もなかったが、母・麻美はとっくに慣れっこになっていたのである。 



まるでついこの間の、白血病を克服した、と思わせた頃のような一麻の様子に、麻美は勇気付けられる思いであった。

そして、息子をそういうように力づけてくれたこの小さな中学生、操に彼女の心は感謝の念でいっぱいだった。

ひとしきり他愛もない話で盛り上がっていた時。

一麻が何気ない調子で操に告げた。

「ごめん、母さんと2人で話がしたいんだけど……」


「……」

「そう、わかったわ。佐藤さん、出ようか?」

「……はい。ね、カズ兄ちゃん、また来ても良いよね?」

「うん。ちゃんと勉強してるか? 補習は辛いぞ?」

「大丈夫。心配しないで? ベストテンには入ってるもん」

「おぅ、そりゃすごいな……サトシュンとは違うなぁ」

「ちょっと、バカ兄と一緒にしないでくれる?」

「相変わらずひでーな、自分の兄貴だろ?」

「いいのよ、お兄ちゃんだから」

「ミサちゃん?」

「あ、すみません。じゃ、また明日来るから、お休みなさい」

「ああ、お休み」

美琴おばちゃんとミサちゃんが部屋から出て行く。

残ったのは母さん一人。

「一麻、疲れてはいませんか?」

「あはは、しゃべってるときはそうでもなかったんだけど……ちょっと疲れたかな」

「それはいけませんね。安心してもう寝なさい? 母はちゃんとここにいますから」

「母さん……」

「なんですか?」

「俺、死ぬんだよね?」

「そのようなことを言うものではありません。心を強く持たねば治る病気も治りませんよ?」

「そうだね……母さん、俺、死にたくないよ」

「! 一麻……」

「怖いよ、母さん。俺、母さんと一緒にいたいのに、なんで死ななきゃいけないんだろう?

おかしいよね、いやだよ、死にたくないよ! 母さん助けて……」

起きあがろうとする一麻。だがもはや彼の肩には腕を上げるだけの力も入らない。

「起きあがることも出来ないんだね……情けないよね。ねぇ母さん、俺、今日寝たら、明日起きれるのかな?」

「そんなことはありません。明日、目を覚ませば、きっと起きることが出来て、また三人でおうちへ帰ることが出来ます。

もうすぐ薬が出来上がると、母は秘密の情報を入手していますから」

「そうなの? そうか……じゃぁもう少し我慢すればいいんだね? 良かった……死ななくて済むんだ。

じゃぁ、退院したら焼肉の食べ放題に行きたいな。あー焼肉食べたいな……ね、お父さんまだかな?」

「先ほど、空港から連絡がありましたよ? もうそろそろ着くのではないでしょうか(なぜ連絡が来ないのでしょうか、あのひとは!)」

「母さん、疲れない? 休んでも良いよ。あ、傍にはいて欲しいけど」

「大丈夫ですよ。母は看護士なのですから、これぐらいどうということはありません。ちゃんと一麻の傍にいますから、安心してお休みなさい?」

「ごめんね、心配させちゃって。なんでこんな事になったんだろ、参っちゃうよ」

一麻は目を閉じた。

やがて、穏やかな寝息が、だが酷くか細いその寝息は今にも消えそうで、麻美は彼から目を離すことは出来なかった。

気を逸らしたその瞬間、息子の呼吸が確認出来なくなるのでは、と思えたからだった。

当麻が部屋に入ってきた時も、彼女は息子の手を取ったまま、微動だにしなかった。


翌日、土曜日の午後1時。

超特急で作られた、成長促進剤の副作用を消し去る特効薬が出来上がってきた。

母・麻美がとっさについた悲しい嘘は事実となった。

しかし、間に合わなかった。

朝9時11分。

御坂一麻の心臓は鼓動を止めた。



あと1日早ければ。いや、半日でも助かったかもしれないのに。

関係していた人々は、運命の皮肉を呪った。



学校を終え、一麻のお見舞いに来た長谷川優子を始めとするクラスメートは、ナースステーションで呼び止められ、彼の死を告げられた。

彼の死を信じられない、信じたくない長谷川優子はまるで狂ったかのように10階の病室まで突進し、誰もいない空っぽの部屋に驚愕し、悲鳴をあげた。

「みさかくーん!! どうしてよぉ!? なぜなのよぅ!?」

後を追ってきたクラスメートは、廊下にまで響く彼女の悲嘆の叫びに誘われるように、一斉に嗚咽の声を上げた。



しばらくして病院に着いた佐藤操は、職員に付き添われて歩いてくる、号泣する彼女ら、一麻の同級生の姿を見、立ちすくんだ。

何が起きたか、彼女は悟ってしまったからだ。

だが、彼女もまた信じられなかった。信じたくなかった。

自分が想像した、恐ろしい結末を信じたくなかった。



彼女は思わず、大好きなお兄ちゃんがいるはずの部屋を思い浮かべた。

必死にその部屋にいるはずの、一麻の姿を見ようと思った。

強く、思い切り強く思ったその時。



彼女の脳裏に、主のいなくなった、がらんとした部屋が鮮やかに写った。

「!!」



    ―――― ピーィィィィィィィィィ!!!!!!!! ―――



その瞬間、彼女は頭が割れるような暴力的な音を聞いた。

「キャッ!?」

彼女はその音に耐え切れずに床に崩れ落ちた。



キャパシティダウナーが作動したのだ。

佐藤操に、彼女の能力、透視能力<クレヤボヤンス>が発現した瞬間、であった。



一麻を荼毘に付したあと。

麻美は憔悴しきっていた。

一麻の父である上条当麻も疲労しきっていたが、麻美の状態はもっと酷かった。

肉体的に疲労しきっていた上に、精神面でも決定的な打撃を受けたのだから、見るも無残な状態なのは誰の目にも明らかだった。

さしもの美琴も彼女を危惧した。

「あんた、あの子についてて。目を離したら駄目よ」

「ああ。もしかすると暫く戻れないかも知れないな……」

「……仕方ないでしょ。あの子を今、守れるの、あんただけだから。それに、そもそもあんた父親だし。あ、なんかあったら」

「ああ、そうする」

夫婦ならではの会話。以心伝心である。

美琴は携帯の非常ボタンに当麻の携帯番号を、当麻は美琴の番号を登録してある。

これは音声・メール同時強制通信ボタンである。

「じゃ、頼むわね」

「すまん。許せ」

「いいから、とにかく絶対に目を離さないでいてよ?」



殆ど意思を持たぬかのような、心ここにあらずといった麻美を、当麻は抱きかかえるかのようにして車に乗せ家へと帰る。

だが、思わぬことが起きた。

車から降りたところで彼女は立ちすくみ、顔を覆う。そこは、二人の家の前。

「どうした?」

いぶかる当麻に麻美は激しく頭を振る。

「いやです。家は、家は辛いです。あの子のいない家など、入りたくありません!」

当麻はなんとなく彼女の言葉を理解した。

一麻と生活を共にした我が家。

そこには息子との思い出が沢山詰まっている。

何を見ても、何を触っても、一麻の記憶が蘇り、それが彼女を苦しめるのだと。

二度と会えなくなってしまった、息子との思い出が。


当麻はまだフリーにしていなかった車に戻り、運転手に「インペリアルホテルへ」と言いかけたが「ちょっと待って」と止めた。

外交委員会が契約しているインペリアルホテルは以前、家族三人が泊まった事がある。

(同じ事だな)

当麻は家に背を向けて寂しく佇む麻美の肩を優しく抱き、再び車に乗せ、自分は外で美琴にメールを打った。

「広報委員会で使ってるホテル・ダイヤモンドプリンセスは使用予定あるかな?」

直ぐに美琴から返信が来る。

「家はいやだって?」

それを見た当麻は音声通信に切り替える。

「今どこ? 電話、いいの?」美琴が開口一番低い声で訊いてくる。

「ああ、(麻美は)車の中にいるから。俺は外で電話してる。で、良くわかったな?」

「そりゃ見当つくわよ。今見るけど……あんたの知ってるホテルはダメなの?……あ、アンタら泊まったんだっけ……?」

「ああ……インペリアルはさ、昔、一麻と相撲取ったことあるんだよ。あいつ怒ってな……覚えてるだろうから行っても同じ事になりそうでさ」

「そういうアンタだってどうなのよ?……見たけどざっと1週間ほどは空いてるわね。その後は来客やらで埋まってるけど、運が良いわね」

「すまん、使わせてもらっていいか?」

「つまんないこと訊くけど、費用はどこに請求すればいいのかしら?」

「いいよ、自分で払うさ」

「へぇー、昔のアンタに聞かせたいわねー」

「すまんが、今、笑う元気もないんだが」

「……ごめんなさい。じゃ私、ホテルに連絡しておくね」

「じゃ」

「あの子を、頼むわね」

美琴は話を終えた。

「お姉様<オリジナル>、検体番号10032号は大丈夫なのですか?」
「あのひとも一緒なのですか?」

琴子(元:検体番号19090号)が、琴江(元:検体番号13577号)が、口々に美琴に聞く。

一人、美子(元:検体番号10039号)だけは少し離れて黙ってじっと佇んでいた。


麻美をそっとソファに座らせ、気付けにでも、と予めルームサービスに準備させておいたブランデーをグラスに注ぎ、彼女に強引に飲ませる。

人形のように、なすがままの麻美。

当麻は無言で彼女を抱きしめる。

されるがままの、麻美。

「悲しいな」  ぽつりと当麻が言う。

「はい」  消えそうな小さな、小さな声で麻美が返事をする。

「今日は、一緒にいるから」

「はい……あなた?」

「なに?」

「悲しいですか」

「悲しいよ。もうどうしようもないほど、な」

「わたしは……こんなに悲しいのに……涙が出ないのです」

「ショックが大きすぎるとな……人間て、泣けないこともあるらしいぞ? 俺は、泣きたい、けど、さ……」

麻美の視線がゆっくりと当麻の目に向いてくる。

彼女の愛するひと、当麻の両目からは大粒の涙が次々と垂れ、頬からあごへと伝ったそれは彼の喪服にしみを作っていく。

ぼんやりとした意識の中で、麻美は思う。

(ああ、あなたも、辛かったのです、ね)

涙はやっぱり出てこないけど、でも、わたしは、

悲しい。

辛い。

悔しい。

寂しい。

どうして、どうして……

一麻。

どうして、貴方は……



「あなた」

そっと胸板に顔を押しつけて、麻美はしがみつく。

「あなたまで、いなくならないで下さい。わたしから離れないで下さい、一人にしないで下さい、御願いです……」

当麻は涙を流しながら、うわごとのように「いなくならないで」と繰り返す彼女をしっかりと抱きしめていた。


第十学区、通称墓地ビルの前に私はいる。



私は、御坂美琴お姉様<オリジナル>のクローン、検体番号10032号。

「量産能力者(レディオノイズ)計画」で生み出され、 「絶対能力進化(レベル6シフト)」に用いられた「実験動物」だった。

その私に、名前がついた。「人間」の名前が。

御坂麻美(みさか あさみ)、それが私が頂いた名前だ。

そう、お姉様<オリジナル>のお母様、<美鈴>と、あのひとの<当麻>から1文字ずつ取ったものだ。

お姉様<オリジナル>は、あのひとの「麻」と言う字と自分の「美」を勝手に使ったと烈火の如く怒ったことがあった。

「私に黙って、誰に断ってその字を使ったの?」とまで仰った。

でも、この名前を考えて下さったのは、実は美鈴お義母さまだったのだ。

「美」はお姉様<オリジナル>の「美」ではなく、美鈴お義母さまの「美」なのだ。

でも、それを言うと、きっとお姉様<オリジナル>はお義母さまを責めることだろう。ならば黙っているべきだと私は思い、そうした。

1万人近い私の妹達<シスターズ>のなかで、お二人から1文字ずつ頂いた名前を持つクローンは他にいない。

検体番号10039号はさぞ悔しがっていることだろう。

「貴女だけが、ミサカ達の中でどうしていつも特別扱いなのですか、とこのミサカは……」

容易に想像がつく。



ミサカ達に名前が付いたのは、私に子供が出来たからだ。

あのひとを巡って、ミサカたちの間で争奪戦が起きた後、あのひととお姉様<オリジナル>が妹達<シスターズ>に名前を付けて下さった事は私は後で知った。

でも、日本の法律上ではミサカたちは幽霊のままだった。

私の子供がこのままでは戸籍なしの幽霊になりかねない、最悪の場合チャイルドエラーにもなりかねない、と旅掛お義父さまは非常に心配された。

お義父さまの昔からのご友人の一人が市長をされていたことで、そのツテでミサカ達に戸籍が与えられることになったのだと。

私だけではない、とりあえず学園都市と日本にいるミサカ全員が対象とされた。上位個体が調べたその数はおよそ50名弱。

元々日本国内にいたミサカは20名ほど、そして学園都市にはこのミサカを入れて4名だったから、いつのまにか倍になった計算になる。

あまりの数の多さに、役所も驚いたらしい。

しかも私達は基本的に同じ顔、同じ血液型、同じ体格(いや少し違うところもあるようだ)、まぁ普通の人には区別が付かないから仕方のないことなのだけれど、最初は戸籍の不正取得と疑われたらしい。

それでは、というので、私達はまず学園都市と日本国内にいて直ぐに集まれる11人が実際に役所に行ったのだ。

もちろん、お姉様<オリジナル>と御両親の3人も。

いつもはみな違う服装、違う髪型でいる私達だが、そのときは意図的に全員が同じ格好で行った。

お姉様<オリジナル>と上位個体だけはあえて違う格好だったけれど。

今でも笑ってしまう。

10人の同じ格好をした、同じような顔のミサカ達がぞろぞろと会議室に入って来たときの、お役所の人たちの顔を思い出すと。


整形手術で似せたのではないか、という疑問に対しては、DNA検査データが代わりに回答してくれた。

半信半疑だった人たちも多かったのだろう、その場で簡単な検査が行われ、ミサカ達の生体認証部分、指紋や声紋、虹彩、手相、静脈形態は全員が異なる事が判明した。

驚きの声が挙がったが、同時にミサカネットワークでも結構な騒ぎが持ち上がった。

ミサカ達は、お姉様<オリジナル>のクローンだから、遺伝子的には同一、だから全部一緒、という思いこみがあったからだ。

もちろん、一部のミサカにはこのことに気が付いているものもいたが、あまり深く考えていなかったらしい。

妹達<シスターズ>のミサカたちは、一人一人が全く別の、れっきとした「個の人間」である、ということに気が付いていなかったのだ。



「半信半疑でしたけど、皆さんにお会いして見て、ウソではないことがよくわかりました」 と市長さんは旅掛お義父さまにそう言い、

「それでは早速、手はず通り私が手続きしてきますのでお待ち下さい」と戸籍管理課の課長さんがあたふたと部屋を出て行った。

「しかし、とんでもないところですなぁ、学園都市というところは」

市民部の部長さんが何気なく言ったその言葉に、美琴お姉様<オリジナル>が口元をゆがめたのは私の見間違いではない…はずだ。



1時間ちょっとで、課長さんが汗を拭き拭き戻ってきた。

「お待たせしました。これがみなさんの戸籍謄本です」

たった1枚の紙。

「御坂麻美」

でも、これで私は、私たちはもはや幽霊ではなくなったのだ。



そのキッカケを作ってくれた、私の子供。

御坂一麻(みさか かずま)。

私の、一麻。

私の息子。

私の味方。

私の分身。

私の希望。

それが。

そんな。


一麻。

あの子は、そして……そして、私の、このミサカの身代わり。

あの子は、私の身代わりとなって、短い一生を終えてしまった。



今でも信じられない。

信じたくない。

家に帰ると、いつもあの子が迎えてくれた。

「遅いよ、かあさん。今日は母さんの番だったろ?」って。

ふくれっ面のあの子の顔が、もう一度、もう一度でいいから、見たい。



「俺、母さんに似てるってみんなから言われるんだ」

ああ、それがどんなに嬉しかったか。

私にとって、それがどんなに誇らしかったか。

私に似た、わたしの息子。

私が産んだ、わたしの子供。

なのに、あの子は。




夢ならいいのに。

いや、そもそも夢だったのだろうか。



そんなことは、ない。

絶対にない。

あの子は間違いなく、わたしのお腹で命を授かり、わたしの腹を痛めて、わたしの元へやってきた。

私はこの手であの子を抱いた。とてもちっちゃな、でも、立派なひとつのいのち。

あの子に乳を上げた。

あの子は、生きていた。

わたしと、共に。

わたしの身体が、あの子を覚えている。



「あさ……み?」

不意に私は呼びかけられた。


振り向けば、そこには、美琴お姉様<オリジナル>が立っていた。沢山の花束を持って。

そう言えば、この感覚は、お姉様の、レベル5のお姉様<オリジナル>の、強い感覚。

「おねえ……さま?」

「あの薬の増産分が出来上がったそうなの。もうすぐ世界中に送られるんだって。もうみんな、あの薬の残存成分で死ぬことはないわよ。

それに、何人かいる、妹達<シスターズ>の子供達も、ね」

「そう、ですか……」

良いことなのだろう。でも、

あの子は、帰って、こない。

あの子は、もういないのだ。

私は、あの子を、助けられなかった。

私は、あの子の、母親だったのに。

あの子は、私に助けを求めていたのに。

(母さん、俺、死にたくないよ)

ごめんなさい、一麻。

この母は、何も出来なかったのです。

「でも、でもね? もう少し、もう少し早くできていれば、ね」

お姉様<オリジナル>、どうしたのですか? その涙は?

なぜ貴女まで泣いているのですか?

「あの子を死なせる事なんか無かったのに! あと1日、いいえ半日早ければ!」

お、お姉様<オリジナル>……私も……? 

「泣かないで下さい、御願いです……わたしまで……」

「う、うるさいわねっ! 泣いちゃうっていうなら泣けばいいでしょ! いいえ、泣きなさいよ! 泣いて上げなさいよ、あの子のために!

あんた、母親でしょ? あの子の母親なら、思いっきり声出して泣きなさいよぉっ! 

母親のあんたが泣かないで、誰が泣くっていうのよっ!! ばかっ!!」

美琴お姉様が私に抱きつく。

お姉様が、お姉様の身体が震えている。

お姉様の涙が、暖かい涙が私の肩にぽとぽとと落ちて流れて行く。

「はは、お……や」

そう、わたしは……だめだ。

今まで何処にあったのだろう、心の底から感情の固まりが一気にこみ上げてきた。これは無理だ、私は我慢出来ない。

「あああああああ、かずま、かずまぁっ!」

慟哭の叫びが自然にほとばしる。堰を切ったように涙が溢れる。

わたしは、この感情を、押さえられない。

悲しみが、ふくれあがる。

どうして、あなたは、この母を置いて死んだのですか?

なぜ、この母の身代わりに、どうして、あなたが死んでしまったのですか?

「どうして、どうして、どうしてっ!!!!!!!!!????????????」
「ばかっ! ばかっ! ばかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

双子のような女性二人は、墓とは呼べないような、その前で、抱き合いながら号泣していた。

いつまでも。


<エピローグ>

「それでは、行ってきます」

「済まないね、荷物運びのマネ事までさせてしまって」

ここは第二十三学区の国際空港。

生き残っている妹達<シスターズ>への特効薬の量産が成功し、全世界に散らばる彼女らにそれを送る段階になって、問題が発覚した。

元々の事の起こりが、彼女らに投薬された効果遅延型成長促進剤や成長安定剤等の、いずれも極秘内容の薬によるところのものであったわけであるが、今回製造された特効薬はそれらの薬の長すぎる効能を分解するので、この薬が奪われたり横流しされたりした場合、もとの成長促進剤の成り立ちが解析される恐れがある、というのがその懸念であった。

更に、新しい成長安定剤も追加されているので、学園都市は必然的に非常に神経質にならざるを得なかったのである。

その結果、ならば彼女たちが服用するところまで確認すればいいじゃないか、という常識はずれのような対案が出され、あっさりと決まったのである。

当然ながら、その役目をする人間はその対案が出た時点で既に想定されていた。

その人間の名は、もちろん、学園都市外交委員会メンバー 上条当麻、であった。

「いえ、僕もこういう役目ですからね……でも、沢山のあいつらに会えるわけですから、今まで誰もこういう事やったことないですし。

それに彼女たちの実態を誰も把握出来ていないわけですから、会って話を聞いてくるのも、学園都市に生きる者の義務かな、なんて思うんで」

「えー、わたしはちゃんと全員把握してるもんって、アナタの今の発言の一部に異論をとなえてみたりして」

「あはは、そうだったね、未来ちゃん。連絡はしてくれたよね?」

「もちろんです。その為の私なんですからねっ? だ・け・ど、上条さん、みんな手ぐすねひいて待ちかまえてますからね? 

『身体に気をつけて』下さいね? 途中でへばられたら私たち妹達<シスターズ>みんな困りますからって、重要な注意を報告してみたり~」

「なんですか、その強調する発言の意味するところは?」

「えー、知ってるくせにー。検体番号10777号なんか、ロシアから帰さない宣言しちゃって、今ネットワーク炎上中なんですけど?」

「まぁ、上条君、とにかく彼女らに薬をちゃんと飲ませて、そしてちゃんと戻って来てほしいんだけれどね?

一度じゃ無理と言うことで、6回に分けているんだけれど、時間を掛けすぎるとあっという間に1年くらい経っちゃうからね? 

その間に発症されちゃったら可愛そうだからね。速やかに処置しなければいけないことはわかるだろう?」

「ええ、わかります」

「あんまり時間がかかるようだったら、手分けしても良いんだよ? 話をしたら君の奥さんなんかは自分が全部やる、なんて言いそうだしね?」

「先生、今の発言、既にもう非難囂々なんですけれど? それなら学園都市に来て当麻さんからもらいますって意見に賛同者が増えてるんですけれど♪」    

「うは、未来ちゃん、そいつらに言ってくれ、オレが行くから待ってろって。また前みたいな大騒ぎはカンベンしてくれって」

「ちぇ、また大勢集まったらそれはそれで楽しいのにな、って私はちょっと不満を述べてみる」

「なら未来ちゃんも一緒に来れば? もう何も支障ないだろ?」

「えー、だってミサカはあのひとを置いては行けないし……一緒に行ったら、お姉様<オリジナル>が激怒するし、それはそれでいろいろと問題起きるし……」

「お、そろそろ時間だよ? 優先出国出来るとは言え、早く行った方が良いんじゃないかな? じゃ、宜しく頼むね?」

「はい。それでは行ってきます。じゃぁな未来。元気そうで安心した。みんなに宜しくな!」

「はーい! それでは早速スレ立てと……」

【お待たせ】上条当麻出発したよ!【今度こそ】

(出たか……)
(ふっふっふっ 帰さないよー)
(ふざけんじゃない、あたしの彼を取るんじゃないわよ)
(誰があんたの彼だって? 寝言ほざくんじゃないわよ)
(薬を頂くのですから、こちらも薬を差し上げて、ぐふふ)

「あーあ。彼、帰ってこれるのかなー。次の候補、考えておいたほうがいいかなぁ……」

当麻を見送った御坂未来は、ため息と共に一人ごちた。


「かみじょう、とうま様でいらっしゃいますね? 本日は御搭乗有り難うございます。お席は……3Aですね、どうぞこちらへ」

アテンダントが席へ案内する。

その隣、3Bには、妻・美琴が「ふふ~ん」と言う顔で既に座っていた。

「あれ? なんでお前が……?」

「フン、いて悪かったわねー、でもね、あんた、絶対感謝するわよ? 

あんた一人であの子たちのところへ行ったらアンタ絶対帰ってこれないもの。賭けてもいいわよ?」

「そ、そうか?」

「……あんた、妹達<シスターズ>って言うかオンナの事、なめてない? あんた、異国の地で乾涸らびて死にたいわけ?

大陽が黄色く見えるどころじゃないわよ、きっと?」

「うえ、それは勘弁してくれよなぁ」

「そ。だから私があんたの護衛を務めたげるから、安心してなさい」

(つーか、それ、お目付役だろ……?)

「何か?」

「何も」

「ならよろしい。ほら、他の人の邪魔だから。ボケッとしてないの!」

(……まあいいか。ずっと美琴とはすれ違いだったし)

大切な特効薬を入れたバッグを自分のシェルの足元に置くと、再び彼は隣の美琴のシェルをコンコンと叩き、中に座っている彼女を見る。

美琴は(なぁに?)という顔で彼を見上げる。

「頼むな」と当麻が笑ってウインクすると、美琴はわずかに頬を染め「まかせて」と微笑んだ。


「御坂くん、いいのかね?」

「はい。今までずっと休んでおりましたが、復帰したいと思いまして」

ここは、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>、カエル顔の医者のいる病院。

御坂麻美は久方ぶりにここへやってきていた。

「それは、きみのようなベテランが戻ってくれるのは非常に心強いのだけれどね」

「そうですか、そう言って頂けるとわたしも嬉しいです」

そのとき扉が開かれ、よく似た看護士が飛び込んできた。

「検体番号10032号、貴女、もう良いのですか? またここで働くというのは事実ですか? と、このミサカは確認を取ります」

「ええ、検体番号13577号、わたしは復帰しますから、また宜しく御願いします」

「それは素晴らしいことです、また二人でしっかり働きましょう、とミサカは喜びを全面に表して検体番号10032号の復帰を心からお祝いします」

(まぁ、家にいれば気も塞ぐし、鬱にもなりかねないから、働くというのも精神にはいいかもしれない。気も紛れるだろうし)

しゃべる二人の妹達<シスターズ>を見ながら、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>ことカエル顔の医師はそう考えていた。

彼もまた、直接的に彼女の息子・一麻の治療に当たっていたわけではなかったが、彼の死にはかなりのショックを受けていた。

(冥土帰しなんて名前をもらって自惚れているようでは、私も医者失格だな。まだまだ精進する余地あり、だね。

一麻君、すまなかった。見ていてくれ、君の死は無駄にはしないぞ)

-----------------------------------

御坂麻美はまた、第十学区の墓ビルにやってきていた。

その入り口で、彼女は三人の女子中学生の傍を通り過ぎた。

一人は顔を手で覆い、しゃがみこんで泣いていた。二人の女の子は中腰でその子を守るかのようにかがんでいる。

そして、その二人の女子中学生もまた泣いているのだった。流れる涙が頬を伝い、制服を湿らせていた。



ふと、麻美は足を止めた。

(今の子たちの制服は……確か)

あれは能力開発の名門、霧が丘女学園の制服。

(どこかで見た記憶が……ああ)

そう、一人は霧が丘女学園初のレベル5、として話題になった中学生の子かしら、と麻美は思う。

そう言えばその子は一麻が小学校6年生の時の同じクラスにいたことを思い出す。

(かしまし娘が霧が丘に行っちゃったよ。3人一緒になるとレベル5になるって面白いよね)

一麻はそう、そんなことも言っていましたね、と。



彼女は泣いている3人の女子中学生のところに戻り、そっと話しかけた。

「あの、もしかしたら、御坂一麻を尋ねていらしたのでしょうか?」

三人は弾かれたように立ち、麻美の顔を見ると驚きの顔になる。

「一麻の母です。息子がお世話になりました。ここまで来て下さって有り難うございます」

麻美が頭を下げる。

真ん中で一番激しく泣きじゃくっていた子は、蒼白な顔のまま、唇を振るわせて麻美を睨み付けるように見つめ、バッと思い切り会釈すると何も言わずに背を向けて駆けだした。

「あ? ハタちゃん!?」
「遥香!? 待ってよ、挨拶!?」

追いかけようとした残り二人の女子中学生は、あわてて麻美に向き直り、ぴょこんと会釈すると、走り去った女の子を追いかけて行った。

麻美は、そんな3人を見えなくなるまで黙って佇み、見つめていた。


息子・一麻の墓ケースを呼び出すと、なるほど、さっき納入されたのであろう新鮮な花束が3束載っていた。

その脇にも2束の花束があった。

一つは麻美には誰のものか、直ぐに見当がついた。

だが、もう一つは?



(一麻、あなたには、あなたを想ってくれる女の子のお友達がずいぶんといたのですね、操さん以外にも。

そういうところは、お父様に似たのでしょうか)

彼女は、空っぽの病室に入り込み、そして廊下にまで聞こえるほど泣き叫んだという女の子のものではないかと思った。

そして、彼女は息子に語りかける。



一麻? 美鈴お義母さまに聞きましたよ。

……あなたにあこがれて、その子はあなたを追いかけて、ここ学園都市に来たそうですね?

