やよい「私幸せになるね、長介」(332)


  "はじめまして!おねえちゃんだよー"


     "………えへへー。ちっちゃーい!おさるさんみたい!"


    "おなまえは?"


 "……ちょすけ?"


   "かっこいいおなまえだね!ちょすけ!"


     "あたしのなまえは、やよい"



       "よろしくね、ちょすけ"





長介「………うぅ……ん……?」


長介「……夢か」


長介「………なんだ、まだ夜中の1時じゃないか…」ゴソゴソ

長介「………」ゴソゴソ

長介「寝れない……」

長介「……」


長介「皆寝てるよな……静かにしないと」コソコソ




長介「ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはぁっ…」

長介「……水うめぇ」

長介「……ふぅ。寝るか……」


長介「……?」

長介「……姉ちゃんの部屋、電気点いてる……」


  「………あー、これ運動会の……懐かしい……」パラッ


  「こっちは音楽会……ふふふ、浩太郎よそ見してる」パラッ


  「………あ、これライブに招待したときのだ!あったなぁ」パラッ


コンコン


長介「…入るぞ」

やよい「? わわっ、長介……」

長介「こんな夜中まで何してるんだよ」

やよい「べ、別に何でも……」



長介「……アルバム引っ張り出してたの?」

やよい「………うん」


長介「……夜更かしするなよ。明日何の日か分かってるのかよ」

やよい「そ、そうだけど!その…緊張して眠れなくて……」

長介「……はぁ」


長介「見せて」

やよい「えっ?」

長介「俺も付き合うよ。適当に話でもしてたら眠くなるだろ」

やよい「ホントに?ありがとう!」

長介「うるさい。かすみたち起きちゃう」

やよい「あ、ごめん」


長介「……この部屋に全員分のアルバムがあったのか」

やよい「そうだよ、知らなかったの?だってみんなで使ってた寝室の方にしまってたら、ボロボロになっちゃうでしょ」

長介「そもそもそんなもん、ないって思ってたし。いつの間に写真撮ってたんだ」

やよい「たくさん撮ってるよー。みんなはしゃいでるから気づいてないだけ」

長介「そういうもんかな」

やよい「そうだよ」


長介「……これが姉ちゃんので」

やよい「こっちが長介のアルバムだよ」

長介「姉ちゃんの、分厚いな」

やよい「私は事務所にいた頃の写真が多いから、どんどん増えちゃったんだ」

長介「ずりー」

やよい「そんなこと言わないの。ほら、長介の一緒に見よ」パラッ


  『初めて長介がおうちに来た日。お姉ちゃんとのツーショット』


やよい「ちっちゃくて可愛いね」

長介「生まれたてだしな。……というか、このコメントは」

やよい「私が書いたの。お母さん、写真だけしかはさんでなかったから」

長介「ご丁寧に色ペンまで使って……」

やよい「やり始めると凝っちゃって…えへへ」

長介「そこまでしなくても、って感じだけど」

やよい「そんなことないよ!世界でひとつだけの長介のアルバムだもん」

長介「………」

やよい「宝物だよ」

長介「……そっか」

やよい「うん」

──────

ゃょぃ『……お、おとうと……』

ゃょぃ『ちっちゃい。かわいーね』

ゃょぃ『……しゃしんとるの?』

ゃょぃ『わたしと?わかった』



ゃょぃ『ぅゎー……となりにねちゃった』

ゃょぃ『ちっちゃーぃ……』

ゃょぃ『……ぇへへー。ちょすけ、よろしくね』

ゃょぃ『おかーさん、ぃぃょー。しゃしんとって』


──────


やよい「……って感じ」

長介「何でそんな細かいこと覚えてるの?」

やよい「わかんない。でも長介との思い出はひとつも忘れてないよ」

長介「……さらっと恥ずかしいことをいいやがる」

やよい「お姉ちゃんだもーん」

長介「……はいはい」

やよい「照れないの!えへへ」

長介「次の写真は!?」

やよい「大きな声出すとかすみたち起きちゃうよー」

長介「ぐぬぬ……」

やよい「今度はねー……あ、これこれ」パラッ

──────

ゃょぃ『だめなの?どーして?』

ゃょぃ『おとさないよ!ちゃんとだっこする!』

ゃょぃ『したいー!したいー!ちょーすけだっこすりゅの!』ジタバタ

ゃょぃ『するのー!!』ジタバタ

ゃょぃ『うわああああああぁぁあぁあん!!!!』ジタバタ

──────

『はじめてのだっこは寝たまま。きちんとするのは首がすわってから?』


やよい「……ってダダをこねて、さすがに座ってするのは危ないって言われて」

長介「……ふーん」

やよい「今なら首すわってるから、だっこも問題ないよね?」

長介「馬鹿言うな、俺よりちっちゃい癖に」

やよい「ホント、大きくなって可愛げがなくなったよ」

長介「うるさい」

やよい「えへへ」

──────

ゃょぃ『…………♪』カキカキ

ゃょぃ『…………♪』グリグリ

ゃょぃ『…………♪』カキカキ


ゃょぃ『ねえねえちょうすけ』カキカキ

ゃょぃ『わたしね、ようちえんでおえかきならったの!』グリグリ

ゃょぃ『せんせえにもじょうずだねってほめられたんだー』カキカキ

ゃょぃ『だからちょうすけのえをかいてるの!わかる?』カキカキ


ゃょぃ『………できた!』パンパカパーン

ゃょぃ『えへへー。じょうずにかけたよー』


ゃょぃ『みえる?ちょーすけ?みえる?』

ゃょぃ『えへへー。わたしえかきさんになれるかもー!』

ゃょぃ『もういっこかこうっと!!』カキカキ

──────

  『長介をモデルにお絵かき。二枚とも上手にかけました』


長介「絵は一枚しか写ってないぞ?」

やよい「撮ったとき、もう一枚はまだ描いてなかったから」

長介「……ヘッタクソな絵。あはは」

やよい「私まだ年少組だったんだよ?」


長介「……でもよく見えないなぁ。どんな絵描いたの?」

やよい「こっちに写ってないほうの絵、じつは保管してるの」

長介「そうなんだ。見せてよ」

やよい「ダメ」

長介「え、何で?」

やよい「秘密」

長介「……まあいいけど」


長介「しかしまあ、よくそんな細かいことをいちいち覚えてるもんだよ」

やよい「私は逆に長介が思い出してくれないのが寂しいよ」

長介「ハイハイもできてない赤ん坊だろ?無理だよ」

やよい「そんなことないもん。ちゃんと思い出してね」

長介「はぁ……?」

やよい「今のお話には続きがあるの」

長介「…………」

やよい「私は教えないから、頑張って思い出してね」

長介「……意味わかんね」

やよい「どんどんいくよー」パラッ

──────

ゃょぃ『ちょーすけ!こっち!おいでー!』

ゃょぃ『がんばれー!がんばれー!』

ゃょぃ『もうちょっとだよ!おねえちゃんのとこにおいで!』


ゃょぃ『なんでおかあさんのとこにいくのー!?』

ゃょぃ『ずーるーいー!!ちょーすけ、こっちだってばぁ!!』

ゃょぃ『もーっ!』プンスカ

──────

  『部屋を横断中。お姉ちゃん駅に着くのはいつでしょう』


長介「お姉ちゃん駅て。お姉ちゃん駅て」

やよい「べっ、べつにいいでしょ!」


長介「ハイハイ覚えたの、この頃なんだな」

やよい「長介はすっごくハイハイが速くてね、廊下で私とよく競争して遊んでたの」

長介「へぇ」

やよい「私には勝てなかったけどね」

長介「当たり前だろ」

やよい「そうだね。えへへ」


長介「……次は?」

やよい「うん。特に写真いっぱい残ってるのは───」


──────

ちょうすけ『………』ソワソワ

やよい『もうすぐだね、ちょーすけ』

ちょうすけ『………』ソワソワ

やよい『もうすぐおにいちゃんになるんだよ』

ちょうすけ『……うん……』ソワソワ

やよい『おかあさん、だいじょうぶかなあ』

ちょうすけ『…………』ソワソワ

やよい『………だめだよ。しっかりしないと!』ギュッ

ちょうすけ『う、うん……がんばる』ギュッ

やよい『はやくかすみにあいたいね!』

ちょうすけ『………うん!』

──────


  『初めての妹に戸惑ってるのかな?いいお兄ちゃんになってあげてね』


やよい「かすみと3人で写ってるねー」

長介「まだ兄弟も少ないな」

やよい「6人そろうまであと……」

長介「8年か9年くらい?かな」

やよい「長いね」

長介「でもそう考えると、俺たちが一番付き合い長いんだな」

やよい「そうだよ。もう20年だよ」

長介「あっという間だなぁ」

やよい「…………ね」

長介「…………」

やよい「…………」パラッ


──────

ちょうすけ『かすみー、しっかりついてこいよ』

かすみ『まって、おにいちゃん……おねえちゃん……』

やよい『ちょうすけ。もうちょっとゆっくり歩いてあげて、かすみたいへんそうだよ』

ちょうすけ『だってかすみがおそいんだもん』

かすみ『ごめんね……』

やよい『お兄ちゃんなんだからしっかりして。ね』

ちょうすけ『…………』

やよい『…………』


ちょうすけ『わかった。かすみ、ごめんな』

かすみ『……ううん。ありがとおにいちゃん』

やよい『さすがお兄ちゃん』

ちょうすけ『……や、やめてよ』

──────

  『長介とかすみは幼稚園、お姉ちゃんは小学校。仲良く3人で行ってきます』


長介「3人で通ってたの?」

やよい「実際はお母さんがいたけどね」

長介「ふぅん」

やよい「かすみと手をつないで、仲良く幼稚園に行ってたって」

長介「かすみは今でもおっとりしてるからなぁ……」

やよい「でも、しっかり者だよ」

長介「姉ちゃんよりな」

やよい「もう!」


──────

長介『姉ちゃん。浩太郎のオムツ替えといた』

やよい『えっ?長介やってくれたの?』

長介『うん、姉ちゃん忙しそうだったし……臭かったけど』

やよい『……ありがとう!』ダキッ

長介『わっ!何してるの!?』

やよい『お母さんもお父さんもお仕事忙しいから、お手伝いいっぱいしなきゃって思ってたけど…』


やよい『長介も手伝ってくれるなら、お姉ちゃんすっごく助かるよ!』

長介『………』


長介『も、もちろん!かすみにはまだ早いから、おれと姉ちゃんでがんばろう!』

やよい『ありがとぉぉ……』ギュゥウ

長介『………』

──────


──────

長介『姉ちゃん……アイドルやるの?』

やよい『えっ?』

長介『父さんと母さんが話してた』

やよい『……そうなの!頑張って働いてお金稼いだら、みんなでおいしいものいっぱい食べられるよ!』

長介『………』

やよい『………長介?』


長介『……お金のためにアイドルするの?』

やよい『……そ、そんなつもりじゃ……ちょ、長介は反対なの?』

長介『だって……テレビの仕事って絶対大変だよ……』

やよい『………』


長介『ただでさえ姉ちゃん、家のことでいつも忙しいのに』

長介『お金が欲しいからってだけでやらないほうがいいよ……絶対辛くなるよ』


やよい『……心配してくれてるの?』

長介『……別にそういうわけじゃ……』


やよい『……だいじょうぶ!』

長介『………?』


やよい『私ね、歌ったり踊ったりするのは楽しいから大好きだし!』

やよい『もちろん忙しくなると思うけど、私は元気がとりえだから!』

やよい『だからへっちゃら!』


長介『………ホント?』

やよい『うん!だから長介はお姉ちゃんの心配をする必要はありません!』

長介『………』

やよい『……もう事務所の社長さんともお話して、決めちゃったことだし』

やよい『私、頑張るよ!』

長介『………そっか』


長介『じゃあ、応援するよ。姉ちゃん』

──────


──────

長介『えーと……浩司のミルク作らないと……』

長介『あぁ、炊飯器……スイッチ忘れてた…!』

長介『かすみー!ちょっと手伝って!』

長介『あとは……』

浩太郎『にーちゃんしゅくだいてつだってー』

長介『あとでな!……あぁ、大変だ………』


長介『……姉ちゃん、ずっと一人でやってたんだな……これ……』


ガラガラ

やよい『ただいまー』


長介『あ、おかえり!』

やよい『遅くなってごめんね!ご飯作るから……』

長介『あっ、その………』

やよい『……長介?』


やよい『お手伝いしてくれてたの?』

長介『………あんま上手く行ってなくて……ごめん』


やよい『………えへへ…ありがとう』

やよい『後は私に任せて!』


長介『でっ、でも仕事で疲れてるだろ……?』

やよい『大丈夫!疲れなんて吹き飛んじゃった』

長介『……なんで? ……別にいいけど…』


やよい『~♪』トントントン

やよい『………頼もしくなったねー』トントントン

──────


──────

長介『プロデューサーさんに車をプレゼントって……』

やよい『シッ!声が大きい』

長介『……なんで?』

やよい『今までお世話になったお礼をしたいの』

長介『………いくらの車?』


やよい『………400…』

長介『………うそ』

やよい『ぷっ、プロデューサーが喜んでくれそうなのを選んだら……それになっちゃったの』

長介『………』


やよい『や、やっぱりだめかな……生活費に回したほうがいい……?』

長介『…………お父さんとお母さんには?』

やよい『まだ。……言ったら反対されると思って……』

長介『………俺は』


長介『……いいと思うよ』

やよい『……ホント?』

長介『もともとは姉ちゃんの金だし。それでやりたいことが見つかったんならいいことだと思う』

やよい『長介……』

長介『姉ちゃん、ずっと家族のために頑張ってたんだしさ……ちょっとくらいわがまましてもいいんじゃないかな』

やよい『…………』


長介『相変わらず生活はキツキツだけど……お金はまた稼いだらいいよ』

やよい『………グスッ…』

長介『ね、姉ちゃん……?』

やよい『………ごめん……嬉しくて……』

長介『……』

やよい『……グスッ。長介は優しいね』

長介『……俺だって、たまには姉ちゃんのためを思って言うこともあるよ』

やよい『……たまになんだ。えへへ』

長介『……そう。たまにね』

──────


──────

やよい『プロデューサー、車すっごく喜んでくれたんだ』

長介『よかったじゃん』

かすみ『それでお姉ちゃん、お仕事はどうなるの?』

やよい『しばらくは担当を外れることになったけど、またプロデュースしてくれるまでお姉ちゃん頑張るよ!』

長介『うん。とりあえずお疲れさま』

やよい『ありがとう!ご飯用意するね!』スタスタ


かすみ『お兄ちゃん』

長介『ん?』

かすみ『お姉ちゃん、最近ずっとごきげんだね』


長介『ちゃんとお礼できたことが嬉しいんだろ。いいことじゃんか』

かすみ『……お兄ちゃんはお姉ちゃんのこと、誰よりも考えてるもんね。だからすぐ分かるんだ』

長介『べ、別にそんなことは……』

かすみ『いいことなんだから恥ずかしがらなくてもいいのに。ふふふ』

長介『………まあ、世話になってるし……そのくらいはな』

かすみ『そうだね』


ピンポーン


長介『?』

かすみ『お客さん?こんな時間に』

やよい『私出るよ』


   『お父さんがいなくなった……?』

長介『………!』

かすみ『えっ、今なんて……』

長介『……かすみ、浩太郎たちとこのまま部屋にいろ』スック

かすみ『えっ、お兄ちゃん…?』


長介『………』ソローリ


  『そうです。そんでね、アンタがたの親父さんだけど』

  『ウチから借りたものを返してくれてないんですよ』

やよい『返してないって………』

  『……利子含めて、えーと……』ポチポチ

  『こんなもんです』スッ

やよい『………400……そんな……!』


長介『!!』


──────

長介『…………』

やよい『…………』

長介『………姉ちゃん』

やよい『…………』

長介『…………ご飯、作ったよ』

やよい『…………』

長介『…………』

やよい『………車ね』

長介『…………』

やよい『……半額で売れたって』

長介『…………』

やよい『それと、残ってたお給料でも足りなくて……』

やよい『………あとはプロデューサーが出してくれた……』

違ってたらスマンが
足長の人のだったら時系列的に最新の話になんのかな


長介『……お金ならまた頑張れば』

やよい『違うの……!』

長介『…………』

やよい『せっかく、プロデューサーに初めてしてあげられたお返しだったのに…ぃ…!』


やよい『…ウグッ…全部なくなっちゃった……ヒッグ…!』

やよい『………私がっ…ばかだからぁ……グスッ…!』

長介『……やめろよ……』

やよい『…………ごめんねっ…!!ちょうすけっ……ごめんね……!!』

長介『…………』

やよい『……ぷろでゅーさーっ………!!ごべんなさいっ……ぁぁぁぁっ……!!』

長介『…………』



   『………ぅぁぁあぁんっ……!!』



かすみ『………どうだった…?』

長介『…………くそっ……』

かすみ『…………おねえちゃん……』

長介『………くそっ……!』



長介『……姉ちゃん…』

──────

風呂

>>77
そんなとこ


──────

長介『…………』

やよい『…………』

長介『……姉ちゃん、事務所やめたんだ』

やよい『…………ごめんね。勝手に決めて……』

長介『…………』

やよい『…………私…続ける自信なくしちゃって……お金返さないといけないのに……』

長介『……いいんだ』

長介『…………今までお疲れさま』

やよい『…………ごめんね…長介……』


長介『…………』

かすみ『お兄ちゃん……お姉ちゃんは……?』


長介『……姉ちゃんはちょっと疲れちゃったんだ』

長介『……色々大変だったから、ちょっとショックを受けてるけど…また元気になってくれる……』

かすみ『…………グスッ……あんなおねえちゃんいやだよ……っ…』


長介『……かすみ』

かすみ『………?』

長介『……姉ちゃんは俺たちのために、今までずっと頑張ってきたんだ』

かすみ『……うん』

長介『仕事頑張って、家では家事もやって……自分の幸せなんて全部後回しだったんだよ』

かすみ『……うん……』


長介『……今度は俺の番だ』

長介『姉ちゃんがまた元気になるまで、俺が何とかする』

かすみ『なんとかって……』

長介『かすみにも手伝って欲しい』



長介『……俺たちが姉ちゃんを助けてやるんだ』


──────

  『はじめまして、高槻君。息子から話は聞いてるよ』

長介『はい!よろしくお願いします!!』

  『いい返事だ。新聞配達は朝早いから毎日大変だと思うけど、頑張って続けて欲しい』

長介『頑張ります!!』



長介『はぁ、はぁ、はぁ……これで……』キーコキーコ

長介『最後の……一軒!』コトン

長介『……山の上の家なんて聞いてないよ……はぁ疲れた……』

長介『…………よし』


長介『……おれ……仕事したんだ……』

長介『…………ふぅっ…』

長介『………いい眺め。これから頑張ろう』


ガラガラ

長介『ただいまー』

やよい『ちょ、長介?こんな朝早くにどこ行ってたの?』

長介『えと……ランニング!』

やよい『…最近はじめたの?』

長介『そうなんだよー、結構気持ちよくってさ』

やよい『……そっか』


かすみ『朝ごはんできたよー』


やよい『……起きたらかすみがご飯作ってくれてるし……なんだか今日は変なの』

長介『ま、まあこういうときもあるよ。早く食べよう!腹減ったよ』

かすみ『浩太郎たち起こしてくるね』スタスタ

やよい『う、うん……』


やよい『……?』

──────

ガラガラ

長介『ただいまー』

やよい『おかえり。おはよう、今日もランニング?』

かすみ『おかえり。ご飯できてるよ』

長介『やったー。早く食べよう』

やよい『……長介、最近疲れてるみたいだけど。無理しないでね』

長介『無理なんかしてないよ。好きでやってるんだから』

やよい『ならいいけど……日も出てないうちに出て行くの、お姉ちゃん知ってるんだからね』

長介『それは……長く走りたいから』

かすみ『まあまあお姉ちゃん。しばらくしたら飽きてやめるから』

長介『や、やめねえよ!』

やよい『?』


長介『いただきます』

やよい『……いただきます』

──────

かすみ『…………うん。おいしくできた』

やよい『…ふわぁ…おはよう、かすみ』

かすみ『あ、お姉ちゃん。おはよう』

やよい『……今日も長介はランニング?』

かすみ『う、うん』

やよい『………そっか』

やよい『かすみが朝ごはん作ってくれるのは嬉しいんだけど、二人して何かあったの?』

かすみ『なんでもないよ』

やよい『……本当に?』

かすみ『……本当だよ?』

やよい『………』


ガラガラ

長介『ふぅ、ふぅ、ふぅ…ただいまー』

かすみ『お兄ちゃんだ。おかえりー』

やよい『……ランニング、毎日たいへんそうだね』

長介『いや、大したことないよ』

やよい『………浩太郎たち、起こしてくる』

かすみ『私が行くよ。お姉ちゃんはご飯食べてて』スタスタ

やよい『…………』

長介『…………』

やよい『二人とも、私に何か隠してない?』

長介『な、何を?』


やよい『お姉ちゃんに内緒で何かやってるんじゃないの?』

長介『……何もしてないよ』

やよい『……本当に?』

長介『本当だよ!』

やよい『………』

長介『…いいから食べよう』

やよい『…………』

──────

かすみ『お兄ちゃん……お姉ちゃん、うすうす感づいてるよ』ボソボソ

長介『もう少しだ……明日お給料がもらえるから…それまでは絶対に内緒』ボソボソ

かすみ『……お姉ちゃん、喜んでくれるかな……』

長介『大丈夫。大丈夫……』

かすみ『……頑張ってね、お兄ちゃん』



やよい『……長介』

やよい『……かすみ』


やよい『一体何を隠してるの……』


やよい『…よし』


──────

長介『給料、思ったよりも多かったな』

長介『おじさん、もしかしてサービスしてくれたのかも………』


長介『………』

長介『………いよっし…!』グッ

長介『早く帰って報告を……!』


ガラガラ

長介『ただい……』


  『正直に言いなさい!!』


長介『!!』ビクッ


かすみ『お……お姉ちゃん……』

やよい『かすみも……長介も…私に隠し事してるでしょ!!』

かすみ『……だからなにも…』

やよい『お姉ちゃんには分かるの!!』

かすみ『っ……』ビクッ


長介『姉ちゃん!』

やよい『! 長介……』

長介『………』

やよい『………』

長介『………』


やよい『………長介っ……かすみぃっ………!』

やよい『お願い……話して……ッグ…』

長介『…え?な、何で泣くんだよ!?』


やよい『私が……お仕事やめたから……?』

やよい『……家事もできなくなったから……?』


やよい『……頼りないお姉ちゃんになっちゃったから……だから何も言ってくれないの……?』

かすみ『…お姉ちゃん……』


やよい『……うぅっ……!グシュッ…ごめんなさいっ……』

やよい『もっど…もっどがんばるがら……』

やよい『だからっ……うっぐ……ヒグッ…!!』

かすみ『……お兄ちゃん』

長介『………』コクリ


長介『……違うよ、姉ちゃん』

やよい『……へ?』


長介『頼りなくなんてなってないよ。姉ちゃんはずっと頑張ってたんだもん』

やよい『……長介……』

長介『……今まで隠しててごめん。はい、これ』スッ

やよい『………お金……?どうして』


長介『ランニングに行ってたのはウソ。……バイトしてた』

やよい『……バイト…?』

長介『姉ちゃんがもらってたのより全然少ないけど……』

やよい『………』


長介『……姉ちゃんに元気になってほしくて、俺たちでも色々できるんだって証明したかったんだ』

かすみ『……黙っててごめんなさい』


長介『………お願いだよ。元気な姉ちゃんに戻ってよ……』

長介『………辛そうにしてる姉ちゃんを見ると、俺たちも辛いんだよ……!』


やよい『…………ふっ、ふたりともっ……私っ、私っ……!!』

長介『………姉ちゃんっ……!!』

かすみ『……お姉ちゃん…』

やよい『ありがとうっ……ごめんねっ……ヒグッ…グスッ…!!』

長介『……うん…うん…!』

かすみ『…グスッ……』

やよい『私……私、頑張る……!』

長介『うんっ……!』



やよい『ありがとう……二人とも大好きだよ………』

──────


──────


やよい「大変な時期もあったね」

長介「そんなことまでいちいち覚えてるのかよ……」

やよい「でもね、私長介とかすみのおかげで立ち直れたんだよ」

長介「…………」

やよい「ありがとう。感謝してるよ」

長介「……別に」

やよい「…………」

長介「…………」

やよい「……もう3時だね」

長介「もう寝ろよ。写真も全部見終わっただろ」


やよい「もう少しお話しようよ」

長介「…………」

やよい「いいでしょ?」


長介「分かってるの?明日は、っていうか今日は……」

やよい「そうだけど!最後に……」

長介「……最後とか言うなよ」

やよい「…………」

長介「…………」

やよい「…………」


長介「……しょうがないな」

やよい「……えへへ」

長介「目にクマ作って式に出たりするなよ」

やよい「大丈夫だよ」


──────

長介『奨学金、受けられるようになったの?』

やよい『うん!よく分からないけど、特例で認められたって』

長介『やったじゃん!やっぱ大学受けなよ』

やよい『……うーん、それはちょっと迷ってるの』

長介『行ったらいいのに。楽しいはずだよ』

やよい『でも……そうなるとやっぱり楽じゃないし……』

長介『俺も高校受験頑張るからさ!な』


やよい『……うん。考えてみる』

──────


──────

長介『……あるの!?ないの!?』

やよい『待ってよ、今探してるから……841番……えーと…』

かすみ『………』ソワソワ

長介『早く……!』


やよい『………あっ……!』

長介『………あるじゃん……!!』

やよい『……やった……! 受かった!!』

長介『やったああああ!!』ダキィ

やよい『はわっ!?』

長介『良かったなぁ、良かったなあ!!おめでとう!!!』ギュゥ

やよい『ちょ、長介、苦しい……』

長介『あ、ごめん』パッ


かすみ『お姉ちゃん、よかったね……おめでとう』

やよい『うんっ……!ありがとっ…グスッ……』

長介『………よかった……』

かすみ『お兄ちゃん、泣きそうになってる』

長介『…はっ!?な、泣くわけないだろ!姉ちゃんが受かったくらいで…』ゴシゴシ

やよい『えへへ……そうだよ、長介。まだ長介は入試残ってるんだから』

長介『……大丈夫。絶対受かる』

かすみ『頑張ってね』

──────


──────

やよい『……あるの!?ないの!?』

長介『待てってば、今探してるから……023番……えーと…』

かすみ『………』ソワソワ

やよい『早く……!』


長介『………あっ……!』

やよい『あった……!』

長介『やった……! 受かった…!!』

やよい『やったぁぁあああっ!!』ダキィ

長介『うわっ!?』

やよい『良かったね、良かったね長介ぇ……!!』ギュゥ

長介『ね、姉ちゃん、苦しい……』

やよい『あ、ごめん』パッ


かすみ「お兄ちゃん、良かったね…おめでとう」

長介『ああ、ありがとう…!』

やよい『…よかったぁ……グスッ…』

かすみ『お姉ちゃん、泣きそうになってる』

やよい『だってっ……嬉しくてっ…ちょうすけぇえっ……!』

長介『や、やめろよみっともない……』

かすみ『いいじゃない。お姉ちゃん、最後までずっとお兄ちゃんの心配してたんだよ』

やよい『うぇぇええん……』

長介『もう……しょうがないな……』

──────



──────

やよい『何しに帰ってきたの?お母さんは』

  『母さんは実家だ。せっかく会いに来てやったのに冷たいなぁ』

やよい『今更戻ってきて、連帯保証人だなんて……私絶対ならないよ』

  『いいんだぜ?お前がダメなら長介にでも頼むから。それがダメならかすみだな』

やよい『やめてっ!長介は受験なの……そんな心配させられない!』

  『じゃあサインしろよ』

やよい『…………』



長介『かすみ。姉ちゃんは……?』

かすみ『よく分からないけど……お金の話してる』

長介『………』



  『さすが、俺の自慢の娘だぜ』


長介『おい』

  『あ?なんだ長介、父親に向かってその口の聞き方は』

長介『うるさい。お前なんて父親じゃねえよ』

  『………まあいいわ』

長介『姉ちゃんと何の話をしてたんだ?』

  『お前にゃ関係ねえよ』

長介『…………』


ガラガラ

  『じゃあな。長男』


長介『二度と来んな!!』ピシャン

──────


──────

やよい『まっ、待ってください……お金なら払いますから…もう少しだけ……』

  『払えないってんなら、別のやり方で返してもらってもいいんだぜ?』グイッ

やよい『えっ!?ま、待って!!離してくださいっ!!』


長介『………姉ちゃん…!?』

  『悪いようにはしねえよ、いいからついて来な』

やよい『長介っ!!来ちゃダメ!!』

長介『姉ちゃん!!!』


長介『………姉ちゃん……』ガタガタ

長介『………姉ちゃん……!』ガタガタ


やよい『っ………たすけてっ……!!』

長介『………っ…!!』


長介『……姉ちゃんに………』

『…うわっ、何だお前……』


長介『触るんじゃねえよぉっ!!!!』ダッ

『!?』

長介『あああああああああっ!!』バキッ

  『んぐっ……!!』


  『このっ……』ドカッ

長介『うっ…!?』ドサッ

やよい『長介!!だめっ!!』

  『調子に乗るなっ!!』ボコォ

長介『ぐぁっ……!!』

やよい『やめてっ!!長介には何もしないでっ!!』


長介『ねえちゃ………ぐっ……』

  『オラッ!!』ゲシッ

長介『あがぁっ……!!』

  『くっそが……!!』バキッ

長介『っ………!!』

やよい『やめてぇえっ!!!長介っ!!ちょうすけぇ!!!!』


     『……おい、何か騒がしいぞ』
    ザワザワ ガヤガヤ
『高槻さんのお宅だぞ?なんだ?』
ザワザワ     ザワザワ
   『泥棒かしら?』

  『……っ…騒ぎになった。ずらかるぞ』

  『ったく……また来るからな!!金は用意しとけよ!!』

ガラガラ


長介『…………かはっ……』ヨロ…ヨロ…

やよい『長介っ……!!ばかっ!!なんであんな危ないこと……!!』


長介『……いってー………はぁっ…はぁっ……』

やよい『死んでたかもしれないのに………ばかっ!!!ばかばかっ!!!』

長介『はぁっ……はぁっ……姉ちゃん……無事か……』

やよい『私はっ…大丈夫だけど……長介っ……しっかりしてっ……!!』

長介『はぁっ……はぁっ……よかった………』

やよい『長介っ!………長介っ!!ちょうすけっ!!!』


やよい『救急車を………!!長介ぇっ!!!ちょうすけぇっ!!!!!』


──────

ちょい休憩

いい忘れてたけどつながっているお話
やよい「うっうー!お金くれるおじさん大好きですーっ!」
やよい「私のあしながプロデューサー」


──────

  『急患だって』

  『どんな?』

  『高校3年生、殴打による全身打撲』

  『喧嘩でもしたのかな?』


  『全く最近の若いモンは血の気が多いですな→真美殿』

  『同感ですな亜美殿』


やよい『………看護師さん!!弟の様子は………』

  『ええ、まだ意識はありませんが大した怪我では………』

  『…………ん?』





亜美『……で、やよいっちとの久しぶりの再会を喜びたいところではあるんだけども……』

真美『高槻さん、弟さんの怪我に心当たりは?』

やよい『それが…………』



亜美『なるほど……悪者がやよいっちを襲おうとしたところを』

真美『長介が身を挺してかばったと』

やよい『……そうなの』


亜美『全く長介も危ないことをするもんだ』

真美『困った奴だ』

やよい『…………』

亜美『で、なんで悪者に襲われたの?そもそも何者なの?』

やよい『そ、それ…は………』

真美『…………』

亜美『…………』

真美『……言えないジジョーでもあるのかな?』

やよい『………ごめんね』


亜美『……しっかし長介もやよいっちが相当大事みたいだね→』

やよい『……え?』

真美『気を失うまで代わりに殴られるなんて、普通じゃできないよ』

亜美『ちゃんと感謝してあげなよ?』

やよい『……うん……』


真美『いい弟じゃん。ヒーローだね』ポンポン

やよい『……そうかな……えへへ』


──────


──────

長介『…………ん、ぁぃてて…………』

亜美『あれ、目覚めたっぽい?』

真美『ほらほら!動いちゃダメだYO→』

長介『………ここは…』

亜美『病院だよ』

真美『ずいぶんとひどい怪我して運ばれてきたもんね、キミ」

長介『………姉ちゃんは……?』

亜美『やよいっちのことかい?』

真美『心配しなさんな、さっき帰ってったけど怪我ひとつしてないからさ』

亜美『悪者から勇敢に姉を守る弟…んっふっふ~』

真美『長介、やるじゃん。かっこいいNE!』

──────


──────

長介「………あの後病院で安静にしてたら、その間にもっと大変なことになってたみたいだし……」

やよい「あれは人生で一番怖かったなぁ」

長介「人攫いにあったのになにをのんきなことを……」

やよい「……でもね、最初に長介が私のこと守ってくれてなかったら、今頃もっとひどいことになってたと思うんだ」

長介「…………まあな」


やよい「長介には色々お世話になったね」

長介「そんなの……俺だって」


やよい「ねえ」

長介「ん?」

やよい「寂しい?」

長介「何が?」

やよい「………私が出て行ったら」

長介「…………」

やよい「…………」

長介「…………」

やよい「…………」


長介「……当たり前だろ」


長介「でも……仕方ないよ。プロデューサーさんなら安心して任せられるはずだし」

やよい「………そうだね」

長介「…………」

やよい「…………もう4時なんだ」

長介「ホントに、早く寝ないとたいへんなことになるぞ」

やよい「……あと何時間?」

長介「12時からだろ。8時間だ」

やよい「……そっか」


やよい「あと8時間で高槻じゃなくなるんだ……」

長介「…………」



やよい「………私っ……」

やよい「……結婚…やめようかな……」


長介「………馬鹿なこと言うなよ」

やよい「……だって…みんな……長介もかすみも…浩太郎も」

やよい「……浩司も……浩三も……みんな……」

やよい「……さみしがるよ……」

長介「…………」

やよい「それにっ………」

長介「…………」


やよい「………長介ぇ……」

やよい「……みんなと離れたくないよぉっ……ひっぐ…!」

長介「…………」

やよい「…ぅ…っ……! グスッ……!」



長介「ばーか」


やよい「なっ………」ゴシゴシ

やよい「お姉ちゃんに馬鹿って言わないの!」

長介「バカな姉貴を持つと苦労するよ」

やよい「あっ、また言った……!」


長介「別に一生会えなくなるわけじゃないだろ。いつでも遊びに来たらいいじゃん」

やよい「…………」


長介「男の俺が言うのもなんだけどさ」

長介「プロデューサーさんみたいないい男、なかなかいないよ」

やよい「…………そうだけど……」

長介「姉ちゃんが誰と結婚して、どこに引っ越して、ずっとお別れになったとしてもさ」



長介「家族はずっと家族だよ」


やよい「…………ちょうすけ……」

長介「俺は高槻家で一番姉ちゃんとの付き合いが長いんだぞ。何考えてるかくらい分かる」

やよい「………ちょうすけぇっ……!」

長介「ちょうど俺も兄貴欲しかったしさ」

やよい「…………ぢょーずげぇっ……!ヒッグ……」

長介「姉ちゃん、ずっと俺らのために色々してくれたしさ。これでちょうどいいんだよ」

やよい「うう゛っ……!!ヒック……んう゛っ……!!」

長介「今までお疲れさま」

やよい「………んぐぅっ……ぢょうっ……ぢょぉすけっ……!!」



長介「………行けよ」

やよい「……っ!!……ッグ……!!グジュッ……ウグッ…!!」コクコク

長介「…………泣くなよ」


やよい「……ぅぁぁぁぁぁぁん……」

長介「こらっ、みんな起きちゃうから……大きい声だすな」

やよい「ちょうすけぇえっ……ぁぁぁぁあん……」

長介「……もうっ……」

やよい「ごべんねぇっ……だめなおねえぢゃんでごべんねぇっ……!」

長介「………はいはい」ナデナデ

やよい「ありがどっ……ちょうすけっ……だいすきだよぉっ……!!わぁぁあん……」

長介「…………」ナデナデ

落ちそうだけど飯


──────

やよい「………すぅ……すぅ……」

長介「……姉ちゃん」

やよい「………すぅ……すぅ……」

長介「……寝たか」


長介「…………明日は忙しくなりそうだなぁ」


長介「……よっと」スクッ

やよい「んふぁあぁ……ちょーしゅけぇ……ムニャ…」

長介「…………?」


やよい「……すぅ……すぅ……」

長介「…………目が腫れてるぞ姉ちゃん」

長介「せっかくの日に寝不足泣きっ面で、散々だな」


長介「………おやすみ」


──────

長介「あ、どうも。プロデューサーさん」

P「……おぉ、長介君」

長介「今日はうちの兄弟全員いますよ」

P「そうか………」

長介「……緊張してます?」

P「そ、そう見えるか?」

長介「ガッチガチですね」

P「ガッチガチか……」


長介「いつも通りでいいと思いますけど?」

P「とは言ってもだな……」

長介「ははは……思い出しますね」



P『おっ……お姉さんと!!』

P『やよいさんと結婚させてくださいいいぃいぃっ!!!!』



長介「いっつも冷静だったプロデューサーさんがあんなにテンパりながら話す人だったとは」

P「いや、いずれ君にも分かる。あれは恐怖以外の何でもない」

長介「覚えておきますよ」


かすみ「お兄ちゃん」トテトテ

長介「ん?どうした?」

P「かすみちゃんか。久しぶり」

かすみ「お久しぶりです」


かすみ「お姉ちゃんが見に来てほしいんだって」

長介「何を?」


かすみ「ドレス姿だよ。部屋の前に浩太郎たちがいるからすぐ分かるよ」

P「…………」ソワソワ

かすみ「プロデューサーさんはまだお預けですよ?」

P「う……分かってるよ」

長介「それじゃ、また後で!」


P「…………」


P「……あぁやべぇ、緊張がやばい……律子ぉ~」


──────

コンコン

長介「姉ちゃん?いる?」

やよい「どうぞー」


ガチャ

長介「入るぞ……」


ファサッ…


長介「…………!」


やよい「えへへー。似合う?」クルリン

長介「…………」


やよい「……長介?」

長介「あ、ごめん………うん、似合ってるよ」

やよい「ホントに?よかったぁ……」

かすみ「お姉ちゃん、真っ先にお兄ちゃんに見せてあげたかったんだって」

長介「……そうなの?」

やよい「うん。みんな入ってきていいよー」


ガチャ

浩太郎「うっわー、お姉ちゃん綺麗だね」

浩司「めっちゃ似合ってるよ!」

浩三「いよいよなんだねぇー」

やよい「えへへ。みんなありがとう!」

かすみ「はい。見た人はもう一度出てくださーい」

長介「え?」

かすみ「まだ終わってないところがあるの!ほら早く出て行った行った」

浩太郎「ちぇーっ」

浩三「本番までどのくらい?」

浩司「1時間くらいかな」

バタン


長介「…じゃ、俺もいっぺん出るわ」

やよい「あ、待って長介!」

長介「ん?」

やよい「これ……今のうちに渡しとくね」スッ

長介「……手紙?」

やよい「今日が終わって、おうちに帰ってから読んでほしいの」

長介「……分かった。何が書いてあるの?」

やよい「そ、それは秘密!!」

長介「………そっか」

かすみ「終わった?はいお兄ちゃんも一旦退場ね」

長介「…………」


バタン


──────

ゴーン…ゴーン…


春香「出てきた!!出てきたよ!!」

真「やよいー!!プロデューサー!!おめでとうございますっ!!」

雪歩「おめでとうございますぅ!」

P「ありがとう!」

響「うわーん!!やよいぃ……!!幸せになれよぉ……!!」

貴音「響……これを」スッ

響「うぐぅっ…ありがどっ…」チーン


高木「いやぁ、我が事務所からこんなにすばらしい夫婦が生まれるとは……」

P「社長はなんで司祭をやっていたんですか?」


あずさ「やよいちゃん、とっても素敵だわ~。綺麗ねぇ」

やよい「ありがとうございます!」

美希「おめでとうなの!ミキもすぐケッコンするから待っててね!!」

P「ああ。そのときは是非呼んでくれ」

伊織「やよいっ……グスッ…おめでとぅっ……!!」

やよい「伊織ちゃん、泣いちゃダメだよー。えへへ、ありがとう!」


亜美「お二人さ~ん」ニヤニヤ

真美「お子さんは是非うちで産んでくださいね~」ニヤニヤ

P「お前ら……」

やよい「ま、まだ早いよ……」

真美「『まだ』だって。んっふっふ~」

亜美「いずれってことだね。んっふっふ~」

やよい「……もう、二人とも!」

小鳥「やよいちゃん、おめでとう。自分のことのようにうれしいわ……」

やよい「えへへ……小鳥さんもきっとすぐ素敵な人が見つかります!!」

小鳥「……ありがとう……グスッ」


   「こっち向いて!!写真撮るから」

         「雪歩、入ってないよ!」

  「あのっ…だれかがドレスの裾踏んでますー…!」

            「危ない!やよいがこけそう!うわぁっ!」

 「あぁっ、こけたのはやっぱり春香なの……」

       「まこと賑やかなのですね……」



長介「…………」


律子「近くに行ってあげないの?」

長介「……あなたは」

律子「お久しぶりね」

長介「……はい」


律子「他のご兄弟はみんな顔が見えるところまで行ってると思うけど」

長介「…………」

律子「何か思うところでもあるのかしら?」


長介「いえ……姉が幸せそうにしているところを見て心底ほっとしてます」

律子「………そうね。私も嬉しいわ」

長介「……でも、何でしょうね。この気持ち……分かりますか?」

律子「さぁ?私も身内の結婚式は初めてだから」

長介「…………」


律子「色々聞いたわよ。大変な時期があったらしいわね」

長介「……そうですね。直接助けていただいたこともありましたし」

律子「ええ。……プロデューサーづてで、やよいがよく話してたことを私も聞くのだけれど」

長介「?」


  『長介は家事も手伝ってくれるし、しっかりしたお兄ちゃんでいてくれてるし……』

  『危ない目に遭いかけた私のことも守ってくれました!』

  『私の大好きな、自慢の弟です!!』


律子「毎日のように、あなたのこと誇らしいって言ってたって」

長介「…………」

律子「……お互い幸せものだと思うわよ」

律子「きっかけが何であれ、あなた達ぐらい強くつながってる兄弟……他にいないわ」


律子「私にもいとこがいるから少しだけ分かるの」

律子「血の繋がりって、何があっても絶対に切れない」

律子「これからもあの子は、一生あなたのお姉さんで……」

律子「あなたは一生あの子の弟なのよ」

長介「…………」


律子「声をかけて来てあげなさい。あの子がおめでとうって一番言って欲しいのはあなたに違いないもの」

長介「…………」


長介「はい。行ってきます!」


  「姉ちゃん!!!」

  「長介!?」

  「おめでとう……おめでとう!!」

  「………ありがとっ……ちょうすけぇ……ほんとにっ……ありがとぉっ……!!」



律子「………」

律子「…………グスッ…」ゴシゴシ

律子「私も歳かしら……涙腺が緩くなったかも」


律子「……やよい、おめでとう」


──────

ガラガラ

  「「「「「ただいまー」」」」」


浩司「はぁーっ、疲れたぁ……」

かすみ「お姉ちゃん、とっても綺麗だったね……」

浩太郎「いやーよかったよかった」

浩三「お姉ちゃんは?」

長介「今日はプロデューサーさんのとこに泊まるってさ」

浩太郎「昨夜はお楽しみでしたね」

かすみ「やめてよ、浩太郎」

長介「………晩飯の用意しといてくれ。俺、ちょっとやることがあるから」

かすみ「いいけど、どうかしたの?」

長介「……ちょっとな」


カラカラ…

長介「入るぞー……」


長介「……もういないけどな」

長介「………さて」


  『今日が終わって、おうちに帰ってから読んでほしいの 』
  

長介「………ふぅ……」

長介「…………」

長介「よし……」ゴソゴソ


──────

長介へ。

この手紙を読んでいるとき、みんなは私抜きで家に帰って、
いつもと同じように仲良く晩御飯の準備を進めている頃かな。
長介は一番上のお兄ちゃんだから、これから高槻家をしっかりまとめて、
頑張ってくれることでしょう。
お家のことはよろしくお願いします。

私が「お手紙」というものをどれだけ大切に思っているか、
「おじさん」の正体を知っている長介にはよく分かっていると思います。
本当は直接この言葉を伝えたかったけど、やっぱりなんだか照れくさいし、
思い出したときにいつでも読んで、私のことを思っててくれるようにと、
筆をとりました。

長介は私のはじめての大切な兄弟で、
私をいつでも笑顔にしてくれた素敵な子で、
どんなときでも私を影で支えてくれて、
辛いときには抱きしめてくれて、
嬉しいときには一緒に喜んでくれて、
悲しいときには慰めてくれて、
危ないときには私を助けてくれたね。

長介と初めて会ったときから、私はずうっと長介を一番大切に思ってきたよ。


これからほんの少し離れ離れになっちゃうけど、
私はいつでも長介やみんなのことを考えてます。
だって、お姉ちゃんだから。
心はずっとすぐそばでつながっています。
だって、家族だから。

長介も、よかったら私の幸せを願っていてください。

今まで本当にありがとう。これからもよろしくね。
大好きだよ。
                  やよい

P.S.今まで大事にとっておいたプレゼントがあります。
押入れの中の箱を探してみてください。
──────




長介「………グスッ……ハァッ………」

長介「……ばかだな……グスッ……!」


長介「……押入れ……グスッ…」スーッ

長介「……スンッ…スン……どこだ……?」ゴソゴソ


長介「……もしかしてこの箱……?」ガサゴソ


  『ちょうすけえ』


長介「……姉ちゃんの字…? いつ書いたんだ……?」

長介「中に何が……」パカッ


長介「!!!」


──────

ゃょぃえ『へー……ふたつめー!できたー!』

ゃょぃ『ちょーすけ!どう?じょうず!?』

ゃょぃ『これはね、ちょーすけにあげる!ぷれぜんと!』

ゃょぃ『おねえちゃんとちょーすけは、ずーっといっしょにいるの!』

ゃょぃ『あ、でもでも!いまはぷれぜんとしない!』


ゃょぃ『これはね、わたしがおおきくなってけっこんして、およめさんになったらあげりゅ!』

ゃょぃ『だからそれまでまっててね!』


ゃょぃ『……あれ?』

ゃょぃ『でもでも、わたしはおおきくなったらちょーすけとけっこんするから……』

ゃょぃ『あれれ?どうすればいいんだろー?』


──────


長介「………思い出したよ……思い出したよ……!!」

長介「………アルバムに写ってなかった……二つ目の絵……!」


長介「これだったのか…!……ヒッグ…!!う゛っぐ…!!あ゛ぁ゛っ……!!」


長介「……ねえちゃんっ……!!フグッ…!!ねえぢゃんっ……!!」


長介「ねえぢゃんっ……!!ぁあぁっ……ねえちゃんっ………!!…グジュッ…!」


長介「………うわぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛んっ………!!!」

>>253訂正
ゃょぃえ『へー……ふたつめー!できたー!』

ゃょぃ『えへへー……ふたつめー!できたー!』


──────


  「かすみ姉、長介兄呼ばないと……」

  「もうちょっと待ってあげて」

  「なんで?ごはん冷めちゃうよ」

  「いいの」

  「?」


  「男の子だって、一人で泣きたいときはあるんだよ。分かるでしょ?」





長介「…………グスッ……」


長介「………んぁ……」


長介「………寝てたのか……」


長介「……………」ゴシゴシ

長介「………ふぅ……」


長介「…………よし…!」パンパン


長介「……俺は高槻家長男…長介……」

長介「……これからは俺が頑張らないと……!」


長介「見てろよ姉ちゃん!」




  「遅くなってごめん!ご飯食べるか!」

  「もう、随分待ったよお兄ちゃん」

  「おそいぞ長介兄!」

  「全員気合入れろよ!明日から忙しくなるんだからな!」

  「お兄ちゃん、なんか朝より元気だね」

  「俺はいつでも元気だぞ!!」


──────

チュン……チュン……


ピピピピピ…ピピピピピ…

カチッ

長介「……んぅ………」

長介「………もう朝か……頑張るか……うん…」ムクリ



かすみ「あ、お兄ちゃん。おはよう」

長介「おはよう……」ゴシゴシ

やよい「おはよー」

P「おはよう」

長介「おはよう………」



長介「えっ!!!???」


長介「何で二人ともいるの!?」

やよい「えへへ……あのね、色々あって……」

P「ごめんな。俺の提案なんだ」

長介「……どういう……!?」

かすみ「朝ごはんできてるよー」

P「昨日……」


P『やよい……これからのことなんだけど』

やよい『はい……』

P『やよいと家族さえよかったらなんだが……みんなで一緒に暮らさないか』

やよい『……それって、うちでってことですか?』

P『やよいも、いきなり二人暮らしより兄弟と過ごしたほうが嬉しいんじゃないかと思ってな。どうだ?』


かすみ「……で、お兄ちゃんが寝てる間にプロデューサーさんからお電話もらって」

やよい「みんな賛成みたいだったから、こうしてお邪魔してるの!」


長介「…………」

P「いきなりで本当に申し訳ない。きちんとお金も入れるし、家事も手伝う。あとは長介君の返事次第なんだけど……」

長介「………つまり、姉ちゃんはまたこっちに帰ってきて一緒に住むってこと……?」

やよい「そうだよ」


長介「…………お前……」

やよい「えっ……長介、お顔が怖いよ……」


長介「俺の……俺の涙返せよ!!」バシンッ

やよい「あうぅっ!?背中がいたいぃ……」


長介「このっ……バカ!!バカ姉貴!!」バシンッ!バシンッ!

やよい「ちょっ……お姉ちゃんにバカなんて言わないの!」

長介「うるさい!!このバカ!!バカヤロウ!!姉ちゃんなんか嫌いだ!!」バシンッ!バシンッ!

やよい「えうぅ、いたいいたい!!かすみぃ、長介がいじめる……たすけてぇ……!」


P「……姉弟げんかって奴か?長介君怒ってるのかな」

かすみ「そんなことないですよ。はい、お味噌汁です」コトッ

P「あ、ありがとう……かすみちゃんは本当に冷静だね……」


長介「このっ!!反省しろ!!」バシンッ!バシンッ!!

やよい「なんでぇっ!?せなかにもみじができちゃうよ……!!プロデューサー!助けてぇ……」


P「やっぱ止めたほうがいいのかな?」

かすみ「大丈夫ですよ。見てください、お兄ちゃんの顔」

P「ん……?」


長介「このっ……本当にもう!あはは!!あはは!」バシッ!バシッ!

やよい「ご、ごめんなさいぃ……長介ぇもうやめてよぉ……!」


かすみ「あんなに嬉しそうなお兄ちゃんの顔、久しぶりに見ました」

P「……ホントだ。笑ってるわ」


P「………さすが高槻家だな。みんな仲がよくて何よりだ」

かすみ「そうですね。……ねぇ」

P「何?かすみちゃん」

かすみ「私のことはかすみでいいですよ」

P「えっ!?」


かすみ「これからよろしくお願いしますね。義兄さん」

P「」



長介「もう……しらねえよ姉ちゃんなんて」

やよい「いったたた……でも、約束はちゃんと守ったでしょ?」

長介「………約束?」


やよい「私と長介の、生まれて初めての約束だよ」


──────

ゃょぃ『ちょーすけっ!』

ゃょぃ『やくそくだよ!』

ゃょぃ『わたしたちはかぞくだから、なにがあっても』

ゃょぃ『ずーっといっしょにいるって』

ゃょぃ『わかった!?ゆびきりげんまんしよ!』



ゃょぃ『………はい!ゆびきった!』

ゃょぃ『……えへへー……ちょーすけっ!』


ゃょぃ『だいすきだよ』


──────

http://i.imgur.com/pwofE.jpg


終わり

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3498788.png
乙でした>>1 本当にありがとう。 志宴。


絵はマウスで描くとちょうどいい具合になった


一応スピンオフっていう形で「あしながプロデューサー」完結です
お付き合いありがとう

>>309
最高です 感謝いたします

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