男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」(996)

これは東方の二次創作です。

オリジナルキャラクターが出てきますのでご注意ください。

このSSは

男「幻想郷で就職活動」

男「今日から紅魔館で働くことになった男です」

レミリア「もしもこんな紅魔館」

男「ここが妖怪の山か」文「あやや?」

てゐ「月の兎?」男「はい」

こいし「おねーちゃん、人間ひろった!!」さとり「えっ!?」

映姫「しばらくニートでいいわ」小町「いやいやいや」

の設定をついでおります。

よろしければそちらを先によろしくおねがいします。

目を開ける。

しかし目を閉じた記憶はない。それどころか自分がさっきまで何をしていたのかの記憶すらぼんやりとしていて分からない。

どうやら記憶喪失とは言えないまでも記憶が不安定みたいだ。

見上げた空からは雪が降っており、俺の体温を緩やかに奪っていく。

このまま寝転がっていては体温が奪われるだけだ。凍死するかどうかは分からないが体によくないことは確かだ。

男「どこだよ、ここ」

自分がいたのはどうやら花畑らしい。一面のひまわりが咲き乱れている。

しかし雪が降っていることから今が冬だということがわかる。

だからひまわりが咲いているわけがない。ビニールハウスでもないただの花畑なのだ。

雪をかぶったひまわり、それは幻想的で不気味。

そんな中、一人の緑色の髪をした少女が一人たたずんでいた。

髪を染めているようだから不良なのだろうか? いや、それでも話かけなければ今の現状をつかめない。

白いひまわりの海をかきわけ少女に近づく。

幽香「誰!?」

緑の髪に赤い目をした美しい少女だった。

少しタイプかもしれない。そう一瞬思ったときには俺の体は地面を離れ宙に浮いていた。

そんなに重くないとはいえ、軽々と持ち上げられる重さではない。それが少女ならとくにだ。

しかし今俺の体は自分よりも身長が小さい少女に持ち上げられていた。

片手で。

男「ちょ、な、なんなんだ、よ」

幽香「誰。いつの間にここに………貴方。外の人間なのね」

少女はそういうと、ゆっくりと俺を地面に降ろした。

向けられた敵意と脅威に無様にしりもちをついた俺はただただ少女を見上げることしかできなかった。

外の世界。何のことだ。田舎の人がいうよそ者みたいな感じか。

男「え、えっといきなりすみません。ここはどこ、なのでしょうか」

思わず敬語になる俺。しかし少女は俺の言葉に反応せず白い息をはいた。

幽香「面倒だから始末してもいいんだけど」

男「ひっ」

少女から出た始末という言葉。流れ的に始末される対象は俺で、さっきのことから彼女がその言葉に嘘を含んでいないことが分かる。

逃げよう。そう思い後ずさりをし、逃げ出した瞬間、襟首を捕まれ、地面に投げ飛ばされた。

幽香「冗談よ」

そう俺を見下ろす………いや見下している少女はそういたずらじみた笑みで笑った。

男「へ………へ?」

思わず口が半開きになる。そんな無様な俺にしゃがんで少女が目線をあわせて、にやりと口角を上げる。

幽香「ここは幻想郷。貴方たちが忘れたものが集う場所。そしてあなたはここに紛れ込んできた」

幻想郷? 忘れられたもの? 日本語だが意味が分からない。

幽香「普通だったらすぐに外の世界に戻してはいさよならなんだけど」

少女が遠くの空を見つめる。

そこでは白い煙が上がっていた。なんだ。火事か?

幽香「ねぇ、貴方死にたい? 生きたい? 私としては迷惑をかけない前者がオススメなんだけど」

男「いきた、生きたいです!!」

幽香「そう、残念。仕方ないわね。安全な場所に連れて行ってあげるから立ちなさい」

男「はい!!」

俺が急いで立ち上がったときには少女は歩き出していた。

幽香「私の名前は風見 幽香。妖怪よ。別に覚えなくても結構だけど」

出会った少女の名は、風見 幽香というらしい。自称妖怪らしいが、見た目は完全に人間の少女。髪が緑色で目が赤いこと、怪力をのぞけば、ただの少女だ。

冗談? 場を和ますためのジョーク?

幽香「………まぁ、妖怪とかいきなり言われても信じないと思うけど。そうね、貴方をスプラッター生け花にすれば信じてもらえるかしら」

男「信じます!!」

スプラッター生け花ってなんなんだ。とりあえず恐ろしいことには変わりない。

とりあえず少女が妖怪にしろ、中二病にしろ、触らぬ神に祟りなし。流したほうがいいみたいだ。

幽香「今はまさに戦争時代。人間対妖怪の素敵な戦いよ。だから人間である貴方は人間側にーと言いたいところだけど妖怪である私はそっちにいけないから妖怪側の人間に渡すわ。大丈夫妖怪よりも妖怪らしいけど人間よ。たぶん」

男「多分!?」

幽香「あら」

ガサガサ

草むらから音。猪とかの野生動物?

いくら風見が中二病で男顔負けの怪力だといって野生動物は分が悪い。逃げるか。

思わず風見の手を握り駆け出そうとする。

が、幽香は駆け出そうともせず立ち止まった。

ガサガサ

男「ひぃ!!」

幽香「しっかりしなさい。男でしょ、あなた」

風見がため息をついて音がした草むらのほうを見る。

ガサッ!!

音が近づき、草むらから出てきたのは

男「―――え」

人間だった………武装した。

人間「げっ!風見 幽香!!」

人間2「いや、倒せる、いくぞ」

人間3「承知!!」

三人組は右から剣、斧、銃。たとえすべてが偽者だったとしてもあんなもので殴りかかられればただではすまない。

幽香「逃げるわよ」

やっと逃げる気になったのか。さすがに武器を持った大人には勝てないらしい。

幽香はつないだ手をさらに強く握り、なぜか持っていた傘を人間に向けた。

幽香「ミニスパーク」

閃光 爆音 悲鳴

そしていきなり襲う浮遊感。

光にやられた目が元に戻ってきたときには回りは薄暗い灰色の空。

わぁい。飛んでいる。空が………

男「空が!!」

幽香「暴れたら落とすわよ」

男「はい!!」

なぜか浮いている少女に必死にしがみつく。抱きついている位置が腰でさっきから何度も蹴られていることは無視してしがみつく。落ちたら確実的に死ぬから。

男「い、いったいお前はなんなんだ!?」

幽香「妖怪。さっき言ったでしょ」

そう、俺を引き剥がそうとしながら不機嫌に言った。

さっき襲い掛かってきたのはおそらく人間。なら、さっき幽香が言っていたことは本当なのだろう。

妖怪退治なんて本や漫画でしか見たことない。歴史に出てきてたとしても四天王がなんとかとか悪路王がなんとかだ。現在日本に妖怪なんていない。

はずなんだけどなぁ。空を飛んで光を放つ人間なんて普通に考えて存在しないし、それならまだ妖怪と考えたほうが自然………なのかなぁ。

そんな考えを幽香の腰にしがみつきながらする。はたからみたら実に変態的だ。

幽香「ねぇ。ちょっと」

男「なんだ?」

幽香「手貸して。落としたりしないから」

それが本当なのかどうか。悩んだ結果、信じることにした。

手を幽香に預けぶら下がる。腰よりは安定しないがそれでも落ちたりはしないようだ。

それにしてもこのやわらかい手のどこにあんな力がこめられているのか。

幽香「じゃ、行くわよ」

男「へ?」

上を見上げると幽香の背中から生える紫と緑の二対四枚の羽。

うわぁすげぇと思ったころには俺の意識はとんでいた。

ブロロロロと先月買ったばかりのバイクがうなりをあげる。

大学でレポートを書いて提出したときにはもう曇り空で今にも雨が降り出しそうだった。

男「って、降り出したし」

ヘルメットにぽつりと水滴がつく。

冬だから雨にはぬれたくない。さっさと帰ろう。そう判断して山道へ向かう。舗装されてないがこっちを通ったほうが15分ほど早いからだ。

山道に入ったころにはゴロゴロと雷がなっていた。そして雨も強くなり道もぬかるんでいる。

失敗だったか。どうせこんなにぬれるのなら関係ない。

山道はガードレールもなく、下は谷だ。危ないから引き返すべきだろうか。いや、それは面倒だ。

絶対こけるわけでもないし、注意して走ればいいだけだ。

ずるっ

おいおい冗談じゃねぇよ。フリじゃないから神様、そんな芸人体質の神様いらないから。

話に聞いたとおり死ぬ間際ってスローモーションになるんだなぁ。と冷静に考える自分と死にたくないと叫ぶ自分がいる。

その二人の自分を今日の夕飯なんだろうかと考える俺が見ている。

いきなりすぎて死なんて考えられなかった。

そのままバイクは谷へとまっさかさまに――――

男「思い出したぁ!!」

意識を失った状態から一気に目を覚まし叫ぶ。

というか俺は意識を失っていたのか。思い出せば意識が消える前に景色が後ろに吹っ飛んでいったからなぁ。あれマッハなんぼだよ。

いやそうじゃない。それは別に重要なことじゃない。

さっきすべて思い出した。俺が外の世界でどんな人間だったのか。

そしてこっちで目覚める前になにがあったのか。

男「なぁ、幽香」

霊夢「幽香なら今いないわよ」

後ろから聞こえた声は幽香のものではない。

振り向くと紅白の巫女服………巫女服なのかあれ。ずいぶん奇抜なんだが。しかも巫女服の上にコートってどういう着こなしだよ。寒いなら脱げよ。

とりあえず巫女服の少女がいた。黒髪で身長は幽香よりも小さい。140くらいだろうか。ずいぶんと小さいがこれも妖怪とかそんなオチじゃないよな。

霊夢「というか死んでなかったのね」

男「死んでたまるか!! って、え、俺生きてんの?」

霊夢「何。死にたいの? 自殺なら私がいないところでやってよね」

生きてるのか? いや、ここが死後の世界という可能性も………

生きているのか死んでいるのか悩んで、そこでやっとここが神社だということに気づいた。

幽香はどうやら俺を神社に連れてきたらしい。

幽香の話によるとここが妖怪の陣営みたいだが、妖怪の拠点が神社ねぇ。見た目だけ神社で実は違うという可能性もあるか?

男「ここ、神社なのか?」

霊夢「鳥居があって社がある一般家庭があったら見てみたいわね」

くっ。可愛くないなぁ。

紫「あなた死んでないわよ。私が仕掛けたスキマに引っかかったみたいね」

男「うおっ」

神社の中から二人の女性が出てきた、金髪で紫色の服を着た女性と金髪のふさふさの尻尾をいくつも持った女性。尻尾の女性は妖怪と分かりやすいが、紫の服の人も妖怪なのだろうか。

霊夢「あぁ。あのネズミ捕りね。」

紫「ネズミ捕りじゃないわよ。妖怪の餌用に張ってるスキマよ。大体人が死ぬようなところに仕掛けてたけど、この人それに引っかかったみたい」

男「どういうことだ?」

紫「説明してあげるから中に入りなさいな。ここにいる限り襲われないから」

そう良い紫の服の女性が神社内へと戻っていく。尻尾の女性はそれについていった。

どうやら現在のこの状況を詳しく教えてくれるみたいだ。幽香の説明じゃよく分からなかったからありがたい。

案内された部屋は和風の一室。

中には紫の服の女性(名前は八雲 紫というらしい)と尻尾の女性(八雲 藍というらしい)と緑色の髪の少女がいた。

映姫「………きましたね」

紫「座りなさい。説明するから」

促され紫さんの目の前に座る。隣には藍さん。斜め前には緑髪の少女。

紫「普通外の人が迷い込んできたら外に帰すのだけど」

男「じゃあ帰してくれよ」

紫「人の話は最後まで聞きなさい。途中の反論は野次と変わらないわ。今はここと外を仕切る結界―――博麗大結界っていうのだけど、それに干渉することが出来ないから申し訳ないのだけど貴方にはここにいてもらわないといけないわ。だから貴方が外に出ることが出来るのはこの戦いが終わってから。貴方はここから出るために私たちに協力してもいいし、しなくてもいい。ただその場合」

くそ、つまり手伝えと。手伝わなかったら外に出さないということか。

映姫「安心してください。妖怪の餌ということにはなりません。外にも出します。しかしそれは私たちが勝利したこと前提です。少しでも確立を高めたいのなら私たちに協力していただけないでしょうか」

そういい頭を机につけ下げる少女。

ただの人間の俺になにが出来るというんだ。

空手をやっていたといっても初段だし柔道だってかじっただけだ。囲まれたら負ける自身はある。

そんな俺の不安を読み取ったのか紫さんが笑って一丁の回転式の銃を机の上においた。

紫「これを使いなさい」

男「なんだ、これで撃てばいいのか? 俺、人殺しになりたくないんだけど。まじで」

紫「違うわ。もうどうしようもないと思ったとき自分のこめかみを撃ちぬきなさい」

………自害用かよ。シャレにならんぞ。

藍「紫様。それでは説明が足りないかと」

紫「分かってるわよ。そこの神妙な顔して悩んでる貴方。その銃はただの銃じゃないわ」

男「え?」

紫「その銃はね。自害すると数時間、時を戻せるわ。戻せる時間は長くても半日。弾数は8。使うときは考えて使いなさい」

………ばんなそかな。

って言ってもファンタジーの世界だしなんでもありか。

それでもこめかみを撃ちぬくのはいやだな。

時間を戻せるらしいが………

まぁ、とりあえずもらっておこう。脅しやけん制には使えるだろうから。

紫「いきなり戦ってくれとは言わないけど、のちのちサポートに回ってもらうことになるから覚悟しておいて」

サポートか。それならまだ。いや、それでも間接的に人を殺すのか。

………そもそも正義はどっちなのか?

俺はこの戦いについて無知すぎる。もしかしたらこっちが悪で、俺は約束を守られず、今までごくろうだったなバーンで殺されるという可能性も。いやなりゆきとは言え俺が生きてるのは紫さんのおかげだしなぁ。

映姫「いきなりでわけが分からないでしょうから私が色々と世話しますのでしばらく私についてきてください」

男「分かった」

映姫「ではついてきてください」

紫「ねぇ、男」

男「なんだ?」

紫「巻き込んでごめんなさい」

男「………はい」

女の人の悲しい顔は苦手だ。

外に出ると巫女の姿は消えていた。

男「そういえばお前の名前は?」

映姫「四季 映姫です。こないだまで閻魔をしていました」

男「今までの無礼お許しください」

思わず土下座をする。妖怪ならともかく神様に弱いのは人間の性だ。

映姫「頭を上げてください。元閻魔ですから。今はただのしがない神ですよ」

ただのしがない神ってなんですか。

男「あの、それで今からどこに行くのですか?」

映姫「ふふっ。あの紫にもため口だった人間が私には敬語を使いますか」

男「紫さんって凄いのですか?」

映姫「幻想郷の最強の妖怪の一人ですよ。ちなみに貴方を連れてきた幽香も最強の妖怪の一人です」

………今度から敬語を使おう。

小町「あれ、誰です? その人間」

魔理沙「そんなことはどうでもいいぜ………早く休みたい」

映姫「小町!!」

顔を上げて声がしたほうを向く。

そこには鎌を持った巨乳の女性と金髪の魔法使いみたいな少女がいた。

二人とも傷だらけで、服に血がにじんでいる。大怪我ではないがたいしたことないとはいえない。

映姫「小町!!」

四季さんが二人に、いや胸の大きいほうの女性にかけよる。魔女っぽい少女は私は無視かよとつぶやいて縁側に座り込んだ。黒白であっただろう衣装が乾いた血で黒くなっていて痛々しい。

男「だ、大丈夫か?」

魔理沙「大丈夫に見えるか? 残念ながら私は人間なんだよ」

人間だったのか。外見じゃ人間かそうでないかの区別がつきにくい。

魔理沙「なぁ、あんた。ちょっと悪いが霊夢を呼んできてくれないか?」

男「霊夢?」

魔理沙「巫女服着てるのだよ。私は休んでるからよろしく頼む」

そう言ってそのまま横たわる。もしや息絶えたのではないかと思ったが胸は上下しているからどうやらただ休んでいるだけみたいだ。

どこにいるのだろうか。分からないがとりあえず神社内を走り回ってみる。

神社は離れとつながっていて見た目よりもずっと広い。障子を開けてみるもののどこにもいない。

男「どこだよ」

廊下の端にあったひとつだけ木製の扉。

これだけ特別だしもしかしたらここかもしれない。そう思い扉を開ける。

霊夢「………え」

霊夢がいた。

それはいい。

だが残念なのが、ここが

霊夢「閉めなさい!!」

トイレだということだ。

出てきた霊夢に数発ひっぱたかれる。見た目よりずっと痛かった。

叩かれつつ少女のことを伝えるとみぞおちに蹴りを入れてそのまま走り去っていった。

いくら俺が悪いとはいえ少しやりすぎではないだろうか。

廊下に倒れこみながらそう思った。

映姫「あの、大丈夫ですか?」

男「いえ、俺が悪いので」

真っ赤にはれた俺の顔を見て四季さんが心配をしてくれた。この人、やはり神か。

トイレを覗いたことに関してはこめかみを撃ちぬきたくなったが銃弾がもったいないのであきらめる。これからあの霊夢にあうたび変態扱いされるであろう事は用意に想像できる。

ここから出られないのなら何回も顔を合わせることになるのだろう。

前途多難な出発にため息がでた。

映姫「あの、それでついてきてほしいところがあるのですが」

男「分かりました」

映姫「こっちです。小町がいる今しかいけないので」

男「?」

映姫さんが胸が大きな女性、会話からさっするに彼女が小町だろう。小町に近づく。

小町のほうはさっきの少女より傷は少ない。しかし疲れてはいるようで石の上に座り込んでいた。

小町「なんですか四季様」

映姫「あそこに行きたいのですが。彼と一緒に」

小町「え。あぁ。分かりましたこっちへどうぞ」

映姫さんが手まねきをする。靴を履いて庭に出て映姫さんの隣に立つと小町が目を閉じて鎌で地面に一文字に線を入れた。

映姫「一歩踏み出してください」

男「はい」

一歩踏み出す。

ぐわんっ

景色が水のように流れていく。その情報量は脳を激しく揺さぶった。

景色の流れが止まり、いつの間にか場所が神社ではなくなっていた。

森の中。そして目の前にある大きな扉。扉は岩壁に張りついていて、どうやら洞窟を建物として利用したみたいだ。

男「ここは?」

映姫「すみません。最初に手伝ってもらいたいことが」

四季さんが扉を開ける。

中を見ると明かりが灯っていてあまり暗くはないようだ。

そして中から聞こえる声。どうやら誰かがいるらしい。

しかもその声はひとつではなくいくつも聞こえる。

映姫「中に。しかし入り口で待っていてください。中の人たちは人間の味方というわけではないので」

四季さんが洞窟の奥へ進んでいく。俺は入り口でただ一人待っているが、四季さんのさっきの言葉。人間の味方ではない。

となると中にいるのは妖怪なのだろう。しかし俺が妖怪に出来ることとはなんだろうか。

餌になれ?

想像した嫌なことが頭の中に張り付いて離れなくなる。

大丈夫だ。四季さんがそんなことをするわけがない。一応神様だし。

でも神様が人間の味方というわけでは………

いやな想像というのは一度するととまらなくなり、最悪の状況を描いてしまう。

映姫「お待たせいたしました」

四季さんが戻ってきた。さっきの想像のせいでおもわず後ろに下がってしまった。

それを見て四季さんは「大丈夫です。伝えてありますから」と俺の頭の中を読んだかのようにそう言った。

四季さんに続いて奥へ進む。大丈夫といわれたとは言え、へたれ気味な俺はおっかなびっくりついて行った。

細い道を抜けると大きな広間があった。そこには

男「これは」

小さな子供たちがいた。しかし羽がはえていたり、犬のような耳が生えていたりと、人間の子供ではなく妖怪の子供だが。

子供だけでなく、大人の妖怪もいるようだがそれでも子供の数が圧倒的に多数だ。

四季「戦争にできない子供妖怪です。巻き込まれてはいけないので、ここに軟禁しています」

男「………………」

軟禁。

見た目は違うとは言え子供だ。俺の知る限り子供は閉じ込められるものではなく外で遊ぶものだったはずだ。

なのにここでは日の光にあたらず、灯火だけで過ごしている子供ばかりだ。

傷をみても、幽香さんと俺が襲われたのを見てもあまり戦争を実感しなかったのにここで初めて実感した。つくづく平和ボケしているな。

男「面倒をみればいいのですか?」

映姫「えぇ。お願いします」

弟妹はいたが年が近く小さな子供の面倒のしかたはよく分からない。それでもなにかしよう。

男「分かりました」

映姫「すみません」

子供達に近づく。おそらくこの子たちでもただの人間である俺は軽く殺すことが出来るのだろう。しかしおびえているわけにはいかない。一回ぎゅっとこぶしを握りしめて気持ちを固める。

しゃがみ目線をあわせる。子供達の瞳は怯えていた。説明していたとはいえ敵は敵か。

男「えっと、そこの君」

犬耳娘「!」ビクッ

俺の少しうわずった声で犬耳の少女がびくりと震える。

前途多難だ。こんなとき漫画の主人公なら、サッカーなどの遊びでなんとかすると思うのだけど。

俺に何ができる。空手? いやいやここで空手をしても余計怯えさせるだけだ。

男「えっと、一緒に遊ぼうな」

その提案に答える声はない。それどころかどんどん後ろに下がっていっている。

映姫「大丈夫ですよ。この人間は外の人間です。敵ではありませんよ」

後ろから四季さんが助け舟をくれる。その言葉に何人かの子供は反応したが、それでもやはり大多数は怯えたままだ。

しかしそれでもさっきよりはマシだ。

羽少年「なぁ、外の世界の人間なのか?」

男「あぁ」

一人の少年がゆっくり近づいてきた。瞳に宿す感情は恐れと興味。どうやらこの少年は外の世界に憧れを抱いているようだ。

羽少年「えっと、外だと籠が一人で走ったりするとか遠くを写す箱があるって本当か?」

車とテレビだろうか。なんとなく現代にタイムスリップした侍みたいだなぁと思い軽く笑う。

男「あぁ、あるよ」

羽少年「本当か!?」

男「見せれればいいんだけど」

服をあさっても携帯どころか財布もない。落ちていくときになくしたらしい。

この子達に携帯を見せたらどうなるだろうか。通話やメールは出来ないだろうがそれでも中にはゲームが入っている。

羽少年「じゃあじゃあ」

どうやら聞きたいことはあるらしいが多すぎてなかなか口に出来ないらしい。

男「他の子はなにか聞きたいことあるか?」

犬耳娘「あ、あの」

さっきの少女がおどおどとしながら近づいてきた。気づけば子供達との距離が近づいていた

犬耳娘「外には海っていうのがあるって聞いたのですが………」

男「海か。ここにはないのか」

羽少年「海ってなんだ?」

男「海って言うのは水がしょっぱい湖の凄い広い版だ。ちなみに魚がうようよいる」

犬耳娘「!!」パァ

犬耳娘の顔が輝く。どうやらこの娘も外の世界にあこがれているようだ。戦争が終わって外の世界にどうにか連れ出せないものか。ただの人間である俺にはやはり無理なのだろうか。

男「質問タイムもなんだし、みんなで遊ぶか?」

さっきから楽しそうなのはこの二人とそれを見ている数人でやはり他の子供は静かに怯えている。

といっても遊びというのが何ができるのかはわからない。鬼ごっこやかくれんぼはする場所がないし、道具を使う遊びは道具がない。となると動かない遊びということになるが。みんなでできる動かない遊びというものはあっただろうか。

映姫「………男さんが昔話をしてくれるそうですよ」

四季さんから二度目の助け舟が届く。そうか、昔話か。細かい部分は覚えてないが大体の話の流れなら覚えている。金太郎、浦島太郎、シンデレラ。昔話は凄い数があるがその中でも鉄板といえば桃太郎だろう。

映姫「桃太郎は駄目です。ここには実際に鬼もいるので」

小さい声で四季さんから警告が入る。危ないところだった。相変わらず人の心を読んでいるかのようなタイミングで助言を入れてくるがそれがとてもありがたい。

よしじゃあ桃太郎が駄目なら一休さんだ。話は終始明るくコミカルに話すことができる。しかもなかなか関心ができる話だ。子供達にはぴったりかもしれない。

男「じゃあ一休さんで」

ちらりと後ろをみると四季さんは微笑んでいた。どうやらOKみたいだ。

犬耳娘「一休さん?」

男「あぁ、一休さんっていう偉いお坊さん。あ、これ地位じゃなくて頭の回転の良さな。まぁそういうお坊さんがいたわけだ。そのお坊さんは頓知で有名でな。あるときお城の殿様が一休さんを試してやろうと一休さんを呼んだわけだ」

男「そして一休さんがお城へ向かうとお城へかかる橋の横に、このはしわたるべからず、と書いてあったんだ」

羽少年「呼び出しておいて渡るなってずいぶん勝手な殿様だな」

男「まぁ、そうだな。そして一休さんは橋を渡った。なんでだと思う?」

羽少年「勝手な殿様の言うことなんか聞く必要ないから」

犬耳娘「と、飛んだ?」

男「そこの羽生えた少年や。さっきからなんとなく答えが厳しいぞ。物語だから意地悪なキャラクターはよく出るって」

犬耳娘「シンデレラ!」

男「そうだな、シンデレラを知っているのか」

犬耳娘「あこがれ///」

男「あと一休さんは人間だから飛べません。あと立て札にも従います。で答えなんだが一休さんは端じゃなくて真ん中を渡ったわけだ」

羽少年「屁理屈じゃん」

男「否定はできんが、一応理屈は通ってるからな。そしてお城にたどり着いた一休さんにお殿様はこう言いました。夜な夜なこの屏風から虎が出てきてうろつきまわるんだ。おっかないから捕まえてくれ。ってな」

羽少年「殿様なら自分で捕まえろよな。家来に頼んで」

男「そのとおりだな。まぁ一休さんもそう思ったのだろうけどそこはさすが一休さん、頓知で返した。わかりました捕まえましょう。ではお殿様、屏風から虎を出して下さい、ってな」

羽少年「うまいこというなぁ」

しみじみとうなずく羽が生えた少年。さっきからずいぶん言ってることが子供っぽくないけどどうしたんだこいつ。

犬耳娘「おもしろかったっ」

それにしてもこの犬耳の生えた少女。純粋な子で可愛いな。思わずよしよしとしたら顔を真っ赤にさせてうつむいていた。愛いやつ愛いやつ。まさに犬を思わせる。

周りを見渡すとほとんど怯えの色は消えていた。恐るべき一休さん。

角娘「次の話は?」

男「あぁ、それじゃあ次の話に行くぜ。次の話は―――」

映姫(良かった。彼に任せて正解でしたね)

子供達と遊び、外に出ると空はいつの間にか茜色に染まっていた。

羽妖怪「あの、今日はありがとうございました。あの子たちはずっと閉じ込められていたので遊んだりできなかったんです」

男「いえ、また来ますよ」

羽妖怪「ありがとうございます」

羽が生えた妖怪から頭を下げられ、少し照れる。途中からなんだか俺も楽しくなってきて一緒に遊んでしまっていたからそこまで礼を言われるようなことはしていない。

映姫「早く帰りましょう。私はともかくあなたは人間ですので」

そういえばそうだった。ここの妖怪はともかく俺の事情を知らない妖怪に襲われてはひとたまりもない。

男「そういえば帰りはどうするんですか?」

小町「あたいが迎えに来るんだよ。さっさと帰ろう。ここら辺は危ない」

小町がいつの間にか目の前に立っていた。おそらくあの能力を使ってここまでやってきたのだろう。となると帰りはやはりあの移動。頭が痛くなるからあまりしたくはないんだが、命には代えられない。

小町が引いた線を越え、元の神社に戻る。

境内では霊夢が掃除をしていた。

霊夢「………変態」

男「事故だろ、あれ」

いきなり蔑んだ目で見られる。年下から変態を見るような目をされて興奮するほど俺は紳士ではない。かといって年上から蔑まれても興奮しない。

自分が悪いとは言え、あの少女を助けるためという事情があったのになぜあそこまでされなければいけないのか。右頬の痛みを思い出しなでる。

霊夢「それでも変態は変態よ」

小町「なんだい霊夢。何かされたのかい?」

霊夢「トイレ覗かれた」

小町と四季さんがごみを見るような目で見てきた。撤回しなければ今にも危険地域に飛ばされそうだ。

事情を説明すると四季さんは

映姫「しかたありませんね」

といって許してくれた。小町は大爆笑して霊夢に蹴り飛ばされていた。

男「だってこんな胸のないちんちくりん、あ、四季さんは魅力的ですごばぁっ!!」

霊夢がなんか札のようなものを飛ばしてきてそれが当たった瞬間吹き飛ばされた。

なんでだ、俺が危なくないって事を説明していただけなのに。

女心って複雑だなぁと数秒間の滞空時間で実感した。

萃香「なんだい。こいつ」ガシッ

さぁて、いつまで空飛ぶのかなぁ、あははとか思っていたらいきなり捕まれ、地面にぽいっと放り投げられる。

ごろごろと地面を霊夢のほうに向かって転がり、足蹴にされてとまる。

霊夢「不審者よ。やってよし」

萃香「結界内に敵? まぁ、解ったよ」

初めて見えた俺を捕まえた主は霊夢よりも小さいが、頭に生えた角。手首についた鎖、あの怪力からしておそらく鬼。そしてその鬼が霊夢の命を受け俺の命を奪おうと

男「ままま、待った!!」

萃香「って言ってるけど」

霊夢「無視してよし」

萃香「あいよ」

男「ストップストップスタァアアアップ!! 敵じゃない敵じゃない!! ノーエネミー!!」

霊夢に足蹴にされながら命乞いをするというきわめて無様な醜態をさらしていると、四季さんが鬼に事情を説明して収めてくれた。さすが四季さんありがたい。美少女なだけある。

萃香「なんだい。こんな人間が戦力になるのかねぇ」

男「雑用には使えますからどうかお許しを」

萃香「なんかこう凄い下手に出られるといらだつを通り越して笑えてくるんだけどさ」

小町「萃香は弱者とか悪者嫌いだからあんまりへりくだらないほうがいいよ」

指先ひとつでダウンどころかキルしてくる相手にへりくだらないはとても難しいのだが、へりくだらないとぼっこぼこにされる。なんだこれ無理だろ。

男「そ、それはすまなかった俺の名前は男。見てのとおり人間だ。空手柔道は初段。特技は早食いです!!」

萃香「へぇ。そうかい」

心底興味なさそうにうなずき、あくびをしながら神社の中へと去っていった。

どうやら俺の命は助かったらしい。ほっと息を吐いてさっきから気になっていたことを霊夢に伝える。

男「なぁ霊夢」

霊夢「何よ」ギュム

男「見えてる。下着。白の」

それは霊夢の巫女服の袴というよりスカートに近いその中には純粋無垢で飾り気のない白い下着。やはり巫女というのは純潔でなければいk

霊夢「!!」

ボギュッ

へぇ、人体ってこんな音なるんだなぁ。不思議だなぁ。

っていうか痛くないって逆に駄目なんじゃないだろうか。というかなんかむしろきもちい―――

小町「男? 男? おーい、聞こえてますかー。………だめだこりゃ、気絶してる」

一日に何度も気絶する経験なんてそうそうあるものではない。そう考えれば今の俺は不幸というよりも幸運に恵まれて―――

男「いるわけないよなぁ」

霊夢のスタンピングによって気絶したらしい俺はいつのまにか布団のなかにいた。どうやら気絶した後誰かが運んできたらしい。四季さんだろうか。

体を起こすと踏まれたところがやたら痛むが我慢して布団から出る。

外は茜色ではなく完全なる黒。人工的な明かりは一切存在せず、星と月だけが夜を照らす。

ぐぅと腹がエネルギー補給の訴えを出してくる。そういえば俺は今日何も食べていない。いろいろなことがありすぎたせいで食べるという本能自体を忘れていたからだ。

このままでは倒れてしまう―――なんて事はないが空腹のままだと心地が悪い。誰かに頼んで食べ物を貰おう。

くれそうな人といえば四季さんだが、四季さんの部屋がわからない。聞いておけばよかったと後悔しながら廊下をぶらぶらと歩いてみる。

霊夢以外ならそう印象が悪いわけでもないし食べ物をもらえるだろう。

霊夢 男「あ」

神様はなぜかとても俺に厳しかった。

霊夢は着ていた巫女服ではなく、普通の着物を着ていて、おいしそうな料理を載せたお盆を持っていたt。頼めばわけてくれるだろうか。いや、おそらく変態にやる飯はねぇ!と一蹴されてしまうだけの気がする。

霊夢「………何見てんのよ」

男「いや、別に」

霊夢「そう。はいこれ」

霊夢がお盆を差し出してくる。これはめんどうくさいから運べどいうことだろうか。

男「誰のところまで運べばいいんだ?」

霊夢「は?」

霊夢の視線がこいつ気絶しすぎて頭がぱっぱらぱーになったんじゃないの?と物語っている。

というとこれはもしかして。

男「俺に?」

霊夢「あんたが99%悪いけどそれでも気絶させちゃったのは私だし、餓死されても寝覚め悪いし一応持ってきてあげたわ」

男「なるほど。霊夢はツンデレなのか」

霊夢「はぁ!? 誰が!」ゲシッ

男「ははは遅いわ!」クネクネ

霊夢「!?」

寝ていた部屋(どうやらここが俺の部屋になるらしい)に戻りちゃぶ台のうえに持ってきた料理を並べる。

両手を開けていただきますをした瞬間、がらっと障子が開いた。

橙「こんばんわ!」

小さな女の子が入ってきた。生えている二本の尻尾が妖怪であると伝えてくる。おそらく猫又がサイヤ人のどちらかだろう。当たり前だが前者だ。

男「えっと、誰?」

橙「橙は橙といいますっ。紫しゃまからの伝言をお伝えにきました!」

男「ありがとうございますと男は男はそう言います」

橙「それでは失礼します!」

しかしその言葉とは裏腹に橙は微動だにせず動かなかった。視線をたどると俺の夕食。焼き魚だろうか。

念のため焼き魚を一口食べてみるとその視線は箸を追った。

やはり猫は焼き魚が好きなのだろうか。

尻尾を箸でつまみゆらゆらさせてみる。橙の視線は右へ左へゆらゆらゆれる。

男「あなたはだんだん眠くなる~ あなたはだんだん眠くなる~ なんてな」

橙「すやすや」

男「えぇ!?」

紫「だからうちの子を背負って来てるのね」

男「本当に申しわけない」

ぐっすり眠っている橙を背負って紫さんの部屋までいき、橙が寝ている説明をすると、紫はため息をついて笑った。

紫「まぁいいわ。座りなさい」

手で示された座布団にすわり、寝ている橙をそっとたたみへとおろす。

男「話って?」

紫「申しわけないのだけれど明日から実戦部隊のほうへ行ってもらうことになるわ」

男「!?」

いくらなんでも早すぎる、実戦なんてそんな。

しかし紫さんの目が冗談ではないことを証明している。つまりなんらかの事情があって非戦闘員である俺が出なければならなくなったのだろう。

人間であるとは言え、この中では男は俺一人のようだ。倒すことはできなくても撃退あるいは逃走はできるはず。

覚悟が決まったといえば嘘になる。しかしここでやらないとはっきり口に出すほどの勇気もない。

俺が行かなければまた誰かが傷つくことになる。

つくづく自分の偽善がいやになるなと、小さくため息をついた。

紫「大丈夫よ。あなた一人じゃないし」

亡霊男「俺がいる」スッ

男「!?」

畳から突如男が出てきた。しかもうっすらと透けている。

男「幽霊!?」

亡霊男「亡霊だい」

男「しゃ、しゃべったぁあああぁあ!?」

亡霊男「なんだ。亡霊はしゃべっちゃいけないとか亡霊差別だぜ?」

紫「落ち着きなさい。悪い霊じゃないから」

亡霊男「どうも亡霊男です。この紫の夫です。よろしくなっ!」

男「夫だぁあああぁあああぁああ」

亡霊男「なぁ。なんでこんなに驚いてるんだ?」

紫「外じゃあ幽霊亡霊あんまりいないから」

亡霊男「そうか………」

数分後落ち着きを取り戻した俺は亡霊男について紫から説明を受けた。

ようするに亡霊男は偵察部隊で物理的な技はその気になればすべて無効化できるらしい。

しかし亡霊になってから日が浅く、もともとただの人間だったため戦闘はできない。

亡霊男「それで藍さんと俺とお前でなあの裏山にある結界の調査をしに行く」

紫「直接の戦闘部隊というわけじゃないけど、見つかったら戦うことになるわ。藍がいるから大丈夫だと思うけど」

裏山の結界とは裏山にある魔界と幻想郷をつなぐ場所にある結界のことで、何度か調査に行ったらしいのだが、なかなかに守備が硬く大きな成果をだしていないそうだ。

紫「明日になったら陽動部隊がそこの防衛をしてる部隊をひきつけるわ。その隙に調査をお願い」

男「わかりました」

紫「今日は早く寝て頂戴ね」

男「はい。わかりました」

自分の部屋に戻る前にみた結界は金色の光を放っていた。

初めての任務はあれの偵察。

無事に済めばいいが………。

がさがさと草が音を鳴らし時折皮膚に傷をつける。

山登りなんて小学校のころ以来やったことない。妖狐の藍さんに、物理的影響なんていっさい関係ない亡霊男。あきらかに迷惑をかけている俺はやはり来なかったほうがよかったのではないのだろうか。銃をどっちかに渡して帰ったほうがよかったのではないだろうか。

亡霊男「まぁ、人間だししゃあないわなぁ。まだ時間はあるしゆっくり行こうか藍さん」

藍「かまないが、私が運んだほうがいいんじゃ?」

男「だ、大丈夫です」ゼハー

目的地まであと数キロ。藍さんにお願いすれば楽かもしれないが、そんなことをしてしまっては目立つ。人間ならばせめて人間の利点を生かして偵察をしなければならない。

亡霊男「じゃあ休みがてらどうでもいい話をしよう」

男「どうでもいい話?」

亡霊男「紫な、あいつの勝負パンツは紫のレースなんだが、お気に入りは綿のくまさんパンツだ。そのほかにもプリントパンツをいくつか持っている。家のたんすの二番目の右の引き出しにな」

男 藍「まじで!?」

亡霊男「まじまじ。本人には秘密な。ばれてないと思ってるから」

そうか、そうだったのか。あのやけに大人っぽい紫さんにそんな秘密が。

亡霊男としゃべりながら歩いているといつの間にか近くについていた。

ここからは静かに移動をしなければいけない。

藍「あと数分で陽動部隊が動き出す」

亡霊男と藍は草むらに隠れ、俺は木の後ろで、結界が見える位置でつく。

結界の前には人間が10数人。それに頭にウサギの耳が生えた男が一人。

なぜ妖怪が? と思ったが、そういえば妖怪の中で人間に協力するやつもいるのだったと思い出す。

人間は刀や銃などの武装をしていて、俺一人ではどうしようもなさそうだ。その周りには簡単な小屋まで立てられていてどうやらここが重要な場所であるということがうかがえる。

ドンッ

派手な音と木が倒れる音がした。

どうやら陽動部隊が動き出したらしい。人間の半分ちょっとと妖怪が音がしたほうに行く。残ったのは4人。刀が二人と銃が一人と札みたいなものを持ったのが一人だった。

結界の近くにいるのでどうにかこっそりということはできない。戦闘は避けられないようだ。

草むらに隠れている藍さんに合図を出すと藍さんはものすごい速さで刀を持った男に飛び掛った。

刀を持った男は抵抗したらしいが、藍さんはすばやく手を横に薙いで頚動脈あたりを切る。鮮やかな血しぶきがつく前に次の刀を持った人間に飛び掛っていた。

銃を持った男は同士討ちを恐れて手が出せないらしい。二人目の男もあっさりと地面に倒れ、赤いねっとりとした液体が地面に流れていった。

殺したのだろうか。初めて目の前で見る光景に、まるで映画のようだという感想を抱く。それまでにあっさりと簡単に二人の命を藍さんは奪った。

銃男「うあぁああ!!」パンッ

銃を持った男が藍さんに向けて引き金を引く。それを藍さんは地面に倒れている男をすばやく持ち上げ盾にした。

銃弾よりも早いその動きに驚いた札を持った男が札を投げつける。その札はまるで生きてるかのように藍さんの八方に移動し金色の光を放ち輪になる。その輪は藍さんの体を縛り付けた。

藍「結界か………」

ぶちっ

藍「得意分野だよ」

藍さんが結界を掴み引きちぎる。そこからはさらに戦いは一方的になった。

腕の一振りだけで二人の命を奪った藍さんは振り向いて安全だということを合図して教えてくれた。

倒れた男たちに近づく。流れて行く生が地面に吸い込まれどんどん消えて行く。

助ける理由はないが、それでも同属が死んでいる光景はなかなかにショックだった。

亡霊男は大丈夫か? と聞いてきたが俺はそれに答えず近くにあった小屋にしゃがみこんだ。

疲労が一気にきた。

俺は偽善で動いているだけであって、強い信念なんてものはないのだ。

おそらく襲われても使えるはずの空手や柔道を使わないだろうし、銃で脅すこともできない。

藍「調べてくる。後は偵察を頼んだ」

藍さんが金色に輝く結界に近づいて触れる。さっきの芸当を思い出し、藍さんならば敗れるのではないだろうかと思ったが、なんどか結界の表面を撫で、首を横に振った。

藍「帰ろう。これはどうにもならない」

空中でふよふよと浮いていた亡霊男が降りてくる。近くに敵はおらず、遠くで陽動部隊が注意を引いてくれているおかげで逃げるのは簡単らしい。

男「帰ろう」

亡霊男「あぁ」

亡霊男はそれ以上何も言わなかった。

神社に戻ってくる。ついたと同時に俺は近くにあった石の上に座り込んだ。

紫「お疲れ様」

気がつくと目の前に紫さんが立っていた。

男「俺、行く必要あったんですか?」

紫「慣れてもらいたかったのよ」

………人が死ぬことにか。

慣れれるのだろうか、俺は。

さっきの光景を思い出し、いまさらになって胃液がこみ上げてくる。

紫「辛いでしょうが慣れないといけないの」

男「おぉぅ、おぉうぇええぇええ」

吐きはしなかったが吐き気が絶え間なく襲い掛かってくる。

地面に膝をついて苦しむ俺の背中を紫さんが優しく撫でた。

紫「私の事情で巻き込んでしまってごめんなさい」

藍「結界を破ることは私では無理です。霊夢と輝夜の力を借りてやっとです」

紫「どうなっていたのかしら?」

藍「あの結界の力は月人の生命力、それも4人分を使っています。しかもその力を純潔の月兎を媒体としているので結界を破るにはこの月兎の命を奪わなければいけません」

紫「その月兎って」

藍「永遠亭にいた月兎の少女です。ちなみに永遠亭にいた月兎の青年は人間の味方のようです。永遠亭は独立を貫いているので、永遠亭が手を出したというわけではなさそうですが、それでもこの二人を殺害した場合、永遠亭がなんらかの行動を起こす確立は高いでしょう」

紫「………そう。お疲れ様藍。今日はもう休んでいいわよ」

藍「はい。ありがとうございます」スゥ

タンッ

紫「………厄介なことになったわね」

少し休み、気分が少しは収まったとき藍さんが廊下を歩いているのが見えた。

近づいてあの結界について聞いてみる。

藍「あの結界は魔界と幻想郷をつなぐのだが、結界を張られたことにより魔界へと行っていたサリエル、魅魔、夢美、夢月、幻月。そして魔界の住民がこっちにこられなくなってしまったのだ」

男「つまり強い人がのきなみ閉じ込められたってことですか?」

藍「残念ながらな。そうでなければもっと楽だっただろう」

藍さんはそれに、地底にも結界が張られているからな。とため息とともに吐き出した。

~少年サイド~

少年(どうしましょう、さとりさん)

地底に結界が張ってはや一ヶ月近く。食料に困りはしないですがいつここが攻められるかもわかりません。

しかし結界は燐さんによると並大抵な妖怪じゃ壊せないそうで、どこかに逃げるということもできず、ただただ毎日おびえています。

さとり「どうしようもないわ。私は心を読むだけ。結界なんて専門外よ」

地底に専門家なんているだろうか。そう考えてみたが一人も結界に詳しそうな人はいなかった。

それでも発明家は三人いる。ちゆりさんと理香子さんと白衣男さんだ。

三人の力を借りればなんとかなるかもしれない。

そう考えたとき、さとりさんが

さとり「だめよ」

といった。

男(なぜですか?)

そう聞くとさとりさんは少し俯いて

さとり「外に出れたとして危ないわ。私はもう誰も失いたくないの」

と小さな声でそう言った。

ミス 男ではなく少年でした。

少年(わかりましたさとりさん)

さとりさんにそう言われたら僕はもうなんとも言えません。僕はさとりさんに近づいてそっと手を握りました。

さとり「ありがとう、おと」

さとりさんがそう言いかけてとめました。そして握った手を解くと僕から離れていきました。

何かしたのでしょうか。そう思ったとき部屋の扉をたたく音が聞こえました。

どうやら誰かが来たようです。僕は気にしないのですがさとりさんはまだ二人で手をつないだりしているところを見られるのは抵抗があるそうです。

さとり「入っていいわよ」

お燐「失礼します。さとり様」

お燐さんでした。お燐さんは頭の上の耳をぱたぱたと動かしながら部屋の中に入ってきました。その手には何か紙を持っていました。

お燐「結界を調べてた人からもらってきたんですが、どうやら勇儀なら結界を壊す、まではいかないですけどこじ開けることができるそうです」

さっきまで悩んでいたことの解決策がこんなにも早くできるなんて、驚きましたがさっきのさとりさんが言ったことで僕はもう外に出るなんてことは言えません。

僕に力があればいいのに。そう悲しくなったとき、さとりさんが優しく頭を撫でてくれました。

お燐「あと、勇儀さんが早速こじ開けて情報収集に射命丸を向かわせたみたいです。この結界は外から中へは普通に入れますから情報を集めた射命丸は戻ってきしだい、情報をまとめてくれるそうですよ」

さとり「射命丸以外は向かわせてないのかしら?」

お燐「えっと、勇儀さんの力を使っても大人一人通れる隙間を数秒間持たせることしかできないらしくて、しかも一度やると数日はこじ開けることができないらしいです」

さとり「そう」

となると、今日はもう誰も出ることができません。

ならばあとは射命丸さんを待つことしかできないようです。

僕はじっとしているのもなんなので、射命丸さんの旦那さんである白衣男さんのところへ向かうことにしました。

地霊殿から歩いて十数分のところにある酒屋。そこに白衣男さんはいます。白衣男さんは数ヶ月前に射命丸さん、にとりさん、みとりさん、雛さんと共に地底へ引っ越してきました。

のれんをくぐり、奥に向かって音を鳴らすと白衣男さんではなくにとりさんが出てきました。

にとり「ん? どうしたんだい?」

男『こんにちわにとりさん。白衣男さんいますか?』

にとり「あ、白衣男ならさっき出かけたんだけど、少しすれば戻ると思うからここで待つかい?」

男『はい』

にとり「じゃあジュース持ってくるから」

そういってにとりさんは奥へ戻っていきました。お気遣いなくと書こうとしたころには姿は完全になく、文字を消して近くにあったいすに座りました。

あたりを見回すと難しい漢字はあまりよくわからないのですが、いろいろな種類のお酒がありました。

ここでは酒屋と同時に居酒屋もやっているのでキッチンやテーブルなんかもあります。今は営業していないのですが、お空さんや勇儀さんと一緒によく訪れていました。

今後、またあの日常が戻ってくることはできるのだろうか、そうしんみりしているとにとりさんがオレンジジュースを持って戻ってきました。

オレンジジュースを受け取り、一口飲むと、甘酸っぱさが口いっぱいに広がりました。思わず笑顔になってしまい、恥ずかしくて赤面しました。

そんな僕をみてにとりさんは笑って、ありがとうね、と言いました。

何がありがとうなのかはわからなかったのですが、僕はとりあえず頭を下げておきました。

またミス男ではなく少年です。

にとり「最近暇でね、発明しかすることがないんだよねぇ」

そうでした、そういえばにとりさんも発明家でした。いつも発明を見せてくれるのは白衣男さんだったのですっかり忘れていたのです。

僕は何か身を守れる発明はないでしょうか、と聞きました。

さとりさんがさっき大丈夫て言ってくれましたが僕も男です。守られるよりは守りたい。そう思うのです。大切な人はとくに。

にとり「身を守る道具? あるにはあるけど」

にとりさんが苦い顔をしました。どうやら何か事情があるらしいのでしょう。おそらくさとりさんがにとりさんに何か言っていたのでしょうが、ここで僕は折れるわけにはいきません。

もう一度強くにとりさんにお願いしました。

にとりさんは困ったなぁと頬をかきながら苦笑いをしました。

もうちょっとで貸してもらえるだろうか。そう思ったとき白衣男さんが戻ってきました。

白衣男「ん? どうしたんだ?」

白衣男さんにもなにか身を守れる道具はないか、と聞いたところやれやれとつぶやいて何か小さな丸にわっかのついたものをくれました。

白衣男「そのわっかを引っ張ると煙が勢いよくでるからそのうちに逃げるといい」

たしかに身は守ることができるでしょうが、誰かを守ることはできません。

再度、誰かを守るためというのを付け加えて白衣男さんに聞きました。

白衣男「守りたいんだろうが、守るってことは危険なことだ。俺だって文が襲われているなら命を捨ててでも助けようとするだろう。でもな、俺が文を逃がせたとしよう、それでも文を襲えるようなやつから俺は逃げられないんだ。命を捨ててでも守るぐらいなら、卑怯な手でもいいから一緒に逃げろ。悲しむのはさとりだぞ」

そう諭すように言いました。

白衣男「幼馴染ならなんとかなるかも知れないだろうが、あの装備をつけれるのはよっぽど体力あるやつじゃないといけないからな。お前には無理だ。俺でもつけて動けるのが10分が限度、しかも数日間は筋肉痛だ」

そうか、体を鍛えれば………なんて、いまさら体を鍛えても間に合いません。

どうやら僕にはさとりさんを守ることはできないようです。

白衣男「勇気は認めよう。だけど勇気と無謀は違うからな。覚えておけよ」

にとり「白衣男も結構無謀だったけどねぇ、天魔様に直談判しにいくだなんて」

白衣男「ぐっ。それはそれこれはこれだ。話の腰を折るんじゃない」

少年『わかりました。僕はさとりさんが危なくなったら一緒に逃げます』

白衣男「よく言った。これは俺からの選別だ」

そういって白衣男さんはポケットから何個ものさっきくれたわっかつきの球をくれました。

白衣男さんにお礼を言って外にでると雪が降っていました。太陽は見えないし、雲もないのになぜか雪は降ります。

傘は持ってきていないので早歩きで帰ることにしましょう。厚着をしているとはいえ、寒いものは寒く、雪が肌に触れることで表面の体温を奪っていきます。

寒さに震えながら帰っていると向こうから黒く長い髪と胸のついた赤く大きな目が特徴的な僕の家族。霊烏路空さん。通称お空さんが歩いてきました。

お空「うにゅ? どうしたの男」

少年『白衣男さんのところへ行ってきました。お空さんはどこにいくのですか?』

そう聞くとお空さんは、えっとねと言い、そのあと数十秒悩んで、あれ? と言いました。

忘れたのでしょう。お空さんは今思い出すからといってうろうろと歩き回り始めました

薄く積もっていく雪に足跡をつけながら悩むお空さんの右手になにか紙が握られていることに気づきました。

少年『右手のそれはなんですか?』

お空「あ! そうだった、勇儀に会わないといけないんだった!」

お空さんはそのまま走り去って行きました。結局なんだったのでしょうか。

僕は少し考え、くしゃみが出たので急いで家に帰りました。

~男サイド~

四季さんと子供たちのところを訪れ、子供たちと遊んで帰る。その間俺は朝のことがぐるぐる頭の中を回っていた。

霊夢も人を殺しているのだろうか。本人に聞いて、それが何?と返されたら軽くショックを受けてしまうので四季様に聞いてみた。

映姫「霊夢は殺してませんよ。私たちの中で人間を殺したことがあるのは、八雲 藍と伊吹 萃香ぐらいですよ」

それを聞いて安心する。安心するなんておかしいがそれでもあの少女たちが手を汚していないということが今の俺にとってはとてもありがたかったのだ。

いざとなったら殺さないといけない場面もあるかもしれない。

それでもそんな場面に会いたくないと思うのが俺だけじゃないのだ。

映姫「………悩んでるのなら私に相談してください。相談相手ぐらいならなれますから」

男「ありがとうございます。でも大丈夫です」

映姫「そうですか、あまり思い詰めないでくださいね。巻き込んでしまったのは私のせいなのですから」

そういって四季さんは申し訳なさそうに目をふせた。別に四季さんのせいではないと思います。そう伝えると彼女はごめんなさいと小さく謝った。

やはり四季さんは優しいんだなぁと思い、こんな彼女を守る(守るなんておかしいかもしれないが)と誓う。

命は奪えなくても戦ってみせる。

それが恩返しってものだと思うから。

神社に帰ると、白黒の少女。たしか名前は魔理沙。魔理沙が再び傷だらけで座り込んでいた。前の傷が消えてない上から新しい傷がつき、再び服を汚している。

男「大丈夫か?」

魔理沙「ん? あぁ、平気平気。霊夢みたいに私は強くないから、やられちまったのさ」

話を聞くと魔理沙は陽動部隊だったらしい、ならば彼女が怪我したのは俺の責任、そう考えたとき魔理沙は「私がもっと強かったらな」とつぶやいた。

人間と戦えるのなら十分強いと思うのだが、霊夢はもっと強いのだろうか。

魔理沙「霊夢はな。私よりずっと強いんだよ。今まではスペルカードなんてものがあったから戦ってこれたけど、それがなくなったら」

―――私は誰よりも弱い。

魔理沙が泣きそうな声で、震えた声で、何度も何度も悔しそうに強くなりたいと言った。

きつく握られた手が震え、徐々に言葉に嗚咽が混じる。

触れなければよかったのだろうか。いや、吐き出さなければいつかこの少女は折れてしまう。

であって少しの間だが、おそらくこの少女は平気な顔して人の何倍も努力をして、それでも上がいることに悩んでいる、そう感じた。

守りたいと思った。

だけど、守るほどの力は俺にはなかった。今目の前で泣いている少女よりもずっと俺は弱い。

それでも俺は

男「俺、明日から実戦部隊入るわ。守ってやるよ」

虚勢を張って嘘をついた。

後悔なら後ですればいい、未来のことなら明日悩めばいい。

魔理沙は今悲しんでいるんだ、だから明日の俺恨んでくれるなよ。

魔理沙「無理、だろ」

魔理沙がそう泣き笑いで言う。そんな彼女の頭を帽子ごと強めになで胸を張った。

男「黙ってみてろ。柔道空手初段の実力見せてやるぜ」

魔理沙「なんだそれ、微妙じゃんか」

男「うぐ、痛いことをおっしゃる」

魔理沙「まぁでも」

魔理沙は乱れた帽子を直し、期待してるよと笑った。

男「というわけで実戦部隊にいれてください」

紫さんに土下座をして頼んでみる。

部屋に入ってきていきなり土下座をした俺に紫さんは目を丸くしていたが、少し悩んで、わかったわ、と許可してくれた。

紫「でも、霊夢と一緒にね」

………え

男「魔理沙と一緒がいいのですが」

紫「駄目、霊夢なら安全だから」

駄目だ、それじゃあ魔理沙を助けれない。何かあったら駄目なんだ。明日には傷だらけじゃなくて血だらけで帰ってくるかもしれない、そもそも帰ってこないかもしれないのだ。

男「どうにかならないのですか?」

紫「駄目」

なぜだ。俺は時間を戻せる拳銃を持っているとはいえ、ただの人間。そこまでの価値はないはずだ。

なのに紫さんはやたら過保護に俺を守ってくる。俺の意思だと思っても実は紫さんの手のひらの上。そんな気がしてならない。

なんども頼んでみたものの帰ってきた答えは駄目の二文字のみ。

なら魔理沙と霊夢を同じ部隊に、という提案も同じく駄目の二文字で返された。

どうすればいいのだろうか。守ってやると言っておきながら、守ることができずに霊夢に守られる。

俺は滑稽だ。四季さんを守ると誓い、魔理沙を守ると誓い。その約束を果たす事ができずただ守られるだけだなんて。

男「どうすりゃいいんだよ」

萃香「どうにもこうにも自分を変えろとしかいいようがないね」

いつの間にか萃香が立っていた。酒を飲み干しながらあきれたように俺を見る。

萃香「できない約束は嘘と同じだよ。私は嘘が大嫌いでね」

男「でも」

萃香「話は最後まで聞きな。それでもできない約束はできる約束にかえれるんだよ。庭にでな。稽古つけてあげるよ」

男「………本当か?」

萃香「嘘は嫌いっていっただろう。神や仏なんかに誓わないが私は一度言ったことは果たす。さっさと表でな」

男「ありがとう、ありがとうな」

萃香「ただの私が嫌いなものを見るのがいやだったからそれをどうにかしようとしただけだ。礼を言われることじゃない」」

空中に浮いて、急激に地面にたたきつけられる。

肺の中の酸素が搾り出されからっぽになった肺は、空気を求め痙攣を起こす。

庭で萃香がやったことは本気の組み手。萃香は手加減してるのだろうがそれでも手も足もでない。

掴もうとした瞬間には空へ浮き地面にたたき付けられ、突こうとしたときにはその腕をとられ投げられる。

怪力だけではない。確かな強さを萃香は持っていた。

男「まだまだっ」

萃香「粋はいいが、そんなもんどうだっていい」

萃香が懐に入って腹に掌底をいれる。ただの掌底なのに車がぶつかったような衝撃を受け、後ろに吹っ飛び地面を転がった。

男「ぐ、根性根性!!」

起き上がりがむしゃらにどこかつかめればと突進をする。

萃香「体は熱く、心は冷たく」

その勢いを利用され地面に叩きつけられる。

立ち上がろうとしたとき寸止めで顔の掌底を入れられた。

萃香「いったん終了だよ」

見てる

>>65 ありがとうございます。

萃香「今のままじゃまず勝てない。素手ならともかくほとんどの人間は武器もち能力もちだからね。勝とうとすれば奇襲とかしなきゃ無理」

息を整えるために少し休憩して、萃香に俺の実力はどうかと聞いてみると予想通りの言葉が返ってきた。

そりゃそうだ、俺は萃香に何をやっても当てることすらできなかったのだから。

男「やっぱり駄目か」

萃香「駄目だね。さて、と。すこーし本気だしてやるよ。十秒間私から攻めるから、耐え切ったらそっちの勝ち。気絶したら負け。いくよ」

返事もできないまま萃香が歩いてくる。萃香がこっちに到着するまで5秒ほど。ということは俺はあと5秒耐えればいい。全力で逃げればなんとかなるかもしれないが萃香は逃げるなんて卑怯なことを許してくれるのだろうか。

悩んでいる間に萃香がすぐそこまで近づいていた、あと一歩で拳が届く。ぜんぜん力を使ってない状態であれだったのだから少し本気を出した萃香に当てれるわけがない。なら防御をしてでも時間を稼がなければ。そう思い痛みに備えて構える。

萃香「不正解」

そういって萃香は大きく振りかぶった。軌道がわかりやすいテレフォンパンチ。両手で当たるであろう場所を守る。

パンッ

破裂音が聞こえた。それと同時に衝撃。

防御なんて関係なかった。衝撃が体を振動させ内臓、脳を揺らす。

顎を殴られ脳が揺れるなんてそんな生易しいものではない。衝撃で直に脳を揺らされた。

あ、落ちる。そう思ったときには重力に従い倒れていた。

魔理沙「まったく無茶するよな。お前もさ」

目を覚ましたら一番最初に見えたのは魔理沙の笑った顔。頭の下に何かやわらかいものがある。上に見える顔。下の柔らかい感触。となると今俺は膝枕というものをされているのだろうか。伝説で聞いていたのだが本当に実在するとは。

男「あれ、何なんだよ」

破裂音と共に全身に伝わった衝撃。殴りや蹴りなんかじゃない。

魔理沙「空気を思いっきり集めてそれを破裂させたんだよ。風船爆弾みたいな」

さすが鬼。予想外の攻撃をしてきたな。

少し本気を出してあれなら100%中の100%ならどうなるのだろうか。おそらくあたり一帯が吹き飛ぶ。

男「体も痛いけど、なにより内臓が痛い」

魔理沙「おうおう休め安め」

そういって魔理沙が乱暴に撫でてくる。さっきの仕返しだろうか。

体が痛いので動けずなすがままにされる。ひとしきり髪をぐちゃぐちゃにした後、にかっとさらに笑った。

魔理沙「紫から聞いたよ。霊夢と一緒に行動するんだって?」

男「すまん、魔理沙と一緒になれなかった」

魔理沙「いいって、私の代わりに霊夢、守ってやってくれよ。女の子なんだからさ」

男「………必要なさそうだけどなぁ」

魔理沙「いいや、いるさ。霊夢だって年相応の女の子なんだから、さびしいときだってあるんだよ、多分」

男「多分って………」

魔理沙「頼んだよ霊夢を。私の唯一の親友なんだ」

男「魔理沙、顔赤いぞ」

魔理沙「うるさいなぁ………慣れてないんだよ、こんなこと言うの」

魔理沙がかぶっていた帽子で顔を隠す。きれいな金色の髪が月の光を反射して輝いた。

男「うまくできるかわからないけど任せとけ。駄目だったらすまん」

魔理沙「そこは嘘でも絶対大丈夫だから任せとけぐらい言えよな。まぁ、でもありがとうな。男」

魔理沙の少し見えてる耳が赤く染まる。今この帽子をどけるとどれだけ魔理沙は顔を赤くしてるのだろうか。なんてことを考えると少しおかしくて笑えて来た。

魔理沙「わ、笑うなよ。男とか香霖ぐらいしか慣れてるやついないんだよ。しかもあってすぐのやつにこんな話するのって、なんか凄い………照れるし恥ずかしい」

しゃべり方や立ち振る舞いは男っぽいけどやっぱり魔理沙は女の子なのだなぁと思った。

そういえば香霖って誰なんだろうか。もしかして魔理沙の彼氏かなにかだろうか。

………ロリコン?

魔理沙「くそう、恥ずかしいから私このことを見直せさせてやる」

男「別になめたり見くびったりはしてないけどな」

魔理沙が帽子をかぶりなおしポケットをあさって瓶を取り出した。魔理沙の顔はまだ赤く、それが可愛らしかったので再び笑ってしまった。

魔理沙「笑うなって、行くぞ、みてろよ?」

魔理沙が瓶の中身、薄暗くてよく見えかったがそれはどうやら金平糖らしい。色とりどりの星のようなそれを数個ほど取り出すとそれを空に向かって投げた。

小さな星のような金平糖は光を放ち次第に形が星になる。それは光の帯を放ちながら空へ向かって飛んでいった。

逆流星とでも言えばいいのだろうか、光はどんどん上っていく、そしてひときわ大きな光を放って消えた。

男「おぉ、すげぇ」

関心して思わず拍手をする。俺はてっきりドヤ顔でもしてるのかと思っていたが、魔理沙は少し引きつった顔をしていた。

男「どうした」

魔理沙「やばい、結界あること忘れて結界にぶつけちまった。霊夢が怒る。凄く」

どたどたと走る音が聞こえてきた。

男「じゃあな魔理沙!!」

膝枕が惜しかったが霊夢は怖い。すばやく立ち上がろうとすると魔理沙が押さえつけて膝に俺の頭を戻した。

魔理沙「おい! 私のこと守るって言っただろ!!」

男「無理!」

魔理沙「逃がさん!」

魔理沙を振りほどこうと力をこめてみるものの、それよりも強い力で抑え込まれる。この細い腕のどこにそんな力が。もしかしてこれが火事場の馬鹿力ってやつだろうか。

霊夢「あんたたち!!」

魔理沙 男「ひぃ!!」

霊夢が怒鳴りながら走ってきた。気のせいか後ろに龍やら虎やら鬼が見える気がする。

男「逃げるぞ魔理沙!」

魔理沙「おう!」

起き上がって魔理沙の手を掴み走り出す。

でも一緒に住んでるんだから逃げ切ってもいずれ怒られるよなぁと気づいたのは瞬間移動してきた霊夢に二人仲良く取り押さえられてからだった。

霊夢にたっぷり絞られて意気消沈して部屋から出るとすでに時間は完全に夜。

そういや夕飯はどこで食べればいいのかを魔理沙に聞いてみるとどうやら大きな部屋があってそこに集まり食べるらしい。

せっかくなので魔理沙、霊夢とそこへ向かう。

霊夢は道中もキレていたが、それを右から左へ聞き流し今日の夕飯はなんだろなーと思い馳せる。

博麗神社の大部屋へは離れの中央。そういえばなぜ霊夢だけしか住んでいないはずなのになぜこんなに離れは大きいのだろうかと聞いたところ、萃香が立て直したらしい。恐るべき鬼の力。

大部屋の障子を開けると中には小町と四季さんがいた。食べているメニューは焼き魚。そういえば幻想郷には海がないから川魚しか存在しないのだったか。

肉を食べたいとは思うが現在買うことはできないので自分で獲ってくるしかないのか。それに獲ったとしてもさばくことができないしな。

魔理沙「はぁ、おなかすいたぜ。ぺこぺこだ」

霊夢「私も誰かさんのせいでおなかがすいてるのよ」

魔理沙「いいじゃないか、食事前の良い運動できて」

霊夢「ていや」

霊夢が魔理沙のほっぺたを掴みぐにょぐにょと引っ張る。驚くほどに伸びるというか痛そうだ。魔理沙は「いひゃいひゃい」と言って抵抗したが、思いっきり伸ばされ涙目になって解放された。

男「魔理沙。ほっぺた伸びてるぞ」

魔理沙「伸びてねぇよう」

小町「そんなところで面白いことしてないでさっさと入ってしめてくれよ。寒い」

男「すまん」

障子を閉めて用意してあった料理の前に座る。この料理はだれがつくったのだろうか。焼き魚に味噌汁にご飯。量はあまり多くはないがしかたない。そういう時だ。

「いただきます」

手を合わせ箸を取り魚をおかずにご飯を食べる。

ぱりぱりになった皮に塩気のきいた身がおいしい。味噌汁も大根と油揚げがおいしい。本当誰が作ったのだろうか。

しかし川魚なので小さくすぐに食べ終えてしまった。ちょっと物足りなさを感じるが寝てしまえばなんてことない。

早く風呂に入ろう。

博麗神社には温泉が沸いている。珍しいことこの上ないが、広い温泉にひとりっきりというのはなかなかの贅沢で良い。

男「ふへぇ、ごくらくごくらく。温泉を独占びばのんのん」

ガラッ

男「へ?」

誰かが入ってきた。もしかして俺が入っていることに気づいてないのか。やばい、このままでは鉢合わせしてしまう!!

