セキセイインコ「テメエのドジの落とし前」 (157)


「モモちゃーん、今日もかわいいね! おいでおいで! 遊ぼう?」

インコ「……」

「どうしたのモモちゃん? 具合悪い? 大丈夫? お薬いる?」

インコ♀「ママに呼ばれてるわよ。気づいてないわけないわよね」

インコ「ああ」

インコ♀「じゃあさっさとなけなしの愛嬌ふりまいてきなさい。わたしらのおまんまかかってんのよ」

インコ「愛嬌は飯に響かない」

インコ♀「おやつぐらいには響くわ」

インコ「俺にはアレの良さがわからんね」

インコ♀「わたしにはわかるのよ」

インコ「お前のために働けってのか」

インコ♀「文句でも?」

インコ「あるわけないだろハニー」

インコ♀「愛してるわダーリン」


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「楽しかったねモモちゃん! さあカゴに戻ろうねー。おやつあげるねー」

インコ♀「気分は?」

インコ「最高だ」

インコ♀「疲れてる?」

インコ「最高にな」

インコ♀「でもおやつはもらえたわ」

インコ「なによりだ。殺さずに済んだ」

インコ♀「ママ? わたし?」

インコ「ペットの小グモをだ。ママもお前も殺せない」

インコ♀「わたし新しいペットが欲しいわ」

インコ「誰が世話するんだ?」

インコ♀「あなた」

インコ「知ってたさハニー」

インコ♀「愛してるわダーリン」


「ごめんねモモちゃん、スモモちゃん。わたし出かけることになっちゃって。ちょっと行ってくるね」

インコ「ママは相変わらず忙しいな」

インコ♀「女子は何かと時間がないのよ。大学生ならなおさらね」

インコ「経験談か?」

インコ♀「冗談。わたしがそんな健康に見える?」

インコ「悪かった。自虐はやめよう」

インコ♀「せめて羽ばたく力ぐらいあればね」

インコ「嘆くのもなしだ。ないものは仕方ない。俺がついてる」

インコ♀「愛してるわダーリン」

インコ「俺もだハニー」


インコ「それにしても暑いな」

インコ♀「夏よ」

インコ「知ってるさ。エアコンが壊れてるってことだ」

インコ♀「我慢ならない?」

インコ「お前の体が心配でね」

インコ♀「ありがとう」

インコ「せめて窓がもう少し開いてればな」

インコ♀「愛してるわダーリン」

インコ「開けに行けってか」

インコ♀「愛してるわダー」

インコ「オーケイわかった行ってくるさ」


インコ「よっと」

インコ♀「あなたって器用よね」

インコ「カゴ開けぐらいガキでもできる」

インコ♀「聞いたことないわ」

インコ「能あるインコは芸を隠す。見せびらかしてるのは俺くらいだ」

インコ♀「絶対嘘よ」

インコ「確かめようのないことは黙って信じろ」

インコ♀「あなたのことは信じるわ」

インコ「愛してるよハ」

インコ♀「飽きたわ。さっさと行って」

インコ「ああわかった」


インコ「っと」

インコ「さすがに窓際まで来ると涼しいな」

インコ(いい眺めだ)

インコ「外、か」

インコ(……高いな)

インコ「馬鹿なことは考えるなよ。お前にはママも嫁さんもいるんだ。冒険はガキの仕事。もちろん俺はガキじゃない。黙って帰るんだ。いいな?」

インコ(……アホらしい。さっさと戻るか)

インコ「う!?」

インコ(しまった風が……落ちる!)

     ・
     ・
     ・

小グモ「つづく」


インコ「…………ふむ」

インコ「生きてる、か」

インコ(どうやら……助かったようだな)

インコ「運命の悪戯か神の茶目っ気か、はたまた行ないが悪すぎたか」

インコ「まあ一番はすぐ外にこの木があったおかげだとは思うが」

インコ「何にしろこのくそったれた世界とおさらばし損ねたわけだ」

インコ「やれやれだな」

カラス「なんかやたらとカッコつけてる奴がいる」

インコ「ん?」


インコ「なんだお前は」

カラス「なんだってなんだよ。お前ってなんだよ」

インコ「名前を聞いてるんだでかいの」

カラス「クロだよ」

インコ「クロか。俺に何の用だ」

カラス「なんか落ちてきたから。エサかと思って」

インコ「どうだった?」

カラス「エサだった」

インコ「そうかわかった。まあそんなことより下ろしてくれないか」

カラス「下りたいの?」

インコ「そろそろ枝にひっかかった尾羽も痛いし逆さも飽きた」

カラス「よくしっぽ抜けないね」

インコ「タフガイってのはそういうもんだ」


カラス「よく分からないけどまあいいや」

インコ「優しく下ろせよ」

カラス「まあ痛くしないようには頑張るよ」

インコ「ありがたいな」

カラス「うん。安心して栄養になってね」

インコ「それは……ごめんだな!」

カラス「うっ!」


カラス「いたい!」

インコ「潰すのは勘弁してやったんだ、感謝しろよ」

カラス「こ、この!」

インコ「おっとまだやるか? 次は目が痛かったじゃすまないぜ?」

カラス「う……」

インコ「さっさと消えな、図体だけ育った木偶の坊ちゃん」

カラス「うわーん!」


インコ「……」

インコ「ふぅーっと。九死に一生ってやつか」

インコ(油断を突いて目も抉れないとは俺も鈍ったもんだ。続けてたら死んでたね)

インコ「まあ奴が馬鹿で助かった」

インコ「そんなことより尾羽がマジで痛いな」

インコ「よっと」

インコ「さて。どうしたもんかね」

インコ「おーおー窓があんな高いところに」

インコ「俺の翼でどうにかなるもんじゃないねこれは」

インコ(ほんの一階分低けりゃ話も違うんだが)

インコ「まあ文句はママに言うしかないな」

インコ「もちろん生きて帰れたらの話だ。死んでちゃナッツもかじれない」


インコ(飛んで戻るのが無理なら……)

インコ「入口はあっちか?」

インコ「とりあえず部屋の前でママ帰ってくるのを待つしかないな」

     ・
     ・
     ・

インコ「参ったね。ああそうだ、お手上げだ」

インコ「自動ドアが俺に反応しやがらない」

インコ「飛んでも跳ねても踊ってみても駄目だ」

インコ「なんだ、逆立ちでもして見せりゃ満足するのか? それとも俺のストリップがご所望か?」

インコ「俺は人間と同等のつもりなんだがな。奴はそうじゃないらしい」

インコ「これは流行りの差別ってやつじゃねえのかい?」

インコ「……愚痴ってみても始まらないか」


インコ「さてどうしたものかね」

インコ(とりあえず目立たないところにでも隠れよう)

インコ「それにしても……」

インコ(これが、外)

インコ「…………」

インコ「案外大したことないな」

インコ(もっとこう、カゴの中とはだいぶ違った世界があるもんだと思ってたが)

