小鞠「私のこと、好きにして……?」 (206)

蛍「あのっ、センパイのことが好きです」

小鞠「えっ?」

蛍「センパイのことが大好きなんです」

蛍が顔を赤くしながら私を見つめる。
これって、もしかして……。

小鞠「好きってさ。友達としてって意味じゃないんだよね?」

蛍「はい。センパイと――お付き合いがしたいんです」

小鞠「え、えっと」

蛍「今すぐに返事が欲しいとは思っていません。ただ、一度考えては貰えませんか?」

小鞠「うん……。分かった。ごめんね」

鬱の匂いがぷんぷんする

「日曜日に二人っきりで話がしたい」と言って呼び出してきた蛍からの言葉。
それは私に対する愛の告白で。

確かに最近は蛍と過ごすことが多くて、一緒に村の中を散歩したりお互いの家へ遊びに行ったりはしていたけれど。
そんな……私のことが好きだなんて。

急にそう言われても困るし……。
そもそも女同士ってどうすればいいんだろう……?

それ以前に、私には「恋してる」っていう気持ちがイマイチ良く分かんない。
蛍のことは大好き。
これからもずっとずっと仲良くしていたい。



でも正直に言うと――蛍のことは「とても仲の良い友達」としてしか見られない。

一週間以上悩んだ。
けれども私は蛍の気持ちに応えることが出来なくて、とっても心が傷んだけれど告白を断ることにした。
「友達としてこれからも仲良くしてね」という言葉を添えて。

小鞠「本当にごめんね」

蛍「いえ、いいんです。エヘヘ、失敗しちゃったなあ」

そう言って笑う蛍の目には涙が浮かんでいて。



それなのに――私は気の利いた言葉なんて全然思いつかなかった。

***

それから蛍とは今まで通りに接することになった。
夏海やれんげ、お兄ちゃん達にも蛍の告白は内緒にして。


最初は告白を断った罪悪感もあったけれど、段々とそんな気持ちも薄れて。
半年後には本当に何事も無かったかのように私は毎日を過ごしていた。

バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン       バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・)  バンバンバンバン゙ン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
    \/___/ ̄
  バン    はよ
バン(∩`・д・) バン  はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/   
 ̄ ̄\/___/
    ドゴォォォォン!!
        ; '     ;
     \,,(' ⌒`;;)
   !!,' (;; (´・:;⌒)/
  ∧_∧(;. (´⌒` ,;) ) '
Σ(* ・ω・)((´:,(' ,; ;'),`
 ⊂ヽ ⊂ ) / ̄ ̄ ̄/
   ̄ ̄ ̄\/___/ ̄ ̄ ̄

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     . ∵ ./  ./|
     _, ,_゚ ∴\//
   (ノ゚Д゚)ノ   |/
  /  /

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ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ
ポチ     ポチポチポチポチポチポチ
ポチ(∩`・ω・) ポチポチポチポチポチ
 _/_ミつ/ ̄/_
      /_/

***

それから4年の月日が経って。

蛍「センパイは来年から東京の会社で働くんですよね?」

小鞠「うん、そうだよ。〇〇区って所にあるんだ」

お兄ちゃんは東京の大学へ行ったし、夏海も今の学校を卒業したら専門学校へ通いたいって言ってる。
でも高校3年生の私は来年から社会人。
東京の小さな会社に就職が決まってる。

お母さんは大学へ通っても構わないって私に言ったけれど、本当は家計が苦しくてそんな余裕なんて無いを知ってる。
就職するのは、子どもが三人とも全員進学と下宿なんてしたら学費が大変だからって考えた結果。
もちろん大学生活に興味が無い訳じゃなかったけれど、そこまでして学びたいことっていうのもなかったし……。

村を離れるのはやっぱり寂しい。
でも運良く就職先が見つかったことに感謝しなきゃ。

蛍「実は今日、センパイにお話がありまして」

小鞠「どうしたの?」

蛍「私、東京の高校に行こうと思っているんです」

小鞠「へえ、そうなんだ!じゃあこれからもすぐに蛍と会えるんだね!」

蛍も東京に行くんだ。
この辺だと行ける高校っていうのは限られちゃうから、まあしょうがないことなのかな。

蛍「それでセンパイに相談なんですけれど……私とルームシェアをしませんか?」

小鞠「ルームシェア?」

蛍「あっ!べ、別に無理にとは言いません!……ただ、単身で東京にっていうのはちょっと怖いですし。それに生活費も二人で折半する方が安く済むなあと思いまして……」

確かにそれはそうかも。
蛍なら同居相手として安心だし、都会暮らしについても色々教えてもらえそう。

蛍「家事も全部私がやります!ですので一度考えてみてはもらえませんか!」

小鞠「そ、そんなに必死にならなくても……」

蛍「あっ、ご、ごめんなさい」

小鞠「……いいよ!ルームシェア」

蛍「えっ?」

小鞠「私も一人ぼっちは不安だったんだ。お金の節約にもなりそうだし、蛍とのルームシェアに賛成だよ」

蛍「やった!」

小鞠「わ、私だって家事は頑張るからね!」

蛍「しぇんぱい……」

小鞠「ん?」

蛍「しぇんぱい……ありがとうございますぅ」

小鞠「あ、頭上げてよ蛍……。それよりも受験頑張ってね!きっと蛍なら大丈夫だから!」

蛍「はい!」


私や蛍の両親も、一人で暮らすよりはルームシェアの方がいいんじゃないかって賛成してくれた。

それから蛍は東京の高校に無事合格して、私達は二人で住む部屋を探すことになった。
とは言ってもお互いに未成年だったから、親には随分お世話になっちゃったけれど。
でもおかげでちゃんとした2DKの部屋を借りられることになったし、家具も色々と揃えてもらった。


これから――どんな生活が待っているのかな?

***

初めての東京での暮らし。
新生活が始まった頃は家の鍵を閉め忘れたり、人混みに慣れなかったりと大変だった。
でも、週末には蛍と観光に行ってみたりして、それなりに東京の生活を楽しんでいた。

けれども段々と毎日の生活に仕事の存在が大きくのしかかってくるようになって、生活を楽しむどころじゃなくなってきていた。

小鞠「申し訳ありません」

上司「もうこれで何度目?何回言ったら分かるの?」

小鞠「も、申し訳ありません……」

上司「本当に物覚えが悪いんだね。メモとかちゃんと取ってる?」

小鞠「はい……」

上司「もう学生じゃなくて社会人なんだからしっかりやってよね」

小鞠「分かりました……」

上司に何度も頭を下げて、自分の机に戻る。

社会に出てから、私が本当に甘ちゃんで、ドジで、要領が悪いんだって気付かされた。

これまでも、自分って人より抜けている所があるかもって思ってた。
ただ、学校に通っている間は親や先生の言うことを聞いていればそれで良くて、あまり誰かから怒られもしなかった。

でも社会に出てからは違う。
ある程度自分で考えて行動しなきゃいけないし、お金を貰って社員として働いている以上責任も付いてくる。
ちょっとのミスがちょっとどころじゃ済まないことだってある。

覚えないといけないこともすごく多い。
今は周りのフォローで助かっているけれど、あまりの不出来さから職場で煙たがられているんじゃないかって思ってしまう。
「まだ入って一年目なんだから」なんて、とてもじゃないけど言えそうな雰囲気に無かった。

小鞠「ただいま」

蛍「おかえりなさい」

玄関で蛍が出迎えてくれる。

蛍「お風呂より先にご飯にします?」

小鞠「うん、そうさせてもらおうかな」

私が家を空けている間、蛍は家事のほとんどをやってくれている。
高校生よりも社会人の方が大変だからって。

私も家事を頑張ろうとしたけれど、蛍に「私がやりますから!」って止められてしまった。
特に料理に関しては蛍の意志が強くて、ほとんどキッチンに立たせてもらえない。
仕事が本当に忙しくなってきたのもあって、今はかなり蛍に任せてしまっていた。

小鞠「それじゃあおやすみ」

蛍「おやすみなさい」

お風呂から上がって少しだけゆっくりした後、自分の部屋に戻って寝る準備を始める。
そうしないと次の日に身体が持たないから。


小鞠「はぁ……」

明日、会社に行きたくないな。
また上司に怒られるのかな。
真面目にやっているつもりなのに。

これまであまり人から怒られてこなかったから、言葉のひとつひとつが胸に突き刺さって苦しい。
私ってこんなに打たれ弱いんだ……。


こんなに社会人が辛いだなんて思わなかった。

仕事、辞めたいな……。
学生が羨ましいな……。

***

小鞠「ただいま……」

やっと一日が終わった。
でも明日も仕事。

今日は怒られることがあまりに多くて、会社のトイレで一人泣いてしまった。

もう仕事を辞めたい。
人間関係が辛い。
毎日朝起きて通勤するのが苦しい。

村に帰りたい。



蛍「おかえりなさい」

蛍が笑顔で出迎えてくれる。
その明るい笑顔があまりに眩しすぎて目を逸らす。

私とは対照的に目の前で嬉しそうにしている蛍が羨ましい。


――ちょっと鬱陶しいな。

小鞠「ご飯いらないから」

蛍「えっ……」

小鞠「食欲ないし。今日ホントに疲れた……」

蛍「わ、分かりました……。大丈夫ですか?」

小鞠「うん」

そっけない私の対応に蛍の顔が曇る。
けれどもすぐに笑顔になって。

蛍「じゃあお風呂に入りますか?エヘヘ、お湯もちゃんと張っておきましたよ」

小鞠「いいよ……ったく、うるさいなあ」

蛍「え……」

小鞠「ねえ、何でそんなにニコニコしてるの?私の機嫌が悪いの分かるでしょ。イライラするんだけど」

蛍「ご、ごめんなさい」

ダメ……。
何にも悪くない蛍に当たるのは。

小鞠「学生は気楽だもんねー」

蛍「そ、そうかもしれません……」

でも理性より感情が先走って、次々と溢れる言葉を抑えられない。

小鞠「そうかもしれないって、そうに決まってんじゃん」

蛍「そう、ですよね」

小鞠「社会人になったら毎日仕事ばっかり。家にいても仕事のことばっかり考えてさ。寝ても全然疲れが取れないんだよ。そんなにへらへら笑ってらんないし」

蛍「ごめんなさい……」

小鞠「今日はもう寝るから」

蛍「わ、分かりました……。おやすみなさい」

小鞠「おやすみ」

自分の部屋に入ってベッドに倒れ込む。

小鞠「……はぁ」

何であんなこと言っちゃったんだろ。
私、最低だ。

小鞠「ごめん……」

部屋でひとり呟いたって、蛍には届かないのに。

私もちょっと前までは高校生だったのに。
しかも蛍と違って家事なんてお母さんに任せっきりで。

今日だって蛍は私のために家事をやってくれていたのに。
放課後、誰かと遊んだりする時間を減らして。



蛍をストレスのはけ口なんかにして、本当に――私って最低だ。

小鞠「……ごめん」

謝らなくちゃって思うけれども、すぐに意識が遠くなってきて。
そのまま着替えもせずに眠ってしまった。

***

小鞠「う……ん」

いつもより少し早い時間に目が覚める。
家に帰ってすぐに眠ってしまったからかな。

小鞠「シャワー浴びよ」

まだ出勤まで時間もあることだしサッパリしてこよう。

自分の部屋を出ると、魚を焼くいい匂いが漂ってきた。

蛍「あ、センパイ!おはようございます!」

キッチンに立っていた蛍が振り向く。

小鞠「おはよう……」

ねぇ、どうしてそんなに明るく振る舞っていられるの?
私のこと、嫌いにならないの?
昨日、蛍にあんな態度を取っちゃったのに。

蛍「すいません、もう少ししたらご飯出来ますので」

小鞠「あ、あの……」

蛍「どうかしました?」

蛍に謝らなくちゃ。

小鞠「昨日は、ごめん」

蛍「私は全然気にしていませんよ?」

え――どうして……?

小鞠「でもっ。私あんなに酷いこと言っちゃって……」

そう言うと蛍は静かに言葉を発した。

蛍「センパイお仕事大変ですよね。ストレスが溜まってイライラする時だってあります。センパイ、とっても頑張っていますから。……だから私は全然気にしていません」

小鞠「蛍、本当にごめんね」

蛍「私は大丈夫ですよ。だからセンパイも気にしないでください」

小鞠「ありがとう……」

蛍は優しすぎるよ。
私が何もかも悪いのに。

本当に子どもなのは私の方だ……。

小鞠「シャワー浴びてくるね」

蛍「あ、良かったらお風呂に入ります?昨日のお湯温めてありますので」

小鞠「ありがとう、蛍」

蛍は――優しすぎるよ。



その後お風呂に入りながら蛍のことを思い浮かべると、何故か胸が苦しくなった。

***

小鞠「ただいまー」

ああ、今日はホントに遅くなっちゃった。
あと1時間もしないうちに日付が変わっちゃう。

小鞠「あれ?」

蛍「すぅ……すぅ……」

テーブルには二人分のご飯が並んでいて。
そして、そこで腕を枕にして眠っている蛍の姿。

小鞠「ごめんね……」

私のこと、待っていてくれたんだ。
遅くなるから先にご飯食べてって伝えていたのに。

小鞠「蛍、綺麗……」

この子は本当に美人だなって思う。
小さい頃から蛍は綺麗だったけど、歳を重ねるごとにどんどん綺麗な女の子に育ってきている。

こうやって蛍の寝顔を見つめていると、今朝のことを思い出す。
また胸が苦しくなって、ドキドキする。

小鞠「触りたいな」

静かにそう呟く。
ってそんなことしたら!