なのに、家にも呼ばなかったのですね。ずいぶんと冷たい仕打ちをしたのですね。

あなたは、わたしにそんな事をちっとも教えてくれなかったですね。いけない子だこと。



一麻、あなたのおかげで、母は命の尊さを改めて思い知らされました。

母はあなたを産むことで、命の重みを知り、あなたを失うことで残された者の悲しみを、ひとの心というものをわかったような気がします。



一麻、母は生きて行きます。

あの人と共に。

お姉様<オリジナル>と共に。

ここに生きる全ての人と共に。

そして、一麻、いつの日かこの母もあなたのところへ行きます。

その日まで待っていて下さい。

その日が来るまで、一麻、少しの間だけ、さようなら。






(御坂一麻物語 完)

>>1です。

本日の投稿は以上です。時間がかかってしまいまして大変申し訳ありませんでした。

新・学園都市第二世代物語、ようやく完結しました。
最初の投稿が2011年7月10日です。
2年半もかかりました。ちとかかりすぎでした。

この後は第三部の登場人物紹介を作り上げて完成となりますが、今日は無理ですのでまた次回、となります。

本日はこれにてお先に失礼致します。
最後までお読み下さいました皆様、本当に有り難うございました。

完結、乙です

不覚にも泣いたよ。

皆様こんばんは。
>>1です。

>>268さま
今まで長い間誠に有り難うございました。

>>269さま
有り難うございます。
そうコメントして頂けるますと作者冥利に尽きます。最後までお読み下さいまして誠に有り難うございました。

遅くなりましたが(いろいろありまして)第三部のラスト、登場人物紹介を投稿します。
それでは宜しくお願い致します。


<主な登場人物> 

*年齢は第三部における基本設定です。

1.主人公とその家族など

御坂一麻(みさか かずま)
*オリキャラ。 本作品の主人公。略称:カズ
学園都市第七学区立旭日中学校2年生 満14歳。発電能力者<エレクトロマスター> レベル2
父は上条当麻(かみじょう とうま)、母は御坂麻美(みさか あさみ)非嫡出子であるが、当麻は認知している。
母共々御坂家に預けられ、満四歳までは母麻美と一緒だったが、彼女は難病に冒され学園都市に戻されてしまう。
その後、母親代わりとなったのは御坂美鈴であった。(以上第一部)
小学5年生で能力が芽生え、学園都市に転入することになった一麻はようやく母・麻美と共に暮らすことになったのだが……。
なお、母親似であり、もてる。


御坂麻美(みさか あさみ:元検体番号10032号)欠陥電気<レディオノイズ> レベル3。
*妹達<シスターズ>の戸籍名は、当シリーズのオリジナル設定です。
御坂妹。満35歳。現在は冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤めている看護士。
学園都市第七学区にある病院社宅に息子・一麻と再び一緒に住んでいる。
*当麻の子を産むに至った経緯は前スレの第二部(>393以降)を御参照下さい。


上条当麻(かみじょう とうま)幻想殺し<イマジンブレイカー> レベル0
満37歳。表向きは貿易商社サイエンティフィック・インターナショナル・トレーディングに勤めるサラリーマン。
実は学園都市統括理事会外交委員会メンバーである。魔術サイドとの連絡・交渉役として引き込まれた。同僚には土御門元春がいる。
外交官であることは妻・美琴には内緒であるが、実は彼女はしっかり把握している。
御坂麻美に強引に関係を作られ一麻が出来た結果、当時婚約まで進んでいた美琴との関係は一度破綻した。
しかし、ある事情から美琴が彼を許したことで最終的に二人は結婚した。
妻・美琴との間には長女・麻琴(まこと 満12歳)がいるが、東京の当麻の実家、上条家(刀夜・詩菜)に預けている。


上条美琴(かみじょう みこと)超電磁砲<レールガン> レベル5 元学園都市第二位
旧姓御坂。満35歳。学園都市統括理事会広報委員。今なお学園都市の広告塔、イメージキャラクターである。
妹達<シスターズ>のうち2名を秘書として起用し、場合によっては影武者として行動してもらう事もある。
夫・上条当麻との間に長女・麻琴がいるが、普通の子として育ってもらう為に夫・上条の実家に預けている。
御坂麻美と上条当麻の間に一麻が出来てしまったために、かつて彼に注いでいた熱情は冷めてしまった。
しかし、自分の目的達成には当麻のネットワークが必要と考え、当麻と結婚した。非常に微妙な夫婦関係である。


御坂旅掛(みさか たびかけ)
*原作でも年齢不明なため、当SSでも年齢は設定していません。
上条(旧姓御坂)美琴の父。妻は御坂美鈴。エージェントの仕事は継続中。従って家にいないことも多い。
美琴から生き残っている妹達<シスターズ>がまだ数千人いる事を聞き、仕事のかたわら彼女らと接触を図っている。
彼の働きによって過酷な環境下におかれていた妹達<シスターズ>が救い出された事例も存在する。
*御坂麻美の回想にのみ登場。


御坂美鈴(みさか みすず) 
満57歳。上条(旧姓御坂)美琴の母。夫は御坂旅掛(みさか たびかけ)。
妊娠中の御坂麻美を引き取り、一麻が産まれてからもそのまま彼女ら親子を預かっていた。
一麻が四歳の時に母・麻美が病気に倒れ、その治療の為学園都市に戻ってしまってからは彼女が一麻を育ててきた。
いわば一麻の「育ての親」である。
*御坂麻美の回想にのみ登場する。当時の彼女は満47歳。


上条詩菜(かみじょう しいな) 
満57歳。上条当麻の母、美琴のお姑さん。
麻美が当麻の子を妊娠するに至った経緯から、詩菜は彼女を拒絶し、今も孫の一麻もひっくるめて認めていない。
その裏返して美琴には優しい。彼女が妊娠したことを報告に来た際に、子供の将来について美琴が悩んでいることを知り、解決策を提示した。
その結果、彼女とその娘(自身の孫娘にあたる)である麻琴を引き取り、美琴が学園都市に戻ったあと、親代わりとして麻琴を育てることになる。
結果的に、御坂美鈴と全く同じことを行ったわけであるが、これは無意識に彼女と張り合っていたからかも知れない。
美琴親子を引き取ると時を同じくして佐天涙子・利子の親子も下宿させることになり、それまでの逼塞した家から一気に大家族の家に変貌することになる。
*上条美琴の回想にのみ登場する。 当時の彼女は満50歳。


2.旭日中学校のメンバー

*当然ながら全員がオリキャラです。

①2年E組

速水和夫(はやみ かずお)能力不詳。
一麻とは心おけない友人同士である。

山口隆(やまぐち たかし)能力不詳。
上記の速水和夫と一麻とで3人組を組む。

佐久間翔(さくま しょう)能力不詳。

長谷川優子(はせがわ ゆうこ)念動力<テレキネシス> レベル2
小学校3年生の時に一麻と同じクラスになり、小学校5年生の2学期までずっと同じクラスであった。
その後、学園都市に移った一麻を追いかける形で彼女も学園都市旭日中学校へ入学してきた。
そしてここ、旭日中学校でも一麻の親衛隊を組織することになる。

轟友里恵(とどろき ゆりえ)保護色偽装<カメレオンフェイカー> レベル2
クラスでは一麻の隣に座っている。一麻のことが好きであるが、自分の容姿に自信が無く彼に話しかけられない。
器量が良くないことを逆手に取り、長谷川優子の親衛隊に入り、よく一麻の見張りと称して彼を追跡している。
彼女の妄想の中では、一麻と仲良くなっているのだが…。

高橋有希(たかはし ゆき)能力不詳。
御坂一麻親衛隊のメンバー。

浦崎真愛(うらさき まさえ)能力不詳。
御坂一麻親衛隊のメンバー。

綿貫紀美(わたぬき のりみ)能力不詳。
御坂一麻親衛隊のメンバー。

厨川楓(くりやがわ かえで)能力不詳。
御坂一麻親衛隊のメンバー。

②2年生その他

鈴木千春(すずき ちはる)能力不詳 2年生。
1年生の時、清水遥香と同じクラスだった女の子。

渡辺優香(わたなべ ゆうか)能力不詳。
2年C組の女の子。

③1年生

佐藤操(さとう みさお)能力不詳→?
母は佐藤敦子(さとう あつこ)、兄は佐藤俊介(さとう しゅんすけ:略称サトシュン)。
母・敦子は、御坂麻美が公園で卒倒したことを彼女の子供・一麻と共に御坂美鈴に急報したことがある。
そんなことから御坂一麻と佐藤家兄妹は小さい時からよく知っている仲であった。
兄も認める仲になった彼女は一麻が学園都市に行くのなら自分も絶対行くと言い、そしてその言葉通り学園都市にやってきた。
(作者注:前作「学園都市第二世代物語」に出てくる「佐藤操」と同一人物です)


水野沙也香(みずの さやか)能力不詳。
1年A組の女の子。

恵庭秀美(えにわ ひでみ)能力不詳。
1年D組の女の子。

佐々木悦子(ささき えつこ)能力不詳。
1年D組の女の子。


3,霧が丘女学院メンバー
*彼女らも全員オリキャラです。

清水遥香(きよみず はるか)<AIMアンプ> レベル0
「姦しむすめ」三人組の一人。学園都市に転入した御坂一麻は彼女らと同じクラスになった。
彼女の能力は、彼女自身にはなんら影響を与えないのであるが、彼女と仲の良い他の二人の能力を大幅に上げる事が可能であった。
御坂一麻を好いており、のちにとんでもないことをしでかしてしまう。

畑仲茜(はたなか あかね)<テレパス> レベル2→4
「姦しむすめ」三人組の一人。清水遥香により能力を増幅された彼女は、他人の思考を読みとり、それを第三者へ送ることが可能な場合がある。
(可能な場合、というのは誰でもOKという訳ではないからである)疑似脳波ネットワークを組める可能性があり、注目されている。
彼女も御坂一麻に好意を抱いている、らしい。

陵真由美(みささぎ まゆみ)物質創造<マテリアルクリエーター> レベル4→5
「姦しむすめ」三人組の一人。彼女の能力は、自らの意思でそこにあるものの分子構造を組み替え、全く別のものにしてしまう事が可能。
清水遥香により能力を増幅された彼女は、更に、他人の能力などで変質したものを、自らのイメージ投影で元のものに戻せる能力が加わった。


4.学園都市メンバー

白井黒子(しらい くろこ) テレポーター レベル4
満34歳。風紀委員会(ジャッジメント:のちにアンチスキル特殊任務委員会の一部を併合してジャッジメントステーツとなる)メンバー。
彼女はバツイチである。元夫との間に14歳になる漣孝太郎(さざなみ こうたろう)がいるが、別居している。


一方通行(アクセラレータ)レベル5 元学園都市第1位
御坂未来(みさか みく:元検体番号20001号と結婚しているが、子供はいない。
この第三部では最初に少し出る程度で空気。


冥土帰し<ヘヴンキャンセラー> 通称カエル顔の医者
基本的に原作のまま。年齢は上昇していますが。 


結標淡希(むすじめ あわき)座標移動<ムーブポイント> 
アンチスキル特別任務委員。かつての弱点を克服し、レベル5に昇格するところになったが、束縛されることを嫌いレベル4に留まった。
*特別任務委員会はレベル4の能力者で編成され、かつ教職員以外の専任者で構成されている。
三交代制24時間活動を行う。能力者対策と就職先確保を狙って組織された。
まだ設立されて日も浅く、不足する人員を風紀委員<ジャッジメント>から借りている場合もある。(という当SSオリジナル設定です)


麦野沈利(むぎの しずり) 原子崩し<メルトダウナー> レベル5 元学園都市第三位
風紀委員会(ジャッジメント)特殊任務委員。
*アンチスキル特殊任務委員会に対抗して風紀委員会(ジャッジメント)が立ち上げたばかりの実力行使可能な特殊部門。
学園都市の治安維持に関して、アンチスキルと風紀委員会とが主導権争いをしており、彼女に白羽の矢が立った。


硲舎佳茄(はざまや かな)
ジャッジメント総合病院の看護士。一般病棟入院時の一麻の担当をしていた。
(作者注:お気づきでしたでしょうか、彼女の名前。彼女は「超電磁砲」に出てくる女の子です。
アニメ「超電磁砲」ではバッグをなくした子、セブンスミストで爆弾入りのぬいぐるみを渡された子で出演。
「超電磁砲S」では夏休みの美琴と遊ぶ子供らの1人として登場。そして漫画原作ではこれらの他に大覇星祭でパン食い競争に出ています)


食蜂操祈(しょくほう みさき) 心理掌握<メンタルアウト> レベル5 元学園都市第四位 
風紀委員会(ジャッジメント)特殊任務委員。能力を生かし、犯罪者、被害者の記憶を操作し事件解明のアシストを行っている。
(作者注:本編では名乗っておりませんが、しゃべり方でわかるようにしたつもりです。さて如何でしたでしょうか?)


飛燕龍太(ひえん りゅうた)レベル4 テレポーター 
*オリキャラ
西都大学4年生。風紀委員(ジャッジメント)である。能力を買われ、特殊任務に就くこともある。
前作「学園都市第二世代物語」に出てきた「飛燕龍太」と同一人物です。
(作者注:ミスりました。同一人物ならば、麦野は覚えてなくても、彼の方は麦野と出会った時の反応が全く違うはずでした……)


伊織かをる(いおり かをる)
*オリキャラ 
ジャッジメント総合病院の看護士。一般病棟入院時の一麻の担当。


神原正樹(かんばら まさき)
*オリキャラ
ジャッジメント総合病院の医師。白血病発症時の主治医。


二階堂理香(にかいどう りか)
*オリキャラ
ジャッジメント総合病院の看護士。ガン病棟の担当。


5.妹達<シスターズ> 

*戸籍名は全て当SSのオリジナルです。

①学園都市メンバー

*性格の設定は、打ち止め<ラストオーダー>以外、当SSシリーズでのオリジナル設定であります。

検体番号10033号 御坂亜美(みさか あみ)
東南アジア某王国へ軍事戦闘用として送り出されたが、先方では高級特殊接待要員(コールガール)として利用された。 
その後、上条当麻争奪戦に参加し、そのまま検体番号17863号と共に行方をくらましたことで、日本国内にいながら御坂旅掛の探索からもれることになった。
原因不明の病気で自分の死期を悟った彼女は学園都市へ戻ろうとする。

検体番号10039号 御坂美子(みさか よしこ)
陽のタイプ。上条当麻命派の一人。
美琴の第一秘書をして活躍している。のみならず、美琴長期不在時における上条当麻のサポート役も兼ねている美琴公認の「愛人2号」でもある。
なお、愛人1号(美琴はもちろん誰もそう呼ばないが)は事実上御坂麻美、検体番号10032号を意味するので欠番。
ちなみに妹達<シスターズ>に対して愛人3号以下を作ることには美琴も彼女も一致して反対である。

検体番号11848号 御坂美津留(みさか みつる)
現在、学園都市に在住する、後から戻ってきたミサカの一人。彼女は美琴の手駒の一人としてアンチスキル指令統括部にもぐりこんでいる。

検体番号13577号 御坂琴江(みさか ことえ)
冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤務する看護士である。真面目一途でやや理屈っぽい。ミサカ独特の言い回しを今も強く残す。
学園都市に残った最初の4名のうち、男性経験がないのは自分だけと知って衝撃を受ける……が結局そのまま?

検体番号17600号 御坂忍美(みさか しのみ)
通称スネーク。彼女は日本国内で探偵業を開いていたが、上条当麻争奪戦(第二部参照)で学園都市に戻り、そのまま残った。
現在はコンビニのバイトと、上条美琴・御坂美子・御坂琴子のトリオからスポットで仕事をもらい生活している。

検体番号17863号 御坂美耶子(みさか みやこ)
東南アジア某王国へ軍事戦闘用として検体番号10033号と共に送り出され、彼女と同じ道を歩んできた。
検体番号10033号の後を付ける形で彼女も学園都市に戻ることになる。なお、当麻命派である。

検体番号19090号 御坂琴子(みさか ことこ)
華のタイプ。元エステシャンでもある。現在は美琴の第二秘書を務めている。
御坂麻美からは「早く身を固めろ」と言われているが、本人にその気はなく、男を渡り歩いている、らしい。

検体番号20001号 御坂未来(みさか みらい)
上位個体。目出度く一方通行と結ばれて結婚しているが、名字は今までの「御坂」を変えていないことから入籍はしていない?

②モブ系

*ミサカネットワーク(MNW)あるいは会話のなかで引き合いに出されたミサカメンバー。

10034号 会話の中で引き合いに出された。元気に遊び回っているらしい

10035号 会話の中で登場。事故死したらしい。

10777号 MNWで登場。ロシアミサカ。今度こそ当麻に会えるのだろうか?    

11627号 自分の薬を購入せず、その資金で周りの貧しい人々向けに医薬品を調達し、自分は調整不能となって一生を終えた模様。

    
12503号 MNWで登場。   

12777号 MNWの中の話に登場。既に逝去している模様。

14442号 10033号と同じ国に送り込まれ、性接待役に従事、妊娠中絶の経験あり。既に逝去。死因不明。 

14631号 詳細不明なれど、既に逝去。

14651号 MNWで登場。

14889号 MNWで登場。自称漢子。漢前。冷静。やだ…カッコいい…。アップルマンゴーとたこわさと唐揚げが好物

15002号 MNWで登場。 

15378号 10033号と同じ国に送り込まれ、性接待役に従事、妊娠中絶の経験あり。子宮外妊娠による卵管破裂によるショックで逝去。    

15774号 MNWで登場。

15860号 10033号と同じ国に送り込まれ、性接待役に従事、妊娠中絶の経験あり。既に逝去。死因不明。

18863号 MNWで登場。

18992号 11627号同様、自己犠牲となって一生を終えた模様。 


>>1です。

以上で第三部の登場人物紹介を終わります。
これで「新・学園都市第二世代物語」本編は完結致しました。

長い間お待たせして誠に申し訳ございませんでした。
一時期は本当にスランプでして、物語が書けませんでした。とにかく書く気が起きないのです。
以前に「エタるかと思った」というカキコがありましたが、その時は全くそんな気はありませんでしたが、今回は本当にそうなるかもしれませんでした。情けないですが実際苦しかったのです。
ただ、それでも、その方は今でもお読み下さっているのかわかりませんが、「いつまでも待ってます」「自分のペースで書けばいいよ」とカキコされた方を裏切るわけにはいかない、とにかく落とすことは止めよう、とちびちび生存報告でお茶を濁していたのですが……。

正直、麦野沈利を出してからあの部分は切り抜けられたと思ってます。ただ、本当はあそこはもっと細かく更に話が広がるはずだったのですが、力尽きました。あれ以上広げると本当にエタってしまうと思いましたので……。

御坂一麻を殺してしまうエンド(バッドエンド)ですが、ここは第一部終了以前に書き始めてました。
ま、前作には彼の存在を匂わせるものが全くなかったこともありますが(正確に言いますと、ラストの方で、麻美が一方通行と出くわすシーンで『(前略)只一人生き残った10032号ことミサカ麻美は、その後数々の試練を乗り越え、いくつかの事件を経て20余年を生き抜いてきた。(後略)』というところがあるのですが、この時点で『かつて御坂妹には当麻の子供が生まれていたが今はいない』というアイデアが出来ていました)、この作品の本当の主人公である御坂麻美、検体番号10032号の成長の為には、彼の悲劇が必要だったのでした。

どなたかにカキコされましたが、「設定ぶん投げ式のバッドエンド型のSS」というニュアンスの評価を頂きましたが、
今作でも結構生かし切れてない、というか設定したのにその後始末が出来ていない、という 部分が存在します。
それは次に。

まず、小学校時代の御坂親衛隊の一人、舘川若葉です。
彼女も長谷川優子同様御坂一麻を追いかけて学園都市に来たはずなのに、結局一度も登場しませんでした。
普通ならあり得ませんよね。何かあったのならそれは説明しろよ、と。
その結果、彼女には「舘川夢乃」という妹(彼女は前作で佐天利子・上条麻琴・湯川宏美といったメインキャラと一緒に簡易テストを受けています)がいることになっていたのですが、全く意味をなさなくなってしまいました。

妹達<シスターズ>が再び死に始める理由にしても、これは間が空いてしまったことからおかしくなってしまったことですが、遅延性成長促進剤と同成長安定剤のバランスが崩れることから始まっているのですけれど、これの説明が今ひとつということで衝撃が弱くなってしまいました。
妹達<シスターズ>の急速成長を一旦止める年齢が14歳。御坂一麻が死ぬのも14歳、といったひっかけがあるのですがこれも結果的に弱かったかなぁと。
10033号のところはあれほど詳しかったのに、肝心のところが腰砕けなのではどうしようもないですね。

当麻の存在が空気の如く薄いのはどうしたもんでしょうかねぇ。父親だろ、薄情者、という気がするのは作者も同様なのですが、すみません、この辺はもう一杯一杯でしたもので何卒御勘弁下さい。

この他、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の誇りの一つ、「僕の元に生きてやってきた患者は絶対に死なせない」というのがありましたが、これをいかにして守るかが苦労しました。
まぁ、派閥争いというか病院のメンツの問題、というような形でここはクリアさせることにしたのですが如何でしたでしょうか?

さて、この後ですが、その後、あるいはおまけ、というか外伝というか、何やらいつも書いてますのでそれを投稿してこのスレを終わりにしようと思います。
今までの調子ですと、おまけが延々と続いて本編みたいになっちゃうんですが気を付けます。
どこかで「佐天涙子・利子が上条家に来た日」というのを書きましょうかね、と書いた記憶があるのですが、書きためが消えちゃいましたのでゼロからの再スタートになってしまいました(泣
それより、あまりに不憫な10777号をどうにかしてやろうかしらん、という気もしますしw(また当麻に女難の卦が)

第三作を実はちょろっと書き出したのですが、「学園都市第二世代」にならないのです。困ってしまいました。
更に登場人物は魔術サイドだらけ。カップルの組み合わせが問題なのかなぁーと考え込んでしまいます。
英国に行ったことがないのも筆が進まないことのひとつかもしれません。

以前に作った本来の3作目のあらすじは、1作目と2作目を足して2で割ったような内容なので顰蹙買いそうですし参りました。才能ないなぁ自分。



愚痴こぼしですみません。
今日はこの辺でお先に失礼致します。
拙作を最後までお読み下さいました皆様、どうも有り難うございました。

皆様おはよう御座います。
>>1です。

いつもであれば、日曜の夜に投稿ですが、本日は所用の為この時間に投稿させて頂きます。
番外編その1であります。

それではこれより投稿致しますのでどうぞ宜しくお願い致します。


学園都市第十学区。

通称・墓地ビルの前にタクシーが止まり、一人の女性が降り立った。

花束を持った彼女は管理所へ向かう。

「東京から来たものですが、御坂一麻という少年のお墓に行きたいのですが」

「ここにいらしたのは初めてでしょうか?」

「はい。初めてです」

「そうですか。ではまず、貴女のIDカードをこちらに出して頂けますか?」

「あ、入管でもらったアレのことかしら?」

「そうですね」

女性はバッグの中をごそごそと手探りで探し、IDカードを窓口に出す。

「かみじょう……しいなさんですね?」

「はい、そうです」

「初めてなら、このパンフレットを読んで下さい。説明が書かれてますので。

えーと、で、その少年のID番号は御存知でしょうか?」

「え? それは……すみません、わかりませんが」

「そうですか。それではこちらで検索しますね。大丈夫ですよ」

ものの数秒で答えが出たらしい。

「みさか、かずまさんですね? 御愁傷様です。それで今、お参りしてらっしゃる方がいますけど……」

「そうですか、では待つことに……」

だが、彼女は途中で思い直したのか、直ぐに

「いえ、一緒でもかまいません。どうすれば宜しいでしょうか?」

と受付の男性に答え直した。

「えーとですね、ここは外と違いまして、各人のお墓というものがありません。

また、能力者の方ですと、機密漏洩防止の為、お骨なども完全焼却されてしまっており残っておりません。

それで、亡くなられた方については、お供えやお花を受け付けるための小さな専有コンテナが設けられておりまして、それを個室に呼び出す形になっています。

人によっては中にミニ仏壇やミニ神棚をしつらえてしまったり、ミニ墓石を使ってお墓のようにしてしまった例もあるようですよ」

「……」 

上条詩菜は黙ってその説明を聞いている。

「故人との面会用個室は2階から5階です。えーと、今お参りなさってらっしゃる方はそうされてませんが、プライベート指定をかけることで他の人が入ってくるのを防ぐ機能があります。

また、各個室には監視カメラがありますが、廊下側のパーテーションをオープン位置にしますと監視カメラは動作しません」

「オープンと言いますと、全開ということですか?」

「いいえ、パーテーションガラスが半透明になるだけです。顔はわからないですが、動きは丸見えになります。防犯上ギリギリのところですもので」

「ありがとうございます。それではどちらの部屋へ?」

「……これが入室キーです。3階の3007号室ですね。マナーとして入室前にインタホンで挨拶お願いしますね」

「そうですね。有り難うございます」

「いいえ、ごゆっくりどうぞ。お若いのに、なんともお気の毒なことでした」

女性、上条詩菜は花束を持ち、エレベーターで3階へと上がる。

正直禁書の設定でやる必要があったのかって作品
無駄に人間関係をドロドロさせただけって印象だな
見ていて不快になるレベル


無機質な廊下を少し歩き、3007号室の前で彼女は立ち止まる。

なるほど、隣の部屋は誰もいないのかパーテーションガラスはあたかも壁のようになっていたが、3007号室のそれはまるで素通しの如く、中に人がいる様子がはっきりとわかった。

(これじゃ丸見えみたいなものよね)

まぁ、監視カメラの元では、見られているのではないかという猜疑心から安心してお参りも出来ないだろうな、と詩菜は思う。

(骨も残さないのか、それじゃあの子も私のお墓に来れないのかしら)

ふと、そんなことも思ってしまう。

(今度、あの子に来てもらって、その時に爪と髪の毛を少しもらっておこうかしら)

昔、歴史書で読んだ、まるで戦地に向かう息子を送り出す母親の心境みたい、と一人詩菜は考える。

さてと、と彼女はインタホンのボタンを押した。

「あの、御坂一麻さんのお部屋はこちらで宜しいでしょうか?」

インタホンでそう呼びかけると、中の人影が動き、ゆっくりとこちらへ向かってくる。

少し詩菜は緊張する。



扉が開き、青白い顔の女性が顔を出した。

「私は御坂一麻の母です。あの、どちらさまでしょうか?」

何度となく頭の中で予行演習を繰り返してきたはずなのに、彼女の顔を見た詩菜は言葉を失った。



その顔は、息子の嫁、上条美琴によく似ていた。

だが、彼女とは違って、目の前にいるこの女性の顔には息子を失ったショックからだろうか、生気はなく悲しみが代わりに溢れていた。

「あの……」

黙って立っている詩菜を不審に思ったのか、一麻の母親という女性が再び口を開くと、ようやく詩菜は答えることが出来た。

「上条詩菜(かみじょう しいな)と申します。上条当麻(かみじょう とうま)の母です。初めまして、麻美……さん?」



一麻の母、元検体番号10032号、御坂麻美(みさか あさみ)は目を見開き、立ちつくした。


それは、とある日曜日の朝のことだった。



「あらあら当麻さん、どうしたのこんな時間に? 元気してる? 麻琴ちゃんなら元気よ? たまにはこっち来て顔見せなさい?

『パパ最近来ないね』って怒ってるんだから……もしもし、ちょっと、当麻さん、聞いてるの?」

「……母さん……あのね、一麻が、あの子の子、一麻がね、死んじゃったんだ」

「は?」



彼女は不義の子、そして彼を生んだ母親、御坂麻美を許していなかった。

その結果、彼女は麻美とその息子・一麻とは一度も顔を合わせていない。

だが、その一麻が。

上条詩菜は、息子・当麻から、彼女の孫に当たる一麻の死を知らされたのだった。

「美鈴さんには知らせたの? その子、美鈴さんの所にいた子でしょ?」

「うん。美琴が連絡した。直ぐ来るって言ってた」

「そう。なら良いわ。私には直接関係ないから」

我ながら良く言ったな、と詩菜は思う。

ちくりと針が彼女の心を刺す。

「母さん!?」

「当麻さん? 訊くけれど貴方の妻は美琴さんでしょ? そして貴方の子供は此処にいる麻琴ちゃんでしょう?」

「いや、そうだけど、一麻だって俺の子供だよ? 昔の話はともかく、間違いなくあいつも俺の子なんだよ!」

「貴方の子かどうかは貴方に任せます。でも私の孫じゃありませんからね、何度も言ってる通り」

「母さん……一麻には責任ないだろう? いいかげんに認めてやってくれよ? 死んでまで無視しないでくれよ、冷たいこと言わないでくれ!」

「連絡有り難うね。当麻さん、お気の毒なことをしたわね……御愁傷様です。その子のお母様の面倒を見てあげなさいな、貴方にも責任があることなのですから」

「……母さん、一麻の墓ぐらい行ってやってくれな。今でなくていいからさ。頼むよ」

「考えておきます」

そう言って彼女は電話を切った。



人の道に外れたことをした女に天罰が下ったのだ。

私の息子を苦しめ、あの子の妻になるはずだった自分の姉<オリジナル>を苦しめた、あの女に。

自業自得だ。天網恢々、粗にして漏らさずだ。



――― 行ってきまーす―――

――― おばちゃーん、じゃぁねー ―――



先ほど佐天利子と一緒に遊びに出ていった上条麻琴を思い出し、詩菜は思わず二人を比較してしまう。

(死んでしまった、のか)

子供には罪はない。確かにね……。

そう心の中でつぶやくが、詩菜の心には重いしこりが澱みのように残った。


「わざわざお越し下さいまして、今日は本当にどうも有り難うございました」

麻美が深々と頭を下げお辞儀をする。

「……」

詩菜は黙っている。

「あの子も、もう一人の御祖母様が来て下さって、きっと喜んでいると思います」

マニュアルにあるようなその言葉。

詩菜の胸に、思わずこみ上げてくるものがあった。

型どおりに済ませても良かった、いや、最初はそのつもりだった。

息子にも言われたし、まぁ一度くらい線香の1本でも立ててやるべきだろうと思ったから。

だが……そんな決まり切った言葉を聞きに来た訳じゃない、と彼女の気持ちは決まった。

「そうかしら? 自分を最後まで認めてくれなかった人間をそう簡単に許せるものかしら……止めましょう、息子さんには罪はないもの」

思いもかけない詩菜の言葉に黙る麻美。

「貴女のかけがえのない息子さんの前で聞かせて頂戴。麻美さん、貴女の気持ちを訊きたいの。

貴女はわたしの息子、当麻をどう思っていたの? どうしてあんなことをしたの? 何故美琴さんに酷いことをしたの?」

真正面から斬り込んだ詩菜。

静かな、だが強烈なその言葉が麻美の心に刺さる。

彼女は伏せていた目をあげて、苦しそうな、悲しそうな顔で、だがしっかりと詩菜を見て答えた。

「今でも、わたしは、あのひとを愛しています。これからもそれは変わりません。例え、あのひとの心がわたしから離れようとも、わたしの心は変わることはありません。」

目を一度閉じ、少し俯き加減で考えを纏めていたのだろうか、少しの間の後、彼女はまた顔を上げて詩菜の目を見ながら答え始める。

「わたしにとって、あの人は生きる全てなのです。あのひとによって、このミサカの命を助けられたことで、このミサカを死の淵から救い出して下さったことで、わたしの運命は大きく変わりました」

淡々と、だが当麻への迸る愛を彼女はその母に対して申し述べた。

「そして、わたしはあのひとにひとつ重要なことを命じられております。

わたしは永遠にあのひとのものである、ということを認めて下さる代わりに、あのひとの命なくして勝手に死んではならないと」

詩菜は衝撃を受けた。

さすがにこれは嘘ではないだろう、と彼女も思った。

「あのひと」とは自分の息子、当麻のことで間違いない。

彼女の命を当麻がどのように救ったのか、詳しいことは彼女は知らない。

だが、当人がここまで心底息子に惚れ抜いているとは正直思っていなかった。

この女にとって、我が子当麻は生きるための目標であり、心の支えであり、そして唯一の愛の対象なのだと。

一瞬、嫁の美琴よりもこの女の方が息子を深く愛しているのではないか、と比較してしまったくらいである。

だが、それならば、何故?

「息子を愛してくれて有り難う」

予想外の詩菜の言葉に麻美はえ?と言う顔のまま固まる。

「その貴女が、どうして息子を、そんなに愛してたあの子を、どうして苦しめるような真似をしたの?」

麻美の顔がゆがむ。


「……申し訳ありませんでした。私は愚かでした。周りが見えておりませんでした」

麻美が詫びる前で、詩菜は黙っている。

「私は、怖かったのです。あのひとと美琴お姉様とがいつかは結婚なさるのだろう、とは思っておりました。

ですが、いざ、その時が来た時、私はあのひとを失うと思いました、それだけは耐えられませんでした。

私はあのひとを、少しで良いから繋ぎ止めておきたかったのです。私を忘れないで欲しかったのです」

「あの子がそんな冷たいことをする人間だと思ったのですか?」

やっぱり、全ての元凶はこの女だったわね、と思う詩菜。

身体は十分に大人だったのだろうが、心は……そう、子供だったのだろうと。

子供故に、純粋。打算も何もない、ひたむきな愛。

好きだから、愛してるから。ただ、それだけ。

詩菜は、思う。純粋だった、十代の頃の初恋を。

「……今、冷静に思えば、あのひとはそんなことをするようなひとではない、と胸を張って言えます。

でも、あの時の私にはそんなことを考えるだけの余裕はありませんでした。捨てられる、忘れられるという恐怖だけだったと思います」

「美琴さんのことは?」

顔から血の気が引き、下を向いてしまう麻美。

しばらく経って、消えそうな小さな声でようやく彼女は話し始めた。

「お姉様があれほど傷つくとは思ってもみませんでした。それほど、あの時の私は他人を思いやるだけの知識も経験もなかったのです。

お姉様の恐ろしいほどの、私は殺されると思ったほどの怒りの強さ、そしてその時のお姉様の涙、泣き顔に私は初めて打ちのめされました。

ああ、私はとんでもないことをしてしまったのだと」

「自分のしたことの意味をようやくわかった?」

「そうです。その時になって、私は自分の行動がどういうことを引き起こしたのか、初めてわかったのです。

でも……もはや、遅すぎました。取り返しのつかぬ事を私はしてしまったのです」

涙がつーっと麻美の頬を伝って落ちていった。

「だから、私は死のうとしました。お腹の中の、この子と共に」

詩菜は今度こそ驚いた。

そんなことは露にも思っても見なかったことだったから。

麻美の告白は続く。

「そんな私を、あのひとは叱りつけました。一麻は私のものだけではない、と。

そして『勝手に死ぬんじゃねえぞ。お前にはまだまだ文句が山ほど残ってんだ』 二度目のお叱りでした。

次に、私が以前言った『私は永遠にあなたのものです』と言う言葉を言われて、『俺のものなんだから、俺が良いと言うまでお前は死ぬことは許されない』と改めて私に命じられたのです。

そうか、ならば私は改めて生きよう、あのひとのために、この子の為に、と思ったのです」

あの子は、そんな修羅場をくぐってきたのか、と詩菜は思う。

我が子ながらなかなかうまい説得をするものね、と自分の息子を見直した詩菜であった。

確かに、この女がそこで死んでしまったら、美琴さんは絶対に息子とは結婚しなかっただろう。

二人は贖罪の意識に捕らわれて、今よりもっと「不幸」だっただろうな、と。


「虫の良いことを、と思われるでしょうけれども、私はあのひととお姉様には結婚して欲しかったのです。

私がお二人の幸せを壊してしまっただけに、それだけになんとか元に戻れないのだろうかと」

詩菜はこれにはカチンときた。

確かにそれはあまりにも身勝手な話である。最初から余計なことをしなければ、二人は幸せなまま結婚したはずである。

何を調子の良いことをぬけぬけと言っているのかと。

「ですが、その一方で、私には嬉しいこともあったのです。

一麻を身ごもったおかげで、あのひとは何度か病院へお見舞いに来て下さいました。まさに私が願った通りでした。

おかしいことだと思います。片方ではあのひととお姉様がよりを戻すことを願う私がいて、その一方で、あのひとが私の元に来て下さることを喜ぶ私がいたことを」

別におかしくはないでしょう、と詩菜は冷ややかに思う。

自分に全て都合良く動く世界を夢見ていたのだから、と。

「ですが、ある日、お姉様にあのひとと一緒に居るところを見つけられてしまいました。

いずれはわかるはずでした。私は本当ならばあのひととお別れしなければならなかったはずです。

ですが、私の心には、あのひととお別れすることを拒む気持ちが明確にありました。

私はあのひとを失いたくなかった。だからあのひとが来ることを拒みませんでした。いえ、来て欲しかったのです。

ですが、私は狡かった。自分からは決して来て欲しいとは言わず、あのひとに来てもらうことを選んだ、いえ、来させるようにしていたのです」

「お姉様は、遂にさじを投げました。お姉様の顔にはもうどうでもいい、という投げやりな表情がありありと出ていました。

私はその顔を見た時、正直『勝った』という気持ちが浮かびました。私は遂に、お姉様にあのひとを諦めさせたのだ、と」

「ですが、あのひとは、私を選びませんでした。あのひとは、それでもなお、お姉様を選びました。勝ったはずの私は、お姉様に負けていました」

詩菜はふっと息を吐く。

「あのひとと、お姉様とで諍いが始まりました、ですが、私はそれを止めようとはしませんでした。とてもその時の私にはそんな事が出来る状態ではありませんでした」

「結局、お姉様のお友だちの方が割って入り、お姉様とその方は逃げて行かれました。

あのひとは、しばらくお二人をじっと見ていらしたようですが、やがて私の所へ戻ってきました。

寂しそうな顔で、『ごめん、御坂妹。情けないところ見せちまったな……すまない。俺はやっぱり美琴を愛してるんだ。俺の子供もお腹にいるってのにな、お前を選ばなくて本当に申し訳ない』

と仰いました。私はその時、(ああ、もうこのひととは結ばれないのだ)とはっきりとわかったのです」

(どうして、そこまで壊れてしまったのに、何故美琴さんはうちの当麻と?)