インコ「思ったほど感動があるわけもなし。スペクタクルもなし」

インコ「これならママの部屋のがよっぽどスリリングだ」

インコ「期待しすぎだったかもな」

インコ「……ん?」

インコ「ママだ」


インコ「噂をすれば影。こりゃ運がいいな」

インコ「おーい、マ――」

「シャッ!」

インコ「!?」



「? 今何か音が……気のせいかしら。でもモモちゃんの声だった、ような……?」

小グモ「つづくよ」


     ・
     ・
     ・

インコ「……ちっ、行き止まりか」

?「追い詰めたぞ」

インコ「見りゃわかる」

?「一発目で仕留めるつもりだったんだがな。なかなかすばしっこい奴だ」

インコ「褒められてんのかね」

?「そうかもしれん。まあ自慢にするといいさ。あの世でな」

インコ「まったく……予想してなかったわけじゃないんだがこうも早く出くわすとは」

?「ふん……」

インコ「一応聞いとく。あんたの名前は?」

ネコ「タマだ」


インコ「ヒュー、たまげた。由緒正しき飼いネコ様の名前じゃないか。どこの家だ?」

ネコ「黙れ」

インコ「きっと相当でかい家なんだろうな。羨ましい」

ネコ「黙れと言っている」

インコ「……まさか、野良か? そりゃまたどうして」

ネコ「黙らないと苦しむことになるぞ」

インコ「オッオー。まさか図星だったとはね」

ネコ「いいだろう、望み通りいたぶり回してやる!」


インコ(頭に血がのぼれば攻撃の手は雑になる。そこをくぐれば)

ネコ「ちっ!」

インコ(あとはトンズラこきますかね)

ネコ「逃がすか!」

インコ「! しまっ――」

?「ちょわーっ!」

ネコ「くお!?」

インコ「……?」


インコ(何かが横切った?)

?「こっちこっち」

インコ(……いない)

?「遅いわね。今はこっち」

インコ「……なんだお前は」

?「飛ぶのってステキよね」

インコ「何を言ってる?」

?「あなたも飛ぶんでしょ? 一緒に光の彼方に行きましょうよ!」

インコ「よく分からないな。名前を教えてくれ」

ツバメ「わたしの名前? そうね、メイだったかしら」


インコ「だったかしら? どういうことだ」

ツバメ「飛ぶのってステキじゃない?」

インコ「頼むから会話をしてくれ」

ツバメ「なによう、名前のこと? いちいちそんなの覚えてないわよ」

インコ「名前は大事だろう」

ツバメ「速く飛ぶことの方が何倍も大事!」

インコ「随分と価値観が偏ってるんだな」

ツバメ「どうでもいいわ! 光より速く飛ぶの!」

インコ「……そうか。頑張れよ」


ネコ「つ……この」

ツバメ「あ。あなたやっと出てきたのね! 遅すぎ! 激トロよ激トロ!」

ネコ「お前のせいでゴミまみれだ」

ツバメ「そう。わたしのせい。怒った?」

ネコ「いい加減殺すぞクソ肉」

ツバメ「やってみて。わたしももっと速く飛ぶ!」

ネコ「うらあッ!」

ツバメ「ひょーいっ!」

インコ「……ふむ」


インコ「メイ!」

ツバメ「なぁに?」

インコ「助かった。この礼は気が向いたらそのうちに! 俺はモモだ!」

ツバメ「? よくわかんないけど飛ぶのサイコー!」

インコ「そうだな、また会うことがあったらその時は」

ツバメ「一緒に光の彼方よー!」

ネコ「くぬ! くぬ!」

インコ「じゃあな」

ネコ「! しまった!」

小グモ「つづくんだ」


インコ「さて、十分距離をとってネコの問題は片付いた、か? まあ多分大丈夫だろう」

インコ「そうするとまあたいてい次の問題が飛び出てくるわけだが……」

インコ「道に迷った」

インコ「あまりにやみくもに逃げ回りすぎたかね、現在地がさっぱりだ」

インコ(どうしたものか)

インコ「主人とはぐれた犬なんかは帰巣本能を発揮するというが……」

インコ「…………こう、びびっと。そう、そうだ、来い、来いよ……」

インコ「いや来ないな。まぁったく分からん」

インコ「あっちな気もするしこっちな気もする」

インコ「と見せかけてそっちか? よしとりあえずはまず行動だ。行ってみよう」

カラス「いやそれはまずくない?」


インコ「……クロ、だったか?」

カラス「うん。そっちはモモっていうんだよね」

インコ「聞いてたのか?」

カラス「さっきの見てた」

インコ「悪趣味だな」

カラス「む。どうせ嫌われ者だよ」

インコ「消えろ。次は喉を噛みちぎる」

カラス「ホントにやりそう」

インコ「俺たちのくちばしを見て疑うのは阿呆だけだ」


インコ「というわけで俺は行く。じゃあな木偶の坊」

カラス「別に止めないけどそっちはやめといたほうがいいよ」

インコ「聞こえないな」

カラス「聞いといたほうがいいと思うけどなあ」

インコ「お?」


「何か来た」「何か来たね」「何か来たよ」


インコ「なんだこいつらは」


「何か言ってる」「言ってるね」「言ってる言ってる」


インコ「……ネズミ?」


「そうだよ」「その通り」「いかにもー」


インコ「そうか当たりか。じゃあご褒美にそこを通してもらえないか」


「いいよ」「と言いたいところだけど」「ダメ」


インコ「なんで囲む」


「そりゃ」「だって」「ねえ」


インコ「あー……なるほど分かった」


「何が?」「何がわかったの?」「ねえねえなになに?」


インコ「俺は引き返す。お前たちも巣だかなんだかに戻る。丸く収まる。オーケイ?」


「だめ」「ダメ」「駄目」


インコ「そうか……じゃあこんな話はどうだ?」


「ん?」「何?」「何の話?」


インコ「あるネズミたちの話だ。仲良く暮らしていたそいつらのもとにのこのことインコがやってきたんだ」


「ふんふん」「それでそれで?」「続きは?」


インコ「首尾よく間抜けインコを追い詰めたプリティガールズだったが……夢中になって気づかなかったんだな」


「ええ?」「何だろう?」「どきどき」


インコ「後ろに迫っていたネコにだ! ほらそこ!」


「きゃっ!」「わっ!」「ひえっ!」


インコ(今だ!)


「あ!」「逃げた!」「追えー!」


インコ「また追いかけっこか」


「エサ!」「今日のエサ!」「おなかぺこぺこ!」


インコ「カミさんにだってこんなに求められたことねえよおい」


「待ってよー!」「あなたがいないとだめなの!」「死んじゃうのー!」


インコ「依存は身を滅ぼすぞー! 自立したメスになれよー!」


「みんな!」「出てきて!」「手伝ってー!」


インコ「うおっ!」


「なになに?」「呼んだ?」「呼ばれた気がするー!」


インコ「あーうん。落ち着け。落ち着くんだ俺」


「あ!」「エサ!」「おいしそう!」「肉付きいい!」「デブよデブ!」「鳥肉鳥肉!」


インコ「見渡す限りのネズミだな。これ数えて眠れってか」

インコ「あと誰だデブっつったのは!」


「あたし!」


インコ「そうか愛してるぜカワイコちゃん!」


インコ(さあて……どうしたもんか)


「諦めた?」「痛くはしないよ?」「まあそんなには」


インコ「信じるよ。信じる者は救われるんだろ?」


「救ってくれる神がいればね」「でも絶望しないで」「あたしたちがんばるよー!」


インコ「頼むぜ。かなりマジにだ」

インコ(考えろ……ここは路地裏……あるのはゴミと壁のひび割れ、あとはマンホール)

インコ「? なんだこの臭い」


「観念した?」「した?」「しようよねえ」


インコ「……ああそうだな。俺もいい加減大人になろう」


「やった!」「ありがとう!」「感謝感激だよー!」


インコ「で? 誰からだ?」


「え?」「ん?」「なんのこと?」


インコ「俺を可愛がってくれるのは誰からだって聞いてるんだ。俺の体は一つしかないんだぞ」


「あ」「そっか」「なるほど」


インコ「話し合って決めろよ。大丈夫だ俺は逃げないさ」


「あたしが食べるー!」「あたしが先!」「あたしが見つけたのにー!」


インコ(ええと。多分だが。これの下か?)