亡霊男「かわいい女の子かと思ったか!? 残念だな!!! 亡霊男さ!!」

男「畜生期待なんてしてなかったんだからね!!」

亡霊男だった。こいつ亡霊なのに風呂に入る必要性あるのか?

亡霊男は手にお猪口二個と日本酒をなぜか瓶で持ってきていた。

亡霊男「男なら飲め」

お猪口に日本酒を注ぎ渡してくる。二十歳は超えているから何の問題もない。一口で飲んでみる。辛口だった、つまみがほしい。

亡霊男のほうを見るとすでに三杯飲んでいた。わんこそばかよ。

亡霊男「なんだ? 亡霊は幽霊と違ってもの食べたりできるんだぞ?」

初めて知った。亡霊と幽霊は同じようなものかと思っていたが本人によるとちくわとちくわぶぐらい違うらしい。この例だとよくわからないがとにかく違うらしい。

男「それでどうしたんだ?」

亡霊男「男同士親睦を深めようと思ってきただけだが?」

男「え、もしかしてそっち系の方ですか?」

亡霊男「祟るぞ」

祟られるのは嫌なので素直に謝っておく。

亡霊男「まぁ、あれだ。人生の卒業者として人生在校生に深良い話をしてやろうと思ってな」

男「間違ってはないけど人生の卒業者って言い方なんか嫌だな」

亡霊男「心して聞くように。まず俺が言いたいことはだな。絶対死ぬな」

男「お、おう」

そりゃ死にたくない。死んだらもとの世界に戻れないし。

亡霊男「そんな死ぬわけねぇとか思ってると思うが、好きな女できたら変わるぞ。死んでもいいとおもってしまうぞ。そして実際に死んだ大ばか者が目の前にいるぞ」

男「………」

思い出せば恋なんてしたことがない。かわいいなとは思ったりするが告白するわけでもなく、告白されるわけでもなく。色恋に関しては何もない道を歩んできた。

亡霊男の目は真剣だ。

俺は、誰かを自分の命を捨ててまで愛したいと思うのだろうか。

男「ってことは亡霊男は紫のために死んだのか?」

亡霊男「まぁっていうか自分のためかあれは。人間と妖怪だと絶望的なまでに寿命が違うだろ。だから亡霊になった」

男「すげーなおい」

にやりと笑ってドヤ顔をする亡霊男。別にほめたわけではないのだが。

それにしても結局外に出るためなんだから誰かを愛したりはしないと思う。

もしかしたら四季さんかなぁと思ったりしたがおそらく感謝であって恋ではない。

亡霊男「まぁ、飲め飲め。飲んで飲まれてまた飲んで~ってな」

男「そこまで飲まん」

亡霊男「つれねぇの」

それからはたわいのないボーイズトークをしてのぼせるまで酒を飲みながら温泉につかった。

次の日、俺は日が出る前に目が覚めた。薄い布団だから寒さを耐えられなかったのではない。恐怖からだ。昨日あれだけ見栄を張ったというのに悪夢を見て目を覚ます。俺が死に、魔理沙が死に、皆死ぬ。情けなさ過ぎてため息が出た。できる事ならこれ自体が悪夢だったらよかったのに。そう思い自分を殴りつけるが痛みが現実を嫌というほどに伝えてくる。震えもとまらない。

違う俺はバカだ。これが夢だなんて思ってはいけない。そんなことで魔理沙や四季さんを守るだなんて思ってはいけない。駄目なんだ。

立つことを拒絶する足を引きずって無様に畳の上を這う。

襖を開けると薄暗い闇。肌を切るような冷たい空気。音が消えたかのような静寂だけがここにあった。

誰かが来る前に震えをとめなければ俺は笑われるだろう。少女以下の女々しい野郎だと。間違いじゃない。命をかけてまで戦おうとする少女以上の価値があるだなんて俺にはとても言えない。

縁側に座り考える。この銃があれば誰かは救える。ただし8回だけ。その間に俺は死んではいけない。

そうだ、別に戦わなくても良い。ちゃんとしたタイミングでこの銃を使えば良いんだ。

そう自分に言い聞かせ震えを少しおさめる。

男「そうだよ。戦うだけじゃないんだ」

銃と共にもらったホルスターから鈍い白の回転式拳銃を抜く。装弾数8。時に逆らう弾丸は8つ。すべての薬室に弾丸が詰まっている。

銃弾を確認しホルスターにしまい少し頭を出した日を眺めた。





魔理沙「おう、早いな。じーさんみたいだ」

ひたすら考え事をして時間をつぶしていると隣の部屋から魔理沙が出てきた。気付かなかったがとなりの部屋には魔理沙がいたらしい。

男「うるせーな。魔理沙ばあさんや」

嘘だ。寝れたのは酒のおかげだ。素面だとおそらく寝れなかったと思う。

もちろん弱音は口に出さない。口端をあげ笑いの表情を作る。

男「今日も行くんだよな。体は大丈夫なのか?」

魔理沙「魔法使い舐めんなって、あれぐらいすぐ治る」

嘘だということは気付いている。袖から見える傷口はまだ痛々しい。

彼女も俺と同じように偽って笑っているのだろう。

ならば俺がすることは共に笑うこと。

普通の人間である俺には、そうすることしかできない。

魔理沙「なあなあ。外の世界ってどんなんなんだ?」

男「皆それ聞くな。そんなに興味あるのか?」

魔理沙「あぁ。産まれて死ぬまで私はここにいるからな。話に聞いた海の向こうだなんて知らないし、海も見たことない。知らないものをあこがれるのは当たり前だろ?」

男「………」

魔理沙「おいおい。そんな顔するなよ。別にいいんだよ私はここで一生を過ごして。霊夢がいて、アリスがいて、皆がいる。それ以上は私には過ぎる。あんまり大きなもんだと手の上に乗らないだろ?」

ひらひらと小さな手を振る。

男「えっとな。外の世界は―――」

俺が知ってる凄いこと面白いことを片っ端から伝える。魔理沙はそれにうなずいたり、歓声を上げたり、相槌を打ったりした。

まるで御伽噺を聞く子供のような反応が面白く、つい誇張して話してしまう。

キラキラと輝く星のような瞳が俺を見つめる。

そういえばあそこの子供たちも同じ目をしていた。

なぁ、魔理沙。別に手の上に乗らないものでも背負えばなんとかなるだろう?

魔理沙「なぁなぁ男」

魔理沙がぶらりと背中にしがみついてくる。まるで妹ができたみたいだ。

男「なんだ?」

魔理沙「もし外に戻ったらさ。紫に取りに行かせるから何かくれないか?」

男「そうだな。面白いもん用意しとくよ」

魔理沙「へへ、やった」

ぶら下がられたままだとなかなか首が苦しいので背負いなおし、おんぶをする。

魔理沙は小さいので軽い。ちゃんと食べているのだろうかと心配になる。

魔理沙「よーし、朝ごはんを食べに行くぞ男号!」

男「はいはい、了解ですよっと」

廊下を走り大部屋へと向かう。

朝ごはんは元気の源。腹がすいては戦ができないしもりもり食べよう。

働かざるもの食うべからずだが、今日から働くのでその前借りぐらいいいだろう。

話によると魔理沙が取ってきたキノコが朝ごはんになっているらしい。

それは楽しみだとうきうき気分で大部屋の障子を開ける。

亡霊男「おっす、早いな」

すると亡霊男が食事を並べていた。エプロン装備からみるに、どうやら食事を作っていたのは亡霊男らしい。そういえば当たり前に考えて一番暇なのが亡霊男か橙だからな。橙は見た目で判断して悪いが料理作れそうに見えないし。

亡霊男「なんだ、男に遊んでもらってるのか?」

魔理沙「いや、私が男で遊んでやってるんだ」

失敬な。少女に遊んでもらうほどおちぶれてないやい。ロリコンじゃねぇし。

魔理沙が俺の背中から飛び降り朝食へ向かう。メニューはキノコご飯に焼きキノコ、ナメコの味噌汁。申し訳程度の漬物以外キノコで統一されていた。

これはいくらなんでもやりすぎだろう。そう思うが、満面の笑みの魔理沙がいるので口には出せずそのまま飲み込んだ。

紫「ふわぁ。グッモーニング。良い朝ね。おもわず二度寝したくなっちゃったわ」

紫があくびをしながら入ってきた、いつもの紫の服ではなく寝巻き。しかもナイトキャップまでかぶっていた。

亡霊男「現在気温十度ないぞ」

紫「どうりでやたら寒いわけね。藍と寝なきゃ凍死してたかも」

亡霊男「え、なにそれ俺も寝たい、浮気とかそういうんじゃないけど藍の尻尾は凄い魅力的だからな。もふもふ的な意味で」

藍さん、というとあの背中のふさふさ尻尾か。たしかに気持ちよさそうではあるが本人の許可なく触る勇気は今の俺にはない。

うっぷ、いやなもん思い出しちまった。忘れよう忘れよう、ご飯食べれなくなるから。

~俯瞰視点~

人にして神、神にして人、されどそのどちらでもない少女、東風谷早苗はどこから聞こえた聞きなれた声によって目が覚めた。

少し開いた襖の向こうには自分が仕えている二柱の神が何か話して―――言い争っているのに早苗は気付いた。

言い争っているのは日常的なこと。早苗は布団から出ると寒いのですがとボヤキながら暖かい布団の中から出る。

やれやれとため息をつきながら障子に手をかけ、そこで動きが止まった。

聞こえてくる内容。それは自分のことに関してだった。

争っている理由が自分のことで早苗は胸がどうしようもなく痛んだ。自分なんかいなければなんて思いが胸を刺す。

神奈子「相手にはあの霊夢や萃香もいるんだ! 早苗があいつらと戦えると思うのか! 優しい子なんだぞ!!」

普段無口であまり感情を表に出さない神奈子が声を荒げ叫ぶ。

諏訪子「だからって守るというのか。神は神のためでなく人のためにあるべきだろう。あの子だってそれを知ってるはずだし、それに優しい早苗が人を見捨てて一人おけるとでも? 自分の代わりに誰かが死んでそれをなんてことなしに思えるような子か? いや違う。無理やり私たちが守ったとしてその事実は早苗の心に刺さる棘となるだろう。それはいずれ早苗の心を腐らせる」

対する諏訪子はいつもの無邪気な姿ではなく、神奈子にただ淡々と反論を述べていた。その目に灯る意思は強くかつて自分を、自分の国を滅ぼした神奈子に相対しても揺らぐことは微塵となかった。

優しさと優しさ。ぶつかるこの間に早苗が入れるものだろうか。いや、入れない。どちらの味方もできず敵にもなれない早苗はただひたすらにどんどん深くなる自らの胸の痛みに耐えることしかできなかった。

―――やめてください

その言葉が言えるのならどれだけ楽なことだろう。今早苗の口から出るものはあもいも変わらず全てかすれた吐息になる。

心の中では何度も彼女は叫んだ。それでも現実は喘息じみた荒い呼吸が出るだけだ。

神奈子「守ってやるさ私が!! 全て!!」

諏訪子「全て私から奪ったお前が私の子を守るだと!? お前は次は早苗から全てを奪おうとするのか!」

今まで淡々としていた諏訪子が目を見開き吼える。

諏訪子は許せなかった。神奈子の語る理想が。神奈子が理想を語るということが。

―――自分はかつて王として君臨し、王として滅びた。ゆえに私は理想という甘い劇薬の味を知っている。だから許せない。唯一無二の友が大切なわが子に毒を盛ろうとしている事が許せない。

神奈子「じゃあ親なら守って見せろ!!」

諏訪子「――――――っ」

諏訪子の目がさらに見開かれ、そして閉じ下を向いた。

今自分たちがここにいるということは、早苗を守れなかった事実の証明。

自分たちのせいで早苗は友を、思い出を、家族を、生まれて培ってきた人間としての東風谷早苗を失ったのだ。

一度殺してしまった早苗をもう一度死なせることになるということはわかっている。だとしても神奈子の言っていることが正しいとは思わない。神となったならせめて神としての道を歩ませたい。それが正しいことかは諏訪子はわからない。されどもう人として歩めないのは確かなことだ。

諏訪子「私たちはもう早苗を救えなかっただろう? それに神は、早苗は守られちゃいけないのさ………」

悲痛な思い。王として滅びた国を思った自分。母として早苗を殺してしまった自分。そんな思いが意思とは関係なく諏訪子の口から零れ落ちた。

神奈子「っ!!」

―――パンッ

諏訪子の頬が赤く染められる。

しかし痛そうな顔をしていたのは神奈子の方だった。

神奈子「私、私は………」

神奈子はそう呟き、震え、そして障子を開け外へ飛び出していった。

早苗は思わず障子を開け、神奈子の名を叫んだ。しかし神奈子を捕まえるには自分の腕は絶望的なまでに短く、走り去る神奈子を捕まえることはできない。

―――ズキンッ

胸がさらに痛む。

その痛みがとても辛く立てなくなり早苗の目に涙が滲んだ。

諏訪子「早苗………」

悲しげに自分の名を呼ぶ敬愛する神の姿がぼやけて見えない。袖で拭けども拭けども涙は自分の意思とは無関係にあふれ出る。それが情けなくてさらに涙がでた。

神は泣かない。そんなことを諏訪子が昔言っていたことを思い出す。ならば今こうして泣いてしまっている自分はなんなのだろうか。

―――人と神のどちらでもない道を歩むから神奈子様と諏訪子様が喧嘩する。

自分のせいじゃないか。自分が悪いのではないか。そう思うたび先ほどから胸をえぐる痛みは深くなっていく。

―――ならば私は神として生きよう。涙を流すのはこれが最後だ。

早苗「………諏訪子様」

涙を流しながら立ち上がる。

神ならば奇跡を

愛しき人間に奇跡を

勝利という奇跡を!!

流れ出る涙は消え、胸の痛みも消える。

少女は変わる、完全なる神に。

―――自分のためではなく人と敬愛する二柱に我が身を捧げよう。

理想という毒を飲み干し、自分に残る人間を消し去る。

諏訪子「すまないね、早苗」

早苗「いいえ。私のせいですから。神奈子様を迎えに言って来ますね」

神奈子が去った障子のその先へ足を伸ばす。

踏むは地ではなく風。

渦巻く風が早苗の体を持ち上げ運んで行く。完全なる風の支配。以前の早苗ならば奇跡を使わなければできなかっただろう。

しかし早苗は今当たり前のように風に乗り飛んでいる。

呼吸をするのと同様に、いやそれ以上に当たり前として早苗は認識していた。

―――諏訪子様が地、神奈子様が天というならば、自分は地を走り、天を飛ぶ風になろう。

そう少女は心にきめ、霧を掻き分け空を飛ぶ。

少女が見た幻想郷の原風景は晴れ渡っていた。

妖精はあまり賢くないが、何も考えてないかと聞かれれば答えはいいえ。

いっそ悩まないくらいバカだったらよかったのに。そう大妖精は思った。

いつからだろうかまた明日という約束が果たせなくなってきたのは。

人里が騒がしくなって、妖怪たちが騒がしくなって、それからだろうか。

知ってのとおり妖精はやられても復活する。

ゆえに死という概念がわからなかった。

いなくなってもまた明日会える。

そんな軽さをもって毎日を生きていたはずだった。

なのに

大妖精「なんで………?」

昨日遊んだはずの友達がこない。やられたわけじゃないはずだ。

こんなことが昨日も昨日も、そのまた昨日、両手両足の指を使っても足りないくらいの昨日からそんなことが起きていた。

そして明日の明日のそのまた明日、両手両足の指を使っても足りないくらいの明日にも同じことが起きるのだろう。

自分たちが何かしただろうか。いたずらはする。しかしそれでも他愛もないいたずらだけのはずだ。三月精なんかの力を持った妖精ならば人間を危機に陥れたこともあるだろう。しかしそれが原因とするならば私たちが巻き込まれる理由がない。

それになぜ戻ってこないのか。妖精の中では賢いほうだと思っているが、悩み続けても一向に答えは出ない。

捕まったのだろうかとも考えた、捕まえたところで得はないし、いなくなって戻ってくる妖精もいるはずだからそれはない。

思考がぐるぐる回って頭が痛くなって、考えるのをやめようとしたが、そのたび頬を軽く叩いて気合を入れなおす。

大「あ、そうだ。チルノちゃん」

自分の大親友であるチルノを思い出す。妖精の中でもひときわ力を持った彼女ならなんとかしてくれるかもしれない。それに季節は冬。なおのこと良い。

紅魔館の前にある湖へと向かう。ワープを使ってもいいが、行きたい場所と違うところにでるときがあるのであまり使いたくはない。

ぱたぱたと羽を動かし飛んでいると大妖精はあることに気付いた。

枯れた木が多い。

冬だから枯れていることは当たり前だろうが、自然そのものである妖精がみれば木が生きてるか死んでいるかの区別は一目でわかる。枯れた木というのは死んだ木の事。そういった意味での枯れた木がやけに目立つ。

大「………」

この枯れた木から産まれた妖精はもういない。

これが死なのだろうか。

初めて直面した永遠の別れというものに戸惑う。

初めて胸を襲う辛くて辛くて涙も枯れ果てそうな悲しみ。胸がなくなったのかと思うほどのぽっかりと空いた空虚、されどずきずきとした痛みだけはある。

泣いていた。泣き叫んでいた。

いくら泣き叫んでも戻ってこないと知りながら、両目から流れる悲しみは止めることができない。

泣いて泣いて、体にある水分が全てなくなったのではないかと思うほど涙を流しても空虚から沸いてくる痛みと悲しみはなくならない。

なぜなのだろうか。

なぜいなくなったのだろうか。

泣きながらごっちゃになった頭で考えても何もでない。

もし自分が凄い賢ければなにかできたのかもしれない。

凄い賢いわけでもない。凄い強いわけでもない。

そんな自分が悔しくて悔しくて、うずくまって泣く。

森の中にひどく悲しみをはらんだ声が響いて

そして消えていった。

涙が枯れ果てた。

涙を流そうとしても嗚咽しかでてこない。

そのうち喉もつぶれて声が出なくなった。

大妖精は立ち上がりチルノのところへふらふらと羽を動かし飛んだ。

何も考えなかった。

これ以上考えると自分は壊れてしまう。

枯れた木も見たくない。

自分の弱さに逃げることの何がいけないのか。

弱いものは何も起こすことができないのだ。

そうあきらめに近い感情が大妖精を支配する。

村人1「――――」

村人2「――――」

人間がいた。おもわず隠れる。

何をしているのだろうかと木の上まで行き、様子を見る

ぼそぼそとしか会話が聞こえない。

大妖精は耳を澄まし、人間が何を話しているかを聞き取ろうとする。

意識を集中し、人間達の音を聞き取ると、断片的な単語が聞こえてきた。

村人1「妖精―――狩る―――」

村人2「―――魔力―――電池――だから」

妖精、狩る、魔力、電池。何をしゃべっているかは分からないが、妖精狩りであることは間違いなさそうだ。

そう判断し、大妖精は音を立てないように近くにあった常緑樹の葉の中へと隠れる。

なぜ捕まった妖精が消えることになるかは分からない。分からないからこそ怖い。

もし自分がここで人間を退治しておけば妖精を助けることが出来るというのはわかっている。

それでも足が、羽が、体中が震えて動くことが出来ない。

大妖精は必死に妖精が見つかりませんようにと祈る。

妖精「ふんふんふーん、あははー」パタパタ

しかしその祈りは叶わなかった。

あの妖精は見たことがある。友人とまではいかないが、何度か話したことがある。

どうしよう。

いや、どうしようもない。

村人1「―――見つけた」

村人2「――捕まえる」

人間が妖精に近づいていく。駄目と叫びそうになった口に手で覆う。

近づいていく人間に妖精は気付かない。

妖精に人間がいるから逃げろと言えば、妖精は逃げれるのかもしれない。

だけど

大妖精「………う………うぅ」

それでも我が身が惜しい。

他人を見殺しに出来るほど冷酷ではないが、助けに行けるほどの勇気もない。

ごめんなさいと心の中で何度言ったことだろうか。時間は流れてゆき。人間は近づいていく。

卑怯者と罵られるだろうか。自分はそれを否定できはしない。

―――助けて。チルノちゃん。

そう、心の中で大親友の名前を呼ぶくせに、自分は何も出来ないのだから、否定なんて出来るわけない。

村人1「―――」

村人2「―――」

人間が懐から瓶を取り出し、口を妖精に向けた。

そしてぼそぼそと何かつぶやく。

妖精「ふぇ?」

それは一瞬だった。まるで紅ひさごのように妖精の体を吸い込んでいった。

大妖精は驚いて体を動かしてしまい、その衝撃でぺきっという音を立て枝が折れた。

村人1「―――!」

人間が大妖精が隠れている木を見る。

大妖精は思わずそこから飛び出し賢明に羽ばたく。

後ろを振り向くと人間が瓶の口を向けている。

―――危ないっ

世界がスローになって、またたいて消えた。

大妖精「はぁ………はぁ………」

人間が呪文を唱えた瞬間、大妖精は瞬間移動を使った。

成功し、今は湖の近くにいる。

荒くなった息を落ち着けるために何度か深呼吸をする。

大妖精「………そうだ、チルノちゃん」

チルノのところへ行けば人間から守ってくれるかもしれない。

そう思い大妖精は今だ震える体を引きずって湖まで向かった。

チルノ「おぉ、大ちゃんか」

冬になり、チルノは大きくなった。具体的には身長が150ほどになり、髪の長さが腰ぐらいまである。

そんな大人びた外見でも、いつものように無邪気な笑顔をしている彼女が大妖精は好きだった。

現在チルノは夏のときより比べ物にならないぐらいの力を持っている。チルノの持つ自然は、氷、冷気、温度を奪っていくもの。現在季節は冬。巨大な冷気を幻想郷に振りまくそんな季節がチルノに力を与えていた。

チルノ「どうしたんだ大ちゃん。顔色が悪いぞ。もしかして風邪か? 風邪なら良い薬草が、って今は咲いてなかったなぁ。残念」

そう気遣ってくれるチルノを大妖精はうれしく思う。

それと同時に、こんな彼女に守ってもらおうとしている浅ましい自分が嫌になる。

チルノ「ど、どうしたんだ、大ちゃん! な、なにか悪かったのか!?」

大妖精「う、ううん。違うよ」

冷気を振り撒くのに、暖かい言葉をかけてくるチルノに大妖精は思わず涙した。

涙は枯れ果てたと思った。しかし胸にあいた穴にチルノのやさしさが流れ込んで、そのせいで枯れた涙がまた出てくる。

思わず大妖精は自分より頭二つ分ほど差があるチルノに抱きついた。

チルノ「わっ」

いきなり抱きついてきた大妖精にチルノは驚いたが、すぐに笑って大妖精の頭を撫でた。

大妖精「ありがとう、チルノちゃん」

チルノ「大丈夫か? 冷たかっただろう?」

大妖精「ううん」

―――暖かかった。幸せな気持ちになれた。ありがとうチルノちゃん。

そう言うとチルノは頬をかきながら

チルノ「凍死寸前なんじゃ」

と、言った。

その言葉に思わず笑いながらぽかぽかとチルノを叩く。

チルノが痛い痛いと笑いながら頭を撫でてくるので大妖精はにへらと春の陽気にさそわれ昼寝をしているような顔をして微笑む。

チルノ「でも、本当にどうしたんだ?」

大妖精「あ、えっと」

大妖精はチルノにさっき起きたことを話した。

妖精が人間に狩られているということをチルノは知らないらしく、憤って、あたりに冷気を撒き散らした。

チルノ「なんでだ!! なんであたいたちを!!」

大妖精「ち、チルノちゃん」

大妖精は冷たいよ、と言おうとしたが、チルノからは見えないところに人間の姿を捉え、固まる。

チルノ「どうした、大ちゃん」

チルノは今だ冷気を出しながらもそう聞く。大妖精は人間がいるほうを指差して

大妖精「あ、あ、あれ」

つっかえながら人間の存在をチルノへ伝えた。

チルノ「あれだな!!」

チルノは指を指した方向へ向き、人間を見つけ、倒すべく冷気を飛ばした。

―――これで、大丈夫だね。

そう思ったが不思議と不安がなくならない。

さっき妖精を吸い込んだ光景。

あれがチルノを吸い込まないとも限らない。

チルノの冷気が人間を凍らそうと襲い掛かるがそれでも一瞬で動きをすべて奪えるようなものでもない。

そして凍らせなければあれにチルノが吸い込まれるかもしれない。そのことにチルノは気付いておらず怒りに任せて冷気を飛ばしている。

どうすればいいのだろうか。

大妖精は悩み悩んで、そして運に任せようと思った。

きっと大丈夫。そんな楽観的な結論に至る。現実的な考えよりもそんな考えのほうが誘惑は強く、絶望的なほど、それは抗えないほどに強くなる。

がんばれチルノちゃん。そう応援する。

人間が懐から瓶を取り出し蓋を開ける。

ぼそぼそ、何かをつぶやく。

大妖精「―――っ」

それは反射的だった。

瓶の前まで瞬間移動をして、大きく手を広げる。

人間が驚いた顔をするが呪文はすでにとまらない。

大妖精の体が強く引き寄せられる。

―――私、ばかだなぁ。なんでこんなことしちゃったんだろう。

答えは出ている。妖精が吸い込まれるときに顔を大妖精は見てしまったからだ。驚き、絶望、恐怖。一切の正の感情を含まない表情を大妖精は直視してしまっていたからだ。

そして大好きなチルノにそんな顔をさせたくない。

そんな無意識下の思いが大妖精を動かした。

不思議な力によって大妖精の体が水のように吸い込まれていく。

振り向いて見たチルノの顔は驚きと怒りで満ちていた。

―――本当は笑っていてほしいけど、私のために怒ってくれるのならうれしいなぁ。

体のほとんどが吸い込まれ、残すは頭だけとなる。

大妖精「チルノちゃん!! またね!!」

そんな約束をして大妖精は瓶の中へ吸い込まれていった。

~男視点~

男「な、なんだ!?」

現在俺は霊夢について紅魔館という場所へ向かっていた。

あぁ、魔理沙についていきたかったなぁと心の中で不満を漏らしつつ空飛ぶ霊夢に必死でついていき、パキンッと何かが割れるような音がしたので、音がしたほうを向くと巨大な氷が聳え立っているのが見えた。

一瞬であんなものが出来たのか。現在森の中にいる俺から見えるということはかなりでかい。そしてあんなのを一瞬で作れるやつに出会ってしまったら霊夢でもどうなることやら。

そう心配………というか怯えたのだが、霊夢は我関せずといった表情でふわふわと空を飛んでいる。凡人なので地面を必死に這っている俺を考慮してもらいたいものなのだが、俺が襲われるたび、振り向きもせず追い払ってくれるのでなんともいえない。霊夢からすればとんだお荷物を背負ったようなものなのだろう。

気付いたが霊夢が向かってる先にあのでかい氷がある。

もしかしてあれに会いに行くのだろうか。あれが仲間だというのなら霊夢が平気な顔をしているのにも説明がつくし、俺も安心できる。

まぁ、そうであればの話なのだが。霊夢が俺を事故を装って消そうとしている可能性も否定できないし。

なんて霊夢に対して失礼なことを考えるが、俺は霊夢が苦手なのだ。話しかけるたびに罵られるか無視をされ、肩に触れた瞬間蹴り飛ばされる。いくらトイレを覗いてしまったからといってあれは不慮な事故だ。なのにこの対応。あァァァんまりだァァアァと思わず泣き叫びたくなる。

そしてへとへとになったころにやっと話に聞いていた湖………今は巨大な氷の塊が見えた。

霊夢「わぁお」

霊夢が少し目を見開いたのが見えた。ということは霊夢はこのことには関係していない。ならば相手は敵なのだろうか。

そう思った瞬間霊夢が数枚の御札を投げつけてきた。

思わず目を閉じるが衝撃はなく、目を開けると地面に御札が張り付いて透明の壁を俺の周辺に作り出していた。

それと同時に辺りが凍りつく。霊夢は目の前に結界の壁を受け防いだようだが、俺と霊夢以外のすべてが凍り付いていく。

霊夢「何よあんた」

チルノ「………」

一匹の少女が飛んできた。氷のような透明な羽をしていて、青いワンピースをきた少女だ。

霊夢「ちょっと無視するわけ?」

チルノ「人間………」

霊夢「はぁ?」

チルノ「人間が………」

ペキパキと音が鳴る。

それと同時に空中に無数のツララが現れた。

霊夢「最初のはたまたまってことで許してあげるけど、二回目は許さないわよ」

霊夢が御札を構え、二つの陰陽球を展開させた。それと同時にツララが襲い掛かってきた。

霊夢「ちっ」

霊夢が御札を放ってツララを迎撃するが無数に出てくるツララと有限の御札では分が悪いと思ったのか霊夢が高く飛び上がり陰陽球を放った。

ツララを砕いていき青い少女に向かって飛んでいく。

男「………やったか?」

砕けた氷が煙になってどうなったかがよく見えない。

チルノ「………」

霊夢「嘘でしょ………」

陰陽球が凍り付いていた。そのまま陰陽球は落下し凍った湖を割って沈んでいく。

チルノ「………」

ごぉおおおおと少女が手を向けた瞬間吹雪が起きる。それもただの吹雪ではない触れたものを凍らせる吹雪だった。

霊夢が御札を放つがすべて凍って落ちていく。

霊夢「あぁもう危ないわね」

霊夢は結界を張って吹雪を防ぐが手を出せないらしく防戦一方だった。

霊夢「面倒ね」

残った陰陽球を握って霊夢が言う。

何をするのだろうか、そう思ったとき霊夢が陰陽球を振りかぶって投げた。

これではまた凍らされるだけなのでは?

そしてその通りで、陰陽球はどんどん凍り付いてスピードを失っていく。

霊夢「眠っときなさい」

陰陽球が輝いて辺りに光を撒き散らした。

氷が砕け、吹雪を散らしていく。

しかしそれだけで少女には傷一つついていなかった。駄目か。そう思ったとき霊夢の姿が消えた。

どこだ!? と思ったときには終わっていた。霊夢が少女の上に現れ、そのまま踵落としをしたのだ。

少女の体が落ちていき、凍った湖の上で跳ねる。

そして何度かバウンドしたあとそのまま動かなくなった。

霊夢怖い。

男「おーい、大丈夫か~」

霊夢に結界を解いてもらったあと湖の上で倒れっぱなしの少女に近寄る。あんな光景をみて近寄る俺も俺だが不思議と悪い奴には見えなかった。泣いているように見えたし、いや実際は泣いてなかったけど。

つんつんと突くも反応がない。しかしこんなとこで寝かしておくのもなんなので持ち上げ、地面の上まで運ぼうとする。

男「つめたっ」

少女の体は氷のように冷たかった。死体とかの比喩じゃなくて本当に冷たい。

やべえと思いながら走って凍ってない地面があるとこまで運ぶ。

霊夢「物好きね」

男「うるせいやい。というか知り合いなのか? さっき話してたけど」

霊夢「知り合いよ。チルノ。氷の妖精。妖精の中では強いわよ。冬は特に」

男「へぇ、魔理沙よりちょっと大きいのに妖精なのか」

妖精ってなんかティンカーベルみたいに小さなイメージあったんだけど。

地面にチルノを寝かして近くに座る。

霊夢「何? 行くわよ」

男「いや、寝てるときに襲われたら大変だろ?」

霊夢「………はぁ。物好きね、本当」

そういいながらも霊夢は近くに座った。

男「なるほどツンデレか」

霊夢「くたばりなさい」

ごんっと音がして後ろから陰陽球がぶつかってきた。どうやら湖に落ちていった陰陽球を回収したらしい。

距離が離れていても操れるものなんだなぁと関心しつつ、普段霊夢にやられる痛みの二倍ぐらいの痛みに涙目になる。しかしコートの中では泣かないもん。いや、コートどこだよって突っ込まれても返せないんだが。

男「っていうかよく勝てたな」

吹雪とか瞬間凍結とか常識に外れたことをやっていたのに。いや空中飛んだり陰陽球を宙に浮かせたりする時点で俺の常識からは遥か遠くにあるんだけどさ。

霊夢「当たり前でしょ。私を誰だと思っているのよ」

言葉より先に蹴りが飛んでくる暴力的な女の子ですとは口が裂けてもいえない」

霊夢「あん?」

口に出してしまっていた。陰陽球がまた飛んでくる。いてぇ

俺、守ってもらってるんだよね?

チルノ「う、うぅん………」

少女、チルノが目を覚ました。

男「お、目を覚ましたか、お願いだから凍らせないでくださいお願いします」

霊夢「どんどんヘタレていったわね」

だって怖いんだもの。

チルノ「えっと、なんで」

男「霊夢が気絶させた」

霊夢「私が気絶させた」

チルノはぽかんとしてしばらく頭をひねっていたが思い出したらしく、起き上がって霊夢にすがりついた。

チルノ「大ちゃんが!!」

チルノが湖の大きな氷を指差す。

目を凝らすと小さい点が二つ見えた。

もしかしてあれが大ちゃんだろうか。

立ち上がって氷へと近づく。

氷の大きさは半径40メートルはあるであろう巨大な氷柱でその端に点はあった。近づいてみるとその二つの点は人間だった。

これが大ちゃんだろうかと考えてみたが自分で凍らしてるんだから違うよなぁ。

チルノ「大ちゃんを助けてくれ!!」

霊夢「せめて事情を話しなさい。私の目の前には凍った人間二人と凍って欲しい人間しか見えないわ」

男「ひでぇ」

チルノ「えっと大ちゃんが」

チルノが語った内容は人間が妖精狩りをしていてどんどん自然が死んでいるということと、大妖精がその妖怪狩りにあったということだった。

どうやら大妖精という名前のチルノの友人は、チルノをかばって捕まったらしい。そして大妖精を捕まえた人間がここで凍っていると。

霊夢「はぁ、仕方ないわね。チルノ。この人間の手足以外を解凍しなさい」

そう霊夢はチルノに命令して氷を解かせる。

霊夢は二人の人間の頬をいい音をさせて数発ほどしばき、起きなかったので陰陽球でがんがんと殴っていた。永眠するぞおい。

村人1「う、うぅん」

村人2「はっ」

霊夢「おはよう」

そういいながら霊夢が平手で叩いた。痛そうな鈍い音がなる。

霊夢「瓶はどこ?」

村人1「こ、答えるかよっ!!」

パシンッ

霊夢の平手が入る。

霊夢「どこ?」

村人1「こたえ―――」

パシンッ

そう人間が反抗して霊夢が叩く。それを繰り返して右頬を真っ赤に腫れ上げた村人がやっと瓶の場所をはいた。

霊夢「着物の中だって」

男「え、なんで俺見て言うの?」

霊夢「だって男の着物の中に手を突っ込むとか汚いじゃないの」

俺だってやだよ、とは言えずおとなしく人間着物の中をあさる。

すると6つの中に何か光のようなものが渦巻いている瓶と4つの何も入ってない瓶が現れた。

霊夢「これね」

霊夢がそれを受け取り、なにかぼそぼそと唱え封を開けた。

すると中から光が飛び出して、それが人の形を取る。

そして少女の姿へと変わった。羽が生えているので彼女達が狩られた妖精だろう。

そして残った瓶を踏み潰す。

霊夢「さて、と」

霊夢が陰陽球を構えた。

霊夢「なんで妖精狩りをしてたのか話しなさい。話さないとさっきとは比べ物にならないことするわよ」

村人ズ「ひぃ!!」

そう脅すと、村人はぽつりぽつりと怯えながら話始めた。

村人「妖精の魔力を使って、魔法を使ってた。妖精は自然の化身だから魔力の塊みたいなもんだから、その魔力を使ってるんだ。だから妖精を捕まえて魔法とか道術使ってる連中に渡してた。でも魔力切れたら妖精いなくなるから、補充にきた」

男「………なぁ、魔力を失った妖精はどうなるんだ?」

霊夢「普通そんなことにならないから推測だけど、おそらく死ぬわ」

男「そうか」

ゴッ

動けない人間をいたぶるのは趣味じゃない。だけど許せなかった。

二人の顔面、体どこだっていい。型なんてそんなもん気にしちゃいない。全力の力をもってぶん殴る。

本気で殴ったので拳が痛んだが、それでも殴ることをやめられなかった。

自分と同じ人間なのにとは思えなかった。思いたくなかった。

だから殴り続ける。

霊夢「男。気絶してるわ」

霊夢が止める。

そこでやっと握り締めた拳を解いた。

男「なぁ霊夢。こんなのってありかよ」

霊夢「………知らないわよ。そんなの」

霊夢が顔を背け、そう小さく言った。

男「チルノ、凍らしとけ、こいつ」」

チルノ「え、あぁ」

村人ズ「ちょっと待て」

チルノ「やだ」カキンッ

周りを見ると、なんだか妖精が俺に引いてる気がする。

それもそうか。出てきたらいきなり人間に殴りかかる人間がいたんだからな、気持ち悪いよなぁ。

男「霊夢、行くか」

霊夢「いいの?」

男「早く行こう」

これ以上いても出来ることないし、紅魔館にさっさと行かなければならない。

男「じゃあなチルノ、えっと大妖精たちも」

チルノ「あ、名前はなんていうんだ?」

名前………か。

男「名乗るようなことはしてないよ。じゃあな」

実際すべて解決したのは霊夢だからな。名乗るようなことはしてない。

男「じゃあな」

チルノ「またな!!」

チルノが大きく手を振ってきた。

なので俺も手を振りかえし紅魔館へと向かった。



チルノ「………」

大妖精「チルノちゃん?」

チルノ「か、かっこいい!!」

大妖精「えぇ!?」

大妖精(チルノちゃんの目の中にハートマークが!!………ある気がする。そうか!! 今のチルノちゃんは大きくなっていて普段はあまり表に出ないおてんば恋娘成分が出てきているんだ!! そんなチルノちゃんが自分を助けた、わけでもないけど自分のために怒ってくれたあの人間にほれないわけがない!! これは事件!! 大変!!)

チルノ「大ちゃん、あたい行って来る!!」

大妖精「妖精が狩られるかもしれないんだよ!!」

チルノ「あたいだけじゃすべての妖精には対応できないから妖精を出来るだけ助けれないか霊夢に相談してくるよ」

大妖精「あ、えっと。そうなんだ」

大妖精(正論は卑怯だよう、チルノちゃん)

今日はここまでで、寝ます。

おやすみなさい。

紅魔館。それは見た瞬間自分の目を疑いたくなるような屋敷だった。

壁がすべて赤く、屋根も赤い。いったいどのような芸術センスがあればこんな家を建てれるのかは知らないがとにかく強烈な印象をもっていた。

チルノ「おーい」

チルノの声が後ろから聞こえた。なんだろうと思い振り返るとチルノがぱたぱたと飛んできていた。

男「どうした?」

チルノ「あたいもついていく」

霊夢「こいつほどじゃないけど、邪魔」

男「もうちょっと歯に衣着せようぜ」

チルノ「あたいは師匠についていくことに決めたんだ!!」

男「し、師匠?」

霊夢「美鈴に習いなさいよ」

チルノ「美鈴はなー。教えてくれない」

美鈴が誰だかは知らないが、とにかく俺よりも強い拳法家らしい。というか俺より強い拳法家なんて悲しいことにごろごろいるわけでそんな俺に弟子入りされても教えられることなんて一切ない。

霊夢「まぁ、でしょうね」

霊夢「………あんたもしかして男に惚れたとか?」

チルノ「惚れた………ってなんだ?」

霊夢「まぁ、そうよねー。あんたみたいなバカが恋なんてするわけないし」

チルノ「バカっていうなー!!」

男「なぁ、チルノ。俺でいいのか?」

チルノ「師匠しかいない!」

男「えっと、そうか。よろしく」

………一緒に萃香に稽古つけてもらうか。

俺が使えるの柔道空手、あと合気道が少しだし。

まともに組み手しても俺が負けるの分かってるし。

あーあ。貧乏くじ引いたなぁ。

霊夢「美鈴」

美鈴「こんにちわ、霊夢さん」

屋敷に近づくと、門番が立っていた。中国風の服に、星の飾りに龍と書かれてある帽子。そんな女性が門番をしていた。この人がさっき話題に出てきた美鈴さんだろう。見た目的に拳法使えそうな格好してるし。

霊夢「あら、旦那は今日はいないのね」

美鈴「狼男さんなら今日は今泉さんと一緒に竹林の妖怪を守りにいってますよ。一応あそこが故郷ですからね」

霊夢「浮気?」

美鈴「浮気じゃないですよ、もう」

軽く頬を膨らませておどけたように怒る美鈴さんは俺に気づいたらしく

美鈴「こちらの人、妖怪、まぁいいや、は誰なんですか?」

と聞いてきた。

人間と見た目が変わらない妖怪も多くいるから見た目で分からないのは分かる。幽香とかほぼ人だしな。

男「どうも男です。今霊夢と一緒に戦ってます。いや霊夢しか戦ってないんだけど」

美鈴「………」

美鈴さんが俺に近づいてくる。えっと何かしただろうか。

美鈴「なんだか懐かしいにおいがしますね」

そう言って俺の首あたりに顔を寄せ俺のにおいをかぐ。ドキドキするがいったいなぜ。

霊夢「浮気?」

美鈴「浮気じゃないです。私は狼男さん一筋ですから。えっと、なんだかこの人のにおいどこかで嗅いだことのあるにおいで」

チルノ「くんくん………なにも匂わないぞ?」

チルノが後ろから抱き着いてにおいをかいでくる。重い。

美鈴「なんでですかね。まぁいいや。ようこそ紅魔館へ」

美鈴さんはおよそ三メートルほどある大きな鉄でできた門を片手で軽くあけた。やっぱり妖怪ってすごい。そう思った。

中に入ると庭一面に咲き乱れる薔薇。現在季節は冬。いったい何が起きているのだろうか。

赤や白、はてには青まである薔薇に見とれていると霊夢が急げと小突いた。

中の館は扉まで赤い。こんなんじゃ中はどんなスプラッタなのかと恐れたが、中は案外普通の部屋だった。

まぁ

咲夜「誰?」

ミニスカメイドさんが俺の首にナイフを当ててなければな。

わーい、いきなり絶対絶命ですよこれ、霊夢助けて。

男「た、助けて。俺悪い人間じゃない」

霊夢「人間生まれもってみな悪よ。だからこそ努力するのよ」

霊夢がそう茶々を入れながら中へ入ってくる。メイドは霊夢の姿を認めるとナイフを仕舞い一礼した。

咲夜「霊夢の知り合いだったのね。失礼したは。でもこっちにも館を守るという仕事があるのよ、わかってほしいわ」

男「い、いや、まぁ何もなかったんだしいいけど」

チルノ「師匠大丈夫か?」

おぉ、心配してくれるのチルノだけだよ。すまんなさっき貧乏くじとか思って。

咲夜「ところで何の用かしら?」

霊夢「レミリアに会いにきたわ」

咲夜「お嬢様に?」

レミリア、お嬢様ということはこの屋敷の住民なのだろう。こんな家に住んでる奴ってどんな奴なんだろうか。

咲夜「お嬢様は今自室にいらっしゃるわ。案内するけど、そっちの男とチルノは駄目」

霊夢「そ、じゃあ図書館にでも行ってなさい」

霊夢が手でしっしっと俺達を追い払う。そもそも図書館がどこか分からないんだけども。

咲夜「そんな勝手に………まぁ、パチュリー様なら大丈夫だと思うけど。じゃあ行くわよ」

おぉ、また新しい人が出てきたぞ。だれだパチュリーって。それもこの屋敷の住人なのだろうか。それにしても大きいなとは思ったけど図書館まであるとは

って、そんなことより

男「図書館って………いねぇし」

歩くのはえぇよ………

男「なぁ、図書館ってどこにあるんだ?」

チルノ「あっち」

男「あっちか」

知っているということはチルノはこの屋敷に訪れたことがあるみたいだな。でも人間が歩いていていいものか。いきなり襲われたりしないよな。

チルノ「こっちこっち」

チルノのがぱたぱたと飛びながら俺を招く。

チルノについていきながらやけに長い廊下をあるく。

歩きながら思ったのだが明らかに外見よりも廊下が長い。

魔法的な何かなのかなぁと思いながら廊下を歩いていると、一人の小さな女の子に出会った。

フラン「ん?」

少女は少女なのだが、人間ではない。なんか背中に宝石みたいな羽が生えてるし。

フラン「んーえっと、貴方、食べていい人間?」

男「ひぃ!!」

チルノ「師匠を食べちゃ駄目だぞ!!」

チルノが俺の前で仁王立ちをする。

男「いや、チルノ、俺が囮になるから逃げろ!!」

反射的に出てしまった言葉に後悔しつつチルノの前に出る。俺はいい加減反射的に行動するのをやめたほうがいいかもしれない。

チルノ「し、師匠!」

フラン「? 食べていいの?」

男「いや、食べられてくないけどさぁ!!」

チルノ「駄目なんだからな!! フラン!!」

………え、知り合い?

かわいく首をかしげているフランと呼ばれた妖怪のことをチルノに聞いてみる。

チルノ「えっと、友達だけど」

男「心配して損したぁ!!」

話を聞いたところによるとフランは吸血鬼で、霊夢が会いに行ったレミリアの妹だそうだ。

常識知らずなところがあるが、今はギリギリおとなしいので大丈夫らしい。

ただ、暴れだしたら絶対近づかないでと本人の口から注意された。

わざわざ注意するということは本当にあぶないのだろう。

フラン「それで、なんでここにいるの?」

男「霊夢についてきたんだけどレミリアの部屋に入れてもらえず図書館にいけって言われたんだ」

フラン「ふーん。じゃあ案内してあげるよ」

男「え」

ギリギリ大丈夫なのなら一刻も早く離れたいんだけど。

フラン「こっちだよ」

フランにチルノがついていく。

ついていこうか迷ったが一人になったらもっと危ないと判断してついていく。

いつまでも続く赤い絨毯に並ぶ部屋。自分は進んでいるのだろうかと不安になりつつフランたちについていくとやっと廊下の突き当たりについた。

扉が他のと違い大きい。ここが図書館なのだろうかと思っているとフランがドアを蹴り飛ばしながら開けた………というか壊した。

男こあ「ひぃ!?」

中からも悲鳴が聞こえた。飛んでいった扉が本棚にぶつかってとまる。

男「あ、あの。フランさん? 怒ってらっしゃいますか?」

フラン「ううん。イライラはしてるけどね」

ピンチかもしれない。霊夢がいない今俺を守ってくれるものはチルノぐらいだ。

フランは扉を壊したことは何も気にせずそのまま中に入っていく。

男「なぁチルノ。大丈夫なのか?」

チルノ「………今のあたいなら30秒耐えれるかなぁ」

つまりやばいってことか。

怯えながら中に入ると、へたり込んでいる女性がいた。

こあ「ひ、ひぃ~」

スーツのような格好をしていて頭と背中にこうもりの翼のようなものが生えている。

人間ではないようだが涙目で驚いている彼女に親近感を覚え、近づいて手を差し伸べる。

こあ「へ? あなたはいったい」

男「男っていうんだ。人間だけど敵じゃない。霊夢と一緒に来た」

こあ「あ、どうも」

女性が手をつかんで立ち上がる。

ぽんぽんと服についたほこりを払うと微笑む。

こあ「ようこそ魔法図書館へ」

男「あ、そういえばフランは大丈夫なのか?」

こあ「はい。フラン様が来たのはおそらく少女マンガ読みにきただけですから」

読むのか、少女マンガ。っていうのかあるのかマンガ。

チルノ「あたいも何か見たい」

こあ「あちらにマンガコーナーがありますよ」

チルノ「行ってくる」

あ、俺も行きたい。けど

パチェ「………」

あそこで黙々と本読んでる人に一応挨拶したほうがいいよなぁ。

あんなことがおきたのに驚きもせず、本を読み続けるなんてどんな集中力なのだろうか。それともあんなことが良く起きるのだろうか。

とりあえず近くまで行って見るものの邪魔をしていいものかどうか迷い、立ち尽くす。

ページをめくる以外微動だにしないその姿がまるでページをめくるからくり人形のように見えた。

青白いしわのない肌に感情を含まない眼、そして静の雰囲気がそれに拍車をかける。

パチェ「………誰?」

少女が本から目を離さずそう聞いてくる。

男「俺は男。霊夢からここに行けって言われたから来たんだけど………居てもいいか?」

パチェ「パチュリー・ノーレッジよ。好きにしなさい。読書の邪魔をしないのなら歓迎はしないけど拒みはしないわ」

そうだろう。喋りながらも本を読み続け、俺の存在は気にしていない。

まぁ、気を使われても困るだけだし、遠慮せず本を読ませてもらおう。

近くにあった本棚を見ると幻想郷縁起という本があった。名前からこの世界に関する本だろうと判断し、本棚から抜き取る。ぱらぱらと眺めてみるとどうやら幻想郷の妖怪などについて書かれてあるらしい。

近くの長机につき、本を広げる。妖怪の欄は多いが、人間のほうは少ない。載っていたのは霊夢、魔理沙、さっきいたメイドの人(名前は咲夜というらしい)そして

男「………東風谷 早苗か」

書かれてある絵は少女のように見える。霊夢や魔理沙よりは大きいみたいだがそれでも高校生か、中学生程度だろう。実際に会ったわけではないから間違っているかもしれないが。

この本は役に立ちそうだ。絵があるので有名な妖怪なら見ればわかるようになるだろう。

そう思い、この本を借りれないかとパチュリーに聞いてみる。

パチェ「いいわよ。別に」

あっさりとした返事が返ってきた。

ならばお言葉に甘えて借りることにしよう。

パチェ「でもそれ結構嘘っぱち書いてあるから信用するのは能力と名前と危険度、友好度くらいにしておきなさい」

そうなのか。まぁ、それでも能力がわかるならそれにこしたことはない。

ためしにパチュリーの欄を開いてみると火水木金土日月を操る能力。なるほどわからん。どうやら一概に便利といえるわけでもなさそうだ。結局は自分であって判断するしかないのか。

パチェ「………良かったら、幻想郷について教えてあげましょうか?」

パチュリーが本を閉じてこっちを見る。

男「お願いする。ありがとうな」

パチェ「別に、読み終わったからよ」

パチェ「この世界のことはどこまで知ってるの?」

男「ここが外の世界から忘れられたもの達がたどり着く場所で、現在人間と妖怪が戦争してるってことぐらい」

パチェ「そう、正確には冴月 麟率いる里の人間と、天魔率いる幻想郷の妖怪。そしてそのどちらでもない異変解決するべく動いている霊夢たちね。あとは妖怪を守るために動いている命蓮寺、中立の永遠亭、幽香などの傍観者」

妖怪を守ってくれる妙蓮寺か。

それならあの子達を守ってくれるのだろうか。

パチェ「ちなみにこの紅魔館は異変解決に協力してるけど基本的に独立して動いているわ。来るものには容赦しないけど、積極的に異変解決しようとしないわ。食料が足りなくなったら強奪をしにいくぐらい」

男「強奪って………」

パチェ「人外と取引する人間が少なくなったのよ。仕方ないじゃない」

パチェ「この世界は忘れていき消えさる妖怪や神を助けるために龍神と八雲 紫が作り出した。そして幻想郷と外を別ける結界、『博麗大結界』は代々博麗の巫女が管理している。大体は龍神、八雲紫、博麗の巫女でこの世界は成り立っているわ」

パチェ「なぜ人間がいるかというと結局妖怪も神も人間がいないと存在できないから。だから一箇所にまとめて生かしている。言い方は悪いけど妖怪がその気になれば人間なんてすぐにいなくなってしまうのよ。そうだったのだけど」

男「今回の異変か」

パチェ「そう。人間がいきなり強くなった。それだけじゃなく幻想郷の実力者も人間についてしまった。妖怪の山にいたはずの守矢、人間のためといい立ち上がった豊聡耳神子、人里の守護者上白沢 慧音、藤原 妹紅なんかがね。それに地底も魔界も封印され現状は両戦力拮抗している」

パチェ「まぁ、今のことはさておき、いままでの歴史を教えましょう。私が知る限りの今までの幻想郷を―――」

パチェ「まぁ、こんな感じよ」

パチュリーが話し終わり一息つく。パチュリーの話は今までにどんな異変が起きたのかと幻想郷の主要人物の簡単な説明だった。

俺がさっき借りた本の説明なんかもしてくれてとても助かった。

パチェ「小悪魔を呼んできてちょうだい。水が飲みたいわ」

そういって机の上に倒れこむパチュリー。どうやら体力がないようだ。

それもそうだろう。この日の入らない図書館で一日中本を読んでるみたいだからな。

小悪魔さんを呼びに行こうと思ったとき、外から誰かが走ってくる音が聞こえた。一人ではなく大勢の足音が。

男「誰だ?」

そう俺が誰に問いかけるでもなく呟いたと同時にそれらは図書館に入ってきた。

人間「いたぞ!! パチュリー・ノーレッジだ!!」

武装した人間だった。パチュリーのほうへ向かってくる。

これは危ない。霊夢は何をしてるんだ。この状況をどうやって切り抜けるべきだろうか。パチュリーがいくら魔女だといっても多人数の相手に体力が持つとは限らない。

そう考えているとぱぁんっという水風船を割るような音がした。

男「………うえっ」

人間が破裂して、中身を撒き散らしていた。

フラン「ぎゅっとしてどっかーん、ね♪」

フランが無邪気な笑みで歩いてくる。さっきのやつはフランがやったのだろう。

チルノ「師匠無事か!?」

ついでチルノが現れる。手に氷の大きな大剣を持っていた。

パチェ「危ないわよ。離れてなさい」

パチュリーがかすれた声でそう言う。気がつくと立ち上がって………いや数センチほど浮いていた。

魔法使い1「接近戦ができるものはフランドールとチルノをとめろ! 我々はパチュリーをやる!」

人間「おう!」

人間が素早く二つに分かれる。パチュリーのむかってきたのは5人の男。ほかの人間は全てフランのほうへ向かっていった。

あっちを見るのはスプラッタ映画も真っ青なのでおとなしくパチュリーの後ろに隠れてよう。情けないことこの上ないが。

パチェ「美鈴はなにをやってるのかしらまったく」

向かってきた5人の男はそれぞれ赤、青、黄、白、黒という戦隊物みたいな色で分かれていた。

赤魔術師「火を極めし魔法使い、マジシャンズ・レッド!」

青魔術師「木を極めし魔法使い。マジシャンズ・ブルー!」

黄魔術師「土を極めし魔法使い。マジシャンズ・イエロー!」

白魔術師「金を極めし魔法使い。マジシャンズ・ホワイト!」

黒魔術師「水を極めし魔法使い。マジシャンズ・ブラック!」

魔術師達「五行を極めし我らに、七曜が使えるだけの貴様が勝てるかな!?」

そう名乗りを上げた魔法使い達にパチュリーがわずらわしげにまゆをひそめる。

魔術師達「さぁ!! 行くぞ!!」

そう魔法使いが叫ぶと、ぼそぼそと何かを呟き始めた。

それぞれの体が光をおび、そして

魔術師達「覇ぁっ!!」

水の龍、鉄の龍、火の龍、木の龍、土の龍が現れ、どこに声帯があるのかはわからないが吼えた。空気が振るえ、思わず耳をふさぐ。

そんな五体の化け物を相手にしてもパチュリーはいまだ、興味なさげに見ていた。

魔術師達「さぁ! いくがいいっ!!」

龍が再度吼え。パチュリーに向かって飛び掛る。

両者の距離はほんの20メートルほど、一瞬で五体の龍はパチュリーを噛み砕くだろう。

パチェ「――――」ボソボソ

パチュリーが何語かわからない言葉を唱える。

ごぉおおぉおおお!!