詩菜の心に疑心がおこる。

普通ならそこで永遠にさよなら、となるはずだ。それなのに、どうして彼女はウチの息子と結婚したのだろうか? 

普通ならあり得ない話だ。

少なくとも、あの子は美琴さんを二度裏切ったはずだ。我が子ながら情けない話だが、女から見ればそう捉えざるを得ない状況だ。

どこまであの子はそういう女ごころに鈍感なのだろうか、と珍しく彼女は愛する息子を怒鳴りつけたかった。

だが、元々、我が子をそう言う立場に追い込んだのは……目の前の、この女なのだ。

やっぱり、許せない。

「そこまでされたのに、お姉さんはどうしてウチの息子のお嫁さんになったのかしらね……普通ならないでしょうにねぇ」

そう、彼女はカマをかけてみた。

「お姉様のお気持ちは私には計りかねます。ですが、その後、あのひとを巡ってミサカ達の騒動があったと聞いています。

それと関係があるのではと想像することは出来ます」

「騒動? 聞いてないわ、そんなこと。どういう事だったのかしら?」

糞ssをageてんじゃねえよ
気持ち悪い


麻美は少しためらい、考え考え話を始めた。

「此処では詳細は申し上げられません。私はともかく、お義母さまに迷惑が掛かる可能性がありますので……。

強いて申し上げますと、私たち妹達<シスターズ>は、このミサカを含め、あのひとに命を助けられております。

そのため、私以外にも、あのひとを慕うものは非常に多いのです。

一時期、あのひととお姉様とのお話が壊れた、というゴシップ記事が流れたそうで、もちろんその原因はこの私のせいなのですが、それは報道されませんでしたけれど。

ともかく、それで、あのひとに恋い焦がれる妹達<シスターズ>のうち、行動力のある1600人ほどが学園都市に集まり、あのひとにプロポーズすることを計ったのです」

詩菜は思わず1600人もの女性が息子を追いかける姿を想像しようとした。

だが、1600人という数字があまりにも非現実的で、どうにもその光景を考えることが出来ない。

しかし、あの子は、その場にいたのだ。この女と同じ姿の、嫁と同じ顔をした、クローンのターゲットとして。

初めて、詩菜はぞっとした。

自分の可愛い息子は、とんでもない世界にいたのだと。

「私たち妹達<シスターズ>は、欠陥電気<レディオノイズ>と呼ばれる発電能力者<エレクトロマスター>ですが、それ以外にもある特殊な能力を持ち、ある目的の為に作り出されました。

そのメンバーが1カ所に1600人も集まったのですから、この街の上層部も不安に思ったのでしょう。

何か、お姉様に圧力がかかったのかもしれません」

どういう事? と訊く詩菜に、麻美は少し間をおいて答えた。

「妹達<シスターズ>は直ぐに1カ所に集められ、その場にあのひととお姉様が現れ、お二人は結婚する、という宣言をなさいました。

そして、そのあと直ぐに、お姉様の学園都市機関へのお姉様の就職が発表になりました。

物事の進み方がまるであらかじめセッティングされていたかのようでした。

それで私は、学園都市の統括委員会とお姉様との間で何かあったのだろうと思ったのです」

詩菜は最後のあたりは聞いていなかった。二人の行動が予想しなかったものだったからだ。

そんな、プロポーズしようと意気込んできた1600人の女性の前で、そんな失礼な、無礼な、そんなことを?

彼女は開いた口がふさがらなかった。

「いえ、本気だったミサカも少なくはなかったと思いますが、元々私たちは、お姉様とあのひとは結ばれるべきだ、と考えておりました。

私たちは、お姉様を<オリジナル>と呼び、尊敬し、大切に思っております。

ですから、お姉様があのひととヨリを戻されるのでしたら、元々はお姉様がレースから下りたということで始まった話なのですから、元の鞘に収まるものが収まったということで、全てのミサカたちは引き下がることに異論は無かったはずです。

未練たらたらのミサカがいたであろう事は想像に難くありませんけれど」

(そんな、諦めのよい女なんかいるのかしらね)

詩菜はそう心に思う。

そんなことくらいで、諦められるのだろうか? 逆に言えば、その程度のものなのか、と。

詩菜は知らなかった。

そしてミサカネットワークに滅多に入らない麻美も知らなかった。

世界中に散らばるミサカ達の元へ、新たに開発された薬を持って廻り始めた当麻(と護衛の美琴)に殺到したミサカ達のあの手この手の争奪戦のもの凄さを。

元々は、子供を産んだミサカとその子供が優先であり、彼女らはもちろん当麻に会えて感激していたが、むしろ自分たちのお姉様<オリジナル>である上条美琴に殺到した。

だが、二人が来る、と知って手ぐすね引いて待ち構えていたのは、当麻命の猛者(ミサカ)連中であった。

中には、15年前の空虚な争奪戦に参加したミサカもおり、彼女らは降って湧いたこのチャンスを今度こそものにしようと手はずを整えていたのであった。


(それよりも)

あの子、美琴さんは、ウチの息子と結婚したのはそういうことだったのかしら、とも思う。

それならばなんとなくわかる。

あれほど酷い仕打ちを受けて、それでもなお結婚するだなんて、普通じゃありえない話だもの。

詩菜は、そう思うと、美琴が哀れに思えてきた。

初めて会った時の、あのきかん気の女の子。まだ中学生だったかしらね。

どうやらウチの息子を好いてくれてるようだ、と思った時は正直嬉しかった。

「疫病神」だの「不幸を呼ぶ男」だの、周りから疎まれてきたあの子を、好いてくれる女の子がいた、と言うことに。

あの子も不器用だったけど、この子、美琴ちゃんも息子に負けず劣らず不器用な子だったなぁ、と微笑ましく見ていた時もあった。

美鈴さんは何故かスゴイ乗り気で、正直何かあるのかしら? とも疑ったものだけど、でもあの子を好いてくれるのなら、息子をお願いします、と言うことに抵抗はなかった。

あの子が幸せになるのだったら。

そう、なったはずだった。

それなのに。

あの子も、美琴さんも。

そう思うと、再び怒りがこみ上げてくる。

この女のせいで、この女が。 あの子と、美琴さんは。

もういい。もう終わりにしよう。

「いろいろと、有り難う。知らない話ばかりだったわ。私の知らないところで、いろんな事があったのね……まぁ、もう大人だものね。

親に知られたくないことなんか沢山あるわよね」

「……そう、だと思います」

「ちょっとお参りさせて頂いて宜しいかしら?」

「……どうぞ、お願いします」

深々と頭を垂れる麻美の脇を、詩菜は花束を持ち直し……途方に暮れた。

「あの、お墓は?」

「そこですが……」

それは、墓と言うにはあまりにも貧弱なものであった。

詩菜は近寄り、中を覗き込んだ。

まるで、机の引き出しのような、素っ気ないケース。

写真立てがちょこんと置いてある。

この女……麻美と、ちょっとおじさん臭くなった息子、当麻。

その間に挟まって、照れくさそうな、でも嬉しいという笑みを浮かべた可愛らしい男の子が写っていた。

(初めまして、一麻くん? 私、あなたのお祖母ちゃん、上条詩菜<かみじょう しいな>っていうのよ)

そう語りかけて、詩菜は花束を置き……線香を上げることも出来ない状態に気づき、ため息をついた。

(仕方ないわね、これじゃ)

そう思い、(一麻くん、また来るね?) そう語りかけて、合掌した。


「貴女とは、これで縁は切れたけど」

別れ際に、冷たい声で切り出した詩菜に、麻美ははっとして俯く。

「また、もう一度来ますから」

「はい、有り難うございます。是非またお越し下さい」

麻美は、詩菜が部屋を出て行くまで頭を下げていた。





それから半月ほどしたある日。

麻美はまた一麻のところへやってきた。

一麻の墓ケースをいつものように呼び出す。

いつもと違う音がしたような気がした。

(駆動機構に何かあった?)

だが何事もなく、息子のケースは出てきた。

「!?」

そこには、可愛らしいミニ仏壇と仏像、そして真新しい位牌が写真立てと並んで鎮座していた。


麻美は位牌を手に取ってみた。

小さいが、倒れないように作ってあるのだろう、台はずっしりと重かった。

「御坂一麻之霊位 XX年X月X日」

裏を返すと、

「行年 十四歳」

かすかにただよう香りに麻美は気が付いたがその意味はわからなかった。美琴がいれば、それは線香の香りだと気が付いただろうけれど。



「……お義母さま……」

麻美は、小さなその位牌をしっかと胸に抱きしめた。




(番外編1 完)

>>1です。

本日の投稿は以上です。
上条詩菜を普通の人の立ち位置に置いたのですが、最後まで知らぬ存ぜぬもちょっと、と思いまして追加してみました。
結局は和解出来なかったのですが。

さて、こうなると御坂美鈴はどうなのか、これも放置中なのでちゃんと仕上げるべきなのかな、と今頃になって思います。

>>285さま
コメント有り難うございます。
うーん、確かにそうですね。
登場人物の年齢を上げて、もう少しシリアス気味のハーレムにするとこうなるだろう、という考えで走りましたので。
前作である程度基本設定が出来ましたのでやり易かった(枠が嵌るのでやりにくいという点もありましたが)、ということもありますし、御坂妹というキャラが作者は好きですので、汚れ役をやってもらったというところでしょうか。

>>291さま
すみません、一応投稿開始の時だけはageで、以降sage進行なのはいつもの通りなのです。

それではお先に失礼致します。

待ってる…

作者様

本当にそうですね。
学芸都市ー9月30日で三期を期待しますね。
美琴ちゃんのlevel 5.5見れますし、結構期待しちゃいますね。

問題は禁書三期をロシア編でやるかどうかなんですが。。

Sure,i think so
I 'd like to seek view the third season of a certain scientific rail gun
that describe activity of mikoto in september eagerly


皆様こんばんは。
>>1です。

ようやく番外編その2、書き上がりました。
>>299さま
お待たせ致しました。お待ち下さるとの由、どうも有り難うございました。
おかげさまでなんとか無事書き上げることが出来ました。

>>300さま
禁書三期はいきなり旧約15巻から始まるのでしょうか。原作派は喜びそうですが、初見のひとはびっくりしそうですね。
でも今のところ音沙汰無し…

Unfortunately the official web sight do not release NEW A Certain Magical Index part3 yet.
I will wait a good news.
sinserely,

それではこれより投稿致しますのでどうぞ宜しくお願い致します。


その知らせは、突然やってきた。

「もしもし母さん? 私だけど」

ちょうど、私は昼食をどうしようか、と考えていた時だった。

ダンナは海外を歩き回っている最中で、家には私一人。

「なぁに、美琴ちゃんたら、どうしたの?」

どうということのない、娘からの電話。

あの子からの電話は学園都市に筒抜けになっているはずなので、あまり深刻な話は出来ない。

私は、戦争前の「回収運動」の首謀者の一人ということで、学園都市の上層部から危険人物と見なされた時があり、ずっと中に入ることが出来なかった。

ただ、娘が統括理事会のひとつ、広報委員会に所属することになったこともあるのだろうけれど、その娘の結婚式以来、私は学園都市に「一応」入れるようになってはいた。

娘があちこちに働きかけてくれたおかげだ、と夫からも聞いている。

だが、娘には申し訳ないのだけれど、なんとなく付き纏われている感じは否めないので、私は滅多に学園都市には足を踏み入れていなかった。

だから、知られたくない内緒の話をする時は、専ら娘がここにやってくることが多いのだ。

…と、どうしたのだろう、あの子の返事がない。黙ったまま。

委員会で何かあったのだろうか? 

それともまさか、上条くんとまたやっちゃったのだろうか?

それとも……?

「あのね、あの子が……一麻くんがね……」

ようやく聞こえてきたあの子の声。

だが、その声は鼻声で、そして激しくすすり上げる声になる。

予想は外れた。

でも、なぜ泣くのだろう、泣くほどの事があの子に起きたというの?

ざわっと悪寒が私の身体を走る。

「一麻くんがどうしたの? 何があったの? 事故にでもあったの? ちょっと、美琴ちゃん?」

私の声は思わずうわずっていた。

「母さん……死んじゃったのよ、あの子、あんなに元気だったのに、直ってたって言ってたのに!!!」



―― 死んだ? ――



今度は、私の方が声を失う番だった。


御通夜はないから、と言うので、喪服は持って行く事にして家から着て行くのは止めた。

大急ぎでクロゼットに飛び込み、黒に近い濃紺の無地スーツを取り出す。

(やば、入るかしら?)

ここのところ、ずっとスポーツクラブから足が遠のいていた。

あの子がいた時、なんだかんだと忙しくて行きそこなう事が多くなり、そのうちにその状態に慣れてしまったのだ。

上条さんもウチの麻琴ちゃんと佐天さんという美琴ちゃんのお友達を下宿させるようになってから、ぱったり来なくなった事も言い訳のひとつだった。



――― ダメだ ―――

太ももが既に無理だった。

見た瞬間、ダメだとは思ったけれど、あーショックだ。



って、そんなことに衝撃を受けている場合ではなかった。

仕方ない、ナス紺のスーツにしよう、と思った瞬間、私は思い出した。

(あれが、最後になっちゃったのね……)

そう、学園都市に住むようになった一麻くんに会いに言った時の服がこれだった。

会うまで私は、あの子はお母さん子になってしまったかな、と少し心配していたのだけれど、全くそんな事はなかった。

男の子だからだろうか、ちょっと麻美さんを邪険に扱うようになっていた。

まぁそろそろ思春期に入る頃だから、男の子がお母さんべったりだったらそれはちょっと不味いかもね。

でも、麻美さんがあの子をどう扱って良いのか困ってるように見えたのは、どうやら私だけではなかったようだ。

「ねぇ母さん、一麻くんって反抗期かな?」

後で娘がそう言って来たし。

「そのうち麻琴ちゃんもあーなるかもね。覚悟してなさい?」

「えー、そうかなぁ? だって私は母さんに反抗なんかしてなかったわよぅ?」

「そーだっけ? ああ、ごめんね、私、美琴ちゃんの傍に居てあげられなかったからねー、反抗のしようがなかったものね」

でもね、麻美さんには悪かったけれど、一麻くんは私には反抗してきたことはなかった。

……待って、もしかしたら彼は、私を親として見てくれてなかってなかったのかしら。

そうかも知れない。私はあの子にとって、只のおばあちゃんだったのかもしれない。

「母親」だから、あの子は麻美さんを母親だと思っていたからこそ反発していたのかも?

それは、私としてはちょっと悲しいわよ?

……一麻くん。

……どうして? 

……何故?

「おばちゃん、またね」

まさか、あれが最後の姿になってしまうだなんて、そんな……

一気に視界がぼやけた。

いけない、スーツに涙をこぼしちゃう……だめよ、ここで泣いたら……ううん無理、もう無理。

嗚咽が漏れ、涙がほほをつたう。

「かず、ま、くん……何故……う、うっ、くっくっ……」

今、この時、初めて私は一人で家に居る事に感謝した。


「お母さん、いきなり電話しちゃってごめんね」

「ううん。連絡有難う」

腫れぼったい顔の娘がゲート出口で待って居てくれた。

ショックだったのだろう、顔が強張っていていつもの笑顔はなかった。

まぁ私の顔も似たようなものかも知れないけど。

「お父さんから何か言ってきた?」

「連絡したわ。すぐ帰って来るって言ってたけど、飛行機取れてないみたい。まだ連絡ないの」

「そっか……文句言ったらバチ当たるよね。今もあの子たちの件でしょ?」

「そのはずよ」

お父さん(御坂旅掛)は、娘の妹たちのために世界中を飛び歩いていた。

おそらく、世界一、彼女らと実際に顔を合わせたひとであることは間違いないだろう。

今も世界中にいる、6千人にも及ぶ、娘の「妹」、私達の「娘」に。

「クルマで行くから、一緒に乗って」

「そう……あら、あれ?」

「そう。めったに乗れないよ?」

娘が手を上げて呼んだのはレクサスのリモ。すごいクルマね。

私達二人が広々とした後席に乗り込むと、ドアは自動で閉まった。

あの子はボタンを押してサイドピラーのマイクに「行って下さい」と言うと、クルマはすうっと動き出した。

こんなクルマ、この子いつも乗ってるのかしら?

「今日はね、エライ人いないから私が使っていいのよ。もっと大きいのだってあるのよ?」

私の視線を読んだこの子はそういい訳がましく私に説明してきた。

「まぁ、美琴ちゃんもずいぶんと偉くなったものね」

ちょっと私が皮肉っぽく言ってみると

「止めてよ、そんな言い方するの。私だっていつもこんなの乗ってる訳じゃないんだから。お母さん来るからよ?」

「ハイハイ、どうも有難う。こんなおばちゃんに大層なお出迎えしてくれて、とっても嬉しいわ」

「またそうやって、お母さんったら……」

わーっと娘がまくし立てるのを、はいはいわかったわかったと止めさせると、ぷぅっとふくれ面でそっぽを向いた。

まったく、いくつになっても子供なんだから。



そう、子供……。

かわいそうに、麻美さん。

たった一人の自分の子供を失ってしまった、娘の「妹」。

どんなに悲しいだろう、辛いだろう?

あの子は、大丈夫だろうか……


「お義母さん、息子の為にわざわざお越し下さって有り難うございます」

当麻くんも酷い顔をしていた。

あの子の実の父親だものね。

子供の葬式をするだなんて、こんな悲しいことなんて他にないわよね……

「この度は本当に御愁傷様です」

私は頭を下げる。

「それで、麻美の様子は?」

娘が当麻くんに訊いている。

「ああ。とりあえず、強心剤を打って休ませてる。疲れ果てたんだろう……かわいそうにな」

貴方だってそうじゃないの? 

その言葉を私は言えなかった。

ベッドに寝かされているのは、やつれ果てた顔の…麻美さん、だった。



葬儀場に着いた私を、娘は会場ではなく職員通路を通り多目的室らしいところへ案内したのだが、そうしたらそこには上条くんと麻美さんがいたという訳だ。

看病疲れだろうか。

それもあるだろう。

でも、その甲斐もなく一麻くんは逝ってしまったのだ、どんなに打ちのめされたことだろうか。

倒れるのも無理はない……わね、本当に、かわいそうに。

「美琴、すまないけど彼女を頼めるか?」

「あんたは麻美についてなさいよ? 起きたら何しでかすかわからないし」

「うーん、それはそうだけど、でも、俺は父親だしさ」

「いいってば、私だってあの子の叔母なんだから」

二人が低い声で言い争っている。

「私が付いててあげようか?」

え、と言う顔で二人が私を見る。

なによ、そんなに驚かなくても良いじゃない。

「上条くんは喪主でしょ? 喪主がいないお通夜、お葬式なんてないわよ? 

で、美琴ちゃんは上条くんのサポートやったげなさいよ。うん、そうしなさい。私が麻美さんに付いててあげるから。

大丈夫よ、知らない仲じゃないし、ダテにこの子の義母(ははおや)やってないわよ?」

自分が言うのも何だけど、コレが一番無難だと思うな。自分で言っててそう思うもの。

「それに私、ここのしきたり知らないし、何か訊かれても答えられないもの。ね、二人で式出て?」

美琴ちゃんも当麻くんもすまなそうな顔になったけど、認めてくれたみたいね。

そうそう、それでいいのよ。

「その前に、あのね、一麻くんとお別れの挨拶しておきたいんだけど、今、いい?」

二人が怪訝な顔になった。何か変なことをいったかしら、私?


「お母さん、こっち」

娘が私を案内してくれている。

だが、あまりにも殺風景な様子に私はひどく違和感を覚えていた。

確かにここは学園都市だから、東京とは違うのかも知れない。

でも、これはいったい……これはメモリアルホールでも葬祭場でもない。

全くお葬式の場所という感じがしないのだ。そう、ごく普通のどこにでもあるオフィスビルと変わらない。

娘が私の怪訝な顔が気になったのだろう、低い声で教えてくれた。

「お母さん、あのね、学園都市じゃね、お葬式ってないのよ」

え?

「それに……特に能力者だと、機密保持ってことで、直ぐに焼かれちゃうの」

はい? え? え? じゃぁ……?

「そうなの。もう、終わっちゃってるのよ、悲しいけど」

美琴ちゃんがすまなそうに小さい声で教えてくれる。

「それじゃ、一麻くんはもう……?」

「そう。骨まで残らないくらい綺麗さっぱりに……」

そんな……馬鹿な。

それじゃ、お骨は? 形見の品もない?

「立ち会えたのは、麻美だけだったって、あいつが言ってた」

――― たった一人 ―――

私は想像した。

自分の子供が、我が子が焼かれてゆくその場所に、たった一人、ぽつんと佇む麻美さんの姿を。

残酷だ。

そんな、殺生な。

なんという……むごいこと。私は思わず身震いした。

「当麻くんはどうしてたの?」

「一麻くんの容態が思わしくないので、薬の完成を早めるよう製薬会社へ直談判に行ってたんだって。

容態が急変して危篤だっていう連絡が入って、黒子と一緒に飛んで帰ってきたんだって……

でも、その時には、一麻くんはもう荼毘に付された後だったって……息子の死に目にいないなんて、とんでもないバカよね」

なんと言うことなの、それって……

「学園都市って……そうなの?」

「……そう、なのよ。昔から、そうなの」

「お坊さんも、ううん、神父さまなんかもいないの?」

「いないわ。ううん、第十二学区ならいるけど、能力者だと無理かな……」

「美琴ちゃん、それ、絶対におかしいわ。それ、ありえないわよ」

私は黙っていられなかった。

「いいこと? お葬式ってね、そんな単純なものじゃないのよ? 自分たちだけのものじゃないのよ? 亡くなった人を悲しむだけじゃないのよ?

御両親、御親戚、お友だち、知ってるみんな、そういう人たちが集まって、亡くなった人を思い出して、語って、悲しんで」

「お母さん、止めて!」

何よ、美琴ちゃん?

「そうだけど、それ以上は止めて。お母さん、また入れなくなっちゃうから、お願い、止めて」


入れなくなる? 

私の頭が急停止する。

「また入れなくなる」

娘の必死な懇願に私は我に返った。

その代わりに、それは困る)という思いと、(こんな街なんか入れなくてもかまわない)という憤りの思いが湧き上がる。

でも、それよりも(美琴ちゃんにまた迷惑掛けるかも)という私の弱い心が勝った。

目立つが故に、敵も少なくないわが娘。

そしてこの子は歪んでいるこの街を建て直そうと必死に頑張っている。

それなのに、母親たる自分が娘の足を引っ張ってどうする…と思うと、これ以上ここでこの話をすることは避けるべきだった。

ここは、学園都市、なのだ。

それに第一、ここで喧嘩しても始まらないし、そもそも一麻くんに失礼だろう。



「ここなんだけど」

そこは、言っては何だが、只の部屋でしかなかった。

「お母さん、驚かないでね」

娘が、少し緊張した表情で言う。私は黙って頷くしかない。

あの子の後に付いて、祭壇のような所に行く。

目の前には扉がある。ここから何かが出てくるらしい。

娘は祭壇の脇にある操作盤でなにやらデータを入力した。

微かに物音がしている。

暫くして、扉が開き、箱のような物が出てきた。それはまさに只の箱、としか言いようがない代物だった。

「これがね、学園都市のお墓なの」

意味がわからない。箱でしょ、これ?

「母さん、ここはね、『墓地ビル』って言われてるところなのよ。

普通の霊園だっけ? ああ言うお墓を作るスペースが無いもんだから、こんな集合住宅みたいな感じになってるのよ。お墓の団地みたいなものね」

「知ってます。東京だってずっと昔からあったわよ、『ペット』のお墓だったかしらね」

むっとした顔になった娘は私に背を向けた。

ちょっと皮肉に聞こえなかったかな、と私は反省する。

「有難う。ちょっと驚いたわ」

私はちょっと苦笑いを浮かべてそう言った。

「初めて見るひとはみんなそう言うの」

あの子の沈んだ声。顔は私からは見えない。

「確かに、お母さんの言うことも一理、あるわね」

そうつぶやいた娘は、振り返って私の顔を見て小さくうなずき、そして私を促した。

「じゃ、戻ろう?」

私に依存はなかった。これじゃ……ここにいる意味、ないもの。

だが突然インタホン? が鳴り、スピーカーから少し緊張した女の子の声が聞こえてきた。

「あ、あの……御坂……一麻さんはこちらでいいのですか?」


私はその声に聞き覚えがあるような気がした。

何度も聞いてる気がするわ、えっと……今の声……あの子の確かお友だちの妹さん、だったかしらね? 

えーと確か……さとう? そう、佐藤さん!

私はインタホンに寄って通話ボタンを押し、返事をした。

「はいはい、そうですけど、もしかしてその声は佐藤さん?」

私がそう言うと、

「え? えっ? あ、は、はい、佐藤、佐藤操(さとう みさお)ですけれど……」

「あれ、もしかして、その声、御坂のおばちゃん?」

いきなり名前を呼ばれて戸惑っているけど、男の子の声で私は確信した。

ええ、間違いないわ、この声は。

インタホンにかかりっきりの私を置いて、娘は入り口に早足で行き、ドアを開けた。

「はい。どうぞお入り下さいな?」

その声に促されるように、恐る恐る、と言う感じで花束を持った私服の男の子と制服を着た女の子が入ってきた。

私はその兄妹の顔を見て、自分の記憶に間違いがなかったことに安心した。

「えっと、俊介くんだよね、わぁ操ちゃん、ちょっと見ないうちに大きくなったねぇ?」

さっきまで誰だったっけ、と悩んでいたのが嘘のように、すらすらと二人の名前が口を付いて出たことに私は少し驚いた。

「あ、は、はい。あの……わたし、あんまり背伸びてないんですけれど?」

恥ずかしそうにそういう操ちゃん。確かに小柄なままだ。

でも、とっても可愛らしいわね。

「そう? 制服着たらなんかすごくオトナっぽくなったわよ? びっくりしちゃった」

「そうすかね、相変わらずちび助でガキっぽいと思うんですけど」

「やめてよバカ兄! 気にしてるんだから!」

「ミサ、でかい声出すなよ、みんなびっくりするだろ?」

「俊介くん、妹だからって、女の子にそういう事言っちゃダメよ?」

私は「めっ!」という顔で彼を軽く睨む。

「ほーら、バカ兄、怒られた」

まぁ、ミサちゃんたらドヤ顔しちゃって。

少しは気がまぎれたかしら、確かミサちゃんは一麻くんに憧れてたはずだしね。

「佐藤さん、一番乗りよ? 来てくれて有難う」

「あ、え、えっと、上条、さんでしたよね。こんにちは」

あら、ミサちゃんたら、ウチの娘、知ってるの?

どこで知り合ったのかしらね。

こっちに来てからだとは思うんだけど。


「え、えっと……超電磁砲<レールガン>のかみじょう、さんですか?」

お兄ちゃんは娘とは初顔合わせなのね。じゃ、やっぱりミサちゃんはこっちで娘と会ってるんだ。

「そうよー? 初めまして、えっと、さとう……?」

「佐藤俊介(さとう しゅんすけ)です、初めまして。あの、TVで何度も見てますっ! 

カズとは東京でよく遊んでました。妹がここでお世話になってます」

「あらそう、有難う。その言い方だと、もしかして俊介君は学園都市には来なかった?」

「あはは。僕はアタマ良くないんで」

「まぁ、そんなこと言って」

「いいえ、そーなんです、ウチのバカ兄はホンモノですから」

「お前、めったに会えねぇ兄貴に向かって何言ってんだよ、黙ってれば調子に乗って……」

「ホントだもんねー、バカ兄、ベーだ」

「てめぇこの」

「こらっ! 二人とも、静かにしなさいっ!」

さすがにやりすぎ。私はちょっと怒りました。うん。

「すいません……」
「ごめんなさい……」

しゅんとなった兄妹二人。見ていてなんか微笑ましいな、と私は思う。



「すいません、あの、ここ、御坂くんのところでしょうか?」

また、インタホンから女の子の声が聞こえてきた。

あらまぁ、また女の子なのね……さすが、一麻くんだわ……あの子、お母さんに似てイケメンだったし、こっちでももててたのね。

ふと見ると、ミサちゃんの顔が、嫌なものを見たようになっている。はて?

どうしたのかしら、知ってる女の子なのかしらね。

「お越し下さいましてどうも有難う御座います」

娘がドアを開けて挨拶する。さすがわが娘、こう言うところはよく決まってるわねぇ。

「この度は、御愁傷様です」

「御愁傷様です」

「あ、ご、ごしゅうそうさまです」

「ごしゅうしょう、さまだよ」

「御愁傷様、です」

ミサちゃんと同じ制服を着て花束を持った女の子を先頭に、ぞろぞろと男の子、女の子が入って来る。これはまたすごいわね。

「お母様、あの、そろそろ呼んできて頂けますか?」

ま、よそ行きの言葉だこと。おかあさま、だって。なんか笑っちゃうわねぇ……

「そうね。行って来るわ」

「場所、大丈夫?」

「そこまで耄碌してないわよ」

そう言って私はその部屋を出た。

「あー、サトシュンだぁ!」

「げ、ハセガワかよ!?]

ドアが閉まる直前、佐藤くんと女の子の大きな声が漏れ聞こえてきて、私は少し気が楽になったのを感じた。


戻ってみると、麻美さんはまだ目覚めていなかった。

(起きたくないからかもしれない)

ふと、私はそんなことを考えた。

自分が腹を痛めた可愛い我が子が、炎に焼かれて煙になって消えて行く、そんな悲しく恐ろしい光景をたった一人で見ていなければならなかったなんて。

起きたら、あまりにも辛い、そんな現実と向き合わなければならなくなる。

それなら起きなければいい、そんな気持ちがあるのではないか、と私は麻美さんの心境を想像してみた。

「本当にすみません。じゃ行って来ます。なるべく早く終わらせますから」

「そんなこといいのよ。それより、焦ってとちらないでね?」

「あー、そうならないように頑張ります」

「それに中学生やたらといるから驚かないでね。私みたいに東京から来てる子もいるし、なんか同窓会やってるみたいな子もいたもの」

私は最後の声を思い出してそう付け加えた。

長谷川さんという女の子、そういえばあの子と同学年にいたような記憶がある。

確か…姦し娘だったかしらね、きかない女の子の三人組じゃなかったかな。

毎日監視されてて、すごく嫌だって言ってたっけ……

「そうですか。あいつ、友達多くて良かったなぁ」

「そうね、沢山来てくれて喜んでると思うわ。でもね、当麻くんと違って、自分がもててることちゃんと気が付いてたわよ、あの子は」

「え、え、あの、お義母さん、いきなり何を」

「念のため言うけど、中学生に旗なんか立てさせないでね、御願いだから」

「何を仰ってるのかさっぱりわかりませんです、はい」

これだ。全くもって、この年になってもまだこの調子なんだから。娘があきれるのも無理ないわね……

まさか、わかってやってるなんて事、ないわよね? そんなことないか。当麻くんだものね……。

「……ま、美琴ちゃんいるから大丈夫か……」

「それでは、上条当麻、行って参ります」

「しっかりね」

言えなかった。麻美さんを一人で立ち会わせた事を非難することは容易い。

だが、それは同時に、自分の子供の最期を看取ってやれなかった彼の後悔を、痛恨の傷を思い切りえぐる事でもあるのだ。

私に、そんな権利があろうはずがない。

それを言えるのは、他ならぬこのひと、麻美さんだけなのだ。

あ、そう言えば麻美さんは、と……大丈夫そうね?

