梨穂子「……ごめんなさい、橘くん」(548)

廊下

純一「え?」

梨穂子「………」

純一「ちょ、ちょっと待てよ梨穂子……橘くん…?」

梨穂子「………」

純一「な、なんだよ…前みたいに純一って呼べばいいだろ…?」

梨穂子「その…」

純一「あっ、うん!? なに梨穂子っ? あ、もしかして冗談だった?
   おいおい、それちょっと冗談としてなら笑えないから───」

梨穂子「………」くる…

梨穂子「……ごめんなさい、私ちょっと急いでるので」

すたすた

純一「…え?」

梨穂子「………」

純一「…なんだよそれ」

たっ

純一「──梨穂子!? おいって、どういう意味だよそれ!?」ぐいっ

梨穂子「きゃっ…!」

純一「な、なんでそんな他人行儀なんだよ…!? 僕だよ僕!? 橘純一で…!」

梨穂子「っ…は、離してくださいっ…!」

純一「ッ…!? くださいって……梨穂子!? どうして───」

梨穂子「……っ…」

純一「──そりゃっ…久しぶりに会って、最近は全然喋っても無かったけど…!
   いくらなんでも、そんな態度はないんじゃないか…!?」

梨穂子「……っ」

純一「おいって! なんとか言えってば! 梨穂子!?」

梨穂子「───離してくださいっ!!」ばっ

純一「あっ……」

梨穂子「はぁっ…はぁっ……」

純一「うっ…えっと……梨穂子…?」

梨穂子「はぁっ……うんくっ…」きっ

純一「っ…」

梨穂子「もうっ……これから…っ」

純一「…え?」

梨穂子「もうこれからっ……私に近づかないでないで…っ!」

純一「なっ……!?」

梨穂子「私はっ……私はっ……」

純一「ど、どうして……そんなこと言うんだよ…? 梨穂子…?」すっ…

梨穂子「こないでっ! もっと叫びますよっ…!!」

純一「っ…」びくっ

梨穂子「はぁっ……はぁっ…私はっ……私はっ…!」

梨穂子「───貴方のことなんて全然知りませんっ!」だっ

純一「り、梨穂子っ!?」

純一「っ……ちょ、待ってよ!? 梨穂子ってば!?」すたっ…


「…何、アイツ?」

「さっきのって、リホだよね?」

「きも、もしかしてファンとか? かわいそー」


純一「……っ……」すたすた…

純一「………」

純一「………どういうことだよ、知らないって…」

純一「梨穂子…?」

~~~~~~

教室

梅原「お前が悪い」

純一「……どうしてだよ」

純一「僕はただ、ひさしぶりに梨穂子に話しかけようとしただけだぞ…?」

梅原「………」

純一「なのに……貴方のことなんて、知りません。だってさ…なんだよ一体…」

梅原「……幾つか言わせてもらっていもいいか、橘」ずいっ

純一「な、なんだよ。急に顔を近づけて…」

梅原「いいから、言わせて貰ってもいいかって」

純一「お、おう…」

梅原「あのよ、お前さんは確かーに……桜井さんの幼馴染かもしれねえ」

純一「…かもじゃなくて、その通りだよ」

梅原「黙って最後まで聞け」

純一「………」

梅原「ことさらに言えば、長年付き合いのある伝統長し立派な幼馴染だ。そうだろう?」

純一「…そうだよ? だから言ってるだろ、あんな梨穂子初めてだって」

梅原「───そこだぜ、橘。その〝初めて〟って所が重要だっ」

純一「どういう意味だよ」

梅原「じゃあ聞くが、お前さんはだな……」

梅原「……〝アイドルになった桜井梨穂子〟という人間を、知ってるのかって話だよ」

純一「…知るわけ無いだろ、そんなこと」

梅原「んだろーが、でもってさっきお前さんが言った言葉はなんだ?」

純一「あんな梨穂子初めてだってコト?」

梅原「おう、それだ。今回のことはおめーさんの仲とはいえ、はたまた幼馴染っつーところであっても」

梅原「───んなもん関係の無い、全くもって無関係な問題ってことだぜ」

純一「…すまん梅原、もうちょっとわかりやすく言ってくれ」

梅原「……。ワザと遠まわしに言ったんだが、ハッキリ言わせるのか俺に」

純一「ああ…良いんだ、言ってくれ」

梅原「…そうか、じゃあ言うけどよ」

梅原「何時まで幼馴染の仲でいるつもりだ、大将。あっちはもう世間的なアイドルだぜ?」

純一「それは……」

梅原「いーや、言い訳は聞きたくねえぞ俺は。だからさっきの出来事があったんじゃねえのかよ」

純一「………」

梅原「いくらなんでもお前さんは、あのアイドル桜井リホに対して──」

梅原「───馴れ馴れしくし過ぎなんだよ」

純一「僕は、そんな風にしたつもりは…」

梅原「そうだろうな、確かに橘はんなつもりはなかったかもな」

梅原「…だけどよ、ちょっとは考えろ。あっちはアイドル、こっちはただの幼馴染」

梅原「でっけー壁がありまくりだって思わねえか?」

純一「……だけど、知ってるだろ梅原も」

梅原「ん?」

純一「あの桜井梨穂子だぞ? おっちょこちょいで、食べることが大好きで、誰からでも好かれて」

純一「…それでふわふわとしてて、すぐに歌を歌って、まあるくて、それで……誰よりも優しい奴だって」

梅原「…まあな、桜井さんは確かにそんなイメージだな」

純一「だろ? なんのに、おかしいよあんな態度は……仮にホントにアイドルだからって、
   高飛車になるようなそんなタマの人間じゃないってことは…」

純一「……誰にだってわかることだよ」

梅原「…んでもよ、それもあれだろ、俺らの勝手なイメージだろ?」

純一「………」

梅原「例え桜井さんがそうだって思ってもよ、あんな遠くまで行っちまったら。
   ただの学生の俺らが全てを分かってやれることなんて、出来るわけがねえ」

梅原「……こう考えろよ、大将」


梅原「──桜井梨穂子は、もう変わってしまったんだってさ」


純一「変わってしまった……」

梅原「ああ、そうだぜ。もう俺らの知ってる桜井さんはここには居ないんだ」

梅原「もう、桜井リホというアイドルしかいねーんだって」

純一「……桜井リホ、だけ」

梅原「…そうだろ、こんなことよ、桜井さんがアイドルになった時から分かってたことじゃねえか」

梅原「橘自身が言ってたろ? ……アイツは遠い所に行ってしまった。ってさ」

梅原「お前さんは何気なく話しかけたつもりだったかもしれねえけど」

梅原「…そんなことも、もう許されるような関係性じゃなくなっちまったということだ」

純一「……梅原、お前さ」

梅原「なんだよ」

純一「……容赦ないよな」

梅原「ったりめーだよ、はっきり言えって言ったのはお前だろ」

純一「……うん、わかってるよ」

梅原「はぁ……俺だってこんなこと言いたくねえ、本当の所はよ」

梅原「だけど、俺はもっと…そんな大将の顔が見たくねえんだ」

純一「え…?」

梅原「ひでー顔してるぞ、さっきから」

純一「………」

梅原「まーそういうこった、だからよ。これから先───」

梅原「───なんでか知らねえけど、アイドル活動休業してまで……」

梅原「…この輝日東に帰ってきてる、この三週間まで」

梅原「出来るだけ桜井リホにあわねーように、気を付けるこった」

純一「………」

梅原「……わかったか、わかってるのか大将」

純一「…わかってるよ」

梅原「いいか、絶対に問題を起こすなよ? お前さん、絶対にだぞ?」

純一「わ、わかってるって! ……なんだよ、僕が問題を起こすとでも言うのかよ…」

梅原「ああ、思ってる!」

純一「起こさないよ!」

梅原「ははっ、わかってるって。いくらなんでもアイドル相手に色々としちまったら───」

梅原「──へたすりゃ捕まるぜ、本当に」

純一「わ、わかってるって! んだよ、僕を信用しろよ…!」

梅原「あいよ、元気も出てきたみてーだし。ほら、そろそろ授業も始まる……ぞ!」ぱしんっ

純一「あいたっ」

すたすた…

純一「…ったく、手加減をしろよ…」

純一「………」

純一(もうアイドルだから──……か)

純一「………そうだよ、な」

純一「確かに、そうだよなぁ……」

純一「………」

~~~~~~~~~~

放課後

純一「梅原ぁ、僕はちょっと職員室に用があるからー」

梅原「おーう、遅くなんのか?」

純一「わからん、だけど先に帰っていいからさー」

梅原「あいよーこってり麻耶ちゃんに絞られてこーい」

純一「まだ怒られるとは決まったわけじゃないからな!?」

職員室・ドア前

純一(───だけど、どんなことで呼び出されたのか全く分かって無い…)

純一(もしかして本当に怒られる為に呼ばれたのかな? でも、課題だって昨日ちゃんと怒られてたし…)

純一(居眠りしてた時も、呼び出されることも無く…テストの点でも呼び出しはまだ猶予がある…)

純一(んっ!? もしかして、ただ単純にイラついてるから僕を呼びだしたとかありえるかも…!?)

純一(橘くん、先生ちょっとストレス気味だから。二時間だけ椅子になってもらえないかしら?)

純一(…とかなんとか言われる可能性も……うむ、アリだなっ!)

がらり

純一「ひっ…!? ち、違います! 高橋先生僕はただ先生の臀部の感触を───……あれ?」

梨穂子「………」


純一「……りほ、こ…」

梨穂子「………」

純一「………あ」

梨穂子「………」

すっ…

純一「っ……」

梨穂子「……」すたすた…

すたすた…

純一「……なんだよ、無視しなくたって…」

ヴィイイヴィイイイ…

純一(あれ? なんだろこの音……)

梨穂子「っ……」ぴた

純一「……?」

ヴィイイヴィイイイ…

純一(この音、梨穂子から聞こえてるのか…?)

梨穂子「……」

梨穂子「……」ごそごそ…

ぴっ

純一「…なんだ、ポケベルか」

梨穂子「………」

純一(……なにやら真剣に見てるな、アイドル関係の内容かな)

純一(もう少し、もう数歩近づけば内容が見れる距離に行けるけど……)

純一(…って、何をやってるんだ僕は! そんな人のプライバシーを侵害するようなっ…)

純一「侵害するようなっ……」すた…すた…ちら…

「───橘くん?」

純一「ひぃいいいいいい!?」

高橋「きゃあ!? な、なんて声を出すの! びっくりするでしょう!?」

純一「あ、へっ? す、すみませんっ! すみません! ごめんなさい! 本当にすみませんでした!」ぺこぺこ

高橋「そ、そんなに謝られても先生も…困るんだけど…」

純一「ハッ!? そ、そうですよねー! あは、あははは!」

高橋「……? まあいいわ。それよりも、先生の呼び出しのこと。ちゃんと憶えてるの?」

純一「は、はい! 椅子になら何時間でもなりきってみせます!」

高橋「椅子…? よくわからないことを言ってないで、早く職員室に入りなさい」

純一「そ、そうですね……失礼します…」ちらっ

純一(梨穂子は……もう居ないか)

高橋「橘くん!」

純一「はい! 失礼します!」

~~~~

高橋「橘くん、君を呼びだしたのは少し相談があってのことなのよ」

純一「…相談、ですか?」

職員室横、生徒指導室。

高橋「そう……先生も出来るだけこのことは内密にしておきたいのだけれど」

純一「は、はあ…」

高橋「──桜井梨穂子さんが、今学校に戻ってきてることは知ってるわよね?」

純一「っ…は、はい」

高橋「アイドル活動とかで……先生はそういうの疎いから分からないけれど、
   学校側も公認で、長い間学校をお休みしてたんだけど」

純一「…そ、そうですね」

高橋「テレビでも新聞でも言われてる通り、彼女は今、三週間の休みを取っている」

高橋「それで学校に戻ってきてるわけだけど……ちょっと、実は問題があって」

純一「問題…?」

高橋「ええ、それが今回貴方を呼びだした理由です」

高橋「……このことは、誰にも公言しちゃだめよ。いい?」

純一「っ……え、ええ! 誰にも言いません!」

高橋「先生は、例え課題やテストの点数が悪くても。
   そういった約束事は守る橘君だって信用しているから、こんなことを言うのよ?」

純一「だ、大丈夫です! 決して先生の信頼を裏切ることはしません!」びしっ

高橋「………よろしい、じゃあ少し小声で話すわね」こそ…

純一「は、はい…」こそ…

高橋「今回、桜井梨穂子さんがお仕事を休業しているわけ……それは、一般的に
   学生としての身分を全うするため。かつ、義務的なものとして公式では発表されてるの」

純一「し、知ってます…! テレビでも報道されてましたし…!」

高橋「ええ、だけどね。本当の所はちょっと違うの」

純一「な、なんですって!?」

高橋「こ、こら! 大きな声を出さないの!!」

純一「す、すみませんっ…! 思わず…!」

高橋「本当に静かにしてなさい…! これがもし世間にも広がりでもしたら、とんでもないことになるのよ…!?」

純一「ごめんなさいっ…!」

高橋「っはぁ~……じゃあ続けるわよ? だけど、どうしてここまで秘密裏にしなければならないのか、
   と君も不思議に思ってくるんじゃないかしら?」

純一「…ええ、さっきからそう思ってます」

高橋「そうでしょう。これは本当に世間に出回ってはダメなこと。
   先生だって彼女から直接、相談があるまで全然知らなかったことよ」

純一「…梨穂子から直接、ですか?」

高橋「そう。だから、このことは誰に行っちゃダメ、私だって君も含めて少数にしかこの事を言ってないのよ」

純一「……言っちゃってるじゃないですか」

高橋「ち、違うわよ?! 先生はっ…彼女の親しい人たちに伝えたんです!
   誰かれ構わず言ってるわけじゃありませんからね!?」

純一「じょ、冗談ですよ…! すみません…!」

高橋「くっ…で、ですからっ! このことは秘密裏にしておくこと! そして、それがどのようなことかというと────」

~~~~

茶道部

純一「…お邪魔します」

「───ん、なんだい。珍しい奴が来たねえ」

「───黒幕登場」

純一「ええ、お久しぶりです。それと黒幕とか言わないでください」

夕月「ははっ、そう言うなって橘ぁ。なんてったって、これがあたし達だろ?」

愛歌「通常通り」

純一「…確かにその通りですけど」

夕月「そんでもって、今日は見学かい? やっと茶道部に入ろうって気になったワケかー!」

愛歌「風前の灯」

夕月「おいおい、そりゃまだ早いぜ愛歌。まだまだイケるって」

愛歌「……夢の跡」

夕月「厳しい言葉だよ」

純一「あのー……上がっても?」

夕月「おう、あがんなあがんな。愛歌が茶を丁度、入れてる所なんだ」

愛歌「愛がこめられてる………飲んで溺死せよ」

夕月「上手いこと言うな、愛に溺れるってか?」

純一「……」ぴしゃっ

愛歌「つっこみ万来」

純一「……」すたすた

夕月「そりゃ無理って話だよ! 人いねーじゃねーか! あたしらだけだぜ? あっはははっはは!」

純一「……」すとん…

愛歌「残念無念」

純一「お茶をください」

夕月「くっく、あんたもあたしらの扱いに慣れ過ぎだよ」

愛歌「常時運転」

純一「…どれだけここに、来てると思ってるんですか」

夕月「そうだね、確かにそうだ。ま、ここの所とんと来てなかったけどな」

純一「……」

夕月「まあ、ゆっくりしていきな。………こっちも話したいこと、沢山あるからよ」

~~~~~

夕月「───何も隠すことはねえだろ、アレはただの〝病気〟だ」

夕月「ずずっ……ふぅー…誰にだってある問題であって、一般人も掛かっちまう普通の病気だよ」

純一「…そうで、しょうか」

夕月「ん?」

純一「確かに……それは言ってしまえば〝病気〟なんでしょうけど…」

純一「本当に……ありえるんでしょうか…」

夕月「信用しないのかい? あいつが言ったことを」

純一「………」

夕月「あのりほっちが言った言葉を、例えそれが、先生からっつーさ。
   つまんねえ言付けみたいな感じで伝わってきたものだったとしても」

夕月「お前さんは、信用しねえのかい?」

純一「……ですけど、やっぱり…」


純一「───記憶を、失ってるなんて…」

愛歌「ずずっ…」

純一「常識的に、本当にそうだったとしても信用とか、そういったことじゃもう…」

夕月「……詳しいことはわからねえけどさ、ずずっ」

こと…

夕月「アイツってば、思うに。無理をし過ぎてたんだと思うんだよ」

純一「無理を…?」

夕月「ああ、そうさ。あの子はアイドルって肩書がとんでもなく重たすぎたんだって、あたしゃーそう思う」

純一「………」

夕月「言いかえれば頑張りすぎたんだよ。運が運を呼んで、とんでもない場所まで上り詰めちまったけど、
   はたしてそれがあの子の器量でやりきることが出来るもんだったかと言えば、そうじゃねーんだろうさ」

夕月「今回のことを、考えれば」

純一「………」

夕月「橘も知ってるだろうけど、あの病気は…精神的なものからくる記憶障害……だったか?」

愛歌「ずずっ…通称、心因性記憶障害」

純一「………」

夕月「しん、いん…?」

愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」

愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
   一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
   人生すべてを思い出せない全般性。
   ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
   発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
   心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」

夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」

愛歌「調べた」

純一「そ、それで…梨穂子は?」

愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」

夕月「とある期間内のことをおもいだせないって奴か?」

純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」

愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」

純一「ぐっ……すみません…っ」

夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」

夕月「しん、いん…?」

愛歌「心因性記憶障害───……心因性記憶障害健忘」

愛歌「区分すると4つ、一定期間のことすべてを思い出せない限局性。
   一定期間内のいくつかの事しか思い出せない選択性。
   人生すべてを思い出せない全般性。
   ある特定の時期から現在の事を思い出せない持続性健忘。
   発症年齢は、青年や若い女性に多く見られ、高齢者には稀にアリ。
   心理的・社会的ストレスによって引き起こされると言われる」

夕月「…愛歌はなんでも知ってんな、本当に」

愛歌「調べた」

純一「そ、それで…梨穂子は?」

愛歌「予想すると……選択性の心因性記憶障害」

夕月「とある期間内のことしか、しかも少しだけしか思いだせないって奴か?」

純一「っ……でも、僕のことは全く覚えてなかったですよ…!?」

愛歌「怒るな……だから、予想だと言っている」

純一「ぐっ……すみません…っ」

夕月「まあまあ、橘だって困ってんだ。そんなに冷たくすんな愛歌」

愛歌「……すまない」

純一「いえ、僕の方こそ急に熱くなってしまって……」

純一「で、でも! それは決して良くならない病気ではないんですよね!?」

愛歌「…回復は可能、再発も滅多に皆無」

純一「っ……よかった…!」

夕月「じゃあどうやって治すんだ?」

愛歌「調べてない」

夕月「…調べろよ」

愛歌「知らぬ顔の半兵衛」

夕月「…あ? だったら───ああ、そういうことか」

夕月「まあ、いいよ。確かに治る病気ってんなら安心だな、橘」

純一「………」

夕月「ん? 橘? どうしたさっきから俯いて───」

純一「───だったら、治しましょうよ、病気…!」

夕月&愛歌「……は?」

純一「治るんですよね…? ちゃんと治るんだったら、どうにかして…!」

純一「僕たちで治しましょうよ! 梨穂子の病気を!」

愛歌「…」

夕月「い、いやっ……治すってお前さん…やりかたわかるのかい?」

純一「いいえ、全くわかりません!」

夕月「おいおい! それじゃあ話になんねーじゃねえか!」

純一「だけど! ただ見てろって言うんですか!? あの梨穂子を!?」

夕月「……そりゃあ、あたしだって見たくはないけど」

純一「でしょう!? だから僕が、そして茶道部のみなさんで梨穂子を治してやるんです!」


純一「──梨穂子の記憶を、僕たちで治してやりましょうよ!」


夕月「…簡単に言うねえ、おいおい」

愛歌「妄想主義者」

純一「なんだっていってください! …そうだよ、そう言う手があった…!」

純一「これなら梨穂子とも話せる機会が増える、そしたらきちんとアイツと会話が出来ることも…!」

ぐっ…

純一「先輩! どうですか!? 僕と一緒にやってくれませんか!?」

夕月「やってくれませんかって、こういったことは大人しく見守っておくのが…」

純一「ダメですよ! それじゃあ! だって三週間しかないんですよ!?」

純一「そんな悠長なことを言ってたら、アイツはまたあの世界に…
   しかも治らなければ、記憶が不安定のままに、またずーっと頑張り続けてしまう!」

純一「そしたらもうっ……アイツはっ…梨穂子は! どうなっちゃうか分からないでしょう!?」

夕月「……」

純一「どうにかするしかないんです! このことを知ってるのは…先輩と僕、この三人だけのはずです!」

純一「……お願いします、どうか、梨穂子の為だと思って……」

純一「──僕に協力をしてください、お願いします!」ぐっ

夕月「……」

純一「……」ぐぐッ…

夕月「はぁ……あのなぁ、橘───」

愛歌「───その心意気、乗った」

純一「ほ、本当ですかっ!?」

夕月「愛歌…?」

愛歌「乗ってやろう……橘純一」

愛歌「りほっちの治療……茶道部全部員で」

純一「やってくれるんですね!? 夕月先輩!?」

夕月「えっ? あ、お、おう……?」

純一「ありがとうございます! ありがとうございます!」

夕月「い、いや! 違う! そうじゃなくて───」

愛歌「──詳しい内容は後日」

純一「わかりました! 明日ですね!? そ、それなら僕も色々と徹夜で考えてきます…!」

愛歌「がんばれ」

純一「頑張ります! じゃ、じゃあこれで! いそいで帰って作戦を練らないと…!」だっ

純一「──お茶ありがとうございました! 失礼しました!」

がらりっ…ぴしゃっ

夕月「………」

愛歌「ずずっ…」

夕月「…おい、説明してくれるんだろうな」

愛歌「………」こと…

夕月「分かってんだろ? つぅうか、愛歌が分かって無いはずがないもんな」

愛歌「………」

夕月「──アイツ……橘だけど。ちょっとオカシイぞ、あれ」

愛歌「そうかもしれない」

夕月「そうかもじゃないだろ、必死すぎるっていうかよ、なんか周りが見えてないように感じる」

愛歌「…」

夕月「急に治すとか言いだして、此処に来たときだって、変に思いつめた顔してやがって」

夕月「…今の橘は、ハッキリ言って〝危険〟だと思わねえのかい?」

愛歌「…」

夕月「冗談じゃねえよ、本気で言ってるんだ。あの馬鹿がとんでもねえ事しでかす前に……教えろ愛歌」

夕月「一体ぜんたい、何がしたいんだお前」

愛歌「…長いものには巻かれろ」

夕月「は?」

愛歌「そう言う本心……るっこもわかってるはず」

夕月「……。めんどくせーこと考えるのは苦手なんだよ、あたしゃ」

夕月「ま、とにかく約束しちまったことは守んねーとな」

夕月「はぁ~……どうなるんだろうねぇ、この三週間は」

愛歌「波乱の予感」

~~~~

純一「はぁっ…はぁっ…! やってやる! やってやるぞ僕は!」たったった!