龍が吼えた。

パチュリーを噛み砕いたからではない。

自身が噛み砕かれたことに吼えた。

炎の龍を黒き亀が、水の龍を黄色き獣が、土の龍を青き龍が、鉄の龍を赤き鳥が、木の龍を白き虎が。

噛み砕く。

一瞬で喰らいつくし、無に返した。

そして

魔術師「がっ………は……」

そのまま魔法使い達を喰らう。

パチュリーによって生み出された5体の化け物は一瞬で五人を葬り去る。

そんな、5つの同時詠唱なんて。その言葉を誰が言ったかはわからない。それが彼らの最後の言葉だった。

パチェ「一つしか極めてないのに私に勝てるわけないでしょ、けほっけほっ」

パチュリーが咳こみ膝をつく。走りよって背中を撫でると、しだいに落ち着き、ゆっくりと立ち上がった。

フラン「あははっ! 残機は残ってるのかな!? ねぇ? ねぇ!? ほらほら、もう一回遊ぼうよ!。どこにコインをいれればいいのかなぁ!? 教えて!! きゃははっ!」

………こえぇ

フランの歓声と断末魔が響く。見たくない。今頃トマト祭りみたいな感じになってるだろうから。

チルノ「師匠、無事か!?」

男「おぉ、その声はチルノ。あっちはいいのか?」

チルノ「巻き込まれるかもしれなかったから」

恐るべきバーサーカー。そういえば小悪魔は無事逃げたのだろうか。

パチェ「………ふぅ、ここはフランに任せてレミィたちのところへ行くわよ」

パチュリーがふわりと浮いて外へ向かう。チルノと俺がそれを追う形でついていく。

外に出るとき、後ろの惨劇の嫌なにおいを吸い込んでしまい、吐きそうになる。

慣れたくはないが、慣れておいたほうがいいのだろうな。

レミリアの部屋へ向かうまでにいくつもの屍があり、その全てにナイフが刺さっていた。門の前には倒れた人間の山。

どうやらここには100人以上の人間がやってきたらしい。

霊夢やレミリアたちが負けるとは思わないがやはり死体は見ていて気持ちのよいものではない。

時折、生きている人間が襲い掛かってくるが、パチュリーやチルノに一瞬で倒される。

そうして無事にレミリアの部屋へ着き、すでに壊されている扉から霊夢の名を呼ぶ。

霊夢「なによ」

あっけらかんとした霊夢の声が聞こえた。

レミ「あぁ、あいつが例の人間か」

そして偉そうな少女の声も。

中を覗くと、霊夢とこうもりのような羽を生やした幼い少女、幻想郷縁起でみた姿と同じ、レミリア・スカーレットがいた。そして

ウィル「………」

金髪で赤い眼のこうもりのような翼を生やした少女がレミリアに寄り添っている。

誰だろうか。幻想郷縁起には載っていない。

レミ「ウィル。挨拶をしなさい」

ウィル「うん。ウィルヘルミナ・スカーレットだ。よろしく」

ウィルヘルミナと名乗った少女がスカートをつまみ、優雅に一礼する。

スカーレット………ということはレミリアの家族らしい。妹だろうか。背丈はウィルヘルミナのほうがあるので妹には到底見えないが。

男「どうも、男です」

チルノ「ん、誰だ?」

レミ「幾多の運命の中から生まれた私とフランの娘よ」

男チル「………へ?」

いやいや、どうみてもレミリアは子供が産めるように見えない。そもそもレミリアとフランじゃ娘は産まれないはずだ。吸血鬼が雌雄同体とかいう話は聞いたことないし。

パチェ「説明不足よレミィ」

後ろからパチェがレミリアに声をかける。

どうも説明してどうこうなる問題じゃないと思うのだが。

レミ「数多の可能性のなかに存在した我が娘を呼び出したのよ。私が運命を変え、この子が運命を破壊すればできないことなんてあんまりない」

霊夢「要するに、平行世界に存在した娘を呼び出したらしいのよ」

霊夢が簡単に説明する。それでも理解できないが、まぁそういうものなのだろうと納得しておく。

霊夢「理由は、紅魔館の住民じゃ動けないやつが多すぎるから、よね?」

レミ「ナイトウォーカーは太陽が大嫌いでね、でも私は早寝早起きだ。夜更かしは好きじゃない」

そう、肩をすくめてレミリアが笑う。要するに、動かせる手駒がほしいということか。

ウィル「お母様のため、がんばる」

ウィルヘルミナが小さくガッツポーズをする。その様子は確かに子供のようだ。

霊夢「あら、いったいどこにあんたの遺伝子があるのやら。素直で可愛いし、それにスタイルもいいとは言えないけどあんたよりはある」

レミ「しるか。こっちが教えて貰いたいね」

パチェ「派手に動いたらまた狙われるんじゃないの?」

レミ「太陽に中指立てた身だ。殺し合い上等じゃないか」

男「なぁ、暴れなくても霊夢達が解決するんだからおとなしくしとけば」

レミ「私は漫画の新刊が読みたいんだよ人間」

そんな理由でか。と内心呆れる。

皆もそう思ったらしく霊夢とパチュリーはため息をついていた。

霊夢「さて、帰るわよ男」

レミ「もう帰るの? 紅茶で飲んでいきなさいよ」

霊夢「汚い部屋で飲みたくないわ」

レミ「素敵な部屋だろ。赤くて素敵」

霊夢「悪趣味」

ウィル「………うん」

チルノ「悪趣味だな」

パチェ「病原菌が繁殖しそうね」

レミ「ぜ、全否定しなくてもいいじゃないの!」

紅魔館から帰り、博麗神社の結界をくぐる。

部外者が入るには結界を操作しなければならないらしく霊夢が文句を言いながらチルノを結界内へ入れた。

魔理沙「お、お帰り、男と霊夢。あと………チルノ?」

チルノ「あたいだよ!」

境内に入ると魔理沙が、的に向かって魔法を撃っていた。現れたチルノに驚いていたが、すぐに魔法の練習に戻る。

霊夢「妖精の相談なら紫と映姫にして頂戴。私は寝るわ」

男「あ、俺、四季さんに用事あるから」

チルノ「じゃあ紫のとこへいってくるなー」

チルノを見送りどこかで寝ているであろう小町を探す。

映姫「小町ならさっき起こしましたよ」

男「四季さん」

映姫「行くのでしょう? 子供たちに会いに」

男「えぇ」

羽少年「あ! にーちゃん!!」

中に入るといつもどおり子供たちがお出迎えをしてくれた。

四季さんは離れてにこにこ眺めている。

羽少年「なぁなぁ、にーちゃん。今日は何して遊ぶんだ?」

河童娘「お、おままごと」

羽少年「また、おままごとかよ」

男「でもあんまりできることがないからなぁ」

男だから家の中でできる遊びなんかゲームぐらいしか思いつかない。

羽少年「なぁ、にーちゃんって空手できるんだろ?」

絵でも描くかなぁと悩んでいると羽少年がキラキラした目でそう言った。

空手か。できるが、演舞とかしても受け悪いだろうなぁ。

羽少年「教えてくれよ。強くなりたいんだ。俺」

角娘「ぼ、ぼくも教えてもらいたい」

犬耳娘「わたしも」

皆が集まってくる。

こんな環境だ、強くなるたいって気持ちはわかるが、強くなったと思って無茶をしだすのは怖い。

男「準備いるからまた明日な」

羽少年「ん、約束だからな」

男「あぁ、約束だ」

そう誤魔化して、指きりをする。

まぁ、明日になったらそのときもどうか誤魔化そう。

男「じゃあ絵でも描くか」

犬耳娘「うんっ」

羽少年「なぁなぁにーちゃん。なんでにーちゃん妖怪の味方してんの?」

犬耳娘に頼まれた外の風景を描いていると羽少年がそう俺に質問してくる。

確かに不思議だろうな。いくら外の人間だからといって妖怪側………というわけでもないけど、人間の敵にまわるのは。

理由は外に帰りたいって理由だったけど、今は守りたいっていう理由もあるんだよなぁ。

四季さんや、魔理沙や、こいつらを。

でも、お前を守るためだ、キリッ。とかいうのも恥ずかしいしなぁ。

男「………ヒーローに。ヒーローになりたかったからかな」

そう誤魔化してみるものの、この理由も大概恥ずかしい。うわぁ、やっちまったなぁと思いつつ照れを表に出さないために続ける。

男「ヒーローって間違ってるやつをやっつけるんだよ。だから俺は間違ってると思う人間を倒す。そして世界を守るんだよ」

犬耳娘「お兄ちゃんヒーローになるの?」

男「修行中だ。伊吹萃香ってやつに稽古つけて貰ってる」

羽少年「え!? 伊吹様に!? すげぇ!!」

ざわざわと子供たちが騒ぎ出す。

萃香は妖怪の山のトップだったってのは聞いてたけどまさかここまで驚かれるとは。

映姫「男。もう帰る時間ですよ」

男「もうそんな時間なんですか」

時計なんて便利なものがないから時間の流れは良くわからない。

とりあえずここでは早く流れているのだろうな。遅く流れればいいのに。

羽少年「絶対明日教えてくれよな! 約束!!」

犬耳娘「約束!!」

角娘「ま、また明日っ」

男「おうおう、また明日な」

やたらと約束を強調してくる子供たちに苦笑しながら手を振り、外へでる。

外は夕焼け。数時間はここにいたようだ。

小町「来ましたよ四季様」

映姫「はい。帰りましょうか」

いつもどおり迎えにきてくれた小町の能力を使い博麗神社へと戻る。

さて、明日はどんな遊びをしようかな。

男「ぐえふっ」

夕食後、さっそく萃香に投げ飛ばされている。

魔理沙「おいおい、がんばれよ正義のヒーロー」

縁側に座っている魔理沙がニヤニヤと応援をしてくる。というか

男「お前どこでそれ知った!?」

魔理沙「映姫が言ってたよ」

ひどいよ、四季さん。

萃香「立ち上がらないのなら、行くよ?」

男「立ち上がる立ち上がる! 立ち上がります!!」

座ったままで、あれが相手できるわけがない。

男「よしっ、いくぞチルノ!!」

チルノ「合点承知!!」

萃香へと突っ込み、そのまま殴ると見せかけ砂を蹴り上げて萃香の顔にぶつける。そしてすぐさましゃがむ。

チルノ「アイス剣スラァッシュッ!!」

チルノが作った氷剣で萃香を斬りつけた。

萃香「連携が甘いっ!!」

がしかし斬りつけた氷剣は傷を負わせることはなく、むしろ砕けた。そして一喝と共に俺に蹴りが、チルノに拳が打ち込まれる。

二人してごろごろと転がっていった。

魔理沙「おうおう、情けねぇの」

魔理沙がにひひと笑って縁側から降りる。そのまま寝転がっている俺の近くまで来る。スカートが長いから見えない。

男「だろー」

痛む体を引きずって起き上がる。どうやっているのかは知らないが、萃香に殴り飛ばされても怪我はしない。痛いだけで少しすれば痛みも消える。

萃香「魔理沙もするかい?」

魔理沙「冗談。私は守って貰うのさ。こいつにね」

萃香「魔理沙を守れるようになるのに何年かかるか」

魔理沙「頑張るんだろ。男の子だからな」

男「あぁ、頑張ってやるよ。男の子だからなっ」

地を蹴って、萃香へと駆ける。肘を構え、勢いに乗せて体当たりをする。

チルノ「師匠っ!!」

チルノが萃香の足を凍らせ動きを止める。

狙うは萃香の顔。大人気ねぇとか女の子になんてことをとか言われるかもしれないが相手が萃香ならこれでもしなきゃ、いや、これでも足りない。

萃香「真正面からこられても、ねぇ」

萃香が左手を振って肘鉄の体制を崩す、そのまま勢いを利用して投げられた。

男「なんのっ!! チルノォッ!!」

チルノ「あいさっ!!」

萃香の真後ろに作り出した氷柱に投げ飛ばされた俺はぶつかる。

萃香が作り出した投げた体勢という隙。それを狙う。

落下に乗せて拳を振り下ろすという不恰好な攻撃。

それでも萃香が体を戻すよりは早い。

萃香「よし、じゃあレベルアップだ」

そう呟くと萃香はいつの間にかこっちに向かって拳を引いていた。

速すぎる。隙なんてなかった。

男「それって、クロックアッ」

衝撃。氷柱をへし折って転がる。

やばい、また意識飛ぶ。

額の上にある冷たいものによって意識を取り戻すと頭の下にやわらかい感触。

また膝枕をされているのだろう。魔理沙かなと思って目を開けると案の定魔理沙だった。

違うのはチルノが横で俺の額に手を当てていること。冷たくて気持ちがいい。

チルノ「あ、師匠」

男「やっぱり駄目か」

魔理沙「小細工とか全て蹴散らすのが萃香だからな。手を抜いているとは言ってもそうそう当たってくれないって」

だったな、一瞬で体勢変えたり、氷柱をへし折るほどの一撃を俺に当てたのにもうすでに痛みは消えている。

格の違いがやっぱり凄いなぁ。あんな萃香でもそうそう簡単に異変を解決することが出来ないってこの幻想郷にどれだけ強いやつがいるのか。

おら、わくわく………しないな。

魔理沙や霊夢を守れるようになるのかなぁ、俺。不安しかない。

霊夢「いちゃついてるとこ悪いけど」

ふわりと屋根の上から霊夢が降りてくる。なぜ屋根の上にという疑問はさておき

男「いちゃついてねぇよ」

否定しておく。

霊夢はそんなこと心底どうでもいいらしく、「明日、妖怪の山行くから魔理沙の後ろに乗っけてもらって」とだけ言って再び屋根の上に戻っていった。

魔理沙「妖怪の山か。できれば行きたくはないなぁ」

男「どうしてだ?」

魔理沙「やりにくいやつがいるんだよ」

そういって魔理沙が苦虫を噛み潰したような顔をする。

強いではなくやりにくいという事は、策略が凄いとかそんな感じのやつだろうか。

俺にとってはどっちもかなわないからどっちでもいいのだけれど。

チルノ「あたいも行きたい」

魔理沙「家で修行してろ。多人数でいくようなところじゃないから」

チルノ「うん……わかった」

魔理沙の言葉にチルノがうなずく。

男「さて、じゃあ風呂入ってくる」

チルノ「あたいも入る」

魔理沙「溶けるからやめとけ」

~屋根の上~

紫「おかえり、霊夢」

霊夢「で、いきなりなんで私と魔理沙とあいつが妖怪の山に行かないといけないのよ。まだ理由聞いてないわよ」

紫「守矢の二柱が消えた後の妖怪の山の信仰がどうなってるか調べてほしいのよ。行き場をなくした信仰エネルギーを秋の神らへんが手に入れてるんじゃないかしらと思って」

霊夢「秋の神はもういないわ。今頃外の世界でしょ」

紫「外に逃げたのね。まぁ、ここにとどまる理由はないから当たり前だけれど。じゃあ信仰エネルギーはどこに?」

霊夢「知らないわよ。消えたんじゃないの?」

紫「信仰がそうぱっと消えるとは思わないから多分元守矢神社にあるかしら。もし見つけたら持ってきて頂戴。あの白黒に注ぎ込むわ」

霊夢「待って。信仰って目に見えるものなの?」

紫「見えはしないわね。感じるといえばいいかしら? 霊夢は信仰心を得たことがないからわからないでしょうけど神にとってはそれが存在理由であり力でありパワーよ」

霊夢「力とパワーって………で、その信仰心ってどうすれば映姫にぶち込めるのよ。信仰心ってその神を信じることによって生まれるんでしょ? 守矢に向けられてた信仰心が行き場を失って漂ってるからって映姫に入れれるものなの? あとやり方なんかしらないわよ。生まれてこのかた信仰心なんて持ったことないから」

紫「人も妖怪も自分から離れた意思は自分ではそうそう制御できないわ。生霊なんて修行でもしないと操れないでしょ? 神を失った信仰心は新しい神を探そうとするわ。だってじゃないと信仰心じゃなくなるから。だから回収は簡単。そこに四季映姫を連れて行けばいい」

霊夢「映姫も連れて行くの?」

紫「えぇ、あなた、魔理沙、男、四季映姫で行ってもらうことになるわ」

霊夢「あんな危険なところにいくのに男なんてやっぱり連れて行けないわよ。へたしたら死ぬわよ?」

紫「そのへたをさせないためにあなたも魔理沙もいるんでしょ?」

霊夢「たかが人間一人になんでそこまでかまわなきゃいけないのよ」

紫「あの人間は保険。あれが死なない限りなんどかは生き返れるわ。だから死んでもいいからがんばりなさい」

霊夢「死ぬなんて冗談。保険なんかなくても解決できるわよ」

紫「そうね、霊夢が修行をちゃんとしてたらそのわがままを通すこともできたんだけど」

霊夢「………はぁ。いいわよわかったわよ。守ればいいんでしょ守れば」

紫「一手一手確実に詰めないと気付いたらこっちが王手に、なんてこともあるかもしれないから気をつけて」

霊夢「その王手が得意なやつがいるところに突っ込ませるのにそれ言う?」

紫「だから注意してるんじゃない、我らが王」

霊夢「王を敵陣に突っ込ませる攻め方なんてあったかしら?」

紫「あなた王は王でも奔王だから」

霊夢「そりゃどうも」

霊夢「じゃあ我が軍師さんに聞くけど、どう攻めればいいの?」

紫「対局したら負け」

霊夢「隠れて進めってこと? 無理よ無理無理」

紫「なら対局した瞬間に相手の顔面に叩き込んで1ラウンドKOってとこかしら」

霊夢「素敵な戦法どうもありがとう。っていっても確かにそれが一番有効手ってのも否定できないのよね」

紫「さぁて身重な私には夜風は辛いから部屋に戻らせてもらうわね。明日に備えて夜更かしは駄目よ? それにお肌の天敵。おやすみなさい」

霊夢「夜更かししたぐらいで肌が荒れるほど年とってないわ。おやすみ」

霊夢(あぁ。今すぐ異変起こしたやつぶん殴って解決ってことにならないかしらねぇ。ならないわよねぇ)

霊夢(………早苗。何してるのかしら)

男「良い天気だ寒いっ!!」

空中を速度を出して飛ぶ魔理沙の後ろに今俺はいる。

ただでさえ寒い冬の空を飛んでいるので魔理沙に抱きついていないところ以外から急速に熱が奪われていっている。

これで厚着をしていなかったら俺は凍死していたんじゃないだろうかと思うぐらいの寒さの中、他の三人はなんてことない顔で飛ぶ。

箒に乗っている魔理沙はともかく、こんな速度で何も使わずに飛ぶ霊夢と四季さんはいったいどうなっているのだろうか。

霊夢「………魔理沙、様子見るわよ。戦ってる」

霊夢が急に止まって二時の方向を見る。急に止まった魔理沙の反動を受け、思わず振り落とされそうになっておもわず魔理沙にしがみつく。

魔理沙「げふっ。少し力弱めてくれよ。痛い」

男「す、すまん」

魔理沙「おぉ、本当だ。戦ってるな」

男「あれか」

霊夢や魔理沙が見ている方向を見ると火花が散ったり、木がへし折れたりしていた。どうやら戦いが起きているようだ。

空を飛んでいる妖怪には翼が生えている。おそらく天狗だろう。

映姫「迂回していきましょうか」

魔理沙「だな。あれだけの天狗から逃げ切れるとは思わない」

霊夢「覚えて起きなさい男。あれが私達が相手にしたくない相手の一人よ」

男「みえねぇよ」

いくら戦いが見えるといっても一人一人がちゃんと見えるわけではない。なんか翼の生えたやつが飛んでいるな、程度だ。

映姫「目を貸してください」

四季さんが近づいて俺の目に手を当てる。

男「!」

いきなり眼球が熱を持った。熱は数秒で消えたが何か違和感が残る。

四季さんが手を外し「どうですか?」と聞いてきたので、何がだろうと首をかしげると

男「あ」

遠くまではっきり見える。見えないはずの遠くの木の木の葉まではっきりと見える。

映姫「これくらいしかできませんけどね」

そう四季さんは悲しそうに笑うが、それでも十分凄い。

もう一度戦いを見る。白い髪の天狗、大きな翼の天狗色々いるがその中でも目を引くのが一人の白い少女。戦っている天狗の中、一人だけ何かまわりに叫んでいる。

どうやら彼女が指揮官らしい。

霊夢「縦横150メートルの結界を張り、65人の天狗に命令をして敵を駆逐する天才指揮官。千里眼を使った65人同時完璧管理戦闘」

魔理沙「個人の力は弱いから不意打ちで倒すのが一番いいが、周りに他の天狗がいる今、無理だろうな」

霊夢「戦闘中だからこっちは見えてないと思うけど、進む?」

魔理沙「進むしかないだろ、あれ以外戦いたくない相手なんて………まぁ、そこそこいるな」

霊夢「小町連れてくれば良かった。仕方ないから最大速で突破するわよ」

男「ちょっと待て」

霊夢「待たない」

霊夢の姿が消え、いつの間にか数百メートルほど遠くにいる。

いくらなんでもその速度は死ぬぞ。マジで。

映姫「………っ。これが私の全力の加護です。死にはしませんが、がんばってください」

四季さんが俺の体に触れて、先ほどのように力を使う。どうやら俺の体が四季さんの加護を受けたようだがでも違う。そういうことじゃない。いや死なないのはとてもありがたいんだけども。

男「あぁ、もう。腹はくくった。行ってくれ魔理沙」

魔理沙「おう。舌嚙まないように食いしばってろよ」

その言葉と同時に加速。眼や内臓が死にそうなほどに痛むがそれでも加護のおかげで痛いだけ。でも加護のせいか意識も飛ばない。

いつもなら意識飛んで終わりなのに、意識が飛ばないから生き地獄のような責め苦。なんで魔理沙たち無事なんだろうかと必死で他の事を考えようとするも痛いという感情に上書きされ失敗に終わる。

遠ざかるというか気付いたら後ろにある景色を数分、体感的には数十分眺めようやく目的地へと着く。

ズキズキと痛む体を動かし見ると、赤い鳥居が見えた。

どうやらあれが元守矢神社らしい。広さも建物の大きさも博麗神社よりも立派だ。おそらく立派な神が祭られていたのであろう。

たしか二柱いて、その二柱が今人間の味方をしてるとかなんとか。

境内へ着地する。当たり前だがまわりに人はいない。

霊夢と四季さんが拝殿の中へ入ろうとしている。魔理沙と俺は専門外なのでそれを眺め待つ。

霊夢「どう?」

映姫「おかしいですね。信仰なんてどこにも―――」

霊夢と四季さんと魔理沙が同時に振り返る。

いきなりのことでよくわからなかった俺は一瞬送れて振り返った。

早苗「こんにちわ。皆さん」

一人の少女。さっき見回した限り誰もいなかったはずなのに。

その少女は霊夢とは違うが巫女服を着ていた。となると彼女がこの神社の巫女だろうか。

人間の味方となり人里にいると聞いていたがなぜここに。

霊夢「早苗、あんた………神になったの?」

霊夢の言葉に早苗が嬉しそうに笑う。それはテストで満点を取ったことを友人に自慢するかのような優越感と自信が混じった笑みだった。

早苗「はい、神の子が人では格好がつかないと思ったので」

霊夢「バカね。神になんかなって」

吐き捨てるように言った霊夢の言葉に少女が傷ついたような表情になる。しかしすぐに少女は微笑んだ。

早苗「私は嬉しいんです。これでやっと胸を張って神奈子様や諏訪子様にお仕えすることが出来る。今まで力不足で救えなかった人たちを救うことが出来る」

霊夢「今まで信じてくれた妖怪を裏切って?」

早苗「私が頑張って人間の勝利に導けば犠牲も少なくてすみます。そしたら妖怪と人間が手を取り合って―――」

魔理沙「無理だろ」

今まで黙っていた魔理沙が口を出す。鋭く短い一言。その言葉に再び少女の微笑みが崩れる。

魔理沙「神奈子や諏訪子のためってのは分かるが妖怪と人間のために神になるほどお前は出来た人間、いや聖人だったか? なんか気持ち悪いぞ。お前」

そう、さきほどからの少女の言うことは誰かのためという理由。自分のための理由は一切ない。

他者のために動くものは数多くいる。されど自己を犠牲にしてまで他者に尽くすのは聖人か狂信者ぐらいだ。

この少女はどちらだ。聖人か、狂信者か。透き通った瞳は愛ゆえか狂気ゆえか。

早苗「意地悪、ですね」

早苗の顔から微笑みが消えにがにがしい表情になる。

早苗「霊夢さん。魔理沙さん。私達のほうへ来ませんか?」

魔理沙 霊夢「断る」


早苗の提案にすぐ二人は答える。その返答を聞いて早苗がさらに苦々しい表情になる。

霊夢「なんであんたらは今まで自分を信じてた妖怪たちを裏切ったの?」

早苗「当たり前じゃないですか」

あっけらかんと早苗が答える。裏切ったということに背徳感などは一切ないらしい。

早苗「信仰は儚き人間のためですからね」

魔理沙「………………」

霊夢「もう良いわ。私達は帰るから邪魔しないでよね。こんなところでドンパチ始めたらすぐに妖怪がやってきて大騒ぎよ」

早苗「そうですね。今日は止めておきましょう」

早苗の体がふわりと空中へ浮かぶ。足元の雪が舞っているところを見るにどうやら風を操っているようだ。

早苗「それでは」

雪を吹き飛ばす風を起こし、少女は遠くの彼方へと飛んでいった。

魔理沙「畜生がっ」

魔理沙が近くの柱を蹴る。衝撃で屋根の上から雪がどさりと落ちた。

映姫「………仕方ないことです。神は結局は人のためですから」

人は神がいなければ生きられないほど儚いです。そんな人間を一度でも愛してしまえば誰のための神様になろうと忘れられないのですよ。と四季さんが切なげに呟いた。

男「………帰ろうか。人間と妖怪が戦ってて危ないし」

魔理沙「そういや、なんで人間がこんな奥地までせめて来たんだ? 普段ここまで危険を冒さないだろ」

霊夢「本気を出したってことじゃないの?」

映姫「気になるので帰って調べてみましょうか」

男「なんにしろ帰るか」

またあの速度で移動するのは気が乗らないが仕方ない。ここにいるよりかはずっと良い。

魔理沙「あぁ、帰ろう」

皆の表情は暗い。

無理もない、友人との決定的な決別だ。

もしかしたらこっちの味方になってくれるんじゃないだろうかという希望が消えたのだから。

流れ行く景色の中。森が燃えているのが見えた。どうやら戦いは激しいらしい。

帰りも敵に会うことはなく無事に帰ることが出来た。

境内に戻ると霊夢は「寝る」といって消え、魔理沙もどこかへ消えた。

映姫「こんな気分のときは子供たちに会いに行くのが一番です。小町を探しましょうか」

無理やりに笑った四季さんの顔が痛々しくて思わず泣いてしまいそうになった。

こらえてうなずき小町を探す。

しかし結界内のどこを探してもいない。どうやらまだ帰ってきてないようだ。

男「お茶でも飲みましょうか」

映姫「そうですね」

帰ってくるまでは何も出来ないのでお茶をすることにした。

俺も四季さんも乗り気ではないことは知っている。それでも何かしてなければ重い雰囲気に押しつぶされてしまいそうだった。

亡霊男の入れてくれたお茶を二つ受け取り四季さんが待つ部屋へと向かう。

茶菓子はこんなご時勢だ。あるわけがない。

男「四季さん。男です」

映姫「待っててください。今開けます」

がらりと四季さんが襖を開ける。この部屋は四季さんの部屋で中にはいくつか荷物がおいてある。

たんすや鏡などの生活用品はあるがそれ以外はまったく置いていない。生活を感じさせないホテルのような部屋だった。

中心にあるちゃぶ台にお茶を置く。

映姫「座ってください」

四季さんから座布団を受け取り座る。

切り出す話題が特になかったのでお茶を一口飲み、部屋を見渡す。

映姫「女性の部屋をあまりじろじろ見るものではありませんよ」

男「す、すみません」

四季さんに怒られるというかたしなめられる。言い訳をさせてもらうなら生まれてこの方女性の部屋に入ったことなんて数えるほどしかないのだ。仕方ない。

映姫「あまりものがないでしょう?」

見透かされたようで驚くがよくよく考えればそれもそうだ、この部屋を見渡して浮かぶ感想なんてそれぐらいしかない。

下手に取り繕うのもなんなので「そうですね」とうなずいておく。

映姫「数ヶ月前まで仕事ばっかりでしたので趣味なんて持っていないのです。しいてあげるとすればお菓子を食べることですが、今はそんなことできませんしね」

男「早く終わるといいですね」

映姫「えぇ、本当」

会話が終わり、部屋の中にはお茶をすする音以外なくなる。

居心地が悪いので必死に話題を探す。やはり女性経験の少ない俺には気の利いた話題なんて思い浮かびそうにない。

男「四季さんはご家族はいないんですか?」

なんて不躾な質問まで飛び出す始末。

しかし四季さんは微笑んで

映姫「えぇ、仕事ばかりでしたからやはり恋愛なんてしたことはありません」

と返してくれた。

やはりこの人は天使かもしれない。

映姫「男のご家族は?」

男「えっと、俺の家族は」

………母さん、父さん、妹に弟。特に目立った家族構成でもない。思い出話も得にないし。

ずいぶん平坦な人生を歩んできたものだ。その分が今になってきたのだろうか。

簡単に家族の話をすると四季さんはニコニコと話を聞いてくれた。

そんなに面白いものでもないのにニコニコと笑ってくれる四季さんはやはり女神か。

映姫「男は家族が好きですか?」

男「嫌いではないですけど、とくに好きというわけではないですね。四季さんや魔理沙なんかの方が家族って気がしますね」

特に語れる思い出もない家族よりかはよっぽど家族っぽい生活をしている。魔理沙が妹で、四季さんは母さんかなぁ。見た目俺より若いけども。

洞窟の子供たち皆まとめて妹弟みたいなもんだし。

そう考えるとこっちの生活もなかなか充実している。外に戻りたくないわけではないがそう感じた。

映姫「それでも家族は家族ですよ。代わりなんていない大切な人です。なんて家族がいない私が言うのもおこがましいかもしれませんが」

なら俺が家族に!―――なんていえるわけもなく、うなずいて感謝の言葉を述べる。

男「いえ、ありがとうございます。戻ったら親孝行とかしてみてみます」

映姫「善行を積んでください。それが今あなたが取れる最善の手段なのですから」

男「小町。遅いですね」

映姫「いつもならもう帰っているころなのですが」

そう話しているとうわさを聞けばなんとやら。外から「疲れた~」とのんきな声が聞こえてきた。

四季さんと共に外にでると小町が土の上だというのに座り込んでいた。

男「おかえり」

小町「ん。ただいま。今日は大変だったよ」

映姫「なにかあったのですか?」

小町「今日は鬼と組んでたんですが、人里に近づいて偵察をしているとばれましてね。鬼とあたい対人間の戦いですよ。人間が地味に強くて、それで鬼が乗り気になって逃げようと思っても鬼が逃がしてくれなくて。あれですね、獅子身中の虫ってやつですね。もし鬼じゃなくて魔理沙とかだったら武術の最高奥義、逃走をしていたというのに。というか百人ぐらいいる相手に真正面からぶつかっていくってどんな脳筋ですか、他にもっと楽なやり方あるでしょうに、おかげであたいも肉体労働させられますし。これ絶対明日筋肉痛ですよ。いやなりませんけど、これで筋肉痛になるようなやわな死神じゃないですからあたい。まぁ、あれですよ結局勝ちましたけど、命まではそんなに奪いませんでしたけどそれでも結構な戦力削れたと思いますよ。褒めていいですよ四季様」

疲れてるようだが、口は動く動く。この様子なら大丈夫だろうと判断し、小町に洞窟まで連れて行ってくれとお願いする。

小町は「え~」と言いながらも立ち上がって手招きした。

四季さんと一緒に靴を履いて小町の近くまで行く。

小町は地面に鎌で一本の線を引く。これがここと洞窟とをつないだ目印になる。

さて今日は何をしてやろうかと四季さんよりも早く一歩踏み出した。

男「………………え」

目の前が真っ赤に染まっていた。

熱い。周りをつつむ炎がじりじりと皮膚を焼く。

森が燃えていた。赤く、赤く燃えていた。

映姫「これは………子供たちは無事でしょうか」

そうだ。子供たちは大丈夫だろうか。この火事だ、さすがに逃げ出しているとは思うがそれでも心配だ。

男「あつっ」

鉄の扉は熱によって熱くなっていた。扉を開けようとして掴んだ手が火傷している。

映姫「どいてください。開けます」

四季さんが右手を構えると、右手が光輝いて白色の光線を打ち出した。光線は扉に当たるが歪むだけでなかなか壊れることはない。

映姫「やはり、弱くなってますね」

四季さんが苦々しげに呟く。扉はぎしぎしというばかりで砕けない。おそらく熱で歪んでいるのだろう。

映姫「小町を呼んできてください。今ならまだつながっているはずですっ」

そう四季さんに言われ、はっとなって走り出す。四季さんの後ろらへんの空間のはずだ。数秒でその地点に着き、そのまま走り抜ける。

空間がぐにゃりと歪んで

小町「きゃんっ」

神社へ出る。勢いあまって小町にぶつかった。

二人とも転倒して地面の上を転がる。

地面で頬の肉が削れ血が滲んだようだが気になんてしていられない。立ち上がって小町の腕を掴んで立たせる。

小町「な、なに?」

男「来てくれ、はやくっ」

腕を引っ張って線を越える。

映姫「小町、あの鉄門をどうにかしてください」

小町「はい」

小町はすぐに状況を理解して、鉄門に向かって駆け鎌を振るった。

小町の鎌はがきんっと火花を立て鉄門を吹き飛ばした。

すぐさま中へ駆け寄ろうとするが小町が鎌を使って俺を止める。

小町「見ちゃ駄目だ」

小町が強く言う。中になにがあるのか。最悪の事態を頭のなかから外してそう考える。

小町「あとはあたいがなんとかするからさ」

なんとかする。なかではなんとかしなければならないような状況になっているのか。

映姫「男、小町の言うとおりです。後は私達が」

男「あいつらと約束してるんです」

鎌をくぐって洞窟内へと入る。小町は止めなかった。

中も火事の熱を受けとても熱くなっている。

しかしその火事の熱は外からではなく中からだった。

たいまつなんていらない。燃え盛る炎が洞窟の奥を照らしていた。

そんなことがあるわけがない。

必死にそう思った。

しかし奥からにおうこのにおいは、髪をやいたようなにおい。それ以外にも肉が焼けるにおい。

理性が否定するも、本能が肯定している。

小町が俺を止めた理由が危ないからではないことを理解してしまっている。

しかし、無数の零が並んだ可能性だとしても確かめなければ零ではない。

そんな無謀な希望を捨てきれない。

だから歩みを止められない。細い通路を抜けていつも遊んでいる場所へと向かう。

近づくごとに肌を焼く熱は増す。今すぐ引き返したほうが身のためだということは文字通り痛いほど分かっている。

一歩、一歩、一歩、一歩、一歩、一歩、一歩踏み出し、広間へとついた。

赤い、燃えている

人型が。

男「おい、おい」

目の前で燃えている。

人型が。

翼の生えた人型。

角の生えた人型。

とても小さい人型。

大人の身長の人型

一体二体三体四体五体六体七体八体九体十体十一体十二体十三体十四体十五体十六体十七体十八体十九体二十体二十一体二十二体二十三体二十四体二十五体二十六体二十七体

燃えている。

数が一緒だった。ここにいた妖怪たちの数と一緒だった。

信じたくなかった。

だけど足元で燃えているのは翼が生えていて、活発なあの子じゃないか。

右で燃えているのはぴこぴこと動く耳で感情が分かりやすい、素直なあの子じゃないか。

右奥で燃えているのは角が生えていて、引っ込み思案なあの子じゃないか。

奥で壁に背をつけ炭化しているのは発明が好きでいつも俺を驚かせてくれたあの子じゃないか。

真ん中で倒れて燃えているのは無口だったけど気がつけばいつもそばにいるあの子じゃないか。

右手が取れているのは男勝りで喧嘩っ早いがそれでも花が好きという乙女らしさをもったあの子じゃないか。

重なって燃えているのは中の良い双子でいつも俺にいたずらをしかけてきたあの子達じゃないか。

いくつもの矢を受けて燃えているのは本ばかり読んでいてあまり俺と遊ばなかったあの子じゃないか。

うずくまるような体勢で燃えているのはいつも四季さんと一緒ににこにこと俺達を見つめていたあの人じゃないか。

その人に覆いかぶさられて燃えているのは子供たちの中で一番幼かったあの子じゃないか。

皆、皆燃えている。赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤くきれいに燃えている。

男「はは、あは、は」

映姫「男、また後で弔いましょう。今は危険です、早く」

四季さんが手を引っ張る。でも俺はこの場から動けなかった。

男「四季さん、明日っていつなんですか」

映姫「男………?」

男「明日教えてやるって、空手とか柔道とか。教えてやるって約束したんですよ」

男「約束やぶっちゃいけないって俺、こいつらに教えてたはずなんですけど。忘れちゃったんですかね。それとも反抗期ですかね。あはは」

映姫「男、はやく出ましょう」

男「あれ、もしかしてまだ明日じゃないんですかね。そうですよね。明日になれば皆俺と遊んでくれますよね。いつもみたいに笑ってますよね。俺、危ないから教えないつもりだったんですけどやっぱり約束は守らないといけませんよね。はじめは危ないから受身からですけど、それでも立派に柔道ですし」

映姫「男、駄目です」

男「俺、約束したんですよ!! 明日、教えてやるって!!」

映姫「駄目です!!」

四季さんが強く手をひっぱる。そのまま通路を引きづられるように引っ張られていく。子供たちが遠ざかっていく。

男「四季さん、やめてください。あいつらと、あいつらと遊んでやらなきゃ」

映姫「彼らは死んだのです。生きてはいないのです」

小町「四季様。男は」

映姫「………」フルフル

男「皆………皆………」

小町「………戻りましょうか」

映姫「はい」



四季さんに連れられて神社まで戻る。

俺はさっきまでの光景が忘れられず、地面にへたりこんでしまった。

魔理沙「!? おい、男どうしたっ!?」

小町「そっとしてあげな」

魔理沙の声が聞こえた。でもそっちを見る気力すらわかなかった。

このまま何も考えず、何もしない岩になりたかった。

そうすればこの胸を裂くような悲しみを受けなくていいから。

いや、それは駄目だ。俺は逃げちゃ駄目だ。

あの子たちは逃げれなかったんだから。

いくら悲しんでも皆が戻ってこないことは知っている。

………あれ、、何か忘れてるような。

男「そうだ、銃がある」

しまっていた銀色の銃を忘れていた。

惨劇を回避するためにある銃。

これを使えばあいつらを救えるんじゃないだろうか。

今日の朝に戻って霊夢達に頼み込めばあいつらを助けてくれるんじゃないだろうか。

そう思ったときには自然と銃を握り締めていた。

こめかみに押し付けるとあんなに熱い場所にあったのに当てた銃口は冷たかった。

もしこれが本当の銃で引き金を引いたら頭を吹っ飛ばすのかもしれない。

でも、本当に時間を巻き戻せる銃ならばあいつらを救うことが出来る。

男「なら、決まってるよな」

魔理沙「男、何してんだ。お前………おいっ!!」

魔理沙が叫んでいた。そうか、あいつはこの銃のことを知らないのか。説明する暇はない。今すぐ俺は戻らないといけないんだ。

引き金を引く。

カチリ

弾倉が回転する。

男「………あ、れ?」

しかし弾が出てこない。

全て薬室に弾が入っていたはずだよなと思い、もう一回引き金を引く。

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

カチリ

弾が出てこない。弾が入っているのに。

何度も引き金を引いたのに弾がでてこない。

男「なんでだ、なんでだよっ」

魔理沙「いきなり何してんだよっ」

男「あっ………」

銃を魔理沙に取り上げられる。そしてそのままポケットの中にしまった。

魔理沙「死ぬ気か!? 弾が出なかったから良かったけど死んでたんだぞ!?」

男「返してくれよ」

魔理沙「返さない」

男「返してくれよ………なぁ」

魔理沙の足にしがみ付く。魔理沙は一瞬面食らったがポケットを両手で守った。

紫「それ、使っても意味はないわ」

紫の声がした。声がしたほうを見るといつの間にか紫が近くに立っていた。

扇子で口元を隠しながら悲しげな目で俺を見下ろす。

紫「意味、ないのよ」

二度、念を押すように言った。

どういうことだ。意味がないって、これは偽者なのか?

男「どういう、ことだよ。これ、偽物なのか? 嘘だったのか? なぁ、おいっ」

ふらふらと立ち上がって紫の元へ向かう。

紫「偽物じゃないわ。本物よ」

男「なら、なんで」

紫「時間を戻す意味がないから」

意味。意味ならあいつらを助ける立派な意味がある。

紫「有象無象の妖怪が死んだからって時間を戻す必要なんてないわ。その銃が使えるのは時を戻さなければ異変解決に支障が出るとき。たとえば魔理沙が死んだときとか、私が死んだとき。そして霊夢が死んだとき。今ではない」

男「そんなのって、そんなのってっ!!」

そんなのってない。せっかく時を戻せるというのに、俺は救えないんじゃないか。救えなかったじゃないか。

なんだよ、俺は引き金を引けばいいんだとか。そんなことなかったじゃないか。

紫「今は休みなさい。明日も動いてもらわないといけないのだから」

そう静かに言って紫が離れへと戻っていく。

何も言えなかった。追って問い詰めることも出来なかった。

一度生まれた希望が壊れてしまった。

自分の無力感に苛まれその場に座り込む。

映姫「男。もう休みましょう」

男「………嫌です」

明日が来るのが嫌だった。

明日になっても、その明日になっても約束が果たせないから。

皆が迎えることのなかった明日を迎えるのが嫌だったから。

映姫「………自分のことも考えてください」

四季さんが手を引く。するといつのまにか自分の部屋に立っていた。

小町が能力を使ったのだろう。寝たくないのに、体を思うように動かすことが出来ず四季さんに無理やり敷き布団の上に寝かされ、掛け布団をかけられる。

映姫「………嫌だったら………すみませんが」

布団の中に四季さんが入ってきた。

一人用の布団なので二人入ると密着してしまう。

映姫「………すみません」

後ろから四季さんが手をまわして抱きしめてきた。俺はそれに抵抗せず抱きしめられる。

柔らかな温かい感触が伝わってくる。

それはこの残酷な世界で唯一の救いに感じられた。

この四季様は有難いお話(お説教)は
あんまりしないのかなぁ
「そう、あなたは…」を一度くらいは言ってほしい

男「………四季さん………俺、どうすればいいんですかね」

俺のいる意味は霊夢や魔理沙の保証でその中に俺の意思は許されていない。

理由は分かる。それでも納得できるかは別だ。

映姫「………ごめんなさい、私は今はただの神もどき、人を導くことなんてできないのです」

後ろから聞こえる声は悲しげで消え入りそうなほど小さかった。

映姫「お役に立てず、すみません」

男「いえ………」

四季さんの声が、存在が、温かさが今はとてもありがたい。

一人ではこの悲しみに耐えられそうになかったから。

突発的にあの子たちを追おうとしたかもしれないから。

俺はとても弱いから、体も心も。

守ろうとした皆の足元にも及ばないくらい弱い。

男「………う………あぁ………」

今更涙が流れ出す。後ろにいる四季さんにばれたくなかったから嗚咽が漏れないように口を押さえる。

それでも止まらなかった。過呼吸のような呼吸を繰り返す。まるで子供のように。

映姫「こっちを向いてください」

男「………いや、です」

泣き顔を見られたくなかった。鼻水や涙でぐちょぐちょで情けないから。

こんな情けない自分が嫌だったから。

映姫「じゃあすみません」

四季さんがもぞもぞと動いて俺の体を超える。そして俺の目の前に来てそのまま俺の頭を抱きしめた。

四季さんの心音が聞こえる。とくん、とくんと人間と同じような速度だった。

男「………四季さんはなんでこんなに、俺に優しくしてくれるんですか」

映姫「それは………あなたが私を信じてくれるからです」

男「そう、ですか」

映姫「私はずっとあなたと一緒にいますよ。あなたが救われるまで」

男「………ありがとう、ございます」

四季さんがあやす様に頭を撫でる。

抱きしめてもらっているから映姫さんの胸元が涙なんかで濡れて乱れている。申し訳ない。

心音の一定のリズムと頭を撫でる手にしだいに落ち着いてきた。

信仰次第で力だけじゃなく性格も変わるのか?
もし立場に影響されやすい
性格なのなら主人公時の変貌ぶりは
説明がつくな

男「………」

急速に眠気がやってきた。

どんよりと体を襲う睡魔に抵抗はできない。

目を閉じ、体を四季さんに体を預ける。

睡魔に四季さんの温かさ、匂いもあいまってすぐに俺は眠っていた。



映姫「………守りますよ。あなたがいなくなるまで」

映姫「それが私の役目ですから」

映姫「眠っているうちで卑怯ですが、せめないでくださいね。私も本当は弱いのです。あなたがおもうように強くはないのです」

映姫「ごめんなさい。男」

>>204
小町が「あたいが尊敬していた四季様はどこに」
って言ってたし閻魔じゃなくなって気が緩んで
あぁじゃなかったんじゃないか?
それで今度は信仰失い力と共に性格や思考も
ダウンってこと。
ってなんで俺は馬鹿みたいにこんな考察を披露してるんだ...

目を覚ますと、明日が来ていた。

どんなことがあろうと明日はやってくる。そんな当たり前のことがひどく悲しく感じる。

明日になって明日になってそのまた明日になっていっぱい明日を繰り返し、あいつらのことなんて置き去りにして世界は回っていく。

自己中心的な考えかもしれないが、それがとても悲しかった。

目蓋を開けると、小さな体が俺の腕のなかに収まっていた。

あぁ、そうか。俺は昨日四季さんと寝たのか。いや、別にいやらしい意味ではないが。

抱きしめられて寝ていたと思ったのだが、いつの間にか俺が抱いていたみたいだ。

すやすやと小さな寝息を立てて眠る四季さんは神様でもなんでもないただの幼い少女に見えた。

映姫「んっ………うん………」

さて、起きたはいいものの、このままでは布団から出ることができない。

どうすればいいか悩み、仕方ないのでもう一眠りすることにした。

映姫「おはようございます」

眠っているのか起きているのかの中間らへんでうつらうつらしていると目が覚めたらしい四季さんに揺さぶられ起こされる。

あぁ、起きたんだなと思いつつあくびをすると四季さんがにっこりと笑ってもう一度おはようございますと言った。

男「おはようございます」

映姫「気分はどうですか?」

四季さんが心配そうに見てくる。あまりいい気分ではないがそれでも昨日よりかはまだマシになった。

紫に対する怒りも少しは収まった。間違っても紫に殴りかかるようなことはしないだろう。

男「大丈夫ですよ」

そういった意味を含めてそう答える。

四季さんはほっと息をついて俺の頭を優しく撫でた。

映姫「あ、そういえば着替えてませんでしたね」

服は昨日のまま。袖がこげたりしているのでもうこれは着ることができない。この服は幻想郷では珍しい洋服なので少しへこむ。といっても俺が着てきた服ではなく紫が用意してくれたものだから俺自体に損はないのだが。

映姫「着替えてきます。それではまた朝食で」

男「はい」

朝食を食べ終わり、境内で何をすることはなしにただぼーっと立っていると後ろかた強い衝撃を受けて前のめりに倒れる。いきなりのことでうまく反応できなかった俺は見事に地面に顔面を滑らせた。

チルノ「師匠!! 大丈夫だったか!?」

背中にあるひんやりとした感触。チルノが背中にタックルをしてきたらしい。

男「すまん、どいてくれ」

チルノ「あっ。師匠、ごめんっ」

素直なのはいいことなんだけどもうちょっと考えてほしかった。それだけ思われてるのは嬉しい限りだが。

痛む頬を撫でながら立ち上がるとチルノが泣きそうな顔をして見上げてきた。

チルノ「師匠が、師匠が昨日大変だったって、魔理沙から聞いて」

魔理沙も心配してくれていたのか。後でお礼を言いに行こう。

チルノの頭を少し乱暴に撫でて髪をぐしゃぐしゃにする。チルノは魔理沙と同じぐらいの身長なので大変撫でやすい。

チルノ「わっ、や、やめろ師匠っ」

笑いながら抵抗するチルノがほほえましくて、わしゃわしゃと無理やり撫でる。

チルノ「あははやめて師匠。あ、あれ師匠、なんで泣いてるんだ?」

男「なんでもない。転んだとき顔ぶつけただけだ」

駄目だ。思い出してしまった。チルノが皆と重なって思わず涙がでてきた。

チルノ「えっと、冷やすか?」

チルノが手を頬に当ててくる。ひんやりとしたやわらかい感触が頬を包む。

男「ありがとな………ありがとな、チルノ」

早く立ち直らなければいけないのは知っている。でも今はまだ泣かせてくれ。

本当ありがとう。チルノ、四季さん。

昨日と今日でずいぶん泣き虫になってしまった。

かっこをつける必要はないと思うがそれでも泣いているところはあまり見てほしいものではない。

男「………さて、今日はなにやるんだろうな」

目の周りが腫れているだろうから顔を洗いながらそう考える。

昨日紫は俺に明日も動いてもらわないといけないといっていた。ならやはり俺に何か用があるのだろう。

人間相手なら復讐はできないが、痛い目にあってほしいからいくらでも手伝おう。

そんな暗い感情が半分ほどある。

紫「復讐、したい?」

いきなり耳元で声がした。驚いて振り向くと紫が立っていた。

男「いきなりなんだ」

ばくばくと動く心臓の音を悟られないようになんでもないようなふりをしてそう返す。

紫「復讐、したいかしら。萃香が人間を倒しに、いえ。殺しにいくんだけど」

倒すではなく殺す。そう言い直したからには萃香が人の命を奪いにいくんだろう。それについていっても言いと紫は言っている。

男「霊夢は、いくのか?」

霊夢が人を進んで殺すようには見えない。出会って数日だがただただ効率を求める霊夢がわざわざ人の数を減らして戦力を削ぐなんてことをするとは思えない。霊夢ならば人間は無視して邪魔なやつだけを倒していくだろう。

紫「いかないわ。霊夢は他のところに用事があるから」

今日は霊夢と俺は別行動らしい。あれだけ頼んだのに霊夢と一緒に行動をさせてきた紫がなぜ霊夢と違う行動をすることを進めるのか。

おそらくは俺の不満を解消させようとしているのだろう。そうやってまた使いやすい状態にする。

男「………分かった、行く」

出来ないと思っていた復讐が出来る状況を与えられ、暗い感情が黒い感情となり心を覆う。

そう俺が答えると紫が表面上は純粋に思える笑みを浮かべた。

紫「そう、じゃあ支度をしてきなさい。萃香は鳥居のところにいるわ」

男「あぁ」

紫と別れ鳥居に向かう。支度なんてするようなものはない。腰のホルスターに収めた銃だけで十分だ。

紫の掌でいくらでも踊ろう。今は外とかそんなことはどうでもいい。

何もしてないのに命を奪われたあいつらと同じ目にあわせてやりたい。

それ以外はいらない。

千匹の妖怪の血を浴びた人間は妖怪に成れるそうですよ~?


キャラの顔は分かるが作品が思い出せん

>>215 多分最遊記ですね。

萃香「………」

鳥居へと向かうと萃香が俺の顔をじろじろと見てきた。

何かついているのかと思って顔を撫でるが何もついていなかった。

男「どうかしたか?」

萃香「………別に」

いらだたしそうに萃香が吐き捨てる。

何か怒らせるようなことをしただろうかと記憶を探ってみるが特に理由は見当たらない。

萃香は無言で外に向かって歩き出した。

隣に並んで歩くのもなんなので少し後ろに下がってついていく。

萃香「………」

萃香の無言にプレッシャーがびしばしと飛んでくる。

今日はただ単に不機嫌なだけなのだろうか。

森の中を無言でしばらく歩いていると、遠くから声がした。

どうやら人間がいるようだ。

萃香はその声に向かってまっすぐ歩いているので、その人間達を殺すらしい。

里の外にいるということはあいつらが子供たちを殺したやつらかもしれない。

俺は何も出来ないので虎の威を借る狐みたいで格好悪いが萃香にやってもらうしかない。

問題は俺は自分の身を守れるかということだが、まぁあんなに強い萃香のことだ心配いらないだろう。

枝を踏んで音を立てたり木の葉を気にせずに進んでいるのでどうやら真正面から挑むらしい。卑怯なことが嫌いな萃香らしい。

萃香「ここで待ってな」

萃香が手を横に出して制止する。見るとある程度遠くに人間の姿が二、三十人ほどいた。

あれか。立ち止まって萃香に頷くと萃香はいつもどおりとてとてと酒を飲みながら歩いていった。

萃香「ちょいと待ちな」

萃香が人の集団に向かってそう声をかける。人間たちは萃香を見るといきなり武器を抜いた。どうやら萃香の名前は有名らしい。

萃香「昨日、妖怪の山に火をつけたのは誰だ」

その萃香の問いに人間たちは黙っていたが、奥から一人の少女。黒髪に前髪一房赤い髪、ところどころに白い髪、そして小さな角が生えているそんな少女が現れた。

人間ではなく妖怪なのはみればわかる。人間に味方をする妖怪か。同族殺し………いや、俺も似たようなものか。

正邪「呼んだか?」

にやりと邪悪な笑みを浮かべる妖怪。

その返事をするということは

男「っ!!」

萃香から止められたことを忘れて駆け出す。

こいつが殺したのか、子供たちを。

憎いという気持ちが頭を支配し、原動力となる。

ちゃんと声にならない叫び声をあげ、妖怪に殴りかかろうとする。

萃香「やめなっ!!」

萃香のいつもよりだいぶ強いこぶしを受けて吹き飛び、地面に一度もつかず木にぶつかった。

続き
そんな時幻想郷に幻想入りした男、彼は外の世界に戻る為、霊夢達に協力することになった。妖怪の子供達や魔理沙と触れ合う内、異変解決の為戦う決意は固くなっていったがある日、妖怪の子供達が火事に巻き込まれて焼死してしまう。渡されていた「時間を巻き戻せる銃」で惨劇を回避しようとするが、その効果はあくまで異変解決を妨げる出来事が起こった時発揮される道具だった。「復讐、したい?」その後人間に恨みを抱く男に紫はそう声をかける...
自己満足でやりましたスマソ

>>221 ありがとうございます

何をするんだよと叫びたかったが、肺の中の空気が衝撃で押し出されて声を出すことが出来ない。

地面うつぶせになって落ち、その衝撃で意識が飛びそうになる。そして空気を失った肺が空気を求めて不恰好な呼吸を繰り返した。

立とうと思ったが体がうまく動かない。なんとか頑張って木に体を預けるようにして座る。

息を整えて妖怪に届くように大声で問いかける。

男「なぜ殺した!!」

その言葉を聞いて妖怪は両手で顔をおさえた。

正邪「わ、わたしだって殺したくなかったっ。でも私は弱いから小さいときからずっと他の強い妖怪に迫害されて生きてきた。あいつらの親に………子供たちが関係ないのは分かってる、それでも憎しみが止まらなかったんだっ!。私は誰にも守られなかったのにあいつらは守られている。なぁ、弱いということはそれだけで救いがたいほど悪なのか? なぜそれだけの理由でさげすまれなければならないのだ? 強くなれない我々弱者はなにかしたのか? 強者はなんで当たり前のように弱者を虐げるのだ? おかしいじゃないか。自分の生を憎めとでもいうのか? 違うだろう。我々は悪くない。悪いのは強者じゃないか。強さを自分勝手に振舞う強者じゃないかっ!!」

震える声で妖怪が語る。悲しみと怒りを含んだ声が森の中に響き渡る。

正邪「こいつらだって妖怪という強者に家族や友人を奪われた! 何もしてないのにだ!! 私は妖怪を憎む。我々は妖怪を狂おしいほどに憎む!! なぁ、教えてくれよ外から来た人間。いつも奪われる我等が奪い返すのは罪なのか!? それを罪だというのなら強者のほうがよっぽど罪じゃないか!! 反吐がでるような悪じゃないか!! 下克上の何が悪い!! うらまれるようなことをしたのはあっちじゃないか!! 自業自得だろ!? 違うのか、なぁ人間!!」

胸を衝く慟哭。

両手を握り締めて妖怪が泣きながら叫ぶ。

俺の中の憎しみは消えない。

だけど俺は

どうすれば………

正邪「………って言ったら許してくれるのかい?」

―――妖怪の顔が泣き顔からいきなりにやにやとしたいやらしい笑みへと変わる。

再び我を忘れて、痛みで動かない体を無理やり起こして殴りかかる。

許せない。

男「なんで殺したんだよぉおおおおぉおお!!」

萃香「やめろっ!!」

萃香が腕を掴んでとめる。力を振り絞って進もうとするもぴくりとも動かない。

妖怪との距離は数メートル。その数メートルがどうしても詰められない。

正邪「なんでかって!? 教えてやろうじゃないかっ!! あいつらな、助けてくれって言ったんだよ。やめてって。大人の妖怪なんか、私はいいから子供たちは助けてあげてだってさ。いやぁ泣ける泣ける美しい美しい。だから殺して火をつけた!。じゃんじゃじゃーん、衝撃の事実! びっくりびっくり あっはっはは。なぁなぁ、今どんな気持ちだ? 殺したいほど憎むやつに拳が届かないって。悲しい? 悲しい? あははははっ」

男「うあぁあああ!! 萃香離せ!! 離してくれぇっ!!」

正邪「ほらほらどうした? 殴りたいんだろう? 動かないでいてやるよ。ほら、ここ殴れよ人間。どうした殴らないのか!?」

萃香「男、私が殺す」

萃香がそういって俺の体を後ろの放り投げる。

二十メートルほどとんで地面に落ちた。

萃香「お前が同じ鬼と信じたくないな。反吐が出る」

正邪「お褒めいただきどうもありがとう」

萃香「………こんなにイラついたのは久しぶりさね。とりあえず男に土下座して心から謝ったらいたぶって殺してやる。謝らなかったら後悔しても殺してやらない」

正邪「断るね! さぁ、お前達目の前の鬼、傍若無人に振舞う鬼を殺したいか?」

「殺したいっ!!」

今まで黙っていた人間達がそう叫ぶ。

人間達が妖怪に怨みを持っていることはどうやら嘘ではないらしい。

正邪「よろしい。じゃあ思う存分殺しあえ。修羅『インドラリバース』」

妖怪がカードを取り出して砕く。カードは砕けると無数の光となって消えていった。

正邪「伊吹 萃香。お前と戦っても勝てないことは百も承知だ。だから私は逃げさせてもらうよ。ではごきげんよう」

妖怪がけらけらと笑いながら集団の向こうへと消えていく。萃香は当然それを追おうとしたが

萃香「―――っ」

人間二人に捕まれて動きを止められてしまった。

すぐに萃香は人間を投げ飛ばしたが、あの人間。少しの間だとしても鬼の萃香の動きを止めるなんて。

いったいどういうことだ。

萃香「あぁ、そういうことかクソ野郎」

萃香が苛立たしげに吐き捨て近くにいた人間を殴り飛ばす。

殴り飛ばされた人間は木にぶつかって、そして普通に立ち上がった。

おかしい。いくらなんでも強すぎる。

おそらく本気ではないとはいえ鬼の一撃を受けて平然と立ち上がれるなんて。

日ごろ萃香に殴り飛ばされている俺ですらさっきの萃香の一撃を受けて痛みでうまく動けないというのに。

萃香に殴り飛ばされ、それでも向かってくる人間達。しかも動きが早い。

萃香はなんとか受け流したりしているがそれでも相手の攻撃が当たりそうになる場面がなんどかある。負けるとは思わないがそれでも多勢に無勢。あの妖怪を追うことはもうできないだろう。

一撃で倒すことが出来ず、普通の人間よりも強いだなんてまるでゾンビだ。

戦いは数分、十数分と長引き、これは大丈夫なのだろうかと不安を抱く。

もしかしてこのまま戦いが続いて、こっちが逃げるようになるんじゃないかと思ってしまったその時だった。

村人「う、が………ぁ」

どさりと人間が倒れる。一人ではなく、何人もが倒れていく。

やっと倒したのだろうか。そう思ったが倒れた人間が一人の例外もなくのた打ち回ってることからそうではないことに気付いた。

萃香がやったのなら動けなくなってるはずだ。生きてるしろ生きてないにしろ。のた打ち回るような半端な攻撃はしていない。

萃香「男、ちょっとこっち来な」

萃香に呼ばれて、痛む体を引きずりながら近くまで行く。

萃香「見な。こいつらを」

萃香が地面でもがき苦しむ人間を指差す。

萃香「さっき正邪がやったことは普段人間が使ってる力と、抑圧されている力の逆転。普段使えないような力を使って、しかも酷使した結果がこれだ。自分の体は耐えきれず死にいたる」

萃香「復讐なんてこんなもんだ。結果的に自分が犠牲になる。それでもいいとか言える大馬鹿者になっちゃいけないんだよ」

萃香がまっすぐ目を見る。

説教までとはいかないが静かに諭してくる。

萃香「私がやってやるからさ、男はこんなことにならないでくれないかね。お願いだよ」

萃香が悲しそうな顔をしてそう言う。

俺は心の整理がつかなかったがあの萃香が悲しそうな顔をしている。それを理由に小さく頷いた。

萃香「………」

村人「う………」

萃香が、もだえ苦しんでいる村人の首を折っていく。

そこまでしてやる必要があるのだろうか。結局自業自得じゃないかとまだ憎しみがくすぶっている俺はそう思ってしまう。

萃香「………こいつらは、自分の命を捨ててまで私に立ち向かってきたんだ」

萃香が首の骨を折りつつそう呟く。どうやら俺の考えは表情にでていたらしい。

萃香「もちろん男にはこんな生き方をしてほしくない。でもだからってこいつらのこと否定できるわけないじゃないか」

ぽきりぽきりと首を折っていく萃香を眺める。

あの子達を殺したくせに今萃香に楽に逝かせてもらっている。

それが許せなくて、でも怒ることができなくてどうしようもないこの気持ちをどこにぶつければいいのかわからず拳を強く握り締める。

萃香「………終わったよ」

萃香が最後の人間の首の骨を折った。

地面に横たわる人間はもうもがき苦しむことも息をすることもない。

萃香「屍をさらしっぱなしじゃ可哀想だ。葬ってやってもいいかね」

萃香が振り向いて俺に確認を取ってくる。それに俺は全てはあの角の生えた妖怪のせいと必死に思い頷く。

萃香は小さく頷いて死体に向き直った。

何をするわけでもない。地面に穴を開けるわけでも、火をつけるわけでもない。

萃香は死体をただ見ているだけだった。

さぁぁと死体が砂のように崩れていく。

初めて見た萃香の能力。

密と疎を操る程度の能力。

それを使い萃香は人間を葬った。

この幻想郷に。

全ての死体が崩れ落ち、風に乗って幻想郷に散っていくのを見送った萃香はしばらくそこに佇んでいた。

もう二人とも行動力が尽き、どちらからともなく帰ろうという雰囲気になったので神社に向けての道をただひたすら無言で歩いていた。

帰ったら紫に会って話して見よう。おそらく紫は俺に、何か俺のことを隠している。

それがなんなのかは分からないが、ただの一人間である俺にそこまでさせる理由が見当たらない。

もしかしたらこの銃を使える条件があって、その条件に合うのが俺だったとかそういう理由かもしれないが確定していない今、不信感が募る。

萃香「なぁ、男」

萃香が話しかけてくる。その声色はいつもよりは少し落ち込んでいた。

萃香「思えば全部私が蒔いた種だったのかもしれない」

男「………なにがだ?」

萃香「あの角の生えた妖怪。鬼人 正邪っていうんだが、あいつは私と同じ鬼、っていっても天邪鬼なんだが私は昔から弱くて嘘つきなあいつが大嫌いで会うたびいつもなにかしらの暴言や暴力をあいつにしていた」

萃香が立ち止まって少し下を向く。

萃香「だからかもしれない、いやきっとそうなんだろう。あいつが強いやつを憎むようになったのは。もし私が弱いものを助け強きを挫くだったらあいつの性格はここまで歪むことはなかっただろう。でも私は強きを倒し、弱きを罵っていた。自分以外は全て見下し、自分の強さに、戦いに酔っていた。強いやつに勝てば自分はこんなにも強いのだと酒以上に酔うことができる。でも弱いやつに勝っても何も得るものはない。だから私は弱いやつを見下していた。いや、見下している。強きものを恐れ、怯えて接してくるその目が気に食わない」

萃香「どこまで言っても自分中心に考えているんだよ私は。弱さは罪だなんて誰が決めたことでもないのにそう思い込んで。それならよっぽど強さの方が罪じゃないかといったあいつの気持ちも良く分かる。いや、よく分かるなんていって欲しくはないのかもしれない。私がわかった気になってるだけなんだろうから」

萃香「強さ、圧倒的な格の違い。そこまで言っておきながら私は自分が蒔いた種が芽生え他人に迷惑をかけることを許してしまった。あいつがいう強者様のくせにだ」

いつもの豪放な性格は消え、今は弱々しく嘆いていた。

弱さを嫌っていた少女が今、弱さを俺に見せていた。

気の利いた返事が出来るほど俺は人生経験を積んではいない。

だから萃香の頭を撫でることにした。それぐらいしか出来なかった。

撫でられるのが嫌で怒るのでは、と撫でたときに思ったが、萃香は黙って撫でられていた。

さらさらとした少女の髪を梳くように撫でる。

弱みを見せてくれたのならそれを否定せず受け入れる。

弱さを人に見せることができるのもまた強さなのではないかと生まれて二十年の男が分かったように思う。

萃香を憎みなんてしない。だって正邪は嘘をついていたかもしれない。なら萃香が後悔しなくてもこれは起きたかもしれないじゃないか。そんな思いを萃香に伝えると萃香は

萃香「ありがとう。男」

と小さく笑って

トスッ

何度かそんな衝撃が俺を襲い地面に倒れ伏す。激痛はその後に来た。

男「う、がぁ、は」

背中に何かが刺さっている。刺さった何かは内臓を傷つけたらしく、口から血をはきだした。

正邪『鬼と寄り添えるただの人間。そんな不穏分子を生かしておいたら何が起きるか分からないだろう?』

正邪『守れなかったなぁ。やっぱり弱さは罪だな。なぁ、伊吹 萃香』

どこからか正邪の声が聞こえる。どこから聞こえているのかは森に反響してよく分からなかった。

痛みという熱が背中を焼く。

流れていく血をどうすることもできずただただ生を流し続ける。

カチッカチッ

萃香「男――い―こ」

萃香が叫んで俺の体を抱きかかえる。そのままものすごい速さで駆けていく。

萃香の顔も服も俺の血で汚れてしまってる。そんなことをぼやけた目で見た。

カチッカチッ

眠いけど、寝ちゃいけないんだろうな。

カチッカチッ

さっきからなんだこれ、うるさ

~少年サイド~

数日後、射命丸さんは地底に戻ってきました。帰ってきた射命丸さんの顔はあまり明るいものではなく、どうやら外の状況がひどいのだろうということを教えてくれました。

帰ってきた翌日、射命丸さんは地霊殿に呼び出され、さとりさん、勇儀さん、パルスィさんに外の話をしています。

僕はその中に入ることは出来ず、お燐さんと外で話しが終わるのを待っていました。

お燐「外、面倒なことになってるみたいだね」

少年『はい、外へ皆逃げ出すこともできませんし』

お燐「チェックメイトってやつかな。そういえば最近こいし様を見たかい?」

僕はそれに対し首を横に振ります。

最近こいしさんの姿を見かけません。僕はなぜかこいしさんの姿を普通に見ることができるのですが、僕が見えないということはおそらくこの地底のどこかへ出かけているのでしょう。

お燐「まさか外………ってのはないと思うけど」

それでももしかしたらと思ってしまうのがこいしさんの凄いところです。

仕方ないとはいえ、いつも突拍子もない行動をするのがこいしさんですから。

文「それでは失礼します」

どうやら話し合いが終わったらしく射命丸さんが中から出てきました。

文「あや、どうもこんにちは、少年さん、お燐さん」

笑ってそう挨拶をしてきますが、その笑顔にどこか疲れを感じました。

少年『射命丸さん。お茶でもいかがですか?』

文「いえ、すみませんが遠慮させていただきます。少し休みたいので」

お燐「そんなに外はひどいことになってるのかい?」

文「えぇ、今までの異変とは比べ物になりませんね。異変であれだけの人数の命が奪われるなんて初めてですから」

文「一応椛に会いに行ってみたのですが門前払いされましたね。今彼女は指揮官をしているみたいです。ずいぶん出世したみたいで嬉しいやら悲しいやら」

椛、という人物が誰なのかは分かりませんが、おそらく射命丸さんの旧知の人物なのでしょう

お燐「それで、これからどうするんだい?」

文「後はさとりさんに話を聞いてください。私は死ぬほど疲れてるので。それでは」

射命丸さんが屋敷内なのに凄い勢いで廊下を飛び玄関まで飛んでいきました。

お燐「まったく、迷惑な」

そう風によって埃が舞い上げられた廊下を見ながらお燐さんがため息をつきました。

お燐「外に行く!?」

お燐さんがさとりさんの言葉に驚きます。そういう僕もさとりさんの外に行くという言葉に驚きました。

さとり「えぇ、このまま後手にまわると取り返しのつかないことになります。いくら勇儀やお空がいるとは言えあちらの戦力はこちら以上。ならば先に私が行って工作をしておいたほうがいいでしょう」

お燐「確かにさとり様が最適ですけど」

さとり「心配してくれるのはありがたいですが、私は地底の管理人。皆を守る義務があるのです」

普段とは違うさとりさんのまっすぐな目を見て僕とお燐さんは何も言えなくなりました。

さとり「では私はすぐに出かけるので、お燐、少年。後のことは任せましたよ」

さとりさんは自分の部屋に戻ってしたくをしているようです。

僕は出来ることならついていきたいと思って荷物を今最小限に詰め込んでいます。

もともと持っているものは少ないですから小さなかばん一つに納まりましたが、僕がついていくことは出来るのでしょうか。

不安で堪らないのでさとりさんが出る前に先に結界がある入り口へ向かおうと思います。

小さなかばんを一つ持ち家を出ます。

途中お燐さんに出会ってしまい、散歩とごまかしましたが小さなため息をついていたのでおそらく僕の考えはばれてしまっているのでしょう。

でも、お燐さんならさとりさんに言わないと信じてそのまま家を出ました。

外では雪がところどころに残り歩行を妨げます。

小さい僕が息切れしながら歩いていると白いコートを羽織り、手袋とブーツを履いたちゆりさんに出会いました。

ちゆり「お出かけか? 少年」

少年『はい。ちゆりさんはどうしましたか?』

ちゆり「これを少年に渡しに来たんだぜ」

そう言ってコートのポケットから小さな拳銃を取り出しました。

男「?」

ちゆり「さっき勇儀から頼まれてね。自分の身を守れるものを持っていたほうがいいって。だからはいこれ。小さくても必殺の武器だ。扱いには気をつけろよ」

そういいながら拳銃を投げて渡してきます。僕はおっかなびっくりそれを受け取り、扱いには気をつけないといけないんじゃと思いました。

でもなんで勇儀さんが僕にこんなものを渡してくるのでしょうか。僕が考えていたことがバレていた、のでしょうか。

ちゆり「まぁ、元気でな。少年」

………ばれているようです。

僕の頭を撫でながらそういうちゆりさんの表情を見て核心しました。

あれから色々な人に見送られながら僕は結界がある地底の入り口まで向かいました。

入り口には勇儀さんとパルスィさんがいました。

勇儀「よっ」

少年『やっぱりわかってたんですね』

パル「しばらく一緒に暮らしていたもの。さとりまでとは言わないけどあなたのことは理解してるつもりよ」

勇儀「まぁ、さとりがこのこと知ってるかはわからないけどな。あいつ変なところで鈍いから」

パル「さて、と、少年本当に外へ行くの? 外は危険って知ってるでしょ。今は戦争中なんだから」

その言葉に僕は悩まずこう答えました。

少年『今まで皆さんにはお世話になりました。だから恩返しがしたいんです』

勇儀「恩返しって馬鹿だな。そんなこと子供が考えなくていいんだよ」

勇儀さんが僕の頭をわしゃわしゃと撫でます。

なんだか今日は撫でられてばかりですが、皆さんに大切にされているということはとても嬉しく思わず顔がほころんでしまいます。

少年『それに、さとりさんを守りたいのです』

守れるなんて思わないけど、そばにいれば何か出来るかもしれない。ただ僕がさとりさんと離れたくないという理由もあるがそれでも僕だって男です。好きな人を守りたいのです。

パル「………あいつが少年みたいに一途だったら私も救われたかしら」

勇儀「おーい。子供がいる前でそんなこと言うなよ」

パル「ごめん。まぁ、そのおかげで私は今が楽しいからプラスマイナス0、いやプラスなんだけど」

勇儀「最近お前素直になったよな」

パル「子供がいる前で本性出せるわけないでしょ」

二人の会話を聞いているとまるで夫婦のようです。

いえ、勇儀さんは女性なのですが。

パルスィさんの本性。一度見たことはありますがそれはもうできれば経験したくないですね。

さとり「勇儀……って少年」

パル「ほら少年。愛しのさとりが来たわよ」

さとり「愛しのって///」

パル「くっそ妬ましい………」パルパル

勇儀「さっき子供がいるから本性は出さないっていったばっかりなのにな」

さとり「えっと、なんで少年は―――駄目っ!!」

さとりさんが僕の心を読んだらしく叫びました。

さとり「少年に何かあったら私………」

少年(………さとりさん)

勇儀「まぁ、信じてやりなよ。いくら辛くてもやらなきゃいけないときがあるんだよな。男の子には」

パル「気持ちは分かるけど本当に危ないと思ったらこっちに戻ってこれるんだからまずはおためし………ってまぁそんなに軽く決められないわよね」

さとり「もし、もし少年が危ない目にあったら」

少年『大丈夫です。自分の身は自分で守ります』

そう書いて僕はさっきもらった小さな拳銃を取り出します。

さとり「………あなた、人撃てないじゃない」

少年「………」

少年(さとりさんを守るためなら)

さとり「///」

勇儀「パルスィ、堪えろ」

パル「うぐぐぐぐ」

さとり「分かったわ。私は少年が危ない目にあわないように常に周りに気を配る」

勇儀「まぁ、さとりの読心さえあれば奇襲は無理だろうからな」

パル「じゃあ二人一緒にってことでいいかしら」

さとり「えぇ」

少年『新婚旅行が危ないものになっちゃいますね』

さとり「///」

勇儀「じゃあ、開けるぞ」

勇儀さんが薄く金色に光る結界を両手で掴みゆっくりゆっくりこじ開けます。

勇儀「早く、通ってくれ」

あの勇儀さんの腕がぷるぷると震えているところを見るとどうやらこの結界をこじ開けるのはとても大変なことのようです。

さとり「行くわよ、少年」

少年『はい』

勇儀さんが開けてくれた人一人がやっと通れるくらいの隙間を抜け、久しぶりに外の世界に出ました。

勇儀「がんばれよ! 二人共!!」

さとりさんが出たと同時に結界が閉まります。閉じた結界の向こうで勇儀さんたちが何か喋っているようですがどうやらこの結界は声も通さないようです。

思えば自分の力で外を歩くのは初めてかもしれません。いつもはこいしさんに担がれて外の世界を移動していましたから。

冷たい六畳間から温かい地底へ、そして今僕は太陽が大地を照らす地上に立っています。

ここ半年でどれだけのことを体験したでしょうか。それは今までの僕の人生を取り戻すかのように濃い時間でした。

そして今から僕は大好きな人と、大好きな人たちを守るために命を懸けて頑張ろうと思います。

少年『頑張りましょう。さとりさん!!』

さとり「こんなときはこうするのだったかしら」

さとりさんはくすりと微笑み片手の拳を固めてガッツポーズのような形で構えます。

さとり「えいっえいっ」

男(おー!!)

さとり「おーっ」

こいし「おーっ!!」

さとり「………え?」

~男視点~

暗闇の中だった。ただひたすら暗い闇の中に立っていた。

いや立っているという表現は正しくない。地面を踏みしめる感触がなかった。

俺は浮いている。落ちていることに気がついていないだけかもしれない。

なぜこんなところにいるのだろうか。

足を動かして前に進むも景色は黒以外ないので進んでいる気がしない。

そこで初めて不思議なことに気付いた。

俺の体だけは見える暗闇の中だというのに俺の体だけは日の下にいるときと同様に見える。

それがどういうことかは分からないがとにかくここはただの暗闇ではないらしい。

ところで皆は一体どこにいるのだろうか。暗闇よりそっちのほうが不安だ。

手を振り回して手探りに進むも人おろか壁にすら触れることはない。しゃがんで地面に触るも地面もない。

さてどうしたものかとこの不思議な空間にいるというのにやけに冷静な頭で考える。

そして出た結論はどうしようもないということだった。

やることもなくただひたすらに前へと進みながら秒数を数え続ける。

1、2、3、4、5

そうやって秒数を数えていくうちに意識せずに口は秒数を数え、足は前へと進んでいた。

そして口が数える数が2万を超えたあたりころ、暗闇の中に光が見えた。

その光に向かって走っていくとそれが光ではなく、人の形をしていることに気付いた。

もしかしたら何かこの状況について知っているかもしれない。

男「あの、すみません」

???「はじめまして」

男「っ!」

その人の顔を見る。

それは女性だった。しかし皮膚が見える場所には全てうろこがびっしりと生えている。まるで漫画で出てくる二足歩行の龍のようだ。

男「あの、ここは」

萃香なんかと違って本当に妖怪じみたその女性にびっくりしつつもそう聞くと女性は笑ってこう答えた。

???「幻想郷ですよ」

いやいやそんなことは分かっている。聞きたいことはここが幻想郷のどこなのかということだ。質問を幻想郷のどこかに変えて再度質問する。

???「幻想郷です」

………言葉は通じているのだが、彼女は壊れたCD、もしくはゲームの住民のように同じことしか話さない。

俺は諦めて彼女について聞くことにした。

男「あなたは一体誰なんですか?」

???「あなたのお母さんです」

男「………」

???「なんと嘘です。うふふ。騙されましたね」

男「分かってます」

びっしりうろこが生えていているのに表情はとてもおだやかに笑う。そのせいか怖いという感情よりも安堵を感じた。

???「いずれ分かります」

そんなこといわれると逆に気になってしまうのだが。

なので無理を承知で問いただそうとすると腕を誰かに引っ張られた。

振り向くとそこには見覚えのある小さな少年達がいた。

羽少年「よっ。にーちゃん」

男「おぉ、どうしたこんなところで」

わしわしと頭を撫でてやると羽少年は嬉しそうに笑った。

犬耳娘「おにいちゃんはなんでここにいるの?」

男「分からん」

こっちが聞きたいくらいだ。こいつらに聞けば教えてくれるだろうか。口ぶりからして知っているみたいだし。

男「どこなんだここ」

犬耳娘「幻想郷だよ」

またそれか。で、結局幻想郷のどこだっていうんだよ。

角娘「も、もしかしてお兄さんも行くの?」

???「いえ、行きませんよ」

角娘「よ、よかった」

どこに行くんだよ。教えてくれよ。

羽少年「絶対にーちゃんはこっちくんなよ! 絶対だからな!!」

犬耳娘「駄目!」

角娘「こ、こないでっ」

凄い拒否のされようだが俺は何かしただろうか。結構傷つく。

そんな傷心気味の俺に追い討ちをかけるように羽少年が無理やり手を取って指きりをはじめた。

羽少年「指きり拳万嘘ついたら針千本のーます!! 指切った!! 約束だからな!!」

おいおい。そこまでしなくてもいいじゃないか。言われたことはさすがに聞くよ?

苦笑いしながら頷く。

羽少年「じゃあなにーちゃん! また会えたらその時は空手教えてくれよな!!」

犬耳娘「今度会ったらお嫁さんになってあげるっ」

角娘「ぼ、ぼくも」

? 嫌われたと思ったらそうでもないようだ。

いったい何がなにやら。

そんな人生初めてのモテ期を体感しながら首をかしげる。

男「あぁ、約束な」

羽少年「約束なんていらねーよ!」

犬耳娘「うん」

えー、どういうことだよ。変な反抗期ですか?

鬼娘「さ、さようなら」

犬耳娘「ばいばい」

羽少年「じゃあな!」

男「またな」

かけて行く少年たちを見送って手を振る。少年達は暗闇の中へ消えていった。

???「それではあなたはもうそろそろ時間ですよ」

男「へ?」

鱗の女性がいきなりそんなことを言う。

わけが分からずに口を開けて呆けているとしだいに俺の体が薄くなっていった。

男「え!? ちょっ!?」

あわてるも何も出来ず鱗の女性にすがろうとした

が、手は通り抜ける。

???「頑張ってください」

微笑む鱗の女性は俺に向かって手を振るだけで今俺に何が起きているのか教えてはくれない。

そして俺の体が下から消えてゆき、腰、胸、首、口、鼻。そして耳が消える直前

???「―――を守ってあげて」

と言っていたのだが耳が消えていっているせいでよく聞こえなかった。

そして目が消えて、頭も消えて

目を覚ます。

夢を見ていたような気がするが、どんな夢を見ていたのかまでは覚えていない。

それよりここはどこだろうか。見渡すと知らない妖怪ばかり………いや

魔理沙「すやすや」

なぜか魔理沙が隣で寝ていた。

男「えぇー………」

意味が分からない。とりあえず寝ていたベッドから降り

男「ん? あれ?」

来ている服がいつもと違う。こんな服を持っていただろうか。まるで病院で着る―――

思い出した。俺後ろから矢でうたれて

男「あれ、でも痛くないな」

背中を触ると傷口がふさがっている。すげぇ、幻想郷の病院。河童の塗り薬でも使っているのだろうか。

鈴仙「あ、起きたんですね」

仕切りのカーテンの少し開けて兎の耳の生えた少女が顔をだす。

着ている服はブレザーだが、おそらく看護師なのだろう。

鈴仙「じゃあ傷の様子を見させてもらいますね」

そういって兎の少女が俺の背中をめくる。

鈴仙「あれ、もう治ってますね」

驚いたような声を上げたが、この看護師は自分のとこがどんな治療をしているのか把握してなかったのだろうか。

男「ここはどこなんだ?」

鈴仙「ここは永遠亭の妖怪側の病棟ですよ。あなたは人間ですけど特別扱いですね」

ぺたぺたと俺の背中を触りながら兎の少女がむーと唸ったりする。少しくすぐったくて身をよじる。

鈴仙「ちょっと師匠呼んで来ますね」

兎の少女がぱたぱたと小走りで病室から出て行った。

魔理沙「んぅ。むにゃむにゃ」

男「起きろ」

ベッドで気持ちよさそうに寝ている魔理沙の鼻にでこピンをする。

魔理沙「ふぎゃっ!」

男「なんで俺のベッドで寝てるんだよ」

魔理沙「お見舞いに来て眠かったから寝た」

男「簡潔な説明ありがとう。とにかく起きろ」

魔理沙「へいへい。んでもう起きて大丈夫なのか?」

男「あぁ、治ったからな」

魔理沙「治ったって………お前どんな体してんだよ」

いたって普通の体である。ためしに魔理沙を抱えてみるがが一般人並みの力しかでていない。

魔理沙「お、おいっ。降ろせっ!! 恥ずかしいだろっ」

男「罰じゃ」

永琳「邪魔して悪いようだけど、検診いいかしら?」

カーテンを開く音がして、そっちを見ると銀髪の女性とさっきの兎の耳の少女が立っていた。

永琳「本当に傷治ったの?」

男「? ここの治療で治ったんじゃないのか?」

永琳「そういう薬作ろうと思えば作れるけど、体に悪いから処方はしない、だから基本的に自然治癒を助ける薬しか使わないわ」

男「?」

永琳「あなた、人間?」

人間………そう改めて聞かれるとどう答えればいいかわからないが自分では人間と思っている。

だって今まで普通に暮らしてきたんだから人間以外の何者になるというんだよ。

映姫「すみません。それは私が原因なのです」

銀髪の女性のさらに後ろから四季さんが顔をだす。

治ったのが四季さんのおかげ?

映姫「私がここの薬を使わせてもらいました。知り合いが死ぬと悲しいのでつい動転してしまったのです」

永琳「あなたが?」

映姫「えぇ。申し訳ありません」

永琳「………………そう、少し話がしたいわ。こっちに来てもらえるかしら四季映姫」

映姫「えぇ」

男「俺のためにしてくれたんだから責任は俺にしてくれ」

永琳「別に、責任なんてそんな話はしないわ、ちょっとね」

………四季さんに迷惑がかからなければいいが。

そう部屋から出て行く四季さんたちを見送りながらそう願った。

魔理沙「あー。まぁ、なんだ回復したならなによりだ」

鈴仙「ですね。ところで今日中に退院はできると思いますがどうします?」

男「退院する」

魔理沙「なぁ、別にこのまま何日か治ってないふりして休んでもいいんだぜ? あんなことがあったんだし」

魔理沙が心配してくれたらしく、上目遣いで尋ねてくる。

その気持ちはうれしいが俺には休んでる暇なんてない。俺はみんなを守らなければいけないんだ。銃の効果範囲は半日。誰かが死んで半日経ってしまうと取り返しがつかなくなる。

それに、なんだかものすごく誰かを守らないといけないって気がするし。

男「いや、いいよ。ありがとうな」

魔理沙「本当自分のことは大切にしてくれよ? 死んだら元も子もないんだからな」

男「萃香にも似たようなこと言われた」

鈴仙「じゃあ退院ということでいいですね。手続きに時間がかかるんでできたらまた呼びにきますのでここでゆっくり待っててくださいね」

男「あぁ。よろしく頼む」

再びぱたぱたと部屋を出て行く兎の少女を魔理沙の頭をなでながら見送った。

魔理沙「恥ずかしいからやめてくれ」

手続きの時間とはなかなかかかるらしくもうすでに一時間以上経っているような気がする。実際は時計がないのでどれだけ時間が過ぎたのかはわからない。

このままベッドの上で魔理沙と話し続けるのもなんなので出歩いてみることにする。魔理沙と一緒ならば他の妖怪にちょっかいをだされる心配はないだろう。

仕切りのカーテンを開いて病室内を見てみる。どうやらこの部屋にはベッドが12個あるらしくそこには明らかに妖怪らしき妖怪や、一見人間に見える妖怪がいた。

カーテンの向こうから出てきた人間の俺を見て数人は驚いた顔をしていたが魔理沙が近くにいるので納得したらしくそれ以上は何もリアクションを起こさなかった。

さて、と立ち上がったはいいが特にすることもない。適当に出歩いてみよう。妖怪がいたとしてもここは中立だ。そうそう争いごとを起こすやつはいないだろう。

そう判断して廊下にでようとする。

羽男「………お前が男か?」

しかし出る前に部屋の中に入ってきた羽の生えた男に呼び止められた。

男「あ、あぁそうだが」

羽男「そうか、お前がか………」

男の声は疲れきっていた。顔を見ると目の下に隈があり顔色の悪いように見える。

魔理沙が警戒して俺と男の間に入ってくるが男は魔理沙の存在なんて気にせずもう一度「お前がか」と俺の顔をじっと見て繰り返した

いったい何なんだと思ったがこの男の顔をどこかで見たような気がする。

いや見たというか誰かを思い出す。

『にーちゃんっ!』

男「あ………もしかして羽少年の」

羽男「父だ」

男は羽少年が順調に年を取ったらこういう風になるんだろうなというほど似ている。

男「その、俺は」

責められるのだろうか。俺が生きていてあいつらが死んでいるから。

理不尽だとは思うが子を思う親の気持ちが理解できないわけでもない。俺だってこんなに悲しいのだ。子供を失った親がどれだけ悲しいことか。

想像できるとはいえないが俺の胸の痛みの数十倍は痛いはずだろう。もしかしたら数百倍かもしれない。

羽男「あいつは………どうだったか? 楽しそうだったか?」

男「楽しそうだった。いつも笑顔で」

笑ってはしゃいで、毎日を楽しそうに生きていたんだ。子供らしく一生懸命に楽しんでいたんだ。

羽男「あの子の話をしてもらっていいか?」

男「あぁ」

通路にあった長椅子に座る。魔理沙はついてきたが聞いていいものかと迷ったらしく少し離れた場所に立っていた。

椅子に座った男はうなだれ実際よりも酷く小さく見えた。

男「一番最初に俺に懐いてくれて。数日だけだったけど本当楽しそうで。こんなところにいないといけないけど、にーちゃんと四季さんがいるからそれでも楽しいって、言ってくれて」

羽男「………そうか」

男はぽつりと小さく呟いて目元を拭った。

羽男「あいつは家でもやんちゃでな。いたずら好きで、反抗期で………でも」

男「優しくて、明るく、みんなに好かれる」

そんなあいつに俺はどれだけ救われたことか。どんなに気持ちが沈んでもあそこに行けば気分が晴れた。もし最初にあいつがいなければ俺はあの空間に溶け込めなかったかもしれない。

人間の俺に勇気をだして話しかけてくれたあいつがいたから俺はこの辛い世界を挫けることなく生きてこれたんだ。

羽男「………ありがとう。外の世界の人間。私からとあの子からの感謝だ」

男「………こんな俺で、よかったのなら」

羽男「十分だ」

男がこっちを見て涙を流しながら微笑んだ。

通路にあった長椅子に座る。魔理沙はついてきたが聞いていいものかと迷ったらしく少し離れた場所に立っていた。

椅子に座った男はうなだれ実際よりも酷く小さく見えた。

男「一番最初に俺に懐いてくれて。数日だけだったけど本当楽しそうで。こんなところにいないといけないけど、にーちゃんと四季さんがいるからそれでも楽しいって、言ってくれて」

羽男「………そうか」

男はぽつりと小さく呟いて目元を拭った。

羽男「あいつは家でもやんちゃでな。いたずら好きで、反抗期で………でも」

男「優しくて、明るく、みんなに好かれる」

そんなあいつに俺はどれだけ救われたことか。どんなに気持ちが沈んでもあそこに行けば気分が晴れた。もし最初にあいつがいなければ俺はあの空間に溶け込めなかったかもしれない。

人間の俺に勇気をだして話しかけてくれたあいつがいたから俺はこの辛い世界を挫けることなく生きてこれたんだ。

羽男「………ありがとう。外の世界の人間。私からとあの子からの感謝だ」

男「………こんな俺で、よかったのなら」

羽男「十分だ」

男がこっちを見て涙を流しながら微笑んだ。

羽男「最後に子供たちを殺した相手を知ってるか?」

男「………」

知っている。

だがそれを教えていいものか。こいつがもし強かったのしても相手は正邪だ。またあの術で強い人間を作り出すのだろう。

勝ち目は薄い。死ににいくようなものだ。

でも俺がそれを言ってなにか意味があるのだろうか。俺の復讐は萃香に止められた。だけどこいつの復讐を止めることは俺にはできない。百や千の言葉を使っても俺ではこいつを止めることはできないんだ。

男「正邪っていう天邪鬼だ」

悩んで俺は正邪のことを教える。萃香が倒してくれるといっていたことを付け加えて。

もしかしたら萃香の名前をだせばおとなしく復讐をやめてくれるかもしれない、というそんな卑怯な保険。

羽男「そうか。ありがとう」

男が立ち上がって頭を下げて歩いていった。

あの男は死ぬのを覚悟しているのだろう。最後にみた表情は何かを決心したような表情だった。

魔理沙「ハンカチ………」

羽男の姿が完全に見えなくなったころ魔理沙が近寄って白いレースの女の子らしいハンカチを差し出した。

男「ん、ありがと」

魔理沙からハンカチをもらって流れる涙を拭く。

羽少年の話をして、もうあいつがいないことを再認識して涙が流れた。

数日で吹っ切れるほど俺は強くない。

魔理沙「………私がいるから、なんてそういうことは言わないけどさ。頼りたかったら頼ってくれ。そうしたらこの魔理沙さんはどこまでも力になってやるからさ」

男「うん、ありがとうな、魔理沙。頼っていいか」

魔理沙「おう」

男「しばらく一緒にいてくれないか」

魔理沙「まかせろ」

魔理沙の袖を掴んで今まで以上にあふれ出る涙を抑えきれずにハンカチで顔を覆う。

ただ魔理沙は優しくずっとそこに立っていてくれた。

魔理沙「案外さ、お前のこと頼りにしてるんだぜ?」

男「………なんでだ?」

泣き終えしまおうとしたハンカチを魔理沙にむりやり回収されたりしながら廊下で二人っきりで過ごしていると魔理沙がいきなり照れくさそうな顔でそういった。

魔理沙「守ってくれるんだろ? 萃香に鍛えてもらってまで」

男「そのつもり。あんまり自信ないけど」

魔理沙「十分だよ。男にそんなこと言ってもらうの初めてで嬉しかった。女の子はそれだけでまた戦えるんだぜ?」

男「男もだよ。守りたい人を守るためなら何度でも立ち上がってみせる」

そんなくさい台詞をはいてしまいすごく恥ずかしくなったが魔理沙は顔を赤くして笑った。そんな二人の様子がおかしくて顔を見合わせて俺はわははと魔理沙はえへへと笑った。

魔理沙「身近にいた男なんてさ親父と朴念仁ぐらいだからさ。なんか男は初めてのお兄ちゃんというかなんというか。まあそんな感じなんだ。だから大好きだ」

男「俺もだ。妹みたいだもんな」

魔理沙「えへへ。ありがとうな」

男「こちらこそ」

鈴仙「手続き終わりましたよー。もう退院して大丈夫です」

兎の少女が小走りしながらそう教えてくれる。

時間はおそらく数時間経っているだろう。外の太陽を見て推測する。

とくに持って帰る荷物もないので魔理沙が箒を取ってくるのを待つ。

鈴仙「なんか体がおかしいなーなんてことがあったらもう一度来てくださいね」

男「わかった。なぁ、ひとつ聞きたいんだがなんでここ中立なんだ?」

鈴仙「静かに暮らしたいからですよ。だからどっちの味方もしませんし敵にもなりません。ただ治すだけです」

男「そうか」

魔理沙「お待たせ。帰るか」

男「おう。さっきのお医者さんにありがとうって言っといてくれな」

鈴仙「わかりました。それではお気をつけて」

魔理沙の箒の後ろに乗せてもらい飛ぶ。

今いたところは永遠亭、迷いの竹林。そこから東に向かって飛ぶ。高度が戦闘を避けるために高いうえ人間の里を避けているので結構な長距離だが魔理沙の箒のスピードは速くぐんぐんと移動していく。

この前はスピードに耐えれなかったが今回は魔理沙が俺に防御魔法をかけてくれているのでなかなか快適だ。

それでも落ちたらさすがに今度は死ぬという恐怖心はある。

が、まぁ魔理沙だからそれはない。たとえるならジェットコースターのような安心が約束された怖さだ。

魔理沙「? あそこ変じゃね?」

突然魔理沙が地面のほうを指差す。その方向を見ると冬だというのに一面に花が咲き乱れていた。

魔理沙「幽香かな。あそこは魔法の森の近くなんだが、何しに? 気になるから降りてみるか」

男「大丈夫なのか?」

魔理沙「大丈夫だ。森の中を低飛行で突っ切ればいいし。アリスもいるし」

アリスという人物が誰なのかはわからないがどうやら魔理沙の知り合いでなかなか信頼されている人物のようだ。

魔理沙「んじゃ、行くか」

そういうやいなや魔理沙が急激に高度を落とす。地面に対して直角近くまで箒が傾いているのでおもわず魔理沙にしがみつく。

わずか十数秒で地面から十数メートルまでの高さになる。そこで急ブレーキをかけたが魔法のおかげで衝撃が来ることはなかった。

見た限り魔法の森は光もあまり射さない木々が鬱蒼と茂った森みたいだ。そんな森に花が咲き乱れているのは不自然を通り越して不気味だ。

そういえばなぜ幽香はこんな自分の居場所を知らせるようなことをしているのだろうか。

戦いたいからか、自分の存在をアピールして他者が近づかないようにしているか。

幽香らしいのは前者だがただの偏見なので確信はない。

魔理沙「さて、と。最初に言っておくが事故ったらすまん」

そんな不安なことを宣言して魔理沙が魔法の森の中へと飛んでいく。

森の中は外から見たのと同じ、いやそれ以上に暗い。

魔理沙「花は全体的に咲いてるのか。道みたいになってればよかったんだがこれじゃあ居場所の特定はできそうにないな。とりあえず適当に飛ぶか」

魔理沙は木々の隙間を綺麗に縫いながら飛んでいく。どうやらさっきの言葉で心配する必要はなさそうだ。

魔理沙「っ!」

魔理沙が急に止まる。なんだと思った瞬間魔理沙の一メートルほど前に鉄製の槍を持った50センチほどの人形が六体並んでいた。

魔理沙「アリスの半自動防衛人形か。そういやここらへんはアリスの領域だったな」

魔理沙がそう言っている間にも人形は近づいてきていた。人形からは透明な光る糸が出ておりどうやら誰かが操っているようだ。魔理沙の言葉から察するにアリスが操っているのだろう。

魔理沙「男、気をつけろよ。今から無理やり突破するから」

俺の返事を聞かずに魔理沙が加速する。人形はその速度に対応して追いかけてくるが魔理沙はそれを縦や横に移動して避ける。防御魔法が張られているから速度による被害はないが揺さぶられるため酔ってしまいそうだ。

どうやら魔理沙は逃げているのではなく一定の方向に進んでいるらしい。そしてその方向に行くにつれてどんどん花の密度が上がっている。

木々を避け、人形を避け、それを繰り返しているうちに大きく開けた場所にでた。

そこには小さな白い洋館が建っており一面にスノードロップの花が咲いていた。まるで雪が積もっているように見える。

そして玄関の扉の前で驚いた顔でこっちを見る碧眼金髪の少女。

魔理沙「なぁアリス。あれ止めてくれよ」

その言葉と同時に森の中からさっきの人形が飛び出して魔理沙と俺に襲い掛かってくる思わず魔理沙を抱きしめる。

が、痛みはやってこなかった。振り返ると人形は直立して槍を構えずにそこに綺麗に並んでいた。

アリス「こんな時だものセキュリティーを厳しくしておくのは当たり前よね。だから謝らないわよ?」

アリスと呼ばれた少女はそう言って優しく微笑んだ。

魔理沙「別に怒ったりはしないけど中に入っていいか?」

アリス「えぇ。かまわないわよ。でもそこに咲いてる花踏んじゃうと幽香が怒るわよ?」

魔理沙「おっと危ない。降りて普通に歩こうかと思っていたぜ」

魔理沙がスレスレをすべる様に飛ぶ。玄関について俺を下ろして箒を壁に立てかけた。

アリス「そっちは?」

アリスがいまさらながら俺を怪訝な目で見る。

それもそうだ。俺は人間だからな。念のため怪しくないよとホールドアップしておく。

魔理沙「余計怪しいぜそれ。普通にしてろって。こいつは男。今うちで預かってる人間。敵ではないから安心しろ」

アリス「そう」

そういいながらも俺を見る目はそんなに変わらない。まぁ男というだけである程度の不安材料かもしれないからな。

しかし俺が万一襲い掛かったところで一瞬でネギトロめいた物体にされるだけだと思うのだが。

魔理沙「んじゃ、邪魔するぜ」

中に入る魔理沙に続く。アリスは外を見回して人形達を森の中に移動させてドアを閉めた。カチャリと鍵を閉める音が響く。

アリス「リビングに幽香がいるわ」

廊下を突き当たった先にあるすりガラス付きの扉を開け中に入る。リビングの中は人形がたくさん置いてあること以外よくテレビで見るような洋風の部屋だった。

幽香「あら」

部屋の中央に位置する机とソファーで幽香が優雅に紅茶を飲んでいた。

かすかに香る甘い花のような香りは幽香の匂いだろうか。

幽香「魔理沙に男じゃない。どうしたのよこんなところで」

アリス「人の家をこんなところとはひどいじゃない?」

魔理沙「空から見て凄い花が咲いてたからな」

幽香「人避けよ。と言ってもたまに人を導いてしまうけども。この私に戦いを挑む馬鹿がいるのよね」

幽香がやれやれとため息をつく。どうやら幽香は自分の強さに絶対的な自信を持っているようだ。

男「それでなぜ幽香はここに?」

幽香「アリスに呼ばれたのよ」

魔理沙「アリスに?」

アリス「ちょっと相談したいことがあってね。魔理沙は私のグリモワールについて知ってるわよね」

魔理沙「あぁ、あの開かない本だろ?」

アリス「そう、その本を使ってしたいことがあったのよ。だから手伝って頂戴」

アリスが魔理沙を連れて他の部屋へと消える。残されたのはソファーに向き合って座る俺と幽香。

幽香は静かに紅茶を飲んでいるが威圧感が凄くこの部屋を思わず出て行きたくなる。

幽香「ねぇ」

よし出て行こう。外の空気を吸いに行こうと立ち上がろうとしたとき幽香が話しかけてくる。少し浮かせた腰を下ろして少しうわずった声で返事する。

幽香「何よ。私ってそんなに怖いかしら?」

そりゃあ初対面があれだったから。もちろん口にはださない。

男「いや、幽香強いからさ」

幽香「取って食ったりしないわよ。暇だから話をしたいだけ」

男「それなら、まぁ」

いいかと思って深くソファーに座る。話だけならまた投げ飛ばされたりすることはないだろう。

上海「シャンハイ」

この部屋に二人以外の声がした。その声がしたほうを向くと可愛らしい人形がティーカップを持って空中に浮いていた。

いないのにこんなに精密の動くのかとかいつのまにとか可愛い人形だなとか喋るのかよとかいろいろ思ってしまって結局ありがとうとしか言えず紅茶を受け取った。

その言葉に人形はシャンハーイと喋って、いや鳴いて? 笑ってどこかへ消えていった。

まるで生きているようだ。

幽香「生きてないわよ」

俺の思考を読んだかのような言葉を幽香が言う。

幽香「どこまでいっても人形は人形。完全自立なんて夢のまた夢。まぁ、あの子はその夢を信じてるみたいだけど」

そう言って幽香が扉のほうを見る。

あの子とはアリスのことだろう。アリスはどうやら自動で動く人形を作ろうとしているのだろう。

しかし完全自立とはそれを人形と呼べるのだろうか。ロボットだって誰かに操ってもらわなければ動けない。操り手のいない人形を人形と呼ぶのだろうか。

幽香「ねぇ、外の世界って楽しいのかしら」

男「お前もか」

なんだかやたらと外の話を聞かれる。ここではそんなに外のことが珍しいのだろうか。

幽香「知らないことを知りたいのは知性をもつ生物としての基本的欲求。知らないほうが良い情報も知りたいと思うほどその欲求は強いもの。違うかしら」

男「そのとおりだが」

当たり前のことを話そうとするのはどうしても難しい。魔理沙や子供たちに話したように少し誇大して話すのならまだし幽香はそんなことを求めてはないないだろう。

だが俺の持っている幽香の望む外の情報。それをまとめて吐き出せるほど俺はトーク力を持っていない。

幽香「難しかったかしら。じゃあお題をつけましょうか。あなたの人生………どうかしら」

男「俺の人生なんて聞いててそう楽しいもんじゃないぜ?」

幽香「面白いかなんて期待してないわ。ただあなたを知りたいだけよ」

………少しタイプだったからそんな言葉を言われると少し照れる。そういう意味じゃないとしてもだ。

男「えっとな」

俺の平坦でつまらない人生を話す脚色も加えてないので面白くもなんともない。

大きな不幸も大きな幸福もないエンターテイメント性にかけた俺の人生。それを幽香は黙って紅茶を飲みながら聞いていた。

相槌すらも打たずこの部屋には俺の声と紅茶をすする音しかない。

そして特に山場もないのであっさりと話し終えてしまった俺の話を聞いて幽香は

幽香「つまらないのね」

と言い捨てた。

幽香「本当何もなさ過ぎて逆に珍しい人生ね。人は誰でも挫折や苦悩を味わうものだと思ってたけど」

幽香は紅茶を飲み干しティーカップを机の上のソーサーに置いた。そして

幽香「ずいぶん薄っぺらい人生送ってるのね」

なんて辛辣な言葉を俺に投げつけてきた。

面白くない、中身がないというのは重々承知だがそれを言われるとまた辛いものがある。

しかも期待してないとまで言われてるのにこの言葉だ。

一気に疲れてソファーに沈みこむ。

幽香「別に気分を害そうとして言ったわけじゃないわ。本当珍しすぎるくらい普通なのよ」

男「わかってるけどさ。キングオブ普通だって。それでも漫画みたいな人生にあこがれてる一般的な男としては現実を突きつけられると辛いものがあるんだよ」

幽香「劇的な人生なら今現在送ってるじゃないの」

男「まぁ、そういえばそうなんだが」

妖怪や魔法使いに囲まれて生活するのはたしかに漫画らしいがとても胸が躍るような楽しいものとはいえない。魔理沙や四季さんに出会えたことは嬉しいことだが。

幽香「嘆いても時は戻らないし、進み続ける。悲劇も喜劇もひっくるめて全てしかたないとあきらめなさい」

男「………無理だろ」

そんなことができるはずない。20年ほどしか生きてない俺には。

幽香「そうね。そんな生き方できるのは仙人くらいよ」

ならいうなよ。

なんだかずっと幽香のペースでどんどん疲れが溜まってくる。

早く魔理沙戻ってこないかなぁ。

その願いむなしく魔理沙が帰ってくるのは数時間後だった。

それから幽香にいろいろからかわれたりしながら時間は流れていく。俺の疲労比例しながら。

結局の話この妖怪は俺のことをおもちゃにして時間をつぶそうとしたらしい。怒る前にそう笑いながら告げられ怒る気もうせた。どうせ怒ったところで何もできないのだ。

魔理沙「おっすおっすすまん時間がかかったってなんだ幽香。男をいじめてたのか?」

ぐったりしてる俺を見て魔理沙が察する。その問いに幽香は笑いながら肯定した。

幽香「なかなか面白いおもちゃじゃない。これ」

ついには人扱いまでされなくなっている。

魔理沙「相変わらずドSだな」

魔理沙がため息をつきながら帽子を整える。

魔理沙「帰るか、男」

男「………よろこんでー」

幽香「あらあら。嫌われたかしら」

男「嫌うというか………天敵、かな」

こうして俺の数多くの天敵の中に風見 幽香の名が刻まれた。

アリス「今日はありがとう。これ中にケーキが入ってるから食べてね。男も幽香が迷惑かけたみたいだから食べて頂戴」

人形が箱に入ったケーキを手渡してくる。なんと優しいことか。未だ結構他人行儀な態度だがそれでもありがたい。

アリス「また来なさい。紅茶ぐらいなら出せるから」

魔理沙「おぅ」

男「世話になった」

アリスに別れを告げ箒をまたぐ魔理沙の後ろに座る。ケーキを崩さないように水平に保って。

手を振る人形達に見送られながら魔理沙が空へと駆け上がっていく。

ケーキのことを忘れて。急角度で上昇していっているからおそらくケーキはぐしゃぐしゃになっているだろう。

男「じゃあ帰るか」

魔理沙「って言っても一日しか経過してないんだけどな」

夕焼けの空を博麗神社に向かって飛ぶ。

いつもどおりの魔理沙のスピードでぐんぐん魔法の森は遠くなり。ぐんぐん博麗神社が近くなった。

チルノ「ししょぉおおぉおおっ!!」

境内に下りた瞬間チルノが猛スピードで頭からタックルをかましてきた。俺は直撃して吹っ飛び、魔理沙も巻き込まれて吹っ飛ぶ。

チルノ「師匠師匠師匠っ!!」

チルノが胸にしがみついて半泣きで師匠と連呼する。

地面は硬いわ胸の中が冷たくてやわらかいわで混乱してると起き上がった魔理沙がチルノを引っぺがした。

魔理沙「お前もうでかいんだから気をつけろよ」

現在チルノの身長は150程度である。それが走りながら体当たりをしてくると結構な衝撃がある。

魔理沙「感動の対面はいいんだけどな」

チルノ「ごめん」

とりあえず立ち上がって服についた土を払う。どこも怪我をしてないようでなによりだ。

男「魔理沙。大丈夫か?」

魔理沙「怪我はないけどな」

それは良かった。とりあえず罰としてチルノの頭を乱暴に撫でる。チルノはあうあうと鳴きながら抵抗をしていたがしばらくしておとなしく撫でられていた。

萃香「男っ!?」

外の騒動に釣られて出てきた萃香が俺の顔を見て驚いたらしくはだしで駆け寄ってくる。

萃香「なんでもう治ってるんだい?」

男「なんか四季さんが良く効く薬を使ってくれたとかなんとか」

萃香「そうかい」

萃香はほっと安心したようなため息をはいた。どうやら萃香も俺のことを心配してくれていたらしい。

平坦な人生だったけどこれだけの人から心配されて案外俺はいい人生を歩んでるのかもな。

男「ただいま、萃香。チルノ」

萃香「おかえり」

チルノ「おかえりなさいっ!」

誰だろうか。そう思って靴を履いて屋根の下まで向かう。

霊夢「………」

霊夢がいた。屋根の上でお猪口を片手に月を見上げている。

声をかけていいのだろうか。月を見上げる少女は美しく絵画のようで声をかけるのをためらう。

結局近くでその光景を見続けていると霊夢が俺に気づいてふわりと地面に降りてきた。

霊夢「覗き見? 趣味が悪いわね」

男「ぐっ」

否定ができない。ここで綺麗だったから思わずなんていったらどんな目に合うだろうか。

霊夢「まぁいいけど」

霊夢がお猪口に一升瓶で酒を注ぎそのまま飲み干す。

ほぅとついた息が妙に色っぽく見えて思わず目をそらした。

霊夢「………何よ」

男「べ、別になんでもない」

霊夢「外の世界ではお酒を飲めれる年齢が決まってるらしいけどここは幻想郷だから問題ないの」

霊夢が勘違いしてくれて助かった。とにかく早くここを去りたいので霊夢に別れを告げ自室へと戻る。自室に戻って気がついたらいつの間にか紫と対面したときの恐怖は消えていた。

男「あー温い」

風呂に入りほっと一息つく。なかなか広い風呂を今日は独り占めだ。

タオルを額に乗せて月を眺める。

そういえば霊夢も月を眺めていたな。輝く月は透明な人間にとっては無害で無益な光を地上にばら撒く。その光を浴びていったい霊夢は何を考えていたのだろうか。

風呂に反射する月をすくって見てもそれが分かることはない。

男「まぁ、霊夢も年頃の女の子だからな」

そんな意味不明な言葉でとりあえず納得しておく。

がらがら。

誰かが入ってきた。亡霊男だろうかと一瞬考えたが亡霊男なら音もなく入ってくるだろう。

脱衣場の服に気がつかなかった、と呆れながら湯気の向こうの誰かに向かって声をかける。

男「入ってるぞー」

しかしその誰かは俺の言葉に反応することはなくどんどん俺のほうへ近づいてくる。

水面をかきわけこっちへ向かってくるということは意図的にか?

とりあえず目を手で覆って事故を起こさないようにする。

相手からしてきたとしてもこっちが悪くなるのが男の辛いところだ。

魔理沙「いい湯だな」

魔理沙の声が聞こえた。そして近くで水音。どうやら俺の近くで湯に浸かっているらしい。

男「あぁ、そうだな。すぐ出るから」

そういって立ち上がろうとすると肩を押さえられて強制的に座らされる。

魔理沙「あの、なんだ。立つと見えるからやめてくれ」

明かりが月の光しかないとはいえ立ってしまったら完全に見える。そこは盲点だったがだが俺にどうしろと?

こうやってずっと目をつぶっているのもなかなか辛いものだ。

魔理沙「別に目を開けてもいいぜ」

なんて誘惑を魔理沙がしてくる。別に俺はロリコンではない。そのはずなのだ。

必死に自分を押さえ込む。

男「………」チラッ

が俺も男だ。誘惑に負けて指の隙間から見てしまった。

魔理沙「ふぅ………」

………魔理沙はバスタオルを巻いていた。

よく考えれば当たり前のことだが凄くがっかりする。

魔理沙「どうした、まさかドキドキしてたのか?」

魔理沙が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

男「馬鹿。あと5年したら言え」

嘘です。ドキドキしてました。

でもそれを正直に言ってしまえば少女趣味の変態野郎の烙印が押されてしまう。年齢はともかく見た目は少女が多いここではその烙印を押されるともれなく村八分コースだろう。

それはいやなのでごまかしておく。

魔理沙「ってことは5年たてばドキドキしてくれるんだよな。まさか男は私のことが好きなのか?」

男「それはない」

魔理沙「ちぇー。魔理沙さんの素敵な魅力で悩殺してやろうと思ったのに」

男「というか5年後って俺いないだろ」

魔理沙「あー、そっか。残念だ。なんか男がずっといるって気がして」

男「………」

それも良いかもしれない。平和になったここでずっと皆と過ごすのも。

なんて、そんなことはできない。俺は外の人間だからいつかは帰らないといけない。

………帰らないといけないんだ。

魔理沙「背中流してくれよ」

そういいながら魔理沙が立ち上がる。

その瞬間タオルが取れて湯船に落ちる。

思わず俺は手で目を覆い隠して隙間から見る。

魔理沙「大丈夫だぜ。水着着てるから」

魔理沙は水着を着ていた。

男「なら良かった。別に背中流すぐらいいいけどさ」

魔理沙「ドキドキイベント発生だな」

男「なんでお前はそうやってドキドキをおすんだ」

魔理沙「恋する魔法使いだからだぜ☆」

意味が分からん。

魔理沙「おー、いい気持ちだ」

魔理沙の小さな背中をタオルで洗う。俺よりもずっと小さな背中なのですぐに洗い終わり流す。

魔理沙「なんか男って兄貴みたいだよな」

男「魔理沙も妹みたいだな」

魔理沙「んー。だったらよかったんだけどなー」

魔理沙が俺からタオルを受け取って前を洗う。俺は手持ち無沙汰なので自分の髪を洗うことにした。

魔理沙「なぁ男。やっぱり帰るのか?」

男「まぁ、家族が待ってるし」

魔理沙「私じゃ………だめか? 私は一人暮らしだから住むとこならあるぜ?」

男「………」

いきなりの魔理沙の言葉。

魔理沙はこの歳で一人暮らしをしているのか? まだ小さいのに。

家族はどうしたなんて話を聞くことはできない。

魔理沙「男なら皆受け入れるから大丈夫だって。霊夢も映姫も。だから………」

男「………」

俺だって家族はいる。楽しい思い出だって………………

魔理沙「………」

桶で頭を流すと魔理沙がじっとこっちを見ていた。

嘘や冗談じゃなく、悪戯でもない。

真剣な目だった。

男「いいよ」

なぜか俺は生まれてからずっといた家族よりも数日間過ごしたこの傷だらけの少女を選んでいた。

今までの人生を捨ててまで、気がつけば俺は霧雨 魔理沙という少女を選んでいた。

無意識から出た答えならばそれは俺の本心なのだろうか。

それはまだ分からない。

魔理沙「………!」

でも、泣きながら笑う魔理沙を見て今はまだいいかと思った。

魔理沙「えへへ」

体を洗って再びお湯に浸かる。なぜか魔理沙は俺の両足の間にすっぽりと収まっていた。

なのでぬれた金色の髪を撫でる。

すると俺にもたれかかって来て足をばたばたさせていた。

なんと可愛い妹か。

あー。俺もうシスコンでいいかもって気持ちになる。

魔理沙「なぁなぁ、兄貴ー」

男「いや違う魔理沙。おにーちゃんだ」

魔理沙「? おにーちゃん?」

男「はうあっ!!」

ズキュンときた。

魔理沙「いい湯だったー」

男「だなー」

霊夢「………」

二人して温泉から出ると寝巻きを持って霊夢がごみを見るような目で俺を見ていた。面倒だけど明日は燃えるゴミの日なのねって感じの冷たい目だっ!

霊夢「………ちょっと紫に告げ口してくるわ」

男「ちょ、ちょっと待て。待つんだいい子だから」

魔理沙「おいおい霊夢。兄貴をいじめんなよ」

魔理沙のその言葉を聞いて霊夢が俺を見る目がさらに冷たくなった。完全にゴミ以下を見る目だ。

霊夢「………死ぬ?」

男「ごめんなさい事情があるんです殺さないでください」

躊躇なく殺される気がしたので思わず寝巻きだというのに土下座をする。

年下の女の子に余裕で負ける俺。一応霊夢だから仕方ないと言い訳をしておく。

さっきあったことを簡単に説明してみる。霊夢はそれを黙って聞いていたが俺を見る冷たい目は変わらない。

霊夢「で、言いたいことは妹が欲しいから魔理沙を妹にしました。そうです僕は変態ですってこと?」

男「OK。どこかで決定的に意思伝達の齟齬が発生しているようだ。使用している言葉は日本語で大丈夫か?」

霊夢「は?」

霊夢が威圧的にそう言い放つ。怖い。

魔理沙「えっと私がお願いして男に家族になってもらったんだ」

霊夢は魔理沙の言葉を聞いてやっと納得はできないものの理解はしたらしく小さく頷いて、俺のすねを思いっきり蹴ってそのまま風呂へ向かった。

弁慶ですら大号泣するといわれる場所を少女らしからぬ一撃で蹴られた俺は再び地面に倒れ伏して痛みにしくしくと泣いた。

嫌われてるのは分かってるけど一緒に行動するんだからもう少し態度和らげてくれてもいいのに。

次の日、時間は6時くらいだろう。日はまだ昇っておらず外は暗い。なのに

魔理沙「朝だぞー」

布団にまたがって揺らしてくる魔理沙がいた。

男「………あと五分、いや十分寝かせてくれ」

魔理沙「駄目だぜ。早起きは三文の得だ」

男「三文って大体60円くらいだ。寝てたほうがマシだな」

魔理沙「そんな屁理屈を」

魔理沙が今までよりも強く揺らしてくる。

今までの問答とゆれのおかげで睡魔は残念ながら去ってしまいやれやれとあくびをしながら体を起こす。

魔理沙「わっ」

その過程でまたがった魔理沙が畳に頭をぶつけていたがまぁ俺には関係のないことだ。

魔理沙「可愛い妹になんてことを」

男「可愛い妹なら兄のお願いを聞いてくれ」

睡魔が去ったとは言えまだ完全に覚醒をしたわけではない。ぼんやりとした頭をすっきりさせるために顔を洗いに行かなければ。

魔理沙「だってどうせ今日も霊夢と行くんだろ? 私は別のところだから………」

男「そこは、まぁ仕方ないな」

紫にもう一度頼んでも帰ってくる答えは一切変わらないだろう。長い時間をともにすごしたいという魔理沙の気持ちは分かる、というか俺もわりと同じ気持ちだったりするがそれでも紫に断固講義なんてできるわけがない。

障子を開いて外へ出る。冬の朝の斬られるような寒さが襲ってきて思わず布団に再びもぐりこみたくなるがぐっとこらえ一番近い台所へと向かう。

男「あー。さむさむ」

魔理沙「だらしないぜ」

なんていってる魔理沙の懐に八卦炉が入っているのを俺は知っている。が、得意げな顔で言ってくる魔理沙が可愛いので黙っておこう。

台所ではすでにいい香りと包丁の音が響いていた。

どうやらすでに亡霊男は起きているらしい。

亡霊は寝るのだろうか。まぁ、それはどうでもいい。魔理沙とともに台所へ入る。

亡霊男「おはようさん。どうした二人仲良く」

魔理沙「えへへ。なんと男は私の兄貴になったんだぜ」

男「魔理沙が妹になった」

その言葉に亡霊男はぽかーんとして、はぁ、と生返事をした。

まぁ、それもそうだろう。いきなり他人同士が兄妹になりましたとか言われてどこの桃園の誓いですかだもんな。

亡霊男「なんだかよく分からんがおめでとう」

魔理沙「へへへっ」

ぐらぐら

男「味噌汁沸騰してるぞ」

亡霊男「しまったっ」

霊夢「………」

起きてきた霊夢ににらみつけられる。ありがとうございます。

男「おはよう霊夢」

霊夢「………」

案の定無視をされる。もし初対面があれじゃなければ俺は霊夢ともう少しましな関係を築けていたのだろうか。

魔理沙「なぁ霊夢。なんでそんなに兄貴のこと嫌いなんだ?」

霊夢「変態だから」

言い訳をさせてもらうなら事故です。不運な事故なんです。

魔理沙「そうか?」

霊夢「トイレ覗き。チルノに抱きつかれる。魔理沙と一緒に風呂に入る。これが普通の男だっていうなら霖之助さんはもしかすると女かも知れないわよ」

魔理沙「あいつ朱鷺子と同棲してるだろ」

霊夢「あーそういえばそうね。男性って変態が普通なのかしら」

変態じゃないやいとは言いたいがシスコンなので強くはあんまり否定できない。

そういえば話に出てきた霖之助とはいったい誰だろうか。珍しく男のようだが。

男「霖之助って誰だ?」

魔理沙「私と霊夢の昔なじみの知り合い。人間と妖怪のハーフだから私たちとはだいぶ歳が離れてるけどな」

人間と妖怪のハーフ。そんなのがいるのか。まぁ外見自体は人間に近いのいるしなぁ。

そういえば紫の今度生まれる子供もたしか人間と妖怪のハーフか。

興味はあるがだからといって会いにいけるような場所ではないな。俺飛べないし。

魔理沙「なんなら会いに行くか? たぶん今日は午前中私たちで午後が他のやつらだろうから。兄貴も午後は暇だろ?」

俺の考えを魔理沙に読まれる。俺はそんなに顔に出やすいのだろうか。

霊夢「魔理沙」

魔理沙「ん、あぁ。ごめん」

男「気を使われるほうが悲しくなるからやめてくれ」

たしかに午後は暇だ。暇になったから。

暇になってしまったから。

朝食を食べ終わり、霊夢と共に今日はどこへ行くかを聞く。

紫は藍さんに頼んで地図を持ってきてもらいそれを机の上に広げた。

地図には広い幻想郷の大体の場所が書いてある。といっても場所なんて数えるほどしかない。名前がついてない場所のほうが圧倒的に多いからだ。

紫「ここでひとつお知らせがあるわ」

霊夢「何?」

紫「レミリアが紅魔館を捨てたわ。現在いる場所は」

紫が地図上の一点を指す。そこにあるのは人間の基地。

紫「レミリア達は紅魔館を捨て人間の基地を襲いそのままそこを拠点とした。それは真昼間に行われた。なぜそれができたのか」

霊夢「レミリアもフランもいないのに………そういえば」

紫「心あたりがあるみたいね」

霊夢「吸血鬼が一人増えたわ。たしか名前はウィルヘルミナ」

そうだ。紅魔館にはもう一人吸血鬼がいた。親よりも大きなウィルヘルミナが。

しかしウィルヘルミナが吸血鬼だとしてなぜ昼間に動けるのか。

紫「とりあえずレミリア達に会って話を聞いてきて頂戴」

霊夢「分かったわ」

太陽は出ているとはいえ今日も冬はがんばって幻想郷に寒さを届けている。少し休めといいたいが何語で語りかければいいのやら。

男「はぁっ………はぁっ………」

しかしその寒さが絶賛マラソン中の俺にはありがたかったりする。

霊夢は今日も容赦なく。いや前日以上に容赦なく空を飛ぶ。対して俺は凡人らしく地面の上を木などの障害物を避け進む。なぜ霊夢は道の上を飛んで行ってはくれないのだろうか。

霊夢「遅いわよ」

霊夢からありがたい応援のお言葉が飛ぶ。もう少し速度を落としてくれてもいいのに。

肺が酸素を求め、体が急速を求め、口から鉄の味がする。さすがにフルマラソンとは行かないまでも10キロを普通に超えるマラソンは特に運動部に所属していたわけでもない俺にとっては拷問に近い。

なのでふらふらしている俺は横から飛んできた光の玉を避けることができなかった。

男「うべろっ」

わき腹に強い衝撃。右に向かって倒れ、木で頭を打つ。出欠はしていないがそれでも即座に再行動できるほどの軽い痛みではない。

痛みに思わず閉じた目を開くと飛んでくる二発目の光の玉。

男(よけれねー)

意識をやってくる痛みを耐えることに集中させる。

が、光の玉は俺の目の前ではじけて消えた。

霊夢「なんであんたがここにいるのよ」

結界を張って霊夢が防いでくれていた。ここでようやく光の玉を撃ってきた主が分かる。

霊夢よりも小さな少女。しかし人間じゃないということは体から出た管につながっているぎょろぎょろと動く眼が教えてくれる。

さとり「その男はあなたの知り合いですか?」

霊夢「残念なことにね」

さとり「そうですか。それはすみませんでした。今のは身を守るための攻撃です。こんなご時勢ですから」

妖怪が無表情無感情でそういう。つまりどうやら俺は敵と判断されて殺されようとしていたみたいだ。

命の危険を今更に感じて背筋が冷える。どうやらもう敵ではないようだが。

霊夢「で、もう一回聞くけどなんであんたがここに?」

さとり「ただの情報収集ですよ。地底の主として皆を守る義務があるので」

霊夢「情報収集なら人里にこいしを行かせればいいんじゃないの?」

さとり「そうですが、こいしが現在どこかへ消えてしまってそれを探しているのです」

霊夢「そ、手伝いはしないわよ」

さとり「期待ははじめからしていません」

こうして会話を終え眼の妖怪の少女は無感情に無表情に森の中へ消えていった。

ひとりの小さな少年を引き連れて。

男「あれは………人間?」

霊夢「人間よ。たしかさとりと暮らしてる人間じゃなかったかしら」

男「さとり?」

霊夢「さっきの妖怪よ」

男「妖怪と一緒にいる人間もいるもんなんだな」

霊夢「基本的に例外よ。人間と一緒にいる妖怪なら結構いるみたいだけど」

そういえば霊夢も人間なんだよな。人間っぽくないから忘れてたけど。

そう思い霊夢をじっと見てたらスピードを上げて飛んでいった。

まだ痛む体を急いで起こしてそれについていく。

おそらくまだ距離は大分ある。俺はついていけるのだろうか。

男「うえぉろろろ」

霊夢「情けないわね」

なんとか無事にたどり着いた。紅魔館の人たちがいるのは元人間の基地。といっても今はすでに改造されて基地というよりは砦や小さな城といったほうがいいような外見になっている。しかもなぜか赤い。

霊夢「じゃあ情報収集と行かなきゃならないけど」

そう言って俺は霊夢に置いていかれた。まだ体力が回復しそうにないので地面にへたり込んで大きく深呼吸をなんども繰り返す。

美鈴「こんにちは。お水をどうぞ」

赤い髪をした女性、たしか美鈴さんだったかな。美鈴さんが俺に水を差し出す。

男「ありがとうございます」

それを一気飲みしてやっと一息つけるぐらいに回復した。とりあえず立ち上がって美鈴さんに話を聞く」

美鈴「さぁ、私はただお嬢様の命令に従ってるだけですからね」

情報収集失敗。

美鈴「んー、やっぱりどこかで嗅いだ事のある匂いなんですよね」

そういいながら美鈴さんが俺の首あたりでくんくんと匂いをかぐ。くんくんと嗅いでいる美鈴さんには見えないだろうが後ろで犬のような耳のはえた男がこっちを見ている。

狼男「………」ニコニコ

凄く見ている。

狼男「美鈴」

美鈴「ひゃぉうっ!」

犬耳の男が美鈴さんに声をかけると美鈴さんがものすごい勢いで振り返った。それに巻き込まれて顎を強打する。

美鈴「こ、これは違いますよ!? 浮気じゃないですよ!? 私は狼男さん一筋ですよ!? 愛してます!!」

狼男「別に私はそんな心配はしてませんよ」ニコニコ

もの凄い狼男と呼ばれた男がニコニコしている。それが逆に怖い。

狼男「怒ってませんよ本当に。えぇ、本当に」

美鈴「せめて理由を聞いてくださいっ!」

狼男「………仕方ありません。浮気でないのなら良いのですが浮気だったばあい実家に帰らせていただきます」

美鈴「実家ってどこですか!?」

狼男「影狼さんの家ですね」

美鈴「!?」

狼男「なるほど。この男性の方の匂いをどこかで嗅いだことがあるが思い出せないのですね」

男「信じられないかもしれないが本当だ。というか美鈴さんにあったのはこれで二回目だ。一回目は紅魔館に行ったとき挨拶したぐらいだ」

狼男「………嘘臭くはありませんね。では失礼します」

狼男が近づいてきてさっきの美鈴さんのように匂いをかぐ。なんだか狼男って優しそうな犬みたいな感じだよな。やだイケメンっ。

狼男「………これは」

狼男が驚いたように何度も匂いをかぐ。

なんだろうか。もしかして俺は妖怪にとっては良い匂いがする存在なのだろうか。やったね、妖怪にモテモテだー。なんてそんなわけないか。

狼男「美鈴と似た匂いがしますね」

美鈴「へ?」

男「さっきの美鈴さんの匂いがついただけなんじゃ?」

狼男「嗅ぎ分けることぐらいできますよ。でもなぜかあなたからは美鈴さんに凄い良く似た匂いがします」

………それがどういうことなのかは分からない。

だが不思議なこともあったものだ。

男「そういえばフランやレミリアはどこにいるんだ?」

狼男「お嬢様と妹様は日に当たらないように建物の中にいます」

まぁ、やっぱり吸血鬼なだけあって太陽には弱いのか。パチュリーもだろう。

今のところ外に見えるのは多くのメイド妖精とウィルヘルミナ。普通に太陽の下にいるがなぜ無事なのか。

気になったので狼男に聞いてみる。

狼男「ウィル様に普通は通用しませんから」

男「?」

普通じゃないってことか? いやわざわざ普通は通用しないってことはいろいろ規格外のイレギュラーなのか?

悩んでいると美鈴さんが教えてくれた。

どうやらウィルヘルミナは運命を破壊する程度の能力。ああすればこうなるの因果を無視したりできるそうだ。なるほどわからん。

狼男「よろしかったらウィル様とお話されてみますか?」

男「ん。それは助かるがいいのか?」

レミリアとフランの娘らしいが。

狼男「はい。ウィル様は退屈そうでしたので」

ようするに話し相手になってやれと。ありがたい。

狼男に連れられ中央の広場にいるウィルヘルミナへ会いに行く。ウィルヘルミナはぽつんと立って忙しそうに作業をするメイド妖精を眺めていた。

狼男「ウィル様。よろしいでしょうか」

ウィルヘルミナが視線をメイド妖精から狼男へと移す。

ウィル「構わない」

狼男「この男様がウィル様とお話をしたいようなのですが」

ウィル「分かった」

ウィルの口調は見た目とは裏腹にあまり子供らしいしゃべり方ではない。しかし大人っぽいわけでもない。たとえるなら言葉遣いをしつけられた子供のような違和感のある言葉遣いだ。

狼男「ではこちらへどうぞ」

狼男が近くにある木でできた建物の中へ俺とウィルヘルミナを招く。

中はシンプルな居住スペースのようでいくつかのベッドと机椅子。あとはタンスぐらいしか置いていなかった。

吸血鬼「あれ? ウィル様どうかしましたか?」

そしてメイド服を着たこうもりの翼を持つ少女。

………どう見ても吸血鬼だよな。なのにメイド服ってどういうことだ。

とにかくそれがせっせと掃除をしていた。

狼男「吸血鬼さん。この部屋はウィル様とお客人が使われるので後はよろしくお願いします」

吸血鬼「わかったよ」

そう言って狼男は出て行った。

建物の中に残った三人。とりあえず椅子に座ってウィルヘルミナに話を聞いてみよう」

男「ウィルヘルミナは」

ウィル「ウィルで良い」

男「ウィルがここを攻めたのか?」

その質問にウィルはこくりと頷いて少し得意げな顔をした。

まぁ、弱点がない吸血鬼だからそれぐらいはやってのけるのだろう。

なぜ紅魔館を捨てたのかの情報を集めるのは霊夢に任せて俺はウィルや他の人たちについて情報を集めるとしよう。

男「そういえばウィルは違う世界から来たんだよな」

ウィル「あぁ。違う運命から。でもこっちのお母様も優しくしてくれる」

未だにレミリアとフランがウィルの親ということに慣れないがしっかり親をやっているようだ。

男「良かったら紅魔館の皆について教えてくれないか?」

ウィル「分かった。レミリアお母様はたまに子供っぽいところもあるけど優しくて強い」

男「優しいのか」

であったときが血まみれの部屋だからな。そんな感じ一切しなかったわ

ウィル「フランお母様はレミリアお母様よりも子供っぽい、というか子供」

あんまりいらない情報だな。フランの性格は見たとおりだし。

ウィルはなかなか嬉しそうに二人のことを話す。プリンを作ってくれたとかそんなたわいもない親子の話を。

関係はないが楽しそうだからいいか。

男「他の皆はどうなんだ?」

ウィル「あ………えっと咲夜は仕事をきっちりこなすけどたまに抜けてるところがある」

ウィル「美鈴は優しいけど結構仕事をサボってる。そのたび狼男か咲夜に怒られてる。でもお母さんが美鈴は強いって言ってた」

美鈴さんって仕事サボるのか。それにしても吸血鬼に強いって言わせるとはどれくらい強いのだろうか。萃香ぐらい? まさかな。

ウィル「パチュリーは………本ばっかり読んでて時々お母様と一緒になにかやってる」

ウィル「小悪魔は………えっと狼男は美鈴と結婚してて紅魔館ではホフゴブリン以外の唯一の男。優しいけどなんか咲夜が匂いフェチだとかなんとか。意味は分からない」

流された小悪魔も可哀想だけど匂いフェチって言われてる狼男も可哀想だな。そして誰だホフゴブリン。

ウィル「ホフゴブリンはお手伝い、見た目は怖いけど良い人」

見た目が怖い………できれば会いたくない。いやいや見た目で判断するのもな、良い人って言われてるし。

つくづく幻想郷では見た目は関係ないと思い知らされるからな。萃香に投げられ霊夢にしばかれチルノに体当たりされるたびにそう思う。

吸血鬼「お茶をどうぞ。しゃべってるとのどが渇きますからね」

男「そういえば吸血鬼っぽいけどなんでメイドを?」

吸血鬼「………」ガタガタガタガタ

いきなり青くなって吸血鬼が震えだす。

ウィル「吸血鬼はお母様にトラウマがあるみたい」

吸血鬼「そ、それ以上すると再生できなくなるから、駄目、やめて」ブルブル

うん、トラウマを再体験中のようだ。そっとしておいてあげよう。

ウィル「大丈夫。もうあなたも紅魔館の一員だから」

ウィルが吸血鬼を優しく抱きしめる。眼福。

吸血鬼「ウィル、お嬢様」

ウィル「よしよし」

そうやってウィルと吸血鬼が感動のシーンをしていると外から何か大きな音が聞こえた。

何か爆発したような。

ウィル「!」

ウィルが素早く外へと飛び出す。俺も遅れて外へ出ると美鈴さんがいたあたり、門ら辺から黒い煙が上がっていた。

まさか人間が? あまり戦力にならないことを理解しながらも走ってそっちに向かう。

吸血鬼「人間っ!!」

後ろから吸血鬼の声が聞こえたので走りながら振り向く。

吸血鬼「ウィル様が危なくなったら身代わりになって助けろっ。必ずだぞ!!」

吸血鬼が建物から出ないように注意しつつこっちに向かってそう叫ぶ。

なんて無茶振りを。

とりあえずサムズアップだけしておいて走った。

ウィル「………」

門ではウィルと美鈴さんが人間と対峙していた。

人間はそう数が多くないが手には銃などで武装している。おそらく爆弾も持っているのだろう。

ウィル「なぜ私たちを狙う」

美鈴「駄目ですよお嬢様。あちらさん聞く耳なんて持ってませんから」

ウィル「戦わなければいけない………のか」

美鈴「えぇ、まことに残念ながら」

美鈴さんが首を横に振りながら門へ、つまり砦の中へ向かって歩き出す。

門番なのに守らないのか。それともウィルが強いのか。

美鈴「ここは危ないです。中へ行きましょう」

男「約束してしまって俺はウィルが危なかったら助けないといけないんだ」

美鈴「ウィルお嬢様が危ない………なんてことは起こらないと思いますが、まぁいいですよなら私が守ってあげます」

美鈴が俺の前に立って構える。流れ弾がこっちに来たらはたき落とすのだろう。人間では到底無理なことでも妖怪ならばできるのだろう。

美鈴「面倒なことに相手は儀礼済みの弾丸を使用してましてね。これが妖怪、特に西洋妖怪にとっての弱点なんですよ」

だからもし守れなかったらすいませんね、と不吉なことを美鈴さんが言う。

今更だがもう中に入ってしまおうか。そんな臆病風に吹かれるがウィルが戦うのだからとここでいざというときに守ることを決意する。

パンッ

そんな音がいくつもなって

ウィル「………っ」

ウィルの体から血が噴出す。

男「お、おい!?」

美鈴「大丈夫です。あれくらいじゃ傷にはなりませんから」

美鈴さんの言うとおりで噴出した血はすでに止まっている。そしてからんからんと体内から地面へと落ちていく銃弾。

男「弱点なんじゃないのか?」

美鈴「ウィルお嬢様に常識は通用しませんよ」

ウィル「無駄だとは知っているがこれで正当防衛だ」

その言葉を言い終わるとウィルが地面を蹴り駆け出し………いや、飛んでいた。

強すぎる脚力による踏み込みは重力の影響を無視できるほどにウィルの体を加速させていた。

速ければ速いほど威力が強くなるのは当たり前だ。ならば弾丸のごとき速度で駆けるウィルの一撃は?