もう今さら起きても間に合わないし。

さぞ辛かったことでしょうに、ゆっくりお休みなさいな……



「一麻!?」

突然、麻美さんが叫んで目覚めたのは、それから10分ほど経った頃だった。

「麻美さん、目が覚めたのね。気分は如何?」

私はそっと彼女の傍に寄りそう。

「?」

何故ここに、と言う顔で私を見る麻美さん。

娘と似ているけど、本当にそっくりなところもあるけど、でも、やっぱり別人で、少し安心したりする。


「……お義母さ、ま……?」

ようやくそれだけを言ったけれど、彼女の視線は宙を舞っている。

まだ完全には起きていないというところかしら?

「夢を見てたのね?」

亡き息子さんの、あの子の名前を呼んで目覚めたから、私はそう訊いてみた。

「夢……? あの、ここは……?」

どうしようか、一瞬私は迷った。でも、決めた。逃げちゃいけないから。

「墓地ビルのお部屋よ。麻美さんは、疲労困憊だったのね」

「……墓地、ビル……?」

目が大きく見開かれる。

やおら、彼女は起き上がると、はっきりした声で

「お義母さま、すみません、今何時でしょうか?」と訊ねてきた。

「夕方の6時過ぎ、ね」

私がそう言うと、彼女はさっと真っ青になり、

「こうしてはいられません、一麻のための特効薬が到着しているはずなのです。私はあの子の部屋に戻らなければなりません」

そういうと、麻美さんは私を見てこう言ったのだ。

「ところで、お義母さまは何故学園都市に、それにどうして墓地ビルなどと縁起でもない場所にいるのですか?」



私は彼女に向かって「何を寝ぼけているの」と笑い飛ばすことが出来なかった。

彼女の心は思い出したくないのだ、辛い出来事を。

息子を喪ってしまった、という悲しい事実を。

いったい誰が、そんな彼女を笑えよう、責められよう。

でも、私は、余計なお節介だろうけれど、この子を放ってはおけないと思った。

かつて、一緒に生活を共にした、娘の「妹」をこのまま放ってはおいてはいけないと思った。

私は腹を決めた。

「麻美さん、ちょっとお待ちなさい」

「すみません、時間がないのですが」

「しっかりなさい、麻美さん。私を見つめて、そして深呼吸して、落ち着いて?」

彼女は不承不承、私の言葉に従った。

「ここは、学園都市の第十学区なの。そして、あなたと私がいる、ここは墓地ビル。あなたは上条当麻さんとここへ来た。思い出して?」

彼女は、え? という顔になる。

本当に覚えて居ないのだろうか?

「あのひとと、私が? どうして……こんなところに?」

私は彼女の身体に自分の身体を寄せ、しっかりと彼女の身体を抱きかかえる。

「あ、あの、お義母さま……?」

「しっかり、よく聞いて頂戴ね。あなたの息子、一麻くんは……もういないの」


麻美さんの身体がビクと痙攣する。

優しく背中を撫でながら、言い聞かせるように私は彼女の耳元でそっと語りかけてゆく。

「辛かったのね。悲しかったのね、そうよね、親より先に、自分より先に子供が死ぬなんてありえないわよね。親不孝よね」

私の身体を押しのけようとする麻美さん。でも、その力は儚い。

「お義母さま、縁起でもない……あの子が死んだなんて……そんなことをどうして……」

「うん、そうよね……とんでもなく不幸せだわ……

でも、あなたはたった一人で、あの子の、一麻君の最期を見届けたんでしょ? 酷いわよね、一人きりなんて。

でもね、私だって、私だって、あの子を育てた一人なのに、育ての親なのよ、私だって。

それが何よ、あの子の死に目にも会えなくて、骨もなくて、何にもない空っぽの箱だけ見せられて、それで死んだんだ、って言われたって……

信じられないよね、信じたくないよね……酷いよね、許せないわ、ひとの気持ちを、親の気持ちをなんだと思ってるのよ!!」

情けない話だけれど、私は途中から何を言ってるのか判らなくなっていた。

でも、誰かに聞いて欲しかったのだ。

午前中は一人で泣き喚いた。思い切り泣いた。一人で良かったと思った、あの時は。

でも、今は違う。誰かにこの悲しさを、悔しさを、寂しさを誰かに聞いてもらって、私の来持ちを分かち合って欲しいのだ、今は。

……私は興奮して、精神的に参っていた麻美さんに、そんな自分の悲しみをぶつけてしまっていたのだった。

一時の興奮状態から醒め、とんでもないことをしてしまった、と私が気が付いたのは、しばらく経ってからだった。

「一麻……」

不意に麻美さんがつぶやいた。

「私の……私の産んだ息子……ひぃっ!」

彼女の身体が痙攣する。

私は彼女の顔を、目を見た。焦点が合ってない!?

私はとっさに改めて彼女を抱き直し、力を強めた。

「止めて、止めて下さい! そこは、そこは、役目を果たしたミサカたちを焼くところではないですか!!」

ええっ???  どういう、こと?

私は予想もしなかった麻美さんの叫びに衝撃を受けた。

彼女は覆い被さっている私の身体を押しのけようと、前後左右に激しくもがく。

でも、その力は悲しくなるほど弱い。

「この子をどうして焼くのですか、止めて下さい! 本当に死んでしまいます! 御願いです、焼くならこのミサカを身代わりに!!

息子を助けて! 薬を早く! ああ、ああっ! 一麻、一麻ぁっ!!」

そして、がっくりと麻美さんの身体から力が抜け、私にもたれかかってきた。

「麻美さん、麻美さん? 大丈夫?」

返事はなかった。

私は、彼女をまたベッドに静かに横たえ、毛布をかけた。

「かわいそうに麻美さん……辛いわよね」



でもこの時、私の頭の中では、彼女が叫んだ言葉がぐるぐると廻っていた……。


「お母さん、麻美の具合、どう?」

「こっちは無事終わりました」

二人が帰ってきた。

疲れた顔をしている。

「お疲れ様……ホントに疲れた顔してるわね?」

私は暗い雰囲気を少し明るくしようとして冗談ぽく言ってみたのだが……思い切り滑った。

「中学生ばっかりだったからね…」

「多感だもんな、あの頃ってさ」

「泣いたの?」

多分、すごかったのだろう。

「うん、全員ね。最初はまだ良かったんだけど、一人がグスグス言い始めたらもう大変、みんな大泣きでね。私まで泣きそうになっちゃって」

「いやお前少し泣いてただろ……まぁ、でも誰も泣いてくれなかったらそれもまた悲しいけどな」

「泣いてないわよ!……それよりあんたは父親なんだから少しは泣きなさいよね、自分の息子でしょ? 冷たいんだから」

「そんなこと言うない。それに俺まで泣いたら収拾付かなくなるだろ?」

「いいじゃない、葬式なんだから泣くのが当然でしょ……お母さん?」

ようやく美琴ちゃんがこっちに気が付いてくれた。全くもう。

「麻美さん、泣かないのよね」

「は?」

「ホントに辛かったのね、一人でずっと我慢して、もう私達には想像も出来ないくらいに……」

当麻くんが下を向いてしまう。あ、あなたを責めてるわけじゃないからね、間違えないでね?

「起きたの?」

娘がいいところで突っ込んでくれた。とりあえずこっちに話を持っていこうね。

「さっきね……辛すぎて、彼女は忘れようとしてたみたいなの。ちょっと乱暴だったかな、一麻君は死んだって言い切っちゃったのよ」

「えー?」
「うーん、そこまで……」

まぁ、そこだけ聞けばそう思うわよね。でもね、もっと事態は深刻だったのよね。

「だって、起きたらこの子、一麻君の病室に行かなきゃって真剣に言うんだもの、真顔でよ?」

「うわ、ホントに? それもまた厄介ね」

「現実逃避してても困るし、それでちょっとショック療法的にね……とりあえず思い出したみたいなんだけどね」

「で、また寝込んだの?」

「まぁね。仕方ないわよ、子供に死なれたらね……」

私は言葉を濁した。

――― そこは、役目を果たしたミサカたちを焼くところではないですか!! ―――

――― 御願いです、焼くならこのミサカを身代わりに!! ―――

ああ、なんて恐ろしい、なんて哀しい叫びだろう。

この子は、たった一人ぽっちで……

でも、それをこの場で言ってはいけない、私はそう思った。


「そうよね……でもそろそろ起こさないと。もう終わったし、ここにいつまでもいるわけにはいかないもの」

娘はそう言うと、麻美さんの傍に寄って両手を彼女の頭に当てた。、

「ほら、起きなさいな」

あ、ちょっと光ったような? 美琴ちゃん、電気なんか出して大丈夫なの?

「誰っ!? ……あ、お、お姉さま……?」

杞憂だったようだ。麻美さんはバッと跳ね起きた。

娘は私を見て軽くウインクして見せた。まぁ……

「ほら、帰るのよ、起きなさい」

「麻美、大丈夫か?」

ぼうっとした顔の麻美さんに、二人が声を掛けている。

麻美さんと私の視線が合った。

「お義母さま……すみません」

あら、さっきのことかしら、やだ覚えてるの? ちょっと恥ずかしい、私も訳わからないこと言ってたはずだし……ね。

頭を下げる麻美さんに、私も軽く(いいから、気にしないで)という顔を見せて会釈する。

娘が優しく「さ、おうちへ帰ろう?」と麻美さんに声を掛けると、

当麻くんが「美琴、ちょっと毛布を剥いでくれるか」と頼み、

娘はさっと毛布をめくりあげ、彼が麻美さんを抱き上げた。

ふうん、なかなかの連係プレイよね、なあんだ、しっかり夫婦してるじゃないの。

「あんた、大丈夫?」

「ん? どうってことないよ」

あらあら、お姫様抱っこしちゃって。

「あ、あなた……」

「ダメだ。お前は全然大丈夫じゃないからな。黙ってろ。美琴、すまん?」

「はいはい、ほら、気をつけて出て」

(美琴、すまん)でドア開けてくれって、美琴ちゃん阿吽の呼吸じゃないの。

この分ならまぁ大丈夫かもね、そう私は思った。

二人だけにわかる会話が出来てるもの。

「あーあ、私も今度それ、やって欲しいなぁー」

「言えよ、やってやるから」

「冗談よ、恥ずかしい」

「……」

「いいからあんたは黙ってなさい」

二人の少しおどけたような声が遠ざかっていく。

湿っぽい雰囲気にならないように、わざと空元気を出しているのだろう。

「さてと、私も帰りましょうか」

簡単に毛布を畳み、シーツを直し、枕を整えて、私は部屋を出た。


麻美さんは当麻くんが家に送って行く事になった。

彼女自身は「大丈夫です」と言うのだが、その実、まともに立てないほど憔悴しきっていた。

このまま病院に行った方が良いのではないか、と私は言ったが、肝心の麻美さんのは強い拒絶にあってしまった。

「あんた、あの子についてて。目を離したら駄目よ」

娘が言うのももっともな事だった。放っておいたら息子の後を追いかねないおそれがあったからだ。



「とりあえず終わったわね」

私は、走り去った当麻くんの車を見送っていた娘にそう話しかけた。が、

「うーん、私はまだ終わってないと思うけどな」

「あら、どうして?」

「ちょっと、ね」

……ああ、当麻くんと麻美さんのことか……うーん、それは確かにね……危ないよね、今の状態はね。

「そうか……美琴ちゃん、母さんね、あなたとお話したいから外へ出たいんだけど」

「……遠くはちょっと、近くで良ければいいわ。今、クルマ呼ぶね」



私達は娘のリモでゲートへ向かっていた。

「あ、やっぱり来たかな?」

ふいに娘はケータイをバッグから取り出しす。

ちょっと、貴女、いまだにそんなモデル使ってるの? 歳を考えなさいな、まったくもう……そう言うところは子供っぽいんだから。

「メール打つのはこっちが早いのよー、よし……さて、もう一度メール来ると思うんだ。それ次第だから」

どういう事、と私が訊ねる前に娘はまたケータイを見る。

「あれ、音声通話? すいません、クルマ止めてくれます?」

急停止したリモから娘は下りてなにやら話を始めた。



話が終わったらしい、娘がクルマに戻ってきた。

「重症ね」 シートに腰を下ろすや否や、私の顔を見て娘が言う。

「どうしたの?」

「あの子、お家に入りたくないって言い出しちゃってるんだって」

「まぁ……」

「……そうよね、一麻君の痕跡だらけだもんね。何見ても泣いちゃうわよ」

「かわいそうに……それで?」

「ウチで使ってるホテル・ダイヤモンドプリンセスをね、使わせて欲しいってお願い。ジュニアスイートが空いてるからどうぞ、って言っといた」

「へーぇ、すごいのねぇ……で、当麻くんも?」

「でしょ」

「ふーん、複雑な心境よね」

私はせめてもの、ということでオブラートにくるんで言ったつもりだったが、娘には十分でなかったらしい。

「母さんも余計なこと言わない!……仕方ないでしょ、今、あの子一人にしておいたら、絶対あの子、後を追うわ。

それを防げるのは、抑えられるのはアイツだけだもん」

ひとつ、忘れてるわよ……当麻くんもね、一麻くんのお父さんだったのよ、美琴ちゃん……


「とりあえずビール、ここ大瓶?」

「生は中ジョッキで、瓶は大瓶ですが」

「じゃ1本、グラス2個」

「ハイ。お料理はどうしましょう」

「枝豆1つ、海鮮サラダ1つ、お刺身盛り合わせ2人前」

「えーとね、ソーセージ盛り合わせ1つ、鳥から1つ、サイコロステーキ1人前、とりあえずこれで」

「ありがとうございます」

私達は学園都市を出て、新横浜の居酒屋に入った。

壁は薄いが、一応個室になるところと、一方で全体的に騒がしいところが密談にぴったりだったから。

「ビールと枝豆お待ちどうさまー、あと、こちらはお通しになりますぅ」

さっそく美琴ちゃんのコップにトクトクとビールを注ぐ。

「はい、じゃ母さん……乾杯はまずいか」

「そうね、目出度い集まりじゃないから今日は止めましょうね」

私たちはコップをちょっと上げただけで、黙ってビールのコップに口を付けた。

あら、この子ったら一気に空けちゃった。いいのかしら?

「ん? ああ、さっきの電話で話済んだから。もし揉めるようだったら私も行かなきゃなって思ってたけど…

まずかったらここまで来ないわよ。ま、あの後連絡ないからなんとかなだめすかしたんでしょ」

ああ、なーるほどね。

じゃぁ生ジョッキで良かったんじゃない、まったくもう。

「刺身盛り合わせお待ちー」

うーむ、こういうところは話始めにくいわね。

「母さん、話って?」

あら、先手取られちゃった。

「ソーセージ盛り合わせですぅ」

全くもうー

「料理全部来てから話すわね」

「鳥からですー」

「海鮮サラダお待ちー」

「サイコロステーキです。熱いのでお気をつけ下さいねー」

あー、やっと揃った。

これでやっと娘と話が出来るわ……


「そんなこと言ったの!?」

「声が大きいって、美琴ちゃん」

「これが黙ってられる訳ないでしょ!?」



麻美さんの驚愕の発言内容には、やはり娘も驚いたようだ。

「この言葉の意味、教えて」

娘は私にどう答えるべきかしばらく考えていたようだったが、低い声で話し始めてくれた。

「……あの子たちが生まれた理由は、私、前に言ったわよね?」

「えっと、何かの実験で、だったわよね?」

私も娘に会わせて低い声になる。

「そう。あの子たちはね、最終的には負けて死ぬ事が決まってたの。全部で2万通りのね。

それでね、あの子たちは、その最終処理もやらされてたらしいの。つまり、自分達の亡骸の始末も」

「なんてこと……」

そんな馬鹿なことってあるのだろうか?

いや、あったのだ。あの高い壁の向こう側の、娘のいる世界で。

麻美さんが叫んだのが、まさにその証。

「ショックだわ……肉頼むんじゃなかったなぁ、こんな話聞くんだったら」

お箸でつんつんとサイコロ状の肉をつつく娘を私は叱った。

「食べ物をそんなふうにするのはおやめなさい!」

だって、と言いたげな娘の顔だったが、しぶしぶと箸を置いた。

美味しそうだけど、ちょっと食べられそうにない。下げてもらおうかしら。

もったいないけど、私には、それが、死んでいった1万人にも及ぶという娘のクローンたちの姿とダブって見えたから。

「美琴ちゃん、いいかな」

私は話題を変えることにした。

「いいわよ。廻りもやかましいし」

「お葬式のことなんだけど。私出てないからどうだったのか知りたいんだけれど」

「ああ、たいした事じゃないわ。みんなお花持ってきて、あの箱に入れて、写真入れてた子もいたな……

最後に父親たるあいつが挨拶して頭下げておしまい。簡単に言えばそんなものよ。

私こそ外のお葬式って知らないから、興味あるけどね。弔問のセレモニーは何度かあるけど全部海外だしさ」

そうだった。この子はそう言う意味では全く常識を知らないのだった。

「場所によっても、宗教やその宗派によっても全然違うんだけどね。どこでも共通してるのは、まず故人の冥福を祈るってことね。

無事に、安らかにあの世に行って欲しいってことよ」

「あは、オカルトっぽいね」

「まぁ美琴ちゃんは信じないかもしれないけど、ここ日本はね、恨みを呑んで死んだ人は祟り神になるのよ?」

「何ソレ? 祟り? 神様?」

「そう。まぁ昔の人は病気の原因とかわからなかったでしょうし、運悪く何か事故に合えばそれは『誰それの祟り』ってことにされたんでしょ。

それでみんな納得したでしょうしね。 で、それじゃみんなが困るから神様に祭り上げて、どうか祟らないで下さいって鎮魂のお祓いをする訳よ」

「ふーん。何かわかったようなわかんないような……あ、お酒もらおっか?」

「ちょっとちゃんと聞いてるの、美琴ちゃんたら……これにしてみよっか、いずみ橋。海老名で作られてる日本酒だって」

「へー、そんなのあったんだ、すごいね」


私の娘への説教は続いていた。

「二つ目はね、美琴ちゃん自身も経験してるって言ってたけど」

「えー、なんか言ったっけ、私?」

む、少し酔っ払ってきたか、この子?

早く言っておいた方がいいかもしれない。私はまだ大丈夫だし、うん。

「弔問外交よ、ま、実際はそんな大層なものじゃないけどさ。

生きてる人たちが集まるわけでしょ? それで普段会った事のない人が顔を合わせる、それって結構大事な事なのよ?」

「そうかな、メールでも音声でも話は出来るよ?」

「美琴ちゃん、じゃ聞くけど、貴女、ママとこうやって会って話したりするのと、メールでやりとりするのと、どっちがいい?」

「えー、怒られる時はメールでいいし、なんかもらえるんなら会ったほうが良いかなー」

「マジメに聞きなさいよ……あのね、メールにしてもバーチャルミーティングにしてもね、自分が選んだ人とだけしか交流できないのよ?

狭い世界の中だけの集まりなの。

でもね、実際に人が集まるっていうことは、自分が選んでいない人、場合によっては会いたくない人、忘れていた人たちと出会うってことなのよ。

私があの部屋を出たくらいで、子供たちでなんか同窓会みたいなことになってなかった?」

「……あー、そういえばそうだったかも。うん、東京に残ってる子とここにきた子とが顔合わせして盛り上がってたね」

「それが弔問外交よ、かわいらしいものだけどね。一麻君の葬式があった事で離れ離れになってたお友達と会えたわけよね?

……今はまだ中学生だし、そんなに時間が空いてなかったと思うけど、私達くらいの年になると、もう10年20年と言うレベルで会ってない人がいるからね。

ほんと、同窓会はお葬式くらいでないと、もう会うチャンスなんかないわよ」

あー、確かに学園都市にいるのに卒業以来会ってないひと多いかも、と娘は端に残った刺身を食べながら独り言のように言う。

少しはわかってくれてるように見えるけど……大丈夫よね?

さて、最後だ。

「あと、一番大事なのはね……亡くなったひとを思い出してあげることなのよ。良い事でも悪い事でも」

「?」という顔の娘。

「ひとはね、二度死ぬって言うの。ひとつは、ホントの死、ね。生命活動を止めちゃっての死。

もうひとつは、誰からも忘れられて、まるでこの世にその人がいなかったかのようになっちゃうこと。社会からの抹殺みたいなものかな」

「でも、最終的には忘れられるんじゃないの? 100年も経てばみんなそうなるでしょう? あ、自分でやるから」

あーあー、ほら、美琴ちゃん、お酒こぼしてるって、もうちょっと止めなさい!

「何よう、ママったら全然飲んでないじゃない、すいませーん、御銚子2本!」

「美琴ちゃん、酔っ払って寝ちゃう前に1つ教えて。

一麻君、どうして死んだの? 死因は何だったの?」

娘は私の質問を聞くと、やおら居住まいを直した。そして、酔って赤くなった目でじっと私を睨み付けた。

「クスリよ」

「何の?」

「母親、麻美の調整剤。あの子たちの身体は普通じゃなかったのよ。生まれたときから使われてた成長促進剤と、それを抑える安定成長剤。

この二種類をバランスよく使うことで、あの子たちの身体は出来上がったのよ」

サイコロステーキの皿の、付けあわせの野菜をつまみあげた娘は無表情に淡々と言葉をつむぐ。

……その顔は、麻美さんがたまにする顔とよく似ていた。クローン人間って、そんなところも似るのだろうか。


「でね、あの子が多分最初だったらしいんだけれど、あの子が妊娠して、お腹に赤ちゃんが出来た。

ところが、胎盤を通じて、片方のクスリだけが赤ちゃんに浸透してしまった、らしいのよ」

そういう、意味か。

「麻美に残ったのは安定成長剤。成長を抑える方ね。人間に限らず、生き物の細胞は新陳代謝、新しい細胞が出来て、古い寿命が尽きた細胞は死んで行く。

わかるよね、お母さん?」

「御銚子2本、お待たせしましたぁー」

「すいません、御新香1つ御願いします」

「御新香盛り合わせですね、有難う御座いますぅ!」

はいはい、もっと飲んでよー、と娘が私に銚子を突き出してくる。仕方ない、少しは付き合うか。

あれ、さっきと味が違う? 

「あの子、母さんのところにいた時に倒れて、危篤状態になったでしょ?」

「……あったわ。それで結局そっちに戻ったのよね」

「ちょっとそれで思うことあるけど、後回し!

でね、赤ちゃんだった一麻くんはどうしたかってーと、成長促進剤が浸透したのね。

こっちは細胞分裂を促進するほうだから、バンバン細胞が生まれる、それってつまり『ガン』なのよね。

身体が若い分、細胞分裂も活発。あっという間に死んじゃったのよ。可哀想に」

「でも、お母さんと一麻くんの発病のタイミング、まるで違うじゃない、10年ずれてるわよ?」

麻美さんの発病したタイミングは一麻くんが4つの時。で、彼は14歳の若さで急逝してしまった。

同じ要因とは思えないじゃないの?」

「私だってそこまで詳しく聞いてないし。でもね、私思うの。

あの子たちがこの世に生まれ出たとき、身体は私の14歳の時点のものなの。

本来ならそこで終わってた、それ以上成長させる必要はなかった肉体を『調整』ということで生かすように作られた薬なのね。

だから『14歳になるまで』一麻くんに何の影響も出なかったのかな……って。

そうよ、だって、確かにあの子、今年に入ってからだもん、急激に背伸びたのよ? 私も麻美も完全に見下ろされちゃって、ふふ」

寂しそうに笑った娘。

あれ、もしかして泣き出した……? 

泣き上戸だったっけ、美琴ちゃんて……? 


「そうよ、あのヤブがね、あの時にちゃんと病例の意味する事がわかれば、もっと被害は少なく出来たはずだ、すまなかった、って今更謝るのよ?

ホント今更よねー。そうよ、ちゃんと理解して、対策を取ってくれてたら、あの子は死なずに済んだのよ……ううん、妹達<シスターズ>だってね」

両手で顔を覆い。顔を伏せた我が娘はすすり泣き始めた。

「こんなことなら……もっと、もっと優しくしてあげるんだったのに……」

「あの子、美琴おばちゃんって…私を慕ってくれてたのに……」

「ごめんなさい……」

「なんであの時……」

悔恨の言葉が切れ切れに聞こえてくる。

「御新香盛り合わせでーす」

あちゃー、最悪に場違いな店員さんの登場。

(あらら、泣き上戸だったんですか?)とでも言いたげな顔を一瞬私に見せた彼は、お新香の皿をそっと置くと静かに襖を閉めて行った。

人がいなくなって気が緩んだのか、娘の泣きは少し激しくなった。

娘の嗚咽と鼻をすする音だけが部屋に流れる。

外の賑やかさとはあまりに対照的。



そう言えば、この子は今日、少なくとも私と顔を合わせてから一度も泣いていなかったことを思い出した。

もしかしたら、ずっと、ずっと耐えていたのかもしれなかった。悲しみをこらえていたのかも知れなかった。

今、ようやくこの子の感情は解き放たれたのかもしれなかった。

自分の甥っ子の葬式ですら泣けなかった我が娘。

この子も苦しんでいたのだ。

悲しみと、後悔とで。

でも、今、ようやく。



「美琴ちゃん、そうやって泣いてあげるのも、亡くなった人への供養なのよ、ね。

あなたに死なれて、私は悲しいです、寂しいです、悔しいです、って泣いてくれる人がいると、死んだ人は安心するの。

ああ、悲しんでくれるひとが居たんだって。

一麻くんも、今頃安心してるわよ。美琴ちゃんがわんわん泣いてくれて」

「わんわん……なんか、泣いて、ないもん……ひっく、母さんこそ、泣か、泣かないの、なん、でよ?」

「ふふふ、私はね、出てくるときに大泣きしたから、もう大丈夫なのよ……?」

あら、視界がちょっと変、え、やだ、娘の泣き癖が移っちゃった? あれ?



私のほほを大粒の涙がつたって落ちて行った。

今日は2回も泣いちゃったわ……


湿っぽい雰囲気を壊したのは、夫からのメールだった。

―― 今から飛行機に乗る。学園都市到着は23:15の予定 ――

「えー、お父さん帰ってくるって」

泣きべその娘の顔が酷い。

私もちょっと泣いたから、化粧直さなきゃ。

「そうみたい。私にも落ちてる」

「あと2時間くらいだね」

「戻ろっか、あそこへ」

「宿は?」

「ウチへ来てよ、アイツはしばらく帰ってこれないし」

「それ、お父さん聞いたら激怒するかも」

「……そうね、あり得るね」

「あー、メンドクサイなぁほんと」

「こら、親をメンドクサイってどういうことよ?」

「ゴメン、もののはずみ。気にしないで」

「とにかく、急ごう?」

「その前に顔!」

「そうだね!」

私達は大急ぎで化粧を直すとタクシーを探した。



そして、学園都市エントランス。

予想もして居なかった事が起きた。

「入国拒否」である。もちろん、私だけ。

「どうしたの?」

娘が傍に来る。

「また入れなくなっちゃったって」

「どういう事なの?」

目を吊り上げた娘が入国係員に食って掛かる。

「今まで問題なく、午前中も問題なく入れて、夕方も何も問題なく出れたのに、何故今度は入れないんですか?」

バリッと放電が飛ぶのを私は見た。

「美琴ちゃん、止めなさい放電するのは」

「え?」

係員が娘の顔をもう一度見て、

「あ、あの、もしかして超電磁砲<レールガン>の御坂さんですか?」

「だったらどうなの?」

「すいません、あ、あの、アチラに見えます事務所の方へ起こし願えますか?」

そういうと、彼はゲートをクローズして私達二人を事務所の方へ案内してくれた。


「待たせるわね」

「仕方ないでしょう、こんな時間だもの」

「うん、でもお父さん先に着いちゃうかも」

「待たせとけばいいのよ、ターミナルの中は快適だし、安全だし」

私達はそんなことを良いながら管理官の到着を待つ。

「お待たせしました。なにぶん夜間なので」

管理官のひとが入ってきた。

「いいえ、ご面倒おかけします」

私は低姿勢で挨拶する。

こんな時間にこんなところでトラブルなんてまっぴらだったから。
 
なのに娘の方は今にも電撃を飛ばしそうで、私はひやひやしっぱなしだ。

「えっと、入国禁止になったということでしたね?」

「はい」

「ここに来る前に一応見てきたのですが、確かにそうなってるんですね、つい先ほどなんですが」

「はぁ?」

「申し訳ないのですが、こちらでも詳細な理由は不明なんです。そうなってる、としかお答え出来ません。申し訳ありません」

「そんな……」

「あの、どういう事由で入国禁止とする、というのがあると思うんですが、それはどうなんですか?」

娘が食い下がる。

「あ、それはわかります。ここでも見れるかな、ちょっとお待ち下さいね」

入港管理官のひとが席を外して、端末の方へ歩いて行き、内容を確認している。

娘は厳しい顔のまま黙っている。

戻ってきた管理官の顔も厳しい顔になっている。

「あまり良い理由じゃないですね……『有害人物』という項目があるんですが、貴方はそこに該当しています。

残念ですがこれでは入国を認める訳にはいきません」

「でも、さっきまで『お母さん、わかった。行こう? ここで頑張っても無駄よ』……美琴ちゃん……」

娘は私の手を取り、出口へ向かう。

「お手間取らせてすみません」

「いえ、こちらも規則なのですみませんね。あ、あの異議申し立てについては『わかってますから大丈夫です』……」

「ちょっと、美琴ちゃんてば……」

「ちょっと戻ろう、どこか深夜営業のファミレスあるでしょ」

私は娘に引きずられるようにしてタクシー乗り場へと向かった。


「あの時の言葉で引っ掛かったのよ、たぶんね。こう言う時は早いわねぇ……」

「どういうこと?」

私たちはファミレスにいた。

「私、お母さんを止めたじゃない、あの時」

思い出した。

墓地ビルの中での話だ。まさか、あんなことで?

「そのまさか、よ。迂闊だったわ、学園都市じゃね、プライバシーってもんが非常に難しいのよ。ホント、自分の部屋だって危ないんだから」

「でも、話した内容は……」

「うーん、批判に受け取られる可能性は結構高かったと思うんだ、実際入れなくなっちゃたでしょ?」

私は返す言葉がなかった。

「それに、母さんはある意味で前科者だからさー」

「ちょっと、ひどいわよその言い方」

「冗談よ。『要注意人物』って言い直してあげるわ……だから元々のハードルが低くなってるんだと思う。

つまり、普通の人だったら警告で済んだかも知れないけど、母さんの場合はあの程度でもアウト! って事なんだと思う」

「言論の自由はないのね」

「んー、思うことは自由なんだけど、公の場で言って良いことと悪いことがあるってことかしらね」

「あの部屋で言ったことが原因だったなら、あの場が公の場なの? 美琴ちゃんと私しかいなかったのよ、あそこには?

密室と同じじゃないの。たかが親娘の会話じゃないの、それで入国禁止? ずいぶん器が小さいのね」

「お母さん……」

私も娘の話を聞くうちにいい加減頭に来ていた。あ、お酒のせいもあるかもしれないけれどね。

上等じゃないの、だったらいいわ、別に学園都市に行かなきゃ行けない理由なんて無いもの。

一麻くんのお仏壇はウチで作ってしまおう。

あんな、まるでキャビネットのような「ただの箱」なんかじゃない、ちゃんとしたヤツを!

ようし、じゃ明日は浅草行って仏壇見てこようっと!

「じゃ、帰ろうっか」

「私、ひとりで帰るのやだな……家だってアイツはいないし」

「じゃ、ウチに帰る? そうよ、そうしなさいよ、美琴ちゃんもこのところ来てなかったし。よっしゃー、今日は久しぶりに家で呑むか!」

「お母さんたらー、ちょっと恥ずかしいってばー、それじゃただの酔っぱらいじゃないのー?」

私たちは、すっかり出来上がってしまい、タクシーの中ではずっと寝たまま。

家に辿り着いた後も、風呂に入るのも面倒くさいと、そのままろくすっぽ着替えもせずに、二人で寝てしまった。




                                     
翌朝、娘は朝ご飯も食べずに学園都市へすっ飛んでいった。

私たち二人は、ケータイの着信履歴を見て青ざめたのだ(苦笑)

私は直ぐに電話をかけ、ひたすら夫・旅掛に謝るしかなかった。

ま、夫いわく、二人ともメールの返事は来ないし、音声通話も繋がらない、ということで状況は想像したらしく、さっさとエアポートホテルで寝たらしい。

それもまた、なんか少しひっかかる気もするんだけれど。


今日、娘から、あのケースに仏壇と位牌が入った、と言う話を聞いた。

詩菜さんが入れたらしい。ようやくあの人も、一麻くんを認めてくれたのだろうか。なんかほっとする。

私は仏壇の前で手を会わせる。

(一麻くん、あなたのあっちのお墓に仏壇出来たんだって、知ってた? 