インコ「とりあえずやってみて損はないだろう。そい」


「あ」「あ」「あ」


インコ「なんだこれは。缶詰? なんだかえらい膨らみようだが。錆びてるし」


「そ、それはダメぇ!」「開けないで!」「後悔するよ!?」


インコ「へえ……だがそいつは無理だな。とことんやってかつ後悔しないのがタフガイだ、覚えときな」

インコ「ほい」


「ギャッ!」「鼻がぁっ!」「うわーんっ!」


インコ「ぐがッ! オッエェッ!」

インコ(な、なんだこりゃ! パンドラの箱か!?)


「ダメ、無理!」「あたし帰るー!」「あたしもいちぬけたー!」


インコ(食われる、危険からは、逃れられたが……)

インコ「これはこれで……死ねる……」

?「あらあらまあまあ」

インコ(誰だ……?)

?「見事に死にかけてるわねえ。死ぬの?」

インコ「ありえない……タフガイは死なない……」

?「あら死なないの。残念だわ、見たかったのに。死体」


インコ「勝手なこと言って、くれるなよ!」

?「まあ立ち上がるなんて。元気ねあなた。ふつう死ぬわよ?」

インコ「……死ぬのか?」

?「ええ。それはもうぽっくりと」

インコ「なんなんだこれ」

?「シュールストレミング。そう書いてあるわ」

インコ「しゅー、る?」

?「ニシンの塩漬け。臭いがすごいの」

インコ「それは身をもって経験済みだな」

?「ふふ、そうだったわね」

インコ「で、あんたは?」

?「生まれながらの名前はない。でも今はミツバって名乗ってる」

インコ「ミツバチだからか?」

ミツバチ「当たり。勘のいいオスは好きよ」


インコ「なんだか目まぐるしい日だよ」

ミツバチ「大変らしいわね」

インコ「ん?」

ミツバチ「クロちゃんから聞いてるわ」

インコ「あいつの知り合いか」

ミツバチ「露骨ねえ。そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃない」

インコ「もうたくさんだ。一人になりたい」

ミツバチ「気持ちはわかるけど。ついてきたほうがいいと思うの」

インコ「どうだか」

ミツバチ「もうすぐ日が暮れるわ。あなた夜目は利く方?」

インコ「……」

ミツバチ「だったらついてくるのね。静かな場所とおいしいドリンクをご馳走するわ」


インコ「……カラスにネコにツバメにミツバチ」

ミツバチ「まだ増えるかもしれないわ」

インコ「まったくもってその通りだ」

ミツバチ「決めなさい、ついてくるかこないのか。高い決断力もタフガイの条件よ」

インコ「ちっ」

ミツバチ「決まりね」

インコ「あんた本当にミツバチか?」

ミツバチ「変なこと聞くのね」

インコ「おおよそミツバチらしからぬ雰囲気だ」

ミツバチ「あなたこそインコっぽくないわ」

インコ「お互いさまってわけか」

ミツバチ「そういうこと。じゃあ行くわよ」

小グモ「パパおそわれすぎー。つづくー」


小さな工場跡

カラス「あ、来た来た。待ってたよう兄貴」

インコ「……兄貴?」

カラス「うん。モモさんはぼくの兄貴」

インコ「何の冗談だ、俺に兄弟はいない。いやいたかもしれんが少なくともカラスじゃあない」

ミツバチ「そういうことじゃないんじゃない?」

インコ「じゃあどういうことだ」

ミツバチ「まあまずは席に着いて。はいどうぞ」

インコ「なんだこりゃ」

ミツバチ「はちみつの水割りよ。お嫌いかしら?」

インコ「初めて見る物に嫌いも何もないだろ」

ミツバチ「じゃあ下げる?」

カラス「ならぼくが!」

インコ「あまりはしたない真似はするなよ木偶の坊」

カラス「いたいいたいギブギブぅ!」


インコ「……美味いな」

ミツバチ「ふふ。でしょ?」

インコ「もう一杯頼めるか?」

ミツバチ「ええ構わないわ。ちょっと待っててね」

インコ「ああ。ところでここは何なんだ?」

ミツバチ「わたしの店よ」

インコ「店?」

ミツバチ「数ヶ月前にあれこれあってコロニーを離れてね。どうせ死ぬんだしって思って店持ったら意外に長く続いたの」

インコ「へえ?」

ミツバチ「深くは聞かないでもらえると助かるわ。あったのよ、いろいろね」

インコ「そう言われると余計に気になるな」

カラス「ぼくの話ならいくらでも!」

インコ「もう起きたかノータリン」

カラス「いたいいたいやめてよ兄貴ぃ!」


インコ「やっぱり美味いな」

ミツバチ「その言葉が聞けるからやめられないのよ」

カラス「うう……酷いや兄貴」

インコ「だからその兄貴ってのはなんなんだ」

カラス「兄貴は兄貴だよ。ぼくはモモさんの弟分」

インコ「舎弟ってことなら他を当たってくれ。悪いが木偶の坊なんざお断りだ」

カラス「そんなこと言わないでよ、ぼく兄貴に惚れこんじゃったんだから」

インコ「俺にそっちの気はない」

カラス「違うってば。逆境を自分の力だけでひっくり返すその男気がすごいっていうか」

インコ「じゃあ見込み違いだな。昼間のあれなら全部マグレだ」

カラス「運も実力の内って言うよ?」

インコ「本当に実力のある奴は運になんざ頼らない」

カラス「分からず屋だなあ」


インコ「大体お前は俺を食うつもりだったんだろうが。それが弟分だ?」

カラス「えへへ」

インコ「えへへじゃない。とにかく俺はすぐにでも帰らなきゃならん。ママとカミさん、それからペットの小グモが待ってる」

カラス「帰れるの?」

インコ「……」

カラス「帰れないんだよね。ね? ね? ね?」

インコ「うるさい黙れデブガラス」

カラス「ひーん翼が折れるぅ!」


カラス「兄貴は乱暴だなあ……」

インコ「生まれつきだ」

カラス「せっかく兄貴をおうちに帰してあげようと思ったのに気が変わりそうだよ」

インコ「なに?」

カラス「兄貴がぼくの頼みを聞いてくれたら家に送ったげるって言ってるの」

インコ「命が惜しくばさっさと送ってけ」

カラス「あいたたた!」

ミツバチ「あらあら仲がいいわねえ」


カラス「し、死ぬぅ……」

インコ「ああ、じきに死ぬだろうな」

カラス「やだよそんなの……」

インコ「いやならさっさと送るんだ」

カラス「頼みを、きいてくれるなら……」

インコ「……」

カラス「ぐええ……」

インコ「ちっ」

カラス「ぶはぁ! ふぅ、はぁ……」

ミツバチ「はい、水割りはちみつ」

カラス「今はそんな気分じゃ……ないけどありがとう……」


インコ「で、頼みってのは?」

カラス「うーん、なんて言ったらいいんだろう。ぼくを鍛えてほしいっていうか」

インコ「鍛える?」

カラス「うん、それが一番近いんだと思う」

インコ「回りくどいのは嫌いだ」

カラス「え、えっとね、ぼくってすっとろいでしょ?」

インコ「悲しいくらいにな」

カラス「うう……。だ、だからね、立派なカラスになれるように指導してほしいんだよ」

インコ「指導ねえ」


ミツバチ「いいんじゃない?」

インコ「なんでだ?」

ミツバチ「なんでって言われるとなんとなくとしかいえないけど。でも面白そうじゃない」

インコ「どうだか」

カラス「そうだよ面白いよ! その上成功すればおうちに帰れる特典付き!」

インコ「……」

カラス「お願いだよ兄貴ー。ねえってばー。ねーえー」

インコ(ウザいな)


インコ「よし分かった」

カラス「本当!?」

インコ「とりあえず朝になってから決める」

カラス「ええっ?」

インコ「悪いが休めるところはないか?」

ミツバチ「この奥に止まり木にちょうどいいのがあるわよ」

インコ「そうか、借りるよ」

カラス「兄貴! 兄貴ってば!」

インコ「それじゃあおやすみ。また明日」

カラス「そんなのってないよー!」

小グモ「つづくんじゃ」


次の日

カラス「兄貴兄貴!」

インコ「ハニー……もう少し寝かせてくれ……」

カラス「起きてよ兄貴っ」

インコ「シッ!」

カラス「ぶぎゃ!」

インコ「……ここはどこだ?」

ミツバチ「わたしの店よ。あまり散らかさないでね」

インコ「あー……そういや家じゃないんだったっけな」


カラス「兄貴ってばひどいや」

インコ「俺の睡眠を邪魔したんだ。おめめとさよならしてないことに感謝しろ」

カラス「その代わりに眉間のあたりがズキズキするよ……」

ミツバチ「あら、出かけるの?」

カラス「うん! 特訓に行くんだ!」

ミツバチ「頑張ってね」

インコ「勝手に話を進めるな。俺は帰る、それだけだ」

カラス「えー!」

ミツバチ「あらあら」

インコ「ミツバ、世話になったな」

ミツバチ「また来てくれると嬉しいわ」

カラス「え、ちょ、兄貴。兄貴ってばー!」




インコ(しばらく歩いてはみたものの)

インコ「ううむ……」

カラス「困ったねえ兄貴」

インコ「……」

カラス「帰り道がわかんないんだもんねえ」

インコ「……」

カラス「おまけに戻れてもあの窓の高さまでは兄貴は飛べないもんねえ。ねえ?」

インコ「黙れ」

カラス「いたたっ」


カラス「と、とにかく兄貴も観念しなよ。ぼくを鍛えてくれるなら帰り道も窓の高さも何とかするよ?」

インコ「……」

カラス「ねえってばー」

インコ「なんで特訓なんだ?」

カラス「え?」

インコ「なんで特訓してほしいのかと聞いてる。別にすっとろくても構わないだろうが」

カラス「構わなくないよ!」

インコ「?」

カラス「……笑わないで聞いてよ? ぼく、カラスのグループからのけものにされてるんだ」

インコ「のけもの?」

カラス「うん……デブでのろまだから同じカラスと思いたくないって」

インコ「へえ?」


カラス「だからお願いだよ兄貴! ぼくを一人前のカラスにしてよ!」

インコ「お前はどうあがこうとカラスだろうが」

カラス「そういうことじゃないんだよ! 兄貴みたいに強くなってみんなに認められたいんだよ!」

インコ「馬鹿か。お前は俺より図体がでかくて力もある。そんなこともわからないのか?」

カラス「だからそうじゃなくて――」

「ひゃっふー!」

カラス「ぶわ!?」


インコ「メイか?」

ツバメ「今日も風は未来へ向いてる! 今こそ光を追い越す時よ!」

インコ「……相変わらずだな」

カラス「出たなスピード狂!」

ツバメ「あなたも一緒に行く? 光の彼方」

カラス「行かないよ! 一人で目指してろ! ぼくと兄貴は特訓で忙しいんだっ」

インコ「しないと言ってるだろうが」

ツバメ「特訓……いい響き。やっぱり光の彼方へ行くのね?」

カラス「だから行かないって!」

ツバメ「じゃあまずはわたしと同等に飛べないと始まらないわ。わたしを捕まえてみて!」

カラス「やらないってば!」

インコ「いや、いいかもしれん」

カラス「は?」


インコ「クロ、メイを捕まえてみろ」

カラス「は?」

インコ「特訓したいんだろ? だったらメイを捕まえてみろ。それができないなら俺の特訓を受ける資格はない」

カラス「むちゃくちゃじゃない?」

インコ「どう思おうが特訓するかどうかは俺の裁量だ」

カラス「でもさ」

インコ「気が変わる前にさっさと行け」

カラス「ああもうっ、わかったよ!」


ツバメ「へいへーい!」

カラス「このぉ!」

ツバメ「ぎゅるろっとー!」

カラス「うわわっ!」


インコ「さて。この隙に俺は行こうかね」

「何やら騒がしいな」

インコ「……!」


インコ「あんたは」

ネコ「よう」

インコ「ちっ、また出くわすとはね」

ネコ「今度こそ諦めろ……と言いたいところだが」

インコ「?」

ネコ「お前は今回お呼びじゃない」

インコ「……クロか?」

ネコ「そうだ。あっちの方がでかいからな」


ツバメ「おほほほほー!」

カラス「くぉのー!」


ネコ「こっちに気づかぬうちに一気にがぶりだ」

インコ「ふむ」

ネコ「黙っていればお前は見逃してやるよ」

インコ「……なるほどな」

ネコ「じゃあなチビ鳥。さっさと消えろ」

インコ「……」


ツバメ「まだまだぁ!」

カラス「ゼイ、ハア……」

カラス(こんなところで、諦めてたまるか……絶対に立派なカラスになるんだ)

ネコ(もう少し、もう少し……)

カラス「絶対に、みんなに認めてもらうんだっ!」

ネコ(よし、十分近づいた……今だ!)

インコ「ちょっと待った」


カラス「兄貴? ……!」

ネコ(ちっ!)

インコ「ああ悪い悪い。邪魔したか」

ネコ「貴様……」

インコ「本当に悪いな。クロに一つ聞きたいことがあったんだ」

カラス「?」

インコ「俺に学ぶことなんて本当にあると思ってるのか?」

カラス「へ?」

インコ「俺はお前の半分の大きさもないただの小鳥だぞ? 本当に俺に学んで強くなれると思うのか?」

カラス「……。兄貴にしてはくだらないこと聞くんだね」

インコ「そうか?」

カラス「兄貴に学ぶこと? あるに決まってる。ぼくの目に狂いはない!」


インコ「……そうか。ならオーケイだ」

カラス「やった!」

インコ「最初の課題を与える。この状況を生き延びるぞ」

カラス「了解!」

ネコ「……ふん」

ネコ(さて。位置的にはカラスの方が近いが……逃げる力で言えば)

ネコ「お前だチビ鳥! 死ね!」


インコ「来たな」

ネコ「もらった!」

カラス「隙あり!」

ネコ「うぐ!?」

ネコ(カラスの奴、逃げずにかかってきただと!?)