純一「家に帰って、色んな事を考えて…! 梨穂子の為に、色んな事を頑張ってやるんだ…!」

純一「僕は…! 大丈夫だ、絶対に梨穂子を治すことが出来るはず…!」

たったったった!

純一「───やってやるぞ! 梨穂子! 待ってろよ!」


次の日

純一「………」

純一(色々と夜なべして考えてきたけど、その内容を茶道部の先輩たちに言う前に…)

純一「…梨穂子に対しても、ちょっと了解を得ないといけないよな」

純一(僕と梨穂子は他のクラス。会えない可能性も格段と上がってしまう……それならどうすればいいか)

わいわい がやがや

純一(登校中の梨穂子を、話しかければいい)

純一(登校ルートはほぼ一緒だから、こうやって道を歩いていればじきに出会うはずだ……)

純一(もうちょっと待てばあいつは来るはず──来た…!)

どうしようもねえな俺
いまからかく

純一「梨穂子!好きだっ!大好きだ!!!!」

梨穂子「うれしい・・・やっと言ってくれた(涙)」

(そして僕たちは・・・キスをした)


伊藤邸(香苗の部屋)

梨穂子の背中のチャックが開く

香苗「ふぅ、暑い・・・・まったく世話が焼けるなぁ、あのふたり」

梨穂子「………」すたすた…

純一(…梨穂子だ、前方から坂を上ってきてる。俯いて歩いてるようだから、
   まだこちらには気付いてない……よし、近づくまで待ってよう)

純一「…」

梨穂子「……」すたすた…

純一「…」

梨穂子「……」すたすたすた…


純一(今だ!)


純一「りほ──」

伊藤「──やっほ、桜井ー」

梨穂子「っ……」

伊藤「おっはよーさん!」

梨穂子「……───」

梨穂子「──おはよう、香苗ちゃん~」

純一「え……?」

伊藤「うい、おはようさん~」

梨穂子「えへへ、今日も元気だね香苗ちゃんは」

伊藤「あったりまえ、あたしだは元気が取り柄だからさ」

梨穂子「くすくす」

伊藤「そういう桜井だって、アイドルだからって全然元気じゃん」

梨穂子「え~? だから言ってるでしょ香苗ちゃん、アイドルアイドルって言わないでよって~」

伊藤「言わないでって言われても、あんだけゆうめいになっちゃったらイヤでも思っちゃうでしょうが」

梨穂子「…そうなの? うーん、でもなぁ」

伊藤「あんまそう思ってほしくないなら、あたしも言わないでおくけど?」

梨穂子「……」

梨穂子「…ううん、全然いいよ。だってアイドルってことは本当のことだし…」


梨穂子「──それに、私がなによりも大好きな事だから」


純一「っ……」

伊藤「お、流石は現役女子高生でありながら人気のKBTアイドル!」

梨穂子「ちょ、ちょっと…! そんなこと大きな声で言わないで…ね?」

伊藤「あはは、んな恥ずかしがらなくてもいいじゃん───って、あれ?」

伊藤「橘くん?」

純一「…あっ……」

伊藤「橘くんじゃん、おはようー」

純一「お、おはよう……」

伊藤「ん? えらく元気ないけど、どかした?」

純一「あ、うん……えっと、その…」

梨穂子「………」

純一「………」

伊藤「…はは~ん、なるほどねぇ。あたしはお邪魔虫って訳ですかぁ」

梨穂子「も、もうっ! 香苗ちゃんっ……?」

伊藤「はは、いいじゃん。こういったからかいも久しぶりで───」

純一「───香苗さん、ちょっと僕と梨穂子の二人だけにしてもらってもいいかな」

伊藤「…え?」

純一「いいかな、させてもらっても」

伊藤「あ、う、うん……いいけど…どしたの急に?」

純一「…ごめん、詳しくは言えない」

伊藤「………」

純一「………」

伊藤「…わかった、よくわかってないけど」

純一「っ……ありがとう、今度なにかお礼するよ」

伊藤「いいっていいって、それよりも……」すたすた…

伊藤「……あんまり桜井を困らせたことさせたら、怒るよ」ぼそっ

純一「………」

伊藤「んじゃ、桜井ぃ。教室でねー」

梨穂子「あ、うん! またね~」ふりふり

伊藤「うぃー」すたすた

梨穂子「………」ふりふり…

梨穂子「………」ふり…

すっ…

梨穂子「………」

純一「っ……梨穂子…」

梨穂子「…私に近づかないで」

純一「そ、それは……昨日聞いた」

梨穂子「…じゃあ今日も近づかないで。明日も明後日も、この三週間ずっと」

梨穂子「───私の視界に一切、映らないようにしてください」

純一「ぐッ…どうして、そんなこと言うんだよっ」

梨穂子「………」

純一「僕はっ……知ってるんだぞ、お前の…その〝病気〟のこと…!」

梨穂子「っ…」

純一「記憶が……ないんだろ?」

梨穂子「………」

純一「憶えていたことが全く憶えて…なくて。
   だから今はアイドルを休業してまで…学校に来てる」

梨穂子「………」

純一「憶えてる部分がどんな所かは知らないけ…だけど、僕に対する対応でなんとなく理解できるよ」

純一「…梨穂子、僕のことを忘れてるんじゃないかって」

梨穂子「………」

純一「だからあんな風に、僕に冷たい対応をしたんだろ?
   今だってそうだよ、こんなの、全然梨穂子らしくない」

純一「…お願いだ、梨穂子。正直に話してくれよ」

梨穂子「………」

純一「辛いのかもしれないけど、言いたくないのかもしれないけど……忘れてしまってるんだろうけど」

純一「僕とお前は、幼馴染なんだ。正直に言ってくれ…」

梨穂子「………」

梨穂子「………橘くん」

純一「っ…な、なんだ?」

梨穂子「……っはぁ~、あのねちょっといいかな」


梨穂子「──リホは別に、病気でもなんでもないよ?」


純一「えっ…?」

梨穂子「もう一回言ってあげようか? 橘くん、これは病気じゃないんだよ」

梨穂子「一般的に公表されてる通り、ただの休暇期間……ただのオヤスミってだけで」

梨穂子「周りが噂してるような、病気だとか記憶喪失とかじゃなくて───」

梨穂子「──このリホがまねーじゃーさんに我儘を言って休ませてもらってるだけ」

純一「……う、嘘だよ…だって! 高橋先生が…!」

梨穂子「高橋先生? …ふーん、そっか~」

梨穂子「信用しちゃったんだ~? くすくす、橘君って……本当にお豆腐みたいな脳みそなんだね~」

純一「っ……!」

梨穂子「アレは単に、同情をさせて不登校気味だったものを緩和させる為に言っただけなんだー」

梨穂子「…他の子もやってることだって、まねーじゃーさんに教えてもらったんだよ」

純一「そ、そんなことっ…だって、茶道部の先輩たちも…! それに、僕に対しても…!
   だったらどうして僕のこと橘って呼ぶんだよ!? 記憶が無いとしか理由がないだろ…!?」

梨穂子「あはは、違うよー…もう!」

梨穂子「じゃあ呼んでほしいなら呼んであげるよ、ねえねえ───」

梨穂子「───純一ぃ、おはよう~」

純一「っ……や、やめろ…!」

梨穂子「えー? どうして? だって純一が呼んでって言ったんでしょお?」

梨穂子「だからわざわざ呼んであげたのにぃ…ひどいよ、そういうのって」

純一「ち、違う…! そんなの、梨穂子じゃ…!」

梨穂子「…何が違うっていうの? あはは、だってみてたでしょ?」

梨穂子「香苗ちゃんだってリホのこと、まったく心配してる風じゃ無かったよね?」

梨穂子「昨日、クラスで一日中過ごしたのに。まったくリホのこと気にかけてる様子はなかったよね?」

梨穂子「記憶喪失だとか、お仕事がきつくて休んだとか……そういったことは全部、嘘」

梨穂子「リホはリホで、三週間の学校生活を楽しみたいってだけで、別にそんな大した理由があるわけじゃないんだよ」

梨穂子「……桜井梨穂子は、ただのお仕事のずる休み中。なんだよ?」

純一「ち、違う!」

梨穂子「違わないよ、本当のことだから」

純一「っ…じゃあ、どうして僕にそんな態度なんだよ!? 梨穂子、そんなお前らしくないだろ…!?」

梨穂子「…さっきからその〝らしくない〟って、何なのかな」

純一「だってそうじゃないかっ! そんなっ…そんなっ…人を小馬鹿にしたような喋り方っ…梨穂子らしく───」

梨穂子「──らしくない、とか言わないでよ」

純一「っ……」

梨穂子「じゃあ言ってあげる、純一。あのね、わかってないようだから言ってあげるけど」

梨穂子「……これが今の〝私〟なんだよ。これがアイドルの桜井リホなんだよ」

梨穂子「いつまで自分が知ってる幼馴染の〝桜井梨穂子〟だって思ってるの?」

梨穂子「…やめてよ、もうそんな私なんて居ないんだから」

純一「い、いないって……」

梨穂子「あの時、廊下で会った時……リホは貴方のこと知りませんって、言ったよね」

梨穂子「あれは記憶喪失とかじゃなくて、精神的にとかじゃなくて」

梨穂子「…貴方を拒絶する為に、そう思わせる様に言ったんだよ」

純一「拒絶…っ…」

梨穂子「でも、安心したよね? 別に病気じゃなくて、記憶障害じゃなくて。
    大丈夫だよ、平気平気~♪ リホはちゃーんと純一のことを憶えてるから」


梨穂子「───だけど、リホにはもう近づかないで。橘くん」


純一「っ…」

梨穂子「リホはそう望んでるんだよ、そう心から願ってるから」

梨穂子「……そういうことで、じゃあね橘くん」すたすた

純一「……────」

純一「──待てよ!! 待てって梨穂子!!」がっ

梨穂子「………」

純一「そんなことっ…僕が信用すると思ってるのか!?
   お前は絶対にそんな事言う奴じゃない! 僕はそれを知ってる!!」

梨穂子「………」

純一「な、なにか訳があるんだろ!? 記憶が無いってことが嘘ならっ…また別の理由が!
   そうじゃなきゃお前が僕に対して、そんな冷たくなる理由がわからないだろうが!?」

梨穂子「………」

純一「そうやって黙ってちゃなにもわからないだろ!? 教えろよ! どうした梨穂子!?」ぐいっ

梨穂子「………───」すっ


ぱあああんっ…


純一「──え……」

梨穂子「………」

純一「今……え……叩かれ……」

梨穂子「…次、もう一回腕掴んだら警察呼ぶから」

純一「っ……」

梨穂子「そうなると橘くん、犯罪者になるよ? この意味、わかってるよね」

純一「りほ、こ……?」

梨穂子「…気安く下の名前で呼ばないでくれるかな、今の私は桜井リホだから」

梨穂子「桜井梨穂子はもう……貴方の中にいる幼馴染の桜井梨穂子はもう」

梨穂子「───何処にも居ないんだよ……」すっ…

すたすた…

純一「………」

純一「………梨穂子…」

純一「………そんなこと…」

純一「ぐっ……だめだ、ちゃんと理由を聞かなくちゃ…!」

純一「梨穂子!」だっ

だだだだだっ…

純一「梨穂子! ダメだ! 僕はちゃんとお前の口から───」

「よし、今だ!」

純一「──えっ……うわぁああ!?」

どしゃあああっ

「抑え込んだぞ! 三番隊、かかれー!」

「うぉおおおお!!」

純一「な、なんだ…!? え、待ってそんなに圧し掛かれたら…!」

どしゃ!

純一「うっぐっ…!?」

「すみません、リホちゃん! 後は我々【桜井リホお守り隊】にお任せください!」

梨穂子「……遅いよ、昨日あれだけちゃんと言ったのに」

「はっ! ですがまさか登校中のリホちゃんを襲うとは…我々も不覚です、警備の強化を実施させます!」

梨穂子「うん、お願いだよ?」

「は、はいいいいい! 四番隊ぃ! 犯罪者の尋問にかかれぇ!」

「はっ!」

純一「息がっ……痛いっ…あれ、なんだよ…!? 何処に連れて行くつもりだ…!?」

梨穂子「あんまりひどいことはしちゃダメだよ? 警察沙汰になったら、私だって何もできないから」

「わかっております! ただの尋問です!」

梨穂子「…そっか、みんな良い子だって知ってるから。リホも安心だよ~」

「ええ! では安心して登校されてください! 五番隊を護衛につけます!」

梨穂子「うん、ありがと~」

純一「っ…梨穂子…! 梨穂子ー!」ずりずり…

「こら、暴れるなっ…!」

純一「梨穂子っ……これはどういうことだよ!? なにがお前をそんなにっ…!」

梨穂子「……」

純一「教えてくれよっ…!? どうして教えてくれないんだ!? 僕はっ…僕はっ…!」

梨穂子「……」くる

すたすた…

純一「梨穂子っ……!」

~~~~~

校舎裏

純一「うっ……」

トイレ

純一「けほっ…ごほっ……」

純一「はぁっ…くそ、沢山蹴りやがって…」

純一「っ…いたた……何だよ、僕がなにをしたって言うんだよ…!」

純一「…はぁ…」ごろり…

純一「…………」

純一「……何だって言うんだよ…」


「───おい、立てるかそこの犯罪者さんよぉ」


純一「っ……立てません、太もも思いっきり蹴られてるので」

夕月「だろうねぇ、三人に寄ってたかって蹴られまくってたもんな」

純一「…見てたんですか」

夕月「まあな。それにしちゃー案外、平気そうだね、どれ見てやるよ…」すっ

純一「………」

夕月「おうおう、頬がちょっと擦り?けてやがんな」

純一「…大丈夫ですよ、これぐらい」

夕月「そうかい、男だもんな。我慢しなきゃいけねーな」

純一「……」むくっ…

夕月「ん、もうちっと寝とけばいいじゃねえか」

純一「…いいんです、もう大丈夫ですから」

夕月「いいから、もうちっと寝とけって」ぐっ

純一「は、はい? だ、だからもう平気だって──」

夕月「──寝とけっていってるだろーがッ!」ボスッ!

純一「うごぉっ…!?」ぱたり

夕月「よしよし、いいこだ。素直は良い奴の証拠だぜ」

純一「ねっ…寝かせたの間違いっ…でしょっ…!?」ぷるぷる

夕月「んまー固いこと言うなって。どうだい、あいつ等の蹴りより効いたろ? くっく」

純一「え、ええっ……今が一番、重体ですっ…!」

夕月「わかってくれとは言わねえよ、だけどさ」

夕月「…あんたはりほっちにやりすぎた、だからあたしからも一つ制裁ってな」

純一「………」

夕月「そこで大人しく寝ときながら、あたしの話しもついでとばかし、聞いておくれ」

純一「……なんですか、一体…」

夕月「あたしも手伝ってやるよ、りほっちを治すってやつをさ」

純一「っ……先輩、それは…!」

夕月「遠くからだったけどよ、話の内容は想像できたぜ。…んな病気はないって言われたんだろ?」

純一「…はい、だから治すも何も…」

夕月「…信用するのかい? あの子が言った言葉を?」

純一「え…? いや、夕月先輩……昨日言ってることと違うじゃないですか…っ?」

夕月「へ? あたしゃ、なんか言ったかい?」

純一「いいましたよ…! あいつのこと、梨穂子の言ってる事を信用しないのかって…!」

夕月「……。あー! 言ったな! そう言えば言ってたわ!」

純一(この人こそ記憶障害なんじゃないのか…)

夕月「…ま、でも。それは違うんじゃねえの?」

純一「…違う?」

夕月「おうよ、ありゃ桜井梨穂子のことを信用しろって言ったわけでさ」

夕月「───別に桜井リホまでを信用しろ、とまでは言ってねえよあたしも」

純一「なにが違うっていうんですか…どっちも同じ、桜井でしょう」

夕月「いーや、違うね。天と地の差があるよ」

純一「………」

夕月「確かにあんたにとっちゃ、同じことなのかも知れねえけどさ。
   だけど落ちついて考え直してみるんだよ、お前さんならちゃーんとわかるはずだ」

純一「…そんなの、梨穂子がなにも言ってくれない限り…」

夕月「なにいってんだい、あんたはりほっちにとって……唯一の幼馴染じゃないのかい?」

純一「……」

夕月「そんなすげー立ち位置を持ってやがんのに、んな冷たいこと言っていいのかよ」

純一「…じゃあ、どうすればいいんですか…! 僕だって、アイツのことを信用したいですよ!?」

純一「だけど、アイツが…梨穂子が! あんな態度をし続けるなら、もう幼馴染だからって何も出来るとはっ…!」

夕月「んだから言ってんだろ、信用しろって」

純一「っ…なんですか、信用しろって! 意味が分からないですよ!」

夕月「そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
   どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」

夕月「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを信用し続けるんだぜ」

純一「そんなっ……こと、僕には…っ…」

夕月「──いいや、出来る」

純一「っ……」

夕月「あるだろ、その耐え抜く覚悟……その原動力が」

夕月「あえてあたしも、何も言わねえでおくけど。
   あんたには……あるはずだ、りほっちにたいしての〝頑張らなきゃいけない理由〟がよ」

純一「……っ…」

夕月「だからこそ、昨日のお前さんの異常な……いいや、これはいいか」すっ…

夕月「とにかく、その心の中にある抱えたモンを……そう簡単に諦めるなってこった」

純一「………」

夕月「信じ続けろ。りほっちを、それがお前さんが出来る、今現状での最高の〝治療〟だ」

純一「…信じ続けろ…」

夕月「おうよ、それからはじめて行けばいい……そしたら、あたし達も手伝ってやんよ」

夕月「ま。頑張りな、応援してっからさ……んじゃhrに遅刻しないようにな~」

すたすた…

純一「…………」

純一「どういうことだよ……信じ続けろって…」むく…

純一「勝手すぎるよっ…誰もかもっ…わかったように言いやがって…ッ」

純一「……僕は、アイツの幼馴染…」

純一「分かってやれるのは、僕だけ──………」

放課後

純一「………」

純一「………はぁ」

梅原「おうおう、どうした大将。浮かない顔してよお」

純一「…ん、梅原」

梅原「今日一日、全くもって元気ねえじゃねえか。どうした?」

純一「…なんでもない」

梅原「……、そうかい。お前さんがそういうのなら、俺も何も言わねえよ」

純一「………」

梅原「………」

梅原「っはぁー、俺もお人よしだなホンット…」

純一「? なんだよ、どうした急に」

梅原「ほらよ」

ぽすっ

純一「…これは? メモ帳?」

梅原「中に色々と書かれてる。読んでみろ」

純一「う、うん……なんだこれ、なにかの予定表?」

梅原「おう…『桜井リホ守り隊』の計画スケジュールだぜ」

純一「……。なにっ!? こ、これを何処で手に入れたんだ梅原ぁ!?」

梅原「しぃー! 声がでかいぞ橘ぁ!?」

純一「す、すまん……!」

梅原「はぁ…誰にもバレてないようだな、いいか? これがもしバレたら俺もただじゃ済まされないんだからなっ?」

純一「お、おう……だけどこんな凄いもの、何処で手に入れたんだ?」

梅原「『桜井リホ守り隊』のメンバーの中に……実はユウジが居るんだよ」

純一「…なにやってるの、アイツ」

梅原「ファンだからな」

純一「知らなかった…」

梅原「まあ色々と交渉をしてみたらよ、なんとかスケジュール表を映してもらえることに成功した」

純一「交渉って…凄いな梅原」

梅原「だろ? 頑張ったぜ、アイツの好みのお宝本を揃えて…それからどれだけ価値があるか散々語りまくってさ───」

純一「ふむふむ、今日一日はずっと護衛か…」

梅原「……おい、聞いてんのか大将」

純一「うんー、聞いてるよー」

梅原「……」ぱしっ

純一「あー! なんだよ、どうして奪うんだよ!」

梅原「…お前の態度次第によっちゃ、これを譲渡させてもいいぜ」

純一「え……本当に?」

梅原「おう、態度次第だがな」

純一「…お宝本か?」

梅原「ああ、そうだ。……と、今回は言ってやりたい所だが違う」

純一「え…? 違うのか?」

梅原「そうだぜ、今回はとあるお願いをかなえてもらおうか……それはユウジの頼みでもあり、
   あの『桜井リホ守り隊』の悲願でもある」

梅原「どうか、桜井梨リホの……笑顔を取り戻してくれってさ」

純一「……笑顔?」

帰宅路

純一「ふむ、明日は街にお出かけか」

純一(色々と読んでみると、三週間の予定がみっちり書いてある…つまりそれは、
   逆に言えば梨穂子自身のこれからの予定ってなるわけだ、流石に確執にそうだとは言い切れないけど)

純一「はぁ…」ぱたり

純一「いやはや、梅原には悪い事をしたな……後で個別にお宝本を貸してあげよう」

純一「…だけどどういう意味だろ、笑顔って…」