知ってたよねーそりゃ。自分のことだもんね。居心地はどう?

そりゃ麻美さんのところが良いとは思うけど、ちゃんとこっちにも顔見せて欲しいな。

……言うこと聞かないと、ひどいよ?)



「えー、メシ抜きはおばちゃん止めてよー!」



え、え?

一瞬、一麻くんの声が聞こえた。確かに、今のは……今の、は?

「ただいまー、何か食べるものない?」

――― うそ、どうして? ―――

ああ、夢だ。

だって、この一麻くん、小学生だもの。でも、私の一麻くんはやっぱりこの姿がいいな……

「お腹減ったよ。ね、このまんじゅう食べて良い?」

ええ、ええ、どうぞどうぞ、何でも好きな物をお食べなさいな。

「ありがとね、おばちゃん」



私はテーブルに突っ伏していた。 もう陽も傾いている。

やっぱり、夢だった?

私は急いで仏壇のある部屋に走り込む。



仏壇の前に飾られている一麻くんの写真は、いつもと同じように笑っている。

でもお供えのお菓子が、ない。

あれ、出してなかったっけ? 

ああ、そうか……あの子が、さっき。



「来てくれたのね、ありがとう」



一麻くんが照れくさそうに写真の中で笑って、いた。







(番外編2 完)

>>1です。

番外編、御坂美鈴の物語、投稿終わりました。
23コマ。上条詩菜さんの倍以上となりました。

投稿し終わって思ったのは、一麻くんが美鈴さんの夢に現れるのはいいとして、御坂妹(麻美)のところに出なくて良いのか、という気がしたのですが、本編はあれで成立しちゃってるのでまぁ良いかと。

さて、残るは今作というか前作のというか、佐天涙子・利子と上条詩菜との番外編です。
少し御時間頂戴しますのでどうか御了承下さいませ。

それでは本日はお先に失礼致します。
最期までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

待ってる

作者様

美琴ちゃんが、急速に大人の階段を上りつつある
という感じなんでしょうね。上条さんも克服したわけですしね。
番外編あまりむりせずゆっくり作ってください。

皆様こんばんは。
>>1です。

大変時間が掛かってしまいましたが、番外編3つめ、完成致しました。

コメント頂き有り難うございます。

>>339さま
随分とお待たせしてすみませんでした。番外編2が4/13の投稿でしたので1ヶ月半も掛かってしまいました。
さて、どういうご評価を頂けますでしょうか……

>>340さま
いつもありがとうございます。
超電磁砲「大覇星祭編」も今月号で完結したようですね。
正体不明だったフルチューニングことミサカ00000号は生存しているようですね。私はドリーが彼女だったと思ったのですが、どうやら別人だったようで。この辺はアニメのフェブリ編と同じ流れなのでしょうかね。

さて、それではこれより投稿を始めます。
ざっと数えて25コマです。

それでは宜しくお願い致します。

<番外編3 佐天涙子・利子親娘>


「お義母さま、実は折り入ってお願い、って言うか御相談なんですけれど……」

恐る恐る、といった顔で話しかけるのは、学園都市の顔、御坂改め上条美琴(かみじょう みこと)である。

「あらあら、改まって何のお話かしら?……美琴さん、まさかもうあの子の所へ戻ります、なんて言うんじゃないわよね?

そりゃまぁ貴女はあの子の奥さんなんだから、あの子の元へ戻るのは当然でしょうけれど」

お願いだからそんなことは言わないでね? と言う顔でプレッシャーを掛けてくるのは上条詩菜(かみじょう しいな)、美琴のお姑さんである。

―― 本心をいえばそれも実はあるんですよ、お義母さま? アイツをこのまま放っておくと、あの子に『妻』の座を取られかねないからなんです! ―― 

等とは自分のプライドにかけて口が裂けても言える訳はない。

そんなことはおくびにも出さず、美琴は「あの、実は私の友達のことなんですが」と切り出した。

「まぁ、いったいどういうことなのかしら?」

しめた、お義母さま、興味を示してくれたわ、と美琴は内心ほっとする。この段階で振られたらもはや後がなかったからである。

彼女は必死だった。

最悪の場合、美琴は自分と麻琴が身を引いてでも姑に納得してもらおうとまで思い詰めていた……。



話は少し前に遡る。

「ねぇ、お母さん、相談があるんだけど」

「あら珍しい。美琴ちゃんがママに相談? 明日は大雪かしらね?」

美琴は娘・麻琴と共に実家に戻っていた。

彼女は産前・産後の長期休暇を取っていたが、とあるいきさつから既に1年ほど上条の家に厄介になっている。

そして今、彼女は実家の客間(畳部屋なので、麻琴がよちよち歩きしても危険なものが少ない)にいた。

彼女の部屋(になるはずだった)には、今は問題の「妹」、御坂麻美が息子・一麻と一緒にいる。

気を利かしたのだろう、彼女らはお出かけしていて不在だった。

「茶化さないでよ、私の事じゃないの! 私のお友達が困ってるのよ」

マジメな話なんだから、と美琴の声は少し尖る。

「あら、それならそうと言いなさいな? で、そのお友達がどうしたのかしら?」

「……実は、私の1つ下の女の子なんだけど、彼女、シングルマザーでね」

あら、という顔になる美鈴。

「それで、実家からは勘当されてて、就職先も休職しててちょっと大変な事になってるの」

「うーん、まぁ時代が進んでも、未婚の母ってのはねぇ……それで相手の男はどうしてるのよ?」

「それがね、事故で亡くなっちゃってるんだって……自分の子供が出来たことも知らないままだったって」

「うわぁー、なんてことかしら、お気の毒ねぇ。でも大変な人生歩み始めちゃったわねぇ、その子……」

「でね、就職先の休職期間がもう終わっちゃうの。もともとクビになるところだったのを私が口利いてあげて、なんとか首の皮一枚繋がったので、今さらおじゃんにできないのよ。

シングルマザーってすごいハンディなのね」

「ちょっと、なにげに母さんに自慢してない、美琴ちゃんたら?

そもそも、その子の人となりとか成績が良かったんじゃないの? 普通ならハイそうですか、さようなら、だわよ?」

「そりゃもちろんよ。佐天さん本人の専攻がそことドンピシャだったし、論文の内容も立派だったみたいだし」

「その子、佐天さんっていうのね? って……聞いたことあるような気がするわね。美琴ちゃんの結婚式に来てた?」

「いたわよ」

今まで名前を出さないように努めてきた美琴だったが、あえなく語るに落ちたことに彼女はあちゃー失敗した、と内心ほぞを咬んだ。

ま、いつかは言わなければならないのであるが。


「あの、頭に花飾りつけてたのは……違うわね、あの子は初春さん、だったかしら?」

「そう、その子は初春さんね。たぶん一緒にいたはずだけど、黒髪ロングストレートの」

「ああ、その子ならママ、わかったわ。ふーん、あの子がねぇ……、で、美琴ちゃん、ママは何をすればいいのかな?」

「託児所とね、シングルマザーでも安全に住めるところ、どこかないかなって。就職先にはね、とりあえずそこから通うことにしてるって」

「どういうこと?」

「なんかね、相手方から手切れ金もらってるんだって。これだけやるから二度と顔を出すな、みたいに」

「なによそれ、酷い話じゃないの……結婚の約束とかしてなかったの?」

母の突っ込みにヒヤヒヤの思いで答えて行く美琴。

手切れ金というのは嘘であり、実際には麦野沈利からの彼女ら親娘に対する仕送りなのだった。

いつか必ず返しますから、ちゃんと借金は記録しておかないと、と真剣な面持ちで話す佐天涙子の顔を思い浮かべる美琴。

「そこらへんは二人の間の話だから私も詳しくは……」

まったく、若さに任せて突っ走るから、と言い掛けて美鈴はあわてて言葉を飲み込んだ。

目の前のわが娘は、実際その若さゆえの過ちで大変な事態を経験して来ていた。

もっとも、その過ちを犯したのは、わが娘ではなく、今ここに住んでいる彼女の「クローン」であったが。

今、ようやく塞がったかのように見える娘の傷口を母親たる自分が押し広げるようなことがあってはならなかった。

「うーん、探しては見るけど、でもどうして学園都市で育てられないの、天下の学園都市じゃないの。

子供たちに超能力の英才教育をするってのが謳い文句でしょ? それがどういうことなのかしらね」

美琴は深呼吸する。

予想通りの質問である。一番の難問がこれから始まるのだ。

「それがね、学園都市でもちょっとあったんだけど……」

「何、なんかおかしなところあるの、その子?」

「生まれたときからね、大きかったの、その子。今、優に三歳児くらいあるかも」

「エーっ????? 美琴ちゃん、ソレ本当なの? 今どれくらいなのよ」

「正確には聞いてないけど、13キロくらいあるんじゃないかしら」

「あら、すごい。結構あるわね、身長は?」

「うーん、90cmくらいかな……」

「うそでしょ、女の子よね? それでそんなにあるの? ちょっと、本当にその子1歳児? だまされてない?」

そうだよねぇ、と美琴も腹の中で苦笑する。だから問題なんだけど、と。

自分が今抱っこしている娘、麻琴は10キロあるかないかだった。身長は75cmくらい。

どう贔屓目に見ても、利子と麻琴が同い年とは到底見えないのである。

しかも、今、利子は普通に立って歩いているという。

これには正直、佐天涙子も上条美琴もお手上げであった。

「いや、だますも何も、大変だったみたいよ。重くて」

「そう…? 確かに子供ってみるみる大きくなるものだけれど、1歳で90cmはすごいわよ? 何か間違ってないかしらね……。

私ね、その子とお母さんに両方会ってみないと、ちょっと何とも言えないわね」

「そ、そうね。そうよね。うん、そうだわ、やっぱりママ、佐天さんに会って欲しいな。彼女がすごくマジメな女の子なの、見て欲しいから」

「そうね。私が紹介するにも、やっぱり直接会って人となりを見ておく必要があるわよね……あ、そうか、私が行かなきゃいけないのか……学園都市、か」

「うん。彼女らを呼ぶより、私達が行った方が早いと思うのね。で、母さん、いつ都合良いかな?」

「あらまぁ、ずいぶん手回しの良いことだわね」

「そりゃそうよ。彼女、ホントに切羽詰ってるんだから」


(おかしいわ、絶対嘘だわね。この子、どう見ても3つにはなってるわよ)

美鈴は佐天涙子と利子を見た瞬間、そう確信した。

(しかも、まるで似てないし)



久方ぶりに入った学園都市、そしてついこの前まで学生だったという、その女の子が住むにはやや不釣合いなマンションに美琴は母・美鈴を案内した。

(豪華、とは言わないけれど、でもけっこうなお家賃するんじゃないのかしら、ここ)

(まだ学生に毛の生えたようなものでしょ、しかも親御さんには縁を切られたって言うし。

なのにどうしてこんなところに住めるのかしら? お家賃はどうしてるのかしらね。そのお金はどこから出てるんでしょうね?

美琴ちゃん、騙されてるんじゃないのかしら)

美鈴の心に生まれた疑念は、佐天利子を見て一気に膨れ上がったのだった。



(美琴ちゃん? あなたおかしいと思わなくて?)

そう言う思いで美鈴は娘に非難の眼差しを向けると、(え? 何? なんかあった?)というような不自然な顔を向けてくる。

(絶対怪しいわね、娘もこの子たちも。ようし、それなら)と思った美鈴は

「良いところですね」挨拶のあと、そう口火を切った。

「はい。実は彼が住んでいたところでして、荷物は全部持って行かれてしまったんですが……手切れ金と一緒にここのお家賃を纏め払いしてもらってます」

「あらそうだったんですか、それはそれは……」

もちろん、これは嘘である。

「こんな立派なマンションなんて、申し訳ないです」と恐縮する佐天に、「大学出たばっかの女と赤ん坊を、安いからって危ないところに住ませられるかっての」と麦野が強引に住まわせたのである。

もちろん、費用も彼女持ちであったが、彼女が直接支払うことは二人の安全上危険なことであり、美琴がダミーとなって支払っていた。

「相手の方、お気の毒な事でしたね」

「あ、は、はい……もう、それは……」

「ちょっとお母さんったら」

目を伏せる佐天に、眉をひそめる美琴。

「女の子だとお父さんに似るのよね、不思議と。あら、利子ちゃん、髪を染めてらっしゃるの? こんなうちから、早すぎない? 彼氏さん、茶髪系?」

利子の髪の根元が栗色っぽいことに気づいた美鈴が佐天に突っ込む。

美琴は、「えっ?」と思うが顔には出さない。

「え? あ、は、はい。彼、男なのに、髪は結構やわらかくて、綺麗でした。茶色って言うよりやや赤毛っぽかったんですが。

それでですね、あの、逆に、この子もう染めてるの? って言われたもんで、黒く染めちゃってるんですけど、自然の方がいいですかね?」

「あら、うちのそこにいる娘だって最初からああだけど、何も言われなかったけど……まぁ、貴女も綺麗な黒髪だし、これはこれで綺麗なものよ? 

でもほんと、健康そうね、利子ちゃんって。今3つでしたっけ?」

ズバと美鈴は直球をど真ん中に投げた。

「いえ、よく言われるんですけど、まだこの子、1歳です」

佐天涙子が美鈴の目をしっかりと見て答えてきた。

「……」

美鈴も黙って彼女の目を見る。

「ちょっ……」

美琴は言葉を掛けられず、黙っている二人の間でおろおろするばかり。


「わかりました」

ようやく、美鈴が腹を決めたかのようにそう返事をすると、

「はい。こんな親娘ですが、何とか是非、良いところあったら御紹介御願いします」

そう言って、佐天は深々と頭を下げた。

「あー」

突然今まで静かだった利子が声を上げた。

「おかーちゃん」と再び声を上げ、涙子にしがみつくと、美鈴を見てこのひと誰かな?という顔をしたが、すぐにニコニコと笑い出す。

それは見る物を微笑ませずにはおかない、あどけなさと言う子供の最大の武器である。

「なーに、トシコ、このひと好きになったのかなー?」と涙子は娘を抱っこして自分の太ももの上に抱き上げる。

「ちょぉっとー、としこちゃーん、私忘れちゃったのかなぁー?」

私をのけ者にしてるなぁーと美琴が利子をイタズラしにかかった。

「あーぅ、やだぁ」

美琴がくしゃくしゃと髪を撫で回すと、キャッキャッとくすぐったそうに身をよじって笑う利子。

美鈴はというと、最初こそ利子の天真爛漫さにふにゃりとなったが、頭は全く別の事を考えていた。

(全然麻琴ちゃんと違うし、娘の時とも違うし、そう、何もかも。こんな1歳児がいるわけないわよ)

(1歳でおかーちゃん、って……初語でもなさそうだけど、こんなにはっきりとしゃべれたかしら)



その瞬間、美鈴の脳裏にひらめくものがあった。

(何かホントのこと言えない理由があるとか……?

しかも、美琴ちゃんも騙されてるんじゃなくて、それを最初からちゃんと知っていて……

そうだ、もしかしたら、この子は置き去り<チャイルドエラー>なのかもしれないわ。

それなら確かに、この子が似て無い理由に)

だとしたら、と彼女の脳は忙しく廻る。

(なら、私が)



「佐天さん、わかりました。早速心当たりを探してみる事にしますね」

にっこりと笑う美鈴に、佐天もまた「よ、宜しく御願いしますっ!」とペコペコと何度もお辞儀を繰り返していた。

そんな姿が珍しいのか、不思議そうな顔で利子は指をしゃぶりながら母親の顔を見つめていた。


数日後。

「母さん、いいところ見つかったのー!?」

勢い込んで家に駆け込んできた美琴の前に姿を見せたのは、

「お姉さま、お久しぶりです。ほら、一麻、美琴お姉さまですよ、ご挨拶は?」

「あ……、こん……にちわ」

御坂麻美(元検体番号10032号)と、その息子、一麻であった。

一瞬、おっ、と思った美琴だが、今の彼女はそれを顔に出すようなことはない。

腕に掛けていた紙袋からおみやげのプチケーキの包みを取り出す。

「はーい、元気だったかな、一麻君? はい、お土産」

「ほら、一麻、『ありがとう』は?」

「ありが、とう!」

「おー、一麻くん、ちゃんと言えたねー。よしよし、どういたしまして」

美琴はごしごしと一麻の小さな頭をなでまわす。

「母さんは?」

「お義母さまは今、お台所でお料理中です」

その言葉に美琴はむっとする。母さん一人に働かせて、アンタは何もしないのか、と。

視線を読んだのか、麻美は言い訳がましく訊かれてもいないはずの説明を始めた。

「最近、一麻が一人で外へ出てしまうことがありまして、危ないので私が見張っていなければならないのです、お姉様」

なるほど、一麻は麻美の両腕を振り回している。

「それに、私とお義母さまが台所に立つと、仲間はずれにされたとでも思うのでしょうか、この子は必ず来て、自分にもやらせろ、というようにまとわりつくのです。

刃物を使っている時は特に危ないので、一麻の相手をしていなければならないのです」

へー、と美琴は思う。男の子ってそうなんだ、と。

「じゃ、私、手伝ってこようかな?」

「お任せします。あの、それで……今日はお義母さまから、お相伴に与るよういわれておりますので」

なんで? と美琴は思ったが、母が言うのなら仕方ない、とそこは割り切ることにして、一麻に笑顔を見せる。

「一麻くん、今日はおばちゃんも一緒にご飯食べるからねー?」

と言って、小さく手を振って、ようやく彼女は玄関を上がり、客間へと入った。


「えー???????」

美琴は驚いた。

「そんな、良いの、お母さん?」

「そうよー、麻美さんもOKだし」

「はい。その場合には一麻を保育園に入れて、私も仕事に出ようと思っていますので、問題は少ないかと思います」



美鈴が出した話というのは、

1)佐天親娘が住むのは、ここから歩いて10分もかからないところにある1DKアパートメント。

家賃+共益費は彼女から聞いていた予算10万円を下回る84千円/月。

2)彼女の娘、利子は私(美鈴)が預かる。朝連れて来て貰って、夜また連れて帰ってもらえばよい。

というものであった。



「この件は後でお話ししましょうね?」

美鈴がそう言うと、麻美はやおら一麻の方を向き、

「一麻、ご飯終わったらお風呂に入って寝ましょうね?」と優しく語りかける。

へぇ、と美琴は内心思う。さりげない気の使いように美琴は少し感心した。



10分ほどして、麻美は食べ終わった一麻を連れてリビングルームから消えた。

「ずいぶんと気が利くようになったわね、あの子」

「最初からよ、麻美さんは。良く見てるわ、廻りを。やっぱり看護婦さんだったからかしらね」

「今は看護士って言うのよ?」

「どっちでも同じでしょ、女性だし。でね、さっきのことなんだけど」

美鈴が急須からお茶を入れる。

「美琴ちゃん、ママは理由を聞かないけれど、あの子、ホントに1歳? 美琴ちゃん自身、ホントにそう思ってる? 麻琴ちゃんと同い年だと思う?」

「いや、その」

美鈴に核心を突く質問で突っ込まれた美琴は、不意をつかれてうまく言い返せない。

「そっか……やっぱりね。まぁ良いわ。でもね、ここでも外に預けるのは無理よ、あれじゃ」

「……」

「だから、私が預かるの。大丈夫、女の子だもの、慣れたものよ、ね?」

「! お母さん……?」

心配しないの、と笑う母・美鈴を、美琴は上目遣いに見ることしかできなかった。


「本当ですか? さすが上条さんですねっ!! 相談して良かった……本当にどうも有難う御座います!」

開口一番、佐天涙子の嬉しそうな声が響いてきた。

「そ、それで、どのへんですか?」

そのまま言ったらびっくりするだろうな、と美琴は思う。

「私の実家のすぐ近くなのよ」

「えー、じゃぁちょこちょこ遊びに行けますね、あはははっ♪」

よほど嬉しかったのだろう、このところやや落ち込んでいることが多かった佐天涙子であったが、少なくとも口調は以前の調子を取り戻してきた。

美琴は心の中でほっとする。

麦野沈利の前でタンカを切った佐天涙子であったが、そうそう世間の風は暖かくも優しくもなかったからである。

これは彼女が立ち直るきっかけになるわ、と美琴は嬉しかった。

「それでね、あのね、佐天さん…」

「そうですよね、利子預けられそうなところって、どうだったんでしょうか……?」

肝心なところに気が付いたのか、急に声のトーンが下がる。

「それなんだけどね、やっぱりあっちでも難しそうだっていうのよ、利子ちゃん」

「……ですよね」

「あ、もちろん、ちゃんと育ってるのは良い事なのよ、すごく良い事なんだからね?」

涙子が落ち込む様子に、あわてて美琴は励ましにかかる。あのね、まだ全部話し終わってないのよ? と付け足して。

「それでね、相談なんだけど、私の母さんが預かってあげる、面倒見るって言ってるんだけど、佐天さんはそれでもいいかな?」

「へっ?」

「私の妹が今厄介になってるんだけどね、もう3つになるので、保育園に預けて働きに出るって言ってるのよ。

でね、昼間は誰もいなくなるから母さん寂しいからって、うちに預けたらって言い出したのよ」

「いや、でも、それって」

「私の母さんじゃ不満?」

「とととと、とーんでもないですっ! えっと、あの、御坂さんのお母さんだったらもう私何も心配してませんからっ!」

「よーし、ならOKね、じゃ母さんにそう言っておくから」

「いえ、でもそれって、あの……本当に良いんでしょうか?」

「なーに水臭いこと言ってるのよ? 未来永劫続くってんなら私も考えるけど、ほんの数年の話でしょ? 

こういう時には遠慮なく頼りなさいよ、『あの人』だって、絶対悪い顔なんかしないわよ?」

「えへへ……そうなんですけどね、なんか皆さんに迷惑掛けっぱなしみたいで」

「だ・か・ら、そう思ってるのなら後で返せばいいのよ、後で。まずは今を乗り切らなきゃダメでしょ?」

「……そう、ですよね……お世話になります。必ずこの借りは返しますから」

「あはは、確か『あてにしないで待ってるわ』って『あのひと』佐天さんに言ってたよね、確か」

「言われましたよー、あーあ、借り作った人どんどん増えてくなぁ……どうしよう」

「少しずつ返すのよ、出世払いって言葉、知ってるでしょ」

「ですよねー。うぉーし、頑張るぞぉー」

「そうそう、その意気よ!」


だが、予想もしなかったことが起きた。

その一週間後、美琴は佐天のマンションにいた。

「転出できないんですよ」

「どういうこと? 佐天さん、レベルゼロでしょ? 問題なく出られるはずでしょうに」

「いえ、それがですね、正確に言うと、私は出られるんですが、あの子がダメなんですよ、肝心の」

佐天の視線の先には、静かに眠っている利子がいた。

むかっときた美琴は、その気を静める為に立ち上がり、ベッドの傍に立った。

「よく寝てるわねぇ」

席を立ってすやすやと眠る利子を、優しく見つめる美琴。

「上条さんのところの、麻琴ちゃんでしたっけ、どうですか?」

そっと静かに美琴の傍にやってきた佐天が彼女に訊く。

「そうね、たまに夜泣きするね。アレ大変なのよ、時間関係ないしね。ほんと、あの時だけは休職してて良かったと思うわ。

次の日朝から会議だったりしたらたまらないもの」

今、ここで幸せそうに眠る利子は自分の娘、麻琴とはまるで違っていた。

どう見ても、利子は同じ年には見えない。

麻琴がまだ赤ちゃんなのに、利子は既に立派な女の子であった。並べたらどう逆立ちしても立派なお姉ちゃんだった。

「佐天さん、紙と鉛筆あるかしら」

美琴が席に戻るや否や唐突に言い出した言葉に佐天は一瞬「はい?」と言う顔をしたが、直ぐに納得した顔でリーフ帳とシャープペンを持ってきた。

彼女は美琴のかたわらに並んで座る。

「え? あ、そっか」

「です。この方が楽なんですよ?」

そう言うとやおら佐天はリーフノートに書き殴り始める。

(何て言われたの?)

(不許可になってますと)

(理由は?)

(具体的にはないです 転出先に問題あるようだとは言いました)

「どういうことなのよ問題って!」

自分の家に問題がある、と言われたと聞いた美琴は思わず叫んでしまうが、同時に彼女はその理由が頭に閃いた。

(まさか、ママのことで?)


「いや、そう言われたもんで、失礼かなとは思ったんですけど……」

あわてて言い訳をする佐天に美琴は冷静さを取り戻す。

「ご、ごめんね、ちょっと頭にきちゃったの」

「いえ、それが普通ですよ……私だってその時『どういう意味ですか』ってちょっと声が大きくなっちゃいました」

すまなそうにそう付け加える佐天。

「ま、言われたのは事実なのね。その解釈はまたにして、先、続けましょう」

「そうですね」

二人は筆談に戻る。  

(私の家が問題になるんなら、ほかのところで申請すれば?)

(一瞬そう思ったんですが、『転出先に確認を行います』って書かれてて、あー、実家で書き直すのはダメだろうなって)

(口裏あわせも難しいのよね)

(はい)

うーん、と二人は頭を抱える。

しばらく経った後、美琴が口を開いた。

「私、聞いてみようか」

すると、佐天は手をクロスさせてバツ印を作り、こう書き込んだのだ。

(それヤバイかも)

「どこが?」

なんで? という顔の美琴に、佐天涙子は顔を強張らせて書き込む。

(どうしてそんなに出たいのか、とか不審を持たれて調べられるのは拙いです)

美琴も顔色を変えた。

初春飾利のおかげで、データ上。「佐天利子」はここ学園都市で「佐天涙子」の娘としてこの世に生を受けたことになっている。

彼女らは決して興味を持たれてはならなかった。

どこにでもいる、ごく普通の親娘でなくてはならないのだ。

(しばらく様子を見るしか)

佐天がそう書いてきた。

(うん、急いては事を仕損じるもんね)

美琴も納得してそう返事を書いた。

「よろしく御願いします」

「まかせて」

「じゃこれ、処分しますね」

「お願い」

佐天はメモを丸め、ガスレンジへ持って行く。

彼女は玉状にしたメモに鉄箸を突き刺し、ガスレンジで火をつける。

「結局こうするのが一番ですね」

「灰とかゴミから元の原材料に復元する能力者がいるけど、そこに書かれていた文字まではさすがに無理だもんね」

「やられたら恐ろしいですけどね」

流しに残った灰を水で流しながら、佐天はそう答えた。


久方ぶりに家に戻る美琴。

うまくいったと思っていた佐天親娘の落ち着き先が思わぬ事でダメ出しを食らってしまった。

理由は、多分、自分の母・美鈴の過去の行動からだろう、と彼女はあたりを付けていた。

だが、その母の行動は偏に一人娘であった自分の安全を心配してのことだった。

そして、それはもう10年近くも昔のこと。

まだそんな過去のことを学園都市<ここ>は気にしているのだろうか?

自分が学園都市の広報委員会に取り込まれることで、それは帳消しになっていたのではなかったのか?

(どう、母さんに言えば良いんだろう……?)

私の方から頼んでおいて、それも自分の「妹」とその子を預けていながらだ、そして母も快く私の友人の子供も引き受けてくれる、と言ってくれたのに。

(どの面下げて『駄目になっちゃった』って言えばいいのよ…)

重い心を抱えたまま、美琴は自分の家の前にたどり着いた。



(あの子、もう帰ったかな?)

御坂美子(元検体番号10039号)が彼女の不在の間、夫・当麻の面倒を見ているのだった。



――― せめてこのミサカがお姉様<オリジナル>に成り代わって、精一杯あの方をお慰めいたします ―――



自分に向かって、そう言い切った妹<ミサカ>。

あの馬鹿も、あの子も何も言わないけれど、ある時、美子の雰囲気が微妙に変わっていた事に美琴は気がついていた。

覚悟してはいたが、目の前にいる、自分とそっくりな「妹」がついに当麻と関係を持ってしまったのかと思うと、

悲しかった。

悔しかった。

情けなかった。

苦渋の末に決断したことだったけれど、実際にそうなってしまうと、彼女の心は乱れた。

自分のしたことは本当に正しかったのか? と。

今でこそ、かつての真摯な、激情を迸らせる様な愛情はなかったけれど、

あの馬鹿は私の夫。そして私はそんな馬鹿の妻。

そう心を奮い立たせようとする美琴に、もう一人の美琴が問いかけてくる。

「あの子たちの方が、よっぽどアイツを愛してるんじゃないの? 恥ずかしくないの?」

彼女はその問いを笑い飛ばすことが出来なかった。



気がつくと、彼女は玄関先に立っていた。

無意識のうちに所定のチェックをクリアして来たのだろう。

ロックセンサーに手を出そうとするが、何故か一瞬ためらう気持ちが起こる。自分の家なのに、だ。

(何、びびってんのよ、情けないわよ、美琴!)

そう思いなおして彼女は玄関の電子オートロックを解除してノブを廻した。

「あれ?」

扉が開かない。


隙間を覗くと、金属のバーが落ちている。アナログチックなサムターン錠のようだ。

(いつの間にこんなものが、何故?)

家に誰かいる? 当麻?

まさか……二人で? まさか?

私の家で、あの二人が不埒なことを? 

美琴の頭は沸騰し、髪が逆立つ。

「そぉんなことが、許されるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

今まさにドアをぶち破ろうか、とした矢先に、

「美琴か? お帰り。ちょっと待ってな、今開けるから」

のんびりした口調の当麻の声が中から聞こえた。

--------------------------------

「やれやれ、ホントに女房から信頼されてねーな、俺」

ため息を付く当麻。

「だ、だって鍵かかってるんだもん」

「あれ、言ってなかったけか? ちょっと前にな、妹達<シスターズ>除けに付けたんだよソレ」

「何よそれ、どういうこと?」

「いやさ、正直有難迷惑なんだけどな、美子ちゃんが帰った後に、押しかけてくるやつがいるんだよ。

電子ロックは知っての通り役に立たないんで、アルミのサムターンを付けたんだ。思い切りレトロだけど、効果はあってさ。

電磁力使われてもアルミには効かないしね」



美琴には絶対言えない事なのだが、彼は一度自分一人で帰宅した時に、玄関を開けた瞬間、全裸のミサカに飛び掛られたことがあった。

はい? と思うまもなく、ミサカの電撃で彼の意識は飛んだ。



気が付くと、二人の妹達<シスターズ>に彼は介抱されていた。

「気がつきましたか?」

この香水は……厳しい顔してるけど……ああ、琴子(元検体番号19090号)か、と当麻は判断した。

「いや、何がなんだか……」

「無理しないで下さいね、当麻さん? 検体番号19090号、当麻さんがこのような状態なのですから、このミサカが面倒を見なければなりません。

なに、明日のスケジュールは頭に入っていますし問題はありませんから、あとは任せてお帰りなさい」

そう言うのは……美子である…が、彼女の目は物凄く怖い。


「検体番号20000号の行為に何を触発されているのですか検体番号10039号。当麻さんの容態はまもなく回復します。

であれば、私達はお姉さま<オリジナル>の命どおり、速やかに帰宅しなければなりません」

琴子の冷静な返事に、はた、と当麻は自分の置かれている状況を把握する。

なぜか彼の下半身は裸であり、タオルがそこを隠すようにかけられているのだった。

(えええ??? 何これ、どういうことなんですか? 20000号? たしか、ちょっと危ないミサカだったっけ? 

まさかまたもや当麻さんの貞操が……マジで????)