ネコ「だが好都合だ!」

ツバメ「光の彼方コークスクリュー!」

ネコ「うお!?」

カラス「よし逃げるよ兄貴! つかまって!」

インコ「じゃあなタマどの」

ネコ「ちっ、くそ!」

ツバメ「からの光の彼方落としぃ!」

ネコ「ええいウザったいぞゴキブリ鳥が!」




インコ「またメイに借りができたな」

カラス「気にしないでいいと思うよ。あっちも気にしてないだろうし」

インコ「そういうもんか」

カラス「それよりさ!」

インコ「ん?」

カラス「ぼくを鍛えてくれるんだよね。ね?」

インコ「……そんなこと言ったか?」

カラス「ええ!?」

インコ「冗談だ。オスに二言はない」

カラス「よ、よかった」

インコ「だが俺が教えられることなんて限られてるぞ。さっきも言った事だが」

カラス「そうなの?」

インコ「……。お前は聞いた端から忘れてく力でもあるのか」


インコ「いいか、お前は俺よりよっぽど力がある。俺を運んで飛べるくらいなんだからな」

カラス「うん」

インコ「お前に欠けてる物なんてそう多くはない」

カラス「それは何?」

インコ「一言で言うとなると難しいが……」

カラス「?」

インコ「まあ柔軟さ、ってところかね」

小グモ「つづくってばよ」


工場跡

ミツバチ「あらおかえりなさい」

インコ「ああ」

カラス「ただいまー!」

ミツバチ「結局戻ってきたのね」

カラス「兄貴に鍛えてもらえることになったんだあ!」

ミツバチ「へえ? どういう風の吹きまわし?」

インコ「あったんだ。いろいろな。聞かないでくれると助かる」

ミツバチ「そう?」

インコ「それより水割りはちみつを一杯」

ミツバチ「ちょっと待っててね」

インコ「それからクロ、ちょっと来い」

カラス「なに?」

インコ「さっそくレッスンだ」

カラス「!」


カラス「ようやくぼくも強くなれるんだね……!」

インコ「何を言ってるんだ?」

カラス「え?」

インコ「お前は十分力があると言っただろう。本当に聞いた端から忘れてるのか」

カラス「で、でもぼく強くはないよ」

インコ「それを言ったら俺もだ――ああいや、問答する気はない。いいから黙って聞け」

カラス「う、うん」

インコ「お前は仲間に認めてもらいたいんだったな?」

カラス「そうだよ。のけもの扱いはもういやなんだ」

インコ「なるほど。そうなるとやることは一つだ」

カラス「強くなって認めてもらう!」

インコ「外れだ」

カラス「ええ!?」


カラス「何が違うのさ!」

インコ「大外しではないが当たってもいない。いいか、何度も言わせるな。お前はもう強いんだ」

カラス「……」

インコ「だから正解は、お前の力をはっきりと示すこと、だ」

カラス「ぼくの力を示す?」

インコ「そうだ。それも一羽一羽ちまちまやってくのは効率が悪い」

カラス「どういうこと?」

インコ「疲れるし無駄が多いんだよ。だから一度で一気に状況をひっくり返す」

カラス「?」

インコ「まあ俺に任せてみろ」

カラス「ううん……わかった」

インコ「じゃあ次になんだが」

カラス「なに?」

インコ「お前をのけものにしてるグループのとこに案内しろ」


公園

ボスガラス「……クロか?」

カラス「は、はあ」


「なんだあ?」「いつものうすのろデブじゃねえか」「また来たのかよ。帰れ帰れ!」


カラス「うう……」

ボス「こんなところに何の用だ」

カラス「いやあの、なんというか」

インコ「やいやい! テメエが兄貴を仲間外れにしてる大馬鹿野郎だな!」

カラス「兄貴?」

ボス「何だお前は」

インコ「あっしはクロさんの弟分でやんす!」

カラス「はあ!?」


ボス「クロ……お前、寂しいからってとうとうこんなチビを子分役にしたてたのか」

カラス「いやちがくて……え? え?」

インコ「兄貴をないがしろにするなんてどうかしてるっす。今すぐ謝ってトップを譲るでやんすよ!」

ボス「ほお?」

カラス「一体何を……」

ボス「クロ」

カラス「ひゃい!」

ボス「お前、まさかとは思うがボスの座を狙ってるのか?」

カラス「え……いやそんな!」

インコ「兄貴こそボスの座にふさわしいでやんす! お前なんか兄貴がぶっ飛ばしてくれるっす!」


カラス「ちょっと待って! こっち来て!」

インコ「……どうした?」

カラス「ちょっと、どういうこと?」

インコ「言っただろ。一発で状況をひっくり返すんだ」

カラス「まさか……」

インコ「ボスをのせば全員が認めざるを得ない」

カラス「なんだよそれえ!」


カラス「兄貴、さっき俺に任せろって」

インコ「そんなことは覚えてるんだな」

カラス「約束が違うじゃないか!」

インコ「なんだ不安か? お前、あのやせっぽちに勝てないと?」

カラス「勝てるわけないじゃないか! 相手はボスなんだよ!?」

インコ「ふむ」

カラス「それにだよ? どうせぼくとの勝負なんて受けてくれないさ」

インコ「なるほど。ちょっと待ってろ」

カラス「え?」


インコ「おいお前!」

ボス「なんだチビ」

インコ「兄貴と勝負、してくれるっすよね?」

ボス「……馬鹿馬鹿しい」

インコ「ふーん……なるほど、兄貴のことが怖いでやんすね?」

ボス「……?」

インコ「そりゃそうっす! 兄貴に勝てるわけないっすもんね!」

ボス「ほう……」

カラス「ちょ、ちょっと……」

ボス「いいだろう、受けてたとう」

カラス「うそん!?」


インコ「お膳立てしといたぞ」

カラス「完全無欠に余計なお世話だよ!」

インコ「じゃあお前はこのままでいいのか?」

カラス「え?」

インコ「のけもの扱いされて仲間に入れてもらえず、ずうっと一人ぼっちでいいのかと訊いてる」

カラス「…………」

インコ「だろ?」

カラス「でも」

インコ「不安か? なら仕方ない、秘策を教えてやるさ」

カラス「秘策?」

インコ「ああそうだ。いいか――」


ボス「おい。まだ待たせるのか?」

インコ「もういいっすよ!」

ボス「ふん。心の準備は整ったんだろうな?」

インコ「そっちこそ負けた時の言い訳は用意したっすか?」

ボス「うるさいチビだ」

カラス「……」

ボス「じゃあ……いくぞクロ」

インコ「真っ向からのガチンコ勝負っす! この喧嘩に勝った方が次のボスっすからね! レディ――」

ボス「……」

カラス「……っ」


 チュルーン!

小グモ「つづくでやんす」


カラス「こ、この!」

ボス「おっと」

カラス「えい!」

ボス「よっと」

カラス(駄目だ当たらない……)

ボス「ふん」

カラス(やっぱりぼくなんかじゃ勝てないよ兄貴ぃ……)


「へっ、あのデブくそのろいぞ」「まるで相手になってねえ」「結果は見えたな」


カラス「うう……」


インコ「兄貴、いい調子っすよー! 相手は避けるのに手いっぱいっす!」

ボス「なに?」

インコ「もうボスの座は手に入ったも同然っすねー!」

ボス「ほう……」

カラス(あわわわなに刺激しちゃってくれてんのさ!)

ボス「そろそろこちらからも行くぞ。ふん!」

カラス「う、うわあ! ……あれ?」

ボス「……!」

カラス「あんまし痛くない」

インコ「……よし」


「なんだ?」「どうした?」「まさか……」


インコ(そもそもガタイの良さならクロの方が上なんだ。正面からやりあうなら何もしなくても強い)

カラス「もしかして……」

インコ(このやりとりでクロ自身も理解したはずだ。相手も焦る)

ボス「く……」

インコ(これで分からなくなったぞ)

インコ「やれー! 兄貴ー!」

カラス「行くぞー!」

ボス「このっ!」


カラス(兄貴の教えその一。とにかくぶち当たれ!)

ボス「ぐうっ、このっ」

ボス(やりにくい!)

カラス(兄貴の教えその二。防御は最小限に!)

ボス「くらえ!」

カラス「痛くないぞ!」


「どうなるっ?」「この勝負どうなるんだ!?」「ボス……!」


インコ(予想通り膠着したな。主導権はクロにあるがいかんせん速度がなくて決まらない。一方相手は速度はあるが決定打がない)

カラス「はぁ、ふぅ……」

インコ(だがスタミナを考慮に入れると……)

ボス「……!」

インコ(防御が甘くなって隙ができる)

ボス「もらった!」

インコ(そこで秘策だ)

インコ「クロ、今だッ!」

カラス「……! お――」

ボス(……?)


「お前が好きだあああぁぁぁッ――!」


ボス「……は?」

カラス「好き好き大好き愛してりゅううぅぅぅッ!」

ボス「っ! しまった!」

カラス「っっらあッ!」

ボス「ぶふッ!」


「ボス!?」「そんな!?」「マジかよ!」


カラス「はぁ、はぁっ……」

ボス「が……」

カラス「か……勝った」


(ボスが負けた……?)(で、でも)(そこはかとなくイカサマな感じが……)


インコ「兄貴の勝ちだああぁぁぁっ! どう見ても兄貴の大勝利だああぁぁぁっ!」


(そ、そうか?)(あまり納得いかない……)(いいのかコレ……)


インコ「兄貴が次のボス! 兄貴が次のボス! だって勝ったし! 一番強いってことだし!」


「ま、まあ勝ちは勝ち……か?」「でもイカサマ……」「俺は良くないと思う」


インコ「あ、お前文句あるっすね? 兄貴と勝負するっすね?」


「え、いや」


インコ「兄貴ー、こいつが次の相手らしいっすよ」


「や、やらない! 俺が悪かった!」


インコ「そっすか? それじゃあ皆さんご一緒に……新しいボスばんざーい!」


「あ、新しいボスばんざーい!」「新しいボスばんざーい!」(これでホントにいいんだろうか……)


インコ「よう、新しいボス」

カラス「え……?」

インコ「お前だよお前」

カラス「あ、そうか。なんか実感わかないよ」

インコ「秘策、上手くいったな」

カラス「本当に隙ができるとは思わなかった……」

インコ「まったくだ」

カラス「兄貴も自信なかったの!?」

インコ「まああれで動じないくらいの相手だったらそもそも勝ち目なかったしな」

カラス「負けてたらどうしたのさ!」

インコ「別に負けて失うものなんかなかっただろう」

カラス「あったよ! 多分!」


元ボス「うう……」

カラス「あ」

インコ「起きたか」

元ボス「俺は……負けたのか」

インコ「完膚なきまでにな」

元ボス「……あれはお前の入れ知恵か?」

インコ「さて?」

元ボス「クロには思いつかないだろう」

インコ「だったらどうする?」

元ボス「完敗だ、タフガイ」

インコ「ほう。あんたもなかなかだな」


カラス「兄貴!」

インコ「ん?」

カラス「ありがとう。ぼく、兄貴のおかげで強くなれたよ」

インコ「別に俺は関係ない」

カラス「いいや兄貴のおかげさ。これで仲間はずれは終わりなんだ」

インコ「それはどうかな」

カラス「え?」

インコ「確かに今この時点では認められたな。だがそれはお前の腕力の話だ」

カラス「どういうこと?」

インコ「みなはお前に一目置くだろう。仲間としては認められるはずだ。だがボスとしてはどうかな」

元ボス「集団をまとめるというのは大変だぞ」

カラス「え、あ。そんなっ!」

インコ「ここからはお前の力でなんとかするんだな」

カラス「ひ、ひどいや兄貴ぃ……っ!」


インコ「ともかく約束は守ってもらうぞ。俺を家に帰してくれ」

カラス「うう……いいけどさあ」

元ボス「なんだ? お前は行っちまうのか?」

インコ「ああ、ちょっとした迷子でね。……?」


「ん?」「なんだあれは?」「落ちてくるぞ」


インコ(なんだ……? 逆光が――)

元ボス「危ない! 避けろ!」

インコ「!」

カラス「がっ……!」

インコ「クロ!」


?「……」

元ボス「な、なんだこいつは」

インコ「……クロを放せ」

カラス「うう……」

?「断る。これはわたしのエサだ」

インコ「いいや違う。俺の帰宅便だ」

?「よく分からないがお前にわたしが止められるのか?」

インコ「課題はちょっときついくらいがタフガイにはちょうどいいのさ」

?「いいだろう――」

タカ「かかってこい」

小グモ「つづくぜ」


インコ(大見得切ったはいいものの……真正面からはよくないな)

タカ「ふん」

インコ(クロより一回り大きいくらいか? 体重差は絶望的だ)

元ボス「どうする? 周りの奴らは状況が急転しすぎてついてこれてない」

インコ「助力は期待できないか」

カラス「う……」

インコ「だがもたもたしていたらクロが危ない」

元ボス「一か八か飛び込むか?」

インコ「……いや待て」


「ぎゅーんぎゅんぎゅんっ!」


元ボス「……?」


ツバメ「ねえねえねえ! 今ここに光の彼方が降ってこなかった!?」

インコ「メイ」

元ボス「ここらに住んでるスピード馬鹿か?」

ツバメ「もしかしてアレ? あのでっかい奴?」

タカ「……」

ツバメ「結構鈍そうだけどあの速さは大したものだわ。急降下はわたしもよくやるの」

タカ「シッ!」

ツバメ「おっと。もしかしてそういう遊び? なら付き合ったげる!」

タカ「……速いな」

ツバメ「ぐるぐるぐーるぐる!」

タカ「チッ」


インコ「メイに気を取られてるな」

元ボス「チャンスだ。やるぞ」

インコ「わかった」


タカ「……」

ツバメ「きーん!」

タカ「そこだ」

ツバメ「つっ! やるわね。も少し上げるわよ!」

タカ「速い割に動きが単純だな。それ」

ツバメ「いったぁい!」

タカ「終わりだ」

元ボス「隙あり!」

タカ「!」


タカ「くっ」

元ボス「うちのボスを放しやがれ」

タカ「そうはいかん」

元ボス「ならもういっちょいくぜ!」

タカ「ぬるいな。たかがカラスが」

元ボス「ぐはっ!」

タカ「これでエサが三倍だな」

「残念だが――」

タカ「!」

インコ「そいつら全員返してもらうぞ!」

タカ(上!)


インコ「ふッ!」

タカ「ぐぅっ!」

インコ「ざまあないな。深く入ったぞ」

タカ「目が……」

インコ「右はしばらく使い物にならないかもな」

タカ「このチビ野郎が」

インコ「おっと失明してないんだから感謝してもらいたいくらいだぜ」

タカ「殺してやる」

インコ「そろそろ周りのカラスたちも落ちついた頃だ。俺を相手にしてる余裕はあるのかな?」

タカ「……」

インコ「その三羽も置いて行け。荷物があっちゃあ逃げ切れないだろ」

タカ「チィッ!」


タカ「覚えていろチビ。次にお前を見かけたら絶対に息の根を止めてやるからな」

インコ「おおうそりゃ楽しみだ。ゾクゾクしちまうな」

タカ「今のうちにふざけてろ。タカの目を見くびるなよ」

インコ「インコのくちばしも甘く見ない方がいい」

タカ「ぶん。小鳥のちっぽけな棘なんぞ……」

インコ「……行ったか」


カラス「ぐ……」

インコ「クロ! 大丈夫か!?」

元ボス「ち、くしょうが」

インコ「そっちは大丈夫そうだな」

ツバメ「うーん羽が乱れたわ。空気抵抗で光の彼方が遠ざかる……」

インコ「お前はいうまでもなく問題ないな」

カラス「兄貴……」

インコ「クロ」

カラス「大丈夫、立てる。でも飛ぶのは無理かも……」

インコ「一旦ミツバのところに戻ろう」

カラス「うん……」

小グモ「つづくのだ」


廃工場

ミツバチ「大変だったのねえ」

インコ「ああ」

ミツバチ「クロちゃんは」

インコ「見た通りだ。重傷ではないもののしばらくは飛べない」

ミツバチ「奥で休ませる以外にできることはないの?」

インコ「栄養が必要だろ。はちみつを与えてもらえると助かる」

ミツバチ「分かったわ、任せて」


元ボス「失礼するぜ」

インコ「ああ」

元ボス「仲間たちが警戒してくれているがそれらしい影はないそうだ」

インコ「そうか」

元ボス「とりあえず今のところは危険はない」

インコ「それはどうだろうな」

元ボス「?」

インコ「相手は只者ではない気配だった。警戒網を縫って攻撃する手段はいくつかあるんだろう」

元ボス「ただの勘だろ?」

インコ「俺にとっちゃ第二の目だ」

元ボス「ふむ」


元ボス「まあ確かに不用意に外に出るべきじゃないかもな」

インコ「ああ」

元ボス「引き続き見張っておく。いいか、迂闊なことは絶対にするなよ」

インコ「俺が間抜けに見えるなら目を洗ってこい」

元ボス「そういう慢心が油断を招くんだ」

インコ「それも知ってる。気をつけるさ」

元ボス「頼むぜまったく……じゃあな」

インコ「……」


インコ(あのデカブツに目を付けられたのはまずかったな。安全に家に帰れなくなった)

インコ(とはいえクロを助けなけりゃそれはそれで家に帰れなくなったんだが)

インコ(成り行き上しかたなかったとはいえこれじゃあ本末転倒か)

インコ「さてどうしたもんか……」

ミツバチ「はいはちみつ」

インコ「ん?」

ミツバチ「考えごとをするならこれが一番よ」

インコ「……」


インコ「俺は家に帰りたい。カミさんとママとペットが待ってる」

ミツバチ「ええ」

インコ「だが俺は命を狙われる身になった。どうすればいい?」

ミツバチ「ひとつめ。見つからないようにする」

インコ「あれはそんな見落としをしてくれるような奴じゃない」

ミツバチ「ならふたつめ。謝って許してもらう」

インコ「論外だ。見逃してくれるとは思えない」

ミツバチ「じゃあ最後。実力で脅威を取り除く」

インコ「……しかないか」


ミツバチ「現実ってすごくシンプルよね」

インコ「ん?」

ミツバチ「なんだかんだ言ったところで邪魔なものがあったらどかすしかない」

インコ「そうだな」

ミツバチ「そして失敗すればそれなりの対価を払わなきゃいけない」

インコ「ああ」

ミツバチ「わたしが今まで生き残ってこれたのは奇跡とも言えるけど、単純なことの積み重ねの結果として単純に今生きているに過ぎないのかも」

インコ「……」

ミツバチ「頑張ってね。わたしはあまり助けになれないけど」

インコ「いいや。感謝しとくよ」


数日後

元ボス「奴は何回か俺たちの警戒網にかかってる。まあそのたびに取り逃がしたとも言えるんだが」

インコ「ふむ」

元ボス「この辺りに住処があるのは間違いない。そこを叩ければ一発だ」

インコ「だがそんなに簡単にいくものか?」

元ボス「厳しいな。それでも最も手堅い手段だと俺は思う」

インコ「分かった。そっちはそれで頼む」

元ボス「そっちはって……お前はどうするんだ」

インコ「俺は俺のやり方でいかせてもらうよ」

元ボス「?」




インコ「ううん、久しぶりの新鮮な空気だ」

インコ(さて。クロはまだまだ飛べそうにない。そもそも未だ脅威のある段階で飛べてもどうしようもないが)

インコ(脅威。そう、脅威だ)

インコ「あのレベルの強者をなんとかするには……」

インコ(やはり同じレベルの力が必要だ)

インコ「力……力か」

「おっひさっしぶりー!」

インコ「ん?」


ツバメ「どうしたの考えこんじゃって。光の彼方なの?」

インコ「メイか」

ツバメ「気持ちが晴れないなら飛ぶに限るわよ! 飛びましょ?」

インコ「遠慮しておく」

ツバメ「えー、ざんねーん!」

インコ(こいつくらい速く飛べたら話は多少違うんだろうが)

ツバメ「え、なになに?」

インコ「いや、何でもない」


ツバメ「ところであなた、あいつ見なかった? あいつ」

インコ「あいつ?」

ツバメ「あのでっかい奴よ。速いの」

インコ「ああ、あのデカブツか。見てないな。というか出会っちまったらまずいんだが」

ツバメ「えー、ざんねーん! さっきのと合わせて二倍ざんねーんー!」

インコ「悪いな。それじゃあ俺はこれで」

ツバメ「あ。もひとつところで」

インコ「ん?」

ツバメ「あの速いのほどじゃないけど」

インコ「ああ」

ツバメ「結構速い奴が来てるわよ」

インコ「え?」


「フシャッ――!」


インコ「っ!」

小グモ「つづくのよー」


上空

タカ「……見つけた」


地上

インコ「くっ……」

タカ「元気か、チビ」

インコ「あんたか……あまり元気とは言えないな」

タカ「そうか、それは残念だ。たっぷりいたぶってやりたかったんだがな」

インコ「悪いが遊んでやる時間はないんだ」

タカ「そうだな、さっさと済ませてやろう」

インコ「同感だ」

タカ「……?」

インコ「あばよデカブツ」

「くらいな」

タカ「!?」


タカ「うぐっ!」

ネコ「動くな。動いたら今すぐ殺す」

タカ「お前は……」

ネコ「ふん、いちいち名乗るのは面倒だ」

インコ「ふうやれやれ。上手くいって何よりだな」

タカ「な……お前たち」

インコ「まあグルってやつかな」


タカ「馬鹿な! お前たちは捕食者と獲物だろうが!」

ネコ「お前こそ馬鹿を言うな。俺がこいつと仲間なわけないだろうが」

インコ「冷たいな、タマの旦那」

ネコ「殺すぞ」

インコ「おおそりゃ怖い」

タカ「一体何が……」

インコ「ええとだな――」


数刻前

インコ「っつ!」

ネコ「相変わらずすばしっこい奴だ」

インコ「タマの旦那か……」

ネコ「逃げ場はないぞ。今度こそ観念しろ」

インコ(確かに追い詰められてるな)

ツバメ「大丈夫ー?」

インコ「まあかすり傷だ」

ネコ「おっとゴキブリに助けを求めても無駄だぞ。俺はお前に狙いを絞ったからな」

インコ「あんたが言うと失敗しそうなのはなんでだろうな」

ネコ「何ィ!?」


インコ(とは言ったものの……これはまぎれもなくピンチだな)

インコ(いくらタマの旦那でもそう何度もミスはしない……どうする?)