~~~~

梅原「あいつ等が言うには、どうも桜井リホは……何時も通りでは無いらしいぜ」

純一「……そうなのか」

梅原「ああ、よくわからねえけど、俺たちの大好きな桜井リホの笑顔はもっと輝いてるぅ! …らしい」

純一「………」

梅原「俺は詳しくねえから語れねえけど、ユウジも心配そうにしてたんだよ」

梅原「…だからこそ、あの『桜井リホ守り隊』も熱が入っちまってるみてーだな」

梅原「今日だけで……ひぃ、ふぅ、みぃ、五件ぐらいあの過激な防衛に弾かれてるらしいぜ?」

純一(それは僕も含まれてるんだろうか…)

梅原「流石にひでーって、先生らも色々動いてるみてえだが…実際はどうなるか分からん」

純一「まあな、生徒が自主的にやってる事だし…まだ大した問題になって無いんだろ?」

梅原「……それも時間の問題かもしれねえ」

純一「え?」

梅原「ユウジが言うにはどうも……〝過激派〟と〝穏便派〟に隊が分かれつつあるらしい」

純一「過激派に…穏便派?」

梅原「ああ、アイドルファンに多い傾向らしいけどよ…そういった思想に違いが出てきてるらしいぜ」

純一「ユウジは?」

梅原「穏便派だ、安心しろ」

純一「…そっか、良かった」

梅原「今回のお願いも、実は穏便派からのことだったりするんだよ」

梅原「…あいつ等は願ってる、本当の桜井リホの笑顔を見ることを」

純一「本当の、笑顔……」

梅原「だけど、それは俺らには無理だって。ここ数日で色々と…判断したらしい」

梅原「──そこでお前の出番だ、大将」

純一「ぼ、僕?」

梅原「そうだ、ユウジ共々…そして穏便派はお前に全てを託すと言っていた」

梅原「大将、これはお前にしかできない事だ。わかるよな?」

純一「え、でも…お前、梨穂子にもう関わるな的なこと言ってなかったか?」

梅原「………忘れた!」

純一「ええっ!」

梅原「い、いいんだよ! 忘れろ! …とにかく、お前は託されたんだ」

梅原「その手帳を使って、上手く立ち回ってどうにか桜井さんに……」

梅原「……満点の笑顔を、咲かせてやってくれ!」

~~~~

純一「……とにかく、やれるよことはやってみよう」

純一「手帳まで貰って、それにファンからも頼まれた……」

純一「…そして、夕月先輩たちも」

純一「僕は……やらなくちゃ、いけないんだよな」

ぐっ…

純一「…あの梨穂子を、どうにかしないといけないと」

純一「だってそれは、僕自身も──強く望んでる事の、はずだから」

純一「………忘れるな、橘純一」

純一「──その思い、アイツがアイドルになってから決めた〝心の覚悟〟は…」

純一「絶対に蔑にしちゃいけない、大事なことだってことを」

純一「…………」

純一「っはぁ~……よし、やれるぞ僕になら!」

純一「まずは、家に帰ってどうするか考えよう! 作戦会議だ!」だっ

「──や、やめてくれよっ…! うあぁああああ!」

純一「! な、なんだ…? どっからか叫び声が…?」

公園

「──どういうことだ、どうしてそんなことをした!」

ユウジ「ち、違うって! 別に俺は…!」

「言い訳をつくな! おい、お前らも何か言え!」


「…っ…俺たちは別に…」

「なにもしてないよ…」

「な、なあ? 隊長、アンタの勘違いだって…」


「嘘をつくんじゃない! 正直に言え! お前らは我々の機密事項を横流ししただろう!」

ユウジ「だ、だから! 俺らはそんなことしてないって!」


純一「……あれは…」こそっ

純一(ユウジ…? それに今朝に見かけた人が何人かいるな……何をやってるんだ?)

「まだ言うかっ……おい、お前ら。少し痛めつけてやれ」

「はっ!」

ユウジ「えっ…? いや、待ってくれよ! そりゃやりすぎだろ!?」

「やりすぎじゃない、これは制裁だ。隊を乱す者を粛正するだけだ」

ユウジ「粛正って……ぐっ、離せよ! おい!」

「やれ」

ユウジ「うぐっ…かはぁっ」

「どうだ、吐く気になったか」

ユウジ「はぁっ…ふざけるなよ! やりすぎだアンタ!
    馬鹿げてる! 本当に隊長になったつもりかよ!? 俺らは只の学生だぞ!?」

「……やれ」

ユウジ「ぐふっ……お前らやめろよ! なにがそこまでお前ら動かすんだよ!?」

「じゃあ聞くが、お前はどうして隊に入った」

ユウジ「はぁっ?! それは、桜井リホの為に…!?」

「じゃあどうして隊の乱れを起こす、正直に話せ」

ユウジ「ッ……ああ、そうだよ! 俺がやったさ! 俺が情報を漏らしたよ!」

ユウジ「だからどうした! 俺は…俺はもうアンタらみたいな中二病みたいなことはできねえんだよ!」

ユウジ「守ってる気になって、やりたいことやりまくってるけどよ!?
    それは本当に桜井リホの為になってるのかよ!? 絶対に違うだろ!?」

「………」

ユウジ「アンタらがやってることは、ただの自己満足だ! 
    普段の日常ではやれなかったことを、今やれてる現状に浮かれちまってるだけだ!!」

「……お前らも、そのような思想を持ってるのか」


「えっ……」

「いやー…えっと…あはは」

「………」

ユウジ「っ……あいつ等は関係ねえよ! 俺が一人でやった事だ!」

「そうか、では制裁を続ける」

「い、いやっ…もうその辺にしておいたら…」

「口答えをすれば、お前も制裁だ」

「っ……」

隊長「……では、続けるぞ」

ユウジ「うぐっ……ああ、殴ればいい! 殴り続ければいい!
    そうやって拳を振るって、その殴った感触を覚えておけ!」

ユウジ「そして一生その感触を忘れずに、この先を生き続けろ!」

ユウジ「なにもかもっ…全部が終わった時っ…うぐっ…!」

ユウジ「アイツが……アイツが全部終わらせた時! 後悔するのはテメーらだからなっ!!」

隊長「やれ」

ユウジ「ッ……橘ぁっ───」



「───ああ、任せろユウジ!!!!」



隊長「っ…!? だ、誰だ!?」

びゅうううう~……バタバタバタ……


「──お前が言ったその言葉、僕はしかと心に受け止めたっ!」トン!


「──大丈夫、平気だ、やってやる。お前がやってくれたことは絶対に無駄じゃない!」


「──あの桜井梨穂子の……幼馴染である、この僕が!」


純一「橘純一が、お前の願いッ……叶えてやるよ!!」

ユウジ「たち、ばなぁ……っ!」

純一「…大丈夫か、具合は悪くないか?」

ユウジ「ぐすっ……へへっ、馬鹿言うんじゃねえよ。だってそうだろ?」

純一「…ああ、そうだな」

ユウジ「俺らはいつだって、本当に大切なものを失くした時…」

純一「…本当の辛さはそこにある」


純一&ユウジ「お宝本が、ある限り! 男は泣かない!」

隊長「…何だお前は、ハッ! 今朝のストーカーか…?」

純一「…ユウジを離せ」

隊長「おやおや、手出しをされては困る。
   これは此方側の問題、更に言えば……お前も」

隊員「……」ぞろっ…

隊長「──粛正対象なんだぞ?」

純一「……ハッ、だからどうしたんだよ」

隊長「なにっ…!」

純一「ううん、ただ単に…人数で勝って良い気になってるだけの奴らだなって」

純一「…そう思ってるだけだよ?」

隊長「なっ…」

純一「………」ぷるぷる…

ユウジ(橘っ…本当はビビってるくせにっ…くそ!)

純一「…あのさ、考えてみてよ。これって普通に考えたら傷害事件だよ?」

隊長「……」

純一「君たちがやってることは、世間でいえば犯罪。集団暴力での事件だ」

純一「今すぐに僕が近所の家に飛び込んで、警察を呼べば……どうなるか分かってるよね?」

隊長「………」

純一「…それに、その人たちだってそうだろう?」

純一「───彼らがこれから、君たちのことを通報しないと言う道理もない」

純一「周りが見えなさ過ぎてるよ、君たちは絶対じゃないんだ」

純一「…それはただの、アンタのわがままでしかないと思う」

隊長「………」

純一「…離してよ、そいつは僕の友達なんだ」

隊員「っ……」ぱっ

ユウジ「くっ……」どさっ

純一「ユウジっ! …だ、大丈夫か…?」

ユウジ「大丈夫だ…それよりも…」

純一「う、うん」

隊長「…行くぞ、我々は護衛に入らなければならない」

純一「っ…待てよ! その前にすることがあるだろう!?」

隊長「……我々は桜井リホを守るために結成された守り隊」

隊長「その思想を邪魔する者は、排除するのみ。精鋭者で隊を再構成させる」

隊長「…お前らはクビだ」

純一「っ…なに言ってるんだよ! そういうことじゃない! ちゃんとユウジに謝罪を──」

隊長「──そんなものは、しない!」

純一「なっ…」

隊長「我々は神聖なる番人だ……誰に屈する事もない」

純一「馬鹿げてるよ…!?」

ユウジ「……っ…」

隊長「………」

すたすた……

純一「おいって…!?」

ユウジ「…いいんだ、橘…」ぐいっ

純一「で、でも…! これはあんまりだよ!」

ユウジ「いいんだよっ……これで、これでいいんだ…」

純一「ユウジっ…?」

ユウジ「…ちょっと、制服の中に手を入れてもらってもいいか…?
    中に入ってる奴を、取ってもらいたいんだ…」

純一「制服の中…? 腹の方?」

ユウジ「おう…」

純一「えーっと……あ、これか」ごそっ

純一「あ、これって…!」

ユウジ「ああ、お宝本だ……ふふ、あいつ等の拳。全然効いてないぜ俺にはよ!」

純一「ユウジ……」

純一「ばか野郎……腹以外にも殴られてたろお前…っ」

ユウジ「…はっ、なんのことだよ」


「ユウジっ…!」

「す、すまん俺たち…!」

「ごめんなっ! なんもできなくて…!」


純一「この人たちは…?」

ユウジ「梅原から聞いてないか? …俺と一緒の穏便派の奴らだ」

純一「なるほど…」

ユウジ「いいんだよお前ら…俺がヘマをしたせいだ、俺の責任だ」

「だけど、俺たち…」

「俺だってアイツに言ってやりたかった…!」

「…ごめん、本当にごめん」

ユウジ「…いいってば、俺だってわかってるよちゃんと」

アイドルとか声オタの追っかけって本当にこんなんいるんだろうな…

純一「………」

ユウジ「…というわけで、橘。俺らはもうあの隊員ではないからな」

純一「お、おう…」

ユウジ「色々と、迷惑かけたな。すまん…」

純一「い、いやっ…いいよ、僕の方こそ手帳の件…ありがとう」

ユウジ「それは…おう、俺らの頼みの綱はお前なんだ」

ユウジ「俺ら全員、お前に託したんだぜ」

純一「っ……」

ユウジ「どうかお願いだ──あの過激派にも負けず、桜井リホの笑顔を…」

ユウジ「…取り戻してくれ、橘」

純一「……出来ることはやるつもり…」

ユウジ「情けないこと言うなよ!」

純一「うっ…わ、わかった! やってやるよ! ぜ、絶対に!」

ユウジ「……おう、それをきいて安心したぜ。なぁみんな!」

「頼むよ…笑顔をまた、あの笑顔見せてくれ!」

「橘! お前にならできるんだろ!?」

「…俺らの為にも、お願いだ」

純一「……」

純一「…うん! 僕に任せろ!」

~~~~

自宅

純一「………」prrrrr

純一「………」prrrrr

がちゃっ

純一「…もしもし」

『……───』

純一「待て、切ろうとするな……梨穂子」

『………』

純一「………」prpr

に見えた

ユウジってどんな顔してんだろ

純一「…梨穂子」

『………』

純一「どうして僕が今日、電話をしたか分かるか」

『………』

純一「……。分からないのなら言ってやる、今日お前を守ってる…守り隊だったか」

純一「そのメンバーが、隊長の命令とやらで暴行されていたぞ」

『………』

純一「この意味、理解できるよな? 暴力をふるわれていたんだ、人がだ」

純一「拳を握って、相手の身体を殴るんだ。わかるよな?」

『………』

純一「…いいか、言うぞ梨穂子、あの守り隊とやらを解散させろ」

純一「このままじゃ悪い方向にしか進まない。だけど、まだ間に合う」

純一「梨穂子が一言、もうやめてと。そう言えばあいつ等も辞めるはずだ」

『………』

純一「どんなに頑固者だったとしても、絶対に説き伏せるんだ」

『………』

純一「…お願いだ、梨穂子。どうして返事をしてくれないんだよ」

純一「お前は許せるのかよ、自分の周りで暴力が行われてる事を……」

純一「…僕は、そんなことを見過ごすような奴じゃないって…お前のことをそう思ってる」

純一「梨穂子……お願いだから声を聞かせてくれ、頼むよ…」

『……橘くん』

純一「っ…な、なんだ梨穂子!」

『リホはもう、無理だよ。止められない』

純一「ど、どうしてそんなこというんだよっ…! だってそうしなきゃお前の評判だって…!」

『…違うよ、どうせ変わらない』

純一「変わらないって…」

『橘くんはアレが非常識なものだって思ってるかもしれないけど…実際はそうじゃない』

『あるんだよ、いっぱい。ああいったとは……ううん、あれ以上の事がもっとある』

純一「あれ以上…?」

『うん、だから……リホが何を言っても彼らは止まってくれないと思う。
 ああいった隊が出来ることがすでに……もう手遅れなんだよ』

純一「そんなっ…それじゃあ、これから起こることを見過ごすのかお前は!?」

『…そうだよ』

純一「そんなことっ! そんなことっ…言うなよ! お前なら! 梨穂子ならどうにかできるだろ…!?」

『…できないよ』

純一「っ…どうして!」

『………』

『…どうして、だろうね。わかんないや……あはは』

純一「っ…梨穂子…?」

『……切るね、橘くん』

純一「ま、待て! まだ話は──」

ぷつん

純一「梨穂子っ! 梨穂子っ…!? くそっ」

純一「……ダメだ、つながらない。電話線を抜かれたのか…?」

純一「なんだよっ…無理ってッ!」

ガチャンッ!

純一「はぁっ…はぁっ……」

純一「くそっ…!」


美也「…にぃに…?」こそっ

純一「あ、すまん美也……驚かせた…ごめん」

美也「う、うん……電話はゆっくり置かないとだめだよ? 居間にまで聞こえてたし…」

純一「…ごめん」

美也「えっと、そのっ……冷凍してるまんま肉まんあげよっか? おいしいよ?」

純一「いや……いいよ、ありがとう…僕はもう部屋に戻るから…」すたすた…

美也「えっ! あ、にぃに……」

モバイルだからid変わるんだごめん

みゃーは橘さんが落ち込んでたらチャーハン作ってくれる優しい子

部屋

純一「………」よろ…

ぼすっ

純一「……なんだよ、どうしてそんなこと言うんだよ…梨穂子…」

純一「わかんないとか、いうなよ…」

純一「できないとか、どうして言えるんだよそんなこと……」

純一「梨穂子……馬鹿野郎…っ」

~~~~~

部屋

梨穂子「…………」

梨穂子「…………」

梨穂子「……あ、電気つけ忘れてた…」

かち…かちかち

梨穂子「…………まぶしい」

梨穂子「…………」


梨穂子「……」すとん…

梨穂子「……怒ってたなぁ」

梨穂子「当たり前だよね……あれだけ酷い事を、言っちゃったんだもん」

梨穂子「……誰だって怒るよ」

梨穂子「……」ぱたり…

梨穂子「橘くん……か」

梨穂子「……」

梨穂子「……なんだか、口がモゴモゴする言い方になるなぁ」

梨穂子「……言いなれて、ないんだろうなきっと」

梨穂子「純一……」

梨穂子「……ああ、やっぱり」

梨穂子「こっちの方が、私の口は言いなれてる……みたい」

梨穂子「……はやく、三週間経たっちゃえばいいのに」

梨穂子「そうすれば…また、そうすれば……」

梨穂子「…もう色々と、思い返すことも無いのに……」

~~~~~

次の日・放課後

純一「………」じっ

純一「……よし!」ぱたんっ!

梅原「…ん、行くのか大将」

純一「ああ、行ってくる。今日は街でお買いものらしいからな」

梅原「準備は大丈夫なのかよ」

純一「大丈夫だよ、心配するな」

梅原「…おう、俺が出来る事があればなんだってするぜ」

純一「…ありがと、じゃあ、行ってくる!」

梅原「……頑張れよ、大将」

といれ

いっトイレwwwwwwwwww

純一「ふっ……任せろ僕に!」

~~~~~

純一(全然見つからない……!)


純一(街に出れば普通に梨穂子のことを見つけられると思ったけど、
   大見え切って教室でてから、もう数時間たっちゃってるよ…!)

純一「なにやってるんだ僕は……はぁ~」すたすた…

純一「…もう帰っちゃったかな、梨穂子達」

純一「空がもうオレンジ色だ……そろそろ直ぐに夜になるだろうな」

純一「………」

すたすた…

純一「…梨穂子」

すた…

純一「……」ぐぐっ

た…たったった!

純一(考えろ…アイツが行きそうな所をもう一度、かたっぱしから探すんだ!)

純一(学校では周りの目もある、それに守り隊も人数が多くて直接話もできない…!)

純一(だけど、放課後なら守り隊の人数も減る! それに学校関係に見られることも少ない…!)

純一「今、この瞬間しかないんだっ…! 梨穂子と、会話できるチャンスは…!」

たったったった!

純一「───…梨穂子っ…! どこにいるんだよ…っ」

~~~~~

純一「はぁっ…はぁっ……やっぱり、どこにも居ない…っ…」

純一(これだけ探して居ないんだ、そろそろ周りも暗くなってきた…
   …家に帰ったと判断して、もう今日は諦めよう───)

「──やめてくださいっ…!」

純一「こ、この声はっ…梨穂子!?」

路地裏

梨穂子「っ……その人たちは、関係無いから…!」

「…関係はなくないっしょ、こいつ等、俺のこと金属バットで殴ろうとしたんだぜ?」

隊長「や、やめろ! 離せ!」

梨穂子「…だけど、痛そうにしてるじゃないですか…っ」

「こっちは死にかけたんだけど、それでもやめろっていうの?」

「おらっ!」

隊長「ぐふっ」

「…他の奴らは? 確か五六人ぐらい居ただろ?」

「逃げたんじゃね? ははっ、根性ねー奴らだなw」

隊長「に、逃げたのではないっ…皆、仲間を呼びに行ったのだ!」

「…なにこいつ、頭イカれてんの?」

「いわゆるオタク奴じゃね? 聞いたことあんだろ?」

「うっわーw まじか~、こんなのに付きまとわれてる彼女可愛そ~」

隊長「ぐっ……馬鹿にするな! 我々は由緒正しき…!」

隊長「ごはっ!?」

「由緒正しき……なんだって?」

「さあ?w まあ由緒正しいんなら鉄バットで殴りかかってくんなって話だよなー」

梨穂子「っ……」

「ま、そんな感じだね。あーあ、あんなに人が居たのに…もう一人だけ」

隊長「ひっぐ…ぐすっ…」

梨穂子「………」

「あらら、泣いちゃったよ。そんなに強く蹴ってるつもりなんてないのにね~」

「口では大きなこといってるくせによっ」

「俺らが何だって? 大犯罪者って言ってたよな? …ただ声をかけただけ、だろーがっ」

「鉄バット持ってくるお前らの方が大犯罪者じゃねーかよっ」

隊長「うっぐっ…ひぐっ…えぐっ…」

「…その辺でやめとけ、おおごとになったら面倒だろうが」

「はいは~いw そうだね~すまんすまん、おっと」

隊長「ぐっ…」

「めんごめんご、ちょっと脚が引っ掛かっちまってさ~」

「おいおい、そりゃワザとだろw」

「あっははw …ばれた?」

梨穂子「…やめてください」

「…ん? なに?」

梨穂子「やめてと……言ってるのっ!」

「おー、怖。なになに、俺らに言ってるの? 度胸あるねー」

「…ちょっとまて、この子って……あ! やっぱり!」

「なんだよ?」

「どっかで見た事あるって思えば……桜井リホだよ! 桜井リホ!」

「…リホって、ああ、KBTとかなんとかの」

梨穂子「………」

「うっわーすっげw 本物だよw サインもらっちゃおうかなーw」

「サインとか……お前…」

「へー…そうなんだ、桜井リホちゃん?」

梨穂子「…き、気安く呼ばないでっ」

「…わー、ファンとして超ショック」

「くははw いわれてやんのw」

「怖い怖い、というかそんなに俺らに敵意丸出しにしなくてもよくね?」

梨穂子「………」

「別に俺ら悪いことしてないってw」

「アンタの周りに居る奴ら、すっげーウザかっただろ?」

「傍か見てて異常だったしねー、やっぱりそうだったでしょ? うん?」

梨穂子「……今の、貴方達のほうが…よっぽど…うざいよ」

梨穂子「そうやって…力だけで押し切る貴方達のほうがっ…なんでもかんでも、強いからって…!」

梨穂子「弱い人を痛みつけることにっ…躊躇しない、貴方達の方がよっぽど最悪だよっ…!」

「………」

梨穂子「なにも知らないくせにっ…その人たちがどんな人だって、知らないくせに…!」

梨穂子「馬鹿だって、オタクだからって…そうやって否定するだけのことしかできない貴方達方のがっ…!」

バン!

梨穂子「んくっ……」

「…うるせえよ」

「んー、強い女の子って素敵だよねぇ」

「ひ弱な女より、強い女の方が居て楽しいしなー」

梨穂子「っ……殴るなら、殴ればいいよ…貴方達が、もっと世間に居られなくなるだけだから…!」

「残念、女の子を殴る趣味はないんだよね。だから、ちょっとばかし…こっち来てくれるかな?」ぐいっ

梨穂子「きゃっ…!」

「あ、連れてく感じ? そうだよなーw アニキとか喜びそうだしw」

「あ~、確かに。すっげー喜びそうだな」

梨穂子「や、やめてっ…」

「大丈夫大丈夫、すぐそこのお店に連れて行くだけだからさ」

梨穂子「っ…!」

「心配無いよ、悪いことなんて起きないから。……ちょっとした社会勉強になるかもね」

「それ言いすぎ~w 勉強とかー!」

「人によっちゃ引いちゃうだろその言い方w」

梨穂子「や、やだ…やめてっ…!」

「………」

ぐいっ

梨穂子「ひぅっ…!」

「──抵抗するなって、女の扱い方なんて、俺はちょっと知らないんだ」

梨穂子「……っ…」

「じゃあ行くぞ……直ぐそこだって、心配無いからさ」

梨穂子「っ………────」


「──待て…」

「……あ?」

「離せよ、その手」

梨穂子「っ…?」

「誰だよ、テメー」


純一「……そいつの幼馴染だよ」

「幼馴染ぃ? っは、どうして幼馴染がこんな所に居るんだよ」

純一「…助けに来たんだ」

「おいおいw 助けにだってよ、コイツの仲間か?」

隊長「ひっぐ…ぐすっ…」

純一「……残念だけど、違う。僕は個人で梨穂子を助けに来た」

「助けにって、はは。また俺らは悪者扱いかー」

純一「別に悪者にするつもりはないよ…だけど、その手を離してくれたらの話だ」

「…離して、どうする?」

純一「連れて帰る。ただ、それだけだから」

「そういって通報でもするんだろ」

純一「…しない、そう誓うから」

純一「お願いします、その手を離してください」

「…おい、お願いされたよ?」

「どうする?」

「……」

梨穂子「……」

純一「……」

「…じゃあ、土下座だ」

梨穂子「っ……」

純一「…土下座?」

「そうだよ、土下座。まあ仲間じゃないって言ってたけど、でも、知ってる顔なんだよね?」

純一「……はい」

「俺らはそいつらに、金属バットで殴られそうになった」

隊長「っ…っ……」

純一「…そうなんですか」

「ああ、下手すりゃ死んでもおかしくない。だけどよ、それも土下座してくれるのなら許してやるよ」

「…そして、この彼女も返してやる」

「だけど、土下座だ。このきったねー路地裏の地面でね、額を擦りつけて土下座しろ」

純一「………」

「うっわーw ひどいなぁーw」

「ここら辺って、良く誰か吐いてるよな~」

純一「………」

「どうした? やらないの? だったら、いいよ。この話は無しだ」

純一「………」

梨穂子「っ……」

梨穂子「──やめて! そんなことする…義理なんて貴方にないから…!」

純一「………」

梨穂子「いいからっ…私のことは放って置いてっ…その人を連れて、遠くに逃げて…!」

「おーおー、いいねえ純情だねー」

「ま、逃がすわけ無いけどw」

「…お前が一人でどっか消えるんなら、それでいいんだぜ?」

純一「……」

梨穂子「橘くんっ…! お願いだから…!」

純一「……梨穂子」

梨穂子「っ…なあに…?」

純一「僕は、今の今まで…ずっと立ち竦んでたんだ。
   この場の現状に入り込むことに、とても怖がってた」

純一「だけど……梨穂子がそいつらに連れて行かれそうになった時、僕の脚は…一歩進んだ」

純一「だから、僕は分かったんだ。絶対にこれは、逃げてはダメな時なんだって」

純一「もう…梨穂子から逃げては駄目なんだ、やっぱり、そう思ったんだよ」すっ…

しゅないだーさん「待てぃ!」

梨穂子「そんなっ……」


純一「───お願いします、どうか、その金属のバットの件含めて…」

純一「彼女を離してやってください、お願いします…!」ずりっ…


梨穂子「っ……!」ばっ

「うわっ…マジでしやがった──って、うおっ!?」

梨穂子「や、やめてよっ…! 土下座なんてしないで!」たたっ

純一「お願いします…どうか、許して下さい」

梨穂子「たちばなっ…やめてって…! そんなこと…!」ぎゅっ

純一「……お願いします」

「…お、おい」

「うっわー…綺麗な土下座だぜー」

「………」

純一「っ……どうか、お願いします! 許してやってください!」


「───ワーオ、ナイスガイ!」

かん…かん…

「ミーが見てきた誰よりもナイスガイ、とんでもないぐらいハートにズッキューン…」パチパチ…

かん…

「ユーたちも見習うべきですねー、おーけー?」

「っ……」

「あ、マイケル……兄貴…!」

「うっふん、ノウノウ。それはちがうでショーウ───」

マイケル「──maike.kid……そう〝毎夜ベットの中で〟そう教えてるでしょーう?」

「は、はいっ! マイクアニキっ!」

「すませんっ!」

「う、ういっす!」

マイケル「オーケー、良い子たちねー! ウッフッフッフ」


純一&梨穂子「……」ぽかーん

マイケル「オーゥ、ごめんなさいね~! 驚かせちゃったよねー」

純一「えっとその…?」

マイケル「ユーのネーム…教えてくださーい!」

純一「ぼ、僕ですか…?」

マイケル「ウッフッフッフ…そうですー! どうかミーに教えてみてー!」

純一「橘…純一ですけど…」

マイケル「タチバナ、グーイチ?」

純一「純一です!」

マイケル「オーケー、タチバナ! タチバナでいいですかー?」

純一「ま、まあそれで…」

マイケル「次でーす! ユーのこのみおしえてくださーい!」

純一「……え?」

「…ギャラガーのアニキ…それは…」

マイケル「ふんぬっ!」

「ひゃうふんっ」ドタリ

マイケル「…ミーのナンパの邪魔するのは、ノンノンデース…それにマイクと呼びなサイデース」

純一(今…!? 何が起こったんだ!? 腰あたりをなでただけに見えたけど…!?)

マイケル「それでー? どうナンデスかー? んんー?」

純一「うわぁっ…か、顔が近いっ…!」

マイケル「ウッフッフッフ…そんなにこわがらないでくだサーイ!
     モウマンターイ! ひどいことはしませんヨー?」

マイケル「…ちょっとだけ、ダーツにつきあってほしいだけデース…?」

「マイク兄貴が…ダーツに誘っただと…!?」

「ば、馬鹿なっ!? 相当気にいった奴しか誘わないのに…!?」

純一「えーと、お断りします…はい…」

マイケル「えー!? ホワイ!? どうして!?」

純一「どうしてって…その、あはは」

梨穂子「……」

マイケル「フゥム…なるほネー」

マイケル「……」くるっ

マイケル「ユーたち、ミーは振られてしまった! 慰める準備をしなサーイ!」

「は、はいっす!」

「だ、ダーツの準備だ! 店に戻るぞ!」

「あ、ああっ…わかったよ!」

マイケル「………」

純一「えっと…その、マイケルさんでいいんですか…?」

マイケル「ノン!」ぐるっ

純一「ひっ…!」

マイケル「ユーは……ウッフッフ、タチバナはミーのこと……ギャラガーって呼んでもオーケーデース!」

純一「……お断り済ます…」

マイケル「ノーン!」

純一(なんなんだこの人は一体……)

梨穂子「…その、大丈夫…?」

純一「え? あ、梨穂子……うん、大丈夫だよ」

梨穂子「っ…待ってて…」ごそごそ…

純一「?」

梨穂子「額が汚れてるよっ…拭いてあげるから大人しくしててっ」

純一「だ、大丈夫だよっ……それよりも梨穂子のハンカチが汚れちゃうだろ」

梨穂子「いいからっ」

純一「……う、うん」

マイケル「…ソーリー、あの子たちが迷惑をかけましたー…」

純一「え? いや、でも、あっちもあっちで理由があったわけですし…」

マイケル「イエス! その通り、通りに叶ってないことはさせるわけないよう躾けてマース!」

純一「し、しつけ…?」

マイケル「ですがー…それでもやり方にはもっとナイーブな方法があったはずデース…」

純一「………」

マイケル「…オゥ? この子は?」

隊長「…っ…っ…」

純一「…色々と、今回でのことで問題になった人です」

マイケル「フゥム、オーケー」つかつか…

ひょい

マイケル「仕方ないのでー、この子を店につれていくことにしシマース!」

純一「はい…?」

マイケル「大丈夫でーす、酷いことはしませんー! ただ、社会勉強をしてもらうだけでーす!」じゅるっ

純一「今、涎が…」

マイケル「オーウ! もうこんな時間です! 急がなければいけませーん!」

マイケル「ではナイスガイ、バァ~イ!」かんかんかん…

純一「ば、ばーい……」

純一(隊長さん……どうか、社会を学び更生されて戻ってきてください)

ちょと飯食べる
四十分ぐらいで戻ります

落ちてたらそれまでで

颯爽と現れたギャラガーがDQNを性的な意味でSEIBAIするのかと思ったらすでに調教済みだと…!?

じゃああのままりぽこが連れ込まれてたらどうなってたのよ…

まだ残ってたか

 がおー       ヽ 丶  \
  食べちゃうぞー\ ヽ  ヽ     ヽ
/  /    ヽ    \ ヽ   ヽ
 /   |  ヽ \     \  ヽ  ゝ             (I gotcha!!)

ノ 丿       \  梨  \   ヾ
 ノ  |   |  丶  \  佳 \         (I gotcha!!)
   /          \  お  \/|                  (I gotcha!!)
 ノ   |   |      \  ば    |         ↑
     /\        \      |         (  ↑
   /   \       /      |          )  (
  /      \      ̄ ̄ ̄ ̄ ̄         (   )
/_        \                    ) (        カニコロ
 ̄  | ダ  全 あ| ̄         ノ⌒ ̄⌒γ⌒ ̄⌒ゝ           / /
   | メ  然 な|         ノ しゅないだーさん ゝ          / /
   | ダ    た|        丿              ゞ      _/ ∠
   | メ    な|       丿/|/|/|/|\|\|\|\|\ゝ     .\  /
   | だ    ん|               │                V
――| よ    て|――――――――――┼―――――――――――――――――――――

   / !      ヽ  巛巛巛巛巛巛巛巛 人巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛巛ドジッコ忍び
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いまきたかく

純一「…ふぅ」

梨穂子「……」

純一「梨穂子、もういいよ。ありがとう」

梨穂子「……うん」

すっ…

梨穂子「……」

純一「ありがとうな、そのハンカチ洗って返すからさ」

梨穂子「…いいんだよ、気にしなくて」ごそ

純一「いいのか? だってここら辺の汚れって、結構酷いんだぞ?」

梨穂子「っ…だったら、もっとあなたのほうがっ…!」

梨穂子「……っ……あなたのほうが、酷いよっ…」

純一「あはは、そうだな…僕も直ぐに風呂に入って。それから制服を洗濯しないと」

梨穂子「………」

純一「…よいしょっと、梨穂子。もう夜になるし、まっすぐ家に帰れよ?」

梨穂子「えっ……」

純一「ここら辺は…まあ分かってると思うけど、ちょっと治安悪いしさ。
   また誰かに絡まれないよう急いで帰るんだ、僕もそうするから」

純一「それじゃあ、梨穂子。また明日、学校で」

すたすた…

梨穂子「ま、待って…!」

純一「……ん、なんだ?」

梨穂子「そのっ……どうして、何も言わないのっ…?」

純一「……」

梨穂子「こんなにも酷い目にあってるのにっ…私に、リホにっ…どうして文句の一つも、言わないの…?」

純一「……どうして、か」

純一「おい、梨穂子……そんなの当たり前だろ?」


純一「──お前と僕は、幼馴染だからだよ」ニコ

梨穂子「幼馴染…だから…?」

純一「ああ、そうだ……大丈夫、お前が今僕に対してどう思ってるかなんて。僕はちゃんと分かってるから」

純一「舐めるなよ、長年の幼馴染を」

梨穂子「………」

純一「…そんなワケだから、まあ、色々と話したいこともあるけど───…うわぁ!?」

ぎゅうっ…

梨穂子「………」ぎゅっ

純一「えっ、なに…どうしたの梨穂子? 急に後ろから抱きついてきて…えっ?」

梨穂子「…純一」

純一「あ、うん……純一だけど…えーと、その?」

梨穂子「…だめ」

純一「え?」

梨穂子「…やっぱり、ダメだよ」

純一「どういうことだ?」

梨穂子「………やっぱり、ダメだ……やっぱり、純一のこと…」

梨穂子「……〝思いだせない〟よ、私…」

純一「……」

~~~~

公園

梨穂子「……」きぃーこ…きぃーこ…

純一「つまり、昨日の今朝に言ったことは…嘘、だったと」

梨穂子「…うん、そうだよ」きぃこ…

純一「…どうしてそんな嘘ついたんだよ、それに…」

梨穂子「…あの時のこと、だよね」

純一「……」

梨穂子「それはね、橘くん……私があなたを心配させたくなかったからでね」

梨穂子「私は……あなたが悲しむ顔を見るのが……怖かった、の」

純一「それで…僕に冷たくしてたのか?」

梨穂子「…うん、勝手だよね、わかってるんだよちゃんと…」

梨穂子「ちゃんとちゃんと…分かってた。今、私がしようとしてること、
    そして橘くんにしてしまったこと……それがどんなに取り返しのつかない事だって…」ぐっ…

きぃーこ…

梨穂子「だけど、だけどね…? それでも私は、やめようって思わなかった…」

きぃーーこ…

梨穂子「そんなあなたの顔を見ても、傷ついた顔の橘くんを見たとしても……それでも」

梨穂子「私はあなたに〝嘘〟をつくことを、やめようって思わなかったんだー……」

梨穂子「例え記憶が無いと知られても、それを違うって嘘つけたりー…」

梨穂子「本当に記憶がないことを、知られたくないって嘘ついたりしてもー…」

きぃーー……こ…

梨穂子「……あなたが悲しんでも、嘘をつくことを止めなかったと思う」

純一「梨穂子…お前は、一体何がしたいんだよ…?」

梨穂子「……」

純一「僕は……全然、梨穂子がしたいことがわからないよ…?」

純一「そんなの、全く意味が無いじゃないか…
   ただ単に、僕に対して嘘をついて…僕を惑わせようとしてるだけじゃないか」

梨穂子「…そうだね」

純一「……」

梨穂子「最初から全部、わかってることなのに…どうして私、あなたに嘘をつくんだろう」

梨穂子「……わからないんだよ、それが、私には」

梨穂子「初めは悲しませたくないって……それだけだったのに」

梨穂子「…今の私は、ごちゃごちゃなんですよ」ニコ…

純一「…記憶のせいなのか?」

梨穂子「…ううん、わかんない、どうだろうね…」

純一「っ…記憶が無いから、そうやって…梨穂子は意味もなく嘘をついてしまうような…」

純一「よくわからない自分に、なってしまうのかよ…?」

いつもの調子で橘さんとイチャついてたらフライデーされたり親衛隊に狙われて危ないから、
突き放そうとしていたと思ってたんだが…
まさかホントに記憶喪失だとは

梨穂子「どーだろうねぇ……うーん、それだったらいいんだけどー…」

梨穂子「…どうもそれだけじゃないっぽいから、困ったさんかな?」

純一「どういうこと?」

梨穂子「……。さっきも言ったけどね、橘くんのこと…私は憶えてない」

純一「っ…う、うん」

梨穂子「それなのに、私はあなたを悲しませたくないって…思った」

梨穂子「それからわたしはあなたに冷たくしようって思った、
    記憶が無いことは悪いこと、ダメなこと、それを知られるぐらいなら…冷たくしようと」

梨穂子「それなら罪は無いって、
    純一を巻き込んでしまうような……思い出を巻き込んでしまうようなものは無いって…」

梨穂子「今の記憶の無い私は、そう思ってしまったんだよねー…」

純一「……思い出が良ければ、今はいいって言いたいのか?」

梨穂子「うんっ…そうだよ?」

梨穂子「だって、そうじゃない? 橘君だって、私のこと……遠い存在だって思ってるでしょう?」

純一「それは…」

梨穂子「ううん、思ってるはずだよ。橘くんは…ううん、橘君だけじゃない…香苗ちゃんも他の人たちも…」

梨穂子「全員、私のことをとおいとおーい存在だって…そう思ってるはずだよ」

純一「………」

梨穂子「だったら、それを期に……すべてぶったぎればいいかなぁー…なんて、思っちゃったりして」きぃーこ…

梨穂子「アイドルになった桜井梨穂子、学校に滅多に来ない桜井梨穂子、友達関係が疎遠になった桜井梨穂子…」きぃーこ…

梨穂子「それが今の〝桜井梨穂子〟であって〝桜井リホ〟なんだよって──」きぃこー

ぴょんっ!

梨穂子「…そう皆に分からせて、全てを断ち切ろうって思ってるんだよね」すとんっ

純一「そんなのっ…!」

梨穂子「…出来るわけ無い? あはは、それができるんですよ~」

梨穂子「遠い存在って、それだけで知ってる人を疎遠に出来る魔法の言葉だよ。
    だからこそ、私はそれを望んで〝演じて〟周りと疎遠になって見せるの」

梨穂子「…だってもう、記憶が無いんだもん」

梨穂子「今まで通り、仲良し通りなんて…えへへ、無理だよそんなの」

純一「っ…」

梨穂子「周りは昔の私を知ってる、だけど今の私は昔の自分を知らない」

梨穂子「それは…なによりも悲しい事だよ、周りの人たちにとってね」

梨穂子「だから~、周りには〝昔の桜井梨穂子〟をずっとずっと…記憶しててほしいんだ」

梨穂子「今の記憶の無い私に塗り替えることなく、良い子で元気な……桜井梨穂子を」

梨穂子「ずっとずっと…憶えてて、欲しいんだよ…橘くん」ニコ…


梨穂子「このまま上手く行けば、みんなを騙して…〝アイドルで変わってしまった私〟として理解してくれるはず」


梨穂子「……誰にも〝あの時の桜井梨穂子はもう居ない〟ってことを、バレずにね」


純一「…どうして、それを僕に言ったんだよ」

梨穂子「…うん?」

純一「そんなこと…周りのだれにも言ってないんだろう?」

梨穂子「…うん、言ってないよ」

純一「じゃあ…どうして、僕にだけ言ったんだよ」

梨穂子「………」

純一「そうしたら僕はっ……お前のことを放っておけなくなるだろ…!」

梨穂子「…そっか、橘くんはそう言ってくれるんだね」

純一「っ…当たり前だろ!? 僕は、お前の幼馴染なんだぞ!?」がしゃんっ…

純一「それなのに、その幼馴染がっ…周りに嘘をついてまで!
   記憶が無くて自分が一番つらいのに、それなのに周りにショックを受けてほしくないって…!」

純一「記憶が無くなったことを隠してまで、周りとの思い出を大切にするとかっ…馬鹿かよ!」

純一「しかもっ…しかもなんだよ! 隠し切るなら、アイドルになって変わったんだよって偽るつもり!?」

純一「ふざけるなよ梨穂子っ…! 僕は怒ってるぞ…!」

梨穂子「………」

純一「単純にっ…記憶が無いって、だからしょうがないんだよってっ…そうやって病気に甘えない所は凄いよ!」

純一「───だけど! そうやって嘘を吐かれた人たちの身にもなってみろよ!!」

梨穂子「………」

純一「僕はそんなの絶対に許せない、梨穂子に対してじゃないっ…それを分かってあげらなかった…!」


純一「───自分に対して、ずっとずっと悔やみ続けるはずだから!!」


梨穂子「……そうだね」

純一「梨穂子っ……聞かせろ、どうか僕に聞かせてくれ!」

梨穂子「うん、なあに? 橘くん?」

純一「どうして僕にその話を聞かせた! どうして僕にそうやって秘密事を話してくれたんだ!?」

梨穂子「……」

純一「お前がこの三週間、誰にも言うこと無くっ……それでずっと隠し通そうとしたその悩みを!」

純一「どうして幼馴染の僕に! 言ってくれたんだ!?」

梨穂子「……それは…」

梨穂子「それは……それは…」

梨穂子「…わからないけど、たぶんだけどね…」

ゴクリッ…

梨穂子「……」

梨穂子「…色々と、思いだせないのに…」

梨穂子「…ほとんどのことを、ぜんぜん憶え出せないのに…」

梨穂子「……だけど、だけど一つだけ……これだけは、言えるんだよ…」

梨穂子「…もしかしたら、言ってしまえばどうにかなるんじゃないかって…」

梨穂子「…この人だけには、言ってもいいって…顔も名前も…憶えてないはずなのに…」

梨穂子「…なのに、私は…今の桜井梨穂子は……ずっと言いたいことがあって…」

梨穂子「あなたの…顔を見たときから、ずっとずっと……この言葉だけを…」ぎゅうっ…


梨穂子「…………助けてよぉ、純一ぃ…っ」


梨穂子「いやだよぉっ…みんなにちゃんと、言いたいよぉっ…! これは違うんだよって、
    香苗ちゃんや先輩たちにっ…ひっぐっ…言いたいよ純一っ…!」

梨穂子「仕事だからってぇっ…ひっぐ、秘密にしなきゃいけない事だからっ…!」

梨穂子「だけど、昔の私をっ……知ってくれてる人たちに、わるっ…く思われたくないよぉっ…!」


梨穂子「私はっ…アイドルだから、ひっぐえっぐっ…病気はっ…秘密にしなきゃダメだから…っ」

梨穂子「だからもうっ…アイドルとして頑張んないとっ…もう、ダメになっちゃいそうでっ…ぐすっ…」

梨穂子「顔も名前もっ…思い出も、全部全部……
    憶えてないのにっ…周りの人の思い出なんて、これっぽっちも憶えてないのにっ…」

梨穂子「だけどっ…けほっこほっ…! 私はっ…どうしてもっ…忘れることが出来ないよっ…!」

梨穂子「───この人たちが、大切な人だっていうことを…! ずっとずっと…憶えてるから…っ」

梨穂子「私はっ……私はっ───」

純一「───良く言った、梨穂子」ぎゅう…

梨穂子「ひっくっ…ひっく…」

純一「十分だ、いいよ。それ以上は言わなくていい」

梨穂子「ぐすっ…すんすんっ…ごめ、ごめんねっ…私…」

純一「ああ、いいんだ」

梨穂子「なんにもわかってないのにっ…純一にた、頼って…ひっぐ…」

純一「大丈夫、僕がついてるから」

梨穂子「わたっ…し…ひっく、アイドルだからってっ…みんなに変わったって思われ、たく、ないっんだよ…っ」

純一「ああ、そうだな」ぽんぽん

梨穂子「だけどっ…だけどっ…」

純一「平気だ、どうにかする」

梨穂子「どうにか、して……してくるのっ…?」

純一「当たり前だよっ……こんなに泣いて、頼みこんできてくれて…」

純一「…しかも、僕にだけには頼りたいって思ったんだろ?」

梨穂子「うっ…うん…ひっぐ…」

純一「…顔も名前も憶えてないのに、ただ、それだけは思っててくれた」

純一「───僕を頼れば、どうにかなるってことを」

梨穂子「すんすんっ……う、うんっ」

純一「だったらどうにかしてやる、その期待に! 全力で叶え切ってみせるぞ僕は!!」

純一「任せろ、梨穂子……お前の幼馴染は絶対に」

純一「今の梨穂子の期待を、裏切らない」

うんこいってまいる!

相当硬いウンコやな
>>1の肛門の状態が心配される

~~~~~~

梨穂子「……」

純一「というわけで、連れてきました」

夕月「はえーよ、こっち頼るのよ」ぱしんっ

愛歌「時期早漏…ずずっ」

梨穂子「あはは…」

純一「だ、だってしょうがないじゃないですか…!
   こんなこと知ってるの、二人だけなんですから!」

夕月「だとしてもおめえさん、りほっちは只一人、アンタに頼ったんだろ?」

純一「そ、そうですけど…」

夕月「じゃあアンタ一人でやんな。それがりほっちの願いなんだからさ」

純一「え、ええっ! 無責任ですよ! この茶道部!」

夕月「…おい。どうして文句を言うようなタイミングで茶道部の単語を使ったァ…? ええ、オイ?」

純一「いや深い意味は無いです本当ですすみませ──あー……」

純一「ひどい…」しくしく…

梨穂子(一瞬で女装させられた……)

夕月「うっし、それでどうするんだい? 連れてきたってことは、それなりに考えちゃーいるんだろ?」

純一「えっ!? 一緒にやってくれるんですか!?」

夕月「半ば強引的にりほっちの話を聞かせたくせによ…良く言えるぜ、んなこと」

愛歌「腹黒優男」

純一「うぐっ……」

夕月「とりあえず、いーから考えること言いな」

純一「わ、わかりました……じゃあ梨穂子、いい?」

梨穂子「う、うん……ぶっ」ぷいっ

純一「…どうして笑うんだよ」

梨穂子「だ、だってぇっ…純一の恰好が、もう、ちょっと似合いすぎててっ…あはははっ」

純一「むー……夕月先輩!? これ脱いでも良いですか!?」

夕月「だめだー」

>純一「むー……

やだ純子かわいい…

~~~~~

純一「僕が思うにですね───それはもう、記憶を取り戻せばいいって思うんですよ!」

夕月「だろうな」

愛歌「当たり前」

梨穂子「そ、そうだよね~」

純一「みんな話は途中だよ! …こほん、それでですね? じゃあどうすれば記憶を取り戻せるのか」

純一「…という話になってくるわけです!」

梨穂子「どうすれば…」

純一「まあ僕が思うに……色々と調べると、一番僕らに向いている治療法を発見しました」

愛歌「それは?」

純一「はい、それはこれです!」トン!

『ショック療法! 過去の自分を取り戻せ大作戦!』

夕月「…ボードまで用意して何やってるんだって思えば」

愛歌「至極簡単」

純一「その通り! やることは簡単なんですよ!」

純一「現在、記憶を失っている梨穂子に…なにかしら過去を思い返させるほどの、ショックを与えればいいんです!」

夕月「殴ればいいのかよ?」

梨穂子「えっ…?」

純一「ち、違います! もう、夕月先輩はすぐにそんな暴力沙汰を起こす…ごはぁ!」ドタリ

夕月「チッ、胸に入れたパットで威力が削がれたか……おら、どういう意味だ橘ァ!」げしげしっ

純一「や、やめてっ、ずれちゃう! パッドがずれちゃいます!」

梨穂子「えーっと……」

愛歌「だが良い方法…だ」

梨穂子「愛歌先輩?」

愛歌「橘純一が言ったことは……一理ある」

梨穂子「ほ、ほー…」

愛歌「やってみる価値は…十分」

純一「で、ですよね! ではさっそくやってみようよ!」

夕月「んで、どうしてこの格好なんだあたしら」

愛歌「……」

梨穂子「わぁー…凄い、仕事でも着たこと無いよ~」

純一「──ザ・着物!」

純一「茶道部と言えば和服! そして着物!」

純一「梨穂子が過ごしてきたこの部活でのイメージ…それは大きく記憶に関して
   関わり合いを持っているはずです! ですから着物着ることにより───」

純一「和と身体を調和させ、精神を洗礼させるんです! ほら、着物着ると気が引き締まるっていうじゃないですか!」フンスー

夕月「いや、確かにその通りだが…あんま着物なんて着た事ないぞ」

愛歌「創設祭、文化祭以来」

梨穂子「あはは…」

純一「…」じぃー

夕月「…んだよ、こっちずっと見つめて」

愛歌「試着要望?」

純一「いや、先輩たちって…本当に和服似合いますよね~」

夕月&愛歌「……は?」

純一「ほら、夕月先輩は身体がスレンダーで…和服って意外と身体のラインが浮き彫りになるじゃないですか」

夕月「お、おうっ…?」

純一「だけど無駄が無く、鮮麗な身体は…とても着物が似合ってるなって、あはは」

夕月「…なんだい、照れるだろ…っ」

純一「それに愛歌先輩も!」

愛歌「っ……」ぴく

純一「やっぱり黒髪は着物にジャストですよね~、背中まで伸びてる傾れた髪先はとても色気を感じます!」

愛歌「…色気…」

純一「ええ! 日本人女性らしい、奥ゆかしくも気品あふれる雰囲気が…とても素晴らしいと思いますね」

梨穂子「……」ちょんちょん

純一「…ん? どうした梨穂子?」

梨穂子「そのー…えっと、ちらっちらっ」

純一「?」

梨穂子「……」

梨穂子「……、はぁー…」ズーン…

純一「え? どうして急に落ち込むんだよ梨穂子…?」

夕月「ありゃ駄目だ」

愛歌「幸薄りほっち」

梨穂子「…多分だけどね、こういう時、私も褒めるべきだって思うよ…」

純一「えっ!?」

梨穂子「前の私も…たぶんだけど、そう思ってたはずだから…うん…」

純一「そ、そうなのか…?」

梨穂子「あはは…だって、そうでしょ?」

純一「う、うーん…でも、敢えて言葉にしないってのも良いかなって思ってたんだけど…」

梨穂子「え…? どういうこと?」

純一「……それじゃあ、言ってほしい?」

梨穂子「え、あ、うんっ…言ってほしい、かな?」

純一「それじゃあ、コホン───」


純一「──まず言わせてもらうとその首元に垂れた髪先、梨穂子の汗をかきやすい体質で
   少し湿った髪先が肌に張り付き色気を出してると思う。そして首元から十六一重に
   重なった由緒正しき着物羽織り方、気品もあふれかつ上品さも兼ねそろえた規律の
   取れたものだってうかがえて、しかも着物と言うのは着る人を選ぶと言われている
   ハードルの高い服でありながら先ほども述べた通り気品さかつ上品さも失われてお
   らずさらに着物を着たことによって底上げを行われてるような気がしてくるから不
   思議なもんだよね。あとそれと帯に巻かれた腰のライン。普通は着物が重なる部分
   だから誰しもが分厚く楕円形になってしまう所梨穂子はきちんとそれを失くすよう
   身体を押しこみ華麗に着こんでいる。一般的な着方ではないにしろ着物にたいする
   思い入れと綺麗に着たいという感情をうかがえて素晴らしいって思う。あとそれに……」


梨穂子「っ~~~~~…ちょ、ちょっとまったー!」びしっ

純一「…なんだよ、まだ途中だぞ? 帯と首もとしか褒めてない、まだまだこれから袖口からと
   指先の形のよさまで褒めて、それから───」

梨穂子「わ、わかったよ! ど、どれだーけ褒めたいのかってのはっ…! 十分わかったから…!」

純一「本当に? まだ十分の一も…」

梨穂子「お、お願いだから! ねっ? もう、その変にして……ください…お願いします…」ぼそぼそ…

純一「…わかった、不承不承ながら納得しようじゃあないか」

梨穂子「う、うんっ……」

純梨穂子「っ……っ…」ぱたぱた…

梨穂子「…」ちらっ

純一「……」じっ

梨穂子「っ! ……~~~っ…えへへ」

純一「照れてるの?」

梨穂子「えっ! あ、いやー……えっと、その~……」

梨穂子「……かも、しれない、かな」

純一「あははー! なんだよ、梨穂子僕から褒められて照れるなんて───あれ?」

純一「どうして先輩たち…着物をもう一着手にしてるんですか…? ちょ、ちょっと!?」

純一「やめて、あ、いやっ! 着物はだめ! 恥ずかしいから! やだー………」

数十分後

梨穂子「…すみません、今日はこの辺で」

純一「あ、送って行くよ梨穂子」

梨穂子「ううん、いいよ。だって着物脱ぐの大変でしょ?」

純一「まぁー…うん、ちょっと時間かかりそうかも…痛っ!?」

夕月「ほれ、余所見すんなよ」

純一「ううっ…今は仕方ないじゃないですかっ」

梨穂子「あはは、だからね。今日はこの辺でお別れしよ」

純一「わ、わかった…でも、すぐになにかあったら連絡しろよ?」

梨穂子「うんっ」

梨穂子「それじゃあ先輩たちもさようなら」ぺこ

夕月「おう、また明日も来るんだろ?」

愛歌「俄然準備態勢」

梨穂子「…はいっ! お願いしますっ!」

梨穂子「……じゃあ、またね。橘くん」ふりふり

純一「っ…おう、またな梨穂子」

がらい…ぴしゃ

純一「………」

夕月「…あんたにしちゃ、頑張った方だよ橘」

純一「……あはは、そうですかね」

夕月「当たり前さ、大した度胸だよ。…なんだい、あんなに脚を震わせながら」

夕月「りほっちを褒めるなんて、くっく、見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」

純一「………」

夕月「だけど、今日は駄目だったみてーだな」

純一「…まだ時間はあります」

夕月「だからって悠長に構えてる暇なんてねえだろ? …うっし、取れた」

純一「……そうですね」

夕月「後はあんた一人で着替えな、それと…」

純一「なんですか?」

夕月「……あんたに言っておくことがひとつだけあるんだがよ」

純一「…?」

夕月「よっと…まあ、大したことじゃないよ。別に問題になるようなことじゃない」

夕月「だけど、あんたをちょっとだけ困らせることになるかもしれないけど、聞くかい?」

純一「…ええ、聞きます」

夕月「良い度胸だ、そっちの部屋で着替えたら居間に来な」

夕月「……多分だが、りほっちの問題を教えてやるからよ」

純一「梨穂子の、問題……───」

~~~~~

夕月「───あの子は、精神的なモンで記憶を失ってるって言ったよな」

純一「ええ、まあ」

夕月「それは仕事をする若い女性に発症する場合が多いと、こうも言ったよな」

純一「言いましたね」

夕月「…だけど、それは本当に仕事だけかって思わねえか?」

純一「どういう意味ですか?」

夕月「あの子自身に、何かあったとは思わねえかって話だ」

純一「梨穂子、自身に…?」

夕月「おう、仕事つーのもあの子が悩む大した程の原因だ。
   だけどよ、それはあまりにも……早すぎやしねえかと思う」

純一「……ストレスを感じるのには、時期が短いと?」

夕月「そういことだ、アイツはアイドルになって…まだ二カ月ちょい」

夕月「だからといって売れてないわけでもなく、御笑いにアイドル、しかもドラマまでに出演が決まっちまってる」

純一「…何が言いたいんですか、ただ単にあいつの凄さが一般受けしただけじゃ…」

夕月「本当に、そう思うのかよ」

純一「………」

夕月「もう一度聞くぜ橘、本当にそう思ってるのかよ?」

夕月「不思議だと思わねえのか? たった二ヶ月の新人がよう、万来とばかりに仕事がき過ぎじゃねえかって」

夕月「あたしがいった仕事内容は、実際にちほっちから聞いたもんだ。嘘はねえと思う」

夕月「それを聞いた時は嬉しかったさ、売れないよりはドンドン
   テレビに出てファンが増えて、それからもっと有名になって」

夕月「アイドルとしての株がすっげーあがんの、こっちは楽しみにしてるつもりだ」

純一「じゃあ…楽しみに思い続ければいいじゃないですか」

夕月「…わかるだろ、あたしが言いたいこと」

純一「っ……なんですか! 一体何を言いたいんです! 僕にっ…!」

夕月「………」

純一「そんなのっ! 僕に言ってどうするんですか…っ!?」

夕月「…あんただから、これは言うんだ。そして、これも言わせてもらう」

夕月「──りほっちは、可能性として枕」


バンッッ!!!!!


夕月「っ……」

純一「───いい加減にしろッ…言ってもいいことと、悪いことがあるぞッ…!」

夕月「っ…ふぅー……落ち着け、橘」

純一「…ダメだ」

夕月「こっちもダメだ、いいから落ち着け」

純一「………。言わせてもらいますけど、先輩」

夕月「…なんだい、橘」

純一「今、この瞬間から…僕は貴女を尊敬する人から除外しました」

夕月「…気にしねーよ別に、それよりも尊敬されてた事にびっくりだぜ」

純一「ですけど、それはもう過去の話です」

純一「貴女は今、一番…人として言ってはダメな事を言った。
   あの梨穂子に向かって、アイドルとして頑張る桜井リホに向かって」

純一「──この世で一番、最悪の言葉を言った!」

夕月「……」

純一「あいつの頑張りをっ…最低な言葉で、否定した!
   記憶を失ってまで、そんな病気にかかるまで頑張る梨穂子を…!!」

夕月「…聞けよ、話はまだ終わってねえ」

純一「聞けるかよ!! アンタみたいな最悪な人間の言葉なんて!!」

夕月「いいや言う、それがあんたの為だ」

純一「ッ……帰ります、ここにいたら先輩ッ…僕は手が出そうになる!」がたっ

夕月「待て!」

純一「イヤです! 帰ります!」

純一「…今日はお世話になりました、だけど、明日からは僕だけで頑張ります…ッ…」

純一「……今まで、ありがとうございました」

がらりっ……ピシャッ!!

夕月「橘っ!!」がらっ


たったったった…


夕月「………ったく、思いっきり炬燵殴りやがって…」ぴしゃっ

夕月「あーびびった……はぁーあ、なんつー立ち位置だよほんっと」ぽりぽり…

愛歌「ゆっこ」

夕月「…おう、なんだよ愛歌」

夕月「いいや言う、それがあんたの為だ」

純一「ッ……帰ります、ここにいたら先輩ッ…僕は手が出そうになる!」がたっ

夕月「待て!」

純一「イヤです! 帰ります!」

純一「…今日はお世話になりました、だけど、明日からは僕だけで頑張ります…ッ…」

純一「……今まで、ありがとうございました」

がらりっ……ピシャッ!!

夕月「橘っ!!」がらっ


たったったった…


夕月「………ったく、思いっきり炬燵殴りやがって…」ぴしゃっ

夕月「あーびびった……はぁーあ、なんつー立ち位置だよほんっと」ぽりぽり…

愛歌「るっこ」

夕月「…おう、なんだよ愛歌」

愛歌「がんばった」

夕月「…ん、そうだな」

夕月「辛いかもしんねー…けどさ、やっぱり『現実』は変われねえんだ」

夕月「……世の中、絶対的に〝優しくて本当のことばかりじゃないんだぜ…〟」

夕月「…橘ぁよう」

~~~~~

「はぁっ! はぁっ!」たったったった!

「っ…そんなのっ! そんなの嘘だ! あり得るわけ無い!」

「梨穂子がっ……そんなこと! そんなことで仕事をしてるなんてっ…!」

「ありえるわけないよっ! 絶対にっ!」

~~~~~

「はぁっ……はぁっ……」

「梨穂子の、自宅……家に居るのか…?」すた…すたすた…

「梨穂子…に、聞かなくちゃ…ちゃんと…」

まーたアマガミスレ落ちたのかwwww

「…あれは、車……?」

「っ……」さっ

(…梨穂子の家から誰か出てきた? 男? それに、梨穂子も一緒だ…)


「───」

「───」

がちゃ…パタン


(一緒に車の中に……)

(もしかしたら、近づいて中の様子を見れるかもしれない……)キョロキョロ

「…よし、少しだけ…少しだけなら、いいよな…」すた…

「……」すたすた…

(この距離なら、中の様子は見える───)

「───……」


「…………え…」

(嘘だ……そんなの…)

(僕の見間違いだ…あり得るわけがない、だってそんなの…………)

「ッ……!」くるっ


たったったった…

~~~~~~

三日後・放課後

梅原「…すまん、今日も来てないぜ」

梨穂子「…そうなんだ」

梅原「おう、俺も連絡とってるんだけどよ…ちっとも出るつもりもないみてえでさ」

梨穂子「うんっ…ありがと、梅原君」

梅原「……そのよ、桜井さん」

梨穂子「…うん?」

梅原「橘と、その……なにかあったのか?」

梨穂子「えっ? 別になんにもないよっ…?」

梅原「そっか、ならいいんだけどよ」

梅原「…アイツがこの期間で休むなんて、何かあるとしか思えないんだがな…」

梨穂子「……」

梅原「あ、すまん! 忘れてくれ!」

梨穂子「うん……ごめんね」

梅原「どうして桜井さんが謝るんだよ、関係無いんだろ?」

梨穂子「…そう、だと思うけど」

梅原「じゃー平気だ、大将だって直ぐによくなって戻ってくる!」

梅原「信じて待とうぜ、桜井さん!」

~~~~~

梨穂子「……」ぴんぽーん

「──はーい、今開けまーす」

「…あれ? りほちゃん?」

梨穂子「こんばんわ~美也ちゃん」

美也「ひっさしぶり~! わぁ! りほちゃんだー!」

梨穂子「うんっ、久しぶりだね。元気にしてた?」

美也「にっしし! いっつもみゃーは元気な子だよっ」

梨穂子「そっか、それは良かった~」

美也「えーと、今日は……もしかしてにぃにのお見舞い?」

梨穂子「…うん。たち…純一は今は大丈夫かな?」

美也「…えっとね、うーん……りほちゃんだから、正直に話すけどね…」

美也「最近、にぃに部屋から一歩も外に出てないんだよ。ご飯だって…ほとんど食べてないんだー…」

梨穂子「一歩も? それに御飯もって…」

美也「…うん、みゃーもよくわからないんだけど…」

美也「…でも夜になるとね、隣の部屋から小さく独り言が聞こえるんだよ…」

梨穂子「ひ、独り言…?」

美也「何て言ってるのかまでは、わからないんだけど…途中で泣き声に変わったりして…」

美也「……だけど、にぃに。みゃーには何も言ってくれないし…」

梨穂子「………ねえ、美也ちゃん」

美也「…うん…?」

梨穂子「純一の部屋に行ってもいいかな」

美也「えっ…? も、もちろんいいケド…会ってくれないかもだよ?」

梨穂子「うん、それでも声をひとつかけてあげたいんだよ」

美也「…そっか、いいよ、にぃにの部屋はわかるよね?」

梨穂子「…ありがとう、美也ちゃん」

~~~~~

梨穂子「……」コンコン

「……美也か、晩御飯は要らないってお母さんに言っておいてくれ」

梨穂子「…違うよ、梨穂子だよ」

「……何しに来た」

梨穂子「何しに来たって……忘れちゃったの? その…」

「………」

梨穂子「…私の〝問題〟について、色々と考えてくれるって…コト」

「………」

梨穂子「………そっか、忘れちゃったか…えへへ」

梨穂子「うんっ…ごめんね、そしたら帰るからー……」

がちゃっ

梨穂子「っ……」

純一「……入ればいい」

梨穂子「あ、うんっ……ありがと」きぃ…

梨穂子「おじゃましま───っ……!?」

純一「……」

梨穂子「なに、これ…」

純一「…すまん、ちょっと散らかってる」

梨穂子「散らかってるって…これ、写真……だよね?」ひょい…

純一「触るなっ!!」

梨穂子「ひぅっ……!?」びくっ

純一「はぁっ…はぁっ…い、いやっ! すまん…急に大声を出して…」

梨穂子「う、うん…びっくりするよっ…そんな大声あげたら…」

純一「…ごめん、でも僕が片づけるから…梨穂子は触らないでくれ…」

梨穂子「…う、うん」

純一「……はぁ、それで…なにしに来たんだ。僕の所へ」

梨穂子「え……それは、さっきも言った通り…」

純一「…〝問題〟のことか?」

梨穂子「そ、そうだけド……でも、今の橘くんを見てたら…やれるような体調じゃない、よね」

純一「…やれるさ」

梨穂子「っ……で、でも。無理してまで…! 具合も悪そうだし、私の為にそこまで───」

純一「──僕はやっちゃいけないとでも言うのかよっ!?」

梨穂子「ひぁっ!?」

純一「はぁっ…はぁっ…んくっ…はぁっ…」

梨穂子「橘…くん?」

純一「っ……ホントのことぉっ…本当のことを言ってくれよ! 梨穂子っ…!」

梨穂子「え…」

純一「お前はぁ! 僕にどうしてほしいんだよぉっ! この僕にっ!」

純一「どうして欲しいのかっ……言ってくれよ、お願いだからっ…!」

梨穂子「どうして欲しいって……だから、私の記憶を…」

純一「ッ……記憶!? そうだろうな、確かに僕にお前はそう望んだ!!」

梨穂子「っ……」びくっ

純一「だけど、それは本当にお前の悩みか!? それが一番の悩みか!?」

純一「教えろよ僕に! この僕にちゃんとその口で教えろ梨穂子っ!?」

梨穂子「た、たちばなっ……」

すた…

純一「なぁっ…! お前は一体、どうして記憶を失ったんだ…!?
   どうしてそこまでお前を追いつめたんだ!? 仕事か!? ストレスか!?」

すたすた…

純一「それが原因でお前は記憶を失ったのか!? それがホントに事実なのかよ!?」

ぐいっ!

梨穂子「きゃっ…!」

純一「──お前はもっと僕に隠してる事があるんじゃないのかよ! それを教えろ!」

梨穂子「隠してること……」

純一「そうだよっ! お前はぁっ…僕に、僕に言わなくちゃいけないようなことがあるはずだろ!?」

梨穂子「………」

純一「例えそれが言いにくいことだったとしてもだよ! 僕はっ…ちゃんとお前の口から聞きたいんだよ!?」

梨穂子「………」

純一「っ……どうして言ってくれない!? お前はっ…僕に助けてほしかったんじゃないのかよ!? なぁっ!?」

美也「……にぃに!? なにやってるの!?」

純一「っ…美也は黙ってろ! 僕の部屋から出て行け!」

美也「っ…」びくっ

純一「なにしてる…早く、出て行けよ!」

美也「で、出て行かないよ…っ! りほちゃんが困ってるじゃん! にぃにやめなよ!」

純一「っ…くそ、くそくそ!」ばっ

梨穂子「……っ…」

純一「……梨穂子、頼む。お願いだから、これで最後にするから…聞かせてくれ」

純一「お前が一番助けてほしいことは、なんだよ……」

梨穂子「助けてほしいこと……」

純一「……」

美也「……」

梨穂子「…それは、それは……」

梨穂子「………」


梨穂子「──〝記憶〟のことだけ、だよ?」


純一「───………」

純一「あははっ…そうか、そうかっ……あはは!」

美也「にぃに…?」

梨穂子「………」

純一「僕に頼ったことはっ…! 記憶のことだけか梨穂子! その失った原因じゃなくて! 記憶のことだけか!」

純一「これは傑作だよっ…本当に、僕はとんだピエロだっ…!」

梨穂子「…橘くん」

純一「…………」

梨穂子「ねえ、さっきから何を言ってるの───」

純一「……なあ、梨穂子。三日前、夜に家の前で車が止まってたろ」

梨穂子「───っ……!?」

純一「…っは、どうした? 梨穂子、なんでそこまで驚くんだ?」

梨穂子「…み、見てたの…?」

純一「ああ、バッチリな……それに、お前と一緒に男の人が乗るのが見えた」

梨穂子「っ……」

純一「それでさー……僕、気になっちゃって車の中を見たんだよね」

純一「…そしたら? なにが見えたと思う?」

梨穂子「…やめてよ…」

純一「な、なんだよっ……あんなこと慣れてるんだろ!? そうやって仕事をやってきたんだろ!?」

純一「あんな風に男に抱き寄せられて…! それがお前がやってるアイドルの仕事なんだろ!?」

美也「え…」

梨穂子「っ……!」

純一「それがっ…! お前のやってる辛くても楽しいアイドルの仕事なんだろ!?」

純一「はっ…なんだよそれ、それに、お前だって全然抵抗するような素振りもなかったし…」

純一「……なんなんだよ、お前は。僕に一体、何をさせたかったんだよ」

梨穂子「………」

純一「僕は……お前に頼ってもらえて、本当にうれしかった」

純一「記憶を失ってでも、梨穂子が僕に頼ろうって思っててくれたことが……」

純一「……本当にうれしかった」

純一「だけど! あれはなんだよ! あの男は!? あいつは!?」

純一「あれがお前の病気の原因じゃないのかよっ…! それを本当はどうにかして欲しいんじゃないのかよっ!?」

純一「なのにっ…! お前は、僕に記憶を取り戻すことしか望まない! どうして言ってくれない!?」

純一「僕じゃっ……ダメなのかよっ…! 梨穂子ぉ!」

純一「そんなのっ…記憶を取り戻しても一緒じゃないか……!」

純一「ふざけるなよっ…どうして結果的に治りもしないものを、僕が頑張らなくちゃいけないんだっ…!」

梨穂子「………」

純一「………」

純一「…そうか、お前は僕が梨穂子の為に奮闘する姿を…アイツと一緒に笑ってたんだな…?」

梨穂子「……」

純一「いつ記憶を戻すのだろうって! んなことしても無駄なのにって! 二人して僕のことを嘲笑ってたんだろ!?」

美也「っ……にぃに! やめて!」

純一「お前はそうやって人をからかって! 頑張る奴を笑ってたんだろ!?
   そうだよなぁ…だって簡単に人のことを騙せるような、嘘つきだもんなっ!?」

美也「にぃにっ…!」

純一「何とか言えよ! 違うならちがうって! ハッキリ言えよ梨穂子っ!」

梨穂子「………」

梨穂子「……いって、どうするの」

純一「っ……どういう事だよ!?」

梨穂子「そんなこと、橘くんに言ったとして…どうなるの」

純一「なん、だと…?」

梨穂子「だってそういうこと…だよ、これって」

純一「お前………本気で、そういってるのか…?」

梨穂子「うん、言ってる」

梨穂子「橘くん……あなたがいったこと、全部あってるよ?」

梨穂子「あえて原因のことも言わなかったのも、あなたが言って通りで正解だよ」

純一「…梨穂子」

梨穂子「それに、記憶のことしか言わなかったのも。あなたが言ってることで正解だし」

純一「…梨穂子っ…!」

梨穂子「最後に言った頑張る姿を……というのも、あなたがいってることが当たりだからね」

純一「──梨穂子ッ!」

梨穂子「…なあに? 橘くん?」

純一「お前はっ……もう、俺の知ってる梨穂子じゃない!」

梨穂子「………」

純一「それはっ…もうっ! 俺の知らない、違う梨穂子だ!」

梨穂子「…そうだよ」

梨穂子「アイドルになったから変わった私じゃない」

梨穂子「──〝記憶を失った、違った梨穂子だもん〟」

純一「ぐっ……あっ……くッ…!」


純一「───あああああああああああああああ!!」


美也「っ……」びくっ

純一「っはぁ………ああ、梨穂子…そうだな」

梨穂子「……」

純一「お前は違うよ、もう……僕も疲れた」

純一「……出て行ってくれ、もう顔も見たくない」

梨穂子「…そうだよね、わかってる」くる…

純一「……」

梨穂子「…だけどね、こだけは言わせてほしいな」

梨穂子「…今まで、ありがとうございます」

純一「……帰れ、桜井」

梨穂子「……うん」

きぃ…ぱたん

純一「…………」

美也「に、にぃにっ…?」

純一「…美也、すまなかった。びっくりしたろ」

美也「みゃーのことはどうだっていいよ…! だけど、りほちゃんが…!」

純一「……いい、放っておけ。それに…もうあいつは僕とは関係ない」

美也「か、関係無いって…そんなの! だってりほちゃんだよ!?
   ずっとずっと仲良しだった、にぃにとずっと……!」

純一「うるさいっ!」

美也「っ…あぅ…」

純一「っ……ごめん、今は僕…どうしようもないんだ…」

純一「ごめん…美也…そっとしておいてくれ…ごめん…本当に…」ぐっ…

美也「…………」

きぃ…ぱたん

純一「……………」

純一「……なんだよ、僕は…」

純一「僕は…アイツの為にっ……だから、アイドルになってもっ…!」

純一「ソエンになったとしてもっ…応援し続けようって…っ…」

純一「思ってたのにっ……さぁっ…!」

純一「どうしてっ…こうなるんだよっ…!」

純一「どうしてっ……どうしてだよ!」

純一「ぐっ……ぐすっ…っはぁ……馬鹿野郎…」

純一「僕のばかやろうっ…」

~~~~~

 それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。

純一「………」

 あれから何事もなく、予定の三週間は過ぎて行き。

純一「………」

 そして学校中のだれもが惜しむ中、桜井リホはアイドルへと復帰を果たした。

純一「………」

 桜井リホがどれだけの人たちを、これから魅了し続けて行くのかはわからない。

 テレビの中で歌を歌い、声を発し、笑い声を上げ、泣かせるような演技をし。

 彼女が発する全ての──アイドルとしての力は、決してくすんでる様には見えなかった。 

 あの時。彼女が言った言葉は、僕に向かって発せられた真実は。
 
 果たして本当のことだったのだろうかと、ふと考えることがある。

 しかしそれは、もう答えが無い。答え自体を、僕自身が捨てたのだから。

純一「……梅原」

 それが良いことなのだと、自分自身に言い聞かせて。
 
 何物にも代えられない、唯一無二の幸せなんだと信じて。

 僕も彼女も、思い出としての〝二人〟を消し去ることに成功した。

純一「今日はもう帰る、先生には具合が悪くなったと言ってくれ」

 はたしてそれが、世間一般的に不幸だと言われてしまったとしても。
 
 僕はそうは思わない。互いに傷をつけあう優しさに、なにが幸福をもたらすだろうか

 だったらいっそ、全てを捨ててしまって。なかったことにして。

純一「……ふぅ」

 ───全部のことを、忘れてしまった方がいいじゃないか。

純一「……だろ、桜井梨穂子」

純一「僕が…この名前を呼べるのは、写真に向かってだけだよな」

純一「もう誰にも、この名前を呼び掛けることなんて……出来はしない」

純一「出来やしないんじゃなくて、もう〝居ないんだ〟」

純一「…そう呼べる人が、テレビの中で歌っていたとしても」

純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」

純一「新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」

純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」

純一「……そんな桜井梨穂子なんだよ」

純一「僕の知っている、僕がそう呼べる〝桜井梨穂子〟はもう……」

純一「……居ないのだから」



ぱたん…






───ピチュン!





純一「……!?」ばっ

純一「な、なんだ……」

純一「急にテレビがついた…?」


『──えーこちらは、今、空港からの中継です』

『──今回、KBT108で人気爆発中の……』

『桜井リホさんに繋がってまーす!』


純一「………」


『こんにちわー! 大丈夫ですかー? お具合の方は?』

『──はい、大丈夫でーす! 世間の皆さんは、わたしが病気ー…とか思ってるみたいですけどぉ!』

『そんなことありませんよ~! えへへ、実はちょっと食べすぎでお腹を壊したぐらいかなぁ~って…』

『ドッ! わははははは!』


純一「……元気そうだな」すっ…

純一(よかったよ、お前はそうやって何時も通り、アイドルとしてやっていばいい)

純一「…じゃあな、桜井リホ」かち…


『──それで、今回から海外での活動を主にされるようですが!』


純一「……」ぴた


『はーい! 実は極秘に社長が練っていたプランだったらしく~、見事選ばれちゃいました~!』

『それは凄い! 流石はリホちゃんですねぇ!』

『えへへー! がんばりまーす!』


純一「…海外?」

純一「なんだそれ、一体何を言ってるんだ…? 桜井リホは海外に行くって…」

ぷるるるるるるるる!

純一「っ…電話?」

純一「……っ…」

『それですねぇ! 主に映画での活動をやっていこうかなーなんて───』

ぷるるるるるるるる!

純一「…気になるけど、電話が先か…」たたっ

~~~~

純一「…はい、もしもし。橘です」

『──たーちーばーなーくぅん?』

純一「ひぃいっ!? た、高橋先生!?」

『ええ、そうですよぉ……どうして自宅に電話をかけたら、平気そうな声で君がでるのかしらねぇ…?』

純一「そ、それはですねぇ! えーと、あははは!」

『もしや、と思ってかけてみれば! 先生、ズル休みは許しませんよ!』

純一「……す、すみません」

『もうっ! 今からでもいいです、戻ってきなさい! 先生が特別に便宜を払ってあげますから!』

純一「え、ええっ…今からですか…?」

『弱音を吐かないの! 具合悪くないことはお見通しですからね! …まったく、桜井さんを見習いなさい!』

純一「っ……そ、そうですね」

『そうですね、じゃあ…ありません! まったくもう、私は君にどうして彼女のことを相談したかわかってるのかしら…』

純一「え、それはっ…僕と…桜井が、幼馴染だからって知ってたからじゃあ」

『ええ、まあそれもあります。ですけど、根本的には私は彼女みたいな強い精神を持って参考にしてほしかったのよ?』

純一「……どういうことですか?」

『…忘れたの? 彼女のことは内密だからって、君が忘れることはないでしょう』


『───親御さんが大変な時期に、学校に来られたことにです!』


純一「……は?」

『……なんですかその返答は』

純一「いや、待ってください…え? 先生?」

『なんですか、私…変なこと言ったかしら?』

純一「い、言いました! 言いましたよ!」

純一「梨穂子の親御さんが大変って…なんですかそれ!?」

『……え?』

純一「ちょ、ちょっと待ってください…え、それってあの生徒指導室で言った事ですよね?」

『え、ええ…そうですけど、先生そう言わなったかしら?』

『──病気で御記憶を失くされてるから、大変だって』

純一「あ……言ってましたけど、それ……梨穂子のことじゃあ…?」

『はぁ? それじゃあどうして学校に来てたんですか! ちょっとは考えなさい!』

純一「……………ですよね」

『意味が分からないこと言わないで、早く学校に───』

純一「………なんでだ、どうして僕、梨穂子だって勘違いをした…?」

純一(待て、考えろ……僕はまず高橋先生からこの話を聞いた)


純一(しかし先生は…それを親御さんの病気だと言ってる)


純一(──まずはそこ、どうして僕はそう思った?)


純一(っ…ダメだ、思いだせない…もしかして、色々と不安定のままに聞いたせいなのか…?)


純一(だから僕は、梨穂子の病気だと勘違いを………いやいや、それもおかしい!)


純一(だったらそんな僕の勘違いは、あの茶道部の人たちに訂正されたハズ………)


純一「………………茶道部?」

純一「──────…………嘘だろ、おい」

~~~~~


純一「はぁっ…はぁっ……!」

がらり!

純一「はぁっ…はぁっ…!」

「───ん、なんだい。珍しい奴が来たねえ」

「───黒幕登場」

純一「なんっ……ですか、それ…! なんかのnpcみたいな喋り方はっ…!」

夕月「なんとなくだよ」

愛歌「特に意味無し…ずずっ」

純一「はぁっ…ちょ、ちょっと…だけっ…待ってくださいっ…!」

純一「家から全速力でっ…走ってきたので、ちょっと…喋れなくてっ…!」

夕月「いいよ、待っててやっから。落ちついてから喋りな」

純一「っ…んく、やっぱりだめです! この状態で言いま、す…!」


純一「───あんた等、僕を騙してたな!!!」

おのれしゅないだー!

夕月「おーやっとかい! いやー遅かったねぇ」

愛歌「義理セーフ」

夕月「…そうかい? あたしゃもう手遅れだって思うけどねえ」

純一「ちょ、ちょっと!? どうしてそんな無反応気味なんですか!?」

夕月「ん? だって、いつかは気付くだろうって思ったしよ」

愛歌「勘違いから生まれるのは……ただの勘違い」

夕月「いやはや、アンタが神妙な顔で来て……病気病気、梨穂子が…」

夕月「なーんて言ってきたら、あはは、ちょっと騙したくなってきたってだけさ」

純一「ふぅー……はぁー……」

夕月「…お?」

純一「最低だ! アンタらは!!」

夕月「くっく、そうだよあたしらは最低さ」

ええ…茶道部コンビクズ化はやめてくれよ…

夕月「…だけね、あたしらは『あの子』には最高の先輩さ」

純一「…聞かせてくれるんでしょうね、どうして騙したかを」

夕月「簡単な事さ、はっきりいうぜ?」


夕月「──桜井梨穂子は、記憶を失った事実は一切ない」


純一「っ……」

夕月「それが現実、そしてあんたの勘違いだ」

夕月「…最初の方は、アンタ何言ってるんだがわからなかったさ」

夕月「りほっちのことで、頭が混乱してるのかって思ってれば」

夕月「…面白い方に勘違いしてるしよ、はっは、参ったぜあんときは」

夕月「だから言わせたのさ、アンタに。どんな勘違いをしてるのか、直接的に言わせる為に」

夕月「憶えてるかい? ───りほっちの記憶を失ったと言ったのは、お前自身だぜ?」

夕月「あたしらに向かって言ったのは、あんた自身の口から聞いたモンだ」

夕月「……そしてあたしら二人は、その話に乗っかっただけ」

夕月「ただただ、それだけだよ」

純一「……どうして、そんなことをしたんですか」

夕月「意味なんて無いさ、その時の場のノリだよ」

純一「じゃあ、後はどうなんですか」

夕月「……後?」

純一「はい、その時が……先輩たちの乗りだったとして。その後の…」

純一「…僕の頑張りに対して、どうして口を出さなかったんですか」

夕月「………」

純一「教えてください」

夕月「…それは、まあよ、わかるだろ橘」

純一「……梨穂子、ですか」

純一「全部全部……アイツがやったこなんですね!?」

夕月「…そうだよ、りほっちがやったことだ」

純一「っ……どうして、そんなことっ…!」

夕月「あたしらはアンタが帰った後に、すぐさまりほっちに伝えたんだ」

夕月「…アンタの考えたズル休みの理由が、なぜか、面白いように伝わっちまってるよってな」

純一「……」

夕月「だから変な事してきたら、面白いように扱ってやんなってさ。
   だけど……りほっちは、全く浮かないような顔をしてやがった」

夕月「『…チャンスかもしれないです』って、最後に言ってな」

純一「チャンス…? なんですか、チャンスって…!」

夕月「さあな、だけどあたしら二人はそれから……りほっちの言う通りに、動いただけだよ」

夕月「アンタの頑張る姿を、知らぬ存ぜぬで突き通せってな」

純一「じゃあ、僕に言った…梨穂子を愚弄した話も…?」

夕月「それは…」

愛歌「…我の発案也」

純一「っ…愛歌先輩が…?」

愛歌「りほっちの意図を汲んでのこと……」

愛歌「橘純一……りほっちは分かれることを望んでいた」

純一「わかれる、こと?」

愛歌「分かるだろう…それは、つまり」

ぴっ

愛歌「こういうことだ」

『さて、海外へ向かう飛行も…あと五時間を切りました!
 これからは桜井リホさんのデビュー当時の映像を───』

純一「……海外?」

愛歌「……ずずっ」

夕月「そうだよ、橘…りほっちは学校に来た理由は親御さんの病気としてたけどよ」

夕月「本来は皆とお別れする為に、挨拶としてここに来てたんだ」

純一「なんでっ……どうしてっ…!」

夕月「あたしらには、そう言っていた。だけど、本当にあたしらだけみたいだな」

夕月「職員室…今は大パニックらしいぜ? まあ、事情を知っていた先生も居るみたいだがよぉ」

純一「っ……なんで…梨穂子はっ…」

純一「どうしてっ! 僕には何も…! ただ、僕の勘違いに対してっ…! それしか言ってないかったのにっ…!」

純一「いままで記憶が無いふりを、僕の勘違いだって言うのにっ…それを演じ続けたって…こと?」

純一「なんでだよっ…! お前は一体何をしたかったんだ…!? 梨穂子…!」

夕月「………」

純一「じゃ、じゃあ……な、なんなんだよお前っ……あの時、僕に泣きながら言ってくれたことは…嘘かよ…?」

純一「記憶を取り戻したいと…顔をぐしゃぐしゃにして、泣いたお前は…あれは、演技だったとでも…?」

純一「記憶が無いからって…皆に嫌われたくないって、言ったのも全部……演技?」

純一「…はは、ははははっ……そ、そうか……全部全部、アイツの計算通りってわけか」

純一「じゃあ、最後に僕の部屋で言った事も……アイツにとって、望まれた答えってワケか…!」

純一「じゃあなんだ…あれは……っ! じゃあ誰だって言うんだよ…! 抱き合ってた、あの人は…!」

夕月「…その話は知らねえけど、たぶん、コイツじゃねえか?」くいっ


『ワァーオ! 桜井リホー!』

『わっぷっ…社長さ~んっ! いきなりのハグはやめてくさ~いっ!』


純一「」

愛歌「とどめの一撃」

夕月「…馬鹿だねえ、ほんっと」

純一「……う、嘘だ……あはは…」

夕月「認めたくないようだから言ってやるけど、これは全部よ」


夕月「橘純一の勘違いで始まって、橘純一の勘違いで終わった話だよ」


純一「うっ……!」

愛歌「だがりほっちの作戦勝ち」

夕月「…だな、ここまで心の距離を離しちまったんだ、アイツの勝ちだね」

純一「………どうしてだよ、梨穂子」

純一「……どうして、そんなにも嘘をついてまで、僕と別れたかったんだよ」

純一「僕は……ただ単純に、別れを告げられた方が、まだよかった」

純一「あのままじゃ僕は……お前を一生、遠い存在だって思い続けただろ…」

夕月「だから、それを望んでたんだろ?」

純一「……」

夕月「悲しませたくないから、あんたを、分かれっていうもので思わせたくないから……いいや、これは違うね」

夕月「──アンタが心に決めた覚悟を、打ち壊したくてやったことなんだよ」

純一「僕の覚悟を…」

夕月「だろうって思うぜ? ……知ってるよ、りほっちがアイドルになるって決まった時」

夕月「アンタ、ずっと傍で応援してやるって言ったんだって?」

純一「………」

夕月「その時のあんたは、ただ単に……頑張る幼馴染を応援したつもりだったかもしれないよ」

夕月「だけど、それは桜井梨穂子にとって重みになっちまったわけだ」

答えは書いてる本人にしか分からないんだから
全て終わったら最後に本人に聞け

夕月「知ってるのかい? あの子がなぜ、アイドルになったかを」

純一「……」

夕月「知らねえから、ずっと傍で応援してやるって言ったんだろうね」

純一「……どういうこと、ですか」

夕月「…本当にわからないのかい? あの子のアイドルになる理由が?」

純一「…はい」

夕月「そうかいっ…あーあ、あの子が諦めた理由ってのも分かった気がするぜっ…!」

純一「えっ…?」


夕月「テメーに振り向いて欲しかったからに決まってるだろうが!」


純一「っ……」

夕月「んなのによ、お前さんは何だって? 傍で応援してやる? 馬鹿言えよ、そんなことする暇があったのなら──」

夕月「──あいつの頑張りを認めてやって、もう頑張らなくていいよって伝えるべきだったんだよ!」

夕月「応援しやがんなよ! わかるだろ!? あの子が無茶して頑張ってたこと! わかってただろテメーはよ!」

純一「ッ…だけど! そんなの言われないと分からないよ…ッ!」

夕月「ハァ!? んだとこら!?」

純一「だってそうじゃないかっ…! 僕の…僕に振り向いて欲しいからとか、そんなことっ…!」

純一「直接言われなきゃわかることも分からないだろ!?」

夕月「あーそうかいッ! じゃあ言わせてもらうがよ、橘ァ!」

夕月「テメーは何時も、りほっちに何て言ってた? ああん? 言ってみろ!」

純一「ぐっ…何時もっ…?」


愛歌「……幼馴染に言葉は要らない」


純一「───あっ……」

夕月「ッ……優しくすんじゃねえよ、愛歌ッ…!」

愛歌「…それぐらいにしておけ」

純一「………………」

夕月「……ケッ」ぱっ…

純一「…………………」

夕月「…わかったかよ、これが現実だ」

純一「…………………」

夕月「もう一度言う、お前は……一つの勘違いを起こした」

夕月「それはちょっとした勘違いで、すぐにでも治せる問題だった」

夕月「だけど、その勘違いを使用たいと願った奴が居た」

夕月「その願った奴は、お前の事をすげー大事に思ってた」

夕月「だけど、大切に思うがゆえに…綺麗に気持ちを終わらせる為に…その勘違いを使って」

夕月「分かれる原因として、使ったんだよ」

純一「………………」

夕月「わかったこの朴念仁っ!」

純一「………だけど」

夕月「…あ?」

純一「………だけど、梨穂子は泣いてた」

夕月「泣いてた?」

純一「……そう、アイツは確かに泣いてた」

愛歌「……記憶の事に関してか」


純一「そう、だよ……どうして泣いたんだ…あそこまで…フリだったとしても…」


純一「全てが僕と別れる為に、全部が全部梨穂子の演技だったとしても…」


純一「あの場面で、泣く必要なんてなかった……要らない演出を増やしただけじゃないか…」


純一「どうして、泣いたんだ? どうして、僕に記憶の事に対して……取り戻したいって、泣いたんだ?」


純一「そんなの、全く余計だろ…?」



『…………助けてよぉ、純一ぃ…っ』

純一「────助けて……と、梨穂子は言ってた…」

夕月「あ? 何言ってるんだよ…?」

純一「あいつは、僕に対して……初めて、あの時…! 助けてと、言ったんだ…っ」

愛歌「…その時、りほっちの表情は」

純一「っ…泣いてた、ずっとずっと記憶してきたどんな梨穂子よりも…っ!」

純一「ぐしゃぐしゃにっ……泣いてたんだっ…!」

愛歌「……そうか」すっ

夕月「な、なんだ愛歌…?」

愛歌「橘純一」

純一「え…? なんですか…?」

愛歌「──これを見るがいい」バサバサバサ!

純一「…なんですか、これ」

愛歌「りほっちの取材記事だ、ドラマの」

純一「……」

愛歌「読んでみるがいい」

純一「……」ぺら…

愛歌「……」

夕月「…おい、愛歌?」

愛歌「黙ってみとけるっこ」

夕月「ど、どういうことだよ?」

愛歌「すぐにわかる……ふふっ」

純一「……」

愛歌「そこだ」

純一「ここ…ですか?」

愛歌「口に出して読んでみろ」

純一「は、はい……」

純一「『では、ドラマの演出で一番苦手なことは何ですか?』」

純一「『はい、一番と言いますか、何事も初めてなので全てが上手くできずに悪戦奮闘してます…ですが』」


純一「『───なによりも、泣く演技が……一番の苦手です』」

夕月「っ…」

純一「…………………」

愛歌「…理解しろ橘純一」

愛歌「己の瞳に移させたその誰よりも…悲哀の籠った表情の彼女は」


愛歌「──嘘ではない、心して立ち向かえ」


純一「…………」

純一「………」

純一「……っ……!」ばっ!

夕月「わぁ!? な、なんだよ急に立ち上がって!?」

純一「……行ってきます」

夕月「は?」

純一「──梨穂子の所へ、行ってきます!」だっ!

夕月「……」ぽかーん

愛歌「ふ・ふ・ふ」ふりふり

ttp://2ch.at/s/20mai00571110.jpg

ちょっと一時間だけ時間をください!
かならず! かならず戻ってきます!

1時間代行はよ

ttp://2ch.at/s/20mai00571116.jpg

>>408
イカン枕時の様子にしか見えなくなってしまった

ttp://2ch.at/s/20mai00571117.jpg

>>1です
今から書くありがとう

夕月「……なんなんだよ、アイツはよぉ…まったく」

愛歌「るっこもツンデレ」

夕月「あぁんっ? なんだよ、どういう意味だよッ」

愛歌「橘純一が……ここまで努力する理由は」

愛歌「──るっこが橘純一にかけた言葉のお陰」

夕月「っ……テメー、あの今朝のコト見てたのかよっ…!」

愛歌「──そのまんまの意味だよ、あの子をいつまでも信用するんだ。
   どんなに冷たい事を言われても、どんなに暴言を吐かれて拒絶されたとしても、だ」

愛歌「お前さんはそれを耐え抜いて、耐え抜いて、ずっとずっとりほっちのことを───」

夕月「だぁああああああああああああああ!!! 一字一句憶えてるんじゃねえよ!」

愛歌「ふ・ふ・ふ」

夕月「はぁっ! クソッ! つぅーかよ、あの馬鹿はどうするつもりなんだ?」

愛歌「難解」

夕月「…ったく、世話を書かせる奴だぜ、ほんっと……」

prrrrrr

夕月「……ういっす、夕月瑠璃子だ。わかるだろ? おう、ちょっと頼みたいことがあるんだけどよ───」

~~~~~

純一「はぁっ…! はぁっ…! んくっ……はぁっ……はぁっ…」

純一「はぁっ……はぁっ……はぁ………」

純一「──だ、ダメだっ……駅まで、全速力で走れるっ……体力が無いっ…!」

純一「はぁっ……ハァ……はぁ……」

純一「んくっ……ダメだ、純一! 諦めるな…っ!」ぎりっ

純一「なんとしても───絶対に、梨穂子が行く前にっ…!」

純一「ちゃんと、あの言葉をっ…! 言わなくちゃっ………はぁっ! はぁっ!」たったった…

純一「くそ、動けよ僕の足! いいんだっ…これから先、もう動けなくなったって…!」

純一「絶対に伝えるまでっ…! 動き続けろっ…!」


「───よう、大将。かっこいいところすまねえけどよ」


純一「え……?」

梅原「言っちゃ悪いが、自転車の方が断然…早いぜ?」ちりんちりーん

純一「梅っ……はらっ!?」

梅原「おうよ、ちっと出前中だぜ」

純一「で、出前中ってっ……お前学校はっ!?」

梅原「ああん? サボったにきまってるだろーが!」

純一「……なんで?」

梅原「おいおい、言わせるなよ大将? 
   ……お前さんの様子がおかしかったから、後で麻耶ちゃん先生に聞いておいたんだよ」

梅原「そしたらなんだ、電話つながったまんまどっか消えやがったと言いやがるもんで」

梅原「──はは! それならオメー! 絶対になにかやらかすと思うだろうがよ! こっちも!」

純一「か、カンが良すぎるよ梅原…!」

梅原「ばーろう! どれだけお前と……長年つきそったと思ってるんだ大将ぉ!」

純一「っ……うん!」

梅原「つぅーこって、後ろに乗ってくれ! 駅まで俺が送ってやる!」

純一「で、でも梅原…? 出前は…?」

梅原「おっとと、落ちを言っちゃ困るぜ橘?」

梅原「───大将の想いを届ける出前だって、ことはよぉ!」ぐぉ!



梅原「はぁっ……はぁっ…! い、いけっ…! 大将っ…!」

純一「ありがとうっ…! 梅原っ…この恩はどんなお宝本だって返しきること出来ない…っ」

梅原「ば、ばかっ……いってるんじゃ…ねえよ、こら……!」ぐいっ

純一「うわぁっ…?」

梅原「約束しただろーが……俺はちゃんと見てるぜっ…テレビでよっ…」


梅原「───お前が咲かせる、彼女の満点の笑顔ってやつよぉっ…!」


純一「っ……おう、見とけ梅原!」ぐっ

梅原「ああっ…行って来い! 俺はもう…ダメだ!」とん…

梅原「きばって、いっちょやってこい大将っ!」

純一「…うんっ……!」たたっ

~~~~
ホーム

純一「はぁっ…はぁっ…」

純一「電車はっ……十五分で着く!? そんなっ…!? 一本先の奴に乗りたかったのに…!」

純一「これじゃあ梅原の想いがっ…!」


「──こっちだ、ストーカー」


純一「っ…え? この声は……?」

隊長「……こっちだ、早く来い」

純一「守り隊の隊長さん!」

隊長「そ、そう呼ぶな! 恥ずかしいだろ!」

純一「え、すみません……でも、どうしてここに?」

隊長「……兄貴がお呼びだ」

純一「兄貴?」

隊長「はやく外に出ろ! そうしないとっ───あふんっ!」

純一「っ!?」

「──ノウノウ、十五秒で連れてくるように言ったじゃあーりませんか!」

純一「こ、この声はっ…!」


マイケル「イェース! ユーの愛しいギャラガーデース!!!」

純一「マイケルさんっ!? どうしてここに!?」

マイケル「ノンノン…タチバナ! ギャラガー……オーケー?」

純一「マイケルさん!」

マイケル「ノーウ! そんな冷たいユーも……中々デリシャース…」

純一「顔が近いですっ……」

「あ、兄貴! 急いでください!」

「そろそろやってきますよ!」

「やばいですって!」

マイケル「オーゥ…シット! もうちょっとでタチバナを落とせるかとおもいましたのにー」

純一(何言ってるんだこの人…)

隊長「…は、話はっ……あの人から聞いてるっ…!」

純一「隊長さん! ……え、話って?」

隊長「……茶道部の、部長だ」

純一「えっ!? 夕月先輩から…!?」

純一「ど、どういうことですか…?」

隊長「実はだな……私が『桜井リホ守り隊』に隊長へと就任できたのはっ…」

隊長「あの人のっ…おかげなのだ…」

純一「えー! ……あの人に借りを作るとか…大丈夫なんですか…?」

隊長「だから! 今はこんなめにっ…ひぅん!」

マイケル「オー、間違ってダイアルを全開にしてシマイマシター! HAHAHAHAHAHA!」

純一(わ、わかった…多分この人、マイケルさん……夕月先輩とつながりがある! 勘でわかる!)

マイケル「それでぇー……急にお店に電話が来たときはビックリしましたがー!」

マイケル「……タチバナ、ユーはなにをしてほしいですカー?」

純一「え…?」

マイケル「ウッフッフッフ…いいんですよー? 正直に言って…ミーはタチバナのこと大好きデース!」

マイケル「どんなことだって、叶えて見せマース!」

純一「っ……本当に、ですか…?」

マイケル(get!)

マイケル「ハーイ! なんだってしてますよー! カモンカモン!」

純一「じゃあ……叶えてください」

マイケル「…ンー?」

純一「僕の大事な人が……いや、手の元から逃げてしまった人を……」

純一「取り戻しに、行きたいんです…!」

マイケル「……」

純一「あの子は誰にも真実を…キチンと明かさずに、誰に対しても演技を行って…」

純一「最後の最後までっ……皆を騙し続けました!」

純一「だけど! 僕はそれをどうにかしに行くつもりです!」

純一「──お願いします、ギャラガーさんっ! どうか僕を助けてください!」


「────オーケー……ンッフッフ、ワーオ! 本当に素晴らし……グレイト、グレェーーーーート!!」

パァンッ!

ギャラガー「タチバナァ! 後はミーに任せないサーイ!」

純一「ほ、本当ですか……っ!?」

ギャラガー「イェス! ……そこのユーたち、アレの準備カモン!」

ドォルンドォルンッ…!

純一「………」

ギャラガー「ンンンンンンー……クレイジー!何時に無くこのバイクの音はモンスターデース!」


純一「あの……ギャラガー…さん?」

ギャラガー「ハーイ?」

純一「その、免許……持ってます?」

ギャラガー「ハイ! モッテマスヨー!」

純一「………」

「あ、兄貴!? 単車のハンドルは両手で持ってくださいね!?」

「ち、違います! それアクセルですから! ぶっとびますよこの機体だと!?」

「マジで軽く空も飛べそうになるやつだから、危険ですからね!?」

ギャラガー「オーケーオーケー!」

純一「………」がくがく…

隊長「…おい、ストーカー」

純一「な、なんですか…?」

隊長「……行くんだよな、会いに」

純一「え、ええっ……そうです!」

隊長「…そうか、そしたら私も見れるのか」

純一「え…?」

隊長「……いや、なんでもない」くるっ

隊長「さっさと行け、顔も見たくない」

純一「……見せますよ、ちゃんと!」

純一「待っててください! テレビの前で!」


ギャラガー「それではぁー? ウッフッフ…モンスターは実は他人のもなのデース」

純一「……へ?」

ギャラガー「ちょいと借りてキマシター! オーケー! シンパイムヨウ!」

ギャラガー「──It is only me that can ride very well…」

ブオオオオオオオオオオオオオオオオン!

~~~~~

純一「ぎゃ、ギャラガーさんっ…!」

ギャラガー「…行きなさい、タチバナぁ…ぐふっ」

純一「で、でも…! 飛行場はもう目の前ですよ!?」

ギャラガー「ウッフッフ…ミーには少しばかり、遠いようデース…」

純一「だけどっ…こんな所で倒れてたらっ…!」

純一「運転酔いして、倒れてたら…! 誰かに引かれちゃいますって…!」

ギャラガー「……タチバナ」

純一「え…?」

ギャラガー「ミーは…本当に、タチバナのことを尊敬シテマース…」

純一「なんですか、急に…」

ギャラガー「ウッフッフ…最後に言いコト言いたいんですよ、ミーも…」

純一「…じゃあ、なんですか? 言いたいことって?」

ギャラガー「タチバナ…手を繋ぐことから始めましょ──がふっ」コトリ

純一「ギャラガーさんっ…! よかった、寝てるだけだっ…!」

純一「と、とりあえずっ…端の方に寄せてっ…」ずりずり…

純一「あのバイクは……誰も動かせることなんてできないだろうなぁ…」

純一「本当にありがとうございます、貴方がいなければ僕は…絶対に間に合わなかった……」

純一「──よし、ゴールは目の前だ! 行くぞ!」たっ

~~~~~

梨穂子「……」

『それではー? そろそろ桜井リホちゃんが搭乗されるようです!』

梨穂子「……」

『リホちゃーん? 最後に一つ、なにか言い残すことはあるかな?』

梨穂子「…え、あ、はいっ! 頑張って海外でもやって行きたいと思います!」

『んー、言い言葉だね! だけどもっと言ってもいいんだよ?』

梨穂子「あっ…はい! えっとー…その……」

アナ『うんうん!』

アナ(なんだっよこのニュース……マジでこれで視聴率取れるとか思ってんの?)

アナ(つぅか、ただのアイドルが飛行機乗るだけで、どんだけ時間使ってるのかつぅーの…)

梨穂子「えーとですね…」

アナ(あーあ、つまんないの。これならもっと刺激的な報道アナになるべきだったかなー)

梨穂子「…その、一つだけ言いたいことがありますっ」

アナ『あ、うんっ! なにかなー?』

梨穂子「それは……その、もしかしたらテレビを見てくれてる人の中に…」

梨穂子「───私が、ずっとずっと大切にしときたい…人たちが居ると思います」

~~~~~~~

『その人たちは、今の私を作ってくれた大切な人で──』


夕月「……」

愛歌「……」


~~~~~~~


『こんな私をずっと見守っててくれた人たちで───』


ユウジ「………」


~~~~~~~

『…こんな私を、守り続けた人たちも───』


隊長「………」


~~~~~~~

『みんながみんな、見てくれると思って……この言葉を送らせていただきます』

『───ありがとう、わたしはとっても幸せでしたっ…!』

『そして、なによりも……ありがとうと伝えたい人に』


『わたしのために努力を惜しまなかった人に』


『……私は、本当の感謝を送りたいです』


梨穂子「───ありがとう、そしてごめんね……っ」


アナ『…リホちゃん? それってつまり…?』

梨穂子「ぐすっ……あはは、ちょっと大げさすぎたかな~? 辺に勘ぐっちゃだめですよっ?」

アナ『そ、そうよねー!』

梨穂子「えへへ、それじゃあ! 桜井リホ! 行きます!」

アナ『……今! あの人気をはくしたKBT108の桜井リホが! 搭乗口へと向かっていきます!』

梨穂子「………」すたすた…

アナ『搭乗口の前には、駆け付けたファンが波のように押し寄せております! 凄いですね!』

梨穂子「……ごめんね、純一…許してなんて言えないけれど…」

梨穂子「……それでも、私はあなたのことをずっとずっと…」

梨穂子「……好きだっ───」


がしっ!