「すまん、20000号って、俺に何したんだ?」

「……アンタ、ホントに知りたい?」

突然、美琴の声色で美子が当麻の質問に質問で返してきた。それもものすごい形相で。

それで、彼は彼女が自分に何をしたかを理解した。

「いや、いいです」

「賢明ですね、上条さん」

ニコリともしないで、琴子がそう答えてくる。

「で、その、20000号はどうしたんだ?」

「今度やったら簀巻きにして多摩川へ放り込みます、と宣言して全裸のまま放擲しました」

え、それはまた違う意味でまずくないか、と当麻は思う。

美琴とそっくりな妹達<シスターズ>が全裸でいるところを誰かに見られたら……

「服は持たせましたから」

当麻さんたら、何かよからぬ想像したでしょう? と言う顔で美子が睨む。

「さ、検体番号10039号、帰る時間です」

「検体番号19090号こそ、デートに遅れますよ? とミサカは注意を与えます」

先に帰らせよう、という魂胆丸出しの美子に、フンと鼻先で笑った琴子は言い放った。

「待たせておけばいいのです、検体番号10039号。いい女にはオトコを待たせる権利があるのですよ?」

「またそんな屁理屈こねまわして……いいですか、このミサカはお姉さま<オリジナル>から正式に」

「このミサカはそのお姉さま<オリジナル>から検体番号10039号の行動を見張れと正式に依頼されています。さ、帰りましょう」

「あ、こ、こらっ!? ちょっと何を! やだ、離しなさい、検体番号19090号ってば!!」

ペコリと琴子は頭を下げ、ガッチリと彼女にきめられた美子は、本当に泣き出していた。

帰りたくない、一緒にいたい、と美子の泣き顔は当麻に訴えかけていた。

ひたすら自分に尽くすことが楽しい、嬉しい、と言ってくれた美子の涙は当麻にとってつらいものだった。

彼はただ、黙って頭を下げることしかできなかった。



鍵屋に勧められて、アナログチックなアルミのサムターン錠を付けたのは翌日すぐのことだった。

そして、美子には、何かにつけてこの時の対応を引き合いに出されて、恨めしく文句を言われる当麻なのであった。


「あの子は最近どう?」

当麻の作った肉野菜炒めをつまみながら美琴が何気なく訊く。「あの子」というのは、もちろん御坂美子のことである。

「んー、もう板に付いてるよね。考え方も美琴に似て来てるんじゃないか? さすが、お前が見込んだだけの事はあるよ」

「…そう」

「麻琴はどうだ、もう立っちしてるんだろ? 言葉の方は?」

「うん。よちよち歩きだけどね、嬉しそう。言葉の方は、もう私を『マンマ』って言うんだと認識してるわ。

あんたもちゃんと顔出さないと『パパ』って呼んでくれないかもよ、いや、泣き出すかもね、怖いって」

「そうか……可愛いよなぁ、俺も実家から通えたらいいのにな」

その言葉を聞いて美琴の顔つきが変わった。

「おい、どうした?」

「そうよ……通えばいいんだわ……あんた、私ね、これから実家から通うことにするわ」

「おいおい、どうしたんだよ」

「だって、だって…」

アンタをあの子に取られるのは絶対に嫌、もう絶対に嫌だ、という言葉を美琴は飲み込む。

「麻琴はどうするんだよ、母さんに預けちゃうのか?……待てよ、ああ、お袋は逆に喜びそうだけどな、むしろ」

「決めた。美子は良くやってくれたけど、このままだと、私の存在価値なくなっちゃうもん。私、復帰する」

「いや、それならせめて彼女に礼の一つでも言ってから決めろよ。また揉めるぞ?」

「アンタ! アンタは私とあの子、どっちの味方なのよ? そうか、あの子アンタに優しいもんね。あの子の『馬鹿野郎!』」

当麻が立ち上がり怒鳴る。

美琴はびくっとする。

「またそんな事言うのか、俺を馬鹿にするんじゃねぇよ! いいか、俺の妻はお前なんだよお前。

旧姓御坂美琴、上条美琴っておんなが俺の妻、恋女房なんだよ。

すまん。確かにな、妹達<シスターズ>と関係出来ちゃったのは俺の過ちだ。それについてはすまない、お前に謝るしかない。

だけどな、繰り返すけど、俺、上条当麻の妻はお前だけなんだよ、世界でたった一人しかいない、上条美琴って女なんだよ!

なに都合の良いこと言ってるのよって思うだろうけど、それだけは絶対に変わらないからな。

美琴、頼む。それだけは忘れないでくれ」

一気に言いまくった当麻ははぁはぁと荒い息を吐く。

強張った表情の美琴はすっと立ち上がると、ゆっくりと当麻の前に立ち、ばさっと身体を投げ出して寄りかかり、小さな声で答える。

「私、あんたの言う事、信じていいの?」

「信じろ」

「なら、証拠、見せてよ」

当麻は美琴を見る。当麻を見上げる美琴の目に、ほんの一瞬媚態の色が浮かんだのを当麻は見た。

「ああ、お前が帰ってくるって聞いて正直楽しみだったんだ。覚悟しろな?」

「え、何すんのよちょっと、いやらしい! 馬鹿、下ろしなさいよ」

彼女の口はそう言うが、行動は全くの逆。抱き上げられた彼女はしっかりと当麻にしがみついている。

「はいはい、ベッドで下ろしたげますから少々お待ち下さいませ」

「ばか」

「お前のそのしょーもない幻想もついでにぶち壊すわ」

「何でよ、やだ」

二人は寝室へと入って行った。


寝物語で、美琴は佐天涙子の窮状と、自分の母・美鈴が未だに学園都市から睨まれている事について当麻に愚痴をこぼした。

「佐天さんほとほと弱っちゃってるのよ」
「学園都市もバカじゃないの? そもそも私自身が、ここと実家と、平然と行き来してるのに今更なにを母さんの過去の事、根に持ってるのかしら」

黙って聞いていた当麻が、「俺の母さんに相談してみるか?」と言ってきたことに美琴はホッとしたが、さすがに直ぐには頷けなかった。

「何言ってるのよ、私と麻琴が既にお邪魔してるのよ? そこにさらにもう二人だなんて頼めるわけないじゃないのよ」

そう言いつつ、美琴は上条の家の配置を頭に描いていた。

住めないことはなかった。子供が小さい時だけの話なのだから、と。

「いや、お袋はにぎやかなのが好きなんだよ。美琴と麻琴がいる事で、お袋はすごく幸せなはずなんだ。

それにお袋は女の子が欲しかったんだよ。だからそう言う意味でもお前と麻琴はドンピシャだったんだ。

どうする、俺から話すか?」

当麻が真剣に自分の話を聞いてくれていることに美琴は嬉しかった。彼女はそっと夫・当麻に身体を寄せる。

「ううん、言うなら私が言う。私の友達の話しだもん」

「お前の友達ってことは俺の友達でもあるんだけどな」

当麻の手が美琴の身体に伸びてくる。もちろん彼女に拒む気は、ない。

「あんたはそう言ってすぐ旗立てるからダメ」

「またそう言う事を言う、怒るぞ」

「やだ、あんた重いって、あ…は…」




そして、話は冒頭、上条家に戻る。



「実は、私が中学生の時からのお友だちで、1つ下の女の子なんですけれども」

「まぁ、常盤台中学の方なの?」

「あ、いえ、彼女は柵川中学校っていう区立中学校の卒業生ですけど」

「あらそうなの……どうしてその子とお知り合いに?」

根ほり葉ほり訊いてくる詩菜に美琴は手応えを感じ取る。興味を持ってくれるというのは悪い兆候ではないからだ。

「私の常盤台の後輩の一人に白井黒子(しらいくろこ)、今は漣黒子(さざなみ くろこ)ですけれど、彼女はジャッジメントに所属していた事は御存知ですよね?」

「漣さんね、結婚式の時にいらしてた方ね……貴女のウェディングドレス姿見て泣いちゃったひとよね? 面白い女の子だったわよねぇ」

思わず美琴も苦笑する。


今思うと、ちょっとマリッジブルー入ってたかしらね、と思うくらい悲壮な決意をして結婚式に望んだ彼女の緊張を、見事にぶち壊してくれたのが彼女、漣黒子であった。

チャペルでの結婚式で、新郎・上条当麻と新婦・美琴との指輪の交換で黒子の思いは極限まで張りつめ、ベールを開いての二人のキスシーンでそれは爆発した。

すなわち、感動のキスの直後、式場に「おねぇぇぇぇぇざまぅあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」という涙声の絶叫が響き渡ったのだ。

……反射的に当麻が右手で美琴の頭を押さえたからよかったものの、ヘタをすれば式場に強烈な電撃が乱れ飛ぶところだった。

                                                         

「その黒子と同じ支部にいた柵川中学校の女の子が初春飾利(ういはる かざり)さんで、アタマにいつも花飾りを載せてる『そう! 目立ってたわその子。その子のことなのかしら?』いえ、違います」

お義母さまもよく見てるな、と感嘆しつつ、美琴は話を続ける。

「その初春さんと同じ中学校のひとで、佐天涙子(さてん るいこ)さんと言う方がいらして、私たちはこの4人組でよく遊んでいたんです」

「もしかして、その最後の方かしら?」

まぁここまでくれば誰だってわかるわよねぇ、とは美琴はおくびにも出さず、うんうんと頷いた。

「そうなんです。その佐天さんのことなんです。彼女、学園都市から出られる事になったんですが、その、行くアテがないそうなんです」

詩菜の上に?マークが浮かんでいるのが見える。

「彼女は学園都市の大学を卒業したんですが、 その、結婚を決めていた相手の方が事故にあって……」

「まぁ」

「更にその……お腹の中に、彼の子がいたと言うことがあって」

「あらあら、若いからかしらねぇ、その子も彼も避妊しなかったのね……?」

詩菜は眉間にしわを寄せ、「そ、そうだったんでしょうね」と美琴は少し赤くなりながら相づちを打つ。

「それで、あの、お義母さま、あのぅ……」

美琴は何か言いにくそうに語尾を濁す。

「何かしら?」 詩菜ははっきり仰い、と言う感じで美琴を見る。

「あの、宜しければそろそろ私も麻琴を抱きたいな、って思いまして……」

……詩菜はまるで自分の娘のように、美琴の娘・麻琴を大事そうに抱っこしていたのだった。


ようやくのことで、我が子麻琴を自分の手に取り返した美琴は再び佐天の話に移った。

彼女の両腕には彼女専用のAIMジャマーが嵌っている。

それは最近出来た最新型であり、以前のものよりも大幅に小型化されて、装着していてもまず気にならないレベルに進歩していた。

これのおかげで、娘・麻琴が美琴の発する電磁波でぐずることは皆無であった。

「それで、今、彼女は気象科学研究所で研修生という立場なのですが、子供を預けるところが見つからなくて、せっかくの研修生を休学しちゃってるんです」

「あらあら、学園都市って、子供がいてこその街じゃなかったのかしら、ねぇ美琴さん?」

「そ、そうですね」

「そうですねじゃないでしょ? 貴女も今じゃ学園都市の顔なんでしょ? お友だちがそこまで苦労してらっしゃるのは、本来の学園都市としてのあるべき姿とは違わないのかしら?」

(ぐ、正論なだけに言い返せない……)

美琴はぐうの音も出ない。

「それがですね、調べてみると、彼女、今、天涯孤独の身になってまして……」

「まぁ……」

これは嘘である。真っ先に佐天涙子は実家に相談していたのだった。



その際に、彼女の娘・利子の生い立ちを正直に話すことは出来ず、あくまでも自分が産んだことにして父親に相談したのだった。

一言二言は文句を言われるだろう、もしかしたら横っ面を張られるかもしれない、と彼女は思っていた。

だが、彼女の父親の返答は涙子の予想と全く違うものであった。

「勘当」

二度と帰ってくるな、というものであった。

「いやー、さすがのあたしも参っちゃいましたよぅ……まさか、お父さんに拒絶されるなんて、あはは」

力無く自虐の笑いを浮かべる佐天に、美琴はかける言葉がなかったのだった。

頼みの綱であった実家に拒否された佐天涙子は途方にくれた。

母親はそれでも後で連絡はくれたものの、彼女とその娘が生きてゆける場所の当てはなかった。

弟は父親同様ショックを受け、電話にも出てくれない状態であった。

かくして、彼女は事実上天涯孤独となってしまったのだった。

彼女は気象研究所の研修生として4月から寮に入ることになっていたが、利子を連れて入ることは出来なかった。

やむを得ず、一時休職という処置をとったのであるが、入所していきなりの休職ということで、彼女の立場は最悪だった。

「いやー、さすがに切羽詰っちゃいましたねぇ、ホントどうしちゃったもんかなって」

初春飾利に付き添われて美琴の下に現れた彼女はさすがにほとほと困り果てました、という顔であった。

それでも、「利子ちゃんを返します」という言葉は一度も出なかったことに美琴は気がついていた。



美琴はまず、気象研究所へと足を運び、所長に面談し、佐天涙子に対して寛大な処置を求めた。

幸いなことに所長は美琴の卒業した高校の設立に尽力した人であり(彼女を自分が作った高校の卒業者ということで自慢していたほどである)、美琴のでっち上げた話を素直に信じてくれた。

「いや、佐天君の論文は私も個人的に興味があってね、ウチに来て欲しかったんだよ。ま、成績にムラがあるのがどうした、という人もいたけど、僕は気にしなかったし」

「恐れ入ります」

「でも、まさか彼女が君の親友だったなんてね。世の中は狭いものだね」

所長は佐天涙子に対して寛大な処置を取る旨、美琴に約束してくれて、彼女はほっと一息ついたのであった。


「本当ですか、はぁ、良かったぁ。みさ、いや上条さん、この佐天、一生御恩は忘れませんから!」

「やめてよ、そんなものの言い方。親友が困ってるの助けないでどうするのよ……佐天さん、後悔してない?」

「してないです、絶対にしないです。こんな可愛い子、どうして手放せますか、ねぇ利子ちゃん?

お母さんはちゃぁんと利子ちゃんを一人前に育ててあげるからね」

そうやって子を抱く彼女の姿は、すっかり「本当の親子」にしか見えなかった。

「後は、どこに落ち着けるかよねぇ……」

「学園都市内はもう無理でしょうね、あの人(=麦野沈利)には申し訳ないけれど……」

「出ちゃった方がいいかもしれないわね。ここだとどこでどうなるかわかったもんじゃないし」

「佐天さん、ここから出ちゃうんですか……?」

不安そうな顔で後部座席の二人の方へ振り向く初春飾利。

この密談は彼女の車の中で行われていた。

「な~に、初春、あたしがいなくなったら寂しいって?」

「そ、そういうことじゃないですよ」

「白井さんだったら『初春、いい加減に佐天離れしなさいな』って言いそうだねぇ」

「全然似てませんけど」

「ところで、その後の様子は?」

「リコちゃんの方へのアクセスはまだ続いてますけど、以前よりは大幅に減りました。

麦野さんの方はアクセス多すぎて大変なんですけれど、問題ありそうなものはかなり絞られてきてます。今度それだけ抜き出して監視しようかなって思ってます。

佐天さんの方はアクセスありますけど、全部学校関係と気象研究所からのものなので、問題ありません。

としこちゃんの方へのアクセスは今は殆どありません。ということで、気づかれていないと考えて大丈夫だと思います」

「ごめんなさいね、面倒なことお願いしちゃって」

「ちなみに、上条さんのはスゴイですね」

「えっ? ちょっと、こらっ! 何ひとのデータ見てるのよ!?」

「えー、だって面白いですもん、マスコミから学園都市統括委員会から……そうそう、正体不明のミサカネットとか」

「ちょっと初春、何それ? 都市伝説になりそうな話だねぇ」

「佐天さん、私の話聞いてどうするのよ、今はそれどころじゃないでしょ?」

ミサカネット、という言葉が出てきて、美琴は大あわてで話題を変えようとする。

「あ、それもそうですね、すいません」

と殊勝に佐天は矛を収めたように美琴に詫びを入れる。

(あとで、美子を問い詰めて見よう。誰が何をしてるのか、確認しておく必要があるわね)

と美琴は心に決めたのだが、

「初春、後でその話、詳しく教えてね」という佐天の言葉に美琴は矛先を変え、

「初春さん、自分の職業、よくわかってるんでしょうね?」と初春飾利をターゲットにするが、

「もちろんですよー? 上条さん、今度、ケーキバイキング連れてって頂けますぅ? プリンセスホテルの、最近メニュー新しくしたらしいんですよ」

つまり、黙っていて欲しいのならケーキバイキングを奢れ、という「お願い」である。

「え? そうなの? その話、私も一口乗りたいねぇ」 と佐天も身を乗り出すが、

「佐天さんは子持ちじゃないですか、この企画、悲しいことにお子様はアウトなんですよ」とにべもない初春。

「わかったわかった、じゃ都合つけて行きましょう」 

美琴が白旗を掲げ、初春はにまーと笑うのであった。


「まぁ、若さゆえの暴走で、非常に困ったことになっているってわけなのね?」

「はい」

「でも、その佐天さんだって学園都市に来て長いわけでしょ、学園都市から出て子供を育てよう、って考えた理由は何なのかしら。

美琴さんはその方からどう聞いてるのかしら?」

来た、と美琴は身体を硬くする。

「それはですね、あの、その子が普通の子よりも発育が良すぎてですね」

「まぁ」

「何か特別な理由があるんじゃないかって、調査されそうなんです。それを彼女は嫌がっていて」

「どのくらいなの?」

「今現在、1歳ちょっとなんですが、見た目は既に3歳児くらいなんです」

「あらま」

詩菜は目を丸くするが、ぐいと身を乗り出してくる。

「もう、しっかり立ってますし、言葉も結構はっきり話すことがあるんだそうです」

「身体も大きいのかしら?」

「もう90cmくらいあります。体重も13kgくらいだそうで」

「ちょっと待って、女の子なのよね?」

「そうです。可愛いですよ?」

「可愛いのね?」

「もう、すっごく可愛いです」

「美琴さん? あなた、いつ時間あるのかしら?」

「は?」

「私、その子に会ってみたいわ。なんなら今からでもいいんだけれど?」

まさか、じゃ今から行きましょうよ、と言い出すとはさすがの美琴も想像していなかった。

一転して彼女はブレーキ役にまわることになった。

「お義母様、また随分と……では明日の午後に行って見ましょうか?」

「私はかまわないわよ。佐天さんでしたわね、あちらさんの御都合はどうかしら?」

「一応訊いて見ますけれど、多分問題ないと思います」

「そうなの、じゃぁよろしくね……女の子ね……ああ、なんか楽しみだわぁ」

すっかりその気になっている義母の詩菜を見て、ふと美琴は不吉な予想をしてしまった。

(まさか、上条のおばさまも駄目とかいう判定はないわよね……?)


「あらほんと、可愛いわねぇ!」

開口一番の詩菜の言葉であった。



佐天涙子は一瞬どう答えてよいものか戸惑ったが、すぐに気を取り直し、挨拶する。

「あ、あの。私、佐天涙子と申します。で、この子は利子です。今、とても困っちゃってます。

どなたか御知り合いで、私たち親娘を下宿させて頂けるような方いらっしゃれば是非御紹介お願いします」

そういう彼女の挨拶の直後、詩菜はあっさりと言ってのけた。

「それなんだけど、佐天さん、ウチにおいでなさいな、お二人とも。私の娘と孫になったつもりで」

あっけにとられる佐天。

「美琴さんの1年下で、よく知った仲なんですってね? ああ、なんか私、下宿のおかみさんになった感じがするわ」

詩菜の頭の中では、あれやこれやと都合の良い光景が次々に浮かんできているのだろう。

一方、焦るのは美琴である。

かくいう自分もそうなのだが、これで子持ちの母親が2人になる。

自分で頼っておきながら、大丈夫だろうか、とは何て言い草かしら、と美琴はため息をつく。

でも、これで踏ん切りがついた、と彼女は思う。

(佐天さんに当てつけと思われたくないけど、私、ここから学園都市に通おう。お義母さまは許してくれるかわからないけれど)

いざとなれば、麻琴を保育園に預けても、と考えてみたが、さすがにそれは佐天の心を傷つける事になりそうだし、お義母さまは絶対許してくれないだろうな、と思う。

さて、どう切り出そうかしら、と美琴は髪を弄りながら、上条の家で麻琴の面倒を見ているはずの当麻の事を考える。

(ちゃんと面倒見れてるんでしょうね、あいつ……大丈夫かな……後でちょっと連絡してみよっと)

そしてもう一つの、彼女の心を重くする悩みが再び現れる。

(今度は……今度は大丈夫よね、きっと)

万一、自分の母同様に「身元引受人拒否」になったらどうしよう、という恐ろしい話のことである。

母・美鈴に「許可が出なかったの」と伝えた時の彼女の落胆ぶりは、美琴もかける言葉が見つからなかった。

それでも気丈な美鈴はこう言ったのだった。

「私自身ですらダメなのだから、私の親戚関係もダメでしょうね……美琴ちゃん、ごめんね。上条のお義母様を頼ってご覧なさいな?」

そんな美琴の思いを知らぬ詩菜は、しゃがみ込んで佐天利子と同じ目の高さで話しかけ、利子も1歳とは思えないおしゃべりに夢中であった。


果たせるかな、美琴の不吉な予感は、およそ一週間後に現実のものとなった。

電話から聞こえた彼女の落胆した声で、美琴は自分の想像があたかもこういう結果を引き起こしたかのように自分を呪った。

そして、またもや初春飾利の車に3人+利子がいた。

「今度はですね」

と佐天は困ったように切り出す。

「答えが出てこないんですよ」

「?」

美琴の顔に、はてなマークが浮かぶ。

「どういうことなわけ?」

「あはは、やっぱりそうですよね。えっとですね」

と佐天は苦笑いしながら語りだした。

--------------------------

佐天の話をざっくり一言で言えば、「回答の保留」なのであった。

いつ下りるかわからない、という事で、佐天は毎日窓口へ通っているのだが、答えは出ておらず、「許可」なのか「不許可」なのかすらわからない宙ぶらりんのまま、彼女は家に戻るしかなかった。

「うーん……ちょっとそれは遅いですよね、いくらなんでも」

初春飾利が首をひねりながら、考え考えしゃべる。

「私、一緒に行こうか?」

額に青筋を立てて美琴が言う。

AIMジャマーを嵌めているので、髪が逆立つことはないし、電撃が飛ぶこともないので、美琴自身も安心して「激怒」出来るのだ。

「ダメですよ、上条さんが行ったら、佐天さんと利子ちゃんに何故そこまで執心するのかって不思議に思われちゃうじゃないですか?」

ダメですよう、と佐天が手を左右に大きく振ると、「キャハハ」と明るい声で利子がその手を捕まえようとする。

初春はその姿を微笑みながらミラーで眺めている。

「そうかなぁ、だって私達って中学生の時からのお友達でしょ?」

「そうですけど、今、私の生きてく費用の出所って、あのひとから上条さんを通じて」

「そっか……もう一人、黒子でも通せばよかったかなぁ」

「私たちのグループじゃ何人通しても意味無いから、と言うことで上条さん一人にしたんじゃないですか……」

「だったわよねぇ」

うーん、と頭を抱える二人を見ながら、初春は

(内緒で理由を見てみようか、少なくとも何処で申請が止まってるのかが判るだけでも)

とハッキングするかどうかを考えていた。



だが、その前日。


「上条さんと、この方はどういうご関係でしょうか?」

「ああ、俺が高校生の頃で、あの子が中学生の頃だったかな。

俺、ほら、御節介やきでね、あちこち首突っ込んでたもんで、彼女の事も知ってたんだよ」

上条当麻は学園都市統括理事会傘下の福祉保健委員会にいた。

「はぁ」

「でね、今回貴重な御時間を頂いて御相談したいのはですね」

当麻は一旦言葉を切って、身を乗り出して再び話を始める。

「今回ですね、その彼女に久しぶりに会って、都市外で仕事探すって話を聞いたんですよ。じゃあっていうことで、俺のお袋のところを紹介したんだけど」

「それは、お母様の御了解は取れて?」

「あはは。今、女房が一時的に厄介になってるのは記録にあるよね」

「え? あ、あぁ、そうでしたね、奥様はあの」

「そうそう。で、一人増えるのも二人増えるのもかまわないって」

「そうですか……」

「で、聞いたんだけど、なんで許可出ないのかなって。いや、彼女に訴えられたわけじゃないんでそこは誤解しないでね?

ただね、彼女は無能力者だし、子供もまだ開発受けさせてないって聞いてるしさ。

今、ここの状況から、無能力者の場合、希望すれば都市外への転出はむしろ歓迎されてるはずだし。なんでなのかなってさ。

お袋も怒ると怖いんでね、何か手続きミスとかあったんだろうって言いくるめてきたんだけどね」

「は、ちょっと調べてみます」

「頼むね。ちょっと待ってるから」

「い、いえ、後ほど御報告に」

「いや、待・つ・か・ら」

当麻は有無を言わさぬ、とばかりにドスの効いた声で課長の返事に被せた。

「で、では直ちに」

担当の課長がお辞儀もそこそこに、部屋を飛んで出て行った。



10分ほどで、先ほどの課長は担当者らしい若手の職員を一人連れてきた。

彼はコーヒーを席に配り終わると当麻と名刺交換をした。

「遅くなりましてすみません。それでは結果を御報告します」

全員が腰を下ろすと、課長が報告を始めた。

「いえいえ。こちらこそ御忙しいところ、どうも済みませんでした」

「つかぬことをお伺い致しますが、奥様の御友人か、何かそういうようなご関係の方だったのでしょうか」

「まぁ、俺が知ってるくらいだからそうなのかな」

「それでですね、当初、奥様のお母様の下への預けということで、その……上条さんの義理のお母様にもあたる方なのですが、実は要注意人物との記載が残っておりまして」

当麻の眉がピクリと動く。


「……で?」

「そのような人物の下に子供を預けるのは如何なものかという意見が御座いまして」

当麻の反応を見るように課長が言葉を切った。

「……先を続けてくれますか?」

「それで、不許可と」

当麻は少し時間を取った後、はっきりと答えた。

「その判断は良しとしましょう。で、今回は?」

「その、以前にそのようなことがありましたので、今回は少し様子を見ようということで」

「私の母になにか不都合な事例があったと?」

一瞬、じろりと当麻は課長の目を見た。

「い、いえ、滅相もございません」

「ですよねぇ」

あはは、と当麻は明るく一笑する。だが、その目が笑っていない事に課長は気が付いていた。

「ということで、お待たせ致しました。

佐天涙子・利子のお二人は、上条役員のお母様でいらっしゃいます上条詩菜さまの下なら、ということで許可が出ました」

「いやいや、安心しました。いやぁ、僕の母がなんかヤバイのかと思ってしまいましたよ」

「とんでも御座いません。君、作業の方は?」

「はい。ここへ来る前に全て済ませて参りました。

佐天涙子さんと利子さんの親娘につきまして、上条詩菜さんを身元引受人ということで、御両名が学園都市から退去することを承認する旨、処理完了しました」

今まで黙っていた職員ははっきりとそう答えた。

「ありがとうございました」

当麻は二人に深々と頭を下げた後、独り言のように付け加えた。

「というか、美琴のお袋さん、ぼくの義理の母が未だにそんな事になってるとは思わなかったな」

「申し訳御座いません」

はぁ、と言う感じで課長が頭を下げると、隣の職員も遅れて頭を下げる。

「一度なんかしでかすと、ずっとそうなんですかねぇ?」

「すみません、なにぶん、慎重な考えを持つひともおります関係で」

「うーん、まぁ10年とか20年というところで見直すべきだとは思うんですよねぇ。

第一、特例だったんでしょうけれど、義理の母は僕らの結婚式の時を含めて何度か入っている実績がある訳ですしね。

それに、そもそも対象になっていた美琴自身がですよ、既に成人して、広報委員会のメンバーになって学園都市を自由に出入り出来る許可を持ってる訳ですからねぇ。

もはや、義母を警戒する意味なんてないじゃないですか?」

「は、はい。そういう御意見があったと上司へ報告いたします」

「そうですね。すぐには難しいでしょうけれど、検討すべき案件だとは思いますよ?」

「かしこまりました」

「ああ、宜しく御願いしますね」

「恐れ入ります」

かくして、二人の転出許可は下りた。


「さ、佐天涙子です。今日からお世話になります。娘の利子ともども、よろしくお願いします」

緊張した面持ちで、佐天涙子は少しギクシャクとお辞儀をする。

そんな母を、指をくわえた利子が、見上げている。

「こんにちは」

美琴も佐天親娘の後から軽く会釈する。

彼女は佐天親娘を案内かたがた上条家に戻ってきたのだった。

親娘の荷物は午後に入ってくる予定であった。

「まぁー、よく来たわねぇ、こんにちは。」

「ようこそ。上条刀夜です」

「お義父さま、いつお帰りに?」

ええっ、と言う顔で美琴が義父、刀夜に訊く。

「いや、ホントたまたま2日ほど早く仕事が片づいたんで。孫の顔も見たかったし」

「上条さんのおとうさま、ですよね?」

「そうです。息子と嫁がお世話になってます」

「と、と、とんでもありません。こちらこそ、子供連れでご厄介になってしまって、済みません!」

佐天がまたバッと頭を下げる。

「あらあら、刀夜さんたら……あなたって、ほんとーに、若い女が現れるとどこからともなく帰ってくるのねぇどこでどう嗅ぎ付けるのかしら」

「おいおい、母さん、そりゃないだろう?」

妻・詩菜からどす黒い負のオーラが立ち上がるのを感じ取った刀夜はあわてて妻の御機嫌を取ろうとするが。

「それで、今回のお戻りはいつまでかしら? 今日、明日? お出かけになるのでしたら、早めに言って下さいね」

二人のやりとりを目を丸くして聞く佐天。

あー、始まったか、とため息をつく美琴であった。



その日、詩菜は佐天涙子・利子の親娘に割り込む形で一緒にお風呂に入った。

そして裸の涙子を見た詩菜は、瞬時に彼女の嘘を見抜いた。

どう見ても涙子の身体には妊娠した形跡が無かったからである。

ただ、何か病歴があったのだろうか、彼女の下腹部には盲腸ではない何らかの手術の痕跡らしきものがあった。

場所から考えて、盲腸の手術ではないことは確実だった。

(どう見ても似ていないものね。何か理由があるのでしょうけれど、言わないのなら訊かないことにしましょう)

そう詩菜は心に決めたのだった。


時は過ぎ、ある日の朝の風景。



「お母さん、行ってきます」

「はい、もう一度確認」

「宿題ノート入れた、教科書ある、筆箱よし」

「ティッシュとハンカチは?」

「ティッシュ入れた、ハンカチ、あれハンカチ……?」

「ほーら、忘れてる。はい、これ」

「ごめんなさい。じゃ、行ってきます」

利子が玄関を出る。

「麻琴ちゃん家に寄るんでしょ?」

「うん!」

可愛らしくうなずく利子。

黄色い帽子、赤いランドセルに黄色い蛍光色のカバー。

それは「ピカピカの、いちねんせい」の証拠。

とことこと走り出した利子は、隣の隣の家の門のところで立ち止まる。

彼女は背伸びしてインタホンを押した。

「おはようございます、佐天です! 麻琴ちゃん、学校行くよぅ!」

可愛らしい声が通りに響く。

スピーカーから返事が流れてくる。

「利子ちゃん、おはようさんね。今、麻琴ちゃん出るわね」

その声が終わらないうちに、「リコちゃーん! おはよー!」

玄関からぱたぱたと飛び出してきたのは、上条麻琴である。

彼女もまた、黄色い帽子をかぶり、黄色の蛍光色カバーがかかった赤いランドセルをしょっている。

ただ、彼女のほうが一回りほど小柄なことからランドセルがより大きく見えて、いかにも1年生らしい。

「マコちゃん、おはよー!」

「はいはい、車に気をつけて行ってらっしゃいね?」

「あ、おばちゃん、おはようございます!!」

「はぁい、としこちゃん、おはようね」

玄関に出てきた上条詩菜は子供たち二人を守るように立った。

「おはようございます」

いつの間にか、佐天涙子もその傍にやってきていた。


「あらあら、佐天さんも? おはようございます。今日はゆっくりでいいのかしら?」

「ええ。来週はすみません、出張しなければなりませんので、その下準備をしなくちゃならないんですよ」

佐天のその言葉を聞いた詩菜の顔にすっと喜びの色が出る。

「あらまぁ、じゃあ来週から、また利子ちゃんはうちに来るのね?」

「いつもすみません、またお願いします」

「まぁまぁ何を水臭いことを。お仕事ですもの、仕方ないじゃないの。ね、利子ちゃんも我慢できるわよね?」

二人の会話を聞いていた上条麻琴の顔がぱっと明るくなる。

「そーなんだ、リコちゃん来週からまた一緒なんだ?」

「うん、いっしょだよ! マコちゃん家でね、リコ(※注:自分のことである)、マコちゃんとといっしょにごはん食べて、お風呂入って」

「利子、宿題ちゃんとやりなさいよ?」

あーとっても楽しみだなぁ、と言う顔の娘に、少しむかっときた佐天涙子は「ちゃんと勉強しなさい」と水をぶっかけた。

「う、うん…」

なんでそういうこと言うの…と暗くなる利子に詩菜が助け舟を出す。

「大丈夫だもんね、利子ちゃん、しっかりお勉強やるもんね?」

「麻琴もするよ?」

上条麻琴も、リコちゃんいじめないで? という悲しそうな顔で佐天を見上げてくる。

「そう、ならいいわ。ほら、二人とも時間よ、車に気をつけて行ってらっしゃい!」

「うん! 行ってくるね」
「行ってきまーす!」

1年生にしてはかなり大柄な佐天利子と、逆にやや小柄な上条麻琴は手をつないで小走りに駆け出してゆく。

「こら、あわてて走らないの!」

「だいじょぶだよー!」
「リコちゃん早いよー」

2つの黄色い帽子と2つの黄色いランドセルがとことこと道を走ってゆく。



「一年生ねぇ」

「ええ……おかげさまで、なんとかここまでたどり着きました……本当に有り難うございました」

「あらあら止めてね、そんな他人行儀は……とりあえず、ひとつ肩の荷が下りたってところかしら?」

「いやぁ、ひとつ下ろしたのにまたひとつ乗っかっちゃったってところですかね」



それは4月のある日のこと。

うららかな春陽が、子供たちを見送る二人を優しく照らしていた。





(番外編3 学園都市第二世代物語 佐天涙子・利子親娘編 完)