ツバメ「どうするー?」

インコ「どうしような」

ツバメ「駄目じゃない」

インコ「駄目か」

ツバメ「駄目よー」

ネコ「何を気楽な! お前たち窮地に立ってる自覚はあるのか!」

インコ「どうだろうな」

ツバメ「どうかしら」

ネコ「こいつら……」


インコ「ところでタマの旦那、気づいてるか?」

ネコ「あ?」

インコ「あんたの後ろだよ」

ネコ「なに!?」

インコ「いや嘘だよ。そんな簡単に引っかかるなよ」

ネコ「お前っ!」

インコ「うん、分かった。よぉーく分かった」

ネコ「何の話だ」

インコ「あんた、なんていうかすごくいい奴だな」

ネコ「馬鹿にしてるのか!?」

インコ「いい奴ってのが貶し言葉だなんて聞いたことないな」

ネコ「それが馬鹿にしてるというんだ!」

インコ「まあ聞けよ。いい旦那にはいい話があるんだ」

ネコ「いい話……?」

インコ(……すぐ食いつくあたり本当素直だな)


……

インコ「――と、まあ、そんなわけで俺は旦那と取引した」

タカ「それが、これか」

ネコ「チビを狙っている大物がいると聞いたら利用しないわけにはいかない」

インコ「俺の提案だけどな」

ネコ「うるさい」

タカ「チビのくせに味な真似を」

インコ「せっかくの灰色の脳細胞だ。有効に使わせてもらうよ」

ネコ「話は終わりか?」

タカ「……」

ネコ「ならお前の命も終わりだ。じゃあな」

タカ「待ってくれ」


ネコ「命乞いなら来世で聞く」

タカ「違う、わたしはもう諦めた。が、頼みがあるんだ。聞いてくれ」

ネコ「頼み?」

タカ「ここから北に行ったところの山にわたしの巣がある」

ネコ「それがどうした」

タカ「子供たちがそこにいるから元気でやれと伝えてほしい」

ネコ「子供?」

インコ「……ちょっと聞きたいんだが。あんたメスか?」

タカ「? そうだが」

ネコ「……嘘だろ?」


タカ「よく分からんがそれはどうでもいいだろう」

ネコ「あまりよくないが……」

タカ「とにかくあいつらは巣立ち間近で問題ないが、わたしの帰りを待つ必要はないことを伝えてほしいんだ」

ネコ「俺がそのガキどもを襲うとは考えないのか?」

タカ「お前はいい奴に見える」

ネコ「馬鹿か?」

タカ「タカの目を甘く見るな。それくらいたやすくわかる」

ネコ「……」

インコ「旦那?」

ネコ「チッ!」


タカ「? わたしを殺さないのか?」

ネコ「気が変わった。さっさと帰れ。二度とここらに顔出すな」

タカ「しかし」

ネコ「うるせえ行かねえならぶち殺すぞ!」

タカ「……すまない」


インコ「行っちまったな。旦那はこれでよかったのか?」

ネコ「いいものか。腹が減った。お前を殺して持っていく」

インコ「持ってく? どこに」

ネコ「お前が知る必要はない!」


「パパー」「どこー?」「お腹すいたよー!」


ネコ「!」

インコ「?」


「あ、いたー!」「パパ、パパ!」「エサはないの?」


インコ「子猫?」

ネコ「お前たちなんでここに!」


「だってお腹すいたんだもん」「それからね」「パパ大丈夫かなーって」


ネコ「俺を心配するなんて百年早い! さっさと戻れ!」

インコ「……ふむ」

ネコ「! なに訳知り顔してやがる!」

インコ「いや、タカを見逃したのはつまりそういうことか、と」


ネコ「別に何の関係もない!」

インコ「毛色や見た感じからしてお前たち、血は繋がってないな? 捨て猫か」

ネコ「それがどうした!」

インコ「いや。タマの旦那は本当にいい奴だよ」

ネコ「ぶち殺す!」

インコ「おっと待った。そんな旦那にはもひとついい話をプレゼントしないとな」

ネコ「いい、話?」

小グモ「つぎくらいでおわるよ」


次の日 公園

インコ「そういうわけでいろいろ片付いた。さよならだ」

元ボス「行っちまうのか。残念だな」

ツバメ「光の彼方に行くの? 羨ましいわ」

カラス「兄貴ぃ……」

インコ「そんな顔するな。タフガイならもっとシャキッとしろ」

カラス「ぼくまだ兄貴みたいにはなれないよぉ」

インコ「そうか。でもいつかはなれるさ」

カラス「本当?」

インコ「ああ。保証する。俺に代わってメイが」

ツバメ「光の彼方なら任せて!」

カラス「なんだよそれぇ!」


インコ「はは。まああれだ。ときどきは顔を見に来てやるさ」

カラス「本当!?」

インコ「オスに二言はない」

カラス「約束だよ!?」

インコ「俺はお前の兄貴だからな、嘘はつかない」

カラス「でも巧妙に騙してはくるよね」

インコ「まあな」

カラス「大丈夫かなそれ……」


インコ「そういうわけで。じゃあな。ミツバにもよろしく」

カラス「またね、兄貴!」

元ボス「元気でな」

ツバメ「光の彼方で会いましょうねー!」

     ・
     ・
     ・


マンション前

ネコ「遅い!」

インコ「悪いな」

ネコ「もう少し遅かったら殺してたぞ!」

インコ「そのもう少し後ってのは永遠に来ないんじゃないか?」

ネコ「何だと?」

インコ「くどいようだがあんたは人が、いや猫がよすぎる」

ネコ「こ、の……っ!」

インコ「まあまあ。さっさと始めようぜ。ガキどもも待ってんだろ?」

ネコ「チッ……」

インコ「それじゃ背中に失礼」

ネコ「しっかりつかまれよ」

インコ「しかし頼んでおいてなんだが、届くのか?」

ネコ「あれくらいの高さならどうということはない」

インコ「頼りにしてるぜタマの旦那」


ネコ「せいやぁっ!」

インコ「っ……!」

ネコ「……っ」

インコ「少し足りなかったな」

ネコ「うるさい、壁にはしがみついたんだ……さっさと窓によじ登れ……!」

インコ「おう。報酬は後で下ろすよ」


部屋

インコ♀「……あら」

インコ「ただいまハニー」

インコ♀「おかえりなさい」

インコ「驚かないんだな」

インコ♀「だってあなたの家はここだもの」

インコ「違いない」

インコ♀「ねえダーリン」

インコ「ん?」

インコ♀「愛してるわ」

インコ「ああ、俺もだ」


インコ♀「……ふうん、そんなことがあったの」

インコ「ああ」

インコ♀「大変だったわね」

インコ「なかなか骨だったよ。……ところでそろそろ離れてくれないか」

インコ♀「嫌」

インコ「お前らしくもない」

インコ♀「寂しかったわけじゃないんだからね」

インコ「分かってる」

インコ♀「ほんとよ?」

インコ「分かってるさ」


インコ「でもそろそろ離れてもらわないと困る。やることがあるからな」

インコ♀「タマさんへのご褒美?」

インコ「そうだ。適当に食べ物を見つくろってやらないと。三児のパパは大変なんだ」

インコ♀「わたしも子供が欲しいわ」

インコ「ハニー。お前の身体じゃ無理だよ」

インコ♀「じゃあ新しいペットが欲しい」

インコ「誰が世話するんだ」

インコ♀「あなた」

インコ「もちろん知ってたさ」

インコ♀「わたしを一羽にした埋め合わせはしてもらわないとね」

インコ「やっぱり寂しかったのか」

インコ♀「違うわ」

インコ「はは。まあ分かったよ。つまりはあれだ」


セキセイインコ「テメエのドジの落とし前、ってとこかね」

小グモ「おわり。ありがとー」

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