ウィル「!!!!」

ウィルの行動が見えたわけじゃない。おそらく今とっているポーズから殴ったのだろうと判断する。

殴られた死体が破裂している。なんというスプラッター。

今更吐いたりはしないがそれでも見るのはあまり好きではない。

そんな惨劇に人間達が一斉に銃をウィルに向けて撃った。ウィルは今人間達の真ん中にいる。そんな状況で撃てば仲間に当たるのは当たり前で、ウィルが何もしてなくても何人かは倒れていった。

そして肝心のウィルは。

ウィル「………痛いな、やはり」

そういいながらも事も無げに立っている。

服が赤く染まってぼろぼろになっているというのに血が噴出しているのに、それでもウィルはまるでそれが水鉄砲であるかのように平然としていた。

ウィル「もしかしてただの人間が私を倒そうだなんて思ってたのかも知れないが、そんな運命どこにもないぞ?」

そういいながらウィルが人間達を文字通り千切って行く。ただウィルが手を振る。それだけで人間なんて真っ二つになる。

ウィル「さよなら、だ」

最後の一人を首を刎ねてウィルが血に塗れた手を下ろす。

男「俺の出番とかひつような―――」

ドンッ

重く響く音がした。爆炎と衝撃。

爆弾が起爆したらしい。それもそうだ。相手は始め以外爆弾を使ってないのだから。その理由について考えておくべきだった。

最初から死ぬつもりだったのか。

このやり方はあいつを思い出させる。もしかして近くにいるのだろうか。

男「鬼人………正邪っ」

美鈴「ウィルお嬢様!!」

そうだ、今は正邪のことを考えてる場合じゃない。

ウィルは大丈夫なのだろうか。

近くでも煙で見えない。衝撃からしてかなり強力な爆弾だろう。

煙の中へぐにょりとしたものを踏みながら手探りでウィルを探す。

男「ウィルか!?」

手に触れた何かを掴み引き寄せる。

それはがさがさとしていて

男「―――っ!!」

煙がはれた。そこにいたのは

ウィル「………………」

肌が黒く炭化し、ところどころの肉がなくなっているウィルだった。

また、また俺は守れなかったのか。

男「なんでだ、なんでなんだよぉおおおおぉおおお!!」

そのぼろぼろになった体を抱きしめる。

顔に生ぬるい血がつく。抱きしめた体は当たり前だがまだ暖かかった。

特にウィルに思い入れがあるわけではない。だが助けると約束したのに守れなかった。

この身を盾にすら出来なかった!!

ウィル「………………痛いぞ」

男「………え?」

ウィルが喋る。てっきり即死かと思ってたが。

ウィル「離してくれると助かる」

男「あ、あぁ」

ウィル「死ぬかと思った」

そういいながらウィルが歩いて砦へ向かっていく。

足の肉とかなくなって骨見えているのに大丈夫なのか?

美鈴「………これはさすがに驚きました。あそこまで常識が通用しないんですか。レミリア様でも今のはさすがに即入院コースですよ?」

ウィルを呆然と見送ったあと美鈴さんがそう言った。

ウィルは炭化してところどころ肉がなくなっているという超スプラッタな外見で砦の中へ入っていった。

メイド妖精の叫びが響く。

ウィル「あ、追わなきゃ」

美鈴「そ、そうですね」

いくら普通に動いているとはいっても怪我は怪我だ。治療をしなければ」

ウィルをつれてさっきいた建物へと入ると吸血鬼がウィルを見た瞬間に悲鳴を上げて俺に殴りかかってきた。

男「ぐべろっ!?」

吸血鬼のパンチは凄く痛かった。地面をごろごろといつもより多く転がりながらそう思った。

男「………しぬぅ」

立ち上がって服についた砂やらを叩いておとす。殴られた顔がやばいぐらい痛い。

骨折れてないよなぁと特に痛む鼻を押さえながら戻ると吸血鬼が甲斐甲斐しくウィルの手当てをしていた。

黒く炭化した場所に軟膏を塗っていく吸血鬼を見ていて思ったのだが力で屈服させられたのにその娘をずいぶん大切にしているな。

ウィル「いたい………」グスッ

吸血鬼「あぁ! 申し訳ありません!」

本当、なんでだろうな。

ウィル「ん………治ってきた」

男「早いな、マジで」

見ると炭化した皮膚が剥げ下から新しい皮膚が除いている。肉も目に見える速度、といってもナメクジの歩行速度みたいなもんだがどんどん再生していっている。

吸血鬼「ウィル様にこれだけのダメージと再生の阻害を与えるなんていったいどんな神が儀礼を施したのだ?」

吸血鬼がウィルの傷口を見ながらそうつぶやく。意味は分からないがとにかく相手側に凄いのがいるのだろう。

吸血鬼は治ってきている傷を見て微笑むと念のためにと包帯を巻いた。両腕や顔にも巻いているのでミイラにしか見えない。

ウィル「いらないのだが………」

吸血鬼「駄目です」

ウィル「動きづらい………」

レミ「ウィル!!」

治療が終わりウィルを一応安静にさせているとレミリアが扉を思いっきり開け中に入ってきた。

レミリアは持っていた傘を投げ捨てウィルに駆け寄る。

レミ「大丈夫? 痛くない? なにかして欲しいことはある?」

矢継ぎ早に繰り出される質問にウィルは嬉しそうに笑って大丈夫と答えた。

レミ「………ごめんなさい。戦わせてしまって」

ウィル「お母様守りたいから」

レミ「ありがとう。ウィル」

男「………」

この空間に部外者がいるのもなんなので俺はクールにこの場から去ろうと思う。

男(とりあえず大事がなくて本当良かったな)

霊夢「そう。大変だったわね」

霊夢に今までのことを伝えると霊夢は言ってふわりと空中に浮いた。

霊夢「もう帰るわよ。ここにいてもすることがないから」

男「………それもそうか」

ウィルの様子を見ておきたかったが部外者が深くかかわるのも迷惑だろう。

男「げ、またマラソンかよ」

霊夢「………はぁ。仕方ないわねスピード落として飛んであげるわよ」

霊夢はもう一度長いため息をはいて俺の軽めに走る速さぐらいで飛んだ。

これなら時間はかかるが死ぬほど疲れるようなことはないだろう。

そういえば初めて霊夢が俺に優しくしてくれたような。

まぁ、気まぐれだろうがなんだろうがいいや。楽が出来る。

霊夢「ウィルヘルミナの能力はね」

博麗神社まであと半分ぐらいのところで霊夢がいきなりそう話し始めた。

霊夢「運命を破壊する程度の能力。レミリアの運命を破壊する程度の能力もわけがわからないけど」

走っていて息が切れているので相槌は打てないが霊夢の話は真剣に聞いておいたほうがいいみたいだ。

霊夢「レミリアの能力が台本を読んで書き換える能力だとしたらウィルの能力はその台本を無視して行動を起こすことが出来る。アドリブで行動できるのよ。誰かが死ぬ運命ならばそれを変えるために行動が起こせる。といっても不治の病を治したりはできないわ。あくまで出来るのは自分主体。自分のことならば熱湯をかぶってもやけどをしないなんて因果を無視したことができるけど他人ならば自分が行動を起こさなければそのまま。起こせば確定したことを変えることが出来る。まぁ確実ってわけじゃないけれど」

………分かりやすく話してくれているみたいだけどあんまり良く分からん。つまりナイフを持ってやつに刺される人がいるとしてウィルはそれに割り込むことが出来るってことか? ナイフを持ったやつを倒せばその人は刺されないで済むけど倒せなければその人は刺される。こんな感じだろうか。

霊夢「それでも強力な能力ってことには変わりないわ。運命を切り開けるんだから」

男「でも、ウィル、怪我した、ぞ」

霊夢「儀礼してあるからよ。ウィルヘルミナは能力である程度は神の力を消せるみたいだけど強力な力を加えられると能力が追いつかないみたいね。因果を無視しようとする前に結果を確定させられる。銃弾と爆弾じゃこめられてる力の強さが違ったのよ」

ということは神の力をどうにかしないとまた同じことがおきるかもしれないってことか。

神となると、あの妖怪の山で出会った少女を思い出す。

相手にはいったいどんな神がついているのだろうか。

男「や、やっとついた」

行きよりはだいぶましだがそれでも足が震える程度には疲れている。正直もうすでに休みたいが魔理沙と出かけなければならないのか。

仕方ない可愛い妹のためならなんのそのだ。

霊夢「それじゃ」

霊夢は飛んでどこかへ消えていった。何をするのかは知らないが今は魔理沙を探すことにしよう。

見た感じ境内にはいないようだが。

男「いったいどこに、いたぁっ!?」

背中に衝撃。しかもなぜかその衝撃は斜め上から来た。首に回された手と視界の端に見えた金色の髪で魔理沙だと判断する。

魔理沙「おかえりっ」

男「ただいま。重い」

魔理沙「乙女にそんなこと言っちゃ駄目だぜ」

乙女が空中からフライングアタックをかましてくるかよ。

男「で、もう行くのか?」

魔理沙「あぁ。兄貴がいいなら今すぐにでも」

レミリアが確率操作でウィルが確率無視?

霊夢のいった通りだとレミリア最強だよなぁ

>>345
やっぱり分かりにくいですよね、今見直して思いました。

補足をいれますと

レミリアは確率操作でウィルは因果無視です。

レミリアの能力が台本を書き換えたように見えるだけで実際は起こる可能性のある事象を引き起こしてるだけです。

ウィルはこうなったらこうなるという因果を無視出来ます。

こんこんと突然ドアをノックされ椛は布団から顔を出して誰なのかを扉の向こうに尋ねた

はたて「私」

声の主は椛のあまりいない友人の中の一人そして椛がいつも泣いていることを知る唯一の友人。姫海棠 はたてだった。

椛ははたてならばいいやと思い部屋に入っていいよと扉の向こうに言った。

その声が涙声だったためか扉は数秒おかれてゆっくり開かれた。

はたて「邪魔だった?」

椛布団から出し顔を横にふってその問いを否定する。

はたて「ならよかったわ」

椛「はたて………ありがとう」

椛ははたてが友人のため第三者がそこにいない場合敬語は使わない。それをはたては良しとしていたしはたてもまた友人に敬語を使われると心地が悪い、そう思う一般的ではない天狗だった。

椛はもう一度ありがとうと言って泣きすぎて赤くなった目をこすって布団から出た。

はたては椛のベッドに腰掛け深いため息をはいた。

はたて「正直あんたの傷ついてる姿みたくないんだけど」

椛「でも、仕事だから」

はたてはその言葉を聞いて呆れたようにやっぱりねと呟く。

はたて「逃げない?」

はたてが椛の耳に口をあてて小声でささやく。その言葉を聞いて椛は小さく首を横に振った。

はたて「なんで? これ以上続けても」

椛「私は幸せになっちゃいけないんだよ」

皆の命を奪ったから。

椛のその言葉を聞いてはたてが軽く椛の頭を叩いた。

はたて「椛ももうちょっと気楽に生きたらどうなのよ。あいつみたいに」

あいつ、椛は自分もう一人の友人の顔を頭に思い浮かべる。今現在地底で幸せに暮らしている射命丸のことを。

はたて「あそこなら逃げ出した私たちも受け入れてくれるでしょ」

椛「………」

―――そのとおりだとは思う。だけどこんな私を受け入れられたくはないな。

犬走 椛はすでに諦めている。

生きることから何から全てを諦め、ただ命令のままに動き、悲しんでいるだけだ。

そんな椛の唯一の願いは

―――死にたいな

そうすればもうこんなことをしなくてもいい。後は地獄で責め苦を受けるだけだ。

そのほうが殺すよりはよっぽどいい。

しかしその願いを叶えるのは難しい。自分を刺す刃は届かずに砕ける。

自殺をしようにもそれを実行する勇気は椛にはなかった。

椛「はたてが逃げなよ。私はいいから」

この血でべっとり塗れて飛ぶことの出来ない羽で逃げれるわけがない。はたてとともに逃げようとすればはたても巻き添えにしてしまう。

はたて「あんたが逃げないなら私も逃げないわよ」

椛「ごめん」

はたて「謝るぐらいなら一緒に逃げてよ」

椛「駄目」

はたて「はぁ………」

はたて「別に自分が殺してるわけじゃないんだから」

椛「私がいなかったら生きてたのかもしれないんだよ」

はたて「でも結局それはそれで自分が駄目だったから味方の命を奪ってしまったとか言うんでしょ?」

椛「………うん」

あまり好きではないとはいえそれでも同じ天狗の命が奪われていくのも嫌だ。椛が一番良いと思うことは誰も死なないこと。もちろんそんなことは戦争時においては幻想にしかならない。

―――なんで世はこともなしにならないんだろう

平和主義者な椛はずっとそれを疑問に思っている。

なぜ戦いが起きるのかを、あまり欲を持たない椛は理解できなかった。

椛「………はたて」

はたて「何?」

椛「いや、やっぱりなんでもない」

殺してよと言おうとした。だけど友人にそんなことを言いたくはなかった。だから椛は疲れた顔でごまかす様に微笑む。

はたてはその顔をみて何か隠したんだと思ったがそれ以上追求しなかった。

椛「そういえば今日はどうしたの?」

はたて「あ、ちょっと野暮用があって」

椛「野暮用?」

はたて「椛にね。ちょっと後ろ向いて目瞑ってて。プレゼント持ってきたから」

椛「え、本当? 嬉しいな」

椛は素直にはたてに背を向けて目を瞑った。

しかし椛にかけられたのはネックレスでもなんでもない、ただの猿轡だった。

椛「んー!? んー!!」

はたて「おとなしくして。お願いだから」

はたては椛に猿轡をし目隠しをした。椛はもちろん抵抗したが友人のため本気はだせず、その上身体能力ははたてのほうが上だったのですぐに動きを拘束されてしまう。

はたては用意していた手錠を二つ椛につけて椛の頚動脈を力をこめて押さえつける。

椛はしばらくもがいていたがすぐに意識を失ってぐったりとなった。

はたて「ごめん、椛」

はたてはいったん外にでて廊下に放置してあった大きな袋を持って入り、その中に椛を入れた。

かたくなに自分を許さない椛を助けるためにはこうするしかなかった。

これは見つかれば殺されることは間違いない。綱渡りのような策だ。

自分のために椛を誘拐する。椛のためといいながらも結局は自分のためということをはたては理解していた。

はたての願いはいつの日か、またあの日のように三人で楽しく過ごせる日を迎えること。

はたて「うん、誰もいないわね」

このまま椛が起きず地底まで行ければはたての勝ちだ。地底にはあまり面識がないとはいえあの勇儀までいる。天狗は手出しができないはずだ。

窓を開け外を確認する。このほうが見つかりにくい。

はたては椛が入った袋を抱えて窓枠を蹴って飛んだ。

ここから地底までは距離がある。だけど見つからなければなんてことはない。はたてはあたりを見回しながら飛んでみたが巡回中の天狗は見えない。

今まで出したことのない最高速度で空を翔る。それでも射命丸よりはずっと遅い。引きこもっていた自分を恨む。

でもこの調子ならいけるはずだ。

はたて「待ってて椛。今文のところに連れて行ってあげるから」

はたては袋のなかで意識を失っている自分の大切な友人に微笑みかけた。

~男視点~

男「あばばばばばば」

魔理沙「あわわわわ」

雨が降っている。しかも大雨だ。土砂降りの雷雨に打たれながら魔理沙と俺はは香霖堂へ向かって飛ぶ。

なぜだろうかさっきまでは晴れていたのにある境を越えるといきなりこの天気になった。遠くから見ればある一部だけ天気が荒れているというとても不思議な天気になってるだろう。

すでに服はびしょぬれで水を吸ってとても不快だ。絞るとさぞ大量の水が出てくることだろう。魔理沙もずぶぬれで白いシャツから肌が見える。

男「まだか!?」

魔理沙「もうすぐ!!」

そういいながら魔理沙が急激に高度を落とした。

森の入り口。そこに近づくにつれ更に雨が強くなる。

雨でうまく見えないが小さな店らしきものが見えた。あれが香霖堂だろうか。そうであってくれ。

魔理沙「着地するぜ!」

その言葉と同時に魔理沙が急激にブレーキをかける。そのまま地面ギリギリをすべる様に飛んだ。

店が近づく。しかし止まらない。このままではぶつかってしまう。そうすれば店の中を荒らしながらのダイナミック入店となるだろう。

それはいいんだがさすがに体が痛い。

そう心配したが杞憂だったようで、ちゃんと入り口から1メートルぐらいのところで止まった。ギリギリだけども。

魔理沙「ここだぜ」

雨の音が強すぎて近くにいる魔理沙の声もよく聞こえない。とりあえず中に入ろう。そう思って扉を開ける。

香霖「………ん?」

剣を持った高身長の男が立っていた。

思わず両手を挙げる。

魔理沙「よっ、香霖」

香霖「魔理沙か。そっちの彼はいったい誰だい?」

男「えっと、男だ。外から来た」

魔理沙「あと私の兄だぜ」

香霖「へぇ、そうなのかい」

動じない。まったく動じていなかった。

ここではそんなに兄妹が増えることがあるのだろうか。

香霖「今日はいったいどうしたんだい?」

魔理沙「ん、会いにきただけだぜ」

香霖「そうかい。お茶ぐらいしか出せないがゆっくりしていってくれ。もちろん何かを買うのは大歓迎さ。朱鷺子。お茶を入れてくれないかい?」

朱鷺子「分かったー」

香霖が奥に向かって声をかけると奥から声が返ってきた。声からしておそらく少女だろう。

男「今のは?」

香霖「朱鷺子。僕の妻だよ」

既婚者なのか。まぁ、見た目しててもおかしくないけど。

魔理沙「玉露で頼む」

香霖「冗談は壁にでもしたほうがいいと思うよ」

朱鷺子「おまたせー」

奥からエプロンをした少女が出てきた。赤い羽根に白と青の髪をしている。

ずいぶん小さいが。まぁ、年齢は多分おれより上なんだろう。

香霖「自己紹介をしておこうか。僕は森近霖之助。この香霖堂の店主をやってる」

男「どうも。俺は男。外から来て今は博麗神社に住んでる。ところでなんで剣を持ちっぱなしなんだ?」

香霖「ん、あぁ………趣味なんだ」

魔理沙「そうだったか?」

香霖「あぁ、このフォルムがたまらなくてね。この剣は」

魔理沙「いやいい。長くなるからな」

香霖「そうだい残念だ」

そういいながらも香霖の顔はぜんぜん残念そうじゃなかった。むしろ安心したような顔だ。なんでだ?

そうだいではなくそうかいでした

日本刀みたいなやつです

詳しくは東方香霖堂をご覧ください

朱鷺子「どうぞー」

男「あ、ありがとう」

少女がお茶を手渡してくる。見ると茶柱が立っていた、何か良いことがあるだろうか。

魔理沙「ふはぁ。温まるぜ」

香霖「温まるのはいいがその格好で大丈夫かい?」

魔理沙「そう思うならタオル、またはお風呂をもらいたいね」

香霖「そうかい。じゃあ朱鷺子タオルを持ってきてお風呂を沸かしてきてくれるかい」

朱鷺子「わかったわ」

男「ありがたい」

香霖「そう思うなら何か買ってくれないかい?」

魔理沙「こんなときにも商売かよ」

香霖「お店は商売をする場所だからね。君や霊夢はここをお茶が飲めて好きなものを持っていける場所だと勘違いしてるんじゃないのかい?」

魔理沙「あぁ、思ってるぜ。へくちっ」

香霖「はぁ………風呂代でも取ろうかな」

男「なんかうちの妹が迷惑をかけているようで」

朱鷺子からもらったタオルで魔理沙を拭きながら香霖に謝る。しかし香霖は別にいいさといって肩をすくめた。

魔理沙「着替えはないのか?」

香霖「あるよ」

香霖が奥に引っ込んだかと思うと魔理沙が着ているような服を持って戻ってきた。ずいぶん似ているが。

香霖「君もいるかい?」

そしてもうひとつ男用の洋服。あまり派手ではないがまぁそこは関係ない。

男「でもこっちの金なんかないんだが」

香霖「こんど魔理沙に一仕事してもらうからいいさ」

魔理沙「うへー。お手柔らかに頼むぜ」

香霖「死にはしないから大丈夫さ」

朱鷺子「わいたよー」

店の中の商品を見ながら香霖といろいろ話をしていると朱鷺子がとてとてと走ってきた。

香霖「じゃあ二人とも入ってくるといいよ」

男「二人で?」

香霖「兄妹なんだろう。何を気にすることがあるんだい?」

いや、血は繋がってないわけだから気にする。魔理沙のほうも赤面して目をそらしてるし。可愛いなこいつ。

男「魔理沙が先に入ってこい。俺はいいから」

魔理沙の背中を押して無理やり奥に進ませる。俺は良いが魔理沙が風邪を引くといけないからな。

男「へくしゅっ!」

香霖「入ってきたらどうだい?」

男「いや、我慢する」

香霖「君は魔理沙を兄として支えるつもりなのかい?」

魔理沙が奥に入って少したった後、香霖がいきなりそう切り出した。

香霖「女の子を支えるのはたいていは恋人だと思うんだけどね。血のつながってない他人ならなおさら」

男「そのとおりだな。でも魔理沙が兄が欲しいっていってな」

香霖「だから兄になったのかい? 血の繋がってない赤の他人の君が、数日しかともに過ごしていない君が」

男「………」

香霖「別に責めても批判してるわけじゃない。ただ君は魔理沙のことを支えられるほど知っているのかい?」

知らない。ただ俺は魔理沙を守りたかっただけで、兄になれといわれたからなっただけだ。

支えようとは思うが何をすればいいかも分かっていない。ただそばにいることしかできない。

ただの案山子だな。まったく。

香霖「うん。じゃあ教えようか、魔理沙のことを。本人がいない場所で言って良いものかどうか悩むけど僕は残念ながら唐変木でね」

香霖が自虐気味に笑う。

どうやら日ごろから言われなれているようだ。

香霖「君は魔理沙が一人暮らしをしていることを知っているかい?」

知っている。魔法の森に家があるとかなんとか。詳しくは聞いてないが。

頷くと香霖は話を続けた。

香霖「僕が世話になった人が魔理沙の父親でね。だから僕と魔理沙は昔からの知り合いなんだ。まぁそれはどうでもいいけど彼女の父親は商人でね、商人としては立派だけどその商人としての立派さが魔理沙は嫌いだったんだ」

香霖「どうしてただの里の人間の魔理沙と霊夢が知り合えたか分かるかい? それは魔理沙の父親が霊夢がまだ小さいころ、つまり先代の巫女が存在していたときだね。霊夢と年齢が一緒の魔理沙を使って博麗の巫女との面識を作ろうとしたんだ」

男「それが嫌で家出か」

香霖「霊夢とは普通の友人でいたかったみたいだ。家出をしたときの年齢が8歳。そこからずっと彼女は一人だ。親に一番甘えたい、甘えなければいけない年代のころ魔理沙は一人で生きてきた。僕は半妖だから分かるとは言わないけどそれはそれは辛かっただろうね」

男「今まで出来なかった家族への愛情の代替品が俺か」

香霖「言い方は悪いけどそうだね。さてここでもう一度聞くけど君は自分の人生を代替品としてできるのかい? あの可哀想な彼女と数日しか過ごしていない君が」

香霖の鋭い目が俺を射抜く。言い方は穏やかだが目は偽善とか同情なんかじゃ許さないと物語っている。

男「あの魔理沙が。霊夢と並ぶために弱音を見せず努力して必死にその隣に立っている魔理沙が大好きなんだよ。だからその魔理沙のそばに入れるなら兄だっていい。代替品上等だろ。あの魔理沙が妹になってくれるんだぜ? 男冥利に尽きるだろ。朝起きると可愛い妹 昼にも可愛い妹 夜にも可愛い妹。俺の人生ぐらい払う価値あるだろう。いやむしろ俺の人生で足りるのか?  可哀想な魔理沙? 可愛い魔理沙ですよ本当。本当神様ありがとうございますだろ。まじありがとうございます。やべぇ興奮してきた」

香霖「………どうやら君も変人のようだ」

男「まぁな。男だもの」

香霖「まぁ君の覚悟は分かった………覚悟なのかな。まぁいい。それじゃあ魔理沙についていろいろ教えてあげよう。僕の知っていることでよければ」

香霖の顔が呆れたような顔になる。というか呆れているんだろう。しかしあの鋭い眼光はないから合格ということなんだろう。

男「おう」

なんだかいろいろ吹っ切れた。魔理沙の兄でいいのかと悩んでいたのが馬鹿らしい。魔理沙の兄なんだ。それでいい。むしろそれがいい。

香霖「じゃあ今までのことを話そうか。もちろん魔理沙が出てくるまでだから詳しくは話せないけどね」

男「ありがたい。痛み入る」

香霖「これは魔理沙が魔法を使い始めたころなんだけど―――」

男「さて、そろそろ帰るか」

魔理沙の後に風呂に入ってしばらくゆっくりしていると時間はすでに夕方。もう帰ったほうがいいだろう。

外は大雨で正直出たくはないが仕方がない。

香霖「これを着ていくと良い」

香霖が何かを投げて渡す。受け取るとそれは合羽だった。

男「いいのか?」

香霖「あぁ、サービスだよ」

魔理沙「珍しい」

香霖「ひどいな。商売にはサービスが重要なのさ」

魔理沙「これは大雨が、ってもう降ってるか」

朱鷺子「気をつけて帰りなさいよねー」

香霖と朱鷺子に見送られながら店の中で箒にまたがりそのまま外へでる。

魔理沙「うわわ、合羽があるとはいえ、厳しいな」

強い風に吹かれいきなり体勢を崩す。なんとか持ち直して空へ駆け上る。

そういえば結局香霖ずっと剣もってたな。

やっぱりあるところを境に雨がいきなり晴れる。

そこからは早く帰りたいがために魔理沙はどんどんスピードを上げていく。なのでどんどん体温が奪われていって博麗神社につくころには二人真っ青になってぶるぶる震えていた。

魔理沙「ふ、風呂!」

男「おおおおおう」

つくと同時に温泉に向かって走る。

さっきは一緒に入らなかったが今はそんなことを言ってる場合じゃない。このままだと死ぬ気がする。多分。

脱衣所で服を脱いで温泉に飛び込む。

霊夢「………」

男「OH………」

霊夢がこっちをにらんでいた。

男「OKOK目は瞑った。制裁カモン」

事故と言い訳するまえに一発殴られていたほうが対応がいいだろう。なので目を瞑って痛みを待つ。

霊夢「―――くせ」

男「なんだ?」

霊夢「その前に下を隠せっ!!」

ゴンッ

何か硬いものが頭にぶつかる。なんだこれ超いてぇ。

そして後ろに倒れて温泉のふちで頭を打つ。更にいてぇ。

たんこぶを撫でながら風呂へ浸かり行儀は悪いがタオルで下を隠す。

この間も目を瞑っているので霊夢が何をしているかは分からない。もしかしたら俺を殺す準備でもしているのだろうか。妄想が俺の手を離れてどんどん膨らんでいき最終的に俺が地面に埋められるところまで想像した。

が、霊夢は呆れたように

霊夢「変態」

といってくるだけでそれ以上はなにも言ってこなかった。

魔理沙「なんだか凄い音がしたんだがって霊夢いたのか」

霊夢「えぇ、いたわよ。自分の家だもの」

霊夢「ちょっと魔理沙。大きなタオルがそこにあるから取って」

魔理沙「おう。ほいよ」

霊夢「ありがと。んっと。男、もう目を開けていいわよ」

男「そういいながら見たわねとか言ってまた殴る気だろ」

霊夢「そんな痴女みたいなことしないわよ」

その言葉を信じて恐る恐る目を開く。

霊夢はバスタオルを体に巻いていた。

霊夢の肌は温泉につかってほんのり赤くなっていて肩を伝っておちる水滴が

霊夢「凝視したら殺すわよ」

目をそらす。うん、まぁなんだ。霊夢も美少女だ。

魔理沙「あー生き返るー」

霊夢「どうしたのよそんなにびしょぬれになって」

魔理沙「香霖のところで凄い雨降っててな」

霊夢「それは災難だったわね」

温泉に浸かっているとじょじょに体温が戻り、肌に赤みが差す。温泉があって助かった。

男「あ、ちなみにさっきのは事故だからな」

霊夢「分かってるわよ。でもこっちは見られたのよ」

男「俺だって見られたからおあいこだな」

霊夢「あんたは見せ付けてきたんでしょうが」

男「面目ない」

そんな話をしていると霊夢がいきなり鳥居の方を向いた。

霊夢「あら、誰か帰ってきたみたいね」

男「? なんでわかるんだ?」

音とかは聞こえなかったのにと思っていたら境内から藍さんの声が聞こえた。

霊夢「私が張った結界だもの。誰が入ってくるかぐらい把握できるわ」

藍「霊夢!! 霊夢!!」

霊夢「こっちよー」

藍さんが霊夢を探しているようだ。何かあったのだろうか。霊夢が藍さんに声をかけるとすぐに飛んできた。

霊夢「どうしたのよそんなにあわてて」

歩くでもなし走るでもなし。飛ぶってことはよっぽどのことがあったんだろうな。魔理沙も俺も藍さんの言葉に耳をむける。

藍「妙蓮寺が崩壊!! やったのは神子達と古明地姉妹!!」

霊夢「………え?」

~時は数刻戻り少年視点~

大変です。こいしさんがいつのまにかいなくなってしまいました。このままでは大変なことになるかもしれません。

僕たちは途中博麗の巫女さんと一緒にいた人間の人と出会ったりしながら広い幻想郷を探し続けていました。

さとり「まったく………どこにいったのかしら」

少年(無事だといいのですが)

さとり「無事だと思うわよ。あの子のことだし」

こいしさんは感情と覚の能力を失う代わりに無意識を操る程度の能力を手に入れているので普通他人からは見えません。なので安心といえば安心なのですがそれでも家族のことは心配なようでこいしさんは何度もため息をつきながらずっと歩き続けています。

さとり「そんなことよりあの子が変に引っ掻き回してなきゃいいけど」

そういいながらもさとりさんはきょろきょろと心配そうに見回しています。さとりさんはまだ完全に素直というわけではなくこんな風に自分の好意をごまかしたりするのです。

男(周りに人はいないんですか?)

さとり「いないわ。だから安全よ」

男(そうですか)

さとりさんは現在常に人や妖怪の心を読むようにしているので近くにいる人の存在を感知しているのでそれを避けるように行動できます。この能力がなければどれだけの戦闘を行わなければいけなかったでしょう。いくらもらった必殺の武器があるからといってあまり使いたくはないですから。

さとり「これは人間か妖怪の拠点に行くのも覚悟したほうがいいかしら」

男(かもしれませんね)

さとりさんの能力があるとはいえこいしさんを見つけるには僕もいかなければいけません。なのでしのびこむのは難しく最終手段として残していました。

さとり「諦める、ということも出来るけどどうしようかしら」

そう聞いてくるのは僕を心配してのことでさとりさんとしては妹のこいしさんが心配でしかたないのでしょう。おそらく、いやきっと僕がやめましょうといった場合僕を地底に戻してさとりさんはこいしさんを探し続けるでしょう。

その結果さとりさんがひどいめにあうのは嫌なので僕は心の中で探しましょうと思いました。

さとり「ありがとう………」

さっきからの僕の気持ちがさとりさんのは駄々漏れなのでさとりさんは少し顔を赤くしてそう答えました。僕達は結婚を前提にしているのですがさとりさんはまだ僕の好意になれてないようでそのたび顔が赤く染まり、とても可愛らしい様子を見せてくれるのです。

男(あれ、は)

森を抜けたところになにやら人が大勢集まっています。そしてその中に」

こいし「ふんふんふ~ん♪」

こいしさんがいました。

………男じゃねぇ。少年だ……… 何度も何度もすみません。

さとり「………あ………え………」

隣のさとりさんも凄く驚いています。しかしさとりさんが見ているのはこいしさんではありません。

ことり「『これから私たちは妖怪にとり憑かれた邪悪な神社を成敗します。私たちの手で神の名を。毘沙門天の名を騙る不届き者を打ち滅ぼすのです!』」

人間の中心にいるその妖怪はさとりさんと同じ覚の目を持ち、さとりさんよりも少し大きい。そしてさとりさんはこいしさんに似ている。似すぎていました。

さとり「おねえ………ちゃん?」

さとりさんのお姉さん。話には聞いていました。さとりさんにはいなくなったことりというお姉さんがいることを。そしてそのお姉さんはなぜか今人間の中にいるのです。

さとりさんがふらふらと歩いていきます草を音を立て掻き分けたため何人かの人間が気づき、やがてそのお姉さんがさとりさんのほうを見ました。

ことり「心配ありません。私の妹です」『あぁ、可愛いさとり。大きくなったのね』

声が二重に聞こえました。前者の声は耳から、後者の声は直接頭のなかに響いてきました。

ことり「さぁ、こちらへ来なさい。さとり」『怪我はしてない? おなかはすいていない? 大丈夫?』

頭の中に妹を心配する姉の思いが響き渡ります。それはずっと会えなかった姉の悲しいほどの深い愛を含んでいました。

ことり「あなたも一緒に戦うのです」『大丈夫。私が守ってあげるからずっとずっと。これからは私たちはずっと一緒よ』

さとり「おねえ、ちゃん。お姉ちゃん!!」

さとりさんがことりさんに向かって駆け出しました。僕もその後ろを走ってついていきます。

さとり「お姉ちゃん!!」

ことり『さとりっ!』

さとりさんがことりさんに飛びつくように抱きついていきました。親によって捨てられた姉は捨てられなかった妹を恨んではないようで、ことりさんはさとりさんの頭を何度も優しく撫でていました。

こいし「ぶー、私も撫でてよー。ちゃんとお姉ちゃん連れてきたんだから」

―――え?

さとり「そうね、おいで」

男『こいしさんのさっきの言葉はいったいどういうことですか?』

その言葉を書いてことりさんに突きつけます。

ことり「あなたは………なるほど、あなたもさとりたちの家族なのね」『ありがとう、さとりの家族になってくれて』

男「っ………『質問に答えてください』」

こいし「私がお姉ちゃんにお願いされてお姉ちゃんをここまでつれてきたんだよー」

………だからこいしさんが外にいたのか。一緒に出てきたわけじゃなく。はじめから外に。

いつからこの二人は繋がっていたんだろう。

ことり「質問に答えるなら、『私はさとりたちが大好きだから』」

言葉が二重で強調されます。おそらく嘘ではないという感じはしますがどうでしょうか。

少年『さとりさんはどうするんですか?』

さとり「私は………」

僕の顔をみてさとりさんが一瞬迷ったような顔をしました。

少年『分かりました。なら僕もついていきます。夫ですから』

さとり「………ありがとう、少年」

ことり「私としては歓迎します」

こいし「あはは皆一緒だね」

少年『ありがとうございます』

これが吉でも凶でも僕はずっとさとりさんと共にいます。見捨てられる怖さをしっているから僕は絶対にさとりさんを見捨てません。

神子「やぁ。どうやら感動の再開は終わったみたいですね」

ことり「えぇ、時間をとらせてすみません」

神子「では行きましょう。滅ぼすなら早いにこしたことはない」

人間達の間を縫って耳あてをして猫の耳のような特徴的な髪型をしている女性が出てきました。

布都「そのとおり。悪は早めに滅するが吉であろう」

そして灰がかった白髪の女性も出てきました。

神子「全員、目標は命蓮寺。出陣!!」

耳当ての人の言葉で人間達が動き始めます。

こいし「んじゃ、いこっかー」

こいしさんが僕とさとりさんの手を引っ張ります。それに僕では逆らえるわけがなく引きずられていきました。

ことり「がんばって戦いなさい」『後ろに隠れててね』

こいし「おねーちゃん、心の声駄々漏れだよー?」

ことり「ふふ、駄目ね。強く思いすぎると今でも出てしまうの」

さとり「あ………なんでお姉ちゃん眼が開いてるの?」

ことりさんの眼を見てさとりさんがそう言いました。そういえばそうです。ことりさんはさとりの能力を持っていないから眼が開いてない、はずだったのに。

そういえばさっき僕のこころを読んで答えた。今のことりさんは心が読める?

ことり「えぇ。頑張りました」

さとり「眼が開かなかったお姉ちゃんが心を読めるようになるなんて何をしたの?」

ことり「………」

さとり「っ!?」

さとりさんが目を見開いてこいしさんの顔を見つめます。

さとり「たべ、たの?」

ことり「えぇ。そうするしかなかったので」

それが何を意味するかは分かりませんでしたが、おそらく何かを食べたおかげでことりさんは強くなって、だけどそれは食べてはいけないもの。ことりさんはいったい

ことり「それ以上考えてはいけませんよ?」

ことりさんが僕の目をじっと見つめてそう言います。さとりさんも首を横に振りました。

思考を遮断することは嫌なことから逃避するために覚えた僕の特技で、僕の脳みそは今まで考えていたことをぶっつりと切捨て、この間会って、宴会に参加させていた命蓮寺の皆さ、道端の冬なのに葉をつけている木について考え始めました。

さとり「お姉ちゃん。少年だけは後ろに連れて行っちゃ駄目かしら」

ことり「駄目よ」『いいわよ』

さとり「どっち?」

少年『頑張ります』

ことり「………考えとしてはあまり妖怪になじんだ人間は信用できないけど、本心としてはさとりの夫だからかまわないわ」

こいし「大丈夫だよー」

さとり「?」

こいし「少年を無意識にしちゃえばいいんでしょ?」

さとり「………そうね。お願いするわ」

こいし「任せて!」

僕の知らない考えを一切許さず僕のことについて話が決まっていきます。ありがたくはあるのですが、おせわになった命蓮、いえこの考えはやめましょう。

僕がさとりさんより先に駄目になってはいけませんから。

現在命蓮寺があるのは幻想郷の人間の里から離れた場所。以前は人間の里の近くにありましたが、移動したらしいです。

命蓮寺は実は空飛ぶ船らしいので、戦争が始まってから飛んで位置を変えたらしいのです。

神子「もうすぐです。気を引き締めなさい」

「はいっ」

少年『ところであの人はいったい?』

さとり「豊聡耳 神子。神様みたいなものよ」

少年『神様なんですか?』

さとり「すばらしいものではないけどね」

神子「聞こえていますよ」

前を歩いていた豊聡耳さんが振り返らずに言いました。

さとり「えぇ、知ってるわよ」

布都「失礼であろう!」

さとり「私はお姉ちゃんについただけであなたたちについてないわ。だから礼を重んじる必要はないでしょ」

神子「まぁ、かまいはしません。戦力になるのなら」

響子「わわっ! 大変です大変です!!」

神子「私たちが来たことがバレない内に射殺しなさい」

布都「わかりました」

門前で掃除をしていた少女に矢が放たれます。それは到底目で追うには難しい速度で飛んでいきます。

聖「無用ですよ。そんなに殺気立たれては」

それをものすごい速さで走ってきた聖さんが受け止めました。

響子「聖さん!」

聖「一輪達を呼んできてね」

響子「はい!」

掃除をしていた妖怪が中へ入っていきます。それに向かって放たれた矢はすべて聖さんが受け止めました。

聖「ところで響はいったいどんな用ですか。帰依なら歓迎しますよ」

神子「君を殺しにきた………といえばいいかな?」

聖「………殺生は罪ですよ?」

神子「殺生じゃない。成敗さ」

ことり「少しいいですか?」

ことりさんが神子さんを遮って聖さんに話しかけます。

ことり「白衣妹、という少女をご存知ですか?」

聖「いえ、私は知りませんが」

ことり「そうですか。白衣妹は妖怪に殺されまして、私はその妖怪を『ぶっ殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいっ!!』」

後半はいきなりことりさんからあふれ出た感情で聞こえませんでした。それほどの強い感情が今いる全員の頭の中に響きます。

聖「………話し合いは無用ということですか」

ことり「えぇ、今すぐそちらが匿う妖怪をすべて受け渡してくれるというならあなたは生かしておいてあげますが」『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

聖「その要求は受け入れられませんね」

ことり「では皆殺しということで」『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

しまった白衣妹じゃない。亡霊妹だ。

一輪「姐さんっ!!」

村紗「無事ですか!?」

門を開けて村紗さんと一輪さんが出てきました。

聖「皆さんは?」

一輪「星とナズーリンが守っています」

聖「なら安心ですね」

神子「では、参ります」

神子さんが剣を抜きながら素早く聖さんに接近して

こいし「男は見ちゃ駄目だよー」

こいしさんが僕の両目をふさいでそういうと

熱を感じ僕は我に返りました。めらめらと命蓮寺が燃えています。

そしてあたりにただよう火薬と生臭い血の臭い。

それは僕からもしていました。頬をぬぐうとどろりとした赤が手の甲につきました。

少年「っ!!」

周りを見渡すと立っていたのは神子さん、灰っぽい白髪の人。ことりさん、こいしさん、さとりさん………だけでした。それでも皆どこかしらを怪我しています。

周りには倒れた人間達と、聖さん、一輪さん、村紗さん

少年「――――っえっぷっ」

思わず吐いてしまい地面にぶちまけます。胃酸の苦味と痛みがのどに残り涙があふれ出てきました。

神子「人間達は皆死にましたか。まったく化け物ですね」

布都「でも我々の勝利ですぞ」

何度か咳き込み顔を上げると燃える神社のほうからことりさんが歩いてきました。

ことり「いませんでした」

神子「それは気の毒に」

少年「あの、さとりさんなんで僕は生きてるんですか?」

こんな激しい戦いなのになぜ僕だけ無傷でいるのでしょうか。

無意識でずっと立っていたというのに。

少年『さとりさんが守ってくれたんですか?』

僕のその考えをさとりさんは首を振って否定しました。

さとり「あなただけ、狙わなかったのよ」

男「っ!!」

聖さんたちの性格を考えれば分かること。

それでも僕は敵だというのに、それなのに

ことり「こいし」

こいし「分かったよー」

ぬえ「離して!! 離してよマミゾウ!!」

マミ「いかん! いまあいつらのところに行った所で出来ることなぞなんひとつないぞ!?」

ぬえ「やだ、いやだ!!」

マミ「今は耐えるしかない。それでいつの日か」

ぬえ「駄目なんだよう。あいつら皆殺されて」

ぬえ「死んじゃったらありがとうって言えないじゃないかぁ!!」

マミ「っ!! とにかく儂はお主まで失いたくない、分かってくれ」

ぬえ「聖!! 星!! 村紗!! 一輪!! ナズーリン!! 響子!!」

マミ「無理やりでも連れて行くぞ」

ぬえ「みんなぁ!! みんなぁああああっ!!」

~男視点~

空気が重かった。夕食中一切言葉は発せられず、皆ただ食べることしかしない。いつも元気なチルノも今日は俯いて静かに食べていた。

詳しくはしらないが、一応霊夢たちの味方だった命蓮寺の皆が死んでしまったらしい。

今は落ち着いているが魔理沙は命蓮寺まで飛んでいこうとしたり、霊夢はずっと放心状態だった。

一応銃を使ってみたが弾は出ず時を戻すことができなかった。まだ異変は解決できるらしい。

霊夢「ごちそうさま」

霊夢が食べ終わり静かに出て行った。それに続いて魔理沙も食べ終わり出て行く。

映姫「男、後でいいですか?」

男「あ、はい。分かりました」

四季さんが俺を見て言う。それで会話は終わりまた黙々と夕食の焼き魚を食べる。味があまり感じられなかった。

命蓮寺とは付き合いがないとはいえ、それでも皆のこの様子を見るのは結構辛い。

結局全部食べるほど食欲は出ず、残りをチルノにあげて外にでた。

月が雲に隠れてぼんやりとした光しかとどかない。

男「?」

そんなぼんやりとした光の中に眼鏡をかけた女性と黒いワンピースを着た少女が立っていた。

眼鏡の女性は俺をじっと見ているが、黒いワンピースの少女はずっと俯いている。

男「誰だ?」

マミ「驚かせてしまったようじゃな。霊夢はおるか?」

眼鏡の女性が一歩踏み出し、顔がはっきり見える。

男「どうやって中に入った?」

マミ「警戒するのも無理はないが、敵じゃない」

信じて良いものかどうか。もし霊夢を呼んで敵だった場合大変なことになる。それにこの奥には紫に四季さんもいる。二人は現在戦えないのだから襲われてしまってはひとたまりもない。

ぬえ「やっぱりいいよ。マミゾウ」

マミ「ここが一番安全なんじゃ」

どうやらここに匿ってもらいたくて来たらしいが。

男「………俺はあんまり詳しくないから直接取りつなぐことはできないからまず魔理沙を呼んできていいか?」

マミ「おぉ、それは助かる」

隙は見せるが、これで敵かどうかはっきりわかる。

俺は懐の銃に手をかけながら魔理沙の部屋に向かった。

男「入るぞ魔理沙」

十秒ほど待ってみたが中から返事は返ってこなかった。仕方ないので許可はとらずに中へ入る。

魔理沙「………どうしたんだ?」

魔理沙が暗い部屋の中。ベッドにもたれかかって座っていた。

男「ちょっと用があってな。いいか?」

魔理沙「………あぁ」

魔理沙はゆっくりと立ち上がってぼんやりとした目でこっちへ歩いてきた。

その様子がとても危なっかしく思えて、腕を引いて抱きかかえた。

魔理沙「………」

いつもなら何かしらのリアクションを起こすが、今は黙って俺に抱きかかえられていた。

さっきの眼鏡の女性がいるところまで運んでいく。

魔理沙「………だ」

何かを言っていた気がしたが、小さくてよく聞こえなかった。

マミ「手間をかけたな」

魔理沙を眼鏡の妖怪のところへ連れて行き縁側に座らせた。

魔理沙「マミゾウ?」

マミ「ずいぶんやつれてるな」

ぬえ「魔理沙………」

魔理沙「ぬえ………? なんで」

マミ「儂がぬえだけは助けた………ぬえだけしか助けれなかった」

普通に会話をしているところから見るとどうやら敵ではないらしい。

マミ「これで儂等が敵ではないことが分かったろう。霊夢をつれてきておくれ」

男「分かった」

男「霊夢、開けるぞ」

霊夢の部屋も魔理沙の部屋同様に返事がない。なので霊夢の許可を得ずに中に入る。

部屋の中はやはり暗かった。

霊夢「勝手に入ってきて、変態………」

霊夢の罵声はいつもより覇気がなくて、囁くような声だった。

部屋のなかに踏み込むとアルコールの臭い。霊夢の近くに一升瓶が転がっていて、霊夢の手にも一升瓶が握られていた。この短時間で飲んだのだろうか。

男「お前、こんなに酒飲んだのか?」

霊夢「いいでしょ、別に」

男「良くないだろ。下手したら死ぬぞ」

霊夢「うん」

男「うんって………死にたいのか?」

霊夢「分かんないわよ。もう何も。………はぁ」

霊夢が酒を煽るように飲んだ。詳しいわけではないが、あのペースで酒を飲むのが体に悪いということは分かる。

男「もうダメだ」

霊夢の手から一升瓶を奪う。霊夢は鬱陶しそうな顔をして「返してよ」と言ったが近くにあった蓋を拾ってきつく閉める。

男「もう少し自分の体を気づかえよ。自暴自棄になってないで」

霊夢「説教臭いわね。仕方ないじゃない、一気に知り合いがいなくなったんだから。しかもその知り合いを殺したのも知り合い。なんで皆そう簡単に人を殺せるのよ。死ぬってことはいなくなるってことなのよ?」

霊夢が小さく震える声でそう言う。

霊夢の気持ちは分かる。俺だって簡単に人の命を奪う奴の気持ちは理解出来ない。

でも、理解していたからといって霊夢にどんな言葉をかければいいのだろう。

俺は命蓮寺の人達を知っているわけでないし、殺した側の奴らを知ってるわけてはない。

霊夢「で、なんの用なのよ。説教でもしに来たわけ?」

男「説教はしたいが今は別の用だ。お前を訪ねてきた妖怪がいる。名前はマミゾウとか呼ばれてたな」

霊夢「マミゾウが?」

霊夢が立ち上がろうとしてふらついて俺に抱きついてきた。

霊夢「あ、ごめん」

いつもなら離れなさいこの変態とでも言ってきそうなものだが素直に謝ってきた。

男「肩貸すぞ。ふらつくぐらい飲んでるんだろ?」

霊夢「うん。お願いするわ」

マミ「霊夢」

マミゾウが霊夢を見ると少し眉を上げて驚いていた。

霊夢「久しぶりね、マミゾウ」

マミ「ずいぶんやつれたんじゃな」

霊夢「で、どうしたのよ」

マミ「ぬえを預かっては貰えないだろうか。礼はする」

マミゾウがぬえと呼ばれた少女の背中を押す。

魔理沙「マミゾウはどうするんだ?」

マミ「儂はやることがあるんでな」

ぬえ「マミゾウ………どこいくの?」

マミ「なぁに、ちょっとした用じゃよ」

ぬえ「戻って、来るよね?」

マミ「じゃああとは頼んだぞ、霊夢、魔理沙」

マミゾウが夜の闇の中へ跳んで消えていった。

ぬえがそれを追おうとして派手に転ぶ。

ぬえはその場に座り込んでマミゾウが消えた方をずっと見つめていた。

霊夢「私は紫に伝えてくるわ。多分まだ食べてるでしょうし。あとはお願い」

霊夢が部屋の中へ入っていった。あとを任されたが何をすればいいのだろうか。

ぬえの近くに行きしゃがむ。ぬえは震えてまだ闇のなかを見ていた。

近づいてわかったが服も体もずいぶん汚れている。風呂にいれた方がいいだろう。

男「なぁ、大丈夫か?」

ぬえ「……………」

ぬえが静かに立ち上がり虚ろな目で俺の方を見ている。しかし俺を見てないように感じた。

魔理沙「兄貴、私は部屋の用意してくるから、ぬえを風呂に連れていってくれ」

男「それなら魔理沙のほうが」

魔理沙「この家のこと分かんないだろ? 兄貴がそんなやつじゃないって私信じてるからな」

魔理沙も走り去っていった。こんな状況で欲情するほど下衆じゃないけどさぁ。信頼されてるのはいいが複雑だ。

男「ってことだけどいいか?」

ぬえ「………」

何も答えない。どうしたものやら。

このまま放置しておくのもなんなので腹をくくって風呂にいれることにしよう。

嫌がったら、あとは魔理沙か霊夢にバトンタッチをすればいいだろうし。

そう結論付けてぬえの手を引き、温泉へと連れて行く。ぬえは抵抗せずについてきた。

何もリアクションを起こさない。すべて受身なのだ。ひっぱればついてくるが、ひっぱらなかったらずっとそこに立っている。これでは人形と変わらない。

何度も話しかけてはみるが、何もしゃべらない。これは俺が初対面のせいなのだろうか。もしかしたら霊夢や魔理沙なら反応が返ってくるかもしれない。

結局抵抗も反応もせずに温泉についてしまった。

扉を開けて脱衣所に入る。そういえば俺は今日二回目なんだが俺も入らないと色々不便だよな。この様子だと自分で入ってくれるとは思えないし。

男「服、脱がせるけどいいか?」

ぬえ「………………」

分かってはいたが反応はない。変態呼ばわりされてもいいから脱がそう。泥だらけのまま放置するほうが心が痛む。それにもう変態扱いなのは変わらないのだからかまいはしない。まさか変態扱いがこんなところで役に立とうとは………いや、役に立ってるのか?

ぬえのワンピースの首下のボタンを開ける。出来るだけ見ないようにしながら万歳させて服を脱がせようとするとなにかが引っかかった。なんだろうと何度かひっぱってその原因が分かった。背中に生えている赤と青の羽っぽいなんだかよく分からないもの。てっきり装飾だと思ってたが違うようだ。

よく見ればちゃんと背中から生えている物体にそって服に切れ目があった。黒く小さなボタンで留めているので気づかなかった。

ボタンをはずしてやっと服を脱がせることが出来た。

ずいぶん面倒な服だが、羽あり妖怪はみんなこんな面倒な服を着ているのだろうか。

男「………つけてないのか」

妖怪に下着という文化があるのかそれともぬえが小ぶりなだけで必要ないのかどうかは知らないがつけていなかった。はずし方をあまりよく知らないのでそれはそれでありがたいのだが、なんだかなぁ。

男「あー、えっと、下脱がせていい?」

ぬえ「………………」

やはり返事もうなずきも返ってこない。仕方ないので目をつぶりながら脱がせる。あとはバスタオルでも体に巻いておけばいいだろう。

脱がし終わり、服を籠に突っ込んで俺も服を脱ぐ。一応視界に入らないようにして腰にタオルを巻く。マナーは別に公共の風呂じゃないからいいだろう。霊夢だって巻いていたし。

後はぬえにバスタオルを巻いて終わり。ぬえの背中を押して中へと入る。

冬、しかも夜なので裸で外にでるとかなり寒い。急いでぬえについている泥をお湯で丁寧に流し、浸からせる。続いて俺も温泉へ浸かる。

こうして落ち着いてぬえをみるとかなり可愛い。いやまぁだからどうしたという話なのだが。

もしかして幻想郷って美人ばかりなのだろうかと今まであった女性を思い出す。

うーん。見事に美人しかいないが偶然なのだろうか。

ぬえ「………………っ」

男「え!?」

ぬえがいきなり静かに涙を流し始める。表情を変えずに涙を流されるとこちらとしてはどう対応していいか分からずに困るのだが。

ぬえの前でおろおろしているとぬえがいきなりお湯に顔をつけた。ぶくぶくと泡がいくつも浮かんでは消える。え、なして?

男「おいっ!」

慌てながらぬえの顔を上げさせる。

ぬえ「やめてよっ!!」

いきなり細い華奢な手で振り払われる。その動作だけで俺は水の抵抗もあるというのに少し吹っ飛んだ。胸を見ると一筋の赤。なんてこった。

妖怪が窒息死するのかどうかは分からないがとにかくとめるしかない。

再び近づいて抱きしめるように止める。とにかくこうでもしないとまた振り払われて終わる。

ぬえ「やだっ。やだぁっ!!」

駄々を捏ねる子供のようにぬえが抵抗する。駄々の割りにはなかなか力強いが。

男「俺に抱きつかれてるのがいやなのか止められるのがいやなのかは分からんが、離さんぞっ。前者だったら後でいくらでも謝ってやるよ!」

ぬえ「もういやだっ!!」

もういやだということは今の状況に絶望してるのか。だから突発的な自殺を起こした。

くそっ。霊夢でもいたら止められそうなんだが。

男「うぐ、おっ」

頭突きがあごにヒットて一瞬意識が飛びそうになる。なんとか持ち直したが正直ジリ貧だ。

男「お前の理屈なんてしったことか!! 俺はもう誰も死なせたくないんだよ!! 俺にかかわったことを後悔するんだな!!」

ぬえ「………………」

ぴたりとおとなしくなる。あきらめてくれたのだろうか。

ぬえ「………うぇえええぇえんっ!!」

と思ったらいきなり子供のように泣き出した。

とにかくおとなしくなってくれたならそれでいい。これで泣き止んでおとなしくなってくれたならもっといい。

とにかくもう暴れないでくれ。体を見ると所々に小さな怪我がある。背中もずきりと痛む。どうやら背中にある程度大きな傷があるようだ。

泣き声は夜空に響き、俺の鼓膜にも響く。抱きついた姿勢なので耳が痛い。

さてはてどうすればいいか悩み子供をあやすように頭を撫でる。子供みたいだから間違いではないと信じたい。

ぬえ「うわぁああああぁあああんっ!!」

泣きやまねぇ。どうすればいいものやら。もうこうなったら君の口を俺の口でふさぐっ!!

いや、冗談だけどさ。

とにかくこの状況を耐えなければ。

ぬえの目から大粒の涙がこぼれいくつも湯に落ちていく。ぽたぽたと。

男「あーくそっ。なんで戦争なんかおきるかね」

その様子がこないだの俺とダブって見えて強く抱きしめて頭を撫でる。

とにかくこんな時は誰かがそばにいてやらないといけない。俺だって四季さんにずいぶん助けられたんだから。

今回、俺がその役目にならないとな。

ぬえ「うぇええええぇええええんっ!!」

男「泣け泣け。泣くことは良いことだ」

それだけ大切だったんだろ。皆のこと。

おそらく十数分間ほどぬえは泣き続けた。そしていきなり電池が切れたようにまたあの無表情に戻った。

男「よし、体洗うか」

ぬえ「………」こくり

まぁ、それでも一応頷いてくれるだけの進歩はあった。とりあえずは一歩。あとは会話をしてくれるといいんだけどな。

それでも動き自体は受動的でやはり俺が動かさないと動かない。なのでぬえを抱きかかえてお湯から出す。

椅子に座らせてとりあえず石鹸で髪を洗う。

髪は汚れのせいか傷ついておりごわごわしている。何度か洗わないと綺麗にならないだろう。

石鹸を泡立てて髪を洗い、流す。その作業を4回ほど繰り返してやっとぬえの髪が綺麗になった。

一応近づけて匂ってみるが匂いもない。これならいいだろう。

男「………はたから見ると変態だな、俺」

ぬえ「………………」こくり

呟いた一言に頷かれてしまった。

少し傷つくんだけど。

髪が終わったんで次は体なんだが

男「体洗っていいか?」

ぬえ「………………」こくり

普通に許可でたがこれってもしかして俺の言葉に反応して頷いているだけとかないよな。

まぁ、うん。洗おう。一回お湯で流したとはいえ、細かな汚れは残ってるだろうし。

柔らかめのタオルに石鹸を泡立ててこする。

そういえば背中のこれどうすればいいんだろう。一応体の一部っぽいから洗ったほうがいいのかな。

根元からごしごししてみるが肌と違って硬い、というよりぷにぷにとした弾力性がある。本当なんなんだろうこれ。

ぬえ「………っ………っ」

こするたびにぬえの体がぴくぴくと震えるが大丈夫なのかこれ。やめておいたほうがいいのだろうか。手っ取り早く洗って他に移ろう。

男「腕ー。背中ー。足ー」

と洗っていきふと思うが前はいいのだろうか。下心はないがそれでも会ってすぐの男に触られていいものなのか?

男「………後で謝るからな」

ぬえと向かい合ってみる。タオルはなくて丸見えなのにノーリアクション。

………まぁ、俺には可愛い妹との約束があるんで欲情しませんけどね!

俺は髪が短いのですぐに乾くが、セミロング程度の長さのぬえはそうはいかない。

こんな時にドライヤーがあればなぁと文明の利器を懐かしく思う。

風邪をひいてはいけないのでタオルで念入りに拭いて服を着させる。寝巻きでもあればいいんだろうがさすがに背中が開いた寝巻きとかないからな。改造すれば別だろうが。

でも着替え作っとかないと汚れた服の問題とかあるからな。あとで四季さんにでも相談してみよう。

男「さて、魔理沙のところでもいくか」

ぱぱっと着替えてぬえの手を引っ張る。

魔理沙「お、もう出たのか」

外への扉を開けると外に魔理沙がいた。

男「ちょうどいいところに、ぬえのことを後は頼んだ」

魔理沙「おう。あと霊夢から伝言だ。ぬえの面倒はあんたにまかせた。だってさ」

男「………なんで俺?」

魔理沙「んー。一番頼りがいがあるから?」

男「たぶん一番戦力にならないからだろう。戦うだけならチルノのほうが俺の何倍も役に立つからな」

男「というかさっき魔理沙返事したよな。だったら魔理沙がみれば」

魔理沙「一緒に面倒みればいいんじゃないのか?」

男「いや、まぁそうだけど」

使わせる部屋は魔理沙の部屋のほうがいいよなぁ。でも突発的になにかした場合のために俺の部屋のほうがいいのかな?

魔理沙「ってことで今日から私は兄貴の部屋で暮らすぜ」

男「六畳一間に三人は狭いだろ」

魔理沙「どうせ荷物とか一切ないんだから大丈夫大丈夫」

いや、魔理沙とぬえがいいならいいんだけどさぁ。ぬえは返事しないからいいのかどうなのかは分からないけど。

男「やれやれ。じゃあ今日はもう寝るか。疲れた」

魔理沙「あぁ、もう寝よう」

ぬえを引っ張って自室へ向かう。魔理沙は言葉には出さないが、声色も顔も疲れているし早く寝かせたほうがいいだろう。

ぬえも寝たら落ち着くかもしれないし。

男「ふわぁ………」

明日は今日よりいい日になればいい。

もういい日なんてこないかもしれないけどさ。

~俯瞰視点~

地底には月の光は届かない。しかし青白い月の光のようなものが地底を照らしていた。

お燐「え?」

そんな地底で暮らしている火車、火焔猫 燐は伝えられた言葉が理解できずに聞き返した。

文「さとりさんが………人間側につきました」

文は外にでた際に放った式が持って帰った情報をもう一度お燐に伝える。

―――自分でも信じたくはないですけどね。しかし事実は事実ですよ。どんな言葉を使っても捻じ曲げることはできないんです。

そう文は付け加えた。文はそもそも記者ゆえに誇大広告はしても嘘はつかない性分なのだ。

お燐「はは、嘘、だよね」

お燐の目が動揺して揺れる。自分の愛した主人が敵に回ったのだ。お燐はこれは夢だと心の中でなんども唱えた。しかし握り締めた手の痛みがこれが現実であることを伝える。

文はお燐が望む返答をせず、首を横に振った。

文「ですが、さとりさんにも考えが「ねぇ射命丸。ちょっとお願いがあるんだけどいいかい?」

文の言葉を遮ってお燐が泣きそうな笑顔で文に聞く。

文「はぁ、かまいませんが」

お燐「今すぐ地底の全員を集めてくれないかい。伝えたいことがあるんだ」

地底なのでそれほどスピードは出せない。それでも文のスピードは他の妖怪よりもずっと早い。

地底の住民は少ないとはいえそれでも4桁はいる。それを文はおよそ1時間で終わらせた。

文「はぁ。冷たい飲み物でも飲みたいですね。それで結局なんなんでしょうか」

詳しい内容は聞かされていない。文はただ集めてきてとしか言われてないのだから飛びながらずっとなにがあるのかを考えていた。

―――お燐さんの性格だと自分から戦争をしかけにいくとは思えないですけどね。勇儀様もいますし。

となるとさとりを取り戻す話し合いでもするのだろうか。

お燐「おかえり射命丸。ちょうど今から始まるよ」

お燐はにこりと笑って全員から見えるように地霊殿の屋根に上った。

お燐は全員いるかを見渡して頷くと声を張り上げてこう言った。

お燐「今からここの全員で地上を制圧する」

その言葉を理解したものはお燐に対して抗議の声を上げた。

その代表は水橋パルスィだった。お燐に近づくために空中へと浮く。

パル「そんn「やりな、お空」

空中に浮いたパルスィが地面に落ちる。胸に大きな穴を開けて。

お燐がいるところよりもさらに離れた位置にお空はいた。その体勢はお燐に近づくものを射抜くために右手の第三の足を向けている。

パルスィを射抜いたのはお空の核融合による熱線。直撃すれば鬼にすらダメージを通すそれをパルスィは胸に受けた。

無事ではすまない。地面に落下したパルスィの綺麗な緑色の目に今はもう光はない。

パルスィの死。それを認識した妖怪はおびえ、騒ぎ、お燐に向かっていこうとし、逃げようとした。

そのうち向かってくるものと逃げようとしたものはお燐の炎に焼かれパルスィと同様に死んでいった。

勇儀「おいっ!!」

勇儀が激昂し、お燐に向かって飛び掛ろうとする。そして飛んできた熱線を素手で弾いた。

あの鬼が自分に拳を振りかざしているのにお燐の顔は歪んだ笑みを浮かべる。

お燐「いいのかい?」

勇儀「なに?」

その言葉を聞いて勇儀の拳が一瞬止まる。そしてお燐の言葉が何を指すのかは後ろから聞こえる悲鳴で分かった。

パル「いたた、た」

死んだはずのパルスィの声が聞こえた。勇儀が振り返るとそこには胸に大きな穴を開けているというのに平然と立ち上がったパルスィがいた。

どういうことだ、と呟いたと同時に理解する。

お燐は自分の能力を使いパルスィを生き返らせた。いや生きた死体に変えた。

その能力を使っているところは見たことがない。さとりにとめられていたのかどうかは知らないがこれまでのものとは。と勇儀が驚愕する。それと同時にお燐が近づいて耳元でささやく。

お燐「いいのかい? 逆らったらまた死んじゃうよ?」

そんな嬉しそうな声を聞いて勇儀はあぁ、お燐はどうやら狂ってしまったのだなと理解した。

その原因は知らないが友人であるパルスィを人質に取られたからには仕方がない。胸のなかでくすぶる怒りを抑えながら勇儀は拳を下ろした。

勇儀「どうする気だ?」

お燐「今まであたいたちからすべてを奪った地上に復讐をするんだよ」

お燐「まぁ、誰にも理解して欲しくはないけどね。明日がないかもしれないってことを知らないあんたにはとくにね」

お燐の手が後ろから回され勇儀の首を撫でる。

その触り方に勇儀の背筋はぞくりと震える。

お燐「あたいは今までずっと奪われる側だったんだ。もうそろそろ奪う立場になってもいいだろう?」

その笑いながら話すお燐の声が勇儀にはひどく不快だった。しかしどうすることも出来ない。

勇儀「入り口の結界はどうするんだ」

お燐「他の入り口を作ればいいさ。あんたとお空がいればそんなに難しい話じゃないだろう?」

お燐の手が勇儀の頬を撫で、爪を立てる。

勇儀「………分かった」

お燐「うん、いい返事は大好きだよ」

お燐が勇儀から離れる。そして屋根の上に立ちぱちんと指を鳴らすとお燐とお空に殺されたすべての死体が立ち上がる。

お燐「ねぇ、皆。生きながらあたいに従うのと死んであたいにしたがうのどっちがいい? あたいにとってはそんなに変わらないからどっちでもいいけどさ」

その言葉に逆らうものはもういなかった。

お燐の話が終わり、勇儀はパルスィの家に戻ってパルスィの体の手当てをしていた。

勇儀「大丈夫か?」

パル「痛くないから大丈夫よ。死んだって実感はわかないけどね」

パルスィは胸にあいた穴を見ながらため息をつく。

普通ならば怒るのだろうが勇儀が怒ってくれたのだからもういいかとパルスィは思っていた。

そもそも嫉妬を集める妖怪なのだ。負の感情には慣れている。

それに生きているという表現は適切ではないが死んでいないのならあまりかまいはしない。そんな風に怒りや恨みによって妖怪になったパルスィは普通とはずれた考え方をしていた。

お燐「大丈夫かい?」

そんな気遣いではなく形式的な台詞をはきながらお燐が部屋の中に入ってきた。

パル「大丈夫よ。それにしてもいきなり殺さなくてもいいんじゃないの?」

お燐「死んでるか生きてるかなんて対して重要なことでもないじゃないかい。どうしてそんな心臓が動いているかどうかに関心を抱くのかね」

パル「普通は死んだら死にっぱなしだからよ」

拳を震えさせる勇儀を押さえてパルスィがそう返す。

自分を殺した張本人を目の前にしてもパルスィはほとんど怒りを抱かなかった。それがお燐のせいなのかどうかは分からないがそれならそれでいいかとパルスィは納得する。

パル「で、どうしたのよ」

お燐「一応友達だったから次攻める場所でも伝えておこうかなってさ。幹部待遇で受け入れるよ」

パル「それはありがたいわね。勇儀の酒もお願い」

お燐「考えておくよ」

お燐「で、次攻めようかと思うのは紅魔館のやつらかな。具体的にはフランドール。いくら死体を操れてもばらばらにされたら意味がないからね。あんたならいけるだろう? 勇儀」

勇儀「無理でもやらなくちゃいけないんだろ?」

お燐「まぁ、死んでも大丈夫だからさ」

パル「で、いつやるのよ」

お燐「明日か、明後日か。それにしてもずいぶんいい返事だねぇ」

パル「それほど吸血鬼にかかわってないからよ。地上に関わってないってのが正しいけど。それに迫害されて地底にきたやつらは大体私と同じ感じなんじゃない?」

お燐「皆がそうならいいんだけどねぇ」

パル「とにかく私は地底のやつらが元気ならそれでかまわないわよ。とくに勇儀が元気なら」

勇儀「………………」

パル「そんな目で見ないでよ。私はあんたと違って根暗なのよ」

勇儀「………分かった。私もパルスィのためにがんばるよ」

お燐「んじゃあ作戦はのちのち伝えるよ」

お燐は黒猫の姿になって窓から出て行った。それをパルスィは見送ってつらそうな顔をしている親友の頭にぽんっと手を置いた。

お空「………」

お空はずっと上を眺め続けている。そこには空ではなくあるのは岩で出来た自分たちを封じ込める天井、地上がある。

お空はお燐ほど頭が良いわけではないし、現実を見ているわけではない。それが幸いしたのかお燐ほどはまだ狂ってはいない。

が、それでも仲間だった妖怪を手にかけれるぐらいには狂っている。おそらく大親友のお燐がいなければ手当たりしだいに破壊し続けただろう。

大親友から聞かされた話はさとり達以外を全て消すこと。もしそれが出来たらずっとさとりと一緒に暮らせて幸せなのだろうとお空はそう思った。

―――お燐は頭いいんだもん。きっとさとり様を取り戻してくれるよね。

親友を信頼して幸せな未来を思い描く。

それはお空がいてお燐がいてさとりがいてこいしがいて少年がいて。そして後は誰もいなかった。

日が明けた。

外から差し込む光によってパルスィは目を覚ました。

パル「死人に口なしって言うけど、寝て夢みて喋ってご飯食べて。真っ赤な嘘じゃないの」

―――にしても嫌な夢を見たわね。

パルスィが見た夢は自分の過去。裏切られ捨てられ、そして人の身から妖怪になった。そんな思い出したくない嫌な過去を見ていた。

パル「起きなさい。勇儀」

隣で寝ている勇儀を蹴って起こす。勇儀に対してこんなことができるのはパルスィぐらいだろう。

勇儀「………んあー」

はだけた寝巻きを気にせず勇儀がのそりと起き上がる。そして何度か頭をかく。

勇儀「朝か………」

パル「さっさと朝ごはん食べるわよ」

勇儀「………んー」

パル「今日、行くのかしらね」

勇儀「じゃなかったらいいんだけどな」

パルスィが作った味噌汁をすすりながら勇儀が眠たげな声で答える。

パル「ちなみにお燐がお酒持ってきてくれるみたいよ」

勇儀「本当に持ってきたのか。はぁ、パルスィといい酒といい、お燐は私を手ごまにしたいようだねぇ」

パル「私がお燐でもそうするわよ。ヒエラルキーの一番上にいる鬼だもの」

勇儀「親友を手ごまにするのかい?」

パル「親友なら手伝ってくれるもんじゃない?」

勇儀「………手伝うけどさぁ」

悪戯じみた笑みを浮かべるパルスィに苦笑いしながら勇儀は味噌汁を飲み干した。

勇儀「ご馳走様」

パル「お粗末様」

お燐「ここに勇儀が亀裂を入れた後、お空が破壊する。良いね?」

お燐がそこをぽんぽんと叩いて二人に指示する。

勇儀「正気か?」

お燐「さぁね」

お燐が叩いた場所。それは昨日お空が見ていた場所。

天井だった。

勇儀は何を言っても止められないんだから腹をくくるしかないね。とため息をついてお燐が触れた場所に向かって構えた。

お燐「じゃあお願いするね」

お燐が二人から十分距離をとる。戦闘力をあまり持たないお燐なら巻き込まれてしまえば終わりだからだ。いくら死体を操れるといっても自分の死体は操れない。

勇儀「はぁっ!」

勇儀が握り締めた拳を前に出す。それ以外は特別なことを何もしていない。

それだけで天井にひびが入りいくつもの石や岩が落ちていく。

あと数発殴れば天井が割れ、太陽の光が見えるだろう。しかし今は後ろで急激に熱を放つお空がいる。それに巻き込まれないように勇儀は天井を蹴って一気に地底へと降りた。

お空「行くよっ!!」

お空は自分の体に宿る自分のではない力。太陽の化身の神の力を解き放った。その光は天井を焼き尽くして―――

お燐「さすがお空。塵一つ残さなかったね」

十分な力を溜めて放ったお空の一撃は文字通り塵一つ残さず天井を焼き尽くした。

空に見えるのは燦燦と輝く太陽と冬の空。

追いやられ封印された妖怪たちが数年前までは憧れていた光景だった。

~男視点~

男「な、なんだ!?」

ものすごい音がして飛び起きる。まるで何かが爆発したみたいな音がしたが。

魔理沙「いてて。いきなりどうしたんだ?」

ぬえ「………………」パチクリ

男「今の聞こえただろ?」

魔理沙「熟睡してたからわからん」

耳が痛いくらいの音だったのに寝れるってどれだけ熟睡してたんだよ。もしかしてあの爆音は夢?

男「とにかく外を見よう」

外に出ると同じく四季さんも外の様子を見ていた。やはり勘違いではないようだ。

男「四季さん。さっきのって」

映姫「えぇ。何か起きましたね」

魔理沙「なぁなぁ。なんかあったのか?」

俺の後ろから魔理沙だけが顔を出す。

映姫「まだ分かりませんがものすごい大きな音がなりました。分からなかったのですか?」

魔理沙「寝てたからな」

男「のんきだな」

魔理沙「仕方ない。ちょっくら着替えてみてくるか」

魔理沙が後ろで服を脱いで着替える音がする。もちろん振り向かない。

映姫「気をつけて。一応小町にも行かせますが」

小町「あたいはいつでもいけますよ、っと」

声がしたかと思うと屋根の上から小町が降りてきた。服も着替えて準備万端みたいだ。

魔理沙「んっと。私も十分だぜ」

俺のわきを通って魔理沙が外へ出る。

映姫「あ。待ってください」

魔理沙「? なんだ?」

映姫「絶対に見てくるだけで帰ってきてください。どんなことがあっても戦おうとはせずすぐに戻ってきてください」

男「そうですね」

………俺の銃を使えば魔理沙たちが死んでも戻せる。が、死なせたくはないし、戻せたところで情報が得られないのは変わらない。なら最悪見捨てても情報を手に入れたほうがいいか。

小町「了解です」

魔理沙「……おう」

魔理沙が不満そうな顔をしていた。まぁ、魔理沙だもんな。念のため釘を刺しておく。

男「絶対帰ってこいよ」

魔理沙「分かってるって。何回も言わなくても」

男「俺は魔理沙に傷ついて欲しくないんだ」

魔理沙「………ん。分かった。絶対帰ってくる」

うん。ここまで言えば帰ってくるだろう。さらに念を押して魔理沙と指きりをする。

魔理沙「指切ったっと。本当心配性だな」

男「全国のお兄さんはみんなそんなもんだ」

魔理沙と小町が遠くへ消えていくのを見送り四季さんと一緒に中に入る。

魔理沙と小町には悪いが朝ごはんを食べよう。そう思って自室によってぬえを連れ出した。

ぬえ「………」

うーむ。やっぱり一日ぐらいじゃ駄目か。変わったことといえば無言で後ろをついてくることぐらい。手は引っ張らなくて良くなったみたいだけど。

映姫「………ぬえ。大丈夫ですか?」

四季さんの問いにも答えない。それどころか視線すら合わせない。ずっとぼんやりと俺を見ている。

映姫「………だめですか」

男「昨日の………えっとマミゾウがくればまだなんとかなるかも知れないですけど」

映姫「行方は分かりません」

男「ですよね」

どうせならマミゾウもここにいればよかったのになぁと思う。

男「とにかく朝ごはん食べましょう」

映姫「はい」

ぬえ「………」

わかってはいたがぬえは自発的に食べない。口に運べば食べてはくれるがそれだけだ。

おかずを食べさせご飯を食べさせ、のどが渇かないように水を飲ませる。

まるで子供の人形遊びみたいだ………いや、そんなこと嘘でも思っちゃいけないことだ。

男「ほら、あーん」

ぬえ「………」

ぬえがぱくりとご飯を食べる。そしてゆっくりと咀嚼。その間に俺はほとんど丸呑みするようなかたちでご飯を食べる。

そしてぬえののどが動くのを見てから次を口へ持っていく。

そして咀嚼。

男「おいしいか?」

ぬえ「………」こくり

男「そうかそうか」

映姫「………変わります。男は自分のを食べてください」

男「いえ、いいんです。これぐらいしか俺が出来ることはありませんから」

男「ごちそうさま」

亡霊男「おーう」

亡霊男が食器を下げてくれたのでぬえと共に外へ出る。

と同時に魔理沙が転がるようにして中に入ってきた。

魔理沙「紫はいるか!?」

映姫「紫は」

紫「ここにいるわよ」

魔理沙の後ろ。そこに紫が立っていた。

魔理沙「大変だ! 地底のやつらがレミリア達を襲いにいった!!」

紫「………そう」

紫はそれだけいうと興味なさげに朝食の前に座った。

魔理沙「そうって、助けなくて」

紫「無理よ。こっちは少数精鋭とはいえ数が少ない、向こうには鬼に八咫烏と凶悪な妖怪がたくさん………今行くのは分が悪いわ。全員を行かせてここが狙われる可能性もあるし。結界を張ってるからって絶対安全ってわけじゃないのよ?」

紫が鋭い目をして魔理沙の言葉をぴしゃりと遮る。それに対して魔理沙は声を荒げた。

魔理沙「でも!!」

紫「私たちは何があっても霊夢を守らないといけないの。つまり霊夢以外は守らなくていいの。それでも犠牲は最小限にしたいけど」

魔理沙「………もう良い。私だけが行く!」

男「おいっ!!」

魔理沙「止めるな兄貴っ!!」

魔理沙が箒で空に向かって飛んでいく。

紫「藍」

藍「はい」

紫がいつの間にか立っていた藍さんの名前を呼んだ。すると薄青い光を放つ結界が一瞬光る。そして

魔理沙「っ―――!?」

魔理沙が空中で弾かれて地面に向かって落ちる。

男「魔理沙ぁあああ!!」

外に向かって走る。間に合え!!

踏み出した足に尖った石が食い込むが気にしてる場合じゃない。魔理沙は妖怪でもなんでもないただの女の子だ。あんなところから落ちたら間違いなく死ぬ。

紫はそれを分かってるのか!?

………いや魔理沙が死んでも問題ないのか。俺がいるから生き返らせれる。

だとしても殺したくはない。大切な妹なんだから。

男「届けぇええええぇええ!!」

魔理沙までの距離は数メートルしかし魔理沙は地面に近いところまで来ている。間に合うかどうかギリギリな所だ。

俺の手が、魔理沙に近づいて

男「!!」

俺の手が届くよりも早く魔理沙は落ちていった。

駄目なのか。諦めかけて銃を引き抜こうとする。

ぬえ「………………っ」

何かがものすごい速度で動いた。そう認識したときにはすでにぬえが魔理沙を抱きかかえていた。

男「ぬえ!!」

ぬえ「………」

ぬえがゆっくりと魔理沙を地面に下ろす。魔理沙は目を見開いて震えていた。

男「大丈夫か?魔理沙」

魔理沙「あ………あぁ………あ………」

返事はない。それどころか何も反応はない。

震える魔理沙を抱きかかえぬえに礼を言う。

男「………」

振り返って紫を睨む。しかし紫はこっちを見ておらず静かに朝食を食べていた。

頭に血が上って紫をぶん殴ってやろうと歩き出す。

ぬえ「………」

しかしぬえが俺の袖を掴んだ。

男「なんだ?」

ぬえ「………」ふるふる

ぬえが首を横に振った。

男「駄目、なのか?」

初めてのぬえの頷く以外の意思表示に少し頭が冷える。

男「………そうか。勝てるわけないもんな」

ぬえ「………」こくり

紫ならどうにかなるかもしれない。でも藍さんがいる。それに四季さんも止めるだろう。

どうしようもない憤りを深呼吸をして沈め魔理沙を強く抱きしめて自分の部屋に戻った。

部屋に戻って魔理沙を布団に寝かせ、俺は壁を背にして座り込む。その隣でぬえが体育座りをした。

魔理沙の様子はまだ震えている。今まで命の危機はあったかもしれないが今回はいきなりでそれも身内からだ。

死んでないとはいえぬえがいなければ死んでいた。

男「ぬえ。本当にありがとう」

ぬえ「………………」

ぬえがじっとこっちを見つめる。何を伝えたいのかはよく分からないがその目は少し潤んでいた。

男「魔理沙。大丈夫だからな」

震える魔理沙の手を掴む。すると魔理沙は強い力で握り返してきた。爪が皮膚に刺さり血が滲む。反射で振り払いかけたがここで振り払うわけには行かない。その魔理沙の手を両手で優しく包む。

魔理沙「………お、おにい………ちゃん」

魔理沙が青ざめた顔でこっちを見る。

男「なんだ?」

魔理沙「こ、こわ………こわか………」

男「無理して喋らなくていい。今はもう寝ろ」

魔理沙の手を撫でる。

こんな小さな手がこんなにも震えていることが許せなかった。そして助けることが出来なかった俺も。

魔理沙「………すぅ………すぅ………」

魔理沙が寝息を立てるまで2時間ほどかかった。そして寝てる今でも俺の手を強く握っている。

ぬえ「………」

ぬえが魔理沙の頭を撫でていた。

男「ありがとうな。ぬえ」

ぬえ「………………」

男「なぁぬえ。良かったらお前のこと教えてくれないか?」

ぬえ「………………」

やっぱ喋れないか。ここまで行動してくれたのだからもしかしたらと思ったが。

ぬえ「……………あ」

男「!」

ぬえの口から声が漏れた。昨日のような泣き叫ぶ声ではない。ちゃんとした声だ聞こえた。

ぬえ「………う………あ」

男「なんだ?」

ぬえがなんどか喋ろうとしているがどうやら声がつっかえているらしい。ぬえを見つめて言葉を待つ。

ぬえ「―――」

男「―――!」

ぬえの声が聞こえた。

しかしそれは

ぬえ「あう、ああう」

言葉にならない、意味をもたない声だった。

男「喋れない、のか?」

ぬえ「あうう………」こくり

え、だって昨日は。

男「………ちくしょう。なんでこんな」

握られてないほうの拳で壁を殴りつける。低く鈍い音が鳴って拳が痛んだ。それでもかまわず殴り続ける。

男「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう」

ざらざらとした壁で皮膚が破け血が滲む。それでもかまわず殴り続けているとぬえが腕に抱きつくようにして止めてきた」

ぬえ「あううあう」フルフル

ぬえが悲しそうな顔をして首を横に振る。

ぬえにこんな顔をさせてしまった自分に苛立ったが腕を掴まれているので何も出来ず歯をきつく食いしばった。

映姫「………何か音がしていましたが」

四季さんが部屋に入ってくる。そして俺の状況を見て少し目を見開いた。

映姫「どうかしましたか」

男「ぬえが………ぬえが………」

映姫「ぬえが?」

映姫「………過度なストレスからくるものですね」

ぬえ「あう」

映姫「いずれ喋れるようになるでしょうが、それがすぐ治るのかしばらくかかるのかは分かりません」

映姫さん曰く失語症みたいなものだそうだ。厳密に言えば違うらしいがそこらへんは良く分からない。

とにかく治るのなら安心だ。このまま妖怪の長い一生喋れないままなんてあまりにも酷だから。

男「ありがとうございました」

映姫「いえ。結局私は何も出来ませんでしたから。それと男。手を」

ぬえが俺の手を強引に四季さんの前に差し出す。

映姫「血は出ていませんが痛めるので駄目ですよ」

そういいながら四季さんが懐から取り出した塗り薬を塗ってくれた。

………ん?

何か今違和感があった気が。

男「………四季さん。これからどうなるんでしょうか」

今この現状。何かが確実的に動き出している。

それはおそらく悪いことで逃げられないことだ。

そんな気がする。

映姫「分かりません。今はまだ」

ウィルは地底の妖怪に勝てるのだろうか。それが心配だが助けにいけないし、行った所でおそらく意味はない。

せめて結界さえなければ………

映姫「紫を………あまり責めないでください」

男「え?」

映姫「紫は霊夢を守りたい一身で行動しているのです。それが原因で冷たく思われるかもしれませんが本当の紫は優しいのですよ」

男「………でも魔理沙が」

映姫「もし間に合わないのなら藍さんがいましたから」

男「それでも」

映姫「お願いです」

四季さんのまっすぐな目。でも俺は紫を………

………許せはしない。けど

男「分かりました。紫のことは恨みはしません」

映姫「ありがとうございます」

………四季さんがそこまでいうのならそうなんだろう。まだ犠牲者は出ていない。身内の中では。

でも、誰かが死んだとき。

その原因が紫だったとき。

そのとき俺は紫を許すことができるのだろうか。

~俯瞰視点~

嫌な風が吹いている。そうレミリアはため息をついた。

幻想郷中に飛ばしていた使い魔が持ってきた情報は地底の妖怪達がこの紅魔館を目指しているというあまり好ましくない情報だった。

レミ「まさかお茶をしにってわけじゃないと思うけど」

おそらく戦いに。というか十中八九そうなのだろう。しかし理由が分からない。どうすればいいものかとレミリアは頭を悩ませた。

今は朝で快晴。レミリアにとっては非常に嫌な天気だ。太陽の光が駄目なのはレミリアも例外ではない。唯一の例外といえばウィルヘルミナぐらいだ。

勝算は不明。咲夜や美鈴で鬼と八咫烏を止めれるか。止めれたとしてもまだ問題はいくらでもある。

レミ「逃げる………その方がいいかしら」

数年前のレミリアなら考えもしないこと。しかし幻想郷に来て変わったレミリアは家族を守ることこそ誇りとしている。

そのためならば泥を被り木の葉を纏うことも出来るだろう。

しかしこの人数で向かってきている相手から逃げるのはあまり現実的ではない。行動に移すには遅すぎた。

レミ「仕方ない。戦うしかないわね」

そうため息交じりに呟いてレミリアは自分の手を見つめた。

レミリア「 …ならば教育してあげる…」

レミリア「本物の吸血鬼の闘争というものを…!」

…的なカリスマ性溢れるおぜうさまがみたいれす

美鈴「ほへ?」

うつらうつらと睡魔と仲良く遊んでいた美鈴が咲夜に何かを話しかけられ目を覚ます。

美鈴「ふわぁ。もう一度お願いします」

あくび交じりに聞き返すと咲夜はもう一度同じことを繰り返した。

普通ならばこの時点でナイフが刺さるだろうと思っていた美鈴はその言葉を聞いて完全に覚醒する。

美鈴「分かりました」

躊躇はしない。後は咲夜が命令を飛ばしてくれるはず。そう信頼して美鈴は外から門を閉じる。飛べるものが多い幻想郷では門を通らず越えることも出来るがそれでも空中と地上では動きやすさが段違いだ。

それに

―――空中はお嬢様の世界だから。

自分の主より空中で戦えるものはいないと確信している。天狗の速さと鬼に匹敵する腕力。空中ならば自分は勝てないだろう。

美鈴「よし。がんばりますか」

ポケットからグローブを取り出して着ける。そして思いっきり地面を踏みしめた。

それだけで砂煙が舞い、地震のような衝撃が響き渡る。

妖精メイドの慌てた声がしたが美鈴は気にせず敵が来るであろう方向を睨んだ。

咲夜「弾幕構え! 近づく敵は私とウィル様が対処するから無理はせず足止めに専念しなさい!」

咲夜がメイド妖精に命令を飛ばす。メイド妖精は両手のひらを向け、構えた。

目測800メートル。空中に浮いた咲夜は服の中に仕込んだ銀のナイフを数本取り出し構えちらりと美鈴を見た。

美鈴の様子は普段とは違い隙がない。今ナイフを飛ばしたとしても容易に弾かれるだろう。

ウィル「咲夜」

パタパタとこうもりの羽を羽ばたかせウィルが咲夜に近づく。

ウィルはレミリアやフランとは違い自分専用の武器というものを持っていない。使えるものは素手か、レミリアやフランの武器に似せた魔力で編んだ武器ぐらいだ。威力も耐久力も本物には遠く及ばない。

それでも吸血鬼であるウィルは弱くはない。千の屍を築き、万の血を浴びることすら可能だ。

ただしそれは相手が普通の妖怪だった場合だ。相手は幻想郷の中でも忌み嫌われる者たちを集めた集団。苦戦することは容易に想像できる。

―――でも、負けてあげれない。

ウィルは魔力を解き放った。ウィルの濃い魔力は赤色を伴いあふれ出す。

その姿はレミリアが起こした紅霧異変に似ていた。

お燐「あはは。チェックメイトだね。ちょっと圧倒的過ぎたかな?」

地底の集団を見ながらお燐が歪に笑う。

鬼に天狗に橋姫に土蜘蛛。その他たくさんの強力な妖怪。

それに今は朝だ。吸血鬼は動くことが出来ない。

ならば負ける要素は万が一にも存在しない。

お燐「これで吸血鬼の死体ゲット。あとはまぁどうでもいいか」

お空「何かおいしいものあるかなー」

お燐「さぁ。あるんじゃない?」

二人して笑う。その姿はいつもの二人と変わらない姿で、話の内容以外は微笑ましかった。

お燐「どうせすぐ終わるだろうし。今日はこんなに良い天………気?」

お空「?」

死体が手に入ることに喜びを押さえきれないお燐の笑みが凍りつく。

朝。太陽は見えている。

なのに紅魔館には一筋の光すら差し込んでなかった。

ルー「これでいいのかー?」

レミ「上出来だな」

レミリアは紅魔館周辺の空を覆う闇を見て満足そうに笑う。

闇の規模は紅魔館周辺。専守防衛ならこれでいいだろう。しかし

レミ「だが、これだけではつまらんな」

ルー「でもこれが限界なのかー」

レミ「そんなわけないだろう? ウィル。ルーミアのリボンを取れ」

ルー「でもこれ触るとびりってなるのかー」

レミ「なに心配ない」

ウィル「これを取ればいいのか? お母様」

ウィルがルーミアのリボンに手を伸ばす。魔を封印し、それに触れた者を弾くリボンをウィルはたやすく解いた。

直後。ルーミアの体から闇が溢れあたり一面の視界を奪う。

ルー「あらあら。この子凄いのね」

闇が消え、そこにいたのはルーミアを成長させたような女性だった。

ウィル「!?」

ウィルが驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。ルーミアが消えてその代わりにいたのがルーミアのような女性。ウィルの理解は追いつかず、自分の頭を撫でてくる女性に混乱した。

レミ「それが封印ってことは知っていたが、そこまででかくなるのか。むかつくな」

ウィル「ルーミア、なのか?」

ルー「そうよ」

レミ「さーて。地底の妖怪だかなんだか知らないが吸血鬼四人に闇の妖怪が一人、メイドに門番に魔法使い」

レミ「勝てるとは思わないことだな! 閻魔よりも先に私が罪状をくれてやろう!!」

ルー「あらあら。テンション高いわね」

ウィル「………来る」

門の前。両者の距離は50メートル。紅 美鈴と星熊 勇儀がにらみ合っていた。

勇儀「悪いが通らせてもらう」

美鈴「すみませんが無理ですね」

勇儀「わかってはいたが………怨むなよ。こっちも事情があるんだ」

勇儀が深く腰を落とし構える。

美鈴「そちらにどんな事情があろうともここを通すのは門番の名折れ。門番 紅 美鈴の誇りに賭けここは通しません」

対して美鈴が軽くフットワークをして構える。

勇儀「………はぁっ!!」

一歩。轟音と共に衝撃波が飛ぶ。

二歩。さらにそれよりも強い衝撃波。

三歩。50メートルの距離を埋め、地を砕く鬼の拳が最大威力で放たれる。

それを美鈴は受けた。そして強大な力を使って回転、勇儀のわき腹に肘を入れる。

勇儀「ぐっ………」

美鈴「これを普通に耐えるってどんな体をしてるんです、かっ!!」

美鈴が受け流す柔の体勢から、腰を深く落とし地を踏みしめる剛の体勢へと変わる。

そしてダメージを受けよろめいている勇儀の腹に虹色の気を纏った正拳突きを放つ。

それは勇儀の鳩尾に綺麗に入り、勇儀は体をくの字に曲げた。

勇儀「まけれ、られないんだよ!!」

勇儀が美鈴の腕を掴む。そして後ろへ引こうとした美鈴を力任せに引っ張りよせ空いた手で殴りつけた。

さきほどよりも威力はないとは言え鬼の拳。それを美鈴は顔面に受ける。そのまま地面に叩きつけられ、美鈴の意識は一瞬飛んだ。

美鈴「こっち、もっ!!」

一瞬飛んだ意識の後迫り来る二発目の拳を地面を転がって避け背筋を使って立ち上がる。

美鈴(目が潰れなかったのは幸いですが、あれだけの威力をもう一回受けるとかなりやばいですね)

こちらから攻めるとまたやられてしまう。そう美鈴は判断してまた軽いフットワークの柔の体勢へと変えた。

勇儀は驚いていた。本当ならば最初の一撃で仕留めるはずだったのにすでに二発も受けてしまっている。

出会いが違えば胸が躍っただろう。しかし今自分が負ければパルスィの命が危ない。一度失われた命を二度と失わせないために勇儀は負けるわけにはいかないのだ。

勇儀「うがぁあああぁあああっ!!」

勇儀の声は叫びを越えて咆哮となっていた。間近でそれを聞いた美鈴の体が一瞬止まる。

それを勇儀は見逃さずに近づく。

形もなにもない単純で最強の一撃を勇儀は繰り出す。

美鈴「あ、しまっ」

咄嗟に腕を十字にして美鈴が受ける。腕から伝わる音は折れた音ではなく砕けた音。

両手を犠牲にしても勇儀の一撃は威力を少し落としただけだった。

美鈴の体が吹き飛び門へぶつかる。

鉄製の門に強く体を打ち付け美鈴の体中から骨が折れる音がした。

地面にどさりと落ちた美鈴は生きているものの動ける状態ではない。

血が混じった呼吸を繰り替えしつつ美鈴は近づいてくる勇儀を見た。

レミ「楽しいわねぇ!!」

文は後ろを同じ速度でついてくるレミリアから必至に逃げ回っていた。

出来るだけ遠く。レミリアを引きはがすために翼をはばたかせ飛ぶ。

地底の妖怪達の中にはにとりやみとり。そして自分の夫である白衣男がいる。

皆の生存率を上げるために文は自分の命を賭けていた。

文(幻想郷最速だと思っていたのですが)

天狗の中でも速い自分についてこれる存在なんているとは思っていなかった。初めて見たレミリア・スカーレットの実力と、久しぶりに出した自分の全力が近い。しかも相手は一撃でこっちを倒せるほどの力を持っている。

分が悪かった。手数で攻める文が手数で攻めることができない。それどころかレミリアとレミリアの使い魔が放つ弾幕で服が破けていっている。直撃はしていないがそれは時間の問題だった。

レミ「どうしたのよ。そんなに逃げ回って。ダンスのお誘い?」

そんな軽口を叩きながらレミリアは文についていく。付かず離れずの距離だがレミリアは遊んでいるわけではなくこれが限界の速度だった。

空が闇に包まれているとはいえ、その上は光射す世界だ。闇の上に行かせるわけにはいかない。

それにルーミアが倒れてしまうと闇が晴れ、日が射す。そんなことになるとレミリアとフランと吸血鬼はひとたまりもない。

レミ「ねぇねぇ天狗! 鬼ごっこより弾幕ごっこしましょうよ。手加減なしのね!!」

焦りが軽口となって出ていく。

そして焦りはレミリアの命中精度に影響した。

レミリアが放った弾幕が文の20センチ隣を通り過ぎていく。それはレミリアにしては外れている。普通ならば10センチ以内を狙うことができるのにだ。

文(………さっきからレミリアさんの弾がぶれますね。疲れてるのでしょうか)

しかし誘いかもしれないと判断して文は攻勢に出ずに逃げ続けた。

それがさらにレミリアの焦りを産む。

気が付けば紅魔館から離れている。しかし今背を向けるわけにもいかない。

レミ(罠か………。早く倒さないと)

紅魔館の方からはなかなか激しい戦いになっている音がする。

もしかして誰かが傷ついたんじゃないだろうか。レミリアの中の不安はどんどん大きくなり、一瞬ちらりと後ろを向いた。

文(罠………いや、隙!)

レミリアが後ろを見た時間は1秒にもならない。しかしそれは文にとっては十分すぎる時間だった。

手に持った葉団扇を扇ぎ強烈な風を生み出す。それは大きな竜巻となってレミリアを飲み込んだ。

レミ(あ、やば………)

二回目の風がレミリアを直撃する。何とか態勢を保っていたレミリアも方向の違う強烈な風に煽られバランスを崩した。

そのまま風に飲まれる。そしてなすすべもなく飛んでくる鎌鼬や礫を体中に浴びた。

パチェ「げほっげほっ」

パチュリーの周りを白い粉が覆う。それはパルスィが撒いた灰だった。

パル「毒はないわよ。毒はね」

パルスィーがパチュリーの近づき五寸釘を突き刺す。

パル「っ」

パチェ「うちの、本は、げほっげほっ、そうそう貫けないわよ。シルフィホルン!!」

パチュリーが召還した風の精霊が灰とパルスィーを吹き飛ばす。パルスィは近くの家の壁を蹴って着地した。

パチェ「アグニシャインッ!!」

着地したところを狙い大きな火球がいくつもパルスィーに飛んでいく。それはパルスィーの体を焼き皮膚を焦がす。

パル「かはっ!」

パルスィーが空気を求め大きく口を開く。

パチェ「!?」

その口の中に見えたのは切られて短くなった舌だった。

ドスッ

パチュリーの背中に刃物で刺されたのとは違う鈍い痛みが走る。

パチェ「!?」

振り向こうとすると首を絞められそのまま片手で持ち上げられた。咳き込もうにも上手く咳き込めずパチュリーは蛙の鳴き声のような声をあげた。

パル「やっぱり魔法使いにはこれよね」

パルスィが空いた片手で鋏を取り出しのそれをパチェの口の中に刺し込んだ。そして鋏を閉じる。

パチュリーの口の中から大量に血があふれ出した。血はパチュリーの喉にも入り込みさらに呼吸を阻害する。

パル「はい。これで終わりよ」

パルスィーが手の力を更にこめる。パチュリーの細い首は枝を折るような軽い音を立て折れた。

パルスィーが手を離すとどさりとパチュリーの体が地面に落ちる。パルスィーは念のため心臓のあたりへ何本か釘を刺し、次の目標に向かって歩き出した。

フラン「えへへへへー」

フランが手を握るたびに妖怪が砕け散る。それを耐えることが出来るのは幻想郷でも数えるほどしかいないだろう。

鬼である勇儀がまだ来ていないため、フランの周りにはいくつもの骸が転がっていた。

能力を使い、また剣の形をした炎を使い敵を葬っていく。

そんなフランを止められるものはおらず、赤い目を爛々と光らせたフランも止まる気は一切なかった。

文「もう一発っ!!」

文がさらに風を起こす。それは竜巻をどんどん大きくさせ、今では竜巻の規模を大きく超えていた。

それに比例し、カマイタチや礫の威力もどんどん上がっていく。中に入ったレミリアはひとたまりもないだろう。

文は気を抜かずどんどん葉団扇を扇ぐ。

文「まだまだっ!」

そして文が葉団扇を振り上げた時だった。

不意に体勢を崩す。何が起きたかわからず文は自分の体を見た。

左わき腹がなくなっていた。そして大量の血を噴出させている。

パァンッ

そんな風船がはじけるような音がしてレミリアを閉じ込めていた風がはじけ飛ぶ。

レミ「やっと命中ね」

皮膚が裂け筋肉が露出し関節があらぬ方向へ曲がっているレミリアが赤い槍を持ち不敵に笑っていた。

文「!!」

文は恐怖を感じて葉団扇を強く扇いだ。起こすのは竜巻ではなく強風。

地面の礫を巻き上げるような風が吹きレミリアを襲った。

拳よりも大きな石が恐るべき速度でレミリアに飛んでいく。レミリアは避けれずそれを体中に浴びた。

首が折れ頭が後ろにだらりと垂れ下がる。それと同時にレミリアは手に持った槍を投げた。

グングニルと名づけられた赤い槍はそれほど強くは投げていないのに音速の壁を越えて文に飛来する。

懸命に回避しようとするが左足を掠めてしまう。レミリアの膨大な魔力を使って編まれた槍はそれだけで足の肉を弾け飛ばせた。

レミ「どうした。もっと楽しいことをしてくれるんじゃないのか?」

文「うわぁああああぁあっ!!」

文が叫びながら闇雲に葉団扇を扇ぐ。カマイタチや礫がレミリアを直撃し、レミリアの体を傷つけていく。

しかしレミリアはそれを気にも留めず再び手に持った赤き魔槍を投擲する。

再び音速を超える槍が文に突き刺さった。右腕の肘から先が吹き飛ぶ。

文「あ、あぁあああぁあああっ!!」

熱い痛みが文の意思を砕く。

文(やだ、白衣男さん、たすけ)

愛しい人を思い涙を浮かべた射命丸の顔を槍が吹き飛ばした。

レミ「烏ごときが夜空の王であるこの私に勝とうと思うことが間違いなのよ。逃げるんならともかくね」

勇儀「すまんな」

美鈴の視界には自分を見降ろす勇儀が見えた。

勇儀が腕を振り上げる。このまま拳を振り下ろされれば美鈴の命は途切れるだろう。

狼男「美鈴!!」

上から声がした。見上げた勇儀の視界にはこちらに向かって飛び降りてくる男。

勇儀「邪魔しないでくれ」

それを勇儀は片手で弾き飛ばした。狼男が空中を飛び、ごろごろと地面を転がる。

狼男「めい、りんっ」

狼男が地面をひっかき這って美鈴に近づこうとする。しかし距離は遠く、いくら手を動かしても次の勇儀の攻撃からは美鈴を守れない。

狼男の視界がぼやけてきた。鬼の一撃を腹部に受け内臓はボロボロになっている。折れた骨が体を動かすたびにさらに内臓を傷つけた。

血の泡が混じってかすれた声で美鈴の名前を呼び、腕を動かす。しかしその動きは次第に小さくなり、這おうと力を込めた腕は虚しくも地面の砂を掻くだけだった。

狼男「めい…り……」

狼男はもう声かどうかも怪しいぐらいの声で美鈴の名前を呼んだ。そして前に進もうと少し上げた手が力尽き地面へと落ちた。

美鈴「男さぁんっ!!」

美鈴がボロボロの体で立ち上がる。

そのままよたよたと狼男の亡骸へ歩み寄った。

勇儀は歩いてそれに近づきトドメを刺そうとする。

美鈴「狼男、さん」

美鈴が骸を抱きしめ泣く。

美鈴「なんで、なんでなんでなんでなんで!!」

美鈴が後ろに立つ勇儀を睨む。その眼は殺意に満ちていた。

その眼に少し勇儀は怯んだが相手は瀕死。トドメを刺そうと拳をふるった。

美鈴「殺してやる!!」

勇儀「!?」

その手を美鈴が掴んだ。

その様子はさっきまでの瀕死の妖怪ではなかった。そしてそもそも

美鈴「うああぁあああぁあああぁっっ!!」

頬や腕を覆う緑色の鱗は勇儀の知る紅 美鈴ではなかった。

鱗に覆われた拳で美鈴が殴りかかる。一瞬怯んで防御が遅れた勇儀の顔に拳が深く突き刺さった。

勇儀「がぁあっ!!」

今まで受けたことのない一撃を受け、勇儀の体が吹き飛んだ。

美鈴「殺す殺す殺す殺すころすっ!!」

吹き飛ぶ勇儀に美鈴が追いつき何度も殴打を加える。抵抗しようとするが防御をしたところで防御した箇所の骨が砕かれるだけだった。

今の勇儀を見て誰が鬼と信じれるだろう。それほどまでに戦いは一方的になっていた。

勇儀「あ、が」

勇儀の体はさきほどの狼男のように内臓が傷つきボロボロになっている。しかし美鈴の攻撃はやむことはなかった。

破裂した血管が肌をどす黒い紫に変える。

死ぬのだろうと勇儀は感じた。しかし勇儀は向かってくる死に恐怖しなかった。

ただ、残してしまう親友のことを強く思いながら勇儀は意識を手放した。

あれ?そう言えば美鈴って龍だっけ?紅魔館のSSじゃ龍って言われて焦ってたけど....

>>538

原作じゃ種族は良くわからない妖怪ですね

レミ「さて、皆を守りにいかなきゃね」

レミリアが落ちていった射命丸から砦に目を向ける。火や煙が上がっていることからどうやら戦いは激しくなっているらしいとレミリアは判断した。

ウィルに良く似た羽を羽ばたかせ砦に向かう。見下ろした地面では息絶えた妖怪や消えていく妖精。

そして自分の部下の狼男の姿と獣の吼えるような慟哭をあげる美鈴。

それを見て遅かったのだと理解して歯噛みする。

飛ぶ速度を上げて砦の中に着地し、槍を振り回して下にいた数体の妖怪を葬った。

周りを見渡すと咲夜、ウィル、フラン、吸血鬼の姿は見える。しかしパチュリーの姿が見えない。

槍を振り回しながら砦内をかける。

小悪魔「………」

そしてぼろぼろの小悪魔が何かにかけた毛布を守っているのを見つけた。

小悪魔に襲い掛かっている妖怪を一撃で葬り、嫌な予感を否定するために毛布をめくろうとする。

小悪魔「駄目ですレミリア様っ!!」

しかし小悪魔の制止は間に合わずレミリアは毛布をめくってしまった。

レミ「………っ」

そこにあったのは口元から大量の血が漏れているすでに生きていない友人。

パチュリーの姿を見たレミリアが毛布を戻して胸の前で十字を切った。

レミ「地獄行きにしたら殴りこんであげるから安らかに眠りなよ」

小悪魔「レミリア、さま」

レミ「すぐ終わらせる。それまでパチュリーは任せたわよ」

パチュリーから背を向けレミリアが走り回りながら槍をむちゃくちゃに振るう。

レミリアは傷つくことを恐れず飛び道具を体で受け、相手を切り裂き。相手に切られながら相手を切り裂く無理やり押し通るような戦いをした。

相手と自分の血で周り一面が赤く染まる。あたり一面の敵を葬り、レミリアは目元についた血を拭った。

咲夜は明らかにジリ貧だと思った。ナイフの本数は回収しながら戦っているとはいえ頼りないほどの数しかない。

しかし押し寄せる地底の妖怪はまだいる。我が主であるレミリアを信じないわけではないがこちらがやられていることは事実。咲夜はレミリア達を連れ逃げたほうがいいのではないかと思った。

咲夜「!」

襲い掛かってきた妖怪の後ろに時を止めて回り込みナイフを刺す。

抜いたナイフには血がべったりとついておりそれはなんど振り払っても取れなかった。近くにいた妖怪に投げ捨て新しいナイフを抜く。

ルー「無事かしら?」

咲夜「えぇ。なんとかね」

信じられないがルーミアは咲夜よりも多く敵を倒している。咲夜はルーミアが纏う闇の中でどのようなことをしているのかは分からない。ただ敵がルーミアの闇の中に入ると死んで出てくるということだけだ。

ルー「正直逃げたほうがいいんじゃない?」

咲夜「………それは出来ないわ。私はお嬢様の命令に従うだけ」

一瞬言葉が詰まる。現在の状況と外から聞こえる美鈴の声が邪魔をした。

ルー「そう。私は危なくなったら逃げるけどね。闇ぐらいは出すけど」

そう喋りながらもルーミアが纏う闇のドレスから闇が溢れだし近くの敵を包む。そしてやはり敵は死体となって出てきた。

咲夜「別にいいわよ。闇さえあれば」

そういいながら咲夜は今ルーミアに抜けられると危ないということを理解していた。

ルー「それはありがたいわ、ね」

ルーミアが闇の中に手を向けたかと思うとその指と指の間に釘を掴んでいた。

パル「………やるわね」

ルーミアが釘が飛んできた方の闇を消すとそこにはパルスィが大きな釘を構えて立っていた。その釘の長さは30センチを越える。もはや釘よりは杭に近かった。

ルー「嫉妬を操る程度の妖怪ね」

パル「それが、どうかしたの?」

パルスィの目が怪しく光る。

その直後、咲夜はルーミアに向かって襲い掛かった。しかしナイフを持った手を掴まれ地面に倒される。その隙を突いて襲い掛かったパルスィも同様に地面に倒された。

パル「え」

ルー「嫉妬を持たない人間はいるけど暗い暗い闇を恐れない人間なんていないのよ」

あふれ出す闇にパルスィが包まれる。

逃げ出そうともがくが存在の無い闇に触れることは出来ずパルスィは飲み込まれていった。

悲鳴すらない。

咲夜はルーミアに恐怖を覚えた。本当に全ての人間が恐れるとしたらルーミアのこの強さも分かる。それよりも悲鳴すら上げさせないあの闇の中が怖かった。

ルー「早く立って欲しいわね。一人でも出来るけど、面倒だわ」

咲夜「あ、ご、ごめんなさい」

ルー「あら、あなたの主人が来たわよ」

ルーミアが見る方向を見ても闇で見えない。が、その闇を突破して主人であるレミリアが現れた。

レミ「咲夜、これを持って博麗神社まで行きなさい。ウィルと一緒にね」

レミリアが懐から白い封筒を取り出す。確かに博麗神社の協力を借りればこの状況を覆せるだろう。咲夜はレミリアから封筒を受け取り、土と血で汚れたメイド服で優雅に一礼した。

咲夜「分かりました。すぐ戻ってきます」

咲夜が地面を蹴りウィルの元へ向かう。

それを見送りレミリアは少し片足を折った。

ルー「大丈夫?」

レミ「大丈夫だ」

レミリアは槍を支えにしてレミリアが立ち上がる。

ルー「そう。じゃあ頑張ってね」

レミ「あぁ、もう一頑張りしてくるよ」

咲夜とウィルは飛んでいた。ウィルは全力で飛ぶわけにはいかないので咲夜のスピードに合わせていたがそれでもある程度の速さはある。しかしある程度の速さといっても人間の範囲だ。いくら時を止めれても速度は妖怪ほどではないのだから。

だから

ウィル「咲夜!」

妖怪に追いつかれ、咲夜を狙った妖怪をウィルが倒す。砦を出て数分しか立っていないが倒した数は十の位で指二本にまでおよんだ。

周りを見れば妖怪に取り囲まれている。今咲夜を逃がすと増援が来ることを分かっているのだ。

もちろんウィルならば倒せるだろう。しかしそれは時間のロスを出してしまう行動だし、咲夜だけを先に行かせたとしても咲夜が狙われないという保障はどこにもない。

そしていくら咲夜やウィルが近づけさせないように牽制していたとしてもいずれ距離をつめられる。そうなった場合もうどうしようもない。深刻な時間のロスを招いてしまう。戦闘により咲夜が命を落とすかもしれないし、このロスで紅魔館の誰かが命を落としてしまうかもしれない。

今取れる最善の方法は咲夜が命を捨てる覚悟で妖怪の足を止め、封書をウィルに託すこと。

それを咲夜は理解していた。しかしまだいけるのではないかという希望も捨てきれない。

紅魔館のメイド長であれど、まだ齢十とちょっとの少女。普段レミリアのために命を落とせると思っていてもいざとなると行動に移せるほどの覚悟はもっていなかった。

それに対しウィルは二人とも生きられる策を考えていた。ウィルの運命を壊す程度の能力ならば追い詰められているという現況を切り抜けることが出来る。

現在起こりうる可能性はウィルが死ぬ。咲夜が死ぬ。二人とも死ぬ。二人とも生き残る。

確率としては咲夜が死ぬが一番高く、二人とも生きるが一番低い。しかし運命が確定されていないため破壊したところで可能性の再決定が行われるだけだ。意味はあるだろうが、結局咲夜が死ぬ可能性を否定できないため賭けにしかならない。もしレミリアがこの場にいれば話は別であっただろうがその仮定は現在何の意味もない。

ウィルは頭を悩ませる。二人が生きることに限定するのであれば逃げるのをやめて戦うことだが、それによって他の誰かが死ぬという可能性が高くなる。かといってその誰かを助けるのに砦に戻るのは本末転倒だ。せめて封書を届けるのが自分だけだったら良かったのにとウィルは思った。

そのときだった。黒い何かが疾風のごとき速さで近づき、妖怪を切り裂いていく。

その動きは天狗のように速度が速いというよりは素早い。跳ねるように次から次へと敵を倒していく。

いきなり現れた何かに妖怪達は驚き一瞬足を止めた。その隙を突いてウィルと咲夜が包囲から脱出する。

一瞬振り返ったところに見えたのは白を含まない漆黒のメイド服。吸血鬼がそこにいた。

吸血鬼「ウィル様! 生きてください!!」

吸血鬼が投げかけるのはがんばれでもなんでもなく生きろという願い。人にかける言葉の中で一番重く一番相手を思っている言葉を吸血鬼はウィルにかけた。その言葉は普通死地へ赴く者か自らの生を誰かに託すときの言葉。そしてこの場合

ウィル「吸血鬼!!」

後者であろうことは明白だった。吸血鬼が強いとは言え、すでにボロボロ。敵を倒せはするだろうが生きのこる可能性は低かった。

吸血鬼が舞う。切り裂き、切り裂かれ、他者の赤と自分の赤を撒き散らしながら舞う。自己再生も追いつかずいずれ息絶えるであろう。しかし吸血鬼は華麗に過激に舞った。

ウィルはそれから目を離せず、しかし足は止められなかった。

徐々に動きが鈍くなる吸血鬼を無視して妖怪がウィルたちに向けて走り出す。現在いるのは闇と光の間。光の方に入ってしまえば吸血鬼がついてこれないのを理解していた。人数の減った今ではウィルは倒すことが出来ない。しかし咲夜ぐらいなら道連れに出来るだろうと考えていた。

吸血鬼「!!」

妖怪達が光から闇へ抜ける。そして闇の中のには誰もいなくなった。

吸血鬼「待ちなさい」

そう吸血鬼も含めて。

日の光が吸血鬼を焼き皮膚を焦がす一分もすれば吸血鬼の体は全て灰になってしまうだろう。今戻ればまだ重傷ながらも助かる。

しかし吸血鬼は戻らなかった。

吸血鬼は自分と相反する太陽光を受けなおも怯まず、それどころか更に力強く舞う。一匹一匹仕留めるその姿はとても美しかった。

ウィルは戻ろうとする。しかし一瞬自分に向けられた笑みに吸血鬼の決意を感じ、涙を拭いながら前を向いた。

自分を追ってくるものはもういない。

すべて吸血鬼が倒してくれるのだから。

最後の妖怪を吸血鬼が倒す。

すでに右手は地面に落ち、そのまま灰になって消えた。左手がまだもっていたのは幸いだった。しかしそれでも足、頭を使って倒すつもりだったのだが。

ウィルが走っていった方向を見る。すでにウィルの姿は見えない。そのことに安堵する。

左足が灰になり砕け、吸血鬼は仰向けになって倒れる。

見えるのは憎らしいほどに輝く太陽と、すがすがしいほどに青い空。

吸血鬼「良い、天気」

腰から下が全て灰になった。あと十数秒で上半身も灰になるだろう。

自分の避けられない死がほんのそこまで迫っているのに吸血鬼は笑顔だった。

最初は吸血鬼の自分がレミリアのメイドとなって働くのは苦痛だった。

しかしそれは最初だけで紅魔館の忙しく楽しい毎日はずっと平等なものはおらず一人で生きてきた吸血鬼には凄く楽しいものになった。妖精ではあるが友人も出来て、レミリアの無茶振りに仲間と一緒に頭を悩ませる日々。笑顔が顔から離れなかったそんな日々。

もし狼男が逃げ出さず紅魔館に行かなかったのならばこんな楽しい日々は送れず、全てを見下す退屈な日々が続いていただろう。

だから自分の大好きな場所を守れたことに吸血鬼は笑顔を隠しきれなかったのだ。

吸血鬼「あぁ、楽しかった!」

吸血鬼は自分の人生をそう締めくくって灰になり、消えていった。

お燐は焦っていた。

闇が現れ簡単に倒せると思っていた戦いがこんなにも長引いている。そして咲夜が増援を呼びに行ってしまった。

しかもこっちの切り札の鬼は負けてしまっている。もしかしたら自分が負けるのではないかという思いがお燐を焦らせた。

その結果

お燐「そうだ」

お燐の顔がニタァを歪む。お燐にしか出来ず、出来たとしても普通は考えない手段。狂ったものにしか取れない手段をお燐は思いついた。

お燐「お空。あそこに向かって全力で撃ちな」

お燐が指差した先は砦。現在味方が戦っている場所へ撃ち込もうというのだ。当たれば鬼ですら危ないお空の全力を。

味方もろとも敵を殺す。どうせ死体になれば操れるんだから何も問題はない。むしろ逆らうものが一気に消えて都合がいいくらいだとお燐は考えていた。

お空「でもちょっと時間がかかるよ」

お空の制御棒が光を放ち、その先端に小さな光の玉が浮かぶ。

お燐「別にいいさ。あいつらが命がけで時間を稼いでくれるだろうからさ」

お空「そっかー」

お空はあまり深く考えず、力をこめることに集中した。頭脳労働はお燐の役目で、肉体労働は自分の役目だ。そう判断する。

お燐「別に焦らなくていいんだよ。確実に殺せるように集中しなよ」

咲夜とウィルは博麗神社にたどり着いた。しかし結界で覆われているため結界の知識を持たない二人は中に入ることが出来ない。

なので結界に向け弾幕を放った。

異常があれば誰かが来るだろう。その考えは当たり八雲 紫の式で結界を管理している藍が長い階段を下りてやってきた。

藍「どうかしたか?」

結界の向こうの藍は別に焦った顔もしておらず、どうやら咲夜が敵に回ったのではなくただ単に来客したということに気づいていたようだ。

咲夜「お嬢様からの封書を預かっているわ。紫に渡したいのだけど」

藍「………分かった、入るといい」

藍は周りに他の妖怪がいないのを確認して咲夜たちの目の前だけ結界を解く。そして二人が中に入ったのちにまた結界をした。

藍「紫様は中にいる」

藍が階段を上がる二人に言う。咲夜とウィルは藍に礼を言うと、階段を飛んで登り、そのまま神社の中へ入った。

中にはなにかの神が祭ってあるようだったが、知識の無い咲夜たちには分からない。今はそんなことよりも紫に渡すほうが先だった。

祭ってある何かの前にいる紫は咲夜達の来客に別に驚いた様子は無く、冷静に咲夜の用件を聞いた。

咲夜「これを」

咲夜に手渡された封書を空け、中の紙を一読する。そして紫が読み終わった手紙を戻すと二人にこう告げた。

紫「博麗神社は十六夜 咲夜。ウィルヘルミナ・スカーレットの両名を受け入れるわ」

紫から出た言葉は援助ではなく二人の受け入れ。

到底言い間違えたとも読み間違えたとも思えないその言葉に二人は混乱した。

紫「あとこれ、あなた宛みたいよ」

紫がもう一枚入っていたらしい紙を取りだす。そこにはレミリアの命令が書いてあった。

―――生きて私達を伝えなさい。

そんな単純で意味が分からない命令だった。

しかし咲夜はその意味を理解していた。以前レミリアが語っていた言葉。伝説は死なない。だから化け物は永遠に生きるために騒ぎを起こすのだという言葉。

そして咲夜はレミリアが現在どんな覚悟をしているのかを理解した。

咲夜「了解、しましたわ」

咲夜は手紙を丁寧に折りたたんで懐に入れた。

自分の手で紅魔館を伝説へと変える。知ったものの記憶の中に残る永遠に覚めない紅い世界を作り出すために咲夜は決意した。

絶対に死なないということを。レミリア達を伝え続けることを。

ウィル「お、お母様は、お母様達は」

ウィルがおろおろと砦のほうを見る。

助けてもらえないということは自分の母親が死ぬこと。いくら違う世界の母親だとはいえウィルはそれを受け入れたくなかった。

紫「………諦めなさい」

紫の冷たい言葉にウィルが激昂する。そして扉を破壊しながら外へ飛び出て行った。

しかし結界に阻まれ地面へと落下していく。

その直後に幻想郷中に爆音と衝撃波が響き渡っていった。

紫「………」

結界を揺らす衝撃波と砦のほうに見える光を見て、紫は悲しそうに目を伏せた。

咲夜「お嬢様は」

紫「えぇ、そのとおりよ」

咲夜は胸が消えてしまったのではないかと思うほどの消失感に胸をぎゅっと押さえた。覚悟をしていたとは言え悲しいものは悲しかった。

しかし今はウィルのことを優先すべきだと判断してウィルが落ちたであろう場所へ向かう。

博麗神社の西に位置する結界に触れながらウィルは目を見開いていた。その目から流れる涙。

ぴくりとも動かず砦の方を見つめるウィルを咲夜は後ろから抱きしめた。

お燐「あははははは!!」

死体を手に入れるという最初の目標はお燐の頭の中から消えていた。こんなことをしては生存者はもちろん死体すら残らない。

自分の配下が全て消えてしまったということにお燐は気づいていなかった。

衝撃波で吹き飛ばないようにしながらお燐は笑い続ける。

そして一通り笑った後、お燐を褒めるべく後ろを向いた。

お燐「凄いよお空!………お空?」

振り向いた先にはお空の姿は無かった。どこかにいってしまったのだろうかと思い探すために一歩踏み出す。

その直後体を抉るひどく鈍い痛みがお燐を襲った。

え?と言おうとした言葉がなぜかごぽっという音に変わる。そして自分の体を貫く茨と茨に咲く赤と血で所々赤くなった青の薔薇を見た。

認識したことにより痛みが更にひどくなる。

誰?という疑問は浮かび上がった瞬間に解決した。この薔薇を自分は見たことがある。ということは今自分を攻撃しているのは

こいし「めっ。だよ」

そんなペットをしかるような声が後ろから聞こえた。

さとり「お燐」

自分の愛する者の声が聞こえた。

いつの間にかさとりが目の前にいた。

―――さとり様助けてください痛いんです。

その思いをさとりに伝えるがさとりは首を横に振る。

なんでという思いがあふれ出した。

さとりはこいしの名前を呼ぶとさらに次々と茨が体を貫く。

お燐は体を貫く痛みより心を砕く痛みのほうがずっと辛かった。

―――あたいはただ皆で暮らしたかっただけなのに。

茨が抜かれお燐の体が地面に落ち、人間の体から黒猫へと変わる。

涙を浮かべるお燐の頭をさとりが撫で、ごめんなさいと呟いた。

~男視点~

魔理沙が泣いている。涙を流している。

ウィルも泣いている。涙を流している。

紅魔館の人たちが死んだ。ちょっと前に話した相手が死んだ。

運命は残酷でどうしようもない。意味もない悲劇を生み出していく。

なぁ四季さん。これでも紫は優しいのか? 霊夢を守るために仕方がなかったのか?

こんなことをして霊夢が救われたとしてもそのあとの世界はどうなるんだよ。

霊夢以外皆殺すつもりなのかよ。そんなことしたら霊夢が可哀想だろ。それで霊夢を救ったって胸を張って言えるのかよ。

どうしようもない怒り。破壊衝動が体を襲って地面を殴りつける。止めるぬえを振りほどこうとするが適わず地面に組み伏せられた。

男「あぁあああぁあああああぁあああ!!!!」

どうしようもなくて叫ぶ。叫び続ける。

怒りは減らない。それどころかどんどん沸いてくる。

このまま死んでしまうんじゃないかと思うほどの怒り。

それが止まらない。

ぬえ「あう」

ぬえが懇願するような声で俺に言う。

多分落ち着いてとかそんな意味なんだろうがそれは無理で叫び続けた。

霊夢「男」

霊夢が近づいてきた。俺を組み伏せるぬえを手でどかし俺を立たせる。

男「霊夢………」

その直後にぱしんと頬を叩かれた。

霊夢「魔理沙を守るんじゃなかったの? そんなあんたがこんなようすで魔理沙を守れるの?」

男「でも」

霊夢「言い訳しない!」

二発目が飛んできた。避けられずに再び受ける。

男「………分かった」

霊夢「うん、良し。じゃあ魔理沙と私を守りなさいよ。全力でね」

理不尽な言葉のようだがこれも霊夢の励ましなんだろう。霊夢も悲しいのは一緒だろうしな。

男「霊夢は強いな」

霊夢「当たり前でしょ。博麗の巫女だもの」

男「そうか」

霊夢「それより魔理沙とウィルを頼んだわ。あんたはなぜか人に気に入られるみたいだから」

男「………そうかな」

霊夢「私がそうっていえばそうなのよ。じゃあ後は任せたわよ」

霊夢がふよふよと屋根の上に上がっていった。

男「なぁ、魔理沙。ウィル」

魔理沙「な、うぁ。なんだ?」

魔理沙は嗚咽交じりで聞き返してくるがウィルに反応はない。

それもそうだ。自分の親だからな。

男「………ごめんな」

魔理沙「なんで、ひくっ。謝るんだ、よ」

男「俺が紫に言ってればなんとかなったかもしれないのに」

魔理沙「無理、だろ」

男「でも行動を取らなかったことは事実だ」

魔理沙「でも無理だって」

男「無理とか無駄とかそんなことを言う権利は俺には無いんだよ」

行動してないのにそんなこと言えるわけが無い。

男「なぁ魔理沙。他の誰かを守るために力を貸してくれないか。俺ってどうしようもないほど弱いからさ。魔理沙がいなきゃ駄目なんだよ」

魔理沙「そんなこと、ない」

男「格好悪いけどさ。ヒーローなんてものにはなれないけどさ。それでも誰かを助けたいんだ。もう誰も悲しませたくはない」

嘘ではないと言いたい。でもこの言葉が大言で虚言に近いって事は理解している。それに出来ないことはどうであれ嘘だ。

紫「なら戦いなさい」

男「!?」

紫の声がいきなり後ろから聞こえた。

驚いて振り向くとそこには紫と咲夜がいた。

紫「今から博麗神社は最後の手段に出るわ。冥界に協力を仰ぎ、全勢力をかけ人里へ進行する」

男「え、ちょっと待てよ、そんな危険な」

紫「危険な手段を取らないといけないほどこっちは追い詰められているの」

意味が分からない。なら紅魔館の人たちを助けに行けばいいだけの話で

紫はいったい何を考えている?

紫「あなたの持つ銃を使えば何度かはリセットできるわ。そのうち一度でも冴月 麟を倒せば異変は終了する」

男「………つまり何度か死ねと?」

紫「そういうことになるわね」

あっけらかんと紫が答える。

つまり生き返るんだから死んでもいいだろということで

男「ふざけるな!!」

紫の胸倉を掴む。紫はそれでも冷静な目で俺を見てくる。

男「死ぬんだぞ!?」

紫「時が戻ればそれは死んだことにはならないわ」

男「そんなこと」

紫「参加するかしないかはあなたの自由だけど、参加しなかったら死にっぱなしよ?」

男「!」

さっきは振るえなかった拳を紫に向かって振るう。

しかしそれは

咲夜「やめなさい」

藍「それは許さないぞ」

咲夜に止められ、藍さんが俺の首に手を突きつける。

男「なんでだよ。なんで協力してるんだよ、咲夜!!」

咲夜「気持ちを優先して最悪な結果を迎えたくないからよ」

紫「現実を見なさい。理想とか夢とかそんなこと掲げて人は救えないわ。ただの人間にはね」

その言葉に何も言い返せない。

だってそのとおりなのだから。

自分の部屋の前で考えていた。紫の言葉を。

たしかにこの銃で人は救える。魔理沙や霊夢達の博麗神社のメンバーだけだがそれでも救える。そう結果的に見れば救えたことになるんだ。

でもそれでいいのかという気持ちもある。ただそれは命の尊さとかそんな綺麗なことを語る偽善であり、紫の言葉を否定できない。

チルノ「入るぞ、師匠」

チルノが部屋の中に入ってきた。

壁にすがって考え込んでいる俺を見てチルノが慌てて近寄ってくる。

チルノ「どうした!?」

男「なぁチルノ正しいのに納得がいかないことってどうすればいいんだろうな」

チルノ「? 納得いかなくても正しいことは正しいんじゃないのか? だって納得いっても正しくないことは正しくないんだから」

チルノが首をかしげながら答える。

男「その選択をしたら皆が死んでしまうかもしれない。でも俺は皆を死なせたくないんだ」

チルノ「うん」

男「俺は誰かが死んでもそれを無かったことにできる。でも死んだということは変わらないだろ?」

チルノ「うんまぁ。その選択をしなかったら?」

男「皆は死なないかも知れない。けど何も解決しない」

チルノ「何も解決をしないってことは間違ってることなのか?」

男「正しくは無い。現在目標としていることを達成できる行動を取らないんだからな」

チルノ「異変解決?」

男「あぁ、そうだ」

チルノ「じゃあ師匠が行かないって選択肢はないんじゃないのか? いくら師匠がその選択肢を取らなくても皆は行くんだから」

男「………だよなぁ」

何度も出ている結論だが、それ以外の答えをチルノは示してくれなかった。

男「あー。女々しいよな、俺」

皆の覚悟を否定して俺の夢を押し付けてるんだから。

嫌になる。

男「チルノ。俺を思いっきり殴ってくれないか?」

チルノ「?」

男「お願いだ」

チルノ「いいのか?」

男「おう」

チルノ「えい!」

チルノの拳が俺の頬に触れた瞬間俺の体が壁にぶち当たる。

意識が飛びかけたが痛みで余計なことを考えなくて良くなったのですっきりする。

男「あーすっきりした。ありがとうなチルノ」

チルノ「? 師匠ってどえm「違う」

なぜか勘違いされていたので訂正する。

男「よーし、がんばるぞー」

チルノ「おー」

部屋から出ると霊夢と遭遇した。

霊夢「あら、うじうじ考え込んでたんじゃないの?」

男「まぁな。ところで霊夢、俺がお前に戦うなって言って言うこと聞くか?」

霊夢「聞くわけないじゃない」

男「ん、そうだよな。ありがとう」

帰ってきた当たり前の返答に満足する。

とりあえず魔理沙とぬえを探しに出かけようか。もう考え事は終了したのだから部屋に入ってもいいと伝えなければ。

霊夢「………いきなりなにかしら、気持ち悪いわね」

俺を見送る霊夢が何か言っていたが小さくて聞こえなかった。

魔理沙「兄貴、もういいのか?」

ぬえ「………」

魔理沙とぬえは一緒にいた。

ぬえは岩の上で魔理沙を眺めて、魔理沙は魔法の練習をしていた。

男「あぁ。結局俺が馬鹿だったって話だ」

魔理沙「兄貴は馬鹿じゃないって」

男「そう言ってくれるのはありがたい」

でも結局は空回りしただけの男なんだけどな。まぁ自虐はやめて今度のことを考えよう。

男「冥界に協力してもらうって紫がいってたが」

魔理沙「あぁ、幽々子と妖夢に協力してもらうんだよ。というかむしろ協力してくれるのがそれぐらいしかいないからな」

男「………うん。だな」

魔理沙「でもだから人間が冥界を狙うという可能性もある。というか狙ってくるだろうな」

男「じゃあ急がないといけないんじゃ?」

魔理沙「そうだな。だから今夜冥界へ向かう」

男「今夜か………」

~俯瞰視点~

桜の木がいくつも並ぶ。後数か月もすれば見事な桜が一面に咲くだろう。

妖夢「………」

妖夢は楼観剣を構え瞑想する。目を使わずとも世界を見れるようになるにはまだ妖夢は幼い。

祖父である妖忌の教えは剣を通して世界を知る。剣が真実に導いてくれる。その言葉の意味が妖夢にはまだわからずとりあえず斬ってみればわかるのではないかと解釈してしまっていた。

実際はもちろん違う。しかし妖夢はいい意味でも悪い意味でも単純だった。

祖父が消えた理由も今なさなければならないことも剣とともに生きればいずれわかるのだろうと信じていたのだ。

こうして今日も妖夢は愚直に修業をする。

そんな様子を幽々子はほほえましそうに見守っていた。

幽々子「んー。おいしっ」

幽々子は手に持った団子を口で一つ串から抜いて食べる。

冥界は限りなく暇で妖夢も修業中、よって幽々子は食べることしか暇をつぶすことができなかった。

外の世界に遊びに行くのもいいかもしれないが、親友である紫が大変なのに遊びにいくのはちょっと冷たい気がしてやめていた。

幽々子としては幻想郷の異変に特に興味はなく、さっさと異変が終わって紫とお茶を飲みたいと思う程度であった。そもそも幽々子は幻想郷にあまり興味がない。食べ歩きに出かけたりもするがそれは外の世界でも同じでなくなったとしても気に入った店が少し無くなるだけだ。

幽々子「もぐもぐ。えいっ」

食べ終わった串を妖夢に向かって投げつける。それを妖夢は目を開けることもなく切り捨てた。

幽々子「さすがねぇ」

妖夢「お爺様なら今の串を縦に斬れますよ。当たり前のように」

幽々子「妖忌ならそうでしょうけど、ねぇ」

妖夢「幽々子様は相変わらずお爺様が苦手なようですね」

幽々子「嫌いじゃないんだけど、堅苦しいのは苦手なのよぉ」

妖夢「私としてはお爺様に戻ってきて欲しいのですがね」

幽々子「案外近くにいるのかもしれないわよ」

妖夢「だといいのですが」

妖夢は少し笑って再び集中し始めた。幽々子は二本目の団子に手を伸ばしそれを眺める。

団子を食べながら幽々子は考える。

今現在この冥界が襲われたらどうなるだろうか。こっちから参戦する気はない。だからといって攻めてこないわけではないのだ。戦力は二人。どうしようもない。

妖忌がいればまだ何とかなるかもしれないが、どこにいるかは誰も知らない。

頼れるのは紫だけ。かといって紫に援助を頼むと参戦したことになってしまう。

幽々子「ままならないわねぇ」

団子を食べながらため息をつく。

しかし今更どうすればいいかを考えるのは致命的に手遅れだった。

白玉楼の広さは二百由旬、一日ぐらいじゃ到底着ける距離ではない。しかし

神子「私には関係がない」

白玉楼は建物なため隙間がいくらでもある。その隙間から豊聡耳 神子は出てくることが出来た。

幽々子「!?」

いきなり現れた神子に幽々子は扇子を振るって蝶を飛ばす。相手を死に至らしめるその蝶を神子は難なく掴み取った。

神子「神は死にませんよ。消えるのみです」

蝶を手放し腰の七星剣を掴む。

神子「まぁ、もっとも私は消えるつもりはありませんが」

七星剣による一閃。それで蝶を切り裂き、返す刀で

妖夢「!?」

斬りかかって来た妖夢を弾き飛ばした。

神子「さて、成仏してくれるとありがたいな」

幽々子「仏教を捨てた貴方が成仏、ねぇ」

妖夢「幽々子様! 二対一なら!」

神子「私が一人と言ったつもりはありませんよ」

再び斬りかかって来た妖夢を横から誰かが蹴り飛ばす。

妹紅「これ、便利だな」

神子「修行をするつもりならいつでもどうぞ」

妹紅「妖術だけで十分だ」

幽々子「………私狙いね」

神子「あの子も狙っている」

神子が指を鳴らすと白玉楼の隙間からどんどん人間が溢れてきた。

神子「102対2だ」

幽々子「………」

幽々子は苦々しい顔をして後ろへ引いた。妖夢は幽々子の前に出て刀を構える。

妹紅「妖夢の相手は任せたぞ。私と神子で幽々子をやる」

妹紅はポケットから数枚の札を取り出し幽々子に投げつけた。札は空中で発火し小さな火の鳥となり幽々子に襲い掛かった。それを妖夢は剣で斬りおとす。その隙を突いて人間が妖夢に襲い掛かった。

幽々子「ねぇ妖夢。私知ってるのよ」

幽々子は迎撃しようとした妖夢の襟を掴んで引っ張る。妖夢が受けるはずだった刀を幽々子はその身を持って受けた。

生きてはいないのだから死なない。しかしどうやら神の恩恵を受けているらしいその刀は幽々子の体を傷つける。

妖夢「幽々子様!?」

幽々子は刀を受けながら妖夢のほうへ振り返りにっこりと笑った。

幽々子「紫から聞いたのよ。あの後ね」

幽々子が足元から反魂蝶になっていく。反魂蝶は羽ばたきながら一番大きな桜の木へ集まっていった。

幽々子「お願い妖夢、逃げて」

一筋の涙を流して幽々子の体が全て消える。その光景に唖然としていた神子が我に返り、反魂蝶を倒せと人間に命令した。

しかし行動が遅く間に合わなかった。蝶が桜の木の中に吸い込まれていく。

一番大きな桜の木。西行妖へ。

どくんっという胎動が聞こえた。それは力強く何度も繰り返される、まるで心臓の鼓動のように。

そして時計の針を進めたかのように西行妖は変化する。蕾をつけ、それがゆっくりと花を開く。

その色は赤。血のような赤だった。

人間「があぁっ!!」

西行妖の近くにいた不運な人間がまず犠牲になった。尖った根っこが首に刺さりそこから生を吸い取られていく。たったの数秒でその人間は老い、絶命した。

妹紅「なんだこれ!?」

自分を狙ってきた根っこを燃やしながら妹紅が逃げる。燃やされたはずの根っこは瞬時に再生して再び妹紅を追った。

神子「っ! 撤退しろ!」

しかしその言葉に反応する者は妹紅以外いなかった。

どさりどさりと人間達が蒼白な顔をして倒れていく。そしてそのたび西行妖が新たに鮮やかな花をつけた。

妹紅「逃げるぞ!」

妹紅が隙間に向かって逃げる。妹紅の体はするりと隙間に吸い込まれ消えた。それに神子も続く。

そして残ったのは咲いた桜を見つめる妖夢と西行妖だけだった。

ターゲットを失った西行妖が妖夢に根っこを伸ばす。

それを妖夢は避けようとしなかった。自らの主が消えてしまった事で妖夢は絶望していた。

咲かせようとしていた桜の木。それがこんなに恐ろしい木だったなんて。

そして幽々子様がもうどこにもいないだなんて。

自分の首に向かって伸びる根っこがやけにゆっくりに見えた。

妖夢(死ぬ、のかなぁ。まぁ、それでもいいかも)

頭の中に妖忌、幽々子との思い出が流れていく。楽しかった思い出を胸に妖夢は目を閉じた。

妖夢「?」

しかしいつまでたっても覚悟していた衝撃が来ない。不思議に思い目を開くと根が首の手前で止まっていた。

幽々子「いつも真面目な妖夢が言うことを聞かないなんて珍しいわね」

声が聞こえた。消えた主の声。

しかし姿はどこにも見えない。

妖夢「幽々子様? どこにいるんですか?」

幽々子「私、死んじゃったのよ」

何を言っているのだろうか、幽々子は元から生きてはいない。その言葉の意味が妖夢には理解できなかった。

幽々子「だから私の分まで生きて、なんてね」

妖夢は理解できずに当たりを見回し続ける。そんな妖夢に幽々子は愛おしそうに声をかける。

幽々子「また会いましょうね。いつか。だから今は逃げて、お願いだから」

幽々子の声がどんどん辛そうになる。ここで妖夢が冗談でもなんでもなく幽々子が死んだということを認識した。

妖夢「幽々子様。分かりました。私いきます」

妖夢が立ち上がって西行妖に背を向ける。

幽々子「ありがとう、よう、む」

幽々子の声がかすれるほどに弱くなる。そして妖夢の手前で静止していた根っこが妖夢に向かって再び伸びた。

それを妖夢は振り返らずに切り落とす。そのまま何事も無かったかのように歩き出した。

幽々子「………また、ね」

妖夢「えぇ。待ってますよ。ずっと」

~男視点~

男「何もみえねぇ」

なぜか霊夢が持っていた懐中電灯程度じゃ心もとないほどに闇が深い。外の世界がどれだけ明るいのかを思い知らされた。

今現在いるメンバーは俺と霊夢と魔理沙とチルノと萃香と小町。戦力は申し分ないのだがこの暗さだ、不意打ちを受ける可能性がかなり高い。

霊夢「あんたが先に偵察いけば?」

男「死ぬわ」

妖怪どころか野生動物に襲われてもたぶん死ねる気がする。情けないことだが。

チルノ「はいはい! あたいいくあたい!!」

霊夢「別にいってもいいけどあんた夜目効くの?」

チルノ「夜目?」

小町「暗闇で見えるかってことだよ。あたいは効くからいってくるよ」

そう言うやいなや小町の姿が消える。距離を操って消えたのだろう。

魔理沙「あ、八卦炉で照らせるぜ」

魔理沙がポケットから八卦炉を取り出す。カイロになったり武器になったり便利だな。

小町「問題なかったよ」

いきなり後ろで小町の声が聞こえた。せめて視界に入るところにでてきてもらわないと心臓に悪い。視界にいきなり出てこられても心臓に悪いが。

霊夢「人間の見回りぐらいいそうなものだけど」

魔理沙「なんか起きたのか私たちがラッキーなのか」

霊夢「後者に期待したいわね」

萃香「用心に越したことはないと思うけどねぇ」

小町「あたいがいる限りいざとなったら逃げられるから大丈夫だよ」

それもそうだが、小町が一撃でやられなかったらの話だな。やはり用心に越したことは無い。

そういえば俺って小町の強さ知らないな。

男「小町って強いのか?」

小町「自分で言うのもなんだけど弱くはないつもりだよ」

魔理沙「いや、強いだろ」

魔理沙が呆れた目で小町を見る。やっぱり強いのか。そりゃあ大きな鎌持っててこの中だと一番見た目的に強そうだけど。

萃香「男ももうそろそろ実戦に入っていいんじゃないかね。みっちり稽古はつけたんだし」

男「う、まぁ努力します」

霊夢「守ってくれるんでしょ?」

男「頑張る」

守るといっても補助にしか回れないのだけど。萃香から稽古はつけられて一般人相手なら勝てるはずなのだがそれでも不安は残る。そもそも相手に達人がいたら俺は役立たずになるしな。

魔理沙「危なくなったら兄貴は私が守ってやるぜ」

チルノ「あたいも!」

霊夢「良かったわね。良い妹とチルノがいて」

そういう霊夢の目が冷たい。なんでだろうか。

小町「ん、もうすぐ冥界の近くだ」

男「そうなのか」

しかし見回してみるが木しか見えない。いったいどこにと思っているといきなり小町が俺を抱きかかえた。さすが死神。力強い、じゃなくていきなりなんだ!?

目を白黒させているといきなり小町が飛んだ。そのまま景色が後ろへ流れていくどうやら距離をいじっているらしい。そのまま雲を突破して

小町「到着っと」

地面に着地した。

男「ここが冥界?」

小町「そうだよ」

まさか冥界が雲の上にあるとは思っていなかった。

地面を踏みしめてみるとちゃんと土の感触がある。いったいどうなっているんだろうと考えたが結局理解できそうになかった。

萃香「さすがに人間はいないみたいだね」

霧が集まって萃香が現れた。

魔理沙「まぁ、冥界まで来るには空を飛ぶか死ぬしかないからな」

魔理沙が箒で飛んでやってくる。その数秒後にチルノ、十秒後ぐらいに霊夢も現れた。

小町「さぁて幽々子達に会いに行こうか」

霊夢「でも力貸してくれるかしら」

魔理沙「紫と仲良いんだから貸してくれるだろ、ってあれ妖夢じゃないか?」

魔理沙が指を指した先には遠くてよく見えないが緑の服を着て髪が白の人が見えた。

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>>620

御用があるなら聞きますよー

やってきた少女の顔は明るくなく、何かあったのだろうと分かる。

それに抜き身の刀を持っている。まさか斬りかかって来るとかはないよな?

霊夢「何かあったの?」

妖夢「………幽々子様が亡くなりました」

霊夢「え? どういうこと?」

小町「………あー、そういうことかい」

小町が頭をかいて首をそむける。萃香も少しいらだったように手を握り締めた。

霊夢「そんな時に悪いんだけど力を貸してもらえないかしら」

その言葉に妖夢は言葉で答えず刀を正眼に構えて答えた。

霊夢「………なによ」

妖夢「剣にて正義を問わせていただきます」

霊夢「冗談でしょ?」

妖夢「………」

答えず妖夢は霊夢に斬りかかった。

小町「危ない、ね」

霊夢と妖夢の間に小町が割り込んで刀を鎌で受ける。金属と金属がぶつかる甲高い音が響いた。

妖夢は後ろに飛び、また素早く接近して刀を振るった。

身の丈には合わない長さの刀を軽々と振り回して小町と斬りあう。

妖夢の素早い攻撃を小町はいなす。しかし反撃は一切しなかった。

ただ妖夢が斬って、小町が受けるだけ。そんな戦いが延々と続く。

こっちのほうが人数は多いのに誰も邪魔をしない。ただ悲しそうな目で見ているだけだった。

妖夢「っ!!」

妖夢が剣を両手で振り下ろす。その隙に小町が刀を弾き飛ばした。

くるくると回って刀が地面に突き刺さる。それと同時に妖夢が崩れ落ちた。

妖夢「私は弱い、こんなにもっ!」

小町「………とにかくここは危ないから幻想郷に戻ろう」

その言葉に妖夢は小さく頷いた。

小町「チルノ、刀取ってきてくれないかい?」

チルノ「あいさー」

チルノが地面に刺さった刀を引き抜いて持ってくる。

妖夢「………」

それを妖夢は無言で受け取った。

小町「帰ろう。早く」

小町が妖夢が来た方向を見る。どうやら向こうに何かがあるらしい。

小町が妖夢を抱え、そのまま消えた。

男「いったい向こうに何があるんだ?」

萃香「いっちゃいけないよ」

霊夢「何があるのよ」

萃香「いいから、帰るよ」

萃香が霊夢の襟を引っ張って強制的に連れ帰った。どうやら触れてはいけないことのようだ。

魔理沙「帰るか兄貴」

男「だな」

チルノ「何があるんだろう」

魔理沙「いいから早く帰るぞ」

チルノ「うん………」

どうやら小町は一足先に妖夢をつれて帰っているようで帰りは一緒ではなかった。

月の光しかない静かな夜の空を魔理沙と飛ぶ。帰りは隠密じゃないので飛んでもいい。

魔理沙「早く帰るから、舌かまないでくれよ」

魔理沙は妖夢のことが心配らしく、飛ぶスピードを上げる。後ろにいるのは霊夢とチルノだけだが、あの二人なら大丈夫だろう。

どんどん加速していく風景に一瞬悲しそうな泣き声が聞こえた気がするがおそらく風の音だろう。もしくは幽霊か。

男「あれは」

下を見れば紅魔館が見えた。しかし今は無残に瓦礫になっている。あの紅く立派な屋敷の面影はどこにもなかった。

日に日にこの幻想郷は変わり続けているようだ。こっちにきて一週間ほどしかたってない俺ですら変化を感じるのだからここで育ってきた魔理沙達は恐ろしいほどの変化を感じるのだろう。

それはおそらくもう取り戻せないもので、全て思い出となり消えていく。

失われたものがやってくるこの幻想郷で失われたものはいったいどこへ行くのだろうか。

ぬえ「………」

神社に帰ると待っていたぬえが駆け寄ってきた。この寒空の下俺のことを待ってくれていたのだろうか。

ためしに触れた頬はかなり冷たくなっていた。もしかして俺達が出てからずっと待っていたのか。

魔理沙「兄貴はぬえと一緒に風呂入ってくるといいよ。私は妖夢に会ってくる」

そう言い残して魔理沙がどこかへ行った。見送って魔理沙の言うとおり風呂へ向かう。

まだ俺はいいとしてぬえが心配だ。妖怪が風邪を引くのか分からないが。

紫「………私達に協力はしないのね」

妖夢「申し訳ありませんが、お爺様を探しに行きます」

紫「あなたなら外へ出れるだろうから私達は手伝わなくてもいいわよね?」

妖夢「………止めないのですか?」

紫「えぇ、幽々子との約束だもの。個人的な事情になるけどね」

妖夢「分かりました。それではどうかご無事で」

紫「待ちなさい。少し休んでいきなさい。疲れてるのでしょう?」

妖夢「………お言葉に甘えさせていただきます」

紫「えぇ」

男「うおぉお」

冷たい体で熱いお湯に使ってしまったので思わず声を上げてしまった。となりにいるぬえがびっくりした顔でこっちを見てくる。

男「だ、大丈夫だぁあ」

ゆっくりと湯につかり、一息つく。冷たい体に熱いお湯がしみこんでくるようだ。

ぬえ「あう」

ぬえがぷるぷると震えながら湯に浸かろうとしている。いくら妖怪でも熱いお湯に浸かるのは難しいらしい。

そして俺と同じように息をついていた。

妖怪でもやっぱり人と変わんないのだなぁ。

見上げた夜空に雲はなく星が綺麗に見える。詳しい星座は分からないがなんとなく感動した。

男「それにしても昔の人はあれがさそりとか魚とかに見えたもんだなぁ」

魔理沙「想像力が強いみたいだからな。想像力が減ったから今妖怪は減っているって香霖が力説してた」

魔理沙の声が後ろから聞こえた。振り向くと魔理沙がタオルを巻いて立っていた。

魔理沙「あぁー良い湯だなぁ」

男「妖夢はいいのか?」

魔理沙「あいつは外に行くってよ」

男「出れるのか?」

魔理沙「半霊とか幽霊は外に出入りできるみたいだな。そもそも妖夢自体幻想郷の住民というわけでもないし」

魔理沙が足をぱしゃぱしゃと動かして空を見上げる。

魔理沙「私はそれでいいと思うんだ。さびしいけど死ぬよりはましだから」

ぽつりと呟いた言葉は寂しさよりも安堵を含んでいて魔理沙が妖夢のことを大切に思っているということがわかる。

そんな魔理沙の頭を撫でる。魔理沙は少し嬉しそうに笑った。

魔理沙「私は兄貴と霊夢がいてくれるならそれでいいんだよ」

男「嬉しいこといってくれるな」

魔理沙「可愛い妹だろ?」

男「あぁ、そうだな」

ぬえ「………」

魔理沙との会話を聞いてぬえがさびしそうな顔をしていた。

そうかぬえは死に別れだからな。

男「ぬえのそばにもいるよ。頼りないかもしれないけどな」

ぬえ「ああう」

ぬえが首を横に振った。その顔は悲しそうな顔から少し嬉しそうな顔に変わっていた。

ぬえは妖怪だからいずれ俺とも別れてしまうのかもしれないがそのときまでにぬえに数え切れないほどの知り合いを作ってあげたい。俺なんかどうでも良くなるくらいの友達を作ってあげたい。

それをするにはまず異変を終わらせなければいけない。異変が終わって大変かもしれないがぬえと俺と魔理沙で暮らして―――まぁそのときのことはそのとき考えよう。

つらい今よりは楽しい未来に目を向けたほうが少しは気が晴れる。でも今を見ないわけにはいかない。今を見ないと未来を見失ってしまうかもしれないから。

魔理沙「兄貴って結構なジゴロ?」

男「そんなわけないだろ」

魔理沙「明日か………」

男「だな………」

明日俺達は人間の里へ攻める。そこで何が起きるのかは分からない。

戦いは一日では終わらないだろう。数日はかかるはずだ。その戦いを撒き戻せる数は8。その数を越えた場合はもう戻せない。使いどころを見極めなければいけないがそれはつまり誰かを見捨てること。

無理、かもしれない。

誰が死んでも俺は引き金を引くだろう。一番良いのは誰も死なないこと。

でもそれはおそらく無理。結果俺のせいで負けることになる。

でも見捨てれないし。

そんな思考が頭をぐるぐる回って結論が出ない。

嫌になってお湯に顔をつけて叫ぶ。ごぼごぼと泡がはじけて音を立てた。

魔理沙「ど、どうしたんだ?」

男「なんでもない」

誰を見捨てるかなんてそんなこと相談できるわけが無い。それにこれは俺が答えを見つけなければならないことで、でも結局はどれを選んでも後悔をする。

大切なものがどんどん零れ落ちていく。俺の手のひらはこんなにも小さい。

持っていたいものはたくさんあるのに。

風呂上り、体を拭いていると外から霊夢と妖夢が中に入ってきた。とっさに下半身を隠すが霊夢に汚いものを見る目で見られた。俺はなにも悪くないというのに。

妖夢「すみません。外に出ています」

男「あー。後ろ向いててくれればすぐ着替えるから」

あまり体はふけてなくて濡れているところもあるが仕方ない。急いで着替える。

男「もう大丈夫だ」

後ろを向いている妖夢と目を瞑っているだけの霊夢に言う。

妖夢「? ぬえと魔理沙と一緒にお風呂に入っていたのですか?」

霊夢「あー、こいつ変態だから」

男「違う。言い訳をさせてもらうなら魔理沙は妹で、ぬえとはずっと傍にいると誓った中だからだ」

なんだかあまり言い訳になってはないが、俺としてはちゃんとした理由なんだ。

妖夢「魔理沙のお兄さん、ですか?」

男「義理だけどな」

妖夢「私の名前は魂魄 妖夢です。魔理沙とは親しくさせていただいています」

なんだか礼儀正しい子だなぁ。刀を持っていたし侍みたいだ。

なんて思っていると霊夢から着替えるからと蹴りだされた。

まだまだ霊夢の好感度が上がるのは先のことらしい。

男「さむ………」

外で魔理沙とぬえを待つ。濡れた体から冬の風が体温を奪っていく。

男「へっくしゅっ」

これは早くしてもらわないと風邪を引いてしまうかもしれない。

戦いの前日に風邪を引いてしまうのはさすがに洒落にならない。

魔理沙「さっさと布団に入って寝るか」

ぬえ「………」コクリ

男「そ、そうしよう」

ぬえ、俺、魔理沙の順で川の字になって布団へ入る。すると魔理沙が寒いだろうからと俺の布団に入ってきた。ぬえも同じく俺のふとんに入ってくる。

三人入れるほど俺の布団は大きくないのだが布団と布団を上手く重ね合わせカバーしていた。

ぬえ「あう」

ぬえが何か言いたそうだったので見ると心配そうな目で見ていた。

明日ぬえは神社で俺たちのことを待つことになる。それは博麗神社にも戦力を残しておかないと紫や四季さんが危ないというのと、やはり喋れないのであれば戦えないということで判断された。

男「大丈夫。帰ってくるから」

魔理沙「おう。兄貴は私が守るからな」

左腕に魔理沙が抱きついてくる。魔理沙が守ってくれるのなら心強い。

何度も思うが情けない限りだけどな。

ぬえ「あう」

ぬえはその言葉を聞いて安心したらしく目を閉じた。俺も魔理沙も明日に備えて寝る。

体が疲れていたせいかあっさりと意識は深く落ちていった。

暗い暗い闇の中。いつか来た覚えのあるここに俺は立っていた。

地面があるかも分からないほどの暗さなのにやはり俺の体は見える。

不思議な空間。でもなぜか自分でも驚くほど俺は落ち着いていた。

???「また会いましたね」

鱗の女性がいた。やはり俺と同じくこの暗闇だというのに見える。

男「今日は巫女服なんだな」

???「似合いますか?」

似合う似合わないというより違和感しか感じない。鱗のせいで。

男「似合ってるよ」

そう嘘をつくと鱗の女性は嬉しそうに微笑んだ。

男「で、結局ここはどこなんだ?」

???「幻想郷ですよ」

またこれか。幻想郷のどこどこかなんて教えてくれない。

もう少し情報が欲しいんだけどなぁ。

???「とりあえずお茶にしましょう」

鱗の人がどこからともなくお茶とティーカップを取り出した。こぽこぽとティーカップに琥珀色の液体が注がれていく。

???「はい、どうぞ」

手渡されたティーカップを受け取り、一口飲む。アールグレイだった。

???「おいしいですか?」

男「うん、まぁ美味しい」

そう俺が答えると鱗の人はまた嬉しそうに微笑んだ。

普段ティーバックもしくはペットボトルのお茶しか飲んでないがそれと比べると美味しい。

いつの間にお湯を沸かしたのかとかは聞かないほうがいいのだろうか。

???「あのぉ、こんにちわ」

俺と鱗の人。どちらでもない人の声がした。振り向くと女の人が立っていた。

女の人は白と黒のドレスを着ていて髪が紫と金のグラデーション。そんな不思議な格好だった。いや鱗よりはましなんだけど。

男「ど、どうかしましたか?」

いきなり話しかけられて少し戸惑う。なにせ美人で胸が大きいからだ。胸が大きいからだ。

???「ぬえをよろしくおねがいしますね」

男「え、それって」

聞き返す間も無く女の人は闇に消えていった。慌てて伸ばしたては虚空を掴むだけで何にも引っかからない。

消えてしまっていた。

ぬえをよろしくって、どういうことなんだろうか。

ぬえの知り合いなのかな?

???「明日から大変ですね」

いきなり鱗の人がそう言う。

男「知ってるのか?」

???「はい、知ってます」

良い笑顔でそう答える。

いったい何で?

???「秘密です」

男「結局秘密なのか」

鱗の人が口に人差し指を当てる。結局何も出てこない情報に呆れて俺は頭をかいた。

???「とにかく霊夢をよろしくお願いしますね」

男「っていってもなぁ」

霊夢は俺のこと嫌ってるしなぁ。

男「あ、そういえば結局あんたはいったい誰なんだ?」

???「時間切れですよ」

男「は?」

思わず聞き返してみると鱗の人は俺の足元を指差した。

うっすらと消えていっている。

男「またこれか!!」

どんどん俺の体が消え、それが進むにつれ意識も薄れていく。

そして

目を覚ました。何か夢を見ていたようだがどんな夢を見ていたのかは覚えていない。

なんかデジャビュを覚えるがなんだっただろうか。

まぁいい。隣を見ると魔理沙はおらずぬえだけが静かに寝ていた。

起こすのも悪いのでそっと布団から抜け外へ出る。

外は太陽がちょうど顔を出してくる頃だった。おそらく6時過ぎくらいだろう。

男「魔理沙はどこに行ったんだ?」

魔理沙「ここだ、ここ」

上から声がした。ということは屋根の上にいるのだろうか。そう考えていると魔理沙が屋根の上から飛び降りて着地した。結構な高さがあるが大丈夫なのだろうかと心配してみたが魔理沙は平気な顔でおはようと言った。

男「おはよう。何してたんだ?」

魔理沙「魔法の練習だよ。恥ずかしいから他の人に言わないでくれよ?」

男「恥ずかしくないと思うけどな」

努力をすることは悪いことではない。恥ずかしがることはないと思うのだが年頃というやつだろう。もしくは霊夢が身近にいるからか。

魔理沙「今日、行くんだな」

男「そうだな」

今日、この戦いで出る犠牲者の数は今までよりもずっと多いはずだ。それでもしなければならない。

霊夢「あら、あんた達早いのね」

男「そういう霊夢も早いんだな」

霊夢が着替えて廊下を歩いていた。霊夢といえども緊張はするのだろうか。

霊夢「妖夢に起こされたのよ。正直まだ眠いわ」

そう言って霊夢があくびをする。霊夢らしいといえば霊夢らしい。

魔理沙「妖夢は?」

霊夢「もう出てったわ」

男「そうか。見送りぐらいはしたかったんだけどな」

霊夢「何? 妖夢にも手をだすの?」

男「そんな下心なんてもってないって」

やはり霊夢は俺をおかしな目で見ていると思う。

三人で喋っていると日は上がり皆が起き出した。

橙「朝ごはんできましたよー」

橙に呼ばれ朝ごはんを食べに行く。部屋に入ると紫と四季さんと小町とチルノがいた。藍さんと咲夜の姿は見えない。

紫「男と霊夢。魔理沙と小町。萃香とチルノで分かれてもらうわ。藍と咲夜とぬえはここを守ってもらう。いいかしら?」

霊夢「結局私はこいつとなのね」

霊夢が嫌そうな目で俺を見る。無理も無い。普段はただの足手まといにしかなれないからな。

紫「理由はいえないけどそれが一番良いのよ」

霊夢「はいはい。紫はいつも秘密主義よね」

霊夢が嫌味を言いながら座る。魔理沙は小町とかぁと言いながら座った。俺はその横に座る。

紫「それで、進み方なんだけ―――」

外で音がした。全員が音をしたほうに注目する。何かが走るような音がこっちに近づいてきた。少し腰を浮かして構えていると勢い良く障子が開かれぬえが飛び込んできた。

ぬえ「っ!!」

ぬえが俺に飛び掛ってくる。腰を浮かしていたため上手く受け止めることが出来ずに体勢を崩して朝食をこぼした。

どうしたんだとだそうとした言葉はぬえの顔を見ると出なくなった。

ぬえは泣いていた。

ぬえの体は震えていた。

ぎゅっと俺の胸元を掴んですがり付いてくる。

あ、そうか。

勝手にいなくなったからか。

男「ごめんな、ぬえ」

ぬえの頭を撫でる。ぬえは胸元を掴んでいた手を解き俺の首に回した。

若干痛いぐらいの力で抱きつかれ、少し息がしづらくなる。まぁそれはあまり重要なことじゃないからどうでもいい。

ぬえの細い華奢な体に手を伸ばし抱きしめる。服を通して感じる感触は俺が知る女性の中で一番儚げで、抱きしめていないと消えてしまうんじゃないかという印象を受けた。

俺よりほんの少し高い体温。どくんどくんと早めに動く鼓動。孤独という恐怖から来る震え。全てが直接俺に伝わってくる。

男「もう勝手にいなくなったりしないからさ。約束するよ」

ぬえがちいさく頷く。腕の力が少し緩まる。

男「朝ごはん食べるか」

ぬえが小さく頷くが腕は解かれない。このままじゃ食べれないなと苦笑しつつぬえの背中を撫でた。

朝食で無事だったのはご飯だけで、残りは全て畳の上に落ちていた。家主である霊夢がこっちを半目で睨んでくるので頭を下げて謝っておく。霊夢は小さく別にいいわよと言って再び朝食を食べ始めた。

俺のひざの上に座るぬえが申し訳なさそうにこっちを見てくるので気にしてないよと言っておく。正直おなかが空いたのだがここでそれを口にだすわけにもいかない。

まぁ、一日ぐらいいいかとご飯をかきこんで食べ終わる。あとはぬえが食べ終わるのを待つだけなんだが。

亡霊男「片付けは俺がやっとくから」

亡霊男が気を利かせてこぼれたおかずやらを掃除してくれた。ついでにぬえのご飯を俺の前に持ってきてくれる。

男「ありがとうな」

亡霊男「気にすんな」

魔理沙「何か食べるか?」

隣の魔理沙がそう聞いて来るが魔理沙の方が圧倒的に動くので遠慮しておく。するとぬえがおかずの焼き魚を掴んで口元に差し出してきた。

食べろということだろう。お腹は空いているので素直に食べる。調味料は塩だけみたいだが美味しい。調理者の腕によるものだろう。

男「ありがとうな」

礼を言うとぬえは急いで他のおかずを俺の口元に持ってきた。

男「いや、自分で食べなさい」

ぬえ「………」

ぬえはじっと俺を見たあとこくりと頷いて俺の口元に持ってきたおかずを自分の口の中へ運んだ。

ひらめいた

>>657
通報した

このSSが>>1のオナニーであることは今更誰も疑わないけど
にしたって東方のこと嫌いとしか思えない
文章力とか話作る力はあるんだろうから尚更ね

>>666

東方大好きですよ。嫌いなキャラが存在しないぐらいには

男「んじゃあ行って来るからな」

ぬえ「………」

ぬえがこくりと頷く。ぬえと咲夜に見送られ俺たちは結界から出た。

ここを出れば自分の身を守るものは存在しない。出会うもの皆敵といっていっても過言ではないだろう。

魔理沙「んじゃ、行くか」

小町「だね」

チルノ「師匠! あたい達も行って来る!」

萃香「そっちもがんばりなよ」

男「おう」

魔理沙と小町。チルノと萃香がそれぞれ別の場所に飛んでいく。向かう先は人間の里だがルートは分けている。固まって動くと戦力は強くなるが動きづらくなる。それに戦力を固めたところであっちのほうが上なのだから結果負けるだけだ。

魔理沙と小町は妖怪の山に近いルートを回り後ろから人間の里へ。

萃香とチルノは魔法の森を抜け、紅魔館の近くを通り人間の里へ。

俺と霊夢はそのまま人間の里へ向かう。

ちなみに誰かがもし死んでしまったら分かるように霊夢が作った監視の札というものが全員に張られてある。誰かが死んでしまったら霊夢に伝わる仕掛けらしい。

霊夢「ほら、ぼっとしてないで行くわよ」

男「ん、あぁ」

霊夢がふわふわと浮きながら俺に催促した。

俺が走り出すと霊夢は俺の少し前に位置して飛ぶ。どうやら珍しく俺に合わせてくれるようだ。

男「ありがとうな」

霊夢「別に、あんたが死ぬと魔理沙とぬえが悲しむでしょ。だからよ」

そう言って霊夢は顔少し赤くなった顔をそらした―――なんてことはなく真顔でそう言った。

結局俺自体の価値は霊夢にとっては皆無なようだ。

~俯瞰視点~

萃香はチルノに合わせ走っていた。萃香一人ならば霧になり進むことができるがチルノを守らなければならない今霧になることはできない。

萃香は妖精に興味が無い。というよりは他人に基本的に興味が無い。あるとすれば自分が強者と認めたものだけ。

この考え方が現在の正邪を産んだのだが、萃香は直そうとしても今までの考え方がすぐ直るわけではなく萃香は少し後ろを飛ぶチルノのことを面倒だなと少し思った。

しかし見捨てることはなくチルノにいつ攻撃がきてもいいように気を配っている。

チルノ「萃香! 後ろは任せろー!!」

そんな萃香のことなど露知らずチルノは張り切っていた。そんなチルノの様子を見て萃香は少し微笑んだ。

萃香「?」

萃香は微笑んだ後、自分がなぜ微笑んだのか分からず首をかしげた。

それが萃香の変化だとこの時点ではまだ萃香は気づいていなかった。

太陽が真上に上がり、昼になった。ここまでチルノと萃香は一度も止まらずに走り続けていた。二人は小さな戦いを繰り返していたが今のところ大きな戦いはなく、疲れているわけではない。しかし萃香は一度休憩は挟んだほうがいいだろうと判断して立ち止まった。

チルノ「?」

不思議そうな顔で見てくるチルノに萃香は念のために休憩すると告げる。するとチルノは

チルノ「あたいまだまだ大丈夫だよ!」

と答えた。

そんなチルノを萃香は無理やり座らせ水筒とおにぎりを握らせた。

萃香「このあと休憩できなくなるかもしれないんだから今休憩しといたほうがいいんだよ」

チルノ「なるほど! 萃香は賢いな!!」

そんなチルノの言葉に萃香は不思議と怒りを感じなかった。それどころかチルノらしいと苦笑する。

萃香「さて、私も食べようかね」

亡霊男が握った経木で包まれているおにぎりと竹筒に入った水を取り出す。

開けると塩むすびが二つとたくあんが3切れ入っていた。

萃香(今のところ敵はいないみたいだけど)

水を飲みながら周りの気配を探る。こいしのような隠密性のある妖怪なら分からないが普通の妖怪、人間はどうやらいないようだ。

そんなことをしているとチルノがいきなり苦しみ始めた。

チルノ「うっ、ひっ」

萃香「チルノ!?」

慌ててチルノのそばに駆け寄る。チルノは萃香の腕を掴んで何か言いたそうにしていたので萃香はチルノの耳元に口を近づけた。

チルノ「み、水」

萃香「………」

萃香はぽかんとして停止する。胸を叩いているチルノを見て喉に詰まらせただけかと安心してため息をつく。

いまだもがき苦しんでいるチルノに萃香は自分の水筒の水を飲ませた。

ごくごくとチルノは萃香の分の水を飲み干した。萃香は自分の分がなくなったがいざとなれば酒を飲めばいいだろうと判断する。

チルノ「ぷはぁっ! 助かった!!」

萃香「少量を良く噛んで食べないからだよ」

チルノ「あ、萃香の分全部飲んじゃった」

飲み干した水筒が萃香のものであることに気づく。申し訳なさそうに謝ってくるチルノに萃香は別に良いと言ったのだがチルノは気がすまないらしく少し考えた後こう提案した。

チルノ「こうすればいいなっ」

チルノが水筒を握って少し集中する。するとパキンとガラスの割れるような音が水筒からした。

チルノ「溶けないと飲めないけど」

チルノは水筒の中に空気中の水分を集めて凍らせたらしく、萃香が受け取った水筒はひんやりとしていた。

真冬にこんなくそ冷たい水なんか飲まないよという言葉を飲み込んで萃香はチルノに礼を言った。

チルノは得意そうな顔をして笑う。

元々チルノのせいなのだけどと萃香は思ったが言わないでおいた。

>>1の嫁キャラは誰ですか?

>>679
ぬえとパルスィですね

あと星ちゃんです

断腸の思いで選ぶならパルスィです

僕の嫁はミスティアちゃん!

>>689
奇遇だな
俺の嫁もミスティアって名前なんだ

俺の横で幸せそうに眠ってる女の子もミスティアっていうんだ、凄い偶然だな

俺は四季様かな
幼女なのか白黒はっきり着けてください
立ち絵的には霊夢達と同じくらいの身長なんだが....

>>689>>690>>691

みすちーをキモオタが呼んでいます

どうしますか?

持ち物:イングラム(SMG)

ローター(ピンク)

ロープ(亀甲縛り用)

鞭(バラ鞭)

バカルテットの皆さん(リグル チルノ ルーミア)

萃香「さぁて。そろそろいこうか」

最後のおにぎりを食べ終わり萃香が立ち上がる。

それを見てチルノは急いで水を飲んで立ち上がる。そのまま元気良く進んでいこうとし、萃香に襟を掴まれた。

萃香「後ろにいな」

チルノ「あたいはさいきょーだから大丈夫だって」

萃香「最強が無敵ってわけじゃないんだからね」

チルノ「?」

萃香「分からないか。とにかく後ろにいな」

真面目な顔をしてそう言う萃香にチルノは納得はしてないようだが素直に後ろについた。

森を抜け、霧の湖につく。

湖はその名前の通り霧に覆われ、あたりを見ることが出来ない。一寸先は闇というほどではないが数メートル先以降は何も見えなかった。

萃香(ちょうど悪いときに来たね。待ち伏せしてるならここかな)

萃香は警戒し、あたりの気配に気を配る。

萃香「!」

パシッと萃香がチルノに向かって飛んできたものを掴む。

それは矢だった。石の鏃がついており威力は鉄よりも高そうだった。

萃香「チルノ、行くよ」

この霧の中を正確に射抜いてきたものはおそらくなにかしらの能力を持っているのだろう。ならば数は一人、多くても二人程度、それが命令を飛ばして萃香たちを狙わせてくるのだろう。ならばそいつを倒せば後は簡単だ。そう萃香は判断して周りの霧を散らした。

チルノ「! 凄いな、萃香は」

萃香「喋ってる暇はないよ」

そう言いながら萃香は自分を狙って飛んできた矢を殴り飛ばす。そして飛んできた方向の霧を晴らす。

弓兵「!」

萃香「見つけた」

弓を持った人間の周りには剣を持った人間が数人いた。

距離はおおよそ100メートル弱といったところだろう。普通ならば10秒以上はかかるその距離を萃香は1秒以下で詰めた。

反応が出来なかった人間の体を殴る。型もないただの拳を受け人間の体に大きな風穴が開く。

人間に怯えが入る。そのたった1秒の硬直が全ての人間の命を奪った。

萃香は自分の腕に繋がる鎖を振り回しまわりの人間の骨を砕く。あるものは首の骨を折り即死し、またあるものはあばらが全て折れ内臓をずたずたにし、絶命した。

これで大丈夫だろうと安心した萃香の耳にチルノの声が届いた。

チルノ「なっ!」

チルノの後ろの霧から人が飛び出しそのままチルノを羽交い絞めにした。

人間「動くな! 動いたらこいつの命が」

萃香「危ないのはあんたの命だろうね」

人間「は? なn」

言葉は発音の途中で強制的に止められた。息をし吸い込んだ霧。水を大量に含んだ霧が一気に凍結したのだ。

そして更に凍っていく。吸い込んだ霧が。血液が。人間の六割を構築する水が全て凍っていく。

体の外と中が同時に凍り付いていく。叫ぼうにも声が出ないその人間は心の中で叫び、絶命した。

萃香「だからいったろう?」

萃香はチルノを羽交い絞めにしたまま氷の塊となっていった人間を見て呆れたように息をついた。

萃香(さて、あと何人いるか)

周りからする音。布がこすれるような音と荒い息を繰り返す音からまだ戦いが終わっていないことを知る。

おそらく問題はないだろう。紫のような妖怪がいるなら話は別だが、普通の妖怪じゃ萃香を足止めすることすらできない。

「うわぁあああ!!」

自分に向かってくる声に反射で攻撃する。その声がこの場所に似合わないほど幼いことに気づいたのは向かってきたものを殴ってからだった。

萃香「!?」

殴った感触は柔らかく筋肉質ではない。

感触に続いて視覚から情報が入る。

それは小さく、顔つきはまだ幼い。普通ならば親に守られるべき存在である

萃香「ここまで落ちたか人間っーーーーーーーー!!!」

子供だった。

子供の悲鳴に反応し、半狂乱になった子供が霧から飛び出し萃香やチルノに襲い掛かる。

人数は6人。萃香とチルノは投げ飛ばしたり、凍らしたりして子供の動きを止めた。

萃香(この様子じゃ望んで来たわけじゃないと思うけど)

もしかして強制的に戦わせたのだろうかという考えが浮かび萃香は苛立つ。

曲がったことが大嫌いな萃香はこんな手を打ってきた人間に怒りを隠せなかった。

投げ飛ばした子供は腰が抜けたらしく萃香を怯えた目で見ていた。六名の怯えた目に対し、萃香は逃げろと言おうとし、口を開いた。

萃香「そんなおびえn」

パンッ

ぴちゃりと萃香の体に何かがついた。ぬるくぬめっているそれは何度も嗅いだことのある臭いで。

萃香「―――っ」

破裂した。人体が急速に膨らんで弾け飛んだ。結果血や桃色の内臓を周囲に撒き散らした。

六人同時に。

チルノ「! うぇ。おえぇえっ」

青い顔をしたチルノが昼に食べたものを全て戻す。つんとした胃酸によってなのかそれともこの現状になのかは分からないがチルノは涙を浮かべた。

萃香「出て来い人間共っ!!」

萃香が腕を振って霧をはらす。

そこにいたのは一人の妖術師然とした格好の男。

頬はこけ、目はうつろ。

そんな男が立っていた。

やったのはこいつだと萃香が判断して近づいて組み伏せる。

抵抗できるはずなく男は地面に組み伏せられた。

萃香「なぜあんなことをした!」

その萃香の問いに男はくききと不気味な笑いで答える。その様子に苛立った萃香は死なない程度に男を殴った。

萃香「もう一度聞く。なんであんなことを」

しかし答えない。男は自分を簡単に殺せる鬼がすぐそばにいるというのに萃香のことを見ていなかった。

その様子を不思議に思った萃香が視線の先を追う。

そこにあったのは子供の残骸

ではなかった。

ぐじゅりぐじゅりと熟れた果実を指でつぶすような音が聞こえる。それは断続的に鳴り、その音が響くたび子供の残骸が動く。

内臓がうねうねと、肉がゆっくりと、血がすぅっと動く。

チルノ「あ、あぁ、あ」

合計7人の屍骸が一つの場所へ集まっていく。

萃香「やめろ!!」

萃香が今から何が起きるか理解して男の頭をつぶす。ぱきゃりとした音の後にぐちゃりとつぶれる音がして男は死んだ。

萃香が集まる肉達を見る。しかしとまらない。不快な音がまだ響いている。

チルノ「うわぁああああぁっ!!」

チルノが叫びながら肉の塊を凍らせる。しかし音は鳴り止まない。

不快な不快な音がなっている。

ぐじゅりぐじゅりと

肉の塊は脈打つと一つの歪な人型となった。

それは頭がない大きな体に、小さな手足がついた形。そして色はじょじょに白くなっていく。

あたりに漂うむせるような死肉の匂いにチルノと萃香は吐き気を覚えた。

「うぉおっおお、お」

低くうなるような声がどこに発声器官があるのかも分からない肉塊から鳴る。

そして肉塊は体に不釣合いな小さな足を動かして、近くにいる生物。チルノに向かっていった。

チルノ「いぃ!?」

不自然なほどに速く音も無い移動。ぬらぬらと光る白い巨体がチルノに体当たりをしようとする。それをチルノは急上昇して避けた。

チルノ「あれ何なんだ!?」

萃香「………ぬっぺふほふ。だと思う」

萃香が今度は自分に向かってくる肉塊を見つつ自信なさげに答える。

萃香「死体の妖怪、だけどあんな妖怪変化の生まれ方は見たこと無い。おそらくなんらかの術を使ってるってことなんだろうけど」

萃香が肉塊に向かって鎖を放つ、鎖は肉塊に吸い込まれるように当たり

そして跳ね返された。

萃香「!」

自分に返ってきた鎖を片手で掴みとりながら突進を避ける。すれ違い様に肉塊を蹴ってみたが不気味な弾力によって跳ね返された。

チルノ「萃香危ない!!」

避けた萃香を追うようにして肉塊が急旋回して再び萃香に近づく。チルノは萃香と肉塊の壁に氷の分厚い壁を作り萃香を守った。

がしゃんと氷にヒビが入る。肉塊は何度も氷に体当たりをし、そのたびに氷のヒビが大きくなっていった。

萃香「死体と魂はまだ結びついてた。ってことはこいつを倒さなきゃ子供の魂が解放されないってことさね」

萃香が腰を低く落とし、拳を後ろに引く。

萃香「チルノ、こいつを全力で凍らせな」

チルノ「りょ、了解!!」

ばきんっ。氷の壁が壊れる。自分に向かってくる氷の欠片をものともせず萃香は足を一歩前に踏み出した。

チルノ「ダイアモンドブリザァアアアドッ!!」

キラキラと輝く触れたものを端から凍らせていく吹雪が萃香と肉塊を覆う。その吹雪を受け肉塊はぱきぱきと凍っていった。

萃香は体に霜を纏いながら拳をまっすぐに突き出す。単純な技である正拳突きは、鬼によって最強の技として放たれた。

凍らされあの不気味な弾力性は無くなり、あるのは氷の硬い体だけ。

ゆえに、砕けない理由はなかった。

肉塊が四方に砕け散る。

萃香は白い息を吐きながら警戒を解かず数秒間構えた。

そののち肉塊がもう動かないことを確認すると構えを解いて上空にいるチルノを見上げた。

萃香「終わったよ」

チルノがパタパタと氷の羽を羽ばたかせながら着地する。

周りに飛び散った肉塊に怯えつつチルノは悲しそうな顔をしていた萃香の瞳を覗き込んだ。

萃香「ん。あぁ。こんな時代は嫌だって思ってね」

萃香の目が光を受け、きらりと光る。

チルノ「あたいも。だから絶対終わらせよう」

萃香「………そうだね。これ以上戦う意思の無いものが巻き込まれたらいけない」

チルノ「よしっ。じゃあ行くよ。あたいはさいきょーだからすぐにぱぱっと終わらせて、そして皆で遊ぶんだ」

遠くを見つめるチルノの言葉の最後が嘘だということは萃香は気づいていた。

失われたものは取り戻せない。終わってもあの日々は戻ってくることは無い。戦争は妖怪と人間の間の溝を修復不可なまでに深くしたのだから。

それでもそんな嘘に縋りたいと萃香は思った。

それはきっと嘘ではなく希望だと萃香は思った。

暗い部屋。夢殿大廟と呼ばれるその場所の一室に妹紅は居た。

妹紅「で、話ってなんだ?」

暗闇に向かって妹紅が声をかける。

すると暗闇から艶やかな声が返ってきた。

青娥「あなたの教え子がいたわよね」

妹紅「あぁ。いたけどそれが?」

青娥「死んだわ」

あっさりと告げられたその言葉に妹紅は言葉が出なくなった。

青娥「あの子達妹紅先生を守るんだ。とか言って外に出たらしいのよ。そして伊吹 萃香によって殺された。可哀想なことにね」

妹紅「ま、待てよ。そんな冗談」

青娥「事実よ。あの無垢な子供達を萃香は一切の慈悲も持たずに殺害した」

妹紅「本当、なのか?」

青娥「えぇ、一切の偽りもなく本当ですわよ」

妹紅「あ、あ。そんな」

青娥「あの萃香なら殺さずとも無力化できたでしょうに」

妹紅「ちくしょう。なんであいつらがこんなことに。なんで死ななきゃいけないんだよ」

青娥「えぇ、許せませんわ」

妹紅「ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうっ!!」

妹紅が頭をかきむしる。美しい白髪がどんどん赤く染まっていく。

青娥「今のあなたでは萃香には勝てませんわ。そう、今のあなたでは」

妹紅「何か方法があるのか?」

美しい赤い目が暗闇を射抜く。その怒りに満ちた視線を受け青娥はぞくぞくと背筋を震わせた。

青娥「えぇ、準備がいるから明日になるけれど」

妹紅「あぁ、分かった」

妹紅は暗い部屋から出て行った。

それを見送った後、青娥は口元をにやりと歪ませた。

青娥「単純な馬鹿は使いやすくて助かりますわ」

慧音「妹紅………」

寺子屋の教室で一人佇んでいた妹紅に慧音が声をかける。

妹紅はゆっくりと慧音のほうに振り返り、微かな声で慧音の名前を呼んだ。

慧音「あ、すまない」

妹紅「いや、いいよ」

妹紅の瞳から涙が流れていることに気づいた慧音は慌てて外に出ようとしたが妹紅がそれを止めた。

目元を拭って妹紅が慧音のほうに向き直る。そして笑顔を作ろうとし、失敗した。

妹紅「ごめん、止めるからちょっとまってくれ」

妹紅の目から溢れる涙が止まらない。何度も妹紅は涙を拭うが、涙は次から次へと溢れていく。

慧音「無理、しなくていいんだぞ」

慧音はそんな自分より遥かに年上で、自分よりも小さな少女を抱きしめた。

妹紅は慧音に素直に抱きしめられ、その胸の中で泣いた。

妹紅「大好き、だったんだ。皆、大好きだったんだ。楽しかった、んだ。化け物の私に、微笑んでくれた、んだ」

嗚咽交じりに妹紅がそう自分の思いを慧音に吐き出す。

そんな妹紅に相槌を打ちながら慧音は妹紅の頭を撫で続けた。

妹紅「ん………ありがと」

泣き終えた妹紅が慧音に礼を言って離れる。

慧音の服は涙で濡れ、妹紅が強く慧音に抱きついたためしわになっていたが慧音は気にせずに微笑んだ。

慧音「私の胸でいいならいくらでも貸そう」

妹紅「ありがとうな。慧音」

慧音「私は妹紅のことを大切な友人と思っているからな」

妹紅「う………私も、だ」

慧音「そうかそうか。それはよかった」

慧音が嬉しそうににっこりと笑う。

妹紅はあまり言われなれてない好意的な言葉を受け、顔を赤く染めた。

慧音「………それで、どうするんだ?」

妹紅「戦うよ。化け物の私に似合うのはやっぱり復讐さ」

慧音「そんなこと」

妹紅「否定しないでくれ。私から私を奪わないでくれ」

慧音「………………分かった」

慧音「止めはしない、だが絶対無事に戻ってきてくれ」

妹紅「どうせ私は不死だし」

慧音「それでもだ」

妹紅「………ん」

妹紅が慧音のまっすぐな瞳にこくりと頷く。

慧音「じゃあご飯を食べよう。今日は自信があるんだ」

妹紅「そうだね。慧音のご飯は私は好きだよ」

慧音「私は妹紅のご飯のほうが好きだけどな」

太陽が真上に昇り輝いている。しかしまだ寒い冬の気温の中魔理沙は冷や汗を流していた。

魔理沙「おいおいおい、どんな冗談だこれ」

自分を狙った弾幕を避け魔理沙が逃げる。

天狗「待て!!」

魔理沙「待てって言われて止まるやつはいぃ!?」

突然目の前に現れた他の敵を上昇してかわす。しかしその先にも天狗がいた。

小町「っと、危ないなぁ」

目の前に飛んできた弾幕を避けれないと判断してきつく目を瞑った魔理沙を小町が横からさらいそのまま距離をとる。

小町「これは相手に椛がいるかな」

敵は遠く見えないがこの相手を追い詰めていく戦い方はおそらく椛だろうと判断する。

魔理沙「かもな、逃げるほうがいいか」

小町「逃げれると思わないけどね」

魔理沙「二人でがんばれば破れないか?」

魔理沙が四方を囲む巨大な結界を見る。

その魔理沙の問いに小町は首を横に振った。

小町「あたいの力で一気に近づくことはできるけど、椛の周りにはしっかり天狗いるしねぇ」

魔理沙「ここからマスタースパークで撃ち抜けば」

小町「避けられるのがオチだろうね」

魔理沙「能力で近づいてマスタースパーク」

小町「効果はあるかもしれないね。でも外すと囲まれるよ?」

魔理沙「だけどそれが一番だろ?」

小町「………あたいとしてはあんまりリスクがある戦い方はしたくないんだけど」

魔理沙「他に手も無いならこれでいこう」

小町「しかたないね」

小町が鎌を一文字に振る。すると空間が少し歪んだ。

小町「気づかれる前にさっさと決めるよ」

魔理沙「おう!」

魔理沙が歪みの中へ飛び込む。それに続いて小町も飛び込んだ。

魔理沙の最大加速よりも速い景色の流れ。今回の結界の大きさは大きく縦横、1キロとなっている。しかし距離は小町の前では意味をなさず、1キロであろうと1メートルであろうと到着する時間に変わりは無かった。

魔理沙の移動が終わり、椛に近づく。両者の距離は20メートルほどで、マスタースパークを撃てばいくら天狗でもかわせない距離だった。

もちろん周りには他の天狗がいる。しかし椛を討てば後は烏合の衆。策の無い戦いに負けるほど魔理沙は馬鹿ではなく、天狗が強いというわけではない。

ミニ八卦路が熱を帯びる。輝きだしたそれを魔理沙は椛に向けた。いきなり現れた魔理沙に天狗が硬直していた天狗が魔理沙に向かっていこうとするがいくら速い天狗でも言葉よりは速くない。

魔理沙「―――マスタースパーク」

魔理沙の声にミニ八卦路が反応する。

その威力はスペルカード時の比ではない。山を焼き尽くすほどの熱量が放出された。

いや、されようとした。

魔理沙「う………な、なんだ」

下腹部に覚えた鋭い痛み。その痛みに魔理沙は集中を途切らせ、その結果熱量は放たれずミニ八卦路は光を失った。

自分の腹部に生える鋭い刃。それはずるりと抜かれ、そして今度は右胸から生えた。

魔理沙「がぁああぁあっ!!」

後ろには小町が居たはず。なのになぜと魔理沙は力を振り絞って後ろを見る。

いない。小町がどこにも。

いや、小町のようなものはいる。

―――体だけ。

その横に立つは好々爺然とした男。

名は山ン本五郎左衛門と言い、天魔、魔王と呼ばれる存在だった。

再び刃が抜かれる。そして魔理沙は力を失い落ちていく。

その際に見えた椛が泣きそうな顔をしていたのはおそらく失血しているがゆえの幻だろう。

魔理沙(くっそ。兄貴………無事で、いて)

地面に落ちる前に意識が途切れる。

そして魔理沙は二度と目を覚まさなかった。

山ン本「危ないところだったのう」

魔理沙の落下を見送った椛に山ン本が言う。

椛「ありがとうございます」

山ン本「ほっほ。天才指揮官を失うのは惜しいからの。それにまだ大将棋で勝ってないのでなぁ」

目を細めながらそういう山ン本に対し椛は表面上だけ微笑む。

心の中はあの時魔理沙のマスタースパークを受けて死んでしまいたいと思っていた。

はたてが椛を誘拐した後、地底の近くで椛は目を覚ました。

そしてはたてが何をしようとしているのかを聞き、ここまできては戻ることは出来ないと理解し、自分も地底に行くことを決心した。

しかし現実は非情で、地底には誰もおらず、天井には大きな穴が開いていた。

結果、追っ手に追いつかれ、はたてはその場で処刑された。

そして椛はもう一人の友、文の死も知ってしまった。

完全に生きる希望を失った椛はただ殺してくれる誰かを待ちながら生きていた。しかしやってきた機会もたった今奪われてしまった。

このまま生きていてもおそらく自分は死なないだろう。そう頭の中で結論に至ったとき椛の手は自然に動いていた。

他の白狼天狗よりもずっと立派な刀を抜き自分の胸に突き刺す。白い衣装が痛みと共に赤く染まっていく。そしてそれでもまだ死ねないので何度も何度も自分に刃を突き立てた。

唖然とする天狗が周りに見える。

何かを言ってるように口が動いていたが椛の耳には届かなかった。

文「馬鹿ですね、椛は」

はたて「ほんとよねぇ」

聞きたかった声が聞こえた。

目の前にいる二人は呆れた顔でこっちを見ていた。

―――文、はたて。

椛の目から痛みからではく涙が流れた。

自らの命を失ってやっと失ったものを再び掴むことが出来た。

たとえそれが幻でも椛は今までにない満足感と安堵感に包まれていた。

椛は笑顔で落ちていく。

空中に浮いた涙が日の光を受け、キラキラと宝石のように輝いていた。

~男視点~

霊夢「魔理沙と小町が死んだ………」

霊夢がいきなりそう呟いた。嘘を言ってるような声色には聞こえないし、霊夢がそんな洒落にならない嘘をつくようなやつではないということも知っている。

つまり

二人は死んだのだ。

ホルスターから銃を抜き、こめかみに当てる。

霊夢「え、あんたなにやって」

頭が痛み、パンという音が鳴った。

頭の中でカチッカチッという音が鳴る。

カチッカチッ

カチッカチッ

カチッカチッ

カチッ

ギュルルルルルルル

魔理沙「んじゃ、行くか」

小町「だね」

二人の声が聞こえた。

男「魔理沙!! 小町!!」

魔理沙「わぷっ。いきなりどうしたんだよ兄貴」

小町「いやぁ、いきなり抱きしめられるとあたいすっごい恥ずかしいんだけど」

男「まりさぁああ!!こまちぃいい!!」

霊夢「離れろこのド変態」

霊夢が俺の後頭部にチョップを入れる。

その痛みで我に返ったが、どうやら俺はちゃんと時間を巻き戻せたようだ。

ホルスターから銃を抜いて弾倉を見る。弾が一発減っていた。

霊夢「? ついに壊れたの? 45度で叩けば治るかしら」

萃香「じゃあ私が治そうかね。男ちょっとこっちにおいで」

そう言いながら萃香が俺の襟を引っ張って引きずる。

見事に頚動脈がしまって、意識が、と

萃香「ここでいいかね」

萃香が襟を放す。少し薄暗くなっていた視界が正常に戻り、俺は大きく息を吸った。

男「で、どうしたんだよ」

萃香「あの二人、死んだんだね?」

いきなり萃香が言う。慌てて周りを見るが誰も居ない。

萃香「大丈夫だよ。配慮してるから」

男「………知ってるのか?」

萃香「知ってなけりゃ言わないさ。それで、死んだのはあの二人かい?」

男「………あぁ」

萃香「そうかい………」

萃香は少し考え込んでそのまま皆のところへ戻っていった。

それを慌てて追う。

一緒に出てきた俺たちを霊夢が怪訝な目で見ていたがまぁいつものことだから気にしない。

萃香は小町と魔理沙を見てこう言った。

萃香「小町は霊夢と男といきな。魔理沙は私達とだ」

霊夢「あんた…こめかみに拳銃当てて何やって…」

男「ペ ル ソ ナ !」ズガンッ!

-カッ!-

♪ベイベベイベベイベベイベ



なんかペルソナっぽい展開だなと思ひますた

霊夢「は? いきなり何言ってるのよ」

萃香「ちょっとこっちの事情でね」

魔理沙「?」

全員不思議そうな顔をしているが無理もない。いきなり俺が魔理沙と小町に抱き付いて萃香が二人のチームを解散させたんだからな。

萃香「ほらほら、さっさと行くよ」

何か言いたそうな顔をしていた魔理沙を引きずって萃香がチルノと共に歩いていく。

何か事情を知っている萃香が消えたので当然質問の矛先は俺に向かってきた。

霊夢「どういうことよ」

男「わからない」

まさか魔理沙と小町が死んだから時間戻しましたなんていっても通じるわけがない。どうにかしてごまかさなければいけないのだが気の利いた嘘がつけなかった。

霊夢「………ふーん」

霊夢がじとっとした目でこっちを見てくる。納得がいかないようだが答えるわけにもいかない。

霊夢の視線を受けながらも俺がだまっていると小町が「あー、それじゃああたい達も行こうか」と助け舟を出してくれた。

霊夢は俺から視線を外して「そうね」と言って歩き出した。今回は機嫌が悪いせいか俺のスピードに合わせてくれない。それどころか絶対ついていけない速度で飛んでいる。

どうすればいいかと思っていると小町が苦笑しながら俺を抱えて(普通逆だとは思うが)走り出した。

小町にお姫様だっこをされながら考える。

時間は戻せた。魔理沙と小町のルートを変更したため、前回と同じ死に方はしないだろうが、その結果何が起きるのだろうか。

レミリアみたいに運命が見れればまだなんとかなるのかも知れないが残念ながらそんな能力は俺にはない。

ウィルを連れてきても一チームの運命を破壊できるだけで他のチームの危険性は残っているし、死ぬ運命を破壊したからといってその先、絶対死なないとは限らない。

もちろん連れてくるに越したことはないのだがそれは咲夜が止めたのでどちらにせよ連れてくることはできない。

結局動かせるのは霊夢、魔理沙、小町、チルノ、萃香だけということか。

負けるとは言いたくないが十分な戦力でないことはたしかだ。せめて妖夢でもいれば良かったのだろうが、すでに外の世界に行っている。

紅魔館や命蓮寺の人たちがいれば良かったのだが。

しかし銃が使えなかったのだからまだ勝てるということなのだろうか。

それにしても判断はどうしているのだろうか。この銃はレミリアと同じく未来でも見えるのか?

とにかく敵にも味方にもわからないことが多すぎる。

なぜ敵はいきなり妖怪に宣戦布告したのか。おそらく妖怪に支配された世の中が嫌だからという理由だろうが、魔理沙から聞いた話によると最近は人間の里に暮らす妖怪もいたりして仲は悪くないはずだ。

そもそもいきなり全員が妖怪を嫌うことはないはずだ。そこにやはりなんらかの理由があるのだろうが、それは今はわからない。

そして紫はなぜ俺を選んだのか。外からやってきた見ず知らずの人間に時を戻すなんて重要な役割を与えるわけがない。たとえ銃にセーフティーがついているからだとしても俺がこの銃を捨ててしまうという可能性や、これを持ったまま人間に寝返るという可能性もあるんだ。

この疑問に紫は答えてくれないだろう。秘密主義の紫に俺は少しずつ不信感を抱いていた。それでも裏切ったりはしないが。






時間は流れて、太陽が真上から少し傾いたころになった。ここで霊夢は昼飯を食べるべく休憩を入れる。

抱きかかえた俺を小町が地面におろす。抱きかかえられたままだったから体が固まっている。少し動かすとボキボキと骨がなった。

近くにあった地面から出てきている木の根に腰を下ろし、亡霊男から渡された弁当と水筒を取り出す。同じ昼食を二度食べるのだが、おなかは空いていたため苦はなかった。

みっつの塩むすびを食べ終え二人の方を見る。霊夢は案外女の子らしく少しずつ食べ、小町は大きな口を開けて食べていた。

体つきは小町のほうが女の子らしいんだけどなと言うと霊夢から半殺しにされるであろうから言わないでおく。

男「あとどれくらいで人間の里なんだ?」

戦闘を繰り返しながら進んでいたし、小町の能力を使いながらだったので、距離感はわからなくなっている。

おそらく結構な距離を進んだと思うのだが帰ってきた答えはまだ半分とのことだった。

もし人間の里につくころに夜だったとしてそこから進むのか? いや小町はともかく霊夢は人間だ。体力に限りがある。

となるとどうするのか。紫が何か考えているのだろうか。

霊夢「ん、それじゃあ行くわよ」

いつの間にか霊夢が食べ終えていたらしく立ち上がって服についた土を掃っている。

まぁ、結局何をするのかは俺が考えなくても夜になればわかるだろう。

また小町に抱きかかえられながら進んでいく。近づいてくる妖怪や人間はすべて今のところ霊夢が倒しており、苦戦するような相手はいなかった。

そして今目の前にいる相手もおそらく苦戦することはないのだろう。

小傘「久しぶりだね、霊夢」

足の生えた傘を引き連れたオッドアイの少女が人間を引き連れていた。

霊夢「驚いたわ、小傘。あんたがいるだなんて」

小傘「えへへ。私が霊夢を驚かせれた。わちき驚いたーなんてね」

小傘と呼ばれた少女が少し嬉しそうに笑う。

霊夢「で、あんたが私になんのよう? 戦うの? あんたが?」

小傘「うん、そうだよ」

小傘が足の生えた傘を持って構える。

小傘「捨てられても私は人間の味方だよ。雨の日に差してもらえなくてもいい、雨じゃなくて霊夢たちから私は人間を守る!! それが私の、付喪神としての生き方だから!!!」

傘から雨のように水が噴き出す。それを霊夢は易々と避けて小傘の様子をみる。水は木にぶつかり表面に少し穴をあけた。

霊夢「本気なのね」

小傘「当たって砕けても、私は霊夢を倒すよ」

すいません。旅行に行ってました

そして書き溜め、消えましたorz

霊夢「でも、あんたには無理よ」

霊夢がお札を放つ。おそらく数十枚はあるであろうお札は小傘を避け、人間に向かって飛んでいった。

それを止めるべく小傘は傘を投げお札を弾き、自分の体も使って札を止めるが防げなかったお札が人間に当たり弾ける。

おそらく骨が折れるであろう衝撃を受け、数人の人間が痛みに呻く。

小傘「っ!!」

小傘が霊夢をキッ、と睨む。その視線を受けながらも霊夢は怯まずに次の札を構えた。

霊夢「ほら、あんたじゃダメでしょうがっ!!」

小傘「やらせないっ!!」

小傘が霊夢に飛びかかる。その行動に面喰った霊夢は弾幕を放つタイミングが少しずれ、小傘を避けて放つはずだった弾幕はすべて小傘に当たった。

一枚でも相当な威力を持つ札を何枚も体に受け、小傘の体が地面へ弾き飛ばされた。

小傘が地面にぶつかった衝撃によってあたりに砂煙が舞う。

霊夢「さて、あとは人間ね」

空中で霊夢が砂煙が収まるのを待つ。

男「なぁ、霊夢だけで大丈夫か?」

小傘は倒したかもしれないが、人間はまだ相当数いる。

それを霊夢だけで倒すことはできるかもしれないが絶対というわけではない。

またどこかに伏兵がいるかもしれないのだ。

小町「大丈夫だよ。霊夢なら」

男「そう、なのか」

ザァアアァア

音がした。雨の降るような音が。

砂煙が急速に消える。そして唐笠を杖替わりにした小傘が霊夢を睨みつけていた。

地面が濡れているところから見るとどうやら小傘は水で砂煙を消したらしい。

霊夢「あぁもう! 鬱陶しいわね!」

今だ自分に敵意を向けてくる小傘に向かって霊夢が札を放つ。

その量はさっきの倍以上。

ただでさえ傷ついている小傘がそれだけの札を受けたなら死んでしまうことは明らかだった。

しかし小傘はその大量の札を避けることもなく、それどころか両手を広げて止めようとした。

霊夢「そんなことしても無駄死によ!?」

小傘「それでもいい!!」

小傘に大量の札が迫る。

向かってくる札から小傘は目をそらさず睨みつけた。そして

辺りが煙に包まれた。

霊夢「は!?なにこれ!?」

白い煙。砂煙ではない。もくもくと辺りに広がっていく白い煙。

小傘「きゃっ!!」

その中から小傘の悲鳴が聞こえた。

中で何が起きているか。それは霧よりもはるかに濃い煙で見ることができなかった。

敵なのか味方なのか、それとも第三者なのか。それすらもわからない状況なので小町が俺をひっぱり距離をとる。

霊夢「風でも起こせればいいんだけど」

空中にいる霊夢がそう言うが、風は吹かずどんどんと煙は範囲を増す。もしかしたらこの煙は有害なのかもしれない。そう思って口に袖を当てる。

霊夢「仕方ないわね。少し引くわよ」

そういって霊夢が今来た道をさかのぼり飛んでいく。小町もそれに続いて俺を抱きかかえながら移動した。

白い煙が見えるが範囲ではないぐらいの位置で煙が晴れるのを待つ。

もしかしたらあれは敵が逃げるための手段なのかも知れないが小傘が自分を守ってくれているのに攻撃すらしない人間がそんなことをするのだろうか。

あの小傘という妖怪。人間を守る気持ちはあるみたいだが人間からは愛されていないのだろうか。

男「………」

小町「何難しい顔してるんだ?」

男「あの小傘って妖怪。可哀想だなって思ってさ」

霊夢「別にあんな馬鹿可哀想でもなんでもないわよ」

男「でも、あれだけ人間を大切に思ってるのに、人間からは」

霊夢「いちいち相手に同情なんかしてたら死ぬわよ。敵は敵。どんな立派な思想を持っていようが、どんなに可哀想でもそれは変わらないのよ」

男「どうにかならないのかな」

小町「ならないね」

霊夢ではなく小町がそうきっぱりと言う。

小町「自分の存在価値は妖怪にとっては命と同じなのさ。男が小傘の新しい存在価値を作ってあげるなら大丈夫かもしれないけど、たぶん無理だね。それともがんばって小傘と恋仲になるかい?」


小町「仕方ないことなのさ。自分のせいじゃないことにそんな男が気負うことないよ。やさしいところは好きだけどね」

霊夢「こんなところでやさしさ出されても足手まといにしかならないわよ」

十数分たってやっと煙がはれる。

霊夢「逃げられたのかしら」

小町「それとも誰かが連れ去ったかな」

そこには誰もいなかった。

最初の小傘の悲鳴以外何も情報がない。

悲鳴を上げたということは煙幕は小傘とは無関係なのだろうけど。

小町「どうする?」

霊夢「行くしかないでしょ。せめて人間の里の近くまでは行きたいわ」

小町「だねぇ」

それからは結局何もなかった。

もちろん人間の里に近づくにつれ戦闘は増え、霊夢も小町も疲れが増えていたがそれだけで、大きな怪我はしていない。

日が暮れ夜に戦うのはやめたほうがいいだろうと小町が言う。

それに霊夢も同意し、今日はここまでにすることにした。

しかしここまでと言っても戻ればまた初めからだろうと俺が思っていると小町が懐から竹の筒を取り出し、地面に刺した。

男「なんだそれ」

小町「あたいの能力を補佐するものかな。『冥土の旅の一里塚』って言って、博麗神社からここまでをつなぐことができるんだ」

一里塚を設置し終え小町が手についた土をぱんぱんとはたく。

小町「向こうも帰ってるだろうし、帰ろうか」

小町が俺を抱きかかえ走り出す。

男「一里塚で帰ればいいんじゃないのか?」

小町「博麗神社から一里塚の一方通行だからねぇ。一里塚から博麗神社に行けたら利用されるじゃないか」

男「あぁ、そうか」

毎回こうやって帰るのか。帰りにも敵に会うだろうし、距離は人間の里に近づくたび長くなっていく。日が進むにつれ、どんどん厳しくなっていくのか。

そう考えていると人間の里のほうから強い風が吹いて、木々を揺らした。ざわざわと葉同士が擦れ低い人のような声が聞こえた。

結界を通って博麗神社の中へ戻る。

長い階段を霊夢、小町に続いて登るとぬえが鳥居の横に立っていた。

男「ただいま。ぬえ」

ぬえ「………」

ぬえはこくりと頷くと、嬉しそうに笑った。

男「魔理沙は帰ってるのか?」

そう聞くとぬえは頷いて温泉の方向を指さした。

なるほど、汚れを落としているのか。

ぬえが温泉を見て、俺を見て、首を傾げた。

………たぶん風呂に行くのかと聞いているのだろうが、別に毎回魔理沙と風呂に入るわけじゃないからな。

男「いや、後にするよ」

ぬえ「………」

ぬえは頷いて俺の手を引いた。向かう先は俺の部屋。

たしかに着替えないとな、汚れてるしと思っているとぬえが微笑みながら障子を開けた。

男「これは」

中に入ると美味しそうな食事が小さなちゃぶ台の上に乗っていた。まだ作り立てらしく湯気がたっている。数は3つなので俺とぬえと魔理沙の分だろう。

魔理沙「すごいだろ、ぬえがそれ作ったんだぜ」

振り向くと魔理沙が髪をタオルで拭いながら部屋に入ってきていた。

男「美味しそうだな」

つやつやとした米に味噌汁。そして鳥の照り焼き。辺りに漂う美味しそうな匂いに、空腹を覚えた。

ぬえ「う」

ぬえがちゃぶ台のまわりにしかれた座布団を指さす。

男「そうだな。食べようか」

魔理沙「私もおなか空いた」

魔理沙が腹をさすりながら座る。

俺も続いて座布団に座ると、ぬえが両手を合わせた。

男「いただきます」

魔理沙「いただきます」

男「お、美味い」

さすがに亡霊男までとはいかないが、それでも十分美味しい。

魔理沙「美味いな」

魔理沙も料理の味を褒める。

ぬえは照れ臭そうに笑っていた。

男「そういえば材料はどうしたんだ?」

ぬえ「あう」

ぬえが外の方を指さして弓を引くようなジェスチャーをした。

男「外にでて取ってきたのか?」

聞くとぬえは頷いた。

男(気持ちは嬉しいんだけど、外に出たら危ないよな)

魔理沙「あんまり遠くに行かないようにな」

ぬえ「う」コクリ

男「気を付けろよ。危なくなったらすぐに逃げる」

魔理沙「ぬえも子供じゃないんだからそれぐらいわかるだろ」

でも心配なものは心配なんだよなぁ。

魔理沙「兄貴は心配性だなぁ」

そりゃあ心配性にもなるさ。帰ってきてぬえがいないとかなると洒落にならない。

誰もいなくなって欲しくはない。でも残りの弾丸は7発。

これが多いのか少ないのかはまだわからない。

魔理沙「ごちそうさま」

男「ん、俺もごちそうさまだ」

ぬえ「うー」

食べ終えると、ぬえが食器をまとめていたのでそれを受け取り台所まで持っていく。

台所では亡霊男が皿を洗っていたのであとは任せ部屋に戻り、風呂に入るべく支度をする。

着替えを持ち風呂へ向かうとぬえも同じく着替えをもってついてきた。

どうやら今日も一緒に入るらしい。

ご飯を食べ、一緒に風呂へ入る。思わず今が戦争中であることを忘れそうなほどの平和。

これが戦争が終わった後にもずっと続けばいいが。

風呂を出てあとは寝るだけになった。

風呂で温まった体に夜風が心地いい。

橙「あ、男さん! ぬえさん!」

藍「こんばんわ」

自分の部屋に戻ろうとしていると着替えとタオルを持った橙と藍さんがいた。

男「今から風呂ですか?」

藍「はい」

橙「うー、橙はお風呂あまり好きじゃないんですけど」

藍「式が剥がれるからね。そういえばちょうど良かった、四季さんがあなたのことを呼んでいましたよ」

男「四季さんが?」

藍「えぇ。それでは」

四季さんが一体どうしたんだろう。

ぬえに部屋に戻ってるように告げ、俺は四季さんの部屋に向かった。

男「四季さん。来ました」

障子の向こうにいるはずの四季さんに声をかける。

映姫「どうぞ」

許可が出たので障子を開ける。

部屋の中では四季さんが正座をして机についていた。

男「何か用だと聞いたのですが」

映姫「えぇ。座ってください」

四季さんが手で対面の位置にある座布団を示す。その通りに座ると四季さんはこほんと一度息をついてからしゃべり始めた。

映姫「萃香から話を聞きました。使ったそうですね」

男「はい。あの銃は一体」

映姫「わかっているでしょう。時間を戻せる銃です」

それは使っているからわかっている。そのおかげで今は魔理沙も小町も無事だ。

今更かもしれないが本当に時間を戻せたのだ。知っていると経験しているでは全然違う。

映姫「ありがとうございます」

男「え?」

四季さんがいきなり頭を下げる。なにについて感謝されたのが分からず戸惑う。

映姫「小町を助けてくれたのですね」

男「あ、あぁ。どういたしまして?」

そのことについてか。

正直な話をすると小町はついでだったりする。いや小町だけが死んでいたのならもちろん助ける。

だけど今回は魔理沙も死んだ。俺は本当に最低なことに、二人が死んだことに対してではなく魔理沙に対して俺は引き金を引いたのだ。

だから俺は感謝をされる立場にいない。ごまかした気持ちがなんなのかを一番知っているのは俺なのだから。

映姫「? どうかしましたか?」

どうやら表情に出ていたらしく四季さんが不思議そうな顔でこっちを見てくる。

慌てて表情を笑顔にして話を続けた。

男「あの銃あと弾丸は7個しかないのですが大丈夫でしょうか」

そう四季さんに不安を聞いてみると四季さんは少し悩んだ。

映姫「私は未来が見えるわけではありませんから何とも言えませんが、やはり取捨選択は避けられなくなるかもしれませんね」

そう、足りなくなった場合俺は誰かを見捨てても弾丸を節約しなければいけないのだ。

こっちが勝つための条件は霊夢が生きている状態で相手を倒す。

そう霊夢が生きていなければならないのだ。

弾丸が一発の状態で魔理沙が死んでしまったならばそれはもう使うわけにはいかなくなる。

そうすると魔理沙は死んだままなんだ。

死んでいるということは生きていないということで



映姫「そんなに難しく考えないでください。まだ死ぬと決まったわけではありません。相手は強いですが私たちも弱いわけではないのですから」

それはわかっている。霊夢や小町の強さは見ていればわかる。しかしだ。戦いで重要なのは力と数。力が同等ではいけない。

トランプでいうところのジョーカーのようなカードがなければ力で数を覆すことはできない。

頭の中で考えて出る答えはやっぱり勝てないという結論。

この結論は俺が弱いからでてくるのだろうか。

映姫「ところで銃を使って体に異常はありませんか?」

男「いえ、今のところは」

映姫「一応頭を見せてください」

四季さんがぽんぽんと自分の太ももを叩く。

………膝枕?

そう思って躊躇していると四季さんが早くしてくれと急かすのでゆっくり移動して四季さんの太ももの上に頭を預けた。

四季さんの太ももは少し細いが肉質がないというわけではなく柔らかく気持ち良い。そしてどこか深い森のような匂いがした。

罵声が飛んでこないのでこれでおそらく間違ってはいないのだとは思うがそれでも少し不安だ。

四季さんの指が髪を掻き分け地肌に触れる。少しくすぐったい。

映姫「大丈夫、みたいですね」

男「えぇ、別に痛みなんか」

ん、時間戻ってるから傷は消えたんだよな。でも傷がなかったら撃ってないってことで、撃ってないのなら時間は戻らない………

男「タイムパラドックスってやつか?」

映姫「どうかしましたか?」

男「いや、なんでもないです」

映姫「頭はふらふらしませんか? 小さな異常は?」

男「大丈夫です」

映姫「そうですか。また何か異常があったら言ってください」

男「そんな心配しなくても大丈夫ですよ」

本当に四季さんは優しいなぁと思っているともういいですよと言われたので名残惜しいのだが頭を上げる。

映姫「それでは明日に備えて休んでくださいね」

男「はい」

自室に戻るとぬえと魔理沙がすでに布団をひいていた。

男「もう寝るのか?」

魔理沙「することもないからな」

ぬえ「………」コクリ

男「そうだな」

布団の中に潜る。まだ温まっていない布団は冷たかったが、寝れないというほどではない。

目を閉じてから一時間ほどたっただろうか。ぬえがもぞもぞと俺の布団の中へ移動してきた。

落ちかけていた意識が腕に触れる温かさによって引き戻される。

男「どうした?」

ぬえ「………あう」

腕が温かいもので包まれる。おそらく抱き付かれたのだということが分かるが

男「な、いきなりどうした?」

首だけをぬえのほうにむける。

ぬえ「………ん」

男「!?」

唇に温かいものが触れた。そして視界いっぱいに広がるぬえの顔。

キスされたということに気付いたころにはもう一度ぬえの唇が俺の唇に触れた。

男「んんっ。んー」

ぬえ「ん……ふ、んんっ」

最初は軽くだったはずの唇が強く押し付けられる。戸惑ったが、一生懸命抱き付いて唇を押し付けてくるぬえに愛おしさを感じた。

体の向きを変え、ぬえと向き合う。するとんぬえは腕に回していた手を俺の首に回した。

ぬえ「んうっ………ちゅぱ………ん、ふぅ………んちゅ………」

キスをする音が部屋に響く。俺が息が続かずに後ろへ引こうとすると首に回した手で俺の頭をがっちり固定する。

ぬえ「………んっ」

れろっとぬえの舌が俺の口内に侵入してきた。ぬえの舌が歯の後ろを舐めぞくりと快感が背筋を伝った。

ぬえの舌が歯の後ろから舌の根本へと移動する。人間より少し長い舌が俺の舌に絡まった。

男「っ」

ぬえがキスをしたまま息を吸う。ストローで残り少しのジュースを飲むような音がして二人の混ざり合った唾液がぬえの口内へ流れ込む。

ぬえ「………はぁ、はぁ」

息をきらすぬえの口の端から透明な糸が垂れていた。

ぬえ「………うい」

男「………俺もだ」

………でも、ぬえは妖怪で、俺は人間で。

いや、そんなことはぬえも承知の上だろう。ならば悩むことはない。

俺もぬえが好き。それでいい。

メディ「ごちそーさまっ」

幽香はメディスンが食べ終わるのを見て、食器を持っていく。そして慣れた手つきで自分の食器とともに洗い始めた。

食器を洗う幽香の様子を見ながらメディスンは今日は何をしようかと考えていた。幽香はともかくメディスンはまだ暇を楽しめるほど大人ではない。今日はこの限られた空間で何をしようかと考えているが日ごとに減る出来ることを思いつくのはなかなか難しいことだった。

幽香「今日はちょっとアリスのところまで出かけてくるからお留守番お願いね」

メディ「えぇー」

自分は向日葵より外に出ることを禁止されているのでその不満は当然のことであるがそれはメディスンを心配してのことであり、そのことをメディスンも理解している。しかしそれでも溜まっていく不満をため込むことはメディスンにはできなかった。

幽香「何かもらってくるから」

メディ「うー。わかったわよぅ」

渋々メディスンが納得する。メディスンとしても本気で抗議しているわけではないので丁度良い提案だった。

幽香「それじゃあ行ってくるわね」

食器を洗い終わった幽香が愛用している赤いチェックのコートを羽織ると同じく愛用している花のような日傘をもって外に出た。

そして出て行ったあと一度顔だけ家の中に戻しメディスンに「向日葵から外には出ちゃだめよ」と釘を刺しておいた。

メディスン「はーい」

メディスンの返事を聞いて幽香が頷いて外へ出る。

メディスンはスーさんと呼んでいる人形の手を振って幽香を見送った。

妹紅は微かに部屋に香る嫌なにおいに目を覚ました。

妹紅「………誰だ?」

部屋の中に気配を感じた。目を開けながらその誰かに問うと間延びした声が返ってきた。

芳香「せーががよんでるぞー」

あまり良くは知らないが自分と同じ死を亡くしたものがいた。

―――たしか、宮古 芳香だっけ?

頭の中で名前を探すもその名前に確信は持てなかった。まぁそれはどうでもいいと判断して布団の中から出る。

妹紅「やっと青娥の準備が終わったか」

妹紅は芳香の存在を気にせず寝間着を脱いで愛用している服に着替える。白い髪を結んだ赤いリボンがよく映えていた。

妹紅「んじゃ行くか」

まるで遊びに行くかのような軽さで妹紅が靴を履き外へ出る。

その言葉は別に芳香には向けられたものではなく、ただの独り言だった。

芳香はその言葉に反応して関節を曲げない不出来な人形のようなカクカクとした歩き方で妹紅に続いて外へ出る。

しかし芳香が外に出たころには妹紅の姿はすでになかった。

にゃんにゃん「よく来たわね。まずは服を脱ぎなさい」

もこたん「あ、あぁ…」

にゃんにゃん「では四つん這いになってお尻をつきだしなさい」

もこたん「こ、こうか?」

にゃんにゃん「そうよ。そしてお尻の穴を目一杯広げるのよ」

もこたん「はぁ?何でそんなこと…」

にゃんにゃん「強くなるのに必要なことなのよ?」

もこたん「わ、わかったよ」くぱぁ…

にゃんにゃん「それじゃ、挿れるわよ」しこしこ…

もこたん「は?入れるって…待て待て待て!そんなおっきなモノおしりに入るわけな…」

にゃんにゃん「そ~れ!」ぬぷっ☆

もこたん「あ~れ~」


てるよ「私のもこたんがあんな女に取られるなんて…くやしいっ!…でも…くやしいのに、感じちゃう!」チュクチュク…

よしか「げんきだせよー」

道を走るのではなく屋根の上を飛んで妹紅が移動する。人間の里の住民はいつものことなので別段驚いてはいなかった。

十数件の屋根の上を移動して妹紅が里の外れに着地する。そこは元命蓮寺があったところだが今は別の場所へ飛んでいったためあるのは外壁だけだ。

その近くにある墓地の墓石の上に優しげな顔を浮かべて青娥が座っていた。

青娥「おはよう。待ちきれなくてこんなところまで来ちゃったわ」

妹紅「あぁそうかい。さっさとしてくれ」

人懐っこい笑みを浮かべている青娥を妹紅が急かす。青娥は少し頬を膨らませて「つれないわねぇ」と言っていたが冗談のようで、ふわりと墓石から飛び降りると墓地に入口がある夢殿大祀廟へ向かい歩いた。ゆっくりとした速度で足を動かしているが移動する速度はなぜか速い。妖術のたぐいかと妹紅は思ったが理屈まではわからなかった。

芳香「うおー、つーかーれーたーぞー」

そしていつの間にか芳香も青娥の横で歩いていた。ぴょんぴょんと跳ねる様子は可愛らしいものだがなぜあの動きでこの距離をこの時間で移動することができたのかは謎だった。

普通に歩いていたがいつのまにか青娥の姿が消えようとしている。妹紅は急いで墓地の地下に続く穴を降りて行った。

地下に続く道は薄暗いが完全に視界が途絶えるほどではない。薄らぼんやりと苔が輝き、30センチほどなら見えた。

妹紅「いつ来ても薄暗いところだな」

青娥「お墓ですもの」

妹紅が取り出した札が燃え、妹紅の周りを回る。赤い炎の明かりが薄暗い闇を払う。少し肌が焼ける程度の熱が伝わってくるが妹紅は気にも留めず萃香のことを考えた。

妹紅(………萃香)

湧いてくるのは大量の怒りと一抹の悲しみ。

妹紅としては萃香のことは嫌いでも好きでもなく、偶然会えば話をする程度だった。

助けてやるつもりはない。しかし心のどこかでもしこんなことが起きていなければよかったのにと考える自分がいた。

そうすれば子供たちは生きていて、萃香とも敵対することはない。子供さえ、子供さえ無事ならばあとはどうでも良かった。

時間は戻らないし、起きてしまったことは変わらない。しかしどこかやはりあぁなっていればと無駄な思いが残る。

千年生きても自由にならない自分の心に妹紅は苛立ち、乱暴に頭を掻いた。

青娥「着きましたわ」

妹紅の前を行く青娥が足を止めた。

大きな門があり一見墓には見えない。しかしこれでもれっきとした墓で、聖人と聖童女が眠っていて、一人の悪霊が日々を過ごしていた。

青娥が門を撫でると独りでに門が開いていく。中から「嫌な臭い」がし、妹紅は鼻を覆った。

その臭いは嗅覚ではなく感覚に訴えかけていた。どこか、いつか嗅いだことのある臭いに妹紅は心当たりがあった。

亡くして久しい死をさらに濃くした臭いだった。

青娥「入らないのかしら?」

妹紅「あ、あぁ」

息をしなくても頭の芯を侵す感覚に向かって妹紅が足を踏み出した。一歩踏み出すたびに頭がぐらりと揺れる。

門にたどり着いたころには妹紅は荒い息をついていた。

青娥「あなたにはこのにおいは辛いわよねぇ」

いつの間にか青娥が妹紅に顔を近づけていた。死の臭いとは違う甘い嫌な臭いがさらに妹紅の頭を掻き乱す。

妹紅「大丈夫、だから」

青娥「そう。なら早くついてきてねぇ」

甘い嫌な臭いが離れ、若干妹紅は余裕を取り戻した。

平気な顔をしている二人に汗をかきながら妹紅がついていく。

どんどん濃くなっていく臭いに体が拒否感を起こし震える。せり上がる嘔吐感を根性だけで抑え、足をするようにして前へ進んだ。

青娥「ここよ」

青娥が部屋を開け、中へ入っていった。するとさらに臭いが濃くなり妹紅はついにへたり込んだ。

抑えきれなくなった嘔吐感に、妹紅が昨日の食事を吐き出した。吐瀉物の臭いと口に広がる胃酸の酸味がさらに妹紅の体力を奪っていく。

疲労困憊。まだ戦いもなにもしていないというのに妹紅をこのまま布団にもぐりこみ泥のように眠ってしまいたいという欲求が襲った。

芳香「だいじょーぶかー?」

首を傾げて心配そうに妹紅を見る芳香に返事を返す事はできなかった。

青娥「大丈夫よ。すぐに平気になるわ」

部屋から出てきた青娥は白く輝く何かが入った拳を二つ合わせた程度の大きさの瓶をもってきた。

それが例の臭いを放っていることに妹紅は本能的に気付いた。

―――あれ、飲むのか?

ぞくりと背筋が震える。臭いに対する嫌悪感で妹紅は瓶から顔を背けた。

青娥「あら、飲まないのかしら?」

妹紅「………………」

すぐに返事は出来なかった。飲むと言いたい。だがどうしても口が開かず、閉じたまま出た答えはもごもごとした言葉の出来損ないになった。

そんな妹紅に近づき、青娥が耳元で囁く。

青娥「復讐、できないわよぉ」

その言葉に反応して口が開いた。

妹紅「やる」

本能よりも強い感情が妹紅を動かした。その返答に満足したような笑みを浮かべた青娥は瓶のふたを開けて妹紅の顎を指で上に向けた。

瓶を妹紅の口につけ中身を流し込む。味も温度もないが感触だけはあるという不思議なものが妹紅の中に広がる。

変化はすぐに起きた。

妹紅の髪の色が白から墨で染めるように黒くなっていく。

妹紅「あ、がぁああぁああああっ! な、なんだこれっ!!」

ぎちぎちと体中から音が鳴った。そして激痛が走る。今まで味わったことのない激痛に妹紅は体をくの字に曲げた。

青娥「どう? 生きるって痛いでしょ? 死ぬって痛いでしょ?」

その言葉の意味が理解できなかった。自分は死んでも生きてもいない。それらをとっくに亡くしたことは青娥も知っているはずなのに。

吸い込んだ空気すら体を痛めつける。風の流れすら妹紅を痛めつける。すべてのものが敵意をもって妹紅に襲い掛かっているようだった。

青娥「ほらほら深呼吸して」

妹紅「すぅ………かはっ、こひゅっ」

深呼吸をしようとするも肺が発する痛みによって咳き込む。吐き出した空気に赤い液体が混じっていた。

妹紅「お前、な、に………した」

青娥「んー、強くなりたいっていうから。協力?」

ちゃんとした答えが返ってこない。妹紅は青娥の首をつかんで聞き出そうとしたが、腕を上げる激痛に耐えれず断念する。

芳香「だいじょーぶかー?」

―――だい、じょう、ぶ、じゃな、い

思考すら痛みに阻害される。ぷちぷちと自分の脳細胞がつぶれる音が頭の中に響く。

視界がぼやけ、鮮明になり、またぼやける。

麻酔なしの手術ですらここまでの痛みはないだろう。

今、妹紅の体は壊れ再生し壊れ再生していた。それを繰り返し藤原妹紅という形を保つ。

彼女は今、生きながら死に、死にながら生きていた。

十数分してやっと妹紅の痛みが話ができるぐらいに収まる。壁に背を持たれかけ微笑む青娥を妹紅は睨んだ。

妹紅「なに、した」

青娥「あなたを強くしたの」

妹紅「私に、なにをしたっ」

青娥「魂を入れたの。7人の子供。萃香に殺された子供の魂をね」

妹紅「っ!!」

青娥「人は怨みで鬼になる。あなたを含めて8人分の怨みを使えばあなたでも萃香に勝てるでしょうね」

妹紅「………勝てるんだな」

青娥「絶対とは言わないけど」

妹紅「可能性ができたなら、それでいい」

青娥「事後確認でごめんなさいだけどそれでいいわね」

妹紅「あぁ、十分だ」

妹紅(お前ら、私の中にいるんだな。私に力をくれるんだな)

自らの心の蔵に手を当てるといつもより暖かかった気がした。

妹紅「おし、いくか」

壁に手を当て外に向かって歩き出す。最初の数歩は拙い歩き方だったが次第にしっかりとした足取りになった。

芳香「がーんーばーれーよー」

妹紅は芳香の声援が聞こえていたが振り向きはせず、そのまま歩き続けた。

いつの間にかあの臭いは消えていた。

と妹紅は思っていたのだがそれは勘違いで臭いは妹紅の体から溢れ出ている。

そんな妹紅を青娥は消えるまで見送り笑った。

青娥「あぁバカねバカ本当バカ。事前に何も聞かずあれだけのことが起きたのに詳しく話を聞かない。怒りで目と耳と曇らしたバカは本当扱いやすいわぁ」

芳香「? どうしたせーが」

青娥「禁忌『七つの子』 8人の魂を受け入れれるわけないじゃないの。強くなれるのは本当だけどすぐに破壊のほうが勝って死ぬわ」

青娥「これであの子が死んだなら月のお姫様もきっと殺せる。危険なものは仲間にならないなら殺しておくべきなのよ」

青娥「くすくす。あぁ嬉しいわ。死がたくさん」

ずっと暗いところにいた為太陽はまぶしく妹紅は思わず目を覆った。

早く萃香を殺しに行こう。一緒に殺そう。

自分の胸を撫で妹紅が微笑む。

体に力が湧いていた。いつもの数倍どころではない。今ならなんでもできるんじゃないかと思うほどの力が体の中に満ちていた。

ためしに地面を蹴るといつも以上に飛んだ。十数秒の浮遊のあと着地に失敗して妹紅は地面を転がった。

妹紅「おし。いける」

博麗神社の方向は反対で広い人間の里を横切らなければいけない。しかし今の妹紅なら相当な速度で駆けることができる。

驚いている人間の横を潜り抜け妹紅が走る。すると見知った顔を見つけた。

慧音「………妹紅?」

慧音の顔は驚いていた。その理由を妹紅は数秒経ってあぁ髪の色かと理解した。

妹紅「今からちょっと萃香のところ行ってくる」

慧音「大丈夫なのか妹紅」

慧音が妹紅の肩を掴む。破壊と再生を繰り返しているせいで掴んだ肩は腐った桃のような感触をしていた。そして妹紅の臭いに一瞬顔を歪めた。

妹紅「あぁ、大丈夫だよ。それじゃあ」

慧音は大丈夫ではないと言おうとした。去っていく妹紅の手を掴もうとしたが妹紅の体は慧音の手からすり抜け黒い髪が靡いて遠くに消えていった。

男「んじゃ、また夜に」

萃香「気をつけなよ」

昨日と同じく男と萃香のグループに分かれる。

それぞれのグループは小町が地面に引いた線を超え、昨日の場所まで移動した。



萃香「さぁて、今日はどこまで進めるか」

萃香が指の骨を鳴らしまだ森の先にある人間の里を見る。

森の中なので当然見晴らしは悪い。なので萃香は髪を少し霧状に変え、付近一帯へ散らしていた。

魔理沙「空、飛ばないのか?」

萃香「ん。あぁ天狗がいないとは限らないからね。目立つ行動はとらないほうがいい」

小町「天狗ねぇ。この三人なら大丈夫じゃないかい?」

萃香「………無駄な戦いはしないほうがいい。体力だって無限なわけじゃないからねぇ。魔理沙は特に人間だろう?」

その言葉に魔理沙は不服そうな顔をしたが鬼と死神に当然体力で勝てるはずがないのでそれ以上はなにも行動を起こさなかった。

萃香「とにかく確実に進むしかないんだ。命は一個しかないんだから………一個しかないんだ」

萃香の言葉がほんの少し揺らいだがそのことに二人は気付かず、そうだなと相槌を打って二人は萃香より先に歩き出した。

風が強く吹く。木から木へ飛び移る妹紅には追い風になり、ただでさえ速い移動速度がさらに速くなっていた。

強くなりすぎた脚力が移動するたびに枝をへし折り、妹紅の移動した後は地面に枝が落ちていて移動先を教えてくれる。

妹紅「どこだどこだどこだ?」

妹紅はせわしなく首ごと視線を移動させているが立派な角を持った鬼の姿は見当たらない。

妹紅は枯れ木の上で立ち止まると懐から取り出した数枚の札を空中にばらまいた。札は風に乗るものもいれば逆らうものもありまるで生きているように四方へと広がっていった。

そのまま数十秒佇んでいると何かがひゅんという音を立て空を切って飛ぶ音が聞こえた。

妹紅(天狗か?)

振り向くと右目に烏のような羽をはやした天狗が見えた。左目は暗く何も見えない。

妹紅「一匹か?」

左目に刺さった矢を引き抜くとでろりと白い眼球が矢じりに刺さっていた。矢を地面に投げ捨てる。その矢が地面に落ちたころにはすでに妹紅の新しい眼球は作られていた。

天狗「いや、全部合わせて15人だ」

妹紅が視線を上に上げると同じく黒い翼が見えた。

妹紅「あー。まぁ準備運動ぐらいにはなるだろ」

天狗「何をふざけたことを」

妹紅「まずは―――お前ぇええぇええ!!」

一番低い位置にいた矢を射った天狗に妹紅が飛びかかる。

いつもと速さが違う妹紅に天狗は反応できず妹紅の左手が天狗の首をとらえた。

妹紅「これでも食ってろよ。火傷には注意だけどな!!」

右手で取り出した札を天狗の喉に無理やり押し込む。札を離し手を引き抜き吐き出そうとした天狗の口をふさいだ。

妹紅「燃えろっ!!」

妹紅の声に反応し天狗の体内にある札が炎へと変わる。更に炎は大きくなり爆炎と姿を変え妹紅ごと天狗の体を焼き払った。

出そうとした悲鳴も炎に焼き払われ炭化した天狗の体を蹴り上空の天狗へとまた飛びかかる。

新しい皮膚に代わり炭化した妹紅の皮膚が剥がれ落ち空中に舞った。

その姿は不死鳥のようで

妹紅「あぁ、確かにこれなら鬼にも勝てるかもなぁ!!」

ひどく醜かった。

妹紅「はいはい終了終了」

最後の天狗を炭へと変え妹紅は枯れ木の上に飛び乗った。

体に刺さった十本程度の矢を引き抜くと同時に傷口がふさがっていく。しかし腐った肌で止まりいつもの少女の肌には戻らなかった。

妹紅「あはは、すげぇ………すげぇ」

妹紅の肌は健康的な色から内出血をしたようなどす黒い肌に変わっていた。

妹紅「………変わるには代償がいるんだよな。知ってるよ」

普通の人間の人生と引き換えに変われない体へと変わったことのある妹紅のその言葉は自らの胸に重い存在となって留まった。

木の枝にしゃがみ込み手の甲を撫でる妹紅に一枚の札が東から戻ってきた。

妹紅「あっちか」

立ち上がり札が返ってきた方向を見る。

妹紅「見つけたよ。萃香」

蹴った木の枝が折れ、地面に落ちるよりも速く妹紅が木から木へと駆けていく。

速さに耐えられず切れた肌から一滴血の雫が垂れ風に流された。

壊れ治り結果異常なし。だが確実に破壊へと歩んでいく自分の体を妹紅はどこか感じ取っていた。

辺りに散った霧が何者かの襲来を知らせる。

萃香は何者かが接近する方向を急いで見ると、薄汚れた人のようなものが見えた。

妹紅「見つけたぁ!!」

妹紅が放った札を飛んで避け、魔理沙と小町を突き飛ばす。

妹紅は地面に着地するとだらりと腕を垂らして萃香を見た。

萃香「………妹紅かい?」

妹紅「蓬莱の人の形。いや、蓬莱の人の殻? まぁ好きに呼んでくれ」

萃香「どうしたんだい。そんな」

妹紅「生まれ生まれ生まれ生まれて死に死に死に死んでなんども同じ私になって千年以上たった。そんな化け物をあの子たちは先生と呼んでくれたんだぞ? こんな私の手を小さな手で握ってくれるんだぞ? そんな、そんな子供たちはお前は殺したんだ。もう生き返らない。お前が殺したからあの子たちは生き返らない!!」

萃香「子供たち、それは」

妹紅「だからお前も死ね!! 生を賭して私が殺してやる!!」

魔理沙「おいちょっと待て妹紅。それはまちg」

萃香「一つ聞きたい。あんたは死ぬ気なのかい?」

魔理沙の言葉を遮って萃香が前に出る。妹紅は強く歯を食いしばって唸るような声で答えた。

妹紅「あぁ。もうすぐ私は死ぬ。だからその前にお前を殺す」

萃香「そうかい………」

萃香が伊吹瓢のふたを開け、中の酒を一口飲む。人はおろか大抵の妖怪すら飲めないそれを萃香は軽く飲み込む。

アルコールが入り少し熱くなった息をはいて萃香が妹紅に対し構えた。

萃香「あぁ、そうかい。なんだか妙なガキが突っかかってきたから殺したけど、あんたの教え子だったのかい。そりゃあお気の毒だねぇ」

魔理沙「はぁ!? お前なにいtt」

小町「下がるよ魔理沙」

ふたたび魔理沙の言葉が遮られる。小町は魔理沙の手首をつかむと引っ張り、一瞬で姿を消した。

妹紅「このド畜生がぁあああ!!」

萃香「何言ってるんだい。あたしは鬼。人を攫って食うのは当然。戯れに殺しだってする。それともなんだいあんたは私を宴会が好きなただの酔っ払いだと思ってたのかい? ちゃんちゃらおかしいねぇ。千年も生きていて知らないなんて言わせないよ、鬼の恐ろしさを。それに酒呑童子の名を忘れたわけじゃないだろう?」

怒りに身を任せ殴りかかってきた妹紅を軽くいなし、バカにしたような笑みを妹紅に向ける。

萃香「あひゃひゃひゃひゃ。たかだか子供が死んだくらいで復讐しようと自分の命までかけるなんて馬鹿じゃないのかい? 単細胞? 直情径行? そうか、蓬莱の薬って頭まで変わらなくなるんだねぇ だからずっとバカのまま」

妹紅「うるさいうるさいうるさい!!」

妹紅の放った札は小さな火の鳥となり萃香に向かっていく。しかしその通常の炎よりも熱い妖術の火を萃香はくしゃりと握りつぶした。

萃香「どうした。体を暖めてくれるのかい? それならこんなものより熱燗が欲しいね」

妹紅「だから黙れぇええぇええ!! クソ野郎がぁあああ!!」

萃香「だからバカみたいに叫んでも何も変わらないってわからないのかねぇ。せめて復讐するってんならもうちょっと頭を冷やしな。感情に身を任せると…こうなるんだよっ!!」

飛び込んできた妹紅の体に萃香の右手につながっている鎖が巻き付く。鎖を振り回し妹紅の体を木に叩きつけた。

何本の木をへし折り妹紅の体が吹き飛んでいく。体の骨が粉状になるほど砕けたが1秒もたたずに元通りに戻った。

妹紅は空中で態勢を立て直して木を蹴り着地する。口に溜まった血を地面に吐き出すと妹紅は木の上に上り、何枚もの符を放った。

萃香「だからこんなものは―――」

再び握りつぶそうと延ばした手の20センチほど前で符が爆発し、萃香を包む。

萃香「小細工じゃあ鬼は」

妹紅「倒せないよな」

萃香「!」

腕を振って炎を振り払った萃香の目の前に妹紅がいた。

妹紅はすでに拳を引いている。対する萃香は拳を振り払った状態であり、ここから攻撃に転じることは出来ても確実的に妹紅の一撃は当たる。

妹紅「もらったぁあっ!!」

萃香「速いっ!?」

防御しようとした腕の速度よりも速く妹紅の拳が萃香の右胸に当たる。異常なほど強化された妹紅の力は筋細胞をずたずたに引きちぎりながら妖怪すら殴り殺せるほどの威力を発揮した。

萃香「うぐっ……なんだい、その気持ち悪い力は」

腕を防御から妹紅の腕を掴むことに切り替える。

妹紅「ぐぎっ。まだまだぁぁああっ!!」

腕を掴んで投げ飛ばそうとした萃香の頬を妹紅が開いた腕で殴り飛ばす。萃香は掴んだ腕を離さず、その結果二人は絡まって地面を転がった。

妹紅「はな、せっ!!」

妹紅が萃香に跨り開いた手で萃香の顔を殴打する。しかし萃香の掴んだ手は一切緩まず萃香は跨る妹紅ごと体のばねを使って起き上がった。

すぐに妹紅が地面に足をつけ態勢を立て直そうとした。しかし地面に足が触れるか触れないかの時に萃香は掴んだ腕を大きく上に跳ね上げた。

まるで中身が綿のぬいぐるみのように妹紅の体が空高く浮く。そのまま重量に引かれ妹紅が萃香に向かって落ちていった。

萃香「いいねいいね楽しいねぇ」

萃香の体が大きくなってゆく。普段の十倍ほどの大きさになった萃香は妹紅の落下に合わせ拳を振り上げる。

妹紅「がぐぇっ」

妹紅のあばらがすべてへし折れ体から飛び出す。鋭い骨は妹紅の服を破り太陽の光を浴びててらてらと光った。

妹紅「あ―――ぐ、はふ………、ぐお、おぉ」

飛び出た骨を妹紅が手で引き抜く。妹紅は大量に血液を失い、少し意識が薄れたが急速に生成された血が過剰なほどに鼓動する心臓によって送り出され意識を失わずに済んだ。その変わり耐えきれなかった血管が破れ妹紅の肌をさらに青黒く染める。体外と体内の痛みに喘ぐ妹紅の姿を萃香がにやにやと笑い眺めていた。

萃香「生きるって痛いよねぇ」

妹紅「当たり前、だろ」

萃香「じゃあ死んだほうがましじゃないかね。楽だよ?」

妹紅「それでも、生きてなきゃ、いけないんっ!! だよ………げほっげほっ」

萃香「あぁ、そうかい」

最後の骨を抜き、地面に投げ捨てると妹紅は荒い息を整えるため深呼吸をした。

萃香「続きを始めようか」

妹紅「言われなくてもっ!」

再び目くらましの炎を放ち妹紅が飛び込む。

萃香「同じ手は食わないよ」

萃香は冷静に後ろへと飛んで炎から距離を取る。

炎を抜け、妹紅が前のめりになりながら萃香に向かって走った。その捨身の突進に萃香はタイミングを合わせ拳をふるった。

べきりと音がした。

萃香「!」

萃香の拳が当たるより先に妹紅がさらに態勢を低くした。不自然なその動き、その動きは妹紅が自分の足をへし折ったことで起きた。

妹紅「完全に捕まえ、たっ!」

妹紅が自分でへし折った足をさらに強く踏み出して萃香の腰を掴む。

妹紅「勝てねぇからさ、ちくしょう、こうするしか、ねぇよな」

妹紅「ごめんな、お前らの力借りても、ダメだった」

萃香「離しなよっ」

萃香が妹紅の体を蹴りあげる。しかし妹紅は腰に回した腕同士を掴み離さない。

妹紅「あぁ、本当かぁ? うん、わかったわかった」

妹紅が困った顔で笑う。そのままぶつぶつと短く何かを口の中で唱えた。

妹紅の体が弾け、辺りに爆炎と呼ぶには生易しいほどの熱量と衝撃がまき散らされる。それは辺りの草木を一切の例外を許さず灰へと変えていく。

それを間近で受けた萃香の体は無事では済まなかった。両腕と片足が千切れ飛び、立派な角のうちの一本は途中で折れていた。

そんな萃香の姿を肩から下をすべて失った妹紅がぼんやりとした目で見ていた。

妹紅「………たおし………た、よ。せん…せい……がんば………」

蓬莱の薬が失われた体を元に戻そうとするが破壊の速度が勝り、どんどん妹紅の体が壊死してゆく。

横たわる萃香の目に光は無く、妹紅の目の光は急速に失われていっている。

そんな濁っていく妹紅の目は何度か動き、そのたび妹紅は小さく口を動かした。

声は出ていない。しかし妹紅は誰かと話すかのように口を動かし続けた。

笑顔を作るほどの力も残っていないため少し頬の肉を動かすだけに留まった筋肉がほんの少しだけ口角を上げる。

そして何度か小さく頷くと妹紅はそのまま息を引き取った。

魔理沙「っうぅ」

爆音を耳に受けうずくまっていた魔理沙が数分かけようやく立ち上がる。

そんな魔理沙を労り小町が肩を貸した。

魔理沙「どうなった、んだ」

小町「………もういいだろうね。行ってみようか」

小町が魔理沙ごと一歩踏み出すと一瞬で先ほどまで妹紅と萃香が戦っていた場所まで移動する。

いろんなものが焼けた臭いに魔理沙は顔を歪ませ、そして二人の死体を見て更に歪み不器用な笑顔のようになった。

魔理沙「お、おい」

小町「………萃香、起きなよ」

萃香「…………………………………………………………………………………………ん」

魔理沙「!」

光を失っていた萃香の目に光が宿りゆっくりと顔を上げる。何度か瞬きをすると少し目を細めて妹紅の屍を見た。

萃香「逝ったかい?」

小町「あぁ、みたいだね」

小町が少し屈んで妹紅の瞼を手のひらで下す。そして小声でお経を唱え小町は萃香へと視線を戻した。

小町「体は大丈夫かい?」

萃香「多少はね。まぁまぁ痛手だけど」

魔理沙「痛手って両手と左足が」

萃香「あるよ、ちゃんと」

風も吹いていないのに萃香の元へ霧が集まってくる。集まった霧は小さな両手と小さな片足となり地面に転がった。

傷口をみて魔理沙がえずく。小町は魔理沙をゆっくりと地面に座らせ、両手と片足に近づきその三本を抱えた。

小町「本当バカみたいな体してるよね」

萃香「ありがとさんよ」

小町が傷口と傷口を合わせると二つは溶け合って継ぎ目がなくなってしまう。それを三度繰り返すと萃香は角と服以外は元通り変わらぬ外見へと戻った。

魔理沙「は、はぁ?」

萃香「これが鬼だよ」

立ち上がり萃香が何度か腕をぐるぐると回し、首を鳴らす。そんな萃香の様子を魔理沙は呆けた顔で見ていた。

小町「角は?」

萃香「これは治らない。霧に変える前に灰になっちまった」

小町「何年で元通りになるのかね」

呆けた状態から魔理沙が頭を振り意識を明瞭な状態へ戻す。そして魔理沙は立ち上がり二人へ詰め寄った。

魔理沙「おい待てどういうことだ」

萃香「どういうこととはそれだけじゃ質問としては不十分だねぇ」

萃香の飄飄とした態度に魔理沙が苛立って帽子の上から頭を掻く。

魔理沙「なんであそこで嘘ついた! ちゃんと話していれば」

萃香「私と妹紅は戦わず、そのまま妹紅は死ぬだろうね。あれはどうにもならないよ」

萃香「鬼を知っている人間だったからさ、ちゃんと死なせてやりたかったのさ」

萃香はどこか遠い目をし、片目を細めた。

魔理沙「妹紅を安らかに死なせるため? そのために大嫌いな嘘をついたのか?」

萃香「私だって嘘を絶対つかないわけじゃない。そうであってほしいと願うならそのようになってやるさ。悪逆非道の鬼でもなんでも」

萃香の声色は哀しげではなく、どこか慣れたような雰囲気を感じた。

萃香「嘘をつくのは人間だ。でも嘘を好むのも人間だろう?」

魔理沙「………………妹紅はどうする?」

萃香「そのままにしておこうよ。触れられるのは嫌だろうからさ」

青娥「うふ、うふふふふふ」

仙術を使い妹紅が死んだのを確認した青娥は夢殿大祀廟の奥深くで笑っていた。

青娥「蓬莱の薬の服用者を殺し切ることができた。これで輝夜を人質にとって交渉ができますわぁ」

青娥の計画はなんとか輝夜を手中に収めて、永琳を操ること。

輝夜を手に入れる手段ならある。それは

鈴仙「んーっ!! んー!!」

鈴仙の拉致だった。重病者が出たと妖怪の名前を偽り呼び出し、その身柄をとらえた。

この兎を見捨てられては計画が達成しにくくなるがそれでも輝夜を捕まえる手段はある。

それが出来ないのなら当初の予定通り殺すだけだ。中立を破ったのだから敵になる前に。

青娥はある意味では機転が利いていた。見捨てるということと寝返るということに関しては青娥は幻想郷で誰よりも頭が回るのが速い。実際冷酷よりもひどいとされるその考えが何度も萃香や紫を困らせていた。

しかしその考えが一人の行動を生んだ。

慧音「………見つけたぞ」

青娥「あらぁ、うふふ、どうされましたかぁ? 上白沢先生?」

慧音「妹紅は、逝ってしまったのか?」

青娥「えぇ、残念ですが、鬼と立派に戦って破れてしまいましたわ」

白々しい青娥の笑みを見て、慧音はぎりっと強く歯噛みした。

慧音「お前が妹紅殺したのか?」

青娥「それは間違ってますわ。死はあの子が選んだこと」

慧音「だが、子供たちの魂を持っていたのはお前だろう。そもそもなかった選択肢を作り出して」

青娥「あら、知ってるのねぇ」

青娥の目が笑うように細くなる。しかし少しの隙間から除く目は笑っていなかった。

青娥「貴方は歴史だけ知っていれば、良かったですのに。残念ですわぁ」

青娥の視線を通して慧音に底が見えないほどのどす黒い悪意が伝わった。性善説を信じている慧音の額から冷や汗がにじむ。

慧音「私を殺すのか?」

青娥「えぇ、でも大丈夫ですわ。あなたの魂を有効活用してあげますからぁ」

芳香「あー!」

慧音「うぐっ」

慧音の視覚。薄暗い闇の中から突如現れた芳香の攻撃をなんとか慧音は受け止めた。しかし芳香の壊れた馬鹿力にずりずりと慧音が押される。

毒を含む長い爪が慧音の腕に食い込み血を流させた。

慧音「あ、あぁっ、はぁはぁ」

いくつかある毒のうちの一つ。即効性のある麻痺毒が慧音を襲った。

腕にどんどん力を入れることが出来なくなり爪が深く慧音の腕に刺さった。

青娥「食べて良いわよ、芳香ちゃん」

芳香「あー、いーたーだーきーま」

芳香の口一杯に鉄の味が広がった。

「ご苦労」

芳香の頬を剣が貫いていた。しかし芳香はそれでも悲鳴もあげず何事もなく動こうとしていた。

芳香「だーあー」

「あとは任せてくれ」

芳香「あがごっ」

剣を芳香が噛み砕こうとした瞬間使い手が剣を横に凪いだ。

頬から喉や頬骨をすべて切り裂かれ、芳香の頭は少し残った頬だけで保たれていた。

青娥「なぜ、なぜです、かぁ?」

芳香「あええああいあ」

噛みつくことができなくなった芳香が剣の持ち主に襲い掛かる。

「不老不死のなりそこない。大人しく土へ帰りなさい」

剣が光を放つ。17本の光が芳香の膝から上を全てを炭へ変えた。自重に耐えきれなくなった炭は砕け、地面に落下し細かな灰になった。

青娥「なぜ、貴方が」

神子「貴方を倒しにですよ。青娥」

そういって豊郷耳神子は蔑んだ顔で青娥を見た。

>>985 慧音の視界ではなく慧音の死角でした

青娥「………私は人間のために」

神子「貴方がどんな人間か知ってますよ。人間に直接危害を加えたあなたを許す事はできない」

青娥「うふっ、うふふふふふふ。あははははははははははっ!」

神子「………首を出しなさい。あなたがこの程度で死ぬかはわかりませんが」

青娥「私は死にませんわ」

青娥が髪から壁抜けの鑿を抜き大きく振りかぶった。

青娥「後悔しなさい、太子様。私が敵に回るってこと―――」

そしてそのまま自らの腹に突き刺した。

青娥「―――かふっ」

穴は空きはしなかったが、それは振り下ろした手、くの字に曲げた体は隙だらけだった。

その隙を逃す神子ではなく、抜き放たれた七星剣の刃は青娥の右わき腹から入り左肩に抜けていった。

神子「悪を懲し善を勧むるは、古の良き典なり。ここをもって人の善を匿すことなく、悪を見ては必ず匡せ。それ諂い詐く者は、則ち国家を覆す利器たり、人民を絶つ鋒剣たり。ならば私はそれすらを絶つ存在になりましょう」

青娥「く、くふふ。ご立派、ですわぁ」

肩に抜けて行った剣を水平にし、首に向かって薙いだ。骨を断つ音すらなく、青娥の頭部が胴体から離れ地面に転がる。

>>955だ。

青娥「人だけの味方ならあなたは聖人じゃない。大悪人ですわ。あは、あはははははははははははははっ!!」」

神子「………」

転がった首を巫女が踏み潰す。頭蓋骨が割れる音と柔らかいものを潰す音がし、青娥の笑い声が止んだ。

「『ご苦労様です』」

耳を震わす声と頭の中を震わす声が重なって響いた。

ことり「『無事ですか、慧音』」

慧音「あぁ、無事だ。協力たすか、った。くっ!」

ことり「『毒ですね、そこのあなた』」

ことりが地面に縛られて転がっている鈴仙の猿轡を解いた。

鈴仙「ぷはっ。な、なんですか」

ことり「『巻き込んでしまって申し訳ありません。お詫びをしたいのですが現在慧音が毒に侵されています。どうか助けてはいただけないでしょうか』」

鈴仙「は、はいっ。すぐに師匠のところに連れて行きましょう!」

ことりが縛っている縄を解くと鈴仙はぴょんっと立ち上がり慧音に駆け寄って肩を貸した。

神子「こんな目に合わせてしまったのに助けてもらってすみません」

鈴仙「い、いえ人間たちが完全に敵にならない限りはうちはおそらく中立ですから」

慧音「はは、ありがたい、な」

毒で呼吸をするのすら難しい慧音がうっすらと笑みを浮かべる。

神子「事態は一刻を争いますから、こちらへ」

神子が二人を手招いた。

鈴仙は何が起きるのかを理解していなかったがとりあえずそれに従ってみる。

鈴仙と慧音が近くまで来ると巫女は二人を片手で抱きしめ、空いているもう一方の片手でマントを掴み三人を包んだ。

すると包み込んだはずの三人の形はマントから浮き出ず、それどころかマントだけがふわりと地面に落ち、部屋の中にはことり以外生きているものは存在しなくなった。

ことり「『私が後片付けですか、まぁいいですけど』」

ことりは床にばらまかれた灰と、血液、青娥の死体を見て小さなため息をつき、掃除道具を取りに地上へと戻っていった。

~男視点~

男「やめろ、ってぇ!!」

前から迫る刃をかっこ悪く転がりながら避ける。それでも当たれば確実的に死ぬのだから無様でも生き延びたい。

チルノ「師匠!!」

チルノが氷柱を出してアシストしてくれるが、その氷柱は一秒も攻撃を耐えられず切り裂かれてしまう。

なぜ今俺がこんな目に合っているのか。

それは20分前の出来事だった。

男「………またか」

人間の里の近くまで行くとやはり人間とである確率が高くなる。

神社を出て2時間は経っているのに、距離はそれほど進んでいなかった。

そして今も目の前には二人組の人間。少人数なので戦いを挑みにきたわけではないだろうが、それでも逃げられ仲間を呼ばれると厳しい。

なので手早く気絶させよう。霊夢とチルノがいるのだからすぐに終わるだろう。

キンッ

ガラスを叩くような涼やかな音がして、霊夢の後ろ、俺とチルノの前に半透明の壁が現れた。

霊夢が守ってくれるために張ったのだろうか。でもたかが二人

霊夢「こんな結界じゃ私は―――っ!」

二人組の一人。がたいの良い男が結界のほうを振り返った霊夢に片手で幅が広い刀を振るった。霊夢はしゃがんで避け、札を放ち反撃するがもう片手で抜き放たれた匕首で札を切り落とされる。

そしてその隙にもう一人のフードをかぶった人間が結界を通り、こっちへ来た。

男「分断するためかよ」

霊夢に頼れないのならば、チルノと俺でどうにかするしかない。萃香にはしごかれたがしかし実戦はこれが初めてだ。相手が得物を持っていないのならばまだ何とかなるかも知れない、が

「………」

人間が外套の中から長さが1メートルにも及ぶかのような長い刀を取り出した、鞘は黒く、装飾はいっさいない。せめて儀礼刀ならばまだなんとかなったのかも知れないがこれはおそらく殺すための剣だろう。

そう判断したのはいいが、一メートルの間合いの差があるならば空手や柔道ではどうにもならない。名人というほどには納めていない俺は懐に入ろうとする前に切り捨てられて終わるだろう。

出来ることは逃げ回って隙をつくことだけ。

あとはチルノに任せるしか。

「………」

鞘抜き捨てられ、地面に転がる。鞘の中から出てきた刃は自分が知っている日本刀よりもずっと反りが少なかった。

憑かれ屋「………憑かれ屋、参ります」

風が吹いて憑かれ屋と名乗った人間のフードを脱がせる。

その下から出てきたのは少年か少女かの区別ができない中性的な顔だった。

男「………伊吹流拳術、男」

なんとなく真似をして構えてみる。家の近くにあった道場の流派よりは萃香に習ったとしたほうが勇気が湧く。虎の威を借る狐だとしても、戦いを終えれるのならばそのほうがずっといい。

しかし伊吹の名は通用することがなく、憑かれ屋は左手を地面に対し水平にしそのうえに刃の背をのせた。大きく引かれた腕がまるで弓を放つかのように見える。

本で読んだ霞構えとは似ているが違う構え方。初手はおそらく、いや確実的に突き。上手く体を半身で避けることが出来るのなら懐に入り込むことはできるだろうが線ではなく点の攻撃のためどこに来るかが読みにくい。下手を打って首を突かれたならおしまいだ。光る剣先が死の恐怖をさらに加速させた。

冬の冷気の中なのに額から汗が流れる、冷や汗って本当にかくんだななんてことを頭の隅で考えてしまった。

憑かれ屋「………っ!」

見合って感覚的に数分経っただろうか。憑かれ屋が短く息をはき、前へ深く一歩踏み出した。

パキンッ、チルノが目の前に大きな氷の壁を出した。よし、後ろに飛べば

男「ずあっ!」

刃が氷を綺麗に貫通し、わき腹の肉を数ミリ持って行った。刃がそのまま上に振られ氷から何事もなかったかのように脱出する。

もし後ろに飛んでいなかったら右腕とさよならをしていただろう。

自分の判断は間違ってなかったと安堵すると共に右腕がなくなっていたかもしれないということに恐怖する。

初太刀の速度と威力を見て思った。思ってしまった。

勝てない。

俺じゃあ勝てない、と。

傷口のわりには出血の量が激しい。服に滲む血が、脳をがつんと揺さぶった。

俺は霊夢たちの死をなかったことにできる。だけど俺の死はなくならない。

チルノ「師匠!!」

チルノの声で氷の壁を刀でバラバラにするという人間離れした技を繰り出し終わった憑かれ屋に気付いた。

思考の暇はない。たとえ数秒だったとしても後ろを向いて走っていればよかったと後悔する。

疲れ屋「その命…もらい受けます!」

チルノ「し、ししよー!?」

強烈な踏み込みから繰り出される神速の諸手突き…その鋭い切っ先は俺の胸へと一直線へ吸い込まれ…

???「…待ちな」

疲れ屋「…!?…何奴!?」

…俺の鳩尾に突き刺さるはずだった刀はギリギリの所で、突然現れた謎の人物によって阻まれた

俺「壁殴り代行免許皆伝…俺!」ドーン!

男「あ…あんたは?」

疲れ屋「邪魔を…しないで下さい!」ブンッ!

俺「なってないな…戦いの厳しさってやつを教えてやるお」

俺「アースクエイク!(床ドン!)」ドムシーン!

疲れ屋「あーれー!強すぎるぅ…」

俺さんは帰ってください

>>977 やめてください

憑かれ屋「………」

憑かれ屋がさっきの構えで構える。氷すらも貫く神速の一撃。

さっきは運よく避けれたが今度もそう行けるかは分からない。というか避けれない可能性のほうが高い。

精神を研ぎ澄ますなんてできそうにない。落ち着くどころか頭の中が真っ白になる俺はどうやら主人公適正はないようだ。

目覚めろ不思議な力。なんて都合の事は起きそうにない。

結果残るのは、避けそこなう=死という単純な答え。

憑かれ屋「………っ!!」

さっきよりも時間は短く感じた。短い息とともに突き出されたその刀は

憑かれ屋「!」

俺に届くことはなく憑かれ屋は前のめり態勢を崩した。

チルノ「あたいったら、最強ね!!」

チルノの氷が憑かれ屋の足を凍らせていた。結果前に進むはずだった勢いだけが残り、態勢を崩した。

生きるための本能か、萃香との練習のたまものかはわからないが体が自然に動いた。

態勢を崩し、がら空きになった腕、刀を握る手を蹴り、刀を蹴り飛ばす。刀はそんなに飛ばず近くの地面に転がった。

次スレのタイトルです。

ぬえ「ずっと、居てくれるよね?」男「…ごめん」

>>985 そんな感じの台詞良いですね

憑かれ屋「あ………う。僕は」

憑かれ屋が今目覚めたような様子で目を何度か瞬かせる。

その様子はさっきまでの刀を振るっていた姿にはとても見えない。

憑かれ屋「ひっ!」

憑かれ屋が俺とチルノを見て怯える。

一体どういうことなのだろうか。

霊夢「なるほど、妖刀使ってたのね」

「憑かれ屋!!」

霊夢「妖刀使ってまで、戦いたいなんてね」

「違うそういうことじゃないっ」

霊夢「おっと、ここは通さないわよ。向こうが方ついたなら私も本気でいけるもの」

「あいつが妖刀を選んだんじゃない、妖刀があいつを選んだんだ」

霊夢「………は?」

次のスレに行きます

男「なんでだよ、これ」ぬえ「………あう」になります

男「なんでだよ、これ」ぬえ「あう………」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1400909334/l50)

ありがとうございました。

そして今度もよろしくお願いします。