>>1です。

本日の投稿は以上です。

これで「学園都市第二世代物語」「新・学園都市第二世代物語」の番外編は全て投稿致しました。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

少し席を外します。

乙です

>>1です。
復帰しました。

>>369さま
いつもながら素早いですね。今まで長い間どうも有り難うございました。

さて、番外編第3話は、前作「学園都市第二世代物語」の番外編という形で書いております。
一部の設定は「新・学園都市第二世代物語」のものを使っていますけれど。

一旦でっち上げた設定を壊さずに、隙間に話をでっちあげるというのは大変でした。やってみて苦労しました。
それから、麦野利子(むぎの りこ)3歳を佐天利子(さてん としこ)1歳に仕立て上げるという荒技は、実際に置き換えて考えてみると、ちょっと無理があったかなぁと思います。登場人物同様、作者も悩みました。

これでこのシリーズは一旦終了します。
次は、前にも書いております通り、科学サイドではなく、魔術サイドの人間が多く出てきます。
まぁ片親は学園都市の人間なので、主人公も「学園都市第二世代」と言おうと思えば言えるかなー、と。
次の新シリーズでも、今作・前作の人間関係は崩さない予定です。変えると混乱しますし、ゼロから組み立てる気力もありませんので…。ただ、誰を出すかはまだ決めておりません。(まだそういう場面になっていない)
内容については、難しい内容を書くにはもう作者の脳みそがへたりきってしまいましたので、単純に行こうと思っております。それでも出だしはやっぱり同じ形になってますけれどw
進捗ですが、年内に書き上がればいいかな、というような具合です。

このスレですが、ここの伏線はどうしたの? というようなツッコミがあれば書ける範囲で頑張ってみたいとは思いますが、特になければ今度の週末にHTML化を申請してこのまま終了したいと思います。

最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。
それではお先に失礼致します。

待ってる…

dear author
I am sorry if our message cause you to be anxious
I can wait for a while your short story uploading on this web page

best regards

皆様こんばんは。
>>1です。

ちと非常に時間が掛かってしまい申し訳御座いません。
あまりにも遅れてますので、小編(の予定)なのですがとりあえず差し支えなさそうな部分を先に少しだけ投稿致します。
ま、その、見切り発車です。

内容は、前作「学園都市第二世代物語」、佐天利子の拉致事件後で、彼女らの家にマスコミが押しかけた後のお話であります。


>>379さま、>>380さま、
お待たせしてすみません。
いつも有り難うございます。

それではこれより投稿を始めます。
宜しくお願いします。


「皆様、おはようございます」

学園都市、ある日の朝。

ここは第三学区、入国管理事務所直ぐのところにあるビルの会議場である。

壇上に立ったのは上条美琴。学園都市広報委員その人である。

「うーす」
「おはようございます!」
「……」

彼女の前にマスコミ各社毎に纏められた机に居並ぶ男女の数、ざっと50名ほど。

明るく返事を返すものもいれば、ろくすっぽ返事もしないもの、多種多様である。

「私は、学園都市統括理事会広報委員会の上条美琴でございます。朝早くから当学園にお越し頂きまして篤く御礼申し上げます」

にこやかに話しかける彼女。

「本日、ここにお集まり致しました方の総数は49名です。定刻6時ジャストで特別入場許可証の効力は消滅致しまして、今回の取材目的での特別入場は打ち切りました。

当初、御希望された方の総数は71名でございましたが、残念ながら22名ほどの方が定刻までに御参集願えなかったようです」

「え、じゃ佐藤が来てないのは……?」
「あのバカ、寝坊したんか?」
「おいおい、随分と高圧的じゃねーか……」

わずかにざわめきが起こる。

「当方よりは何度も朝6時、時間厳守ですとお伝えしておりましたし、学園都市に多くおります児童・学生とは異なる現役の社会人の皆様方ですから大丈夫と考えておりましたが、ちょっと欠席された方が多いようです。

誠に残念なことですが仕方御座いません」

美琴はあくまでもにこやかだが、その内容は厳しい。

「それではお時間ももったいのう御座いますので、これより学園都市での取材に際しましての注意を申し上げます。

まず、これより数時間は児童・学生の登校時間となりますので、誠に申し訳御座いませんがバスに分乗して頂き、車内からの取材を御願いします」

「なんだそれは、話が違う!」
「自由に取材させてくれないのでは意味が無いだろう?」
「お仕着せ取材ということか? それじゃまるで北X鮮だぞ?」

口々に批判の声が上がる。

「お静かに御願いします。理由につきましては、取材をされた場合、それに応対した児童や学生が遅刻する可能性があるからです。

特に朝ですので、必ずしも皆、充分に余裕をもって登校しているとは限りませんでしょう、皆様の子供時代は如何でしたでしょうか?」

美琴の反論にわずかに苦笑が起こる。

「ですので、朝の登校については誠に申し訳御座いませんが制限をさせて頂きました。

ですが下校の際はこの問題はかなり解消されますので、この時点では制限が御座いません」

まぁそれならいいか、確かに朝はねぇ、といった声がひとしきり起こる。

「御了承頂けたようで、どうも有り難う御座います。

そのほかにもう一つ。本日朝9時半より、常盤台中学校におきまして身体検査<システムスキャン>が行なわれます。

皆様に付きましては、今回特別に許可を取っておりますので、その光景をご覧になって頂きます。

予め申し上げますが、常盤台中学校は当学園都市におきまして「学舎の園」というエリアに位置しておりまして、このエリアは通常、男性の立ち入りを許可しておりません」

「おいおい、男はダメって、そりゃないだろう?」

「わぁ、ラッキーだわ、私」

男性からは非難の声が、女性からはわぁやったね、という声が漏れる。



美琴の説明が続く。

「ですので、この見学取材については全員の団体行動を御願い致します。独断専行は堅く御断り申し上げます。

万一、お約束をお守り頂けなかった方がいらっしゃった場合は、誠に残念ですが、その方は以後の取材活動を遠慮して頂くことになりますので、是非とも御協力を御願い致します」

「なんだ、入れてくれるのか?」
「まわりくどい言い方ですね」
「つまり、どういうことですか?」

反発するような質問が飛ぶ。

「はっきり申し上げますと、今回、遅刻された方同様に、ここにはいられませんと言うことです。強制退去、ってことですね」

「独断専行かどうかはどう判断するんだ?」

「女子中学校に男性がうろうろしていたら、不審人物と思いませんか?」

笑いが起こるが、「あら、女性だったらいいんですか?」と食い下がる女性記者が突っ込んでくる。

「いえ、男性でも女性でも、不審人物と判断する要件そのものは同じですので」と美琴は答えを返す。

「身体測定<システムスキャン>の後はどうなのですか?」

質問が再び飛ぶ。

「自由行動が可能になります」

美琴がそう言い切ると、記者達の間にほっとしたようなざわめきが広がった。

お仕着せの、取材という名の「見学会」では意味が無いからだ。

いや、それすらも公式に行われた事はないのだから、最悪それでも出てきた甲斐はあるのだが。

「ですが、条件が1つだけ御座いまして、当方から風紀委員<ジャッジメント>がアテンドとして同行します」

ざわめきの声が変わった。

なんだよ、目付け役が付くのかよ、ということである。

やっぱり、自由に勝手気ままに取材出来ないのか、というものだ。

「誤解無きよう、改めてご説明申し上げます。

一つは、時間管理の問題です。例えば第七学区、第十三学区は幼稚園を初めとして小学校から高校までの幼児・児童・生徒・学生が数多くおります。

こちらの学区では、完全下校時刻、18:30ですがこれ以降については厳しい外出制限が御座います。

皆様が取材に熱心なあまり、この制限時間を越えることが無いとも限りません。あくまでも予防措置、ということで御了承願います」

美琴が説明を続ける。

「もう一つは、いくつかの学区では立ち入りを制限しておりますし、特定の施設付近では同様に制限が付きます。

取材、ということでいくつかは制限を外しておりますが、引き続き制限をせざるを得ない場所も御座います。

これらに対する案内役、アドバイザー的立場、と御解釈下さいませ」

なんだよ、やっぱり見張りじゃないか、という声が聞こえてくる。

「勝手な御願いですが、風紀委員<ジャッジメント>の指示に必ず従って下さい。

彼ら、彼女らの判断で取材継続・中止を決定致しますので、くれぐれも、生徒・学生が何を言うのか等とはお考えにならぬよう宜しく御願いします」

さすがに、学園都市に来る前にそれくらいは調べておいたのだろうか、風紀委員が生徒・学生であることに驚いた様子はなかった。

「そして、最後ですが、警護役としての立場です」

なんだ、警護って、という声が出るが、ここは超能力者の街であることに気づいたのか、ざわめきは静まってゆく。


「ご存知の通り、ここ学園都市には、私もそうですが所謂『超能力者』と呼ばれます人が数多く活動しております。

誠に残念ながら、全員が品行方正かと申しますと、そう言えないのが当学園都市の悩みで御座います。

加えて、『スキルアウト』と呼ばれる、素行に問題のある人間も生活しているのも事実です。

どちらも、取材だから、ということでの不用意な接触は危険な場合がありますので、警護役としてアテンド致します」

ざわめきが広がる。

正直だな、という声や、治安は万全という触れ込みじゃなかったっけ?という皮肉っぽい反応をする記者もいる。

いや、俺らはそういう連中こそ取材したいもんだ、という声も聞こえてくる。

「なお、今回アテンドします風紀委員<ジャッジメント>は全員レベル3以上の『強能力者』ですが、必ずしもけんかに強いわけではございませんのであしからず御了承下さい」

そこここで笑いが巻き起こる。

「えー、それでは確認させて頂きます。申請にありました通り、各社さんとも取材チーム毎に分かれて頂けてますね?」

広い会場には、参加している取材チーム毎(1社で複数のチームを準備したところがあるため)にテーブルが置かれている。

誰もいないテーブルもあった。全員が遅刻して学園都市に入れなかった取材チームなのだろう。

「では、これよりアテンドする風紀委員を配置します。チーム名はアイウエオ順に読み上げます。

……旭新聞社教育部さん、亘理悟(わたり さとる)、児玉雪絵(こだま ゆきえ)」

いきなりテーブルに中学生男子と女子高生が現れたので、「おおお」「うわっ」というどよめきが湧く。

「旭新聞社社会部さん、逆持弼(さかもち たすく)、田原勲(たはら いさむ)」

となりのテーブルには、二人の男子高校生がシュンシュンと出現する。

最初は動転していた記者達だったが、さすがプロ、カメラマンはすぐさまカメラを構えて撮影に入った。

最初に現れた女子高生と中学生男子には早くもインタビューが始まっていた。

だが、美琴が叫んだ。

「危険ですから動かないで! テーブルから離れないで下さい!」

いずれは自分達のところにも来るはずなのだが、そこはどうしても記者あるいはカメラマンとしての本能か、やってきた風紀委員<ジャッジメント>に彼らは引き寄せられるのだった。

「風紀委員<ジャッジメント>がテレポートしてきています! 座標が重なると事故になります! 

カメラをまわすのはかまいませんが、その位置から動かないで下さい!」

冷静さを取り戻したのだろう、大半の記者が自分達のテーブルに戻った。

だが、それでも旭新聞社のところへ向かう人間も数人がいた。

「やむを得ません、指示に従わない方は実力で排除します」

そういうと、美琴はインカムに向かって何事かをささやいた。

すると、「動くな」という静止指示を守らなかった記者の傍にどこからか現れた成人女性が立ったかと思うと、ふっと二人の姿が消えてしまった。

「え?」と思うまもなく、また一人のカメラマンの傍にその女性が傍に立ったかと思うと、一緒にその姿は掻き消えたのだ。

それは実にあっという間の出来事だった。


「ついさっき申し上げたばかりなのですが、非常に残念です」

冷たい調子の声の美琴の発言に、

「彼らはどうしたのですか?」
「何処へ連れて行ったんだ?」

何人かが声を上げる。

「お二人は学園都市入出国管理ゲートのところです。取材中止ということで、IDカードも没収し、学園都市から退去処分と致しました。

私どもの指示に従って下さい、と先程申し上げたばかりなんですが、どうしたものでしょうね」

いかにも困ったような口調であるが、その口元には皮肉っぽい笑いがわずかに見える。

「なんだよ、たかだか、そんなことで退去処分とは厳しすぎるよ!」

当然とも言える、反発の声が上がる。

「今、たかだか、と仰った方がいらっしゃいます。テレポートにおける危険性をお判りで無いようですね。

ルールを守らない場合、事故が起きる可能性があるので、厳しく注意しているのですが」

美琴は大仰に嘆息しながらも、手元のホログラムデータを検索し、発言したその記者のデータを探し出した。

「今、苦情を申し上げられたのは…週間マンデーさんの…桜庭さんでいらっしゃいますね?」

「そ、そうだが、何か文句があるのか?」

社名と名前を読み上げられたことに面食らったのか、立ち上がった記者の声は上ずっている。

「テレポートにおける事故の一例をこれからお見せしましょう」

一瞬、会場が息を呑んだようになったが、直ぐにTVカメラ、スチルカメラにカメラマンの手が伸びる。

「桜庭さん、今からこのボールペンをお手元に送りますので、それを掲げて頂けますか?」

美琴は胸元から取り出したボールペンの先端を右手に持ってみせると、隣に再び先ほどの女性が一瞬現れ、そのボールペンと共に消えた。

そして彼女が週間マンデーの桜庭記者の前にまた現れると、彼とその周りにいた記者たちは「おっ」という感じで一斉に後ずさった。

「こちらですわ。宜しくお願い致します」

彼女はそう言いながら彼にボールペンを手渡すと、再び姿を消した。

バシャバシャバシャとカメラの連射音が会場に響き渡る。

既に他の全てのTVカメラのクルーは全員がカムコーダーをまわしており、スチルカメラのカメラマンもレンズを望遠ズームに交換をして桜庭記者を狙っていたのだ。


「桜庭さん、ボールペンを御自身の前に持っていて下さいね?」

美琴が重ねてそういうと、なにか仕掛けでもあうんじゃないか、という顔の桜庭記者はためつすがめつボールペンを弄繰り回してからしぶしぶペンを持った右手前に掲げた。

「ありがとうございます。それでは……旭新聞社教育部の……酒井さん、すみませんがメモ紙を1枚、いただけますか?」

会釈した美琴は今度は最初に名前を呼んだ新聞社のチームの女性に話しかけた。

いきなり指名された酒井という記者は、面食らいつつもバッグからメモ帳を取り出して破き、テーブルに置くと「これでいいですか?」と叫んだ。

「結構です。ありがとうございます」

美琴は彼女に会釈すると「それでは、これから、テレポートの際に座標が重なるとどういう事が起きるかを実際に行って見ます。

桜庭さん、すみませんがしっかり右手をまっすぐに伸ばして、斜め前に上げて下さいね。

はい、そうです。一瞬で終わりますし、動き回らなければ危険はありませんのでそのまま御願いします」

桜庭記者がペンを身体から離すように右手を伸ばす。

「すいませーん、もう少し斜め上に上げてもらえますかー?」

TVクルーからそういう声がかかると、桜庭記者は苦笑してその通りに右手を上げ、叫ぶ。

「これで良いですかね?」
「OKでーす」

「ライト点けて!」
「ハイOK!」

あちこちから声が掛かる。

「準備宜しいでしょうか……? 宜しいようですね、それでは始めます」

美琴がインカムで再び指示を出す。

すると、教育部の席に先ほどの女性が突然現れ、「メモ紙を戴きますわ」とはっきりと言い、カメラが一斉に彼女の方へ動く。

「いやですわ、私ではなくて、皆さん、桜庭さんがお持ちのボールペンを御覧あそばせ?」

そう言うと彼女は小さなメモ紙を取り上げて、「では、ボールペンを御注目下さい」と言うや否や、



手元から紙は消え、

桜庭記者が持っていたボールペンの半分ほどがすっぱりと無くなっており、

その半分はカラカラと音を立てて床に転げ、

ひらひらとメモ紙がその上に舞い降りて行ったのだった。

スチルカメラを構えていたカメラマンはシャッターボタンを押すのを忘れ、カムコーダーを廻しっぱなしにしていたTVカメラマンのみがそのシーンを捉えていた。

会議場は一瞬水を打ったように静まり返った。

「座標が重なりますと、その座標にある物質の硬さ、強さ、大きさ等には一切影響を受けることなくテレポートされたものが押しのける形にになります。

もしそこに人間がいたら大変な事態が起きることがお分かり頂けたと思います。

このように、超能力の種類によっては皆様の安全に重大な危険が迫る可能性がございますので、どうか風紀委員<ジャッジメント>の指示に従って頂きますよう、改めて御願いします」

美琴はそう注意を述べて話を締めくくったのだった。

>>1です。
本日分の投稿は以上です。
2ヶ月もお待たせしたのに、たった5コマでスミマセン。

電源の関係でエアコンを入れられない部屋なもので、非常に創作意欲が出ません(言い訳)
また、私事ですが、詰め替えになることが決定しまして、毎日引き継ぎやらで時間が取れないのもイタイです。

ということで、お盆休みになんとかケリがつけられればいいなぁ、と勝手に思っておりますがさて。

引き続き頑張りますので宜しくお願い致します。
それでは今日はお休みなさいませ。

乙です

乙でした。

皆様こんばんは。
>>1です。

>>388さま、>>389さま、
ありがとうございます。頑張ります。

>>389さま
お褒め頂き、恐縮です。公の席における美琴の姿、というのも書いてみると結構難しいものです。

それではこれより少量、投稿致しますので宜しくお願いします。


「通学風景は東京と変わらないですね」

「そうなんですか、私、学園都市生まれなので他を知らないんです」

「へー、学園都市っ子って言うべきかな」

「そうですね」

「他のところ、見てみたいとは思わない?」

「正直、興味はありますね。みんなどんなことしてるんだろうって」

「案外、同じなんじゃないかな、その、超能力開発ってのを除けば、さ」

「そうね、この風景見る限り、全然違ってないわよ」

「いや…俺らの頃からさ、学園都市が子供達を集め始めてるから、こんなに子供がいっぱい歩いてる風景は今は無いと思うよ」

「あー、そう言えばそうだなぁ」

とある、学園都市見学取材チームのバスの中の会話である。



なんだかんだで朝のキックオフミーティング? が終了してバスに乗り込み出発したのはすでに7時を回っていた。

9時半には第7学区にある「学び舎の園」にある常盤台学園中学校での身体検査(システムスキャン)が始まるので、遅くとも9時には集合しなければならない。

となると、朝の交通集中を考えるとそう遠くへは行けないことになる。

さらに、「学園都市」の由来とも言える子供たちの登校風景は押さえたい、となれば、もう自ずと行けるエリアは決まってしまうのだった。

もちろん、それは美琴を含めた学園都市サイドの狙いであったが。

「お、7-11だ、すいません、あのコンビニ見たいんですけどダメですかね?」

「そうですね……ここは小学生しかいないはずなので、買い食いは禁止ですし、給食もあるので子供達はいないはず。

ちょっと店に聞いてきましょう」

風紀委員<ジャッジメント>の高校生がバスを止め、店に入っていく。

「結構融通利くみたいだね」

残った取材陣のうちのTVカメラマンが、傍にいる中学生らしい風紀委員<ジャッジメント>に何気なく言うと、その彼は少し微笑んで答えた。

「まぁ、せっかく学園都市に来て頂いたんですから、出来る限りのことはしたいですよ。でもコンビニなんか、ここと外で違いますかね?」

「あはは、全く同じ可能性はあるけどさ、誰も確認してないからね。同じなら同じでいいし、違ってたらそれはまた興味あるね」

そこに取材チームのリーダーらしい女性も話に割り込んでくる。

「ところで貴方も超能力者なのよね?」

「え?……あ、はい。あの、『超能力者』って、ここではレベル5の人を意味するんで。

僕は完全記録<マルチレコーダー>のレベル4、大能力者という位置にいます」

「そうそう、ここじゃ『能力者』って言うんだったわね、ごめんなさい」

「それで、今の、君のそれ、それって見たものを全部覚えることが出来る、とか?」

「視覚だけじゃなくて、聴覚・触覚・味覚も使えますし、同時に複数の感覚で得た記憶も記録出来ます。

但し、自分がそのモードに入らないと記録はスタートしません。結構頭使うんですよね、これ」

「へぇ……それらはどれくらいの期間保ってられるの? ずっと?」

「正直、わかりません。今のところ、僕がこの能力を発言させたのは小学生…2年生のときですから、まだ10年経ってないんですね。

でも能力を使って記録したものは全部覚えてます」

「ホントに? へぇー、全部なの?」

信じられない、という顔つきの女性ディレクター? に苦笑いする男子中学生。


風紀委員<ジャッジメント>の腕章をつけた男子中学生は話を続ける。

「はい。ただ、最初の頃は時間、日付・時刻の感覚が無かったので、記録の順番がわからなくなっているものがあります。

あれ、これ、いつのものだっけって。笑っちゃいますよね、意味ないですもん」

「あはは、そりゃそうだね」

「それで、途中から記録開始後、必ず日時を表示してるものを見ることにしています。今はこれを使ってます」

中学生はそういって小型のPCパッドを出す。

「ここを押すと」

直ぐに日付と時間が表示された。

「これで、あとから記録を再生しても戸惑わなくて済むんです」

「へー、すごいねー」

実は、彼、田原 貞一郎(たわら ていいちろう)はこの時既に記録モードに入っていた。

もちろんトラブルが起きたときの証拠保持のためである。

彼が配置されたこのグループは、実は一番問題を起こす可能性がある、と見做されていたからである。

そこへ、先程の女子高生の風紀委員<ジャッジメント>が戻ってきた。

「店内へのTVカメラの持ち込みは不可だそうですが、写真は顔を写さない条件で了承してもらいました。どうしますか?」

それを聞いた雑誌チーム2名は「おーし、見に行ってこよう!」とバスから降り、後からあわてて二人の風紀委員<ジャッジメント>が後を追う。

一方、TVカメラが不可となったTVチームクルーは「カメラが入れないんじゃ意味ねーな……仕方ない、店舗の外で通学風景を撮ろう」

4名が降り、3名の風紀委員<ジャッジメント>は彼らの後ろに立つ。

「小学生はかわいい絵になるねぇ…けど、何かもう一つ欲しいな……ね、えっと……貴女、河原崎さんだっけ?」

いきなり名前を呼ばれた、先ほどの女子高生風紀委員は「は、はい?」と返事をする。

「すいません、ちょっとエキストラやってもらえません?」

「はぁ?」

「貴女、肉体強化の超能力者でしたよね? ちょっとそれを利用して、絵を撮りたいんですよ。

つまりその、遅刻しそうなので焦って超能力使って学校へ急ぐ女の子、って感じでひとつ演技御願いしたいんですが」

「それってヤラセじゃないですか?」

「やらせという言葉は誤解を招くんで、イメージ画像とでも言って欲しいなぁ」

「どっちも同じ事だと思うんですが?」

三人の会話が会話が途切れ、気まずい空気が漂う。

「はいはい、止め止め。渡辺さん、そこまで。この話はなしにしましょ。河原崎さん、失礼しましたわね」

「あ、いえ、なんかちょっと……嫌だったもので」

「……わかりました」

チームリーダーの女性がADを抑えて、この話は終わった。


「あ、あれ、上条さん来た」

「レクサスね。さすがですわ」

「全く……ただのオバサンに何なんだか」

「るみちゃん、レベル5の大先輩つかまえて只のオバサン呼ばわりは失礼よ?」



常盤台中学校、朝8時。

学校正面の車寄せに入ってきたレクサスに、登校中の女子中学生の注目が集まる。

しずしずと車が止まると、ドライバーが運転席から慌ただしく降り、後席にまわると恭しくドアを開けた。

そして降り立つ女性、上条美琴は、久方ぶりに母校の玄関にその姿を現した。

(わぁ)
(かっこいいー)
(すてき~!)

声にならないどよめきがあたりを支配する。

(おはようございますっ! 常盤台中学3年生、夙川絵里香(しゅくがわ えりか)です! 今日は宜しく御願いします!)

元気な声が美琴の頭に響いてきた。

(テレパスね、さて、どこからかしら)

美琴が辺りを見回していると、赤のカーペットがクルクルと解けながら転がってきて、彼女の足元でピタリと収まった。

「テレキネシスね。位置はドンピシャだけど、タイミングはもう少し早く、御客様が車から降りる前に出来上がるようにね?」

美琴がどこともなくそう言うと、玄関のところに立っていた女の子の一人が深く頭を下げていた。

「今の、貴女かしら?」

美琴がそう声を掛けると、彼女は顔を上げて答えてきた。

「いえ、私は先ほど御挨拶申し上げました、夙川絵里香です。

カーペット役は、その、中におります1年生の漆畑文(うるしばた ふみ)が担当でした。失礼致しまして申し訳ございませんでした」

「そんな気にすること無いわ。そもそも能力測定<システムスキャン>の日にこんなことさせてごめんなさいね」

恐縮する3年生の夙川に向かって、美琴がすまなそうにそう言って会釈すると、夙川はふと一瞬考えたようだったが

「そんな、その、とんでもありません! 在校生一同、上条先輩のお越しを大歓迎申し上げます!」

と元気よく答えて、バッとまたしても深々とお辞儀をする。

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」と美琴も深々と頭を下げると、

「おはようございます。上条さん。貴女の母校、常盤台中学校へようこそ」

穏やかに微笑む校長先生がそこにいた。


常盤台中学校の校長室。

その昔、ここに来ると言うことは説教をくらう事とイコールであった。もちろん、褒められることもあったけれど。

「えー? もうやっちゃったんですか?」

「当然でしょう、生徒達の絶対能力を測定するのに、そんな興味本位でやってくる人間の前でやらせるの?

確かに、そういうのが好きな生徒もいるでしょうし、そう言う子はもしかしたらより良い結果を産むかもしれないけれど。

このシステムスキャン次第でレベルが決まるというので神経質になってる子も多いんだから」

校長は美琴に微笑みながらそう語る。

ああ、それでか、と美琴は独りごちた。

(システムスキャンの日にごめんなさいね)

夙川という三年生に自分が詫びた時、なぜ彼女が戸惑った表情を浮かべたのか理由がわかったわ、と。

「それでね、希望者だけにしたんだけどね……」

思わせぶりに校長は語尾を濁す。

「少なかったんですか?」

美琴が眉をひそめて訊くと、

「それがね、予想外に多かったの。皆TVの前でカッコイイところを見せたいのね。全く、心配して損しちゃったわ」

肩をすくめて校長は答え、美琴はほっとして肩の力を抜いた。

「最初の切り出しで、一瞬どうしようと思いましたわ。先生も人が悪い」

「あらそう?」

「生徒がいなかったらどうしよう、最悪私が見世物やるしかないか、って一瞬考えましたもの」

美琴はそう言って苦笑したが、校長の目が逆に輝いたことに彼女は余計なことを言った、と心の中で舌打ちをした。

「あら、それ面白そうね、やりなさいよ。皆喜ぶわよ、きっと? 上条さん、貴女、最近システムスキャンやってないでしょ? どう?」

うわぁまずい、話がおかしな方に走り出した、と美琴は慌てる。

「い、いえ、大丈夫です。それに私も裏方でいろいろありますし……」

「何言ってるの、貴女が母校で、後輩たちの前で超電磁砲<レールガン>を実演するって言えば、取材メンバーの全員が集まるわよ。

絵になるんだから」

(うわ最悪、あぁ余計な事言っちゃったなぁ……まずい展開になってきた)美琴は臍をかむ。

「だいたい、ここにいる生徒達はもちろん、今では教職員ですら貴女の超能力見たこと無い人が殆どなのよ? もう伝説なの、貴女の事は」

確かにそうかもしれない、と美琴は思う。

歳を取るに従って、無茶は出来なくなった。

学園都市の準職員に採用され、正職員になり、親善大使になり、広報委員になり、とステップを登る度、「大人」としての立場が重くなった。

さらに結婚し、子を産み人の親となった今、派手な行動は取れなくなったと言って良い。

確かに、ここ数年思い切り自分の能力を開放した事は無い。

暴走しかかった麦野沈利を止めるために、警告として1発撃ったけれど、あれは全力には程遠いレベルだったし。

「それとも、もう撃て無くなった……とか?」

挑発だとわかっていた。だって先生の目は笑ってるもの。

(あー、でもなぁ、そう言われるとなんかやりたくなってくる……って、おっと危ない。その手には乗りませんよ!) 