小鞠「だ、ダメだよねっ」

そんなことをしたらいけないって頭の中で誰かが警告している。

小鞠「でも、ちょっとぐらいは……」

誘惑に負けて蛍の手にそっと触れる。

小鞠「触っちゃった……」

蛍の手に触れていると鼓動が速くなるのを感じる。
こんな風にそっと手を重ねるだけじゃなくて、手を繋いでいられたらなあって思ってしまう。
――恋人同士がそうするみたいに。

小鞠「蛍……」

蛍「う……ん」

ほんの少しだけ力を加えると蛍がもぞもぞと動いた。
いけない!今ので起こしちゃったんだ。

蛍「ん……。あ、センパイ」

小鞠「ただいまっ」

慌てて蛍から手を離す。

蛍「ごめんなさい。私、眠ってしまって」

小鞠「蛍は謝らないで。私こそ遅くなってごめんね。夕方に連絡した通り、先にご飯食べてて良かったんだよ?」

蛍「いえ、違うんです。実はご飯を作った後すぐに眠くなってしまいまして……」

そんなにすぐ分かる嘘を付いちゃって……。
いつもはすごく大人びていても、こういう部分はまだまだ子どもなんだなって思う。

でも。
それも蛍の可愛い所。

ここは気付かない振りをする方がいいのかな。

小鞠「今日もご飯作ってくれてありがとう。手を洗ってくるから一緒に食べよ?」

蛍「はぁい!」

嬉しそうに返事をする蛍がすごく可愛い。
そんな姿にまたドキリとさせられる。

小鞠「蛍……」

思いやりがあって、可愛くて、今一番自分の心を許せる女の子。

そんな人と、一緒の住まいで生活してるんだ……。

***

それから何週間も経って。

蛍ともっと一緒にいたい。
笑顔が見たい。
身体に触れたい。
触れて欲しい。


こんな感情が私の中で少しずつ大きくなって。

やっと私は、蛍に恋してるっていうことに気が付いた。

***

蛍と一緒にテレビを見る。
金曜日の夜に放送される映画を見るのがここ最近の楽しみの一つ。

小鞠「……」

蛍の顔を見つめる。
今日も蛍は可愛いな。

蛍「センパイ、どうかしました?」

小鞠「っ!」

うっ。
じろじろ見ているのがバレちゃった。

小鞠「な、何でもないよ///」

蛍「センパイ、顔が赤いです」

小鞠「だ、だいじょうぶ……///」

そう言ってテレビに視線を戻す。
映画はちょうど主人公がヒロインに告白される場面。
そういや今日の映画は恋愛モノだった。

――やっぱり、蛍も誰かに告白されたりしているのかな?

冷蔵庫の中にこまちゃん勘弁な

>>52
たぶん同じ人っぽいんだよなー

小鞠「蛍ってさ。高校に入ってから、誰かに告白されたりした?」

蛍「ええ、ありますよ」

小鞠「そ、そっか。だよねー、そうだよねー……」

……そりゃそうだよね。
蛍ぐらい美人で気立てのいい娘なんてなかなかいないもん。
当然周りの人間も放っておかないよね。

けれども、改めてそういうことを聞くと――何だか心がソワソワする。
蛍が誰かにとられてしまうんじゃないかって。

小鞠「高校生なんだから告白の1つや2つぐらいあるよね」

蛍「えっと……」

小鞠「ん?」

蛍「い、いえっ。何でもないです!」

小鞠「どうしたの?言ってごらん」

蛍「えっと、その。10回以上……」

小鞠「は?」

蛍「10回以上告白を受けていて……」

小鞠「えっ?何それ!?」

10回以上!?
まだ今の学校に入って半年も経ってないじゃん!

確かに蛍は美人だし、誰にも負けないぐらいすっごくいい娘だよ。
でも告白してきた人達は本当に蛍のことを知って、蛍に恋をして想いを伝えていたの?

蛍とずっと一緒にいたのは私だから。
知り合って半年足らずの高校生になんか負けたくない。

蛍「センパイ、怒ってます?」

小鞠「えっ!何で?」

蛍「表情が……」

いけない。
つい顔に出ちゃった。

小鞠「な、何でもないから!」

慌てて首を横に振った。

小鞠「ちなみに、どんな人に告白されたの?」

蛍「ええと。パッと思い出せる範囲だと、クラスの学級委員長やサッカー部の部長、野球部のエース、あと女の子にも告白されました」

小鞠「すごいね……」

蛍なら、すっごくカッコよくて頭が良くて背も高い男の子にだって告白されるよね。
私なんか、頼りなくてスタイル良くないし……。

そういえば。

村にいた時、蛍から告白されたのに。
「友達のままでいよう」なんて言って振ったのは私の方じゃん。

小鞠「……」

あれから蛍は、恋愛的な意味で好意を見せることはなくて。
私が望んだ通り、「とても仲の良い友達の関係」でいてくれた。



――それなのに、今さら好きになったなんて虫が良すぎるよね……。

蛍「センパイ」

蛍が私を見つめる。

蛍「私、告白は全部お断りしてきましたし、お付き合いするつもりもありませんでしたよ」

小鞠「と、当然だよね!蛍にはもっと相応しい人がいるもんね!」

そっかぁ。
誰も蛍の気持ちを動かすことなんて出来なかったんだ。

小鞠「ふふん」

私の方を向いて蛍が微笑む。

蛍「センパイ、何だか嬉しそうですね」

小鞠「そ、そんなワケないじゃん!」

蛍「……違うんですか?」

小鞠「そういうワケじゃなくて、その……」

蛍「慌てるセンパイ、可愛いです」

小鞠「っ///」

蛍「可愛いです♪」

小鞠「に、二回も言わなくていいから!あーもーやめやめ!この話やめーっ!」

これ以上話しているとボロが出ちゃいそうだったから、適当にその場を誤魔化して映画の続きに集中することにした。

***

上司「はぁ……。越谷さん、いい加減にしてよ」

小鞠「えと……その」

上司「ったく。向いてないんじゃないの?この仕事」

小鞠「もうしわk」

上司「申し訳ありませんって口ばっかりだけど、本当にしっかりやろうと考えて行動してる?頭使ってる?」

小鞠「……」

上司「君のせいで今作業止まってんの。分かる?残業増えたら君のせいだから」

小鞠「も、申し訳ありません」

上司「使えない人は要らないからね」

小鞠「っ」

「要らない」
私って要らない人間なのかな……。

上司「そういえば君ド田舎の出身なんだっけ?」

小鞠「はい……」

ド田舎って、そんな言い方しなくてもいいじゃん。
それに今は関係ないことじゃ……。

上司「そんな君の暮らしてきたド田舎での生活のようにね。馬鹿みたいにのんびりやってもらっちゃ困るの。いい?」

小鞠「……」

これ……。
きっと私の故郷も馬鹿にされてる。
大好きなあの村も……。

小鞠「はい……」

でも上司に物を言うことなんて出来なくて、「はい」と返事をするしかない。

悔しい。ホントに悔しい。
私が出来損ないのせいでこんなことを言われて。



もう嫌だよ……。
やっぱり私、仕事向いてないのかな?

辞めたい……。
辛いよ……。

自分が本当に情けなくて。
お昼休みにトイレに篭って一人泣いた。

小鞠「グスッ……ヒック……」

駅から家まで帰る途中にもまた泣いてしまった。
でも、蛍にはこんな姿を見せられない。

小鞠「ただいま」

蛍「おかえりなさい」

蛍に甘えたい……。

小鞠「あ……」

蛍「どうかしました?」

小鞠「んっ、いや何でもないからっ」

蛍に背を向ける。
この子を見つめていると、どうしてもすがってしまいたくなる。
あの優しさに助けを求めてしまいそうになる。

蛍「センパイ」

小鞠「っ///」

突然身体に柔らかい感触が伝わる。
蛍に――抱き締められてる?

小鞠「わ、わ///」

顔が赤くなるのが自分でも分かった。

蛍「センパイ、とっても辛そうです」

小鞠「え……?」

蛍「ここ最近……。いや、ずっと前から辛そうにしてました。それで――今日は特にそう感じたので」

小鞠「蛍……」

蛍「私で良かったら、話してもらえませんか?私は絶対に小鞠センパイの味方ですよ」

小鞠「あっ、その……うぅ」

蛍「センパイ。泣くほど辛かったんですよね……」

蛍に抱き締められてから涙が止まらない。

蛍「私にもっと頼って下さい」

でもっ……。

小鞠「そんな風に優しくされたら、蛍に甘えちゃう……」

蛍「……いっぱい、甘えてもいいんですよ?」

小鞠「でもっ」

蛍「センパイがいつも一生懸命頑張っているのを知ってます。だから、少しでも苦しい気持ちを吐き出して欲しいんです」

小鞠「蛍……」

蛍「『お姉さんだから』と言って無理をしないで下さい。私に頼りたいだけ頼って下さい。私は、ずっとずっとセンパイの味方ですから」

小鞠「うっ……グスッ……ほたるぅ」

ダメ……本当に涙が止まらない。

蛍「センパイ、責任感強いですから。苦しいことを全部一人で背負ってしまわないか心配なんです」

小鞠「ほたる……グスッ……ふえぇ」

蛍「センパイ、辛かったですよね……」

蛍がふんわりと抱き締めてくれる。

小鞠「あのねっ!私っ、ミスなんてしたくないのにぃ……。グスッ。でもっ……私ドジだからぁ、うっ、いっぱい、怒られてっ……使えない奴って言われてぇ……」

蛍「いっぱい泣いてもいいんですよ。ここでは誰もセンパイのことを責めたりしませんから」

小鞠「ほ、ほたるぅ。ヒック、ぅ、仕事、つ、辛いよおっ」

蛍「ミスをしたくてする人なんていませんよね。センパイは一生懸命やっています。毎日毎日。私だけはセンパイの姿を見ていますから」

そう言って、蛍は昔お母さんがやってくれたように背中をゆっくりさすってくれた。

小鞠「ううっ、私すっごく物覚えが悪くてっ。要領が悪くてっ。こんな邪魔な奴、もう要らないんじゃないかって……グスッ、思って……」

蛍「私はセンパイのこと、そんな風に思ったりしません。だから安心してください」

蛍……。
私、もっと甘えてもいいのかな?

蛍「いっぱい、甘えて下さい」

考えを見透かしたかのように、蛍がそう私に囁く。

小鞠「蛍……もっとギュッてして?」

蛍「はい」

回された腕に少し力が入って抱き寄せられる。
蛍の身体、あったかくて柔らかい……。
それにすごくいい匂いがする……。

小鞠「あのね……蛍」

蛍「はい……」

こうして、私は今まで辛かったことをたくさん蛍に聞いてもらった。
蛍はただ聞いてくれるだけじゃなくて、ちゃんと相槌も打ってくれて。
私が思わず泣いてしまう度に優しく涙を拭いてくれた。

東京に来てから、こんなに優しくしてくれる人なんていなかった。
きっと蛍がいなかったら私はすぐに潰されちゃってただろうな。

今まで私は自分の幼い容姿や考えにコンプレックスを感じて、無理に大人振ろうとしていて。
そのせいで誰かに甘えるなんてこと、考えつかなくて。

蛍に甘えたい。

抱き締めて欲しい。

頭を撫でてもらいたい。

蛍のモノになりたい。

想いを伝えたい。



ああ。
やっぱり私は、思いやりがあって優しい蛍のことが大好きなんだ。

蛍「センパイ」

小鞠「なに?」

蛍「村で暮らしていた時。センパイに告白したこと覚えてますか?」

小鞠「もちろんだよ」

今までお互いに敢えて触れなかった話題。






蛍「私、今でもセンパイのこと、大好きです」

小鞠「えっ……」

こんなに素敵な娘が側にいて。
ずっと私のことを想ってくれていたのに……。

蛍「エヘヘ、二回目になっちゃいましたね。告白」

小鞠「蛍……」

蛍「友達として接して欲しいってセンパイに言われたのに。約束破ってごめんなさい」

小鞠「……」

蛍「センパイ……」

蛍が不安そうな顔で私を見つめた。

ごめんね。
ずっとずっと待っててくれたんだ。
5年間も。

相手が「好き」って言ってくれているのに。
それでも自分から「好き」って伝えるのはこんなにも緊張する。
相手がどう思っているか分からない時に想いを伝えるなんて、それこそ桁違いに勇気がいることなんだよね。

声が震えてしまいそうだけど。
でも、私の想いはちゃんと伝えるから。
だから聞いてくれるかな?

小鞠「ありがとう、蛍」






小鞠「私も蛍のことが好き」

蛍「嬉しいです。とっても」

そう言うと蛍はぽろぽろと涙を流し始めた。
――5年前の光景が頭に浮かぶ。
けれども、今度の涙はその時と全然違う涙。
ごめん。私5年前と同じで、蛍に対する気の利いた言葉なんて思いつかない。

でも。

小鞠「蛍のことが大好きだよ」

こうやって、「好き」って言葉は何度でも伝えるから。

蛍「うぅ……しぇんぱい……」

すると蛍は私の胸に飛び込んで、声を上げながら泣き始めてしまった。
そんな姿を見ていると私も目が潤んできちゃって。

そのまま二人で抱き合いながら、一緒にたくさん涙を流した。

涙で顔がぐしょぐしょになるくらい二人して泣いていたはずなのに。










――生まれて初めてのキスは、ちょっぴり甘い味がした。

***

相変わらず仕事は覚えることがいっぱいで、周りから怒られたり上司に嫌味を言われたりもするけれど。
今はとても大切なパートナーが側にいるから毎日負けずに頑張れる。

蛍は私のことをいつも愛してくれていて、「やっぱり蛍のことを好きになって良かった」って何度も思う時がある。
私も、不器用だけど精一杯蛍のことを愛してるつもりだよ。




蛍「センパイ……」

部屋でのんびりしていると、蛍がくっついてきて甘える仕草をする。
こういう時は大抵「キスがしたい」っていう合図。

小鞠「ん、いいよ……」

蛍が私のほっぺに手を当てる。

蛍「んっ……」

小鞠「んぅ……」

そのまま二人で唇を触れ合わせる。
初めての時に比べると、やっぱり上手くなったかもって思う。

小鞠「んぅっ……」

蛍「んっ……ちゅっ……」

恋人とのキスは、私がこれまで想像していた以上に気持ちよかった。

唇ってとても敏感な場所で、そこを触れ合わせたり、相手の温度や吐息を感じたりするだけで頭がクラクラするぐらい気持ちいい。
こんなに敏感な場所だから、たった一人の好きな人にしか触れさせたくないんだって思う。

蛍「ちゅっ……れろ」

小鞠「んぅっ!……んっ……ふっ」

少し前から、蛍はキスの時に舌を入れるようになった。
こうなるとスイッチが入ってしまって、蛍はなかなか私を離してくれない。

蛍に舌を入れられて、深いキスを繰り返していると全身がとろけてしまいそうになる。
そうして私の身体に力が入らなくなった後に、耳元で「好き」なんて囁いてくるから蛍はずるい。

小鞠「んっ、んむっ……はぁっ」

最近は蛍からのボディタッチも増えてきて。
キスされながらたくさん身体を触られて、背筋がゾクゾクしてたまらない。

小鞠「んぁっ……んっ……ふっ」

そういうことが積み重なると、私って蛍のしたいようにされるのが好きなんだなって感じる。
もしかしてちょっとMっ気あるのかな。

ただ、蛍にこうやって求められて気持ちよくなってしまうのは年上としてどうなのかって思ってしまう。

蛍「ぷはぁ……」

小鞠「はぁっ、はぁっ……はぁ……」

蛍「センパイ……大好きです」

小鞠「私も蛍が好きだよ……」

だから、私が蛍をリードしてあげなきゃ。
蛍にばっかりされてちゃ駄目だから。

小鞠「ねえ蛍。来週の土曜日って暇かな?」

蛍「はい、特に予定は無いです」

小鞠「じゃあさ、今度二人でデートに行こう?私が案内するからさ」

蛍「えっ!センパイとデート!?行きます行きます!!」

仕事の疲れを理由に土日は家で過ごすことが多かったから、蛍とは全然出かけられなかった。
蛍はそれでも構わないって言ってたけど、この反応を見るとやっぱり一緒に外出したかったんだなって分かって胸が痛んじゃう。

小鞠「じゃあそういうことでよろしくね」

蛍「分かりました!楽しみにしてます!」

小鞠「私も蛍とデートするの楽しみにしてるよ」




今まで寂しい思いをさせた分、蛍のこといっぱい楽しませてあげるね。

***

蛍のためにって意気込んでいたのは良かったんだけど……。

小鞠「あれ?こっちで良かったのかな?」

蛍「センパイ……ここさっきも通りましたよぉ」

小鞠「えっ、ホントに!?うーん、おかしいなー」

駅の出口がよく分からない……。
一階(?)が混雑しているからって地下になんて入らなければ良かった。
っていうか地下でも人多すぎだし!

小鞠「と、とりあえずこっちの道を行こう」

蛍「はぁい」

駅の通路を蛍と並んで歩く。

小鞠「……」

蛍「♪」

こうやって蛍と人混みの中を歩いていると、あることに1つ気が付く。
結構な数の人が通りすがりに蛍をチラチラ見てるっていうことに。

当然それは蛍がすっごい美人だから。

私が蛍の恋人で本当にいいのかなって思ってしまう。
今日のデートだって、最初からひどい有様。

蛍ならどんなに素敵な人でも手に入れられると思う。
自分よりもっと蛍の隣で歩くのに相応しい人がいるんじゃないかな。
本当に、蛍は私なんかで満足してくれているのかな。

せっかく蛍と付き合うことが出来たのに。
そんな風に考えて、すごく不安になっちゃう。

蛍「小鞠センパイ」

小鞠「わっ///」

蛍「エヘヘ。センパイと手繋いじゃいました」

そう言って蛍はとても楽しそうに笑った。

蛍「センパイ。焦らずゆっくり行きましょう?時間はまだまだたくさんあるんですから」

小鞠「……うん///」

蛍の気遣いにドキドキする。

それに、今の一言でちょっと心が軽くなった。

ありがとう、蛍。
やっぱり――蛍が恋人で本当に良かった。



それから随分時間がかかったけれども、目的の場所に着くことが出来て。
服や小物を中心に色んなお店を見て回った。

***

店員「ご予約のお客様でしょうか?」

小鞠「え……」

ひと通りお店を見て回った後、やって来たフレンチレストラン。
蛍とここで夕食の予定だったんだけど……。

店員「大変申し訳ございません。あいにく本日はご予約頂いているお客様で満席となっておりますので……」

何でちゃんと予約しておかなかったんだろう……。
最初からここに来ようって考えてたのに。
休日の、しかも美味しいって有名なお店なんだから人が多いに決まってんじゃん……。

自分が職場で使えない奴って言われるのも当たり前だなって改めて感じた。

小鞠「分かりました。失礼します」

店員「申し訳ございません。またのご来店、お待ちしております」

お店の外に出て蛍に話しかける。

小鞠「蛍、どうしよう……?」

蛍「そうですね……。確かこの辺に昔家族で行ったレストランがあるんですけど、そこへ行きませんか?」

小鞠「うん、そうしよっか」

はぁ……。
私、すっごく情けないよ……。



蛍に案内してもらったイタリアンのお店。
私達が着いた時はちょうど空いていて、待たずに席へ案内してもらえた。

蛍「このカルボナーラ、美味しいですっ。センパイのはどうですか?」

小鞠「うん。こっちのキノコのパスタも美味しいよっ」

メニューを見てもカタカナばっかりで全然意味が分からなかったから、とりあえずキノコと書いてあるパスタを頼んでみた。
イカ墨パスタも一度食べてみたかったけど、せっかくのデートで歯が黒くなっちゃうのはやっぱり駄目だよね。

蛍「センパイ、ごちそうさまです」

小鞠「いやいや気にしないで。あそこのお店、ホントに美味しかったね」

今日は全部私のおごり。
でも、自分はそんなことぐらいしか出来ていない。

小鞠「はぁ……」

お店を出て外を歩いていると、失敗が多かった今日のデートが頭に浮かんでくる。
蛍をリードしてあげるつもりで計画してたはずなのに。

小鞠「ごめんね、せっかくのデートだったのに……。カッコ悪いとこばかり見せちゃったね」

蛍「とんでもないです。センパイと一緒のデート、すごく楽しかったですよ!」

小鞠「ありがとう。でも年上なのに蛍のこと全然リードとか出来なくてさ。むしろ蛍にリードされっぱなしで、本当に恥ずかしいよ……」

蛍「センパイ」

小鞠「なに?」

蛍「センパイは、私にリードされるの嫌ですか?」

小鞠「ううん……嫌じゃないよ」

蛍にリードされるのは嫌じゃない。
本当は蛍に引っ張ってもらうほうが好きなんじゃないかって自分でも気付いてる。

けれども、そういうわけにはいかないから。

蛍「センパイ、年上だからこういう所でリードしなきゃいけないって無理してません?」

小鞠「えっ」

蛍「私は恋愛でどっちが年上だからこうしなきゃいけない、なんてことは無いと思います。恋人の関係はその人達に合った方法、したい方法でお付き合いすればいいんじゃないでしょうか」

小鞠「合った方法……」

蛍「確かに年上にリードして欲しいって女性は多いですよね。でも私は気にしていませんから。――もっと言うと、小鞠センパイをリードしていく方がどちらかと言うと好きなんです」

蛍が私の手を握る。

小鞠「あ///」

蛍「それに、デートでスマートに振る舞うなんて小手先でどうにでもなることです。私はそんな所を気にして恋をしているわけじゃないんですよ」

小鞠「蛍……」

蛍「センパイ。無理なんかせずに、お互い自然な関係でいましょう。その方がきっと幸せなんだと思いますよ!」

蛍はそう言って私に笑顔を向けた。

小鞠「そ、そっか。えへへ///」

やっぱり蛍には敵わないよ。
私の悩んでいたこと、こんなに分かってくれるなんて。

本当はね。今よりももっともっと蛍に甘えたい。
ちょっと強引でもいいから、唇を奪われたり、ドキッとするようなことをされたい。
自分が蛍のモノなんだって感じたい。

小鞠「ねえ……。ただでさえ今は甘えっぱなしなのに、もっと蛍に甘えちゃうよ……」

蛍「いっぱい甘えて下さい、センパイ」

蛍の身体に寄りかかる。

小鞠「蛍……好き」

蛍「私も小鞠センパイが大好きです」

蛍はそう言って私をギュッと抱き締めてくれた。

小鞠「帰ろっか」

蛍「はい……」

二人で身体を寄せ合う。

恋人が――蛍のことが愛おしくてたまらない。
愛してるって囁き合いながらキスがしたい。

蛍の顔を横目でチラリと見ると、同じようなことを考えていたのかな。
とても熱っぽい目で私を見つめ返してくれた。



でも今はまだ周りの目があるから、それは家に帰ってから……。

***

バタン。
家に着いて玄関のドアを閉める。

蛍「んっ……ちゅっ……」

小鞠「んぅ……んんっ」

靴を脱いだ瞬間に抱き合ってキスをする。
今日は長い間一緒にいたけれど、キスはずっと我慢してたから。
したいっていう気持ちが止まらなくて、一心不乱に相手の唇を求め合う。

蛍「んっ……はぁはぁ……んむっ」

小鞠「はぁはぁ、……んんっ!」

時々息継ぎを挟んでから、またキスをする。
酸欠になりそうなぐらい息が苦しくて。
それでも相手とキスがしたいって思いの方が強くて。

小鞠「はぁはぁ……蛍……」

蛍「センパイ……」

小鞠「手、洗おう?……続きは私の部屋で、ね?」

蛍「はい……」

手洗いうがいをして、私の部屋へ行く。
あんまり明るいと恥ずかしいから灯りは夕方にして。
ベッドの上に座って、さっきのようにまた唇を重ね合わせた。

蛍「んっ、はぁ……好きです……ちゅっ……んんっ」

小鞠「はぁはぁ、好きだよ……んむっ……!」

舌を蛍が入れてきて、私も一生懸命同じように舌を絡ませ合う。
蛍とのキス、気持ちよすぎて身体に力が入らない……。

小鞠「んぅっ……」

蛍がキスをしながら、撫でるように私の身体へ手を這わせる。
身体がピクッと震えて、声が漏れそうになる。

小鞠「っ」

脇腹からゆっくり手が降りて行って太ももを撫でていく。

小鞠「ぁ……」

蛍「小鞠センパイ……」

耳に触れてしまうくらい口を近づけながら、蛍が囁いてくる。
熱い吐息を耳に感じるだけで頭の中がおかしくなってしまいそう……。

小鞠「はぁ……はぁ……」

蛍が何を求めているか、私にだって分かってる。
私も――蛍と、そういうことをしたい。
いっぱい蛍に求められて、蛍のモノになってしまいたい。

でも、この子はまだ高校生で。
私は大人だから。
キスより先のことは、イケナイことだから。

『もっと、甘えてもいいんですよ?』

蛍の言葉が頭の中に浮かんでくる。
でも、でも……。

小鞠「ほたる……だ、め……」

そう言って、ほんの少しだけ残っていた理性で蛍の身体を押しのける。

けれども私の声はすっかりとろけてしまっていて。
蛍を押しのける手にも、全然力なんて入ってなかった。

蛍「センパイ……」

小鞠「あっ」

だから、すぐに蛍に手首を握られて。
そのまま簡単に身体を引き寄せられてしまった。

蛍「好きです」

蛍にそう囁かれる。
そして手首を握られたまま、ゆっくり唇を奪われる。

蛍「ん、ふぅっ……」

小鞠「んんっ……んむっ」

こうやって手首を握られながらキスをしているだけで、自分が蛍のモノになってるって感じる。
蛍に支配されてしまってるって。

本当はこういう風にされたいって思ってた。
部屋に誘ったのも、灯りを薄暗くしたのも。
多分心の何処かでキスより先のことを期待していたから。

小鞠「んっ……ちゅっ、んんぅ……」

きっとこの子は、私が本気で嫌がってなんかいないって分かってる。

だって私の抵抗なんて簡単に抑え込めるほど弱くって。

それに、蛍が私の手首を握る力は――とても優しかったから。

蛍「小鞠センパイが、欲しいです」

耳に熱い息がかかる。

そして、蛍の手が私の服の中に入り込んで。
下着のホックをそっと外した。

小鞠「はぁ……はぁ……」

ごめん。
本当は、止めなくちゃいけないんだけど。

私、もう我慢出来ないよ。
蛍が好きだから。
だから――蛍のモノになりたい。
何も考えられなくなるぐらい、めちゃくちゃにされたい……。

小鞠「蛍……」






小鞠「私のこと、好きにして……?」

蛍は私の頭を撫でながら。

蛍「絶対に、優しくします」

一言呟いて軽くキスをした後……。






そっと私の身体を押し倒した。

小鞠「はぁ……はぁ……」

蛍に押し倒されてる……。
抵抗なんてするつもりはないけれど、これで本当に逃げることなんて出来ないんだよね?
押し倒されて蛍の顔を見上げながら、これからの自分がどうなってしまうのかって想像するとお腹の奥が熱くなった。

小鞠「はぁ、はぁ」

蛍が私の首元に顔を埋める。

蛍「ちゅっ」

小鞠「んっ!」

首筋に吸い付かれて、自分の身体がピクッと跳ねた。

蛍「キスマーク、付けちゃいました」

唇が触れていた場所を撫でながら蛍が呟く。
私が――蛍のものだっていう証。

蛍「れろっ」

小鞠「あっ」

そのまま首筋を舐められて小さな声が漏れる。
蛍に色んな所を触れられる度に身体が反応してしまって、私って想像以上に敏感なのかもしれないって感じた。

蛍の手が私の服の中に入って、お腹をゆっくりと撫でていく。

小鞠「っ……」

蛍「センパイ、すっごく可愛いです」

小鞠「や……」

耳元で囁きかけながら、蛍はそのまま胸の方へ手を這わせていく。

小鞠「んっ」

下着をずらされて、小さな胸が揉まれる。

小鞠「ぅ……」

恥ずかしくて、蛍の服を握りしめながらギュッと目をつむる。
でもそんなことをしたって、蛍の手が私の胸を揉む動きは変わらない。

小鞠「はぁ、はぁ」

ゆっくり円を描くように膨らみが揉まれているのを感じる。

小鞠「あ……ぅ……」

うっすらと目を開けると、蛍が上気した顔で私のことを見つめていた。
身体を求められて興奮している私の姿を、蛍はじっと見つめてる。

小鞠「やっ……」

胸を揉まれながら蛍と見つめ合うなんて出来るはずがなくて。
思わず顔をそらそうとするけれども。

蛍「ん……」

小鞠「んむっ……」

蛍に唇を奪われて、それすらも叶わなかった。

小鞠「んっ、ふぅんっ……」

もちろん目は閉じたままだけど。
こんな風にされながらキスをされていると、やっぱり身体が震えるぐらいゾクゾクする。

小鞠「んんっ」

指で胸の先をいじられて思わず声が漏れそうになった。
でも、その声はキスのせいで全部抑えられてしまう。

小鞠「ぷはっ、はぁっ……はぁっ……」

蛍「はぁ……はぁ……」

唇が離れて、お互いに大きく呼吸をする。
正面を向くと蛍もとろんとした目で私を見つめ返してくれた。

小鞠「はぁっ……はぁっ……」

こんな貧相な身体でごめんね。
胸は片手で簡単に覆ってしまえる程度の大きさで。
顔つきも幼くて、自分に色気があんまり無いなんて分かってる。

それでも。
蛍が私に興奮してくれて、いっぱい求めてくれるのがすごく嬉しかった。

小鞠「あっ……」

蛍の手がまた私の身体を這っていく。

ねえ。

もっと私に触って?

もっと私で興奮して?

小鞠「はぁ、はぁ……」

蛍「脱がしますね……」

服を脱がされて、蛍に私の全部をさらけ出す。
昔一緒にお風呂へ入った時なんかとはワケが違う。
やっぱり比べ物にならないくらい恥ずかしい。

小鞠「蛍も脱いで……」

蛍はコクリと頷いてゆっくりと服を脱いでいく。
そして、着ている物を全部脱ぎ去った蛍が優しく覆いかぶさってきた。

小鞠「はぁ……」

蛍の身体、柔らかいな。
それにすごくあったかい。

小鞠「んっ」

蛍が私の胸の先を口に含んで、固くなっているそこをころころと舌で転がす。

小鞠「あっ……」

片方の胸はゆっくり揉まれていて。
鼻にかかったような声が漏れるのを抑えられない。

小鞠「あっ……んぅっ」

蛍はまるで焦らすかのように私の胸を愛撫するから。
切ない気持ちが自分の中で段々と大きくなっていく。

小鞠「あんっ……はぁっ」

はしたない声をたくさん上げて。
恥ずかしい姿をいっぱい見せて。

でも、蛍が相手だから私はこんなに気持ちよくなれるんだよ?

小鞠「はぁはぁ、はぁ……」

いっぱい時間をかけて私の上半身を愛撫した後。
蛍は手を身体の下の方へゆっくりと滑らせていった。

小鞠「あんっ」

びしょびしょに濡れてしまっているそこに蛍は何度も触れていく。

小鞠「あっ、あっ!」

身体をよじる度にギシリとベッドが音を立てる。
そんな音にさえも興奮してしまって。
甲高い声が息を吐く度に漏れてしまって。

蛍「大好きです」

小鞠「うんっ!す、きっ、ぁっ!」

蛍に好きって言われて、私も好きって返したくても上手く言葉にならない。

小鞠「あっ、やっ、あぁっ!」

指で一番敏感な場所を愛撫されながら、舌でまた胸の先を責められる。

小鞠「ふぁ、んっ、やっ、ああっ!」

死んじゃいそうなくらい気持ちよくて、切なくて。
身体がビクンと跳ねて、またベッドのきしむ音が聞こえた。

蛍「センパイ、愛してます……」

小鞠「あぁ、っ、あんっ!」

蛍「んっ、んむ」

小鞠「んぅっ、ふぅっ、んんっ!」

蛍に唇をふさがれて、くぐもった声だけが漏れる。

好きだよ。大好きだよっ。
蛍のことが好きで好きでたまらない。

小鞠「ぷはっ、あっ、あっ、んんっ」

唇が離れてまた喘ぎ声が部屋に響く。
私の声、隣の部屋にも聞こえちゃってるかもしれない。

小鞠「ひゃっ、あんっ、あぁっ!」

目の前が何だかチカチカする……。
駄目、もう限界かも……。


小鞠「あっ、あっ、はぁっ、やっ、あんっ!」


小鞠「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


背中を思い切り反らして。


頭の中が真っ白になって。


もう何にも分かんなくなっちゃって……。


そして……。

***

小鞠「はぁ……はぁ……」

はぁはぁと息を吐く。
まだ頭がボーっとして上手く身体が動かない。

蛍「センパイ……」

蛍にギュッと抱き締められる。

小鞠「はぁ、はぁ……ほたる……」

かすれた声で名前を呼ぶと、蛍は微笑みながら頭を撫でてくれた。

蛍「大好きです」

頭を撫でながら、蛍はまたギューッと抱き締めてくれる。

小鞠「蛍……ほたるぅ……」

そういうことをした後だからなのかな。
こうやって蛍に抱き締められているとすっごく安心した気持ちになれる。
こんなに大切にしてもらって、胸がいっぱいで思わず泣いてしまいそう。

蛍「大好き」

小鞠「うん……」

蛍に抱き締められていると全身が包まれている感じがして、蛍のものになれたんだなって感じられる。
恋をしてから、この自分の小さな身体も好きになれた。
こんな幸せな気持ちになれるのは、蛍の恋人で、小さな身体を持っている私だけの特権。

小鞠「……」


だから。
私、すっごく幸せだよ……。

小鞠「う……ん?」

蛍「おはようございます、センパイ」

小鞠「わ、私寝ちゃってた?」

蛍「はい。とは言っても20分ぐらいですけれど」

小鞠「蛍、ずっとこうやって頭撫でてくれてたの?」

蛍「ふふ、そうですね」

小鞠「ご、ごめんね!」

蛍「いえ、いいんです。こういうことをした後って眠くなる人が多いみたいですし。それに、センパイが本当に感じてくれて、満足してくれたんだなあって思えて、なんだか嬉しかったです」

小鞠「蛍……」

蛍のこういう気遣いが好き。
この子の優しさに触れていると、私を求めてくれたのは単に身体が欲しかっただけだとか、そんなのじゃないって感じられる。
だからこそ、蛍に抱いて貰えたのが嬉しくて。
抱かれている間もすっごく幸せな気持ちだった。

小鞠「ありがとう。大好きだよ」

蛍「私も、小鞠センパイが大好きです」

二人で身体をくっつけあってキスをする。
隙間なんて無いくらいに密着しあって。

小鞠「んむっ、好きっ……ちゅっ」

蛍「れろ、ちゅっ……好きです……」

馬鹿みたいにお互い「好き」って言い合いながら唇を求め合う。
腕も脚も絡ませ合いながら。
それでも足りないくらい蛍のことが大好き。
ずっと、こうやって繋がっていたい。

小鞠「ぷはっ……えへへ」

蛍「ふふっ」

唇を離して、相手を見つめながら微笑み合う。
大好き。蛍のことが、誰よりも好き。

蛍「お風呂、入りましょうか?」

小鞠「そうだね」

まだ気だるさの残った身体を起き上がらせる。

小鞠「あっ、シーツ……」

思っていた以上にベッドの上は大変なことになっていて。

蛍「今日は私のベッドで寝ませんか?」

小鞠「ありがと、蛍。そうさせてもらうね」

やっぱり、蛍は優しいな。
私の――自慢の恋人。

***

蛍「すぅ……すぅ……」

小鞠「蛍……」

お風呂から上がった後。
今度は私が蛍の身体を撫でてあげる。
それが気持ちよかったのか、蛍はすぐに眠っちゃったみたい。

蛍「すぅ……すぅ……」

小鞠「大好き」

目の前で静かに眠る蛍が愛おしくて、思わず抱き締めてしまいそうになる。
でも起こしちゃいけないから今はこのままで我慢。

ねえ。
これからも、蛍にいっぱい甘えちゃっていいのかな?

今はきっと蛍に甘えることの方が多いんだろうなって思う。
けれども私だって蛍に頼ってもらえるように少しずつ頑張っていくからさ。



仕事のことだけどね。
始めて1年も経ってないんだから、もうちょっと頑張ってみようって思うんだ。
続けていくうちに段々この仕事にも慣れていくかもしれないし。
転職も考えているけど、1年足らずで辞めちゃったら多分難しいから。

蛍のために頑張るなんて言ったら、重いかな?
でも、もうちょっと頑張ろうって思えるのは蛍が側にいてくれるおかげだよ。

これからもずっと蛍と一緒。
今からお金を少しずつ貯めていって。
家事をもっと出来るようになって。
二人で――幸せな生活を送れるように頑張るね。

明日は日曜日。
お互い休みの日だから、誰にも邪魔されず一緒にのんびり過ごそう?

小鞠「おやすみ」




私のことを好きになってくれて。
ずっと好きでいてくれて、ありがとう。




私も蛍のことが大好きだよ。
世界中の誰よりも。




今回はここまで

最後まで読んで下さってありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年01月08日 (水) 00:53:02   ID: Q5_bh_Wl

すごくうまい

2 :  SS好きの774さん   2014年01月24日 (金) 17:30:11   ID: 18ZBEFHI

とても良かった

3 :  SS好きの774さん   2014年01月25日 (土) 23:40:06   ID: jb0LMSOQ

素晴らしい作品でした

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