梨穂子「──え…?」


梨穂子(誰かに腕をつかまれ、ファンの人…?)

ざわざわ…

アナ『…おや? なにやら搭乗口で少しトラブルの様ですよ!?』パアアアア!

梨穂子「あ、あのっ…ごめんなさい! 離してもらってもいいです───」


「はぁっ…はぁっ…!」


梨穂子「───か……」

梨穂子「…………なんで此処に居るの…?」

「…なんで、って? おいおい、そんなことっ……!」


純一「お前を止めに来たに……決まってるだろ!!」

梨穂子「………」

純一「………」


アナ『────おっとおおおおおおおおおおお!これはなんだぁ!一体ぜんたい何が起こってやがるのかァー!?』


梨穂子「っ…いや! これは違うんですっ! えっと、その…!」ばっ!

純一「…梨穂子」ぐいっ

梨穂子「そんな疑ってるような、ふぇ…」とすんっ

ぎゅうっ…

純一「…ダメだ、絶対に逃がさない」

梨穂子「……えっ?」


アナ『うわぁああああああああああ!!! 抱き寄せたァ! 
   強引に引き寄せて、後ろから抱きよせたァ!なにこれめっちゃ興奮する!』


梨穂子「っ~~~~…!? じゅ、純一っ!? わ、わかってるの!? こ、これ全国ネットでッ…!」

純一「…だからどうした、関係無い」ぎゅっ…

梨穂子「か、関係無いって…っ! そんな、こと…!」

純一「──関係無いっていってるだろ!」

梨穂子「っ……」

アナ『っ……ゴクリ…』

純一「僕はもう絶対に梨穂子を離さない! お前が何度、僕を突き離そうとしてもっ…!」

純一「もう梨穂子からは絶対に逃げないから!」

梨穂子「じゅん、いち…」

アナ『男の人……』

梨穂子「っ……でも、だめだよっ…まだ間に合うから! なんとか説明して、純一は無事に日常に戻って…!」

純一「………」

梨穂子「…純一?」

~~~~~~~~

教員「…あれ、高橋先生のクラスの子ですよね」

高橋「…シリマセン」

~~~~~

梅原「ははっ…おいおい、なにもったいぶってんだよ」
梅原「──早く言っちまえ大将!」

~~~~~

「お、おいっ…! あれって橘じゃね!?」
「おい、みんな! 教室のテレビつけてみろ!」

ユウジ「…頼むぞ、橘っ…!」

~~~~~~

隊長「……早く言え」
隊長「そして見せてくれ、俺が心から欲したモノを」

~~~~~~

「兄貴ー!」
ギャラガー「シッ! ラジオの音が聞こえないでショーウ!」

~~~~~~

愛歌「信じろ、己の意志の強さ」
夕月「…ぶつけちまえ、橘!」

~~~~~~

純一「──梨穂子、言わせてほしい」

梨穂子「っ……?」

純一「お前は言ってくれたな──ホントの自分を分かってほしいと」

純一「あれはお前の演技じゃ無く、ホントの…気持ちだと僕は受け取ってる」

純一「違うのか、梨穂子?」

梨穂子「…違うよ、そんなこと」

純一「…ああ、そう言うと思った」

純一「だけど、僕はそうは思わない」

梨穂子「…なんで、そう言えるの…」

純一「だって梨穂子……さっきからずっと…泣いてるだろ?」

梨穂子「うっ……くっ…だから、何だって言うの…」

純一「じゃあ、それは嘘だ。僕にはわかる、まあ受けおりだけどね」

純一「…なあ、梨穂子言わせてくれ」


純一「───この世で一番、お前が大好きだ」

『──他の誰よりも、お前のことが大好きだ』

『──この手をずっと離したくないって望んでしまうほどに』

『──ひとつひとつ零れおちるその涙も独占したいぐらいに』

『──お前の全てを僕の物にしたい、全部を僕色に染めてやりたい』

『──アイドルだからって、凄い奴だからって、そんな肩書はいらないよ』

『──僕はただただ、梨穂子が傍に居るだけで十分なんだ』


純一「……だから、梨穂子」

梨穂子「……」

純一「僕からずっと離れないでくれ」

純一「一生、傍にいてやるから……もう、あんなことは絶対に…しないでくれ…」ぎゅうっ…

梨穂子「…純一…」

アナ(うわぁ…すっげ聞いててハズいwwww)

純一「………」

梨穂子「……純一、あのね」

純一「…うん、なんだ?」

梨穂子「…えへへ、ありがと~」ぎゅっ

純一「…おう、こっちこそ」

梨穂子「頑張ったんだよ、わたし…わかってるよね」

純一「…うん」

梨穂子「あなたと別れる為に…色々、がんばったんだよ」

純一「…うん、わかるよ梨穂子、本当にすまなかった」

梨穂子「…だけど、純一は…あはは」

梨穂子「ここまでのこと…しちゃうんだね、敵わないですよ、ほんっと」

純一「…だろ、いつだって僕は凄い奴だ」

梨穂子「うんっ! …だからね、純一」

純一「…なんだ梨穂子」

梨穂子「………本格的に犯罪者として捕まる前に、色々と手段を打つよ!」

純一「……おうっ!」

梨穂子「──……」くるっ…

梨穂子「純一っ! ありがとうっ…! 本当に、そんな事を言ってくれて……!」

純一「……」

梨穂子「ひっぐ……ぐすっ…」

アナ『…おやおや、何やら発展があるようですよー! 視聴者の皆さん! とくとご覧あれ!』

純一「…梨穂子、お願いだよ」

梨穂子「……ううん、確かに…貴方の言ってくれたことは、本当にうれしい」

梨穂子「──だけど、私は……もうアイドルなんだよ?」

純一「っ……だけど! それは…!」

梨穂子「……ごめんなさい、私は…もう貴方とは…立場が違うの…」すっ…

純一「っ…梨穂子! 行くなよ! 僕はっ…!」

梨穂子「………」

純一「僕はお前のことが好きなんだよ…!」

梨穂子「…………」

純一「……お願いだ、梨穂子、こっちを向いてくれ」

梨穂子「…………」

純一「…梨穂子!」

梨穂子「……」

くる…

純一「っ…梨穂子…!」

梨穂子「……」ボロボロボロ…

純一「───お前……」

梨穂子「うんっ…! 私も大好きだよっ……!」たたっ

ぎゅっ…!

梨穂子「大好きで大好きで、仕方なくてっ…!」

梨穂子「───純一のこと、心から愛してるからっ…!」

純一「……」

梨穂子「……」


ぱち…ぱちぱち…


「リホーコ……パーフェクト! パーーーーーフェクト!」パチパチ!


梨穂子「……えへへ、やっぱりそうでしたか?」

社長「ワンダフォー! ユーは本物の女優だ! 素晴らしい演技だった!」

梨穂子「社長さんなら分かってくれると…わぷっ!」

社長「ンーンー! 将来はパーフェクトな女優になるはずダ!」

社長「…それにィ、ユー!!」

純一「は、はいっ…! えっと、その僕は…わぷっ!」

社長「ンッフン! ユーも最高の演技だっタ! 男優として働かないカ?」

純一「い、いやそれはっ…すみません…!」

社長「ノー……それはざんねんダ」

アナ『あのー……社長…?』

社長「ん、なんだね?」

アナ『これは…どういうことでしょうか?』

社長「おやおや…わかりませんでシタか? アターシは桜井リホを海外で…」

社長「…立派な女優にすることを、計画してマシタ!」

社長「しかも極秘デ、誰にも報告セズ、社員の殆んどが知らない計画デス!」

社長「…そんな大事なプロジェクトの門出が、こんなお別れ会みたいなハズないでショー!」

マナ『それは……つまり?』


社長「サプラーイズ……イベントですが?」


マナ『なっ……なっなっななななんとぉ! そういうことだったんですねぇ!』

マナ『つまりあの二人の告白はっ…海外での桜井リホの女優活動としての……アピールだったと!?』

社長「………」すたすた…

社長「───ソウイウコトデーーーーーーーーーーーース!!」

アナでした

ワァアアアアアアアア!パチパチパチパチパチ!

純一「あはは…凄い拍手だ…」

梨穂子「…何とかなって、よかったよ~」

純一「う、うん…とりあえず梨穂子の乗りに乗って見せたんだけど…案外出来るもんだな」

梨穂子「そうだね~……というか、あの告白は嘘だったとでもいうの?」

純一「ち、違うって! 結果的にそうなっちゃってるだけで!」

梨穂子「…ほんとにぃ?」じっ

純一「ホントホント!」

梨穂子「…まあいいよ、信用してあげる。それよりもホラ、そろそろ来るよ」

純一「え? なにが?」

梨穂子「あはは、頑張ってねぇ純一~」ふりふり

純一「だから、なにがだよ梨穂───」

アナ『そこの男優の方! ご質問があります!』

純一「えっ…あ、はい!」

アナ『…実際の所、桜井リホとはどんなご関係で?』

純一「ええっ!? そ、それはっ…」


梨穂子「…くす」

社長「…梨穂子」

梨穂子「あ、社長……今回は、本当に…」

社長「良い。私は逆に感動して居るよ、あの危機的状況を乗り切った…その君の度胸にね」

梨穂子「…ごめんなさい、迷惑をおかけしました」

社長「良いと言ってるだろう、私は若い人間が起こす奇跡をまた…見れただけで満足だ」

社長「だからこそ、この仕事はやめられない」

社長「…彼は君の彼氏かね?」

梨穂子「………」

純一「同じクラスメイトでっ…その、色々とみんなでやろうって話になって…!」

アナ(ぜってー嘘だろ! 化けの皮剥いでやるぜ! おらおら!)

梨穂子「……くすっ、どうでしょうか」

社長「…ふむ、良い関係の様だ」

社長「梨穂子、そろそろ飛行機が飛ぶ時間だ」

梨穂子「………」

社長「私は確かに若い人間が起こす奇跡が、なによりも大好きだ」

社長「…だが、これは一社を動かした極秘プロジェクト」

社長「社員である桜井リホには、働いて貰わなければならない」

梨穂子「……はい、わかってます」

社長「……そうか、ならいい」

梨穂子「………」

社長「……だが、数十分だけ時間を延ばしてやらなくもない」

梨穂子「えっ…?」

社長「それに、周りの野次馬どもも退かしてやろう」

梨穂子「社長…っ…?」


社長「…お礼だ、そしてこれからも私に夢を見せ続けてくれ」

社長「桜井リホ──……」くるっ


梨穂子「…ありがとう、ございます…っ」ぺこっ

社長「…」

社長「ハァーイ! そこら辺にさせて置いてクダサイ! 彼も可哀そうです!」

純一「ぼ、僕はっ…あんまんがすきでっ…へっ?」

アナ『っち…そ、そうですか! それではさっそく桜井リホの出発ですね!』

社長「イエイエイ! その前に、アタクシの演説をお聞きくだサーイ!」ぐいっ

純一「おっとと…」

梨穂子「…純一、こっちこっち!」

純一「おう…?」

ロビー控室

純一「…こんな所勝手に」

梨穂子「大丈夫だよ、社長さんが多分…裏に手をまわしてるはずだから」

純一「そ、そうなのか……いや、ちょっとまって梨穂子……僕、凄い疲れてきた…」

梨穂子「え? だ、大丈夫…純一…?」

純一「あは、あはは…無理し過ぎたのかも…今日一日、凄い動いたし…」

純一「……だけど」すっ

梨穂子「えっ…」

なでなで

純一「こうやって…梨穂子に触れられるだけで、僕は本当に…頑張ったかいがあって思うよ?」

梨穂子「…うん」

純一「……もう一回、言ってもいいか?」

梨穂子「…うんっ」


純一「好きだよ、梨穂子」

梨穂子「…私もだよ、純一」

純一「……僕はもう、絶対にお前のことを離したくないって思ってる」

梨穂子「…私もだよ…純一、これからはずっと一緒に居たいって…心からそう思ってる」

梨穂子「…あれだけのことをしたのに、純一はここまで、追いかけてくれた」

梨穂子「私は……とても幸せ者でっ…だからそんな純一に…私も! 私も…これから幸せをあげたくてっ…」

純一「馬鹿言え……今回の事も、そして…お前のアイドルの事も」

純一「全部僕の所為だろ? …わかってるよ、僕も馬鹿だったんだ」

梨穂子「う、ううんっ! 私が何も言わなかったから…! だから純一はずっと悩んでたままで!」

純一「でも、幼馴染とか…口ではカッコいいこと言ってるけど、自分自身が全然伴ってなくて…!」


梨穂子&純一「だからっ…!」


純一「……梨穂子から言ってくれ」

梨穂子「……純一から言ってよ」

純一「じゃあ…いっせーのーで」

梨穂子「わ、わかったよ」

「──いっせーのーで」

純一&梨穂子「──だからっ…ごめんなさい!」

純一「…やっぱり謝ったな、僕ら」

梨穂子「…くす、そうだね純一」


「あははっ…くすくすっ……ははっ…えへへ…」

~~~~~

純一「……梨穂子」

梨穂子「ん~……なあに、純一?」

純一「梨穂子のさー…膝枕って、素晴らしいよね」

梨穂子「えへへ~…ありがと」

純一「だってさ、疲れが取れて行くようなんだ…これだけ走ったに…
   テレビの前で寿命が擦り切れるほどのドラマを演じたり…したのに…」

梨穂子「うん…」なで…

純一「梨穂子の膝枕のお陰で、全部がとろけて…消えて行くようなんだ…」

梨穂子「そっか、ふへへ」

純一「ふへへって……あーもう、可愛いなぁ梨穂子は…おらっ」

梨穂子「ふんにゅっ」

純一「ほっぺもやわらかいな…」

梨穂子「ふんひちはっれ!」

純一「おむゅ! …はひふふんは」

梨穂子「ふんひちふぁふぁふぅい!」びしっ!

純一「…何言ってるか分からないよ」

梨穂子「ふぇっへっへ~」

純一「…あはは、本当に可愛いなぁ梨穂子は」

梨穂子「……」

純一「ごめん、ちょっと瞼が重く……て」

梨穂子「うん……」なでなで

純一「ちょっとでも……寝息を立ててたら…起こして梨穂子…」

梨穂子「わかったよ…それならゆっくりとまどろんでて…純一」

純一「…うん…ありがと、梨穂子…………すぅ…すぅ…」

梨穂子「……寝ちゃった? 純一…?」なで…

純一「すぅ……すぅ……」

梨穂子「そっか…寝ちゃったか~」

梨穂子(くすっ、本当に小さい時から…無邪気な寝顔は変わらないよねぇ)

梨穂子「…ほれほれ」くりくり

純一「う、うーん……すぅ……」

梨穂子「あはは、やっぱり眉毛をつつかれると唸る癖も治って無い…」

梨穂子「……あのね、純一」

梨穂子「桜井梨穂子は、海外に行ってしまいます」

梨穂子「…それはとおーい、とおーい場所でありまして~」

梨穂子「昔、純一と過ごしてきた場所とは……とても離れてて」

梨穂子「そう簡単に、これからは会えないのですっ」

梨穂子「っ…だから…こうなる前にもっと、純一とね~」

梨穂子「ぐすっ…色々とおしゃべりして…好きなもの一緒に食べて…」

梨穂子「もっと…もっとたくさんっ…こうやってくっつきあいたかったよ…私っ…」

梨穂子「……でも、それはもう時間切れ」

梨穂子「純一……本当にありがとう、追いかけてきてくれて…本当にありがとう」

純一「……すぅ…すぅ…」

梨穂子「……私っていう存在を認めてくれて、繋ぎとめてくれて」

梨穂子「──ありがとね、ずっと好きだよ…純一」すっ…


ちゅっ




~~~~~~

純一「───………あれ…」

純一「ここは…?」

ギャラガー「…屋上デース」

純一「ぎゃ、ギャラガーさん! 無事だったんですか?!」

ギャラガー「ええ、モチロン! ですがタチバナ…今はそれどころじゃないデス!」

純一「え……?」

ギャラガー「見てくだサイ」

ひゅごおおおおおおお……

純一「…飛行機…?」

ギャラガー「そうです、あれはユーの大切な彼女が乗ってマス」

純一「っ…!? 今何時だ!?」

ギャラガー「……」

純一「嘘だろ…? どうして、梨穂子…起こしてくれなかったんだよ…?」

ギャラガー「…彼女から言付けです、タチバナ」

純一「えっ…?」


ギャラガー「……I like you forever」


ギャラガー「……幸せ者です、ユーは」

純一「…梨穂子…」

純一「ッ…!」だっ!



純一「っ…りほこぉおおおおおおおお!!!」

純一「僕っ…僕だってなぁあ! お前のことをずっと好きでいてやるぞおお!!」

純一「ぐすっ…絶対に、絶対にかえってこいよおお!!」

純一「ずっとずっと、待っててやるからなぁあああ!!」


純一「大好きだりほこぉおおおおおおおおおおおお!!」

~~~~~~~

 それからのことを語るのは、それほどの物は残って無いと思う。

純一「………」

 あれから何事もなく、数年の時が経っていた。

純一「………」

 昔懐かしい輝日東高校は、久しぶりに訪れると懐かしいものを感じてしまって。

純一「………」

 あの時、僕らが奮闘した三年間は。本当にもう戻って来ないのだとしみじみ感じてしまう。

 同じ時間を過ごしてきた皆は、既に別々の場所へと移り変わり。それぞれを時間を過ごしているのだ。

 誰もがあの〝三年間〟を思い出しつつも、今の新しい世界に身を投じていく。 

ギャラガー「…彼女から言付けです、タチバナ」

純一「えっ…?」


ギャラガー「……I love you forever」


ギャラガー「……幸せ者です、ユーは」

純一「…梨穂子…」

純一「ッ…!」だっ!



純一「っ…りほこぉおおおおおおおお!!!」

純一「僕っ…僕だってなぁあ! お前のことをずっと好きでいてやるぞおお!!」

純一「ぐすっ…絶対に、絶対にかえってこいよおお!!」

純一「ずっとずっと、待っててやるからなぁあああ!!」


純一「大好きだりほこぉおおおおおおおおおおおお!!」

 新しい環境、新しい人間関係。戸惑うばかりで一向になれないことだらけ。

 自分が本当に正しい事をしているのか、そんな漠然とした悩みを持ったりした時代とは違って。

 純一「……」

 責任が問われ続ける、自己との闘いが今の僕たちの世界だ。
 
 暇を弄ぶことさえ出来ず、ただひたすらに前へと進み続けなければならない。

 辛くて大変で、何度もやめたいと思ってしまうこともあった

純一「……」

 はたしてそれが、一般的に逃避だと思われてしまったとしても
 
 僕も確かに、そう思ってしまう。大した理由もなく否定なんて、子供がすることなのだから。

 だったらいっそ、全てを認めきればいい。

純一「……ふぅ」

 ───全部のことを、ちゃんと考え続ければいいのだから。

純一「……だろ、桜井梨穂子」

「…うん、そうだね」

純一「僕が…この名前を呼べるのは、お前に向かってだけだよな」

「あったりまえでしょ~?」

純一「あははっ…もうこれから、この名前を呼び掛ける奴なんて……一人しかいないよ」

「…他に誰がいるっていうのかな?」

純一「というか一人しかいないとかじゃなくて……もう〝目の前にお前しか居ないから〟」

「………」

純一「…そう呼べる人が、他に居たとしても」

純一「そいつはもう…僕の知っている桜井梨穂子じゃない」

「…どうして?」

純一「だってさ……新しくて、かっこよくて、強くて、可愛くて…」

純一「歌が上手で、まあるくて、誰よりも誰よりも優しい……」

純一「……そんな桜井梨穂子なんて、僕の目の前に居る女の子意外に、誰かいるんだ?」

純一「僕の知っている、僕がそう呼べる〝桜井梨穂子〟はもう……」

純一「……目の間にしか居ないんだから」


純一「おかえり、梨穂子」

梨穂子「…ただいま、純一」

純一「よく…帰ってきてくれた、歓迎するよ」

梨穂子「うんっ!」

純一「…とりあえず僕の家に上がってくれ、寒いだろ?」

梨穂子「へーきだよ~、これでも結構! 強くなってるからねぇ」

純一「本当に? そりゃーすごい、やっぱり女優は違うなぁ」

梨穂子「…うん、でもね純一…」こつん…

梨穂子「あなたの知ってる私は…今までどおりの、好きなままの時のわたしだよ…?」

純一「…ああ、わかってるよ」

梨穂子「……」

純一「これからまた、互いにわかっていけばいい。それだけで僕たちは十分なんだ」

きぃ…ぱたん…

 ──そしてまた、この時がやってきてしまった。

 ──遠い存在だった彼女が、僕の手元へと戻ってくる事態に。

 ──あの時二年の出来事と、全く同じような出来事だった。

純一「……ははっ」

 ───だけどそれは、過去のお話だ。
  
 ──既に時は動き出し、過去の過ちはもはや過去なのだ。


純一「とりあえず、梨穂子」


 ───未来の僕は、過去の僕とは違った選択が出来るはず。

 ───果たして僕の違った選択肢に、いったい彼女はどう反応するだろうか


純一「…この着物を来てくれない?」


純一「まだあの時の感想が、言い足りてなかったんだよね!」



今から楽しみで、しょうがない。

長かった
とりあえず分かりにくくてごめんなさい


終わり

ご支援ご保守
ありがとうです

ではノシ

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