そう思い直した美琴は、気を引き締めてにっこりと笑ってこう答えた。

「気が向いたらやるかもしれませんわ」

美琴がそう言うと、校長もまた微笑んでこう答えてきたのだった。

「まぁまぁ、別に今日でなくてもいいのよ? またいらっしゃい。ここは貴女の母校なんだから」

>>1です。

短いですが本日の投稿は以上です。

引き続き頑張りますのでどうぞ宜しくお願いします。
それでは今日はお先に失礼します。
皆様、お休みなさいませ。

乙です

親愛なる作者様

いつも拝見している読者です。
まさにスーツの似合う上条委員を描いていただいて
ありがとうございます。

上条美琴て、本当は自分がやりたくてうずうずしているのを
我慢している感じがよくでています。しめはひさびさの
美琴委員の大立ち回りを期待しています。
では。
dear author
i have been reading your short story
I am very appriciated that you describe just a cool career person
as a advertise director of academic city kamijyo mikoto

i think that kamijyo mikoto is a very active person if situations allow her to do herself but reluctant
to do always
i hope you describe her action .

best regards


 



皆様こんばんは。
>>1です。

>>397さま、
いつも有り難うございます。

>>398さま
 >>391では失礼しました。アンカー間違えてしまいました。
大立ち回りをやるかどうか、入れることは出来そうなんですが(苦笑
どうしようか考えてます。



いろいろとありまして、定例の日曜日に投稿することが出来ませんでした。
今度の日曜日も投稿できませんので、本日、イレギュラーですがこれより少量を投稿致します。宜しくお願いします。


9時。

続々と常盤台中学校の正面入り口にマイクロバスが横付けされていた。

「なんかすごいわねぇ」
「数多いねー」
「変な人いないといいんだけど」

「いろんな会社が来てるのであちこち散らばせる為に小割にしたんだって、梨奈っちが言ってた」
「そう言えば、梨奈さんも監視役としてお手伝いされてらっしゃるはずですわね? どこかしら?」
「松沢さん? わたくし監視役ではございませんわ、アテンド役と仰って下さいまし」
「あはは、似てる、似てる!」
「全くもう、貴女たちったら緊張感ゼロじゃないの。一応今回だってちゃんとしたシステムスキャンなのよ?」
「えー、何度やっても私、レベル3以上無理だしぃ」

「TVに映るかしら、お母様御覧になっていれば良いのですけれど」
「生中継じゃないと思いますわ、録画になると思いますからどうでしょうねぇ」

「私の能力、地味だからなぁ……パイロキネストなんかウケルよねぇ」
「ひなちゃん可愛いから大丈夫よ」
「そうかなぁ」

外部のマスコミが来ると言うので、親兄弟を外部に残してきている生徒達は興奮していた。

自分の姿が映れば、学園都市で頑張っている自分の姿を家族に見てもらえたら、といういじらしい想いが彼女らをカメラの前に立たせる原動力であった。

学園都市で育った世代がそのまま残り、めでたく結婚して出来た第二世代が増えてきたとはいえ、基本的にはまだまだ外部からやってきた新たな第一世代の子供たちが多いのだ。

能力者であるが故、外にある自宅にはそうそう簡単には戻れず、めったに家族に会えない常盤台中学の生徒たちにとっても、このイベントは家族へのアピールとして絶好のチャンスだったのだ。

「生徒に連絡します。システムスキャンを受ける生徒は全員、直ちに大講堂に集合して下さい。

繰り返します。システムスキャンを受ける生徒は全員、直ちに大講堂に集合して下さい」

生徒集合のアナウンスが構内に流れる。

「シルぴー、行こう?」
「ええ、頑張りましょう、魅久さん」

「こないだはちょっと精神集中がイマイチだったからなー、今回は記録更新するぞー」
「アハハ、ともちゃんたら、力みすぎるとまた失敗するよー?」
「やかましー!」

「ねー、ヘアピンどっちが可愛いかなぁ?」
「どっちも似合ってるって、好きな方選びなよ」
「だからぁ、決められないから訊いてるのに」
「両方付けりゃいいじゃん?」
「もう、ユカのいじわる!」

軽口を叩きながら生徒達は大講堂へと早足で向かう。


「えー、そんな事言ってきたの?」

「はい、めったにない事なので、全部見たい、という声が殆ど全部でしたもので……」

「そんなこと言って……順番にやっていったら1日じゃとても無理よ。だいたい生徒達が保たないでしょ?」

「そうですが……」

「あくまでも、主導権は私達、こちら側にある事を忘れちゃダメよ? 取材をさせて上げてるんだからね。

午前中にベーシック、午後から各特性毎、という基本線は変えないようにします。昼は予定通り大講堂で弁当をつかわせると」

「はい、わかりました。それで……あの、常盤台中学の昼食も食べてみたいという声があるのですが」

「はぁ? 食堂はダメよ、生徒たちが食べられなくなるもの。贅沢言ってるんじゃないわよ、全く。

弁当は、繚乱家政女学院の生徒たちが作ったものです、と言っておきなさい。たぶん、それで収まるわよ、充分おいしいしね」

「わかりました」

「貴女も大変でしょうけれど、なんとか我慢して。今日1日だから」

「はい。失礼します」

風紀委員<ジャッジメント>の取り纏め役である一文字早苗(いちもんじ さなえ)は疲れた表情で美琴の席を辞した。

「ああは言ったものの、ほんと迷惑掛けちゃってるなぁ……」

参ったわね、と言う顔で傍らに控える白井黒子に愚痴る美琴。

「御気になさらず、お姉様。対外折衝も重要な経験ですわ。あの子も、今は大変ですけど、後でこの事はきっと役に立ちますわ」

「ありがとね、黒子。貴女にも迷惑かけっぱなしだし」

「いえ、外部からの取材に付いて、学園内の規律を守るよう御協力頂くこと、そして取材陣の安全を確保する事。

これは風紀委員<ジャッジメント>としての職務に合致しておりますわ。

それに期末試験も終わってますから学業への影響も少ないこの時期、何も問題ありません」

にこやかに話す黒子は、今もなお美琴にとってよき友人であった。

「まぁ、確かに昔から外(東京・大阪等)のマスコミから取材させろ、って要求は来てたからね。

その意味では、長年の宿題にようやく答えを出した、って言えるんだけど、きっかけがさ、ちょっとね」

美琴がひっかかっているのは、「佐天利子拉致事件」に絡み、彼女の実家に押しかけたマスコミ群を退去させる為に交換条件として学園都市の取材を認めた事にあった。

確かに昔からの要望にようやく重い腰を上げただけ、という言い訳は立つ。

また、拉致された佐天利子が学園都市で発見されたことは事実であり、少なくとも何らかの関与があったことは否定できない。

その悪いイメージを払拭する為にも外部マスコミに取材を、という論法に表立って反対する人間はいなかった。

ただ、唐突にこのプランが決まった事に対して根回しが不足したこともまた事実であり、底にある反発の声に美琴は悩んでいた。

「とにかく、安全に取材してもらって、無事に帰ってもらうことが今回の最大の目標ね。何をどう書かれようと、それは出たとこ勝負だわ」

「そうですわね。何せお互い初めてなのですから、いろいろ齟齬もあるかもしれませんが、それは次回への教訓にすればよいかと」

「そうよね……って、ちょっと、貴女、こんなことまたやる気なの?」

「えっ? お姉様は今回限りのおつもりでしたの?」

「当然でしょ、こんなこと何度もやってられないわよ?」

発言の意味がわからない、と言う顔で美琴は白井黒子を見る。


黒子も美琴を向いてはっきりと答えてくる。

「いや、それはそうかもしれませんが…ただ、この学園都市に来ようと言う子供達が減っている事態について、何らかの対応策が必要なのでしょう?

私は、今回の外部取材は、その一つなのだろうと思っておりましたが」

「これが?」

「そうですわ。ネットは自分で探した場合には情報は掃いて捨てるほど集まりますけれど、探していない場合や興味の無いものからの情報は完璧に無視されてますわ。

一方、オールドタイプの報道媒体の良さは、彼ら自身が不特定多数に向けて発信してますから、相手に勝手に情報が飛び込んで行きますの。

非効率ともいえますが、広く伝えられる点ではまだまだ捨てた物では御座いませんのよ?」

「そういうものかしらね」

「そうですわ。更に、ターゲットを親・祖父祖母、といった年齢層とした場合は既存報道媒体の影響力は充分高いですし。

ですから、子供たちを学園都市に呼ぶというのなら、まずは親やそのもう一つ上の世代を納得させる必要があると思いますの」

「将を射止めんとすればまず馬を射よ、か」

「ですわ。親や祖父祖母を敵に廻してうまくいくはずがございませんもの」

「でもねぇ、黒子。むやみやたらと頭数だけ増やして、その結果、大量におちこぼれを出して、スキルアウトとして追い詰めてしまった訳じゃない?

もちろん、能力が発現しなくても優秀な成績を収めてるひとだってたくさんいる。

佐天さんのように、能力を捨てながらも自分の頭脳を生かして気象学の世界で知られるようになったひとも確かにいる。

でもね、世の中、皆が皆、意志が強い人ばっかりじゃないからねぇ」

「あらかじめ選別をするのはそのため、と?」

「言葉が過ぎるわよ、黒子。能力開発適性予備テストとでも言って欲しいわね。

あらかじめ自分に能力が発現するかしないかを知っておいてもらうのよ。

しないとわかっていても、ここの優れた科学技術に興味を持ってくれる子供だっているし。

能力はないけど、他で頑張ろう、って思う子もいる。

ここに来て、むなしい努力をして無為に年齢を重ねてしまったあげく、スキルアウトになるしかなかったなんて、それは悲しすぎるわよ」

「でも、それは自己責任という面もありますでしょう?」

「小学生、中学生に自己責任を問えると思うの? 早ければ早いほど進路修正は出来る。

自分の適性を見た上で、夢を持つ方が、実現する可能性は絶対高いもの。

そのお手伝いをすることは決して間違いじゃないと思うわ」

そのとき、部屋がノックされ、常盤台の生徒が入ってきた。

「失礼します。上条委員、10分前です。講堂へお越し下さい。生徒及びマスコミ各社、全員揃っております」

「有り難う。すぐ行きます。白井リーダー、警備の方、宜しくお願いします」

「かしこまりました、上条委員。それでは私も」

今までの「黒子」「お姉様」という雰囲気は消え失せ、「広報委委員上条美琴」「風紀委員会<ジャッジメントステーツ>特命グループリーダー白井黒子」がそこにいた。

(お姉さまの、そのお考えは決して間違っているとは思いませんの。

でも、かき集めるだけかき集めてその中からよい物だけを取り出して後はポイ捨て、という批判に対抗できるところまでは行っていませんの)

何かよい手立てはないものでしょうかしらね……)

白井黒子はため息をひとつついて自分の守備位置へとテレポートし、控室から姿を消した。


常盤台中学校における能力検定の見学は「とりあえず」予定より若干遅れつつも進行していた。

屋内での簡単な透過能力テスト、念動力テスト等は生徒達からすれば他愛もないものであったが、学園外の一般人の記者達からすれば興味を引くに充分であった。

もちろん美琴・常盤台学園側としても織り込み済みで、「何かタネがあるのではないか?」という疑いを持つ事を当然と考えた上で対応方法を取っていた。

普段のように、生徒達が計測機器の前におとなしく座っての測定だけではなく、記者の中から体験希望者をランダムに募り、生徒達の傍で同じようにトライさせたりしたのである。

繊細な女の子の中には、普段と異なる異様な雰囲気に萎縮して先日行なったばかりのシステムスキャン時より大幅に落ちる結果となってしまった子もいたが、逆にそれが真実味を帯びることになった。

成績を下げる原因となった? 記者が平謝りする中、生徒が「あ、あの、気になさらないで下さい」とあわてる光景も見られた。

もちろん、「わたし、ギャラリーがいた方が燃えるわぁ」とばかりに好成績を出す子もいたのは事実である。



そして10時半過ぎから、いよいよレベル3クラスの各個人のシステムスキャンが始まった。

水(液体)、空気、土、金属、音、光、電気、と言った個人の特殊能力が報道陣の目の前で披露され、詰めかけたマスコミ各社の記者たちから歓声やら感嘆の声が上がる。

中には手拍子を要求するさばけた女子生徒もおり、一部からはひんしゅくを買ったりもしたが、どっこいその子は今までに無い好成績をあげ、測定員や教師を驚かせた。

(こういうテストもありかもね……)

美琴は目から鱗が落ちる思いであった。



そして、あっという間に昼休みの時間がやってきた。

「お待たせしましたー」

「お昼のお弁当ですー」

昼食会場に指定された大講堂に黄色い声の挨拶が響いた。

「おおー」
「可愛いじゃないか」
「何よ、あれ」

メイド衣装に身を包んだ女の子たちが入ってくるのを見て、記者の間からどよめきが起きる。

最後に、美琴が軽く会釈して入ってきた。

「皆様、お疲れ様でした。錯乱家政女学院の皆さんによるお弁当です。風紀委員<ジャッジメント>も受け持ちのところで食事を取って下さい」

カメラマンが手を上げる。

「すいません、よかったらバッテリー充電させて欲しいんですが」

すると、あちこちから手が挙がる。

「ああ、そうだな、ウチも出来れば」

「すみません、あの、電源をお借りできませんか、簡単に編集しちゃいたいもので」

カムコーダーを廻していたTVクルーが頭をかきながら訊いてくる。

「一文字さん、電源コード、倉庫にあるわよね?」

美琴が傍らに控えていた取りまとめ役の一文字早苗に話を振るが、彼女は困った顔で

「すみません、私、常盤台出身じゃないもので判りません」と答えてきた。

「そ、そうよね、ごめんなさい、聞く相手間違ってるわね。えっと……」

いっけない、私ったら何あわててるの? と美琴は反省して、常盤台の制服を着た女の子…と目で後輩の姿を探す。

「はい。私の出番ですね!」

一文字早苗の後ろから夙川絵里香がニコニコしながら現れた。

「聞こえました。電源コードですよね? 数足りるか判りませんが、倉庫に置いてあります。ちょっと待って下さいね……」

美琴が言うより先に彼女は用事を自ら言い、テレパスで誰かを呼ぶのだろう、無言になった。


「夙川先輩、何の御用でしょう?」

ふいに絵里香の直ぐ近くにまだ幼さを残す中学生が現れた。

「おぅ」

美琴たちのやりとりを見ていた記者達から声にならないざわめきが生まれる。

既に何回も生徒達がテレポートされてくる姿は見ていたのであるが、何度見ても驚くべきことなのだろう。

美琴がその子に声をかける。

「貴女、テレポーターなのね」

「わぁ、上条さんですか? 大先輩にお会いできて光栄です。

わたくし、柳生恵子(やぎゅう けいこ)と申します。常盤台中学校1年生、テレポーターのレベル4です」

丁重な挨拶をする彼女にバシャバシャバシャとカメラのシャッターが切られる。

「もしかして、朝のもそう?」

「いえ、半分以上は白井先輩です。今日、ちょっとその、体調が狂っちゃいまして」

赤い顔になる恵子に、「柳生さん大丈夫? 休んだ方がよくなくて?」と絵里香が心配そうに訊くが、

「長時間連続は無理ですけれど、適度に休んでその都度演算結果との誤差を調整すれば大丈夫です」

しっかりした顔で答える恵子に「そう? じゃ頼むわね。無理だと思ったら直ぐに連絡してね?」

そう激励する絵里香。

「はい。で、先輩のご用件は何でしたっけ?」

「そうだったわ。倉庫に入って、電源コード取ってきて欲しいの」

「電源コード……あ、ああ、わかりました。とりあえず全部持ってきましょう」

恵子は廻りを見て、何故自分が呼ばれたか、どうして電源コードが必要なのか、を瞬時に理解したらしい。

彼女の姿がふっと消えたと思うと、

数秒後にドン! ドン! ドン! と電源コードを入れたパレットが3ケース、講堂の中央に現れたのだ。

「これで全部です。足らなかったら、校舎から持ってくるしかないですが、どうしましょう?」

直ぐ後に再び柳生恵子が戻ってきた。

「とりあえず、これ、コンセントに付けて……それからソケットをタコ足にして」

夙川絵里香がそう言いかけてパレットに向かおうとしたとき、

「いやいやいや、そこからは自分達でやりますから、どうぞ食事取って下さい。

えっと、そこの彼女……『柳生ですが?』失礼、柳生ちゃん、有難う。おかげで大変助かります」

最初にバッテリーを充電したい、と言い出したカメラマンが帽子を取って二人の女子中学生に頭を下げた。

「いや、すみませんでした」
「ありがとうね、もう休んで下さいな」

口々に御礼の言葉が投げかけられ、二人は照れくさそうに

「いえ、別に」
「たいしたことではありませんから」

とぎこちない会釈を返すのが精一杯だった。


その初心な女子中学生二人の姿を見て、

「あの子、可愛いな」

とつぶやいた男は、ひょいひょいと記者たちをやりすごし、

「ありがとう。すごかったね、あんな重いもの飛ばせるなんてさ。あ、僕、ユナイテッド通信社の山口ですけど、あとで取材させて下さいね?」

と、名刺をポンと柳生恵子の手に握らせたのだった。

「え、えええっ?」

突然の事におろおろする柳生、はぁ? と山口と柳生とを交互に見る夙川。

そんな山口の行動を見とがめた一人が山口を乱暴に押しのけ、

「この野郎、出し抜きやがったな……すいません、失礼しました。気にしないで下さい」

彼はそう言うと、柳生恵子が持っていた名刺をそっと抜き取り、自分の胸ポケットに突っ込んだのだった。

「おいおい、何すんだよ週間スペシャルさんよぉ、後から来てさ」

むっとしたユナイテッド山口が抗議の口調でスペシャルの記者に突っかかると、

「てめぇこそざけんなよ、申し合わせでそういうことは慎むってことだっただろうが」

何だこの野郎、という声でスペシャルの記者、遠藤が応じる。

女子中学生二人は、険悪な空気を感じ取り青くなるが、どうしたらよいのか動く事が出来ない。

「あんたら、メシ時になんだよ」
「止めろ、みっともない。二人とも外へ放り出されちまうぞ?」
「子供の前で恥ずかしいだろが」

近くにいた記者たちが集まってきて口々にそう言うが、二人はにらみ合ったまま動かない。

それまで奥のほうで、メイドスタイルの錯乱家政学院の学生としゃべりながら弁当を食べていた面々も、なんだ?と注目し始める。

ちょうど美琴は、報道の1人と電源ケーブルをコンセントへ入れるために離れて背中を向けていた為に、この騒ぎにまだ気づいていなかった。

「すみません、どうしたんですか? お二人ともちょっと、ちょっと待って、落ち着いて下さい!」

夙川が二人を制止しようとするが、二人は聞く耳を持っていない。

「名刺返せよ、俺はあの子にあげたんだ、てめぇなんかにゃくれてやる義理なんかねぇぞ」

「ああ、俺もこんなクソ名刺いらねぇさ」

そう言うと、遠藤記者は胸ポケットから山口記者の名刺を取り出すとクシャと握り潰したのだ。

「それは…!」

喧嘩になる! そう思った柳生は夙川の腕にしがみつく。



「仕方ないですねぇ」

参ったなぁ、と言う顔でぎゅっと右手を握り締めたのは、一文字早苗。

「お?」
「誰だ?」
「何だ、これ?」
「お、おいおいおい!」
「何、これ?」
「何で俺が、関係ねぇよ!?」

磁場の乱れを感じ、振り向いた美琴が見たものは、見えない力で女子生徒の廻りから押し戻されて行く記者達の姿と悲鳴だった。

ほう、と言う顔になる美琴。

(あいつら、なんかやったのね。これ、念動力<テレキシネス>かしらね?)



「すみませんが、下がって頂けないので実力行使させて頂きました」

一文字早苗は、床に転がる困った記者たちの面々を睨み付け、そうきっぱりと言い切ったのだった。

>>1です。

途中でエラーが出て焦りましたが、なんとか本日分の投稿は出来ました。

なんとか頑張りますので宜しくお願い致します。
それでは本日はお先に失礼致します。
最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

乙です

dear author

thanks for your effort
i am waiting your resr of story
zai cheng. see you soon.

regards

皆様こんばんは.
>>1です。
1ヶ月近く空いてしまいました。イベント多くて全く手つかずでした。

>>407さま
いつもありがとうございます。

>>408さま
頑張ります。

それでは本日分、例によって少量投稿致します。
宜しくお願いします。


午後。

いよいよレベル4クラスの試験が始まった。



現在、常盤台学園には中学・高校をひっくるめてレベル5はいない。

長点上機学園と霧が丘女学院にはレベル5の生徒がおり、常盤台学園としてはこのハンディを埋めるべく、あらゆる方策を講じていた。

つい先頃、学園都市の顔とも言える上条美琴の一人娘・麻琴を校則を曲げてでも迎え入れようとしたこともまた、その一環であった。

(これについては、美琴自身がOGの立場として「入学基準のひとつに、生徒の能力はレベル3以上」の原則を断固として曲げなかったことで、娘・麻琴の横紙破り的入学は避けられたのだった。

いかに学校公認とはいえレベル2の麻琴が入学したとしても、すぐに実力不足は露見し結果的に娘の成長に何ら良い結果を生むとは思えなかったからであった。

そして美琴は、娘の能力が修練の結果、いずれレベル3を超えるであろうことを確信しており、よって今の段階で強引に常盤台中学に転入する必要はないと考えていた)

今回、常盤台学園が外部マスコミに身体検査<システムスキャン>を見せるという破格の対応を取ったのも、外部に対する宣伝戦略の一つであった。

美琴の方も、麻琴の母校への転入を排除したその埋め合わせと、その母校の置かれている現在の状況を考えて、レベル5が在学する2校をすっ飛ばして最初に常盤台学園中学に打診したのだった。

美琴の思惑は外れなかった。二つ返事で常盤台学園は全面的協力を申し出たのである。

こうした思惑の中で、二度目の身体検査<システムスキャン>は行われたのである。



プール。

ここでは主に水を始めとする流体を扱う能力者の試験が行われていた。

縦50m、幅25m、深さ1.5mというプールに張られた水はざっと1900tに達する。

この重量の水を自由自在に扱うレベル4の女の子に報道陣は言葉を失い、ひたすらカメラを回すだけであった。

美琴は、彼女らのテストを見ながら、かつての自分の姿を思い出していた。

罰をくらい、黒子と二人でこの広いプールを掃除するハメになったことを。

プールのスタート位置に立ち、反対側にある射的を狙って、コインをレールガンで打ち出していた、中学生の頃を。

(子供だったわね…)

そう、エネルギーをもてあまし、時にはスキルアウト狩りなど、今思うと顔から火が出そうなくらい恥ずかしいこともやった。

それがきっかけで、今は自分の夫となった、アイツと出会ったことも。

そして、「妹達<シスターズ>」のこと……。

「上条さん、懐かしいでしょ。どう、やって見る?」

美琴の回想は、突然肩を叩かれて言われたその言葉でたちまち消えて行った。

「はい?」

「だから、超電磁砲<レールガン>のテスト。ウケるわよ、きっと」

これ以上ないくらいの笑顔で美琴にテストを勧める校長だった。


だが、そんな美琴を救ったのは、最後の生徒、2年生の大地川巴(だいちがわ ともえ)であった。

彼女は水温24℃の1900tの水をわずか2秒で凍結させ、そして次に6秒で沸騰させ、そしてプールの水を空にしてしまったのである。

もっとも、プール上空には猛烈な熱量と1900tの水によって生まれた上昇気流による雲が瞬時に出来、そして次の瞬間には豪雨となって再び地上に降り注いだのだ。

「水しぶき等がかかる可能性がありますので、防水カメラ・全天候対応カメラ等の防水機材の使用を強くお勧めします。また雨合羽などの着用をお願いします」とあらかじめ昼食時に警告が出されていた。

そのため、いくつかのクルーはTVカメラに防水アタッチメントを装着していたし、防水・防塵対応のカメラを使用しているチームもいた。

だが、自分たち生身の身体については、夏の日差しもあって殆どが雨合羽の着用をせず無防備であったため、大半の人間は突然の土砂降りに逃げ惑った。

そんな中でTVカメラマンの全員が濡れ鼠になりながらも、カメラを捨てることなく撮影を続けていたことはさすがであった。

前回の身体検査<システムスキャン>では、この気象変化を予想していなかった為に、テントの中にいた者以外の全員が大地川自身も含めてこの土砂降りで全身水浸しになった。

その教訓で、今回は風使い<エアロマスター>が待機していたのだが、風を起こすタイミングが合わず、雲がプールから外れる前に雨が降ってしまったのだった。

「すごいわね」

叩きつける雨のしぶきがテントの中にまで入ってくる中、美琴がそう独り言を言うと、

「でもね、応用がいま一つなの、あの子はね。応用が利くようになれば簡単にレベル5に届くんだけど」

レベル4に満足しちゃってて、その上に行こうという覇気がないのよ、と校長はため息をついた。


土砂降りは数分で終わった。

「前回よりパワー上がりましたね」

データチェック担当の村松先生がにっこり笑って、テストを終えた大地川に話しかける。

「えへへ、やりました」

してやったり、とVサインを出す大地川もまた、全身雨に打たれて濡れ鼠状態であったが。

「ともちゃん、目一杯透けちゃってるけど……その下着?」

テントから顔を出す女の子が、びしょ濡れの大地川に訊く。

「ちっちっち、水着だよ、これ……私だってほら、TVに写るかもしれないし。ちょっとは考えてきたもん、きゃははは」

「なーんだ、びっくりしちゃったよ」

先生の気も知らず、呑気な会話をする女子中学生に、早速カメラマンと記者が群がっていく。



(さぁて、水もなくなったことだし、次はと)

美琴はほっとしながら腰を浮かすと、

「あら、水ならすぐに溜まるんだけど?」と校長はすかさず美琴を促すかのように問いかけてきた。

「いえ、今ので報道陣の皆さんがびしょ濡れですから、すぐに衣服の乾燥手段を講じませんと」

美琴はにっこりと笑って、傍に付き添っている一文字早苗に

「夙川さんを呼んで下さい。それから、次の検査は30分遅らせてね」と指示したのだった。


夙川絵里華は、美琴から状況を聞くと、少し考えて答えを出した。

「2年生の玉城梢(たまき こずえ)と1年生の安田則実(やすだ のりみ)、3年生の大友明子(おおとも あきこ)、の能力を使いましょう」

午前中に検査が終わっていたレベル3の三人が呼び出された。

玉城梢は「大気制御<クライメイト・コントローラー>」、安田則実と大友明子は風使い<エアロマスター>である。



問題は、どこでどうやって乾燥させるかだった。

取材陣のうち、大半が着替えを持ってきてはいたが、全身濡れ鼠状態までは予想していなかったため、不都合が生じていた。

不測の事態に備えては来たが、さすがに下着の替えを準備してきた者は殆どいなかったのである。

しかも、男女両方である。

とりあえず、まずは人数が少ない女性からということで、すぐ近くの棟、1階にある談話室が乾燥場所に当てられた。

方法は簡単で、廊下側から、玉城梢が作り出した乾燥空気を安田則実と大友明子が吹き付ける、というものである。

排気は校庭側の上の窓からである。

人数が少なかったこともあり、女性陣は10分弱でなんとか活動できるレベルまで衣服は乾燥した。

全身濡れ鼠だったことからすると、驚くべき速さである。もっとも、そのあとで、女性ならではの話で、乾燥しきった肌へのケアがまた大事だったのだが。

5分ほど休息したのち、今度は男性陣である。

こちらは、人数が多かったこと、そして相手が「男性」であるがゆえ、女子中学生が傍によって乾燥空気を集中的に浴びせる、ということが出来なかった為に大幅に時間がかかった。

「だって、臭かったんだもん」
「あんなに殿方がいらっしゃるところ、初めてでした」
「……疲れました」

かくして、1時間近く検査は遅れ、全力で努めを果たした3人の女子中学生は保健室に担ぎ込まれ、疲労のあまり夜まで熟睡してしまったのだった。


「上条さん、この子、知ってるかしら?」

校長が何気なく言う。

「……婚后翔子(こんごう しょうこ)さん? え? いえ、でも」

美琴の脳裏に瞬時に浮かんだのは、一つ下、あの常盤台の風神、婚后光子(こんごう みつこ)。

だが、彼女は結婚したはずだ。確か、新しい名字は……

「あ、あの?」

「そう。貴女もよく知っている風神こと神足(こうたり)さん、旧姓婚后さんね、あの方の御親戚なの。従妹にあたるそうよ」



かつて「常盤台の風神・雷神コンビ」という最強のペアで二人は大覇星祭で大活躍したことがある。

そして、裏側の事件においても、彼女は幻想御手(レベルアッパー)事件や御坂妹拉致事件に関わった事があるのだった。

それやこれやで、婚后光子は白井黒子とはまた違った意味で、美琴の親友となっていた。

彼女は大学卒業後、婚后コンツェルンの娘として学園の内外で活躍を続けることになったのだが、ビジネスの世界に不慣れなこともあって試行錯誤の毎日を過ごしていた。

その結果、光子は美琴の結婚式にドタキャンする失態を演じてしまったことがあった。

美琴は彼女の状況を風の噂に聞いていた(出所は白井黒子であり、そしてその情報源は湾内絹歩であった)こともあり、また恐縮しきった彼女自身の陳謝の電話もあり、わだかまりは全くなかった。

そのこともあって、美琴は光子の結婚式にはちゃんと出席したのであったが、彼女はそのことを今なお引け目に感じているようだった。

それからというもの、彼女とは何かの折にメールのやりとりはするものの、長い間彼女とは会っていない。

「時間があったら会おうね」とは、いまやメールの結びの文句になっていた。

「そういえば、婚后さん、今は神足(こうたり)さんって仰いましたね」

「あら、上条さんたら。最強ペアだったのにずいぶんなのね」

「すみません、二人ともずっと婚后さん、御坂さんって呼び合ってまして」

「あらあら。で、彼女、翔子さんはね、どこか叔母さんに似てるのよ。顔は全然違うんだけど。

そうそう、翔子さんの弟さんは無能力者だそうですけど、優秀だそうで今は長点上機の小学校に在学しているそうよ」

そういえば、彼女自身も二人の子を持つ母親になってるんだっけ、と美琴は思い出す。

ふと、もう一人、子供がいても良かったのにな、と彼女は思い、あわててそれを打ち消した。

自分にはそんな資格はないのだ、と。

だが、次の瞬間彼女の頭に浮かんだのは、「妹」麻美の息子、一麻の顔だった。

自分を「美琴おばちゃん」と呼んだ、男の子の顔を。

「今、呼びましょうか?」 

校長の声に、美琴は苦い思い出を振り払った。

「いえ、終わってからにしましょう。余計な気遣いさせてはいけませんもの」と美琴はやんわりと断った。

だが、校長は

「いーえ、あの子はそんなことを気にする子ではないですわ。夙川さん、婚后さんをここへ呼んで下さいな」

そんな無茶な、と美琴は思うが、なんせ相手は校長である。

夙川絵里華は一瞬チラと美琴を見たが、言いつけどおり念波を送った、のだろう。しばらくして、

「ご用件は何でしょうか、校長先生?」

可愛らしい女の子がおっかなびっくりという感じで顔を出した。

なるほど、顔は全然違うが、どこか婚后光子の面影があるようにも見える。

不安げな彼女の視線は校長から美琴へと移り、そこで二人の視線が交差すると、婚后翔子の顔は瞬時に強張った。



「婚后翔子さん、こちらへお入りなさい」

校長に促され、しぶしぶ、といった感じで彼女は先生の傍に来た。

「婚后さん、貴女、身体検査<システムスキャン>、これからですね?」

「はい」

「前回の失敗はわかってますね?」

「……はーい」 

沈んだ声で、不服そうな響きを含んで翔子が返事をする。ふくれた顔がまた可愛らしい。

「今日は、学園都市外から、取材の方々が沢山お見えになってらっしゃいます。貴女の実力を見せる時なのです。くれぐれも悔いの無いよう、全力を出してきなさい」

「はい」

いや、これから、という子にそんなプレッシャー与えてどうするの、と美琴は心の中で思い切り突っ込むのだが、校長は意にも介さず

「それに、こちらにはわが母校の大先輩である上条美琴さんも御来場されていらっしゃいます」と、美琴を紹介した。

そういった瞬間、婚后翔子は顔をあげ目を輝かせて、一気に美琴の目の前に飛んできたのだ。

「初めまして! 常盤台中学校1年生、婚后翔子(こんごう しょうこ)です。あのっ、光子姉さんから何度もお話を聞いてます!

もう、姉さんの自慢話って御坂さんとの事ばっかりなんですよ……あれ、上条さんですよね? 御坂さん? やだ私、間違えました?」

ボブカットの髪に、目をくるくると回すそのしぐさがとても可愛らしい。

「ううん、いいのよ。旧姓は御坂なの。だから、貴女の…その、婚后さんと一緒に無茶してた頃は御坂美琴だから。お元気かしら?」

そう言うと、一瞬だけ彼女の顔が曇った。

「元気だと思います……すみません、私も姉さんとは最近会ってないんです。世界中飛び回っていて。電話ではよく話すんですが」

「まぁそうなの? 電話では元気そう?」

「ハイ。もうメチャパワフルで、ぶっ叩いても壊れないみたいに」

これには少々美琴も驚いた。

確かに伸びやかな肢体を持つ彼女であったが、「ぶっ叩いても壊れない」とはまた随分な言われようである。しかも従妹に。

あれ、ちょっと年離れすぎてないかしら?

「翔子さんでしたよね、光子さんとは従妹なのね?」

ちょっとアレかな、とは思ったが美琴は翔子にそこのところをあえて訊いてみることにした。

はい、と翔子はうなずいて、ちょっと困ったような、面白くなさそうな顔で答える。

「まぁそうですよねー。実際、翼(つばさ)くんとか郁美(いくみ)ちゃん、あ、今のは姉さんの子供たちですけど、殆ど差がないですもん」

美琴はその言葉で思い出す。そう、今のは光子の子供たちの名前だ。確か上の子はそろそろ中学生あたりのはず。

「私の父は、光子姉さんのお父さんの弟なんです。父は結婚が遅かったもので、年が離れてるけど従妹ってことなんです」

「確かに気安くは呼べないわよね」

母と同じくらいの親戚、されど従姉、という女性をどう呼ぶか、確かに気を遣うのは間違いない。

「ええ。母みたいな感じなので、でも『おばさん』って呼ぶのはまずいので、『姉さん』と」

「婚后翔子さん、準備出来たそうです! 押してますから至急風力使い<エアロマスター>試技コーナーへお願いします!」

そう言って伝令の女の子が飛び込んでこなかったら、きっと夜になっても二人の話は続いていたことであろう。

「すみません、じゃ、行ってきます!! よーし、今日は特大のヤツぶちかましちゃうぞーっと!!」

お嬢様にあるまじき物騒な言葉遣いによる宣言を残して、翔子は美琴たちの元を辞した。

「校長先生、彼女、すごく張り切ってますね」

「でしょ、あの子はプレッシャーを自分のエネルギーに変える力があるの。貴女に来て貰って良かったかもしれない」

「ならいいんですけど」

美琴はそう言いつつも、これからすごいことが起こるかもしれない、という予感がした。

>>1です。
1ヶ月近く空いてこれだけです。すみません。

季節をあまり気にしないで書いておりましたが、佐天利子の拉致騒ぎが5月ですのでその後、そして期末試験が終わった、と書いてしまっているので少なくとも休み前、となると季節は7月もしくは12月となります。
ということで、7月前半に急遽決めて修正をかけたのですが、自分としては春くらいのつもりで書いてましたので齟齬がなければいいのですけれど。

遅筆ですみません。なんとか頑張ります。
それではお先に失礼致します。最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  LX   2014年02月27日 (木) 22:35:39   ID: VOrLVJFR

作者の>>1です。
一応最後まで原稿は出来上がっており、板の復旧待ちです。
復旧次第投稿致します。

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください